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2016年12月30日金曜日

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ―【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

【メガプレミアム】「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ

ロシア人女性が中露国境の街で、長い冬に向けた生活必需品の買い出しに熱を入れている。写真は
黒河市の露店市場。国境のロシア人にとっては中国の物資はなくてはならないものになっている。
人口が希薄なロシア極東に中国人が流入し、ロシア人を心理的に圧迫している。ロシアの調査機関は今世紀半ばを待たず、中国人がロシア人を抜いて極東地域で最大の民族になると予測する。中国人には19世紀の不平等条約でウラジオストクなど極東の一部を奪われたとの思いがあり、ロシア人には不気味だ。欧米に対抗して蜜月ぶりを演出する両国首脳の足元で、紛争の火だねが広がっている。(坂本英彰)

  中国人150万人が違法流入

 「中国人がロシアを侵略する-戦車ではなくスーツケースで」

 米ABCニュースは7月、ロシア専門家による分析記事を電子版に掲載した。露メディアによると、国境管理を担当する政府高官の話として、過去1年半で150万人の中国人が極東に違法流入したという。数字は誇張ぎみだとしつつも、「国境を越える大きな流れがあることは確かだ」と記す。

 カーネギー財団モスクワ・センターによると在ロシアの中国人は1977年には25万人にすぎなかったが、いまでは巨大都市に匹敵する200万人に増加した。移民担当の政府機関は、極東では20~30年で中国人がロシア人を抜いて最大の民族グループになるとしている。

 インドの2倍近い広さがある極東連邦管区の人口は、兵庫県を少し上回る630万人ほど。これに対し、国境の南側に接する中国東北部の遼寧、吉林、黒竜江省はあわせて約1億人を抱える。

国境を流れるアムール川(黒竜江)をはさんだブラゴベシチェンスクと黒竜江省黒河は、両地域の発展の差を象徴するような光景だ。人口約20万人の地方都市の対岸には、近代的な高層ビルが立ち並ぶ人口約200万人の大都市が向き合う。

 ABCの記事は「メキシコが過剰な人口を米国にはき出すように、ロシア極東は中国の人口安全弁のようになってきている」と指摘した。ただし流入を防ぐために「壁」を築くと米大統領選の候補が宣言するような米・メキシコ関係と中露関係は逆だ。中露間では人を送り出す中国の方が、ロシアに対して優位に立つ。

  20年後の知事は中国人!?
 ソ連崩壊後に過疎化が進行した極東で、労働力不足は深刻だ。耕作放棄地が増え、地元住民だけでは到底、維持しきれない。

 米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿したロヨラ大シカゴ校のコダルコフスキー教授によると、過去10年で日本の面積の2倍超の約80万平方キロの農地が中国人に安価にリースされた。そこでは大豆やトウモロコシ、養豚など大規模な農業ビジネスが展開されている。

 中国と接する極東のザバイカル地方は今年、東京都の半分にあたる1150平方キロの土地を中国企業に49年間長期リースすることで基本合意した。1ヘクタールあたり年500円余という格安だ。これに対しては「20年後には知事が中国人になりかねない」などと、ロシア国内で猛反発も起きた。

ロシア政府はロシア人の移住や定着を促すため土地を無償貸与する法律を制定したが、ソ連崩壊後の二の舞になる可能性も指摘されている。1990年代、分配された国有企業の株は瞬く間に買収され、政府とつながる一部特権層が私腹を肥やす結果となった。

 極東は中国なしでは立ちゆかず、結果として中国人の流入を招く。コダルコフスキー教授は「中国はアムール川沿いのロシア領を事実上の植民地にしてしまった」と指摘した。

  「未回復の領土」

 中国人が大量流入する状況で「領土回復運動」に火がつくと、ロシアにとっては取り返しのつかない結果となりかねない。

 欧米列強のひとつだったロシア帝国は1858年と1860年、弱体著しい清帝国との間で愛琿条約、北京条約をそれぞれ締結し極東地域を獲得した。沿海州などを含む日本の数倍に匹敵する広大な領域で、これにより清帝国は北東部で海への開口部を失った。アヘン戦争後に英国領になった香港同様、清にとって屈辱的な不平等条約だ。

 中国と旧ソ連は1960年代の国境紛争で武力衝突まで起こしたが、冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

 にもかかわらず中国のインターネット上には「ロシアに奪われた未回復の領土」といったコメントが頻出する。

ニューヨーク・タイムズは7月、近年、中国人観光客が急増しているウラジオストクをリポートした。海辺の荒れ地を極東の拠点として開発し、「東方を支配する」と命名した欧風の町だ。吉林省から来た男性は「ここは明らかにわれわれの領土だった。急いで取り戻そうと思っているわけではないが」と話す。同市にある歴史研究機関の幹部は「学者や官僚がウラジオストクの領有権について持ち出すことはないが、不平等条約について教えられてきた多くの一般中国人はいつか取り返すべきだと信じている」と話した。

  アイスで“蜜月”演出も

 台湾やチベット、尖閣諸島や南シナ海などをめぐって歴代政権があおってきた領土ナショナリズムは、政権の思惑を超えロシアにも矛先が向かう。極東も「奪われた領土」だとの認識を多くの中国人が共有する。

 9月に中国・杭州で行われた首脳会談でプーチン大統領は、習近平国家主席が好物というロシア製アイスクリームを贈ってまさに蜜月を演出した。中露はそれぞれクリミア半島や南シナ海などをめぐって欧米と対立し、対抗軸として連携を強める。

 しかし極東の領土問題というパンドラの箱は何とか封印されている状況だ。ナショナリズムに火がつけば、アイスクリームなどいとも簡単に溶かしてしまうだろう。(2016年10月4日掲載)


【私の論評】日米がロシアに歩み寄りの姿勢をみせる理由はこれだ(゚д゚)!

中国とロシア、両方とも広大な領土を持つ国ですが、その内容はかなり違います。まず人口は、中国が14億人弱、一方ロシアは1億4千万であり、これは日本の1億2千万よりわずかに多いだけです。

GDPはといえば、中国11,181.56(単位10億ドル)、ロシア1,326.02(単位10億ドル)であり、実に中国のGDPはロシアの8倍以上です。(2015年の数字、以下同じ)

1人あたりのGDPは、ロシア9,243.31ドル、中国8,140.98ドルロシアは、中国の1.1倍です。ちなみに、日本の1人あたのGDPは、32,478.90ドルです。

そうして、ロシアは中国と世界で一番長く国境線を接している国です。これを考えれば、上記のような問題が起こるのは当然といえば、当然です。

これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
上念司「中国包囲網の決定打はモンゴル・トルコのランドパワー強化に在り!」―【私の論評】ソ連崩壊後、小国ロシアになってから国境溶解が顕著になり中国にとって軍事的脅威はなくなった!日本は経済援助を通じて中国と国境を接する国々のランドパワーを強化すべき(゚д゚)!
かつての中ソ国境紛争の係争地だった黒瞎子島は今では観光地になっている
この記事は、2014年5月13日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではロシアと中国の国境があいまいになっている「国境溶解」という現象について解説しました。

この記事より、国境溶解に関わる部分を以下に引用します。
国境の溶解現象とは、中ロ国境を中国人が多数超えてロシア領内に入り、様々経済活動をしているため国境そのものが曖昧になっていることをさします。 
黒竜江とウスリー江を挟んだ対岸は、中国有数の農業地帯であり、 渤海、金以来のさまざまな民族の興亡の地として歴史に残る遺跡も多いです。 わずかに川ひとつ隔てただけで、一方は衣食を外からの供給に仰ぎつつ資源を略奪しつづけ、 年々人口を減らしつづけているシベリアであり、一方は年々人口を急増させつつある 黒龍江省です。 
ロシア側の、全シベリアの人口を総和しても、数十分の一の面積しかない黒龍江省の半分にしかならないのです。この救いがたい落差は、 つまるところ社会的な圧力になります。ソ連政府はだからこそ国境地帯に厳しい軍事的な緊張を 作り出すことによって、中国からの圧力に対抗していたといえるでしょう。 
国境を挟んだ中国側の吉林省、遼寧省と北朝鮮、 内モンゴル自治区とモンゴル、新彊とカザフスタンおよびウズベキスタン、中国の雲南省とミャンマー、 中国の広東省とベトナムなどを比較してみると、常に面積の少ない中国側の各省が人口ではるかに勝っていることがわかります。 
この明白な不均衡こそが、国境を超えて大量の中国人が流出あるいは進出しつつある 根本的な原因です。この点から言えば、シベリアも例外ではないばかりではなく、 最も典型的なものです。ソ連の軍事的圧力が解消し、 国境貿易が開始されたことは、この過程を一気に促進させました。

ソ連の崩壊によってシベリアのロシア人社会は、直ちに危機に陥いりました。 政府は給与を支払うことができず、多くの労働者が引き上げていきました。 シベリアに市場はなく、シベリア鉄道もいたるところで寸断されようとしていました。 だから、中国からの輸入が不可欠のものとなりましたが、一方で中国に売り渡すものを シベリアのロシア人社会は何も持っていませんでした。その結果、 中国人がシベリアに入り込んできて、役に立つものを探し出し、作り出してゆくしかなくなりました。 
こうして、国境溶解が進んていきました。この国境溶解は、無論中国にとっては、軍事的脅威がなくなったことを意味します。 
特に現在のロシアは、ご存知のようにウクラナイ問題を抱えており、中ロ国境にソ連時代のように大規模な軍隊を駐留させておけるような余裕はありません。 
かつてのソ連の脅威がなくなったどころか、国境溶解でロシア領内にまで浸透できるようになった中国は、この方面での軍事的脅威は全くなくなったということです。 
各地で軍事的な脅威がなくなった中国は、これら国境地帯にかつのように大規模な軍隊を派遣する必要もなくなり、従来から比較すると経済的にも恵まれてきたため、海洋進出を開始刷るだけの余裕を持ち、実際に海洋進出を始めました。
 ブログ冒頭の記事は、この「国境溶解」がますます酷くなっている現状を示したものです。このような状況にある中露両国です。この二国が、同盟関係にあるように見えても、そう装っているだけでしょう。

ロシアは、この「国境溶解」にかなり頭を悩ましていることでしょう。冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

