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2024年9月27日金曜日

中国最新鋭の原子力潜水艦が春ごろに沈没か 犠牲者不明 アメリカメディア報じる―【私の論評】中国最新鋭原子力潜水艦沈没事故:衛星写真で判明か、軍事力増強にダメージ

中国最新鋭の原子力潜水艦が春ごろに沈没か 犠牲者不明 アメリカメディア報じる

まとめ
  • 中国の最新鋭原子力潜水艦が2024年5月下旬から6月上旬に武漢近郊で沈没したと報じられ、事故の原因は不明であり、核燃料を積んでいた可能性が指摘されている。
  • 中国政府はこの事故を公表せず、隠蔽を試みたとされ、アメリカ当局者は犠牲者の有無や核物質漏えいの危険性についても言及している。
  •  沈没した潜水艦は引き揚げられたが、再出航には数カ月かかる見込みで、この事故が中国の原子力潜水艦増強計画に「大きな後退」をもたらすと分析されている。
AI写真ソフトで拡大修正してみやすくした写真

中国の最新鋭原子力潜水艦が2024年5月下旬~6月上旬に武漢近郊の造船所で沈没したとアメリカメディア(ウォール・ストリート・ジャーナル)が報じた。

専門家は核燃料搭載の可能性を指摘し、中国政府は事故を隠蔽したとされる。アメリカ当局者は犠牲者不明とし、核物質漏えいの危険性は低いとの見方を示した。

潜水艦は引き揚げられたが、再出航には数カ月かかる見込みで、中国の原子力潜水艦増強計画に「大きな後退」をもたらすと分析されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国最新鋭原子力潜水艦沈没事故:衛星写真で判明か、軍事力増強にダメージ

まとめ
  • 今回の事故に関して衛星写真と推測される画像が報道されているか、米軍の監視能力に関連するため詳細な説明は控えられているとみられる。
  • 2024年5月下旬から6月上旬に中国の造船所で、中国最新の攻撃型原子力潜水艦が沈没したとされる。
  • この事故は、中国の原子力潜水艦艦隊拡張計画に遅れをもたらす可能性があり、米シンクタンク、ヘリテージ財団のセドラー研究員は「かなり重大な事件」と評価している。
  • 中国の原子力潜水艦の数は米国に比べて大きく不足しており、今回事故は中国の潜水艦技術の成熟度に疑問を投げかける。
  • 現時点では事故の詳細や犠牲者の有無は不明であり、中国政府からの公式な確認もない。
上記の記事に掲載されている画像は、中国・武漢にある武昌造船所の衛星画像(6月13日)とされています。各メディアがこの写真を掲載していますが、特に詳細な説明はされていません。これは、米軍の衛星監視能力など機密性の高い情報に関わるため、解説が控えられていると考えられます。

画像の一部を拡大したものが下の写真です。4隻のサルベージ船と思われる船舶が取り囲んで作業している箇所に黒い影のようなものが確認できますが、これが当該潜水艦と推測されます。米軍は航空機などから微量な放射線の増減や種類を検知できるため、この付近で放射線の増減・種類などからこの潜水艦事故や潜水艦の型などを感知した可能性があります。


WSJの英語原文記事は以下のリンクから閲覧可能です:


中国の潜水艦沈没については、昨年も報道がありました。当時、このブログでも信憑性が低いことを指摘しました。その後、追加情報もなく、おそらく誤報だったと結論づけて良いでしょう。

しかし、今回の報道は衛星写真画像も掲載されており、信憑性が高いと思われます。

WSJの報道によると、この潜水艦は中国最新の攻撃型原子力潜水艦で、Type-093B(写真下)または商級改と呼ばれる可能性があります。潜水艦の具体的な仕様や能力については詳細な情報が提供されていません。


ヘリテージ財団のセドラー研究員は、この事故が中国の原子力潜水艦艦隊拡張計画に遅れをもたらす可能性が高く、「かなり重大な事件」と評価しています。

中国は近年、海軍力の強化を積極的に進めており、特に原子力潜水艦の開発に力を入れてきました。しかし、この事故により技術的な問題や安全性の再評価が必要となり、計画の遅延につながる可能性があります。

中国の海軍力増強は、アジア太平洋地域の軍事バランスに大きな影響を与える要因です。原子力潜水艦艦隊の拡張計画に遅れが生じれば、地域の軍事バランスにも影響を及ぼす可能性があります。

ヘリテージ財団のセドラー研究員

現在、中国の原子力潜水艦の数は依然として米国に大きく後れを取っています。一方米海軍は71隻の潜水艦を保有しており、その多くが原子力潜水艦です。

一方、中国の原子力潜水艦の正確な数は公表されていませんが、米国に比べてはるかに少ないと考えられています。推測では、おそらく10〜12隻程度とされています。この数の差は、中国が海軍力の拡大を急ぐ理由の一つとなっています。この隻数で一隻の沈没はかなりのダメージです。

さらに今回の最新鋭の原子力潜水艦の事故は、中国の潜水艦技術がまだ完全には成熟していない可能性を示唆しています。この事故は、中国の軍事技術力に対する国際的な評価にも影響を与える可能性があります。

セドラー研究員の発言は、この事故が単なる一過性の出来事ではなく、中国の軍事力発展に重大な影響を与える可能性があることを示唆しています。

ただし、事故の詳細や実際の影響については、さらなる情報や分析が必要です。現時点では、事故の具体的な詳細や犠牲者の有無は不明であり、中国政府からの公式な確認もありません。この情報は米国政府当局者の話に基づいており、今後の展開に注目が集まっています。

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2023年10月15日日曜日

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まとめ
  • ハマスがイスラエルを急襲し、「戦争状態」が発生
  • ハマスはパレスチナを代表せず、ガザ地区を支配し、イスラエル殲滅を目指す
  • 国際的に支持されている「二国家解決」へのバイデン政権の賛成が変化をもたらしている
  • 米国がイスラエルへの軍事支援を行うことで、ウクライナ支援が制約されている可能性。
  • 日本は台湾有事に備え、国際情勢が不安定であるため慎重な対応が必要

ハマスに誘拐された子どもたち(左は三歳、右は7歳) 写真はブログ管理人挿入

 ハマスによる急襲がイスラエルとの「戦争状態」を引き起こしている。ハマスはイスラエルの殲滅を目指し、パレスチナ全体を代表するわけではなく、特にガザ地区を支配し、パレスチナ人を抑圧してい。

 長い歴史にわたる紛争の背後には、第一次世界大戦中の英国の「二枚舌」政策があり、アラブ人とユダヤ人に独立国家を約束していたことが挙げられる。国際的には「二国家解決」が支持されており、バイデン政権はこれに賛成しているが、これに反対してきたイスラエルとの関係が変わりつつある。

 アラブ諸国は一般的にパレスチナを支持しているが、最近ではイスラエルとの関係改善が進んでおり、ハマスはこれを嫌っていた。ハマスの急襲は単なるテロ行為であり、平和的なイベントを襲撃し多くの人々を攻撃し、人質を取ったことがその明白な証拠だ。また、一部の報道では、イランがハマスを支援し、イスラエルに核兵器で対抗しようとしている可能性も指摘されている。

 米国はイスラエルに高い優先度を置いており、軍事支援を提供する見込みだ。これがウクライナ支援に影響を及ぼす可能性があると指摘されている。現在の国際情勢は不安定で、日本にも影響を及ぼす可能性がある。台湾有事が最も懸念されており、日本の対応についても検討が必要だ。この事件の解決が難航する場合、ウクライナ、イスラエル、北朝鮮に対する対応が影響を受ける可能性があるため、日本は慎重に行動しなければならない。

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まとめ
  • 現在の国際状況は複雑で不安定であり、第三次世界大戦のリスクは依然として極端な可能性に留まるものの、指導者の外交、国際協力、慎重な意思決定が重要である。
  • ウクライナ、東アジア、中東で同時に大規模な戦争が発生するリスクが存在し、誤った対応が世界的な大戦につながる可能性がある。
  • ロシアのウクライナ侵攻は複雑な要因によって引き起こされたが、バイデン政権の判断ミスも一因とされており、その教訓を踏まえた外交政策が必要。
  • 日本はアジアにおいて重要な役割を果たし、台湾有事に備えて米国と協力し、明確な戦略を採用すべき。
  • 日本は中国からの依存を減少し、貿易と同盟を多様化し、中国への制裁や貿易制限を強化すべき。また、台湾を支援し、北朝鮮問題にも積極的に対処すべき。

確かに現在は、国際的に複雑で潜在的に不安定な状況にあります。ただし、第三次世界大戦のような本格的な世界大戦のリスクは、依然として遠くて極端な可能性にとどまっているようにも見えますが、この状況は、世界の指導者による外交、国際協力、慎重な意思決定が重要なことを示していると思います。

一歩間違えると、ウクライナ、東アジア、中東で同時に大きな戦争になりかねません。今すぐにではなくても、各国の指導者が対応を間違えると、後に世界的な大戦になりかねません。

我々は、すでにそれに近いことを経験しています。わずか1年数ヶ月前までは、多くの人はロシアのような国が、情報戦などを駆使して、武力を背景としながらも、本格的に武力を使わずにクリミアを手に入れるようなことはあり得るにしても、今世紀に過去のような本格的な武力侵攻などないだろうと、考えていました。

しかし、その考えは、ロシアのウクライナ侵攻で見事に打ち破られました。一歩判断を間違えれば、このようなことはあり得ます。

ロシアのウクライナ侵攻は、複雑な要因が絡み合って引き起こされたものではありますが、バイデン政権の判断ミスもその大きな一因であったと考えられます。

バイデン大統領

バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻を阻止するために、ウクライナへの軍事支援を拡大し、ロシアへの経済制裁を実施しましたが、ロシアの侵攻を阻止するには至りませんでした。

バイデン政権の判断ミスとして指摘されているのは、次のようなものです。
  • ロシアの侵攻を過小評価した。
  • ウクライナへの軍事支援を遅らせた。
  • ロシアへの経済制裁を十分に実施しなかった。
バイデン政権は、ロシアがウクライナに侵攻するとは考えていなかったようで、侵攻を阻止するための十分な準備ができていなかったと指摘されています。また、ウクライナへの軍事支援も、侵攻が始まってから遅れて実施されました。本来は侵攻前に行うべきでした。さらに、ロシアへの経済制裁も、当初は十分な効果がなかったとされています。

バイデン政権の判断ミスは、今後の外交や安全保障政策に大きな影響を及ぼす可能性があります。バイデン政権は、これらの判断ミスの教訓を踏まえて、今後の外交や安全保障政策を再構築していく必要があります。

ロシア、ウクライナ国境付近で、ロシアが大規模な軍事演習を行ったり、その後軍隊を撤収するとみせかけて、さらに大規模な軍隊を配置し続けた段階までに、これに対して厳しい対処をしていれば、ロシアのウクライナ侵攻はなかった可能性も十分にありました。

具体的には、米国はウクライナ、ポーランド付近の国境に大規模なNATO軍を配置したり、場合によってはウクライナ国内にも配置すべきでした。プーチンの核の恫喝に怯むことなく、プタペスト合意に基づき、すぐにロシアと協議するなり、協議に応じなかったり、応じても態度を改めなかった場合、ウクライナを守り抜くことを宣言すべきでした。ウクライナ侵攻を阻止する手立ては何段階においもありました。

もうすでに、現在唯一の超大国米国がこのような判断ミスをしているのですから、日本としても警戒を強める必要があります。特に台湾有事は十分にあり得ることを念頭において行動しなければなりません。

無論中国が台湾に侵攻するのは、このブログでも何度か指摘したように、一般に思われているよりはるかに難しいことですが、それにしても、中国が台湾をかなり破壊することは、侵攻せずともすぐにでもできます。

実際、ロシアのウクライナ侵攻はうまくはいっていませんが、それでもロシアはウクライナの多くの都市を破壊しています。ハマスもイスラエルに大量のミサイルを発射したため、イスラエルはこれに反撃したものの、全部のミサイルは撃墜しきれず、イスラエル国内に甚大な被害をもたらしました。このような惨禍はくりかえすべきではありません。

バイデン政権は、ウクライナでの失敗を繰り返さないために、中国が台湾を攻撃したり、侵略してきた場合、米国は台湾を軍事的に守ると宣言すべきです。それも、明確で揺るぎないものでなければならないです。そうして初めて、中国を抑止することができます。

