2019年4月26日金曜日

戦争への道も拓くトランプのイラン革命防衛隊「テロ組織」指定―【私の論評】トランプ政権はイランと事を構える気は毛頭ない。最優先は中国との対決(゚д゚)!

戦争への道も拓くトランプのイラン革命防衛隊「テロ組織」指定

岡崎研究所

 4月8日、米トランプ政権はイランの革命防衛隊を「テロ組織」に指定した。それに関するホワイトハウスの発表の概要は次の通り。

    ソ連の軍事技術や核を継承すロシアだが、そのGDPは東京都を下回り
    もはや米国と直接退治することはできないだろう。

 トランプ政権は、イランのグローバルなテロ活動に対抗すべく、イスラム革命防衛隊(IRGC)を 海外テロ組織に指定した。

 政権は、イランの支援を受けた世界中のテロに向けてより広範な対処の一環として、この前例のない措置を執る。

 政権のこの行動は、イランへの金融的圧力とイランの孤立化を高め、イランの体制がテロ活動に利用し得るリソースを奪うことになる。

 この措置は、IRGCが世界中のテロに資金を与えるべくダミー企業を運営していることを、他国の政府、民間部門に知らしめることになる。

 この措置は、米国が他国の政府組織を海外テロ組織に指定した初のケースである。指定は、イランの体制によるテロの利用がいかなる他国によるものとも根本的に異なるということを、強く示すことになる。

 イランの体制は、テロを「外交手段」の中心的道具として用い、IRGCにグローバルなテロ活動を指揮させたり実行させたりしている。

 IRGCは、テロ組織に資金、装備、訓練、兵站の支援を与えている。傘下のクッズ部隊を通じて、多くの国におけるテロ計画に関与している。

 イランの体制は、世界でも第一のテロ支援国家であり、ヒズボラ、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦などのテロ組織を支援するのに毎年10億ドル近くを費やしている。

参考:‘President Donald J. Trump Is Holding the Iranian Regime Accountable for Its Global Campaign of Terrorism’(White House, April 8, 2019)
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-holding-iranian-regime-accountable-global-campaign-terrorism/

 今回のIRGCのテロ組織指定は、イラン核合意からの脱退をはじめとする、トランプ政権の対イラン強硬策の一環、またイスラエルの総選挙直前に発表していることを考えると、ネタニヤフ首相への支援が目的と思われる。しかし、IRGCをテロ組織に指定したことで何が達成できるのか、はっきりしない。上記ホワイトハウス発表を読んでも、よく分からない。

 トランプ政権自身も認めている通り、他国の政府機関(IRGCはイランの政府機関)をテロ組織に指定するのは異例のことである。テロ組織指定制度は、国の組織全体を指定する趣旨で作られたものではない。IRGC傘下のクッズ部隊は既に2007年にテロ組織に指定されている。この指定制度をIRGCに適用すること自体大きな問題である。IRGCは正規軍であって、非正規軍ではない。イランは徴兵制であるから、IRGCには、徴兵された人が大勢いる。これを全体としてテロ組織に指定することは、イラン人であるからという理由でテロ指定するに等しい。それに、IRGCは参加希望者の多い軍種である。その一部司令官とか部隊とかを指定するのとは話が違う。

 今回の指定には、イラン側が早速反発し、直ちに、米国をテロ支援国家、米中央軍(CENTCOM)をテロ集団とみなす、と発表した。米イラン対立は当然強まるであろうし、シーア派の民兵組織等に米軍への攻撃の「大義名分」を与えることにもなる。

 エルサレムをイスラエルの首都と認めて大使館を移転し、ゴラン高原をイスラエルの領土と認めるといった、トランプ政権の一連のイスラエル寄りの行動は、イランに、パレスチナ人とアラブ人の唯一の擁護者であるとの姿勢をとることを可能にさせてしまっている。トランプ政権が肩入れしているネタニヤフがイスラエルの総選挙で勝利し続投が決まり、ネタニヤフの冒険主義も懸念される。

 トランプ政権の中東における行動は、地域の混乱をもたらすとともに、その強硬な対イランのレトリックにも拘わらず、イランの地域における勢力伸長をかえって助けている。フィナンシャル・タイムズ紙のガードナーは、4月9日付けの記事‘Trump’s move on Iran’s Revolutionary Guard raises the temperature’で、「前例のないIRGCのテロ組織指定はイランに何の経済圧力もかけない。これはイランとの緊張を解決するためのもう一つの道を閉ざす。全てのドアが閉ざされ、外交が不可能になれば、戦争が本質的に不可避になる。」と指摘している。その通りであろう。
【私の論評】トランプ政権はイランと事を構える気は毛頭ない。最優先は中国との対決(゚д゚)!
トランプ大統領は8日の声明で「米国務省が主導するこの前例のない措置は、イランがテロ支援国家だというだけでなく、IRGCが国政の手段として積極的に資金調達し、テロを助長していることを認識してのことだ」と述べました。

トランプ大統領はさらに、今回の措置はイランに対する圧力の「範囲と規模を大幅に拡大」する狙いがあると付け加えました。

国務省によると、IRGCのテロ組織指定は今月15日に発効しました。

イラン強硬派のマイク・ポンペオ米国務長官とジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はいずれも今回の決定を支持しています。一方で、全ての米政府高官が支持したわけではありません。

ポンペオとボルトン

ポンペオ国務長官は8日、記者団に対し、アメリカは今後もイランに対し「普通の国家のように振舞う」よう制裁と圧力を続けると述べ、アメリカの同盟国に同様の措置をとるよう求めました。

「イランの指導者たちは革命家ではない。国民にはより良いものを得る権利がある。指導者たちは日和見主義者だ」

国務長官はその後のツイートで、「我々はイラン国民が自由を取り戻すため支援しなければならない」と付け加えました。

ボルトン大統領補佐官は、IRGCのテロリスト指定は「正当」だとツイートしました。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長を含む国防総省の一部高官は、米軍の安全性について懸念を示したといいます。

米軍幹部は、今回の指定がイラン経済に大きな影響を与えず、中東に駐留する米軍への暴力を引き起こす可能性があると警告しました。米中央情報局(CIA)も反対していたと報じられています。

イラン国営のイラン・ニュースネットワーク(IRINN)によると、最高安全保障委員会(SNSC)は、ジャヴァド・ザリフ外相が対応を求める書簡をハッサン・ロウハニ大統領に提出した後、アメリカ中央軍(Centcom) をテロ組織に指定すると発表しました。

中央軍は国防総省の下部組織で、特にアフガニスタン、イラク、イラン、パキスタン、シリアなどの地域における米政府の安全保障上の利益を監督しています。

2015年のIRGC集会に出席したイランのハッサン・ロウハニ大統領(左)

トランプ政権がIRGCのテロ組織への指定を検討していることが報じられた後、イランは対抗措置を取ると警告していました。

国営イラン通信(IRNA)によると、イランの国会議員290人のうち255人が署名した声明では「我々はIRGCに対するいかなる措置にも、対抗措置で応じるだろう」と強調しました。

一方、9日に総選挙を控えるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、アメリカの措置への支持を表明するツイートをしました。

中国の習近平国家主席は今月20日、訪中したイランのラリジャニ国会議長と会談し、国際情勢にかかわらず、イランと親密な関係を築きたい意向に変わりはないことを伝えました。

ラリジャニ国会議長と会談した習近平

中国外務省が21日公表した文書によると、習主席は議長に対し、中国とイランは長年にわたり友好関係をはぐくみ、相互の信頼を築いてきたと発言。「国際社会や地域の情勢がどう変わろうと、イランと包括的かつ戦略的なパートナーシップを築くという中国の決意は変わらない」と述べました。

習主席はまた、中国とイランは戦略的な信頼関係をさらに深め、中核的な利益と主要な懸念について互いに支援し続けるべきとの考えを示しました。

さらに、中東地域を安定と発展に向かわせるため、国際社会と当事国は協力すべきと主張。「中国は地域の平和と安定の維持に向けてイランが建設的な役割を果たすのを支援するとともに、地域の問題において緊密に連絡を取り、協調する用意がある」と述べました。

ラリジャニ氏とともに、イランのザンギャネ石油相、ザリフ外相も中国を訪問。19日には外相会談が行われました。

中国はイランなど中東産の石油に大きく依存する一方、中東地域の紛争あるいは外交面で中国が役割を担うことはこれまでほとんどありませんでした。しかし、最近は特にアラブ諸国における存在感を強めようと動いています。

21日からはイランと長年にわたり中東の覇権争いを続けるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が中国を訪問します。

トランプ政権はイランを孤立させ、国際社会から排除することを望んでいます。今回の決定でも、それがまた強調されたわけですが、実際にIRGCの活動に重大な影響を及ぼすことはなさそうです。

IRGCが中東地域の内外のあらゆる破壊行為に関与していると、このことに異議を唱える西側諸国の専門家はほとんどいないです。

しかし米国務省や国防総省の一部高官を含む大勢は、今回の措置について、ただ裏目に出て終わるだけではないかと懸念しているようです。

IRGCや関連組織が、イラクなどで勢力が脆弱(ぜいじゃく)な米軍やその他の標的に対して、何らかの行動を起こすことにつながる可能性があるのではないかと、専門家は心配しているのです。

トランプ政権はイランとの対立をひたすら激化したい意向で、今回の措置はその意思表示です。ただ、激化した対立はいつか、あからさまな軍事衝突に発展するのではないかという懸念もあります。

中東情勢というと、トランプ大統領による米軍のシリア電撃撤退発表は、米政府高官らも驚く突然の決定でした。その背景には、シリアをめぐって「大統領とエルドアン・トルコ大統領の思惑の一致」(ベイルート筋)という“裏取引”が浮かび上がってきました。この余波で、当時のマティス国防長官が辞任したのは記憶に新しいです。

トランプとしては、エルドアン大統領のトルコをアサド政権の拮抗勢力とみなし、トルコを支援することで、アサド政権を牽制する腹であるとみています。

そうして、これは中国との対峙に力を入れるためであると解釈しました。であれば、今回なぜ革命防衛隊を 海外テロ組織に指定したのでしょうか。

私は、これにより、トランプ政権はイランと厳しく対峙して、挙げ句の果てに本格的戦争にまでエスカレートさせる意図はないと思います。

これも表向きとは異なり、中国との対峙に専念するためのトランプ政権の布石の一つではないかと思います。

米政府はイランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)」のテロ組織指定に関し、第三国の政府や企業・非政府組織(NGO)がIRGCと接触した場合に自動的に米の制裁対象となる事態を回避するため、例外規定を設けた。現役の米当局者3人と元当局者3人の話で明らかになっています。

例外規定によって、イラクなどの諸国の当局者がIRGCと接触した場合に必ずしも米国の査証(ビザ)発給は拒否されないことになります。例外規定については、国務省の報道官がロイターの質問に答える形で説明しました。

IRGCはイランの精鋭部隊で国内の企業活動にも深く関わっています。例外規定によって、イランで事業を行う第三国の企業の幹部らやシリア北部、イラク、イエメンで活動する人道支援団体は米制裁の対象になることを恐れずに活動が継続できるようになります。

ただ、米政府は、米国が指定した外国のテロ組織(FTO)に「物質的な支援」を提供した外国政府、企業、NGOのいかなる個人にも制裁を科す権利を留保することを明確にしています。

ポンペオ国務長官は今月15日にIRGCを正式にテロ組織に指定。IRGCやその傘下企業と取引する第三国の企業や個人だけでなく、隣国のイラクとシリアに駐在する米外交官や米軍当局者などの間にも混乱が生じました。シリアやイラクでIRGCと協力関係にある人々と接触することが可能かどうかが当初は明確ではなかったからです。

米国務省の近東および南・中央アジア両局は、テロ組織指定の前に共同でポンペオ長官にメモを送り、その影響について懸念を表明しましたが、却下されたと2人の米当局者が匿名を条件に語っています。

議会筋によると、国防総省と国土安全保障省も反対していたのですが、決定を覆すには至りませんでした。

国務省の報道官はIRGCと接触した場合、同盟国はどのような影響を受けるのかとの質問に対し、「一般的に、IRGC当局者と対話するだけではテロ活動にはならない」と回答。

