2024年5月21日火曜日

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発―【私の論評】テロ組織ハマスを、民主国家イスラエルと同列に置く、 国際刑事裁判所の偏り

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発

まとめ
  • ICCのカーン主任検察官がガザでの戦闘に関連して、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、ハマスの幹部3人に対する逮捕状を請求。
  • ネタニヤフ首相はICCの決定に強く反発し、米国や英国からも批判が出ている。
  • ICCはイスラエルがパレスチナ民間人に対する広範な攻撃と必要物資の組織的な奪取を行った証拠を示し、戦争犯罪の責任を問う。
  • 米国と英国はICCの行動を批判し、逮捕状請求の正当性と影響に疑問を呈した。
  • 南アフリカはICCの逮捕状請求を支持し、国際法の遵守を強調。
国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察

 国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は、ガザでの戦闘に関連して、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、ならびにハマスの幹部3人に対する戦争犯罪および人道に対する罪の疑いで逮捕状を請求した。これに対し、ネタニヤフ首相は強く反発し、米国や英国からも批判が相次いだ。逮捕状発行の決定は今後予審裁判部が判断する。

 カーン氏は、イスラエルが国際人道法を順守せず、パレスチナ民間人への攻撃を行い、必要な物資を奪ったことにより、ネタニヤフ首相らが戦争犯罪に関与したと指摘した。一方、ハマスの幹部は逮捕状請求を批判し、取り消しを求めた。

 ネタニヤフ首相はICCの決定を「新たな反ユダヤ主義」と非難し、イスラエルとハマスを同一視することは不合理だと述べた。イスラエルのヘルツォグ大統領も、テロリストとイスラエル政府を同等に扱うことに強く反対した。

 米国と英国もICCの行動を批判し、バイデン米大統領は逮捕状請求を「言語道断」と非難した。ブリンケン国務長官は、ICCの管轄権に疑問を呈し、交渉への悪影響を懸念した。英国のスナク首相の報道官も同様の見解を示した。

 一方、南アフリカは逮捕状請求を支持し、国際法の支配を守るために法の平等な適用を訴えた。南アフリカはイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】テロ組織ハマスを、民主国家イスラエルと同列に置く 国際刑事裁判所の偏り

まとめ
  • ハマスはテロ組織であり、イスラエル国家の破壊とユダヤ人虐殺を目的としている
  •  ハマスは無辜の民間人を虐殺してきた経緯があり、民主主義国家のイスラエルと同列に置くべきではない 
  • ハマスは2016年のパレスチナでの選挙での勝利を、自らの過激路線の正当性が承認されたと主張し、これを武装闘争継続の口実としている 
  • 国際刑事裁判所(ICC)はイスラエルを不当に標的化する一方、他の深刻な人権侵害事例を見過ごしてきた 
  • ICCの活動は政治的思惑の影響を受けやすく、「国際」機関だからと公平中立を期待するのは危険
これは、ハマスとイスラエル国家の本質を誤って理解している典型例といえます。ハマスはテロ組織そのものであり、イスラエル国家の破壊とユダヤ人の虐殺を目的としていることを明確にすべきです。ハマスは、無辜の民間人の血に手を染めてきました。民主的で法の支配を重んじる国家であるイスラエルと同列に置くことは全く的外れとしかいいようがありません。

ハマスの戦闘員の子ども

ハマスは2006年のパレスチナ自治政府の議会選挙で過半数を獲得し、事実上パレスチナ自治政府を掌握したため、パレスチナ人民の自らに対する正当な支持と、イスラエルへの抵抗の正当性が認められた証左だと位置づけています。

具体的には、ハマスの指導者たちは次のように述べています:

「われわれは民主的な選挙を通じて正統な権力を手にした。パレスチナ人民は武装闘争路線を支持した」(イスマイル・ハニーヤ元首相)

「選挙勝利でわれわれの闘争が正当なものと承認された。これは武装闘争の継続を意味する」(ハマス政治局長ハーレド・マシャール)

つまり、ハマス自身は選挙勝利を、イスラエルへの武装抵抗とイスラエル占領の排除という自らの過激路線の正当性が民主的に承認されたと主張しています。

しかし、選挙はテロリスト集団を一夜にして正統な政権に置き換える魔法の杖ではありません。さらに、今年は2024年であり、2016年から8年経過しています。あれから世界情勢もかなり変化しています。

現在では、米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているといいます。この合意が成立すれば、中東は一変する可能性があります。

サウジのサルマン国王とバイデン米大統領(2022年7月)

これが、成立すればハマスなどのテロ組織は存在意義を失う可能性もありますし、これには反対する国々も多いです。

真の民主主義とは選挙の実施以上のものであり、法の支配、人権尊重、近隣国との平和共存を旨とするべきなのです。ハマスはこれらの原則を無視し続けてきました。

国際刑事裁判所もイスラエルや民主主義の味方とは言い難いところがあります。世界中の独裁国家やテロリスト集団の遥かに残虐な蛮行は見過ごしながら、イスラエルのみを繰り返し標的にしてきたところがあります。ハマスの無言の挑発によるロケット攻撃やトンネル工作から自国を守ったイスラエル指導者を訴追しようというのは正義の判断とは言い難いです。

国際刑事裁判所(ICC)がイスラエルを不当に標的にしてきた一方で、他の深刻な人権侵害事例を見過ごしてきた具体例をいくつか挙げます。

シリア内戦における アサド政権による市民虐殺 

シリア政権軍はシリア内戦で何十万人ものシリア市民を殺害し、化学兵器さえ使用したが、ICCは訴追をしていない。
ミャンマ―のロヒンギャ迫害

ミャンマー軍はイスラム教少数民族ロヒンギャに対する虐殺、強姦、焼き討ちなどの蛮行を繰り返したが、ICCはミャンマーに対する捜査を実施していない。
イェメン内戦における民間人虐殺 

サウジアラビア主導の有志連合(アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、バーレーン、エジプト、モロッコ、ヨルダン、スーダン、セネガル)は、イェメン内戦で無差別爆撃を行い、1万人を超えるとされる多数の民間人を殺害しましたが、ICCはこれを追及していません。
中国の新疆ウイグル人強制収容

 中国政府は100万人以上のウイグル人をキャンプに強制収容しているが、ICCはこの深刻な人権侵害に全く着手していません。
一方で、ICCがイスラエルを不当に標的化しているとの批判の具体例として挙げられているのが、2015年から進めている「状況についての予備的検討」です。

この捜査の対象となっているのは、以下の2点です。
  • 2014年の第3次ガザ紛争(いわゆるガザ地区での戦闘)におけるイスラエル軍とハマスの双方による可能性のある戦争犯罪行為
  • イスラエルによる西岸地区での入植活動の適法性
特にイスラエルによる西岸地区入植活動については、ICCがパレスチナ側の要請を受けて捜査に乗り出したことで、イスラエルからは強く反発されています。

イスラエルはICCの管轄権を認めていないため、ICCの一方的な捜査自体に疑問を呈しています。また、パレスチナ自治政府をあくまで「観察体制実体」と見なすイスラエルは、ICCがパレスチナを国家として扱うことに反対の立場です。

「観察体制実体」というのは、国連総会が1998年に定めた用語です。

具体的には、「パレスチナ人民の権利の行使のための暫定的措置」と呼ばれるもので、パレスチナ解放機構(PLO)に対し、国連における一定の権利と特権を与えるものです。

つまり、パレスチナには国家として完全な資格はないものの、国連の場においては「準国家的」な立場が認められているということです。

国連での発言権、議案・決議への参加資格、国連機関への参加資格などが認められています。しかし、国連加盟国としての完全な地位は与えられていません。

イスラエルは、パレスチナにこうした「準国家的」地位さえ与えることに反対しており、あくまでも「観察体制実体」にすぎないと主張しています。

つまり、イスラエルはパレスチナを主権国家とは認めていないため、ICCがパレスチナを「国家」と見なして捜査を行うことに強く反発しているのです。この点が、ICCの捜査をめぐる大きな争点の1つとなっています。

国際刑事裁判所

このように、ICCがイスラエル批判に終始する一方で、シリアやイエメンなど他の深刻な人道問題を見過ごしていることから、多くの専門家はICCに偏りがあると指摘しているのが実情です。

パレスチナ自治区に関する捜査に乗り出すなど、ICCはイスラエルのみを不当に標的化する偏りがあると指摘されています。多くの専門家から、ICCの公平性と中立性が疑問視されている状況です。

