2022年4月19日火曜日

ロシアへのさらなる経済制裁は課されるのか―【私の論評】日米ともに最終的にロシア制裁はエネルギー分野に踏み込むしかない(゚д゚)!

ロシアへのさらなる経済制裁は課されるのか

岡崎研究所

 4月2日付の英Economist誌が、西側の先例のない厳しい経済制裁を課せられたロシア経済の現状を紹介し、期待されたほどの大きな打撃が生じている訳ではないと述べている。

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は先例のない厳しい経済制裁を招くとのバイデンの警告は、プーチンの蛮行を抑止することにはならなかった。ロシアのウクライナへの侵攻に対して、西側は文字通り先例のない経済制裁を発動したが、試されているのはプーチンに蛮行を断念せしめるために経済の力を使う西側の能力である。


 一連の制裁のなかでも最も破壊的な威力を持つと見られているのが、中央銀行の資産の凍結という先例のない措置である。ロシアにとってロシア中銀が保有する外貨準備は制裁に耐えるための有効な手段になるはずであったが、ロシア財務相によれば、6400億ドルの準備資産のうち約半分が西側諸国による資産凍結のために使えない状態にある由である――中国にある人民元建ての資産を中国がどうするか注目されるが、期待は持てない。

 恐らく、プーチン政権が恐れるのはルーブルの崩壊(それがハイパーインフレを惹起すれば市民生活を直撃する)のようである。ルーブルは侵攻前には1ドルが75ルーブル程度であったが、3月7日には、150ルーブルに下落したことがある。

 ルーブルを買い支えようにも中銀の資産が凍結され思うに任せない。そこで、金利を引き上げた。輸出による外貨収入の80%をルーブルに転換するよう命じた。外国の投資家による株式の売却を禁じた。「非友好国」にガスの代金をルーブルで支払うよう要求しているのもルーブルの買い支え努力の一環であろう。

 このような状況を見て、西側の制裁は利いているとする論評も目にする。今後、じわじわと影響が広がるのかも知れないが、目下の実体経済の状況といえば、エコノミスト誌の記事にあるように大打撃が生じている様子はないということであろう。ロシアの努力の効果であろうか、ルーブルも1ドル85ルーブル程度に戻し、侵攻前の水準に近くなっている。

やはり、エネルギー分野に踏み込むしかない

 そうであれば、ロシア経済に更なる圧力を加える方策如何ということになる。それは、この記事が示唆するように、エネルギー分野に踏み込むかどうかということにならざるを得まい――これまでのところ、欧州のエネルギーのロシア依存の故に制裁は非エネルギーの分野に限定されている。放置すれば、ロシアは外貨準備を再び蓄積し、輸入能力を拡大することが出来る。

 欧州がロシアの原油の輸入を止めても、他にこれを買う国が常にあろうが(もっとも買い叩かれるのでロシアの収入減となり痛手にはなる)、ガスは様子が異なる。ロシアのガスの輸出にはインフラ(パイプライン)を必要とすることから、主たる買い手は欧州に限定されている。従って、欧州がガスの輸入を止めることが出来れば、ロシア経済を痛撃出来る。

 西側の制裁の信頼性がかかっていると論ずる向きもあるが、そうはなりそうにない。ドイツのショルツ首相は、欧州は公共サービスや市民生活に必要なエネルギーをロシアからの供給以外の方法で確保は出来ないと述べて、その可能性を否定している。目下のところは、ガス供給源の多様化と再生エネルギーへの転換を含むロシア依存抑制のための欧州連合(EU)全体の努力に待つしかないらしい。

【私の論評】日米ともに最終的にロシア制裁はエネルギー分野に踏み込むしかない(゚д゚)!

上の記事で、最終的にエネルギー分野に踏み込むしかないとしていますが、この見立ては正しいと思います。

実際、ロシアのプーチン大統領の経済問題担当首席顧問を以前務めたアンドレイ・イラリオノフ氏は17日までに、西側諸国がロシア産原油の全面的な禁輸に踏み込んだ場合、ウクライナでの戦闘を即座に終結させ得るとの見解を明らかにしました。


同氏は英BBC放送の最近の取材に、「本当の意味での禁輸」を仕掛ければ、ウクライナでの軍事作戦は恐らく、「1、2カ月」で止まるだろうとも述べていました。

イラリオノフ氏はCNNのの取材に、全面的な禁輸発動について「クレムリンの政策決定過程に影響力をもたらす、非軍事面で極めて重要な対応策」と強調しました。

その理由は非常に単純とし、「現段階でロシアが原油や天然ガスの輸出で稼ぐ収益はロシアの全ての歳入の約4割を占めるとみなされる」と指摘。「連邦予算の編成では多分、全ての歳入源の6割近くまで達する」と指摘しました。

同氏は、これら歳入がロシアのエネルギー輸出に対する全面的な禁輸で相当な規模で減らされたとしても、「中国に加えほかの小規模な輸入国が一部おり、我々は全面的な禁輸ではあり得ないと考えるだろう」とも説明しました。それでも、ロシア産のエネルギー源の大手の輸入国の大半に影響を与えることにはなるとしました。

また、ロシアが経済制裁を受けて金融市場を利用出来ず、ロシア中央銀行の外貨準備高が凍結されている現状を踏まえ、プーチン政権は財政支出を賄う財源を持っていないとも説明。「全ての支出額が40~50%削られ、この圧縮幅は1990年代にも見られなかった水準になる」としました。

同氏はこれらの考察を踏まえ、プーチン政権は軍事作戦を止め、ウクライナとの間で何らかの停戦の枠組みや交渉を模索する局面に追い込まれるだろうとも予測しました。

ただ、エネルギー分野における制裁は即効性が期待できるということであり、他の制裁もじわじわと効いていくのは間違いないです。

たとえばルーブル利上げで、一時的には、安定したようにはみえますが、後々は大変なことになります。利上げ早くやり過ぎれば、ロシア経済潰す可能性が大きいです。現状で利上げをすれば、インフレが続く中で、企業の資金繰りが苦しくなり、企業倒産が増え、所得も減り、酷いスタグフレーションになるのは目に見えています。

これは、経済制裁への対応という以前に政策ミスであり、ロシアは経済的に自爆したと行っても良いですしょう。それは、過去に通貨安に悩んだ国の対応ではもはっきりしています。利上げなどせすに、市場に任せた場合は、いっとき苦しくてもなんとかなっています。しかし、利上げなどをした場合は、それが経済に悪影響を与え、立ち直るまでにかなりの時間を要するようになります。ルーブルは市場に任せた方が無難でした。

これは、ロシア側の完全な失敗であり、ロシア経済の低迷はこれから長く続くでしょう。プーチンは経済もわからないし、現状ではプーチンに経済に関してまともなアドバイスをする人もいなくなったようです。日本でも、円安だから利上げしろなどという愚か者もいますが、プーチンもこれと同次元の愚か者です。

これは、経済指標の一つだけ見て、他にどのような波及効果があるのか、見れない典型例です。日本でも「円安」という一事象だけ見て、他の事象を見ずに騒ぐ人もいますが、これはプーチン並みのポンコツとしか言いようがありません。

そうして、エネルギー分野における制裁は、日米の首脳が決心さえすれば、意外と簡単にできます。

昨年英グラスゴーで対面した岸田首相(左)とバイデン大統領

それは、以前もこのブログに掲載しましたが、日本の場合は安全な原発の速やかな稼働です。これを稼働させれば、日本では原野や天然ガスが余剰となります。その余剰分をEUに囘すのです。

そうして、米国ではバイデンが禁止したシェール・オイルの生産を再び開始して、米国内の需要を賄うとともに、EUにも輸出するのです。

さらに、ロシアへの制裁は今後長く続きそうなので、それに備えて、小形原発の開発を推進するのです。これは、小形であるがゆえに、工場でほとんどを製造して、現場には据付だけですむという優れもので、工期は従来の原発と比較するとかなり短縮できます。

さらに、核燃料を冷却する電力も少なくてすみ、さらに事故などで原発を冷却する必要性が生じたとしても、放置しておけば、自然冷却します。従来の原発から比較するとかなり安全です。

日米のトップは間近に選挙も控えています。日本では夏の参院選、米国は秋の中間選挙です。

両首脳とも、このような動きをみせてロシアを制裁すれば、環境派や原発反対派から、最初は反対の声もあるかもしれません。

しかし、良く考えてみれば、環境派からみれば、戦争ほどCO2や他の汚染物を排出して、環境を汚染するようなことは他にはないと考えられます。

ロシアによるウクライナ侵攻により、両国のみならず欧米諸国を中心に軍備を増強する動きが加速しています。これにより大量の化石燃料が燃やされて温室効果ガスの放出量が増えるのみならず、喫緊の課題であったはずの気候変動から目がそれてしまう懸念が指摘されているところです。

実際、航空機や戦車などの燃料が燃やされ、銃や機関銃から弾が大量に発射されれば、CO2を含む多くの汚染物質が排出されるのは間違いないです。大型の爆弾やミサイルが爆発すれば、これも凄まじい勢いで、汚染物質を撒き散らすことになるでしょう。

ウクライナ東部で発生した弾薬庫の大爆発

ここで、バイデンがエビデンスをもって、ウクラな戦争が継続されるよりも、米国が一時的でもシェール・オイル・ガスを製造して国内需要を満たすほか、EUにも輸出することで、戦争が継続されるよりは、自然環境にとって良いことを示し、実際にそのようにすれば、これはロシアに対してより厳しい制裁になり、戦争を早く終わらせることにつながります。

日本では、「原発停止=安全」という神話がまかり通っているようですが、燃料棒がそこにある限りは、リスクがあることには変わりありません。であれば、安全と確認された原発は稼働させるべきです。

岸田総理は、このままだと、ブラックアウトが起こるかもしれないこと、さらにはウクライナ問題でエネルギー危機はしばらくは続くことなどのエビデンスを示し国民を納得させるべきです。

GDP世界第一位の米国と第三位の日本が、自国内エネルギーの自給率を高めて余剰分をEUに囘すようになれば、国内のエネルギー需要は満たせるし、EUも助かるし、選挙戦も有利に戦えるかもしれません。

選挙のことは脇においておいても、ロシアに対しては有効な制裁をして、一日も早く戦争を終わらせるべきです。

両首脳、いつまでもエネルギー政策を転換しないというのなら、ウクライナ危機は放置し、国内のエネルギー需要を逼迫させ、ロシアを利して、日米を危うくすることになります。

一日も早く、両首脳ともエネルギー分野に踏み入ってロシアを本格的に制裁すべきです。

そうしなければ、両首脳とも、国内のエネルギー問題は放置し、ロシア制裁も効果なしということで、国民の反発は必至です。


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2022年4月18日月曜日

ロックダウン3週間…上海〝暴動寸前〟 世界の規制解除と逆行の習指導部「ゼロコロナ」政策へ不満 「専門家の話聞かない、政治的な病」の声も―【私の論評】ウクライナ危機、中国のゼロコロナ政策の失敗の二大リスクに岸田総理は対処できるのか(゚д゚)!

ロックダウン3週間…上海〝暴動寸前〟 世界の規制解除と逆行の習指導部「ゼロコロナ」政策へ不満 「専門家の話聞かない、政治的な病」の声も

中国の上海市が新型コロナウイルス対策でロックダウン(都市封鎖)を始めてから18日で3週間。当局の厳しい対応や食料不足が発生し、住民と警察との衝突も起きている。世界の規制解除と逆行する習近平指導部の「ゼロコロナ」政策への不満も高まる一方だ。


上海市浦東新区で14日、国有企業が開発したマンションを政府が隔離施設にするため立ち退きを強制されたことに住民らが反発した。防護服姿の警察官が住民を引きずり倒し、地面に押さえ付ける動画がSNSで拡散したが、当局が削除したとみられる。香港メディアによると、当局は隔離施設への変更を断念したという。

別の隔離施設とみられる場所では、大勢の人が「外に出たい」と警察官らに怒りをぶつける動画も出回った。

4日以上食事をしていないという男性が警察の派出所に助けを求めた際の録音も注目を集めた。男性は「始皇帝のころ、庶民はなぜ反乱を起こしたのかわかるか。自ら飢えを体験して初めて、造反しなければと気付くんだ」と話したという。

父親が4日間透析を受けられずに死亡したとの投稿や、女性看護師がぜんそくの発作を起こしたが治療を受けられず死亡した例もあった。

今月上旬、飼い主を乗せた車を追いかけたコーギー犬が防護服の人物にシャベルで殴られ、血を流して動かなくなった動画も出回った。飼い主は感染が判明して隔離施設に移送されるところだった。殺したのは町内会に相当する組織の関係者で、組織側は「コロナウイルスがいるのではないかと恐れた。配慮が足りなかった」と釈明した。

上海で16日に新たに確認された感染者が2万4820人で、2日連続で増加したが、約87%は無症状だ。

赤松秀一・駐上海日本総領事は15日付で、中国上海市に拠点を置く日系企業が「広範にわたって深刻な影響を受けている」と窮状を訴える書簡を市政府に提出した。

習主席は、10~13日に海南省を視察した際にゼロコロナ政策に触れ、「油断、厭戦(えんせん)気分、気のゆるみを克服しなければならない」と指示した。陝西省西安市や河南省鄭州市などで新たに移動制限に踏み切る都市が相次ぎ、中国の45都市で何らかの封鎖措置がとられている。

「われわれ専門家の話をだれも聞かない。いま、この病は政治的な疾病になっている」。上海の疾病予防管理センターの医師による発言とされる録音が拡散し、当局は調査を始めた。

【私の論評】ウクライナ危機、中国のゼロコロナ政策の失敗の二大リスクに岸田総理は対処できるのか(゚д゚)!

