2025年1月31日金曜日

ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 最大野党の方針転換が物議―【私の論評】2025年ドイツ政治の激変:AfD台頭と欧州保守主義の新潮流

ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 最大野党の方針転換が物議

まとめ
  • ドイツの連邦議会は移民・難民政策の厳格化を求める決議案を可決したが、法的拘束力はなく、政府への影響は限定的である。
  • 決議の背景にはアフガニスタン出身男性による幼児襲撃事件があり、移民問題が選挙戦の重要な争点となっている。
  • 中道右派の最大野党「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」は右派「ドイツのための選択肢(AfD)」との協力を示唆しているが、主要政党は排外主義勢力への警戒感からAfDとの連立を否定している。

ドイツの野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を率いるメルツ党首

 ドイツの連邦議会は2月下旬の前倒し総選挙を控え、29日に移民・難民政策の厳格化を求める決議案を賛成多数で可決した。この決議は中道右派の最大野党「CDU・CSU」が提案し、排外主義的な右派「AfD」も支持したが、法的拘束力はなく、政府方針への影響は少ないと見られている。

 背景には、22日に発生したアフガニスタン出身の男性による幼児襲撃事件があり、移民問題が選挙戦の重要な争点となっている。CDU・CSUの提案には、国境の持続的な管理、入国許可証を持たない者の入国拒否、国外退去対象者の拘束などが含まれている。

 CDUのメルツ党首は移民対策強化を公約に掲げ、AfDとの協力も辞さない姿勢を示した。しかし、ドイツではナチス政権の反省から、排外主義勢力への警戒感が強く、主要政党はAfDとの連立や政策協力を否定している。与党の中道左派・社会民主党もメルツ氏の発言に強い反対を示した。

 また、EU加盟国のドイツが国境管理を恒常化することは、EUのシェンゲン協定に反するため、今回の決議は実現可能性が低いとの指摘もある。現在、CDU・CSUは支持率が高く、2月23日の前倒し総選挙で第1党となる可能性が大きいが、AfDに対する拒否感を持つ支持者からの反発も懸念されている。メルツ氏は公約の実現に向けた強い姿勢をアピールしているが、内部での不満が高まる可能性もある。 

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【私の論評】2025年ドイツ政治の激変:AfD台頭と欧州保守主義の新潮流

まとめ
  • ドイツの連邦議会で移民政策厳格化の決議案が可決され、AfDの支持率が20%を超えるなど、保守系政党の台頭が顕著になっている。
  • EU全体で保守系勢力が台頭しており、2024年の欧州議会選挙でも保守系会派が勢力を拡大した。
  • イーロン・マスク氏がAfDを支持を表明、集会にリモート参加するなど、物議を醸している。
  • 保守系政党台頭の背景には、移民問題、経済的不安、気候変動政策への不満、伝統的価値観の喪失感などがある。
  • 日本でも既存の政治体制への不信感が高まりつつあり、日本の政治地図も大きく塗り替えられる可能性もある。
イーロン・マスク氏とのインタビューに臨むAfDのアリス・ワイデル共同党首

ドイツの政界に、変革の風が吹き始めた。2025年1月29日、連邦議会で移民政策の厳格化を求める決議案が可決された。これは、2月23日の総選挙を前に、国民の声が政治に反映された瞬間だ。

この決議案を提出したのは、中道右派の最大野党CDU・CSUだ。そして、「ドイツのための選択肢(AfD)」も、この決議案を支持した。AfDの支持がなければ、この決議案は可決されなかっただろう。

現在のドイツは、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)による「信号」連立政権が統治している。この名称は、各党のシンボルカラー(赤、緑、黄)に由来する。しかし、この政権は移民問題に対して十分な対策を講じられずにいた。

AfDの支持率が20%を超え、SPDを上回っているのは、こうした現状に国民が危機感を抱いているからだ。2024年9月の旧東ドイツ3州での州議会選挙でAfDが躍進したのも、当然の結果と言える。

しかし、この潮流はドイツだけの現象ではない。EU全体で保守系勢力が台頭している。2024年6月の欧州議会選挙では、EU加盟各国で保守系や国家主義的な政党が大きく勢力を拡大した。フランスでは「国民連合」が熱狂的支持を集め、ベルギー下院選挙では北部オランダ語圏で「フラームス・ベラング」が第二党となった。

オランダでは昨秋の下院選挙で「自由党」が第一党となり、7月に連立内閣が発足した。オーストリアでも、9月末の下院選挙で「自由党」が第一党となった。

欧州議会選挙の結果を見ると、保守系会派である欧州保守改革(ECR)やアイデンティティと民主主義(ID)が勢力を拡大した一方で、環境会派の緑の党・欧州自由同盟(Greens/EFA)や中道リベラル会派の欧州刷新(Renew Europe)が大幅に勢力を落とした。

この保守化の背景には、移民問題だけでなく、リーマン・ショック後の欧州債務危機の影響もある。経済的不安が、既存の政治への不信感を高め、保守政党の支持拡大につながっているのだ。

アメリカの実業家イーロン・マスク氏も、「ドイツを救えるのはAfDだけだ」と発言し、AfDの集会にリモートで参加した。この行動は国内外で物議を醸している。

イーロン・マスク氏

マスク氏がAfDを支持するに至った背景には、複雑な要因がある。2024年12月、マスク氏はトランプ氏やJ.D.ヴァンス氏らとマールアラーゴで会談し、ドイツの主流政党の指導者たちを批判した。マスク氏のドイツ政治への批判的な見方は、この会談以前から形成されていたという。

マスク氏は、ドイツでの事業展開における政府規制への不満や、ドイツの政治文化に対する観察から、批判的な見解を持つようになった。また、AfDを支持する政治活動家や、ドイツのリベラルな政策や過剰規制に不満を持つ起業家たちとの交流も、彼の見解に影響を与えたとされる。

さらに、マスク氏は「過去の罪悪感に焦点を当てすぎ」というドイツの姿勢を批判し、AfD支持者から喝采を浴びた。この発言は、ドイツの「自虐史観」の払拭を狙ったものだとの見方もある。

2月23日の総選挙で、ドイツ国民は重大な選択を迫られる。このまま「信号」連立政権に国の舵取りを任せるのか。それとも、AfDとともに新しいドイツを築くのか。

ドイツの、そして欧州の未来がかかった選挙が、今、始まろうとしている。AfDは、国民の声に耳を傾け、真のドイツの利益のために戦う。そして、この動きはEU全体に広がっている。変革の時は、今だ。

この保守系政党台頭の背景には、より深い構造的な問題がある。EUの経済的停滞、移民問題、気候変動政策への不満、伝統的価値観の喪失感が、有権者の不安を加速させているのだ。

特に注目すべきは、若年層の間でこうした保守系政党への支持が拡大していることだ。2024年の調査によれば、18〜35歳の有権者の中で、AfDを支持する割合が25%に達している。これは、従来のリベラル層が政治的無関心や既存政党への失望から、急進的な選択肢に傾いていることを示している。

気候変動政策も、保守系政党台頭の重要な要因となっている。緑の党が推進する厳格な環境規制は、特に中小企業や地方の労働者に経済的負担を強いてきた。この結果、伝統的な産業地域で保守系政党への支持が急速に拡大している。

EUは歴史的な転換点に立っている。伝統的な政治構造が揺らぎ、新たな政治的可能性が開かれつつある。AfDをはじめとする保守系政党の台頭は、単なる一時的な現象ではなく、より深い社会変容の兆候なのだ。

さらに、ドイツのエネルギー政策の転換も、この政治的変化に拍車をかけている。2022年までに全ての原子力発電所を閉鎖するという決定は、エネルギー供給の不安定化と電力価格の高騰をもたらした。2021年には、ガス価格の高騰と石炭火力への逆戻りにより、電力価格が記録的に上昇した。

現政権は原発を恒久的につかえなくするため原発冷却塔を爆破

この原発廃止政策は、ドイツの競争力を低下させ、経済成長を阻害する可能性があるという懸念が産業界から上がっている。特に、産業向けの電気料金の上昇は、企業の生産拠点の海外移転を加速させ、経済を悪化させる恐れがある。

また、再生可能エネルギーへの移行も順調とは言えない。風力発電の不安定さに対応するためのコストが予想以上にかかっており、技術開発の進展次第では、将来的に脱原子力政策の見直しを迫られる可能性もある。

これらのエネルギー政策の問題は、国民の不安と不満を高め、AfDのような保守系政党の支持拡大につながっている。エネルギー安全保障と経済成長の両立を求める声が、従来の政党への不信感と相まって、新たな政治勢力への期待を高めているのだ。

欧米でのリベラル・左派政権の失敗は明らになりつつある。既存の政治体制への不信感の高まりがその証左となっている。これらの教訓を踏まえると、日本でも保守派の台頭が起こる可能性は十分に考えられる。既存の政治への不満や、伝統的価値観への回帰を求める声が高まれば、日本の政治地図も大きく塗り替えられる可能性があるだろう。

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2025年1月30日木曜日

トランプ米政権、職員200万人に退職勧告 在宅勤務禁止などに従わない場合―【私の論評】統治の本質を問う:トランプ政権の大胆な行政改革

トランプ米政権、職員200万人に退職勧告 在宅勤務禁止などに従わない場合

まとめ
  • トランプ米政権は連邦政府職員に在宅勤務を禁止し、従わない場合は退職を勧奨する方針を通知した。対象は約200万人で、退職者には9月末までの給与が支払われる。
  • 政権高官は5~10%の退職者が出ることで約1千億ドルの歳出削減が期待されている。この方針は政府の効率化を目指すものである。
  • 人事管理局は週5日の出勤を求め、職員に忠誠心と信頼性を強調し、2月6日までに退職の意向を返信するよう求めている。職位の存続は保証できないとされている。

トランプ大統領

 トランプ米政権は28日、連邦政府職員に対し、在宅勤務を禁止し、これに従わない場合は退職を勧奨する方針を通知した。対象となる職員は約200万人で、退職に応じた職員には9月末までの給与が支払われる予定である。政権高官によれば、退職者が5~10%出ることで、約1千億ドル(約15兆5千億円)の歳出削減につながると見込んでいる。

