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2024年11月11日月曜日

火災の海自掃海艇が転覆 沈没の恐れも、乗組員1人不明―【私の論評】日本の海上自衛隊が国を守る!掃海艇の重要性と安全保障の最前線

火災の海自掃海艇が転覆 沈没の恐れも、乗組員1人不明

まとめ
  • 福岡県宗像市沖で、海上自衛隊の掃海艇「うくしま」が火災を起こし、転覆。行方不明の古賀辰徳3等海曹の所在を確認できていない。
  • 消火活動中に乗員が退避し、1人が軽傷を負ったが命に別状はなし。海上保安庁が捜索を準備中。

うくしま

 10日午前9時50分ごろ福岡県宗像市の大島沖で、海上自衛隊の掃海艇「うくしま」で火災が発生し、1人が取り残されたとの通報があった。消火活動が行われたが火は消えず、翌11日午前0時5分ごろ転覆した。

 海自は行方不明の古賀辰徳3等海曹の所在を確認できておらず、事故調査委員会を設置した。転覆によって火が消えたため、海上保安庁は捜索を準備中だ。海自の斎藤海上幕僚長は、延焼の恐れがあったことを説明し、国民に心配をかけていると述べた。また、消火活動中に乗員が退避し、1人が軽傷ったが命に別状はないと報告されている。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】日本の海上自衛隊が国を守る!掃海艇の重要性と安全保障の最前線

まとめ
  • 掃海艇は海上自衛隊の重要な役割を担い、機雷探知や無力化を通じて海の安全を確保する。
  • 日本は約30隻の掃海艇を保有し、特に多くの艦艇は、FRP製であり、これは軽量で腐食に強く、レーダーに対する低可視性を持つ。
  • 海上自衛隊は対機雷戦(AMW)と対潜水艦戦(ASW)の両方の優れた能力を持ち、地域の海洋安全保障に重要な役割を果たしている。
  • ASW作戦においては、昨年ヘリコプターの衝突事故が発生し、安全性向上の必要性が再確認された。
  • 掃海艇の火災に対する脆弱性が露呈し、防火対策や新素材の開発が求められている。これらの掃海艇や対潜装備を擁する海自の力は、海洋の安全と国際社会全体の安定を支えるための象徴であり、日々成長を続けている。
出港する掃海艇を見送る人々

掃海艇──それは、海上自衛隊が世界に誇る精鋭の一翼である。見えざる海中の脅威、機雷を前に、ひるまず立ち向かう彼らの使命は並大抵のものではない。彼らはただ海をきれいにするための掃除屋ではない。掃海艇は、海の安全を担保し、ひいては国と国際社会を守るための戦士なのだ。

まず第一に、掃海艇の任務は機雷探知から始まる。音響センサーや磁気センサーといった最新装備を駆使し、海底に潜む機雷を探知する。敵の罠として潜む機雷を見逃さず、的確に見つけ出すことこそが、掃海艇の要となる。そして、見つけた機雷は無力化する。掃海艇には、機雷を引き揚げ、爆破し、安全な航路を確保するための多様な装備が整えられている。これによって、商船や軍艦が安心して航行できるようにするのだ。

しかし、掃海艇の意義はこれだけにとどまらない。機雷は、敵が補給線や艦船を阻むために使うことが多く、掃海艇の存在はその妨害を打ち砕く鍵となる。これにより、自国の海上作戦の自由度を守り、戦略の幅を大きく広げることが可能となる。実際、2023年時点で日本は約30隻の掃海艇を保有しており、その技術力と規模において他国を圧倒する。

海自の掃海母艦と、掃海艇

さらに日本の海上自衛隊には、対機雷戦(AMW)能力と並び、対潜水艦戦(ASW)能力がある。この2つの能力こそが、海自を世界のトップクラスに位置づける要素の一つだ。AMW、つまり機雷掃討においては、FRP(繊維強化プラスチック)製の掃海艇が大いに活躍している。この素材は軽量かつ腐食に強く、さらにレーダーによる探知を難しくする特性があるため、敵の監視をかいくぐり、機雷の除去を迅速に遂行できるのだ。

対潜水艦戦(ASW)能力についても、日本は高い評価を得ている。海自は最新の潜水艦や対潜哨戒機をはじめ、音響センサーや対潜ミサイルといった装備を備え、地域の海洋安全保障の重要な役割を果たしている。しかし、ここでも試練はある。昨年はASW(対潜水艦戦)作戦の一環として運用されていたヘリコプターが衝突事故を起こした。今回の事件も含めて、ASW、AMWの訓練には常に大きな危険が伴うのだ。

日本の海上自衛隊のAMW能力の歴史を振り返ると、1991年、湾岸戦争後のペルシャ湾での掃海作業に派遣され、「世界一」とも称された。その後、掃海艇の老朽化により評価が一時低下したが、最新型の掃海艦や掃海ヘリコプターの導入により再び実力を取り戻し、今やアメリカや中国をも凌ぐ対機雷戦能力を誇るまでに成長している。

ペルシャ湾に向けて出港する掃海母艦「はやせ」を見送る人々(1991年4月26日、海自呉基地)

FRP製の掃海艇の特性を見ても、日本の技術の高さがうかがえる。軽量であり、腐食に強く、さらにレーダーへの反応が抑えられるため、敵の探知を回避しつつ迅速に作戦を展開することができるのだ。この特性は、偵察や掃海活動においてまさに必要不可欠なものである。

だが、完璧とはいえない。火災に対する脆弱性がFRP素材の弱点であり、一度発火すると炎が広がりやすい。そのため、海自では防火材料の使用や自動消火システムの装備など多重の対策を講じているが、今回「うきしま」で発生した火災がその脆弱性を露呈させた。火災の原因究明が急がれるとともに、将来的には耐火性に優れた新素材の開発も検討すべきであろう。

