2024年7月13日土曜日

バイデン大統領の衰退が国際危機を生む―【私の論評】バイデン大統領の認知能力低下と米国の危機:新たな指導者の必要性と世界秩序への影響

バイデン大統領の衰退が国際危機を生む

まとめ
  • アメリカの現職大統領の明らかな能力弱化は国際危機をも生みかねない。
  • 反米陣営が対米警戒を減らして、より大胆な侵略や膨張の行動に出る危険が生まれた。
  • 不法入国者問題、露中朝イランの反米的な行動の激化を懸念する声も。


 バイデン大統領の認知能力の衰えが顕著になり、民主党内からも撤退を求める声が上がっている状況は、単なる国内政治の問題にとどまらず、国際的な影響を及ぼす可能性がある。大統領の能力低下は、国際的な危機を引き起こす潜在的な要因となり得る。特に懸念されるのは、中国やロシアなどの反米勢力が、バイデン大統領の弱みにつけ込む危険性が高まっていることだ。

 歴史的に見ても、アメリカの大統領選挙の年は国際的な異変が起きやすい傾向がある。今回の状況は、アメリカでの大統領選挙による空白や混乱が、バイデン大統領の衰退によってさらに強調されている。これにより、アメリカの国際的な指導力や軍事抑止力が弱くなったと判断する材料を、対立的な立場の国々に提供してしまっている可能性がある。

 専門家らは、バイデン大統領の衰退により、様々な危険な動きが起こる可能性を指摘している。例えば、メキシコ国境からの危険分子の侵入増加、ロシアの反米的行動の激化、中国の反米的言動の増加、北朝鮮の対外姿勢の強硬化、イランとその傘下のテロ組織の活動の活発化などが懸念されている。これらの推測は、アメリカの国際的な影響力の低下と、反米勢力の台頭を示唆しており、国際秩序の不安定化につながる可能性がある。

 このような分析は、バイデン大統領の個人的な状況が、より広範な国際的な安全保障の問題につながる可能性があることを強調している。大統領選挙の結果や、バイデン氏の今後の対応が、単にアメリカ国内の政治だけでなく、世界の安全保障環境にも大きな影響を与える可能性がある。したがって、この問題は慎重に観察し、対応していく必要があるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】バイデン大統領の認知能力低下と米国の危機:新たな指導者の必要性と世界秩序への影響

まとめ
  • バイデン大統領の認知能力低下が米国の国益と世界秩序の安定を脅かしている。
  • 外交政策の失敗(アフガニスタン撤退、ウクライナ対応、イラン核問題、日本のLGBT法への介入など)が顕著。
  • エネルギー政策(キーストーンXLパイプライン中止など)が米国の経済と安全保障を危険にさらしている。
  • バイデン大統領は安倍元首相の決断を見習い、国家の利益のために退くべき。
  • 民主党は新たな候補者を擁立し、エネルギー自立、国境管理、毅然とした外交政策を実行すべき。
米民主党は、米国の国益と世界秩序の安定のために、即刻バイデン大統領に代わる新たな候補者を擁立すべきです。これは単なる政治的駆け引きの問題ではなく、国家の安全保障と世界の安定に関わる緊急の課題です。

アフガニスタンの首都カブールからカタールに向け出発した米空軍の大型輸送機の機内。米空軍提供(2021年8月15日撮影)。

バイデン大統領の認知能力低下は、もはや隠しようのない事実となっています。アフガニスタンからの無秩序な撤退、ロシアのウクライナ侵攻に対する優柔不断な対応、イランの核開発を事実上容認する弱腰外交など、その影響は国際社会全体に及んでいます。

特に懸念すべきは、日本のLGBT理解増進法への不適切な介入です。バイデン政権は、自国内で実現できていないLGBT関連の連邦法を、同盟国である日本に押し付けようとしました。

これは日本の国内事情や文化的背景を無視した、一方的な圧力です。日本の法案は、「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」という文言が盛り込まれるなど、日本社会の実情に配慮した内容となっていましたが、バイデン政権はより急進的な内容を求めたとされています。無論こうした圧力を跳ね返すことができない、岸田政権にも問題はありますが、このような介入は、同盟国の主権を軽視し、国際関係を損なう危険性があります。

東京レインボープライドに参加するエマニュエル米国大使 SNSより

さらに、イエメンのフーシ派テロリスト指定解除、記者会見での度重なる言い間違いや混乱、国境管理の失敗と不法移民の急増、インフレ対策の遅れと経済政策の混乱、同盟国との関係悪化、中国に対する一貫性のない外交姿勢など、問題は山積しています。

エネルギー政策においても、大統領就任直後に、キーストーンXLパイプライン建設の中止しています。このパイプラインは、カナダのアルバータ州から米国のテキサス州までの原油輸送を目的とした大規模プロジェクトでしたが、環境への懸念を理由に建設許可が取り消されました。

そうして、連邦所有地での石油・ガス掘削制限など、米国のエネルギー自立を脅かす決定が次々と下されています。これらの政策は、米国の経済と安全保障を危険にさらすものです。

この状況下で、バイデン大統領は日本の安倍元首相の高潔な判断を見習うべきです。安倍元首相は、持病の悪化により二度にわたって自ら総理の職を辞しました。これは個人の野心よりも国家の安定を優先した、真のリーダーシップの表れでした。

バイデン大統領も同様に、自身の健康状態が国家の安全保障と世界の安定に与える影響を真摯に受け止め、潔く退く勇気を持つべきです。


米民主党は、党利党略を超えて、国家の利益を最優先に考えるべきです。バイデン大統領の続投は、米国の国際的地位をさらに低下させ、敵対国の挑発を招くリスクがあります。新たな候補者を擁立することで、米国の指導力を回復し、同盟国との信頼関係を再構築する必要があります。

具体的には、エネルギー自立政策の推進、強固な国境管理、そして毅然とした対外政策を実行できる候補者を選ぶべきです。同時に、同盟国の主権と文化的多様性を尊重し、一方的な圧力を避ける外交姿勢も求められます。それによって初めて、米国の国益を守り、世界の安定に貢献することができるのです。

民主党が自らの政治的利益よりも国家の未来を優先するなら、今こそバイデン大統領に代わる新たな候補者を擁立する時です。これは、米国の将来と世界秩序の安定のために不可欠な決断なのです。バイデン大統領自身も、安倍元首相の決断を見習い、個人の地位よりも国家の利益を優先する勇気を持つことが求められています。

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2024年7月12日金曜日

米バイデン大統領、ゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と言い間違え―【私の論評】バイデン大統領の言動と2024年選挙:懸念と展望

米バイデン大統領、ゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と言い間違え

まとめ
  • バイデン大統領がNATO首脳会議でゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と言い間違え、すぐに訂正した。
  • ゼレンスキー大統領は冗談で応じ、会場は騒然となった。
  • この言い間違いにより、バイデン大統領の再選に向けた圧力が強まる可能性がある。

2024年7月11日にワシントンD.C.で開催されたNATO首脳会議で、アメリカのバイデン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領を紹介する際に「プーチン大統領」と言い間違えました。

バイデン大統領はすぐに訂正し、「プーチンを倒すゼレンスキー大統領です」と釈明しました。ゼレンスキー大統領は冗談めかして「私の方が(プーチンより)優れている」と応じました。

この言い間違いにより、プレスセンターは騒然となり、一部の記者は頭を抱える様子が見られました。この出来事は、バイデン大統領の再選に向けた圧力をさらに強める可能性があります。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。【まとめ】は、元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】バイデン大統領の言動と2024年選挙:懸念と展望

まとめ
  • バイデン大統領の頻繁な言い間違いや不適切な行動が、職務遂行能力に疑問を投げかけている。
  • これらの問題は国家安全保障や外交関係、公衆の信頼に影響を及ぼす可能性がある。
  • 民主党は現職としての実績や中道路線、トランプ氏との対決での優位性などを理由にバイデン氏を支持している。
  • しかしバイデン氏の高齢とその言動は米国の威信を損なう可能性があり、保守派は深刻な脅威と捉えている。
  • 保守派は結束して、伝統的な価値観を持つ共和党候補、特にトランプ氏を支持すべき。
バイデンが大統領に就任して以来、メディアで報道された、今回のようないい間違えの事例を以下に列挙します。

1. ゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と言い間違え(2024年7月11日、NATO首脳会議)

2. カマラ・ハリス副大統領を「トランプ副大統領」と言い間違え(2024年7月11日)

3. ペンシルベニアでのキャンペーン中、叔父の誤った戦争エピソードを語る(2024年4月)

4. ドイツのメルケル前首相をコール元首相と混同(2024年2月7日)

5. 大統領選テレビ討論会での言い間違いや言葉詰まり
   - 2020年の討論会で「4年間で200万人」を「200年間で400万人」と言い間違え
   - 「我々は真実を選ぶ」を「我々は真実を保持する」と言い間違え
   - 「COVID-19」を「COVID-9」と言い間違え

6. カマラ・ハリス副大統領を複数回「大統領」と呼ぶ(2021年3月18日)

7. 国防長官ロイド・オースティン氏の名前を忘れる(2021年3月)

8. 故ジャッキー・ワウォースキー下院議員を聴衆から探す。2022年8月に死去したワウォースキー議員を、9月の演説で聴衆の中にいるかのように呼びかけた。(2022年9月)
   
9. プーチン大統領との首脳会談後、シリアをリビアと言い間違え(2021年6月)

10. 韓国の尹錫悦大統領の名前を誤って発音(2022年5月)

11. 法案署名時に自身の名前を間違える(2021年3月)

12. 「AFT」(米国教員連盟)を「ATF」(アルコール・タバコ・火器局)と言い間違え、教育関連の組織と法執行機関を混同した。(2021年3月)

13. ガソリン価格について「ガロン当たり10ドル」を「10セント」と言い間違え(2022年10月)

14. 電気自動車工場視察時にガソリン車を運転(2021年5月)

15. テレプロンプターの指示を読み上げる(2022年7月)


16. トルネード被害を受けたケンタッキー州知事の名前を間違える(2021年12月)

17. エリザベス女王の葬儀到着遅延の理由を「交通渋滞」とする(2022年9月)