さて、このブログでは、何度か中露関係に関する、米国の戦略家ルトワック氏の見方を紹介してきました。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
【日露首脳会談】中国、日露連携を警戒「包囲網」強化に対抗―【私の論評】会談のもう一つの目的は、ロシアを安全保障のダイヤモンドの一角に据えること(゚д゚)!
米国の戦略家エドワード・ルトワック氏
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、ルトワック氏の中露関係に関する分析に関する部分を以下に一部引用します。
ウクライナ危機をきっかけに中ロはさらに接近し、日米へのけん制を強める……。世界ではこんな見方が多いが、ルトワック氏の予想はちがった。 
ロシアは、中国とは仲良くならない。シベリアなどに侵食してくる中国を脅威だとみているからだ。むしろ、ロシアは中国をにらみ、本当は日米と協力を広げたいはずだ――。ルトワック氏はこんな趣旨の予測を披露したという。
「いまの中国は共産党体制だったときのソ連と同じだ。何を考えているのか、外からは分からない。しばしば、唐突な行動にも出る」。公式な場では決して中国を批判しないロシアの政府関係者からも、こんなささやきが聞かれる。
では、日本はどうすればよいのか。中ロの結束が弱まれば、日本の選択肢は広がる。それでもロシアが対中外交で協力したり、領土交渉で譲ったりすると期待するのは禁物だ。 
米政府当局者は「ロシアに過剰な期待を抱かないほうがいい。日本には戦中の経験もある」と語る。第2次大戦末期、日本の降伏が確実とみるや、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、攻め込んできた。 
ユーラシアの両雄はどこに向かうのか。日本は歴史の教訓をひもときながら、冷徹に次の一手を練るときである。
トランプ次期米大統領も、安倍首相も、「国境溶解」のことやルトワック氏の分析に関しては、当然のことながら頭に入っているものと思われます。

だかこそ、トランプ氏はロシアに接近する姿勢を見せているのだと思います、安倍首相もそうでしょう。だからこそ、敢えて日露首脳会談を日本で開催したのです。

トランプ氏は、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせることによって、ロシアが関与するウクライナ問題や、シリア問題などがすぐに解消するとは思っていないでしょう。

安倍首相も、ロシアに歩み寄りの姿勢をみせたからといって、領土問題がすぐに解決するなどとは思っていないでしょう。

しかしながら、中国を牽制するための一つの手段として、ロシアを利用する価値があるものと信じているものと思います。

現在のところ、中露国境は「国境溶解」が深刻になっているというだけで、深刻な問題とはなっていません。しかし、中国が領土的野心をむき出しにして、極東地域に進出したとしたら、これはロシアのみならず、日本にとっても、米国にとっても大きな脅威です。

たとえ、中国が極東地域を領土にはしなかったにしても、この地に覇権を及ぼすことができるようになれば、北極海や、オホーツク海に中国が、戦略原潜を航行させるようになるかもしれません。

中国の戦略原潜
北極海では今、温暖化に伴う氷の融解により船舶の航行が容易になりつつあり、北極海を経由して既存の航路より短時間でアジアと欧州をつなぐ「北極海航路」に注目が集まっています。ロシアにとり、自国の領海を船舶が多く行き来する状況は、航路周辺の基地での商業の活性化や、万が一船舶が氷に閉じ込められないよう、護衛サービスを提供できるメリットがあります。

ただし、同海域の氷が溶けることは、その海域を各国の海軍の艦船が容易に航行できることも意味します。国際法で非軍事化が定められた南極と異なり、北極海はその多くの海域で軍事演習などを各国が行うことが可能で、各国の軍事プレゼンスが高まることはロシアにとり懸念すべき状況なのです。

中国は、北方海域でも存在感を高めています。2012(平成24)年以降、砕氷船「雪龍」がほぼ毎年、北極海航路を航行しています。昨年9月には海軍艦艇5隻が、北極海の玄関口となる米アラスカ州沖のベーリング海を初めて航行しました。

中国の砕氷船「雪龍」
ロシアにとってオホーツク海は戦略原潜を展開する「聖域」だけに中国の動きに神経をとがらせています。11年と14年には、雪龍の航路上でミサイル演習を行い威嚇しました。昨年12月に策定したロシアの国家安全保障戦略では、極東と北極圏をつなぐ沿岸防衛システムを構築する方針を決定しました。千島列島と北方領土への地対艦ミサイル配備も対中牽制(けんせい)の意味合いがあります。

南シナ海での中国の行動は、南シナ海を中国の戦略原潜の聖域にするという目論見があります。中国の覇権が、極東地域、北極海にまでおよべば、中国はロシアに変わって、北極海とオホーツク海を中国の戦略原潜の聖域にするかもしれません。

そうなれば、中国はロシア、日米はもとより、世界中の国々特に北半球の国々にとって、かなりの脅威になります。北極海や、オホーツク海なども第二の南シナ海になりかねません。

そんなことは、当然のことながら、ロシアは避けたいでしょう。そのロシアに対して、日本や米国が、歩み寄りの姿勢を見せておくことは、中国を牽制するということで非常に重要な意味があります。

トランプは外交の素人だとか、日露首脳会談は、北方領土問題が進展しなかったので、全く意味がないというような見方は、まだ物事を表面的にしかみられない子どものような見方に過ぎません。

日米のロシアへの歩み姿勢は、当然のことながら、プーチンの頭にも「いざというときには、中国を牽制するために、日米に力を借りることができる」とインプットされていることでしょう。

しかし、日米に力を借りれば、当然のことながら、日米に対して何らかの譲歩をしなければならなくなります。しかし、中国がこれからも、軍事力を強化させていけば、そんな悠長なことも言っておられなくなります。

北方領土問題が、解決の緒を見出すことができるのは、その時かもしれません。しかし、そのときに、日本が安全保障の面で、ロシアにどの程度助けることができるかによって、これはかなり左右されると思います。

いずれにせよ、私たちは、大人の見方でこれを見守り支援すべきです。

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2016年12月27日火曜日

安倍首相が真珠湾で謝罪する必要がない理由―【私の論評】安倍首相が謝罪すべきでないもう一つの理由(゚д゚)!


日米の絆を認め未来を向いている米国の元軍人たち

旧日本軍による米ハワイの真珠湾攻撃で犠牲となった人々を追悼し、
米首都ワシントンの国会議事堂に半旗で掲げられた米国旗(2016年12月7日撮影)

 安倍晋三首相が12月27日にハワイの真珠湾を訪れ、75年前に旧日本軍が行った奇襲攻撃で犠牲になった米国軍人たちの霊を悼む。

「安倍首相は真珠湾で日本軍の攻撃について謝罪や釈明をすべきだ」という主張も一部から聞かれる。だが、米国側の日米戦争への認識を長年考察してきた立場からすると、そんな必要はもうまったくないように思える。米国側の怨讐にはとっくに終止符が打たれ、日米両国の今後の友好を重視する姿勢が明白だからだ。

 日本軍と激しく戦ったブッシュ氏の言葉

 1991年12月7日の真珠湾50周年の式典でも、そんな米側の日米戦争への認識と態度を確認することができた。

 1991年は米国にとって、真珠湾で日本軍の奇襲攻撃を受け、日本との開戦、第2次世界大戦への参戦へと突き進むことになった歴史の転換点から半世紀という年だった。

 式典は、日本軍が沈めた戦艦アリゾナの残骸の上に建てられたアリゾナ記念館で催された。私はこの式典を取材するためワシントンからホノルルへと飛んだ。

 その時点では、日本軍の攻撃を受けたときに真珠湾の米軍基地で軍務に就いていた将兵たちの約1万2000人が健在だとされていた。その元将兵たちは「パールハーバー生存者連盟」という組織をつくっていた。そのうちの約6000人がこの式典に参加することになっていた。その人たちの間では「多くの戦友が日本軍のスニークアタック(だまし撃ち)に不意をつかれ殺された」という非難の声が出ていた。


 そのため私は、ワシントンからホノルルまでの長い飛行機の旅で、その元米軍人たちと乗り合わせ、日本人だという理由で難癖をつけられたり非難されたりするのではないかという懸念を少なからず抱いていた。

 だが、実際には私が元米軍人たちから非難されるようなことはまったくなかった。

 真珠湾の式典でも、当時のジョージ・ブッシュ大統領はそんな私の懸念をあっさりと一掃する内容の演説をした。

 ブッシュ大統領は過去の戦争へのネガティブな思いを一切述べず、以下のように語ることで現在および将来の日米両国の和解と友好を強調した。

「日本とはもう完全に和解を果たした」

「私は日本に対してなんの恨みも持っていない」

「戦争での最大の勝利は、かつての敵国で民主主義が実現したことだ」

「いまやもう罪をなすりあう時ではない」

 広く知られているように、ブッシュ氏は米海軍の最も若いパイロットの1人として日本軍基地への爆撃に何度も出動した。そして小笠原諸島の日本軍基地を空から攻撃した際は、地上からの砲火を受けて、乗っていた戦闘機が墜落した。ブッシュ氏はパラシュートで脱出し、文字どおり九死に一生を得た。

 そんな日本軍と激しく戦った経歴があるブッシュ氏が、戦争での怨讐はもう完全に過去のものと表明した点はきわめて意味が大きかった。

 日本軍を称賛した元海兵隊の議員

 過去の戦争の経緯をあえて振り返ることはせず、日米両国が戦後に果たした和解と友好、そして普遍的な価値観の共有を大切にする、という態度は、ブッシュ大統領をはじめ日本軍と実際に戦った経験のある米国人たちの間で特に顕著だった。

 しかも、米軍と戦った日本軍の将兵の武勇を称えるという態度さえ頻繁に感じられた。私自身、新聞記者としてワシントンを中心に米国に通算25年以上駐在する間、日米戦争の体験者に数えきれないほど会ったが、いつもそうした印象を受けた。

 たとえば、私がワシントンに毎日新聞の特派員として最初に赴任した1970年代後半に取材を通じて知りあったジョン・チェイフィー上院議員は、海兵隊員としてガダルカナルと沖縄の両方の戦闘に参加していた。私は当初、そのことを知らなかった。本人がまったく触れなかったからだ。

 ところがある機会に自らの戦歴を語った同議員は、日本軍の勇猛さや規律を賞賛し、日米の戦後の友好がいかに価値ある絆であるかを力説した。その語調には日本の軍事行動を批判するという気配はツユほどもなかった。

 私はさらに、南太平洋のブーゲンビル島上空で山本五十六提督の乗機を撃墜したという米軍パイロットや、中部太平洋のタラワ島の攻略戦で日本軍を全滅させた海兵隊の将校からもじっくりと話を聞く機会を得た。終戦からすでに40年以上が過ぎており、かつての敵国だった日本を非難する人は誰もいなかった。

 みな、「両国の国益が不可避な形で激突し、戦争となり、両国とも死力を尽くして戦った」という認識を抱いているようだった。米国は完全に勝利し、日本は敗北の代償をさんざんに払ったのだから、どちらが悪かったのか、というような議論を蒸し返す必要はまったくない、という姿勢だった。日本の敗北の代償にはもちろん原爆の被害や東京裁判での懲罰も含まれる。

 こうみてくると、真珠湾攻撃から75年、終戦から71年経った今、日本の首相が戦争行動を改めて謝罪すべきだという必然性はどこにも浮かんでこないのである。

【私の論評】安倍首相が謝罪すべきでないもう一つの理由(゚д゚)!

