2019年6月20日木曜日

【石平のChina Watch】人民日報の「習近平批判」―【私の論評】習近平はミハエル・ゴルバチョフになれるか?


5日、モスクワのクレムリンで会談前に握手するロシアのプーチン大統領(右)と
                 中国の習近平国家主席

 6日掲載の本欄で、米中貿易協議の決裂以後、中国の習近平国家主席が、この件について無責任な沈黙を保っていたことを指摘したところ、翌日の7日、彼は訪問先のロシアでやっと、この問題について発言した。

 プーチン大統領らが同席した討論会の席上、習主席は米中関係について「米中間は今貿易摩擦の中にあるが、私はアメリカとの関係断絶を望んでいない。友人であるトランプ大統領もそれを望んでいないだろう」と述べた。

 私はこの発言を聞いて実に意外に思った。米中貿易協議が決裂してから1カ月、中国政府が「貿易戦争を恐れず」との強硬姿勢を繰り返し強調する一方、人民日報などがアメリカの「横暴」と「背信」を厳しく批判する論評を連日のように掲載してきた。揚げ句、中国外務省の張漢暉次官は米国の制裁関税を「経済テロ」だと強く非難した。

 こうした中で行われた習主席の前述の発言は明らかに、中国政府の強硬姿勢と国内メディアの対米批判の強いトーンとは正反対のものであった。彼の口から「貿易戦争を恐れず」などの強硬発言は一切出ず、対米批判のひとつも聞こえてこない。それどころか、トランプ大統領のことを「友人」と呼んで「関係を断絶したくない」とのラブコールさえ送った。

 国外での発言であるとはいえ、中国最高指導者の発言が、国内宣伝機関の論調や政府の一貫とした姿勢と、かけ離れていることは、まさに異例の中の異例だ。

 さらに意外なことに、習主席のこの「友人発言」が国内では隠蔽(いんぺい)された一方、発言当日から人民日報、新華社通信などの対米批判はむしろより一層激しくなった。新華社通信のネット版である新華網は7日、アメリカとの妥協を主張する国内一部の声を「降伏論」だと断罪して激しく攻撃。9日には人民日報が貿易問題に関する「一部の米国政治屋」の発言を羅列して厳しい批判を浴びせた。

 それらがトランプ大統領の平素の発言であることは一目瞭然である。人民日報批判の矛先は明らかに習主席の「友人」のトランプ大統領に向けられているのだ。そして11日、人民日報はアメリカに対する妥協論を「アメリカ恐怖症・アメリカ崇拝」だと嘲笑する論評を掲載した。

 ここまできたら、新華社通信と人民日報の論調は、もはや対米批判の領域を超えて国内批判に転じている。それらの批判は捉えようによっては、習主席その人に対する批判であるとも聞こえるのだ。貿易戦争の最中、敵陣の総大将であるはずのトランプ大統領のことを「友人」と呼んで「関係断絶を望まない」という習主席の発言はまさしく、人民日報や新華社通信が批判するところの「降伏論」、「アメリカ恐怖症」ではないのか。

 習主席の個人独裁体制が確立されている中で、人民日報などの党中央直轄のメディアが公然と主席批判を展開したこととなれば、それこそ中国政治の中枢部で大異変が起きている兆候であるが、その背後に何があるのかは現時点ではよく分からない。おそらく、米中貿易戦争における習主席の一連の誤算と無定見の右往左往に対し、宣伝機関を握る党内の強硬派が業を煮やしているのではないか。

 いずれにしても、米中貿易戦争の展開は、すでに共産党政権内の分裂と政争の激化を促し、一見強固に見えた習主席の個人独裁体制にも綻(ほころ)びが生じ始めたもようである。

 もちろんそれでは、習主席のトランプ大統領に対する譲歩の余地はより一層小さくなる。米中貿易戦争の長期化はもはや不可避ではないか。


【プロフィル】石平(せき・へい) 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

【私の論評】習近平はミハエル・ゴルバチョフになれるか?

冒頭の石平氏の記事には出てはきませんが、習近平の権力基盤を揺るがしているのは、最近の香港デモであるのは間違いないでしょう。

香港の200万人を集めたデモは、中国本土への刑事事件容疑者の引き渡しを可能とする「逃亡犯条例」の改正案を事実上の廃案に追い込む勢いです。

沿道を埋め尽くす香港のデモ隊

香港政府トップの林鄭月娥行政長官の辞任をめぐって事態は混迷を極めていますが、実はこの騒動が昨年来から続く米中貿易戦争の行方をも左右しかねないです。

結論から先に言うと、G20サミットを前に中国・習近平国家主席には最大の誤算となり得る一方、最大級の外交カードを手に入れたのは米・トランプ大統領ということになるでしょう。

今回の香港デモはすでに香港だけの問題にとどまらず、中国本土をも大きく揺るがす最大級の政治的懸案事項となっています。実際、香港デモのニュースは、中国本土ではすでにタブーと化しています。中国国内でたとえばNHKのニュースでその内容少しでも流れようものなら、その画面は当局にブラックアウトされています。

一国二制度の中国にとって、香港の民主主義が強まれば強まるほど、「特別扱い」に対する本土の人民の不満を招きかねないです。それだけに香港の混迷が長引くほど、中国は騒乱の火種を本土に抱え込むことになります。習近平国家主席にとって、国内の不満を緩和するために何らかの措置が必要となってきているのです。

その緩和策として重要になってくるのが、米中貿易交渉の早期妥結です。

現在、米中双方の関税引き上げの応酬で、中国経済は低迷しています。だからこそ交渉を早期妥結をすることで、習近平国家主席が国内の不満を和らげようとするシナリオが浮上してきます。

実際、中南海の長老からも米中貿易摩擦による国内情勢への影響、特に失業増が社会不安を増大させることを懸念する意見は根強くあります。

昨年、長老たちとの北戴河会議でも、習近平国家主席は釘を刺されています。

今回の香港デモをきっかけに、こうした声がより一層強まっている可能性は高いです。言い方を変えれば、習近平国家主席は、トランプ大統領に譲歩せざるを得ない状況に追い込まれてきたともいえます。

ただし、石平氏の記事にもある通り新華社通信と人民日報の論調は、対米批判であり、これらの批判は捉えようによっては、習主席その人に対する批判とも受け取れます。

習近平は、長老らの失業増懸念の声と、反米勢力との板挟みにあっているともいえます。習近平としては、米国と妥協しても、妥協しなかったとしてもいずれかの勢力からの批判を免れないです。

