2019年3月11日月曜日

「国民を見捨てない」陛下の覚悟さえも貶めた裏切り者の日本人―【私の論評】天皇大権を蔑ろにする「元号の事前公表」黒幕 は誰か?

「国民を見捨てない」陛下の覚悟さえも貶めた裏切り者の日本人
倉山満

 今年元旦から、皇室史学者を名乗ることとした。わが国の皇室のあり方を自分なりに勉強して、陛下が何をなされてきたのか、そして何をなされようとしているのかを、考えるべきではないかと強く思ったからだ。

 現在の象徴天皇は、古来の伝統法に文明国の通義に合わせて出来上がった明治の立憲君主制が、敗戦による外国勢力の介入に耐えて出来上がっている。そもそも、わが国の伝統法とは何か。戦前は国体と呼んだ。わが国の国体の根源は、君臣の絆(きずな)である。そして、わが国において天皇が民を見捨てることはなかった。

 天災や飢饉が起きたときでさえ、歴代天皇は己の不徳を天に詫びるのが常だった。かの後醍醐天皇ですら、そうだった。古くは元寇に際し、時の治天の君である亀山上皇は「自分の身はどうなろうとも、国と民を守り給え」と皇室の御先祖である神々に祈られた。

 はっきり言えば、亀山上皇や後醍醐天皇はわが国史において暗君ではあるが、外国の君主に両帝のような態度を示した君主が何人いるか。わが国の暗君も、外国では聖主なのである。

 敗戦に際し、昭和天皇が自らの命を懸け、連合国軍最高司令官のダグラス・マッカーサーを説得したのは近代史の出来事である。1990年、どこぞの国の君主は、自国が外国に占領されたとき、国民を見捨てて真っ先に亡命した。わが国の皇室の歴史は、外国とはまったく違うのである。

 戦前憲法学の泰斗であった、佐々木惣一京都帝国大教授の門下生に語り継がれている教えがある。佐々木先生は、憲法改正無限界説を唱え、「アカ」呼ばわりされた。当時の通説である憲法改正限界説が「いかなる憲法改正であっても、皇室を廃止することは許されない」と主張した。通説であり、政府の有権解釈だった。

 これに対し、佐々木先生は「いくら法律の条文や解釈で縛ろうとも、国民が皇室を廃止しようとした場合、止められるものではない。よって、法学者としては限界説を採ることはできない」と反論した。法律論として、不可能は要求できないとする、法実証主義の立場だ。

 ただし、これには続きがある。もし、国民が皇室を見捨てたときのことだ。佐々木先生は、「その時、日本は日本ではなくなる」とおっしゃられたと聞く。「である」論としての法律論と、「べき」論としての政治論は分けておられたのだ。

昭和天皇とマッカーサー元帥=昭和20年5月

 事態は佐々木先生が想像されたよりも早く訪れた。もちろん敗戦である。天皇は「象徴」とされた。ただ、マッカーサーにとって「象徴」とは決して軽い意味ではなかった。日本国憲法の草案はマッカーサーノートと呼ばれるが、そこには「Symbol=Head of state」と走り書きがなされている。象徴とは国家元首の言い換えなのだ。

だが、これを「ロボット」にしたのは裏切り者の日本人だ。東京大法学部教授の宮澤俊義と、当時の内閣法制局長官、吉國一郎だ。

 宮澤は教科書で「天皇はめくら判を捺すロボット」と断言した(『コンメンタール 全訂日本国憲法』74頁)。吉國は、「天皇の行動があらゆる行動を通じて国政に影響を及ぼすことがあってはならない」と言い切った(昭和50年11月20日参議院内閣委員会答弁)。

 しかし、これらの解釈は世界の立憲君主国の標準、すなわち文明国の通義からかけ離れている。

 世界の憲政の模範はイギリスだ。そのイギリスで「権威書」として憲政運用の解釈書として尊重されている、ウォルター・バジョットの『英国憲政論』は、立憲君主とは独裁者ではないと説く。同時に、単なる傀儡(かいらい、ロボット)でもないとも説く。

 バジョットは、『英国憲政論』(『世界の名著』124頁)で「イギリスのような立憲君主制の下では、君主は三つの権利―諮問に対し意見を述べる権利、奨励する権利、警告する権利―をもっている。そして君主がすぐれた感覚や英知をもっているならば、このほかに必要とするものはなにもない。このような君主は、他に何も持っていないので、この三つの権利を非常に効果的に行使できることを知っている」と述べ、以下延々と君主が国政に対し影響を及ぼす方法について述べている。

 君主が国政に影響力を行使してはならない、などとは言っておらず、逆なのだ。その証拠に日本国憲法第4条第1項を見よ。「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」とある。

 権限(権能)がないとは書いているが、影響力を行使してはならないとは、どこにも書いていない。マッカーサーですら象徴天皇とは国家元首だと理解していたが、日本人自らの手で天皇をロボットに叩き落したのだ。そして、戦後教育においては、皇室と国民の絆を断ち切らんとする教育が行われ続けた。

 さて、このような状況で陛下は平成の三十有余年を天皇としてのお務めを全うされた。国事はもちろん、祭祀にも熱心で、さらに国民との絆を保つ活動を、二度の大病を乗り越えて行ってこられた。

 平成23年3月11日の東日本大震災に際し、社会の指導者たるべき人間たちが、原発事故の放射能が怖くて逃げた。あまつさえ、「陛下も京都へ逃げた」とデマを流しながら。

 だが、事実は違った。3月16日、突如として「ビデオメッセージ」が流れてきた。横文字で何のことか分からないが、要するに玉音放送である。ただただ、国民を励まされるだけだった。激励権の行使である。ただし、国民に向けて語りかけられるという異例の形式だが、現行憲法下でも違憲ではない。

仮設住宅を訪れ、出迎えの人たちに手を振って応えられる
天皇、皇后両陛下=2012年5月、宮城県仙台市

 何も言い訳もしないし、ましてや自分を悪(あ)しざまに罵(のの)しった者どもに言い返しもしない。しかし、「決して国民を見捨てて逃げはしない」と明確に訴えられていた。

 幾多の風雪に耐えた平成の御世が終わりかけている、今思う。国体は健在なり。(文中一部敬称略)

【私の論評】天皇大権を蔑ろにする「元号の事前公表」黒幕 は誰か?

天皇をロボットにしてしまった裏切りもの内閣法制局長官、吉國一郎のことが上の記事に掲載されていました。

内閣法制局が入る中央合同庁舎第4号館

では、内閣法制局とは、どんな官庁なのでしょう。これは、憲法を頂点とする日本国の法体系のすべてに責任を持ちます。当然、憲法解釈の全権を一手に握ります。

財務省主計局が予算をつけ、国民の代表である国会が承認した法律であっても、法制局が「憲法違反の疑義がある」と述べれば、執行できないのです。政治家も財務官僚も、法制局の意向に沿うように法律や予算を修正しなければならないのです。財務省の「他は並びの山」の例外が法制局なのです。

ついでに言いますと、安倍晋三が「一強」とよく言われています。いくら腰が引けているとはいえ、安倍総理は確かに財務省相手にはファイティングポーズだけはとっています。

ところが、最初から降参しているようです。これは揶揄ではありません。安倍自民党改憲案を見ると、そのなかで、一文字でも法制局の意向に沿わない文字はありません。

一文字と言うのは大げさでも何でもありません。法制局は、日本国のあらゆる法令の「てにをは」まで監視しているのです。その一文字の誤りで、霞が関の官僚のすべてが畏怖するのです。

財務省も例外ではありません。グーグルマップでも見ると、財務省と法制局の建物は、直通の廊下でつながっています。財務省は法制局に因縁をつけられないよう、日常的に行き来できるようにしているのです。

特に財務省の本流である主計局の官僚にとって、法制局を敵に回さないことは出世の条件です。法制局の承認を得ていることこそ、他の官庁に威張り散らす権力の源泉なのです。

安倍総理も財務省主計局の権力も、法制局の権威の下での話ということになります。これはローマ教皇の下の皇帝や国王のようなものです。その法制局の権威の源が東大憲法学です。

宮沢の「天皇ロボット説」は単なる学説と片付けても良かったはずなのですが、第四代法制局長官の吉国一郎が政府解釈にしました(昭和50年11月20日参議院内閣委員会答弁)。

これは国会図書館の検索システムで簡単に議事録を確認できるので、皆さんご自身で調べていただきたいです。要するに「天皇は社会に向かってモノを言ってはならない」としたのです。宮沢説を、法制局が─有権解釈─法律的に効力がある政府の解釈にしたのです。

こう考えると、消費増税をめぐる安倍首相と財務省の駆け引きすら「ザコの喧嘩」にすぎないのです。ところが、これが日本の権力構造の真の実態なのです。

このようなことがまともであるといえるのでしょうかか? 
天皇や皇室は本来ならば敗戦の時に全員ギロチンにかけたいが、それも叶わなかったので仕方がないから象徴として残るのは認めてやるが、盲判を捺すロボットでいろ。
これが吉国長官以来約45年間、今の安倍内閣に至るまでの政府見解なのです。一般の日本国民がそういうことを知らなかったのを責める気はないです。しかし、有識者、いやしくも保守を自任する言論人ならばどうでしようか。
4月1日の改元にも大きな問題があります。改元は本来、天皇の大権です。しかし、実態は時の権力者の思惑に左右され続けてきました。最も蔑ろにされてきた天皇大権であると評しても過言ではないです。

だから、改元に際して多少のさざ波が立とうとも、それだけで天皇の権威に瑕がつく訳ではありません。その程度で皇室はビクともしないのです。

しかし改元を利用して、意図的に天皇や皇室の権威を貶めようとする者がいたら、国民はその者の名を心に刻まなければならないです。

明治以降、改元の規定は皇室典範で定められていました。それが敗戦に伴い旧典範は廃止され、元号は成文法上の根拠を喪失、慣習法として存立してきました。

こうしたことから、元号廃止運動が学界や言論界を中心に盛り上がり、逆に元号法制化運動も自民党を中心に進められました。結果、元号法が定められ、成文法としての根拠を回復することとなりました。この法律はたった2条だけです。
第1条 元号は、政令で定める。 
第2条 元号は、皇位の継承があった場合に限り改める。
読めばわかるように、一世一元の制の成文化です。天皇の代替わりの時にしか改元できないのです。そして現行法では、新元号の発表は代替わりの後にしか行えないのです。

昭和から平成への改元も、そうでした。昭和最後の1年間、先帝陛下は重病に苦しまれ、いつ「その日」が来るかと日本中が心配しました。そして昭和64年1月7日に崩御。同日、今上陛下が践祚(せんそ。天皇の位を受け継ぐこと)され、同日に政府が発表、翌日から施行されました。

もちろん政府は事前に新元号を用意していたのですが、公表は新帝践祚(せんそ)の後でした。時の竹下登内閣は、人としての道理を知っていたからです。

一世一元の制の現代において、元号はそのまま天皇の贈り名となります。お亡くなりになられた後に贈られるから、贈り名です。天皇陛下は存命中、「今上天皇」としか呼ばれなません。

昭和天皇、大正天皇と名前で呼ばれるのは崩御の後です。世の中には日本人としての素養がない人がいて、公共の場で「平成天皇」を連呼する御仁がいますが、「勝手に殺すな!」と言う他ありません。