これらの掃海艇や対潜装備を擁する海自の力は、もはや単なる軍事力ではない。海洋の安全、そして国際社会全体の安定を支えるための象徴である。海上自衛隊の努力と技術は、日本を支え、世界に誇るべき存在として日々成長を続けているのだ。

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2024年10月23日水曜日

〈ソ連崩壊に学んだ中国共産党〉守り続ける3つの教訓と、習近平が恐れていること―【私の論評】習近平体制の内なる脆弱性:ソ連崩壊と中国共産党の共通点

〈ソ連崩壊に学んだ中国共産党〉守り続ける3つの教訓と、習近平が恐れていること

岡崎研究所

まとめ
  • 習近平は中国共産党がソ連の運命を辿ることを恐れ、党の内部統制とイデオロギー強化を重視している。
  • 「ゼロコロナ」政策の急な終了や経済復興の困難さが、党の安定に影響を与えている。
  • 習近平は後継者の育成に無関心で、自らの長期在位を望む姿勢が将来の権力移行を不安定にする可能性がある。
  • 党の統治継続、イデオロギー堅持、米国との直接対決回避を教訓として、習近平はこれを守りつつも党内外のバランスに苦しむ。
  •  習近平の厳格な管理は党の自発性を奪い、腐敗や無気力を生むリスクがあるが、党の体制自体は強固で経済が崩壊しない限り維持されるだろう。

習近平

 エコノミスト誌10月5日号の解説記事が、今年10月に創設75周年を迎えた中国共産党は、支配年月がソ連共産党のそれを超えたが、指導者の習近平は中国がソ連のように崩壊することを恐れている、と書いている。要旨は次の通り。

 中国共産党が創設75周年を迎えた2024年、習近平国家主席は自身の党の永続的な支配について深い懸念を抱いている。特にソ連崩壊の歴史から学んだ教訓を基に、党の内部統制とイデオロギー管理の強化を図っている。

 習近平の政策は、ソ連の崩壊が党内の派閥争いやイデオロギー的、組織的規律の喪失によるものだと捉えており、これを避けるため、党の団結と戦闘力を維持する必要性を強調している。2022年の党大会やその後の演説で、彼は「我々を敗北させ得るのは我々だけだ」と述べ、内部からの崩壊に警戒を呼びかけている。

 しかし、習近平の施策は二つの面で問題を孕んでいる。一つ目は、経済政策の失敗とその後の景気刺激策が必ずしも成功を収めていないこと。2022年の「ゼロコロナ」政策の突然の撤廃やその後ろくな復興策なしに経済を回復させようとした結果、国民の間に不満が広がっている。

 二つ目は、習近平自身が後継者育成に無関心であり、自身の権力維持を優先する姿勢だ。これにより、将来的な権力移行が混乱を招く可能性が指摘されている。ソ連の指導者選びが党内争いやクーデターで決まったという歴史を反面教師にすべきだが、習はその教訓を活かしているとは言い難い。

 鄧小平時代以降、中国はソ連崩壊の原因を徹底的に研究し、政策提言をまとめてきた。鄧の教訓では、共産党の統治継続、イデオロギーの堅持、そして米国との力比べを避けることが挙げられた。これらの原則を習近平は守っているが、彼の厳格な党管理は、党内外のバランスを崩し、党官僚に過度なプレッシャーを与えている。党員の献身性を求める一方で、組織の自発性を殺し、腐敗や無気力さを招く可能性もある。

 習近平の路線は、党のガバナンスの難しさを象徴している。引き締めと緩和の適切なバランスを見つけることは容易ではなく、現在の中国が直面する最大の課題の一つである。しかし、党の内部には、党の統治継続というコンセンサスがあり、経済が崩壊に瀕しない限り、党の体制自体が傾くことは考えにくい。党内での是正力が働くという観点から、共産党の支配は今後も続くと見られている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】習近平体制の内なる脆弱性:ソ連崩壊と中国共産党の共通点

まとめ
  • 習近平の強権的な統制は、党内部の弱点を覆い隠すための手段である可能性が高い。
  • ソビエト連邦も中央集権による統制を試みたが、地方の腐敗や非効率性が崩壊を引き起こした。
  • KGBやプロパガンダなどで体制を維持したが、ソ連の根本的な問題は解決されず、最終的に崩壊した。
  • 習近平の政策はソ連の全体主義を継承しているが、同じ道を辿るリスクがある。
  • 中国の軍事演習は強大に見えるが、内部には多くの問題があり、体制の脆弱さを示唆している。
元記事には次のような記述が見受けられる。

「習近平による組織管理と精神教育の強化は、すべてを党が指導することを国政の中心に据えた結果、その実施部隊である党幹部と党員があまりにふがいないというので進めている可能性の方が高い」

中国共産党の結党100周年を祝う式典

この発言を深く考察すると、中国共産党の表面的な強さは実は内なる弱さを隠しているに過ぎないことが浮かび上がってくる。党の全てを握り、党幹部や党員に強権的な統制を敷くことは、一見すると党の結束力や支配力の強化に映るかもしれない。しかし、それは真に強固な基盤を築いているわけではなく、むしろ党の内部に潜む問題を覆い隠すための手段であると言えるのではないだろうか。

続けて、元記事では「1980年代の半ばまでは、ソ連は極めて厳格に管理された党と社会であり、現在の中国など足元にも及ばない」としている。だが、これは実情を表面的に捉えたものであり、実際にはソ連の崩壊に至る数十年の間に問題は徐々に蓄積されていた。その問題は表に出なかっただけで、ソ連の成立当初から内包されていた不協和音であると捉えるべきだ。