このブログにも掲載したように、ユーラシアグループが出した今年の地政学的リスクNo. 1は、実は中国のゼロコロナの政策の失敗です。ロシアのウクライナ侵攻による地政学的リスクはNo.5でした。

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今まさにそれが現実化しつつあります。これから数ヶ月の中露の経済動向は日本経済にも大きな影響を与えることが十分に予想できます。より注意深く見ていく必要があり、先手先手の対策が必要です。特に、岸田総理は、菅前総理や、公明党の山口代表からも「補正予算を組むべき」と提言されているにもかかわらず、未だその動きをみせていません。

これは、以前このブログで述べたように、これは素人より始末に悪いです。とにかく、現在はすぐに補正予算の議論をすべきです。

オミクロン株は従来型よりも毒性が低く、重症化リスクは低いが、そのもとで中国政府が、経済を犠牲にしてでもロックダウンを通じて感染封じ込めに努める「ゼロコロナ政策」を続けていることについて、内外から懐疑的な見方も出ています。

この過剰とも見える「ゼロコロナ政策」がとられていることについて、重症化しやすい高齢者のうちワクチン未接種者が多いことや、国内企業のシノファームとシノバック・バイオテックが開発したワクチンには、不活化ウイルスが使用されているが、それは モデルナ、ファイザーなどが開発したメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンに比べて、オミクロン株感染に対する効果が劣ることがその理由、との指摘もあります。

さらに、中国が他国に比べて感染者を少なく抑え込んできたことが、中国政府にとってはまさに大きな成功体験であり、また習近平体制が優れていることの証である、と政府がアピールしてきたことから、今さら軌道修正できなくなっているという面もあります。

上海は国際金融センターであるとともに、多国籍企業の多くが中国本社と工場を置いている場所です。米電気自動車(EV)大手テスラは3月28日に、上海工場の生産を停止しました。さらに上海には、国内最大でコンテナの取扱量では世界トップの上海港がありまう。

ロックダウンの影響で港湾業務は滞っており、中国の主要港の沖で待機するコンテナ船の数は、2月から2倍近くに増えました。配送担当の運転手への厳格な感染対策で貨物の積み下ろしに遅れが出て、入港を待つ船が増えているのです。

こうした事態は、中国経済だけでなく、サプライチェーンを通じて海外の経済にも打撃をもたらしています。世界のサプライチェーンは電子機器だけでなく、肥料から医薬品に至るまで、上海からの輸入に大きく依存しています。

ちなみに上海市のGDPは、中国全体の4%を占めています。他方、ロシアのGDPは中国のGDPのちょうど10分の1であることから、上海市のGDPはロシアのGDPの4割程度の規模に達することになります。ロシア経済の縮小と上海市経済の縮小とが、世界経済の成長率を顕著に押し下げているのです。

これが、上海だけで済めば良いですが、中国全土に波及することにでもなれば、その影響はロシア経済の縮小の10倍になります。そうなれば、ユーラシア・グループの予想のように、中国のゼロコロナ失敗による地政学的リスクのほうがはるかに甚大なものになります。

そうして、中国の「ゼロコロナ政策」とウクライナ紛争の大きな接点となっているのが食料供給です。ウクライナ紛争は、ロシアとウクライナの小麦の輸出に大きな打撃を与え、既に価格高騰をもたらしています。そうして、中国の「ゼロコロナ政策」は、中国での穀物の作付けの大きな障害となっており、世界の穀物需給を逼迫させる可能性が出てきています。

中国の小麦の収穫

ウクライナは2013年以降、中国にトウモロコシを輸出しており、中国では、ウクライナ産トウモロコシの輸入比率が最も高くなっていました。そうした中で起きたのがウクライナ紛争であす。

中国にとって重要な家畜飼料であるトウモロコシのウクライナからの輸入が止まってしまいました。そこに重なる形で生じたのが、「ゼロコロナ政策」の影響です。中国の主要農業地域の多くが重要な春の作付けに備える中、肥料、労働力、種子の深刻な不足に見舞われています。

また、都市部のロックダウンで多くの出稼ぎ労働者が行動を制限され、農村部の作付けに戻れなくなっています。仮に戻れたとしても、14日間の隔離期間を経なければ作業に取りかかれないのです。

このようにして、コメやトウモロコシなど春に作付けする穀物の生産量が減少すれば、中国は穀物調達のため海外からの輸入拡大を強いられます。それは、新型コロナウイルス問題や、ウクライナ問題によって既に高められている食料インフレの傾向を、さらに加速させてしまうでしょう。

それは多くの国で一段の物価高を生じさせ、家計への打撃となる。さらに低所得国では深刻な食料不足問題を生じさせる可能性もあるだろう。中国の「ゼロコロナ政策」は、このような経路でウクライナ問題と結びつき、世界経済の問題をより複雑にしているのです。

以上は、食糧に関連すことを述べたましたが、これは食糧がもっとも世界経済に対してインパクトがあると考えられることから、そうしたのですが、無論他の分野でも、日本も危機的な状況になることは十分に考えられます。

岸田文雄首相は15日の参院本会議で、物価高騰対策を巡り、今国会中の2022年度補正予算案の編成に重ねて慎重姿勢を示した。野党議員に早期編成を求められ「まずは予備費を活用した迅速な対応を優先する」と述べました。

補正予算案を巡っては立憲民主党や国民民主党のほか、公明党が早期の編成を求めています。

首相は月内にまとめる緊急対策について「原油価格や物価の高騰による国民生活、経済活動への影響に機動的に対応する」と強調しました。

これに対し、立民の泉健太代表は15日の記者会見で、今国会での補正予算編成を重ねて求めました。「予備費だけの小規模な経済対策では国民生活を守ることはできない。審議を回避している」と指摘しました。同時に予算委員会での集中審議や、党首討論の実施を与党側に要求する考えを示しました。

先日もこのブログで述べたように、政府の統計資料などからも、現在日本では需給ギャップが30超円以上もあることから、たとえウクライナ危機、中国のゼロコロナ政策の失敗による危機がなかったにしても、補正予算を組むべきことは明らかであり、それにさらなる危機が加わるわけですから、100兆円くらぃの補正予算を組んでも良いくらいです。

この財源は、国債を発行することによって賄うことは十分に可能です。

仮にそうして、様々な危機を脱したあとで、補正予算が余ったとしても、国土強靭化などに用いれば、全く問題はありません。

一昨日もこのブログで述べたように、たとえそうしたとしても、そもそも政府の借金が増えるなどということもありませんし。ハイパーインフレになることもありません。むしろ、穏やかなインフレとなり、日本は完璧に、デフレから脱却することになり、ウクライナや中国の危機があつても、日本はそれを簡単に乗り越え、黄金期を迎えることになるでしょう。

それにしても、岸田総理「予備費」ばかり強調し、補正予算に関しては非常に消極的です。本来は今こそが、大規模な補正予算を組むべきときであって、現在組まなければ、一体いつ組むのと言いたいです。


岸田総理の経済センス、素人より始末に悪いです。岸田総理はそれを自覚して、経済政策に関しては、自分の頭で考えることはやめて、財務省や日銀の官僚の言うことも聴くのをやめ、安倍元総理や、菅前総理の言う通りにしたほうが、良いです。そのほうが、余程良い政策ができます。岸田総理!ここは、自我を殺し、国民のためにまともな経済政策を実行してください。

いままま、補正予算を組まずに、予備費5兆円だけですませば、半年後には確実に失業率が増えます。民主党政権末期のように、派遣村が全国各地で設営され、テレビでも放映されることになるでしょう。

そうなれば、岸田政権が崩壊するのは、無論のこと、自民党が政権の座に収まり続けることも難しくなるかもしれません。そのようなことだけは、避けるべきです。何しろ、現状では政権交代が起こった場合、かつての民主党政権のように何もきめられず、漂流するか、そこまでいかなくても政権の座を護ことが精一杯でということになると思います。

2015年のような安保法制の改正のようなことはできなくなります。これは、安倍政権が比較的安定していて、政権の座を守るためということであれば、あのようなことはすべきではないのですが、それでも敢えて実行しました。野党政権になれば、そのようなことはできくなります。

ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策の失敗のリスクが重なり、甚大な悪影響を受けそうな現在では、そのようなことは絶対にすべきではありません。そうすれば、日本はまた失われた30年に突入し、その間賃金が上がらず、私達や私達の後輩や子供や孫の時代まで、30年前の賃金と同水準で甘んじなければならなくなるかもしれません。

それこそ、現在紛争中にあるウクライナの戦争が終わり、戦後の日本のように、急成長して、30年後には、日本人の賃金水準よりもウクライナ人のそれを下回るようになるかもしれません。そのようなことだけは、避けるべきです。

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2022年4月17日日曜日

日本の軍事・安全保障研究を長年阻んできた「考えずの壁」 事前審査は科学者の意欲を削ぐ―【私の論評】問題の本質は、学術会議理事会メンバーの多くが、一般社会常識に欠けること(゚д゚)!

日本の解き方

昨年4月に行われた日本学術会議の総会


 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、軍事や安全保障研究の重要性が改めて意識されている。日本の学術界でこうした研究が忌避されてきた背景や、今後どのように改革すべきかを考えてみたい。

 日本の「非核三原則」は、しばしば「非核五原則」といわれる。①持たず②作らず③持ち込ませず―のほかに、④言わず⑤考えず―もあると揶揄されているのだ。④は言論の自由、⑤は学問の自由に反するが、筆者が役人当時は「非核五原則だから、言葉に気をつけろ」と言われていた。

 日本の安全保障研究はまさに、「考えずの壁」に阻まれてきた。日本学術会議のホームページをみると、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明(1950年)、「軍事目的のための科学研究を行わない声明」(67年)、「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年3月24日)がしっかりと書かれている。

 学問の自由を守るべき日本学術会議が「考えず」を科学者に強いてきたのではないか。

 ちなみに、憲法23条で「学問の自由は、これを保障する」と定めている。一方、非核三原則は法律の根拠もない、首相の国会答弁に基づく政府の指針である。さらに、④言わず⑤考えずは、誰かが言い出したのかも明確でなく、単なる雰囲気でしかないが、⑤については日本学術会議が研究者に影響を与えているといえそうだ。

 海外において、安全保障研究を制限する動きを学会が行うかといえば、筆者は寡聞にして聞いたことがない。世界で普遍的な学問の自由に抵触するからだ。一部の人がそうした声を上げることはあっても、個々の学者の良心に委ねられており、学会全体で決定することはまずないだろう。

 そもそも科学技術の多くはは、軍事的にも民生的にも使えるものだ。ノーベル賞は、ダイナマイトを発明し巨額の富を得たノーベルの遺産に基づくものだが、そのダイナマイトはそもそも軍民両用だ。ダイナマイトに限らず、およそ全ての科学技術が軍民両用だとの見方もできる。

 一方、日本学術会議はデュアルユース(軍民両用)の研究を認めないとの指摘もある。「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである」との見解を示しているが、研究者は本能的に興味があるものを研究する人たちなので、事前審査があるだけで研究意欲はなくなるものだ。

 実際のところ、研究段階では軍事用なのか民生用なのか識別困難だ。科学技術全体に多くの研究資金を用意し、研究者には一所懸命研究してもらう。民生用ならばそれでいいし、仮にその一部が軍事用になっても、実際の行使の段階で政治判断に委ねたほうがいい。

 全ての科学者が軍事研究しなければいいというのでは、科学技術研究を否定してしまう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】問題の本質は、学術会議理事会メンバーの多くが、一般社会常識に欠けること(゚д゚)!