改元大権を持ち出すまでもなく、新しい元号は新帝の元号なのである。だから、新帝が位に就かれた後にしか、公表してはならないのです。

どうしても事前公表したいのなら、現行法を改正するなり、いっそ一世一元の制を廃止してからにすれば良いのです。時間などいくらでもありました。それをあえて選挙で選ばれた国会議員による立法ではなく、政府の官僚による解釈で行おうとしているのです。

その意図は明々白々です。一つ、真の立法権は国会議員ではなく官僚にあると知らしめること。一つ、天皇の元号ではなく、政府の元号であると見せつけること。要するに、法の解釈を握るものは、政治家よりも、そして天皇よりも偉いのだと、権威を見せつけようとしているのです。

では、解釈を握る政府の官僚とは誰なのでしょうか。天皇ロボット説の総本山、内閣法制局です。その長官は横畠裕介。この男、自分は天皇を超える「法王」とでも思っているのでしょうか。

だが、国民は皇室を蔑ろにするものを見逃しはしません。賢明な国民は、黒幕が誰かを知っています。「国民を見捨てない」陛下の覚悟さえも貶めた裏切り者の日本人は、内閣法制局長官 横畠裕介です。

内閣法制局長官 横畠裕介

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2019年3月10日日曜日

韓国「制裁」へ与野党共闘! 三菱重工の資産差し押さえ申請に…自民議員「韓国の急所を突け」 国民民主議員「これまでは大目に見ていたが…」―【私の論評】韓国だけを攻撃するより韓国に屈辱を与えながら、陰に隠れている北朝鮮も攻撃すべき(゚д゚)!

韓国「制裁」へ与野党共闘! 三菱重工の資産差し押さえ申請に…自民議員「韓国の急所を突け」 国民民主議員「これまでは大目に見ていたが…」

三菱重工に対しても資産の差し押さえを申請。
無法なやり口が続く韓国に、日本の我慢も限界だ

 日韓断絶が現実味を帯びてきた。韓国最高裁による、元朝鮮女子勤労挺身隊員をめぐる異常判決を受け、原告側の弁護団が7日、三菱重工業の資産差し押さえをソウル中央地裁に申請したのだ。1965年の日韓請求権・経済連携協力に反する暴挙といえる。日本政府は辛抱強く、韓国に政府間協議を求めてきたが無視され、国会議長による「天皇陛下の謝罪要求」という狂気の言動まで聞こえてきた。日本の与野党議員から「痛み」を伴う対抗措置を求める声が高まっている。「反日」の文在寅(ムン・ジェイン)政権には毅然(きぜん)と対応するしかない。

 「(日本企業の)資産の差し押さえ申請など、事態がこうして進んでいるのは、極めて深刻な状況だ」「わが国としては韓国の協定違反の状態を解決すべく、協定に基づく協議を要請している。韓国は当然、誠意を持って応じるべきだ」

 菅義偉官房長官は7日の記者会見でこう語り、無法国家への憤りをにじませた。

 いわゆる「元徴用工」や、元挺身隊員による訴訟の異常判決を受けた日本企業の資産差し押さえは、1月の新日鉄住金に続き2例目となる。

 原告側弁護団は今回、三菱重工が保有する商標権2件と特許権6件の差し押さえを申請した。認められれば、1週間程度で完了する。

 日韓の請求権問題は、前出の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」されているが、隣国では国際法を無視した判決が続いている。日本政府は協定に基づく「協議」を再三求めたが、文政権は責任ある対応をとらず、逆に「反日」姿勢を助長させている。

 このままでは、三菱重工には、対象の商標権や特許権について売買や譲渡、移転ができなくなる「実害」が生じる。

 永田町では、韓国への「制裁発動」を求める声が噴出している。

 自民党の中山泰秀元外務副大臣は「国家間の協定・約束を反故(ほご)にするなど、考えられない。厚かましくて、度が過ぎている。韓国は請求権問題だけではなく、駆逐艦による危険なレーダー照射や、国会議長による『天皇陛下への謝罪要求』など、非礼の限りを尽くしている。冷静に、かつ、韓国の急所を突く形で制裁すべきだ。国際社会に対しても、明確な証拠を示しながら時系列で整理し、英文で発信するなど、『情報戦』を徹底すべきだ」と語った。

 野党も黙ってはいない。

 国民民主党の渡辺周元防衛副大臣は「これまでは大目に見ていたが、企業に実害が出る事態となれば、外交ルートで抗議する『遺憾砲』では済まない。官邸も『お灸を据えるべきは今だ』と感じているはずだ。日本の名誉を貶める『歴史戦』でも負けるわけにはいかない」と言い切った。

 具体策は何か。渡辺氏は続けた。

 「国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、韓国を表舞台に引っ張り出すべきだ。韓国側の『ヒステリックなナショナリズム』に、われわれは史実に基づいた『冷静なナショナリズム』で対抗する。日本人は懐が深いが、さすがに言わせてもらう。統治時代、日本がどれほど朝鮮半島に尽くしたのか。韓国人にも世界にも知ってもらう、良い機会だ」

 このほか、永田町・霞が関では、「韓国人の入国ビザの厳格化」「日本企業の資産引き揚げ」などが制裁案として想定されている。

 「国会の爆弾男」こと日本維新の会の足立康史衆院議員は「経済制裁の前に、防衛面での韓国との準同盟関係を見直すべきだ。これまでは米国に『日韓はギスギスするな』と言われたが、米国自体が韓国との大規模合同軍事演習を中止するなど、状況は一変した。日本も従来のくびきから逃れ、自立して対韓関係を考え直すべきときだ」と語った。

 確かに、韓国駆逐艦によるレーダー照射は「ミサイル発射寸前」の軍事行動であり、「反日」という次元を超えて、「敵性国家」というべき暴挙といえる。

 足立氏は最後に「政府・自民党は正念場だ。韓国に言うべきことは言い、やるべき制裁を断行すべきだ。実行しなければ、政府・自民党は国民の信頼を失う。自民党は終わりだ」と警告した。

【私の論評】韓国だけを攻撃するより韓国に屈辱を与えながら、陰に隠れている北朝鮮も攻撃すべき(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事のような制裁は無論するなとは言いませんが、その前になぜ韓国は日本に悪さをするのか、悪さをやめさせるにはどうしたの良いのでしょうか。 
日本企業の資産差し押さえは、すでに予期されたことですが、日本側としては不快感を示し続けるべきでしょう。
国際社会では、「悪いことを国よりも、悪いことをされて泣き寝入りした国の方が悪い」という不文律があります。それが国際法の根本原理でもあります。

さて、韓国を語るに、韓国の話しかしない人は本質を見ていないと結論づけて良いです。国際関係においては「何が語られているかよりも重要なのは、何が語られていないか」なのです。

このブログでは「結果として北朝鮮の核が、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる」ということを掲載しましたが、これはよく考えれば誰でも理解できることです。しかし、米朝首脳会談の報道などでは、このことはには全く触れられていません。

しかし、このことを重要なことであり、これを理解しないと、本当の意味での朝鮮半島情勢など理解できません。
さて、韓国を語る時は、常に北朝鮮の意向を見なければならないです。なぜなら、北朝鮮は自分の手を汚さず、韓国に日本への嫌がらせをさせているからです。
そもそも、日本では良く報道されているように北朝鮮は韓国を併合したいのでしょうか。このブログでは、そうでいないと主張しています。ただし、あえて言うなら、ソ連が東欧諸国を衛星国にしたような形にはしたいはずです。そのイメージを以下に示します。

  ソ連共産党→ソ連(直轄領)
  ↓
  ーーー形式的国境ーーー
  ↓
  衛星国共産党→衛星国

つまり、ソ連も衛星国もソ連共産党の支配を受けていました。あるのは形式的な国境。あった方が何かと都合が良いと、当時のソ連は判断しました。

では、今の北朝鮮の構想はどうかといえば、以下にイメージを掲載します。

  朝鮮労働党→北朝鮮(直轄領)
  ↓
  ーーー形式的国境ーーー
  ↓
  韓国政府→大韓民国(衛星国)

これは、帝国主義時代の基本戦略であり、親分は自分では手を出さずに子分を使うのです。そういう時に子分の方を叩く返し技もありますが、今回の日韓関係の場合は、向こうの親分の北朝鮮が日韓両国を喧嘩させようとしているのだから、むざむざと乗って韓国だけを叩くのはやめるべきです。

韓国だけを相手に制裁をしたとしても、北朝鮮がぬか喜びするだけです。

2018年9月20日、韓国の文在寅大統領らと白頭山を訪れた金正恩氏

冷戦期、東ドイツやブルガリアの所業に西側諸国は手を焼きました。特にブルガリア共産党に至っては、ローマ教皇暗殺未遂事件の実行犯でもあります。

では、西側諸国は東独やブルガリアの悪口を拡散したでしょうか。無論、抗議すべきことは抗議しました。しょせんは使い走りの実行したことですので、西側諸国はソ連共産党を標的にしていました。
そうして、レーガンの再来を自任するトランプがアメリカ大統領なのですから、日本の実行すべきことは決まっています。
北朝鮮にものを言えるだけの軍事力を身につけることです。防衛費GDP2%などは、最低限実行すべきことと思いますが、無論本来はそれ以上にすべきです。それを実行したとしても、トランプ大統領は日本を非難するどころか、称賛するに違いありません。
韓国の悪口を言う暇があれば、「最低でも防衛費GDP2%」と拡散した方が、まだ有益です。
そうして、さら大事なことは、韓国にもある程度制裁すべきですが、本命は北朝鮮であることを認識することです。少なくとも、韓国だけを攻撃するより、韓国に屈辱を与えながら、陰に隠れている北朝鮮にも攻撃をする方がはるかに効果的でしょう。

韓国はこれからも問題を起こすでしょうから、そのたびに北朝鮮、お前が責任をとれと非難するとともに、北に対する制裁をさらに強化してくべきです。さらに、韓国が問題をおこすたびに少しずつでも様々な方面から軍事力を強化していくべきです。
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2019年3月9日土曜日

景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」―【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!

景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」

このまま増税すると大変なことになる。安倍総理の決断は?

内閣府7日、1月の景気動向指数(速報値)を発表した。景気の現状を示す一致指数は前月比2・7ポイント低下の97・9で、3カ月連続の悪化となった。世界経済の先行き不安も広がるなか、永田町では、今年10月の消費税率10%への引き上げへの慎重論が目立ってきた。専門家も「楽観視してはいけない。4月に増税回避の判断をしないと間に合わない」と力説した。 

 政府の基調判断は「足踏みを示している」から、数カ月前に景気後退入りした可能性が高いことを示す「下方への局面変化」に下方修正した。同様の表現は14年11月以来、4年2カ月ぶりという。

 やはり、中国経済の減速に伴う輸出不振の影響が大きいという。

 半導体大手のルネサスエレクトロニクスは今春以降、国内の主要6工場で2カ月間、生産を停止する。主な原因は車載半導体の中国向け需要の減少で、在庫調整の狙いがある。

 政府は、景気拡大期が1月で「戦後最長の6年2カ月に達した」との暫定的な見解を示してきたが、疑問符が付く結果となった。

 安倍晋三首相は10月の消費税増税について、「2008年のリーマン・ショックのようなことがない限り」との条件付きで実施する考えを示している。中国だけでなく、欧州経済の先行きにも不安があるなか、政府はどう判断するのか。

 「リフレ派の論客」として知られる上武大学の田中秀臣(ひでとみ)教授は「景気の現状を楽観視して、消費税を増税するシナリオは間違いだ。世界経済の不透明感が増しており、増税すれば日本経済の悪化が顕在化していくことになるだろう。引き上げ率が2%と前回より低く、さまざまな増税対策も取られているが、前回と比べて消費が盛り上がっていない。消費税増税の可能性は半々だろうが、自民党内にも慎重な判断を求める声がある。4月に決断をしなければ間に合わない。夏の参院選で(増税凍結の)信を問うことが手っ取り早いだろう」と語っている。

【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!