 この方針は、トランプ大統領が進める連邦政府改革の一環であり、「政府効率化省」の設置や新型コロナウイルス禍で進んだ在宅勤務の原則禁止を盛り込んだ大統領令に基づいている。政権は官僚機構に対する支配を強化することを狙っているが、大幅な人員削減が政府機能の不全を招く恐れもある。

 人事管理局はメールで職員に対し、週5日の出勤を求め、「忠誠心があり、信頼に足る人材で構成されるべき」と強調している。また、2月6日までに退職するかどうかの返信を求めており、政府機関の大半で職場の統廃合を通じて人員削減が進められることも示唆している。職位や所属機関の存続については、確実に保証できないとも付言されている。

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【私の論評】統治の本質を問う:トランプ政権の大胆な行政改革

まとめ
  • トランプ大統領が設立したDOGE(政府効率化省)は、連邦政府の無駄を削減し行政改革を推進する革命的な取り組みだ。
  • ドラッカーの理論によれば、政府の本質的役割は「統治」であり、実行とは明確に区別されるべきだ。
  • 真の改革とは、政府が効率化されるだけでなく、本来の「統治」の役割に立ち返ることだ。
  • ドラッカーの提唱する「再民間化」概念は、政府の力を弱めるのではなく、その能力と力を回復させる方法だ。
  • この改革の成否は、アメリカの未来だけでなく、21世紀の世界秩序をも左右する可能性がある。

アメリカが新たな時代の幕開けを迎えようとしている。トランプ大統領の就任演説で発表された政府効率化省(DOGE)の設立だ。これは単なる行政改革ではない。アメリカの根幹を揺るがす大改革の始まりだ。上の記事にある連邦政府職員に在宅勤務を禁止し、従わない場合は退職を勧奨する方針は、DOGEの助言を受け入れたものとみられる。

DOGEは、イーロン・マスクとビベック・ラマスワミという二人の実業家が共同で率いる。彼らの目標は明確だ。連邦政府の無駄を徹底的に削ぎ落とし、行政を根本から変えることだ。マスク氏は、ブロックチェーン技術の活用を検討している。政府の支出を透明化し、データを守り、建物管理まで効率化する。まさに革命的な発想だ。

DOGEは、ホワイトハウスのアイゼンハワー行政府ビル内にオフィスを構え、各連邦機関に少なくとも4人から成るチームを配置する。その姿勢は、まさに政府全体を変革する気概に満ちている。

だが、課題も山積みだ。DOGEの法的位置づけは不透明だ。複数の団体が訴訟を起こしている。公的権限もほとんどない。それでも、トランプ大統領は「マンハッタン計画」になぞらえ、その重要性を強調する。DOGEの活動は、米国の独立250周年となる2026年7月4日までに完了する予定だ。

この改革の背景には、共和党の「小さな政府」志向がある。さらに、トランプ氏の「ディープステート撲滅」という野心的な目標がある。マスク氏とラマスワミ氏も、以前から政府の規制権限に批判的で、連邦政府の大幅な縮小を主張してきた。

小さな政府そのものがゴールではない

しかし、ここで立ち止まって考えてみよう。そもそも政府とは何か。経営の神様ドラッカーは、政府の役割の本質を「統治」だと喝破した。社会に方向性を示し、エネルギーを結集させる。それが政府の役割だと。

ドラッカーは警告する。統治と実行を混同すれば、政府は麻痺する。意思決定機関に実行を委ねても、貧弱な結果しか生まれない。その逆も然りだ。企業は統治と実行を分離することで成功した。政府も同じだ。政府は統治に専念し、実行は他の組織に任せるべきだと。

ドラッカーは、政府の役割を次のように定義している。「政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである」。これこそが、真の「統治」の姿だ。

さらに、ドラッカーは「再民間化」(現代では民営化)という概念を提唱した。これは、政府の力を弱めるのではなく、むしろその能力と力を回復させる方法だ。実行は現場ごとの目的の下にそれぞれの現場に任せ、政府は決定と方向付けに専念する。これにより、政府は本来の役割に立ち返ることができる。

この視点は、今の改革にも重要だ。効率化や撲滅に走るあまり、政府の本来の役割を見失ってはいけない。DOGEが活動し、トランプ大統領がその助言を受け入れるならば、政府が効率化され、ディープステートが撲滅されるかもしれない。しかし、それだけでは不十分だ。政府を小さくすることだけに焦点を絞れば、改革はうまくいかない。

真の改革とは、政府が本来の役割である「統治」に立ち返ることだ。社会のために意味ある決定を行い、エネルギーを結集し、問題を浮かび上がらせ、選択肢を提示する。それこそが、政府の本質的な使命なのだ。

ドラッカー氏

ドラッカーの言葉を借りれば、「この300年間、政治理論と社会理論は分離されてきた。しかしここで、この半世紀に組織について学んだことを、政府と社会に適用することになれば、この二つの理論が再び合体する」。つまり、非政府組織(NGO)が成果を上げるための機関となり、政府が社会の諸目的を決定するための機関となる。そして、政府は多様な組織の指揮者となるのだ。この方向にトランプ大統領の改革が進んでほしい!

アメリカは今、歴史的な岐路に立っている。この改革が成功するか否か、世界中が固唾を呑んで見守っている。トランプ大統領の決断が、アメリカの、そして世界の未来を左右する。政府の効率化と本質的な役割の両立。それが実現できれば、アメリカは真の意味で「再び偉大に」なるだろう。

我々は今、歴史の大きな転換点に立ち会っている。この改革の行方が、21世紀の世界秩序を決定づけるかもしれない。G7の他の国々でも、似たような潮流がすでにあるが、現状でもっとも進み、可能性があるのはアメリカだといえる。トランプ大統領の手腕が、今ほど試されているときはない。政府の本質を見失わず、真の統治を実現できるか。その答えが、アメリカの、そして世界の未来を形作るのだ。

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2025年1月29日水曜日

オープンAIアルトマン氏、ディープシークのモデル「目を見張る」―【私の論評】AI覇権競争の裏で:DeepSeekの衝撃と私たちの選択?

オープンAIアルトマン氏、ディープシークのモデル「目を見張る」

まとめ
  • OpenAIのアルトマンCEOは中国ディープシークのAIモデルを高く評価しつつ、OpenAIの成功には大規模なコンピューティングパワーが必要だと強調した。
  • ディープシークの低コスト高性能AIモデルの登場により、米ハイテク企業の巨額AI投資計画に疑念が生じ、関連企業の株価に影響を与えた。

OpenAIのサム・アルトマンCEO

サム・アルトマンCEOは中国のディープシークが開発したAIモデル「R1」を「目を見張る」と評価した。特に低コストで高性能を実現した点を称賛している。ディープシークはNVIDIAの比較的安価なH800チップを使用し、600万ドル以下で「V3」モデルを訓練したと発表。さらにR1モデルはOpenAIの「o1」より20-50分の1のコストで使用可能だという。

一方でアルトマンCEOは、OpenAIの成功にはより大きなコンピューティングパワーが不可欠だと強調した。ディープシークの台頭により、米ハイテク企業の巨額AI投資計画に疑念が生じ、NVIDIAなどの株価が急落した。

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【私の論評】AI覇権競争の裏で:DeepSeekの衝撃と私たちの選択?

まとめ
  • DeepSeekは、わずか600万ドルで世界最高レベルのAIモデルを開発し、アメリカのIT巨人を驚かせた中国の新興AI企業である。
  • 中国のAI技術は、人権侵害や監視社会の強化に利用される可能性があり、国際的な技術競争と倫理的課題を提起している。
  • DeepSeekは約5万台のNVIDIA H100 GPUを保有するとされ、その技術力は米国のトップ企業も注目するレベルに達している。
  • AIは核兵器のような破壊的な力を持ちながら、同時に医療、教育、環境保全などの分野で人類を救う可能性も秘めている。
  • 技術の進歩と人権保護のバランスを取ることが、現代社会における最も重要な課題であり、その選択は私達一人一人にかかっている。
皆さん、想像してほしい。あなたの隣人が突然、超人的な力を手に入れたとしたら。その力で世界を良くすることもできるし、逆に支配することもできる。そんな状況が、今まさに現実となりつつあるのだ。

中国のAI技術が驚異的な速さで発展している。DeepSeekという新興企業が、わずか600万ドルで世界最高レベルのAIモデルを開発したというニュースが飛び込んできた。これは驚くべき快挙だ。アメリカのIT巨人たちが数十億ドルを投じて開発したモデルと互角以上の性能を持つという。

中国政府は2030年までに世界のAI開発をリードする野心的な目標を掲げている。2021年には政府のAI関連支出が約150億ドルに達したという。しかし、問題はその技術が誰の手に渡るかだ。

新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での民主活動家の弾圧。これらはAI技術によって更に強化される恐れがある。顔認識技術を使った監視システム、SNS上での世論操作。そして、「社会信用システム」という名の下で行われる市民の監視と統制。これらは、もはやSFの世界の話ではない。

香港での民主活動家の弾圧

DeepSeekは約5万台のNVIDIA H100 GPUを保有しているとされる。これは驚異的な数字だ。H100は現在、最先端のAI研究に不可欠な高性能GPUであり、その大量保有は、DeepSeekの研究開発能力が想像以上に高いことを示している。

この状況は、トランプ政権の警戒心を強く刺激する可能性が高い。トランプ大統領は、DeepSeekの技術を「米企業にとって警鐘となるべき」と述べ、中国企業がAIでより高速な手法を考案したことを評価しつつも、米国の競争力強化の必要性を強調した。

この両刃の剣は、米国側だけでなく、中国にとっても同様だ。DeepSeekのような企業の台頭は、中国のAI産業に活力を与え、国際競争力を高める可能性がある。しかし同時に、こうした技術の急速な発展は、すべてを管理しようとする中国政府の管理能力をはるかに超える可能性もあり、社会的・政治的な不安定要因となる恐れもある。

さらに、DeepSeekが、米国製のNVIDIA H100 GPUを多数用いているとされることも危機を生み出す懸念材料だ。これは、米国政府の規制により、中国への合法的な輸出は基本的に不可能。ただし、非公式な迂回ルートを通じた流入が完全に防げているわけではない。しかし、これを米国がさらに規制を厳しくして、完璧に断つことになれば、開発どころか現状を維持することすらできなくなる。それに現時点では、公にされていないが、低コストでの生成AI開発には何か裏がある可能性もある。

