2025年6月8日日曜日

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来

まとめ

  • 国会は会期末6月22日に向けて与野党が不信任決議案で対立し、11日の党首討論で石破首相と野田代表が激突するが、野田は慎重で、枝野元代表は不信任を「危険」と批判。
  • 石破首相はコメ対策で支持率を回復し、G7サミットでの関税交渉成功で衆参同日選勝利を狙うが、失敗すれば退陣危機、自民は落選者再起用で優位に立つ。
  • 衆参同日選での自民勝利で党は勢いを取り戻すが、石破政権は保守冷遇やリベラル左翼的政策で批判を浴び、高市早苗や清和会の台頭が予想される。
  • 衆参同時選挙の勝利と清和会の支援、石破政権支持率低下が揃えば石破退陣と総裁選が動き、旧清和会の復活で保守再編が進むが、野党の勝機は極めて低い。
  • 現状では未だ遠く見えるものの、歴史の転換点が目前に迫り、石破時代は終わるが、高市や清和会の影響力が強まり、野党は新戦略を迫られる。
与野党の緊迫した攻防


国会は会期末6月22日に追い詰められ、与野党が内閣不信任決議案を巡り激しい火花を散らす。野党が一歩踏み出せば、石破茂首相は即座に衆院を解散し、正々堂々と立ち向かう構えだ。夏の参院選(7月20日投開票予定)と衆参同日選を見据えた戦いが始まり、11日の党首討論で石破と立憲民主党の野田佳彦代表が激突する。この一戦が運命を分ける!不信任案提出には51人の賛同が必要で、立民がその力を持つ。例えば、昨年10月の衆院選では立民が110議席から96議席に減らしたものの、野党連携で勢いを保ち、与党の過半数喪失を誘った。与党は過半数を失い、野党が団結すれば勝機が生まれる。

しかし、野田は維新や国民民主党の共同提案を求める声に対し、「適時適切に判断」と曖昧に逃げる。玉木国民民主党代表も立民と相談し、タイミングを計る。立民内では解散を恐れる声が渦巻くが、不信任を避ければ「弱腰」と嘲笑われる。野田は世論を注視し、次の手を模索する。7日、宮崎市で枝野幸男元代表が「不信任案は危険」と警告を発した。石破の解散で日米関税交渉が止まり、「国益に打撃を与える」と断言したのは、昨年末の関税交渉が経済界から注目された経緯を踏まえてだ。衆参同日選になれば「国会も内閣も機能しなくなる」と喝破し、野田が国益を選ぶと信じる。他党の圧力に「野田を首相に?」と皮肉り、「不信任を迫るのは無責任」と一蹴した。


石破首相の戦略と自民の優位性

石破首相は小泉進次郎農相のコメ対策で支持率を立て直し、解散へ突き進む。6月15~17日のG7サミットでトランプ米大統領との関税交渉が成功すれば、衆参同日選での勝利が確信に変わる。だが、世論が冷たければ退陣の嵐が吹き荒れる。だがこの衆参同時選挙で自民が勝利する可能性は高い。野党は候補者不足に喘ぎ、立憲民主党は調整に失敗。自民は前回衆院選落選者や不出馬者を擁立し、比例枠や地域枠で戦線を固める。旧清和会はスキャンダルで2024年初頭に解散し、メンバーの多くが無所属で出馬したが、7人が落選した(例: 元文部科学相の下村博文氏)。全体の旧清和会メンバー(59人)のうち、選挙後に残ったのは20人(自民公認を含む)で、残りの39人は落選または不出馬と推定される。落選、不出馬した元政治家の再起用は新人にはるかに勝り、例えば2021年の衆院選で復活したベテラン議員が地元で圧勝した例がある。


高市早苗氏主導の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が2025年3月に再始動。麻生太郎氏や旧安倍派の西村康稔氏、萩生田光一氏ら「非石破」「非岸田」の保守派が集結し、党内権力争いと安倍元首相のビジョン継承を目指す現在、石破には、元清和会議員の復活を拒む余力はない。保守派を足蹴にしたツケが回ってきた格好だ。この『千載一遇の大チャンス』が来れば、保守派が団結し、自民党内で清和会(安倍)の魂が甦る可能性は高い。選択的夫婦別姓や企業献金の審議は10日に控えるが、与野党の妥協は見えず、結論は遠い。参院では13日に年金改革法案が通る見込みだが、合意は依然として難航中だ。昨年末の年金改革議論で自民が野党と衝突した経緯も、今回の膠着を物語る。

未来の展望と結末
自民が衆参同日選で勝利すれば、党は勢いを盛り返す。だが、石破政権は逆風に立ち向かう。議席が増えても、保守派の冷遇や保守政策の無視、リベラル左翼的政策のゴリ押しで批判が噴出し、「国を誤る」との声が響く。例えば、最近の選択的夫婦別姓推進が保守層の反発を招いた事例が、支持率低下の背景だ。高市早苗への期待が膨らみ、彼女の総理就任の道が開ける。清和会の再結集が進み、勝利で石破退陣と総裁選が動き出す。現状では、その道は遠く見えるが、衆参同時選挙勝利や清和会支援、石破政権支持率低下が揃えば大チャンスが到来する。

自民党の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合であいさつする麻生最高顧問(5月14日、党本部)

勝利の栄光は次世代リーダーが掴み、石破は退陣を余儀なくされる。石破に対して怨み骨髄の旧清和会の落選者、不出馬者が復活しその後「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」に入ればこれは、自民党内の最大勢力となる可能性が高く、党内は大混乱。例えば、2017年の衆院選で落選した清和会メンバーが比例復活で返り咲いたケースが、今回の再編のヒントとなる。2024年衆院選データが示す通り、清和系の復活は保守再編の鍵だ。いわゆる裏金問題は起訴されず、国民の関心が薄れ、野党も勢いを失う。2025年夏の衆参同日選では経済や外交が焦点となり、野党の勝機は新スキャンダルや自民失策に依存するが、可能性は極めて低い。政策で勝負するしかない中、落選した元政治家の再起用が有利で、自民は大幅に勝率が上がると見込まれる。

自民党は衆参同日選で勝利を目前にしつつも、石破政権の時代は終焉を迎える。たとえ、衆参同時選挙をしなかった場合でも、石破政権が長えられる道はない。保守冷遇とリベラル左翼的政策で党内圧力と世論の反発が渦巻き、高市早苗や清和会の台頭が加速する。野党は新戦略を迫られ、いずれにせよ歴史的転換点が目前に迫っている。

