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2024年5月29日水曜日

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは―【私の論評】同盟軍への指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは

まとめ
  • アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、中国が「茹でガエル戦術」で徐々に圧力を強めており、南シナ海や台湾海峡での軍事行動が一層攻撃的で危険になっていると指摘した。
  • 中国の沿岸警備隊によるフィリピンの排他的経済水域内でのサンゴ礁周辺での威嚇行為に強く懸念を示した。
  • 北朝鮮とロシアの脅威、中露の協力関係深化にも警戒を要すると述べた。
  • 同盟国との連携が重要であり、新たな軍事能力の強化と相互運用態勢の早期確立が課題だと指摘した。
  • 日本としては、同盟国との連携強化に伴う指揮命令系統の問題など、主権にかかわる課題が将来的に生じる可能性があるため、自らの防衛能力強化を急ぐ必要がある。

アキリーノ米インド太平洋軍司令官

 アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、退任を前に、中国の南シナ海や台湾海峡における軍事的圧力の強化を「茹でガエル戦術」と表現し、強く非難した。中国は徐々に温度を上げることで相手に危険性を過小評価させ、いつの間にか危機的状況に陥らせるこの戦術を追求しており、行動は次第に攻撃的かつ大胆になり、地域の不安定化を助長していると指摘した。

 特に、フィリピンの排他的経済水域内のサンゴ礁周辺での中国沿岸警備隊の威嚇行為は一線を越えた新たな段階に入ったとの懸念を示した。放水砲を用いてフィリピン軍への補給を妨害するなど、これまで以上に攻撃的な姿勢を見せているからだ。

 アキリーノ司令官はさらに、北朝鮮の度重なるミサイル発射や、北朝鮮・ロシアの協力関係、中国・ロシアの関係深化にも危惧の視線を向けた。これらの動きは地域の緊張をさらに高める要因になりかねないと警鐘を鳴らした。

 そして、中国を始めとするこれらの脅威に対抗するには、同盟国との連携が不可欠であり、各国の新たな軍事能力の強化とそれらの早急な相互運用態勢の確立が喫緊の課題だと力説した。アキリーノ司令官自身、台湾有事の際にも指揮を執っており、中国の一方的な行動に強い危機感を抱いていたことがうかがえる。

 こうした現状認識を踏まえ、日本としても自らの防衛能力の強化を急ぐ必要があるだけでなく、同盟国との連携強化に伴い、将来的には指揮命令系統の一体化など、主権にもかかわる重大な課題が生じる可能性も想定されるため、十分な検討が求められよう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】同盟軍の指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

まとめ
  • 軍隊の指揮権を他の同盟国などに移譲すると、現場の実情が正確に伝わらず、同盟国全体の利益が優先されることで、自国の利益が損なわれる可能性がある。
  • 自衛隊が米軍の指揮下に入ることで、日本の防衛任務や戦略的利益が適切に反映されないリスクが高まる。
  • 第二次世界大戦中の英国の例では、第二次世界大戦中の指揮権移譲により戦略的利益が損なわれ、戦後の国力低下にもつながった。
  • ソ連は指揮権を維持し続けた結果、戦中には最大の損害を被りながらも、戦後に領土拡大と国際的な主導権を獲得し、最も利益を得た国となった。
  • 自国の防衛力を自助努力で高めつつ、同盟国と対等な関係を保ち連携することが重要であり、軽々な指揮権移譲は避けるべきである。
上の記事の元記事の最後のほうでは、「古来、同盟軍の戦いでは指揮権を移譲した側の損害が大きくなるとの定評に鑑み、その観点からもわが国は自らの能力強化を早急に進めるべきだという声は傾聴に値する」としています。

これは、指揮権を移譲すれば、意思決定の場が離れた司令部に移ったとすれば、現場の実情を正確に伝えきれず、状況に適さない判断がなされる可能性があります。また、自国の利益よりも同盟国全体の利益が優先されがちになります。このような懸念から、自国の指揮権を最大限維持し、独自の能力を強化すべきだという主張がなされているものと思われます。

台湾有事の場合を想定して、より具体的に説明します。

頼清徳台湾新総統

仮に中国が台湾に武力侵攻した場合、日米同盟に基づき、自衛隊は米軍と共に対処にあたることになるでしょう。しかし、この際に自衛隊の指揮権を完全に米軍に移譲してしまうと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
  1. 現場の実情が適切に伝わらない 台湾有事における自衛隊の活動は、日本の領土、領海、領空の防衛という自国の防衛任務と深く関わっています。しかし、指揮権を米軍に移譲してしまえば、そうした日本の主権的利益が必ずしも十分に反映されない可能性があります。
  2. 自国の戦略的利益が損なわれる 米軍の司令部は、同盟国全体の戦略的利益を最優先します。一方で日本は、例えば中国との関係修復などの将来的な国益を考慮する必要があります。指揮権を移譲すれば、そうした自国の長期的な利益が無視される恐れがあります。
  3. 現場の機動性が失われる 有事における自衛隊の機動的な活動には、政府の迅速な判断と指示が不可欠です。しかし指揮権を移譲してしまえば、意思決定のプロセスが遅延し、機動性が失われてしまう可能性があります。
こういった理由から、自国の防衛能力を強化し、最大限の主体性を維持することが重要であり、安易に指揮権を移譲すべきではないという主張が出てくるのです。台湾有事のように、自国の主権的利益が深く関わる事態では、この点は特に重要になってくるでしょう。

指揮権の移譲によって、不利益を被った国の例としては、英国があげられます。

第二次世界大戦中の英国首相 チャーチル

第二次世界大戦の欧州戦線において、英国と米国の間でこのような事態が生じました。
1942年にドイツ領内への本格的な侵攻を開始した時点で、英国よりも兵力と装備で優位にあった米軍が事実上の主導権を握りました。それにより英軍は以下の不利益を被りました。
 
作戦計画の立案段階から英国側の意見が尊重されない事態が生じました。米軍中心の作戦計画になり、英国軍の犠牲が無視される側面がありました。

航空機や戦車、兵員の割り当てで不利な扱いを受け、英国軍の戦力が十分に生かされませんでした。ノルマンディー上陸作戦では、英国軍の提案する上陸地点が米軍の希望で変更され、不利な展開を強いられました。

このように、同盟国内での指揮権の主導権を持った米軍が、自国の都合を優先する形で作戦を指揮したため、英国軍は戦略的利益を損ねる事態に陥りました。

戦後も同様です。インドをはじめ、連合国内で英国の植民地独立運動が活発化し、戦後に英帝国は瓦解に追い込まれました。他の連合国に比べ、植民地喪失の打撃が最も大きかったと言えます。

戦時下の莫大な費用と戦後の経済的疲弊により、英国は深刻な国力低下に見舞われました。この間、他の米ソなど連合国の国力は向上しており、格差が開きました。

このように、戦時中の連合国内での影響力喪失と、戦後の国力低下が相まって、英国は第二次世界大戦の連合国内で最大の損失を被った国と評価されているのです。

では、米国が第二次世界大戦でもっとも利益を得たかというと、そうとは言い切れないところがあります。

米国は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツと戦うソビエト連邦(以下ソ連と略す)に支援を行いました。

支援内容は以下の通りです。
  • 武器・軍需品の供与 米国はレンドリース法に基づき、ソ連に戦車、航空機、艦船、食料品、石油製品等の軍需品を大量に供与しました。金額にして現在の換算で1,800億ドル相当とされています。
  • 資金支援 ソ連への借款や信用供与を行い、戦費の一部を肩代わりしました。合計で109億ドル相当の資金援助がありました。
  • 戦略物資の提供 非鉄金属、燃料、機械類、車両など、ソ連が不足していた戦略物資を米国から供給を受けました。
  • 輸送路の開設 同盟国からソ連へのルートとして、北極海航路・ペルシャ湾ルート・極東ルートなどを開設し、物資の輸送を支援しました。
この大規模な軍事・経済援助によって、ソ連の対ドイツ戦線が物資的に支えられ、持久戦を可能にしたと評価されています。

しかし、結局のところ、もっとも被害の大きかった国でもある、当時のソ連が最大の利益を得たと言えます。その主な理由は、当時のイギリスとは異なり、ソ連は軍の指揮権を一片たりとも、米国に譲らなかったことにつきるでしょう。

これは、ソ連と米国は地理的、歴史的、文化的にも隔絶していたため、米国として指揮のとりようもなかったということに起因してはいるのですが、これが戦後に英国との大きな差を生み出すことになるのです。

第二次世界大戦中のソ連の指導者 スターリン

ソ連が東方戦線の作戦指揮権を完全に自国が掌握し続け、他国に決して権限を譲らなかったことが、戦後の勢力圏拡大と冷戦構造における主導権の獲得につながったといえます。

指揮権の一元的な維持が、戦後のソ連の"利益"獲得に大きく寄与したと言えるでしょう。

ソ連は戦後、日本の現在「北方領土」といわれる地域を領土とし、東欧諸国をソ連の影響下に置き、バルト3国などを事実上の一部領土化しました。領土を大幅に拡大することができました。

ソ連は、ナチス・ドイツ撃滅の最大の功労者となり、戦後は米国とともに超大国の座に着くことができました。東西冷戦構造の一方の中心的存在になりました。戦後設立された、国際連合では、中国とともに常任理事国となっています。

東欧を中心に社会主義圏が大きく広がり、ソ連の影響力が最大化しました。イデオロギー的にも大きな勝利を収めたと言えます。
 
ソ連は、連合国側で主導的な役割を果たし、戦後の東西ドイツ分割や東欧での影響力拡大などを主導できました。

このように、領土的・イデオロギー的な大幅な拡大と、戦後の国際秩序形成における主導権の獲得という意味で、ソ連が第二次世界大戦から最も利益を得た国であると評価できます。