18. アイルランド訪問中の不適切な発言(2023年6月)

19. アフガニスタン撤退に関する記者会見での混乱(2021年8月)

20. インフレ対策について「プーチンの価格上昇」を「価格減少」と言い間違え(2022年4月)

21. ウクライナ訪問後の演説で「ウクライナ」を「イラク」と言い間違え(2023年2月)

22. 「アメリカ人の平均寿命は200年」と発言(2020年9月)

23. 「私は上院に12年、副大統領に120年いた」と発言(2019年8月)

24. 「我々は真実ではなく事実を選ぶ」と発言(2020年5月)

25. 「貧困層の子どもたちはレコードプレーヤーを聴くべき」と発言(2019年9月)

これらの事例は、バイデン大統領の言動に対する注目度の高さを示すとともに、高齢の大統領としての能力に関する議論を引き起こしています。

バイデン大統領の頻繁な言い間違いや不適切な行動は、大統領としての職務遂行能力に正当な疑問を投げかけています。これらの問題は、単なる偶発的なミスを超えてパターン化しており、認知機能や判断力に関する懸念を生み出しています。

大統領職の重要性を考えると、このような言動は国家安全保障や外交関係に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、公衆の信頼を損なう恐れもあります。バイデン大統領の高齢も、これらの問題をより顕著にしています。

しかし、言動のみで大統領の能力全体を判断するのは適切ではなく、政策決定や外交交渉などの実質的な成果も同時に評価する必要があります。結論として、これらの懸念は深刻に受け止めるべきですが、バランスの取れた評価と、大統領の健康状態や認知機能についてのより透明性の高い情報開示が求められるでしょう。

米民主党のシンボル「ロバ」

民主党としては、このようなことは十分予測できたはずです、にもかかわらず、民主党がバイデン氏にこだわった理由は複合的です。現職大統領としての実績と知名度、中道路線による幅広い支持、トランプ氏との対決での優位性が主な要因です。

また、党内の安定維持や政策の継続性も重視されました。長年の政治経験、特に外交面での実績も評価されています。さらに、労働組合や黒人有権者などの伝統的な支持基盤の存在も大きな利点です。

加えて、バイデン氏に代わる強力な候補者が不在であることも選択の背景にあります。これらの要素を総合的に判断し、民主党はリスクを認識しつつも、バイデン氏を最適な候補者と判断したと考えられます。ただし、高齢による懸念は依然として大きな課題となっています。

バイデン大統領の再選は米国の価値観と安全保障にとって深刻な脅威となります。彼の進歩的政策は、我々の伝統的な家族観や自由市場経済を脅かしています。また、国境管理の甘さは国家安全保障を危うくしています。

さらに、バイデン氏の高齢と頻発する言い間違いは、国際舞台での米国の威信を損なっています。これは、ロシアや中国といった敵対国に付け入る隙を与えかねません。民主党が新たな候補者を擁立したとしても、それは単に同じ進歩的イデオロギーを持つ若い顔に過ぎないでしょう。


米保守派は伝統的な保守的価値観を持つ共和党候補を支持し、結束してトランプ氏を支持し、米国の偉大さを取り戻すべきです。米国の未来のために、強力なリーダーシップと確固たる保守的政策が必要不可欠です。これこそが、米国の繁栄と安全を守る唯一の道筋と思われます。

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2024年7月11日木曜日

「ハマス殲滅」は、なぜ「空想」なのか?...国際社会が放置してきた「大きなツケ」―【私の論評】ハマス殲滅と中東和平:50年の長期統治案とルトワック理論の検証

「ハマス殲滅」は、なぜ「空想」なのか?...国際社会が放置してきた「大きなツケ」

まとめ
  • ネタニヤフ首相の「ハマス殲滅」と「人質解放」の目標は、多くの専門家によって「不可能」と指摘されている。
  • ハマスは思想と政党の側面を持ち、軍事的に弱体化しても完全な殲滅は困難である。
  • イスラエル軍の継続的な軍事作戦は、若い兵士の犠牲を伴う「空想」の追求になる可能性がある。
  • 国際社会はハマスのガザ統治終焉を望むが、その後の統治体制について明確な計画がない。
  • ガザでの戦闘終結後も、新たな混乱が予想され、国際社会は大きな課題に直面している。
ネタニヤフ首相

 ネタニヤフ首相が掲げる「ハマス殲滅」と「人質解放」の目標は、多くの専門家によって「不可能」と指摘されている。ハマスは単なる軍事組織ではなく、思想と政党の側面を持つ複雑な存在であり、軍事的に弱体化させることはできても、完全な殲滅は極めて困難だと考えられている。

 イスラエル軍が継続的な軍事作戦を展開することは、若い兵士たちの犠牲を伴う「空想」の追求になる可能性がある。実際、イスラエル軍内部でも、ハマス殲滅という目標の実現可能性に疑問を呈する声が上がっている。

 一方で、国際社会はハマスのガザ統治の終焉を望んでいるが、その後のガザ地区の統治体制について明確な計画が立てられていない。パレスチナ自治政府が最有力候補とされているが、ネタニヤフ首相や極右政治家たちはこれに反対しており、自治政府自体も機能不全に陥っているという問題がある。

 ガザでの戦闘が終結したとしても、それは新たな混乱の始まりとなる可能性が高い。17年にわたるハマスの実効支配や封鎖をそのままにしてきた国際社会は、今改めて大きな課題に直面している。ガザ地区の再建と安定した統治体制の確立、そしてイスラエルとパレスチナの長期的な和平プロセスの再開など、複雑で困難な問題に取り組む必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】ハマス殲滅と中東和平:50年の長期統治案とルトワック理論の検証

まとめ
  • ハマスはテロリスト集団であり、排除されるべきだが、短期間での殲滅は不可能である。
  • 米戦略家ルトワック氏の理論に基づき、真の紛争解決には少なくとも50年にわたる軍隊の駐留により、根本的につくりかえる必要がある。
  • 長期的な国際的統治は、パレスチナ問題の抜本的な解決策となる可能性があるが、様々な課題も存在する。
  • イスラエル単独ではなく、過去にパレスチナ問題を複雑化させた国々とイスラエルによる共同統治が次善の策といえよう。
  • 長期的な解決策には、ハマスの思想は完全排除しつつも、パレスチナ人の意思尊重とイスラエルの安全保障への配慮が不可欠である。
ハマスの少年戦闘員 2012年8月のハマス25周年記念式典にて

私自身は、「ハマスは殲滅」すべきものと思います。なぜなら、ハマスはテロリスト集団だからです。テロリスト集団は、排除されるべきものです。排除が難しいからとか、犠牲がともなうからといって、これを放置する理由にはなりません。

ネタニヤフ首相の「ハマス殲滅」と「人質解放」の目標に関しては、ネタニヤフ首相がどのくらいのスパンでこれを達成しようとしているかでその評価が分かれると思います。とくに、「ハマス殲滅」に関してはそうです。

もし、せいぜいここ数年、長くても5年くらいで、これを達成しようとしているのであれば、それは混乱を生むだけであり、上の記事にもあるように、それは不可能です。

しかし、少なくとも50年くらいは、軍隊を駐留させて根本的に変えようというのなら、賛成です。

なぜ、このようなことを言うかといえば、それには根拠があるからです。それは、米国のルトワック氏の理論に基づくものであり、私はこの理論が妥当だと考えています。

エドワード・ルトワック氏

エドワード・ルトワック氏は、国連などによる短期的な紛争仲裁や介入が表面的な解決にとどまり、根本的な問題解決に至らないと批判しています。彼の主張によれば、真の紛争解決には少なくとも50年にわたる軍隊の駐留が必要としています。これは社会の根本的な変革には世代を超えた時間が必要だという認識に基づいています。

ルトワック氏は、単なる停戦や表面的な和平合意ではなく、紛争地域の社会、政治、経済システムを根本から再構築する必要があると考えています。この長期的な関与を通じて、紛争の根本原因に取り組み、持続可能な平和を構築することが可能になると主張しています。

この考え方は、国際社会により大きな責任と長期的なコミットメントを求めるものです。しかし、主権の問題や介入の正当性、実行可能性など、多くの課題も存在します。

ルトワック氏の理論は、複雑で長期化した紛争地域における平和構築の難しさを浮き彫りにし、国際社会の紛争解決アプローチに再考を促す重要な視点を提供しています。従来の短期的なアプローチの限界を指摘し、より根本的で持続可能な解決策の必要性を強調する点で、国際関係や平和構築の分野に大きな影響を与えています。

この位の覚悟がなければ、「ハマスの殲滅」はできないでしょう。もしネタニヤフ首相が、このくらいのスパンで物事を考えているのなら、賛成できますが、そうでないなら、単なる「空想」と言われても仕方ないでしょう。

ただ仮にネタニヤフ首相が、50年以上軍隊を駐留させ、根本的な解決を図るにしても、問題はあります。

イスラエルは、「ハマス殲滅」はできるかもしれません。しかし様々な問題が予想されます。まず、長期的な軍事占領は国際法違反とみなされ、イスラエルへの批判や制裁につながる可能性があります。また、パレスチナ住民の反感を高め、新たなテロリストを生み出す温床となる恐れがあります。ただ、他国がこのような批判をするにしても、自らが資金を提供するとか、軍隊を派遣する覚悟がない場合、たんなる「言うだけ番長」なるだけでしょう。

さらに、長期駐留に伴う膨大な経費はイスラエル社会に大きな経済的負担をもたらします。この莫大なコストは、国内の教育、医療、インフラ整備などの重要な分野への投資を圧迫し、イスラエルの社会発展を阻害する可能性があります。また、長期にわたる兵力の維持は人的資源の面でも大きな負担となり、イスラエル社会の生産性や経済成長に悪影響を及ぼす恐れがあります。

加えて、軍事占領の長期化はイスラエルとパレスチナの和平交渉を困難にし、地域の安定を損なう可能性があります。また、長期の軍事行動はイスラエル国内の社会的分断や道徳的ジレンマを引き起こし、国民の精神的健康にも悪影響を与える可能性があります。

