2024年8月10日土曜日

ウクライナ軍、ロシア西部で占領地域拡大か…米国製装甲車などの精鋭部隊投入か―【私の論評】ウクライナ軍のクルスク州侵攻:戦略的目的と国際的影響

ウクライナ軍、ロシア西部で占領地域拡大か…米国製装甲車などの精鋭部隊投入か

まとめ
  • ウクライナ軍は、ロシア西部クルスク州に対して奇襲攻撃を行い、第80独立空中強襲旅団が参加していることが確認された。
  • ソーシャルメディアに投稿された動画には、ウクライナ軍の装甲車両や砲兵部隊がロシア側の陣地に対する攻撃を行っている様子が映っている。
  • 第80空中強襲旅団は、旧ソ連から引き継いだ車両と米国から供与された車両を組み合わせて使用しており、ストライカーとマルダーを併用している。
  • ウクライナの今回の作戦は、これまでの小規模な襲撃とは異なり、正規軍の複数の旅団が参加する大規模な侵攻である。
  • ウクライナ軍は、ロシア軍の手薄な場所を狙って国境を越え、奇襲作戦に成功したとされているが、ロシア軍の迅速な対応が進撃の成否を左右する可能性がある。


ウクライナ軍はロシア西部のクルスク州に対して大規模な侵攻作戦を展開しており、これにはウクライナ軍の中でも特に精鋭とされる第80独立空中強襲旅団が参加している。この旅団は、旧ソ連から引き継いだ装備と米国から供与された装備を組み合わせて使用しており、特にストライカー装甲車とマルダー歩兵戦闘車を併用しています。これらの車両は、迅速かつ強力な攻撃を可能にするため、ウクライナ空中強襲軍にとって理想的な組み合わせだ。

今回の作戦には、第22独立機械化旅団や第88独立機械化旅団も参加しており、砲兵部隊、ドローンチーム、防空部隊が重要な支援を行っています。各旅団は最大で2000人規模の部隊で構成されており、これにより総勢1万人規模のウクライナ軍がクルスク州に展開している可能性がある。

ウクライナ軍は、ロシア軍の北方軍集団が手薄な場所を狙って国境を越えたとされ、これにより奇襲作戦に成功したと報告されている。北方軍集団は現在、ウクライナの国境近くのボウチャンシクで行き詰まっており、ウクライナ軍はこの隙を突いて進撃を試みている。しかし、ロシア側の迅速な対応があれば、ウクライナ軍の進撃が抑えられる可能性もある。

クルスク州スジャを制圧したとされるウクライナ軍

この作戦は、ウクライナ軍の指揮官たちが攻撃のペースと規模でロシア軍を混乱させることに成功していると評価されているが、同時にリスクも伴っている。ウクライナ軍は、支援範囲を超えて進軍することでクルスク州の奥深くで孤立し、敵の火力に圧倒される危険性がある。特に、ウクライナ軍は容易には代替できない数千人の人員を危険にさらしているため、慎重な進軍が求められる。

ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)は、今回の作戦において北方軍集団司令部の意思決定に「顕著な遅れ」が見られると指摘しており、これはウクライナ軍の作戦の本質を見誤ったためだとしている。ウクライナ軍の指揮官たちは、ロシア軍の指揮官たちを慌てさせることに成功しているとされ、これは称賛に値するものの、最終的な結果はロシア側の対応速度に依存している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。「まとめ」は元記事の要点をまとめて箇条書きにしたものです。

【私の論評】ウクライナ軍のクルスク州侵攻:戦略的目的と国際的影響

まとめ
  • ウクライナのクルスク州への侵攻は、ロシアの戦力を分散させ、クリミアや東部の占領地域からロシアの戦力を引き離すことを目的としているとみられる。
  • この侵攻は、ロシアの戦争遂行能力を削減し、ウクライナの防衛を強化し、将来的な和平交渉において有利な立場を築くことを目指しているようだ。
  • クルスク州が選ばれた理由は、ロシア軍の守備が脆弱であり、ウクライナ軍が奇襲作戦を成功させることができたためとみられる。
  • 米国やG7は、ウクライナの行動を非難しておらず、ウクライナの戦略がロシアの侵攻に対抗する正当な手段であると見なしている可能性がある。
  • 西側諸国はウクライナ支援に対する「支援疲れ」の兆候を見せ始めており、今後の国際情勢や国内政治の動向により支援の継続が試される状況にある。

侵攻にウクライナ軍が用いたとされるストライカー装甲車

ウクライナ軍がロシア領内のクルスク州に侵攻した背景には、いくつかの戦略的な目的があります。まず、ウクライナはロシアの戦力を分散させることを狙っています。クルスク州への侵攻によって、ロシア軍をこの地域に引き寄せることで、クリミアや東部の占領地域からロシアの戦力を引き離し、これらの地域でのウクライナの防衛を強化することが可能です。

また、ウクライナは、ロシアの戦争遂行能力を削減することを目指しています。ロシアのインフラや軍事施設を攻撃することで、ロシアの軍事的な圧力を軽減し、ウクライナの防衛を強化する狙いがあります。さらに、ウクライナは戦場での優位性を確保し、将来的な和平交渉において有利な立場を築くことを目指していると考えられます。戦場での成功は、交渉の場での強力な交渉カードとなり得るからです。

クルスク州が選ばれた理由として、ロシア軍の守備が脆弱であったことが挙げられます。ウクライナ軍は、ロシア軍の防衛が手薄な場所を狙って国境を越えたとされており、これにより奇襲作戦に成功したと報告されています。ロシアの軍事ブロガーや専門家も、クルスク州でのロシアの対応が後手に回ったことを指摘しており、ウクライナ軍の侵攻が前々から準備されていたことを示唆しています。

さらに、ウクライナは国際社会の注目を集め、ウクライナへの支援を強化するための一環として、この攻撃を行っている可能性があります。これにより、ウクライナの立場を国際的に強化し、ロシアに対する圧力を高めることを狙っています。また、ウクライナ軍の越境攻撃は、ロシア国内での混乱を引き起こし、ロシアの指導部に対する圧力を高めることを目的としている可能性もあります。これには、ロシア国内の住民の不安を煽ることも含まれます。

この侵攻に対して、米国やG7は非難をしていないというのは事実です。米国務省の報道官は、ウクライナの行動が米国供与の兵器使用に関する規制に違反していないと述べており、米国はウクライナの行動を容認する姿勢を示しています。G7についても、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する声明を出しているものの、ウクライナのクルスク州への侵攻に対する直接的な非難は見られません。

このような反応の背景には、ウクライナの戦略がロシアの侵攻に対抗するための正当な手段であると西側諸国が見なしている可能性があります。ウクライナの攻撃は、ロシアの戦争遂行能力を削減し、和平交渉において有利な立場を築くための一環と考えられており、これが非難されない理由の一つと考えられます。西側諸国は、ウクライナの戦略的な行動がロシアの侵攻に対抗するための正当な手段であると見なしている可能性が高いです。

ウクライナのクルスク州への侵攻は、西側諸国にさまざまな影響を与える可能性があります。まず、ウクライナの行動は、ロシアの戦力を分散させる戦略の一環と見なされており、西側諸国はこれを理解し、非難しない姿勢を示しています。米国務省も、ウクライナの行動が米国供与の兵器使用に関する規制に違反していないと述べており、ウクライナの戦略を支持する姿勢を示しています。


しかし、西側諸国はウクライナ支援に対する「支援疲れ」の兆候も見せ始めています。特に、米国では大統領選挙を控えており、政権が変わればウクライナ支援が後退する可能性があります。また、中東情勢の悪化により、米国はウクライナと中東での二正面作戦を強いられており、ウクライナへの支援がこれまで通り継続できるか不透明です。

さらに、ウクライナの侵攻は西側諸国の外交政策にも影響を与えています。アフリカ諸国は、西側諸国の対応をダブルスタンダードとして批判しており、ウクライナ避難民への手厚い支援が報道されるたびに、西側諸国からの距離が広がっているように見えます。

今回のウクライナのクルスク州への侵攻は、以上のような西側諸国のネガティブな反応に対する起死回生策としての側面を持っている可能性があります。

これらの状況は、西側諸国にとってウクライナ支援の持続可能性や民主主義の強靭性を試す試金石となっています。西側諸国がウクライナ支援を継続するかどうかは、今後の国際情勢や国内政治の動向に大きく依存することになるでしょう。

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2024年8月9日金曜日

南海トラフ地震臨時情報 初の「巨大地震注意」 地震への備えの再確認、必要に応じて自主的な避難の検討を―【私の論評】南海トラフ巨大地震に備える: 被害予測、経済的影響、そして効果的な対策

南海トラフ地震臨時情報 初の「巨大地震注意」 地震への備えの再確認、必要に応じて自主的な避難の検討を

まとめ
  • 気象庁は、宮崎県での地震を受けて、南海トラフ巨大地震の発生リスクが通常よりも数倍高まったと発表し、地震への備えを強化するよう呼びかけています。
  • 地域住民は、家族の連絡手段や集合場所の確認、非常持ち出し袋の準備など、すぐに避難できるよう備えを整えることが推奨されています。
  • 津波の危険がある地域に住む人々は、親戚や知人の家などへの自主避難を検討することが求められています。


 気象庁は、南海トラフ巨大地震の震源域で、新たな大地震が発生する恐れがやや高まったと発表しました。地震への備えを再確認するとともに、必要に応じて自主的に避難することを検討してください。

【生中継】気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を初めて発表 最新情報は

 宮崎県で最大震度6弱を観測したマグニチュード7.1の地震を受けて、気象庁は専門家を集めて新たな南海トラフ巨大地震が発生する可能性について検討していました。

 その結果、南海トラフ沿いの震源域で新たな大地震が発生する恐れがやや高まったとする検討結果をまとめました。通常に比べて大地震が発生する確率が数倍程度高まったということです。被害が想定される地域の人は地震への備えを再確認するなど警戒のレベルを上げてください。

 具体的には、家族の連絡手段や集合場所を確認したり、非常持ち出し袋などを用意したりして、すぐに避難できる準備をしてください。津波が襲ってきた時、安全な場所に確実に避難することができない地域に住んでいる人は、親戚や知人の家などに自主避難することを検討してください。

