2023年4月14日金曜日

黒田日銀10年の正当な評価 雇用確保は歴代最高の実績、海外紙は評価するも残念な日本のマスコミ報道―【私の論評】黒田日銀をまともに評価できないマスコミは、すでにオワコンか(゚д゚)!

日本の解き方

職員から贈られた花束を手に退任する日銀の黒田東彦総裁=7日午後、日本銀行本店

 黒田東彦(はるひこ)氏は4月8日、日銀総裁を任期満了で退任した。歴代最長となった10年の在任期間だ。退任前の7日の記者会見では、大規模な金融緩和策は適切だったとし、デフレでない状況をつくり、効果を上げたと述べた。

 黒田氏は、金融緩和で名目金利を下げるとともにインフレ予想を高めることにより、実質金利(名目金利からインフレ予想を引いたもの)を下げることで、実体経済に影響を与えることを繰り返し説明していた。

 これに加えると、失業率がNAIRU(インフレを加速させない最低水準の失業率)まで下げるのがマクロ経済政策の目標である。

 さて、黒田日銀の10年間で、どこまでできたか。

 財務省出身で消費税増税賛成というスタンスの黒田氏は、自らの口から言わなかったが、2014年4月と19年10月の2度の消費増税がなければ、2%のインフレ目標はかなり早期に達成できただろう。記者会見ではそうした質問をすべきだった。

 14年4月の消費増税があっても、強力な金融緩和のおかげで19年にはその環境が整っていた。もっとも、この期待は19年10月の消費増税と20年からのコロナ禍で吹っ飛んでしまった。

 それでも、雇用の確保という金融政策の主目的からみると、歴代最高のパフォーマンスだ。金融政策は「dual mandate(2つの責務)」といい、物価の安定と雇用の確保を目的とする。

 NAIRUを達成したいがために、過度の金融緩和を戒めるのが、インフレ目標だ。これは『安倍晋三回顧録』にも書かれている。日本のマスコミにはこうした常識がない人が多すぎる。

 消費増税やコロナ禍でも雇用を確保できているのは、金融政策のたまものだ。先進国でコロナ禍でも日本は最も雇用を確保した国だ。

 黒田日銀による大規模金融緩和で失業率が下がったことについては、「これは民主党政権時代の流れだ」という無理解もある。

 15~64歳人口は一貫して減少している。民主党時代には、就業者数が減少し、それを上回るペースで労働力人口も減少したために、見かけ上、失業率が低下した。しかし、安倍政権では、就業者数が猛烈に増加し労働力人口を上回ったので失業率が低下した。それぞれの中身はまったく異なるものだ。

 黒田日銀の業績について、雇用に着目するマスコミを探したが、残念ながらあまりなかった。ただし、海外紙は黒田日銀を評価しているものばかりだ。

 雇用が確保されると、その後に賃金が上がり始め、インフレ率も上がる。マスコミの論調は、黒田氏が「インフレ目標を達成できずに残念だ」と言ったところだけを切り取り、雇用を400万人作ったということは無視している。

 そもそもインフレ目標を達成していないではないか、というのは、金融政策の2つの責務をしっかり理解していないために出てくる批判だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】黒田日銀をまともに評価できないマスコミは、すでにオワコンか(゚д゚)!

安倍元総理が、総理時代に日銀が金融緩和すべきことを語り、それに日銀黒田総裁が異次元の包括的緩和を実行し、その後はイールド・カーブコントロールをしたものの、それでも緩和を継続したことにより、日本の雇用は間違いなく、改善しました。それは、多くの人が実感しているところです。

これは大学・大学院、高校などの就職担当の先生と話をすれば、それは誰もが実感していますし、他ならぬ若者たちも、雇用面で恩恵を受けたことは実感しています。だからこそ、安倍政権の支持率は特若者では高かったといえます。

私は会社で、人事を担当していた時期があり、民主党政権の時代には採用がかなりやりやすかったのをしっかり覚えています。安倍政権になってから以降は、難しくなったことをしっかりと記憶しています。これは、多くの会社の人事担当車はそう感じているでしょう。

直接人事等に関わったことがなくて、このような記憶のない人もいるでしょう。それにしても、テレビなどで就職難も伝えられていたので、安倍政権になってから、雇用がかなり良くなったことは、普通に生活していれば、誰もが実感できたはずです。

それが、実感できない人は、よほど鈍感なのか、高齢者で社会の変化と自分の生活にほとんど関係のない人、あるいは安倍元総理に反感を持っているなどの特殊な事情がある人たちだけでしょう。

この特殊な事情のある人達、結構存在します。私自身、twitterに安倍政権時の失業率の低下や雇用の創出について、一目でわかるようなグラフをいくつか掲載し、その偉業を称えたところ、普段はそのような人はいないのですが、結構の人数の人が、これに対する反論をしてきたので驚いたことがあります。こういう反論には全く論拠が薄弱であり屁理屈に近いものなので、まともに話をしていても仕方ないと思い、徹底的にブロックしました。

安倍元総理や黒田総裁の業績を認めたくない人たちが多いようです。マスコミもそうなのでしょう。しかし、これは以下のグラフなどみれば、どう考えても彼らの業績を否定することはできません。


このグラフをみれば、いかに安倍政権が、そうして直接的には黒田総裁が、失業率を低下させ、就業者数を増したかが、一目瞭然です。

下の表は、安倍・菅政権における、失業率の変化です。他国がかなり失業率が増えているのに、日本はさほど増えていないことがわかります。


なぜこのようなことができたかとえば、安倍・菅政権で合わせて100兆円ものコロナ対策補正予算を組み、さまざまな経済対策を打ったことによります。

この100兆円の財源は、政府が大量の国債発行をし、日銀がそれを買い取ることにより賄われました。日本では、日本独自の雇用調整助成金制度も活用したため、 このようなことが可能になったのです。

それにしても、日銀が金融緩和を継続しつつ、大量の国債を政府が買い取らなければ、このような偉業は達成できなかったはすです。

さらに、下のグラフをご覧になれば、いかに黒田日銀が雇用に貢献したかが理解できます。


このグラフをみれば、上の記事にもあるように、15~64歳人口は一貫して減少しています。民主党時代には、就業者数が減少し、それを上回るペースで労働力人口も減少したために、見かけ失業率が低下しました。しかし、安倍政権では、就業者数が猛烈に増加し労働力人口を上回ったので失業率が低下したのです。同じ低下であっても、中身はまったく異なるものなのです。

下のグラフをごらんいただければ、どのようなとにどのような財政や金融政策をすれば良いのかすぐに理解できます。


上の記事で、金融政策の2つの責務とは何を意味するかといえば、インフレ目標は、最低の失業率を目指すときに、金融緩和しすぎてインフレ率が高くならないように、ギリギリ許容できる最低のインフレ率です。

アベノミクスで完全雇用を達成したとき、インフレ率が2%になっていないなら、それを悪いことと考える必要ありません。むしろそれは良いことです。まだ、緩和の余地があるということです。

インフレ目標とはそのようにみるべきものであり、達成していなけば、失敗ということではありません。重要なのは雇用です。

インフレ目標の意味もわからず経済記事を書くのが、日本の経済記者です。情けないです。

上の記事にもあるように、黒田総裁は海外メデイアでは評価されています。

黒田総裁の決断が海外メディアで好意的に取り上げられた例として、2021年3月、一部の国内政治家から金融緩和の縮小を求める声が高まる中、日本銀行が超低金利政策を維持することを決定したことがあげられます。

黒田総裁の決断は、COVID-19パンデミックからの日本経済の回復を支援することへのコミットメントと、インフレへの懸念よりも経済成長を優先する意思の表れだと見なされました。

多くの海外メディアは黒田総裁の決断を賞賛し、フィナンシャル・タイムズは「日本経済の継続的な復活を確実にする賢い行動」と評し、ブルームバーグは黒田総裁を政治的圧力に直面した「堅実な手」と称賛しました。

安倍元総理や、黒田元日銀総裁の業績をまともに、認識できないメデイアはもうオワコンと言って良いでしょう。あと10年も持たないと思います。昨年高橋洋一氏が、大手新聞の発行部数の減少傾向を示し、このままだと10年で消滅と語っていました。おカネを払って、質の悪い経済情報などを受ける意味などありません。

日銀総裁を退任した黒田東彦氏は、政策研究大学院大学(GRIPS)の政策研究院(訂正)シニアフェローに11日付で就任しました。同大学大学運営局長の岡本任弘氏が12日明らかにしました。秋からは学生向けの講義も予定しているそうです。黒田氏の講義や公演なら、聴く機会があれば、聴いてみたいです。

一方、元日銀総裁の白川方明氏は、青山学院大学国際政治経済学部特任教授に就任したそうですが、一体何を教えているのでしょうが、教えられる学生も気の毒だと思います。



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2023年4月13日木曜日

統一地方選前半で〝維新が躍進〟 国政への影響力も強まる勢い 大阪の「クアッド」勝利で政権の枠組み変わる可能性も―【私の論評】今回の維新の躍進は、将来自民のレクイエムになるか(゚д゚)!