金融緩和を実施している現在、増税をするということは、車の運転でいえば、アクセルを踏みながら(金融緩和しながら)、ブレーキを踏む(緊縮財政の一手法である増税)を実行するようなもので、非常に矛盾しています。

本来ならば、金融緩和と積極財政を実施し、景気が加熱しインフレ率が上昇した後に、金融引き締めをしたり、緊縮財政を実行して、景気を沈静化させるというのが王道です。

(金融緩和政策+積極財政)もしくは、(金融引き締め+緊縮財政)が、まともなマクロ経済政策であり、金融緩和しつつ緊縮財政であるとか、金融引き締めしつつ積極財政するなどは、邪道以外の何ものでもありません。

そうして、現在はデフレから完璧に脱却していないのですから、(金融緩和+積極財政)をすべきです。積極財政といえば、公共工事、減税、給付金などいくつか方法があります。

古いタイプの政治家は経済対策=公共工事と考える政治家もいるようですが、オリンピックにあわせて公共工事が増えている現状では、公共工事を増やしたとしても、公共工事の供給制約になるだけで、まともな経済対策にならないのは明らかです。

であれば、減税、給付金等の経済対策を実施すべきです。マクロ経済対策の観点からは、増税などとんでもないと言わざるを得ません。

ロンドンオリンピックのビーチバレーの試合

日本では、東京オリンピックの直前に10%の消費税増税を予定していますが、これと似たようなことは以前英国で実施されており見事に失敗しています。

英国でもオリンピック直前に、アクセルを吹かしながらブレーキを同時に踏み込こんだことがありましたが、当然ながら大失敗しました。

英国は2008年9月のリーマン・ショック後、中央銀行であるイングランド銀行が米国を上回る速度でお札を大量に刷り続け、量的緩和政策によって、ポンド安に成功。2010年秋までに景気が回復基調にありました。

ところが、個人の消費意欲を示す「消費者信頼度指数」は、2010年後半から急速に悪化し、皮肉にも五輪聖火リレーが始まるころから再び下落します。

ロンドン五輪の経済効果が出なかった理由は、キャメロン政権が「緊縮財政路線」を決め、「付加価値税率(日本の消費税にあたる)」を17.5%から20%へ引き上げたからです。

2010年5月に発足したキャメロン保守党・自由民主党連立政権は、さっそく付加価値税率17.5%を11年1月から20%に引き上げる緊縮財政政策を決定しました。他にも銀行税を導入するほか、株式などの売却利益税の引き上げ、子供手当など社会福祉関連の予算削減にも踏み切った。他方で法人税率を引き下げ、所得税控除額も12万円程度引き上げ、成長にも多少配慮しました。

こうして国内総生産(GDP)の10%まで膨らんだ財政赤字を15年度までに1.1%まで圧縮する計画でしたが、結果は無残でした。

これは以下のグラフをご覧いたたげれば、ご理解いただけると思います。付加価値税収は11年から激減し、2012年5月までの1年間でも前年同期比でマイナス8.4%減です。個人消費動向を示す消費者信頼指数は09年9月のリーマン・ショック時よりもっと冷え込んでいました。景気の悪化を受けて、所得税収、法人税収とも前年同期比マイナスに落ち込みました。だ政府債務残高のGDP比は11年末で85.7%(10年末79.6%)と増え続けました。


窮余の一策が、中央銀行であるイングランド銀行(BOE)による継続的かつ大量の紙幣の増刷(量的緩和)政策でした。BOEといえば、世界で初めて金(きん)の裏付けのない紙幣を発行し、フランスなどとの戦争費用を政府に提供した中央銀行であり、その大胆さは世界でもずぬけています。

BOEは11年秋から英国債を大量に買い上げ、ポンド札を金融市場に流し込んでいました。BOEはリーマン・ショック後、米連邦準備制度理事会(FRB)に呼応して量的緩和第1弾に踏み切ったのですが、インフレ率が上昇したのでいったんは中断していました。

インフレ率は5%前後まで上昇しましたが、そんなことにかまっていられず、12年5月にはリーマン前の3.7倍にまでマネタリーベース(MB)を増やしました。幸い、インフレ率は需要減退とともに同年5月には2.8%まで下がりました。国債の大量購入政策により、国債利回りも急速に下がっています。ポンドの対米ドル、ユーロ相場も高くならずに推移し、ユーロ危機に伴う輸出産業の競争力低下を防いでいます。

英国のインフレ率

英国のお札大量発行は増税に伴う経済災害を最小限に食い止める大実験なのですが、財政政策面ではブレーキをかけたまま、金融政策でアクセルを踏むわけで、効果ははかばかしくありませんでした。

量的緩和政策を渋る日銀が、今後仮に英国のように政策転換したとしても、脱デフレや景気てこ入れ効果は限られるかもしれません。

自動車など主要企業は国内生産に見切りをつけることになるでしょう。若者の雇用機会は失われ、慢性デフレで細った勤労者の家計はジリ貧になります。税収は減り、財政悪化に加速がかかることになります。

英国は量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。

その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。

このようなことを主張すると、英国の財政は日本よりも良い状況だったからなどという人もいるかもしれませんが、日本の財政は負債のみでなく、資産にも注目すれば、さほどではないどころか、英国よりもはるかに良い状況にあります。

それについては、昨年のIMFのレポートでも裏付けられています。このレポートの内容を掲載した記事を以下の【関連記事】の一番最初に掲載しておきます。

これを知れば、増税など絶対にすべきでないことは明らかです。

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2019年3月8日金曜日

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道―【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背後に何が(゚д゚)!

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道

米朝会談は米国にとっては「大成功」だった

米国が北朝鮮から「核戦力廃棄の確約を得られなかった」ことを主な理由として、「失敗」との報道がなされがちな第2回米朝首脳会談ですが、米大統領補佐官は「成功」だと反論しました。これに同調するのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北朝鮮の今後を予測した上で、米の対北政策が日本にも有益な点を詳しく解説しています。

ボルトンさん「米朝首脳会談」は【大成功】

先日行われた米朝首脳会談について、「大失敗だ!」という意見が多いです。しかし、皆さんご存知のように、REPは「大成功だ!」という立場。それで、3月1日に、こんな記事を出しました。

金正恩の姑息な作戦に乗らず。米朝首脳会談が成功と言える理由

ところで、私と同じ意見の人がいました。ボルトンさん(アメリカ大統領補佐官)です。トランプ政権中枢にいる人が、「大成功!」というのは、当たり前ですが…。
米朝首脳会談は「成功」 米大統領補佐官が擁護
3/4(月)6:32配信 
【AFP=時事】米国のジョン・ボルトン(John Bolton)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は3日、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領との間で先週行われた米朝首脳会談について、双方で合意に至らず会談が失敗だったとの見方を否定した。
「失敗だったとの見方を否定した」そうです。
ボルトン氏はCBSの報道番組「フェイス・ザ・ネーション(Face the Nation)」で、トランプ氏が北朝鮮から核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったことは、「大統領が米国の国益を守り、高めたという意味で成功」と見なされるべきだと語った。
「トランプ氏が核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったこと」=「大統領が国益を守って成功」だそうです。どういう意味でしょうか?
ボルトン氏は、争点はトランプ氏の言う「大事業」すなわち完全な非核化を北朝鮮が受け入れるかまたはそれ以下の「われわれには受け入れ難い」ことのどちらかだったと説明。「大統領は自分の考えを断固として貫いた。大統領は金正恩氏との関係を深めた。米国の国益は守られており、私はこれを失敗だとは全く見ていない」と述べた。
同感です。トランプさんは、「完全な非核化」を要求しました。その見返りは、「体制保証」「経済制裁解除」です。

まあ、アメリカはこれでカダフィを03年にだまし、丸裸にした。結果、彼は11年、アメリカが支援する反体制派に捕まり殺されました。だから金正恩がアメリカを信用しないのは当然。

一方、金正恩は、「一部非核化して、制裁解除」を狙ってきました。これは、過去の「成功体験」を繰り返したのです。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らか。今回も「これでいける!」と思ったのですね。

このように、アメリカは北をだまそうとしている。いえ、ひょっとしたらトランプさんは、だまそうとしていないのかもしれない。しかし、カダフィの例があるので、金正恩からは「だまそうとしている」ように見える(それに、トランプ後の大統領が政策を変更するかもしれない)。そして、北はアメリカをだまそうとしている。で、結果、「トランプさんは、金正恩にだまされなかった」。だから、RPEも、ボルトンさんも「成功だ」というのです。

これが、「少し非核化して、制裁解除」となったらどうです?金は、「核兵器保有」と「経済発展」の二つを同時に成し遂げた。まさに「偉大な指導者」になることでしょう。

トランプ、金正恩の交渉決裂でどうなるのでしょう?
  • 金は、核実験、ミサイル実験を再開できません。再開したら、アメリカは、「金は交渉を断念したようだ。しかたない…」といって、北を大攻撃するでしょう
  • 北朝鮮は、豊かになりません。現状、中国、ロシアが北支援をつづけている。しかし、これは「国連制裁違反」なので、大々的に、大っぴらにできない。せいぜい「体制が細々と存続していく程度」にしか支援できない
金はこれから、
  • トランプを信じるか?つまり、「完全非核化して、体制保証、制裁解除を勝ち取る」か?(繰り返しますが、アメリカがだますリスクはあります)
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくか?
  • 核実験、ミサイル実験を再開して、アメリカに殺されるか?
いずれかを選ばなければならない。現状、もっとも可能性が高いのは、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
でしょう。そして、中国、ロシア、韓国に、「制裁違反の支援をもっと増やしてください!」と懇願するかもしれない。もしそれで中国が支援を増やせば、米中覇権戦争中なので、アメリカは、「中国は国連安保理の制裁に違反して、北を助けている!」と非難する。そして、対中制裁を強化することでしょう。中国としても悩ましいところなのです。

こう考えると、アメリカの対北政策は、実にうまくできています。アメリカも困らないし、日本も困りません。そのように見る人は、あまりいないのですが。

【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背景に何が(゚д゚)!