多くの日本人は「国際司法裁判所」など「国際」と名前がついている組織は無条件に公正中立であり、「正義」であり「権威」と思ってしまう傾向があるようですが、必ずしもそうではありません。

確かに、国連をはじめとする国際機関は、特定の政治的イデオロギーや勢力から影響を受けやすい側面があります。

例えば、ICCの場合、制裁対象となる国への捜査開始を牽制しようと、中国やロシアなどの権威主義国家が外交的な圧力をかけることが多々あります。自国の利益を損なわぬよう、国際機関が行う捜査や調査の対象を、特定の国や勢力に有利または不利になるよう操ろうとするのです。

一方で、イスラエルに対する偏った批判姿勢は、中東諸国や反米、反イスラエル的な左翼勢力の影響が強いと指摘されています。国連や関連機関に対し、アラブ系や強硬なイスラム過激派系の圧力があるのが実情です。

つまり、国際機関は理想的な正義の実現を目指すというよりも、様々な勢力の政治的思惑や利害が絡む駆け引きの場ととらえた方が現実的であり、単に「国際」の名が付いているからといって、常に公正中立であると考えるのは危険なのです。

今回のICCの動きは、イスラエルの自衛権を切り崩し、その存在意義さえ否定しようとする試みの一環と言えるでしょう。テロリストハマスと国家としてのイスラエルの誤った対等関係に惑わされてはならないです。

私たちはこの動きに強く立ち向かい、イスラエルは中東の民主主義と自由の象徴であり、根拠のないこうした非難があっても味方でありつづけるべきことを明確にしなければならないです。

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2024年5月20日月曜日

台湾・蔡英文総統、20日退任 存在感向上、末期まで支持失わず―【私の論評】蔡英文政権の成功と、 アジアのリーダーにありがちな金融財政政策の失敗

台湾・蔡英文総統、20日退任 存在感向上、末期まで支持失わず

まとめ
  • 蔡英文総統は2期8年の在任中、米国など国際社会との連携を強化し、台湾の存在感を高めた。
  • 中国との対話は実現せず緊張が続いたが、極端な言動は控え、武力行使の口実を与えなかった。
  • 防衛力強化と米国との安全保障協力を進めた一方、経済面でも台湾の重要性が高まった。
  • 国内では同性婚合法化など改革に取り組んだが、年金改革で既得権益層から反発も受けた。
  • 退任間近の世論調査では前政権より評価は良好で、民進党3期目の政権発足を後押した。
  • 2期8年にわたる蔡英文総統の在任期間は、中台関係の緊張が続く中で、台湾の国際的存在感を高める一方、国内改革にも取り組んだ時期だった。

蔡英文総統

 中国は、蔡氏や民進党を「台湾独立」を目指す勢力とみなし、統一に向けた圧力を強めた。しかし蔡氏は「現状維持」の方針を堅持し、対話も呼びかけたものの、中国との溝は深まった。そのため政権は防衛費増額や潜水艦など軍備の自主開発を進め、安全保障上の「後ろ盾」となる米国との連携を一層密にした。

 一方で、中国に武力行使の口実を与えない慎重な対応を心がけ、蔡氏自身は極端な言動は控えた。この間、半導体産業などで台湾経済の重要性が高まり、米国のペロシ下院議長の訪台など、欧米諸国からの関心も高まっていった。

 国内では同性婚の合法化や先住民の権利保護など、様々な改革に取り組んだ。しかし年金制度改革では既得権益層からの反発を受け、一時的に支持率が低迷する時期もあった。ただ、2020年の再選では香港情勢を受けて中国の「一国二制度」への拒否感から支持を集め、勝利した。

 退任を控えた世論調査では「満足」が42%、「不満」が46%と割れたが、前政権と比べると評価は良好で、蔡氏への一定の支持が民進党3期目の政権発足を後押ししたと言える。

 中台の緊張は根強く残るものの、蔡政権期の8年間で台湾の存在感は確実に高まり、国際社会での役割が拡大した一方、内政でも一定の改革の足跡を残した、という評価ができるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】蔡英文政権の成功と、 アジアのリーダーにありがちな金融財政政策の失敗

まとめ
  • 蔡英文政権の支持率は時期によって大きく変動し、退任前には40%台に低下した。コロナ対策の不備が一因とされた。
  • 安全保障面では国防力の近代化を進め、軍事費増額、新兵器開発、在台米軍容認など米国との連携を強化した。
  • 経済面では減税はしたものの大局的には抑制的であり、金融緩和が不十分で中小企業や家計への資金供給が不足した。
  • エネルギー政策は原発ゼロ化で電力不足リスクが高まり、ロシアLNG依存によりエネルギー価格の高騰を招いた
  • 改革に取り組む一方で、マクロ経済政策は失敗し、既得権益層からの反発や若年層の不満があった。
台湾の蔡英文政権の支持率について、いくつかの情報源からデータをまとめてみます。

2020年台湾総統選挙と第2期蔡政権の課題(アジア経済研究所)によれば、蔡英文総統の支持率は以下のように推移しています。
  • 2016年6月: 約70%
  • 2020年1月: 約50%前後(新型コロナウイルス対応による評価上昇)
  • 2022年12月: 約37.5%(急落)
別の各種民間世論調査によれば、蔡英文総統の支持率は一時70%を超えたものの、現在は50%前後に低下しているとされています。

また、新型コロナウイルス感染拡大の抑制において「優等生」とされていた台湾で、感染対策の不備とワクチン接種の遅れが政治問題化し、蔡英文総統の支持率が急減していると報じられていました。これらの情報から、蔡英文政権の支持率は様々な要因によって変動していることがわかります。

中央感染症指揮センターの陳時中指揮官

台湾の蔡英文総統は、安全保障と経済の両面で大きな実績を残しています。

安全保障面では:

国防力の近代化と強化を進め、軍事費を着実に増額してきた。特に海空軍力の強化に注力した。
  • 在台米軍の駐留を事実上容認し、台湾有事の際の米軍支援体制を整備した。在任中に潜水艦を自主開発できるようにし、抑止力を強化した。
  • 新型の長距離巡航ミサイルの開発・配備を推進し、台湾の抑止力を高めた。
  • 国民の防衛意識向上に尽力し、徴兵制の堅持、予備役訓練の強化などに取り組んだ。
経済面では:
  • 減税政策で国内需要を喚起する方針をとった。
  • コロナ禍で深刻な景気後退に見舞われたが、大規模な金融・財政支援策を講じ、企業と国民の下支えに努めた。
  • 対中経済依存からの脱却を目指し、「新南向政策」により東南アジア諸国との経済連携を深めた。
  • CPTPP、RCEP等の経済連携に参加することで、台湾の貿易・投資環境を整備した。
  • ハイテク産業の国際競争力を維持・強化するため、半導体等の重要産業への支援を拡大した。
  • 経済の安全保障重視の観点から、医療・防衛関連産業の国内回帰を後押しした。
以上のような政策によって、マクロ経済の安定と企業活動の下支えを図りつつ、中長期的な成長力の確保を目指した、と評価できます。

その一方で失敗したといわれる政策は以下です。

蔡英文総統の政権における主な失敗・批判された政策は以下のようなものがあげられます。

エネルギー政策:
  • 原発ゼロ政策の推進により、電力不足リスクが高まった。
  • ロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入比率が高く、ロシア産LNGの調達リスクが高まった。
  • ロシア産LNGへの代替が進まず、電力供給の安定性が脅かされた。
  • 価格高騰によるエネルギーコストの増大で、国民生活と産業活動に大きな影響が出た。
経済済政策:
  • 金融・為替政策面では、台湾ドル高を懸念し、なぜか通貨安を故なく悪ととらえ、あまり意味のない為替介入を行った。
  • 財政規律の堅持と健全化を重視し、歳出増加を抑制するという抑制的な政策をとった
  • 金融緩和が不十分で、以下のような悪影響があった。
  • 特に中小企業への資金供給が不十分で、景気下支え効果が小さかった。
  • 家計の資産形成支援策が乏しく、個人消費を下支えする政策が弱かった。
  • デジタル金融などイノベーション促進に向けた金融環境整備が遅れた。
  • 賃金上昇が鈍く、物価高騰により国民の実質購買力が低下した。
  • 住宅・雇用対策が不十分で、若年層の生活難が深刻化した。
社会政策:
  • 同性婚を法制化したものの、保守層からの反発が根強く残った。
  • 言論統制が強まり、メディアの自由度が低下したとの批判があった。
外交政策:
  • 中国の圧力により、台湾の国際的孤立が一層深まった。
  • 米国との連携を深めたものの、安保面での役割分担でトラブルもあった。
  • 対中国輸出規制を強化したことで、台湾企業の事業環境が悪化した。
  • 新南向政策は思ったほど成果が上がらず、対中依存からの脱却は不十分だった。新南向政策は、外交政策であるにもかかわらず、蔡英文政権はこれを経済対策と考えており、これは国内の財政金融政策の停滞をまねいた一因ともなったことは否めない
総じて、中国との対立が深刻化する中で、国内の経済成長と国民生活の安定を十分に実現できなかった点が、蔡政権の大きな課題だったと言えるでしょう。