【私の論評】南海トラフ巨大地震に備える: 被害予測、経済的影響、そして効果的な対策

まとめ
  • 南海トラフ巨大地震は、今後30年以内に70〜80%の確率で発生すると予測されており、西日本全域を巻き込む大規模災害となる可能性があります。被害は東日本大震災の約10倍と試算されてい。
  • 地震による最大34メートルの津波が太平洋沿岸を襲うことが予測されており、津波だけでなく、激しい揺れによる被害も懸念されている。特に愛知県では、震度7が予測される地域が多数存在する。
  • 経済的損害額は最悪で220兆円と推計されており、これは東日本大震災の被害額の10倍以上に相当する。被害は太平洋ベルト地帯の工業地帯に及び、インフラの寸断によってさらに深刻化する可能性がある。
  • 防災対策として、個人レベルでは水や食糧の備蓄、家具の固定、避難経路の確認、防災グッズの準備が推奨されており、これらの備えにより生存可能性を高めることが重要だ。
  • 政府は、増税ではなく国債発行を通じて100兆円規模の防災基金を設立し、順次増大し最終的には220兆円の基金を設立し、迅速かつ効果的な予防的防災対策を行うべき。これは経済への悪影響を避けつつ、自然災害に強い社会を構築するための現実的な手段である。

南海トラフ巨大地震は、今後30年以内に70〜80%の確率で発生すると予測されており、発生すれば西日本全域を巻き込む未曽有の大規模災害となる可能性があります。この地震による被害は、東日本大震災の約10倍に達するとの試算があり、国全体に深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。

東日本大震災では津波が大きな被害を引き起こしましたが、南海トラフ巨大地震でも最大34メートルの津波が太平洋沿岸を襲うことが予測されています。しかし、津波だけが脅威ではありません。地震発生時の激しい揺れも大きな被害をもたらすと考えられています

。特に、内閣府の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」によると、震度6弱が21府県292市町村、震度6強が21府県239市町村、震度7が10県151市町村で想定されています。

愛知県の被害予測愛知県においては、震度7が予測される地域がいくつかあります。具体的には、名古屋市港区、豊橋市、岡崎市、半田市、豊川市などが挙げられます。これらの地域では、都市部が特に大きな被害を受ける可能性が高く、揺れに加えて津波の影響も考慮する必要があります。

事前の備えと対策このような深刻な状況を考えると、絶望するわけにはいきません。今からでもできる対策が多くあります。

具体的には、以下のような備えが推奨されます。
水や食糧の備蓄: 非常用の水や食糧を準備しておくことで、地震発生後の生活を支えることができます。
家具の固定: 家庭内の家具や家電を固定することで、揺れによる転倒や破損を防ぎます。
避難経路の確認: 自宅周辺の避難経路や避難場所を事前に確認しておくことが重要です。
防災グッズの準備: 懐中電灯、ラジオ、応急手当キットなどの防災グッズを用意しておきましょう。
これらの対策を講じることで、南海トラフ巨大地震が発生した際の生存可能性を大いに高めることができます。日頃からの備えを怠らず、家族や地域とともに防災意識を高めていくことが求められています。

南海トラフ巨大地震が発生した場合の経済的損害額は、政府によって最悪の場合で220兆円と推計されています。この推計は、主に被災地での建物被害を中心に算出されたものであり、東日本大震災の被害額16.9兆円の10倍以上に相当します。

この地震による経済的な影響は、地震や津波による直接的な被害に加え、関東から九州にかけての「太平洋ベルト地帯」と呼ばれる工業地帯が襲われることで、製造業や鉄鋼業、高速道路や新幹線などの日本の主要インフラが寸断されることによって、さらに深刻化すると考えられています。

また、土木学会による推計では、地震発生後20年間の経済的な被害額が最悪で1410兆円に達する可能性があるとされています。この推計には、道路の寸断や工場の損害などから波及する間接的な影響も含まれています。

これらの試算は、日本経済全体に長期的な停滞をもたらす「国難」ともされる事態を示しており、事前の対策が急務とされています。具体的な対策としては、企業や個人が防災計画を策定し、サプライチェーンの破綻を未然に防ぐことが重要です。

こうした「国難」を少しでも減らすために政府は、何をすべきでしょうか。特に財政的には何をすべきでしょうか。それは、無論大規模な国債発行です。

国債発行が有効である理由は、多くのまともな経済学者や専門家が指摘する通り、迅速に大規模な資金を調達できる点にあります。特に、南海トラフ巨大地震のような大規模災害に備えるためには、事前に十分な財源を確保し、迅速かつ効果的な防災対策を行うことが重要です。

過去に安倍政権で60兆円、菅政権で40兆円の補正予算が組まれ、コロナ禍対策として国債を発行し、日銀がこれを買い取る形で実行されました。この総額100兆円は、当時の需給ギャップに相当する額であり、これにより日本経済はコロナ禍でも、大きく毀損されることはありませんでした。むしろ、これによる効果は、岸田内閣初期まで継続されました。

この際、経済への悪影響は見られず、財務省からの反対もなかったことから、同様の手法で地震対策のための資金を調達することが現実的であると考えられます。国債は、政府が発行する借用証書のようなもので、銀行の定期預金に似た性質を持っています。特に、長期国債は固定金利であり、経済の安定性を保ちながら資金を調達することが可能です。


増税による財源確保は、消費を冷え込ませ、経済成長を阻害するリスクがあります。特に、復興税のような増税は、国民の負担を直接的に増やし、個人消費を減少させる可能性が高いです。こうした増税による負担は、経済の活力を奪い、結果的に経済全体の縮小を招くことになります。実際、自然災害への対応を復興税で行った国は古今東西なく、東日本大震災時の日本だけが例外です。このことからも、増税による対応がいかに異例であるかがわかります。

南海トラフ地震の被害総額が220兆円と見積もられていることから、初期段階で少なくとも100兆円規模の基金を設立することが必要です。この基金は、被害額の一部をカバーし、初期対応や復旧のための資金として十分に機能することを目指すものです。さらに、必要に応じて基金を増額し、数年かけても、最終的には総額220兆円の基金を目指すことが現実的です。これにより、日本は自然災害に強い社会を構築することができます。

防災専用の基金を設立することで、長期的かつ計画的な防災対策を進めることができます。この基金は、災害発生時の迅速な対応や復旧活動にも活用され、被害の拡大を防ぐ役割を果たします。国と地方自治体が連携し、地域の特性に応じた防災対策を推進することも重要です。地方自治体は、地域の実情に即した防災計画を策定し、住民との協力を強化することで、より効果的な対策を講じることができます。

防災対策は短期的な視点だけでなく、長期的な視点で持続可能な形で進めることが重要です。国債発行による財源確保は、将来的な課題に備えるための重要な手段であり、政府はこの資金を効率的に活用し、国全体の安全性と経済的安定を確保することが求められます。このように、国債発行を活用した防災対策は、南海トラフ巨大地震による被害を軽減し、国全体のレジリエンスを高めるための有効な手段となります。

先に述べたように、南海トラフ地震の被害総額が220兆円と見積もられていることから、初期段階で少なくとも100兆円規模の基金を設立することが必要です。最終的には総額220兆円の基金を目指すことが現実的です。

これにより、日本は自然災害に強い社会を構築することができます。このような状況下で、マクロ経済を理解し、積極的な財政政策を推進できるリーダーが求められています。能登半島地震において、補正予算をくまず、予備費で対応している岸田総理では無理です。

高市早苗氏

高市早苗氏は、経済政策において積極的な姿勢を示しており、南海トラフ地震への対応を実現できる可能性があると期待されています。彼女のようなリーダーが次期総理大臣となることで、国債発行を通じた防災対策が実現し、日本全体のレジリエンス(柔軟性)を高めることができるでしょう。

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2024年8月8日木曜日

<独自>G7各国駐日大使、長崎平和式典を異例の欠席へ イスラエル〝排除〟を問題視―【私の論評】G6は長崎市の判断を反ユダヤ主義とみられる可能性を懸念した

<独自>G7各国駐日大使、長崎平和式典を異例の欠席へ イスラエル〝排除〟を問題視

まとめ
  • 長崎市の「原爆の日」平和祈念式典に、日本以外のG7駐日大使が一斉に欠席する方針で、代理を派遣することが決まった。
  • 長崎市は、イスラエルを招待しない理由として式典の平穏な雰囲気を保つためと説明し、G7各国はこの決定に懸念を示している。
  • アメリカやフランス、カナダの大使は、式典の政治化を避けるために欠席を決め、イスラエルをロシアやベラルーシと同列に扱うことへの批判を表明した。

「広島平和祈念式」に参列したイスラエルのギラット・コーヘン駐日大使

 長崎市が9日に開催する「原爆の日」の平和祈念式典に、日本以外の先進7カ国(G7)の駐日大使が一斉に欠席する方針であることが明らかになった。各国は公使や総領事などの代理を派遣するが、大使全員が欠席するのは異例の事態である。長崎市は、イスラム原理主義組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルを式典に招待しなかった理由として、式典の平穏かつ厳粛な雰囲気が損なわれるリスクを挙げている。

 G7の大使たちは、イスラエルを招待しないことに対する懸念を表明しており、長崎市に対して連名で招待を求める書簡を送付していた。アメリカのエマニュエル大使は、式典が政治化されることを避けるために欠席を決定し、フランスのセトン大使も同様の理由で出席しないと述べた。カナダのマッケイ大使は、イスラエルをロシアやベラルーシと同列に扱うことへの懸念を示した。全体として、G7各国は式典の政治的な側面に対して強い懸念を持っている。

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【私の論評】G6は長崎市の判断を反ユダヤ主義とみられる可能性を懸念した

まとめ
  • 長崎市は、式典の平穏かつ厳粛な雰囲気を維持するため、イスラエルを招待しない判断を下した。
  • イスラエルの参加が政治的な議論や対立を引き起こし、参加者や遺族にとって不適切な環境を生む可能性があると懸念された。
  • ハマスとの戦闘が続く中での招待は不適切とされ、情勢に変化が見られないことも招待を見送る要因となった。
  • G6諸国が長崎市のイスラエル招待取りやめを反ユダヤ主義と受け取る可能性を示唆し、この問題は国際的に敏感なものとなっている。
  • 日本のマスコミの報道が一方的である場合、反ユダヤ主義を助長するリスクが高まるため、情報を慎重に評価し、多角的な視点から理解を深めることが重要である。
長崎市がイスラエルを招待しなかった理由は、式典の平穏かつ厳粛な雰囲気を維持するためのリスクを考慮した結果です。市は、イスラエルを招待することで式典が政治的な議論や対立の場になり、参加者や遺族にとって不適切な環境を生む可能性があると判断したようです。