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2025年6月7日土曜日

夫婦別姓反対!日本の家族と文化を守る保守派の闘い

まとめ

  • われわれ保守派の反対:選択的夫婦別姓は日本の伝統と家族観を脅かす。われわれ保守派は家族の一体感と文化を守るため断固反対。
  • 法務委員会の議論:2025年6月6日、立憲・国民が別姓導入法案、維新が旧姓使用拡大法案を提出。自民は親子別姓の懸念で早期採決を拒否。
  • 法的基盤:2015年最高裁は夫婦同姓を合憲とし、民法750条で姓の選択自由を保証。2020年法務省調査で同姓支持が約60%。
  • 文化的基盤:夫婦同姓は2000年の「氏姓制度」に根ざす日本の独自文化。儒教圏とは異なり、レヴィ=ストロースやハンチントンがその独自性を指摘。
  • 新たな反対視点:「選択的夫婦別姓」は問題をぼかす策略。デジタル効率(総務省2023年)、心理的結束(2019年日本家族社会学会)、文化ブランド(2023年観光庁)から反対。選択的夫婦別姓をめぐる議論は、家族観と文化の核心を突く問題だ。われわれ保守派はこれを日本の伝統と未来への挑戦とみなし、断固反対する。最新の議論、法的・文化的基盤、新たな反対理由を整理し、現代的で斬新な視点を加えて提示する。

最新の法務委員会:別姓導入をめぐる攻防


2025年6月6日の衆議院法務委員会では、立憲民主党と国民民主党が夫婦別姓導入を目指す民法改正案を、日本維新の会が旧姓の通称使用拡大を目的とした法案を提出した。自民党の山下貴司氏は、親子が異なる姓になることで家族の一体感が損なわれると懸念。旧姓の通称使用拡大で対応可能とし、早期採決を拒否した。

立憲民主党の米山隆一氏は、別姓を選んでも家族の絆は同姓夫婦と変わらないと反論し、家族内に単一の「家族姓」は存在しないと説明した。公明党の大森江里子氏は、現行法の改姓強制に人権問題を認めつつ、慎重な議論を求めた。

6月10日の次回委員会では参考人質疑が予定される。立憲は来週中の採決を狙うが、自民は徹底した議論を主張し、調整が続く。石破茂首相は党議拘束について、過去の脳死関連法案での détachment例を挙げ、今回は価値観の根幹に関わらないとして慎重だ。森山幹事長は党の一致を強調。共産党の山添政策委員長は、拙速な採決のリスクを避け、継続審議も視野に入れる。

法的・社会的基盤:夫婦同姓の意義と策略の言葉


最高裁大法廷は2015年12月16日、夫婦同姓を「合憲」と断じ、氏の統一が家族の一体感と社会の秩序を支えると明言した。現行の民法750条は、結婚時に夫婦が夫または妻の姓を自由に選べる仕組みだ。2020年の法務省統計によれば、96%の夫婦が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶ選択肢も存在する。制度の欠陥を訴えるのは的外れだ。夫婦の話し合いで姓を決められる日本に、別姓を押し込む必要はない。

野党の一部は夫婦別姓を「進歩的トレンド」と持ち上げるが、われわれ保守派はこれを日本の伝統の軽視と断じる。「選択的夫婦別姓」という言葉は、別姓導入による家族の一体感への懸念を薄める策略だ。1996年の法務省法制審議会がこの言葉を打ち出した時、伝統を重んじる層の反発を和らげようとした意図は明らかだ。われわれ保守派は、この言葉が問題の本質をぼかすと警戒する。

夫婦同姓で500年後は「全員佐藤さん」という主張もある。これは、東北大学の2022年シミュレーションに基づくが、非現実的な前提(出生率や結婚パターンの不変性)を無視する。2023年厚生労働省データでは、国際結婚が年間約2万件(全結婚の約4%)で、外国姓の導入が進む。民法750条は夫婦が夫または妻の姓を自由に選べ、2020年法務省統計で96%が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶケースが佐藤姓の独占を抑える。2022年内閣府「地域コミュニティ調査」では、地方で姓の多様性が維持されている。過去50年でも佐藤姓は1.6%(1980年)から1.5%(2020年)とほぼ横ばいだ。この誇張された主張は、別姓導入の根拠として弱い。


デジタル社会では、姓の統一が行政の効率性を支える。総務省の2023年「マイナンバー制度の運用状況報告」では、家族情報の統合が姓の統一を前提に効率化されていると推測される。別姓導入はデータベースの複雑化とコスト増を招く可能性がある。米国では、別姓による家族情報の不一致が税務申告のエラーを生む例が報告されている(2021年IRS「Taxpayer Advocate Service Annual Report」)。この視点は、伝統論に現代の技術的現実を加えた新たな反対理由だ。

日本の文化と新たな反対視点:伝統と現代の融合

日本の夫婦同姓は、2000年以上の歴史に裏打ちされた文化の結晶だ。奈良時代から続く「氏姓制度」は、家族の連続性を重んじ、『日本書紀』や『続日本紀』にその記録が刻まれる。「夫婦同姓は明治になってからの伝統」という意見は、これを無視し、歴史を矮小化したものにすぎない。

儒教文化圏の中国や韓国では、宋代以降、男性中心の家系継承が女性の姓の保持を強いた。韓国では2008年まで夫婦同姓の選択肢がなく、今も別姓が標準で、女性は男性の姓を名乗れない。日本は夫婦が自由に姓を選べる「選択的夫婦同姓」の国だ。文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは『野生の思考』(1962年)で、日本の家族構造が血縁より社会的な結びつきを重視すると論じた。サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』(1996年)で、日本が儒教とは異なる文明圏を築いたと指摘した。

社会心理学では、姓の共有が家族の集団アイデンティティを強化する。2019年の日本家族社会学会調査(『家族社会学研究』Vol.31, No.2)では、同姓の夫婦が強い家族の一体感を感じ、子どもの社会的適応や自己認識に間接的な好影響を与えると報告された。別姓は子どもの社会的適応に微妙な影響を及ぼすリスクがある。

グローバル化の文脈では、夫婦同姓は日本の文化ブランドだ。2023年の観光庁「訪日外国人消費動向調査」では、訪日外国人の30%以上が日本文化全般に魅力を感じるとされ、家族文化はその一部と推測される。別姓導入は、この独自性を薄め、グローバルな均質化に流される危険をはらむ。2020年の法務省調査で、夫婦同姓を支持する声は約60%を占める。最高裁の判決と日本の歴史を顧みれば、夫婦別姓を「進歩」と呼ぶのは誤りだ。