台湾を訪問したペロシ下院議員議長(当時)

蔡英文政権の政策には、功罪はあるものの、政権末期であっても、比較的高い支持率を維持しています。

これは、岸田政権も参考にすべきです。特に財政政策では蔡政権は、減税政策で国内需要を喚起する方針をとったことは、参考にすべきです。また、財政規律の堅持と健全化を重視し、緊縮財政をしたことで失敗したことも参考にすべきです。

緊縮傾向でありながら、減税するという政策は、ブレーキを踏みながら、アクセルも踏むという矛盾した政策です。ただ、この蔡政権の失敗が、日本の失われた30年のようなスケールの大失敗にはならなかったことは幸いてした。

アジアの政権は、なぜか台湾や韓国、そうして日本でも、金融引き締め、緊縮財政をして失敗というケースが多いです。その根本にはいわゆる「倹約志向」があるからかもしれません。

儲け勤倹志向の影響:
アジア圏では伝統的に「倹約」「貯蓄」を美徳とする価値観が強く、金融緩和や財政出動に対して消極的になりがちです。
債務残高への警戒感:
アジア通貨危機やリーマンショックの経験から、債務拡大を警戒する姿勢が根強い。
財政規律尊重の伝統:
歴史的に財政健全化が重視されてきた国々が多く、財政ファイナンスに後ろ向きになりやすい。
インフレ嫌避の風潮:
インフレ率が低水準で推移してきた影響で、物価上昇を過剰に警戒する傾向にある。

こうした要因が複合的に作用し、金融当局や政府が景気対策を渋る「倹約志向」が強まりがちだったことは確かです。日本では、こうした傾向が財務官僚を緊縮に、日銀官僚を引き締めに走らせ、失われた30年を生み出しました。

アジア諸国では、結果として適切な金融・財政出動ができず、経済をいたずらに沈滞させてしまうリスクがあるといえます。日本、韓国、台湾ではなぜか、こうしたリスクに関して、政府も国民も無頓着であり、「緊縮・引き締め=善」と考える識者も多く、金融政策の失敗は雇用政策の失敗につながり、経済に悪い影響を及ぼすことをしっかり認識している欧米とは大きな隔たりがあります。

このあたりを理解しうまく運営したのが、アジアのリーダーとしては珍しいといえる日本の安倍総理でしたが、その安倍総理ですら、在任中に結局2回、消費税増税の延期を行ったものの、消費税増税をせざるを得ませんでした。とはいいながら、金融政策は継続され、雇用は劇的に改善されました。

アジア諸国は、こうした「倹約志向」から脱却し、機動的な金融・財政運営ができるかどうかが、今後の課題といえます。

蔡英文政権では、安保、外交などでは一定の成果をあげたものの、金融財政政策はうまくいったとはいえないです。さらに、エネルギー政策にも問題がありました。金融財政政策やエネルギー政策がうまくいかなければ、国民の不満は高まります。

蔡英文政権の支持率の低下は主にこれに起因すると私は考えています。このことは、なぜか台湾でも、日本でもあまり指摘されていません。上の記事でも指摘されていませんが、これは非常に重要なことです。

頼清徳新総統

頼清徳新総統はこのことをしっかり認識して、蔡英文政権の良いところは取り入れ、金融財政政策やエネルギー政策においては、改革を行い、日本をはじめとするアジアの国々とって良い見本となるような政策を実行していただきたいものです。


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2024年5月19日日曜日

親中と言われるパプアとソロモン 中国が日本から盗めなかったもの―【私の論評】南太平洋島嶼国では、中国による歴史修正を繰り返させるな


まとめ
  • ソロモン諸島議会は親中派のマネレ前外務・貿易相を新首相に指名し、中国への接近路線を継承する見通し。
  • 中国はメラネシア地域への影響力を強めており、ソロモン諸島と2019年に国交を樹立、2022年には安全保障協定を締結。
  • 中国のメラネシア進出は日米豪にとっての懸念材料であり、現地住民の警戒心も高まっている。
  • 太平洋地域では日本への親近感が残っており、日本軍の宣撫工作が成功した背景がある。
  • 今後、ソロモン諸島の親中路線は続くが、中国が現地住民の反発をどう対応するかは不透明。

ソロモン諸島の国旗

ソロモン諸島議会は5月2日に親中派のソガバレ前首相が推したマネレ前外務・貿易相を新首相に指名し、安全保障や経済分野で中国に接近する路線を継承する見通しだ。ソガバレ氏の与党OURは4月の総選挙で第1党になったものの、過半数には届きませんでした。田中宏巳防衛大学校名誉教授は、中国の太平洋島嶼国進出が10年余り続いているが、現地の人々の警戒心が高まっていると述べている。

太平洋地域はミクロネシア、メラネシア、ポリネシアの三つの地域に分かれ、中国は近年メラネシアに注力している。中国は2019年に台湾と断交したソロモン諸島と国交を樹立し、2022年には安全保障協定を締結した。2022年夏にはソロモン諸島が米沿岸警備隊の寄港を拒否したことが明らかになった。また、2018年にはパプアニューギニアのメナス島を巡り中国企業が開発を打診したが、軍用施設の整備につながるという懸念から米豪が介入し、共同で開発を担うことになった。

田中氏は、中国が第2次世界大戦中の日本の戦略を学び、メラネシアに目をつけたと指摘している。日本軍はガダルカナル島やラバウル航空基地を拠点に米豪の分断を図った。現代では弾道ミサイルの脅威が問題となり、中国軍の中距離ミサイルが米軍基地を射程に収めている。今年2月に行われた日米共同統合指揮所演習でも、豪州北部ダーウィンに兵站基地を設け、グアムや沖縄への補給支援を確認した。

日本の安全保障専門家は、中国がパプアニューギニアやソロモン諸島にミサイルを配備すれば米軍の戦略が大きく狂うと懸念している。中国のメラネシア進出は日米豪にとって頭痛の種だが、ソロモン諸島の総選挙結果を見ると順調ではないことが示唆されている。2021年にはソロモン諸島の首都ホニアラで反政府デモが暴動に発展し、中華街が焼き討ちに遭った。中国からの移民が土地や建物を買い占めたことが反感を招き、親中派の支持が伸び悩んだ一因とされている。

一方、太平洋地域では親日感情が広く残っている。田中氏は、日本軍が太平洋地域で現地住民の支持を得るために宣撫工作を行い、比較的成功したと述べている。現地住民への犠牲が少なかったことも大きな要因だ。中国が旧日本軍の戦略や戦術を学んだが、現地住民の反発をどう対処するかまで考慮していなかったと指摘している。

今後、ソロモン諸島の親中路線は続く見通しですが、中国が総選挙結果を受けて対応を変えるかどうかは不透明だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】南太平洋島嶼国では、中国による歴史修正を繰り返させるな

まとめ
  • 日本の宣撫工作は、中国やフィリピンでは失敗したが、南太平洋の島々では成功したとされる。この違いは中共や米民主党政権のプロパガンダの影響が少なかったことが一因。
  • 中共は日本の戦争犯罪を強調し、米国は戦時中に日本の残虐行為を広く伝えることで、現地住民の反日感情を煽り、日本の宣撫工作を妨げた。
  • 戦後しばらくの間、韓国や中国、フィリピンでは日本に対する大きな批判はなかったが、1990年代以降に体系的な反日政策が展開され、反日感情が高まった。
  • 米主導の極東軍事裁判は、国際法上不当だが、その後朝鮮戦争や、中国との対抗のため日米同盟は強化され、日本に対する批判は収まっているがときおり頭をもたげることが今てもある。
  • 中国が南太平洋の島々で歴史修正を試みる可能性があるため、日本は歴史修正を防ぐための対抗措置を取るべきである。現在、日本の統治時代を知る人々がいる間に、正しい歴史認識を維持する努力が必要。