日本はアジアにおいて重要な役割を担っています。日本はかつて安倍晋三氏がそうであったように、 台湾に関して「戦略的明確性」のある政策を採用するよう米国に強く働きかけるべきです。

安倍元首相

米国は、中国の台湾に対するいかなる武力行使や侵略にも軍事的対応を取ることを明確にすべきです。これが中国を真に抑止する唯一の方法です。日本の安全保障は台湾の民主主義に依存していることを強調しなければならないです。

米国が曖昧な態度をとれば、他の国々がいくら強硬な措置をとったにしても、中露北やハマスなどのテロ組織は自分たちのチャンスが到来したと、ぬか喜びすることになるでしょう。

さらに、特に北朝鮮のミサイルや中国の野望の脅威がある以上、日本は米国だけに頼ることはできないです。ミサイル防衛システムと海軍力をさらに拡充すべきです。

 日本は、オーストラリア、インド、ベトナム、台湾との協力強化など、中国を取り巻く戦略的軍事同盟に米国とともに参加すべきです。中国に対抗するための基地を設置し、合同演習を行うべきです。

 中国に対する制裁と貿易制限を強化し、中国の経済力を抑制すべきです。中国の国家に対する経済的強制は脅威であり、民主主義国家は団結してこれに対抗しなければならないです。主要産業への技術移転と中国の投資を制限すべきです。

中国からの圧力に直面している台湾に対し、外交的・経済的支援を行うべきです。台湾が独立を維持し、民主的な政府を承認し続けることを支援すべきです。

日本は、中国に過度に依存しないよう、貿易と同盟関係を多様化すべきです。TPP加盟国のように、民主的価値を共有するパートナーに焦点を絞るべきです。

バイデン政権に、北朝鮮問題にも直接関与し、非核化なしに制裁を解除することを拒否することで、北朝鮮のミサイル計画に厳しく対処するよう要求すべきです。北朝鮮は依然として危険であり、特に中国と協力しています。

ただ一方では、日本ではほとんど認識されてぃませんが、北朝鮮とその核の存在が結果として、中国の朝鮮半島への浸透が防いでいる面もあります。国際情勢は単純ではないのです。バイデン政権は、これを無視する可能性もあり、そうなれば、かえって朝鮮半島の危機は高まります。これに留意しつつも、北を抑制する方向に米国が動くように日本は働きかけるべきです。

北は、かつて日本人を多数拉致しています。そうして、韓国内で軍事行動を起こしたこともあります。

江陵浸透事件(カンヌンしんとうじけん)は、1996年韓国の江原道江陵市付近の海域において、韓国内に侵入して偵察活動を行っていた工作員を回収しにきた北朝鮮の特殊潜水艦(サンオ型潜水艦)が海岸に接近したところ座礁し、帰還の手段を失った乗組員と工作員26名のうち艦長以下11名が集団自決、他は韓国内に逃亡・潜伏し、大韓民国国軍がこれに対し掃討作戦を展開した事件です。

天安沈没事件は、大韓民国海軍の浦項級コルベット「天安」が2010年3月26日に朝鮮人民軍の魚雷攻撃で撃沈された事件です。日本では、外務省が韓国哨戒艇沈没事件と呼称した他、韓国哨戒艦撃沈事件との表記も見られました。

北朝鮮は日本に対してこのような行動をする可能性は否定できません。中国も、正規軍ではなく、民兵を使って、尖閣上陸、実効支配する可能性は否定できません。それで成功すれば、さらにエスカレートさせる可能性もあるでしょう。

バイデン米大統領と岸田首相 頼りない二人だが、世界の安保のためできるだけのことをしてほしぃ

今はそのような兆候はないかもしれませんが、長期にわたってそのような危機はありえないとの保証は誰にもできないでしょう。朝鮮半島有事、台湾有事があれば、日本に難民が押し寄せる可能性がありますが、かつて麻生太郎氏が語っていたように、その中に武装難民がいる可能性もあり得ます。仮にそうなれば、日本も現在のイスラエルのような立場になることもあり得ます。

日本は世界の出来事に影響を与える極めて重要な立場にあります。米国に主導権を発揮させながらも、脅威に対抗するために独自の行動をとることで、日本はウクライナやイスラエルのような事態を避けることができるでしょう。岸田政権はその責務を果たすべきです。

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2023年10月14日土曜日

中国の原子力潜水艦事故は本当に起きたのか?―【私の論評】黄海での中国原子力潜水艦事故報道の信憑性に疑問が残る軍事的背景(゚д゚)!

 中国の原子力潜水艦事故は本当に起きたのか?

山崎文明 (情報安全保障研究所首席研究員)

まとめ
  • 中国海軍の093型原子力潜水艦が事故を起こしたとされるが、中国政府は否定している。
  • 報道の発端は、中国に不利な虚偽情報と陰謀論を投稿することが多いYouTubeアカウント「路徳社」の動画である。
  • デイリーメールの記事を後追いしたロイターも、中国国防部がコメントを避けたと報じている。
  • 情報源が「デイリーメール」しかないため、フェイクニュースである可能性が高い。
中国海軍の093型原子力潜水艦

 2023年8月21日、中国海軍の093型原子力潜水艦が朝鮮半島西側の黄海で、中国軍が米英などの潜水艦を捕捉するために仕掛けた障害物に衝突する事故を起こしたと、英国のタブロイド紙「デイリーメール」が報じた。

 この報道は、中国に不利な虚偽情報と陰謀論を投稿することが多いYouTubeアカウント「路徳社」が投稿した動画が元になっている。路徳社の動画を見た、潜水艦の情報を専門とする軍事評論家のサットン氏が、8月22日に自身のTwitter上で「093型潜水艦が台湾海峡で沈没した」との情報を「真偽の程はまだ確認されていない」との警告付きで投稿したことで、さらに広まった。

 しかし、中国政府は8月22日に、台湾国防部も8月31日に、いずれも「ネットに流れている中国原潜沈没の情報については何ら証拠を持っていない」と否定している。また、デイリーメールの記事を後追いしたロイターも、中国国防部がコメントを避けたと報じている。

タブロイド紙 デイリー・メイルの紙面

 デイリーメール以外の情報源がないため、今回の報道は極めて典型的なフェイクニュースであると考えられる。原子力潜水艦の母港は、米英など西側諸国が軍事偵察衛星で常時監視しており、093型潜水艦が帰還すればすぐにわかるはずである。

 093型潜水艦の任務期間は3カ月から6カ月ほどである。この期間が過ぎても帰還しなければ、今回の報道は本当だったことになる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細ホ知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】黄海での中国原子力潜水艦事故報道の信憑性に疑問が残る軍事的背景(゚д゚)!

まとめ

  • 黄海は浅く、潜水艦事故はすぐに発見される可能性が高い
  • 米国や日本などの対潜戦能力は高く、事故を探知・報告する可能性が高い
  • 米、日、韓の軍事当局から確認されていない
  • 報道元は虚偽報道の過去がある
  • 中国も沈没を認めていない
黄海は比較的小さく浅い海域で、さまざまな国の船舶や潜水艦が頻繁に行き来しています。つまり、潜水艦の大事故を隠すのは難しいです。

さらに、日本、米国、その他の地域の国々の海軍は、高度な対潜水艦戦能力を有しています。もし中国の原子力潜水艦が黄海に沈んだとしたら、これらの海軍のいずれかがそれを探知している可能性がかなり高いです。 

Yellow Sea(黄海)の位置

黄海での中国原子力潜水艦の事故が公式には確認されていないこと、この事故に関する唯一の情報源が、虚偽で誤解を招くような記事を掲載してきた歴史を持つ英国のタブロイド紙であることは、この報道がフェイクニュースであることをさらに示唆しています。 

結論として、中国海軍の093型原子力潜水艦が黄海で事故を起こした報道はフェイクニュースである可能性が高いです。その主張を裏付ける信頼できる証拠はなく、疑うべき理由はいくつかあります。

黄海の最大水深は約 152 メートルです。平均水深は約 44 メートルで、全体的に浅い海です。さらは、黄海は日米やその同盟国の海軍によって厳重に監視されているため、大規模な潜水艦事故が見逃されることはほとんどあり得ません。

西側の軍や信頼できる情報筋からの報告がないことから、これはフェイクニュースである可能性がかなり高いです。監視衛星、哨戒機、潜水艦、水上艦船を含む米国の高度な対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)能力は、黄海における中国の潜水艦活動を綿密に監視しています。原潜の事故は即座に探知され、報告されるでしょう。

米国は中国の海洋進出を警戒しているため、中国海軍の弱点や脆弱性を公表することをためらわないでしょう。中国の潜水艦が沈没した場合、米国はおそらくこの情報を公開し、その原因も公表するでしょう。

日本もまた、この地域にかなりの対潜戦力を配備しており、中国の海軍の野心を制限することに米国と利害を共有しています。日本もまた、このような出来事について報告する可能性が高いです。日本は、過去には中国の潜水艦が領海を潜水したまま航行したことを公表し、マスコミも報道しています。

日米は、中国の潜水艦の行動をリアルタイムで把握するためのインフラ網を構築しています。このインフラ網には、衛星、航空機、海上艦艇、地中レーダー、潜水艦などさまざまな種類の偵察機器が含まれます。

日本の哨戒機P-1

2004年、中国海軍の原子力潜水艦が日本の領海を侵犯しました。この潜水艦は、日本列島の島々の間にある狭い海峡を航行していたため、日米軍事筋は「迷い込んだのではないのは明らかだ」と述べました。

日米は、中国の潜水艦活動を監視するために、さまざまな手段を講じています。このインフラ網のおかげで、中国の潜水艦が日本や米国等の領海を侵犯した場合でも、迅速に追跡して対処することが可能になっています。

米、日、韓の軍事当局からまったく確認が取れていないことは、この報告が信憑性に欠けることを強く示唆しています。

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2023年2月19日日曜日

中国軍がなぜ日米戦争史を学ぶのか―【私の論評】中国が日米戦争史で学ぶべきは、個々の戦闘の勝敗ではなく兵站(゚д゚)!

中国軍がなぜ日米戦争史を学ぶのか


【まとめ】

・中国人民解放軍が太平洋戦争の歴史を熱心に研究し始めた.

・中国側の動機は、今後起きるかもしれない米中戦争に備えることだと考えられる。

・人民解放軍は米軍との大規模な戦争を考えるうえで、太平洋戦争の教訓を活かそうとするだろう。


最近、中国人民解放軍が日米両国が戦った太平洋戦争の詳細な歴史を熱心に研究し始めたことがアメリカでの調査で明らかとなった。

中国側の動機は、今後太平洋の広大な海域で起きるかもしれない米中戦争に備えることのようだという。日本にとっても深刻な事態となる展望なのだ。

日本側としてはまず、アメリカとの戦争に備えるというような危険な隣国の存在を改めて認識すべきだろう。そのうえで同盟国のアメリカが中国側のそんな危険な動向を十二分に意識して、その対策をも考えているという現実を認識すべきである。

そうした認識はみな、日本自体の国家安全保障や防衛政策へと直結する基本点だといえよう。

アメリカの首都ワシントンに所在する安全保障の大手研究機関「戦略予算評価センター(CSBA)」は1月中旬、「太平洋戦争の中国への教訓」と題する研究報告書を公表した。

副題に「人民解放軍の戦争行動への意味」とあるように、太平洋で日本軍と米軍が戦った際の詳細を中国の今後の軍事行動への教訓にするという中国側の研究内容を調査し、分析していた。

約100ページの同報告書を作成したのはCSBAの上級研究員で中国の軍事動向については全米有数の権威とされるトシ・ヨシハラ氏である。

日系アメリカ人学者のヨシハラ氏は海軍大学教授やランド研究所の研究員を務め、中国人民解放軍の動向を長年、研究してきた。ヨシハラ氏は父親の勤務の関係で台湾で育ったため中国語に精通し、中国側の文書類を読破しての分析で知られている。

では中国はなぜいまになって70数年前に終わった太平洋戦争の歴史を熱心に学ぼうとするのか。ちなみにこの太平洋戦争を大東亜戦争と呼ぶことも適切だろうが、アメリカと日本の軍隊が主戦場としたのはやはり太平洋だった。

