2023年1月12日木曜日

米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を―【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!

米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を

岡崎研究所

日米豪などが参加する太平洋パートナシップ2022(PP22)で演説するソロモン副首相

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのラックマンが、12月5日付同紙に‘Australia, China and the judgment of the Solomons’と題する論説を書き、ソロモン諸島を巡る中国と米豪の争いを描写し、米豪が同国の第二次大戦不発弾処理を支援し好感を得るのも一案、と指摘している。要旨は以下の通りである。

 南太平洋のソロモン諸島は、今や中国と西側の戦略的競争がぶつかる場所で、4月のソロモン・中国安全保障合意署名は、米豪への警告となった。数十年にわたる急速な軍備拡大で中国海軍は米国海軍より多くの艦船を保有し、習近平主席の下、既に南シナ海に軍事基地を構築している。中・ソロモン合意は主に国内治安に関するものだが、米豪は中国が南太平洋に海軍基地を建設しようとしており、その最もありそうな場所がソロモンではないかと恐れている。

 ソロモン諸島は第二次世界大戦最激戦のガダルカナル戦の舞台だった。米軍が日本と闘ったのは今日ソロモン諸島が戦略的に重要と見られているのと同じ理由で、豪州、東アジアと米国西岸とのシーレーンに位置しているからだ。

 中国が太平洋の米軍事力に直接挑戦するとすれば、最もあり得る対象は台湾だ。米豪高官は、習近平下の中国が今後5年の内に台湾へ侵攻乃至封鎖を試みる可能性は相当あると見ている。豪州では、米中戦争が起これば豪州は巻き込まれるという想定が広く共有されている。南太平洋に中国基地があれば、豪州の戦略的計算は大いに複雑化する。

 最近の習・アルバニージー会談は6年ぶりで緊張を若干緩和したが、引き続き米豪は中国がインド太平洋の席巻を決意していると見ており、それを防ごうと決意している。それを最も明確に示すのが昨年の米英豪の安全保障枠組み「AUKUS」創設であり、その核心が豪州の原潜取得だ。中露はAUKUSを好戦的と批判したが、豪州は、力の均衡を維持し平和を護るためだと反論する。しかし、インド太平洋の隣国にそう主張するのはリスクがある。例えば、インドネシアのジョコウィ大統領は、同国は新冷戦の駒になるつもりはないと言っている。

 地域的影響力を巡る競争で中国は一定の優位にある。中国はインド太平洋のほとんどの国の最大の貿易相手だ。ソロモンのような貧困国では、中国の富は富裕層による援助の横取りも可能とする。今や米豪もソロモンへの影響力向上に努めている。米国は近々大使館を開設すると発表。豪州はソロモン警察に車両とライフル銃を提供した。一方、同警察の人員は中国で訓練を受けてきている。

 ソロモンは今の地政学に対応する一方、第二次世界大戦の遺産に悩まされている。未だ散乱する不発弾で命を失う人もいる。AUKUS加盟国はソロモンの好感を得るために、その処理に取り組むのも一案かもしれない。

*   *   *

 4月の中・ソロモン安全保障合意を受けた付け焼刃は否めないが、南太平洋島嶼国の戦略的重要性に鑑みれば、最近米国が関心を高めているのは結果として良いことだ。本来は豪州の責任範囲だが米豪連携は必要で重要だ。

 7月の(太平洋島嶼国と豪・ニュージーランドの)太平洋諸国フォーラム(PIF)には、2012年のクリントン国務長官以来久々の高官としてハリス副大統領がオンラインで参加し、キリバス、トンガ、ソロモン諸島への大使館開設を表明(ただ、ソロモン諸島の米国大使館は2003年に閉鎖されたものの再開で、これまでの米国の姿勢を象徴している)。

 さらに9月28日~29日に初の米・太平洋島嶼国サミットをワシントンで行い「太平洋パートナーシップ戦略」を発表した。今まで未承認だったクック諸島とニウエの国家承認を発表し、8億ドルを超える援助を表明したのは正しい第一歩だ。会議後の共同声明に紆余曲折の後ソロモン諸島も署名したのも、一つの成果だろう。

 一方、中国はそのずっと先を行っている。中国が太平洋島嶼国と「経済発展協力フォーラム」を始めたのは2006年に遡る。2013年の第2回会合では20億ドルの譲許的融資を約束。その後2019年にはキリバスとソロモン諸島が台湾と断交し、南太平洋島嶼国の台湾承認国はパラオ、マーシャル諸島、ナウル、ツバルの4カ国になった。

 もちろん中国の援助にはマイナスもある。2018年のパプア・ニューギニアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)会合の際に、同国外務大臣事務所に中国外交官が乗り込み共同声明案修正を直談判したという高飛車な対応も記憶に新しい。これでは真の友好関係は長続きしないのであり、こちらから付け入る余地は十分ある。

鍵となるフランスとの連携

 そのためには、同じ目線で相手の共感を得ることに加え、「こちら側」の陣容の拡充も必要ではないか。それはフランスとの一層の連携だ。仏領ポリネシアは南太平洋におけるフランスの拠点だ。

 元々PIFとその前身はフランスの核実験などに反対して結成されたという歴史的経緯はあるが、今や仏領ポリネシアは準メンバーであるし、フランスもパートナー国になっている。我々にはあまり余裕はないはずだ。先の米・島嶼国サミットにもオブザーバーで豪・ニュージーランドは参加する一方、フランスが参加していない点が気になる。

 しかし、島嶼国との関係についても昔から努力しているのは日本だ。日本が太平洋・島サミット(PALM)を始めたのは1997年で、中国より10年近く早い。同じ目線で「共感」を得るアプローチは日本のお家芸だ。上記の論説で取り上げられている不発弾処理についても、既に日本は、ソロモン国家警察爆発物処理部隊に対する支援を開始している。今後これを日米豪(または日米豪仏)のプロジェクトとして進めると言うことも一案だろう。ちなみにPALMには仏領ポリネシアも入っている。

【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!

なぜ、中国は南太平洋ソロモン諸島に接近を図るのでしょうか。そこには、大国間競争と台湾という中国なりの狙いがあるようです。

中国はソロモン諸島と安全保障協定を結んだのですが、何も中国が接近しているのはソロモン諸島だけではありません。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」の調査によると、中国は 2006年からの10年間で、フィジーに3億6000 万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドル、パプアニューギニアに6億3200万ドルなど南太平洋諸国に多額の経済支援を行うなど、南太平洋地域で徐々に強い存在感を示すようになっていきました。

その中でソロモン諸島では2021年11月、中国と関係を強化するソガバレ現政権に対する大規模な抗議デモによって現地の中国街などが被害に遭う事態が発生。以降も散発的に抗議デモが起きるなど、南太平洋各国で中国への警戒感があるのも事実です。

2021年11月25日/ソロモン諸島、首都ホニアラの抗議デモ

しかし、それでも中国の影響力は増大しており、経済主体から安全保障にまで踏み込んだものとなっています。経済的影響力を浸透させてから安全保障でも踏み入れるという形式は、ソロモン諸島だけでなく、今後は他の南太平洋諸国でもみられる可能性が十分にあることでしょう。

西太平洋で軍事的影響力を強化しようとする中国にとって、南太平洋は米国だけでなく、近年対立が深まるオーストラリアやニュージーランドをけん制する意味でも地理的に都合が良いです。

米国政府高官は昨年4月下旬、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談し、安全保障協定に懸念を伝え、対抗措置も辞さない構えを示しました。南太平洋を裏庭と位置づけるオーストラリアのモリソン首相も同じく4月下旬、中国がソロモン諸島に海軍基地を建設する恐れがあり、そうなればオーストラリアや米国だけでなく、他の太平洋島嶼国が危機に直面することになると警告しました。

このように、中国側には大国間競争を意識して、米国やオーストラリアなどをけん制する政治的狙いがあることは間違いないです。最近、日本の閣僚も昨年5月、南太平洋のフィジーとパラオを訪問しましたが、米国やオーストラリア同様の懸念を抱いています。

中国が南太平洋に接近を図るのは、大国間競争以外にも狙いがあります。もう一つの大きな狙いは、台湾との外交関係断絶を促すことです。実は、南太平洋には台湾と外交関係を維持する国が集中しています。


現在、中国と国交があるのは、パプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、サモア、ミクロネシア、クック諸島、トンガ、ニウエ、キリバス、そしてソロモン諸島の10カ国で、台湾と国交を持つのはマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルの4カ国ですが、2019年にキリバスとソロモン諸島が台湾との断交を発表し、中国と新たな国交を樹立するなど、南太平洋では“脱台湾”が進んでいます。これも中国が経済を武器に影響力を強めてきた証でしょう。

現在、台湾の蔡英文政権は中国を脅威として認識し、そのため欧米諸国との結束を強化しています。習政権は台湾の独立阻止には武力行使も辞さない構えですが、現実には、中国が台湾侵攻をすれば、台湾とだけ戦ったにしても、台湾を占拠するのはかなり難しいですし、甚大な被害を被るのは必定です。

まして、これに日米が加勢すると、対潜水艦戦争(ASW)に優れた日米によって、中国海軍は壊滅的な打撃を受けるのは必定です。

米ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は9日、中国が台湾に軍事侵攻した場合、その企ては「早期に失敗」する一方、台湾と米海軍にも多大な代償を強いることになるとの机上演習の結論を公表しました。

CSISは「最も可能性の高い」シナリオとして、「中国による大規模な砲撃」にもかかわらず、台湾の地上部隊は敵の上陸拠点に展開する一方、米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強されて、中国軍の水陸両用艦隊を迅速に無力化し、侵攻する中国軍は補給の増強や上陸に苦戦すると結論付けました。

机上演習は計24回に及び、米軍の退役将軍・海軍士官、元国防総省当局者らが参加しました。

CSISはその中で、日本の基地や米軍の水上艦を中国が攻撃したとしても「結論を変えることはできない」としつつも、「台湾が反撃し、降伏しないというのが大きな前提だ」と説明。「米軍の参戦前に台湾が降伏すれば、後の祭りだ」とし、「この防衛には多大な代償が伴う」と指摘しました。

さらにリポートでは、米国と日本は「何十もの艦船や何百もの航空機、何千もの兵士を失う」とともに、「そうした損失を被れば米国の世界的立場は多年にわたり打撃を受けるだろう」としています。

このリポートはまだ読んでいませんが、今までのCSISの中国による台湾侵攻シミレーションには、潜水艦という言葉が一言も出てこなかったのが、今回は潜水艦というワードが出ているようです。

従来のシミレーションでは、まるで米国は巨大攻撃型原潜を一隻も所有していなかのごとく、潜水艦が登場しませんでしたが、これに関しては多くの軍事専門家も批判しており、このブログでも何度かそれを批判しました。潜水艦を海戦に用いるのとそうでない場合、海戦能力に大きな違いがでてくるからです。

