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2020年8月30日日曜日

チェコ上院議長が台湾到着 90人の代表団、中国の反発必至―【私の論評】チェコは国をあげて「全体主義の防波堤」を目指すべき(゚д゚)!


    台湾北部の桃園国際空港に到着したチェコのビストルチル上院議長(中央)と
    出迎えた呉●(=刊の干を金に)燮外交部長(右)=30日
東欧チェコのビストルチル上院議長を団長とし、地方首長や企業家、メディア関係者ら約90人で構成される訪問団が30日、政府専用機で台湾に到着した。台湾と外交関係を持たないチェコが中国の反対を押し切り、準国家元首級の要人が率いる代表団を台湾に派遣したのは初めて。国際社会での存在感を高めたい台湾にとっては大きな外交上の勝利といえるが、中国が反発するのは必至だ。

 30日午前、北部の桃園国際空港に到着したマスク姿の議長一行は、出迎えた台湾の呉●(=刊の干を金に)燮外交部長(外相に相当)らと握手でなく腕を合わせてあいさつを交わした。台湾メディアによれば、訪問団は9月4日まで滞在。ビストルチル氏は1日に立法院(国会)で講演し、3日に蔡英文総統と会談する。4日には米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)とのフォーラムにも出席する。

 チェコ上院議長の訪台をめぐっては、ビストルチル氏の前任のクベラ氏が昨年に訪台を約束したが、中国大使館から脅迫され1月に急死した。ビストルチル氏は上院議長就任後、何度も「クベラ氏の遺志を引き継ぐ」と表明していた。

【私の論評】チェコは国をあげて「全体主義の防波堤」を目指すべき(゚д゚)!

チェコの憲法で大統領に次ぐ地位とされる上院議長のビストルチル氏、このほか訪問団は首都プラハのズデニェク・フジブ市長や上院議員ら約90人からなり、民主化を実現させた1989年の「ビロード革命」(1989年11月17日にチェコスロバキア社会主義共和国で勃発した、当時の共産党支配を倒した民主化革命。スロバキアでは静かな革命と呼ぶ)以降、最高レベルの訪問団とされます。9月3日には蔡総統と総統府(台北市)で会談する予定。ビストルチル氏は出発前のあいさつで訪台の目的について、民主主義を守る台湾への支持を示すためと語りました。

チェコのビストルチル上院議長(左、本人のツイッターから)とプラハのフジブ市長

新型コロナ対策のため、訪問団の参加者には搭乗前3日以内の陰性証明の提出を求めたほか、9月1日にはさらに検査を実施。滞在中は専用車を使用するなどして市民との接触を避けます。一行は同5日に帰国の途につきます。

欧州との外交をめぐっては、中国の王毅外交部長が25日~9月1日の日程でフランスなど5カ国を歴訪中です。台湾が外交関係を結ぶ国はバチカンのみとなる一方、中国は近年、巨大経済圏構想「一帯一路」を足掛かりに欧州で影響力を増しています。台湾側は外交関係のないチェコ代表団の受け入れをきっかけに、欧州諸国との連携を強化したい考えです。

今回の訪台には、今年1月に急死したチェコのヤロスラフ・クベラ前上院議長の夫人も加わっています。

クベラ氏は、中国の反対を押し切って今年2月に訪台する予定でしたが、1月に急死しました。生前、台湾行きを強行するならチェコ企業に報復するなどと中国大使館から脅迫されていた事実が地元メディアによって暴露されました。

中国はチェコを中・東欧諸国の玄関口として重視しています。加えて、チェコは欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)双方に加盟しているため、中国としてはチェコを足掛かりに西欧諸国に対する影響力を高めたいとの狙いもあるようです。

チェコ大統領 ゼマン氏

一方、チェコ側も2013年に親露的でもある、ゼマン氏が大統領に就任して以後、対中関係の強化を図ってきました。ゼマン氏は訪中を繰り返し、2015年に中国が戦争勝利70周年記念の軍事パレードを実施した際も、欧米諸国のほとんどが国家元首出席を見送る中、北京に赴いて、中国との親密ぶりをアピールしました。

翌年3月に中国の習近平国家主席がチェコを訪問した際には、首都プラハでデモ隊の動きを封じ込めて迎え入れるなど、最大限の配慮を見せました。

また、中国政府が「中国からの独立を狙う分裂主義者」と敵視するチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が同年10月にチェコを訪れ、副首相らと面会した際、ゼマン氏は直ちに、当時のソボトカ首相とともに「一つの中国」原則を支持する声明を出すほど神経を使っていました。

ゼマン政権による中国接近に警戒を強めたのがプラハのフジプ市長です。

プラハと北京は2016年に姉妹都市協定が締結されていました。フジプ氏が2018年11月に市長に就任すると、協定の中に「一つの中国」原則の順守を記す条項が含まれていたことに違和感を抱き、北京側にこの条項のみを削除するよう求めたのですが、北京側が受け入れなかったため、昨年10月、協定解消に踏み切りました。

一方、フジプ氏は昨年3月に訪台し、蔡英文総統らと会談するなど台湾に接近、今年1月13日には、今度はプラハ―台北間で姉妹都市協定を結びました。AFPによると、フジプ氏はその直後に、中国を「信頼できないパートナー」と非難したといいます。

フジプ氏は自身の信念として「市長として『民主主義と人権を尊重する道に戻る』という公約を果たすために取り組んでいます。それらはビロード革命(チェコスロバキアだった1989年12月に共産党体制崩壊をもたらした民主化革命)の価値観であり、現在、チェコ政府が無視しているものだ」と語っています。

加えてチェコでは今年1月、人気政治家だったクベラ氏が急死し、その妻が「夫の死は中国政府からの度重なる嫌がらせの結果だ」と主張した一件もありました。

チェコ企業団が19年10月、台湾を20年2月に訪問すると発表し、その団長を当時上院議長だったクベラ氏が務めることになりました。この訪台は結局コロナ禍により中止になりましたが、中国側は「一つの中国」原則に反するとして不快感を示し、再三にわたってチェコ側に取り消しを迫っていました。

現地報道によると、中国の張建敏・駐チェコ大使がゼマン大統領の秘書官に「訪台を阻止しなければ両国のビジネスに影響が出る」と圧力をかけたとされています。

夫人のヴェラ氏によると、クベラ氏が亡くなる3日前に中国大使から大晦日の夕食会に招待され、「非常に不快な非公開の会談」に参加しました。途中で、クベラ氏は別室に連れていかれ、戻ってきたときには夫人に中国大使館が用意した食事は絶対食べないように言ったといいます。

夫人は遺品整理の際に、チェコ大統領府と中国大使館が送りつけた2通の「脅迫状」を発見しました。内容は、台湾訪問をやめなければ、家族を危険に晒すというものでした。ヴェラ夫人は、娘と二人で恐怖に怯えたと述べ、これらの手紙がクベラ氏を死に至らせたと考えていると述べました。クベラ氏は亡くなる前の7日間、一言も発さず落ち込んでいたといいます。

ヴェラ夫人はまた、クベラ氏が台湾を訪問することに強いこだわりを持っていたと強調し、家族には「共産党の独裁時代にも、誰もクベラを止めることができなかった!今やチェコは民主主義国家だ。このような圧力に屈するものか!」と言っていたと明かしました。

ビストルチル現上院議議長氏は、「2通の脅迫状」という重大スキャンダルを受けて、ゼマン大統領に説明を求める書簡を3通送ったのですが、ゼマン大統領は議会からの質問と調査の要求を拒否していると述べました。


台湾メディアによると、ヴェラ氏は地元テレビに出演した際、「夫は中国政府に脅迫され、そのストレスが急死の引き金になった」との見方を示し、後任の上院議長となったビストシル氏やバビシュ首相は相次いで、張大使更迭を求める考えを示しました。

そのビストシル上院議長が6月9日、クベラ氏の計画を引き継いで今年8月30日~9月5日に企業団とともに訪台すると発表しました。ビストシル氏は右派野党・市民民主党所属で、「政府の外交方針が人権と自由を支持しないのなら、それを強調するのは議会の役目だ」と話しています。

中国は反中感情を和らげるため、新型コロナウイルスの感染防止を目指す「マスク外交」によって挽回を図っています。

チェコでは医療従事者のためのマスクや手袋などの個人用防護具が不足し、政権批判が高まっていたため、ゼマン政権は諸手を挙げて中国からの支援を歓迎しました。

中国から医療用品を運んできた航空機が今年3月、プラハの空港に到着すると、チェコの閣僚らが滑走路に並んだといいます。その後も中国からの物資が届けられ、ゼマン氏は「我々を助けてくれるのは中国だけだ」とリップサービスし、遠回しにEUを批判してみせたとされています。

クベラ氏の生前の願いをかなえるためとして夫人に同行を打診したのは団長のビストルチル氏。台湾訪問が民主主義、自由を守る決意の表れとして、チェコ上院で強く支持されている背景があったといいます。

メンバーは政治家や、学者、文化団体などで、40人余りの企業家も含まれます。いずれも民主主義の信奉者で、中国から言論の自由を制限されるなど、不条理な圧力をかけられた経験を持つ人もいるといいます。今回の交流を通じ、台湾の民主主義コミュニティーとの間に制度的な協力ネットワークが構築されることが期待されます。

訪台に当たっては、新型コロナウイルス対策として、往復ともチャーター便を利用し、ウイルス検査を出発前と台湾到着後の計2回受けることなどが求められました。これらの条件は、今月9日に訪台したアザー米厚生長官や、同日李登輝元総統の弔問のために台湾を日帰り訪問した日本の森喜朗元首相らと同じだといいます。

チェコ政府は、親中的ですが、チェコの憲法で大統領に次ぐ地位とされる上院議長のビストルチル氏をはじめ中国に対峙しようとする勢力が拡大しつつあるようです。

台湾は国をあげて中共の「全体主義の防波堤」になっていることは明らかです。米国は今後「全体主義への砦」としての台湾の存在の重要性を認識して軍事・経済的支援を強力に推進することになるでしょう。その幕開けが、先日のアザール長官の台湾訪問なのです。

チェコは地政学的にいって、東欧に属していおり、東欧は欧州では中国に最も近い位置に属しています。ロシアにも近いです。このチェコが「全体主義の防波堤」になれば、東西に全体主義に反対する勢力の橋頭堡が築けることになります。

今回のチェコの訪問団の訪台が、将来これに結びつく可能性は大きいと思います。

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2019年7月3日水曜日

中国との競争に欠かせない米欧日協力―【私の論評】米国ができるのは、日欧と協力して中国経済の弱体化を早めること(゚д゚)!

