2024年1月26日金曜日

港求めるエチオピアから読む中東・アフリカ地政学―【私の論評】東アフリカの不安定化要因と将来展望

 港求めるエチオピアから読む中東・アフリカ地政学

まとめ

  • エチオピアがソマリランドから海岸線を租借し、海へのアクセスを確保
  • エチオピアにとっては悲願の達成だが、ソマリアは反発
  • ソマリランドにとっては、エチオピアからの国家承認の可能性
  • UAEがエチオピアを支援し、地域での影響力拡大を狙う
  • エジプトやサウジアラビアなど周辺国の反発も予想され、地域の不安定化が懸念される

 1993年のエリトリアの独立により内陸国となったエチオピアは、海へのアクセス確保を長年の悲願としていた。ジブチ港への依存は使用料の問題もあり、海軍力回復と地域影響力拡大を狙って、エチオピアはソマリランドから軍港を含む海岸線を租借する合意を結んだ。

 ソマリランドにとっては、エチオピアによる国家承認の可能性獲得が対価であるが、ソマリア政府は猛反発。国際社会でのソマリランド承認も困難だ。

 UAE(アラブ首長国連邦)がエチオピアの後ろ盾となり、地域の代理勢力としてこの合意を支援している。湾岸アラブ諸国はポスト石油を見据えアフリカ進出を強めている。トルコとの対立もあり、UAEはエチオピアを頼りに地域での影響力拡大を狙っている。

 しかし、エチオピア・UAE側に味方する国はなく、むしろエリトリア、ジブチ、エジプトなどの反発が予想される。サウジアラビアの対応が鍵となるだろう。

 トルコはソマリアでのプレゼンスを高めており、その領土保全を支持する可能性が高い。イランもシーア派との対立から、サウジ・UAE側につくことは考えにくい。

 複雑な地域の勢力図の中で、エチオピアの海へのアクセス確保という長年の悲願が、地域の不安定化を招く恐れが指摘されている。その行方は地域の複雑な力関係次第である。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】東アフリカの不安定化要因と将来展望

まとめ
  • 東アフリカは、ソマリランドの独立承認をめぐるエチオピアとソマリアの対立、テロ組織の活動、ロシアや中国の地域への進出など、さまざまな要因により不安定化している
  • 今後の東アフリカの将来は、以下の3つのシナリオが考えられます。・地域紛争の増加・外交的解決策・予期せぬ出来事
  • これらのシナリオは、いずれも地域の安定と繁栄にとってマイナスの影響を与える可能性がある
  • 東アフリカの安定を維持するためには、地域の主要国による協力と、外部勢力による干渉の抑制が重要

上の記事を読むにあたっては、まずはソマリランドという言葉を理解しなければなりません。

世界地図のどこを探しても見つからない、そんな不思議な「国」がアフリカ大陸に存在します。それが、1991年にソマリアからの独立を一方的に宣言した「ソマリランド共和国」です。

ソマリアやエチオピアのあるアフリカ大陸東端は、その形状から「アフリカの 角 」と呼ばれます。ソマリランドは、その角の根もと、アデン湾に面するソマリア北部に位置する。全土を独自の政府が統治し、ソマリア政府の支配は及びません。事実上、独立した状態が続いています。

アフリカの角

東アフリカには様々なテロ組織が存在し、さらにはロシアや中国も様々な利権を狙いこの地域の不安定化に寄与しているといえます。

この地域が今後どのようになっていく可能性があるのか、最新のデータ等を用いていくつかのシナリオを描くと以下のようになります。

1. 地域紛争の増加
引き金: エチオピア軍がソマリア軍と衝突。
激化: ジブチとエリトリアが介入し、エチオピアの拡張主義を恐れてソマリアを支援。ナイル川支配への懸念からエジプトも参戦。
複雑化: UAEとトルコがソマリアとエチオピアを通じて代理戦争。ロシアと中国は異なる派閥に武器と支援を提供。
結果: 紛争は長期化し、壊滅的な人道的被害をもたらし、ソマリアは分断され、地域の不安定化は何年も続く可能性がある。
2. 外交的解決策
引き金: きっかけ:アフリカ連合が主導する可能性のある国際的圧力と調停努力により、エチオピアとソマリアが交渉するよう説得される。
妥協点:ソマリランドはソマリア内で何らかの国際的承認または自治権を獲得し、エチオピアは直接的な領土支配を伴わない協定を通じて港湾アクセスを確保する。
キーパーソン サウジアラビアが取引の仲介役として重要な役割を果たし、UAEの影響力を均衡させ、地域の安定を確保する。トルコはソマリアとの関係を維持するため、この結果を受け入れる。
成果: 地域に相対的な平和と安定が戻り、経済発展と協力が促進される。湾岸アラブ諸国とトルコは、アフリカでの競争に別の道を見出す。
3. 予期せぬ出来事
引き金: エチオピア、ソマリア、エジプトなどの主要国の内政的混乱により、既存の協定や同盟が崩壊する可能性がある。
混乱: テロ攻撃や大規模な環境災害が地域を不安定化させ、安定に向けた前進を頓挫させる可能性がある。
不確実性: ロシアや中国のような外部アクターの関与は、彼らの利害が必ずしも地域の安定と一致するとは限らないため、状況にさらなる予測不可能性をもたらす。
結果: ボラティリティが高まり、予測不可能な展開が起こる可能性が高まるため、長期的な予測が困難になる。

アフリカと中東の主なテロ組織

考慮すべき追加要因:
テロ集団や民兵のような非国家主体の役割は、今後も地域の力学に重要な役割を果たす。
東アフリカにおける経済開発イニシアティブの成功は、安定に寄与し、紛争の魅力を減らす可能性がある。
気候変動と資源不足は、将来の紛争や地政学的緊張において、ますます重要な要因となる可能性が高い。
全体として、東アフリカの将来は依然として不透明であり、プラスとマイナスの両方の発展の可能性がある。今後数カ月から数年の間に、地域および国際的な主要アクターが下す決断は、この地域の軌跡に大きな影響を与えるだろう。
なお、これらは考えられるシナリオのほんの一部であり、実際の成り行きは大きく異なる可能性があります。この地域の最新動向を常に把握し、この地域の将来を形成しうるさまざまな要因を認識しておくことが重要です。

私が最も恐れるのは、東アフリカの不安定化に乗じて、中国やロシアがこの地域にの自らの覇権の及ぶ範囲としてしまい、米国やその同盟国による世界秩序を自分たちの都合の良いように作り変えようとすることです。

懸念を裏付ける要因:

機会: 東アフリカが不安定化することは、中国やロシアのような強力な外部アクターに利用されやすい脆弱な地域を生み出すことになります。
既存のプレゼンス: 両国はすでに東アフリカのさまざまな国々と経済的・安全保障上の関係を築いています。
動機: 中国は世界的なリーダーシップと資源へのアクセスという野心を抱いており、ロシアは欧米の影響力に対抗し、自国の勢力圏を拡大しようとしています。
戦略: 資源取引、デット・トラップ外交、軍事的関与、偽情報キャンペーンなどの戦術を用い、影響力を強固なものにする可能性がある。

対抗要因:

地元の抵抗: 東アフリカ諸国は、内部分裂にもかかわらず、より大きな地政学的ゲームの単なる駒になることに抵抗するかもしれないです。
国際的圧力:米国を筆頭とする西側諸国は、この地域における中国やロシアの覇権を受け入れそうになく、外交的、経済的、さらには軍事的手段によって対抗する可能性があります。
アフリカ連合の役割: アフリカ連合が仲介役となり、アフリカでの解決策を提唱し、外部からの支配を阻止する可能性があります。
予測不可能な結果: ロシアと中国内部の力学、不測の事態、地域の勢力争いが、予期せぬ結果を招き、彼らの計画を複雑にする可能性があります。

中国とロシアが東アフリカにおける地域覇権の確立に成功するかどうかを確実に予測することは不可能です。可能性がある一方で、彼らの成功を制限するかもしれない対抗勢力を考慮することは重要です。


以下は、検討すべき追加的なポイントです。

21世紀における「覇権」の性質は、過去の歴史的モデルとは異なる可能性が高いです。中国やロシアのような国々が、軍事的優位性よりも、経済力、技術的優位性、パートナーシップを通じて影響力を行使することで、より拡散的で多面的なものになる可能性があります。

米国主導の世界秩序の将来は依然として不透明です。課題に直面しているとはいえ、その終焉を宣言するのは時期尚早です。同盟関係の回復力、新たな経済的現実への適応力、そして効果的なリーダーシップが、その関連性の継続を左右するでしょう。

東アフリカ諸国の機関は極めて重要な役割を果たしています。東アフリカ諸国が団結し、地域的な解決策を追求し、外部からの操作に抵抗する能力は、自らの運命を切り開き、望ましくない覇権主義を阻止する上で極めて重要です。

東アフリカとそれ以外の国々の動向について常に情報を入手し、多様な情報源からの情報を批判的に分析し、これらの複雑な地政学的問題について建設的な議論に参加することが重要です。

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2024年1月25日木曜日

海上自衛隊P-1哨戒機の部隊がシードラゴン2024演習の対潜戦技競技で優勝、2連覇を達成―【私の論評】他国海軍力の脅威に対抗する日本の決意と米国との緊密な同盟関係を示す

海上自衛隊P-1哨戒機の部隊がシードラゴン2024演習の対潜戦技競技で優勝、2連覇を達成

まとめ
  • 海上自衛隊のP-1哨戒機が対潜戦技競技で2連覇を達成
  • シードラゴン演習は対潜訓練を目的とした多国間共同演習
  • 初回の2019年は哨戒機を参加させたのはアメリカとオーストラリアの2カ国だけでしたが、翌2020年以降に日本や韓国などから参加国が増えています
  • これまでの優勝国は、2019年オーストラリア、2020年ニュージーランド、2021年カナダ、2022年カナダ、2023年日本
シードラゴン2024に参加した海自のP1とそのクルーたち