ソロモン諸島に残された日本軍の大砲

上の記事の元記事では、"太平洋島嶼国に残る親日感情について「中国大陸で住民の強い反発に遭った日本軍は、南太平洋で、現地の人々の宣伝や教化に力を入れるようになりました」"とか、"宣撫工作は、米国の影響が強く、ゲリラ組織がすでに存在していたフィリピンなどの例外を除き、太平洋地域ではおおむね成功していたという"などの解説があります。

中国大陸や、朝鮮半島、フィリピンで宣撫政策は失敗したのに、南太平洋の島々だけでは成功しているという見方と、その背景の説明には違和感を感じます。

日本の宣撫工作が失敗したとされる背景には、中国共産党や米民主党政権のプロパガンダが大きな影響を与えたのは間違いないでしよう。中国共産党は南京事件などの戦争犯罪を強調し、日本軍の暴虐を広く宣伝しました。

日本軍将校からキャラメルを貰ってよろこんでいる中国の子供たち(南京1937年11月6日撮影) 

このようなプロパガンダは、現地住民に対する日本軍の支持を得る難しさを増大させたのはある程度間違いないでしょう。また、中国共産党の八路軍(当時の中国共産党軍)は、日本軍と直接交戦することはなかったものの、ゲリラ部隊が現地で反日プロパガンダを展開し、日本軍の宣撫工作の効果をさらに減じようとたのも事実でしょう。

同様に、米国では戦時中に制作された戦争映画やニュースリールが、日本軍の残虐行為を広く伝えました。これらの映像は、国内外の世論を反日方向に誘導し、日本軍の評判を悪化させようとしました。また、米国の心理戦争部隊(OSS)は、占領地での宣伝活動を行い、現地住民に対して日本軍の悪行を強調しました。これらのプロパガンダは、日本軍の宣撫工作の成果を妨げた可能性があります。

このような状況下で、日本の宣撫工作は期待したよりは効果を上げることができなかった可能性はあります。特にフィリピンや中国北部など、中国共産党や米民主党政権の影響が強かった地域では、日本軍の宣撫工作は大きな成果を上げられなかっとしても無理はないでしょう。その結果、現地住民の反日感情が高まり、日本軍の統治が困難になった可能性もあります。

これが一般にいわれている当時の日本の宣撫工作の失敗といわれているものです。しかし、これすら米国民主党政権や中国共産党のプロパガンダである可能性もあります。これらの勢力は戦後から現在に至るまで、日本の行為を一方的に悪く描写し、その影響力を広範囲に及ぼしてきました。その結果、多くの中国人や米国人がこのプロパガンダを信じ込むようになり、日本の宣撫工作は失敗だったという評価が定着してしまったという背景があるとみられます。

しかし、南太平洋の島々そうして台湾等では、こうした中国共産党や米国民主党政権などによる積極的なプロパガンダなどなかったので、「太平洋地域ではおおむね成功していた」と見られるようになったと解釈できるのではないでしょうか。

日本の宣撫工作がすべて失敗だったわけではないことは。戦後しばらくは、韓国、北朝鮮、中国、フィリピンなどの一部地域では、日本に対する大きな批判があまりなかったことでもある程度理解できます。

しかし特に1990年代以降、韓国や中国などで体系的な反日政策が展開されるようになり反日感情が高まるようになったという事実があります。この時期以降、歴史認識問題や領土問題などに関連して、日本に対する批判が増加しました。

これは、かつての宣撫工作の影響が薄れ、新たなプロパガンダにより、新たな政治的、社会的状況が影響を与えた結果と考えられます。

米国民主党政権は、極東軍事裁判を主導しましたが、これに関して、国際法上の不当性が議論されています。主な理由として、法的根拠の不明確さ、裁判所の権限の問題、対象の選定の政治的動機、裁判手続きの不適正さが挙げられます。これらの要因から裁判の公平性や正当性に疑問が投げかけられています。

ただし、朝鮮戦争や最近では中国との対抗上、日米同盟は重要になったので、米国民主党政権も日本に対するプロパガンダは控えめにするようになりました。

しかし、こうした対日プロパガンダに関しては、いまだに米国内でもくすぶり続けています。最近では、ティム・ウォルバーグ米下院議員(共和党)が集会で、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザで、ハマス打倒のため原爆を投下するべきだとの見解を示唆したことが分かった。米メディアが3月31日までに報じました。

さらに、米連邦議会のグラム上院議員(共和党)は5月12日、日本への原爆投下について「正しい決断だった」と発言しました。8日に上院歳出委員会の小委員会でも同様の趣旨に言及し、日本政府が「受け入れられない」と申し入れたばかりでした。

共和党の議員にまで、歴代の民主党政権のプロパガンダは影響を与えており。それがいまでも時々こうして姿を現すのです。

しかし、米国保守派特に草の根の保守派は、日本を別の観点から捉えています。これは、過去のブログにも何度か掲載しています。

米国の草の根保守を牽引してきた米国の「保守のチャンピョン」ともいえる、フィリス・シュラフリー女史は、「ルーズベルトが全体主義のソ連と組んだのがそもそも間違いだ、さらにルーズベルトはソ連と対峙していた日本と戦争をしたことが大きな間違いだ」としています。さらに、女史はなくなる直前には、「全体主義のソ連と組んだために、今日米国は中国や北朝鮮の核の脅威を被っている」と語りました。

フィリス・シュラフリー女史

かつて日本を占領したマッカーサー元帥は、
朝鮮戦争に赴き、現地を調査した結果「当時の日本はソ連と対峙するため朝鮮半島と満州を自らの版図としたのであり、これは侵略ではない。彼らの戦争は防衛戦争だった」との趣旨の証言を後に公聴会で証言しています。

大東亜大戦中、日本は戦略上の要衝でもある、南太平洋の多くの島嶼国を占領していました。日本の敗戦により、これらの地域は元の宗主国の統治に移管されました。

主な例としては、ミクロネシア連邦、パラオ、マーシャル諸島、ナウル、パプアニューギニアなどが挙げられます。

これらの島嶼国は、1960年代以降の脱植民地化の流れの中で、次々と宗主国から独立を果たしていきました。

例えば、ミクロネシア連邦は1986年に、パラオは1994年に、マーシャル諸島は1983年に、ナウルは1968年に、パプアニューギニアは1975年に、それぞれ独立しました。

つまり、日本の敗戦により、南太平洋の島嶼国は元の宗主国の統治に戻り、その後の脱植民地化の過程で独立を果たしていったのです。

南太平洋地域で未だ非独立の島嶼領土があります。その領土とその宗主国は以下のとおりです。
  • フランス領ポリネシア - フランス
  • ニューカレドニア - フランス
  • ワリス・フツナ諸島 - フランス
  • ピトケアン諸島 - イギリス
  • トケラウ諸島 - ニュージーランド
  • ニウエ - ニュージーランド自治領
  • クック諸島 - ニュージーランド自治領
  • アメリカンサモア - アメリカ合衆国
  • グアム - アメリカ合衆国
  • 北マリアナ諸島- アメリカ合衆国
フランス、イギリス、ニュージーランド、アメリカがそれぞれ太平洋の島嶼地域に非独立の領土を持っています。中でもフランスが最多の3つの領土を有しています。ニウエとクック諸島はニュージーランドの「自治領」と表現するのが適切です。ニュージーランドと自由連合関係にあり、実質的には独立国家に近い立場にありますが、国際法上はニュージーランドの領土とされています。

中国は南太平洋の島々でも、プロパガンダを行い、日本軍が南太平洋の島々で、残虐の限りをつくしており原住民におびただしい犠牲者が出たとか、南太平洋の島々は日本と戦い、日本に勝利して独立を勝ち得たなどの、歴史修正を試みるかもしれません。

無論、日本に対してではなく、フランス、イギリス、ニュージーランド、米国に対してもこの地域で敵対的プロパガンダを行う可能性があります。

日本は、かつて中国や朝鮮、フィリピン等でした失敗を繰り返すことなく、中国に歴史修正を繰り返させるべきではありません。

現在、南太平洋の島嶼国には、日本の統治時代を知る人もかろうじて残っています。しかし、100年もたてば、そのような人々はほとんど生存しなくなり、人の記憶も薄れていきます。大東亜戦争が終わって今年で78年目です。100年の節目はそんなに遠くない将来に必ずやってきます。今から、日本はこの地域における歴史修正をさせないように対抗措置をとっておくべきです。