「最終目的は、他の諸国や民間団体にIRGCとの取引をやめさせることだ」と述べたましたが、標的とする国名や団体名は明らかにしませんでした。

このような措置をとるくらいですから、米国はイランと本格的に対峙して、戦争も辞さないということではないと考えられくます。

私としては、米国は中国との対峙を最優先にし、イランとの対峙を二の次にして中東情勢が米国に不利になるようなことがないように、革命防衛隊をテロ組織に認定することで、イランを牽制したのだと思います。

当面イランが不穏な動きを見せた場合、金融制裁などを強化し、それでもイランが不穏な動きを止めない場合は、国境を接するトルコへの支援を強化して、イランを牽制する腹であると思います。

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2019年4月25日木曜日

いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ

岡崎研究所

4月12日、トランプ大統領は、ホワイト・ハウスに関係者を招き、将来の通信網5Gに関する演説を行なった。その中で、トランプ大統領は、米国は5Gの分野でリーダーとなり、どの国にも負けないよう5Gの競争において「米国は勝たなければならない(America must win)」と述べた。


 5Gについては、世界最大手の通信機器会社、中国の華為技術(ファーウェイ)に対する警戒心が諸外国で広まっている。その最中、2月28日、ファーウェイは、米国のウォールストリート・ジャーナル紙に、「聴くことすべてを信じないで。我々のところに会いに来て欲しい」と題するメディアに対する公開書簡を一面広告として掲載し、攻勢に出た。ファーウェイは、今年に入って既にニュージーランドやベルリンでも広告を出し攻勢に出ているという。ニュージーランドでは、「ファーウェイのいない5Gは、ニュージーランドのいないラグビーのようなものだ」とのキャッチ・フレーズを使って注目させた。

 ファーウェイ製品への懸念は当然であり、特に5Gシステムの整備に当たって同社を使うことは避けるべきである。通信は基幹インフラであり、国家安全保障の観点から慎重な考慮と保守的な判断が必要である。残念ながら中国の信頼度は未だ高くない。米国はファーウェイに対し強い懸念を維持し、同盟国にその製品や設備を使わないよう要請している。ファーウェイを使う場合、同盟国間の情報共有にも支障をきたすとしており、事柄は深刻である。

 豪州は5G通信整備からファーウェイ排除の方針を発表した。ニュージーランドも同様の姿勢を打ち出しているが、先般アーダーン首相が訪中し、この問題も議題になったと言われている。日本も、政府調達からは事実上排除する方針であると言われ、大手キャリアも5G基地局ではファーウェイ製品を使わない方針だと報道されている。

 問題は、欧州である。3月26日、欧州委員会は、5Gでファーウェイ製品を採用するかどうかは加盟国の判断に委ねる方針を示した。仏独などは、規制を強化しながらも、ファーウェイを通信市場から排除することはしないとの方針のようだ。が、欧州域内には慎重論もあり、EUレベルでの共同政策では今後なお慎重論が出てくるのではないかと想像される。

 他方、英国については、国家サイバー・セキュリティー・センター傘下の監督委員会の報告書が3月28日に公表された。そこでは、ファーウェイを英国の通信網で使うリスクが指摘され、将来ネットワークの中心部にファーウェイを使用すべきではないと結論づけられている。しかし、英国へのファーウェイの進出は、いつの間にか既に相当進んでいるようであり、英国の立場は揺らいでいるように見える。2月にはファーウェイの参加を認めてもリスクはコントロール可能だという政府機関の一部による判断が報道されていた。残念ながら英国は、EU離脱といい、ファーウェイ問題といい、大きく変わってしまった。自国の利益と世界での役割を大事にして、慎重に考えて欲しいものである。

 通信は、将来の基幹インフラであるので、国内通信企業の育成、支援のために政府としても必要な政策や支援を一層強化していくべきだ。そのために、新たな産業政策が必要ではないか。また、ファーウェイなどと競争していくためには、欧米企業との間での国際企業連合を組むことも考慮していくべきではないだろうか。

【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

ファーウェイ製品への懸念は当然であり、最近では米国中央情報局(CIA)が、中国の通信機器メーカー・ファーウェイが中国の国家安全保障当局から資金提供を受けていると主張しています。資金提供元として名前が挙がっているのは人民解放軍、中央国家安全委員会、国家情報網"第三支部"などです。

報告によると、CIAは今年初めに英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドで構成される諜報協定(Five Eyes)国にこの情報を提供していたとのことです。ただ、HuaweiはThe Timesへの声明において「匿名情報源からの証拠も根拠もない主張」にはコメントしないとしました。

CIAの主張は必ずしも米国の同盟国の行動を左右するものでもありません。冒頭の記事にもあるとおり英国とドイツは米国からの要請があったあとも、5Gネットワークの構築にファーウェイ機器を採用するにあたってオープンな立場を維持しています。

5G到来で生じる両陣営の衝突は、米中摩擦を一段と悪化させつつあります。これが亀裂を拡大させ、世界のより多くの国々を中国のサイバースペース・モデルに近づける可能性があります。

中国は5Gネットワークを積極的に促進しています。2013年に規制当局や企業、科学者を構成メンバーとして5Gのあらゆる側面を設計・管理する団体を設立したほか、国内で5G関連機器を販売する者が必ず試験を行わなければならない国営の施設を建造しました。

1月に開かれた会議の主催者が投稿した演説記録によると、この取り組みを主導する中国工程院の鄔賀銓氏は、5Gに関する中国の目標は「優位性を勝ち取ること」だと述べました。

中国の挑戦が突然表面化したのは、ある巨大企業がパラレルワールドの垣根を飛び越えたためです。中国の通信機器大手、ファーウェイは現在、モバイル・コンピューティング・ネットワークの設備を供給する世界最大手となっています。



米連邦議員や国家安全保障や情報問題を担当する当局者の多くは、ファーウェイが通信機器を通じて世界中で偵察活動を行い、中国の影響力を拡大するための布石を打っている可能性があると警告しています。

また米国はファーウェイが企業秘密を盗み、制裁に違反していると非難しています。トランプ政権によって同社が米国製部品の入手ルートを絶たれる可能性が高まっています。ファーウェイは不正行為を否定しています。

もし米国製部品の入手ルートを絶たれれば、中国は米国の5Gネットワークと互換性のない別バージョンを構築する可能性が高いです。米調査会社ユーラシア・グループで世界テクノロジー調査を率いている元連邦政府アナリストのポール・トリオロ氏はこう指摘しています。「世界の5G向けサプライチェーンが本当に崩壊したら、われわれは全く新しい領域に踏み出すことになる」

この分断の核心にあるのは、インターネットの管理方法についての見解の違いです。米国はオープンモデルを推進。一方、中国および同様の立場を取るロシアなどの国々は、国家が検閲やスパイ活動などを通じて国内のインターネットのトラフィックを管理すべきだと主張しています。これはいわばクローズドモデルです。

中国は「デジタル版シルクロード」と呼ぶ計画の一環として、ベトナムやタンザニアなどの国々に対し、中国製通信機器とともに同国のインターネット・モデルを輸出してきました。

昨年、タンザニア当局は中国のインターネット検閲制度を公然とたたえました。それに続き、コンテンツ配信会社が政府の要請に応じて「禁止コンテンツ」を削除しなければ、罰金や投獄などの処罰を科すというルールを承認しました。

中国は「サイバー主権」という概念を唱え、それを促進するため、国連に対するロビー活動を行ってきました。インターネット規制を国家に限定すべきだと主張する一方、業界や市民社会を脇役に押しやりました。

中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。

同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。

具体的には情報ネットワークの運営者に対して利用者の実名登録を求めているほか、公安機関や国家安全機関に技術協力を行う義務も明記。「重大な突発事件」が発生した際、特定地域の通信を制限する臨時措置も認めています。



こうした規制強化について、中国は「サイバー空間主権」なる概念を打ち出して正当化しています。2016年12月に国家インターネット情報弁公室が公表した「国家サイバー空間安全戦略」は、IT革命によってサイバー空間が陸地や海洋、空などと並ぶ人類活動の新領域となり、「国家主権の重要な構成部分」だと主張。インターネットを利用した他国への内政干渉や社会動乱の扇動などに危機感を示し、「テロやスパイ、機密窃取に対抗する能力」を強化すると宣言しました。

また同弁公室は今年3月に発表した「サイバー空間国際協力戦略」でも「国連憲章が確立した主権平等の原則はサイバー空間にも適用されるべきだ」と主張。「サイバー空間主権」の擁護に向けて「軍隊に重要な役割を発揮させる」とも言及しました。

中国で活動する外資系情報通信企業の経営者は「インターネットを構築したのは米国であり、その影響は避けられない。中国のネット検閲技術も米国企業が協力したとされている」と指摘。「中国当局にはインターネットの情報を完全にコントロールできないことへのいらだちがある。サイバー空間主権を掲げることで、領土内の決定権は中国にあると強調したいのだろう」と分析しました。

中国では同日、改正版の「ネットニュース情報サービス管理規定」も施行されました。ホームページやアプリ、ブログ、ミニブログなどを通じてニュース提供サービスを行う際に、許可取得が義務付けられました。

2017年11月7日に中国で開催された世界インターネット会議にはアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)やグーグルのスンダー・ピチャイCEOが出席しました。このとき中国共産党の最高指導部メンバーである王滬寧氏は、習近平国家主席がインターネットに対する中国の見方を広めたと称賛。「国際社会から幅広い承認と前向きな反応を得られた」と述べました。

世界インターネット会議開幕式でスピーチをする馬化騰氏(2018年11月7日)


今後世界は5Gを中心として、オープンモデルの世界と、クローズドモデルの世界に分断されていく可能性が大です。クローズドモデルは闇の世界となることでしょう。

私自身は5Gの問題の本質はここにあると思います。日米などの先進国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進することによって、中間層を多数輩出させ、彼らに自由な経済・社会活動を保証することにより、国富を蓄積して国力を増強しました。このようなことを実現した先進国では、インターネットは当然オープンなものと受け止められているのです。

先進国は、中国も経済的に豊かになれば、先進国と同じような道を歩み、経済だけでなく社会も従来よりは格段に豊かになるだろと期待して、中国を支援してきましたが、それはことごとく裏切られました。

特に米国は、もう中国がまともな国になるとは全く信用しなくなりました。そうして、現在では、貿易戦争を挑んでいます。

当の中国は、社会構造改革などをして、まともな国になることなど全く眼中にないようで、習近平は終身主席となり、事実上の皇帝になり、19世紀から18世紀の世界に戻ったかのようです。

その中国が、5Gのクローズドモデルによって、世界中にデジタル版シルクロードを展開し、多くの国々に中国の価値観である「サイバー主権」を押し付けようとしているのです。

先進国はもとより、タンザニアや北朝鮮、中国等を除くある程度まともな国であれば、中国の価値観は耐え難いものであるはずです。結局中国は最新テクノロジーで世界の多くの国々を19世紀や18世紀の遅れた社会に戻そうとしているのです。

米国はもとより、先進国は、5G問題の本質を理解し結束し、それを多くの国々に啓蒙しつつ、中国の5G覇権を封じ込めるべきです。そうして、いずれこの世から消し去るべきです。

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2019年4月24日水曜日

孤立する金正恩氏 中国すら制裁履行で…“プーチン頼み”も失敗か 専門家「露、大して支援はしないだろう」 ―【私の論評】ロシアは、朝鮮半島の現状維持を崩すような北朝鮮支援はしないしできない(゚д゚)!