このように、軽々な指揮権移譲は避け、自国の防衛力は自助努力で高めつつ、同盟国とは対等な関係を保ち、緊密に連携する。この二つの側面を両立させることが、軍事力の最大発揮につながるとともに、戦後に不利益を被らないための対策ともなるのです。

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2024年5月28日火曜日

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”―【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”

服部倫卓( 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)

まとめ
  • ロシアがウクライナ侵攻後、次にモルドバを標的にする可能性がある。モルドバには親ロシア地域が存在する。
  • 10月に大統領選と並行してEU加盟の是非を問う国民投票が予定されており、親欧米派のサンドゥ大統領が有力視されている。
  • 経済問題などで国民の不満が高まる中、ロシアが選挙介入などで親欧米路線を妨げようとしている。
  • サンドゥ大統領が再選されても、来年の議会選で与党が敗北すれば大統領の権限が制限される可能性がある。
  • ウクライナ情勢次第で、ロシアの軍事的脅威にさらされる恐れがあるが、武力に対する抵抗力は乏しい。


 モルドバは小国ながら、ロシアとEUの狭間に位置する地政学的に重要な国である。ロシアによるウクライナ侵攻の最中、プーチン政権がウクライナの次の標的としてモルドバを見据えているのではないかとの懸念が生じた。モルドバには親ロシア地域が存在し、ロシアがこうした地域を梃子にしてモルドバ全土を支配下に置こうとする可能性がある。

 一方で、モルドバは欧州連合(EU)加盟を目指しており、今年10月に大統領選と並行してEU加盟の是非を問う国民投票が実施される予定だ。現職の親欧米派サンドゥ大統領が有力視されているものの、経済問題などで国民の不満も高まっている。ロシアが選挙介入や買収工作などで親欧米路線を妨げようとする動きも見られる。

 さらに、仮にサンドゥ大統領が再選されても、来年夏の議会選挙で与党が敗北すれば、大統領の権限が制限されかねない。モルドバの政治体制は議会と内閣の権限が大きいためだ。ロシア側は、この議会選挙に向けても工作を強めるものと予想される。

 ウクライナ情勢次第では、モルドバはロシアの軍事的脅威に直面する可能性もある。しかし武力に対する抵抗力は乏しく、サンドゥ大統領が国外退避を選び、多くの市民がルーマニアなどEU域内に逃れる事態も想定される。

 このように、モルドバはロシアとEUの狭間に位置する小国ながら、その帰趨がロシアの影響力の及ぶ範囲やEUの東方拡大、ひいては地域秩序全体に大きな影響を与えかねない重要な試金石となっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響

まとめ
  • モルドバはEUとロシアの狭間に位置する緩衝地帯であり、その動向が地域秩序に大きな影響を与える。
  • モルドバ国内にはロシア世界への親和性の高い勢力が存在し、分離独立運動地域「プリドネストロヴィエ共和国」も存在する。
  • モルドバの民族・言語面ではルーマニアと深い繋がりがあり、国家統一の可能性がある。
  • モルドバがロシアの影響下に入れば、ウクライナへの新たな軍事的脅威となる。
  • モルドバはウクライナ情勢次第で、黒海を北上するロシア軍の通り道となる可能性がある。
モルドバ共和国は1991年に旧ソ連から独立した東欧の小国です。ルーマニア系住民が大多数を占め、ルーマニア語が公用語となっています。経済はロシアからのエネルギー供給に依存する一方、欧州連合(EU)加盟を目指す親欧米路線を掲げています。

しかし国内にはロシア世界に親和的な親ロシア派勢力も根強く、実効支配下にある分離独立運動地域「プリドネストロヴィエ共和国」も存在します。ウクライナ情勢次第では、この地域をめぐってロシアとの対立が深まる可能性もあります。このようにモルドバは小国ながら、EUとロシアの狭間に位置する緩衝地帯として、その動向が地域秩序に大きな影響を与えかねない重要な国となっています。

モルドバの地政学的重要性は非常に大きいと言えます。以下に簡単にまとめます。
  • ロシアとEUの狭間に位置する緩衝地帯。モルドバがロシア陣営に入れば、ロシアの影響力がさらに拡大する。一方でEUに加盟すれば、EUの東方シフトが進む。
  • モルドバにはロシア世界を象徴する分離勢力地域(プリドネストロヴィエ)が存在する。この地域をめぐってロシアとの対立が生じかねない。
  • モルドバの民族・言語面ではルーマニアと深い繋がりがあり、国家統一の可能性も存在する。その場合、ルーマニアを介してEUとロシアの対立が先鋭化する恐れ。
  • モルドバがロシアの影響下に入れば、ウクライナのもう一つの軍事的脅威になる。その意味でもウクライナ情勢に影響を与える。
  • 黒海に面さず内陸国ながら、ウクライナ情勢次第では黒海を北上するロシア軍の通り道となりかねない。
モルドバ東部でウクライナに接する赤色部分がプリネストロヴィエ(PMR)

プリドネストロヴィエ(PMR)とは、モルドバ領内に実効支配する分離独立運動地域です。1992年にモルドバから分離を宣言しましたが、国際社会からは承認されていません。住民の多くがロシア系で、ロシア語が公用語となっており、ロシア軍も駐留しています。

PMRは「プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国」として独立宣言を行っています。無論、モルドバはこれを認めていません。ロシア、アブハジア、南オセチア、ナウル共和国のわずか4か国のみがこれを独立国として認めていますが、他の国はこれを認めていません。

この地方は、「沿ドニエストル地方」とも呼ばれますが、その地理的な位置を表した別の呼び名です。プリドネストロヴィエは「ドニエストル川沿い」を意味する語源から来ています。

プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国とは、モルドバ東部のウクライナとの国境に位置する、モルドヴァから実効支配上分離しているドニエストル川沿いの地域を指す、自称独立国家のことになります。

PMRの首都とされるティラスポリ市の市庁舎

地理的には「沿ドニエストル地方」ですが、政治的実体としては「プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国」と呼ばれる分離独立運動体制のことを指しています。

ロシアの支援を受けて独立を主張するPMRの存在は、モルドバの親ロシア傾斜を生み出す一因ともなっています。モルドバは領土の一体性を重視していますが、PMRとの交渉は難航しており、この問題がモルドバ情勢を不安定化させる要因の一つになっています。今後、ロシアがウクライナ侵攻の口実としてPMRを利用する可能性も危惧されています。

このようにモルドバの行方は、ロシアとEUの勢力圏の行方、ウクライナ情勢などに大きな影響を与える重要な地政学的位置にあります。

モルドバとウクライナ南部一帯がロシアに占領され、ロシアとモルドバの間に回廊が設置されれば、そこから様々な深刻な地政学的リスクが生じる可能性があります。

まずロシアの影響力が黒海に至るまで拡大することになり、NATOやEUなど西側勢力との対立がさらに先鋭化してしまいます。ウクライナはポーランド国境以外は、ロシアに包囲されてしまい、国土が事実上二分される恐れがあります。

一方のモルドバも同様に包囲され、親ロシア地域の離反や、ロシアの事実上の支配下に置かれるリスクにさらされる。両国から大量の難民流出も起こりかねない。さらにルーマニアまでがロシアに囲まれる事態となれば、東西間の緊張は最高潮に達するでしょう。

最悪の場合、このまま事態がエスカレートすれば、新たな東西冷戦状況に陥る危険性すらあります。この地域一帯がロシアの影響下に置かれれば、ロシアの勢力圏拡大とNATO/EU側の対抗姿勢から、欧州の安全保障は極めて深刻な事態に陥ることになるでしょう。

モルドバのチーズ専門店

ただし、モルドバとウクライナ南部一帯がロシアに占領され、ロシアとモルドバの間に回廊ができる可能性は、現状では低いでしょう。

その理由の一つは、ウクライナ軍の強硬な抵抗があり、ロシア軍がウクライナ南部を完全に制圧することは容易ではないということです。さらに、ロシア軍の兵力と武器は十分ではなく、新たな大規模作戦を展開するのは現実的ではないです。

そのような行動を取れば、国際社会からの非難と追加制裁を受けるリスクも高まります。加えて、モルドバはNATO非加盟国ではありますが、EUメンバーのルーマニアが防衛面で深く関与しているため、ロシアが容易にモルドバに進出できる状況にないです。

また、モルドバ国内に親ロシア勢力は根強いものの、現政権与党は親欧米路線を掲げていることも影響しています。このように、客観的に判断すると、ロシアがモルドバまで勢力範囲を広げて回廊を確保する可能性は現時点では低いと言えます。ただし、ウクライナ情勢次第では、この地政学的リスクを完全に除外することはできないでしょう。

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戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ―【私の論評】大戦の脅威を煽るより、ロシアの違法な軍事行動に対し、断固とした姿勢で臨め

戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

まとめ
  • 歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦うウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べ、現在の状況を第2次世界大戦直前に例えた。
  • スナイダーは、ウクライナをナチスに降伏したチェコスロバキアになぞらえ、ウクライナが諦めると将来ロシアがさらなる戦争を引き起こすと警告した。
  • 現在のウクライナ紛争は第3次世界大戦の危機を高めているが、NATO諸国は関与を避け、暴力の拡大を防ごうとしている。
  • ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナがロシアに敗れれば次にヨーロッパの他の国が攻撃対象になると警告している。
  • ベラルーシのルカシェンコ大統領も世界が崖っぷちに立たされていると警告し、第3次世界大戦の懸念を表明している。

ウクライナ軍女性兵士

 著名な歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦っているウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べた。彼は米イェール大学の歴史学教授で、東欧とソビエト連邦を専門家だ。スナイダーは、ウクライナとロシアの全面戦争が3年目に突入している現状を、第2次世界大戦直前の時期に例えた。

