遂に減少し始めた中国の人口 背景に儒教の影響も
◆岡崎研究所
1月17日付の英フィナンシャルタイムズ紙(FT)に、FTのEleanor Olcott在香港中国特派員とSun Yu中国経済担当レポーターが 「中国の人口が歴史的変化の減少になる。60年で最初の減少は国内および世界経済に長期的な影響を持つ」との記事を書いている。
2022年、中国の人口は数十年で初めて減少した。中国は世界最大の人口を有する国家として、長い間、中国と世界の成長を支える労働力と需要の重要な源であった。2023年1月 17日、中国の国家統計局は、全人口が60年ぶりに2022年に85万人減り、14億1175万人になったと発表した。
中国のゼロコロナ政策が出生率の減少を加速させたと見られている。昨年、出生数は956 万になり、一昨年の1062万を下回った。2022年の出生率は70年以上前に記録がとられるようになってから最低で、1000人当たり6.77人であった(2019年は10.41人)。
国家統計局長は、15歳から49歳の出産可能年齢の婦人の数が100万以上減ったと述べた。赤ちゃん商品や産科関連株はこの発表で売られ、8.5~11%も値下がりした。
この人口減少は1980年に課された一人子政策に根を持つ。当局はこの政策を2016 年に撤廃したが、その後も出生数は減りつづけている。2022年の死亡率は1000人当たり7.37人で 1970年代以降最大であった。
中国のゼロコロナ政策の先月の突然の廃止とその後の感染増は病院を急速に逼迫させた。中国の人口上の転換点は、日本(2010年より人口が減り始め、その後毎年減り続けている)と同じ道筋に中国を置いている。
国連は中国の人口は 2050 年までに13.1 億人に、世紀末には7.67億人になると予想している。インドの人口は今14億660万人で、今年インドが中国を追い抜き世界第一になるとされる。
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2022年に中国の人口が減り始めるという事は予想されていたことである。が、実際に起きてみると、それは世界経済、世界政治にとり大きなニュースになった。日本も少子高齢化に悩んでいるが、中国の場合その悩みはさらに大きなものになるだろうと考えている。
第一に、2021年の特殊合計出産率は日本は1.33であるが、中国は1.15であり、日本より低い。ちなみに韓国は1.0以下であり、さらに低い。
第二に、儒教の影響力が強い中国と韓国には女子より男子を優先する傾向があり、1人しか子供を持てないとなると女子は中絶し男子を生む傾向が出てくる。韓国の小学校を見学してみると、運動場で整列している子供は、男子の列の方が女子の列よりずっと長いことが多いようだ。中国でも同じ傾向があると聞いた。
要するに、人口が男子に偏り、結婚相手たる女子が不足することがある。ベトナムから女子が中国側にさらわれたというような話があるが、そんなことで是正される問題ではない。問題の規模が違う。さらに婚外子に対する差別感情が強いように思われる。
先進国は大概少子高齢化に悩んでいる。フランスとスウェーデンは子供の出生数が多く、少子化をある程度克服している。しかし生まれている子供の過半数は婚外子である。そういうことにすることには中韓両国ともに抵抗がある。
日本は出生者数の男女比はほぼ同じで、中国や韓国とは異なる。日本の少子化問題の克服は中韓両国よりは易しいのではないか。シングルマザーの許容、支援をすれば、フランスやスウェーデンのような効果が得られるかもしれない。
中国の人口減少は経済、政治の面で大きな影響を今後世界に与えていくだろう。注視していく必要がある。
1978~89年の中国最高指導者であった鄧小平は、共産党指導者の任期制や集団指導制や外交での国際関係の処理などで新しい路線を打ち出した賢人であったと考えられる。今、習近平がそれを逆回転しているのを残念に思っているが、鄧小平の一人っ子政策は、長い目でみれば誤りであったように思う。
今年にもインドが「人口世界一」の座に
上記のFTの記事にもあるように、今年にも、インドが中国を抜いて世界第一の人口を抱える国家になる。世界第一の民主主義国でもあり、若年層の人口割合の高いインドが、今後、世界経済や国際政治で、存在感を増して行くことは間違いないだろう。
日印関係は、今までも良好に推移してきたが、さらに緊密化して行く余地がある。日米豪印のクワッドの枠組みが出来たことも、日本にとってプラスに働くだろう。
【私の論評】中国では「人口減」は大きな脅威!日本ではこれを大きな「機会」と捉えることができる(゚д゚)!