ソビエト連邦は、理論上は中央集権による完全な統制を目指していた。すなわち、国家全体を一つの統一した力で支配し、全ての決定権を中央に集中させることが目標であった。しかし、理想と現実は異なる。現実世界は、ソ連が描いた統制モデルを超えるほどの複雑な問題に満ちており、そのために完全な中央集権体制は最後まで実現されなかった。

中央集権の弊害として、地方ごとの自治や経済計画の非効率性が生じ、地方官僚たちが腐敗し、時には中央の方針を逸脱して独自の行動を取ることもあった。情報伝達も遅滞し、中央の意図が末端に届くまでには時間がかかり、時には誤解が生じることもあった。また、党内には権力闘争が絶えず、その度に政権内部が揺れ動いていた。

それでもソ連は、中央集権の欠陥を補うためにさまざまな政策を打ち出した。その中でも、秘密警察であるKGBの強化は、中央の統制を維持するための重要な柱であった。KGBは反体制的な動きを迅速に察知し、地方の反抗を力で抑え込んだ。また、プロパガンダや教育を通じて共産主義のイデオロギーを国民に浸透させ、国家全体の統一意識を維持しようとした。さらに、経済面では重化学工業や軍事産業に巨額の投資を行い、国家の優先事項としてこれらを発展させることで、国全体の経済成長を目指した。

ソ連はまた、党の幹部を養成するための教育制度を整え、忠実な党員を育成し、彼らに中央からの政策を実行させる体制を構築した。このエリート層は「ノーメンクラトゥーラ」と呼ばれ、ソ連社会において特権階級としての地位を築いた。しかし、こうした取り組みは短期的には一定の効果をもたらすことがあっても、中央集権体制が抱える根本的な問題を解決するには至らなかった。その結果、ソ連の崩壊は、中央集権体制が理想と現実の間で揺れ動き、最終的にその矛盾に耐え切れなくなったことを象徴する出来事となった。

ソ連崩壊を伝える新聞紙面

このような歴史的背景を鑑みれば、習近平の政策もまた、ソ連と同様に、中央集権の名のもとに体制を強化しようとする試みだと言える。しかし、ソ連の全体主義を継承するだけでは、その運命もまた同じ道を辿るだろう。現状を維持することに固執すれば、中国共産党は自らの崩壊に向かうしかない。政治体制を自ら変革し、改革の道を歩むか、それとも内部分裂と崩壊の道を進むか、習近平にはその選択が迫られている。

その兆候は既に見られる。たとえば、最近の中国による台湾周辺での大規模な軍事演習である。この演習は台湾の海上封鎖を狙ったものであるとされているが、その実態は2022年8月のペロシ米下院議長(当時)の訪台時に行われたものとほぼ同じである。規模こそ拡大しているものの、演習の基本的な枠組みは変わっていない。このような演習が、台湾や周辺諸国に対する脅威を高めることは間違いないが、同時に日米の抑止力を強化させる結果にもなっている。

さらに、中国軍の内部でも不穏な動きがある。戦略ロケット部隊では、異例のトップ交代が発生しており、これは汚職や機密漏洩が背景にあるとされる。また、戦闘準備の不備が指摘されており、訓練や実戦能力に疑問を投げかける事態が相次いでいる。潜水艦部隊においても、新型潜水艦の導入が進んでいるが、その運用能力や効果については未知数である。最近の報道では、新型潜水艦が沈没したとのニュースも流れており、装備の統合や訓練不足が実戦での即応性に影響を与える可能性がある。


こうした状況を踏まえれば、習近平の中国は外から見れば強大な軍事力を誇示しているかのように映るが、内部には多くの問題が積み重なっていることがわかる。米国防総省のロイド・オースティン国防長官も、中国軍が台湾を包囲した5月の軍事演習に関して、その実行の難しさを指摘している。米軍は中国軍の演習を詳細に観察し、その運用方法や動向を分析している。その結果、米軍は中国の軍事力に対して適切な対策を講じることができているという。

このような軍事演習は、ソビエト連邦が崩壊前に行っていた大規模な軍事演習を思い起こさせる。冷戦期、ソ連は「ザーパッド演習」や「ビースト演習」などを定期的に行い、崩壊末期まで実施され、西側諸国に対する抑止力として用いていた。しかし、これらの演習は強さを誇示するものではなく、実はその内部に抱える弱さを隠すための手段であった。それはまさに現在の中国にも当てはまると言えるだろう。軍事演習の規模が大きければ大きいほど、むしろその体制の脆弱さが浮き彫りになるのだ。

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中国最新鋭の原子力潜水艦が春ごろに沈没か 犠牲者不明 アメリカメディア報じる―【私の論評】中国最新鋭原子力潜水艦沈没事故:衛星写真で判明か、軍事力増強にダメージ

中国最新鋭の原子力潜水艦が春ごろに沈没か 犠牲者不明 アメリカメディア報じる

まとめ
  • 中国の最新鋭原子力潜水艦が2024年5月下旬から6月上旬に武漢近郊で沈没したと報じられ、事故の原因は不明であり、核燃料を積んでいた可能性が指摘されている。
  • 中国政府はこの事故を公表せず、隠蔽を試みたとされ、アメリカ当局者は犠牲者の有無や核物質漏えいの危険性についても言及している。
  •  沈没した潜水艦は引き揚げられたが、再出航には数カ月かかる見込みで、この事故が中国の原子力潜水艦増強計画に「大きな後退」をもたらすと分析されている。
AI写真ソフトで拡大修正してみやすくした写真