中国との競争に欠かせない米欧日協力

米中2国間取引には限界がある

岡崎研究所

米中貿易戦争は、米中両国の報復関税のかけ合いとなっている。その影響は、米中両国のみならず、少なからず国際情勢に影響を及ぼしている。


 トランプ大統領は、貿易に関しては、中国のみならず、同盟国を含む他諸国にも関税をかけているか、かけようと脅している。鉄鋼・アルミニウムに関しては、日欧も例外ではなかったし、移民問題では、メキシコからの輸入に関税をかけるとした。

 そんな中、米国でも、トランプ政権は、中国と対峙して勝ちたいならば、欧州を味方に付けなければならないという論調が出て来た。例えば、6月12日付のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、バイデン元米国副大統領の補佐官を務めたジュリアンヌ・スミスの論説がそうである。筆者は、中国との競争に当たって、米国は同盟国と協調して対処すべきで、米欧の足並みを揃え、日本等に連携を拡大すべきだ等と主張している。米欧が結束して中国に当たるべきとの指摘は正にその通りだ。

 トランプ大統領は、中国と二国間で貿易取引しようとしているが、それには限界がある。欧州や日本などを含め有志連合を作って中国と交渉するほうが余程効果的だと思う。中国には頼るべき友好関係は余りない。圧力も集団の方が大きくなる。但し、今のような関税乱用のアプローチでは、なかなか連合も容易でないかもしれない。

 最近、欧州が経済、政治など中国のリスクに覚醒してきたことは、やや遅い感はあるが、歓迎すべきことである。2015年3月、英国が突如アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の構想にG7で初めて参加を決定し、直ちに、ドイツ、フランス及びイタリアがこれに追随したことは大きな驚きだった。英国のオズボーン財務相の決定は理解に苦しんだし、英国など欧州諸国の説得をしていた米国は当然不満を露わにした。すなわち、トランプ政権以前から、欧米の対中政策ギャップは存在していた。米国からの働きかけにもかかわらず、欧州は聴く耳を持たなかったと言うことである。日米両国とカナダは不参加を貫き、AIIBの外から、透明性の確保やプロジェクトの審査基準などについて、種々中国へ働きかけた。

 「一帯一路」構想についても、日米両国は慎重に対処し、受け入れ国の債務負担や環境の重視などを指摘した。その後、中国は若干変化したようにも見える。今年4月に開催された北京の会議で、習近平は、財政の持続性などを確保する、国際基準に則って進める、入札や資材調達の手法を見直すなどと言及した。

 米欧などの連携による対中政策について問題となるのは、依然として欧州である。欧州は英国のEU離脱問題やポピュリズムの台頭などで結束を欠いている。独仏などの中国観は現実的になってきたが、南欧や東欧のEU加盟国の対中姿勢は未だ問題である。例えば、イタリアは、今年、G7諸国の中で、初めて「一帯一路」プロジェクトの受け入れに署名した国となった。また、EU加盟国以外も含んだ東欧諸国と中国が「17+1会議」を開催している。今の欧州の状況は、依然注意を要する。

 中国に対する政策に関しては、日米欧の継続的な対話が重要である。中国に限らず、共通の関心事項について、議論する三極の首脳会議を考えても良いかもしれない。幸い日米関係は旨く運営されているが、日欧関係の強化にも努めていくことが重要である。

【私の論評】米国ができるのは、日欧と協力して中国経済を弱体化を早めること(゚д゚)!

トランプ政権は、覇権国として中国が米国を抜くことを甘受するつもりはありません。あらゆる手立てを講じて中国の台頭を遅らせ、中国に抜かれないようにし、中国に対抗し、中国を抑え込む意思を固めています。そうして、これはもうトランプ政権の姿勢ではなく、米国の意思になっています。

トランプ政権はもとより、議会も超党派で中国に対抗しようとしています。なぜここまで、対抗心を顕にするかといえば、まずは中国の台頭はかつてのソ連がそうだったように、技術の窃盗によるものだからです。ファーウエイの技術は確かに進んでいますが、5Gを含めて、通信技術などは元々米国が主導で開発されてきました。

そもそも、インターネットは米国が開発し、自由の象徴のようなインフラでした。ところが、中国は「サイバー主権」なる主張をして、インターネットを国家が人民を監視するものとしてつくりかえようとしています。そうして、ファーウェイは5Gを道具として、その尖兵の役割を果たそうとしていたのです。

河南省鄭州市で容疑者を顔認識で見分けられるサングラスをかけ、行き交う人々を見つめる警察官。
雲南省昆明市では同じ機能を持つ透明な眼鏡が採用されている

5G等の技術は、米国等が基礎を開発し、まさに時間と金をかけて、実用段階にもっていく直前に中国はこれを盗み、膨大な政府の補助金を投下して、世界に先駆けて実用化させようとしていたのです。中国のいわゆる最新テクノロジーとはほとんどがこのようなものです。これは米国としてはとても許容できないわけです。

さらに、中国と米国などの先進国の社会は全く異なるものです。一般には、全体主義と民主主義などということがいわれていますが、もつと詳しくいえば、中国は先進国とは異なり、民主化されておらず、政治と経済が分離されていないどころか、政府と経済はまさに表裏一体です。さらには、法治国家化もされていません。

中国と日米欧の価値観は全く異なるのです。もともと、人権などは欧米では白人だけのものとされてきましたが、日本が第二次世界大戦を戦ったことにより、世界中で植民地が独立して、人権などの観念は、白人だけのものではなくなりました。



現在の先進国と、中国とでは全く価値観が異なるのです。その中国が台頭すれれば、その価値観は世界に敷衍されていくことになります。新たな邪悪な世界秩序が出来上がりかねません。これも、米国とはじめとする先進国には耐え難いことです。

一方、中国は2050年に米国を抜いて世界一になる目論見を抱き、そのため技術大国を目指し、軍事力の増強しています。今のところ、この方向性に修正を加えている気配はありません。つまり米中関係の基本構図は、対立と緊張にあります。

しかし米中ともに世論ないし国内の雰囲気に強い影響を受けます。トランプ大統領にとり、次の大統領選挙への影響が最大の関心事であるように、習近平国家主席にとっても国内の安定が政権維持の前提条件です。特に、共産党内の覇権・派閥争いには、常に勝利をおさめ続けなければなりません。

中国には、選挙という民主的手続きがないため、中国共産党も、幹部自身も常に統治の正当性を主張し、それを確かなものにしなければなりません。そうでないと、正当性を失いすぐに滅びることになります。

米国政治には景気動向が世論に大きな影響を及ぼしますが、中国政治では経済動向に加え統治の正当性が影響力を持ちます。一方で、統治の正当性に気を遣いながら米国に毅然とした姿勢をとる必要があり、他方で経済にマイナスの影響が出ないように米国との妥協を考えなければならないのです。

統治の正当性を無視すれば政権基盤はすぐに弱体化し、経済がうまくいかなければ社会はすぐに不安定化します。

米中は、いやおうなしの現在の世界経済に完全に組み込まれてしまっており、しかも第1位と第2位の経済大国といわれています。簡単にぶつかり合って、それで終わりということにはなりません。現状では、貿易戦争の形をとっていますが、これは将来確実にかつての米ソ冷戦と同じように、米中冷戦の次元にまで高まります。

しかし、力関係は米国に有利です。交渉が米国優位に進むことも不可避です。現在の米中交渉は、中国がこれまでやってきた発展パターンの不可逆的修正を米国が求め、それに中国が抵抗する構図となっています。

しかし、昨年7月以来の制裁関税合戦は状況の変化を生み始めています。つまり当初、米国の制裁発動がどの程度の影響を及ぼすか確信が持てなかった中国当局は、その影響が現状では許容範囲にあることを見定めつつあるようです。

今回も民営企業の投資心理の冷え込みに気を配りつつ、政府の刺激策で乗り切ろうとするでしょう。そして農業、半導体、車といった分野で米国がさらに嫌がる対抗措置をとるでしょう。