今回のシミレーションでは、潜水艦がどの程度使われたかなどはまだわかりませんが、いずれにせよ、米軍が大型攻撃型原潜を効果的に用いれば、中国海軍は崩壊します。無論中国がこれに対して報復し、日本の米軍や自衛隊基地を攻撃するとなれば、日米双方とも大きな被害を蒙りますが、それでも、中国は台湾に侵攻できないどころか、海軍艦艇のかなりの部分を失うことになります。

そのため中国としては、軍事的侵攻は避け、台湾が持つ他国との国交をどんどん消していくことで、台湾に外交をできなくさせる狙いがあるのでしょう。

そうすることによって、台湾を国際社会から孤立させ、あわよくば、台湾を飲み込んでしまうとする意図があると考えられます。中国はそれぞれの国に対し、中国と台湾の二重承認を許していません。まさに白か黒かのオセロゲームのようです。台湾を国際的に孤立させるため、中国は膨大な支援を通じて、台湾と断交し、自分たちと国交を結ぶように迫っているのです。

現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。

日本の対潜哨戒機P1

ただし、西側諸国に比較すると、現代海戦における海戦能力の要であるともいえる、ASWがかなり劣った中国海軍は、軍事に疎いマスコミなどは、これを過大評価しますが、海戦能力でははるかに及ばず、さほど脅威ではないのですが、まともな海軍力を持たない南太平洋の島嶼国などにとっては脅威であり、米国ならびにその同盟国などは、南太平洋でも軍事的にもある程度の存在感を高めていく必要はあるでしょう。

現代海戦においては、たとえば空母は大きなミサイル標的にすぎず、すぐに撃沈されてしまうのですが、それでも中国の空母が南太平洋の島嶼国の付近を航行すれば、かなり脅威であり、圧力になります。そのようなときに、西側諸国の空母等もすぐ対抗して航行できるような状況にあれば、あまり問題にはなりません。

そのためには、南太平洋にも領土を持つフランスやイギリスとも日米豪がさらに、関係を強めておくことも重要になります。

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2023年1月11日水曜日

菅義偉氏、岸田首相に反旗か 派閥政治、増税を批判「国民の声が届きにくくなっている」 自民党議員「意趣返しする意向があるのでは」との声も―【私の論評】今となっては短期政権になった理由が良くわからない菅政権、菅氏の再登板はあり得る(゚д゚)!

菅義偉氏、岸田首相に反旗か 派閥政治、増税を批判「国民の声が届きにくくなっている」 自民党議員「意趣返しする意向があるのでは」との声も

菅前首相(左)は、岸田首相の官僚主導政治に反発したのか

 自民党の菅義偉前首相が10日、「国民の声が、政治に届きにくくなっている」などと語り、岸田文雄首相に苦言を呈した。2021年10月の首相退陣後、目立った動きが少なかった菅氏による突然の発言は、「増税+事実上の利上げ」で、アベノミクスを否定するような政策方針を見せる岸田政権への〝反旗〟なのか。政局の狼煙(のろし)となるのか。


 「政治家は国民の負託を受けている。自らの理念や政策よりも、派閥の意向を優先するようなことはすべきでない」「首相は国民全体の先頭に立って汗を流す立場にある。歴代の多くは所属派閥を出て務めていた」

 菅氏は10日夜、外遊先のベトナムで取材に応じ、岸田首相が宏池会会長を続けていることを問われ、こう語った。共同通信やNHKなどが報じた。

 菅氏は「少子化対策は極めて重要だと思うが、消費税を増税してやるということは(私は)まったく考えていない」とクギを刺した。

 新型コロナが感染拡大するなか、菅氏は一昨年秋に退陣した。その後、菅氏を推すグループを〝派閥化〟するとの観測もあったが、目立った行動を見せなかった。

 一方、凶弾に倒れた安倍氏の国葬(国葬儀)での弔辞が国民的共感を呼んだうえ、東京五輪・パラリンピックの開催や、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療の保険適用方針など、自ら掲げた「国民のために働く内閣」が再評価される動きもある。

 岸田首相の政策は、経済成長を重視した「アベノミクス」否定ともみられている。防衛増税などでは、安倍派(清和会)を中心に反発や警戒感が広がっている。

 宏池会が、菅政権末期の〝菅降ろし〟の火ブタを切った経緯もあるだけに、自民党議員からは「菅氏には、自らの政権と岸田政権の実行力を対比させ、意趣返しする意向があるのでは」「支持率が低迷したまま統一地方選が迫り、党内政局の様相もある」との声があがる。

 菅氏の真意は何か。

 ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「官僚主導が進む岸田政権の動きが目に余り、行動を起こしたのではないか」と分析し、今後をこう予測する。

 「菅氏は、霞が関の官僚政治を壊し、政治主導を進めた。携帯電話料金値下げや、ふるさと納税などはその象徴だが、岸田政権は官僚政治に回帰している。本心では、無派閥などを含めて自民党の勢力を結集する意思はあったはずだが、安倍氏の暗殺事件の喪に服したこともあり、行動を控えていたのだろう。ただ、解散総選挙の機運もあり、今年は『政局の年』だ。今回の発言で明確な意思表示をし、行動に移す決意なのではないか」
苦言は増税路線にも及んだ。

 岸田首相は防衛力強化の財源として、安倍晋三元首相が提示した「国債」を排除して「増税」を決めた。年明けには「異次元の少子化対策」を打ち出し、前後して首相周辺から「消費税増税論」が飛び出した。

【私の論評】今となっては短期政権になった理由が良くわからない菅政権、菅氏の再登板はあり得る(゚д゚)!

岸田政権は支持率がかなり落ち、永田町では、長くてG7広島サミットまでであり、その後は勇退とみていようです。

首相が早期に辞任した場合、「ポスト岸田」は誰でしょうか。現時点で本命視されるのは茂木敏充自民党幹事長、河野太郎デジタル担当相、高市早苗経済安全保障担当相の3人でしょう。

茂木氏は栃木県出身で、東大経済学部を卒業後、大手商社の丸紅、読売新聞社を経て世界最大手のコンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーで勤務したという華麗な経歴の持ち主です。

1993年の衆院選に日本新党公認で旧栃木2区から立候補し初当選。日本新党解党後、無所属を経て自民党に入党しました。政策通として知られ、2003年に小泉内閣で沖縄・北方担当相として初入閣。その後も自民党政調会長や経済産業相、外相などの要職を歴任しました。

岸田首相や安倍元首相とは当選同期で、安倍氏が「同期一番の男前は岸田文雄、一番頭がいいのは茂木敏充、そして性格が良いのが安倍晋三といわれている」と話した逸話は有名。優秀さを鼻にかけているような態度から党内の人気はいま一つですが、2021年11月に第2派閥の旧竹下派、平成研究会の会長を継いだことで党内基盤も安定しました。

岸田首相や政権の後ろ盾となっている麻生太郎副総裁とも良好な関係を築いており、本人もポスト岸田に強い意欲を示しているとされます。課題があるとすればマスコミの注目度の低さです。

対照的にマスコミの人気が最も高いのが河野氏です。河野氏は祖父が河野一郎元副総理、父が河野洋平元衆院議長という政治家一家に生まれ、民間企業を経て1996年の衆院選で初当選しました。

もともとSNSなどでの発信力が高かったのでが、安倍内閣で外相や防衛相などを歴任したことでさらに知名度を高めました。菅前首相の辞任に伴う2021年の自民党総裁選に岸田、高市両氏とともに立候補。河野氏は決選投票まで進み、党員・党友票では首相を上回ったものの、国会議員票で大差をつけられ敗れました。

総裁選で敗北したことで自民党広報本部長へ起用され“冷遇”されたといわれましたが、河野氏のマスコミ人気は健在で、毎日新聞が11月に行う恣意的な世論調査で「日本の首相になってほしいと思う人」として最も多くの支持を集めました。

第2次岸田内閣ではデジタル相に起用され積極的に発信していますが、課題は党内の支持基盤です。第3派閥の麻生派に所属するが、会長である麻生副総裁は「河野首相」に消極的で、前回総裁選でも岸田氏を支援した経緯があります。そのため河野氏は同じく国民人気の高い石破茂元幹事長に支援を仰ぎました。小泉真太郎氏も応援し、この動きは「小石川連合」と揶揄されました。

「小石河連合」の試みは結局失敗しました。石破氏は、「いつも後ろから鉄砲を打つ奴」ということで、大方の自民党議員から嫌われています。


小泉氏は、もともと、「頭が悪すぎ」ということで評判が悪く、従来は総理になって欲しい人などのアンケートをとると結構上位にきていたこともあったのですが、頭の悪さが尋常ではないということが多くの国民に知れ渡ったということで、そもそもランク外になっていました。

私は、河野氏が「小石川連合」を組んだことから、まだ趨勢をみてみないとわからないところがありますが、石破氏や小泉氏の総理目が消えたように、河野氏の目もほとんど消えたと思います。

ポスト岸田の本命、最後に挙げる高市氏は一般家庭に生まれましたが、岸田首相や茂木氏と同じ1993年の衆院選で初当選した。当選時は無所属でしたが、新進党などを経て1996年に自民党に入党。当初は清和政策研究会(現安倍派)に所属しましたが、野党時代の2011年に派閥を離脱して以降は無派閥。

ただ、保守的な政策やまともな経済政策で知られ、安倍氏にも近かったことから保守系の議員や有権者からの支持が厚いです。恣意的な毎日新聞の調査でも「日本の首相になってほしいと思う人」として河野氏、岸田首相に次ぐ3位に入りました。

後ろ盾だった安倍元首相は亡くなったのですが、中国やロシア、北朝鮮の脅威が増すなか、防衛に関する国民世論の注目も高まっています。また、最近ではあまりに酷い岸田首相の経済対策と比較すると、マクロ経済を亡くなった安倍首相と同程度にまで理解しており、特に、自民党内の今や多数派の積極財政派の議員からの評価は高いです。

時流に乗れば首相への道も開ける可能性もあるが、後ろ盾の安倍元首相が亡くなってしまった現在では、かなり難しいです。亡くなった安倍元首相の岩盤支持層を広げていけるかがカギを握ると見られます。

これ以外に林氏をあげる人もいますが、岸田氏は岸田派の中で、林氏が頭角を顕し派閥を乗っ取られことをおそれ、外務大臣などの重責を担わせて、自身の近くにおいているともみられ、さらにあまりにも酷い親中派、媚中派であることから、自民党内の保守派の議員からは、蛇蝎のごとく嫌われています。

財力に関しては、飛び抜けているようですが、総裁選は自民党議員や党員によって実行されるものですから、これだけ人気がないと、無理だと思います。

ポスト岸田の本命といえばこの茂木、河野、高市3人ですが、ダークホースを挙げるとすれば菅前首相でしょう。たった1年で政権の座を手放しましたが、決定的な失政があったわけではないです。マスコミの印象操作により、コロナ対策があたかも失敗したかのように情報操作され、その対応に振り回され、最後は政局を見誤ったことで総裁選への出馬断念に追い込まれました。