 2024年1月8日から1月24日まで、アメリカ海軍が主催する多国間共同対潜演習「シードラゴン2024」がグアムで開催されました。参加国はイギリス、フランス、カナダ、インド、日本、韓国の7カ国(ブログ管理人注:イギリス、フランスは例年参加しているが、2024年は参加していません)で、各国で競う対潜戦技競技で日本海上自衛隊のP-1哨戒機の部隊が優勝しました。これは昨年に続いて2連覇となります。

 シードラゴン演習は対潜訓練を目的とした演習で、初回の2019年は哨戒機を参加させたのはアメリカとオーストラリアの2カ国だけでしたが、翌2020年以降に日本や韓国などから参加国が増えています。

 2020年以降は、古いベテランのP-3C哨戒機が3連続で優勝していましたが、2023年から新鋭のP-1哨戒機が2連続で優勝しています。

 今回のシードラゴン2024に参加した海上自衛隊のP-1哨戒機の部隊は、第3飛行隊(厚木基地)の第31飛行隊です。昨年のシードラゴン2023に参加したのは第1飛行隊(鹿屋基地)の第11飛行隊でした。

【私の論評】他国海軍力の脅威に対抗する日本の決意と米国との緊密な同盟関係を示す

まとめ

  • シードラゴン演習は、対潜戦能力を向上させるための訓練と実践の場であり、参加国は、潜水艦の追跡、識別、攻撃などの技術を磨き、実践的な経験積む。
  • この演習は、同盟国・友好国間の連携を強化するための機会である。
  • この演習は、地域の安全保障の向上に貢献する。
  • シードラゴン演習は、米国の世界的影響力の向上に役立つ一方日本の連続優勝は、海自の対潜哨戒能力の高さを示すとともに、日米同盟の強固さを示すことにもなった。
  • 台湾は、シードラゴン演習に参加することで、対潜戦能力を向上させ、中国による脅威に対する抑止力を強化することができるが、中国をいたずらに刺激することなく、段階的に進めるべきである。


演習の主な目的は、参加国間の相互運用性を高め、集団防衛能力を向上させるための戦術を交換することにあます。参加国は哨戒機や潜水艦、駆逐艦などの海上自衛隊を派遣し、対潜戦術の訓練や実戦演習を行います。

演習では、潜水艦を追跡、識別、標的化するためのさまざまな飛行任務が課され、各軍の準備態勢をテストするためのリアルタイムのシナリオが提供されました。

対潜戦技競技では、各国が派遣した哨戒機が、潜水艦を模した目標艦を探知・追尾・攻撃する能力を競いました。その結果、日本海上自衛隊のP-1哨戒機の部隊が優勝し、2連覇を達成しました。

シードラゴン演習は、参加国の対潜戦力運用能力の向上と、同盟国・友好国の連携強化に大きく貢献しています。今後も継続して開催されることにより、参加国の防衛力強化や、地域の安全保障の向上につながることが期待されています。

シードラゴン2024に参加したインド海軍のP8Iとそのクルーたち 

シードラゴンの参加各国の意義は以下のようなことが考えられます。

1.合同演習は、国家間の信頼とパートナーシップを構築する。これは、すべての関係者にとって国家の安全保障に利益をもたらします。

2. 海軍能力の強化。対潜水艦戦(Anti Submarine Warfare:ASW)は極めて重要な技術であり、シードラゴンに参加することで、各国はASW技術を向上させ、貴重な経験を積み、パートナー国から新しい技術や知識を得ることができます。

3. 共通の敵を抑止する。シードラゴンのような演習は、中国、北朝鮮、ロシアのような国々に対して、米国と同盟国が、特に太平洋のような戦略的地域において、脅威に対抗するために協力する用意があることを示すことになります。これは潜在的な侵略を抑止することができます。

4. 相互運用性の向上。各国が演習や訓練に共同で参加することで、互いの軍事能力、兵器、通信システムなどをよりよく理解することができます。これにより、将来の潜在的な作戦において、より効果的に協力することができるようになります。

5. 米国の世界的影響力の向上。シードラゴンのスポンサーである米国は、世界の舞台でリーダーシップを発揮し、同盟関係を強化し、国際海域への自由で開かれたアクセスというビジョンを推進することができます。これは、世界の超大国としての米国の地位を高めることになります。

シードラゴンを実施することの、地政学的な意味合いとしては、次のようなことが考えられます。

1.太平洋地域、特に南シナ海を支配しようとする中国に対抗米国や日本のような同盟国が協力する用意があることを中国に示す。これにより、中国の領土拡張主義や戦略的地域の軍事化を阻止することができます。

2. アジア太平洋におけるパワーバランス。日米海軍の合同演習は、アジアにおける中国の軍事力強化に対する対抗手段の確保に役立ちます。これにより、中国の手に力が集中するのを防ぎ、この地域が特定の国に支配されるのを防ぐことができます。

3. 米国のプレゼンスを強化する。太平洋での演習を主導することで、米国はアジアの安全保障と安定に対する継続的なコミットメントを示すことができます。これは同盟国やパートナーを安心させるとともに、北朝鮮のような潜在的な敵対国に注意を促すことになります。その結果、米国の影響力と同盟は強化されます。

4. 民主主義的価値の共有を促進する。シードラゴンに参加する米国、日本、インドなどの国々は、一般的に民主主義、航行の自由、法の支配という原則を共有しています。協力は、世界の安全保障と繁栄に貢献するこれらの価値観の向上に役立ちます。

5. ロシアの侵略を阻止する。ロシアはシードラゴンに直接参加していませんが、ロシア海軍は演習を注意深く監視していたようです。米国と同盟国の軍事的パートナーシップと能力を示すことは、特にウクライナやグルジアといった国々に対するロシアの過去の挑発行為を考えれば、潜在的なロシアの侵略を抑止することができます。

この訓練は、民主主義国家間の協力を促進し、中国やロシアのような敵対国の野心に対抗し、アジアの安定を促進し、米国のグローバルなリーダーシップと同盟を確保することになります。シードラゴンと同様の共同訓練は、より安全な世界の実現に役立つでしょう。

日本がシードラゴン2024に出場し、2連覇を達成したことは非常に意義深いことです。

 日本にとっては、そのの海軍力と能力を示すことに。対潜水艦競技で優勝することは、海上自衛隊の高度な技能と技術を示すことになります。これにより、海軍力としての地位が高まることになります。

地域の脅威に対抗する決意を固める。中国が海軍を拡大し、北朝鮮がミサイル兵器を増強する中、日本がシードラゴンに参加することは、脅威に対抗し、国家の安全を守り、同盟国と協力的に関与する決意を示すことになります。

日米同盟の強化。シードラゴンのような合同演習は、日米間の軍事的パートナーシップを強化することになります。演習での成功は、日米がいかに効果的に協力できるかを浮き彫りにし、日米同盟に利益をもたらすことになります。

米国と同盟国にとって日本の能力に対する信頼を高める。シードラゴンによって、米国や他の同盟国は日本の軍事的長所と短所について貴重な洞察を得ることができます。日本が演習で成功するのを見ることは、日本が将来起こりうる作戦において強力なパートナーになるという自信を抱かせることになります。

相互運用性の促進。シードラゴンでの共同作業は、日米両軍の相互運用性を高めるのに役立つ。お互いの能力、通信システム、作戦方法、武器などをよりよく理解することができる。これにより、共同任務はよりシームレスなものとなります。

侵略の抑止。ロシア、北朝鮮と中国は、シードラゴンで示された日米間の強力な軍事協力を見て、挑発的な行動を取らないよう警戒することになります。統一戦線を眼の前にすれば、直接対決を避ける傾向が強くなります。

利害の共有。日米のような国家が合同で軍事演習に参加することは、中国の野心に対抗し、北朝鮮を非核化し、航行の自由を確保するなど、アジア太平洋における重要な安全保障上の利益を共有していることを示すものです。

日本がシードラゴン2024に参加し、成功したことは大きな意味を持ちます。これは、他国海軍力の脅威に対抗する日本の決意とともに、相互運用性を促進し、侵略を抑止し、同盟国との共通の利益を推進するものでした。この演習は、すべての関係者にとってwin-winのものだったといえます。

このブログに述べたように、台湾は最近潜水艦を自前で開発しています。この台湾化、対潜水艦戦能力(ASW)をさらに高めれば、将来台湾が、シードラゴンに参加ということも考えられるかもしれません。

台湾が自主建造した潜水艦

ただ、すぐにそうすることは、中国との緊張を高める可能性もあることと、未だ台湾ASW能力は高くはないことから、最初は、日本や米国と台湾が単独で演習をし、その次は、日米と台湾で、その後にシードラゴンに参加などの段階を踏むと良いと思います。

台湾の抑止力を強化し、パートナーシップを強化し、責任ある計算された方法で「力による平和」を達成するために、段階的に協力を進めるべきと思います。

台湾の安全保障を擁護する一方で、不本意なエスカレーションを避けるために慎重でなければなりません。このような、段階的なアプローチは、これらの利益のバランスを取る上で理想的だと思います。

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2024年1月24日水曜日

陸自幹部らの靖国参拝は問題か 防衛大臣は処分を行うべきではない これまでも安全祈願を実施、事務次官通達はいずれ廃止すべき―【私の論評】陸自幹部らの靖国参拝問題が象徴する我が国法体系の危機

陸自幹部らの靖国参拝は問題か 防衛大臣は処分を行うべきではない これまでも安全祈願を実施、事務次官通達はいずれ廃止すべき

まとめ
  • 防衛庁事務次官通達「宗教的活動について」は、憲法解釈を行政官僚が行うという越権行為である。
  • 通達は現在でも有効であるため、行政府の越権行為を是正するためにも、廃止すべきである。
  • 通達に抵触するかどうかは、部隊参拝の定義が明確でないため、判断が難しい。
  • 今回の件は、私的な個人行動であるため、処分を行うべきではない。
  • 部隊行動については、憲法問題として対処すべきであり、いずれ通達は廃止すべきである。
靖国神社

 陸上自衛隊の複数の幹部が靖国神社を参拝したことに関連し、「部隊参拝」を禁じた通達に違反した疑いが浮上している。報道によれば、この通達は1974年に発せられたものであり、防衛庁事務次官通達「宗教的活動について」の一環として位置づけられている。通達は憲法20条および89条の解釈指針を提示しており、通常、このような憲法解釈は司法の仕事であるが、当時の旧大蔵官僚出身の防衛庁田代一正事務次官による自信過剰な雰囲気からくるものと見られる。