2020年当時の菅総理は、日本学術会議の会員候補6人を任命しませんでした。これについては、当時も様々な論議がされていましたが、一部を除いてほとんどがピンボケというか、そもそも人事とは何のためにあるかも理解していないような議論が多く、それは現在に至るまで同じです。


そのため、当時も人事の本質について掲載したのですが、本日はそれをさらに補足した形で再掲したいと思います。

人事の本質については、ドラッカー氏は以下のように語っています。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)
上では「企業の精神」という言葉を使っていますが、これは民間企業ではなく、あらゆる組織にあてはまります。実際、ドラッカーは他の著書では「組織の精神」という言葉を使っています。ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。

コントロール手段としては、様々なものがありますが、真に力のあるコントロールとは人事の意思決定です。

それは組織が信じているもの、望んでいるもの、大事にしているものを明らかにします。

人事は、いかなる言葉よりも雄弁に語り、いかなる数字よりも明確に真意を明らかにします。

組織内の全員が、息を潜めて人事を見ているのです。小さな人事の意味まで理解しています。意味のないものにまで意味を付けます。この組織では、気に入られることが大事なのか、あるいはそうでないのか、探ろうとします。

“業績への貢献”を企業の精神とするためには、誤ると致命的になりかねない“重要な昇進”の決定において、真摯さとともに、経済的な業績を上げる能力を重視しなければなりません。

これは、無論民間企業のことですが、非営利組織の場合は、経済的な業績というところを「組織の使命を追求する」と言い換えるとわかりやすいです。実際、ドラッカーは非営利企業組織については、そのような言い方をしています。ですから、この原理は、もちろん「日本学術会議」の人事にもあてはまることです。

致命的になりかねない“重要な昇進”とは、明日のトップマネジメントが選び出される母集団への昇進のことです。それは、組織のピラミッドが急激に狭くなる段階への昇進の決定です。このトップマネジメンに関しては、民間企業で良く用いられる言葉ではありますがこれも同じことであり、非営組織であれぱ、意思決定機関である理事会メンバーなどを指します。

そこから先の人事は状況が決定していきます。しかし、そこへの人事は、もっぱら組織としての価値観に基づいて行なわれます。
重要な地位を補充するにあたっては、目標と成果に対する貢献の実績、証明済みの能力、全体のために働く意欲を重視し、報いなければならない。(『創造する経営者』)
そうして、真に力のあるコントロールとは人事の意思決定であることには、確かに人事的な措置としては、その時々で状況に左右される度合いは大きいですが、採用であろうが、ミドル・トップマネジメンの人事であろうが、その本質は変わりはありません。

『創造する経営者』表紙

そうして、これは社会常識でもあります。この社会常識が覆されれば、多くの組織が成り立たなくなります。無論、ここでいう組織が、反社であったり、プラック企業であったりすれば、これはそもそも組織そのものが議論の対象にならず、まともではなく、そのような組織は一刻もはやく潰すべきです。

反社でも、ブラック企業ではない組織ではないまともな組織においてこれは成り立つ原理です。無論、人事とはいえど、その手法が法律に違反していれば、別の話です。たとえば、違法な報復人事は、そのわかりやすい事例です。しかし、法律や社会一般通念に反しない限り、これもどの組織にもあてはまります。

これはいずれの組織にも当てはまるので、大学のような組織でも、大学の価値観にもとづいて、学生を選抜します。学業成績を重視するのか、他の要素を重視するのか、それはもっぱら個々の大学のマネジメントが最終的に決めるものです。

そうして、選抜試験の結果が判断基準は詳細に説明されることはありません。選抜されるか、選抜されないかによって、それを示すのみです。選抜されなければ、学業成績も含む、当該大学理事会の価値観に合わなかったということです。

会社の人事でも同じことです。昇進、降格、昇給、左遷など様々な人事的措置は、当該組織の価値観を示すのであって、その中身まで詳細に伝えられることはありません。それが、社会一般常識です。

ここで、大学の選抜試験に落ちたらといって、その理由を大学側に説明させようとしたり、反対したり、会社の人事が気に食わないというのであれば、それを個々人が直接組織に訴えたとしても、それは叶えられないのが普通です。

それを言い張る個々人は社会常識に欠けるとされます。どうしても不服があるなら、そもそもそのような組織に属さないという選択肢もあります、裁判で訴えるという手段もあります。

無論、これは学術会議にもあてはまります。学術会議の人事の最終・最高決定権を有するのは、内閣総理大臣です。であれば、内閣総理大臣が日本学術会議の会員候補6人を任命しなかったとしても、それは人事権を行使しただけです。

それに意義を唱えるというならば、先にあげたように学術組織が反社やブラック企業のような組織であるか、人事の発令が報復人事のように違法であったような場合に限られます。

ヤクザや暴力団が関係する職場は辞めるべきブラック企業の特徴


現在の政府はどの観点からみても、反社とはいえないですし、当時の菅総理の人事は報復人事とは言えないと思います。ただ、特に当時から学術会議に関しては、何やら非常に問題のある組織であることがいわれています。

さらに「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである」との問題のありそうな、見解も示しています。

当時の人事に関して、問題があるというなら、学術会議には、高名な憲法学者も所属しているはずですから、裁判に訴えたらとも思うのですが、それは未だに行われていません。そうして、組織として重要な意思決定でもある「軍事的安全保障を事前審査すべきなどの」の提言も、学術会議として提言はできるかもしれませんが、それを実行すべき否かの最終判断は総理大臣によるものです。

学術会議のメンバーでどうしても、総理大臣による人事や意思決定が気に食わないのであれば、何も学術会議に属している必要はありません、学術会議を出て、別の組織を作れば良いのです。会社の人事や、経営者の意思決定がどうしても気に入らないという社員は、会社を飛び出して自らの理念を体現する会社を創業するということもできます。実際、そのようなことをして、大成功している経営者も大勢います。

小林科学技術相は15日の閣議後の記者会見で、政府が夏頃までに方針を示す日本学術会議のあり方について「学術会議の自己改革の進展状況などを総合的に考慮して検討する」と述べました。

学術会議は18日から始まる総会で、会員選考方法の見直しを行います。政府は、こうした自己改革の中身も判断材料にして、設置形態を含めたあり方の見直しを検討するとしています。

学術会議を巡っては、自民党プロジェクトチームが「政府から独立した法人格への移行」「第三者機関による会員推薦の実現」などを政府に提言しています。

政府がそうするというならそうしたら良いとも思いますが、学術会議の組織上の大きな問題は、学術会議のトップマネジメント(理事会)が、人事の本質が真のコントロールであるということを理解していないことにあるのは間違いないです。

これを批判する野党やマスコミなど、野党は野党内人事では、当然のことながら、党内人事の内容を詳細に公表したり、そこまでしなくても、要求すれば公表されたり、問題があればトップ・マネジメントを追求しているのでしょうか。マスコミの所属する会社組織でもそのようなことが行われているのでしょうか。

もし、そのようなことが行われていない、行うつもりもないというのなら、総理大臣にだけそのような要求をするというのは筋が通らず、完璧なダブルスタンダード(二重基準)です。

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2022年4月16日土曜日

日銀保有の国債は借金ではない 財務省の見解が変わらないなら国会の議論に大いに期待―【私の論評】高校の教科書にも出てこない「政府の借金」という言葉を国会で使わなければならない、日本の現状(゚д゚)!

日本の解き方


 11日の参院決算委員会で、西田昌司議員が、政府の借金は日銀が保有する国債を除いて考えるべきだとの持論に、鈴木俊一財務相が、「その通りだなという気がする」と答えたと報じられた。

 会計学やファイナンス論からいえば、政府の財政状況をみるには、連結された政府のバランスシート(貸借対照表)において、資産を考慮したネット債務額で判断するしかない。であれば、政府のバランスシートの右側に過ぎない借金残高だけを見るのはまったくナンセンスだ。

 この話は、本コラムの読者なら、筆者が初めて政府の連結バランスシートを作成した1995年以来、一貫して主張してきたことをご存じだろう。経済学でも、「統合政府」といい、古くから知られた考え方だ。

 この国際標準の考え方から、日本政府の財政状況をみておこう。分かりやすくするために、大ざっぱな概数で説明する。

 連結政府のバランスシートでは、資産1500兆円(うち日銀保有国債500兆円)、負債2000兆円(うち日銀マネタリーベース分が500兆円)だ。ただし、負債のうち日銀マネタリーベースは形式負債なので考慮する必要はなく、ネット債務額はほぼゼロとなり、財政状況が悪いとはいえない。


 政府(財務省)は「借金1000兆円」というが、それは連結バランスシートの一部でしかなく、しかも資産を考慮しないグロスなので、会計的には何を言っているのか分からないくらいだ。

 ここで、借金1000兆円ではなく、日銀保有国債を除いて考えれば、500兆円になるので、今の1000兆円というよりましだ。この方法は、借金をきちんと理解する第一歩としては評価できる。

 ちなみに、2017年3月、当時の安倍晋三政権で経済財政諮問会議に招待されたノーベル経済学賞学者のジョセフ・E・スティグリッツ教授も同様な話をしているが、ほとんど報道されなかった。

 ちなみに、本コラムでは、今は政府の基礎的財政収支(PB)で財政をみることも批判している。グロス債務対GDP比の変化は、「PB赤字対GDP比」と、「『前期のグロス債務対GDP比』に『金利から成長率を引いたもの』をかけたもの」との和になる。この意味で、PBは、グロス債務の動きを記述するための道具だ。

 ネット債務対GDP比はどう決まるか。結論を簡単に言えば、前述の式から、中央銀行によるマネー増加対GDP比を引けばいいことになる。これは、国債残高から日銀保有国債を除くことに対応している。

 財政といえば、昨年公表された矢野康治財務事務次官による月刊誌の論考は、会計への無知を露呈したものだった。

 本来なら財務省自身が、矢野論文を撤回し、会計的に正しく見なければいけない。せめて、財政制度審議会の専門家が議論すべきだが、今のメンバーでは難しいだろう。であれば、国会での議論を大いに期待したいものだ。これまで、財務省の意見をうのみにしてきたマスコミも焦るだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】高校の教科書にも出てこない「政府の借金」という、得体の知れない言葉を国会で使わなければならない日本の現状(゚д゚)!

高橋洋一氏の上の記事にもある通り、現状ではネット債務額はほぼゼロであり、財政状況が悪いとはいえません。ただ、財務省の喧伝で、緊縮脳なっている人は、そうは行っても政府がさらに借金をすれば、財政破綻するだろうと考えているかもしれません。

しかし、現状では政府がいくら借金したとしても財政破綻することはありません。そもそも政府が国債を発行しても、その国債を銀行が買わなくなるのではないかと心配する人もいるかもしれませんが、それはありません。

日本銀行は、普段から通常業務として、市場に出回っている国債を売り買いしています。もしも、国債を購入する銀行が減ってきて、国債の価格が不安定になってくれば、日本銀行は安定化を目指して市場で売られている国債を買い増すことになります。

そうすれば、あるいは「そうする」と公言するだけでも、国債の価格が安定化し、国債を購入しない銀行も買い取るようになります。すなわち政府におカネを貸す人がいなくなっていく、という事態を回避することができます。

万一、とてつもない天変地異や戦争などで国民が困窮し、税金が1円たりとも納入されなかったとしても、そうして仮にそのとき政府が発行する国債を購入する民間銀行が一切なかったとしても、「最後の貸し手」である日本銀行が国債を購入して政府にお金を貸します。この「最後の貸し手」という機能は法律でしっかりと定められていますし、先進諸国ならどこの国の中央銀行にもある当たり前の機能です。

たとえば、記憶に新しいところでは、バブル崩壊後、コスモ信用組合や北海道拓殖銀行、山一證券などいろんな金融機関が相次いで破綻したときに、日本銀行は、「日銀特融」という制度で無担保・無制限の融資を行って預金者たちの預金を全額守ったりしています。そうしなければ、日本経済が大パニックになるからです。それを踏まえれば、もしも政府が破綻の危機にさらされることがあるとしたなら、そのときに日銀特融を発動しないわけがありません。


