2021年8月17日火曜日

コラム:米国が手を引くアフガン、中国に課せられた重い「使命」―【私の論評】アルカイダがアフガンに戻れば、中国はかつてソ連軍や米軍がはまり込んだ泥沼にはまり込むことに(゚д゚)!

コラム:米国が手を引くアフガン、中国に課せられた重い「使命

タリバンの戦闘員たち

米国が支援してきたアフガニスタンの民主政権崩壊は、中国の指導体制にとって歴史的な重大局面だ。習近平国家主席はずっと前から、アジアの安全保障はアジア人に任せるべきだと主張してきた。そこで今、中国が迫られているのは、アフガニスタンの経済的な安定を後押ししながら、近隣への投資を守ることができると証明することだ。習氏は数多くの大きな課題を抱えたと言える。

米国は1つの国造りに費やした20年の歳月が無駄になったが、ともかくもその「安全保障の配当」の恩恵に浴したのが中国にほかならない。アフガンの安定を醸成しようと米軍が駐留していた中でさえ、中国は「上海協力機構(SCO)」や「アジア相互協力信頼醸成措置会議」といった米国抜きの地域安全保障機構を設置し、あるいは主導的な立場を築いた。また中国はインフラ整備に多額の資金を注ぎ込み、そのうちの幾つかは中国からアフガン国境付近を通過して欧州の市場や中東のエネルギー供給地域までをつなぐ役割を果たしている。

米国が恒久的に手を引こうとしている現在、これまで自らが米国の代わりに地域の経済開発と安全保障を担うとアピールしてきた中国は、満を持して本格的な援助や投資、技術支援に乗り出せる。国有鉱山会社は、2017年時点で価値3兆ドル超と試算された莫大なアフガン鉱物資源の開発を応援できる。中国の国有建設会社は習氏が掲げる「一帯一路」構想の大きな空白部分を埋めるための高速道路、鉄道、パイプライン敷設をこの地域で強行してもおかしくない。

一方で中国の外交当局は、アフガンを制圧したイスラム原理主義の反政府武装勢力タリバンに対して、中国国境を越えて新疆ウイグル自治区に入り込むような攻撃は控えることや、隣国パキスタンに滞在する中国人や中国の投資資産を標的にしている組織への支援を拒むことを要求するだろう。

ただタリバン指導部がこうしたことを全構成員に納得させるのは難しいかもしれない。なぜなら中国政府は、国連の推計で100万人余りのウイグル族その他のイスラム教少数民族を拘束しているからだ。これらの人々の多くは、過激とは到底思えないしきたりや振る舞いが「問題視」され、強制収容されている。中国側はテロ防止と職業訓練が目的と言い張っているが、それでイスラム教徒の怒りが収まるはずはない。

タリバン指導部は、中国の内政問題に関与しないと約束している。しかしタリバンがアフガンをしっかり統治できるかどうかはまだ分からない。できなければ、周辺諸国は中国が指導力を発揮するのを期待するだろう。それは米国がようやく抜け出した泥沼に、中国がはまる恐れがあるということだ。

【私の論評】アルカイダがアフガンに戻れば、中国はかつてソ連軍や米軍がはまり込んだ泥沼にはまり込むことに(゚д゚)!

中国はタリバンの本当の脅威についてまだ理解していないようです。タリバンの脅威の最たるものは、何といってもアルカイダと縁が切れていないということです。

アルカイダとは、中東、アフリカを中心に活動するイスラム原理主義に基づく国際テロ組織です。「反欧米」「反西洋文明」「反イスラエル」「反キリスト教」などの思想を掲げ、聖戦(ジハード)の名のもとに、テロ活動を繰り返しています。

2001年の米国同時多発テロ

アルカイダは「基地」「基盤」を意味するアラビア語で、「アル・カイーダ」「アルカエダ」などといわれることもあります。2001年の米同時多発テロのほか、1993年のニューヨーク世界貿易センタービル爆破事件や1998年のケニアとタンザニアにおけるアメリカ大使館爆破事件など、数多くのテロに関与したとされます。

米同時多発テロの首謀者とされる最高指導者ビンラディンが2011年にアメリカ海軍特殊部隊の攻撃で死亡した後、エジプト人のイスラム神学者、アイマン・アル・ザワヒリAyman al Zawahiri(1951― )が指導者につきました。

米軍に殺害されたビンラディン

1979年、ソ連(当時)のアフガニスタン侵攻に対抗したアラブ諸国の義勇兵(ムジャヒディン)の組織を母体とし、ビンラディンの指導のもと、1980年代後半にアフガニスタンで結成されました。

その後、活動の場をパキスタンやスーダンへ、また欧米のイスラム教徒から支持を得て世界各国に組織を広げました。2001年のアメリカによるアフガニスタン攻撃で、有力指導者が死亡するなどの打撃を受けて弱体化しましたが、メンバーが分散する結果となり、世界各地でアルカイダの犯行とうかがえる爆破事件などが起きています。

2010年末に始まった中東の民主化運動「アラブの春」以降は、政府の治安維持機能が低下した紛争国に、アルカイダ系武装勢力が入り込んで活動を始めました。イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、アルジェリアなどを拠点にサハラ砂漠周辺国で活動する「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、イラクの「イラクのアルカイダ(AQI)」などの指導者やメンバーの一部はアルカイダで軍事訓練を受けたとみられており、アルカイダと密接な関係があるとされています。

アフガ二スタンの将来にとってタリバンは欠かせない存在です。米国はアフガンからの撤退を視野にタリバンと和平協議を行っていました。タリバンはテロ組織であるとともに政治組織でもあります。1996年から2001年まではアフガニスタンを統治しました。タリバンがアフガンを制圧前にすでに、アフガンで有力な政治勢力となっていました。

そのタリバンとアルカイダとの関係につき、大西洋評議会の上級フェローのJavid Ahmadと米ハドソン研究所理事のHusain Haqqaniは、2019年10月7日付けForeign Policyウェブサイト掲載の論説で、タリバンは依然としてアルカイダと関係があって、タリバンと米国との和平協議の足を引っ張っており、米国はタリバンにアルカイダとの関係を絶つよう要求すべきである、と述べていました。論説は、以下の諸点を指摘しました。

  • タリバンが、米国との交渉(現在は凍結中)で長年のパートナーのアルカイダとの関係を絶つと約束したことの信憑性は疑わしい。
  • タリバンとアルカイダの関係は、ほぼ23年続いている。タリバンは現在アルカイダのアフガン支部や他のほぼすべてのテログループの主要なパートナーとなっている。
  • 約300人のアルカイダの戦闘員がタリバンの部隊に属し、米国を標的にしている。アルカイダはタリバンに爆発物の作り方、特殊工作の計画、洗練された攻撃などを教え、タリバンを訓練している。
  • アルカイダがタリバンの部隊にいることが、タリバンの穏健派と強硬派の対立の重要な要素になっている。強硬派は戦争を終わらせる政治的解決に関心が無いようである。彼らは米タリバン協議中を含め、交渉に臨む政府の政治的指導力を弱めるため攻撃を行ってきた。タリバンの穏健な指導者は不利な立場に立たされており、強硬派の反対に直面してアルカイダとの関係を切ることができないかもしれない。
タリバンとアルカイダとの関係は、米タリバン交渉において大変厄介な問題です。タリバンは公にはアルカイダの政策を支持していないし、アフガンで反乱分子と戦うのにアルカイダを必要としていないかもしれないです。

タリバンの今の指導者は、アルカイダとの同盟を公には表明していません。しかし、特にタリバンの中の強硬派がアルカイダと緊密な関係を持っているようです。強硬派はタリバンにとって厄介な存在です。強硬派は米国との和平協議に反対で、交渉に臨む政府の政治的指導力を弱めようとしていました。

米国とタリバンの和平交渉中、タリバンによるテロ攻撃が何度となく行われていました。タリバンが、その総意として米国に揺さぶりをかけるためにテロ攻撃をしていたというよりも、強硬派の独走であった可能性があります。そうして、タリバンがアフガン全土を手中に収めた現在、強行派がより力を増している可能性があります。

米国は和平協議でタリバンにアルカイダとの関係を切るよう要求していましたが、タリバンは強硬派の存在もあってなかなかアルカイダとの関係を切れないでいました。強硬派が和平協議に反対していたので、和平協議の見通しを立てにくい状況にありました。

結局、タリバンは米国のアルカイダとの関係を断つようにとの要求を飲むことなしに、アフガン全土を掌握したのです。

2001年、米国が同時多発テロ事件を受けてアフガン内のアルカイダを撲滅するためアフガン戦争を始めてから20年で、米軍はアフガンから撤退しましたが、結局アルカイダの撲滅は達成できませんでした。

14日アフガニスタン情勢について、イギリスウォレス国防相は「おそらくアルカイダが戻ってくるだろう」と警告しました。 



「失敗国家はテロリストを培養します。だから今は撤退するタイミングではないと感じたんです。アルカイダは、たぶんアフガニスタンに戻ってくるでしょう。彼らが好む状態なんです」 イギリスのウォレス国防相は13日、このように述べ、かつてタリバン政権が保護していた国際テロ組織アルカイダがアフガニスタンで再び活動を再開することへの懸念を示しました。

 また、ウォレス氏は米国のトランプ前大統領がタリバンと結んだ合意について「アフガニスタン政府抜きで決められたもので堕落した合意だったと常々言ってきた」と強い言葉で非難。イギリスも含めた各国はアメリカが作った枠組みの中で派兵していたため、アメリカがその枠組みを外せば自分たちも撤退せざるを得ないと説明しました。

アルカイダがアフガンを制圧した、タリバンに影響力を増すことは十分に考えられます。私は、先日タリバンがアフガンを制圧したとしても、長続きはせず、いずれタリバン、政府治安部隊の残党や、その他の勢力とが拮抗し膠着状態が長く続くことになるだろうと予測しました。

この予測で、その他の勢力とは、無論アルカイダを念頭に置いていました。アルカイダが勢力を強めた場合、中国国境を越えて新疆ウイグル自治区に入り込む可能性は十分あります。

その場合、前もってアルカイダが新疆ウイグル自治区のウイグル人に対して、軍事訓練や支援をすることも十分考えられます。それに対処するために、中国軍が国境を超えてアフガニスタン領に入らざるを得ないことになるかもしれません。

そうなれば、かつて英軍、ソ連軍そうして最近の米軍がはまった泥沼にはまり、とんでもないことになるかもしれません。そうして、それが端緒となってソ連が崩壊したように、中国も著しく弱体化することになるかもしれません。

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2021年8月16日月曜日

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米、アフガン「敗走」色濃く バイデン政権の見通しの甘さ露呈

アフガニスタンの大統領府を占拠したタリバンの戦闘員=カブールで2021年8月15日

 バイデン米政権のアフガン撤収戦略は、タリバンの首都カブール制圧で「敗走」色が濃くなった。米メディアはベトナム戦争でのサイゴン(現ホーチミン市)陥落に重ねて報道。カブールでも米大使館員らが空港にヘリで退避するなど、バイデン政権の見通しの甘さは否定できない。
 「明らかにサイゴンではない」。ブリンケン国務長官は15日、米テレビに立て続けに出演し、強調した。ベトナム戦争では、米国が支援した南ベトナム政府の首都サイゴンが1975年4月に陥落し、米国人ら約7000人がヘリで脱出。米国の「敗北」を世界に印象付けた。 

 ブリンケン氏はABCテレビのインタビューで、2001年に始まったアフガン戦争について「米同時多発テロで米国を攻撃した者への対応」だと説明した。

  首謀者で国際テロ組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディン容疑者を殺害し、アルカイダも弱体化。情報分析の結果、米国を攻撃するような脅威は現段階では無くなっており、駐留しなくても周辺地域から警戒できるとし「任務は成功した」と訴えた。 

 だが、現実はそう見えない。バイデン政権は、国内で対テロ戦争への支持が低くなっていることを踏まえ、アフガン政府とタリバンによる和平協議を支援し、解決の道筋を整えたうえで完全撤収する戦略を描いた。しかし、米国が4月に完全撤収の方針を表明すると、タリバンはアフガン政府への攻撃を強化。和平協議は早々に暗礁に乗り上げた。

  さらに、タリバンの侵攻が米国の予想を上回るペースで進んだ背景には、バイデン政権のアフガン政府軍などへの過信もある。米軍は政府軍兵士を訓練し、最新の装備も与えてきた。バイデン氏は7月上旬に「タリバンがアフガン全体を支配する可能性は非常に低い」との見通しを示した。 

 だが結局、ブリンケン氏は15日のABCテレビで「治安部隊が国を守ることができないと分かった。(タリバンの勢力拡大が)我々の予想よりも早く起きた」と過信を認めざるを得なかった。そのうえで、タリバンについて「国際的な承認を得たいなら(女性などの)基本的人権を認める必要がある。そうしなければアフガンは孤立した国家になるだろう」と話した。

【私の論評】今後、米国にかわるような存在がアフガニスタンに進駐することはない(゚д゚)!

