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2023年6月23日金曜日

中国の「地方政府債務」再考―【私の論評】もう一つの中国の大問題、国際金融のトリレンマを克服すれば、中国の改革が始まるかもしれない(゚д゚)!

中国の「地方政府債務」再考

上海の目抜き通り AI生成

 中国の地方政府の債務は、2022年末時点で37.07兆元(約734兆3600億円)に達し、過去最高を記録しました。これは、中国のGDPの約25%に相当する金額です。地方政府の債務は、インフラ整備や公共事業の資金調達のために借り入れられたもので、そのほとんどが国有企業や金融機関からの借入です。地方政府の債務は、中国の経済成長を支える一方で、財政赤字の拡大や金融システムのリスク要因となっています。

 中国政府は、地方政府の債務を削減するために、財政支援や債務再編などの対策を講じていますが、効果は限定的です。地方政府の債務は、中国経済の大きなリスク要因であり、今後も注視が必要です。

以下は、中国の地方政府の債務に関する主なポイントです。
  • 中国の地方政府の債務は、2022年末時点で37.07兆元(約734兆3600億円)に達し、過去最高を記録した。
  • 地方政府の債務は、インフラ整備や公共事業の資金調達のために借り入れられたもので、そのほとんどが国有企業や金融機関からの借入である。
  • 地方政府の債務は、中国の経済成長を支える一方で、財政赤字の拡大や金融システムのリスク要因となっている。
  • 中国政府は、地方政府の債務を削減するために、財政支援や債務再編などの対策を講じているが、効果は限定的である。
  • 地方政府の債務は、中国経済の大きなリスク要因であり、今後も注視が必要である。
この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】もう一つの中国の大問題、国際金融のトリレンマを克服すれば、中国の改革が始まるかもしれない(゚д゚)!

中国人のツイッターで引用されていた日経の記事

中国で地方政府の借入が増えた要因はいくつかあります。それらは以下の通りです。

中央政府による財政分権政策:1990年代、中国政府は地方政府への財政権限の分散を開始しました。これにより、地方政府は自らの財政をよりコントロールできるようになりましたが、同時に地方政府は歳入を増やす必要に迫られました。地方政府が歳入を増やす方法のひとつに、借金があります。

インフラ整備のための資金調達の必要性:中国は近年、インフラ整備に多額の投資を行っています。そのため、地方政府がこれらのプロジェクトの資金を借り入れるため、地方政府の借入金が急増しました。

地方政府の歳入が減少していること:近年、経済成長の鈍化や租税回避行為の増加など、さまざまな要因で地方政府の歳入が減少しています。このため、地方自治体は歳入の不足を補うために、より多くの借金をせざるを得なくなっています。

国有企業(SOEs) :国有企業(SOE)は、地方政府が資金を借りる際によく利用されます。これは、国有企業が信用を得ることができ、地方政府よりもリスクが低いと見なされるためです。

金融機関:金融機関も地方政府に資金を貸し出します。これは、地方政府が安全な投資先とみなされるためです。

中国における地方政府の借り入れの増加は、多くの危機を生み出しています。以下にそれを列挙します。

金融危機のリスク:地方政府が借金を返せなくなった場合、金融危機につながる可能性があります。

経済成長の低下:地方政府の債務が増加すると、経済成長の低下につながる可能性があります。これは、地方自治体がインフラ整備などの支出を削減せざるを得なくなる可能性があるためです。

格差の拡大:地方政府の債務の増加は、不平等の増加につながる可能性があります。債務返済の負担が貧困層や中産階級に及ぶ可能性が高いからです。

近年、中国政府は債務負担を軽減しようとする措置を講じています。これらの措置は以下の通りです。

地方政府が債券を発行できるようにする:これにより、地方自治体はより持続可能な方法で資金を調達することができるようになります。

地方自治体の債務について、より多くの情報を開示する :これにより、透明性と説明責任を向上させることができます。

インフラプロジェクトの数を減らす :これにより、地方自治体の借金の必要性を減らすことができます。

中国政府が地方政府の債務負担を減らすことに成功するかどうかは、まだまったく見通しが効かない状況です。


中国のインフラ開発投資は、地方政府のインフラ開発計画で予測することができます。現在のインフラ計画は昨年対比で減っており、昨年の積み残しを消化した後は減速基調に入る可能性が高いでしょう。

中国の地方政府が財政破綻した場合、中国経済に大きな影響を与えることになります。地方政府がインフラ整備などの支出を削減せざるを得なくなり、経済成長の低下につながる可能性が高いです。また、中国政府の債務返済能力に対する投資家の信頼が失われ、金融危機に発展する可能性もあります。

このブログで以前から掲載しているように、現在中国は国際金融のトリレンマにより独立した金融政策が実施できない状況になっています。これは、政府による危機管理をより困難にします。中央銀行は金利や量的緩和などの金融政策ツールを使って、経済を刺激したり、インフレを防いだりすることができなくなります。そうなれば、金融崩壊による被害を抑えることがより難しくなります。

地方政府の財政破綻が中国経済に与える影響は、破綻の規模や展開のスピード、政府の対応など、さまざまな要因によって異なるでしょう。しかし、そのような破綻が中国経済に大きな負の影響を与えることは明らかです。

ここでは、中国の地方政府の財政破綻が中国経済に与える具体的な影響について掲載します。

経済成長率の低下 経済成長の低下:中国では、地方政府が多額の支出を担っている。地方政府が破綻した場合、この支出は減少し、経済成長の低下につながります。

失業率の上昇: 地方政府は、中国の雇用の大部分を担っています。もし地方政府が崩壊すれば、失業率の上昇につながります。

個人消費の減少: 中国の財政が不安定になれば、消費者は支出を減らすでしょう。そうなれば、経済成長はさらに鈍化することになります。

インフレ率の上昇: 政府は地方政府を救済するために大規模な金融緩和策を余儀なくされるかもしれません。これはマネーストックを増加させ、インフレを引き起こすでしょう。

金融危機: 地方政府の財政破綻が中国政府の信頼失墜につながれば、金融危機が引き起こされる可能性があります。これは、中国経済に大きな悪影響を及ぼすでしょう。

中国政府は、地方政府の財政破綻に伴うリスクを認識しています。近年、政府は地方政府の債務負担を軽減しようとする措置を講じています。しかし、これらの措置が破綻を防ぐのに十分であるかどうかは、まだわかりません。

何と言っても、中国人民銀行が独立した金融政策を実施できないことが痛いです。これを改善するには、このブログにも何回か掲載したように、人民元を固定相場制から変動相場制に移行すれば、国際金融のトリレンマから逃れ、独立した金融政策ができるようになります。

中国が人民元を固定相場制から変動相場制に移行させない理由はいくつかあります。

資本流出のリスク:人民元が変動すると、投資家が人民元を売却して他の通貨を購入するリスクがある。その結果、人民元が急落し、中国の輸出企業に打撃を与える可能性があります。

輸出競争力の維持の必要性:中国の輸出志向の経済は、安定した為替レートに依存しています。もし人民元が変動すれば、中国の輸出品が割高になり、輸出の伸びを阻害する可能性があります。

インフレ抑制の欲求:中国政府は、インフレを抑制したいという強い願望を持っています。為替レートが変動すれば、マネーストックをコントロールできなくなるため、政府がインフレをコントロールすることが難しくなります。

金融の安定を維持する必要性:変動相場制は、政府が通貨市場を管理することが難しくなるため、金融の不安定化を招く恐れがあります。

中国政府は、変動相場制の利点を認識しています。しかし、政府は変動相場制のリスクがメリットを上回ると考えているようです。その結果、政府は近い将来、人民元を固定相場制から変動相場制に移行させる可能性は低いです。

上記の理由に加えて、中国が変動相場制に移行することを妨げている政治的な考慮もあります。例えば、中国政府は、変動相場制を導入すると、国内外への資本の流入流出をコントロールすることが難しくなることを懸念している可能性があります。これは、政府が経済成長を管理し、社会の安定を維持する能力に影響を与える可能性があります。

結局のところ、変動相場制に移行するかどうかの判断は、複雑なものではあります。中国政府が決断を下す前に考慮しなければならない要素はいくつもあります。しかし、独立した金融政策が実施できなければ、結局、金融だけではなく財政もコントロールできなくなります。

そうなれば、中央政府は何もコントロールできなくなり、ただ漂流するしかなくなります。そうして、経済が落ち込み、数十年前の毛沢東時代の水準に戻ることになりかねません。

日本を始めとする、西側諸国も、固定相場制から変動相場制に移行を決断しなければならい時がありました。様々な問題がありつつも、将来のことを考え移行したのです。中国もまさにそのときです。変動相場制に移行すれば、様々な問題がおこることが考えれますが、それをせずに毛沢東時代の経済に戻るのとどちらが良いかという習近平による選択の問題になります。


変動相場制に移行するためには、それだけではなく様々な改革をしなければならなくなります。中国の改革は、意外とこうしたところから始まるかもしれません。

しかし、今までのように固定相場制を維持するなら、中国経済はいずれ毛沢東時代の水準に戻り、中国は図体が大きいだけの他国に影響力を及ぼせないアジアの凡庸な専制国家の一つに成り果てることなるでしょう。

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2016年2月6日土曜日

【日本の解き方】中国経済もはや重篤なのか 食い止められない資本流失―【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!