次善の策としては、イスラエル軍だけが駐留するのではなく、過去にパレスチナ問題を複雑化させてしまった国々による共同統治です。その国々とは具体的に以下です。
  1. 英国:第一次世界大戦後、パレスチナ地域を委任統治し、ユダヤ人の「民族的郷土」建設を約束したバルフォア宣言を発表しました。これがユダヤ人とアラブ人の対立を深める一因となりました。
  2. 米国:イスラエルの最大の支援国として、中東和平プロセスに大きな影響力を持ちつつも、しばしばイスラエル寄りの姿勢を示し、問題の公平な解決を難しくしました。
  3. ソビエト連邦(現ロシア):冷戦時代、アラブ諸国を支援し、中東における米国の影響力に対抗しました。これにより、パレスチナ問題が東西対立の一部となり、さらに複雑化しました。
  4. エジプト、ヨルダン、シリア、レバノンなどの周辺アラブ諸国:イスラエルとの戦争に関与し、パレスチナ難民問題を抱えることで、問題の地域的な広がりを生み出しました。
  5. イラン:イスラエルに敵対し、ハマスなどのパレスチナ武装組織を支援することで、紛争の長期化に寄与しています。
これらの国々の介入や影響により、パレスチナ問題は単なる地域紛争から国際的な問題へと発展し、解決をより困難にしています。

このうち、ウクライナに侵攻中のロシアや、ハマスを支援しているイランは除き、これら以外の国々でも、中東和平に賛成する国々で、参加したい国々は参加してもらうという形で、これらの国々がパレスチナを統治し、和平をすすめるのです。

50年間にわたる国際的な統治は、パレスチナ問題の抜本的な解決策となる可能性があります。これまでの中途半端な対応では問題が解決せず、むしろ悪化してきた歴史を考えると、このような徹底的なアプローチには一定の妥当性があります。

この方式では、長期的視野での社会再構築が可能になり、国際社会の直接的な関与により透明性と公平性が確保されます。ハマスのような過激組織の影響力を根本から排除しつつ、教育や経済インフラの整備など、持続可能な発展の基盤を築くことができるでしょう。

しかし、実行にあたっては課題も多く存在します。パレスチナ人の自決権との調和をどう図るか、国際社会の長期的なコミットメントをどう確保するか、イスラエルと周辺アラブ諸国の協力をどう取り付けるか、そして莫大なコストをどのように分担するかなどの問題に対処する必要があります。ただ、50年以上という年月をかけるというのであれば、話は変わってきます。

これらの課題に対しては、段階的なアプローチや、パレスチナ人の意思を尊重しつつ国際管理を行う仕組みの構築、明確な出口戦略の策定などが必要になるでしょう。特に、ハマスのようなテロ組織を排除しつつ、一般のパレスチナ人の権利と尊厳を守る方策を慎重に検討する必要があります。

この方式は従来のアプローチよりも大胆で困難を伴いますが、長年の紛争を根本的に解決する可能性を秘めています。国際社会が本気で平和を望むのであれば、このような抜本的な解決策を真剣に検討する価値はあるでしょう。

ただし、その過程ではハマスの思想は完全排除しつつも、常にパレスチナ人の意思を尊重し、彼らの将来的な自治と独立の道筋を明確に示すことが不可欠です。同時に、イスラエルの安全保障にも十分な配慮を払い、両者の共存共栄を目指す必要があります。

このような共同統治が成功すれば、今後の紛争解決のモデルとなるでしょう。未だに20世紀までの世界のように他国に侵略したり、しようとする国、他地域を侵略したり、しようとしているテロリスト等にとって大きな警鐘になるでしょう。他国を侵略してその国を自分の国にとって都合の良い体制に変えたともしても、結局長い年月をかけても元に戻されてしまう可能性がでてくるからです。

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2024年7月10日水曜日

加速する中国人富裕層の海外移住、膨大な資産も流出―【私の論評】中国富裕層の海外移住:スマートマネー流出と安全保障リスク - 日本の対応と課題

加速する中国人富裕層の海外移住、膨大な資産も流出

まとめ
  • 中国富裕層の海外移住急増:2024年に1万5200人が他国へ、前年比10%増
  • スマートマネーの流出:1人あたり3000万~10億ドルの資産移転と推定
  • 中国脱出の主な理由:経済不確実性、不動産危機、政府の規制強化
  • 人気の移住先:米国、シンガポール、カナダ、UAE、日本が上位に
  • 富裕層流出の影響:中国政府の経済活性化策に障害、習近平体制への不信感


 中国からの「スマートマネー」の流出が加速しており、2024年には約15,200人の富裕層が中国から海外へ移住すると予測されている。これは前年比約10%の増加を示している。投資移住コンサルのHenley & Partnersによると、移住者の多くは米国やシンガポールを目指し、1人あたり3000万~10億ドルの資産を持ち出すと推定されている。

 移住の主な理由としては、中国の経済的不確実性、不動産危機と資産価値の下落、政府による民間企業や資産家への取り締まり強化、そして中国の信用格付け見通しの引き下げが挙げられている。特に、習近平国家主席の経済政策や「共同富裕」の推進が富裕層の懸念を高めているとされている。

 シンガポールは従来、中国の富豪が好む移住先だったが、最近では中国からの資金流入に対する監視を強化している。一方、カナダや米国、アラブ首長国連邦も人気の移住先となっている。日本も安全性や生活の質の高さから注目されており、中国に近いことや魅力的なライフスタイルが評価されている。

 この現象は中国に限らず、韓国や台湾でも安全保障上の懸念から富裕層の流出が見られる。専門家は、この富裕層の流出を習近平政権の経済運営に対する否定的な評価と捉えており、中国政府の経済活性化の取り組みにも影響を与える可能性があると指摘している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国富裕層の海外移住:スマートマネー流出と安全保障リスク - 日本の対応と課題

まとめ
  • 「スマートマネー」とは、大規模な資本を持つ投資家や機関を指し、中国では主に富裕層を意味する。
  • 中国の富裕層の海外移住は、中国経済にとって重要な資本や人材の流出を意味し、他国にとっては投資機会の増加を示唆する。
  • 中国のデータ3法や国家安全法、国防動員法などの法律は、海外に移住した中国国民にも適用される可能性があり、国家安全上のリスクを引き起こす。
  • これらの法律により、海外在住の中国国民が中国政府の指示に従って情報提供や協力を行う義務を負う可能性があり、移住先の国の法律と衝突する。
  • 日本政府は、中国からの移住者に対する対応が不十分であり、スパイ防止法の成立を含む包括的な対策が急務である。
「スマートマネー」とは、一般的に大規模な資本を持ち、高度な投資戦略や分析を用いて市場で優位に立つ投資家や機関を指す言葉です。中国の文脈では、この「スマートマネー」は主に富裕層を指しています。

上の記事にある富裕層の海外移住にともなう「スマートマネー」の流出は中国経済にとって重要な資本や人材の流出を意味し、同時に他国にとっては投資や経済活動の機会増加を示唆しています。したがって、「スマートマネー」の動向は、中国の経済状況や政策の評価指標として、また世界経済の資金流動の重要な指標として注目されているのです。

中国富裕層の住む街の一角

一方、中国の富裕層の海外移住に関する安全保障上の問題は、中国のデータ3法(サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、個人情報保護法)や国家安全法、国防動員法などの法律と密接に関連しています。これらの法律は、中国国民や中国で活動する企業に対して広範な義務を課しており、海外に移住した富裕層にも影響を及ぼす可能性があります。

特に注目すべきは、これらの法律の域外適用の可能性です。中国の法律は、中国国内だけでなく、海外に移住した中国国民や中国企業にも適用される可能性があります。

例えば、データセキュリティ法は、中国の国家安全や公共の利益に影響を与える可能性のあるデータ処理活動に対して、中国国外でも適用される可能性があります。これは、海外に移住した中国富裕層が、中国政府の要求に応じて情報提供や協力を求められる可能性があることを意味します。

香港に掲示された国家安全法の看板

さらに、国家安全法は、すべての中国国民に対して国家安全に協力する義務を課しています。この法律の解釈によっては、海外に移住した中国国民も、中国政府の要請に応じて情報提供や協力を行う義務を負う可能性があります。

これは、移住先の国の法律や利益と衝突する可能性があり、二重忠誠の問題を引き起こす可能性があります。個人情報保護法も、中国国民の個人情報を保護するために、海外のデータ処理者にも一定の義務を課しています。これにより、中国から移住した富裕層が関与する海外企業も、中国の法律に従って個人情報を処理する必要が生じる可能性があります。

特に戦争や重大な安全保障上の危機が発生した場合、中国の国家安全法と国防動員法は、海外在住の中国国民にも影響を及ぼす可能性があります。これらの法律は、中国国民に対して、戦時や緊急時に国防のために動員される義務を課しています。

具体的には、戦争や重大な安全保障上の危機が発生した場合、中国政府は海外在住の中国国民に対して情報提供や諜報活動への協力、技術や専門知識の提供、資金や物資の提供、場合によっては中国への帰国と軍事活動への参加を要求する可能性があります。これらの要求は、移住先の国の法律や国益と明らかに衝突する可能性があり、海外在住の中国国民を非常に困難な立場に置く可能性があります。

これらの法律の域外適用は、国際法上の問題を引き起こす可能性があり、各国の主権や法の支配との衝突を招く可能性があります。移住先の国々は、このような法律の域外適用に対して警戒を強めており、自国の安全保障や経済的利益を守るために、中国からの移住者に対する審査を厳格化したり、重要な技術や情報へのアクセスを制限したりする措置を講じています。

結果として、多くの国々は中国からの移住者、特に富裕層や専門家に対する審査を厳格化しています。一部の国では、重要なインフラや技術分野への中国人の参加を制限したり、国家安全保障上の理由で特定の個人の入国や永住権の取得を拒否したりするケースも増えています。

一方で、中国籍を放棄して完全に移住先の国籍に変更する場合、これらの問題は大幅に軽減されます。しかし、中国政府が元中国国民に対しても影響力を行使しようとする可能性は依然として存在します。このような複雑な状況下で、移住先の国々は、経済的利益と安全保障上のリスクのバランスを慎重に取りながら対応を進めています。

