検索キーワード「プーチン ソ連」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示
検索キーワード「プーチン ソ連」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示

2025年12月21日日曜日

なぜ今、中央アジアなのか――「中央アジア+日本」首脳会合が示す国家の覚悟



まとめ
  • 第一に、日本が中央アジアと「初めて首脳会議を開いた」という事実は、日本外交が“周縁”から“構造”へ踏み出した決定的瞬間である。これまで点で付き合ってきた中央アジアを、面として扱い始めた。これは親善ではなく、世界秩序の変化を見据えた戦略行動だ。
  • 第二に、中央アジアは米中露の力が最も露骨にぶつかる場所であり、その露骨さは「兵器の射程」で世界が書き換わる冷酷な現実にある。ここに何が置かれるかで、中国もロシアも安全保障を根本から変えざるを得ない。この地域を巡る動きは、遠い外交ニュースではなく、世界の安定そのものに直結している。
  • 第三に、その剥き出しの三国志の中で、日本は“刃”ではなく“重し”として盤面に加わった。ミサイルも基地も持ち込まず、だが確実に選択肢を増やす存在として信頼を積む。中央アジアと日本の関係は、エネルギー、物流、安全保障を通じて、すでに我が国の明日につながっている。
1️⃣なぜ今、中央アジアなのか――日本外交の静かな転換


多くの日本人にとって、中央アジアは遠い存在だ。
地図を思い浮かべても、国名がすぐ浮かぶ人は少ない。旧ソ連の一部だった内陸国、シルクロードの名残――その程度の理解にとどまっているのが現実だ。

しかし日本は今、その中央アジア五か国と初めて首脳会議を東京で開催した。
これは単なる外交行事ではない。日本がこれまで周縁に置いてきた地域を、明確に「戦略の対象」として捉え直したという点で、はっきりした転換である。

これまで日本は、中央アジア諸国と個別には関係を築いてきたが、五か国をまとめて首脳レベルで制度化した枠組みは存在しなかった。それが今、初めて実現した。その背景には、時代の変化がある。

ウクライナ戦争によってロシアの影響力は後退し、中国の存在感は過度に膨らんだ。中央アジア諸国は、ロシアでも中国でもない「第三の選択肢」を必要としている。一方、日本もまた、ユーラシア内陸部に生じた戦略的空白を放置できなくなった。

今回の首脳会議は、偶然でも思いつきでもない。
世界秩序の変化を前提に、日本と中央アジアの双方が必要に迫られて踏み出した、初の制度化なのである。

2️⃣米中露の力が剥き出しになる場所――中央アジアという盤面


中央アジアは、米中露の覇権争いが最も露骨に表れる地域だ。
露骨とは、理念や建前が前に出るという意味ではない。誰が資源を握るのか、誰が物流を押さえるのか、どの国の安全保障に寄りかかるのか。生存に直結する利害が、そのまま国家行動として現れるという意味である。

ヨーロッパでは民主主義や人権が語られ、東アジアでは歴史や感情が絡む。
だが中央アジアでは違う。ロシアは旧宗主国として影響力を保とうとし、中国は経済力とインフラで実質的支配を広げようとする。米国は深く入り込まず、中国の伸張だけを警戒する。この三者の思惑が、装飾なしで衝突する。

その構図を象徴したのが、2023年5月に中国・西安で開かれた中国・中央アジアサミットだ。
中国は中央アジアを「一帯一路」の中核に位置づけ、ロシアの後退を背景に主導権を握ろうとした。しかし同時に、中央アジア諸国が中国一極への依存を避けている現実も浮かび上がった。

中国・中央アジアサミットの集合写真

それを決定的に印象づけたのが、カザフスタン大統領カシムジョマルト・トカエフの発言である。
2022年6月、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムの壇上で、トカエフはプーチン大統領の隣に座りながら、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を国家として承認しないと明言した。

形式上の同盟国の大統領が、国際舞台で本人の前に座り、ロシアの戦争目的を否定した。この発言は挑発ではない。民族自決を無制限に認めれば世界は混乱するという、冷静な国家判断である。多民族国家であるカザフスタン自身の主権を守るための選択だった。

中央アジア諸国は、ロシアを捨てたわけでも、中国に寄り添ったわけでもない。
依存先を一つに固定しない。それがこの地域の選んだ現実路線だ。

3️⃣兵器の射程が世界を変える――そして日本の立ち位置

中央アジアの露骨さは、さらに一段深い。
この地域は、兵器の配置だけで世界の安全保障構造が変わる場所でもある。

仮に中央アジアのいずれかの国が、米国との安全保障協力を選び、中距離ミサイルの配備を認めたとしよう。その瞬間、問題は外交から戦略核の領域へ跳ね上がる。

中央アジアは、中国の内陸部やロシア南部の戦略拠点を短時間で射程に収め得る位置にある。冷戦期、米ソが中距離核戦力(INF)条約でこの兵器を厳しく制限した理由は、意思決定の時間を奪う兵器だったからだ。その条約はすでに失効し、配備を縛る枠組みは存在しない。

米陸軍の最新兵器中距離ミサイルシステム「Typhon(タイフォン)」 

この現実の下では、「中央アジアに何が置かれるか」だけで、中国とロシアの安全保障政策は根本から揺らぐ。
だから両国は、中央アジアを決して空白にできない。経済支援も治安協力も政治的関与も惜しまない。友好のためではない。生存の問題だからだ。

この剥き出しの三国志の中で、日本は明らかに異質な存在である。
日本はミサイルを持ち込まない。基地を要求しない。政権交代を誘導しない。

その代わり、エネルギー、インフラ、人材育成、制度構築といった、時間はかかるが依存を生まない関係を積み重ねる。中央アジア諸国にとって日本は、どこかを選ぶための存在ではない。選ばされないための余地を確保する相手だ。

しかも中央アジアは、すでに我が国の将来と直結している。
原油、天然ガス、ウランといった戦略資源。海上輸送に依存しない陸上回廊。中国一極集中を避ける供給網。これらはすべて、日本の明日に跳ね返る現実である。

日本と中央アジア五か国による初の首脳会議は、この露骨な世界の中で、日本が「刃」ではなく「重し」として盤面に加わったことを意味する。派手さはない。しかし、盤面を静かに傾ける力は、往々にしてそういう存在が持つ。

中央アジアは遠い国ではない。
エネルギー、安全保障、そして我が国がどこまで主体性を保てるかという問題と、確実につながっている。

日本はすでに、必要な場所に、必要な形で入り始めている。
今回の首脳会議は、その事実を静かに示したにすぎない。

【関連記事】

天津SCOサミット──多極化の仮面をかぶった権威主義連合の“新世界秩序”を直視せよ 2025年9月1日
中央アジアを含むユーラシア内陸で、中国・ロシアが「非西側の結束」を誇示する場がどう作られているかを描いた記事だ。中央アジアを“盤面”として眺める視点が手に入るため、今回の「日本×中央アジア首脳会議」の意義を、より大きな構造の中で理解できる。

【中国のプーチン支援にNO!】NATOが懸念を明言した背景、中国の南シナ海での行動は米国全土と欧州大陸への確実な脅威―【私の論評】米国のリーダーシップとユーラシア同盟形成の脅威:カマラ・ハリスとトランプの影響 2024年7月30日
「中国がロシアを支える構図」と、それが欧州・インド太平洋を一体の安全保障問題にしていく流れを整理した記事だ。中央アジアの“露骨な力のぶつかり合い”を語る際の、背後の大局(中露連携と西側の対応)として効く。

中国・中央アジアサミットが示すロシアの影響力後退―【私の論評】ロシアが衰退した現状は、日本にとって中央アジア諸国との協力を拡大できる好機(゚д゚)! 2023年6月8日
中国が中央アジア首脳会議を主催し、影響力を伸ばそうとする一方、ロシアの余力低下が地域に「空白」を生んでいる点を捉えた記事だ。今回のテーマである“日本が入る余地”を、早い段階から論じている。

ウクライナ戦争で大きく変わる世界秩序 米国が中国を抑え付ける好機、日本も自由民主主義国としての連携を―【私の論評】ここ10年が最も危険な中国に対峙して日本も米国のように「準戦時体制」をとるべき(゚д゚)! 2023年3月6日
ウクライナ戦争を境に、世界秩序が「対中」を軸に組み替わるという見立てを示した記事だ。中央アジアを“遠い地域”としてではなく、米中露の力学が連動して我が国に跳ね返る、という問題設定の土台になる。

同盟国のカザフスタン元首相がプーチン政権を批判―【私の論評】米中露の中央アジアでの覇権争いを理解しなければ、中央アジアの動きや、ウクライナとの関連を理解できない(゚д゚)! 2022年9月16日
カザフスタンのアケジャン・カジェゲリディン元首相によるプーチン政権批判を起点に、中央アジアで米中露がせめぎ合う現実を解説した記事だ。「なぜ中央アジアが露骨なのか」を読者に腹落ちさせる導入として、今回の記事と非常に相性が良い。

2025年12月11日木曜日

中国は戦略国家ではない──衰退の必然と、対照的な成熟した戦略国家・日本が切り拓く次の10年


まとめ
  • 今回のポイントは、中国は“百年の戦略国家”ではなく衝動で動く脆弱な体制であり、対照的に日本はエネルギー・海洋・技術の各分野で戦略国家として浮上しつつあるという現実である。
  • 日本にとっての利益は、中国とロシアの同時衰退がアジアに戦略的空白を生み、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)や半導体回帰、LNG調達とインフラ投資で世界最大級のネットワークを持つ国としての基盤が重なって、日本がアジア秩序の中心に立つ歴史的好機が訪れていることである。
  • 次に備えるべきは、日本版CIAの創設、海洋防衛線の再構築、核融合・SMR・AIを柱とする国家戦略を加速させ、受け身ではなくアジア秩序を主導する国家へ本格的に踏み出すことである。
1️⃣中国は戦略国家ではなく“衝動国家”である

長いあいだ、多くの日本人は中国を「恐るべき長期戦略国家」と見てきた。
百年スパンでアメリカを追い落とし、世界覇権を狙う──そんなイメージだ。

しかし、実際に中国を長年追いかけてきた海外の専門家たちは、まったく逆の結論にたどり着いている。

RAND のアンドリュー・スコベル、スタンフォード大学のエリザベス・エコノミー、ミンシン・ペイなどは、いずれも中国の特徴を“戦略国家ではなく衝動国家”と分析している。

中国を動かしているのは、冷静な戦略ではない。党内の権力闘争、体制の硬直、トップのメンツ。この三つだ。

ゼロコロナの大失敗、ハイテク企業への締め付け、いきなり牙をむく「戦狼外交」。
どれをとっても、先を読んだ計算ではなく、その場その場の“感情の爆発”に近い。
かつて話題になった「百年マラソン(マイケル・ピルズベリー)」も、今では学者の世界では少数派の見方に過ぎない。

最近の「レーダー照射“事前通告”」をめぐるゴタゴタも、まさにその典型だ。
中国側は、海自哨戒機に火器管制レーダーを照射する前に「警告音声を出した」と主張し、その音声まで公表した。
一方、日本の防衛省は「訓練空域や時間、航行警報など、通告に必要な情報は含まれていない。事前通告とは認められない」と、きっぱり反論した。

中国が公開した「音声」を伝えるニュース

ここで大事なのは、「通告があったかどうか」という細かな争いではない。
本来なら技術的な検証で静かに処理すべき話を、中国がわざわざ政治宣伝に使ってきた、という点である。
自分たちの正しさを国内にアピールし、日本側に「面目を失わせたい」。
そこにあるのは、練られた戦略ではなく、体制維持のためのプロパガンダだ。

一帯一路(BRI)も同じ構図である。
中国政府は世界地図に巨大な経済圏を描き、「世紀の国家戦略だ」と宣伝してきた。
しかし、冷静に中身を見れば、ばらばらのインフラ投資や企業救済を、後から「一帯一路」という看板でまとめただけに近い。
習近平体制の威信を高めるための政治ブランド──それが実態だと指摘する研究は少なくない。