ロシア・ハサン駅に到着した正恩氏=24日(ロシア極東沿海地方政府のホームページから)

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は24日、特別列車で国境を越え、ロシア極東を訪問した。国境に接するハサン駅での歓迎式典出席後、ウラジオストクに向かった。25日にウラジーミル・プーチン大統領との初の首脳会談に臨む。2月の米朝首脳会談決裂後、最大の支援国だった中国すら国際制裁を順守する姿勢を見せるなか、正恩氏にはロシアから経済的支援を引き出す狙いがあるとみられる。ただ、専門家からは厳しい見方が出ている。

 「ロシアの地を訪れることができてうれしい。これは最初の一歩にすぎない」

 正恩氏は24日午前、ハサン駅に到着した際、こう語った。ロシアのコズロフ極東・北極圏発展相らが迎えた。

 北朝鮮の最高指導者の訪露は、金正日(キム・ジョンイル)総書記による2011年8月以来、約8年ぶりで、正恩体制では初めて。

 ロシアメディアなどによると、露朝首脳会談は25日、ウラジオストク南部のルースキー島の極東連邦大学で行われる。

 北朝鮮は、ベトナムの首都ハノイで2月末に行われた米朝首脳会談が物別れに終わった後、「対話路線」から「瀬戸際外交」に戻ったような動きを見せている。

 米国には、マイク・ポンペオ国務長官を対北交渉から外すよう要求し、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を「愚か者」と罵った。韓国には、正恩氏自らが演説で「差し出がましい」と非難した。

 ただ、国際社会による対北朝鮮制裁は厳格に維持されている。

 国連安全保障理事会の制裁対象である北朝鮮の海外出稼ぎ労働者について、中国やロシアが自国で働く労働者の半数超を北朝鮮に送還したことが3月に判明した。

 韓国紙、東亜日報(日本語版)は3月28日、中国による北朝鮮労働者送還を報じた記事で、「ある消息筋によると、北朝鮮は中国の制裁履行に不満を示したという」と指摘した。

 孤立化の気配すら漂う北朝鮮だが、ロシアへの接近で経済的支援を引き出すことができるのか。

 福井県立大学の島田洋一教授は「ロシアは最近、ベネズエラに軍事顧問団を送るなど『米国が嫌がることを何でもする』という感じだ。今回の首脳会談も、米国への牽制(けんせい)になるとみているのではないか。ただ、ロシアの財政状況が厳しいことを考えても、身銭を切るような支援は大してしないだろう」と語った。

【私の論評】露は、朝鮮半島の現状維持を崩すような北朝鮮支援はしないしできない(゚д゚)!

以前このブログで朝鮮半島情勢の根幹にあるのは、現状維持(Status quo)であることを述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。

北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、現状の朝鮮半島の状況がまさしく現状維持(Status quo)であることを述べた部分を以下に引用します。
北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。 
この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。

だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。 
ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。

ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。 
では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。
米国の立場を掲載した部分を以下に引用します。
米国・中・露とも現状維持を望んでいるのです。韓国は中国に従属しようとしてるのですが、韓国は中国と直接国境を接しておらず、北朝鮮をはさんで接しています。そうして、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。そのため、韓国は米国にとってあてにはならないのですが、かといって完璧に中国に従属しているわけでもなく、その意味では韓国自体が安全保障上の空き地のような状態になっています。 
この状況は米国にとって決して悪い状態ではないです。この状況が長く続いても、米国が失うものは何もありません。最悪の自体は、中国が朝鮮半島全体を自らの覇権の及ぶ地域にすることです。これは、米国にとっても我が国にとっても最悪です。
 このような最中に、韓国だけが南北統一など、現状を変更する動きをみせたため、米国はおろか、中国・露も韓国に対して良い顔はできないわけです。北朝鮮の金正恩も現状維持を旨としています。文在寅に良い顔をしていたのは、単に制裁のがれをするためです。そのために、文を利用しただけです。

南北首脳会談を前に文とてをつなぎ軍事境界線を越えた金

韓国の文在寅は朝鮮半島情勢をリードしているつもりだったのでしょうが、結局一人芝居を演じただけでした。

最近北が、ミサイル発射実験を匂わせつつ、結局「新型戦術誘導兵器」の実験をしたという発表があっただけでした。

「新型戦術誘導兵器」の詳細は不明ですが、金委員長は昨年11月中旬、国防科学院の実験場を訪れ、「新たに開発した尖端戦術兵器の試験を指導していた」(朝鮮中央通信)ことから国防科学院で研究、開発されていた兵器であることは間違いないようです。

この時の視察でも軍事関係者では李炳哲第一副部長と朴正天砲兵司令官だけが付き添っていたことから、今回テストされた兵器はロケット戦略軍(司令官:金洛謙・陸軍大将)が使用する弾道ミサイルではなく、砲兵部隊が局地的に使用する対空砲や誘導ミサイル、もしくは攻撃用兵器の可能性が高いです。弾道ミサイルでなければ、国連決議に反せず、安保理の制裁対象ともなりません。

金正恩も、米国・中・露とも現状維持を旨としていることは理解しているのでしょう。だからこそ、現状維持を破るような以前のような、核ミサイルの頻繁な発射には踏み切れなかったのでしょう。

ただし、制裁は徐々に効きつつあり、ロシアに訪問したのは、ほんの一部でも良いので、制裁を緩和して欲しいという意向があったからでしょう。

金正恩とプーチン

ロシアも現状維持を望んでいますから、現状維持を崩すような大規模な支援はしないでしょう。ブログ冒頭の記事では、福井県立大学の島田洋一教授が「ロシアの財政状況が厳しいことを考えても、身銭を切るような支援は大してしないだろう」としています。

私は仮に、ロシアの財政状況が良かったとしても、ロシアは現状維持を崩すような規模の援助はするつもりもないし、できないと思います。

現状のロシアのGDPは韓国を多少下回る程度で、韓国のGDPは東京都と同程度です。ロシアは、旧ソ連の核兵器や軍事技術を引き継いでいるということで、決して侮ることはできませんが、それにしても東京都程度のGDPではもともとできることは限られています。

ロシアは、現状維持を崩すような北朝鮮支援は絶対にしませんし、できないでしょう。

そんなことは、最初からわかっていることなのに、それでも金正恩はロシアに赴かなけば、ならなかったのです。これ事態が制裁がかなり効いていることの証です。金正恩は、自分自自身も、朝鮮半島の現状を維持することを望んでおり、米国はもとより、周辺諸国とも事を構えるつもりはないことをプーチン大統領に伝えることで、制裁がさらに強化されることを防ぐ狙いがあるものと思われます。

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2019年4月23日火曜日

「令和おじさん」菅義偉、そろい始めたポスト安倍の3条件―【私の論評】自民議員のほとんどがマクロ経済を理解しないが故にこれは党内政治において強力な武器に(゚д゚)!

「令和おじさん」菅義偉、そろい始めたポスト安倍の3条件

川上和久(国際医療福祉大学教授)

 「亥(い)年選挙のジンクス」と言われている現象がある。亥年は、春の統一地方選と参院選が12年に1度重なる。統一地方選で地方議員が「選挙疲れ」することで、参院選で地方組織がフル回転せず、自民党が議席を思ったように取れない、というジンクスだ。

 過去の亥年選挙は、比例代表制が初めて実施された1983年の参院選では自民党が68議席を獲得しているものの、95年の参院選では46議席、2007年の参院選では37議席と惨敗している。特に、07年は第1次安倍内閣の下で行われ、安倍晋三首相退陣の引き金ともなった。

 選挙は歴史であり、その時々の政治事情が色濃く反映する。地方組織がフル回転しないで自民党の議席が伸び悩む、という仮説に対しては、「言い過ぎではないか」との批判も寄せられている。

 2019年、統一地方選の前半戦では、41道府県議選で自民党が1158議席を獲得した。過半数に達し、15年の前回選挙の獲得議席を上回った。だが、「大乱の前兆」を感じ取った人も少なくないのではないか。

 統一地方選で、本人が意識していたかどうかはともかくとして、「令和(れいわ)効果」を見せつけたのが菅義偉(よしひで)官房長官だ。11道府県知事選で唯一の与野党激突となった北海道知事選。自らの主導で38歳の鈴木直道前夕張市長を担ぎ出し、反発して他の候補を模索した自民党の道議会議員らをねじ伏せた。結果は鈴木氏が約162万票を獲得し、野党統一候補となった石川知裕元衆院議員に60万票以上の大差をつけた。

 特筆すべきは投票日前日の4月6日、札幌市で行われた演説会に菅氏が登場した時だ。「あ、令和おじさんだ!」と観衆の大注目を浴び、スマートフォンのシャッターがひっきりなしに切られていたという。

 もちろん、官房長官としての在任期間は2012年12月26日に就任してから既に6年半になろうとしており、記者会見でのやりとりがしょっちゅうニュースになる。東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者とのバトルでも、ポーカーフェースで淡々とこなす印象が強かった。

2014年8月1日、閣議前の写真撮影で、安倍首相、麻生副総理らが不在のため、
首相臨時代理として中央に座り、談笑する菅義偉官房長官

 しかし、「令和」発表記者会見での笑顔がそれを一気に覆した。ふだん官房長官の記者会見を見る人の数とは次元が違う。官房長官が「令和」を掲げた写真の号外は奪い合いの人気となり、「令和おじさん」の名前が一気に広がった。

 4月13日に新宿御苑(ぎょえん)で行われた内閣主催の「桜を見る会」でも、菅官房長官との記念撮影のために並ぶ行列がひときわ目立った。

 それにひきかえ、この間、菅氏と並び「岸破義信」と言われたポスト安倍と目される自民党の岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、加藤勝信総務会長は「令和おじさん」の前に、圧倒的に存在感を欠いた。石破氏は「令和には違和感がある」というようなコメントをして、「これだから、『安倍政治ノー』などと言い続けている左派の連中から支持される野党政治家に成り下がったと言われるんだ」と、党内からもさらに顰蹙(ひんしゅく)を買った。

 一方、菅氏と安倍政権を支える「三羽ガラス」麻生太郎副総理・財務相、二階俊博幹事長はどうか。麻生氏は、自らの地元、福岡県知事選で、現職の小川洋知事の対抗馬として元厚生労働省官僚の武内和久氏をぶつけ、安倍首相に直談判して自民党の推薦までもぎ取った。小川氏には、8年前に自分が主導して知事にしたにもかかわらず、補選の際に自分が立てた候補を応援してくれなかった意趣返しといわんばかりだ。

 あげくの果てに、麻生氏の元秘書で麻生派所属の塚田一郎前国土交通副大臣が地元の道路建設をめぐり、安倍首相と麻生氏に「忖度した」と発言し、同5日に副大臣辞任に追い込まれた。

 結果は小川氏が約129万票に対し、武内氏は約35万票とトリプルスコアで惨敗した。これでは、さすがに傲慢(ごうまん)な麻生氏も「自らの不徳の致すところ」と頭を下げざるを得なかった。

 二階幹事長は、統一地方選前半で道府議選で自民党候補が過半数を得た。ところが、地元の和歌山県議選の御坊市選挙区で、鉄壁の当選8期を誇った自らの元秘書の現職が共産党新人の元同市議に敗北するというまさかの結果となった。3年前の御坊市長選で、二階氏が現職に対して長男を立てて敗れたこともあり、地元での対立が共産党候補に敗れるという結果になってしまった。

 それに追い打ちをかけたのが、二階派の櫻田義孝五輪相の失言による辞任だ。岩手県選出の高橋比奈子衆院議員のパーティーのあいさつで、「復興よりも高橋さんが大事」と口を滑らせ、事実上の更迭となった。

 元はといえば、櫻田氏を閣僚に推挙したのは派閥領袖(りょうしゅう)の二階氏だ。安倍首相は「任命責任は私にある」と殊勝に頭を下げたが、櫻田氏を押し込み、かばい立てした挙げ句にしりぬぐいさせられた二階氏への屈託は察するに余りあるものがある。

 麻生、二階の両氏が傷つき、他のポスト安倍候補が存在感を示せない中にあって、菅氏が「令和効果」でダントツのポスト安倍候補に躍り出た。

 それにひきかえ、この間、菅氏と並び「岸破義信」と言われたポスト安倍と目される自民党の岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、加藤勝信総務会長は「令和おじさん」の前に、圧倒的に存在感を欠いた。石破氏は「令和には違和感がある」というようなコメントをして、「これだから、『安倍政治ノー』などと言い続けている左派の連中から支持される野党政治家に成り下がったと言われるんだ」と、党内からもさらに顰蹙(ひんしゅく)を買った。

 一方、菅氏と安倍政権を支える「三羽ガラス」麻生太郎副総理・財務相、二階俊博幹事長はどうか。麻生氏は、自らの地元、福岡県知事選で、現職の小川洋知事の対抗馬として元厚生労働省官僚の武内和久氏をぶつけ、安倍首相に直談判して自民党の推薦までもぎ取った。小川氏には、8年前に自分が主導して知事にしたにもかかわらず、補選の際に自分が立てた候補を応援してくれなかった意趣返しといわんばかりだ。

 あげくの果てに、麻生氏の元秘書で麻生派所属の塚田一郎前国土交通副大臣が地元の道路建設をめぐり、安倍首相と麻生氏に「忖度した」と発言し、同5日に副大臣辞任に追い込まれた。

 結果は小川氏が約129万票に対し、武内氏は約35万票とトリプルスコアで惨敗した。これでは、さすがに傲慢(ごうまん)な麻生氏も「自らの不徳の致すところ」と頭を下げざるを得なかった。