中国の最新鋭原子力潜水艦が2024年5月下旬~6月上旬に武漢近郊の造船所で沈没したとアメリカメディア(ウォール・ストリート・ジャーナル)が報じた。

専門家は核燃料搭載の可能性を指摘し、中国政府は事故を隠蔽したとされる。アメリカ当局者は犠牲者不明とし、核物質漏えいの危険性は低いとの見方を示した。

潜水艦は引き揚げられたが、再出航には数カ月かかる見込みで、中国の原子力潜水艦増強計画に「大きな後退」をもたらすと分析されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国最新鋭原子力潜水艦沈没事故:衛星写真で判明か、軍事力増強にダメージ

まとめ
  • 今回の事故に関して衛星写真と推測される画像が報道されているか、米軍の監視能力に関連するため詳細な説明は控えられているとみられる。
  • 2024年5月下旬から6月上旬に中国の造船所で、中国最新の攻撃型原子力潜水艦が沈没したとされる。
  • この事故は、中国の原子力潜水艦艦隊拡張計画に遅れをもたらす可能性があり、米シンクタンク、ヘリテージ財団のセドラー研究員は「かなり重大な事件」と評価している。
  • 中国の原子力潜水艦の数は米国に比べて大きく不足しており、今回事故は中国の潜水艦技術の成熟度に疑問を投げかける。
  • 現時点では事故の詳細や犠牲者の有無は不明であり、中国政府からの公式な確認もない。
上記の記事に掲載されている画像は、中国・武漢にある武昌造船所の衛星画像(6月13日)とされています。各メディアがこの写真を掲載していますが、特に詳細な説明はされていません。これは、米軍の衛星監視能力など機密性の高い情報に関わるため、解説が控えられていると考えられます。

画像の一部を拡大したものが下の写真です。4隻のサルベージ船と思われる船舶が取り囲んで作業している箇所に黒い影のようなものが確認できますが、これが当該潜水艦と推測されます。米軍は航空機などから微量な放射線の増減や種類を検知できるため、この付近で放射線の増減・種類などからこの潜水艦事故や潜水艦の型などを感知した可能性があります。


WSJの英語原文記事は以下のリンクから閲覧可能です:


中国の潜水艦沈没については、昨年も報道がありました。当時、このブログでも信憑性が低いことを指摘しました。その後、追加情報もなく、おそらく誤報だったと結論づけて良いでしょう。

しかし、今回の報道は衛星写真画像も掲載されており、信憑性が高いと思われます。

WSJの報道によると、この潜水艦は中国最新の攻撃型原子力潜水艦で、Type-093B(写真下)または商級改と呼ばれる可能性があります。潜水艦の具体的な仕様や能力については詳細な情報が提供されていません。


ヘリテージ財団のセドラー研究員は、この事故が中国の原子力潜水艦艦隊拡張計画に遅れをもたらす可能性が高く、「かなり重大な事件」と評価しています。

中国は近年、海軍力の強化を積極的に進めており、特に原子力潜水艦の開発に力を入れてきました。しかし、この事故により技術的な問題や安全性の再評価が必要となり、計画の遅延につながる可能性があります。

中国の海軍力増強は、アジア太平洋地域の軍事バランスに大きな影響を与える要因です。原子力潜水艦艦隊の拡張計画に遅れが生じれば、地域の軍事バランスにも影響を及ぼす可能性があります。

ヘリテージ財団のセドラー研究員

現在、中国の原子力潜水艦の数は依然として米国に大きく後れを取っています。一方米海軍は71隻の潜水艦を保有しており、その多くが原子力潜水艦です。

一方、中国の原子力潜水艦の正確な数は公表されていませんが、米国に比べてはるかに少ないと考えられています。推測では、おそらく10〜12隻程度とされています。この数の差は、中国が海軍力の拡大を急ぐ理由の一つとなっています。この隻数で一隻の沈没はかなりのダメージです。

さらに今回の最新鋭の原子力潜水艦の事故は、中国の潜水艦技術がまだ完全には成熟していない可能性を示唆しています。この事故は、中国の軍事技術力に対する国際的な評価にも影響を与える可能性があります。

セドラー研究員の発言は、この事故が単なる一過性の出来事ではなく、中国の軍事力発展に重大な影響を与える可能性があることを示唆しています。

ただし、事故の詳細や実際の影響については、さらなる情報や分析が必要です。現時点では、事故の具体的な詳細や犠牲者の有無は不明であり、中国政府からの公式な確認もありません。この情報は米国政府当局者の話に基づいており、今後の展開に注目が集まっています。

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2023年10月15日日曜日

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まとめ
  • ハマスがイスラエルを急襲し、「戦争状態」が発生
  • ハマスはパレスチナを代表せず、ガザ地区を支配し、イスラエル殲滅を目指す
  • 国際的に支持されている「二国家解決」へのバイデン政権の賛成が変化をもたらしている
  • 米国がイスラエルへの軍事支援を行うことで、ウクライナ支援が制約されている可能性。
  • 日本は台湾有事に備え、国際情勢が不安定であるため慎重な対応が必要

ハマスに誘拐された子どもたち(左は三歳、右は7歳) 写真はブログ管理人挿入

 ハマスによる急襲がイスラエルとの「戦争状態」を引き起こしている。ハマスはイスラエルの殲滅を目指し、パレスチナ全体を代表するわけではなく、特にガザ地区を支配し、パレスチナ人を抑圧してい。

 長い歴史にわたる紛争の背後には、第一次世界大戦中の英国の「二枚舌」政策があり、アラブ人とユダヤ人に独立国家を約束していたことが挙げられる。国際的には「二国家解決」が支持されており、バイデン政権はこれに賛成しているが、これに反対してきたイスラエルとの関係が変わりつつある。

 アラブ諸国は一般的にパレスチナを支持しているが、最近ではイスラエルとの関係改善が進んでおり、ハマスはこれを嫌っていた。ハマスの急襲は単なるテロ行為であり、平和的なイベントを襲撃し多くの人々を攻撃し、人質を取ったことがその明白な証拠だ。また、一部の報道では、イランがハマスを支援し、イスラエルに核兵器で対抗しようとしている可能性も指摘されている。

 米国はイスラエルに高い優先度を置いており、軍事支援を提供する見込みだ。これがウクライナ支援に影響を及ぼす可能性があると指摘されている。現在の国際情勢は不安定で、日本にも影響を及ぼす可能性がある。台湾有事が最も懸念されており、日本の対応についても検討が必要だ。この事件の解決が難航する場合、ウクライナ、イスラエル、北朝鮮に対する対応が影響を受ける可能性があるため、日本は慎重に行動しなければならない。

【私の論評】日本の未来を守る!強固な安全保障政策の必要性(゚д゚)!

