ウクライナ危機は米中間選挙の争点になるのか
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岡崎研究所
ワシントン・ポスト紙(WP)のコラムニストEugene Robinsonが、2月21日付の同紙で、ウクライナへのロシアの脅威に関するバイデンの対応を評価し、トランプであればこうはいかなかったとトランプを批判する論説を投稿している。
これは、ロシアによるウクライナ危機に際し、バイデンは良くやっており、これがトランプであればそうはいかず、プーチンはトランプにもっとロシア支持の発言をしてもらいたいであろうとの皮肉を込めたトランプ批判の論説である。
トランプは、バイデン批判は頻繁に行って来たが、ウクライナについては、1月29日にテキサスで、守るべきはウクライナの国境ではなく米国の国境だと述べ、2月12日、FOXニュースのインタビューで、自分が大統領の時にはウクライナ侵攻は起きなかったと触れた程度で、対ロシア制裁の是非などについて具体的な発言をしていなかった。
もっとも、トランプの代弁者であるFOXニュースのカールソンや一部のトランプ派共和党議員は、ウクライナへの関与やロシアに対する制裁に反対し、むしろ移民問題と中国に集中すべきといった主張を繰り返し、これに対し、共和党議員を含む多くの批判が寄せられていた。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、プーチンが、ウクライナ東部のロシア系支配地域の国家承認を行い、同地域に平和維持軍と称してロシア軍の派遣を決定した21日、トランプは保守系ラジオのトーク番組で、プーチンの侵略は天才的であり、極めて賢く、事情に精通していると称賛し、同日配布された声明では自分が大統領であればロシアのウクライナ侵攻は起きなかったとも述べた。
今後、バイデンの対ウクライナ政策を巡り、中間選挙を控えてトランプがさらに批判を強めるのではないかとの見方もあるが、24日にロシア軍がウクライナ全土の軍事施設に対するミサイル攻撃を行い、バイデン政権を中心に主要7カ国(G7)が厳しい制裁措置をとるに至り、そう単純にはいかないように見える。一つには、もともとトランプはロシアやウクライナについては脛に傷を持つ身であること、更に対ロシア制裁を、共和党議員の多数派を含め議会が支持する状況において、バイデン批判では一致しても、これにロシア制裁を絡めることについて共和党議員の間に分裂が深まっていたことがある。
他方、世論調査によれば、これまでのバイデンのロシア政策を評価する者より、評価しない方が上回っているとの結果もあり、議員と有権者の間に認識のずれがあるとの見方や、また、いずれにせよ米国民の関心は、インフレ、雇用、治安、コロナ対策等にあり、ウクライナ問題はそもそも中間選挙の争点とならないとの見方もあった。
今後は、共和党はバイデン政権の制裁措置は不十分で弱腰であるとの批判を強めるであろう。これはトランプの代弁者や側近が、ウクライナへの関与自体に反対していたことと矛盾するが、トランプも豹変して、自分であればもっと効果的な制裁ができると言い出すのではないか。
しかし、今後、更にウクライナ情勢が深刻化した場合、ロシアの侵攻を防げなかったバイデンの責任論よりも、バイデンのロシアに対する制裁と西側の団結の姿勢への支持が高まる可能性もあるだろう。ウクライナにおける悲惨な状況やロシア軍の残虐行為の映像が溢れ、国際社会も反プーチンとなれば、米国世論の潮目も変ってくることを期待したい。
ロシア制裁を争点化する可能性も
バイデン政権およびG7は、追加制裁として、ロシア主要銀行5行に対する取引制限、ハイテク製品の輸出制限のみならず、国際決済システム(SWIFT)からの締め出しやエネルギー関係決済にも踏み込む姿勢を見せ、西側諸国の団結を示すようになった。バイデン民主党としては、むしろ対ロシア制裁の是非を争点化して共和党のトランプ離れを促すとの戦略もあり得るのではないかとも思われる。
今後の事態の成り行きは流動的であるが、プーチンは、軍事侵攻は、ウクライナの「非武装化」が目的でウクライナ領土の占領は計画に無いと述べたが、最早プーチンの言うことは全く信用できず、少なくとも東部2州全域の占領、更には、ウクライナ全土の掌握、ゼレンスキー政権を転覆して親露傀儡政権の樹立を目論んでいるものと見られる。いずれにせよ、制裁が直ちには効果を生ずるわけではないので、対ロシア制裁が長期化することは確実であろう。
