元首相は「変なことをすると、運も逃げていく」と語っていたが、今の岸田首相はその状況なのだろうか
平均的な生活をしていた岸田首相がコロナ感染
岸田首相がとうとう新型コロナに罹ってしまった。といっても、別に驚くことはない。
バイデン大統領は先月下旬に陽性反応になり、一度陰性になったが、8月はじめに再び陽性となる「リバウンド」もしている。筆者のまわりの知人も、コロナに罹った人は少なくない。
その意味で、岸田首相も平均的な日本人と同じである。コロナウイルスは人を選ばないので、普通の行動をしていればコロナに罹っても不思議はない。
岸田首相は、8月15日から夏休みで、22日から公務の予定だった。始まりも終わりも、日本人の平均的な夏休みスケジュールだった。家族とゴルフ、温泉、旅行と、これも典型的な夏休みの過ごし方だろう。
こうして平均的な日本人と同じ行動をとったら、コロナに罹るとは、まさにこれぞ平均的すぎる。
22日から公務の予定だったが、21日に陽性反応が出た。これにより、25日から予定していた外遊(アフリカ、中東)はとりあえずやめることになった。今月末まで今後10日間は自宅療養だ。
もっとも公邸に住んでおり、住まいと職場がひとつになる「職住一体」なので、執務には支障がないだろう。そもそも、岸田首相はトップダウン型ではなく、周囲の者が準備したことを慎重に実施していくタイプだ。「検討使」とも揶揄される所以でもある。だから首相がいなくても上手く回るといったら、叱られるかもしれないが……。
岸田首相は、これまでワクチンを4回打っている。3回目は3月4日、4回目は8月12日だ。残念だったのは、4回目を打ったばかりで陽性反応が出たことだ。一般的に、ワクチンの接種で効果を発揮するような十分な免疫ができるのは打ってから7日程度経って以降とされている。もう少し早く打っていればよかったかもしれない。
ワクチンを接種するかしないかは本人の自由であるが、一定の効果があることは知られている。岸田首相は4回目のワクチン接種後であったが、コロナに罹ったから、ワクチンの効果はないと早合点してはいけない。
ところで、岸田首相の夏休み初日の15日午後、岸田首相は約10冊の本を購入したと報じられた。その中で、筆者が「あれっ?」と思ったのは、『フランクリン・ローズヴェルト 大恐慌と大戦に挑んだ指導者』だった。
そこで筆者は、「彼は共産主義に甘く日本人を含む人種差別論者であるのを理解して読まないと」とツイートした。
報じられた夏休み中の日程を見るかぎり、岸田首相はまだ読んでないかもしれないが、読むときにはよく注意してほしいものだ。
重症化率も死亡率も断トツの低さ
コロナウイルスの感染者は、8月上旬にピークを迎えたように見えたが、再び増加している。政府は行動制限を行わない方針としているが、医療が逼迫している自治体も増えている。感染症法の区分や感染者数の全数把握の是非、ワクチン接種の促進などはどう考えるべきか。
これまで新規感染者数でみると、1~6波が来ており、今度は7波となる。これまでの波で、死亡率(=死亡者数/感染者数)、重症化率(=重症者数/感染者数)はどうだっただろうか。
死亡率は1波から5.7%、1.0%、2.2%、1.6%、0.4%、0.2%と推移した。重症化率は、1波はデータがないが、2波以降は21.6%、24.5%、24.9%、12.5%、1.3%と動いていった。それぞれの波の性格が違うため、厳密にいえば一定の補正が必要で、素データでみるのはやや適切でないところもあるが、おおよその傾向は出ている。
大雑把にいえば、変異株で置き換わった結果の各波は、変異すればするほど、感染力は強くなるが、死亡率や重症化率は低下する傾向のようだ。7波では、季節性インフルエンザとあまり変わらないと話す専門家も少なくない。死亡率も重症化率も、6波の半分程度まで下がりそうだ。
世界の状況をみると、G7諸国では、6波あたりが最大になっている。人口比の数字では、今の日本の新規感染者数の1.3~4倍程度であった。7波は日本を除くG7諸国では6波ほどではなく、日本がG7でトップになっている。
といっても、重症化率や死亡率は他のG7諸国と比べて一桁違いの断トツの低さなので、それを考慮すると、大騒ぎする必要はないだろう。
今の状況で問題なのは、重症化はしないものの、感染と認定されると元気なのに仕事ができないことだろう。筆者のマスコミ関係の知人でコロナ陽性になった人がいる。本人はまったくの無症状で体調に問題はないのだが、自宅からのリモート活動さえメディアの内規でできないらしい。
この方の事情は知らないが、子供の間では感染しても熱も出ないので、子供から家族が感染し、そのために仕事ができないという話もしばしば聞く。そうした事情から、実際にはコロナ陽性になったという事実を隠した人も少なくないらしい。
全数調査はもうやめよ
5、6波の頃から、地域の保健所が感染症法上2類相当では事実上機能していないという話もしばしば聞く。現場の医療機関でも、全数調査による労働強化が医療サービスの低下にもなっているという。データとしても、死亡率と重症化率は季節性インフルエンザともそれほど大きく異なるわけでもないので、感染症法の区分の見直しという議論もあった。
筆者としては、感染者数を全数把握することは、いかがなものかと思う。一部のマスコミは「コロナの隠蔽」というが、全数調査ではなくサンプル調査は継続すればいい。すべての場合に全数調査が必要ということはなく、テレビの視聴率調査でも800程度のサンプル調査だ。現場に過剰な負担をかけてまで全数調査に拘るべきではない。
