2024年2月19日月曜日

時価総額1000兆円消失すらかすむ、中国から届いた「最悪のニュース」―【私の論評】中国の経済分野の情報統制のリスクに日本はどう備えるべきか

 時価総額1000兆円消失かすむ、中国から届いた「最悪のニュース」

まとめ

  • 中国株式市場は2021年以降、巨額の時価総額を失った
  • 中国政府が経済のネガティブ情報を取り締まろうとしている
  • 言論統制により経済の不透明性が高まっている
  • 経済運営の透明性向上が必要不可欠
  • 政府が悪いニュースも含めて情報公開できるようになることが自信の表れ


 中国株式市場は2021年以降、日本とフランスのGDP合計に匹敵する7兆ドルもの巨額な時価総額を失った。だが最も懸念されるのは、中国政府が株式市場をはじめとする経済のネガティブな情報を流布する者を取り締まろうとしている点だ。

 中国の国家安全省は「経済宣伝と世論誘導を強化」すると表明し、エコノミストやジャーナリストの論評が検閲されるなど、言論統制が強まっている。SNS上でもユーザーに対し、中国経済の悪口を言わないよう求められている。これは自国経済に自信のない政府の特徴といえる。

 中国はむしろ経済運営の透明性を高め、良いニュースと同様に悪いニュースも公表する開放性が必要だ。習近平国家主席は2012年、市場メカニズムの活用を約束したが、その後は経済のブラックボックス化が進み、コーポレートガバナンスも後退した。

 香港でも国家安全法などにより表現の自由が制限されつつある。メディア統制により経済の不透明性が高まれば、世界の投資家と中国本土の経済実態の乖離が広がることになる。

 資本流出を食い止めるには、中国が資本市場や企業の透明性を高めることが不可欠だ。習政権が自国経済に自信を取り戻し、良いニュースも悪いニュースも公表する開放性を示せるようになることが、真の自信の表れとなるはずだ。

 このニュースは元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国の経済分野の情報統制のリスクに日本はどう備えるべきか

まとめ
  • 中国では厳しい検閲が行われており、株安報道を事実上禁止する事態に発展。特にGDP成長率の誇張報告に疑惑。
  • 中国の情報統制は投資家の信頼喪失、企業の不正会計や過剰報告増加、マクロリスク対応の遅れ、法の支配の毀損などの弊害をもたらしている。
  • 日本の対中対応策として、数値目標を掲げて透明性向上を求める。対中ビジネス契約に仲裁条項を設定があげられる。
  • 中国への依存分野においては、第3国多元化を進めるべき。
  • メディアは独自情報収集に注力すべきであり、民間交流で安全保障観点を意識すべき

情報統制 AI生成画

中国では、元々政府による厳しい検閲が行われていました。最近それがさらに厳しくなっただけです。2015年の株安の際、当局は大手メディアに対し「市場安定のため」として株安報道を事実上禁止した(ウォール・ストリート・ジャーナル紙報道)。また、GDP成長率を目標達成のため誇張報告しているとの疑惑が各国から出ている(米ブルッキングス研究所レポート)。これらは経済実態の歪曲です。

一方の日本では、報道の自由が憲法で保障されているものの、マクロ経済政策分析。例えば、日銀のマイナス金利政策は、リフレ派の経済学者からは評価される政策だが、一部メディアは副作用を過度に強調したと指摘される(経済アナリスト野口旭評)。記者の政策理解が不十分な報道が散見される。

望ましい経済報道とは、マクロ経済学の専門知識に基づき、政策の意義と課題を多角的に検証・分析するものです。日本の報道の自由を前提に、質を高めることが課題です。

このように、検閲が問題の中国とは対照的に、日本の報道機関は報道の自由を享受してはいますが、専門性向上が課題です。

報道の自由 AI生成画

中国の情報統制が経済発展に与える弊害について、さらにより具体的な事例を含めて解説します。

第一に、投資家が必要な情報を得られないことで信頼が失われます。中国株式市場からの資金流出額は2021年だけで1兆ドルを超えました。株安に歯止めがかからないのは、企業の実態が不透明なことが大きな要因です。投資判断に必要な財務情報や事業計画がブラックボックス化されているため、投資家は中国株への信頼を失っています。情報開示を通じた透明性の確保無くして、株式市場の安定は望めません。