バイデン大統領は37日前、米国民に対し、米軍が撤退した後もタリバンがアフガニスタンを乗っ取ることはないと言いました。そして今日、タリバンはついにアフガニスタン全土を制圧ししてしまいました。バイデンの読みは完全に外れた、というか、撤退を敢行するためにはこう言うしかなかったのでしょう。

タリバンが掲げるのは「イスラム法による統治」であり、これはアルカイダだけでなくイスラム国も同じです。イスラム国統治と異なるのは、タリバンが「外交」を行い、国際社会の承認を志向している点です。

アフガン政府軍を軸とする同国の治安部隊は兵力でタリバンの5倍程度とされていました。米国製兵器を導入しており、物量ではタリバンを圧倒できるはずでした。劣勢はアフガン治安部隊の団結や組織力のもろさを浮き彫りにしたといえます。

アフガニスタン政府の治安部隊

それに思いの外、腐敗がはびこっていたのでしょう。さらに戦術・戦略を誤った可能性も高いです。昨日もこのブロクで述べたように、アフガニスタンの国土のほとんどが山岳地帯であることが、軍事作戦を著しく困難にしています。

山岳地帯に入り込んでしまえば、できるのは局地戦であり、山岳地帯の地理を知りぬいた、少人数の部隊によるゲリラ戦が最も効果をあげられます。山岳地帯に踏み込めば、政府の治安部隊は圧倒的に不利です。

しかし、カブールなどの都市は、山岳地帯ではなく、比較的開けているので、政府の治安部隊は、戦車や航空機を多数投入することができ有利なはずです。カブールやその他の都市で、政府治安部隊が徹底抗戦をすれば、勝利することができたかどうかは別にして、少なくとも膠着状態には持ち込めた可能性は十分にあったと思います。

バイデン大統領にとっても、この治安部隊のもろさは、予想外だったと思います。そうして、私自身も予想外であり、昨日時点まではタリバンがこれほどはやく全土と、首都を掌握するとは考えられませんでした。

バイデン米大統領は10日、ホワイトハウスで記者団に対し、アフガン撤収を決めたことについて「後悔していない」と語りました。タリバンは同日までに少なくとも8州都を制圧したとされさいましたが、バイデン氏は8月末の撤収方針を堅持しました。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は7月下旬の記者会見で、タリバンがアフガンの半分程度の地区を支配したと明らかにしていました。

治安悪化を受け、国際社会も対応を急いでいます。カタール政府関係者によると、10日前後に米国や英国、欧州連合(EU)、国連、中国、パキスタンなどがカタールでアフガン情勢をめぐる協議を開催。アフガン政府とタリバンに対話を促す構えですが、先行きは不透明感が強いです。

バイデン氏は7月上旬の演説でアフガン治安部隊について「世界のどの軍隊にもひけをとらない30万人」と持ち上げていました。多くの分析で約6万人と推計されるタリバンの戦闘員を大幅に上回ります。ホワイトハウスによると、米国は2002年以降、アフガン治安部隊に880億ドル(9兆7000億円)の資金支援を実施。軍用ヘリコプター「ブラックホーク」など多数の米国製の装備品も提供してきました。

それでもアフガン政府が劣勢だったのはなぜなのでしょうか。米シンクタンクCNAのジョナサン・シュローデン氏は1月、米陸軍士官学校の関連機関の月刊誌でアフガン治安部隊とタリバンを兵士数や財政など5項目で比較し「タリバンがやや優位だ」と結論づけました。アフガン治安部隊の最大の弱点にあげたのが団結の弱さです。「タリバンはアフガン治安部隊よりも戦う意志が強い」とも指摘しました。

米紙ワシントン・ポストが19年に入手した米政府内部文書はアフガン治安部隊のモラルの低さを浮き彫りにしました。

文書によると、アフガン空軍を支援した米軍事顧問は「アフガン兵が売却目的で航空機燃料を頻繁に盗んでいた」と証言。軍事基地での訓練などの状況を念頭に「悪ふざけのようなものだった」と指摘しました。別の元米当局者は「アフガン軍に装備品を渡しても3割はなくなる」と語りました。複数のアフガンの地域指導者は「治安部隊の目的は市民防衛やタリバンとの戦いではなく、金稼ぎだ」と指摘しました。

団結力の弱さは「離職率」にも表れていました。米政府機関がデータを公表していた15年前後に月2~3%程度で推移し、「いまも高水準のままだ」(ランド研究所のジェイソン・キャンベル政策研究員)との見方が多かったのです。部隊規模を維持しても年間で3割前後の兵士が入れ替わっている可能性があり、軍事作戦の熟度が高まりにくい状況でした。

キャンベル氏は、タリバンがSNS(交流サイト)などを通じて戦闘を優勢に進めていることを示す写真や映像を発信し、忠誠心の低いアフガン治安部隊の戦意を下げる戦略をとっていると分析しました。米メディアによると、5月以降にアフガン治安部隊がタリバンと戦わずに降伏するケースが相次いでいました。

バイデン氏が30万人規模とした治安部隊のうち実際に戦闘任務を行う兵士は少ないとの見方も目立ちました。治安部隊には35万人の定員枠があり、主に軍と警察に分かれました。

シュローデン氏は20年7月時点で18万5000人が軍に属したが、このうち陸上の戦闘部隊は約9万6000人と推計しました。タリバン兵の1.6倍にとどまりました。これとは別にアフガン政府には警察が約10万人いましたが、「30万人」という数字が示すほど戦闘部隊の規模ではタリバンと大差がないとみられました。

元国務省高官は、タリバンが広範な地域を統治しながら戦闘を続ける能力は乏しいと指摘しました。アフガン治安部隊が15年ごろから人口密集地域の防衛を重視する戦略をとっていることから、首都カブールの陥落はハードルが高いとの見方が多かったのですが、そうではなかったようです。そもそも、治安部隊の士気は相当低かったのでしょう。

アフガニスタンの首都カーブルを制圧したタリバン。アフガニスタン当局は最後まで国民に「恐れて逃げるな、国にとどまれ」と呼びかけていました。アフガニスタンが近代化に向けて歩み出した20年の全てが終わりました。

タリバンが侵攻したアフガニスタンの首都カーブルでは、女の写真、肖像が塗りつぶされつつあります。このような肖像は反イスラムとみなされるからです。女性の権利は著しく失われることになります。日本のフェミニストが全く声を上げないのは、事態が理解できないからか、興味がないからなのでしょうか。

女性の肖像が塗りつぶされつつあるカブール

女性たちのことを思うと本当に心が痛みます。イスラム法統治で最も苦しめられるのは女性です。

タリバンの報道官は「女はヒジャーブを着用すれば教育も就労も認める」と発表。ただし既にタリバンから職を奪われ家に閉じこもるよう命じられた女性は多く発生しています。タリバンは嘘つきなので、信用してはならないです。言葉ではなく行動で判断するべきです。

さらにタリバン報道官「我々はできるだけ早期の平和的な権力委譲を待っている」と発言していましたが、あれだけアフガニスタン人を大量に殺害してきて、いまさら「平和的な権力委譲」などと語るその鉄面皮ぶりには呆れてしまいました。

タリバンが、アフガニスタン全土を掌握したのは今回がはじめでではありません。

旧ソ連軍が撤退した1990年代のアフガニスタンは、支配権をめぐって各地で軍閥同士が武力衝突が絶えない内戦状態になっていた。そこに突如登場したのがタリバンでした。

タリバンはアラビア語「ターリブ」のペルシア語風の複数形で、「アッラー(神)の道を求める者たち」(神学生、求道者)を意味します。内戦でパキスタンの難民キャンプに逃れたパシュトゥーン人難民のうち、イスラム神学校(マドラサ)で宗教教育・軍事訓練を受けた学生・教師らで結成されたと言われている。最高指導者はオマル師でした。

1994年11月、南部の主要都市カンダハルを制圧したことでタリバンは鮮烈なデビューを飾りました。「国内に平和と安全をもたらすためにイスラーム神聖国家を樹立する」と宣言して、各地で軍閥を破って支配地域を拡大。96年9月には政府軍を破って首都カブールを制圧し、「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を宣言しました。

タリバン率いる「アフガニスタン・イスラム首長国」は国土のほとんどを支配したものの、国際的な承認を得ることができなかった。承認したのは隣国パキスタンなどわずかな国にとどまりました。

国際的に孤立しながらもタリバン政権は、住民に対して厳格なイスラム教信仰に基づいた生活を送ることを強制しました。あごひげを生やさない男性や、頭や足首からすっぽり大きな布で覆う「ブルカ」を着ない女性を逮捕し、映画や音楽、テレビまでを禁止しました。

公安調査庁によるとタリバンは、元々、欧米諸国に対して明確な敵意を持っていなかったのですが、1997年に国際テロ組織「アルカイダ」を率いるオサマ・ビン・ラディン氏らを保護下に入れた後、次第にその世界観に影響され、欧米諸国や国連に対し、ビン・ラディン氏の使う挑発的な言葉を用いた声明を出すようになりました。

1998年9月には、イスラム教の偶像崇拝の禁止を徹底すべく、世界遺産に登録されていた中央部・バーミヤン州の仏教遺跡群の石像を一部破壊しました。

2001年9月にはアメリカで同時多発テロが発生。首謀者とみなされたビン・ラディン氏の身柄引渡しを拒否したため、アメリカ主導の連合軍は同年10月、アフガニスタンへの攻撃を開始した。同年12月に最後の拠点であるカンダハルが陥落し、タリバン政権は崩壊しました。

米軍に殺害されたオサマ・ビンラディン

しかし、タリバンの一部は国境に近いパキスタン北部に活動拠点を移して勢力を回復させるとともに、2002年には反政府勢力となって武装活動を再開。2005年以降は、自爆攻撃や即席爆発装置と呼ばれる手製爆弾の攻撃を採用して、アフガニスタン東部から南部にかけてテロを拡大させていきました。

創設者のオマル師は2013年に死亡しましたが、その後も後継者が組織を維持していました。年間何億ドルにものぼるタリバンの主な収入源は「麻薬の製造と販売」とみられています。

米軍は2011年にビン・ラディン氏を潜伏先のパキスタンで殺害した。その後も、治安維持のためにアフガニスタンに駐留し続けたことで、軍事費が重い負担になっていた。BBCはアメリカ国防総省からの情報として、2001年10月から2019年9月までのアフガニスタンでの総軍事費は7780億ドル(約85兆円)に達したと報じています。

2020年3月、トランプ大統領(当時)はタリバンとの和平合意に調印。米軍を完全撤退させる方針だったが、大幅削減にとどまっていました。

新しく就任したバイデン大統領は2021年4月、「米国史上最も長い戦争を終わらせる時だ」とテレビ演説しました。同時多発テロから20年の節目となる9月11日までに、アフガン駐留米軍を完全撤退させると表明しました。これを受けて5月以降、タリバンが攻勢を開始してアフガニスタンの支配地を広げていきました。