私自身は、米朝会談は米国にとっては大勝利だったと思っています。上の記事は、その私の考えをさらに補強するものでした。特に、ボルトン氏が「大成功」としていることで、私の考えは裏付けされたものと思いました。

さて、この大勝利について、「大勝利」とは掲載していないものの、失敗ではないことをこのブログも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!
米朝決裂であてのはずれた文在寅
詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。 
北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。 
韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。 
この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。
もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。
しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。 
しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。
この記事にも掲載したように、本来「北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる」という点を抜きに、今回の米朝首脳会談が大成功であったと認識するのは困難でしょう。

大方のメディアにはこのような認識がないので、「失敗」と報道するしかなかったのでしょう。

今回の首脳会談後についての金正恩 選ぶ道について、ブログ冒頭の記事では、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
これは、米国にとっては、当面北が核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくにしても、核が存在すること自体には変わりはなく、それは中国の脅威となり、中国の朝鮮半島への浸透が防止されることになることには変わりありません。

これについては、米国が北を屈服させて、そこに米国が中距離核を配備すればよいではないかと考える人もいるかもしれませんが、それをやってしまえば、米国と中国、ロシアとの対立がかなり深まることになります。さらには、国際的に非難されることにもなります。

そうではなく、北の意思によって、核か北朝鮮に存在するといことが重要なのです。

現状を保てたことは、まさに米国にとって大勝利です。ただし、米国としては北朝鮮に核があることが米国にとって有利などということは、口が裂けても公言することはできません。

だから、ボルトン氏もそのことについては、特に言及しないのでしょう。そのことが、米国の大勝利を一般からは理解しにくいものにしています。

トランプ大統領は6日、北朝鮮がミサイル発射施設の復旧を進めているとの情報について、「本当なら非常に失望する」と述べました。
ボルトン補佐官は5日、非核化をめぐる今後の協議について「ボールは北朝鮮にある」と指摘、北朝鮮が本当に核計画を放棄する意思があるかどうか見極めていく考えを示した。

その上で、完全な非核化に応じなければ「経済制裁の強化を検討する」とけん制した。

これらによって、トランプ大統領もボルトン氏も、現所維持を確固なものにするとともに、「ボールを北」に投げたのです。



そうして、米朝会談は今後の中国の動向により、方向付けられるでしょう。現在米国による対中冷戦が繰り広げられています。

この冷戦は、中国が体制を変えるか、さもなくば、中国の経済力が弱体化して他国に影響をおよぽせなくなるまで、継続します。

そうして、私の見立てでは、中国は体制を変えることはしません。体制を変えるといことは、中国共産党1党独裁でなくなるのは無論のこと、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめるということです。

そうなれば、中国共産党の統治の正当性が崩れ、中国共産党は崩壊します。そのような道を中国共産党は選ぶことはないでしょう。

では、残された道は、経済を弱体化され、体制を維持したまま細々と生きていくという道です。

そのようになれば、中国は図体が大きいだけの凡庸な、アジアの独裁国家になりはて、自国のことだけで精一杯になり、朝鮮半島に影響力を及ぼす余力もなくなります。

その時に、次の本格的な米朝会談が始まることになります。というより、中国が弱体化してしまえば、朝鮮半島問題もおのずと、解決することになり、かなり楽に交渉ができるようになると思います。アジアの問題は、やはり中国が最大のものであり、その他は従属関数であるに過ぎないとみるべきなのです。

金正恩

そのことを理解したのか、金正恩は、米朝会談の帰路に、先回の会談後には帰路に習近平と会談したのですが、今回は習近平とは会談せずに北朝鮮に戻りました。一般の報道では、これについて金正恩は「会談に失敗してあわせる顔がない」からなどと報道していますが、それは上で示したような文脈を理解していないからだと思います。

金正恩としては、中国に対峙する米国に対して、当面どちら側につくかを意思表示したのでしょう。

金正恩としては、冷戦においていずれ中国が敗北すると踏んでいるのでしょう。であれば、残された道は、冷戦で中国が弱体化するまで、核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きのび、頃合いをみはからって、核を放棄し制裁解除をしてもらい、経済発展の道を模索するということしかありません。

今回の米朝首脳会談でのトランプ大統領「大勝利」の背景に何があったのかを理解することは、今後の世界情勢を理解する上でかなり重要なことだと思います。

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2019年3月7日木曜日

日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」



 日本の安全保障環境が急速に厳しくなっている。中国の2019年の国防費は前年実績比7・5%増と、日本の防衛予算の約4倍まで膨れ、「反日」の文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いる韓国の国防費も日本とほぼ肩を並べた。ロシアは今春、広島に投下された原爆の100倍を優に超える威力(最大2メガトン)の核弾頭を搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」を就役させる。「今そこにある危機」に目を向けるべきだが、わが国の国会では、厚労省の統計不正問題や、桜田義孝五輪担当相の適性問題が最大の焦点になっている。これで、国民の生命と安全を守れるのか。

 「海洋強国を建設する」

 中国の第13期全国人民代表大会(全人代=国会)第2回会議が5日、北京の人民大会堂で開幕した。李克強首相は政府活動報告で、こう宣言した。

 中国の国防費は、経済減速が続くなか、前年実績比7・5%増の1兆1898億7600万元(約19兆8000億円)と突出している。日本の防衛予算案(2019年度)は総額は5兆2986億円だけに、3・7倍の規模となっている。

 具体的には、中国海軍は今年、初の国産空母を就役させる予定で、2隻目の国産空母の建造も進めている。東・南シナ海での軍事的拡張を進め、沖縄・尖閣諸島周辺海域に連日のように侵入している。宇宙空間の軍事的支配ももくろみ、現在の米国のミサイル防衛(MD)では撃墜不可能とされる戦略兵器「極超音速飛翔(ひしょう)体」の開発も急いでいる。

 まさに、日本の「安全保障上の脅威」と言って間違いない。

 国会議長による「天皇陛下への謝罪要求」や、海上自衛隊哨戒機への危険極まるレーダー照射など、常軌を逸した「反日」姿勢を示している韓国も要注意だ。

 韓国の19年度予算案の国防費は約4兆7000億円で、日本の防衛予算と遜色がなく、このままでは日本を抜き去りそうだという。文大統領は「一日も早く、親日残滓を清算すべきだ」と公言し、「南北統一」を悲願としているが、これが大問題だ。

 先月末の米朝首脳会談でも、北朝鮮は「核・ミサイル」の完全廃棄を進める気はなかった。同国は、日本全土を射程に入れる中距離弾道ミサイル「ノドン」を数百発配備している。もし、南北統一となれば、朝鮮半島に「核を持った反日朝鮮国家」ができるのだ。

 これは「国家存亡の危機」といえる。

 ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアも油断できない。

 同国国防省は先月末、核弾頭が搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」の発射実験の映像を初公開した。全長10メートル以上で、深度1000メートルまで潜航し、最高速度は70ノット(=時速約130キロ)。航続距離は1万キロに達するという専門家の分析もある。

 プーチン氏は先月20日、「試験には成功した。航続距離は無制限だ!」と演説し、今春に1番艦を就役予定と表明した。海に囲まれた日本や、同盟国・米国への脅威であることは確実だ。

 軍事ジャーナリストで評論家の潮匡人氏は「中国の国防費増強は『対米国』や『台湾侵攻』を念頭に置き、日本を含む周辺諸国への国益の最大化を目指している。韓国も建前上、『対北朝鮮』で国防費を伸ばしているが、内訳をみれば『対日脅威』を潜在的に想定している。ロシアの核魚雷は日米の脅威だ。旧ソ連時代からの戦略は変わっていない。中朝だけに目を奪われていては危険だ」と分析する。

 わが国が、こうした「安全保障上の危機」に直面していながら、現在開会中の通常国会の審議には緊張感はみられない。

 5日の参院予算委員会では、厚労省の統計不正問題や、桜田五輪担当相の適性問題が集中的に取り上げられた。安全保障に関しては、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる県民投票が取り上げられたが、日本の防衛力をチェックする視点や、沖縄の地政学的重要性を説くような質問はなかった。

 政治評論家の伊藤達美氏は「政治家は、国民に対し、安全保障環境の厳しい現実を丁寧に説明すべきだ。国会では今こそ、大所高所からの建設的議論が必要だ。ところが、立憲民主党などの左派野党はひどい。安倍晋三首相の批判ばかり。小学生でもできるレベルの質問だ。『空想的平和主義』からは卒業すべきだ」と指摘した。

 国会で、日本を守るための審議は聞かれないのか。

 前出の潮氏も「中国や韓国、ロシアは本気で軍備拡張を進めているのに、政治家やメディアは周辺諸国の脅威を直視していない。国民も理解できない。このままでは、防衛予算だけでなく『国防意識の差』も開くことは間違いない。恐ろしい未来が待っている」と語った。

【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

日本は安倍晋三首相の下で、安全保障面での国際的な存在感の向上のためにさまざまな取り組みを行ってきました。2012年に発足した安倍政権はそれまで続いていた防衛費の減少を止め、安全保障に関する官僚組織を再構築し、安全保障関連の政策や方針に大きな変化をもたらしてきました。
このような変化がある一方で、日本が安全保障上改善する余地のある重要な点が存在します。その最たるものが、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する「economic statecraft(経済的な国策)」です。欧米などでは認識され、政策に応用されていますが、現時点では日本にない概念であり、日本語に直訳するのは難しいです。ブログ冒頭の記事でも、その点につては掲載されていません。
ロシアの新型原子力魚雷「ポセイドン」は確かに日本等にとって脅威です。しかし、だからといって、ロシアが「ポセイドン」をあちこち発射して、世界を我がものにしたり、世界を自分の従わせることができるかといえば、そうではありません。

このような兵器はたとえば、ロシアが他国から核攻撃されたとか、されそうになったという最終局面でしか使えません。しかも、使えば自国も確実に核で報復されかなり破壊されることになります。

そのような兵器は確かに抑止力になりますが、通常の戦いでは、あまり役に立ちません。しかし、economic statecraftは日常的に使える手段です。そうして、これは米中や日本などある程度経済規模が大きな国が使うとかなり効果を期待できます。

逆に、ロシアや韓国など(ともにGDPは東京都と同程度)経済規模の小さな国では、あまり効果がありません。
中国やロシアは多用し始めている
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めています。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかけます。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策です。

米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。
economic statecraftの道具と目的は以下の表で示す通りです。

日本語に翻訳すると、貿易制限、金融制裁、投資制限、金銭的制裁です。

年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めています。

これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いないです。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えません。

就任から5年、安倍政権は日本の安全保障政策の本質的な変革を進めてきました。政府は国家安全保障会議(NSC)を設立することで安全保障政策の意思決定過程を再編成し、首相官邸に権限を集約しました。NSCは日本初の国家安全保障戦略を生み出し、その戦略を政策へと落とし込む「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を発表しました。

また、「特定機密の保護に関する法律」を通過させ、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更をし、平和安全法制を作成しました。米国との同盟関係を強化したほか、オーストラリア、韓国、インド、英国といった友好国との安全保障関係を深め、他のインド太平洋地域の国家と防衛協力も強化。さらに、「防衛装備移転三原則」と「開発協力大綱」を閣議決定しました。そして政府は、宇宙とサイバー空間の側面を含む国家安全保障戦略を打ち出しました。