米国軍人らが、日本軍の敢闘精神を賞賛し「両国の国益が不可避な形で激突し、戦争となり、両国とも死力を尽くして戦った」という認識を抱いていること、米国は完全に勝利し、日本は敗北の代償をさんざんに払ったのだから、どちらが悪かったのか、というような議論を蒸し返す必要はまったくない、ということから、安倍首相は全く謝罪をすべき必要性が見当たらないという意見は私も大賛成です。

しかし、他にも安倍総理が謝罪する必要性がない理由がもう一つあります。そうして、これは米国のまともな保守派には良く理解されていることです。そうして、当然のことながら、これはまともな保守派も多い、多数の軍人にも理解されていることでしょう。

そうしてこうした、まともな保守派が今回の米国大統領選で、トランプ氏が勝利する大きな原動力になったいたということも注目すべきです。

さて、日米戦争の原因として、主に日本側とアメリカ側の要因だけが顧みられことが多いです。しかし、単に両者の要因だけで日米戦争が起きたわけではありません。

実は当時、日米間に戦争が起こって欲しいと熱望していた、第三者の存在があったのです。そして結局それが、日米戦争に火をつけました。


その第三者とは、当時ソ連のモスクワに本部をおく「コミンテルン」(国際共産主義組織)です。コミンテルンは、「世界中を共産主義化する」という野望を抱いて行動していた人々です。

コミンテルン第7回大会、下の写真中列右から2人目は片山潜
共産主義は、目的達成のためには手段を問いません。彼らは世界の列強同士を戦わせ、それらの国々が戦争で弱体化したところをねらって、その国に共産主義革命を起こし、共産主義化する戦略を立てていました。

つまり「夷(い 外国)をもって夷を制す」の考えです。20世紀におきた多くの騒乱や、局地戦争、また大東亜戦争を含む第二次世界大戦など、世界中の大半の戦争に、共産主義者の謀略が関与していました。

コミンテルンは、世界中に戦争の種をばらまいたのです。私たちは、人間は平和主義者ばかりではないことを、知る必要があります。コミンテルンは、日米間に戦争を起こしたいと欲しました。それによって両者を弱体化させ、そこに共産革命を起こし、両者とも共産主義化しようと謀略を企てていたのです。

この目的のためには、アメリカ人の日本に対する怒りを積もらせる必要があります。その目的のもとに共産主義者がつくったのが、偽書「田中上奏文」です。

田中上奏文(たなかじょうそうぶん)とは、昭和初期にアメリカ合衆国で発表され、中国を中心として流布した文書で、第26代内閣総理大臣田中義一が1927年(昭和2年)に昭和天皇へ極秘に行った上奏文とされ、内容は中国侵略・世界征服の手がかりとして満蒙(満州・蒙古)を征服する手順が説明されています。

日本では偽書とされ、当時中国で流布していることに対して中国政府に抗議したところ、中国政府は機関紙で真実の文書ではないと報じましたが、その後の日中関係悪化にともない1930年代に中国は反日プロパガンダにこの文書を利用し、日本は国連などでも答弁を求められましたが各国は中国を支持し、日本は国際社会で孤立し外交的に敗北することになりました。

1927年当時にはすでに死去している山県有朋が登場する等、事実関係の誤りが多いため日本の歴史家のほとんどは上奏文としては怪文書・偽書としていますが、作者については諸説あり不明です。これは、結局のところ日本を悪者に仕立て上げたものでした。

当時の米国国防長官 コーデル・ハル
さらに、日本がアメリカとの戦争を決意させたのは「ハル・ノート」です。これは、太平洋戦争開戦直前の日米交渉において、1941年(昭和16年)11月26日(日本時間11月27日)にアメリカ側から日本側に提示された交渉文書です。この内容は過激であり、実際後世の国際関係学者などが言うところでは「このような内容をつきつけられれば、戦争するのは当然」とするほどのものです。

このハル・ノートですが、じつはもともとハル国務長官自身が最初に用意した原案は、もっと穏やかなものでした。それは日本側が呑める内容でした。それがもし実際に出されていたら、日本側は呑んだでしょう。そして日米戦争は起こらなかったに違いありません。

しかし、そののち実際に日本につきつけられたハル・ノートは、強硬で無茶苦茶な要求となっていました。その原稿を書いたのはハル長官自身ではありません。財務省補佐官のハリー・ホワイトなる人物でした。

日米戦を炊きつけた、稀代の大悪人 ハリー・ホワイト

それをルーズベルト大統領が気に入り、これでいけ、ということになり、ハル長官から野村大使に手渡されたので、以後「ハル・ノート」と呼ばれるようになりました。

ハル・ノートを書いたこのハリー・ホワイトは、共産党員であり、ソ連のスパイであったことが、戦後明らかになりました。

終戦後に、エリザベス・ベントレイというソ連のスパイが逮捕されたのですが、彼女は、ハリー・ホワイトは共産党エリートだと証言したのです。また、ウイタカー・チェンバースという元共産党員の男も、ホワイトはソ連のスパイだと告発しました。

こうしたスパイ疑惑のなか、ホワイトは審問期間中に突然、不審な死を遂げます。その死に方は、事故死か自殺のようにもみせかけられていましたが、コミンテルンに消されたというのが大方の見方です。

このように、ハル・ノートが対日強硬要求となった背景には、日米間に戦争を起こそうとするコミンテルンの謀略があったのです。

そうして、日本側もアメリカと同様に、近衛内閣にはコミンテルンが深く浸透していたことは、明らかになっています。

大東亜戦争直後の米進駐軍の司令官だった、ダグラス・マッカーサーは、朝鮮戦争に赴き、現地を調査した結果「当時の日本はソ連と対峙するため朝鮮半島と満州を自らの版図としたのであり、これは侵略ではない。彼らの戦争は防衛戦争だった」と後に公聴会で証言しています。

ダグラス・マッカーサー
そうして、この事実は、従来からそうではないかと憶測されていましたが、ヴェノナ文書が明らかにされてから、事実であることが明らかになりました。

これについては、米国保守層も理解するところで、草の根保守を牽引してきた「保守のチャンピョン」フィリス・シュラフリー女史は、「ルーズベルトが全体主義のソ連と組んだのがそもそも間違いだ、さらにルーズベルトはソ連と対峙していた日本と戦争をしたことが大きな間違いだ」としています。

フィリス・シュラフリー女史
草の根保守の大きな動きによって、今回トランプ氏が大統領になったわけですから、このあたりのことは、米国の保守層の多くには、周知されていることでしょう。

そもそも、本当は日米は戦争をする必要はなかったのです。本来戦争するべき相手は当時のソ連だったです。

このことが、日米双方の保守層だけではなく、日米のもっと多くの人に知られるようになれば、日米関係はもつと実りあるものになることでしょう。

今回の、安倍首相のパールハーバー訪問がそのきっかけになっれば良いと思います。そうして、上に述べたことからも、安倍首相が戦争責任を改めて謝罪する必要はありません。もし謝ってしまえば、日本だけが悪くて、旧ソ連の悪行、ルーズベルトの悪行、コミンテルンの悪行をなかったことと認めることになるからです。だから、絶対に謝罪してはならないのです。


【日露首脳会談】中国、日露連携を警戒「包囲網」強化に対抗―【私の論評】会談のもう一つの目的は、ロシアを安全保障のダイヤモンドの一角に据えること(゚д゚)!




2016年9月10日土曜日

米がICBM試射、北朝鮮への警告メッセージ―【私の論評】核の暴走をやめない金正恩を米国が斬首するかもしれないこれだけの理由(゚д゚)!

米がICBM試射、北朝鮮への警告メッセージ

東亜日報

ミサイルサイロの中のミニットマンⅢ
写真、動画はブログ管理人挿入。以下同じ。
朴槿恵(パク・クンへ)大統領と米国のオバマ大統領が、ラオスで韓米首脳会談を行った6日(韓国時間)、米国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ミニットマンⅢ」発射訓練を実施したことが確認された。北朝鮮の挑発にあらゆる手段で強硬に対応することを明らかにした韓米首脳の発表を裏付けると共に北朝鮮の核とミサイル脅威に対する警告メッセージとみられる。

7日、米空軍によると、6日夕方、カリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地からミニットマンⅢ1発が発射された。ミニットマンⅢは音速の20倍以上の速度で飛翔し、約6700キロ離れた太平洋のマーシャル諸島近海に落下した。ミニットマンⅢには模擬弾頭が搭載されたと、米空軍は伝えた。米空軍関係者は「ミニットマンⅢの正確度と作戦能力を点検し、有事の際、本土と同盟国に対する『核抑止力(nuclear deterrent)』の効用性を確認した」と明らかにした。

米国は今年2月、韓国軍関係者をヴァンデンバーグ空軍基地に招待し、ミニットマンⅢの試験発射の過程を初めて参観させた。その後、ミニットマンⅢを含めあらゆる手段で韓国を防衛すると明らかにした。ミニットマンⅢは、B52戦略爆撃機、戦略原子力潜水艦と共に米国の「3大核の傘」に含まれる。最大3個の核弾頭を1万3000キロ離れた所まで飛ばすことができる、ヴァンデンバーグ空軍基地から平壌(ピョンヤン)(約9360キロ)をはじめ北朝鮮全域に対する戦略的攻撃が可能だ。

韓米首脳会談で高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備を初めて言及したオバマ大統領は、戦争勃発時に米国が先に核兵器を使用しない「先制不使用(No first use)」構想を撤回するという。

米紙ニューヨーク・タイムズは、複数の米政府関係者の話を引用して、「オバマ大統領が『核のない世界』アジェンダを具体化するために任期内に先制不使用を宣言することを検討したが、政府内の反対を受け入れて断念する方向でまとまった」と報じた。核先制不使用は、敵が核兵器を使わないなら、先に核を使わないという約束だ。中国は1964年、インドは2003年に「核の先制不使用」を宣言した。

【私の論評】核の暴走をやめない金正恩を米国が斬首するかもしれないこれだけの理由(゚д゚)!