しかも、日本銀行は日本政府の子会社です。これは民間企業でも同じですが、親会社と子会社の間のおカネの貸し借りは、連結決算で「相殺」されます。つまり借金が存在しないことになるのです。驚かれるかもしれませんが、これは紛れもない事実です。一応、政府は日銀が保有する国債について利子を払い続けていますが、日銀の決算が終わると、「国庫納付金」として日銀から政府に返還されています。

つまり国債の利子が、政府→日銀→政府と行って帰ってくるのです。要するに、実質的にいうと、政府が日銀からおカネを借りても利子がつかないのです。

ちなみに、アベノミクスにおいては、日銀は年間80兆円もの国債を買い続けました。「預金取扱機関」が保有する国債が、「日本銀行」に移転されていったのです。

そうして政府の負債は事実上、減少し続けたことになります。なぜなら、預金取扱機関が保有する国債というのは、政府が過去に借りたおカネの借用証書ですが、それを政府の子会社である日本銀行が買い取るということは、実質的に「借金は棒引きされた」ことになるからです。

たとえばあなたが、隣のおじさんに100万円借りていたら借金ですが、その借用証書をあなたの(大金持ちで、かつ、絶対に別れることがないと決まっている)配偶者が買い取ってくれたら、その借金は実際上、事実上、帳消しになります。それと同じように、日銀が国債を買い取れば、政府の借金は事実上、「帳消し」になります。

もっとも単純な政府の資金調達の方法に「日銀直接引き受け」とか「ヘリコプターマネー」とか呼ばれているものがあります。これは、日銀が政府に資金を直接融資するという方法です。

日本銀行は、「銀行の銀行」であり、各銀行は日本銀行のなかに口座を持っています。その口座に入っている預金を「日銀当座預金」といいますが、これはちょうど、私たちが普通の銀行に「口座」を持っていて、そのなかに「預金」があるのと同じです。

銀行は、この日銀当座預金を引き出して現金に換えたり、銀行同士の支払いなどに使ったりしているわけです。そして政府もまた、日銀に口座を持っています。

日本銀行の役割

「ヘリコプターマネー」の場合、政府が借用証書を書いて日銀に渡し、日銀はそれと引き換えに、政府の日銀当座預金にその金額を書き込みます。一応、「日銀が政府におカネを貸している」という体裁にはなっていますが、前にお話ししたように日銀は政府の子会社ですから、事実上の借金ではありません(正式の会計手続きでは、「連結決算」で「相殺」されるということになります)。

つまり、借金が棒引きされて存在しないことになります。だから結局は、ただ単に政府が「貨幣をつくり出し、それを使う」ということにほかなりません。

ただ、この話を俄には信じられない人もいるかも知れないので、さらに説明を加えます。

日銀は政府の子会社だから親会社の子会社に対する借金は、借金ではない、という話でしたが、親会社と子会社の間であろうが、借金は借金じゃないか、と素朴に感じる方もおられるかもしれません。仮に日銀は政府とは別の組織だと考えたとしても、日銀による政府に対する貸し出しは、私たち一般の国民が銀行や消費者金融からおカネを借りる、いわゆる「借金」とは全く異なります。 

第一に、日銀は政府に対して「貸したカネを耳をそろえて返せ!」という圧力はかけません。日銀はいくらでもおカネをつくり出せる存在ですから、貸したカネを返してほしい、という動機がそもそもありません。

日銀以外の存在にとっては、おカネは大変に貴重な代物ですが、日銀にとっておカネは別に貴重でも何でもありません。なんといっても、おカネは「日本銀行券」であって、日銀が自らいくらでもつくり出すことができるのです。

もちろん、借金の返済期日が来れば、政府は借りたおカネを返さなければなりません。でも、そのおカネを、政府はまた日銀から借りることができるのです。一般にこれは「借り換え」といわれます。つまり10万円を1年間借りていたとしても、1年後にまた10万円を同じ人から借りる、というのを延々と繰り返すことができるわけです。そうなれば実際、その借りたおカネを返す必要が延々となくなります。それと同じことが、政府は日銀に対してできるわけです。 第二に、普通、借金すると利子を払わないといけませんが、さきほども指摘したように、政府が日銀からおカネを借りた場合、利子を払う必要がありません。これが、法律で定められています。 だから、あっさりいうと、日銀から政府がおカネを借りた場合、政府はその利子を払わなくてもいいし、元本そのものも延々と返さなくてもいいのです。

返さなくてもいいし利子もない借金など、もう一般社会における借金ではありません。はっきりいって、「もらった」のと全く同じ。 なぜ、そんなふうに「日銀から政府への貸し出し」は、私たちの借金と違ってものすごく優遇されているのかというと、それはひとえに日銀が政府の子会社だからです。

したがって、日銀が政府の一部だと考えても、そう考えずに独立の存在だと考えても、結局は、日銀から政府が借りたおカネは、いわゆる普通の「借金」としては考えなくても良いのです。ということになるんです。 たとえば、政府と日銀はものすごく仲の良い親子がいて、子どもが親からおカネを借りて、一応親は「貸した」とはいってるけど、利子も取らないし、返せともいわない、というのと同じような関係といえます。

それも親密な親子関係は、いつまで続くとも限りませんが、日銀と政府の関係は法律で規定されています。

以上は、おカネについてある程度知っている銀行員や税理士、財務官僚なら、「当たり前の常識」として知っている事実です。高校の「政治経済」にも当たり前に解説されていることです。ただ、もともと「借金」などではないので、高校の教科書では「借金」という言葉は使わないので、多くの人が別の話として理解していないのかもしれません。

そうして、ただ一つまだ言っていないことがあります。上の話では、日銀がいくらお金を刷ってて、政府の発行する国債を買い取っても借金にはならないというのは確かですが、それならどこの国でも国債やお金を擦りまくれば、国を豊かにできるではないかという話になってしまいますが、実際はそうではありません。

限界はあります。そうです、国全体の生産能力以上に、お金を刷って市場に流通させれば、何がおこるかといえばインフレです。需給のバランスが保たれるか、若干インフレ気味程度までならいくら刷っても大丈夫なのですが、供給より需要がはるかに上回るまで、お金や国債を刷ってしまい、お金を市場に供給すれば、ハイパーインフレになってしまいます。

2018年ハイパーインフレに見舞われたベネゼラではトマトを1キロが500万ボリバルとなった

だから、上の話にも自ずと制限があるということです。上の話があてはまるのは、無論超インフレにならない限度内の話です。いわゆるMTT理論では、これを無視しており、MTT理論は完璧に間違いです。

ただ、現在の日本は未だデフレから完璧に脱却しておらず、物価目標2%にも達しておらず、やはり上の話は当てはまります。それに誤解のないように言っておきますが、たとえハイパーインレになったとしても、いくら政府が国債を発行してそれを日銀が買い取ったとしても、それは政府の借金ではありません。ハイパーインフレと借金はまた別の話です。

そもそも、社会一般生活における言葉における借金でもないものを、わざわざ「借金」と呼ぶから、誤解を生じてしまうのです。そもそも日銀や政府の金融行動を、個人の行動と同じように捉えてしまうのが間違いです。高校の「政治経済」の教科書にも掲載されていない「政府の借金」などという用語を使って「政府の借金ガー」と煽る人の話は信じるべきではありません。

多くのまともな国では、ハイパーインフレにはしたくないため、国債を刷るにしても、お金を刷るにしても自ずと、限度が決まってくるわけです。

実際米国でも、8%を超えるインフレになったから利上げを実施したのです。しかし、現状の日本は需要不足から、物価目標2%にも達していませんし、原油や原材料価格が上がっているにもかかわらず、それに対する対策を現状では行っていませんし、ガソリンのトリガー条項の撤廃や、減税などの措置をとっていませんので、物価目標2%を超えたとしても、実体経済はインフレではない可能性があります。

現状では、国債を大量に発行したとしても、まったくインフレになる可能性はありません。以前高橋洋一氏が100兆円くらい刷っても、全く大丈夫と語っていたことをこのブログでも掲載したことがあります。

西田昌司議員が、「政府の借金」という言葉を用いたのは、あまりにこの言葉が使われてしまっているので、その言葉を使わなければ説明できないから使ったのでしょうが、彼自身は「政府の借金」なる言葉は、不適切と思っていることでしょう。

鈴木俊一財務相が、「その通りだなという気がする」と答えたのは、そもそも「政府の借金」なる言葉は適切ではないで、「その通り」とは言い切れないからでしょう。無論、鈴木氏がそう考えて発言したかどうかは、定かではありませんが、国会の答弁の雛形は財務省が作成するので、さすが財務省も「政府の借金」という言葉を国会で認めるわけにもいかず、「その通りだという気がする」という雛形を作成したのかもしれません。

そもそも高校の教科書にも出てこない「政府の借金」という言葉を国会で使わなければならない程現状の日本は経済政策に関しては、機能不全に至っているとしか言いようがないです。

本来経済対策で一番重要なのは「雇用」です。このブログでも何度か述べているように、経済指標で一番重要なのは雇用です。これが良ければ、他の指標が悪くても、経済政策は合格といえます。雇用がわるければ、その他の指標がのきなみ良くても、経済政策は落第です。

「政府の借金」という観点から、経済を論じるのはなく、まずは「雇用」という観点から経済政策を論じるべきなのです。

まるで、日本の経済対策は、経済対策としてしばしば「倹約令」を出していた、江戸幕府のようです。近代以降発展してきた、高校の「政治経済」の教科書にも掲載されている経済理論を無視するような考えや、発言、行動は厳に慎むべきです。これを無視すれば、何のために教科書を発行し、高校に先生を配置して、高校生に学ばせているのか、本末転倒になってしまいます。

国会での活発な論議を期待します。というより、それ以前に少なくとも政治家たるもの、高校の「政治経済」の教科書くらいは、読んでいただき、理解していただきたいです。その位の知識をすでに持っている政治家は別ですが、国会ではそれを前提として活発な論議をしていただきたいです。これを無視して「政府の借金」という言葉をつかえば、いたずらに混乱をきたすだけです。これを使うとすれば、西田議員のようにその誤りを正そうとする場合にのみ使うべきです。

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2022年4月15日金曜日

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃―【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃

ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル

 現地時間4月14日(日本時間4月15日)、ロシア国防省の発表によるとロシア海軍の黒海艦隊旗艦である巡洋艦「モスクワ」が曳航中に沈没しました。前日に爆発炎上し総員退艦、その後まだ浮いていたのでセヴァストポリ港に戻ろうと曳航している最中でした。

 ウクライナ側は前日に地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を巡洋艦モスクワに命中させて撃破したと主張しています。ロシア側はこれを認めていませんが、どちらにせよ艦は失われました。

 ロシア海軍黒海艦隊旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦モスクワ撃沈。その衝撃は戦史に永久に刻まれることになるでしょう。ウクライナ海軍地対艦ミサイル部隊の大戦果であり、ロシア海軍の大失態となります。

巡洋艦「モスクワ」を喪失した意味

 巡洋艦モスクワはロシア海軍黒海艦隊旗艦であり、黒海艦隊の中では最大最強の艦でした。ただし主兵装の超音速巡航ミサイル「P-1000ヴルカン」には対地攻撃能力は無く、ウクライナとの戦争でこの艦は広域防空艦として価値を発揮していました。

 長距離艦対空ミサイル「S-300F」を搭載した巡洋艦モスクワはウクライナ南部の黒海沿岸の沖合いに進出し、防空網の一角を担っていました。長射程の対空ミサイルでウクライナ空軍機の活動を妨害していたのです。

 これが消えました。ロシア海軍黒海艦隊には他に広域防空艦は居ません。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたのです。

 また、これでもうロシア軍は揚陸艦隊を用いてオデーサに上陸作戦を行うことが困難になりました。ロシア艦隊は地対艦ミサイルを恐れて、容易には沿岸に近付けなくなった筈です。

 そして首都モスクワの名前を関する軍艦の喪失はロシア全軍どころかロシア全国民の士気を下げ、ウクライナの士気を大きく向上させることになります。

地対艦ミサイル「ネプチューン」

 ウクライナ語”Нептун”の発音は「ネプトゥーン」の方が近く、英語のNeptune(ネプチューン)と語源は同じでローマ神話の海神の名前です。

 ネプチューンは亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能です。固体燃料ロケットブースターで加速した後にジェットエンジンを始動して巡航し、海面を這うような低い高度で飛んで行きます。

 ネプチューンはウクライナ国産の新兵器で生産に入ったばかりであり、開戦前のスケジュールでは最初の1個大隊の編成完了が4月予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合いました。