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〈2023/11/2〉


2024年5月18日土曜日

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”

まとめ
  • ロシアの今年1月から3月までのGDP伸び率が去年の同期比で5.4%と発表された。
  • これは4期連続のプラス成長で、経済好調の兆しとされる。
  • 専門家は、軍事費の増加が経済を一時的に押し上げていると分析。
  • IMFは、ロシアの今年のGDP伸び率を3.2%と予測。
  • プーチン大統領は経済と軍事の統合を進めるため、新たな国防相に経済閣僚の経験者を起用。
プーチン大統領

 ロシアの今年1月から3月までの国内総生産(GDP)の伸び率は去年の同期と比べて5.4%のプラス成長を記録し、4期連続のプラス成長となったことが発表された。この成長は、ウクライナへの軍事侵攻以来の軍事費の増加による一時的な効果と分析されている。

 専門家は、軍需産業への労働力の増加が国内経済に好影響を与えていると述べている。また、IMFはロシアの今年のGDP成長率を3.2%と予測している。プーチン大統領は、経済と軍事の統合を進める目的で新たな国防相に経済経験者を起用した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細をごらんに成りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

まとめ
  • ウクライナでの戦争継続のための軍需産業の興隆がロシアのGDP成長に貢献している。
  • 第二次世界大戦中、日本をはじめとする多くの国で軍事費増大により経済成長が見られた。
  • ロシアのGDP統計には透明性が欠け、疑問点が多いが、それでもロシアのGDPが伸びている可能性はある。
  • プーチン大統領は経済と軍事の統合を目的に経済経験者を新たな国防相に起用した。
  • 経済と軍事の統合は重要だが、戦争の結果はより広範な要素によって左右される。
上の記事で、1月〜3月のロシアのGDPの伸びを専門家は、軍需産業への労働力の増加が国内経済に好影響を与えているとしています。これは正しい見方だと思います。なぜなら、戦争中、特に総力戦中にはGDPが伸びるというのは普通の現象だからです。

それを裏付ける資料として、第二次世界対戦中の主要国のGDPを以下に掲載します。
第二次世界大戦戦前・戦中の主要国のGDP

数字の羅列だけだと理解しづらいので、以下にグラフを掲載します。 アメリカは本土が戦場にならなかったこと、ソ連は戦争中のデータがないことなどから、以下にそれ以外の国のGDPの推移を掲載します。


フランスは、ドイツに占領されたことが影響し、1939年を頂点に下がっています。これは、戦争を継続する必要がなくなったからとみられます。イタリアも、
1943年9月8日枢軸国側から、連合国側に寝返り、そこから先はドイツ軍に占領されたということもあり、国情が安定せず1939年をピークに下がっています。

イギリス、ドイツ、日本は、戦争末期は別にしてGDPは右肩あがりに上がっています。これは、戦争を継続するために、軍需物資を増産したからに他なりません。

日本では、戦争中には原油が不足しましたが、パスなどの公共交通機関では、それを補うために、木炭を燃料としてバスを運行したこともありました。これは、燃費もかなり悪く、非効率の極みなのですが、それにしても、このバスを走らせるために、木炭を製造したり、それを運んだりするための人件費などはGDPに計上されます。

戦争中にはこのような非効率なことも多く行われますが、それでもこれらは、GDPに計上されることになるのです。

このブロクでは以前述べたように、経営学の大家ドラッカー氏は、第二次世界大戦中の経済について、以下の発言をしています。
数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろう。
これは、第二次世界大戦中、多くの国が軍事費を増大させたことで、経済成長を遂げたという事実に基づいています。例えば、米国では、第二次世界大戦中のGNPは、戦前の約2倍強にまで増加しました。これは、軍需産業の急速な発展によるものです。

第二次世界大戦中、日本も、軍事費を大幅に増大させ、軍需産業の急速な発展を促しました。その結果、日本の経済も、戦前の約2倍弱にまで成長しました。

1930年代から1940年代にかけて、日本は戦争に伴う軍事費の増大や、戦時体制の導入により、経済成長を遂げました。また、国民生活の面でも、食糧や衣料などの物資の配給が徹底され、国民の生活水準は維持されていました。

本当に窮乏化したのは、1944年以降であり、連合国軍の空襲が本格化し、米軍による通商破壊がすすみ、日本各地で大きな被害が発生し、国民生活は困窮化しました。それは、上のグラフでも示されています。

現在のロシアのGDPの伸びも、軍需産業の急激な発展によるものと考えられます。ただしロシアのGDP統計に関しては多くの疑問が呈されています。これは透明性の欠如、データ収集方法の問題、および非公式セクターの存在など、複数の要因に基づいています。ただ、現状では断言するには、至っていません。しかし、戦争を遂行すれば、経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)等は別にしてGDPは上向く傾向があります。

上の記事でもう一つ気になるところがあります。それは「プーチン大統領は、経済と軍事の統合を進める目的で新たな国防相に経済経験者を起用した」ことです。

ロシアのプーチン大統領が新しい国防相に経済学者のアンドレイ・ベロウソフ氏を指名した事例は、現代においては注目すべきものです。ベロウソフ氏は経済の専門家であり、プーチン氏の側近として長年にわたり経済開発相や経済担当の大統領補佐官を務めてきました [1]。彼の指名は、ロシアがウクライナとの戦争に備えて戦時経済を強化するための戦略的な措置とされています。ロシアの軍事支出は約51兆円にも上り、効率的な運用が求められているため、経済学者のベロウソフ氏を起用したとみられています。

アンドレイ・ベロウソフ氏

経済と軍事の統合は、国の戦争遂行能力を高めるために重要な戦略であると考えられますが、戦争の結果を決定する要因は多岐にわたります。経済合理性の追求は、資源の効率的な利用や生産能力の最大化といった面で戦争遂行能力を支えることができますが、それだけが勝敗を左右するわけではありません。

戦争の結果は、軍事戦略、国際政治、同盟国との関係、技術革新、民心の支持といった多数の要素によって影響されます。ナチスドイツの場合、軍需相であったフリッツ・トートやその後任のアルベルト・シュペーアによる経済と軍事の統合は一定の効果を発揮しましたが、結局は連合国の圧倒的な軍事力、資源、及び戦略的な決断によってドイツは敗北しました。

フリッツ・トートはナチス・ドイツ初期の主要な建設プロジェクトを担当し、特に高速道路「アウトバーン」の建設を通じて失業対策を行いました。これらの大規模プロジェクトは、1930年代の経済危機と大量失業に直面していたドイツにおいて、多くの労働者に仕事を提供し、失業率の減少と経済回復に大きく貢献しました。トートの取り組みはナチス政権の支持基盤を固めるのに重要な役割を果たしましたが、後に軍事拡張とユダヤ人などの強制労働の利用に繋がりました。

航空機墜落事故によって死亡したトートに変わり、アルベルト・シュペーアが軍需相となりました。アルベルト・シュペーアは、ナチス・ドイツの軍需相および戦争経済大臣として、経済と軍事の統合において重要な役割を果たしました。彼の下で、軍事生産の効率化と最大化が推進され、特に「全戦争」概念の実施により、軍需産業の生産能力が大幅に向上しました。

シュペーアは労働資源の再配分、生産設備の合理化、そして技術革新の促進により、短期間でドイツの軍事力を強化することに成功しました。しかし、これらの努力にも関わらず、戦争の長期化と連合国の圧倒的な経済力・軍事力により、最終的にドイツは敗北しました。シュペーアによる経済と軍事の統合は効果を発揮したものの、戦争の全体的な結果を変えるには至りませんでした。

プーチン大統領が経済経験者を国防相に起用したことは、戦時下における経済の軍事への統合を強化し、より効率的に資源を管理しようとする試みとみることができます。しかし、戦争の結果はこのような内部の効率化だけでなく、外交政策、国際社会との関係、軍事戦略など、より広範な要素に左右されます。

結局のところ、経済と軍事の統合は戦争遂行の一環として重要ですが、戦争の大局を決定するには、それだけでは不十分であり、より複合的な要因を考慮する必要があります。今回のアンドレイ・ベロウソフ氏を国防相に任命したこと自体は、戦局を大きく変えることにはつながらない可能性もあります。

ただし、ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4%ということだけを根拠として、ロシア軍最強とか、ロシアが必ず勝つとか、先進国の経済制裁は全く効いていない等という見方は、誤りであることは確かでしょう。