長崎市の鈴木市長

イスラエルの参加によって平和団体の活動が過激になる懸念もあり、式典は平和を祈念する場であるため、政治的対立が持ち込まれることで参加者の感情が高ぶり、抗議活動が行われるリスクが増すと予想されました。このため、長崎市は慎重な判断を下したと考えられます。

また、テロリスト組織ハマスとの戦闘が続く中での招待は不適切であると判断され、情勢に変化が見られなかったことも招待を見送る要因となったようです。このような背景から、長崎市は式典が本来の目的である平和の祈念に集中できるよう配慮し、イスラエルの招待を控えたのでしょう。しかし、この考えはG7から日本を除いたG6の国々には、理解されなかったようです。

G6が長崎市の平和式典に駐日大使を送らないという判断は、長崎市のイスラエル招待を取りやめたことが反ユダヤ主義と受け取られる可能性があるという見解を示していると解釈できます。

このような判断は、国際的な文脈や歴史的背景を考慮すると、特に敏感な問題です。反ユダヤ主義に対する懸念が高まっている中で、特定の国を招待しないことが、ユダヤ人全体への偏見として受け取られるリスクがあります。G6の反応は、国際社会がこの問題をどのように捉えているかを示す重要な指標となるでしょう。

日本のマスコミで流布されるイスラエル報道を単純に鵜呑みにすることが、反ユダヤ主義者と見なされる可能性について考えると、いくつかの重要な点が浮かび上がります。一部のマスコミがイスラエルに対する批判を強調し、ハマスやパレスチナ側の暴力行為を軽視する場合、報道が不均衡になり、ユダヤ人全体への偏見を助長する恐れがあります。

たとえば、特定の事件についての報道が、イスラエルの軍事行動を「虐殺」と表現する一方で、ハマスによる民間人への攻撃をあまり取り上げない場合、視聴者に偏った印象を与えることがあります。

イスラエルによるガザ地区空爆の跡地を歩くパレスチナ人ジャーナリスト

さらに、イスラエルとパレスチナの問題は複雑な歴史的背景を持っていますが、これを無視した報道が行われると、視聴者や読者が誤解を招きやすくなります。例えば、歴史的な迫害やユダヤ人の苦難を理解せずに「イスラエルは侵略者である」といった表現を使うと、反ユダヤ主義的な感情を助長する危険があります。

また、マスコミが感情的な言葉やフレーズを使用することで、報道が煽動的になり、偏見を助長することもあります。このような場合、イスラエルに対する批判が無意識のうちにユダヤ人全体への攻撃に転じる可能性があります。

イスラム専門家とされる学者の意見も同様です。例えば、特定の学者が「イスラエルの存在自体が問題である」といった極端な見解を示すと、それを鵜呑みにすることで誤解が生じ、反ユダヤ主義と見なされるリスクが高まります。特に、専門家の意見が一方的であったり、特定の視点に偏っている場合、その影響は大きくなります。

ガザ地区での戦闘に関する被害状況について、日本のマスコミが扱う情報の信頼性には疑問が生じます。情報源が多様で、現地取材が難しいため、信頼できる情報を得るために他の情報源に依存せざるを得ないことが一因です。また、特定の国や団体からの情報はしばしばバイアスがかかり、客観性を欠くことがあります。


さらに、戦争や人道的危機に関する報道は感情に訴える内容が多く、事実が歪められることもあります。そのため、イスラエル側やパレスチナ側の発表を鵜呑みにせず、双方の情報を慎重に評価する姿勢が重要です。多角的な視点から情報を集めることで、より正確な理解が得られるでしょう。

現時点でガザ地区の紛争に関して判断することは、イスラエルもしくはハマスのどちらか一方の情報操作に加担することになりかねません。そのため、総合的な判断は戦後に情報が集まった段階で行うべきです。戦争や人道的危機に関する報道は感情に訴える内容が多く、事実が歪められることもあります。

また、欧米諸国ではイスラエルに対する批判が反ユダヤ主義と結びつけられることが多く、日本の報道や学者の見解が反イスラエルの流れを加速させると、国際的な信頼性が損なわれることがあります。特に、国際社会での日本の立場を考慮しない報道や学術的な意見は、反ユダヤ主義との関連を疑われる要因となります。

これらの理由から、日本のマスコミやイスラム専門家の意見を単純に鵜呑みにすることは、反ユダヤ主義者と見なされるリスクを高める可能性があります。要注意です。

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2024年8月7日水曜日

米民主党副大統領候補、ワルツ氏とは何者か 共和党が説明に躍起―【私の論評】ティム・ワルツ知事のリーダーシップとカマラ・ハリスの大統領選成功の見込みが薄い理由

 米民主党副大統領候補、ワルツ氏とは何者か 共和党が説明に躍起

まとめ
  • カマラ・ハリス副大統領がティム・ワルツ知事を副大統領候補に選出。
  • 共和党はワルツ氏を「左翼過激派」とし、ハリス氏の急進的な構想を強調。
  • トランプ陣営はワルツ氏の過去4年間の実績を攻撃する計画。
  • ワルツ氏は元教師であり、陸軍州兵としての経歴も持つ。
  • 共和党はワルツ氏を進歩派と同調する人物として印象づける戦略を採用。


米民主党のカマラ・ハリス副大統領が、ミネソタ州知事のティム・ワルツ氏を新たな副大統領候補に選出したことを受けて、共和党陣営は同氏への攻撃を準備している。ハリス氏の選択は、ワルツ氏が左翼的な立場を持つ人物であることを強調する材料となり、共和党は彼を「急進的」と位置付ける戦略を採っている。

共和党陣営は、ワルツ氏の過去12年間の連邦議会議員としての経験や、最近4年間の進歩派との関係に焦点を当て、彼がハリス氏やバイデン大統領よりもさらにリベラルであると印象づける計画だ。また、国境問題や銃規制、警察に対する姿勢など、ワルツ氏がリベラルであるという印象を強化するための攻撃材料を用意している。

特に、ワルツ氏が支持してきたバイデン政権の政策や、彼の外交政策についても疑問を投げかける方針だ。彼は保守的な地域から選出された議員でありながら、共和党内では「急進的」とされることが多く、これまでの実績がどのように評価されるかが注目されている。このように、共和党はワルツ氏を攻撃するための様々な戦略を練っており、今後の選挙戦において重要な焦点となるだろう。

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【私の論評】ティム・ワルツ知事のリーダーシップとカマラ・ハリスの大統領選成功の見込みが薄い理由

まとめ
  • カマラ・ハリスが副大統領に指名したティム・ワルツ氏はミネソタ州知事で、教育と軍事のバックグラウンドを持つ民主党のリベラル政治家。
  • 彼の政治的立場は社会的公正、教育、医療、環境問題に重点を置き、バイデン政権の政策を支持。
  • カマラ・ハリス氏は過去の支持率低迷や政策への批判から大統領候補としての成功が難しい。
  • 党内の競争が激化し、進歩派と中道派の対立が彼女の支持獲得を困難にしている。
  • ハリス氏の政策の不透明性や一貫性の欠如が有権者の信頼を損ない、彼女の大統領選への道を厳しくする要因となるだろう。


ティム・ワルツ氏は、ミネソタ州の知事であり、元教師としての経歴を持つ政治家です。彼は陸軍州兵としても勤務しており、教育と軍事のバックグラウンドが彼のキャリアに影響を与えています。ワルツ氏は、民主党に所属し、リベラルな立場を取ることで知られています。

彼の政治的立場は、特に社会的公正や教育、医療、環境問題に重きを置いています。ワルツ氏は、バイデン政権の政策を支持し、進歩的な改革を推進する姿勢を示しています。また、国境問題や銃規制に関してはリベラルな立場を取り、これらの問題に対するアプローチが彼の政治的アイデンティティの一部となっています。

彼の過去の議員経験や知事としての実績は、共和党から「急進的」とされることが多く、特に保守的な地域からの支持者に対しては、批判の的となることがあります。そのため、彼の政治的立場は、選挙戦において重要な焦点となるでしょう。

ただし、誰が副大統領候補になろうとカマラ・ハリス副大統領の支持率が上昇しているという報道がある一方で、彼女が大統領候補として成功する見込みは低いと考えられる理由はいくつかあります。ハリス氏の国内外の政策は不透明であるため、支持基盤に対する懸念が残ります。

まず、ハリス氏の過去の支持率の低迷が挙げられます。2020年の大統領選挙において、彼女は一時的に注目を集めましたが、民主党予備選挙での支持率は急速に低下しました。例えば、彼女の支持率は一時的に15%を超えたものの、最終的には撤退時にわずか3%にまで落ち込みました。このような過去の経験は、彼女の候補者としての魅力に疑問を投げかける要因となっています。

次に、彼女の政策への批判も重要な要素です。ハリス氏はカリフォルニア州の検事総長として、特に刑事司法改革に関して進歩派からの批判を受けていました。彼女が支持した「三振法」は、三度の重罪を犯した者に対して厳しい刑罰を科す法律であり、これが多くの進歩派から反発を招きました。移民政策に対する姿勢も同様で、彼女が提唱した「移民の権利を守る法案」は、保守派からの強い反発を受け、支持基盤を弱める要因となっています。

さらに、党内の競争も彼女の大統領候補としての成功を難しくしています。現在、バイデン大統領や他の有力な候補者が存在し、特に進歩派と中道派の間での対立が続く中、ハリス氏がどのように支持を集めるかは不透明です。たとえば、2024年の選挙に向けて、バーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンなどの進歩派候補が再び名乗りを上げる可能性があり、彼女が党内での支持を獲得するのは容易ではありません。

バーニー・サンダース(右)とエリザベス・ウォーレン

最後に、有権者の期待も彼女にとっての障壁です。ハリス氏が副大統領として示したリーダーシップスタイルや政策が、有権者の期待に応えられるかどうかは慎重に評価されるべきです。彼女が副大統領としての役割で示したパフォーマンスは、特に国境問題や経済政策に対するアプローチにおいて、一部の有権者からは不満の声が上がっています。これにより、彼女の大統領候補としての資質に対する疑問が生じています。

以上を踏まえると、カマラ・ハリスが大統領になる見込みは、現在の政治情勢や党内の競争を考慮すると、非常に厳しいと言えるでしょう。

一方カマラ・ハリスが大統領になった場合、いくつかの弊害が予想されます。まず、彼女の国内外の政策が不透明であるため、一貫性の欠如が懸念され、国際的な信頼を失う可能性があります。また、進歩派としての立場を強調すると、党内の中道派との対立が激化し、民主党の結束が損なわれる恐れがあります。