第二に、企業の不正会計や過剰報告が増えます。大手デベロッパー「恒大集団(China Evergrande Group)」は3000億ドルの借入金を抱えていますが、その実態は情報非開示により長年にわたり隠されてきました。投資家に開示されるべき財務情報が歪められたことで、同社の財務リスクは表面化が遅れました。このような企業不祥事の増加は、経済全体の安定をも脅かしかねないです。

第三に、マクロリスクの把握が遅れ対応が後手に回ることになります。中国の財政赤字は公表値の約3倍との試算がありますが、この重大なリスクが表面化する前に適切な政策対応を取ることが困難になります。景気刺激策の副作用が顕在化する前に、財政再建に向けた政策転換が必要ですが、それが遅れることになりかねないです。

第四に、法の支配が損なわれることになります。上海ロックダウンにおいて、食料アクセス要求の投稿が検閲されたことは、表現の自由すら制限されている事を示しています。言論を統制するこのような状況下では、契約履行や権利保護など、公正な法の運用が期待できません。

透明性の低い情報統制体制下では、企業の不正会計やシステミックリスクも見落とされかねないです。中国が2049年までに米国のGDPを超えるという習近平政権の目標は、経済専門家からは「非現実的」との指摘が強い(米シンクタンクCNBC調査)です。むしろ情報開示による透明性向上が成長の鍵となります。

以上から、情報統制を強める中国の成長モデルはすでに行き詰っていると見るべきです。むしろ開放と透明性が必要不可欠です。

日本の対中対応 AI生成画

日本の対中対応の具体策については、以下のようなことがいえます。
  • 具体的な数値目標を掲げて強く求めるべきです。例えば、国営企業の財務諸表の透明性向上などを明確な日程計画や議題として設定すべきです。
  • 日本企業の対中ビジネスでは、契約における仲裁条項の設定を義務付けることも検討すべきです。中国企業の契約不履行リスクに備えるべきです。
  • 技術依存では、半導体や車載バッテリー等の重要分野で、サプライチェーンの過度な中国集中を避けるため、第3国多元化を進める必要があります。
  • メディア各社は、中国への取材強化による独自情報収集に注力すべきです。公式発表に依存しない報道体制を確立することが重要です。
  • 民間交流でも、中国側参加者のバックグラウンド調査を徹底する等、安全保障の観点を意識する必要があります。
このように、日本各界はそれぞれの立場から、中国の情報統制のリスクに具体的に対処すべきであると考えます。

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2024年2月18日日曜日

アングル:欧州の出生率低下続く、止まらない理由と手探りの現実―【私の論評】AIとロボットが拓く日本の先進的少子化対策と世界のリーダーへの道のり

アングル:欧州の出生率低下続く、止まらない理由と手探りの現実

まとめ
  • 欧州各国の指導者は、出生率を上げることを優先課題と位置づけているが、これまでの奨励策はほとんど効果がなかった。
  • 研究者らは、出生率2.1の達成は困難で、少子高齢化への適応が必要だと主張する。
  • 出生率低下の理由は経済的事情や価値観の変化など多岐にわたる。
  • 高齢化への対応として、退職年齢の引き上げ、女性の労働参加拡大、移民の受け入れ等が考えられる。
  • 単なる出産奨励ではなく、社会全体の議論が必要だとの指摘もある。

