2023年7月17日月曜日

弱体化するバイデン政権、国民の7割が再出馬に「NO」 くすぶる「一家の疑惑」に本格メス、弾劾訴追の可能性も―【私の論評】岸田首相は、 米国の外交政策は、民主党と共和党の間の戦いによって形作られることを忘れるな(゚д゚)!

弱体化するバイデン政権、国民の7割が再出馬に「NO」 くすぶる「一家の疑惑」に本格メス、弾劾訴追の可能性も

バイデン大統領

 民主党のジョー・バイデン大統領は再選に向けて困難に直面している。 

 彼の支持率は低下しており、多くのアメリカ人は彼が再び出馬することを望んでいない。 

  共和党はハンター・バイデンの海外ビジネス取引に関連した疑惑でメリック・ガーランド司法長官の弾劾に動いた。 

 バイデン政権がハンター・バイデンと関係のあるエネルギー会社に対するウクライナの調査に不当に介入したとの主張がある。

 米国の政治潮流はバイデンと民主党に不利になった。 最高裁判所は、アファーマティブ・アクション・プログラムを制限し、差別禁止法の宗教上の免除を支持する判決を下した。 

 バイデン氏の影響力が弱まるにつれ、バイデン政権と家族に対する共和党の監視が強まっている。 バイデン氏自身が弾劾される可能性もある。

 共和党は、バイデン氏がハンター・バイデン氏と関係のある企業に対するウクライナの捜査を不当に終わらせたと主張している。 

 トランプ前大統領は機密記録の取り扱いを誤った罪で起訴された。 2024年のバイデン氏の主なライバルを意図的に標的にしたと見る向きもある。 

 バイデン氏は広範な反対に直面しており、一部の世論調査によるとアメリカ人の70%以上が彼の再選に反対している。 多くの民主党員でさえ彼の再出馬を支持していない。 

 日本の岸田政権はバイデン政権と緊密に結びついているが、バイデンの政治的地位は低下している。 そうなると日本は難しい立場に陥る可能性がある。 

 共和党と保守派が優勢である一方で、バイデンと民主党は苦戦している。 バイデン氏の政治的弱さと家族間の論争が、彼の残りの任期に影を落とす恐れがある。 バイデン政権の苦戦により、日本のような米国の同盟国は不確実性に直面している。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】岸田首相は、 米国の外交政策は、民主党と共和党の間の戦いによって形作られることを忘れるな(゚д゚)!

上の記事では、「一部の世論調査によるとアメリカ人の70%以上が彼の再選に反対している」としていますが、これは本当です。

ニュースマックスやOANNなど評判の良い保守系情報源による最近の世論調査によれば、ジョー・バイデンの支持率は急落しています。 Newsmax の世論調査によると、Real AmericansTM のなんと 70% が、2024 年にはスリーピー・ジョー以外の人に出馬してもらいたいと考えていることがわかりました。

上の記事では、米政治の潮目が変わったとしてますが、これは具体的に何を意味するのでしょうか。

米政治の潮目が変わった AI生成画像

下院共和党リーダーのケビン・マッカーシーの声明によると、共和党はハンター・バイデンの税務調査に不当に介入した疑いでメリック・ガーランド司法長官を弾劾するとしています。 保守派は、これは政治の流れがバイデン政権に不利になったことを示していると主張しています。

 「潮目が変わった」とは、保守派が世論と政治的勢いが自分たちに有利な方向に、あるいはバイデンや民主党に不利な方向に変わったことを意味します。

ケビン・マッカーシー氏

その証拠として、マッカーシー氏は以下を挙げています。

まずは、ハンター・バイデンの税務調査に対するバイデン政権による不当な政治的介入を示唆する内国歳入庁の内部告発。 ニューズウィーク紙によると、内部告発者は「当局はハンター・バイデンの税金に関する調査を2020年の選挙後まで延期した」と主張しています。 

最近の最高裁判所の判決は、アファーマティブ・アクションを制限し、差別禁止法の宗教上の免除を支持するものです。 保守系出版物フェデラリスト紙によると、これらの判決は「最高裁判所が憲法秩序を回復しつつある」ことを示しているといいます。 

バイデンの支持率が低いという事実もあります。 最近のハーバード大学とハリス大学の世論調査では、バイデン氏の支持率はわずか38%で、世論調査責任者によると「新たな最低値」となったとされています。

 保守系専門紙ワシントン・エグザミナー紙は、これはバイデン氏の「政治的立場が悪化し続けている」ことを示していると述べました。  共和党がハンター・バイデンのビジネス取引を積極的に調査し、バイデン大統領を弾劾する可能性があると主張しました。

FOXニュースによると、共和党はバイデン氏を「違法な大統領」とみており、監視権限を利用して「バイデン家の疑わしい取引を調査」する予定だといいます。 

要約すると、保守派は、最高裁判所と議会共和党がバイデン政権の政策を後退させている一方で、バイデンに対する国民の支持が低下していると主張しています。

 彼らは、この「潮流」が自分たちに有利に変わったことを、息子の財政調査や弾劾の脅しを通じてバイデン氏を弱体化させるチャンスと見ています。 しかし、リベラル派はこの説に異議を唱え、共和党が党派攻撃を行っている一方でバイデン氏は依然としてそれなりの人気を保っていると主張しています。

上の記事にもあるように、共和党は、ジョー・バイデンが副大統領として、ハンター・バイデンを雇っていたエネルギー会社ブリズマ・ホールディングスの汚職を捜査している検察官を解任するようウクライナに不当に圧力をかけたと主張しています。 

共和党によると、これはジョー・バイデンが息子を捜査から守るために介入したことを示しているといいます。 彼らはこの主張を証明し、バイデンを弱体化させることを狙っています。

しかしファクトチェッカーらは共和党の主張に異議を唱えており、バイデン氏は不正行為を否定しています。

しかし、 重要な事実として、 バイデンは副大統領として、汚職で広く非難されているウクライナの最高検察官ヴィクトール・ショーキンの解任を推進しました。 USAトゥデイなどは「国際社会、米国政府、ウクライナの反汚職活動家はショーキンを改革の障害とみなした」と報じました。 

 当時、ハンター・バイデンは、汚職疑惑で厳しい調査を受けていたウクライナの企業ブリズマ・ホールディングスの取締役を務めていました。 しかし、ワシントン・ポスト紙によると、「事件に詳しい関係者らはブルームバーグに語った。ジョー・バイデンが圧力をかけた時点では、ブリスマに対する検察の捜査は休止状態になっていた。バイデンの主な目的は腐敗した検察官を排除することではなく、 彼の息子を守ることだ」。 

 USAトゥデイ紙、ガーディアン紙、ウクライナ当局者によると、ウクライナによるブリスマ社への捜査はハンター・バイデン氏の入社以前から行われており、バイデン氏が個人的に捜査を受けていたことは一度もなかったとしています。 

ショーキン氏の後任となった検察官ユーリー・ルツェンコ氏はブルームバーグに対し、ジョー氏やハンター・バイデン氏による不正行為の証拠はないと語りました。 

 共和党主導の上院委員会はこの問題を調査したが、ジョー・バイデンが不適切な行動をとった、あるいは息子を支援したという証拠は見つからなかったとヒル紙が報じています。 

 バイデンは息子の利益を念頭にブリスマについて議論したり、ウクライナに圧力をかけたりすることを否定しました。 ポリティファクトによると、「バイデン氏は、ショーキン氏が汚職対策に失敗しているという広範なコンセンサスが自分の動機であると主張した」といいます。

共和党はこの問題の調査を続けると明言していますが、独立した事実調査機関や捜査機関のほとんどは、バイデン氏が息子とウクライナに関して不適切な行動をとったという証拠を見つけていません。 しかし、この問題は依然として物議を醸しており、党派間の意見が分かれています。

 バイデン氏は不正行為を否定しており、不当な影響力を示す証拠は現時点では不足しているが、結果は今後の共和党主導の捜査結果と国民を説得する能力に左右される可能性があります。 

要約すると、共和党はバイデンが息子の利益のためにウクライナに不当に介入したことを証明することを目指しているが、ファクトチェッカーらは証拠がこの物語を裏付けていないと述べています。 この問題は未解決のままであり、論争が続いています。

ハンター・バイデン氏

米国外交は同盟国だけでなく、より広範な国際社会に影響を与えます。 しかし、米国の外交政策の将来の方向性は、米国の国内政治の複雑な現実を理解することにかかっています。 

 米国の外交と外交関係は国内の党派政治から切り離すことはできない。 米国は世界をリードすることを目指しているが、政治的分裂が海外の戦略的優先事項や同盟国との関係を脅かしています。

 米国政治の混乱は、バイデン政権が国内で効果的に統治するか、海外で首尾一貫した外交を指揮するかという継続的な苦闘に直面していることを示唆しています。 米国のような民主主義国家では、国内政治が外交を形作ります。 

国内の政治が混乱したり二極化すると、その国が一貫して行動したり、世界舞台で主導権を握ったりする能力に負担がかかります。 同盟国にとってもライバルにとっても同様に、米国を理解するには、その政治的派閥、権力闘争、社会的論争を理解する必要があります。

 米国の外交政策は、大戦略と同様に民主党と共和党の間の戦いによって形作られます。 深い溝が癒える兆しが見えず、バイデン政権とおそらくその後継者にとって外交的課題は続くでしょう。 

米国と交流している国や米国の世界的リーダーシップの影響を受けている国は、米国の国内政治を綿密に研究する必要があります。党派間の現実は、米国の外交関係の限界と可能性を規定します。 激しい政治的分裂が続く限り、米国外交は不安定な状況に陥るでしょう。


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2023年7月16日日曜日

英TPP加盟を承認 発効後初の拡大、12カ国に―【私の論評】日本が旗振り役となって、TPPのルールをWTOのルールとすべき(゚д゚)!