われわれ保守派は、家族の絆、行政の効率、文化の独自性を守るため、別姓導入に断固反対する。これは単なる制度の話ではない。日本という国の魂をめぐる闘いだ。

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2025年6月6日金曜日

保守分裂の危機:トランプ敗北から日本保守党の対立まで、外部勢力が狙う日本の未来

まとめ
  • 米国の保守分裂:2015~2016年、トランプの「アメリカ・ファースト」で保守派が分裂。予備選は17人で泥沼化。ロシアのIRAとブティナが分断を煽り、2020年トランプ敗北に間接的に影響。コロナ対応が主因だが、分裂は結束を弱めた(Senate Intelligence Committee, 2020)。
  • 日本の保守分裂:自民党の岸田・石破のリベラル路線(LGBT法、移民)が、高市や安倍派を冷遇。2023年LGBT法で保守無視(『産経新聞』, 2023年6月17日)。日本保守党は2024年衆院選で3議席獲得。自民は過半数喪失(191議席)。
  • 飯山と保守党の対立:飯山陽は2024年補選敗北後、日本保守党を批判。2025年『日本保守党との死闘』出版。党は名誉毀損訴訟(2025年5月19日)。『Hanada』『WiLL』(2025年4月号)が対立を煽り、藤岡信勝、猫組長、井川意高、城之内みな、長谷川幸洋が批判に加担。
  • 外部勢力の脅威:日本にロシアのような工作の証拠はないが、中国や左翼が分裂を悪用する恐れ。中国は台湾で工作強化。保守の亀裂は外部勢力に付け入られる。
  • 団結の必要:米国の分裂は2020年敗北を招いた。日本は飯山と保守党の争いを修復し、外部の脅威に立ち向かうべきだ。内輪もめはリベラルと中国を喜ばせるだけだ。
米国の保守分裂とロシアの暗躍

2016年、共和党大統領候補指名に出馬したトランプ氏

2015~2016年、米国保守派はトランプの登場で大きく割れた。「アメリカ・ファースト」の叫び、国境の壁、ムスリム入国制限、保護主義。これらは草の根保守の心を掴んだが、自由貿易や国際協調を重んじる伝統派と真っ向衝突した。共和党予備選は、クルーズ、ブッシュ、ルビオら17人が火花を散らす戦場と化した。価値観の違いがむき出しになったのだ。

クルーズはキリスト教保守を掲げ、ブッシュは穏健派の旗手だった。だが、トランプの過激な言葉がすべてを飲み込んだ。党内は「反トランプ」と「親トランプ」に分裂。『ナショナル・レビュー』(2016年1月22日)はトランプを「保守ではない」と断じ、FOXニュースの一部は熱烈支持。草の根の怒りは党エリートへの不信を爆発させ、予備選は罵倒と陰謀論の泥沼と化した。この分裂は、保守の力を削ぎ、2016年本選の戦略を乱した。

2020年以降、衝撃の事実が明らかになった。ロシアの工作機関IRAマリア・ブティナが、この分裂を意図的に煽ったのだ。IRAは偽アカウントでSNSを埋め尽くし、トランプ支持や反エスタブリッシュメントの投稿を拡散。愛国主義や反移民感情を煽り、伝統派を「裏切り者」と攻撃した(Senate Intelligence Committee Report, August 2020)。ブティナはNRAや保守イベントに潜入し、共和党員の不信を増幅。これらの工作は、保守の団結をズタズタにした。

この分裂は、2020年のトランプ敗北に間接的に響いた。予備選の傷は、伝統派の一部を「反トランプ」に固執させた。リンカーン・プロジェクトはバイデン支持に回り、穏健派の票を奪った(『The Atlantic』, October 2020)。IRAの偽情報も2020年まで続き、保守の分断を維持(FBI and CISA Advisory, September 2020)。だが、トランプは共和党支持者の9割以上を確保(Edison Research, 2020年11月)。敗北の主因はコロナ対応への批判(Gallup, 2020年10月:不支持率58%)やバイデンの組織力だ。それでも、初期の分裂が保守の結束を弱め、スイングステートでの敗北を招いた側面は否めない(『New York Times』, November 4, 2020)。

日本の保守分裂の実態

日本でも、保守派の分裂が加速している。米国の2015~2016年を思わせる。自民党では、岸田文雄や石破茂のリベラル寄り政権が、LGBT理解増進法、移民改革、グローバル経済を推し進める。一方、高市早苗や旧安倍派は憲法改正、対中強硬、国家主権を訴える。だが、両者は明確に対立する段階に至っていない。政権は保守派を冷遇し、不満を溜めさせている。
2023年のLGBT法成立では、岸田政権が保守派の声を無視。『産経新聞』(2023年6月17日)は、高市が党内議論の不足を批判したと報じた。2024年の自民党総裁選でも、高市は保守の支持を集めたが、主流派に冷たく扱われた(『読売新聞』, 2024年9月28日)。旧安倍派は政治資金スキャンダルで弱体化。憲法改正や安全保障の声は、政権のグローバル路線に埋もれている。


2023年、百田尚樹と有本香が日本保守党を設立。伝統文化の尊重、反LGBT、反移民を掲げ、勢力を伸ばした。2024年10月の衆院選で3議席を獲得。得票率2%超で国政政党に躍進した。自民党のリベラル路線は保守層の怒りを買い、2024年選挙で単独過半数を失った(191議席、従来247議席)。公明党との連立も過半数に届かず、他党の協力が必要となった。

日本保守党と飯山陽の対立は、分裂の象徴だ。飯山は2024年4月の東京15区補選で4位に終わり、PTSDを理由に支部長を退任。10月の衆院選で比例候補から外され、党のガバナンスと資金透明性を批判。YouTubeで12本の動画を公開したが、資金負担の主張を「交通費や食事代」と訂正し、矛盾を突かれた。百田は飯山を猛非難。支持者が攻撃をエスカレートさせた。飯山は2025年5月、『日本保守党との死闘』を出版し、党を批判。対立は東京地裁の名誉毀損訴訟に発展した(2025年5月19日)。党は1000万円以上の賠償を求め、飯山は訴訟を報復と反論。

かつての百田尚樹氏と飯山陽氏

この対立を、保守系メディアが煽った。「WiLL」は、日本保守党に対し「LGBTQ問題への対応が不十分」との主張を展開。特に、党が保守層の期待に応える具体的な政策を打ち出せていない点を問題視している一方、「月刊Hanada」は、日本保守党の元候補者・飯山あかり氏による批判記事を掲載これが論争の火種となった。保守の足並みは乱れる一方である。

外部勢力の脅威と保守の団結

外部勢力の影がちらつく。米国では、2020年以降、IRAやブティナの工作が保守の分断を狙ったと判明。日本では証拠はないが、危険は潜む。中国は台湾や豪州で影響工作を強化。SNSやロビー活動で日本を狙う可能性がある。左翼も保守の亀裂を巧みに利用する。米国でロシアが保守を弱らせたように、日本でも外部勢力が分裂を悪用する恐れがある。

2019年04月26日、ブティナに対し、ワシントンの連邦地裁は、禁錮1年6月の実刑判決を言い渡した。 

2016年の米国大統領選挙の共和党予備選挙で、ドナルド・トランプの最大のライバルはテキサス州の上院議員テッド・クルーズだった。クルーズは保守派、特にキリスト教福音派やティーパーティー運動の支持を集め、インディアナ州予備選挙で敗れるまでトランプと激しく争った。クルーズはトランプを「道徳的に無責任」「完全に不道徳」と批判し、女性への不適切な発言、過去の不倫疑惑、トランプ大学の詐欺疑惑といったスキャンダルや、保守派らしくない政策、過激な言動を問題視した。トランプもクルーズを「ライイン・テッド」と呼び、クルーズの妻や父親への個人攻撃で応酬し、対立は激化した。