このニュース日本では、全く報道されていません。北朝鮮の日本海へのミサイル発射の3時間後、米空軍が太平洋にこの発射テストをしました。これは、北朝鮮が日本EEZ内の日本海にミサイル3発を発射した事への警告です。オバマ米大統領は発射直後に「挑発は一層の圧力とより深い孤立を招くと北朝鮮は知るべきだ」と語ったそうです。

これは、極めて重要な意味がある事はこの内容を知れば誰にも理解できると思います。日本のメディアは報道しない自由を選択したようです。なぜ隠すのか理解に苦しみます。

LGM-30 ミニットマン
LGM-30 ミニットマン (Minuteman) はアメリカ空軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)であり、核弾頭を搭載した戦略兵器です。名称はアメリカ独立戦争における民兵に由来します。

アメリカ空軍における最初の本格的な固体燃料ロケットエンジンを搭載した量産型ICBMで、3段式ロケットによって最大速度24,000 km/hを誇ります。一時は爆撃機系統の記号としてB-80が付けられていました。

アメリカ空軍で運用されている大陸間弾道ミサイルであり、戦略爆撃機およびアメリカ海軍の潜水艦発射弾道ミサイルと並び、戦略核攻撃能力を担っています。

冷戦の終結・核軍縮などにより、後継となるはずであったピースキーパーが2005年に退役しました。そのため、1950年代に開発が開始された古いミサイルですが、2009年時点でも配備・運用が続けられ、少なくとも2020年頃までは運用される計画です。

搭載核弾頭については更新・改良が続けられ、長期配備に際しての安全性が考慮されています。

さて、上の記事にもある通り、米国は今年の2月にもミニットマンⅢを発射しています。そのニュースを以下に掲載します。
米国 空軍、大陸間弾道ミサイルを試験発射
2016年2月27日 毎日新聞

 米空軍は米太平洋時間25日午後11時(日本時間26日午後4時)過ぎ、西部カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地から大陸間弾道ミサイル(ICBM)ミニットマン3の発射試験を行った。核兵器でなく試験機器を搭載して約30分で約6500キロを飛行し南太平洋のクエゼリン環礁付近に着弾した。

米軍のICBM発射実験は5日間で2回目。ロシアや中国など対立する核保有国をけん制する意図がある。ワーク国防副長官はAP通信などに「核兵器を持つ国全てに、我々も国を守る必要があれば核兵器を使用する準備がある、とのシグナルだ」と述べた。米政府高官が核兵器使用の可能性に直接的に言及するのは極めて異例だ。 
 ロシアはプーチン大統領が昨年、ウクライナ情勢やテロ対策に関連して核兵器使用の可能性に触れている。こうしたプーチン氏の強気の発言に、今回ワーク氏が対抗した形だ。 
 国防総省によると、ワーク氏は核抑止力について「大国間の戦略的安定の基礎だ」と前向きに評価。「核兵器なき世界」を目指すのがオバマ政権の立場だが、その実現までは「(核)抑止力が安全で信頼でき効果的であるよう努め、競争相手の大国との戦略的安定を維持する」と述べた。 
 オバマ政権は防衛戦略の中で核兵器の数や役割を削減する方針を打ち出しているが、核弾頭やその運搬手段であるICBM、戦略原潜、爆撃機の3本柱は更新・近代化する計画だ。ミニットマン3は1970年代の配備で設備の老朽化が進んでいるとして、米軍幹部らは更新を求めていた。 
 オバマ政権は2017会計年度に核兵器関連で190億ドル(約2兆1660億円)を要求している。カーター米国防長官は25日の議会証言で、核武装近代化の総費用を3500億〜4500億ドル(約40兆〜51兆円)と見積もっている。 
 しかし軍備管理専門家からは「高価過ぎて賄えない」としてICBMや戦略原潜の数を削減すべきだといった批判が出ている。
北朝鮮の核弾道ミサイルムスダンは、日本の防衛省によると推定射程が2500~4000キロ(ロイター)。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)や聯合ニュースは3000~4000キロと伝えています。これは、日本全域をカバーするばかりか、米軍基地のあるグアムまでを射程範囲内とします。

北朝鮮は常々、事と次第によってはアメリカを核攻撃すると挑発を繰り返してきました。もしも仮に、ミサイル搭載可能な核弾頭を開発済みだという北朝鮮の最近の主張が事実であれば、ムスダンは搭載機としてまさにうってつけです。韓国国防省によれば、ムスダンには約650キロの弾頭を搭載できるといいます(朝日新聞)。

「ムスダン」中距離弾道ミサイル「ムスダン」。基地ではなく専用の
車両から発射するので、衛星などで発射の兆候を検知するのは困難だ。
これだと、アメリカ本土にはまだ到達しないわけです。また北朝鮮のSLBM(潜水艦発射型)も、あまり距離は飛びません。これも数千キロといわれています。しかし、北朝鮮の潜水艦の技術はかなり遅れているので、あまり長時間潜水できません。浮上すればすぐに発見されます。

さらに、補足も簡単で、すぐに撃沈されてしまいます。そう考えると、北朝鮮の近海で発射するしかないです。そうなると、これもアメリカ本土は狙えません。

日本や韓国にとっては脅威ですが、アメリカにとっては本土が脅かされることはまだないわけです。しかし、そのアメリカがICBMの発射実験をして北朝鮮に警告を出しているわけです。

北朝鮮は9日、5回目の核実験を行いました。金正恩党委員長は今年3月、「核弾頭爆発」の実験を早期に行えとの指示を下し、その事実を世界に公開しました。彼らとしては、既定路線だったわけです。

北朝鮮は今後も、核戦力整備のために必要なだけの核実験とミサイル発射を繰り返すだろう。しかしこれは、一体何のためなのでしょうか。

少し前まで、北朝鮮の核・ミサイル開発の目的については、米国を振り向かせ、関係改善の対話を行うための「ラブコール」であると見る向きが多くありました。おそらく、かつては米国政府もこうした見方に立っていたはずです。

2009年7月、オバマ政権のクリントン国務長官(当時)は北朝鮮を「関心を集めようとする子どものよう」だと例えながらも、「完全かつ後戻りできない非核化に同意すれば、米国と関係国は北朝鮮に対してインセンティブ・パッケージを与えるつもりだ。これには(米朝)国交正常化が含まれるだろう」と述べていました。

インセンティブ・パッケージとは、米国が国交正常化、体制保障、経済・エネルギー支援などを、北朝鮮は核開発プログラム、核関連施設はもちろん、ミサイルなどすべての交渉材料をテーブルに載せ、大規模な合意を目指すことを念頭に置いていたとみられています。

「核の暴走」が米国への単なるラブコールだったのなら、北朝鮮はこの提案に喜んで応じたはずです。しかし、そうはなりませんでした。なぜでしょうか。

当時は注目されませんでしたが、人権問題が最大の理由ではなかったかと思います。米国にはブッシュ政権時代に出来た、北朝鮮人権法という法律があります。日本人拉致問題も含め、北朝鮮の人権状況が改善されない限り、米国から北朝鮮への人道支援以外の援助を禁止すると定めたものです。

恐怖政治で国民を支配する北朝鮮の体制にとって、人権問題は体制の根幹に触れるものであり、交渉のテーブルに乗せることなどできるはずもありません。

ネット上で拡散している北朝鮮玄永哲氏のものとされた処刑動画。男性は
高射砲で上半身を吹き飛ばれた。ただし、これは本当はISの処刑でらしい。
では、米国が人権問題を引っ込めて、北朝鮮との関係改善に向かう可能性はあるのでしょうか。

それもまた、あり得ないでしょう。現に、米国は人権問題で金正恩氏を制裁指定するなど、攻めの姿勢を強めています。そうである以上、北朝鮮の暴走もまた止まらないでしょう。
2012年の太陽節(金日成氏の生誕記念日)を前にして公開された写真
金正恩氏が目指しているのは恐らく、どの国も北朝鮮の人権問題などまったく顧みられなくなるほどに、自国を取り巻く政治環境を変えることです。そのための手段が「核の恐怖」なのです。日米韓がどのような迎撃システムを築こうとも、「北朝鮮からの核攻撃を100パーセント防ぐのはムリだ」と世の中が認めるほど、質量ともに十分な核戦力を持とうとしているのですす。

まだ32歳の彼が、一部にある体調不安説を克服し、今後も健康を維持して生き続けるとしたら、50歳になるまでにどれほどの核兵器を手にすることになるのでしょうか。考えるだけで恐ろしいことではありませんか。

朝鮮戦争史跡地を現地指導する金正恩氏/2015年6月9日付労働新聞より
こうした、正恩氏の暴走を止めるための手段として、米国によるミニットマンⅢの発射は企図され実行されたのです。そうして、これからも金正恩が核の暴走をやめないかぎり、米国もこの方針を改めることなく、継続することでしょう。

この傾向は、米側ももはや変わらず、金正恩が死ぬか、北朝鮮の体制が変わらない限り続くものと踏んでいるものと思われます。

だからこそ、米軍は韓国に金正恩斬首部隊を常駐させているのです。私は、条件が揃えば、米軍は本当に金正恩を斬首するつもりだと思っています。

そんな馬鹿なと考える人は、一つ忘れていることがあります。それは、アメリカはあのオサマ・ビンラディンを殺害しているという事実です。あれは、あくまで殺害であって、暗殺ではありません。事実米国は、殺害を公にしています。

しかも、核保有国であるもあるパキスタンの領内でこれをやってのけています。オサマ・ビンラディン暗殺には、最初のとりかかりから含めるとアメリカは7年以上の年月をかけて実行しています。私は、すでに米国は金正恩斬首に向けて動いていると思います。そのことは、金正恩氏も知っていると思います。だからこそ、なおさら「核の暴走」をやめることができないのです。

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2016年5月31日火曜日

安倍内閣不信任決議案を否決―【私の論評】民進、共産、社民、生活の野党4党が理不尽であるこれだけの理由(゚д゚)!