 ネプチューン地対艦ミサイル1個大隊は4連装発射機が6両で1斉射24発、予備弾含め3斉射分72発が定数となっています。

 ウクライナ海軍の想定ではトルコ製「バイラクタルTB2」無人偵察攻撃機で洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順を予定していましたが、実際の巡洋艦モスクワ攻撃ではどのような攻撃方法だったのかはまだ発表がありません。

 なおロシア海軍は巡洋艦モスクワが被弾する2日前に、黒海艦隊のフリゲート「アドミラル・エッセン」がウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機を撃墜したことを誇る動画をUPしていました。これはウクライナ軍がドローン(無人機)による洋上索敵を積極的に行っていた可能性を示しています。

 あるいは無人機のバイラクタルTB2はロシア海軍を油断させるための囮で、本命の対艦索敵はアメリカ軍の偵察手段だった可能性もあります。一部のウクライナ報道ではバイラクタルTB2を囮に使ってその隙にネプチューンで攻撃した戦法が示唆されています。

 黒海にはアメリカ軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が開戦後も頻繁に飛んで来ていたので、巡洋艦モスクワの位置情報の提供を行っていた可能性があります。ただしこれが仮に事実だとしても公表したらロシアを怒らせるので、黙っている筈です。

 まだ不明な点は多いのですが、今回のネプチューンによる歴史的な大戦果の詳細はいずれ明らかにされていくことでしょう。

【参考外部記事】ウクライナ軍事ポータルサイト「Український мілітарний портал (ウクライーンシクィー・ミリタリニィー・ポルタル)」の英語版記事より。
The first battalion of “Neptune” coastal missile system will be delivered by April 2022 – Neizhpapa
“Moskva” missile cruiser – the flagship of the Russian`s Black Sea Fleet – sank

※なおネプチューンの発射車両は試作型と量産型で車両が異なります。
試作型の発射車両:КрАЗ-7634НЕ(ウクライナ製)
量産型の発射車両:タトラT815-7(チェコ製)

【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

今回の、モスクワの沈没に関しては、アメリカ国防総省 カービー報道官は、
「ウクライナ側が言うようにミサイル攻撃によるものかは確認できないが、それに反論する立場でもない。ウクライナ側がミサイルで攻撃したというのは、ありうることだ」と語っています。

上の記事では、ウクライナ側がミサイル攻撃したという記事が正しいものとして、ウクライナ側の主張を掲載しています。

この記事も、このウクライナ側の主張が正しいものとして、解説します。今回のモスクワ撃沈は、もう数十年前からいわれていた海戦の変貌ぶりを示したものといえます。

NHKどらま「坂の上の雲」で放映された日本海海戦における日本艦隊の旗艦「三笠」

海戦の主役は大きく2回変わっています。最初は、「大艦巨砲」ともいわれるように、巨砲を何門も持つ大艦同士が、海上で大砲撃戦を行い、海戦の雌雄を決定しました。その典型的な事例は、日露による日本海海戦です。

次の時代は、空母打撃群による海戦です。空母を主力とする艦隊を空母打撃群と呼び、この空母打撃群の空母以外の艦艇は、空母を護衛するのが主な目的であり、空母に積載した航空機が、海戦の雌雄を決めることになりました。その典型例は、大東亜戦争における太平洋の戦いです。

日本では、空母打撃群という呼び名はありませんでしたが、本格的な空母打撃群を最初に運用したのは、日本海軍でした。この空母打撃群は、ハワイ真珠湾攻撃等で活躍しましたが、やがて物量にまさる米軍が、空母の数でも、航空機の数でも日本をはるかに上回るようになり、各地で日本の空母打撃群を破るようになりました。

米国のハワイには、真珠湾の戦いの記念館があります。そこには、日本海軍が最初に空母打撃群を運用しはじめたということが展示物で示されています。米軍はそれを参考にして、空母打撃群を運用させるようになり、今日米海軍の主力になっているという旨のことが展示されています。

発艦した航空機から撮影した空母「赤城」

そうして、数十年前までは、実際にそうでした。しかし、もう随分と前から、実は空母打撃群は海戦の主役ではなくなっています。その主役は何かといえば、第二次世界大戦までは脇役であった潜水艦です。

このブログにも以前述べたように、米国の戦略家である、エドワード・ルトワック氏は次のように語っています。

「現在では、艦艇は2種類しかない、空母やイージス艦のような水上艦艇と潜水艦の二種類しかない。そうして、水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない。しかし、潜水艦はそうではない、水中に潜航して、容易に撃沈されることはない。現在の海戦の主役は潜水艦なのだ」

この言葉、最初はルトワックが語ったのかと思っていましたが、そうではないようです。潜水艦が原子力で動くようになり、さらに魚雷だけではなくミサイルを装備するようになった頃から言われはじめたそうです。

そうして、ロシアは2020年トルコ軍兵士が27日にシリアのアサド政権軍の空爆で死亡したことを巡り、トルコ側の対応に問題があったと主張し、シリア沖に巡行ミサイルを搭載した艦船2隻を派遣したことがあります。そのときの1隻が今回撃沈された「モスクワ」です。ルトワックは、これについて以下のような発言をしています。

「ロシアのミサイル巡洋艦など、象徴的なものにすぎない。米軍なら5分で吹きとばせる」

これは、事実なのでしょう。だからこそ、今回「モスクワ」はウクライナ軍に撃沈されたとウクライナ側は公表し、米国もこれをはっきりとは否定しなかったのでしょう。

無論、ルトワックの脳裏には、攻撃型原潜などを想定したものと思います。米国の攻撃型原潜の大型のものになると、100発以上もの巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できます。しかも、米軍はロシア軍よりも、対潜哨戒能力に優れていいます。

この攻撃型原潜が、ロシアの艦艇を攻撃すれば、ひとたまりもないでしょう。

ただ、今回のウクライナによる「モスクワ」攻撃は、地上のミサイルランチャーから、ネプチューンを発射して撃沈したとされています。潜水艦から発射したものではないですが、ルトワックも語っていた「水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない」という発言を実証したといえます。

考えてみると、フォークランド紛争時には、ルトワックの語ったことは、現実になっていたと考えられます。

1982年3月のフォークランド紛争では、イギリス海軍の原子力潜水艦「コンカラー」によるアルゼンチン海軍巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」の撃沈はアルゼンチン海軍の戦意に冷や水を浴びせることになり、空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」を始めとしたアルゼンチン海軍の水上戦闘艦は現存艦隊主義に転じて、二度と出撃してくることはありませんでした。

潜水艦の能力でも、対潜哨戒能力でも英軍に著しく、劣っていたアルゼンチン軍は、海戦においては最終的には、英軍の敵ではなかったようです。ただ、英軍はそれまでアルゼンチン軍のフランス製のエグゾセミサイルで、駆逐艦「シェフィールド」が沈没するなどの被害を受けています。

「モスクワ」と同程度以上の艦艇が撃沈されたのは、フォークランド紛争以来といわれています。今回の「モスクワ」撃沈により、まさに、水上艦は現代の海戦においては、「ミサイル」や「魚雷」の大きな目標にすぎないことが、さらに鮮明になったといえます。

なお、先のルトワックの発言については、「極端」と批判する人たちもいますが、今回の「モスクワ」撃沈が本当であったら、「極端」とはいえないと思います。

このブログでは、こうしたルトワック氏の発言などにもとづいて、私は日本の潜水艦隊の優位性を主張してきましたが、半信半疑の人も多いようです。今回の「モスクワ」撃沈がウクライナのミサイルのものであれば、「極端」とはいえなくなると思います。

陸上から放つミサイルも、水中から放つミサイルも同じことですし、潜水艦からの発射は、陸上からよりも、敵に発見されにくく軍事的にさらに有利といえます。しかも、日本の潜水艦のステルス性は「世界一」であり、この優位性についても理解が進むと思います。中国の台湾侵攻に関して、まるでこの世に潜水艦など存在しないかのような論評をする人もいますが、それでは全く意味がありません。

ウクライナ軍が日本の海自なみの最新鋭の潜水艦を持っていれば、軍事上かなり有利になっていたと思われます。もしそうだったら、初戦でロシア黒海艦隊は壊滅していたことでしょう。さらに、潜水艦からミサイルを発射し陸上の主要な目標を破壊し、かなり有利に戦争を遂行できたと思います。

このブログで、以前紹介したように、トランプは、「(プーチンが)またその言葉(核兵器)を口にしたら、われわれは原子力潜水艦核を送って、沿岸を上下左右に航行させるぞと言うべきだ」と語っていました。

これを、かなり物騒な発言とするむきもありますが、これはプーチンに対してかなりの牽制になりますし、核ミサイルでなくて、通常のミサイルを搭載する攻撃型原潜を派遣しても、ロシア側にとってかなりの脅威となるでしょう。

何しろ、米国の攻撃型原潜でも大型のオハイオであれば、巡航ミサイル・トマホークを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。無論、その他にも魚雷、防空ミサイルも搭載しています。

このような攻撃型原潜を、2〜3隻黒海でも配置すれば、巨大なミサイル基地が即座にできあがり、米国のインテリジェンスンスに基づき、ロシアの軍事拠点を攻撃をすれば初戦でロシア軍は崩壊していたかもしれません。

今後の軍事研究の発展のためにも、ミサイル巡洋艦「モスクワ」の撃沈が、ウクライナのミサイルによるものだったのか、公表していただきたいものです。

それにしても、今回の「モスクワ」の沈没、ウクライナ側の発表が正しかろうが、正しくなかろうがロシア軍にとっては大打撃であることには変わりはないです。過去の日本の例でいえば、開戦2ヶ月目にして、連合艦隊の旗艦「大和」が沈んだようなものです。ロシア軍の士気の低下は免れないと思います。

ミサイル巡洋艦「モスクワ」

モスクワは、ロシア軍が3隻しか保有していない大型巡洋艦の1隻です。搭載する防空ミサイルシステムS300でウクライナ軍の戦闘機や無人機をけん制し、南部一帯での部隊展開を支えてきました。黒海艦隊は、ロシアにとって重要な標的である港湾都市オデッサなどの攻略を目指していました。

ところが独立系メディア、メドゥーザによると、ロシア軍はモスクワを失ったことで、残る部隊をウクライナ軍の攻撃から防ぐ能力が著しく衰える恐れがあります。ロシアとウクライナの交戦を理由に、トルコが黒海への軍艦の侵入を制限しているため、ロシアが地中海経由で代替の巡洋艦を派遣することも難しいです。

侵攻以降のロシア軍の被害も甚大とみられます。ウクライナ国防省は15日、ロシア軍の死者が「2万人を突破した」と発表。ロシア側は最新の死者数を1300人余としていますが、契約軍人を募るキャンペーンを強化するなど、実際は兵力不足が深刻な可能性が高いです。

こうした状況の中、ロシアの政権与党幹部は15日「軍事作戦は間もなく完了する」と同国メディアに強調。5月9日の対独戦勝記念日に合わせた「勝利宣言」名目で、プーチン大統領が幕引きを図る可能性も大いにありそうです。

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2022年4月14日木曜日

一刻も早い補正予算編成と果断な実行「強く求める」=公明党提言案―【私の論評】岸田政権が長期政権になれば、ウクライナショックよりも、岸田ショックのほうが、より深刻な事態をまねきかねない(゚д゚)!

一刻も早い補正予算編成と果断な実行「強く求める」=公明党提言案


公明党が近く岸田文雄首相に申し入れる物価高対策の提言案が判明した。日本経済と国民生活を断じて守るため、「政府は一刻も早く補正予算を編成し、必要な対策を果断に実行するよう強く求める」と明記。ガソリン税の上乗せ部分の課税を停止する「トリガー条項」の凍結解除も併せて求め、地方税収の減収分は国が補填すべきとしている。

提言では、ウクライナ情勢の動向によっては「日本経済が戦後最大の危機に陥りかねない」との危機感を示し、政府に速やかな対応を求める。予見しがたい支出に迅速かつ柔軟に対応できるよう、「予備費のさらなる積み増しを行うこと」も明記する。

焦点となるトリガー条項発動では、自民、公明、国民民主3党で立ち上げた原油価格高騰・トリガー条項についての検討チームでの検討結果をもとに「凍結解除すること」としている。トリガー発動に伴う地方税収の減収分については「国が補填する」とした。ロイターが提言案を確認した。

激変緩和事業に関しては、元売り事業者に対する補助金上限を大幅に引き上げるとともに、「ガソリン・軽油・灯油・重油の4油種に舗装用アスファルトや航空機ジェット燃料も対象に加えたうえで延長すること」を求める。

石炭や魚介類などの調達コストの増大を念頭に、ロシアに対する経済制裁の影響を受ける事業者を支援するための基金創設も盛り込み、「新たな経済対策に向けた緊急提言」として、今夕首相に申し入れる。

【私の論評】岸田政権が長期政権になれば、ウクライナショックよりも、岸田ショックのほうが、より深刻な事態をまねきかねない(゚д゚)!