バイデン大統領は7月8日、ベトナム戦争当時の米軍撤退との類似点を記者団に問われました。バイデン大統領は「(1975年のサイゴン陥落時のように)アフガニスタンの米国大使館屋上から人々を救出するような状況では全くない」と反論。「タリバンが全土を支配する可能性は非常に低い」と語っていました。

しかし、実際には首都カブールをタリバンの軍勢が包囲する中で、米国大使館員はサイゴンと同様にヘリコプターで脱出することになったのです。

ただ、昨日も述べたように、タリバンがアフガニスタンを長期にわたって統治する可能性は低いと思います。そもそも、山岳地帯でゲリラ戦をしたり、平野部でゲリラ戦をして、すぐに山岳部に逃げるというやり方で、政府の治安部隊を弱らせて、結果として勝利することができたにしても、それと統治は全く別ものです。

タリバンは、上にも述べたように、かつて「アフガニスタン・イスラム首長国」を統治しようとしたのですが、結局できませんでした。今回も長期にわたって統治できるとはとても思えません。戦闘することと、統治は全くの別物です。

アフガニスタンを撤退する米軍に変わるような存在が、50年以上もアフガニスタンに進駐し続けて、アフガニスタンに新体制を築くようなことでもしなければ、誰もアフガニスタンを統治できないでしょう。

そうして古くは英軍、その後ソ連軍、最近では米軍がそれをしようとしましたが、いずれも中途半端だったために、すべて失敗しました。

米軍は巨費を投じて、アフガニスタンに20年も駐留したのですが、結局何も変えられませんでした。今回のような、すぐにタリバンに全土を掌握されてしまうというのは、確かにバイデンの失態といえると思いますが、私自身はこの決定を支持したいです。

なぜなら、あまりにも犠牲が多い割に、おそらく今後駐留を続けても勝利の見込みはありませんでしたし、特に米兵の犠牲者が多すぎでした。米軍は2000人以上の死者を出しています。その他の国々も犠牲者を出しています。ここまでして、勝利の見込みのない不毛な戦いを続ける必要はないと思います。

トランプ政権もアフガニスタンから撤退するつもりでした、ただすぐには撤退せずに、削減という措置をとっていました。しかし、結局誰かが、いずれ撤退を決めなければならなかったのです。その意味では、バイデンはたまたま損な役回りを引き受けただけということができると思います。

ただ、今回の出来事は失態は失態です。一時的にでも、現地政権が引き継げる形にすべきでした。

ただ今後、米軍にかわるような存在がアフガニスタン全土を統治を支援する形で、再度進駐することはないでしょう。ただし、国境を超えるなどのことはあるかもしれません。

そのため、昨日も述べたように、いずれタリバン、政府治安部隊の残党や、その他の勢力とが拮抗し膠着状態が長く続くことになると思います。

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タリバン、首都郊外に進軍 政府「権力移譲」示唆―アフガン情勢、重大局面

【図解】アフガニスタン

 アフガニスタンの反政府勢力タリバンは15日、首都カブールの郊外に進軍した。主要都市が軒並み占拠されて孤立している首都の包囲を狭め、ガニ大統領に権力を移譲するよう圧力を強めた形だ。タリバンの進出を受け、ミルザクワル内相代行は「暫定政府への権力移譲が平和裏に行われる」と表明、ガニ氏退陣の可能性を示唆した。

 タリバンは声明で「カブールでは戦わない」と述べており、戦闘員に「市内に入らず待て」との指令を出した。政府側が権力移譲に言及したのは初めてで、引き換えに停戦に向かう可能性が高い。2001年の米英軍によるアフガン攻撃を機に成立した民主政権は崩壊の瀬戸際に立たされており、アフガン情勢は重大な局面を迎えた。

 ガニ氏は14日の国民向け演説で、軍の再動員を進め抗戦を続ける姿勢を強調。ただ、地元民放トロTVは同日、ガニ氏が停戦や暫定政権発足に向け、政治家や地元有力者で構成する交渉チームを組織したと報じていた。

 カブール市内で大規模な戦闘は伝えられていない。地元記者は電話取材に「15日になって電話が通じにくくなった。(日曜が平日のアフガンで)銀行も緊急休業した」と証言した。住民が避難するための現金も引き出せない状態という。

 タリバンの首都郊外進出に先立ち、米国防総省は、大使館員の退避支援のためカブールに軍を増派すると発表。ロイター通信によると、15日にはヘリコプターで大使館員の退避が始まった。

 タリバンは14日、北部バルフ州の州都である要衝マザリシャリフを制圧した。政府側は東部ジャララバードも15日に喪失。政府軍の士気の低下は明らかで、連日の州都陥落により、全34州都の約4分の3がタリバンの手に落ちた。

 マザリシャリフは、中央アジア・ウズベキスタンとの国境に近い交易の拠点で、ガニ氏が反撃の拠点とすべく11日に訪れ、政府軍を激励したばかりだった。地元州議会議員は取材に「タジク人のアタ・モハンマド・ヌール元州知事、ウズベク人のドスタム将軍ら軍閥トップを含め、街の守備部隊は国境に向かって逃げ出した」と語った。

【私の論評】いずれタリバン、政府軍残党、その他の勢力が膠着状態を長きにわたって続けることになる(゚д゚)!

上のニュースをみて、すぐにもタリバンがアフガニスタン全土を掌握するとみるのはまだ尚早だと思います。この国は統治をするのは元々難しいです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に引用します。
米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!
この記事より一部を以下に引用します。
超大国がアフガニスタンで苦杯を喫するのは米国が初めてではありません。米国と入れ替わるようにアフガニスタンを去った旧ソ連は、親ソ政権擁護のために1979年から10年間駐留したましたが、武装勢力ムジャヒディーンの抵抗で1万4000人以上の戦死者を出し、ソ連崩壊の原因の一つにもなりました。

それ以前に英国も、帝国全盛時代の19世紀から20世紀初めにかけて三次にわたりアフガニスタンで戦いましたが、1842年にはカブール撤退で1万6000人が全滅させられました。その後シンガポールで日本軍に敗北するまで「英軍最悪の惨事」と言われていましたた。
こうしたことから、アフガニスタンは「帝国の墓場(Graveyard of Empires)」と呼ばれるようになり、米国もその墓場に入ったのですが撤退を余儀なくさせらました。

最貧国にあげられるこの国がなぜ超大国を屈服させられるのでしょうか。まず、国土の四分の三が「ヒンドゥー・クシュ」系の高い山で、超大国得意の機動部隊の出番がありません。ちなみに「ヒンドゥー・クシュ」とは「インド人殺し」の意味で、この山系を超えるインド人の遭難者が多かったことによるものとされています。
アフガニスタン ヒンドゥー・シュク山脈
次に、古くは古代ギリシャのアレクサンドロス大王やモンゴルのチンギスハーン、ティムールなどの侵略を受けて、国民が征服者に対して「面従腹背」で対応することに慣れていることです。

さらに、アフガニスタン人と言っても主なパシュトゥーン人は45%に過ぎず、数多くの民族がそれぞれの言語を使っているので、征服者がまとめて国を収めるのはもともと無理なことが挙げられます。

アフガニスタンの国土のほとんどが山岳地帯であるということが、アフガニスタン統治を難しくしています。 そもそも、陸路で正規軍を大量に送ることはできません。戦車や車両などを大量に送って、陸戦を有利にすすめることもできません。

それどころか、武器・食糧を大量に送って、戦線を長期間維持することも困難です。兵站の維持は困難なのです。このような山岳地帯においては、航空機による攻撃も、遮蔽物が多く、通常の陸上攻撃と比較すれば、その威力は半減します。さらに、冬には山岳地帯では気象が悪すぎで、とても戦いができる状況ではなくなります。

だからこそ、英軍、ロシア軍、米軍でさえこの地を軍事力をもって統治するのは不可能だったのです。

この地で最も有利なのは、山岳の地理を熟知した少数の兵でゲリラ戦を仕掛けることです。ただ、アフガニスタンの国土は広いですし、山岳を熟知するためには、ある程度限定された局地で、長い間生活した者のみです。

詳しい地図があったとしても、それだけでは、局地戦に役立ちません。そのため、ある局地に詳しいものは、その局地では有利に戦えますが、その他の局地に行けば素人同然になってしまうのです。

現在タリバンが有利に戦いをすすめているのは、各局地において、その局地の地理に熟知した人間を雇うことができいるからでしょう。

ただし、首都カブールは比較的平地が多く、開けた地形であり、こういうところでは、戦車や航空機での攻撃はしやすいので、タリバンが現政府軍と真っ向から市街戦を挑めば、犠牲者がかなり出ることを覚悟しなければならなくなります。

だからこそ、タリバン側は首都の包囲を狭め、ガニ大統領に権力を移譲するように迫っているのです。

ただし、現状は間違いなく、アフガニスタン政府にとって暗澹たるものです。

しかし、まだ政治的駆け引きでなんとかなる状況かもしれません。もしも政府が各地の部族長を味方につけることができれば、タリバンと政府のどちらも決定的に勝つことも負けることもない、膠着状態が訪れるかもしれないからです。

特に、かつて有力な軍閥の長だったアブドル・ラシド・ドストゥム氏がマザーリシャリーフ(アフガニスタン北部のバルフ州にある都市)へ帰還したのことは、重要な展開です。ドストゥム氏はすでに各方面と取引を始めています。

アブドル・ラシド・ドストゥム氏

戦闘に適した夏は間もなく終わり、アフガニスタンは冬になります。厳しい冬になれば、地上部隊の展開は難しくなります。

双方手詰まりの状態が年末までにやってくる可能性はまだあります。アフガン現政府は首都カブールなどの大都市にしがみつき続けるでしょう。

そうなると、元々統治能力の低いタリバンには不利になります。攻める場合には、当該局地で、地理に詳しい者を雇うことができれば、ゲリラ戦で勝つことはできますが、それと各地域の人民を統治することは全く別の問題です。

自分たちが奪い取った米軍のハムヴィー(車両)を見せびらかすタリバン戦闘員

各地域をうまく統治する事ができないタリバンは、各地域で反撃にあえば、今度は当該地域で地理に詳しいものを雇えなくなる可能性があります。各地域でその地域の族長がタリバンに反抗した場合、当該地域で生活する者にとっては、族長に逆らうことは死を意味します。

さらに、タリバンが分裂するようなことがあれば、その場合も潮目は変わります。

現時点でタリバンがアフガニスタン全土を掌握するのは間近と判断するのは時期尚早ですし、たとえタリバンが全土を掌握したとしても、それは長続きはしないでしょう。かつて、英軍、ロシア軍、米軍が全土を掌握して、統治しようとしてもできませんでした。

タリバンだけが、それができるとは到底考えられません。長期的にみれば、タリバン、現政府政権残党、その他の勢力などが膠着状態を長きにわたって続けることになるでしょう。

その時々で、ある勢力が優勢になるということはあるでしょうが、いすれかの勢力がはっきりと勝利して、長きわたってアフガニスタンを統治するということはないでしょう。

中国は米軍撤収完了後のアフガニスタン安定化に向け、関与を深める姿勢を見せています。アフガにスタンが「テロリストの温床」と化せば、隣接する新疆(しんきょう)ウイグル自治区への中国による弾圧に影響を与えかねないことなどが、その理由です。米軍撤収による混乱拡大を最小限に抑えるため、イスラム原理主義勢力タリバンを支援するとの観測も上がっています。

ただ、中国がタリバンを支援したとしても、タリバンがアフガニスタンを長期にわたって統治し続けることはないでしょう。長くても1年から数年でしょう。

中国は、タリバンがテロリストであるということを再認識すべきでしょう。米軍はソ連軍がアフガニスタンに侵攻したときに、反政府勢力を支援しましたが、米軍がアフガニスタンに侵攻した後には、その当の反政府勢力に米軍が悩ませることになりました。

中国もタリバンを支援するようなことがあれば、後に悩まされるという事態を招く可能性は大きいです。各国とも、アフガニスタン情勢には下手に関与すれば、後で火傷をすることも十分に考えられるので、注意すべきです。

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2021年8月14日土曜日

解散、総裁選、どちらが先か?―【私の論評】コロナと共存できる強靭な社会を築くことを宣言し、財政政策でサプライズを起こせば、菅総理は総裁・衆院選のダブル勝利を獲得できる(゚д゚)!