アメリカのシリコンバレーは今、必死に対抗策を練っている。OpenAIのサム・アルトマンは公然と「我々はより優れたモデルを作る」と豪語するが、その裏には焦りと危機感が隠されている。まさに、新たな「技術冷戦」の様相を呈しているのだ。

この技術競争は、単なる企業間の戦いではない。それは文明の未来を左右する壮大な闘いなのだ。中国のAI技術は、計算機能を遥かに超えた、人間社会を根本から変革する可能性を秘めた最先端兵器なのである。


ファーウェイの5G技術が世界中で警戒されたように、DeepSeekのAI技術も同様の地政学的インパクトを持つ可能性がある。それは、単なる技術的な優位性だけでなく、世界の権力構造そのものを揺るがす可能性を秘めているのだ。

日本はこの状況でどう立ち位置を取るべきか。技術大国として、この激しい競争に傍観者であってはならない。「人間中心のAI社会原則」を掲げるだけでなく、具体的な技術開発と倫理的枠組みの構築が求められている。

この戦いの本質を理解するには、歴史を振り返る必要がある。20世紀、人類は二度の世界大戦と冷戦を経験した。技術が戦争と支配の道具となり、何百万もの命が奪われた。今、私たちは新たな戦場に立っている。今回の戦場は、サーバールームであり、データセンターであり、そして一人一人のスマートフォンの中なのだ。

サーバールーム、データセンター、そして一人一人のスマートフォンの中の戦場 AI生成画像

AIは、核兵器のように破壊的な力を持ちながら、同時に人類を救う可能性も秘めている。医療、教育、環境保全。これらの分野でAIは革命を起こす可能性がある。しかし、その刃は常に両刃なのだ。DeepSeekは、まさにその象徴だ。ただし、これは単なる政治的メッセージである可能性もあり得る、実際よりもかなり優れているように体裁を繕っているが、これが見せかけであり、米国や西側諸国を混乱させることを目的にしている可能性も捨てきれない。混乱させることに特化したAIという事もありえる。現時点で結論を出すことは、尚早かもしれない。

いずれにせよ、私たちの選択は、未来の子供たちの自由と尊厳を左右する。AIという巨大な力は、人類を解放することもできれば、全体主義的な監視社会に陥れることもできる。その分岐点に、今、私たちは立っているのだ。

結論は明確だ。技術の進歩と人権保護のバランスを取ることが、私たちの世代に課された最も重要な使命なのである。私たちには選択肢がある。技術に振り回されるのか、それとも技術を人類の幸福のために方向づけるのか。それは、一人一人の意識と行動にかかっているのだ。AIも例外ではない。

さあ、行動しよう。無関心は最大の敵だ。未来は、私たち一人一人の選択にかかっているのだ。そして忘れてはいけない。技術は道具であり、その使い方は私たち次第だということを。

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2025年1月28日火曜日

リベラル左派の将来は暗い?!―【私の論評】覚醒思想(WOKE)の危機とポピュリズムの復権:米国政治の未来を占う

リベラル左派の将来は暗い?!

まとめ
  • トランプ氏の再登場により、米国内外で政策や情勢が大きく変化。
  • 保守主義の台頭に伴い、進歩派は重税や規制が批判され支持を失いつつある。
  • 米欧では一般国民に直接に訴える本来の「大衆直訴主義」としてポピュリズムの政治主導が効果を上げてきた。
ファリード・ザカリア氏

ドナルド・トランプ氏が第47代アメリカ大統領として再登場し、国内外で大きな変化をもたらしている。国内では、不法入国者の追放やLGBT文化の抑制、さらにはエネルギー政策の復活が進行中であり、これらの政策は保守的な支持層からの期待を集めている。国際的には、イスラエルとハマスの停戦やロシア、中国との関係改善が見られるなど、トランプ氏の強硬な外交姿勢がさまざまな面で影響を及ぼしていることは明らかである。

選挙前には、トランプ氏への厳しい批判が多く存在したが、最終的にはアメリカ国民の多数が彼を支持する結果となった。これは、リベラル派によるトランプ氏への攻撃が必ずしも国民の共感を得ていないことを示している。リベラル派の著名な評論家であるファリード・ザカリア氏は、トランプ氏の圧勝は進歩的な政治に対する不満から生じたものであり、保守主義の方が住民に満足を与えていると分析している。ザカリア氏は、特に民主党統治のニューヨーク州と共和党統治のフロリダ州の政治状況を比較し、フロリダ州の方が税負担や治安、教育などにおいて住民に満足感を提供していることを強調している。

さらに、ポピュリズムに関する議論も重要である。ザカリア氏は、トランプ氏の手法が一般的に「大衆迎合主義」とされる解釈とは異なり、既存の政治エリートに対する反発が根底にあることを強調している。このような視点は、トランプ氏の支持が単なる感情的反応ではなく、実際の政策に対する期待と不満の表れであることを示唆している。

最後に、文化的エリートを守り、覚醒(ウォーク)思想を保ち、膨張した政府を続ける限り、永遠の野党の立場に甘んじる可能性が高いと警告している。このように、トランプ氏の再登場がもたらす影響は多岐にわたり、今後の展開に注目が集まっている。アメリカの政治情勢は変化の真っただ中にあり、その行方は全世界に影響を及ぼす重要な要素となるであろう。

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【私の論評】覚醒思想(WOKE)の危機とポピュリズムの復権:米国政治の未来を占う

まとめ
  • 覚醒思想(ウオーク:英語はWOKE)はアイデンティティ政治やDEIと結びつき、特定の社会的グループの権利を中心に据えるが、社会の分断を招くことになった。
  • リベラル派は社会の不平等を解消しようとするが、トランプ支持者は過剰な規制が自由を脅かすと批判している。
  • リベラル・左派の政策は社会工学実験の領域にまで踏み込んでおり、予期しない弊害や反発を招いている。
  • ポピュリズムは19世紀に一般市民の利益を代表する運動として発展したが、20世紀に入ってからは左翼によって「大衆迎合主義」として貶められた。
  • 米民主党は社会工学実験にまで踏み入ってしまった政策を見直し、ポピュリズムの元来の意味を再評価しなければ、万年野党の座から抜け出せない可能性が高く、それは米国にとって良いことではない。
覚醒思想(WOKE)は米国の分断を促進

覚醒(ウォーク)思想は、社会的不正や差別に対する意識と行動を促す考え方であり、特に、人種、性別、LGBTQ+の権利、経済的不平等などの問題に焦点を当てる。アイデンティティ政治やDEI(多様性、公平性、包括性)と深く結びついている。アイデンティティ政治は特定の社会的グループ(人種、性別、性的指向など)の経験や権利を中心に据えた政治的アプローチであり、マイノリティの声を政治の場に反映させることを目指している。

しかし、これらのアプローチは同時に分断を招く危険性もはらんでいる。DEIは、組織や社会における多様性を促進し、すべての人が公平に扱われる環境を作ることを目的としているが、その実践にはさまざまな課題が伴う。

リベラル派の支持者たちは、これらの理念を通じて社会の不平等を解消しようと奮闘しているが、トランプ氏の支持者はこれに対し、過剰な規制が一般市民の自由を脅かすものだと批判している。トランプ氏の再登場に関する文脈において、覚醒思想やアイデンティティ政治、DEIはリベラル派の主要な信条として位置づけられ、保守主義政策と対立する立場を形成している。

さらに、リベラル・左派の政策には、社会正義や環境正義、フェミニズム、LGBTQ+権利、人権擁護、公共サービスの拡充、富の再分配などが含まれる。これらの施策は一見、美辞麗句に飾られた素晴らしい理念のように見えるが、実際にはリベラル・左派の価値観を実現するための社会工学実験にまで至っている。社会工学実験とは、社会の構造や人々の行動を意図的に変えようとする試みであり、理想的な社会を実現するためにさまざまな政策やプログラムを推進することを指す。

しかし、このような実験には予期しない弊害が伴うことが多く、保守派だけでなく、多くの人々からの賛同を得ることができなかった。過剰な規制や重税、自由の制限などが一般市民に影響を及ぼし、反発を招いている。社会工学実験は、実施するにしても限られた空間で安全を確保した形で行うべきであり、決して地方自治体レベルや国レベルで行うべきものではない。共産主義もまた、社会工学実験の一つとして位置づけられ、理想とされる社会を実現しようとした結果、多くの人々に深刻な影響を及ぼした歴史を持っている。

実際に行われた社会工学実験が引き起こした衝撃的な事例として、アメリカの「禁酒法」を挙げることができる。1920年から1933年にかけて施行された禁酒法は、アルコールの製造、販売、輸送を禁止したが、結果的には地下経済の拡大や犯罪の増加を招いた。この期間中、ギャングの台頭や暴力事件が相次ぎ、社会が混乱した。

さらに禁酒法が終了した後、国民の間に法律への不信感が広がり、法治主義の根底を揺るがす結果となった。これに関する研究としては、ハーバード大学の経済学者による分析(例:Mark Thornton, "The Economics of Prohibition," 1991)があり、禁酒法がもたらした社会的影響について詳細に論じられている。

禁酒法時代に酒を捨てる人々

また、1971年に行われた「スタンフォード監獄実験」も忘れてはならない。この実験では、18人の男子学生を看守役と囚人役に分け、刑務所生活を再現したが、予想以上に早く暴力的な行動や精神的な苦痛を引き起こし、わずか6日で中止された。この実験は、人間の行動が環境や役割によってどれほど影響を受けるかを示す一方で、倫理的な問題も引き起こし、心理学界における倫理基準の見直しを促す結果となった。

スタンフォード監獄実験を題材にした映画『ザ・スタンフォード・プリズン・エクスペリメント』は、2015年に公開され、監督はアビー・ルーサー、主演はタロン・エジャトンやオスカー・アイザックである。この映画は、実験の影響や結果についての関心を一層高めた。