その後、クルーズは2016年の共和党全国大会でトランプを支持せず物議を醸したが、党の結束のため最終的に支持を表明。トランプが大統領就任後、クルーズは税制改革や規制緩和で協力し、2018年の中間選挙ではトランプの応援を受けて上院議員に再選。2020年にはトランプの再選を支持し、2024年のトランプの大統領復帰後も協力関係を維持。クルーズは2024年予備選挙に出馬せず、党内での地位を保ちつつ保守派の政策を推進している。このように、両者は当初の激しい対立から現実的な同盟関係に移行した。

日本の保守はただでさえ自民党内の保守派の動きが封じられ、保守政党は未だ微弱勢力にすぎない今こそ、党派を超えて団結せねばならない。保守派ならば、党派など異なっても、基本的な部分では一致できるはずだ。米国の教訓は明快だ。内部対立は外部に利用され、国家と伝統を守る力を奪う。2015~2016年の分裂は、2020年のトランプ敗北に響いた。日本の保守も、同じ轍を踏むのか。飯山と日本保守党の争いは、感情と訴訟で溝を深めた。無論互いに批判するなとは言わない、批判すべきことは批判しながらも、協力すべきは協力すべきだ。保守派は事実に基づく対話で亀裂を埋め、外国勢力や左翼の介入を防ぐべきだ。国益と伝統を守る戦いは、内部の争いではなく、外部の脅威に立ち向かうことで勝ち取る。内輪もめに溺れれば、リベラル左翼や中国共産党を喜ばせるだけだ。団結こそ、保守の未来を切り開く。

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2025年6月5日木曜日

ロシアの戦争継続はいつまで? 経済・軍事・社会の限界が迫る2025年末の真実

まとめ
  • 経済的限界: ロシア経済は2024年に4.1%成長したが、2025年には成長率が1.3~1.5%に低下。国家福祉基金の枯渇、財政赤字1.7%、石油収入の26.9~41.7%減、インフレ9.5%、金利21%で戦争資金が2025年中に尽きる(ブルームバーグ、2024年12月;ロイター、2025年1月)。
  • 軍事的限界: 半導体など西側技術への依存と労働力不足(失業率2.3%)で軍事生産が制約。2025年2月時点で人的損失70万、装備2万台以上喪失。2025年夏に死傷者100万人、兵器在庫枯渇の予測(CSIS、2025年2月;フィナンシャル・タイムズ、2024年11月)。
  • 政治・社会的限界: プーチン支持率80%超だが、経済苦境と人口減少(2024年死亡数59.6万人超)で不満増大。国際的孤立が進み、BRICSや中国は西側の代替にならず、2025年に政権への圧力高まる(ロシア統計局、2024年12月;ガーディアン、2024年10月)。
  • 継戦能力: 制裁の累積効果、技術・労働力・財政の限界で、戦争継続は2025年末~2026年半ば(約6~12か月)が限界。専門家も同様の評価(ブルームバーグ、2025年1月;国際戦略研究所、2025年2月)。
  • 結論: 戦争経済への依存は一時的な成長をもたらしたが、持続性がない。2025年以降、スタグフレーションやリセッションのリスクが迫る(ワシントン・ポスト、2024年12月)。
経済的限界:資金と資源の枯渇


ウクライナ侵攻以降、西側の厳しい制裁と戦争経済への転換でロシアは複雑な局面に立たされている。2024年、GDPは4.1%成長し、軍事費の急増と政府の財政刺激策で一時的に持ちこたえた。2025年の国防費は予算の41%(約1770億ドル)を占め、装甲車両やドローンの生産を拡大した。しかし、2025年には成長率が1.3~1.5%に低下し、経済は過熱から冷却へと向かう。国家福祉基金は3年間で3分の2が消え、2025年秋には底をつく可能性が高い。財政赤字はGDPの1.7%に達し、エネルギー収入も制裁で大きく減少した。2024年末、石油価格は1バレル64.4ドルに下落、2023年初頭比で26.9~41.7%減という厳しい現実だ。インフレ率は9.5%に跳ね上がり、中央銀行は金利を21%に引き上げたが、民間投資は縮小し、経済の持続性が揺らいでいる。これらの経済的制約は、戦争を支える資金が2025年中に尽きることを示唆する(ブルームバーグ、2024年12月;ロイター、2025年1月;国際通貨基金、2024年10月)。

軍事的限界:兵器と兵力の消耗

ロシアは米国製の半導体がなければ戦争を継続できない

軍事面では、兵器と兵力の維持が戦争の生命線であるが、ここにも暗雲が垂れ込める。ロシアは軍事生産を加速させたが、半導体などの先端技術は西側に依存し、制裁で入手が難しく、トルコや中国経由の迂回ルートではコストと時間がかかり、性能も不十分だ。労働力不足も深刻で、動員や徴兵逃れによる人口流出で失業率は2.3%と過去最低だが、技術労働者の不足が軍事生産を圧迫する。ウクライナでの損失は甚大で、2025年2月時点で人的損失は70万人以上、車両・装備は2万台以上と報告される。補充は追いつかず、専門家は2025年後半に主要兵器の在庫が枯渇すると予測する。米シンクタンクCSISは、2025年夏までにロシア軍の死傷者が100万人に達する可能性を指摘し、英米情報機関もこれを裏付ける。人的・物的損失の増大は、軍事能力の限界を2025年以降に露呈させるだろう(CSIS、2025年2月;フィナンシャル・タイムズ、2024年11月;BBC、2025年1月)。

政治・社会的限界:国民の支持と国際的孤立


政治面では、プーチン政権の支持率は未だ高く、戦争への支持は依然強い。しかし、経済的苦境が長引けば、国民の不満が膨らむ危険がある。制裁による国際的孤立は進み、BRICSや中国との関係強化でしのごうとするが、西側の技術や経済的支援の完全な代替にはならない。内部の政治的安定は保たれているが、戦争終結後の経済調整や不平等の拡大が政権に圧力をかける。社会的には、軍事費や契約兵への高額報酬で一部の生活水準は上がったが、インフレによる実質所得の減少と人口減少が不満を醸成する。2024年、死亡数が出生数を59.6万人上回り、社会の耐久力は試されている。戦争の負担が国民の支持を揺らし、2025年以降に動揺が広がる可能性がある(ロシア統計局、2024年12月;ガーディアン、2024年10月;エコノミスト、2025年2月)。