ここにエマニュエル・トッドの視点を重ねると、中国の弱点がはっきり見えてくる。
トッドは、中国社会の根っこにある「父権的で上下関係の厳しい家族」を重視する。
この家族観は、「上に逆らえない文化」を生み、国家が間違いを認めて修正する力を奪う。
教育レベルの伸びは止まり、高学歴の若者は仕事を失い、政府は締め付けを強める。
まさにソ連崩壊前夜の姿と重なって見える。

中国の出生率は1を大きく割り込んでいる。さらにエマニュエル・トッドは、中国の正体を一つの数字で見抜いた。

乳幼児死亡率である。

経済が伸びているはずなのに、この数値だけが改善しない。
これは社会の機能がすでに限界に達し、近代化が止まった証拠だ。

家族も国家も間違いを正せない構造のまま硬直し、少子化と若者の疲弊が進む。
外へ強硬になるのは、自信ではない。
衰退を隠すための吠え声にすぎない。

中国は、もはや上昇国家ではない──これがトッドの結論である。 人口の形そのものが崩れ始めた国に、「百年の大戦略」など続けようがない。
トッドは、中国の現在の体制は 2020年代から2030年代にかけて限界に近づき、2040年代には維持が難しくなるだろうという趣旨の見方を示している。

要するに、中国の対外強硬姿勢は「余裕ある大国の自信」ではない。
内側で崩れつつある現実を隠すため、外に向かって吠えざるをえない。
中国は、戦略国家ではなく“衝動国家”であるという方が本質的である。
 
2️⃣日本は”成熟した戦略国家”日本

一方、日本はどうか。
自虐的な論調に慣れた日本人は、「日本には戦略がない」と言いたがる。
しかし、現実はまったく逆だと言っていい。

日本は、中国とは対照的な「静かな戦略国家」である。
大きなスローガンは掲げないが、十年、二十年という時間軸で、着実に国の力を積み上げてきた。

典型が、私がブログで「ガス帝国」と呼んできたエネルギー戦略だ。
豪州、中東、米国、東南アジア。
LNG輸入国である日本は世界各地に LNG 調達のネットワークを張り巡らせ、どこの国よりも多様で安定した供給ルートを持っている。
エネルギーを握られれば国家は一瞬で弱るが、日本はそこを先回りしている。
これは立派な国家戦略である。

外交でも、同じ構図が見える。
安倍政権が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、岸田政権、石破政権と引き継がれ、今や日本外交の背骨になった。
南西シフトも、政権が変わってもぶれずに進んでいる。
これは、単なる政策ではなく、「戦略の血統」と呼ぶべきものだ。


さらに、次世代技術でも日本は反撃を始めている。
TSMC熊本、Rapidus――これらは名前だけの看板ではない。
日本が、自国に半導体生産の中核を呼び戻そうとしている、はっきりした証拠だ。
AIや量子技術も、「他国に頼る」段階から「自分たちで育てる」段階へと踏み出した。

そこへ拍車をかけているのが、ロシアの衰退である。
ロシアは人口が減り、エネルギー輸出も欧州で地位を失い、中央アジアでも影響力を落としている。
かつてユーラシアの大国と恐れられたロシアは、もはや“背中を預けられる存在”ではない。

中国から見れば、頼みにしていた後ろ盾が弱まり、アジア全体に「空白」が生まれた。
この空白を埋める役割を、自然と日本が担い始めている。
エネルギー、技術、海洋安全保障、サプライチェーン。
どの分野をとっても、日本はアジアの中で、静かに、しかし確実に「中心」に立ちつつある。

日本は、自分で思っている以上に、したたかな戦略国家なのだ。
 
3️⃣日本が切り拓くべき「次の10年の国家戦略」

では、その日本はこれから何をすべきか。
「中国に備える」だけでいい時代は、もう終わりつつある。

これからの日本が担うべき役割は、
アジア太平洋の秩序を「受け身で眺める国」ではなく、
「自ら設計し、主導する国」になることだ。

そのためには、まず情報の力を本気で整えなければならない。
公安、警察、外務、防衛。バラバラに散らばっている情報機能を束ね、
いわば「日本版CIA」ともいうべき中枢をつくるべきだ。
サイバー攻撃、偽情報、世論操作。
これからの戦いは、目に見えないところで始まる。
そこに手を打てる体制を整えることは、もはや贅沢ではない。生存の条件である。

次に大事なのが、海だ。
日本のエネルギーは、インド洋と太平洋の航路を通って運ばれてくる。
ここで事故や妨害が起きれば、日本経済は一気に冷える。
インドやUAEなどと本気の海洋協力を築き、「第二の防衛線」をインド洋に引いておく必要がある。

海上自衛隊のイージス艦

エネルギーそのものも、次の段階に進めなければならない。
ガス帝国としての強みを持つ日本だからこそ、核融合や小型原子炉(SMR)といった次世代エネルギーに賭ける価値がある。
ここで世界の先頭を走れれば、百年単位で日本のエネルギー主権は揺るがなくなる。

国防の現場では、AI の導入が鍵になる。
監視、分析、迎撃。
人間だけでは処理しきれない情報量を、AI に担わせる仕組みを急いで作るべきだ。
「人を減らすためのAI」ではなく、「人を守るためのAI」として使う視点が大事になる。

経済面では、日本が昔から得意としてきた素材、部品、工作機械が武器になる。
これらを軸に、「日本を中心にしたサプライチェーン圏」を組み立てることができれば、
中国リスクに振り回されない経済の土台ができる。無論それと並行してマクロ経済的観点から、日本経済を立て直し、成長する経済へと導く必要がある。

そして忘れてはならないのが、海の底だ。
日本の排他的経済水域には、膨大なレアアース泥が眠っていると言われる。
これを本格的に掘り起こし、国家プロジェクトとして育てていけば、
資源の面でも、日本は簡単には揺さぶられない国になる。

中国はこれから、内側から崩れていく可能性が高い。
ロシアも、かつての力を取り戻すことは難しいだろう。
そんな時代に、我が国はどこを目指すのか。

答えははっきりしている。
「アジアの真ん中で、秩序をつくる側に回る」
これである。

日本はすでに、その力を静かに持っている。
あとは、その力をどう使うか、という決断だけだ。

【関連記事】

アジアの秩序が書き換わる──プーチンの“インド訪問”が告げる中国アジア覇権の低下と、新しい力学の胎動 2025年12月7日
プーチンのインド訪問を軸に、中国一極だったはずのアジア秩序が多極化へ動き出している構図を整理。ロシアの対中距離化とインド台頭という文脈から、日本がどこで戦略的主導権を取り得るかを具体的に示している。

中国の歴史戦は“破滅の綱渡り”──サンフランシスコ条約無効論が暴いた中国最大の矛盾 2025年12月6日
中国の「サンフランシスコ講和条約無効論」が、最終的には自国の正統性すら揺るがしかねない“自爆ロジック”であることを詳しく分析。歴史戦・情報戦で日本が優位に立つための論点整理として、本稿の「中国は戦略国家ではない」という視点を法的・歴史的側面から補強する。

OPEC減産継続が告げた現実 ――日本はアジアの電力と秩序を守り抜けるか 2025年12月1日
OPECプラスの長期減産決定を手がかりに、原油・原子力・LNGを軸とした新しいエネルギー覇権構造を解説。日本が「天然ガス帝国」としてアジアの電力秩序を握り得ることを論じており、本稿で述べた「中国と対照的な戦略国家・日本」という位置づけのエネルギー面の裏付けになる。

日本はAI時代の「情報戦」を制せるのか──ハイテク幻想を打ち砕き、“総合安全保障国家”へ進む道 2025年11月22日
AI・サイバー・無人兵器を巡る新しい戦場環境を整理しつつ、日本が素材・精密製造・装置産業で世界最強クラスの基盤を持つ事実を提示。中国やロシアの脆弱性との対比を通じて、「日本こそ長期的な戦略を組み上げる土台を持つ国だ」という本稿のメッセージを安全保障技術の面から補完している。

三井物産×米国LNGの20年契約──日本のエネルギー戦略を変える“静かな大転換” 2025年11月15日
三井物産と米Venture Global LNGの20年契約を「国家戦略級案件」と位置づけ、日本が世界最大のLNG輸入国としてアジア需給を左右してきた実態を紹介。日本を“ガス帝国”と呼びうる理由を具体的データとともに示しており、本稿で展開した「成熟した戦略国家・日本」という枠組みの中核となるエネルギー戦略の実例になっている。

2025年11月26日水曜日

歴史と国際法を貫く“回復的ウティ・ポシデティス(ラテン語でそのまま)”──北方領土とウクライナが示す国境原則の行方


まとめ
  • 国境の曖昧化は戦争の最大原因であり、独仏国境のアルザス・ロレーヌやウクライナの事例が示すように、国境確定こそ国際秩序を守る最低条件である。
  • 「ウティ・ポシデティス」は行政境界をそのまま国境にする原則で、独立期の混乱を防ぐため国際司法裁判所でも国際慣習法として認められたが、旧ソ連の人工的境界のような歪みには対応できない限界がある。
  • これを補完するため、私は「回復的ウティ・ポシデティス」を提唱する。これは、紛争前の国境に戻したうえで、住民にどちらの国に属するか選ぶ権利を与えることで「線」と「人」の矛盾を同時に解消する。
  • 北方領土は日本固有の領土であり、サンフランシスコ講和条約でも帰属は未確定のままで、ロシア系・ウクライナ系など多層的な住民構造を踏まえても“回復的ウティ・ポシデティス”で最も合理的に解決できる。
  • この新原則は北方領土だけでなく、南シナ海・バルカン・カシミールなど世界の火薬庫にも応用可能で、日本こそ二十一世紀の国境原則を国際社会に提示できる立場にある。

1️⃣国境の曖昧さは必ず戦争を呼ぶ──歴史が突きつける警告


ウクライナ戦争は、二十一世紀に突如として現れた地政学の逆流ではない。むしろ、国境とは何かという“国家の根本”を突きつけた出来事である。十九世紀から二十世紀にかけてフランスとドイツが争奪したアルザス・ロレーヌは、まさに「国境が曖昧だから戦争になる」という典型だった。取り返せば憎しみが積み上がり、奪われれば復讐が始まる。その怨念の連鎖がついに第一次世界大戦、そして第二次世界大戦へとつながった。

だからこそ国際社会は十九世紀の南米独立戦争の時代から、行政境界をそのまま国境として固定する「ウティ・ポシデティス」という知恵に辿り着いた。後にアフリカ独立でも採用され、二十世紀末には国際司法裁判所の判例によって、国際慣習法として確立していく。独立時の境界を固定することこそ、戦争を防ぐ“最低条件”であると世界が学んだからだ。

しかし旧ソ連の境界線は、民族や歴史を反映したものではなく、モスクワが統治しやすいように操作した人工的な線だった。ウクライナ東部やクリミアが不安定化した根本原因はそこにある。それでもロシアは1991年、ウクライナの既存国境を正式に承認している。この一点だけで、プーチン政権が後になって武力で国境を変更しようとした行為が、どれほど明確な国際法違反であるかがわかる。

にもかかわらず、一部の西側が提示する和平案は、国境を曖昧なまま停戦しようとする“仮の和平”でしかない。国境が曖昧な和平は、必ず次の戦争を呼ぶ。これはアルザス・ロレーヌでも、中東でも、バルカンでも、歴史が何度も証明してきた。ウクライナだけの問題ではない。国境を曖昧にした前例が生まれれば、日本が真っ先に狙われる。
 