バーニー・サンダース(左)とヒラリー・クリントン

さらに、過去の政策や発言に対する批判が根強く、支持基盤が揺らぐリスクがあります。リベラルな経済政策が企業や投資家から反発を招き、経済成長にブレーキがかかることも懸念されます。加えて、期待に応えられない場合、国民の不満が高まり、社会的不安や抗議活動が増加する可能性があります。

最後に、外交政策においても、彼女のアプローチが国際関係に悪影響を及ぼすことが予想されます。これらの要因から、ハリス氏が大統領になると多くの弊害が生じる可能性が高いと言えるでしょう。

今後の大統領選が進む中で、カマラ・ハリスの立場はますます困難になるでしょう。政策の不透明性が明らかになると、有権者の信頼を失い、特に外交や経済政策での一貫性の欠如が致命的な影響を及ぼす可能性があります。

また、党内の分裂が進むことで支持基盤が揺らぎ、経済政策への反発が強まると国民の不満が高まります。これにより、彼女の過去の発言や政策への批判が強まり、大統領候補としての支持を維持することがますます難しくなるでしょう。最終的に、これらの要因が重なり、ハリス氏の大統領選への道は厳しくなると考えられます。

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2024年8月6日火曜日

植田日銀の「利上げ」は意味不明…日本経済をブチ壊し、雇用も賃金も押し下げる「岸田政権の大失策」になりかねない―【私の論評】日本株急落の真相:失われた30年再来の危機とその影響

植田日銀の「利上げ」は意味不明…日本経済をブチ壊し、雇用も賃金も押し下げる「岸田政権の大失策」になりかねない

まとめ
  • 日本銀行は政策金利を0.25%に引き上げ、長期国債買い入れの減額方針を発表したが、これは金融引き締めをするということであり、経済合理的ではない。
  • 日本経済は消費低迷と総需要不足が続いており、GDP成長見通しも下方修正されている。
  • 日銀のシナリオ通りに経済が推移しているという主張は、実際には日銀の資料が悪い方向に書き換えられており、詐欺に等しい。
  • 利上げは消費や企業の資金調達コストを押し上げ、実質賃金のマイナス傾向や失業者の増加を助長する。
  • 政治的な圧力や自民党内の発言が日銀の政策変更に影響を与え、利上げが自己目的化している。
 日本銀行の政策変更は非常に非合理的な判断である。7月31日に日銀は政策金利を0.25%に引き上げ、長期国債買い入れの減額方針を発表した。これは簡単に言えば、金融引き締めを強化するということだ。

 しかし、日本経済の現状を見ると、消費の低迷が続き、経済全体での総需要不足も明らかだ。多くの国民が期待している所得の安定的な拡大が実現できるかどうかは、現状では非常に微妙な段階にある。このタイミングでの金融引き締めは、経済合理的にはあり得ない。

 日銀は「経済・物価情勢の展望」(いわゆる展望リポート)を公表しているが、この最新版も今回公表された。そこでは、実質国内総生産(GDP)の見通しが下方修正されている。今年度の成長見通しは1月時点でプラス1.2%だったが、4月には0.8%、今回は0.6%とどんどん低下している。経済の失速が明らかであるにもかかわらず、展望リポートのシナリオ通りに経済と物価が推移しているので、利上げしても大丈夫だというのが日銀の公式の姿勢だ。しかし、そのシナリオを毎回悪い方向に書き換えているため、「シナリオ通り」というのは詐欺に等しい言い訳だ。

 植田和男総裁は「消費は底堅い」と記者会見で発言しているが、これは官僚用語で、その真意は「消費は今より悪くはならない(良くもならない)」ということだ。しかし、利上げをすれば消費に関わるローンの金利が上がり、企業の資金調達コストも上昇するだろう。預金金利も上がるが、そのメリットよりもデメリットの方が大きい。消費が低迷しているときに、さらにそれを押し下げるような政策を取るのは、当たり前だが逆効果だ。

 実質賃金のマイナス傾向も続いており、雇用においても失業者の増加が目立つようになってきた。定額減税や春闘などの賃上げ効果が本当に消費の拡大に結びつくのか、しかもそれが長期間持続するのかは現状では不透明だ。このような状況での利上げはあり得ない選択だ。

 しかし、河野太郎デジタル相や茂木敏充自民党幹事長などの有力者から「円安阻止のための利上げ」や「金融政策の正常化」を求める発言が続いた。自民党総裁選などの政治事情が今回の日銀の政策変更を促した可能性がある。そもそも衆院選を今行えば与党の大敗はほぼ確実だ。


 政治情勢が不透明化する前に、今しか利上げのタイミングはないと判断したのだろう。しかし、それは国民経済のためではなく、単に利上げが自己目的化しているだけに過ぎない。他方で、神田眞人前財務官を内閣官房参与に任命するなど、岸田文雄政権の財務省依存も鮮明になっていい。日銀といい財務省といい、官僚たちのやりたい放題だ。

(上武大学教授 田中秀臣)

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】日本株急落の真相:失われた30年再来の危機とその影響

まとめ
  • 株価は将来の経済状況を予測する手がかりとなり、経済の実態に先行して変動する傾向がある。
  • 2024年8月5日には日経平均株価が前営業日比4,451円28銭安(12.4%下落)と過去最大の下落幅を記録し、1987年のブラックマンデーを上回る下落幅となった。
  • 株価下落の主な原因としては、日本銀行の利上げ、米国の景気後退懸念、円高の進行が主要な原因。日銀は7月末に政策金利を0.25%に引き上げ、これが市場の不安を引き起こした。
  • 利上げは企業の資金調達コストを上昇させ、個人消費を抑制し、企業業績に悪影響を与える可能性がある。これにより、株価に対する悪影響が長期にわたって続く可能性がある。
  • 「失われた30年」の再来の可能性:継続的な利上げが行われれば、日本経済が再び「失われた30年」と呼ばれたような長期的な停滞に陥る可能性が高い。円高が進行し、輸出企業の収益に圧迫要因となり、産業の空洞化や若者の雇用状況の悪化が懸念される。

株価は経済の先行指標として知られており、将来の経済状況を予測する手がかりとなります。投資家は将来の企業業績や経済環境を予想して株式を売買するため、株価は経済の実態に先行して変動する傾向があります。

最近の日本株市場では、日経平均株価が8月以降大幅に下落しています。特に2024年8月5日には、日経平均株価が前営業日比4,451円28銭安(12.4%下落)と、過去最大の下落幅を記録しました。これは1987年10月20日のブラックマンデー翌日の3,836円48銭安を大きく上回る下落幅です。下落率でみても、ブラックマンデー時の14.9%に次ぐ史上2位の大きさとなりました。


この急激な下落の主な原因としては、日本銀行による利上げに加え、米国の景気後退懸念や円高の進行が挙げられます。7月末の金融政策決定会合で日銀は政策金利を0.25%に引き上げ、長期金利の変動許容幅を拡大しました。この決定を受けて、投資家は今後の金融引き締めや経済成長の鈍化を懸念し、株式売却に動いたと見られます。また、東京為替市場では円相場が1ドル=142円台を記録し、約7ヶ月ぶりの円高水準となりました。

利上げが株価に悪影響を与える理由としては、企業の資金調達コストが上昇し収益性が低下する可能性、個人消費が抑制され企業業績に悪影響を及ぼす可能性、債券の利回りが上昇し相対的に株式の魅力が低下することなどが挙げられます。

ただし、株価の下落は一時的なものである可能性もあります。市場が新しい金融環境に適応し、企業が対策を講じるにつれて、株価は徐々に安定化する可能性があります。専門家は、株価の下落で割安感が生じていることから、今後新たに買い入れる動きが増える可能性を指摘しています。

しかし、株価が多少戻したとしても、利上げの悪影響は長期にわたって続く可能性があります。金利上昇の影響は経済全体に浸透するのに時間がかかり、その効果は徐々に現れてきます。例えば、企業の設備投資の抑制、個人の住宅購入の減少、消費の低迷などが、時間の経過とともに顕在化する可能性があります。また、円高傾向が続けば、輸出企業の収益に長期的な圧迫要因となる可能性もあります。

今後の株式市場の動向は、米国経済の状況にも大きく左右されると考えられます。米国経済が景気後退に向かうとの見方が強まれば、日本および世界の株式市場の動揺はさらに深まる可能性がある一方、米国経済が失速を免れるとの見方が広がれば、株式市場は安定を取り戻してくるでしょう。

米国の7月の雇用統計は悪化を示した クリックすると拡大します


したがって、株価の短期的な回復は必ずしも経済全体の回復を意味するものではなく、利上げの影響を慎重に見極める必要があります。日本経済の先行きを考える上で、株価動向は重要な指標の一つとなりますが、他の経済指標も含めた総合的な判断が求められます。

株価のような先行指標は別にして、利上げの影響は経済に即座に現れるものではなく、半年以上経過してから顕在化することが多いです。特に失業率のような遅行指標は、経済状況の変化を後追いで反映するため、利上げの悪影響がすぐには明確にならない可能性があります。

この時間差は、利上げ政策の評価を複雑にし、その是非を判断することを困難にします。短期的には、円高による輸出企業への影響や株価の下落など、一部の指標に変化が見られるかもしれません。しかし、雇用や消費などの広範な経済指標への影響は、より長期的に現れるため、政策の誤りが認識されにくくなります。

この時間差は政策立案者に誤った安心感を与える可能性があり、初期段階で大きな悪影響が見られないことから、利上げの決定が正しかったと誤解される恐れがあります。実際には経済の様々な部分で徐々に悪影響が蓄積されていく可能性があります。企業の資金調達コストの上昇、個人消費の抑制、投資の減少などが時間をかけて経済全体に波及していくのです。

このような状況下では、政策の適時な修正が難しくなります。悪影響が明確になった時点では、すでに経済に深刻なダメージが及んでいる可能性があるからです。したがって、利上げの影響を正確に評価するためには、長期的な視点と幅広い経済指標の慎重な分析が不可欠です。短期的な反応だけでなく、中長期的な経済トレンドを注視し、必要に応じて迅速に政策を調整する柔軟性が求められます。そうしなければ、利上げの間違いが曖昧になり、適切な政策対応が遅れる危険性があります。