まとめ
  • 現在の国際状況は複雑で不安定であり、第三次世界大戦のリスクは依然として極端な可能性に留まるものの、指導者の外交、国際協力、慎重な意思決定が重要である。
  • ウクライナ、東アジア、中東で同時に大規模な戦争が発生するリスクが存在し、誤った対応が世界的な大戦につながる可能性がある。
  • ロシアのウクライナ侵攻は複雑な要因によって引き起こされたが、バイデン政権の判断ミスも一因とされており、その教訓を踏まえた外交政策が必要。
  • 日本はアジアにおいて重要な役割を果たし、台湾有事に備えて米国と協力し、明確な戦略を採用すべき。
  • 日本は中国からの依存を減少し、貿易と同盟を多様化し、中国への制裁や貿易制限を強化すべき。また、台湾を支援し、北朝鮮問題にも積極的に対処すべき。

確かに現在は、国際的に複雑で潜在的に不安定な状況にあります。ただし、第三次世界大戦のような本格的な世界大戦のリスクは、依然として遠くて極端な可能性にとどまっているようにも見えますが、この状況は、世界の指導者による外交、国際協力、慎重な意思決定が重要なことを示していると思います。

一歩間違えると、ウクライナ、東アジア、中東で同時に大きな戦争になりかねません。今すぐにではなくても、各国の指導者が対応を間違えると、後に世界的な大戦になりかねません。

我々は、すでにそれに近いことを経験しています。わずか1年数ヶ月前までは、多くの人はロシアのような国が、情報戦などを駆使して、武力を背景としながらも、本格的に武力を使わずにクリミアを手に入れるようなことはあり得るにしても、今世紀に過去のような本格的な武力侵攻などないだろうと、考えていました。

しかし、その考えは、ロシアのウクライナ侵攻で見事に打ち破られました。一歩判断を間違えれば、このようなことはあり得ます。

ロシアのウクライナ侵攻は、複雑な要因が絡み合って引き起こされたものではありますが、バイデン政権の判断ミスもその大きな一因であったと考えられます。

バイデン大統領

バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻を阻止するために、ウクライナへの軍事支援を拡大し、ロシアへの経済制裁を実施しましたが、ロシアの侵攻を阻止するには至りませんでした。

バイデン政権の判断ミスとして指摘されているのは、次のようなものです。
  • ロシアの侵攻を過小評価した。
  • ウクライナへの軍事支援を遅らせた。
  • ロシアへの経済制裁を十分に実施しなかった。
バイデン政権は、ロシアがウクライナに侵攻するとは考えていなかったようで、侵攻を阻止するための十分な準備ができていなかったと指摘されています。また、ウクライナへの軍事支援も、侵攻が始まってから遅れて実施されました。本来は侵攻前に行うべきでした。さらに、ロシアへの経済制裁も、当初は十分な効果がなかったとされています。

バイデン政権の判断ミスは、今後の外交や安全保障政策に大きな影響を及ぼす可能性があります。バイデン政権は、これらの判断ミスの教訓を踏まえて、今後の外交や安全保障政策を再構築していく必要があります。

ロシア、ウクライナ国境付近で、ロシアが大規模な軍事演習を行ったり、その後軍隊を撤収するとみせかけて、さらに大規模な軍隊を配置し続けた段階までに、これに対して厳しい対処をしていれば、ロシアのウクライナ侵攻はなかった可能性も十分にありました。

具体的には、米国はウクライナ、ポーランド付近の国境に大規模なNATO軍を配置したり、場合によってはウクライナ国内にも配置すべきでした。プーチンの核の恫喝に怯むことなく、プタペスト合意に基づき、すぐにロシアと協議するなり、協議に応じなかったり、応じても態度を改めなかった場合、ウクライナを守り抜くことを宣言すべきでした。ウクライナ侵攻を阻止する手立ては何段階においもありました。

もうすでに、現在唯一の超大国米国がこのような判断ミスをしているのですから、日本としても警戒を強める必要があります。特に台湾有事は十分にあり得ることを念頭において行動しなければなりません。

無論中国が台湾に侵攻するのは、このブログでも何度か指摘したように、一般に思われているよりはるかに難しいことですが、それにしても、中国が台湾をかなり破壊することは、侵攻せずともすぐにでもできます。

実際、ロシアのウクライナ侵攻はうまくはいっていませんが、それでもロシアはウクライナの多くの都市を破壊しています。ハマスもイスラエルに大量のミサイルを発射したため、イスラエルはこれに反撃したものの、全部のミサイルは撃墜しきれず、イスラエル国内に甚大な被害をもたらしました。このような惨禍はくりかえすべきではありません。

バイデン政権は、ウクライナでの失敗を繰り返さないために、中国が台湾を攻撃したり、侵略してきた場合、米国は台湾を軍事的に守ると宣言すべきです。それも、明確で揺るぎないものでなければならないです。そうして初めて、中国を抑止することができます。

日本はアジアにおいて重要な役割を担っています。日本はかつて安倍晋三氏がそうであったように、 台湾に関して「戦略的明確性」のある政策を採用するよう米国に強く働きかけるべきです。