トランプ大統領は、最後は中国からの輸入全てに関税をかけると脅しています。中国もそれに屈するわけにはいきません。いわゆるチキンゲームが続くということです。結局、それぞれの経済が受ける打撃の程度を判断しながら、どこかで落としどころを見つけることになるでしょう。

それには中国も譲歩するでしょうが、米国も譲歩せざるを得ないです。米国に不満が残ることになります。米国は再び新たな材料を見つけ出して中国たたきを続けることでしょう。次の段階では、金融制裁も発動するでしょう。米国は基軸通貨国であり、さらに世界の金融を支配しています。これには中国も対抗するのは不可能でしょう。

この米中の対立は経済・金融だけでは済まないでしょう。軍事安全保障面での対立はさらに強まり、グローバルガバナンス、つまり国際秩序の遵守、運営管理の問題にも及ぶでしょう。米中対立の構図は長期間続きます。ただし、この対立の構図は、米国が対中認識に修正を加え、中国が方向性を変えることによって、かなり穏やかなものになる可能性があります。

米国はそれを狙っているのかもしれません。米国は、中国がグローバルガバナンスの問題で、本当に実行するかどうかは別にして、現行の国際秩序を護持すると明言し、すでに修正し始めている点を正確に認識すべきなのかもしれません。米国が日欧と共同戦線を張ることさえできれば、基本はわれわれの望む国際秩序となると目論んでいるかもしれません。

米国側からみて、中国が方向性を修正すべきは、1つは経済であり、中国市場をより自由で公正なものとする方向で軌道修正することです。2つ目は、中国軍の問題です。今のままで軍拡を続ければ米国だけではなく近隣諸国とも衝突します。中国の安全保障戦略の方向性の修正が必要です。

ただし、これは言うは易し、行うは難しの典型のようなものです。おそらく、米国はこれを単独で中国に実行させることは不可能でしょうし、中国共産党もこれを受け入れるのは困難でしょう。

なぜなら、中国市場をより自由で公正なものとするのは、かなり困難だからです。これを実行するには、公共工事のように中国政府が人民に掛け声をかけ、大量の投資をすればできるというような生易しいことではないです。

かつての先進国が、長い時間をかけてときには流血もともなった革命や改革によってなしとげてきた、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を成し遂げなければならないからです。これができなければ、中国の市場だけが、米国などの他の先進国の都合の良いようにある日突然、自由で公正なものになるわけではありません。

実際これが非常に困難であることから、多くの国が中所得国の罠から逃れることができないのです。中所得国の罠には、無論例外もあることはありません。それは、日本とアルゼンチンです。


日本は、現在開発途上国から先進国になった唯一の国です。アルゼンチンは、現在先進国から開発途上国になった唯一の国です。日本は中所得国の罠から逃れ先進国になりました。アルゼンチンは、高所得の先進国から、中所得以下の発展途上国になりました。

他の発展途上の国々や、新興市場の国々はどうかというと、経済が従来よりも急速に発展しても、中所得国の罠から逃れられず、そこから一歩もあげれないか、元に戻ってしまっているのです。なぜ、そのようなことになるかといえば、やはり先進国を先進国にならしめている、民主化、政治と経済の分離、法治国家が困難だからです。

このような社会になっていなければ、中間層が自由に社会経済活動を行い、結果として富をを築くということはできないのです。

これを考えると、米国も中国に対して、中国市場を自由で公正なものにさせることは困難でしょう。そもそも、中国共産党自体がそれを実行しないでしょう。そのようなことをすれば、中国共産党自体が統治の正当性を失い崩壊することになります。中共として何が何でも、現在の体制を崩すことはないでしょう。

そうなると、トランプ政権ができるのは、中国経済を弱体化させて、経済的にも軍事的にも、無意味な存在にすることです。それは、米国単体でもできるかもしれませんが、やはり米欧日が協力したほうが、はやく実現することでしよう。

それにこの体制を築いておけば、他の先進国が中国にすり寄ることでもあれば、米国が厳しく制裁する措置をとることなどで、抜け道を塞ぐことができます。先進国のすり寄りがなければ、中共の体制崩壊もはやまります。中共崩壊後には、新生民主中国があらたに歩みだすときに、良いスタートを切ることができます。日本としては、米国等が過去に日本に対して実施したような一方的な軍事裁判や占領政策など明らかな国際法違反を未然に防ぐことができます。

目標としては、現在のロシアの次元にまで経済力を弱体化させることで良いでしょう。現在のロシアのGDPは韓国を若干下回る程度(韓国は東京都と同程度)です。無論ロシアは、ソ連の核と軍事技術を継承しており、侮ることはできませんが、それにしても世界に対する影響力には限界があります。米国に対抗して何かを実行するなどということはできません。ましてや、世界秩序をつくりかえることなどできません。これを本気実行すれば、米国に潰されるだけです。

ただし、経済の弱体化により、中共が崩壊した場合には、米欧日は新生民主中国の建国に協力すべきです。

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2015年5月23日土曜日

アメリカとの対立も辞さない習近平 「米中冷戦時代」の到来か―【私の論評】今度はアジアに残った冷戦構造が鮮明になり、やがて崩壊する(゚д゚)!

2015年05月22日(Fri)  石 平 (中国問題・日中問題評論家)

中国の野望はどうなるのか? 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
先月末から今月中旬までの日米中露の4カ国による一連の外交上の動きは、アジア太平洋地域における「新しい冷戦時代」の幕開けを予感させるものとなった。

まず注目すべきなのは、先月26日からの安倍晋三首相の米国訪問である。この訪問において、自衛隊と米軍との軍事連携の全面強化を意味するガイドラインの歴史的再改定が実現され、日米主導のアジア太平洋経済圏構築を目指すTPPの早期締結の合意がなされた。政治・経済・軍事の多方面における日米一体化はこれで一段と進むこととなろう。

オバマ大統領の安倍首相に対する歓待も、日米の親密ぶりを強く印象付けた。そして5月1日掲載の拙稿で指摘しているように、アメリカとの歴史的和解と未来志向を強く訴えた安倍首相の米国議会演説は、アメリカの議員たちの心を強く打った。この一連の外交日程を通じて、まさに安倍演説の訴えた通り、両国関係は未来に向けた「希望の同盟関係」の佳境に入った。

もちろんその際、日米同盟の強化に尽力した両国首脳の視線の先にあるのは、太平洋の向こうの中国という国である。

「アメリカとの対立も辞さない」
という中国のメッセージ

米中冷戦勃発か?

2012年11月の発足以来、習政権は鄧小平時代以来の「韬光養晦戦略」(能在る鷹は爪隠す)を放棄して、アジアにおける中国の覇権樹立を目指して本格的に動き出した。13年11月の防空識別圏設定はその第一歩であったが、それ以来、南シナ海の島々での埋め立てや軍事基地の建設を着々と進めるなど、中国はアジアの平和と秩序を根底から脅かすような冒険的行動を次から次へと起こしてきた。

その一方、習主席はアメリカに対して、「太平洋は広いから米中両国を十分に収容できる」という趣旨のセリフを盛んに繰り返している。上述の「アジア新安全観」と照らし合わせてみると、中国の戦略的考えは明々白々である。要するに、太平洋を東側と西側にわけてその東側をアメリカの勢力範囲として容認する一方、太平洋の西側、すなわちアジア地域の南シナ海や東シナ海からアメリカの軍事力を閉め出し、中国の支配地域にする考えだ。

つまり、「太平洋における両国の覇権の棲み分けによって中国はアメリカと共存共栄できる用意がある」というのが、習主席がアメリカに持ちかけた「太平洋は広いから」という言葉の真意であるが、逆に、もしアメリカがアジア地域における中国の覇権を容認してくれなければ、中国はアメリカとの対立も辞さない、というのがこのセリフに隠されているもう一つのメッセージである。習近平は明確に、アジア太平洋地域における覇権を中国に明け渡すよう迫ったわけである。

アジア太平洋地域におけるアメリカのヘゲモニーは、世界大国としてのアメリカの国際的地位の最後の砦であり、死守しなければならない最後の一線である。近代以降の歴史において、まさにそれを守るがために、太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争という3つの対外戦争を戦い、夥しい若者たちの血が流れた。そうやって確保してきたアジア覇権を、今さら中国に易々と明け渡すわけにはいかない。


実際、オバマ政権になってからアメリカが「アジアへの回帰」を唱え始めたのも、2020年までに米海軍と空軍力の60%をアジア地域に配備する計画を立てたのも、まさに中国に対抗してこの地域におけるアメリカのヘゲモニーを守るためである。

経済面でもアジア支配の確立を目指す

さらに、習政権は経済面での「アメリカ追い出し作戦」に取りかかっている。2015年の春から、アメリカにとって重要な国であるイギリスを含めた57カ国を巻き込んでアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の構想を一気に展開し始めた。これは明らかに、日米主導のアジア経済秩序を打ち壊して中国によるアジアの経済支配を確立するための戦略であるが、アメリカの経済的ヘゲモニーにまで触手を伸ばすことによって、習政権は米国との対立をいっそう深めたと言える。