2️⃣ウティ・ポシデティスの限界を超える──私が提唱する“回復的ウティ・ポシデティス”とは何か

前線付近の露軍に向けロケット弾を発射するウクライナ兵=ウクライナ南部ザポロジエ州で2023年7月13日

ウティ・ポシデティスは「線」を固定する原則であり、独立後の混乱を防ぐためには一定の合理性がある。しかし重大な弱点がある。国境線と、そこに住む“人々”が一致しない場合、国境は必ず爆発する。ドンバス、カシミール、ナゴルノ・カラバフ、コソボなど、世界の火薬庫のほぼ全てがこの問題に起因している。「線」だけ戻しても争いは終わらない。「住民意思」だけ優先しても国境が崩壊する。これが国境問題の根本的な矛盾だ。

この矛盾を解決するために、私は従来のウティ・ポシデティスを改革する「回復的ウティ・ポシデティス」を提唱する。その原則は極めてシンプルだ。国境線は紛争が起きる前の“元の線”に戻す。そして、その地域に暮らす人々には、どちらの国に属するかを自由に選ぶ“住民選択権”を与える。線と人を同時に解決する二段構えの方式である。

これは決して奇抜な案ではない。むしろ、歴史と国際法の矛盾をもっとも自然に解消する“二十一世紀の国境原則”である。もはや民族構成が流動化した現代において、「線だけ戻す」か「人だけ見るか」の二択では破綻する。線と人をセットで整合させて初めて争いが終わる。

「回復的ウティ・ポシデティス」に関して、私が自分で調べた限りでは、これをストレートに主張する見解などは見られなかった。どなたか、このような主張が他にもあることをご存知の方は、教えていただきたい。
 
3️⃣北方領土をどう扱うか──回復的ウティ・ポシデティスは日本にこそ必要だ


北方領土は日本固有の領土であり、サンフランシスコ講和条約でもソ連への帰属は一度も認められていない。つまり北方領土は“未確定領土”であり、国際法上は紛争前の線に戻せば日本領である。しかし問題は「誰が住んでいるか」だ。戦後のソ連移住政策によってロシア系住民が入植したが、実際にはロシア人だけではない。ウクライナ人、ベラルーシ人、タタール系、軍属由来の住民、さらには歴史の痕跡としての日本人や先住民族など、多層的で複雑な人口構造がある。

この現実を踏まえず、「ロシア人の意思」だけを議論するのは歴史的にも事実認識としても誤りである。だからこそ回復的ウティ・ポシデティスが必要になる。北方領土は日本に戻す。しかし、現在住むすべての住民に対して、日本国籍かロシア国籍かを選ぶ権利を保障する。さらに当然のことながら、もし必要なら自ら属する国への移動の権利を有するものとする。言語、財産権、教育、行政サービスを守る移行措置を設け、必要なら国際監視団で透明性を確保する。暴力的でも、非現実的でもない。歴史を尊重しながら、未来も守るための“現実解”である。

しかもこの原則は北方領土だけでなく、世界のどの火薬庫にも応用できる。南シナ海、バルカン、中東、カシミール──曖昧な国境と複雑な人口が生む紛争を一気に整理できる。日本こそ、この新原則を国際社会に提示する資格を持つ国家だ。北方領土という未解決問題を抱える日本だからこそ、二十一世紀の国境原則に貢献できる。

【関連記事】

米国の新和平案は“仮の和平”とすべき──国境問題を曖昧にすれば、次の戦争を呼ぶ 2025年11月21日
ウクライナ国境を曖昧にした和平案が、将来の紛争を呼び込む構造を解説。国境問題をめぐる本記事と最も強く連動する。

すでに始まっていた中国の「静かな日台侵略」──クリミアと高市バッシングが示す“証左” 2025年11月20日
「クリミア併合モデル」が東アジアに輸入されているという視点を提示し、国境の曖昧化が日本にも迫っている現実を論じる。

<解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要性 2025年3月31日
停戦メカニズムを歴史比較で解説し、「曖昧な停戦=次の戦争」という構図を整理。国境確定の不可欠性を理解する基礎となる。

“ロシア勝利”なら米負担「天文学的」──米戦争研究所が分析…ウクライナ戦争、西側諸国は支援を継続すべきか? 2023年12月16日
ロシア勝利が世界に及ぼす軍事・財政コストを分析し、日本の安全保障に直結する「国境侵犯型の戦争」の危険性を示す。

四島「不法占拠」を5年ぶりに明記──北方領土返還アピール 2023年2月7日
北方領土問題を国際法と現実政治の双方から整理し、「国境確定の原則」が日本の将来を左右することを示す。

2025年8月16日土曜日

米露会談の裏に潜む『力の空白』—インド太平洋を揺るがす静かな地政学リスク

 まとめ

  • トランプ・プーチン会談は、米露関係改善の可能性を示す一方で、背後には米国がロシアを対中戦略の一部に取り込もうとする思惑がある。
  • ロシアは経済制裁や戦線維持の負担から、完全に中国に依存し続けたとしても余裕がなく、交渉に応じざるを得ない可能性が高い。
  • 中露関係は表面的には堅固に見えるが、歴史的には「氷の微笑」に過ぎず、根底では利害が完全一致していない。
  • 米露接近が進めば、東欧戦線や黒海周辺で抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が生じ、第三国や非国家主体が介入を試みるリスクが高まる。
  • 日本はこの「力の空白」がインド太平洋地域にも波及し、台湾有事や北方領土問題で安全保障環境が急変する危険性を見落としてはならない。

ドナルド・トランプ前米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の会談は、単なる米露接触ではない。そこには米中露三角関係を揺るがす可能性と、「力の空白」をめぐる地政学的な駆け引きが潜んでいる。日本のマスコミは、この会談を「米露接近=中国有利」と短絡的に片付ける傾向がある。しかし現実はもっと複雑で、場合によっては米国がロシアを対中包囲網に引き込む布石にもなり得る。その含意を理解せずに未来を語ることは、国益を危うくする。
 
米露会談の真の背景
 
米露会談の共同声明

今回の会談の背景には、ウクライナ戦争の長期化、経済制裁によるロシア経済の疲弊、そして米中対立の激化がある。バイデン政権下で冷え切った米露関係だが、トランプは「ディール型外交」で条件次第の手打ちを否定しない人物だ。

米国にとって中国は、経済・軍事・技術の全てで長期的かつ包括的な脅威であり、冷戦期のソ連以上に手強い存在だ。ゆえに、米露対立を緩和し、ロシアを部分的にでも中国から引き離す戦略的価値は大きい。

もっとも、現状の中露関係は密接に見える。だがエドワード・ルトワックが評したように、それは「氷の微笑」に過ぎず、長期的信頼関係ではない。歴史的に両国は国境をめぐって何度も衝突してきた。米国はその構造的不信を利用しようとしている。
 
手打ち条件と「力の空白」
 
ロシアは中国陣営に残るのか?

米国がロシアとの条件交渉に臨む場合、ウクライナ戦線や対中関係が重要な取引材料となる可能性がある。特に「中国陣営に残るか否か」が手打ちの条件に含まれることは十分考えられる。

プーチン政権がこれを受け入れるかは別問題だが、ロシアは経済制裁と戦争の負担で余裕を失いつつある。条件次第では、戦略的譲歩を迫られる局面も出てくるだろう。

この時、東欧戦線や黒海周辺では抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が発生する。これは単なる軍事的隙ではなく、第三国や非国家主体(民兵組織、テロ組織、海賊集団など)が行動を開始する契機となる。歴史的に、このような空白は必ず地域の不安定化を招く。
 
日本への波及と今後の展望

インド太平洋地域

「力の空白」は地理的に遠くても日本に無関係ではない。黒海や東欧での抑止低下は、国際秩序全体のバランスを崩し、中国や北朝鮮といった勢力が太平洋での冒険主義を加速させる口実となる。特に南西諸島や台湾周辺の安全保障環境は、欧州情勢の影響を受けやすい。

さらに、米国が対中戦略を優先してロシアとの対立を緩和すれば、米国のアジア太平洋への軍事資源配分が増える半面、米国の中国への圧力はさらに強まり、日本は「最前線の同盟国」としてより強力な役割を求められる可能性も高い。

今後の展望として、米露接触は短期的には東欧情勢を流動化させるが、長期的には米中対立の主戦場をアジアに集中させる力学を強めるだろう。日本はその渦中に置かれ、「他人事」で済ませられる余地はない。

【関連記事】

中国が「すずつき」に警告射撃──本当に守りたかったのは領海か、それとも軍事機密か2025年8月11日
中国海軍による海自護衛艦への警告射撃事件を分析し、その真の狙いを探る。

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略 2025年8月10日
NATOの東方戦略と日本の安全保障を重ね合わせ、力の空白が招くリスクを論じた記事。

サイバー戦は第四の戦場──G7広島から最新DDoS攻撃まで、日本を狙う地政学的脅威 2025年8月8日
国際会議から最新のサイバー攻撃事例まで、日本を取り巻くサイバー脅威を俯瞰。

日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障 2025年7月12日
防衛費増額とNATO戦略の変化が、日本の将来の防衛政策に与える影響を解説。

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男 2025年4月22日
米ロ間のレアアース開発協議を背景に、ロシアの対米戦略と人物像を分析。


2025年6月2日月曜日

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と経済・軍事への衝撃

まとめ
  • ウクライナ保安庁が「クモの巣」作戦でロシアの軍用飛行場を無人機攻撃、戦略爆撃機など41機を破壊。損失は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載機の34%を直撃。
  • ロシアは攻撃前、戦略爆撃機を60~70機保有(実働50~60機)、41機喪失で残存30~50機に減少し、戦略航空戦力と核抑止力に深刻な打撃。
  • ロシア経済は2024年GDP約2兆ドル、軍事費は1,489億ドル(GDP7.1%)で、70億ドルの損失は軍事予算の5%。制裁やインフレで経済は脆弱化。
  • ウクライナは西側から1,000億ドル以上の支援で精密攻撃を強化、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、北朝鮮や中国の支援に依存。
  • ロシアの持久戦優位性が揺らぎ、50万人の動員に対し30万人以上の死傷者、兵器生産の停滞、インフラ事故で国内混乱が増幅。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。
無人機(ドローン)攻撃によるものとされる黒煙=1日、ロシア・イルクーツク州

ウクライナ保安庁がロシアの軍用飛行場を無人機で襲撃する「クモの巣」作戦を敢行し、戦略爆撃機など41機を破壊したとウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」が報じた。この作戦は1年半以上かけて準備され、トラックに隠した無人機を遠隔操作で攻撃する巧妙な手法だ。ロシアは攻撃前、戦略爆撃機(Tu-95、Tu-160、Tu-22M3)を60~70機保有していたと推定されるが、稼働率を考慮すると実働は50~60機程度だ(国際戦略研究所『Military Balance 2024』)。

もしウクライナの主張通り41機が破壊されたなら、残存機数は30~50機に激減し、ロシアの戦略航空戦力や核抑止力に深刻な打撃を与える。損失額は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載可能な機体の34%を直撃したとされる。

ロシアの反応と広がる混乱

ロシアの戦略爆撃機「ツポレフ95」

ロシア国防省はイルクーツク州やムルマンスク州など5州の飛行場が攻撃され、航空機が火災を起こしたが、けが人はなく、関係者を拘束したと発表した(タス通信、2025年6月1日)。イルクーツク州知事は「シベリア初の無人機攻撃」と強調。一方、ロシア西部ではブリャンスク州で陸橋崩壊による列車脱線で7人が死亡、クルスク州でも鉄橋事故で運転士らが負傷し、原因が調査中だ(ロイター、2025年6月1日)。

ウクライナのゼレンスキー大統領は作戦を主導したマリュク長官と笑顔で握手する写真を公開し、「1年6か月9日にわたる準備の末の歴史的行動」と絶賛した(ウクライナ大統領府、2025年6月1日)。この作戦はロシアの軍事力を弱体化させるウクライナの戦略の一環であり、潜伏者の活用が鍵だ。