しかし、このブロクでは、何度か述べてきたように、安倍・菅両政権においては、政治決断で増税せずに、合計で100兆円の補正予算を組み、コロナ対策を実行しました。 この100兆円の根拠は何かといえば、GDPギャップです。

コロナ禍が深刻だった両政権においては、需要ギャップが100兆円存在しており、これを財政政策で埋めなければ、日本経済は落ち込むことが予想されました。そのため、両政権下で、安倍政権では60兆円、菅政権においては40兆円の補正予算を安倍元総理の言葉を借りれば、「日銀政府」連合軍で実施したのです。

「日銀政府連合軍」とは政府が長期国債を発行し、日銀が買い取るという形式で、資金を調達する方式のことです。

特に雇用に関しては大成功で、雇用調整助成金の制度も用いつつ、雇用対策を行い、日本では失業率が両政権下では、2%台で推移しました。もし、あのときコロナ復興増税などしていたら、現在日本経済はかなり落ち込んでいたことでしょう。

これは他国が、コロナ禍の最中に失業率(8%〜10%は普通)がかなり上がったことを考えれば、大成功です。マスコミや、多数の野党議員などは、マクロ経済に全く疎いので、この意味するところがほとんどわかっていないようです。現在の自民党は、いわゆる積極財政派が多数を占めるので、この意味するところを理解する議員も多いです。

菅政権においては、経済対策だけではなく、ワクチン接種を驚異的なスビードで実施し、コロナ病床の確保には、医療ムラの執拗な抵抗にあったため、失敗したものの、それでも結局医療崩壊を起こすこともなく、コロナはかなり収束しました。

菅政権のコロナ対策は総体的にみれば、成功であり、マスコミがこれを失敗としたのは、単なる印象操作にすぎません。マスコミは、印象操作の過程で、菅氏の息子による総務省官僚の接待を問題としましたが、これは総務省の脇があまりにも甘すぎたということであり、自民党の多くの議員はこれを問題視など最初からしていません。

このようなことを実施した、菅元総理が、再登板したとすれば、政治的な立ち位置は、安倍元総理とは異なる所があったにしても、よもや、岸田総理のように、防衛増税に走るとは考えられないないです。

今となっては何が問題なのかすら良くわからない、菅総理(当時)の発言。東京新聞

宏池会は例外ともいえるでしょう。これも、岸田総裁を擁立するための姑息な手段に過ぎないです。現在では、マスコミも、野党も、自民党の多数の議員も、これを問題とはしていません。寧ろ菅氏の仕事ぶりが再評価されています。

増税一辺倒の岸田氏と比較すれば、菅氏の政策や安定感には定評があるほか、仕事師という異名を持つほど、徹底した仕事ぶりで、岸田首相が唐突に辞任するようなことがあれば当面の“リリーフ(継投)”として白羽の矢が立つ可能性は十分にあります。安倍元首相も1年で辞任した後、再登板して戦後最長の長期政権を築いたという事例もあります。

「検討師」などと揶揄される岸田氏から比較すれば、菅氏の仕事師ぶりが、ますます光りを増したともいえます。岸田首相が、経済面でも安倍路線を引き継いでいれば、こんなことにはならかったかもしれれません。

「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の設立総会で講演する安倍晋三元首相(中央)=昨年2月9日

岸田首相に対する保守派議員・党員ならびに多数派の積極財政派の議員がもっとも納得がいかなかったのは、やはり防衛増税でしょう。これらは、かなり数が多いですし、総裁選を大きく左右する勢力になりえます。防衛費を増税の出汁に使うなど、さすがにこれだけは許せないというのが保守派・積極財政派の本音だと思います。

岸田首相は2021年10月の衆院選、2022年7月の参院選に立て続けに勝利し、大型国政選挙のない「黄金の3年」を手にしています。2024年9月の自民党総裁任期まで、続投を阻むものはありません。それでも一寸先に何があるのかわからないのが政治の世界。ポスト岸田として名前の挙がる政治家の一部は、陰で“政権準備”を始めているに違いないです。

そうして、岸田氏が辞任ということになれば、私自身は、菅氏を応援したいですし、これは希望的観測ではなく、積極財政派が多数を占めるようになった自民党の中では、最有力候補になる可能性もあります。

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2023年1月10日火曜日

ロシア軍、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧の公算=英国防省―【私の論評】戦況の変化は、露宇両軍とも弾薬不足で本格的塹壕戦に突入したせいか(゚д゚)!

ロシア軍、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧の公算=英国防省


英国防省は10日、ロシア軍と民間軍事会社「ワグネル」の部隊は過去4日間の戦術的な前進の結果、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧した公算が大きいとの見方を示した。

ウクライナ当局によると、ロシア軍はこのところ要衝バフムトの近くに位置するソレダルへの攻撃を強化している。

英国防省はロシア軍がバフムトを北から包囲し、ウクライナ軍の補給路を混乱させることが狙いと分析した。

【私の論評】戦況の変化は、露宇両軍とも弾薬不足で本格的塹壕戦に突入したせいか(゚д゚)!

複数のメディアにより、バフムトで大変厳しい戦闘が行われていることが報道されています。戦線が動きにくい塹壕戦になっており、それは第一次世界大戦という、人間史上初めての大量殺戮が起こった戦争の暗い歴史を思い起こさせるものです。

このバフムトの隣町が、ソレダルです。北東わずか10キロの所にあります。5月中旬からワグネルの民兵(傭兵)が激しい戦闘を繰り広げていました。

ウクライナ軍は塹壕戦に埋もれながら抵抗し、ほとんど譲ってこなかったが、ここ数日、ワグネル民兵とチェチェン連隊の支援を受けたロシア軍が、バフムトとソレダルで進撃しているとされました。

ハンナ・マリアー国防副大臣は、1月9日、ロシア軍は、バフムト攻勢のために長年の目標であったソレダルの町の攻略を再び試みたと報告したました。

「ワグネル・グループの最高の予備軍で編成された多数の突撃隊」を投入して損失を回復したとも述べています。

『キーウ・インディペンデント』ウクライナ側は、ロシア軍が戦術を変更して、部隊を再編成して追加移送したために、ソレダルへの新たな攻撃は強力なものになると予想していると報じました。

米国のシンクタンク・戦争研究所も、ワグネルのトップ・プリゴジン氏が、1月9日、ワグネルグループの部隊がソレダルで地盤を固めていると強調していること、ワグネルの戦闘員が現在「市行政の建物のために激しい戦い」を繰り広げていると指摘したと報告しています。

ソレダルという町名は、文字通り「塩を与える」という意味だそうです。国営企業アルテムソルが年間約700万トンの塩を採掘しています。

バフムトやソレダルを含むこの地域全体は、塩だけではなく、石膏、粘土、チョークなどの豊富な鉱床もあります。

米国のシンクタンク・戦争研究所は、傭兵集団ワグネルのボスであるエフゲニー・プリゴジンが、この地域の鉱山から塩や石膏を採取して、財政目的にしようとしていると推定しています。

これは、ワグネルの民兵がアフリカでやり慣れている方法だといいます。ホワイトハウス関係者の話として伝えています。

1月8日、ゼレンスキー大統領は、当面の間、バフムートとソレダルは「どんなことがあっても持ちこたえる」ことができると宣言、さらなる部隊派遣を約束しました。

この地域での戦闘の重要性を証明するように、ウクライナ地上軍司令官イヴァン・シルスキーは同日にバフムトとソレダルを訪れ、この戦線に従事する戦闘員たちを激励しました。

同日、東部ウクライナ軍のセルヒィ・チェレヴァティ報道官は、ロシア軍はソレダルを支配していないと断言しました。

戦争研究所が引用したウクライナの公式情報では、自国軍がバフムト付近のロシア軍陣地をいくつか奪還したとも伝えています。

しかし、上の記事にもあるように、残念ながらウクライナ軍が苦戦しているのは事実であるようです。

この急激な戦況の意味するところは、何なのでしょう。一つには、気温の変化があるかもしれません。つい最近まで、比較的暖冬で霜がおりないために、地面がぬかるんで戦況は進みにくいと言われていました。

ただ、クリスマス(旧暦を使うので1月7日に祝う)の頃、寒波が襲ってきて、とても寒いクリスマスを過ごしているとのニュースがありました。東部でもマイナス10-12度くらいまで下がるとの天気予報がありましたから、道路のぬかるみが収まり、これが何か戦況に与えた可能性はあります。

ウクライナ領内に遺棄されたロシア軍のTOS-1多連装ロケットランチャー

ただ、これはロシア軍にとって良いことですが、同時にウクライナ軍にとっても、良いことといえ、戦況の変化を説明する決定的な要因とは言い難いです。

決定的な要因になるかもしれない事柄については、以前このブログにも掲載したことがあります。それは、両軍とも弾薬がつきつつあるため、主要な戦い方が塹壕戦になったという可能性です。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア空軍基地爆発相次ぐ プーチン政権 事態深刻に受け止めか―【私の論評】ウクライナ戦争は、双方の弾薬不足等で塹壕戦になりかねない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を以下に掲載します。
それよりも、何よりももっと私が最も恐れているのは、ウクライナ、ロシアともに高精度のミサイルなどが枯渇して、従来のあまり精度の高くないミサイルや火力が中心となり、それこそ、第二次世界大戦どころか、第一次世界大戦のような塹壕戦のような戦いになってしまう可能性があることです。

第一次世界大戦の塹壕戦

両軍とも、銃や機関銃、大砲の弾丸も不足気味になり、銃剣や刀剣を用いた戦いも交えられるようになるかもしれません。

そうなると、第一次世界大戦がそうだったように、なかなか戦争の決着がつかないうちに、多くの兵の命が失われることになりかねません。

ウクライナ戦争がこのような戦争になる可能性はあると思います。そうなれば、戦争は長引くことになります。

第一次世界大戦では、ロシアでは革命が起こったため、ロシアは戦線から離脱せざるを得なくなりました。

そのようなことでもおこらない限り、戦争は長引く可能性があります。
昔ながらの、塹壕戦になれぱ、一時はロシア軍が有利になる可能性もあります。 英国防省は4日に公表した戦況分析で、ロシア軍が「督戦隊(とくせんたい)」と呼ばれる部隊をウクライナ国内に展開し始めたとの見方を明らかにしていました。逃亡を図る自軍の兵士を「射殺する」と脅し、無理やり戦闘を続行させるのが役割だといいます。

督戦隊は旧ソ連にも存在したとされ、英国防省によると、過去にもロシア軍が軍事紛争の際に使ったことがあります。ウクライナ侵攻でも、ロシアの将軍たちは兵士に陣地を死守させるため、自軍の逃亡兵を攻撃できるようにすることを希望していたようだというのです。