安倍元首相

米国は、中国の台湾に対するいかなる武力行使や侵略にも軍事的対応を取ることを明確にすべきです。これが中国を真に抑止する唯一の方法です。日本の安全保障は台湾の民主主義に依存していることを強調しなければならないです。

米国が曖昧な態度をとれば、他の国々がいくら強硬な措置をとったにしても、中露北やハマスなどのテロ組織は自分たちのチャンスが到来したと、ぬか喜びすることになるでしょう。

さらに、特に北朝鮮のミサイルや中国の野望の脅威がある以上、日本は米国だけに頼ることはできないです。ミサイル防衛システムと海軍力をさらに拡充すべきです。

 日本は、オーストラリア、インド、ベトナム、台湾との協力強化など、中国を取り巻く戦略的軍事同盟に米国とともに参加すべきです。中国に対抗するための基地を設置し、合同演習を行うべきです。

 中国に対する制裁と貿易制限を強化し、中国の経済力を抑制すべきです。中国の国家に対する経済的強制は脅威であり、民主主義国家は団結してこれに対抗しなければならないです。主要産業への技術移転と中国の投資を制限すべきです。

中国からの圧力に直面している台湾に対し、外交的・経済的支援を行うべきです。台湾が独立を維持し、民主的な政府を承認し続けることを支援すべきです。

日本は、中国に過度に依存しないよう、貿易と同盟関係を多様化すべきです。TPP加盟国のように、民主的価値を共有するパートナーに焦点を絞るべきです。

バイデン政権に、北朝鮮問題にも直接関与し、非核化なしに制裁を解除することを拒否することで、北朝鮮のミサイル計画に厳しく対処するよう要求すべきです。北朝鮮は依然として危険であり、特に中国と協力しています。

ただ一方では、日本ではほとんど認識されてぃませんが、北朝鮮とその核の存在が結果として、中国の朝鮮半島への浸透が防いでいる面もあります。国際情勢は単純ではないのです。バイデン政権は、これを無視する可能性もあり、そうなれば、かえって朝鮮半島の危機は高まります。これに留意しつつも、北を抑制する方向に米国が動くように日本は働きかけるべきです。

北は、かつて日本人を多数拉致しています。そうして、韓国内で軍事行動を起こしたこともあります。

江陵浸透事件(カンヌンしんとうじけん)は、1996年韓国の江原道江陵市付近の海域において、韓国内に侵入して偵察活動を行っていた工作員を回収しにきた北朝鮮の特殊潜水艦(サンオ型潜水艦)が海岸に接近したところ座礁し、帰還の手段を失った乗組員と工作員26名のうち艦長以下11名が集団自決、他は韓国内に逃亡・潜伏し、大韓民国国軍がこれに対し掃討作戦を展開した事件です。

天安沈没事件は、大韓民国海軍の浦項級コルベット「天安」が2010年3月26日に朝鮮人民軍の魚雷攻撃で撃沈された事件です。日本では、外務省が韓国哨戒艇沈没事件と呼称した他、韓国哨戒艦撃沈事件との表記も見られました。

北朝鮮は日本に対してこのような行動をする可能性は否定できません。中国も、正規軍ではなく、民兵を使って、尖閣上陸、実効支配する可能性は否定できません。それで成功すれば、さらにエスカレートさせる可能性もあるでしょう。

バイデン米大統領と岸田首相 頼りない二人だが、世界の安保のためできるだけのことをしてほしぃ

今はそのような兆候はないかもしれませんが、長期にわたってそのような危機はありえないとの保証は誰にもできないでしょう。朝鮮半島有事、台湾有事があれば、日本に難民が押し寄せる可能性がありますが、かつて麻生太郎氏が語っていたように、その中に武装難民がいる可能性もあり得ます。仮にそうなれば、日本も現在のイスラエルのような立場になることもあり得ます。

日本は世界の出来事に影響を与える極めて重要な立場にあります。米国に主導権を発揮させながらも、脅威に対抗するために独自の行動をとることで、日本はウクライナやイスラエルのような事態を避けることができるでしょう。岸田政権はその責務を果たすべきです。

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2023年10月14日土曜日

中国の原子力潜水艦事故は本当に起きたのか?―【私の論評】黄海での中国原子力潜水艦事故報道の信憑性に疑問が残る軍事的背景(゚д゚)!

 中国の原子力潜水艦事故は本当に起きたのか?

山崎文明 (情報安全保障研究所首席研究員)

まとめ
  • 中国海軍の093型原子力潜水艦が事故を起こしたとされるが、中国政府は否定している。
  • 報道の発端は、中国に不利な虚偽情報と陰謀論を投稿することが多いYouTubeアカウント「路徳社」の動画である。
  • デイリーメールの記事を後追いしたロイターも、中国国防部がコメントを避けたと報じている。
  • 情報源が「デイリーメール」しかないため、フェイクニュースである可能性が高い。
中国海軍の093型原子力潜水艦

 2023年8月21日、中国海軍の093型原子力潜水艦が朝鮮半島西側の黄海で、中国軍が米英などの潜水艦を捕捉するために仕掛けた障害物に衝突する事故を起こしたと、英国のタブロイド紙「デイリーメール」が報じた。

 この報道は、中国に不利な虚偽情報と陰謀論を投稿することが多いYouTubeアカウント「路徳社」が投稿した動画が元になっている。路徳社の動画を見た、潜水艦の情報を専門とする軍事評論家のサットン氏が、8月22日に自身のTwitter上で「093型潜水艦が台湾海峡で沈没した」との情報を「真偽の程はまだ確認されていない」との警告付きで投稿したことで、さらに広まった。

 しかし、中国政府は8月22日に、台湾国防部も8月31日に、いずれも「ネットに流れている中国原潜沈没の情報については何ら証拠を持っていない」と否定している。また、デイリーメールの記事を後追いしたロイターも、中国国防部がコメントを避けたと報じている。

タブロイド紙 デイリー・メイルの紙面

 デイリーメール以外の情報源がないため、今回の報道は極めて典型的なフェイクニュースであると考えられる。原子力潜水艦の母港は、米英など西側諸国が軍事偵察衛星で常時監視しており、093型潜水艦が帰還すればすぐにわかるはずである。

 093型潜水艦の任務期間は3カ月から6カ月ほどである。この期間が過ぎても帰還しなければ、今回の報道は本当だったことになる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細ホ知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】黄海での中国原子力潜水艦事故報道の信憑性に疑問が残る軍事的背景(゚д゚)!

