2020年9月28日月曜日

米軍「全面撤退」で20年のアフガン紛争に終止符か―【私の論評】トランプの目的はアフガンの「和平」ではなく、米軍の駐留を終わりにすること(゚д゚)!

米軍「全面撤退」で20年のアフガン紛争に終止符か

岡崎研究所

 9月12日、カタールの首都ドーハでタリバンとアフガニスタン政府代表のアフガン和平交渉が始まった。これまでの長い経緯を考えれば、交渉が始まったこと自体アフガンの和平に向けた大きな前進と言える。



 元来会談は3月10日に始まる予定であったが、ガニ大統領がタリバンの捕虜の釈放を渋り、反発したタリバンが政府軍への攻勢を強めたため、交渉開始が遅れていたものである。

 タリバンとアフガン政府代表の会談に先立ち、米国とタリバンが2月にドーハで会談し和平合意を達成している。そこでアフガン政府がタリバンの捕虜5,000人を、タリバンがアフガン政府軍の捕虜1,000人を釈放することが合意された。

 アフガン政府抜きで交渉が行われたことはアフガン政府にとっては屈辱的なことであったろうが、アフガンでの現状を反映したものであった。ガニ大統領はタリバンの5,000人の捕虜、特にそのうちの400人の重罪捕虜の釈放を渋った。おそらく米国のハリルザド特使の説得があったのであろうが、ガニ大統領は400人の重罪捕虜の釈放については、国民大会議(ロヤ・ジルガ)の判断を仰ぐとの決定をし、国民大会議が9月10日にようやく釈放の決定をしたものである。

 今回のアフガン和平交渉を推進したのはトランプ大統領であった。トランプは2016年の大統領選挙でシリア、イラクに加えてアフガニスタンからの米軍撤兵を公約に掲げ、そのためアフガンでの和平交渉を推進しようとした。

 トランプはまず駐アフガン米兵を12,000人から8,600人に削減し、ついで11月までに4,500人まで削減することを決定した。2月のタリバンとの和平会談で、タリバンがアフガン国土をテロ攻撃に使わないという約束をすれば、米軍とNATO加盟国の軍を14か月以内に(来年4月ごろ)完全撤収することに合意した。

 これは二つのことを意味する。一つはトランプの当初の希望にもかかわらず、大統領選挙までの完全撤退はないということである。トランプも現実を認めたことになる。

 第二は、タリバンが約束を守れば米軍が完全撤退することである。米国政府の中には、アフガンの治安部隊の訓練のため4,000人前後の米兵は残すべきであるという見解があったが、その見解は採用されなかったことになる。米国はもしタリバンが約束を破ったら完全撤退はすべきでない、という意見もあるが、タリバンから見れば、約束を守れば14か月以内に米軍とNATO軍が完全撤退することが合意されているので、来年4月ごろまで約束を守るようにするのではないだろうか。

 もしバイデン大統領が実現したらどうなるか。バイデンは以前からアルカイダの復活を阻止するために小規模なテロ対策部隊は残すべきであるとの見解を持っていたことで知られている。バイデンは以前から米国のアフガンに対するコミットメントには懐疑的であったので、仮に完全撤退となっても反対はしないのではないかと思われる。その背景は米国世論のアフガン疲れである。9.11直後は、アルカイダ撲滅のためアフガンへの軍事攻撃を全面支持したが、その後アフガンの米国にとっての重要性が急速に薄れたこともあり、米国世論は米軍の全面撤退を支持するだろう。

 タリバンとアフガン政府の交渉は当然のことながら難航することが予想される。アフガン政府は統治の形態をめぐって、たとえば民主的選挙と女性の権利を定めた憲法を受け入れなければならないと主張し、タリバンは難色を示すだろう。合意の成立が容易でないことは周知の事実である。しかし、交渉が始まったこと自体画期的で、軍事的解決の選択肢がない以上、何とか妥協点を見出すための努力が行われ、米国や関係国も支援の手を指し伸ばすこととなるだろう。

【私の論評】トランプの目的はアフガンの「和平」ではなく、米軍の駐留を終わりにすること(゚д゚)!

アフガニスタンに米軍が駐留して、長い間戦争をしていることは多くの人がご存じだと思います。しかし、そのきっかけが何だったのかという詳しいことになると、日本では知られていないというか、もう19年も続いているので、関心もなく、風化しているというのが実情でしょう。

以下に現在のアフガニスタン戦争がどのように始まり、どのような経過をたどり現在に至っているのか簡単に整理しておきます。

9.11同時多発テロ

2001年、9.11同時多発テロが起きるとアメリカ合衆国のブッシュ大統領は直ちにビン=ラディンらアルカーイダの犯行と断定し、その引き渡しをアフガニスタンのターリバーン政権に要求しました。

米国は、ターリバーン政権の拒否を見越して武力行使を準備、周辺国への根回しを開始しました。また国連安全保障理事会、NATO、EUなども次々とテロへの非難決議を採択し、ロシア・中国を含む60ヵ国以上がアメリカ合衆国を支持する声明を発しました。

一方でブッシュ大統領は、この戦いはイスラーム教徒を相手にする十字軍の戦い「クルセード」と表明し、世界各地のイスラーム教徒の反発が起きたため発言を取り消したが、イスラーム圏では反米暴動が各地で起きました。

10月7日、米・英軍(有志連合)はインド洋の艦船から戦闘爆撃機による攻撃を開始、また潜水艦から巡航ミサイルを発射して、カーブルのターリバーン政権中枢やアルカーイダの訓練所などの空爆を開始しました。

この空爆でアフガンに投下された爆弾は、第二次世界大戦中、1941年から42年のロンドン大空襲でドイツ軍が投下した爆弾の半分に相当する1万トンに達しました。空爆に加えて、武器や砲弾の援助を受けた反ターリバーンの「北部同盟」が攻勢に出て、マザリシャリフ、ヘラート、首都カーブルを制圧しました。アメリカ・イギリス地上部隊は最後のターリバーンの本拠カンダハール攻略に参加しました。こうして戦闘2ヶ月でターリバーン政権は崩壊しました。

米軍の支援のもとで戦った「北部同盟」は、もともとはターリバーンの主体であるパシュトゥーン人以外のアフガン人であるタジク人やウズベキ人の部族長が寄り集まった軍閥集団で、かつてのソ連軍の侵攻の際には、パシュトゥーン人もその他の部族もゲリラ兵として協力して戦った仲間でした。

米軍に支援された北部同盟は、2001年末までにターリバーン政権を首都カーブルから追い出し、権力を奪回しました。これによってアフガニスタン人同士だけで戦う「アフガニスタン内戦」から、米軍・政府軍対ターリバーンという構図の「アフガニスタン戦争」に転化したと言えます。

また、米兵に助けられている政府軍よりもターリバーン兵(最も彼らもパキスタンやサウジアラビアの支援を受けていたと言われているが)を味方と感じる者が多く、ターリバーンの勢力はじりじりと回復していきました。

2003年のイラク戦争勃発によって世界の関心はアフガニスタンから離れていったこともあり、日本もふくめた世界の多くが知らないまま、アフガニスタンではターリバーンが国土の約半分を支配するほどになっていました。

2009年に登場したオバマ政権も米軍の撤退には踏み切れず、状況の悪化から帰って増派すると声明しました。しかし、再選時にはアフガニスタンからの段階的撤退を公約、2014年12月にはNATOが主導する国連治安支援部隊(ISAF)が公式に任務を終了しました。

そのかわりに米軍が「確固たる支援任務」と証する部隊を駐留させ、政府軍の支援と指導に当たることになりました。この部隊はNATO主導とは言え、実態はアメリカ軍で、なおも1万3000人の米兵が駐留しました。

「国際治安支援部隊」から「確固たる支援任務」への移行式典(2014年12月8日カブール)

ところが、トランプ大統領は、アメリカの負担を減らすこと、アメリカ兵を長期駐留から撤退させることを掲げて大統領選に当選、2020年3月にターリバーンとの講和を成立させ、撤退の具体化を図っているのですが、アフガニスタンの内戦再燃の危惧も予測されています。

このように米軍はアフガニスタンからの撤退を先延ばしにするうちに、2001年から2020年まで20年経過し、今までのアメリカの関わった戦争で最も長かったベトナム戦争(一般的に1955年~1975年とされる)とほぼ同じ最長の戦争となってしまったのです。
米国はタリバンが国際テロ組織に協力しないなら米軍は、撤退するという立場です。アフガニスタンからの米軍撤退は既定路線ですが、イスラム国は同国で勢力を拡大中です。タリバンがアルカイダを受け入れなくても、イスラム国は既に勝手に侵入して地盤を固めつつあります。アフガニスタンは、イスラム過激派にとっては外人に邪魔されず存分に戦える安全地帯となりそうです。

トランプ大統領は「和平」協定合意に向けタリバンともアフガニスタン政府とも話し合いがうまく進んでいると発言していました。「和平」協定と言っていますが、彼の目的は20年近く続いた米軍の駐留を終わりにすることであって、アフガニスタンに「和平」をもたらすことではありません。

しかし、だからといつて米国を責めるべきでもありません。米国の判断は正しいともいえるでしょう。確かに米軍の撤退は、アフガニスタンに和平をもたらすわけではありませんが、アフガニスタンで紛争が続き、米国からの支援もないということになれば、いずれ決着がつき、新たな秩序が形成されるからです。

そのほうが、米国が中途半端に関与し続け、紛争が更に長引くよりは良いと思います。これが2001年の時点では事情が違います。あの時はアルカイダがアメリカを攻撃したので多くの米国人も米国のアフガニスタン関与を支持したのです。
ところがその後は、違います。オバマ大統領がアフガニスタンで行ったのは、すべてのアフガニスタン人を救って民主制度を根付かせるというものです。

