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2025年6月2日月曜日

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と経済・軍事への衝撃

まとめ
  • ウクライナ保安庁が「クモの巣」作戦でロシアの軍用飛行場を無人機攻撃、戦略爆撃機など41機を破壊。損失は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載機の34%を直撃。
  • ロシアは攻撃前、戦略爆撃機を60~70機保有(実働50~60機)、41機喪失で残存30~50機に減少し、戦略航空戦力と核抑止力に深刻な打撃。
  • ロシア経済は2024年GDP約2兆ドル、軍事費は1,489億ドル(GDP7.1%)で、70億ドルの損失は軍事予算の5%。制裁やインフレで経済は脆弱化。
  • ウクライナは西側から1,000億ドル以上の支援で精密攻撃を強化、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、北朝鮮や中国の支援に依存。
  • ロシアの持久戦優位性が揺らぎ、50万人の動員に対し30万人以上の死傷者、兵器生産の停滞、インフラ事故で国内混乱が増幅。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。
無人機(ドローン)攻撃によるものとされる黒煙=1日、ロシア・イルクーツク州

ウクライナ保安庁がロシアの軍用飛行場を無人機で襲撃する「クモの巣」作戦を敢行し、戦略爆撃機など41機を破壊したとウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」が報じた。この作戦は1年半以上かけて準備され、トラックに隠した無人機を遠隔操作で攻撃する巧妙な手法だ。ロシアは攻撃前、戦略爆撃機(Tu-95、Tu-160、Tu-22M3)を60~70機保有していたと推定されるが、稼働率を考慮すると実働は50~60機程度だ(国際戦略研究所『Military Balance 2024』)。

もしウクライナの主張通り41機が破壊されたなら、残存機数は30~50機に激減し、ロシアの戦略航空戦力や核抑止力に深刻な打撃を与える。損失額は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載可能な機体の34%を直撃したとされる。

ロシアの反応と広がる混乱

ロシアの戦略爆撃機「ツポレフ95」

ロシア国防省はイルクーツク州やムルマンスク州など5州の飛行場が攻撃され、航空機が火災を起こしたが、けが人はなく、関係者を拘束したと発表した(タス通信、2025年6月1日)。イルクーツク州知事は「シベリア初の無人機攻撃」と強調。一方、ロシア西部ではブリャンスク州で陸橋崩壊による列車脱線で7人が死亡、クルスク州でも鉄橋事故で運転士らが負傷し、原因が調査中だ(ロイター、2025年6月1日)。

ウクライナのゼレンスキー大統領は作戦を主導したマリュク長官と笑顔で握手する写真を公開し、「1年6か月9日にわたる準備の末の歴史的行動」と絶賛した(ウクライナ大統領府、2025年6月1日)。この作戦はロシアの軍事力を弱体化させるウクライナの戦略の一環であり、潜伏者の活用が鍵だ。

経済と軍事への甚大な打撃
この攻撃の衝撃はロシアの経済と軍事に重くのしかかる。ロシアの2024年名目GDPは約2兆ドル(約300兆円)、軍事費は約1,489億ドル(約22兆円)で、GDPの7.1%を占め、欧州全体の防衛費(約4,570億ドル)を超える(SIPRI 2024)。だが、70億ドルの損失は軍事予算の5%に相当し、高価な戦略爆撃機の喪失はウクライナへの攻撃力と核抑止力を直撃する(BBC、2025年6月2日)。

日本の2024年GDPは約4兆ドル、軍事費は553億ドル(GDPの1.4%)だが、もし3%に引き上げれば約1,800億ドルとなり、ロシアを上回る(SIPRI 2024)。ロシア経済は軍事費に偏重し、予算の40%が防衛・安全保障に投じられるが、インフレ率7.4%と労働力不足で成長は鈍化(世界銀行、2024年)。制裁によるハイテク製品の入手困難やエネルギー輸出の減少(1日約7500万ドル、ブルームバーグ、2024年12月)も重なり、今回の損失は経済と戦略に致命的な打撃だ。

ウクライナは軍事拠点やインフラを的確に攻撃し、米国、NATO、EUからの約1,000億ドル以上の支援でドローンや精密兵器を強化している(SIPRI 2024)。2023年の黒海艦隊攻撃では旗艦「モスクワ」を撃沈し、ロシアの黒海支配を揺さぶった(ロイター、2023年4月)。対して、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、2024年10月のミサイル攻撃では民間施設を破壊、20人以上の死傷者を出した(国連人権高等弁務官事務所、2024年11月)。

ドネツク州バフムト西方に位置するチャソフヤルで行われたロシア軍人の葬儀(2025年2月25日

支援は北朝鮮の砲弾(2024年約100万発)や中国の部品供給に限られ、西側に劣る(CSIS 2024)。従来、領土や資源、兵力で持久戦はロシア有利とされたが、この状況が続けば優位性は崩れる。ロシアは50万人の動員に対し、30万人以上の死傷者を出し(英国防省2024年)、兵器生産はソ連在庫に依存、新規生産が滞る(フィナンシャル・タイムズ、2025年6月2日)。ブリャンスクやクルスクのインフラ事故はウクライナの作戦と連動し、国内の混乱を増幅させる(ガーディアン、2025年6月2日)。今回の攻撃はロシアの軍事力と経済を直撃し、戦争の負担を増大させる。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。

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2025年5月26日月曜日

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プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説

岡崎研究所

まとめ

  • ロシアはウクライナ戦争後もNATO、特にバルト諸国への脅威を増す。プーチンのNATO拡大への主張はエストニア外相が「デタラメ」と断じ、部隊移動がその矛盾を露呈する。
  • フィンランドとスウェーデンのNATO加盟はプーチンの誤算だ。NATOに侵略意図はなく、ロシア側がパイプライン破壊やGPS妨害で挑発を続ける。
  • ロシアの行動は、モンゴルやナポレオン以来の被害者意識に根ざす。「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる歴史が背景にある。
  • ロシアのメシアニズム思想は、ウクライナを「人為的な政治体」とみなし、「ロシア世界」の拡大を正当化する。プーチンの支配欲に思想的支えを与える。
  • プーチンがいなくなっても、被害者意識とメシアニズムがロシアの侵略を止めない。ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの行動は続く危険がある。

 2025年5月5日のウォール・ストリート・ジャーナルは、ウクライナ戦争の終結後、ロシアがNATO、特にエストニアなどバルト諸国への脅威を増すと警告する。プーチンはNATO拡大を戦争の原因と主張するが、エストニアのツァクナ外相は「NATOが脅威という話はデタラメだ」と断じる。

 ロシアはウクライナ侵攻でエストニア国境近くの精鋭部隊を移動させ、NATOへの備えを弱めた。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、プーチンの誤算だ。元米軍司令官ホッジスは、NATOに侵略意図があれば破壊工作や領空侵犯が起きるはずだが、ロシア側では何もないと指摘する。

 逆に、ロシアはバルト海のパイプライン破壊やGPS妨害、国境での不審な活動を繰り返す。エストニアはロシア軍がウクライナで足止めされていることに安堵するが、和平後、ロシアの脅威が高まると警戒する。

 ロシアの行動の根底には、NATOを敵視する政治・軍事的戦略と、歴史的な被害者意識やメシアニズム思想がある。モンゴル、ナポレオン、ドイツの侵攻を経験したロシアは、「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる。

 加えて、「ロシア世界」を広げる使命感が、ウクライナを「人為的な政治体」とみなす思想を支える。スルコフ元大統領補佐官は、ロシアの影響力拡大を「ルスキーミール(ロシア世界)」と呼び、プーチンの支配欲に思想的支えを与えた。

 ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの侵攻は加盟阻止ではなく、支配欲とメシアニズムに突き動かされた。プーチンがいなくなっても、この思想がロシアの侵略を止めない危険がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で

まとめ
  • ロシアの構造的要因:上の記事は、ウクライナ侵攻をプーチン個人の問題ではなく、ロシアの「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチン後でも攻撃的な姿勢が続く可能性を指摘する。SRCの木村汎の研究と一致し、ナショナリズムや歴史的トラウマが外交を駆動するという。
  • 経済的制約の深刻さ:しかし、ロシアのGDPは韓国や東京都並み(2021年で1.83兆ドル)で、制裁によるエネルギー収入の減少がプーチン後の軍事行動を制限。後継者は大規模な戦争を避け、サイバー攻撃や小規模な挑発に頼る可能性が高い。
  • 国際環境の影響:服部倫卓の研究では、国際的孤立や中国・インドとの協力が外交を制約。経済的弱さから、ロシアは中国への従属リスクを抱え、NATOとの全面対立より限定的な牽制を選ぶだろう。
  • 上の記事の限界:記事は経済的制約やNATO・ロシアの相互作用を軽視し、「侵略の継続」を単純化。SRCの研究では、経済や国際環境がロシアの行動を大きく縛るとされる。
  • ポスト・プーチン期の展望:ロシアの弱い経済とエリート層の権力維持の思惑により、後継者は国民の不満を抑えるためナショナリズムを煽りつつ、サイバー攻撃や小規模な挑発で「大国」の看板を守ろうとする。中国との協力で経済を支えるが、従属的な立場に陥るリスクがあり、上の記事の懸念は大規模戦争ではなく、狡猾な牽制として現れることになるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻は、プーチン一人の暴走ではない。Wedge ONLINEの記事「プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!」は、ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチンがいなくなってもNATOやバルト諸国への敵対姿勢が続く可能性を訴える。

北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)

確かに、ロシアの奥底に流れる歴史の傷や大国への執着は、容易には消えない。しかし、この記事をロシア研究では定評のある北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)の視点で読み解くと、鋭い指摘の一方で、経済的制約や国際環境の重みを軽視する危うさが見える。

また、「ロシアのGDPは韓国や東京都並みで、制約が大きすぎる」という現実は、ポスト・プーチン期のロシアの動きを予測する鍵だ。木村汎や服部倫卓の研究を手に、ロシアの未来を私なりに描いてみよう。

上の記事では、プーチン個人の影を越え、ロシアの構造的な闇に光を当てる点が最大の特徴だ。木村汎の『ロシアの国家アイデンティティ』は、ソ連崩壊後の屈辱がロシア人の心に深く刻まれ、ナショナリズムと西側への対抗心を燃やしていると説く。記事が引用するウォール・ストリート・ジャーナルの言葉、「ロシアがNATOを脅威とみなすのは、NATOが脅威だからではなく、ロシア自身が脅威を生み出している」は、SRCの中井遼の研究が示す「脅威の自己増幅」と響き合う。

プーチンが去っても、ロシアのエリートや国民に染みついたこの意識は、攻撃的な外交を支える。記事は、この点を一般読者に分かりやすく伝え、ポスト・プーチン期の危険性を浮き彫りにする。

しかし、記事には穴がある。ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に集約しすぎ、経済や国際情勢の重みを軽く見ているのだ。2021年のロシアのGDPは1.83兆ドルで、韓国(1.91兆ドル)を下回り、日本の東京都(約1.0兆ドル)の倍にも満たない(IMFデータ)。この経済規模で、ウクライナ侵攻のような大規模戦争を続けるのは無謀だ。