このような状況下での利上げは、日本経済の脆弱な回復を阻害し、デフレ脱却の道のりをさらに遠のかせる可能性が高いです。日銀は経済指標を慎重に分析し、実体経済の動向に即した政策運営を行うべきです。現在の政策変更は、短期的な政治的圧力や自己目的化した利上げの思惑に基づいているように見え、長期的な経済成長と国民の生活向上という本来の目的から逸脱していると言わざるを得ません。

さらに懸念されるのは、今後さらなる利上げが行われれば、日本経済が「失われた30年」の状況に逆戻りする可能性が極めて高いことです。これは日本経済にとって壊滅的な結果をもたらす恐れがあります。

今後利上げが続けば、就職氷河期がやってくる

まず、継続的な利上げは円高を加速させ、日本の輸出産業に深刻な打撃を与えるでしょう。円高により日本製品の国際競争力が低下し、企業は利益を確保するために海外、特に中国や韓国などへの生産拠点の移転を加速させる可能性があります。これは日本国内の産業の空洞化を引き起こし、雇用機会の喪失や技術力の低下につながります。

若者の雇用状況も極めて深刻な事態に陥る可能性があります。企業の海外移転や投資抑制により、新規雇用が大幅に減少し、若者の就職難が再び深刻化するでしょう。これは、少子高齢化が進む日本社会にとって、将来の労働力不足や社会保障制度の持続可能性にも大きな影響を与えかねません。

さらに、利上げによる資金調達コストの上昇は、新興企業や中小企業の成長を阻害し、イノベーションの停滞を招く恐れがあります。これは日本の長期的な競争力低下につながり、国際社会における地位の低下を加速させる可能性があります。

結論として、現在の日本経済の状況下での継続的な利上げには、良い点は一つもないと言えます。それどころか、日本経済を再び長期的な停滞に陥らせ、国民の生活水準を低下させ、将来世代の機会を奪う危険性があります。日銀は、この危険な道を進むのではなく、実体経済の回復と持続的な成長を支援する政策に立ち返るべきです。

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2024年8月5日月曜日

ウクライナ軍、ロシア潜水艦をクリミア半島で「撃沈」―【私の論評】ロシア潜水艦『ロストフナドヌー』撃沈が示す対空能力低下とウクライナ戦争への影響

ウクライナ軍、ロシア潜水艦をクリミア半島で「撃沈」

まとめ
  • ウクライナ軍は8月2日にクリミア半島のセバストポリ港でロシアの潜水艦「ロストフナドヌー」を撃沈したと発表。
  • 撃沈が確認されれば、ロシア海軍にとって大きな損失となる。
  •  ウクライナ国防省はSNSで潜水艦の沈没を報告し、攻撃した兵士たちを称賛。
  • ロシア側は潜水艦の防御演習が行われていたとし、地域は落ち着いていると主張。
  • ウクライナ軍はクリミアでS-400地対空ミサイルの発射機4基にも損傷を与えたと報告。

ロシア軍の通常型潜水艦、キロ級「ロストフナドヌー」

 ウクライナ軍参謀本部は、8月2日にロシアが併合したクリミア半島のセバストポリ港でロシア軍の潜水艦「ロストフナドヌー」を攻撃し、沈没させたと発表しました。ただし、証拠は示されていません。もし撃沈が確認されれば、ロシア海軍にとって大きな痛手となります。ウクライナ国防省もSNSで潜水艦の沈没を報告し、攻撃した兵士たちを称賛しました。

 一方、ロシア側は潜水艦の防御演習が行われていたとし、市内は落ち着いた状況だと報告しています。また、ロシアの軍事ブロガーは、潜水艦が修理ドックで攻撃を受けた可能性を指摘しました。

 「ロストフナドヌー」は2014年に進水したキロ級潜水艦で、昨年9月にウクライナ軍の攻撃で損傷しましたが、その後修理が完了し、試験が行われていました。さらに、ウクライナ軍はクリミア半島でS-400地対空ミサイルの発射機4基にも損傷を与えたと報告しています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】ロシア潜水艦『ロストフナドヌー』撃沈が示す対空能力低下とウクライナ戦争への影響

まとめ
  • 今回の撃沈が本当であれば、ロシアの対空能力低下の可能性がある。S-400地対空ミサイル発射機の損傷や潜水艦撃沈の報告がその証拠となる可能性。
  • 撃沈されたとする潜水艦は、カリブル巡航ミサイル搭載可能な改良型キロ級潜水艦で、ロシア黒海艦隊の重要な資産である。
  • 米国の支援によるウクライナ軍の防空システムの強化や監視能力の向上が影響している可能性がある。
  • ロシア海軍の能力低下、ウクライナの士気向上、国際社会からの支援増加の可能性がある。
  • ロシアの戦略変更や報復攻撃の可能性があり、状況の推移を注視する必要がある。
ウクライナ軍がロシアの潜水艦「ロストフナドヌー」を撃沈したとする報告が事実であれば、これはロシアの対空能力の低下を示す重要な証拠となります。まず、ウクライナ軍はクリミア半島でロシアのS-400地対空ミサイル発射機4基に激しい損傷を与えたと報告しています。S-400はロシアの最新鋭の防空システムであり、これが機能していれば潜水艦への攻撃を防ぐことができた可能性かあったはずです。

S-400地対空ミサイル発射機

次に、ロシア側は潜水艦の防御演習が行われていたと主張していますが、その最中に攻撃を受けたことは、防空体制が十分に機能していなかったことを示唆しています。また、潜水艦「ロストフナドヌー」は修理ドックに入っていた際に攻撃を受けたとされ、修理中の艦艇は通常、防空システムによって厳重に守られるべきであるため、これができていなかったことはロシアの防空能力の脆弱性を示しています。

ロストフナドヌーは、ロシア海軍の黒海艦隊に所属するキロ級潜水艦で、改良型キロ級潜水艦(プロジェクト636.3)に分類されます。この潜水艦は2014年に進水し、黒海艦隊に配備されました。全長約73.8メートル、排水量約3,100トンの通常動力型(ディーゼル電気推進)潜水艦であり、高い静粛性と潜航能力を持っています。

ロストフナドヌーはカリブル巡航ミサイルを搭載可能で、これらのミサイルはウクライナの重要インフラに対する攻撃に使用されてきました。2023年9月13日にはウクライナ軍のミサイル攻撃により損傷を受け、その後ロシア側が修理を行っていたとされています。

巡航ミサイル「カリブル」

また情報収集に支障がでる可能性もあります。潜水艦による情報収集活動には、いくつかの具体的な手法があります。まず、電子情報収集では敵の通信や電子機器からの信号を傍受し、分析します。また、音響情報収集では水中音響センサーを用いて敵艦船や潜水艦の動きを追跡します。沿岸監視では敵の港湾施設や防衛システムの活動状況を観察し、海底ケーブル傍受では海底通信ケーブルを通じて通信内容を収集します。さらに、写真や映像撮影を行い、特殊部隊の輸送や回収を支援することもあります。

ロストフナドヌーのような潜水艦が失われると、ロシアの情報収集能力が著しく低下する可能性があります。

さらに、ウクライナ軍はクリミア北部のジャンコイにあるロシア空軍基地を攻撃し、防空ミサイルシステム「S-400」などを破壊したと報告しています。これもロシアの防空能力が低下している証拠です。最後に、米国はウクライナに対してパトリオットやNASAMSなどの防空ミサイルシステムを追加供与することを決定しています。これは、ロシアの防空能力が低下していることを受けて、ウクライナの防空能力を強化するための措置と見られます。

また、米軍はウクライナに対して航空機や監視衛星を用いた監視支援も行っています。米軍の無人偵察機「グローバル・ホーク」や「MQ-9リーパー」は、情報収集、監視、偵察(ISR)活動において重要な役割を果たしています。これにより、ウクライナ軍はロシア軍の動きをリアルタイムで把握し、効果的な攻撃を実行する能力を高めています。特に、グローバル・ホークは高高度から広範囲を監視できるため、敵の動きを詳細に追跡することが可能です。

グローバル方向

ロストフナドヌー潜水艦の沈没が事実であれば、ウクライナ戦争に多くの影響を与える可能性があります。まず、ロシア海軍の能力が低下し、黒海艦隊の海上作戦が制限されることが考えられます。この損失はウクライナ軍と国民の士気を高める要因となり、戦争の心理的側面において重要な影響を与えるでしょう。

さらに、ロシアは海上からの作戦を縮小し、陸上や空中からの攻撃にシフトする可能性があります。この事件は国際社会においてウクライナの防衛能力の向上を示すものとして受け止められ、さらなる軍事支援を引き出す要因になるかもしれません。

また、黒海地域の軍事バランスにも影響を与え、他の沿岸国の戦略を変える可能性があります。

これらの要素を総合すると、ロシアの対空能力が低下している可能性があり、潜水艦撃沈事件はその一例と考えられます。

しかし、ロシアが報復攻撃を強化するリスクも考慮する必要があります。これらの影響は、状況の進展によって変わる可能性があるため、注意深く見守る必要があります。

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2024年8月4日日曜日

日米2+2「在日米軍に統合軍司令部」の発表に反発する中国、「他国からの反撃の最前線に東京を置くことに」―【私の論評】安倍政権下の日米同盟強化と日本の安全保障政策の未来

日米2+2「在日米軍に統合軍司令部」の発表に反発する中国、「他国からの反撃の最前線に東京を置くことに」

まとめ
  • 日米両国は、在日米軍に新たな軍事司令部を東京に設置し、同盟の抑止力・対処力を強化することを決定した。
  • 日本は自衛隊の統合司令部を設置し、防衛費をGDPの2%に引き上げる計画を進めている。
  • 中国の軍事的台頭が懸念されており、2030年までに1000発以上の運用可能な核弾頭を保有する見込みである。
  • 米国と日本は「パトリオット」ミサイルの共同生産を進め、日米関係が真の軍事同盟へと変貌している。
  • 日本は中国との軍事衝突の最前線に立つ可能性が高まり、憲法改正なしでの米軍と自衛隊の一体化が進行している。
握手する上川陽子外相(右)とブリンケン米国務長官

 日米両国は、変化する安全保障環境に対応するため、同盟関係をさらに深化させる動きを見せている。その中心的な取り組みとして、在日米軍に新たな軍事司令部を設置することが先月東京で開催された日米の安全保障協議委員会(2プラス2)発表された。この新司令部は東京に置かれ、中将の指揮下で日本との軍事作戦の調整や合同演習の計画を担当する。これにより、在日米軍はハワイのインド太平洋軍司令部からの指示を待つ必要がなくなり、より迅速な対応が可能になると期待されている。