もちろんアフガニスタン側も米兵と一緒に喜んで写真に写ったりしたわけです。なぜなら米国から700億ドルもの資金が流れ込んでくるからであり、そのうちのいくつかはオーストラリア人が使い、カブール政府が受け取ったり、結局豪華な邸宅やイタリア製の配管などに化けたりしたわけです。

  アフガニスタン国民軍の女子戦術隊による作戦訓練。この女性兵士の
  特殊部隊は、女性と児童の捜査、訊問、医療支援などに従事(2018年)

このようなアフガニスタンやイラクの民主化というのも、時間がたつとその熱が冷めてきます。それが、今回の米軍の撤退に結びつくわけです。

ところがもう一つ戦争が長引いた原因があります。こっちはかなり真剣に見ていかなければなりません。

その原因は長期的に、世界中で行われている紛争と同じものであり、そうしてこれは間抜けな外部からの介入が原因であり、その動機は人間の最高の「善意」にあるのです。

先日もこのブログで掲載したように、米国の戦略化ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』で、紛争等に関わるなら正規軍を50年くらいは派遣して、秩序をつくりかえるくらいの気構えが必要であって、中途半端に関わるのは混乱を増すだけだと言っています。

アフガニスタンも、この例に漏れません。米国はアフガニスタンに関与するなら、爆撃等だけで終了しすぐに撤退するか、本気で介入するなら中途半端をせずに、最初から50年くらいも正規軍を大量に派遣するつもりで、秩序をつくりかえるのか、はっきりさせるべきでした。

しかし、中途半端な介入をしてしまったため、結局ほとんど何も変えられなかったのです。米軍はアフガニスタンに行って、アフガニスタンの伝統的な生き方をやめさせようとしました。しかし、先日新聞の意見欄にも書かれてましたが、米軍が何年間も介入したにもかかわらず現地の女性は抑圧されたままです。

2020年9月27日日曜日

マスコミが報じる「国債格下げ」より「CDS」の方が信頼できるワケ―【私の論評】少し冷静に考えれば、財務省は札つきの「狼少年」であることは明らか(゚д゚)!

財務省の世論誘導、そのやり方とは?

政府見解は財務省意見でもある」。よくそう言われるものの、財務官僚が自ら意見を表明することはなく、「御用審議会」を通じて意見を出す。万が一、意見が間違っていても、「財務省が間違ったのではなく、審議会が間違った」というためだ。

財務省の御用審議会はいくつもあるが、その一つが「政府税制調査会」だ。同調査会は8月5日にウェブ会議方式で総会を開催したが、その場で、新型コロナウイルス対応で財政の悪化が深刻となっていることに懸念を表明。

政府税制調査会(昨年)

消費税増税を中核に据えた、骨太の議論が必要ではないか」と、財務省の意向通りの意見を表明した。

こうして審議会を利用する他にも、財務省は自分たちに有利な情報をマスコミにクローズアップさせ、世論を誘導することもある。

最近で言えば、「海外の格付け会社が日本国債の格付けを引き下げた」というニュースも、これにあたる。

かつて'00年代のはじめ、財務省は格付け会社の国債格付けには根拠がないとして、猛烈に反論したことがある。そのときの文書は、今も財務省ホームページに残っている。

しかし、今や状況は一変した。コロナ対策の消費減税を阻止し、将来的な増税への道筋をつけたい財務省にとって、国債の格付けが下がることは好都合だ。

海外の格付け会社も、日本の財政基盤を不安に思っている。増税が必要だ」とアピールすることができるからだ。

そもそも、こうした格付けがまったくあてにならないことは、リーマンショック前には「適格証券」とお墨付きを与えていた証券に、ショック後は軒並み「投資不適格」の判断を下したことからも明らかだろう。財務省も、そんなことは百も承知だ。そのうえで、格付けを自分たちに有利なように利用しようとしているのだ。

では、見識ある市場関係者の間では、日本国債の信頼性はどのように見られているのか。

基準となるのは、市場で取り引きされる国債の「保険料」である「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」だ。

現時点における日本国債のレートから計算すると、5年以内の破綻確率は0・5~1%程度と計算できる。これは、先進国の中でトップクラスの安全性であり、破綻リスクは限りなくゼロに近い。

こうしたことはあまりマスコミで報道されていないが、ネット番組では盛んに報じられている。

先日も有名なお笑い芸人が自らのチャンネルで「国債格下げを報じるマスコミより、市場で取り引きされるCDSの方が信頼できる」と主張していた。財務省は、マスコミより先に彼らに接近したほうがいいのではないか。

筆者としては、政府は財務省の思惑に乗ることなく、むしろ消費減税をおこなったほうがいいのではないかと考えている。

減税には定額給付金と似た効果がある上に、国会の手続きを考えても、はるかに早く実現でき、効果が出るからだ。

その証拠に、イギリスやドイツも時限的な消費減税をしようとしている。

10月にも臨時国会が開催され、補正予算などが議論される。そのとき、解散総選挙になるかもしれないが、消費減税も大きな争点になるだろう。

『週刊現代』2020年9月5日号より

【私の論評】少し冷静に考えれば、財務省は札つきの「狼少年」であることは明らか(゚д゚)!

日本が財政破綻などしようもないことは、国債の金利が低くマイナスもしくはほとんどゼロに近いことでも、はっきりしすぎるくらいはっきりしています。

金利がマイナスとは、購入した国債を国が償還するときに、金利を払うのではなく、逆にいただくことができるということです。金利がマイナスということは、政府が国債を発行すれば、将来世代への付けになるどころか、金利分が儲かるということです。


このようなこともわからない人というか、わからないふりをしている人がたくさんいるなど、本当に異常だと思います。

そういう人たちに問いたいです。財務省が破産するかもしれないと懸念している投資家たちが、日本国債を買っているのはどうしてでしょうか。その理由は、「日本国債は日銀が買ってくれるから」ということではありません。なぜなら、日本国債を日銀に売って、受け取るのは日銀券か日銀への預金なので、日本政府が破産するときに日本政府の子会社である日銀に対する預金や日銀券を持っていても、意味がないのです。

 

多額の現金を手にしている投資家にとって、選択肢は限られています。日本円の資産を持つとしたら、紙幣を金庫に入れておいたり、日銀やメガバンクに預金したりするより、日本国債を持っているほうがまだ安心なのです。

 

国債を買ったとしても、日本政府が破産するリスクがあります。そのリスクを避けようとすると、米国債等を買うしかありません。しかし、それには為替リスクが伴います。

 

仮に投資家が、「今日から明日までの運用を考えよう。明日以降のことは、明日考えればいいのだから」ということで、運用を検討するとします。明日までに日本政府が破産する可能性は非常に小さい一方、明日までにドル安になって為替差損を被るリスクは比較的高いといえます。

 

そのように考えるなら、日本国債を持っているのがいちばん安全な資産運用だ、ということになります。だから投資家たちは日本国債を所有しているのです。

 

もちろん、明日までにドル高円安になって為替差益を稼げる可能性もありますし、米国債の利回りは日本国債の利回りより高いので、米国債を選択する投資家もいるとは思いますが、投資家は基本的にリスクを嫌うので、よほど日米金利差が開いているのならともかく、そうでないない限り多くの投資家が日本国債を選択します。


多くの投資家がそうすることと、財務省が何十年にわたって「財政破綻するかもしれない」と脅しても、一向にその気配すらなく麻生財務大臣が揶揄するようにまるで「狼少年」のようであり、もうその脅しにはのらなくなっているからこそ、日本の国債は短期でも長期でも金利がゼロにかなり近いか、マイナスになっているのです。


麻生財務大臣


マイナスになっても購入するのは不思議だと思う人もいますが、大量の現金を金庫にいれておけば、火災や強盗にあうかもしれませんし、米国債などを買えば、場合によっては多大な為替リスクを負うことになるかもしれないのですから、やはり国債ということになるのでしょう。


投資家は長い間投資をしてきていますし、その長い経験から、もう財務省は「狼少年」であることを見抜いているのでしょう、だかこそ、日本国債の金利は、長期でも金利がゼロに近いか、マイナスになっているのです。


それに、日本が世界最大の債権国(世界で最も金を外国に貸し付けている国)、言い換えると対外金融純資産が世界一であることを考えれば、日本が財政破綻することなど考えられません。


実際コロナ禍などの不安から、9月下旬に入り、国債金融市場では数々の不安材料が多発し、危機回避の気配が高まりましたが、こうした状況下、金融市場ではドルおよび米国債が買われる一方、株を筆頭とするリスク資産が手放されていますが、その中で「不安の逃避先」として囃し立てられてきた金もしっかり売られていることにも注目したいところです。

株価下落などを補填する「換金売り」で含み益の実現が企図されているとの解説が目立ちますが、そもそも本当に危なくなった時に換金される資産は安全資産として金の「位(くらい)」がそれほど高くないようです。

今回の危機回避の局面で買われたのはドル、そして円です。具体的に数字を見ると、9月14日を基点として23日までの対ドルの変化率を見た場合、上昇したG10通貨は円だけであり、それ以外の通貨は全て対ドルで下落しました。為替市場では伝統的な反応といえます。また、金や銀、プラチナなどの貴金属も対ドルでは軒並み下落しました。

結局、「有事のドル買い」と「世界最大の債権国通貨の円買い」は最も深刻な危機回避局面では威力を発揮するのです。なお、世界最大の経常黒字国(貿易黒字国)であるドイツを擁するユーロも本来、この状況で買われてしかるべきですが、今回の危機回避の震源が「欧州のコロナ第二波懸念」であり、また過去3か月でユーロは猛烈に買われてきたという経緯も踏まえれば、対ドルで売られるのは致し方ないともいえます。

今回のように、世界金融市場が危機的な状況になると、ドルとともに円が買われます。そうして、円高傾向になります。日本が財政破綻するというのなら、危機的状況で回避策として円が買われるのはなぜなのでしょうか。