安倍内閣不信任決議案を否決

衆院本会議で内閣不信任決議案が否決された=31日午後、国会
衆院は31日の本会議で、民進、共産、社民、生活の野党4党が共同提出した安倍晋三内閣に対する不信任決議案を、自民、公明両党とおおさか維新の会などの反対多数で否決した。賛成は124票、反対は345票だった。

これに先立ち、民進党の岡田克也代表は不信任案の趣旨弁明で「アベノミクスの失敗を正直に認めて、公約違反を国民に謝罪し、即刻退陣すべきだ」と批判した。同時に「重大な経済失政により消費税を引き上げられる状況をつくり出せなかった」と強調。与党が成立を強行した安全保障関連法に関し「憲法違反であることは明らかだ。憲法の平和主義を捨て去り、限定のない集団的自衛権の行使に道を開く」と反対姿勢を鮮明にした。

これに対し、自民党の松本純衆院議員は「アベノミクスにより雇用や所得環境は順調に改善を続け、日本経済は着実に回復に向かっている」と反論。不信任案を提出した野党を「党利党略、パフォーマンス政治そのものだ」と批判した。

【私の論評】民進、共産、社民、生活の野党4党が理不尽であるこれだけの理由(゚д゚)!

アベノミクスにより雇用や所得環境は順調に良くなっているのは事実です。以下にその証左となるデータを掲載します。

総務省の「労働力調査(基本集計)4月分(速報)」によれば、就業者数は6396万人で前年同月比54万人増、17か月連続の増加。雇用者数は5679万人で前年同月比で101万人増となりました。以下に、グラフを掲載します。


これは、直近の安倍内閣の期間だけですから、これだけではアベノミクスにおける金融政策が功を奏して、雇用状況が良くなったかどうかは認識しずらいです。

他のソースからも、金融政策が有効でアベノミクスは失敗ではなかった証左をあげておきます。

有効求人倍率、は4月は1.34倍に上昇し、24年5カ月ぶりの高水準になっています。

厚生労働省が31日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.04ポイント上昇の1.34倍でした。上昇は2カ月連続。QUICKがまとめた市場予想(1.30倍)を上回り、1991年11月(1.34倍)以来、24年5カ月ぶりの高水準となりました。企業の求人数が増える一方、求職者数が減ったことが求人倍率の上昇につながりました。訪日外国人客の恩恵を受ける宿泊・飲食サービス業や卸売業・小売業などの分野で堅調な求人が続きました。

雇用の先行指標とされる新規求人倍率は0.16ポイント上昇の2.06倍でした。上昇は3カ月ぶり。正社員の有効求人倍率は0.03ポイント上昇の0.85倍と、04年11月の調査開始以来で過去最高となりました。都道府県別の有効求人倍率は東京都が0.07ポイント上昇の2.02倍と、1974年6月以来の高水準。就業地別の有効求人倍率は05年2月の統計開始以来、初めて全都道府県で1倍を上回りました。


まだ続きがあります。以下は先日このブログに掲載したグラフですが、再掲します。


中には、まだ「実質賃金がー」と叫ぶ方もいるようですが、これははっきり間違いです。これは最初からわかっていることですが、雇用情勢が急激に改善しているときには、実質賃金は下がります。

このようなことは常識で考えてもわかります。今季高卒や大卒の採用が大幅に改善しているわけですから、大企業などで高卒や大卒を大量にある企業が雇用したとします。従来よりも、高卒・大卒の若くて、賃金が低い人の構成比率が増えるわけですから、会社全体の平均賃金は下がります。国全体でも同じことです。

さらに、実質賃金は、金融緩和で失業率が構造的失業率まで下がらないと上がらないものですし、構造的失業率まで下がれば上がるものです。

ちなみに、構造的失業等の説明を以下にしておきます。

総務省では、失業を発生原因によって、「需要不足失業」、「構造的失業」、「摩擦的失業」の3つに分類しています。 
  • 需要不足失業―景気後退期に労働需要(雇用の受け皿)が減少することにより生じる失業  
  • 構造的失業―企業が求める人材と求職者の持っている特性(職業能力や年齢)などが異なることにより生じる失業  
  • 摩擦的失業―企業と求職者の互いの情報が不完全であるため、両者が相手を探すのに時間がかかることによる失業(一時的に発生する失業)
日本では、なぜか失業対策というと、すべて厚生労働省の管轄ということになっていますが、その考えは根本的に間違いです。

上記3つの失業のうち、構造的失業と摩擦的失業は、無論厚生労働省の管轄ですが、需要不足失業への対応の管轄は中央銀行、日本では日銀の管轄です。

しかし、このことが全く理解されていないので、数年前までは、雇用情勢がいつまでたっても改善されませんでした。

日銀の金融引き締めによる、需要不足失業が増えているときに、厚生労働省が構造的失業や摩擦的失業の対策を一生懸命実施したとしても、そもそも、雇用の受け皿が不足しているわけですから、何の対策にもならないわけです。

5年ほど前に、厚生労働省関連の役所の女性方が、自分の上司の課長さんが「自分は雇用ってよくわからないんだ」という話しているのを聞いてショックを受けたという話がサイトに掲載されていたことがありました。この課長さんの頭の中にも、雇用の受け皿は日銀の金融政策によるものであることがインプットされていなかったので、このような発言をしたものと思います。

雇用の受け皿が少ないときにジョブ・フェアを実施してもぼとんど効果はない
これは、昔から知られていてマクロ経済では当然のこととされていることなのですが、日本やアメリカのように人口が億単位の国では、日銀がインフレ率を数%あげると、その他は一切何もしなくても、たちどころに雇用が数百万人分創出されます。

逆に日銀かインフレ率を数%下げると、その他は一切何をしなくても、たちどころに雇用が数百万人分減ります。

これは、当たり前のことであり、日本以外の国では当然のこととされていましたが、なぜか日本では雇用と金融政策とは関係ないものとされていました。

本日アベノミクスは失敗として、内閣不信任案を提出した民進、共産、社民、生活の野党4党の方々、特に幹部の方々は、これを理解していないのです。金融政策と雇用の関係を理解していないからこそ、金融緩和によって、雇用が劇的に改善しても、それは自然にそうなったのであり、アベノミクスとは何も関係ないと考えているのだと思います。

そうでなければ、これだけ成果があがっている金融政策を目の前にして、「アベノミクスは失敗」などということはできないはずです。

しかし、雇用と金融政策に密接な関連があるというこの事実を知らない人は、そもそも国会議員になるべきではありません。マクロ経済学では、雇用情勢が悪くなければ、他の数値が多少悪くても良しとします。その点では、アベノミクスは、雇用情勢が劇的に改善しているということでは、及第点をあげるべきものと思います。

さらに、雇用が改善した結果として、自殺者が減ったこともあげられます。


政府は31日の閣議で、2016年版の自殺対策白書を決定しましたた。15年の自殺者数は前年比1402人減の2万4025人となり、4年連続で3万人を下回りました。自殺者数の減少は6年連続。1998年に自殺者が3万人以上に急増する前の97年(2万4391人)の水準まで減りました。
所管する厚生労働省の担当者は「経済問題を理由とした中高年男性の自殺がここ数年大幅に減っており、景気回復を背景にさまざまな対策が功を奏したのではないか」と話しています。

経済政策がまずければ自殺者は増えます。ここでは、詳細は説明しません。それについては、このブログでも解説したことがありますのでそちらをご覧になってください。


ただし、8%増税は大失敗でした。以下に、直近のGDPの表を掲載します。これも以前、このブログに掲載したものを再掲します。


これは、以前もこのブログに掲載したことですが、今年の2月はうるう年で普段より2月は日数が多いです。このうるう年効果を相殺すると、国内生産は、0.1%、年率換算では0.5%です。かろうじて、プラスという状況です。これは、8%増税が大失敗したことを意味します。経済が順調に伸びているときにこの数字ならさほど問題はないかもしれませんが、そうではないので、これはかなり悪い数字とみるべきです。この数字を見た後でも、10%増税を主張する人は全く経済オンチだと言わざるを得ません。

しかし、増税見送りなどというと、決まって「財政再建がー」と叫ぶ人がいます。しかし、このような人は、因果関係や経済対策を実行してから、効果が出てくるまのラグを全く理解していないのだと思います。

財政再建は、名目経済成長がなければ、そもそも無理ことで、名目経済成長すれば後からついてくるものです。これを無視して、増税をすれば、消費が冷え込み、名目成長は当然マイナスになります。そうなれば、税収が減り増税しても財政再建はできません。財政再建できなければ、社会保障改革も不可能です。そもそも、増税すれば社会保障改革ができると思い込むのは間違いです。これを理解しない人は、日本のGDPの60%が個人消費によるものであるということを理解していなのではないかと思います。

8%増税は最初から失敗することはわかっていて、しかも、実際に大失敗であることが数値で示された現在、10%増税を主張する人は愚かとしかいいようがありません。

そうして、8%増税のときを振り返ってみると、野党は無論のこと、新聞などもマスコミも、そうして自民党の大部分の議員も増税すべきという立場でした。野党の中には反対する党もありましたが、その理由は薄弱で、せいぜい世論調査で多数の国民が増税反対なので、反対したのであり、党利党略の域を出ていないものでした。いわゆるエコノミストといわれる人たちも、増税しても、日本経済に与える影響は軽微としていました。しかし、実際に増税してみるとその結果は惨憺たるものでした。

確かに、安倍総理は8%増税の決断をし、増税に踏み切りましたが、それで経済が悪くなったからといって、自民党の議員は無論のことは、野党もそのようなことは言えないはずです。そうして、私は安倍総理自身も、本当はアベノミクスの腰を折るような増税などしたくはなかったと思います。

安全保障関連法に関しても、これも前にこのブログで掲載しましたが、以下のような手続きを踏んで、審議しています。
2012年12月 解散総選挙。自民党は集団的自衛権の行使を可能とし、「国家安全保障基本法」を制定することを公約として、圧勝し政権与党に返り咲く。 
2014年7月 安全保障法制方針について閣議決定。同日に国民向けに安倍総理が記者会見、テレビ全国放送とネットに全文公開。 
2014年12月 解散総選挙 自民党の公約に安全保障関連も含まれる。与党が圧勝 
2015年5月 安保法制案を閣議決定し、安倍総理が再び記者会見。 
2015年6月 通常国会を過去最長の延長幅となる95日間延長。 
2015年 7月 衆議院 特別委員会で異例の116時間を超える審議後、本会議可決し、参議院へ送られる。 
2015年9月 参議院 特別委員会審議は100時間を超える審議後に本会議で可決、成立。
国会で審議拒否や乱闘を繰り返した野党
このような議会制民主主義のステップを踏んで、可決成立しているわけでし、野党はまともな代替え案も提出せず、審議拒否や乱闘を繰り返したわけですから、これはどう考えてみても「強行採決」などとは言えません。これを強行採決とするならば、議会制民主主義を否定することになります。

ブログ冒頭の記事では、自民党の松本純衆院議員は「アベノミクスにより雇用や所得環境は順調に改善を続け、日本経済は着実に回復に向かっている」と反論。不信任案を提出した野党を「党利党略、パフォーマンス政治そのものだ」と批判していますが、私はそれどころではないと思います「理不尽」でさえあると思います。

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2016年5月13日金曜日

【痛快!テキサス親父】トランプ旋風には理由があるんだぜ 日本では伝えられない米国の危機的事情―【私の論評】たった1割しか保守系メディアが存在しない米国で国民は保守を見直し、覚醒しつつある(゚д゚)!