2022年以降の西側制裁は、エネルギー収入を絞り、ルーブルを揺さぶる。木村の研究は、ロシアの大国意識がエネルギー依存や経済的限界に縛られると明かす。記事がこの現実をほぼ無視し、「侵略は続く」と断じるのは、危うい単純化だ。

モスクワの赤の広場で、ウクライナ4州の併合を記念して開かれた集会とコンサート(2022年9月30日)

ポスト・プーチン期のロシアはどうなるのか。服部倫卓の「ロシアの権力構造と後継者問題」は、プーチンの「垂直的権力体制」が後継者を縛ると警告する。エリート層――シルシキ、FSB、軍部――は権力維持のため、ナショナリズムを煽り、反西側姿勢を続けるだろう。

しかし、ロシアの経済的制約は、この動きに冷水をかける。ウクライナ侵攻は軍事予算(2021年で約660億ドル、SIPRIデータ)を食い潰し、制裁でエネルギー輸出が激減した2025年のロシアは、財政的に息切れしている。

後継者は、大規模な戦争を続ける金がない。木村の研究が示す「第三のローマ」や「スラブの保護者」といった使命感は、サイバー攻撃や情報戦、近隣諸国への小規模な挑発で生き延びるだろう。記事が危惧するバルト諸国への脅威も、全面戦争ではなく、こうしたハイブリッドな形で現れる可能性が高い。

国際環境もロシアを縛る。服部の研究は、国際的孤立の度合いが外交を左右すると説く。2025年5月のX投稿では、プーチンがウクライナ交渉にガルージン外務次官を送り、対話の窓口を残した。これは孤立を避ける現実的な一手だ。

ポスト・プーチン期の後継者も、中国やインドとの協力を深め、経済的制約を緩和しようとするだろう。だが、岩下明裕教授のエネルギー外交研究が示すように、中国との関係は対等ではない。ロシアは「下請け」に甘んじるリスクを抱え、外交の自由度を失う。NATOがウクライナやバルト三国への支援を強めれば、記事が警告する脅威は現実味を帯びるが、経済的限界はロシアを低コストの挑発に追い込む。

記事のもう一つの弱点は、NATOを「被害者」と決めつけ、ロシアとの相互作用を見逃す点だ。SRCの研究、たとえば中井遼の分析は、NATO拡大がロシアの脅威認識を刺激し、対立を増幅したと示す。

2004年のバルト三国加盟やウクライナのNATO接近は、ロシアにとって戦略的緩衝地帯の喪失だ。経済的制約下の後継者は、NATOとの全面対立を避け、限定的な牽制に頼る可能性が高い。記事がこの複雑な力学を簡略化し、日本との類比(尖閣問題など)で読者を引き込もうとする試みも、SRCの厳密な地域分析とは距離がある。

では、ポスト・プーチン期のロシアの姿は何か。私の示した――GDPが韓国や東京都並みで制約が大きすぎる――は、未来を予測する鍵だ。経済的困窮は、後継者を低コストの挑発や中国依存に追い込む。服部の研究は、エリート層の利害が強硬姿勢を支えると警告するが、木村の研究は、大国意識が経済的現実で挫かれる可能性を指摘する。

2025年のロシアは、エネルギー収入の減少と制裁に苦しみ、ウクライナ侵攻のような冒険は難しい。後継者は、国民の不満を抑え、エリートを繋ぎ止めるため、情報戦や小規模な介入で「大国」の看板を守るだろう。中国やインドとの協力は、経済的制約を和らげるが、ロシアを従属的な立場に押し込む。上の記事が指摘する「侵略の継続」は、形を変えた牽制として現れる可能性が高い。

現在もロシア連邦海軍唯一の航空母艦として運用中の「アドミラル・クズネツォフ」1990年就役

結論だ。上の記事では、ロシアの侵攻をプーチン超えた構造に結びつけ、ポスト・プーチン期の危険性を訴える。これは、SRCの木村や服部の研究と合致する。だが経済的制約――GDPが韓国や東京都並みという現実――を軽視し、NATOとの複雑な力学を単純化している。

ポスト・プーチン期のロシアは、経済の弱さと国際環境に縛られ、大規模な戦争ではなく、狡猾な挑発で生き延びる道を選ぶだろう。上の記事は読者を掴むが、SRCの研究や私の経済的視点を取り入れれば、ロシアの未来はもっと鮮明に見える。ポスト・プーチンのロシアは、大規模な戦争を継続したくてもできないのだ。

参照
  • 木村汎『ロシアの国家アイデンティティ』(北海道大学出版会、2008年)
  • 服部倫卓「ロシアの権力構造と後継者問題」(『スラブ・ユーラシア研究報告集』、2016年)
  • 笹川平和財団「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年)
  • X投稿(ガルージン外務次官の交渉参加、2025年5月15日)
  • IMFデータ(2021年、ロシアGDP:1.83兆ドル、韓国GDP:1.91兆ドル)
  • SIPRIデータ(2021年、ロシア軍事予算:660億ドル)

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2025年4月2日水曜日

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使

まとめ
  • ロシアと米国がレアアース鉱床開発などの共同プロジェクト協議を開始し、ドミトリエフ特使が協力の重要性を強調、複数企業が関心を示している。
  • プーチン大統領が将来的な経済協力協定での米国参加の可能性に言及し、次回協議が4月中旬にサウジアラビアで予定されている。

ドミトリエフ特使

ロシアと米国は、ロシアのレアアース鉱床開発などの共同プロジェクトについて協議を開始した。ロシアのドミトリエフ特使は、レアアースが協力の重要分野であると述べ、すでに複数の企業が関心を示していると明かした。プーチン大統領は、将来の経済協力協定で米国が参加する可能性に言及。次回の米ロ協議は4月中旬にサウジアラビアで開催される可能性があり、そこでさらに議論が進むと見られている。

【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

まとめ
  • キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁で、プーチンの側近だ。米国での教育と金融経験を武器に、トランプの「ディール外交」に食い込み、米ロ経済協力を進める。
  • プーチンとの絆は強く、2016-2017年の「ロシアゲート」や2025年のウクライナ停戦交渉で暗躍。レアアースや北極圏エネルギー事業で米国企業を引き込む。
  • 2025年2月のリヤド会談で「3240億ドルの損失回復」を提案し、トランプ側を動かす。3月にはイーロン・マスクとの宇宙協力や制裁解除を視野に交渉を進める。
  • ロシアは黒海安全航行合意で制裁解除を要求。KGB流「ミラーリング」でトランプを取り込み、和平への道を模索するが、駆け引きは続く。
  • 2020年のコロナワクチン、スプートニクVで実績を上げ、2025年第2四半期に米国企業のロシア復帰を予言。制裁下でも柔軟に米ロ関係修復を目指す注目人物だ。

プーチン(右)とドミトリエフ

キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁だ。プーチン大統領の懐に深く食い込んだ側近として名を馳せている。

1975年、ウクライナで生まれ、スタンフォードとハーバードで頭を磨いた男だ。ゴールドマン・サックスで金融の荒波を泳ぎ、2011年にRDIFの舵取り役に抜擢される。ロシア経済を多角化する使命を背負った。

この男、プーチンとの絆は鉄壁だ。妻がプーチンの次女と同級生という縁が絡む。プーチンの経済戦略を現実のものに変える実行者だ。

特に米国との交渉では、まるで将棋の駒を動かすように立ち回る。2016年から2017年、トランプ政権のジャレッド・クシュナーやエリック・プリンスと密かに手を握ろうとした。「ロシアゲート」騒動で一気に名が売れた。米ロの裏のつながりを作ろうとした野心がそこにある。

2025年2月、サウジアラビアのリヤドで米ロ高官が顔を突き合わせた。ドミトリエフはウクライナ停戦の裏舞台で暗躍する。レアアース開発を切り札にプーチンの意志を押し通した。3月にはイーロン・マスクに目を付ける。スペースXとロスコスモスを結びつけ、プーチンの宇宙への夢を後押しした。

2025年初頭、トランプとプーチンの電話会談が失敗に終わったと騒がれたが、ドミトリエフの手腕が光る。経済協力の土台を固めたのだ。2月18日のリヤド会談では、「米国企業がロシアで3240億ドルの損失を取り戻せる」とぶち上げた。米国のマルコ・ルビオ国務長官が「歴史的なチャンスだ」と目を輝かせた。

マルコ・ルビオ国務長官

エネルギー分野の共同事業も提案し、トランプの特使スティーブ・ウィトコフが前のめりになったとCNNが報じた。3月にはレアアースの具体的な話が動き出し、米国企業が食いついたとロイターが伝える。プーチンとトランプの間を縫うドミトリエフの調整力が証明された瞬間だ。ただし、CNNなどの報道は一面的なものであり、以前このブログでも指摘したように実際の交渉はかなり困難なものである。

この男、トランプの「ディール外交」にぴったりの交渉人だ。米国での学びと金融経験が武器だ。プーチンの後ろ盾を得て、トランプのビジネス魂に火をつける。

リヤド会談では「北極圏で年200億ドルの利益」と具体的な数字を叩きつけ、ウィトコフが「現実的だ」と唸ったとウォール・ストリート・ジャーナルが書いた。ロシアが狙うディールはでかい。レアアース、北極圏のエネルギー事業、そして経済制裁の解除だ。

イズベスチヤは3月に「レアアースが制裁緩和の第一歩」と叫び、ドミトリエフが米国企業に「制裁が解ければ5000億ドル超の投資が動く」と囁いたと報じた。北極圏の天然ガスでは、エクソンモービルとの再タッグを画策中だ。ブルームバーグがトランプ政権の前向きな反応を漏らした。これがドミトリエフの描く米ロ再構築の青写真だ。

3月25日、ウクライナとの黒海安全航行の合意が話題に上った。クレムリンサイトが条件を突きつける。①ロシア農業銀行の制裁解除とSWIFT復帰だ。②食料貿易のロシア船への制裁解除。③農業機械や食料生産品の供給制限解除だ。停戦への道で、ロシアは米国に制裁解除を迫る。

米シンクタンクCSISのマリア・スネゴワヤは言う。「ロシアのトランプへのアプローチは、KGBの『ミラーリング』そっくりだ」と。相手の言葉を真似て信頼を掴む手口だ。

プーチンは2020年の米大統領選でトランプの「勝利を盗まれた」という叫びを拾い、「それがなければ22年のウクライナ危機はなかった」と同調した。和平への道は険しい。だが、ロシアはトランプを取り込み、制裁解除を進めながら、紆余曲折を経て前進するだろう。3月のレアアース協議では米国が制裁緩和をチラつかせたが、ロシアの強硬姿勢で一時暗礁に乗り上げた。両国の駆け引きが続く。

1月25日のTBSの報道

ドミトリエフは、2020年、コロナ禍でスプートニクVワクチンを世界に売り込んだ。中東やインドとの契約をまとめ、ロシアの影響力を高めた。プーチンから「よくやった」と評価された。米国企業をロシアに引き戻す実利主義を貫き、2025年第2四半期には米国企業の復帰を予言する。