日本の解き方


 統一地方選の前半の投開票が9日に行われた。

 全国で唯一、与野党の全面対決となった北海道知事選挙では、与党などが推薦した現職の鈴木直道氏が当選した。大阪は、府知事選挙で現職の吉村洋文氏、大阪市長選挙で新人の横山英幸氏が当選し、前回に引き続き、大阪維新の会がダブル選挙を制した。

 保守分裂となった奈良県知事選挙は、日本維新の会の新人、山下真氏が当選し、大阪府以外で初めて維新公認の知事が誕生した。

 大阪府議会・市議会で維新が過半数の議席を獲得した。維新は府知事選、大阪市長選、府議会選、大阪市議会選の「クアッド(4つの)勝利」だ。維新は、今回、投票が行われた41道府県議会議員選挙でも選挙前の議席を大幅増加させる躍進となった。ただし、奈良県知事選は、自民の内部分裂による漁夫の利だった。

 維新の馬場伸幸代表は記者会見で「大阪府と大阪市の首長と、議会の過半数を預かることになれば『大阪都構想』に代わる次の大きなテーマを考えていく必要がある」と述べた。

 その上で、公明党の衆院の現職議員がいる大阪と兵庫の合わせて6つの小選挙区にこれまで候補者の擁立を見送ってきたことについて「公明党との関係は一度リセットさせていただく」とし、次の衆院選では擁立する可能性に言及した。これは、国政レベルでの自民・公明の連立にも影響があるかもしれない。

 大阪知事再選の吉村洋文氏は、大阪へのIR(統合型リゾート)誘致は民意を得たとした。過去に2度、住民投票で否決された大阪都構想については、現時点での予定はないが今後の任期4年間で何が起きるかわからないとした。はたして「三度目の正直」なのか、「二度あることは三度ある」のか。

 自民党は奈良県知事選でヘマをやってしまった。ただし、道府県議選では、議席を減らしたがまずまずの戦いをした。

 立憲民主党は、道府県議選で微増だった。大串博志選対委員長は、小西洋之参院議員の「サル発言」について、直接の影響を大きく受けている感じはなかったとしている。

 公明党と国民民主党は、道府県議選でほぼ同数だったが、共産党は党員除名騒動の影響もあってか、減少した。

 これからの国政選挙補選、後半戦の統一地方選で、維新の勢いがどうなるのだろうか。前半戦を見る限り、維新は地方選で着実に力をつけており、国政選挙では地方での底力が基盤になるので、国政への影響も出てくるだろう。

 大阪では、自民と共産が組んでも維新の勢いが止められなかった。

 大阪の「クアッド」勝利で公明の牙城が揺らぎ、自公連立に影響があると、政権の枠組み変更にもなりかねない。

【私の論評】今回の維新の躍進は、将来自民のレクイエムになるか(゚д゚)!

維新は、大阪府議会では過半数を占めていましたが、市議会では達していませんでした。それが、今回の選挙で、市議会で46議席を獲得。初めて過半数になりました。


一方自民党は府議団と市議団の幹事長が落選するなど、惨敗。両議会で大幅に議席を減らすことになりました。 

維新のこの躍進に危機感を覚えているのは、自民党ではなく公明党でしょう。大阪府の衆院選挙区は、19区あります。2021年の選挙では維新が15議席、公明党が4議席を獲得しました。

公明党が獲得した選挙区には、維新は候補を立てなかったのです。それは、市議会で公明党の協力が必要だったからです。しかし今回、市議選で維新が過半数を取りました。公明党に頼らなくても市議会運営ができるようになったのです。

たとえば維新が3回めになる『大阪都構想』を示して、公明党に『全面協力をするなら候補者を立てませんよ』ということだってありうるかもしれません。 どうやら、切り札は維新の手中にあるようです。

維新の馬場代表は、先の参院選をホップ、今回の統一地方選挙をステップ、来たるべき衆院選をジャンプと表現しています。果たして悲願の全国政党になることは可能でしょうか。 

今回兵庫県では、神戸市内の全選挙区で議席を獲得。京都府でも選挙前を3議席上回りましたが、強いのはやはり関西圏です。

北海道、群馬、栃木、香川、埼玉、福岡、熊本などの議会選挙で初議席を獲得したものの、神奈川で取りこぼすなど、関西圏以外では弱さも見受けられます。しかし、各党とも無視できない存在になっていることだけは間違いないです。

10年近く続いた保守的な安倍晋三・菅義偉政権が終わり、比較的リベラルと言われる岸田文雄政権で、もし「保守派の離反」が進むなら、自民党にとって怖いのは、立憲民主党などのリベラル野党でなく、維新などの保守野党です。岸田首相は少し心配した方が良いでしょう。

月曜(10日)朝、統一地方選の結果が新聞報道されるなか、気になるニユースがありました。朝日新聞の世論調査で、岸田政権の少子化対策や防衛増税に国民が冷淡だったのです。

調査によると、少子化対策の取り組みへの評価は拮抗していますが、「少子化が改善するか」との問いには、「期待できない」の61%が、「できる」の33%に対し倍もありました。

さらに負担が今より「増えるのはよくない」は60%で、「よい」は36%。こちらも、ほぼダブルスコアなのだ。国民は政権の少子化対策を「評価しているふりはしているが、効果に期待せず、従って負担増もイヤ」だと考えているのではないでしょうか。





防衛増税に関しては、68%が反対でした。こちらも、最近の日本の安全保障環境が変化したので、防衛費増自体には賛成もしくはある程度は賛成だか、負担増はイヤだということを示していると考えられます。防衛費増自体についてのアンケート結果を出さないのは、朝日新聞の防衛費増自体に反対したいという、願望の現れで、さすが「朝日クオリティー」といわざるをえません。

ネットで「少子化対策で年10万円の負担増」というニュースが流れてきたので、他のソースで調べてみたところ、立憲民主党の山井和則衆院議員が国会の質問で、「8兆円とも言われる少子化対策の予算を(全額)保険料で賄うとすれば、1年間で10万円の負担」と指摘していました。

8兆円全額を保険料で賄うということは現実にはあり得ず、政府側は「負担増ばかりを前面に出した印象操作」と言いたいでしょう。しかし、そもそも政府が国民負担の議論から逃げて財源をあいまいにしているのですから、こういう質問が出てくるのが当然です。

3月31日に出された少子化対策のたたき台では、児童手当や給食費など所得制限をつけずに気前よく配るとしていますが、それで子供が増えるのかどうかはなはだ疑問です。「社会で子供を育てる」と言えば聞こえは良いですが、効果がよく分からない政策のために、自分の負担が増えることに国民は納得しないでしょう。

それに、以前このブログでも示したように、少子化対策の財源を保険料にするというのは、実質増税と同じであり、財務省は「保険領の増額で賄うのはおかしい」という世論を盛り上げ、結局諸費税増税に持っていく思惑があるとみられます。財務省は、防衛増税も同時に成し遂げたいとの思惑があるとみられます。

防衛費は、現行と比べ4兆円増えるので、岸田首相は27年度以降の防衛費は、1兆円強を増税で賄う方針を示しています。無論、これは財務省の意向を反映したものでしょう。

国民としては、少子化対策、防衛費の両方とも消費税増税などで賄えば、負担がかなり増えることを危惧しているのでしょう。これは、当然のことだと思います。

岸田首相は早めに少子化対策や防衛費倍増の、財源をはっきり示すべきです。無論、両方とも増税ではなく、政府が国債を発行して、日銀がそれを買い取るという方式で実施すべきです。

これは、安倍・菅両政権のコロナ対策で行われた方式であり、安倍元首相の言葉を借りれば、「政府日銀連合軍」による資金の調達です。調達総額は両政権合計で100兆円にのぼります。このような対策を行ったので、日本経済はコロナ禍を経ても現在他国のように酷くは落ち込んではいません。

それどころか、コロナ禍期間中であっても、日本では他国のように大きく失業率が上がることもありませんでした。菅政権は、病床確保には医療村の強烈な反対にあって失敗しましたが、それでも脅威のワクチン接種のスピードで、結局医療崩壊を起こすこともなく、コロナ禍を収束させることに成功しました。

これで、国債の大量発行が、将来世代へのつけにならないこともはっきりしました。もし、この100兆円の調達で何かの不具合がでてくれば、財務省は得たりとばかりに、さまざまな不都合をあげつらい今頃コロナ復興税をすすめているはずです。そうならないのは、現状でも将来的にもそのような危機は訪れることはないからです。

このあたり、財務省は見かけは優秀であるようにみえて、実は 抜けています。財務省の省益に立脚すれば、財務省は過去にそうだったように、まず先にさまざまな屁理屈をつけてコロナ復興税を実施するべきです。そうでないと、結局多くの国民が、100兆円の国債を発行しても何も問題がないことに気づいてしまいます。

もう、多くの国民は気づきつつあるようです。だから朝日新聞のアンケート調査でさえも、負担が増えることに対して圧倒的に反対する人が多いのでしょう。ただ、財務省としては、多くの人を巻き込むことができる、もっともらしい屁理屈が思いつかないくらいに、現状の日本経済はあまり問題がないのでしょう。

現状で増税するのは、少子化対策や防衛費増は、将来世代にも利益をもたらすにもかかわらず、現世代に大きな負担を負わせることになります。そうして、日本ではなぜが減税はほとんど行われないので、現代世代が大きな負担を負うだけではなく、将来世代も負うことになるのです。そのことに、国民は反発しているのです。

しかし、財務省は岸田政権を潰してでも、何が何でも消費税増税をやり遂げようとしているのです。岸田首相はそのことにはやく気づくべきです。そうして、少子化対策や防衛費増には、安倍・菅政権が行ったように、増税なしで、政府日銀連合軍で調達することを政治決断すべきです。

そうでないと、国民の反発はつのり、維新の会が国政においても、躍進するのを許すことになります。連立政権という手もありますが、岸田政権が増税を決めれば、自民党の勢力は衰え、維新の会を参考にして、多くの保守政党ができあがり、自民党はその中に埋没するかもしれません。まだ、統一地方選後半戦や、次の国政選挙の結果をみてみないとわかりませんかが、自民党の保守岩盤増がそれでも良いと思うようになれば、自民党の終わりが始まります。

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2023年4月12日水曜日

マクロン大統領の〝台湾発言〟や米軍の機密情報の流出…自由主義陣営に乱れ 島田洋一氏「日本は『経済』でリーダーシップを」―【私の論評】日本が破竹の経済発展を遂げ、G7諸国の経済を牽引することが安保につながる(゚д゚)!