 二階幹事長は、統一地方選前半で道府議選で自民党候補が過半数を得た。ところが、地元の和歌山県議選の御坊市選挙区で、鉄壁の当選8期を誇った自らの元秘書の現職が共産党新人の元同市議に敗北するというまさかの結果となった。3年前の御坊市長選で、二階氏が現職に対して長男を立てて敗れたこともあり、地元での対立が共産党候補に敗れるという結果になってしまった。

 それに追い打ちをかけたのが、二階派の櫻田義孝五輪相の失言による辞任だ。岩手県選出の高橋比奈子衆院議員のパーティーのあいさつで、「復興よりも高橋さんが大事」と口を滑らせ、事実上の更迭となった。

 元はといえば、櫻田氏を閣僚に推挙したのは派閥領袖(りょうしゅう)の二階氏だ。安倍首相は「任命責任は私にある」と殊勝に頭を下げたが、櫻田氏を押し込み、かばい立てした挙げ句にしりぬぐいさせられた二階氏への屈託は察するに余りあるものがある。

 麻生、二階の両氏が傷つき、他のポスト安倍候補が存在感を示せない中にあって、菅氏が「令和効果」でダントツのポスト安倍候補に躍り出た。

2013年10月、衆院予算委員会に臨み、二階俊博委員長(右)に話しかける麻生太郎
副総理・財務金融相

 産経新聞社とFNNが2019年4月に実施した合同世論調査では、次期首相にふさわしいとして、菅氏が5・8%の支持を集めた。自民党の小泉進次郎厚生労働部会長の25・9%、石破氏の20・7%らに次ぐ4位に浮上した。昨年10月の調査では、菅氏への支持は2・7%で、全体の6位にすぎなかった。しかも、自民党支持層に限ると、菅氏は9・4%の支持を集めている。

 そこで思い起こされるのが、長く官房長官を務めて、首相に駆け上がった福田康夫氏の例だ。福田氏は、2000年10月27日から04年5月7日まで、森喜朗内閣、小泉純一郎内閣の二つの内閣にまたがって1289日間官房長官を務め、第1次内閣での安倍首相の退陣に伴って首相となった。

 官房長官は基本的に、首相官邸から離れることがほとんどできない。したがって、外務大臣のように、外交で華々しい脚光を浴びることもないし、幹事長のように、選挙を仕切って党内からその実力を認められることも難しい。最低限、三つの条件がかみ合わないと、たとえ官房長官を長く務めても、首相になるのは至難の業だ。

 その三つの条件は「前職が、かなり急な形で首相の座を降りる形になった」「前職の首相の後を継ぐ政治家として、適材がいない」「官房長官としての手腕を認められており、幹事長経験や重要閣僚の経験がなくても、周囲がその手腕で政権を運営することを期待される」というものだ。

 菅氏は5月9日から異例の訪米を行う。もちろん、安倍首相の指示による訪米だが、「安倍首相は、自分が万が一のときに備え、米国に『この政治家もよろしく』とサインを送っている」との見立てもある。当然、米国も菅氏が自らの国益に合致する人材かどうかを徹底的にマークし始めるだろう。

 ポスト安倍として実績を伴う存在感がある政治家はいないし、菅氏は官僚への抑えも効いている。第2、第3の条件は整っていると見ていいだろう。そこに、「亥年ジンクス」で自民党の参院選大敗、安倍首相の退陣などという事態になれば、野党支持層に人気の高い石破氏などに絶対に政権は渡せない、という思いが安倍首相にはあろう。

 菅氏は秋田県湯沢市の出身だ。これまでの歴代首相の中で、東北出身の首相は岩手県に偏っている。原敬(第19代)、斎藤実(第30代)、米内光政(第37代)、鈴木善幸(第70代)と4人の東北出身の首相はいずれも岩手県出身だ。

 「秋田県から初の首相を」という期待は地元ではいやがうえにも高まっている。令和への改元効果と統一地方選による実力者の蹉跌(さてつ)で、菅氏の存在感は高まるばかりだ。

 だが、当の菅氏は「絶対にない」とポーカーフェースを貫いている。おそらく、安倍首相が首相である限りは安倍首相を支え続ける、というスタンスを貫き続けながら、ここまで支えてくれた菅官房長官なら、自分の政治を引き継いでくれる、と思ってくれるような安倍首相との信頼関係を何より大事にしているのだろう。

2018年3月31日、衆院予算委で自らの携帯電話を楽しそうに安倍晋三首相(左)に
見せる菅義偉官房長官

 天の時、地の利、人の和。「令和おじさん」への大きな流れができつつある。後継首相として解散・総選挙を打っても、「令和おじさん」のプラスのイメージは計り知れないだろう。選挙に強い、となれば、自分が落選したくない議員たちはますます「令和おじさん」に右に倣(なら)えとなる。

【私の論評】自民議員のほとんどがマクロ経済を理解しないが故に、これは党内政治において強力な武器に(゚д゚)!


過去において、平成おじさんだった小渕恵三は、後に総理大臣となっています。だから、令和おじさんの菅氏が総理大臣になることは十分にあり得ると思います。

冒頭の記事では、最低限、三つの条件がかみ合わないと、たとえ官房長官を長く務めても、首相になるのは至難の業だとしています。

その三つの条件は「前職が、かなり急な形で首相の座を降りる形になった」「前職の首相の後を継ぐ政治家として、適材がいない」「官房長官としての手腕を認められており、幹事長経験や重要閣僚の経験がなくても、周囲がその手腕で政権を運営することを期待される」というものです。

私自身としては、安倍総裁四選の声もでている昨今、菅官房長官がすぐにこの三条件を満たして、安倍総理が現在の任期を終えたときにすぐに総理大臣になることもあながちあり得ないことではないと思います。

また、安倍総理はこの「三条件」の他に、次の総理大臣になるにはもう一つの重要な条件が必要と考えていると思います。

それは、マクロ経済への理解ではないかと思います。無論マクロ経済への理解とはいっても、経済学者のように緻密に理解しなければならないということではなく、その時々の経済情勢にあわせて、どのような財政政策と金融政策を取ればよいのか、その方向性を理解できるくらいの能力は必要と考えているのではないかと思います。

あわせて、専門家の意見を聞いて、どの人物の意見が、実体経済に即したマクロ経済的な政策を提言できるのかを判断できる能力が必要と考えていると思います。

なぜそのようなことがいえるかといえば、安倍晋三氏が、第一次安倍政権が崩壊して退陣して、第二次安倍政権が成立する直前まで、何をしていたかを知れば、理解できると思います。

安倍首相といえば、安全保障や歴史認識などの保守的なイメージが強かったのですが、この間に経済・金融政策に興味を持つようになりました。

メディアでは安倍さんは経済が苦手だとしていましたが、安倍氏はもともと細かい産業政策などチマチマした話に興味がなかったようです。安倍氏は一段高いもっと大きなことをやるべきだと考えていて、実は前政権時代から「マクロ経済に興味がある」といっていたそうです。それを第一次安倍政権が崩壊した直後5年ほど、勉強し続けていたようです。

安倍さんは東北震災後からデフレ・円高解消の勉強会をやろうと言い出し、議連をつくりました。当時から、人集めに動き出していたのです。

その後、与野党いっしょに「デフレ脱却議連」をつくりました。超党派の議連で、会長をどうするかということになって、山本幸三・衆院議員に頼まれて会長まで引き受けたのです。

そのくらいマクロ経済や金融政策に関心があったし、その頃から多数派工作も考えていたんだと思います。

安倍氏は、世界標準、グローバルスタンダードにこだわっています。金融でも規制緩和でも、それから国防軍という名前まで世界標準に合わせようとしているのです。

こういう姿勢はブレていないというより、DNAのようです。細かいところに目が行く人と、そうでない人がいます。安倍氏は、大きなことに目が行くDNAなのだと思います。そうして、これは政治家として重要です。

過去の日本の例が示すしように、マクロ経済政策が失敗している最中に、ミクロ経済政策をいろいろやってもことごとく失敗します。特に、ミクロ経済政策に関しては、企業努力でもなんとかなるところがありますが、マクロ経済政策に関しては、政治家が頑張らないと、特に政権が頑張らないとどうしようもありません。

政治家によるマクロ経済の理解がなけば、経済政策はことごとく失敗してしまいます。そのため、実際平成年間の経済政策はことごとく失敗して、平成年間のほとんど時期日本は、デフレスパイラルのどん底に沈んでいました。

平成年間の末期に安倍政権ができあがり、当初はまともなマクロ経済政策で雇用も経済も順調に伸びたのですが、2014年の消費税増税でまた経済が落ち込んでしまいました。安倍総理としては、財務省や多くの政治家、エコノミストまでが「増税しても日本経済への影響は軽微」という主張に抗えず、増税してしまったものの、その悪影響は甚大で、日本経済はデフレ基調にもどってしまいました。

         マクロ経済政策の間違いにより平成年間(1989年1月8日から2019年4月30日まで)
         のほとんどはデフレだった

その後も、消費税増税をすべきという風潮がありましたが、安倍総理は二度も増税を見送りました。私は、このブログでも掲載したように、今年10月の増税を見送り、国民の信を問うため、衆院を解散し、衆参同時選挙を実行すると思います。

マクロ経済学を理解している国会議員(候補)リストをあげると、 安倍総理、 菅官房長官 、渡辺よしみ、 馬淵澄夫、金子洋一(もと参議院議員)くらいなものです。山本幸三氏は財務省の影響が強すぎるのて、このリストには掲載できないと思います。

自民党の議員は、残念ながら次期総裁候補と見られる人々の中にも、ただの一人もマクロ経済理解者が存在しません。

そうなると、安倍総理は菅官房長官を次期、総理にと考えるのは当然のことだと思います。

ただし、二階氏が「安倍四選もあり得る」と発言していること、さらには菅氏の年齢が70歳と高齢なことから、私自身は、安倍総理が四選後に、マクロ経済政策を理解している総裁候補者が現れない限りにおいて、菅氏に白羽の矢が当たることは十分あり得るシナリオだと思います。

安倍総理が四選した場合、安倍総理は、菅氏を外務大臣もしくは幹事長などの要職につけ、総裁候補として経験を積ませるのではないかと思います。

今回の参院選(もしくは衆参同時選挙)で、自民党がボロ負けすれば、菅氏が急遽総理大臣になるというシナリオも十分あり得ると思います。

本当は、ポスト安倍の有力候補が、マクロ経済政策を理解してくれれば、このようなことにはならのでしょうが、残念ながらそうはならないのが、現実です。

自民党議員の皆さんの中で本当にマクロ経済政策を理解する人が現れ、そうして、財務省に籠絡されることなく、うまく扱える能力を身につければ、誰もが総裁候補になり得ると思います。安倍総理が再び不死鳥のように総理に返り咲くことができたのは、一重にマクロ経済の理解によるものだと思います。そうでなれば、返り咲きはあり得なかったでしょう。

安倍氏がマクロ経済を理解しているので、市場がこれを好感し、安倍氏が自民党の総裁になった途端に、まだ総理大臣にもなっておらず日本経済が円高、デフレから脱していない頃から株価が上昇しはじめたことを忘れるべきではありません。

菅官房長官が、総理大臣になったとしたら、これも、無論菅氏人柄によるところも否定できませんが、何よりもマクロ経済の理解によるものと思います。

菅氏を除くポスト安倍の候補者らが、生彩を欠くのは、やはりマクロ経済を理解していなからでしょう。彼らは、そのことを理解できないので、頓珍漢な行動をしたり、生彩を欠く結果になっていますが、なぜそうなるのかその理由を理解できないようです。

自民党の議員は、国民のためにも自分のためにも、一日もはやくマクロ経済を理解すべきです。ほとんどの自民議員がマクロ経済を理解しないが故にこれは党内政治においても強力な武器になると思います。より高いポストを得るためにも、これからは、マクロ経済の理解は欠かせないです。いくら、党内政治でうまく立ち回ろうとしても、これを欠けば、総理大臣のポストは永遠にまわつてこないと考えるべきです。

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2019年4月22日月曜日

安倍政権「大打撃の補選二連敗」で高まる消費増税中止の可能性―【私の論評】増税凍結、衆参同時選挙の可能性がかなり濃厚に(゚д゚)!