制裁の網に絡まり、ウクライナ侵攻への関与や倫理無視で叩かれたものの。その柔軟さと実行力はプーチン政権の停戦交渉の柱だ。国際金融の知恵と人脈をフル回転させ、米ロ関係の修復とロシアの地位向上に挑む。今後交渉自体はどうなるか未知数だが、今後のロシアにとってドミトリエフは、なくてはならない人物となるだろう。

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 <解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要

岡崎研究所
まとめ
  • トランプ・プーチン会談と停戦の進展: 3月18日の電話会談で、プーチンがウクライナのエネルギーインフラに対する限定的停戦に同意したが、トランプの長期和平案には抵抗。トランプはロシアから初の譲歩を引き出したが、交渉は依然厳しい。
  • ゼレンスキーの反発とロシアの要求: ゼレンスキーはプーチンの無条件停戦拒否を批判し、ロシアの動員停止や武器供与中止要求を非難。クレムリンはウクライナのNATO排除や4州占領を条件に掲げ、キーウを交渉から外そうとしている。
  • トランプ仲介の問題: トランプのロシア寄り姿勢と公平性への疑問が浮上。米国が当事者を個別に調整する方式は誤解を招きやすく、停戦と中東情勢を絡めた交渉の可能性も懸念される。
  • ロシアの部分停戦戦略: ロシアは戦闘を部分的に停止し、優勢な戦線を維持する意図。完全停戦ではなく、自身に有利な形で戦争を展開しようとしている。
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では米軍撤退後に停戦が崩壊したが、朝鮮戦争では駐留で維持。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が示している。


 ウォールストリート・ジャーナル紙の3月18日付解説記事が、ウクライナ戦争の停戦交渉について、トランプ・プーチン電話会談までの進展を詳しく紹介しつつ、今後も厳しい交渉が続くとの見通しを示した。プーチン大統領は3月18日の電話会談で、ウクライナのエネルギーインフラに対する限定的な停戦に同意したが、トランプが推し進める長期的な和平計画には依然として抵抗を見せた。

 トランプはこれまでキーウ側に譲歩を迫ってきたが、今回はロシアから初めて具体的な譲歩を引き出した。クレムリンに対し、関係改善と孤立解消を説得材料に使ったのだ。ホワイトハウスは、停戦合意を拡大するため中東でさらなる協議を予定し、「エネルギーとインフラの停戦、黒海での海上停戦、そして完全停戦と恒久的平和に向けた技術的交渉から始めることで両首脳が合意した」と発表した。

 ゼレンスキー大統領は、プーチンが即時無条件停戦を拒否したことを非難し、ロシアがウクライナ南部と北部で新たな攻勢を準備していると警告。プーチンの要求する動員停止や西側の武器供与中止を「我々を弱体化させる狙いだ」と強く批判した。ロシアの譲歩は、米国の圧力でキーウが受け入れた完全停戦には程遠く、クレムリンは今後の交渉が厳しいと示唆。永続的平和には「根本原因」への対処が必要とし、ウクライナの4州占領やNATO排除を条件に挙げた。クレムリンは「ウクライナ問題」を米露二国間で処理し、キーウを交渉から排除したい考えを示したが、トランプがこれを受け入れるかは不明だ。

 トランプの仲介には問題が浮上している。公平性が疑われ、ロシア寄りの姿勢が目立つ。ゼレンスキーは抵抗するも、トランプから武器供与や情報共有の停止をちらつかせられ、譲歩を強いられている。トランプは「停戦合意」の形を急ぎ、プーチンの立場を有利にさせる懸念がある。さらに、米国が当事者間を個別に調整する方式は誤解や猜疑心を招きやすい。トランプはウクライナ問題だけでなく、中東情勢やイラン核問題をプーチンと話し合い、停戦と別のディールを絡める可能性もある。ロシアは部分停戦を積み重ね、優勢な戦線を維持する戦略を取っているようだ。

 歴史的に見ると、ベトナム戦争の休戦交渉が似ている。米国は北ベトナム軍の駐留を認め、南ベトナムに圧力をかけ合意させたが、米軍撤退後、北ベトナムが侵攻し統一が完成した。一方、朝鮮戦争では米軍が駐留を続け、北朝鮮の全面侵攻を防いだ。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が教えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

まとめ
  • ルトワックの停戦提案: エドワード・ルトワックは、ウクライナ戦争を消耗戦とみなし、もはやロシアにもウクライナにも勝利はないとする。米国主導で住民投票による解決を提案。ゼレンスキーとプーチン双方に受け入れ可能な案とし、米軍やNATOの駐留を抑止力にすべきと提案
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では停戦後の米軍撤退で合意が崩壊し、南ベトナムが滅んだ。一方、朝鮮戦争では米軍駐留が休戦を維持。ルトワックは駐留の重要性を強調し、過去の失敗を繰り返すなと警告。
  • 米国の役割: ルトワックは、米国が500億ドル超の支援と外交力で停戦を主導すべきと主張。ロシアを抑えつつ中国との対決を優先し、最小限の駐留と制裁で効率的に安定を図るべきと主張。
  • 日本の支援の必要性: 日本は実質GDP世界3位の経済力を持ち、米国と協力してアジアの安定を支えるべき。過去のソ連対峙や2022年の対露制裁参加をなどから、ウクライナでの成功が東アジアの抑止につながるだろう。
  • 経済強化の戦略: 日本は大胆な積極財政と金融緩和で実質GDPを2位に押し上げ、抑止力を高めるべき。半導体製造装置や素材産業のリーダーシップを活かし、ロシアと中国を牽制し発言力を取り戻すべき。
エドワード・ルトワック

昨日もこのブログに登場したエドワード・ルトワックというアメリカの軍事戦略家が、ウクライナ戦争の停戦について熱く語っている。彼の言葉には、現実と地政学が絡み合い、聞く者を引き込む力がある。

ルトワックは言う。ウクライナ戦争は、ロシアもウクライナも決定的な勝利を手にできない消耗戦だ。2023年10月の『UnHerd』のインタビューで、彼は「もう膠着状態だ。完全勝利なんて夢物語にすぎない」と言い切った。戦争を終わらせるには、米国が動くしかない。

彼のアイデアはシンプルだ。ドネツクやルガンスク、クリミアといった紛争地域の未来を住民投票で決める。国連やOSCEが監視し、ゼレンスキーには民主的な正統性を、プーチンには面子を保つ出口を与える。「これならゼレンスキーも断りにくいし、プーチンも納得する」と彼は2023年の『The Telegraph』で力強く書いている。米国は、500億ドルを超える軍事支援と外交の力で、この流れを仕切るべきだと彼は睨んでいる。

歴史を振り返れば、ベトナム戦争の停戦交渉が頭に浮かぶ。1973年のパリ和平協定だ。米国はキッシンジャーの采配で、北ベトナム軍が南に居座る案を押し通した。南ベトナムのグエン・バン・チューは「裏切りだ」と叫んだが、米国は援助を切り上げるぞと脅し、合意を飲ませた。協定から2カ月で米軍は撤退。

当時のベトナム共和国大統領グエン・バン・チュー

だが、監視委員会は役に立たず、北ベトナムは軍を増強した。1975年4月、サイゴンが落ち、南は消えた。停戦を守る仕組みがなかったからだ。一方、朝鮮戦争はどうだ。1953年の休戦協定後、米軍は韓国に残った。今も28,500人が駐留し、有志国も当初は支えた。1954年、北朝鮮が仕掛けた小競り合いを米軍が叩き潰し、大事に至らなかった。70年以上、休戦が続いている。駐留の力がものを言ったのだ。

ルトワックは、停戦が紙切れにならないためには仕組みが必要だと声を大にする。住民投票だけでは足りない。2023年の『Foreign Policy』で彼は言い放った。「ロシアは隙を見れば埋める。抑止力がなければ終わりだ」。米軍やNATOの駐留が鍵だと彼は見ている。朝鮮戦争のやり方を参考にしろと言うわけだ。「ウクライナ東部に米軍やNATOが少しでもいれば、ロシアは手を出せない」と2023年のCSIS討論で断言している。べトナムのような失敗は繰り返すなと。

2014年のクリミア併合後、監視が甘かったから今があると彼は振り返る。「駐留がなけりゃ、プーチンは合意をゴミ箱に捨てる」と警告する。ただ、彼は中国との対決を優先したい。2024年の講演で「ウクライナに全力を傾けるな。太平洋が本番だ」と言い切った。だから、駐留は最小限でいい。5,000人規模の米軍とNATO部隊で十分だと踏んでいる。監視団や経済制裁も絡めて、効率よく抑え込む。それが彼の絵だ。ボスニアのデイトン合意も引き合いに出す。1995年、NATOの部隊が駐留して和平が保たれた。あれをウクライナでもやれと。

米国はどう動くべきか。ルトワックは、ウクライナへの支援を続ける一方、戦争を早く終わらせろと迫る。F-16やATACMSを渡してる今、支援は盤石だ。バイデン政権がNATO加盟を急がないのは賢いと彼は2023年の『Wall Street Journal』で褒めた。だが、戦争を長引かせるな。ベトナムみたいに投げ出すな。朝鮮戦争みたいに守り抜け。中国を睨む大局を見据えながら、だ。住民投票を仕切り、米軍と有志国で抑え、監視と制裁で固める。それがルトワックの答えだ。歴史の教訓と現実が交錯する彼の言葉は、読む者を最後まで引きずり込む。

私はルトワックの案に賛成だ。なぜか。現実を見据えたこの策は、血を流し続ける戦争を終わらせ、未来を切り開く力がある。住民投票で決着をつけ、米軍と有志国が駐留して守る。歴史が証明しているではないか。ベトナムみたいに逃げれば崩壊だ。朝鮮みたいに踏ん張れば持つ。ロシアを抑え、中国に備える。米国が動けば世界が変わる。この案は、弱さじゃなく強さだ。迷うな。進め。そして守れ。それが勝利への道だ。

日本はこの方向で米国を支えるべきだ。なぜか。まずは日本の実質GDPは、2023年時点で約4.2兆ドルだ。インフレ調整後の数字で見れば、世界3位。米国、中国に次ぐ経済力であるという地事実がある。名目GDPではドイツに抜かれ4位と言われるが、それはドイツの物価高騰と円安のせいだ。

戦前、日本はソ連と対峙し、アジアの防波堤だった。1941年、日ソ中立条約を結んだが、ソ連は終戦間際に裏切り、満州と北朝鮮を押さえた。その結果、北朝鮮が誕生し、朝鮮戦争で米国を脅かした。今のロシアや中国の台頭も、その流れの果てだ。当時日本が米国と協力してソ連を抑えていれば、アジアは違う道を歩んでいたかもしれない。

ノモンハン事件

2025年の現在、日本は米軍と共同演習を重ね、F-35を配備し、中国の脅威に備えている。2022年、ロシアがウクライナに侵攻した時、日本は即座に経済制裁に加わり、G7の一角として米国を支えた。岸田首相は「ウクライナは明日の東アジアだ」と喝破した。その通りだ。ウクライナでロシアを止めなければ、中国は台湾や尖閣に手を出すだろう。