一方トランプ大統領は、今回の騒動で「最大級の外交カード」を手に入れたことになります。

米国でも米中貿易摩擦の早期妥結の声は高まっている中で、中国から譲歩を引き出し、交渉を妥結させる機会を手に入れたわけです。ビジネスマンのトランプ大統領は、このチャンスに当面の決着を図りたいと考えるかもしれません。

現在のマーケットの状況からも、それを期待する声は高まっています。ただし、大阪で間もなく行われるG20において行われる、米中首脳会談においては、習近平が何らかの譲歩をしたとして米中貿易摩擦がある程度の妥結を見たとして、それは一時的なものにとどまることでしょう。

なぜかといえば、すでに米中関係は、このブログでも何度か掲載しているように、すでに冷戦の域にまで達しているからです。

私としては、おそらく米中首脳会談で習近平が何らかの妥協を姿勢を見せたとしても、結局トランプ大統領はそれを撥ねることになると思います。

なぜなら、米中冷戦はもうすでに生易しい次元ではなく、米中の衝突は米国では「文明の衝突」という次元で捉えられるようになってきました。

以前にもこのブログで示したように、現在米国は、苛酷な宗教・人権弾圧、法の支配の欠如、米企業が強いられた技術移転や知財の窃盗、債務のワナによる「一帯一路」沿線諸国の軍事拠点化、南シナ海の軍事拠点化など、さまざまな"戦線″で戦いを強いられているのですが、文明論の次元で中国をとらえなくては、その脅威の全貌を把握できないと考え始めたと言えます。

もう米中の対決は、貿易戦争の次元ではなく、中国の価値観と米国の価値観の戦いになっているのです。これは、もう武力はともなわない戦争です。一昔前なら、大戦になっていたかもしれません。

トランプ大統領

そうした最中で、トランプ大統領とて、米中会談で習近平が貿易戦争で譲歩の姿勢をみせたからといって、適当に妥協するわけにはいきません。おそらく、習近平に対して米国とまともに通商がしたければ、先進国なみに民主化、政治と経済の分離、法治国家化などの社会構造改革をすることを迫るでしょう。

それに対して、習近平は即答はしないでしょう。そうなれば、トランプ氏としては、それに対する答えを期限付きで示すように求めることでしょう。

米国としては、中国がこれを拒否したり、うやむやにすれば、冷戦をさらに強化することでしょう。

そうして、中国が自国の価値観を他国に対してまで強要できなくなるまで、中国の経済を弱体化させるまで、冷戦を続けることでしょう。それは、おそらく少なくと10年、長ければ20年くらいの年月がかかるかもしれません。

もし中国が先進国なみに民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめたとすれば、中国共産党の統治の正当性は失われることになります。そうなれば、中国共産党一党独裁の体制は崩壊します。

これは、習近平自身がミハエル・ゴルバチョフになるつもりがなければ、到底できないことです。

ミハエル・ゴルバチョフ

そのようなことができない習近平は結局、米国からの冷戦、長老からの社会不安への懸念、対米強行派の間で身動きが取れない状況になり、失脚することになるでしょう。

しかし、習近平が失脚し中国が新体制になったとしても、米国は対中冷戦をやめることはありません。なぜなら、その目的は、中国の社会構造改革もしくは、中国の弱体化にあるからです。いまのところこうなる公算が高いと思います。

ただし、もし香港の社会運動が秩序を大きく乱すこともなく、その目的を達成した前例を作ることができるなら、強烈な閉鎖的監視統制社会を構築しつつある中国で、内心は強い不満と恐怖に耐えて沈黙している中国国内の知識人や少数民族や宗教関係者にも勇気を与えることになるでしょう。

これが、中国本土の抜本的な社会構造改革につながっていくかもしれません。なぜなら中国自体の弱体化と、中国の強化にもつながる社会構造改革のどちらをとれといわれれば、長老や共産党幹部のほとんどは弱体化しても既存秩序を守ろうとするでしょうが、圧倒的多数の中国人民は、中国の強化につながる社会構造改革を選ぶことになるからです。

しかし、香港のデモが継続し、その目的を達成するためには、国際社会の主要国が足並みをそろえ、中国に圧力をかけることが重要です。特に日本がホストとなる大阪G20こそ、そういう世界の潮流の変化の大きな節目になる舞台になる可能性が高いです。

2019年6月19日水曜日

米国が示したインド太平洋の安全保障についてのビジョン―【私の論評】米国のインド太平洋戦略には、日本の橋渡しが不可欠(゚д゚)!

米国が示したインド太平洋の安全保障についてのビジョン

シャングリラ会議でのシャナハン国防長官代行演説
岡崎研究所

英国のシンクタンクIISS(国際戦略研究所)が毎年シンガポールで開催しているアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)は今年で第18回目を迎えた。6月1日の第一部では、米国のシャナハン国防長官代行が、「インド太平洋の安全保障に関する米国のヴィジョン」と題して、約35分間にわたる演説を行なった。その内容を簡単に紹介する。



・米国は、太平洋国家として、自由で開かれ、繁栄と安全が相互に関係したインド太平洋地域にコミットし続ける。

・米国の域内貿易額は2兆3千億ドル、直接投資額は1兆3千億ドルで、中日韓3か国を合計したよりも大きい。

・国家防衛戦略及びインド太平洋戦略レポートは、米国の戦略を示す重要文書である。これを実現する予算等の支援に、米国議会は超党派であたってくれた。

・自分自身(シャナハン長官代行のこと)、ワシントン州という太平洋岸で育ち、前職のボーイング社では、30年にわたり日本、韓国、中国、シンガポール等、地域と関わってきた。

・米国が描くインド太平洋地域は自由で開かれたもので、国際協力のもとに成り立っている。それは、主権が尊重され、各国は大小にかかわらず独立していること。紛争は平和的に解決されること。知的財産権の保護を含む自由で公平かつ相互的貿易と投資がなされること。海と空の自由航行を含み国際ルール及び規範を遵守すること。

・我々は約70年間、相対的平和と益々の繁栄を享受してきた。それはあらゆる分野での米国の関与に支えられてきたものだが、今、これに挑戦するもの達がいる。北朝鮮に関しては、完全で検証された非核化が交渉されている。その他にも国境を越えた様々な課題がある。スリランカの日曜日の惨事に見たようなISISのテロ、自然災害や疫病もある。