日銀の黒田東彦総裁
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が個人的見解としたうえで、中国の人民元について「国内金融政策に関して一貫性があり適切な方法として、資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」と述べたと報じられた。

 物やサービスの移転を伴わない対外的な金融取引のことを資本取引という。日本の外為法では、居住者と非居住者との間の預金契約、信託契約、金銭の貸借契約、債務の保証契約、対外支払手段・債権の売買契約、金融指標等先物契約に基づく債権の発生等に係る取引、および証券の取得または譲渡-などが定められている。

 このほかにも、居住者による外国にある不動産もしくはこれに関する賃借権、地上権、抵当権等の権利の取得、または非居住者による本邦にある不動産もしくはこれに関する権利の取得も、資本取引とされている。

 こうした取引は、金融機関を通じて行われるので、資本取引を規制しようとすれば、金融機関を規制することとなる。規制の方法としては、全面禁止、取引許可、取引届出、取引報告などがあり、前者から後者にいくにつれて規制が弱くなる。

 黒田総裁が指摘した、為替管理と資本取引の関係を理解するには、「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」を知る必要がある。それは、「独立した金融政策」「固定為替相場制」「自由な資本移動」のうち、2つまでしか同時に達成することはできないというものだ。

 この法則に従うと、資本取引規制によって自由な資本移動をあきらめれば、独立した金融政策と固定為替相場制を達成できる。つまり、国内物価の安定のために金融政策を使うことが可能となり、為替相場も安定させられるというわけだ。

 中国の資本規制は原則として許可制で、先進国が原則として報告だけなのに比べて格段に規制が強い。それでも香港などを経由した資本流出の動きを食い止められないようだ。

 もっとも、中国が本気になれば規制強化は容易だろう。なにしろ、中国では、問題を起こしたとして摘発された場合、政治的失脚までありえるからだ。

 筆者はかつて中国でのコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する国際会議に出席した際、強烈な思い出があった。国有企業ばかりの国で、コーポレート・ガバナンスなんて所詮無理と思っていたところ、中国政府関係者が「中国では粉飾は死刑にもなります」と説明したのだ。さすがに、この発言には度肝を抜かれた。その延長線で、資本流出を勝手に行えば、重罰というのもあり得るだろう。

 先進国では、貿易自由化の後に資本を自由化するというのが一般的な流れだ。しかし、中国の場合、貿易の自由化を進めたが、ここに来て資本規制が必要となったことで、貿易も規制せざるを得なくなるかもしれない。

 すでに水面下では強烈な資本取引規制が行われているともいわれている。それでも資本流出が続いているのであれば、中国経済はかなり重篤だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!

中国のGDPなどの経済統計は、出鱈目であることをこのブログでも過去に何度か掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
やはり正常ではない中国経済 GDPと輸入統計に食い違い ―【私の論評】政治的メッセージである中国の統計や戦争犠牲者数は、人民の感情に比例する?
2015年は輸入がマイナスになっている。この状況で
GDPがプラスとはとても思えない・・・・・・・・
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、確かに中国の国内統計は出鱈目なのですが、それにしても貿易は相手があることですから、相手国の貿易統計などは正確なものも多いですから、それらを集計すれば、中国の輸出・輸入など正確に把握することができることを掲載しました。

そうして、中国のGDP統計など、所詮「政治的メッセージ」に過ぎないことを掲載しました。

そうして、輸入からみると、中国のGDPは、政府が発表しているのとは異なり、おそらくマイナス成長になっているであろうことも掲載しました。

このように、いくら中国の国内の経済統計などが出鱈目であったとしても、輸出・輸入は相手があることなので、相手国の統計を集計すれば、中国の輸出入もどの程度であったか、大体の数字はつかめます。

そうして、それは資本取引も同じです。資本取引も、貿易と同じように相手国があることですから、中国の統計が出鱈目であったとしても、相手国の統計を集計すれば、中国の資本取引もほぼ正確につかむことができます。

そうして、中国からの資本流出が莫大な量にのぼることは、すでに周知の事実です。もう、それは昨年の時点ではっきりしていました。

2013年末から15年3月末の間の中国の経常黒字は2952億ドル(約35兆円)でしたが、本来なら経常黒字で増えるはずの対外純資産残高は逆に5922億ドル(約71兆円)も激減しており、合計8874億ドル(約106兆円)の対外資産価値が消失した計算になっていました。消失した金額の巨額さを正しく説明できるのは資本逃避だけです。

昨年の、8月に突如人民元を切り下げた習政権でしたが、ところがその直後から人民元の売り規制に転じました。これは、景気対策のためには元安が必要なのですが、それは中国経済の命綱である資金流出を招くことになり、ジレンマに当局が追い込まれていたものです。

しかし、ジレンマどころか、本来はブログ冒頭の記事にあるように、深刻な「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」状況に追い込まれていたということです。

景気回復を狙い「固定為替相場制」をあきらめて、人民元を切り下げたところ、資本流出が加速したため、今度は資本規制に乗り出したということです。

日本をはじめとするいわゆる先進国は、「固定為替相場制」を放棄して、変動為替相場制に移行しています。これによって、「独立した金融政策」「自由な資本移動」を同時に達成することができました。

しかし、中国の場合は「固定為替相場制」を維持していますから、これをこれからも維持し続けるというのなら、国際金融のトリレンマを克服するためには、「独立した金融政策
」もしくは、「自由な資本移動」のうちのいずれかを捨てなけれはならないということになります。

以下に国際金融のトリレンマの図と若干の説明を掲載します。

  • ある国はこの3つの「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち2つだけを受容することができます。もしある国が a の位置を選択し、「自由な資本移動」と「固定相場制」を導入するのであれば、金融政策の独立性は失われます。
  • 実際の例としては欧州連合ユーロ圏が挙げられます。もしユーロを受容し自国通貨を放棄すれば、ユーロ圏内で為替を固定することになります。また、域内での自由な資本移動も認められています。しかし、金融政策はすべて欧州中央銀行に一任することになります。

「独立した金融政策」とは、特に現在の中国にとっては具体的に何を意味するのでしょうか。中国が、固定相場制を堅持し、自由な資本移動も堅持したとしたら、何がおこるかといえば、それは日本などをはじめとする、外国の金融政策に左右され「独立した金融政策」を実行できなくなるということです。

実際にそれはもうすでに発生していました。日本が2013年の4月から、金融緩和に転じてから、円安状況になり、それまで円高の状況とは異なり、中国経済にとっては、独立した金融政策が脅かされる事態となりました。

それまでの、中国の経済発展を支えていたのは為替操作によるキャッチアップ型の経済成長であり、円高とデフレを放置する日本銀行によるものでした。

慢性的な円高に苦しんでいた日本企業は、過度な「元安」政策をとる中国に生産拠点を移し、出来上がった製品の一部を逆輸入していました。日本国内で一貫生産するより、わざわざ中国を経由した方がもうかる構造になっていたのです。

日銀は、「デフレ政策で日本の産業空洞化を促進し、雇用と技術を中国に貢ぎ続けていた」のです。まさに、日本経済はこれによって、中国に振り回されていたのです。

しかし、2013年の4月から、日銀が金融緩和に転じたため、この構造は崩れ、今度は中国が日本の金融政策に振り回されるようになり、「独立した金融政策」を維持することが困難になってきたのです。

2013年に異次元の包括的金融緩和を発表した黒田総裁
この状況を本格的に脱するには、中国が構造転換をして、経済的な中間層を増やし、その結果個人消費を増やす必要があります。しかし、これは文字通りの構造転換であって、実行するには10年くらいはかかるものです。

短期的には、中国がこれからも「固定相場制」を捨てないというのなら、「独立した金融政策」を捨てるわけにはいかないので、黒田総裁がブログ冒頭の記事の中で述べていたように、結局「自由な資本移動」を捨てるしかないということです。結局「資本規制」しか選択肢はないということです。

それにしても、資本規制を強めるというのなら、中国国内の資本が海外に逃避することはなくなりますが、海外から中国内に資本が大量に入ってくるということはなくなります。

となると、今までの中国の経済発展の構造は維持できません。今後、中国が構造転換をしないかぎり、これは変わりません。

ということは、いずれにしても、中国の経済の回復は長期間望めないということです。この構造転換に失敗すれば、中国も中進国のジレンマから逃れることができず、図体がでかいだけの、ありふれたアジアの独裁国家に戻るということになります。

発展途上国などの経済が飛躍的に伸びて、新興国などともてはやされても、なぜかほとんどの場合、その後経済成長ができなくなり、所得が発展途上国と、先進国の中間あたりで、止まってしまうという現象がよく見られます。それを中進国のジレンマと呼びます。

中国は、おそらくこのジレンマから抜け出すことはできないでょう。できるとすれば、中国の体制が根本的に変わり、民主化、経済と政治の分離、法治国家化を推進する体制になった場合のみです。現状の体制のままでは、抜けだせません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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2023年8月1日火曜日

中国の若年失業率、46.5%に達した可能性 研究者が指摘―【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国は、すでにバランスシート不況に陥ったか近日中に陥る(゚д゚)!

中国の若年失業率、46.5%に達した可能性 研究者が指摘

中国の若者の失業率の高さ AI生成画像

 中国では、研究者によって若者の失業率が3月に50%近くに達した可能性が指摘され、公式統計をめぐる議論が再び燃え上がり、労働市場の低迷が注目されている。

 国家統計局は、16-24歳の失業率が19.7%であると発表したが、北京大学の張丹丹副教授は、学生でない1600万人の非学生の中には、家で遊んでいる人々も含まれている可能性があるため、失業率は46.5%にまで上がる可能性があると指摘している。

 張氏の研究は、製造業が盛んな地域での新型コロナウイルスの影響に焦点を当てており、若者は製造業の主要労働者であるため、より深刻な打撃を受けたと述べている。

 さらに、家庭教師、不動産、オンラインプラットフォーム分野の規制が、若い従業員や高学歴者に不公平な打撃を与えたと指摘している。

 中国の国営新華社通信は、第1四半期に中国経済が好調なスタートを切り、その勢いが第2四半期でも続いていると主張し、バランスシート不況の見方を否定している。

【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国は、すでにバランスシート不況に陥ったか近日中に陥る(゚д゚)!

