【湯浅 博】日本学術会議だけではない―頭脳流出に手を貸すお人好し
ご存じ中国共産党の「千人計画」。しかしこの枠組みが成立するのは、あまりにも日本国内の危機意識が薄いからでは―
2018年鳩山由紀夫元首相が北京で開かれた国際学術フォーラムで講演、安倍首相の対中政策を批判 |
何かとお騒がせな元首相・鳩山由紀夫が、またも目を疑うような光景の中で写真に収まっていた。かつて、米紙から「ルーピー(頭がおかしいさま)」と皮肉られた元首相が、今度は日本の有能な研究者や技術者を中国がリクルートする出先機関「人材採用ステーション」の日本支部開設式に出席していた。
ASPI報告書『フェニックス捕獲作戦(Hunting Phoenix)──中国共産党の技術と才能の探求』の中ほど、「日本での人材採用」の項に、中国系の研究者の統一組織、全日本華僑専門家連盟の人々と出先機関の立ち上げを祝っていた。背後の横断幕には「二〇一四年」の記述が見え、元首相がまるでリクルートの支援者のようにふるまっていた。
鳩山元首相は日中友好や日韓交流など美しい響きの建前が大好きだから、腹黒い海外勢に利用されやすい。過去にも、日本の領土なのに尖閣諸島を「日中で議論して結論を出す」などと述べ、中国をその気にさせて今日に至る。
この「人材採用プログラム」には、海外留学組の中国人研究者を呼び戻す「百人計画」と、高度技術を持つ海外の才能を幅広く抱え込む現在の「千人計画」とがある。その人材調達の先兵となるのが、世界に六百を超える「海外人材採用ステーション」だ。鳩山元首相がニコニコ顔で出席したのは、日本にある八つのステーションの一つということになる。
アメリカではこの一月にハーバード大学のナノテクノロジーの専門家、チャールズ・リーバーがこの「千人計画」への参加を隠したとして逮捕された。だが、日本では逆に元首相が怪しげな勧誘組織の信頼を高めるために一役買ってもおとがめなしだ。このような危機意識のなさは自民党にもあって、かつて自民党総裁、谷垣禎一が、2012年2月の中国共産党機関紙『人民日報・海外版』のインタビューに答え、中国資本に日本国内の土地買収を推奨していたのには仰天した。
新会員候補6人の任命を政府から拒否された日本学術会議も、2015年に中国科学技術協会と協力の促進を図る覚書に調印している。2015年といえば、習近平国家主席がハイテク国家戦略として「中国製造2025」を発布した年である。日本国内の「軍事研究に学問の自由なし」と宣言している学術会議が、「軍民融合」を推進しているあちらの組織にはやたら甘い。覚書には、「必要に応じて推薦された研究者を受け入れる」とあり、一納税者としても、こんな危うい学術会議に年十億円が投入されてはたまらない。
さて、中国共産党の「人材採用プログラム」だが、報告書によると、2016年までの8年間に6万人以上の研究者や技術者が採用され、日本でも千人以上が採用されている可能性がある。各国に配備の採用ステーションには、莫大な運営費と採用ごとに多額のボーナスがでる。ターゲットには米国をはじめ、イギリス、ドイツ、シンガポール、カナダ、フランス、オーストラリア、そして日本からそれぞれ千人以上の個人が採用されている可能性が高いとASPI報告書は言う。
これにより、海外ハイテク技術が流出して、中国の兵器プログラムに組み込まれ、人権侵害や対外侵略の最新兵器に変身する。さらに、報告書が炙り出すのは、これらの採用プログラムが実は、国の「千人計画」よりも幅広く、各地方が競うように「千人計画」をもち、国レベルの7倍もの研究者が採用されている実態だ。
契約が巧妙なのは、採用方法が機関ではなく研究者個人との交渉で成立するから、発覚が免れて、かつ個人は元の組織、機関の仕事をしながら中国のために貢献する形も取る仕掛けである。
問題は、中国共産党による「フェニックス捕獲作戦」が、国によって罰則規定が曖昧なことだ。アメリカでは国立衛生研究所で、外国から資金提供を受けながら申告していなかった54人が失職した。その大半が、中国を資金源としていたが、日本はどうか。
アメリカの対中取り締まりが厳しくなれば、日本の研究者や技術者に対する人材採用プログラムのハンティングが活発化する。鳩山のようなルーピーが活躍する前に、法的な縛りを強化する必要がある。それなくして、技術立国・日本の将来はありえない。