また、2類から5類への見直しに反対するのが、補助金をもらいたい医療側の思惑という説が出ているが、もし本当ならとんでもないことだ。
ワクチン接種の促進はするべきだ。特に筆者のような高齢者や基礎疾患のある人は、罹っても重症化しないようにワクチン接種するのはいい。ワクチン接種をするのは自由であり、悪質なデマを広げて他人のワクチン接種を邪魔するのはいただけない。
岸田首相が一刻も早く回復されることを祈っているが、折角ならば、ご自身が体験して、普通の人がどのように困っているかもわかってもらいたいものだ。
岸田首相のコロナというニュースが出たあと、毎日新聞の20、21日の世論調査で、岸田内閣の支持率は36%で7月より16ポイント低下という話がきた。
旧統一教会との関係が原因と毎日新聞はいいたいのだろうが、先週の本コラムで酷評したように10日の内閣改造があまりに酷かったのが本質的な理由だ。
内閣改造のスケジュールも不自然だし、それでワクチン4回目接種が遅れて、首相がコロナに罹患したのだとしたら、これまで岸田政権に味方していた「運」も離れだしたのか。故安倍元首相が「変なことをすると、運も逃げていく」とかつて言っていたが、まさにその状況なのだろうか。
コロナ対応でも「検討使」連発、防衛事務次官・海上保安庁人事、EEZ内に中国のミサイル着弾でも電話抗議だけ、NSC未開催などの「不始末」の後で、酷い内閣改造をしてしまったから、運が逃げていったのかもしれない。
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髙橋 洋一(経済学者)
【私の論評】内閣改造で大失敗して支持率が低下する岸田政権に、明日はあるのか(゚д゚)!
内閣改造を行ってもなお支持率に改善傾向がみられず、むしろ支持率が低下するのは極めて異例のことです。一般には内閣改造・党役員人事は人身刷新の効果があり、内閣支持率を押し上げる効果があります。
具体的に言えば、閣内にいる不安材料を閣外に追い出すことでリスクヘッジを行うと同時に、人気政治家を抜擢にすることで内閣支持を取り付けることにより支持率はあがります。
内閣改造をして支持率が下がるのですから、岸田首相の人事というか、ほとんどが数日前に決まってことから、派閥の力学によって、他派閥と事前に話し合いをした結果の人事なのでしょうが、これは明らかに大失敗です。
内閣改造によって岸田首相は、政治姿勢では、党内派閥に配慮した布陣で一体何をやりたいのか見えてきません。政策方針では、新型コロナや物価高への対応に信念が見えず、指導力不足ばかりが目立ちます。
8月から、大手4社が電気料金を値上げしています。東京電力は一般的な家庭で9000円台になりました。食料品は値上がり、電気ガスも値上がり、ガソリン価格も高止まり。これでは、支持率が下がるのは当たり前でしょう。
政権の無為無策は、安全保障問題でも同じです。
日本は、中国とロシア、北朝鮮という核を保有する「独裁・専制主義国家」に立ち向かう「自由・民主主義陣営」の最前線に位置しています。まさしく、「世界で、もっとも危険な脅威にさらされている国」なのです。
だからこそ、安倍晋三元首相は今年2月、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、「米国と核共有の議論を始めるべきだ」と提言していました。ところが、政府はいち早く否定し、自民党もろくに議論しないまま、フタをしてしまいました。
防衛費は「5年間でGDP(国内総生産)比2%」の目標を掲げたが、一方で、安倍氏の強い反対を振り切って、防衛力強化の要となる防衛事務次官を交代させる人事を断行しました。さらには、内閣改造で、岸田防衛大臣をやめさせ、どうしようもない防衛大臣に変えました。こうした姿勢が、国民に「一体、どこまで、やる気があるのか」と疑念を抱かせたのは当然だと思います。
参院選前までは、異例に高い支持率を謳歌(おうか)してきた岸田政権ですが、いったん今回のように、歯車が逆回転し始めると、元に戻すのは難しいです。何もしないで、マスコミや国民の目を欺いてきただけなので、人気回復に何かをしようとしても、抜本的対策は出てこないからです。
例えば、ガソリン代や食料費の高騰には、期間限定でもいいから、ガソリン税や消費税の引き下げで対処すべきです。ところが、財務省管理内閣である、岸田政権には望むべくもないです。むしろ、ドタバタすればするほど、ポイント還元のように、その場しのぎの弥縫策が国民に見透かされ、火傷してしまう可能性が高いです。
国民の生活に密着したことで、岸田政権が今すぐにすべきことを以下にまとめます。
円安を過剰に気にしない・消費税の厳然・凍結(⇒価格の引き下げ)・ガソリン税引き下げ(⇒価格の引き下げ)・補償・投資の拡大(困った人を助ける)脱「 輸入依存」体質・原発再稼働(安全性確認は当然の前提)・水力発電の加速・食料自給率の向上(農業・漁業の活性化策)
このブログでは、岸田政権が、派閥の力学と財務省の意向だけで動けば2年目を迎えることなく、崩壊するだろうという趣旨で記事を掲載しましたが、岸田内閣が今のままで、何ら抜本的な改革をしない限り、この予想は当たるでしょう。今回の毎日新聞の世論調査結果により、ますますこのことを確信しました。