中国の若者の失業率はかなり深刻なようです。上の記事で、1600万人の非学生の中には、遊んでいる人々も含まれている可能性を指摘していますが、この「遊んでいる人」とは、中国で一時流行語ともなった「寝そべり族」も多く含まれているものと考えられます。

「寝そべり族」とは、大学を卒業しても、就職できず、何もしておらず、一日中寝そべっている人のことをいいます。


上の記事では、中国はバランスシート不況に陥っているかもしれないことを指摘しています。バランスシート不況とは、家計や企業がデレバレッジ、つまり負債を返済しているときに起こる景気後退の一種です。債務残高が急増し、その後に資産価格が下落した場合に起こります。資産価格が下落すると担保の価値が下がり、企業や家計の借入が困難になります。その結果、企業や家計は負債を返済するために支出を削減し、デレバレッジの悪循環に陥る可能性があります。

中国がバランスシート不況に陥っている可能性を示す証拠はいくつかあります。例えば、中国の家計の債務残高対GDP比は近年着実に上昇しています。加えて、中国の不動産価値が下落しており、企業や家計の担保価値が低下しています。その結果、一部のエコノミストは、中国がバランスシート不況の時代に入りつつあると見ています。

以下は、中国のバランスシート不況の可能性について論じた情報源です。

Bloomberg: Inventor of 'Balance-Sheet Recession' Says China Is Now in One: https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-06-29/inventor-of-balance-sheet-recession-says-china-is-now-in-one

Fortune: China is 'entering a balance sheet recession,' economist says: https://fortune.com/2023/06/30/china-balance-sheet-recession-nomura-institute-chief-economist/

WSJ: Is China Mired in a 'Balance Sheet Recession'?: https://www.wsj.com/articles/is-china-mired-in-a-balance-sheet-recession-f00fadda

中国がバランスシート不況に陥っているかどうかについては、エコノミストの間でコンセンサスが得られていないことに注意する必要があります。一部のエコノミストは、決定的な判断を下すにはまだ証拠が十分でないと考えています。しかし、バランスシート不況の可能性は中国経済にとって深刻な懸念であり、政策決定者が注視していく必要があります。

中国のバランスシート不況 AI生成画像

ただ、このブログでは何度か指摘しているように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況になっているとみられています。独立した金融政策ができなければ、失業率が増したからといって、金融緩和によって、雇用を創出することはできません。だかこそ、若者の失業率が深刻化しているのでしょう。

というより、通常雇用が悪化した場合、若者の失業者が増えるのが普通です。中国もまさにその状況にあるとみられます。

国際金融のトリレンマとは、経済学における概念で、ある国が3つの政策目標を同時に達成することはできないというものです。3つとは、以下のものです。
自由な資本移動: 自由な資本移動:資本が制限なく自由に国家間を移動できることです。
固定為替レート: これは、自国の通貨価値が他の通貨または通貨バスケットに固定されていることを意味します。
独立した金融政策: これは、その国の中央銀行が独自の金利を設定したり、量的緩和ができることを意味します。
国がこれら3つの目標をすべて達成しようとすれば、必然的にトレードオフに直面することになります。例えば、固定為替レートと自由な資本移動を望むのであれば、金融政策に対するコントロールをある程度放棄しなければならないです。中国はまさに現在この状況にあります。

為替レートは固定されているのですが、資本移動はある程度自由ではありますが、制限はあります。つまり、中国の中央銀行は独自の金融緩和ができない状況にあります。

この状況は、中国が雇用を改善できないだけではなく、バランスシート不況に陥る可能性を高めています。為替レートが固定されている国は、輸出競争力を高めるために通貨を切り下げることができないです。つまり、経済成長を刺激するためには、財政刺激策など他の手段に頼らざるを得ないです。しかし、政府がすでに多額の財政赤字を抱えている場合、これ以上の財政刺激策を講じる余裕はない可能性が高いです。

その結果、中国経済は経済成長を達成するためにデレバレッジに頼らざるを得なくなるかもしれないです。家計や企業が債務返済のために支出を減らすため、バランスシート不況につながる可能性があります。

この考えを裏付ける事実もあります。例えば、中国の家計の債務残高対GDP比はここ数年右肩上がりです。加えて、中国の不動産価値が下落しており、企業や家計の担保価値が低下していのす。その結果、一部のエコノミストは、中国がバランスシート不況の時代に入りつつあると見ています。

結論として、中国はすでにバランスシート不況に陥っているか、近い将来陥る可能性が高いと私は考えています。国際金融のトリレンマは、中国が独立した金融政策をすることを難しくしており、このことが中国がバランスシート不況に陥る可能性を高めているのです。

そうして、中国がバランスシート不況から抜け出るにはかなりの時間を要すると考えられます。なぜなら、バランスシート不況は、中央銀行が独立した金融政策が実施できたとしても、回復が難しい経済状況だからです。しかし、独立した金融政策ができなければ、さらに難しいです。

独立した金融政策できれば、金利を下げることや量的緩和より経済成長を刺激することができるからです。中央銀行が緩和策をとれば、企業や家計はお金を借りやすくなり、投資や支出の増加につながります。これは経済成長を後押しし、バランスシート不況からの回復につながります。

しかし、為替レートが固定され、資本移動が自由な国では、金利を下げたり量的緩和で経済成長を刺激することはできないです。中央銀行が緩和策をとれば、資本が流入して通貨高になるからです。その結果、輸出は割高になり、輸入は割安になります。

その結果、国は財政刺激策など、経済成長を刺激する他の手段に頼らざるを得なくなります。しかし、政府がすでに多額の財政赤字を抱えている場合、これ以上の財政刺激策を講じる余裕はないかもしれないです。

このため、独立した金融政策なしにバランスシート不況から回復するのはより難しいのです。経済成長を刺激するために他の手段に頼らざるを得なくなりますが、それだけでは回復につながらないかもしれないです。

さらに、バランスシート不況はデレバレッジの悪循環につながる可能性があります。企業や家計が負債返済のために支出を減らすと、経済活動の低下につながるからです。これがさらに支出の減少を招き、経済活動のさらなる低下を招くことです。

その結果、独立した金融政策ができない中国におけるバランスシート不況は、回復が非常に難しい状況となります。ここしばらく中国の経済は停滞し続けるでしょう。少なくとも、10年〜20年はそうなる可能性が高いです。ただ、中国が金融システムの透明性を高めたり、変動相場制に移行するなどの構造改革を行えば、回復ははやまる可能性はありまずか、それはかなり難しいです。

中国のバランスシート不況が長期化すれば、中国経済に多くの悪影響を及ぼす可能性があります。

経済成長の低下: バランスシート不況が長期化すれば、経済成長率が低下する可能性が高いです。企業や家計の投資や消費が減り、需要の減少につながるからです。
失業率の上昇: 経済成長の低下は失業率の上昇にもつながります。企業が将来に自信を持てなければ、新たな労働者を雇用する可能性が低くなるからです。
生活水準の低下: バランスシート不況が長期化すれば、中国国民の生活水準が低下する可能性が高いです。人々が商品やサービスに使うお金が減り、職を失う可能性も高くなるからです。
政治的不安定: バランスシート不況が長引けば、政治的な不安定にもつながりかねないです。政府の経済運営に不満があれば、人々が抗議行動を起こしやすくなるからです
これらの悪影響に加えて、バランスシート不況の長期化は世界経済にも多くの悪影響を及ぼす可能性があります。以下がその例です。

輸出需要の減少: 輸出需要の減少:中国の経済成長が低下すれば、他国の輸出需要が減少する可能性が高いです。これは、中国に商品を輸出している国々の経済に打撃を与えるでしょう。
世界経済成長の低下: 中国からの輸出需要の減少は、世界経済成長の低下につながる可能性があります。なぜなら、中国は多くの国にとって主要な貿易相手国であり、中国経済の減速は世界経済に波及するからです。

ただ、中国の不況は世界にとって必ずしも悪いことばかりではないかもしれません。これについては、以前もこのブログに述べました

1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えました。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきました。

供給過多の世界 AI生成画像

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しません。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

この貯蓄過剰が是正され、よって多くの国々おいて供給過剰の状況が是正される可能性がでてきたのです。要するに、一昔前のように、インフレ政策がかなりやりやすい状況になるかもしれないのです。ただ、これはどうなるかまだわかりません。そちらのほうに向かうように、各国は努力すべきと思うのですが、今のところそのような議論はされていないようです。

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2017年5月17日水曜日

【断末魔の中韓経済】欺瞞にあふれた中国…資本移動の規制強化で不動産バブル再燃 グローバリズム擁護するなら自ら範示せ―【私の論評】日本は中国関連の事業にはいっさいかかわるな(゚д゚)!