最近のトランスジェンダーの女性スポーツへの進出も、過激な社会工学実験だ。これは、スポーツ自体を破壊することになるとんでもない暴挙と言わざるを得ない。社会変革は、失敗すれば大きな悪影響をもたらす、慎重に行うべきであり、すでに成功してその効果が実証されている手法を取り入れることによって実行されるべきである、決して実験的に行うべきではない。

ザ・スタンフォード・プリズン・エクスペリメントの一シーンのスティル写真

ザカリア氏の警告にも見られるように、民主党が過剰な覚醒主義の理念を守り続け、過剰な規制や重税を課す限り、彼らは選挙での支持を失う可能性が高い。さらに、ザカリア氏は米欧いずれでもポピュリズムの政治主導が効果をあげてきたことを強調している。

ポピュリズムは19世紀のアメリカで発展し、当初は中産階級や農民の利益を代表する運動として位置づけられた。元々の意味は「一般市民の利益を代表する」という広義の概念であり、これには中産階級だけでなく、労働者階級やマイノリティの声も含まれる。ポピュリズムは、エリートや権力者に対する反発の姿勢を持ち、一般市民の感情や不満に訴えかけるスタイルの政治として、特に経済的不平等や社会的な不公正に対する反発から生まれた。

しかし、20世紀に入ると、ポピュリズムという言葉は特に左翼によって「大衆迎合主義」として貶められていく過程が見られた。これは、ポピュリズムが単に感情や不満に訴えることで、理性的な政策や理念を欠いた政治を指すものとして使われるようになったためである。このようにして、ポピュリズムは軽視される存在となり、特にエリート層や知識人からは批判の対象となった。一方で、トランプ氏や米国の保守派は、現代でも元来の意味でのポピュリズムを使用しており、一般市民の利益を代表し、エリートに対抗する姿勢を強調している。

このように、米民主党は覚醒思想やアイデンティティ政治、DEI、さらにはリベラル・左派の政策を見直す必要がある。米国社会を破滅に導きかねない、社会工学実験的な暴挙を慎み、ポピュリズムの本来の意味を再評価して自らの政治手法に取り入れなければ、万年野党の座から抜け出すことは不可能だろう。これは米国にとって決して好ましい状況ではない。米国は、健全な二大政党制の時代に戻るべきである。しかし、二大政党制であっても、社会工学実験を厭わない政党にその責任を託すべきではない。真に国民の声を反映させる政治が求められているのだ。

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2025年1月27日月曜日

コロンビア、送還を一転受け入れ 関税で「脅す」トランプ流に妥協―【私の論評】トランプ外交の鍵『公平』の概念が国際関係を変える 、 コロンビア大統領への塩対応と穏やかな英首相との会談の違い

コロンビア、送還を一転受け入れ 関税で「脅す」トランプ流に妥協

まとめ
  • トランプ米大統領がコロンビアからの輸入品に25%の関税を課すと発表した。
  • コロンビアが不法移民を乗せた米軍機の着陸を拒否したことが発端。
  • トランプ氏は不法移民の強制送還を強調し、他国に対する同様の手法への警戒が広がっている。
  • コロンビアのペトロ大統領は報復関税を発表し、移民の扱いについて尊厳を強調した。
  • トランプ氏は関税を50%に引き上げる可能性も示唆した。

 トランプ米大統領は26日、コロンビアが不法移民を乗せた米軍機の着陸を拒否したことに対抗し、同国からの全輸入品に25%の関税を課すと発表した。しかし、その後コロンビア側が妥協し、米軍機の受け入れを決定した。この結果、トランプ氏の「脅し」が効果を発揮した形となり、今後も他国に対して同様の手法が使われる可能性があることへの警戒が広がっている。

 トランプ氏は不法移民の強制送還を「史上最大の強制送還」として掲げ、就任早々からその実行に移しており、成果を強調している。今回の事態は、トランプ氏がSNSで移民を乗せた米軍機2機がコロンビアへの着陸を拒否されたと発表したことが発端であり、彼は「米国の安全保障と公共の安全が脅かされた」と主張した。そして、25%の関税や政府高官に対する渡航禁止、ビザの剥奪を行う意向を示し、「1週間経っても事態が変わらなければ、関税を50%に引き上げる」とも強調した。

 これに対し、コロンビアのペトロ大統領は米国からの製品に対して25%の報復関税を課す意向を表明した。また、米軍機の着陸拒否については自身のX(旧ツイッター)で、送還された移民が犯罪者のように扱われていると述べ、「人間として尊厳をもって扱わなければならない」と主張した。彼は、米軍機は追い返したが、民間機は受け入れると説明している。

朝日新聞

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【私の論評】トランプ外交の鍵『公平』の概念が国際関係を変える 、 コロンビア大統領への塩対応と穏やかな英首相との会談の違い

まとめ
  • ペトロ・コロンビア大統領は、米軍機の着陸拒否について、「移民」と「不法滞在者」を混同し、不適切な発言をした。
  • トランプ大統領は、ペトロ大統領の発言に対し、コロンビアからの輸入品に25%の関税を課す可能性を示唆した。
  • 一方、トランプ大統領とスターマー英首相の会談は、意見の相違はあるものの、「公平」という概念を基に良好な関係を築こうとする努力が見られた。
  • 「公平」という概念は、今後の国際関係において重要な役割を果たすと考えられ、特に貿易や経済関係における相互利益を強調するものとなる。
  • トランプ政権との交渉においては、「公平」というキーワードを念頭に置き、相手国の立場や利益を理解する姿勢が求められる。

コロンビアのペトロ大統領

コロンビアのペトロ大統領は米軍機の着陸拒否について、以下のようにツイートしている。

「アメリカはコロンビアの移民を犯罪者として扱うべきではない。私はコロンビアの移民を乗せたアメリカの軍用機の入国を禁止した。私たちは、市民の尊厳ある扱いを保証する民間機のみを受け入れるつもりである。」

大統領自身が「移民」という言葉を使っているため、朝日新聞の記事もこれに従ったものとみられる。しかし、ペトロ大統領の言葉遣いは明らかに間違いである。「アメリカはコロンビアの移民を犯罪者として扱うべきではない」という発言は誤りだ。移民とは、合法的手続きを経て米国に入国した人を指しており、トランプ政権が送還したのはコロンビア籍の「不法滞在者(Undocumented immigrant または Illegal alien)」である。

さらに、「移民を犯罪者として扱うべきでない」という発言は、米国を不当に攻撃していると受け取られても仕方ない。トランプ政権は移民を拒否しているのではなく、あくまでも不法滞在者を拒否しているのである。そして、不法滞在者は全員、法的には犯罪者である。それに、不法滞在者の増加により、米国社会は混乱し、不法滞在者に保護プログラムを提供することで経済的にも不利益を受けており、これは本来コロンビア政府が行うべきことであ米国側からみれば、不公平と言わざるを得ない。

無論、犯罪者であろうとなかろうと、尊厳ある扱いを受けるべきであるが、その尊厳の扱いは一般市民と犯罪者では異なるのは明白である。このような言葉遣いをしたペトロ大統領は、無頓着に発言したのかもしれないが、これは一国の大統領としてあまりにも軽薄であり、不法滞在問題に関する認識が極めて薄いことを示している。これがトランプ大統領の逆鱗に触れたと考えられる。一方、一国の大統領がこのような認識しか持っていないことは、トランプ政権にとって非常に対処しやすかったであろう。

そのため、トランプ米大統領はコロンビアからの輸入品に25%の関税を課すという脅しとも取れる反応を示した。ペトロ大統領がもっとまともな対応をしていれば、トランプ大統領もより穏やかな反応を示した可能性が高い。

スターマー英首相とトランプ米大統領

実際、トランプ大統領は、英国首相には穏やかな対応をしている。スターマー首相とトランプ大統領は26日、電話で45分にわたり会談した。この両者の間には、性格や政治的姿勢の違いがあり、大きな隔たりが存在する。しかし、表向きは両首脳の言葉遣いや外交表現は通常通りで、最近のこの電話会談は「とても温かく」、「とても親密なもの」とされている。この会談は政策の詳細よりも大局的な視点やお互いを理解することが主な目的だったようであり、首相は数週間以内にワシントンを訪れる予定である。

会談後、両政府は「リードアウト」と呼ばれる概要を発表するのが慣例であり、これによって会談の内容や双方の受け止め方が示される。意見の相違は続くものの、良好な関係を築く努力が見られる。特にダウニング街(首相官邸)からの報道では、スターマー首相が経済成長のために規制緩和に取り組んでいると説明されており、これは左派政党の党首としては意外だが、トランプ大統領に対しては効果的な表現となる。

また、ホワイトハウスの報道官は、両首脳が「両国がいかに公平な二国間の経済関係を推進できるか」について話し合ったと説明している。この「公平」という言葉は、貿易における相互利益を強調するものであり、両国間の経済関係をより効果的にするための基盤となる。トランプ大統領は、アメリカの友好国や敵国に対しても関税を脅しとして利用することが知られているため、「公平」という表現は、今後の難しい交渉を円滑に進めるための重要なキーワードとなるだろう。

両国が言及する「公平」は、無論最近日本でもいわれるようになったDEIの「公平」とは異なる。米英の首脳会談における公平とは、競争や機会が平等であるべきだという考えに基づいており、個々の努力や才能に基づく成功や失敗を尊重するものである。トランプ氏は政策として規制緩和や税制改革をこの「公平」の実現手段と位置づけている。

このように、米英の会談において「公平」というキーワードが使用されたことは、今後米国が他国との外交においても重要な概念となる可能性がある。この「公平」という概念は、単なる道徳的な理想にとどまらず、貿易や経済関係における相互利益を強調するものであり、各国との交渉においても重要な基盤となるだろう。

コロンビアのペトロ大統領の発言は、トランプ大統領にとってその「公平性」に欠けると見られた可能性がある。ペトロ大統領は、合法的に入国した移民と不法滞在者を混同し、アメリカの移民政策を一方的に批判することで、米国との関係において不必要な緊張を生じさせた。彼の発言は、米国に対して公平な理解を欠いたものであったため、トランプ大統領がコロンビアに対して厳しい姿勢を取る根拠となり得た。

このような背景において、「公平」という概念は、ただの言葉以上のものである。各国が互いの利益を尊重し、理解し合うことが、国際関係の安定を図る鍵となるからである。したがって、今後の外交においては、単なる利益追求ではなく、相手国に対する敬意や理解をもったアプローチが求められるだろう。