金よりも安全な日本国債

考えてみれば、金が日本国債よりも絶対安心な資産であるとすれば、日本の投資家は、日本国債ではなく、金を大量に購入するのではないでしょうか。しかし、そのような話は聞いたことはありません。日本では、金よりも日本国債が安全な資産ということです。

「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」は、過去にこのブログにもとりあげたように、重要な指標であることは間違いないですが、別にその指標に頼らなくても、少し冷静に考え場、財務省は札付きの「狼少年」であることは明らかです。

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2020年9月26日土曜日

“忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的―【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

 “忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 ニューヨーク・タイムズ(9月24日付)などによると、米統合特殊作戦軍はこのほど、国際テロ組織アルカイダのシリア分派「フラス・アルディン」の幹部をドローン搭載の通称“忍者ミサイル”で暗殺した。このミサイルは爆弾の代わりに長い回転刃で標的を切り刻むという特殊兵器。米軍はテロリストとの「影の戦争」に新兵器を本格投入し始めた。

ドローン リッパー

6枚の回転刃を放出

 同紙の報道について、国防総省スポークスマンは攻撃が9月14日にシリア北西部イドリブ近くで実施されたことを確認した。米国の対テロ当局者や現地の人権監視団体などによると、殺害されたのは「フラス・アルディン」幹部のサイヤフ・チュンシというチュニジア出身のテロリストで、西側への攻撃計画の首謀者とされる。

 米軍のドローン「リーパー(死神)」が「R9X」と命名されたヘルファイア・ミサイルを発射し、殺害した。通常のヘルファイア・ミサイルには弾頭に約9キロの爆薬が装着されているが、「R9X」は弾頭を爆発させる代わりに、6枚の回転刃が付いた金属物体を放出、これによって標的はズタズタに切り刻まれる仕組みだ。

 この兵器はほぼ10年前に開発され、今回は最近の3カ月間で2度目の使用。1度目は6月に同組織の事実上の指導者だったハリド・アルアルリをシリアで殺害した。この他、これまでに統合特殊作戦軍と中央情報局(CIA)がイエメンやシリアで過激派の暗殺に使ったが、実戦に投入された回数は6度ほどにとどまっている。

 残虐とも思われるこの兵器は米軍の過激派攻撃で民間人の死傷者が増えたため、オバマ前大統領が民間人の巻き添えを最小限に食い止める兵器の開発を指示して生まれた。一般的に多数の過激派を一挙に掃討する場合は通常のヘルファイア・ミサイルが使われ、少数を標的にするケースに通称“忍者ミサイル”の「R9X」が使用されるという。

 統合特殊作戦軍は今後も、シリア、アフガニスタン、イエメン、イラクなどの過激派殺害に「R9X」を使用すると見られているが、最近アフリカ軍がケニアでのドローン攻撃を容認するよう、国防長官とトランプ大統領に要求していると伝えられており、同ミサイルの使用頻度が増える可能性がある。ケニアには隣国のアルカイダ系過激派「アルシャバーブ」が越境テロを繰り返し、1月には米国人3人が殺害された。

西側テロを画策する最凶組織

 殺害された幹部が属している「フラス・アルディン」は米国が最凶のテロ組織として狙い続けてきたグループだ。同組織は元々、アフガニスタンに潜伏していると見られるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが西側権益を攻撃させるためシリアに設置させたもので、当初は「ホラサン・グループ」と呼ばれた。

 シリアのアルカイダ分派だった旧ヌスラ戦線(現シリア解放委員会)がアルカイダと決別宣言した後、過激な思想を持つ面々が集まって2018年、「ホラサン・グループ」の後継組織として「フラス・アルディン」を立ち上げた。その後、米国の空爆によって大きな打撃を受けたものの、現在はイドリブ県に約2000人の戦闘員が残っているといわれる。シリア北西部はロシアが制空権を握っているため、米国の空爆に抑制が掛かったおかげで生き延びたようだ。

 同組織の存在が知られるところとなったのは昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者だったバグダディが米軍の急襲によりイドリブ県で殺害された時だ。バグダディに隠れ家を提供していたのが「フラス・アルディン」の司令官だったからだ。ISとは犬猿の仲だっただけに、バグダディから用心棒代を受け取って匿っていたことに、世界中のテロ専門家らが仰天した。

 イドリブ県はシリア内戦で残った反体制派の最後の拠点だ。現在は全土制圧を目指すアサド・シリア政権軍がロシア軍機の支援で、同県への攻勢の機会をうかがっているが、トルコ軍がシリアに侵攻し、にらみを利かせているためアサド政権、ロシア、トルコが三すくみのような膠着状態が続いている。

 県内に立てこもる最大勢力はアルカイダとの関係を切ったと主張する「シリア解放委員会」で、その勢力は約3万人。またトルコが支援する反体制派「国家解放戦線」も同程度の勢力規模だといわれる。「シリア解放委員会」は自分たちの占領地域をISと同様に「国家」と呼び、同県の支配体制の強化を図っている。最近では、外国人の過激派追放に乗り出し、「フラス・アルディン」との間で交戦に発展、緊張が高まっている。

 シリアでは、内戦で家を失った難民が人口の半分以上の1400万人にも達し、イドリブ県の住民300万人のうち、100万人が難民化している悲惨な状況だ。だが、各勢力がそれぞれの権益確保に狂奔している現状では和平の展望は暗い。なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい。

【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

今回の「R9X」は、ドローンそのものではなくドローンから発射されるミサイルです。以下にわかりやすいイメージを掲載します。

ドローンの翼の下に装着された「R9X」

「RX9X」のイメージ  6ft.は6フィートで、約180cm
このミサイルの全長は身長180cmの人の肩辺りまでです

さて、冒頭の記事では、結論部分で「なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい」と締めくくっていますが、この考えはどうなのでしょうか。

私自身は、この考えは正しいようで間違いでもあると思います。現時点では、いずれが正しいかははっきりとはいえません。ただいえるのは、米国が中途半端に中東に関与するのは、決して良い結果をうまないであろうということです。

米国の戦略家ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』平和と戦争について以下のよう語っています。
平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まる。また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとする。

しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていく。人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるというわけだ。 
あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結する。破れた側に闘う力が残されていないためだ。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならない。つまり戦争が平和を生むのだ。

特に欧米の先進国が行う中途半端な人道支援という介入は戦争で疲弊する前に戦闘状態を一時的に終わらせてしまう。つまり両勢力が戦いに倦む前に戦争状態を凍結してしまう。この状態では遺恨や野心が疲弊に取って代わる事が無く、いつまでも紛争国の人々間で燻り続け、本当の意味での戦後復興も行われない。

そのためにかえって状態の不安定化や長期間の小さな衝突と流血が続いてしまう。朝鮮半島やサラエボなどがその格好の事例だ。特にユーゴスラビアではドイツが何の責任も引き受けることなく内戦に介入した。米国も無責任な軍事介入を繰り返した。

国連やNGOの難民支援をそうである。歴史的に見て戦火から逃れた難民の多くは大変な苦労を経験しつつも、逃れた先で土着化しその国の民として同化していく。そうする事で難民達は新たな人生のページを開き、子や孫の世代にまで紛争を引き継ぐ必要がなくなるのだ。個人的に見ても、戦略的に見てもその方が安定と平和を得る事ができる。

これと逆の行いをしているのが国連パレスチナ難民救済事業機関だ。彼らはパレスチナ難民をイスラエル国境近くに人工的に留め置き、二度と帰れる可能性の無い故郷に、いつか帰れるのではという希望を与えている。

若い難民達の殆どは難民キャンプで生まれそこで育っている。これは結局のところ難民の永続化である。彼らの一部は国連パレスチナ難民救済機関の食料を食べて育ち、イスラエルへの敵意をみなぎらせ、一度も見たことの無い故郷を取り戻すためにハマスのメンバーとなり、新たな紛争の火種となっている。
日常を生きる私たちは、戦争で血を流す人々を見れば、同情したくなるし、血を流す当事者も苦痛に満ちた思いをする。これを国際社会の介入で終わらせようとするのは当然の感情かもしれない。しかし、中途半端な介入は悲劇を招くだけだ。

この考えは、多くの日本人には受け入れらないところがあるかもしれません。しかし、現実は現実です。現状の米国はどうなかというと、最大の火種は中国です。現在の米国は、中国との冷戦、場合によっては部分的な熱戦(戦争)も覚悟しなければならないからです。

それを考えると、米国の中東への関与は、どうしても中途半端になります。であれば、米国は中東からの関与をやめるのが妥当です。

ただし、すぐに全面的に手を引けば、さらに混乱が高まるおそれがあります。そのため、現実的な観点から徐々に、手をひきつつあるようです。 

実際、今年8月半ばには、アラブ首長国連邦(UAE)がイスラエルとの国交正常化に合意しました。

米国のドナルド・トランプ大統領は今月11日、イスラエルと中東バーレーンが国交正常化に合意したと発表しました。

これらの合意は、米国の仲介があったことは間違いないです。

トランプ大統領はツイッターに、「過去30日間でイスラエルと和平合意した2番目のアラブ国だ」と書きました。

中東諸国は何十年もの間、パレスチナ問題が解決するまではイスラエルと国交を樹立しない姿勢を貫いてきましたが、これが米国の仲介によって、変わりつつあるのです。

これらは、マスコミでは「大統領選挙目当て」などと批判するむきもありますが、中東和平に結びつくのは間違いないです。トランプ大統領としては、(イラン)対(アラブ諸国+イスラエル)という対立軸を作ろうとしているようですが、これがうまく拮抗すれば、従来の大混乱よりははるかにましです。