マクロン大統領の〝台湾発言〟や米軍の機密情報の流出…自由主義陣営に乱れ 島田洋一氏「日本は『経済』でリーダーシップを」

マクロン大統領(左)と習国家主席の接近には批判が渦巻く

 欧米を中心にする自由主義陣営の「結束」に乱れが生じている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が中国訪問時(5~7日)に、台湾情勢について、「われわれ(欧州)のものではない危機」と発言したことに対し、欧州の対中強硬派から批判が相次いでいる。米軍などの機密文書がSNS(交流サイト)に流出した問題では、国防総省が機密情報が文書に含まれていることを認めた。流出文書によって、米国が韓国高官の会話を傍受していた疑惑が持ち上がるなど、同盟国や友好国との関係にも影響が出つつある。覇権拡大を図る中国やロシアに対峙(たいじ)するため、団結が求められる自由主義陣営は大丈夫なのか。


 欧州で波紋を広げているマクロン氏のインタビューは、仏紙「レゼコー」(電子版)などが9日掲載した。

 マクロン氏はインタビューで、EU(欧州連合)は米中対立と距離を置き、「第三極」を目指すべきだと主張し、次のように語った。

 「台湾での(緊張の)高まりに、われわれの利害はあるか。答えはノンだ。最悪なのは、米国のペースや中国の過剰反応に追随せねばならないと考えること」「われわれのものではない危機にとらわれれば、罠に陥る」

 共産党一党独裁の中国を前に、「自由」「民主」「人権」「法の支配」という共通の価値観を持つ自由主義陣営の結束を危うくする発言である。

 ドイツでは早速、連立与党内から批判が飛び出した。

 社会民主党(SPD)で外交問題を担当する下院議員はドイツ紙で、「中国に対し、西側が分裂するのは誤り」と強調し、ロシアのウクライナ侵攻を教訓として、「強権国家におもねるべきではない」と自由主義陣営の連携を訴えた。

 欧州を含む各国の議員で作る「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)は声明を出し、マクロン氏の発言を「台湾海峡の平和を維持するための国際社会の努力を損なった」と批判した。

 声明には、英国やフランス、ドイツのほか、スウェーデン、オランダなどの国会議員が名前を連ねている。

フランスのメディアも「失策」(フィガロ紙)と酷評した。

 米機密文書流出問題も深刻だ。

 米国防総省のクリス・メアー国防長官補佐官(広報担当)は10日、流布している文書には機密情報が記されたものが含まれていることを認めた。メアー氏は「深刻に受け止めている」「(文書の)一部が改変されているとみられる」として、情報戦に利用されている可能性を示唆した。

 ウクライナ政府は、流出文書の内容について「偽情報」とし、ロシア軍に対する作戦とは「無関係」と強調している。同国ではロシアに対する反攻が近く始まるとされる重要時期を迎えており、米CNNテレビは、ゼレンスキー氏に近い筋の話として、「流出のために、すでに軍の計画の一部を変更させた」とも報じた。

 バイデン政権は、中国やロシアへに対抗するため、同盟・友好国との連携強化を目指しているが、流出文書では、同盟国が米国の通信傍受対象となっていた疑惑も持ち上がった。

 ある文書には、米国の要請でウクライナに砲弾を供与することを懸念する韓国高官2人のやりとりが記載されていた。イスラエルの諜報機関「モサド」が、国内の反政府デモを後押ししているとの情報を記した文書もあったとされている。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の国賓訪米を今月下旬に控えている韓国では、政府が11日、「相当部分」が偽造されたとする公式見解を表明した。一方で、「事実なら深刻な主権侵害」(朝鮮日報社説)などと反発が広がっている。

 一連の事態をどうみるべきか。

 福井県立大学の島田洋一名誉教授は「中国やロシアの脅威に対処しなければならないタイミングで、西側諸国の間で足並みがそろわないのは憂慮すべき事態だ。フランスなど『中国との経済関係』を重視している国があるため、今回のように自由主義陣営が切り崩される恐れは今後もある。来月、広島で行われるG7(先進7カ国)首脳会議で、日本は議長国を務める。結束再確認のため、日本は自由主義陣営による経済圏構築など、経済分野でリーダーシップを発揮すべきではないか」と話した。

【私の論評】日本が破竹の経済発展を遂げ、G7諸国の経済を牽引することが安保につながる(゚д゚)!

上の記事で、島田洋一氏が、日本は自由主義陣営による経済健康そうなど、経済分野でリーダーシップを発揮すべきと主張していますが、その通りです。

中国は、マクロンの台湾関連の発言を最大限に利用し、G7の結束を弱め、さらには分断しようと虎視眈々と狙っているでしょう。

経済分野というと、中国経済は停滞し、中国がG7などに直接的に経済分野で対抗しようとしても、かなり無理があります。何しろ、中国はコロナ禍前から、国際金融のトリレンマに囚われ、結果として独立した金融政策ができない状態になっています。だからこそ、失業問題もなかなか解消できないでいます。

しかし、その中国も経済分野で、できることはやろうとしています。その一つとして、中国政府は、ハイテク製品に使われる高性能レアアース(希土類)磁石の製造に関する技術の輸出禁止に向けて検討作業を進めていることが明らかになりました。中国政府の輸出禁止・輸出制限技術リストで、レアアースの精錬や加工などの技術の輸出制限を盛り込む予定です。


レアアースといえば、2010年に沖縄・尖閣諸島をめぐり日中が対立すると、中国側が対日輸出を一時停止したことがあります。

これに対して、日本政府と企業は、中国以外での調達先確保、国内での再利用推進、省資源や代替原料の技術開発などの対策を行いました。その結果、中国からのレアアース輸入量は半減、輸入の中国依存度も8割から5割に低下しました。レアアース価格は暴落し中国では生産停止に追い込まれる企業も出ました。

さらに、安倍晋三・菅義偉政権の時、中国以外の海外で行っていた精錬加工を日本国内でできるような対策もしており、相当の準備もできています。岸田首相は、昨年10月にオーストラリアを訪問しましたが、その時に日豪両政府は22日、レアアース(希土類)といった重要鉱物のサプライチェーン(供給網)を構築するため、投資や研究開発の促進など連携を強化することを申し合わせた文書を交わしました。

米国は自国での鉱山開発にレアアース生産に占める中国依存度は9割から7割まで下がった。しかし、自国で生産したレアアースの多くを中国に輸出して、現地で精錬してから輸入しています。

日本はレアアースを使う高性能磁石の生産を得意としており、原材料のレアアースの確保は中国以外からの調達や再利用である程度のめどがたっています。米国は高性能磁石を搭載するハイテク製品が得意ですが、中国にレアアース精錬を依存している弱点があります。

今回の措置は、中国が米国に対抗するのが目的です。レアアースに対する準備をしてきた日本が米国等の弱みを補える可能性がある。

レアアースが注目されるのは、電気自動車(EV)などでは強力な磁力を有する駆動モーターが必要ですが、それにレアアースが欠かせないかです。日本では、すでにレアアースなしでハイブリッド(HV)車用の駆動モーターを開発しています。

中国がEVでの覇権争いのためにレアアース禁輸等を仕掛けるのであれば、世界のEV戦略を一部HVに変更するという手もあります。

日米でEV戦略を見直し、欧州連合(EU)が合成燃料「e―fuel(イーフューエル)」を使うエンジン車の販売を例外としたように、対中対策でレアアースなしのHVを認めることも検討すべきです。中国によるレアアース生産と精錬は著しい環境破壊を招いており、日本によるレアアースなしのハイブリッドは環境に貢献することになります。

もともとHVからEV主導になったのは、欧米の自動車会社の戦略でした。

それに中国も乗ったのですが、ここに来て日米欧州とも経済安全保障が重要になってきたので、その観点からEV戦略を見直すべきです。

昨日このブログでは、来月、広島で行われるG7(先進7カ国)首脳会議で、日本は議長国を務めることから、岸田首相は、安倍氏がインド太平洋戦略を構想し、米国にこれを採用させるとともに、インド太平洋地域の国々を巻き込んだときのような役割を担って、G7広島サミットでフランスが、インド太平洋戦略で貢献するように促していただきたいものです。それが、ドイツや他のEU諸国に対しても、これを巻き込むことにつながるとししました。

ただ、岸田首相がリップサービスだけで、これを行えば、フランスやドイツなどのG7の国々は、表面上はそれを受け入れたように見せても、中国との関係をなかなか断てない可能性があります。それに対して、上記で述べたような、中国のレアアースに頼らなくて、良い仕組みを提唱し、それを主導していけば、G7の国々も納得し、中国に対する牽制で一致協力できる可能性が高まります。

経済分野でいうと、日本は他のG7諸国と比較すれば、経済は堅調です。なぜかといえば、安倍・菅政権において、合わせて100兆円ものコロナ対策補正予算を組み、それで経済対策を行ったからです。

100兆円を調達するには、政府日銀連合軍(政府が発行した大量の国債を日銀が買い取る方式)使ったので増税の必要はありませんでした。増税なしを政治決断した安倍菅さんは素晴らしいです。

国内にはなぜか、アベノミクスを否定する論調も少なくないですが、アベノミクスはマクロ経済学の基本である財政政策と金融政策、ミクロ政策の基本である成長戦略を組み合わせたもので、ベン・バーナンキ氏やミルトン・フリードマン氏らノーベル賞を受賞した経済学者の理論にも沿ったものです。

ベン・バーナンキ氏

アベノミクスを否定する方々は、ノーベル賞級の経済学者の理論を否定しているのです。彼らが正しいのなら、それを論文にまとめて、世界水準の経済誌に発表すべきです。ただ、それをやれば「馬鹿」といわれておしまいで、掲載されることもないでしょう。

今後岸田政権は、増税することなく、金融緩和の継続と積極財政を実施し、日本経済を発展させ、世界経済の牽引役を担うべきです。現在は、米国をはじめとするG7の国々は利上げの影響で、今後急速に経済が伸びることはありません。

中国も、先に述べたように独立した金融政策すらできない状況なので、今後急速に発展することもありえません。

主要国における消費者物価指数の動き クリックすると拡大します

今その可能性を秘めているのは、長い間デフレだった日本だけです。日本では、物価高がいわれていますが、他国と比較すれば、さほどでないことがわかります。中国は物価が下がり気味ですが、これは金融緩和がしたくてもできないことの裏返しであり、良いことではありません。日本が他国と比較して、破格の経済発展をすれば、輸入も増え、G7の国々も中国に期待することはなくなります。