【痛快!テキサス親父】トランプ旋風には理由があるんだぜ 日本では伝えられない米国の危機的事情

トニー・マラーノ氏
 ハ~イ! みなさん。

 米大統領選の共和党指名争いで、不動産王のドナルド・トランプ氏(69)が指名獲得を確実にしたぜ。日本では、過激な発言ばかりが報道されているようだが、今回は、日本のメディアではきっと分からない、トランプ氏を後押しした米国の危機的な事情について説明したい。

 トランプ氏がカリフォルニア州で集会を開いた際、会場の外で激しい抗議活動が行われた。世界各国のメディアはその現象だけを取り上げて、「トランプ氏に抗議殺到」などと伝えていたが、伝統と規律を重んじる米国民の感覚・感情はまったく違うものだった。

 抗議団の中では、多くのメキシコ国旗が得意げに振られていた。メキシコからの不法移民が多数参加していることは一目瞭然だったぜ。さらに、プラカードに書かれたメッセージなどから、抗議団に社会主義者が入り込んでいることも明らかだった。

 米国は「移民の国」だ。俺の先祖もイタリアから移住してきた。米国の「建国の理念」に賛同する移民たちが、わが国に活力を与え、発展させてきた。ただ、それは合法でなければならない。トランプ氏が「不法移民を強制送還させる」と主張していることは、ある意味当然といえる。

 社会主義者の増長は、米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ。彼らは幼稚園のころから「資本主義の邪悪さ」と「社会主義への同情」を刷り込まれた。洗脳だ。自由主義や資本主義の象徴であるトランプ氏は「叩きのめすべき敵」なのだろう。

 彼らが、トランプ氏を政治的に貶めようとすればするほど、それが逆効果になっている。米国民の多くは「抗議団=米国を3等国に転落させたい連中」とみている。最近、テロリストを支持する集会が開催されたことが、トランプ氏への得票につながったことも、米国民は知っている。
 かつて、カリフォルニア州は米国全体の流れを決めていたが、今や、他の49州の「軽蔑の対象」でしかない。現在のトランプ旋風は「伝統的な米国を守れ」という国民的運動ともいえる。

 俺は、日本でも危機的な事態が起きていることを知っているぜ。不法滞在している連中が日本を壊そうと画策・暗躍しているうえ、一部の政党や教育現場、メディアにも「反日勢力」が浸透している。

 日本は世界屈指の歴史と伝統を持つ国であり、成熟した伝統や文化を大切にしながら、時代に合わせて新しい手法や思考を取り入れてきた。だが、そこに悪意(=日本を壊す)があったらどうするんだ?

親愛なるみなさんと、日本と米国に神のご加護がありますように。俺は、日本は日本らしさを守ってこそ、日本だと思うぜ。

では、また会おう!

 トニー・マラーノ

【私の論評】たった1割しか保守系メディアが存在しない米国で国民は保守を見直し、覚醒しつつある(゚д゚)!

上のテキサス親父の記事では、"社会主義者の増長は、米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ。彼らは幼稚園のころから「資本主義の邪悪さ」と「社会主義への同情」を刷り込まれた。洗脳だ。自由主義や資本主義の象徴であるトランプ氏は「叩きのめすべき敵」なのだろう。"としています。

米国リベラル・メディアの偏向を揶揄するポスター

それでは、米国では、政治的に保守といわれる人々と、そうではない人々の比率はいかほどのものなのでしょうか。

その前に、日本はどうなのかを概観してみます。日本においては、保守と革新(非保守)の割合は、55年体制が築かれた当時では、2:1といわれていました。保守派が圧倒的に多かったわけです。

55年体制(ごじゅうごねんたいせい)とは、日本において、与党第1党は自由民主党が占め政権を維持し、野党第1党は日本社会党が占めていた体制。1955年(昭和30年)に保守が合同し自由民主党を築いた後この構図が成立したためこう呼ばれます。
初出は政治学者の升味準之輔が1964年(昭和39年)に発表した論文「1955年の政治体制」(『思想』1964年4月号)です。

この保守と革新の“2:1”の比率は、保守分裂のため社会党が第1党になった1947年(昭和22年)の総選挙の時点で既に現れていました。

55年体制は、自由民主党から日本社会党への政権交代が実現できない一方、保守政党は国会で憲法改正のための3分の2以上の議席を確保できなかったことから、政権交代と憲法改正のない体制とされています。


戦後しばらくは、いわゆる諸派・ミニ政党がしばしば議席を獲得していました。しかし55年体制成立以降は、参議院で一時的にミニ政党が進出した時期もありますが、衆議院で議席を獲得することはほとんどなくなりました。

とはいいながら、現在の自民党をご覧いただくとわかるように、保守派の議員も大勢いるにはいるのですが、現在の自民党は、それ以外にも、リベラル派や左翼に近いような人たちも混じっています。

政治信条が異なっても、自由民主党という看板の下に集っています。結局、自民党=保守派とは呼べない状況になっています。

そうなると、一見非保守派のほうが優勢のようにもみえますが、一方野党第一党の現在の民進党も、保守派の議員がいます。

結局自民党は、選挙のために政治信条の異なる人々が集う、まるで選挙互助会のような組織です。そうして、民主党(現民進党)も自民党をコピーしたような、選挙互助会組織です。ただし、コピーした分だけ、劣化しています。それを私たちは、民主党が政権与党だった時代に嫌というほどみせつけられました。

このような状況ですから、保守といわれる人々はどの程度なのか、それを特定するのは難しいです。それに、単純に保守といっても、受け取る人によって、その定義が異なります。だから、保守はどのくらいいるのかということは、政治の世界ですら、それを特定するのは難しいです。

ここで、保守の意味を正確に定義します。保守とは、保守主義の立場をとる人たちの集まりということになります。そうして、保守主義(ほしゅしゅぎ、ラテン語: Conservatismus、英: Conservatism)とは、古くからの伝統・習慣・制度・社会組織・考え方などを尊重して、古くからの伝統・習慣・制度・社会組織・考え方を保存したり、維持するために、急激な改革に反対する社会的立場や政治的立場です。

そのような立場を取る者のことも保守(英: Conservative)、あるいは、保守派と呼びます。対義語は革新もしくは進歩主義。一言でまとめると、中庸の徒ということになると思います。

『論語』で中庸について述べている部分

「中庸」という言葉は、『論語』のなかで、「中庸の徳たるや、それ至れるかな」と孔子に賛嘆されたのが文献初出と言われている。それから儒学の伝統的な中心概念として尊重されてきた。だがその論語の後段には、「民に少なくなって久しい」と言われ、この「過不足なく偏りのない」徳は修得者が少ない高度な概念でもあります。

ただし、これは、保守主義の理想であり、ここまで定義を狭めてしまうと、本当の意味での保守などあまり存在しないことになってしまいます。理想は、理想として、無理のない定義としては、「偏りのない」くらいで良いと思います。過不足なくまで定義に盛り込むと、それはもはや超人であり、それにあてはまる人はあまりいなくなることでしょう。

「偏りがない」を中庸として、中庸の徒が保守とするならば、政治の世界でも2〜3割くらいはいそうです。国民の中にも、少なくとも2〜3割くらいはいそうです。これに近い人も含めると、もしかしたら5割もいるかもしれません。

ところがです。米国はとんでもない状況になっています。なんと、いわゆる保守といわれる人々が本当は日本かそれ以上も存在しているにもかかわらず、メディアはリベラル・左派が9割という状況になっています。それは、以下の動画をご覧いただくとおわかりいただけるものと思います。



何と、アメリカでの特にマスコミの保守と非保守の割合は、1:9だというのです。ほとんどが、非保守の左翼、リベラルなのです。アメリカ最近は、いくぶん衰えたといえ、世界一の超大国です。経済的にも、軍事的に世界一ですが、何とマスコミには保守派1割しか存在しないということで、テキサス親父が語る"社会主義者の増長は、米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ。彼らは幼稚園のころから「資本主義の邪悪さ」と「社会主義への同情」を刷り込まれた。洗脳だ。自由主義や資本主義の象徴であるトランプ氏は「叩きのめすべき敵」なのだろう。"と語っていることの意味が良くわかります。

とにかく、アメリカの保守の伝統や、価値観など数十年間でズタズタに引き裂かれ、破壊されてしまったというのが実情だと思います。

政治の世界では、今でもおそらく、マスコミが1:9の比率で保守が圧倒的に少ないということで、保守系の意見はほとんど無視されてしまうのです。そのため、保守派が発言したり、著述をしても、ほとんど取り上げられないというのが実情なのです。それは、教育、映画などの大衆娯楽に及ばず、ありとあらゆる方面でそうなっているのです。

日本はアメリカに比較すればメデイアなども保守が多目なのだと思います。とはいいながら、日本は敗戦国であるため、圧倒的に非保守に牛耳られているアメリカのメディア影響をかなり受けています。だから、保守がアメリカよりも比較的多くても、教育会や司法、マスコミなど多くの分野で非保守が幅を効かせているだと思います。