公明党はあいかわらず、マクロ経済音痴のようですが、そうではあっても、ウクライナ情勢いかんでは、とんでもないことになりそうだという勘は正しい、というか普通の感覚の人なら、そうなります。

にもかかわらず、岸田総理は補正予算を組もうとしません、これは、普通の感覚ではありません。

普通の感覚の人なら、どのくらいの規模にするかは別問題として、もしものときのために、ある程度の補整予算を組むことを考えるでしょう。日本経済の規模や、現在日本がおかれている様々な危機を考えた場合、本予算予備費5兆円ですむと考えるのは、これは経済理論がどうのこうのというより、素人より始末に悪いです。

ただ、公明党も現在の日本の経済の状況を明らかにわかっていないようなので、以下にその概観を掲載します。

日本銀行が4月12日に発表した3月の国内企業物価指数は112.0と、前年同月比9.5%の上昇でした。プラスは13ヵ月連続。指数の水準は1982年12月以来、39年3ヵ月ぶりの高さとなりました。


これを見て、物価が上昇すると、報道されていますが、それは違います。上のグラフをみてもわかるように、消費者物価指数はほとんど上がっていません。

これは、なぜかといえば、総供給が総需要を上回っているので価格には転嫁できないからです。 国内企業物価とは、仕入れ段階の話なので、商品に転嫁できるかどうかは、それぞれの商品の需要に依存します。

品目の需要というのは、すべて足し算をして、また供給についても足し算をして、総需要・総供給を計算するのですが、実は総供給の方がまだ数%大きいのです。ということは総需要があまり大きくないので、転嫁できない業種が多くなることを意味しています。

ここ数年テレビなどで、低価格でおいしくて、良心的な老舗が原材料の高騰で閉店せざるを得なくなったというニュースをみることがありますが、そのようなとき多くの人は、値上げすれば良いのにと単純に思ってしまうかもしれませんが、簡単には値上げできないのです。

なぜかといえば、インフレ状況なら値上げしても、需要が落ちることはないのですが、総供給が総需要を上回っている状況では、値上げしてしまえば、需要がおちてしまうことが予想されるからです。

確かにコストプッシュインフレのよう状況にはなっています。ただし、どこまで転嫁できるのかということは、その製品にどのくらい需要があるのかによります。需要がないのに価格を上げてしまったら、より売れなくなってしまいますので、転嫁することができないのです。

現在のような状況では企業経営は厳しくなります。総需要と総供給の差を表すGDPギャップという数字があります。

本当はそれに相当するぐらいの補正予算を打つべきなのですが、岸田政権にはそのような動きもないです。

当面は予備費での対応となり、最大5兆円です。先ほどのGDPギャップは30兆円以上あると思いますので、補正予算を打たないとなると全然足りません。


13日の各紙経済面などでも、ガソリンのトリガー条項の撤廃を行わず補助金のみという、「かなり期待外れだ」と報道しています。

個別価格が上がっているときは、個別にかかる税金を下げるべきです、ガソリン価格はその典型です。さらに、消費税の軽減税率を行うのが定石なのですが、それをしないということなれば需給ギャップは放置されたままになります。経済理論から予測できるのは、おそらく企業活動が低調になり、その結果として半年後くらいに失業率が高まります。

このような状況ですから、6月初旬までに補正予算の議論をするべきです。政府は相変わらず賃上げ要請をしていますが、GDPギャップが存在する間は、雇用対策をいくらやっても効かないです。それが埋まらない限り、雇用は増えません。現在は雇用調整助成金で失業率を抑えているところがありますが、これから半年ぐらいの間にそれも効かなくなり失業率が上がることになるでしょう。

現在は、国会はそれほど忙しいわけではないので、6月頭まで補正予算の議論はできますし、いまからやれば選挙にも間に合います。

現在国会で重要法案とされているのは経済安全保障の関連法案で、これは衆院を通過しましたし、あとは「こども家庭庁」の設置に関わる基本法です。予算委員会は何も審議はしていないようです。

現在国会を開いているので、経済対策として、補正予算を通すのが最も簡単で良い政策です。補正予算をつくるのも、それほど時間がかかるわけではありません。

コロナ禍による景気の落ち込みから立ち直る前に、ウクライナ情勢で大変になってしまったところを穴埋めすれば良いだけですから、難しくもないし、あまり反対されることもないでしょう。官僚であれ、政治家であれ、マスコミも、今このタイミングで反対すれば、その根拠を問われることになるでしょうが、それを理詰めで説明できるような人は誰もいないでしょう。むりやりすれば、かなりの批判を浴びることになるでしょう。

財源も、先に述べたように、現在はインフレではないので、国債を大量発行して、それを日銀が買いとったとしても、それで将来世代のつけになるということもないですし、インフレが加速するということもないです。むしろ、今はデフレ傾向なので、100兆円くらい国債を擦り増し、日銀が買い取ったとしても何の支障もないどころか、そうしたほうが日本経済には良い結果をもたらします。

そもそもマクロ経済音痴の公明党から、一刻も早い補正予算編成と果断な実行「強く求める」と要求されるのですから、岸田首相も終わっています。

安倍政権や、菅政権では、公明党からは補正予算の額が大きすぎるなどの批判を受けたことはありますが、補正予算をすみやかに組めなどと要求されたことはありません。

このようありさまですから市場関係者が多く視聴する日経CNBCが同チャンネルの視聴者を対象に行った調査で、「あなたは、岸田政権を支持しますか?」という質問に対して、「はい」という回答がたったの3%しかありませんでした(調査期間は2022年1月27日~1月31日)。

金融所得への課税強化を言い出して、すぐに棚上げにしたり、新しい資本主義などと得体の知れないことを言い出し、もともと市場関係者からは嫌われていましたが、それにしても3%とは驚きです。これは、ほほどすべての人が岸田総理を支持せず、市場関係者の中では一部の風変わりな人だけが支持しているということです。

公明党の要請によって、岸田政権が補正予算を組めば良いのですが、そうしなかった場合や、公明党ですら満足できない水準の補正予算だった場合、選挙協力が不調に終わることも考えられます。そうなった場合、自民党候補が予想以上に落選した場合に何が起こるでしょうか。

野党の体たらくをみていると、さすがに、衆参の「ねじれ」が起こるほどに負けないでしょうが、岸田政権は弱体化することになります。完敗ではなくほどほどの負けは、安倍晋三氏、麻生太郎氏、菅義偉氏、二階俊博氏といった、「岸田政権の主流ではない政治的実力者たち」にとって好都合でしょう。

加えて、注目できるのは、公明党にとっても、同党の協力がなければ自民党が選挙で苦労することを示すことは、自分たちの価値をつり上げて、政治的影響力を増す効果があるでしょう。

仮に、参院選の敗北などで岸田政権が弱体化したときに、自民党内で「政局」は起こる可能性は十分にあると思います。とにかく、あまりにポンコツな岸田首相にははやく辞めていただきたいです。

岸田政権を短期政権で終了させて、次は岸田氏よりポンコツではない次は無難な人物を総理にし、まともな経済政策、外交をできるようにしていただきたいです。

私は、安倍首相や、菅首相の時には、是々非々で批判をしたこともありますが、辞めたほうが良いなどと批判したことは一度もありませんでした。ましてや、「お灸をすえて」政権交代すれば良いなどと語ったこともありません。

あの民主党による政権交代で日本がどのようなことになったかを思えば、現在でも「お灸をすえて」自民党を下野させるようなことはすべきではないと思います。現状の野党をみていると、残念ながらそう考えざるを得ません。

安保法案に反対し、国会議事堂正面の道路を埋め尽くし廃案を訴えるデモ参加者 =2015年8月30日

やはり、まともな首相のもとに自民党政権が安定政権となり、安倍政権のときにそうであったように、たとえ政権維持のためには良くないことでも、敢えて様々な必要不可欠な改革をしていくのが王道だと思います。

残念ながら、今の野党にはそのような力はありません。現在でもまかり間違って政権交代がおこれば、かつての民主党のように何もきめられず漂流するか、政権の座を守るのが精一杯ということになるでしょう。それに乗じて、官僚たちが蠢き、財務省は増税、日銀は金融引締をして、その他の官僚も鉄のトライアングルを活用して自分たちの利権をあさり、日本はまた、失われた30年を繰り返すことになりかねません。

ただ、今の自民党は、岸田氏という稀に見るポンコツが首相という状態です。まともな自民党有志の皆さんは、なんとか岸田政権を短期政権で終わらせて下さい。

岸田総理は、経済で出身派閥の宏池会がせっかく掲げた「所得倍増政策」は無視し、新しい資本主義なることばはあげたものの、その中身を具体的に明らかにすることもなく、結局経済政策では何もせず、エネルギー、食糧政策でも何もせず、外交、安保では米国に要請されたこと以外は何もせず、特に重要なことでは、ひたすら「緊張感をもって注視していく」「検討します」というばかりです。

まかりまちがって、岸田政権が長期政権になれば、日本ではウクライナショックよりも、岸田ショックのほうが、より深刻な事態をまねきかねません。

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2022年4月13日水曜日

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北海道にロシア兵が上陸し 東京がブラックアウトしない限り ニッポンは危機に気づかないのかも


「人殺し」に助けてもらうのか

破壊されたロシアの人員輸送車

ウクライナ危機のニュースに毎日接しているうちに戦争がだんだん他人事ではなくなってくる。共産党の志位委員長が、有事の際に自衛隊が「国民の命を守るのは当然」と発言し、自衛隊を違憲だとする共産党の立場と矛盾すると批判された。


自衛隊のことを「人殺し」と呼ぶくせに、身の危険を感じたら助けてくれと言うのは虫が良いのではないかと思うが、ある意味正直でもある。むしろ「憲法9条を守ってさえいれば平和は守られる」といまだに言っている人達の方がヤバいかもしれない。

 「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を維持しようと決意した」という日本国憲法の有名な前文があるのだが、残念ながらロシアはもちろん、北朝鮮も「平和を愛する諸国民」ではない。中国も、たぶん、違うだろう。

ウクライナ危機が打ち砕いた幻想

だからウクライナのように核を放棄し、どこの軍事同盟にも属さないと、「平和を愛さない諸国民」に侵略される恐れがあることが今回わかった。つまりウクライナ危機は日本における「9条神話」という幻想を打ち砕いてしまったのだ。

 先日あるロシアの政治家が「ロシアは北海道の権利を持っている」という発言をしたというニュースを見てぞっとした。「あの土地は元々俺たちのものだ」といセリフは専制国家が侵略する時に必ず使うキーワードだからだ。 ウクライナ危機はもう一つの幻想も打ち砕いた。

それは「再生エネルギーさえあれば原発も、そして石炭火力もいらない」という欧州発の間違った考え方だ。 先月日本では地震で一部の火力発電所が停まり、そこに悪天候が重なって初の「電力需給ひっ迫警報」が出た。今後ロシアからの石油や天然ガスが止まれば日本の電力危機はさらに深刻になる。

 「ロシアは戦費調達にあなた方を利用している」とゼレンスキー・ウクライナ大統領に議会で演説され、国際的に大恥をかいたドイツは、安保もエネルギーも大幅な政策転換を迫られている。 軍事費についてはGDP比2%に大幅引き上げすることを決めたが、脱原発の流れはまだ止まっておらず、現時点では石炭火力発電の廃止を先送りするくらいしかできないようだ。

危機に気づかないニッポン大丈夫か?

では日本はどうなのか。安倍元首相が今年度5.4兆円の防衛費を来年度は6兆円越えにしたらどうかと提案したら、野党からは「不誠実だ」などの批判の声が上がった。ドイツみたいにGDP2%(日本なら10兆円)にしろと言っているわけでもないのに「不誠実」と叱られる、これが日本だ。

 エネルギーに関しても岸田首相は「原発はベースロード電源であり重要だ」という従来の答弁を繰り返すだけで、積極的な原発再稼働にカジを切るわけでも、小型モジュール炉の導入による「新設」に言及するわけでもない。

 わが日本は大丈夫なのだろうか。やはり北朝鮮のミサイルが九州の端っこに落ちるとか、ロシア兵が間違って北海道に上陸するとか、あるいはある日突然、大停電で東京がブラックアウトになるとか、そういうとんでもないことが起こらない限り、平和で、安全で、豊かな国ニッポンに住んでいる我々は本当の「危機」に気づかないのではないだろうか。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】

【私の論評】ロシアの北海道への領土的野心と、略奪などに備えよ(゚д゚)!