ここまで追い詰められ、流石にオバマ政権は反転攻勢に出た。そうしなければ、アジア太平洋地域におけるアメリカのヘゲモニーは完全に崩壊してしまうからだ

そして、4月下旬の日米首脳会談を受け、日本が先頭に立って中国のAIIB構想に対する対抗の措置を次から次へと打ち出した。

日本は、迷うことはない


その数日後、米軍は南シナ海での中国の軍事的拡張に対し、海軍の航空機と艦船を使っての具体的な対抗措置を検討し始めたことが判明した。アメリカはようやく本気になってきたようである。このままでは、南シナ海での米中軍事対立は目の前の現実となる公算である。

こうした中で、ケリー米国務長官は今月16日から訪中し、南シナ海での盲動を中止するよう中国指導部に強く求めた。それに対し、中国の王毅外相は「中国の決意は強固で揺らぎないものだ」ときっぱりと拒否した。中国はもはやアメリカとの対立を隠そうともしない。

そして21日、米国防総省のウォーレン報道部長は記者会見の中で、中国が岩礁埋め立てを進める南シナ海で航行の自由を確保するため、中国が人工島の「領海」と主張する12カイリ(約22キロ)内に米軍の航空機や艦船を進入させるのが「次の段階」となると明言した。

今月20日、アメリカのCNNテレビが、南シナ海で人工島の建設を進める中国に対して偵察飛行を行うアメリカ軍機に中国海軍が8回も警告を発したという生々しい映像を放映したが、それはまさに、来るべき「米中冷戦」を象徴するような場面であると言えよう。

ベルリンの壁の崩壊をもってかつての冷戦時代が終焉してから26年、世界は再び、新しい冷戦時代に入ろうとしている。以前の冷戦構造の一方の主役はすでに消滅した旧ソ連であったが、今やそれに取って代わって、中国がその主役を買って出たのだ。

米中の対立構造がより鮮明になれば、日本にとってはむしろ分かりやすい状況である。戦後の日本はまさに冷戦構造の中で長い平和と繁栄を享受してきた歴史からすれば、「新しい冷戦」の始まりは別に悪いことでもない。その中で日本は、政治・経済・軍事などの多方面において、同じ価値観を持つ同盟国のアメリカと徹頭徹尾に連携して、アジア太平洋地域の既成秩序を守り抜けばそれで良い。ここまできたら、迷うことはもはや何もないのである。

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【私の論評】今度はアジアに残った冷戦構造が鮮明になり、やがて崩壊する(゚д゚)!

石平氏は、戦後の冷戦体制は、ソ連が崩壊した後には消滅したという考えたのようです。しかし、私はそうは思ってはいませんでした。確かに、ソ連が崩壊した後、東欧諸国は民主化や、非共産化をすすめ、冷戦体制は消滅し今日に至っています。

最近は、ウクライナ問題などか持ち上がり、冷戦体制に戻ると指摘する評論家もいましたが、それは実現しないことでしょう。なぜなら、今やロシアは小国に過ぎないからです。今のロシアは、最盛期のソ連と比較すると比べ物にならないほど国力が衰退してしまいました。ただし、旧ソ連から引き継いだ核兵器が脅威であることは今も変わりはありません。

今や、GDPは日本の1\5程度で、人口も日本より2000万人ほど多い、1億4000万に過ぎません。軍事力も、旧ソ連の核兵器を受け継いでいるという強み以外は何もありません。軍事的には、アメリカなどの足元にも及ばない脆弱なものになってしまいました。おそらく、今のロシアはまともに戦争をしたらEUにも勝つことはできないでしょう。

だから、冷戦体制は消滅したというのは、ある面では正しいです。ただし、アジアに限っては冷戦構造は崩れませんでした。それについては、このブログでも以前紹介したことがあるので、そのURLを以下に紹介します。
中国が北朝鮮を「我が国の省」として扱う可能性を示唆―米紙―【私の論評】そう簡単に事は済むのか?!
銃殺刑に処せられた張成沢(チャン・ソンテク)氏

この記事は2011年11月のものであり、まだ張成沢(チャン・ソンテク)氏が銃殺刑に処せられる前のものです。

この記事では、当時の北朝鮮の将来がどうなるかを掲載するとともに、冷戦構造がアジアでは、継続されていることを掲載しました。

私の当時の北朝鮮の将来のみたては、しばらく実質集団指導体制が続き、その後本格的な権力抗争が発生するというものでした。

張成沢氏が、2013年12月12日に処刑され、最近では今年4月30日、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)が処刑されたということで、私の見立てはあたっていたと思います。

4月末に突然、処刑された玄永哲氏
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事より、アジアにおいては冷戦構造が終了していなかったという部分のみを以下にコピペさせていただきます。

わたしは、しばらく実質集団指導体制が続き、その後本格的な権力抗争が発生すると思います。おそらく、今から5年後くらいから、権力抗争が激しくなると思います。なぜ、そんなことがいえるかといえば、今のところ、どれも傑出した存在がないからです。 
いずれにせよ、東欧では終わった冷戦構造が、アジアではそのまま継続しています。なぜ、残ったかといえば、当事者であるはずの日本が、これに対して何もしてこなかったことにも要因があったと思います。 
もうそろそろ、日本も、こうした世界の流れに翻弄されだけではなく、自ら進むべき道を選べるようにすべき時期に来ているのではないでしょうか?そうでなけば、拉致問題はいつまでたっても解消できないでしょうし、これからも、世界の流れに翻弄されるだけの存在となることでしよう。 
世界特にアジアの国々は、過去のこの地域における日本の貢献を忘れてはならないと思います。日本が日露戦争に勝利したからこそ、朝鮮半島はロシアの傘下に収まることもありませんでした。その後も日本が中国にとどまったことにより、ロシアの浸食はありませんでした。 
もし、日本が、極東の一小国であり続けていたなら、朝鮮半島ならび、中国の満州いや、もっと広い中国の版図の一部もロシア領になっていた可能性があります。 
いやそれどころか、今頃日本などは存在せず、当時のソ連の傘下に収まっており、私たちは、公用語としてロシア語を日々語っていたかもしれません。いや、最悪は、関東以北がロシア領、以南が日本というように、今の朝鮮半島のように二分されていたかもしれません。そんなことになっていれば、今頃、このような、冷戦構造がなかったか、あるいはもっと酷い状況になっていたかもしれません。
ソ連の消滅によって、東欧諸国では確かに冷戦構造は消滅したのですが、アジアは何も変わりませんでした。中国と北朝鮮の体制は本質的に何も変わりませんでした。そうして、それは、日本がアジアにおいて何もしてこなかったことにも原因があります。

何もしなかったというより、何もできなかったということが正しいかもしれません。世界の動きに合わせて、日本が何もできなかったがために、そうして、特にオバマが大統領になってからは、中国に対して厳しい対処をとらなかったため、中国の野望を許してしまい、今日のブログ冒頭の記事のような事態を招いてしまったという事になると思います。

東欧では、確かに冷戦構造は終焉したのですが、アジアは何も変わらず温存されてしまったにもかかわらず、これに対して過去の政権は何もしてきませんでした。

まともに取り組もうとしたのは、安部総理のみです。

しかし、日本の野党などこのことに全く無頓着です。特に、安全保障法制をめぐる野党の質問は酷いものばかりです。これは、危機管理に関わることであるにもかかわらず、延々と平時の手続き論ばかりしているという有り様です。

東日本大震災における民主党の危機管理は最悪でした。しかし、彼らは未だ何も反省してないようです。現在、南シナ海で何が起こってるのかまるで、見えてないようです。他の野党も似たり寄ったりです。年をとって、白内障にでもなってしまったのでしょうか。

実際に、何をはじめるのか、到底理解できない中国の海洋進出に周辺国は困惑しています。しかし、放置すればいずれ日本もとんでもない事態に巻き込まれるでしょう。中国の海軍を押さえ込むために、何をすべきか?

そのリスクとリターンを議論すべき国会で、クイズばかりやってる馬鹿野党。あまりにレベル低過ぎて全く話にも何にもなりません。野党は、どうやって中国海軍の海洋進出を抑えこもうとしているのでしょうか。

まさか、憲法9条を尊重して、「話し合い」による解決を目指しているというのでしょうか。であれば、野党議員団で特別攻撃隊を結成し、今すぐ南シナ海に赴いて、南シナ海での中国の盲動の現場に立って、「話し合い」攻撃を仕掛ければ良いのではないでしょうか。

もしそんなことをすれば、張成沢氏のように機関砲で銃撃されて、全員玉砕することになると思いますが、それで日本の世論もかたまり、アジアの冷戦構造終焉のための、具体的な行動にすみやかに打って出ることができるようになるかもしれません。今の野党が、安全保障で役立つことができるとすれば、これくらいしかないかもしれません。まあ、そんなことは絶対にしないでしょうが・・・・・・・。

いずれにしても、日米同盟がより強固で緊密なものになり、アメリカにも安部総理のような大統領が出てくれば、アジアの冷戦構造も東欧のように瓦解することは間違いないものと思います。冷戦構造が瓦解したあかつきには、無論ソ連が崩壊したように、中国の現体制も崩れることになると思います。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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2019年8月22日木曜日

中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!