カナダは1980年代から2014年まで、投資家クラス移民プログラムを実施し、一定額の投資を条件に富裕層に永住権を与えていました。このプログラムは特に中国の富裕層に人気が高く、外国からの投資を呼び込む目的で導入されました。

しかし、予期せぬ問題が生じました。大都市で不動産価格が急騰し、多くの投資移民が実際の収入よりも大幅に少ない所得を申告したため、税収が期待を下回りました。

また、「アストロノート家族」という現象が生じました。これは、家族の一部がカナダに移住し、主な稼ぎ手が中国に残って働き続けるという状況を指します。この現象により、社会統合の問題も浮上しました。

これらの問題に対応するため、カナダ政府は2014年に連邦レベルの投資家クラス移民プログラムを廃止しました。現在、カナダの移民政策は、単なる資産の多寡ではなく、スキルや教育レベル、言語能力などを重視する方向にシフトしています。

カナダの経験は、富裕層を対象とした投資移民プログラムが短期的な経済的利益をもたらす可能性がある一方で、長期的には社会経済的な課題を引き起こす可能性があることを示しており、他の国々の移民政策にも影響を与えています。

カナダの中国人街

日本政府の中国人移住に対する対応は、安全保障上の重大なリスクを十分に考慮しておらず、極めて不十分かつ危険です。中国の安全保障や情報に関する法律の域外適用により、すべての中国人移住者は、その意思に関わらず潜在的なリスクとなります。この状況は中国共産党が作り出したものであり、日本側に責任はありません。

中国の国家安全法や国防動員法などの存在により、日本に居住するすべての中国国民が、有事の際に中国政府の指示に従って行動することを強いられる可能性があります。このリスクは個人の意思や性質とは無関係であり、すべての中国人移住者に適用されます。

さらに、中国政府がスパイを移住者の中に潜り込ませる可能性が高いことを考慮すると、日本の現状は極めて危険です。この状況に対処するため、スパイ防止法の成立を急ぐべきです。この法律により、外国のスパイ活動を効果的に取り締まり、国家機密や重要技術の流出を防ぐことが可能になります。

日本政府は、このような法体系を持つ国からの移住者をなるべく受け入れるべきではありません。経済的利益よりも国家安全保障を優先し、中国からの移住や投資を厳しく制限する政策を採るべきです。

総じて、日本政府の対応は問題の本質を捉えておらず、短期的な経済的利益を優先する姿勢が目立ちます。安全保障上のリスクを軽視したこの姿勢は、将来的に日本の国益を大きく損なう可能性があります。スパイ防止法の成立を含む、包括的かつ実効性のある対策を早急に講じる必要があります。この問題の責任は全て中国共産党にあり、日本はこの現実を直視し、適切な対応を取るべきです。

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2024年7月9日火曜日

<主張>日比2プラス2 新協定で対中抑止強化を―【私の論評】日比円滑化協定(RAA)の画期的意義:安倍外交の遺産と日本の新たな安全保障戦略

<主張>日比2プラス2 新協定で対中抑止強化を

まとめ
  • 日本とフィリピンが外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を開催し、「円滑化協定(RAA)」を締結。これにより両国の防衛協力が強化され、自衛隊とフィリピン軍の相互運用性が向上。
  • 両国は中国の南シナ海での行動に懸念を表明し、力による現状変更に反対。台湾海峡の平和と安定の重要性も確認され、地理的に重要な位置にある両国の安全保障協力の意義を強調。
  • この協力強化は、中国に対する抑止力を高め、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指すもの。日本にとってはフィリピンとの準同盟関係構築や重要な海上交通路の確保という国益にも合致。
(左から)木原稔防衛相、上川陽子外相、フィリピンのエンリケ・マナロ外相、ジルベルト・テオドロ・ジュニア国防長官

 上川陽子外相と木原稔防衛相がマニラを訪問し、2プラス2を開催しました[。この会議で、両国は自衛隊とフィリピン軍の相互運用性促進など、防衛・安全保障協力の強化で合意しました。

 重要な成果として、自衛隊とフィリピン軍の相互往来を容易にする「円滑化協定(RAA)」が署名されました。これにより、両国軍の共同演習や災害救助活動がスムーズに実施できるようになります。

 会議では、中国を念頭に置いた議論も行われ、南シナ海のアユンギン礁周辺での中国の行動に深刻な懸念が表明されました。両国は力による一方的な現状変更の試みに強く反対する立場を示しました。

 さらに、台湾海峡の平和と安定の重要性が確認され、日本とフィリピンの地理的重要性が強調されました。両国は第一列島線を構成し、台湾を挟む位置にあることから、安全保障上の協力が重要視されています。

 この協力強化は、中国に対する抑止力を高め、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指すものとされています[4]。日本にとっては、フィリピンとの準同盟関係の構築や、重要な海上交通路の確保という国益にもつながります。

 この文章は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日比円滑化協定(RAA)の画期的意義:安倍外交の遺産と日本の新たな安全保障戦略

まとめ
  • 円滑化協定(RAA)は日本とフィリピンの戦略的パートナーシップを強化し、両国軍の相互訪問手続きを簡略化する画期的な協定である。
  • RAAは日本にとって3カ国目の締結国となり、フィリピンとの関係を「準同盟」級へ格上げする重要なステップである。
  • この協定は中国の海洋進出に対抗し、日米比の安全保障面での連携強化を可能にする。
  • 安倍元首相の「地球儀を俯瞰する外交」や「インド太平洋戦略」の継続性を示し、彼の外交ビジョンが日本の外交政策に深く根付いていることを表している。
  • RAAは安倍外交の遺産を体現し、日本の国益を守りつつ地域の平和と安定に貢献する理念を実践するものである。
木原防衛大臣

木原防衛大臣が円滑化協定(RAA)を「画期的」と評価していました。その理由は、この協定が日本とフィリピンの戦略的パートナーシップを大幅に強化するからです。

RAAにより、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練などで相互に訪問する際の手続きが簡略化され、入国のためのビザ取得や武器弾薬の持ち込み手続きが容易になります。さらに、この協定は日本がフィリピンとの関係を「準同盟」級へと格上げする重要なステップとなり、日本にとってオーストラリア、イギリスに続く3カ国目のRAA締結国となります。

また、東シナ海や南シナ海で海洋進出を強める中国に対抗するため、日本は米国とともにフィリピンとの安全保障面での連携を強化できます。

加えて、RAAを基盤として、日本とフィリピンの二国間だけでなく、米国や豪州を交えた重層的な協力関係の構築が可能になります。これらの要因により、木原防衛大臣はRAAを日比関係の新たな段階を象徴する重要な協定として位置づけ、「画期的」と評価したのです。

故安倍晋三元首相の三回忌に日本とフィリピンの間で円滑化協定(RAA)が締結されたことは、安倍氏の先見性と外交政策の継続性を示す極めて意義深い出来事です。


安倍元首相は「地球儀を俯瞰する外交」「自由で開かれたインド太平洋」構想、そして「安全保障のダイヤモンド」構想を通じて、日本の国際的地位向上と地域の安定に大きく貢献しました。これらの戦略は、世界秩序と日本国内の政治的風景を根本的に変革しました。

特筆すべきは、安倍元首相の外交ビジョンが、自民党内の親中派やリベラル派の存在にもかかわらず、中国共産党に対峙する姿勢を日本の外交政策の主流に据えたことです。この転換は、もはや後戻りが困難なほど日本の外交・安全保障政策に深く根付いています。

今回の円滑化協定は、このような安倍外交の遺産が現在も生き続けていることを如実に示しています。協定は、インド太平洋地域の安定と平和への貢献、中国の海洋進出に対する抑止力の強化、同盟国・友好国とのネットワーク拡大という安倍外交の核心的要素を全て包含しています。

自衛隊とフィリピン軍の相互運用性の向上や共同訓練の拡充は、安倍元首相が推進してきた積極的平和主義の実践そのものであり、「インド太平洋戦略」の具現化と言えます。

安倍元首相の三回忌にこの協定が締結されたことは、彼の外交ビジョンの先見性と重要性を改めて世界に示す機会となりました。安倍氏が築いた外交の基盤が、彼の退任後も、さらには彼の死後も日本の外交政策の指針として機能し続けていることは、極めて称賛に値します。

長門市油谷新別名の安倍家菩提(ぼだい)寺の長安寺で行われた安倍晋三元首相三回忌の法要

この協定は、安倍元首相の遺志を継ぎ、日本の国益を守りつつ地域の平和と安定に貢献するという彼の理念を体現するものです。安倍氏の先見性と努力なくしては、今日の日本の外交的地位と影響力、そして中国に対する明確な対峙姿勢は存在し得なかったでしょう。

故安倍元首相の俯瞰外交の理念と方針は、この円滑化協定を通じて今なお実現され続けており、彼の政治的遺産は日本の外交政策に深く根付いていると評価できます。安倍外交が築いた新たな日本の立ち位置は、今や日本の外交・安全保障政策の不可逆的な基盤となっているのです。

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2024年7月8日月曜日

立民、勢いに冷や水 共産との共闘に不満―都知事選―【私の論評】2024東京都知事選の衝撃:野党連携の限界と新たな政治勢力の台頭

立民、勢いに冷や水 共産との共闘に不満―都知事選

まとめ
  • 立憲民主党は東京都知事選で蓮舫氏が敗北し、最近の勢いに水を差された。党は次期衆院選に向けて敗因分析を急ぐ。
  • 蓮舫氏は「オール東京」を掲げたが、実質的には立憲民主党と共産党の協力体制だった。この戦略が無党派層への訴求力不足につながった可能性がある。
  • 党内では敗北を受けて「裏金批判だけでは不十分」という声や、共産党との協力に対する不満が出ており、今後の戦略見直しが必要とされている。


 立憲民主党は東京都知事選で支援した蓮舫氏が敗北し、最近の勢いに水を差される結果となった。党は次期衆院選に向けて敗因分析を急ぐ方針である。

 蓮舫氏は無所属の石丸伸二氏にも敗れ、立憲民主党にとって衝撃的な結果となった。党は4月の衆院3補欠選挙全勝や5月の静岡県知事選での勝利を受け、都知事選でさらなる弾みをつける計画だったが、失敗に終わった。