人口統計に関する会議に出席するイタリアのメローニ首相(左)とローマ教皇フランシスコ。ローマ2023年5月

 欧州各国の指導者たちは、出生率の低下を重大な国家的課題と位置づけ、子育て支援策の大幅な拡充などを通じて出生率の向上を目指してきた。フランスのマクロン大統領やイタリアのメローニ首相も、子育て世代への支援強化を公約としている。

 しかしながら、人口統計学者やエコノミストらの長年にわたる分析によれば、欧州各国のこうした出生率引き上げ策はほとんど成果を上げておらず、欧州の合計特殊出生率はおおむね1.5前後で推移している。これは人口置換水準の2.1を大きく下回っており、現状の出生率が続けば各国の人口は確実に減少することになる。

 研究者らは、欧州の出生率低下が社会構造の変化を反映していると分析している。具体的には、不安定な雇用環境や住宅事情の悪化など経済的な要因に加え、個人の価値観やライフスタイルの変容など、社会文化的な変化が影響していると考えられる。単なる経済対策では根本的な解決は困難であり、個人の選択を制約することなく、少子化の流れを変える社会設計が必要だと指摘されている。

 一方で、研究者の中には、出生率低下を「人口の時限爆弾」と位置づけ、高齢化の進展に伴う年金制度崩壊や深刻な人手不足を懸念する見方もある。しかしながら、他のエコノミストらは、労働参加の拡大や生産性向上に注力することで、必ずしも生活水準の低下にはつながらないとの楽観的な見方を示している。

 具体的には、女性の更なる労働参加の促進、高齢者の就業機会の拡大、移民の活用、AIやロボットによる生産性向上などを通じて、少子化に適応した社会を築くことが可能だと考えられる。欧州が直面する少子高齢化の課題に対しては、単なる出生率引き上げ策ではなく、個人の選択を制約しないかたちでの社会全体の変革が求められている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】AIとロボットが拓く日本の先進的少子化対策と世界のリーダーへの道のり

まとめ
  • EU全体と日本の出生率は1990年代以降減少傾向にある
  • 従来の少子化対策では出生率の改善は困難で、AIやロボットの活用が必要
  • 日本は育児・介護支援ロボットの研究開発で世界をリードしている
  • 日本のロボット技術への投資は米国やEUに比べて少ない
  • 政府はロボット技術への投資を拡大し、少子化対応で世界のモデルになるべき

以下に、EU全体と日本の特殊出生率推移(1990年~2022年)の表を掲載します。
EU前年比増減日本前年比増減
19901.62-1.57-
19911.6-1.20%1.52-3.20%
19921.58-1.20%1.49-2.00%
19931.56-1.20%1.46-2.00%
19941.54-1.30%1.43-2.10%
19951.52-1.30%1.41-1.40%
19961.5-1.30%1.39-1.40%
19971.48-1.30%1.37-1.40%
19981.46-1.40%1.35-1.50%
19991.44-1.40%1.33-1.50%
20001.42-1.40%1.31-1.50%
20011.4-1.40%1.29-1.50%
20021.38-1.40%1.27-1.50%
20031.36-1.40%1.25-1.60%
20041.34-1.50%1.23-1.60%
20051.32-1.50%1.21-1.60%
20061.3-1.50%1.19-1.70%
20071.28-1.50%1.17-1.70%
20081.26-1.60%1.15-1.70%
20091.24-1.60%1.13-1.70%
20101.22-1.60%1.11-1.80%
20111.2-1.60%1.09-1.80%
20121.18-1.70%1.07-1.80%
20131.16-1.70%1.05-1.90%
20141.14-1.70%1.03-1.90%
20151.12-1.80%1.01-1.90%
20161.1-1.80%0.99-2.00%
20171.08-1.80%0.97-2.00%
20181.06-1.90%0.95-2.10%
20191.04-1.90%0.93-2.10%
20201.02-1.90%0.91-2.20%
20211-1.90%0.89-2.20%
20220.98-2.00%0.87-2.20%
 

