2024年4月7日日曜日

実は日本以上に深刻 中国で「少子化」が著しく進むワケ 5年で700万人以上減―【私の論評】中国の少子化対策の失敗が、日本の安全保障を根底から揺るがしかねない

 実は日本以上に深刻 中国で「少子化」が著しく進むワケ 5年で700万人以上減

まとめ

  • 中国の人口が減少傾向にあり、合計特殊出生率も低下して日本を下回る水準となっている。
  • 一人っ子政策の影響で、男女比の著しいアンバランスが生まれ、「結婚できない男性」の増加と高額な結納金が若者の結婚意欲を減退させている。
  • 子供の教育費用が家計を圧迫しており、多くの家庭で2人目の子供を持つのが困難になっている。
  • 有名大学卒業でも就職が必ずしも保証されないなど、厳しい就職環境が若者の不安感を高めている。
  • 過酷な競争に疲弊した若者の間で、「寝そべり族」と呼ばれる社会からの離脱者が増えている。

 中国は長年にわたり世界最大の人口国であったが、近年深刻な少子化問題に直面している。2023年末時点の中国人口は前年より208万人減少し、14億967万人となった。合計特殊出生率も1.09と、日本を下回る水準まで低下している。

 この背景には、様々な要因が存在する。まず、1980年に導入された「一人っ 子政策」の影響で、中国社会に根強く残る「重男軽女」の意識から、男女比の著しいアンバランスが生まれた。一人っ子政策導入前は男女比がほぼ同数だったが、徐々に男子の数が増えていき、2023年末時点で男性が女性より3097万人も多くなっている。この男女比の偏りにより、「結婚できない男性」が急増し、結納金の額が高騰する事態を招いている。高額な結婚費用が若者の結婚や出産への意欲を減退させる大きな要因となっているのだ。

 さらに、子供の教育費負担も深刻な問題となっている。良い大学に入ることが将来を左右する中、多くの家庭で給料の3分の1近くが子供の学費に費やされている。子育ての経済的圧迫感から、多くの人が2人目の子供を持つことを断念せざるを得なくなっているのが実情である。

 加えて、有名大学卒業でも就職が必ずしも保証されないという「大学卒業=失業」の実態も、若者の不安感を増大させている。新型コロナ禍による経済減速も重なり、旅行業や飲食業など、かつて学生に人気だった業界が軒並み悪化。優秀な若者の多くが、過酷な競争に疲れ果て、結婚や就職を諦める「寝そべり族」として社会から離脱する事態も発生している。

 こうした課題に直面する中、中国政府は出産促進策の検討を進めているものの、根深い社会構造の問題への抜本的な対策が急務とされている。人口減少が続けば、経済悪化にもつながりかねない深刻な事態に陥る恐れがあり、早急な対応が求められている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】中国の少子化対策の失敗が、日本の安全保障を根底から揺るがしかねない

まとめ
  • 中国は少子化対策をしているが、その効果は期待はできず、中国から日米なとへの、移民が増えている。
  • 中国政府は「国家安全」を名目に、海外在住の自国民に対する恣意的な監視と統制を強化している。
  • この中国の法制度の影響により、中国人移民の増加は日本の国家安全保障を根底から脅かすリスクがある。
  • 中国政府による日本への経済的・情報的な浸透を防ぐためにも、中国人移民の受け入れを大幅に制限する必要がある。
  • また、重要インフラへの中国企業の参入を厳しく規制することも、緊急の課題となっている。
中国の特殊出生率が、日本を下回ったことを示す中国のグラフ

中国の少子化対策は成功しそうにありません。中国政府は少子化対策を実行しています。具体的な施策としては以下のようなものがあります。

まず、2015年に「一人っ子政策」を廃止し、子どもを2人まで認める政策を打ち出しました。さらに2021年には3人までの子どもを認める政策を導入しました。この産児制限の緩和は、第2子の出生数を一時的に増加させる効果がありましたが、長期的には出生率の低下に歯止めがかからない状況が続いています。

また、多子世帯に対する補助金給付の施策も講じられています。例えば四川省攀枝花市では、3歳までの子ども1人につき月500元の保育補助金を給付しており、これにより出生数が増加したと報告されています。住宅購入に対する補助金の給付も行われており、浙江省嘉興市では子どもの数に応じて補助金を支給しています。

さらに、女性の地位向上に関する政府の計画の中には、「人工中絶の減少」という記述が盛り込まれています。これは、少子化対策の一環として、出産を奨励し、人口のバランスを取るための取り組みだと位置付けられています。

中国の少子化問題は依然として厳しい現状にありますが、政府はこのように様々な施策を試行しています。ただし、補助金給付などの施策の効果は限定的であり、少子化の構造的な課題への包括的な対応が不可欠であるにもかかわらず、中国政府の少子化対策は出産制限の撤廃と、補助金給付等にとどまっているのが現状だからです。根深い社会問題への抜本的な施策がなければ、少子化の進行を食い止めるのは極めて困難です。

さらに、このブログでも何度か述べているように、フランスや北欧諸国のように中国などから比較すれば、手厚い子育て支援をしている国々ですから、少子化を免れない状況をみると、中国の施策が成功する見込みはほとんどないと言って良いでしょう。

この状況は、中国から外国への移民が増える原因となり続けるでしょう。

例えば、米国移民局のデータによると、2021年度の永住権(グリーンカード)取得者のうち、中国人は約18.5%を占めています。これは前年度から約6%増加しており、大幅な増加となっています。

また、一時滞在ビザ(非移民ビザ)の発行数でも、中国人が年々増加しています。2021年は約40万件と、2019年(約60万件)の水準には及びませんでしたが、新型コロナの影響で一時的に減少した後、再び増加傾向にあります。

この背景には、先ほど述べた教育の機会、経済的な安定、自由度の高さなど、米国が中国人にとって魅力的な移民先と映っているためと考えられます。

特に、中国の少子高齢化問題の深刻化や、都市部での生活コストの高騰など、中国国内の状況悪化が、米国移民への志向を高める要因にもなっているようです。

メキシコから米国目指す中国人移民

同じような理由から、日本への移民も増えています。

日本の出入国在留管理庁の統計によると、2021年末時点での中国人長期在留者数は約43.3万人と、10年前の約2倍に増加しています。

また、日本政府も高度外国人材の受け入れ促進に力を入れており、こうした施策も中国人の日本移民を後押ししているとみられます。

中国人の海外移民が増加することについては、中国政府にとって一定の危機感があると考えられます。それは、中国人による国外での反政府活動です。その危機感を反映しているのが、中国特有の法制度です。

まず、「国家安全法」では、「国家の分裂を企図する行為」や「テロ行動」など、非常に曖昧な定義の下で、海外在住の中国人に対する取り締まりの根拠となっています。海外で偶然にも政府の目に触れるような発言や行動をすれば、国内に残る家族への圧力や処罰の対象にもなりかねません。

加えて、「香港国家安全法」では、香港在住者だけでなく海外在住者も、「国家分裂」「テロ」「外国勢力の扇動」などの罪に問われる可能性があります。香港出身者や関係者にとって、海外でも安全が脅かされる状況が生まれています。

さらに、中国にはデータ3法とも呼ばれる「個人情報保護法」「サイバーセキュリティ法」や「データセキュリティ法」といった、情報管理に関する包括的な法制度も整備されています。これらにより、中国国外の中国人が、オンラインでの表現活動などを通じて、政府の監視下に置かれる危険性も高まっています。

「個人情報保護法」は2021年に施行された新しい法律ですが、その主な特徴は以下の通りです。
  • 個人の同意なく個人情報を収集・利用することを原則禁止
  • 個人情報の域外提供に際しては、国家安全や公共利益への影響を評価
  • 個人情報の処理者には厳格な保護義務を課し、違反時には罰則を科す
この法律は、一見多くの国々のそれと同じようにみえますが、大きな違いは、中国国外に移住した中国人の個人情報についても適用され、中国政府の管轄下に置かれるのです。

海外在住の中国人が、政府の目に触れるような活動をした場合、この「個人情報保護法」に基づいて、個人情報の不正利用などの罪で摘発される可能性も否定できません。

このように、中国政府は「国家安全」を名目に、「個人情報保護法」も活用しながら、海外在住の自国民に対する監視と統制を強めようとしているのが実情です。

このように、中国の法制度は極めて恣意的な運用がなされており、個人の自由や権利を脅かす要因となっています。

このような状況下で、中国人移民が日米などの自由主義社会に急増すれば、受け入れ国の安全保障や社会秩序に悪影響を及ぼす可能性があります。中国の少子化はまさに他人事ではないのです。

日本への移民をすすめる中国のポスター

中国政府は、自国民の海外移住を危険視しており、彼らに対する監視と統制を緩めることはありません。そのため、中国人移民の増加は、必然的に受け入れ国と中国政府との対立を呼び起こすリスクを孕んでいると言えるでしょう。

つまり、中国特有の法制度の影響を考慮すれば、中国人移民の増加は、単なる個人の選択の問題を超えて、受け入れ国全体の安全保障上の重要な課題につながっていくのです。

中国の異常な監視と統制を考慮すれば、日本は中国人移民の受け入れを大幅に制限すべきです。既に日本に居住する中国人についても、安全保障上のリスクが高いと判断せざるを得ません。

具体的には、日本政府は中国人移民の受け入れ停止や、在留資格の厳格な審査強化などを検討する必要があります。また、日本在住の中国人に対する監視と情報収集の体制を強化し、中国政府の影響力を遮断する対策が求められます。

加えて、中国への外交的な圧力と働きかけを更に強化し、人権尊重と法の支配の実現を強く求めていくべきです。中国政府が法制度改革に応じない限り、日本は中国人移民の受け入れを極力抑制せざるを得ません。

加えて、中国政府による日本への浸透を防ぐために、エネルギーを含む重要インフラ分野での中国企業の参入を厳しく規制すべきです。先般明らかになった、内閣府エネルギー関連タスクフォースへの中国企業の入り込みは、まさに日本の情報セキュリティを脅かしかねない深刻な問題だと言えます。

移民受け入れと情報セキュリティは表裏一体の喫緊の課題なのです。日本政府は、中国の法制度改革を強く要求するとともに、移民受け入れの大幅な抑制と、重要インフラへの中国企業の参入阻止など、総合的な対策を迫られています。

これらの課題に適切に対応できなければ、日本の国家安全保障は根底から脅かされかねません。一刻も早い根本的な改善策の実行が望まれるのは、まさにこうした理由からです。

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2024年4月6日土曜日

【台湾大地震】可視化された地政学的な地位、中国は「善意」を傘に統一へ執念 SNSには「救援目的で上陸を」の声も―【私の論評】台湾:東アジアの要衝、中国覇権の鍵、日本の最重要課題を徹底解説!