・域内の諸国にとって最も重大かつ長期的脅威は、おそらく国際ルールに基づく秩序を破壊しようとするもの達に起因するだろう。経済的、外交的、ときに軍事的威嚇によって徐々に地域を不安定化して行く。インド太平洋で繰り広げられる彼らの行動は、次のようなことを含む。係争地域を軍事化し、軍事的威嚇で相手に妥協を迫ること。他国の内政に干渉し、内部から不安定化させること。取引において強奪的経済や負債を抱えさせるようなやり方をすること。国家主導で技術の移転を強制すること。

・中国とは、国連の制裁決議でそうだったように協力も可能である。中国とは競争しているが、対立ではない。現在の国際ルールに基づいた秩序で最も恩恵を受けたのは中国である。中国はインド太平洋域内の他国と協力的関係を築かなければならない。他国の主権を浸食するようなことは止めるべきである。

・米国はインド太平洋地域に37万人の兵力を展開している。これは他の地域の4倍にあたる。2000の航空機と200の船と潜水艦が配備されている。同盟国の豪州、日本及び韓国とは相互運用可能なミサイル防衛システムを導入する。

・域内協力の素晴らしい具体例が先月インド洋で行われた共同訓練である。米国海軍とフランス、日本、豪州が共同演習を行なった。9000キロを隔て3つの海を隔てた諸国が集まれた。こういう米国と他国との例は、二国間でも、日本、韓国、フィリピン、豪州、タイ、インドネシア、シンガポール、モンゴル、台湾、パラオ共和国やミクロネシア連邦等、多々ある。

・インド太平洋の共通の目標のために、域内の安全保障ネットワークを構築することが重要である。

参考:https://www.iiss.org/events/shangri-la-dialogue/shangri-la-dialogue-2019

 シャナハン国防長官代行は、淡々と準備してきたペーパーを読み上げて演説を終えた。A4版で9頁に及ぶスピーチ全文を読むと、米国はインド太平洋地域における自由で開かれた秩序を維持するために、同盟諸国や友好諸国と共に協力しながら関与して行くことが強調された。中国の行動を示唆して釘をさす箇所もあるが、同時に、中国にも協力を呼びかけている。敵対心は露わにしていない。きわめて紳士的、外交官的態度だった。

 日本に関しては、同盟国の中でも、最初に語られ、しばしば言及された。インド太平洋地域の様々な場面で、日本は信頼のおける同盟国として、米国から認識されているのだろう。

 5月28日に、令和最初の国賓、トランプ大統領が離日する前に、安倍総理とともに横須賀を訪問し、日米両海軍基地を訪問したのも、その象徴的なものだったのだろう。

【私の論評】米国のインド太平洋戦略には、日本の橋渡しが不可欠(゚д゚)!

米国のシャナハン国防長官代行がシャングリア会議で述べた内容の中で「国家防衛戦略及びインド太平洋戦略レポートは、米国の戦略を示す重要文書である」というくだりがあります。

この「インド太平洋戦略レポート」は、このブログの中ですでに紹介しています。

インド太平洋戦略レポート

一つは、この報告書の中に以下のようなことが書かれていることを紹介しました。

「米国政府は、北朝鮮が日本人拉致問題を完全に解決しなければならないとする日本の立場への支援を継続する。実際に日本人拉致問題を北朝鮮当局者に対して提起してきた」

これは、簡潔な記述ではありますが、北朝鮮当局による日本人拉致事件を「完全に解決せよ」とする日本側の主張を米国政府は支援し続ける、という明確な政策表明でした。

2つ目は、台湾を協力すべき対象「国家(country)」と表記しました。これは、米国がこれまで認めてきた「一つの中国(one China)」政策から旋回して台湾を事実上、独立国家と認定することであり、中国が最も敏感に考える外交政策の最優先順位に触れ、中国への圧力を最大限引き上げようという狙いがうかがえます。

この2つをもってしても、この報告書の内容は画期的なものです。シャングリラ会議でのシャナハン国防長官代行演説はインド太平洋に関しては、このレポートにもとづいています。そうして、当然のことながら、インド太平洋地域において今後米国はこのレポートに基づいた行動をすることでしょう。

パトリック・シャナハン国防長官代行

トランプ米大統領は18日、パトリック・シャナハン国防長官代行が国防長官への指名を辞退したとツイッターで明らかにしました。家族との時間を優先するためとしています。イランとの緊張が激化する中、国防長官不在の状態が続くことになりました。

トランプ氏は後任の長官代行としてマーク・エスパー陸軍長官を任命する方針を明らかにしました。

ジェームズ・マティス前国防長官が昨年末に辞任した後、国防副長官だったシャナハン氏が今年1月に代行職に就任。ホワイトハウスは5月上旬、トランプ氏がシャナハン氏を長官に指名すると発表しましたが、就任には上院の承認が必要でした。

ただし、シャナハン氏が国防長官代行をやめたとしても、インド太平洋地域での米国戦略は変わることはないでしょう。

今回の演説でシャナハン国防長官代行は、最近の中国の動きを個別かつ具体的に厳しく批判するとともに、国防総省が「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)戦略」に国防予算を重点的に投入して、具体的武器システムの近代化計画を開始したことだけでなく、今後は同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化を進め、その中で統合作戦や共同作戦を実施することにも言及しています。

これは一体何を意味するのでしょうか。ポイントは3点あります。

第1は、今回の演説と新たに発表されたFOIP戦略に関する報告書を通じ、米国がインド洋と東アジア地域で、新たな安全保障の枠組みの構築に向け、本気で具体的に動き出したらしいということです。

もちろん、そうした枠組みはNATO(北大西洋条約機構)のような多国間相互安全保障条約に基づく「条約機構」ではありません。そのような組織が今の段階で実現可能とは思えません。しかし、米国が従来バラバラに発展してきた米印2国間の安全保障の枠組みを再構築し始めた意味は小さくないです。

第2は、そのような新たな枠組みに参加する国々をいかに確保していくかです。オーストラリアが参加する可能性は高いです。問題は韓国やフィリピンといった米国の同盟国でありながら中国への配慮を余儀なくされる諸国の参加の有無です。

仮にこれらの国が参加したとしても、他のパートナー諸国、特にASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の参加がどこまで得られるかも重要です。さらに死活的なことは非同盟2.0の国インドの参加の有無とその程度でしょう。前途は多難です。

