2021年11月5日金曜日

戦闘機導入問題で揺れるトルコと欧米露の関係―【私の論評】日本人は親日国トルコの情勢を客観的にみるべき(゚д゚)!

戦闘機導入問題で揺れるトルコと欧米露の関係

岡崎研究所

 トルコは戦闘機をどのように近代化させるのかという問題に直面している。トルコは本来、米国の第5世代戦闘機F-35を導入する予定であったが、2019年にロシアの防空システムS-400を導入したことに米国が反発し、トルコはF-35共同開発計画から締め出された。その結果、トルコ空軍はF-16戦闘機に頼らざるを得なくなり、最近、米国に対し、40機の新型F-16と現有の80機のF-16をアップグレードする近代化キットへの要請を出した。


 トルコへのF-35の供与が凍結されたのは、米国の主張によれば、ロシアの防空システムS-400導入により、F-35の脆弱性がロシア側に明らかになる可能性が出てきたためである。トルコが同盟の精神をないがしろにしたと批判されても当然であろう。

 米国がF-35のトルコへの供与をやめたことは根拠のある判断である。その結果、トルコの戦闘機がF-16頼りになったことは、いわばトルコの自業自得というべきものではあろう。そういう状況の中で、トルコがF-16戦闘機の新型、および現有F-16戦闘機のアップグレードのための協力を求めているわけである。

 しかし、10月14日付けフィナンシャル・タイムズ紙の解説記事‘Turkey’s search for fighter jets puts Biden in a bind’によれば、F-16はF-35と異なり、S-400の導入により脆弱性を増すという事情はないとのことである。そういうことであれば、トルコのF-16に関する要求は厚かましいところがあるが、米は同盟国としてトルコの要請にこたえてしかるべきであろう。議会は反対かもしれないが、バイデン政権としてトルコの要請を認めるように働きかけるべきであろう。

 NATOは、同条約5条が、加盟国は一カ国への攻撃は全ての加盟国に対する攻撃とみなし全加盟国が攻撃された国を守るとしている、と規定している通り、強固な同盟である。各国の防衛努力はNATO全体にとっても重要であり、腹立ち紛れで対応すべき問題ではない。トルコが同盟国である限り、それなりの敬意を払うべきであろう。

トルコで積もり始めているロシアへの不満

 トルコ・ロシア関係について言えば、トルコのロシアに対する不満はかなり大きく、トルコをロシア側に追いやらないかぎり、ロシア・トルコ間において同盟類似の関係はありえない。黒海をはさんでトルコとロシアは対峙しているが、ロシアのクリミア併合をトルコは認めておらず、ウクライナの立場を支持している。ウクライナには無人航空機をトルコが出すという話もある。

 シリアでは、イドリブでトルコ兵士が20人ほど死亡する衝突事件があったが、ロシア軍の関与が疑われている。さらにコーカサスでのアルメニア・アゼルバイジャン戦争ではロシアがアルメニア側につき、トルコがアゼルバイジャン側につき、アゼルバイジャンが勝利したこともあった。

 トルコ・ロシア関係はトルコと欧米の関係よりもっと難しい関係と見ておいてよい。トルコのF-16に関する要求に応えることで、トルコを欧米側に引き付けて置けるし、そのことは欧米側にとっても利益になると思われる。

【私の論評】日本人は親日国トルコの情勢を客観的にみるべき(゚д゚)!

3月24日人権NGO(非政府組織)ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領が先週、女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約からトルコを脱退させたことを受け、トルコが「前例のない」規模で「人権保護を破壊している」と非難しました。

エルドアン・トルコ大統領

この動きは、トルコの検察長官が、野党である親クルド派の人民民主党(HDP)を、「国家と国との不可分の一体性に反する行為」をしたとして活動停止にする計画を発表したことを受けたもので、全国の都市で党員の逮捕が相次いる中での出来事です。

エルドアン大統領は国民民主主義党(HDP)について、テロ組織指定されているクルディスタン労働者党(PKK)を支援しているとして非合法化を要求、3月17日には最高検 察庁が憲法裁判所にHDPの解党を申請していました。

トルコでは、クルド人が約2割を占めるとされています。PKKは1984年から武装闘争を続け、トルコや米国、EUがテロ組織に指定。政府は、PKKによる攻撃で、これまでに4万人以上が犠牲になったとしています。トルコ軍は現在も、同国南東部やイラク北部で空爆などを含めたPKK掃討作戦を続けています。

PKKの女性民兵

HRWのケネス・ロス事務局長は、エルドアン大統領が「トルコ社会の再構築に向けた幅広い取り組みを妨げるあらゆる機関や社会の部分を標的にしています」と述べています。

「議会の反対勢力、クルド人、女性に対する最近の動きは、人権と民主主義の保護に違反して、大統領が権力を維持するためのものです」

HRWは、エルドアン大統領が宗教的に保守的な層にアピールするために、イスタンブール条約として知られる「画期的な」欧州評議会の条約を「武器」にしていると非難した。

イスタンブール条約は、女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約、通称イスタンブール条約は、2011年5月11日にトルコのイスタンブールで署名された女性に対する暴力と家庭内暴力に反対するための欧州評議会の国際人権条約です。 この条約は、暴力の防止、被害者の保護、加害者の免責の撤廃を目的とします。

「今回の(条約からの)離脱決定は、トルコにおける女性の権利を守るための闘いを大いに後退させるものであり、政治的スペクトラムを問わず、すべての女性にとって大きな打撃となります」とロス事務局長は述べました。。

HRWは、HDPの活動停止計画は、何百万人ものクルド人の民主的権利に対する攻撃であると言います。また、トルコでは過去30年間に他の5つのクルド人政党が閉鎖されていると彼は付け加えました。

「2018年の総選挙で全国的に11.7%の票を獲得し、55人の選出議員を擁する政党を閉鎖するための訴訟を開始することは、政治的結社と表現の権利に対する大きな攻撃です」とロス事務局長は述べました。

「この動きは、600万人近くの有権者が選んだ代表者を否定し、投票権を侵害することになりかねません」

HRWによると、トルコの検察長官は、HDPに対する広範な弾圧の一環として、687人のHDPメンバーを政治活動から追放することも求めているといいます。

人権重視をうたう米バイデン政権は、国務省が3月17日、「(解党は)有権者の意思を不当に覆し、民主主義を阻害する」との声明を発表しました。欧州からも懸念が表明されたのですが、トルコ外務省は同月18日、名指しは避けつつ、「無節操に行動し、我々の内政に干渉するものに対し、トルコの独立した司法による法手続きを尊重するように求める」と主張しました。

トルコがテロ組織とみなしているクルド系武装組織を、米国が過激派組織「イスラム国」(IS)掃討のため支援している問題でも強い不満を抱えています。エルドアン氏は9月下旬、米トルコ関係が「健全ではない」と不満をあらわにしました。

トランプ前政権に比べてバイデン大統領はエルドアン大統領に厳しい姿勢で知られています。
トルコ側はいらだちを強めています。チャブシオール外相は10月28日の地元テレビで、米国が売却に応じなければロシアからの導入を検討する考えを示しました。ロシア製への切り替えは軍制全体に影響するため現実的でないですが、米側を揺さぶる狙いが透けてみえます。

エルドアン大統領は、10月には、トルコに対して人権活動家の釈放を要求した米欧など10人の駐トルコ大使を追放すると宣言しました。

ただし、後にエルドアン大統領は、各国の大使館が内政に干渉しないとする声明を発表したことを受けて処分を見送る方針を示しました。ようやく開催された10月31日のバイデン、エルドアンによる首脳会談では協議の継続を確認するのみで、具体的な進展はみられませんでした。

バイデン(左)、エルドアン(右) 首脳会談

「バイデン大統領は前向きだった」。トルコのエルドアン大統領は20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に際してバイデン氏と会談し、その後に開いた記者会見で、トルコが米国に売却を求めている戦闘機F16についてこう語りました。

もっとも、両国の声明などによると、合意事項は貿易量の増加に向けた協議の枠組み設置にとどまりました。米高官は記者団に対し「(バイデン氏は)トルコの要求を理解している」などと述べるにとどめ、微妙な温度差ものぞかせました。

米トルコ関係が専門のイルハン・ウズゲル元アンカラ大教授は「両者は互いに主張を伝え、継続協議としただけでF16を巡る実質的な進展はなかった」とみています。

トルコは兵員規模でNATO2位を占め、米国や欧州にとっては中東や旧ソ連圏に接する戦略的に重要な同盟国です。その同盟国への武器売却が円滑に進まないのは、両国間に近年生じた深刻な相互不信のためです。

ホワイトハウスの声明によると、バイデン氏は会談でS400への懸念のほか、人権や民主主義、法の支配の重要性を訴えたといいます。米国ではエルドアン政権の強権ぶりに対する懸念が高まっています。仮にバイデン政権が戦闘機売却を認めても、米議会が承認する見通しは立たない状況です。

双方が譲歩し、同盟関係を根本から揺るがしかねない追放劇は回避されたが、溝の深さは改めて浮き彫りになりました。

一方トルコ国内に目を転じると、2019年に国外へ移住したトルコ人は前年比2%増加しました。トルコ統計局が発表した公式統計によると、国外へ移住したトルコ人は合計330,289人に達し、そのうち40.8%は20~34歳でした。トルコの人口は、8,434万人 (2020年)ですから、これは決して無視できない数字です。

イスタンブール政治研究所のセレン・セルビン・コルクマズ常任理事によると、この調査結果は、若者たちがトルコを離れる理由が、主に労働条件や生活水準、仕事の機会、そして自由のためであることを示しているといいます。

「移住は日常の苦闘からの出口戦略になります。国内では若者の失業率が25%以上に達しており、若者の多くが、依然として家族の経済的支援を受けているか、低賃金で働いている状況です」とコルクマズ氏は語りました。

これでは、バイデン政権がトルコの要請をなかなか、受け付けられないのも無理はありません。

トルコは日本国内では、親日国といわれますが、日本人はそれはそれとして、現在のトルコの状況を客観的にみていく必要があります。

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米、台湾防衛巡る曖昧さ減らすべき=下院情報委員長―【私の論評】米国は戦略的曖昧さを捨て去り、米軍の卓越した海戦能力を用い中国の台湾侵攻を阻止すると明言すべき(゚д゚)!