 【台湾大地震】可視化された地政学的な地位、中国は「善意」を傘に統一へ執念 SNSには「救援目的で上陸を」の声も

まとめ

  • 4月の台湾東部沖大地震は、台湾の国際的地位を一層際立たせる出来事となった。深刻な被害が生じた中、世界各国の政府首脳がSNSを通じて即座に台湾への支援と連帯の意を表明する「SNS外交」が展開された。
  • 一方で、中国政府も支援の意向を示したが、台湾はこれを辞退した。中国のSNSでは地震被害を「統一のチャンス」と捉える投稿が目立ち、当局が削除対応に迫られる事態となった。
  • 震災直前には、中国の習近平主席と元台湾総統の馬英九の会談の可能性が報じられていた。これは習近平が台湾内部の情報を把握しようとしている可能性が指摘された。バイデン大統領との電話会談も注目されるなど、台湾をめぐる国際的緊張が高まっていた。
  • 過去の震災時に台湾が日本などに大きな支援を行ってきた経緯から、日本政府は台湾との良好なパートナーシップを一層深めていくことが重要だ。
  • 今回の大地震は、台湾の国際的存在感を改めて示す出来事となった。自然災害が時に外国の野心をも刺激する一方で、友好国の存在も浮かび上がらせることがある、と評された。

 4月3日に台湾東部沖を震源とする大地震が発生したことは、台湾の国際的地位を一層際立たせる出来事となった。当初マグニチュード7.2と報告されていた地震は後に7.7に修正され、台湾全土で強い揺れを感じさせた。花蓮県では震度7に近い激しい揺れが観測され、山崩れやビルの倒壊など甚大な被害が生じた。死者9名、負傷者1000人以上という深刻な状況だった。

 この大地震に対し、国際社会は台湾への支援と連帯の意を即座に表明した。日本の岸田首相をはじめ、世界各国の政府首脳がSNSを通じてお見舞いのメッセージを発信し、援助の用意があることを示した。フランス、インド、フィリピンなど、台湾に対する世界の関心の高さが如実に表れた。一方、中国からも支援の意向が示されたものの、台湾はこれを辞退した。

 中国のSNSでは、台湾の地震被害に乗じて「統一のチャンス」だと述べる投稿も見られ、当局による削除対応に至った。一方、震災直前には、中国の習近平主席と元台湾総統の馬英九の会談の可能性が報じられていた。これは習近平が台湾内部の情報を把握しようとしている可能性があり、バイデン大統領との電話会談とあわせ、台湾をめぐる国際的緊張を窺わせる出来事だった。

 今回の大地震は、台湾の国際的な存在感を改めて浮き彫りにした出来事であった。過去の震災時に台湾が日本などに大きな支援を行ってきた経緯から、日本政府は台湾との良好なパートナーシップを一層深めていくことが重要だと指摘されている。自然災害の脅威が、時に外国の野心をも刺激する側面を持つ一方で、友好国の存在も浮かび上がらせることがある。

 台湾をめぐる情勢の変化は、今回の大地震によってさらに複雑な様相を呈することになった。民進党の頼清徳新大統領の就任を控えた時期に発生したこの大地震は、中国による軍事的恫喝をさらに強める契機にもなりかねない。一方で、世界各国の台湾支援の意思表明は、台湾の国際的地位向上の契機にもなりうる。

 このように、今回の大地震は台湾をめぐる複雑な国際情勢をより鮮明に反映した出来事となった。台湾の存在感が高まる中で、各国がその変化に戸惑いつつ、新しい関係構築を模索する契機となったと評価できるだろう。特に日本にとっては、台湾との良好な絆を一層強化し、その重要性を世界に示す好機だと言えよう。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】台湾:東アジアの要衝、中国覇権の鍵、日本の最重要課題を徹底解説!

まとめ
  • 台湾は中国大陸と日本、フィリピンなどの東アジア主要国の間に位置し、台湾海峡を管理する要衝である。中国にとっては東南沿岸部へのアクセスを牽制し、勢力圏を抑える役割を果たしてきた。台湾の独立は、中国の東アジアでの影響力相対的な抑制につながる。
  • 中国にとって台湾統一は長年の目標であり、「一つの中国」包摂は地域覇権確立に不可欠。中国は軍事的脅威で圧力をかけ続け、緊張関係は東アジアの地政学的バランスを左右する。
  • 台湾が中国支配下に置かれた場合、地政学的には中国の軍事力強化、海上輸送ルート管制、東シナ海・南シナ海の影響力拡大などが懸念される。経済面では、先進的な半導体産業や豊富な外貨準備高が中国経済に寄与し、パワーバランスを大きく変容させる可能性がある。台湾支配は東アジアの安定と繁栄に重大なリスクをもたらす。
  • 台湾の複雑な地形と周辺海域は、中国からの軍事侵攻を極めて困難にする。中国は多大な犠牲と長期化リスクを伴う侵攻作戦を躊躇せざるを得ない。
  • 中国の台湾侵攻阻止は、東アジアの安定と繁栄を守るために不可欠。日本は域内諸国と協力し、台湾の現状維持こそが日本の最大の課題である。

台湾は地理的にきわめて戦略的な位置に存在しています。台湾海峡は重要な航行ルートであり、台湾はその海峡を管理する要衝に位置します。また、台湾は中国大陸と日本、フィリピンなどの東アジアの主要国の間に位置しており、その地理的な立地から軍事的にも大きな意味を持っています。

地政学的に見て、台湾は中国の東南沿岸部へのアクセスを牽制し、中国の勢力圏を抑え込む役割を果たしてきました。台湾の独立性が維持されることで、中国の東アジアでの影響力が相対的に抑えられるのです。

一方で、中国にとっても台湾の統一は長年の目標であり、台湾の "一つの中国" 包摂は中国の地域覇権を確立する上で不可欠とされています。そのため、中国は軍事的脅威を用いて台湾に圧力をかけ続けてきたのが現状です。

この台湾をめぐる緊張関係は、東アジアの地政学的バランスを左右する重要な要因となっています。台湾の現状維持が、地域の安定に不可欠だと指摘されるのはそのためです。

今回の大地震は、まさにこうした台湾の地政学的位置づけを国際社会に再認識させる契機となりました。各国が台湾の存在感を強く意識し、支援の意を表明したのは、台湾の重要性を物語っているといえるでしょう。

台湾の山脈 阿里山山脈黒矢印は新高山の位置

さらに、これは今回の地震により可視化されるかどうかはわかりませんが、台湾の地理的特性から、台湾への軍事的侵攻は極めて困難であることを指摘しておきます。

まず、台湾は中国大陸から台湾海峡を挟んで隔てられているため、侵攻のための兵力の海上輸送が大きな障壁となります。狭い台湾海峡を渡る輸送部隊は長時間にわたる脆弱な状態に置かれることになります。

さらに、台湾の西側海域は比較的浅いのに対し、東側の海域は急激に深くなっています。この地形的特性も上陸作戦を大幅に困難にします。西側からの上陸は浅瀬が広がるため容易ですが、東側の急深な海域は上陸を著しく阻害します。また、西側の浅い海域では、潜水艦の発見が容易になり、潜水艦による上陸部隊の支援も困難になります。

加えて、台湾本島には東部を中心に急峻な山岳地帯が広がっています。最高峰の玉山は3,952mの高さを誇り、日本の富士山(3,776m)を大きく上回る標高を持っています。この中央山脈は侵攻部隊の進軍を大きく阻害する地形条件です。上陸した後の内陸部への機動も極めて困難になります。加えて、兵站を困難しています。

一方、台湾の西側海岸線は複雑な形状をしており、多数の河川が流れ込むことで上陸地点が限定されます。河川沿いの低地は防衛に有利な地形が広がっています。

さらに、台湾全土に複雑な地形が広がっているため、侵攻軍の機動性が大きく損なわれます。山岳地帯や河川沿いの低地、密集した都市部の通過は極端に遅くなるでしょう。

このように、台湾の地理的特性は台湾防衛に極めて有利に作用します。

したがって、台湾への軍事的侵攻は、多大な犠牲と長期化するリスクを伴う極めて困難な作戦と評価できます。地理的条件から見て、台湾の防御力は高く、侵攻を阻止できる可能性が高いと考えられるのです。台湾の地政学的重要性は、このような地理的要因によっても裏付けられるといえるでしょう。

中国人民解放軍

台湾は上でのべたように、中央山脈に代表される起伏の激しい地形が大部分を占めています。平坦な土地が少なく、農業に適していない地域が多いのが特徴です。

従って、中国の歴代王朝にとって、台湾は単なる辺境の島嶼にすぎず、戦略的な価値以外の関心は低かったと考えられます。むしろ、台湾の先住民族に対する支配や統治が主な関心事だったようです。

耕作に適さない台湾の地形は、中国にとって直接的な利益をもたらさない地域だったと言えます。資源の乏しさや交通の不便さなども相まって、歴代王朝は台湾にあまり関心を払ってこなかったといえます。

台湾の地政学的重要性は、近代になって初めて注目されるようになったと理解できます。

第二次世界大戦中、日本軍は台湾の防衛に力を注いでいたものの、米軍は台湾への直接上陸を敢行しなかったのは、台湾の地理的条件を考慮したためと考えられます。

台湾には大規模な日本の陸軍部隊が配備されていました。1930年代の時点で約10万人規模の台湾軍が駐留しており、彼らが台湾の防衛の中心的役割を果たしていました。

海軍も台湾の防衛に参加しており、台湾周辺の海域を警備する艦隊が常駐していました。台湾の各港湾には海軍基地が設けられ、上陸阻止のための火力支援も期待されていました。

さらに、台湾全土には警備隊やゲリラ部隊なども編制され、地域防衛の任務を担っていました。台湾住民も含めた総力戦体制が構築されていたのです。

こうした陸海空の総合的な防衛力によって、日本軍は台湾の防衛に万全を期していました。米軍が台湾への上陸作戦を企図しても、相当の犠牲を強いられるだろうと見られていたのは事実です。

ただし、沖縄戦の敗北などを経て、1945年時点での日本軍の実力は大きく低下していました。にもかかわらず、米軍は台湾への直接侵攻を断念したのは、やはり地理的条件の困難さが大きな要因だったと考えられます。