解散、総裁選、どちらが先か?

東京五輪閉会前後に行われた直近の世論調査において、菅義偉内閣の支持率は軒並み発足以来最低になった。総選挙を控えて自民党内には懸念が広がっていると見られ、総選挙を11月下旬とする案も現実味を帯びる。その場合、自民党総裁選が先になり、菅首相の再選戦略に狂いが生じるだろう。同首相はパラリンピック閉会直後の解散を模索するのではないか。

総選挙の時期:与党内で強まる先送り論


五輪閉会式前後に行われた朝日新聞、読売新聞、NHKの世論調査では、東京オリンピックについて肯定的な見方が過半数を超え、反対意見が多数を占めた大会前とは対照的な結果になった。一方、菅内閣の支持率は軒並み低下、昨年9月の発足以来の最低水準へ落ち込んでいる(図表1)。五輪への共感は政権への支持には結び付かなかったようだ。 

これまで繰り返し報じられてきた通り、衆議院の任期満了は10月21日である。総選挙が間近に迫るなか、世論の厳しい反応を受け、自民党内では危機感が高まっているだろう。内閣支持率が低下している要因は、明らかに新型コロナの感染拡大と考えられる。従って、ワクチン接種の進捗を睨み、総選挙の時期を可能な限り先送るべきとの意見が急速に勢いを増している模様だ。 

ちなみに、公職選挙法第31条1項では、衆議院が任期満了を迎える場合、原則として「その日の前の30日以内」に総選挙を行わなければならない。しかし、同条第3項の規定により、任期満了日まで国会を開いて最終日に解散するならば、11月28日まで総選挙を先送りできる。自民党と連立を組む公明党内にも、11月総選挙論が強まっている模様だ。

菅首相の自民党総裁としての任期は9月末で終わる。11月総選挙の場合、先ず自民党総裁選、続いて総選挙の順番になるだろう。これだと、先に解散・総選挙を実施して自民党の議席減を30程度に食い止め、無投票で総裁選の再選を目指す菅首相のシナリオが狂うのではないか。従って、パラリンピック終了後の9月6日以降、同首相が電撃的な解散を狙う可能性は否定できない。

ただし、それには新型コロナ感染第5波のピークアウトが条件になるだろう。逆に考えれば、感染拡大が続き、今後の世論調査で内閣支持率がさらに低下した場合、自民党内では「菅首相がリーダーだと総選挙を戦えない」として、早期の総裁選を求める声が強まると予想される。

次の転換点:パラリンピック後、政局は一気に流動化へ


菅首相にとっての救いは、1)野党の支持が低迷していること、2)自民党内の有力後継候補が総裁選への対応を明らかにしていないこと…の2点だ(図表2)。もっとも、立憲民主党と共産党が広範に選挙協力した場合、自民党への脅威になり得ることは、7月4日の東京都議会議員選挙で確認された。両党は候補者調整に手間取っており、これも菅首相に早期解散の決断を促す要因と言えそうだ。

 他方、自民党内に目を転じると、次期総裁の有力候補と目される岸田文雄前政調会長、茂木敏充外相などは、今のところ総裁選への態度を明らかにしていない。ただし、夏休み期間が終わった後、世論の流れによっては政局が一気に流動化する可能性がある。9月以降、日本の政治が大きく動き出す展開が予想されるなか、それが経済・市場に与える影響には注意が必要だろう。

 (2021年8月13日) 市川 眞一 ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

【私の論評】コロナと共存できる強靭な社会を築くことを宣言し、財政政策でサプライズを起こせば、菅総理は総裁選・衆院選のダブル勝利を獲得できる(゚д゚)!

今秋と見込まれる衆院選をめぐり、上の記事にもあるように、現行法制で最も遅い11月などへの先延ばし論が、与党内で強まっています。報道各社の世論調査で、菅内閣の支持率が軒並み、過去最低となっているためです。

以前このブログでも解説したように、コロナ感染者数と、菅内閣支持率には明確な負の相関関係があります。高橋洋一氏は、実際計算して、相関係数を求め、相関係数は0.8程度としています。これは、相当高い数値であり、負の相関関係にあることは間違いありません。


新型コロナウイルスのワクチン接種を進める時間を稼いで感染状況を落ち着かせることを目指しているようですが、菅義偉首相にとっては自民党総裁選の「無風再選」のシナリオが崩れかねないジレンマも抱えています。

首相は17日の読売テレビ番組で、今後の政権運営について「最優先すべきはコロナ対策だ」と表明。衆院解散に関しては「私の任期も限られる。衆院議員の任期も同じだ。そういう中で視野に入ってくる」と述べるにとどめました。

首相の党総裁任期は9月30日、衆院議員任期は10月21日に満了を迎えます。首相は、9月5日の東京パラリンピック閉幕直後の衆院解散・総選挙で勝利し、総裁選を無投票で乗り切る戦略とみられてきました。この場合、投開票日は10月3、10、17各日の可能性が取りざたされてきました。

しかし、最近の感染者数増加の傾向があり、支持率も下落も下落していることから、首相周辺から「衆院選は遅ければ遅いほどいい」との声が出始めました。公職選挙法の例外規定により、衆院選は最も遅いケースで11月28日投開票があり得ます。政権側は、希望者へのワクチン接種がこのころまでに進展すると計算。反転攻勢の望みを託しています。

麻生太郎副総理兼財務相は7月18日、党所属議員の会合にビデオメッセージを寄せ、「東京五輪が終わって、9月はまだコロナの騒ぎが続いているだろうから、10月選挙になる可能性が極めて高い」と予想。党関係者は衆院選の投開票について、10月下旬以降となる可能性を指摘しました。
 
公明党の山口那津男代表も7月5日のBS日テレ番組で「ワクチン接種が進めば、望ましい選挙の環境になる」と語っていました。

もっとも、衆院選が先延ばしになれば、先行して総裁選を実施する可能性も高まります。現時点で有力な対抗馬は見当たらないですが、自民党内に「菅首相で衆院選は戦えない」との声が広がれば、再選を阻まれる展開も否定でききます。

総裁公選規程は、8月末までの総裁選日程の決定を求めています。党内ではお盆明け以降、秋の政治日程をめぐる調整が本格化する見通しで、首相はワクチン接種の進捗や新規感染者数の推移などをにらみながら、解散時期を最終判断することになりそうです。

総裁選に関しては、不確定要素も多いですが、菅義偉首相は7月17日、読売テレビの番組に出演し、自民党総裁の任期が9月末で満了することに伴う総裁選について問われ、「総裁として出馬するというのは、時期がくれば当然のことだろうと思っている」と述べ、再選に意欲を示しました。

秋までにある総選挙前に内閣改造をするのか問われると、首相は「最優先にすべきはコロナ対策。国民が安心できる生活を感じてもらえることを最優先に取り組んでいきたい」とし、「私の任期も限られている。衆議院全体の任期も同じですが、そういう中で解散総選挙は視野に入ってくる」と述べました。

菅総理が総裁選に勝ち、さらに衆院選に勝つことを確実にするためには、ある程度のサプライズが必要な情勢になってきたと思います。

コロナ対策については、まずは日本以外の先進国、特に英国、米国と同じように、感染者数の減少そのものを目指すのではなく、ワクチンの接種がすすんだこと、治療薬の目処がたったことなどから、多少感染者が増えても、重傷者・死者の数を増やさないようにし、感染者数が多少を増えても、ロックダウンなどをせずに日常を取り戻す政策に転じることです。

要するに、多少感染者数が増えても、重傷者・死者を増やさず、緊急事態宣言や蔓延防止措置などを発しなくてもすむようなコロナワクチンと共生できる、強靭な社会を目指すことを宣言し、実施することです。

これは、以前もこのブログにも述べたように、感染症の分類においては、現在コロナ感染症は2類に分類されているのですが、強靭な社会を目指すためには、これをインフルエンザ並の5類に分類することになります。

2016年には1週間で、全国で200万人以上もの感染者が発生し、インフルエンザは年齢を問わず感染し重症化する可能性もあったため、インフルエンザ脳炎で小学生が死亡するという痛ましい事例も発生しました。ところが、インフルエンザは5類に分類されていたため、風邪などと同じような扱いをすることができ、当時は医療崩壊は起きませんでしたし、緊急事態宣言、蔓延防止措置なども発令されませんでした。

そのため、経済がインフルエンザの蔓延によって、落ち込むことはありませんでした。多くの国民が日常通りの生活を送ることができました。

今後、人類は、コロナ感染症を撲滅することは数十年にわたって不可能ともみられています。もし、今のままコロナの感染者が増えたからといって、すぐに緊急事態宣言、蔓延防止措置などがだされれば、さらに経済が悪化して、自殺者が増えるなどの事態になるのは明らかです。

いくら手厚い保護をしたとしても、社会が毀損してしまえば、それを取り戻すのに長い時間がかかります。それでも、取り戻すことのできないものもでてくると思います。勤勉な日本人の多くは、保証金をもらって長期間休むよりは、仕事を続けていたいと考えていることでしょう。多くの人にとって、仕事はお金だけでなく、自らの存在価値にもつながる重要なことなのです。

コロナワクチンと共生できる、強靭な社会を目指すべき

ですから、いずれは、日本社会をコロナと共存できる強靭な社会に変えていく必要があります。秋になっても、感染者数自体が減る可能性がなければ、菅政権は、はやめにそうした社会を目指すことを宣言すべきです。そうして、今回の緊急事態先見・蔓延防止措置をもって最後の措置とすべきです。これに医師会がどこまでも反対するようであれば、公正取引委員会を動かせるなどの強力な措置もとるべきです。

それと、もう一つは、新たな経済対策です。コロナ対策のための大型補正予算を組むのは、党内ではかなりコンセンサスがとられるようで、どうやら30兆円規模のものとなりそうです。

現状では、補正予算はどうやら組む事自体は、既成事実化されつつあるようですが、これだけだと、インパクトがないです。これによって何をするかが重要です。それこそ、サプライズが必要です。

これには、以前このブログで主張したように、まずは物価目標2%を達成するためには、財政赤字よりも財政出動をし続けることを宣言することです。そうして、さらに、期限付きでも良いので、消費税減税をすることです。さらには、以前一度だけ実施した、給付制限なしの給付金支給を何度か行うことを宣言することです。さらに考えられる限りの有効な措置を実施すべきです。

以上のことを実施すれば、菅総理は、総裁戦で圧倒的な勝利をおさめ、さらに衆院選でも大勝利できる可能性がかなり高まります。

私自身は、菅総理の熱烈なファンというわけではありませんが、コロナ禍で経済が落ち込みそうな現状では、菅政権の弱体化は避けるべきだと思います。弱体化してしまえば、思い切った政策が打てなくなります。仮に菅総理が退任して新たな人が総理になって、新たな政権を運営したとしても、当面弱体化状態は続くことになるでしょう。

ましてや、政権交代ということにでもなれば、過去の民主党政権のように、経済の落ち込みは避けられないでしょう。そうなれば、コロナ禍は経済をかなり弱体化することになります。それを避けるためにも、当面は菅内閣で乗り切るべきだと思っています。

そもそも、コロナ禍や戦争などの大きな国難があるときには、よほど政権が悪く、犯罪などに関わっている事実などが明るみにでも出ない限り、政権交代などすべきではないし、ましてや野党やマスコミなどは、そのようなときに倒閣運動をするべきではなく、与党に協力して、挙党一致で国難にあたるべきです。

私は、野党やマスコミは本当はコロナ感染症など大きな問題ではないと考えているのではないかと思ってしまいます。本当に国難だと思っていれば、倒閣運動に走るなどのことはありえないと思います。マスコミ・野党はコロナを倒閣に利用しているのだと思います。

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2021年8月13日金曜日

日米豪印、中国を牽制 菅首相「台湾有事あれば沖縄守る」 米誌に強調「日本政府にとって非常に重要」 4カ国高官協議で「結束」新たに―【私の論評】卓越した海戦能力を誇る日本の首相だからこそ、菅総理の発言には大きな意味がある(゚д゚)!