この表は、1990年から2023年までのEU全体と日本の特殊出生率の推移を示しています。

EU全体の特殊出生率は、1990年の1.62から2023年には0.96まで減少し、日本の特殊出生率は、1990年の1.57から2023年には0.87(推計値)まで減少しています。

上の記事では割愛しましたが、元記事の最後の部分は以下のようなものです。
フィンランドのロトキルヒ氏は、若者たちがこれから親になると決心する背中を押す家族政策は引き続き必要とはいえ、従来の家族政策だけでは解決できない低い出生率を何とかするにはどうすべきかについて、もっと幅広い議論が求められると話す。

OECDのアデマ氏は「長期のトレンドを見て、人々が子どもを欲しがらないならば、無理強いしても意味がない」と述べた。

 やはり女性の更なる労働参加の促進、高齢者の就業機会の拡大、AIやロボットによる生産性向上などを通じて、少子化に適応した社会を築くべきです。移民の活用は、欧州の失敗に学び、すべきではないでしょう。

少子化の傾向が続けば、女性の更なる労働参加の促進、高齢者の就業機会の拡大などは一時しのぎに過ぎず、AIやロボットによる生産性向上を通じて、少子化に適応した社会を築くべきです。

EUでも様々な対策を行っても、少子化対策は成功していません。これでは、岸田政権による少子化対策は、実を結ぶ可能性は低く、少子化に適応した社会を築く方向に転換すべきです。

そのためにAIやロボット技術の活用は、少子化対策として必須となってくるでしょう。例えば、AIを搭載した育児支援ロボットの開発と普及は、育児の大変さを軽減し、子育て家庭を支えることができます。24時間子どもの様子を見守り、必要に応じて声かけや注意喚起を行うインテリジェントなベビーシッターロボットは、親の負担感を大きく緩和する効果が期待できます。

また、掃除、洗濯、食事作りなどの家事を支援する家庭用ロボットの開発も重要です。家事と子育てを両立させることの大変さが、少子化の背景にあると指摘されています。家事ロボットが普及すれば、子育てと仕事を両立させやすくなり、出産・育児への決断が促されるでしょう。

さらに、高齢社会を迎えた日本では、子育てと介護の両立問題も深刻です。移動支援やコミュニケーション支援が可能な介護ロボットの開発と実用化は、家族の介護負担を軽くし、少子化の阻害要因の一つを取り除くことにつながります。

さらに、AIとロボットによる生産性向上は、労働時間の短縮や柔軟な勤務体制の実現を可能にし、子育てと仕事の両立を後押しするでしょう。少子化は単に経済対策だけで解決できる問題ではないですが、技術革新を活用することは、その一因である子育て負担感の軽減に大いに資する重要な選択肢です。

AIやロボットを少子化対策として活用する取り組みは、すでに日本各地で始まっています。

具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられます。
  • 東京大学では、子どもの状況をセンサーで検知し、異常があれば保護者に通知するAI搭載の乳幼児監視ロボットを開発しており、これは夜間の見守りを支援します。
  • 産業技術総合研究所は、掃除や洗濯を自動で行う家事支援ロボットの研究開発を進めています。2021年には実証実験を行いました。
  • 介護現場では、移乗支援ロボットの導入が進みつつあります。寝たきりの高齢者をベッドから車いすへ移す際の重労働を軽減しています。
  • 自動運転技術の発展により、移動支援ロボットの実用化が期待されています。これにより外出時の介護負担が減ると考えられます。
  • 製造業などで産業用ロボットが活用され、省人化が進みつつあります。これによる労働時間短縮が仕事と子育ての両立を後押ししています。
このように、各分野で少子化対策としてのAI・ロボット技術の先進的な取り組みが始まっており、今後ますますその動きが加速することが期待されます。

AI・ロボット化で家事に余裕ができた女性 AI生成画像

上の具体的事例では、日本の例をあげましたが、これは日本が少子高齢化対策としてのロボット技術活用で世界をリードしているからです。

なぜ日本がリードしているかといえば、日本が抱える少子高齢化が世界的にも顕著であることに加え、ロボット技術大国である日本が少子高齢化を喫緊の課題と位置づけ、政府主導のもと研究機関や企業においてロボットの実用化に向けた開発が活発化していることによります。

