作家で、法政大学国際文化学部教授の島田雅彦氏(62)の発言が大炎上している。14日に生配信した自身のインターネット番組「エアレボリューション」で、昨年7月の安倍晋三元首相暗殺事件を念頭に、「暗殺が成功して良かった」などと発言したのだ。テロや殺人を容認したと受け取れるうえ、新たなテロを誘発しかねないだけに、ネット上だけでなく言論界からも「とんでもない発言」「リベラリズムからもかけ離れている」などと激しい批判が相次いでいる。発言翌日には、岸田文雄首相の選挙応援演説会場に爆発物が投げ込まれる事件も発生した。夕刊フジの取材に対し、島田氏は「公的な発言として軽率であった」などと長文の回答を寄せた。
大炎上している発言は、島田氏が、政治学者で京都精華大学准教授の白井聡氏とレギュラー出演するネット番組「エアレボリューション」で飛び出した。ゲストは、ジャーナリストの青木理氏だった。
望月衣塑子氏と島田雅彦氏 類は友を呼ぶ? |
統一地方選・前半戦(9日投開票)の結果を踏まえて、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題や、自民党の批判、立憲民主党の惨状などが話題に上がるなか、島田氏は次のように語った。
「こんなことを言うと、また顰蹙(ひんしゅく)を買うかもしれないけど、いままで何ら一矢報いることができなかったリベラル市民として言えばね、せめて『暗殺が成功して良かったな』と。まあそれしか言えない」
前後の文脈から、昨年7月の安倍元首相の暗殺事件を指すことは明白だった。笑顔を浮かべた島田氏は、続けて23日投開票の衆院山口4区補選に言及した。
島田氏は1961年、東京都生まれ。東京外国語大学卒。83年に『優しいサヨクのための嬉遊曲』を発表して注目される。84年に『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞、92年に『彼岸先生』で泉鏡花文学賞を受賞。2003年から法政大学国際文化学部教授。昨年4月に紫綬褒章を受章している。
島田氏による発言に対し、ネット上では「暗殺を是とする発想は非常に危険」「暗殺を良かったと思うのがリベラル市民なのか」「残されたご遺族の気持ちを思うと…」「思想関係なく暴力に訴えた時点で終わり」「法政大学は(中略)彼を通じて学生に何を教えるつもりだろう」「さすがにアウト」などの批判が噴出した。
政治評論家の屋山太郎氏も「とんでもなく、ひどい発言。教育者という自分の立場も考えるべきだ。極めて非常識であり、公の場で話す資格はない」「世界中どこにも『暗殺がいい』という常識はない」と怒りをあらわにした。
ジャーナリストの有本香氏も「恐ろしい発言だ。リベラリズムから最もかけ離れている」と指摘した。
批判が噴出するなか、島田氏は17日、自身のツイッターに「暴力装置としての国家を監視すべきメディアが国家と一丸となって民を抑圧するようでは私達の居場所はさらに狭まる」と投稿した。
島田氏は一体、自身の発言をどう考えているのか。
夕刊フジは17日夕、法政大学を通じて、島田氏に対し、「暗殺が成功して良かった」という発言の真意や、暴力による言論封殺への考えなど、4つの質問を送った=別表。翌18日午後3時に、島田氏から長文の回答が届いた。
有本氏「世直しのためならテロ容認かと問いたい」
島田氏はまず、「テロの成功に肯定的な評価を与えたことは公的な発言として軽率であったことを認めます。殺人を容認する意図は全くありませんが、そのように誤解される恐れは充分にあったので、批判は謙虚に受け止め、今後は慎重に発言するよう努めます」と反省を記していた。
次に、安倍元首相暗殺事件で、殺人罪などで起訴された山上徹也被告(42)に触れ、「安倍元首相襲撃事件には悪政へ抵抗、復讐(ふくしゅう)という背景も感じられ、心情的に共感を覚える点があったのは事実です」「山上容疑者への同情からつい口に出てしまったことは申し添えておきます」と続けた。
大学教授としての立場からは、「大学の講義で殺人やテロリズムを容認するような発言をしたことはありません。テロ容認。言論に対する暴力的封殺に抵抗を覚えるのは一言論人として当然」などと説明した。
島田氏の独自の主張は、「回答全文」をご覧いただきたい。
識者は、問題発言と回答全文をどう見るか。