過去の過ちを繰り返すな。日本が米国と組んで駐留を支え、監視を固めれば、ウクライナはもとよりアジアも守れる。日本も経済力を出し、技術も出し、自衛隊の力も活かすのだ。2023年の実質GDP成長率は1.68%。日本は半導体製造装置や素材産業などで世界をリードしてる。この力を米国と合わせれば、ロシアも中国も震え上がる。

さらに、大胆な積極財政と金融緩和策で実質GDPを再び世界2位に押し上げれば、それが最大の抑止力になる。国民も防衛力増強やウクラライナ支援などに反対することはなくなる。1990年代、日本は実質GDPで2位だった。それが中国に抜かれた。過去の緊縮策ではダメだ。失われた30年を完璧終わらせろ。金をばらまき、需要をぶち上げ、企業を動かせ。2位を取り戻せば、アジアでの発言力が増し、ロシアや中国への牽制が効く。

日本が動けば、アジアの未来が変わる。誰もが頷くだろ。これが日本の道だ。米国と共に進め。そして守れ。勝利はそこにある。

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2025年3月23日日曜日

米特使 “ロシアの支配地域 世界が露の領土と認めるか焦点”―【私の論評】ウクライナ戦争の裏に隠れたソ連の闇と地域の真実:これを無視すれば新たな火種を生む

米特使 “ロシアの支配地域 世界が露の領土と認めるか焦点”

まとめ
  • トランプ政権のウィトコフ特使は、ロシアが実効支配するウクライナの地域を世界がロシア領として認めるかどうかが今後の焦点だと主張し、ロシア寄りの見解を示した。ロシアは東部・南部4州で「住民投票」を強行し併合を宣言している。
  • トランプ大統領は完全な停戦後に領土の一部割譲を含む協定の可能性を示唆し、ウィトコフ特使はウクライナがNATO加盟を断念する姿勢を受け入れつつあると指摘した。
  • 3月24日にサウジアラビアで米・ウクライナ・ロシアの代表団による停戦協議が予定されており、ウクライナの領土一体性や安全保障がどう扱われるかが注目されている。
ウィトコフ特使

トランプ政権のウィトコフ特使は、ウクライナ情勢を巡るインタビューで、ロシアが実効支配している地域について「圧倒的多数の人々がロシアの統治を望んでいる」と主張し、今後の焦点は「世界がこれらの地域をロシアの領土として正式に認めるかどうか」だと述べた。これは元FOXニュースのキャスターとの対談で3月21日に公開されたもの。ロシアは3年前、ウクライナ東部および南部4州で一方的な「住民投票」を強行し、併合を宣言しており、ウィトコフ特使の発言は明らかにロシア寄りの立場を示している。トランプ大統領も同日、完全な停戦後に領土の一部割譲を含む協定の可能性に言及した。

さらにウィトコフ特使は、「ウクライナは和平合意が実現した場合、NATO(北大西洋条約機構)への加盟ができないことをほぼ受け入れていると思う」との見解を示し、ウクライナの安全保障に関する妥協が進んでいる可能性を指摘した。3月24日にはサウジアラビアで、アメリカを含む代表団がウクライナとロシアの双方と停戦に向けた協議を行う予定だが、ウクライナの領土の一体性や長期的な安全の保証といった根本的な課題がどのように扱われるのか、国際社会の注目が集まっている。

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【私の論評】ウクライナ戦争の裏に隠れたソ連の闇と地域の真実:無視すれば新たな火種を生む

まとめ
  • ウィトコフ特使の「ロシア支配地域を世界が認めるかどうかが焦点」という発言は、ロシア寄りと騒がれるが、ソ連が引いた複雑な国境線と歴史の絡みが単純ではない。
  • ソ連はボリシェヴィキ、特にレーニンとスターリンの都合で国境を無理やり決め、民族や文化を無視。クリミアもフルシチョフが1954年にウクライナにポンと渡した政治の産物だ。
  • ウクライナは西側、中央、南東部でまるで別世界。南東部はかつて「ノヴォロシア」と呼ばれ、オデッサ州からクリミアまでロシア色が濃いが、西側は西欧に近く、中央はキーウ周辺は、ウクライナの心臓だ、西と中央は、反ロシアでガチガチだ。
  • 2022年2月24日のロシア侵攻は歴史抜きで一方的な過ち。国連憲章を一方的に破り、外交を捨てた暴挙だ。
  • 停戦交渉ではロシアの責任をハッキリさせつつも、歴史と地域のリアルを踏まえ、ウクライナのさまざまな顔を尊重して現実的な道を探るべきだ。そうでないと新たな火種を残すことになる

ソビエト連邦地図

ウィトコフ特使が言い放った。「ロシアが実効支配するウクライナの地域を世界がロシア領と認めるかどうかが焦点だ」と。ロシア寄りだと騒がれるこの発言、だが、単純に白か黒かで決めつけられる話ではない。そこには複雑な歴史が絡んでいる。ウクライナとロシアの国境線は、ソ連時代に無理やり引かれたものだ。民族や文化の流れなどて無視して、政治の都合だけで線を引いた。その結果、ウクライナの中は西側、中央、南東部でまるで別世界の違いが生まれた。この違いが、今日停戦をさらに複雑にしている。

ソ連が1922年に誕生した時、多民族をまとめ上げるため、連邦制をぶち上げた。ウクライナ共和国だ、ロシア共和国だと名前をつけたはいいが、国境線は自然な分かれ目ではなかった。ボリシェヴィキ—1917年のロシア革命をぶちかました共産主義者たち、マルクス主義を掲げてガチガチの中央集権を夢見た連中—が、自分たちの都合で線を引いた。

ウクライナ東部や南部にロシア語を話す連中がいたにもかかわらず、無理やりウクライナ側にねじ込んだり、逆にロシア側に押し付けたりした。その中でもレーニン、ソ連の初代ボスだ、連邦制をゴリ押しした。スターリン、民族問題を握ってた男だ、国境の細かい調整に手を突っ込んだ。だが、1920年代でもまだグチャグチャで、国境はフラフラ動いていた。それが後に火種になったのだ。

レーニン(左)とスターリン(右)

その後のソ連はもっと狡猾だった。民族同士がケンカしないように、分断して操りやすくするために、国境をわざと複雑にした。例えばクリミア半島だ。歴史を紐解けば、クリミア・タタール人やウクライナ人と縁が深い。13世紀からオスマン帝国の傘下だったが、1783年にロシア帝国がこれを飲み込んだ。ソ連ができてからはロシア共和国の一部だった。それが1954年、フルシチョフが「ウクライナにあげる」とポンと渡した。フルシチョフがウクライナ出身だからか、経済をくっつけたい思惑か、政治のゲームだ。1991年、ソ連が崩れて、クリミアはウクライナの一部として独立した。住民の声も歴史の流れもお構いなしだった。

ウクライナの中を覗いてみれば、地域ごとにまるで別の国だ。西側、リヴィウあたりだ、ポーランドやオーストリア・ハンガリー帝国の色が濃い。ウクライナ語が響き合い、民族主義が燃え上がる。ロシアなんて目じゃない、ソ連時代から反ロシアでガチガチだ。一方ウクライナ中央、キーウ周辺は、ウクライナの心臓だ。キエフ・ルーシ(キエフ大公国)の誇りを背負い、ウクライナ語とロシア語が混ざり合いながら独立を貫く。

だが、南東部はどうだ。ドネツク、ルハンスク、クリミアだ。ここはロシア帝国の時代からロシア語が響き、ロシア人がドッと流れ込んだ。18世紀後半から19世紀、「ノヴォロシア」、新ロシアと呼ばれた土地だ。今のオデッサ州、ミコライウ州、ヘルソン州、ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンスク州、そしてクリミアだ。時期によってはロシアのロストフ州やクラスノダール地方まで入ったこともある。ロシアが開拓の手を伸ばし、ソ連の工業化がガンガン進んだ。ロシアとの絆が強い。今、ロシアがここを握る土台になっている。

ウクライナの西部、中央部、南部、西部を示すResearchGateの地図 

だから、ロシアが「東部や南部4州は俺のものだ」と叫ぶのは、ソ連時代の複雑すぎる国境と、ノヴォロシアの歴史を盾にしている。だが、ウクライナ全体の魂を映しているかと言えば、怪しいものだ。西側や中央は「ふざけるな」と怒り、南東部はロシアに寄る人々が多い。このギャップだ。ウィトコフ特使の発言を「ロシア寄り」と切り捨てるのは簡単だ。だが、ソ連の残した厄介な遺産と、地域のバラバラな顔を見れば、そんなに単純ではない。

しかし、2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻したこと、この戦争の始まりとその後のドンパチは、このような歴史や地域の違いなど関係ない。ロシアの一方的な侵攻だ。国連憲章をぶち破り、領土を踏みにじった。本来侵攻などという乱暴な手ではなく、外交でなんとかする道があったはずだ。これは、間違いなくロシアの過ちだ。

だが、今は停戦のテーブルにつく時だ。ここまでの戦争責任はハッキリさせつつも、歴史のゴタゴタや地域のリアルを無視するわけにはいかない。双方の言い分をぶつけ合い、現実的で正しい落としどころを探るしかない。ウクライナのいろいろな顔と、地域の住民の声を踏みにじるような押し付けはダメだ。交渉で未来を切り開くべきだ。

ソ連時代の災厄の精算は、冷戦を経て終わったかにもみえたが、実は終わっていなかったのだ。ソ連が残した歪んだ国境と地域の対立をきちんと見据えないと、精算なんて夢のまた夢だ。そうでなければ、新たな災いの火種を残すことになる。

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2025年3月17日月曜日

有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に軍会合=英首相―【私の論評】ウクライナ支援の裏に隠された有志国の野望:権益と安全保障の真実

 有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に軍会合=英首相

まとめ

  • 英国スターマー首相は「有志国連合」でウクライナ支援を強化し、ロシアに停戦案接受を圧力。約20カ国首脳らと会議開催も米国不参加。
  • ロシアへの圧力とウクライナ支援継続を確認。20日に英国で安全保証計画の会合予定。
  • ゼレンスキー氏は安全保証を強調。英仏は平和維持部隊派遣、豪も協力検討。

英国スターマー首相

 英国のスターマー首相は3月15日、停戦後のウクライナ支援を強化するため「有志国連合」が準備を進めていると発表した。同氏はオンライン会議を主催し、トランプ米政権の停戦案を受け入れるようロシアのプーチン大統領に圧力をかけることを目指した。会議には独、仏、伊、カナダ、オーストラリアなど約20カ国の首脳やウクライナのゼレンスキー大統領、NATO事務総長が出席したが、米国は不参加だった。

 有志国連合は、ウクライナへの軍事支援と停戦実現への決意を確認。スターマー氏は、ロシアへの圧力強化、ウクライナ支援の継続、制裁強化でプーチンを交渉に引き込む方針を示した。また、20日に英国で軍関係者会合を開き、ウクライナの安全保証計画を策定すると述べた。ゼレンスキー氏は外国部隊駐留など安全保証の必要性を訴えた。英仏は平和維持部隊派遣の可能性に触れ、豪首相も協力の用意を示した。