【断末魔の中韓経済】欺瞞にあふれた中国…資本移動の規制強化で不動産バブル再燃 グローバリズム擁護するなら自ら範示せ

ダボス会議で公演する習近平
 中国において、またもや不動産を中心としたバブルが再燃している。理由が、中国共産党が人民元の為替レートの急落を防ぐべく、海外送金などの資本移動の規制を強化したためであるわけだから、何ともコメントのしようがない。

 とりあえず、明らかに資本移動を制限している国の通貨が、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)のバスケット通貨に入っている時点で、根本から間違っている。中国共産党が通貨暴落を恐れ、外貨への両替規制を強化している以上、IMFは人民元をSDRの通貨バスケットから外すべきだ。

 現在、中国共産党は人民元の外貨への両替を、年間5万ドル(約566万円)に制限している。さらに、両替を求める中国人民は、銀行において資金を海外の不動産や証券、生命保険、投資型保険の購入に使わないことを求められ、誓約書にサインさせられるなど、さまざまな規制をかけられている。加えて、年間500万ドル(約5億6685万円)以上の海外送金を許可制とし、事実上禁止した。

 結果的に、中国で「人民元」を稼いだ日系企業が、日本への送金ができなくなり、現地から悲鳴が上がっている。人民元を日本円に両替できないのでは、中国でビジネスをしても意味がない。何しろ人民元のままでは、日本国内で給料を支払うことすらできない。

 もっとも、共産党のなりふり構わぬ資本制限の効果で、中国の外貨準備減少は小康状態となった。中国人民銀行が5月7日に発表した4月末の外貨準備高は、3兆295億3000万米ドル(約343兆4578億円)で、前月比で0・68%の増加である。

 とにかく、共産党は外貨準備が3兆ドル(約340兆1100億円)未満となるのが相当に嫌なようで、一度、3兆ドルを割り込んだ2017年1月以降、人民元の外貨への両替を食い止めるべく、なりふり構わぬ規制強化に走った。

 人民元の両替が困難になり、結果的に投機マネーが国内不動産市場に流入。またもや、不動産バブル再燃になってしまったわけだ。

 ところで、習近平国家主席は今年1月のダボスにおける世界経済フォーラムにおいて、「世界を取り巻く多くの問題は、決して経済のグローバル化がもたらしたものではない」と演説し、反グローバリズムの動きを牽制した。

 グローバリズムとは、モノ、ヒト、カネの国境を越えた移動を自由化することだ。現在の共産党の資本移動の制限は、カネの国境を越えた移動を妨げ、明確にグローバリズムに反している。

 習近平政権がグローバリズムを擁護するならば、まずは自ら範を示し、資本移動の規制を廃止すべきだ。とはいえ、通貨暴落を恐れる中国共産党には、資本移動の規制を撤廃できない。相も変わらず、中国とは本当に欺瞞(ぎまん)にあふれた国なのだ。 (経済評論家・三橋貴明)

【私の論評】日本は中国関連の事業にかかわるな(゚д゚)!

中国の資本移動の規制は、以前から十分予測できていました。このブログでもそれについて掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】中国経済もはや重篤なのか 食い止められない資本流失―【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!
日銀の黒田東彦総裁
 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事は昨年2月のものです。今から振り返ってみると、これは日銀総裁による警告だったとも考えられます。以下に一部を引用します。
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が個人的見解としたうえで、中国の人民元について「国内金融政策に関して一貫性があり適切な方法として、資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」と述べたと報じられた。 
 物やサービスの移転を伴わない対外的な金融取引のことを資本取引という。日本の外為法では、居住者と非居住者との間の預金契約、信託契約、金銭の貸借契約、債務の保証契約、対外支払手段・債権の売買契約、金融指標等先物契約に基づく債権の発生等に係る取引、および証券の取得または譲渡-などが定められている。 
 このほかにも、居住者による外国にある不動産もしくはこれに関する賃借権、地上権、抵当権等の権利の取得、または非居住者による本邦にある不動産もしくはこれに関する権利の取得も、資本取引とされている。 
 こうした取引は、金融機関を通じて行われるので、資本取引を規制しようとすれば、金融機関を規制することとなる。規制の方法としては、全面禁止、取引許可、取引届出、取引報告などがあり、前者から後者にいくにつれて規制が弱くなる。 
 黒田総裁が指摘した、為替管理と資本取引の関係を理解するには、「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」を知る必要がある。それは、「独立した金融政策」「固定為替相場制」「自由な資本移動」のうち、2つまでしか同時に達成することはできないというものだ。 
 この法則に従うと、資本取引規制によって自由な資本移動をあきらめれば、独立した金融政策と固定為替相場制を達成できる。つまり、国内物価の安定のために金融政策を使うことが可能となり、為替相場も安定させられるというわけだ。 
 中国の資本規制は原則として許可制で、先進国が原則として報告だけなのに比べて格段に規制が強い。それでも香港などを経由した資本流出の動きを食い止められないようだ。 
 もっとも、中国が本気になれば規制強化は容易だろう。なにしろ、中国では、問題を起こしたとして摘発された場合、政治的失脚までありえるからだ。
以下に、この記事から国際金融のトリレンマについて詳細を解説している部分を掲載します。
日本をはじめとするいわゆる先進国は、「固定為替相場制」を放棄して、変動為替相場制に移行しています。これによって、「独立した金融政策」「自由な資本移動」を同時に達成することができました。

しかし、中国の場合は「固定為替相場制」を維持していますから、これをこれからも維持し続けるというのなら、国際金融のトリレンマを克服するためには、「独立した金融政策」もしくは、「自由な資本移動」のうちのいずれかを捨てなけれはならないということになります。 
以下に国際金融のトリレンマの図と若干の説明を掲載します。
  • ある国はこの3つの「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち2つだけを受容することができます。もしある国が a の位置を選択し、「自由な資本移動」と「固定相場制」を導入するのであれば、金融政策の独立性は失われます。
  • 実際の例としては欧州連合ユーロ圏が挙げられます。もしユーロを受容し自国通貨を放棄すれば、ユーロ圏内で為替を固定することになります。また、域内での自由な資本移動も認められています。しかし、金融政策はすべて欧州中央銀行に一任することになります。
「独立した金融政策」とは、特に現在の中国にとっては具体的に何を意味するのでしょうか。中国が、固定相場制を堅持し、自由な資本移動も堅持したとしたら、何がおこるかといえば、それは日本などをはじめとする、外国の金融政策に左右され「独立した金融政策」を実行できなくなるということです。 
実際にそれはもうすでに発生していました。日本が2013年の4月から、金融緩和に転じてから、円安状況になり、それまで円高の状況とは異なり、中国経済にとっては、独立した金融政策が脅かされる事態となりました。 
それまでの、中国の経済発展を支えていたのは為替操作によるキャッチアップ型の経済成長であり、円高とデフレを放置する日本銀行によるものでした。 
慢性的な円高に苦しんでいた日本企業は、過度な「元安」政策をとる中国に生産拠点を移し、出来上がった製品の一部を逆輸入していました。日本国内で一貫生産するより、わざわざ中国を経由した方がもうかる構造になっていたのです。 
日銀は、「デフレ政策で日本の産業空洞化を促進し、雇用と技術を中国に貢ぎ続けていた」のです。まさに、日本経済はこれによって、中国に振り回されていたのです。
しかし、2013年の4月から、日銀が金融緩和に転じたため、この構造は崩れ、今度は中国が日本の金融政策に振り回されるようになり、「独立した金融政策」を維持することが困難になってきたのです。 
中国が、「独立した金融政策」と「固定相場制」を維持したいというのなら、「自由な資本移動」を規制するしかないのです。

本来は、「固定相場制」を捨てれば良いのでしょうが、そのような動きは全くみられません。今後も、中国は「自由な資本移動」を規制するしかないでしょう。

なぜ中国が「固定相場制」にこだわるかといえば、それには中国特有の事情があります。

中国経済は既に世界経済にどっぷりと組み込まれていますが、幸か不幸か、中国政府が世界経済を計画することまではできません。中国の方が世界に合わせねばならないのです。

例えば、IMFのバスケット通貨であるSDRの構成通貨は、現在、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円の4通貨だけで、中国は日英ほどにも認められていません。世界第2の経済でありながら、株式指数などでも、未だに新興国市場扱いです。

中国元はSDRの通貨とはなっています。SDRの構成通貨前一度元の切り下げを行ってはいましたが、その後未だに「変動相場制」に向かう動きはありません。

世界経済の真の一員として認められるためには、中国は世界の共通ルールである変動相場制を導入する必要があります。しかし導入すると、為替レートが市場主導で上下するようになるため、これまでのような自己完結型の計画経済が機能しなくなる懸念があります。中国政府は大きなジレンマを抱えているのです。

とはいえ、中国は1992年から社会主義市場経済を導入しており、私有財産を禁じる共産主義を事実上放棄しています。しかし、中国はこれ以上、独自の経済体制を維持することは困難で、事実上の選択肢はないと言ってもいいでしょう。

また、ドル連動相場を維持するには、金融政策も米ドルに連動するか、少なくとも逆行しない必要があります。米国が引き締めに転じると、中国が緩和する余地がなくなるのです。その意味でも、中国は管理変動相場制の見直しを迫られていました。

その中国が事実上の資本移動の規制を始めたのですから、これはやはり中国としてはこれからも「独立した金融政策」と「固定相場制」を維持したいという意思の現れだと考えられます。

「資本移動の規制」をするというのなら、グローバリズムなどという看板は外してもらわなければなりません。そうして、このような国が主導する「一帯一路」など最初から成り立たないということです。

それにしても、黒田日銀総裁は、いずれ中国が「資本移動の規制」をせざるを得なくなることを予期したのでしょうが、それにしても、まさか中国がとんでもないことになるから、日本企業は何とかしないといけないと警告するわけにもいかず、個人的見解としたうえで、中国の人民元について「国内金融政策に関して一貫性があり適切な方法として、資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」と述べたのだと思います。

中国で「人民元」を稼いだ日系企業が、日本への送金ができなくなり、現地から悲鳴が上がっているそうですが、これについて、中国に進出していた企業はどのように受け止めていたのでしょうか。

やはり、撤退などのことを考えるべきだったでしょう。今後、中国の経済は悪くなることはあっても良くなることはありません。そうして、これに対象するため中国は「資本移動の規制」のようになりふり構わずこれからも他の先進国であれば、禁じ手あるようなことも平気で講じてくる可能性が大です。

一帯一路the belt and road国際協力サミットフォーラム
中国・北京で15日に閉幕した現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで、英国、フランスやドイツ、ギリシャなど欧州連合(EU)加盟国の一部が貿易推進に関する文書への署名を拒否していたことが分かっています。仏メディアが報じました。公共調達の透明性や環境基準などをめぐる欧州側の懸念が考慮されていなかったためといいます。

日本としても、「一対一路」はもとより、AIIBなど中国関連の事業にはいっさいかかわらないほうが安全でしょう。資本規制を平気でする国とまともにつきあえるはずもありません。日本人でAIIBに金を出せなどという連中は、はっきりいえば中国スパイか、馬鹿であるかのいずれかです。

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2020年9月14日月曜日

【独話回覧】外貨流出で追い込まれる中国・習政権 コロナ禍でも金融引き締めの“異常事態”に カネ刷らずに景気拡大できるか―【私の論評】中国経済はいずれ毛沢東時代に戻る!外国企業はすべからく、逃避せよ(゚д゚)!