前出の有本氏は「島田氏は『殺人を容認する意図は全くありませんが、そのように誤解される恐れは充分にあった』と述べているが、それは『誤解』なのでしょうか? 冒頭で『テロの成功に肯定的な評価を与えたことは公的な発言として軽率であった』と明確に認めている。論旨が一貫しておらず、作家が書く文章とはとても思えない」と指摘した。
有本氏は、島田氏が「(安倍元首相暗殺事件には)悪政へ抵抗、復讐という背景も感じられ」と述べた箇所にも触れ、続けた。
「山上被告は、安倍元首相を逆恨みしたのであって、事実誤認も甚だしい。情報を取る力にも疑問を感じる」と語った。
島田氏が「テロリズムが世直しのきっかけになったケースはほとんどない」と述べている点についても、有本氏は「世直しのきっかけになるのだったら、テロを容認するのかと問いたい」と指摘した。
有本氏は最後に、「バカげた発言には徹底的に批判・反論するが、どんなに考えが違う意見であっても、『自由に発言できる権利』は必要。私は『ひどい発言は言わせるな』とか、『大学からたたき出せ』とは思わない」と強調した。
法政大学は、教授である島田氏の「暗殺が成功して良かった」といった発言を、どう受け止めているのか。
大学の広報担当者は夕刊フジの取材に対し、当該の発言を動画で確認したと認めたうえで、「個人の発言であり、個々の教員がメディア、マスコミなどで行う発言については大学としては関知しない」という見解を示した。
【島田雅彦氏への質問事項】
①「あの暗殺が成功して良かった」という発言の意味・真意は
②暴力で言論が封じられることを、時と場合によっては良いと考えるのか
③法政大学教授として「テロ行為の容認」という教育をしているのか
④放送翌日、岸田首相に爆発物が投げつけられる事件が発生した。感想を
【島田雅彦氏の回答全文】
テロの成功に肯定的な評価を与えたことは公的な発言として軽率であったことを認めます。殺人を容認する意図は全くありませんが、そのように誤解される恐れは充分にあったので、批判は謙虚に受け止め、今後は慎重に発言するよう努めます。
ただ、安倍元首相襲撃事件には悪政へ抵抗、復讐(ふくしゅう)という背景も感じられ、心情的に共感を覚える点があったのは事実です。山上容疑者が抱えていた旧統一教会に対する怨恨(えんこん)には同情の余地もあり、そのことを隠すつもりはありません。
さらに政権と旧統一教会の癒着を暴露する結果になったのも事実です。今回の「エアレボリューション」での発言はそうしたことを踏まえ、かつ山上容疑者への同情からつい口に出てしまったことは申し添えておきます。
また大学の講義で殺人やテロリズムを容認するような発言をしたことはありません。テロ容認。言論に対する暴力的封殺に抵抗を覚えるのは一言論人として当然であるし、また暴力に対する暴力的報復も否定する立場から、先制攻撃や敵基地攻撃など専守防衛を逸脱する戦争行為にも反対します。
戦争はしばしば、言論の弾圧という事態を伴ってきたという歴史を振り返り、テロリズムと同様に戦争にも反対の立場であることを明言しておきます。
一方で、安倍元首相暗殺事件や岸田首相襲撃事件を言論に対する暴力と捉える場合、これまで政権が行ってきた言論、報道への介入、文書改竄(かいざん)、説明責任の放棄といった負の側面が目立たなくなるということもありました。
また民主主義への暴力的挑戦と捉えると、国会軽視や安保三法案の閣議決定など民主主義の原則を踏み躙るような行為を公然と行ってきた政権があたかも民主主義の守護者であったかのような錯覚を与えるという面もあります。
テロは政権に反省を促すよりは、政府の治安維持機能を強化し、時に真実を隠蔽することに繋がることもあるがゆえ、肯定的評価を与えることはできません。そのことはテロリズムを描いた拙著『パンとサーカス』でも明らかにしています。
放送の翌日に岸田首相に爆発物が投げつけられる事件が起きましたが、歴史を振り返ると、テロリズムが世直しのきっかけになったケースはほとんどないし、連鎖反応や模倣犯を呼び込む可能性もあると改めて思いました。
※長文のため、編集局で改行だけしました。
冒頭の動画を視聴して、思わず「この動画を視聴して絶句しました。末恐ろしいです」ツイートしました。もう、そのくらいしか言いようがありませんでした。