このような目まぐるしい変化の中には、経済的な手段をもって戦略的に地政学的な国益を追及するeconomic statecraftの視点が抜け落ちています。近代化以来、国家権力の経済基盤を重要視してきた日本が、安全保障戦略の中で具体的な経済戦略を描き切れていないことは意外な事実であると言えるでしょう。
日本も安全保障戦略では「経済」を意識しているが

近年の日本における安全保障政策上の変化において、経済的な側面がまったく強調されていないわけではありません。日本の国家安全保障戦略には、「経済」または「経済的」という文言が57回述べられているのに加え、宇宙・サイバー空間における経済的重要性が強調されています。また、「開発協力大綱」と「防衛装備移転三原則」は、日本経済の活性化に寄与すべきであると言及しています。

さらに、2013年の「日本再興戦略」では、積極的にODAを用いて世界規模のインフラプロジェクトや医療市場において日本が大きな割合を占めるよう呼びかけています。それにより「新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化につながる」ようにさせ、「ODAを活用した中小企業等の海外展開支援」をするとしています。

また、日本は北朝鮮に対する制裁措置の適用を積極的に支持してきた国の1つです。ただ、その実行相手は敵対的な関係にある国家や国際的な協議によって合意された経済制裁相手でしかなく、日本の意向に沿わない政策をとられたからといって、特定企業や特定品目を対象とした経済制裁などの発動を行うことは決してありませんでした。

しかし、今後は米国も含めて、自国の意向に沿った政策がとられるか否かによってピンポイントでの経済制裁を繰り出し合う経済戦争時代であると他国が認識している環境において、日本も能動的なeconomic statecraft 戦略を描いておくことは不可欠でしょう。

では、具体的に日本政府はどうするべきか。まず、経済的に関与・拡大をすべき領域の特定と優先順位付けを行う戦略を策定すると同時に、その戦略を実行するにあたって民間企業との連携が必要な場合は、発生するリスクを政府が負うような仕組みとするべきです。

たとえば、政府は特定のODAプロジェクトがより大きな戦略的な構想の中でどのような位置づけにあるかを明示すべきでしょう。現在政府は個別のプロジェクトに出資しており、民間部門はこれが利益を生むという理由から受け入れています。

しかし、たとえばODAを通じてロシアの病院設立に出資することで善意は買えるかもしれないですが、本来このような戦略はより大きな日露関係の発展に寄与しなければならないです。民間企業は日本政府の意図を理解し、このような取り組みを企業戦略に取り込んで行くには、全体的な日露関係の改善という文脈だけでなく、日本政府とどのように協力することでロシアの国家医療戦略と政策に影響を与えられるかというビジョンが必要となります。

ただし、日本も最近では実質的なeconomic statecraftを実行しています。2019年の初めから日本はロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減しました。また液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少しました。一方で米国の炭化水素の輸入は急増。石油は328%、LNGは36.1%増加しています。

これは、一方ではアジアのエネルギー市場でのシェア拡大を望む米国と、もう一方にはロシアの領土問題への不変の姿勢に否定的に反応し、交渉姿勢を強めようとする日本の試みがあると考えられます。
日本は昨年も1月から9月にかけての時期にロシア産石油の輸入量を減らしていました。ところが両国間での平和条約の議論が始まるやいなや状況は変化しはじめ、11月には日本はロシアの石油の購入を急増させました。そして現在は、交渉の行方が不透明になりはじめたことから、ロシア産エネルギーの日本の輸入量は再び減少し始めているのです。
これは、一方では米国との同盟関係を強化し、他方では北方領土問題に消極的なロシアに対して制裁を課すという、economic statecraftです。

日本は昨年12月、ノルウェーから約4年ぶりに液化天然ガス(LNG)6万3200トンを輸入

新技術の重要性が高まっている

このeconomic statecraftには技術的な側面も含まれています。ハドソン研究所のアーサー・ハーマン分析官は「最近まで従来の防衛セクターには存在しなかった技術やシステムが、多くの場合、民間のハイテク技術を防衛上のニーズに合わせることで、将来の軍事システム開発と展開を目的とする国防省の『第三の相殺戦略』に導入されるようになった」と強調しています。米国の「第三の相殺戦略」とは、米国の国防予算の制限や技術的優位性の相対的喪失を「相殺」する戦略です。この技術面での中核的な要素としては、無人システム、ロボット工学、小型化、人工知能(AI)、ビッグデータなどが含まれます。

2014年に発足した「米国防衛革新イニシアティブ」は、国防総省が従来依存してきた組織や団体とは異なる、外部の民間技術力を活用することを目的として掲げています。この中には他国家も含まれており、これらのさまざまな分野で最先端の技術を持つ日本はこの試みにおいて主要なパートナーとなり得ます。

日本政府も、今後の国家経済と安全保障の健全性のためには新技術の重要性が高まっていることを認識しています。たとえば、上述した米国防衛革新イニシアティブの論理は日本の防衛省の文書からも見て取れます。

2014年に防衛省が出した「防衛生産・技術基盤戦略」では、「外部から防衛技術に適用できる優れた民生先進技術(潜在的シーズ)を適切に取り込んでいく必要がある」と指摘。そのためには「民生最新技術の調査範囲を拡大」し、情報共有や共同研究といった国際協力を促進するとしています。日米は幅広い分野の技術研究をしていることからも、これは更なる日米協力が考えられる分野でしょう。

日本は近隣の競争国におくれを取らず、米国やその同盟国・パートナーと歩調を合わせるためには、economic statecraftと呼ばれる幅広いアプローチを受け入れる必要があります。この考えは、新たな米国「国家軍事戦略」にも明示的に表れています。この文書には「中国は近隣諸国を脅かすために略奪的な経済手法を用いる戦略的競争相手である……中国は軍事近代化や、他国への工作活動、略奪的経済手法を用いて、インド太平洋地域を自国にとって有利になるように秩序の再構築を行おうとしている」とあります。

このような中国の考え方は、さまざまな政策から見て取ることができます。たとえば、「中国製造2025」計画は独自のイノベーションを奨励する政策をとることで、中国市場が海外企業にとって不利になるような計画となっています。また、米国製ミサイル防衛システムを受け入れようとする韓国を懲らしめるために、韓国行き団体旅行を禁止する事例も生じています。さらに、中国は政治危機の最中に日本へのレアアース輸出を禁じたことは記憶に新しいです。

単にこれらの政策を非難するのではなく、他国の政府もこのような手法を用いるべきであると考える専門家やアナリストが増えています。日本もこのような他国のeconomic statecraftに晒された際に、どのように日本として、あるいは同盟国・友好国と協力して対応して行くかについて本格的に考え、戦略の一部に取り込んで行く必要があるのではないでしょうか。

企業やビジネスも新概念を理解すべきだ

このような新たな安全保障環境においては、いくつかの新しい対応が必要とされています。

まず、日本は安全保障に対してより広い視野をとるeconomic statecraft戦略の構築を検討すべきです。この戦略は国力を包括的に捉え、貿易・投資・経済制裁・サイバー・経済援助(ODA)・金融政策・エネルギー政策・技術協力といった経済的なアプローチを含めるべきです。また、重視され始めてきたサイバー空間における脅威やパンデミックのような健康への被害、環境問題など、今なお進化・拡大し続ける安全保障上の脅威に対処するツールの性質と価値に対する柔軟な判断が求められます。

次に、日本は安全保障戦略におけるeconomic statecraft機能の強化に向けて、国家安全保障局内に「国家安全保障経済政策会議」を設置することが考えられます。米国では国家安全保障会議(NSC)と国家経済会議(NEC)が別々に存在していますが、安全保障と経済をきれいに分けることができなくなっている時代において、日本でも国家安全保障会議とは別の経済組織を作ることは必ずしも好ましくないです。国家安全保障経済政策会議は、戦略策定とその実施に限らず、安全保障に関する意思決定の最前線においてeconomic statecraftが考慮されるように努めなければならないです。

さらに、日本政府は民間企業と緊密に連携し、企業やビジネスに対してeconomic statecraftに関する考えを促し、奨励することが不可欠です。日本企業は、日本の国益を追求する上で経済ツールが果たす役割に対する理解がなく、また、この視点から戦略的に考える能力も持っていません。

日本企業は、サイバーセキュリティのベストプラクティスを導入・設計することから情報保護に関する政策に至るまで、安全保障と経済が重なる分野におけるニーズに敏感でなければならないです。日本政府や企業は新たに動き始めたeconomic statecraftを反映した戦略と実践の双方において、新しい考え方を受け入れることが必要不可欠なのです。
格好の練習台韓国
最近の韓国はの日本に対する姿勢は、許容し難いところがあります。このブログでは、過去において解説したように、韓国と断交しても、日本が被る被害は軽微ですが、韓国は甚大な悪影響を被ることになります。
日本軽視を続ける文在寅韓国大統領

日本としては、韓国に単純に制裁を課すというのでなく、長期的な戦略を持ってeconomic statecraftを発動するのです。韓国は断交したとしても、日本にはあまり悪影響はないので、格好な練習台になります。さらには、米国などの同盟国も、これに対してはあまり反対したり批判したりすることはないでしょう。
無論、単純に断交するだけというのではなく、韓国がある程度変われば、TPPへの加入とか、ODAなども実行することも視野に入れた包括的なものにすべきと思います。変わらなければ、台湾に対して手厚い支援を行うなどのことも視野にいれるべきです。
こうして、韓国などに実行してみて、失敗したところはきちんとフィードバックして日本独自のeconomic statecraftの実施方法を確立した後に、本格的に北朝鮮、中国、ロシアにも適用していくべきと思います。
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2019年3月6日水曜日

米上院、対北朝鮮制裁強化で「ワームビア法」再発議―【私の論評】軍事オプションを選択する可能性もある米国の北制裁(゚д゚)!


決裂した第2回米朝会談

先月ベトナムのハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談が決裂してから米国議会で対北朝鮮制裁を強化する動きが表面化している。

ロイター通信は5日、北朝鮮と取引するすべての個人と企業にセカンダリーボイコットを義務付ける法案が米上院銀行委員会に再び上程されたと報道した。

報道によると、上院銀行委員会に所属する共和党のパット・トゥーミー上院議員と民主党のクリス・バン・ホーレン上院議員はこの日、「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」を共同発議した。北朝鮮に抑留されて送還後に死亡した米国人大学生のオットー・ワームビア氏を追慕するためワームビアという名前が付けられた。

ブリンクアクトとも呼ばれるこの法案は北朝鮮の挑発が続いた2017年に上院で初めて発議され、同年11月に銀行委員会を全会一致で通過したが、上院本会議に回付されることができず会期終了にともない昨年末に自動廃棄された。

バン・ホーレン議員は法案再上程と関連、「北朝鮮が核能力を増やそうとしているという指摘が出続けているが米国がだまっていてはならない。2回目の米朝首脳会談が決裂した状況で議会が線を明確に引く必要性はいつになく重要になった」と明らかにした。

法案は北朝鮮政権と取引するすべての海外金融機関と北朝鮮政権を助力するために制裁を回避する個人にセカンダリーボイコットを義務的に課すことを骨子とする。

具体的には、北朝鮮と金融取引など利害関係がある個人と企業の米国内の外国銀行口座を凍結させ、関連海外金融機関の米国内口座開設を制限する措置が法案に盛り込まれた。

また、北朝鮮と合弁会社を作ったり追加投資を通じた協力プロジェクトを拡大する行為も国連安全保障理事会の承認がなければ禁止するようにした。

ただし2017年に法案が初めて発議された時に含まれた「南北経済協力事業開城(ケソン)工業団地再開反対」の条項は除外された。

ホーレン議員は「北朝鮮の石炭、鉄、繊維取引と、海上運送そして人身売買を手助けするすべての個人と企業に強力な制裁を課すよう義務化することで既存の国際法を効果的に執行させることに焦点を合わせている」と説明した。

ワームビア氏の両親はこの日声明を通じ、「この法案に含まれた制裁は金正恩(キム・ジョンウン)とその政権の行動を変えさせる有用な新たな道具を米国に提供するだろう」としてブリンクアクトの再上程を歓迎した。

【私の論評】軍事オプションを選択する可能性もある米国の北制裁(゚д゚)!