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【私の論評】ウクライナ支援の裏に隠された有志国の野望:権益と安全保障の真実

まとめ
  • スターマー首相が「有志国連合」でウクライナ支援を強化。3月15日に20カ国首脳が集まり、ロシアに圧力。米国は不参加。20日に安全保障計画を策定、英仏は平和維持部隊を検討。
  • ウクライナは技術と教育水準が高く、ロシア排除で経済発展の可能性。レアメタル、穀物、市場が権益。有志国はこれを狙い、西側に取り込む。
  • 安全保障が動機だが、権益が本音。英国は23億ポンドで資源、フランスは穀物、ドイツは技術に投資。儲からないスーダンとは支援とは違い熱心だ。
  • 戦争と汚職が障害。裏取引の証拠なし。専門家は「権益がなければ支援は弱い」と言う。
  • 日本は資源なし。危機時の支援には経済力と技術力が必要。湾岸戦争の教訓から日本の価値を示せ。


英国のスターマー首相が3月15日、動き出した。停戦後のウクライナ支援を強化するため、「有志国連合」が準備を進めていると公表した。トランプ米政権の停戦案をロシアのプーチンに呑ませるべく、オンライン会議を主催。ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、オーストラリアなど約20カ国の首脳が集まり、ウクライナのゼレンスキー大統領やNATO事務総長も顔を出した。だが、米国は参加せず。トランプとの交渉がこじれたらしい。有志国連合は一致団結、ロシアへの経済制裁を締め上げ、ウクライナ支援を続け、プーチンを交渉の場に引っ張り出すと決めた。

スターマーはさらに20日、英国で軍関係者の会合を開く。ウクライナの安全をどう守るか、具体的な計画を立てるつもりだ。ゼレンスキーは外国部隊の駐留やNATO加盟を求めて声を張り上げた。英国とフランスは「平和維持部隊を出すのもありだ」と言い出し、オーストラリアのアルバニージー首相も「要請があれば乗る」と応じた。ロシアは「西側の介入は火に油だ」と吠えているが、知ったことか。

ウクライナはただの弱小国ではない。旧ソ連の航空宇宙や重工業の技術を引き継ぎ、頭のいい人材がゴロゴロいる。開戦前、識字率はほぼ100%。教育レベルはかなり高い。ロシアの干渉や汚職さえなくなれば、経済が一気に跳ね上がる可能性は大きい。それに加えて、リチウム、チタン、レアアースといった鉱物資源、欧州一の黒土で育つ穀物、ITや製造業の力。これらが有志国にとって喉から手が出るほど欲しい権益だ。資源を握り、4000万人を超える人口の市場を取り込み、復興で利益を得て、ロシアを蹴落とし、ウクライナを西側に引き込む。そんな野望が透けて見える。

日常を取り戻しつつあるキーウ 賑わうオープンテラス

ただし、障害は山積みだ。戦争でボロボロのインフラ、復興には5000億ドルかかると言われる。汚職もひどい。2023年の透明性国際の調査で122位だ。米国と資源を共同管理する裏取引の噂もあるが、証拠はない。2025年2月、トランプが鉱物収益のファンドを提案したらしいが、ゼレンスキーと揉めて失敗した。

有志国は「安全保障と安定のため」と言う。確かにそれは大事だ。だが、本音はもっとドロドロしている。権益がなければ、こんなに熱くはならない。英国はロシアのガスに頼るのをやめたい。2022年、23億ポンドをウクライナに提供した。ウクライナのガス田やチタン鉱山(世界の20%を握る)が狙いだ。

フランスは穀物だ。ウクライナが欧州の10%以上の穀物を供給している。2022年の時のような食糧危機を避けたい。2023年、5億ユーロを追加で支援した。ドイツは工業技術に目をつけ、2024年に風力発電プロジェクトに資金を提供した。

歴史を振り返れば、分かりやすい。1990年代、ユーゴスラビア紛争後、NATOは復興支援でコソボやボスニアの鉱物や市場に食い込んだ。だが、儲からない紛争地はどうだ?スーダン内戦(2023年~)では死者が何万人も出たのに、西側の支援は年間数億ドル。ウクライナへの2000億ドル超とは比べ物にならない。シリア内戦も似た話だ。資源も市場もないと、空爆と難民支援で終わりだ。

ユーゴスラビア紛争の激戦地コソボの首都プリティシュナの家族連れで賑わう独立広場

ウクライナがレアメタルや市場を持たなかったら、有志国のやる気はここまでにはならなかっただろう。国際政治学者のジョン・ミアシャイマーは2023年の論文で喝破した。「西側はウクライナをロシアから奪い、経済と軍事の拠点にする気だ。資源と市場が鍵だ」と。安全保障や人道は表の顔。裏は権益だ。この見解に全面的に賛同するしないは別にして、資源と市場が同志国の行動に影響を与えているのは間違いないだろう。

日本はどうだ。地下資源はほぼゼロ。ウクライナのような危機が来たら、他国が助けてくれるか?日本のODAは2023年で180億ドルだ。だが、1990年代の湾岸戦争では130億ドル出したのに「金だけか」と笑われた。経済力と技術力がないと、見捨てられる。日本独自の高度な技術等で勝負するしかない。日本はそれを肝に銘じるべきだ。さもないと、いざという時、見捨てられるだろう。それが、世界の厳しい現実なのだ。

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2025年3月12日水曜日

モスクワに過去最大の無人機攻撃、3人死亡 航空機の運航一時停止―【私の論評】ウクライナのモスクワ攻撃が停戦交渉を揺さぶる!核の影と日本の覚悟

モスクワに過去最大の無人機攻撃、3人死亡 航空機の運航一時停止

まとめ
  • 攻撃概要: 2025年3月11日未明、ウクライナがモスクワに過去最大のドローン攻撃。343機使用、3人死亡、17人負傷、4空港閉鎖。
  • ロシアの反応: ロシアは91機をモスクワ州、126機をクルスク州で撃墜。外務省は協議タイミングを指摘、報復提案も。
  • 被害: 住宅7軒破壊、クルスク原子力発電所付近で撃墜、周辺空港も閉鎖だがパニックなし。

 2025年3月11日未明、ウクライナがロシアの首都モスクワに対し過去最大規模のドローン攻撃を実施した。少なくとも3人が死亡、17人が負傷し、モスクワ州では火災が発生した。モスクワの4つの主要空港全てが一時閉鎖され、運航が停止。ロシア国防省は343機のドローンを撃墜し、91機がモスクワ州上空、126機がクルスク州上空で迎撃され、クルスク原子力発電所付近でも撃墜があったと発表した。

 ロシア外務省は、この攻撃がサウジアラビアでの米国とウクライナの高官協議に合わせて行われたとし、兵器供給国に責任があると非難。モスクワ州知事は、7軒の集合住宅が破壊されたとテレグラムで報告。航空当局はモスクワとヤロスラブリ、ニジニノヴゴロドの空港を閉鎖した。モスクワ市長は攻撃の規模を過去最大と強調し、ロシア側は民間インフラへの攻撃として非難。元国防次官は新型ミサイル「オレシニク」での報復を提案した。メディアは住宅火災の動画を公開したが、モスクワ市内でパニックは見られなかった。

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【私の論評】ウクライナのモスクワ攻撃が停戦交渉を揺さぶる!核の影と日本の覚悟

まとめ
  • 停戦交渉の進展: 3月11日、サウジアラビアで米国とウクライナが30日間の即時停戦案で合意。米国は軍事援助と情報を再開し、ロシアの同意を待つ段階に突入。
  • モスクワ攻撃の警告: ウクライナが343機のドローンでモスクワを攻撃。停戦前のロシアへの圧力と「破れば報復」のメッセージが込められている。
  • ロシア全土への脅威: モスクワ到達でウクライナの攻撃力露呈。2000km飛行可能なドローンで、シベリアもウラルも標的になり得る。
  • クルスクの核示唆: クルスク原子力発電所近くで126機撃墜。ダーティボムや核兵器を匂わせ、ロシアに心理的打撃を与えた可能性がある。
  • 日本の教訓:やり方の是非は別にして、 ウクライナの覚悟と力を日本も見習うべき。守る気概がなければ舐められるだけだ。
ウクライナとロシアの戦争終結、和平を探るためのウクライナと米国の高官協議が11日、サウジアラビア西部ジッダで始まった。
3月11日、サウジアラビアのジェッダで米国とウクライナの高官が顔を突き合わせた。米国がぶち上げた30日間の即時停戦案に、ウクライナが「乗る」と腹を決めたのだ。これを受けて米国は、ウクライナへの軍事援助と情報提供のストップを即刻解除すると宣言。共同声明で「ロシアが首を振らなきゃ平和は来ない」と言い切り、モスクワへの働きかけに動き出した。停戦はロシアが「よし」と言えば即発効、戦闘を根こそぎ止めるのが狙いだ。トランプ政権の「戦争を終わらせる」という大看板の下、交渉は今、まさにモスクワに照準を合わせている。ロシアの返事はまだ聞こえてこないが、停戦への道が一歩近づいたのは間違いない。
そんな矢先に起きたのが、ウクライナによるモスクワへのドローン攻撃だ。343機が飛び交い、モスクワの空を切り裂いたこの攻撃は、停戦を前にしたロシアへの強烈な警告だろう。ウクライナ国家安全保障防衛会議の報道官アンドリー・コバレンコが吠えた。「モスクワへの大規模攻撃は、プーチンに空での停戦が必要だと叩き込むシグナルだ」。交渉を前に、ロシアに「舐めるな」と圧をかける意図が透けて見える。過去を振り返れば、2024年8月、クルスク州でウクライナ軍がロシア領に踏み込み、38平方マイルを一時奪った。あの時も、ロシアに「本土だってやられるぞ」と見せつけた。今回のモスクワ攻撃も、停戦を破れば地獄が待っているというメッセージに違いない。
ウクライナのドローン攻撃に逃げ場のないプーチン AI生成画像

モスクワがやられたということは、ウクライナがロシア国内のいずれの地域でも攻撃力を持っている証だ。343機ものドローンがモスクワにたどり着いた現実を前に、ロシアの防空網がザルだったことがバレてしまった。2025年1月にはリュザンで石油精製所が燃え、ロシア側は121機を迎撃したと主張したにもかかわらず、火の手が上がった。2024年9月のモスクワ攻撃でも、石油精製所が炎上して民間人が死んでいる。Xでは、ウクライナのドローンが2000km飛べる上に250kgの爆弾を積めると噂が飛び交う。モスクワはキーウから600kmだが、シベリアだろうがウラルだろうが、どこでも狙えるということだ。ロシアにはもう、逃げ場はない。