トランプとしては、このような対立軸ができた後には、米中央軍を大幅に削減して、アジアに移す心づもりなのだと思います。

ただ、トランプの足を引っ張る勢力もあります。それは、中国であり、ロシアです。両国とも中東に足場を築きつつあります。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか— 【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、最近の中国の動きをこの記事から引用します。
  • 中国は中東イランのキーシュ島を25年間租借する権利を得て、ここに軍事基地を構えようとしていると報じられている
  • 事実なら、中国はアジア、中東、アフリカを結ぶ海上ルートを確立しつつあるといえる
  • ただし、イランに軍事基地を構えた場合、中国自身も大きなリスクを背負うことになる
以下にこの記事の結論部分を掲載します。
これからも、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとし、それだけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。今のままだと、中国も同じ運命を辿りそうです。

中国の力の分散は、日米にとっては歓迎すべきことかもしれませんが、米国と本格的に対峙しようとしている中国が中途半端に中東に関与すれば、さらに中東情勢を混乱させるだけです

ロシアの中東関与についても、このブログに掲載したことがあります。

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!
年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分だけ引用します。
米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。
現在のロシアのGDPは、日本の東京都なみです。東京都が軍備をして、中東で何かをしようとしても限界があるのは目に見えています。ロシアにできることには限界があり、中東に関与すれば中途半端にならざるを得ず、関与し続ければ必ず中東に混乱をもたらします。

ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』で、関わるなら正規軍を50年くらいは派遣して、秩序をつくりかえるくらいの気構えが必要であって、中途半端に関わるのは混乱を増すだけだと言っています。

中東に関しては、米国は徐々に関与を無くす方向ですすんでいますが、中国とロシアは中途半端に関与しようとしています。

中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつあるといえます。中東の石油に依存する日本にとっては、この動きは望ましいものではありません。

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2020年9月25日金曜日

TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か―【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

 TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か

岡崎研究所

 9月6日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハーは、中国がTikTokの技術を輸出規制の対象とする決定をしたことを捉え、中国も技術のデカップリングに動いていること、差し当たり技術の競争の面で中国の方が少々有利と見られることを論じている。


 8月3日、トランプ大統領は、中国製アプリTikTokの9月中旬以降における米国での使用を禁止するとともに、TikTokの米国事業の米国企業への売却を求める方針を打ち出した。TikTokは、Huaweiとは異なり、戦略的な資産ではなく、TikTokの一件のみをもって一戦を交える用意は中国にはないであろうと思っていたが、案に相違して中国は反撃に出た。

 8月28日、中国商務省は、その輸出規制を改定して複数の技術を規制対象に追加した。これには TikTokの「personalized recommendation engine」を指すと思われる技術が含まれている。これこそが利用者の好みに合わせて動画を配信出来るTikTok独自のアルゴリズムだという。8月29日、新華社はこの新規則により、TikTokを運営する ByteDanceは、中国政府の許可を得ないとTikTokを売却出来なくなるであろうと報道した。ByteDance は新規則に従うと早速表明している。

 TikTokの米国事業の売却は、MicrosoftおよびOracleとそれぞれ交渉中であるが、中国がこの輸出規制の権限を使って売却を阻止出来るのか、あるいは阻止する積りがあるのかは良く分からない。阻止してみたところで、米国でのビジネスが出来ないのであれば、意味はないが、トランプが閉店安売りを強いることを阻止する代償として中国(および ByteDance)が受け容れる用意があるのかは不明である。

 中国として、トランプ政権がTikTokだけでなくTencentのWeChatなど今後も標的を増やすことを睨んで牽制の意味も込めて打った一手であろう。

 フォルーハーの論説は、中国が技術の輸出規制に動いたことは、中国も技術のデカップリング(米国との切り離し)に動いていることの証と捉えている。それは、米国の動きに触発された最初の一手ということであろうが、中国は受けて立つ積りである。デカップリングが進行する世界での両国の技術に係わる力関係は、国内の製造業の基盤および輸出市場の観点からも中国に有利に展開すると、フォルーハーは見ているようである。

 換言すれば、米国が中国にデカップリングを強いるには時期を失している。中国は既に強くなり過ぎていて中国もデカップリングを強い得る立場に立とうとしている、ということではないかと思われる。もしそうであるならば、米国市場から中国企業を手当たり次第排除するだけでは中国に勝てないであろう。

 中国が市場、人口、面積のみならず、技術的優位を獲得し、それを武器に世界戦略に出てきた現実は、大国米国でも、なかなか手に負えない状況になってきたようである。IT技術、宇宙開発、海洋進出、核開発等、いずれの分野でも中国は一国主義を取っている。米ソ冷戦時代でさえ、宇宙協力や核軍縮協定等が存在したが、中国と世界との貿易上の相互依存は深まっても、重要な戦略分野での協力が難しい。協力どころか、もはや切り離しや対立傾向がみられる。

 米国が中国を警戒するのは、中国は、IT技術等を、純粋に経済利用するのではなく、中国の独裁共産主義体制や人権弾圧等、米国が最も重視している民主主義、個人の尊厳と反対の目的のために利用しているからである。これが続く限り、経済とイデオロギーが相まって、米中対立は長期化するのだろう。

【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

上の記事は、英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハー氏の論説に基づいて、中国に有利としているようですが、その根拠は薄弱です。これに似たような論調で、軍事的にも中国が有利とする説があります。

その根拠となっているのは、DF-17ミサイルの弾頭部のHGV(極超音速滑空兵器)です。極超音速のミサイルであり、米国はこれを撃ち落とせず、よって空母もすぐに撃沈されるので、米軍は負けるというものです。

超音速ミサイルなどについては、ここでは詳細は述べません。それについて知りたい方は、以下の記事などにあたってください。
迫り来る極超音速ミサイルの脅威  現状では迎撃不可能?
これに関しては、脅威であることには違いないですが、だからといって米軍が負けると結論を出すのははやすぎです。

なぜ、そうなのかといえば、このブログの読者なら、もうご存知でしょう。それは、中国の軍事技術が発展していることは事実ですが、その発展の仕方があまりに歪だからです。

決定的なのは、中国の対潜哨戒能力が米国に比較すると極度に劣っていることです。さらに、原潜の攻撃能力などもかなり劣っているところがあるということです。

日米に比較するとかなり能力が劣る中国のY8型哨戒機

そのため、米軍の原潜(米国は原潜しかない)は中国側に発見されることなく、自由に航行できるのに対して、中国の原潜および通常型の潜水艦は米国に簡単に探知されてしまいます。そうして、魚雷などで撃沈されてしまいます。

そうなると、他の中国の空母などの艦艇や航空機などもすぐに撃沈、撃破されてしまいます。仮に超音速ミサイルで攻撃しようにも、中国は原潜を探知できないのですから、攻撃のしようがありません。

これは、最初からわかりきっていることなので、もし米軍がたとえば、南シナ海で中国と本気で事を構えようとした場合、南シナ海にすぐに超音速ミサイルルで撃破されることが予め予期される、空母打撃群や強襲揚陸艦を最初に派遣し戦端を開くことなど考えられません。

米軍が艦艇や空母打撃群を南シナ海に派遣しているうちは、本気で戦争する気はないとみるべきでしょう。本当に戦争になる場合は、まずは空母、艦艇を引きあげさせるでしょう。

そうして、まずは原潜を派遣(軍事機密なので公表されていませんが、私はもうすでに派遣していると思いますます、実行するしないは別の話)して、南シナ海の中国軍基地を取り囲み、南シナ海に中国の潜水艦や艦艇、航空機が近づけないようにするでしょう。また、中国の沿岸などに、原潜を派遣して、中国の超音速ミサイルの基地を叩くでしょう。

後は、原潜で南シナ海の中国の基地を包囲すれば、補給がたたれ、中国側はお手上げになるはずです。その後必要があれば、米軍は空母打撃群や強襲揚陸艦を派遣して、中国の残存兵力を無効化し、占領するかもしれませんが、私自身は、南シナ海の中国軍基地など、米国にとってはあまり意味のないものなので、そこまではしないだろうと思います。ただ、破壊するか、元の環礁にできるだけ近いかたちで原状復帰をすることになるかもしれません。

米海軍のCVN-73ジョージ・ワシントンとCVN-74ジョン・C・ステニス空母打撃群

中国の技術水準はかなり歪です。次世代通信システム機器5G 通信機器では既に中国は世界のトップの水準になっています。かなり技術を盗んでいるとはいえ、量子コンピュータ、AI技術、宇宙機器のレーダー、電磁波技術、AI技術、クラウド・ビッグデータ、自動運転技術、サイバー技術などで、米国に肉薄するか、米国より優勢になってきているものもあります。

ところが、航空機や高速鉄道などのボルトを製造できません。先日もこのブログに掲載したように、航空機のエンジンもまともに製造できません。

なぜこのようになるかといえば、自由主義諸国に比較して、技術の裾のが広くないからでしょう。中国の場合は、ロシアから導入された技術と、他国から盗んだ技術を基盤にしています。

ロシアというか、ソ連の技術は第二次世界大戦終了後にドイツの科学技術者を大勢連れてきて、様々な技術を発展させ、その後は他国から盗んだものを基盤にしています。ロシアは、ソ連の頃から対潜哨戒能力はかなり劣り、現在も劣っています。

だから、中国のそれも未だに劣っているのでしょう。それに、これは最高機密に属するので、他国から盗むのも困難です。だから、今でもロシア・中国ともにかなり劣っているのでしょう。

これは、軍事技術のほんの一部であり、他にも劣るところは、かなりあります。

これと同じようなことが、ITについてもいえるでしょう。

中国のAI技術が急速に伸びてきていると言われますが、果たして今現在どこまで伸びてきているのでしょうか。米著名シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が昨年10月に開いたパネル討論会で、中国のAI技術の現状に関する一般的な誤解が幾つか明らかになりました。