ヨシハラ氏は中国側のこの研究の目的について「近年、中国軍関係者による太平洋での日米戦争の研究が激増してきたが、その背景には習近平主席が『人民解放軍を世界一流の軍隊にする』と言明したように、2030年までには中国軍はとくに海軍力で米軍と対等になる展望の下で太平洋の広範な海域での米軍との戦争研究を必要とするようになったという現実があるといえる」と述べている。

ヨシハラ氏の分析では、中国が太平洋戦争での米軍の戦略や戦術、さらには日本軍の敗北要因を分析し、その結果、どんな教訓を得たのかを知ることはアメリカ側にとっても今後の中国の対米戦略を占う上で重要だという。

その目的のためにヨシハラ氏は中国側の人民解放軍当局、国防大学、軍事科学院などの専門家たちが2010年から22年の間に作成した太平洋戦史研究の論文、報告類、合計100点ほどの内容を通読し、分析したという。

中国側のそれら報告書類は人民解放軍内の調査文書や軍民共通の紙誌掲載の論文などから広範に収集されている。

そのような中国側の太平洋戦史研究の文書多数を点検したこの報告書はその膨大な中国側の太平洋戦争研究のなかで、分析をミッドウェー海戦、ガタルカナル島攻防、沖縄戦の3件にしぼり、中国側の考察の主要点を次のようにまとめていた。

ミッドウェー海戦

日本海軍が空母4隻を一挙に失ったこの戦いでは米軍は日本側の暗号を解読し、情報戦で当初から勝っていた。日本側は情報戦、偵察が弱かった。空母よりもなお戦艦の威力を過信していた。さらに日本側には真珠湾攻撃や東南アジアでの勝利での自信過剰があった。

ガダルカナル島攻防

アメリカ側の補給、兵站が圧倒的に強く、日米両国の総合的国力の差が勝敗を分けた。日本軍は米軍のガタルカナル島の飛行場の効果を過小評価し、空爆で重大な損害を受けた。日本軍は地上戦闘では夜襲と肉眼偵察を重視しすぎて被害を急増した。

【沖縄戦】

米軍は兵員、兵器などの物量で圧倒的な優位にあった。だが日本側は米軍の当初の上陸部隊を水際でもっと叩くことが可能だった。空からの攻撃が海上の巨大な戦艦(大和)を無力にできることを立証した。だが日本側の自爆の神風攻撃はかなりの効果をあげた。

以上の諸点からヨシハラ氏は中国側のこの太平洋戦史研究の全体の目的や、そこから得たとみられる教訓、考察などについて以下の諸点をあげていた。

 ・中国側は習近平政権の登場以来、太平洋戦争の研究の分量や範囲を大幅に増し始めたが、その原因は習近平政権がアメリカとの大規模な戦争の可能性を真剣に考慮するようになったことだろう。

 ・中国軍には近年、実際の戦闘経験が少なく、とくに海上での大規模な戦争の体験がない。アメリカとの全面対決ではやはり太平洋戦争での日米戦でのような広大な海域での衝突が予測されるため、太平洋戦の歴史はとくに大きな意味を持つようになった

 ・日本軍は最終的には敗れたが、その過程での先制の奇襲攻撃や自爆覚悟での神風特攻隊による攻撃はアメリカ側を揺らがせ、単なる物理的な次元ではなく、心理戦争というような側面でも大きな被害を与えた。

 ・アメリカ軍による日本軍の暗号解読などインテリジェンス面での米側の優位は個別の戦闘でも決定的な有利をもたらした。情報収集、偵察などのインテリジェンス戦が実際の最終戦闘の帰趨までをも決めることが立証された。

 ・ガタルカナル戦や沖縄戦での日米両軍の物量の圧倒的な差異は両国の総合的な国力の差から生じたことが明白だった。だからこんごの大規模な戦争でも当事国のとくに経済面での総合的な強さが軍事動向を左右することが再確認された。

 ・沖縄戦での日本の世界最大の戦艦「大和」の沈没が明示した海上戦闘での空軍力の決定的な効果は、戦艦よりも空母の威力、さらには海上での空戦でも地上基地からの空軍力の効果の絶大さを立証した

以上のような考察を述べたヨシハラ氏は、中国の人民解放軍が将来のアメリカ軍との大規模な戦争を考えるうえで、太平洋戦争からの以上の諸点を教訓として活かそうとするだろう、と結んでいた。

【私の論評】中国が日米戦争史で学ぶべきは、個々の戦闘の勝敗ではなく兵站(゚д゚)!

大東亜戦争において、日米は総力戦を戦ったのであり、個々の戦闘は確かに戦艦や空母、航空機が登場し、大掛かりで、しかも戦闘地域は、かつての陸の戦いよりは、はるかに広範な海域で行われ、長期間に渡って行われましたが、それにしても個々の戦闘にだけ注目していては、大事なことを見過ごすことになります。

第2次世界大戦中の米軍の傾向食糧「Cレーション」

日米の太平洋戦における中国の分析も、そうしてヨシハラ氏の分析にしても、重要なことを見逃していると思います。それは、いわゆる通商破壊(Commerce raiding)です。

通商破壊とは重要な海域を海上封鎖し、敵国の海上交通路を機能不全に陥れて兵站を破壊しようとする戦略のことです。

通商破壊戦を行う事、また敵国の通商破壊戦から自国の商船・輸送船を守る事こそ海軍の存在意義でもあります。

海上交通路を麻痺させる手段としては以下のようなものが挙げられます。
  • 敵国籍の艦船に対する海賊行為の奨励
  • 港湾施設への襲撃(艦載砲や爆撃を用いる事が多い)
  •  艦隊(潜水艦・水上艦)や航空隊(攻撃機・爆撃機)を派遣し、目標海域を通る船を撃沈して回る
  • 海峡や港湾に機雷を仕掛けて通行不能にする
これを最初に体系的に潜水艦(Uボート)を用いて効果的に行ったのがドイツです。これについては、以下の記事を参照願います。
戦争のやりかた一変! ドイツが始めた「無制限潜水艦作戦」とは? いまや弾道ミサイルまで
第二次世界大戦中の太平洋戦において米軍は、通商破壊を組織的に体系的に熱心に行いました。一方日本はそうではありませんでした。

これは、なぜなのでしょうか。まずは、日露戦争を経て確信となった佐藤鉄太郎の「制海的軍備優先思想=艦隊決戦至上主義」は、日 本海海戦の勝利のイメージと一体になって教条化したと同時にこの思想は東郷元帥の権威とあまって、日本ではいわば詔勅化し、犯し得ない聖域となってしまったことがあります。 

潜水艦が実戦で威力を発揮する兵器として登場したのは第一次大戦です。この潜水艦を日 本海軍が通商破壊戦に運用しようとしなかったのは、第一次大戦すなわち総力戦という戦争形 態の大きな変化に、それまでの戦い方を組織として適応させることができなかったことによると考えられます。 第一次大戦前の日本の海軍戦略は制海権、海上の管制を目的とする艦隊決戦至上主義でした。

日本は、日英同盟により英国の要請を受けて、1917年4月から、海軍・第二特務艦隊を地中海に派遣し、英国をはじめとする連合国の海軍の艦隊をドイツの潜水艦による脅威から連合国艦隊を守る任務に就きました。巡洋艦1隻と駆逐艦8隻、後には駆逐艦4隻も増派されますが、日本の艦隊は、地中海における業務の際、マルタ島とエジプトのアレクサンドリアを結ぶ地中海の海上交通路の護衛任務を中心に活動しました。

またさらに、日本の帝国海軍の活動は、地中海でアレクサンドリアとマルセイユとの間を結ぶ「ビッグ・コンボイ」と呼ばれる護送船団の基軸でもあったことは、日本人にはあまり知られていないことです。その時の犠牲者たちは、今もマルタ島のイギリス海軍の墓地などに葬られています。つまり、異国の地に眠っている日本の将兵も居るのです。

しかしながら、地中海におけるこの第二特務艦隊の護衛任務から得た貴重な教訓を、帝国海軍、つまり日本は無視することになりました。

無論、日本海軍に通商破壊の概念がなかったということではありません。あくまで、自由な通商破壊戦の前提としての海上管制を獲得する ための艦隊決戦優先主義でした。しかし、艦隊決戦そのものは、本来海上の管制のための手段にすぎないです。この手 段にすぎない艦隊決戦主義が戦争形態の変化にもかかわらず日本海軍においては、目的化し教条化し事実上の「詔勅」となっていたのです。 

日本では、総力戦という「新しい現実」も、艦隊決戦という視点から観察されました。そのため潜水艦とい う艦隊決戦の目的である「海上の管制という概念」の修正を迫る新兵器も、艦隊決戦にどう役 立てるか、どう資するかという形で取り込まれていったのです。日本は、今で言う空母打撃群を世界で最初に創設して、運用したのですが、これも艦隊決戦にどう役立つかという観点から組み込まれることになりました。

実は、日中戦争期の数度の演習の結 果、艦隊決戦に資する敵艦の漸減手段として潜水艦を運用することは通商破壊戦に運用するのに比し て効果的でないという現場からの所見が度々提出されていました。

ところがこうした、演習がもたらした新しい現 実にも、帝国海軍は組織としては機敏に反応することもなく従来からの運用方針を踏襲することになりました。

この選択は、 太平洋戦争の日米潜水艦戦に重大な影響を及ぼしました。特に潜水艦の生産という側面に勝敗を分 ける致命的結果をもたらしました。

 1941年時点での日本の潜水艦建造施設は三つの海軍工廠と二つの民間造船所の五ヶ所でした。
一方、米国は二つの工廠と一つの民間造船所の三ヶ所に過ぎませんでした。戦争に入ってから二ヶ 所の民間造船所が加わりました。

にもかかわらず、1942年から1944年までの潜水艦の両国の竣 工数は、90隻と171隻で、米国は日本の約2倍生産しました。1941年の時点で米国は潜 水艦の生産は通商破壊戦用を主目的とすることに決定していました。そのため、潜水艦の性能自体は、日本に比べて全ての点で見劣りする平凡なタイプのものに限定しました。

しかし、米軍はこの性能的に劣る潜水艦を有効に活用し、通商破壊はもとより、偵察活動も効果的に行いました。第二次世界大戦中米軍は、東京湾内に潜水艦を派遣して、頻繁に偵察稼働を行っていました。

さらに、米軍は体系的な通商破壊の一端として、飢餓作戦(Operation Starvation)を実施しています。これは、太平洋戦争末期に米軍が行った日本周辺の機雷封鎖作戦の作戦名です。この作戦は米海軍が立案し、主に米陸軍航空軍の航空機によって実行されました。日本の内海航路や朝鮮半島航路に壊滅的打撃を与えました。

飢餓作戦の一環でB-29爆撃機から投下されたパラシュート付きのMk26機雷

こうして、日本は米国との総力戦に負けたのでした。日本も決して手をこまねいていたわけではなく、たとえば、スーパーフォートレスと呼ばれた日本本土攻撃に加わったB29の搭乗員は米側の資料では、3千名以上が亡くなったとされていますが、これは日本の特攻隊員の4千名以上死亡者に匹敵する程の数です。ただ、特に通商破壊で痛めつけられた日本は、戦争末期には総力戦を続ける能力はほとんど残っていませんでした。

戦後も日本はこの反省に立ち、海上自衛隊の戦術思想や日本の海運に影響を残しました。特に掃海能力の向上につとめ、日本の海自の掃海能力は現在では世界一とも言われています。また、潜水艦の能力向上にもつとめました。さらに、対潜哨戒能力では米軍と並び世界トップクラス2まで技量をあげています。

中国は、こうした日米の総力戦の実態を学ぶべきです。個々の戦闘の勝敗も重要ですが、体系的に組織的に国単位での兵站を守るとか、敵方のそれを破壊するなどの戦略のほうが重要なのです。

このブログでは、兵站を重要視しないロシアを批判したことがありますが、海の戦いでも兵站は重要なのです。

中国は2020年南シナ海と東シナ海、黄海、渤海の4海域で同時に軍事演習を行うなど大規模な演習をしましたが、10月になると小規模なものに変化しました。しかも南シナ海で軍事演習を行ったですが、他の海域では行っていません。それに対して日米の合同軍事演習は、堅実にインド洋でも行っています。これは、何を意味するのでしょうか。結局兵站の差であるといえます。