 彼は2024年を1938年と比較し、ウクライナが第2次大戦初期にナチスに降伏したチェコスロバキアと似ていると述べた。1939年、ナチス・ドイツがチェコスロバキアに侵攻し、これによりイギリスとフランスがポーランドの同盟国としてナチス・ドイツに宣戦布告し、第2次世界大戦が始まった。スナイダーは、エストニアのタリンでの会議で、ウクライナが諦めるか、国際社会がウクライナを見捨てれば、将来的に異なるロシアが戦争を行うことになると警告した。

 スナイダーは、ウクライナが現在の状況を引き延ばし、1939年のような大戦の勃発を防いでいると述べた。ウクライナでの2年以上にわたる紛争は、第3次世界大戦の可能性を高めているが、NATO諸国はウクライナ戦争の当事者ではないと強調し、暴力が国境を越えて広がるのを防いでいるとした。ウクライナは、ロシアに敗北すれば次にヨーロッパの他の国がロシアの攻撃対象になると警告している。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2022年2月、ロシア軍がウクライナに侵入してきた直後に、ウクライナの戦いを支援するよう呼び掛けた。彼は「もしウクライナが倒れれば、ヨーロッパも倒れる」と述べた。また、3月中旬には世界が「本格的な第3次世界大戦の一歩手前」にあると警告した。

 一方、プーチンの忠実な味方であるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は2024年2月に世界が「再び崖っぷちに立たされている」と警告し、第3次世界大戦について「懸念する根拠はある」と述べた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ロシアの経済的制約と西側の圧力 - ウクライナ侵攻の行方

まとめ
  • 現代ロシアは軍事力は侮れないが、経済力ではナチス・ドイツほどの潜在力はない。資源依存型の経済構造が足かせとなっている。GDPでは韓国を若干下回る程度である。
  • 一方、当時のドイツは再軍備と経済成長の相乗効果で、ヨーロッパ有数の経済・軍事大国として台頭していた。
  • ロシアのウクライナ侵攻は長期化すれば、その経済的制約からロシアに第三次世界大戦を引き起こすだけの実力はない。
  • 重要なのは、ロシアの違法な軍事行動を容認せず、ウクライナの主権と領土を守ることである。
  • 米国を筆頭に西側がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れである。
第二次世界大戦中のドイツSS(親衛隊)

現代ロシアは確かに軍事力に優れていますが、経済面ではナチス・ドイツほどの潜在力はありません。現在ロシア経済は天然資源、とりわけエネルギー輸出に過度に依存しているのに対し、かつてのソ連は現在のロシアと比較して、製造業や先端技術分野での地位ははるかに上位に位置し、米国としのぎを削っていました。国内総生産(GDP)でも、米中に大きく水をあけられている有様です。  

これは、第二次世界大戦前のドイツとはかけ離れた状況です。1939年当時、ドイツの名目GDPは約411億ドル(1990年価格換算)と、アメリカに次ぐ経済大国でした。軍備増強と内需拡大策の効果により、ドイツは欧州有数の経済力を誇っていました。軍事と経済の相乗効果で、ヨーロッパ全域に影響力を及ぼすに至ったのです。

一方の現代ロシアは、2022年のGDPがわずか1.7兆ドル程度に過ぎず、主要欧州諸国よりも小さい規模です。世界ランキングでは11位と、韓国をわずかに下回る程度です。これは日本でいえば、東京都と同じくらいです。長年の対外制裁と資源依存の経済構造が災いし、伸び悩んでいるのが実情です。

軍事パレードをするロシア軍兵士

このように、ナチス政権下のドイツは再興期にあり、軍備増強と経済発展を遂げ、ヨーロッパでの覇権を狙っていました。一方でプーチン政権のロシアは、経済的な盤石さを欠いており、他国に影響力を及ぼす余地は限られています。

こうした経済力の違いが、ロシアのウクライナ侵攻の遂行能力に大きく影響しています。戦争が長期化するなか、ロシアは経済的に行き詰まる可能性すら浮上してきました。第三次世界大戦を引き起こせるような実力は、到底持ち合わせていないと言えるでしょう。  

武力面ではロシアが軍事技術と核兵器で優れているのは事実です。しかし経済規模が韓国と肩を並べるに過ぎなければ、その行動には自ずと一定の制約がつきまとうはずです。つまり、現在の紛争が再び世界大戦に発展するリスクは、杞憂に過ぎないのかもしれません。かえって、目の前の現実的で差し迫った問題から目を逸らしかねません。

重要なのは、第三次世界大戦の脅威などではなく、ロシアのウクライナ侵攻が国際法に明白に反すること、これを決して容認できないことです。欧米諸国を中心に、ロシアのこの暴挙に対する責任を明確に追及し、ウクライナの主権と領土保全を尊重した平和的解決を目指すべきなのです。  

もちろん、ロシア軍の戦力は侮れません。しかし、ウクライナ軍の強固な決意、西側からの軍事支援、そしてロシア自身の経済的制約といった要因を考えれば、ロシアがこの紛争で完全勝利を収めることは極めて困難です。平和の実現に向けては、第三次世界大戦を恐れるのではなく、ロシアのこの明白な違法行為に毅然と対処することこそが重要なのです。

ロシアの侵攻は確かに現実的で差し迫った脅威です。しかし同時に、ウクライナの奮闘、国際社会の広範な支援、ロシア自身の能力の限界という現実も見逃せません。こうした要因を組み合わせれば、この脅威を最終的に封じ込め、抑止できるはずです。

その実現に向け、何よりも冷静さを失わず、ロシアの軍事行動を断固として非難し続けることが大切です。そうすれば第三次世界大戦の悪夢は現実のものとはならず、かえってロシアが現実路線に傾き、停戦への道を模索せざるを得なくなるでしょう。平和を願うなら、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かうことこそが何より重要なのです。

第三次世界大戦をテーマとしたゲームの画面

実際、米国はロシアの違法な軍事行動に対する姿勢を一層厳しくしつつあります。ウクライナを訪問中のブリンケン国務長官は15日、米国製兵器を使ったロシア領内への攻撃を容認する可能性に言及し、「この戦争をどう遂行するかは最終的にはウクライナが決断することだ」と述べました。

バイデン政権はこれまで、ロシア領への直接攻撃を制限してきましたが、この発言はその方針の転換を示唆しています。ロシア側に有利に働いているとの批判を受けて、制限撤廃の要望が高まっていたためです。   

このように、おくればせながらも、米国を始めとする西側諸国がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れと言えるでしょう。平和実現に向けては、第三次世界大戦の脅威を煽るよりもロシアの違法な軍事行動に対し、断固とした姿勢で臨むことが何より重要なのです。

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2024年1月10日水曜日

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」―【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」

岡崎研究所

まとめ
  • オルバン首相は、ウクライナに対するEUの500億ユーロの支援を阻害し続けている。
  • オルバンの行動の動機は、経済支援の継続である。
  • オルバンはEUの「スポイラー」として機能しており、EUは彼の不適切な行動を制止しなければならない。
  • EUは、オルバン首相と汚い取引をせずに、ウクライナ支援の方途を見出さなければならない。
  • EUは、オルバン首相の行動がEUの機能や存在意義を脅かすことを認識し、毅然とした対応をとるべきである。
オルバン首相


 フィナンシャル・タイムズ紙の12月19日付け社説‘The EU has a messy Orbán problem’は、ハンガリーのオルバン首相が欧州連合(EU)の500億ユーロの対ウクライナ支援を依然として妨害し続けていることについて、EUがオルバン首相と汚い取引をすることなく、「オルバン問題」に対処する方途を見出さねばならない、と論じている。

 社説は、オルバンの行動の動機は、大方カネであり、経済を押し上げ、自分に対する支持を支えるためには、EUの資金がハンガリーに流入し続ける必要があるとしている。また、オルバンはEUを離脱するつもりはなく、有志の諸国とともにEUを「乗っ取ろう」と欲しているが、その目標から遠いところにあると指摘している。

 しかし、オルバンは「スポイラー」としての能力を証明したとし、EU諸国は、彼と彼の仲間の不適切な行動を制止するために、持てる道具を断固使うべきであると主張している。具体的には、EU条約第7条を発動し、ハンガリーの投票権を停止することも可能であることを明確にすべきであるとしている。

 また、加盟国が民主主義や法の支配に逆行する場合、EU資金の提供を封鎖する仕組みを使うことをEU首脳はひるむべきではないと述べている。さらに、ウクライナに対する援助資金については、EUは26カ国の政府間合意による他のルートを見出さねばならないと提言している。

 最後に、社説は、欧州のより広い範囲の安定のために、EUの拡大の可能性が戻って来たことは歓迎であるが、EUはその機能が少数派の人質に取られることを認めることは出来ないと強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

まとめ
  • オルバン首相はEUのウクライナ支援策に反対している。これはハンガリーの国益を優先するためだと支持者は主張する。
  • しかし、多くのEU加盟国からは、オルバン氏の行動はEUの団結を損ない、ウクライナ支援を妨害するものだと批判されている。
  • 一方、オルバン氏はハンガリーの国益に資する独立したウクライナの重要性を認識しており、完全にウクライナ支援に反対しているわけではない。
  • ただし、支援の在り方には慎重で、資金流用のリスクがあるとして直接支援には反対している。
  • 汚職や資金流用の疑惑が絶えないウクライナで、オルバン氏の懸念は決して杞憂とはいえない。
  • EUはウクライナ支援の正当性と同時に、資金の透明性・適正使用の確保にも配慮が必要だ。
上の記事に出てくるフィナンシャル・タイムズの記事は、煎じ詰めれば「オルバン首相の行動は、EUの機能や存在意義を脅かすものであり、EUは毅然とした対応をとるべきであると主張している」ということです。