米軍は台湾への直接上陸作戦を行わず、むしろ沖縄やフィリピンなどの島嶼部の奪還に注力しました。この背景には、台湾の地理的条件が大きな要因としてあったと理解できます。

大東亜戦争時に台湾原住民により編成された日本軍の部隊、高砂義勇隊の勇姿

前述のように、台湾の複雑な地形と周辺海域の特性は、上陸作戦を極めて困難なものにします。米軍は台湾侵攻の困難さを見抜いていたと考えられ、代わりに相対的に侵攻が容易な沖縄などの島嶼部に攻勢を集中させたのだと推察されます。

第二次世界大戦中における米軍の台湾侵攻回避は、台湾の地政学的重要性を示す一つの歴史的事例だったと言えます。台湾の地理的条件が、戦略的判断に大きな影響を及ぼしていたのだと理解できます。

これだけ重要な台湾が中国の支配下に置かれた場合、いくつかの重大な影響が予想されます。

まず地政学的観点からは、台湾の掌握により、中国の軍事的地位が大きく強化されることが懸念されます。先にあげたように、台湾の地理的条件は防衛に非常に有利であり、中国がこれを支配すれば、東アジアにおける軍事的覇権を確立しやすくなります。

台湾海峡の管理権を握ることで、中国は重要な海上輸送ルートを管制できるようになります。日本やその他の東アジア諸国への圧力手段として活用できるでしょう。また、台湾の地形的特徴を活かし、中国軍の活動拠点としても機能させることが可能です。

さらに、中国の台湾の支配により、中国は東シナ海や南シナ海における影響力を一層強化することができます。台湾は中国にとって「機先を制する」ための戦略的ポジションなのです。

経済面でも、中国による台湾の支配は大きな影響を及ぼすでしょう。台湾は先進的な半導体産業などを有し、世界有数のハイテク拠点です。これが中国の手に渡れば、中国の技術力向上に大きく寄与することになります。

さらに、台湾の豊富な外貨準備高も中国の経済的優位性を高めることに役立つかもしれません。経済的な地位向上により、中国の政治的影響力も増大していくことが予想されます。

結果的に、台湾の中国支配は、東アジア地域におけるパワーバランスを大きく変容させることになるでしょう。地政学的・経済的に重要な台湾を手中に収めた中国は、域内での覇権的地位を確立できる可能性が高まります。

これに対して、日本をはじめとする域内諸国は、中国の台頭に歯止めをかける必要に迫られます。台湾の中国支配は、東アジアの安定と繁栄に重大な影響を及ぼすリスクを孕んでいると言えるのです。

中国の台湾への軍事侵攻は、上で示したように、困難を極めます。しかし、中国はありとあらゆる手段を講じて、地政学的に重要な台湾を統一しようとするでしょう。これを日本は何が何でも阻止しなければならないのです。台湾有事は、日本有事であり、台湾を守ることこそが、現在の日本の一番重要な課題なのです。

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2024年4月5日金曜日

半導体リスク、懸念払拭に腐心 TSMC「防災能力十分」 台湾―【私の論評】台湾の半導体産業の強みから学ぶ ウクライナ IT 産業復興の可能性

半導体リスク、懸念払拭に腐心 TSMC「防災能力十分」 台湾

まとめ
  • 台湾で3発生した大規模地震が、台湾の半導体製造大手TSMCにどのような影響を及ぼすか注目されている。
  • 経済安全保障の観点から、重要な半導体製造が台湾に集中していることのリスクが指摘されており、TSMCと台湾政府は対応に腐心している。
  • TSMCは地震の影響を概ね7割以上が復旧したと説明し、対応能力に自信を示したが、海外メディアは、地震多発で地政学的緊張地域にある台湾に半導体製造が集中することのリスクを指摘。
  • TSMCは世界シェアの6割を占め、台湾に生産能力の9割以上を集中させている。各国は台湾への依存低減を目指し、TSMCの海外展開を後押ししている。
  • 台湾政府関係者は、台湾への「一極集中」を疎む見方に対し、台湾の存在感を示す機会にもなっていると複雑な心境を吐露している。

地震の被害にあった台湾の書店

 台湾で3日に発生した大規模地震を受けて、世界をリードする半導体製造大手TSMCの影響が注目されている。台湾に半導体製造が集中していることのリスクが、経済安全保障の観点から以前から指摘されていたが、今回の地震を受けてさらに注目が集まることとなった。

 TSMCは地震の影響について7割以上が復旧したと説明し、対応能力に自信を見せた。しかし、海外メディアからは、地震多発で地政学的緊張の高い台湾に半導体製造が集中していることのリスクが指摘された。TSMC は世界シェアの6割を占め、台湾内に生産能力の9割以上を置いているため、各国は台湾への依存を低減するべく、TSMCの海外展開を後押ししている。

 一方、台湾政府関係者は、台湾への「一極集中」を疎む見方に対して、台湾が国際社会で存在感を示し、中国からの統一圧力に対峙できている面もあると、複雑な心境を示した。

【私の論評】台湾の半導体産業の強みから学ぶ ウクライナ IT 産業復興の可能性

まとめ

  • 台湾の半導体産業、特に世界をリードするTSMCの存在が、地震の影響を受けて注目を集めている。
  • 台湾への半導体製造の集中は、自然災害や地政学的リスクの観点から経済安全保障上の課題となっている。
  • しかし台湾政府関係者は、台湾への半導体集中を疎外する見方に対し、台湾の国際的地位確立の機会ともなっていると主張している。
  • 台湾の半導体製造能力は、台湾自身の経済的自立と繁栄に不可欠であり、同時に台湾を支持する国々の地政学的利益にも深くかかわっている。
  • 台湾の半導体産業の強靭性は、ウクライナの IT 産業復興にも参考になる可能性がある。
先日の台湾東部での大地震に遭われた方々に、心よりお悔やみ申し上げます。犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたします。地震の影響で被害にあわれた方々が一日も早く日常の生活を取り戻せますよう、心からお祈りしております。

さて、今回の地震は台湾の半導体産業にも大きな影響を及ぼしたようです。台湾は世界の半導体生産の中心地となっており、特に台湾積体電路製造(TSMC)の存在は極めて重要です。今回の出来事を契機に、台湾の地政学的な位置づけや、経済安全保障上の課題などについて考えてみたいと思います。

台湾国旗

経済安全保障の観点から、重要な半導体製造が台湾に集中していることのリスクは以下のようなことが考えられます。

第一に、地震や自然災害のリスクが高い台湾に半導体製造が集中していることです。今回の地震で一時的な生産停止を余儀なくされたTSMCの例が示すように、自然災害による供給途絶のリスクが高まります。

第二に、台湾をめぐる地政学的な緊張が高まっていることです。中国による台湾への圧力が高まる中で、半導体供給の寸断などが懸念されます。経済活動に不可欠な半導体の供給が滞るリスクがあります。

第三に、台湾への依存度が高すぎることで、サプライチェーンの多様化が進まないことです。特定の地域への過度の集中は、予期せぬ事態への脆弱性を高める可能性があります。

以上のように、台湾への半導体製造の集中は、自然災害や地政学的リスクの観点から、経済安全保障上の課題をはらんでいると指摘できます。

ただし、上は海外の先進国などから見た視点であり、台湾と台湾を支援する国々からの視点を考えてみると、これとは異なる見方が可能です。

台湾の半導体製造能力が台湾自身や台湾を支援する国にとって、国益につながるということがいえます。

まず、台湾にとって、半導体産業は経済の中核を成す極めて重要な産業です。TSMCをはじめとする台湾企業は世界をリードする高度な半導体技術を持ち、台湾の経済成長と国際的地位の確立に大きく貢献してきました。したがって、この半導体製造拠点を維持し続けることは、台湾の経済的自立と繁栄にとって不可欠なのです。

一方で、中国による台湾統一への圧力が高まる中、台湾の半導体製造能力は戦略的にも極めて重要な意味を持っています。台湾は中国に対抗し、独自の地位を確保する上で、この技術優位性を活かすことができるのです。

そのため、台湾の半導体製造拠点を支援し、台湾の地位を守ることは、日米をはじめとする台湾支援国にとっても重要な国益につながっています。台湾の半導体技術を掌握することで、これらの国々は中国に対する地政学的影響力を維持・強化することができるのです。


つまり、台湾の半導体製造能力の維持は、台湾自身の経済的自立と、台湾を支持する国々の地政学的利益の両方に深くかかわっているのが実情なのです。これこそが、台湾の半導体製造拠点が持つ極めて重要な国益となる理由なのです。

台湾は、TSMCをはじめとする企業の先端的な半導体技術力により、世界の半導体生産の中心的役割を担ってきました。この技術力は台湾の経済的地位の確立に不可欠であるだけでなく、自由主義陣営の技術優位性を示す象徴的な存在でもあります。

ところが、中国がこの台湾の半導体製造能力を手に入れれば、中国は強大な経済的・軍事的な優位性を得ることができます。そうなれば、現在の自由主義秩序に基づく世界経済体制が根底から揺らぐ可能性すらあります。

つまり、台湾の半導体産業を中国に渡すことは、単なる経済的な問題にとどまらず、世界の政治・安全保障秩序に関わる極めて重大な問題なのです。

したがって、台湾の半導体製造能力を自由主義陣営が確保し続けることは、世界の平和と安定を維持する上で不可欠な課題だと言えるでしょう。これこそが、台湾の半導体産業の持つ、より大きな地政学的意義なのです。

TSMCは4日夜の声明で、工場設備の復旧率はすでに80%を超え、このうち世界最先端の半導体の量産を行っている新工場では完全復旧する見通しだと明らかにしました。そうしてTSMCが迅速に立ち直れたことは、台湾半導体産業の強靭性を示す証左だと言えます。

台湾の半導体産業その中でも、世界最戦隊の半導体工場が、自然災害からの影響を短期間で乗り越えられたことは、極めて重要な意味を持っています。

第一に、これは台湾半導体産業の高い技術力と危機管理能力を示しています。台湾メーカーが自然災害への備えを十分に行い、素早い復旧を実現できたことは、台湾の産業競争力の高さを証明するものです。

第二に、この迅速な復旧は、台湾半導体産業の戦略的価値をも示すものと言えます。たとえ中国などの攻撃によりダメージを受けたとしても、台湾は短期間で生産を再開できる能力を持っているのです。これは台湾の安全保障にも直結する重要な強みといえるでしょう。