日本の経済発展により、日本国内はもとより、中国の意図を挫き世界が救われることになります。特に、日本の賃金は中長期的に上昇することになるでしょう。岸田首相はこの機会を逃すべきではありません。

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2023年4月11日火曜日

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 台湾巡る仏大統領の発言、中国に配慮し過ぎ 欧米議員批判

中国を訪問したマクロン仏大統領

 マクロン仏大統領は仏紙とのインタビューで、欧州は台湾を巡る対立を激化させることに関心がなく、米中両政府から独立した「第3の極」になるべきだと述べた。これを受けて、中国に配慮し過ぎた発言だとして欧米各国の議員から批判が出た。

 マクロン氏は先週訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べた。

 ドイツ連邦議会外務委員会のレトゲン議員はツイッターに、マクロン氏は「中国訪問を習近平氏のPRクーデターと欧州の外交政策の惨状に変えることに成功した」と指摘。仏大統領は「欧州で一段と孤立している」と批判した。

 米上院のルビオ議員(共和党)もツイッター投稿動画で、もし欧州が「台湾を巡り米国と中国のどちら側にもつかないのであれば、われわれも(ウクライナに関して)どちらの味方もすべきでない」と指摘した。

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昨年11月4日には、ドイツのショルツ首相が中国を訪れ、共産党のトップとして異例の3期目に入った習近平国家主席と会談しました。フランスのマクロン大統領と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長が今月5日、中国を訪問しました。


米国が中国に経済の「デカップリング(分断)」を仕掛けているのとは対照的に、欧州は首脳が相次ぎ「中国詣で」をし、「デリスキング(リスク低減)」の姿勢で臨んでいるようです。その背後には、EUは中国からレアアースを98%輸入しているという事情が絡んでいるようです。

米国としては欧州とともに中国の体制に対抗していこうという思いがあるのですが、米国識者のなかには、もともと「ヨーロッパは無責任だ」という態度を取る人もいます。

たとえば、トランプ政権で官僚を務めたエルブリッジ・コルビー氏は、「欧州は台湾有事があっても支えないということがわかった。欧州は頼りにならない。台湾有事においては日本とオーストラリアだけが頼りだ」とツイートしていました。

日米豪としては、「台湾有事に関して国際的な協力が得られないかもしれない」ことがわかったという意味では、ショックな出来事です。ただ、フランスの伝統からすれば米国とは別の対立軸をつくって我々がリードしたい、という思惑があるのだろうと思います。

もともとフランスはNATOからやや距離を取っており、1966年にNATOを脱退して、2009年NATOに復帰した経緯があります。

最近では、オーストラリアがフランスから購入することになっていた原子力潜水艦の契約を反故にし、イギリスに鞍替えして、米国が主導する米英豪AUKUS(オーカス)結成により、未だに「アングロサクソン系ファイブアイズの塊」で動こうとすることに対するフランスの怒りがあります。

さらに、昨年12月米国訪問時にマクロンは、米国のインフレ抑制法や国内半導体業界支援法は<米国経済に非常に有利だが、欧州諸国との適切な協調はなかった>として「米国の公平な競争の欠如」を批判しています。

しかし、フランスはこの南太平洋に海外県、海外地域圏、海外共同体を擁し 、その総人口は165万人です。フランスの排他的経済水域の93%がインド洋と太平洋に位置します。加えて、インド太平洋地域諸国の在留フランス人は約15万人を数え、進出しているフランス企業の子会社は7,000社を超えるほか、8,300人のフランス軍が駐留しています。

マクロン大統領は2018年5月2日、ガーデン・アイランド海軍基地(オーストラリア、シドニー)で行った演説でフランスのインド太平洋戦略を概説し、法の支配およびあらゆる形態の覇権の拒否に基づく、包摂的な安定化アプローチの促進に意欲を示しました。さらに2019年10月23日にサン=ドニで行った「チューズ・ラ・レユニオン」サミットの閉会演説の中で、フランスのインド太平洋戦略では海外県・地域圏および海外自治体(DROM-COM)と、その地域統合に重点が置かれていることも強調しました。

フランス軍事省は2019年、インド太平洋におけるフランス防衛戦略を採択しました。この戦略は海外駐留部隊(海外領土・外国)の行動強化、大量破壊兵器等の拡散防止への積極的な貢献、地域機関とパートナーの強化への尽力、東南アジアのパートナーの戦略的自律性の強化、環境安全保障予測政策への貢献を目的とします。

フランスにとって、インド太平洋の概念は重みを増し、フランスは自由で開かれた包摂的なインド太平洋地域を維持するという目標のもと、とりわけインド、オーストラリア、日本、さらにASEANをはじめとする主要なパートナーと共通のビジョンを共有しています。EUもこの概念を採用し、独自の戦略を備えるべく作業を進めています。

日米豪などのインド太平洋戦略に関して、必ずフランスは関与すると考えられます。これについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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1月20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)

これは1月22日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事から引用します。
 フランスのマクロン大統領は20日、仏南西部モン・ド・マルサンの空軍基地で演説し、2024~30年の7年間で計4000億ユーロ(約55兆5000億円)を国防費に充てる方針を示した。19~25年の2950億ユーロ(約41兆円)と比べて、3割以上の増額となる。

 マクロン氏は演説で国防費増額の背景について、ロシアによるウクライナ侵略などを挙げ、「危機に見合ったものとなる。軍を変革する」と述べた。

 情報収集活動予算を6割増額するほか、核抑止力の強化や無人機(ドローン)の開発促進などに充てる。中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する。
この軍事費増大の背景には何があるのか、この記事【私の論評】から引用します。
中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南太平洋の島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

南太平洋の島嶼国といっても、ニューカレドニアは仏領であり続けることを選びましたし、そもそも一人あたりのGDPは34,942ドルであり仏本国を若干下回る程度です。ただ、南太平洋の島嶼国のほとんどは一万ドルを下回る貧困国です。

現代的な軍隊を持った、台湾や日本、韓国、NATO加盟国などの領海近くを中国の空母が通ったにしても、それに対する対艦ミサイル、魚雷など対抗手段は十分にあるので、これを警戒はするものの、大きな脅威とはなりませんが、南太平洋の島嶼国は、貧乏で小さな国が多く、これは大きな脅威になります。

そのときに、日米豪などだけでもこれに対処はできるでしょうが、これに南太平洋に海軍基地を持つフランスもこれに対処できれば、それこそ百人力になります。

これを日米豪はもとより、世界の多くの国々が歓迎しました。ところが、 今回のマクロン大統領の中国は訪問はそれと矛盾する行為と言わざるを得ません。

マクロンは、対中国政策を一体どうするつもりなのか、この矛盾をどう解消するつもりなのか、国際会議の場でフランスは詰められていくのではないでしょうか。 

岸田首相は今年に入ってから矢継ぎ早に外交で成果をあげています。特に、G7で岸田さんがマクロンの煮えきらない姿勢に対して何を言うか気になります。 ぜひ徹底的に詰めていただきたいものです。

今年5月に広島で開催されるG7サミットには、ゼレンスキー大統領を招待しましたが、オンラインで参加することになったことが話題になっています。これは、春から戦闘が激化すると予見して、訪日を断ったと考えられます。

フランスは先にも述べたように、NATOからやや距離を取っていたこともあり、米国とは異なる独自路線を取りたがる傾向があります。しかし、対中国ということでは、フランスも南太平洋に領土を持っており、中国への脅威ということでは、日米豪と利害が一致しています。フランスは日米豪と協同したほうが単独で中国に対峙するより遥かに有利です。

広島G7で米国のバイデン大統領が、フランスのマクロン大統領に直接これに関したことを言えば、話がかえって拗れる可能性が高いです。ここは、議長国の岸田総理の出番だと思います。

かつてのインド太平洋戦略においては、安倍元総理はこれを構想するととも提言し、米国と多くの国々を仲介しました。当時安倍総理がいなければ、米国が「インド太平洋戦略」を採用したり、同地域の多くの国々を巻き込んだりすることはできなかったかもしれません。

閣議を前に言葉を交わす安倍晋三首相(左)と岸田文雄外相(肩書はいずれも当時)=首相官邸で2017年5月12日午前8時32分

岸田首相は、こうした安倍氏のような役割を担って、G7広島サミットでフランスが、インド太平洋戦略で貢献するように促していただきたいものです。それが、ドイツや他のEU諸国に対しても、これを巻き込むことにつながります。

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2023年4月10日月曜日

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか―【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか

岡崎研究所

 アレクサンドル・ガブエフ(米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンター所長)が、3月18日付の英エコノミスト誌に、「ロシアの中国依存はプーチン後も続く」と題する寄稿をし、ロシアの中国の属国化時代を予想している。
 習近平が3月20日に国賓としてロシアを訪問する。ロシアは両国間の対等性を示そうとするだろうが、広がる両国間の力の差は隠せないだろう。

 プーチンは、ウクライナ攻撃を米国支配への反乱、ロシアの完全な主権への跳躍にしようとしている。しかし現実は異なる。開戦後13カ月、ロシアは、経済的にも外交的にも中国にますます依存している。2022年、ロシアの輸出の30%、輸入の40%を中国が占めた。ロシアのドル・ユーロへのアクセスが西側制裁下にあるので、この貿易の大きな割合が中国元で決済されている。西側がロシアの天然資源への依存を低める中、この依存は今後も増大する。

 今のところ、中国はロシアへの経済梃子を強めることで満足しているが、今後中国は政治的譲歩をより多く求めるだろう。中国はロシアに機微な軍事技術を共有することを求めうるし、北極海や中央アジアでの中国の存在感は高まるだろう。

 ウクライナ戦争によって、中国は3つの理由で、ロシアの最も影響力のあるパートナーになっている。第1に、中国のロシア商品の購入増大はプーチンの戦時財政を満たしている。第2に、中国はロシアの兵器の部品や工業機械への半導体の代替不可能な源泉である。

 最後に、ロシアは、米国の世界的敵対者である中国を助けることがバイデン政権のウクライナ支援に復讐する最も良い方法であると考えている。これが機微な軍事技術の共有やその他中国の軍事力を助けることがもはやタブーではないように見える理由である。