登壇した専門家によると、中国はAI技術で世界一になるために政府主導のもと官民が足並みをそろえて邁進しているわけではなく、また膨大なデータ量で米国を凌駕しているわけでもないといいます。

これについては、以下の記事が参考になります。
「AI大国、中国脅威論」の5つの誤解 米戦略国際問題研究所のパネル討論会から
この内容は、中国のAIの問題点をあまり突いてはいないと思います。しかし、技術競争では中国有利などとは単純にはいえないことが、何となく理解できます。

一方、アルゴリズムの研究の停滞は、中国のAIのボトルネックとなるかもしれません。

昨年上海市で開催された院士サロンにおいて、中国工程院院士の徐匡迪氏ら複数の院士からの「AIの基礎的アルゴリズムの研究を行っている数学者は、中国にどれほどいるのだろうか」という問いかけが業界の共鳴を呼び、「徐匡迪の問いかけ」と呼ばれるようになっています。

昨年4月28日に開かれた「超音波ビッグデータ・AI応用・普及大会」において、東南大学生物科学・医療工学学院の万遂人教授は、「中国のAI分野でアルゴリズムの研究に取り組んでいる科学者は極めて稀だ」とし、「徐匡迪の問いかけ」は中国のAI発展の重要問題を突いていると述べ、「この状況に変化がなければ、中国のAI応用は掘り下げが困難で、重大な成果も得難い」としました。


「アルゴリズム」とは、簡単に言うと「手順や計算方法」のことです。さらにざっくりとした言い方をすれば「やり方」とも言えるでしょう。

そもそもコンピュータは日本語に訳すと「電子計算機」となります。つまりコンピュータは、人の手では時間がかかりすぎたり、面倒だったりする計算を代わりにやってもらうためにあるのです。

そのときコンピュータにさせる「計算の手順、やり方」こそが「アルゴリズム」である、というわけです。

重要なのは、ある結果にたどり着くためのやり方(アルゴリズム)はたくさんあることです。

いくつかのアルゴリズムがある場合、より効率よく計算できるアルゴリズムのほうが優れていることになります。


さて、中国のアルゴリズム研究はどの程度なのかといえば、その尺度としては、数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞が一応の目安となりそうです。

フィールズ賞(フィールズしょう)は、若い数学者のすぐれた業績を顕彰し、その後の研究を励ますことを目的に、カナダ人数学者ジョン・チャールズ・フィールズ (John Charles Fields, 1863–1932) の提唱によって1936年に作られた賞のことです。以下に国別の受賞者数の表を掲載します。

この表を見ると、米国は13人受賞、中国は0人です。日本は3人です。ロシア(ソ連時代含む)は9人です。

AIを発展させるためには、アルゴリズムも発展させる必要があります。

現状では、中国は確立されたアルゴリズムのもとで様々な開発を行っているものと思われます。

既存の方法でも、新たな方法でも、アルゴリズムが効率的なければ、システムも効率の良いものにはならないです。

そうして、アルゴリズムの研究は、やりはじめて、すぐに成果があがるものではありません。長い時間がかかります。金を投資して、掛け声をかければ、すぐにできるようなものではありません。

奥行きも、間口の広さでも、現在中国は米国に遠く及ばないと言って良いでしょう。

上の記事にもあるように、AIに関しては、小手先の目先の技術については、中国が進んでいるところがあるのかもしれませんが、アルゴリズムに関しては、米国が圧倒的にすすんでいます。

やはり、軍事でみてきたように、AIでも中国の発展は歪です。

現在はまだ目立ちませんが、米中のデカップリングがすすめば、AIでも軍事技術にみられるような、中国の歪さが目立つようになると思います。

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2020年9月24日木曜日

経済でトランプ氏がバイデン氏をリード 民主党政権になると実は「見えない税金」が貧困層を直撃する!?―【私の論評】菅政権は現在のトランプの経済政策と、高橋是清の昭和恐慌時の政策を模範例とせよ(゚д゚)!

経済でトランプ氏がバイデン氏をリード 民主党政権になると実は「見えない税金」が貧困層を直撃する!?


《本記事のポイント》
  • トランプ大統領、世論調査では経済政策の面でバイデンを抜く
  • 規制は「目に見えない税金」
  • 菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない

「民主党は黒人の暴動ばかり論じていて、経済について語っていない。これではトランプが勝利してしまう──」。CNNのインタビューに答えたある黒人男性は、こう語った。

米フォックスニュースが9月中旬に行った世論調査では、経済政策ではバイデン元副大統領の支持率が46%であるのに対して、トランプ大統領は51%と、5ポイントも差をつけてリードしている。

しかも「失業」「新型コロナウィルス」「暴動」の3つのうち、何が最も心配かという質問に対して、「失業」と答えた人は、10人中9人にも上った。全体としてはバイデン氏がリードしているが、コロナで失業問題を心配する国民にとって、経済で実績のある大統領を求める声は根強くあるというこ とを示す世論調査となった。

オバマ時代より所得の増額分は50%も増えた

トランプ政権下では、具体的にどのような実績があったのか。9月17日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙が詳細に報じているので、確認しておきたい。

まず所得である。昨年のアメリカの平均世帯の収入は4379ドル(約45万5416円)上がって、6万8709ドル(約714万5736円)になったという。この増加額は8年間のオバマ政権より、50%も増えたことになる。

とりわけ中・低所得者の所得上昇率は高い。その数値は人種別に見た場合、白人が5.7%であるのに対し、ヒスパニックは7.9%、黒人は7.9%、アジア人は10.6%にも上る。その理由は、教育レベルの低い人々がより多く働くようになったからである。

ジェンダー別に見た時の数値も注目に値する。男性の中間所得者の賃金の伸び率は2.5%であるのに対して、女性は7.8%アップした。

面白いのが、失業手当の給付による経済効果である。

2008年から2009年のリーマンショック後、政府は99週間の失業手当を給付したが、これによって、アメリカ人の働くインセンティブが低下。25歳から52歳の労働参加率も、82.7%から80.7%と2%も低下した。一方で、トランプ政権になってブルーカラーの仕事の賃金が上昇したため、労働参加率は、2020年の第一四半期までに82.9%に戻った。

その結果、貧困層の割合は1.3%下がり、10.5%となった。この数字は1959年から最も低い数字である。子供の貧困率は、オバマ政権時代と比べると2倍も下がる。

給付金が増えるにしたがって貧困層は増大した

しかも2012年に政府が給付金の額を増やしたのにもかかわらず、所得は減り続け貧困層が増えた。政府による所得移転は、一時的には景気低迷時の減給分を相殺するよう提供されるが、多くのアメリカ人が働かなくてもお金がもらえるので、給付金に依存するようになったのだ。それは2015年に政府が給付金の額を引き締めた後に、アメリカ国民は働き始め世帯所得は上昇を始めたという統計結果にも表れている。

オバマ政権は取り憑かれたようにバラマキ政策や規制の導入をしていたが、経済成長や投資を阻害し、低成長をもたらした。一方、トランプ政権の規制緩和と2017年末の大型減税は起業家の旺盛な投資活動や企業活動を刺激した。新規事業登録の申請件数だけでも、オバマ政権の最後の2年間の2倍になったのだ。その結果、人手不足に陥り、障害者や低学歴の層の雇用が増えただけでなく、犯罪歴のある者まで雇われるようになった。

規制によるコストは「見えない税金」

バイデン氏の政策は、オバマ政権の政策を引き継ぐものとなる。看過できないのは「規制によるコスト」である。

この「見えない税金」のコストを考慮しなければならないと説くのは、2018年から2019年までホワイト・ハウスの経済諮問委員会のトップを務め、現在はシカゴ大学教授であるケイシー・B. ムリガン氏である。ムリガン氏は9月17日付のWSJ氏に寄稿した「バイデンのプランの本当のコスト(The Real Cost of Biden's Plan)」の中で、以下の趣旨を述べている。

バイデン氏は確かに40万ドル(約4000万円)以下の所得者には、増税はないと断言する。だがクリーン・エネルギー政策を推進するバイデン氏の政策は、「見えない税金」で満載だ。

車一つ買うにしても、数千ドル(数十万円)も高くつくようになる。

またバイデン氏は「2035年までに100%クリーン・エネルギーにする」政策を掲げている。それに伴いアメリカの石油の採掘を禁じれば、電気代などに跳ね返ってくる。

私(ムリガン氏)の計算によると、一番下の所得層は、規制によって所得の15.3%にもあたる「見えない税金」を払わなくてはならない(所得が300万だとしたら、45万円にも上る)。これに対し、高所得者にとって、「見えない税金」は所得の2.2%しか占めない。

環境規制は、貧しい人たちを直撃することになる。そんな大事なことを有権者に伝えないのが、民主党政権である。

トランプ政権が続けば、減税や好景気で所得が上昇するだろう。一方、バイデン政権が誕生すれば、2017年の大型減税政策もなくなるだけでなく、電気代などのために支払うコストや、生活必需品の車を買うにも高いコストを強いられる。

「再配分」と「規制大国」を目指したオバマ政権は、結局、低成長だけでなく不平等を助長した。経済成長を目指したトランプの一期目の政策は、すべての人の賃金を押し上げ、不平等を是正したと言えるのだ。

菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない

一方、日本では菅義偉首相が「構造改革」を掲げる。アベノミクスでは、金融面や財政面での景気の浮上を狙った政策に特化され、当初、第三の矢として掲げられていた「規制緩和・構造改革」は、結局ほとんど実行されなかった。

80年代のレーガン政権に行われた規制緩和が、アメリカの長期的繁栄を築いたように、サプライサイド(供給面)の制度・規制改革に着手するのは、非常に重要である。日本が規制大国から抜け出すためにも、一刻も早い構造改革が期待される。

一方で菅氏は、「最低賃金」のさらなる引き上げに取り組むという。賃金は市場で決まるもので、社会主義的に国家が命令すべきものではない。このような「あべこべ」な政策で、経済は浮上するのか。冒頭で紹介したように、国民からトランプ氏は経済面で信頼が厚い。そのあたりの事情をつぶさに学ばなければならないのではないか。

(長華子)

【私の論評】菅政権は現在のトランプの経済政策と、高橋是清の昭和恐慌時の政策を模範例とせよ(゚д゚)!