 通達の内容によれば、「神祠、仏堂、その他宗教上の礼拝所に対して部隊参拝すること及び隊員に参加を強制することは厳に慎むべきである」とされており、今回の靖国神社参拝がこれに抵触するとされている。ただし、報道によれば、陸自で航空事故の調査に携わる幹部たちは過去にも「年頭航空安全祈願」と称して靖国参拝を行っており、今回の参拝も同様の趣旨であったと主張されている。

 一部マスコミは、この参拝が能登半島地震発生後に行われたことを問題視しているが、筋違いであり、通達違反に関する問題は憲法上の問題であり、通達の廃止を検討すべきだ。

 ただ、通達は今なお有効であり、その発出権限は防衛大臣にある。しかし、陸自の幹部たちが時間休を取得し、私的な個人行動として参拝した点を考慮すれば、処分は妥当でないと考えられる。通達の廃止については防衛大臣が決定すべきだが、この通達が行政府の越権行為であり、いずれは憲法上の問題として廃止すべきだ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】陸自幹部らの靖国参拝問題が象徴する我が国法体系の危機

まとめ
  • 通達によってなされている外国人に対する生活保護の拡充が、我が国の法体系に危機をもたらしている。
  • 医療法人の行政指導において通達が法的根拠を持たずに実質的な法として機能し、法の不備が露呈している。
  • 通達と通知の区別が不明確であり、通達が法律との矛盾を引き起こす場合、法の支配が揺らぐ危険性が高い。
  • 地方自治体の基本条例が国の法律や憲法に反する内容を含み、全国的な法秩序の混乱を招いている。
  • これらの問題に対して保守派は、具体的な行動と検討を通じて、法の支配を堅持し、国の未来へ向けた取り組みが必要である。
我が国の法体系が抱える危機的状況は、上の事例だけではなく、たとえば外国人への生活保護拡充が巻き起こす懸念により一段と深まっています。1954年の通達以来、我が国は外国人に対しても社会の一員としての手助けを行ってきましたが、その中で法の抜け穴や法律の不備が露呈し、我が国の法秩序が揺らぎつつあります。この危機的状況に立ち向かうには、具体的な例を通して深い理解を得ることが必要です。


医療法人の行政指導において、通達が法的根拠を持たずに実質的な法として機能している問題は、我が国の法体系の脆弱性を示しています。通達により法外な基準が導入され、これが組織の運営に影響を与え、法の支配が揺らぐ可能性が高まっています。この事例が、我が国が抱える法の不備や法秩序の混乱を象徴しています。

通達と通知の区別においても問題が生じています。通達は原則として行政内部の命令であり、外部に法的拘束力はないとされていますが、実際にはあたかも通知のように法的拘束力を持つ場合があります。この曖昧さが、法の支配の中で混乱を生み出し、通達が法律との矛盾を引き起こす場合、法の支配が揺らぐ危険性が増大します。


地方自治体の基本条例において、国の法律や憲法に反する内容を含むことで、全国的な法秩序の乱れを招いています。地方自治体が独自のルールを制定することで、全国的な法の一貫性が失われ、法体系が分断される危険性があります。これは全国的な法秩序の混乱を象徴し、我が国が直面している法の危機を一層深刻なものとして浮き彫りにしています。

自治体基本条例の脅威につてい解説する書籍

このような問題点を考えると、我が国の法体系が抱える危機は現実のものであると言えます。外国人に対する生活保護の拡充や地方自体の憲法等等が、法の支配を揺るがす危険を孕んでいるのです。これに対して保守派の皆様には、これまでの議論を踏まえ、具体的な問題に対処する力強い行動と検討をお願いしたいと思います。

我が国は長い歴史の中で培われた伝統と価値観を大切にし、法の支配によって安定した社会を築いてきました。しかし、この伝統を守りつつも、新たな時代においても法の支配を確立し、アイデンティティを守るためには、積極的な行動が求められます。保守派の皆様が一丸となり、法の支配を堅持するために、国家の未来へ向けた取り組みを進めていただきたいと強く訴えます。

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2024年1月23日火曜日

「派閥解消」岸田首相には好都合の理由 総裁選再選視野、派閥という〝緩衝材〟抜きで議員の直接統制が可能に―【私の論評】岸田首相の巧妙な戦略!派閥解散が日本政治に与える影響と、財務省との権力闘争の行方

 「派閥解消」岸田首相には好都合の理由 総裁選再選視野、派閥という〝緩衝材〟抜きで議員の直接統制が可能に

まとめ
  • 自民党派閥のパーティー収入不記載事件は、安倍派、二階派、岸田派の3派閥で不記載額が合計約13億5000万円に上ったが、東京地検特捜部は幹部議員は立件を見送った。
  • 岸田首相は、派閥の解消を言い出し、安倍派、二階派、岸田派が解散を表明した。
  • 派閥の解消は、個々の議員を直接統制できるため、党執行部にとって都合がいい。
  • 岸田首相は、今年9月の自民党総裁選での再選を視野に入れており、ライバルの台頭を阻止するために、派閥の解消を言い出した。
  • 派閥の解消は、議員の集結阻止を目的とした「したたか」な政治手法である。

 自民党派閥のパーティー収入不記載事件は、安倍派、二階派、岸田派の3派閥で不記載額が合計約13億5000万円に上ることが判明し、大きな騒ぎとなった。しかし、東京地検特捜部は、安倍派、二階派、岸田派の会計責任者らを政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で在宅起訴する一方、安倍派、二階派、岸田派の幹部議員は立件を見送った。

 これを受け、安倍首相は自身の出身派閥である岸田派の解散を表明。これに二階派と安倍派が続いた。麻生派は派閥解散を見送る意向を表明し、茂木派と森山派は党の政治刷新本部の中間報告を踏まえて最終判断するとしている。

 不記載事件は、派閥パーティー券の販売による多額の政治資金を、収支報告書に記載しなかったことだった。罰則を強化すれば、記載させるようにすることは可能だ。しかし、岸田首相は派閥の解散を言い出した。

 その理由は、派閥が中間団体として、個々の議員を守り、人材を見いだして育て、人事の際には推薦する役割を担っているからだ。

 全体主義社会は、個人を孤立させ、権力に従順にする。

 エーリッヒ・フロムは、ナチス・ドイツの例から、全体主義社会は、個人が属する中間団体を解体することで、個人を孤立させ、権力に従順にさせると主張した。

 派閥がなくなり、個々の議員が執行部に相対することになる。緩衝材がなくなった存在は執行部に逆らうことができない。小選挙区制も手伝って従順にならざるを得ない。

 岸田首相は、今年9月の自民党総裁選での再選を視野に入れている。ライバルの台頭を阻止するために、派閥の解消を言い出したのだろう。

 しかし、国民受けもする「派閥の解消」を言い出した本当の理由は、ライバルの台頭につながる「議員の集結阻止」にあるのだろう。したたかと言わざるを得ません。その能力を政策や外交に向けられないものか。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】岸田首相の巧妙な戦略!派閥解散が日本政治に与える影響と、財務省との権力闘争の行方

まとめ
  • 派閥解散により、議員は小選挙区制での重要な派閥支援を受けられず、執行部への従順が求められる状況が生まれた。
  • 岸田首相は派閥解散を通じて自民党の執行部権力を強化し、競争相手の台頭を防ぐ戦略を展開した。
  • 派閥解散は岸田首相にとって、総裁選において競争相手を有利に封じ込め、党執行部への忠誠心を示す手段となった。
  • 派閥解消により、特に岸田派のライバルは派閥支援を失い、総裁選での成功の難しさが増加する。
  • 財務省にとっては派閥解散が大きな脅威となり、財政政策において財務省の影響力が弱まる可能性が高い。
上記の記事では、派閥の解散により、個々の議員が執行部に直面する状況が説明されています。しかし、小選挙区制に関しては詳しく触れられていません。以下でこれを説明します。


派閥が解散されると、議員は特に小選挙区制において重要だった派閥の支援を受けることができなくなります。これにより、議員は執行部に従順であることで、引き続き幹部議員や支援団体からの支援を維持しようとします。

小選挙区制では、各選挙区ごとに1人の議員が選出されます。そのため、議員は選挙区内の有権者からの支持を得るために、執行部の方針に沿った政策を採る必要があります。

派閥が存在する場合、派閥は議員の政治活動を支援し、選挙区内の有権者からの支持を獲得するための活動を補完します。そのため、派閥の意向に従った政策を提案することで、議員は選挙での成功の可能性を高めることができます。

しかし、派閥が解散されると、議員は派閥の支援を受けられなくなります。その結果、議員は執行部の方針に従わなければ、選挙での成功が難しくなります。

派閥の解散は、岸田政権における自民党の執行部の権力強化につながります。これにより、岸田首相は総裁選における競争相手の台頭を防ぐことができるでしょう。

特に、岸田首相が自ら属していた派閥である岸田派の解散は、総裁選において有利な状況を整える意味もあります。岸田首相の政治的手腕が発揮された一例として挙げられます。

林芳正氏など岸田派内のライバルは、派閥の支援を受けずに岸田派のネットワークを失うことになり、総裁選での競争が難しくなります。これにより、岸田首相は林氏を含む競争相手を有利に封じ込めることができます。

また、岸田首相は、自らの派閥である岸田派を解散することで、党執行部への忠誠心をアピールすることにもなります。岸田派は党内で有力な派閥であり、その解散は党執行部への忠誠心の象徴となります。

これらの政治的な思惑が複雑に絡み合い、派閥の解散が実現したと考えられます。


岸田首相はこれまでの政治舞台で、緻密な戦略を展開してきました。例えば、2021年の自民党総裁選では、宏池会所属の岸田首相が外交・安全保障政策で安倍派、麻生派等他の派閥からの支持を取り付け、最終的に勝利を収めました。