こうした部隊の展開について、英国防省は「逃亡兵を撃つ戦術は、ロシア軍の質や士気の低さ、規律の不十分さを証明するものであろう」と分析しています。

ワグネルなどが、督戦隊の役割をにない、徴収兵ら経験のない兵隊たちを無理やり敵塹壕に向けて突進させた可能もあります。

督戦隊は、古くはオスマントルコ帝国で存在しましたが、やはり最も有名なのは第2次世界大戦におけるスターリングラード攻防戦など、ロシアの対独戦における督戦隊の存在です。

第2次世界大戦当時、自分の名称を冠したスターリングラードをドイツから死守したい独裁者スターリンは、スターリングラード攻防戦で、督戦隊を配置し、ドイツの猛攻撃に対して、自軍兵士の退却を防ぎました。

督戦隊で有名なのは日本と戦う国民党軍でした。南京攻略戦の際に敗退して潰走する国民党軍の兵士を、挹江門(ゆうこうもん)において督戦隊が自軍兵士を射殺したことが知られています。

復刻版『督戦隊』キンドル版も発売されています。

このような戦法をとれば、塹壕戦においては一時的には、ロシア軍が優勢になる可能性はあります。それが、今回のロシア軍、ウクライナ東部ソレダルの大半を制圧した要因かもしれません。

しかし、もしこれが真相であれば、弾薬は不足しがちながらも、やがてウクライナ軍は塹壕戦でも、ドローンを多用するなどの現代的な戦術を用いつつ、古い戦術をとるロシア軍を圧倒し、挽回していく可能性はあります。

ただ、主要な戦い方が塹壕戦になってしまっていて、それが継続されるというなら、第一次世界大戦がそうであったように、戦況は一進一退の様相を呈し、長引くことが予想されます。

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2023年1月9日月曜日

岸田首相は「賃上げ要請」で馬脚を顕わした…増税・利上げをやりながらの経済音痴ぶりに絶句―【私の論評】岸田首相は今のままだと、雇用を激減させた韓国の愚かな文在寅元大統領のようになる(゚д゚)!

岸田首相は「賃上げ要請」で馬脚を顕わした…増税・利上げをやりながらの経済音痴ぶりに絶句

「トリクルダウン」という俗説

 岸田首相は1月4日の年頭会見で、「この30年間、企業収益が伸びても期待されたほどに賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった」として、「賃金が毎年伸びる構造をつくる」「物価上昇率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と述べた。

 こうした認識は妥当なのか、物価上昇と賃上げの好循環は実現できるのだろうか。新年早々でキツい言葉であるが、岸田首相は何もわかっていないと残念な気持ちになった。

 岸田首相の挨拶の中、「トリクルダウン」という気になる言葉を使った。これは、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなることを意味している。だがこうした経済理論は存在せず、俗説に過ぎない。実証分析でも、トリクルダウンはほとんど検証されていない。


 経済政策を変更したとき、それと同時に波及するが効果が出るには時間差がある。たとえばアベノミクスでは、金融政策の変更により予想インフレ率の上昇があり、その結果実質金利が下がる。これが設備投資や雇用に好影響をもたらすとともに、為替が円安に変化して純輸出を増加させる。

 下図は、10年ほど前、2013年7月8日の本コラム「自民党の公約のボロも攻めきれず!? アベノミクス批判で二極化する各党の経済政策を検証する」で書いたものだ。

岩田規久男編「デフレをとめよ」(日本経済新聞社2003 02)だい6章 IS-LM分析で記述

 こうした様々な波及経路で経済を刺激するが、株価上昇や為替の円安が先行する。経済全体の波及が見えない人は、株価上昇から富裕層の所得が上がり、それが貧困層に回ってくると勝手に思ってしまう。

 アベノミクス批判をする人は、この誤解そのままで、アベノミクスはトリクルダウンに依拠していると批判する。一方、経済理論がわかっている人はそもそもトリクルダウンなんて俗説はありえないと知っているから、こうした批判を相手にしない。

 筆者の身の周りのクルーグマン、バーナンキ、スティグリッツといった経済学者たちはアベノミクスの基本的枠組を評価していることからわかるように、トリクルダウンなど歯牙にも掛けない。しかし、経済理論に疎いマスコミや一部の論者は、アベノミクスがトリクルダウンと言い張ってきた。

 今回の岸田首相の年頭会見で岸田首相がトリクルダウンに言及したということは、岸田首相の経済観も、アベノミクス批判をしてきたマスコミや一部論者と、マクロ経済の理解の点では五十歩百歩ということだ。
 
 どうすれば賃上げは可能か

 物価上昇率を超える賃上げを実現するには、どうすればいいのか。上の図をさらにわかりやすく説明してみよう。

 これは、大学学部レベルのマクロ経済学の基本になるが、それを復習しておこう。

 以下に述べる話は、実をいえば筆者が故・安倍晋三元総理にしばしば説明していたことだ。本コラムでも再三繰り返してきたのは本コラムの読者であればご存じだろう。

 まず教科書的な説明から始めよう。大前提として失業率とインフレ率の間には逆相関関係があるという、いわゆるフィリップス曲線がある。つまり、インフレ率がマイナスのとき失業率は高く、その後インフレ率が高くなるにつれて失業率が低下するが、失業率には下限があり、インフレ率はいくら高くなっても失業率が低下しなくなる。


 この図も、2020年9月7日の本コラム「「菅義偉総裁」誕生に対する、「大きな期待」と「小さな不安」」に出ている。

 この概念図は便利であり、フィリップス曲線上のポジションとしては、失業率が最低かつインフレ率が最低という黒丸の状態が最適だ。

 安倍政権時のデータでは、それは失業率2.5%程度、インフレ率2%程度だ。この下限となる失業率は、経済理論では、NAIRU(non-increasing inflation rate of unemployment。インフレ率を上昇させない失業率)として知られており、筆者の推計では日本では2%半ば程度だ。図中で便宜的に2.5%としている。これで分かるように、インフレ目標2%目指すという理論的な根拠にもなっている。

 アベノミクスの根幹になっている異次元の金融緩和は、2%・2倍・2年。すなわちインフレ目標を2%とし、そのためにマネタリーベースを2年間で2倍にするとされていた。

 インフレ目標2%さえ決まれば、そのために必要な金融緩和を算出するのは難しくない。前日銀副総裁の岩田氏によれば、筆者と後の日銀審議委員になった片岡氏はそれぞれ別の方法により2年間2倍という同じ結論を導き出していたという。

 いずれにしても、失業率についてNAIRU程度をキープしていれば、企業は賃金を上げないと人手の確保ができなくなる。その場合、経済が上手く回っているので、賃金上昇は企業にとって負担でない。

 どの程度の賃金上昇になるかといえば、インフレ率プラスその国の実力──今の日本だと、インフレ率プラス1~2%──で賃金上昇率は決まるが、プラスのアルファ部分は、資本・労働生産性や技術進歩などによる。

 現時点の経済状況は、失業率NAIRUを達成出来ずに、その黒丸より現時点では左にあると筆者は思っている。消費者物価指数で測ったインフレ率では右側だと言いたい人もいるが、マクロ経済ではインフル率はGDPデフレーターで見るほうが自然だ。

 昨年7-9月期でGDPデフレーターの前年同期比はマイナス0.3%であり、2%にはなっていない。
 
 まったく方向の違う増税と利上げ

 こうして経済状況に呼応するが、GDPギャップがまだ相当額存在している。

 現存するGDPギャップを前提とすれば、追加財政政策と金融緩和政策を行い、GDPギャップを解消させた上で、若干の需要超過状態を維持することだ。それを半年程度継続すると、失業率が下限となり賃金が上昇し始める。

 こういうと、いまインフレ率が4%近いのでさらにインフレを加速して危険という意見が出てくる。しかし。今のインフレは基本的には海外要因であり、本来参照すべきGDPデフレーターはまだマイナスであることに留意すべきだ。

 筆者の言うことは、失業率についてインフレを加速させない程度の下限に維持するとのマクロ経済原則を言っているにすぎない。しかしそれに至らずに、望ましい追加財政政策と金融緩和政策とはまったく方向の違う増税と利上げをする岸田政権は、まさに経済音痴だ。これでは期待出来ない。

 この場合、増税不可かつ利上げ不可の状況なのに、岸田政権では増税しようとしてるし、利上げも既に実施した。これは経済を最適点の黒丸からどんどん遠ざかる方向に作用する経済政策だ。

 そうなると、一定期間後に、失業率がちょっとずつ上がってくる。失業率が上がるとどうなるか。企業経営者からみれば、余ってる労働力を使えば良いわけだ、賃上げをしなくて済む。

 以上のように、マクロ経済の原理原則を理解していれば、岸田首相の「お願い」はとんだ的外れだ。失業率をNAIRU程度、つまり経済を黒丸状態にするのは、政府の責務であり、そうした環境整備が出来てこそ、インフレ率を超える賃金上昇が実現できる。そうした政府の責務をやらずして、無理難題を民間経営者に「お願い」してどうなるのか。

 こういうと、安倍政権の時にも、「お願い」していたではないかという反論もあるかもしれない。しかし、アベノミクスでは、マクロ経済運営は、失業率をNAIRU程度、つまり黒丸を目指し行っており、増税や利上げは行っていない。

 しかも、安倍政権での「お願い」の季節になると、安倍元首相から筆者のところに、電話があり、「高橋さん、今度はどの程度賃金を上げられますか?」と聞かれたものだ。

 経営者にとって無理のない賃上げがどの程度できるかは、前年の失業率などに依存するので、筆者はその都度経営者にとっても無理のない数字を安倍元首相に申し上げた。

 NAIRU状況を作らずに、それとは真逆の方向の利上げ、増税をやりながらの岸田政権は、安倍政権とはまったく違う方向だ。

 昨年末の12月26日付け本コラム「岸田首相の失策で、アベノミクスは潰えた…ついに「失われた20年」が再来する予感」で、岸田政権の経済運営は反アベノミクスであると指摘したが、早速年頭会見で馬脚を顕した。

 岸田首相は、経済の好循環というが、初手で増税と利上げでは「悪循環」になってしまう。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】岸田首相は今のままだと、雇用を激減させた韓国の愚かな文在寅前大統領のようになる(゚д゚)!