岡崎研究所

 ロシアがクリミア半島を併合して欧米諸国の経済制裁を受けるようになり、また、シリア問題で人権を蹂躙しているアサド政権を支援していることから西側諸国と離反するようになり、プーチン大統領は、東の中国を向くようになった。

 中国の習近平主席も、米国との貿易戦争やファーウェイの5Gをめぐる対立等で、ロシアと接近を図っている。


 ロシアは、最近、5Gで中国のファーウェイを採用することを決めた。また、中露は、海軍の合同軍事演習を活発化させている。仮想敵国は日米両国とも言われている。

 中露関係については、今やロシアは中国のジュニア・パートナーである。いま、中国のGDPはロシアの6倍であるが、その差はどんどん広がっている。IMF統計では、ロシアはGDPで韓国にさえ抜かれかねない状況である。

 プーチン大統領は、自分の取り巻きに利権を配分し、権力を維持しているが、国家としてのロシアを大きく衰退させてきた政治家である。石油資源に依存するロシア経済を改革するのが急務であるとわかっているのに、ほとんどそれができていない。

 ロシア史を見ると、ロシアの指導者は、スラブ主義を標榜してロシア独自の道を追求する人と、欧米との関係を重視する欧化主義者が交代してきている。ロシア独自の道に固執したスターリンの後の本格政権は、西側との平和共存を唱えたフルシチョフ(日本に歯舞と色丹の2島を返還する決断をしたが実現しなかった)であった。その後、スラブ主義者とも言うべきブレジネフが登場した。その後は、欧米との関係改善を目指したゴルバチョフ、エリツィンが指導者として登場した(その時には歯舞、色丹、国後、択捉の北方領土4島が日露間の交渉の対象であるとする東京宣言ができた)。 

 エリツィンは、プーチンを改革者であると考えて後継者に選び、自分の家族を訴追などから守ってくれることを期待した。

 プーチンは、後者の役割は義理堅く果たしたが、ユーラシア主義者として欧米に対抗する路線をとった。そういう経緯で、プーチンは必然的に中国に近づいた。それが今の中露の蜜月関係につながっている。

 しかし、プーチン後は、この蜜月関係が続く可能性よりも、ロシアの指導者が欧米重視主義者になり、この蜜月は続かない可能性の方が高いと思われる。

 プーチン政権の上記のような傾向にもかかわらず、中露間にくさびを打つという人がいるが、プーチンがいる限り、そういうことを試みてもうまくいかないだろう。北方領土で日本が妥協して、中露間にくさびを打つことを語る人もいたが、ピント外れである。

 7月27日付の英エコノミスト誌は、ロシアが中国の属国になってきていると指摘している。その指摘は正しい。ロシアがそれから脱したいと思う日は来るだろう。そうなったときには、ロシアとの関係を考える時であろう。

 中国が中露国境沿いで安定の源になるとの見方が一部にあるが、そういうことにはならないだろう。極東ロシアは約650万の人口であり、千葉県とだいたい同じである。他方、中国の東北には1億以上の人口がある。1860 年の北京条約で沿海州などはロシア領となったが、ロシアは2004年の中露国境協定の締結後、国境が決まったのだから、中国に北京条約は不平等条約であったとの教育をやめてほしいと要望しているが、中国はそれを聞かず、そういう教育を続けている。中露国境の安定を望んでいるのはロシアであって、必ずしも中国ではない。

【私の論評】中露対立が再び激化した場合、日本は北方領土交渉を有利にすすめられる(゚д゚)!

中露関係の歴史は17世紀、ロシアがシベリアを東進し、やはり東アジアに勢力を拡張していた清朝と接触したときにはじまります。その結果、両者が結んだ1689年のネルチンスク条約は、高校の世界史の授業でも習う重要事件で、名前くらいご存じでしょう。


この条約がおもしろいです。条約とよばれる取り決めなのだから、互いに対等の立場でとりむ結んだものです。しかし東西はるかに隔たった当時のロシアと清朝が、まさか全く同一のルール・規範・認識を共有していたわけはありません。にもかかわらず、両者は対等で、以後も平和友好を保ちえました。

なぜこのようなことが可能だったのでしょうか。わかりやすい事例をあげると、条約上でも使われた自称・他称があります。ロシアの君主はローマ帝国をついだ「皇帝(ツァー・インペラトル)」ですが、そのようなことが清朝側にわかるはずもなく、清朝はロシア皇帝を「チャガン・ハン」と称しました。

ロシアも中華王朝の正称「皇帝」を理解できず、清朝皇帝を「ボグド・ハン」と称しました。「ハン」というから、ともにモンゴル遊牧国家の君主であって、「チャガン」は白い、「ボグド」は聖なる、という意味です。つまり客観的に見ると、両者はモンゴル的要素を共有し、そこを共通の規範とし、関係を保っていたことになります。

それは単なる偶然ではありません。ロシア帝国も清朝も、もともとモンゴル帝国を基盤にできあがった国です。もちろん重心は、一方は東欧正教世界、他方は中華漢語世界にあったものの、ベースにはモンゴルが厳然と存在しました。両者はそうした点で、共通した複合構造を有しており、この構造によって、東西多様な民族を包含する広大な帝国を維持したのです。


そのため両者がとり結んだ条約や関係は、いまの西欧、ウェストファリア・システムを起源とする国際関係・国際法秩序と必ずしも同じではありません。露清はその後になって、もちろん国際法秩序をそれぞれに受け入れ、欧米列強と交渉、国交をもちました。しかし依然、独自の規範と論理で行動しつづけ、あえて列強との衝突も辞していません。これも近現代の歴史が、つぶさに教えるところです。

いまのロシア・中国は、このロシア帝国・清朝を相続し、その複合的な構造にもとづいてできた国家にほかならないのです。いわば同じDNAをひきついでいます。両国が共通して国際関係になじめないのは、どうやら歴史的に有してきた体質によるものらしいです。

中露が19世紀以来、対立しながらも衝突にいたらず、西欧ではついに受け入れられなかったマルクス・レーニン主義の国家体制を採用しえたのも、根本的には同じ理由によるのかもしれないです。中ソ論争はその意味では、近親憎悪というべきかもしれません。

西欧世界には、モンゴル征服の手は及びませんでした。その主権国家体制・国際法秩序、もっといえば「法の支配」は、モンゴル帝国的な秩序とは無関係に成立したものです。だからロシアも中国も、歴史的に異質な世界なのであって、現行の国際法秩序を頭で理解はできても、行動がついてこないのです。制度はそなわっても、往々にして逸脱するのです。

しかも中露の側からすれば、国際法秩序にしたがっても、碌なことがあったためしがありませんでした。中国は「帝国主義」に苦しみ、「中華民族」統合の「夢」はなお果たせていません。

ソ連は解体して、ロシアは縮小の極にあります。くりかえし裏切られてきた、というのが正直な感慨なのでしょう。中露の昨今の行動は、そうした現行の世界秩序に対するささやかな自己主張なのかもしれないです。現代の紛争もそんなところに原因があるのでしょうか。

そこで省みるべきは、わが日本の存在であり、立場です。日本はもとより欧米と同じ世界には属していません。しかしモンゴル征服が及ばなかった点で共通します。以後も国家の規模や作り方でいえば、日本は中露よりもむしろ欧米に近いです。

国際法・法の支配が明治以来の日本の一環した国是であり、安倍首相がそのフレーズを連呼するのも、目先の戦術にとどまらない歴史的背景があります。

クリミアはかつてロシア帝国の南下に不可欠の橋頭堡(きょうとうほ)であり、西欧からすればそれを阻む要衝でした。尖閣は清朝中国にとっては、なんの意味もありませんでしたが、現在の中国も過去には何の興味も持っていなかったにも関わらず、近海が地下資源の豊富でことが明らかになると、無理やり「琉球処分」にさかのぼる日中の懸案とされてしまい、中華世界と国際法秩序を切り結ぶ最前線とされてしまいました。

互いに無関係なはずの東西眼前の紛争は、ともに共通の国家構造と規範をもつ中露の、西欧国際法秩序に対する歴史的な挑戦ということで、暗合するともいえるでしょう。

たしかにいまの中露は、欧米に対抗するための「同床異夢」の関係にあるといってよいです。ただし、考えていることもちがうし、「一枚岩」になれないことはまちがいないです。

Russian Flag Bikini

プーチン露大統領と中国の習近平国家主席は昨年6月の中国・北京での首脳会談で、両国の「全面的・戦略的パートナーシップ関係」を確認。軍事・経済協力を強化していくことで合意した。

同年9月の露極東ウラジオストクでの「東方経済フォーラム」に合わせた中露首脳会談でも、両国は米国の保護主義的な貿易政策を批判したほか、北朝鮮の核廃棄プロセスへの支持を表明しました。

さらに同フォーラムと同時期に露極東やシベリア地域で行われた軍事演習「ボストーク(東方)2018」には中国軍が初参加。ロシアのショイグ国防相と中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防相が、今後も両国が定期的に共同軍事演習を行っていくことで合意しています。

しかし、同年10月24日付の露経済紙「コメルサント」によると、ここ最近、中国系銀行がロシア側との取引を中止したり、口座開設を認めなかったりする事例が相次いでいるといいます。

国際的な対露制裁の対象外の企業や個人も例外ではないといい、同紙は「中国側はどの企業が制裁対象なのか精査していない。その結果、全てをブロックしている」と指摘しまし。「この問題は今年6月の首脳会談以降、両国間で議論されてきたにもかかわらず、中国側は『是正する』というだけで、実際は何もしていない」と不満をあらわにしました。