これらの現実を直視すれば、ロシアが戦争を続けられるのはあと約6~12か月、つまり2025年末から2026年半ばまでが限界だ。専門家や情報機関も「継戦能力はあと半年から1年」と評価し、2025年夏以降に経済や社会問題が深刻化すると指摘する。中国やインドとの関係強化や迂回貿易で一時的にリソースを補充できても、制裁の累積効果、技術依存、労働力不足、財政の限界は避けられない。戦争経済への依存は一時的な成長をもたらしたが、持続可能な発展を犠牲にした。プーチン政権は経済と政治の板挟みに苦しみ、2025年以降、スタグフレーションやリセッションのリスクが迫る。戦争終結や制裁緩和がなければ、ロシアの脆弱性はさらに露わになるだろう(ブルームバーグ、2025年1月;ワシントン・ポスト、2024年12月;国際戦略研究所、2025年2月)。あと半年から1年。それがロシアの戦争継続の現実的なタイムリミットである。

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2025年6月4日水曜日

AIを装った人力詐欺:Builder.aiの破綻と技術の虚偽が暴く政治の闇

まとめ
  • 技術の虚偽による破綻:Builder.aiはAIを装った人力作業で売上水増しが発覚、2025年に破産。東芝やJDIも技術・財務の虚偽で危機に陥った。
  • 政治利用の暗部:DeepSeekはデータ送信疑惑で信頼を失い、中国の監視体制と結びつく。石破首相の消費税減税「1年」発言は誇張と批判され、財政優先の意図が疑われる。
  • 過去の類似事例:Cambridge Analytica、Theranos、ドットコムバブルのPets.comやWebvan、AIスタートアップのOlive AIなどが、技術誇張で失敗。
  • 対策の鉄則:個人は情報源検証、技術学習、批判的思考、迅速な対応を。企業は監査、透明性、専門家雇用、リスク管理を徹底。ドラッカーの「覚醒のショック」で他者を真実に導く。
  • 教訓:技術の虚偽は商業的・政治的不信を招く。歴史は繰り返す。真実を見抜くには検証と行動が不可欠だ。
関連Xポストのイメージ
技術の虚偽が招く破綻
英AIスタートアップBuilder.aiは、Microsoftやカタール投資庁から4億4500万ドル以上を集め、2023年に15億ドルの評価額を誇った。しかし、2025年5月、破産申請に追い込まれた。AIでアプリを自動開発する「Natasha」を謳ったが、実際はインドとウクライナの700人以上のエンジニアが手作業でコードを書き、AIは表向きの看板にすぎなかった。2019年のウォール・ストリート・ジャーナルがこの「AIウォッシング」を暴き、批判が殺到した。2024年の売上高は2億2000万ドルと予測されたが、実際は5500万ドル。300%の水増しだ。債権者のViola Creditが3700万ドルを差し押さえ、残高500万ドルでは運営が続かず、600人近い従業員の8割を解雇。米国司法省とSECが証券詐欺の疑いで調査を開始した。元従業員の告発や顧客の怒り(「65,000ドルを無駄にした」との声)が、信頼の崩壊を加速させた。

人力AIのイメージ AI生成画像

日本の事例も衝撃的だ。2015年、東芝は1520億円の利益水増しが発覚。PCや半導体事業の損失を隠し、監査法人と癒着していた。株価は暴落、経営陣は辞任に追い込まれた。ジャパンディスプレイ(JDI)は、Apple向けディスプレイ技術を誇張し、政府系ファンドから巨額の資金を得たが、技術の遅れで2019年から経営危機に陥った。これらは、技術の誇張と不透明なビジネスモデルの危険性を突きつける。
政治利用の闇
テクノロジーの虚偽は政治にも及ぶ。2016年のCambridge Analyticaはデータ分析を誇張し、選挙操作を謳った。2023年には、ディープフェイクが米国選挙で偽動画を拡散。中国のDeepSeekは、2025年に生成AIの低価格モデルで注目されたが、データプライバシーの疑惑が噴出。米ABC(2025年2月4日)は、コードに中国移動通信のサーバーへ個人情報を送信する機能が隠されていたと報じた。台湾は著作権違反や思想検閲のリスクで全面禁止を決定(ロイター、2025年2月5日)。韓国も外務省や銀行が接続を遮断(朝鮮日報、2025年2月8日)。OpenAIからのデータ不正入手疑惑も浮上(ブルームバーグ、2025年1月30日)。中国の社会信用システムは「公共の安全」を名目に市民監視を強化。DeepSeekの疑惑は、国家によるデータ悪用の危険性を示す。

日本でも、2025年5月21日、石破茂首相が党首討論で「消費税減税にはレジシステム変更に1年かかる」と発言。減税を避ける姿勢が透ける。しかし、産経新聞(2025年5月30日)は、小売店経営者が中小では「1日でできる」大手で「3カ月で対応可能」と反論したと報じた。コロナ禍でドイツなど30カ国が迅速に減税した事実とも矛盾する。朝日新聞(2025年5月31日)は「ほぼ正確」と擁護したが、産経新聞(2025年6月1日)は「事実と乖離し、国民の不信を招く」と批判。財政健全化を優先する政治的意図が疑われる。

石破首相はとにかく消費税減税したくないようだ

2000年のドットコムバブルでは、Pets.comが3億ドルを溶かし、Webvanが8億ドルを無駄にした。2010年代のTheranosは血液検査技術を偽り、9億ドルを集めたが2018年に解散。米国のOlive AIは医療AIを謳い10億ドルを集めたが、効果の乏しさで2023年に事業停止。Inflection AIは生成AIで15億ドルを調達したが、独自技術の不足で2024年に崩壊。Ghost Autonomyは自動運転AIで2億2000万ドルを得たが、非現実的な計画で2024年に終焉。
騙されないための鉄則
虚偽に騙されない方法は明確だ。個人は、情報源を多角的に検証する。海外メディアや産経新聞を参照し、Builder.aiやDeepSeekの疑惑を見抜く。AIやシステムの基本を学び(例:CourseraのAI講座)、石破発言のような誇張を判断する。批判的思考を磨き、「革新的」との主張に根拠を求める。Redditで専門家の意見を聞く。迅速な対応も不可欠だ。明らかな間違いには、細かな検証を後回しにしても即座に対処する。DeepSeekの禁止措置は、台湾や韓国が迅速に行動した好例だ。

「デューデリジェンス」は日本語で「適正評価」や「事前調査」と訳される。文脈によっては「詳細な調査」や「リスク評価」とも表現される。

企業は、デューデリジェンスを徹底し、技術や財務の第三者監査を要求。透明性を確保し、専門家を雇い、リスク管理を強化する。東芝やJDIの失敗は、こうした対策の欠如が招いた。他者が虚偽に騙されている場合、ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、「覚醒のためのショック」が必要だ。ドラッカーは、誤った前提に囚われた者には、場合によっては劇的な事実やショックが意識を変えると説いた(『マネジメント』)。Builder.aiの破綻やTheranosの詐欺を周囲に伝え、過剰な期待を打ち砕く。時には、内部告発者のように勇気ある行動が真実を浮き彫りにする。

Builder.aiの人力AI詐欺、DeepSeek、石破発言は、技術に関する誇張がもたらす危険を突きつける。ドットコムバブルからAIブームまで、歴史は繰り返す。目を覚まし、検証を怠るな。それが、真実を見抜く唯一の道だ。