経済と軍事への甚大な打撃
この攻撃の衝撃はロシアの経済と軍事に重くのしかかる。ロシアの2024年名目GDPは約2兆ドル(約300兆円)、軍事費は約1,489億ドル(約22兆円)で、GDPの7.1%を占め、欧州全体の防衛費(約4,570億ドル)を超える(SIPRI 2024)。だが、70億ドルの損失は軍事予算の5%に相当し、高価な戦略爆撃機の喪失はウクライナへの攻撃力と核抑止力を直撃する(BBC、2025年6月2日)。

日本の2024年GDPは約4兆ドル、軍事費は553億ドル(GDPの1.4%)だが、もし3%に引き上げれば約1,800億ドルとなり、ロシアを上回る(SIPRI 2024)。ロシア経済は軍事費に偏重し、予算の40%が防衛・安全保障に投じられるが、インフレ率7.4%と労働力不足で成長は鈍化(世界銀行、2024年)。制裁によるハイテク製品の入手困難やエネルギー輸出の減少(1日約7500万ドル、ブルームバーグ、2024年12月)も重なり、今回の損失は経済と戦略に致命的な打撃だ。

ウクライナは軍事拠点やインフラを的確に攻撃し、米国、NATO、EUからの約1,000億ドル以上の支援でドローンや精密兵器を強化している(SIPRI 2024)。2023年の黒海艦隊攻撃では旗艦「モスクワ」を撃沈し、ロシアの黒海支配を揺さぶった(ロイター、2023年4月)。対して、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、2024年10月のミサイル攻撃では民間施設を破壊、20人以上の死傷者を出した(国連人権高等弁務官事務所、2024年11月)。

ドネツク州バフムト西方に位置するチャソフヤルで行われたロシア軍人の葬儀(2025年2月25日

支援は北朝鮮の砲弾(2024年約100万発)や中国の部品供給に限られ、西側に劣る(CSIS 2024)。従来、領土や資源、兵力で持久戦はロシア有利とされたが、この状況が続けば優位性は崩れる。ロシアは50万人の動員に対し、30万人以上の死傷者を出し(英国防省2024年)、兵器生産はソ連在庫に依存、新規生産が滞る(フィナンシャル・タイムズ、2025年6月2日)。ブリャンスクやクルスクのインフラ事故はウクライナの作戦と連動し、国内の混乱を増幅させる(ガーディアン、2025年6月2日)。今回の攻撃はロシアの軍事力と経済を直撃し、戦争の負担を増大させる。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。

【関連記事】

プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説—【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で  2025年5月26日

ロシアの昨年GDP、4・1%増…人手不足で賃金上昇し個人消費が好調―【私の論評】ロシア経済の成長は本物か?軍事支出が生む歪みとその限界 2025年2月9日

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”―【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響 2024年5月28日

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり 2024年5月18日

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること―【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)! 2023年11月14日

2025年5月26日月曜日

プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説—【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で

プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説

岡崎研究所

まとめ

  • ロシアはウクライナ戦争後もNATO、特にバルト諸国への脅威を増す。プーチンのNATO拡大への主張はエストニア外相が「デタラメ」と断じ、部隊移動がその矛盾を露呈する。
  • フィンランドとスウェーデンのNATO加盟はプーチンの誤算だ。NATOに侵略意図はなく、ロシア側がパイプライン破壊やGPS妨害で挑発を続ける。
  • ロシアの行動は、モンゴルやナポレオン以来の被害者意識に根ざす。「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる歴史が背景にある。
  • ロシアのメシアニズム思想は、ウクライナを「人為的な政治体」とみなし、「ロシア世界」の拡大を正当化する。プーチンの支配欲に思想的支えを与える。
  • プーチンがいなくなっても、被害者意識とメシアニズムがロシアの侵略を止めない。ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの行動は続く危険がある。

 2025年5月5日のウォール・ストリート・ジャーナルは、ウクライナ戦争の終結後、ロシアがNATO、特にエストニアなどバルト諸国への脅威を増すと警告する。プーチンはNATO拡大を戦争の原因と主張するが、エストニアのツァクナ外相は「NATOが脅威という話はデタラメだ」と断じる。

 ロシアはウクライナ侵攻でエストニア国境近くの精鋭部隊を移動させ、NATOへの備えを弱めた。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、プーチンの誤算だ。元米軍司令官ホッジスは、NATOに侵略意図があれば破壊工作や領空侵犯が起きるはずだが、ロシア側では何もないと指摘する。

 逆に、ロシアはバルト海のパイプライン破壊やGPS妨害、国境での不審な活動を繰り返す。エストニアはロシア軍がウクライナで足止めされていることに安堵するが、和平後、ロシアの脅威が高まると警戒する。

 ロシアの行動の根底には、NATOを敵視する政治・軍事的戦略と、歴史的な被害者意識やメシアニズム思想がある。モンゴル、ナポレオン、ドイツの侵攻を経験したロシアは、「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる。

 加えて、「ロシア世界」を広げる使命感が、ウクライナを「人為的な政治体」とみなす思想を支える。スルコフ元大統領補佐官は、ロシアの影響力拡大を「ルスキーミール(ロシア世界)」と呼び、プーチンの支配欲に思想的支えを与えた。

 ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの侵攻は加盟阻止ではなく、支配欲とメシアニズムに突き動かされた。プーチンがいなくなっても、この思想がロシアの侵略を止めない危険がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で

まとめ
  • ロシアの構造的要因:上の記事は、ウクライナ侵攻をプーチン個人の問題ではなく、ロシアの「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチン後でも攻撃的な姿勢が続く可能性を指摘する。SRCの木村汎の研究と一致し、ナショナリズムや歴史的トラウマが外交を駆動するという。
  • 経済的制約の深刻さ:しかし、ロシアのGDPは韓国や東京都並み(2021年で1.83兆ドル)で、制裁によるエネルギー収入の減少がプーチン後の軍事行動を制限。後継者は大規模な戦争を避け、サイバー攻撃や小規模な挑発に頼る可能性が高い。
  • 国際環境の影響:服部倫卓の研究では、国際的孤立や中国・インドとの協力が外交を制約。経済的弱さから、ロシアは中国への従属リスクを抱え、NATOとの全面対立より限定的な牽制を選ぶだろう。
  • 上の記事の限界:記事は経済的制約やNATO・ロシアの相互作用を軽視し、「侵略の継続」を単純化。SRCの研究では、経済や国際環境がロシアの行動を大きく縛るとされる。
  • ポスト・プーチン期の展望:ロシアの弱い経済とエリート層の権力維持の思惑により、後継者は国民の不満を抑えるためナショナリズムを煽りつつ、サイバー攻撃や小規模な挑発で「大国」の看板を守ろうとする。中国との協力で経済を支えるが、従属的な立場に陥るリスクがあり、上の記事の懸念は大規模戦争ではなく、狡猾な牽制として現れることになるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻は、プーチン一人の暴走ではない。Wedge ONLINEの記事「プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!」は、ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチンがいなくなってもNATOやバルト諸国への敵対姿勢が続く可能性を訴える。

北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)

確かに、ロシアの奥底に流れる歴史の傷や大国への執着は、容易には消えない。しかし、この記事をロシア研究では定評のある北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)の視点で読み解くと、鋭い指摘の一方で、経済的制約や国際環境の重みを軽視する危うさが見える。

また、「ロシアのGDPは韓国や東京都並みで、制約が大きすぎる」という現実は、ポスト・プーチン期のロシアの動きを予測する鍵だ。木村汎や服部倫卓の研究を手に、ロシアの未来を私なりに描いてみよう。

上の記事では、プーチン個人の影を越え、ロシアの構造的な闇に光を当てる点が最大の特徴だ。木村汎の『ロシアの国家アイデンティティ』は、ソ連崩壊後の屈辱がロシア人の心に深く刻まれ、ナショナリズムと西側への対抗心を燃やしていると説く。記事が引用するウォール・ストリート・ジャーナルの言葉、「ロシアがNATOを脅威とみなすのは、NATOが脅威だからではなく、ロシア自身が脅威を生み出している」は、SRCの中井遼の研究が示す「脅威の自己増幅」と響き合う。

プーチンが去っても、ロシアのエリートや国民に染みついたこの意識は、攻撃的な外交を支える。記事は、この点を一般読者に分かりやすく伝え、ポスト・プーチン期の危険性を浮き彫りにする。

しかし、記事には穴がある。ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に集約しすぎ、経済や国際情勢の重みを軽く見ているのだ。2021年のロシアのGDPは1.83兆ドルで、韓国(1.91兆ドル)を下回り、日本の東京都(約1.0兆ドル)の倍にも満たない(IMFデータ)。この経済規模で、ウクライナ侵攻のような大規模戦争を続けるのは無謀だ。

2022年以降の西側制裁は、エネルギー収入を絞り、ルーブルを揺さぶる。木村の研究は、ロシアの大国意識がエネルギー依存や経済的限界に縛られると明かす。記事がこの現実をほぼ無視し、「侵略は続く」と断じるのは、危うい単純化だ。

モスクワの赤の広場で、ウクライナ4州の併合を記念して開かれた集会とコンサート(2022年9月30日)

ポスト・プーチン期のロシアはどうなるのか。服部倫卓の「ロシアの権力構造と後継者問題」は、プーチンの「垂直的権力体制」が後継者を縛ると警告する。エリート層――シルシキ、FSB、軍部――は権力維持のため、ナショナリズムを煽り、反西側姿勢を続けるだろう。

しかし、ロシアの経済的制約は、この動きに冷水をかける。ウクライナ侵攻は軍事予算(2021年で約660億ドル、SIPRIデータ)を食い潰し、制裁でエネルギー輸出が激減した2025年のロシアは、財政的に息切れしている。

後継者は、大規模な戦争を続ける金がない。木村の研究が示す「第三のローマ」や「スラブの保護者」といった使命感は、サイバー攻撃や情報戦、近隣諸国への小規模な挑発で生き延びるだろう。記事が危惧するバルト諸国への脅威も、全面戦争ではなく、こうしたハイブリッドな形で現れる可能性が高い。

国際環境もロシアを縛る。服部の研究は、国際的孤立の度合いが外交を左右すると説く。2025年5月のX投稿では、プーチンがウクライナ交渉にガルージン外務次官を送り、対話の窓口を残した。これは孤立を避ける現実的な一手だ。

ポスト・プーチン期の後継者も、中国やインドとの協力を深め、経済的制約を緩和しようとするだろう。だが、岩下明裕教授のエネルギー外交研究が示すように、中国との関係は対等ではない。ロシアは「下請け」に甘んじるリスクを抱え、外交の自由度を失う。NATOがウクライナやバルト三国への支援を強めれば、記事が警告する脅威は現実味を帯びるが、経済的限界はロシアを低コストの挑発に追い込む。

記事のもう一つの弱点は、NATOを「被害者」と決めつけ、ロシアとの相互作用を見逃す点だ。SRCの研究、たとえば中井遼の分析は、NATO拡大がロシアの脅威認識を刺激し、対立を増幅したと示す。

2004年のバルト三国加盟やウクライナのNATO接近は、ロシアにとって戦略的緩衝地帯の喪失だ。経済的制約下の後継者は、NATOとの全面対立を避け、限定的な牽制に頼る可能性が高い。記事がこの複雑な力学を簡略化し、日本との類比(尖閣問題など)で読者を引き込もうとする試みも、SRCの厳密な地域分析とは距離がある。

では、ポスト・プーチン期のロシアの姿は何か。私の示した――GDPが韓国や東京都並みで制約が大きすぎる――は、未来を予測する鍵だ。経済的困窮は、後継者を低コストの挑発や中国依存に追い込む。服部の研究は、エリート層の利害が強硬姿勢を支えると警告するが、木村の研究は、大国意識が経済的現実で挫かれる可能性を指摘する。

2025年のロシアは、エネルギー収入の減少と制裁に苦しみ、ウクライナ侵攻のような冒険は難しい。後継者は、国民の不満を抑え、エリートを繋ぎ止めるため、情報戦や小規模な介入で「大国」の看板を守るだろう。中国やインドとの協力は、経済的制約を和らげるが、ロシアを従属的な立場に押し込む。上の記事が指摘する「侵略の継続」は、形を変えた牽制として現れる可能性が高い。