EUの旗

ただ、この見解が正しいか、間違いかは、一概には言えないところがあります。

オルバン氏の行動を支持する議論としては、以下のようなものがあります。
 オルバン首相が500億ユーロの援助パッケージに反対することでハンガリーの国益を優先していると主張する人たちがいます。 彼らは、ハンガリーには、特に景気低迷下においては、これほど多額の拠出金を支払う余裕はないと考えています。

ウクライナが援助資金をどのように使用するのかを疑問視し、汚職や不正管理の可能性について懸念を表明する人もいます。

オルバン首相は一部のEU政策を声高に批判しており、この機会を利用して不支持を表明したり譲歩したりしている可能性があります。
オルバン氏の行動に対する反論する議論としては、以下のようなものがあります。 
多くの人は、オルバン首相の行動は、危機の際にEUの団結と団結を弱体化させようとする試みであると見ています。

援助パッケージを阻止すれば、ロシアの侵略からウクライナを防衛する能力に大きな損害を与える可能性があります。

オルバン首相はほとんどの加盟国が重要視している大義への貢献を拒否しながら、EUの資金提供から恩恵を受けていると主張する人もいます。

オルバン首相の行動は、民主主義と法の支配というEUの中核的価値観に対する攻撃であると一部の人は見ています。
オルバン首相は「ハンガリーの安全はウクライナの安全に大きく依存している」と述べています。 オルバン氏はウクライナ政府に直接送金することに懸念を抱いていますが、ウクライナの安定がハンガリーの国益にかなうことを認識しています。

ハンガリー国旗

 オルバン氏によれば、「我々はウクライナが独立した一体国家であり続けることに既得権益を持っている」と語っています。 ウクライナがロシアの支配下に置かれた場合、ハンガリーにとって脅威となり、欧州の安全保障が損なわれる可能性があります。

 オルバン氏は「最も重要なことは、ウクライナが西側世界に属するべきだということだ…ロシアに属すべきではないと信じている」と語っています。 同時にオルバン氏は、大規模な援助を受ける前に、汚職などの問題に対処するために「ウクライナは政治経済改革をする必要がある」と主張しています。

 同氏は、EUは指導者に「白紙小切手」を切らずにウクライナの安全と独立を支援する方法を見つけるべきだと考えています。 鍵となるのは、資金が責任を持って使われ、実際にウクライナ国民の利益となるようにすることです。 [出典:2014年から2017年にかけてロイター通信、ポリティコ、その他メディアとのインタビューから得たヴィクトル・オルバン氏の引用]

オルバン氏は国家主権の忠実な擁護者である一方、ハンガリーの安全保障はウクライナの抵抗や、独立に依存していることを認識しています。 

 しかし同氏は、EUがウクライナ政府に援助や保証を提供する方法については慎重でなければならないと考えています。 現在の支援の仕方では、ウクライナそのものを支援することにはならず、汚職や政治的失政で資金を浪費することになってしまいかねないことを危惧しています。そうでななく、責任ある指導者を支援すべきとしています。

最近でも、汚職や不正の疑いは絶えないです。

ゼレンスキー大統領は9月3日夜のビデオ演説で、オレクシー・レズニコフ国防相(57)を交代させると発表した。国防省では軍の調達などをめぐる汚職疑惑が相次いで発覚しており、事実上の更迭とみられる。ウクライナ側の反転攻勢が続く中での重要閣僚の交代となり、戦況への影響が注目されました。

オレクシー・レズニコフ氏

ゼレンスキー氏は演説で、「国防省には新しいアプローチや軍、社会との新たな関係が必要だ」と述べた。国防省では今年1月、兵士らの食料調達が小売価格の2~3倍で行われていた疑惑が浮上。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされます。

ウクライナでは、徴兵逃れなどでも汚職が指摘されている。ゼレンスキー氏は汚職対策に取り組む姿勢を強調し、米欧からの支援に影響しないよう腐心しています。

レズニコフ氏は2021年11月、国防相に就任しました。ロシアの侵略以降、米欧諸国からの軍事支援取り付けで中心的な役割を果たしてきました。

国防省では昨年1月、食料調達をめぐる汚職が浮上しました。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったのですが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされています。国防省ではその後、別の汚職疑惑も伝えられていました。

レズニコフ氏は、弁護士出身で2021年11月に国防相に就任しました。ウクライナメディアは国防相を辞任後、駐英大使に就任する可能性があると伝えていました。ただ、現在時点では、レズニコフ氏が駐英大使になったという公式の情報はありません。

ウクライナは、ソビエト連邦の崩壊後、汚職と腐敗に苦しんできました。ウクライナは、世界の腐敗指数であるトランスペアレンシー・インターナショナルの調査によると、2012年には180カ国中122位でした。しかし、2014年以降、ウクライナは汚職対策に取り組んでおり、改善傾向が続いています。

 2023年8月には、ウクライナの大統領であるゼレンスキー氏が、汚職に対する取り組みを強化するための法律に署名しました。 この法律は、汚職に関与した公務員や政治家に対する厳しい罰則を設けることを目的としています。しかし、ウクライナはまだ汚職と腐敗に苦しんでおり、改善が必要な状況にあります。

ウクライナ国防省内で汚職や不正行為が懸念されているのは事実です。 ただし、一般化する前に、聞いた情報を注意深く分析し、信頼できる情報源に相談したり確認することが重要です。

ただ一ついえることは、オルバン氏の懸念は決して杞憂として片付けられるものではないということです。

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2023年11月14日火曜日

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること―【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)!

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること

服部倫卓 (北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)

まとめ
  • ウクライナ侵攻後、ロシアの貿易統計は非公開となったが、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの図書館で2022年版の貿易統計集が発見された。
  • この統計集によると、ロシアの貿易は、欧米日などの「非友好国」から、中国やインドなどの「友好国」に大きくシフトした。
  • 特に石油輸出では、中国とインドが急増し、2023年第1四半期には、ロシアの原油輸出の73.3%が中印向けとなった。
  • 半導体輸入については、先進国からの輸入が減少したものの、中国からの輸入は減少せず、ロシアの半導体不足は解消されていない。
  • ロシアの対外貿易では、中国が圧倒的なシェアを占めており、2023年には、露中貿易が往復で2200億ドルに達する見込みである。

 ウクライナ侵攻後、ロシアの貿易統計は非公開となったが、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの図書館で、2022年の貿易統計集が発見された。

 この統計集によると、ロシアの貿易は、欧米日などの「非友好国」から、中国やインドなどの「友好国」に大きくシフトした。

 特に石油輸出では、中国とインドが急増し、2023年第1四半期には、ロシアの原油輸出の73.3%が中印向けとなった。

また、半導体輸入については、先進国からの輸入が減少したものの、中国からの輸入は減少しなかった。

さらに、ロシアの貿易相手国では、中国が圧倒的なシェアを占めており、2023年には、露中貿易が往復2200億ドルに達する見込みである。

この結果、ロシアは、中国への依存度を高め、中国のジュニアパートナー化まっしぐらと言える状況となった。

なお、ロシアは、貿易統計を非公開とした理由について、国際的な制裁によるダメージを避けるためと説明している。

しかし、ロシアが貿易統計を隠したことによって、かえって、ロシアの経済状況の悪化を世界に知らしめることとなった。

【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)!

まとめ
  • 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターは、旧ソ連・東欧地域の総合的・学際的研究を行う国内唯一の研究所である。
  • センターは、ロシアは中国のジュニア・パートナーになりつつあることを指摘。ウクライナ戦争でロシア最終的に敗北することになるだろう。
  • ロシアの敗北は、プーチン政権の存続にも影響を与える可能性がある。
  • ロシアの敗北は、中国の台頭をさらに加速させ、ユーラシア大陸の安全保障に大きな影響を及ぼすだろう。
  • 理想的な結末は、プーチンが失脚し、ロシアが西側諸国との関係を回復することである。


北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターは、旧ソ連・東欧地域の総合的・学際的研究を行う研究所です。国内唯一のセンターで、専任研究員11名、客員研究員20名、研究生20名が在籍しています。

研究テーマは、政治、経済、社会、文化、歴史など多岐にわたります。地域比較研究にも力を入れています。

研究成果は、学術論文や著書、報告書などの形で発表されており、国内外の学界で高い評価を受けています。政府や企業などの政策立案にも活用されており、旧ソ連・東欧地域の総合的な研究で国内外で高い評価を受けています。

私は、上の記事のロシアが中国のジュニア・パートナーになりつつあるという評価に賛成です。貿易統計がそれを裏付けています。ロシアが石油輸出を中国に依存していることは特に問題です。そのことについては、前から言う人もいましたが、今回それが数字で明確に確認されたといえます。

もし中国がロシアの石油の輸入を減らすことになれば、ロシア経済に壊滅的な打撃を与えるでしょう。そうして、現状ではそのようなことはないでしょうが、その可能性は完全に否定できません。そうしてこのような脅威があるからこそ、ロシアが中国のジュニア・パートナー化はますます避けられなくなるでしょう。半導体に関しても同じことがいえると思います。 ウクライナ戦争でロシアが勝つと信じている人は、欧米にはみられません。ほとんどの専門家は、ロシアはいずれ敗北すると考えていますが、それがいつになるかはわからないです。ただ、長期的には敗北するだろうと見る人が大勢を占めているように見えます。 日本では、ロシアのプロパガンダに影響されてロシアが勝つと信じている人もいるようですが、現実にはロシアは戦争に負けています。ロシアは多くの犠牲者を出し、経済はボロボロです。