英TPP加盟を承認 発効後初の拡大、12カ国に



 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加盟する日本やオーストラリアなど11カ国は16日、ニュージーランド・オークランドでの閣僚級会合で、英国の新規加盟を正式に承認した。12カ国体制となる。協定が2018年に発効して以来、加盟国が増えるのは初めて。

 今後は同じく新規加盟を申請している中国や台湾、ウクライナなどの取り扱いが焦点となる。

 英国の加盟でTPPの経済圏がアジア太平洋から欧州に広がり、参加国の国内総生産(GDP)の合計は世界全体の12%から15%に高まる。英国と経済連携協定(EPA)を締結済みの日本にとって直接的な恩恵は限定的だが、先進7カ国(G7)の一角が新たに加わることでTPPの影響力が増すことが期待される。

【私の論評】日本が旗振り役となって、TPPのルールをWTOのルールとすべき(゚д゚)!

英国の TPP 加盟は日英にとって重要な進展です。 英国にとっては、5億人以上の人口を抱える市場へのアクセスと、EU離脱後の経済の活性化をもたらすことになります。 日本にとって、英国における貿易と投資の新たな機会が開かれます。

TPPは、オーストラリア、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ペルー、シンガポール、ベトナム、ニュージーランドを含むアジア太平洋地域の11か国間の自由貿易協定です。 この協定は、商品やサービスの貿易、投資、知的財産、政府調達など幅広い問題をカバーしています。

英国のTPP加盟により、日英間の貿易が促進されることが期待されています。 2021年の両国間の貿易額は145億ポンドに達しました。 TPPにより、この数字は年間最大25億ポンド増加すると予想されています。

TPPは英国と日本双方で雇用を創出することも期待されています。 英国政府は、この協定により英国で最大6万5,000人の雇用が創出される可能性があると試算しています。

TPPは経済的利益に加えて、英国と日本との関係を強化することも期待されている。 両国はすでに緊密な同盟関係にあり、TPPによってさらに協力が深まることが期待されます。

安倍氏の英国TPP参加表明の歓迎から5年越しで英国加入の実現。安倍外交がまた一つ大きなレガシーを残した格好となったといえます。以下は、安倍氏が英国訪問時の写真、右は当時のメイ英首相。


英国が TPP に参加することによる英国と日本にとっての具体的な利点は次のとおりです。

貿易の増加:TPPにより、英国と日本の間の貿易は年間最大25億ポンド増加すると予想されています。 これにより両国の経済成長が促進され、雇用が創出されることになる。
投資: TPP は日本から英国へのさらなる投資を呼び込むことが期待されています。 これは雇用を創出し、英国経済を成長させるのに役立ちます。
新しい市場へのアクセス:TPPにより、英国企業はアジア太平洋地域の新しい市場へのアクセスが可能になります。 これは、ビジネスを成長させ、世界経済で競争するのに役立ちます。
法の支配の強化:TPPには法の支配を促進し、知的財産権を保護する条項が含まれています。 これは、英国と日本の企業にとって、より予測可能で安定した環境を構築するのに役立ちます。

全体として、英国の TPP 加盟は両国にとって前向きな進展である。 これにより、貿易が促進され、雇用が創出され、英国と日本との関係が強化されることが期待されている。

TPPの拡大は更に大きな意味を持つことになります。私自身は、TPPルールをWTOルールにすべきと思います。 TPPWTO よりも包括的かつ現代的な貿易協定であり、デジタル経済や国有企業など、21 世紀の経済の課題の一部に対処する条項が含まれています。 TPPのルールをWTOのルールにすれば、すべての国の競争条件を平等にし、誰もが同じルールに従うようにするのに役立つでしょう。

TPP ルールが WTO ルールになれば、次のような多くのメリットが期待できます。

貿易の増加:TPPのルールは企業にとってより予測可能で安定した環境を生み出し、企業の貿易の増加を促すでしょう。 これにより、世界中で経済成長が促進され、雇用が創出されるでしょう。
保護が強化される知的財産: TPP ルールは知的財産権のより強力な保護を提供します。 これはイノベーションと創造性の促進に役立ち、企業と消費者の両方に利益をもたらすでしょう。
貿易障壁の軽減:TPPルールは、関税や割り当てなどの貿易障壁を削減します。 これにより企業は商品やサービスを輸出しやすくなり、経済成長が促進されるでしょう。

WTOのルールを必ずしも遵守しない中国にとっての影響は重大でしょう。 TPPのルールがWTOのルールになれば、中国はそれに従うよう圧力を受けることになります。 これは中国の貿易政策の変更につながり、世界経済にプラスの影響を与える可能性があります。

もちろん、TPP ルールが WTO ルールになった場合に対処しなければならない課題もいくつかあります。 たとえば、一部の国は TPP ルールのすべてに同意することに消極的になる可能性があります。 さらに、TPPルールをWTOに導入するには時間と労力がかかります。

全体として、私は、TPPルールをWTOルールにすることの利点が課題を上回ると信じています。 TPP ルールは、世界中の貿易と経済成長の促進に役立つ貴重なルールです。特に、これは中国に対して厳しいものになるでしょう。

2001年11月10日、中国WTO加盟の調印式

中国は、2001年にWTO加盟しました。1978年の改革・解放以来、鄧小平の活躍によって、1997年の香港再譲渡・返還にこぎつけた共産主義中国が、「繁栄への切符」を手に入れたのです。 

この時には、共産主義中国は「WTOの公正なルール」に合致するような状態ではありませんでした。 ところが、米国を始めとする先進国は「今は基準を満たしていないが、貿易によって豊かになれば『公正なルール』を守るようになるだろう」と考え、共産主義中国も「将来はルールを守る」という「約束」をしたことで加盟が認められたのです。 

ところが、加盟後20年以上経っても、共産主義中国は自国の(国営)企業を優遇し、外資系いじめを連発するだけではなく、貿易の基本的ルールさえまともに守る気があるのかどうか不明です。

WTOに提訴される件数自体は、中国よりも他の国のほうが多いです。これをもって、中国はWTOのルールを遵守しているなどと言う人もいますが、それは正しくはありません。確かに件数だけみれば、そうみえるかもしれませんが、中国の不遵守にはかなり深刻な事例が多いのです。

件数だけでみるのは、たとえば犯罪において重犯罪と、軽犯罪を同次元にみるのと同じようなものであり、明らかな間違いです。

以下にに中国の WTO ルール不遵守の深刻な例をあげます。

輸出補助金:中国は、鉄鋼、アルミニウム、その他の産業に輸出補助金を提供していると非難されています。 これらの補助金により、中国企業は自社製品を原価以下で販売することができ、世界市場で不当な優位性を得ることができます。
知的財産の盗難: 中国は広範な知的財産の盗難で告発されています。 これには、衣料品や電子機器などの商品の偽造や、外国企業から企業秘密を盗むことが含まれます。
市場アクセス:中国は外国企業に公正な市場アクセスを提供していないと非難されています。 これには、外国投資に対する制限や外国企業に対する差別的慣行が含まれます。
国有企業: 中国の国有企業 (SOE) は政府から優遇措置を受けています。 これにより、国内外の民間企業に対して不当な優位性が得られます。

これらは中国がWTOルールを遵守していない例のほんの一例にすぎません。 これらの違反は他国に重大な影響を与えており、中国と他のWTO加盟国との間で多くの貿易紛争を引き起こしています。

私は、TPPのルールをWTOのルールにすることで、まずはルールを守れない国には、WTOから抜けてもらうべきです。無論、猶予期間は設けることとし、その期間に守ることができる状態にできない国々には加盟取り消しなどの措置をすべきです。

このようなことを考えると、今回TPPに環太平洋諸国ではない英国が加盟したことは、将来TPPのルールをWTOのルールにすることに、一歩近づいたともいえる出来事だと思います。

今後さらに、TPPを拡大し、TPP加盟国がが大きく繁栄し、WTOのルールへと昇格させるための、下地作りをすべきと思います。

旗振り役日本 AI生成画像

そうして、日本こそTPPルールをWTOルールにする旗振り役となるべきです。日本はTPPを強力に支持しており、すでに国内で協定を履行するための措置を講じています。 日本は、WTOの加盟国であり、WTOの紛争解決機関の一員となっています。 これにより日本はWTOで強い発言力を持ち、TPPルールの採用を主張できる有利な立場にあります。

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2023年7月15日土曜日

リベラルメディアが報じないアメリカの出来事―【私の論評】日本ではもっと米国保守系メディアに関心を持たないと米国の真の姿がみえなくなる(゚д゚)!

リベラルメディアが報じないアメリカの出来事

バイデン米大統領

 アメリカの政治は躍動的であり、民主党のリベラル派がバイデン政権を左方向へプッシュしていましたが、最近の最高裁判決によりその流れに大きなストップがかかりました。最高裁は、大学のアファーマティブ・アクション(黒人優先の差別是正措置)を憲法違反と断じ、バイデン政権の学生ローン免除措置を無効としました。これらの判決は、左派の過激な政策に反対する多くのアメリカ国民の意思を反映しています。

 しかしながら、日本のメディアはこれらの判決を保守寄りや国民の不信といった表現で報じ、不当な判断だという印象を与えています。これはアメリカの主要メディアの偏向が日本のメディアに影響を与えているためです。米側の大手メディアは明確に民主党支持であり、保守対リベラルの政策対立でもリベラル派を支持し、保守派を少数派と描写する傾向があります。

 このようなメディアの偏向は、ワシントンで展開される国政の流れでも民主党やリベラル派の不利な動きを無視することが多く、バイデン政権や民主党に不利な出来事やバイデン大統領のミスにはあまり触れません。

 具体的な事例として、トランプ前大統領に対する「ロシア疑惑」が虚構であるという結論が連邦議会の下院本会議で確認されましたが、日本の主要メディアはほとんど報じていません。

 このように、日本のメディアは民主党びいきの米側大手メディアの影響を受けており、バイデン政権や民主党の不利な出来事にあまり触れず、保守派の反撃についても報道しない傾向があります。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本ではもっと米国保守系メディアに関心を持たないと米国の真の姿がみえなくなる(゚д゚)!