 党内では「失敗だった」「裏金批判だけでは駄目だ」といった声が上がっている。蓮舫氏は「オール東京」を掲げて党派色を抑える戦術を取ったが、実質的には立憲民主党都連と共産党の協力体制だった。

 この結果を受け、立憲民主党内では共産党との協力に対する不満や、無党派層への訴求力不足を指摘する声が出ている。党は今後、敗因を詳細に分析し、次の選挙に向けて戦略を見直す必要に迫られている。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】2024東京都知事選の衝撃:野党連携の限界と新たな政治勢力の台頭

まとめ
  • 立憲民主党と共産党の選挙協力は、一部の選挙で成果を上げたが、一貫した結果をもたらしていない。
  • 2021年衆院選と2024年東京都知事選での敗北を受け、立憲民主党は選挙協力戦略の見直しを検討している。
  • 蓮舫氏の東京都知事選での大敗は、次期衆院選での立候補計画に影響を与える可能性がある。
  • 2024年東京都知事選の結果は自民党に有利な状況をもたらしたが、無所属候補の台頭は既存政党への不満を示唆している。
  • 石丸伸二氏の政治手法や政策提案には多くの懸念事項があり、特に保守派から警戒されている。


立憲民主党と共産党の選挙協力について、過去5年間の事例を掲載させていただきます。

勝利した事例:
1. 2021年4月の衆院3補欠選挙: 立憲民主党は全勝を果たし、共産党との協力が一定の成果を上げたとされています。

2. 2022年7月の参議院選挙: 一部の1人区で野党統一候補を擁立し、勝利を収めた選挙区がありました。

3. 2023年10月の衆参2補欠選挙: 野党候補が一本化された結果、参院徳島・高知選挙区では勝利し、衆院長崎でも接戦に持ち込みました。
敗北した事例:
1. 2019年参議院選挙: 一部の1人区で候補者を一本化しましたが、32の1人区のうち10区でしか勝利できませんでした。

2. 2021年10月の衆院選: 立憲民主党と共産党は選挙協力を行いましたが、立憲民主党は議席を減らし、想定した結果を得られませんでした。

3. 2024年7月の東京都知事選: 立憲民主党と共産党が支援した蓮舫氏が3位に終わり、大敗を喫しました。
これらの事例から、立憲民主党と共産党の選挙協力は必ずしも一貫した結果をもたらしていないことがわかります。特に2021年の衆院選と2024年の東京都知事選では、協力体制が逆効果となった可能性が指摘されています。

2021年衆院選の総括では、立憲民主党は選挙協力について「選挙戦における全体的な戦略の見直しを図る」と結論づけ、小選挙区の野党候補一本化について「想定した結果は伴わなかった」と評価しています。

これらの結果を受けて、立憲民主党は選挙協力の戦略を見直す必要性を認識し、今後はより慎重に対応する方針を示しています。選挙協力の効果と課題について党内で継続的な議論と見直しが行われていることが伺えます。

蓮舫氏は2024年東京都知事選で3位となり、小池百合子氏や石丸伸二氏に大差をつけられる結果となりました。当初は敗北しても次期衆院選への出馬を予定していましたが、今回の大敗により、その計画が変更される可能性が出てきています。

一部では蓮舫氏の政治生命が絶たれたとする見方もありますが、知名度の高さなどを考慮すると、即座に政界引退を意味するとは限りません。今後の展開は、蓮舫氏本人の行動や立憲民主党の判断、そして有権者の反応次第であり、政治家としての再起の可能性も残されています。

ただし、党の看板候補としての期待に応えられなかったことは事実であり、次期衆院選での候補者擁立計画にも影響を与える可能性があります。

2024年東京都知事選の結果は、自民党にとって概ね好ましいものでした。自民党出身の小池百合子氏が圧倒的な得票差で再選を果たし、立憲民主党が支援した蓮舫氏が3位に終わったことで、野党の勢いに水を差す形となりました。

自民党は小池氏への公式な推薦を控えることで「政治とカネ」の問題など党への批判を回避しつつ、実質的な勝利を得ることができました。この結果は次期衆議院選挙に向けて自民党に有利な状況を作り出し、与党の優位性を示すことになりました。ただし、無所属の石丸伸二氏が2位となったことは、既存政党への不満も示唆しており、自民党としてもこの点は注視する必要があるでしょう。


今回、蓮舫氏を追い越し得票数が第二位となった石丸伸二氏についても、問題があり、特に保守派から懸念されています。

石丸伸二氏に対する具体的な懸念事項について、詳しく説明いたします。

安芸高田市長時代の石丸氏の実績については、目立った成果が乏しいという批判があります。特に、公約として掲げた人口増加や財政改善などの目標が達成されず、その糸口さえ見出すことができなかったことが指摘されています。

選挙ポスターの経費未払い問題については、2019年の安芸高田市長選挙時に遡ります。石丸氏は当時、ポスター制作会社に対して約180万円の支払いを行わなかったとされています。この未払い問題は、選挙後に表面化し、政治家としての信頼性や財務管理能力に疑問を投げかける結果となりました。石丸氏は当初、支払いの遅延を認めつつも、最終的には支払いを行ったと主張しましたが、この説明の過程で複数の矛盾した発言があったとされ、さらなる批判を招きました。

議会との関係においては、対立姿勢が顕著でした。石丸伸二氏と議会との関係において、いくつかの重大な軋轢が生じました。特に注目すべきは、石丸氏が市議会議員から脅迫を受けたと公の場で発言した事例です。

この主張は後の調査で事実ではないことが判明し、市政の信頼性を大きく損ない、議会との対立を深刻化させました。また、財政状況や観光政策に関する発言でも、実際の数字と大きく異なる誇張した情報を提供し、議会から強い批判を受けました。

これらの事例は、石丸氏の政治手法や情報管理能力に対する懸念を深め、議会との信頼関係構築を困難にする要因となりました。特に虚偽の脅迫発言は、市長と議会の関係を著しく悪化させ、市政運営に大きな支障をきたす結果となりました。

デイリー新潮の記事によると、石丸伸二氏はドトールコーヒーの創業者である鳥羽博道氏から1億5000万円を借り入れたとされています。この借入は2023年7月の参院選広島再選挙の際に行われ、石丸氏は個人的な借入だと主張していますが、選挙事務所関係者は選挙資金として借りたことを認めています。

ドトール珈琲の店舗の前で選挙演説をする石丸伸二氏

鳥羽氏は石丸氏の政治活動に共感し支援を行ったとされますが、この借入が政治資金規正法に抵触する可能性が指摘されています。石丸氏は借入の事実を認めつつも、使途については詳細な説明を避けており、選挙資金の透明性や法令遵守に関する疑義が提起されています。この問題については、さらなる調査や公的機関による確認が必要とされています。

限界集落対策として外資の活用を提案したことは、日本の農村や地域社会の伝統的な価値観を脅かす可能性があるとして懸念されています。外国資本による土地買収や文化の変容などのリスクが指摘されており、地域のアイデンティティ保持の観点から批判が出ています。

石丸氏が提案する政策の多くは、実現可能性に乏しいとの批判があります。特に、財源の裏付けが不明確な政策や、既存の法制度との整合性が取れていない提案が多いとされています。これらは、現実的な政策立案能力への疑問につながっています。

最後に、石丸氏の政治手法については、過度に挑発的な発言や行動が目立つとの指摘があります。このような姿勢は、建設的な政治対話を妨げ、政治の場を混乱させる可能性があるとして警戒されています。特に、複雑な問題に対して単純化された解決策を提示する傾向が、政策の深い議論を阻害する恐れがあるとの懸念が示されています。

これらの要因が複合的に作用し、石丸氏に対する警戒感が高まっているのが現状です。

2024年東京都知事選の結果は、日本の政治に新たな課題を投げかけました。小池百合子氏の圧勝は現職の強さを示す一方、石丸伸二氏の2位は既存政党への不満を反映しています。蓮舫氏の3位は野党連携戦略の再考を促しました。

この選挙は、有権者の変化を求める声と、政治家の資質や政策の実現可能性への厳しい有権者の視線を浮き彫りにしました。各政党は次期衆院選に向けて戦略の見直しを迫られ、特に野党は信頼回復が急務となっています。

今後の日本政治は、既存政党の改革と新たな政治勢力の台頭、そして変化する有権者の期待にどう応えるかが焦点となるでしょう。政治家には高い倫理観と実行力、そして国民の声に真摯に耳を傾ける姿勢が求められています。

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2024年7月7日日曜日

<正論>「太平洋戦争」か「大東亜戦争」か―【私の論評】大東亜戦争vs太平洋戦争:日本の歴史認識と呼称の重要性を探る

<正論>「太平洋戦争」か「大東亜戦争」か 

東京大学名誉教授・平川祐弘

まとめ
  • 戦時中の日本政府は「大東亜戦争」の呼称を公式採用したが、戦後の占領軍による「太平洋戦争」呼称が強制されるようになった
  • 「太平洋戦争」と「大東亜戦争」両面の存在しているし、 地理的にも太平洋以外での戦闘(ビルマ、マレー、インド洋など)
  • 特定の立場に偏らない見方が重要であり、日本の軍部には責任はあるものの、東京裁判や原爆投下により立場が逆転した面は否めない
  • 当時の日本は「反帝国主義的帝国主義」と位置づけることができ、デモクラシー対ファシズムという単純な図式の批判はすべきでない
  • 皇室のインドネシア訪問では、脱植民地のためインドネシア将兵と共に戦って戦死した日本人将兵の墓に参られ、「大東亜戦争」の側面の公的認知され再評価されている
東京大学名誉教授・平川祐弘氏

 昭和期の戦争の呼称について、「太平洋戦争」と「大東亜戦争」という二つの名称をめぐる議論が続いている。戦時中の1941年12月12日、日本政府は閣議で「大東亜戦争」を公式名称として採用した。しかし、戦後、占領軍によって「大東亜戦争」の使用が禁止され、「太平洋戦争」の使用が強制された。