機械的な賃上げは、雇用を破壊します。増税や利上げをしながら、一方で、賃上げをすれば、そうなります。それは、何も思いつきで言っているのではなく、韓国の在文寅政権のときに、金融緩和もせずに機械的に賃上げをして、雇用が激減して大失敗したという実例があります。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
お先真っ暗…韓国「雇用政策」大失態、貿易戦争も直撃、対中輸出3兆円減の試算も―【私の論評】金融政策=雇用政策と考えられない政治は、韓国や日本はもとより世界中で敗退する(゚д゚)!
この記事は、2018年7月17日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。
文在寅政権は「韓国経済のパラダイム見直し」との考え方に基づき、「所得主導」と「革新」という2つの軸で成長政策を推し進めようとしています。所得主導は需要の側、革新は供給の側を刺激することで成長動力を引き出そうとする構想です。
所得主導成長の逆説、韓国低所得層の所得が大幅減
しかしこの2つの軸は現政権発足からわずか1年で大きな危機に直面しています。最低賃金を16.4ポイントも大幅に引き上げたものの、低所得層では1年前に比べて所得が逆に8ポイントものマイナスを記録しました。年間30万以上増加していた雇用も7万と大幅にブレーキがかかりました。現政権は自分たちを「雇用政府」と自負していますが、実際は正反対の結果を招いているのです。

革新成長にいたっては成果が全くありません。文大統領は革新成長のコントロールタワーとしてキム・ドンヨン経済副首相を指名しはっぱをかけているようですが、実質的にさほど大きな権限のない経済副首相がやれるような仕事ではありません。
革新成長は何一つうまくいっていない
過去10年続いた保守政権は「グリーン成長」「創造経済」などの旗印で供給側に重点を置いた成長政策を推し進めたのですが失敗しました。営利を前面に出した病院や遠隔医療は医師団体から反対され、カーシェアリングはタクシー業界、スマートファームは農民団体の反対によって挫折しました。またネットバンクは銀行と企業の分離、フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)は個人情報保護などの規制に阻まれ全く進んでいません。

このような状況では、雇用を経済を良くするために、まずは何をさておいても、金融緩和をすべきです。それ抜きに、単純に最低賃金をあげたり、構造改革をしても、過去の日本がそれで失敗して、失われた20年に突入したように、何も得るものはありません。

そうして、金融政策の大きな転換の意識は文政権にはありません。むしろ民間部門を刺激する政策として、財閥改革などの構造改革を主眼に考えているようです。しかし、このような構造改革はデフレ経済に入りかけている韓国経済の浮揚には結びつかないです。

韓国の歴代政権が、金融緩和政策に慎重な理由として、ウォン安による海外への資金流出(キャピタルフライト)を懸念する声がしばしばきかれます。しかし金融緩和政策は、実体経済の改善を目指すものです。特に、雇用状況を変えるものです。

金融緩和とはいっても、無制限ではなく、インフレ目標値を設定しての緩和を実施すれば良いのです。そうすれば、実際にキャピタルフライトしたアイスランドのように、政府は黒字だったものの、民間が外国から膨大な借金を抱え込んでいるようなことでもなければ、滅多なことで、キャピタルフライトが起こるようなことはありません。

日本でも日銀が2013年から金融緩和に転じる前には、「金融緩和するとハイパーインフレになる」「キャピタルフライトする」等といわれてきましたが、そうはなりませんでした。
文在寅は、金融緩和をすることなく、機械的に賃上げをしたために、大失敗しました。やはり、雇用状況を改善するというなら、上の記事で高橋洋一氏が語っているように、マクロ政策・フィリップス曲線を睨みながら、NAIRUに注目しながら、金融緩和をするとう言うのが王道です。

これは、西欧諸国では、現在では極スタンダードな政策であり、このような政策をすれば、雇用が改善されますが、それ以外の方法では成功し試しなどありません。

文在寅はこのようなマクロ政策の常道を理解していなかったようです。この状況は219年になっても改善されずますます悪化しました。それについては、以下の記事を御覧ください。
韓国で「恐怖のスタグフレーション」進行中か 消費者物価上昇率が8カ月連続0%台、新「漢江の奇跡」に疑問―【私の論評】韓国経済の悪化の根本原因は、誤った金融政策にあり(゚д゚)!

この記事は、詳細は、この記事をご覧いただくものとして、2019年9月12日のものです。この頃から、若者雇用は激減しており、この状況を韓国の若者は「ヘル朝鮮」と呼んでいました。

若者雇用の激減はいまでも続いています。20代の雇用が冷え込んでいます。昨年は雇用好調により他の年齢帯では失業者が減ったのですが、20代の失業者はむしろ増えました。専門職や大企業に行くことができなかった青年が失業者として残り、これまで好況を享受してきたプラットフォーム雇用まで鈍化しました。

今年は景気鈍化による雇用の悪化が予告されただけに就職市場で青年層の厳しさが加重されるだろうという見通しが出ている。 統計庁国家統計ポータルの分析の結果、昨年11月の全失業者数は66万6000人で、前年同月より6万8000人減りました。

しかし同じ期間に20代の失業者は1万7000人(7.6%)増え23万5000人に達しました。全失業者の3分の1以上が20代です。20代の失業者増加傾向は昨年9月から3カ月連続です。同月の就業者数も1年前より62万6000人増加したが、20代は4000人減った。企画財政部は「青年就業者数の増減が21カ月ぶりに減少に転じた」と評価しました。昨年雇用市場に吹いたという「薫風」は20代を避けた格好です。

日本では、安倍・菅両政権においては、増税せずに両政権合計でコロナ対策として、合計100兆円の補正予算を組み、雇用調整助成金なども活用したため、失業率はコロナ禍の期間も、雇用が悪化することはありませんでした。若者雇用も順調でした。

しかし、現状でも日本では、GDPギャップが30兆円依然として存在しており、このギャップを埋めないことには、賃金の上昇は望めません。それについて、詳細は以下の記事をご覧になってください。
本格的な賃金上昇が進むのは…GDPのギャップ解消から半年後 30兆円分埋める政策が必要だ!―【私の論評】現在の物価高に見合って賃金を上昇させるにはGDPギャップを埋めるしかないことを共通認識とすべき(゚д゚)!

この記事は、昨年6月のものですが、状況は現在もあまり変わっていません

日本では、日銀が金融緩和を継続すれば、雇用も維持され、賃金も上がってくるでしょう。過去30年間も日本の賃金が上がらなかったのは、日銀が長い間金融引締を継続したからです。

それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!

2021年10月27日の記事です。日本の賃金が30年間も伸びなかったのは、日銀が金融緩和すべきなのに、長い間引締めを繰り返してきたことを掲載しました。詳細は、この記事を御覧ください。1990年までは日本のマネーの伸び率は先進国の中でも平均的だったが、バブル潰しのために90年に入ってから日銀は引き締めた。その引き締めをその後30年近く、基本的に継続しているのです。その結果が、日本の賃金の低さです。

上の記事では、GDPギャップを埋めないと、賃金が上がらないといい、下の記事では、日本人の賃金があがらないのは日銀のせいと述べているので、矛盾を感じる人もいるかもしれませんが、金融緩和をしなければ、そもそも賃金は絶対に上がらないです。

ただ、現状では、GDPギャップが30兆円が存在しており、これを埋めなければ、金融緩和をしても、いずれは賃金は上がってくるかもしれませんが、かなり時間がかかることが予想されます。それは、元記事の、金融効果の波及効果をご覧いただければ、ご理解いただけると思います。

よって、現在岸田首相が、実行すべきは、積極財政と金融緩和です。増税、利上げなどとんでもありません。

経済対策として、文在寅も在任中には、賃上げをするのではなく、まずは金融緩和と積極財政をすべきでした。その後に様子を見ながら、慎重に賃上げをすべきでした。それをせずに機械的に賃金をあげたから、雇用が激減したのです。これでは、本末転倒です。

経済は、様々な要素がからみあっています。一つの指標を良くしようとすれば、他が悪くなり、壊滅的な悪影響を与えることもあるのです。日本のマスコミは、実質賃金が下がると、他の要素は全く見ずに、ただただ「実質賃金がー」と叫び、円高になると、これも他の要素は見ずに「円高がー」と叫んだかと思えば、そのようなことはすっかり忘れて、円安になればなったで、他の要素は見ずに「円安がー」と叫びます。

さらに、赤字であること自体がまるで悪い事のように、「財政赤字がー」「経常収支赤字がー」と叫び、醜態を晒しています。マクロ経済音痴の、岸田首相もこれを理解できないようです。

以前にも、このブログに掲載しました。岸田政権の経済政策が、減税がほとんどなく、ほぼすべてが補助金というのも気になります。減税だとすぐに実行できますが、補助金が多いと、予算の執行漏れがでてくるのは必然です。


文在寅は、マクロ経済を理解しない愚かな大統領ですが、岸田首相も今のままであれば、日本の愚かな文在寅になりかねないです。そうなっても、自業自得なのかもしれませんが、岸田首相が在任中にそうなれば、雇用が悪化するのは目に見えています。

文在寅は経済政策だけでなく、安保でも無能でした。その点岸田首相は安保に関してはまともではありますが、ただ、これも大部分が安倍元首相の路線を引き継いでいるだけです。経済政策でもそうすれば良いのですが、これはなぜか、そうはしません。こちらも引き継いでいれば、岸田政権は今頃かなり安定していたと思います。

今後、経済が悪化するにつれて、岸田政権は不安定化し、それでも岸田路線を堅持し続ければ、いずれ岸田政権だけではなく、自民党自体が不安定化することになります。

そのようなことを経験した上で、安倍元総理は、いわゆる経済においてアベノミクスと呼ばれるような、安倍路線を作り上げたのです。残念ながら、消費税に関しては、三党合意があったので、2度消費税の引き上げを延期しましたが、結局在任中に2度消費税増税ををセざるをませんでした。しかし、金融緩和は継続していたので、雇用は劇的に改善しました。そのことを、岸田首相に理解していただきたいものです。

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2023年1月8日日曜日

インド空軍スホーイ戦闘機いよいよ来日 東南アジア2か国を経由し茨城・百里基地へ―【私の論評】今年躍進するインド!安倍元首相の悲願でもあった日印関係を増々強化すべき(゚д゚)!

インド空軍スホーイ戦闘機いよいよ来日 東南アジア2か国を経由し茨城・百里基地へ

来日するためにタイとフィリピンを経由

 インド空軍は、航空自衛隊と実施する初の合同演習「ヴィーア ガーディアン 2023」に参加する部隊が2023年1月8日(日)、国内の基地を出発すると発表しました。

インド空軍のSu-30MKI戦闘機とパイロットたち(画像:インド空軍)。女性パイロットの姿も・・・

 参加勢力はSu-30MKI戦闘機4機、C-17「グローブマスターIII」輸送機2機、およびIL-78空中給油機1機で、途中タイやフィリピンに立ち寄りながら目的地である茨城県の百里基地を目指すそう。

 なお、航空自衛隊では本演習について「ヴィーア ガーディアン23」と呼称しており、2023年1月16日(月)から1月27日(金)までの約2週間にわたって行うとしています。日本側からは百里基地に所在する第7航空団のF-2戦闘機4機と、小松基地に所在する飛行教導群のF-15戦闘機4機、地上で要撃管制などを行う中部航空警戒管制団などが参加する予定です。

【私の論評】今年躍進するインド!安倍元首相の悲願でもあった日印関係を増々強化すべき(゚д゚)!

