2019年の上海。中国は果たしてコロナ前に戻れるのか |
● 「ゼロコロナ産業」の終了で1000万人超が失業
中国でゼロコロナ政策が解除されたのは12月7日のことだった。その後、わずか数日のうちに、上海では感染が拡大し、外出も外食もしない高齢の李さん(仮名)までをも直撃した。「まさか自分が陽性者になるとは……」と突然の政策転換にうろたえる李さんだが、中国には今、二つの声が存在すると明かしてくれた。
「中国では『ゼロコロナ政策をやめてよかった』と政策転換を支持する声は大きいですが、『ゼロコロナ政策をただちに復活させよ』という要求もあるのです」――という。
新型コロナウイルスで命を落とした人もいれば、後遺症に悩む人もいる。基礎疾患を持つ人々にとって“ロックダウン”は安全性の担保だったのかもしれない。その一方で、ゼロコロナ政策の復活を希望する声が示すのは、“ゼロコロナ産業”に生活を依存する人々が少なくなかったという側面だ。
中国では、この3年でゼロコロナ産業が一大産業に成長した。これを象徴するのが、1月7日に重慶市の工場で起こった抗議活動だ。コロナの抗原検査キット工場で、数万人の従業員が警察と衝突し、激しい抗議活動が行われたという。複数のメディアは原因について、「ゼロコロナ政策の転換により、注文が入らなくなった工場側が1万人以上をリストラしようとしたため」と報じている。
住民の恨みを買いながら“大活躍”した白い防護服の防疫要員たちも、今では無用の人材になってしまった。この突然の失業に面食らった防疫要員たちが、各地で抗議の声を上げている。表向きは「ボランティア」とされている彼らには手当が出たが、未払い問題が顕在化しているためだ。
10兆元(約200兆円)規模ともいわれる中国のゼロコロナ産業だが、米ラジオフリーアジアは「ゼロコロナ産業の終了で1000万人超が失業する」と伝えている。
● ついに「広州市の財政が底をついた」?
ゼロコロナ政策からウィズコロナ政策へ――という大転換は、確かに中国の若者の抗議活動が後押しした部分もあった。しかし、「この3年間で中国政府は金を使い果たしている。ゼロコロナ政策も3年が限度だった」(中国東北部の地方政府関係者)とするコメントからも、もはや資金も底をつき、続けるに続けられなくなった窮状がうかがえる。
そもそも、ゼロコロナ政策を維持するには、巨額の資金が必要だった。検査場の設営費用やPCR検査キットはもちろん、そこに配置する防疫要員や防疫服、隔離専門病棟の建設と患者に与える無料の弁当、ロックダウン中に各家庭に無償で配る食料品や薬の数々……。これだけでも相当な費用がつぎ込まれている。
中国では「広州市の財政が底をついた」という“うわさ”がある。コロナ禍の地方財政について「すべてが借用書、すべてが赤字」だと告白する広州市珠海区の公務員の発言をベースに書かれた文章が、インターネット上で出回っているのだ。仮に中国経済の成長のエンジンである広東省広州市がこうした状況であれば、他の地方政府の財政事情はもっと悲惨だと推測できよう。
昨年12月、米ブルームバーグは、「2022年1~11月における中国の財政赤字は7兆7500億元(約155兆円)と、前年同期の2倍余りに拡大し2020年を超える水準に膨らんだ」とし、中国財政部のデータに基づく算出を公表した。要因として、大規模な新型コロナウイルス対策と長引く住宅市場の低迷を挙げている。
コロナ対策のための財政支出の一部については、「48時間ごとのPCR検査を人口の7割に対して行った場合、年間の費用は2.5兆元(約50兆円)になる」とする米ゴールドマンサックスの試算もある。
● 医療基盤が崩壊、多くの病院が倒産した
ゼロコロナ政策は、中国の医療機関の数を減らすという災いも生んだ。中国病院協会は「コロナ禍で2000を超える私立病院が倒産した」と公表したのである。
中国では、限られた数の公立病院を補うために私立病院の役割が期待されているのだが、2019年末時点では黒字だった私立病院の業績も、2020年以降のコロナ禍で支出が急増し、大幅な赤字に転落した。こうしたことを背景に、中国では医療従事者の賃金未払いを訴える抗議活動が頻発している。
振り返れば、2022年に上海で行われたロックダウンでは、4月上旬時点で26の総合病院が外来・救急・新規入院などの業務を停止させられたが、これは医療を必要とする患者に大きな影響を与えただけでなく、病院の収入源を失うことにもつながった。
同じようなことが上海以外でも起きている。安徽省宿州市の公立病院では、地元政府の要求に従い、従来入院していた患者を退院させてコロナ感染者を収容した結果、財源を失い、従業員の雇用の維持が困難になった。
四川省楽山市では、公立病院が閉鎖された。慢性的な赤字を負っていたこの公立病院は、以前から製薬会社などへの支払いが滞っていたが、そこにコロナが襲い経営不能に陥った。
もとより、中国の医療基盤は脆弱(ぜいじゃく)だった。コロナ禍以前から、上海などの一級都市ですら、公立病院には朝から長蛇の列ができ、順番を取り、診察を終えるには実に1日がかりという状況が当たり前だった。