今般のプーチンのウクライナ侵略は、ポスト冷戦の欧州の枠組みを根底から覆すのみならず、戦後の国連憲章を核とする国際秩序を崩壊させる露骨で悪質な国際法違反と云わざるを得ない。これを見逃せば、核兵器国は非核兵器国の主権や領土を好き勝手に蹂躙できることになり、ジャングルのルールが支配することとなってしまう。
従って、国際社会は一致して対ロシア制裁を徹底して行う必要があり、制裁の効果を減殺するような第三国にも対応する必要もあろう。この問題がロシア問題に限定されるのか、あるいはグローバルな冷戦が復活するのかは中国の対応にもかかっているのではなかろうか。
ただトランプ大統領が誕生したことや、さらに2020年の大統領選挙においても、バイデンとトランプの票は伯仲していたことでもわかるように、米国の世論の半分は保守層であるのは間違いないです。
にもかかわらず、メデイアのほとんどがリベラルであるため、保守層の言論などなきが如しに扱われるのです。そのため、米国の大手メディアの報道だけを見ていると、米国保守の意見など無視されてしまい、リベラルの価値観だけが米国の世論だと思いこんでしまう人も多いのです。
そのような見方をすれば、米国の人口の半分程度は占める、保守層の考え方や意見を無視することになります。
ワシントン・ポスト紙(WP)のコラムニストEugene Robinsonの主張ももちろん、リベラルの立場からの主張であり、保守層の主張ではないことを、私達日本人というか、米国人ではない外国人は念頭におくべきです。
このコラムニストのトランプ像も、ネガティブであり、トランプを根底から否定して、まるで狂ったビエロのように扱い、それが当然だというような論評です。これだけだと、米国の現状の本当の姿を見失うことになります。
これを前提として、保守メディアでるデイリー・コーラー 2022.3.7の記事から以下に一部引用します。
ドイツ代表団は2018年の国連演説で、ロシアの石油への依存について警告したドナルド・トランプ前大統領を笑い飛ばしていたようだ。
第73回国連総会での演説で、トランプはドイツがロシアの石油輸出に依存していることを批判した。
「単独の海外供給国に依存すれば、強要や脅迫を受けやすくなる恐れがあります。ですから我々は、ポーランドのように、ヨーロッパの国がエネルギー需要を満たすためにロシアに依存しないようバルチック・パイプ建設を主導していることを祝福します。ドイツは直ちに方針を変えなければ、完全にロシアのエネルギーに依存するようになるでしょう」とトランプは述べた。
「この西半球で、我々は拡大を進める外国勢力の侵害からの独立性を維持することに全力で取り組みます」とトランプが続けると、ドイツ代表団にカメラが向けられ笑っている様子が映った。 以下にのそのときの動画を掲載します。
トランプは2018年のドイツとNATOリーダーとの会談中にも同様に、ドイツのエネルギー依存について警告するコメントを発していた。ロシアがウクライナに侵略した今、このトランプの演説の内容を聴いて、笑うもの等一人もいないでしょう。 現在、このときの動画を視聴すると、当時のドイツ代表団は、間抜けとしか言いようがありません。まさに、ドイツはロシアにエネルギーを依存することにより、ロシアのウクライナ侵略を促したともいえます。
「ドイツがロシアと莫大な石油・天然ガス取引を行うのはとても残念だ。ロシアを警戒すべきであるのに、ドイツはロシアに年間何十億ドルも支払おうというのだ。そういうわけで我々はあなたたちをロシアから守ることになっているのに、ロシアに何十億ドルも支払っているのだから、それはとても不適切だと思う」とトランプは述べた。
「ドイツはロシアと新パイプラインから60ー70パーセントのエネルギーを得ることになるので、ロシアに完全に支配される。そしてそれが適切かといえば、否だと私は思う」とトランプは、イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長に呼びかけた。
トランプは、ノルドストリーム2パイプラインの完成を阻止するための制裁を許可した。パイプラインができれば、ロシアはウクライナをバイパスして天然ガスをヨーロッパに送ることができ、ロシアのウラジミール・プーチン大統領にとって地政学的な大勝利となる。
ジョー・バイデン大統領は、就任に際して制裁を取り消したが、ロシアのウクライナ侵攻後最近になってからようやく制裁を元に戻した。
ドイツのショルツ首相が属する社会民主党(SPD)は伝統的に軍備拡張に慎重でしたた。
例えば、ドイツ連邦軍が配備を希望していた攻撃用ドローン(無人機)について、消極的な姿勢を示してきました。3党連立政権に参加している緑の党も平和主義が強い左派政党で、ウクライナへの武器供与に反対する党員が多数を占めていました。