軍事演習は定期的に行い、部隊の練度向上と練度維持に行われるというのが表の目的ですが、裏の目的は仮想敵国への政治的な恫喝です。

そのため米国は、中国共産党への対抗措置として合同軍事演習を行っているのです。政治の延長の仮想敵国への恫喝として軍事演習が行われているのですが、物資消費は実戦と同じです。

端的に言えば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧、重さではおよそ100キログラムです。2万人規模の一個師団なら、2000トンの物資を消費します。さらには、弾薬その他消耗品の補給も必要です。

米軍のMRE(Meals,Ready to Eat=携行食)

これを適宜補うためには、作戦本部が予め消費を予測し、生産・輸送・備蓄・補給がネットワークとして存在しなければならないのです。

人民解放軍の軍事演習は、上にも述べたように9月には4海域で同時に行われました。ところが1ヶ月を経過すると、人民解放軍の軍事演習は南シナ海などの一部で行う様になりました。これは中国共産党が、開戦初頭で敵を数で圧倒する構想を持つことの証左です。ところが1ヶ月を経過すると、人民解放軍の攻勢が止まることを示しています。実際、しばらくの間中国軍は大規模な演習はしませんでした。

これが、実戦となると、米軍は徹底的に中国軍の兵站を叩くことになるでしょう。イージス艦などの艦艇は無論のこと、航空機や、攻撃型原潜で中国軍の兵站はもとより、通商破壊も行うことでしょう。

これでは、中国海軍は長期間にわたり行動することはできません。

戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったというのです。端的に言えば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきたというのです。

エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎないのです。

中国が実際に海戦を戦うことになれば、何よりも重要なのは兵站であり、米軍は中国の兵站線を通商破壊で徹底的に破壊することは目に見えています。

戦に素人である、中国の人民解放軍は、日米間の戦闘や戦略ばかりに目がいくようですが、兵站と米軍の通商破壊力にも目を向けるべきです。

海戦においては、現在でASW(Anti Submarine Warefare:対潜水艦戦争)が重要であり、これが強いほうが、海戦を制します。米軍はASW能力は世界一です。これによって、米軍は戦略的にも有利ですが、通商破壊に関しても圧倒的に有利です。

現在の中国が米軍と海戦を戦うなど無謀の一言です。中国が学ぶべきは、第二次世界大戦中の日米の戦闘ではなく、兵站と通商破壊です。そうして、通商破壊も無論、味方の兵站を守り、敵方のそれを破壊することが目的であり、重要なのは兵站であり、戦略で勝てたとしても、こちらのほうが劣っていれば、総力戦に勝つことなどできません。

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2022年10月3日月曜日

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プーチンの傲慢さは、日露戦争の「悲惨なロシア」と酷似している

1904年2月、日本軍が満州でロシア艦隊を攻撃する様子

ウクライナ侵攻で苦戦するプーチンは、もはや後に引けなくなっている。その裏には、彼の過剰な自信と油断がうかがえる。かつて日露戦争で小国ニッポンを過小評価して敗北したニコライ二世のように、プーチンも同じ道を辿るのだろうか──。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自らを歴代のロシア皇帝になぞらえ、過去の輝かしい戦勝の記憶を国民に思い出させようとしている。6月、プーチンは18世紀の大北方戦争でバルト海沿岸地域の領土を「奪還し、強化した」ピョートル大帝(ピョートル一世)を讃えた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が長引くなか、歴史家からはプーチンを初代ロシア皇帝よりも、むしろ日露戦争(1904~05年)で莫大な被害を出したニコライ二世に重ねる声が上がりはじめている。

この2つの戦争に共通点があることは否定できない。ニコライ二世が日本を過小評価していたように、プーチンもウクライナはすぐに降伏すると思い込んでいた。

ニコライ二世がロシア海軍の敗北によって面目を失ったように、プーチンも想定外の苦戦を強いられている。特にロシア軍の黒海艦隊の旗艦がウクライナの攻撃を受けて沈没したことは象徴的な敗北となった。それだけではない。日露戦争でロシア軍が繰り広げた残虐行為がニコライ二世の統治に影を落とし、ロシアの国際的地位を傷つけたように、ウクライナでの戦争はロシアとプーチンの評判に深刻な打撃を与えている。

「日本に勇気があるはずがない」という思い込み

もちろん、この2つの戦争には違いもある。最大の違いは、日露戦争はロシアではなく日本が仕掛けた戦争だったことだ。

また、ニコライ二世の傲慢さの背景には、人種差別的な側面があった。「大国ロシアにとってアジアの国など恐れるに足らず、日本にロシアの軍隊を攻撃する勇気などあるはずがない」という考えだ。しかし1904年2月4日の夜、この思い込みは粉々に打ち砕かれた。日本の駆逐艦隊が満州の旅順港に停泊していたロシア艦隊に奇襲をかけたのだ。

日露戦争の背景には、満州の支配権をめぐるロシアと日本の思惑があった。第一次世界大戦に先立つ日露戦争は「第ゼロ次世界大戦」とも呼ばれる。日露戦争の開戦前に行われた交渉で、日本は満州をロシアの勢力圏と認める代わりに、大韓帝国を日本の軍事・政治的勢力圏と認めるようロシアに提案した。

ニコライ二世は日本の提案に応じず、ロシアと韓国の間に中立的な緩衝地帯を設けることを要求した。この頑なな態度の背景には、盟友であるドイツのヴィルヘルム二世の存在があった。ヴィルヘルム二世はニコライ二世に対し、君は「白色人種の救世主」であり、日本人を恐れる理由などないと言い聞かせた。

日本軍の旅順攻撃は、この妄想を見事なまでに打ち砕いた。旅順攻撃は物的な被害こそ小さかったが、ロシア人のプライドに与えたダメージは計り知れない。ロシア海軍が旅順港で停泊している間に日本の攻撃を受け、主導権を握られたという事実がロシア国民に与えた衝撃は大きい。

日本軍は旅順港を包囲するために高地の要所を占拠し、長距離砲を使ってロシアの封鎖艦隊の艦船を砲撃した。これはウクライナ侵攻の初期にロシア軍がキーウを断続的に攻撃した際に、ウクライナ人がロシアの不運な戦車を破壊するために用いた戦法でもある。

結局、ニコライ二世が派遣した6隻の艦船はすべて沈没、ロシア兵は凍てつく旅順港に取り残された。補給線を断たれ、戦う大義もないまま包囲された兵士たちの士気は急速に低下した。

初の大規模な陸上戦となった鴨緑江の戦いでは、日本軍がロシア軍の東部兵団を突破した。この段階でようやくロシア、そして世界は日本の軍事力を真剣に捉えるようになる。

ロシアにとって衝撃的な敗北ではあったが、日本側の被害も大きく、ロシア軍は皇帝の信頼に恥じない働きをしたと見なされた。しかし、その名誉もロシア兵が満州の中国人を強姦し、殺害していることが報じられると失われた。この点もウクライナでの戦争と重なる。

ロシア艦隊は自らの愚行と、不運と、日本軍の巧みな操船術に翻弄され、敗走を重ねた。世界海戦史上、最も長距離で行われた砲撃戦と言われる1904年8月の黄海海戦でも、日本の連合艦隊はロシア艦隊に勝利した。

約5000人のロシア兵を失う

それでもなお勝利を確信していたニコライ二世は、ロシアが誇る強大なバルチック艦隊をヨーロッパからはるばる極東へと向かわせた。しかし、この援護作戦は大失敗に終わる。バルチック艦隊は途中、北海で数隻の英国の民間漁船を日本軍の襲撃船と誤認して砲撃するという失態を犯し、ニコライ二世の海軍は世界中から嘲笑を浴びた。

7ヵ月後の1905年5月、バルチック艦隊は長い航海の果てにようやく極東に到着するが、疲労の色は濃く、ものの数時間で壊滅した。ロシアは戦艦8隻をすべて失い、約5000人のロシア兵が命を落とした。

その後、日本の陸海軍の連合作戦によって樺太が占領されると、ニコライ二世は講和を進めざるを得なくなった。日本とロシアは、セオドア・ルーズベルト米大統領の仲介の申し出を受け入れ、米ニューハンプシャー州ポーツマスで講話交渉の席に着いた。

ロシアは韓国が日本の勢力圏であることを認め、満州から撤兵することに同意した。ニコライ二世は戦争賠償金の要求を退けることには成功したが、失墜したロシアの威信を取り戻すことはできなかった。ロシア国民の怒りはロシア革命へと発展し、ニコライ二世は退位を余儀なくされ、後に処刑された。

プーチン率いるロシアは、世界ののけ者に

あくまで、ウクライナでの戦争は日露戦争と酷似しているわけではない。しかしプーチンがウクライナ人を著しく過小評価していたことと、侵攻がもたらす戦略的影響を軽視していたことは間違いない。

かくしてフィンランドとスウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請し、プーチン率いるロシアは世界ののけ者となった。この戦いがどのような結末を迎え、プーチン政権にどのような影響を与えるのかはまだわからない。

米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所の軍事専門家で、まもなく『Military History for the Modern Strategist(現代の戦略家のための軍事史)』を上梓するマイケル・オハンロンは「交戦国の顔ぶれ、戦闘の性質、地理、帝国主義的な野心、戦闘の随所に見られた人種差別的な側面など、細部を見れば日露戦争とウクライナでの戦争には相違点も多い」と語る。しかし、こう続ける。

「ロシアの大規模な軍事行動に散見される過剰な自信と油断──この点に注目すれば、この2つの戦いにぞっとするような類似性が認められることは確かです」

【私の論評】2024年プーチンが失脚しても、ロシアは時代遅れの帝国主義、経済を直さないと、ウクライナのような問題を何回も起こす(゚д゚)!

フィナンシャル・タイムズ紙は、「プーチンの諸々の誤算(Vladimir Putin’s catalogue of miscalculations)」と題する社説を9月17日付で掲載している。社説の主要点は次の通りです。

・ハルキウ地方でのロシア軍の敗走は、ロシアの大きさと軍事力が、より小さなウクライナを簡単に制圧でき、ウクライナ人はロシアを「解放者」として歓迎するとのクレムリンの間違った期待を再度際立たせた。

・同地方での敗走は、それまで投入した兵力をキーウ周辺と北部から同地に振り向ければ、総動員なしでも東部ウクライナ全域を占拠、保持できると考えたモスクワの過ちを明らかにした。

・西側諸国が彼ら自身の経済をも傷つける対ロシア制裁に対し意欲を欠き、西側の団結は早く壊れ、キーウに戦争をやめるように圧力をかけるという前提も誤りだった。プーチンは欧州への天然ガス供給を急激に減らしたが、欧州連合(EU)各国間に相違は残るものの、共同の準備と衝撃緩和のための大きな前進が見られた。

・西側の協調した反対姿勢は、非西側諸国、特に中国が米国中心の国際秩序に挑戦するという共通の利益のために味方になるとの、プーチンのもう一つの前提についても、後退を余儀なくさせた。

・上海協力機構会議で、習近平はウクライナ戦争への「疑問や懸念」をロシアに伝えるとともに、カザフスタンに対し「いかなる勢力の干渉」(注:ロシアの干渉が最もあり得る)に対してもカザフスタンの主権と一体性を守ると述べた。

・同じくインドのモディ首相は、今は「戦争の時期ではない」と述べ、公にウクライナ侵攻を批判した。

・プーチンの誤算は西側民主主義国には朗報であり懸念材料でもある。これまでの多くの誤算は、プーチンがウクライナでより広い敗走に直面した場合、今後の彼の決定も賢明であるとは信頼できないことを示すからだ。

プーチン大統領がウクライナ4州のロシアへの編入を強行し、この地方の奪回を「ロシアに対する攻撃」と核兵器で反撃する口実を与えることになったが、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)諸国は、その場合ロシアの黒海艦隊の殲滅など壊滅的な打撃を与えると警告しているようだ。

米国を訪問していたポーランドのズビグニェフ・ラウ外相は27日NBCテレビの報道番組「ミートザプレス」に出演し、ロシアのプーチン大統領が核兵器使用も辞さないという態度を示していることについて次のように語りました。

ポーランドのズビグニェフ・ラウ外相

「我々の知る限りプーチンは戦術核兵器をウクライナ国内で使用すると脅しており、NATOを攻撃するとは言っていないのでNATO諸国は通常兵器で反撃することになるだろう」