「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」は、17カ月間北朝鮮に抑留されて死亡した米国大学生、オットー・ワームビア氏の名を取った対北制裁案が米下院で可決しされたものです。上の記事にもあるように、 2017年に上院で初めて発議され、同年11月に銀行委員会を全会一致で通過しましたが、上院本会議に回付されることができず会期終了にともない昨年末に自動廃棄されました。

バージニア州立大3年生だったワームビア氏は2016年1月、観光目的で北朝鮮を訪問して体制宣伝物を盗もうとした容疑で17カ月間抑留されたあげく、北朝鮮の拷問により、意識不明の状態で解放されて6日後に死亡しました。

北朝鮮・平壌で、涙ながらに記者会見する米大学生の
オットー・ワームビア氏。(2016年2月29日)

米議会レベルでの対北制裁法は2017年7月末、米上院が北朝鮮の石油輸入封鎖など全方向での制裁を入れた「北朝鮮・ロシア・イラン制裁パッケージ法」可決(8月2日発効)後、さらに推進されたものでした。

既存法は▼北朝鮮の原油・石油製品の輸入遮断▼北朝鮮労働者の雇用禁止▼北朝鮮の船舶と国連対北朝鮮制裁を拒否する国家船舶の運航禁止▼北朝鮮のオンライン商品の取り引きおよび賭博サイト遮断--など全方向での制裁措置が含まれていました。エド・ロイス下院外交委院長(共和党)が「対北朝鮮遮断および制裁現代化法」で発議しました。

「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」は、既存法の実効性を高めるために北朝鮮との貿易取り引きを助ける金融分野の制裁に焦点を当てたものです。北朝鮮関連企業と取り引きをする外国金融機関、貿易業者と仲介業者などを米国主導の国際金融システムから排除する「セカンダリーボイコット(二次的制裁)」です。

特に、すべての規制を行政府の義務事項に規定するなど制裁の度合いを最高レベルに引き上げました。この法案によると、海外に派遣されている北朝鮮勤労者を雇用した外国企業も金融制裁の対象になります。国連などによれば、現在約5万人の北朝鮮住民が外貨稼ぎのために海外に派遣されており、金正恩政権は彼らの給与のほとんどを没収して年間3億ドル(約340億円)の収益を得ています。

米政治専門メディア「Washington Examiner」はこの法案が結局、北朝鮮との貿易・金融取り引きが最も多い中国をターゲットにしたものと解釈していました。

ワームビア法は、米議会 北朝鮮と取引する人や団体に対して、セカンダリーボイコット(二次的制裁)を義務付ける法案ということです。 米国大統領が 「制裁出来る」 から 「制裁しなくてはいけない」にかわるという事です。大統領の 裁量権がなくなり、法律違反した個人や組織を制裁しなければならなくなるということです。違反した個人や組織と取引した銀行も処罰の対象であり、最悪破綻することもあり得るということです。

例えば韓国軍が瀬取りに関与していた場合、韓国軍や韓国という国家が制裁対象になるということです。それは、中国も同じことです。中国の制裁破りに政府が関与(ほとんどの場合直接、間接に関与)ていた場合、中国政府も制裁対象になるということです。

スティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表
米国では、「ワームビア法」など対北朝鮮制裁を強化する動きが表面化していますが、それに加えて軍事オプションを求める声も起きていました。

米国務省のスティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表は2018年11月20日、李ドフン韓半島(朝鮮半島)平和交渉本部長との単独会談を行い米韓ワーキンググループ実務陣との全体会議を進める中で、「米朝交渉の推進派も(米国)国内で政治的に追い込まれているうえに、民主党が下院多数党になり、このように時間が流れることを待っているわけにはいかない」との立場を明らかにし、「(米朝対話の)窓が閉められている」という発言をしました。

「窓が閉められている」との表現は過去に緊迫した状況で使われたことがあります。ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2003年1月28日、米国のジョン・ネグロポンテ国連大使が「外交的解決のために開いていた窓が閉められている」と話したましたが、それから約2カ月後(3月20日)に米国はイラクに侵攻しました。

もちろんトランプ政権が北朝鮮の不誠実な態度に反発して直ちに北朝鮮に対する軍事行動を準備する可能性は低いと思われますが、「機会の窓」発言はトランプ政権内部で強硬圧迫論が頭をもたげていることを示唆するもので注目が必要です。

北朝鮮が対話による「核兵器の完全な廃棄」に応じない場合、制裁強化とともに軍事オプションの復活も否定できないです。しかしそうした行動には文在寅政権が必死に妨害することは明らかです。そのために米国はいま、韓国軍を動員しない方法でのミサイル基地破壊と「金正恩除去(レジームチェンジ)」訓練を強化し始めています。

ミサイル基地破壊訓練としては、11月19日に米国ユタ州ヒル空軍基地で史上初のF35A 60機によるミサイル基地破壊訓練「エレファントウォーク」が実施されました。この訓練は、中国やロシアを想定したものだとしていますが、実は北朝鮮のミサイル基地、特には移動式ミサイル発射台を壊滅する訓練でした。

014年就航の強襲揚陸艦「アメリカ」

金正恩除去作戦も同時に準備されています。在日米軍基地を活用した韓国軍を使わない「斬首作戦体制」の構築です。そのために上陸用強襲揚陸艦「ワプス」(1989年就航、41500トン)を2014年就航の強襲揚陸艦「アメリカ」(44900トン)に交代させます。

「アメリカ艦」は海上上陸作戦用の「ワプス艦」とは違い、特殊部隊含む海兵隊と輸送機オスプレイ、スーパーコブラ戦闘ヘリ、重量輸送ヘリのシー・スタリオン(CH-53)、対潜水艦ヘリ、偵察ヘリ、そしてF35Bステルス戦闘機など、空からの潜入に特化した最新鋭武器を搭載しています。

金正恩にオールインした「仲裁者文在寅大統領」の「北朝鮮非核化交渉」での影響力は低下するでしょう。数々の「ウソ連発」で国内的にはすでにレイムダック化していますが、米国に対しても「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」だと伝え、「金正恩が1年以内に非核化すると約束した」などと吹聴したため、韓国パッシングで米朝交渉から排除される可能性もあります。

韓国の民間シンクタンク、峨山政策研究院は12月19日に「2019年国際情勢展望」と題したリポートで「韓国が来年も北朝鮮問題ばかりに集中すれば、北東アジアのパワーバランスが変化する過程で『コリア・パッシング(韓国外し)』が現実化する恐れがある」と指摘しました。

2019年、韓国は「北朝鮮非核化」をめぐって米国と北朝鮮のどちらの側につくのかの選択を迫られることとなるでしょう。

米国の制裁はますます厳しくなりそうです。このままだと北朝鮮はとんでもないことになります。金正恩委員長が核兵器の申告に踏み出すか否か、トランプ大統領が、これまでの核兵器全面破棄の原則を守れるかどうか、2019年朝鮮半島の行方はこの二人の指導者の決断にゆだねられています。


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2019年3月5日火曜日

中国・ファーウェイvs.米国、全面抗争へ…世界中の通信で支障発生の可能性―【私の論評】ファーウェイは生き残れるかもしれないが、中国共産党はいずれ崩壊することに(゚д゚)!

中国・ファーウェイvs.米国、全面抗争へ…世界中の通信で支障発生の可能性



中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)がアメリカ政府を提訴する方針であることが明らかになった。アメリカ政府は国防権限法で政府機関に対してファーウェイや同じく中国企業の中興通訊(ZTE)のサービスおよび製品の利用を禁じており、それに対してファーウェイは「裁判もなく特定の企業に制裁を科すのはアメリカ憲法違反にあたる」と主張する見込みだという。

 ファーウェイはアメリカ本社のあるテキサス州の裁判所に提訴するようだが、確かにファーウェイは中国企業であるものの、アメリカ本社はアメリカ企業であり、アメリカの国内法で守られるべき存在になる。判例としては非常におもしろい裁判になる可能性があるが、国防権限法は議会が定めた法律であり、政府はそれに従い行政を行っているにすぎない。そのため、ファーウェイの動きはアメリカ政府と議会のさらなる反発を招く可能性が高い。

 また、国防権限法は安全保障に関する法律であり、国民の安全を守るという国家の最大の責務と主権に関する法律である。世界貿易機関(WTO)でも安全保障に関する問題は例外条項とされており、安全保障を理由に国際貿易などを制限することが許されている。

 この問題を考える上では、法原則としての「統治行為論」が大きな意味を持つことになるだろう。これは「国家の重要な政治的判断は司法による法解釈の枠外である」という考え方で、簡単に言えば「国がなくなればその国の法律は無意味になるので、司法の判断の枠外である」というものだ。日本でも、過去に自衛隊違憲訴訟などで適用されている。

ファーウェイをいつでも潰すことができる米国

 ファーウェイといえば、副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟被告がカナダで拘束されており、アメリカは身柄の引き渡しを求めている。カナダ司法省は3月1日に身柄引き渡しの審理開始を決定しており、6日には孟被告が出廷する予定だ。

 孟被告と法人としてのファーウェイは1月にアメリカ司法省に起訴されているが、その理由はイランへの金融制裁違反と銀行詐欺(銀行を騙しての不正な送金)、さらにTモバイルに関する産業スパイの容疑であり、問題はそれらが誰の指示で行われたのかである。

 孟被告単独の可能性は低く、中国人民解放軍出身の創業者で孟被告の父でもある任正非最高経営責任者(CEO)や中国政府および軍の関与も指摘されている。アメリカとしては、事実上の終身刑もあり得る刑罰の軽減または免責と証人保護プログラムの適用を引き換えに、孟被告にすべてを吐き出させたいはずだ。そして、仮に孟被告が任CEOや軍の関与を認めれば、ファーウェイ問題は次のステージに移ることになるだろう。

 ちなみに、今回の容疑は金融制裁違反であるため、アメリカとしては大統領令でファーウェイをセカンダリーボイコット(二次的制裁)の対象として「SDNリスト」(アメリカの経済制裁の対象となる人や国、法人のリスト)に入れることができる。そうなれば、ファーウェイはアメリカとの取引がある世界中の銀行の口座が凍結され、一切の金融取引が禁じられる可能性もあるわけだ。いわば、アメリカはドナルド・トランプ大統領の判断ひとつでファーウェイをいつでも潰すことができるといっても過言ではない。

 ただ、現在のファーウェイのシェアを考えた場合、そうなれば世界中で通信に支障が出る可能性があり、同時にアメリカが悪者扱いされることも考えられる。そのため、通信規格の世代が変わるタイミングで、まずは「5G」市場から排除し、影響が緩和されたところで一気に締め付けるという方策が現実的だ。

 任CEOはすでにBBC(英国放送協会)のインタビューで「アメリカに押し潰されるなどあり得ない」などと語っており、アメリカに対して徹底抗戦の構えを隠していない。いずれにせよ、一連の動きによって、ファーウェイとアメリカは全面対決の様相を呈してきた。

 一方で、中国は拘束中のカナダ人2人について「国家機密情報の窃取に関与していた」との見方を示すなどカナダへの圧力を強めており、今後も中国およびファーウェイとアメリカの対立はエスカレートしていくだろう。そして、それは米中の貿易協議にも大きな影響を与えると思われる。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】ファーウェイは生き残れるかもしれないが、中国共産党はいずれ崩壊することに(゚д゚)!