アファーマティブ・アクションと学生ローン免除に関する最高裁の判決は、物議を醸しています。

米最高裁

判決を支持する人々は、アファーマティブ・アクションは黒人以外の志願者を不当に不利にする逆差別の一形態だと主張しています。また、学生ローン免除は政府の行き過ぎた政策であり、納税者を犠牲にして富裕層を利するものだとも主張しています。

この裁定に反対する人々は、アファーマティブ・アクションは米国における制度的人種差別の遺産に対処するために必要だと主張しています。また、学生ローンの免除は、低所得者層に不釣り合いな学生負債の負担軽減に役立つと主張しています。

これらの判決が長期的にどのような影響を及ぼすかについての論議は時期尚早だと思います。しかし、何百万人ものアメリカ人の生活に大きな影響を与えることは明らかです。

これらの判決は、左派の急進的な政策に反対する多くの米国人の意思を反映したものである一方、これらの政策を支持する米国人が大勢いることも忘れてはならないです。このような問題で国内は深く分裂しており、この議論は米国内で、今後もずっと続くてしょう。

私自身は、これに反対する多くの米国人は、政府がアファーマティブ・アクションなどの前に、人種や民族に関係なく、すべての生徒に平等な教育機会を提供することに全力を尽くすべきと考えているのではないかと思います。これは、低所得層の公立学校に投資し、恵まれない環境にある生徒に奨学金や経済援助を提供し、すべての生徒が質の高い教師や教材を利用できるようにすることを意味します。

学生ローン免除については、複雑な問題であり、簡単な答えはないと思います。どちらの側にも正当な主張があります。結局のところ、学生ローンの問題に対処する最善の方法は、政府のプログラムと民間部門の解決策を組み合わせることだと思います。

このような問題については、敬意を持ってオープンに対話することが大切だと思います。互いの懸念に耳を傾け、共通の土台を見出す努力が必要です。そうして初めて、誰にとっても有効な解決策を見出すことができるでしょう。

学生ローンに関しては、忘れてはならないことがあります。それは、日本で奨学金といわれているもののほとんどが実は学生ローンであるという事実です。

学生ローンの返却に苦しむ人 AI生成画像

一方米国においては、奨学金制度は機能しており、優秀な学生は奨学金を受けて卒業することができます。日本のようにほとんどすべてが学生ローンであるとの認識で、米国の学生ローンや奨学金をみると本質がわからなくなってしまいます。

米国の奨学金制度は、教育資金を得ようとする学生にとって貴重な資源であることは確かです。しかし、すべての学生が奨学金を受けられるわけではなく、また、奨学金を受けられる学生であっても、教育費の全額を賄うだけの奨学金を見つけられない可能性があることを忘れてはならないです。

米国の奨学金制度は複雑で、常に変化しています。利用可能な奨学金には多くの種類があり、受給資格は奨学金によって異なります。

奨学金制度は必ずしも公平ではないです。人種、民族、性別、社会経済的地位によって、他の学生よりも奨学金を受けやすい学生がいます。

さらに奨学金制度は必ずしも利用しやすいとは限らないです。奨学金制度があることを知らない学生や、奨学金を申請する資金がない学生もいます。

米国政府は、奨学金制度をより公平で利用しやすいものにする役割を果たすことができると思います。政府は奨学金により多くの資金を提供することができますし、学生や家族の間で奨学金に対する認識を高めるように努力することもできます。

このあたりを蔑ろにして、単純に学生ローンの免除をすることに多くの米国人は、抵抗を感じているのだと思います。

日本では、堀江貴文氏が、「頭の悪い人が大学に行くメリットはない」と語っています。堀江貴文の意見は少し単純だと思います。人の成功には様々な要因がありますが、頭の良さはその一つに過ぎないです。大学に行くほど「頭が良くない」人でも、自分の選んだ分野で成功した人はたくさんいます。ただ、堀江氏の意見にも一面の真実はあります。

日本と同じように、米国の大学や大学院にも、まともなものから、そうではないものまでかなりの幅があると思います。多くの若者は、自分の将来を考えて、これらに進学するとは思われますが、中には社会に出る前のモラトリアムとして、あるいは自分探しとして進学するものも多いとみられます。それは、大学進学後の態度にすぐに表れます、大学等の高等教育機関を遊び場所と考えている学生も多数存在します。

まともでない大学や大学院に進学するモラトリアム志向の若者や自分探しの若者、その中でも頭の悪い連中の、学生ローンまで、免除する必要はないと多くの米国人が考えているのではないでしょうか。そんなことは、親が裕福なら、親に頼るべきであり、そうでなければ、教育ローンを受けて、後に自分で働いて返すのが筋と考えているのでしょう。

それと米国の特殊事情もあります。1990年代から2000年代初頭にかけて、米国の大学では、非学術的、あるいは「ソフト」コースといえるようなコースを提供する傾向があった。これらのコースは、ポピュラーカルチャー、自己啓発、スピリチュアリティなど、伝統的にリベラルアーツ教育の一部とはみなされていなかったトピックに焦点を当てることが多かったのです。特に文化系のコースにそのようなものが散見されました。

これらのコースの例をいくつか挙げます。
  • ウェルズリー・カレッジの「シンプソンズと哲学」
  • カリフォルニア州立大学フラトン校の「ハリー・ポッターの心理学」
  • ハーバード大学の「セックスとセクシュアリティの社会学」
  • ニューヨーク大学での「護身術」
  • カリフォルニア大学バークレー校「ヨガの歴史」
これらの講座は、厳しさが足りないとか、大学にはふさわしくないという批判も多くありました。この事例はほんの一部にすぎません。多くの大学でこのような講座が多数生まれたのは事実です。

しかし、大衆文化や自己啓発について学びたい学生にとっては、これらの講座は貴重なものであると主張する人もいました。このようなことが、自分のこどもが大学に入る時期に入った年代の人たちの記憶に色濃く残っていることでしょう。

非学術科目を提供する傾向は、2000年代初頭にピ ークを迎えましたが、その後は減少しています。現在でも、ほとんどの大学が非学術的なコースを開講し ていますが、以前ほど一般的ではなくなりました。しかし、現在でも存在しているのです。

遊ぶ大学 AI生成画像

非アカデミック・コースが衰退した理由はいくつかあります。ひとつは、こうしたコースは厳密さに欠け、大学にはふさわしく ないと考える人がいたからです。もう一つの理由は、他大学と競争するために、STEM(科学、技術、工学、数学)科目に力を入れ始めた大学があったことです。

STEMに力を入れた大学は、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、カリフォルニア工科大学(Caltech)、ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)、デューク大学等です。昔から定評のある大学です。

米国の一部の文化系大学、総合大学の文化系学部やその他の機関では、STEM に匹敵する文化的科目と考えられる科目を重視しているのを目にします。たとえば、シカゴ大学は人文科学に重点を置いており、幅広い人文科学プログラムを提供しています。シカゴ大学には、文化的主題の研究に重点を置く学際的なプログラムである社会思想委員会の本拠地もあります。

もう 1 つの例は、ニューヨーク州アナンデール オン ハドソンにある私立リベラル アーツ カレッジであるバード カレッジです。 バードカレッジは人文科学に重点を置いており、幅広い人文科学プログラムを提供しています。バード大学には、文化と公共政策の交差点を研究する研究センターであるジェローム L. グリーン文化政策研究センターもあります。ただ、このような大学は未だ少数です。多くの大学の文化系の学部には、未だ非学術科目を提供しています。

米国の大学や大学院におけるリベラルな価値観の台頭により、保守的な学者が研究を行うことがより困難になっているいわれます。 たとえば、ヘテロドックス・アカデミーによる2017年の研究では、保守的な学者の方が、リベラルな学者よりも学術的キャリアの中で疎外され、差別されていると感じると報告する可能性が高いことが判明しました。

 この研究では、保守的な学者はリベラルな学者に比べて、採用、昇進、助成金の授与の可能性が低いことも判明しました。このようなことは、米国の大学の文化系の学部で多く見られることです。

以前にもこのブログで述べたように、米国のマスコミは大手新聞は、すべてリベラル系であり、大手テレビ局は保守系のFOXTVを除いて、他全てがリベラル系です。そのため、保守派が何かを言っても、そもそも報道されないか、報道されてもリベラル左派の大きな声にかき消されてしまうです。

そのため、米国では政治の場はもとより、多くの教育機関、職場においても、リベラル的価値観が幅を効かせています。そのため、米国の保守派はこれらの場で、自らの政治的意見や信条をいうことが躊躇われ、自ら口を閉じてしまう傾向が強いです。これが、ますます米国のリベラル派が自分たちこそ、主流派だと思い込ませてしまいます。一方、保守層の人々の危機感を煽ることになっています。

しかし、現実には、米国の人口の半分は、保守派であり、そういう人たちの多くが、最高裁がアファーマティブ・アクション(黒人優先の差別是正措置)を憲法違反と断じたことや、学生ローン免除措置を無効としたことに賛成しているのです。

米国の人口の半分が保守派であるということは、直接調査したわけではありませんが、そもそもトランプ大統領が大統領選に勝利したという事実が、米国の人口の半分は、様々なタイプがありながらも保守派であることを如実に示していると思います。そうでなく米国の人口のほとんどがリベラル派であったとしたら、トランプ大統領が生まれる余地はなかったはすです。

トランプ前大統領に対するロシア疑惑が虚偽であることが下院本会議で確認されたことは米国の政治においての、重要な進展といえます。 これは政治的に意見を二分する長期にわたる捜査の集大成であり、米国の政治に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、日本のメディアは米国のリベラル系メディアに沿った報道しかしないので、多くの日本人は、米国の半分の姿しか見ていないと言っても過言ではありません。

このようなことばかりしていれば、日本人の多くは、米国の真の姿を見ることができず、判断を誤ることになりかねません。日本のメディアの始末に悪いところは、米国のリベラルメディアの報道ですら、自分たちに都合の悪いことはあまり報道しないことです。

米国の主流メディアにそもそも偏りがあるのに、日本のメディアはそれをさらにスクリーニングして制限して報道しているわけですから、日本のメディアだけ目にしている限りにおいては、かなり偏った米国像が定着してしまうことになります。そうならないためにも、日本では、もっと米国の保守メディアに等に関心を持つべきです。

米国保守メディアの論調は、日本ではほとんど報道されません。しかし、米保守メディア、特に新聞やサイトの情報など今なら簡単に翻訳して読むことができます。是非とも米保守メディアをご覧になってください。

それと、英語が読める方は、米国の保守メディアも是非ご覧になってください。そうすれば、米国のもう一つの側面が見えてきます。

以下に米国の有名な保守系メディアの名前をいくつか挙げます。

フォックスニュース: https://www.foxnews.com/
ブライトバート ニュース: https://www.breitbart.com/
デイリーコーラー: https://dailycaller.com/
ワシントン・タイムズ: https://www.washingtontimes.com/
ナショナルレビュー: https://www.nationalreview.com/
フェデラリスト: https://thefederalist.com/
ニュースマックス: https://www.newsmax.com/
ワン アメリカ ニュース ネットワーク (OAN): https://www.oann.com/

このリストはすべてを網羅したものではなく、米国には他にも多くの保守的なメディアが存在することに注意してください。ただし、上のサイトを見ていれば、米国の保守層の動きは理解できますし、日本国内のメディアだけでは知ることができない米国の他の側面を知ることができます。

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2023年7月14日金曜日

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ  岸田首相は「一発かますべきだった」 NATO東京事務所に仏大統領反対も...「食らいつく」べき理由―【私の論評】NATOは未だ東京事務所設置を諦めていない、岸田首相はマクロン大統領を説得すべき(゚д゚)!