ラウ外相はこうも続けました。

「しかしその反撃は壊滅的なものでなければならない。そして、これはNATOの明確なメッセージとしてロシアに伝達している」

これに先立ち、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障問題担当補佐官は25日の「ミートザプレス」に出演し、ロシアが核兵器を使用した場合は「ロシアに破滅的な結果を与える」と言い、これはロシアの当局者との個人的なやりとりを通じてロシア側にはっきりと伝えてあると言明しました。

その「壊滅的反撃」や「破滅的な結果」をもたらすものが具体的にどんな作戦なのかは不明ですが、それを示唆するような記事が英紙「デイリー・メイル」電子版21日にありました。

「独自取材:プーチンがウクライナで核兵器使用に踏み切った場合、米国はロシアの黒海艦隊やクリミア半島の艦隊司令部に対して壊滅的な報復をするだろう、元米陸軍欧州司令官が警告」

2018年まで米陸軍欧州司令官をしていて、今はシンクタンク欧州政策分析センターの戦略研究の責任者をしているベン・ホッジス退役中将がその人で、「デイリー・メイル」紙のインタビューに次のように語っています。

「プーチンがウクライナで核攻撃を命令する可能性は非常に低いと思う。しかし、もし戦術的な大量破壊兵器が使われたならば、ジョー・バイデン大統領の素早く激しい反撃に見舞われることになるだろう」

その具体的な作戦についてホッジス中将は以下のように語りました。

「米国の反撃は核兵器ではないかもしれない。しかしそうであっても極めて破壊的な攻撃になるだろう。例えばロシアの黒海艦隊を殲滅させるとか、クリミア半島のロシアの基地を破壊するようなことだ。だからプーチンや彼の取り巻きたちは米国をこの紛争に巻き込むようなことは避けたいと思うはずだ」

ホッジス中将が米国の作戦を承知していたとは思わないが、米軍の元司令官と現在の作戦立案者が考えることはそうは違わないはずです。ロシア国内に被害を及ぼさない限りでロシア軍に壊滅的な打撃を与えるためには黒海艦隊を攻撃することは効果的です。

それを米国がロシア側に警告したかどうかも定かではないですが、英国防省は20日のウクライナの戦況報告で、ロシア黒海艦隊が複数の潜水艦を、同国が併合したウクライナ南部クリミア半島のセバストポリから、ロシア本土の黒海沿岸にあるノボロシスクに移動させたとの分析を示しました。ウクライナ軍の長距離砲撃能力の向上を受け、警戒のための措置とみられるといいます。

移動したのは「キロ級潜水艦」で、黒海での船舶の安全な航行の妨げとなってきました。英国防省は、セバストポリにある黒海艦隊の司令部などが過去2カ月の間に、攻撃を受けていたと指摘しました。黒海艦隊の「虎の子」をまず逃したようにも見えます。

ソヴィエト/ロシア海軍の通常動力型潜水艦である「キロ級潜水艦}

プーチン大統領「これはハッタリではない」と豪語していましたが、米国やNATOの警告は核兵器使用に二の足を踏ませることができるでしょうか。

このブログでは、ロシア海軍の海戦能力は、日米英などに比較して、かなり低いことを掲載してきました。

特に、中露は日米に対して対潜哨戒能力(潜水艦を発見する能力)がかなり劣っているため、ロシアには日本のステル性(静寂性)に優れた潜水艦を発見することは難しいです。一方日本の対潜初回能力は米軍と並び世界トップクラスであるため、ロシアの潜水艦を日本が探知するのは比較的容易です。しかも、太平洋等ではなく黒海という限られた海域に潜む、ロシアの潜水艦を発見するのは、さほど難しいことではありません。

ASW(Anti Submarine Warfare:対潜水艦戦闘力)に劣ったロシア海軍は、海戦においては日米の敵ではありません。現在のロシア海軍は単独で日本の海自と戦っても、勝つことはできません。一方的に敗北するだけです。

こういうと、ロシアが核原潜を持っていることを根拠に、ロシアが負けるはずがないと主張する人もいるでしょうが、破壊と海戦は別物です。海戦には目的があり、その目的を成就したほうが、勝利となります。

ロシアはいざとなれば、核ミサイルを発射して、日本の水上艦隊を壊滅させるかもしれませんが、それでも潜水艦隊を壊滅させることはできません。潜水艦隊の大部分は生き残り、反撃のチャンスをうかがい、実行することになります。

ロシアはミサイルで、ウクライナの都市を攻撃して、破壊しましたが、それでもウクライナ軍を打ち負かすことはできませんでした。それと同じことです。

海戦能力が日本よりも高い米海軍が、黒海艦隊を殲滅するのはさほど難しいことではありません。米国としては、日露戦争に破れたロシアのことは当然歴史的事実として知っていて、黒海艦隊殲滅はかなり有効な打撃であると見ているのは間違いないでしょう。

ロシアでは2024年、大統領選挙があります。西側の制裁で、その時ロシアのインフレ率は、数十%になり、輸入に依存していた消費財は店から消えてなくなっているでしょう。プーチンは当選できません。


彼を支えるシロビキ(主として旧KGB=ソ連国家保安委員会。ソ連共産党亡き今、全国津々浦々に要員を置く唯一の組織)は、自分たちの権力と利権を守るため、かつぐ神輿をすげ代えようとするでしょう。

ロシア国内では様々な思惑は入り乱れることになるでしょう。その中で国内の暴力勢力を引き込んで、ライバルを暗殺しようとする動きも出てくるでしょう。そうしてモスクワの中央権力が空洞化すると、91年ソ連崩壊の直前起きた、地方が中央に税収を送らない、勝手なことを始めるという、「主権のオン・パレード」が始まるでしょう。ロシアの中の少数民族だけでなく、主だった州も分離傾向を強めることになります。

今は21世紀なので、そんなことが起こるはずがない、と考えるのは間違いかもしれません。わずか30年前、超大国ソ連はそうやって自壊しましたし、今回は起きるはずのない文明国への武力侵略をロシアは実行してしまったのです。しかも、上で述べたように、日露戦争のときのように、愚かな方法で実行したのです。

プーチンは「ウクライナの右派過激勢力(ロシアは「ナチ」と呼んでいる)がロシアに歯向かうからいけないのだ」と言うかもしれません。しかし、そういう勢力を台頭させたのは、ロシアが14年クリミア、東ウクライナを制圧したからです。

そうて今回は武力で侵入したものですから、今やウクライナ人はほぼ全員、ロシアを憎んでいるでしょう。ロシアはロシア系の人々を守るのだ、とも言っているのですが、他ならぬロシア系ウクライナ人も、ロシア軍をこわがってポーランドに避難しています。

2024年にはプーチンは失脚するかもしれません。しかし、それでもロシアは、時代遅れの帝国主義、そして近代化に乗り遅れた経済を直さないと、ウクライナのような問題を、これから何回も起こすことになるでしょう。



同盟国のカザフスタン元首相がプーチン政権を批判―【私の論評】米中露の中央アジアでの覇権争いを理解しなければ、中央アジアの動きや、ウクライナとの関連を理解できない(゚д゚)!

2022年7月22日金曜日

黒海に面したルーマニアが潜水艦部隊を再建、フランスから潜水艦を調達か―【私の論評】ロシア軍がウクライナ南部で優位性を発揮できるのは潜水艦によるものか(゚д゚)!

黒海に面したルーマニアが潜水艦部隊を再建、フランスから潜水艦を調達か

黒海に面したルーマニアが潜水艦部隊の再建に動き出しており、スコルペヌ型潜水艦を調達するためフランスに接触していると報じられている。

参考:Romania’s Submarine Ambitions: Which Impact For The Black Sea Region?

ロシアが聖域と考えている黒海はNATO加盟国やウクライナの潜水艦が跋扈する海域になるのだろう

黒海に面したルーマニア海軍は1985年に導入したキロ級潜水艦「デルフィヌル」を現在も保持しているが、資金不足のため1995年以降は運用を停止して保管状態にあり、30年以上も港で係留されているデルフィヌルを再び動かすことも潜水艦を運用する人員も失われてしまった。

出典:Romanian Ministery of Defence/CC BY-SA 3.0 ルーマニア海軍の潜水艦デルフィヌル

しかしルーマニアのドゥンク国防相は現地メディアの取材を受けた際「軍の調達計画にはフランスのスコルペヌ型潜水艦やヘリコプターが含まれており、この調達に関してフランスの国防相と基本合意書(LOI)を交わした。我々は計画の実現に向けて国内手続きを開始している」と明かし、黒海にNATO加盟国の潜水艦が増える可能性に注目が集まっている。

因みに黒海に面したブルガリアもクリミア併合やウクライナ東部紛争を受けて潜水艦部隊の再建を決意、2021年に中古潜水艦を2隻手に入れるため交渉が開始されたと報じられていたが、ウクライナ侵攻リスクの高まりを受けて調達交渉がスピードアップしているらしい。

交渉相手は恐らくドイツで10年前に退役した206型潜水艦(稼働可能なものが残っているのか不明だが次期潜水艦/212CDは2032年頃に引き渡し予定なので212A型潜水艦は当面退役する予定がない)を引っ張ってくることをブルガリア海軍は考えている可能性が高く、ウクライナも今回の戦いが終結した先を見越してドイツと潜水艦導入に関する話し合いをスタートさせており、ロシアが聖域と考えている黒海はNATO加盟国やウクライナの潜水艦が跋扈する海域になる可能性がある。

【私の論評】ロシア軍がウクライナ南部で優位性を発揮できるのは潜水艦によるものか(゚д゚)!

なぜルーマニアが潜水艦を再配備しようとしているのか、以下の地図を見れば一目瞭然です。黒海にはルーマニアが接しているとともに、ロシアも接しているのです。

ですから、陸や空からの攻撃だけではなく、海からの攻撃に備える必要があるのです。それは、ルーマニアだけではなく、周辺諸国のブルガリア、モルドバ、トルコ、ウクライナも同じことです。


さて、ウクライナ関係ではほとんど報道されないロシア黒海艦隊の潜水艦ですが、実は、ウクライナ沿岸の対地攻撃と海上封鎖の主役を担っている可能性があります。

2022年2月下旬のロシア侵攻以来、ウクライナ軍は対艦巡航ミサイル「ネプチューン」や攻撃型ドローンで、ロシア黒海艦隊の艦艇に相当な被害を与えてきました。それでも、ロシアによる海上封鎖は解けず、大半を海運に頼るウクライナの穀物輸出の停滞は世界に影響を与えています。

もちろん、黒海艦隊の水上艦艇は対艦ミサイルの射程内まで近づけません。しかしロシア側には、対艦ミサイルでは撃退できない「改キロ級潜水艦」という切り札があります。

報道によると黒海における戦闘は、ミサイル巡洋艦「モスクワ」や、大型揚陸艦「オルスク」の沈没などが大きく取り上げられたこともあり、ニュースなどからはウクライナ軍が戦果を挙げているように見えます。しかし、潜水艦についてはあまりクローズアップされていません。

ロシア黒海艦隊にはキロ級1隻と改キロ級6隻、計7隻の潜水艦が配備されています。キロ級はNATO(北大西洋条約機構)の呼称で、旧ソ連時代の1980(昭和55)年から連邦解体後の1999(平成11)年まで建造された「プロジェクト877」の通常動力(ディーゼル電気推進)型潜水艦のことです。

キロ級潜水艦は、全長約74m、水中排水量は約3100トンあり、海上自衛隊のおやしお型潜水艦よりも一回り小型です。武装は艦首に備えた6門の魚雷発射管で、ここからは魚雷のほかに対地、対艦、対潜水艦の各種ミサイルを放つことができ、発射管射出型の機雷も使用が可能です。2000年(平成12)までに43隻が就役していますが、そのうち19隻がポーランド、インド、アルジェリア、ミャンマー、イランに輸出されて現役で、インドネシアも保有が疑われています。

対して、改キロ級はロシアでは「プロジェクト636」と呼ばれるアップデート型で、1996(平成8)年に建造が始まり、2019年までに20隻が就役しています。ただし、この20隻は輸出用で、中国に10隻、ベトナムに6隻、アルジェリアに4隻引き渡されており、これらは全て現役です。