18年にファーウェイ問題が騒動になってから、それまでメディアにあまり登場していなかった創業者の任正非CEO(最高経営責任者)や同社幹部などがたびたびメディアの取材に応じています。その中で、ファーウェイ側は米政府による指摘について、ことごとく否定していました。

しかし、彼らの疑惑に対する回答は「玉虫色」だと言わざるを得ないです。例えば、梁華会長は2月12日、カナダのトロントで記者の質問に応じ、「中国政府から外国の通信網へのバックドア(裏口)設置を要請されたとしても、法的に義務がないことを理由に拒否する意向を示した」といいます。また、「そうした要請をこれまで受けたことはないが、要請があったとしても拒否するだろうと話した」と報じられています(ブルームバーグ、2019年2月22日付)。

ちなみにバックドア(裏口)とは、攻撃者が自由に不正アクセスできる、システムの“裏口”を指します。

ただこの話はバックドアに限定した話であり、政府からの情報提供の要請に応じないとは言っていません。というより、中国企業には応じないという選択肢はありません。

中国には、17年に施行された「国家情報法」という法律が存在します。この法律は、民間企業も個人も政府が行う情報活動に協力しなければならないというものです。中国政府からの「バックドア設置の要請」は断れば、情報提供を断ったことになり、法律違反になるのです。

さらに言えば、サイバー空間のスパイ工作で情報を盗むのは、バックドアを設置しなくてもできます。情報を盗む術はいろいろと考えられるのです。任正非CEOは、「良い製品を作れば売り上げの心配をする必要などない……買わないなら向こうが損するだけだ」と自社の技術力に自信を見せていますが、その技術力をもってすれば、情報を抜く手段はバックドアを設置せずとも十分に可能です。



もっとも、過去には実際に、ファーウェイ製品から情報が抜かれていた話も出ています。17年には、エチオピアに拠点を置くアフリカ連合(AU)本部のコンピュータシステムから、過去5年にわたって、毎晩、真夜中の0時から2時の間に機密情報が上海に送信されていることが判明しました。このシステムは、中国政府がファーウェイ製の機器やケーブルなどを使って設置したものでした。

また14年には、オーストラリアの大手企業が、会社のネットワークからファーウェイ製品を介して不正にデータが中国に送られていることに気が付いたという事件がありました。それ以降、オーストラリアでは政府関係機関や大手企業などでファーウェイ機器を使わないよう情報を通達しました。

こうしたスパイ工作についても、ファーウェイの任正非CEOや幹部たちは反論しています。そして、ファーウェイが中国政府のスパイ工作に加担しているという指摘について、米国は何ら証拠を示していないと主張しています。「盗んでいる証拠を見せろ」ということです。

ファーウェイの任正非CEO

この点について、米国側の見方はどうなのでしょうか。実のところ、米国はスパイ行為を証明する必要はないと考えていいます。

そもそも必要とあれば、国民の代表である議会議員らが連邦議会の委員会できちんとした捜査を行うことになります。現状、米国内では、その必要性すら議論されていません。過去にファーウェイが米国のメーカーなどから機密情報を盗んできた証拠もあるし、それはファーウェイ側も否定しないはずです。そんな背景からも、米国側に言わせれば、今のところスパイ工作や中国政府とのつながりを証明するまでもないのです。

さらに付け加えれば、もし米国が新たにファーウェイによるスパイ工作などのハードエビデンス(動かぬ証拠)を持っていたとしても、それが米国側から中国に対するサイバー攻撃やハッキングなどで得たものならば、公表はできるはずがないです。それ自体が、機密作戦だからです。

そもそもサイバー攻撃は、それが行われた事実を具体的かつ決定的に証明するのが難しいです。真実はどうであれ、中国政府は自らの関与を否定することができるのです。また、米国が公の場で中国の責任を問い詰めるためには、自国政府の機密やサイバー上の能力を露呈しなければならなくなります。その犠牲を払ってまでアメリカが中国政府を責めたてるとは考えられないです。


一方で、こんな声もあります。ファーウェイ自身が、同社製品には何ら怪しいことはないと証明すべきではないか、と。

例えば、16年に韓国サムスン電子製スマホである「Galaxy Note 7」が火を噴いた事件を覚えているでしょうか。当時サムスンは、その大打撃から挽回するために、客観的に調査を行う外部の専門家を雇い、徹底した内部調査を開始。その結果を広く公表することで、自社製品の安全性を訴えました。さらに、欧米などのさまざまなメディアをバッテリー工場に招き、取材もさせました。そうすることで、安全性と再発防止に向けた意思を対外的にアピールしました。

ファーウェイも本部で開催する記者会見にメディアを呼ぶだけでなく、きちんと情報を開示するなどして「後ろめたいことはない」ということをアピールすべきでしょうか。

通信機器を販売する米シスコも、機器にスパイ工作用のチップが埋め込まれているという疑惑が出たことがありましたが、シスコ側は、消費者にシスコ製品を購入して徹底的に調べてほしいと訴えました。しかも調べるために購入した代金は、シスコが負担するとまで言ったのです。ファーウェイもここまでコケにされたら、口だけでなく、疑いを晴らすべく行動すべきです。


こうしたさまざまな議論が交わされている中、トランプ大統領がまた予想外の動きを見せているとして話題になっています。トランプは、ファーウェイ排除について「見直し」を示唆しているとも報じられています。協議中である米中の貿易交渉を意識してのことのようです。

そもそも、米国がファーウェイを排除することは何ら「異常なこと」ではありません。というのも、中国政府も米IT大手のFacebookやTwitterなどを利用できないようにして米大手企業を実質的に中国市場から排除しています。ファーウェイ排除も、要はお互いさまなのです。

ではトランプは「見直し」をする可能性があるのでしょうか。そのヒントは、中国通信機器大手・中興通訊(ZTE)のケースにあるかもしれません。

米政府は18年4月、対イラン・対北朝鮮の制裁に関連する合意にZTEが違反したとして、米国企業にZTEとの取引禁止措置をとりました。これによって、半導体など基幹部品を調達できなくなったZTEは、スマホなどの生産ができなくなってしまいました。

追い詰められたZTEは、習近平国家主席に泣きつき、トランプへの口利きを要請。結局、ZTEはトランプに屈して、10億ドルの罰金を支払った上で、今後10年間、米国の内部監視チームを入れることにも合意しました。

おそらく、ファーウェイもこのくらいまでしなければ、トランプに排除を撤回させることは難しいのではないでしょうか。


ここまで見てきたような動きに加え、メディアでは、中国がニュージーランドとの貿易などで輸出を遅延させているという話が浮上したり、中国がオーストラリアからの石炭輸入を禁止にするという話も出てきたりしています。

ニュージーランドもオーストラリアも5G(第5世代移動通信システム)でファーウェイ製品を排除する方向で動いており、中国による報復措置だとする向きがあるのです。事実なら、やはり中国政府はファーウェイの後ろ盾になっていると示しているようなものです。

ちなみに英国でも、情報機関がファーウェイ製品について「リスクは管理可能」だと述べていることが話題になっています。ただし、英政府はファーウェイ製のスマホなどは禁止にしないかもしれないですが、通信機器やルーターなどインフラに絡むものは禁止していくことになるでしょう。

そもそも、英国のHSBCが 窓口となった資金洗浄とイランへの不正輸出のかどで、ファーウェイの孟晩舟副社長がカナダで拘束され、取り調 べが済み次第、米国へ移送される手筈、米国で訴訟が待っているわけです。これまでに判明している事実経過は、送金に利用された HSBCが司法取引に応じて、確固たる資料を提供していたことです。

孟晩舟は「わたしは関与していない。無罪である」と主張を繰り返していますが、HSBCでファーウェイが架空取引の口座 として使用していたのが「スカイコム」と「カニュキラ・ホールディング」という二つのペーパーカンパニーでした。

ファーウェイが1590万ドルを「カニキュラ」に貸与して、一年後に返金されている事なども口座取引の記録から判明して います。

両口座はHSBCにより閉鎖され、その残金がファーウェイに戻されていました。「スカイコム」は、イランのパートナーを通 じて、HP(ヒューレット・パッカード)のコンピュータを1500万ドルで売却していました。

こうした不正行為が発覚したのが2010年で、HSBCは司法取引に応じて19億2000万ドルを米司法省に罰金とし て 支払い、同時にファーウェイとの銀行取引をやめ、口座を閉鎖しました。

1500万ドルの不正送金で、19億ドル余の罰金とは、なんと間尺に合わないことなのでしょう。おそらく水面下の余罪は、巨 額にのぼるでしょうが、米国の裁判で、そのような機密口座の資料が公開される可能性があります。

HSBCの内部調査資料では、ファーウェイとスカイコム、さらにはファーウェイが2007年にスカイコムを売却したとする相手企業のカニキュラ・ホールディングスとの関係について新たな情報を提供しています。3社ともかつてHSBCに口座を保有していました。

資料によると、スカイコム株売却を報告してからかなり後も、ファーウェイがスカイコムとカニキュラ両社の経営権を握っていたと示唆するような関係性があったことが調査で明らかになっています。また、カニキュラによるスカイコム買収に対してファーウェイが資金を融通したことも発覚しました。

こういった関係があったにもかかわらず、孟CFOはHSBCの幹部に対するプレゼンテーションで、スカイコムはイランでの「ビジネスパートナー」だと説明。司法省起訴状では、このプレゼンテーションは「多くの事実を曲げて伝えていた」とされています。

ファーウェイは、今後も米国を批判し、安全だと主張し続けて潰れる道を選ぶのでしょうか、もしくは透明性を高め安全性を客観的に証明して生き残りの道を選ぶのかいずれかの道を選ばなければならないのは間違いないです。


ファーウェイは生き残りを模索できるかもしれませんが、中国共産党はそうではないかもしれません。

孟晩舟被告が米国で、司法取引に応じて、中国政府の関与について証言することになれば、中国のメンツは丸つぶれになり、米国と中国の対立はさらにエスカレートすることになります。

私は、トランプ大統領のファーウェイ排除について「見直し」を示唆したことは、孟晩舟被告の司法取引に関係していると考えています。ファーウェイを完璧に排除ということになれば、孟晩舟被告は司法取引に応じない可能性もあります。

トランプ大統領というか、今や米国の考えでは、一企業であるファーウェイを潰すことに大きな意味はないです。それよりも、その背後にあり、ファーウェイを操っている中国共産党をどうにかしたいのです。

米国は、孟晩舟被告の司法取引を機に、中共の卑劣な情報技術の窃盗の実態を明確化し、その後に中国に対する制裁を強化しようとしているのです。

米政府は中国が本格的に構造改革を実行して民主化、政治と経済の分離、法治国化を推進するか、中国がそれを拒否すれば、中国に対しても北朝鮮に実行しているような本格的な制裁を課すことになるでしょう。

それは、中国経済が弱体化して、他国に対して影響力が行使できなくなるまで続くでしょう。その過程において、無論中国共産党一党独裁体制は崩壊することになります。


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2019年3月4日月曜日

米中貿易戦争は中国経済低迷の主因ではない―【私の論評】主因は政府による経済活動への関与の強化によるもの(゚д゚)!