同年同月26日付の露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータも「中国はロシアの友人のように振る舞っているが、実際は自分の利益しか眼中にない」と批判。「中国の経済成長の鈍化が進めば、中国政府は国民の不満をそらし、自らの正当性を確保するため、攻撃的な外交政策に乗り出す可能性がある。例えばシベリアや極東地域の“占領”などだ」と警戒感を示しました。

実際、露極東地域には、隣接する中国東北部からの中国企業の進出や労働者の出稼ぎが相次いでいます。極東に住むロシア人の人口は今後、減少していくと予想されており、同紙の懸念は「いずれ極東地域は中国の支配下に置かれるのではないか」というロシア側の根強い不安があらわれたものといえます。

同年同月29日付の露有力紙「独立新聞」もこうした中国脅威論を取り上げました。同紙は「ユーラシア経済連合と一帯一路との連携に基づく計画は、実際には何一つ実現していない」と指摘し、「中国によるロシアへの直接投資は、カザフスタンへの投資よりさえも少ない」と指摘しました。

経済発展が著しいウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国について、ロシアは旧ソ連の元構成国として「裏庭」だとみなしています。しかし、一帯一路も中央アジアを不可欠な要素と位置付けています。

地政学的に重要な中央アジアでの影響力を確保するため、ロシアと中国は、この地域への投資や技術供与、軍事協力の表明合戦を繰り広げており、表向きの双方の友好姿勢とは裏腹に、現実は協調とはほど遠いのが実情です。

このように、中露の友好関係は一時的なみせかけに過ぎないものであり、米国による対中国冷戦が長く続き、中国の力が削がれた場合、中露対立が激化することは必至です。そうして、その状況はしばらくは変わらないでしょう。

現状は、国力特に経済の開きがあまりにも大きすぎるため、さらにロシアは人口密度の低い極東において直接中国と国境を直接接しているという特殊事情もあるため、ロシアが中国に従属しているように見えるだけです。

しかし、プーチンは強いロシアを目指しており、文在寅のように自ら中国に従属しようなどという考えは毛頭ありません。

その実、ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方です。これはいずれ、中国に向かって大きく噴出します。

その時こそが、日本の北方領土交渉を有利に進められる絶好のタイミングなのです。また、米国が最終的に中国を追い詰めるタイミングでもあるのです。

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2019年4月4日木曜日

北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!


金正恩氏は東倉里から“人工衛星”を発射するのか

 北朝鮮が「人工衛星」と称して弾道ミサイルを発射する可能性が現実味を増してきた。北西部・東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射場の準備が完了したとの分析があるのだ。「Xデー」として、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の祖父、金日成(キム・イルソン)主席の誕生日(15日)などが予想されている。米朝首脳会談の決裂を受け、北朝鮮は再び「瀬戸際外交」に戻るのか。朝鮮半島の緊張が高まっている。

 「北朝鮮が東倉里長距離ミサイル発射場の整備を事実上終えた」「最高指導部が決心すればいつでも発射できる状態を維持中」

 韓国紙、中央日報(日本語版)は2日、韓国政府当局者がこう伝えたと報じた。

 記事では、北朝鮮が3月27日にドイツ、同29日にフィンランドで予定されていた会議への出席を、ドタキャンしてきたことも伝えた。こうした状況から、国会に当たる最高人民会議が開かれる今月11日や、日成氏の誕生日などに、「人工衛星打ち上げ」を強行する可能性もあると指摘した。

 北朝鮮は2017年11月29日を最後に、弾道ミサイルを発射していない。だが、2月末にベトナムの首都ハノイで行われたドナルド・トランプ米大統領と正恩氏による首脳会談が決裂してからは、ミサイル発射施設を整備する動きが、たびたび確認されている。

米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)と、北朝鮮分析サイト「38ノース」は3月7日、衛星画像に基づき、東倉里にあるミサイル発射場の構造物の再建が完了し、稼働状態に戻ったとの分析を発表した。

 北朝鮮は緊張を高めることによって、交渉相手に譲歩を迫る「瀬戸際外交」を得意としてきた。ただ、この手法が、トランプ氏や、北朝鮮が「死神」と恐れるジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に通用するかは不明だ。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「北朝鮮が弾道ミサイル発射や、ロケットエンジンの燃焼実験をする可能性は十分ある。発射までの経緯や打つ方向によって、その後の展開は変わってくるだろう。例えば、北朝鮮が『人工衛星』として発射予告をした時点で、米国が『絶対に許さない』と警告したにもかかわらず強行すれば、『戦争のリスク』を孕むことになる」と語った。

【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!

さる2月27、28日に行われた2回目の米朝首脳会談ですが、ドナルド・トランプアメリカ大統領と金正恩北朝鮮労働党委員長の会談は、事実上の物別れに終わり、共同声明すら出されませんでした。

なぜこのようになったかといえば、そのキーワードは、Status quo(ステイタス・クォー)です。この一言さえ意味が分かっていれば、今回の会談を読み解くなど、たやすいです。さらに、北朝鮮がミサイルの発射実験を開始したり、それら継続することになれば、どうなるかを予測するのもたやすいです。ラテン語の原語の意味では「現状」ですが、現代では「現状維持」とも訳されます。


米朝首脳会談に関係するアクターの中で、Status quoを望まない国はどこだったのでしょうか。そもそも誰がアクターなのかを理解していれば、愚かな報道には惑わされることはありません。

「朝鮮戦争が終結する」「日本人拉致被害者が帰ってくるかもしれない」「朝鮮半島の新時代に向けて、日本は巨額の資金供出をしなければならないのか」などなど。はっきり言いいますが、この状況で北朝鮮が日本人拉致被害者を一人でも帰してくるならば、何かの嫌がらせ以外にあり得ないです。

現代の情勢を分析する前に、Status quoを望まない国、すなわち現状打破勢力の歴史を知っているほうが、急がば回れで米朝会談の真相が見えてきます。

第二次世界大戦直前。1939年の時点で、現状維持勢力の代表はイギリスでした。しかし、大英帝国は既に絶頂期の勢力を失い、新興大国の米国が覇権を奪う勢いでした。英米の関係では、イギリスが現状維持国で、米国が現状打破国でした。

だが、両国には共通の敵のソ連がいました。ソ連は共産主義を掲げる、現状打破を公言する国でした。共産主義とは「世界中の国を暴力で転覆し、世界中の金持ちを皆殺しにすれば、全人類は幸せになれる」という危険極まりない思想です。

ソ連に対して、英米は共通の警戒心を抱く現状維持国でした。ここに、ナチスドイツが現れまし。アドルフ・ヒトラー率いるナチスは、第一次大戦の敗戦国としてのドイツの地位に甘んじないと公言する現状打破国でした。

英独ソの3国は主に東欧での勢力圏をめぐり抗争しました。現状維持を望む英国に対し、ドイツが東欧を侵略して第二次世界大戦がはじまりました。イギリスは米国を味方に引き入れドイツを倒したと思ったのも束の間、東欧を丸ごとソ連に併合されました。辛抱強く現状を変更できる戦機を待った、ソ連の独裁者・スターリンの悪魔のような慧眼の勝利でした。

ソ連の衛星国となった東欧諸国


さて、現代も現状維持勢力と打破勢力の相克で動きます。ただし、世界大戦のように劇的に動く時はめったにありません。では、東アジアにおいて、誰が今この瞬間の現状打破を望んでいるでしょうか。

昨年の米朝会談で、北朝鮮は核兵器の全面廃棄と今後の核実験の中止を約束しました。約束を履行した場合の経済援助も含みがありました。

北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。

この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。

だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。

ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。

ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。

では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。

米・中・露とも朝鮮戦争の再開など望んでいない

しかも、文在寅は在韓米軍の撤退を本気で考えています。そうなれば、朝鮮半島が大陸(とその手下の北朝鮮)の勢力下に落ちます。ならば、少しでも韓国陥落を遅らせるのが現実的であって、38度線の北側の現状変更など妄想です。

しかも、以前からこのブログにも掲載しているように、現状をさらに米国側から検証してみると、北朝鮮およびその核が、朝鮮半島全体に中国の覇権が及ぶことを阻止しているのです。北の核は、日米にとって脅威であるばかりではなく、中国やロシアにとっても脅威なのです。

さらに、韓国は中国に従属しようとしてるのですが、韓国は中国と直接国境を接しておらず、北朝鮮をはさんで接しています。そうして、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。そのため、韓国は米国にとってあてにはならないのですが、かといって完璧に中国に従属しているわけでもなく、その意味では韓国自体が安全保障上の空き地のような状態になっています。

この状況は米国にとって決して悪い状態ではないです。この状況が長く続いても、米国が失うものは何もありません。最悪の自体は、中国が朝鮮半島全体を自らの覇権の及ぶ地域にすることです。これは、米国にとっても我が国にとっても最悪です。

昨年の米朝合意は特に期限を設けていません。「本気で核廃絶する気があるのか?」「あるから制裁を解除しろ。金寄越せ」「順序が違う!」と罵りあっていて、何も困ることはありません。成果など不要なのです。

さて、米中露北の関係4か国の中で、今この瞬間の現状打破を望む国はゼロです。関係者すべてがStatus quoを望んでいるのです。「米朝会談成果なし」など、外交の素人の戯言に過ぎません。