日米豪印、中国を牽制 菅首相「台湾有事あれば沖縄守る」 米誌に強調「日本政府にとって非常に重要」 4カ国高官協議で「結束」新たに

海上自衛隊の護衛艦「かが」 クリックすると拡大します

 中国が軍事的覇権拡大を加速するなか、日本と米国、オーストラリア、インドの4カ国による戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の政府高官は12日、オンライン会合を開き、「台湾海峡の平和と安全の重要性」などをめぐって協議した。菅義偉首相は米誌のインタビューで、「台湾有事」は「沖縄有事」に直結することを示唆した。

【画像】尖閣諸島を日本領と記した海外の地図

 菅首相とジョー・バイデン米大統領、スコット・モリソン豪首相、ナレンドラ・モディ印首相は来月下旬、米国でクアッド首脳会談を行い、アジア太平洋地域の安全保障問題などについて議論することで調整している。

 高官会合はこれに先立ち、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、海洋安全保障やテロ対策などで実践的な協力を進める方針で一致。4カ国が設置した新型コロナウイルスのワクチンや、気候変動などに関する作業部会の議論の進捗(しんちょく)も確認した。  台湾海峡問題では、4月の日米首脳声明や6月の先進7カ国(G7)首脳会議の声明では「安定」の重要性を強調していたが、米国務省は今回の協議で「安全」を議論したと説明した。台湾に軍事的圧力を強める中国を意識したとみられる。

 インド国防省は今月2日、日本の海上自衛隊や、米国、オーストラリアの海軍との共同訓練「マラバール」を昨年に続き、今年も実施する方針を発表した。詳細な期日は未定だが、西太平洋で実施するという。 

 こうしたなか、菅首相は12日までに米誌ニューズウィークのインタビューに応じ、米中対立で「台湾有事」が発生した場合、中国や台湾に近い沖縄を「守らなければならない」との考えを示した。同誌が発言の抜粋をホームページに掲載した。

 台湾と沖縄は地理的にも近接しており、「台湾有事」は、地政学的にも軍事戦略的にも「尖閣有事」「沖縄有事」「日本有事」に直結する可能性が高い。

 菅首相は、沖縄を日米同盟によって防衛することは、「日本政府にとって非常に重要な目標だ」と強調し、台湾への軍事圧力を強める中国を牽制(けんせい)した。


【私の論評】卓越した海戦能力を誇る日本の首相だからこそ、菅総理の発言には大きな意味がある(゚д゚)!

上の記事にもあるように、菅義偉首相は12日までに米誌ニューズウィークのインタビューに応じ、米中対立で台湾有事が発生した場合、中国や台湾に近い沖縄を「守らなければならない」との考えを示しました。

首相は米軍基地がある沖縄を日米同盟によって防衛することは「日本政府にとって非常に重要な目標だ」と強調し、台湾への軍事圧力を強める中国を牽制(けんせい)しました。

サイバー攻撃を繰り返しているとされる中国に対しては「国際ルールにのっとり、大国としての責任を果たすことが決定的に重要になっている」と自制を求める一方で、問題解決に向け、日中間の意思疎通を続ける意向を示しました。

半導体などの安定的な確保に向け、中国に依存しないサプライチェーン(供給網)構築を日本企業に促す意向も明らかにしましたが、中国との経済的な関係を絶つことまでは考えていないとも述べました。

この菅総理の発言、軍事的にも十分に裏付けがあります。現状でも中国は日本の卓越した海戦能力に太刀打ちできません。

それは、このブログでも何度か述べましたが、まずは日米ともに、潜水艦探知能力が世界のトップレベルにあり、中国の潜水艦を簡単に探知することができます。しかも、中国の潜水艦は
ステル性が低いという弱点もあります。そうして、日本の通常型潜水艦は、ステルス性がかなり高く、中国はこれを発見できないという弱点があります。

中国の弱点は最近も露わになったばかりです。中国の原子力潜水艦がインド太平洋地域を航海中の英空母「クイーン・エリザベス」を追跡し、発覚するという事態があったのです。

英空母「クィーン・エリザベス」 クリックすると拡大します

8日(現地時間)の英デイリーエクスプレスによると、中国の潜水艦が太平洋を航海しながら英海軍の空母「クイーン・エリザベス」を尾行しました。 

英空母打撃群は南シナ海を離れて太平洋へ向かう間、対潜護衛艦「ケント」「リッチモンド」の状況室で2隻の商(シャン)級潜水艦(093A型、排水量7000トン)を確認しました。対潜水艦ソナーで発見されるまで尾行していたとみられます。

 中国潜水艦などの諜報活動を予想した英海軍は南シナ海を抜けてから6時間も経たないうちにソナー(水中音波探知機)で空母打撃群を追跡する中国潜水艦を発見したといいます。南シナ海は中国が人工島を建設した後、航路領有権を主張しているところです。

 英海軍の関係者は「中国の潜水艦戦力は急速に成長していて、決して過小評価できない。しかし中国は米国と英国が冷戦時代に経験した戦闘経験がない」と伝えました。 続いて「中国は我々の位置を発見する技術を使っている。超強大国の地位を確保するために、そして太平洋全域の貿易と安全保障を支配するという意図を強化しようと潜水艦を配置している。これは国際法に違反する事項」と指摘しました。

 中国は現在66隻の潜水艦を運用しています。これは米海軍や英海軍よりも多いです。中国は潜水艦を太平洋全般にわたる国に軍事力を行使するために使用しています。 中国の尾行は初めてではありません。

米海軍筋は中国の艦船は米国の艦船を尾行するなど、太平洋全域で活動を増やしていると伝えました。2015年に米空母「ロナルド・レーガン」が中国の潜水艦に尾行された事例があり、2009年にも中国の宋(ソン)級潜水艦が5マイル以内で空母「キティホーク」に発見されなかったことがあるとされています。 一方、「クイーン・エリザベス」は現在グアムに到着していて、今月末または来月の初め韓国に寄港する予定です。

確かに06年10月のある日、中国の「宋」級攻撃潜水艦がひそかに米キティホーク級航空母艦から数マイルほどの水面に浮上したとされています。米国人にとってこれは、ソ連が1957年に人工衛星を打ち上げたのと同じくらいの驚きだったようです。

米空母「キティーホーク」

ただ、中共海軍の潜水艦が突然現れたことについては、潜水艦がそこでじっと待っていたとの可能性を排除することはできないとの見方もあります。米国の対潜哨戒能力は当時から世界トップ水準であり、中国の潜水艦が動き回っていれば、発見できたはずとの見方です。

そうして、その後日米ともに中国の潜水艦を何度も探知していること、今回の英空母による中国潜水艦の発見により、キティーホークに発見されなかった中国潜水艦は、水中に潜んでいたとみるのが妥当です。

英国やオーストラリアは、対潜水艦戦(ASW)の装備は米国のものを使用しています。上の記事にもあるとおり、中国はロシアから輸入した技術をベースにしながらも、米国の技術を剽窃して流用してはいるようですが、さすがにすべての技術を剽窃で賄うことはできず、未だかなり低い水準にあるようです。

日本のように、静かな潜水艦なら中国軍の対潜戦(ASW)部隊による探知が難しいです。台湾有事の際には、日本の潜水艦が、台湾海峡の海底付近にひそみ、台湾に向かう中国の兵員輸送艦を探知し、直接攻撃したり、攻撃力の高い米攻撃型原潜に情報を提供して攻撃するということも考えられます。

日本の海上自衛隊の海戦能力は卓越しており、中国海軍は到底及ばない

台湾有事には、日本は台湾付近や、尖閣・沖縄付近の海域に潜水艦隊を出撃させるでしょう。そうして、これらを包囲すれば、中国海軍はこれを発見できないため、近づくことすらできなくなります。

近づけば、日本の潜水艦が中国海軍の艦艇を撃沈することはかなり容易なことです。なにしろ、海自側は中国の艦艇・潜水艦を簡単に発見できるのに対して、中国側は日本の潜水艦を発見することはできないからです。

このような卓越した海戦能力を有する日本の菅総理が「台湾有事」には沖縄を守ると発言したわけです。沖縄の米軍は安全です。さらには、7月には“台湾有事は「存立危機事態」にあたる可能性” があると麻生副総理が発言しています。

これでは、どうあがいても中国が台湾に軍事力で侵攻するのは不可能です。尖閣・沖縄はさらに無理筋です。このような卓越した海戦能力を持つ日本だからこそ、「菅総理」の「台湾有事あれば沖縄守る」は、大きな意味を持つともいえます。

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2021年8月12日木曜日

五輪後の日本とコロナ対策 感染者数が支持率に影響も日常生活の回復急ぐべきだ ―【私の論評】政府はどこかで踏ん切りをつけ、感染者減だけに注力するのではなく、コロナと共存できる強靭な社会を目指せ(゚д゚)!



 東京五輪が閉幕し、24日からはパラリンピックが始まる。新型コロナウイルスは高齢者の感染や死亡が激減している一方で、入院患者の増加で自宅療養が増えている。年内の衆院選に向けて、新型コロナの状況は有権者の関心事になるだろう。

 ところで、厚生労働省が7月30日に発表した簡易生命表によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81・64歳、女性が87・74歳となり、ともに過去最高を更新した。女性は世界1位、男性は世界2位だ。

 過去最高となった要因は、インフルエンザなどで亡くなる人が減少したためだという。もともとインフルエンザによる超過死亡者は1万人程度あったが、それがなくなり、新型コロナによる死者が置き換わった形だ。要するに、新型コロナの影響は小さく、その他の要因が寄与して日本人の平均寿命が伸びた。

 本来は、新型コロナだけではなく、全ての要因による死亡を分析し、その結果で健康政策を判断すべきである。しかし、マスコミ報道は、新型コロナに偏っており、多くの国民も関心を持つ。その結果、新型コロナだけで政権を判断・評価することになってしまう。

 実際、菅義偉政権の支持率は、新型コロナの新規感染者数と大いに関係がある。

 新規感染者数と内閣支持率は、相関係数マイナス0・8程度と高い(逆)相関がある。つまり、新規感染者数を減らすと内閣支持率が高くなり、感染者が増えると支持率が低くなるというわけだ。

 筆者は本コラムで何回も書いたが、本来であれば、健康政策の見地から注目すべきは、新規感染者数ではなく、重症者数、死亡者数だ。しかし、現実の政治では、新規感染者数がポイントにならざるを得ないだろう。

 本稿執筆時点で、人口100万人当たりの新規感染者(7日間移動平均)について日本は80人程度だ。世界でみると、英国が380人程度、フランスが330人程度、米国が260人程度、イタリアが90人程度、ドイツやカナダが20人程度だ。

 これら欧米の例を見ると、ワクチン接種がかなり行き渡った後でも、新規感染者数は増加しうるし、そもそも新型コロナウイルスが根絶されることはほとんど考えられない。このため、この数字がゼロになることはないだろう。

 ただし、ワクチン接種が進めば、多少の変異株でも重症化リスクや死亡リスクはかなり低下するので、深刻な医療崩壊にはつながらないはずだ。欧米のように、ワクチン接種により日常生活を回復していくことが望ましい。

 新規感染者数であおられ、緊急事態宣言や蔓延(まんえん)防止等重点措置などが発令される。その結果、日常生活でも不自由が生じてストレスを人々に与え、政権批判にもつながるというのが最近の流れだ。

 ワクチン接種者には、各種自粛措置の例外を明確にした方が、ワクチン接種促進のためにもいいだろう。

 われわれ有権者も、新型コロナの状況を判断するのに、新規感染者数だけではなく日常生活がどうなるかに注目したい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】政府は、感染者が増えても、重傷者、死者を増やさず、社会経済活動を制限しないですむ強靭な社会の形成を目指すべき(゚д゚)!