同様に、2022年の内閣改造では、岸田首相が安倍前首相や麻生副総裁の派閥から閣僚を多く起用することで、政権の安定を図りました。

派閥解散においても、岸田首相は政治的に有利な状況を作り出すことで、岸田派を解体し、党執行部への忠誠心を示すと同時に、競争相手を牽制しています。

ただし、この派閥解散は一時的なものであり、岸田首相もその限定性を理解しているでしょう。そのため、秋の総裁選に向けての有利な状況作りが一因と考えられます。

また、財務省にとっては派閥解散が大きな脅威となります。派閥は財務省の官僚と政治家の結びつきを支える手段であり、その解散によって官僚が政治家との直接的なつながりを失うことが予想されます。

これにより、財務省の官僚の政治家への影響力が弱まり、税制や財政政策などの政策決定において財務省が持つ権力が低下するでしょう。


具体的には、以下の点が財務省にとって脅威となります。
  • 財務省の官僚の政治家への影響力が弱まる。
  • 財務省出身の政治家の影響力が減少する。
  • 財務省の官僚による政治家へのロビー活動が難しくなる。
このような脅威に対抗するため、財務省は以下の対策を取る可能性があります。
  • 財務省の官僚と政治家とのつながりを維持する新たな手段を模索する。
  • 派閥解散を阻止するために、政治家に働きかける。
しかし、岸田首相の「政治主導の政治」を実現するためには、派閥解散が不可欠な施策であると見なされるでしょう。このため、財務省の抵抗を排除して進められる可能性が高いと考えられます。

結果として、財務省の権力が弱体化し、国民の声がより政策に反映される可能性が高まります。

岸田首相は、財務省に対して近しいとされていますが、その一方で財務省の抵抗に怒りを感じている可能性は高いです。財務省が政策に対して押し切ることが続く中で、国民からの不満が高まっている中、岸田首相は政治主導の方針を貫くべきでしょう。

このような政治的な状況の中で、派閥解散は岸田首相にとって戦略的な一手であり、その結果が秋の総裁選に大きな影響を与える可能性もあります。

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2024年1月22日月曜日

デサンティス氏、米大統領選からの撤退表明-トランプ氏支持―【私の論評】2024年大統領選:トランプ氏の優位性と共和党内での台頭、バイデン政権との比較から見る米国と同盟国の未来

 デサンティス氏、米大統領選からの撤退表明-トランプ氏支持

まとめ
  • デサンティス氏が共和党候補指名争いから撤退
  • デサンティス氏はトランプ氏支持を表明
  • 共和党候補の指名獲得レースはトランプ氏とヘイリー氏の2人の争いとなる
ディサンティス フロリダ州知事

 2024年米大統領選挙の共和党候補指名争いで、フロリダ州のデサンティス知事が撤退を表明した。デサンティス氏は、トランプ前大統領を支持する考えを明らかにした。これにより、共和党候補の指名獲得レースは、トランプ氏とヘイリー元国連大使の2人の争いとなる。

 デサンティス氏は、2年前に知事選で地滑り的な勝利で再選を決め、共和党の大口献金者たちから党の将来を担う候補者との評価を受けていた。しかし、今回の大統領選からの撤退は、同氏の政治的命運を揺るがす打撃となる。

 デサンティス氏の撤退を受け、トランプ氏は同氏からの支持を歓迎した。ヘイリー氏は、デサンティス氏の撤退を惜しむコメントを発表した。

【私の論評】2024年大統領選:トランプ氏の優位性と共和党内での台頭、バイデン政権との比較から見る米国と同盟国の未来

まとめ
  • トランプ前大統領は2024年の共和党大統領指名候補として最有力であり、保守派から圧倒的な支持を受けている。
  • ニッキー・ヘイリーは穏健であり、共和党支持層からはRINO(名前だけの共和党員)と見なされ、勝利の可能性がないだろう。
  • デサンティス氏は若く、将来を期待される共和党の有望な候補者でありら、トランプ氏を支持をすることで、将来の大統領選において有力な立場を築くことができる。
  • トランプ氏の2024年の優位性は、支持基盤の強さ、共和党の組織的な支持、実績、経済政策、アウトサイダーとしての成功、メディア操作、支持者の熱狂などに根ざしている。
  • トランプ氏は外交においてもアメリカ・ファーストの政策を追求し、中国に対して強硬な姿勢を示し、中東での和平交渉や対ISISの成功を実現。一方バイデン政権は中国に対して軟化し、中東や外交政策において失敗が続いている。


トランプ前大統領は保守派から圧倒的な支持を得ており、2024年の共和党大統領指名候補の最有力候補であることは、疑いの余地はなくなりました。ニッキー・ヘイリーはRINO(名前だけの共和党員)にすぎません。

彼女はあまりにも穏健で、民主党と協力することを望んでいるようです。トランプ大統領は、米国保守派の価値観を守る唯一の大統領選候補者といえます。デサンティス氏はトランプ大統領を支持するという正しい選択をしました。

デサンティスはまだ若く、共和党内での明るい未来があるので、今明確な勝者を支持したのは賢明でした。2024年のトランプ大統領の地滑り的勝利は、2028年か2032年にデサンティスが出馬する道を開くことになります。

ヘイリーには勝利への道はなく、これ以上の恥をかかないためにも、今すぐ降板したほうが良いと思います。共和党支持層は圧倒的にトランプ大統領を支持しています。

トランプ氏は、減税、国境警備、軍備強化、保守派裁判官の任命など、1期目に多くのことを成し遂げました。多くの有権者は、トランプ大統領があと4年間の大統領の人気を全うすることを望んでいるようです。

ヘイリーや他の穏健派は、支持層を活気づけることも、競争に必要な資金を集めることもできないでしょう。トランプ大統領の集会は大観衆を集め続けており、彼の人気と党内での強さは他の追随を許さない状況です。

ヘイリー氏

2024年の指名は彼のものであり、民主党がいかなる有力な社会主義者を指名しようとも、トランプがこれを打ち負かすでしょう。

現時点でトランプ大統領が2024年の大統領選で圧倒的に有利な理由はいくつかあります。

1.2020年のトランプ大統領の得票数は7400万票を超え、史上2番目の多さでした。彼の支持者は依然として情熱的に忠誠を誓い、関心を持ち続けています。彼らは再びトランプに票を投じるでしょう。

2. トランプ氏は共和党を完全に掌握しています。共和党幹部や候補者は、トランプを支持しなければ有権者の怒りに直面することを理解しています。つまり、党の組織と資金調達装置はトランプを全面的に支援することになります。

 3.トランプ氏には大きな実績があります。トランプ氏は減税を実現し、規制を撤廃し、軍事費を増やし、3人の最高裁判事と200人以上の下級裁判所判事を任命しました。多くの有権者は結これらの成果を支持しており、トランプはかれらにとって好ましい結果を出したのです。

4. パンデミック前のトランプ政権下で経済は好況でした。トランプノミクスは記録的な低失業率、堅調なGDP成長、特にブルーカラー労働者の賃金上昇をもたらしました。経済が回復し続ければ、これはトランプに利益をもたらすでしょう。

5. アウトサイダー候補としての成功。トランプ氏の「沼の水を掃け(Drain the Swamp:抜本的な政治改革を意味する)というメッセージと反体制的な人柄は、通常の政治から切り離されていると感じている多くのアメリカ人の共感を呼んでいます。

彼は、今回も小市民のためのアウトサイダー「ファイター」として再出馬できるのです。

6. メディア報道を支配し、対立候補を定義づけることに長けています。トランプ氏は、ソーシャルメディアを巧みに使い、常に自分に有利な物語を作り出しています。彼は、対立候補を過激な社会主義者として描き、彼らがそれを否定することを迫ります。

7. 有権者の熱狂はトランプに有利。現時点では、トランプ支持者は民主党支持者よりもはるかに元気でやる気があるように見えます。熱意は投票率を押し上げるので、この「情熱の差」はトランプに有利に働きます。

大統領選はまだ先のことではありますが、トランプ氏とその支持者にとっては、自分の立場に非常に自信を持てる理由がたくさんあります。多くのことが変わり得ますが、現時点では、トランプ氏が共和党の指名を獲得し、再びホワイトハウスを手にするためには、明確かつ圧倒的に優位にあるのは間違いないです。

現状では、トランプが優勢であり、トランプ大統領が誕生する確立は高いです。これに対して、多くの国々のメディアや識者は、トランプ外交に脅威を抱いているようです。しかし、失敗続きのバイデン外交をみていれば、私はトランプ外交は、少なくともバイデン外交よりはるかにまともなものになると思います。

トランプ氏は、アメリカの利益を優先する「アメリカ・ファースト」政策を追求しています。バイデンは同盟国や敵対国を喜ばせることに関心があるようで、結果として米国は弱く見えます。トランプのタフで一方的なアプローチは、世界の舞台でより多くの尊敬を集めました。

そもそも、まともな人からみれば、いずれの国の指導者も自国の利益を一番に考えるのが当たり前であって、そうでない指導がいれば、馬鹿か間抜けか、あるいは魂胆があると考えるのが普通です。民間企業の指導者でも、他社の利益のために頑張るというような人間は信用されません。長期的な観点から、国益を追求するのが、まともな指導者のあり方です。

 トランプは中国に対して強硬路線をとり、不公正な貿易慣行に対処させた最初の大統領です。バイデンはすでにトランプの関税の一部を撤回し、中国に対してよりソフトな態度をとっています。

トランプの政策は功を奏し、中国に交渉を迫っていたのですが、バイデンの弱腰は中国を増長させることになるでしょう。

トランプはイスラエルとアラブ諸国との歴史的な和平交渉を仲介しました。バイデンはすでにイスラエルとアラブ諸国関係を緊張させています。トランプは、何十年もの間、他国から遠ざかっていた中東での外交的突破口を開き、懐疑論者が間違っていたことを証明しました。

 トランプは記録的な速さでISISのカリフ制国家を壊滅させました。ISISはオバマ-バイデン政権下で急成長し、トランプはその混乱を一掃しなければなりませんでした。トランプは軍を解き放ち、ISISを迅速に粉砕し、イスラム過激派のテロに対する強さを示しました。