米国、欧州、日本はウクライナに軍事・財政援助を行っています。この援助は、ウクライナが自国を守り、ロシア軍を押し返すのに役立っています。 ただロシアが核保有国であることを忘れるべきではありません。戦争が続けば核がエスカレートする危険性があるということです。しかし私は、ロシアが核兵器を使用するよりも、通常兵器で敗北する可能性の方が高いと考えます。 結論として、ロシアは中国のジュニア・パートナーになりつつあり、最終的にはウクライナでの戦争に敗北することになるでしょう。

そうして、ロシアの無謀なウクライナ侵攻が敗北に終われば、プーチン政権にどれほどのダメージを与えるかわからないです。モスクワの街頭での抗議行動から、明白な政権交代まで、何が起こるかわからないです。

ロシアはすでに侵略と人権侵害で西側諸国から孤立しています。そして中国は、世界的な影響力を拡大するために、ロシアの弱みにつけ込もうとしているようです。ウクライナで敗れたロシアが中国への依存を強めれば、中国がユーラシア大陸を支配し、海外における日米とその同盟国の利益を脅かすことになりかねないです。

これは保守派にとっては耐え難いことです。理想的な結末は、プーチンが失脚し、その後、西側諸国との関係を回復し、中国の手先になることを避ける新たな指導者が誕生することです。

自由で民主的なロシアが西側諸国の仲間入りをする。これは容易なことではないでしょうが、自由と民主主義はこれまでも長い困難を乗り越えてきました。さらに、中国経済はかつてないほど疲弊しています。強さと勇気と信念があれば、米国とその同盟国はロシアを共産主義中国の牙城から引き離すことができでしょう。

ウクライナ戦争の行方により、中国陣営と自由世界がロシアの引き抜き合戦を行い、その結果により世界秩序の再編が起こることなるでしょう。

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2023年10月25日水曜日

中国「一帯一路」の現状と今後 巨額な投融資の期待が縮小 債務返済で「あこぎな金融」の罠、世界の分断で見直しに拍車―【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」

高橋洋一

まとめ
  • 一帯一路は当初の期待に沿った成果を上げていない。
  • 先進国からの参加は減少しており、中国からの投資も低下傾向にある。
  • 中国経済の失速や米中対立の激化なども、一帯一路の進展を阻む要因となっている。
  • 中国は債務返済が困難になった国の救済に消極的であり、一帯一路の評判は低下している。

一帯一路の国際フォーラムで演説をする鳩山元首相

 中国は10年前に提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」の10周年を記念して国際フォーラムを開いた。中国はこれまでの実績を強調したが、出席者は先進国の代表団が減少し、グローバルサウスが中心だった。

 また、中国は「一帯一路内の貿易額が増加している」と主張するが、実際には投資額はピーク時の2015年以降減少している。さらに、中国経済の失速や米中対立、中露接近も一帯一路への関与を冷え込ませている。

 特に、中国経済の失速と米中対立は、一帯一路の今後にとって大きなマイナス要因となると考えられる。

 中国は債務返済が困難になった国への救済にも消極的であり、スリランカは中国の「あこぎな金融」の罠にはまった例とされている。日本はスリランカ債務問題について中国抜きで協議を開始しており、中国の思惑どおりに進んでいないことは明白だ。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事を御覧ください。

【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!

まとめ
  • 一帯一路構想は、開発経済学的に見て、無理がある。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、貧しい国々を豊かにするノウハウがない。
  • AIIBの融資金利が高い。
  • 中国は、国内の投資案件が減少したことで、海外への投資を拡大しようとした。
  • 中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付けるべき。

一帯一路構想は一見壮大なものだかその現実は・・・・

高橋洋一氏は、一帯一路構想が公表された直後、そのバスは「オンボロ」「高利貸」なのでやめた方がいいと語っていました。私も当時そう思いました。その理由は主に以下の二つの理由からでした。

まず第一に、開発経済学的に見て、無理があるというものでした。

開発経済学においては、自国より経済成長率が高い国に対する投資は、経済の拡大によって新たな需要が生まれるため、投資の機会が多く、利益率も高くなると考えられています。しかし、自国より経済成長率が低い国への投資は、利益率が低くなるというものです。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 経済成長率が高い国は、国内の需要が拡大するため、企業の売上や利益が増加する。
  • 経済成長率が高い国は、労働力や資源などの生産要素が不足するため、投資によって生産性の向上を図ることができる。
  • 経済成長率が高い国は、政治や社会の安定性が高く、投資リスクが低い。
もちろん、必ずしも自国より経済成長が高い国に投資すれば利益が上がるわけではありません。投資先の国やプロジェクトの選定は慎重に行う必要があります。

以下に、投資先の国やプロジェクトの選定において考慮すべき点をいくつか挙げます。
  • 経済成長率の見通し
  • 政治・社会の安定性
  • 法制度の整備状況
  • インフラの整備状況
  • 人材の質
  • リスクの大きさ
また、投資先の国やプロジェクトの選定にあたっては、専門家のアドバイスを参考にすることも重要です。しかし中国は過去に植民地経営をした経験はなく、海外に投資した経験も少ないですから、海外投資の専門家はいないと言っても良い状況でした。

中国政府は、一帯一路の推進にあたり、海外投資の専門家を育成するための取り組みを行ってきました。しかし、それらの取り組みが十分に成果を上げていないことも、一帯一路の失敗の一因と考えられます。

海外投資の専門家は、投資先の国やプロジェクトの選定において、経済成長率の見通し、政治・社会の安定性、法制度の整備状況、インフラの整備状況、人材の質、リスクの大きさなどの要素を総合的に判断する能力が必要です。また、投資先の国やプロジェクトの現地事情をよく理解し、リスクを回避するための対策を講じる能力も求められます。

中国が、一帯一路の成功を収めるためには、海外投資の専門家をさらに育成し、彼らの能力を最大限に活用することが重要なはずでした。

具体的には、以下の取り組みが必要でした。
  • 海外投資の専門家を育成するための教育・研修の充実
  • 海外投資の専門家が活躍できる環境の整備
  • 海外投資の専門家と政府や企業との連携の強化
これらの取り組みが十分になされていれば、中国は海外投資の経験とノウハウを蓄積し、一帯一路の成功につなげることができたかもしれませが、それを怠って失敗したのが中国です。

そもそも、一帯一路のほとんどのプロジェクトは、もし中国で海外投資の専門家が十分に養成されていれば、その専門家は実施すべきではないと判定していたでしょう。

年々参加者数が減る一帯一路国際フォーラム

第二には、中国は世界第二の経済大国といわれながらも、一人あたりのGDPは一万ドルを少し超えた程度であり、これは日本など世界の他の先進国や、韓国、台湾よりもかなり低いし、貧しいといわれる中東欧諸国のほんどの国よりも低いです。

そのような国が、貧しい国に投資して、プロジェクトを起こしたにしても、中国には元々貧しい国の人々を豊かにするノウハウはないので、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられたからです。

中国の一人あたりのGDPは、2023年時点で約12,500ドルです。これは、日本の一人あたりのGDP(約40,000ドル)の約3分の1、韓国の一人あたりのGDP(約35,000ドル)の約4分の1、台湾の一人あたりのGDP(約30,000ドル)の約4分の3に過ぎません。また、貧しいといわれる中東欧諸国の平均的な一人あたりのGDP(約15,000ドル)よりも低い水準です。

このような状況で、中国が貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、中国自身が貧しい国の人々を豊かにするノウハウを持っていないことから、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられます。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、自国内でも貧困や格差の問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのノウハウが十分に確立されていない可能性があります。
  • 中国は、政治体制が独裁制であり、民主主義体制の国とは価値観や考え方が大きく異なります。このような国が、民主主義体制の国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが現地のニーズに応えられない場合もあります。
  • 中国は、債務漬けの問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが債務の負担となり、現地の経済を悪化させる可能性があります。
もちろん、中国が一帯一路を通じて、貧しい国の人々の生活を改善する取り組みを行っていることは事実です。しかし、中国自身が抱える課題や、一帯一路に対する批判などから、一帯一路が今後も成功を収めることは難しいです。

以下に、中国の経済状況と一帯一路の課題に関する数字的な根拠をいくつか挙げます。
  • 中国の一人あたりのGDPは、2010年から2023年の間に約2倍に増加しました。しかし、依然として世界平均の約半分に過ぎません。
  • 中国の外貨準備は、2010年から2023年の間に約3倍に増加しました。しかし、債務の増加に伴い、対外負債の割合も拡大しています。
  • 一帯一路の参加国は、2013年から2023年の間に約70カ国から約140カ国に増加しました。しかし、そのうちの多くの国は、中国の債務の罠にはまっているとの指摘があります。
中国が、一帯一路を通じて世界経済に貢献し、貧しい国の人々の生活を改善するためには、まずは、自国の課題を克服し、一帯一路の取り組みを改善していくべきです。

この二つについては、中国自身もよく理解していたと思われます。

そうして、一帯一路を支えるAIIBにも最初から問題がありました。AIIBとは中国の主導によって設立された国際金融機関のことで、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank, AIIB)と呼ばれる、アジア向けの国際開発金融機関です。

複数の国によって設立され、アジアの開発を目的として融資や専門的な助言を行う機関の一種で、米国主導のIMF(国際通貨基金)や、日米主導のADB(アジア開発銀行)のような機関です。これは一帯一路のプロジェクトを推進することも目的に創設されたものです。

プロジェクトの種類や融資額などによって異なりますが、一般的には、ADBの融資金利よりも0.5~1%程度高いと言われています。例えば、AIIBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)に上乗せした5.5~6.5%程度となっています。一方、ADBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBORに上乗せした4.5~5.5%程度となっています。