国内感染者数と内閣支持率の関係を示すグラフをサイトで探してみましたが、あったのは、以下だけでした。少し古いですが、NHKのWEBニュースのものです。


このようにグラフにしてみると、確かに感染者数と内閣支持率には負の相関がありそうです。高橋洋一氏は、実際計算して、相関係数を求めていますが、そのようなことをする報道機関はありません。NHKでもこのようなグラフは出してはいるものの、相関係数を出すまでには至っていません。

相関係数など算出するのはかなり簡単なことであり、excelの関数などを用いれば、すぐに算出できます。相関係数は、算出できるなら算出して、高橋氏のように、記事を書く時などに利用すれば、記事に信憑性をもたせられますし、客観的に記事を書くこともできると思います。しかし、そのようなことをするような報道機関にお目にかかったことはありません。

これは、やはり高橋洋一氏が語るように、大手新聞の記者は「ド文系」なのだからでしょうか。

さて、それはさておき、高橋洋一氏が上の記事の最後に「われわれ有権者も、新型コロナの状況を判断するのに、新規感染者数だけではなく日常生活がどうなるかに注目したい」と述べおり、確かに「日常生活を取り戻す」ことが政府の急務であるのは間違いないです。

これに関しては、他の国ではどうなのでしょうか。たとえば、シンガポールではすでにコロナを「はなり風邪」の扱いにしています。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに…方針転換の根拠はイスラエルのデータ―【私の論評】なぜ私達は「ゼロコロナ」という考えを捨て、「ウィズコロナ」にシフトしなければならないのか(゚д゚)!
シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに…


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。

 シンガポール政府は6月下旬に「感染者数の集計をせずに重症患者の治療に集中する」と宣言、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザのように管理する戦略に切り替えた。

 シンガポール政府の方針転換の根拠になったのはイスラエルのデータである。それによれば、ワクチン接種完了者が感染する確率は未接種者の30分の1、重症化は10分の1に過ぎないという。昨年の新型コロナウイルスの致死率は2〜3%だったが、イスラエルのワクチン接種完了者の致死率は0.3%まで低下している。この数字は季節性インフルエンザの致死率(0.1%未満)と大きな差はない。

 新型コロナウイルスはインフルエンザのような「はやり風邪」になりつつあるとの認識が今後定着するようになれば、「社会としてどの程度まで感染の広がりを許容するのか」という判断が次の大きな問題となる。

この傾向は、ご覧いただければおわかりになるようにこの記事にもありますが、イギリスでも同じような傾向です。というより、現状では、特に先進国では日本だけが感染者数に注目して、とにかく感染者数を減らそうとしているようにみえます。

日本ではコロナワクチンの接種は先進国では一番の速さという勢いで、すすんでいますが、まだ全国民の60%が2回以上接種をするまでには及んでいません。60%に達すると集団 免疫が獲得できるとされていますが、40%以上でもかなり感染者数、死者数が抑えられるようになるとされています。

それと、はっきりした事実があります。それは、この先長い期間(数年から数十年)期間にわたって、コロナ感染症を撲滅することはできないということです。コロナワクチンは、感染症予防に有効ですが、絶対というわけではありません。われわれは、否応なくこれから、コロナと共生していくしかないのです。

であれば、感染者数だけに着目して、感染者数を減らすことにだけ注力することは早晩不可能になります。それよりも、重傷者数や死傷者数に着目して、ある程度感染者数が増えたとしても、重傷者や死者数が少なく、社会経済活動に支障がでない強靭な社会を目指すべきです。

そうして、それにはすでに手本があります。それはインフルエンザです。インフルエンザも重症化すれば大変なことになります。特に、インフルエンザは小学生以下の若年層にも深刻なダメージを与えることもあり、実際過去にはインフルエンザ脳炎などで、なくなった若年層も存在します。

これを軽く考える人もいますが、一度対応を間違えば、インフルエンザも決して侮ることのできない、恐ろしい感染症です。そうして、2016年にはこのインフルエンザが蔓延して、1週間で200万人もの感染者が出ました。しかし、それでも医療崩壊は起きませんでした。

なぜ起きなかったかといえば、インフルエンザ感染症は、日本の分類では5類に分類されているためです。5類に分類されていれば、普通「風邪」と同じような扱いができるので、医療崩壊など起きないのです。

これについては、過去に何度かこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

“緊急事態”AI予測で14日に東京で5000人感染 死者数増も止まらず1カ月後に115人死亡も―【私の論評】日本では2016年にはインフルエンザの感染者数が1週間で200万超となったが、医療崩壊も経済の落ち込みもなかった、希望を失うな(゚д゚)!
緊急事態宣言から一夜明け、通勤客で混雑する品川駅=1月8日午前

この記事は1月8日のものです。 この記事を書いたときには、ワクチン接種はほとんどすすんでいませんでしたが、海外から比較すると、感染者数は桁違いに低いにもかかわらず、マスコミは連日コロナ感染症の脅威を煽り煽っていました。五輪も中止が当然という空気が流れていました。

しかし、この頃から私は私達はコロナと共存していくしかないと考え、しかも日本では重傷者、死者数が元々かなり低かったことから、コロナも「インフルエンザ」と同じような扱いにすべきと主張したのです。

その頃は、一部にはありましたが私のような主張はあまりみられなかったですし、とても多くの人に理解していただけるような状況ではありませんでしたが、最近では新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが政府内でも議論を呼んでいます。

感染症では感染症を1~5類などに分類しており、入院や就業制限など、それぞれに実施できる措置等を定めています。新型コロナウイルスについてはこれまでSARSや結核など同じ2類相当としてきたが、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げることについて厚生労働省の内部で議論されていることが明らかになりました。

加藤官房長官は10日、「新たな科学的知見なども踏まえながら不断に見直しが行われていることが求められている」と発言しています。

私たちと新型コロナウイルス感染症との付き合いは、先程も述べたように残念ながらそれほど短い期間で終わるものではありません。コロナだけに特化し、他の疾病や事故を無視したり、どこまでも“ゼロコロナ”を目指したりするような政策を続けていては、それ以外のところで命を落とす人が山ほど出てくることになりかねません。

これについては、主に政府の分科会や日本医師会が懸念を示したことで今に至っていますが、医療現場や保健所等としては、“正直もうやっていられなくなった”というのが実態だと思います。

新型コロナウイルスはコロナウイルスの中でもSARSやMERSなど、2類相当するような致死性が非常に高いものではなく、むしろ季節性の通常のコロナウイルスに近い、いわば“新しいタイプの風邪のウイルス”だということがわかってきています。

通常の風邪になるまでにはさらに時間がかかるでしょうが、致死性を鑑みれば5類相当というのが多くの専門家の意見ですし、より早い段階で引き下げが行われるべきでした。


新型コロナウイルスは65歳以上の高齢者が重症化しやすいことがわかっていますが、その多くはワクチン接種を済ませた状況です。一方、医療現場のメインになってきているのが高齢者に比べて重症化リスクはかなり低い30~50代です。

それでも2類相当では原則入院にということになっているため、実際には軽症者がベッドを埋めてしまっているのです。また、開業医の団体であるところの医師会所属の医師の多くがコロナ対応を拒んでいることもあり、一部の医療機関に負担が集中、病床数も医療従事者も限られて重症者が入院できない、非常に困った状況になっています。

だからこそ軽症者は原則的に自宅対応とし、そのために医師会の協力を得て訪問看護ステーションや開業医に診てもらうという政府の方針は極めてまともですし、合理的な判断です。

日本では在宅医療が十分に進んでいるし、厚生労働省も進めてきています。酸素投与や薬剤投与もできます。本来はそういうことをオールジャパン、医療総動員でやらなければいけない状況なのに、2類相当にしている限りはそれは不可能です。


ワクチン接種は進んできていますが、デルタ株への置き換えが進んでいることもまた事実です。デルタ株の感染力は明らかに強く、水ぼうそう程度だとも言われています。感染力が強ければ感染者は増えるので、それだけ医療機関にも負担がかかります。

ただ海外の知見も踏まえれば、やはり重装備をしてコロナで陰圧室はやり過ぎのようですし、感染力が強く入院が必要な水ぼうそうも5類相当です。

5類相当のインフルエンザの場合、普通の風邪よりは辛いし、中には亡くなる方もいます。だから企業も感染者に無理して出社するな、学校も出席停止だ、という付き合い方になっています。

一方で、インフルエンザが広まっているからといって緊急事態宣言を出したり、飲食店を閉めたりすることはありませんでした。また、医療崩壊の心配もありませんでした。2016年のインフルエンザ蔓延のときを覚えている人もいらしゃるかもしれませんが、あの時もそのようなことはありませんでした。

残念ながら、私たちは既存のインフルエンザのように、これから長い間コロナと付き合っていかなければならないし、一時的に人の流れを止めたところで、後からまた広がることになります。それは致し方ないことです。そういう中で、いかに私達が日常を取り戻すのかということが、極めて重要なことです。

このまま経済状態が悪化すれば、失業率が上昇、自殺者数もさらに増加することになりかねません。政府もどこかで踏ん切りをつけて、コロナと共存できる強靭な社会を目指すようにすべきです。感染者を減らすことにだけ注力するのはもうやめるべきです。感染者が多少増えても、重傷者、死者を増やさず、社会経済活動を制限しない方向に舵を切るべきです。

現状ではまだ際立ったマイナスはありませんが、多くの国々がこの方向に転じようとしている現在、日本も例外であり続ければ、マイナス面が多くなることは目に見えています。

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2021年8月11日水曜日

自民幹部「ワクチン一本足打法では限界」、衆院選にらみ経済対策求める声―【私の論評】菅政権の経済対策においては、物価目標2%を達成するまでは財政出動を優先し続けよ(゚д゚)!

自民幹部「ワクチン一本足打法では限界」、衆院選にらみ経済対策求める声



 自民党内で、新たな経済対策を求める声が強まっている。新型コロナウイルスの感染拡大で菅内閣の支持率は低迷しており、大規模な財政出動を掲げて局面打開を図る狙いからだ。秋までに迫った次期衆院選をにらみ、党は近く議論を開始し、政府への提言をまとめる方針だ。

 「コロナを克服するための追加経済対策にしっかり取り組んでいく」

 10日朝、東京都板橋区の街頭に立った自民党の下村政調会長は、コロナ禍で打撃を受けた経済を下支えするための追加経済対策を取りまとめ、政府に働きかける考えを強調した。

 政府は2020年度、コロナ対応のため3度にわたって補正予算を編成した。国民1人当たり10万円の一律給付や、観光支援策「Go To トラベル」を盛り込み、補正だけで歳出総額は70兆円を超えた。

 21年度に入ってからは、追加対策が打ち出されておらず、党内からは「もう1、2回、大きなショットを出して国民の生活を支えていく対策が必要だ」(安倍前首相)との声が上がる。

 背景には、衆院選までに政権浮揚の好材料が乏しいという事情がある。東京五輪でのメダルラッシュは内閣支持率の上昇につながらず、読売新聞社が7~9日に実施した全国世論調査では過去最低の35%に落ち込んだ。党幹部は「ワクチン接種拡大の一本足打法では限界がある」と吐露する。

 二階幹事長は、補正予算案について「選挙前に骨格ぐらいは組んで国民に問いかけるのは、与党・自民党の責任だ」とし、衆院選前に大枠を提示すべきだとの考えだ。「30兆円に近い」規模が必要とも語る。

 具体的には、生活困窮世帯への支援策が焦点となりそうだ。下村氏は個人的な考えとし、住民税非課税世帯などへの1人当たり10万円給付を提唱する。

 首相も「常に経済対策は頭の中に入れている」とし、衆院選前の補正予算案の編成指示を視野に入れる。ただ、「先に数字を出せば、野党はさらにそれ以上の金額を言ってくる」(自民中堅)との懸念から、打ち出すタイミングは慎重に見極める考えだ。

【私の論評】菅政権の経済対策においては、物価目標2%を達成するまでは財政出動を優先し続けよ(゚д゚)!