上の記事では、ニッポン人という表記がありますが、これはどういう、意味なのでしょう。このブログでも過去に「ニッポン人」とか「日本人」という表記をしたことがあります。

その時には「日本人」とは日本の過去の伝統を受け継いだ人のことであり、「ニッポン人」とはそうではない人のことをいうというような定義をして用いました。

上の記事の平井氏も、そのような意味で用いているのだと思います。そうして、平井氏がわざわざ「ニッポン人」として、批判したのは、日本にはこの「ニッポン人」とは異なる、危機を危機として認識する「日本人」も存在していることから、その「日本人」をも否定することを避けるためにわざわざ「ニッポン人」という言葉を用いたのだと思います。

平井氏が「豊かな国ニッポン」と表記したのも、日本の伝統をすっかり忘れてしまい、サファリパークのライオンのようになってしまっている日本を憂いたからこそ、この言葉を使っているのでしょう。

私自身は、自分のことを「日本人」だと思っています。だかこそ、このブログで従来から中露の危険については、随分前から指摘してきました。このブログを最初に書き始めたのは、2007年のことです。

最初はブログのタイトル「犬とレストランとイタリア料理」通りの内容からはじめましたが、あの民主党が政権をとったころから、かなりの危機感を感じたため、時事的な内容が増え、その後それがほとんどとなり、現在に至っています。

これからも、「日本人」的価値観で、時事問題を扱い、日常に潜む様々な危機を明るみに出していこうと思います。

そうした観点からすると最近一番気になるのが、ロシアの元上院議長が「ロシアは北海道を領有する権利を持つ」と発言でしょう。ロシアから平和条約締結交渉を一方的に蹴っ飛ばされるなど、日ロ関係が急速に悪化する中、波紋が広がっています。

問題発言の主はプーチン体制下で2011年まで上院議長を務め、現在は下院第3勢力の左派系野党「公正ロシア」の党首を務めるセルゲイ・ミロノフ議員。いわゆる体制内野党のトップです。


ロシアのネットメディア「レグナム」が配信したインタビュー記事(4日付)で、「どの国でも隣国に対して領有権を主張でき、国益の観点からそうする正当な理由がある。これまでクリル諸島(北方領土と千島列島)を欲しがっていたのは日本だけだった」と持論を展開。

先立つ1日には「日本はクリル諸島に関して常にロシアにクレームをつけているが、一部の専門家によれば、ロシアは北海道の完全な権利を有しているという」とツイートしていました。

 ウクライナで想定外の苦戦にあえぐロシアに二正面で構える余裕はないとはいえ、気味の悪さは拭えない。 

これに対して防衛省関係者は「万が一、ロシア軍が北海道侵攻を企てたとすれば、専守防衛が国是である以上、海岸線では防御できない。自衛隊は旭川-帯広ラインで押し戻すのが精いっぱいです」と語っています。

ただ、これについては従来からこのブログでは反論をしてきました。まずは、現在のロシア軍は、海上輸送能力が脆弱であり、北海道に大部隊を一度に送り込むことはできません。そのため、日本の自衛隊が上陸位置をあらかじめ察知すれば、その都度撃破されるということになります。

現在もそうなのですが、ソ連の時代も海上輸送力が脆弱であったため、結局ソ連が北海道に上陸する可能性は実はかな低かったといわれています。

さらに、日本はロシアに比較すると、対潜水艦戦闘力がかなり強く、特に潜水艦のステルス性においては、ロシアを大きく引き離しており、海戦においては日本が圧倒的に有利です。そうなると、ロシア軍が北海道侵攻を目指して大艦隊を送り込んできたとしても、そのほとんどは撃沈されてしまいます。

それでも、多大な犠牲を出しながらも、ロシア軍が北海道に部隊を上陸させたとしても、日本が北海道を潜水艦で包囲すると、補給部隊は北海道に近づくこともできず、近づけば撃沈されてしまいます。北海道に上陸したロシア軍部隊は、弾薬、食糧などを補充できなくなり、お手上げになります。

しかし、だからといって安心というわけではありません。上記のように、仮にロシア軍が北海道に侵攻して、負けたとしても、北海道の住民や自衛隊は大きな被害を被ることは避けられないからです。

それこそ、現在のウクライナのような状況になるでしょう。多くの人が犠牲になることが予想されます。やはり、最初から侵攻などされないほうが良いに決まっています。

近海では米ロが一触即発状況です。そうでなくても、ウクライナ戦争の影響で、北海道周辺は緊張が高まっています。このブログでも紹介したように、ロシアはカムチャツカ半島に拠点を置く太平洋艦隊の潜水艦基地ルィバチに、核兵器を積んだ弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を配備。オホーツク海を潜航し、日本列島の近くを行き来しています。

これについてはも、対潜水艦戦闘力に優れた日本の自衛隊は、哨戒能力も高く、その動向を詳細に把握しているでしょう。これについては、日本は冷戦時に多数の最新鋭の哨戒機を米国から購入し、哨戒任務にあたり、その情報を米国と共有し、実質的にソ連の原潜をオホーツク海に封じ込めたという歴史があります。

これにより、日本の対潜哨戒能力は飛躍的に向上氏、今やその能力は米国とならび世界トップクラスです。そうして、いまでも日本の自衛隊はロシア軍の潜水艦や艦艇に目を光らせています。

そのため、ロシア原潜も迂闊な動きはできません。ただ、将来的にプーチンがウクライナに侵攻したように、ロシア軍が北海道には絶対に侵攻してこないなどという保証はありません。

ウクライナ戦争をめぐり、米国が主導するNATO(北大西洋条約機構)の直接介入を阻止したいプーチン政権は核使用をチラつかせていますが、米国への対抗措置のひとつがオホーツク海からワシントンへの核ミサイル攻撃です。そうしたことから、北方領土や千島列島で軍事演習を繰り返しています。

在日米軍は当然、そうした動きを監視しています。ウクライナ戦争が米ロ戦争に拡大した場合、SSBNを沈めることが在日米軍の最大の役割になるからです。これに対しても、日本の自衛隊はその卓越した対潜哨戒能力を生かして、米国に大きな貢献をしているのは間違いないでしょう。

そのたいめ、滅多なことでは、ロシアが米国や日本に対して核攻撃をするということはないでしょうが、まかり間違ってロシア軍が北海道に侵攻するということでもあれば、戦況はロシア軍にとって圧倒的に不利な状況になりますから、それを打開するために戦術核を使うということは十分にありえることです。

そうなれば、日本が多大な被害を被るのは間違いないです。これは、避けるべきです。これについては、高橋洋一氏が興味深い主張をしています。その動画を以下に掲載します。


詳細はこの動画をご覧いただくものとして、高橋洋一氏は、まずは最近のロシアの動向に対抗して、日本はオホーツク海で大規模な軍事演習を行うべきことを主張しています。ロシアは最近北方領土でミサイル発射の軍事演習を行っています。これに対して、日本側が何もしないということではなく、これに対応して日本側も大規模な軍事演習を行うべというのです。

これは、外交上の常識として当然実施すべきものです。それと、古い日露間の条約では、樺太、千島列島の交換することを決めているわけですから、そこにまで戻って千島列島の全変換の交渉をすべきだとも語っています。これも外交上の常識といえます。

ただ、高橋氏は「岸田政権」には無理だろうと語っています。自民党内の保守系議員の方、なんとか頑張ってこれを実現していただきたいものです。

そうして、上の平井氏の記事で気になるのが、「ロシア兵が間違って北海道に上陸」という部分です。

これについては、前例があります。昨年民間のロシア人が国後島から、北海道まで泳いで渡っています。それに、2017年に松前小島に上陸した北朝鮮木造船の漁船員が泥棒をして逮捕されたという事件もありました。

目を海外に広げると、そのようなことは多くあります。北朝鮮の暴風軍団が最近そのようなことで逮捕されています。これは、朝鮮人民軍第11軍団としても知られる山岳戦、夜戦、後方撹乱などに長けた北朝鮮の特殊部隊です。

先月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)や両江道(リャンガンド)の国境地帯に派遣されたのですが、新型コロナウイルス対策としての国境警備の強化、国境警備隊の勤務状態の監視などが目的と見られています。そんな暴風軍団のある兵士が、犯罪目的で一時的に脱北する事件が起きました。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じました。

北朝鮮暴風軍団

逮捕後の身体検査で、現金500元(約7700円)と中国の長白山ブランドのタバコ2カートンを隠し持っているのを発見されました。取り調べでこの兵士は、強盗目的で密かに国境を越えて中国に渡ったと自白しました。

中朝国境地帯の中国側では脱北兵士による凶悪犯罪が相次いでいました。

2014年12月には、吉林省和龍市の村の民家に北朝鮮軍の兵士が押し入り、4人を殺害し、カネを奪って逃げる事件が起きました。2015年4月にも同じ和龍市で北朝鮮軍の兵士が強盗殺人事件を起こしています。

強盗までに至らなくとも、川沿いにある食堂にやってきて食べ物、ビール、タバコをねだりに来るといいます。断ると嫌がらせをされるため、食堂のオーナーは応じざるを得ないそうです。

その後、国境警備の強化で脱北兵士による犯罪が減少した模様ですが、現地では、暴風軍団のせいで同様の事件がまた増えるのではないかとの懸念が高まっています。

これについては、前例があります。昨年民間のロシア人が国後島から、北海道まで泳いで渡っています。それに、2017年に松前小島に上陸した北朝鮮木造船の漁船員が泥棒をして逮捕されたという事件もありました。

目を海外に広げると、そのようなことは数多くあります。北朝鮮の暴風軍団が最近そのようなことで逮捕されています。これは、朝鮮人民軍第11軍団としても知られる山岳戦、夜戦、後方撹乱などに長けた北朝鮮の特殊部隊です。

先月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)や両江道(リャンガンド)の国境地帯に派遣されたのですが、新型コロナウイルス対策としての国境警備の強化、国境警備隊の勤務状態の監視などが目的と見られています。そんな暴風軍団のある兵士が、犯罪目的で一時的に脱北する事件が起きました。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じました。

逮捕後の身体検査で、現金500元(約7700円)と中国の長白山ブランドのタバコ2カートンを隠し持っているのを発見されました。取り調べでこの兵士は、強盗目的で密かに国境を越えて中国に渡ったと自白しました。

中朝国境地帯の中国側では脱北兵士による凶悪犯罪が相次いでいました。

2014年12月には、吉林省和龍市の村の民家に北朝鮮軍の兵士が押し入り、4人を殺害し、カネを奪って逃げる事件が起きました。2015年4月にも同じ和龍市で北朝鮮軍の兵士が強盗殺人事件を起こしています。

強盗までに至らなくとも、川沿いにある食堂にやってきて食べ物、ビール、タバコをねだりに来るといいます。断ると嫌がらせをされるため、食堂のオーナーは応じざるを得ないそうです。

その後、国境警備の強化で脱北兵士による犯罪が減少した模様だが、現地では、暴風軍団のせいで同様の事件がまた増えるのではないかとの懸念が高まっています。

北朝鮮は、中国に比較すると、かなり貧乏であり、それがこの事件の誘引にもなっていると思われます。

中露は北朝鮮ほどには貧乏ではありませんが、それでも個人あたりの所得は100万円前後であり、日本と比較すればかなり低いです。中露人にとって、日本は天国のように豊かな国です。日本の家電品や身の回りののは、彼らにとっては宝の山です。

ロシア兵は、ウクライナで略奪をし、それをウクライナの郵便局から、ロシアに送っているとか、ウクライナ軍が傍受したロシア兵の会話では略奪を自慢しているものもあるといわれています。


ロシア軍がせめてこなくても、北方領土と北海道は泳いで渡れるほど近いですから、ロシア軍の不心得者が、やってきて略奪などをする可能性は否定できません。私はロシア軍の北海道侵攻より、こちらのほうがはるかに可能性が高いと思いますし心配です。