現在もロシア連邦海軍唯一の航空母艦として運用中の「アドミラル・クズネツォフ」1990年就役

結論だ。上の記事では、ロシアの侵攻をプーチン超えた構造に結びつけ、ポスト・プーチン期の危険性を訴える。これは、SRCの木村や服部の研究と合致する。だが経済的制約――GDPが韓国や東京都並みという現実――を軽視し、NATOとの複雑な力学を単純化している。

ポスト・プーチン期のロシアは、経済の弱さと国際環境に縛られ、大規模な戦争ではなく、狡猾な挑発で生き延びる道を選ぶだろう。上の記事は読者を掴むが、SRCの研究や私の経済的視点を取り入れれば、ロシアの未来はもっと鮮明に見える。ポスト・プーチンのロシアは、大規模な戦争を継続したくてもできないのだ。

参照
  • 木村汎『ロシアの国家アイデンティティ』(北海道大学出版会、2008年)
  • 服部倫卓「ロシアの権力構造と後継者問題」(『スラブ・ユーラシア研究報告集』、2016年)
  • 笹川平和財団「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年)
  • X投稿(ガルージン外務次官の交渉参加、2025年5月15日)
  • IMFデータ(2021年、ロシアGDP:1.83兆ドル、韓国GDP:1.91兆ドル)
  • SIPRIデータ(2021年、ロシア軍事予算:660億ドル)

【関連記事】

ロシアの昨年GDP、4・1%増…人手不足で賃金上昇し個人消費が好調―【私の論評】ロシア経済の成長は本物か?軍事支出が生む歪みとその限界 2025年2月9日

【ロシア制裁で起こる“もう一つの戦争”】バルト海でのロシア・NATO衝突の火種―【私の論評】ロシアのバルト海と北極圏における軍事的存在感の増強が日本に与える影響  2025年1月14日

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”―【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響 2024年5月28日

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり 2024年5月18日

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること―【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)! 2023年11月14日


2025年4月2日水曜日

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使

まとめ
  • ロシアと米国がレアアース鉱床開発などの共同プロジェクト協議を開始し、ドミトリエフ特使が協力の重要性を強調、複数企業が関心を示している。
  • プーチン大統領が将来的な経済協力協定での米国参加の可能性に言及し、次回協議が4月中旬にサウジアラビアで予定されている。

ドミトリエフ特使

ロシアと米国は、ロシアのレアアース鉱床開発などの共同プロジェクトについて協議を開始した。ロシアのドミトリエフ特使は、レアアースが協力の重要分野であると述べ、すでに複数の企業が関心を示していると明かした。プーチン大統領は、将来の経済協力協定で米国が参加する可能性に言及。次回の米ロ協議は4月中旬にサウジアラビアで開催される可能性があり、そこでさらに議論が進むと見られている。

【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

まとめ
  • キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁で、プーチンの側近だ。米国での教育と金融経験を武器に、トランプの「ディール外交」に食い込み、米ロ経済協力を進める。
  • プーチンとの絆は強く、2016-2017年の「ロシアゲート」や2025年のウクライナ停戦交渉で暗躍。レアアースや北極圏エネルギー事業で米国企業を引き込む。
  • 2025年2月のリヤド会談で「3240億ドルの損失回復」を提案し、トランプ側を動かす。3月にはイーロン・マスクとの宇宙協力や制裁解除を視野に交渉を進める。
  • ロシアは黒海安全航行合意で制裁解除を要求。KGB流「ミラーリング」でトランプを取り込み、和平への道を模索するが、駆け引きは続く。
  • 2020年のコロナワクチン、スプートニクVで実績を上げ、2025年第2四半期に米国企業のロシア復帰を予言。制裁下でも柔軟に米ロ関係修復を目指す注目人物だ。

プーチン(右)とドミトリエフ

キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁だ。プーチン大統領の懐に深く食い込んだ側近として名を馳せている。

1975年、ウクライナで生まれ、スタンフォードとハーバードで頭を磨いた男だ。ゴールドマン・サックスで金融の荒波を泳ぎ、2011年にRDIFの舵取り役に抜擢される。ロシア経済を多角化する使命を背負った。

この男、プーチンとの絆は鉄壁だ。妻がプーチンの次女と同級生という縁が絡む。プーチンの経済戦略を現実のものに変える実行者だ。

特に米国との交渉では、まるで将棋の駒を動かすように立ち回る。2016年から2017年、トランプ政権のジャレッド・クシュナーやエリック・プリンスと密かに手を握ろうとした。「ロシアゲート」騒動で一気に名が売れた。米ロの裏のつながりを作ろうとした野心がそこにある。

2025年2月、サウジアラビアのリヤドで米ロ高官が顔を突き合わせた。ドミトリエフはウクライナ停戦の裏舞台で暗躍する。レアアース開発を切り札にプーチンの意志を押し通した。3月にはイーロン・マスクに目を付ける。スペースXとロスコスモスを結びつけ、プーチンの宇宙への夢を後押しした。

2025年初頭、トランプとプーチンの電話会談が失敗に終わったと騒がれたが、ドミトリエフの手腕が光る。経済協力の土台を固めたのだ。2月18日のリヤド会談では、「米国企業がロシアで3240億ドルの損失を取り戻せる」とぶち上げた。米国のマルコ・ルビオ国務長官が「歴史的なチャンスだ」と目を輝かせた。

マルコ・ルビオ国務長官

エネルギー分野の共同事業も提案し、トランプの特使スティーブ・ウィトコフが前のめりになったとCNNが報じた。3月にはレアアースの具体的な話が動き出し、米国企業が食いついたとロイターが伝える。プーチンとトランプの間を縫うドミトリエフの調整力が証明された瞬間だ。ただし、CNNなどの報道は一面的なものであり、以前このブログでも指摘したように実際の交渉はかなり困難なものである。

この男、トランプの「ディール外交」にぴったりの交渉人だ。米国での学びと金融経験が武器だ。プーチンの後ろ盾を得て、トランプのビジネス魂に火をつける。

リヤド会談では「北極圏で年200億ドルの利益」と具体的な数字を叩きつけ、ウィトコフが「現実的だ」と唸ったとウォール・ストリート・ジャーナルが書いた。ロシアが狙うディールはでかい。レアアース、北極圏のエネルギー事業、そして経済制裁の解除だ。

イズベスチヤは3月に「レアアースが制裁緩和の第一歩」と叫び、ドミトリエフが米国企業に「制裁が解ければ5000億ドル超の投資が動く」と囁いたと報じた。北極圏の天然ガスでは、エクソンモービルとの再タッグを画策中だ。ブルームバーグがトランプ政権の前向きな反応を漏らした。これがドミトリエフの描く米ロ再構築の青写真だ。

3月25日、ウクライナとの黒海安全航行の合意が話題に上った。クレムリンサイトが条件を突きつける。①ロシア農業銀行の制裁解除とSWIFT復帰だ。②食料貿易のロシア船への制裁解除。③農業機械や食料生産品の供給制限解除だ。停戦への道で、ロシアは米国に制裁解除を迫る。

米シンクタンクCSISのマリア・スネゴワヤは言う。「ロシアのトランプへのアプローチは、KGBの『ミラーリング』そっくりだ」と。相手の言葉を真似て信頼を掴む手口だ。

プーチンは2020年の米大統領選でトランプの「勝利を盗まれた」という叫びを拾い、「それがなければ22年のウクライナ危機はなかった」と同調した。和平への道は険しい。だが、ロシアはトランプを取り込み、制裁解除を進めながら、紆余曲折を経て前進するだろう。3月のレアアース協議では米国が制裁緩和をチラつかせたが、ロシアの強硬姿勢で一時暗礁に乗り上げた。両国の駆け引きが続く。

1月25日のTBSの報道

ドミトリエフは、2020年、コロナ禍でスプートニクVワクチンを世界に売り込んだ。中東やインドとの契約をまとめ、ロシアの影響力を高めた。プーチンから「よくやった」と評価された。米国企業をロシアに引き戻す実利主義を貫き、2025年第2四半期には米国企業の復帰を予言する。

制裁の網に絡まり、ウクライナ侵攻への関与や倫理無視で叩かれたものの。その柔軟さと実行力はプーチン政権の停戦交渉の柱だ。国際金融の知恵と人脈をフル回転させ、米ロ関係の修復とロシアの地位向上に挑む。今後交渉自体はどうなるか未知数だが、今後のロシアにとってドミトリエフは、なくてはならない人物となるだろう。

【関連記事】

<解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要性―【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道 2025年3月31日

「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来―【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価 2025年3月30日

米特使 “ロシアの支配地域 世界が露の領土と認めるか焦点”―【私の論評】ウクライナ戦争の裏に隠れたソ連の闇と地域の真実:これを無視すれば新たな火種を生む 2025年3月23日

有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に軍会合=英首相―【私の論評】ウクライナ支援の裏に隠された有志国の野望:権益と安全保障の真実 2025年3月17日

ウクライナに史上初めてアメリカの液化天然ガスが届いた。ガスの逆流で、ロシアのガスが欧州から消える時―【私の論評】ウクライナのエネルギー政策転換と国際的なエネルギー供給の大転換がロシア経済に与える大打撃 2024年12月31日

2025年3月31日月曜日

<解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要性―【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

 <解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要

岡崎研究所
まとめ
  • トランプ・プーチン会談と停戦の進展: 3月18日の電話会談で、プーチンがウクライナのエネルギーインフラに対する限定的停戦に同意したが、トランプの長期和平案には抵抗。トランプはロシアから初の譲歩を引き出したが、交渉は依然厳しい。
  • ゼレンスキーの反発とロシアの要求: ゼレンスキーはプーチンの無条件停戦拒否を批判し、ロシアの動員停止や武器供与中止要求を非難。クレムリンはウクライナのNATO排除や4州占領を条件に掲げ、キーウを交渉から外そうとしている。
  • トランプ仲介の問題: トランプのロシア寄り姿勢と公平性への疑問が浮上。米国が当事者を個別に調整する方式は誤解を招きやすく、停戦と中東情勢を絡めた交渉の可能性も懸念される。
  • ロシアの部分停戦戦略: ロシアは戦闘を部分的に停止し、優勢な戦線を維持する意図。完全停戦ではなく、自身に有利な形で戦争を展開しようとしている。
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では米軍撤退後に停戦が崩壊したが、朝鮮戦争では駐留で維持。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が示している。


 ウォールストリート・ジャーナル紙の3月18日付解説記事が、ウクライナ戦争の停戦交渉について、トランプ・プーチン電話会談までの進展を詳しく紹介しつつ、今後も厳しい交渉が続くとの見通しを示した。プーチン大統領は3月18日の電話会談で、ウクライナのエネルギーインフラに対する限定的な停戦に同意したが、トランプが推し進める長期的な和平計画には依然として抵抗を見せた。

 トランプはこれまでキーウ側に譲歩を迫ってきたが、今回はロシアから初めて具体的な譲歩を引き出した。クレムリンに対し、関係改善と孤立解消を説得材料に使ったのだ。ホワイトハウスは、停戦合意を拡大するため中東でさらなる協議を予定し、「エネルギーとインフラの停戦、黒海での海上停戦、そして完全停戦と恒久的平和に向けた技術的交渉から始めることで両首脳が合意した」と発表した。

 ゼレンスキー大統領は、プーチンが即時無条件停戦を拒否したことを非難し、ロシアがウクライナ南部と北部で新たな攻勢を準備していると警告。プーチンの要求する動員停止や西側の武器供与中止を「我々を弱体化させる狙いだ」と強く批判した。ロシアの譲歩は、米国の圧力でキーウが受け入れた完全停戦には程遠く、クレムリンは今後の交渉が厳しいと示唆。永続的平和には「根本原因」への対処が必要とし、ウクライナの4州占領やNATO排除を条件に挙げた。クレムリンは「ウクライナ問題」を米露二国間で処理し、キーウを交渉から排除したい考えを示したが、トランプがこれを受け入れるかは不明だ。