中国の人口減少しますが、日本もその傾向は続いています。2022年1月1日時点の日本人の人口は1億2322万人あまりで、2021年からおよそ62万人減り、13年連続で減少しました。新型コロナの影響で都市部への流入が減ったことなどから、東京は26年前の平成8年以来の減少に転じました。
出生数を、都道府県ごとにみると、増えたのは沖縄県のみで、神奈川県はほぼ横ばいでした。人口に関する統計には、生命表という「どのくらいになると死ぬか」という安定的な指標があります。これは、生命保険などに利用されています。
出生率の予測は難しくないですし、死亡率の予測はさらに簡単で、両者をあわせてみると、日本の人口の減少は、今後10年~20年は続きます。その後は、どうなるのかはわかりません。
そこから先は出生率がどうなるのかというこに依存します。日本の人口は約1億2000万人であり、減っていけばいずれ1億人を切るのは間違いありません。しかし、たとえ8000万人くらいになっても、世界のなかで20番以内には入るくらいの大きい国です。
ちなみに、大東亜戦争の時の日本の人口は「一億総火の玉」というキャッチフレーズがあったことから、多くの人が漠然と、一億人くらいと考えているようですが、実際には7000万人台でした。
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昭和17年〈1942年〉大政翼賛会ポスター
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7000万人台の人口の国が、最終的には負けたとはいえ、米英を相手に戦い、当時のソ連と対峙して、中国大陸や東南アジアにも兵を送り、豪州を爆撃したのですから、人口が8000万人になったからといって、特に大きな問題だとはいえないのではないでしょうか
それに、人口爆発は対応が難しいですが、人口減少には機械やロボットを導入することによって対応できます。
ロバート・マルサスの「人口論」でも指摘されているように、幾何級数的に人口爆発が起こるとほとんどコントロールができなくなって、対応策がありません。人口減少より、人口爆発のほうがはるかに脅威です。
人口減少の場合は、幾何級数的に人口が減少が起こることはなく、漸減していくので、これには対応策があります。要するに、機械化やロボットを増やすという単純な回避方法です。これは、経済学で言うところの、「装置化」するということです。
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日本の産業ではロボット化が進んでおり、これとAIが結びつけばさらに生産性は向上する |
さらに、人口について予測するのは比較的簡単です。予測するのが簡単であれば、それに合わせて社会制度を変えることも簡単です。人口減少を単に大問題と考え、目の前の問題を解決すれば、良いという考え方であれば、あまりうまくはいかないかもしれません。
それはマイナスの状態をゼロにするにすぎません。人口減少をマイナスと考えるのではなく、プラスの状態を起こすためには、機会に焦点を合わせなければならないです。
経営学の大家ドラッカー氏以下のように語っています。
問題ではなく、機会に焦点を合わせることが必要である。もちろん問題を放っておくわけにはいかない。隠しておけというわけではない。しかし問題の処理では、いかにそれが重大なものであろうとも、成果がもたらされるわけではない。損害を防ぐだけである。成果は機会から生れる。
ただし、人口が減ることによって、内需が縮小していくから経済が減速するので「
人口オーナスだ」などといわれます。ただ同時に作る人も減るのですから、これはあまり関係ないです。現在でも、人口が減っている国は世界のなかで20ヵ国~30ヵ国あります。しかし、それらの国が大変になったという話はありません。
国内総生産(GDP)をみれば、「給与×人口」なのでGDPは減りますが、1人あたりGDPでみると、人口の増減はほとんど関係ないということがわかっています。