そうして、メデイアの世界では保守対非保守の比率が米国では、1:9ということで保守は過去のアメリカ社会は非保守が築いてきたのですが、その社会では、アメリカの保守派はリベラル等に負けっぱなしであることに多くの保守系米国民が、憤りを覚えたり、反感を覚えたり、危機感を感じているのです。


そうして、その受け皿になっているのが、トランプ氏なのです。そうして、上の動画でも語られているように、米国はリベラルに乗っ取られるため、トランプに関しては、ネガティブな報道しかせず、それを多くの日本人が鵜呑みにしているのです。

トランプ氏は、このアメリカの現状を何とか変えなければならないということで、大統領になろうとしているのです。そうして、選挙資金を自前で全部用意できるトランプ氏でなければ、このようなことはできません。現在のアメリカは、非保守に牛耳られているため、他の候補者では、選挙資金を非保守に頼らざるを得ません。だからこそ、過去においては非保守の立場は揺るがなかったのです。

しかし、これまでしばらく続いた候補者とは違い、トランプ氏は他者に操られておらず、これからも操られないことでしょう。これが、いずれは米国保守の反転攻勢の一里塚になるかもしれません。

この事実が日本では全く報道されないので、日本ではトランプは色物、際物扱いをされているのです。

トランプ氏が大統領になれば、非保守がアメリカを牛耳ってきた実体が暴かれ、アメリカ国民の多くは保守を見直し、覚醒すると思います。たとえ、トランプ氏が大統領になれなかったにしても、この傾向は続くことでしょう。

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2016年3月17日木曜日

二度の世界大戦で敗れたドイツが、それでもヨーロッパの「頂点」に君臨し続ける本当の理由―【私の論評】「知覚」に鋭敏な日本人がドイツ流「体系知」を身につけたら世界最強になる?

二度の世界大戦で敗れたドイツが、それでもヨーロッパの「頂点」に君臨し続ける本当の理由


佐藤優直伝・社会人のための「教養」講座 現代ビジネス


ドイツのメルケル首相(左)は理系、フランスのオランド大統領は文系

20世紀は「ドイツの時代」

今、日本では大学教育改革が話題になっています。文部科学省は、「人文系を軽視しているわけではない」と言いながら、ごく一部の超エリート校だけを文理両方を教える総合大学とし、あとは○○大学という名前だけ残して、事実上の専門学校として再編しようと考えているようです。

しかし、本当に人文系の知識は役に立たず、経済学や工学などの「実学」といわれる学問だけが重要なのでしょうか。この講座には「役に立つ教養」という言葉が入っています。今回は、国際社会の中で教養が果たす役割について考えてみましょう。

近現代史の第一人者である、イギリスの歴史家エリック・ホブズボームは、「20世紀はドイツの時代だ」と述べています。

ドイツは、19世紀末から後発の工業国として急速に国力を増してきました。20世紀に入り、この新興国をどうやって取り込むかという問題に直面した世界は、2度の世界大戦を経て、どうにか軟着陸に至った。これが20世紀最大の事件であり、歴史の主役はドイツだったということです。

今、ミュンヘンのレストランで、ビールとシュニッツェル(カツレツ)を注文するとしましょう。

おそらく、その店の経営者はドイツ人で、清掃係はかなりの確率でチェコ人かハンガリー人です。カツに使われている豚肉はハンガリーから輸入されていて、そのハンガリーの養豚場で働いているのはウクライナ人が中心。豚のエサもウクライナから来ているはずです。

つまりドイツは、2度の世界大戦に敗れたにもかかわらず、ヨーロッパの中でドイツ人を頂点としたシステムを作り上げた。EUの統合通貨ユーロも、ドイツの通貨マルクを拡大させたものとみることができます。

では、なぜドイツは勝者になれたのか。見逃せないのが、大学教育です。ドイツの大学教育は、ヨーロッパにおけるライバル・フランスの教育とは対照的でした。

フランスでは19世紀初頭、ナポレオンによって学校改革が行われ、大学は徹底した実学重視になりました。神学や文学なんて教えるのはやめて、工学・経済学・軍事学などの実学だけにせよ、と。今も、フランスの国立大学のほとんどには神学部がありません。

ナポレオン 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
一方、ドイツでは今でも、神学部がないと総合大学を名乗ることができない。ドイツがなぜ神学を重視するかというと、「目に見える世界だけでなく、目に見えない世界を学んでこそ、知はバランスを保てる」という考え方があるからです。こうした考え方をドイツに定着させたのが、18世紀から19世紀にかけて活躍した、フリードリヒ・シュライエルマッハーという神学者でした。

シュライエルマッハーの考え方は、「知は体系知でなければ意味がない」というものです。オタクのように、断片的な知識を山ほど持っていても意味はない。それらの知識がどう関係しているのか。そうした「体系知」を体得しないと、知は完成しないという考え方です。

ベルリン大学の神学部長だったシュライエルマッハーは、専門科目を教える教授にも教養科目を受け持たせた。そうしてさまざまな学問の交流をはかり、生きた「体系知」を生み出してこそ、初めて大学の存在意義があると彼は考えたわけです。

これが19世紀ドイツの大学教育をつらぬく方針になったのですが、実は21世紀の現在も、これと同じような考え方にもとづいて教育を実践している国があります。そう、アメリカです。

例えば、ハーバード大学の学部では教養重視の授業が行われていて、専門的なことは基本的に大学院で学びます。昔のドイツの大学と同じようなシステムです。ちなみにハーバード大学の授業料は年間7万ドル。日本円にするとおよそ800万円で、当然、ここで学べるのは富裕層の子供たちだけです。

日本が目指すべきもの

フランスのような実学志向ではなく、教養を中心とした「体系知」を重んじたドイツは、20世紀の主役となった。21世紀の今も、ヨーロッパでは「ドイツの世紀」が続いていると言っても過言ではないでしょう。

この実例から分かることは、すぐに役に立つ「実学」は、短期的に、あるいは狭い範囲でしか役に立たず、一見すると役に立たなそうに見える「教養」こそが、案外役に立つことがあるということです。

私たちは普段、無意識のうちに、合理主義や近代的なものの見方にもとづいて行動しています。国と国の関係においても、国際法や国家の主権があることが、自明の前提になっている。

ところが世界には、この前提が通用しない地域も珍しくありません。例えば、中東で起きているイスラム教シーア派とスンニ派の紛争の背景には、近代以前の世界観が横たわっているといえます。

今年1月、サウジアラビアとイランが国交を断絶しました。きっかけとなったのは、昨年、サウジアラビアのメッカ近郊で起きた巡礼者の将棋倒し事故です。

日本ではあまり報じられていませんが、この事故で2000人以上が亡くなり、うち400人以上がイラン人でした。激怒したイラン最高指導者のハメネイ師は、「サウジに責任を取らせる」と言っています。

ところが、イランとサウジが国同士のレベルでは国交断絶しても、サウジはイランからの巡礼者を受け入れ続けています。ということは今後、メッカでイランとサウジの巡礼者がいつ大規模な衝突を起こしてもおかしくないわけです。

しかし「聖地巡礼」となると、その瞬間に、イスラム教徒の中では近代、すなわち国家という枠組みとは全く異なるスイッチが入ってしまうのです。

近代合理主義だけでは捉えきれない、この世界の成り立ちと、どう向きあっていけばよいのか。少なくとも、日本人がちやほやする「実学」だけでは、とうてい太刀打ちできません。「実学」には、限界があるのです。

【私の論評】「知覚」に鋭敏な日本人がドイツ流「体系知」を身につけたら世界最強になる?

確かに、「実学」だけではどうにもならないことがあります。特に、企業の中で働くにしても、作業や仕事レベルまでは「実学」だけでどうとでもなるのですが、本当の意味で顧客を知る、顧客の変化を知る、自分たちの顧客は誰かという根源的な問題を考える上では、「実学」だけではあまり役に立ちません。

いくら、昔ならとても扱えないような巨大なデータを集めて、これまた一昔前までは、考えられないような高度な処理能力を持つコンピュータで解析しても、自分たちの顧客を知ることはできない場合もおうおうにしてあります。

特にイノベーションを起こすときには、そのようなことが言えます。今までの延長線上で物事を考え、それを改善するというのなら、巨大データを集めて、コンピュータで解析すれば、答えは出るかもしれません。しかし、今までの延長線上にはないイノベーションを起こそうとするときには、それだけではどうにもなりません。

イノベーションのための7つの機会
出典:P.F.ドラッカー著『イノベーションと企業家精神』を基に藤田 勝利 氏が作成
その時には、知覚がものをいいます。イノベーションは分析だけで行なうことはできません。そもそもイノベーションに対する社会のニーズは分析では知ることはできません。

イノベーションの成果が、やがてそれを使うことになる人たちの期待、価値、ニーズにマッチしうるかは知覚によってしか知ることはできません。

そうして、知覚とは、 思慮分別をもって知ること。「物の道理を知覚する」という時の知覚と、目、耳、鼻、皮膚などの感覚器官を通して外界の事物や身体内部の状態を知る働きの両方を意味します。

そうしてそれを知覚することによって、初めて、それを使うことになる人たちが利益を見出すには何が必要かを考えられるようになります。これを考えられなければ、せっかくのイノベーションも間違ったかたちで世に出てしまうことになります。

イノベーションに成功する人は、右脳と左脳の両方を使うのです。数字を見るとともに人を見るのです、人の集まりである社会を見るのです。どのような、イノベーションが必要かを分析をもって知った後、実際に外に出て、知覚をもって顧客や利用者を知るのです。知覚をもって彼らの期待、価値、ニーズを知るのです。そうして、はじめて、イノベーションに成功するのです。

このようなことをするときに、「実学」だけでは、知覚もって顧客や利用者を知ることはできません。

ブログ冒頭の記事で示されていた、シュライエルマッハーの考え方は、「知は体系知でなければ意味がない」というものでした。断片的な知識を山ほど持っていても意味はないのです。それらの知識がどう関係しているのか、そうした「体系知」を体得しないと、知は完成しないというものです。

フリードリヒ・シュライアマハー

知識は、高度化するほど専門化します。そうして、ある専門知識は、他の専門知識と結合するとき爆発してとてつもない力を発揮します。そのため、多様な専門知識への理解が不可欠です。このよらうに、自分の専門外の知識を持つ人こそ、知識社会における教養ある者人と呼ぶことができます。