 トランプの仲介には問題が浮上している。公平性が疑われ、ロシア寄りの姿勢が目立つ。ゼレンスキーは抵抗するも、トランプから武器供与や情報共有の停止をちらつかせられ、譲歩を強いられている。トランプは「停戦合意」の形を急ぎ、プーチンの立場を有利にさせる懸念がある。さらに、米国が当事者間を個別に調整する方式は誤解や猜疑心を招きやすい。トランプはウクライナ問題だけでなく、中東情勢やイラン核問題をプーチンと話し合い、停戦と別のディールを絡める可能性もある。ロシアは部分停戦を積み重ね、優勢な戦線を維持する戦略を取っているようだ。

 歴史的に見ると、ベトナム戦争の休戦交渉が似ている。米国は北ベトナム軍の駐留を認め、南ベトナムに圧力をかけ合意させたが、米軍撤退後、北ベトナムが侵攻し統一が完成した。一方、朝鮮戦争では米軍が駐留を続け、北朝鮮の全面侵攻を防いだ。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が教えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

まとめ
  • ルトワックの停戦提案: エドワード・ルトワックは、ウクライナ戦争を消耗戦とみなし、もはやロシアにもウクライナにも勝利はないとする。米国主導で住民投票による解決を提案。ゼレンスキーとプーチン双方に受け入れ可能な案とし、米軍やNATOの駐留を抑止力にすべきと提案
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では停戦後の米軍撤退で合意が崩壊し、南ベトナムが滅んだ。一方、朝鮮戦争では米軍駐留が休戦を維持。ルトワックは駐留の重要性を強調し、過去の失敗を繰り返すなと警告。
  • 米国の役割: ルトワックは、米国が500億ドル超の支援と外交力で停戦を主導すべきと主張。ロシアを抑えつつ中国との対決を優先し、最小限の駐留と制裁で効率的に安定を図るべきと主張。
  • 日本の支援の必要性: 日本は実質GDP世界3位の経済力を持ち、米国と協力してアジアの安定を支えるべき。過去のソ連対峙や2022年の対露制裁参加をなどから、ウクライナでの成功が東アジアの抑止につながるだろう。
  • 経済強化の戦略: 日本は大胆な積極財政と金融緩和で実質GDPを2位に押し上げ、抑止力を高めるべき。半導体製造装置や素材産業のリーダーシップを活かし、ロシアと中国を牽制し発言力を取り戻すべき。
エドワード・ルトワック

昨日もこのブログに登場したエドワード・ルトワックというアメリカの軍事戦略家が、ウクライナ戦争の停戦について熱く語っている。彼の言葉には、現実と地政学が絡み合い、聞く者を引き込む力がある。

ルトワックは言う。ウクライナ戦争は、ロシアもウクライナも決定的な勝利を手にできない消耗戦だ。2023年10月の『UnHerd』のインタビューで、彼は「もう膠着状態だ。完全勝利なんて夢物語にすぎない」と言い切った。戦争を終わらせるには、米国が動くしかない。

彼のアイデアはシンプルだ。ドネツクやルガンスク、クリミアといった紛争地域の未来を住民投票で決める。国連やOSCEが監視し、ゼレンスキーには民主的な正統性を、プーチンには面子を保つ出口を与える。「これならゼレンスキーも断りにくいし、プーチンも納得する」と彼は2023年の『The Telegraph』で力強く書いている。米国は、500億ドルを超える軍事支援と外交の力で、この流れを仕切るべきだと彼は睨んでいる。

歴史を振り返れば、ベトナム戦争の停戦交渉が頭に浮かぶ。1973年のパリ和平協定だ。米国はキッシンジャーの采配で、北ベトナム軍が南に居座る案を押し通した。南ベトナムのグエン・バン・チューは「裏切りだ」と叫んだが、米国は援助を切り上げるぞと脅し、合意を飲ませた。協定から2カ月で米軍は撤退。

当時のベトナム共和国大統領グエン・バン・チュー

だが、監視委員会は役に立たず、北ベトナムは軍を増強した。1975年4月、サイゴンが落ち、南は消えた。停戦を守る仕組みがなかったからだ。一方、朝鮮戦争はどうだ。1953年の休戦協定後、米軍は韓国に残った。今も28,500人が駐留し、有志国も当初は支えた。1954年、北朝鮮が仕掛けた小競り合いを米軍が叩き潰し、大事に至らなかった。70年以上、休戦が続いている。駐留の力がものを言ったのだ。

ルトワックは、停戦が紙切れにならないためには仕組みが必要だと声を大にする。住民投票だけでは足りない。2023年の『Foreign Policy』で彼は言い放った。「ロシアは隙を見れば埋める。抑止力がなければ終わりだ」。米軍やNATOの駐留が鍵だと彼は見ている。朝鮮戦争のやり方を参考にしろと言うわけだ。「ウクライナ東部に米軍やNATOが少しでもいれば、ロシアは手を出せない」と2023年のCSIS討論で断言している。べトナムのような失敗は繰り返すなと。

2014年のクリミア併合後、監視が甘かったから今があると彼は振り返る。「駐留がなけりゃ、プーチンは合意をゴミ箱に捨てる」と警告する。ただ、彼は中国との対決を優先したい。2024年の講演で「ウクライナに全力を傾けるな。太平洋が本番だ」と言い切った。だから、駐留は最小限でいい。5,000人規模の米軍とNATO部隊で十分だと踏んでいる。監視団や経済制裁も絡めて、効率よく抑え込む。それが彼の絵だ。ボスニアのデイトン合意も引き合いに出す。1995年、NATOの部隊が駐留して和平が保たれた。あれをウクライナでもやれと。

米国はどう動くべきか。ルトワックは、ウクライナへの支援を続ける一方、戦争を早く終わらせろと迫る。F-16やATACMSを渡してる今、支援は盤石だ。バイデン政権がNATO加盟を急がないのは賢いと彼は2023年の『Wall Street Journal』で褒めた。だが、戦争を長引かせるな。ベトナムみたいに投げ出すな。朝鮮戦争みたいに守り抜け。中国を睨む大局を見据えながら、だ。住民投票を仕切り、米軍と有志国で抑え、監視と制裁で固める。それがルトワックの答えだ。歴史の教訓と現実が交錯する彼の言葉は、読む者を最後まで引きずり込む。

私はルトワックの案に賛成だ。なぜか。現実を見据えたこの策は、血を流し続ける戦争を終わらせ、未来を切り開く力がある。住民投票で決着をつけ、米軍と有志国が駐留して守る。歴史が証明しているではないか。ベトナムみたいに逃げれば崩壊だ。朝鮮みたいに踏ん張れば持つ。ロシアを抑え、中国に備える。米国が動けば世界が変わる。この案は、弱さじゃなく強さだ。迷うな。進め。そして守れ。それが勝利への道だ。

日本はこの方向で米国を支えるべきだ。なぜか。まずは日本の実質GDPは、2023年時点で約4.2兆ドルだ。インフレ調整後の数字で見れば、世界3位。米国、中国に次ぐ経済力であるという地事実がある。名目GDPではドイツに抜かれ4位と言われるが、それはドイツの物価高騰と円安のせいだ。

戦前、日本はソ連と対峙し、アジアの防波堤だった。1941年、日ソ中立条約を結んだが、ソ連は終戦間際に裏切り、満州と北朝鮮を押さえた。その結果、北朝鮮が誕生し、朝鮮戦争で米国を脅かした。今のロシアや中国の台頭も、その流れの果てだ。当時日本が米国と協力してソ連を抑えていれば、アジアは違う道を歩んでいたかもしれない。

ノモンハン事件

2025年の現在、日本は米軍と共同演習を重ね、F-35を配備し、中国の脅威に備えている。2022年、ロシアがウクライナに侵攻した時、日本は即座に経済制裁に加わり、G7の一角として米国を支えた。岸田首相は「ウクライナは明日の東アジアだ」と喝破した。その通りだ。ウクライナでロシアを止めなければ、中国は台湾や尖閣に手を出すだろう。

過去の過ちを繰り返すな。日本が米国と組んで駐留を支え、監視を固めれば、ウクライナはもとよりアジアも守れる。日本も経済力を出し、技術も出し、自衛隊の力も活かすのだ。2023年の実質GDP成長率は1.68%。日本は半導体製造装置や素材産業などで世界をリードしてる。この力を米国と合わせれば、ロシアも中国も震え上がる。

さらに、大胆な積極財政と金融緩和策で実質GDPを再び世界2位に押し上げれば、それが最大の抑止力になる。国民も防衛力増強やウクラライナ支援などに反対することはなくなる。1990年代、日本は実質GDPで2位だった。それが中国に抜かれた。過去の緊縮策ではダメだ。失われた30年を完璧終わらせろ。金をばらまき、需要をぶち上げ、企業を動かせ。2位を取り戻せば、アジアでの発言力が増し、ロシアや中国への牽制が効く。

日本が動けば、アジアの未来が変わる。誰もが頷くだろ。これが日本の道だ。米国と共に進め。そして守れ。勝利はそこにある。

【関連記事】

「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来―【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価 2025年3月30日

米特使 “ロシアの支配地域 世界が露の領土と認めるか焦点”―【私の論評】ウクライナ戦争の裏に隠れたソ連の闇と地域の真実:これを無視すれば新たな火種を生む 2025年3月23日

有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に軍会合=英首相―【私の論評】ウクライナ支援の裏に隠された有志国の野望:権益と安全保障の真実 2025年3月17日

ウクライナに史上初めてアメリカの液化天然ガスが届いた。ガスの逆流で、ロシアのガスが欧州から消える時―【私の論評】ウクライナのエネルギー政策転換と国際的なエネルギー供給の大転換がロシア経済に与える大打撃 2024年12月31日

<正論>「太平洋戦争」か「大東亜戦争」か―【私の論評】大東亜戦争vs太平洋戦争:日本の歴史認識と呼称の重要性を探る 2024年7月7日

2025年3月23日日曜日

米特使 “ロシアの支配地域 世界が露の領土と認めるか焦点”―【私の論評】ウクライナ戦争の裏に隠れたソ連の闇と地域の真実:これを無視すれば新たな火種を生む

米特使 “ロシアの支配地域 世界が露の領土と認めるか焦点”

まとめ
  • トランプ政権のウィトコフ特使は、ロシアが実効支配するウクライナの地域を世界がロシア領として認めるかどうかが今後の焦点だと主張し、ロシア寄りの見解を示した。ロシアは東部・南部4州で「住民投票」を強行し併合を宣言している。
  • トランプ大統領は完全な停戦後に領土の一部割譲を含む協定の可能性を示唆し、ウィトコフ特使はウクライナがNATO加盟を断念する姿勢を受け入れつつあると指摘した。
  • 3月24日にサウジアラビアで米・ウクライナ・ロシアの代表団による停戦協議が予定されており、ウクライナの領土一体性や安全保障がどう扱われるかが注目されている。
ウィトコフ特使

トランプ政権のウィトコフ特使は、ウクライナ情勢を巡るインタビューで、ロシアが実効支配している地域について「圧倒的多数の人々がロシアの統治を望んでいる」と主張し、今後の焦点は「世界がこれらの地域をロシアの領土として正式に認めるかどうか」だと述べた。これは元FOXニュースのキャスターとの対談で3月21日に公開されたもの。ロシアは3年前、ウクライナ東部および南部4州で一方的な「住民投票」を強行し、併合を宣言しており、ウィトコフ特使の発言は明らかにロシア寄りの立場を示している。トランプ大統領も同日、完全な停戦後に領土の一部割譲を含む協定の可能性に言及した。