 【独話回覧】外貨流出で追い込まれる中国・習政権 コロナ禍でも金融引き締めの“異常事態”に カネ刷らずに景気拡大できるか

トランプ米大統領(左)と対立する中国の習主席だが、金融面では苦しい立場か

 夕刊フジの別の拙コラム「『お金』は知っている」(10日発行)で、中国の習近平政権が党の機関メディアを使って、トランプ米政権に対して「米国債を売るぞ」という脅しをかけていることを明らかにしたが、実のところ、金融面で追い込まれているのは習政権のほうである。

 グラフは人民元発券銀行である中国人民銀行の人民元資金量の前年同期比増減率と、人民元発行高に対する外貨資産の比率の推移である。


 事実上の「ドル本位制」をとっている人民銀行は、外貨すなわち、国有商業銀行などからのドル買い上げを通じて人民元を発行する。

 人民元は一定比率以上のドルの裏付けがあるという建前にして通貨価値の信用を保つという中国ならではの通貨制度である。買い上げた外貨は外貨準備または人民銀行資産として計上される。

 党幹部を含め、中国の既得権者や富裕層に「愛国者」はおらず、ドル準備がなければ人民元は単なる紙切れとみなしてしまいかねない。人民銀行が人民元の対ドル相場を切り下げようとしたり、人民元安が進行しようものなら、人民元をドルに換えて国外に持ち出してしまう。それが「資本逃避」と呼ばれ、仮想通貨ビットコイン取引や香港経由の裏ルートが使われる。

 習政権は数年前にビットコインを全面禁止したが、香港ルートについては塞ぐことに失敗した揚げ句に香港に「香港国家安全維持法」を強制適用し、監視を強化した。それでも資本逃避は年間2000億ドル(約21兆円)ペースで続いている。

 外準の大幅な減少が続くと、外貨危機になりかねないので、対外債務を増やすことで急場をしのぐという綱渡りにより、3兆ドルの外準水準を死守しているのが現状だ。

 グラフが示すように、2010年当時、130%に達していた外貨資産比率は下がり続け、18年からは7割ラインを維持するのが精いっぱいである。外準が増えない中でこれ以上の外貨資産比率を下げないためには、分母である人民元発行量を抑え込むしかない。

 その結果、人民元発行高の前年比は18年にはマイナスとなった。中央銀行による資金追加発行はどの国でも、経済成長を支えるために欠かせないのだが、中国は金融の量的引き締めに転じた。

 そして、武漢市発で新型コロナウイルス・ショックが勃発した今年でも、景気てこ入れに必要な人民元資金発行を増やさず、逆に金融引き締め策をとる異常ぶりだ。外貨資産7割ラインの保持が最優先するのだ。

 習政権はそれだけ、外貨難に苦しんでいるわけで、冒頭に挙げた米国債売却は、自身のフトコロ具合から来るとみてよさそうだ。保有米国債は外準の運用手段であり、米国債売却は現金化のためなのだ。

 ところが、中国共産党機関英文ネット・メディア「グローバル・タイムズ」はそんな窮状をおくびにも出さず、7月30日付で、以下のように開き直った。

 「中国を含む世界の中央銀行は(コロナ恐慌を受けた)経済刺激のために米国がとっている攻撃的な金融政策には熱心ではない。中国人民銀行はドル資産の裏付けを必要とする金融の量的拡大を選ばない代わりに、中国は慎重かつ柔軟な金融政策を通じて国内市場の拡大を図る」と。

 へーえっ、カネを全く刷らずに国内景気を良くできるとは、新実験だ。

 もっとも、党による強権、全体主義体制という異形の市場経済システムならではの離れ業なのだろう。無理強いされるのは、日本などの外国企業で、いずれも利益を上げても本国送金を止められ、さらに追加投資を強要されるだろう。

 ■田村秀男(たむら・ひでお) 産経新聞社特別記者。1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後の70年日本経済新聞社入社。ワシントン特派員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級研究員、日経香港支局長などを経て2006年産経新聞社に移籍した。近著に『検証 米中貿易戦争』(ML新書)、『消費増税の黒いシナリオ デフレ脱却はなぜ挫折するのか』(幻冬舎ルネッサンス新書)など多数。

【私の論評】中国経済はいずれ毛沢東時代に戻る!外国企業はすべからく、逃避せよ(゚д゚)!

中国がなぜ金融緩和したくてもできなくなるのか、上の記事にはある程度説明されていますが、それは現状がどうなっいるのかを説明しているのであって、金融緩和がなぜできないのかの根本要因については説明していません。

それは、一言でいえば、国際金融のトリレンマによるものです。これは、過去にも何度かこのブログでとりあげています。

先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。



もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、こうした先進国タイプになれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できません。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。

ただ中国の通貨である人民元は、2005年から「管理変動相場制」を採用しています。毎営業日の10時15分に、中国の中央銀行に当たる人民銀行が当日の基準レートを公表し、その日の人民元の取引は、基準レートから上下2%の範囲内での変動が許容されるという仕組みになっています。とはいいながら、これは固定相場制よりは変動相場制に一歩近づいたというだけで、固定相場制であることには変わりありません。

これにより、中国当局の意向をなわせレートに反映させ、人民元の価値をある程度コントロールすることを可能にしました。

しかし、この管理変動相場制は、米ドルやユーロ、日本円のように自由に取引できない「不便な通貨」であることも意味しています。さらに、人民元の取引には管理相場性以外にも色々と制約が課され、中国経済の成長と規模拡大に比較すると、人民元取引の規模は国際金融市場において乏しいという状況が長らく続いていました。

そこで、中国当局は国有市場の開放を進め、2010年7月に香港において新たな人民元の取引市場を立ち上げ、これまでの市場はオンショア市場(CNY)、新しい市場はオフショア市場(CNH)と呼ばれるようになりました。そのため、人民元は二つのし上が併存する形になっていました。

しかし、ご存知のように香港の一国二制度は、中国によって一方的に破棄され、CNHは崩壊に向かいつつあります。

香港は例外だったのですが、中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはできません。

一方、先進国は、これまでのところ、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいえ、完全に資本移動を禁止できません。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できますが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるをえなくなったのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなるのです。そのため、中国は量的緩和を使えなくなってしまったのです。

そもそも、国内で金融緩和政策すらできない国の、通貨が本格的に国際化できるはずもありません。何か国際金融において、大きな問題が起こったにしても、金融緩和できないのであれば、その問題にまともに対処することすらできません。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないです。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルがさらに膨らむおそれがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。まさに、現在の中国の状況はこの状況なのです。

何より金融緩和ができないという状況は、最悪です。なぜなら、マクロ経済上の常識である、金融政策=雇用政策という事実から、中国では雇用を創造することができないからです。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになったのです。

文化大革命期の紅衛兵

現在まで、人為的に経済を統制してきたことが、今回の事態を招いたのです。今後も固定相場制に拘泥すれば、金融緩和ができず、雇用がさらに悪化して、ますます外貨準備高が減少し、行き着く先は満足に貿易もできない状況になるでしょう。特に中国の新しい産業である、5Gなどは、半導体を自由に調達できず頓挫せざるを得なくなります。

このままの状態が続けば、5Gだけではなく、あらゆる産業が機能不全に至ることになります。中国が現在の体制を維持しつつ、中国が打開策を行使するには、外国企業が頼みの綱で、いずれ利益を上げても本国送金を止められ、さらに追加投資を強要されるということになります。

中国の外国企業はすべて中国から逃避すべきでしょう。外国企業がすべて逃避し外貨準備がゼロになった中国は、また一昔前の、毛沢東時代の経済に戻るだけです。

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2023年4月20日木曜日

中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力―【私の論評】あと10年で中国の弱体化は目に見えてはっきりする、その時に束の間の平和が訪れるよう日米は警戒を強めよ(゚д゚)!