選挙のことなど別にしても、再びある程度の経済対策を打つべきことは、昨日もこのブログで解説したばかりです。昨日の記事のリンクを以下に掲載します。
高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲―【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!
高市早苗氏

この記事では、高市早苗氏が、総裁選に立候補する旨を公表し、週間文春に総裁選の公約にもなると考えられる政策やその考え方に関して掲載していることを述べました。

その中で、特に経済対策にして「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」としている点に注目しました。

コロナ禍になる前から、物価目標2%はとても達成できる見込みはありませんでしたが、このような状況下では、2%物価目標を達成するために、政府は財政出動を何よりも優先すべきであり、日銀は包括的な金融緩和をするのが当然です。

この目標すら達成できず、しかもコロナ禍に見舞われたわけですから、なおさら、政府は積極財政、日銀は大規模な金融緩和に踏み切るのが当然です。

そのためにも、政府が大量の国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式(政府と日銀の連合軍)で、資金を調達するのは当然のことです。これを大掛かりに実施すれば、経済に悪影響があるのではと懸念する人もいますが、唯一の懸念はインフレだけです。

ただ、日本は未だ2%の物価目標も達成できない有様ですから、デフレ傾向にあり、かなり国債を発行してもインフレになる心配はありません。

だからこそ、高市氏は「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と名言したのでしょう。

しかし、このことを理解している議員は、安倍氏や高市氏など自民党でも一部の議員のみです。菅総理は、どの程度理解しているかは、わかりませんが、安倍政権の政策を踏襲するという意味では、ある程度は理解しているでしょう。

しかし、多くの議員は冒頭の記事にもあるように、経済対策を選挙対策の一環ぐらいにしか考えていません。

野党議員だとほとんどの人が理解していません。さらに、マスコミはほとんど理解していません。与野党の議員も、マスコミも、ほとんど経済に関して正しい認識ができず、その時々の政争の道具くらいにしか考えていません。

議員ですらこの有様ですから、議員の発言や主張などを切り取って報道するマスコミの報道のみを情報源とする人々は全く経済のことなど理解せず、単なる気分で、政府を批判しているようです。

各種の報道によれば、ようやく菅政権は補正予算の策定を指示するようです。総選挙の日程はいまのところ10月上旬が濃厚です。補正予算はその後になると言われているようですが、経済的な閉塞感の蔓延を防ぐためにも、パラリンピック終了後に臨時国会で補正予算を通すべきでしょう。その上で総選挙が良いです。

世論調査では、自民党支持層でも菅政権への支持率が低下傾向にあります。再び民主党政権誕生前にみられた、ワイドショー的な煽りが加熱していることもあるのでしょう。

あの当時は、「自民党にお灸をすえる」「一度は民主党にやらせよう」という無責任で無思考な流れがありました。今回は、ワイドショーなど報道は、新型コロナの感染拡大やワクチン接種などで、「印象操作報道」を多く繰り広げています。それが政権へのダメージになるからです。

ワクチンに関しては、日本は摂取が世界でも遅れて、菅政権は大失敗したとの印象操作がなされています。現実には、日本はすでに必要なワクチンを確保しているどころか、それを上回り有り余るほどのワクチンを確保ずみですし、1日のワクチン接種回数は世界トップクラスです。以下のグラフは、100人あたりの1日ワクチン接種数の国際比較。


この事実を見る限り、日本はかなりの速度でワクチン接種が進んでいるというか、世界一であることがわかります。

以下のグラフは、コロナワクチンの確保状況を示しています。日本は100%を超えています。


いまだに根強い偏見のひとつは、「日本はワクチンを確保していない。ワクチンが足りないし個別交渉でファイザーからの追加供給に失敗した大失態。ワクチンを確保できないのは菅政権のせい」というものです。確かに国内では、供給のミスマッチがあっても人口を上回るワクチンを確保しています。IMFとWHOによるわかりやすい図です。

いかなる政権も弱体化すればするほど、大胆な政策は打てなくなります。だからこそ、戦争や未曾有の大災害の場合など、政権交代などするべきではないのです。

菅政権も弱体化しつつつあるというのは事実のようです。実際本来菅政権自体は、もともとはGOTOトラベルを継続するつもりでしたし、緊急事態宣言も繰り返すつもりはなかったようですし、五輪ももともとは制限しつつも有観客で実施しようとしていました。しかし、野党・マスコミによる印象操作により、弱体化し大胆な政策は打てなくなり、現在に至っています。菅政権としても、これは不本意てしょう。

民主党政権誕生の時の教訓は、世論というかワイドショー民(ワイドショー的報道に判断を大きく左右される人たち)には、合理的な判断よりも目先の印象が重要になる、そして、その結果は、日本社会や経済にとって最悪なものになるということでした。多くの有権者が自民党に「お灸」を据えるつもりが、民主党政権が誕生してしまい、とんでもないことになってしまいました。

有権者がまた「お灸」を据えるというつもりで、政権交代を許してしまえば、「悪夢の民主党政権時代」の繰り返しなってしまいます。それだけは避けたいところてすが、菅政権も自らそのようなことは避けるべきです。

菅政権は世論の関心を大きく転換するような大胆な経済政策を行うべきです。それしか現在の八方ふさがりの閉塞感を打開することはできないでしょう。

その意味でも、菅政権は高市早苗氏の経済対策を、そのまま実行する必要まではありませんが、参照はすべきでしょう。特に財政政策として「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」というところは外せません、これを外せば、一時的には良くなっても長続きはせず、閉塞感を打開することはできなくなるでしょう。


日本の防災対策を進める方法 公共事業実施の基準見直せば「2倍以上の規模」が達成可能だ ―【私の論評】B/C基準の割引率を放置し、インフラの老朽化を招くのは本当に罪深い(゚д゚)!

【日本の解き方】「骨太方針2021」の読み方 去年より強い財政健全化色、補正予算の規模が正念場に―【私の論評】GDPギャップ埋める新たな補正予算を組めば、菅政権は選挙で大勝利のシナリオが描ける(゚д゚)!

「消費税率19%」まで引き上げが必要との試算が出るが…国の財政は悪くなっていない 増税などの緊縮議論は“不要”だ ―【私の論評】消費増税8%の前の消費支出水準に戻るまで、増税ではなく積極財政、金融緩和をするのが当然(゚д゚)!

2021年8月10日火曜日

高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲―【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!

高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲

高市早苗

任期満了に伴う自民党総裁選挙について、高市早苗 前総務大臣は10日発売の月刊誌「文藝春秋」に論文を寄せ、立候補に意欲を示しました。

この中で、高市氏は、去年、菅総理大臣が選出された経緯に触れ「私が1票を投じたのは、安倍内閣の政策を踏襲すると明言したからだが、アベノミクスの2本目の矢である『機動的な財政出動』は適切に実行されなかった。小出しで複雑な支援策に終始している感がある」と指摘しています。


そのうえで、菅総理大臣の自民党総裁としての任期が来月末に迫っていることを踏まえ「力強く安定した内閣を作るためには総裁選挙を実施し、すべての党員から後押ししてもらえる態勢を作ることが肝要だ。社会不安が大きく課題が多い今だからこそ、今回、私自身も総裁選挙に出馬することを決断した」として総裁選挙への立候補に意欲を示しました。

高市氏は、衆議院奈良2区選出の当選8回で60歳。

党内の派閥には所属していませんが、安倍前総理大臣に近いとされ、安倍政権では、党の政務調査会長や総務大臣などを歴任しました。

【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!

高橋早苗氏の「文藝春秋」に寄せた論文のリンクを以下に掲載します。
高市早苗「総裁選に出馬します!」
詳細は、この記事を是非ご覧になってください。

この中で私が最も注目したのは、以下です。
インフレ率2%を達成するまでは、時限的にプライマリーバランス(PB)規律を凍結して、戦略的な投資にかかわる財政出動を優先する。頻発する自然災害や感染症、高齢化に伴う社会保障費の増大など困難な課題を多く抱える現状にあって、政策が軌道に乗るまでは、追加的な国債発行は避けられない。

こう述べると「日本国が破産する」と批判される方がいる。しかし、「日本は、自国通貨建て国債を発行できる(デフォルトの心配がない)幸せな国であること」「名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善すること」「企業は借金で投資を拡大して成長しているが、国も、成長に繋がる投資や、将来の納税者にも恩恵が及ぶ危機管理投資に必要な国債発行は躊躇するべきではないこと」を、強調しておきたい。

「強い経済」は、結果的に財政再建に資するものであり、全世代の安心感を創出するための社会保障を充実させる上でも不可欠だ。外交力や国防力、科学技術力や文化力の強化にも直結する。

「インフレ目標2%を達成するまでは、インフレ率2%を達成するまでは、時限的にプライマリーバランス(PB)規律を凍結して、戦略的な投資にかかわる財政出動を優先する」ということをはっきりと発言したのは総裁候補とみられる人の中では高市早苗氏だけかもしれません。

総裁選出馬にあたって、高市氏は政権構想「日本経済強靭化計画」の一部を披露しています。う上で引用した部分は、その流れで出てきた内容です。

高市氏は、「私は、国の究極の使命は、『国民の皆様の生命と財産を守り抜くこと』『領土・領海・領空・資源を守り抜くこと』『国家の主権と名誉を守り抜くこと』だと考えている」

そう基本軸を設定したうえで、大胆な「危機管理投資」と「成長投資」が必要だと指摘。

「『危機管理投資』とは、自然災害やサイバー犯罪、安全保障上の脅威など様々なリスクについて、『リスクの最小化』に資する研究開発の強化、人材育成などを行うことだ。(中略)

『成長投資』とは、日本に強みのある技術分野をさらに強化し、新分野も含めて、研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うことだ」

 さらに、「中国リスク」への対策も盛り込まれています。

「今後、中国共産党が日本社会への浸透と工作を仕掛けてくる可能性もある。(中略)日本国内の企業や大学や研究機関の内部に設置された中国共産党組織が、先進技術や機微技術の流出拠点となる懸念も大きい」としたうえで、法制度整備と体制強化を提案している。

中国対策に関しては、現状の中国の傍若無人な態度や行動をみていれば、当然であり、他の総裁候補も同様のことをいうでしょう。

しかし、どのような形であれ「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言するのは高市氏だけかもしれません。やっと、自民党総裁候補にも、緊縮派とはいえない人が出てきたと思います。安倍元総理も、緊縮派ではありませんでしたが、ここまではっきりとは言っていなかったと思います。

景気が低迷したとき、標準的なマクロ経済学では、積極財政、金融緩和をせよと教えています。

それは特にデフレのときには、これらを実行して、速やかにデフレから脱却せよと教えています。そうしてそれは、古今東西どこでも正しいことが立証されています。これ以外の政策を実施した場合はすべて失敗しています。

マクロ経済の全体像

ところが、安倍政権が成立するまでの日本では、デフレであるにもかかわらず、政府は緊縮財政を行い、日銀は金融引締策ばかりを実行してきました。

そこに安倍政権が登場して、政府は積極財政、日銀は金融緩和に転じました、そうして景気は凄まじい勢いで回復していきました。特に雇用の改善には目覚ましいところがありました。

ところが、財務省は増税キャンペーンを執拗に繰り返し、これにマスコミや多くのエコノミストが加勢し、安倍政権は二度にわたり増税を延期したのですが、とうとう増税せざるを得ない状況になり、2014年4月には消費税を8%に増税し、2019年10月には消費税は10%になりました。