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ  岸田首相は「一発かますべきだった」 NATO東京事務所に仏大統領反対も...「食らいつく」べき理由

バイデン米大統領 NATO首脳会議にて

 岸田文雄首相は、NATO首脳会議でジョー・バイデン米大統領からベタ褒めされました。しかし、フランスのエマニュエル・マクロン大統領からNATO東京連絡事務所の設置計画について、「インド太平洋は北大西洋ではない」といわれ、はっきり反対されました。その結果、NATOの決定は全会一致が原則でフランスが反対したため、今回のNATO首脳会議での東京連絡事務所の設置案は見送られました。

 ここで、岸田首相は、外交の岸田を世界にアピールしたいなら、一発かますべきでした。というのは、NATO事務局は中国を「体制上の挑戦」と位置づけているからです。中国は近年インターネット上のサイバー攻撃や偽情報の拡散、宇宙での安全保障での影響力拡大に関わっています。こうしたサイバー攻撃などは地理的な制約がないので、NATOの活動にも悪影響が出かねない。いずれにしても、NATOは中国に対し警戒感をあらわにしています。

 NATOは、日本を非常に緊密かつ重要なパートナーとしてとらえ、日本に加え、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとの連携を広げようとしています。東京での事務所をその足がかりに、というのがアメリカやイェンス・ストルテンベルグ事務総長の構想だった。

 これは、日本にとっても、中国の影響力拡大に警戒を強めるなか、NATOが自由で開かれたインド太平洋地域の安全保障に貢献しようとするのは歓迎です。

 いずれにしても、サイバー攻撃などを考えると、今は安全保障は地域問題にとどまらず、世界規模の問題ととらえたほうがいい。この程度のことは、岸田首相も表の記者会見などではっきりとすべきだった。

 フランスの本音は、中国への配慮です。実際中国はNATOの東京事務所に猛烈に反対している。フランスは中国がエアバスを購入するので懐柔されたともいわれている。

 裏では、岸田首相はマクロン大統領に、日本はエアバスとワインを買うくらいの話をしてもいいだろう。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との首脳会談が流れたのは仕方ない。なにしろウクライナにとっては日本と会談しても武器が手に入らないからだ。

 それなら、岸田首相は、日韓首脳会談などやらずにマクロン大統領に食らいついて、NATO東京連絡事務所について色よい返事をもらわないといけない。事務方がせっかくいいところまで作ってきたのだから、最後の一押しをするのは政治家にしかできない役目だ。

【私の論評】NATOは未だ東京事務所設置を諦めていない、岸田首相はマクロン大統領を説得すべき(゚д゚)!

歴史上、ある国の指導者が、他国の指導者の反対に応じて行動を起こしたり、声明を出したりした例はあります。しかし、国と国との外交関係や相互作用は複雑であり、特定の結果を一国の指導者の行動のみに帰することは必ずしも容易ではないことに留意する必要があります。さらに、「食い下がる」という言葉は主観的なものであり、さまざまな反応を包含する可能性があります。

過去の例としては、1962年のキューバ危機における米国のジョン・F・ケネディ大統領とソ連のニキータ・フルシチョフ首相のケースがあります。米国は、ソ連がキューバに核ミサイルを設置していることを発見し、米国の安全保障に重大な脅威をもたらしました。

ケネディ大統領

ケネディ大統領はこれに対し、この発見を公に発表し、さらなる輸送を防ぐためにキューバ周辺に海上封鎖を敷きました。この危機は2つの超大国間の緊張をエスカレートさせ、ケネディはフルシチョフの行動に断固として反対しました。

最終的にフルシチョフは、アメリカがキューバを侵略しないという公約と、トルコからアメリカのミサイルを撤去するという密約と引き換えに、ミサイルの撤去に同意しました。この危機の解決は、ケネディの毅然とした態度がフルシチョフの反対運動の撤回につながった例と見ることができます。

偉大な経営学者ピーター・ドラッカーは、外交交渉において以下のことが重要であると述べています。以下に安倍外交と対比しながら述べます。

人間関係を築くこと。これは相手とその利害関係を知ることを意味します。また、信頼関係を築くことも重要です。これに関しては、安倍元総理は、米国のトランプ米大統領や、インドのモディ首相とも良い人間関係を築いていたと思います。

目標を明確にすること。交渉で何を達成したいのか。明確な目標を持つことで、集中力を維持し、より良い決断を下すことができます。
安倍元首相は、安全保証のダイヤモンドや、インド太平洋戦略などの概念を生み出し、これらに基づき、その時々で外交を展開していました。そのため、目標は明確だったと思います。

妥協する覚悟を持つ。完璧な交渉はあり得ません。見返りを得るためには、何かを諦める覚悟が必要です。これは、外交の基本です。ただし、妥協においても正しい妥協と、正しくない妥協があります。これはまた後で述べます。

忍耐強く。交渉は長く、難しいものです。目標を達成するためには、忍耐強く、粘り強く取り組むことが大切です。

これらの原則は、ドラッカーの著書『The Effective Executive』に概説されています。

以下は、外交交渉に関するドラッカーの補足です。

パワー・ダイナミクスを意識すること。交渉の中で最も力を持っているのは誰か?その力をどう使えば有利になるのか?

説得力と影響力を使え。すべての交渉が力によって勝利するわけではありません。多くの場合、説得力と影響力を行使して自分の望むものを手に入れる必要があります。

文化的背景を意識する。文化が異なれば、交渉スタイルも異なります。こうした違いを認識し、それに応じてアプローチを調整することが重要です。

外交交渉は複雑で難しいものです。しかし、これらの原則に従うことで、成功の可能性を高めることができます。

外交にも妥協は必要です。上の記事で、「裏では、岸田首相はマクロン大統領に、日本はエアバスとワインを買うくらいの話をしてもいいだろう」としていますが、まさにこれが妥協というものでしょう。

ただ、妥協にも正しい妥協と正しくない妥協があります。これは、先日意思決定に関して述べたばかりです。外交でも同じことだと思います。当該記事のリンクを以下に掲載します。
「ゼロリスク」思考の落とし穴 処理水やマイナンバー問題も…世の中に100%安全なし、身近な「確率」と比較すべき―【私の論評】まともな過程を通じて意思決定する習慣をもたなければ、重要な意思決定ができなくなる(゚д゚)!

外交においては、「ゼロリスク」思考は、考えるまでもなく全くありえないと思いますので、こちらには言及しません。そもそも、「ゼロリスク」思考で物事を考える人には、外交に携わることなどできないでょう。

この記事から、一部を引用します。
ドラッカーは、正しい妥協をすることがリーダーの重要なスキルであると主張しました。リーダーには、さまざまな利害関係者のニーズのバランスをとり、誰にとってもうまくいく解決策を見出す能力が求められます。正しい妥協をすることで、リーダーは信頼と協力を築き、目標を達成することができます。

ドラッカーは『エフェクティブ・エグゼクティブ』の中で「リスクゼロを目指す経営者は、成果もゼロだ。計算されたリスクを取ることを厭わない経営者は、大きな成果を上げるだろう。そうして、適切な妥協を厭わない経営者は、永続的な成果を達成する」と述べています。
詳細は、この記事を読んでいただくとして、妥協の事例として、ドラッカーはソロモン王の裁定を例に出しています。「半分のパン」は食用になるが、「半分の赤ん坊」は意味がないという有名な事例です。

「半分のパン」のような妥協ならしても良いですが、「半分の赤ん坊」のような妥協ならすべきではないということです。しかし、多くの人はしてはならない妥協をすることも多いです。これは、外交においては致命的なミスになるでしょう。

「NATO東京連絡事務所」に関して、NATOはすぐにこれを諦めるということないでしょう。NATOは、マクロン大統領を説得するでしょうが、 一方の当事者でもある、岸田首相も率先して説得すべきです。

NATOは2023年6月、NATO東京連絡事務所を設置する意向を発表しました。この事務所はNATOと日本およびアジア太平洋地域の他のパートナーとの関係を強化することを任務とします。

同事務所の意図は以下の通りです。

アジア太平洋地域に対するNATOの関与を強化すること。NATOは伝統的に欧州の安全保障に重点を置いてきたが、中国の台頭により新たなパートナーをアジア太平洋に求めるようになっている。東京リエゾンオフィス(連絡事務所)は、NATOが日本やその他の地域諸国との関係を深めるための手段となります。

安全保障問題での日本との調整。日本は米国の緊密な同盟国であり、NATOは安全保障問題でよりよい連携をとるために日本との関係強化に努めてきました。東京リエゾンオフィスはNATOと日本が情報を共有し、共通の課題に対して協力するための手段となります。

非伝統的な安全保障上の脅威に関する協力を促進する。東京リエゾンオフィスはまた、テロやサイバー犯罪といった非伝統的な安全保障上の脅威に関する協力を推進することも任務となります。これらは国境を越えた脅威であり、NATOと日本は協力して対処する必要があります。