最後は、このような新たな安保ネットワークは必然的にいずれ多国間の枠組みに発展していく可能性があるということです。そのとき、日本はいかなる貢献をすべきなのでしょうか、そして実際にそれを行えるのでしょうか。

望ましい貢献を実施するための法的枠組みは現状で十分なのでしょうか。その際は憲法改正問題も再浮上し、日本政府は難しい政策判断を迫られるかもしれないです。FOIP戦略を具体化することは日本にとって決して容易な決断ではありません。

しかし、そもそも「自由で開かれたインド太平洋(以下FOIP)戦略」という概念は、2016年8月にケニアで開かれたアフリカ開発会議(TICAD) で安倍晋三首相が打ち出した外交戦略です。これが米国政府の正式概念となったのは2017年10月、当時のティラーソン国務長官が米ワシントンのシンクタンクで行った政策講演が最初でした。

その後、同年12月 に発表された米国の「国家安全保障戦略」で、従来の「アジア太平洋」に代えて「自由で開かれたインド太平洋」なる概念が盛り込まれました。更に、2018年6月の第17回シャングリラ会合ではシャナハン長官代行の前任者、マティス国防長官がFOIP戦略について初めて対外的に包括的な演説を行っています。

このようなことから、米国のインド太平洋戦略においては、安倍総理は大きな役割を果たすことになるでしょう。特に同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化をするには、安倍総理抜きでは進められないでしょう。

かつて安倍首相はフィリピン訪問の折、ドゥテルテ大統領の故郷、ダバオを訪れたのですが、その時の地元民の凄まじい歓迎振りには驚かされました。欧米の首脳はもとより、日本の首相が海外であれほど歓迎されている姿をそれまで見たことがないです。

フィリピンのダバオを訪問して大歓迎を受けた安倍総理

この地域で米国が直接動くことは反発を招くことになるでしょう。この地域には未だに反米勢力が強いのです。やはり、日本が橋渡しをしなければ、うまくはいかないでしょう。

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2019年6月18日火曜日

米国務省の凄腕女性局長が「中国封じ込め宣言」 新冷戦時代の対中戦略を策定中―【私の論評】日本も文明論の次元で中国をとらえるべき時がやってきた(゚д゚)!


キロン・スキナー氏

米国務省のキロン・スキナー政策企画局長の名前を知っている読者は、ほとんどいないと思う。

 シカゴ出身の黒人女性58歳。生粋の共和党員である。米ハーバード大学で国際政治学博士号取得。昨年8月に現在のポストに就くまでは、私立の名門、カーネギー・メロン大学教授(国際関係論)を務めた。

 スタンフォード大学フーバー研究所主任研究員、ニュート・ギングリッチ元下院議長の外交アドバイザー、ブッシュ政権(子)の国家安全保障教育委員会(NSEB)メンバーなどを歴任。同ブッシュ政権のコンドリーザ・ライス国務長官との共著『レーガン大統領に学ぶキャンペーン戦略』は、共和党選挙関係者の間でバイブルとされている。

 このような大物を単なる局長であるが、長官直轄の政策企画局長に任命したのはマイク・ポンペオ国務長官だ。

マイク・ポンペオ国務長官

 この人事は、同氏の慧眼に負う。その証しといえるのが、4月29日にワシントンで開催されたニュー・アメリカ(新米国研究機構)主催の「安全保障セミナー」でのスキナー氏の基調講演である。

 「中国はわれわれにとって、長期にわたる民主主義に立ちはだかる根本的脅威である。中国は経済的にもイデオロギー的にも、われわれのライバルであるのみか、数十年前まで予想もしなかったグローバル覇権国とみることができる」

 ドナルド・トランプ米政権が、中国を覇権抗争の相手国と見なしていることを明確にしたのだ。

 一方、「今後、米国史上初めて、白人国家ではない相手(中国)との偉大なる対決に備えていく」と発言、「非白人国家」という人種の違いに言及したことで物議を醸した。

 同発言への批判は別にして、筆者が注目したのは「米国務省は現在、中国を念頭に置いた『X書簡』のような、深遠で広範囲にまたがる対中取り組みを検討中」と語ったことである。

 言うまでもなくこれは、米ソ冷戦時代に対ソ連封じ込め戦略を打ち出した初代政策企画局長のジョージ・ケナン氏の『X論文』を念頭に置いたものだ。

ジョージ・ケナン氏

 要は、新冷戦時代のための対中戦略を策定中と宣言したのである。

 想起すべきは、昨年10月4日のマイク・ペンス副大統領による対中“宣戦布告的”講演である。

 再びペンス氏は24日、ウッドロー・ウィルソン国際センターで講演する。米中和解からほど遠い内容になるはずだ。

 ちなみに、スキナー発言を紹介した新聞は、「産経新聞」(5月31日付)と、英紙フィナンシャル・タイムズ(6月5日付)の2紙だけだった。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】日本も文明論の次元で中国をとらえるべき時がやってきた(゚д゚)!

冒頭の記事にもあるように、4月29日にワシントンで開催されたニュー・アメリカ(新米国研究機構)主催の「安全保障セミナー」の基調講演において、スキナー氏は米中間の競争を「全く異なる文明同士の、異なるイデオロギーの戦いだ」と発言しました。

スキナー局長によれば、冒頭の記事にもあるように、中国は米国にとって初めての「非白人大国の競争相手(a great power competitor that is not Caucasian)」です。

スキナー局長は、こうした見方が、一定程度は、サミュエル・ハンティントンの「文明の衝突」の見方と重なるところがあるとも述べました。

サミュエル・ハンティントン氏 

この発言は人種差別的だと人権NGOからの批判を浴びました。また、5月中旬に北京で開かれた「アジア文明対話大会」の開会式で、中国の習近平国家主席が、人種の優位性を説いて文明間の衝突を説くことは「ばかげている」と一蹴したのは、スキナー発言を意識したものだとも言われています。

ちなみにスキナー局長は、アフリカ系の女性です。日本人からすれば、アフリカ系米国人の女性が、保守的思想を持って、米国と中国との間の文明的な基盤の違いを語るというのは、違和感を持つところかもしれないです。

ところが、米国が体現しているとされる「西洋文明」は、現在では人種的な純血性にもとづくものではない文明です。(第二次世界大戦前は、西欧文明は白人のものという考えが幅を効かせていた)