ペトロ大統領の失敗も、「公平」という概念が国際的な交渉の場においてますます重要であることを浮き彫りにした。各国がこの概念を意識し、外交政策に組み込むことが、より良い国際関係を築くための必要条件となるであろう。

トランプ大統領

トランプ大統領が中国と対峙する背景もこの「公平」というキーワードで理解できる。トランプ大統領が中国が米国に対して公平でないと考える理由は、主に貿易不均衡に起因する。彼は、中国からの輸入が米国からの輸出を大きく上回っていることを問題視している。また、中国が米国企業の知的財産を盗む行為や、不正な貿易慣行、政府による補助金、為替操作、中国市場へのアクセスが制限されていることも懸念している。さらには、労働者の低賃金や過酷な労働条件、強制労働の問題を米国との貿易交渉において中国の「不公平」な競争優位性につながると主張している。

トランプ氏は「カナダやメキシコは不公平だ」「NATOは不公平だ」「WTOは不公平」「WHOは不公平」だと、しばしば口にしている。今後、トランプ政権との交渉にあたっては「公平」というキーワードを念頭に入れておかないと、うまくはいかないだろう。特に、貿易や経済関係、安全保障、不法滞在、強制労働においては米国とのバランスを考慮し、相手の立場や利益を理解する姿勢が求められる。

トランプ大統領は、自国の利益を強く主張する一方で、相手国にも同様の公平性を求めているため、この点を無視すると交渉は失敗に終わる可能性が高い。しかし、一方的にいずれかの国が利益を得ることを「公平」とは呼ばない。相手に対して「公平」を主張する者は、自らも相手に対して「公平」であらねばならない。トランプ大統領も、その点は理解を示すだろうし、そこに大きな交渉の余地がある。

結論として、国際関係における「公平」という概念は、今後ますます重要な役割を果たすであろう。各国がこの概念を意識し、互いの利益を尊重する姿勢を持つことで、より安定した国際社会が築かれることを期待したい。

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2025年1月26日日曜日

「政治を変える」「社会を変える」という言葉が聞き飽きた理由、石丸新党「再生の道」の船出から見える日本政治の悲哀―【私の論評】政治家は「構造改革の呪縛」から逃れ、明確な実行可能なビジョン持ち実現可能な具体策を示せ

まとめ
  • 石丸伸二氏が新党「再生の道」を立ち上げ、2025年夏の都議選に向けて全42選挙区への公募候補擁立を目指す。
  • 党は具体的な政策を掲げず、任期制限を主張するだけであり、他党との掛け持ちも認められている。
  • 候補者選定は知事や市長経験者を優先し、落選した人が多く選ばれる可能性がある。
  • 「政治を変え、政治屋を変える」という主張は具体性に欠け、過去の歴史を振り返っても必ずしも良い結果をもたらさない。
  • 構造改革を訴える声が多いが、具体的な施策が示されておらず、空虚な「変える」だけでは日本の政治は改善されない。 

 広島・安芸高田前市長の石丸伸二氏が2025年1月15日に新党「再生の道」を立ち上げた。彼は2024年7月の東京都知事選挙で小池百合子都知事に次ぐ166万票を獲得した実績がある。この新党は、2025年夏の都議選に向けて全42選挙区への公募候補擁立を目指すという。

 通常、政党は同志が集まり、政策を訴え、国民に協力や投票を呼びかけるものである。しかし、石丸氏の新党は、具体的な政策を掲げることなく、任期制限を主張するだけである。他党との掛け持ちや共産党との協力も認められており、党としての政策が不在であることが指摘されている。

 石丸氏は選挙に出馬せず、候補者を公募し、春までに選定する方針である。公募プロセスは書類審査、テスト、面接の3段階から成り、面接の様子はYouTubeで公開される予定である。決定した候補者には、供託金の負担や選挙サポートが約束されるが、その内容はSNSの活用方法などに限定される可能性が高い。

 候補者の選定には、知事や副知事、市長や副市長などの経験者が優先される。このような方針は、現職の知事や市長が候補者になることを避けることにつながり、結果として落選した人々が多く選ばれる可能性がある。任期制限により、美味しい仕事には8年間しか就けないため、果たしてこれが日本の政治をどう変えるのかは疑問である。

 また、石丸氏は「政治を変え、政治屋を変える」と主張するが、政治家が国民の将来を考えることと、政治屋が次の選挙を考えることの違いは必ずしも明確ではない。過去の歴史を振り返れば、国家の長期的な計画が必ずしも良い結果をもたらさなかった例も存在する。したがって、任期制限が本当に日本にとって意味があるのかは疑問である。

 筆者は、石丸氏の「変える」という主張が無内容に思えるとともに、多くの人が無内容に「変える」と叫んでいる現状に懸念を抱いている。構造改革が必要だと主張する経済学者も多いが、具体的に何をするかは不明瞭である。例えば、エコノミストが構造改革の必要性を訴えても、具体的な施策が示されていないことが多い。

 このような状況において、筆者は「変える」という言葉が空しいものでないかと考えている。日本の政治家が、どのように具体的な改革を行うかを示さなければ、結局は現状維持に留まり、さらなる悪化を招く可能性が高い。エルサが『アナと雪の女王』で歌った「このままじゃダメなんだ」という言葉は、日本の現状にも当てはまる。しかし、政治家が具体的な指針を示さなければ、より深刻な状況に陥るだけである。 

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【私の論評】政治家は「構造改革の呪縛」から逃れ、明確な実行可能なビジョン持ち実現可能な具体策を示せ

まとめ
  • 石丸氏の新党は過去の構造改革と本質的に変わらず、短期的人事異動では根本的な変化が期待できない。
  • 野口旭・田中秀臣の『構造改革論の誤解』は、構造改革の必要性と具体的な政策提案の不足を指摘している。
  • 過去の成功と失敗から学ぶことが改革には不可欠であり、適切な財政金融政策の実施が重要である。
  • 石破総理のビジョンは理想的だが、具体策が不足しており、過去の失敗を繰り返す恐れがある。
  • 現在は日本の政治が変革の岐路に立たされており、具体的な行動を起こす絶好のチャンスである。

構造改革を主張した小泉首相

石丸氏の新党立ち上げは、過去の構造改革と本質的に変わらない点が多い。過去の構造改革は曖昧でありながらも、ある程度の方向性や政策提案があった。それにもかかわらず、経済成長を実現できなかったという教訓がある。石丸氏は短期で人を入れ替えることで政治改革ができると主張しているが、これは過去の構造改革の劣化版に過ぎず、根本的な変化は期待できない。

短期的な人の異動による改革は表面的な変化に過ぎず、政治の本質である政策の実行とその影響を考慮した持続的な改革を無視している。具体的な政策提言が欠けている点も問題であり、単なるスローガンに終わる可能性が高い。

上の記事の元記事にもでてくる、野口旭・田中秀臣の『構造改革論の誤解』では、構造改革の必要性が広く認識されている一方で、その具体的な内容や実行可能性についての議論が不足していることが鋭く指摘されている。

野口旭(左)氏と田中秀臣氏

著者たちは、構造改革が単なるスローガンに終わらないためには、実効性のある具体的な政策提案が不可欠であると強調している。彼らは、日本の経済が抱える深刻な問題に対して、改革の必要性を否定するものではなく、むしろ具体的な行動計画を持たなければ、実際の改善・改革にはつながらないと警告している。

特に、著者たちは過去の経験からの教訓を重視している。彼らは1980年代の規制緩和が一時的に経済成長を促進したが、その後の不動産、金融資産バブルへとつながった側面を挙げ、成功と失敗の事例を慎重に分析することの重要性を説いている。また、1990年代の金融危機に対処するための改革が不十分であり、特に適切な財政金融政策が実施されなかったことが、長期的な経済低迷を招いた教訓も取り上げている。このように、改革においては過去の成功と失敗を学び、次のステップを考える必要があると、著者たちは強調している。

さらに、彼らは理論と実践の乖離についても触れており、多くの経済学者が構造改革の必要性を唱える一方で、実際の政策実施においてその理論がどのように適用されるのかが不明瞭であると指摘している。これにより、改革が進まないというジレンマが生じた。


私も彼らの考えに賛同する。そもそも、上に不動産バブルと、金融資産バブルとわざわざ書いてあることにも気づかない無頓着な政治家も多い。多くの人々は、あのときの状況をいまだに、一般物価上昇によるバブルと信じているようだ。しかし、それは違う。

当時をふりかえると、バブル期の1986年12月から1991年2月までの期間における経済の過熱状態を指しているが、当時のパブルは、資産バブル(主に土地、株)によるものであり、一般物価が上昇していたわけではないし、失業率が悪化していたわけでもない。

コアコアCPIは、1985年は2.0%、1986年は0.6%、1987年は0.1%、1988年は0.7%、1989年は2.3%、1990年は3.1%である。同時期の失業率は、同時期の失業率の推移は以下の通りである。1985年: 2.5%、1986年: 2.8%、1987年: 2.5%、1988年: 2.4%、1989年: 2.1%、1990年: 2.1%。1985年のプラザ合意以降の急激な円高による輸入物価の大幅な下落は、1986年から1988年にかけてのコアコアCPIの低下の主要因の一つである。
  この数値を見る限り、これは一般物価上昇によるバブルとはいえない。1989年〜1990年にかけては、むしろかなり景気が良く、失業率も低く、安定していたといえる。にもかかわらず、日本銀行が金融引き締めに転じたのは1989年である。この年には、一般物価も失業率もあがっていないにもかかわらず、金利の引き上げが始まり、日銀はバブル経済の抑制を目指した。

これは、明らかに間違いであり、金融政策が実際に効果をあらわすまでには、半年から1年以上かかるのが通例のため、その当時はあまり認識されなかったが、これがその後の日本の不況、デフレを決定づけた。その後も、これを見直す機会は何度もあったはずだが、実際には「構造改革論」が幅を利かせ、日本の不況は、バブル崩壊のせいにされたまま、金融引き締めが継続され、それに輪をかけて緊縮財政が行われ、安倍政権時代の包括的金融緩和まで一時的例外を除いて、基本的に改善されることはなかった。これでは、デフレになるのが当然だ。