中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力


 中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力

 中国のGDPが米国を超える日は来るのだろうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離する。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度しかないという研究結果もある。中国経済は10年後には弱体化しているのではないか」という――。(第1回)

 ※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■香港株は2018年の高値から56%も下落

 近年、中国の経済成長のほとんどは不動産投資、インフラ投資によるものであった。しかし昨今、投下された資本効率が低くなっていた。アウトプットを出すためには、さらにインプットをしなければ成長は望めない。それが叶わなくなっていた。

 不動産バブルが崩壊し、中国の景気が悪くなるということは、世界のマーケット関係者には周知の事実である。だから、香港株は2018年の高値から56%も下落しているのだ。

 金融危機の定義を数字で表すならば、指数が高値の半値になるレベルということができる。すでに香港株は半値以下になっているので、金融危機に突入していると言っても過言ではないのである。

■ライトの使用量と経済発展レベルに齟齬

 もう一つ、経済の実態について紹介したい。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度に留まるということを、皆さんはご存じだろうか。

 その見方を示したのは、シカゴ大学の研究だ。

 最近IMF(国際通貨基金)や世界銀行も似たようなアプローチをとり始めているが、各国の経済成長を人工衛星から入手した夜のライト(明かり)量で比べて抽出したもので、過去の映像と当時の各国の経済力を比較した研究結果が2022年11月、『TIME』誌に掲載された。

 中国のような独裁国家は、ライトの使用量のレベルと経済発展のレベルに大きな齟齬(そご)が見られることが判明した。

 研究結果として得られた結論は、中国のGDPについては政府当局発表の6割でしかないとする衝撃的なものだった。

■独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離

 この研究結果を見ると、きわめて興味深い事実が浮かび上がってくる。

 欧米日などいわゆる先進国、あるいは自由主義国家の数字を見ると、「夜のライト量で割り出したGDP」と「当局から報告されたGDP」はほとんど乖離(かいり)していない。

 これが、部分的にしか自由がない国々、民主主義を敷いてはいるがさまざまな問題を孕(はら)む国々になるとどうなるか。

 レバノン、メキシコ、コロンビア、ナイジェリア、フィリピン等々は、「夜のライト量で割り出したGDP」よりも「当局から報告されたGDP」のほうが高い数値になっている。

 さらに完璧なる独裁専制国家を見てみると、その乖離がひどくなっており、中国、エチオピアなどはその最たるものであることがわかった。

■「中国がGDPで米国を抜く」は空論

 この事実を鑑(かんが)みると、中国がGDPで米国を抜く、凌駕(りょうが)するという説は空論であると考えるほかない。

 中国経済はあと10年、15年後には弱体化することを、中国自身もわかっているのだろう。

 バブル崩壊後の日本のように、活力を失い、国力も沈んでいくと意識しているのかもしれない。

 次に社会問題である。深刻なのは食料に関わることである。

 一般的な中国人の食生活に不可欠な食材は、大豆とトウモロコシと豚肉と言われている。

 大豆とトウモロコシは豚の飼料になるので、大げさに言えば、中国人とは三位一体の関係を成す。

 こうした食料はコモディティ相場と切っても切れないものなのだけれど、大変興味深い現象が見られる。トウモロコシ価格が上がった年には、肉の価格が下がることが多いのである。

 特に牛肉の場合は顕著なのだ。

■2023年の牛肉価格は上昇

 なぜか。本当は来年まで育てて大きくしてから売るつもりであった牛まで、と殺(さつ)して売ってしまう傾向が強くなるからである。

 だから、トウモロコシ価格の高かった年には牛肉価格は下落し、その翌年は市場に出回る牛肉自体が減るため、価格は急騰することになる。

 2022年夏のトウモロコシ価格はかなり高かったことから、おそらく2023年の牛肉価格は上昇するものと私は予測している。

 牛肉市場をウォッチするには、米国シカゴ市場の素牛(フィーダーキャトル)先物市場が適していると思う。

■「もっと自由を!」「飯を食わせろ!」

 これらは牛肉市場の話だが、流れ的には豚肉も大差がない。

 こういうサイクルは、農作物についてもよくあることで、その年の価格が上がっていたら、翌年はまったく振るわない。

 と思ったら、その翌年は急騰したりする。

 要は、農業従事者が相場を見ながら“生産調整”するわけである。

 その意味で、中国は豚肉、大豆、その他もろもろの作物が不作となり、食料危機に発展する火種を常時秘めている。

 すでに一部の作物については価格が急騰しているので、その不満が各地で発生するデモの要因になっている可能性もある。

 2022年12月に起きた「白紙デモ」のとき、掲げられたのは白紙だけではなかった。

 白紙に紛れて「もっと自由を!」、そして「飯を食わせろ!」と書かれたものもあったのだ。

■中国・ロシア・イランを苦しめる食料インフレ

 余談になるが、他国に目を転じると、ここのところスリランカ、イランなどでも大型デモが起きている。その要因は当然ながら、食料インフレがあまりにも厳しいからだろう。

 権威主義陣営である中国、ロシア、イランなどでは早くも食料危機が訪れているのではないか。そんな印象を私は抱いている。

 ここをどう乗り越えるのか。いまのところ、中国を初めとした権威主義国家は、国民の怒りをガス抜きする政策によって乗り越えようとしているように映る。

 だが、これは本来の権威主義陣営の“流儀”ではない。逆だ。

 イランなどは拒否しているけれど、権威主義陣営ではモラル警察を廃止することをチラつかせたりしており、行き詰まり感を垣間見せている。

 それらの原因をつくったメインは、やはり食料インフレだと思う。

 国民にとって、食えなくなること以上の苦しみはない。

 他の自由や人権については我慢できるけれど、飢えだけはどうもならない。

 今後、中国などでは社会不安が高まっていく可能性がある。

■中国は米国に弱みを握られている

 そしてこの食料問題に関し、中国は米国に弱みを握られている。

 中国は農産物を毎年、米国から相当量輸入している。

 中国は経済安保上、相手陣営に強く依存したくないはずで、本音では米国からはあまり買いたくないだろう。しかし、背に腹は代えられない状況になっている。

■米中関税合戦は中国国民を苦しめる

 米国は中国からアパレル、家電、雑貨、家具、アセンブリー部品などを輸入している。

 その逆の、中国が米国から輸入する品目のほとんどは、食料(農作物、肉類、酒類)なのである。

 そして、トランプ政権時代から米国は中国製品や品目に対して高関税をかけるようになった。そこで、中国も米国の高関税に対抗して、同程度の関税を輸入品にかけると宣言し、実行した。

 しかし、両国の事情は大きく異なっていた。

 先に述べたように、中国が米国から輸入する品目のほとんどは食料である。これに高関税をかけてしまい、最終的には消費者である中国国民を苦しめることになったのである。

 ただ、米国民も高関税分のコストを引き受けなければならないので、お互い様と言えないこともない。

 そこで米国は輸入物価を下げるため、意図的に“ドル高”に持っていった。中国が20%の追加関税分を20%のドル高で“相殺”したわけである。

 だが、中国は米国と同様の手は使えない。

 知ってのとおり、このところどんどん人民元レートが下落している。輸入はできるものの、輸入価格はドルベースで高くなったし、さらに米国への報復措置としてかけた追加関税分が上乗せされている。

 中国国民からすれば、報復関税が痛みとなって刺さってきたのだ。

 こうした措置を、バイデン政権が撤廃するかもしれないと、中国側は期待を抱いていた。だが、それは見事に裏切られ、今日に至っている。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『新キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする 世界はグロースからクオリティへ』(コスミック出版)、『コロナ後の世界経済 米中新冷戦と日本経済の復活!』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)、『それでも強い日本経済!』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)などがある。

【私の論評】あと10年で中国の弱体化は目に見えてはっきりする、その時に束の間の平和が訪れるよう日米は警戒を強めよ(゚д゚)!

上の記事で、エミン・ユルマズ氏が中国経済について書いていることは、このブログでも以前から掲載しています。ただ、このようにまとまった形で、包括的には掲載したことはなかったので、本日掲載させていただきました。

エミン・ユズマル氏

こうした記事が、Yahooニュースに掲載されるということも時代の流れを感じさせます。結論からいうと、現象面に関してはかなり良く包括的に記載はされているものの、根本的な要因については記載されていないので、これだけだと、また中国経済は復活して伸びるのではないかと期待を持つ人も現れるのではないかと思います。ただ、投資レベルの話であれば、これで十分なのだと思います。投資家レベルとしては、中国投資はしばらく控えたほうが、良いということは十分に伝わっています。

このブログでは、以前から指摘してきたように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況になっています。これが除去されない限り、中国経済がこれから大きく発展することはありません。これに関する過去の記事は、下の【関連記事】に掲載してあります。興味のある方は、是非こちらもご覧になってください。

国際金融のトリレンマ(Mundell-Fleming trilemma)とは、国際経済学の概念で、ある国が(1)固定為替レート、(2)自由な資本フロー(資本移動)の維持、(3)独立した金融政策、という3つの目的を同時に達成できないことを示唆するものである。トリレンマによれば、3つの目標のうち2つしか達成できず、3つ目を犠牲にしなければならないのです。

これに関しては、経験的に知られていますし、数学的にも確かめられています。だだ、大学の経済学部あたりでは、理解するのは難しいです。よつて、これはそのようなものと理解していただきたいです。疑問を感じる方は、ご自分で他のサイト等に当たってみてください。


中国が国際金融のトリレンマを克服しなければ、どのような不都合が起こることが想定されるか以下に述べます。

金融政策の柔軟性が制限される: 中国の固定為替相場制と資本規制は、独立した金融政策を行う能力を制約することになります。これは、インフレ、デフレ、資産バブルなどの国内経済の課題に対処するための金融政策ツールの有効性を制限することになります。適切な金融政策手段を実施する能力がなければ、中国は、経済を効果的に管理し、持続可能な経済成長を達成する上で困難に直面することになります。

外的ショックへの対応力の低下: 固定相場制と資本規制は、世界経済情勢の変化や資本フローの変化といった外部からの衝撃に対応する中国の能力を制限することになります。為替レートや資本フローの柔軟性の欠如は、中国の外部環境の変化に対する調整能力を制限し、潜在的に経済的不均衡や脆弱性につながります。

通貨誤配のリスク: 固定相場制のもと、中国の通貨である人民元は、他の通貨との相対的な価値を定めてペッグされています。しかし、国内の経済状況は必ずしもペッグされた為替レートと一致しない場合があり、潜在的な通貨のズレにつながります。これは、貿易競争力を歪め、輸出入に影響を与え、中国の経済成長の見通しに影響を与える可能性があります。

外国投資に対する魅力の低下: 資本規制は、中国への資金の出入りを制限し、外国投資の流れに影響を与えます。中国が資本の流動性を制限されていると認識されれば、外国人投資家にとって魅力が低下し、より柔軟な資本フローのある経済を求めるようになるでしょう。外国投資の減少は、中国の経済発展や成長にとって重要な外部資本や技術へのアクセスを制限する可能性があります。