 バイデンは、イラン核合意やパリ協定といった不公正な取引に再び参加しようとしています。トランプは、米国に不利なこれらの取引から当然のごとく脱退しました。

バイデンは、これらの取引に再び参加することで、影響力を失い、見返りも何も得られないでしょう。

トランプはメディアからの批判にもかかわらず、COVIDの蔓延を遅らせる渡航禁止措置をとりました。バイデンはこの禁止措置を「外国人嫌い」と呼びましたが、賢明な措置であることが証明されました。

バイデンの政策がボリティカル・コレクトネスによって推進されているように見えるのに対して、トランプは命を救う可能性の高い厳しい決断を早期に下しました。


バイデンやオバマのより伝統的な政治的アプローチよりも、トランプの堂々とした「アメリカ・ファースト」政策がより良い結果を生んだことは明らかです。それは、米国にとってもその同盟国にとってもそうでした。

メディアはトランプを脅威として描いていますが、彼の政策は世界における米国の地位を強化し、敵対国に責任を負わせ、外交政策で大きな勝利を収めました。トランプの外交は、世界の舞台で米国の影響力を低下させるバイデンの外交よりはるかに優れています。全体として、トランプ氏のリーダーシップのほうが、米国とその同盟国はより安全で安心できる環境をもたらしたといえます。弱い米国は、米国だけではなく、日本含む同盟国にとっても不利益をもたらすのです。

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2024年1月21日日曜日

能登半島地震、自衛隊への「誤った論評」に注意 他国の侵攻を防ぐ国防が任務、初動1000人の妥当性、ヘリから物資輸送―【私の論評】自衛隊批判の背後にある、補給の限界と兵站の重要性への認識不足

能登半島地震、自衛隊への「誤った論評」に注意 他国の侵攻を防ぐ国防が任務、初動1000人の妥当性、ヘリから物資輸送

まとめ
  • 自衛隊の初動は遅かったという批判は誤りである。発災から約20分で偵察機が離陸し、約1時間後には陸自部隊が前進を開始した。
  • 初動1000人という人数も批判されているが、これまでの経験から妥当な判断である。
  • 戦力の逐次投入も、道路が寸断されて近づくことができないため、最善の判断である。
  • 空から物資投下は、ヘリが下りられない場所に行うことは危険である。
  • 自衛隊は、国防の組織であり、災害派遣はあくまでも自治体機能の回復までの一時的措置である。
石川県輪島市の輪島朝市のあった場所での航空自衛隊によるドローンによる捜索活動

 能登半島地震に関するデマや偽情報、そして「自衛隊が遅い」などの論評が出回っている。これらの論評は、自衛隊に対する理解不足や誤解に基づいている。

 自衛隊は国防の組織であり、災害派遣は第2の任務である。災害対処の責任は地元自治体にある。自衛隊は自治体機能が回復するまでの一時的措置として派遣される。

 今回の能登半島地震では、自衛隊は発災から約20分で偵察機を飛ばし、約1時間後に地上部隊を派遣した。これは過去の災害と比較して迅速な対応である。

 初動1000人という規模も、これまでの経験から妥当な判断である。戦力の逐次投入も、道路が寸断されて近づけない場合や、状況が把握できていない場合には、最も合理的な方法である。

 空からの物資投下は、可能な場所では実施されている。ヘリの飛行可能時間ギリギリまで任務を行っている。ヘリが下りられない場所に上から物を落とすことは、地上の人にとって危険である。

 被災地にパラシュートで降下するというのは、現実的ではない。

 災害時こそ、国の防衛意識を高める必要がある。日本海側は北朝鮮による拉致の現場でもある。能登半島地震は、自衛隊の役割と重要性を改めて認識する機会となった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】自衛隊批判の背後にある、補給の限界と兵站の重要性への認識不足

まとめ
  • 能登半島地震に関するデマや「自衛隊が遅い」批判は、自衛隊に対する理解不足から生まれている。
  • 平和な状況への慣れが、災害時の自衛隊の対応に関する理解不足や誤解を招いている可能性がある。
  • 戦争では兵站が勝敗を左右し、兵站の成否が戦局を決定づける。兵站が戦争の形を規定してきた歴史的事実がある。
  • 能登半島の急峻な地形が救援活動を難しくし、他の地域と比べても道路が寸断されやすいなどの障害がある。
  • 救援活動の難しさがあるからこそ、自衛隊派遣の要請があり派遣されている。今回の震災を期に、補給の限界と兵站の重要性が認識されるべき。
桜林さんの"能登半島地震に関するデマや偽情報、そして「自衛隊が遅い」などの論評が出回っている。これらの論評は、自衛隊に対する理解不足や誤解に基づいている"という指摘は正しいです。

なぜ、このような理解不足や誤解が起こるのかといえば、日本人があまりに平和の"お花畑"に浸かってきたためかもしれません。

実際に戦争になった場合に、特定の地域に軍隊を派遣したり、そこで作戦を実行するためには何をどうすべきかについてまともに考えたこともない人が増えた結果、「自衛隊が遅い」等という議論が平気でされるような雰囲気が醸し出されてきたのではないでしょうか。

実際に戦争になった場合、何が勝敗を分けるかといえば、兵站(ロジスティックス)です。この重要性については何度か、このブログにも掲載したことがあります。その内容を以下に再掲します。

戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

マーチン・ファン・クレフェルト

実は第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったのです。極言すれば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきました。そう同著は伝えています。

エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎません。

現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行きません。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちているのです。

史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツはそれを「摩擦」と呼び、その対応いかんによって最終的な勝敗まで逆転することもあると指摘しています。

そのことを身を持って知る軍人や戦史家たちの多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にします。
戦争と地震による震災は根本的に異なると考える人もいるかもしれませんが、戦闘による被害と、地震や津波による被害という違いはありますが、甚大な被害を受けているということでは同じです。

今回の自衛隊による能登半島地震における救援活動は、戦闘は含まないものの、軍隊による戦争被害を受けた住民や部隊の救援活動と似ているところがあります。

だからこそ、自衛隊の派遣が要請されるのです。そうして、補給の限界が、戦争の形を規定するように、補給の限界が、救援活動の形を規定するのです。補給の限界があるところに、物資や人員を過剰に送り込んでも、意味はなく、現場が混乱するだけなのです。

特に、能登半島の地形が、救援活動の形を規定するのです。このことが多くの人にはピンときていないのかもしれません。これについては、以前ツイッターで述べたことがあります。その内容を以下に掲載します。

このツイートは、1月6日のものです。
https://twitter.com/yutakarlson/status/1743598352812712272
なぜ、ボランティア活動などを今の段階で、募集しないのかには、それなりの理由があります。能登半島の地形は、他とは著しく異なるからです。

石川県の能登半島と、台湾とでは、地形にいくつかの共通点があります。海岸から急峻な山がそびえ立つことや、山岳地帯が多いという点で共通しています。

これが、中国が台湾に侵攻することを著しく難しくしている一方で、能登半島の自衛隊による救援活動を著しく難しくしています。

能登半島の東側には、標高2,702mの白山をはじめとする日本海側の最高峰が連なっています。これらの山々は、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの衝突によって形成された、活断層帯に沿って位置しています。そのため、海岸から急峻な山々がそびえ立つ地形となっています。

台湾の中央部には、標高3,952mの玉山(富士山より高い)をはじめとする中央山脈が連なっています。これらの山々も、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの衝突によって形成された、活断層帯に沿って位置しています。そのため、能登半島と同様に、海岸から急峻な山々がそびえ立つ地形となっています。

このような地形であるからこそ、能登半島の救援活動は思いの他難しいのです。このような地形では、地震や地滑りにより、他の地域よりはるかに、道路が寸断されやすいです。船で、物資を運ぶにしても、揚陸できる場所は限られています。

このことを日本への救援隊を派遣しようとした、台湾もすぐに納得したでしょう。一方、米軍は日本に基地を設置し、自衛隊とも頻繁に共同訓練をし、石川県でも共同訓練をしていて、日本の地理を知り抜いていますから、日本政府も米軍の支援を早々と受け付ける決定をしたのでしょう。

現在能登半島にボランティア活動に押しかけている人たちは、そのようなことも熟知せず、軍隊であれば、素人が難攻不落の要塞に挑むようなものであり、自分たちの無謀さを思い知り、なぜ石川県が現在の段階で、ボランティアを募集しなかったか、その理由思い知ることになるでしょう。

彼らは、早々に音を上げると思います。地理や地政学を知らないことの、典型的な見本だと思います。写真は、左は、台湾東部の海岸です。右は、能登半島の堂ヶ崎の写真です。

 こうした、補給の限界が、戦争の形を規定するように、補給の限界が、救援活動の形を規定するのです。このツイートをした時点で、ボランティア活動をした人たちもいるようですが、実際には、切実に助けを必要とした人達に対して救援活動ができていたのは、自衛隊のみでしょう。

兵站に関して上で述べた事例では、食料を例としましたが、戦争ならこの他に武器弾薬を運ばなければなりません。武器のうち、大砲や戦車、航空機ななどは頻繁にメンテナンスが必要ですから、メンテナンス機材や要員の輸送も考えなければなりません。これを怠れば、戦闘の継続は難しくなります。

救援活動などでは、まず救援活動をする自衛隊員の食料の輸送を考えなければなりません。自衛隊員は機械やロボットではありませんから、救援活動をするためにも1日あたり3千カロリーが必要ですし、武器弾薬は必要ないものの、支援対象の人々への物資を運ばなければなりません。また、長時間働いた隊員には休養も必要です。

桜林さんは、被災地にパラシュートで降下というのは現実的ではないとしていますが、まさにそうです。パラシュートで降下した自衛隊の空挺部隊は、当面の物資を運ぶことはできますが、自らの活動のための食料などの物資も同時に運ばなければならないですから、運べる物資の量は限られています。

食料がなくなった空挺部隊は、現地で食料を調達するしかなくなります。それは、被災者の食料を奪うことになります。そんなことは、とてもできないでしよう。そうなると、空挺部隊の要員は飢に苦しむことになります。

そもそも、空挺部隊は、いずれ後続部隊が来ることを前提として、敵地に投入されるものです。後続部隊がしばらく来なくても、もちろん、空挺部隊は、できるだけ長く生き延びて、敵の戦力を撹乱したり、情報を収集したりすることができます。しかし、その場合でも、後続部隊が来なければ、空挺部隊の活動意義は、大きく制限されることになります。