2021年11月4日木曜日

米、台湾防衛巡る曖昧さ減らすべき=下院情報委員長―【私の論評】米国は戦略的曖昧さを捨て去り、米軍の卓越した海戦能力を用い中国の台湾侵攻を阻止すると明言すべき(゚д゚)!

米、台湾防衛巡る曖昧さ減らすべき=下院情報委員長

米下院情報特別委員会のアダム・シフ委員長(民主党)

米下院情報特別委員会のアダム・シフ委員長(民主党)は3日、バイデン政権は米国の台湾政策を巡る曖昧さを減らす必要があるとの見方を示した。アスペン・セキュリティ・フォーラムで述べた。

米国は1979年の台湾関係法に基づき、台湾に自衛手段を提供することが義務付けられているが、台湾が攻撃を受けた際に米国が軍事介入するかどうかは明確にしない「戦略的曖昧さ」と呼ばれる政策を取っている。

シフ氏はこれについて「曖昧さは大きいより小さい方がおそらく好ましい」とし、「われわれは台湾防衛義務について、より明確にする必要がある」と述べた。

また、米政府が他国と連携し、「武力で台湾侵攻・併合を試みればどれほどの代償を払うことになるか、中国に極めて明確に示す」必要があると述べた。

ロシアによるウクライナ侵攻とクリミア併合を引き合いに出し、国際的な抑止を強めなければ、「中国とロシアは今世紀に武力で世界地図を塗り替えることが再び容認されると感じるだろう」と指摘。

米国や同盟国が中国に対し、台湾攻撃が招く経済的な結果は受け入れがたいほど大きくなると理解させることが重要とし、「それが最も効果的な抑止になるかもしれない」と述べた。

米国の立場をより明確にすべきとする一方、「台湾を軍事的に支援するかどうかの議論には微妙なラインがある」とし、「台湾への武力行使に関する中国の考え方や時期を加速させるような表明はすべきでない」と述べた。

バイデン米大統領は10月、台湾が中国に攻撃されれば米国は台湾を防衛すると発言。戦略的曖昧さの立場から逸脱したかに見えたが、ホワイトハウスは直ちに、米国の台湾政策に変更はないと説明した。

【私の論評】米国は戦略的曖昧さを捨て去り、米軍の卓越した海戦能力を用い中国の台湾侵攻を阻止すると明言すべき(゚д゚)!

このブログにも過去に何度か掲載してきたように、現在の中国軍と台湾軍の戦力差ならば、軍事侵攻自体は可能でしょうが、米国政府は在日米軍をはじめとする部隊を送り、介入するはずです。

特に攻撃力に優れた攻撃型原潜による潜水艦隊ならびに対潜哨戒機や艦艇などを派遣するのは確実であり、そうなると、中国には全くといって良いほど勝ち目はありません。

米海軍「P-8A Poseidon」対潜哨戒機

特に、海戦、空戦ではボロ負けするでしょう。米軍は対潜戦闘(ASW)では、世界一の対潜哨戒能力を有しているので、いち早く台湾近海に米攻撃型原潜を派遣して中国の潜水艦をことごとく撃沈して、米軍への脅威を取り除くことになるでしょう。

米軍には「見えない空母」とも言われる巡航ミサイルを多数積載した攻撃型原子力潜水艦(SSGN)が4隻あります。1隻でトマホークを154発積むことができます。

600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないのです。

そうして、米軍は攻撃型原潜で台湾を包囲するでしょう。そうなると、台湾に近づく艦艇はことごとく撃墜、航空機は撃墜されることになります。そうして、中国は米攻撃型原潜の包囲をとくことができず、台湾侵攻はできなくなります。

それでも、多大な犠牲を出してでも台湾に人民解放軍を上陸させたとしても、潜水艦に包囲されていれば、補給ができず、お手上げになるだけです。

仮にそれをさらに、打ち負かしたとしても、その後、民主主義が浸透した人口2300万人の台湾を統治するためには、統治機構を作り直さなければなりません。例えば、警察や軍の組織、選挙制度、教育制度などです。

これら一連の膨大な作業が必要であり、すべてがきちんとできて初めて統治に「成功した」と言えるのです。できなければ、現在のチベット自治区や新疆ウイグル自治区以上の不安定要因を中国は内部に抱えることになります。

しかも、台湾は大陸から離れているので、統治はさらに難しくなることが考えられます。中国は国土と人心が荒廃した台湾ではなく、自国の発展の役に立つ台湾を欲しているのです。それが成就できなければ、それを手にいれるためにほとんど勝ち目のない軍事的な侵攻をするのは無謀で愚かなことです。

それでも、中国が台湾に侵攻する可能性はあります。それは主に二つの要因によるものと推測できます。

まず第一は、中国が勝てると誤解することです。以前から述べているように、現代の海戦の本当の戦力は潜水艦であるといえます。水上に浮かんでいる艦艇は、ミサイルなどの標的に過ぎず、いずれ必ず撃沈されるからです。

潜水艦による戦いということになれば、上でも述べたように圧倒的に米軍が強いです。それについては、現場の軍人は熟知しているでしょうが、中共の幹部は知らない可能性があります。

世界の軍事力などを比較するジェーン年鑑などで、中国の海軍力などが報告され、それには艦艇の数などが掲載されていて、軍事的な知識がないと、中国海軍は世界一と思い込むときがくるかもしれません。

しかし、中国は先進国の軍隊とまともに戦った経験がありません。大東亜戦争中に日本と戦ったのは、現在台湾に存在する国民党の軍隊でした。中国はベトナムと戦った惨敗した経験があるのですが、その当時とは根本的に状況が違うと考えたり、中国海軍はまともに海戦を戦ったことが一度もないにもかかわらず中国海軍は世界最強で米軍と戦っても勝つとの幻想をいだく中共幹部もいるかもしれません。

1979年の中越戦争では中国は惨敗

そうなると、台湾に侵攻する可能性あります。ただ、そうなれば、きついボロ負けになるだけですが、それでも米軍は無論ですが、日本も被害を受ける可能性があります。

もう一つの可能性としては、クライブ・ハミルトン氏の著書『目に見えぬ侵略』に描かれた、オーストラリア社会に中共がありとあらゆる手段を講じて浸透したように、台湾に浸透した場合です。

たとえば、台湾政府、軍隊その他ありとあらゆる組織に深く浸透し、あとひと押しで台湾が中国にひれ伏す可能性が出てきた場合です。この場合、中国は台湾に侵攻するかもしれません。

中国共産党は7月1日午前(日本時間同)、北京中心部の天安門広場で創立100年を記念する式典を開催しました。習近平党総書記(国家主席)は「台湾問題の解決と祖国の完全統一実現は党の歴史的任務だ」と演説し、台湾統一の実現に強い意欲を表明しました。


独裁者になろうとする習近平には、残念ながら、建国の父である毛沢東や、経済発展を実現させた鄧小平のような手柄がありません。その手柄を得るために、台湾に侵攻する可能性は否定できません。

この場合も、上に示したように、米軍が台湾を攻撃型原潜で包囲してしまえば、中国は台湾に侵攻することはできません。ただ、この場合も米軍や日本も被害を受ける可能性はあります。

一番良いのは、中国が自国の軍事力を過信しようが、台湾社会にかなり浸透したにしても、中国が台湾に侵攻すれば、ボロ負けするだけであることを周知徹底し、最初から中国が台湾侵攻する意図を挫くことです。

台湾が攻撃を受けた際に米国が軍事介入するかどうかは明確にしない「戦略的曖昧さ」と呼ばれる政策は捨て去り、「台湾が中国に攻撃されれば米国は台湾を防衛すると」名言するとともに、軍事機密にもかかわることなので、詳しいことは言わなくて良いですから、「米軍の中国軍に比較して卓越した海戦能力を用いて中国の台湾侵攻を阻止」するくらいのことは言っても良いと思います。