トランプとバイデンの経済対策を比較すると、総じてトランプの政策が正しいことは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプが最初から正しかったとFRBが認める―【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンは異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!
ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、バイデン氏の政策の間違いの部分について以下に引用します。
バイデン前副大統領は7月9日、新型コロナウイルス危機に見舞われた米製造業の復活に向け、4年間で総額7000億ドル(約75兆円)の公共投資計画を発表しました。投資額は「第2次世界大戦以来で最大規模」と強調。財源確保のため将来の増税に言及し、減税を掲げるトランプ大統領との違いを鮮明にしました。
これは、明らかに緊縮策であり、来年の米国経済はコロナ禍からまだ十分に立ち直っていないでしょうから、明らかな間違いです。実施すべきは、トランプ氏のように減税と、そうして金融緩和です。

この記事では、以下のようなことも掲載しました。
トランプ氏の狙いは、給付を減らして失業者の就労を促し、大統領選に合わせて雇用改善の実績を強調するつもりのようです。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は4日、雇用情勢の改善を受け、民主党が主張する大規模な経済対策が「なくてもやっていける」と明言しました。

これに対し、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、経済は回復途上であり、失業給付を含む「追加財政策が必要だ」と警告しています。政府支援の大幅削減は「消費と景気回復を圧迫する」(エコノミスト)との分析もあり、雇用改善を急ぐトランプ氏のもくろみは綱渡りともみられています。

 これに対して、マンデル・フレミング効果の観点から、私は以下のように結論を出しました。

8月の米雇用統計では、雇用の伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回っています。これは、財政政策による景気回復の限界を示しているのかもしれません。

であれば、金融緩和に力を入れるというのは当然の措置です。現在FRBが、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束するのは当然のことと思います。

上の記事では、オバマの給付金政策の失敗についても触れられています。給付金を出し続けるという政策はかえって、雇用を阻害する面あるということです。であれば、さらにFRBがさらに高い目標を設定するほうが、はるかに効果があると思います。

さて、この記事では、日本は今はまだ準備段階と結論を出しましたが、まさにそのような状況です。

確かに、菅総理大臣は自民党の総裁選挙にあたって公表した政策のなかで、地方を活性化するため最低賃金の全国的な引き上げを掲げていました。

梶山経済産業大臣は、これに関連して、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。

これに関連して梶山経済産業大臣は閣議のあとの記者会見で、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。

そのうえで、「コロナ禍で落ち込んだ企業の業績を引き上げ、生産性を上げていくために、さまざまな制度を使って会社のスキルや能力をあげることが重要だ。そういう環境があれば、しっかりと最低賃金を上げていくということになるのでどういう流れになるか考えながらしっかり取り組んでいきたい」と述べました。

菅総理大臣も、梶山経産大臣も、なにやらマクロ経済的にみると、不可思議なことを言っています。

まずは菅総理の賃金をあげるという発言は、上の記事にもある通り、確かに賃金は市場で決まるもので、社会主義的に国家が命令してできるものではありません。それに、これを実行して失敗した国がすでにあります。

それは、韓国です。韓国では機械的に最低賃金を上げた後どうなったかといえば、雇用が激減して大変なことになりました。しかし、これは当然といえば、当然です。マクロ経済的には最初から予想できたことです。

マクロ経済的な観点からは、最初に金融緩和をして、雇用を安定させるべきでした。そのうえで、人手不足気味になれば、そもそも企業が自主的に賃金をあげるので、様子をみながら徐々に最低賃金もあげるべきです。最低賃金を機械的にあげるのは間違いです。

梶山氏も間違えているところがあります。他の条件が変わらず、多くの中小企業の会社のスキルだけがあがっても、それだけでは何も変わらないです。無論スキルが上がること自体は歓迎すべきことですが、それ以前にまずは、マクロ的な対策が必須です。順番を間違えています。

それは何かといえば、積極財政と金融緩和策を同時に行うことです。これに関しては、米国は先んじて実行して成功しています。最近の例では、サブプライムローンによる不況と、リーマンショックによる不況への対応でした。

米国はこの二度の不況に対して、積極財政と金融緩和を同時に実行することにより、不況から抜け出すことに成功しました。特に、リーマンショックにおいては、サブプライムローンでの経験もあったため、すみやかに積極財政と金融緩和を実行して、素早く不況から抜け出すことに成功しました。

一方当時の日本は、日銀は大規模な金融緩和をせず、政府は積極財政どころが、緊縮財政をしたので、デフレと超円高に陥り、震源地の米国や、悪影響に直撃された英国が素早く不況から脱したにも関わらず、日本だけが世界の中で一人負けの状態になりました。

日本は、こうした米英の、不況に陥ったときには、金融緩和と積極財政で素早く不況から抜け出すという米英の方式を真摯に学ぶべきです。まず、これを素早く実施し、しばらく継続しつづければ、雇用が改善され最初は実質賃金が落ちても、その後に賃金は間違いなく上がることになります。これなしに、最低賃金を上げるようなことをしてしまえば、韓国の惨状を繰り返すことになるだけです。

ただ、現在の日本は米英の方式を見習うべきですが、過去の日本では、それを自ら実践しています。それは昭和恐慌からの脱出です。

昭和恐慌は、1930年から31年にかけて起こった戦前日本の最も深刻な恐慌で、第一次世界大戦による戦時バブルの崩壊を契機としています。20年代、世界の主要国は金本位制へ復帰していましたが、今ではその結果として20年代末期から世界大恐慌が起こったと分析されています。

このような状況下、29年7月に成立した立憲民政党の濱口雄幸内閣は、金解禁・緊縮財政と軍縮促進を掲げました。

当時、金本位制に復帰することは現在でいえば金融引き締めであり、緊縮財政とセットで国民を「シバキ上げ」る政策は、失業を増加させマクロ経済運営としては、非常に問題にある政策でした。

このマクロ政策としては、間違った金融引き締めと緊縮財政政策は政変によって終わりました。31年12月、立憲政友会の犬養毅内閣となったのですが、高橋是清蔵相はただちに金輸出を再禁止し金本位制から離脱、積極財政に転じました。

積極財政では日銀引受を伴い、同時に金融緩和も実施され、民政党政権が行ってきたデフレ政策を180度転換した「リフレ」政策となりました。その結果、先進国の中でも、恐慌から比較的早く脱出した。

日本では、ニュディール政策によって、米国は素早く不況から脱却したと思われているようですが、現実には米国はこの転換がなかなかできず、恐慌から抜け出たのは、第二次成果大戦の最中でした。ニューディール政策のような財政政策だけでは、不況からなかなか脱却できないという格好の事例になりました。

日本では、高橋是清の今で言う「リフレ政策」は、あまり評価されていないどころか、知らない人も多いですが、これは正しく評価されてしかるべきです。

昭和恐慌は、世界恐慌とともに需要ショックによって引き起こされました。それは、日銀引受を伴う金融緩和と積極財政が最も有効な処方箋です。

コロナ・ショックも、世界的なサプライチェーンの寸断という供給ショックもありますが、人の移動制限の伴うビジネス停止により一気に需要が喪失する需要ショックの面が強く、昭和恐慌と同様の経済対策が必要です。

今回のコロナ・ショックは12年前のリーマン・ショックを超えるようです。


今回の悪化判断の起点は昨年夏からです。国内の景気はコロナ禍に直面する前から低迷期にさしかかっていました。米中貿易摩擦と消費税率引き上げに、今年に入って新型コロナが加わりました。複数のショックが続いて起こり、景気の悪化がリーマン時より長引くのは確実です。

リーマン時に比べ、今回のほうが景気の弱さは際立ちます。一致指数の水準をみると、08年6月の102.1に対し、19年8月は98.4。この時点で景況感判断の目安である100を割り込んでいた。輸出や生産に関する指標は18年初めをピークに低下傾向にあり、内閣府の景気動向指数は19年3~4月にも一時「悪化」判断を示しました。

コロナの影響があきらかになった今年3月以降、日本は輸出や生産に加え、個人消費も急減した。小売販売額は前年同月比で4月に13.9%減、5月に12.5%減と2カ月連続で2桁減となりました。リーマン時には最大でも5%程度の落ち込みでした。

コロナショックで外需・内需が総崩れとなった結果、今年4月に一致指数は前月比10.5ポイント低下し、低下幅は比較可能な1985年1月以降で最大となりました。

リーマン・ショック時は金融緩和と積極財政が不十分でしたが、今度こそ米国や、昭和恐慌を模範例として、不況から速やかに脱却すべきです。

特にすみやかに消費減税は実行すべきでしょう。特に昨今では、持続化給付金の詐欺が目立ちます。おそらく、沖縄だけではなく、全国に拡大するでしょう。消費税減税は詐欺の標的にはなりませんし、役所などにも負担がかかりません。

私としては、積極財政の手段としては、トランプのように大規模な減税を行いつつ、様子をみて先の制限なしの個人向けの給付金を、数回実施するのが当面最も効果があると思います。そうして、給付金に雇用促進の効果がみられなくなった場合には、トランプのようにやめれば良いのです。

そうして、昭和恐慌や現在の第二次補正のときのように、政府と日銀の連合軍をさらに強化し、政府が大量の国際を発行し、日銀がそれを買い取るという政策を継続拡大すべきです。

現状では、これを実行継続してもデフレなので、何の問題はありません。将来世代への付けなどにもなりません。デフレから完璧に脱却してインフレが進行するまで継続すべきです。止め時は簡単に知ることができます。それは、物価が上がり続けるのに、雇用が全く改善しなくなったときです。この見極めは、さほど難しくないし、多少間違えたとしてもほとんど問題ありません。デフレよりはるかにましです。