スキナー局長は学者出身で、やはり学者出身でジョージ・W・ブッシュ政権時代にタカ派として活躍した黒人女性のコンドリーザ・ライスの教え子だったというのだから、なかなか毛並みが良いです。

1990年代にサミュエル・ハンティントンが『文明の衝突』を著した際、中国はすでに一つの文明圏として数えられていました。

ハンティントンによれば、その文明圏は「華人」の人種的なつながりにもとづく国境を越えたネットワークによって、中国大陸を超えて東南アジアの隅々にまで及んでいるものでした。

「文明の衝突」論は、2001年の9・11テロに起因する「対テロ戦争」の時代においては、もっぱら西洋文明とイスラム文明の対立を語るものとして意識されてきました。

ところがトランプ政権下で急速に対中国強硬論が高まる中、ついに米中の間の対立についても、「文明の衝突」が参照されるようになってきたのです。

現在アメリカは、苛酷な宗教・人権弾圧、法の支配の欠如、米企業が強いられた技術移転や知財の窃盗、債務のワナによる「一帯一路」沿線諸国の軍事拠点化、南シナ海の軍事拠点化など、さまざまな"戦線″で戦いを強いられているのですが、文明論の次元で中国をとらえなくては、その脅威の全貌を把握できないと考え始めたと言えます。

昨年10月にペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説は、その強硬な反中国の内容から、「新冷戦」の開始を告げるものと言われるようになりました。その後のトランプ大統領が主導する度重なる関税引き上げ合戦は、「貿易戦争」とも称されています。

中国の習近平国家主席は15日、北京で始まった「アジア文明対話大会」の開幕式で演説し「アジアの人民はともに繁栄する一つのアジアを期待している」、「文明間の交流は対等で平等、多元的であるべきで、強制的で一方的なものであってはならない」とトランプ政権に釘を刺しました。

ところが、表向きの主張とは裏腹に、中国が行っているのは「国内での全体主義的体制の確立とその輸出」です。

中国は、2020年までに14億のすべての国民を対象とする「社会信用システム」構築に向けて準備を進めています。

このシステムは、政府が国民の信用情報・行動を点数化して管理し、点数に応じて個人を処遇するもの。評価の対象となる信用情報は、SNS、インターネット、Eメール、銀行口座、クレジットカード、交友状況、信仰生活など、あらゆるものです。

評価の高低は、不動産の売買、飛行機などの利用に影響が及びます。すでに政府に批判的な人が、飛行機の利用や土地の購入を禁止されたり、子どもを良い学校に通わせることができなかったりするという事態が起こっています。

つまり、当局に好ましい行動をする者は優遇され、好ましくない行動をする者には不利益を課されるのです。とりわけ信仰心を持つ者に対するスコアは低いです。何が正しいかは、党が決めるのであり、習近平氏以外に決定権があってはならないからです。このため神の意志を考えて自律的な判断を行う者は危険視されるのです。

この自律的な判断こそが、西洋文明の基礎にあるものといえます。人間には造物主によって造られているため、神性を持ち、神の御心や正義や真実のありかを探究できるのです。

こうした考えは、東洋文明では「仏性」を説く仏教のなかにも共通して流れています。それ流れを受け継いだのは日本であり、中国ではありません。実際、日本はかつて人種差別撤廃を国際連盟で主張したのですが、受け入れられませんでした。これは、後の大東亜戦争の遠因ともなっています。

世界から人種差別が撤廃されたのは、第二次世界大戦後のことです。

この「神仏の子」の思想に正面から挑み、「対宗教戦争」を仕掛けているのが習近平氏です。その意味では、日本と中国は元々文明が衝突するのはやむを得ないところがあるのです。

古代の中国からは、日本は多くを学びました。だから、中国に親近感を感じる日本児も多いです。しかし、ある時点からはこれは逆転したともいえます。現在の中国の科学・哲学・文学・経済その他ありとあらゆる西欧から輸入した言葉は実は日本から導入したものです。読みは中国語の読みですが、文字は日本が創作した漢字を用いています。

しかし中国は、西欧の言葉を日本から移入しましたが、その他日本の文化的側面を取り入れることはありませんでした。現代中国と日本の価値観は、水と油であり混じり合うことはないのです。

そうして、中国の社会信用システムが広がったとき、「自由」に考え、行動する場所が失われることになります。

来年の「社会信用システム」構築によって、中国は「全体主義国家」として完成を迎えるのです。

西側に逃れた中国や北朝鮮の信仰者や民主活動家は、口々に、「中国は人間の住むところではありません」と述べる一方で、「西側の統治システム」を切望します。その統治システムとは「法の支配」が存在する本当の法治国家です。

しかし、そもそも信教の自由がないところに「法の支配」は存在しません。人智を超えた神の法の制約下にあるのが、立法府がつくる「実体法」だからです。制約がなければ、統治者がやりたい放題にやることが「法」となります。

これが全体主義的な体制である。中国は、AIや監視カメラ、5Gの技術を「一帯一路」沿線国に提供し、監視国家の技術を共有しています。要するに全体主義的な体制の輸出です。

もし中国の全体主義体制が世界を覆えば、ギリシア・ローマ以降、人類が営々と受け継いできた自由な統治体制を失います。この「自由文明」対「全体主義的な文明」の対立構造において、自由を守る戦いに挑んでいるのがトランプ大統領です。

トランプ氏の政策は自国の企業や産業を傷つけるため米国でも批判が多いです。トランプ政権は先月15日、ファーウェイへの製品供給を事実上禁じる制裁措置に踏み切りました。これによって、米クアルコムなど、ファーウェイに製品を提供する米企業に逆風になるとの見方もあります。

ところがファーウェイが世界を覆えば、通信テロで他国の安全保障を脅かすことができるのみならず、諸外国を軍事力で支配せずとも、世界的監視体制を築けます。

貿易戦争では、米国の農家も打撃を受けます。トランプ氏も、ファーウェイ排除や貿易戦争をすれば自国の企業や農業に負担を強いることは重々承知でしょう。それを知りながら、米国が貿易戦争やファーウェイ排除に動くのは、このまま放置すれば中国が米国を抜いたときに、全く異なる文明下に人類を置くことが見えているからです。それは人類が築いてきた自由文明を否定する非人道的で抑圧的な体制です。