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2024年5月17日金曜日

日本 アメリカ 韓国の海保機関が初の合同訓練へ 中国を念頭か―【私の論評】アジア太平洋地域の海上保安協力と中国海警局の動向

 日本 アメリカ 韓国の海保機関が初の合同訓練へ 中国を念頭か

まとめ

  • 日本、アメリカ、韓国の海上保安機関が来月上旬に日本海で初の合同訓練を行い、中国の海洋進出に対応するための連携を強化する。
  • この訓練は捜索と救助の手法や能力の確認を目的とし、3か国は将来的に東南アジアや太平洋島しょ国の海上保安機関とも連携していく方針です。
日米韓首脳会議

 日本、アメリカ、韓国の海上保安機関が来月上旬に初の合同訓練を日本海で行う予定です。

 これは、中国の海洋進出を念頭に置いた連携強化が目的です。訓練は福井県と京都府沖で行われ、日本の海上保安庁、アメリカの沿岸警備隊、韓国の海洋警察庁が参加し、捜索と救助の手法や能力を確認します。

 先月には3か国の海上保安機関が連携強化の文書に署名しており、今後も東南アジアや太平洋島しょ国への支援で協力する方針です。去年の首脳会談で「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力が確認されており、中国を念頭に置いた連携強化が進められています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】アジア太平洋地域の海上保安協力と中国海警局の動向

まとめ
  • 日本の海上保安庁は、アジア太平洋地域での国際的な捜索救助や海賊対策訓練に参加し、他国との協力を深めている。
  • 米国の沿岸警備隊は、南シナ海での航行の自由作戦や違法漁業対策、フィリピンやベトナムへの海上保安支援を行い、地域の安全保障に貢献している。
  • 韓国の海洋警察庁は、災害支援や国際共同訓練、不法漁業取り締まりを通じて、地域の海上安全保障と協力関係を強化している。
  • 中国海警局は、東シナ海や南シナ海での活動を活発化させ、準軍事組織として再編成され、他国との対立を引き起こしている。
  • 地域の対抗措置として、日米韓などの国々は海上法執行機関の活動を強化し、平和的手段で中国の現状変更の試みに対抗し、法の支配に基づく秩序維持を目指している。

日本の海上保安庁、韓国の海洋警察庁、米国の沿岸警備隊は、それぞれ自国の沿岸警備を主目的としていますが、合同訓練を行うことには大きな意義があります。

海上保安庁の巡視艦

まず、日本の海上保安庁について説明します。

同庁の艦船は、日本近海以外のアジア太平洋地域にも派遣されることがあります。例えば、他国の船舶や航空機が遭難した際には、国際的な捜索救助活動に参加するために艦船を派遣します。また、海賊対策や海上治安の向上を目的とした国際訓練や演習にも積極的に参加し、他国の海上保安機関との協力関係を深めています。これにより、海上保安庁は国際社会での海上安全と治安の維持に大きく貢献しています。

米国沿岸警備隊の艦艇

次に、米国の沿岸警備隊について見てみましょう。

米国の沿岸警備隊は、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを大幅に強化しています。南シナ海での航行の自由作戦への参加や、太平洋の島しょ国での違法漁業対策の協力、フィリピンやベトナムなどの国々への海上保安能力構築支援などがその主な活動です。南シナ海では、中国の海洋進出や領土主張に対抗し、国際法に基づく自由な航行を実践しています。また、パラオ、フィジー、パプアニューギニアなどの島しょ国と協力し、違法かつ無報告無規制の漁業活動の監視と取り締まりを行っています。

フィリピンやベトナムでは、共同訓練や情報共有、捜索救助能力の向上を通じて現地の海上保安機関を支援しています。これらの活動により、米国の沿岸警備隊はアジア太平洋地域全体の海上安全保障、法の支配、持続可能な資源管理、域内協力の促進に大きく貢献しています。

韓国海洋警察の艦艇

韓国の海洋警察庁も同様に、アジア太平洋地域での活動を強化しています。

韓国の海洋警察庁は、自然災害支援や国際共同訓練、不法漁業取り締まりなどの活動を行っています。2013年のフィリピン台風災害時には救援物資の輸送と現地での捜索救助を支援し、RIMPAC(環太平洋合同演習)などの多国間合同訓練にも参加しています。

さらに、他国の海上保安機関と協力し、共同パトロールや情報共有を行うことで、地域全体での不法漁業対策と海洋資源保護にも貢献しています。これにより、韓国の海洋警察庁は、災害支援、訓練、取り締まり活動を通じて、アジア太平洋地域の海上安全保障と国際協力の強化に寄与しています。

中国の海警局の活動についても触れておく必要があります。

中国は、近年、東シナ海や南シナ海における領有権主張を強化し、海警局を準軍事組織として再編成しました。この改革により、中国海警局は人民解放軍海軍から装備や訓練、作戦指揮の支援を受けるようになりました。具体的には、中国海警局は国家移民管理総局から分離され、中央軍事委員会と公安部の共同統括下に置かれました。この改革の目的は、海上における法執行能力と軍民一体の対応力を強化することにあります。

中国海警局は、尖閣諸島周辺や南シナ海での活動を通じて領有権を主張しています。また、インドネシア周辺やマーシャル諸島近海でも活動しています。

例えば、2019年にはインドネシアの排他的経済水域(EEZ)内に中国海警局船が不法に入域し、操業中の中国漁船を護衛する事案がありました。2022年には、マーシャル諸島の排他的経済水域内で活動する中国海警局の船舶が確認されました。このように、中国海警局は自国近海に加え、東シナ海、南シナ海、インド洋、太平洋の広範囲で活動の場を広げており、他の沿岸国との対立が生じています。

これに対抗するため、アジア太平洋地域の国々は海上法執行機関の活動範囲を広げ、存在感を高めています。例えば、韓国は不法漁業対策を強化し、米国は航行の自由作戦を実施しています。これにより、中国の現状変更の試みに対抗し、地域の海上安全保障と秩序維持を目指しています。

つまり、中国海警局の活動が梃子となり、アジア太平洋諸国は地域に軍事的プレゼンスを高め、様々な協力を強化する必要に迫られているのです。日米韓などの国々が海上保安機関の活動範囲を広げ、地域での存在感を高めている主な目的は、中国による一方的な現状変更の試みに対抗することにあります。

ただし、こうした取り組みは、軍事的な侵攻や武力行使を意図したものではなく、共同訓練や海上パトロール、能力構築支援など、平和的手段による対応にとどまっています。アジア太平洋地域の国々の試みは、中国による武力的な一方的現状変更を抑止し、法の支配に基づく地域秩序を維持することを目指した、防衛的かつ抑制的な対応です。

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82日連続!中国尖閣侵入で暴挙続く 分散行動や追い回しなど“新たな手口”も 一色正春氏「このままでは日本はやられ放題」―【私の論評】尖閣での中国の暴挙は、未だ第一列島線すら確保できない焦りか!(◎_◎;)〈2020/7/4〉



2024年5月16日木曜日

狡猾な朝日新聞 政治記者なら百も承知も…報じる「選挙対策 かさむ出費」とを大悪事、合唱し続ける本当の狙い―【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない

花田紀凱 天下の暴論プラス

まとめ
  • 朝日新聞が政治資金に関する問題を取り上げ、特に選挙対策での費用増加を指摘。
  • 議員たちは地元対策や事務所運営のために多額の政治資金を必要としている。
  • 政治資金報告書への不記載を朝日が「安倍派裏金1億円超」と報道し政治の混乱と憲法改正議論の停滞状況を生み出した。
  • メディアの報道姿勢が政治資金問題を煽り、政治風土や政治家と有権者との関係を無視しているとの問題提起。
  • 現在の政治的混乱の責任は、政治資金、パーティーでの政治資金集めを、あたかも、大悪事を働いたかのように報じ続けた朝日、その他のメディアにある。

月間『Hanada』の編集長花田紀凱氏

 5月12日に掲載された朝日新聞の記事は、政治改革2024を主題とし、「選挙対策 かさむ出費」というタイトルで、政治活動に関わる多額の費用に焦点を当てた。記事では、特に選挙対策での費用増加が問題とされ、地元会合などでの「会費」が膨らむ実態や、有権者からの金品要求の事例が紹介されている。また、政治資金の規制強化についての議論が進んでいる状況も触れられている。