ロシアは財政難でロシア人の生活はますます苦しくなります。そうなると、ロシア軍の規律も緩んでくるおそれがあります。こうした略奪行為が大規模化する可能性はあります。それがエスカレートして、強姦、殺人にも発展しかねません。

そうして、中露北は日本に近く、いつ狼藉者が侵入してくるかわかったものではありません。さらには、ロシア経済が疲弊すれば、ロシア人難民が日本に大挙して押しよせてくることもあり得ます。ゼロコロナ対策で大混乱する中国や、北朝鮮からも来ることもあり得ます。こういうことにも、日本は対処すべきでしょう。

そのためには、防衛費の増加は無論のこと、こうしたことにも的確に対応できるよう、法改正も必要です。犠牲が出てからでは遅すぎるのです。

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2022年4月12日火曜日

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米韓が北にらみ事前演習 米空母、近海に4年半ぶり

原子力空母エーブラハム・リンカーン(左)と空母打撃群

 米韓両軍は、12~15日の日程で合同軍事演習の事前演習に当たる危機管理参謀訓練を開始した。18~28日には本演習である合同指揮所演習が行われる。北朝鮮は実施前から米韓演習に激しく反発。米韓は、北朝鮮が対抗措置として核実験や弾道ミサイル発射など、新たな軍事的挑発に踏み出す可能性を警戒している。

 また、韓国の聯合ニュースなどによると、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」が12日、韓国東部沖の日本海に入った。軍事的挑発を強める北朝鮮を牽制(けんせい)する狙いとみられる。

 米空母の韓国近海入りは2017年11月以来、約4年半ぶり。前回は、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射や6度目の核実験を受けて米空母3隻が日本海入りし、自衛隊や韓国軍とそれぞれ訓練を実施した。今回、空母は5日間程度この海域にとどまる見込みだが、演習への参加予定は伝えられていない。

 危機管理参謀訓練は、局地的な軍事挑発やテロといった突発状況への対処態勢を点検する。本演習では、主にコンピューターシミュレーションにより、北朝鮮の本格的攻撃を想定した防御と反撃の訓練を行う。

 北朝鮮では15日に金日成(キム・イルソン)主席生誕110年、25日に朝鮮人民革命軍創建90年の節目を迎えることから、大規模な軍事パレードのほか、7回目の核実験や新たなミサイル発射を実行する可能性が警戒されている。

 北朝鮮が18年に廃棄を宣言した北東部、豊渓里の核実験場では、入り口を爆破した坑道を復旧させるための掘削とみられる活動が衛星写真で捉えられている。潜水艦基地のある東部、新浦でも新たな潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射準備の可能性がある動きが観測されている。

【私の論評】ロシアのウクライナ侵攻と韓国新大統領の就任を契機に、日米韓の軍事演習が活発化する(゚д゚)!

ロシアのウクライナ侵攻を契機に、国際情勢が揺れ動き始めています。ウクライナ「異変」で、これから北朝鮮の核問題をめぐって、中国、ロシア、日本、米国、韓国など各国はどのような動きをするのでしょうか。

そうした中、韓国で文在寅大統領から尹錫悦次期大統領に政権交代が実現したことで、国際情勢に変化の兆しがみられるようになってきました。

今回の米韓の演習もその一環であると考えられます。

北朝鮮の核問題は文在寅政権で時間を浪費し、後戻りが難しいところまで来てしまいました。

日米にとって直ちに有効な対処方法はないでしょう。

しかも北朝鮮にだけ対処すれば良い環境でもなくなりました。今後は中ロが北朝鮮を支援しないよう一層の圧力を高めていくなど戦略的な外交が必要になってくるでしょう。

そうした時文在寅政権が去り、尹錫悦氏が大統領になるのが唯一の救いです。日米韓、米韓、日韓の政策調整をついに始めるときが来ています。

日本、米国、韓国の高官らは、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射後これを非難しました。

米国務省のプライス報道官によると、米国のソン・キム北朝鮮担当特別代表は、外務省の船越健裕アジア大洋州局長や韓国の魯圭悳(ノ・ギュドク)朝鮮半島平和交渉本部長と個別に電話協議を行いました。

北朝鮮の国営メディアは3月25日、同国が3月34日の実験で「新型」のICBM「火星17」を発射したと報じました。

こうした中、米国務省のポーター報道官は、中国やロシアがICBMの発射を再開した北朝鮮に対し、これ以上の「挑発」をやめるよう促すべきだという考えを示しました。

また、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は「一層危険な挑発行為」を行っている北朝鮮への国際制裁を「更新・強化」するよう国連安全保障理事会に働き掛けると表明。ただ、具体的な内容には触れませんでした。

中国の張軍国連大使は、「いかなる当事者も緊張を高めるような行動をとってはならない」とし、「米国は北朝鮮の正当な要求を無視し続けることはできない。早期対話再開への道を開くため、魅力的な提案をするべきだ」と述べました。

この魅力的な提案とは、おそらく、米国が北朝鮮が核・弾道弾開発を放棄するかわりに、経済援助するなどのことを約束することを意味していると思います。

ただ、これには中国の思惑があると考えられます。

それを理解するには、まずはこのブログでも過去に述べたように、朝鮮半島に北朝鮮と、その核があることによって、それが抑止力となり、朝鮮半島への中国の浸透を防いできたという事実を認識しなければなりません。

北朝鮮の核は、日米などは無論、実は中国も照準に入れています。金王朝は金日成、金正日、金正恩の三代にわたって、中国の浸透を嫌っています。もし、北に核が存在していなければ、中国はすぐに北朝鮮に浸透して、金王朝は放逐され、北朝鮮を共産主義化したかもしれません。挙げ句の果てに、北朝鮮に傀儡政権を樹立したかもしれません。

そうして、いずれは北を中国に飲み込み、韓国に文政権のような政権ができたら、それをも飲み込み、今頃朝鮮半島は中国の朝鮮省になっていたかもしれません。

金王朝はだからこそ、核や弾道弾の開発に踏み切ったという面は否めません。

文政権における韓国は、北との関係を深めていこうとしましたが、ある時点からそれを拒絶しました。金正恩としては、南北統一などすれば、得体の知れない、金王朝に敬意など払うことない韓国人が大勢北朝鮮にやってくることになるので、そもそも統一するつもりなどはなからありません。

ただ、いっとき韓国との関係を良くしたのは、それによって米国との関係を良くして、制裁をゆるめてもらったり、韓国からの援助なども期待したのでしょう。ただ、統一する気などさらさらないですから、最終的には関係が悪化するのは当然の成り行きだったのです。

ポンコツ文在寅は、そんなこととはつゆ知らず、ただビエロのように、北朝鮮によって掌で弄ばれただけなのです。

白頭山の山頂で記念写真に納まる金正恩朝鮮労働党委員長(左から2人目)と南朝鮮(韓国)の文在寅大統領(右から2人目)。両端は李雪主夫人(左)と金正淑夫人=2018年9月20日

ただ、その韓国で、保守系の尹錫悦氏が大統領になることが決まり、事情は変わってきました。しかし韓国では24年まで続く『ねじれ国会』問題があります。現在の韓国議会は約6割が革新系で、保守派の尹大統領の意向がストレートに通りづらいところがあります。

そのため、日韓関係がすぐに改善することはありえませんが、軍事面では期待できそうです。尹氏は、「サード(THAAD:終末高高度防衛ミサイル)追加配置」を大統領選の公約にしています。

そうして、ロシアのウクライナ侵攻が現実になってしまった現在、かつてウクライナが核保有国だったことを忘れるべきではありません。ソ連が1991年に崩壊すると、ウクライナは期せずして米露に次ぐ核大国になりました。ソ連がウクライナ国内に大量の核兵器を置いていたためです。ウクライナにあった核弾頭は当時1240発。英国が冷戦期に保有していた「核」の2倍以上です。

それでもウクライナは核保有の道を選びませんでした。チェルノブイリ原発事故の影響から、国民に核アレルギーがありました。ウクライナ議会はソ連崩壊の前年、「受け入れない、作らない、手に入れない」の非核三原則を宣言しています。ただ、政府や軍には「核を手放して、自国の安全を守れるか」との懸念もありました。まるで、現在の日本のようです。

燃料の処理を終えた大陸間弾道ミサイルRT23の1段目= ウクライナ東部パブログラドで2019年11月29日

ソ連崩壊で、核の拡散を懸念する米英露はウクライナに放棄を求めました。ブダペストで94年、全欧安保協力会議の首脳会議が開かれます。ここで米英露は「ウクライナの領土的統一と国境の不可侵を保証する」という覚書を交わします。ウクライナが全ての核をロシアに移送したのは96年です。

当時は冷戦終結(89年)で、欧州がウクライナを敵視する可能性は低いと考えられましたし、ロシアとは歴史的、民族的に結びつきが強く、軍事的脅威とはならないだろうと、信じたウクライナは、経済再建を優先し軍縮を急ぎました。戦略爆撃機や中距離重爆撃機のほとんどをロシアに売却するか、国内で解体しています。

覚書から20年。軍縮を進めたウクライナをあざ笑うかのように、プーチン露政権は2014年、ウクライナ領クリミアを軍事力で強制編入しました。米英は覚書に反すると批判しましたが、プーチンはそのようなことは意に介さず、今度はウクライナに侵攻しました。

もし、ウクライナが一部でも核兵器を保持し、戦略爆撃機や中距離重爆撃機を保持していたとしたら、プーチンも迂闊にはウクライナに侵攻することはできず、ロシアは国境紛争程度でそれ以上は踏み込まなかったかもしれません。

北朝鮮も核を放棄すれば、ウクライナのようになる可能性は十分にあります。それを認識している金王朝は、核・ミサイル開発を手放すことは絶対にしないでしょう。そうすれば、北も金王朝もおしまいと認識しています。

以上のようなことを考えれば、日米韓は北朝鮮問題に慎重にならざるを得ないところがあります。当面は、朝鮮戦争後の秩序を維持するということになるでしょう。要するに、現在の38度線を一ミリたりとも動かさないということです。これは、米国、中国、ロシア、北朝鮮も朝鮮戦争停戦協定で批准しています。


文在寅大統領のときの韓国は、北朝鮮や中国に接近し、在韓米軍の撤退もあり得る状態になり、この38度線はアチソンラインまで、後退することが懸念されたほどですが、尹新大統領は、38度線を維持するのは間違いないようです。というより、文在寅が極めて異常だったのです。

もし、アチソンラインが米国の防衛ラインということになってしまえば、日本の東京が最前線ということになってしまいます。本当に大変なことになるところでした。私は、文在寅が大統領である限り、韓国には軍事的にも何も期待できず、韓国に軍事的な空き地があるだけで良いと考えていました。

これからの日米韓は、38度前を守りつつ、現状維持をはかるのが最適であると思います。核・ミサイル開発に関しては、反対はするものの、できればその主力を、中国むけの戦術核に限定するようにもっていけるな、そうするべきと思います。

これは、理想論からはかなりかけ離れていますが、現実をみれば、このあたりが当面の落とし所にならざるを得ないと思います。仮に米国が現在すぐに、北朝鮮に対して何らかの手段を工事、核やミサイルを無力化すれば、中国を利することになり、敵に塩を送ることになりかねません。

そのようなことをするのではなく、あくまで対峙の最優先は中国にすべきです。米国が北朝鮮問題を強引に解消したとしても、中国がそのままであれば、習近平をぬか喜びさせるだけです。習近平は、北朝鮮に浸透し、次は韓国に浸透するでしょう。

それを実施する上で、武力を用いれば、朝鮮半島版ウクライナ戦争になりかねません。国際関係は理想論で語れるほど、単純でもないし、秩序だったものではないのです。

新冷戦で中国が破れ、中国の体制が崩壊すれば、北朝鮮問題はほとんど何もしなくても解消することになるでしょう。やはり、中国を最優先すべきなのです。核をなくすのは理想だからといって、順番を間違えれば、かえって事態を悪くし、ウクライナの二の舞いになりかねません。

米国もこれを意識した上で、4年ぶりの米韓合同軍事演習を実施するのでしょう。これによって、文在寅統治の韓国から、尹錫悦新大統領統治の韓国に変わったことを北や中国に理解させようとしているのでしょう。

そうして、これからは韓国も含んだ、合同演習は増えていくと思います。そうして、この演習で牽制する対象は、北朝鮮も含まれますが、メインはあくまで中国なのです。ただ、日本としては、これを機に停滞していた拉致問題を進めるべきでしょう。いずれにしても、拉致という北朝鮮による国家犯罪は、いずれ国際法に照らして裁かれなければいけません。

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