安倍政権「大打撃の補選二連敗」で高まる消費増税中止の可能性

そしてやっぱり衆参同時選挙も…

安倍政権に大きな痛手と衝撃

先週の本コラムでは、4月21日投開票の大阪12区衆院補選が消費増税のカギを握っていることを書いた。結果は、維新の藤田文武氏が自民の北川晋平氏らを破った。同日に行われた沖縄3区衆院補選でも、自民党候補は敗れており、安倍政権にとって、間もなく行われる参院選を占う補選の敗北は、大きな痛手となった。

これまで、衆参補選では、2013年4月山口参院、2014年4月鹿児島2区衆院、2016年4月北海道5区衆院、2016年10月東京10区衆院、福岡6区衆院と安倍政権は5連勝であったが、ここにきて2連敗は手痛いだろう。沖縄3区はやむを得ないとしても、大阪12区は自民党に所属していた北川知克氏の死去に伴う弔い合戦だったにもかかわらず、負けてしまった。安倍総理が投票日前日に大阪に応援に入ったのに、巻き返せなかった。

これは、大阪ダブル選で勝利を収めた維新の勢いを差し引いても、やはり政権与党が消費増税を進めようとしていることが一つの敗因と考えざるを得ない。

大阪12区と沖縄3区の衆院補選で、自民党は1勝1敗と踏んでいたはずだ。それが2連敗となったので、今後は党内で「消費増税を容認していれば、参院選を戦えない」という空気が醸されるだろう。

実際、消費増税を牽制する観測気球も出ている。自民党の萩生田光一幹事長代行が、4月18日に公開されたインターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」のなかで、6月の日銀短観で示される景況感次第では、消費増税の延期もありうると発言した。

(ちなみにこの発言を報じる際、多くのメディアは「インターネット番組」というだけで、番組名を出さなかった。出したのは、主要紙では産経だけである。引用した番組の名前さえ書かないメディアは、本当に情けない。)

萩生田氏はもしも安倍政権が増税を先送りすると決断した場合、「国民に信を問うことになる」と発言した一方、衆参ダブルについては「日程的に難しい」としている。

番組を見ると、萩生田氏がジャーナリストの有本香氏の質問に答える形での発言だが、普段の砕けた感じで萩生田氏は対応し、ついつい言ってしまった、というような感じでもあった。番組の最後に、有本氏が「萩生田さんはお立場があるので何も言えていませんが」とコメントしていたのが印象的だ。

しかし、萩生田氏は発言する際に「個人的な発言」と断ってはいるものの、これは典型的な「観測気球」である。政治的な問題に対して、世論がどんな反応を示すか、どう考えているかを探るために、政治家がセンシティブな話題を突然放って、その反応をみるというものだ。並の政治家が言ってもニュース価値はないが、安倍総理の側近とされている萩生田氏が言ったので、各メディアが取り上げた。

筆者は、間もなく10連休が始まり、その間は政治的空白が生まれるので、10連休の直前ぐらいに誰かが消費増税の観測気球をぶち上げるだろうと思っていた。10連休中は大きな政治的話題があまりないから、紙面に載る記事が少なくなる。その合間を縫うように、観測気球を上げ、メディアと世間がどんな反応を示すかを見るには最高のタイミングだからだ。予想よりちょっと早かったが、萩生田氏の発言が、その観測気球だったのだろう。

一方、増税をなんとしてでも進めたい財務省も、10連休を前に独自に消費増税への布石を打っている。筆者が「これは財務省の布石だな」と感じたのは、4月15日に公表されたOECD(経済協力開発機構)の対日審査報告書である。同機構のグリア事務総長が日本で記者会見を行い、日本の財政健全化のためには、消費増税10%どころか、なんと26%までの引き上げが必要だと発言したものだ。

財務省の焦り

マスコミはこの発言に飛びつき、まるでOECDの意見を金科玉条のように報じたが、筆者に言わせれば噴飯ものである。OECDの対日審査報告書は、日本政府、特に財務省の意向が色濃く反映されるからだ。というのは、対日審査報告書そのものが、OECDと日本政府(財務省)の合作であるし、財務省はOECDに有力な人物を派遣している。

たとえば2011年から16年までは、大蔵省に昭和51年に入省し、財務省財務官となった玉木林太郎氏がOECD事務次長を務めていた。その後任も、昭和53年大蔵省入省の河野正道氏が務めた。メディアでは、河野氏は金融庁出身と報じられているが、筆者からすれば旧大蔵省の官僚で、OECD事務次長のポストが大蔵省人事のひとつぐらいに扱われているように思える。

それぐらい両者の関係は深いので、財務省の意向と真逆の報告がOECDから出るはずはない。筆者は、消費税26%は財務省の意見だと捉えている。

また、もうひとつの布石もある。17日、財務省は財政制度審議会( https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia310417.html)を開催。本コラムでも紹介したIMF財政モニター(2018年10月15日付け「IMFが公表した日本の財政「衝撃レポート」の中身を分析する それでも消費増税は必要ですか」)やMMT(現代貨幣理論)を批判し、消費増税を予定通り行うという決意を出している。

MMTは、最近もてはやされている考え方で、ごく簡単に言うと、自国通貨を無制限に発行できる政府は、政府債務(国の借金)が増えても問題がないとする経済思想だ。

現実には、過去にデフォルト(債務不履行)に陥った国は少なくないので、欧米の主流派経済学者は、MMT支持派の主張に対してバカげていると反発している。

筆者にとっては、数量的でない政策議論は意味がない。米国の議論は定性的な極論か経済思想優先のものが多く、実りのある政策議論とは思えない。筆者は、MMTを主張する人に、「問題がないというなら、数式で示してほしい」と言っているが、だれもそうせずに、雰囲気だけの議論が続いている。

従来の経済理論では、財政赤字でも中央銀行が国債を買い入ればインフレになる。そのインフレさえ感受できれば、政府債務があっても財政上問題ない、というものだ。少なくとも「日本のようにインフレ率がインフレ目標まで達していないならば、財政赤字の心配は不要」という主張は多くの人に受け入れられるのではないか。これはMMTからでなくとも導かれる標準的な内容だ。

平成は「消費税の呪い」に苦しんだ時代だ
この意味で、先述の財務省の資料のMMTに関する記述には、筆者も違和感はない。しかし、IMF財政モニターについて批判している部分については、筆者にはさっぱりわからない。

IMFにも、財務省は多数の出向者を派遣している。さらに2018年現在でIMFへの出資額が世界第2位である日本の影響力は大きい。にもかかわらず、財務省の見解とはそぐわない見解が出たことに憤っているのであろう。からくりをいえば、IMFの「財政モニター」は、世界各国を対象としているものなので、日本が意見をはさんでも通りにくい。そのため、財務省にとって工作が難しいものだったのだろう。

財政状況をみるとき、債務残高だけを見るのではなく、資産も同時に考慮するのは、ファイナンス理論の基本である。それをもとにしたIMFの財政モニターは、否定しようがないものであるはずだ。MMTを批判している多数の欧米学者に聞いても、これについてはほとんど否定しないはずだ。

実際、2017年4月2日付け「1000兆円の国債って実はウソ!? スティグリッツ教授の重大提言 マスコミはなぜ無視をしたのだろう…」を読んでもらえば分かるが、、ノーベル賞学者のスティグリッツ教授も、筆者の意見に賛同するだろう。

こうした「弱点」は財務省も理解しているはずだ。財務省はMMTについては、批判者が多くいると言いながら、IMF財政モニターに対しては財務省に同調してくれる識者を見つけられなかったためか、「本報告書の位置づけについては、今後、更にIMFと議論・確認を行う予定」とするに留めている(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia310417/01.pdf)。皮肉っぽくいえば、IMFへの財務省からの出向者を通じて、IMFの意見を変えようとしているのかもしれない。

いずれにしても、財務省はいま、消費増税の実現についてかなり危機感を抱いているようだ。そういう情報戦の中で、萩生田発言はドンピシャリのタイミング、となったはずだ。そのうえで、今回の衆院補選の結果である。安倍政権はこれを深刻に受け止めているだろう。

萩生田発言について、財務省幹部が「いち政治家が言っていることだ」と冷たく反応したという報道があったが、これこそ財務省のおごり体質が表れている。財務省幹部が与党幹事長代行を「いち政治家」ということ自体、猛省すべきだと思う。そうした慢心は、次期参院選で安倍政権の命取りになるかもしれない。

筆者は4月8日に「歴史の法則で浮かんできた、安倍政権「改元後半年で退陣」の可能性 このまま増税を実施するならば…」という、安倍政権にとっては不吉なことも書いた。その中で、平成時代の景気動向指数の推移を示し、平成26年(2014年)4月に実施した消費増税は「明らかな失敗で、日本経済を停滞させた」とも指摘した。消費増税で景気の腰を折ったのは明らかであるにもかかわらず、政府(内閣府)は未だに消費増税による景気後退を認めていない。


消費税は、平成になってから4ヶ月後の平成元年(1989年)4月に初めて導入された。はじめは3%からのスタートだった。平成9年(1997年)4月には5%になり、平成26年(2014年)4月には8%になったが、これらの増税は失敗であり、ゆえに平成時代はデフレのままだった。平成は消費税の呪いにかかった時代だったのだ。

政治日程に注目せよ
いまのところ、10%への消費増税は、2019年10月から実施が予定されている。令和になってから5ヵ月後である。令和が「平成デフレ」の二の舞にならないにならないようにするためには、消費増税の撤回が不可欠である。賢者は歴史に学ぶというが、これこそ歴史に学んで、いますぐに決断すべきことである。

では、増税延期を決断するとなると、今後の日程などはどうなるのか。シミュレーションしてみたい。

萩生田氏が言及した日銀短観は、6月調査の結果が7月のはじめに公表される。それをみて国民に信を問うために衆議院の解散総選挙を行うとすれば、今国会の会期末が6月26日なので、7月の初めまでは国会を延長しなければならない。参院議員の任期は7月28日までだが、国会を延長すれば、7月28日から8月上旬にかけて参院選と衆院選のダブルを行うことは可能だ。

延長しない場合でも、参院選は、6月30日、7月7日、7月14日、7月21日に可能である。G20が6月28、29日と大阪で開催されるが、理屈上はどの日でもいい。要するに、萩生田発言は、6月末から8月上旬までダブル選挙の可能性がある、ということを世に知らしめるためのものだった、と考えられるのだ。

本コラムでは、まだ消費増税をぶっ飛ばせる可能性があることを指摘してきたが、萩生田発言は、政治的にもそれが可能であることを裏付けた形である。そうなると、あとは世論がどのように反応するのか、がカギとなるだろう。消費増税推進派からは萩生田発言を非難する声も強いが、国民全体ではどうなのか。こればかりは、筆者にも分からないところだが。

5月13日には、3月の景気動向指数が公表される。これは、あまりよい数字ではないと予測される。その1週間後の5月20日には、2019年1-3月期のGDP速報が公表される。景気動向指数とGDPは連動するが、5月20日までは景気判断ができないので、この時期までは、安倍官邸も「消費増税は予定どおり行う」と言わざるを得ないだろう。

しかし5月20日以降から今国会の会期末(6月26日)までの1ヵ月間は、衆院の解散を含めていろいろな展開が考えられるのだ。

「令和」という新しい時代を迎えるにあたり、消費増税が必要なのかどうか、じっくり考えることが重要だろう。

【私の論評】増税凍結、衆参同時選挙の可能性がかなり濃厚に(゚д゚)!