 日本側も、この動きに呼応する形で自衛隊の統合司令部を防衛省地下に設置する計画を進めている。さらに、日本政府は防衛費をGDPの2%まで引き上げる方針を打ち出し、安全保障体制の強化に向けた具体的な取り組みを示している。

 これらの動きには、中国は反発しているが、背景には中国の急速な軍事的台頭がある。中国は2049年までの「国家再興」を目指し、世界最大の海軍を構築するなど、軍事力の増強を急速に進めている。特に注目すべきは、2030年までに1000発以上の運用可能な核弾頭を保有すると予測されていることだ。このような中国の軍事的拡大は、日米両国にとって大きな懸念材料となっている。中国海軍は艦艇数では、すでに世界最大になっている。

 日米同盟の性質も、これらの地政学的変化に応じて進化している。かつては単なる二国間関係であった同盟が、今や地域全体の安全保障を視野に入れたものへと発展している。特に、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の推進は、この新たな方向性を象徴するものといえるだろう。

 さらに、米国と日本は防空用迎撃ミサイル「パトリオット」の共同生産を進める計画も発表した。これは、日本の工場を利用してパトリオットミサイルの生産を増強するものであり、特にウクライナの防空システムを支援するためのものである。この計画では、日本の三菱重工業が米国のロッキード・マーティン社のライセンスの下でミサイルを製造することになる。この取り組みは、日米両国の防衛産業協力を強化し、供給の多様化と拡大を図るための重要なステップとされている。

 これらの一連の動きは、日米関係が真の軍事同盟へと変貌したことを示している。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のクリストファー・ジョンストン氏は、「司令部設置は米国が同盟国の能力を支援するため、これまでにはなかったような手段を取る用意があることを意味する。日米関係は真の軍事同盟へと変貌した」と述べている。

 しかし、このような同盟関係の強化には課題も存在する。日本が中国との潜在的な軍事衝突の最前線に立つ可能性が高まっていることは、重大な懸念事項である。また、憲法改正を経ずに米軍と自衛隊の一体化が進行していることも、日本の安全保障政策に関する重要な議論を喚起している。

 これらの動向は、日本の安全保障環境が急速に変化していることを示すとともに、日本国民に対して、この新たな現実に対する備えと覚悟を問いかけている。日米同盟の強化が中国の軍事的台頭に対する重要な対応策である一方で、それに伴うリスクと責任についても慎重に検討する必要がある。今後、日本がこの複雑な安全保障環境にどのように対応していくかは、アジア太平洋地域の安定と平和に大きな影響を与えることになるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】安倍政権下の日米同盟強化と日本の安全保障政策の未来

まとめ
  • 2015年に成立した安全保障関連法の改正により、日本は集団的自衛権の限定的行使が可能となり、日米同盟の実効性が高まった。
  • 2016年に安倍首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、日米同盟を地域的な文脈に位置づけ、インド太平洋地域の安定と繁栄を目指すもので、後にトランプ政権にも採用され、日米同盟の地域的影響力を拡大させた。
  • 安倍首相は日米豪印の4カ国による戦略的枠組み「クアッド」の形成にも重要な役割を果たし、中国の影響力拡大に対抗する目的で設立された。
  • 安倍政権下で日本は防衛費を増加させ、防衛能力を強化し、2022年末には「反撃能力」の保有を含む新たな国家安全保障戦略が閣議決定された。
  • 今後の課題として、憲法改正を行い自衛隊を正式な軍隊として位置づけること、スパイ防止法の成立、セキュリティ・クリアランスの対象範囲の拡張が挙げられる。
日米関係が今日のような発展を遂げたのには、安倍晋三首相の尽力によるところが大きいです。その中でも特に重要な貢献は、2015年に成立した安全保障関連法の改正です。この法改正により、日本は集団的自衛権の限定的行使が可能となり、日米同盟の実効性が高まりました。これにより、日本は「盾」の役割を超えて、より積極的に地域の安全保障に貢献できるようになりました。


安倍首相は2016年に「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱しました。この構想は、日米同盟を地域的な文脈に位置づけ、インド太平洋地域の安定と繁栄を目指すものです。この構想は後にトランプ政権にも採用され、日米同盟の地域的影響力を拡大させる要因となりました。

さらに、安倍首相は日米豪印の4カ国による戦略的枠組み「クアッド」の形成にも重要な役割を果たしました。クアッドは、インド太平洋地域における中国の影響力拡大に対抗する目的で設立され、日米同盟を基盤としつつ、より広範な地域的協力体制を構築する試みとして評価されています。

防衛力の強化も、安倍政権下での重要な取り組みです。日本は防衛費を増加させ、防衛能力を強化しました。2022年末には、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有を含む新たな国家安全保障戦略が閣議決定され、日本の防衛政策は大きく転換している。これらの動きは、日米同盟における日本の役割拡大につながっています。

また、上の記事にもあるように、日米両国は防空用迎撃ミサイル「パトリオット」の共同生産を進める計画も発表しました。この取り組みは、日米両国の防衛産業協力を強化し、供給の多様化と拡大を図るための重要なステップとされています。

パトリオット・ミサイル

これらの一連の動きは、日米関係が上の記事にもあるように、真の軍事同盟へと変貌したことを示しています。

安倍首相の外交努力により、日米同盟は単なる二国間関係から、地域全体の安全保障を視野に入れたものへと発展しました。これは、日米両国がより積極的に地域の課題に取り組み、同盟関係を深化、拡大、維持することにつながります。

これらの取り組みにより、日米同盟は従来の「盾と矛」の役割分担を超えて、より対等で包括的な安全保障パートナーシップへと進化しました。安倍首相の外交・安全保障政策は、日米同盟を21世紀の地政学的課題に対応できる柔軟で強固な枠組みへと変革させたと評価できます。

今後の日本の課題として、憲法改正を行い自衛隊を正式な軍隊として位置づけること、そして真の意味での軍事力の強化を図ることが挙げられます。憲法改正については、自民党が最優先課題として取り組んでおり、岸田総理大臣も自身の総裁任期中に憲法改正を実現したいとの意向を示している。

しかし、憲法改正には国会での十分な議論が必要であり、特に緊急事態条項の創設は重要です。これについては慎重な姿勢が求められるでしょう。このため、政府はまず他の優先課題を解決し、憲法改正の環境整備を進めることが重要です。


さらに、国内の安全保障対策としてスパイ防止法の成立が挙げられる。現在、具体的な法案は提出されていないですが、国家の安全保障を確保するためには、適切な範囲での情報保護が必要である。政府は、法案の内容を精査し、国民の基本的人権を侵害しない形での法整備を進めるべきである。

また、セキュリティ・クリアランスの対象範囲の拡張も重要である。経済安全保障の観点から、産業・技術基盤の強化が求められており、重要な情報や技術が漏洩しないようにするための制度が必要です。

日本のセキュリティ・クリアランス制度には、重要な課題がいくつか存在します。性行動を含む個人の行動や背景を包括的に審査する必要性、閣僚や高官を含むより広範な対象への適用、そして国際的な基準に沿った制度の整備が重要である。

特に、性行動は多くの国のセキュリティ・クリアランス制度において重要な審査項目の一つとして含まれており、個人の脆弱性や潜在的な脅迫のリスクを評価する上で重要な要素とされている。日本の現行制度でこの点が欠如していることは、重大な問題点として指摘すべきである。

また、閣僚や高官がセキュリティ・クリアランスの対象外となっている点も、重大なセキュリティリスクとなり得る。これらの課題を解決するためには、個人のプライバシーと国家安全保障のバランスを慎重に取りながら、より包括的で効果的なセキュリティ・クリアランス制度の構築が必要である。

政府は、有識者や産業界との対話を重視し、セキュリティ・クリアランスの対象範囲を拡大するための具体的な施策を講じるべきです。

これらの課題を達成するためには、政府は以下の道筋をたどるべきである。まず、憲法改正に向けた環境整備を進めるため、他の優先課題を解決すべきです。次に、防衛力の強化を継続し、自衛隊の装備や訓練の充実を図るべきです。さらに、スパイ防止法の成立に向けて法案の内容を精査し、国民の基本的人権を侵害しない形での法整備を進める。

最後に、セキュリティ・クリアランスの対象範囲を拡大するため、有識者や産業界との対話を重視し、具体的な施策を講じるべきです。

これらの取り組みにより、日本は真の意味での軍事力の強化を図り、国内外の安全保障環境に対応できる体制を整えることができるでしょう。



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2024年8月3日土曜日

経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか―【私の論評】日米の経済安全保障政策:戦争経済への移行と国際的協力の重要性

経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか

ミレヤ・ソリ-ス  ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター(CEAP)所長

まとめ

  • 経済安全保障政策が台頭しており、技術力向上や過度な依存、サプライチェーン崩壊リスクに備えるため、米国と日本が新たな対外経済政策ツールを開発している。
  • 米国の外交政策は「経済安全保障は国家安全保障」という原則に基づき、中国との戦略的競争が深化していることが背景にある。
  • 米中間の競争は多次元的で、特に技術分野においてどちらが優位に立つかが焦点となっており、経済的手段が重要な役割を果たしている。
  • 米国は、外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上を図るための新たな取り組みを進めている。
  • バイデン政権は、同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進している。

経済安全保障

経済安全保障政策は、技術力を向上させることや過度な依存、サプライチェーンの崩壊リスクに備えるために重要な役割を果たしている。特に、アジアや欧州の各国政府は、地政学的対立が続く中で経済的相互依存の利点を最大限に活用し、デメリットを最小限に抑えるための新しい対外経済政策ツールを開発している。米国と日本は、この経済安全保障の枠組みを導入しつつあり、その背景には中国との戦略的競争の深化がある。両国は、技術革新を活用し、貿易や技術に関するルールを整備することで、中国がもたらす課題に対処する目的を共有している。

米国の外交政策は、経済と安全保障の融合が進んでいる。これは、トランプ政権とバイデン政権の両方で「経済安全保障は国家安全保障」という考えが中心に据えられていることに起因している。特に、米中関係の悪化や中国の軍民融合政策への懸念が、米国の経済安全保障政策を強化する要因となっている。米国は、経済的相互依存の中でライバル関係を管理する難しさを認識しつつ、同盟国との協力を強化している。

具体的な政策としては、外国直接投資(FDI)の審査強化や輸出管理の改革が進められている。2018年に制定された外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)により、重要技術やインフラに関わる外国投資の審査が強化され、バイデン政権下では国家安全保障上のリスク評価に関する具体的な指針が示された。また、輸出管理改革法により、デュアルユース製品のライセンス要件が見直され、中国企業に対する規制が強化されている。