インドが今回、日本に持ち込む戦闘機はスホーイ30戦闘機です。一部電子機器などをフランス製にするなど改造されてはいるこれはもともとはロシア製の戦闘機です。実は、中国が保有している戦闘機も、スホーイ30とその派生型が多いのです。だから、日本の戦闘機にとっては、インドの戦闘機と戦う訓練は、中国やロシアの戦闘機と戦う訓練にもなるのです。

これは日本の戦闘機パイロットにとって貴重な経験になります。日本としては、もっと広範に、頻繁に実施し、多くのパイロットを鍛えるべきです。

インドには、すでに米国、豪州とも、戦闘機の訓練を実施したことがあります。米国製の戦闘機との訓練は経験済です。しかし、日本と訓練することで、今後、日米豪印の「クアッド(QUAD)」4カ国全体で訓練する際の方法について、具体的に検討することができるようになります。その意味でも今回の訓練は意義深いです。

この演習は、日印の防衛協力上で重要です。日印では、すでに物品や機密情報を共有する協定が結ばれ、共同演習も、海上自衛隊の「マラバール」と「ジメックス」、陸上自衛隊の「ダルマ・ガーディアン」、航空自衛隊の輸送機の共同演習「シンユウ・マイトゥリ」が、継続して行われています。また、軍事用無人車両の共同開発が進んでいます。

その一方で、最近は、日印間の防衛協力が円滑に進まない事例が次々起きました。まず、日印の防衛協力を強く推進してきた安倍晋三元首相が暗殺されてしまいました。安倍元首相のように、インドのことをあれほど愛して、インドからも愛され、しかも権力や実行力を持った指導者は、世界でも他に見当たらないです。

抱擁する安倍首相(当時)とモディ首相とそれを見守る昭恵夫人

22年は、日印国交樹立70周年だったにもかかわらず、関係者の多大な努力にもかかわらず、あまり目立たなくなってしまったのも、そのためです。日印関係は、急に指導者不在の状態を迎えてしまったのです。それに加え、ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアをめぐる日印間の立場の違いが目立つようになってしまいました。

日本は、ロシアの武器は用いていませんが、インドはロシア製の武器を用い、多数を輸入しているため、ロシアに一定の配慮をせざるを得ない立場にあります。

特に、ウクライナ難民支援のための国連の物資を運ぶために、航空自衛隊の輸送機をインドに着陸させようとした時は、インドが着陸を拒否しました。これは、防衛省・自衛隊全体で、インドとの協力関係を進めることに消極的な雰囲気をつくってしまいました。

インド海軍へ売り込みをはかっていた日本のUS-2飛行艇の話も頓挫してしまいました。インドへの武器輸出に対するやる気も削がれていったのです。

現状の日印間はこのような状況にあるからこそ、日印が戦闘機の共同訓練を実施し、成果を具体的に提示することは、悪い流れを変えることになります。

昨年9月6日、井筒空幕長 は ピッチブラック22 に参加中の印空軍部隊を訪問し、今後計画されている 印空軍 との戦闘機共同訓練のためのSu-30MKI戦闘機訪日への歓迎を伝えていました。(写真下、サングラスをかけた人物が、井筒空幕長)


日印空軍が連携していれば、対中国にもメリットがあるのは明らかです。中国からみれば、台湾や日本を攻撃する場合、戦闘機を台湾や日本の正面に集中したいでしょうが、日印が連携していれぱ、中国は、インドが攻撃してくる場合に備えて、一定の数の戦闘機を中印国境、に一定数配備しておかなければならなくなります。

中印国境に配備した中国戦闘機は、台湾や日本を攻撃するためには使えなくなります。実際、今回来日するインドの戦闘機スホーイ30には、射程の長い、新しい超音速巡航ミサイルが搭載される予定であり、中国の内陸部を攻撃できるようになりますから、中国にとっては脅威です。

中国がインドを攻撃する場合も、中国は、今度は日本のことが気になるでしょう。日本も、これから射程の長い巡航ミサイルを配備することになっています。日印の反撃能力は、双方にとって国益になります。

今回の「ヴィーア ガーデン23」に限らず、日印関係はなるべく緊密にすべきです。それが、安倍元首相の願いでもあります。

なぜ、そういえるかといえば、このブログも掲載したように、今年中にインドの人口は、中国を抜き世界第一位になるという事実があります。それについては、このブログにも掲載したあことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
インド、今年人口世界一に 14億人超、中国抜く―【私の論評】今更中国幻想に浸っていては、世界の構造変化から取り残される(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。
27年までの5年間では、インドのように人口が増えるベトナムやバングラデシュなどで年平均6%以上の成長となるほか、エジプトやインドネシアなどは5%以上の成長が見込まれます。ナイジェリアやバングラデシュ、ベトナムは27年、アルゼンチンなどに代わってGDPの上位30位にも顔を出すとみられます。その中でも、民主化が進んでいる国においては、中進国の罠を突破して成長し続ける国もでてくるでしょう。世界の構造変化の大きなうねりは、従来から予想されていたように、目前まで押し寄せています。

最早中国の経済の停滞は一時的なものであり、また中国の経済発展が始まるなどの中国幻想に浸っている時ではありません。考えを変えていない人や組織は、世界の構造変化から取り残されることになります。

インドは独裁者習近平が率いる全体主義国家中国とは異なり、民主主義国です。インドはすでに民主主義国では、面積も人口も最大の国になっています。

インドには様々な、古い習慣などが残っていたり、西欧諸国に比較すると、小規模企業が圧倒的に多いなどのことがあり、経済は中国に比べて現状では出遅れた感は否めませんが、これは別の側面からみると、伸びしろがまだまだあるということです。

現在インドは、G20の議長国になっています。インドの議長国の任期は、12月1日から1年間です。会議は今年9月9~10日に首都ニューデリーで開催される首脳会議だけでなく、財務大臣・中央銀行総裁会合、外務、貿易・経済,エネルギー・環境等の大臣会合や関連イベントがインド各地で200以上開催されます。

世界主要国や国際機関から要人が集まり成果が世界に発信されるため、インドの存在感が増し国際的な影響力や発言力を高められる大きな機会にもなるでしょう。政府は世界情勢が厳しい時期であるものの、昨年はGDPが英国を抜き世界第5位になり、また先に述べたように、今年は人口が中国を抜き世界最大となる時期にG20議長国となる機会を重視しています。

インドは12月に入り西部ラジャスターン州のウダイプールで早速G20シェルパ会合を開催、また州政府や全政党に呼び掛け会議の意義を訴え準備に入りました。議長国として直面する世界経済の課題や地政学的リスクに加え、グローバル・サウス(発展途上国)の声を届け先進国と途上国の橋渡し役を務めると国民に訴えています。

地政学的リスクでは野党からも海外覇権拡大を続ける中国への対応を問われており、日印米豪4カ国で推進する「自由で開かれたインド太平洋構想」(FOIP)が重要な議題になるでしょう。本構想はアジア太平洋に加えインド洋圏のアフリカ・中東地域での協力を推進するもので、議長国インドの采配が期待されています。

FOIPの推進では、「特別な戦略的グローバル・パートナーシップ」関係に高まった日印両国が大きな役割を果たしています。今年はインドのG20議長国に加え日本がG7の議長国で5月に広島市で首脳会議を開催予定であり、共通する課題の解決に向けて両国の連携や協調にも期待したいです。

日印関係のさらなる強化は、故安倍晋三氏の悲願でもありました。これから、様々な分野で、日印関係をますます、強化していくべきです。

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2023年1月7日土曜日

立法院、台湾版CHIPS法案可決 半導体などの先端産業の法人税を6年間優遇―【私の論評】日本でも、腐敗の温床となる補助金制度を少なくし台湾のように産業支援は減税を多用すべき(゚д゚)!

 立法院、台湾版CHIPS法案可決 半導体などの先端産業の法人税を6年間優遇


立法院院会(国会本会議)は7日、「台湾版CHIPS法」と呼ばれる先端産業を支援する関連法の改正案を可決した。半導体や高速通信規格(5G)、電気自動車(EV)などの次世代産業の法人税が優遇される。施行期間は今月1日から2029年12月31日までの6年間。

可決されたのは産業創新条例第10条の2と第72条の改正案。法案は産業を問わず、国内で技術革新を進め、かつ国際サプライチェーン(供給網)において重要な地位を占める企業が対象。その研究開発費や有効税率が一定の規模・割合に達することなどを条件に、先端技術研究開発費の25%と、先進プロセスに用いる自社用の新規機器や設備の支出額の5%に相当する金額を当該年度の営利事業所得税(法人税)から控除できると明記されている。控除総額の合計が当該年度に納めるべき法人税の50%を超えてはならないことも規定された。

同法案を巡り5日、立法院で与野党協議が開かれた。出席した王美花(おうびか)経済部長(経済相)は、先端産業が台湾の国防と経済の安全保障における強力な後ろ盾になればとその効果に期待を寄せた。

【私の論評】日本でも、腐敗の温床となる補助金制度を少なくし、台湾のように産業支援は減税を多用すべき(゚д゚)!

台湾版CHIPS法というくらいですから、他に手本があります、それは米国のCHIPS法です。

米国のCHIPS法とは、米国内の半導体産業に関する政策で、米国商務省の標準技術局や国防省の元、米国の半導体エコシステムを再構築しつつ、国内に高給職を創出し、国家安全の強化を目指す政策です。

米国内の半導体に対して500億ドル(約7兆2,500億円(1ドル145円換算、以降同様)の補助金を投じるというものです。 さらに米国時間2022年9月6日、米国商務省は同省やその他の政府機関がどのようにこの補助金を半導体関連企業に割り振るか、概要を示しました。より詳しい内容については2023年上旬に公開される見通しです。

おおよその内訳としては、500億ドルのうち約3分の2にあたる280億ドル(約4兆円(1ドル145円換算、以下同様))はIntelなどの最先端のロジックチップや、メモリチップを製造する企業の支援に使用。100億米ドル(約1兆4,000億円)は既存チップの新たな製造能力、炭化ケイ素、カーボンナノチューブ材料関連の投資に用いられます。また残りの110億米ドル(約1兆5,000億円)は、製造機関創設などに割り当てられる予定です。

米国でCHIPS法が導入されたのは、半導体をめぐる深刻な問題が背景にあります。そもそも半導体は1959年に米国人によって発明され、1990年には米国製が37%と大きなシェアを占めていました。

ところが現在では、日本や韓国、台湾といったアジア勢が、米国の生産量を大きく上回るようになっています。

そうしたなか、新型コロナウイルス禍からの経済が急速に回復し、自動車を筆頭に多くの業種で半導体の供給不足が生じるようになりました。新型コロナウイルス後の供給制約を経験し、米国では半導体製造を海外依存していることの危険性が高まりつつあります。

CHIPS法は2022年8月9日にバイデン大統領の署名をもって成立し、8月25日にはCHIPS法の実施を加速させる大統領令に署名をするなど、アメリカ政府急ピッチで進めている政策であることがうかがえます。

