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岡崎研究所
2月4日、中国の習近平主席とロシアのプーチン大統領は北京で首脳会談を行い、中露共同声明を発した。この共同声明には、その長さ(約5000語)と言い、中味と言い、些か驚かされた。
基本的には、双方の文言提案の寄せ集めの感を受けるが、安全保障等重要部分については双方が調整、それぞれの政策を相互に支持し合い、中露連携を強く打ち出している。それは「新たな枢軸」の結成と言っても良い。要注意である。声明の主要点は次の通り。
(2)第I部:「民主主義は普遍的価値であり、一部の国の特権ではない」。(「民主主義」の語が中露のナラティブにハイジャックされないように要注意)。
(3)第II部:ユーラシア・パートナーシップの拡大や一帯一路計画に言及の上、経済発展の重要性を強調。気候変動、コロナ問題などにも言及。
(4)第III部:安全保障につき、中露は相互の「核心利益」を擁護する。「ロシアは一つの中国の原則を支持する、台湾は中国の固有の一部である、如何なる形であれ台湾の独立に反対することを再確認する」。ウクライナと明示しないで、「両国は近接地域での外部勢力による干渉を排除し、カラー革命に反対し、当該地域での両国の協力を強化すると述べ、テロ反対にも言及。双方は「北大西洋条約機構(NATO)の更なる拡大」に反対する。
中国は欧州安保に関するロシアの提案を支持。アジア太平洋の閉鎖的なブロック化に反対、米のインド太平洋戦略を警戒する。ABMシステム(弾道弾迎撃ミサイル制限)を廃棄すべき。オーカス(AUKUS)を非難、核・ミサイル不拡散を守るべき。米のアジアや欧州での中・短距離ミサイルの配備計画の中止を求める。宇宙にも言及。福島の「核汚染水」の海洋投棄を懸念。
(5)第IV部:共同して「新たな形の国際関係」を築く。両国は第二次大戦の結果を堅持する。両国の友情に限界はなく、協力に禁止区域はない。WTOを支持。APECを強化する。
ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスは、2月8日付け同紙掲載の論説‘The crisis in Ukraine is one for the history books’において、ウクライナ危機は将来専門家達による事例研究のひとつになると言い、上記の中露共同声明はケナンのソ連封じ込め戦略の中露版と考えることもできる、ウクライナを巡る対立は「逆キューバ危機」である、などと指摘している。その通りであろうと思われる。目下のウクライナ危機は、それほど歴史的な意味合いを持っている。
ロシアとの話合いは続いている。何か動いているのではないかと思われるが、交渉の正確な状況は分からない。プーチンは長年の冷戦を米と共に管理することに成功してきたロシアの指導者であるという意味では、一定の合理主義者だと思われる。
そうであれば、エスカレーションを支配しバイデンを困らせる危険なゲームを楽しんでいるとも考え難い。他方、プーチンは、ウクライナに対して、強迫観念に近い執着を持っているようにも見られる。不可解なのは、具体的に達成可能な何を達成しようとしているのか、よく分からないことである。
バイデンの積極的な情報戦
ベラルーシやロシア西部、クリミア沖に集結する部隊や艦隊の写真は尋常でない。特にウクライナとの間での誤算が心配になる。プーチンには問題を外交で解決する責任を発揮してもらわなければ困る。
今回の危機へのバイデンの対応は総じて評価されるだろう。特に目立つのは、積極的な諜報情報の発信である。単にアフガンでカブール政権の余命を読み誤ったことに対する教訓だけのようには思えない。危機の際の情報戦が地上の形勢に影響すると考えての事であろう。
実際、ロシアは米国の発信を嫌がっている。また今回は軍関係者の意見をよく聞き、周到な部隊展開などを行っているように見える。もう一つアフガンとの違いは、同盟国との連携が大きく改善されていることだ。
他方、バイデンはウクライナのために戦争をする意図はないと明言しているが、1月19日の「ロシアのウクライナへの侵攻が侵攻に留まるならば西側の対応も小規模にとどまる」旨の発言と相俟って、もう少し慎重な発言をすべきではないかとの印象も受ける。しかし、米露直接衝突は何としても避ける必要があること、プーチンに誤算させないことを確保するために米国の意図は明確にし、他方で侵略が何時あってもおかしくないとの情報戦は積極的に続けることで状況をコントロールしようとしているのかもしれない。
キューバ危機時にソ連の輸送船を監視する米哨戒機 |
カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出―【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!
トカエフ大統領 |
中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。中露は、この逆キューバ危機に対処するためにこれからも、綿密に協力しようとしているのです。
米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。
中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに中長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。
ウクライナへの侵攻も、プーチンの頭の中では、基本的にはこのカザフスタンへのCSTOの派遣と同じような理屈によるものでしょう。
ただ、カザフスタンのトカエフは親露・親中的であり、カザフスタンのトカエフ政権が安定すれば、カザフスタンがNATOに加入したり、ウクライナのように親欧米的な行動をとることはないとみられることから、ロシアとしては、それ以上のことをする必要性もないためすぐに部隊を退かせたのです。
ウクライナに関しては、NATO入を検討したり、親欧米的であるため、侵攻して、ドンバス地域だけではなく、首都のキエフにも侵攻しようとしているようです。とくかく、ロシアの最終目標としてはウクライナを絶対にNATOに加入させないようすることだと考えられます。
ただ、上の記事にもあるように、不可解なのは、具体的に達成可能な何を達成してこれを実現ようとしているのか、よく分からないことです。