中国政府は医療崩壊を予見し、人口に対して少ないと言われる病床確保の目的で厳しいゼロコロナ政策を課したとしている。しかし、上からの通達による一刀両断の措置は、結果として医療機関の収入の低下を招き、地元医療の基盤喪失を招いた。ゼロコロナ政策は、こうしたところでも裏目に出てしまったのである。
● 賃金未払いが中国の国民を直撃
割を食うのは国民だ。医療従事者の中には、自分が感染してもなお長時間労働を強いられ、現場から逃亡を企てる者もいた。劣悪な条件で働き詰めにさせられ、しかも賃金は未払いという絶望の中で憤死した医療従事者もいた。隔離専門病棟に無料の弁当を運び入れた業者でさえも、「未払い状態」に泣き寝入りだ。
毎年春節シーズンを迎えると、中国では建設現場などで出稼ぎ労働者を中心に未払い賃金をめぐって、一騒動あるのが通例だが、今年は年末年始にかけてインターネット上で数々の“騒動”が取り上げられた。
湖北省では不動産大手・恒大集団の下請け業者が未払いの賃金を要求する集団抗議に出た。河南省の鄭州大学では、大学従業員が横断幕を掲げ3カ月の未払いの賃金請求を行った。同じ河南省鄭州市では、昨年末、賃金の未払いにキレた男性が掘削機を使って多くの車両をひっくり返す暴挙に出、直後、警察によって射殺されるという事件が起こった。
春節前といえば、稼いだお金で故郷の家族とだんらんするのを心待ちにする時期だが、ゼロコロナ政策のツケともいえる“白条”(回収不能の借用書)を手に、やりきれない日々を送る人々も少なくない。「白紙抗議の次は白条抗議か」と、新たな抗議活動の可能性をほのめかすツイートもある。
● 若者の政権離れで、習近平も「火消し」
昨年12月31日、習近平国家主席は、国営のCCTV(中国中央テレビ)とインターネットを通して2023年の賀詞を国民に贈った。前回とは異なり「台湾統一」を呼びかける声は消え、「中国の発展は若者にかかっている」とする激励のメッセージが加えられた。
それは、昨年11月末に中国各地で行われた若者の抗議活動に対する“消火活動”のようでもあり、また20%近い失業率に直面する若い世代の不満を和らげる“鎮静剤”のようでもあった。
中国の若手小売業者のひとりが自分の出店する客もまばらなショッピングモールを撮影し、「中国の専門家のいうリベンジ消費などどこにあるのか」と不満をぶちまけ、動画サイトに投稿した。日本の大学院に進学した留学生は「この3年間で私たちは政府への信頼も失った」と話す。
中国国家統計局は1月17日、2022年の国内総生産(GDP)について、目標の前年比5.5%を大きく下回る3.0%増だと発表した。民心が離れつつある中で、習指導部が望む“団結”による経済回復を遂げるか否かは、2023年の見どころとなるだろう。
姫田小夏
共に大快挙を成し遂げた菅義偉氏(右)安倍晋三氏(2020年9月14日) |
中国・李首相が「バラマキ型量的緩和」を控える発言、その本当の意味―【私の論評】中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせい(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事である高橋洋一氏の記事から以下に一部を引用します。
では、量的緩和や引き締めといった金融政策に中国政府が言及しなかったのはなぜか。これは、中国の政治経済の基本的な構造が関係している
先進国が採用するマクロ経済政策の基本モデルとして、マンデルフレミング理論というものがある。これはざっくり言うと、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先するほうが効果的だという理論だ。
この理論の発展として、国際金融のトリレンマという命題がある。これも簡単に言うと(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べない、というものだ
先進国の経済において、(1)は不可欠である。したがって(2)固定相場制を放棄した日本や米国のようなモデル、圏内では統一通貨を使用するユーロ圏のようなモデルの2択となる。もっとも、ユーロ圏は対外的に変動相場制であるが。結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているとは、どういう意味かといえば、今回のような未曾有のコロナ禍にあたって、経済や雇用を支えるには、大規模金融緩和が必要なのですが、それができないということです。
共産党独裁体制の中国は、完全に自由な資本移動を認めることはできない。外資は中国国内に完全な自己資本の民間会社を持てない。中国へ出資しても、政府の息のかかった国内企業との合弁経営までで、外資が会社の支配権を持つことはない。
ただ、世界第2位の経済大国へと成長した現在、自由な資本移動も他国から求められ、実質的に3兎を追うような形になっている。現時点で変動相場制は導入されていないので、結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているのだ。
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