この改キロ級のなかでも、ロシア黒海艦隊で運用されているのは、2010(平成22)年から建造が始まった「プロジェクト636.3」と呼ばれるモデルです。こちらは現在までに9隻が就役しており、前出の通り黒海艦隊には6隻配備、さらに2隻が建造中で1隻が発注済みです。

これらキロ級および改キロ級は、比較的水深の浅い沿岸警備用の攻撃型潜水艦です。潜水艦にとって必須の静粛性に優れており、さらに改キロ級はエンジン出力の向上やスクリューの改良など近代化改良が施されていることから、実質的に最新鋭の潜水艦といえます。

黒海艦隊にはフリゲートやコルベット、巡洋艦、潜水艦からなる第5作戦戦隊があり、2013(平成25)年のシリア内戦で軍事介入しています。この第5作戦戦隊の戦力を確保するためとして、改キロ級2隻がウクライナ侵攻後の5月に地中海へ配備されています。

2022年7月現在、黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡とダーダネルス海峡は、トルコが軍艦の通航を表向きは制限しています。トルコが海峡の通航制限を行うのは、1936(昭和11)年に発効したモントルー条約が根拠になっています。ただしトルコ政府は黒海沿岸諸国の船舶が母港に帰港する場合は例外としています。そこでロシア側は、地中海に出るロシアの改キロ級を、最終的にバルト艦隊の基地で整備される名目で、海峡の通過を正当化しました。

先に述べたようにロシア黒海艦隊には、キロ級1隻と改キロ級6隻がおり、そのうち後者の2隻が地中海へ派遣されています。そして黒海に残った改キロ級のうち1隻は母港のセヴァストポリで整備中のため、いま黒海で行動しているのは、キロ級1隻と改キロ級3隻ということになります。

改キロ級潜水艦

ウクライナ軍は6月10日、ロシア軍が黒海艦隊に潜水艦1隻を新たに配備し、巡航ミサイル40発が発射できる状態にあるとSNSで明らかにしました。

潜水艦ならではの隠密性もあって、今般のウクライナ紛争における潜水艦の作戦行動について情報はほとんど出てきませんが、ムィコラーイウやオデーサ(ロシア名オデッサ)に対するミサイル攻撃は、水上艦艇だけでなく潜水艦から発射された可能性があります。

ウクライナは、「ネプチューン」や西側から供与された「ハープーン」といった対艦ミサイルでは潜水艦を掃討できないため、対潜哨戒機や対潜ヘリが必要になります。しかし、西側諸国は155mm榴弾砲や対戦車ミサイル、地対空ミサイルと違って、航空機の供与はより直接的な軍事介入になるとして及び腰です。

また、戦闘機ならウクライナ空軍のパイロットは使いこなせますが、対潜哨戒機となるとそうはいきません。一応、ウクライナ海軍には航空旅団があるものの、戦闘機や汎用ヘリコプター、無人機(UAV)の飛行隊に限られており、対潜哨戒用としてはMi-14PLヘリコプターが3機あるだけです。固定翼の対潜哨戒機は運用実績すらないので、機体だけでなく搭乗員も供与しないと使い物にならないといえるでしょう。

加えて、たとえ対潜哨戒の態勢がとれたとしても航空優勢を確保する必要があります。ただし、開戦初期にウクライナ軍の対空ミサイルで多くのロシア軍機を撃墜したとはいえ、ウクライナもロシアも航空優勢を確保できていない現状では、ウクライナ側もおいそれと対潜哨戒機を黒海周辺で使うわけにはいきません。したがって現在、ウクライナ軍には、改キロ級への対抗手段がない状況なのです。

今後も黒海艦隊の水上艦艇は対艦ミサイルに狙われ続けるでしょう。しかし、潜水艦ならウクライナが使用するミサイルの射程内まで近づけます。ウクライナ側が潜水艦に対処できない限り、ロシアによる対地攻撃と海上封鎖は終わらないといえるでしょう。

ウクライナに米軍もしくは日本並のASW(Anti Submarine Wafare:対潜水艦戦闘力)があれば、ロシアの潜水艦などほとんど問題にもならないでしょうが、残念ながらウクライナのASWは無いに等しいです。

これでは、いつまでもウクライナはロシアの海からの脅威に対処できません。2014年のクリミア危機のときにも、潜水艦のことは報道されませんでしたが、私はこの時にもロシアの潜水艦が活躍したと思います。ただ、潜水艦の行動は隠密にされるのが、普通ですから、他の報道にまぎれてほとんど報道されなかったのだと思います。

クリミア半島は半島とはいいながら島に近いですから、これを1〜2隻の潜水艦で交代制で24時間包囲してしまえば、これはロシア軍にとってかなり有利です。まずは、近くの海域にロシアの潜水艦がいるというだけで、ウクライナの艦艇などクリミアに接近することはできなくなります。

クリミアに常駐していた軍も、潜水艦で包囲され、陸路も絶たれてしまえば、艦艇を近づけようとしても撃沈されてしまうことになり、補給ができず、食料・水、弾薬などが尽きてお手上げになってしまいます。クリミア危機においては、ロシアの潜水艦はこのような動きをしていたと思います。

報道ではハイブリット戦などが強調されていましたが、クリミアが安々とロシアに併合されてしまった背景には、潜水艦の何らかの動きがあったのはほぼ間違いないと思います。

ちなみに、クリミア危機のときには、ウクライナは潜水艦「ザポリージャ」1隻だけを所有していたのですが、ロシア軍に接収されています。

最近、ウクライナ軍はクリミア大橋を破壊するという計画もあるといわれています。

ウクライナへの侵攻が始まったあと、この橋がロシア軍の物資の輸送に使われているので破壊すべきだという意見が、ウクライナ側から出ていました。クリミア大橋を破壊すれば、ロシアの黒海艦隊が母港としているセヴァストポリへの陸からの補給路を断つことができるからです。

クリミア大橋は、2014年にクリミア半島を併合したあと、ロシアが造りました。ロシアのクラスノダール地方にあるタマン半島とクリミア半島東端のケルチという町の間に架かっています。

全長およそ19キロメートルに及ぶ、鉄道と道路の併用橋です。2015年5月に工事が始まり、道路は18年5月に、鉄道は19年12月に完成しました。これによって、ロシア本土とクリミア半島が陸路でつながりました。

工費は37億ドルといわれます。 開通の式典には、プーチン大統領も出席。大型トラックのハンドルを自ら握って車列を先導し、ロシア側からクリミア半島へ渡るパフォーマンスを演じました。 

クリミア大橋の開通式でトラックを運転したプーチン

ただ、クリミア大橋を破壊することはでき、それによってロシア軍の兵站には支障がでることにはなりますが、それにしても黒海にロシアの潜水艦隊が存在するので、ロシア海軍の優位性は崩れることはなく、橋が破壊されれば、船や遠回りになるものの、他の陸のルートで物資を運ぶことになると思います。

ロシア海軍の優位性がある限りにおいては、ウクライナが南部を奪還したり、ましてやクリミアを奪還するのはかなり難しいでしょう。クリミア大橋を破壊したとしても、それで圧倒的にウクライナ側が有利になるというわけではないと思います。

このような背景があるからこそ、ルーマニアやウクライナもいずれ潜水艦を手に入れようとしているのでしょう。日米並の高い能力を持つ対潜哨戒機なども手に入れれば、ロシア海軍に対峙できます。

トルコ海軍は14隻の潜水艦を持っていますし、黒海はNATO加盟国やウクライナの潜水艦が跋扈する海域になる可能性があるのは間違いないようです。そうなれば、ロシア海軍の優位戦もゆらぐことになるでしょう。

おしむらくは、ウクライナが現在潜水艦もまともな対潜哨戒機もないことです。これらをウクライナが有していれば、戦況特に南部での戦況が変わった可能性は十分にあったと思います。

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2022年5月25日水曜日

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段―【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段

岡崎研究所

 ロシアのウクライナ侵略を受け、中国による台湾侵攻の可能性について種々の論議が戦わされるようになっている。4月23日付の英Economist誌の社説は、ウクライナ情勢から得られる最も重要な「教訓」は、中国の台湾への「脅威は現実のもの」であり、今すぐにこれに対応するための準備が必要であるとし、台湾がより良い準備をすればするほど、中国が台湾へ侵攻するという危険を冒す可能性は低くなる、と述べている。


 ロシア軍のウクライナ侵略は目下進行中であり、それが如何なる終結を迎えるのか、いまだ予断を許さない状況にある。ただ、はっきりしてきたことは、プーチンの当初の思惑通り事態は進行していない、ということだろう。そのような状況下で、エコノミスト誌の社説も、中国の将来考え得る台湾への侵攻がそれほど容易であるとは見ていないようであり、特に中国が「台湾統一」への行動をとることには、二つの大きな障害がある、と述べている。

 一つは、幅180キロメートルに及ぶ台湾海峡の存在であり、ロシアと地続きであるウクライナの場合と大きく異なっていることである。二つ目は、「台湾関係法」という国内法を持ち、台湾に防禦用の武器を供与し、台湾の安全にコミットしている米国が有する軍事力である。

 なお、ウクライナの場合には、バイデン政権はロシアが核兵器を使用し、「第三次世界大戦になる可能性がある」として、ウクライナへの武器支援を限定したことがある。将来、台湾海峡をめぐって、中国が台湾に対し、いかなる恫喝を行うか、それに対し、米国が如何に対応するかいまだ予想することが困難な点はある。

 現在までのところ、習近平指導部はウクライナ情勢から「教訓」を得るために状況を子細に観察しているものと見られ、ロシア側の度重なる誤算、ウクライナ国民の強固な抵抗力や欧米諸国の反応などに衝撃を受けているものと見られる。そして、将来有りうべき中国の台湾侵攻のハードルは、これまで一般に考えられていたよりもはるかに高くなった、と見てよいのではなかろうか。

やはりいつ来てもおかしくない台湾侵攻

 中国の台湾侵攻がいつ頃になるのか、予断を許さないが、エコノミスト誌の社説の主張するとおり、台湾側としては、いざという時のために警戒心を緩めることなく準備を進め、中国の侵攻を思いとどまらせる方策を講じることは、理にかなっているといえよう。

 エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、次のようなものがある。

(1)徴兵制に頼らず、より専門的な部隊を創設する。

(2)防衛費を現在の国民総生産(GNP)比2%は低すぎるので、増額する。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器が必要になる。

(4)台湾は、米国や日本を含むパートナー国との間で合同軍事演習を行う必要がある。中国による台湾海峡封鎖や有りうべき侵攻に対抗できるように準備を整える。

 ロシアのウクライナ侵略前には、数年以内にも中国が台湾に限定的な軍事侵攻をする可能性があるのではないか、との見方が米国の専門家の間で強まったことがある。しかし、ウクライナ危機以降は、中国としても、そう簡単に台湾に対し、軍事行動をとりにくくなったように思われる。しかしながら、習近平指導部にとって、台湾問題の重要性が基本的に変わらない以上、台湾としては警戒心を弱めることなく、準備できるものから準備するという覚悟が必要であろう。

【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

台湾情勢となると、多くの人が思考停止したように、潜水艦の話題はたくみに避けることか多いです。上の記事もその例外ではありません。潜水艦の行動は昔からどこの国でも隠密にするが普通であり、それ故になかなか公開されることもないので、このようになってしまう傾向は否めないのですが、それにしてもバランスを欠いていると思います。

エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、上記の4つですが、その中には潜水艦という言葉が一つでできません。(1)〜(4)の台湾防衛手段は、悪くはないですし、そうすべきとは思いますが、もっと具体性を増すなら、特に(3)は以下のようにすべきです。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器として潜水艦が必要になる。

潜水艦は、海の下に潜り、なかなか発見できない「ハリネズミ」になりえます。

なぜこのようなことをいうかといえば、中国海軍には明らかな弱みがあるからです。中国海軍のASW(対潜水艦戦闘)能力は、日米に比較するとかなり弱いです。まずは、対潜哨戒能力がかなり弱いです。そうして、潜水艦の能力でも、ステルス性(静寂性)では日本にはかなり劣ります。

攻撃能力は米国の原潜と比較すると弱いです。その結果どうなるかといえば、中国の潜水艦は日米にとってはかなり発見しやすく、中国はそうではないので、中国の潜水艦は日米の潜水艦には歯が立ちません。

現代海戦についてルトワックも語っていた、昔から言われていることがあります。それは艦艇には2種類しかないということです。一つは空母やイージス艦のような、水上艦です。もう一つは、海の中に潜む、潜水艦です。

現代海戦においては、水上艦は空母でなんであれ、大きな目標でしかありません。これらは、すぐにミサイルや魚雷で撃沈されてしまいます。実際ロシアのバルチック艦隊の旗艦でもあってミサイル巡洋艦「モスクワ」は脆弱な海軍しか持たないウクライナ軍のミサイルによつて撃沈されてしまいました。

一方潜水艦は、水中に潜み、敵を攻撃することができます。すぐにミサイルや魚雷で撃沈されることはありません。だからこそ現代の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。ただ、これも対潜哨戒能力などによるASWが物を言う時代になっています。これが弱ければ、いくら潜水艦を多く持っていても、海戦において勝利することはできません。

これは、すでにフォークランド紛争(1982年)で実証されていたことです。この紛争では、ASWに長けていた英軍が結局勝利しています。

現代海戦においては、日米のほうがはるかにASWでは中国に勝っているため、中国が多数の水上艦艇を持っていたにしても、それは日米にとっては「政治的メッセージ」に過ぎず、海戦では日米の敵ではありません。

だからこそ、台湾は最新型の潜水艦をもつことにしたのです。これについては、以前このブログでも紹介しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾が建造開始の潜水艦隊、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性―【私の論評】中国の侵攻を数十年阻止できる国が台湾の直ぐ傍にある!それは我が国日本(゚д゚)!