日銀は、安倍政権発足のときには、異次元の包括的金融緩和を実施しましたが、緩和の姿勢を崩してはいませんが、2016年からは、イールドカーブ・コントロールを実施し、抑制的な緩和に転じました。

増税と、抑制的な緩和により、物価目標2%の達成は未だできていないどころか、現状のままでは、とてもおぼつきません。 

これに対しては、積極財政と金融緩和が有効であり、コロナ禍の現状で経済が低迷してい現状では、すみやかに大規模な財政出動と金融緩和を実行して、素早く景気を回復させる必要があります。そのためには、国債を大量に発行すべきです。

金利がマイナス、もしくはゼロに近い国債を大量発行したとしても、政府の負担はそれほどでもありません。マイナスであれば、発行すればするほど政府は儲かることになります。これは、たとえば銀行の貸し出し金利がマイナスになれば、借りれば借りるほど儲かるし、マイナスでなくても金利がゼロに近ければ借りやすいというのと同じであり、小学生にでも理解できると思います。

国債を発行すると将来世代へのつけとなるという非常識な人もいますが、それは完璧に間違いであることをこのブログでは、根拠を示して何度も述べています。

高市氏は、日銀の金融緩和については、はっきりとは述べていませんが、当然これも視野に入っていると思います。日銀法の改正も視野に入れていただきたいものです。

日本では、中央銀行(日本では日銀)の独立性とは、日銀が独自で日本国の金融政策を定めて実行することだと理解されているようですが、世界水準では、中央銀行の独立性とは政府の定めた目標に従い、自由に方法を選択できるというのが中央銀行の独立性であると理解されています。

日銀法を改正して、日本でも世界水準の中央銀行の独立性を確保するとともに、政府が日本国の金融政策の目標を定められるようにすべきです。ただし、そうなっても、マクロ経済がわかっていない人が政治家の多数を占めていれば、同じことです。

やはり、政治家自身がマクロ経済をある程度理解すべきでしょう。とはいえ、政治家自身は、細かなことまで知る必要はないです。このブログにも過去に何度も掲載してきた以下のグラフの意味が本当に理解しているだけで十分です。


このフィリップス曲線、世界中のどこの国でも、だいたい似たような曲線になります。ただし、NAIRUとインフレ目標は、それぞれの国や、時期になどによって若干変わります。

NAIRUとは、インフレ率を上昇させない失業率(non-increasing inflation rate of unemployment)のことです。

現在の日本では、NAIRUは2%の半ば程度であるとみられています。インフレ目標は物価目標と同じで2%です。

このグラフをみて、何のことだかわからない人は、マクロ経済を全く理解できていません。経済のことを知りたいとか、語りたいと思うなら、最初にこのグラフの意味を理解すべきです。そうでないと、無意味な議論しかできませんし、経済に関して知識を積み上げようとしてもできません。安倍元総理や、高市早苗氏はこれを十分理解していることでしょう。

高市氏は、これを理解しているだけではなく、まともな経済対策を打つことを邪魔する財務省の取り扱い方についても、理解していることでしょう。

いずれにしても、日本の総裁候補の中に、緊縮とは無縁の人がでてきたのは喜ばしいことです。高市氏が総裁になれば、日本経済もかなり良くなると思われますが、そうならなくても、総裁選で大善戦して、新総裁に経済対策の面で大きな影響力を行使できるようになっていただきたいものです。

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2021年8月9日月曜日

絵に描いた餅となる米による対中としての露取り込み―【私の論評】現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけ(゚д゚)!

絵に描いた餅となる米による対中としての露取り込み

岡崎研究所


 バイデン大統領は、中国との競争を米外交の第一優先事項に正しく位置づけている。最初の政策文書では、中国につき「経済、外交、軍事、技術力を組み合わせて安定し開放的な国際システムに挑戦しうる唯一の競合国」と言明し、バイデンも出席した6月のNATO首脳会議の共同声明は初めて「中国の台頭は全ての同盟国にとり安全保障上の意味を持っている」としている。中国は、冷戦時代のソ連と類似した役割を果たす面も出てくる。そうすると、ニクソンが冷戦時代にソ連に対抗すべく共産党の中国を取り込んだこととの類推から、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきであるとの意見が出てくる。

 これに対し、マクフォール元駐ロ米大使は、7月21日付けワシントン・ポストに、WPに‘Trying to pry Russia away from China is a fool’s errand’(中国からロシアを切り離そうとするのは愚か者の使い走りである)という辛辣なタイトルの論説を書いて反対している。論説の骨子は次の通りである。

・中国とのバランスをとるためにロシアを米側に引き付ける考えは魅力的に聞こえるが、今はこの考えは機能しないし、もし機能したとしても、ニクソンの時のような便益をもたらさないだろう。

・ニクソン訪中時には、成功のための不可欠な前提条件、すなわち中ソの対立が既にあった。しかし、逆に、今日の中ロの経済、安保、イデオロギーの結びつきは今までなかったように緊密である。プーチンが専制主義的な魂の友である習を捨て、民主主義の指導者バイデンとなれなれしくするだろうか。

・仮に方針変更により中ロ引き離しが成功しても、プーチンのロシアとの接近は、便益が少なく不利益が多い。米国はロシアのエネルギーを必要としていない。一方、プーチンは、アジアで中国を封じ込めるために追加的にロシアの兵士、ミサイル、船舶を配備することはないだろうし、方針変更の見返りにウクライナとジョージアに関連して好ましくない譲歩を求めるだろう。

・最もよくないのは、中国の専制主義者を封じ込めるためにロシアの専制主義者と接近することは、自由世界を統一させるとして、バイデンがこの6か月情熱をもって語ってきたことを掘り崩すことだろう。

・将来、米国は、中国を封じ込め、中国と競争する上で、ロシアとより深いパートナーシップを追求すべきであるが、それは専制的プーチンとではなく、民主ロシアとの間で始められるべきあろう。

 このマクフォールの論説には賛成できる。中国と今後対抗していく上で、ロシアを民主主義国の側につけることを考えるというのは、一見良い考えのように思えるが、全くそうではない。ロシアは腐敗した専制主義の国であり、民主主義国とは言えない。

 バイデンが中国との競争を「専制主義と民主主義の戦い」としていることには議論の余地があるが、そう言っている以上、対中関係を進める都合上、専制的なロシアと組むという選択肢はないはずである。さらに、マクフォールも指摘する通り、ロシアがウクライナとジョージアに対する違法行為を認めるような要求を米ロ接近の見返りとしてすることは十分に考えられる。

 ロシアは多くの核兵器を持っているが、経済的には、IMF統計によればロシアは韓国以下の国内総生産(GDP)しか持っていない。今後の石油価格の動向によるが、脱炭素化が言われる中、経済的にはさらに疲弊していくだろう。プーチンは、ロシアは中国のジュニア・パートナーとして生きるしかないと思っているのではないか。

 ロシアはそろそろ変わる時期に来ているのではないかと思われる。プーチンは2036年まで大統領に留まれるように憲法改正をしたが、そのかなり前に引退することになる可能性があるように思われる。プーチン後の指導者がどうなるかわからないが、西側との関係を重視する人になる可能性は低くないのではないか。その時になって初めて、民主ロシアとのパートナーシップが考慮に値する選択肢になるということだろう。

【私の論評】現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけ(゚д゚)!

このブログでも何度か述べてきたように、現在のロシアは旧ソ連の軍事技術や核兵器を継承している国であり、その点では侮ることはできませんが、GDPは韓国なみであり、もはやかつてのソ連のような超大国でないのは確かであり、大国とすら呼べない国になっています。

現在のロシアは、米国なしのNATOと戦争したとしても、勝つことはできないでしよう。持ち前の軍事技術を活用して、初戦には勝つこともあるかもしれませんが、その後は経済力に優れるNATOがロシアを圧倒するでしょう。

ロシアはもう大掛かりな戦争はできません。ウクライナなどの先進国以外の国とであれば、勝つみこみもありますが、先進国に勝つことはできないでしょうし、ましてやNATOと現在のロシアとでは、勝負は最初からついています。

そもそも、ロシアは大戦争を開始してしまえば、その経済力からみて、兵站を維持できません。今年の5月にそれを如実に示すような事態が発生しました。

それについてはこのブログでも解説したことがあります。その記事のリンク以下に掲載します。
ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い―【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

4月22日、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島で、
軍用ヘリコプターから軍事演習を視察するショイグ国防相

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。

 ロシア軍がウクライナとの国境地帯に集結し、ウクライナとロシアとの緊張が高まっていた。戦車、軍用機、海軍艦艇とともにロシア軍兵士約10万人が展開し、米国とNATOはこれを厳しく非難していた。

 この展開についてロシア側は、部隊は演習をしているのであり、誰に対する脅威でもない、と言ってきた。4月23日、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じた。ただし、ショイグは、NATOの年次欧州防衛演習(東欧諸国で6月まで行われている演習)で不利な状況が出て来た場合にすぐ対応できるようにロシアの全部隊は即応体制にとどまるべきである、とも述べている。

旧ソ連のまだ衰退する前のソ連であり、GDPが米国に次ぐ世界第二位であった頃のソ連であれば、似たような事態(当時はウクライナはソ連邦に属していた)があれば、半年でも1年でも、他国の国境付近に軍隊を駐留させて、軍事演習をしていたかもしれません。

現在のロシアにはそれはできません。経済力がないので、兵站を維持できないからです。現代の陸軍2万人規模の一個師団であれば、1日で2000トンの水・食糧・その他を消費します。空軍が陸軍の一個師団を火力支援するなら、一日で弾薬も含めて4000トン消費するのです。つまり、セットで6000トン消費するのです。

作戦規模が大きくなれば、5倍や10倍の消費になるのは当たり前です。この消費に耐えるように、各国は常に生産・輸送・備蓄・補給を行います。消費と同時に備蓄も進めるので、生産ができなければ対応困難となります。

このようなことは、現在ロシアには到底できません。軍事演習は実際に他国の軍隊に対して、武力攻撃しないだけであり、後は実戦と同じです。

ロシア海軍ミサイル巡洋艦ヴァリャーグ

上で述べたようにロシアがウクライナ国境にロシア軍約10万人を配置して軍事演習を行うと、1日で1万トンもの水・食糧・その他を消費することになります。これを長く続ければ、どうなるか考えてみてください。

だからこそ、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じたのです。

 現代のロシアが、いまのままで対中のために、米国がロシアを取り込んだとしても、中国にとってロシアはもはや大きな脅威ではないということです。

それに、経済力に劣るロシアを米国が取り込めば、今度は米国がロシアの面倒をみなければならなくなります。米国は、ロシアに対して様々な面で経済や軍事的援助を行わなければならなくなるでしょう。

そもそも、ロシアは中国と長い国境を接しており、中国の人口が14億人、ロシアのそれは1億4千万人に過ぎません。特に中国と国境を接する極東地域の人口密度はかなり低いです。中国と対峙することは、ロシアにとって大きな脅威となることでしょう。

このようなことをロシアが自ら、招くようなことはしないでしょう。ただし、米国の戦略家ルトワック氏は、ウクライナ危機で中国とロシアの接近は氷の微笑だと分析しています。

米国の戦略家 エドワード・ルトワック氏

本質的には、ロシアと中国は同盟関係になることはなく、互いに敵対関係にあるとみるべきです。だからこそ、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきという考えもでてくるのです。

しかし、現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけです。仲間に引き入れるとすれば、今後ロシアが経済成長をするとともに、中国が経済的に疲弊し、中露の経済が拮抗するようになった場合でしょう。

その時は今ではないことは確かです。プーチンがロシアを支配している限りは、その時はきません。ロシアでも、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、中間層が多数排出され、それらが自由に社会・経済活動を行えるような素地ができあがれば、話は変わってきますが、現状では全く無理です。

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