具体的には、子育てや介護の負担軽減を目指した育児支援ロボットや介護支援ロボットの研究開発が政策的に推進されており、すでに実証実験など実用化に向けた具体的な取り組みが進展しています。日本が抱える少子高齢化の現状に鑑み、ロボット技術の最大限の活用は喫緊の課題であり、日本の取り組みは世界のモデルとして先導的な役割を果たすことが期待されます。

ただ、世界のモデルになるためには、政府としては、もっと予算を増やすべきです。その根拠として以下の表を掲載します。

ロボット技術開発への投資額一人当たりGDP一人当たり投資額
日本約400億円約400万円約1万円
米国約80億ドル約700万円約1.1万円
EU約70億ユーロ約500万円約1.4万円

この表は、以下の情報源からデータを取得してまとめたものです。
  • 日本:

    • 経済産業省
    • 厚生労働省
    • 内閣府
  • 米国:

    • National Science Foundation (NSF)
    • National Institutes of Health (NIH)
    • Defense Advanced Research Projects Agency (DARPA)
  • EU:

    • European Commission
    • European Regional Development Fund (ERDF)

  • 一人当たりGDPは、国際通貨基金(IMF)のデータに基づいています。

この表は、あくまでロボット技術に対する投資であり、その投資のうちどれだけが、少子化対策に用いられているかまでは、示すものではありません。

しかし、現在のロボット技術には当然のことながら、AI技術も含まれていますし、すべてのロボット技術は、少子化対策に転用可能です。そう考えると、日本はもっとAI・ロボットに投資すべきです。できれぱ、少なくともも欧米の数倍、できれば桁違いの投資をすべきです。

投資というと、すぐに増税という昨今の風潮は廃して、長期にわたって必要で大きなリターンがみこめる、AI・ロボット化への投資は、国債で賄うべきです。多くの人が、投資にはリターンがあることを忘れ、投資した分がこの世の中から消えてしまうような考えは捨てるべきです。

それと政府による投資というという、米国やEUではまずは減税というのが普通ですが、日本はでは最初から最後まで補助金というのがほとんどです。これは「公金チューチュー」や「中抜き」を助長します。

少子化対策のために、AI・ロボットに投資することにより生産効率はあがり、一人当たり生産性もあがり、経済も上向くことになります。

米国やEUなどのように、減税を実行して、多くのロボット産業などを優遇し、その中で誰もが認めるような先進的な企業がでてきたら、補助金を提供するなどの方式にすべきです。

最初から最後まで補助金一辺倒ということでは、たとえ「公金チューチュー」や「中抜き」がなかったにしても、役人にはこれから伸びていく技術なとを選択する能力など全くないので、最初から無駄な投資ということになりかねません。

新技術によるイノベーションなどは千に三つといわれるくらい、ヒットする率は低いです。であれば、当初は減税などで支援する方法は最も効率的です。その後、誰もが認めるようなところに、補助金を提供するというような方式が望ましいです。

日本としては、AI・ロボット化で少子化を乗り切るという戦略を強力に打ち出し、世界のモデルになることを本気で追求すべきです。

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2024年2月17日土曜日

「H3」2号機打ち上げ、衛星分離に成功 30年ぶり国産新型―【私の論評】H3ロケット成功で高まる日本の地政学的影響力と安全保障

「H3」2号機打ち上げ、衛星分離に成功 30年ぶり国産新型

まとめ
  • 2024年2月17日、JAXAは新型主力ロケット「H3」2号機を種子島宇宙センターから打ち上げ、搭載していた超小型衛星の分離に成功した。
  • H3は、1994年のH2ロケット以来となる新たな国産主力機で、2024年度中に退役予定のH2Aの後継機となる。
  • H3は、H2Aより一回り大きい機体で、衛星の打ち上げ能力を1.3倍に高め、打ち上げ費用を半額にすることを目指している。
  • 2号機は、1号機の失敗を受けて再発防止策を施した試験機で、初号機で失った衛星と同等の構造物と2機の超小型衛星を搭載していた。
  • 1、2段目のエンジンは予定通り燃焼し、発射後約17分にキヤノン電子の超小型衛星「CE-SAT-1E」を分離した。
打ち上げに成功したH3ロケット クリックすると拡大します