しかし、NATO東京連絡事務所の設置決定には反対意見もあります。中国は、この事務所は「冷戦の遺物」となり、「地域の平和と安定を損なう」と警告しています。フランスのマクロン大統領はこれに配慮して、連絡事務所の開設に反対したのでしょう。また、日本の政治家の中にも、NATO東京連絡事務所について懸念を表明する者もいます。

2023年7月現在、NATO東京連絡事務所の設置決定は延期されています。7月12日NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、NATOはこの問題について "まだ議論中 "であり、"いずれ決定する "と述べました。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長

マクロン大統領への具体的な反論をいくつか挙げます。

NATO東京事務所は、フランスの緊密な同盟国であり友好国である日本とNATOの関係を強化するのに役立つでしょう。

NATO東京事務所は、テロやサイバー犯罪といった非伝統的な安全保障上の脅威に対するNATOと日本の協力促進に役立ちます。

この事務所は、アジア太平洋地域における中国の攻撃的な行動を抑止するのに役立つでしょうが、同時に同事務所は軍事基地ではなく、中国を脅かすものでもありません。

この事務所は、マクロン自身の大西洋主義へのコミットメントに沿うものです。

このような議論は、マクロン大統領の特定の懸念に合わせることが重要でしょう。しかし、NATO東京事務所の利点を強く訴えることで、反対を撤回させることができるかもしれないです。

岸田首相は、仏マクロン大統領の説得にあたるべきです。岸田首相は、外交では安倍元総理の政策を継承しているようですが、ここが踏ん張り時と思います。マクロンを説得できれば、安倍外交と並び岸田外交も高く評価されることになるでしょう。

意外とこういうところから、国内政治への転機も生まれてくるのではないかと思います。

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2023年7月13日木曜日

墓穴を掘る中国 進む日米韓と日米比の結束―【私の論評】インド太平洋地域におけるミ二ラテラリズムの台頭は、安倍元総理が夢見ていたインド太平洋同盟の始まり(゚д゚)!

墓穴を掘る中国 進む日米韓と日米比の結束

岡崎研究所

サリバン大統領補佐官

 6月22日付の米ワシントン・ポスト(WP)紙は「米国のアジア同盟国は静かに中国への対抗に参加」との同紙コラムニストのジョシュ・ロウギンの論説記事を掲載し、中国と対峙する上で、サリバン大統領補佐官訪日と初の日米比韓高官のミニラテラル開催はブリンケン国務長官の訪中より重要だと指摘している。

 ジョシュ・ロウギンの論説記事の内容を要約します。

  • 中国の軍事力拡大、戦狼外交、経済的威嚇が、米国とその同盟国・パートナーの連携を深めている。
  • 米国とその同盟国・パートナーは、ミニラテラル(少数の有志国による枠組み)を構築し、中国に対抗しようとしている。
  • ミニラテラルネットワークは、地域の安全保障枠組みを大きく変貌させつつある。
  • 中国は、ミニラテラルネットワークを脅威と捉え、反発している。
  • 米国とその同盟国・パートナーは、中国の脅威に対処するため、ミニラテラルネットワークをさらに強化していく必要がある。

 ロウギンは、ミニラテラルネットワークは中国に対抗する有効な手段であると指摘しています。ミニラテラルネットワークは、米国とその同盟国・パートナーが、中国の軍事力拡大、戦狼外交、経済的威嚇に対抗するための強固な連携を構築する上で、重要な役割を果たすと考えられています。

 中国は、ミニラテラルネットワークを脅威と捉え、反発しています。中国は、ミニラテラルネットワークが、中国の覇権を脅かすものであると考えているからです。しかし、米国とその同盟国・パートナーは、ミニラテラルネットワークを、中国の脅威に対処するための有効な手段であると認識しています。そのため、米国とその同盟国・パートナーは、ミニラテラルネットワークをさらに強化していく必要があると考えられています。

 ジョシュ・ロウギンは、日本の駐米大使、ロバート・エドワード・ライト氏が、日米の同盟関係を「最も強固で不可欠な関係」と述べたことに触れ、日米同盟は、インド太平洋地域の平和と繁栄を支える基盤であると指摘しています。

 ロウギンは、米国とその同盟国・パートナーは、中国の脅威に対処するために、ミニラテラルネットワークをさらに強化し、日米同盟を強化していく必要があると主張しています。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】インド太平洋地域におけるミ二ラテラリズムの台頭は、安倍元総理が夢見ていたインド太平洋同盟の始まり(゚д゚)!

米国とそのアジアの同盟国・パートナーは、中国の軍事的、経済的、政治的パワーの増大に対抗するため、ミニラテラルを構築しようとしています。この枠組みは、これらの国がそれぞれの努力を調整し、中国の攻撃的な行動を抑止するために協力する方法です。

クワッド(米、日、印、豪が参加)やAUKUS安全保障協定(米、英、豪が参加)など、すでに数多くの多国間枠組みが存在していますが、これらの枠組みは、加盟国間の協力と協調を促進することに成功しており、米国とその同盟国/パートナーが構築しようとしている新しいミニラテラルのモデルとなり得ます。

インド太平洋地域におけるQUADとAUKUS  AI生成画像

新たな多国間枠組みには、インド太平洋地域の国々に加え、世界の他の地域の国々も参加することになるでしょう。具体的にどのような国がこの枠組みに含まれるかは、その国の戦略的利益、軍事力、米国との協力への意欲など、多くの要因によって決まるでしょう。 新たなミニラテラルの創設は、世界の安全保障の状況において重要な進展となるでしょう。それは、米国とその同盟国・パートナーが、中国の攻撃的な行動を抑止し、インド太平洋地域におけるルールに基づく秩序を促進することにコミットしていることの表れでしょう。

中国は、ミニラテラルを中国の台頭を封じ込めようとする試みと見ているため、脅威を感じているでしょう。この枠組みによって、米国とその同盟国・パートナーは、それぞれの努力を調整し、中国の攻撃的な行動を抑止するために協力することができるようになります。これにより、中国がインド太平洋地域で目標を達成することはより難しくなるでしょう。

中国自身の行動が孤立を招いているケースもあります。例えば、南シナ海における中国の攻撃的な行動は、多くの近隣諸国を遠ざけています。中国の米国との貿易戦争は、西側諸国との関係にもダメージを与えています。

中国がミニラテラルに脅威を感じる具体的な理由をいくつか挙げます。

この枠組みは、米国とその同盟国・パートナーがインド太平洋地域における軍事活動を調整することを可能にします。具体的には、たとえば超大国米国の軍事力にも限りがあり、場合によってはこの地域の米国の艦艇による監視が手薄になった場合、他国の艦船が代替することも考えられます。

この枠組みは、中国を排除するような新たな安全保障パートナーシップの構築につながる可能性があり、中国をこの地域でさらに孤立させる可能性があります。この枠組みは、将来NATOのような軍事同盟になる可能性を秘めています。

そうなれば、中国のアジア・太平洋地域において、同盟加盟国を攻撃した場合、軍事同盟自体に対して攻撃することになり、これは中国に対する強力な抑止力になります。

この枠組みは、インド太平洋地域におけるルールに基づく秩序を促進するために利用される可能性があり、それは、中国が自国の勢力圏を確立しようとする努力に挑戦することになるかもしれないです。

私達が、ここで想起しなければならないのは、安倍元首相のグローバルな視野に立った外交が、米国とその同盟国やパートナー諸国がミニラテラルを確立して中国に対抗することを可能にしたということです。

2007年、安倍首相は2000年以来初めてインドを訪問し日本とインドの間に「特別な戦略的グローバル・パートナーシップ」を構築することを提案しました。このパートナーシップは、安全保障、経済、文化など幅広い分野での日印協力を推進することを目的としていました。

2008年、安倍首相はオーストラリアを訪問し、日豪間の「包括的戦略パートナーシップ」の構築を提案しました。このパートナーシップは、安全保障、経済、文化など幅広い分野での日豪協力を促進することも目的としていました。

2012年、安倍首相は政権に復帰しましたた。彼は引き続き「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを推進し、この地域の同盟国やパートナーとの関係強化に努めました。

2017年、米国、日本、インド、オーストラリアは、初の四極安全保障対話(Quad)を開催しました。クアッドは、安全保障、経済、海洋安全保障の分野で4カ国間の協力を促進することを目的としたミニラテラルです。

これらは、安倍首相のグローバルな視点に立った外交が、米国にどのような基盤を築いたかを示すほんの一例にすぎないです。

インド太平洋地域でミニラ寺リズムの先鞭をつけた安倍元首相

「自由で開かれたインド太平洋」という安倍首相のビジョンは、今やこの地域の多くの国々に共有され、中国の攻撃的な行動を抑止するのに役立つ新たな安全保障パートナーシップを発展させる原動力となっています。

インド太平洋地域におけるミニラテラリズムの台頭には、上記の歴史的事実のほかにもさまざまな要因があります。これらの要因には以下が含まれます。
  • 中国による脅威の増大
  • 米中関係の将来に対する不確実性の高まり
  • この地域の国々が自国の安全保障をよりコントロールしたいという願望
ミニラテラルは新しく発展途上の概念ですが、インド太平洋地域の将来において重要な役割を果たす可能性を秘めています。米国とその同盟国やパートナーが協力することで、中国の攻撃的な行動を抑止し、この地域におけるルールに基づく秩序を促進することができます。


インド太平洋地域におけるミ二ラテラリズムの台頭は、安倍元総理が夢見ていたインド太平洋同盟の始まりともいえる出来事です。亡くなってもまだ、世界を動かし続ける安倍元総理、本当にありがとうございました。私達は、このアベのレガシーをより強固に充実したものにしていこうではありませんか!


