【速報】「実質賃金」25か月連続の減少で過去最長 今年4月は前年同月比0.7%減
まとめ
- 日本の働く人々の「実質賃金」が25か月連続で減少し、1991年以来の最長記録を更新。物価高騰の中、生活苦は深刻化の一途を辿るのでしょうか。
- 名目賃金は28か月連続で上昇も、物価上昇に追いつかず。春闘での高水準な賃上げは、この窮地を救う転機となるのでしょうか。
- 実質賃金の下げ幅に改善の兆し。厚労省は「プラス転換」の可能性に言及。果たして、この希望の光は、暗闇を照らすのに十分なのでしょうか。
四半期別実質賃金指数(概算)の推移
年 | 四半期 | 実質賃金指数(前年同月比) |
2020年 | 1-3月 | -0.80% |
| 4-6月 | -1.40% |
| 7-9月 | -0.90% |
| 10-12月 | -1.90% |
2021年 | 1-3月 | 0.20% |
| 4-6月 | -0.40% |
| 7-9月 | -0.20% |
| 10-12月 | -1.20% |
2022年 | 1-3月 | -2.30% |
| 4-6月 | -3.50% |
| 7-9月 | -3.00% |
| 10-12月 | -4.20% |
2023年 | 1-3月 | -2.50% |
| 4-6月 | -2.20% |
| 7-9月 | -1.90% |
| 10-12月 | -1.80% |
2024年 | 1-3月 | -1.80% |
| 4-6月 | -0.70% |
物価の変動を反映した働く人1人当たりの「実質賃金」が過去最長の25か月連続で減少したことが分かりました。
厚生労働省によりますと、基本給や残業代、ボーナスなどを合わせた働く人1人あたりの今年4月の現金給与の総額は29万6884円でした。前の年の同じ月から2.1パーセント増え、28か月連続の上昇となりました。
一方、物価の変動を反映した「実質賃金」は、前の年の同じ月と比べて0.7パーセント減り、25か月連続の減少となりました。統計が比較できる1991年以降、最も長い期間連続で減少していて、依然として物価の上昇に賃金が追い付いていない状況が続いています。
ただ、実質賃金の下げ幅は、前の月と比べて1.4ポイント改善しています。
厚労省はその理由について、「今年の春闘で高い水準で賃上げの動きが広がった影響などが考えられる」としたうえで、「実質賃金が今後いつプラスに転じるか注視したい」としています。
【私の論評】実質賃金25か月連続下落の真相、同じく低下した安倍政権初期との違いと対策
まとめ
- 実質賃金が25か月連続で低下し、1991年以降で最長の記録を更新。4月は前年同月比0.7%減で、国民の生活を圧迫。
- 名目賃金は2.1%増と28か月連続で上昇しているが、5%を超えるインフレ率に追いつかず、購買力が低下。
- 安倍政権初期(2013-2015年)も実質賃金が低下したが、その背景は異なる。デフレ脱却への過程であり、雇用の大幅な改善を伴っていた。
- 岸田政権下のインフレは、ウクライナ戦争や中国のロックダウンなどによる供給ショックが主因。円安も輸入物価を押し上げ、問題を悪化。
- 解決には即効性のある対策が必要。消費税を10%から0%に引き下げ、物価低下と消費拡大を図るなど、大胆な政策を実施すべきである。
実質賃金の低下というと、安倍政権の初期にもいわれていました。マスコミや野党など一斉に「実質賃金がー」と叫んでいました。立憲民主党などは、実質賃金は民主党政権時代のほうがよかった、アベノミックスは間違いだと喧伝しまくっていました。
さて、岸田政権と安倍政権初期の実質賃金の低下は、確かに数値上は似た現象に見えますが、その経済的な背景と影響は大きく異なります。これを以下に説明します。
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安倍政権初期には、実質賃金が低下 |
安倍政権初期(2013-2015年頃)の実質賃金低下には、以下の要因が複合的に影響しています。
1. リフレ政策による一時的な物価上昇: 異次元の金融緩和により円安が進行し、輸入物価が上昇。これにより一時的にCPI(消費者物価指数)が上昇し、実質賃金が低下したように見えました。しかし、これはデフレ脱却への過程であり、名目賃金は実際に上昇していました。
2. 雇用構造の劇的な改善と変化:最も重要な点は、安倍政権の政策により雇用が劇的に改善したことです。失業率は2012年の4.3%から2015年には3.4%へと大幅に低下しました。しかし、マクロ経済学の基本原理として、雇用回復の初期段階では、まず非正規雇用と若年層の雇用が増加することが知られています。
実際、この時期の雇用者数の増加を見ると、非正規雇用が大きく伸びています。厚労省の統計によれば、2013年から2015年にかけて、非正規雇用者数は約100万人増加しました。同時に、若年層(15-24歳)の失業率も、2012年の8.0%から2015年の5.6%へと大きく改善しています。
しかし、これが実質賃金を押し下げることになりました。非正規雇用と若年層の賃金水準は、正規雇用や中高年層に比べて低いのが一般的です。つまり、雇用者数全体に占める「低賃金層」の割合が一時的に高まり、結果として平均的な実質賃金が下がるのです。これは、失業状態から低賃金であっても雇用された状態への移行を反映しています。
3. 消費増税の影響:
2014年4月の消費税増税(5%から8%へ)も、物価上昇に寄与し、実質賃金を押し下げました。
4. 経済の好循環への移行:
株価の上昇、企業業績の改善、設備投資の増加など、経済の好循環が始まっていました。こうした中で、企業は利益を蓄積し、後の賃金上昇や正規雇用化の原資を形成しました。
この雇用構造の変化は、実質賃金の統計を一時的に押し下げますが、経済学的には極めてポジティブな現象です。失業状態の人々が、たとえ低賃金であっても職を得ることで、労働市場に再参入し、スキルを磨き、将来のより良い雇用への足がかりを得るのです。
実際、この「痛みを伴う構造改革」の成果は、その後の統計に現れています。2016年以降、想定通りに実質賃金は回復傾向に転じ、2018年から2019年にかけては明確に上昇しました。さらに、2017年以降は非正規雇用者の正規雇用化も進み、より安定した高賃金の雇用へのシフトが見られました。
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安倍首相 |
これに対し、岸田政権下の実質賃金低下は全く性質が異なります。「供給ショックによるコストプッシュ・インフレ」(Cost-Push Inflation Driven by Supply Shocks)主因であり、雇用の質的向上を伴っていません。賃金上昇が物価上昇に追いつかず、円安も重なって、国民の購買力が実質的に低下しているのです。
つまり、安倍政権初期の実質賃金低下は、雇用の劇的な改善とその構造変化を反映した「前向きな痛み」でした。一方、岸田政権下の低下は、生活水準の実質的な悪化を示す「後ろ向きな痛み」なのです。この違いを理解せずに、単に「実質賃金が下がった」と報じるのは、まさに小鳥脳のマスコミや、マクロ経済の本質を理解していない官僚の姿勢そのものです。
結論として、安倍政権初期の実質賃金低下はデフレ脱却への過程であり、経済の好循環を伴っていました。一方、岸田政権下の実質賃金低下は、供給ショックによるインフレの結果であり、経済の停滞を伴っています。両者は数値上は似ていても、その経済的な意味合いは全く異なるのです。岸田政権は、単なる金融緩和ではなく、供給側の改革や生産性向上策など、より包括的な経済政策が必要とされています。