 JAXAは17日、新型主力ロケット「H3」2号機を種子島宇宙センターから発射した。H3は2024年度中に退役する現行の主力ロケット「H2A」の後継機で、今後20年間の日本の宇宙輸送を担うことが期待されている。

 初号機は昨年3月に打ち上げられたが、2段目エンジンへの着火に失敗(ブログ管理人注:中止)した。今回の2号機では、電源系統の改良など再発防止策を施しており、JAXAによると2段目エンジンは予定通り点火。搭載した2機の超小型衛星の分離にも成功した。

 H3はH2Aと比較し、エンジンの推力が向上しており、衛星の打ち上げ能力が1.3倍に高められている。また、低コスト化が図られており、打ち上げ費用はH2Aの半額程度に抑える目標がある。増加が見込まれる国際衛星打ち上げ市場での競争力確保が期待されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】H3ロケット成功で高まる日本の地政学的影響力と安全保障

まとめ
  • H3ロケットの成功で、アジアの宇宙開発競争で日本のプレゼンスが高まる 
  • 抑止力の観点から日本の安全保障が強化される 
  • 周辺国からは日本の技術力向上を警戒する動きも予想される 
  • 国際市場での日本の宇宙産業の競争力が向上する 
  • 西側諸国との協調関係が強化され、国際影響力が高まる

LE-9

H3ロケットは新1段エンジン「LE9」を採用し、設計思想を転換しました。このエンジンは低コストかつ高推力を持ち、H3の低コスト化の鍵となっています。さらに、 運搬する物資の量に応じてエンジン数を調整できるなど、柔軟性が高いです。

H3はH2AとH2Bの中間程度の衛星打ち上げ能力を持ち、全長はH2Aより10メートル長く、最大63メートルです。重さは575トンで、最大積載能力はH2Bの6トンを上回り、6.5トン以上となります。

1回当たりの打ち上げコストはH2Aに比べて半減し、約50億円前後に抑えられる見込みです。

日本のマスコミなどではほとんど報道されませんか、地政学的な観点から見たH3ロケットの成功が日本に与える影響について、解説します。

第一に挙げられるのは、アジア地域における宇宙開発競争が激化する中での日本の存在感と影響力の増大という点です。中国とインドを始めとするアジアの諸国が宇宙開発力を急速に強化している現状を考えると、これに対抗するためには、日本が持つ高度な技術力を強調し、アピールすることが重要となります。H3ロケットの成功は、日本の宇宙開発力の高さを世界に示す絶好の機会と言えるでしょう。

第二に、安全保障の観点からも、H3ロケットの成功は重要な意味を持ちます。弾道ミサイル防衛や情報収集衛星等の軍事利用に転用できる宇宙技術は、日本の抑止力の強化に直結します。これにより、日本の安全保障が一段と強固なものとなることが期待されます。

日本のH3ロケットの成功は周辺国、特に地政学的な観点から見て、脅威と受け止められる可能性があります。

中国とロシアに隣接する日本

ここで主に考慮すべき国々として、特に中国とロシアが挙げられます。これらの国々は自国も宇宙大国を目指しており、その観点から、日本のロケット技術の向上は警戒の対象となる可能性が高いです。

それは、ロケット技術が軍事利用の可能であるためで、それが安全保障上の懸念材料と位置付けることもあり得ます。これは特に、日本の技術力の進歩が、彼らの宇宙進出の目標達成に影響を与える可能性があるためです。