実は、CHIPS法のような政策は、前身であるSEMATECH(セマテック)の時期から実は議論が始まっていました。なぜCHIPS法成立を急いだのでしょうか。

それは、米国同様に半導体投資に巨額の投資をしている中国の存在です。中国の習近平国家主席は、後10年で1兆米ドルの投資を行なうと宣言するなど、半導体事業に強い取り組み姿勢を見せていました。

CHIPS法では、半導体企業が国から支援を受けるためには、向こう10年間中国国内で最先端半導体の増産や、生産能力の増強を行なわないなどの条件があります。これは実質対象企業に、中国から手を引くように求めている意図もあり、明らかに中国に対抗するための政策を言えるでしょう。CHIPS法は、世界でも最も重要な産業とも言える半導体産業を米国に取り戻すための法案というだけではなく、中国権威主義との戦いという側面もあります。

米国では、CHIPS法案成立の後、さらにダメ押しをするような政策も実行しています。それについては、以前このブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
この記事では、米商務省が10月7日、米国の技術が含まれている半導体や製造装置の新たな対中輸出規制強化策を発表したことを掲載しました。最先端半導体を扱う中国企業の工場への製造装置販売を原則禁止し、スーパーコンピューターなどに使われる関連製品の輸出も制限しました。

これがどのくらい厳しい措置なのか、ピンと来ない人もいるかもしれないので、この記事から一部を引用します。
バイデンの新しい制裁はおそらく中国半導体産業の終焉を意味していると考えられます。

多くの人は7日に何が起きたか本当には、理解していないかもしれません。

簡単にいえばバイデンは中国で働く全ての米国人(半導体産業)に即刻ビジネスを止めるか、米国籍を失うかという選択を迫ったのです。

すると中国にある全ての半導体製造企業の米国人幹部やエンジニアはほぼ全員辞職し、中国の半導体製造は一夜にして麻痺状態になったのです。

バイデンの今回の制裁は、トランプ4年間の12回の制裁を合わせたよりも致命的です。

トランプ時代の制裁では半導体供給にはライセンス申請が必要だったものの申請すれば1か月以内に通過していました。

一方バイデンは米国の全てのIPプロバイダー、部品サプライヤー、サービスプロバイダーをほぼ一晩で全て撤退させ、あらゆるサービスを断ち切りました。

大惨事とはまさにこのことです。中国の半導体産業の半分が価値ゼロになって完全に崩壊します。

米国は国内半導体産業を支援するとともに、中国に対しては厳しい措置をとったのです。 

米国の中国に対する制裁はこれだけに収まりません。日本、オランダを巻き込み、さらに厳しい措置を実施しています。

これについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

日米蘭3国で「対中包囲網」強化 WTO提訴も単なるパフォーマンスに 中国の野心に大打撃与える先端半導体装置の輸出規制―【私の論評】中国が「半導体技術の対禁輸」措置を日米蘭から喰らうのは致し方ないことであり、自業自得(゚д゚)!


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、世界の半導体装置のシェアは、ほとんど日米蘭によって占められています。台湾の半導体大手も無論日米蘭の製造装置を用いて製造しています。

日米蘭が半導体製造装置を売らないというのなら、今後中国の最先端の半導体製造はできなくなります。ただ、一世代前の半導体であれば、購入できますから、民生用ではそれを使うことになるでしょう。ただ、軍事用の最先端のものは入手困難となり、中国の軍事技術は一世代遅れたものになります。

台湾では、上の記事にあげたように、半導体産業支援のために「台湾版CHIPS法」と呼ばれる先端産業を支援する関連法の改正案を可決し、減税措置を講じます。

日本も「日本版CHIPS法」と呼ばれる法律は制定はしませんが、半導体産業に支援をします。

政府は、2022年度第2次補正予算案に半導体支援策を計上しました。

日米が連携する次世代研究拠点の整備に約3500億円、先端品の生産拠点の支援に約4500億円を盛る。製造に欠かせない部素材の確保にも3700億円を充て、計1.3兆円を投じる。政府は、半導体や蓄電池、医薬品などを「特定重要物資」に指定して、海外に拠点を置く工場などの「脱・中国依存」を進めたい考えとしています。

経済産業省が半導体支援を拡充するのは経済安保上の重要性からだけでなく、歴史的な円安が投資を呼び込む好機とみていまい。大規模投資をきっかけに地域の雇用、賃金増加といった経済の好循環を生み出す狙いがあります。

第2次補正予算案は蓄電池、永久磁石、レアアースなどの供給網の多様化にも1兆円規模を計上する。いずれも経済安全保障推進法上の「特定重要物資」に指定する見通しだ。岸田文雄首相は半導体を含む次世代分野に3兆円を投資すると表明。電池やロボットにも1兆円弱を投じる見通しです。

詳細は、以下のサイトを御覧ください。
EXPACT
ここで、問題なのは日本の産業支援策は、台湾では減税でも行われるにもかかわらず、ほとんどが補助金によるものということです。

しかし、米国でも補助金で実行するではないかと、言われるかたもいると思います。確かにそうですが、日本では、経済対策や産業支援政策のほとんどが、補助金で行われています。

米国でも、経済対策の大部分は減税政策で行われています。ただ、半導体産業支援事業に関しては、特別に補助金で行うという形です。減税ではできない手厚い支援を考えているからこそ、補助金にするのでしょう。

日本のように経済対策や、産業支援策の大部分を補助金で行うとどのような弊害があるかは、昨日のブログで述べたばかりです。この記事のリンクを以下に掲載します。
ネットで大騒ぎ「Colabo問題」めぐる税金の不適切な使われ方 国は〝弱者ビジネス〟助長させる「困難女性支援法」を見直せ―【私の論評】Colabo問題の本質は、日本の経済・支援政策のほとんどが減税ではなく、補助金で実行されること(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして。この記事より補助金等の弊害を示す部分を引用します。
結局、日本の経済政策や支援政策などの多くが、減税ではなく、補助金等で実行されることが、Colabo問題のような数々の問題を助長しているのです。

補助金等にばかり頼っていれば、補助金等のための審査は際限なく増え必然的に甘くなるというか、事実上できなくなり、Colabo問題のような問題を生み出し、さらに執行漏れが多数出るのは最初から判りきったことで、余った大量の補助金等は財務省が特別会計等として溜め込み、「死に金」となるのです。

このような不合理なことは、一刻もはやくやめて、日本でも減税を多用すべきです。減税であれば、補助金等と異なり、税金をとらないだけですから、簡単に実施できますし、それに不正の温床となることもあまりありません。それでいて、確実にしかも素早く効果があります。
さて、日本の経済・支援政策補助金・助成金がほとんどであり、減税が用いられないことの弊害はまだあります。特に補助金は問題となります。

補助金と助成金の違いは、補助金は予算が決まっていて最大何件という決まりがあります。 そのため、公募方法によっては抽選や早い者勝ちになるなど、申請してももらえない可能性もあります。 一方助成金は受けとるための要件が決まっているので、それを満たしていればほぼ支給されます。

こうした補助金の性質から、腐敗を生みやすいのです。それは、補助金等を受ける企業と、官僚との癒着です。補助金を受けるためには、審査書類などがパスする必要がありますが、これについては、官僚の対応の裁量により、スムーズにもできますし、そうではなくなることもありえます。

スムーズにできなけば、補助金を受けられない場合もあります。官僚が補助金の申請をする特定の企業に対してスムーズな対応をすれば、企業としてこれに恩義を感じるわけで、これは不正の温床になります。

官僚が特定の企業に対してスムーズな対応をすれば、退官後その企業に対して、スムーズに天下りできるということもあり得ます。さらに、天下りしたあとは、出身官庁とパイプを築き、補助金などの情報や、手続きの迅速化などで貢献することもできるでしょう。

こうしたこと等が積み重ねられた結果、日本には他国にはあまり見られない、鉄のトライアングルと呼ばれるものが出来上がっています。

日本には得体の知れない様々なルールや規制があります。それに守られ、いわゆる“既得権益”を受けている人たちがいます。農業の分野で言えば、日本は零細農家を守るため、株式会社は農地を持つことができません。

当初は意味のある制度だったのでしょうが、農業が国際化されてきた今日日本は世界的にみても良い作物を作れるのですから、株式会社に農業にも参入してもらい、生産性を上げ、輸出もしたほうが良いはずです。

ところが“入ってはいけない”という人たち、そこに結びついた政治家たち=族議員、そして業界の既得権益を持った人をつなぐ役割を担っている官僚がいます。この三角形がスクラムを組み、新しいことをやろうとするときに妨害するのです。こうした三角形はどこの国にもありますが、日本の場合はそれを取り持つ官僚組織がかなり強い状態で維持されています。


それは、様々な産業界にも、厳然として存在します。企業団体、族議員、経産官僚による三角形(産業ムラ)は厳然として存在してるいるのです。これは、ある意味「加計問題」と本質は同じです。

これについては、農協の事例や、債権ムラ原子力ムラ、コロナ禍でワクチン接種はスムーズに進めることができたにも関わらず、医療ムラの抵抗にあってコロナ病床の確保に失敗した菅政権などの状況をみてもおわかりいただけると思います。日本には、あらゆる産業にこうしたムラの人にしか通じない、理屈や思想を持った村社会が存在するのです。

ただし、この村社会は公式なものではなく、病院でいえば医局のような存在であり、その実像ははっきりしていませんし、それぞれの病院によってかなり機能が異なります。

colabo問題においては、今後の調査を待つ必要がありますが、官僚の中にはたとえば、元文部次官の前川喜平氏のように、左翼リベラル的思想に親和性を持つものもいますから、補助金を受けさせるために、審査書類などのパスを恣意的にスムーズにしているということも考えられます。

昨日も指摘したように、男女参画事業などで、かなりの補助金が投入されています。すでに、リベラル左翼の鉄のトライアングルは出来上っているのかもしれません。

右左とか、上下など問わずこのようなことは、補助金行政が続く限りなくならないでしょう。

昨日も指摘したように、補助金制度の多用は、弊害を生み出すのは目に見えています。日本でも、台湾のように産業支援策に減税政策を用いるようにすべきです。ただ、このようなことを主張する人は、かなり官僚や産業団体、族議員から攻撃を受けることでしょう。

そのためか、この問題を掘り下げる人は少ないですが、いずれ日本でも取り組まなければならない重要な課題だと思います。

岸田政権の経済対策はほとんどが、補助金方式です。さらには、増税も打ち出しました。これでは、財務省をはじめとする各省庁や族議員、業界団体は大喜びでしょう。彼らにとっては、今年の正月はまさに幸先の良いスタートと感じられたでしよう。

これでは、彼らは勇んで、鉄のトライアングルをますます強化し、自分たちに不利益が被りそうなれば、鉄のトライアングルでこれをさらに強力に全力で排除するでしょう。補助金制度の間隙をついて、新たな利権を生み出す打ち出の小槌である新たなな「鉄のトライアングル」づくりに励む、官僚、業界団体、新たな族議員も出てくるかもしれません。

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2023年1月6日金曜日

ネットで大騒ぎ「Colabo問題」めぐる税金の不適切な使われ方 国は〝弱者ビジネス〟助長させる「困難女性支援法」を見直せ―【私の論評】Colabo問題の本質は、日本の経済・支援政策のほとんどが減税ではなく、補助金で実行されること(゚д゚)!