生田光一・自民党幹事長代行の発言で永田町が激震に見舞われているようです。冒頭の記事にもあるとおり、インターネット番組に出演した萩生田氏は、今年10月に予定される消費税増税を凍結する可能性にふれ、おまけに衆院解散の可能性すらにおわせたからです。他ならぬ安倍晋三首相の懐刀・萩生田氏の発言だけに与野党、経済界も戦々恐々のようです。騒ぎは広がる一方です。


問題の発言はこのブログでも以前掲載したように、18日朝、保守系インターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」で飛び出しました。保守派の論客を自任する萩生田氏のホーム・グラウンドでの発言です。問題視されている部分を今一度再現します。

「今まで(消費税増税を)『やります』と言い続けた前提は、景気が回復傾向にあったから。ここへきて、ちょっと落ちていますよね。せっかく景気回復をここまでしてきて、腰折れして、またやり直しになったら、何のための増税かということになってしまう。ここは与党として、よく見ながら対応していきたい」 
「今までも消費増税は『やめたほうがいい』という意見もある。6月の日銀短観の数字をよく見て、本当にこの先危ないぞというところが見えてきたら、崖に向かってみんなを連れて行くわけにはいかないので違う展開がある」 
「(増税を)やめるとなれば、国民の皆さんの了解を得なければならないから、信を問うということにる。(衆参)ダブル選挙は、G20(20カ国・地域)首脳会合があるので日程的に難しいと思う」
萩生田氏の発言で、まず注目すべき点は、景気が「落ちている」のをあっさり認めていることです。安倍政権は、今の経済状況はアベノミクスの恩恵を受けて「戦後最大の景気拡大」が続いているという立場です。萩生田氏の発言は、それに矛盾すると言われかねないです。その流れで「崖に向かってみんなを連れて行くわけにはいかないので違う展開がある」と、かなり強い表現で増税見送りを示唆しています。


しかも萩生田氏は、増税を見送る場合「信を問う」という表現で衆院解散・総選挙の可能性もちらつかせています。もちろん大阪でG20が迫っていることを理由に衆参同日選には否定的見解を示してはいるものの「信を問う」というフレーズは首相のみが使うのが許されるものです。一議員が使う言葉ではありません。

つまり萩生田氏は、税の判断、衆院解散という極めて高い政治判断が必要なテーマに立ち入っているのです。首相の領域に足を踏み入れた発言と言って良いです。

萩生田氏は東京都八王子市を地元に持つ当選5回の中堅議員。議員秘書、市議、都議を経て国会に上り詰めた、たたき上げの政治家です。12年に安倍氏が首相に返り咲いてから党筆頭副幹事長、総裁特別補佐、内閣官房副長官、党幹事長代行と、一貫して党の要職や安倍氏の側近ポストを務めています。その萩生田氏の発言だけに、与野党とも背後に安倍氏の意思があると勘繰っているようです。

萩生田氏は問題発言の翌19日、記者団を前に「これは政治家としての私個人の見解を申し上げたもので、政府とは話していない」と安倍氏との連係プレーだったとの見方を否定しました。しかし、その説明を信じる議員はほとんどいないでしょう。

麻生太郎副総理兼財務相

信じない最大の理由は、萩生田氏が「6月の日銀短観を注視する必要がある」という趣旨の話をしていることです。典型的な党人派の萩生田氏は、お世辞にも政策通とはいえない。その萩生田氏が「日銀短観」を口にするのは違和感があります。

麻生太郎副総理兼財務相は19日の記者会見で「萩生田が日銀短観という言葉を知っておった……。萩生田から初めて日銀短観っていう言葉を聞いたような気がするけどね」と皮肉交じりに語りました。誰かの「入れ知恵」があったと勘繰っているのは明らかで、「誰か」は安倍氏しかいないと思っているのも明らかです。

萩生田氏の発言は18日朝だった。同日の新聞夕刊に載せることは可能だったが、夕刊での各社の扱いはボツか短信だった。それが、翌19日朝刊では産経新聞が1面で報じた他、各社大きな特集記事で扱った。半日で騒ぎが大きくなった証拠といっていい。各社とも補足取材の結果、「萩生田氏の発言の影に安倍氏がある」という心証を持ったのでしょう。

野党は萩生田発言で蜂の巣をつついたような騒ぎになっています。「いよいよアベノミクスの破綻が見えてきて与党も慌てだしたということだ。解散をするなら堂々と受けて立つ」(福山哲郎・立憲民主党幹事長)と表面上は勇ましいのですが、衆参同日選となれば、今でも進捗状況がかんばしくない野党調整が難しくなります。あわてふためいています。

自民党内も例外ではありません。二階俊博幹事長は萩生田氏の発言に激怒しているとされています。周囲に「幹事長代行として、たいした仕事もしないのに……」とこぼしているようです。

二階氏と萩生田氏は上司と部下の関係にあります。ただし萩生田氏は、安倍氏と直接つながっている自信があり、それが言動に出ることがあります。二階氏はそこが面白くないのでしょう。しかし、今回の怒りは、別の理由がある、との「深読み」もあります。

二階氏は近未来の政治の潮目を読み、それを発信するのを得意とする政治家です。「誰よりも早く勝ち馬に乗る」ことが鉄則なのです。

その二階氏は、安倍氏が消費増税を凍結し衆院解散に打って出ると読み、機を見てアドバルーンを上げようと思っていたふしがあります。それなのに萩生田氏に先取りされたことで「怒っている」と取ることもできます。であるとすれば、萩生田氏の発言は、安倍氏と調整済みである可能性がますます高くなってきます。

二階俊博幹事長

安倍氏の意向が働いていたと考えた時、萩生田氏の発言はどんな狙いがあったのでしょう。今のところ野党向けのブラフという色彩が強いとみて良いでしょう。

安倍氏は、憲法の改正を目指していますが、立憲民主党などの野党が徹底抗戦し、衆院の憲法審査会を開くことができないことが続いています。現状では、安倍氏が目指す2020年の新憲法施行は厳しいです。その状況が今後も続くようなことがあれば、衆院を解散し、衆参同日選に踏み入れるぞ、と脅そうとしたと考えたいです。

萩生田氏は同じ番組の中で、衆院の憲法審査会がなかなか動かないことについて「どこかで限界もある。令和になったらキャンペーンを張る。少しワイルドな憲法審査を自民党は進めていかなければいけない」と語っています。

「消費税で違う展開」「信を問う」「ワイルド」という一連の発言を並べて読めば解散をちらつかせて憲法審議への参加を迫る脅しであるというシナリオが浮かび上がってきます。

少なくとも今の段階で、安倍総理が消費税増税を延期し、衆院解散、同日選を決断していることはないでしょう。選択肢の1つととらえているというのが正確な表現でしょう。

本日安倍総理は、欧州及び北米訪問に先立ち東京国際空港(羽田空港)で会見を行った

しかし、政治は生きものです。与野党に広がったざわめきの結果、衆院議員たちが駆け回り始めています。4月21日投開票の大阪12区衆院補選では、冒頭の記事にあるように自民党は負けています。ましてや、改元をはさむ10連休、衆院議員たちは地元に止まり支援者のてこ入れをします。経済状態が苦しくなり消費税増税を見送ってほしいという陳情も多数受けることでしょう。

さらに、以前もこのブログに掲載したように、直近では、改元による祝賀ムードがあり、さらに10連休もあり、多少悪かったにしても、5月はじめまでに経済が急激に落ち込むということはないでしょう。

しかし、祝賀ムードが落ち着き、連休で出費した人たちが、5月連休終了後から、6月以降にはこれらの反動と、消費税増税に向けての節約ということで、消費をかなり抑えることが予想されます。

そうなると、6月はかなり景気が落ち込むことが予想されます。そうなれば、安倍総理としても増税見送り、衆参同時選挙がかなりやりやすくなることでしょう。安倍総理はそうなることを見込んで、萩生田氏に観測気球をあげさせた可能性が濃厚です。

連休明け、国会議員たちが永田町に戻った時、ブラフがブラフでなくなっている可能性はかなり高いです。

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2019年4月21日日曜日

財務省はいつから「同じ失敗を繰り返すエリート集団」になったのか―【私の論評】財務官僚の"増税烈士"ごっこを打ち砕くためには、財務省を解体するしかない(゚д゚)!

財務省はいつから「同じ失敗を繰り返すエリート集団」になったのか

財務省にとっての「平成」(2) 
ドクター Z




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大蔵省の大きなあやまち

前回(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64039)に引き続き、「財務省にとっての平成」について追っていきたい。

バブル絶頂とともにはじまった平成は、日銀の「バブル潰し」を目的とする金融引き締めによって完全に経済停滞し、'90年代半ばからはデフレ経済に日本は陥った。

多くの人は当時意識しなかったが、インフレ率がマイナスになることは世界のどこを見わたしてもほぼ皆無だった。名目金利は低くても、インフレ率がマイナスであれば、実質金利は高い。つまり、経済成長を望むのが難しい状況になった。

これに追い打ちを掛けるように、大蔵省はとんでもない間違いを犯してしまった。

'97年4月、消費税を3%から5%へ増税したことだ。デフレ経済へ突入したタイミングで消費増税である。この結果、'99年度(平成11年)は'97年度と比べ、所得税収と法人税収の合計額が6兆5000億円もの税収減となり、失業者数は300万人を超えた。

1997年4月、テレビ東京系で『ポケットモンスター』の放送がスタートした

不幸というべきか、大蔵省は政治巧者だった。'93年8月、非自民の細川連立内閣が成立した。不安定な政権に付け込み、大蔵省は消費増税を仕掛けた。これが「国民福祉税騒動」('94年2月、消費税を廃止して7%の国民福祉税を設けると細川首相が突如発表した)に発展し、羽田内閣への政権交代へとつながった。

大蔵省が再び消費増税を仕掛けたのは、社会党と自民党連立の村山内閣時である。そして'97年4月、自民党単独内閣である橋本内閣になって消費増税は実現してしまった。目まぐるしく代わる政権を利用した、大蔵省の荒業である。

景気回復後、ふたたび奈落に
1回目の消費増税以降、明らかに景気停滞が進んだにもかかわらず、大蔵省はその因果関係を決して認めようとしなかった。今でも定説になっているのは、'97年に発生したアジア通貨危機が原因という説だ。

アジア通貨危機は、韓国やタイで発生した。たしかに「震源地」の両国では経済減速がみられたが、その後の回復は早かった。日本は震源地でもないのに経済低迷したままだった。これは日本が国内要因、つまり消費増税で景気低迷したことを示している証拠だ。

   1990年代に歌手・安室奈美恵のファッションを真似た「アムラー」が女子高生を中心に流行し、
   コギャルスタイルが定着。さらに90年代後半には「ヤマンバギャル」が登場し、「ヤマンバ」が
   「マンバ」へと進化した。写真は当時流行したマンバ(2016年ハロウィン@渋谷)

数々の金融機関が潰れ、先の見えない不況に沈むなか、'01年の森政権時に中央省庁の再編が行われ、大蔵省は財務省へと名を変えた。金融行政の権限は金融庁へと移管し、池田勇人首相が揮毫した大蔵省の門標との別れを惜しんだ官僚もいたという。

こうしたなか、「聖域なき構造改革」を掲げたのが、'01年に首相の座を射止めた小泉純一郎だ。国庫支出金の改革や郵政民営化、数々の規制緩和など、財務省のみならずあらゆる官庁と熾烈なバトルを繰り広げた時代といえよう。

報道では構造改革や民営化が目立っていたが、その裏で小泉首相は金融緩和を進めていた。そのため雇用が回復し、'02年から「いざなみ景気」と呼ばれる好景気が見られたのは事実である。

しかし、'08年9月から始まるリーマンショックで、麻生政権時に再び日本経済は奈落の底に突き落とされた。その後、政権は民主党へ代わり、金融緩和と積極財政が求められたが、日銀も財務省もまるで対応しなかった。バブル対応を誤った、およそ20年前と同じことを繰り返していると思うと、情けない限りだ。

【私の論評】財務官僚の"増税烈士"ごっこを打ち砕くためには、財務省を解体するしかない(゚д゚)!