 筆者は、この戦争には「太平洋戦争」と「大東亜戦争」の両面があり、単一の呼称では全体を捉えきれないと考えている。例えば、日本が英国と戦ったビルマやマレー、インド洋などの戦場は地理的に太平洋とは呼べない。戦争の呼称は単なる言葉の問題ではなく、政治的意味合いを持ち、歴史認識に大きな影響を与える。

 筆者は、特定の国や立場に偏ることなく、複眼的な歴史観を持つことの重要性であると考える。東京裁判については「勝者の裁判」であるが、同時に日本軍部の責任もある。特に、原爆投下に関しては重大であり、これによって戦争の善悪の立場が逆転したといえる。

 戦後の歴史認識については、デモクラシー対ファシズムという単純な図式ですませられるものではなく、日本を「反帝国主義的帝国主義」の国と位置づけられる。また、「慰安婦」問題や日本軍の残虐行為に関する主張の中には誇張がある。

 最近の動向として、天皇皇后両陛下のインドネシア訪問を例に挙げ、日本の脱植民地化への貢献が公的にも認知されつつある。これは、戦後長く抑圧されてきた「大東亜戦争」の側面が再評価されているといえる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】大東亜戦争vs太平洋戦争:日本の歴史認識と呼称の重要性を探る

まとめ
  • 米国では1846-1848年のメキシコ・アメリカ戦争を「太平洋戦争」と呼んでいた歴史がある。
  • 戦後、日本に「太平洋戦争」という呼称が強制された背景には、「大東亜戦争」の正当化を避け、国際的認識との整合性を図る意図があった。
  • 「大東亜戦争」という呼称は、日本の戦争目的や理念、アジアにおける日本の役割を反映している。
  • 米国の保守派は、自国の歴史を自国の視点から捉えることの重要性を強調し、日本の文脈では「大東亜戦争」呼称の使用を支持する可能性がある。
  • 日本独自の歴史観を保持することは国民の歴史理解と誇りの醸成につながるため、「大東亜戦争」という呼称を用いるべき

米国の歴史には、通常「太平洋戦争」と呼ばれる第二次世界大戦中の日米戦争とは別に、もう一つの「太平洋戦争」が存在します。これは1846年から1848年にかけて行われたメキシコ・アメリカ戦争を指します。

この戦争は、アメリカ合衆国とメキシコ合衆国の間で行われ、テキサス併合や西部への領土拡張を巡る両国の対立が主な原因でした。1846年5月に始まり、1848年2月まで続いたこの戦争は、アメリカの勝利に終わりました。その結果、グアダルーペ・イダルゴ条約が締結され、アメリカはカリフォルニアやニューメキシコなど、現在の南西部の大部分を獲得することとなりました。


この戦争は「メキシコ・アメリカ戦争」や「米墨戦争」とも呼ばれますが、当時のアメリカでは「太平洋戦争」という呼称も使用されました。これは、カリフォルニアなど太平洋沿岸地域の獲得を目指した戦争だったためです。

この19世紀の「太平洋戦争」は、アメリカの領土拡張政策(マニフェスト・デスティニー)の一環として行われ、アメリカの国土を大きく拡大させる結果となりました。しかし、現代の米国では第二次世界大戦中の日米戦争を指して「太平洋戦争」と呼ぶことが一般的となっているため、この19世紀の戦争を「太平洋戦争」と呼ぶことは稀になっています。

では、なぜ米国には過去に「太平洋戦争」という呼称があったにもかかわらず、日本に「太平洋戦争」という呼称を強制したのでしょうか。

「太平洋戦争」という呼称が日本に強制された背景には、複数の要因が絡み合っています。まず、「大東亜戦争」という呼称には日本の侵略戦争を正当化する意味合いがあると捉えられたため、より中立的な立場を取るために「太平洋戦争」という呼称が選ばれました。これは同時に、日本の戦争責任を明確にし、侵略戦争の正当化を防ぐ意図もあったと考えられます。

また、「太平洋戦争」(Pacific War)は英語圏で広く使用されていた呼称であり、国際的な認識との整合性を図る意図もあったでしょう。さらに、戦前の公式名称とは異なる呼称を使用させることで、過去との断絶を図り、新たな歴史認識を促そうとした可能性も指摘できます。


直接的な要因としては、連合国軍総司令部(GHQ)が「大東亜戦争」の使用を禁止したことが挙げられます。これにより、「太平洋戦争」という呼称が日本で主流となりました。

これらの複合的な要因により、戦後の日本において「太平洋戦争」という呼称が強制され、広く使用されるようになったのです。この呼称の変更は、単なる言葉の問題ではなく、戦後の日本の歴史認識や国際関係に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

「大東亜戦争」という呼称は、上の記事にもあるように、当時の日本政府が1941年12月に閣議決定したものです。この名称には、日本の戦争目的や理念が反映されています。

当時の日本政府の立場からすれば、この戦争は西洋列強の植民地支配からアジアを解放し、「大東亜共栄圏」を建設するための戦いでした。日本は、アジアの盟主として、欧米列強の支配から東アジアと東南アジアを解放し、アジア諸国との協力関係を築くことを目指していました。

この観点からすれば、「大東亜戦争」という呼称は、日本の行動の正当性を主張し、その目的を明確に表現するものでした。日本は、単なる領土拡張や資源獲得のためだけでなく、アジアの解放と繁栄という大義のために戦っているという認識がありました。

実際、日本の進出によって、東南アジアやインドの独立運動が刺激され、戦後の脱植民地化の流れにつながったという側面もあります。例えば、インドネシアやベトナムの独立運動指導者たちが、日本の支援を受けて活動を展開したことは歴史的事実です。

「大東亜戦争」という呼称を使用することは、このような日本の戦争目的や理念、そしてアジアにおける日本の役割を強調する意味合いがあります。それは同時に、日本の行動を単なる侵略や拡張主義として捉えるのではなく、より複雑な歴史的文脈の中で理解しようとする試みでもあります。

米国草の根保守の重鎮であった故フィリス・シュラフリー女史のような保守派の歴史観では、自国の歴史を自国の視点から捉え、表現することの重要性が強調されます。シュラフリー女史は、米国の伝統的価値観や国家主権を重視し、グローバリズムや国際主義に批判的でした。この観点を日本の文脈に適用すると、「大東亜戦争」という呼称を用いることは、日本の国家主権と歴史的視点を尊重する行為と解釈できます。

米国草の根保守の重鎮であった故フィリス・シュラフリー女史

「太平洋戦争」史観とも呼ぶべき、この歴史観は、終戦直後の民主党政権によるリベラル的な歴史観であり、米保守派とのそれとは異なります。

実際、米国の草の根保守を牽引してきた米国の「保守のチャンピョン」ともいえる、フィリス・シュラフリー女史は、「ルーズベルトが全体主義のソ連と組んだのがそもそも間違いだ、さらにルーズベルトはソ連と対峙していた日本と戦争をしたことが大きな間違いだ」としています。さらに、女史はなくなる直前には、「全体主義のソ連と組んだために、今日米国は中国や北朝鮮の核の脅威を被っている」と語りました。

かつて日本を占領したマッカーサー元帥は、朝鮮戦争に赴き、現地を調査した結果「当時の日本はソ連と対峙するため朝鮮半島と満州を自らの版図としたのであり、これは侵略ではない。彼らの戦争は防衛戦争だった」との趣旨の証言を後に公聴会で証言しています。

自国の歴史を自国の視点から捉え、表現することは、国家のアイデンティティと歴史認識を維持する上で重要です。それと同時の軍部の考えとは、別ものです。私自身は、この軍部の間違えは、もっと非難されるべきであり、それこそ当時の日本の大義に反する行動をとったということで、指弾されるべきと考えます。

中国大陸にこだわり続けた関東軍、米軍とは一線を画し太平洋の小さな島嶼まで、ことごとく占領した海軍の戦略など理解に苦しみます。

私自身、なぜ軍部が大陸で中国と対峙しつづけたのか、本当に疑問です。そんなことよりも、ソ連との対峙にエネルギーを費やすべきだったと思っています。しかし、もし当時日本が満州で踏ん張っていなければ、現在の中国もソ連の版図に含まれることになった可能性すらあると思います。現在は、中国も朝鮮半島もロシアの一部になっていた可能性があります。

他国の視点や解釈に過度に影響されることなく、日本独自の歴史観を保持することは、国民の歴史理解と誇りの醸成につながります。これは、戦後の占領政策や国際的な歴史認識の影響を受けつつも、日本の立場や経験を適切に反映させた歴史観を構築することを意味します。その観点から、日本は「大東亜戦争」という呼称を用いるべきです。

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2024年7月6日土曜日

産業ロボットの最新技術を紹介 人手不足の解決が期待できるロボットを展示 愛知―【私の論評】人手不足時代の日本戦略:AI活用と生涯学習で実現する持続可能な社会

産業ロボットの最新技術を紹介 人手不足の解決が期待できるロボットを展示 愛知


 産業ロボットの最新技術を紹介する国内最大級のイベントが愛知県常滑市で始まりました。 

 「ロボットテクノロジージャパン2024」には、244社の企業や団体が参加していて、自社の技術やアイデアをアピールしています。 

  近年製造業や物流の現場では人手不足の問題から急速に自動化が広がっています。

  会場には、運ぶ荷物をセンサーで認識して自動運転で動くリフトなど人手不足の解決が期待できるロボットが多く展示されています。

  また、ロボットと人が射的で対決するゲームや、スマホでロボットを操作するクレーンゲームなど産業用ロボットを身近に感じることができる体験ゾーンもあり、一般の人も気軽に楽しむことができます。 

 イベントは6日まで開かれます。

【私の論評】人手不足時代の日本戦略:AI活用と生涯学習で実現する持続可能な社会

まとめ
  • タクシー会社の倒産やバスの減便など、実際に人手不足の深刻な影響が顕在化している。
  • 日本以外のかつて少子化対策に成功した先進国等でも出生率が低下しており、日本の対策も十分な効果は期待できない。
  • 少子化に耐えられる社会構築のため、自動化や省力化が不可欠であり、AI・ロボット化を強力に推進すべきである。
  • ドラッカーの提唱する知識社会に突入したとみられる日本においては、就労者の学び直しや新たな学びの機会が必要。
  • サバティカル休暇制度など、従業員の学習や自己啓発を支援する仕組みを導入して柔軟な労働環境の整備をすべきである。
人手不足は深刻化しており、私がそれを実感したのは、長年利用していたタクシー会社が昨年3月に倒産したことでした。その影響で、一時期駅前に夜遅くタクシーが止まっていない状況が続きました。