金融市場の発展の妨げ: 固定為替相場制と資本規制は、中国の金融市場の発展と世界市場との統合を制限する可能性があります。これは、中国の金融セクターの成長を妨げ、投資の多様化の機会を制限し、人民元の国際化を阻害する可能性がある。これは、中国が世界的な金融ハブとなり、金融市場改革を推進するための取り組みに影響を与える可能性があります。

経済的不均衡のリスク: 国際金融のトリレンマの制約により、国内経済の課題に十分に対処できない場合、インフレ、デフレ、資産バブルなどの経済的不均衡が生じる可能性があります。これらの不均衡は、中国の経済成長の軌道を乱し、長期的には中国経済の安定性と持続可能性にリスクをもたらす可能性があります。

国際金融のトリレンマを克服することは、中国に経済管理のためのより多くの政策手段を提供し、長期的に中国の経済成長を支えることになるはずです。

しかし、中国共産党が、こうした改革をする様子はありません。これは一体なぜなのでしょうか。これには、いつかの可能性がありますが、大きくは以下に集約されると思います。

経済的安定への懸念: 中国の固定為替レート制と資本規制は、経済と金融システムの安定を維持することを目的としている可能性があります。変動相場制や自由な資本移動への突然の移行は、為替レートの変動、資本流出、中国の金融市場の混乱につながる可能性があります。中国政府は、自国経済への潜在的な悪影響を避けるため、安定性を優先しているとみられます。

輸出競争力: 中国は歴史的に、経済成長の主要な原動力として輸出に依存してきました。為替レートの柔軟性が高まれば、人民元が高くなったり、変動が大きくなったりする可能性があり、国際市場で中国の商品がより高価になることで、中国の輸出競争力を低下させる可能性があります。中国政府は、輸出志向の経済を支えるために、安定的で競争力のある為替レートを維持していると考えられます。

金融リスク: 資本移動の自由化は、中国を投機的な資本移動、通貨投機、潜在的な金融危機によるリスクの増加にさらす可能性があります。中国政府は、資本勘定の開放に伴う潜在的なリスクについて懸念を持ち、そうしたリスクを管理するために資本フローをある程度コントロールしようと考えている可能性があります。

政治的な考慮: 中国共産党を含む中国政府には、為替レートと資本フローの管理を維持する政治的動機があるかもしれません。これには、安定性の維持、金融システムの管理、国家主権の保護などが含まれます。中国共産党の政治的優先順位と目的は、経済政策の決定に影響を与えている可能性があります。

特に、中国共産党としては、国家主権の保護という観点から、なかなか人民元の変動相場制への移行や、資本の自由な移動に踏み切れないのだと考えられます。

これらを実現すれば、中国共産党は統治の正当性を失い、崩壊して中国は体制を変換せざるをえなくなると考えているのでしょう。

体制を維持することと、独立した金融政策ができることの2つを計りにかければ、中国共産党としては、前者の方がはるかに重要だと考えているのでしょう。

であれば、中国共産党が崩壊しない限り、中国経済が発展する見込みはまったくないとみるべきでしょう。

習近平は、今のままだと経済発展することはできず、それこそ、10年後あたりには、中国経済は毛沢東時代の中国に戻ることがはっきりすることを予見しているのではないかと思います。

中国政府が昨年11月集合住宅地域に食堂を整備するよう求める通達を出したことに対し、毛沢東時代に整備された「公共食堂」が復活するのでは、との見方が中国のインターネット上で広がりました。

中国国内では、毛時代の印象が強い「供銷(きょうしょう)合作社」と呼ばれる農業関連の公営組織を拡大させる動きもあります。長期政権化する習近平国家主席が社会主義色の濃い政策を相次ぎ掲げる中、経済でも毛時代への回帰が進むとの警戒感が出ています。

そのような中国の実情を見透かしたのか、米国下院「中国委員会」の委員長マイク・ギャラガー氏は、長期的には米国が圧倒的に有利であるという主張しています。これは、決して根拠のないものではありません。米国は依然として世界最大の経済大国であり、イノベーションとテクノロジーのリーダーであり、世界で最も影響力のある多くの企業や金融機関の本拠地です。さらに、米国は世界的な同盟とパートナーシップの強力なネットワークを持ち、政治的・経済的に大きな影響力を有しています。

台湾を訪問したマイク・ギャラガー氏

しかし、ギャラガー氏の中国が最終的な弱体化を認識し、短期的に攻撃的になる可能性があるという議論も考慮に値します。中国は近年、世界中で経済的・政治的影響力を急速に拡大しており、人工知能や5Gなどの最先端技術に多額の投資を行っています。また、中国は南シナ海での軍事的プレゼンスを高め、「一帯一路構想」のような野心的なプロジェクトを推進しています。

短期的には、中国の経済的・地政学的野心は、米国とその同盟国にとって挑戦となるでしょう。米国と中国は貿易戦争を繰り広げており、香港や新疆ウイグル自治区を含む中国の人権侵害が懸念されています。さらに、南シナ海での中国の主張が地域の緊張を高めています。

全体として、米国は長期的には中国に対して大きな優位性を持つかもしれないですが、中国が影響力を拡大しようとし、両国がその複雑な関係をうまく調整する中で、次の10年は難しいものになるかもしれないです。中国は弱体化が目に見えるようになる前に、冒険に打って出る可能性は十分にあります。

米国はその強みを生かし、同盟国と協力しながら、世界のリーダーとしての地位を維持しつつ、この10年間は警戒を強めるべきでしょう。それは、日本も同じです。

この10年を乗り切れば、ロシアのウクライナ侵略は終了し、中国は著しく弱体化するのが目に見えるようになるか、体制転換が行われ、世界に束の間の平和が訪れることになるでしょう。

経営学の大家ドラッカー氏は以下のように語っています。
われわれが平和を手にする日は、旅を終える日でも始める日でもない。それは馬を替える日にすぎない。(『産業人の未来』)
馬の乗り替えとは、世界秩序の変化を意味すると思います。どのような国でも体制でも、栄枯盛衰は常であり、世の中は常に変わり続けていきます。ただ、私としては、馬の乗り替えが、武力の行使ではなく、平和的な手段によって行われる世界になって欲しいと願うばかりです。

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2019年4月17日水曜日

政治に左右される為替管理 国家資本主義・中国の限界―【私の論評】国際金融のトリレンマにはまり込んだ中国人民元の国際化は不可能(゚д゚)!

政治に左右される為替管理 国家資本主義・中国の限界

人民元の限界とドル覇権

倉都康行 (RPテック代表取締役、国際金融評論家) 

 最近の為替市場や株式市場の慌ただしい展開に比べれば、国際通貨制度の動きは極めて緩慢である。10年前の金融危機の際には「ドルの信認低下」が世界中で騒がれたが、IMF(国際通貨基金)の統計によれば、昨年9月末時点での準備通貨におけるドルのシェアは61・9%と、ユーロの20・5%、円の5・0%、ポンドの4・5%を大きく引き離しており、事実上の「世界通貨」としての地位は揺らいでいない。

 とはいえ、ドルの占める割合が徐々に低下していることもまた事実であり、2015年3月末の66・0%という水準から約3年半で4・1%のシェア・ダウンとなっていることを考えれば、今後一段と低下する可能性もないとは言えないだろう。

(注)ユーロは左から20%→19.1%→20.5%で推移 (出所)IMF資料を基にウェッジ作成


 では、この間に準備通貨のシェアはどう変わったのだろうか(上図)。ドル以外の通貨をみると、ユーロは20・0%からわずかに上昇、3・8%と同水準にあった円とポンドはともに1%超の上昇となっている。豪ドルやカナダドルは1%台のシェアでさほど変わっていない。一方で16年12月末から公表開始となった人民元のシェアは、2年足らずの間に1・1%から1・8%まで伸びて、豪ドルを抜いている。カナダドルのシェアを追い越すのも時間の問題であろう。

 つまりドルのシェアを食っているのは、円やポンド、そして人民元といった通貨であることが分かるが、その変化のタイミングもまた重要である。しばらく65%台を維持していたドルのシェアが顕著に低下し始めたのが17年3月末以降であることは、トランプ大統領の登場が変化の一つの契機になっていると思われるからである。

進む新興国の「ドル嫌い」
逃避先は金と人民元


 トランプ大統領は就任以来、その政治的軍事的優位を利用して経済制裁をたびたび発動してきた。米財務省外国資産管理室を通じて実行された制裁件数は、10年の1000件から18年には6000件以上に急増した。中でも、ドルの使用を制限する金融制裁は極めて強力である。その対象国は、イランやベネズエラ、ロシア、そしてトルコなど敵対国から友好国まで幅広い範囲となっている。

 こうした厳しい制裁方針は、当然ながら他国のドル依存体制にも影響を及ぼしていく。米国の核合意からの離脱でドル利用が困難になったイランは、欧州諸国と共同で非ドルの決済システム構築を検討中であり、ロシアはユーロ中心となっている外貨準備においてドル保有をさらに低下させたと言われている。中国が米国債保有額を徐々に低減させていることも明らかになった。今後2年間のトランプ政権運営下で、ドル保有額が一段と減少する可能性は高い。

 こうした新興国におけるドル保有の引き下げは、財政赤字や経常赤字を懸念した従来の「ドル離れ」とは性格が異なり、「ドル嫌い」といった方が適切なのかもしれない。準備通貨としての地位は認めざるを得ないが、制裁によって身動きを縛られることになれば、自国経済が麻痺(まひ)しかねない。その防衛策として、幾つかの国々で発動されているのが「金への逃避」である。