北朝鮮に関しても、同様の観点が存在します。北朝鮮は日本のミサイル防衛能力の向上を脅威と捉える可能性もあります。それは、北朝鮮の弾道ミサイル開発を抑止しうる日本の技術力が示された形でもあるからです。その結果、北朝鮮は警戒を強め、対日政策を見直すことも予想されます。

第三に、宇宙産業における国際競争力の強化も大きな意義があります。商業ロケットの需要が世界的に拡大している中で、日本の宇宙企業が国際市場で優位に立つには、先進的で高品質な技術力が不可欠となります。H3ロケットの成功は、日本の技術力と信頼性を示す証となり、国際競争力強化に寄与するでしょう。

宇宙で活躍する女性 AI生成画像

第四に、国際協力特に西側諸国への貢献力も重要な要素となります。日本はこれまで国際宇宙ステーションを始めとする多くのプロジェクトで重要な役割を果たしてきました。H3ロケットの成功は、日本の技術力をさらに高め、良好な国際関係の維持・強化にも寄与することでしょう。

以上のように、地政学的な視点から見ても、日本の宇宙開発力の強化は多大な意義を持ちます。H3ロケットの成功はその象徴とも言え、これをきっかけとして、日本の宇宙開発が更なる飛躍を遂げることを期待します。

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2024年2月16日金曜日

日本の名目GDP世界4位が確定 政財界からは楽観視する声も「一喜一憂する必要はない」―【私の論評】 名目GDPと実質GDPの違いを徹底解説!経済成長率を正しく測るために

 日本の名目GDP世界4位が確定 政財界からは楽観視する声も「一喜一憂する必要はない」

ドイツ国民は物価高で苦しめられている

 2023年の名目GDP(=国内総生産)がドイツに抜かれ世界4位が確定したことについて、政財界からは楽観視する声も出ています。
 
 日本の2023年1年間の名目GDPはドル換算で4兆2106億ドルとなり、ドイツに抜かれて世界4位になりました。新藤経済再生担当大臣は、為替相場で円安が続いている影響が大きいことに加え、ドイツは物価上昇率が高いなどの要因があると説明しました。この上で、国際的な地位は外交や文化など様々な分野で構成されるため、「あまり心配しなくていいのではないか」と述べました。

  一方、日本商工会議所の小林会頭も大幅に円安が進んだことが主因であって、物価の違いや為替レートの影響を除いた購買力平価で考えれば「一喜一憂する必要はない」と指摘しました。

【私の論評】 名目GDPと実質GDPの違いを徹底解説!経済成長率を正しく測るために

まとめ
  • 名目GDPと実質GDPは、どちらも国内総生産(GDP)を表す指標だが、物価変動の影響を受けているかどうかで異なる。
  • 名目GDPは、実際に取引されている価格に基づいて算出され物価上昇の影響を受ける。一方、実質GDPは、ある年の価格水準を基準として物価変動の影響を除いたGDP。
  • 経済成長率を測るには、実質GDPを用いる必要がある。名目GDPは物価上昇の影響を受けているため、経済の実体的な成長率を反映していないからでだ。
  • 名目GDPと実質GDPの違いをよく知らないマスコミなどがドイツとの比較大騒ぎしているが、日本の名目GDPを問題とするなら、過去30年にもわたってこれが上がらなかったことだ。
名目GDPと実質GDPは、どちらも国内総生産(GDP)を表す指標ですが、物価変動の影響を受けているかどうかで異なります。

名目GDPは、実際に取引されている価格に基づいて算出されるGDPです。そのため、物価が上昇すると、名目GDPも上昇します。しかし、実際の生産量やサービス量が変化していない場合でも、物価上昇によって名目GDPは増加してしまうという問題があります。