 この記事の中で、西田昌司参議院議員は、会合への出席による費用が年間数百万円に上るとしている。さらに、前自民党衆院議員の長尾たかし氏や経済安保担当大臣の高市早苗氏、自民党参議院議員の和田政宗氏の発言から、政治家が政治資金集めに苦労している現状がわかる。これらの発言からは、地元対策や事務所運営に必要な費用が、議員の手取りとは比較にならないほど高額であることが浮き彫りにした。

 しかし、朝日新聞が「安倍派裏金1億円超」と報じたことを発端に、新聞、テレビ、ネットが「裏金」報道に飛びつき、本当は免許不携帯程度の罪ともいえる政治資金報告書の不記載を大罪のように扱った。このような報道姿勢が、結果として政治の大混乱を引き起こし、憲法改正の議論を停滞させた。

 こうした報道は、従来から指摘されている日本の政治風土や政治家と有権者との微妙な関係等から選挙対策には巨額の費用がかかることを無視し、意図的に問題を煽っている。今回の日本政治の大混乱は、安倍派憎し、自民党憎しで、知っていながら政治資金、パーティーでの政治資金集めを、あたかも、大悪事を働いたかのように報じ続けた朝日、その他のメディアにある。

 今さら「選挙対策 かさむ出費」もないだろう。

 朝日は狡猾だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない

まとめ
  • 今回の政治資金不記載問題は、過去に逮捕者が出た重大な政治資金関連事件と比較すると軽い問題であるといえる。
  • 過去の重大な政治資金関連事件には、ロッキード事件、リクルート事件、金丸信事件、佐川急便事件などがあり、これらの事件は政治と企業間の不透明な関係や政治資金の透明性の欠如を浮き彫りにした。
  • 政治資金の問題は与党議員だけでなく、野党議員にも指摘されており、外国人からの政治献金問題や政治資金収支報告書に関する不適切な記載が問題となっている。
  • 政治資金に関する問題は、日本政治の敏感なテーマとして残り、選挙対策費用の莫大なかかり方が根本的な問題であり是正されるべきだ。
  • ただし、民主主義体制においては政治資金に関する問題がなくなることはなく、これは民主的な体制の特性として受け入れなければないところがある。
今回の政治資金不記載問題が、免許不携帯くらいの罪という花田氏の見解は、正しいかどうかは良くはわかりませんが、それにしても、過去の逮捕者も出た政治資金に関連する事件と比較すれば、今回の不記載問題は確かに軽いものといえると思います。

過去の政治資金に関連する事件をあげます。

政治資金規正法違反事件(ロッキード事件)
1976年に発覚したロッキード事件は、アメリカの航空機メーカー、ロッキード社が日本の政治家や官僚に賄賂を支払っていたスキャンダルです。この事件で最も有名なのは、元首相の田中角栄が賄賂を受け取ったとして逮捕され、政治資金規正法違反で有罪判決を受けたことです。この事件は、日本政治の腐敗の深刻さを浮き彫りにし、政治改革の必要性を強調することとなりました。
田中角栄氏
リクルート事件
リクルート事件は、1980年代後半に発生した政財界を巻き込んだ贈収賄事件です。リクルート社が、未公開株を政治家、官僚、企業幹部などに有利な条件で提供し、その後の株価上昇によって巨額の利益を得させたことが問題となりました。この事件により、多くの政治家や官僚が辞職に追い込まれ、中曽根康弘内閣の退陣にも繋がったとされています。この事件は、政治とビジネスの不透明な関係を象徴するものとして、日本社会に大きな衝撃を与えました。
金丸事件(金丸信事件)
金丸信事件は、1990年代初頭に発覚した政治資金スキャンダルです。金丸信(当時の自由民主党副総裁)が、建設会社から巨額の資金を受け取っていたことが明らかになりました。これは、建設業界からの政治献金として、または土木工事の受注をめぐる贈収賄として行われたものでした。金丸はこの資金を私的に使用した疑い(税金逃れを含む)が持たれ、最終的に脱税で有罪判決を受けました。この事件は、政治と企業の癒着や、政治資金の透明性の欠如が日本政治の大きな問題であることを浮き彫りにしました。

 佐川急便事件

1993年に発覚したこの事件は、佐川急便が政治家に対して違法な献金を行っていた疑惑が中心です。この事件では、政治資金規正法違反の疑いで複数の政治家が逮捕されました。この事件は、政治と企業間の不透明な金銭のやり取りを国民に知らしめ、政治資金の透明性を高めるきっかけとなりました。
以上の事件では、政治資金のやりとりに明らかに問題があり、また金額も大きく、これに関わった政治家が逮捕されています。

これらに比較すれば、今回の政治資金不記載問題は、かなり軽いものといえます。免許証不携帯程度かどうかは別にして、

これらの事件は、政治資金の透明性を高め、政治家と企業間の不適切な関係を防ぐための法律や規制の強化を促すきっかけとなりました。しかし、依然として政治資金に関する問題は日本政治の敏感なテーマとして残っています。

さらに、政治資金問題は与党議員のそれが強調されますが、野党議員にも問題が指摘さています。

菅直人
菅(かん)直人氏は、2010年から2011年にかけて日本の首相を務めました。その在任中、外国人からの政治献金を受け取っていた問題が浮上しました。日本の政治資金規正法では、外国人や外国企業からの政治献金を禁止しています。この規制は、外国の影響力から日本の政治を保護するために設けられています。これに関して、菅氏は献金の事実を認め、受け取った献金を返還するとともに、公に謝罪しました。
前原誠司
前原誠司氏は民主党(当時)所属の政治家で、2011年に外務大臣を務めていた時期に、外国人からの政治献金が明らかになりました。

日本の政治資金規正法は確かに、政治家や政党が外国人や外国企業から政治献金を受け取ることを禁じています。前原氏は、外国人からの献金を受け取っていた事実が明らかになった後、これを認め、2011年3月に外務大臣を辞任しました。
小沢一郎
小沢一郎氏(当時民主党所属)は、土地取引に関連する政治資金の問題で何度か訴追されました。これは、政治資金収支報告書に記載されていない大金が動いていたことから発覚しました。小沢氏は最終的に無罪判決を受けましたが、この問題は日本政治における政治資金の透明性や管理の重要性を改めて国民に意識させることとなりました。
鳩山由紀夫
鳩山由紀夫元首相は、政治資金収支報告書において、母親からの巨額の個人献金を正しく報告していなかった問題がありました。この問題は、政治資金の透明性に関する議論を呼び起こしました。
辻元清美
辻元清美(立憲民主党)は過去に、政治資金収支報告書において、オフィスの家賃に関する不適切な記載が問題となりました。この問題は、政治資金の適切な管理と透明性に関する重要性を示す事例の一つです。

辻元清美氏

山井和則
山井和則(立憲民主党)は、政治資金収支報告書において、政治活動とは無関係の支出が記載されていた問題が発覚しました。具体的には、飲食店での支出などが政治活動として適切でないと指摘されました。
蓮舫の二重国籍問題と政治資金問題
蓮舫(立憲民主党)は、二重国籍問題とは別に、政治資金の管理に関しても注目されました。彼女の政治資金収支報告書において、特定の支出の詳細が不明確であると指摘されたことがあります。
山尾志桜里(菅野志桜里)
山尾志桜里(当時民進党、後に立憲民主党)は、2017年に政治資金収支報告書に記載されていない出費が発覚しました。これには、政治活動とは関連性が低いとされるバーでの支出が含まれていました。山尾氏は、これらの支出について説明を行い、政治資金の適正な管理を求める声が高まりました。
以上あげたのは、一部に過ぎません、まだまだあります。しかし、朝日をはじめとするマスコミは与党の議員の問題ばかりを強調しています。

この問題の本質は、個々の議員の選挙対策費が莫大にかかることだと思います。現在であれば、インターネットを効果的に用い、選挙活動にあまりお金をかけず、効果的な選挙活動ができるのではないかと思います。さらに、会合への出席による費用が年間数百万円などを法律などで禁じるという手もあると思います。

しかし、これもやり過ぎれば、選挙の意味が薄れてきます。絶対に正しい究極の理想の選挙だけを追い求めていけば、とんでもないことになりかねません。

何から何まで禁じてしまうということになると、それこそ全体主義や独裁国家のようになりかねません。たとえば、北朝鮮では議員の政治資金など問題にはなりません。

北朝鮮には日本でいえは、国会に相当するような最高人民会議がありますが、実質的には労働党一党支配の下での形式的な存在にすぎません。北朝鮮では選挙そのものが承認装置に過ぎず、個々の議員による本来の選挙活動や選挙対策費はほとんど発生していないと考えられます。独裁体制下の見せかけの選挙では、民主的な選挙制度における課題は生じていないといえるでしょう。