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2020年9月23日水曜日

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ―【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ

岡崎研究所

 今年のG20首脳会議は11月21、22日にサウジのリヤドで開催されることになっている。サウジの実質的な統治者である皇太子のムハンマド・ビン・サルマンはその会議の主宰者になるが、その会議の成功を強く望んでいる。しかし、サウジは、イエメンへの軍事介入における文民をターゲットとした攻撃、国内での反対派の弾圧などにより、国際的に「のけ者」となっている。


 そして、2018年10月にサウジ人ジャーナリストのジャマール・カショギが殺害された事件がある。本件について、9月7日にリヤドの裁判所は、8人の容疑者に有罪判決を言い渡し、この事件に一つの区切りをつけた。これも、11月のG20首脳会議をにらんでのことであると思われる。ただ、言い渡された判決は透明性に欠け、かつ、この犯罪の首謀者を無罪にするもので、国際社会を納得させるものではない。

 9月9日付けのワシントン・ポスト紙社説‘The Khashoggi verdict is meant to provide a fig leaf. Democratic leaders shouldn’t take it.’は、「リヤドの裁判所の判決は全く透明性を欠いている。有罪とされた人の氏名は報道されておらず、彼らの犯罪の詳細は述べられていない」と述べ、国連の報告者アグネス・カマードが判決について、「法的或いは道徳的正統性をもたない」「正義のパロディ」である、なぜならばこの処刑を組織し行った高官は「最初から自由に歩き回っているからである」とツイートしたことを紹介している。社説は、サウジの判決をメルケル、マクロン、ジョンソンなどが受け入れるべきでない、と論じているが、当然彼らは受け入れないだろう。トルコのエルドアンもG20に参加するが、トルコも、当然サウジの裁判所の判決を受け入れないだろう。したがってカショギ事件についてのサウジへの追及は今後も続くし、またそうあるべきであると思われる。

 G20は世界の金融経済問題を扱うフォーラムであり、世界経済で主要な役割を果たす国々が参加している。たまたま今年の開催場所がリヤドということであるが、それだからといって参加を躊躇する理由はない。

 世界経済についても、金融についても、コロナで大きな打撃を受けており、これからの対応についてG20で話し合うべきことは多い。カショギと世界金融・経済問題は分けて対応するのが正解と思われる。政治的な問題はプーチンのナヴァルヌイ問題、習近平のウイグル問題や香港問題、エルドアンの東地中海問題などなど枚挙にいとまがない。諸問題の関連を考えることも時には重要であるが、諸問題を分けて考える方が実り多い結果につながると思われる。

【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

20カ国・地域(G20)の議長国を務めるサウジアラビアは、11月に予定されている首脳会議(サミット)の開催を12月に延期することを次期議長国であるイタリアに非公式に打診した。サウジ政府の協議に詳しい当局者2人が明らかにしています。

G20サミットはサウジの首都リヤドで11月21、22両日に開催が予定されています。協議内容が非公開だとして匿名を条件に述べた同当局者によると、サミットを延期すれば、12月1日に予定するイタリアの議長国開始も後ずれすることになります。

ただし、現在のところ中止という話はないので、いずれ開催されることを前提に話をすすめます。

サウジアラビア人記者 故カッショギ氏

上の記事では、カショギと世界金融・経済問題は、分けて考えるべきとしていますが、まさにそのとおりだと思います。分けて考えるとともに、優先順位と劣後順位をはっきり決めるべきです。世界中の問題をあれこれと少しずつ噛じるように手をつけることは、いたずらにエネルキーを無駄にするだけです。

そもそも、米国にとっては中東はさほど重要ではありません。それを示すデータなどを以下に掲載します。以下に中東の名目GDPを掲載します。


中東においてはサウジアラビアGDPがトップであり、石油で儲けた王族などがイメージされ、さもありなんと思いがちですが、サウジアラビアのGDPは、世界で18番目に過ぎません。中東の全部のGDPをあわせたにしても、世界の4.3%に過ぎないのです。

サウジアラビアのGDPは、米国のペンシルベニア州よりも少ないです。2017年のサウジアラビアのGDPは約6830億ドル、ペンシルベニア州のGDPは7520億ドルでした。そして、ペンシルベニア州のGDPはアメリカ50州のうち6位です。さらに、最近の米国は自国内で石油を生産できるようになっています。

ちなみに、サウジアラビアのGDPの規模は日本の県と比較すると、ほぼ福岡県相当です。

無論、経済の大きさだけで、米国にとっての中東の重要度を推し量ることはできませんが、それにしてもこの程度ということを認識しておくべきです。ただし、日本にとっては、中東は石油の最大の輸入先です。日本は米国のようには中東を軽視することはできないでしょう。ただし、石油価格がかつてないほどに低下しているというのも事実です。

世界には、まだまだ様々な問題があります。これに優先順位をつけないで取り組めば、混乱するばかりです。無論政府という組織の性質上、国際問題でも国内問題でも、優先順位の高いものだけに集中して、それ以外は一切てをつけないというわけにはいかないですが、そのためにこそ官僚などが存在するわけですから、やはり政治家は優先順位、劣後順位をつけるべきなのです。

経営学の大家ドラッカー氏は、優先順位と劣後順位について以下のように述べています。

いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)

誰にとっても優先順位の決定は難しくありません。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定です。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきです。このことが劣後順位の決定をためらわせるのです。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。

容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)

以上は、企業でまともに、マネジメントをして成功した経験のある人間なら、誰でも知っている原則です。政治家出身ではない、米トランプ大統領はこのことを良く理解しているようです。 そのトランプ氏の最優先課題は、中国問題です。今回のG20でも、コロナ問題と中国問題を最優先するでしょう。一方、中東の諸問題などは中国と対峙する上での制約条件に過ぎないとみているでしょう。

G7もそうすべきです。コロナ問題と、中国問題に集中すれば、それにつれて国際関係も変化していき、他の問題も自動的に解決するか、解決の機運が高まることになります。カジョキ氏の問題は、現状では幕引きにさえしなければ良いでしょう。

そのようなことよりも、コロナと中国の問題に集中すべきです。

トランプ大統領は長い間実業のマネジメントをしてきたので、この原則が骨身に染みているでしょう。それに、選挙で勝利するためにも、優先順位をつけなければ、失敗することも十分理解しているでしょう。しかし、中共はそうではありません。。

物事に集中しない、優先順位をつけないのは、官僚の特性でもあります。どこの国でも官僚は、総合的なやり方を好むようであり、毎年総合的対策を実施し、結局何も達成していないということがほとんどです。

中国では選挙制度がないので、先進国のように選挙で選ばれた政治家はいません。その意味では、習近平を含む中国の指導者は、全員が指名制で選ばれ、その本質は官僚です。そのため、集中したり、優先順位をつけたりして、仕事をこなしていくべきことを理解していません。

先進国の水準では、政治家ではなく官僚である習近平

民間企業であれば、営利企業であろうと、非営利企業であろうと、優先順位や劣後順位をつけずに業務を遂行すれば、いずれ弱体化し倒産します。しかし、官僚は違います。何をしようが役所は潰れることはありません。ただし、共産党内での熾烈な権力闘争はありますが、権力闘争と政策は直接は関係ありません。

中共は、権力闘争には熱心ですが、人民のことなど二の次です。国際関係も二の次です。中国は国際的にも自分の都合で動く国です。

そうして、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとしただけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。G20でも、トラン不大統領は、中国に対して予期せぬ相当厳しい要求をつきつけ、習近平はきりきり舞いさせられるでしょう。今のままだと、中国もかつてのソ連同じ運命を辿ることになります。

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2020年9月22日火曜日

日本の中国エクソダス? 日本企業1700社が中国撤退に向け行列作る―【私の論評】中国共産党が崩壊しない限り、大企業でさえ中国で製造を続ける意味がなくなる(゚д゚)!

日本の中国エクソダス? 日本企業1700社が中国撤退に向け行列作る

中央日報/中央日報日本語版

  

 日本企業が中国から大挙撤退し中国を困惑させている。17日に中国環球時報は「1700社余の日本企業が相次ぎ中国から撤退することに対する真相」という記事を掲載した。

今月初めに日本経済新聞が報道した、日本企業が相次いで中国から撤退しているという内容の記事が中国人民に否定的な認識を持たせかねないとの判断から釈明に出た様相だ。

日経の9日の報道によると、中国に進出した日本企業90社が6月末までに中国からの撤退を申請した。続けて7月末までにさらに1670社の日本企業が中国撤退を申請し1700社を超える日本企業が中国を離れることにしたのだ。

こうした日本企業の中国撤退は日本政府が主導している。3月5日に当時の安倍晋三首相は、中国に対する依存を減らすとの趣旨から日本企業に中国から撤退し日本に戻るか、そうでなければ東南アジアに生産施設を移転するよう求めた。

安倍政権は1カ月後の4月7日には新型コロナウイルス流行と関連した緊急経済対策をまとめ、サプライチェーン改革の一環として中国から撤退して帰ってくる日本企業に対して一定の補助金を支給することにした。

これに伴い、6月末まで90社の日本企業が中国撤退を申請し、このうち87社が日本政府の補助金の恩恵を受けることになったという。また、7月末までに1670社の日本企業が中国撤退を決めたのだ。

ここに安倍氏に続き16日に就任した菅義偉首相も官房長官在職中の5日に日経とのインタビューで、日本企業の中国撤退を経済安保的な次元から継続して推進するという意向を明らかにした。

こうした状況は中国人には日本企業が大挙中国から脱出しているという印象を与えるのに十分だ。これを受け環球時報など中国メディアが鎮火に乗り出した。環球時報はまず中国から撤退する日本企業の数が多いのではないと主張した。