ウクライナ戦争初戦で、キーウ近くのアントノフ国際空港に投入されたロシアの空挺部隊は、結局後続部隊が来なかったため、ほぼ全滅しました。

破壊されたアントノフ国際空港

中国による台湾侵攻も、補給の限界から、実は難しいです。無論、ただ破壊するだけというなら、ミサイルを発射すれば良いですから、難しいことはありませんが、実際侵攻するということになれば、多くの兵員、武器弾薬、食料など物資を運ばなければなりません。しかも、台湾の急峻な地形を考えると、実際に戦闘になるであろう地区まで必要十分な物資を到達させることは、至難の技ですす。

これは、現在進行中のウクライナ戦争において、ロシアはウクライナの都市をいくつも破壊したものの、未だに多くの地域を制圧できていないことを思い浮かべていただくとご理解いただけるものとと思います。

破壊=占拠ではないです。侵攻とは、戦闘で相手を打ち負かした上に、それらの地域を占拠し、その地域を統治することまで含まれるので、破壊だけと比べると、難易度はかなりあがるのです。簡単なことではないのです。テロリストのように、破壊することが目的で、破壊だけするというのとは全く次元が異なるとうのが、侵攻するということの本当の意味です。

しかし、中国による台湾侵攻が簡単にできると思い込んでいる人も多いです。そういう人は、残念ながら能登の自衛隊による救援活動も簡単だと思ってしまうのでしょう。本当に困ったものだと思います。能登半島地震をきっかけに補給の限界、兵站の重要性が認識されると良いと切に願います。

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2024年1月20日土曜日

5カ国目の快挙、日本も月面着陸の成功国に JAXAのスリム 太陽電池発電できず活動短縮―【私の論評】月面資源の開発は、現状の世界の閉塞感を打ち破る希望の光

5カ国目の快挙、日本も月面着陸の成功国に JAXAのスリム 太陽電池発電できず活動短縮

まとめ

  • JAXAの小型実証機「SLIM」が、2024年1月20日未明、月面に到達し着陸に成功した。
  • 月面着陸は米国、旧ソ連、中国、インドに続いて5カ国目。
  • 着陸目標地点への誤差は100メートル以内と、海外の探査機に比べて飛躍的に高精度。
  • 着陸後の太陽電池の故障により、月面での活動期間は数時間に縮まった。
  • 日本の宇宙開発の新たなスタートとなると期待される。

小型実証機「SLIM」

 日本初の月面着陸を目指していた小型実証機「SLIM」は、2024年1月20日未明、月面に到達し着陸に成功した。

 SLIMは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した直径約10cm、重量約3kgの小型探査機だ。月面着陸の技術実証と、月の成り立ちの謎解きを目的に、昨年9月に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。

 SLIMは、20日午前0時に月の上空を周回する軌道から降下を開始し、午前0時20分ごろ、月面に到達した。機体の状態を伝える信号から、正常な着陸を確認した。

 しかし、着陸後に太陽電池が発電しない状況になり、電源が内蔵バッテリーだけになったため、数日を予定していた月面での活動期間が、数時間に縮まりました。

 JAXAの国中均・宇宙科学研究所長は、着陸後の記者会見で、計画全体は「ぎりぎり合格の60点」と辛口の評価をした。

 今回の着陸は、着陸目標地点への誤差を100メートル以内に抑え、海外の探査機に比べて飛躍的に高精度となる「ピンポイント着陸」にも挑戦しました。詳細な成否判明は約1カ月後ですが、国中所長は「飛行データなどから、成功はほぼ確実だ」との見方を示した。

 成功していれば、計画通りクレーター付近の斜面に着陸しているとみられる。周辺の岩石の成分を分析することで、月の成り立ちの謎解きする手がかりになる。

 日本の月面着陸は、JAXAの超小型探査機が一昨年11月、通信途絶で計画を断念。民間企業アイスペースの探査機も昨年4月、月面に激突し失敗している。また、次世代大型ロケット「H3」などの打ち上げ失敗が相次ぎ、日本の開発力への信頼が大きく揺らいでいたが、スリムの月面着陸成功は、信頼回復への起爆剤となりそうだ。

 スリムの月面着陸は、日本にとって大きな快挙であり、宇宙開発の新たなスタートとなると期待されている。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】月面資源の開発は、現状の世界の閉塞感を打ち破る希望の光

まとめ

  • 月面には、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムなどの一般金属や、プラチナ、パラジウム、金などの希少金属が豊富に存在する可能性がある。
  • 月面資源を活用することで、宇宙探査のコスト削減や、地球での資源不足の解消、さらには新たな産業や経済の創出につながる可能性がある。
  • 月面資源の開発には、技術的な課題や地政学的な課題など、克服すべき課題もあるが、国際協力によってこれらの課題を乗り越え、月面資源の開発を進めていくことが重要である。
  • 経済面:月は資源採掘や加工、製造の拠点として賑わうようになる。これにより、新しい産業、雇用、富の創出につながり、経済の活性化が期待される。
  • 地政学面:月資源をめぐる争奪戦は、新たな宇宙開発競争の火種となる可能性がある。また、既存の宇宙法の改正や拡大が必要になる可能性もある。

月面着陸競争 AI生成画像

日本を含めた世界各国が競う「月面着陸計画」の背景には、金属資源の可能性があると考えられます。

月面に莫大な金属資源が存在する可能性は、世界中の月探査計画をめぐる熾烈な競争の大きな原動力となっているようです。まるで新たなゴールドラッシュのようですが、月面着陸が目指すのは、貴金属ではなく、宇宙探査、さらには地球での生活に革命をもたらす可能性のある資源が対象のようです。

ここでは、そのエキサイティングな可能性を紹介します。

資源の宝庫

月面には、宇宙船や居住施設、さらには月面インフラの構成要素となる、膨大な量の鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムが存在すると推定されています。月面で宇宙船や居住施設、さらにはインフラを構成する要素である鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムが大量に存在すると推定されているのです。

https://www.jpl.nasa.gov/infographics/the-lunar-gold-rush-how-moon-mining-could-work

月には、電子機器や医療機器などの先端技術に不可欠なプラチナ、パラジウム、さらには金などの希少金属が眠っているかもしれないです。これらの資源にアクセスできれば、コストが大幅に削減され、技術革新の新たな可能性が開けるかもしれないです。

https://universemagazine.com/en/the-moon-as-a-source-of-rare-earth-metals/

宇宙探査に革命を起こす

月の資源を抽出・加工することで、月そのものから燃料や推進剤、さらには水を作り出すことができます。これにより、地球から打ち上げられる高価な物資への依存を大幅に減らし、宇宙旅行と宇宙探査をより費用対効果の高い持続可能なものにすることができます。これによって、原位置資源利用(in situ resource utilization)という概念を実現するのです。

これは、現地で入手可能な資源を利用することを意味します。 特に将来の宇宙開発において、必要な資材をすべて地球から運ぶにはコストがかかるため、建材やエネルギー、人間の活動に不可欠な酸素や水などの資源をできる限り現地で調達することを指す。

https://www.nasa.gov/mission/in-situ-resource-utilization-isru/

 容易に入手可能な物質源と(太陽光発電やヘリウム3核融合による)エネルギー生産の可能性があれば、月は宇宙商取引と産業の賑やかな拠点になる可能性があります。月工場が将来の宇宙ミッションのための部品を生産したり、あるいは地球に資源を輸出したりすることを想像してみてほしいです。

https://interactive.satellitetoday.com/via/august-2019/the-lunar-economy-from-vision-to-reality/

地球にとってのメリット

月の資源採掘と加工のために開発された技術は、ロボット工学、オートメーション、材料科学などの分野の進歩につながり、地球での応用に波及する可能性があります。

月から資源を採掘することで、地球での資源採掘による環境への影響を減らすことができ、貴重な資源を保護し、地球を守ることにつながります。

課題と前途

もちろん、月資源の採掘にはそれなりの課題が伴う。月の過酷な環境、輸送コストの高さ、効率的で持続可能な採掘技術の開発など、克服すべきハードルはいくつもあります。

しかし、潜在的な見返りは無視できないほど大きいです。国際協力と継続的な技術進歩は、月の富を解き放ち、宇宙探査と経済繁栄の新時代を切り開く鍵となるでしょう。

今度、月面着陸計画について耳にしたら、思い出してほしいです。それは単に旗を立てるということではなく、宇宙と地上の両方で人類の未来を変える可能性のある資源の宝庫を解き放つということなのです。


これに近い世界は、2019年から配信されているAppleTVのテレビドラマシリーズ。『フォー・オール・マンカインド』(原題: For All Mankind)に余すことなく描かれています。1960年代の宇宙開発競争がそのまま続いていて終わらなかった世界を舞台に、奮闘する人々を描いています。この物語は、月から火星への探査と経済繁栄の新時代を築こうとする世界を描いています。

私は、今年の正月は、このシリーズのシーズン4を視聴して過ごしました。壮大な物語で、描写はかなりリアルで、シナリオも優れていて圧倒されました。

もしこのようなことが実現すれば、世界は大きく変わるでしょう。月の潜在的な資源の恵みは、単に天空の自慢話ではなく、経済的にも地政学的にも私たちの世界を大きく変える可能性を秘めています。

経済の変化

月は、資源採掘、加工、さらには製造の拠点として賑わうようになるでしょう。これは新しい産業、雇用、富の創出につながる可能性があり、石油やハイテクといった既存の分野に匹敵する可能性もあります。

 原位置資源利用(ISRU)により、月はより独立した存在となり、燃料や水などの必需品を地球に依存しなくなる可能性がある。これにより、地上の制約から独立した宇宙ベースの経済が育まれる可能性があります。

月の資源へのアクセスは、現在の国家間の富と権力の配分を変える可能性があります。月資源の採取・利用技術の開発に成功した国は、経済的に大きな優位性を得ることができる。