そもそも、外交交渉における「成果」とは何でしょうか。自らの何らかの国益を譲歩することです。仮に一方的に要求をのませるとしたら相手の恨みを買います。それは降伏要求であって、外交ではありません。北朝鮮は中露を後ろ盾にしている限り米国に譲歩する必要もないし、逆に米国だって同じなのです。

今回の交渉は、続けること自体に意味があったのです。さて、わが日本はどうでしょうか。安倍晋三首相は、トランプ大統領に拉致問題の解決を要請したとされています。

そして、拉致問題の解決なくして1円も北に資金援助はしないとの立場を伝えたそうです。当たり前です。これまでの外交では、その当たり前のことを毅然とできなかったからと安倍外交を称賛しなければならないとしたら、本当に情けないことです。

今の日本は現状打破を望む必要はないです。交渉で被害者を取り返せば良いのです。全員奪還が我が国是です。だが、北は何人かを帰して幕引きにするカードをちらつかせています。日本に独自の軍事力がないから舐められているのです。日本の道は、防衛費増額しかないのです。

さて、北朝鮮が核実験や核ミサイルの発射実験を開始したらどうなるかということですが、先に述べたように、北朝鮮も現状維持を望んでいます。であれば、せいぜい人工衛星の打ち上げ実験程度にとどめて、あとは核実験や、ミサイル発射実験などはしないでしよう。

もし従来のようにミサイル発射実験や核開発をすれば、どうなるでしょうか。現状維持を望む、米国、中国、ロシアから圧力を加えられ、制裁がますます厳しくなるだけのことになります。そのようなことは、北朝鮮自身が望んでいないでしょし、余計なことをすれば、現状が崩れることを金正恩は理解していることでしょう。

にもかかわらず、北がミサイル発射実験や核開発を継続すれば、米国が軍事攻撃する可能性もでてきます。さらに、米国が中露にたとえ北朝鮮の体制が変わったとしても、現状維持することを約束するとともに、中露も現状変更をしないことを米国に約束すれば、中露は米国の北に対する軍事攻撃を許容する可能性も十分あります。そうなった場合には、米国は北を軍事攻撃することでしょう。

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2020年10月9日金曜日

立場の違いが明確に、埋められないEUと中国の溝―【私の論評】EUは、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与すべき(゚д゚)!

 立場の違いが明確に、埋められないEUと中国の溝

EUが対中包囲網に加わる流れが濃厚に

EU首脳と習近平・中国国家主席の間で行われたビデオ会議(2020年9月14日)


(澁谷 司:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長)

 今年(2020年)9月14日、習近平主席は、メルケル・ドイツ首相や他の欧州連合(以下、EU)首脳らとビデオサミットを開催した。メルケル首相に加えて、ウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(ドイツキリスト教民主同盟所属)とシャルル・イヴ・ジャン・ギスレーヌ・ミシェル欧州理事会議長(元ベルギー首相)も出席した。

 このサミットでは、中国とEUの立場の違いが鮮明になっている。周知の如く、中国は米国との関係が悪化した。そこで、北京はEUとの良好な関係維持を模索している。他方、EUは中国の香港やウイグル等での人権抑圧を批判しながらも、同国との経済関係維持を望んでいた。

人権問題に関して異なる見解

 アメリカの国営放送局のサイト『美国之音(VOA:ボイス・オブ・アメリカ)』(2020年9月15日付)に掲載された趙婉成の「EU-中国首脳会議は多くの困難な問題に直面」という記事が興味深いので紹介したい。

 同会議前、参加各国は相手国の輸出品を保護するため、地理的表示が明らかな食品・飲料に関する協定に署名した。

 例えば、スパークリングワインについて、中国はフランス・旧シャンパーニュ地方産のみ、その名の使用を許可する。協定で保護された他の製品には、アイリッシュウイスキー、イタリアのパルメザンハム、ギリシャのフィタチーズ、中国四川省成都市郫都区の豆板醤(とうばんじゃん)、同浙江省湖州市安吉県の白茶、同遼寧省盤錦市の米などがある。

 昨2019年、中国はEU内で第3位の農産物・食品輸出国だった。その輸出額は145億ユーロ(約1.8兆円)に達する。

 今回の会談では、人権問題が最も扱いにくいテーマだった。目下、香港・新疆等をめぐり、中国と欧州の見解の相違が日増しに深まっている。そのため、EU諸国の北京への対応が強硬になった。

 例えば、今年8月26日、EUは香港の警察が林卓廷(Lam Cheuk Ting)民主党議員など民主活動家数十人を逮捕したことを指弾した。また、EUは新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する中国の弾圧に抗議している。

 他方、中国は世界最大の温室効果ガス排出国である。そこで、EUは中国が温室効果ガス削減に関して、さらに大きな国際公約を宣言し、遵守することを望んだ。

 なお、EU委員会は今年6月に発表した報告書では、新型インフルエンザが武漢で発生した際、中国共産党がソーシャルメディアを利用して嘘の情報を流したと論難した。確かに、習近平政権は、偽情報で中国のイメージを改善しようと試みている。

 以上が概要である。

 農産品については、中国とEUともに、一定の成果を上げたと考えられよう。しかし、人権問題に関しては、両者の溝が埋まることはなかった。

EUが米中間で中立を維持することは不可能

 次に、同じく『美国之音(VOA)』に掲載された樊冬寧の「話題の対話:習近平の“連欧で米を制す”に対し、トランプは中東カードを使用か?」(2020年9月18日付)という記事も面白いので、紹介しよう。

 まず、上海の復旦大学中国研究所研究員、宋魯鄭は「中国はEUにとって軍事的脅威とはなり得ないので、双方に地政学的な対立はないだろう。もしEUが中立を維持すれば、米国と中国の両方から利益を得ることができる」と主張した。

 一方、政治評論家の陳破空は、今度の中国・EU首脳会議は北京政府にとって思惑通りに事が運ばなかったと指摘している。EUの指導者たちは北京に対し、人権・ウイグル・香港問題などを非難した。だが、習近平主席はEUにとって肯定的な反応を示さなかったのである。

 また、陳はEUが米中の間で中立を維持することは不可能だと喝破した。同首脳会議では人権問題以外、他の主要議題でも、EUと米国の立場が一致している。

 例えば、市場アクセス、市場開放など、欧州は中国商品に常に門戸を開いているが、中国は欧州の資金と商品に制限を設けている、と陳は指摘した。

 さらに、陳は、欧州は会談直後、新疆とチベットの問題を取り上げた。ドイツの外相らは、米国と類似した方式で、「ドイツ版インテリジェンス戦略」を提示したと述べた。

 以上が概略の一部である。

さらに深まったEUと中国の溝

 今回のビデオサミットで、習近平主席はEUを利用して中国の“四面楚歌”状況を打破したいという狙いがあった。けれども、香港を含む中国国内の人権問題で、中国とEUは鋭く対立し、両者の溝はさらに深まった観がある。

 「新型コロナ」後、習近平政権は「戦狼外交」を展開したが、外交的手詰まり状態に陥った。そこで、今年9月下旬から10月初めにかけ、王毅外相が外交的突破口を開くため、欧州5カ国を訪問した。だが、王が香港での市民弾圧やウイグルの人権抑圧等で仏独から弾劾されている。

 今後、習近平政権が人権問題で政策転換をしなければ、EU諸国は、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与するに違いない。

[筆者プロフィール] 澁谷 司(しぶや・つかさ)
 1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。2020年3月まで同大学海外事情研究所教授。現在、JFSS政策提言委員、アジア太平洋交流学会会長。
 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

【私の論評】EUは、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与すべき(゚д゚)!

中国との対決をずっと拒否し政治的に無作為だった欧州の指導者たちが、ついに立ち上がり始めたようです。ここ数年、ニュースの見出しを飾ってきたのは圧倒的にトランプ大統領と米中貿易戦争でした。

しかし、世界最大の貿易ブロックである欧州連合(EU)も米国と同様、中国には数々の不満を抱いており、欧州のモノやサービスに対して中国は非常にねじ曲がった貿易慣行や制限を課しています。新型コロナウイルスで欧州諸国が高い犠牲を払っていること、そして中国が欧州の不運につけ入り利益を得ようしていることが、多数の欧州指導者に行動を促すきっかけとなりました。

在中国の欧州企業関係者にとって、中国市場の競争条件の不公平さは周知のことで、企業グループやシンクタンクによる多くの報告書は何度となくこの問題を強調してきたのですが、欧州は従来、米国と比べて対決的な役割はあまり演じない道を選んできました。

EUは昨年から中国を「体制上のライバル」と呼び始めましたが、積極的な反発は限られたものでした。

その理由の一つは、EUのガバナンス構造に内在する弱点にあります。欧州は国ではなく地理上の圏域であり、EUも国家ではなく、英国離脱前は28、現在は27の加盟国をまとめている超国家的な組織です。

何事も全加盟国のコンセンサスがなければ実効性を持たないのです。共通通貨ユーロを使わない国もまだあります。全加盟国に国境を開放する国もあれば、そうでない国もあります。経済的に重要であることは確かですが、意見が一致した組織ではなく、実際のところ中国に関しては一致していませんでした。