“官庁の中の官庁”といわれる財務省に入ったエリート中のエリートたちが、予算編成権と徴税権を盾に政治家やマスコミ、他省庁をひれ伏させ、“最強官庁”の名をほしいままにしてきたにもかかわらず、常識では考えられない、幼稚ともいえるような、次官のセクハラ発言や文書改竄などの不不祥事を繰り返したか?多くの人が憤りを感じ、理解に苦しんだことでしょう。

「近年の官僚の劣化」を指摘する声もあります。しかし、財務省の「おごり」と「欺瞞」は今に始まったことではありません。大昔から繰り返されてきたことです。それが、「セクハラ、改竄、口裏合わせ」という不祥事の形でようやく表面化してきたにすぎません。

財務省の「欺瞞」が最も顕著なのが、長年にわたる消費増税をめぐる議論だです。財務省は国債と借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」が1000兆円を超えたと喧伝し、増税を煽り続けているが、これは政府の負債だけに着目するまやかしです。

世界標準の考え方では国の財政状況を正しく見るためには日銀を含めた「統合政府」としてのバランスシートが基本です。それで見ると、日本はほぼ財政再建が終わっている状態です。これは、米国や英国よりも良い状況です。

統合政府(政府+日銀)のパランスシート
統合政府BSの資産は1350兆円。統合政府BSの負債は、国債1350兆円、日銀発行の銀行券450兆円になります。
ここで、銀行券は、統合政府にとって利子を支払う必要もないし、償還負担なしなので、実質的に債務でないと考えて良いです。

また国債1350兆円に見合う形で、資産には、政府の資産と日銀保有国債がある。これらが意味しているのは、統合政府BSのネット債務はほぼゼロという状況です。このBSを見て、財政危機だと言う人はいないと思います。そうして、このような尺度でみれば、日本の財政状況は米国や英国などよりもはるかに良好なのです。

ところが、当の財務官僚は自らのことを「悪者になってもいいから、あえて国民に不人気な増税という選択肢を突き進む"増税烈士"」だと勘違いしています。この幼稚な思い上がりに財務官僚の決定的な「おごり」があると思います。

財務官僚の忖度という構図もありました。これは、財務省に忖度したマスコミから流れたのかもしれないですが、このようなことはありえないです。随分前から、時の政権をも脅かす財務省です。2度目の安倍晋三政権下でも、「財政再建」と「金融緊縮」を至上命題とする財務省は、「経済成長」と「金融緩和」を中心とする官邸と暗闘を繰り広げています。

こうしたおごりと欺瞞にまみれた財務省が、前代未聞の不祥事を立て続けに起こしたのです。財務省の信頼回復のためには「財務省解体」という荒業が必要です。それほどまでに取り返しのつかないことを財務省はしてしまったのです。

財務省解体とは、国税庁を財務省から切り離し、日本年金機構の徴税部門と合併させて、新たに税金と社会保険料の徴収を一括して行う「歳入庁」を新設することです。

他省庁は予算を求め、政治家は徴税を恐れ、マスコミはネタを求めて、財務省にひれ伏しています。世界を見渡しても「予算編成」という企画部門と「徴税」という執行部門が事実上、一体となっている財務省のような組織はまず見当たらないです。

これは、上場企業をみれば明らかです。「予算編成」という企画部門と営業部門である執行部門が一体となっている企業などありません。そもそも、会社法などの法律でそのようなことはできないことになっています。経理部門と財務部門も一緒にはできません。

これは、日本だけではなく、世界中がそうなっています。日本以外の国では、民間企業だけではなく、政府機関もそうなっています。

なぜでしょうか。昔から、企画部門と執行部門が同一になっていれば、必ず不祥事が起こるからです。そんなことは考えてみれば、誰にでも一目瞭然です。予算案を作成する部門とお金を使う部門が一緒になれば、何が起こるか誰にでも容易に想像がつくはずです。

自らを本来は存在することなどあり得ない"増税烈士"になぞらえ、増税することその事事態に、高揚感を覚え、陶酔する財務官僚を生み出したのは、通常のまともな組織では、最初から成り立ちえない不適合組織である財務省なのです。

"増税烈士"幻想を打ち砕くためには、財務省を解体するしかないのです。159年前の日本の将来を憂い社会を憂い水戸藩の浪士が中心となり決起した桜田門外ノ変では多くの浪士が、討ち死に、後には切腹などで死亡しました。彼らのやり方は、過激なところもありましたが、彼らの犠牲もあってわずか変の後8年後に明治維新が成就したことには異論はないと思います。烈士とはこういう人たちのことをいうのであって。"増税烈士"などあり得ません。

今年も盛大に行われた「桜田烈士祭」

そもそも、烈士とは、革命や維新などにおいて戦い功績を残し、犠牲となった人物またはその人物の称号をいう。 幕末の日本においては、志士のうち、特に生命を危険にさらしたり、犠牲を払った人物を指します。志士そのものをいう場合も多いです。桜田門外の変に加わった水戸藩や薩摩藩の浪士を桜田烈士と呼称する例があります。

桜田門外の変は、確かに直接維新につながりはせず、そのやり方は現代で言えばテロと言っても良い方法でありしかも、時期尚早ではありましたが、彼らの思いは確かに多くの人たちに大きな影響を与え、維新への道をはやめ、維新後に日本の構造転換を一気にすすんだのです。この構造転換により、アジアの小さな国日本が、短期間で列強に肩を並べるまでになったのです。

彼らの犠牲が多くの人々の心を打ったからこそ、今年も「桜田烈士祭」が盛大に開催されているのです。

一方現状の"増税"は、日本の構造転換を促すものはないのは無論のことですが、さらに日本をデフレスパイラルのどん底に再び沈め、多くの人々を不幸するだけです。そもそも、財務官僚は何があったとしても、本物の烈士のように亡くなることもなく、退官後の安逸を貪っています。

そもそも、エリートの本来の意味は、本人の命よりもその責任が重い人のことをいいます。だから、昔のエリートであった武士は、切腹の作法を学びいつでも切腹できるようにしていたのです。そういう意味では、財務官僚は真のエリートとはいえません。

財務官僚には、幼稚な「増税烈士ごっこ」はやめさせるべきです。

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2019年4月20日土曜日

挙国一致で中国と対決、何が米国を本気にさせたのか?―【私の論評】戦略の発動の時期と順番を間違えた中国は米国の事実上の敵国となった(゚д゚)!

挙国一致で中国と対決、何が米国を本気にさせたのか?

これ以上中国を放置できない、米国の専門家が語る米中関係の展望
古森 義久

米国のロバート・ライトハイザー通商代表部代表(左)、中国の劉鶴副首相(中央)、
スティーブン・ムニューシン財務長官(右、2019年2月14日撮影、参考写真)

 米国の首都ワシントンで取材していて、外交について最も頻繁に接するテーマはやはり対中国である。政府機関の記者会見でも、議会の審議や公聴会でも、民間のシンクタンクの討論会でも、「中国」が連日のように語られる。

 しかも「中国の不正」や「中国の脅威」が繰り返し指摘される。ほとんどが中国への非難なのだ。

 そうした非難を述べるのはトランプ政権や与党の共和党だけではない。他の課題ではトランプ政権を厳しく糾弾する民主党系の勢力も、こと相手が中国となると、トランプ政権に輪をかけて、激しい非難を浴びせる。ときにはトランプ政権の中国への対応が甘すぎる、と圧力をかける。

 私はワシントンを拠点として米中関係の変遷を長年追ってきたが、米側からみるいまの米中関係は歴史的な変化を迎えたと言える(その実態を3月中旬、『米中対決の真実』という単行本にまとめた。本稿とあわせてお読みいただきたい)。

 では、なぜ米国は中国と対決するのか。今後の両国関係はどうなるのか。その原因と現状、さらには米中関係の展望について、米国有数の中国研究の権威であるロバート・サター氏に見解を尋ねてみた。

 サター氏は米国歴代政権の国務省や中央情報局(CIA)、国家情報会議などで中国政策を30年以上、担当してきた。10年ほど前に民間に移ってからも、ジョージタウン大学やジョージ・ワシントン大学の教授として中国を分析してきた。

 サター氏の認識に私が重きをおくのは、彼が政治党派性に影響されていないという理由もある。政府機関で働いた時期はもちろん官僚としての中立性を保ってきた。個人的には民主党支持に近い立場のようだが、民間での研究を続けてからも、時の民主党政権をも辛辣に批判し、共和党政権からも距離をおくという感じだった。

 今回はジョージ・ワシントン大学にあるサター氏の研究室を訪れて、話を聞いた。インタビューの主な一問一答は次のとおりである。

共和党も民主党も中国を強く警戒
──米中関係が歴史的な変化の時代を迎えたと言えそうですが、その変化をもたらした原因とはなんだと思いますか。

ロバート・サター氏(以下、敬称略) 変化を招いた直接の原因は米国側での危機感でしょう。中国をこのまま放置すれば米国が非常に危険な状況へと追い込まれるという危機感が、政府でも議会でも一気に強くなったのです。ただし中国側は米国のこの感覚を察知するのが遅かった。トランプ政権や議会を誤認していたといえます。ここまで強く激しく中国を抑えにかかってくるとは思わなかったのでしょう。

 米国側の危機感、切迫感を生んだ第1の要因は、中国がハイテクの世界で世界の覇権を目指し、ものすごい勢いで攻勢をかけてきたことです。米国は、このままでは中国に経済的にも軍事的にも支配されると感じたわけです。この状況を変えるには、たとえその代償が高くても今すぐに行動をとらねばならない、という決意になったのです。

 第2には、中国側が不法な手段を使って米国の国家や国民に対して体制を覆そうとする浸透工作、影響力行使作戦を仕掛けてきたことです。統一戦線工作を駆使しての威嚇、圧力、買収、スパイ工作まで米国の心臓部に踏みこむような乱暴な浸透活動が、米側で一気に指摘され、警戒されるようになったのです。
ロバート・サター氏

──米側の中国への不信はきわめて広範囲のようですね。

サター 一般国民も政府も議会も中国に対して強い警戒心を持っています。共和党議員だけではなく民主党議員も、共和党議員と歩調を合わせて対中強硬策を提唱しています。たとえば大統領選への名乗りをあげたエリザべス・ウォーレン上院議員が中国のスパイ活動を非難しました。また、民主党ベテランのパトリック・ リーヒ上院議員は「一帯一路」を嫌っています。民主党で外交問題に関して活躍するマーク・ウォーナー上院議員も、米国のハイテクが中国に輸出されることに強く反対しています。

──であれば、米中間の対立は今後もずっと続くということになりますね。

サター 摩擦がずっと続くでしょう。中国が米国の要求をすべて受け入れることはありえません。また、米国が中国に強硬な態度をとることへの超党派の強い支持は揺るがないからです。

これまでの大統領とは大違いのトランプ

──現在、米中両国の対立で最も分かりやすいのは貿易面での衝突ですね。米中関税戦争とも呼ばれます。

サター これまでの関税交渉では、米側が中国に圧力をかけ守勢に追い込みました。中国側はトランプ政権の勢いに押され、状況の悪化を恐れて、圧力に屈したという感じです。問題は、中国が米国の要求にどこまで応じ、米側からの圧力をどこまで減らすことができるか、でしょう。中国側がかなり妥協して、関税問題では一時的な休戦あるいは緊張緩和になるかもしれません。

 ただし経済問題では、トランプ政権内部にいくらかの姿勢の違いがあります。ロバート・ライトハイザー通商代表のように中国に対してきわめて強硬な人たちと、スティーブ・ムニューシン財務長官のようなやや協調的な人たちが混在しているのです。ではトランプ大統領がどんな立場なのかというと、この判定が難しい。

 関税問題では米側がある程度の妥協を示すこともあるでしょう。ただし、基本的な問題は厳然と残っています。関税問題の基盤にある米中間の底流は非常に対立的であり、険悪です。

 当面の関税交渉では、米国の中国に対する懲罰的な関税を中止するのかが焦点となりますが、この点に関してトランプ大統領はこれまでの歴代大統領とはまったく異なります。中国に対して譲歩や妥協をしないのです。トランプ氏にとって「譲歩」というのは、懲罰の量を減らすだけということになります。

──中国はトランプ大統領に対して戸惑っているということですか。

サター そうです。トランプ大統領はオバマ氏ら前任の大統領たちと違い中国に対して譲歩をしません。米側が欲することを中国側に圧力をかけて実行させるという点では、トランプ大統領は今のところ大きな効果をあげています。しかし、習近平主席は米側が求める総合的な構造変革をすることはないでしょう。ライトハイザー通商代表が要求しているような経済の体系的な変革はないだろう、ということです。

 中国側は「大きな変革を実行する」という合意に応じたところで、アメリカ側をだます見通しが強いといえます。このことはこれまで繰り返し起きてきました。ライトハイザー氏はすでにこのことを指摘しています。だから関税問題でたとえ米中間の合意が成立しても、両国関係の基本を変えるような前進はまずないだろうと思います。

──関税問題とは別に、厳然と残っている基本的な経済問題とはなんですか。

サター 米中間のハイテク競争、そして中国の米国への浸透、知的所有権の窃盗、米側企業を取得して米国のハイテク産業をコントロールすることなどです。米側は中国のこの種の動きに、はっきりと抵抗しています。

 さらには中国への輸出管理です。米側の商務省がこの問題に対処しています。中国の膨張を許すような品目の対中輸出は自粛する。これは東西冷戦時代にソ連圏への輸出を規制したココム(対共産圏輸出統制委員会)に似た概念です。中国との関係は、東西冷戦時代のソ連との対決とはまだ同じ段階に達していません。しかし、ファーウェイに対する米側の対応は事実上ココム的管理に等しく、その厳しさはさらに強くなっていくでしょう。
中国は「大きな変革」に着手するか