さらにウィトコフ特使は、「ウクライナは和平合意が実現した場合、NATO(北大西洋条約機構)への加盟ができないことをほぼ受け入れていると思う」との見解を示し、ウクライナの安全保障に関する妥協が進んでいる可能性を指摘した。3月24日にはサウジアラビアで、アメリカを含む代表団がウクライナとロシアの双方と停戦に向けた協議を行う予定だが、ウクライナの領土の一体性や長期的な安全の保証といった根本的な課題がどのように扱われるのか、国際社会の注目が集まっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争の裏に隠れたソ連の闇と地域の真実:無視すれば新たな火種を生む

まとめ
  • ウィトコフ特使の「ロシア支配地域を世界が認めるかどうかが焦点」という発言は、ロシア寄りと騒がれるが、ソ連が引いた複雑な国境線と歴史の絡みが単純ではない。
  • ソ連はボリシェヴィキ、特にレーニンとスターリンの都合で国境を無理やり決め、民族や文化を無視。クリミアもフルシチョフが1954年にウクライナにポンと渡した政治の産物だ。
  • ウクライナは西側、中央、南東部でまるで別世界。南東部はかつて「ノヴォロシア」と呼ばれ、オデッサ州からクリミアまでロシア色が濃いが、西側は西欧に近く、中央はキーウ周辺は、ウクライナの心臓だ、西と中央は、反ロシアでガチガチだ。
  • 2022年2月24日のロシア侵攻は歴史抜きで一方的な過ち。国連憲章を一方的に破り、外交を捨てた暴挙だ。
  • 停戦交渉ではロシアの責任をハッキリさせつつも、歴史と地域のリアルを踏まえ、ウクライナのさまざまな顔を尊重して現実的な道を探るべきだ。そうでないと新たな火種を残すことになる

ソビエト連邦地図

ウィトコフ特使が言い放った。「ロシアが実効支配するウクライナの地域を世界がロシア領と認めるかどうかが焦点だ」と。ロシア寄りだと騒がれるこの発言、だが、単純に白か黒かで決めつけられる話ではない。そこには複雑な歴史が絡んでいる。ウクライナとロシアの国境線は、ソ連時代に無理やり引かれたものだ。民族や文化の流れなどて無視して、政治の都合だけで線を引いた。その結果、ウクライナの中は西側、中央、南東部でまるで別世界の違いが生まれた。この違いが、今日停戦をさらに複雑にしている。

ソ連が1922年に誕生した時、多民族をまとめ上げるため、連邦制をぶち上げた。ウクライナ共和国だ、ロシア共和国だと名前をつけたはいいが、国境線は自然な分かれ目ではなかった。ボリシェヴィキ—1917年のロシア革命をぶちかました共産主義者たち、マルクス主義を掲げてガチガチの中央集権を夢見た連中—が、自分たちの都合で線を引いた。

ウクライナ東部や南部にロシア語を話す連中がいたにもかかわらず、無理やりウクライナ側にねじ込んだり、逆にロシア側に押し付けたりした。その中でもレーニン、ソ連の初代ボスだ、連邦制をゴリ押しした。スターリン、民族問題を握ってた男だ、国境の細かい調整に手を突っ込んだ。だが、1920年代でもまだグチャグチャで、国境はフラフラ動いていた。それが後に火種になったのだ。

レーニン(左)とスターリン(右)

その後のソ連はもっと狡猾だった。民族同士がケンカしないように、分断して操りやすくするために、国境をわざと複雑にした。例えばクリミア半島だ。歴史を紐解けば、クリミア・タタール人やウクライナ人と縁が深い。13世紀からオスマン帝国の傘下だったが、1783年にロシア帝国がこれを飲み込んだ。ソ連ができてからはロシア共和国の一部だった。それが1954年、フルシチョフが「ウクライナにあげる」とポンと渡した。フルシチョフがウクライナ出身だからか、経済をくっつけたい思惑か、政治のゲームだ。1991年、ソ連が崩れて、クリミアはウクライナの一部として独立した。住民の声も歴史の流れもお構いなしだった。

ウクライナの中を覗いてみれば、地域ごとにまるで別の国だ。西側、リヴィウあたりだ、ポーランドやオーストリア・ハンガリー帝国の色が濃い。ウクライナ語が響き合い、民族主義が燃え上がる。ロシアなんて目じゃない、ソ連時代から反ロシアでガチガチだ。一方ウクライナ中央、キーウ周辺は、ウクライナの心臓だ。キエフ・ルーシ(キエフ大公国)の誇りを背負い、ウクライナ語とロシア語が混ざり合いながら独立を貫く。

だが、南東部はどうだ。ドネツク、ルハンスク、クリミアだ。ここはロシア帝国の時代からロシア語が響き、ロシア人がドッと流れ込んだ。18世紀後半から19世紀、「ノヴォロシア」、新ロシアと呼ばれた土地だ。今のオデッサ州、ミコライウ州、ヘルソン州、ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンスク州、そしてクリミアだ。時期によってはロシアのロストフ州やクラスノダール地方まで入ったこともある。ロシアが開拓の手を伸ばし、ソ連の工業化がガンガン進んだ。ロシアとの絆が強い。今、ロシアがここを握る土台になっている。

ウクライナの西部、中央部、南部、西部を示すResearchGateの地図 

だから、ロシアが「東部や南部4州は俺のものだ」と叫ぶのは、ソ連時代の複雑すぎる国境と、ノヴォロシアの歴史を盾にしている。だが、ウクライナ全体の魂を映しているかと言えば、怪しいものだ。西側や中央は「ふざけるな」と怒り、南東部はロシアに寄る人々が多い。このギャップだ。ウィトコフ特使の発言を「ロシア寄り」と切り捨てるのは簡単だ。だが、ソ連の残した厄介な遺産と、地域のバラバラな顔を見れば、そんなに単純ではない。

しかし、2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻したこと、この戦争の始まりとその後のドンパチは、このような歴史や地域の違いなど関係ない。ロシアの一方的な侵攻だ。国連憲章をぶち破り、領土を踏みにじった。本来侵攻などという乱暴な手ではなく、外交でなんとかする道があったはずだ。これは、間違いなくロシアの過ちだ。

だが、今は停戦のテーブルにつく時だ。ここまでの戦争責任はハッキリさせつつも、歴史のゴタゴタや地域のリアルを無視するわけにはいかない。双方の言い分をぶつけ合い、現実的で正しい落としどころを探るしかない。ウクライナのいろいろな顔と、地域の住民の声を踏みにじるような押し付けはダメだ。交渉で未来を切り開くべきだ。

ソ連時代の災厄の精算は、冷戦を経て終わったかにもみえたが、実は終わっていなかったのだ。ソ連が残した歪んだ国境と地域の対立をきちんと見据えないと、精算なんて夢のまた夢だ。そうでなければ、新たな災いの火種を残すことになる。

【関連記事】

有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に軍会合=英首相―【私の論評】ウクライナ支援の裏に隠された有志国の野望:権益と安全保障の真実 2025年3月17日

もう海軍力で中国にはかなわない…!危機感を募らせるトランプが、プーチンにおもねってでもウクライナ和平を急ぐ「深刻な理由」―【私の論評】トランプの危機感と日本の誤読:5年後の台湾有事を米海軍の現実から考える 2025年3月15日

米国は対ロシア制裁強化も辞さず、和平につながるなら-ベッセント氏―【私の論評】米国がロシアとイランを締め上げる制裁の本質、ウクライナのためだけではない 2025年3月7日

ウクライナと米国、鉱物資源で合意か トランプ氏が演説で発表意向 米報道―【私の論評】ウクライナ戦争はいつ終わる?適切なタイミングを逃したゼレンスキーと利権の闇 2025年3月5日

米露首脳が電話会談、ウクライナ戦争終結へ「ただちに交渉開始」合意 相互訪問も―【私の論評】ウクライナ和平は、米国が中国との対立に備えるための重要な局面に 2025年2月13日

2025年3月17日月曜日

有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に軍会合=英首相―【私の論評】ウクライナ支援の裏に隠された有志国の野望:権益と安全保障の真実

 有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に軍会合=英首相

まとめ

  • 英国スターマー首相は「有志国連合」でウクライナ支援を強化し、ロシアに停戦案接受を圧力。約20カ国首脳らと会議開催も米国不参加。
  • ロシアへの圧力とウクライナ支援継続を確認。20日に英国で安全保証計画の会合予定。
  • ゼレンスキー氏は安全保証を強調。英仏は平和維持部隊派遣、豪も協力検討。

英国スターマー首相

 英国のスターマー首相は3月15日、停戦後のウクライナ支援を強化するため「有志国連合」が準備を進めていると発表した。同氏はオンライン会議を主催し、トランプ米政権の停戦案を受け入れるようロシアのプーチン大統領に圧力をかけることを目指した。会議には独、仏、伊、カナダ、オーストラリアなど約20カ国の首脳やウクライナのゼレンスキー大統領、NATO事務総長が出席したが、米国は不参加だった。

 有志国連合は、ウクライナへの軍事支援と停戦実現への決意を確認。スターマー氏は、ロシアへの圧力強化、ウクライナ支援の継続、制裁強化でプーチンを交渉に引き込む方針を示した。また、20日に英国で軍関係者会合を開き、ウクライナの安全保証計画を策定すると述べた。ゼレンスキー氏は外国部隊駐留など安全保証の必要性を訴えた。英仏は平和維持部隊派遣の可能性に触れ、豪首相も協力の用意を示した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ支援の裏に隠された有志国の野望:権益と安全保障の真実

まとめ
  • スターマー首相が「有志国連合」でウクライナ支援を強化。3月15日に20カ国首脳が集まり、ロシアに圧力。米国は不参加。20日に安全保障計画を策定、英仏は平和維持部隊を検討。
  • ウクライナは技術と教育水準が高く、ロシア排除で経済発展の可能性。レアメタル、穀物、市場が権益。有志国はこれを狙い、西側に取り込む。
  • 安全保障が動機だが、権益が本音。英国は23億ポンドで資源、フランスは穀物、ドイツは技術に投資。儲からないスーダンとは支援とは違い熱心だ。
  • 戦争と汚職が障害。裏取引の証拠なし。専門家は「権益がなければ支援は弱い」と言う。
  • 日本は資源なし。危機時の支援には経済力と技術力が必要。湾岸戦争の教訓から日本の価値を示せ。


英国のスターマー首相が3月15日、動き出した。停戦後のウクライナ支援を強化するため、「有志国連合」が準備を進めていると公表した。トランプ米政権の停戦案をロシアのプーチンに呑ませるべく、オンライン会議を主催。ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、オーストラリアなど約20カ国の首脳が集まり、ウクライナのゼレンスキー大統領やNATO事務総長も顔を出した。だが、米国は参加せず。トランプとの交渉がこじれたらしい。有志国連合は一致団結、ロシアへの経済制裁を締め上げ、ウクライナ支援を続け、プーチンを交渉の場に引っ張り出すと決めた。

スターマーはさらに20日、英国で軍関係者の会合を開く。ウクライナの安全をどう守るか、具体的な計画を立てるつもりだ。ゼレンスキーは外国部隊の駐留やNATO加盟を求めて声を張り上げた。英国とフランスは「平和維持部隊を出すのもありだ」と言い出し、オーストラリアのアルバニージー首相も「要請があれば乗る」と応じた。ロシアは「西側の介入は火に油だ」と吠えているが、知ったことか。

ウクライナはただの弱小国ではない。旧ソ連の航空宇宙や重工業の技術を引き継ぎ、頭のいい人材がゴロゴロいる。開戦前、識字率はほぼ100%。教育レベルはかなり高い。ロシアの干渉や汚職さえなくなれば、経済が一気に跳ね上がる可能性は大きい。それに加えて、リチウム、チタン、レアアースといった鉱物資源、欧州一の黒土で育つ穀物、ITや製造業の力。これらが有志国にとって喉から手が出るほど欲しい権益だ。資源を握り、4000万人を超える人口の市場を取り込み、復興で利益を得て、ロシアを蹴落とし、ウクライナを西側に引き込む。そんな野望が透けて見える。