警察庁広域重要指定番号から、「広域重要指定116号事件」とも呼ばれました。
記者が政治的テロによって殺害された日本国内唯一の事例とされれますが、2003年(平成15年)に全ての事件が公訴時効を迎え、2022年現在に至るまで犯人の特定がされていない未解決事件となっています。以下にその概要を掲載します。
1987年(昭和62年)1月24日(土曜日) - 朝日新聞東京本社銃撃事件特に朝日新聞阪神支局襲撃事件では執務中だった記者2人が殺傷され、言論弾圧事件として大きな注目を集めました。
5月3日(日曜日) - 朝日新聞阪神支局襲撃事件
9月24日(木曜日) - 朝日新聞名古屋本社社員寮襲撃事件
1988年(昭和63年)3月11日(金曜日) - 朝日新聞静岡支局爆破未遂事件
3月11日(金曜日)消印 - 中曽根康弘・竹下登両元首相脅迫事件
8月10日(水曜日) - 江副浩正リクルート会長宅銃撃事件
1990年(平成2年)5月17日(木曜日) - 愛知韓国人会館放火事件
赤報隊事件を伝える当時の朝日新聞 |
暴力や暗殺は、法律に違反するだけでなく、人権や民主主義の原則にも反する行為です。政治的な対立や意見の相違は、平和的な方法で解決するべきであり、暴力や暗殺を支持するような発言は社会的に許容されるべきではありません。
政治家や公人に対する暴力や脅迫は、社会的な混乱を引き起こし、民主主義や法治主義を損なう可能性があります。政治的な意見の表明は言論の自由によって保障されていますが、他人の権利や安全を尊重し、平和的な方法で意見を述べるべきです。
島田雅彦氏の発言は、倫理的、社会的な問題を引き起こす可能性があります。政治的な対立や意見の相違は、平和的な方法で解決する必要があります。
まず、島田氏は自身の発言が軽率であったことを認め、テロの成功に肯定的な評価を与えたことを否定しています。また、殺人を容認する意図は全くないと述べています。しかし、島田氏は安倍元首相襲撃事件に対して、背景に悪政への抵抗や復讐の要素があることを指摘し、山上容疑者が抱えていた旧統一教会に対する怨恨に同情の余地があると述べています。また、政権と旧統一教会の癒着を暴露する結果になったことを事実と認めています。さらに、島田氏は自身が大学の講義で殺人やテロリズムを容認するような発言をしたことはないと明言し、テロ容認や言論に対する暴力的封殺に反対する立場を取っています。また、先制攻撃や敵基地攻撃など専守防衛を逸脱する戦争行為にも反対する立場を述べています。一方で、島田氏は安倍元首相暗殺事件や岸田首相襲撃事件を言論に対する暴力と捉える場合、政権の負の側面が目立たなくなることを指摘し、政権の民主主義への挑戦を暴露するという観点もあると述べています。このように、島田氏の回答には、テロの容認や言論に対する暴力を肯定する意図はないという一方で、事件の背後にある政治的な背景や民主主義への挑戦を考慮する見解が含まれており、賛否両論があるとみられます。島田氏は今後は慎重に発言することを努めると述べています。そう願いたいです。
例えば、米国では、2017年のバージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義者による抗議活動中に起きた暴力事件の後、アルタイト(alt-right)と呼ばれる運動の指導者であるリチャード・スペンサーが、白人至上主義者に対する暴力行為を容認するような発言をしたことで、批判を浴びました。また、同様の理由で、YouTubeなどのソーシャルメディアプラットフォームから追放されるなど、スペンサー自身の影響力も減少しています。
リチャード・スペンサー |
また、英国でも、2010年には、カトリック系新聞の編集者であるバーナード・ゴールドバーグが、同性愛者に対して暴力を容認するような発言を行ったことで、大きな批判を浴びました。ゴールドバーグは、その後、自身の発言が誤解を招いたと釈明し、謝罪することで事態を収拾することができました。
以上のように、欧米では、表現の自由と社会秩序のバランスを取りながら、言論人の発言を取り扱っています。暴力を容認するような発言は、暴力を伴う場合は別にして、発言自体はしばしば批判を浴びることがありますが、法的な制裁があるわけではありません。