AIIBの融資金利が高い理由は、AIIBの資金調達コストを賄うためです。AIIBは、中国が主導して設立された機関ですが、出資国は中国以外の国も多く、その出資比率は中国が30%程度に過ぎません。しかも、致命的なのは、日米が参加していません。そのため、AIIBは、国際市場からの資金調達に依存しており、その資金調達コストを賄うために、融資金利を高く設定せざるを得ないのです。

それでも、中国が強引に一帯一路をすすめたのは、中国は、2000年代以降、急速な経済成長を遂げ、国内の投資案件が減少してきましたため、中国政府は、海外への投資を拡大することで、経済成長を維持しようとからだと考えられます。

一帯一路構想は、中国の海外への投資を促進するためのものであり、中国政府は、この構想を通じて、海外のインフラ整備や資源開発に投資し、中国企業の海外進出を支援してきました。

中国は、一帯一路構想を通じて、貧しい国々の経済発展にも貢献しようと考えていました。しかし、その一方で、中国の経済的利益を追求することも、一帯一路構想の重要な目的であったことは否定できません。

中国は、一帯一路構想を通じて、海外への投資を拡大し、経済成長を維持しようとしていますが、その取り組みは、必ずしも成功しているとは言えません。

先進国からの参加が減少し、中国からの投資も低下傾向にあることに加え、債務問題や環境問題など、一帯一路構想に対する批判も高まっています。

中国が、一帯一路構想を通じて、経済成長を維持し、政治的・経済的影響力を拡大するためには、これらの課題を克服していく必要があります。

以上、長くなってしまいましたが、これが現時点での、最新の一帯一路のまとめです。

中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付ける必要があります。その上で、個人消費を高める政策をとるべきですが、そのためには、経済的中間層を増やし、これらが自由に経済活動ができる体制を整えるべきです。

そのためには、民主化、経済と政治の分離、法治国家化は避けて通れません。

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2023年7月25日火曜日

釜山に寄港した米戦略原子力潜水艦のもう一つの目的は「中国抑止」―【私の論評】核を巡る北朝鮮やウクライナの現実をみれば、日本には最早空虚な安保論議をする余地はない(゚д゚)!

釜山に寄港した米戦略原子力潜水艦のもう一つの目的は「中国抑止」

マイケル・マッコール米下院外交委員長

 マイケル・マッコール米下院外交委員長は、米国の戦略原子力潜水艦が釜山(プサン)に寄港したのは、北朝鮮だけでなく中国を抑止する狙いもあると述べた。

 マッコール委員長は、米国がなぜ今韓国に戦略原子力潜水艦を展開したと考えるかという質問に「攻撃を抑止するために今必要な戦力投射だ」としたうえで、「我々は日本海(東海)にロケットを発射する北朝鮮だけでなく、中国の攻撃性も注視している」と答えた。また、中国が台湾を訪問した自分をはじめとする米国議員たちを威嚇するため、艦艇と戦闘機で台湾を包囲した事例が中国の攻撃的な態度を示していると述べた。

 マッコール委員長はさらに「北朝鮮は我々がそこにいて、原子力潜水艦を持つ我々の方が優位に立っていることを認識すべきだ」とし、「我々は北朝鮮と習(近平)主席に、軍事的に攻撃的な行動には代償が伴うことを信じさせなければならない」と語った。米議会の代表的な対中タカ派のマッコール委員長のこのような発言は、核ミサイルを装着した戦略原子力潜水艦の韓国への寄港が、北朝鮮だけでなく中国をけん制する意図と効果を持っていることを示したものといえる。

 マッコール委員長はこのような脈絡で、朝鮮半島に配備あるいは展開される米軍の戦力の役割は、中国の台湾侵攻の可能性と関連し北朝鮮を抑止するためだと説明した。また「そこ(韓国)に(米軍)太平洋司令部艦隊がいるのは、(中国と)台湾の衝突発生時に北朝鮮を阻止するため」だとし、「そのような衝突時に北朝鮮がミサイルを発射すること」を韓国とともに抑止しなければならないと述べた。台湾有事(戦争)と朝鮮半島有事は事実上連動しているため、韓米がともにこれを抑止しなければならないという見解だ。マッコール委員長は、北朝鮮は米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有しているが、ここに装着できる核弾頭はまだ保有していないと説明した。

 一方、戦略原子力潜水艦が釜山に寄港し、韓米初の核協議グループ(NCG)会議が開かれた18日、板門店(パンムンジョム)の軍事境界線を越えて越北した在韓米軍のトラビス・キング二等兵については、亡命したというよりは「自らの問題から逃げた」と語った。また「ロシア、中国、イランは米国人を抑留した際、特に軍人を抑留した際、(送還の)見返りを求めてきた。私はそれを懸念している」と述べた。

この記事は、元記事の引用です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】核を巡る北朝鮮やウクライナの現実をみれば、日本には最早空虚な安保論議をする余地はない(゚д゚)!

上の記事で、「マイケル・マッコール米下院外交委員長は、米国の戦略原子力潜水艦が釜山(プサン)に寄港したのは、北朝鮮だけでなく中国を抑止する狙いもあると述べた」とされていますが、これと同じような主張は従来からこのブログでも何度かしてきました


しかし、このような発言は、私の知る限りでは、今回のマッコール米下院外交委員長が初めてではないかと思います。

ただ、軍事的にはこれは当然のことであり、韓国に原潜などの戦略資産を配置することは、当然のことながら北朝鮮だけではなく中国を意識したものでもあり、中国に対する牽制という意味あいもあります。多くの軍事筋の専門家は当然このようにみてきましたが、今回改めてそれが公に示された形となりました。

朝鮮半島というと、もう一つ、一般に知られていないというか認識されていないこともあります。それは、北朝鮮とその存在が、結果として朝鮮半島に中国が浸透するのを防いできたということです。これは、米国の戦略家ルトワックも主張しています。

エドワード・ラトワックは、地政学や国際関係について幅広い著作を持つ著名なアメリカの軍事戦略家です。ルトワック氏は北朝鮮について、その核兵器開発が中国の朝鮮半島支配を抑止していると主張しています。

中国が北朝鮮の経済と政府を支配しているようにみえながら、現実には北朝鮮の核兵器は中国が北朝鮮を完全に吸収することを妨げているのです。

エドワード・ルトワック氏

ルトワックは以下のように語っています。

「北朝鮮の核兵器は、どんな条約よりも確実に北朝鮮の主権を保証している。 金正恩の核瀬戸際外交は、あらゆる方向からの金正恩の支配に対する脅威を抑止している。 北朝鮮の通常兵力は中国にとって深刻な挑戦にはならないが、その核兵器は、中国がそうでなければかけうる圧力から北朝鮮を守っている」。

言い換えれば、もし北朝鮮に核兵器がなければ、中国は北朝鮮を意のままに操り、事実上、中国の衛星国家として、はるかに大きな影響力を持つことになります。しかし、金正恩は中国を攻撃できる核兵器を持っているため、習近平は慎重に行動しているのです。

中国は、金正恩を過度に追い詰めることによる不安定化と、それによる中国の犠牲を恐れています。だから、現状を維持するために金正恩体制を支え続けているのです。これはなかなか理解しにくいかもしれませんが、ルトワックによれば、北朝鮮の核による抵抗は、中国が朝鮮半島全体を支配することを実際に妨げているのです。

中国と交流する北朝鮮人民 AI生成画像

北朝鮮の核兵器は、中国が北朝鮮を慎重に扱うべき独立した存在として扱いつつも、関与しつづけるというアプローチを取らざるを得なくしたのです。つまり、金正恩の核兵器は、他の面で中国に深く依存しながらも、この意味で北朝鮮の自主性を強化したのです。

核瀬戸際政策による抑止力が、北朝鮮の主権を存続させているのです。これは挑発的な議論でありますが、北朝鮮と中国、そして核兵器の影響力の間の地政学的力学に対する戦略的論理と洞察に満ちたものです。

ルトワックは、米国が半島の非核化を目指しているとしても、国家間の複雑な関係がいかに意図しない結果を招きかねないかを浮き彫りにしています。

北朝鮮とその核が結果的に、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいることを考えると、ウクライナがソ連崩壊後にも核兵器を保持していれば、現在のような苦境に陥らなかった可能性が高かったかもしれません。

北朝鮮と同じように、核兵器はロシアのウクライナに対する侵略を抑止できたかもしれないです。ウクライナが1991年にソ連の核兵器を継承した当時、ウクライナは世界第3位の核兵器保有国でした。しかし、ウクライナは1994年のブダペスト覚書で、ロシア、アメリカ、イギリスからの安全保障の保証と引き換えに、これらの核兵器を放棄しました。

これは致命的な誤りでした。もしウクライナが核兵器を保持していれば、ロシアが2014年にクリミアを併合したり、ウクライナ東部の親ロシア派分離主義者を支援したりすることはなかったでしょう。

ロシアがウクライナに侵攻すれば、北朝鮮と同じ抑止力である核報復を受けることになります。核保有国が侵略されることはほとんどありません。しかし、ウクライナは北朝鮮とはいくつかの重要な違いがあります。

ウクライナは西側諸国との緊密な関係を求めており、核兵器を放棄するのは信頼を築くためだでした。核兵器を保持することは、ウクライナを孤立させることになりかねませんでした。また、ウクライナがソ連の核を適切に確保し、維持できたという保証もありませんでした。

ロシアはソ連の後継国として、武力で核を奪おうとしたかもしれないです。それでも、ウクライナが核武装すれば、東欧の戦略的景観とロシアの計算が決定的に変わっていたでしょう。キエフが核兵器で対応できるのであれば、プーチンが直接対決を選ぶとは思えません。