 ロシアにとっての悲劇は、プーチンが政治から引退した後でさえ、中国の「大君主」に従属する巨大なユーラシア独裁制が生き残るという事である。数年後、西側はロシアに経済的に依存することをやめ、代わりに、中国はロシアの輸出の大半を受け入れ、ロシアの金融は中国の通貨である元に釘付けられよう。

 西側との結びつきを再建し、この中国の支配から這い出るためには、ロシアは戦争犯罪人についての責任追及、賠償、併合した領土の返還についてのウクライナの要求を満たさなければならない。これはプーチン後でも、ほぼあり得ないシナリオである。ロシアの中国への属国化が予見可能で、利益も多いように見える。

*    *    *

 このエコノミスト誌の論説は、カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのガブエフ所長が書いたものであるが、ガブエフはロシアの事情に精通し、かつ中国のユーラシア政策にも詳しい人である。

 ガブエフは、ロシアが今後中国の属国になるだろうと予見している。ウクライナ戦争を受けての情勢の発展の中で、ロシアの中国属国化は、大いにありうる事態である。ガブエフは、プーチンが退場した後も、たとえロシアが民主化した場合にも、ロシアの中国属国化は続くと見ている。

 ガブエフが言うような情勢が出てくる蓋然性は大きいと考えられるが、そのような情勢は極めて望ましくないとも考えられる。特に、プーチン退場後に民主化した場合にも、ロシアは中国の属国であり続けるとのガブエフの判断には大きな疑問がある。

 情勢判断においては、希望的観測は排除すべきであるが、ウクライナ戦争後の情勢の進展によっては、ロシアの民主化や欧米諸国との関係改善の可能性もあると考えられる。その理由は、ウクライナ戦争は平和協定ではなく休戦協定でいつか終わるが、ウクライナが国家として生き残ることは休戦ラインがどこになるかにかかわらず、今の時点で明らかであると思われるからである。
繁栄する「兄弟」を見た時、ロシア人は何を思うか

 おそらく、生き残ったウクライナは、欧州連合(EU)に加盟することになるだろう。ウクライナは人権が尊重され、法の支配がある民主国家になり、その経済は奇跡的に回復する可能性さえある。EUで1人当たりの国民所得が最も低い国はブルガリアであるが、ウクライナの一人当たり国民所得は戦争前でブルガリアの半分であった。EU 諸国への出稼ぎだけでも経済の高度成長はできるだろう。

 ロシア人とウクライナ人はプーチンが言うような一つの民族ではないが、よく似た兄弟民族である。民主化し繫栄するウクライナを目の当たりにすれば、ロシア人が何故われわれは自由でもなく、貧しいままなのかと疑問を持っても不思議ではない。ここにロシアが民主化するきっかけがある。

 それに中国のジュニア・パートナーでいることに誇り高いロシア人が甘んじるとは考え難い。ロシアの歴史を巨視的にみると、欧化論者とスラブ主義者が政権交代してきたように見える。

 ガブエフの論は、そうなる蓋然性が高いとは思うが、ロシアの今後には別の発展もありうると考えて、政策展開を考えていく必要があるだろう。

【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

これと似たようなことは、前から言われていました。このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!
この記事は2019年8月22日のものです。まだコロナ禍が始まるまえであり、ロシアの脅威はいわれていたものの、ウクライナに本格的に侵攻するとは考えらていない時期のものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

同年(2018年)10月24日付の露経済紙「コメルサント」によると、ここ最近、中国系銀行がロシア側との取引を中止したり、口座開設を認めなかったりする事例が相次いでいるといいます。

国際的な対露制裁の対象外の企業や個人も例外ではないといい、同紙は「中国側はどの企業が制裁対象なのか精査していない。その結果、全てをブロックしている」と指摘しました。「この問題は今年6月の首脳会談以降、両国間で議論されてきたにもかかわらず、中国側は『是正する』というだけで、実際は何もしていない」と不満をあらわにしました。

同年同月26日付の露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータも「中国はロシアの友人のように振る舞っているが、実際は自分の利益しか眼中にない」と批判。「中国の経済成長の鈍化が進めば、中国政府は国民の不満をそらし、自らの正当性を確保するため、攻撃的な外交政策に乗り出す可能性がある。例えばシベリアや極東地域の“占領”などだ」と警戒感を示しました。

実際、露極東地域には、隣接する中国東北部からの中国企業の進出や労働者の出稼ぎが相次いでいます。極東に住むロシア人の人口は今後、減少していくと予想されており、同紙の懸念は「いずれ極東地域は中国の支配下に置かれるのではないか」というロシア側の根強い不安があらわれたものといえます。

同年同月29日付の露有力紙「独立新聞」もこうした中国脅威論を取り上げました。同紙は「ユーラシア経済連合と一帯一路との連携に基づく計画は、実際には何一つ実現していない」と指摘し、「中国によるロシアへの直接投資は、カザフスタンへの投資よりさえも少ない」と指摘しました。

経済発展が著しいウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国について、ロシアは旧ソ連の元構成国として「裏庭」だとみなしています。しかし、一帯一路も中央アジアを不可欠な要素と位置付けています。

地政学的に重要な中央アジアでの影響力を確保するため、ロシアと中国は、この地域への投資や技術供与、軍事協力の表明合戦を繰り広げており、表向きの双方の友好姿勢とは裏腹に、現実は協調とはほど遠いのが実情です。

このように、中露の友好関係は一時的なみせかけに過ぎないものであり、米国による対中国冷戦が長く続き、中国の力が削がれた場合、中露対立が激化することは必至です。そうして、その状況はしばらくは変わらないでしょう。

現状は、国力特に経済の開きがあまりにも大きすぎるため、さらにロシアは人口密度の低い極東において直接中国と国境を直接接しているという特殊事情もあるため、ロシアが中国に従属しているように見えるだけです。

しかし、プーチンは強いロシアを目指しており、文在寅のように自ら中国に従属しようなどという考えは毛頭ありません。

その実、ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方です。これはいずれ、中国に向かって大きく噴出します。

その時こそが、日本の北方領土交渉を有利に進められる絶好のタイミングなのです。また、米国が最終的に中国を追い詰めるタイミングでもあるのです。

このように、中露がパートナーの域を超えて、本格的に同盟関係になることは考えにくいです。それは、コロナ禍を経て、ロシアがウクライナに侵攻した現在でも変わりは、ありません。

なぜ、そのようなことを言えるのとかといえば、最近習近平がロシアを訪問しましたが、その後のロシアの態度をみていればわかります。

ロシアを訪問した中国の習近平国家主席とプーチン大統領は先月21日、モスクワで首脳会談終了後、共同声明を発表しました。その中の第7項に、すべての核保有国は「核兵器を自国領土の外に配備すべきではないし、外国に配備された核兵器は撤収しなければならない」とありました。

2022年2月4日、北京冬季五輪の開会式に出席したロシアのプーチン大統領。居眠りしたとされる。

1年前、プーチン大統領は、北京冬季五輪の開会式に出席しましたが、五輪直後にウクライナ侵攻をしました。これで中国の習近平の面子は大きく傷つけられたはずですか、またしても中露共同声明後、わずか1週間でそれをほごにするようなベラルーシ核配備をプーチン大統領はは宣言しました。これで、習近平はまたしても面子を潰されました。

ベラルーシは、ロシアの隣国であり、これでロシアから核を発射しようがベラルーシから発射しようがあまり変わりありません。

これは、ロシアはウクライナに手を焼いているので、ベラルーシを使ってウクライナや、これを支援する西側諸国などを恫喝しているように見えます。

ただ、これだけ面子を傷つけられても、習近平としては、プーチンを責めたり、ロシアを制裁するようなことは、なかなかできません。


なぜでしょうか。ロシアは国際法を破って独立国を侵略した無法者です。中国が普通の法治国家であればロシアを非難していたでしょう。しかしプーチン氏が負ければロシアは民主化する可能性があります。中国にとってそうなっては困るので、プーチン氏にしっかりネジを締めに行ったといいうのが本当のところでしょう。

そうして、それに対するプーチンの答えは、習近平の思惑を見透かした上で、先程示したように、「ベラルーシへの核配備」宣言でした。

プーチンとしては、習近平などにネジを巻かれるつもりもないし、自らが失脚などした場合、ロシアが民主化され、窮地に追い込まれるのは、習近平の方だと、釘を刺したのでしょう。

こうした、両国の関係をみていると、とても同盟関係に入ることなど考えられません。同盟関係に入るということは、ロシア側からすれば、自ら中国の属国になるようなものです。プーチンや習近平のような独裁者は、自国が他国を属国にしてきたという歴史から、属国になることが何を意味するのか十分理解していると考えられます。

プーチンは、それは断じて避けるつもりなのでしょう。しかしながら、ロシアが民主化されれば、窮地にいたるのは中国であり、それを避けるためには、過去のロシアに対する支援を継続するようにと釘を刺したのです。

ただ、この試みが成功するかどうかは、わかりません。何しろ、プーチンは、ウクライナに対して、侵攻するとみせかけ、ゼレンスキー政権をウクライナから追い出し、ウクライナにロシアの傀儡政権もしくは、新ロシア政権をつくり、ウクライナを西側諸国に対するロシアの盾もしくは、緩衝地帯にしようと目論んだつもりなのですが、その目論見は現状では大失敗をし、全く意味をなしていません。

プーチンは、対中国政策でも、失敗する可能性があります。ただ、我々西側諸国としては、中露を同盟国のように考えるのではなく、場合によっては、かつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭においておくべきです。

特に、中国が経済的に相対的に衰え、ロシアと拮抗するようなことにでもなれば、その可能性は高くなるとみるべきでしょう。

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2023年4月9日日曜日

「中国の軍事力を強大だとするのは神話に過ぎない」 著名な軍事研究家が断言するワケ―【私の論評】人口比で比較してみると、中国人民解放軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえない(゚д゚)!