その意味するところは、まともな軍事アナリストには伝わり、中共幹部にも伝わり、何よりも台湾の人々を勇気づけることになるでしょう。

これは今では言うまでもないことなのですが、米軍が空母打撃群や海兵隊を用いるような時代遅れの作戦を想定することは、人民解放軍に格好の標的を与えるだけで、もはや愚劣であり、中共をぬか喜びさせるだけです。

ただ、いまでも米海軍の中には頑迷固陋な空母打撃群信奉者が存在するのは事実のようで、空母打撃群を中心に作戦を組んだ場合、米軍も出す必要のない多大な犠牲者を出すことになるでしょう。ただ、この場合でも最終的には米軍が勝利することになるでしょう。

このような馬鹿真似は普通はしないでしょうが、それにしても最近の米軍のアフガン撤退をみていれば、馬鹿真似をしないとは言い切れないかもしれません。

一番愚かな選択は、空母打撃群が攻撃を受けて壊滅的な打撃を受けたからといって、台湾防衛をあきらめることです。これも、決してありえないシナリオとは言い切れません。特に、バイデン政権や米軍に中国が深く浸透していれば、ありえるシナリオです。

このようなシナリオも想定して、日本は独自の日本の潜水艦隊による台湾防衛の方式を予め策定しておくべきです。中国よりも対潜戦闘能力に格段に優れた日本は、中国よりもはるかに海戦能力に優れているので、単独でも台湾を防衛できます。しかも、潜水艦隊中心の作戦であれば、あまり犠牲を出さずともできます。

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2021年11月3日水曜日

米バージニア州知事選、真の敗者はバイデン氏―【私の論評】2024年大統領選挙で、トランプ・バイデンが対峙する可能性が高まりトランプ勝利も十分ありえるシナリオに(゚д゚)!

米バージニア州知事選、真の敗者はバイデン氏

バイデン大統領

米南部の激戦州バージニア州で民主党候補が敗れた知事選で、真の敗者はバイデン大統領だ。1年後に中間選挙を控え、バイデン氏の政策的な行き詰まりと支持低迷は今後も民主党の足かせとなりうる。政治経験のない共和党候補ヤンキン氏の勝利は、トランプ前大統領の支持層を手放さず無党派層も取り込む勝利の方程式を共和党に示したといえるだろう。(ワシントン 渡辺浩生)

「バージニアはどんどん青色(民主党のイメージカラー)に変わっている」。外遊先の英国で記者団に知事選の情勢を聞かれたバイデン氏は余裕をみせた。確かに同州は昨年11月の大統領選でバイデン氏が10ポイント差をつけてトランプ氏を破った。

だが1年で形勢が逆転したのはバイデン氏自らの支持低迷と、「トランプ色」を薄めたヤンキン氏の選挙戦略が奏功したからだ。トランプ氏本人から支持を得ながら選挙戦では終始、同氏から距離を置いた。

ヤンキン氏は1日夜の住民集会でも前大統領の名前を一切口にせず、教育、税金、治安など「食卓の話題」に集中した。学校教育で「批判的人種理論(CRT)」の導入禁止を訴えると歓声は一気に高まった。

CRTは人種差別や白人至上主義が教育や司法などの社会制度に構造的に組み込まれ、差別や格差を固定化させたとする理論だ。進歩的な教師らが学校教育に浸透を図っているとの批判を保守層が強め、その是非が全米の論争となっている。

教育と人種問題をからめた主張は、トランプ氏に不信感が拭えない無党派層と同時に、トランプ人気が根強い共和党支持層を取り込むためだ。CNNの出口調査によれば、ヤンキン氏は共和党支持者の96%、無党派層の54%、トランプ支持層の95%を獲得。狙いは的中した。来年の中間選挙で共和党がどう戦うか、その処方箋を示した形だ。

民主党候補のマコーリフ氏はヤンキン氏への攻撃で「トランプ批判」を連呼したが効果なく、その敗北はバイデン氏の不人気ぶりをかえって印象付けてしまった。

政権の看板法案が党内の路線対立で難航し直近の支持率は43%に低下。バイデン氏は外遊出発直前の先月末、大型経済対策法案の予算規模を1兆8500億ドルに半減させる妥協策を発表して打開を図ったが、穏健派の重鎮議員から合意を得られなかった。大型インフラ整備法案も、財政拡大に固執する下院の民主党左派の条件闘争に遭い棚上げ状態だ。

気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)首脳級会合でバイデン氏は「米国は世界中の国々を助ける義務がある」と指導的立場をアピールしたが、最初の信任投票の敗戦は今後のかじ取りに暗い影を落とす。米国が再び内向きに転じる兆候を同盟諸国は警戒するだろう。
【私の論評】2024年大統領選挙で、トランプ・バイデンが対峙する可能性が高まりトランプ勝利も十分ありえるシナリオに(゚д゚)!

日本では、総選挙が大きな焦点となりましたが、米国でも来年の中間選挙に向けて、ある知事選挙の行方に全米が注目していました。バイデン政権にとって負けられない戦いにはオバマ元大統領も参戦。そして無論トランプ氏も参戦していました。

先々週土曜日。バージニア州で開かれた集会に多くの人が集まっていました。

民主党 マコーリフ候補:「みなさん、こんにちは。バージニアを愛しています」
登場したのは、知事選の民主党候補マコーリフ氏。多くのメディアが駆けつけ、全米に生中継される中、そこに現れたのは・・・
記者:「民主党の候補者の応援に大物が駆けつけました。バラク・オバマ元大統領です」
オバマ元大統領:「バージニアをより良い将来に導きましょう。みなさんを信じていますよ。自分を信じて投票に行き、やるべきことをやりましょう。YES WE CAN!」
退任後も人気を誇るオバマ元大統領がわざわざ応援に駆けつけたのには訳がありました
共和党 ヤンキン候補:「我々が勝利するこの選挙は、バージニアの私たち全員のためのものです」
共和党の知事候補のヤンキン氏。新型コロナワクチンやマスク着用の義務化に反対するなどバイデン政権の政策に批判的な立場で、着実に支持を伸ばしてきました。バージニア州では過去5回の知事選で民主党候補が4回勝利してきましたが、今回は支持率がほぼ並んでいます。

民主党にとってはバージニアでもし負ければ、来年の中間選挙でも厳しい戦いを迫られるとの危機感があったのです。そんな知事選の“陰の主役”とも言われているのが、この人でした。
トランプ前大統領: 「ジョー・バイデンと過激な左派が国を破滅の瀬戸際に追い込んでいる」
トランプ前大統領

トランプ前大統領は共和党のヤンキン候補の支持を表明。これを機に、民主党側はヤンキン氏をトランプ氏や連邦議会襲撃事件と結びつけるネガティブキャンペーンを繰り広げました
民主党候補の選挙CM(トランプ前大統領):ヤンキン氏はバージニアをまともにし、我々が知事に求める全てのことをやってくれるでしょう。全部取り戻すぞ、バージニアを取り戻せ」
民主党候補の選挙CM:「グレン・ヤンキン氏、トランプ氏の考えが一番

 日本時間の27日午前にはバイデン大統領も応援に入り、こう強調しました。

バイデン大統領:「ヤンキン候補は人格検査で不合格だ。『大統領選挙が盗まれた』というトランプの嘘を市民に広げて回っている」
勝敗を左右するのは無党派層の投票はどう動くのか。トランプ氏の存在が有権者にどんな影響を及ぼすのか。全米が注目しましたが、結局ランキン氏が勝利ました。その勝因は、上の記事にもある通り、ヤンキン氏が、トランプ前大統領の支持層を手放さず無党派層も取り込む勝利の方程式を編み出したことによるものでしょう。

選挙から半年経った5月24日にロイターが発表した世論調査によると、米国人の25%が大統領選挙には不正があったと信じています。4人に1人がトランプが勝利者だと考えているわけです。

8月4日にヤフーが発表した調査では、共和党支持者の66%が本当の大統領はトランプだと信じています。依然として、共和党で最大の支持者を持つ存在です。

いっぽう、バイデン大統領の支持率は急落していました。

バイデンは就任以来、50%以上の支持率を維持してきました。8月13日の金曜日、ロイターの世論調査では53%がバイデンの仕事ぶりを評価していました。それが、週明けの17日火曜日には46%にダウンしました。その間に何があったのでしょう。

8月15日、アフガニスタン全土がイスラム武装勢力タリバンの手に落ちたのです。20年間、24万の犠牲者を出し、3兆ドルを投じたアフガン戦争は米国の敗北に終わりました。

バイデン大統領は4月末に米軍の撤収を開始、8月に最初の都市が陥落すると、1カ月かからずに首都カブールは陥落しました。米軍に訓練され、装備を与えられたアフガン政府軍30万人はタリバンにほとんど抵抗しませんでした。

バイデンは米軍撤収について、「自国を守るために戦おうとしないアフガンの人々のために、米兵が命を落とすべきではない」と正当化しました。それは同盟国との結束を強めると言っていたバイデンが言ってはいけないセリフでした。