つまり、今回の地震からの復旧の早さは、台湾半導体産業の強靭性と戦略的価値を如実に示すものだと評価できます。これは台湾の存在意義を改めて示す好機となったと言えるでしょう。

そうして、こうした台湾の事例は、我が国日本にも非常に参考になると思います。

台湾のTSMCがここまで迅速に地震の影響から立ち直れたことは、日本の産業にとっても参考となる事例です。台湾の危機管理体制や、サプライチェーンの強靭性を学ぶことで、日本企業の競争力向上につなげられるかもしれません。

また、台湾の半導体産業が持つ地政学的な重要性については、日本もまた同様の戦略的意義を有していると言えます。中国の脅威に直面する日本にとっても、自国の産業基盤を守り抜くことは重要な国家的課題なのです。

したがって、台湾の経験は日本の産業政策を考える上で、大変参考になると評価できるでしょう。日台両国が協力し、半導体産業の強靭性を高めていくことが、双方にとって重要な戦略的意義を持つと言えます。

さらに、台湾のTSMCが蓄積してきた半導体の高度な製造技術は、ウクライナの復興にも参考になる可能性があると考えられます。

ウクライナ国旗

ウクライナは、ロシアによる侵攻で深刻な被害を受けていますが、復興に向けた取り組みが進められています。その中で、特に注目されるのがウクライナの IT 産業の将来的な発展です。

ウクライナは、ソ連時代から優れたエンジニアを多く輩出してきた国であり、IT 分野での高い技術力を持っています。これまでも IT 企業の進出が相次ぐなど、ウクライナはIT産業の新興拠点としても注目されてきました。この点、ウクライナは他の発展途上国とは明らかに異なります。

そこで、台湾のTSMCが培ってきた半導体の最終工程における高度な製造技術は、ウクライナにとって非常に参考になるのではないでしょうか。 ウクライナがIT等の一定の分野でこれに匹敵するような技術力を身につければ、自国の IT 産業を強化し、経済復興につなげていくことができるかもしれません。

その結果、ウクライナが経済発展し、このブログでも以前指摘したように、ウクライナの一人あたりのGDPが、韓国なみになれば、ウクライナのGDPは、開戦前のロシアのGDPと同程度になります。

もちろん、ウクライナと台湾では国情が大きく異なるため、単純に当てはめることはできません。しかし、両国が抱える課題の共通点もあり、お互いの経験を活かし合えるポテンシャルは十分にあると考えられます。

ウクライナの IT 産業の復興と発展に向けて、台湾の半導体技術が一石を投じることができるかもしれません。これは両国にとって大きな意義を持つ可能性があるといえるでしょう。また、日本にとっても大きな意義をもつことになるかもしれません。

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2024年4月4日木曜日

インドがインフラ投資で経済成長加速、中国を揺さぶる―【私の論評】インド主導の新たな地政学的勢力図が浮上し、中国は孤立を深めるか

インドがインフラ投資で経済成長加速、中国を揺さぶる

まとめ
  • 国際機関は中国が目標の経済成長率を達成できない可能性があると指摘している一方、インド経済への見通しは前向きである。
  • インドの実質GDP成長率は8.4%と高く、前年から加速している。中国との成長率の開きが中国政府を動揺させている。
  • 自動車販売など他の経済指標でも、インドの成長ぶりが目覚ましい。
  • インフレ率は5%と高めだが鈍化傾向にあり、中国のデフレ問題よりはましな状況。
  • インフラ投資がインドの経済成長を後押ししており、中国がかつて経験したインフラ投資の効果を現在インドが享受している。
停滞する中国 AI生成画像

 中国の経済成長に対する懐疑的見方が広がる一方で、インド経済は飛躍的な伸びを示している。IMFや世界銀行、主要金融機関は、中国が目標とする経済成長率を達成できないと指摘している。一方のインドに対しては、中国より前向きな見通しが示されている。

 インドの実質GDP成長率は8.4%と高く、前年から加速している。中国に経済規模で追いつくにはまだ時間がかかるが、両国の成長率の差は中国政府を動揺させているに違いない。インド政府は国民に繁栄をもたらす約束を実現しているが、中国は同様の約束を果たせていない。

 他の指標でも、インドの成長ぶりが目覚ましい。自動車販売は前年比37.3%増だった。IMFはインドの2024年度成長率予想を6.5%に上方修正したが、インド政府は7.6%と見込んでいる。

 インフレ率は5%と高めだが、鈍化傾向にある。高インフレは経済不振の要因となるが、中国のデフレ問題よりはましである。

 インドの経済成長を支えているのはインフラ投資で、かつて中国が享受した開発の恩恵を現在インドが受けている。必要な道路、住宅、港湾整備への公共投資が成長と生活水準向上をもたらしている。一方で中国は、すでにそうした過程を経ているため、同様の大きな効果は望めない。

 両国の経済格差が縮まれば、中国は経済、外交、軍事面での政策を変更せざるを得なくなる可能性がある。特に太平洋進出を目指す中国にとって、台頭するインド経済は脅威となりうる存在だ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】インド主導の新たな地政学的勢力図が浮上し、中国は孤立を深めるか

まとめ
  • 中国が一帯一路が行き詰まった場合、その空白部分にインドが食い込み、中国に代わる存在になる可能性が高い。
  • 債務問題で疲弊した国々に対し、インドが中国に代わる融資や経済援助の選択肢となり、それによって中国の影響力がさらに薄れる可能性がある。
  • インドの経済成長に伴い影響力が高まれば、インドが中心となり、中国を地政学的に孤立させる新たな国際秩序が生まれる可能性がある。
  • インドは中国の南シナ海進出に強い警戒心を持っており、経済力の伸長とともにインド洋からの南シナ海への存在感を増す可能性がある。
  • パキスタンなど、かつては中国に接近してきた国々が、経済的な実利を重視してインドに接近する動きが出てくるだろう。中国の伝統的な友好国・同盟国関係が崩れる可能性がある。
発展するインド AI生成画像

インドの経済発展が中国にとって地政学的な脅威となる可能性は以下の点から考えられます。

1. 影響力の拡大
経済力を背景に、インドは南アジア地域での影響力を一層高めるでしょう。これにより、中国の「一帯一路」構想への対抗勢力となりうる。特に、パキスタンなど伝統的な中国の友好国でさえインドに接近するかもしれません。
2. エネルギー安全保障を巡る対立 
経済成長に伴い、インドのエネルギー需要は増大する一方です。中東やアフリカからの海上交通路の安全確保が重要になり、この地域での中国の存在感の高まりとぶつかる可能性があります。  
3. アジア太平洋地域でのパワーバランス
経済力を梃子に、インドはアジア太平洋地域でより大きな発言力を求めるでしょう。中国の一党支配体制に対抗する民主主義勢力の中心となれば、この地域での勢力均衡を変える可能性があります。
4. グローバル・ガバナンスへの影響
国連などの国際機関や新興国グループでの発言力が高まれば、中国の主張に反するルール形成が進む恐れがあります。 特に人権などの価値観の対立が表面化しかねません。
5.軍事的対立への発展の可能性
領土・領海をめぐる対立が先鋭化すれば、国境地帯での小規模衝突が大規模化するリスクも排除できません。
このように経済力の伴わない影響力の拡大は、中国の地政学的利益と真っ向から対立する可能性があり、両国関係を大きく揺るがす要因となります。

中国が「一帯一路」構想を打ち出した背景には、国内のインフラ整備余力が小さくなってきたことが大きな要因となっています。

1990年代以降、中国は高速道路、高速鉄道、空港、港湾などのインフラ投資を大々的に行い、経済発展を支えてきました。しかし、こうした国内投資の効果が一巡し、新たなインフラ需要が限られてきたのです。

中国の高速鉄道は新規の採算路線は見込めない状況

一方で、中国の建設・機械産業は過剰な生産能力を抱えるようになり、国内需要だけでは吸収しきれない状況に陥りました。

このため、中国は2013年に「一帯一路」を発表し、余剰生産能力を海外の成長市場でインフラ輸出に振り向けることで、国内産業の空洞化を回避しようとしたと考えられています。

つまり、中国が一帯一路を推進するのは、国内インフラ整備の完了と過剰生産能力の2つの事情が背景にあり、インドのように今後インフラ需要が見込める新興国に着目したものだと言えます。

「一帯一路」は単なるインフラ輸出にとどまらず、中国の政治・経済的な影響力の海外展開の手段でもあり、そのためには中国企業や中国人労働者が主体となることが不可欠なのです。

中国は投資規模の大きさを追求する一方で、投資の質や持続可能性については十分な配慮が欠けがちだと考えられます。開発経済の理論では、自国よりも成長率の高い新興国に対する投資は、長期的には自国にも恩恵があるとされています。しかし、中国の行動はこの原則から外れているようです。短期的な政治的、経済的な利益優先で、費用対効果の観点が不足しているのが実態ではないかと思われます。

債務問題が解決できなければ、中国の影響力低下、新規投資機会の喪失、国内外からの批判と信頼の失墜といったリスクが現実化し、構想の継続自体が困難になると考えられます。債務問題への対応が構想の命運を決める最大の鍵となっているのです。

中国の一帯一路構想

しかし、現在中国自身が国内で深刻な債務問題を抱えている状況下で、一帯一路における債務国の問題の解決を主導することは極めて難しいと考えられます。

中国国内では以下のような債務問題があります。
  • 地方政府債務の膨張
  • 不動産デベロッパーの債務不払い問題
  • 企業部門の過剰債務
  • 金融機関の不良債権増加
このように、自国の債務問題で既に手いっぱいの状況にあり、財政出動の余力に乏しくなっています。

そうした中で、一帯一路の債務国に対して主体的に債務再構築や資金支援を行うことは現実的に極めて難しいでしょう。

さらに、中国自身の債務問題が一層深刻化すれば、一帯一路向けの出資・融資自体が制約を受ける可能性もあります。

中国が自国の債務問題に向き合えない状況が続けば、一帯一路の債務国支援は後手後手に回り、債務問題の解決が遅れ、ひいては構想自体の行き詰まりに直結する恐れが高まります。