緑の党のロベルト・ハベック経済気候保護大臣が2021年5月にウクライナ東部の前線地域を視察した直後、「独政府はウクライナ軍に武器を供与すべきだ」と述べたところ、党内で厳しく批判されました。当時、ウクライナへの武器供与を提案する議員は、緑の党にほとんどいませんでした。
ところがショルツ首相は「ロシア軍のウクライナ侵攻によってドイツを取り巻く状況が大きく変わった」として、2月27日に軍備増強の方針を宣言しました。主要閣僚など限られた人々に自分の決意を伝えただけで、連邦議会の各党の院内総務に対する十分な根回しもしない独自の判断だったといいます。ところが演説後、大半の議員は席から立ち上がって、首相の決断に賛意を表しました。
ショルツ首相 |
今のところドイツ人の半分以上が、ショルツ政権の軍備拡張案に賛成しています。ドイツ公共放送連盟(ARD)が3月4日に発表した世論調査の結果によると、防衛費増額を支持すると答えた回答者の割合は69%で、反対派(19%)を大きく上回りました。
ショルツ首相は演説の中で言及しなかったのですが、ドイツでは徴兵制を復活させるべきだという声も上がっています。同国は2011年に徴兵制を廃止していました。
保守政党キリスト教民主同盟(CDU)のカルステン・リンネマン副党首は3月1日、「勉学を終えた若者たちに兵役か社会奉仕活動を義務付ける制度を検討すべきだ」と発言。連邦軍の兵員不足が深刻化している現状を鑑みれば、議会が徴兵制を議論するのは確実です。
ドイツの週刊誌フォークスが発表した世論調査によると、徴兵制の復活を求める回答者の割合は47%で、反対派(34%)を上回っています。
ドイツは、第2次世界大戦中にナチスが欧州諸国に与えた被害への反省から平和主義が強く、軍や国防について否定的な見解を持つ人が多くを占めていました。ドイツ人がこれほど急激に防衛政策を変えるのはかつてないことです。この劇的な変化は、プーチン大統領のウクライナ侵略が多くの市民に強い不安を抱かせ、プーチン政権の危険性について政府を覚醒させる強い警告となったことを示しているようです。
ドナルド・トランプ前米大統領は2018年7月11日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し防衛費支出を、目標の倍に当たる対国内総生産(GDP)比4%に引き上げるよう求めました。
トランプ氏がNATO加盟国に特に不満を抱いているのは、2024年までに全加盟国がNATOへの防衛費支出を対GDP比2%に引き上げると公約したにもかかわらず、順守したのは数カ国に過ぎない点でした。
加盟29カ国のうち、今年この目標を達成したのは米国と英国、ギリシャ、エストニア、ラトビアの5カ国だけでした。しかし、ポーランドやフランスなども目標に近づきつつありました。
トランプ大統領はツイッターで、「米国が守ると期待されている多くのNATO加盟国は、約束の2%(これは低い)を達成していないどころか、何年も支払いが滞っている。米国に返済してくれるのか?」と批判しました。
首脳会議開始前の編隊飛行を見上げるNATO加盟国首脳 |
トランプ氏は首脳会議に先立ち、アンゲラ・メルケル独首相(当時)と衝突しました。
トランプ大統領は、ドイツがGDPに対して「1%ちょっと」しか防衛費を支出していないと批判しました。米国は「実際の値で」4.2%を投じているとしていました。
トランプ氏はまた、「ドイツは完全にロシアに制御されている。なぜならエネルギーの60~70%と新しいパイプラインまで、ロシアからもらうことになるからだ。特に問題ないことだと思うならそう言ってほしい。私はそうは思わないし、NATOにはとても悪いことだと思う」と話しました。このトランプ氏は当初、プーチン大統領に理解を示していました。
ロシアが軍事侵攻を始めるに先立ち、ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力が実効支配してきた「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を独立国家として認める大統領令に署名したことについて、22日、トークラジオ「C&Bショー」のインタビューでこう言いました。
「プーチンはウクライナの広い地域を『独立した』と言っている。私は『なんて賢いんだ』と言ったんだ。彼は(軍を送って)地域の平和を維持すると言っている。最強の平和維持軍だ。我々もメキシコ国境で同じことをできる」(2月23日・朝日新聞デジタル) 平和維持を名目に軍を展開したロシアの手法は、メキシコ国境の不法移民対策に応用が可能だという考えを示したのです。