「人口オーナス・ボーナス」は一人あたりのGDPや、生産性など長期にわたって、全く同じという条件の下でのみ当てはまる現実にはあり得ない限定的な理論といえます。
これらを勘案すると、人口減少の何が問題なのかといえます。特にこれからは、AI(人工知能)の活用により装置化がやりやすくなります。
人口減少への対応は多くの人に思われているよりは簡単で、先ほど言った装置化するというようなことなのですが、「AIが出てくると仕事が減って大変だ」と言いつつ、「人口減少も大変だ」と言うのは大いに矛盾しています。
かつて日本では高度経済成長時代に「人手不足だ」と言われたときは、まさに装置化によって飛躍的にイノベーションが起こりました。
さらに、こうしたことをただ問題の解消として捉えるのではなく、機会として捉えるべきです。機会としては、賃金を現在の倍どころか3倍にすることも可能になるかもしれません。それこそ、学費の無料化、研究費などの倍増、軍事費のさらなる増額と高度化、新たな産業の創生など様々な機会が目の前に広がります。
これらのことは、人口減少しなくても実現すれば良いのですが、何かの変化があって、それに対応しようとして努力するというほうが、周りのコンセンサスが得られやすいです。
人口減少を単なるマイナスであり、この問題を解消するためだけに努力するというのでは進歩はありません。
経営学の大家であるドラッカー氏は以下のようにも述べています。
問題に圧倒されて機会を見失うことがあってはならない。ほとんどの組織の月例報告が第一ページに問題を列挙している。しかし、第一ページには機会を列挙し、問題は第二ページとすべきである。よほどの大事件でも起こらないかぎり、問題を検討するのは、機会を分析しその利用の仕方を決めてからにすべきである。
このように考えると、「少子化」「高齢化」は問題ではなく、機会になる可能性が大きいです。そうして、産業界は実際その方向に向けてすで動いています。
ただ、一つ心配なのは、日本の硬直的な財政金融政策です。人口が減って、それに対応しつつ生産性をあげているときに、それに対応して、政府が日銀や財務省に対して柔軟な対応をさせなければ、需要か供給のギャップが必ず発生します。このギャップに対応して、金融緩和+積極財政、金融引締め+緊縮財政のいずれかを柔軟に実行できる体制でなければなりません。
そうでないと、せっかく装置化をすすめても、深刻なインフレか、深刻なデフレを招くだけになってしまいかねません。人口減少は機会になるどころか、大問題となり、日本人を苦しめることになるかもしれません。
かつての平成年間の日本のように、景気が悪くても、デフレであっても、政府は緊縮財政を繰り返し、日銀は金融引締めを繰り返すという硬直的な姿勢では、人口減にも適切に対応できないでしょう。
今後の人口減は、いままでにない未曾有の経験です。装置化とは生産性を高めることを意味します。人口減による生産性の低下を装置化によって生産性を高めることのバランスをとることはさほど難しいことのようには思えないのですが、過去の日銀の金融政策をみているとは、そうとは言い切れません。
産業界は「人口減少」に対応していますし、これからもできるでしょうが、日銀や財務省がこれに適切に対応できるかどうかは、未知数です。これが日本の少子化に対応していく上での、唯一心配なところです。
さて、中国の場合も、「人口減少」は、それに対応できれば、大きな問題にはならないでしょう。それどころか日本と同じく「機会」となる可能もあり得ます。
ただし、中国には日本の問題よりもさらに大きな問題があります。それは、中国は日本などの先進国と異なり、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていないことです。
そのため、現在の中国は全体主義国家でありり、このような国では無意味な「ゼロコロナ政策」をやめるのですら、時間がかかりました。それに、やめるにしても、それに対して柔軟に対応しつつやめるのではなく、なし崩し的にやめてしまいました。