さらには、バイデンが最も力を入れてきたコロナ対策も行き詰まってきました。

バイデンは就任から破竹の勢いでワクチン接種を進めました。5月いっぱいまでで全人口の5割が少なくとも1回の接種、4割が2回接種を受けることができました。

ところがその後、接種率は伸びませんでした。8月になっても接種を2回受けた国民は6割しかいません。トランプは7月17日にバイデンのワクチン接種の遅れを揶揄しました。

「ワクチン接種を拒否してる人々が多いからだ。なぜなら、彼らはバイデン政権を信じていない、選挙の結果を信じていないからだ」

現在、米国のコロナ感染による死者は再び増えています。その99%は1回もワクチンを受けていない人々です。でも、未接種者が全人口の4割もいるので、収束にはまだほど遠いと言わざるを得ません。死者が増えれば、経済の立て直しもまたスローダウンし、バイデンの支持率もさらに下がるでしょう。

コロナ対策をめぐってトランプと戦ったニューヨーク州のアンドリュー・クオモ州知事もその後、セクハラで辞任に追い込まれ、民主党は失点が続いています。

クオモ知事の性的ハラスメントを告発した、アナ・ラッチ氏の友人が撮影した写真

トランプのほうは、2024年の大統領選挙に向けて、着実に捲土重来の準備を固めています。支持者の熱狂度だけでなく、彼が大統領選から現在までに集めた寄付の額は1億ドル(約100億円)を超えます。

最新世論調査によると、民主党の大多数は、バイデン大統領以外の人物なら2024年大統領選で民主党が勝利する最善のチャンスが与えられると考えています。

バイデンは、大統領の座について1年足らずですでに支持率が低迷していますが、最新のマリスト世論調査で民主党が次期大統領選挙でどれだけバイデンを信頼しているかが明らかになりました。

同調査によると、民主党・民主党寄りの無党派の36パーセントは、バイデンが2024年の候補者のトップとなるべきだと考えています。

実に民主党と民主党寄り無党派の約半数は、バイデンが候補者のトップとならずに別の人物に出馬して欲しいと望んでいます。これはバイデン大統領が自身の党の信頼を維持しようと四苦八苦している状況を示す明快な数字です。

一方、共和党と共和党寄り無党派の50パーセントは、トランプ前大統領が2024年に共和党の候補者のトップになって欲しいと考えています。

共和党の35パーセントは、次期大統領選挙でトランプが共和党の候補者トップとなることに反対でした。

さらに、民主党と無党派左派の5人に1人は、バイデンが2024年に候補者トップとなることについてどちらともいえないと答えましたが、共和党でトランプについて同様の回答をしたのはわずか14パーセントでした。

バイデンの大統領就任1年目は、サプライチェーン危機、何万人もの不法越境移民、そしてアフガニスタン陥落を含む複数の危機によって打撃を受けました。

その上、インフレ増大によって冬の休暇前に経済が落ち込み続け、冬に近づきある現状でエネルギー価格が高騰しています。

2024年大統領選挙で、トランプとバイデンが対峙する可能性が高まってきました。そうして、トランプ勝利も十分ありえるシナリオになってきました。

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2021年11月2日火曜日

台湾「日本が出兵協力」58% 中国の武力攻撃に対して―【私の論評】日米潜水艦隊が協同で「台湾有事」に対応することを表明すれば、中国の台湾侵攻の意図を挫ける(゚д゚)!

台湾「日本が出兵協力」58% 中国の武力攻撃に対して

軍装の蔡英文総統

 台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が2日発表した世論調査で、中国が台湾に武力攻撃した際に「日本が出兵して台湾防衛に協力すると思うか」との問いに58.0%が「見込みあり」と回答、「見込み無し」は35.2%だった。米軍については「見込みあり」が65.0%だった。

 日米の台湾軍事支援に対する期待の高さが浮き彫りになった。

 台湾軍による自衛能力については48.4%が「自信あり」と答えたのに対し、「自信なし」も46.8%。中国による武力攻撃に対する備えは「十分」が43.7%だったが、47.6%が「不十分」と回答した。

【私の論評】日米潜水艦隊が協同で「台湾有事」に対応することを表明すれば、中国の台湾侵攻の意図を挫ける(゚д゚)!

このブログに以前何度か掲載したとおり、台湾防衛はさほど難しいことではありません。米国の有名な戦略家でルトワック氏は、「潜水艦を三隻も派遣すれば守れる」と語っています。

ルトワック氏

私もそう思います。巷の軍事評論家などは、台湾防衛がいかにも難しいことのように語っていることも多いですが、それは完璧な間違いです。こうした軍事評論家は、決まって潜水艦のことは語りません。まるで、中国も米国も潜水艦なしで、空母やその他の艦艇だけで、米中が海戦を戦うような論評をします。

米軍は世界一の対潜哨戒能力を誇り、攻撃力がずば抜けて高い攻撃型原潜を多数持っています。そのため米軍は世界最高の対潜水艦戦闘能力(ASW)を持っています。

ASWに優れた米軍が、台湾に三隻もの潜水艦を派遣して、台湾を包囲してしまえば、ASWが格段に劣る中国軍が台湾を奪取しようとしても、この包囲網を破ることができないので不可能です。

米国の原潜は原潜という構造上ステルス性には難がりますが、それでも原潜としてはステルス性に優れたものも存在します。中国の攻撃型原潜や通常型潜水艦はステルス性はかなり劣っています。

米軍の攻撃型原潜はステルス性に劣るとはいえ、米軍は先に述べたようにASWが中国に比較して格段に勝っているので、米軍のほうが圧倒的に有利です。米中が海戦になれば、米軍に圧倒的に有利となり、中国には不利となります。

米中が海戦となれば、米軍は圧倒的に優れたASWにより、まずは台湾海域の中国の潜水艦隊を殲滅するとともに、空母を含むすべての艦艇を撃沈するでしょう。その他台湾の侵攻にかかわる、航空基地、レーダー施設、衛星監視のための地上施設等をことごとく破壊するでしょう。

そうなる前に中国は戦闘を中止せざるをえなくなります。もし、それでも無理やり戦闘を継続して、台湾に中国軍を上陸させることに成功しても、米軍が台湾を原潜で包囲してしまえば、輸送船や航空機などが近づけなくなり、台湾に上陸した中国兵に対して、食料・水・弾薬などの補給ができなくなります。これでは、中国軍は戦闘を継続できず、お手上げになってしまいます。

このように米軍は攻撃型原潜で台湾を包囲することにより、台湾を中国から守ることができます。

日本も米軍のように通常型潜水艦を5隻も派遣すれば、同じように台湾を守ることができます。日本の場合は、米軍の攻撃型原潜に比較すれば、攻撃力は高くはないですが、それでもその攻撃力は侮れません。

何よりも日本の潜水艦は、ステルス性が高く、最新鋭のものはほとんど「無音」と言っても良いくらいで、中国海軍にこれを発見することはできません。日本もASWにおいては、中国軍圧倒することになります。

10月14進水した日本の最新鋭潜水艦「はくげい」

中国海軍は台湾海域に日本の潜水艦が潜んでいるという懸念があれば、台湾に近づくことはできなくなるでしょう。何しろ中国海軍は日本の潜水艦を探知できないのですから、発見できない敵から攻撃されても防御できないからです。

さらにもう一つの利点は、日本が潜水艦を多様する戦闘を実施すれば、たとえ日中海戦になったとしても、日本側の犠牲はほとんどでないということがいえます。

これに対して、中国は強襲揚陸艦などを撃沈されれば甚大な被害を出すことになります。

冒頭の記事では、「日本が出兵して台湾防衛に協力すると思うか」とありますが、これはそもそも曖昧なアンケートだと思います。

アンケートをとる際に日本のASWが中国よりもかなり高度であることを知らせ、さらに潜水艦で加勢する可能性も示せば、「見込みあり」と答える人ももっと増えたのではないかと思います。

私は、日米ともに、台湾有事の場合は、日米単独でも加勢する旨を台湾に伝えるべきと思います。

日本は平和憲法の観点からそのようなことはできないという人もいるようですが、私はそうではないと思います。

中国が台湾に侵攻した場合の対応について、7月5日麻生副総理兼財務大臣は、安全保障関連法で集団的自衛権を行使できる要件の「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示しました。

麻生太郎氏

「存立危機事態」は安全保障関連法で、集団的自衛権を行使できる要件として「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」などと規定されています。私は、台湾危機は「村立危機事態」であると十分解釈できるものと思います。

そうして、私は「台湾有事」の場合は、日本と米国が協同してこれを防ぐべきと思います。日米ともにASWに優れています。初戦においては、このASWを最大限活用して、潜水艦を最大限に活用して、中国の試みを打ち砕くべきです。

日本の潜水艦隊は、ステルス生を生かして情報収集にあたりその情報を米国潜水艦隊と共有し、いざ海戦ということになれば、日本は主に中国の潜水艦を攻撃し米潜水艦を支援し、米潜水艦艦隊は強大な戦闘力を用いて、あらゆる艦艇を撃沈、軍事施設を破壊するというような戦術をとるのが望ましいと思います。

さらに、日米は食料などの補給、乗組員の交代などを台湾の港でできるように予め台湾と交渉しておくべきものと思います。

このようなことをすることにより、日米は台湾を勇気づけ、中国の台湾侵攻の意図を挫くことになります。

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2021年11月1日月曜日

枝野立民代表、進退あすまでに判断 衆院選敗北、党内に辞任論【21衆院選】―【私の論評】今回の選挙は、自民党が勝ったというより、 野党共闘により惨めで哀れで醜悪な面々が明らかにされ、自滅した(゚д゚)!