──サターさんは、米側が求める最終目標として中国側の「総合的な構造変革」という言葉を使いましたが、具体的になにを意味するのでしょうか。

サター 国家がコントロールする企業の役割、国家が産業界と一体になる産業政策、特定企業への優遇財政措置、外国企業、とくに米国企業の中国市場へのアクセスの制限、といった中国の産業政策が実際にどう変わるかです。知的所有権の扱い、外国の技術などの盗用、スパイも大きな要素です。こうした諸領域で中国政府がどんな改革措置をとるかが『総合的な構造変革』を占う指針となります。

 しかし、中国政府は表面をとりつくろうことがきわめて巧みです。なにもしていないのに、なにかをしているかのようにみせかける。そのため米国政府側の中国不信は非常に強い。だから米国政府は最大の注意を向けて中国側の動向を監視しています。もし中国側がこれまでのように大きな変革措置をとるという約束をして、実際にはしなかったことを確認した場合、米中関係は重大な危機を迎えるでしょう。トランプ大統領はそんな中国の背信を許さないでしょう。この点では、議会でも共和党、民主党が一致して中国への強硬な姿勢を保っています。
中国の危険な拡大を食い止めよ

──トランプ政権は経済問題以外でも中国を非難しています。具体的には中国のどのような動きが米側を最も強く反発させているのでしょうか。

サター 南シナ海での膨張、日本への圧力、ロシアとの結託、ウイグル民族の弾圧など米国の国益や価値観を侵害する一連の動きです。中国は米国のパワーを削ごうとしている。米国はその動きを止めようとしているということです。

 米国が究極的に目指すのは、中国にそのような侵略、侵害を冒させない国際秩序の保持だといえます。中国の攻勢に対しては、ケースバイケースで対応していく。そこで商務省、財務省、通商代表部、国防総省、連邦捜査局(FBI)などがそれぞれ中国の攻勢に立ち向かっているという状況です。

──サターさんのこれまで40年もの米中関係への関わりからみてトランプ政権の現在の中国への対応は適切だと思いますか。

サター はい、米国は中国の攻勢をはね返す必要があったと思います。中国が米国を弱いとみて進出や膨張を重ね、米国の勢力圏を侵害していくという近年の状況は危険でした。率直に述べて、オバマ政権時代の後半はそうでした。トランプ政権の政策担当者たちはそうした中国の危険な拡大を止めるための具体策を取り始めた。私はその基本姿勢に同意します。

 トランプ大統領が長期の総合的な対中政策のビジョンを持っているかどうかは別として、中国の膨張を止める政策を断固としてとれた指導者は、2016年の大統領選の候補者の中には他にいませんでした。中国への有効な対策を取るためには、米中関係の緊迫を覚悟せねばならない。トランプ氏以外にそうした緊迫を覚悟して自分の政策を推進できる指導者はまずいなかったと思います。現在のような強固な対中政策が米国には必要なのです。

【私の論評】戦略の発動の時期と順番を間違えた中国は米国の事実上の敵国になった(゚д゚)!

冒頭の記事において、米国側の危機感、切迫感を生んだ第1の要因は、中国がハイテクの世界で世界の覇権を目指し、ものすごい勢いで攻勢をかけてきたことをあげています。これについては、随分と報道などされてきているので、ここでは詳細は述べません。

第2の中国による統一戦線方式の対米工作については、特定部分がワシントンの半官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」から昨年9月上旬に学術研究の報告書として発表されました。

「米国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた」

このようなショッキングな総括でした。1年以上をかけたという調査はコロンビア、ジョージタウン、ハーバードなど全米25の主要大学を対象としていました。アジアや中国関連の学術部門の教職員約180人からの聞き取りが主体でした。結論は以下の要旨でした。
・中国政府の意を受けた在米中国外交官や留学生は事実上の工作員として米国の各大学に圧力をかけ、教科の内容などを変えさせてきた。 
・各大学での中国の人権弾圧、台湾、チベット自治区、新(しん)疆(きょう)ウイグル自治区などに関する講義や研究の内容に対してとくに圧力をかけてきた。 
・その工作は抗議、威嚇、報復、懐柔など多様で、米側大学への中国との交流打ち切りや個々の学者への中国入国拒否などを武器として使う。
この報告の作成の中心となった若手の女性米国人学者、アナスタシャ・ロイドダムジャノビク氏はこうした工作の結果、米国の大学や学者が中国の反発を恐れて「自己検閲」をすることの危険をとくに強調していました。

こうした実態は実は前から知られてきました。だがそれが政府公式の調査報告として集大成されて発表されることが、これまでなら考えられなかったのです。

これは、昨今の米国の対中態度の歴史的な変化の反映だといえるでしょう。さて、わが日本でのこのあたりの実情はどうでしょうか。日本でも、同様の工作が行われていることが、10年以上も前から言われてきました。

特に、日本は工作員天国といわれています。日本には世界の国ならどこでも持っている「スパイ防止法」がないのです。

工作員にとっての天国とは次のような状態です。①重要な情報が豊富な国、②捕まりにくく、万一捕まっても重刑を課せられない国のことです。

日本は最先端の科学技術を持ち、世界中の情報が集まる情報大国でもあります。しかも、日本国内で、工作員がスパイ活動を働いて捕まっても軽微な罪にしか問われないのです。スパイ活動を自由にできるのが今の日本なのです。つまり、工作員にとっては何の制約も受けない「天国」だということを意味しています。

アメリカに亡命したソ連KGB(国家保安委員会)少佐レフチェンコが「日本はKGBにとって、最も活動しやすい国だった」と証言しています。ソ連GRU(軍参謀本部情報総局)将校だったスヴォーロフは「日本はスパイ活動に理想的で、仕事が多すぎ、スパイにとって地獄だ」と、笑えない冗談まで言っています。

レフチェンコ氏

日本は北朝鮮をはじめとする工作員を逮捕・起訴しても、せいぜい懲役1年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していきます。日本もなめられたものです。

今後米国が、本気で中国と対決するというのですから、日本経由で米国の重要情報が漏れたり、たとえ米国の情報でなくとも、日本の技術等が中国に漏れそれが、中国を利することになり米国が不利益を受けることになっても、日本が現状を放置しておくことにでもなれば、米国は日本の大学や企業、政府機関、金融機関等を制裁対象とする可能性は十分にあります。

日本でも、米国のように日本国内での中国による統一戦線工作の実態を暴く報告書を作成するなどして実態を明るみに出し、それを期にスパイ防止法を成立させるべきです。

習近平

米国が、中国と本気で対決しようとしたのには、別の理由もあります。米国は中国が国債秩序を塗り替えるつもりではないかと懸念してきたことに対して、中国はそのとおりであると宣言したことです。

中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを昨年宣言しています。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになります。

習近平氏は昨年6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したといいます。

習主席はこの会議で「中国は今後グローバルな統治の刷新を主導する」と宣言し、「国際的な影響力をさらに増していく」とも明言しました。中国独自の価値観やシステムに基づいて新たな国際秩序を築くと宣言している点が、これまでの発言よりもさらに積極的でしたた。

習氏の演説の骨子は、以下のとおりです。
・中国はグローバルな統治を刷新するための道を指導していかねばならない。同時に、中国は全世界における影響力を増大する。 
・中国は自国の主権、安全保障、発展利益を守り、現在よりもグローバルなパートナーシップ関係の良い輪を作っていく。 
・中国は多くの開発途上国を同盟勢力とみなし、新時代の中国の特色ある社会主義外交思想を作り上げてきた。新たな国際秩序の構築のために、中国主導の巨大な経済圏構想「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」をさらに発展させる。
・中国主導の新しいスタイルの国際関係は、誰にとっても「ウィン・ウィン」であり、互恵でなければならない。
米国政府は中国に対して従来から警戒や懸念を表明してきました。習近平政権は米国の懸念に対して、それまで正面から答えることがなかったのですが、これは、その初めての回答とも呼べるものです。

つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのです。米国と中国はますます対立を険しくすることになったのです。

中国の立場にたったとしても、私は、この宣言は早すぎたと思います。この宣言はできれば、20年後、早くても10年後にすべきでした。

現在の中国は、米国第二の経済国といわれていますが、まだまだ米国には及びません、個人あたりのGDPも当然米国に及ぶこともなく、日本や他の先進国にもまだまだ及びません。

このような宣言は、少なくとも国全体のGDPが米国と肩を並べるくらいになってからすべきでした。

過去においては中国の経済の成長は目覚ましいものがあり2017年には米国と肩を並べるなどともいわれていましたが、今は成長が鈍化し見る影もありません。かつての中国では、保八ということがいわれ、中国は発展途上であり、雇用を確保するためには最低8%の経済成長がなければ、それは不可能になるとして、経済成長率8%を死守するとしてきましたが、最近ではこの保八すら守れない状況になってきました。

これは、中国では十分な雇用を確保できなくなったことを意味します。さらには、最近ではこのブログでも掲載したように、金融緩和策も取れない状況に陥りました。マクロ経済学上の常識では、金融政策=雇用政策でもありますから、これは中国ではますますまともな雇用政策もできなくなったことを示しています。

現在の中国は経済力でも軍事力でも、米国には到底およびませんし、米国とその同盟国ということになれば、雲泥の差と言っても良いくらいです。ちなみに、米国では昨年は雇用状況がかなり良くなっていました。日本もそうでした。

中国が先のような宣言を昨年に実施したことにより、日米ならびにその同盟国は、中国に従来以上に警戒感を高め、中国に対抗しようという機運が高まりました。

もし、中国があのような宣言の内容をおくびにも出さず、20年後に宣言することになっていたとしら、それまでの間に、経済・軍事力を強化し、その頃になって、尖閣での示威行動をはじめたり、南シナ海を突然大規模に埋め立て、あのような宣言をしたとしたら、世界はとんでもないことになっていたかもしれません。それこそ、第三次世界大戦になる可能性もあったかもしれません。

しかし、中国が昨年の時点で、あのような宣言をしてしまったため、米国は無論他の先進国も事前に中国の野望を知りそれを阻止する暇が得られることになりました。

中国は、完璧に戦略を間違えました。戦略というより、戦略の発動の時期と順番を間違えました。ただし、時期と順番を間違えなかったとしても、それこそ第三次世界大戦となり、中国にとってもとんでもない事態になったかもしれません。

民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていない、中国中心の新たな国際秩序とは、はっきり言えば闇の世界です。米国が第二次世界大戦後につくりあげてきた国際秩序は、良いことばかりではありませんが、それでも中国中心の新たな国際秩序よりは、はるかにましだし、まともです。

中国中心の新たな国際秩序なるものが形成されれば、結局のところ世界は、19世紀、もしくは18世紀の遅れた社会構造にもどることになるだけです。テクノロジーや、素材などが、最新のものでも、非効率、非生産的な遅れた社会では、特に先進国の人々は夢も希望も持てなくなります。

日本もせっかく明治維新で社会が近代化できたにもかかわず、江戸時代に戻ることになったかもしれません。そんなことは、米国だけではなく、世界中のまともな国々や、先進国では、たとえ政治的立場が保守派であろうが、リベラル・左派であろうが、とても許容できるものではありません。

本来は、中国こそが社会構造を変えていくべきなのです。日米などの先進国も、中国が経済発展すれば、そうなるだろうと期待していたのです。しかし、それは見事に裏切られたどころか、中国は自らの社会構造の遅れを認識せず、単に遅れた社会構造を自らの核心的価値観として世界に押し付けようとしたのです。だからこそ、米国は、超党派で中国に対抗しているのです。

この米国の姿勢は、中国が少しぐらい譲歩したからとって変わることはありません。中国が、社会構造改革を約束して、それを本当に実行するか、経済的に疲弊して、他国に影響力を及ぼせないくらいに衰退するまで続くことになります。この米国の姿勢は、もはや超党派のものとなり、トランプ政権の後の政権もこれを踏襲することになります。中国は米国の事実上の敵国となったのです。

他の先進国も、これに同調することになります。中国は金で多くの国をたらしこもうとするので、中には、イタリアや中欧諸国のように中国に同調しようとするような国もでてくるかもしれませんが、大勢としては、ほとんどの国、特に先進国が中国に対して対抗姿勢を顕にすることでしょう。結果が出るまで、約20年は続くとみておくべきでしょう。米中の対立の根は見かけよりもずっと深いのです。

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