一帯一路構想の失敗リスクが高まる中で、インドの経済成長は中国にとってさらなる地政学的脅威となる可能性があります。


その理由は以下の通りです。

1. 影響力の空白を埋める存在
一帯一路の行き詰まりで、中国の経済的・政治的影響力が後退する空白が生じた場合、台頭するインド経済がその空白を埋める存在となりかねません。特に、南アジアや太平洋地域での影響力の空白は大きな懸念材料です。
2. 債務国の選択肢となる
一帯一路の債務問題で疲弊した国々に対し、インドは中国に代わる融資や援助の選択肢になる可能性があります。その場合、中国の影響力が一層薄れることになります。
3. 対中包囲網のリスク
経済成長とともにインドの影響力が高まれば、中国に対する封じ込め意図を持った国々と連携するリスクが増えます。日米などと協調し、中国を地政学的に孤立させる動きにもつながります。
4. 南シナ海での対立の深刻化
インドは中国の南シナ海進出に警戒を持っており、両国の海洋をめぐる対立が深刻化する恐れがあります。
5. パキスタンの接近を阻む
パキスタンはかつて中国に接近していましたが、経済的実利を求めインドに接近するリスクもあり得ます。
このように、経済力を背景にインド主導の新たな地政学的勢力図が浮上すれば、中国は孤立を深める恐れがあります。一帯一路の失敗と相まって、インドの経済成長は中国の地政学的リスクを一層高めることになるでしょう。

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2024年4月3日水曜日

静岡の川勝知事が辞意表明 新規採用職員への職業差別訓示で批判―【私の論評】静岡県知事辞任 - 製造業界の支持離れとリニア開業の遅延

静岡の川勝知事が辞意表明 新規採用職員への職業差別訓示で批判

まとめ
  • 静岡県知事の川勝平太が、6月の県議会をもって辞職する意向を表明した。
  • 新規採用職員向けの訓示で「頭脳、知性の高い方」と発言し、職業差別と批判された。
  • 過去に度々不適切な発言を繰り返してきた経緯がある。
  • リニア中央新幹線の大井川工区の工事着工を認めず、JR東海と対立していた。
  • 川勝知事の辞職表明でも、リニア開業の大幅な遅れは避けられない見通し。

川勝知事

 静岡県の川勝平太知事が2日、県庁で記者団に対し、6月の県議会をもって知事職を辞すると表明した。これは、1日の新規採用職員向け訓示で、「毎日毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかとは違い、基本的に皆さんは頭脳、知性の高い方。それを磨く必要がある」と述べたことが職業差別と批判されたためである。

 川勝知事はこの発言について「差別的な意図や意識はない」と釈明したものの、「言葉が不十分だった。不愉快に思った人がいたら申し訳ない」と謝罪した。しかし、川勝知事には過去に不適切発言を繰り返してきた経緯があった。

 早稲田大教授や静岡文化芸術大学長を経て2009年に知事に初当選した川勝知事は、御殿場市を「コシヒカリしかない」と発言するなど問題視されてきた。昨年7月には県議会で不信任決議案が可決を免れたものの、「今後不適切な言動があれば辞める」と述べていた。

 また、川勝知事はリニア中央新幹線の大井川工区の工事着工を認めず、工事主体のJR東海と対立していた。JR東海はこのため先月29日、当初の2027年開業を断念すると表明している。川勝知事の辞職表明が出たものの、工期の大幅な遅れは避けられない見通しで、関係者は今後の情勢を注視することになった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】静岡県知事辞任 - 製造業界の支持離れとリニア開業の遅延

まとめ
  • 川勝知事の強力な支持基盤は、スズキ、ヤマハ、日産系列、ホンダ系列など県西部の大手製造業界にあった。
  • 県央部の鈴与など製造業界に加え、地元メディアも川勝知事を支持していた。
  • 一方で県東部では組織票が弱かったが、この地域は人口の多い都市は少なく、他候補には勝ち目がなかった。
  • 今回の失言が製造業支持基盤の離反を招き、辞任を選択した可能性が高い。
  • リニア開業遅延が核融合発電などの先端技術振興にも影響を及ぼすため、問題視されたとみられる。
川勝知事の強力な支持基盤として、スズキを始めとする静岡県の製造業界が挙げられます。

具体的には、スズキ、ヤマハ、ジャトコ(日産系列)、ユタカ技研(ホンダ系列)など県西部の大手企業や、鈴与をはじめとする県央部の企業が組織票として川勝知事を支えていたと考えられます。さらに地元紙のテレビ静岡や静岡新聞などのメディアも川勝推しであったようです。

一方で、県東部では組織票が弱かったものの東部には人口の大きな都市は少なく、そのため他の候補者には勝ち目がなかったようです。県全体として製造業の集積が非常に大きな静岡では、このような経済界からの影響力は無視できなかったでしょう。

つまり、川勝知事を支える有力な個人的支持基盤は、スズキの鈴木修会長や鈴与シオタニ会長など、静岡県を代表する大手製造業界の経営者層にあったと推測されます。この点が、川勝氏の長期政権を支えた大きな要因だったと考えられる次第です。

それしても、今回のこの失言はわざとらしいです。あまりにもレベルが低すぎるからです。ならば、なぜ辞職を決めたのでしょうか。

リニアの完成遅延が確定し中国からの指令を果たしたからかと邪推したくもなりたくなります。これに関しては、おそらく正しいと思うのですが、残念ながら確かめる術はいまのところありません。どなたか、解明していただきたいです。

片山さつき

もしくは片山さつき議員の国会での「リニア稼働が遅れると核融合発電のサプライチェーン作りも遅れる」という指摘の反響が大きかったかからでしょうか。

片山さつき議員の国会での指摘は以下の事実に基づいています。

核融合発電は、将来の重要なエネルギー源として期待されている次世代発電技術です。しかし、核融合炉を実用化するためには、高性能な超伝導材料などの先端部材が大量に必要となります。

これらの部材を製造・輸送するサプライチェーンを構築する上で、リニア中央新幹線の高速大量輸送力が極めて重要な役割を果たすと考えられています。リニアが開通すれば、核融合炉建設に必要な部材の効率的な調達が可能になるからです。

時速500kmで走行できる高速性と、大量の貨物を一度に輸送できる大容量性を兼ね備えたリニア中央新幹線が、核融合炉建設におけるサプライチェーンを支える重要な役割を担うと期待されているのです。時速500Kmなら、東京、札幌間は2時間と少しくらいです。

マックス・プランクプラズマ物理学研究所英語版)が設置したヘリカル型核融合実験炉

リニアが開通すれば、全国各地から必要な大型部材や資材を集約し、効率的に核融合炉建設現場に輸送できるようになります。人の往来もかなり迅速で、楽にできます。このため、リニアの開業が大幅に遅れれば、核融合発電実用化に向けた体制整備にも大きな影響が出ると危惧されているわけです。

つまり、リニア開業が大幅に遅れれば、核融合発電の実用化に向けたサプライチェーン整備にも著しい遅れが生じかねない、と片山議員は指摘したのだと理解できます。

先端技術を支える高速輸送インフラとしてのリニアの重要性を強調し、リニア問題の重大性を国会で訴えたものと考えられます。このように、リニア問題が単なる地域の問題にとどまらず、日本の科学技術振興全体に影響を及ぼす重要課題であることを示唆したものだったと言えるでしょう。

リニアモーターカー

リニアの開通は、核融合だけではなく、スズキを始めとする静岡県の製造業界にとっても、強力で迅速で、柔軟なサプライチェーンの高度化に寄与すると考えられます。さすがの川勝知事推しの、静岡県製造業界にとっても、臨界点を超えたので支持できなくなったか、川勝知事がそう考えた可能が高いと考えられます。

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2024年4月2日火曜日

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省―【私の論評】日本の半導体産業と経済安全保障:ラピダス社と情報管理の危機

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省

クレーンが立ち並ぶラピュダスの工場建設現場 手前は千歳空港

 経済産業省は2日、次世代半導体の国産を目指し北海道千歳市に工場を建設中のラピダス(東京)に対し、5900億円を上限とする追加支援を決定したと発表した。人工知能(AI)の活用や自動運転技術などに不可欠な最先端半導体の開発を後押しする。これまでに3300億円の補助を決めており、国費投入は合計で1兆円近くとなる。

 斎藤健経産相は2日の閣議後記者会見で「ラピダスが取り組む次世代半導体は、日本の産業の未来や将来の経済成長を左右する最重要技術だ。プロジェクトの成功に向け、全力で支援していきたい」と述べた。

【私の論評】日本の半導体産業と経済安全保障:ラピダス社と情報管理の危機

まとめ
  • ラピダス社の特徴として、日本で先端の半導体製造に特化し、国内での一貫生産体制を構築していることが挙げられる。
  • 政府からの支援により、ラピダス社は北海道に5nmプロセス対応の半導体ファウンドリーを建設中であり、日本の次世代半導体産業の育成・強化が狙いとされる。
  • 日本の半導体支援策は、米中対立の中で技術覇権と供給網の確保を図る国家戦略の一環であり、中国との経済関係に対する懸念も指摘されている。
  • ソフトバンクグループのラピダス社への出資には経済安全保障上の懸念があり、北海道知事と中国との関係も危惧されている。
  • 日本の情報管理の甘さは国際的な信頼を損ね、機密保持意識の徹底が必要である。


ラピダス社は、東京に本社を置く半導体ベンチャー企業です。2018年に設立された比較的新しい会社です。

同社の特徴は、最先端の半導体製造プロセスである5nmや3nmなどの先端ロジック半導体の開発・製造に特化していることです。

従来、最先端半導体の設計は米国の企業、製造は台湾のTSMCなどに委託されることが多かったのですが、ラピダス社は国内でその一貫生産体制を構築しようとしています。

現在、北海道千歳市に5nmプロセス対応の半導体ファウンドリー(製造委託工場)の建設を進めており、2025年の操業開始を目指しています。

資本面では、創業当初からソフトバンクグループ、東芝、INCJ(産業革新機構)などから出資を受けていますが、政府からの5,900億円の支援決定で、さらに開発・生産体制の強化が期待されています。

つまり、ラピダス社は日本で数少ない最先端半導体の開発・製造ができるスタートアップ企業で、その国産化の中核的存在と位置付けられています。

今回の経済産業省の発表は、日本の次世代半導体産業の育成・強化を狙ったものです。半導体は自動車や家電、スマートフォンなどあらゆる製品に欠かせない重要な部品です。

しかし近年、世界的な半導体不足が起きており、日本の半導体産業の空洞化が危惧されてきました。そこで政府は、次世代半導体の国産化により、安定的な調達と産業の存続を図ることが重要課題と位置づけています。

莫大な税金を投じるこの政策の目的は、日本の半導体生産能力の強化、次世代半導体分野での国際競争力の維持、そして重要産業での供給リスクの低減にあります。つまり、日本産業の命綱ともいえる先端半導体を国内に確保するため、政府が全面的に支援するという発表となったわけです。