さすがにロシアがウクライナに軍事侵攻した後の2月26日の演説では、「ロシアのウクライナへの攻撃は、決して許してはならない残虐行為である」と非難したものの、
「プーチンは賢い。問題は我々の国の指導者たちが愚かなことだ」 「プーチンは(バイデン米政権の)情けないアフガン撤退を見て、無慈悲なウクライナ攻撃を決断したことは疑いない」 「私は21世紀の米国大統領で、任期中にロシアが他国に侵攻しなかった唯一の大統領だ」 「私が大統領ならこれは起きなかった」(2月28日・同前)
などと語って、バイデン政権やNATOの対応を批判しています。
トランプ氏の見方は、意外と事柄の本質を突いているといえます。
要するに「バイデンがウクライナに軍事介入しないとはっきり断言したのは、愚か過ぎる」、「自分であれば、軍事介入する可能性も示唆しつつ交渉する」と言いたいのでしょう。きちんと取引していればこんな事態に至らなかったという指摘は、トランプ氏の言う通りです。
トランプ氏ならばモスクワに飛んで行ってプーチン大統領と会談し、「ロシアがウクライナに軍事介入するならば、米国も軍を送る。米国第一主義はひと休みだ」と言ってプーチン大統領を脅したうえで、取り引きを持ちかけ、戦争を回避したでしょう。
バイデン大統領の弱点は、善意にもとづく民主主義国が団結すれば全体主義に勝つものと思っていることです。バイデン氏は世界がイデオロギーでは動かないことが、わかっていないようです。
さらに、ソ連崩壊後の混乱で砂糖や石鹸の入手にさえ苦労し、男性の平均寿命が一時的に60歳をきったことさえあった耐乏・窮乏生活を経験しているロシア人が、現状の経済制裁になかな屈しない人たちだということも、米国水準でものごとを考えるバイデン大統領はわかっていないようです。
そもそも、現在の米国政府で国際情勢を分析する専門家のレベルが、基準に達していないようです。 そのことは、昨年夏のアフガニスタンからの米軍撤退を見れば明らかです。21年7月、バイデン大統領は「(反政府組織タリバンが全土を制圧する可能性は)ありえない」としていましたが、8月にタリバンは全土を掌握しました。
ガニ政権の正規軍は30万人もいたのに、わずか7万のタリバンにまったく歯が立たないことを、事前に読めていませんでした。バイデン氏は米国型の理想である正義がいつも勝つわけではないという半年前の失敗から、何も学んでいないようです。
米国がウクライナへ軍を送らないのは、国内での賛同が得られないからです。プーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせました。これは、第3次世界大戦のリスクがある介入を米国は絶対にしないとプーチン大統領が確信しているからでしょう。
バイデン大統領があまりに早くから軍事的な手段をとらないと表明してしまったため、プーチン大統領が勢いづいたのです。ただし、米国を筆頭とするNATOの国々が、軍事的手段をとらないと確信するというのなら、なぜウクライナのドンバス地区以外にも侵略したのか、ここがプーチンの矛盾したところです。
バイデン大統領はロシアに対して、経済制裁くらいしか切るカードがありません。プーチン大統領は、2~3年後に結局はEU諸国が、ロシアの変更した現状を追認せざるを得なくなり、10年後には米国もそれに倣うことになると考えているのかもしれません。
米国は、ロシアの暴力性を軽視したのでしょう。ある程度の圧力をかけ、インテリジェンス情報の異例の公開だと言ってロシア軍の動きをオープンにすれば怖がるだろうと思ったのでしょうが、ロシアは怯みませんでした。またも大きな読み違えをしました。
それよりも問題なのは、米国のブリンケン国務長官が、2月24日に予定していたロシアのラブロフ外相との会談をキャンセルしたことです。
会談の実施は、ロシアが侵攻しないことが前提条件だったためです。ブリンケン長官は「いまや侵攻が始まり、ロシアが外交を拒絶することを明確にした。会談を実施する意味はない」と述べたそうですが、この判断は感情的すぎます。この時に会談をし、ロシアが手を引かないなら米国の本格的な軍事介入もあり得ると、釘をさすべきでした。
外交では、相手が間違っているときや、関係が悪化したときこそ、積極的に会う努力をすべきです。ウクライナにおける戦闘の拡大を防ぐために、ブリンケン国務長官はいまからでもラブロフ外相と会談して、解決策を探るべきです。
ただでさえ支持率が低迷するバイデン政権ですが、ウクライナ情勢がこのまま混迷を続ければ、11月の中間選挙や2年後の大統領選挙に影響を及ぼすことは必至です。再びトランプ氏が大統領になることもあり得るのです。