クルスク原子力発電所近くでの攻撃は、もっと際どい話だ。ロシア国防省は、126機がクルスク州で落とされ、一部が発電所そばで撃ち落とされたと報告している。将来的にダーティボムや核兵器をチラつかせる狙いがあるかもしれない。2022年10月、ロシアは「ウクライナがダーティボムを作る」と騒いだが、国際機関に否定された。だが今回は、核施設のすぐ近くを狙った。

2023年10月には、クルスクの核廃棄物施設にドローンが突っ込んで、ロシアが「核テロ」と叫んだことがある。250kg積めるドローンなら、放射性物質をばらまくダーティボムはすぐに作れる。ウクライナには原発があり、プルトニウムも手に入る。長崎の原爆はプルトニウム製で、旧ソ連の技術を引き継ぐウクライナなら、その気になれば似たもの比較的短期で作れる可能性がある。クルスクでの攻撃は、ロシアに「核戦争だってあり得るぞ」とモスクワに頭を抱えさせる一撃だったろう。

ドローン攻撃を受けるクルスク原発付近 AI生成画像

結局、2025年3月11日のモスクワ攻撃は、停戦前のウクライナからの強烈な一撃だ。協議のタイミングとウクライナの言葉がその証拠だ。ロシア全土を撃てる力を誇示し、クルスクで核の影をちらつかせて、停戦後のルールをモスクワに文字通り叩き込んだ。戦争の流れが変わる可能性をもつこの攻撃は、交渉の行方を左右する大勝負になる。

日本も目を覚ますべきだ。ウクライナのように、自分の国を守る覚悟と力を見せつけなれば、いつまでたっても中露北に舐められたままだ。やり方の是非は別にして、ウクライナのこの肝っ玉だけは見習うべきだ。日本は、現状のままでは本気で生き残る覚悟があるのかと、批判されても仕方ないかもしれない。

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ドナルド・トランプを無能と言い捨てる「識者」たちは現実を見失っている…ロシア・ウクライナ戦争を終わらせるトランプ大統領の交渉戦略―【私の論評】トランプの「力による平和」とドラッカーの教え:「良き意図」から実務へ

 ドナルド・トランプを無能と言い捨てる「識者」たちは現実を見失っている…ロシア・ウクライナ戦争を終わらせるトランプ大統領の交渉戦略

まとめ
  • トランプの戦争終結への取り組み: 就任1カ月でロシア・ウクライナ戦争の終結を目指し、米露会談を進め、欧州を動揺させる一方、日本の「識者」から猛反発と侮蔑を受ける。
  • 識者の態度とその危険性: 「識者」がトランプを低能・異常と嘲笑し、停戦調停に苛立つが、これは現実分析の放棄であり、選挙で信任された実力者を侮る危険な姿勢。
  • 交渉者としての第三者性: トランプはロシアに好感され、ウクライナに圧力をかけ、アメリカを支援者から調停者にシフトさせ、戦争終結を目指す論理的な戦略を展開。
  • ロシアとウクライナへの対応: ロシアにはNATO不加盟を提示して交渉に引き込み、ウクライナには支援停止や資源権益要求で現実を突きつけ、停戦を「利益」と認識させる。
  • 冷徹だが一貫した姿勢: トランプの手法は冷徹だが目標と手段に一貫性があり、侮蔑は現実乖離を招き、誤った分析がしっぺ返しとなる危険性を孕む。

トランプ大統領がアメリカ大統領に就任して1カ月が経過し、その間に多くの出来事が起こった。特に外交面で注目されているのは、選挙戦中から公約していたロシア・ウクライナ戦争の終結に向けた取り組みである。トランプはこれに本気で取り組んでおり、就任後、米露外相会談が実現し、首脳会談も予定されている。これまでロシアを孤立させることに注力してきた欧州諸国にとっては梯子を外された形だ。

一方、日本の「識者」層からはトランプに対し猛烈な反発と侮蔑が directed されている。彼らは「ウクライナは勝たなければならない」と主張してきたが、トランプが停戦調停を進めようとすることに苛立ちを覚えているようだ。トランプの知的水準が低く、性格が異常であるとして、その行動や発言を嘲笑うことが常識的態度であるかのように振る舞っている。

しかし、これは危険な現象である。気に入らない状況を「誰かが無能で異常だから」と片付けてしまうのは、現実の分析を放棄するに等しい。トランプはアメリカの選挙民から二度も信任を得た人物であり、第一期政権時と比べて知識、経験、人脈も豊富だ。客観的には類まれな実力者であり、安易に侮るべきではない。

トランプは戦争終結に向け、交渉者としての「第三者性」を獲得しようとしている。ロシアには好感される発言を繰り返し、ウクライナのNATO加盟を認めない立場を示して信頼を得ようとしている。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領に対しては、バイデン政権が戦争を招いたと批判し、ゼレンスキーを「選挙のない独裁者」と揶揄するなど厳しい態度を取る。さらにウクライナ領内のレアアース資源権益をアメリカに譲るよう圧力をかけ、支援停止もちらつかせて現実を突きつけている。これは、アメリカが一方的なウクライナ支援者から中立的な調停者に立場を移すための戦略だ。

「識者」の間では「トランプがプーチンに騙された」という物語が広まりつつあるが、トランプの行動は交渉の観点からは破綻していない。ロシアにはウクライナのNATO不加盟を交渉材料として提示し、戦況で優位なロシアを調停のテーブルに引き寄せようとしている。ウクライナには支援打ち切りや選挙実施の圧力をかけ、停戦が「利益」であると認識させようとしている。

ゼレンスキーが抵抗を続ける場合、「選挙のための停戦」が提案される可能性もあり、ロシアもそれに賛同するかもしれない。ウクライナ国民の疲弊や世論分裂が進めば、ゼレンスキーの強権政治にも限界が来るだろう。

トランプの手法は冷徹だが、目標と手段に一貫性がある。彼を無能や異常と侮蔑するのは現実から乖離しており、分析を誤ればしっぺ返しを食らう危険がある。

篠田 英朗(東京外国語大学教授・国際関係論、平和構築)

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【私の論評】トランプの「力による平和」とドラッカーの教え:「良き意図」から実務へ

まとめ
  • ピーター・ドラッカーの言葉「良き意図と実務は違う」は、行動と結果が重要であることを示している。意図だけでは、それがいかに素晴らしいものであっても、無意味だ。
  • トランプ大統領のロシア・ウクライナ戦争終結への取り組みは、単なる意図にとどまらず、実行を伴うものである。
  • トランプはアメリカを中立の調停者として位置づけ、ロシアとウクライナの交渉を進めている。
  • 彼の目指す「力による平和」は、侵略を許さない新たな秩序を築くことにある。
  • トランプの実務が成功するかどうかは、実際の成果にかかっているが、現実の壁は依然として存在するものの、もう後戻りはない。

ドラッカー氏

ピーター・ドラッカーの「良き意図と実務は違う」という言葉は耳に残る。立派な目標を掲げるだけでは何も変わらない。行動に移し、結果を出して初めて意味が生まれるのだ。この考えをトランプ大統領のロシア・ウクライナ戦争終結への取り組みに当てはめると、彼の動きが単なるお題目を超えた力を持っていることが見えてくる。トランプは「戦争を終わらせる」と宣言するだけでなく、その先に「力による平和」という強固な秩序を築こうとしている。世界が再び力の時代に突入する今、これはただの夢物語ではない。

トランプが選挙で叫んだ「戦争を終結させる」は、ドラッカーの言う「良き意図」だ。平和を求めるこの公約は誰もが拍手喝采を送る。だが、ドラッカーは冷徹だ。「意図だけでは何も変わらない」と言い切る。たとえば、明日から禁煙すると決めたところで、タバコを手に持てば意味がない。吸わないと決めて、実際に捨ててみせる。それが実務だ。トランプも同じだ。言葉だけではなく、実行が伴わなければ戦争は終わらない。

就任後1カ月でトランプは動き出した。「一日で戦争を止める」と豪語し、その言葉を裏付ける行動を起こしている。2025年2月18日、ルビオ国務長官がラブロフ外相と会談。米露首脳会談の準備も進む。これはロシアを孤立させる従来の路線を捨て、交渉の土台を作る一手だ。トランプはアメリカを中立の調停者に据え、ロシアにはウクライナのNATO加盟を認めないと約束。一方、ウクライナには支援停止やレアアース権益を要求し、両者を交渉のテーブルに引きずり出す。これがドラッカーの「現実と向き合う」姿勢だ。机上の空論ではない。現実を動かす実務だ。

トランプの視野は戦争を止めるだけに留まらない。その先にあるのは「力による平和」。中国だろうが誰だろうが、侵略を許さない鉄の秩序だ。ソ連崩壊後の穏やかな時代は終わり、世界は再び力で語り合う時代に戻った。トランプはそれを見越している。ウクライナ戦争の和平条件にこだわるより、今すぐ終わらせて、次の脅威に備える。これが彼の計算だ。EUや日本のリーダーも、いずれこの現実に目を覚ますだろう。

レーガン大統領は冷戦時代に「力による平和」を語っていた

日本の自称「識者」はトランプを笑う。「無能だ」「異常だ」と決めつける。だが、彼らはドラッカーの教えを無視している。意図の価値は実務で証明されるのだ。トランプが米露関係を立て直し、ウクライナに圧力をかける姿を見れば、彼の意図が空虚でないのは明らかだ。「識者」の批判は現実を見ないおごりだ。ドラッカーが警告した「分析の放棄」そのものだ。トランプの「力による平和」は日本にも覚悟を求める。日本も目を覚ませ。

トランプの実務が成功するかどうかは、ドラッカーの言う「測定可能な成果」にかかっている。測定可能でなければ、成果を無意味というのが、ドラッカーのもっともな持論だ。和平が実現すれば勝利だ。だが、今はまだ道半ば。ロシアは戦況がみせかけかもしれないが有利だから停戦に消極的みえるし、ゼレンスキーは支援を期待して抵抗する。

これが現実の壁だ。それでもトランプは動く。ロシアに利益をちらつかせ、ウクライナに厳しい選択を迫る。冷徹で論理的なこのやり方は、ドラッカーの語る実行力だ。その先に「力による平和」が待つ。戦争を終わらせ、侵略を抑え込む強さだ。

ドラッカーの「良き意図と実務は違う」をトランプに当てはめれば、彼の取り組みは本物だ。戦争終結という意図は、米露関係の改善や交渉の駆け引きで形になりつつある。さらに「力による平和」で世界の崩壊を防ぐ。これがトランプの狙いだ。意図だけでは何も動かない。実務が現実を切り開く。

石破首相は長々と自ら思う「良き意図」を語るが・・・・・・

トランプをバカにする連中は、この基本を見落としている。彼の実務は彼がそれを認識しているか否かは別にしてドラッカー流の哲学に沿った力強さだ。ただし、成功はまだ不確実だ。さらなる努力と現実への対応が鍵だ。しかし、もう後戻りすることはない。そして、その先に訪れる力の時代に、日本も含めた西側は備えなければならない。目を背けるな。厳しい現実がそこにある。石破首相のように「良き意図」を語っているだけでは無意味だ。

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トランプ氏 ウクライナ鉱物権益で合意も安全の保証は欧州責任―【私の論評】米国がウクライナ支援転換!トランプ政権の真意と日本への影響とは?