枝野立民代表、進退あすまでに判断 衆院選敗北、党内に辞任論【21衆院選】

枝野氏


 立憲民主党の枝野幸男代表は1日午前、衆院選で公示前の110議席を割り込む敗北を受けて、「結果が出たばかりなので、何人かの方と相談して、あすの執行役員会までには何らかの考え方を示す」と述べ、自身の進退を含めた執行部の責任について明らかにする考えを示した。東京都内で記者団の質問に答えた。

自民、「魔の3回生」当選は9割超 選挙区では苦戦も

 枝野氏は「議席を減らしたことは大変残念で申し訳なく思っている」と陳謝した。


 立民は共産党などとの野党共闘を実現させて、213選挙区で候補者を一本化させたものの96議席に後退。党内からは「執行部の責任問題」(党関係者)との声が上がっており、枝野氏らの辞任は避けられないとの見通しが出ている。


 これに先立ち、同党の福山哲郎幹事長も国会内で「執行部として、選挙結果には責任がある。私自身の対応については腹を決めているが、ここで申し上げるべきことではない」と述べた。 


 枝野、福山両氏は連合本部を訪れ、芳野友子会長らに選挙結果を報告し、支援への謝意を伝えた。


 一方、11議席に上積みした国民民主党の玉木雄一郎代表は東京都内で記者団に「改革中道、対決より解決の姿勢で政策を訴えて手応えを感じた」と強調。来夏の参院選に向けて「こうした路線をしっかりと貫き、ぶれずに筋を通したい」とも語った。


【私の論評】今回の選挙は自民党が勝ったというより、 野党共闘により惨めで哀れで醜悪な面々が明らかにされ、自滅した(゚д゚)!

東京8区では、自民前職の石原伸晃元幹事長と立憲新顔の吉田晴美氏が争ったのが争いでした。

当初、共産党も候補者擁立を準備していたがのです、野党共闘で立憲・吉田氏に候補者を一本化しました。


ただ、公示前にれいわ新選組の山本太郎代表が同区からの立候補を発表するなど、候補者擁立をめぐって野党内で一時混乱もありました。一悶着はあったのですが、共闘した野党陣営は吉田氏をバックアップ。結果、岸田文雄首相も応援に入った自民党の派閥領袖を下しました。しかも、比例復活を許さないほどに……。

「東京8区」の重みは、立憲民主党の開票センターで午後9時前からはじまった「花付け」からも伺えました。

当選確実が伝えられた議員の名前を張り出す立憲・長妻副代表(右)と福山幹事長

「花付け」とは、当選確実が報じられた候補者の名前を張り出すセレモニーのことです。このとき、最初に貼り付けられたのも「東京8区」を制した吉田氏のものでした。

「東京8区」は、まさに“野党共闘の象徴”となった選挙区でした。

ところが、開票が進むにつれて風向きが怪しくなりました。

深夜にかけて、立憲の票の伸び悩みが明らかになってきたからです。

枝野氏の会見終了からおよそ1時間半後が経った11月1日午前1時半過ぎ、立憲民主党が公示前の109議席を下回ることが確実になりました。

加えて、自民党で起こった「ベテラン」敗北の事例は立憲民主党にも起こりました。

党重鎮の小沢一郎氏や「無敗の男」と呼ばれ無所属から立憲入りした中村喜四郎元建設相が選挙区で敗北。党副代表の辻元清美氏と党選対委員長平野博文氏は比例復活もならず、議席を失いました。

辻元清美氏

結果、立憲民主党の議席数は公示前勢力の109議席から13減らし96議席に。野党共闘による議席増で与党を過半数割れに追い込むことを目指したが、不発に終わりました。

たしかに小選挙区では自民党との接戦に持ち込んだ選挙区がいくつもありました。

立憲幹部が誇った東京8区や神奈川13区にように立民が圧倒した選挙区もありました。達成したところもあった。

ところが、思った以上に競り負けるところがあったのも事実です。加えて比例が伸びなかったことも響きました。

社民党や共産党などとの連携を進め「野党共闘」を推進したことで、有権者が立憲民主から離れていった点は否めません。

いかに枝野氏が「政権奪取時、共産党は“閣外からの協力”」と、距離を置く発言をしても、政策的には共産党と重なる部分はかなりありました。社民・共産と支持者が被れば、支持の広がりを欠いたことも想定されます。

野党にはこの先、どんな手段が残されているのでしょうか。

比例で当選した小沢氏

枝野氏は小選挙区で当選したものの、日付が変わって当確という有様でした。

日付が変わった一日午前零時十分ごろ、さいたま市大宮区にある立民前職の枝野幸男(57)の事務所に当選確実の一報が入ると、支援者からは「よかったー」と安堵(あんど)の声が一斉に漏れました。


枝野は東京都内で結果を見守ったため、代わりに選対本部長の熊谷裕人参院議員がマイクを握り、「簡単な選挙戦ではないと思ったが、こんな時間に当確が出るとは」とあいさつ。険しい表情を浮かべました。

党代表として応援に全国を回り、選挙期間中に地元に入ったのは二日間だけ。一騎打ちとなった自民前職には安倍晋三、菅義偉の両首相経験者ら政党幹部が相次いで応援に入りましたが、何とか退けました。


今回の衆院選で対決パターン別に与野党の勝敗を分析したところ、立憲民主や共産など野党5党が統一候補を擁立した213選挙区のうち、保守系無所属を含む自民または公明のいわゆる与党系候補は、約65%にあたる139選挙区で勝利したことが分かりました。これに対し、統一候補は約28%の59選挙区でしか勝てず、野党共闘の効果が限定的だったことを裏付けました。


213選挙区を地域別にみると、北海道は官公労が強い地域とあって、統一候補を擁立した9選挙区中、自公4勝、立民5勝と野党5党側が勝ち越しました。東京では革新系の影響力が残っていますが、与党系10勝なのに対し、統一候補は7勝と及びませんでした。 保守地盤が強固な西日本では、日本維新の会が幅を利かす大阪府を除き、中国地方で統一候補は14選挙区中1勝、四国では8選挙区中2勝しかできませんでした。


九州でも自民16勝なのに対し、統一候補は6勝にとどまるなど、野党が束になって掛かっても、与党側は寄せ付けませんでした。 135選挙区に上る事実上の与野党一騎打ちでも、与党系が96勝なのに対し、野党系は39勝と振るいませんでした。 一方、野党5党から複数の候補者が出た72選挙区ついては、与党59勝に対し、野党5党側はわずか6勝と無残な結果に終わりました。


 これらの選挙区については、反自民票が分散したために5野党側が敗北したとは必ずしも言えず、5野党で候補者を一本化した場合の票数を単純計算で足し合わせた場合、与党候補を上回ったのは5選挙区だけでしたた。与党に太刀打ちできないと判断した選挙区については、あえて候補者調整をせずに、比例票の掘り起こしを優先させた可能性があります。


今回の衆院選結果は、立民が組織票目当てで共産などと組んでも、票の上積みには限界があり、地力に勝る自民を負かすには、旧民主時代から言われ続けてきた、党の足腰となる地方組織の強化が急務であることを改めて突き付けたといえます。


今回の選挙では、立民共産の共闘が一見功を奏したかのようにみえた局面もありましたが、総体的には失敗であったことが明らかになりました。


野党は自民党には提供できない価値を提示する努力をせずに、与党への批判と数合わせの論理だけで自らの存在価値を示そうとしたので、結果的には成長できなかったし、これからも成長できそうにもありません。表面的方法が通じるほど有権者は馬鹿ではないということです。

今回の選挙は、自民党が勝ったというより、 野党共闘により惨めで哀れで醜悪な面々が明らかにされ、自滅したといえると思います。

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2021年10月31日日曜日

函館市の期日前投票所で12歳の男の子が小選挙区の投票箱に投票 “有効票”に―【私の論評】選挙においては、選挙違反は見逃さず、マスコミの印象操作には幻惑されない姿勢が肝要(゚д゚)!