 昨年8月に1195ドルまで下落した金は今年に入って上げ足を早め、1340ドル台にまで上伸し、その間10%を超える上昇率を記録している。ドル金利のピーク感や地政学リスクへの懸念などを背景に金を選好する機関投資家が増えているが、新興国などの中央銀行も昨年来着々と金購入を継続している。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)にれば、18年の各国中銀やIMFなどの公的部門に拠る金購入量は前年比74%増の651・5トンと1971年の金ドル兌換(だかん)停止以来の最高水準を記録した、という。

(出所)World Gold Council資料を基に筆者作成

 その牽引(けんいん)役となっているのがロシアであり、昨年の金購入量は274・3トン、金額では270億ドルとともに過去最高記録を更新している(上図)。中銀全体の購入量も過去最高に達したと推定されるが、ロシアはいずれも40%以上を占めており、その外貨準備における金保有比率は18%前後に上昇したようだ。ドイツやオーストリア、インドネシアなど金売却を進めた国もあるが、ロシアと同様に金購入を増やしているのがトルコやカザフスタン、インド、ポーランドといった国々である。

 インフレ・ヘッジという従来の金選好要因は低インフレが続く今日では説得力を失っているが、政治的なヘッジという判断での金購入には合理性がある。信用通貨へのアンチ・テーゼとして生まれた暗号通貨への信頼性が失墜したいま、ドルの逃避先としてはまず金だ、というのが実態なのかもしれない。

 そして、金とともに注目されているのが人民元だ。人民元は中国政府の「準備通貨化」という国策も手伝って徐々に利用度を上げてきた。準備通貨におけるシェアは前述のようにまだユーロや円、ポンドの比ではないが、市場での利用頻度は確実に上昇している。

 その一例が、イングランド銀行(英中銀)が半期に一度公表している「マーケット・サーベイ」に表れている。調査に拠れば、18年4−9月期の「ドル・人民元」の取引額は前期比17%増加して「ユーロ・ポンド」を抜き、取引シェアは2・3%から2・8%へと拡大して全体の7番目の位置にまで上昇している(下表)。

(出所)Results of the Foreign Exchange Joint Standing
Committee (FXJSC) Turnover Survey for October 2018を基に筆者作成

 世界全体で為替取引額がやや低下傾向にある中で人民元取引が顕著な増加を見せていることは注目に値しよう。香港市場では人民元の投機的な動きがたびたび見られるが、ロンドン市場においては人民元建て社債のような資本取引の定着を背景とする取引が着実に増えているのかもしれない。

 ドル・人民元取引が第6位の「ドル・カナダ」を抜くのも時間の問題だろう。ドル円に次ぐシェアを獲得する時代の到来は、そう遠いことではないかもしれない。

西側体制に挑む中国
拙速な国際化の代償


 だが、いかに準備通貨や決済通貨、あるいは資本通貨としての台頭が目覚ましくとも、人民元はユーロや円、ポンドに比べればまだマイナー通貨との印象は拭えない。ドルを脅かす存在になる日が近未来にやってくるという可能性もほとんどないと言ってよいだろう。

 もっとも、この数年、ブレトンウッズ体制に挑む元の国際化の動きがあった。従来西側諸国が担ってきた、途上国へ手を差し伸べる役割をも演じ始めたのである。習主席の鳴り物入りで始まった「一帯一路」プロジェクトやインフラ投資銀行であるAIIBの創設がその好例だ。いずれも、人民元を最大限に活用しようとする試みを胚胎するものであり、特に一帯一路はアジアから中東、アフリカにまで至り世界的規模に及んでいる。

 だがその積極策はパキスタンやスリランカなどで深刻な過剰債務問題を生んでいる。従来、ソブリンの債務問題にはIMFや先進国政府・銀行などが協調して対応に当たってきたが、一帯一路では国際協調路線が採れず、袋小路に陥る可能性が高い。それは人民元の拙速な国際化政策の代償でもあろう。

 また、IMFは16年秋に人民元をSDR(特別引出権)バスケットの構成通貨に採用することを決定し、ドル、ユーロ、円、ポンドに並ぶ主要通貨としてのお墨付きを与えたが、あくまで国際政治的な判断であり、金融経済的な判断ではなかった。市場における人民元に対する評価とIMFの決定との間には、大きな溝があると言わざるを得ない。

 人民元には準備通貨としての基本的な脆弱(ぜいじゃく)性もある。一に、その流動性や交換性についての信認が乏しいことである。経済力と金融力が比例しないのは日本を見れば明白であるが、中国の場合はさらに資本規制・為替管理がいつ課されるか分からない、という懸念が残る。人民元の国際化に関しては習政権の誕生以来改革は棚上げ状態にあり、同主席の長期政権化の下で国家による中央集権的な管理体制がむしろ強化される方向性が顕著となって、人民元の変動相場制移行など改革期待感は大きく後退している。

遅れる中国の市場整備
当面続く米国の通貨覇権


 さらに、人民元の運用機会が制限されていることや、債券市場の多様化や透明化が遅れていることも、人民元が国際通貨体制のメジャー・グループに入れない要因となっている。例えば主要通貨の場合、準備通貨として保有する中銀など公的機関や貿易決済のために外貨を保有する企業、それを預金として受け容(い)れる銀行は、当該国で運用する機会を探さねばならない。

 米国や日欧などでは短期から超長期まで幅広い満期を擁する国債が常時売買されており、格付けが高く流動性も高い投資適格社債や証券化商品なども存在する。だが中国の場合、国債市場は発展中だがまだ海外投資家が自由にアクセスし得る状況ではなく、社債などの信用格付けも整備されている状況からはほど遠い。

 為替市場だけでなく社債などの資本市場にたびたび政府介入が見られることも、市場が政治的に歪(ゆが)められていることを示唆している。また外貨を中長期で保有する際には時にヘッジ機能も必要になるが、人民元の場合はオプションやスワップなどのデリバティブズ取引は未発達である。

 換言すれば、人民元が主要な準備通貨として認められるには、中国の国家主義的資本システムが胚胎する「非市場的ルール」という印象が断ち切られる必要がある、ということでもある。だが13年に習主席がトップの座に就任して以来、市場化や自由化などの構造改革機運は大きく後退しており、米国による圧力もその流れを変えるには至らないだろう。

 08年に金融危機が世界を襲った際には一気にドル不信が巻き起こり、ドル一強体制の終焉(しゅうえん)まで囁(ささや)かれたことがあったが、約10年が経過して判明したことは、逆に国際通貨体制におけるドルの強靭(きょうじん)さであった。ユーロなど既存通貨だけでなくSDRのようなバスケット通貨構想もドルを代替する力が無(な)いことが、あらためて確認されたのである。

 そして経済力では目覚ましい拡大を続ける中国の人民元が準備通貨の主役候補になれそうにないことは、米国の通貨覇権がまだ当面持続することを意味している。奇妙な話ではあるが、米中覇権戦争におけるトランプ流の圧力が効かずに中国が市場経済国へと変身しない方がドルの長期的覇権を担保することになる、ということもできる。

 つまり、外貨準備に占めるドルのシェアがいずれ50%台に低下し、人民元が5%程度まで上昇することになったとしても、中国が国家主導の経済モデルを放棄しない限り、ドルの「世界通貨」としての役割が低下したり存在感が薄れたりすることはないだろう。

代替性のないドル一強という
アンバランスな通貨体制


 もっとも、粘り強いドルにも脆弱な構造問題があることは誰でも知っている。経常赤字は慢性化しており、財政赤字は今後急拡大することが予想されている。排他的な保守主義を主張するのはトランプ大統領だけではない。米議会にも10年前のような「世界的な金融危機の際には海外勢のドル不足を支援する」といった金融当局の行動を許すムードはない。そして英エコノミスト誌は、オフショアダラーである「ユーロダラー市場」を採り上げて、「最後の貸し手が存在しないリスク」を指摘している。

 言い換えれば、政治的かつ経済的な問題を抱え続ける米国のドルが代替性のない「最強通貨」として君臨する時代がまだまだ続く、ということでもある。二番手のユーロは経済同盟が完備されていない不完全通貨から抜け出せず、準備通貨化への意欲も乏しい。円やポンドの役割は低下する一方で、人民元の信頼性や利便性が急速に改善する見通しも薄い。国際政治経済がG2時代へと移行する中で、通貨体制はアンバランスな状態が続く。

 歴史的に国際通貨制度は、金・銀時代やポンド・ドル時代、ドル・金時代、ドル・マルク・円時代に見られるように、複合的で補完性のあるシステムであった。だが今後は「信頼性に欠ける一強通貨」という資本システムに依存せねばならない、フラジャイルな時代の到来が不可避となるだろう。

【私の論評】国際金融のトリレンマにはまり込んだ中国人民元の国際化は不可能(゚д゚)!

上の記事では、回りくどい解説をしていますが、「国際金融のトリレンマ」という昔から知られている原理を知れば、人民元の国際化は現状のままでは不可能であることがすぐに理解できます。

今年3月の全人代は「異例」づくめだった

先月開催された中国の全国人民代表大会(全人代)では、金融政策で量的緩和を実施しないことが明らかになりました。その背景は何なのでしょうか。結論からいえば、中国の政治経済の基本構造が根本要因です。

基本知識として、先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。



もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、こうした先進国タイプになれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できません。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。

中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはできません。

一方、先進国は、これまでのところ、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいえ、完全に資本移動を禁止できません。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できますが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるをえなくなったのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなるのです。そのため、中国は量的緩和を使えなくなってしまったのです。

そもそも、国内で金融緩和政策すらできない国の、通貨が本格的に国際化できるはずもありません。何か国際金融において、大きな問題が起こったにしても、金融緩和できないのであれば、その問題にまともに対処することすらできません。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないです。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルがさらに膨らむおそれがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。何より金融緩和ができないという状況は、最悪です。なぜなら、マクロ経済上の常識である、金融政策=雇用政策という事実から、中国では雇用を創造することができないからです。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになるでしょう。

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