昨日、石破総理が施政方針演説で掲げた「令和の日本列島改造」や「一人ひとりが自己実現できる楽しい日本」というビジョンは、過去の構造改革といくつかの点で類似している。地方創生の強調は2000年代初頭の「地方分権」など過去の改革でも見られたが、具体的な施策が不足し、地方経済は依然厳しい状況にある。

自己実現の概念は、過去の改革がマクロ経済よりも個々の経済活動を重視したことに通じるが、実際には格差の拡大や地域間の不均衡が進んでいる。石破総理の提案も理想的なビジョンを掲げるものの、具体的な施策が示されておらず、過去の失敗を繰り返す恐れがあり、そうなれば国民は大反発することだろう。というより、多くの国民はもうこれに期待していないだろう。

今こそ、日本の政治家たちが立ち上がり、「構造改革の呪縛」から逃れ、明確な実行可能なビジョンを持ち、実現可能な具体策を示す絶好のチャンスだ。停滞する政治の中で、真の改革を実現すべき機会が訪れている。この瞬間が、国民の期待に応える時だ。過去の教訓を生かし、具体的な行動計画を策定し、実行に移すべきだ。国民は、実際に自分たちの生活に良い影響を与える具体的な政策を求めている。それは、すでに国民民主党の「103万円」の壁の議論で示されている。

結論として、日本の政治は今、変革の岐路に立たされている。明確なビジョンと具体策を持つことで、持続可能な成長と安定した社会を実現する道が開かれる。この機会を逃さず、希望を持って未来を切り開くために、今こそ志のある政治家が具体策を唱えるだけでなく、それを具体化する行動を起こす時なのだ。

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2025年1月25日土曜日

家計・企業の負担増も 追加利上げ、影響は一長一短 日銀―【私の論評】日本経済の危機!日銀の悪手が引き起こす最悪のシナリオ!

家計・企業の負担増も 追加利上げ、影響は一長一短 日銀

まとめ
  • 日銀の追加利上げにより、「金利のある世界」が進展し、家計と企業への影響が拡大する
  • 預金金利の引き上げで年間約6000億円のプラス効果が期待される一方、住宅ローンや企業向け融資の金利上昇による負担増も懸念される
  • 若年層(29歳以下)は特に影響が大きく、年平均4.3万円の負担増が見込まれる
  • 主要銀行は短期プライムレートを引き上げ、ローン金利のさらなる上昇が予想される
  • 中小企業は金利上昇により資金繰りが悪化し、「息切れ倒産」の増加が懸念される


 日銀の追加利上げにより「金利のある世界」が進展し、家計や企業への影響が広がる見通しである。預金金利の引き上げによるプラス効果が期待される一方で、住宅ローンや企業向け融資の金利上昇が負担を増加させる可能性がある。

 みずほリサーチの試算によれば、政策金利が0.5%に引き上げられると、家計全体で年間約6000億円のプラス効果が生じる。しかし、多額の負債を抱える世帯においては、1世帯当たり年平均1.5万円の負担増が見込まれ、特に資産形成や住宅ローンの返済が途上にある若年層の影響が顕著である。

 また、昨年の前回利上げ後、多くの銀行が基準金利を引き上げており、今後のローン金利のさらなる上昇が予想される。中小企業にとって、金利上昇は資金繰りを圧迫する要因となり、東京商工リサーチの調査では、金利引き上げを打診された中小企業の約58.3%が他行への調達を検討するか借り入れを断念する意向を示している。

 このような状況から、2024年の企業倒産は1万6件に達する見込みであり、11年ぶりに1万件の大台を超えるとされている。「金利のある世界」の本格到来に伴い、債務削減や価格転嫁が進まない企業の資金繰りが悪化し、「息切れ倒産」が増える懸念も高まっているのである。

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【私の論評】日本経済の危機!日銀の悪手が引き起こす最悪のシナリオ!

まとめ
  • 2024年の日本経済は、実質GDP成長率が+0.2%とわずかにプラスが見込まれるが、暦年では▲0.3%と厳しい結果が予想されている。
  • 個人消費は一時的に増加したものの、実質賃金の伸び悩みが影響し、設備投資も減少している。
  • 日銀の利上げが経済や金融市場に与える影響は大きく、企業の資金調達コストが増加し、経済成長が妨げられるリスクがある。
  • 円高傾向による輸出減少が懸念され、特にトランプ政権の政策によるリスクが高まっている。
  • 日銀は経済実態を見極めた適切な政策運営を行うべきであり、早急に利下げを検討する必要がある。

昨年5月OECDは、日本の24年経済成長率はマイナスと予測。マイナス成長はG7で日本だけとした。

日本経済は2024年、当初の予想を大きく下回ることになった。最新の予測によれば、2024年度の実質GDP成長率は+0.2%とわずかなプラスが見込まれているが、暦年(1月〜12月)では▲0.3%という厳しい結果が待ち受けている。この成長率は当初の期待を裏切り、経済の脆弱性を如実に示しているのだ。

2024年後半、個人消費は一時的に堅調さを見せた。具体的には、2024年7-9月期の実質個人消費が前期比+0.7%と増加した。しかし、この増加は主に定額減税の影響によるもので、その持続性には疑問が残る。実質賃金の伸び悩みは、消費者の購買意欲を冷やし続けているのだ。設備投資も予想に反して弱く、2024年7-9月期には前期比▲0.2%と減少に転じた。

実質民間内需は、コロナ前(2019年平均)の水準に戻り切れていないが、徐々に改善の兆しが見える。2024年度の個人消費は前年比+0.6%程度と予測されており、緩やかな回復が期待されている。しかし、住宅投資については、2024年7-9月期の新設住宅着工戸数が年率78.3万戸(前期比-4.4%)と減少しており、この分野でも弱さが見られる。

一方、ネットの資金供給は過去最大のプラスとなり、空前のカネ余り状態が続いている。大企業を中心に、多くの企業が潤沢な手元資金を保有しており、日銀の短観調査では銀行の貸出態度は依然として緩和的だ。長期にわたる低金利政策の影響で、金融機関の資金余剰が続き、資金需給によって金利が上昇する状況には至っていない。

銀行の金庫の金余り状態 AI生成画像

日銀の金融政策には大きな懸念がある。利上げの実施による政策変更が経済や金融市場に与える影響は計り知れない。経済見通しでは、2025年度の実質GDP成長率が+1.1%、暦年でも+1.1%と、2024年より高い成長が予測されている。しかし、物価上昇率の動向やそれに対する日銀の政策対応次第では、経済への影響は不可避である。

直近のコアコアCPIは、前年同月比で2.4%(令和6年度12月分)上昇であり、24年1月の完全失業率は2.4%(前月2.5%)に低下し、コロナ前(20年2月)以来の低水準となっている。これは景気は、悪くない状態であり、これを敢えて崩す必要性はまったくない。様子をみながら、経済が明らかに毀損される状態が見えた場合対処すべきだ。現在利上げするのは明らかに時期尚早だ。

にもかかわらず、日銀の2025年1月の追加利上げは、経済実態を無視した政策運営であり、完全な失敗と言わざるを得ない。付利の上昇は、確かに金融機関にとっての利息収入を増やす要因となるが、経済全体にとってのバランスが崩れる危険性がある。企業の資金調達コストが増加する一方で、金融機関が優遇されることで、経済の健全な成長が妨げられる可能性がある。

さらに、利上げは円高傾向になる可能性が高く、これにより輸出削減の可能性も考えられる。ただ、利上げの幅がさほど大きくはないので、あまり影響がないようにもみえるが、トランプ政権の政策によるリスクが高まる中で、日本からの輸出減少が懸念される。

変動型住宅ローン金利の引き上げは、多くの家計に重い負担を強いることが予想され、個人消費をさらに冷え込ませる要因となる。加えて、日銀は昨年12月の会合で利上げを見送ったにもかかわらず、わずか1ヶ月後に利上げに踏み切った。このような政策の一貫性の欠如は、市場の信頼を損なう行為である。


実際、私の知り合いのある中小企業の経営者は、「利上げの影響で融資条件が厳しくなり、資金繰りが苦しくなった」と語る。こうした声は、経済全体に波及する不安感を映し出している。日銀の政策が企業の経営に与える影響は深刻であり、今後の経済運営に対する信頼を揺るがしかねない。

日銀は経済の実態と市場の機能を無視した政策運営を続けており、その判断は完全に誤っていると言わざるを得ない。今後の経済悪化や金融市場の混乱の責任は大部分が日銀にあると言える。しかも、今年の通常国会の招集日は1月26日であり、その直前の1月24日に利上げを公表している。このようなことは、国会開催中に経済対策などが変わるということもあるので、通常はありえない。敢えてこのようなことをしたのは、来年度にも、さらに金利をあげることを示唆している可能性が高い。

このような状況下で、日銀には経済の実態を十分に見極めた上での適切な政策運営が求められている。特に、企業の投資計画や中小企業の資金調達環境に配慮しつつ、長期的な経済成長を支援する政策が必要だ。日銀は透明性の高い政策運営を行い、経済実態に即した柔軟な対応を心がけるべきである。今後さらに段階的利上げということになれば、まさに日本経済の危機を招く。

経済の脆弱性と金融政策の影響を慎重に見極めながら、適切な政策対応が求められる状況が続いている。日銀は早急に政策の見直しを行い、経済実態に即した柔軟な対応に転換すべきである。 まずは、早急に利下げをすべきである。

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2025年1月24日金曜日

「米国第一主義は当然、私もジャパン・ファースト」自民・高市早苗氏、トランプ氏に理解―【私の論評】米国第一主義の理念を理解しないととんでもないことになる理由とは?