しかし、2ヶ月ほどで状況は改善し、倒産した会社の元運転手が別の地元タクシー会社に再就職したことで、サービスが復活しました。

全国的にはタクシーやバスの運転手不足は依然として深刻で、地元でもバスの便数が減少しています。この問題は簡単には解消されそうにありません。出生率の高さで知られるフランスやイスラエル、北欧諸国でさえ出生率が低下しており、日本の「異次元の少子化対策」も十分な効果を期待できない状況です。

この状況に対応するには、少子化に耐えられる社会を構築する必要があります。それには、以前このブログにも述べたように、AIやロボット化の推進が不可欠でしょう。

少子化に耐えられる社会を構築にするには、AI化、ロボット化の推進が不可欠

人手不足の背景には、労働力の不足だけでなく、求職者と仕事内容のミスマッチや税制の問題など複合的な要因があります。機械ができる仕事は機械に任せ、人間にしかできない仕事に人材を集中させるべきです。産官学金融の協力で自動化や省力化の研究開発を推進し、産業の効率性を高めながら持続可能な社会を目指すべきです。

安易な移民や外国人労働者の受け入れには反対です。多数の移民を受け入れた国々では、社会統合の問題や文化的摩擦が生じており、米国やEUでは保守的な政党の躍進をもたらしています。代わりに、教育機関の充実や人材の再教育に投資し、自国民の労働力シフトを促すべきです。

日本の産休制度は充実していますが、ワーキングマザーと子どものいない従業員との間に不公平感が生じています。この問題解決のため、全従業員が定期的に長期休暇を取れる「サバティカル休暇」制度の導入が効果的です。この制度を導入した企業では、社内の雰囲気が改善され、若手の離職率も低下したという報告があります。

ピーター・ドラッカーは、知識社会において就労者が継続的に学び直す機会を持つ社会の重要性を提唱しました。彼は、大学や大学院などの高等教育機関で、就労者が最新の知識やスキルを習得することが、個人のキャリア開発と組織の競争力強化に不可欠だと考えました。この考えは「リカレント教育」や「リスキリング」の概念につながっています。

経営学の大家ドラッカー

ドラッカーの提案は、若い世代だけでなく中高年の就労者にも学び直しの機会を提供することを含んでいます。これは、長期的なキャリアプランニングの中で定期的な学習が重要な役割を果たすという考えに基づいています。

私たちは、働きながら大学や大学院で学ぶ機会を得られる社会を目指すべきです。社会経験を積んだ人々の学びは、従来の学生とは異なる視点や動機を持ち、より豊かな社会につながると信じます。特に、これまで高等教育の機会を得られなかった人々にとって、この制度は大きな意味を持つでしょう。

このような社会システムの構築は、日本の人手不足や生産性低下の課題に対応しつつ、知識社会における競争力を維持・向上させることができます。企業は従業員の学習を投資として捉え、継続的な教育を奨励する文化を醸成する必要があります。同時に、サバティカル休暇制度などを導入し、従業員が学習や自己啓発に時間を割ける柔軟な労働環境を整備することも重要です。

また、大学と企業の連携を深め、実務に即した教育プログラムを開発することで、より効果的な学びの機会を創出できるでしょう。これは、産学連携の新たな形として、イノベーションの源泉となる可能性も秘めています。

生涯学習と成長を支援する仕組みは、社会全体の価値観や制度の変革を必要とする大きな挑戦です。しかし、これは単なる教育改革にとどまらず、長期的には日本の競争力と社会の豊かさにつながる重要な投資となるでしょう。少子化や人手不足を克服した後の社会では、このような制度の導入がより容易になると考えられます。

最終的に、このような社会システムは、個人の成長と社会全体の知的資本の向上に寄与し、日本が知識社会において成功を収めるための基盤となるでしょう。

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2024年7月5日金曜日

【中露からの供給依存対策】アメリカが考えるサプライチェーン適切化の野望と決定的な限界点―【私の論評】米国商務省の革新的サプライチェーン分析ツール:グローバル経済の未来を左右する戦略的イノベーション

【中露からの供給依存対策】アメリカが考えるサプライチェーン適切化の野望と決定的な限界点

まとめ
  • 米国商務省が新たなサプライチェーン分析ツールを開発し、同盟国との協力のもと、重要産業分野における供給網のリスクと機会を特定しようとしている。
  • このツールは、従来の自由貿易の考え方に挑戦し、経済的威嚇などの新たなリスクに対応するためのフレンド・ショアリング(同盟国との協力)を促進することを目指している。
  • 米国内では超党派の支持を得ており、関連法案も可決されているが、データの更新速度や企業の機密情報取得など、ツールの実効性に関する課題も存在する。
  • この取り組みは、経済的合理性と国家安全保障のバランス、調達コストの上昇による国民生活への影響など、新たな経済的・政治的課題を提起している。
  • 同盟国以外の国々のデータ不足により、経済的威嚇を仕掛ける側の国々に対する効果的な対抗措置を講じることが難しいという限界も指摘されている。
民間企業におけるサプライチェーン分析ツールの事例

 米国商務省が最近立ち上げたサプライチェーン分析ツールは、グローバルな供給網の実態把握と強靭化を目指す画期的な取り組みです。この新しいツールは、商務省が民間セクターと協力して設立した供給網センターの一環として開発されました。その主な目的は、米国と同盟国の貿易や関税データを詳細に解析し、サプライチェーンにおけるリスクと機会を明確に特定することです。

 このツールは、半導体、希少金属、電子機器などの重要分野に焦点を当て、これらの供給網の健全性を確認することを目指しています。さらに、中国やロシアなどの特定国への依存度を評価し、緊急時における代替供給源の可能性を探ることができます。商務長官補は、この取り組みが同盟国との具体的な議論を可能にし、これまでの一般論に終始していた状況を改善すると述べています。

 しかし、このツールにも限界があります。一部のデータ更新が遅いため、リアルタイム分析には制約があり、また企業が部品構成表などの機密情報を提供する義務がないため、完全な全体像を描くのは困難です。

 一方で、この取り組みは従来の自由貿易の考え方に一石を投じるものでもあります。従来の経済学では、「世界中の多くの人間が、常に1円でも得をしようと、最良の供給元から最短のルートを通って、最安値の運輸方法を用いて、世界中で各種物品を移動させている」という考え方が主流でした。これは「最安値」という共通ルールに基づく「神の手」に導かれた人間社会の営みであり、世界全体の富を最大化する最も適当な方法(=自由貿易)だと考えられてきました。

 しかし、経済的威嚇を影響力行使の手段とする国々の出現により、この自由貿易の基礎となる「価格」に影響を与える新たなコスト(=リスク)を考慮する必要が生じています。このため、サプライチェーンの強靭化が重要となっており、米国の新しい分析ツールはこの課題に対応しようとするものです。

 この取り組みは、フレンド・ショアリング(同盟国との協力)を促進し、より強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与する可能性があります。例えば、電気自動車やクリーン技術分野で、オーストラリアの希少金属、日本の生産能力、米国の消費市場を組み合わせることで、国際競争力のある製品を生み出す可能性があります。

 米国では、この取り組みが超党派の支持を得ており、サプライチェーンのリスク確認を法制化する「強靭な供給網推進法」が下院で全会一致で可決されています。

 しかし、この新しいアプローチにも課題があります。経済的合理性への配慮が少なく、各種物品の調達コストが上昇し、各国の国民生活に後ろ向きの影響を与える可能性があります。また、同盟国や同志国以外の国々のデータが不足しているため、経済的威嚇を仕掛ける側の国々に対する対抗措置を講じることが難しいという問題もあります。

 総じて、この新しいサプライチェーン分析ツールは、変化するグローバル経済環境に対応しようとする米国の重要な一歩と言えますが、従来の自由貿易の考え方との調和や、新たな経済的・政治的課題への対応など、今後も多くの課題に直面することが予想されます。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】米国商務省の革新的サプライチェーン分析ツール:グローバル経済の未来を左右する戦略的イノベーション

まとめ
  • 米国商務省が開発した「供給網明確化の『道具』」は、サプライチェーンの実態把握、リスク・機会の特定、重要分野の健全性評価を目的としている。
  • このツールは、米国と同盟国の貿易・関税データを解析し、代替供給源の可能性や特定国への依存度を分析できる。
  • フレンド・ショアリングの促進や強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与することが期待されているが、データ更新の遅れや企業の機密情報の欠如などの課題もある。
  • 米国の優位性(基軸通貨、金融システム、技術力、同盟国ネットワーク)により、他国が容易に真似できない規模と精度のツールが構築された。
  • 日本にとっては、重要物資のリスク早期特定、同盟国との連携強化、経済安全保障向上などのメリットが期待されるが、日米協力と慎重な運用が必要。
サプライチェーンは、モノの流れ、情報の流れ、お金の流れで成り立っている

米国商務省が開発した新たなサプライチェーン分析ツール「供給網明確化の『道具』」(英語では "supply chain mapping tool" と推測)は、主に供給網の実態把握とリスク・機会の特定を目的としています。このツールは商務省と民間セクターの協働により開発され、グローバルサプライチェーンの複雑性に対応する画期的な取り組みとして注目されています。

サプライチェーンのマッピングとは、サプライチェーン内のサプライヤー、作業所、オペレーション、労働者に関する情報を収集して、詳細なグローバルマップを作成することを意味します。 この情報を単一のデータプラットフォームに保持することで、作業条件、管理慣行、サプライチェーンリスクに関する統合分析が可能になります。