「中国の軍事力を強大だとするのは神話に過ぎない」 著名な軍事研究家が断言するワケ


 軍事史、軍事戦略研究、安全保障論を専門とし、『ルトワックの日本改造論』や『中国4.0 暴発する中華帝国』などの著書で知られる戦略家のエドワード・ルトワックは、増加し続ける中国の国防費を真に受けるべきではないと語る。「その金額が示すほどには、実質的な軍事力を強化できていない」と彼が言い切る理由とは──。

米中の国防費を読み解く

 中国最後の穏健派、前国務院総理の李克強が2023年の経済成長率の目標として5%を掲げ、さらなる市場の自由化を求めた翌日、習近平はこれに反応し、国防費を7.2%に引き上げると発表した。

 これは習の一貫した攻撃的姿勢を示すものであり(ナンシー・ペロシの台湾訪問に対する反応として、一連の弾道ミサイルを発射したことは記憶に新しい)、中国が2049年までに世界の覇権を握るという党の公約にも通ずる。

 とはいえ、この数字は現実には何を示しているのだろうか?

 発表されているところでは、今回引き上げられた国防費は総額1兆5600億元であり、現在のレートで約30兆円に相当する。もしこれが事実なら、中国は米国に大きく遅れをとっていることになる。というのも、米国の2023年度の国防費は7970億ドル(約105兆円)に達しているからだ(この数字には軍事施設の建設費用やウクライナへの救援費は含まれていないため、実際はもっと多い)。

 専門家たちは、中国の国防費もまた、実際より大幅に低く示されていると考えている。細かく改ざんされているというよりは、国防費から丸ごと除外されている項目があるのだ。たとえば、軍の研究開発費は非軍事予算に計上されている。

 中国の実際の国防費を明らかにするため、また米国の国防費から何が抜け落ちているのかを見極めるために、両国にエリート調査員の軍団を送り込んだとしても、彼らが実際にどの程度軍事力を強化しようとしているのかは、おぼろげにしか見えてこないないはずだ。

 ただ、確実に言えることがひとつある。両国とも、公表された国防費の上げ幅が示すほどには、実質的な軍事力を強化できていないということだ。

中国軍の深刻な人手不足

 中国の人民解放軍の場合、陸軍および海軍で人員不足により軍事費が削減されている。近い将来、空軍にも影響が及ぶだろう。陸軍の人員は現在97万5000人だが、この数字は14ヵ国と2万2000キロに及ぶ国境を接している国としては非常に少ない。

 これらの国のなかには、エンジンが機能しなくなる超高山地帯や、遠隔地の監視が困難なジャングル地帯、密輸のはびこるロシアとの国境地帯が含まれている。また、インドとの国境にある係争地ラダックでは、両国が陸軍を大規模動員する事態となっており、中国側の国境には少なくとも8万人が送り込まれている。

 いまや戦地になりつつあるラダックは別として、国境は軍隊ではなく、国境警備隊によって防衛されることになっている。かつて中国は国境付近にも軍を配備し、多額の予算を投じていたのだが、いまでは廃止されている。それは、人民解放軍の陸軍がきわめて小規模であるのと同じ理由からだ。すなわち、この地域での兵役を志願する健康な中国人男性が、壊滅的に少ないのだ。

 対照的に、都市部ではこうした深刻な人手不足の心配はないようだ。知人いわく、その結果、中国・チベットとネパールの国境地帯で奇妙な現象が起きているらしい。広東から来たよそよそしい都会の警官の一団が、チベットに入ろうとする旅行者をチェックして「国境を守っている」というのだ(彼らは2ヵ月間この仕事を「押し付けられた」と言っていた)。

 中国共産党の強力な中国人民武装警察部隊(フランスの国家憲兵隊、イタリアの国家憲兵隊と財務警察、スペインの治安警備隊に相当する)ですら、若い中国人男性たちに志願してもらえず、その影響を受けている。

 150万人という隊員数は多いように思われるが、人口が中国の5%、わずか6000万人に留まるイタリアの国家憲兵隊および財務警察には、人民武装警察部隊の10%に相当する15万人が属している。さらにイタリアの場合、新疆のウイグル人やカザフ人、チベットの牧夫たち、激しく不満を募らせるモンゴル人らを囲い込んで統制するために、大規模な武装人員を配置する必要もない。

Edward Luttwak

【私の論評】人口比で比較してみると、中国人民解放軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえない(゚д゚)!

上の事例では、残念ながら日本の例はでてきませんが、これは割り算をすれば、ある程度簡単に比較できます。

上の記事にある通り、陸軍の人員は現在97万5000人です。中国の人口は現在14億人、日本は1億2千万人です。人口では、中国は人口11.7倍です。計算を簡単にするため、11倍とします。

陸自の令和2年度末の人員は、常備自衛官15万0695名、即応予備自衛官は7,981名で、年間平均人員は約14万0347名です。これも計算を簡単にするために、14万人とします。

中国の陸軍に換算すると、日本の陸自は14万人✕11=154万人ということになり、これは中国の陸軍より圧倒的に多いです。

中国陸軍

こんなのは数字のマジックであり、軍人数は実数で扱うべきという人もいるかもしれませんが、自衛隊や普通の国の軍隊は、国民を守るが責務であり、この比較自体は数字のマジックとはいえないでしょう。ルトワック氏の上の記事で、イタリアの事例を出していますが、これも人口をを切り口として比較しています。

国土だけを比較の対象とすれば、中国のように、人が住める地域が少なく、住んでいる地域は点と線に限られているといわれるような国では国土を目安にするのでは客観的な比較はできないでしょう。人口を切り口としても、正確とはいえないですが、国土よりははるかに正確といえるでしょう。正確な比較はできないものの、ある程度の目安にはなるでしょう。

では、海自と空自ではどうなのでしょうか。

海自の人員は、定員45,329人(現員43,419人 充足率95.8%)である。 令和4年度(2022度)の予算額は約1兆2922億円 基地の数は約31です。

これに対して、中国海軍はどうなのでしょうか。

2017年版ミリタリーバランスによると、海軍人員数は、現役総員約235,000名の内、海軍航空部隊約26,000名、陸戦隊(海兵隊)約10,000名が含まれるとしています。
海軍司令員: 董 軍海軍大将
海軍政治委員: 袁華智海軍大将
現総人員: 約29万人
本部: 北京市
これも海自の定員数4万4千人として11倍にしてみると、約44万人であり、これも中国海軍より圧倒的に多いです。

中国海軍

空自はどうなのでしょうか。空自の現員数は、2022年では、43,720人とされており、これも計算をやりやすくするため、4万3千人とします。

では、中国空軍はどうなのでしょうか。ウィキペデイアによれば、総兵力39.5万人(空挺部隊を含む)とされています。

空自の現員数43,000人✕11=473,000人の換算となります。これも、空自のほうが多いです。

これらの比較は、無論正確ではないので、これで単純比較はできないものの、それでもさすがに人口比で比較してみると、中国軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえないという結論にはなるでしょう。

中国空軍

さらに、中国の軍隊は他国の軍隊と異なり、中国共産党の下に直結しており、国民を守る軍隊ではありません。いわば共産党の私兵のような存在です。そのため、もし戦争になっても、共産党を守る義務はありますが、国民を守る義務はありません。実際に戦争になれば、人民解放軍は中国共産党は守るかもしれませんが、国民は放置するかもしれません。

そのため、14億人も存在する国民を守る義務がないので、身軽といえば身軽ですが、暴動が起こったときには武装警察がこれを弾圧する任にあたりますが、大規模になれば、人民解放軍がその任にあたります。そのため、その身軽さも帳消しになっているといえます。

これは、中国のGDPについても同じようなことがいえます。実は、中露は一人あたりのGDPはいずれも1万ドル(日本円では100万円)を少し超えた程度です。ただ、ロシアの人口は1億4千万人であり、中国のそれは14億人であり、丁度10倍であり、GDPでも中国は国家単位では、ロシアの10倍です。

日本を含むG7諸国も一人あたりのGDPでは中露を下回る国は一つもありません。中国は世界第2の経済大国といわれていますが、一人あたりでは全く西側諸国には及ばないのです。軍事力もこれと同じであり、人口比で比較すれば、中国の軍事力はとても強大とはいえないのです。

しかも、現在の日本は米とは同盟関係、英豪と実質的な同盟関係にありますが、中露は同盟関係とみなす人もいますが、実際には同盟関係とはいえず、パートナーシップ程度のものです。同盟関係のない中国は不利であるのは間違いないです。

以上の計算は、コロナ感染者数や死亡者数の報道を彷彿とさせます。私は、民放のコロナ感染者数、死者数の報道には現在もイライラします。なぜなら、民放では未だに、都道府県単位で実数だけを報道するからです。

東京都は人口1396万人、島根県は人口66.52万人です、にもかかわらず実数だけで報道されると、東京都と島根県ではどちらが深刻なのかすぐには判断できないのでイライラします。

このようなことをなくすため、感染症学では県や都市などは、10万人あたりに換算して統計を出します。国単位では、100万人あたりに換算して出します。こうすることによってある程度客観的に比較できます。確かに、各都道府県で状況は違い、正確無比な比較などできないですが、それても、深刻さの度合い等が伝わります。

NHKでは今では感染者、死者数の発表するときは、各都道府県の10万人あたりに換算した数値を公表しています。しかし、民放では今だに実数だけを公表するので本当にイライラしてしまうのです。

これに関して、私の知っている人の中にも、10万人あたりと言われても良くわからないという人もいますが、そういう人は、実数で出されたものもよく理解できているはずもないので、報道するときには、やはり都道府県別では、10万人あたりなどで公表すべきでしよう。これを理解できない人のことは考慮する必要はないと思います。

しかし、過去には高橋洋一氏が100万人あたりの数値で、日本や海外を比較して、海外と比較すれば、日本は「さざ波」程度と事実を発言して物議を醸しました。

このような日本ですから、中国の軍事力は強大という説のほうが日本国内では幅をきかせ続けるでしょう。

そうして、それは中国共産党を利することになりかねません。しかし、心ある人は中国を等身大に見て、判断すべきです。

ただし、だからといって、中国を軽視しろといっているわけではありません。先日もこのブログで述べたように、米国下院「中国委員会」のマイク・ギャラガー氏が指摘しているように、長期では中国よりも圧倒的に米国のほうが有利であり、長期的には中国は米国に対して手も足もだせず、弱体化する一方です。そのため、10年以内に中国は無謀な冒険に打ってでる可能性は捨てきれません。

特に、習近平は中国の力を過信して、そのような挙にでる可能性は捨てきれません。だからこそ、少なくてもここ10年くらいは日本も中国に対峙する姿勢を崩すことはできないのです。

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2023年4月8日土曜日

習政権に致命傷、中国各地で頻発するデモ 引き金の「白紙革命」で失った市民の信頼 「共産党は下野しろ」さらなる不満爆発の可能性―【私の論評】白紙革命は、中共が体制を変えるまで続く可能性が(゚д゚)!