地政学的再編成

月資源をめぐる争奪戦は、今度はイデオロギー的な動機ではなく、経済的な動機によって引き起こされる新たな宇宙開発競争に火をつける可能性があります。各国が有利な立場を求めて争う中で、国際的なパートナーシップや協力関係が変化する可能性があります。

 月での活動が活発化すれば、既存の宇宙法の改正や拡大が必要になるでしょう。天体の資源所有権、採掘規制、紛争解決に関する新たな枠組みが必要になる可能性が高いです。

貴重な資源へのアクセスとその支配は、紛争の種となり得ます。競争と国益の増大は、宇宙における緊張、紛争、さらには資源戦争を引き起こす可能性があります。

For All Mankindにでてくる米国の月面基地

月の資源へのアクセスは、人類にとって大きなチャンスです。月には、貴金属やレアメタルなどの貴重な資源が豊富に眠っており、これらの資源を活用することで、地球の資源不足を解消し、経済を発展させることができます。

月面資源を活用するためには、まず、月面へのアクセスを実現する必要があります。月の環境は地球とは大きく異なり、宇宙放射線や高温・低温などの厳しい条件に耐えられる技術が必要です。また、月面資源の採掘や輸送を行うための技術も開発する必要があります。

これらの課題を乗り越えるためには、国際的な協力が不可欠です。月面資源は、各国の利害が複雑に絡み合っており、単独で開発を進めることは困難です。各国が協力して、安全かつ持続可能な方法で月面資源を開発していく必要があります。

月面探査は、閉塞感に苛まれがちな多くの人々にとって、希望と可能性の象徴となるでしょう。月面資源の活用は、私たちの世界に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。私たちが力を合わせれば、その実現は決して夢ではありません。

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2024年1月19日金曜日

イランから周辺国へ攻撃続発 パキスタン報復、広がる緊張―【私の論評】中東情勢緊迫化、日本はどう動くべきか

イランから周辺国へ攻撃続発 パキスタン報復、広がる緊張

まとめ
  • 15~16日、イランはイスラエルやISを標的として、イラク北部、シリア、パキスタンを攻撃。
  • 18日、パキスタンがイラン領内に報復攻撃。9人死亡。
  • 中東の大国と核保有国の攻撃の応酬は異例。
  • パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘で地域の緊張拡大。
  • 米軍、イエメンのフーシのミサイル14発を攻撃。 イランによる近隣国へのミサイル攻撃が相次ぎ、中東情勢が不安定化している。

パキスタンのアルヴィ大統領はイランとの外交努力の必要性を強調

 15~16日には、イラクはイスラエルの関連拠点や過激派組織「イスラム国」(IS)が標的だとして、イラク北部のクルド人自治区やシリア、パキスタンの領内を攻撃した。これに対し、パキスタンは18日、イラン領内をミサイル攻撃し、9人が死亡しました。

 この事態は、中東の大国イランと、核保有国のパキスタンが攻撃の応酬になる異例の事態だ。また、パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くなか、地域をまたがって緊張が拡大する懸念が高まっている。

 一方、米軍はイエメンの反政府武装組織フーシが発射に向けて装塡していたミサイル14発を攻撃した。これは、フーシによる紅海での商船攻撃を未然に防ぐ取り組みの一環だとしている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中東情勢緊迫化、日本はどう動くべきか

まとめ
  • イランの攻撃は、イスラエルやISに対する牽制、米国への対抗、国内政治の安定という複数の要因が重なった結果と考えられる。
  • パキスタンの報復は、自国領土への攻撃への対抗、国民の世論に応えるという意図があった。
  • 両国の攻撃は、情報の誤りや誤解、複雑な武装勢力の関与などにより、意図しないエスカレーションを招く可能性がある。
  • 今後の展望としては、両国のさらなる攻防、デエスカレーション措置、国際的な仲介のいずれも可能性があり、状況の推移を注視する必要がある。
  • 日本は、米国の対応の限界を踏まえ、自国の軍事力強化、安全保障パートナーシップの多様化、積極的外交の強化などを通じて、地域情勢の不安定化に対応する必要がある。

イランとパキスタンの複雑な攻撃の応酬には、以下のような背景があるとみられます。

イランの動き

イランの首都テヘラン

イランのイラク、シリア、パキスタンにあるイスラエルの基地やISを標的にするという公式の正当化には疑問を抱かざるを得ないです。その精度は低そうであり、より広範なメッセージ、つまり地域の敵対勢力に対する牽制の強化の一環であるとみられます。この行動は、いくつかの要因が重なった結果である可能性が高いです。

現在のイスラエルのガザにおけるハマスとの紛争は、イランがイスラエルの同盟国を標的にすることを強めたかもしれないです。

イランの核開発計画や地域の「抵抗の枢軸」(イラン、シリア、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスなど、中東におけるならず者国家とテロリスト集団の反欧米同盟)に対する米国の圧力が高まり、イランが協力者と認識した相手に対し、積極的な動きを見せている可能性があります。

また、イラン政権内部の強硬派は、権力を強固にし、内部の苦境から目をそらすために、外部からの攻撃を利用している可能性もあります。

パキスタンの報復

イラン領内への攻撃は、9人の命を奪う悲劇的なものでありましたが、イランによるパキスタン領内への先制攻撃に対する迅速かつ明確な対応でした。

パキスタンの狙いは、これ以上の攻撃は許さないという明確なメッセージを送ることであり、パキスタンは、イランに対抗して自国を防衛する能力を持っています。また、パキスタン政府を毅然とした対応に向かわせる上で、国民の怒りが重要な役割を果たしたと考えられます。


情報の誤りや誤った解釈は、意図しないエスカレーションを助長し、真の姿をより不透明なものにする可能性があります。さらに、複雑な提携・依存関係を持つさまざまな武装集団の関与は、攻撃の応酬の動機と結果の網の目をさらに複雑なものにしています。

今後の展望

状況は依然として流動的であり、包括的な理解には継続的な観察と分析が必要です。両国はさらなる一触即発の攻防を繰り広げるのか、それともデエスカレーション措置がとられるのでしょうか。

 米国や国連のような地域的・国際的アクターは、中東のこの不安定な状況をどのようにナビゲートし、さらなる衝突を防ごうとするのでしょうか。

この応酬は、地域の安定とパワー・ダイナミクスに長期的にどのような影響を及ぼす可能性があるのでしょうか。

昨日も述べたように、現在の米国は大規模な三正面作戦や、二正面作戦を実行する能力はありません。日本としては、最悪の状況も想定しておかなけばなりません。

現在の世界情勢は、ウクライナ戦争、台湾危機、中東危機の激化が重なる可能性が十分にあり、そうなると米国は中東危機にリソースをさかれ、ウクライナ戦争や、台湾危機などには十分に対処できない可能性があります。

これに対して日本は、どうすべきかということは、昨日のブログにも掲載しました。それをいに再掲載します。
  • まずは、自国の軍事力をさらに高めることです。 これには、防衛費の増加、より高度な兵器の開発、海上・航空部隊の強化が含まれます。
  • さらに、安全保障パートナーシップの多様化をすべきです。米国との同盟を基軸としつつ、オーストラリアやインドなど他の地域大国との緊密な協力関係を強化すべきです。
  • さらに積極的外交を強化すべきです。 この地域、特に中国や北朝鮮との緊張緩和を目的とした対話や紛争解決に取り組むべきです。
大局的な観点から、この三点を日本は継続し続けるべきでしょう。ただ、それにしても、どのような観点から実施するのかということが重要になってきます。

結局のところ"力による平和 "です。残念ながら、中国・ロシア・イランと「抵抗の枢軸」は、"力による平和"しか理解しません。他の方法では、隙をつかれることになるだけです。

日本は、台湾危機において中国を打ち負かし、ロシアの野心を抑止する力を持たなければならなです。これは、不可能と思われるむきもありますが、日本は中露と陸続きではありません。海洋を介して接しています。これが、陸上国家中露に対して海洋国国家日本を著しく有利にしています。これをさらに意図して意識して拡大していくべきです。

外交面では、特に米国、インド、オーストラリア、欧州諸国との同盟関係を強化すべきです。国際的な舞台で自由と民主主義を擁護すべきです。

経済的には、国内では内需を伸ばし切る政策をしつつ、他のアジア諸国や欧米諸国との貿易や投資を多様化することで、中国への依存を減らすべきです。製造業を中国から日本や他の同盟国に移すよう、台湾や欧米企業を誘致すべきです。

空母に改修される予定の「かが」の甲板

地政学的には、日本はアジアとそれ以外における中国の「一帯一路」構想に対抗すべきです。戦略的な深みと影響力を得るために、インド太平洋、中東、アフリカの国々に投資し、安全保障上の支援を提供すべきです。

世界の民主化勢力を支援すべきです。米国が手薄になっている今、日本はもっと多くのことをしなければならないです。しかし、日本はこれを重荷ではなく、世界第3位の経済大国としての地位にふさわしいリーダーシップを主張する機会と捉えるべきです。

より強く、外交手段にも長けた日本が、同盟国と一緒に力を合わせて行動すれば、事態の流れを変え、敵に脅威を与え、自由と繁栄に満ちた「インド太平洋地域の世紀」を切り開くことができます。

 今起きている問題は、冷戦時代と似たところがあります。しかし、明確なビジョンと強い決意があれば、自由主義勢力は、米国のレーガン政権の時のように、権威主義の野望に再び打ち勝つことができます。日本はこの世代をかけた闘争において、重要な役割を担っています。行動を起こすのは今です。

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2024年1月18日木曜日

習主席にとって大誤算だった台湾総統選 米大統領選の間隙突く恐れも 日本は平和ボケでいられない―【私の論評】『警鐘』米国の軍事力低下で日本が平和ボケでいることを許されない理由

習主席にとって大誤算だった台湾総統選 米大統領選の間隙突く恐れも 日本は平和ボケでいられない

頼清徳氏

まとめ
  • 台湾総統選:頼清徳氏が再選!選挙結果と国内政治の微妙なバランス
  • 民進党3連勝、国民党3連敗:台湾総統選挙の政治的な影響と未来の展望
  • 中国のプロパガンダに屈せず、台湾が示した民主主義の勝利とは?
  • 米国・日本の対応:台湾総統選結果が引き起こす地政学的な動きとは?
  • 台湾選挙と緊張関係:バイデン大統領の発言と日本の役割に注目