日常を取り戻しつつあるキーウ 賑わうオープンテラス

ただし、障害は山積みだ。戦争でボロボロのインフラ、復興には5000億ドルかかると言われる。汚職もひどい。2023年の透明性国際の調査で122位だ。米国と資源を共同管理する裏取引の噂もあるが、証拠はない。2025年2月、トランプが鉱物収益のファンドを提案したらしいが、ゼレンスキーと揉めて失敗した。

有志国は「安全保障と安定のため」と言う。確かにそれは大事だ。だが、本音はもっとドロドロしている。権益がなければ、こんなに熱くはならない。英国はロシアのガスに頼るのをやめたい。2022年、23億ポンドをウクライナに提供した。ウクライナのガス田やチタン鉱山(世界の20%を握る)が狙いだ。

フランスは穀物だ。ウクライナが欧州の10%以上の穀物を供給している。2022年の時のような食糧危機を避けたい。2023年、5億ユーロを追加で支援した。ドイツは工業技術に目をつけ、2024年に風力発電プロジェクトに資金を提供した。

歴史を振り返れば、分かりやすい。1990年代、ユーゴスラビア紛争後、NATOは復興支援でコソボやボスニアの鉱物や市場に食い込んだ。だが、儲からない紛争地はどうだ?スーダン内戦(2023年~)では死者が何万人も出たのに、西側の支援は年間数億ドル。ウクライナへの2000億ドル超とは比べ物にならない。シリア内戦も似た話だ。資源も市場もないと、空爆と難民支援で終わりだ。

ユーゴスラビア紛争の激戦地コソボの首都プリティシュナの家族連れで賑わう独立広場

ウクライナがレアメタルや市場を持たなかったら、有志国のやる気はここまでにはならなかっただろう。国際政治学者のジョン・ミアシャイマーは2023年の論文で喝破した。「西側はウクライナをロシアから奪い、経済と軍事の拠点にする気だ。資源と市場が鍵だ」と。安全保障や人道は表の顔。裏は権益だ。この見解に全面的に賛同するしないは別にして、資源と市場が同志国の行動に影響を与えているのは間違いないだろう。

日本はどうだ。地下資源はほぼゼロ。ウクライナのような危機が来たら、他国が助けてくれるか?日本のODAは2023年で180億ドルだ。だが、1990年代の湾岸戦争では130億ドル出したのに「金だけか」と笑われた。経済力と技術力がないと、見捨てられる。日本独自の高度な技術等で勝負するしかない。日本はそれを肝に銘じるべきだ。さもないと、いざという時、見捨てられるだろう。それが、世界の厳しい現実なのだ。

【関連記事】

モスクワに過去最大の無人機攻撃、3人死亡 航空機の運航一時停止―【私の論評】ウクライナのモスクワ攻撃が停戦交渉を揺さぶる!核の影と日本の覚悟 2025年3月12日

支援の見返りに「レアアースを」、トランプ氏がウクライナに求める…「彼らは喜んで供給するだろう」―【私の論評】ウクライナ、資源大国から経済巨人への道を歩めるか 2025年2月5日

ゼレンスキー氏「欧州で何十年も成長の源になる」と協力呼びかけ…ウクライナ復興会議が開幕―【私の論評】ウクライナは、ロシアとの戦いだけではなく、国内でも腐敗・汚職との戦いに勝利を収めるべき 2023年6月22日

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟―【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに 2022年7月6日

ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑―【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる 2022年7月4日

2025年3月12日水曜日

モスクワに過去最大の無人機攻撃、3人死亡 航空機の運航一時停止―【私の論評】ウクライナのモスクワ攻撃が停戦交渉を揺さぶる!核の影と日本の覚悟

モスクワに過去最大の無人機攻撃、3人死亡 航空機の運航一時停止

まとめ
  • 攻撃概要: 2025年3月11日未明、ウクライナがモスクワに過去最大のドローン攻撃。343機使用、3人死亡、17人負傷、4空港閉鎖。
  • ロシアの反応: ロシアは91機をモスクワ州、126機をクルスク州で撃墜。外務省は協議タイミングを指摘、報復提案も。
  • 被害: 住宅7軒破壊、クルスク原子力発電所付近で撃墜、周辺空港も閉鎖だがパニックなし。

 2025年3月11日未明、ウクライナがロシアの首都モスクワに対し過去最大規模のドローン攻撃を実施した。少なくとも3人が死亡、17人が負傷し、モスクワ州では火災が発生した。モスクワの4つの主要空港全てが一時閉鎖され、運航が停止。ロシア国防省は343機のドローンを撃墜し、91機がモスクワ州上空、126機がクルスク州上空で迎撃され、クルスク原子力発電所付近でも撃墜があったと発表した。

 ロシア外務省は、この攻撃がサウジアラビアでの米国とウクライナの高官協議に合わせて行われたとし、兵器供給国に責任があると非難。モスクワ州知事は、7軒の集合住宅が破壊されたとテレグラムで報告。航空当局はモスクワとヤロスラブリ、ニジニノヴゴロドの空港を閉鎖した。モスクワ市長は攻撃の規模を過去最大と強調し、ロシア側は民間インフラへの攻撃として非難。元国防次官は新型ミサイル「オレシニク」での報復を提案した。メディアは住宅火災の動画を公開したが、モスクワ市内でパニックは見られなかった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナのモスクワ攻撃が停戦交渉を揺さぶる!核の影と日本の覚悟

まとめ
  • 停戦交渉の進展: 3月11日、サウジアラビアで米国とウクライナが30日間の即時停戦案で合意。米国は軍事援助と情報を再開し、ロシアの同意を待つ段階に突入。
  • モスクワ攻撃の警告: ウクライナが343機のドローンでモスクワを攻撃。停戦前のロシアへの圧力と「破れば報復」のメッセージが込められている。
  • ロシア全土への脅威: モスクワ到達でウクライナの攻撃力露呈。2000km飛行可能なドローンで、シベリアもウラルも標的になり得る。
  • クルスクの核示唆: クルスク原子力発電所近くで126機撃墜。ダーティボムや核兵器を匂わせ、ロシアに心理的打撃を与えた可能性がある。
  • 日本の教訓:やり方の是非は別にして、 ウクライナの覚悟と力を日本も見習うべき。守る気概がなければ舐められるだけだ。
ウクライナとロシアの戦争終結、和平を探るためのウクライナと米国の高官協議が11日、サウジアラビア西部ジッダで始まった。
3月11日、サウジアラビアのジェッダで米国とウクライナの高官が顔を突き合わせた。米国がぶち上げた30日間の即時停戦案に、ウクライナが「乗る」と腹を決めたのだ。これを受けて米国は、ウクライナへの軍事援助と情報提供のストップを即刻解除すると宣言。共同声明で「ロシアが首を振らなきゃ平和は来ない」と言い切り、モスクワへの働きかけに動き出した。停戦はロシアが「よし」と言えば即発効、戦闘を根こそぎ止めるのが狙いだ。トランプ政権の「戦争を終わらせる」という大看板の下、交渉は今、まさにモスクワに照準を合わせている。ロシアの返事はまだ聞こえてこないが、停戦への道が一歩近づいたのは間違いない。
そんな矢先に起きたのが、ウクライナによるモスクワへのドローン攻撃だ。343機が飛び交い、モスクワの空を切り裂いたこの攻撃は、停戦を前にしたロシアへの強烈な警告だろう。ウクライナ国家安全保障防衛会議の報道官アンドリー・コバレンコが吠えた。「モスクワへの大規模攻撃は、プーチンに空での停戦が必要だと叩き込むシグナルだ」。交渉を前に、ロシアに「舐めるな」と圧をかける意図が透けて見える。過去を振り返れば、2024年8月、クルスク州でウクライナ軍がロシア領に踏み込み、38平方マイルを一時奪った。あの時も、ロシアに「本土だってやられるぞ」と見せつけた。今回のモスクワ攻撃も、停戦を破れば地獄が待っているというメッセージに違いない。
ウクライナのドローン攻撃に逃げ場のないプーチン AI生成画像

モスクワがやられたということは、ウクライナがロシア国内のいずれの地域でも攻撃力を持っている証だ。343機ものドローンがモスクワにたどり着いた現実を前に、ロシアの防空網がザルだったことがバレてしまった。2025年1月にはリュザンで石油精製所が燃え、ロシア側は121機を迎撃したと主張したにもかかわらず、火の手が上がった。2024年9月のモスクワ攻撃でも、石油精製所が炎上して民間人が死んでいる。Xでは、ウクライナのドローンが2000km飛べる上に250kgの爆弾を積めると噂が飛び交う。モスクワはキーウから600kmだが、シベリアだろうがウラルだろうが、どこでも狙えるということだ。ロシアにはもう、逃げ場はない。

クルスク原子力発電所近くでの攻撃は、もっと際どい話だ。ロシア国防省は、126機がクルスク州で落とされ、一部が発電所そばで撃ち落とされたと報告している。将来的にダーティボムや核兵器をチラつかせる狙いがあるかもしれない。2022年10月、ロシアは「ウクライナがダーティボムを作る」と騒いだが、国際機関に否定された。だが今回は、核施設のすぐ近くを狙った。

2023年10月には、クルスクの核廃棄物施設にドローンが突っ込んで、ロシアが「核テロ」と叫んだことがある。250kg積めるドローンなら、放射性物質をばらまくダーティボムはすぐに作れる。ウクライナには原発があり、プルトニウムも手に入る。長崎の原爆はプルトニウム製で、旧ソ連の技術を引き継ぐウクライナなら、その気になれば似たもの比較的短期で作れる可能性がある。クルスクでの攻撃は、ロシアに「核戦争だってあり得るぞ」とモスクワに頭を抱えさせる一撃だったろう。

ドローン攻撃を受けるクルスク原発付近 AI生成画像

結局、2025年3月11日のモスクワ攻撃は、停戦前のウクライナからの強烈な一撃だ。協議のタイミングとウクライナの言葉がその証拠だ。ロシア全土を撃てる力を誇示し、クルスクで核の影をちらつかせて、停戦後のルールをモスクワに文字通り叩き込んだ。戦争の流れが変わる可能性をもつこの攻撃は、交渉の行方を左右する大勝負になる。

日本も目を覚ますべきだ。ウクライナのように、自分の国を守る覚悟と力を見せつけなれば、いつまでたっても中露北に舐められたままだ。やり方の是非は別にして、ウクライナのこの肝っ玉だけは見習うべきだ。日本は、現状のままでは本気で生き残る覚悟があるのかと、批判されても仕方ないかもしれない。

【関連記事】

米国は対ロシア制裁強化も辞さず、和平につながるなら-ベッセント氏―【私の論評】米国がロシアとイランを締め上げる制裁の本質、ウクライナのためだけではない 
2025年3月7日

米露首脳が電話会談、ウクライナ戦争終結へ「ただちに交渉開始」合意 相互訪問も―【私の論評】ウクライナ和平は、米国が中国との対立に備えるための重要な局面に 2025年2月13日

ロシアの昨年GDP、4・1%増…人手不足で賃金上昇し個人消費が好調―【私の論評】ロシア経済の成長は本物か?軍事支出が生む歪みとその限界 2025年2月9日

トランプ大統領“停戦会合ゼレンスキー大統領出席重要でない”―【私の論評】トランプ大統領の本当の対ロシア・ウクライナ戦略とは?日本メディアが報じない真実とは 2025年2月22日

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること―【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)〈2023/11/14〉


国債長期金利の上昇は何を語っているのか──財政不安という筋違いを解く

まとめ 国債長期金利の上昇が、直ちに財政危機を意味するという見方は、経済の基本構造を無視した誤解であることを示す。金利は恐怖のサインではなく、市場が成長や需要をどう見ているかを映す指標にすぎない。 家計でも国家でも、金利だけを切り取って不安を語る議論は現実を歪める。所得や資産、...