さらに、バイデン政権は半導体や重要鉱物のサプライチェーンの見直しを行い、国内投資を促進するための施策を講じている。特に、2022年に成立した「CHIPSおよび科学法」では、米国でのチップ製造を促進するための資金が割り当てられ、同時に中国などの懸念国での事業拡大が制限されることとなった。

このように、米国と日本は経済安全保障政策を通じて、中国との競争に立ち向かうための協力を深めており、経済的関与とヘッジのバランスを取ることが求められている。新たに設置された日米の経済版「2+2」は、これらの分野での協調を優先し、今後の国際的な経済安全保障の枠組みを形成する上で重要な役割を果たすことが期待されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日米の経済安全保障政策:戦争経済への移行と国際的協力の重要性

まとめ
  • 経済安全保障政策の強化:米国と日本は、技術力向上や過度な依存、サプライチェーン崩壊リスクに備えるため、経済安全保障政策を強化している。
  • 米中戦略競争:米国は、中国との戦略的競争が深化している背景から、外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上に向けた新たな取り組みを進めている。
  • 同盟国との協調:バイデン政権は同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進している。
  • 日米経済安全保障協力の深化:トランプ政権下でも日米の経済安全保障協力が促進されることになる。特に造船技術や半導体産業、エネルギー技術分野での協力がさらに進展するだろう。
  • 戦争経済への移行:世界情勢の変化により、多くの国々が戦争経済に近い経済体制に移行しつつあり、これが国益を守るための必要不可欠な選択肢となっている。
上のミレヤ・ソリ-ス氏の論文にもある通り、米国と日本は、技術力向上や過度な依存、サプライチェーンの崩壊リスクに備えるために経済安全保障政策を強化している。特に、中国との戦略的競争が深化している背景から、米国は外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上に向けた新たな取り組みを進めている。

同時に、バイデン政権は同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進しています。

トランプ政権になれば、さらに日米の経済安保で協力関係は促進されることになるでしょう。これは、世界情勢の変化と米国の戦略的目標を反映しており、日米関係の新たな段階を示唆しています。特に注目すべきは、トランプ氏の「大海軍主義」的姿勢と、それに伴う日本の造船技術と能力への期待です。

米戦艦上で演説するトランプ大統領

さらに、F35戦闘機の部品に中国製部品があることが発見され、一時製造停止になっている問題に象徴されるように、半導体産業における日米協力の深化、エネルギー技術分野での協力強化など、様々な分野で日米の経済安全保障協力が進展しています。これらの動きは、従来の平和時経済から「戦争経済」に近づく傾向を示しています。

戦争経済とは、戦争中または戦争準備中の国家が、軍事目的のために経済資源を動員し、経済活動を戦争遂行に適応させることを指します。戦争経済の特徴としては、資源の動員、政府の介入、産業の再編、財政政策の変更、そして国民生活への影響が挙げられます。

具体的には、人材や資材、資金が軍事活動に集中され、政府が経済活動を直接管理し、民需産業が軍需産業に転換されます。また、戦争資金を調達するために増税や国債の発行が行われ、消費財の不足や生活必需品の配給制が敷かれることもあります。

戦争経済は、国家の全体的な経済活動を戦争目的に適応させるための包括的な取り組みを意味し、その結果、平時とは異なる経済構造と政策が展開されます。ウクライナ戦争の継続や、ガザ地区の戦闘の継続、さらには紅海でのフーシ派の活動、中国の海洋進出、台湾の危機など世界は平時とは異なる状況にあり、多くの国々で戦争経済への移行が促される状況にあります。

ただ、ロシアやウクライナなどを例外として、実際には多くの国々が戦争をしているわけではないので、完璧に戦争経済に移行することはないですが、それでも平時とは異なる戦争経済に近い経済体制に移行しつつあります。

米ペンシルベニア州スクラントンの工場で、155ミリ砲弾の筒を機械で加工する作業員ら

「戦争経済」への移行は、単にネガティブな側面だけでなく、現代の国際情勢において国益を守るための必要不可欠な選択肢となりつつあります。以下の要因がこの傾向を加速させています。
1. 地政学的リスクの増大:中国の台頭やロシアの行動など、国際秩序の不安定化が進んでおり、各国は自国の安全保障を最優先せざるを得ない状況にあります。

2. 技術覇権競争の激化:AI、量子コンピューティング、宇宙開発など、先端技術の分野で国家間の競争が激化しており、これらの技術は経済的利益だけでなく、国家安全保障にも直結しています。

3. サプライチェーンの脆弱性:COVID-19パンデミックや半導体不足など、グローバルサプライチェーンの脆弱性が露呈し、重要物資の国内生産や同盟国との協力の重要性が再認識されています。

4. 経済的相互依存の武器化:経済制裁や貿易規制が外交・安全保障政策の手段として頻繁に使用されるようになり、経済と安全保障の境界が曖昧になっています。

5. 非伝統的脅威の増大:サイバー攻撃、気候変動、パンデミックなど、従来の軍事的脅威とは異なる新たな脅威が増大しており、これらに対処するためには経済と安全保障を一体的に考える必要があります。
このような状況下で、日本が国益を守りつつ国際社会で影響力を維持・拡大するためには、経済安全保障の観点から戦略的に行動することが不可欠となっています。日米の経済安全保障協力の深化は、このような文脈で理解する必要があります。

この協力関係は、日本にとって多くの利点をもたらす可能性があります。高度な技術力や製造能力の再評価、新たな市場や事業機会の創出、安全保障の強化、グローバルな課題に対する影響力の増大などが期待されます。

一方で、特定の国との関係悪化や国際的な緊張の高まり、平和主義的立場への影響など、潜在的なリスクも存在します。しかし、これらのリスクを慎重に管理しつつ、変化する国際情勢に適応することが、日本の国益を守る上で重要となっています。

海自の観艦式

結論として、日米の経済安全保障協力と「戦争経済」への移行は、現代の国際情勢において日本が自国の利益を守りつつ、国際社会に貢献するための重要な手段となっています。この変化は、単に軍事的な観点だけでなく、技術革新、経済成長、国際的影響力の強化など、多面的な効果をもたらす可能性があります。

日本は、この新たな国際環境において、自国の価値観や原則を堅持しつつ、柔軟かつ戦略的に行動することが求められています。経済と安全保障を一体的に捉え、同盟国との協力を深めつつ、グローバルな課題解決にも貢献していくことで、日本は国際社会における自国の地位を向上させ、国益を最大化する機会を得ることができるでしょう。

このアプローチは、従来の平和主義的立場と完全に矛盾するものではなく、むしろ変化する世界において平和を維持し、日本の安全と繁栄を確保するための現実的な選択肢として捉えるべきです。日本が直面する課題と機会を冷静に分析し、バランスの取れた政策を追求することが、今後の日本の国際的地位と国内の発展にとって極めて重要となるでしょう。

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2024年8月2日金曜日

「人口減少」は本当に問題なのか まかり通るネガティブな未来予想も 1人当たりのGDPと関係薄く 機械化やAIで対応可能だ―【私の論評】人口減少と経済成長:デフレの誤解と持続可能な解決策


まとめ
  • 総務省の調査によると、日本の人口は過去最大の減少幅を記録し、外国人人口は増加して初めて300万人を超えた。
  • 人口減少が必ずしも大きな問題ではなく、人口増加のほうが経済に悪影響を与える。データによると、人口減少国のほうが1人当たりGDP成長率が高い。
  • 人口減少対策として、外国人労働者の受け入れよりも、機械化やAI活用による1人当たりの資本増加策を優先すべきだ。
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 総務省の最新の人口動態調査によると、日本の人口減少が加速し、過去最大の減少幅を記録した。一方で、外国人人口は増加し、初めて300万人を超えた。筆者は一般的な見解とは異なり、人口減少が必ずしも大きな問題ではないと主張している。その理由として、歴史的に人口増加のほうが人口減少よりも問題視されてきたことを挙げている。

 経済成長理論では、人口増加は1人当たりの資本を減少させ、貧困の原因となる可能性があるとされている。世界のデータ分析によると、人口減少国のほうが1人当たりGDP成長率が高い傾向にあることも示されている。また、人口減少の影響は予測可能であり、適切な対策を事前に講じることができる。

 さらに、人口動向に関する政策は、客観的な証拠に基づいていないことが多い。筆者は、人口減少対策として外国人労働者の受け入れよりも、機械化やAI活用による1人当たりの資本増加策を優先すべきである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】人口減少と経済成長:デフレの誤解と持続可能な解決策

まとめ
  • 人口増加は1人当たりの資本を減少させ、貧困や経済格差を拡大するリスクがある。
  • 人口減少とデフレには直接的な因果関係はなく、適切な金融政策により経済成長と物価安定は可能。
  • 人口減少への対策として、労働生産性向上、高齢者・女性の労働参加促進、AI・ロボット化の推進が有効。
  • 外国人労働者の受け入れは短期的には効果的だが、長期的には持続可能な解決策とは言い難い。
  • 人口変動の経済への影響を一面的に捉えるのではなく、多角的な視点で対応策を考える必要がある。
経済成長理論において、人口増加が1人当たりの資本を減少させ、貧困の原因となる可能性がある理由について説明します。経済成長の主要な要因は資本の蓄積、労働力の投入、技術進歩です。人口が増加すると、資本(機械や設備など)がより多くの人々に分配されるため、一人当たりの資本量が減少します。これにより、一人当たりの生産能力が低下する可能性があります。

最近の経済成長理論でも、人口増加は1人当たりの資本を減少させるため、貧困の原因になりうると指摘されています。急激な人口増加は資源の分配を困難にし、貧困や経済格差を拡大するリスクがあります。

大勢の買い物客でごった返すナイジェリアの最大都市ラゴスの市場

最近の経済成長理論でも、人口増加は1人当たりの資本を減少させるため、貧困の原因になりうると指摘されています。急激な人口増加は資源の分配を困難にし、貧困や経済格差を拡大するリスクがあります。

例えば、ナイジェリアやエチオピアなどでは、急速な人口増加に対して雇用創出や産業の発展が追いついていないため、若年層の失業問題や貧困の拡大が顕著です。また、インドのムンバイやブラジルのリオデジャネイロなどの大都市では、急激な人口増加と都市への人口流入により、インフラ整備が追いつかずスラムが形成され、住居や衛生設備が不足しています。