トランプ氏 ウクライナ鉱物権益で合意も安全の保証は欧州責任

まとめ
  • 鉱物資源合意と安全保障: トランプ大統領は、28日にゼレンスキー大統領と鉱物資源の権益に関する合意文書に署名予定と発表。一方、米の権益が宇にあることが安全保証につながると述べつつも米ではなく欧州が担うべきだとした。
  • ロシアへの対応: トランプ大統領は、宇の安全は欧州の責任と強調し、停戦協議ではロシアのプーチン大統領も譲歩が必要だと述べた。
  • ゼレンスキー大統領の期待: ゼレンスキー大統領は、米との交渉に期待を寄せ、平和実現には米の継続的支援と力が必要だと訴えた。

トランプ・ゼレンスキー会談 AI生成画像

アメリカのトランプ大統領は、今月28日にウクライナのゼレンスキー大統領が訪米し、鉱物資源の権益に関する合意文書に署名する予定だと発表しました。トランプ大統領は、アメリカの権益がウクライナ国内にあることで、ウクライナの安全確保にもつながると述べつつも、安全の保証については「ヨーロッパが責任を負うべきだ」と強調しました。特に、ウクライナの安全保障に関しては、地理的な近さを理由にヨーロッパが主導するべきだという姿勢を示し、ロシアのプーチン大統領にも譲歩が必要だと指摘しました。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、今週金曜日に予定されているアメリカとの交渉に向けて準備を進めていると述べ、トランプ大統領との会談にも期待を寄せています。ゼレンスキー氏は、アメリカの支援がウクライナの平和と安全の鍵であると強調し、「平和への道には力が不可欠だ」と訴え、引き続きアメリカの支援を求めました。

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【私の論評】米国がウクライナ支援転換!トランプ政権の真意と日本への影響とは?

まとめ

  • 米国の政策転換: ウクライナ侵攻3年目の国連総会特別会合で、米国はロシア非難決議案に反対票を投じ、紛争の早期終結を重視する姿勢を示した。
  • トランプ氏の影響: ゼレンスキー大統領批判を強め、中国対抗を優先する戦略が背景にあり、欧州依存脱却の一貫した姿勢を見せている。
  • 経済・国内事情: エネルギー市場の変動やインフレなどの国内政治的圧力が、米国の対ロシア政策に影響を与えた。
  • 国際的な反応: 欧州諸国は米国の急激な政策転換に追いつけず、スロベニアなどが懸念を表明している。
  • 日本への影響: 日本はブレない姿勢を示しているが、トランプは、ウクライナ戦争の和平条件にこだわるより、今戦争を止め、その後は中国を含むどの国にも侵略を許さない力による平和を求めようとしている。

  • ロシアによるウクライナ侵攻3年に合わせて開かれた国連総会の特別会合=24日

    米国は24日、ロシアによるウクライナ侵攻から3年目を迎えた国連総会特別会合で、ロシアを非難する決議案に反対票を投じた(賛成93、反対18、棄権65)。これまでウクライナ支援を政策の柱としてきた米国が、ここにきて紛争の早期終結を重視する姿勢を明確にしたのである。

    この動きの背景には、トランプ大統領の存在がある。彼は近頃、ゼレンスキー大統領への批判を強め、米政権はロシアとの戦争終結に向けた協議を進めている。トランプ氏はかつて、2018年の国連演説でドイツなどがロシアの天然ガスに依存する姿勢を痛烈に批判していたが、今回の決議姿勢はその過去の発言とは一線を画しているようにもみえる。

    しかし、実は彼の一貫性は揺らいでいない。トランプ氏は2018年当時から中国を最大の競争相手と見なしており、欧州がロシア依存を脱し、力による平和を認識し、軍事費を増やし、もっと強硬に対峙していれば、ウクライナ戦争は防げたという考えを持ち続けているのだ。欧州の力による平和への対応不足に対する苛立ちと、中国への対抗姿勢が、彼の対ロ政策の変化の背後にある。

    2018年国連で演説するトランプ大統領(当時)

    さらに、米国の戦略転換には経済的な事情も絡んでいる。エネルギー市場の変動や国内の政治的圧力が、かつての対ロ強硬路線を揺るがしたといえる。「エネルギー市場の変動」とは、バイデン政権時の2022年以降、ロシア産天然ガスの供給不安や価格高騰が欧州経済を揺さぶり、米国がエネルギー輸出で利益を得る一方、ロシアとの対立がエネルギー安定を脅かすリスクを高めた。ただし、バイデン政権と異なり、トランプ政権では、エネルギー政策を変更しエネルギーによるロシアの優位性は崩れ、交渉における大きな障害の一つが取り除かれたといって良い状況になっている。

    「国内の政治的圧力」は、インフレや経済停滞への不安が高まる中、国民や議会の一部がウクライナ支援のコスト増に反発している現状を意味する。米国は、単一国家として軍事・絶対額で最大のウクライナ支援をしてきた。いつまでも、戦争を長引かせることは明らかに米国にとっては得策とはいえない。こうした声を無視できないトランプ政権は、国内優先の政策を打ちだしたといえる。

    そして、何よりもトランプ氏の頭にあるのは、中国だ。2024年11月、彼の選挙公約は「中国の経済的・軍事的台頭を抑えるため、欧州の紛争にリソースを割く余裕はない」と明言している。側近たちも「ロシアよりも中国封じ込めに集中すべきだ」と語っており、政権のスタンスは明確である(ワシントン・ポスト、2024年12月10日付)。

    その証拠に、同日、米国は国連安全保障理事会で同様の決議案を提出し、賛成10票(ロシア含む)で採択された。しかし、英国やフランスなど欧州5カ国は棄権。この結果に、欧州諸国は危機感を募らせ、トランプ氏の「紛争の早期終結」路線が国際社会でも影響力を増していることを示している。

    フランスのマクロン大統領は同日、トランプ氏と会談し「ロシアへの強硬姿勢が和平に必要だ」と主張した。マクロンに発言を訂正されつつも、トランプ氏はこれを一蹴した。また、スロベニアのズボガル大使はBBCに「米国の急激な政策転換に欧州は追いついていない」と語り、EUが独自の平和戦略を模索する必要性を指摘した(BBC、2025年2月26日)。


    そして今、2月28日にゼレンスキー大統領が訪米し、トランプ氏と会談する予定だ。トランプ氏はウクライナの鉱物資源を活用した経済協定を提案し、紛争の早期終結を狙う。しかし、ゼレンスキー氏は安全保障の保証を求めるだろう。両者の意見が一致する可能性は低く、部分的な進展があったとしても、包括的な合意に至るのは難しいかもしれない。

    一方、日本の石破首相は2月24日、ウクライナが主催した首脳会合にオンライン参加し、「ロシアによる攻撃を強く非難し、ウクライナが関与する形で公正な平和を実現することが重要だ」と声明を出した。日本はブレない姿勢を見せている。ロシアに不法占拠されている北方領土を有する日本として当然の対応かもしれない。

    しかし、米国の動きは日本の政界に動揺を広げている。特に、国連総会特別会合で採択された決議案は、ロシアの侵攻が世界の安定に与える深刻な影響を懸念し、平和的解決を求める内容だったにもかかわらず、米国はロシアを「侵略者」と呼ばず、ウクライナの領土一体性に触れない案を出したが、修正案の採択を受け棄権した。

    結局、米国は国連安全保障理事会でも同様の決議案を提出し、賛成10票で採択された。トランプ氏の影響力が高まり、日本のメディアや政府は米国の急激な政策転換に対応できていない。

    例えば、朝日新聞は2月26日付の社説で「米国の意図が不明確」と困惑を示し、外務省関係者は「ウクライナ支援の枠組み見直しが急務」と漏らしているが、具体策は見えてこない(NHK、2025年2月27日)。

    ただ、トランプ政権がもう後戻りすることはない。戦争によって奪われた領土が平和交渉などで戻って来るようなことは「例外中の例外」に近い稀なケースである。また、国連は2018年のトランプの演説での警告に何らの対応もできなかったし、トランプ氏自身も期待していなかったが、最後通牒として警告を発したのだろう。

    ミンスク合意はウクライナ東部紛争を解決しようとした試みだったが、曖昧さや双方の不信感から失敗に終わりブダペスト覚書のような過去の約束も破られ、結局国連などによる、いわゆる国際社会のルールは理念としては機能するが、現実の力関係を覆すほどの強制力を持たない。NATOは抑止に「何もしなかった」わけではないが、ロシアの侵攻を防ぐには不十分だった。事前の努力はあったものの、結果的に抑止力として機能せず、戦争後の支援にシフトした形だ。それが厳しい現実なのだ。

    そのようなことをさせないためには、力による平和により、最初から領土を奪われないようにするしかない。習近平、プーチン、金正恩も力による平和は理解するが、理念など通用しない。であれば、ウクライナはいつまでも西欧諸国の支援に頼り続けるより、自ら核武装すべきだろう。そうしなければ、和平が成立したとしても、後々再度ロシアに侵攻されないという保証はない。ウクライナには原発が存在し、核兵器の原料プルトニウムが存在し、また旧ソ連の軍事技術を継承したウクライナは、核兵器を製造する技術力もある。

    今は理念を語る、EUや日本の首相もいずれにこれに気づくことになるだろう。ウクライナ戦争の和平条件にいつまでも拘泥するよりも、今の時点で戦争をやめさせ、それ以降の侵略は中国を含めいかなる国にも絶対にさせないという、力による平和を実現しなければ、世界秩序はいずれ完全に崩れ去るだろう。これが、トランプの考えだ。これに対して、日本も含めた西側諸国も、備えを固めなければならない。世界は、再び力による平和が重視される時代に戻るのだ。というより、現在の状況は、ソ連崩壊により、一時小康状態が続いていただけなのかもしれない。

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    岡崎研究所

    まとめ
    • ロシアとウクライナ双方が戦闘終結の意向を示しているが、実際の交渉開始には多くの困難が伴う。
    • ロシアはウクライナの領土併合や非武装化、NATO加盟の放棄など強硬な要求を維持している。
    • プーチン大統領の狙いは、ロシアの大国としての地位確立と国際秩序の改編にあり、ウクライナ侵攻はその一環である。
    • 交渉実現には、ウクライナへの軍事支援強化やロシアに対する制裁強化が必要である。
    • 交渉の課題は、占領地域の扱いや停戦監視体制、ウクライナのNATO非加盟問題など多岐にわたる。

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     ロシアとウクライナの戦争が続く中、ウォールストリート・ジャーナル紙の2025年2月5日付けの解説記事が注目を集めている。同記事は、ロシアとウクライナの双方が戦闘終結に向けた話し合いの意向を示していると報じつつも、実際に交渉を開始するには多くの困難が伴うことを指摘している。

     ロシアのクレムリン報道官であるペスコフ氏は、2月5日に米露間での接触が行われており、最近ではその頻度が増していることを明らかにした。これは、モスクワがウクライナでの戦闘終結に関する米露間の協議が進んでいることを初めて認めた発言である。このペスコフ氏の発言は、両国が紛争終結に向けて話し合う意志を示しているというシグナルとして受け取られ、和平の可能性に期待を抱かせるものであった。