このツールの主な機能は、米国と同盟国の貿易・関税データを詳細に解析し、半導体、希少金属、電子機器などの重要分野における供給網の健全性を評価することです。また、戦争や自然災害などの緊急事態における代替供給源の可能性や、中国やロシアなどの特定国への依存度も分析可能です。これにより、潜在的なリスクやボトルネックを迅速に特定し、対策を講じることができます。

さらに、このツールは欧州同盟国やインド太平洋経済枠組み(IPEF)参加国との具体的な供給網の議論を可能にし、世界的なボトルネックを特定するための詳細な分析を提供します。これは、国際的な経済協力や戦略的パートナーシップの強化に大きく貢献すると期待されています。

特に、中国に対するデカップリングやリスキリングに関して、自国や同盟国がなるべく悪影響を受けないようにどのような方式にするか、また順番や期間などに関してどのような優先順位をつけるかに関して有益な情報を提供できるようになる可能性があります。さらには、デカップリングやデリスキリングをしなければ、どのようなリスクがあるかも、ある程度定量的に明らかにできるようになる可能性があります。

デカップリングやデリスクリングに関して危険という論もあるが、定量的な裏付けがあるわけではない

ただし、一部データの更新の遅れや企業の機密情報(部品構成表など)の欠如により、リアルタイム分析や完全な全体像の把握には限界があります。これらの課題は、今後のツールの改善や政策の調整によって解決されていく必要があるでしょう。

このツールは、フレンド・ショアリング(同盟国との経済協力)を促進し、より強靭なグローバルサプライチェーンの形成に寄与することが期待されています。例えば、電気自動車やクリーン技術分野で、オーストラリアの希少金属、日本の生産能力、米国の消費市場を組み合わせることで、国際競争力のある製品を生み出す可能性があります。米国内では超党派の支持を得ており、サプライチェーンのリスク確認を法制化する動きも進んでいます。

米国がこのようなツールを構築できた背景には、いくつかの重要な強みがあります。まず、米ドルが国際取引の基軸通貨であることから、世界中の金融取引の大部分を把握できる独自の立場にあります。また、米国の金融機関や決済システムが国際取引で重要な役割を果たしているため、多くの取引情報へのアクセスが可能です。さらに、データ分析や人工知能の分野における技術的優位性により、複雑なサプライチェーンデータを効果的に処理・分析する能力を有しています。加えて、多くの同盟国や友好国との緊密なネットワークを持ち、情報共有や協力が可能です。

このシステムの開発には膨大な費用がかかると推測されますが、具体的な金額は公開されていません。データ収集・分析システム、高度なAI技術、セキュリティシステムなど、多岐にわたる技術が必要で、数十億ドル単位の投資が必要になる可能性があります。ただし、このような戦略的に重要なシステムの開発費用は、多くの場合、機密情報として扱われる可能性が高いです。

今後、このツールは様々な分野で活用され、重要な成果をもたらす可能性があります。直近では、サプライチェーンのリスク管理、同盟国との経済協力強化、緊急時の代替供給源の確保などに活用される見込みです。長期的には、グローバル経済の安定性向上や、より効率的な国際分業体制の構築に貢献する可能性があります。

ただし、いくつかの課題も残されています。データの更新速度の問題、企業の機密情報共有の難しさ、経済的合理性と国家安全保障のバランスなどが挙げられます。これらの課題を解決するためには、継続的な技術革新と国際協力が不可欠です。

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日本にとっては、このツールの運用から多くのメリットが期待できます。重要物資のサプライチェーンリスクの早期特定、同盟国との経済連携強化、経済安全保障の向上、企業の戦略的投資や事業展開の支援などが可能になるでしょう。また、災害時の迅速な対応やグローバルサプライチェーンの最適化による国際競争力の強化も期待できます。

ただし、これらのメリットを最大限に活用するためには、日米間の緊密な協力と情報共有が不可欠です。また、データの取り扱いや解釈に関する専門知識を持つ人材の育成も重要な課題となります。さらに、このシステムの運用が経済的合理性を損なわないよう、慎重なバランス取りも必要になると考えられます。

総じて、米国のサプライチェーン分析ツールは、グローバル経済の複雑性と不確実性が増す中で、重要な役割を果たすことが期待されています。その効果的な活用と継続的な改善により、より強靭で持続可能な国際経済システムの構築に貢献する可能性があります。

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2024年7月4日木曜日

バイデン、撤退の可能性を漏らしたと報道 本人は「最後まで戦う」と側近に語る―【私の論評】2024年米大統領選:バイデン撤退論の影響とトランプ優位の実態分析

バイデン、撤退の可能性を漏らしたと報道 本人は「最後まで戦う」と側近に語る

まとめ
  • バイデン大統領の撤退可能性が報道されたが、本人とホワイトハウスは否定
  • テレビ討論会でのパフォーマンス低下を受け、民主党内外から懸念の声
  • バイデンの認知機能と健康状態に関する疑問が浮上
  • バイデン側は討論会の不調を喉の痛みと過酷な日程のせいと説明
  • 年齢による制約が指摘される中、11月の本選挙に向けて議論が継続する見込み

 2024年米国大統領選に向けて、ジョー・バイデン大統領の再選に関する懸念が高まっています。先週のドナルド・トランプ前大統領とのテレビ討論会でのパフォーマンス低下を受け、バイデン大統領の撤退可能性が報じられました。ニューヨーク・タイムズは、バイデンが側近に撤退の可能性を漏らしたと報道しましたが、ホワイトハウスはこれを否定し、バイデン自身も「最後まで戦う」と表明しています。

 民主党内でも再選を疑問視する声が上がり、一部の議員や元議長らがバイデンの認知機能や健康状態に関する懸念を表明しています。バイデン側近は、大統領が最もパフォーマンスを発揮できるのは午前10時から午後4時の間だと語っており、年齢による制約が指摘されています。

 一方で、バイデン自身は討論会でのパフォーマンス低下を喉の痛みと過酷な日程のせいだと説明し、ホワイトハウスは認知機能に関する懸念を否定しています。現時点では、バイデン大統領が民主党の候補者として指名されることが固まっていますが、11月の本選挙に向けて、年齢や健康状態に関する議論が続くことが予想されます。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】2024年米大統領選:バイデン撤退論の影響とトランプ優位の実態分析

まとめ
  • バイデン撤退の場合、民主党は新候補擁立に苦慮し、トランプ陣営が優位に立つ可能性が高い。
  • バイデン続投の場合、政策実績のアピール、健康懸念の払拭、トランプ批判強化などの戦略に注力するだろう。
  • 民主党がバイデンにこだわった理由は、現職の強み、知名度、2020年の勝利実績、党内安定などが挙げられる。
  • 撤退論の浮上により、民主党は不利な状況に陥り、トランプ陣営が有利な展開を得た。
  • 世論調査結果は、トランプ氏がバイデン氏をリードしており、トランプ陣営の優位性を客観的に示している。
テレビ討論会に参加したトランプ氏とバイデン氏

バイデン大統領が撤退した場合、民主党は新たな候補者を擁立する必要に迫られます。有力候補としてカマラ・ハリス副大統領や州知事経験者が挙がりますが、短期間での知名度向上や党内の混乱が課題となります。

一方、トランプ前大統領は激戦州での優位性を維持しており、民主党の混乱を利用して有利な立場に立つことができます。全体として、バイデンの撤退は民主党にとって不利な展開となる可能性が高いと予想されます。

バイデン大統領が選挙戦を継続する場合、彼の陣営は以下の戦略に注力するでしょう。まず、経済成長や雇用創出などの政策実績を強調し、リーダーシップの成果をアピールします。バイデンは討論会でのパフォーマンスを改善し、健康状態に関する懸念を払拭する努力をします。トランプ前大統領への批判を強化し、対比を明確にするでしょう。党内の結束を固め、選挙資金の確保にも力を入れるでしょう。これらの戦略を通じて、バイデンは厳しい選挙戦に挑むことになります。

バイデン氏が撤退すれば、最有力候補にもなり得るカマラ・ハリス氏だが・・・・

特に、インフラ投資やクリーンエネルギー推進などの具体的な成果を強調し、国民の生活向上を訴えかけるでしょう。また、カマラ・ハリス副大統領や他の有力な民主党員との協力を強化し、統一したメッセージを発信することで、党内外からの支持を固めることを目指すでしょう。バイデンの過去の経験や困難を乗り越えた実績を強調し、リーダーシップの強さを示すことも重要な戦略となるでしょう。

バイデン大統領は高齢であるため、このような問題が起きることは十分予測できたはずです。それでも、民主党がバイデン大統領にこだわった理由は複合的です。現職の強みや既存の知名度、支持基盤を活かせることが大きな要因です。

また、2020年の選挙でトランプ氏に勝利した実績も重要視されました。新たな候補者を擁立することで生じる党内の混乱を避け、政策の継続性を保つ意図もあったでしょう。さらに、選挙までの時間的制約を考慮すると、新候補の擁立は困難だと判断されたと考えられます。これらの要因が重なり、リスクを認識しつつも、民主党はバイデン氏を候補者として維持する選択をしたのです。

バイデン大統領に対する撤退論の浮上は、民主党を不利な状況に追い込み、トランプ陣営に有利な展開をもたらしました。民主党内の分裂と混乱が露呈し、バイデン氏の適性への疑問が強まる中、トランプ陣営は一貫したメッセージを発信しやすい立場を得ました。


トランプ陣営の優位性は、最近の世論調査結果にも表れています。例えば、ニューヨーク・タイムズとシエナ大学が実施した調査では、トランプ氏がバイデン氏を48%対43%でリードしています。特に、6つの激戦州では、トランプ氏が52%対42%と大きくリードしています。

さらに、RealClearPolitics(RCP)の平均調査では、トランプ氏がバイデン氏を2.6ポイントリードしており、これは2020年の選挙時よりも優位な状況です。RCPは、政治ニュースと世論調査を集約・分析する非党派のウェブサイトで、その調査平均は多くの政治アナリストや報道機関に参照されています。RCPの数字は、複数の信頼できる調査結果を平均化したものであり、より包括的な世論の傾向を示すものとして重視されています。

これらの数字は、撤退論が出たことでバイデン陣営が苦戦している一方、トランプ陣営が選挙戦を有利に進めていることを客観的に示しています。

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