中国については、積年の経済問題や市場アクセスに加えて、政府による人権侵害の拡大が欧州にとって無視できないほど深刻になってきています。チベットおよび東トルキスタンとして知られる新疆ウイグル自治区での文化的虐殺、台湾を国際舞台で孤立させようとする理不尽な要求、香港での厳しい弾圧と国家安全維持法の導入は目に余るものとなり、欧州の指導者たちは声を上げるようにりました。

これらの懸念に加えて、欧州の政策の中心である気候変動や持続可能なエネルギーの分野でも、かつて重要なパートナーと思われていた中国は約束を守らず、国内外で石炭ベースのエネルギー生産を拡大し続けています。

そして、最近の出来事により欧州の対中認識が一段と硬化しました。欧州の中国に対する政策が徐々に米国に歩み寄る中で、この8月には中国の王毅外相が欧州各地を歴訪して、「ご機嫌取り」の攻勢をかけ、一定の親善関係を形成しようとしたためです。

王毅氏は、ご機嫌を取ることには失敗したのですが、その攻勢は非常に強力でした。王毅氏のやり方は、意に沿わないことに直面するとホスト国を脅すことでした。ノルウェーでは、香港に関連した抗議活動家や抗議グループへのノーベル平和賞の授与が脅しの対象になりましたた。

中国の王毅外相は欧州5カ国を歴訪し、ノルウェーのスールアイデ外相(右女性)らと会談

ドイツではハイコ・マース外相との共同記者会見で、チェコ上院議長の台湾訪問について、チェコは「高い代償」を払うことになると語りました。これは即座にマース氏の非難を招き、マース氏は王毅氏に対し、「脅しはここにふさわしくない」と述べ、欧州では国家間の関係についてそのような振る舞いはしないと指摘しました。

フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース最高経営責任者が、新疆ウイグル自治区の収容所について知らないと発言した18か月前とは様変わりです。こうした欧州の新しい雰囲気は新鮮な息吹です。

これまで欧州の指導者たちが政治面や経済面で中国に対抗しようとしたときでさえ、足並みの乱れがあったため、その内容は限られていました。EUの枠組みの性格上、中国はドイツの産業界の首脳らにエネルギーを集中しました。

これは昨日もこのブログに掲載したばかりですが、ドイツも対中輸出への依存度が高く、最大の顧客である中国を批判することには消極的でした。中国はまた、中・東欧17か国と中国からなる経済協力の枠組み である「17+1」 のような、より小さな欧州諸国グループの同盟を構築しようとしています。

このグループは最近ギリシャを加えて拡大されましたが、ギリシャへの大規模な港湾投資以外は投資や大規模プロジェクトに関してこれといった見るべきものはありません。しかし、こうした諸国へのアプローチが友人を増やし、ハンガリーとギリシャの両国は中国を批判しようとしたEUの声明の表現を弱めさせる役割に回りました。

しかし、そのような「友情」ははかないものかもしれないです。これらの欧州諸国は、中国への真の親近感からというより、EU主要国による扱われ方への不満を示す手段として中国を見ている可能性がありまか。

欧州内部の足並みを乱す上での中国の最大の成果は、中国流のグローバリゼーションである「一帯一路構想」にイタリアが参加したことです。イタリアはEUの創設メンバーであり、「一帯一路構想」に参加した唯一の欧州先進国であることからみれば、確かに中国にとっては成功ではあります。しかし長続きはしないでしょう。

欧州の指導者は「体制上のライバル」である中国の脅威への対処は遅れたかもしれないです。しかし、イタリアの「一帯一路構想」への参加や、ギリシャの海運と港湾インフラへの大規模な投資、それに今年の新型コロナウイルス発生後の誤った情報やあからさまな嘘によって、欧州は中国と対処するに当たって疑念を抱かざるを得なくなりました。

英国のEUからの離脱も、中国対欧州の構図の上で複雑な問題です。10年前、英国のデービッド・キャメロン首相とジョージ・オズボーン財務相は経済と投資を中国政策の中心に据え、中英関係の黄金時代の幕開けを両国は歓迎しました。

EU離脱派の見解は異なりますが、現実には英国はEU内において特に単一市場確立の推進役であり、EU内部の議論の際には多くの国、特に北欧諸国が英国によって追い詰められました。英国はもはやEUのメンバーではなく政策に直接影響を与えることもできないです、今は中国に対して批判の急先鋒です。

英国 ボリス・ジョンソン首相

5G導入を巡るファーウェイに対する英国の態度の急変は中国にショックを与えましたが、それだけでなく英国は香港の保護についても驚くほど強硬な立場を取りました。300万人にも上るかもしれない香港市民に英国市民権の道を開こうとする英国の姿勢は、中国を激怒させています。

欧州が対中行動に消極的なのは、多くの欧州人、特に政治エリートがドナルド・トランプ氏を嫌っているからです。中国に関して欧州と米国は共通の不満を抱えているが、「アメリカ・ファースト」の政策は、欧州にもトランプ大統領の怒りの矛先が向いていることを意味します。

中国に対抗しようとすれば、トランプ大統領やポンペオ国務長官の側についたとみなされがちで、これはほとんどの欧州指導者が望んでいませんでした。彼らは国家レベルの懸念は理解していたものの、トランプ氏のアプローチのレトリックと態度が不愉快だったのです。

欧州の指導者は、訪欧したポンペオ国務長官から自国ネットワークでのファーウェイ使用を禁止しないなら米国の情報・軍事の協力から外されると言われた際に、脅しに応じて動いたと思われたくはなかったのです。たとえファーウェイを巡る安全保障上の懸念に加え、競合関係にある欧州のエリクソンやノキアの中国市場へのアクセスが非常に制限されていることは認めるにしてもです。

米国とEU(英国を含む)の対中政策が近づきつつある中で、両者にはなお大きく相違する部分があります。米中の第1段階の貿易合意で欧州は動揺しました。合意は開かれた自由貿易の考え方に逆行し、米国が中国の膨大な需要を囲い込むことにより、欧州の企業や産業にとって不利になると受け止めたからです。

これと同様に重要なことがある。米中間のいかなる貿易合意とも矛盾しているように見えるものですが、それは両国経済を切り離すデカップリングの問題です。

王毅外相の訪欧は、ここ数か月にわたる欧州での中国への反発を受けて、親善関係を回復するとともに、中国共産党の習近平総書記とEU議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相とのオンライン形式の会議を前に、その土台づくりをするのが狙いでした。

メルケル首相の6か月間の輪番制EU議長国職は間もなく任期が終わります。習氏はまた、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長や欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長ともビデオ会談をしました。習氏は王毅氏のように反感を引き起こすことはありませんでしたが、ほとんど成果はありませんでした。

貿易と投資環境の改善を重視したい人たちもいますが、長期にわたって未決着の包括的投資協定(CAI)については、中国側になすべき大きな課題があります。中国は経済の在り方を根本的に変える必要がありますが、それが実現すると考えている人はまずいないでしょう。

 習氏の厳格な支配の下で、国家と党は経済のあらゆる分野にその力を押し付けてきました。これに関して習氏の立場を変えるものは何もありません。彼は相互利益や共有された未来などについて立派な発言をするかもしれないいですが、実態は何も変わらないでしょう。

習氏は国際社会が望んだものを何も提供できないですが、彼は、世界は変化しており、その変化は中国にとって好ましい方向でないことを知っておかなければならないです。欧州は、中国による国際規範を踏みにじる行為についてようやく口にし始めましたが、言葉の変化は始まりにすぎないです。

昨年末に就任したばかりのジョセフ・ボレルEU外務・安全保障上級代表は、世界で独裁的な政権が増えている中、米国とEUの対話の必要性と、同じ志を持つ民主主義国と協力する必要性を提案しています。ボレル氏はロシア、トルコ、中国に明示的に言及しています。

ジョセフ・ボレルEU外務・安全保障上級代表

問題は、EUがそのようなグループをつくり、大統領であるトランプ氏とともに意味のある政策を策定できるかどうかです。 それとも、中国に対するEUと米国の姿勢の歩み寄りは、欧州指導者の個人的な好みにより近いバイデン氏の大統領就任にかかっているのでしょうか。

 今の段階では誰にも分かりません。 欧州が直面している問題は、中国との対決の必要性はあと4年も待っていられないということです。欧州は早急に行動を起こす必要があり、米国と行動を共にすべきです。

新型コロナウイルスの世界的大流行は、今後何年にもわたって経済的、政治的ショックをもたらすでしょう。志を同じくする民主主義諸国の協力が不可欠です。中国はもはや欧州で自由に振る舞えず歓迎もされないでしょう。時代は変わったのです。

しかし、特定の取引や個別の発言を制限したり、国際社会での悪弊を非難したりすることは、世界最大の貿易ブロックにふさわしい対中政策ではありません。欧州は中国に関してこれまでとは異なるスタイルで関わったり対抗したりできるはずですが、現状はそうした動きとほど遠いです。

欧州はボレル氏の提案を実行に移し、米国との間で分断ではなく一層の団結を実現しなければならないです。特に中国の台頭に対応するためにはそれが必要です。

特にEU内でも、ドイツ、フランス等にとっては、中国は大きな脅威にはならないかもしれないです。きっと自ら防ぐことができるでしょう。しかし一方で、中国は欧州の東欧や中欧等の比較的経済に恵まれない国々の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は経済・軍時的にも弱く、市民社会も比較的弱く、他国に介入されやすいからです。それこそがEUにおける大きな危機です。

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