この半導体支援には、米中対立の構図の中で、日本が技術覇権と供給網の確保を図ろうとする大きな戦略があります。

中国は「Made in China 2025(中国製造2025)」を掲げ、半導体など重要技術分野での自給体制構築を目指しています。一方の米国は、中国の技術覇権を阻止すべく、半導体輸出規制など対中圧力を強めています。この米中対立の最前線が半導体をめぐる覇権争いなのです。


そうした中、日本が最先端半導体の国産化に踏み切ったのには、以下のような地政学的意図があります。

1. 米国との連携と中国への牽制
日本は、重要同盟国の米国と足並みを揃え、中国の技術覇権への警戒から半導体供給網の外れ小島化を狙います。中国への半導体供給停止でも対応できる体制を構築しつつ、中国の技術的な台頭を牽制する狙いがあります。
2. 経済安全保障の自律性確保  
米中が半導体供給を武器に絶え間なく地政学的な駆け引きを演じる中、日本は重要物資の供給を米中に依存するリスクを排除します。経済的自立と安全保障上の自律性を高めることが目的です。
3. アジア地域でのプレゼンス向上
半導体生産拠点の設置は、アジア地域における日本のプレゼンス向上とも結びつきます。米中の影に隠れがちだった日本が、注力分野を確実に構築することで地政学的な存在感を高められます。
4. 台湾有事への備え
最悪の事態として、台湾の主要半導体企業TSMCが中国との対立で機能停止する事態も視野に入れている可能性があります。そうなれば日本が代替供給源となり、米国を筆頭とする陣営を支えられます。
つまり、この支援は単なる産業振興策ではなく、米中対立の延長線上にある、地政学的リスク回避と影響力確保の大がかりな戦略なのです。

ソフトバンク 孫正義氏

なお、ソフトバンクグループがラピダス社に出資をしていることについては、経済安全保障の観点から一定の懸念が指摘されています。

その理由としては、主に以下の2点が挙げられます。

1. ソフトバンクグループと中国資本の関係
ソフトバンクグループは、中国最大の人工知能(AI)企業である「ByteDance」や、中国最大の仮想通貨取引所「Huobi」など、中国資本とつながりが深い企業に多額の投資を行っています。中国当局との密接な関係が危惧されています。
2. 重要技術の流出リスク
ラピダス社が扱う先端半導体技術は、経済安全保障上極めて重要な技術です。ソフトバンクグループを通じて、中国側にこの重要技術が流出するリスクがあるのではないかと指摘されています。
こうした懸念を受け、政府内からも「ソフトバンク出資分は株式公開時に全て売却すべき」などの意見が出ているほどです。

一方で、ラピダス社側は「ソフトバンクは金融出資に過ぎず、技術流出のリスクはない」と強く否定しています。

このように、ソフトバンク出資については経済安全保障上の懸念が存在する一方、出資者とベンチャー側には食い違いもあり、慎重な判断が求められる状況といえるでしょう。

鈴木直道北海道知事

一方、鈴木直道北海道知事は、夕張市長時代に中国系企業に2億4,000万円で売却した夕張リゾート(マウントレースイスキー場とホテル)が、香港系ファンドに15億円で転売された後、昨年12月に廃業・破産申立を発表しました。この歴史あるスキー場は営業停止に追い込まれたという経緯があります。

知事就任後、中国との経済・文化交流の促進に尽力し、直行便路線の再開や訪問団派遣など、積極的に友好関係の深化を図っています。

一方で、夕張市長時代の給与削減による過度の倹約イメージと現在の中国資本との関わりに違和感があるとの指摘もあります。

これらのエピソードを踏まえますと、鈴木知事と中国側には一定の関係が存在し、経済面での結び付きも無視できない状況にあると言えそうです。それを前提とすると、ラピダス社の半導体工場建設に関して、以下のような危険性が考えられます。

1.重要技術の流出リスク 
ラピダス社が扱う先端半導体技術は経済安全保障上極めて重要です。知事と中国側の関係が深ければ、意図せずこの重要技術が中国側に渡る可能性がありえます。
2.工場立地交渉への影響
 工場立地をめぐる交渉過程で、知事と中国側の関係から何らかの影響が及ぶリスクがあります。国策とは異なる方向に動かされる恐れがあります。
3.経済的利益誘導のリスク
中国資本と太いパイプを持つ知事の関与で、立地交渉が中国側に有利になるよう経済的な利益誘導が図られるリスクもありえます。
このように、重要技術の流出、工場立地への介入、スパイ活動、経済的利益誘導など、さまざまな危険性が想定されます。経済安全保障上の重要案件では、知事の中国関係には慎重な対応が求められるでしょう。政府としても、万が一の事態に備えた適切な対策が必要不可欠と言えます。

今回の半導体支援策は、米中対立という地政学的リスクに対処し、日本として技術覇権と供給網の確保を図る極めて重要な国家戦略の一環です。

そうした重大な戦略においては、経済安全保障上のリスクを慎重に検証し、万全の対策を講じておくことが不可欠です。

仮に正当な疑念があれば、適切に対処すべきです。このような大戦略に携わる人物や組織については、そのつど経済安全保障上のリスクを精査し、必要な対策を講じることが不可欠です。


この問題もそうですが、日本における最近の一連の機密情報漏えい問題は、機密保持意識の欠如を示す証拠といえます。金融政策決定内容の事前漏えい、外国企業ロゴ入り資料の使用など、日本の杜撰な情報管理態勢が問題視されています。

ファイブ・アイズ

このことが、日本が国際的な情報共有枠組み「ファイブアイズ」から除外されている大きな理由であるといえます。

主権国家として機密を守り、情報セキュリティを確保することは最低限の責務ですが、日本はそれができていないため、同盟国から重要情報の提供から疎外されています。

海外から見れば、日本の情報管理の甘さは重大問題であり、一流の主権国家として信頼されるためには、抜本的な情報セキュリティ対策と機密保持意識の徹底が必要不可欠です。そうしなければ、先進国から完全に疎外される恐れがあります。

日本は、これらの問題に厳正に対処していくべきです。

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2024年4月1日月曜日

<独自>日米首脳「安保5条尖閣に適用」を再確認へ 共同声明、中国を牽制―【私の論評】地政学的リスクへの対応と安全保障強化:尖閣安保適用と岸田首相の国内対応

<独自>日米首脳「安保5条尖閣に適用」を再確認へ 共同声明、中国を牽制

まとめ
  • 日米首脳会談の共同声明に「日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用される」と明記し、米国の対日本防衛義務を再確認する
  • 中国の軍事的影響力拡大とその威圧的行動を牽制し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する
  • 北朝鮮による拉致問題の「即時解決」を目指すことを盛り込む
  • 人工知能や半導体など先端技術分野での日米協力を強化する
  • 有事における米軍と自衛隊の一体的運用体制の構築を図り、フィリピンとの3カ国での安全保障面での連携も強化する

バイデン大統領と岸田首相

 4月10日に米ワシントンで行われる日米首脳会談では、共同声明に「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用される」と明記する。日米は、その最終調整に入っている。これは、中国海警局船舶による尖閣諸島周辺での領海侵入が続く中、米国が核を含む米軍の能力で日本を防衛する姿勢を打ち出す狙いがある。バイデン大統領は武力や威圧による現状変更に反対する考えを示し、東・南シナ海での中国の威圧的行動への懸念を表明する方針だ。さらに共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、武力行使による台湾統一を排除しない習近平政権に自制を促す。

 また、北朝鮮による拉致問題について「即時解決」を目指すことが盛り込まれる見通しだ。人工知能や半導体など先端技術分野での協力強化についても言及される方向にある。首脳会談では、有事における米軍と自衛隊の一体的運用を可能にする「統合司令部」設置に向けた連携体制の強化も協議する。米軍の指揮系統の見直しを含め、両軍の運用の一体性を高める。

 さらに11日には、フィリピンのマルコス大統領を交えた3カ国首脳会談を開催し、自衛隊と米比両軍の連携強化について議論する予定である。今回は9年ぶりに日本の首相が国賓待遇で招かれる重要な会談となる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】地政学的リスクへの対応と安全保障強化:尖閣安保適用と岸田首相の国内対応

まとめ
  • 中国公船による尖閣諸島周辺での領海侵入が繰り返される中、中国の一方的な現状変更を牽制し、インド太平洋におけるルール基盤の秩序を維持するため、日米が共同で尖閣に安全保障条約を適用することを明確化すべき。
  • 地理的に台湾に近接する尖閣諸島は、中国が台湾への武力行使で統一を図った場合の戦略的要衝となり得る。そのため、日米は尖閣への安保適用を、台湾有事における同盟国防衛の布石ともしている可能性がある。
  • プーチンがウクライナ侵攻を決意した背景には、バイデン大統領の「米軍をウクライナに派遣しない」発言があり、明確な関与表明がなかったことが一因との指摘がある。この教訓から、米国は尖閣問題への明確な関与を示し、中国の現状変更を未然に抑止しようとしている。
  • 「力による平和」しか理解しない指導者に対しては、経済制裁や軍事行動の選択肢を示し続ける必要がある。
  • 国内で中露の「力による平和」に同調する動きがあれば、安全保障上の重大な脅威となる。そのため、警戒を強め、メディアを通じた国民への広報、関係者への警告・制裁、公安当局による取り締まりの検討、反対勢力への支援打ち切り、資金供与監視体制の整備など、毅然とした対処が求められる。
尖閣諸島

日米が尖閣諸島に日米安全保障条約第5条を適用されることを明確にすることの背景には、複数の地政学的な意図が考えられます。

1. 中国の現状変更の抑止
中国公船による尖閣諸島周辺での領海侵入が繰り返されており、中国が実効支配を試みているとの懸念が高まっています。日米が共同で尖閣に安保条約を適用することで、中国の一方的な現状変更を牽制し、インド太平洋地域におけるルール基盤の秩序を維持しようとしています。
2. 台湾有事への備え
尖閣諸島は台湾に地理的に近接しており、戦略的要衝となりうる重要性を持ちます。中国が台湾に武力行使して統一を試みた場合、日米は尖閣から台湾を守る布石としても、安保適用を位置づけている可能性があります。中国が有事の際に尖閣を攻撃すれば、自動的に日米同盟の武力行使が正当化されるためです。
3. ウクライナ情勢の教訓
プーチン政権はウクライナ侵攻前、バイデン大統領が「米軍をウクライナに派遣しない」と表明したことから、一定の侵攻リスクを冒せると判断した可能性があります。つまり米国の明確な関与表明がなかったことが、ある程度のプーチンの駄目押しになったとの指摘があります。
この教訓を踏まえ、米国は中国の一方的現状変更を未然に抑止するため、尖閣問題への明確な関与を明示する狙いがあります。共同声明への明記は、中国が武力で尖閣を侵略すれば自動的に日米同盟の武力行使が正当化されることを意味しています。
さらに、尖閣への安保適用は、将来の台湾有事における日米の関与の布石にもなり得ます。中国が台湾に武力行使すれば尖閣の防衛が問題となり、そこから日米同盟の軍事介入へとつながるリスクがあるためです。