ただし、専門知識のすべてに精通する必要はありません。しかし、それらのものが何についてのものか、何をしようとするものか、中心的な関心事は何か、中心的な理論、問題、課題が何かは知っておくべきです。だからこそ、幅広い本当の意味での教養が必要なのです。

しかし、専門知識を一般知識へと統合できない教養課程や一般教養は、教養ではありません。本当の意味での、教養は相互理解をもたらすこと、文明が存在しうるための条件である対話の世界を造り出すことができるものです。そうして、はじめて、知識は「体系知」となり、完成するのです。

確かに、今の日本の大学で行われている教養課程は、専門知識を一般知識へと統合できない部分があり、そのため、「体系知」を体得できず、知を完成させていない学生も多いのかもしれません。

最近の日本では、「体系知」を体得していない人々が増えたのだと思います。そのためでしょうか、過去の日本は、失われた20年というとんでもない状況に見まわれ、停滞しつづけました。

その主たる原因は、あまりにも長い間、デフレを放置してきたことです。そうして、このデフレの根本原因は、バブル期には土地や株式などの資産価格はあがっていたものの、一般物価はさほどでもなかったものを、日本銀行が金融引き締めに転じたことが、最初のきっかけでした。

その後も、日銀は長い間、金融引き締めを続け、さらに消費税の増税を二度にわたって、行い、日本はデフレスパイラルの泥沼に沈むとともに、超円高に苦しむことになりました。

日銀が、金融緩和に転じたのは、2013年からでした。しかし、それもつかの間、その後には、平成14年4月からは、8%増税が実施され、ご存知のように経済は停滞しています。愚かなエコノミストなどは、この経済の停滞を増税以外のせいにしています。まったく、愚かな連中です。こういう連中が、それこそ、日本の失われた20年の原因を創りだしたのです。彼らは、真の意味での教養のある人間ではないのです。

このようなことは、日本で多くの人、その中でも特に大学以上の学歴を持つ人々の多くが、「体系知」を体得していれば、起こらなかったものと思います。

そもそも、マクロ経済に関して多少の知識があれば、不景気のときには、金融緩和と積極財政を行うべきことは基本中の基本です。間違っても、金融引き締め、緊縮財政などすべきでないことはすぐに理解できます。

仮に、マクロ経済を勉強なかったにしても、過去の歴史を紐解けば、日本が世界恐慌(日本では、昭和恐慌と呼ばれ、その原因は1990年代の研究でデフレが原因であったことが明らかにされている)から金融緩和策、積極財政で世界で一番はやく脱却したことからも、理解できるはずです。

さらに、この歴史的事実を知らなくても、江戸時代の経済対策を遡れば、経済対策として、いわゆる節約令を出したものはのきなみ全部失敗しています。

成功した事例としては、「元文の改鋳」があります。江戸時代中期に徳川吉宗が行った緊縮財政(享保の改革)により日本経済はデフレーションに陥いりました。そこで町奉行の大岡忠相、荻生徂徠の提案を受け入れ政策転換し、元文元年(1736年)5月に元文の改鋳を行いました。改鋳は差益を得る目的ではなく、純粋に通貨供給量を増やすことが目的でした。現在でいえば、日銀による増刷に相当するものです。

元文の改鋳で鋳造された金貨
元文の改鋳は現在では、幕府初のリフレーション政策と位置づけられ、日本経済に好影響をもたらした数少ない改鋳であると積極的に評価されています。元文の通貨は以後80年間安定し続けました。江戸の経済対策というと、なにかといえば儒教思想にもとづく倹約道徳にもとづく、吉宗が行ったような緊縮財政であり、いわゆるこの事例のような、金融緩和策は数少ない成功事例の一つです。

たとえ、これを知らなくても、日本が増税を決める直前のEUをみれば、イギリス、スペイン、イタリア、ポルトガルなどの国々が景気が悪い中で、増税で失敗していました。


それに、現在でなくても、過去を調べれば、古今東西を通じて、デフレや不景気のときに、増税して、成功した国などありません。

これらのことを知っていれば、あるいは知らなくても調べれば、増税などすべきなどという考えにはならないはずです。さらに、金融政策についても同じことです。景気の悪いときに、金融引き締めを行って成功した国など古今東西存在しません。

にもかかわらず、いわゆる財務省の官僚や、いわゆる経済アナリスト、経済学者などで、増税や金融引き締めをすべきとした人たちは、軒並み無教養の謗りをうけても仕方ないです。そういう無教養な人が日本には、大勢います。

なぜ、そのようなことになってしまったのかといえば、やはり、高校や大学での教育の仕方にも問題があったものと思います。

そもそも、最近の金融政策や、財政政策の有り様を知るためには、過去のそれがどうなっているのか知らなければならないですが、高校ではそれを知る機会は、日本史や、世界史の現代史の部分にあたるのでしょうが、その部分は教科書の後ろのほうにあるし、それに、試験にはあまり出ないといいうことで、しっかりとは教えられていないようです。

実際に、金融アナリスやエコノミストと呼ばれる人でも、過去の経済対策に関する知識を持っている人は驚くほど少ないです。これらの人の多くは、せいぜい数ヶ月か、半年くらいの状況をみて判断していて、短期では予想が的中することもありますが、長期の予想はことごとく外してしまいます。とくに、増税の判断ではそうでした。

それに、今の日本の大学の教育で、それぞれの先生たちは、努力して教えたにしても、システム的に専門知識を一般知識へと統合できない教養課程になってしまっています。

そうして、大学生のほうも、結構厳しい受験勉強が終わって、緊張から開放され、教養の過程は、あまり勉強せず、高校生のときに蓄えた知識にブラスアルフアで、留年しない程度にしか勉強しません。学部に入ってから専門知識は、ある程度は勉強するようですが、教養過程はないがしろにされがちです。

この状況では、日本はいずれドイツの後塵を拝するようになりそうです。やはり、日本でも、真の教養というものを身につけさせるため、専門知識を一般知識へと統合できるようにして、多くの学生たちに「体系知」を体得させ、知を完成させるか、その端緒を築けるようにすべきものと思います。

さて、ここまではドイツの優れたところを掲載してきましたが、以下には、日本の優れたところを掲載します。

先に、イノベーションにおいては、知覚が重要であるということを掲載しました。実は、日本人の強みは、この「知覚」なのです。経済学の大家ドラッカー氏は、日本の近代社会の成立と経済活動の発展の根底には“知覚”の能力があるとしています。

ドラッカー氏
ドラッカー氏は、「分析に対置するものとしての知覚こそ、実に一〇世紀以降の日本画における継続的な特性である」と語っています。(『すでに起こった未来』)

日本の歴史と社会についての第一人者、エドウィン・O・ライシャワー元駐日大使が、その著『ザ・ジャパニーズ』において、日本は第一級の思想家を生み出していないと言ったとき、ドラッカー氏は、日本の特質は“分析”ではなく、“知覚”にあると言ってくれました。

ドラッカー氏は、中世における西洋最大の偉業、トマス・アクィナスの『神学大全』に対置するべきは、宮中の愛と病と死の描写からなる世界最高の小説、紫式部の『源氏物語』だといいます。

近松門左衛門の文楽と歌舞伎は、カメラとスクリーンこそ使いませんでしたが、高度に映画的だともいわれます。登場人物は、何を言うかよりも、どう見えるかによって性格づけされます。誰も台詞は引用しないのですが、場面は忘れません。

近松は、映画のための道具はなに一つ使わずに、映画の技法を先取りしていました。役者が不動の形を取る見得は、まさに映画のクローズアップそのものです。

歌舞伎の見得(みえ)
ドラッカー氏の洞察は、日本の近代社会の成立と経済活動の発展の根底には、その伝統における知覚の能力があると看破しました。これによって日本は西洋の制度と製品の本質を把握し、再構成することができたといいます。日本の真価はこの知覚の能力にあるのです。

ドラッカー氏は、以下のようにも語っています。「日本について言える最も重要なことは、日本は知覚的であるということである」(『すでに起こった未来』)

日本人には、このように知覚に優れているからこそ、失われた20年を経たあとでも、なんとか国を維持して来れたのだと思います。他の国であれば、20年近くも、緊縮財政、金融引き締めを続けていれば、完璧に破綻しています。

日本人である多くの人は、自らの知覚能力があまりに当たり前になっていて、その高さを意識していないようですが、外国人と比較すると日本人の知覚能力は高いようです。ただし、それが最近では悪い方面にもでているようです。

知覚に頼りすぎて、分析をせず、それこそ、先に述べた増税せよ、金融引締せよなどとのたまっていたエコノミストのような人々もいます。

私自身は、日本人の多くは、外国人と比較すれば、知覚に優れていると思います。たとえば、日本人なら、虫の鳴き声を聴いて、元気な声とか、うら寂しいなどと感じますが、多くの外国人にとっては、虫の声は単なる雑音に過ぎないようです。

それに、現在世界でトレンドになってる、和食など、知覚に鋭敏な日本人だからこそ、できたものです。ドイツの食べ物は、日本と比較すると、味付けも大雑把で、季節感にも乏しく、本当に食べ物であって、和食のように見たり、香りを楽しんだり、出汁などの微妙な味付けを楽しむようなものではありません。

典型的なドイツ料理 日々このような食事では確かに知覚は研ぎ澄まされない?
それに、対人関係に関しても、日本人からすると、かなり大雑把で、あまり相手の感情など知覚できないようです。そのためですか、何でも細かなとこまで話し合いをしようとします。

ドイツ人などと話していると、あまり知覚に鋭敏でないようで、日本人ならば話さなくてもわかりそうなところも、合理的な判断にもとづく話し合いをするので、彼らの合理性にはほんとうに辟易とするところがあります。

これに対して、日本人は、もともと知覚が優れた日本人の子孫として生まれたので、子供の頃からそのような環境に育ち、自然と知覚が研ぎ澄まされていったものだと思います。

日本人として生まれた私たちは、知覚に優れているという生来の能力を最大限に活かすべきものと思います。そうして、ドイツ人のように、専門知識を一般知識へと統合し、「体系知」を体得し、知を完成するか、完成のための端緒をつかむには、何も大学でそのような教育を受けられなかったからといって、悲観する必要はありません。その方法は、あります。それは、「読書」です。読書の習慣をつけることです。それも、できたら体系的な読書をすべきです。

そうして、ドイツ人の「体系知」を体得できた日本人は世界最強になれるかもしれません。

それについては、ここで述べだすと長くなりますので、また機会があれば、改めて掲載したいと思います。

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