さらに、教育や医療サービスの質の低下も問題となっており、人口増加に対して学校や病院の整備が追いつかないことで、教育機会の不平等や健康格差が拡大しています。また、急速な人口増加は食糧やエネルギーの需要増加をもたらし、森林破壊や水資源の枯渇などの環境問題を引き起こすこともあります。

これにより、長期的には持続可能な発展を阻害し、貧困の連鎖を生み出す要因となっています。さらに、人口増加率が高い国では、労働市場に新規参入する若年層の数が経済成長による雇用創出を上回るケースがあり、賃金の低下や失業率の上昇が起こり、結果として貧困や経済格差の拡大につながる可能性があります。

これらの事例は、人口増加が必ずしも経済成長や繁栄をもたらすわけではなく、適切な政策や産業発展が伴わない場合、むしろ貧困や格差を拡大させる可能性があることを示しています。日本の過去においては、終戦直後からしばらく人口増が続いたものの、それを上回るような産業の発展があったため、経済成長と繁栄をもたらしたといえます。人口が増えたから、経済発展したという見方は、間違いです。

また、人口減少とデフレの間には直接的な因果関係はありません。デフレは主に貨幣的現象であり、金融政策の結果として生じます。中央銀行の政策が適切であれば、人口減少下でもインフレ目標を達成することは可能です。
インフレ・デフレは貨幣現象であり、人口の増減とは無関係

さらに、人口が減少しても中央銀行が貨幣の流通量を減らさずにそのままにしていれば、むしろインフレになる可能性があります。これは、経済の規模に対して相対的に貨幣量が増加することになるためです。つまり、人口減少下でも、適切な金融政策によって緩やかなインフレ状況にすることは可能なのです。

人口減少は労働供給の減少を意味しますが、同時に需要の減少も引き起こします。これらの効果は相殺される傾向にあり、必ずしも物価の下落につながるわけではありません。また、技術進歩や生産性の向上により、人口減少下でも経済成長と物価の安定は実現可能です。

一方、人口減少の弊害は資本増強などで対応策があります。具体的には、労働生産性の向上、高齢者や女性の労働参加促進、教育と訓練の強化が重要です。特に、AI化やロボット化の推進は非常に有効な選択肢となります。

外国人労働者の受け入れも一つの方法ですが、長期的には限界があります。主な供給元であるアジア諸国も少子高齢化が進んでおり、外国人材の確保が難しくなる可能性があります。また、外国人労働者の受け入れには賃上げ圧力や文化的な摩擦が伴うことが多く、社会的な調整が必要です。

さらに、外国人労働者が増加すると、社会保障や教育などの公共サービスに対する負担も増加します。これらの要因により、外国人労働者の受け入れは短期的には効果的であっても、長期的には持続可能な解決策とは言い難いのです。

AIやロボット化持続可能の人口減の解決策

これに対して、AI化やロボット化は技術的進歩とともに持続可能な解決策となり得ます。AIやロボットは一度導入すれば安定した生産性を維持でき、人件費の増加や労働力不足のリスクを軽減できるためです。

また、AIやロボットは24時間稼働可能であり、労働力の効率を大幅に向上させることができます。さらに、技術の進歩により、AIやロボットの性能は日々向上しており、今後ますます多くの業務を自動化することが可能になるでしょう。

結論として、人口減少は確かに経済に影響を与えますが、それがデフレの直接的な原因ではありません。適切な金融政策と経済政策によって、人口減少下でも経済成長と物価の安定を実現することは可能です。日本の取り組みは、同様の課題に直面する他の国々にとって重要な参考事例となるでしょう。

無論、これは日銀が人口減に応じて、それに応じた金融政策を実行する場合に限ります。日銀が誤った金融政策をした場合はその限りではありません。また、政府がこれらの点を無視して移民を増やした場合も、その限りではありません。

一番の問題は、人口減少を一面的にとらえ、これに対して間違った対応をしてしまうことです。いわゆる人口ボーナス・人口オーナス論などの、人口減少や増加が経済に与えるという考え方は過度に単純化されており、他の重要な要因も考慮に入れる必要があります。

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2024年8月1日木曜日

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏―【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏

日銀植田総裁

 日銀は31日、追加利上げの決定には投票権を持つ9人の政策委員のうち、植田和男総裁ら7人が賛成し、審議委員の中村豊明、野口旭の両氏は反対したと公表した。

 日銀の公表文によると、中村氏は「次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから、変更を判断すべきで、今回は考え方を示すにとどめることが望ましい」と主張。野口氏は「賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要がある」と反対した。

 中村氏は日立製作所出身、野口氏は積極緩和論者「リフレ派」として知られる。

【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

まとめ
  • 日銀は経済・物価データが「オントラック」(想定通り)と判断し、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げた。
  • 長期国債買い入れ額の段階的減額計画と、今後の経済・物価動向次第での追加利上げ方針を示した。
  • 一部の政策委員は、「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に基づき、経済データの慎重な分析を求めて利上げに反対。
  • 消費者物価指数(CPI)見通しが不変にもかかわらず追加利上げを決定し、「定期的な利上げ」姿勢を示唆。
  • 円安是正のための政府との協調が背景にあり、中央銀行の独立性に関する懸念が浮上。
ことし1月の金融政策決定会合

日銀は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げることを決定しました。この追加利上げは、円安是正のための政府との協調が背景にあるようです。
また、日銀は長期国債の買い入れ減額計画を発表し、2026年1-3月までに買い入れ額を3兆円程度に減らす方針を示しました。さらに、消費者物価指数(CPI)の見通しを維持し、経済・物価が見通し通り推移すれば引き続き利上げを行う方針も明らかにしました。この決定には9人の政策委員のうち、植田和男総裁を含む7人が賛成し、審議委員の中村豊明氏と野口旭氏の2人が反対しました。

中村氏は、次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから変更を判断すべきであり、今回は考え方を示すにとどめることが望ましいと主張しました。野口氏は、賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要があると反対しました。

中村氏と野口氏の反対理由は、経済データの確認と慎重な判断を重視する姿勢に基づいています。中村氏は、法人企業統計などのデータを確認してから政策変更を判断するべきだと考えており、今回の利上げは時期尚早であるとしています。野口氏も同様に、賃金上昇が経済全体にどの程度浸透しているかを慎重に見極める必要があると主張し、データに基づいた判断を求めています。

このような反対意見は、日銀の政策決定プロセスにおいて重要な役割を果たしており、経済データの慎重な分析とその結果に基づく政策判断の必要性を示しています。政策委員の中でも意見が分かれる中で、植田総裁を含む多数派は、現状の経済・物価見通しに基づいて追加利上げが適切であると判断しましたが、少数派の意見も無視できない重要な視点を提供しています。

以上のように、日銀の追加利上げ決定には、経済データの慎重な分析とその結果に基づく判断が求められており、中村氏と野口氏の反対意見はその重要性を強調しています。

興味深いのは、経済・物価見通しがあまり変わっていないにもかかわらず、追加利上げが決定されたことです。特に、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)=コアコアCPIは、2024年度の前年比1.9%、2025年度の同1.9%、2026年度の同2.1%と、4月の見通しから全くの不変でした。

物価見通しが何も変わらないのに、追加利上げというのはかなりショッキングです。これは日銀が「定期的に利上げをする」姿勢を示していると解釈できます。植田総裁の説明によれば、基調的なインフレ率が維持されれば、それに応じて金利正常化を進めるという方針が示されています。

日銀の最近の利上げ決定は、経済状況を考慮すると適切ではありません。

まず、政治家による「金融政策の正常化」への言及は懸念すべき点です。河野太郎デジタル相や茂木敏充幹事長、さらには岸田文雄首相までもがこの表現を使用していることは、日銀に対する政治的圧力になった可能性は否めません。

日銀上田総裁(左)と岸田首相

日本経済はまだデフレからの完全な回復過程にあり、現在のインフレ状況では利上げは時期尚早です。「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に従えば、金融政策は実体経済の動きよりも遅れて行うべきであり、その理由として、経済のラグ効果、過剰反応の防止、そしてインフレ目標の達成が挙げられます。

金融政策の効果が実体経済に現れるまでには時間がかかり、一時的な経済指標の変動に過剰に反応すると経済に悪影響を及ぼす可能性があるためです。政策金利の変更が企業の投資や消費者の支出に影響を与えるまで、さらに失業率に影響を与えるまでには、通常数ヶ月から1年程度のラグ(遅れ)が存在します。

また、インフレ率が目標を超えるまで利上げを行わない「ビハインド・ザ・カーブ」のアプローチは、経済が十分に回復し持続的な成長軌道に乗るまで過度な引き締めを避けるために重要です。この観点から、インフレ率が4%程度を超えるまでは利上げを控えるべきなのです。

日銀の現在の姿勢は、アベノミクス以前に見られた早期利上げによって景気回復を阻害し、デフレを継続させてしまった過去の誤りを繰り返す危険性があります。

さらに、円安が日本経済に悪影響を及ぼすかどうかについては慎重な検討が必要です。現段階での利上げや円高は日本経済にとってマイナスとなる可能性が高いのです。

植田和男総裁は、今回の利上げについて「経済や物価のデータがオントラック(想定通り)だったことに加え、足元の円安が物価に上振れリスクを発生させている」と説明していますが[、この判断は経済の実態を正確に反映していません。

未だ個人消費の弱さが顕著な中での利上げは、経済が本当に「オントラック」であるかという疑問を生じさせます。実際の経済指標は日銀の評価よりも弱い可能性があります。これは、日銀のヒアリングや指標が実態を正確に捉えきれていない可能性があります。

現状では、実質賃金がようやく上昇に転じようとしたばかりであり、消費の回復が十分に進んでいない可能性があり、経済が完全に「オントラック」であるという判断には疑問符がつきます。

したがって、日銀の「オントラック」という評価は、経済の一部の側面のみを反映している可能性があり、より包括的な経済指標の分析が必要です。このような状況下での利上げ決定は、経済の実態を十分に考慮していない可能性があり、慎重に再検討すべきです。


実際、個人消費の弱さが目立つ中でのこのタイミングでの利上げは、円安を強く意識したものか、あるいは円安を強く警戒する政府の意向を受けたものと受け止められかねません。

結論として、日銀の今回の利上げ決定は、経済の実態や「ビハインド・ザ・カーブ」の原則を十分に考慮せず、政治的圧力や円安への過度な警戒に影響された可能性が高く、適切な判断とは言えません。今後の金融政策運営においては、より慎重な分析と判断が求められます。

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