ニュース裏表


ツイッターに投稿された、中国湖北省武漢市で2月8日に起きた抗議デモの一場面とされる画像

 中国各地で市民によるデモが今年に入って頻発している。こうした動きについて、当局に統制されている中国メディアはほぼ報じない。だが、中国内にいる知人らから、デモを撮影した映像や画像が送られてくる。

 正確な件数は分からない。ただ、筆者が把握しているだけで、この3カ月間で内陸部の湖北、河南、四川などを中心に数十カ所で起きている。抗議の対象は、地元政府による医療保険制度の変更から、マンションの管理方法に至るまでさまざまだ。

 厳しい監視体制を敷いている中国でこれほどデモが起きるとは、筆者は想像できなかった。全土に約2億台の顔認証機能付きを含めて約20億台の監視カメラをいたるところに配備して、「天網システム」と呼ばれる監視システムを築いている。14億人の国民の居場所を1秒あまりで特定でき、デモを集うことは不可能だと思っていたからだ。

 なぜ、鉄壁の監視体制にもかかわらず、デモが頻発しているのであろうか。

 今月3日に発売した共著『習近平・独裁者の決断』(ビジネス社)で、中国出身の評論家、石平氏と対談した。

 直接の引き金となったのは、昨年11月の「白紙運動」だったという見方で2人は一致した。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に押さえ込む「ゼロコロナ」政策に反対する人々が、白紙を掲げて抗議したのだ。

 新疆ウイグル自治区ウルムチ市で火災が起きた際、ロックダウンの影響で消防車の到着が遅れて10人が死亡した事件がきっかけだった。上海市を皮切りに各地で「ゼロコロナ政策」への抗議運動が広がった。

 中には、「共産党は下野しろ」「習近平主席は退陣しろ」というプラカードを掲げる参加者もいた。これを受け、中国政府は「ゼロコロナ政策」を撤回に踏み切った。

 1989年の天安門事件に参加した石氏は、当時と比較した。

 「(天安門事件では)民主化を求めてはいても、共産党の統治そのものを否定する要求はなかった。共産党や習近平氏への批判が叫ばれた今回のデモは、まさに驚天動地だ。さらに、その後の『ゼロコロナ政策』の突然の撤回で感染拡大するなど、混乱をもたらしたことで『最後は政府が守ってくれる』という中国政府と国民との間で長い間かけて築き上げてきた信頼関係が崩れてしまった」

 筆者は「白紙革命」によって、政府が政策転換に追い込まれたことが重要だと考える。つまり、市民が今回のデモを通じて、「団結して声を上げれば、鉄のように固いと思っていた共産党を動かした」という成功体験を得たのだ。だからこそ、「中国内では今後、同様のデモが起きる」と予測していた。

 「ゼロコロナ政策」を長年続けたことで、ロックダウンやPCR検査費用の負担が増え、地方政府の財政は急速に悪化している。市民生活にもしわ寄せがきている。今後、政府への信頼を失った市民による不満がさらに爆発する可能性がある。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)

【私の論評】白紙革命は、中共が体制を変えるまで続く可能性が(゚д゚)!

「白紙デモ」については、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国「白紙革命」の行方―【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から長いですが、一部を引用します。
中国共産党が人間を家畜並に扱うとすれば、いずれ行き着く先は、鳥インフルエンザが発生した時に、これが蔓延しないように、鶏を殺処分するように、豚コロナが発生したときに、豚を殺処分するように共産党の都合で、人間も殺処分しかないという、恐怖を多くの国民が感じたことでしょう。

そのような懸念は、過去の毛沢東の大躍進政策や、ウイグル人を閉じ込め虐待して、挙句の果てに殺したり、臓器売買のために人を殺したりなどで、薄々多くの中国人も気づいていたのでしょうが、ただこれまでは、そのように殺戮される人たちは、少数民族であるとか、運の悪い人、異教徒などであり、自分とはあまり関係ないと、自らに言い聞かせ、そう信じ込もうとしてきたのでしょう。

ただ、その恐怖は潜在意識の中には埋め込まれていて、何かのきっかけで、顕在化する状態にあったものと思われます。

それが、今回のゼロコロナ政策によって、顕在化してきたのだと考えられます。今回の全国的なデモを単純なゼロコロナ政策への反対であるとみるべきではありません。

今回の「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えができあがりつつあります。

ただ、これを理念と呼ぶには、まだ次元の低いものです。恐怖・憎悪の念は一時的には、多くの人の共感を呼びますが、それだけでは、一時的にも恐怖や憎悪が収まれば、消えてしまいかねません。プーチンは、NATOに対する恐怖や憎悪の念で、国民をまとめ、高支持率を獲得しましたが、その目論見はウクライナ侵攻では、裏目にでています。

「理念」は「物事に対して“理想“とする”概念“」のことで、「こうあるべき」というベースの考え方を指すものです。 企業では、会社の方針や社員に求める行動指針などを表現する時によく使われます。

中国においても、この恐怖・憎悪の念がいずれ誰かによって昇華され、中国国民であれば、誰もが共感できる「理念」に変わっていくかもしれません。国民国家には、「こうあるべき」という規範が必要なのです。

その誰かは、まだ見えてきません。ただ、この共通の理念となるかもしれない中国共産党に対する多くの中国国民の恐怖・憎悪の念は、容易なことでは覆されることはないでしょう。なせせなら、これは従来とは異なり、立場や社会的地位を乗り越えてかなり多くの中国人に共有されることになったからです。

今回も中国共産党は、必要があれば、天安門事件のように弾圧して、情報統制をして、何もなかったかのように取り繕うでしょう。

しかし、今回の中国共産党に対する恐怖・憎悪の念は、これからも長くくすぶり続けるでしょう。そうして、いずれは、誰かが、新たな理念を生み出し、それによって新たな中国が生まれるかもしれません。

中国人とか中国という概念は、あくまで中国共産党中央政府が作り出した概念であって、 中国という国を、日本のように明確な1つの国と考えるのは間違いです。広大な国土に、14億人の人口を抱えており、90%以上を占める漢民族のほか、政府が公認しているだけで55の少数民族を持つ多民族国家だ。

しかも経済発展に関しては、高成長を享受した沿岸部と、成長から取り残された農村部などが混在し、「1つの国の中に、いくつかの国が存在する」と捉えたほうが事実を的確に言い当てているといえます。

さらに、にわかりにくいのは政治体制です。基本的には、1949年の中華人民共和国の成立後、共産党が一党独裁体制をとっています。中国は、現在でも共産主義の国でありながら、資本主義経済の象徴とも言うべき株式市場を持っています。

そのため、政治の教義は共産主義である一方、経済活動の多くは市場のメカニズムに依存する複雑な仕組みになっており、これは共産主義というより、国家資本主義とでも呼んだほうが良いです。中国共産党が運営する資本主義国家とでもいうのが相応しいかもしれません。

ただし、現在でも国有企業やかつての国有企業、さらには地方政府が、経済の多くの分野で重要な役割を果たしています。

さらに、中国は未だに日本を含む西側諸国では、当たり前の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていません。政治家は存在せず、よって国会なと存在せず、西側諸国でいうところの官僚ばかりの国ともいえます。

そうした事情がわからないと、中国のことを理解するのは難しいです。

中国は、1978年以降、当時の鄧小平が進めた改革開放路線によって、共産主義的な計画経済から次第に市場型経済へと移行しました。1989年の天安門事件の発生などによって、一時的に市場経済への歩みが止まることはあったものの、経済の効率化などもあり、中国経済は本格的な経済成長への道を歩み始めました。

日本の新幹線の乗った鄧小平

1990年代中盤以降は、“世界の工場”の地位を勝ち取り、今や世界第2位の経済大国へと上り詰めました。ところが、一人あたりのGDPということになると、1万ドルを多少超えた程度てあり、日本はもとより、韓国や台湾よりもはるかに低いです。中国を世界第二位の経済大国にしているのは、一重に14億人という人口の多さだけです。そのため、ほんの一人握りの国民が富裕層ですが、今で数億人の貧困層が存在します。

このような中国では、自らを中国人と考え、中国の一つの国と考えるのは、政府がそう仕向けてきたからですが、それでも、利害関係や立場は一様ではありません。無論、それは日本を含めていずれの国でも同じで多少の違いはありますが、中国ほどの違いはありません。

まずは、経済的には富裕層と貧困層で雲泥の差があり、とても互いに理解し合えるようなことはありません。先にあげたように民族の違いもあります。さらに、言語の違いもあります。宗族の違いもあります。

漢民族というと、古代から連綿と続いてきた概念であると思われがちですが、漢民族が自他ともに民族として認識されたのは日清戦争以後であり、中国国内の少数民族との相対において自覚されたのです。

したがって近代に形成された漢民族は、それ以前のおよそ3000年にわたる諸集団との融合によって形成されてきたといえます。言語の漢語は漢民族という概念の成立以後、北京(ペキン)官話を共通語として採用したものです。漢語はシナ・チベット語族に属し、多くの方言に分岐しています。

このように統一感がもともと希薄な漢人と、少数民族で構成される中国は政府により規定された、中国や中国人という概念を強制されてきたのですが、その本質は現在米国社会が分断されているなどといわれる以上に分断していたというのが実体です。