そのため、厄介な複雑さが生じたかもしれないですが、核抑止力理論によれば、ウクライナがそのような兵器を保有していれば、ロシアはそう簡単にウクライナの主権を侵すことはないでしょう。

この教訓は、核拡散は時として、強力な敵対勢力を抑止することで安全保障を強化する可能性があるということです。これはすぐには理解し難いことではありますが、「安全のための核兵器」という論理は明らかに北朝鮮にも当てはまるし、ウクライナの場合にも当てはまるでしょう。

現在の状況を考えると1994年のウクライナの決断は重大な過ちであり、ロシアの侵攻の余地を残してしまったようです。このような複雑な地政学的問題には、意図せざる結果の法則が立ちはだかります。もしウクライナが核兵器を放棄せずに保持していたら、おそらくロシアはクリミアやウクライナ東部に干渉することはなかったかもしれません。

北朝鮮と同じように、核兵器がウクライナを守っていたかもしれないです。ただ、結局のところ、どのような展開になったかを確実に知る方法はないです。

しかし、これについて我々が参考にすることはできます。核武装国ロシアが非核武装国ウクライナを侵略しても米国はロシアとの戦争に参加しませんでした。ブダペスト協定があるにも拘らずバイデン大統領はエスカレートして米露の核戦争になっては困るからだと言い訳をしました。これは、核武装国中国が非核武装国日本を侵略しても米国は戦闘に参加しない可能性があることを明らかにしたと思います。

これは日本の非核政策に疑問を投げかけるものです。日本が核抑止力を持つことは、自国の核兵器によってであれ、米国との核シェアリング協定に参加することによってであれ、大きな利益をもたらすと考えられます。

中国が北朝鮮からの核報復を恐れているように、日本が核兵器を持てば、中国は武力で日本の領土を奪おうとはしないでしょう。議論の余地はありますが、核兵器は、核武装した敵対国に直面したときに、究極の国家安全保障を提供するものでもあります。

日本には、その気になれば核兵器を迅速に開発できる技術的能力があります。インフラと濃縮ウランが整備され、安全保障環境が悪化した場合にのみ核兵器が組み立てられる「閾(しきい)値能力」を主張する人もいます。

しかし、核兵器開発の検討でさえ、中国を刺激し、関係を悪化させる可能性もうあります。安倍元総理の主張した米国との核シェアリングという選択肢は、良い妥協案かもしれないです。米国は、共同管理の下で日本国内に核兵器を配備し、日本へのいかなる攻撃にも同盟国が核で対抗することを明確にすることができます。

安倍元総理

これは、抑止力を維持しつつ、日本の単独行動に対する懸念に対処するものであります。日本の核武装への動きは、日本の平和主義憲法や世界的な核不拡散の努力を傷つけるという批判がもあります。

また、日本が独自の核兵器を保有すれば、エスカレーションの危険性もあります。しかし、日本の安全保障は高邁な理想以上の現実であり、中国の野望を抑止できなければ、存亡に関わる結果を招きかねないものです。

日本は自国の防衛を確保するために、核シェアリング、または独立した核抑止力を含むあらゆる選択肢を模索することが賢明です。空虚な保証に基づいた政策は、国家の自殺行為となる危険があります。もし中国が、侵略される同盟国をジョー・バイデンが助けないと見れば、日本の核兵器だけが最終的に中国の核兵器からの安全を保証するかもしれないです。

核拡散が進む世界は望ましくないですが、耐え難い脅威に直面したときには必要なこともあります。日本の指導者たちは、他国の征服から国を守るという第一の義務を考えなければならないです。

二大政党制のせいで、日本支援に関しても一枚岩とはいえない、日本にとっては気まぐれとも見える米国の支援に頼るのは、あまりにも危険であるといえます。賛否両論はありますが、核シェアリングや日本独自の核兵器開発は、日本にとって最も安全な選択肢かもしれないです。日本にはもはや北朝鮮やウクライナの現実をみてもなお、空虚な安保論をする余地はないと思います。

私は、もし安倍元総理がご存命であれば、上で述べたのと同じような論議をして、核シェアリングを重要性をさらに説いていたと思います。

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2023年4月30日日曜日

動き出したスリランカ支援―【私の論評】スリランカの破綻の直接の原因は実はエネルギー問題、日本は途上国と先進国の両方を満足させる技術を持っている(゚д゚)!

動き出したスリランカ支援

深刻な経済的苦境にあるスリランカの新大統領にラニル・ウィクラマシンハ氏が選出され抗議する人々(2022年7月20日)

【まとめ】

IMF、スリランカに対する4年間で30億ドル相当の金融支援を行うことで合意。

G20中央銀行総裁会議、日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足。

・中国は債権国会議の対応を見ながら、自らの力をより大きく見せる方途を探っている。

 
経済危機に直面するスリランカに対する支援を巡り、動きが活発化してきている。

スリランカは人口の70%が仏教徒主体のシンハリ人で、タミル人との紛争が終結した2009年以降も国内で政争が絶えなかった。

2019年の爆破テロ事件、同年のゴダバヤ・ラージャーパクサ大統領による減税や新型コロナ感染拡大での主力産業の観光の落ち込みなどで外貨準備が輸入額の1か月分にも満たない額にまで減少

2022年3月以降、大統領の退陣を求めるデモが起きた。同国財務省は同年4月12日、国際通貨基金(IMF)の経済調整プログラムに沿った債務再編が行われるまで債務支払いを停止するとデフォルト宣言をした。

このため、5月にはマヒンダ・ラージャーパクサ首相が辞任に追い込まれ、その後の大規模デモ・騒動でゴタバヤ・ラージャ―パクサ大統領は国外脱出後に辞任するという事態に陥った。マヒンダが兄でゴダバヤが弟だ。その後、ウィクラマシンハ首相が新大統領に選出され、今日に至っている。

IMFは同年9月の事務レベル会合で、スリランカに対する4年間で30億ドル(約3,950億円)相当の金融支援を行う拡大信用供与措置(Extended Fund Facility=EFF)を採ることで合意。今年3月20日の理事会でEFFを承認した。

EFFは国際収支の改善を通じ、マクロ経済の安定化、債務の持続性、貧困者や弱者に対する影響の軽減を狙ったもの。同承認を受け、IMFはスリランカにまず3億3,300万ドルの支援を行うこととなった。

◾️日本の主導で債権国会議が発足

日本は、1951年の二次大戦後のサンフランシスコ講和会議で、スリランカのジャヤワルデナ蔵相(当時)が「憎悪は憎悪によって止むことなく、愛によって止む」という仏陀の言葉を引用して演説したことに感銘。大統領になったジャヤワルデナを1979年9月、国賓として日本に迎えた。日本からは1990年に海部俊樹首相(当時)がスリランカを訪問、2014年9月には安倍晋三首相(当時)が、日本の首相として24年ぶりに同国を訪れている。老練政治家のウィクラマシンハ大統領は、そうした流れの中で日本政府関係者の受けが良い。

今年の4月13日には米ワシントンで、G20 ・中央銀行総裁会議が開かれた。途上国で問題化する債務問題などで共同声明は出せなかったが、日本の主導でスリランカの債務返済繰り延べに向けた債権国会議を発足させた。鈴木俊一財務相兼金融担当相、インドのシータラーマン財務相、フランスのムーラン経済・財政省国庫総局長、スリランカのウィクラマシンハ大統領兼財務相(オンライン参加)およびセーマシンハ財務担当国務相、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエヴァ専務理事、岡村健司副専務理事が記者会見し、同会議の発足を表明した。

鈴木財務相はその席で「広範な債権国間の協調体制が生まれることは歴史的快挙」と述べた。G20 は2020年に低所得国の債務問題を扱う共通の枠組みをつくり、スリランカのような中所得国扱いに対する債務返済危機に対しては債権国で構成するパリクラブが当たっていた。今回のスリランカに対する債権国会議にパリクラブのメンバーでないインドも入っている。鈴木財務相は、国としてスリランカに最大の債権を有する中国が同会議に出席するかどうかについて言及しなかった。

◾️「債務のわな」を仕掛けた中国の出方がカギ

スリランカは中国の一大経済圏構想「一帯一路」の下で、「債務のわな」に陥ったとの見方が一般的だ。中国はそうした見方に反発している。しかし、スリランカは南部の主要港であり、ラージャーパクサ兄弟の地元であるハンバントタ港の建設資金約14億ドルに関し、中国からの負債と同港の99年間の運営権をスワップ(交換)している。その合意では、中国の軍関係者の関与を禁じるとなっているようだが、中国がミャンマー、パキスタンに続き、スリランカにインド洋進出の拠点を手中にしたと見る向きは根強い

スリランカの対外債務額は資料によって異なるが、IMFの今年3月段階の同国レポートによると、2022年の官民の対外債務総額は暫定値で587億ドル、2023年の予測値は562億ドルとなっている。外国法に準拠した2022年の公的対外債務額は約415億ドル弱。うち、IMF、世界銀行、アジア開発銀行など多国籍機関が115億ドル弱。個別国の総額は114億ドル強で、日本などパリクラブ所属国が48億ドル弱、非パリクラブ国の中国が45億ドル弱、同じく非パリクラブ国のインドが18億ドル強。中国の国家開発銀行などによる貸し付けが29億ドルなどとなっている。

IMFはスリランカの今年の実質GDP成長率をマイナス3.0%と見込んでいる。

スリランカの貿易相手国で、輸入で最大なのは中国でシェアは21%、2位はインドで22.4%、産油国のアラブ首長国連邦(UAE)が3位で6.8%。輸出は、米国が24.8%、英国が7.5%、インドが6.6%の順。

ロイター電は3月初旬、中国輸出入銀行がスリランカに送付した書簡の中で2022年と2023年が支払期限の債務について支払い猶予を数か月内に実施などと繰り返し強調、と報じている。

中国は債権国会議の対応を見ながら、自らの力をより大きく見せる方途を探っているように見える。(敬称略)

【私の論評】スリランカの破綻の直接の原因は実はエネルギー問題、日本は途上国と先進国の両方を満足させる技術を持っている(゚д゚)!