 函館市の期日前投票所で12歳の男の子が小選挙区の投票箱に投票 “有効票”に


函館市役所

 函館市内の衆議院選挙の期日前投票所で、選挙権のない12歳の男の子が投票するという事態が起きました。この投票は有効だということです。

  函館市の選挙管理委員会によりますと、30日午後5時前、函館市港町のショッピングセンターに設けられた期日前投票所で、12歳の男の子が50歳の母親の代わりに小選挙区投票用紙を受け取り、投票を行いました。

  その後、比例代表と国民審査の投票で、現場の担当者らが名前や年齢に違和感を覚え、投票用紙を渡すのを止めました。

  男の子は父親と一緒に投票所に来ていて、父親は、妻が体調が悪く来られなかったため、代わりに投票させようと妻の入場券を息子に渡したと話しているということです。  市選管は、小選挙区の投票用紙を渡す際に混んでいたこともあり、最初の受付係や名簿対象係、用紙交付係での確認が不十分で見落としたとしています。

  また、男の子が投票した小選挙区の投票用紙は、有効票として扱われるということです。 

 31日の投票日には、本人確認と合わせて、来場者を目で見て間違いがないか確認するなど、再発防止を徹底すると話しています。

【私の論評】選挙においては、選挙違反は見逃さず、マスコミの印象操作には幻惑されない姿勢が肝要(゚д゚)!

このニュース最初は、テレビのニュースで知ったのですが、最初は何のことかあまり理解できませんでした。上のニュースではじめて事実確認ができました。


我が国の投票に際しての本人確認は甘すぎます。考えてみれば、 レンタルビデオを借りるのにでさえ身分証明書の提示は当たり前です。それが義務付けられれば、今回のような出来事は未然に防げたでしょう。

 投票率がさがるなというのは言い訳でしかなく身分証明書による本人確認、身分証明書がない人は宣誓書提出くらいは検討すべきと思います。 反対する人は本人確認されたら困る人だけでしょう。

この事件については、悪質なものではなく、大きな影響を及ぼすものではないですが、毎回選挙では違反が起きています。

警察庁によると、今回の衆院選で、全国の警察は29日までに公職選挙法違反の警告を1376件出した。今後、悪質な選挙違反の捜査を進めるそうです。

警告件数は前回選挙の同時期より82件少なかったそうです。内訳は、禁止場所にポスターを貼るなどの文書掲示違反が1061件、法定外のビラをまくなどの文書頒布違反が262件など。ほかに、ポスターを破るなどした容疑で3人を逮捕したそうです。

衆院選が公示以降も、共産党の「しんぶん赤旗10月号外」なる文書が各戸配布などの形で全国各地で大量にばらまかれ、「選挙違反」「法律を守れ!」といった声が相次いでいます。公職選挙法では、衆院選比例代表選挙における「法定ビラ」である旨を記載しなければならないが、同文書には記載が全くありません。


選挙違反、内容によって逮捕立件、注意や警告などかなされます。注意や警告も累積すれば悪質とされて逮捕されます。ですから、丁寧に通報するのが正しいです。

写真やスクリーンショットで証拠保全した上で、所轄の警察署に通報して下さい。無論、選挙が終わった後からでも、証拠があれば通報すべきです。判断は警察や選挙管理委員会がする事です。

それと、これは選挙違反とはいえないかもしれないですが、昨日このブログに掲載したように、マスコミは政府のコロナ政策について、感染者が増えたときには、諸外国に比較すれば、かなり低いにもかかわらず、政府の対策が大失敗したように報道するのですが、最近のように感染者数が少なくなると今度は報道しません。

これについては、以下の記事をご覧いただければ良くご理解いただけるものと思います。
主要メディアはなぜコロナウイルスの大ニュースを報じないのか
この記事は、古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)によるものです。以下に要点だけ掲載します。
・主要メディアは新型コロナウイルスの感染の驚異的な減少を報じていない。

・ワクチン接種の急速な拡大や、政府の水際対策も効果を発揮したといえるだろう。

・ 主要メディアは、目前の現実を報じ、論じてほしい。それこそジャーナリズムの本来の責務だろう。
パチンコ屋でワクチン接種を受ける女性、大阪にて(2021年10月13日)

昨日このブログでは、英国のガーディアン紙が、日本の驚異的な感染者数の激減について報道していることを掲載しましたが、米ウェブメディアもこれについて報道しています。

Japan's success in smashing its latest wave of COVID has 'puzzled' health experts
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では専門家らは日本の急激なコロナ感染の収束に戸惑いを隠せないようなのですが、参考にすべきと語っていることを報道しています。

日本のメディアがこれを報道しないのは、選挙違反ではありませんが、印象操作だと謗られても致し方ないです。

選挙においては、選挙違反は見逃さず、マスコミの印象操作には幻惑されないことが肝要だと思います。

なお、日本においては米国など他国と比較すれば、投票所の数がかなり多く、比較対照がしやすいため、いくつかの投票所で大規模な不正行為が行われた場合、他の投票所と比較して、数学的に分析すると、明らかに異常であることが検証できるそうです。その点では比較的安心ともいえます。

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2021年10月30日土曜日

成功だった日本のコロナ対策 世界的にも良いパフォーマンス 死亡率もワクチンで劇的改善 ―【私の論評】菅政権のコロナ対策は、病床増床には失敗したが医療崩壊は起こさず、総体的には大成功(゚д゚)!

成功だった日本のコロナ対策 世界的にも良いパフォーマンス 死亡率もワクチンで劇的改善 
高橋洋一 日本の解き方

 衆院選では新型コロナウイルス対策が争点の一つだが、昨年以来の日本のコロナ感染状況や医療体制、経済対策、ワクチン確保はどうだったのか。今後の課題は何か。

 10月22日現在までの累積ベースの状況について、20カ国・地域(G20)の中の日本の順番をみてみよう。100万人当たりの感染者数は少ない方から4位、死亡者数も少ない方から4位、100万人当たりのワクチン総接種回数は4位。これらは良いパフォーマンスといっていいだろう。

日本のコロナワクチン接種率は、70%を超え米英・イスラエルを越した

 なお、各国の人口当たりの超過死亡推計(2020年1月からの実際の死亡者数と前年からの推計された死亡者数との差)をみても、G20諸国中13カ国のデータしかないが、その中で、日本は最も少なく1位である。これは、新型コロナに対して、日本が最も悪影響を受けなかったと解釈できるだろう。最新の超過死亡推計では、日本のデータが幾分増加しているようだが、世界の中では依然少ない。

 こうしてみる限り、結果としては日本のコロナ対策は申し分ないパフォーマンスだ。

 一方、同じベースでみて、1000人当たりの検査数では14位だった。各国の検査状況をみても、検査を多くした国とその国の感染者数や死者数には特段の関係を見いだせない。

 こうしたデータをみる限り、いまだに、検査を重要項目としている政党は世界から取り残されていると言わざるを得ない。第6波に備えて、医療体制の強化を主張している政党はまだまともだ。

 医療体制については、医療サービスの供給強化のために予算がつけられたが、結果として未消化になった。本コラムで指摘してきたが、政府分科会や医師会側は供給体制強化より感染抑制のための人流抑制など社会規制の一本やりだった。そのため、第5波にいたるまで、この2年間で医療供給体制の強化はほとんどなされなかった。この点は、衆院選後に、政府としてもしっかり検証を行うべきだ。

 経済対策についても、人流抑制一本やりのために、うまく機能したとはいえない。都道府県が飲食店などに営業時間の短縮などを要請したものの、その補償的な意味がある補助金は必ずしも十分ではなかった。地方創生交付金も配布されていたはずだが、未消化部分もあった。これも検証対象とすべきだ。

 ワクチン確保はかなりうまくいった。昨年の補正予算による冷凍庫確保などの準備、今年4月の菅義偉前首相の米ファイザー社との直接交渉や打ち手問題解決のための超法規的措置などが功を奏し、今や、欧米主要国を抜いた状況だ。

 そのため第1~4波で感染者数約77万5000人、死者約1万4000人、死亡率約1・9%だったが、ワクチンがかなり行き渡った第5波では、感染者数が約93万人と多かったが、死者は約4000人、死亡率は約0・4%と劇的な改善だった。

 ワクチンを十分に接種すればコロナは「普通の病気」並みなので、さらなるワクチン接種を行いつつ、感染症法上の扱いも引き下げるのが先決だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】菅政権のコロナ対策は、病床増床には失敗したが医療崩壊は起こさず、総体的には大成功(゚д゚)!