一連の中国への制裁は、「人間は『神の子』であり、神の子として扱われるべきである」という経験なプロテスタントでもあるトランプ氏の信仰心からきていると言えます。

米国はいま中国に対して「予防戦争」を仕掛けているのです。中国との国力や技術力の差が縮まっているからで、いま中国の野望を挫かなければ、いずれ自由文明が敗北する時がやってくるからです。

この局面で、日本は日和見的な立場を取ることを避けなければならないです。米国の北朝鮮問題専門家が「安倍首相は政権維持のためなら誰とでも会う」などと批判しています。

ファーウェイは今後5年で、日本企業からの製品の輸入を10倍の規模に増やす予定ですが、これにのるべきではないです。日本は自国企業を犠牲にしてでも、自由文明を守ろうとしているトランプ政権の意図を読み違えてはならないです。

中国は最近むしろ日本に抑制的な態度をとってきていますが、その実尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域の情勢が荒れ模様になっています。

中国海警局の公船が連続62日間も尖閣周辺の領海外側の接続水域を航行したり、領海に侵入したりしているためです。平成24年9月に政府が尖閣を国有化して以来、最長となっています。

6月10日、中国公船4隻が日本の領海に侵入

尖閣海域を徘徊(はいかい)する中国公船は4隻で、機関砲を搭載する船もあります。今月10日にも領海に侵入したが、5月の侵入は4回に及びました。月1、2回だった昨年よりも頻度が増しています。海上保安庁の巡視船が、領海に近づかないよう警告しても従わないです。

中国は、隙あらば尖閣諸島を奪い取ろうと狙っています。その姿勢が露骨である以上、日本は侵略への警戒を強め、固有の領土と領海を守り抜かなければならないです。

サミュエル・ハンティントンは、当初西洋文明にも、中華文明にも分類できない日本を、中華文明圏に入れようとしたのですが、それにはかなり無理があるということで、日本は一つの文明圏だとしました。

米国が、文明論の次元で中国をとらえなくては、その脅威の全貌を把握できないと考え始めた今、日本も文明論の次元で中国をとらえるべき時がやってきたといえます。そうしなければ、本当の中国の脅威は見えてきません。

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2019年6月17日月曜日

トランプ政権が韓国“恫喝” ファーウェイ5G使用なら「敏感な情報露出しない」 米韓同盟解消も視野か―【私の論評】米国は韓国を安全保障上の空き地にしてしまうつもりか(゚д゚)!

トランプ政権が韓国“恫喝” ファーウェイ5G使用なら「敏感な情報露出しない」 米韓同盟解消も視野か

トランプ大統領

 ドナルド・トランプ米政権が、韓国に決定的圧力を加えた。5G(第5世代)移動通信システムをめぐり、韓国が中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の装備を使用した場合、「敏感な情報」を共有をしない考えを明確にしたのだ。軍事・安全保障の情報を示唆したとみられ、「米韓同盟解消」も視野に入ってきた。米中新冷戦が顕在化するなか、いわゆる二股外交を続ける韓国に対し、米国が引導を渡しつつある。

 「韓国が5Gネットワークにファーウェイの通信装備を使用する場合、敏感な情報を露出しない」「5Gは今後の数十年間、我々の経済と安全保障に影響を及ぼす重大なインフラである」

 韓国紙、中央日報は15日、米国務省の報道官が、同紙の質問にこう答えたと報じた。「媚中・離米」が目立つ文在寅(ムン・ジェイン)政権への“恫喝(どうかつ)”といえそうだ。

 高速大容量の5Gでは、あらゆるものがインターネットにつながる。中国が5Gを支配すれば、共産党独裁国家が世界の覇権を握りかねない。「自由」や「民主」「法の支配」が危機を迎える。トランプ政権は同盟国などに、「ファーウェイ排除」を要請した。

 日本やオーストラリアなどが米国に同調するなか、韓国は中国寄りの姿勢を見せている。韓国の通信事業者の一部は5Gでファーウェイの技術を採用し、韓国の主要IT企業は「当面、取引継続」という方針を固めたと報じられた。

 こうした媚中姿勢の背景には、米軍の最新鋭迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の韓国配備をめぐる「苦い記憶」が関係しているようだ。THAADの韓国配備が2016年7月に正式決定すると、中国では韓国製品の不買運動が起き、中国当局が国内旅行社に韓国行き旅行商品の販売中止を事実上指示した。

 中国は、ファーウェイへの対応でも韓国に圧力をかけているとされ、韓国は米中の「板挟み」となっている状況だ。

 トランプ氏は今月下旬、大阪でのG20(20カ国・地域)首脳会合後、韓国を訪問して文大統領との会談に臨む方針とされる。このタイミングでの「ファーウェイ排除」要求は、どんな意味を持つのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「中国に気を使う文政権に対し、『米中のどちらの側に立っているのか』と改めて問いただしたのだろう。トランプ政権だけでなく、米議会の与野党ともファーウェイ排除で一致している。韓国がファーウェイの関係を維持、深めるようなことになれば、米議会をも敵に回す。米国は、韓国に対して相当厳しい態度を取ることになるのではないか」と話した。

【私の論評】米国は韓国を安全保障上の空き地にしてしまうつもりか(゚д゚)!

さて、この韓国ですが、結局のところファーウェイの装備を用いてこれからも、5Gを運用し続けることになるでしょう。

そもそも、米国がファーウェイを排除する大きな理由の一つは安全保障上の問題があるからです。しかし、韓国は自ら安全保障について他国に従属しようとする国です。

米国がファーウェイを排除する大きな理由の一つは安全保障上の問題があるから

もしファーウェイが世界の5Gに足場を築けば、中国政府は、重要インフラを攻撃し、同盟国間の共有情報に侵入する、かつてない機会を手中に収めることになる、と米政府は懸念しているのです。これには公共施設や通信網、重要な金融センターに対するサイバー攻撃が含まれる、と西側の安全保障当局の高官は指摘しています。

どんな軍事衝突においても、衝突エリアから遠く離れた場所に対して銃弾や爆弾を使わず、封鎖もなく経済的な損害を与え、市民生活を寸断できるこのようなサイバー攻撃は、戦争自体の性質を劇的に変化させることになります。もちろん中国にとっても、米国やその同盟国からの攻撃にさらされることになります。