  台湾総統選挙は、13日に行われ、与党・民進党の頼清徳氏が予想通りの勝利を収めた。頼氏は獲得票数558万6019票で、得票率は40.0%だった。一方で、国民党の侯友宜氏は467万1021票、民衆党の柯文哲氏は369万4666票を獲得し、頼氏が再選される結果となった。

 同時に行われた議会・立法院の選挙では、113議席中、国民党が52議席、民進党が51議席、民衆党が8議席を獲得した。民進党が過半数を獲得できなかったことは予想通りだが、国民党も過半数を確保できなかったため、台湾の政治は微妙なバランスとなった。

 頼氏は選挙本部で、「台湾は民主主義国家の共同体にとっての勝利を収めた」と述べ、「現状維持」を主張している。一方で野党は、かつて頼氏が「現実的な台湾独立工作者だ」と発言したことを取り上げ、特に侯友宜氏は中国政府のような批判を展開していた。頼氏は最近「独立」という言葉を避けていたが、中国のプロパガンダにより「独立派」とされた。

 結果として、台湾は中国のプロパガンダに屈せず、頼氏を再選することで、台湾の民主主義の機能を示した。1996年以降、総統は国民によって選ばれており、今回の結果は民進党3連勝、国民党3連敗となる、3期12年の政権が登場した初めてのケースだ。

 中国は結果に失望し、「今回の選挙は、祖国がやがて必ずや統一されるという、阻止できない流れを妨げられない」とのコメントを発表。一方で、米国は台湾の民主制度を讃え、「台湾の人たちがまたしても、旺盛な民主制度と選挙手続きの力強さを示したことに、祝意を表したい」と述べた。

 ただし、米大統領は台湾の「独立を支持していない」と強調し、現状維持を望んでいるとの立場を示した。この発言に対し、日本は米大統領選結果にかかわらず、アジアの安定のために相応の負担を覚悟する必要があるとの見解を示している。ただし、中国との緊張が続く中、米大統領選の結果や動向を注視しながら対応することが必要とされている。日本はそれまでに米大統領選結果にかかわらず、アジアの安定のために相応の負担の覚悟が求められる。というのは、米国は、ウクライナ、中東と台湾で「三正面作戦」を強いられており、この3つに同時に対応することはできないからだ。日本が平和ボケでいることはあり得ない。 

【私の論評】『警鐘』米国の軍事力低下で日本が平和ボケでいることを許されない理由

まとめ

  • 現在の米軍は、ウクライナ、中東、台湾の3つの地域で同時に戦争を行う能力がない。
  • 米軍の軍事力指標は、ヘリテージ財団の2020年調査によると、陸軍は「限界」、海軍は「限界」と評価されている。
  • 米軍の軍事力指標が低下した理由は、予算削減による艦艇の老朽化や整備不足などが挙げられる。
  • 今後、日本は、自国の軍事力を高める、安全保障パートナーシップの多様化を図る、積極的な外交を重視するなどの対策を講じる必要がある。
  • 米国の軍事力低下は、地域の不安定化や紛争の増大につながる可能性がある。
上の記事で、高橋洋一氏は、「米国は、ウクラ内、中東と台湾で「三正面作戦」を強いられており、この3つに同時に対応することはできないからだ」として日本平和ボケでいることはあり得ないと。述べています。

これは、本当です。現在の米軍は三正面作戦どころか、二正面作戦も十分には対応できないです。これについては、以前このブログにも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

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中東などで米軍が大規模な作戦を遂行しているときに、日本海で同時大規模な作戦を遂行する能力は今の米軍にはありません。

米軍の海外配置の状況(グァムは米国領なので含まず)

これについては、以前のブログにも掲載したことですが、最近米国のシンクタンクが、これについて研究した結果を発表しています。

中露や中東の軍事的脅威に対応する米軍の能力が「限界」にあるという厳しい評価が下されたのです。これは、米軍事専門シンクタンクによるもので、「現在の姿勢では、米軍は重要な国益を守るとの要求に、わずかしか応えられない」と強調しています。

問題なのは、特に海軍において、この相対的弱体化に即効性のある解決策がないことです。「世界最強」のはずの米軍に何が起こっているのでしょうか。

評価は著名な米保守系シンクタンクのヘリテージ財団によるものです。同財団が10月末に発表した「2020年 米軍の軍事力指標」と題する年次報告書は、米陸海空軍と海兵隊の軍事的対処能力を、非常に強い▽強い▽限界▽弱い▽非常に弱い-の5段階で評価しています。ただ、基準は「2つの主要な戦争を処理する能力」などとしており、2正面作戦を行うにおいての評価であるあたりが超大国米国らしいです。

とはいえ、中東ではイランの核開発、南シナ海では中国の軍事的膨張、さらに北朝鮮の核ミサイル開発と、地域紛争が偶発的に発生しかねない「火薬庫候補」は複数あり、2正面を基準にするのは米国としては当然の条件です。

この5段階で「限界」とは、乱暴な言い方をすれば「戦争になっても勝てるとは言えず、苦い引き分けで終わりかねない」、あるいは「軍事的目標を達成するのは容易ではない」ということです。

同報告書では欧州や中東、アジアの3地域での軍事的環境を分析。例えば中国については「米国が直面する最も包括的な脅威であり、その挑発的な行動は積極的なままであり、軍事的近代化と増強が継続している」などと、それぞれの地域の脅威を明らかにしたうえで、対応する陸海空軍などの米軍の能力を個別評価しています。ところが驚くことに、その内容は、「限界」ばかりなのです。

まず陸軍は、昨年に引き続き「限界」のまま。訓練や教育など多大な努力により旅団戦闘団(BCT)の77%が任務に投入できる状態となった点は高く評価されたのですが、兵力を48万人から50万人に増強する過渡期にあり、その準備や訓練に加え、陸軍全体の近代化が課題となっています。

さらに問題なのは海軍です。前年同様「限界」ですが、内容は厳しいです。まず艦艇の数で、「中国海軍300隻と(海軍同様の装備を持つ)175隻の中国沿岸警備隊」(米国海軍協会)に対し米海軍は290隻。トランプ政権は「2030年代までに海軍の保有艦艇を355隻に増やす」との構想を持っています。一部には予算面から、この構想の無謀さを指摘する声があるのですが、本当の問題は355という数字をクリアすることではなく、艦艇の運用面、いわばクリアした後にあるのです。

海軍艦艇は整備と修理や改修、耐用年数延長工事や性能アップのため、定期的にドック入りして「改善」を行う必要があります。一般的に、全艦艇の3分の1はこうした「整備中」にあり、訓練中も含めれば、即時に戦闘行動に投入できるのは半数程度とされます。

ところが米海軍には、大型艦艇に対応するドックが足りないのです。全長300メートルを超える原子力空母ともなれば、ドック入りしなければならないのに他の艦船が入渠(にゅうきょ)しているため、順番待ちが生じている状態なのです。

米国海軍協会などによると、米海軍原子力空母11隻のうち現在、任務として展開しているのはロナルド・レーガン▽ジョン・C・ステニス▽エイブラハム・リンカーン-の3隻のみ。ニミッツをはじめほか8隻はドックで整備や部分故障の対応中といった状態なのです。 
しかも空母に限らず米海軍艦艇がドック入りした際の整備の工期は、予定を大幅に超える事態が頻発しているというのです。

過去のオバマ政権時の軍事予算削減が響き、ドックも足りず、整備できる人間の数も足りないのです。このような状況でなお艦艇数を増やしても、整備や修理待ちの列が長くなるだけです。また原子力空母の多くが建造後20年が経つということに代表される、各種艦艇の老朽化、さらには新型艦の不足も海軍を悩ませています。

報告書では「資金不足と利用可能な造船所の一般的な不足により、艦艇のメンテナンスが大幅に滞り、配備可能な船舶と乗組員に追加の負担がかかっている」と指摘されています。
ヘリテージ財団

この記事を掲載したときには、ウクライナ戦争は始まっていませんでした。台湾侵攻の可能性については、中国はすでに主張していました。中東は、比較的平穏でした。結局「日本海争奪戦」などという事態は起きませんでしたが、2024年の世界は新たな次元に突入しつつあります。

現状の世界を見回すと、ウクライナ戦争は、今年で三年目に入りました。アジアでは、中国は武力による台湾侵攻の可能性を否定していません。中東では、イスラエルがガザ地区で大規模な作戦に実行している状況です。紅海では、イランの支援を受けているとみられるフーシ派がミサイルを発射するなどの不穏な動きをみせています。

これらが、さらに大きな戦争にならないとは断言できません。戦争にならないにしても、中国、ロシア、イランが結託して、軍事行動や示威行動をする可能性は高いです。

日本は以下を検討するだけではなく、実行すべきです。

  • まずは、自国の軍事力をさらに高めることです。 これには、防衛費の増加、より高度な兵器の開発、海上・航空部隊の強化が含まれます。
  • さらに、安全保障パートナーシップの多様化をすべきです。米国との同盟を基軸としつつ、オーストラリアやインドなど他の地域大国との緊密な協力関係を強化すべきです。
  • さらに積極的外交を強化すべきです。 この地域、特に中国や北朝鮮との緊張緩和を目的とした対話や紛争解決に取り組むべきです。
米国の軍事的優位性が低下すると認識されれば、特定の地域に力の空白が生じ、不安定性や紛争が増大する可能性があります。

中国やロシアのような他の大国は、米国の明らかな限界に勇気づけられ、自己主張を強めるかもしれないです。「日本海争奪戦」なども起こる可能性は否定できません。実際、中国は2023年7月、中国が日本の排他的経済水域(EEZ)内にブイを設置しています。

中国が日本の排他的経済水域(EEZ)内に設置したのと同方のブイ

国際社会は、世界のパワーバランスの変化に対応するために、既存の安全保障の枠組みを再評価し、適応させる必要があります。

日本が、21世紀においてますます複雑で不確実な安全保障の状況を乗り切るためには、戦略的な先見性と積極的な対策が必要不可欠です。

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