これだけ、急速に感染者数も死者も減ったのにはそれなりの理由があるはずです。今後は、その理由も解明してほしいと思います。

これについては、国内メディアでも様々な報道がなされていますが、英国のガーディァン紙等の見方を掲載します。

英国のガーディアン紙は、断定的な理由づけを行なっていないものの、日本の感染収束について2つの要因が大きく影響した可能性があるとみています。

 1つ目は、ワクチン接種の浸透です。日本は接種の開始時期こそ諸外国に遅れを取ったものの、現在では人口の約65%がワクチンの2回接種を終えており、これが新規感染を食い止めた可能性があります。

 一方、イギリスで必要回数の接種を完了している率は現時点での日本と同程度ですが、ここ1~2ヶ月ほどは伸び悩んでいます。オーストラリアは55%前後と、日本を10ポイント程度下回ります。

両国では反ワクチン・デモが行われ、警官隊と衝突して負傷者を出すなどしています。米国の完了率もオーストラリアと同程度で、なおかつ伸び悩んでいます。

 2つ目の要因として、マスク着用への抵抗感の少なさが幸いした可能性があるといいます。ガーディアン紙は「諸外国が屋内その他でマスク着用義務を緩和する一方、多くの日本人は思い切ってマスクを外すことを想像しただけでも身震いしている」と述べています。

パンデミック以前から風邪やインフルエンザなどの予防で冬場のマスクは習慣化しており、着用に抵抗が少なかったことが要因のひとつとして考えられそうです。

 このほか、夏場のピーク自体が季節性のものだったとみる専門家もいます。エアコンを利用する夏冬は窓を開けづらくなり、感染症の流行につながる環境が生まれやすいです。 

デルタ株の特性か 日本の状況の変化については、英インディペンデント紙の元姉妹紙である『 i 』紙も注目しています。「日本のコロナ件数が謎めいた減少をみせた」とし、他のアジア諸国において厳しい状況が続くなかで特異な例になっているとの見方です。

 英エディンバラ大学で疫学を研究するマーク・ウールハウス教授は同紙に対し、デルタ株が従来株よりも顕著な波を描く特性があるためではないかと説明している。デルタ株は急速に感染拡大する特性をもつが、感染の収束も早いのだといいます。

 ウールハウス教授は日本の緊急事態宣言を評価し、「こうした対策は感染数を抑えることを目的としており、その意味で成功しているように思われる」とも述べています。 教授はインドにおけるデルタ株の第1波でも同じく急激な拡大と収束がみられたと指摘し、日本の急速な感染者数減少は特別な驚きではないと見ているようです。

ある感染者が感染してから二次感染者にうつすまでの時間を疫学用語で「世代時間」というが、デルタ株はこの世代時間が短い特性があります。結果、集団内に急速に広まり、そして急速に波が引く形になるのだといいます。 

 医療機器の充実も貢献 i紙は日本の状況から、英国が学べる点は多いと指摘しています。「日本の主要メディアではネガティブな記事がヘッドラインを飾りがちだが、データを比較すれば他のG7諸国よりも日本はおおむねうまくパンデミックに対処している」との評価です。

英国の倍近い人口を抱える日本ですが、新型コロナの死者数は同国の7分の1未満となっています。 同紙は理由のひとつとして、日本は人口あたりのCTスキャナー配備数が世界で最も多く、肺の異常を早期に発見しやすいことを挙げています。

100万人あたり111台を確保している日本に対し、英国では9台に留まります。ほか、体外式膜型人工肺(ECMO、エクモ)の配備数や病床数が多いことも有利だといいます。一方、医師と看護師の数は他のG7諸国よりも少ないとの指摘です。 

英国メディアの報道は、日本のコロナ対策は大成功という認識のもとで報道しています。一方日本の主要メディアでは少し前までは、ネガティブな記事がヘッドラインを飾り、多くの人に日本の「コロナ対策」は大失敗だったかのような印象操作ばかりしていました。

最近では、どう考えてもコロナ対策、特にワクチン接種は大成功したのは間違いないことが明らかになりつつあるせいでしょうが、今度はほとんど報道しないという状況です。ほとんど報道しないということで、ワクチン接種の大成功も報道しないという、報道の自由の権利を行使しているようです。

衆院選終盤に入った26日、菅義偉前首相と立憲民主党の枝野幸男代表が鹿児島入りし、新型コロナウイルス対応を巡って舌戦を繰り広げた。菅前首相が「切り札はワクチン接種」と強調したのに対し、枝野氏は「常に後手後手」と批判しました。

菅前首相は志布志、鹿屋両市で演説しました。国民の7割以上がワクチンの2回接種を終えた現状を踏まえ「一日も早く、一人でも多く接種することが、国民の命と暮らしを守ることになると考えた」と成果をアピール。「安心安全で、にぎやかな日常を取り戻すための一歩を踏み出すことができた」と指揮した対策に自信を見せました。

現状日本でコロナが収束しつつあるのは、ワクチン接種の驚異的な速さが功を奏したのは明らかです。それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
誰が五輪を「政治利用」するのか 一部野党は政府批判の材料に…日に日に現実離れする中止論 ―【私の論評】世界に先駆けて日本が「人類がコロナ禍に打ち勝てる可能性を世界に示す」 ことの意義は大きい(゚д゚)!

この記事は、月日のものです。以下に一部を引用します。 

100万回に関しては識者の人でも不可能と語っていました。しかし、この認識は全くの間違いです。

安倍政権だった2020年5月、2次補正予算が成立したときにワクチンに関しては1300億円の補正予算がつけられました。その予算計上の積算においては、ワクチンはファイザー製を用いることが前提でしたから、冷凍施設が必要とされ、これを全国1万ヵ所に設置するという想定で積算したのです。

冷蔵庫を1万ヵ所設置することを前提とすると、そこで1日に100人打つというのは難しい数字ではありません。100人には3時間ほどで打ててしまいます。だから100万回というのは、別にとんでもない数字ではないのです。当時の安倍総理はおそらく、一日100万回は不可能ではないと思っていたと思います。 さらに、ワクチン供給に関しては、2021年3月のときにほぼ決まっていました。さらに菅総理が渡米したときに、ファイザー協議して本決まりになりました。このときに、6月末までに1億回分のワクチンが送られて来ることは決まっていたのです。そうなと、6月末には高齢者はそれで全員接種できるし、2回打っても余ってしまうのです。それはもうわかっていたことです。

ワクチン1日100万回接種というのは、当初から予定されていたことなのです。そうして、それは安倍政権が計画をし、菅政権に引き継がれ、実行されて今日に至っているのです。 

一方、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、「医療体制については、医療サービスの供給強化のために予算がつけられたが、結果として未消化になった。本コラムで指摘してきたが、政府分科会や医師会側は供給体制強化より感染抑制のための人流抑制など社会規制の一本やりだった。そのため、第5波にいたるまで、この2年間で医療供給体制の強化はほとんどなされなかった。この点は、衆院選後に、政府としてもしっかり検証を行うべきだ」とありますが、これについては、その理由をこのブログにも掲載したことがあります。

その記事のリンクを以下に掲載します。

【日本の解き方】菅首相1年間の大きな功績 懸案を次々処理した「仕事師内閣」、対韓国でも厳しい姿勢貫く―【私の論評】新政権は、雇用の維持、迅速な鉄の三角形対策ができる体制を整えれば、長期安定政権となる(゚д゚)!

これは、10月2日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を以下に引用します。

日本には様々なルールや規制があります。それに守られ、いわゆる“既得権益”を受けている人たちがいます。農業の分野で言えば、日本は零細農家を守るため、株式会社は農地を持つことができません。

当初は意味のある制度だったのでしょうが、農業が国際化されてきた今日日本は世界的にみても良い作物を作れるのですから、株式会社に農業にも参入してもらい、生産性を上げ、輸出もしたほうが良いはずです。

ところが“入ってはいけない”という人たち、そこに結びついた政治家たち=族議員、そして業界の既得権益を持った人をつなぐ役割を担っている官僚がいます。この三角形がスクラムを組み、新しいことをやろうとするときに妨害するのです。こうした三角形はどこの国にもありますが、日本の場合はそれを取り持つ官僚組織がかなり強い状態で維持されています。
それは、医療の世界にも厳然として存在します。医師会、族議員、厚生官僚による三角形(医療ムラ )は厳然として存在してるのです。これは、ある意味「加計問題」と本質は同じです。

1年以上も前から、コロナ病床は、かなり増床すべきことはわかっていました。そうして、昨年の補正予算でも、それに関する予算は潤沢につけられていたにもかかわらず、この医療ムラの猛反撃にあい、現在に至るまで大きく増床されることはありませんでした。感染症対策分科会も、こうした医療ムラの圧力に対抗できなかったのか、結局対策といえば、病床の増床ではなく、人流抑制ばかりを提言していました。
尾身会長
そのため、コロナ感染者数が増えるたびに、野党・マスコミは、医療ムラを批判するのではなく、菅政権を批判しました。尾身会長は、マスコミに利用された形になったといえます。これは、間違いなく菅政権を追い詰めていきました。特に、マスコミは感染者数が増えるたびに、不安を煽り、様々な印象操作で菅政権を追い詰めました。

菅政権のコロナ対策のうち経済対策については、マスコミ等はボロクソにいいますが、失業率という面でいうと、これもかなり良いパフォーマンスを発揮しました。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

衆院選、初の任期満了後に…臨時国会10月4日召集を閣議決定―【私の論評】誰が総裁になっても、当面緊縮路線には振れない、今後の政局だが・・・(゚д゚)!