しかし、韓国は元々安全保障に関心が薄い国というか、安全保障を放棄しています。これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「空母」保有で防衛の意思を示せ ヴァンダービルト大学名誉教授・ジェームス・E・アワー―【私の論評】日本は、最早対馬を日本の防衛ラインの最前線と考えよ(゚д゚)!
ルトワック氏

ルトワック氏の韓国の戦略分析に関しては 自滅する中国』に詳細が掲載されています。それをこの記事では短くまとめています。その部分のみを以下に引用します。

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●国家は普通は独立を尊ぶものだが、従属したがる国もある。それが韓国だ。 
●彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている。中国の「マーケットの将来性」にもその原因がある。 
●韓国における中国と中国人への尊敬の念は明の時代にまでさかのぼることができる。その一番の担い手は、知的エリートとしての官僚である両班だ。 
●面白いことに、中国文化の影響が非難されるのは北朝鮮。北では漢字は事実上禁止され、ハングルの使用だけが許されているほど。 
●韓国では教育水準が高ければ高いほど反米の傾向が強まる。しかも最近はアメリカが衰退していると考えられているために、中国の重要性のほうが相対的に高まっている。個人で中国でビジネスを行っている人が多いという事情もある。 
●極めて奇妙なことに、韓国は大規模な北朝鮮の攻撃を抑止するのは、グローバル規模の軍事力を持つアメリカの役目だと考えられており、実際に天安沈没事件や延坪島の砲撃事件にたいしても(死者が出たにもかかわらず)ほとんど報復は行っていない。 
●つまり実際のところ、韓国政府は米国と中国に依存する従属者となってしまっている。米国には全面戦争への抑止力、そして中国には一時的な攻撃にたいする抑止力を依存しているのだ。 
●ところがこれは、米国にとって満足できる状況ではない。韓国を北朝鮮から庇護するコストとリスクを、米国は独力で背負わなければならないからだ。 
●その上、韓国への影響力は中国と折半しなければならない。中国は北朝鮮への統制を中止すると脅かすことで、常に韓国政府を締め上げることができるからだ。今のところ韓国が中国に声を上げることはない。 
●米韓同盟を形成しているものが何であれ、そこには共通の「価値観」は含まれていない。なぜなら韓国はダライラマの入国を中国に気兼ねして堂々とビザ発給を拒否しているからだ。 
●現在のような政策を保ったままの韓国は、いわゆる「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しているのかもしれない。韓国が自国の安全保障のコストとリスクを受け入れず、かわりに従属者になろうとしているのは明らかだ。 
●このような韓国の安全保障の責任を逃れようとする姿勢は、「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形であらわれている。ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、日本へ無理矢理懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてすむのだ。
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いかがでしょう。このルトワックの分析の要点をさらに簡潔にまとめれば、 
1.米国に従属している韓国は、同時に中国にもすり寄っていこうとしている。 
2.その大きな理由は二つ:歴史的・文化的な面での尊敬と、ビジネスのチャンスだ。 
3.安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存。 
4.その責任逃れの憂さ晴らしとして、日本にたいする情熱的な敵対心を展開。
となります。

"
元々、このような戦略を持つ韓国は、中国に完璧に与するわけでもなく、米国に完璧に与するわけでもなく、両者の間でこれからも揺れ続けるのでしよう。

そうして、現状では北朝鮮が韓国の中国の間にあり、この国は中国からの干渉を極度に嫌っています。それは、このまとめの中にもあるように、北朝鮮では中国文化の影響が非難されることからも理解出来ます。北では漢字は事実上禁止され、ハングルの使用だけが許されています。

そうして、現在の北朝鮮は核を装備しています。この核は、日米などに向いているだけではありません。中国を狙っています。そのため、このブログに過去に何度か掲載してきたように、結果として北朝鮮とその核が、朝鮮半島への中国の浸透を防いでいます。

文在寅というか、韓国の政治家はこれを理解していないようです。おそらく文在寅は、北朝鮮も自分たちと同じく、中国に従属しているかあるいは大きく従属しようと考えているとみなしているでしょう。そうして、その意味で金正恩は自らの同士であると考えているのでしょう。

文在寅としては、北と統一して統一朝鮮となり、本格的に中国に従属しようと考えているのでしょう。しかし、金正恩はそのようなことは考えていません。。中国に従属するつもりは全くありませんし、統一したいと思っていません。

統一してしまえば、金正恩など尊敬もせず、無論チュチェ思想も染まっていない韓国人が大量に北朝鮮に入ってくることになり、自らの統治基盤が揺らぐことになります。そのような事態を望んているわけがありません。

ただし、制裁解除を望む金正恩が、統一したがっているようにみせかけ、文在寅を手玉にとっているだけです。文在寅は、自分が統一に道をつけた大統領になれるかもしれないとか、そうなれば、ノーベル平和賞を受賞できるかもしれないと、舞い上がっているだけです。

案の定文在寅は何かといえば、制裁解除をすすめようとして、金正恩を喜ばせ、米国を怒らせています。

このような韓国ですから、元々安全保障になど興味はなく、米国に何を言われようと、馬耳東風で聞き流し、ファーウェイ5G使用を続けるでしょう。そうして、実際敏感な情報は露出してもらえなくなるでしょう。

そうして、形骸化した米韓同盟が残ることになるでしよう。米国としては米韓同盟を完璧に破棄するのではなく、韓国を安全保障上の空き地にするという方針で望むことでしょう。

この空き地の北には、北朝鮮が控え、日本や在日米軍は直接中国な北朝鮮と対峙する必要はないですし、韓国が脅威にさらされても守る必要もなく、必要があれば、軍事基地を急造することもできます。とにかく、全くあてにならない韓国であっても、韓国の領域が安全保障上の空き地になっていればそれで良いのです。

発光信号や、手旗信号は今でも使われている

空き地が空き地内と中国やその友好国との間で、ファーウェイの5Gを使おうが使うまいが、どうでも良いことです。ただし、これを米国や同盟国の通信網とつなぐことはさせないでしょう。そうなると、不便は不便ですが、他の通信手段もありますから、空き地と通信しなければならないときには、他の手段を使えば良いだけです。簡単な通信なら、手旗信号や発光信号でもできます。

【私の論評】

追い詰められるファーウェイ Googleの対中措置から見える背景―【私の論評】トランプ政権が中国「サイバー主権」の尖兵ファーウェイに厳しい措置をとるのは当然(゚д゚)!