米中貿易戦争は中国経済低迷の主因ではない

岡崎研究所

トランプ大統領


トランプ大統領の貿易・通商政策が経済学のイロハでは推し量れないことが多いことは、エコノミストたちから指摘されてきたことである。

 1月28日付のニューヨーク・タイムズ紙には、アラン・ラップポート記者の記事で、『トランプ大統領は、最近の 中国経済の景気が悪いのは自分(トランプ)が仕掛けた対中貿易戦争によるも のであると認識している』、と書かれている。

中国専門家の中にも、同様に、米中対立によって中国経済は減速している、と考える人がいる。このような見方に対して、米国経済政策研究センターのシニア・エコノミストであるディーン・ベーカー氏は、1月29日付の同センターのサイトで、反論している。

彼が強調したのは、最近の中国の景気低迷の主因はトランプが仕掛けた貿易戦争にあるのではないという点である。その根拠として次の4 点を挙げている。

ディーン・ベーカー氏

 第1は、中国の対米輸出が減っていない事実である。例えば、米国の対中国貿易収支赤字は 2018 年(10月まで)は前年同期比で 350 憶ドル増加している。

  第2は、仮に減ったとしても中国の対米輸出は、対GDP 比率で高々4%弱であることである。

  第3に、付加価値連鎖を考えれば、対米輸出の増加は輸入となって漏れる割合が大きいから、GDPを低下させる効果は小さいことが挙げられている。

  例えば、中国の対米輸出の主な品目は「電話機(携帯電話等)」、「自動データ処理機械(PC 等)」、「TV、モニタ ー等」であり、これら製品はサプライチェーンによって外国から輸入した集積回路などの基幹部品を基に 中国で組み立てた完成品である。ちなみに、iPhone の部品サプライヤー200 社の中で中国企業はわずか36社であり、ほとんどは米国企業、台湾企業、日本企業となっているとの報道もある。

   そして、第4に、米国からみると対中国輸入が減少した場合には、対第三国からの輸入が増えるという貿易転換効果が働く結果、中国から第三国への輸出は増加するという面もあること等である。

常日頃のマスコミ報道をみても、中国経済低迷の主因は米中貿易戦争にあるというのが主流になっているようであるが、こうした報道に違和感を抱いていた者にとって、今回のベーカーの主張は納得の行くものである。


 それでは、中国経済低迷の主因は何か。ここでは3つだけ指摘しておこう。

 第1に、現在の中国経済は過大債務、過大資本ストックによって資本の収益率は極めて低くなっている。あるいはマイナスになっている。

 第2に、それ故に設備投資の大きな下方屈折は避けらない。既に、そのことは、日本との貿易にも表れている。

 第3に、こうした設備投資の下方屈折を最小限にするためには、消費の持続的な上昇、すなわち家計の貯蓄率の低下が必須条件であるが、それが実現していない。

 要するに、(a)投資から消費へのバトンタッチがスムーズに行われていないこと、(b)このバトンタッチには時間がかかること、(c)そしてその間は中国経済の走行速度は減速するということである。

 事実、乗用車、工作機械、スマホ、工業用ロボットなど主要工業品の昨年第4四半期の出荷は前年比で約2割前後低下している。さらに言うと、国有企業優先路線への回帰や資本集約産業の保護に繋がる「一帯一路」戦略も最近の中国経済の低迷の根底にあると見る向きもある。


 ところで、関税の影響に関してのトランプ大統領のもう一つの誤解は、米国の追加関税を負担しているのは中国などの外国であるという認識である。なるほど米国の最近の関税収入は急増している。

 例えば、2018年11月の関税収入は前年同月比で 2倍増の63億ドルである。ただ、これを負担しているのは中国人ではなく、米国人である。例えば、米国が輸入鉄鋼にかかる関税を引き上げた場合についてみておこう。

 教科書的にいえば次のとおりである。まず、(a)輸入鉄鋼の関税引き上げによって、この鉄鋼を生産する鉄鋼部門は得をする(生産者余剰の増大)。(b)次に鉄鋼を使用している自動車等の産業は必ず損をする(使用者余剰の減少)。(c)ここで重要なことは使用者余剰の減少分は生産者余剰の増加分より必ず大きくなることである。

 より厳密に言うと、政府の関税収入は増加するが、このプラス分を加えても、国の全体の余剰は必ず減少するのである。


 以上の点は経済学の教科書に登場する架空の話ではない。ここではトランプ政権によって昨年3月に発動された鉄鋼への25%の関税による影響を計算したピーターソン国際経済研究所(PIIE)の分析結果をみておこう。

 昨年12月20日付の同報告によると、(a)まず国内の鉄鋼価格は追加関税によってこの10月までに9%上昇した。

 (b)その結果、鉄鋼産業の2018年の利潤は 24億ドル増加し、雇用は8700人増加すると見込まれる。すなわち、新規雇用者一人当たりの企業利潤増加額は27万ドルとなる。

 (c)一方、自動車などの鉄鋼使用産業のコストは56億ドル増加する。すなわち、鉄鋼業の一人当たり新規雇用者のために鉄鋼使用産業は65万ドルの追加負担をしていることになる。

 しばしば言われていることではあるが、川上産業での輸入関税は川下産業のコストアップを通じて、国全体としては便益よりも大きなコストをもたらす。その典型例が今回の鉄鋼への関税である。また、昨年11月に発表されたGM社のリストラ計画や建設機械大手企業の決算が振わないのは、今回の鉄鋼の追加関税措置と無縁ではあるまい。


 いずれにしても、以上述べたような関税を巡る「誤解」に基づいて貿易相手目の輸入政策と産業政策の大きな転換を迫るトランプ政権のディールはどのような「勝利」を得られるのか、いましばらく注目したい。

(ブログ管理人注:原文ではあまりに各段落が長く、読みにくいため、適宜改行して読みやすくしました。元の段落を示すため、段落毎に二行文改行しています。)

【私の論評】主因は政府による経済活動への関与の強化によるもの(゚д゚)!

中国経済はなぜ低迷するようになったか、という設問に答える前に、まず、中国経済がなぜ成長できたか、という設問に答えなければなりません。

毛沢東の時代(1949-76年)、中国経済はほとんど成長しませんでした。その原因は端的にいえば、政府による統制が強すぎたので、活力が完全に消されたためです。鄧小平は「改革・開放」政策を推し進め、経済が自由化されたために、中国経済は遅れを取り戻すことができたのです。

毛沢東

振り返れば、1970年代、農産物や消費財などの生活必需品が極端に不足していたにもかかわらず、農民は自分の庭で作った野菜を都市部へ持ち込んで売ると、資本主義といって拘束され、野菜なども没収されました。

自由がなければ、経済は活性化しません。鄧小平は中国の人民にある程度の自由を認めました。むろん、その自由は限られたものでした。すなわち、鄧小平は中国の人民に、政治に関する自由は与えなかったのです。

中国経済の特異なところは、自由な市場経済と専制政治が共存できたところにあります。本来なら、自由を前提とする市場経済は必ずや民主主義の政治体制とペアとなってはじめて機能するものとされています。

鄧小平

しかし、完全に束縛されていた経済が限定的な自由を得るだけで短期的にエネルギーを発揮することがあります。しかも、経済をどん底にまで陥れた政府は短期的に経済を発展させることで目的が一致します。

問題なのは、経済が遅れをとりもどし、富がかなり蓄積されてから、政府の本心が現れてくることです。すなわち、富の分配において政府は市場メカニズムに任せることを考えないのです。

市場経済の原則は働く者が報われることです。しかし、中国において富の分配は権力を軸にして行われています。権力の中心に近いものほどたくさんの富を得ることができます。これは腐敗とも関連する動きです。

専制政治は経済の自由化を必ず妨げることになります。専制政治は独断的に政治権力を分配します。権力者はより多くの富を勝ち取ることができます。自由が束縛されれば、経済はおのずと活力を失ってしまいます。実は、経済が持続的に発展するかどうかは資源の配置が公平に行われているかどうかにかかっているのです。


中国では、国有銀行と国有企業が大半の資源を支配しています。それに対して、民営企業はもっとも多くの雇用を創出し、GDPへの寄与度も国有セクターを凌駕しているのですが、勝ち取る資源は3分の1程度にとどまります。中国経済は鄧小平がグランドデザインした自由化の路線を歩み続けるか、統制経済に逆戻りするかの選択を迫られているのです。

2013年11月、共産党中央三中全会で市場経済改革を深化させることが決定されました。しかし、中国経済の実態は市場経済とは逆の方向へ向かっています。李克強首相が就任当初から唱えたのは「規制緩和」(deregulation)と「地方分権」(decentralization)でした。

ところが、政府によるコントロールと国有企業の力は強まる一方です。しかし、地方政府は規制緩和に協力的ではありません。政府部門による経済への関与はさらに強化されています。これこそ中国経済が減速した真の原因なのです。


資源の配置と富の分配はいずれも政府に依存する状況下で合理化する見込みはほとんどありません。中国経済の減速はファンダメンタルズの悪化によるものではなく、政府による経済活動への関与の活発化によるものです。

中国は持続的な経済発展を実現するには、時間がかかるにしても、国有セクターの民営化を目標に掲げるべきです。政府機能は、経済を管理する役割から行政サービスを提供する役割に変身する必要があります。こうしてみれば、中国の市場経済化の改革は今までの40年間、ほんの一歩しか踏み出していないことが分かります。

中国経済の現在の低迷は、政府による経済活動への関与の活発化によるものです。本来ならば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、多数の中間層を輩出して、これらに自由に社会経済活動ができる仕組みを構築すれば、中国経済さらに活発化するはすです。


しかし、現実には、中国では政治と経済が不可分に結びついています。これでは、限界が来るのは当然です。現在の状況は、中国経済の発展に限界がきたときに、米国が中国に対して貿易戦争を挑んだということです。

ただし、米国の対中国冷戦は貿易にとどまるものではありません。覇権争いの部分もありますが、それだけにとどまるものでもありません。国際秩序を中国の都合の良いように変えてしまうことを防止するという意義があります。

民主化も、政治と経済の分離も、法治国家化もされていない中国にとって都合の良い国際秩序なるものはどのようなものになるのでしょうか。一言でいえば、暗黒世界です。

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