私は、中国共産党は、国民がどれだけ亡くなろうとも、集団免疫が獲得できれば、それで良いと、ほとんど何も対応策を講じずに、政策転換をしたとしか思えません。
そのため「人口減少」に対する対応も、柔軟にはできず、「人口ボーナス」を最大限に活かす体制をこれからもしばらく変えることができず、弊害が誰の目にみても明らかになってから、ようやっと転換するか、結局できないのではないかと思います。
特に、このブロクでも以前指摘したように、現在中国は国際金融のトリレンマにはまっており、その結果として、独立した金融政策が行えない状況になっています。
独立した金融政策が行えないとは、たとえば国内の失業率の増加などに対応して、金融緩和を行うと、深刻なインフレに見舞われたり、キャピタルフライト(資本の海外逃避)などが起こってしまうので、金融緩和したくてもできない状況のことです。
この状況を緩和するには、資本の移動を自由にするか、人民元の固定相場制を変動相場制にするという大胆な改革が必要なのですが、中国は未だにそれを実行していません。これを実行すれば、中国共産党の当地の正当性が脅かされるので、やりたくてもできないのかもしれません。
中国では「人口減少」がおこり、それに対応して、「装置化」をすすめるために、積極財政はできるかもしれませんが、独立した金融政策はできないのです。いくら積極財政をしても、金融緩和しなれば、全体の貨幣の流通量は変わらないので、金融緩和ができなければ、デフレが進行するかもしれません。あるいは、「装置化」が進みすぎて、逆にインフレが亢進するかもしれません。
いずれの場合も、金融政策を適切にすれば、それを克服することができるはずですが、中国はこれができないのです。金融政策をしようとすると、不都合がおこり、なかなか実施できないのです。
ただし、中国としててはまだできる手はあるかもしれません。それは、たとえば中国がデフレ傾向になれば、日銀が従来のように金融引締を続ける政策に戻させることです。そうなると、従来のように円高になり、中国は日本から部品や素材を安く買い、それを組み立てて安い製品を輸出することができます。そのため、中国は日本政府の高官や日銀官僚に工作をかけるかもしれません。
さらに円高が亢進して、超円高になれば、日本企業は国内で製品を製造して、輸出するよりも、中国で製造して日本や、海外に輸出するほうが安くなり、日本の中国への産業移転がすすみ、過去の円高時のように日本で産業空洞化が進むかもしれません。
しかし、これには伏兵もあるでしょう。中国に経済制裁を加えている米国がこれを見逃さないでしょう。現状では、米国は軍事転用できるうる先端的な半導体等を中国が製造したり、輸入できないようにしていますが、日本が超円高になれば、中国は先端的でない技術を用いた製品の製造でもかなり有利になるため、これを防ぐ方向に動くでしょう。
そうなると、中国は日本がどのような金融政策をとっても、無関係になります。
逆に中国がインフレになれば、理屈上は、日本に工作をかけ、日本をさらにインフレ傾向に持っていけば中国はインフレを克服できるかもしれませんが、さすがにこれは無理でしょう。
デフレは、少しずつ悪くなっていくので、ゆでガエルのように多くの人がすぐには気づきにくいですが、インフレ、それも超インフレの場合は、日々物価がかなりあがるので、多くの人がすぐに異変に気づきます。これは、すぐに大騒ぎになるので、日銀がインフレ政策を取り続けることはできないでしょう。
中国はいずれにしても、民主化や資本の自由な移動、人民元の変動相場制への移行などをすすめなければ、独立した金融政策ができず、「人口減少」に対応できなくなります。
日中ともに、「人口減少」そのものは本来さほど脅威ではないはずなのですが、独立した金融政策ができない中国では「人口減」は大きな脅威となります。独立した金融政策が可能な日本ではこれを大きな「機会」と捉え、社会変革を実現すべきです。
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