有本香の以読制毒


 新年早々、納税者にとって実に不快な話題を取り上げる。昨年末から、ネット上では大騒ぎとなっていた「Colabo(コラボ)問題」である。

 ご存じない方のために概略を説明しよう。

 Colaboとは、虐待や性被害などを受けた少女たちの支援を行っている一般社団法人である。その代表理事を、ネット上ではつとに有名な〝フェミニスト〟である仁藤夢乃さんという人が、務めている。仁藤さんは33歳ながら、昨年11月には、政府が開催した「第1回 困難な問題を抱える女性への支援に係る基本方針等に関する有識者会議」の構成員にも選ばれている。

 同じ昨年11月、この仁藤さん率いるColaboが「不当な会計をしていた」として、ツイッター上で「暇空茜」と名乗る男性が、東京都が2021年度に支出した委託料2600万円について住民監査請求を行い、都監査委員が調査していた。

 一方、仁藤さん側は「デマや誹謗(ひぼう)中傷を行っている」として暇空さんを提訴した。


 年末12月28日、住民監査請求の結果が出され、4日に東京都から公式発表された。

 果たして、Colaboの会計報告について、都監査委は、不正を指摘する監査請求の主張について、車両のガソリン代など、多くが「妥当ではない」と退ける一方、領収書がない経費が計上され、領収書があっても疑義があるケースが確認されるなど、「本件精算には不当な点が認められ、本件請求には理由がある」として、都に対し、2月28日までに再調査などを指示した。

 暇空さんの指摘の一部が認められたともいえる。

 結果が公表された4日には、「Colabo問題」はツイッターでトレンド入りした。昨年末から、多くのユーチューバーが競ってこの経緯を動画に上げ、ネット上は一種の「祭り状態」にあったのだが、ここへ来てようやく、大手メディアでも報道され始めた。

 Colaboに対するネット上の疑惑は、「女性などの〝弱者救済〟を理由に、税金が不適切な使われ方をしているのではないか」ということに集約される。都監査委が経費の再調査を求めた以上、こう非難されるのも致し方あるまい。

 仁藤さんとColabo側は真摯(しんし)に対応し、状況を改善すべきである。

 同時に、私が指摘したいのは国の対応だ。

 昨年5月、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(略称『困難女性支援法』)が成立した。DVや性虐待など家族からの暴力、性暴力、性的搾取、離婚、貧困、心身の疾患や障害、居場所の喪失、社会的孤立、予期しない妊娠・中絶・出産、孤立した子育てなど、さまざまな困難を抱える女性を支援するという法の趣旨は結構だ。

 しかし、この法律を、いわゆる「弱者ビジネス」を助長させる仕組みにしては断じてならない。その一歩として、前述の「有識者会議」の建て付けを全面的に見直し、メンバーも入れ替えて、「困難女性支援法」の乱用を防ぐ会議としてはいかがか。

有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】Colabo問題の本質は、日本の経済・支援政策のほとんどが減税ではなく、補助金で実行されること(゚д゚)!

東京都では2016年以降、住民監査請求された111件のうち、認められたのは前知事の公用車の利用法についての1件だけです。そうした中で請求が新たに認められたとなれば重大事のはずですが、大手メディアの報道が全くないどころか、昨年の時点では、事実確認で動いている形跡すらほとんど感じられませんでした。

沖縄で基地反対活動する仁藤夢乃さん

大手メデイアは無論のこと、野党もいわゆる党派性の病理に蝕まれ、与党が関与することなら、信者が数万しかいないような、統一教会問題など大騒ぎしても、リベラル・左翼の関わる問題解決に関してはほぼ無視を決め込むという、平成から繰り返されてきた悪しき態度や行動には、本当に気が滅入る人も多いのではないかと思います。

この問題の本質は、あまり語られていませんが、日本では、政府や自治体が行う支援が、減税ではなく補助金や助成金によって行われることが多いことが根底にあるのではないかと思います。

このブログでは、日本では、政府の経済政策が他国に比較すると、主に補助金で行われ、減税はほとんど行われていないことを指摘してきました、最近も再度指摘したばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
政府、1人当たり2万6000円支給へ 税収上振れ分「人々に還元」/台湾―【私の論評】日本政府の財政の最大の欠陥は「死に金」が溜まっていく構造になっていること(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。

財政支出には補助金系と減税系の2つがあって、減税系は執行率がほぼ100%になります。税金を取らないだけだから簡単なのです。しかし、補助金系は支出するにおいては、様々な書類と手続きが必要となります。そのため、補助金系の支出は執行がスムーズにいかないときがあます。 
通常、国際的にはOECDなどの資料を調べると、景気対策は「減税系」7で「補助金系」が3ですが、日本ではこれが逆どころか補助金のほうが圧倒的に多くなっています。景気対策は、減税で実行するのが一般的なのです。 
日本だけが、補助金系が8で減税系が2です。そうして、今回の岸田政権では、ほとんど減税系がありません。要するに補助金系が10という感じで「かなり執行残がありそうだ」と最初から認識できました。 
予算を積んでも執行できなければ意味がありません。岸田政権は、このような予算を意図的につくっているのかと疑ってしまいたくなるほどです。普通は、補助金系は増やさず、減税系を増やして素早く執行すべきなのです。 
このような予算の策定方式の背景には「減税などすべきでない」などの前提があるのでしょう。だから、不自然なことになってしまうのです。まず入り口にそれがあるのでしょう。もう1つは、補助金系の方が官僚や政治家は喜ぶのです。減税よりも、補助金のほうが、いかにも仕事をしたという達成感があるのかもしれません。
岸田政権の予算は、「減税系が嫌だ」という財務省と、補助金系が好きな他省庁と政治家をうまく組み合わせたような感じです。 
そうなると、限られたところにしかお金が流れず、世の中全体の経済の浮揚にはつながりにくくなります。

このColabo騒動は、日本の行政における予算執行の杜撰さを明るみにしたことで重要な意義を持っていると思われます。

今回東京都のチェックの甘さが浮き彫りになりました、行政を良く知っている専門家によれば、行政とはそういうもの、ということのようです。考えてみればそうでしょう。自分が苦労して稼いだお金でもなく、失敗したからと言って責任を取らされるわけでもないからです。

しかも、政府による経済対策における補助金・助成金に関しては、実際には政府が行うわけではなく、東京都や他の市町村が実務を行います。補助金等をもらったことのある人なら、補助金等のお知らせなど、最寄りの市町村から通知されることをご存知だと思います。

そうなると、地方自治体の事務量は、半端なものではなくなります。通常の事務を行いつつ、さらに政府の経済対策に関わる事務を実施しつつ、場合によっては、都道府県や国の経済政策の事務もこなさなくてはならなくなります。

無論、地方自治体だけで、事務が回せなければ、外部の民間企業などの力を借りることになりますが、これは無論のこと、税金が投入されるのです。この外部機関がいい加減だったりして、大量の名簿が入ったUSBメモリを紛失したなどのこのとは時々報道されたりします。

東京都も同じく、そのような状況になってるはずで、これではチェックが十分でなかったといっても、それにはそれなりの理由があるのかもしれません。今後、十分に調査をすべきです。

現状の役所は予算の議会承認を受けて、予算項目ごとに支出し、決算で支出結果をまとめるだけの機関です。特に政府はそうです。

市町村のような地方自治体も、事業内容の妥当性を判断する機関としては事実上機能しておらず、予算書や決算書を作るための収支報告の辻褄を合わせるのが精一杯ともいえます。これは、最近ではコロナ感染対策における、各地の保健所の状況を振り返っていただければ、理解できます。

経済政策の実施手法として、日本でも、補助金等の多用ではなく減税を多様すべきであると主張する人は多いです。これを実現するうえでcolabo事件、非常に重要な転機になるのではないかと思います。というより、そうしなければならないと思います。そうして、これには財務省は大反対するでしょう。その理由は後で述べます。

colabo が話題になっていますが、それは氷山の一角にすぎないです。政府全体の支出の4割程度を占める中央政府でも似たような補助金等のバラマキ案件は沢山あります。これは、以下のサイトで確認できます。


試しに男女共同参画と入力してみてください。沢山の補助金、助成金によるバラマキ先が出てきます。これだけあれば、一つひとつの事業の妥当性を審査するのは難しくなるのは当然です。やはり、減税政策をもっと多用すべきです。

支援政策も減税を多用すれば、補助金、助成金への審査の時間を増やすこともできます。このままでは、税金が無駄に使われるだけではなく、本当に支援すべき事業や、困っている人たちの支援が滞ることになりかねません。

結局、日本の経済政策や支援政策などの多くが、減税ではなく、補助金等で実行されることが、Colabo問題のような数々の問題を助長しているのです。

補助金等にばかり頼っていれば、補助金等のための審査は際限なく増え必然的に甘くなるというか、事実上できなくなり、Colabo問題のような問題を生み出し、さらに執行漏れが多数出るのは最初から判りきったことで、余った大量の補助金等は財務省が特別会計等として溜め込み、「死に金」となるのです。

このような不合理なことは、一刻もはやくやめて、日本でも減税を多用すべ
きです。減税であれば、補助金等と異なり、税金をとらないだけですから、簡単に実施できますし、それに不正の温床となることもあまりありません。それでいて、確実にしかも素早く効果があります。

このような、政策転換をしない限り、Colaboのような問題は防ぐことは難しいでしょう。

今後、野党やマスコミがColabo問題を追求するなら、この方向性でも批判していただきたいものです。政府や役人を責めたてるのは結構だとは思いますが、それだけでは、この問題は永遠に解決しないと思います。しかし、おそらく野党・マスコミはこのようなことはしないでしょう。

このようなことは、調べてみれば、皆さんの身の回りでも、結構あると思います。私は、現在北海道札幌市に住んでいますが、北海道にはいわゆる「アイヌ利権問題」があります。ここでは、詳しくは述べませんが、怪しいアイヌ文化に多額の税金が使われていたりします。皆さんの地域においても、詳細に調べてみれば、なぜこんなことに、補助金や助成金が使われているのか理解に苦しむような事業が展開されている可能性も十分にあると思います。

それに関しては「暇空茜氏」のように声をあげる人がいなければ、いつまでも放置されることになります。やはり、特に地域の問題に関しては、地域の人たちが声を上げるべきです。

Colabo騒動を調べれば調べるほど、Colabo側の問題はもとより、構造的な問題が次から次へと出てきており、枚挙にいとまがありません。今後このブログでも順次指摘していこうと思います。

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