まとめ

  • 黄海は浅く、潜水艦事故はすぐに発見される可能性が高い
  • 米国や日本などの対潜戦能力は高く、事故を探知・報告する可能性が高い
  • 米、日、韓の軍事当局から確認されていない
  • 報道元は虚偽報道の過去がある
  • 中国も沈没を認めていない
黄海は比較的小さく浅い海域で、さまざまな国の船舶や潜水艦が頻繁に行き来しています。つまり、潜水艦の大事故を隠すのは難しいです。

さらに、日本、米国、その他の地域の国々の海軍は、高度な対潜水艦戦能力を有しています。もし中国の原子力潜水艦が黄海に沈んだとしたら、これらの海軍のいずれかがそれを探知している可能性がかなり高いです。 

Yellow Sea(黄海)の位置

黄海での中国原子力潜水艦の事故が公式には確認されていないこと、この事故に関する唯一の情報源が、虚偽で誤解を招くような記事を掲載してきた歴史を持つ英国のタブロイド紙であることは、この報道がフェイクニュースであることをさらに示唆しています。 

結論として、中国海軍の093型原子力潜水艦が黄海で事故を起こした報道はフェイクニュースである可能性が高いです。その主張を裏付ける信頼できる証拠はなく、疑うべき理由はいくつかあります。

黄海の最大水深は約 152 メートルです。平均水深は約 44 メートルで、全体的に浅い海です。さらは、黄海は日米やその同盟国の海軍によって厳重に監視されているため、大規模な潜水艦事故が見逃されることはほとんどあり得ません。

西側の軍や信頼できる情報筋からの報告がないことから、これはフェイクニュースである可能性がかなり高いです。監視衛星、哨戒機、潜水艦、水上艦船を含む米国の高度な対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)能力は、黄海における中国の潜水艦活動を綿密に監視しています。原潜の事故は即座に探知され、報告されるでしょう。

米国は中国の海洋進出を警戒しているため、中国海軍の弱点や脆弱性を公表することをためらわないでしょう。中国の潜水艦が沈没した場合、米国はおそらくこの情報を公開し、その原因も公表するでしょう。

日本もまた、この地域にかなりの対潜戦力を配備しており、中国の海軍の野心を制限することに米国と利害を共有しています。日本もまた、このような出来事について報告する可能性が高いです。日本は、過去には中国の潜水艦が領海を潜水したまま航行したことを公表し、マスコミも報道しています。

日米は、中国の潜水艦の行動をリアルタイムで把握するためのインフラ網を構築しています。このインフラ網には、衛星、航空機、海上艦艇、地中レーダー、潜水艦などさまざまな種類の偵察機器が含まれます。

日本の哨戒機P-1

2004年、中国海軍の原子力潜水艦が日本の領海を侵犯しました。この潜水艦は、日本列島の島々の間にある狭い海峡を航行していたため、日米軍事筋は「迷い込んだのではないのは明らかだ」と述べました。

日米は、中国の潜水艦活動を監視するために、さまざまな手段を講じています。このインフラ網のおかげで、中国の潜水艦が日本や米国等の領海を侵犯した場合でも、迅速に追跡して対処することが可能になっています。

米、日、韓の軍事当局からまったく確認が取れていないことは、この報告が信憑性に欠けることを強く示唆しています。

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2023年2月19日日曜日

中国軍がなぜ日米戦争史を学ぶのか―【私の論評】中国が日米戦争史で学ぶべきは、個々の戦闘の勝敗ではなく兵站(゚д゚)!

中国軍がなぜ日米戦争史を学ぶのか


【まとめ】

・中国人民解放軍が太平洋戦争の歴史を熱心に研究し始めた.

・中国側の動機は、今後起きるかもしれない米中戦争に備えることだと考えられる。

・人民解放軍は米軍との大規模な戦争を考えるうえで、太平洋戦争の教訓を活かそうとするだろう。


最近、中国人民解放軍が日米両国が戦った太平洋戦争の詳細な歴史を熱心に研究し始めたことがアメリカでの調査で明らかとなった。

中国側の動機は、今後太平洋の広大な海域で起きるかもしれない米中戦争に備えることのようだという。日本にとっても深刻な事態となる展望なのだ。

日本側としてはまず、アメリカとの戦争に備えるというような危険な隣国の存在を改めて認識すべきだろう。そのうえで同盟国のアメリカが中国側のそんな危険な動向を十二分に意識して、その対策をも考えているという現実を認識すべきである。

そうした認識はみな、日本自体の国家安全保障や防衛政策へと直結する基本点だといえよう。

アメリカの首都ワシントンに所在する安全保障の大手研究機関「戦略予算評価センター(CSBA)」は1月中旬、「太平洋戦争の中国への教訓」と題する研究報告書を公表した。

副題に「人民解放軍の戦争行動への意味」とあるように、太平洋で日本軍と米軍が戦った際の詳細を中国の今後の軍事行動への教訓にするという中国側の研究内容を調査し、分析していた。