上の記事では、スリランカがなぜデフォルトしたのかについては、述べていません。特にデフォルトの直接にきっかけについては述べていません。これについては、以前このブログに述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
破産宣言のスリランカ 債務再編主導を日本に依頼へ―【私の論評】スリランカは、日本に開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させ、その開発・利用への支援を再開して欲しいと願っている(゚д゚)!
この記事より一部を引用します。
"
スリランカの経済が破綻し大規模デモがおきて政権が転覆したのは、数々の失政が重なった結果ですが、とどめの一撃となったのは燃料費の高騰でガソリンが輸入できなくなったことでした。

スリランカの最大都市コロンボで最近みられる、ガソリンスタンドでたくさんの車やバイクが行列ぎょうれつをつくる光景

いまの開発途上国でのエネルギー危機は、単にウクライナの戦争のせいではありません。近年になって、欧米の圧力によって化石燃料事業への投資が停滞していたことが積み重なって、今日の破滅的な状態を招いているのです。

インド人の研究者である米国ブレークスルー研究所のビジャヤ・ラマチャンドランは科学雑誌Natureに書いています。
「近代的なインフラを最も必要とし、世界の気候変動問題への責任が最も軽い国々に制限を課すことは、気候変動の不公正の極みである」。
ラマチャンドランは、国際援助において、気候変動緩和をすべての融資の中心に据えるという近年の方針について、偽善であり、二枚舌だとして、猛烈に抗議しています。
「それは、経済開発に使える資源を必然的に減らすことになり、しかも地球環境にはほとんど貢献しない。・・なぜそのような努力をするのか。世界銀行とIMFの主要株主である富裕国は、これまでのところ、エビデンスや合理的なトレードオフに基づく気候変動政策の策定にはほとんど関心を示していない。 
それどころか、天然ガスを含む化石燃料への融資を制限し、自国では思いもよらないような制限を世界の最貧国に対して課すことを、自画自賛しているのである。その規制の中には、化石燃料への開発金融をほぼ全面的に禁止することも含まれている。 
世界銀行は、気候変動緩和政策と貧困削減の間の急激なトレードオフを最もよく理解しているはずである。しかし、国内の環境保護団体を喜ばせたい資金提供者が課した条件には従うしかなかったようだ。・・欧州連合は、自分たちはクリーンエネルギーの原子力発電所を停止し、天然ガスの輸出入を増やし、国内の石炭発電所を新たに稼働させる一方で、開発金融機関に対しては、貧困国でのすべての化石燃料プロジェクトを直ちに排除するよう主張している。」
「さらに悪いことに、EUの官僚たちは現在、『何がクリーンエネルギーか』をめぐって一進一退の攻防を繰り広げている。燃料不足に直面する加盟国から、原子力や天然ガスまで定義(タクソノミー)を拡大するよう圧力がかかっている。その一方でEUの広報担当者は、“EUの柔軟な分類法は、開発政策に反映されることはない”と明言した。つまり天然ガスはヨーロッパ人にとってはグリーンだが、アジアやアフリカの人々にとっては事実上禁止されるということだ。」
何十億人の人々が、先進国のエリートたちによって、化石燃料のない、貧困に満ちた未来へと組織的に強制されているのです。気候危機説を信奉する指導者たちが、開発途上国の化石燃料使用を抑圧しているからです。哲学者のオルフェミ・O・タイウォは、この現象を「気候植民地主義」と呼んでいます。
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「気候植民地主義」という言葉は、さまざまな学者や活動家によってさまざまな文脈で使われてきましたが、一般的にはインドの環境学者・物理学者であるヴァンダナ・シヴァの言葉だとされています。シヴァは、環境主義、社会正義、グローバリゼーションの交わるところについて幅広く執筆し、気候変動の緩和と適応の努力による費用と利益の不平等な分配は、新しい形の植民地主義を構成すると主張している。

ヴァンダナ・シバ

「気候植民地主義」とは、歴史的に温室効果ガスの最大排出国である先進国が、その富と権力を使って気候変動対策の条件を決定し、途上国に解決策を押し付け、しばしば地域社会や生態系を損なっているという考え方です。

これは、たとえば、ダムや再生可能エネルギー設備のような大規模なインフラプロジェクトが、しばしば地元の人々を追い出したりや生態系を傷つけたりすることにより、コミュニティ主導のアプローチや社会正義よりも市場ベースのメカニズムや技術的解決を優先する政策や協定をとることもあるとの主張です。

日本では、最近では無秩序な太陽光パネルの設置が問題になっています。

無秩序で危険極まりない太陽光バネルの設置(和歌山県)

CO2素排出削減目標や再生可能エネルギーの義務付けを行うことも、独善的と受け取られかねません。このようなアプローチは、途上国が経済成長と社会発展を支えるために、安価で信頼できるエネルギー源へのアクセスを必要とすることが多いという事実を無視しかねません。

 先進国は、エネルギー問題に関連する国際援助や開発資金に条件を付け、自国のエネルギーの優先順位を途上国に押し付けることがあります。これは、各国の多様なエネルギーニーズと優先順位を認識しない独善的なものと言わざるを得ないです。

例えば、エネルギープロジェクトに対する資金援助を、現地の状況における技術の適合性や実現可能性を考慮することなく、特定の技術やエネルギー源に結びつけることは、画一的なアプローチの押し付けと受け取られかねないです。

先進国は、再生可能エネルギー技術などのクリーンエネルギー技術の途上国への移転を制限することもあります。これは、途上国がよりクリーンなエネルギー源への移行や気候変動の緩和に役立つ技術にアクセスすることを妨げるものであり、独善的と受け取られかねません。

技術移転の制限は、先進国による知的財産保護主義や技術進歩の囲い込みの一形態と見なすことができ、途上国が持続的にエネルギー需要に対処するための進歩を妨げる可能性があります。

先進国は、南半球のエネルギー資源や管理に関する先住民や地域の知識を軽視したり、過小評価したりすることがあります。

これは、何世代にもわたって天然資源とともに持続可能な生活を送ってきた地域社会の伝統的な知恵や慣習を無視するものであり、独善的と受け取られかねません。先住民や地域の知識を無視することは、地域コミュニティの疎外や移動につながり、先進国と途上国の間の力の不均衡を永続させる可能性があります。

世界のエネルギー問題に取り組むには、開発状況にかかわらず、すべての国の協力的な努力と相互尊重が必要であることを認識することが重要です。すべての国が持つ固有のエネルギーニーズ、状況、視点を考慮した包括的かつ公平なアプローチは、世界のエネルギー問題に対する有意義で持続可能な解決策を促進するのに役立ちます。

気候植民地主義の支持者は、このアプローチは植民地主義を特徴づける搾取と支配のパターンを再現し、途上国や先住民の主体性と主権を損なうと主張しています。気候変動の影響を最も受ける人々の声やニーズを重視し、気候危機の原因となった歴史的・継続的な不公正を認識した上で、より民主的で公平な気候変動対策へのアプローチを求めています。

私は、「環境植民地主義者」の主張に関して、これをすべて支持するものではありませんが、それにしても、これを無視することは、先進国の傲慢であると思います。

日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足したことは喜ばしいことです。今年日本はG7議長国となります。開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えるべきです。

もしこれに失敗すれば、開発途上国は本当に欲しいものを供給し支援してくれる国々を頼るようになるかもしれません。それはロシアであり、中国かもしれません。あるいは、原子力発電の実績のある北朝鮮かもしれません。北朝鮮は、原子力発電所の輸出ととも、核兵器を輸出するかもしれません。

開発途上国は先進国が呼びかけた対ロシア経済制裁に殆ど参加しませんでした。つまりいつまでも先進国の言いなりにはならないということです。

そうした中での、日本主導でスリランカの債務返済繰り延べに向け債権国会議を発足です。これを機会に、日本は開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えるべきです。

そうして、それができる裏付けが日本にはあります。日本の化石燃料を用いた発電など、かなり技術が進んでいます。たとえば、横浜市にある磯子石炭火力発電所は、「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、大気汚染物質の排出を大幅に削減しています。2002年のリプレース(建て替え)前に比べると、窒素酸化物(NOx)は92%、硫黄酸化物(Sox)は83%、粒子状物質(PM)は90%減っています。

さらに日本には、火力発電所で発生するCO2を分離、回収して貯留することでCO2を削減するCSSという技術も開発しています。

世界には、石炭をエネルギー源のひとつとして選択せざるを得ない国が存在しています。その理由は、安定した供給を行うことができるという「エネルギー安全保障」、そして「経済性」にあります。

国際エネルギー機関(IEA)の分析では、インド、東南アジア諸国を中心とした新興国では、経済発展とともに、今後も石炭火力発電のニーズが拡大する見通しとなっています。新興国にとって、安く、安定的に採れる石炭は、引き続き、重要なエネルギーなのです。

日本は、エネルギー面での、グローバル・サウス(発展途上国)と、先進国の両方満足させる技術やノウハウを提供できます。これを活用しない手はありません。これによりグローパルサウスがエネルギーで中露に取り込まれるのを避けるべきです。日本は、この面で先進国と途上国の両方の架け橋になるべきです。戦後一度も、紛争等に直接介入したり、覇権を行使してこなかった日本こそが、その役を担うことができると思います。

先進国の理想を実現しようとし、グローバル・サウスのほとんどが、中露に取り込まれるようなことだけは避けるべきです。


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