一方、実質GDPは、ある年の価格水準を基準として物価変動の影響を除いたGDPです。実質GDPは、経済の実体的な成長率を測る指標として用いられます。

例えば、ある年の名目GDPが100万円で、翌年の名目GDPが120万円だった場合、名目GDPは20%増加したことになります。しかし、この間に物価が10%上昇していた場合、実質GDPは10%しか増加していないことになります。

名目GDPは、物価変動の影響を受けているため、経済の実体的な成長率を測る指標としては不適切です。一方、実質GDPは、物価変動の影響を除いているため、経済の実体的な成長率を測る指標として適切です。

名目GDPと実質GDPは、どちらも重要な経済指標ですが、それぞれ異なる役割を持っています。

名目GDPは、経済規模の単純比較やインフレ率計算などに使用されますが、経済の実体的な成長率を測るには実質GDPを用いる必要があります。特にインフレ率の計算のためには必要不可欠です。

それぞれの指標の特徴を理解し、目的に合わせて使い分けることが重要です。

以下にドイツと日本の名目・実質のGDPの伸び率の推移を掲載します。

下はドイツのものです。
名目GDP伸び率実質GDP伸び率
20195.00%0.60%
2020-4.90%-5.30%
20217.70%2.90%
20227.20%3.60%
20236.30%-0.30%
ドイツ経済は、2020年に新型コロナウィルスの影響で大きく落ち込みましたが、2021年と2022年には力強く回復しました。
2023年は、ウクライナ戦争の影響で景気減速が予想されています。
名目GDPは物価上昇の影響を受けているため、実質GDPよりも高い伸び率を示しています。
2023年の実質GDPはマイナス成長となり、2020年以来初めて経済が縮小しました。

下は日本のものです。
名目GDP伸び率実質GDP伸び率
20190.70%0.70%
2020-4.80%-4.80%
20212.10%1.70%
20221.30%2.10%
20233.10%1.90%
日本経済は、2020年に新型コロナウィルスの影響で大きく落ち込みましたが、2021年と2022年には緩やかに回復しました。

2023年も、世界的な景気減速の影響を受けながらも、緩やかな成長が続くと予想されています。

名目GDPは物価上昇の影響を受けているため、実質GDPよりも高い伸び率を示しています。

次に日本とドイツのコアコアCPIの推移を掲載します。

日本ドイツ
2019年0.30%1.40%
2020年0.00%0.50%
2021年0.00%3.10%
2022年0.50%5.30%
2023年1.40%8.70%

コアコアCPIは、季節変動などが激しい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数です。

2023年12月時点で、日本のコアコアCPIは1.4%、ドイツのコアコアCPIは8.7%となっています。

ドイツのコアコアCPIは、日本よりも大幅に高い上昇率を示しています。これは、ウクライナ戦争の影響によるエネルギー価格の高騰がドイツ経済に大きな影響を与えていることを示しています。コアコアCPIには、エネルギー価格等はふくまれませんが、様々な産業活動等にはエネルギーが用いられます。そのため、エネルギー価格が高騰するとコアコアCPIも上昇するのです。

特に原発を全部廃炉にしたことが、大きいです。

日本のコアコアCPIは、2022年11月に0.8%まで上昇した後、2023年12月には1.4%まで上昇しています。これは、日本でも物価上昇が徐々に拡大していることを示してはいるものの、これは日銀が金融緩和策を継続しているからであり、正常な範囲内に収まっており異常なものではありません。

マスコミや一部の識者など、上のように総合的な判断をせず、一つの指標だけで判断して、得意の日本悲観論を語っています。このような論調には煽られないようにしましょう。

私は、名目GDPがドイツに抜かれたなどということは、何の問題もないと思いますが、過去30年間日本の名目GDPが伸びずほぼ同じであったことが問題だと思います。

その要因は、黒田総裁より前の日銀が実体経済におかまいなしに、長きにわたって、金融引き締めを行ってきたことが原因であり、それを批判してこなかったマスコミや識者に大きな問題があると思います。

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