北朝鮮最高人民会議

いかなる民主主義国において、政治家や政党が選挙運動を行うためには多額の資金が必要不可欠です。しかし、その資金調達をめぐっては、企業や団体からの寄付、個人の寄付、公的資金など、出入り源の透明性が常に問題視されてきました。

特に大口の寄付は、利権との癒着や不正を生む温床となりかねません。さらに規制を設けても、議員個人の選挙対策費が莫大にのぼるケースも後を絶ちません。このように、資金の流れが不透明化しやすい構造的な要因から、民主主義国においては政治資金問題が完全に解消されることは難しいと考えられています。

重要なのは、可能な限り透明性を確保し、不正や腐敗を未然に防ぐ仕組みを整備することにあります。

結局のところ、民主主義体制においては政治資金に関しては、問題になり続けるということであり、それが全くなくなることはないです。無論、大きな問題になることは避けるべきでしょう。しかし、どんなに透明性や、公明正大性を追求したとしても、問題はある程度残り続けるでしょう。

政治資金問題が全くない体制というのは、決して理想的な民主的な体制とはいえないのです。

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2024年5月15日水曜日

つばさの党、選挙カー追跡 「交通の便妨げる行為」適用も視野に捜査 警視庁―【私の論評】選挙妨害は社会秩序破壊への挑戦、絶対許すな

つばさの党、選挙カー追跡 「交通の便妨げる行為」適用も視野に捜査 警視庁

まとめ
  • 衆議院東京15区の補欠選挙で、「つばさの党」の選挙カーが他陣営の選挙カーを執拗に追跡し、一部陣営が警察署に避難する事態が発生。
  • この追跡行為は選挙活動の自由を妨害するものとして、警視庁が公職選挙法違反の疑いで捜査を進めている。
  • つばさの党の代表と幹部が他陣営を罵声で攻撃するなどの行為も繰り返していた。
  • 警視庁は選挙カーの追跡が有権者に対する情報提供の機会を妨げたと見ており、家宅捜索を実施して証拠品を押収。
  • 選挙カーによる自由妨害での摘発は前例が少なく、捜査は慎重に進められている。
翼の党による選挙妨害


 4月に実施された衆議院東京15区の補欠選挙において、異常な状況が発生した。政治団体「つばさの党」に所属する選挙カーが、他の政党の選挙カーを執拗に追跡し、その結果、複数の陣営が選挙活動の予定を変更し、警察署に避難するという事態に至った。


 この行為は、選挙の自由を著しく妨害するものとして、警視庁捜査2課による捜査が行われている。特に、つばさの党の代表である黒川敦彦氏と党幹部の根本良輔氏を含む数名が、立憲民主党など他の陣営に対して、罵声を浴びせるなどして選挙活動を妨害した。


 警視庁は、この追跡行為が公職選挙法における「自由妨害」と定義される「交通の便を妨げる行為」にあたるとみて、立件に向けた捜査を進めている。追跡を受けた陣営からは110番通報がなされ、城東署や深川署への避難が行われた事例もあり、これらの行為が街頭演説の妨害だけでなく、有権者への情報提供の機会をも妨害したと捜査チームは考えている。


 さらに、警視庁は13日につばさの党本部と黒川氏、根本氏の自宅に対して家宅捜索を実施し、パソコンなど数十点の物品を押収しました。しかし、選挙カーによる追跡という形の自由妨害行為については摘発の前例が乏しく、捜査は関係機関との調整を含め慎重に進められています。


 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事を御覧ください。


【私の論評】選挙妨害は社会秩序破壊への挑戦、絶対許すな

まとめ

  • 令和元年の参院選での選挙妨害事案では、札幌地裁が原告の勝訴を言い渡したが、二審では警察の行為が妥当とされた。
  • 安倍晋三元首相は選挙妨害により、「ステルス遊説」を行うようになった。
  • 選挙妨害は言論の自由への挑戦であり、聴衆の「知る権利」を侵害している。
  • メディアによる選挙妨害の正当化は、民主主義の破壊行為に他ならない。
  • 選挙妨害を正当化する動きは、社会の規律の緩みや分断を助長するものであり、公共の場での秩序や規範を維持することの重要性を、社会全体で共有し、守っていく必要がある。

今回の翼の党による選挙妨害について、よく引き合いに出されるのが、令和元年の参院選で、札幌市で演説中の安倍晋三首相(当時)に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばした2人が北海道警の警察官に現場から排除され、損害賠償を求めた裁判です。

この裁判結果には私も不服です。


札幌地裁は第一審で原告側の「勝訴」判決を言い渡しました。原告は大杉雅栄(34)と桃井希生(26)で、北海道に対し、慰謝料660万円の損害賠償請求しました。

ただし、二審札幌高裁では、大杉氏は安倍氏に危害を加える恐れがあったとして、警察官の行為は妥当と認定し、一審札幌地裁の賠償命令を取り消しました。一方、桃井希生(27)については、排除は憲法で保障された表現の自由の侵害に当たるとして55万円の賠償命令を維持しており、桃井は上告できません。

これ以前にも安倍首相に対する選挙妨害は行わていました。

平成29年の東京・秋葉原で行われた安倍晋三元首相の演説中に一部聴衆から「安倍やめろ」「帰れ」との大合唱が起こり、演説をかき消す事態が発生しました。安倍氏はこれらの妨害に対して抗議しましたが、一部新聞はヤジを演説への意見表明として正当化し、安倍氏の反応を批判しました。

これらの論調は多くのテレビメディアにも同調され、結果として安倍氏は選挙妨害者との接触を避けるために遊説場所を事前に告知しない「ステルス遊説」を展開することになりました。さらに、警察の対応も萎縮させる結果となり、安倍氏暗殺事件時にテロリストの取り押さえが遅れる一因となりました。

安倍首相がステルス遊説をすることになった原因を作り出した悪質な選挙妨害

この一連の出来事は、「安倍やめろ」「帰れ」というヤジが単なる意見表明ではなく、演説者に対する恫喝的な命令であり、非言論によって言論をかき消す行為、すなわち言論の自由への挑戦行為であることを示しています。さらに、これは演説を聴きたいとして集まったひとたちの権利を奪うものでもあります。

法の下の平等の原則から、このような妨害行為を警察が排除することは困難ですが、これによって最終的に被害を受けるのは、候補者の政治的主張について知りたいと思っている一般聴衆の「知る権利」です。

この事案を通じて、多くの国民がヤジを正当化するメディアの欺瞞を強く認識すべきですし、非言論による選挙妨害を正当化する言論機関の行動が、実際には民主主義の破壊行為に他ならないことを認識すべきです。

このような身勝手な「表現の自由」の行使は、言論の自由を守るべき使命を持つ言論機関によるものであってはならず、言論の自由の本質と民主主義の根幹を揺るがす問題として、深い反省と対策が求められています。

選挙妨害の正当化は社会に混乱をもたらし、社会の規律の緩みを生じさせかねません。これにより、公共の場でのルールや秩序を守るという共通の認識が損なわれる可能性があります。このような状況は、言論の自由という基本的な権利の誤用につながり、それがさらに社会全体のモラルや規範意識の低下を招くことにもなりかねません。

特に、選挙という民主主義の根幹を成すプロセスにおいて、言論の場が不当に妨害されることが許容されるようになれば、それが「力による支配」や「多数による圧力」といった不健全な社会風潮を助長することにもつながります。このような風潮は、学校や職場など、社会のあらゆる場でのいじめの排除、パワハラ、セクハラ、モラハラ排除といった問題に対する意識の鈍化を引き起こす可能性があります。

米国の暴動

さらに、選挙妨害を正当化する動きが、特定の意見や立場のみが許容されるという排他的な社会を生み出すことにも繋がりかねません。これは、多様性や相互理解といった民主社会の基盤を揺るがすことになり、結果的に社会全体の寛容性の低下や分断を助長することになるでしょう。そうしたことの果には、米国などにみられる暴動が起こる可能性も否定しきれません。

したがって、選挙妨害の正当化は、ただちに社会に混乱をもたらすだけでなく、長期的に見ても社会の規律の緩みやいじめやモラルの崩壊の助長など、さまざまな負の影響を生じさせる可能性が高いと言えます。このため、言論の自由を含む基本的人権を尊重しつつも、公共の場での秩序や規範を維持することの重要性を、社会全体で共有し、守っていく必要があります。

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