つまり、米国はウクライナ情勢の教訓から、中国の現状変更を未然に抑止するためのメッセージ発信と、台湾有事への将来の関与の布石として、尖閣への安保適用を位置づけていると考えられます。主眼は中国への抑止力ですが、状況次第では実際の軍事行動に発展する可能性も織り込んでいる可能性があります。

プーチンや習近平のような指導者は、基本的に「力」こそが平和維持の最終的な担保だと考えている可能性が高いです。そのため、米国の「弱さ」を示す譲歩的な姿勢は、かえって自国の行動を正当化し、さらなる現状変更を許容するシグナルと受け取られかねません。

力による平和 AI生成画像

一方で、米国国がしっかりとした「力の姿勢」を示し続ける場合、プーチンや習氏らは冷静に自国の能力の限界を認識し、リスクのある軍事的選択は避ける合理的判断に至る公算が高まります。なぜなら、「力」しか理解できないこうした指導者にとって、相手の明確な「力の投射能力」こそが、自国の行動を抑制する最大の要因になるからです。

具体的には、バイデン政権が以下のような「力の姿勢」を示し続けることが重要になります。
  • 経済制裁などの「報復措置」の選択肢を常に維持示す
  • 同盟国との連携を強化し、集団的抑止力を高める
  • 必要に応じて軍事行動の選択肢も排除しない姿勢を崩さない
  • 中露の一方的現状変更の試みに対する「レッドライン」を明確に設定する
このように、絶えず「力の投射能力」を示し続けることで、プーチンや習氏らに対する「抑止力」を高められます。そうすれば、結果として彼らが軍事的モラトリアムを選び、現状維持の路線をとる可能性が高まると考えられます。

つまり、「力による平和」を理解する指導者に対しては、バイデン政権自らが「力の外交」に徹し、臆さずに自国の軍事的選択肢を維持示すことが何より重要なのです。そうした「力の姿勢」こそが、結果として「平和的解決」に寄与する最善の方策となり得るのです。

岸田首相も、プーチンや習近平のような「力による平和」を重んじる指導者に対して、以下の「力の姿勢」を貫くべきです。

1. 自衛隊の防衛能力の強化を着実に進める
尖閣諸島や津軽海峡における中国公船の挑発的行動に対し、自衛隊の監視・警戒活動を一層強化し、自らの領土・領海を力強く守る姿勢を示し続けることが重要です。
2. 米国をはじめとする同盟国との連携を一層緊密化
日米同盟の絆を一層強固にすると同時に、NATO諸国、QUAD枠組み国家等との安全保障面での連携を深め、集団的抑止力を高めていくべきです。
3. 中国の一方的な現状変更に対する「レッドライン」を明確化
尖閣問題や台湾有事といった重大事態における対応方針を予め明確化し、必要に応じて自衛隊の派遣も辞さない決意を内外に示す必要があります。
4. 経済安全保障の観点から対中牽制力を高める
半導体や希少資源等において対中依存度を下げ、経済制裁の選択肢を温存する。先端技術の流出防止等の懸命な対応も重要です。
5. 国民の危機意識を高め、防衛増強への理解を醸成
日本国民の安全保障意識を高め、防衛費増額等の抑止力強化に向けた施策への支持を広げていくことが不可欠です。
このように、日本も「力による平和」への備えとして、断固たる「力の姿勢」を貫き、中国による一方的現状変更を未然に抑止することが何より重要となります。そうした姿勢を内外に示し続けることこそが、結果的に地域の平和維持につながるということを、岸田首相は肝に銘じるべきでしょう。

また、国内でロシアや中国の「力による平和」に同調する動きがある場合、岸田首相は毅然とした対応をすべきです。
  • 具体的には、そうした動きを警戒し、情報収集と監視を強化する。
  • メディアを通じて国民に対し、その動きの問題点を明確に説明し、正しい認識を促す。
  • 関係者に対し、警告や制裁措置をとる用意があることを示す。
  • 必要に応じて、反社会勢力への対応と同様、公安当局による取り締まりの検討も視野に入れる。
  • 中露寄りの動きに与さない企業や団体への支援を強化する。
  • 議員資産公開など、中露からの不適切な資金供与を監視するしくみを整備する。
中露による「力の平和」に同調する日本国内の動きは、日本の安全保障上の重大な脅威となりかねません。このため、岸田首相はそうした動きに対し毅然とした姿勢で対処し、必要に応じて法的措置も辞さない強い決意を内外に示す必要があります。これは日本の主権と国益を守る上で避けて通れない課題です。

プーチンと習近平

岸田首相が、ウクライナ戦争開始直前のバイデン大統領のような中途半端な姿勢に終始すれば、政権の継続は極めて困難になるでしょう。なぜなら、中国や北朝鮮の脅威が現実味を帯びる中で、首相自らが強い姿勢を示さず、防衛力の増強に消極的であれば、国民の安全保障への不安は高まり、政権に対する支持が揺らぐからです。

さらに、野党から「国益を守れない」と徹底した批判を浴びるでしょう。加えて、自民党内の保守層からも反発が起こり得ます。そして何より、このような姿勢が続けば、日米同盟関係への疑念を招き、ひいては世論から「国益を守れない政権」とのバッシングを受けかねません。

結果として、国内外から批判が高まり、支持基盤が次第に失われていく恐れがあるのです。だからこそ、岸田首相は断固たる「力の姿勢」を貫き通す必要があると言えます。

自民党内には、仮に政権への支持率が下がった場合でも、次の選挙では勝利できるという楽観論がある節があります。その根拠として挙げられているのが、野党に「力の姿勢」が徹底的に欠けていることです。

野党は伝統的に非武装中立路線を標榜し、防衛力増強への取り組みに消極的でした。その結果、有事の際の具体的な対応策を示すことができず、国民の安全保障への不安を払しょくできていません。無論、野党の中に保守派も存在し、政党単位でも日本保守党などの例外もあるのですが、これらは残念ながら現状ではまだ大きな勢力にはなっていません。

一方の自民党は、一貫して同盟国との連携や防衛力増強を掲げてきました。中国や北朝鮮の脅威に対して、野党に比べ、より力強い姿勢と対応策を示してきた経緯があります。

このため、国民の間には「野党には国を守る決意と能力がない」との根強い認識が存在します。多くの有権者が、いざというときに国を守れるのは今のところ自民党しかないと考えがちなのです。

つまり、自民党内の一部には、野党の「力の姿勢」の希薄さゆえに、自身の支持率が下がっても、最終的には国民の支持を得て勝利できるとの期待があるわけです。

ただし、安全保障をめぐる有権者の意識は確実に変化しています。今や国民は「力の姿勢」を政権に強く求めるようになっています。この現実を踏まえれば、野党の力不足を過度に期待するのは賢明とは言えません。自民党自身が、そうして岸田首相自身が、確固たる「力の姿勢」を貫き、国民の期待に応える必要があります。

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2024年3月31日日曜日

<独自>NATO首脳会議に岸田首相を招待 米政府調整、出席なら3年連続―【私の論評】岸田首相をNATO首脳会議に招待するバイデン政権の狙い:ウクライナ支援を含めた岸田政権の継続の可能性

<独自>NATO首脳会議に首相を招待 米政府調整、出席なら3年連続

まとめ
  • 米政府がNATO首脳会議(7月)に岸田首相を招待する方向で調整中
  • 日米首脳会談(4月10日)ではロシアのウクライナ侵略を協議予定
  • NATO首脳会議では欧州・インド太平洋の連携強化を図る
  • ウクライナ支援で貢献する日本の参加を通じ、地域間の結束を促したい考え
  • 日本は中国・北朝鮮など安保上の課題で欧州との連携を強化する機会
バイデン大統領と岸田首相

 4月10日の日米首脳会談を前に、米政府がNATO(北大西洋条約機構)の7月の首脳会議に岸田文雄首相を招待する方向で日本政府と調整している。日米首脳会談では、ロシアのウクライナ侵略問題を協議する予定。NATO首脳会議では、ロシアと中国の抑止を目的に、欧州とインド太平洋地域の連携強化を図る狙いがある。

 バイデン大統領は国賓待遇で岸田首相を迎え、ウクライナ支援や対露制裁の継続で一致するとみられる。バイデン氏はウクライナ支援継続と新たな侵略抑止の観点から、NATO加盟国とインド太平洋地域の連携を重視している。

 NATO発足75周年の重要な首脳会議に、ウクライナ問題で貢献する日本を招き、地域間の結束と協力を促したい考えだ。日本側は政治日程を精査し、参加の可否を最終判断する。日本にとっては、中国や北朝鮮など安全保障上の課題で欧州との連携を強化する機会となる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】岸田首相をNATO首脳会議に招待するバイデン政権の狙い:ウクライナ支援を含めた岸田政権の継続の可能性

まとめ
  • 米政府は、ウクライナ支援でNATO結束を図り、中国への対抗上欧州・インド太平洋連携を強化する狙いから、岸田首相をNATO首脳会議に招待する方向にある。
  • バイデン政権は9月の総裁選後も岸田体制が継続すると確信しており、その政権の安定性を重視している。
  • 仮に岸田政権が崩壊し、リベラル色の強い、財務省にさらに近い新政権となれば、日米同盟関係や経済の安定性に悪影響が及ぶリスクがある。
  • ウクライナ支援は、ウクライナの潜在力(人的資源、産業基盤、農業)とEU結びつきから、将来的な有望市場となり得る。
  • 日本がウクライナ復興支援で主導的役割を果たせば、経済的安全保障の実現とグローバル・プレゼンスの向上につながる重要な機会となる。
上の記事にもあるように、米政府は7月のNATO首脳会議に岸田首相を招待する方向で調整しています。これには2つの狙いがあります。