現在中国に進出した日本企業は3万5000社に達しており、1700社は5%にも満たない。一般的な状況で5~10%程度の企業が経営環境変化や自社の問題のため中国市場から撤収するため1700社の日本企業撤退は正常という状況に属するということだ。

また、現在中国を離れる日本企業の大多数は中小企業であり、中国の低賃金を狙った労働集約型産業に従事した企業のため中国経済に及ぼす影響は大きくないとした。自動車や健康衛生など日本の主力企業は中国市場を離れる計画がない。

したがって日本企業が相次いで中国を離れているという表現は誇張されているという主張だ。環球時報はまた、日本は2008年の金融危機後に海外進出企業に中国以外に東南アジアなど別の所に生産基地をもうひとつ構築するいわゆる「中国+1」戦略を要求してきたという。

このため今回の撤退はそれほど目新しいことではないという話だ。特に日本貿易振興機構(JETRO)のアンケート調査によると、中国進出日本企業のうち90%以上が現状維持や拡大を試みており、日本企業が大挙中国を離れる現象はないだろうと主張した。

しかしこうした中国メディアの説明にもかかわらず、1700社を超える日本企業が6~7月に中国市場から撤退することにしたという事実は、中国とのデカップリング(脱同調化)を試みる米国の戦略とかみ合わさり中国に大きな懸念を抱かせるのに十分にみえる。

【私の論評】中国共産党が崩壊しない限り、大企業でさえ中国で製造を続ける意味がなくなる(゚д゚)!

2020年4月7日、日本政府は「2020年度予算補正予算案」を決定しました。その内容は新型コロナウイルスの感染拡大を受けての経済対策的な意味合いが色濃く、そのなかに「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」として2200億円、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」として235億円を計上しています。

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これらは新型コロナウイルスの感染拡大で、主に中国などに依存していたマスクや医療品、部品や素材などの供給が滞ったことを受けて、既存の生産拠点を国内に回帰したり(こちらが2200億円)、アジア諸国に分散(こちらが235億円)しようというものです。

もっとわかりやすく言うと、日本国内に工場をUターンさせたり、指定した東南アジアに海外拠点の工場を移転したら補助金を出しますよということです。

つまりはサプライチェーン(部品供給網)の〝脱中国〟を意図したわけです。

これまでも世界的に〝中国頼り〟という状況を懸念する声はありましたが、日本では中国に対して弱腰ということもあって楽観的な姿勢を見せていました。しかし、新型コロナウイルスという予想外の事態に直面して、ついに「これは危機的な状況だ」と思ったのではないでしょうか。

この動きに対して、中国側は余裕の姿勢を見せていました。「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年5月14日付の『補助金で日本企業の中国撤退を支援?「いえ、遠慮します」』という記事では、日本政府が国内回帰する企業に補助金を出すことについて、「日本企業の大規模な国内回帰、もしくは東南アジアへの移転が生じる可能性は低いと分析されている」と紹介しました。

トヨタ自動車やLIXILグループなど取材に応じた日本企業5社が「中国で製造を継続する意向を示した」としています。中国としては、ここであわてれば、事態をさらに悪化させると考えたのでしょうか。

日中両国の思惑が錯綜するなか、7月17日には日本の経済産業省から「補助金」の第1弾について発表がなされました。それについて「共同通信」が報じていて、「山陽新聞朝刊」2020年7月18日では『国内供給網強化 マスク生産など574億円を補助 経産省、第1弾』という記事を掲載しました。

経産省が発表した補助金の採択事業について、「生活用品大手のアイリスオーヤマのマスク生産など57件に計574億円を補助する」とし、「供給網の分散化を進めるための支援事業についても30件を採択したと公表。20年度補正予算で計上した235億円のうち、半額程度が支払われる見通し」と紹介しています。

また、「読売新聞 東京朝刊」2020年7月18日でも『生産「国内回帰」57件補助 国、総額574億円 東南ア移転も支援』という記事で追随しています。補助金を受けた件数や金額についてはほぼ同じ内容で、補助金を受けた企業については「アイリスオーヤマのマスク工場をはじめ、医療機器や医薬品など医療関連が多数を占めていました。


アイリスオオヤマのマスク工場

航空機や自動車、電子機器の関連部品の工場も対象」と紹介。支援事業については「東南アジアに拠点を作る企業では、タイやベトナムへの移設が多かった。マスクやガウンなど医療物資のメーカーが大半を占めた。ハイテク製品の生産に欠かせないレアアース(希土類)の関連企業もあった」としています。

企業が、中国大陸に進出する際には、色々な優遇措置があり、大宴会で歓迎されたりもします。しかし、いざ撤退するとなると「万里の長城」のようなハードルが待ち構えています。一言で言えば「有り金を全部おいて、さらに追い銭を払わないとここから出さないよ」という仕組みなのです。

また、中国大陸から退却しようとする企業の社長や幹部が従業員に監禁されるという事件も起こっています。

中国に進出した企業は現在「行くは地獄、帰るも地獄」の状態に追い込まれているようです。

また、もともと中国大陸で稼いだ利益(人民元)の海外への持ち出しには厳しい制限があります。儲かっているように見えても、その儲けは中国大陸で再投資するくらいしか使い道がないのです。

そのため、現金ではなく商品として利益を持ち込み、その商品を日本で換金して円を手に入れるという手法を使っている企業もあります。

物事が追い風の時には「なんとかなる」と甘い考えでやってきたことが、現在のような向かい風の状況では、重い足かせとなります。

結局、中国大陸からの撤退はすべてを失うだけではなく、追い銭を払うことにもなりかねないです。

しかし、それでも従業員の「安心・安全・生命」におけるリスクを軽減できるし、撤退以降はさらなる追い銭を払う必要もないです。

投資には「見切り千両」という有名な言葉がある。判断を間違えたときでも少ない額で損切りをして莫大な損失から逃れることができれば、その見切りという行動には千両の価値があるということです。

確かに、現在の中国大陸からの撤退は損切りになる場合が多いでしょうが、それでもそれ以上の莫大な損失と、モンゴル・チベットそうして最近では内蒙古を迫害した人類の敵中共と取引したという「黒歴史」を背負うよりははるかにましです。

中国からは、昨年から日本人経営の飲食店が脱出していました。

マレーシアの首都クアラルンプールでは、近年日本人が経営する飲食店の新規開業が相次いでいます。これらの飲食店の中には、中国での経営に見切りをつけた"中国脱出組"が少なくありません。

クアラルンプールの日本人が経営するラーメン店


振り返れば、2010年代に入った頃から、徐々にその動きは始まっていました。2012年の反日デモが、一部の日系製造業に撤退決断の契機をもたらしたのですが、コスト上昇で上海経営のうまみが薄れつつあった一部の日系飲食業界でも“撤退作戦”がささやかれるようになっていました。

2000年代に入って中国がWTOに加盟すると、日本から企業がどっと上海に進出。2010年には上海万博が開催され、日系企業の進出がさらに加速しました。日本料理店は日本人駐在員にとっての息抜きの場ともなり、日本飲食店は繁盛しているようにみえました。

しかし、内実はそうではなかったようです。2010年代に入ると、従業員の賃金は一昔前の700元から5倍に、能力のある社員は10倍に跳ね上がりました。食材も日本並みに上がるどころか、テナント料もすでに東京の水準を上回るものになりました。

多くの飲食店経営の日本人仲間が街の再開発とともに立ち退きを迫られ、店を転々とさせられたのもこの時代でした。

この頃から、上海で経営する一部の日本料理店オーナーの間で、“上海脱出”が話題に上るようになったという。彼らが注目したのはマレーシア等の東南アジアでした。賃料、人件費などの固定費が上海の約半分で済むことと、政府の政策に安定性があることが、日本人オーナーたちの関心をひいたようです。

「商機あり」と日本中が注目したのも今は昔。2000年代の魅力は薄れ、2010年代には視界の悪ささえも出てきた上海に、「ここが潮時」と腹を決めた飲食店オーナーは多かったようです。日本-中国-東南アジア。日本人オーナーたちの移動を追うと、市場の変遷と時代感が見えてきます。

先に掲載したように、トヨタ自動車やLIXILグループなど取材に応じた日本企業5社が中国で製造を継続する意向を示したそうですが、これらの大企業は中国での製造は全体の一部にすぎないので、そのまま継続しても中国経済が今後かなり悪化したとしても、損害は一部に過ぎないので、製造を続ける意向なのでしょう。

これから中国がどうなったにしても、現在中国と呼ばれる地域には、14億人の人々が生活しているわけですから、一時とんでもないことになって経済が落ち込んだにしても、日々食べたり、何かを消費しないと生きていけないわけですし、現体制が崩れたにしても、必ず統治の正当性を持った新たな体制がたちあがるはずです。そうして、いずれ商機は必ずでてくるわけです。

大企業なら、そのような商機を逃さないため、中国にとどまり続けるということもできますが、中企業以下の企業はそうもいかないですから、ここは撤退すべきです。

ただ、恐ろしいのは、中国共産党がたとえ経済が悪化しても、しぶとく生き残った場合です。そうして、長い間中国を統治し続けた場合です。その場合は、中国は経済的には落ち込んだまま、他国に影響を及ぼすことができない、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。

そうなれば、富裕層でさえの生活水準が落ち込み毛沢東時代のような経済状況が長く続くことになるというか、それが中国の新たな常態となるわけです。そのときには、中国は中進国どころか、発展途上国に舞い戻るわけです。

その時でも、トヨタなどの大企業が中国で製造を続けていて、意味があるかどうかはわかりません。そうして、米国の対中制裁の最近の苛烈さと、両国とも本格的な戦争に踏み切るつもりはないようなので、どうもそうなる可能性が高いように思います。大企業としても、現状では見極めが難しいところです。

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