     一方で、アメリカのトランプ元大統領は、ロシアのプーチン大統領に対してますます苛立ちを募らせているようである。トランプ氏とその補佐官らは、ロシアに対する制裁の強化や、ロシアの主要輸出品である原油価格の下落を通じて、モスクワに譲歩を迫る計画を打ち出している。しかし、プーチン大統領は公の場ではトランプ氏を称賛する姿勢を見せ、2020年の米大統領選挙が「盗まれた」とするトランプ氏の虚偽の主張にも同調している。さらに、もしトランプ氏が大統領であればウクライナ紛争は起きなかったかもしれないとの発言も行っている。しかし、こうした言動にもかかわらず、プーチン大統領はトランプ氏の和平提案に対しては全く関心を示しておらず、ウクライナ侵攻時に掲げた強硬な要求から一切譲歩していない。

     プーチン大統領の要求は、ウクライナの州や主要都市のすべてをロシアに併合し、ウクライナを非武装化して、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を永遠に放棄させ、事実上ウクライナを「残りかす国家」と化すというものである。このような強硬姿勢は、和平交渉を進めるうえで大きな障害となることは明白であり、仮に交渉が開始されたとしても、ロシアが戦闘で得たウクライナ領土を保持するのか、あるいは制裁緩和を得られるのかといった問題に直面することは避けられないであろう。

     また、ウクライナの将来像も大きな課題である。西側諸国の安全保障体制の中で、ウクライナをどのように位置づけるのか、またロシアが再び攻撃を仕掛けないことをどのように保証するのかという難題が残ることになる。ウクライナ戦争が始まってから約3年が経過し、ようやく停戦や終戦に向けた交渉が現実的な課題として取り上げられるようになった。ここで注目すべきは、交渉が実現する可能性と、その成否を左右する要素である。

     プーチン大統領の真の狙いは、単なるウクライナ領土の一部獲得ではない。彼が望んでいるのは、ロシアが「大国にふさわしい地位」を確立することであり、国際秩序をロシアに有利な形に改編することである。ロシアの影響力を旧ソ連圏に再構築し、欧米諸国やNATOに対して優位に立つことを目指しているのである。ウクライナへの侵攻は、プーチンの壮大な戦略の一部に過ぎず、彼の最終目標はさらに遠大なものであることを見逃してはならない。

     現在、ロシア軍は特に地上軍が疲弊しており、戦争経済も長期的な持続性を欠いている。兵員や武器の供給も新たな戦線を開くには不十分な状況である。しかし、プーチンの決意は変わらず、ウクライナ戦争がロシアによる新たな侵略を防ぐ実効的な仕組みを構築することなく終結するならば、ロシアは態勢を立て直したうえで、再び侵略を開始する可能性が高い。

     一方で、交渉を開始するためには、ウクライナへの軍事支援の強化や、ロシアに対する制裁の強化が必要である。プーチンに対して戦略環境がロシアにとって不利であると認識させ、交渉の必要性を感じさせなければならないのである。交渉を成功させるためには、まず交渉を開始するための圧力をかけることが求められるのである。

     停戦交渉が実現した場合、最も大きな論点の一つは、ロシアが実効支配するウクライナの占領地域をどのように扱うかという問題である。ロシアはこれらの地域を自国領土として法的に認めさせようとするだろうが、ウクライナと西側諸国はこれを容認することは難しい。また、停戦ラインの確定や、停戦監視の方法、ウクライナのNATO非加盟問題など、解決すべき課題は山積している。

     特に、停戦監視部隊の役割については、仮にロシア軍が攻めてきた場合に戦う覚悟が必要であり、単なる監視にとどまるようでは、過去のミンスク合意のように形骸化する恐れがある。また、ロシアが求める「ウクライナの中立」には、NATO非加盟のみならず、ウクライナの非軍事化や、ロシアの影響力を行使する権利まで含まれており、受け入れがたい内容である。

     総じて、ウクライナ戦争の終結に向けた交渉は、表面上のシグナル以上に多くの障害を伴っている。プーチン大統領の戦略的野心と、ウクライナや西側諸国の安全保障上の利益の間には、依然として深い溝があり、交渉開始から実際の和平合意に至るまでの道のりは険しいものである。しかし、戦闘が続く中で和平の可能性が語られること自体が、状況の変化を示していることも事実である。

     この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

    【私の論評】トランプ氏激怒!プーチンへの強硬批判と報復策―破滅的経済制裁・ウクライナ支援・露外交孤立化の可能性

    まとめ
    • トランプ氏のプーチン大統領への怒りは、近年の発言や行動から着実に増幅している。
    • 2025年1月22日の『トゥルース・ソーシャル』で、トランプ氏はプーチン大統領を名指しで批判し、「彼はロシアを破壊している」と断じた上、高関税や追加制裁を警告した。
    • 2025年2月14日の記者会見では、プーチン大統領との交渉で一部進展があったものの、ウクライナのNATO加盟を阻止するとの現実的悲観論を示し、強硬姿勢に対する苛立ちを露呈した。
    • 2025年1月28日のプーチン大統領訪問時に、トランプ氏は「馬鹿げた戦争を今すぐ止めろ」と強烈に警告し、経済的圧力を強化する意向を示した。
    • これらの事例から、プーチン大統領が和平条件を無視し軍事行動を継続するならば、トランプ氏は経済制裁の強化、ウクライナ支援の拡大、外交的孤立化を組み合わせた報復措置を取る可能性が高いと同時に、日本のマスコミ報道だけに依拠しては現状を正確に把握できないとの警告もある。
    上の記事にも一部示されているが、トランプのプーチンに対する怒りは、さらに増幅しつつあるようだ。

    怒るトランプ大統領

    まず、トランプ氏は2025年1月22日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、ウクライナ戦争に関してプーチン氏を名指しで批判し、「彼はロシアを破壊している」と述べました。この発言は、トランプ氏がプーチン氏の政策や行動に明確な不満を抱いていることを示すもので、従来の友好的なトーンからの変化を感じさせる。さらに同投稿で、トランプ氏はロシアに対して「高関税と追加制裁」を警告しており、ロシアが和平に応じない場合に経済的圧力を強める姿勢を明らかにしています。この強い言葉遣いと具体的な脅しは、プーチン氏への苛立ちがエスカレートしている証拠と言えるだろう。

    また、2025年2月14日の電話会談後の記者会見でも、トランプ氏はプーチン氏とのやり取りに一定の進展を認めつつ、「ロシアはウクライナのNATO加盟を許さないだろう」と現実的な悲観論を述べています。この発言からは、プーチン氏の頑なな態度に対する諦めと苛立ちが混じったニュアンスが感じられ、和平交渉の難航に対する不満が透けて見える。特に、トランプ氏が就任早々に「1日で戦争を終わらせる」と豪語していたにもかかわらず、プーチン氏が強硬姿勢を崩さない状況が続いていることは、トランプ氏にとって期待外れであり、苛立ちの原因となっている可能性が高い。

    さらに別のエピソードとして、2025年1月28日にプーチン氏がサマラの無人航空機システム研究センターを訪問した際、トランプ氏は「馬鹿げた戦争を今すぐ止めろ」と異例の強い警告を発している。この発言は、ロシア経済がインフレや制裁で疲弊しているにもかかわらず、プーチン氏が戦争継続に固執する姿勢に対する直接的な非難であり、トランプ氏の苛立ちが公然と表面化した瞬間と言える。報道によれば、トランプ氏はこのタイミングでプーチン氏に対し、経済的「恩恵」をちらつかせつつも、応じなければ制裁を強化すると圧力をかけているが、プーチン氏の反応が冷淡であることがトランプ氏の苛立ちをさらに増幅させていると考えられる。

    サマラの無人航空機システム研究センターを訪問したプーチン大統領

    これらの事例から、トランプ氏の苛立ちは、プーチン氏が表面的には友好的な態度を示しつつも、実際にはトランプ氏の提案する和平条件を無視し、ウクライナでの軍事行動を続けている点に集約されているようだ。トランプ氏は自身の交渉力に自信を持っているだけに、プーチン氏の非妥協的な態度がその自負心を傷つけ、感情的な対立を深めていると推察される。こうした状況は、両者の関係がかつての協力的なものから、緊張感を帯びたものへと変化していることを示唆している。

    プーチン大統領が表面的に友好的な態度を示しつつも、トランプ氏の提案する和平条件を無視し、ウクライナでの軍事行動を継続する場合、トランプ氏の報復は経済制裁の強化から始まる可能性が高い。トランプ氏は過去、2018年のイラン核合意離脱後に「最大限の圧力」として経済制裁を効果的に活用した実績があり、プーチン氏に対しても同様のアプローチを取るのは自然な流れだ。

    同時に、トランプ氏はウクライナへの軍事支援を拡大する形で間接的な報復に出る可能性もある。2025年1月29日の報道では、米軍がイスラエルからペトリオット防空システムをウクライナに輸送したことが確認され、2月14日の記者会見では「ウクライナに平和をもたらす支援を続ける」と述べている。これにより、ロシア軍に打撃を与える装備—例えば長距離ミサイルやドローンの供与—を増やし、プーチン氏の軍事行動を牽制する意図が読み取れる。X上では2月23日に「トランプが裏切られたと感じればHIMARSを追加供与する」との声もあり、彼の「強いリーダー」イメージを保ちつつ直接戦闘を避ける方法として現実的だ。

    ハイマース

    さらに、外交的孤立化もトランプ氏の報復手段として浮上している。2025年2月16日のG7首脳会談で、彼は「ロシアとの貿易を制限する共同声明」を提案したと報じられ、他の主要国を巻き込んでプーチン氏を国際社会で孤立させる動きを見せている。2019年の中国との貿易戦争で同盟国を動員した経験からも、この多国間圧力は彼の得意分野と言える。ただし、直接的な軍事行動には慎重で、2月16日のスピーチで「第三次世界大戦は誰も望まない」と強調し、プーチン氏が2024年11月に発した核を含む報復警告を意識している様子がうかがえる。

    結論として、プーチン大統領が和平の道を完全に遮断し続けるならば、トランプ氏は経済制裁の強化、ウクライナ支援の拡大、さらには外交的孤立化を組み合わせた報復措置を実行する可能性が極めて高い。これらの手段は、彼自身の政治的リスクを最小限に抑えつつ、交渉力を保持するための戦略として極めて合理的である。しかし、もしロシアがウクライナにおいて決定的な勝利を収め、トランプ氏の提案を嘲笑うような状況に陥れば、彼のプライドがさらなる強硬策を誘発する可能性も否定できない。

    それにもかかわらず、現時点ではトランプ氏は「取引の達人」として、冷静かつ計算されたアプローチを堅持する姿勢を崩していない。なお、日本のマスコミ報道だけに依拠しては、世界の複雑な交渉状況やその裏側を正確に把握することは極めて困難であり、多角的な情報源から現状を精査する必要がある。

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