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2025年6月3日火曜日

第二次小泉劇場の裏に潜む増税の罠:財務省の策略と国民の選択

まとめ

  • 第二次小泉劇場:小泉進次郎農相が2025年5月26日に打ち出した備蓄米放出政策(5キロ2000円程度)は、財務省の後押しで米価を下げる簡単な施策だが、増税への抵抗感を和らげる政治的ショーと見られる。
  • 石破の減税阻止:石破茂首相は消費税減税を拒否し、2025年5月21日の「消費税率のし変更に1年かかる」発言が「虚偽答弁」と批判され、朝日新聞の擁護記事も提灯記事として非難された。
  • 財務省の影響:財務省はIMFやOECD、民放メディアに天下った官僚を通じて増税を正当化し、減税には「財源」を強調するが補助金には黙る二枚舌が矛盾を示す。
  • 政治的不安定性:2024年10月の総選挙で自公は過半数を失い、農家離反や党内対立が火種。『東洋経済』は「劇場」が自民党凋落を招くと警告。
  • 国民の対抗策:政治家の矛盾を見抜き、複数の情報源で政策の意図を議論。選挙で減税を支持する候補に投票し、財務省やメディアの増税圧力に抗議の声を上げるべき。
現在「第二次小泉劇場」と呼べるような事態が進行している。小泉進次郎農林水産大臣が2025年5月26日に打ち出した、2022年・2021年産の備蓄米を随意契約で大手小売に渡し、5キロ2000円程度で店頭に並べる政策だ。米価を下げるこの施策は、実は簡単なことだ。特に財務省が裏についていれば、随意契約で流通をコントロールし、市場価格を抑えるのは驚くほど容易い。物価高に苦しむ国民への支援に見えるが、裏では増税への道を整える政治的ショーと見られている。

第一次と第二次の小泉劇場:父と子の違い


これは、父・小泉純一郎元首相が2001年から2006年に繰り広げた「第一次小泉劇場」を彷彿とさせる。あの時は、郵政民営化を旗印に大胆な改革を掲げ、国民の喝采を浴びたが、2年で終わり、事実上の再国有化に至った。純一郎氏は消費税増税を避け、財務省を失望させたが、息子・進次郎氏の今回の動きは、財務省の影が濃く、財政健全化や社会保障改革を支える増税路線の布石だ。

石破茂首相は消費税減税を頑なに拒み、社会保障の財源確保を優先する。2025年5月21日の党首討論で、消費税率の変更には「スーパーの経営者に聞くと1年かかる」と発言し、野党が求める減税の即時実施を遠ざけた。この「1年かかる」発言は、税率変更に伴う店舗のシステム更新に時間がかかるとする主張だが、2019年の軽減税率導入では迅速な対応が可能だった実績があり、複数の情報源で「虚偽答弁」と炎上した。

現実には、単純な税率変更の場合、大手銀行や大手小売の対応に1年は過大すぎる。大手銀行はクラウド勘定系システムや自動テストを活用し、1~2カ月(最速3~4週間)で対応可能。大手小売はクラウドPOSや電子棚札で1~2.5カ月(最速3~4週間)。2025年のIT進化により、2019年の6~8カ月から大幅短縮。バッチ処理は数日~1週間で済み、1年は複雑な政策を前提としたり、システム刷新を混同した誤解と言える。中小企業(ラーメン屋1~5日、数軒のスーパー1~2週間)に比べ規模ゆえにやや遅いが、最大3~4カ月で十分。

朝日新聞は5月22日、この発言を擁護する記事を掲載し、システム変更の複雑さを強調したが、過去の実績を軽視する提灯記事として批判を浴びた。国民の不信感は高まっている。

システム変更を理由にして、消費税減税をしたくないというなら、いっそのこと、消費税ゼロにすべきではないのか。これなら銀行は3~14日(最速1~3日)、小売は5~21日(最速3~7日)。

税率計算の無効化、クラウドシステム(API更新数分、テスト1~3日)、電子棚札(値札3~7日)、簡素な教育(1~7日)により、2019年の6~8カ月や単純減税の1~2.5カ月から大幅短縮。中小(ラーメン屋1~3日、スーパーチェーン5~14日)に比べ規模でやや遅いが、1カ月以内で十分だ。

さらに、石破は2024年10月13日のNHK討論で「日本の財政はギリシャ並み」と発言し、財政危機を強調して増税の必要性を訴えた。この発言は、ギリシャの債務危機(2010年代初頭)に言及し、国民に緊迫感を植え付ける狙いだが、その事実はなく、錯誤による過剰な危機感の煽りと批判された。国民の不信感は高まっている。

財務省の影響力と二枚舌の政治

IMF=国際通貨基金は2月7日、日本経済に関する審査を終了し、声明を発表。声明で国債の利払い費や、高齢化に伴う医療費などで債務が増加する懸念を示し、「明確な財政健全化計画が必要だ」と強調しました。


2024年10月の総選挙で自民党は下院の過半数を失い、政治は不安定だ。2025年税制改革は成長と持続可能性を掲げ、中小企業の投資インセンティブ延長や法人税調整を進める。国際通貨基金(IMF)は日本の高齢化と公的債務の増大を警告し、財政再構築を迫るが、日本の財務官僚が出向している影響で、増税路線の正当性を国際的に補強している。同様の動きは経済協力開発機構(OECD)にも見られ、財務省出身者が税収不足を強調する報告書に関与し、消費税率引き上げの必要性を訴える。さらに、財務省から民放メディアに天下った官僚が、報道を通じて増税の必要性をさりげなく後押しする。こうした元官僚は、経済番組や解説記事で財政規律の重要性を強調し、減税への慎重論を広め、世論を増税路線に誘導する。これらの国際機関やメディアの圧力は、財務省の戦略と連動し、国内の増税議論を後押しする。

石破の税政策は財務省の意向を色濃く反映する。2024年9月2日、総裁選を前に金融所得課税の強化に意欲を示した。同月22日の討論会では、法人税や所得税の引き上げ余地を主張。小泉は炭素税創設をぶち上げ、増税路線を後押しした。10月10日の衆院本会議では選挙を意識し、増税発言をぼかした。10月13日、NHKの日曜討論で消費税減税を「社会保障の財源が危うい」と一蹴。2025年3月28日、参院予算委員会で減税の効果検証をちらつかせたが、4月1日の記者会見で「適当ではない」と全否定。5月9日、経済対策で減税見送りを決め、5月12日には「減税は無責任」と切り捨てた。5月21日の減税のためのシステム変更には「1年かかる」発言は、朝日新聞の擁護記事にもかかわらず、減税を遅らせる口実として批判を浴びた。