2019年6月14日金曜日

タンカー攻撃、イラン直接関与は考えにくい 日本主導で対策枠組みを 山田吉彦東海大教授(海洋政策)―【私の論評】イランは一枚岩ではないことを忘れるべきではない(゚д゚)!


山田吉彦東海大教授

タンカー攻撃について米国はイランの関与を主張するが、日本の首相を招いていることと明らかに矛盾した行為になり、イランが国家として直接関与したと考えるのは難しい。イランに近いイスラム過激組織の犯行ではないかとみている。

米国は事件後にイラン革命防衛隊が機雷を回収したとする映像を公表し、同国の関与の根拠に挙げた。しかし、被害船員を救助したのもイランだ。支配海域において実態を調査すること自体を問題視するのはやや無理がある。

一方、地域の情勢を不安定化させることは、過激組織に利益をもたらす。目に見えない「海峡の支配」を誇示し、石油価格の高騰でより多くの活動資金を得ることにもつながるためだ。

注目すべきは、原油などではなくメタノール、エタノールの運搬船が狙われた点だ。揮発性が高く海洋汚染の恐れが比較的少ない上、引火すると激しく燃え、実態以上に派手に見える。攻撃自体よりプロパガンダ(政治宣伝)としての狙いがあったといえる。

ホルムズ海峡は日本のエネルギー政策上、「生命線」に位置する。国際協力に基づく対応が不可欠だが、米国や欧州連合(EU)、ロシアが前面にでれば反発を招くため、イランを含め各国と良好な関係にある日本が主導しなければならない。自衛艦の派遣より、人工衛星を使った監視で情報収集するといった新たな国際協力の枠組み作りが必要とされる。現行の法整備の枠内でも活動の余地は大きい。(聞き手 時吉達也)

【私の論評】イランは一枚岩ではないことを忘れるべきではない(゚д゚)!

米中央軍は13日、日本などのタンカー2隻がホルムズ海峡付近で攻撃を受けたことに関し、爆発から約9時間後にイランの精鋭部隊、革命防衛隊の巡視艇が日本のタンカーに接近し、船体に吸着した不発機雷を除去したと明らかにしました。

その様子を撮影した動画も公表した(下動画) 。証拠隠滅のために不発弾を回収した可能性もあるとしています。(米中央軍提供)


日本や、米国のような国であれば、現在の政府が国の代表であり、日本の見解は政府の見解と受け止められます。いくら反対勢力があったにしても、それらが声明を出しても、日本の声明とはみなされず、もし反対勢力が偽って政府を装って声明など出したりすれば、それ自体が犯罪です。

また、政府でもない組織が、安全保証に類するような行動等をしたとすれば、これも犯罪です。

だから、日米のような先進国では、反対勢力がいるいないに関わらず、国の行政は時の政府を中心として動くことになります。これは、先進国では常識です。米国であれば、民主党政権のときには民主党政権を中心に国が動きます。共和党政権のときには、共和党政権を中心に動きます。

特に米国では、二大政党制であり、政権交代があったにしても、国政の6〜7割は前政権と同じであり、残りの4割から3割で政権与党らしさを出すといわれています。

しかし、そうではない国もあります。それが、イラン、北朝鮮、中国などの国です。これらの国々は政府が中心となって行政を行っているようにみえますが、その実そうではありません。様々な権力闘争を行いつつ、最終的に勝利を収めた集団が独裁を行うか、権力闘争を続けながら、その時々で最も強い勢力をもった集団が統治の正当性を主張して、国を統治するのです。

西側諸国のアナリストの多くは、イラン政治を一枚岩であるように描写していますが、実際には非常に細分化されており、複数の権力中枢が競合し、無数の特殊な利害が絡み合っています。イランでは、特に現政権と保守派の対立が顕著です。

一昨年の選挙でロウハニ大統領の主要対立候補となったライシ前検事総長に近い保守強硬派と治安当局は、抗議行動に関して大統領を批判しています。彼らは、ロウハニ政権が都市貧困層の期待を裏切り、核合意による恩恵を誇張していると主張しています。一方のロウハニ大統領派は、経済改革を妨害し、イスラム式の女性の服装規定の緩和を阻んでいるのは保守強硬派であると批判しています。

イランのファッショナブルな女性

どちらのグループも最高指導者であるハメネイ師への働きかけを目指すでしょうが、ハメネイ師は、少なくとも公式には中立的な立場を維持するでしょう。同師は、抗議行動を政治利用しようとする勢力があればすべて非難すると思われます。

外部の勢力、特に西側諸国については、混乱を醸成しようとしていると批判するでしょう。しかし非公式には、ハメネイ師はロウハニ大統領を支持し、大統領が政治目標を積極的に追求するための余裕を与えるでしょう。

同師は保守強硬派に対し、国民の60%が30歳以下という状況を考えれば、時代・人口構成とも彼らの味方ではないことを思い起こさせるべきです。イラン政府が実力行使により抗議行動を封じ込める対応しか取らないのであれば、抗議の声が再び勢いを増す可能性があります。

このようなイランの状況を考えるとたしかに、タンカー攻撃については現政権が直接関与しているとは考えにくいです。少なともハメネイ氏がこれを知っていたとは考えにくいです。

先日初会談した首相、ハメネイ師
私としては、いずれかの反対勢力がこれを実行したのではないかと思います。それにしても、米国はこれをイランの責任であるとするのかもしれません。

自衛隊はホルムズ海峡にも近い、アデン湾の海と空で、海賊対処活動をしています。海では護衛艦、そして空では対戦紹介機がパトロールを行っています。

上の記事にもあるように、イランと協議の上日本は、ホルムズ海峡付近にも、自衛隊を派遣すべきです。岩屋毅防衛相は14日の記者会見で「現時点では自衛隊へのニーズは確認されていない。本事案に対処するためにホルムズ海峡付近に部隊を派遣する考えはない」としていますが、ニーズがあってから派遣しても遅いと思います。

それに気になるのが、今回と同様なことがアデン湾でおこり、しかも自衛隊が紹介活動で予めそれを知り、他国の救援などが間に合わない場合どうするかということを予め考えて置くべきと思います。

そのようなことが起こった場合、他国の軍隊ならぱ自ら判断して、威嚇や攻撃ができます。しかし、日本はそうではありません。

そのようなことが起こっても、自衛隊は犠牲者かでることが予め予想できても、結局何もないなど等ということは、避けるべきです。

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