まとめ
  • 高市早苗氏は「アメリカ・ファースト」を支持し、自国の利益を重視する「ジャパン・ファースト」を提唱した。
  • 米国のWHOへの多額の拠出金に対する不満を指摘し、中国の反発についても懸念を示した。
  • 次の自民総裁選に出馬した場合、昨年の公約をそのまま継続する意向を示した。

高市早苗氏 AI生成画像

 自民党の高市早苗前経済安全保障担当相は、トランプ米大統領の「アメリカ・ファースト」政策について支持を表明し、自国の利益を重視する「ジャパン・ファースト」を提唱した。彼女は、トランプ氏が関税を強化する国々について、日本もその動向を注視すべきであり、特に不法移民や薬物の問題が関与していることを指摘した。高市氏は、十分な交渉が可能であり、日本の技術が米国にとって不可欠であることを強調した。

 また、高市氏は、米国が世界保健機関(WHO)に多額の拠出金を支出している状況に不満がたまっていることを指摘し、健康問題での地域的空白を作るべきではないと懸念を示した上で、トランプ氏が新型コロナウイルスの起源を中国・武漢と主張していることに触れ、WHOが調査を行わなかった点に対する不満があるのだろうと述べた。

 さらに、中国が東京電力福島第1原発の処理水を「核汚染水」と非難することについても言及し、一昨年のIAEA総会前に、高市氏がグロッシ事務局長に対し「中国は拠出金を滞納しているが、日本はしっかり払っている。なんで中国の言い分を聞く必要あるのか」と伝えたことを振り返り、トランプ氏もIAEAのガバナンスに不満を持っていると指摘した。

次の自民総裁選に出馬した場合の政策について問われた際、高市氏は、昨年10月の総裁選時と全く同じ公約を掲げるつもりであると述べ、国際的な問題への関心と自国の利益を守る姿勢を明確に示した。これにより、彼女の意向と政策方針がより一層明確になった。

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【私の論評】米国第一主義の理念を理解しないととんでもないことになる理由とは?

まとめ

  • 米国第一主義はトランプ前大統領が提唱したものではなく、共和党の基本理念に根ざした長い歴史を持つ概念である。

  • 共和党は自由市場と国益を重視し、特に「小さな政府」の理念を通じて政府の介入を最小限に抑え、経済の自由を促進してきた。

  • トランプ政権は「アメリカ第一」を掲げ、貿易や国際協定の再交渉を通じて米国の利益を守る現実的かつ戦略的アプローチを採用した。

  • トランプ氏の政策は中間層や労働者層の利益を重視し、彼の主張は多くの米国市民の不安や不満に応える形で支持を集めた。

  • 高市氏が「日本政府はトランプ政権と十分な交渉が可能だ」としているのも納得できる。彼女の指摘は的を射ており、米国第一主義が確固たる理念であることを示している。



米共和党のシンボルの象


米国第一主義は、トランプ前大統領が提唱したものではなく、共和党の基本理念の一部として長い歴史を持つ概念である。共和党は、伝統的に自由市場、個人の自由、国益の優先を重視してきた。この中で、国民の利益を最優先に考える姿勢は、党の政策の根幹となっている。

共和党の歴史を振り返ると、19世紀中頃に設立された当初から、経済の自由と国益の強調が重要なテーマであった。アブラハム・リンカーン大統領の時代には、米国の工業化と経済成長を促進する政策が採られ、国家の利益を守ることが重視された。このような背景から、国民の利益を最優先に考える理念は共和党の基本的な価値観として受け継がれてきた。

冷戦時代を通じて、共和党は米国の国際的な立場を強化することを重視し、特に国防や外交政策において米国の利益を守ることが不可欠とされていた。レーガン政権の時代には、強い軍事力と自由貿易が推進され、米国のリーダーシップを確立するための政策が展開された。

トランプ氏が大統領に就任した際、彼はこの伝統を引き継ぎつつ、「米国第一」をより明確に前面に出した。彼の政策は、特に中間層や労働者層の利益を重視し、製造業の復活や移民政策の厳格化を推進するものであった。これにより、共和党内の保守派やポピュリスト層の支持を集め、米国第一主義を強調する形となった。

このように、米国第一主義はトランプ氏の個人的な主張ではなく、共和党の長い歴史と基本理念に根ざしたものであり、党の政策や価値観の延長線上に位置づけられる。トランプ氏がこの理念を前面に掲げたことで、広く国民の関心を集める結果となったが、その根底には共和党の伝統が存在している。

米国第一主義には「小さな政府」という理念も関連している。これは、政府の介入を最小限に抑え、市場の自由を重視する考え方である。具体的には、経済の自由を促進し、税負担を軽減し、自己責任を強調することで、国民や企業が自らの利益を追求できる環境を整えることが目指されている。トランプ政権下でも、規制緩和や税制改革が進められ、この理念が経済政策に反映された。

小さな政府の理念は「ガバナンスと実行を分離する」ことによって、効率的な運営を可能にする観点も含まれている。これにより、政府機関が過度に肥大化することを防ぎ、必要なサービスを効果的に提供できるようになる。実際、リンカーン政権は、閣僚と通信士を含めてわずか7人という少数で構成され、効率的かつ迅速な意思決定が行われていた。ガバナンス以外の機能は、政府が担うことなく、全部他の組織に任せた。このような歴史的な実例は、小さな政府の理念が実際に機能することを示す重要な証拠である。イーロン・マスク氏が提唱する"DOGE:Department of Government Efficiency" (政府効率化政策)は、共和党の理念に合致するものであり、突飛なものではない。

民主党の理念は、一般的に「大きな政府」を目指す傾向が強い。これは、社会保障や福祉政策、教育への投資など、政府が積極的に介入して国民の生活を支援することを重視しているからである。このアプローチは外交政策にも影響を与え、理念的な側面が強くなる傾向がある。例えば、オバマ政権下では国際的な協力や多国間主義が重視され、パリ協定やイラン核合意などが推進されたが、これらは理念に基づいた外交政策の一例である。

一方、共和党は外交政策において現実主義的なアプローチを取ることが多い。国益や安全保障を最優先に考え、具体的な結果を重視する傾向がある。トランプ政権では「アメリカ第一」を掲げ、貿易戦争や国際協定の再交渉を通じて米国の利益を守る姿勢が強調された。これにより、共和党は外交政策においても現実的かつ戦略的なアプローチを維持し、国民の利益を最大化することを目指している。

このように、米国第一主義と小さな政府の考え方は相互に補完し合う関係にあり、国民の利益を最大化するための重要な枠組みとなっている。また、民主党と共和党の理念の違いは外交政策にも明確に表れており、それぞれのアプローチが米国の国益にどのように寄与するかを示している。

マスク氏は、"DOGE:Department of Government Efficiency" を提唱  AI生成画像

米国第一主義は、大企業の視点から見ると非常に理解しやすい。大企業は自社の利益を優先するのが当然であり、小さな会社が取引先の大きな会社の意向を重視するのも自然なことである。しかし、大企業の経営者が他社のために働くことは考えられず、自社と関連企業などの利益を第一に考えるのが当然である。

もし経営者が他社の利益のために尽力するなら、それは自社とその利害関係者を裏切る行為として受け取られるだろう。この観点から見ると、米国第一主義は本質的に合理的であり、他国の利益よりも自国の利益を優先する姿勢は自然な選択である。したがって、米国第一主義は企業経営の基本的な考え方と一致しており、あまりにも当然の立場といえる。

トランプ大統領がこれをことさら強調した背景には、さまざまな社会的・政治的要因がある。特に、不法滞在者問題、脱炭素政策、アイデンティティ政治が影響を及ぼし、これによって米国市民の権利や利益が毀損されていると感じる人々が増えたからである。

これらの要因により、トランプ氏は米国第一主義を強調することで、多くの米国市民が抱える不安や不満に応えようとした。彼の主張は、米国市民の権利や利益が脅かされているという感情を反映しており、そのためにあえてこのテーマを前面に出したのである。彼の政策や発言は特定の層に強く訴求し、結果として米国第一主義を再び注目させる契機となった。

米国第一主義の現実主義的立場から見ると、トランプ大統領のグリーンランド買収提案やパナマ運河に関する発言は、必ずしも突飛なものではない。これらは国益を最大化し、米国の戦略的な地位を強化するための一環として理解される。

グリーンランドは北極地域の資源や航路のアクセスが重要であり、中露の影響が及ぶ中で米国が取得することは国益を守るために意味がある。ロシアが北極航路を軍事的に強化している状況では、グリーンランドの買収は米国自身の利権を確保する現実的な選択である。


パナマ運河は米国が多大な投資と時間をかけて建設した重要なインフラであり、運河の管理権を持つことで米国は中南米における影響力を維持してきた。トランプ氏が運河の返還について言及したのは、米国の影響力を再確認する意図があったと考えられる。

米国は歴史的に領土を買い取ることを行ってきた国でもある。アラスカやルイジアナの購入に加え、米国は、1848年メキシコからの現在のアリゾナ州、カリフォルニア州、コロラド州、ネバダ州、ニューメキシコ州、テキサス州、ユタ州、およびワイオミング州の一部にあたる地域である。これらの州は、1848年のグアダルーペ・イダルゴ条約によってメキシコからアメリカ合衆国に割譲された。さらに、1898年のハワイ併合などがその例として挙げられる。これらの事例は、米国が領土拡張を通じて国益を追求してきたことを示している。

さらに、関税問題もトランプ流の取引材料の一部でありながら、米国第一主義に沿ったものである。トランプ氏は他国との貿易交渉において米国の利益を確保し、国内産業を保護する狙いがある。このように、トランプ氏の提案や政策は一貫性があり、国の強化を目指す合理的な手段として位置づけられる。

こうしたトランプ大統領の一貫した行動原理を理解すれば、高市氏が「日本政府はトランプ政権と十分な交渉が可能だ」としているのも納得できる。彼女の指摘は的を射ている。米国第一主義は、単なる政治的スローガンではなく、米国の戦略的利益を守るための確固たる理念であり、国民の支持を得ているのだ。各国のリーダーもこれを理解すべきだ。これに迎合しろとはいわないが、最低限これを理解しないリーダーは期せずして、とんでもない事態を招くことになりかねない。

このように、米国第一主義は歴史的背景や政治的動向を踏まえた上で、現在の国際情勢においても重要な指針となっている。トランプ氏のアプローチは、米国の利益を守り、国際的な競争において優位に立つための合理的な選択であり、今後もその影響が続くことが予想される。米国第一主義の理念は、多くの米国市民にとって共感を呼び起こすものであり、今後の政治においても重要なテーマであり続けるだろう。