自前の潜水艦の着工式に出席した蔡英文総統=2021年11月24日、高雄市

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、専門家は、台湾がもし高性能潜水艦の製造に成功すれば、台湾は中国の侵攻を今後数十年にわたって防ぐことができるとしています。

実際そうなのだと思います。先にあげたルトワック氏は、台湾有事になりそうになったら、米国は台湾に大型攻撃型原潜を2〜3隻派遣すれば良いとしています。なにしろ米国の攻撃型原潜の攻撃力は凄まじいですから、トマホークを数百発も発射できますし、対空・対艦ミサイルもかなり搭載できますから、2〜3隻のこれらの潜水艦で台湾を包囲してしまえば、そもそ中国海軍は台湾に近づくこともできません。

それでも無理やり近づき、仮に人民解放軍を台湾に上陸させたとしても、補給ができず、上陸部隊はお手上げになります。

日本の潜水艦も貢献できるでしょう。何しろステルス性に優れていますから、中国海軍に発見することなく、台湾の近海を自由に航行して、情報収集にあたり、その情報を米台と共有することができます。

台湾が最新鋭の潜水艦8隻を就航させることができれば、自前でこれができることになります。これに、日米が加勢すれば、中国海軍が台湾向けて事を起こせば、壊滅することになります。

2021年11月29日、ロイターは「As China menaces Taiwan, island’s friends aid its secretive submarine project」という記事を配信しました。その内容は、2017年から開始された台湾の潜水艦建造に、米国、英国が主たる役割を果たしていることに加え、オーストラリア、韓国、インド、スペイン及びカナダが関わっているとするものです。

米国は、戦闘システムやソーナー等の核心技術を、イギリスは潜水艦用の部品や関連するソフトウェアを提供し、その他の5カ国は技術者募集に応じたものであると伝えています。

それぞれは、台湾海軍及び潜水艦建造を請け負っている台湾国営企業「台湾国際造船」に、政府の許可を得て技術的支援を行っているとしています。韓国大統領府は、この記事に関し政府の関与を否定した上で、個人のレベルで情報を提供しているかどうかは調査中であると述べていました

記事では、米国の同盟国であり最も進んだ通常型潜水艦を保有する日本の関与について、防衛省関係者の発言として、非公式に検討したものの中国との関係悪化を懸念し、検討を中止したと伝えていました。また、日本企業は中国との取引を失うことを懸念し、台湾への関与は消極的であるとの海上自衛隊退職将官の発言を紹介していました。

台湾海軍は現在4隻の潜水艦を保有しています。2隻は第2次世界大戦中に米海軍が建造したグッピー級であり、もう2隻はオランダのスバールトフィス級潜水艦を元に1980年代に建造され、海龍級と呼称されています。

当初、海龍級は6隻取得する計画であったのですが、中国がオランダに圧力をかけ、残り4隻の建造は取りやめられました。グッピー級は言うに及ばず、海龍級も旧式化しており、台湾海軍はその更新を希望していました。

しかしながら、潜水艦建造能力を持つ各国は、中国の反発を恐れ台湾の潜水艦取得に協力することには消極的でした。米国は、2001年にブッシュ政権が、台湾関係法に基づき通常型潜水艦の提供を決定したのですが、米国国内には通常型潜水艦建造のノウハウが無く、宙に浮いた形となっていました。

これらの状況から、台湾の蔡政権は潜水艦国産化の方針を決定、2017年から建造が開始されました。1番艦の就役は2025年に予定されており、8隻が建造される計画です。

国産化にあたっては、米国を始めとした潜水艦保有国の技術協力が不可欠と見なされていましたが、それまで具体的な名前は明らかにされていませんでした。現時点で、韓国政府以外の反応は報道されていないですが、各国の協力を得て台湾潜水艦建造が進みつつあることが確認できたと言えます。

台湾の潜水艦勢力が充実することは、日本周辺の安全保障環境にも大きな影響を与えますが、軍事的観点から見ると、それにはプラスの側面とマイナスの側面があります。

プラスの側面としては、中国の台湾軍事侵攻に対する大きな抑止力となることです。当時、中国は台湾周辺における活動を活発化しつつありました。爆撃機がバシー海峡を経由し台湾南東部を飛行することに加え、同年11月中旬には中国海軍揚陸艦2隻が台湾と与那国島の間を南下し、台湾東部沖で活動したことが確認されています。

台湾は南北にわたって3,000m級の山脈が連なっていることから、その攻略には台湾海峡正面からの攻撃では不十分との指摘があります。当時からの中国艦艇及び航空機の活動は、台湾海峡方面からの侵攻に加え、太平洋方面からの侵攻能力を検証しているものと推定できます。

3,000m級の山脈が連なっている台湾

台湾潜水艦がバシー海峡周辺及び台湾東部海域で行動することにより、これら中国艦艇の台湾東部への進出を抑制することができます。潜水艦が行動しているという情報だけで、その脅威を排除するために行わなければならない作戦の負担や艦艇へのリスクを意識させ、最終的に中国が台湾への軍事侵攻というオプションを選択する可能性を低下させることが期待できます。

一方、マイナス面、懸念事項としては次の2点があげられます。

潜水艦の最大の特徴は、隠密裏に海中を行動することである。これを捜索するためのセンサーとして、現時点では音波が主流です。音波による捜索は、自ら音を出すアクティブ、相手の音を聞くパッシブともに、潜水艦であるかどうかの類別、そしてそれが潜水艦であった場合の識別(どこの国の潜水艦か)に多大の労力が必要です。

バシー海峡から西太平洋にわたる海域では、日米、状況によっては韓国、そして将来的にはオーストラリア潜水艦が活動し、これに台湾海軍潜水艦が加わった場合、潜水艦らしい目標を探知した場合の識別は非常に困難なものとなります。台湾を巡る紛争が生起した場合、台湾海軍潜水艦の存在は、日米艦艇の作戦を阻害する可能性があります。

次に、台湾の潜水艦の事故に対する備えが不十分であることが指摘できます。2021年4月、インドネシア海軍潜水艦がロンボク海峡付近で沈没しました。更には同年10月、米海軍原子力潜水艦が南シナ海において、海山と推定される海中物体と衝突し損傷しています。

潜水艦を運用する国が増加するにつれ、このような潜水艦の事故が増加すると考えられ、潜水艦を運用する国には捜索救難体制の整備が必須と言えます。他国との訓練が実施できない台湾は、潜水艦救難のノウハウが十分とは言えない状況にあります。

インドネシア潜水艦が消息を絶ってから発見されるまで4日間を要したことから分かるように、沈没潜水艦の位置特定には時間を要します。沈没潜水艦の救難は時間との勝負であり、距離的に近い日本はこれに積極的に協力すべきでしょう。

懸念事項を解消するためには、台湾潜水艦の運用状況に関する日台間の情報共有が不可欠です。潜水艦運用に係る情報の全てを共有する必要はないですが、少なくとも、事故の発生の通知や、探知した潜水艦が台湾所属である可能性があるかないかという判断を速やかに下せる程度の情報交換は必要です。これは、台湾の対潜戦兵力が日本の潜水艦を探知した場合も同様です。

日本の各企業が中国との取引を重視し、台湾の潜水艦建造に消極的であることは、民間企業として当然のリスク管理です。しかしながら、実際に台湾潜水艦の絶対数が増加し、活動海域が重複した場合のリスク管理は国の責任です。台湾の国産潜水艦が就役する2025年までに、日本政府としてリスク管理の体制を整えておく必要があります。関係国との調整を考慮すれば、残された期間は長いとは言えないです。

ただ、日米ともに以上のようなことを実施すべきです。台湾が自前で潜水艦を8隻持ち、シフトを組んで、24時間、台湾を包囲する体制を築いた場合、中国は台湾侵攻を断念せざるを得ないでしょう。

だから、2025年より前に、中国が台湾を武力侵攻する可能性は捨てきれません。そもそも、このブログでは、中国軍の兵員海上輸送能力は現在でも低く、台湾に一度に数万の陸上部隊しか送れないこと解説しました。そうなると、台湾に上陸した中国は侵攻部隊は、何度かに分けて輸送せざるを得ないことになります。そうなると、その度に台湾軍に個別撃破されることになります。

これを考えると、中国が台湾を武力侵攻することはあり得ないと考えるのが普通だと思います。もし、中国が台湾に侵攻した場合、台湾は当然戦うでしょうが、ロシアがウクライナに攻め入るのとは違い、圧倒的台湾のほうが有利であり、侵攻する中国はウクライナのロシア軍よりも、さらに破滅的な損害を被ることになります。

しかし、ロシア軍もウクライナに侵攻すれば、破滅的な損害を被るのは目にみえていました。しかも、侵入軍が当初19万人ともいわれ、これではとてもウクライナを制圧できないのは明らかでした。それでも、プーチンは明らかに勘違いをしてすぐに制圧できると高を括って侵攻したわけですから、中国が台湾に侵攻しないという保証はありません。

台湾を第二のウクライナにしてはならない

ただ、そうすれば、中国軍は破滅的な被害を受け、いずれ退却しなければならくなるでしょう。習近平はプーチンのように大赤恥をかくことになります。いや、それ以上かもしれません。しかし、それでも台湾は大きな被害を被る可能性があります。それだけは絶対に避けなければなりません。

そうならないためにも、台湾は潜水艦の建造を急ぐべきですし、日米としては、台湾有事は日米有事であることを中国に知らしめるべきでしょう。

その意味では、23日の日米首脳会談後の共同記者会見で、バイデン大統領が「台湾防衛への軍事的関与」を明言したのは時宜にかなった適切な措置だったと思います。

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2022年4月15日金曜日

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃―【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃

ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル

 現地時間4月14日(日本時間4月15日)、ロシア国防省の発表によるとロシア海軍の黒海艦隊旗艦である巡洋艦「モスクワ」が曳航中に沈没しました。前日に爆発炎上し総員退艦、その後まだ浮いていたのでセヴァストポリ港に戻ろうと曳航している最中でした。

 ウクライナ側は前日に地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を巡洋艦モスクワに命中させて撃破したと主張しています。ロシア側はこれを認めていませんが、どちらにせよ艦は失われました。

 ロシア海軍黒海艦隊旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦モスクワ撃沈。その衝撃は戦史に永久に刻まれることになるでしょう。ウクライナ海軍地対艦ミサイル部隊の大戦果であり、ロシア海軍の大失態となります。

巡洋艦「モスクワ」を喪失した意味

 巡洋艦モスクワはロシア海軍黒海艦隊旗艦であり、黒海艦隊の中では最大最強の艦でした。ただし主兵装の超音速巡航ミサイル「P-1000ヴルカン」には対地攻撃能力は無く、ウクライナとの戦争でこの艦は広域防空艦として価値を発揮していました。