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2023年7月12日水曜日

中国の罠にはまった玉城デニー知事、河野洋平氏ら訪中団 仕掛けられた「沖縄分断」に…米国とズレた甘い対応の日本政府―【私の論評】1980年代、中共は日本はやがて消滅するとみていた、それを変えたのが安倍元総理!この流れはもう誰にも変えられない(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」

2019年 玉城デニー沖縄県知事と、安倍総理

 日本国際貿易促進協会(会長・河野洋平元衆院議長)の訪中団に参加していた沖縄県の玉城デニー知事は先週、中国共産党序列2位の李強首相と会談した。

 しかし、玉城知事は尖閣諸島の問題に触れず、海警局船の連日の周辺海域侵入を黙認したと受け取られかねる状況になった。

 玉城知事は中国訪問時の査証(ビザ)の手続き簡素化や直行便再開を要請したが、米国務省は中国への渡航を再考すべきだと警告し、意見の相違が浮き彫りになっている。

 訪中団を歓待した習近平政権の狙いは政府と沖縄県を分断し、中国の影響力を高めることだと指摘されている。中国にとって沖縄は海洋進出にとって重要な拠点であり、玉城知事の訪中はその戦略の一環とみられている。

 玉城氏が訪中団に参加するのは2回目であり、中国側からの待遇は相当なものです。今回の訪問は台湾有事に備えた中国側の策略の一環とも考えられます。

 松野博一官房長官は6日の記者会見で、今回の河野氏と玉城氏が訪中し、李首相と会談したことに関し「歓迎する」と述べた。本来は「地方知事の行動にはコメントしない」とすべきでした。

 政府の対応には疑問が呈されており、米国は中国渡航について警戒を強めている。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になっって下さい。

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地球儀を俯瞰する外交 AI生成画像

都道府県知事などの外国訪問は国際親善に限定されるべきものであり、外交は外務省、場合によっては総理大臣が行うべきものです。

これにはいくつかの理由があります。第一に、外務省は効果的な外交を行うために必要な専門知識と経験を持っています。彼らは国際関係や異文化のニュアンスを深く理解しています。また、関係を構築し、日本の国益を増進するために利用できますし、世界中に張り巡らされた人脈も持っています。

第二に、外務省は国際舞台で日本を代表する責任があります。つまり、外務省には日本を代表して約束する権限があります。都道府県知事が外国の元首と約束をしても、日本政府を拘束するものではないです。これは混乱や誤解を招きかねないです。

最後に、外交政策に関しては、統一見解を維持することが重要です。日本政府の異なる部分が異なる国に対して異なる約束をすることは、国際舞台における日本の立場を弱めることになりかねないです。

もちろん、都道府県知事が外交目的で外国を訪問することが適切な場合もあります。例えば、当該国の地域の首長(道府県の知事や、市町村・特別区の長が)集まるサミットに知事が招待された場合、日本の利益を有意義な形で代表することができるかもしれないです。しかし、こうしたケースは例外であって、ルールではありません。

一般的に、外交は外務省が担当するのがベストです。そうすることで、日本の利益が効果的に代表され、国際舞台での統一戦線が確保されます。

外交とは、国家間の関係を築き、紛争を解決する技術です。世界における自国の地位を向上させ、自国の利益を促進し、他国とのパートナーシップを構築するのに役立つため、どの首相にとっても不可欠な手段です。

首相にとって外交には多くの利点があります。第一に、国際舞台での国のイメージ向上に役立ちます。首相が世界の指導者たちと会談し、関係を築くことは、その国が尊敬され、世界の舞台で活躍しているというメッセージを送ることになります。これは投資、観光、貿易の誘致に役立ちます。

第二に、外交は国の利益を促進するのに役立ちます。首相が他国と交渉する際、自国に有利な合意を取り付けようとすることができます。例えば、より良い貿易取引、新市場へのアクセス、安全保障問題での協力などを得ることができるかもしれないです。

第三に、外交は他国とのパートナーシップの構築に役立ちます。首相が他の世界の指導者と良好な関係を築けば、共通の目標に向かって協力しやすくなります。これは、気候変動、テロリズム、核拡散といった世界的な課題に取り組む際にも役立ちます。

ここで、安倍首相の外交について振り返っておきます。

2013年の訪米ではオバマ大統領と会談し、環太平洋経済連携協定(TPP)などさまざまな問題について話し合いました。

2014年の訪中では習近平国家主席と会談し、両国関係改善の方策について話し合いました。

2015年のインド訪問では、ナレンドラ・モディ首相と会談し、両国間の経済関係を強化する方法について話し合いました。


これらは、首相にとって外交がもたらすメリットのほんの一例にすぎないです。関係を築き、利益を促進し、パートナーシップを構築することで、外交は世界における国の地位を向上させ、目標を達成するのに役立ちます。

1956年から1987年まで中華人民共和国の副首相を務め、中国政府で最も権力のある人物の一人とされていた中国高官「陳雲」はオーストラリアを訪問したときに、日本についてある発言をしました。

その発言は、「日本という国はいずれ消滅する」というものです。彼は1982年、オーストラリアを訪問した際にこの発言をしました。彼は中国と日本の経済的な対立について語ったとされ、日本は「紙の虎」であり、いずれ崩壊するだろうと述べたとされています。

陳氏の発言は日本に対する脅しと広く解釈され、日本国内で大きな怒りを買いました。しかし、陳氏は後に、日本が文字通り消滅するという意味ではなく、いずれ経済的な優位性を失うという意味であったと、自身の発言を明らかにしています。

陳雲氏の発言は、中国と日本の長年のライバル関係を思い起こさせるものです。両国には複雑な歴史があり、経済問題や領土問題でしばしば対立してきました。しかし近年、両国は関係改善に努めてきました。

2008年、日中両国は自由貿易協定に調印し、気候変動や核不拡散などの問題でも協力しています。両国が歴史的な対立を乗り越え、真に平和的で協力的な関係を築けるかどうかは、まだわからないです。

ただ、陳雲は、「日本という国はいずれ消滅」すると語っており、現在からみると当時の日本野与党自民党はかなりリベラル色が色濃く、そのままであれば、確かにいずれ中国に何らかの形で飲み込まれてもおかしくはない状態でした。陳雲はそのことを語ったとみられます。そうして、当時の自民党の主流であったリベラル派のお粗末ぶりをみて、彼らは与しやすく、御しやすく本気でそう思っていたことでしよう。

このことに脅威を抱いた、安倍晋三氏が首相になってから、特に第二次安倍政権においては、安倍首相は地球儀を俯瞰する外交といわれたように、様々な国を訪問し、あれよあれよという間に、中国包囲網を構築してしまいました。しかも、中国にこれに対抗する暇も与えず、急速に構築したのです。

この包囲網は現在では、米国をはじめとする西側諸国を中心として、他の地域も巻き込んだ大規模なものになっています。これは、構造的変化といっても良いようなものになっています。

この流れを変えることは難しく、中国はかなり脅威を感じていることでしょう。だからこそデニー知事の訪問は、渡りに船であったのでしょう。

渡りに船 AI生成画像

ただ、安倍総理は、在任中に日本の同盟国や、親しい国々と中国のとの関係を、完璧に変えてしまいました。それも、根底から、質的に完璧に変えてしまいました。今や、中国が世界秩序を変えて、自分たちに都合の良い秩序を樹立しようと試みていることは、世界中の国々が理解するようになりました。これは安倍外交の成果です。

この流れは、デニー知事などの努力で到底変えられるものではありません。それは、韓国の文在寅前大統領が、北朝鮮との関係を改善しようとしたものの、結局のところ文は、金正恩掌で転がされ続け、結局金づるにされただけで、最後にかえって関係が悪化したことをみても理解できます。仮にデニー知事に賛同して、自民党の現在の重鎮たちがそれを変えようとしても、多くの国々がそれを許さないでしょう。 

ただ、韓国で文在寅が台頭したように、自民党のリベラル派やデニー知事などが台頭すれば、結局大きな流れは変えられないでしょうが、それでもかなり後退することになる可能性があることには留意すべきでしよう。

まさに、中国はこれを狙っているのでしょう。文在寅時代の韓国のように時代の潮流に乗り遅れることだけは避けるべきです。

せっかく安倍晋三氏によって、日本は存在感を増し世界の中でリーダーシップを発揮できるようになったのですから、これからも世界の中で先頭を走り続けるべきです。

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2023年7月11日火曜日

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高橋洋一「日本の解き方」

「ゼロリスク」思考の落とし穴

 ゼロリスク思考とは、リスクをゼロにすることを目指す思考のこと。この思考は、東京電力福島第1原発の処理水放出への反対や、マイナンバーをめぐるトラブル追及の背景にあると考えられている

 国際原子力機関(IAEA)は、福島第1原発の処理水について、日本による海への放出計画が国際基準に合致しているとする最終報告書を公表した。この報告書では、処理水の放出が人や環境に与える影響は無視できる程度だとしている。

 しかし、それでも処理水の放出に反対する人はいる。彼らは、「人や環境へのリスクはゼロでない」という言い方をする。筆者は、「今この場で隕石が降ってきて死ぬリスク(確率)はゼロでないが、無視しているではないか」と答えるようにしている。

 マイナンバーカードでも、保険証へのひも付けが7000件ほど間違っていたと報じられると、「あってはならない」「もし自分がそうなったらどうするのか」と言う人がいる。そういう時、筆者は「1.5万人に1人なのでめったに当たらない、宝くじを30枚購入して100万円が当たるようなものだ」と答える。

 それでも、リスクはゼロであるべきだという「ゼロリスク思考」の人は、はじめから確率を聞こうともしない。

 世の中に100%安全はなく、リスクは何%程度かという程度問題にすぎない。しかし、人はしばしばリスクを「有」「無」の二分法で考え、ゼロリスクを求める。

 というのは、筆者はリスクを数量的な確率で考えるが、一般の人たちはリスクを確率でなく、「恐ろしさ」と「未知なもの」という2つの因子で認識しがちだ。これは、米国の心理学者ポール・スロビック博士が提唱した考え方だが、その結果、リスクを「有」「無」の二分法で考えることに陥りがちなことをよく説明している。

 加えて、人は定量的な理性より「有」「無」の直感が優位に立つ。2002年ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマン博士のいうように、直感は「速い思考」であるのに対し、理性は「遅い思考」なのだ。筆者もその例外ではないが、遅い思考をできるだけ速く行い、速い思考を抑えているだけだ。

 リスクを「有」「無」の二分法で考えないようにするためには、リスクを定量的に日常で体感できるものと比較するのがいいだろう。筆者がよく使うのは前述の宝くじのほか、交通事故率や天気予報の降水確率だ。

 交通事故の死者・重傷者数は年間約3万人で、保険証のひも付けミスに遭う確率はそれより低い。降水確率は0%と表記するが、気象庁は「ゼロ」でなく「れい」と発音している。降水確率0%は0~5%の意味なので、「れい」(零)のほうが適切だ。この場合、ほとんどの人が傘を持たないが、まれに雨に降られることもある。保険証のひも付けミスに遭う確率は、降水確率0%で雨に降られるよりもはるかに低い。

 悪質なのは、リスクを確率で考えられない人の弱みにつけ込んで、「安全より安心」などという人たちが後を絶たないことだ。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】まともな過程を通じて意思決定する習慣をもたなければ、重要な意思決定ができなくなる(゚д゚)!