これは、9月22日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

日本の失業率はコロナ前の2020年2月に2・4%でしたが、その後上昇し、10月に3・1%とピークになり、21年7月は2・8%まで低下しました。米国は20年2月に3・5%でしたが、4月に14・8%とピークで、21年7月は5・4%。EUは20年3月が6・3%でしたが、8月に7・7%、21年7月は6・9%となりました。
それぞれ、コロナ前とコロナ後のピークの差は日本が0・7ポイント、米国が11・3ポイント、EUが1・4ポイントでした。コロナ前と直近の差は日本が0・4ポイント、米国が1・9ポイント、EUは0・6ポイントです。

これらの数字から、コロナ禍による失業率の上昇を最も抑えたのが日本であることがわかります。その理由は、日本では雇用保険の中に雇用調整助成金があるからです。この制度は、労働者の失業防止のために事業主に給付するものです。類似制度は世界ではそれほど多くないが、似た制度があるドイツも、ピーク時の失業率上昇は0・7ポイントと他国と比べて抑えられています。

コロナ失業を防いだ雇用調整助成金
厚生労働省は16日、2021年版の労働経済白書を公表しまた。新型コロナウイルス感染拡大により雇用が悪影響を受けたとする一方、雇用調整助成金(雇調金)などの効果により、完全失業率は2・6ポイント程度抑制されたとの推計を示ました。雇調金がなかった場合、失業率は5・5%に上昇した可能性があるとしています。

このように、雇用調整助成金は確実に効果を上げたのですが、一方では財源が逼迫しているので、保険料をあげようなどとの議論もされています。しかし、それでは何のための保険なのかということにもなりかねません。総裁選、衆院選と選挙が続く時期に、政府は当然このようなことはできないでしょう。それに、こういうことのためにも、補正予算を組むべきです。

このブログでは、経済政策においては、雇用政策がうまくいけば成功ですが、他の経済指標が良くても雇用政策がうまくいかなければ、失敗であるとのべてきました。その観点からすると、菅政権の経済政策はうまくいったといえます。

そのようなことを掲載すると、飲食店がどうのとか、旅行業者がどうのこうのという人もいるかもしれませが、それはミクロな見方であって、マクロ的には世界の先進国の中では最も失業者が少なかったのですから、菅内閣の経済政策は失敗したなどとはいえません。それは、何よりも数字ではっきり示されています。

岸政権は発足したばかりで、まだ良いとも悪いとも評価はできませんが、マスコミは菅政権の政策が大失敗したように、印象操作しているようですが、大失敗とはいえません。

それどころか、菅政権のコロナ対策は、病床増床には失敗しましたが医療崩壊は起こさず、総体的には大成功しました。

明日の選挙では、是非とも上に掲載したことなども考慮して投票をしていただきたいものです。

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2021年10月29日金曜日

中露の航行許す津軽の「特定海峡」指定 「領海」にしないと国益を損ねる 「非核三原則」も早急に見直しを ―【私の論評】中露などの軍艦艇、潜水艦や核兵器積載艦艇の海峡通過は有害通行とみなすべき(゚д゚)!

中露の航行許す津軽の「特定海峡」指定 「領海」にしないと国益を損ねる 「非核三原則」も早急に見直しを 
高橋洋一 日本の解き方

 中国とロシアの艦隊が津軽海峡を通過した後、太平洋側を南下し、大隅海峡を通過して東シナ海に入るのが確認された。この動きの背景は何か、日本としてはどのように対処すべきか。

 これまでも、中国とロシアの艦艇はそれぞれ津軽海峡を通過していた。中には、通常の通過通航とは言い難い、情報収集活動をしているとおぼしき船もあった。しかし、今回、中国とロシアの艦艇が津軽海峡を通過したのは軍事演習にも準じるものなので、日本としては看過できない事態だ。

 中国の言い分としては、米艦隊が台湾海峡に来るのと同じだというものだ。

 だが、台湾海峡は広く、中国の領海と台湾の領海が交わるところはない。その意味で、公海であるから米国に限らずどこの国の艦隊が通過通航しても、潜水艦が潜っても、航空機が飛んでも何の問題もない。

 一方、津軽海峡は狭いところの幅は20キロもない。領海は海岸から12カイリ(約22キロ)なので、津軽海峡は日本の「領海」であると素人目にも思える。その「領海」内を堂々と、他国の艦隊が通過通航することがそもそもおかしいというのが素人の感覚だ。


 しかし、津軽海峡は国際海峡とされ、軍民を問わず艦艇、潜水艦、航空機も通過通航権が認められている。その国内法の根拠となっているのが領海法で、津軽海峡は「特定地域」に指定されている。

 その建前は、「国際交通の要衝たる海峡における商船、大型タンカー等の自由な航行を保障」とされているが、実際のところ、米艦艇などが核兵器を保有して通過通航するので、日本の非核三原則の一つ「持ち込ませず」に反することを回避する措置とみるのが常識だ。

 この非核三原則のうち「持ち込ませず」くらい馬鹿げたものはない。日本に帰港する米艦艇がどこかで核兵器を下ろすはずないからだ。「持ち込ませず」がこれまでも空文化しているのは、現実的な国民はみんな分かっていて、無意味な建前を言っているだけだ。この意味で、この議論は「お花畑」とほとんど変わりはない。

 その結果、津軽海峡を国際海峡としているのは日本の国益を損なう。

 なお、特定海峡には、津軽海峡のほか宗谷海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道および大隅海峡が指定されている。宗谷海峡はロシア、対馬海峡西水道は韓国と向かい合うが、それ以外の3海峡は日本の領土に囲まれているので、領海としないのはそもそもおかしい。

 こうした政府の決定は、40年以上前に行われたが、今や時代や国際情勢は大きく変わっている。

 非核三原則は法律でもないので、不合理なものは一刻も早く見直して、津軽海峡などの特定地域指定についても変更すべきだ。その場合、領海内の無害通航の範囲で外国艦艇に対処したらいい。そうなれば、もちろん今回の軍事演習のような行為は国際法上認められなくなるのはいうまでもない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】中露などの軍艦艇、潜水艦や核兵器積載艦艇の海峡通過は有害通行とみなすべき(゚д゚)!

津軽海峡を通過する中露艦隊

今回の中国・ロシア艦隊の通航を背景として、上記のように「特定海域を廃止し、全て領海に含めてしまうべき」という主張も見られます。

無害通航の近代的制度は19世紀になって(国際法として)成立したといわれますが、通過通航の概念は比較的新しい考え方です。国連海洋法条約の制定によって、それ以前は(主に)3海里とされていた領海幅が12海里に拡張されるに伴い、それまで公海部分を自由通航すればよかった多くの国際海峡が沿岸国の領海となることがわかりました。

そうなると国際海峡の船舶の通航は無害通航しか認められず、航空機の公海上空飛行はできなくなってしまいます。

そこで先進諸国の主張を入れて、(公海と公海を結ぶ)国際海峡は全ての船舶および航空機に通過通航権(国連海洋法条約38条)を認めることになったのです。


大隅海峡、対馬海峡、津軽海峡などは、国際海峡ではなく、わが国独特の「特定海域」として国際社会に通告しています。これらは日本の領海内の海峡であり、もしここに通過通航権を設定するとなるといろいろと難しいことが想定されます。

例えば、核保有国である中国の(核兵器搭載の公算がある)軍艦が(領海である特定海域を)通過した場合、日本の国是である非核三原則に抵触することになり(その瞬間)非核三原則が崩れてしまいかねないです。無論米軍の軍艦が核兵器を積んで通過しても同じことです。

そこでわざわざこのような海峡に限って我が国政府独自の判断により領海幅3海里に縮めて公海部分を設け、自由航行ができるようにしたのです。

ただ、上の高橋洋一氏の主張するように、宗谷海峡はロシア、対馬海峡西水道は韓国と向かい合うのですがが、それ以外の3海峡は日本の領土に囲まれているので、領海としないのはそもそもおかしいです。

領海幅が12海里に拡張されたのですから、日本の領土で囲まれる、津軽海峡、大隅海峡、対馬海峡は領海にすべきです。この三海峡をわざわざ国際海峡のようにようにして扱う必要はないでしょう。通過通行権は、領海を除く国際海峡に適用されるものです。そうなると、外国の船は無害通航しかできなくなります。

軍艦も一般の商船と同様にこの無害通航権を行使することができるかどうかということについては争いがあります。欧米の海洋先進国は、無害通航権は船種の違いを根拠に否認されることはないと主張しているのに対して、軍艦の通航は当然に無害とみなすことはできず、その領海通航については、事前の通告を行わせるか、または事前の許可を求めさせると主張する国は少なくないです。

国連海洋法条約の採択過程では、この問題をめぐって諸国の見解が対立したので、条約には、軍艦が無害通航権を有するかどうかを直接に規定した条文は置かれていないです。

また、今日では、地球環境保護の問題への関心が急速に高まっていることもあり、軍艦のほかに、核物質など危険で有害な物質を積載する船舶の領海通航が規制の対象となるかどうかが論議を集めるようになっています。

そのため、今後の各国の実行が大いに注目されています。日本は、1968年の国会において、核兵器積載艦船の領海通航は無害とはみなさないという立場を表明し、この立場に変更がないことは、96年の国連海洋法条約を批准する際の国会審議においても確認されています。


日本としては、「核三原則」は捨てても、この立場は堅持すべきです。ただし、米国など同盟国の艦艇や潜水艦、核兵器積載艦艇の通過は無害とみなし、中露などの艦艇や潜水艦や核兵器積載艦艇に関しては、有害とみなすようにすべきです。

これにより、今回の中露の軍事演習のような行為は国際的にも認められなくなります。

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