北京に本拠を置くシンクタンク「中国グローバル化研究センター」(CCG)の調べによると、2013年、海外で暮らしていた中国人は850万人で、多くは中流階級です。一方、中国に移り住んできたのは、わずか84万8000人にとどまります。
共産党機関紙「人民日報」はこの状況を「世界最悪の頭脳流出」と伝えました。
海外移住を加速させている要因としてまず挙げられるのは、富裕層の資産防衛です。
この背景には、習近平(シーチンピン)国家主席が汚職対策を精力的に進めた結果、コネのある富裕層も当局の摘発から逃れ切れなくなっている現状があります。不正な収入を得た幹部が妻や子、資産を海外に移す「裸官」も、こうした富裕層に含まれます。
移住者の数は年々増えており、中国の富豪番付として有名な「胡潤百富榜」によると、富裕層の64%がすでに移住に取り掛かっているか、来年の移住実現に向けて計画を練っているといいます。
「胡潤百富榜」が伝える中国の富豪トップ10、トップはアリババのマー会長(当時) |
ただ、投資ビザを巡っては論争もあります。カナダの移民当局は先ごろ、申請者数が膨大になったことや国内で反対の声が強まったことを受けて、多額投資への見返りに永住権を与える移民プログラムを廃止しました。海外移住希望の中国人にとっては残念なニュースとなりました。
財産保全以外にも、スキルがより評価される場所で職の機会をみつけたいとか、より高水準の教育を受けたいといった動機で海外移住する場合もあります。ポストドクターや博士課程の学生がチャンスをうかがってしばらく海外に残ることも多いです。
中国では就職にあたってコネによる採用が主流であることも学生たちが帰国をためらう要因になっています。
大気汚染による健康被害への不安も、外国移住増加の主因の一つです。北京をはじめとするとする中国東北部では大気汚染によるスモッグが深刻化しており、健康に悪影響をおよぼす水準にまで達することもあります。
こうしたなかで、お金に余裕がある層は真剣に海外脱出を考えだしています。
それでは、このような資産や頭脳の流出は、中国にとってどれほどの痛手となっているのでしょうか。
CCGのディレクターである王輝耀氏は、この現象を中国経済の長期的な変革に対する脅威と捉える。同氏は「米国は79億人から人材を選べるが、中国の人材は13億人だけだ」と指摘。移民局を設立して、高い技術を持った外国人働者の受け入れを拡大するよう政府に働きかけています。
もっとも中国当局も手をこまねいているわけではないようです。流出した人材の国内環流に向けて積極的な動きを展開しています。2009年には政府肝いりで「1000の才能プログラム」が立ち上げられました。トップレベルの科学者や起業家を母国に呼び戻そうという試みです。
これは手放しの成功とはいかなかったのですが、CCGは、技能の習得や人脈の拡大など、人材の国外流出にも良い面はあるとしています。
「千人計画」で中国に招致された梶野敏貴・国立天文台特任教授(左から2番目) 北京航空航天大の特別教授を務め、日本からも学生を派遣している |
10年程前から、日本でも中国人による不動産投資が話題になっていました。この不動産取得のうち、軍事施設付近の取得や、水資源のある場所の取得は理解できるのですが、その他の投資は日本人からみると今時、 日本の不動産に投資して利益がでるとは考えられず、とても不思議に思えましたが、中国の 状況を考えるとうなずける面もあります。
数年前から中国政府も一般市民の所得を増加させるために重要な施策を実施しています。たとえば 家電製品購入や自動車購入に補助金を出したり、低所得者層の個人所得税を 下げたりです。
激戦区の集会に登壇したトランプ氏 |
そうなる前に、日本でも法的な縛りを強化するべきです。そうしてリスクはそれだけではありません。米中のデカップリングが起これば、中共政府は外国の人材を抱え込み、国外に出さないようにするでしょう。大々的に臓器ビジネスを行う国柄の中国では、そのくらいのことは平気ですることでしょう。
【瓦解!習近平の夢】「千人計画」は知的財産泥棒? “超ハイレベル人材”で科学的発展目論むも… 米は違反者摘発へ本腰―【私の論評】トランプ政権の“泥棒狩り”は、日本にとっても他人事どころか今そこにある危機(゚д゚)!