上の記事では、高橋洋一氏は、心理学者の理論についてあげらていますが、私は、「ゼロリスク」思考の落とし穴を考える上で、ピーター・ドラッカーの意思決定論が非常に有用であると考えます。ドラッカーは、意思決定は直感や勘の問題ではなく、体系的なプロセスであると主張しました。彼は意思決定プロセスにおける5つのステップを挙げています。

ドラッカー

問題を定義する。リスクの高い決断に直面したとき、問題を明確に定義することが重要です。決断すべきことは何か?それぞれの決断がもたらしうる結果は何か?

ドラッカーは著書『エフェクティブ・エグゼクティブ』の中で、新製品に投資するかどうかの決断を迫られたマネジャーの例を挙げています。マネジャーは決断を下す前に、問題を明確に定義する必要があります。投資の目的は何か?潜在的なリスクと利益は何か?

選択肢を特定する。問題を定義したら、可能性のある解決策をすべて洗い出す必要があります。これは難しい作業かもしれないですが、徹底することが重要です。可能性のある解決策を見落とさないようにしたいです。

この場合、マネジャーは新製品に投資するか、別の製品に投資するか、まったく投資しないかの選択肢をあげます。

情報収集。代替案を特定したら、それぞれの代替案に関する情報を集める必要があります。この情報は、各代替案のリスクとベネフィットを評価するのに役立ちます。

情報を分析する。情報を集めたら、それを注意深く分析する必要があります。これには、各代替案のリスクとベネフィットを検討し、それらを互いに比較検討することが含まれます。

決断を下す。最後に、決断を下す必要があります。これは意思決定プロセスの中で最も難しい部分ですが、同時に最も重要な部分でもあります。組織にとって最善の利益をもたらす選択肢を選ぶ必要があります。

ドラッカーの意思決定理論は、「ゼロリスク」思考の落とし穴を避けるのに役立ちます。なぜなら、すべての選択肢を検討し、各選択肢のリスクとベネフィットを慎重に天秤にかけることを強いられるからです。また、感情や直感に基づく意思決定を避けるのにも役立ちます。

ドラッカーは著書『Efective Executive(邦題:経営者の条件)』の中で、「リスクゼロを目指す経営者は、成果ゼロを達成する」と書いています。そして、"計算されたリスクを取ることを厭わない経営者は、大きな成果を達成する "と述べています。

ドラッカーが言いたいのは、リスクを恐れるべきではないということでしょう。しかし、無謀であってはならないです。それぞれの決断のリスクとベネフィットを慎重に検討し、組織にとって最善の利益をもたらす決断を下すべきです。

ピーター・ドラッカーは、ゼネラル・モーターズ会長アルフレッド・スローンを例に、意思決定プロセスにおける反対意見の重要性を説きました。スローンは、会議で反対意見が出なければ、その決定は適切に検討されていないと考えていました。彼は、問題のあらゆる側面が検討されたことを確認するために、しばしば自分の提案に反対するよう人々に求めました。

アルフレッド・スローン氏

これは、意思決定の前に情報を集め、それを注意深く分析することの重要性を強調するドラッカーの意思決定論と一致しています。反対意見を求めることで、スローンは各決断の潜在的なリスクとベネフィットをすべて考慮するようにしていました。これにより、彼はより良い決断を下し、感情や直感に基づく決断を避けることができました。

スローンの意思決定に対するアプローチは、計算されたリスクを取る方法の良い例です。反対意見を求めることで、彼は各決断の潜在的リスクを確実に認識していたのです。しかし、彼は多少のリスクを伴う決断も厭いませんでした。それが大きな成果を上げる唯一の方法であることを知っていたからです。

意思決定のためには、正しい妥協をすることも重要です。なぜなら、大方の意思決定は、理想通りにはいかず、妥協を迫られることがほとんどだからです。しかし、妥協でも、して良いものとそうではないものがあります。

ソロモン王の裁き 半分のパンは食用になるが・・・・・・

ピーター・ドラッカーは、ソロモン王の統治を例に、意思決定において正しい妥協をすることの重要性を説きました。その物語の中で、二人の女性が赤ん坊の母親だと称してソロモンのもとを訪れました。

ソロモンは赤ん坊を半分に切り、それぞれの女性に与えるよう命じました。しかし、本当の母親は赤ん坊を助けてくれるようソロモンに懇願したが、もう一人の女性は無関心でした。ソロモンは、本当の母親は子供のために自分の利益を犠牲にすることを厭わない人だと悟ったのです。半分のパンは、食用になりますが、半分の赤ん坊は意味がありません。

しかし、多くの人は半分のパンのつもりで、半分の赤ん坊を選んで、意思決定を台無しにしてしまうのです。

この物語は、関係者全員にとって公平な妥協をすることの重要性を示しています。意思決定においては、両者が満足する中間点を見つけることがしばしば必要です。しかし、その妥協案が公平なものであり、一方の当事者に有利なものでないことを確認することが重要です。

ドラッカーは、正しい妥協をすることがリーダーの重要なスキルであると主張しました。リーダーには、さまざまな利害関係者のニーズのバランスをとり、誰にとってもうまくいく解決策を見出す能力が求められます。正しい妥協をすることで、リーダーは信頼と協力を築き、目標を達成することができます。

ドラッカーは『エフェクティブ・エグゼクティブ』の中で「リスクゼロを目指す経営者は、成果もゼロだ。計算されたリスクを取ることを厭わない経営者は、大きな成果を上げるだろう。そうして、適切な妥協を厭わない経営者は、永続的な成果を達成する」と述べています。

無論上記の例は、企業などで重要な意思決定をするためのプロセスなどを解説したものです。ただ、普段から、まともなプロセスを通じた意思決定の習慣をもたなければ、重要な意思決定などできません。

単に、テレビ等で報道された内容だけで、「ゼロリスク」思考で、処理水反対、マイナカード反対などの意思決定をする人には、正しい意思決定ができるようにはならないでしょう。

正しい意思決定のプロセスを経た上で、物事を決断する習慣をつけるべきです。そうでないと、リスクを確率で考えられない人の弱みにつけ込んで、「安全より安心」などという人たちに、操作され続けることになるでしょぅ。

処理水や、マイナカードに対して賛成する反対するにしても、正しい意思决定のプロセスを経て決定するべきです。そうして、正しい妥協をするべきです。まともな過程を通じて意思決定する習慣をもたなければ、重要な意思決定ができなくなります。

現状では、対話型AIが普及しつつあります。AIがさらに発達したにしても、最終的に意思決定するのは今でも将来でも人間が行うことになるでしょう。AIは一つの課題に関して、いくつかの答えを出せるかもしれません。そこから、答えを選択するのは人間です。AIが一つの答えを出したにしても、それを実行するしないは人間が判断することになるでしょう。最終的な意思決定こそ、人間に残された最後の領域となるでしょう。

現在ならば、正しい意思決定ができない人でも、マスコミなどで受け入れられる余地はあるでしょうが、あと10年もすれば、マスコミはますます衰退することと、AIが発展することから、それもなくなるでしょう。将来の生活を守るといった意味合いでも、多くの人が正しい意思决定のプロセスを学ぶべきと思います。


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2023年7月10日月曜日

「多臓器不全」に陥った中国経済―【私の論評】何度でも言う!中国経済の低調の真の要因は、国際金融のトリレンマ(゚д゚)!

「多臓器不全」に陥った中国経済


 2023年7月6日、米国のイエレン財務長官が中国を訪問しました。これは、約5年ぶりのこと。

 同月1日、中国は「対外関係法」を施行しました。これは、習近平政権が長年、蓄積してきた外交原則(「戦狼外交」)を合法化し、米国の「ロングアーム管轄権」(被告が当該州に所在していない場合であっても、被告がその州に最小限度の関連がある時、当該州の裁判所に裁判管轄が認められる)への対抗を目的としている。

 中国経済が低迷する中、李強首相は多くの経済学者を集めて会議を開き、経済を救うための助言を求めた。

 専門家らは、李強率いる国務院(内閣)が今の中国経済をどうすることもできないと匙を投げた。問題の根源は中南海にあり、習主席が米国に対抗しようと固執している限り、経済危機は相次いで発生し、救済策はないと分析している。

 台湾のエコノミスト、呉嘉隆によれば、現在の中国経済は、(1)不動産価格の下落、(2)地方政府の債務過多、(3)外資の受注撤回と逃避、(4)雇用悪化、と複数の危機が同時に噴出し、いわば“多臓器不全”の状況ではないかという。

 呉嘉隆が指摘した問題点を具体的に述べてみよう。

 まず、第1に、米不動産コンサルティング大手、戴徳梁行(Cushman & Wakefield)は、深圳のトップ商業オフィスビルの空室率が2023年上半期には24.5%にものぼるとの新たなレポートを発表した。

 空室率の高さから、大家はテナントを誘致するため値下げに踏み切り、今年上半期の賃料水準は、2018年同期比で28.6%も急落し、中国メディアもより悲観的な予測を発表している。

 第2に、海外メディアは中国の地方政府債務をアジアでナンバー1の金融リスクに挙げている。専門家は、同リスクが最大の地雷原であり、中南海はこの地雷原がどれほどの大きさで、いつ爆発するかわからないため、現状を「だらだら引き延ばす」しかないという。

 7月3日、公債発行データによれば、今年上半期の地方債発行額は約4兆4000億元(約86兆6800億円)だったと、中国メディア『第一財経』が報じました。前年同期の5兆3000億元(約104兆4100億円)を約17%下回ったものの、依然として高水準にある。

 このうち、新規発行が約2兆7400億元(約53兆9780億円)、借換債が約1兆6200億元(約31兆9140億円)で、全体の約37%を占め、古い借金の返済に充てられている。

 なお、今年、地方政府の債務返済額は3兆6500億元(約71兆9050億円)にのぼるとみられる。

 第3に、2021年から現在に至るまで、国際市場と技術、管理、受注、国際協力、国際分業などによる中国の輸出主導経済発展の契機は消えてしまった。

 サプライチェーンはまだ全部は移転されていないので、東莞の工場などはまだ一部残っている。問題の核心は、欧米市場からの注文が徐々に減っている点ではないか。

 注文がなくなり、労働者が解雇され、工場が倒産し、その機械設備や工場だけが残る。もし誰かがそれらを買収しなければ、スクラップとなって中国経済バブルの残骸となるだろう。
第4に、中国人力資源・社会保障部の予測によると、2023年の中国の大学卒業者は1158万人に達し、新記録を樹立するという。

 目を見張るのは、「BOSSダイレクト・リクルートメント」が第1四半期だけで1461万人の新規ユーザーを獲得し、前年同期比57.5%増と急増した。多くの人が仕事を失って転職市場に押し寄せている証とみられる。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】何度でも言う!中国経済の低調の真の要因は、国際金融のトリレンマ(゚д゚)!