単純な税率変更の場合、大手銀行や大手小売の対応に1年は過大すぎる。大手銀行はクラウド勘定系システムや自動テストを活用し、1~2カ月(最速3~4週間)で対応可能。大手小売はクラウドPOSや電子棚札で1~2.5カ月(最速3~4週間)。軽減税率の不在や2025年のIT進化により、2019年の6~8カ月から大幅短縮。バッチ処理は数日~1週間で済み、1年は複雑な政策やシステム刷新を混同した誤解。中小企業(ラーメン屋1~5日、数軒のスーパー1~2週間)に比べ規模ゆえにやや遅いが、最大3~4カ月で十分と見られる。


小泉の備蓄米政策は、財務省の後押しがあれば米価を下げるのは簡単な仕事であり、国民の生活を支えるように見えて、増税への反発を和らげる計算ずくの動きだ。第一次小泉劇場が国民の熱狂を背景に改革を押し進めたのに対し、今回は農家離反を警戒する自民党農林族との対立が火種だ。『東洋経済』は、この「劇場」が自民党の凋落を招くと警告する。国民の不満はSNSなどを含めた複数の情報源で爆発し、小泉の人気取りに冷ややかな視線が注がれる。

矛盾と国民の選択

議員が減税には「財源が足りない」と声を上げながら、補助金には黙る矛盾も見逃せない。たとえば、減税が議論されると、税収減による社会保障の危機を強調するが、農家への補助金や小泉の備蓄米政策のような支援策には財源の話を持ち出さない。この二枚舌は、財務省が減税を抑えつつ、政治的圧力で補助金を容認する姿勢を示す。財務省は財政規律を盾に減税を封じ込めるが、補助金は農協など政治的圧力で黙認する。この矛盾は、財務省の影響力を如実に示す。小泉の備蓄米政策は補助金的な性格を持ちながら、財源問題をうやむやにし、増税への道を開く。

第二次小泉劇場の幕はあがったが・・・・・ AI生成画像

2025年度の社会保障費は38.3兆円に膨らみ、消費税以外の「ステルス増税」も囁かれる。社会保険料引き上げや間接的な税負担増が検討され、国民の負担は増すばかりだ。石破の減税阻止と小泉の「劇場」は、財務省の増税路線を支える両輪だ。第一次小泉劇場が改革の熱気で国民を巻き込んだのに対し、第二次は財務省の戦略的な後押しを受け、増税への抵抗感を和らげる舞台装置に見える。財務省はIMFやOECD、民放メディアに天下った官僚を通じて、国際的・国内的に増税を正当化する。だが、複数の情報源での批判や農家の反発は、国民の不信感が根強いことを物語る。この動きが自民党の足を引っ張りかねない危険も潜む。増税への布石は着々と進むが、国民の目はごまかせない。

有権者としてどうすべきか。政治家の二枚舌を見抜く目を持つことだ。減税には「財源が足りない」と騒ぎながら、補助金には財源を問わない議員の矛盾に気づき、財務省の影響を疑うべきだ。複数の情報源で情報を集め、政策の裏に隠れた意図を議論することが重要だ。選挙では、増税路線を押し進める候補者を見極めこれを避け、減税や生活支援を本気で掲げる議員に票を投じる。農家や中小企業など、政策の影響を受ける声を直接聞き、団結して圧力をかけるのも有効だ。財務省の国際機関や民放メディアを通じた増税正当化、朝日新聞のような提灯記事にも目を光らせ、国民の負担増を押し付ける動きに抗議の声を上げる。増税への道は巧妙に進むが、われわれ有権者が目を覚ませば、その流れを止められるだろう。

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2025年6月2日月曜日

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と経済・軍事への衝撃

まとめ
  • ウクライナ保安庁が「クモの巣」作戦でロシアの軍用飛行場を無人機攻撃、戦略爆撃機など41機を破壊。損失は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載機の34%を直撃。
  • ロシアは攻撃前、戦略爆撃機を60~70機保有(実働50~60機)、41機喪失で残存30~50機に減少し、戦略航空戦力と核抑止力に深刻な打撃。
  • ロシア経済は2024年GDP約2兆ドル、軍事費は1,489億ドル(GDP7.1%)で、70億ドルの損失は軍事予算の5%。制裁やインフレで経済は脆弱化。
  • ウクライナは西側から1,000億ドル以上の支援で精密攻撃を強化、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、北朝鮮や中国の支援に依存。
  • ロシアの持久戦優位性が揺らぎ、50万人の動員に対し30万人以上の死傷者、兵器生産の停滞、インフラ事故で国内混乱が増幅。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。
無人機(ドローン)攻撃によるものとされる黒煙=1日、ロシア・イルクーツク州

ウクライナ保安庁がロシアの軍用飛行場を無人機で襲撃する「クモの巣」作戦を敢行し、戦略爆撃機など41機を破壊したとウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」が報じた。この作戦は1年半以上かけて準備され、トラックに隠した無人機を遠隔操作で攻撃する巧妙な手法だ。ロシアは攻撃前、戦略爆撃機(Tu-95、Tu-160、Tu-22M3)を60~70機保有していたと推定されるが、稼働率を考慮すると実働は50~60機程度だ(国際戦略研究所『Military Balance 2024』)。

もしウクライナの主張通り41機が破壊されたなら、残存機数は30~50機に激減し、ロシアの戦略航空戦力や核抑止力に深刻な打撃を与える。損失額は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載可能な機体の34%を直撃したとされる。

ロシアの反応と広がる混乱

ロシアの戦略爆撃機「ツポレフ95」

ロシア国防省はイルクーツク州やムルマンスク州など5州の飛行場が攻撃され、航空機が火災を起こしたが、けが人はなく、関係者を拘束したと発表した(タス通信、2025年6月1日)。イルクーツク州知事は「シベリア初の無人機攻撃」と強調。一方、ロシア西部ではブリャンスク州で陸橋崩壊による列車脱線で7人が死亡、クルスク州でも鉄橋事故で運転士らが負傷し、原因が調査中だ(ロイター、2025年6月1日)。

ウクライナのゼレンスキー大統領は作戦を主導したマリュク長官と笑顔で握手する写真を公開し、「1年6か月9日にわたる準備の末の歴史的行動」と絶賛した(ウクライナ大統領府、2025年6月1日)。この作戦はロシアの軍事力を弱体化させるウクライナの戦略の一環であり、潜伏者の活用が鍵だ。

経済と軍事への甚大な打撃
この攻撃の衝撃はロシアの経済と軍事に重くのしかかる。ロシアの2024年名目GDPは約2兆ドル(約300兆円)、軍事費は約1,489億ドル(約22兆円)で、GDPの7.1%を占め、欧州全体の防衛費(約4,570億ドル)を超える(SIPRI 2024)。だが、70億ドルの損失は軍事予算の5%に相当し、高価な戦略爆撃機の喪失はウクライナへの攻撃力と核抑止力を直撃する(BBC、2025年6月2日)。