 長距離艦対空ミサイル「S-300F」を搭載した巡洋艦モスクワはウクライナ南部の黒海沿岸の沖合いに進出し、防空網の一角を担っていました。長射程の対空ミサイルでウクライナ空軍機の活動を妨害していたのです。

 これが消えました。ロシア海軍黒海艦隊には他に広域防空艦は居ません。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたのです。

 また、これでもうロシア軍は揚陸艦隊を用いてオデーサに上陸作戦を行うことが困難になりました。ロシア艦隊は地対艦ミサイルを恐れて、容易には沿岸に近付けなくなった筈です。

 そして首都モスクワの名前を関する軍艦の喪失はロシア全軍どころかロシア全国民の士気を下げ、ウクライナの士気を大きく向上させることになります。

地対艦ミサイル「ネプチューン」

 ウクライナ語”Нептун”の発音は「ネプトゥーン」の方が近く、英語のNeptune(ネプチューン)と語源は同じでローマ神話の海神の名前です。

 ネプチューンは亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能です。固体燃料ロケットブースターで加速した後にジェットエンジンを始動して巡航し、海面を這うような低い高度で飛んで行きます。

 ネプチューンはウクライナ国産の新兵器で生産に入ったばかりであり、開戦前のスケジュールでは最初の1個大隊の編成完了が4月予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合いました。

 ネプチューン地対艦ミサイル1個大隊は4連装発射機が6両で1斉射24発、予備弾含め3斉射分72発が定数となっています。

 ウクライナ海軍の想定ではトルコ製「バイラクタルTB2」無人偵察攻撃機で洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順を予定していましたが、実際の巡洋艦モスクワ攻撃ではどのような攻撃方法だったのかはまだ発表がありません。

 なおロシア海軍は巡洋艦モスクワが被弾する2日前に、黒海艦隊のフリゲート「アドミラル・エッセン」がウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機を撃墜したことを誇る動画をUPしていました。これはウクライナ軍がドローン(無人機)による洋上索敵を積極的に行っていた可能性を示しています。

 あるいは無人機のバイラクタルTB2はロシア海軍を油断させるための囮で、本命の対艦索敵はアメリカ軍の偵察手段だった可能性もあります。一部のウクライナ報道ではバイラクタルTB2を囮に使ってその隙にネプチューンで攻撃した戦法が示唆されています。

 黒海にはアメリカ軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が開戦後も頻繁に飛んで来ていたので、巡洋艦モスクワの位置情報の提供を行っていた可能性があります。ただしこれが仮に事実だとしても公表したらロシアを怒らせるので、黙っている筈です。

 まだ不明な点は多いのですが、今回のネプチューンによる歴史的な大戦果の詳細はいずれ明らかにされていくことでしょう。

【参考外部記事】ウクライナ軍事ポータルサイト「Український мілітарний портал (ウクライーンシクィー・ミリタリニィー・ポルタル)」の英語版記事より。
The first battalion of “Neptune” coastal missile system will be delivered by April 2022 – Neizhpapa
“Moskva” missile cruiser – the flagship of the Russian`s Black Sea Fleet – sank

※なおネプチューンの発射車両は試作型と量産型で車両が異なります。
試作型の発射車両:КрАЗ-7634НЕ(ウクライナ製)
量産型の発射車両:タトラT815-7(チェコ製)

【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

今回の、モスクワの沈没に関しては、アメリカ国防総省 カービー報道官は、
「ウクライナ側が言うようにミサイル攻撃によるものかは確認できないが、それに反論する立場でもない。ウクライナ側がミサイルで攻撃したというのは、ありうることだ」と語っています。

上の記事では、ウクライナ側がミサイル攻撃したという記事が正しいものとして、ウクライナ側の主張を掲載しています。

この記事も、このウクライナ側の主張が正しいものとして、解説します。今回のモスクワ撃沈は、もう数十年前からいわれていた海戦の変貌ぶりを示したものといえます。

NHKどらま「坂の上の雲」で放映された日本海海戦における日本艦隊の旗艦「三笠」

海戦の主役は大きく2回変わっています。最初は、「大艦巨砲」ともいわれるように、巨砲を何門も持つ大艦同士が、海上で大砲撃戦を行い、海戦の雌雄を決定しました。その典型的な事例は、日露による日本海海戦です。

次の時代は、空母打撃群による海戦です。空母を主力とする艦隊を空母打撃群と呼び、この空母打撃群の空母以外の艦艇は、空母を護衛するのが主な目的であり、空母に積載した航空機が、海戦の雌雄を決めることになりました。その典型例は、大東亜戦争における太平洋の戦いです。

日本では、空母打撃群という呼び名はありませんでしたが、本格的な空母打撃群を最初に運用したのは、日本海軍でした。この空母打撃群は、ハワイ真珠湾攻撃等で活躍しましたが、やがて物量にまさる米軍が、空母の数でも、航空機の数でも日本をはるかに上回るようになり、各地で日本の空母打撃群を破るようになりました。

米国のハワイには、真珠湾の戦いの記念館があります。そこには、日本海軍が最初に空母打撃群を運用しはじめたということが展示物で示されています。米軍はそれを参考にして、空母打撃群を運用させるようになり、今日米海軍の主力になっているという旨のことが展示されています。

発艦した航空機から撮影した空母「赤城」

そうして、数十年前までは、実際にそうでした。しかし、もう随分と前から、実は空母打撃群は海戦の主役ではなくなっています。その主役は何かといえば、第二次世界大戦までは脇役であった潜水艦です。

このブログにも以前述べたように、米国の戦略家である、エドワード・ルトワック氏は次のように語っています。

「現在では、艦艇は2種類しかない、空母やイージス艦のような水上艦艇と潜水艦の二種類しかない。そうして、水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない。しかし、潜水艦はそうではない、水中に潜航して、容易に撃沈されることはない。現在の海戦の主役は潜水艦なのだ」

この言葉、最初はルトワックが語ったのかと思っていましたが、そうではないようです。潜水艦が原子力で動くようになり、さらに魚雷だけではなくミサイルを装備するようになった頃から言われはじめたそうです。

そうして、ロシアは2020年トルコ軍兵士が27日にシリアのアサド政権軍の空爆で死亡したことを巡り、トルコ側の対応に問題があったと主張し、シリア沖に巡行ミサイルを搭載した艦船2隻を派遣したことがあります。そのときの1隻が今回撃沈された「モスクワ」です。ルトワックは、これについて以下のような発言をしています。

「ロシアのミサイル巡洋艦など、象徴的なものにすぎない。米軍なら5分で吹きとばせる」

これは、事実なのでしょう。だからこそ、今回「モスクワ」はウクライナ軍に撃沈されたとウクライナ側は公表し、米国もこれをはっきりとは否定しなかったのでしょう。

無論、ルトワックの脳裏には、攻撃型原潜などを想定したものと思います。米国の攻撃型原潜の大型のものになると、100発以上もの巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できます。しかも、米軍はロシア軍よりも、対潜哨戒能力に優れていいます。

この攻撃型原潜が、ロシアの艦艇を攻撃すれば、ひとたまりもないでしょう。

ただ、今回のウクライナによる「モスクワ」攻撃は、地上のミサイルランチャーから、ネプチューンを発射して撃沈したとされています。潜水艦から発射したものではないですが、ルトワックも語っていた「水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない」という発言を実証したといえます。

考えてみると、フォークランド紛争時には、ルトワックの語ったことは、現実になっていたと考えられます。

1982年3月のフォークランド紛争では、イギリス海軍の原子力潜水艦「コンカラー」によるアルゼンチン海軍巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」の撃沈はアルゼンチン海軍の戦意に冷や水を浴びせることになり、空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」を始めとしたアルゼンチン海軍の水上戦闘艦は現存艦隊主義に転じて、二度と出撃してくることはありませんでした。

潜水艦の能力でも、対潜哨戒能力でも英軍に著しく、劣っていたアルゼンチン軍は、海戦においては最終的には、英軍の敵ではなかったようです。ただ、英軍はそれまでアルゼンチン軍のフランス製のエグゾセミサイルで、駆逐艦「シェフィールド」が沈没するなどの被害を受けています。

「モスクワ」と同程度以上の艦艇が撃沈されたのは、フォークランド紛争以来といわれています。今回の「モスクワ」撃沈により、まさに、水上艦は現代の海戦においては、「ミサイル」や「魚雷」の大きな目標にすぎないことが、さらに鮮明になったといえます。

なお、先のルトワックの発言については、「極端」と批判する人たちもいますが、今回の「モスクワ」撃沈が本当であったら、「極端」とはいえないと思います。

このブログでは、こうしたルトワック氏の発言などにもとづいて、私は日本の潜水艦隊の優位性を主張してきましたが、半信半疑の人も多いようです。今回の「モスクワ」撃沈がウクライナのミサイルのものであれば、「極端」とはいえなくなると思います。

陸上から放つミサイルも、水中から放つミサイルも同じことですし、潜水艦からの発射は、陸上からよりも、敵に発見されにくく軍事的にさらに有利といえます。しかも、日本の潜水艦のステルス性は「世界一」であり、この優位性についても理解が進むと思います。中国の台湾侵攻に関して、まるでこの世に潜水艦など存在しないかのような論評をする人もいますが、それでは全く意味がありません。

ウクライナ軍が日本の海自なみの最新鋭の潜水艦を持っていれば、軍事上かなり有利になっていたと思われます。もしそうだったら、初戦でロシア黒海艦隊は壊滅していたことでしょう。さらに、潜水艦からミサイルを発射し陸上の主要な目標を破壊し、かなり有利に戦争を遂行できたと思います。

このブログで、以前紹介したように、トランプは、「(プーチンが)またその言葉(核兵器)を口にしたら、われわれは原子力潜水艦核を送って、沿岸を上下左右に航行させるぞと言うべきだ」と語っていました。

これを、かなり物騒な発言とするむきもありますが、これはプーチンに対してかなりの牽制になりますし、核ミサイルでなくて、通常のミサイルを搭載する攻撃型原潜を派遣しても、ロシア側にとってかなりの脅威となるでしょう。

何しろ、米国の攻撃型原潜でも大型のオハイオであれば、巡航ミサイル・トマホークを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。無論、その他にも魚雷、防空ミサイルも搭載しています。

このような攻撃型原潜を、2〜3隻黒海でも配置すれば、巨大なミサイル基地が即座にできあがり、米国のインテリジェンスンスに基づき、ロシアの軍事拠点を攻撃をすれば初戦でロシア軍は崩壊していたかもしれません。

今後の軍事研究の発展のためにも、ミサイル巡洋艦「モスクワ」の撃沈が、ウクライナのミサイルによるものだったのか、公表していただきたいものです。

それにしても、今回の「モスクワ」の沈没、ウクライナ側の発表が正しかろうが、正しくなかろうがロシア軍にとっては大打撃であることには変わりはないです。過去の日本の例でいえば、開戦2ヶ月目にして、連合艦隊の旗艦「大和」が沈んだようなものです。ロシア軍の士気の低下は免れないと思います。

ミサイル巡洋艦「モスクワ」

モスクワは、ロシア軍が3隻しか保有していない大型巡洋艦の1隻です。搭載する防空ミサイルシステムS300でウクライナ軍の戦闘機や無人機をけん制し、南部一帯での部隊展開を支えてきました。黒海艦隊は、ロシアにとって重要な標的である港湾都市オデッサなどの攻略を目指していました。

ところが独立系メディア、メドゥーザによると、ロシア軍はモスクワを失ったことで、残る部隊をウクライナ軍の攻撃から防ぐ能力が著しく衰える恐れがあります。ロシアとウクライナの交戦を理由に、トルコが黒海への軍艦の侵入を制限しているため、ロシアが地中海経由で代替の巡洋艦を派遣することも難しいです。

侵攻以降のロシア軍の被害も甚大とみられます。ウクライナ国防省は15日、ロシア軍の死者が「2万人を突破した」と発表。ロシア側は最新の死者数を1300人余としていますが、契約軍人を募るキャンペーンを強化するなど、実際は兵力不足が深刻な可能性が高いです。

こうした状況の中、ロシアの政権与党幹部は15日「軍事作戦は間もなく完了する」と同国メディアに強調。5月9日の対独戦勝記念日に合わせた「勝利宣言」名目で、プーチン大統領が幕引きを図る可能性も大いにありそうです。

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