私にとっては、上の記事は驚きです。多くの識者やマスコミ等は、中国経済の現象面だけを捉えていて、根本原因を述べません。国際金融のトリレンマは中国の経済政策にとって大きな制約であり、中国経済がこのような困難な状況に陥っている主なというか、最大の原因の一つです。

悪化する中国経済 AI生成画像

国際金融のトリレンマについては、このブログの読者であれば、過去に何度か説明させていただいたので、ご存知とは思いますが、ご存知ない方のために再度以下に説明します。国際金融のトリレンマとは、ある国が同時に以下の3つの政策を同時に実行することはできないという経済学の概念です。できるのは、せいぜい2つの政策です。概念とはいいながら、数学的にも経験則的にも証明されています。
  1. 固定為替レート
  2. 独立した金融政策
  3. 自由な資本移動
ある国が固定相場制を維持したいなら、独立した金融政策を持つことを諦めなければならないです。なぜなら、為替レートを固定したいのであれば、外国為替市場に介入して自国通貨を売り買いしなければならないからです。この介入は、その国の金融政策に大きな影響を与える可能性があります。

例えば、ある国が為替レートの固定を維持したいと考え、自国通貨の価値が下がり始めた場合、中央銀行は自国通貨を買って価値を下支えする必要があるかもしれないです。これによって国内の通貨供給量が増え、インフレにつながる可能性があります。

同様に、ある国が独立した金融政策を望むのであれば、為替レートを固定することをあきらめなければならないです。中央銀行が金利の上げ下げを可能にしたいのであれば、固定為替レートに縛られるわけにはいかないからです。

最後に、ある国が自由な資本移動を望むのであれば、固定為替相場制や独立した金融政策を実施す能力を放棄しなければならないです。資本が自由に出入りすれば、中央銀行は通貨価値や金利をコントロールできなくなるからです。

中国は、国際金融のトリレンマに直面している国の良い例です。

中国は、国際金融のトリレンマに直面している国の良い例です。中国は固定為替レートを採用していますが、同時に独立した金融政策を望んでいます。このことが、インフレや経済の不安定化など、中国にとって多くの問題を引き起こしています。

このトリレンマを解決するためには、中国は固定相場制を諦め返答相場制に移行するか、独立した金融政策を諦めるか、自由な資本移動を諦めるかのいずれかを選択する必要があります。これは難しい選択であり、簡単な答えはなです。

以下は、中国が考えうる解決策です。

固定相場制を放棄し、通貨価値の変動を認めるのです。そうすれば、中央銀行の金融政策の柔軟性は増すでしょうが、通貨の変動は大きくなるでしょう。

独立した金融政策を放棄し、通貨価値を米ドルなど他の通貨に連動させることです。そうすれば通貨価値は安定しますが、金融政策で経済を管理する能力も失うことになります。そうして、今の中国がまさにこの状態にあります。

資本規制を実施し、資金の出入りを制限します。これにより、中国は固定為替レートと独立した金融政策を維持することができますが、中国での企業活動はより困難になでしょう。

中国にとって最善の解決策は、国の経済目標や政治情勢など、さまざまな要因によって異なるでしょう。しかし、国際金融のトリレンマは、中国が直面する現実的な課題です。

メディアや識者は、不動産価格の下落や失業率の上昇など、中国経済問題の現象的な側面に焦点を当てることが多いです。しかし、これらの問題は、国際金融のトリレンマという深い問題の一症状に過ぎないのです。

中国がこのトリレンマから脱却する方法を見つけることができない限り、中国が経済を改善し、若者の雇用を創出することは難しいでしょう。

中国の現状を理解するためには、国際金融のトリレンマを理解することが重要です。これは複雑な問題ですが、中国の経済問題や直面している課題を理解するためには、この問題を理解することが不可欠です。

メディアや識者が国際金融のトリレンマについてほとんど言及しない理由をいくつか挙げてみましょう。

これは、複雑な問題であり、単純に説明するのが難しいです。特に、経済音痴のマスコミなどは、一つのことで頭がいっぱいになるのに、国際金融のトリレンマは、3つのことを同時に考えなければなりません。

さらに、これは新しい問題ではなく、何年も前から存在している問題ということもあるでしょう。

さらに、多くの人を耳目を引き付けるような問題ではないですし、見出しにもなりません。しかし、中国の経済問題や直面している課題を理解するためには、国際金融のトリレンマを理解することが重要だと私は思います。

それにしても、李強が集めた専門家たちが、国際金融のトリレンマについて一言も述べないのは不可思議です。問題の根源は中南海にあり、習主席が米国に対抗しようと固執している限り、経済危機は相次いで発生し、救済策はないと分析していますが、これは間違いです。


李強は専門家を集めたが、中国経済改善策はみつからなかった AI生成画像

根本要因は、国際金融のトリレンマにより独立した金融政策が実施できないことなのですから、たとえ米国が何の制裁を課さなかったとしても、中国経済はかなり落ち込んでいたでしょう。ただ、米国としては、中国がなにか事を起こした場合に、制裁するとい構えは維持しておきたいのでしょう。

イエレンもこのことは、知っていると思います。何もしなくても、中国経済は長いスパンでは、自滅すると踏んでいるでしょう。ただ、懸念しているのは、中国が変動相場制に移行するなどの大胆な改革をした場合、中国は人口が多いですから、内需だけでかなり経済を発展させることができますから、そうなれば、本当に米国の脅威になりえます。

ただ、今回の訪問でも、そのような話は一切でなかったのでしょう。イエレンとしては、様子見をしつつ、米国を毀損しない形で、効果のある中国制裁を模索していく腹でしょう。

ただ、私は習近平も、李強首相もこのことを知っているとは思います。しかし、中国が変動相場制への移行など、思い切った構造改革ができない理由は以下のことが考えられます。

政治的配慮。中国政府は、変動相場制は通貨をより不安定にし、金融市場の不安定化につながることを懸念しています。これはひいては社会不安につながりかねず、政府はこれを避けたいと考えているのでしょう。

経済的配慮。中国政府は、変動相場制によって輸出主導の成長モデルを維持することが難しくなることも懸念しているのでしょう。これは、変動相場制によって通貨が割高になり、中国の輸出競争力が低下するためです。

国内への配慮。中国政府はまた、変動相場制が経済のコントロールを失うことを懸念しているのでしょう。経済運営の重要な手段である通貨価値を政府が直接コントロールできなくなるからです。

こうした政治的、経済的、国内的な配慮に加え、中国が変動相場制に移行するために対処しなければならない現実的な課題も数多くあります。これらの課題には以下が含まれます。

強力な金融システムの必要性。変動相場制には、通貨の変動に耐えうる強力な金融システムが必要です。中国の金融システムはまだ比較的脆弱であり、これを強化する必要があります。

柔軟な労働市場の必要性。変動相場制には柔軟な労働市場も必要です。変動相場制は輸出入価格の変動につながり、それが労働需要の変動につながるからです。中国の労働市場はまだ柔軟性に欠けており、変動相場制を導入するには、より柔軟性を高める必要があります。

こうした課題を考えれば、中国が変動相場制への移行など、思い切った構造改革に踏み切れないのも理解できます。しかし、中国が長期的に成長と繁栄を続けたいのであれば、いつかは国際金融のトリレンマに対処する必要があります。これができない限り、中国は何をしようとも、弥縫策を繰り返すだけになり、何の解決にもなりません。

10年以上前の中国なら、以下のような多くの政策を実施することで、国際金融のトリレンマから逃れることができました。

過去の中国は国際金融のトリレンマから逃れることができた

為替レートの固定。中国は長年にわたり、自国通貨である人民元の価値を米ドルに対して固定してきました。これは経済を安定させ、企業にとって予測しやすくするのに役立ちました。

資本規制の実施。中国は資本規制を敷き、国内外への資金の出入りを制限しています。これは人民元の変動が経済に影響を与えるのを防ぐのに役立ちました。

独立した金融政策の利用。中国は独立した金融政策で経済を管理してきました。これによって、政府は金利やその他の金融政策ツールを調整し、経済状況に対応することができるようになりました。

こうした政策は、中国が国際金融のトリレンマから逃れ、不況から素早く立ち直るのに役立ってきました。しかし、状況は変わりつつあります。中国経済が世界経済との一体化を深めるにつれ、人民元を固定し、資本規制をかけることが難しくなっています。そのため、中国が独自の金融政策で経済を管理することが難しくなっています。

李強が集めたという専門家らは、固定相場制から変動相場制に移行するなどの、根本的な構造改革は抜きにして、当面の弥縫策を求められたのかもしれません。だとしたら、確かに匙を投げざる負えないです。

その結果、中国は多くの課題に直面しています。国際金融のトリレンマのバランスを取る方法を見つけなければ、将来的にさらなる経済の不安定化に直面することになるでしょう。これを防ぐには、金融システム改革等様々な改革をしつつ、段階的に変動相場制に移行するしかないでしょう。

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