日本の2024年GDPは約4兆ドル、軍事費は553億ドル(GDPの1.4%)だが、もし3%に引き上げれば約1,800億ドルとなり、ロシアを上回る(SIPRI 2024)。ロシア経済は軍事費に偏重し、予算の40%が防衛・安全保障に投じられるが、インフレ率7.4%と労働力不足で成長は鈍化(世界銀行、2024年)。制裁によるハイテク製品の入手困難やエネルギー輸出の減少(1日約7500万ドル、ブルームバーグ、2024年12月)も重なり、今回の損失は経済と戦略に致命的な打撃だ。

ウクライナは軍事拠点やインフラを的確に攻撃し、米国、NATO、EUからの約1,000億ドル以上の支援でドローンや精密兵器を強化している(SIPRI 2024)。2023年の黒海艦隊攻撃では旗艦「モスクワ」を撃沈し、ロシアの黒海支配を揺さぶった(ロイター、2023年4月)。対して、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、2024年10月のミサイル攻撃では民間施設を破壊、20人以上の死傷者を出した(国連人権高等弁務官事務所、2024年11月)。

ドネツク州バフムト西方に位置するチャソフヤルで行われたロシア軍人の葬儀(2025年2月25日

支援は北朝鮮の砲弾(2024年約100万発)や中国の部品供給に限られ、西側に劣る(CSIS 2024)。従来、領土や資源、兵力で持久戦はロシア有利とされたが、この状況が続けば優位性は崩れる。ロシアは50万人の動員に対し、30万人以上の死傷者を出し(英国防省2024年)、兵器生産はソ連在庫に依存、新規生産が滞る(フィナンシャル・タイムズ、2025年6月2日)。ブリャンスクやクルスクのインフラ事故はウクライナの作戦と連動し、国内の混乱を増幅させる(ガーディアン、2025年6月2日)。今回の攻撃はロシアの軍事力と経済を直撃し、戦争の負担を増大させる。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。

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2025年6月1日日曜日

中国の海洋覇権の野望を打ち砕く:米国防長官のシャングリラ対話での力強い宣言

中国の海洋覇権の野望を打ち砕く:米国防長官のシャングリラ対話での力強い宣言

まとめ
  • ヘッグセス米国防長官は2025年5月31日のシャングリラ対話で、中国の台湾侵攻や南シナ海での強硬姿勢を批判し、国際法違反と破滅的結果を警告した。
  • 中国の海軍ロードマップは2020年までに第一・第二列島線の確保を目指したが、日米の軍事力と同盟網により未達に終わり、尖閣や南シナ海での実効支配は進んでいない。
  • 日米の対潜水艦戦(ASW)能力、特に索敵能力の優位が中国の遅れの主因であり、米国のP-8Aや日本のP-1哨戒機が中国潜水艦を圧倒している。
  • 索敵能力の向上には技術・訓練・連携が必要で、中国の進展は遅く、2030年以降も第一・第二列島線の確保は困難と予想される。
  • 米国は同盟国との合同演習や武器供与を強化し、インド太平洋の抑止力再構築と防衛費増額を促し、中国の覇権を封じ込める決意を示した。

米国防長官ヘッグセス

2025年5月31日、シンガポールで開かれたシャングリラ対話で、米国防長官ヘッグセスは中国の野望に真っ向から立ち向かう姿勢を打ち出した。中国が台湾を武力で飲み込もうとすれば、インド太平洋地域はおろか世界全体が破滅的な打撃を受けると警告する。

南シナ海での中国の横暴—人工島の軍事基地化やフィリピン漁船への水砲攻撃—は国際法を踏みにじる行為だと断じた。さらに、軍事力に情報戦やサイバー攻撃を絡めた中国の「ハイブリッド戦争」や、グレーゾーンでの狡猾な挑発が地域の脅威だと訴えた。力強い口調で、ヘッグセスは中国の覇権拡大を許さない決意を明確に示した。

中国の海軍ロードマップは、2000年代からの「海洋強国」戦略に基づく野心的な計画である。2020年までに第一列島線(九州-沖縄-台湾-フィリピン)を押さえ、第二列島線(小笠原-グアム-パプアニューギニア)で制海権を握る目標を掲げた。


空母「遼寧」「山東」の運用、055型駆逐艦や095型原潜の開発、対艦弾道ミサイル(DF-21D、DF-26)の配備がその柱だ。しかし、この計画は未だ実現していない。尖閣諸島周辺では、2025年5月時点で中国海警船が187日連続で接続水域に侵入するも、米国の軍事力と日本・フィリピンとの同盟網が壁となり実効支配は遠い。

南シナ海では、2024年3月のフィリピン漁船への攻撃や同年10月のトリトン島へのレーダー設置で強硬姿勢を見せるが、米国の合同演習や武器供与が中国の動きを封じ込める。第二列島線では、中国海軍の遠洋展開能力が未熟で、グアムやAUKUS枠組みによる豪州の抑止力に阻まれている。

MQ-4Cトライトン無人機

この停滞の最大の理由は、日米と中国の対潜水艦戦(ASW)能力、特に索敵能力の圧倒的な差である。米国はP-8Aポセイドン哨戒機やMQ-4Cトライトン無人機、海底音響センサー網(SOSUS)で太平洋全域を監視する。

日本もP-1哨戒機や「たいげい」級潜水艦で尖閣や南西諸島を固める。2024年の日米共同演習では、米国の最新ソノブイと日本の海底センサーが中国の093型潜水艦をリアルタイムで捕捉した(Defense News, 2024年11月)。一方、中国のY-8Q哨戒機やキロ級潜水艦は性能と経験で劣り、2023年の南シナ海演習で米潜水艦を探知できなかった(Jane’s Defence Weekly, 2024年2月)。中国は人工島や海底センサーを増やすが、日米の統合ASW網には及ばない。


索敵能力の向上は一朝一夕では成らぬ。高度なセンサー技術、データ解析、訓練の蓄積、国際連携が必要だ。米国は数十年の経験を持ち、日本も次世代哨戒機を2035年までに開発予定。AUKUSでの豪州の原潜導入(2030年代)も控える。対して中国の095型原潜や新型哨戒機は進むが、米国のバージニア級潜水艦やP-8Aに追いつけていない(CSIS報告, 2025年3月)。このギャップは埋まりそうにない。中国の艦艇数は増えたが、質と訓練の不足で、第一・第二列島線の確保は2030年以降も難しい。

ヘッグセスはこうした中国の足踏みを背景に、インド太平洋の抑止力を再構築する戦略を打ち出した。米軍の西太平洋展開を強化し、同盟国の防衛力を支援、防衛産業を立て直す。日本、フィリピン、台湾の第一列島線と、グアムを含む第二列島線で中国の覇権を封じ込めるのだ。NATOの防衛費GDP比5%引き上げを模範に、同盟国に防衛費増額を求めた。5月30日には東南アジアや豪州、シンガポール、フィリピンの国防相と会談し、対中抑止の連携を固めた。

米国はフィリピンとの2024年の合同演習「バリカタン」やF-35配備を加速させ、国際法と地域の安定を守る。ヘッグセスの演説は、中国の野望を挫くための団結と決意を高らかに宣言したものだ。

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