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2025年1月23日木曜日

夫婦別姓、党議拘束は必要 自民幹事長、法案採決時―【私の論評】党議拘束が引き起こす自民党内の激震と保守派が採用すべき反撃戦術

夫婦別姓、党議拘束は必要 自民幹事長、法案採決時

まとめ
  • 自民党の森山裕幹事長は選択的夫婦別姓制度に関する法案の採決時に党議拘束が必要であり慎重であるべきだと述べ、石破茂首相は公明党との協議について党内の意見をまとめる必要があるためもう少し待つように伝えた。自民党内の保守派には異論が多く、意見集約が難航する見込み。
自民党森山幹事長

自民党の森山裕幹事長は、共同通信のインタビューで、選択的夫婦別姓制度の関連法案が国会で採決される際に党議拘束が必要であるとし、歴史や国の形を考慮して慎重であるべきだと述べた。

また、旧姓使用の法整備については「一つの選択」とした。一方、石破茂首相は公明党の斉藤代表との会談で、党内の意見をまとめる必要があるため、協議をもう少し待つように伝えた。自民党内には保守派を中心に異論が多いため、意見集約には時間がかかる見込みである。

この記事は、元記事の要約です。

【私の論評】党議拘束が引き起こす自民党内の激震と保守派が採用すべき反撃戦術

まとめ
  • 党議拘束は、政党が議員に特定の議案に対する賛否を統一させる制度であり、議員は党の方針に従って投票する。
  • メリットは政策の一貫性と信頼性の向上、デメリットは議員の自己信念や有権者の意見の反映が難しくなることである。
  • 自民党はLGBT理解増進法案の審議に際して党議拘束をかけ、反した議員に具体的な処分を行った。
  • 萩生田氏は、選択的夫婦別姓法案について旧姓使用の拡充を提案し、保守系議員連盟の議論を進める意向を示した。
  • 保守派議員は、党議拘束に対抗するために反対運動を展開したり、議員連盟を結成することが求められ、三木氏の戦術を参考にするべきである。
  • 三木武夫氏は、党内抗争を巧みに利用し、派閥間のパワーバランスを操作して影響力を高め、自らの立場を強化した戦術を採用した。
党議拘束とは、政党が所属議員に特定の議案に対する賛否を統一するよう求める制度である。議員は党の方針に従って投票し、個々の意見よりも党の立場が優先される。

この制度のメリットは、政党の政策を一貫して維持しやすくなる点である。党議拘束により、議案に対する統一的な姿勢が示され、信頼性が向上する。また、議会内での連携が強化され、議論が円滑に進むことにも寄与する。

デメリットは、議員が自己の信念や選挙区の有権者の意見を反映しにくくなることである。党議拘束が強い場合、議員は党の方針に従わざるを得ず、民主的な意思決定が損なわれる恐れがある。このように、党議拘束は党の統一性を保つ一方で、個々の議員の責任や民主的なプロセスに影響を与えるため、慎重な運用が求められる。

自民党において、LGBT理解増進法案の審議に際して党議拘束がかけられたことは、茂木敏充幹事長が衆院本会議採決を控えて強調したことからも明らかである。世耕参院幹事長が参院本会議での採決時に退席した3人の議員に対し、「党議拘束に反した行動」として対応を検討する考えを示したことも、この事実を裏付けている。

党議拘束に反した議員への対応として、自民党は具体的な処分を行った。和田政宗議員は国会対策副委員長の職を解かれ、山東昭子前参議院議長と青山繁晴議員は厳重注意処分となった。これらの処分は、党議拘束の重要性と違反の深刻さを示している。

党内では、党議拘束の適用により一部の議員が難しい決断を迫られた。有村治子議員は党を代表して質問に立つ機会を得る代わりに、投票行動において党議拘束に従うことを決断した。法案に懸念を持ちながらも、党議拘束に従って賛成票を投じた議員もいた。

これらの事実から、自民党がLGBT理解増進法案の審議に関して党議拘束をかけ、それに従わない議員に対して処分を行ったことが確認できる。党議拘束は党の方針を統一し、法案の可決を確実にする手段として機能したが、一部の議員の個人的な見解や懸念と衝突する結果となった。

LGBT理解増進法が昨年成立したことに続き、選択的夫婦別姓に関する法案が推進される場合、特に保守的な価値観を持つ議員や支持者からの反対意見が強くなる可能性が高い。自民党内には、伝統的な家族観を重視する保守派が存在し、選択的夫婦別姓制度に対して慎重な姿勢を持つ議員が多い。党議拘束がかけられた場合、議員は党の方針に従うことが求められ、個々の信念や選挙区の有権者の意見を反映しにくくなる。こうした状況は、保守派の議員から強い反発を招くことが予想される。

LGBT理解増進法には当事者からも講義の声が巻き起こった

LGBT理解増進法案に続き、選択的夫婦別姓法案にも党議拘束がかけられることになれば、保守系の議員は何らかの動きを見せる可能性が高い。特に、伝統的な家族観や価値観を重視する保守派議員にとって、このような動きは大きな懸念材料となる。党議拘束がかけられることで、彼らは自らの信念や選挙区の有権者の意見との間でジレンマに直面し、党内での意見対立が激化することが予想される。

この状況において、保守系の議員は反対運動を展開したり、議員連盟を結成することも考えられる。特に選挙が近づく中で、メディアを通じて自身の意見を発信し、支持基盤を維持するための活動が活発化するだろう。こうした動きは、彼らが選択的夫婦別姓法案に対して持つ強い危機感を反映したものとなる。

さらに、党議拘束がかけられることは、トランプ大統領が大統領令を連発した状況と類似している。トランプ政権下では、民主党のリベラル・左翼的な制度を大統領令によって迅速に推進する動きがあった。日本では、他の法案にも党議拘束がかけられることで、リベラル・左翼的な法案がなし崩し的に通過する恐れがある。これにより、保守派の議員たちの危機感は一層高まる。彼らは、選択的夫婦別姓法案が通過することで、党全体の方針がリベラルな方向にシフトするのではないかという懸念を抱くことになるだろう。

このように、選択的夫婦別姓法案に党議拘束がかけられることは、保守系議員にとって重大な問題であり、彼らの反発や行動が今後の政策形成に大きな影響を与えることが予想される。

自民党の萩生田光一元政調会長は、10日夜のインターネット番組「言論テレビ」で、選択的夫婦別姓の導入に関する議論について、旧姓使用の拡充で対応すべきだと提案した。彼は、「党の執行部にいないから平場で声を上げることができる」と述べ、保守系議員連盟「創生日本」を足場に議論を進める意向を示した。萩生田氏は、この問題に関しては皆で議論し、意見を集約することが重要だと強調した。

萩生田氏が出演した櫻井よしこ氏のインターネット番組

対中外交に関しては、岩屋毅外相が中国人向けのビザ発給要件を緩和したことについて、「ビザの拡大は大きな問題だ」と疑問を呈した。彼は、政府の外交方針に党が関与していないことに不満を示し、「今の政府のやり方はちょっと乱暴じゃないか」と指摘した。この発言は、外交政策における党の役割の重要性を訴えるものであった。

さらに、高市早苗前経済安全保障担当相については、彼女が昨年の総裁選で決選投票に進出したことを評価し、保守の価値観を持つ人々が団結しなければ次のリーダーは育たないと述べた。萩生田氏は、自身が調整役を果たす意向を示し、保守派の団結を呼びかけた。

番組の司会を務めたジャーナリストの櫻井よしこ氏が、安倍元首相が萩生田氏を後継者として考えていたことを紹介し、立ち上がる考えがあるか尋ねた。萩生田氏は、「これはやらないとか、やりたいとか言っている場合じゃない。できる仕事は何でもやろうと思っている。その選択肢に総裁というのが入ってくるなら、覚悟しないといけない」と語り、今後の政治家人生に対する覚悟を示した。

しかし、現自民党の執行部や閣内は、情弱のためかLGBT理解増進法の成立や選択的夫婦別姓法案の推進が、保守的な岩盤層の怒りを買い、支持率が低下していることをほとんど認識していない。政治資金問題で譲歩したり、リベラル・左派的な政策を実施したからといって、リベラル派の有権者が自民党に投票することはないことも、理解させる努力が必要である。

こうした説得が実を結ぶ機会がないとみるなら、萩生田氏が20名以上の議員を引き連れ、自民党からの離党をちらつかせることで、党内でのキャスティング・ボードを握るという戦略も考慮すべきだ。この手法は、1970年代に三木武夫が実践した「三木おろし」への対応策に似た動きであり、党内の権力闘争の鍵を握るものである。

三木武夫氏

「三木おろし」とは、三木武夫首相が党内の反発を受けて失脚した自民党内の権力闘争である。三木は「クリーンな政治」を掲げ、特にロッキード事件に対して厳格な姿勢を示し、金権政治を批判したが、これにより田中角栄派などの有力派閥との対立が激化した。しかし、この「クリーンな政治」の姿勢はあくまで権力を掌握するための建前であり、実際には手段を選ばぬ立ち回りで党内での立場を強化しようとしたのだ。

三木派は1970年代初頭、約20~30人の議員で構成されていた。これは自民党内の主要派閥に比べると少なく、田中派や福田派に対して明らかに劣っていた。しかし、三木は党内抗争や派閥間のパワーバランスを巧みに利用し、与党内での影響力を高めていった。三木派の一部は自民党を離党することはなかったが、1976年に三木派の一部が新自由クラブを結成し、これによって自民党を離れた。その後、1986年に新自由クラブは自民党と合併した。この巧妙な戦略により、三木は自らの派閥を守りながら、党内での優位性を確保したのである。

自民党の保守派はいざとなれば、このくらいのことを本気で実行する胆力を持たなければ、岸破連合に翻弄されるだけになるだろう。政治の世界は、単なる理想論や美辞麗句では動かない。実際の行動こそが、未来を切り開く鍵なのだ。保守派の議員たちよ、今こそ自らの信念を貫き、党内の権力闘争に立ち向かう勇気を持つべきである。さもなければ、次第にリベラルな潮流に飲み込まれ、かつての伝統や価値観が失われることになるだろう。さらに、国民生活など二の次で、マクロ経済に疎い岸破連合による日本経済の破壊が始まるだろう。行動こそが、未来を変えるのだ。

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