しかし、その中国人が「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致したのです。そうして、中国共産党の「ゼロコロナ政策」変更させたのです。

上の記事では、"全土に約2億台の顔認証機能付きを含めて約20億台の監視カメラをいたるところに配備して、「天網システム」と呼ばれる監視システムを築いている。14億人の国民の居場所を1秒あまりで特定でき、デモを集うことは不可能だと思っていたからだ"とありますが、その本質は何かといえば、やはり中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致したことが大きいでしょう。

確かに、監視カメラやAIを用いた監視カメラが稼働していれば、仔細に国民の動きを把握することはできます。しかし、ある中国共産党への恐怖・憎悪で一致した国民が、全国的に同時多数でデモを起こせば、それを仔細に把握できたとして、それを弾圧する数に限りがある、武装警察や人民以下方軍を全部のデモに鎮圧に派遣できるかといえば、それは不可能です。

中国では、建国依頼毎年数万全国で暴動が起こっていたといわます。2010年あたりからは、毎年10万を超える暴動が起こっているとされています。この頃から政府は、暴動の件数などの統計を発表するのをやめています。

それだけ、暴動があったものの、個々の暴動は、互いに関連性は希薄で、互いに無関係に行われてきたのでしょう。そのため、弾圧は比較的簡単にできたものと考えられます。

しかし、「白紙革命」からはそうではなく、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致した人たちが、互いに関連性を持って、全国一斉にデモを起こしたのでしょう。これでは、一部を鎮圧したとしても、全部は鎮圧できません。

香港中文大学で行われたウルムチの死者への追悼式で、白紙の紙を掲げる学生たち(2022/11/28)

この動きは最早止められません。今後「ゼロコロナ政策」以外の分野でも、全国民が一致してデモを起こすことでしょう。それに対して、政府はこれを鎮圧できずに、方針を変えるということもあり得ると思います。

これから何度もなされるようになれば、中共も体制を変えざるをえないようになるかもしれません。そうなれば、もはや中国の人々、中国共産党への恐怖・憎悪の念だけでは一致できなくなるでしょう。それでも、壊れた中共のかわりに新たな体制を築く必要があり、改革はすすめなければならなくなるでしょう。

そうなると、中国は共通の理念や利害で結集できる、いくつかの国に分裂して、新たな国を築くことになるかもしれません。すぐにそうなることはないでしょうが、数十年にわたって「白紙革命」は、この次元まで継続されることも十分ありえます。

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2023年4月7日金曜日

南西有事想定、地形把握図る必要 陸自ヘリ事故―【私の論評】ヘリ墜落は、中国の偵察気球やドローンに衝突したという可能性を未だ否定しきれない(゚д゚)!

南西有事想定、地形把握図る必要 陸自ヘリ事故


 沖縄県の宮古島付近で起きた陸上自衛隊のヘリコプター事故では、九州南部を管轄する第8師団の坂本雄一師団長が事故機に搭乗し、行方不明になった。約5千人の部隊を擁する第8師団は、南西諸島有事の際に沖縄方面へ機動展開する主要部隊と想定されており、今回の飛行は、いつ有事が起きても対応できるよう備える目的もあったとみられる。

 「機体に搭乗していた坂本陸将ほか9名について、現在も発見に至っておりません」。浜田靖一防衛相は7日朝の記者会見で、夜を徹した捜索活動でも乗員の発見に至らない状況を声を詰まらせながら説明した。

 陸自は戦闘部隊や後方支援部隊などで構成され、基本的な作戦部隊となる数千人規模の師団と、より小規模な旅団を15地域に置く。沖縄県を管轄する第15旅団以外は全て機動展開部隊で、とりわけ中国の軍事的圧力が強まる先島諸島での有事には、近接する第8師団から一定規模の部隊展開が見込まれる。

 宮古島を含む南西諸島に展開する部隊は艦艇や航空機で島に上陸するため、島内の平らな場所や海岸部分の地形をあらかじめ把握しておくことが求められる。陸自元幹部は「師団長であっても部隊とともに現場へ向かうことはある」と話す。

 今回の飛行計画は、偵察飛行の「訓練」として行われた。自衛隊では、上層部の作戦指示による「任務」でない行動を現場指揮官の判断で行う場合は「訓練」の形をとる。坂本氏は3月30日付で師団長に着任したばかりで南西地域での勤務歴が乏しかったといい、ただちに偵察訓練の実施を判断した可能性がある。

 政府は昨年改定した「安保3文書」で、南西諸島防衛の強化をさらに図る方針を打ち出した。ある自民防衛族議員は「事故が防衛力強化に水を差すことはない。むしろ安全装置を拡充するなど予算を増やすべきだ」と語った。

【私の論評】ヘリ墜落は、中国の偵察気球やドローンに衝突したという可能性を未だ否定しきれない(゚д゚)!

まずは、今回墜落したヘリに搭乗していた方々が、全員無事発見されることを願いたいです。

本日はPM9時に高橋洋一が、陸自ヘリ墜落に関して、「緊急生配信」をしていました。その動画を以下に掲載します。


詳細は、この動画をご覧いただものとして、この動画でも高橋洋一が語っていたように、自民党党国防部会(部会長・國場幸之助衆院議員)と安全保障調査会(会長・小野寺五典衆院議員)は4月7日、合同会議を開き、陸上自衛隊第8師団第8飛行隊のUH-60JAヘリコプターの航空事故について防衛省から報告を受けました。

同機は6日15時46分、沖縄県宮古島市にある宮古分屯基地を離陸。その10分後、宮古島の北北西海域にて航空自衛隊のレーダーから同機の航跡が消失しました。10人の隊員が搭乗していました。現在、自衛隊の艦艇や航空機、海上保安庁による周辺海域の捜索・救難活動が続けられています。現場海域を航行する船舶等への被害は確認されていません。

捜索において、当該機種のものとみられる油が海面に浮遊していることや、当該機種と製造番号が一致する部品が発見されました。10人の隊員はいまだ見つかっていません。

そうして、高橋洋一氏も動画で指摘していたとおり、注目すべきはこの合同会議の席においての報告では、「航空機事故」とは未だ断定していないとされていることです。

「航空機事故」でないとすると、撃墜されたのかということにもなりかねませんが、こちらの可能性は低いと思います。ミサイルなどでの撃墜ということになれば、それ以前にレーダーなどで、ミサイルの存在が発見されるでしょうし、墜落したとされるヘリコプター側でも、直前にそれを発見できるはずであり、「チャフ」や「フレア」を発射して回避行動をとるとか、少なくともミサイルで迎撃されそうな状態にあることを報告できたはずと考えられます。


航空機事故以外でもっともありそうなのは、高橋洋一も指摘していたように、ドローン等との衝突も考えられます。

実際中国の偵察気球問題を機に、防衛省が今年2月には、対領空侵犯措置に関する武器使用の基準緩和に踏み切っています。背景には気球だけでなく、南西諸島周辺に飛来する中国の無人機が領空侵犯した場合でも、排除しやすくする狙いがあります。対処基準を公表することで、挑発的な行動を抑止する意味合いも持ちます。

要件緩和により、無人機の領空侵犯に対しては、従来の正当防衛や緊急避難だけでなく、航空路の安全確保を目的とした武器使用が認められることになりました。

浜田靖一防衛相は記者会見で今回の緩和措置により「民間航空機の危険を排除することができる」と強調。気球以外の日本周辺に飛来する無人機への対応も「領空侵犯し、自衛隊が対処する場合には(緩和措置は)当てはまる」と明言しました。

防衛省によると、領空に接近する無人機に対し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)したケースは2013年以降で15件。今年1月にも中国軍の偵察型無人機が沖縄本島と宮古島間を相次いで飛行しました。

偵察目的とみられる中国の無人航空機が、沖縄県の尖閣諸島や宮古島付近に飛来する事例が相次いでいる。過去1年半で、領空侵犯の恐れがあるとして航空自衛隊の戦闘機が緊急発進したケースだけで12件に上りました。

政府筋は「台湾海峡の緊張が高まれば、日本の対応を試すために無人機による領空侵犯が起きてもおかしくない」と指摘する。「ウクライナ侵攻でも無人機が多用されており、気球問題が武器使用基準の緩和を後押しした」と指摘しました。

旅客機の巡航高度は1万メートル付近。無人機や気球はさらに高い高度を飛行しますが、情報収集のために高度を下げたり、制御不能になったりして民間航空路に進入する可能性もあります。

ジャーナリストの有森香氏は、偵察気球についての記事を書いています。その記事より一部を以下に抜粋します。
米国での「気球」事件の後、2月中旬から3月にかけ、わが国の日本海側に中国のものとみられる気球が多数飛来していた。当初、空自戦闘機が緊急発進(スクランブル)で監視したが、その後、数があまりにも多いことや、政治的影響に鑑み、日本当局は「対処しない」と決定した。
この多数の偵察気球は当然のことながら、宮古島を含む南西諸島にも到来していたとみられます。
 
なぜ、中国がこの海域にドローンを頻繁に飛ばして、偵察するかといえば、この地域は日本の対中国の防衛拠点だからです。中国としては、この地域を経由して南太平洋や西太平洋に行けば、最短距離でいけます。そのため、この地域の防衛拠点は、中国にとっては、かなりやっかいで、邪魔な存在なのです。

22年度内に石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が設置されました。19年の奄美大島や20年の宮古島に続いて地対艦ミサイル部隊が設置されました。地対空ミサイル部隊も設けて対空戦闘に備えます。

電磁波で敵の通信やレーダーを妨害する電子戦部隊を22年に南西諸島の3つの駐屯地・分屯地に設置しました。23年度には台湾に最も近い最西端の与那国島にも配置します。こうした南西諸島の防衛の強化については、以下の地図をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。


今回の陸自ヘリの墜落は、こうした中国の偵察気球やドローンに衝突したという事実は未だ発見はされていませんが、否定することもできない状況だといえます。今後の調査を待ちたいです。

いずれにしても、我々は今回のようなことが起こりかねないほど、南西諸島は緊迫していることを認識しなければなりません。

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