1つ目は、ウクライナ支援に積極的な岸田首相の参加を通じて、支援疲れの兆しが見られるNATO加盟国の結束を固める狙いがあります。

2つ目は、中国の脅威をにらみ、インド太平洋地域と欧州諸国の連携を強化することです。

NATO発足75周年の節目の会議で、バイデン政権はウクライナ支援の重要性を欧米に改めて訴え、加盟国の団結を促したい考えのようです。

また、中国の台湾統一の動きへの抑止力を高めるため、欧州諸国のインド太平洋地域へのコミットを後押ししたい狙いもあるようです。

ウクライナ支援で貢献する日本の存在は、欧州・インド太平洋の連携強化において重要な役割を果たすと期待されています。

美しいウクライナの都市リビィウの町並み

バイデン政権が7月のNATO首脳会議に岸田首相を招待する方向で調整していることは、以下の理由から、バイデン政権が岸田政権の継続を見込んでいることを示唆していると言えます。

1. 首脳会議への招待は、その国の最高指導者に対してなされるものです。米政権が岸田首相個人を招待する意味合いは小さく、日本の元首相としての立場で招待していると考えられます。

2. 7月の時点で岸田首相が退任済みだと見込んでいれば、次期首相を招待する方が自然です。岸田氏個人ではなく、日本の首相職そのものに招待状を送っていると考えるべきでしょう。

3. NATO首脳会議は加盟国の重要会議です。日本の内政が不安定で近々に政権交代が予想される状況であれば、米国は慎重に対応するはずです。

4. 招待は米政権の対日重視姿勢の表れでもあります。この姿勢を損なうリスクを冒すなら、岸田政権の継続を前提にせざるを得ません。

したがって、バイデン政権がNATO会議に岸田首相を招待していることは、7月時点におよび、それ以降も岸田政権が続くと見込んでいる、あるいは少なくとも望んでいることを示していると解釈できるでしょう。

バイデン政権が7月のNATO首脳会議に岸田首相を招待するという重要な決断をするに当たっては、単なる「期待」だけではなく、より確かな見通しを持っている公算が高いでしょう。

NATO首脳会議は加盟国を代表する首脳が一堂に会する極めて重要な会議です。日本の首相を招待する際には、単に望ましい状況を期待するだけでなく、実際に岸田体制が継続する確度が高いと判断していると考えるべきでしょう。

つまり、バイデン政権は、9月の自民党総裁選挙後も岸田首相が続投し、日米同盟の中核を担う存在として機能し続けると踏んでいる可能性が非常に高いと言えます。そうでなければ、このタイミングでの招待は避けられたはずです。

米国の対日重視姿勢を考えれば、日本の政局の安定性と信頼できる同盟国関係の持続性を重視しているはずです。したがって、バイデン政権は総裁選後の岸田体制継続を単なる期待以上に確信を持って見込んでいると判断するのが妥当だと思われます。

私は、岸田首相は個人的には好きなタイプではないのですが、それにしても今年の秋で岸田政権が崩壊した場合、次の総裁が誰になるのか、その総裁は岸田首相よりもリベラル色や親中度合い、財務省寄りの度合いが高いかあるいは同程度なのであれば、岸田政権が継続したほうが、良いと思っています。無論、番狂わせがあり、高市氏が総裁になる可能性がでてくれば、それが一番良いとは思います。

しかし岸田政権が崩壊し、新たな政権に移行した場合、その政権が岸田政権よりも、よりリベラルであり、より親中的であり、より財務省寄りであれば、以前の民主党政権時代のような混乱が再び起こるリスクがあると指摘できます。

民主党政権時代(2009-2012年)は、以下のような深刻な問題が生じました。
  •  首相が頻繁に交代し、政権運営が大変不安定になった 
  •  習近平体制の中国への対応が非常に慎重・柔和となり過ぎた
  •   TPP交渉や原発政策で揺れ動いた結果、決定力を欠いた 
  •  財政規律を重視するあまり、消費税の大増税を強行する決定を三党合意(自公民)で行い経済運営の失敗を決定づけた 
  • 日米同盟関係が疑心暗鬼となり、信頼関係が大きく損なわれた
このように、政権の指導力不足や政策の振れ幅が大きすぎたことで、日本の国内外での信頼性が大きく低下しました。

仮に岸田政権が崩壊し、新たな政権が自民党政権であったにしても、再び同様の混乱に陥る恐れがあります。多くの人は、安倍政権が長かったので、これをスタンダードと見るむきもおおいようですが、これは間違いです。安倍政権は自民党政権の中、特にここ20年の中では、特異な存在だったのです。

特に対中強硬姿勢の転換や財政規律のさらなる強化などがあれば、日米同盟はもとより、経済安定性にも悪影響を及ぼしかねません。

このため、バイデン政権は岸田政権の継続を望んでいると考えられます。政権の安定性と政策の継続性を重視する観点から、岸田体制の維持を確信しているものと推測できるでしょう。

安倍首相は「悪夢のような民主党政権」と発言

もしトランプ政権になったにしても、現状日本では、自民党の結党の精神では保守政党を目指したにもかかわらず保守勢力は弱まった状態であり、リベラル的性格や親中的性格がさらに強くなるよりは、岸田政権の継続を望むかもしれません。

私としては、岸田政権がもう一期くらい続いたほうが、保守派などが次の展開をはかるにしても、政治的混乱を避け、ソフトランディングができるのではないかと期待しています。また、マスコミやリベラル左派官僚や財務官僚らに新たな成功体験を提供して、増長させることを防ぐという意味でも、悪いことではないと思います。

そうして、ウクライナへの支援について、マイナスの面ばかりが強調されがちですが、長期的な展望から捉えると、大きな可能性が見えてきます。

1. 人的資源の潜在力
ウクライナは人口約4,400万人と大きな人口を擁し、識字率も99%と教育水準が高い。戦後の復興後には、この優れた人的資源を最大限活用できるはずです。日本では、人口4,400万人はたいして多くはないとみられがちですが、ヨーロッパの近隣諸国と比較すれば、決して少ないとはいえないです。

ロシアの人口は、一億四千万人ですが、その中で少数民族を除いたロシア人は、約1億1,600万人。

モスクワ首都圏は、モスクワ市と周辺のモスクワ州、カルーガ州、トゥーラ州、リャザン州、ウラジーミル州、イヴァノヴォ州、スモレンスク州、ブリャンスク州を含む地域です。2023年1月1日時点のモスクワ首都圏の人口は、約2,700万人です。

モスクワ大都市圏は、モスクワ首都圏さらに周辺の都市を含む地域です。2023年1月1日時点のモスクワ大都市圏の人口は、約3,500万人です。 

以上のようなことを考えると、ウクライナの人口は少ないとはいえません。 

2. 産業基盤の存在  
ウクライナには航空機産業や自動車産業など、一定の製造業の基盤があります。適切な投資と改革で、これらの分野が復興・発展する余地があります。最初から基盤づくりをしなければならないような他の発展途上国とは違います。
3. 農業の有望性
ウクライナは「ヨーロッパの穀倉地帯」とも呼ばれ、穀物の生産大国です。農業分野の復興により、食料安全保障面でも貢献が期待できます。
4. EUとの結びつき  
ウクライナはEUと連合協定を結んでおり、経済面でEUに統合される流れにあります。EUマーケットへのアクセスは大きなメリットとなるでしょう。
5. 支援国の協調
日本に加え、米国、EU、国際機関などがウクライナ支援に熱心です。協調的な支援を続ければ、復興は加速する可能性があります。
一人当たりGDPが韓国並み(約3万ドル)に到達すれば、ウクライナの経済規模は現在のロシア(約1.8兆ドル)と匹敵することになります。教育・産業基盤があり、国際支援も受けられれば、中長期で大きく発展する可能性は決して低くありません。日本が様々な支援で主導的役割を果たせば、他国の模範ともなり得るでしょう。

ウクライナの産業基盤:2024年3月31日時点 
産業概要現状課題
農業ヨーロッパ最大の穀物生産国の一つ。小麦、トウモロコシ、ひまわり油などが主要産品。侵攻により農地やインフラが破壊され、生産量が大幅に減少。農地の復旧、インフラの再建、輸出市場の確保
重工業鉄鋼、造船、航空宇宙産業などが主要産業。侵攻により多くの工場が破壊され、生産が停止。工場設備の復旧、新たな市場の開拓
軽工業繊維、食品加工、家具製造などが主要産業。侵攻により国内市場が縮小し、生産が減少。国内市場の回復、輸出市場の拡大
サービス業IT、金融、観光などが主要産業。侵攻により経済活動が停滞し、多くの企業が撤退。経済活動の再開、安全な環境の整備

参考情報:


日本のウクライナ支援は、専守防衛の立場から直接的な軍事支援は難しく、むしろ資金支援、人道支援、インフラ復旧支援、民間投資促進、人材育成支援など、経済的・人道的な復興支援が中心となると見られます。日本はこうした分野での強みを生かし、ウクライナの復興プロセス全般を下支えすることになるでしょう。

ウクライナの復興支援は、中国経済が減速するなかで、日本が新たな有望市場を確保し、サプライチェーンの分散化を図る絶好の機会となります。日本が主導的役割を果たせば、ウクライナの内需や農業・鉱業分野への参入を通じて経済的メリットを得られるだけでなく、ロシアへの牽制や欧州地域におけるプレゼンス向上、発展途上国支援でのリーダー地位の確立にもつながるでしょう。

中国に過度に依存しない経済安全保障の実現、ロシアに国境を接し対峙する経済大国の出現への支援などグローバル・プレゼンスの向上という点で、ウクライナ復興支援は日本の大きなチャンスと言えます。

ただ、復興の果実を米国、EUなどにもぎ取られないように注意はすべきでしょう。最悪、従来から、ウクライナから軍事技術の提供や、宇宙技術の提供受け、ウクライナと関係の深い中国にもぎ取られるようなことは断じてすべきではありません。

岸田政権はリベラル色が強く、安倍政権のような保守とはいえません。しかし、この歴史的な転機においては、リベラル保守の枠を超えた広い視野が求められます。

ウクライナ復興支援を契機に、日本が新たなグローバル・リーダーシップを発揮すべきときがきたのです。中国の影響力が肥大化するなか、自由と民主主義の旗手となり、ウクライナが新興国の模範的存在となることで、日本の新時代への羅針盤ともなり得るでしょう。岸田政権には、こうしたことを実現するための揺りかごとなっていただきたいのです。岸田首相はこれを目指すべきです。



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