約100ページの同報告書を作成したのはCSBAの上級研究員で中国の軍事動向については全米有数の権威とされるトシ・ヨシハラ氏である。

日系アメリカ人学者のヨシハラ氏は海軍大学教授やランド研究所の研究員を務め、中国人民解放軍の動向を長年、研究してきた。ヨシハラ氏は父親の勤務の関係で台湾で育ったため中国語に精通し、中国側の文書類を読破しての分析で知られている。

では中国はなぜいまになって70数年前に終わった太平洋戦争の歴史を熱心に学ぼうとするのか。ちなみにこの太平洋戦争を大東亜戦争と呼ぶことも適切だろうが、アメリカと日本の軍隊が主戦場としたのはやはり太平洋だった。

ヨシハラ氏は中国側のこの研究の目的について「近年、中国軍関係者による太平洋での日米戦争の研究が激増してきたが、その背景には習近平主席が『人民解放軍を世界一流の軍隊にする』と言明したように、2030年までには中国軍はとくに海軍力で米軍と対等になる展望の下で太平洋の広範な海域での米軍との戦争研究を必要とするようになったという現実があるといえる」と述べている。

ヨシハラ氏の分析では、中国が太平洋戦争での米軍の戦略や戦術、さらには日本軍の敗北要因を分析し、その結果、どんな教訓を得たのかを知ることはアメリカ側にとっても今後の中国の対米戦略を占う上で重要だという。

その目的のためにヨシハラ氏は中国側の人民解放軍当局、国防大学、軍事科学院などの専門家たちが2010年から22年の間に作成した太平洋戦史研究の論文、報告類、合計100点ほどの内容を通読し、分析したという。

中国側のそれら報告書類は人民解放軍内の調査文書や軍民共通の紙誌掲載の論文などから広範に収集されている。

そのような中国側の太平洋戦史研究の文書多数を点検したこの報告書はその膨大な中国側の太平洋戦争研究のなかで、分析をミッドウェー海戦、ガタルカナル島攻防、沖縄戦の3件にしぼり、中国側の考察の主要点を次のようにまとめていた。

ミッドウェー海戦

日本海軍が空母4隻を一挙に失ったこの戦いでは米軍は日本側の暗号を解読し、情報戦で当初から勝っていた。日本側は情報戦、偵察が弱かった。空母よりもなお戦艦の威力を過信していた。さらに日本側には真珠湾攻撃や東南アジアでの勝利での自信過剰があった。

ガダルカナル島攻防

アメリカ側の補給、兵站が圧倒的に強く、日米両国の総合的国力の差が勝敗を分けた。日本軍は米軍のガタルカナル島の飛行場の効果を過小評価し、空爆で重大な損害を受けた。日本軍は地上戦闘では夜襲と肉眼偵察を重視しすぎて被害を急増した。

【沖縄戦】

米軍は兵員、兵器などの物量で圧倒的な優位にあった。だが日本側は米軍の当初の上陸部隊を水際でもっと叩くことが可能だった。空からの攻撃が海上の巨大な戦艦(大和)を無力にできることを立証した。だが日本側の自爆の神風攻撃はかなりの効果をあげた。

以上の諸点からヨシハラ氏は中国側のこの太平洋戦史研究の全体の目的や、そこから得たとみられる教訓、考察などについて以下の諸点をあげていた。

 ・中国側は習近平政権の登場以来、太平洋戦争の研究の分量や範囲を大幅に増し始めたが、その原因は習近平政権がアメリカとの大規模な戦争の可能性を真剣に考慮するようになったことだろう。

 ・中国軍には近年、実際の戦闘経験が少なく、とくに海上での大規模な戦争の体験がない。アメリカとの全面対決ではやはり太平洋戦争での日米戦でのような広大な海域での衝突が予測されるため、太平洋戦の歴史はとくに大きな意味を持つようになった

 ・日本軍は最終的には敗れたが、その過程での先制の奇襲攻撃や自爆覚悟での神風特攻隊による攻撃はアメリカ側を揺らがせ、単なる物理的な次元ではなく、心理戦争というような側面でも大きな被害を与えた。

 ・アメリカ軍による日本軍の暗号解読などインテリジェンス面での米側の優位は個別の戦闘でも決定的な有利をもたらした。情報収集、偵察などのインテリジェンス戦が実際の最終戦闘の帰趨までをも決めることが立証された。

 ・ガタルカナル戦や沖縄戦での日米両軍の物量の圧倒的な差異は両国の総合的な国力の差から生じたことが明白だった。だからこんごの大規模な戦争でも当事国のとくに経済面での総合的な強さが軍事動向を左右することが再確認された。

 ・沖縄戦での日本の世界最大の戦艦「大和」の沈没が明示した海上戦闘での空軍力の決定的な効果は、戦艦よりも空母の威力、さらには海上での空戦でも地上基地からの空軍力の効果の絶大さを立証した

以上のような考察を述べたヨシハラ氏は、中国の人民解放軍が将来のアメリカ軍との大規模な戦争を考えるうえで、太平洋戦争からの以上の諸点を教訓として活かそうとするだろう、と結んでいた。

【私の論評】中国が日米戦争史で学ぶべきは、個々の戦闘の勝敗ではなく兵站(゚д゚)!

大東亜戦争において、日米は総力戦を戦ったのであり、個々の戦闘は確かに戦艦や空母、航空機が登場し、大掛かりで、しかも戦闘地域は、かつての陸の戦いよりは、はるかに広範な海域で行われ、長期間に渡って行われましたが、それにしても個々の戦闘にだけ注目していては、大事なことを見過ごすことになります。

第2次世界大戦中の米軍の傾向食糧「Cレーション」

日米の太平洋戦における中国の分析も、そうしてヨシハラ氏の分析にしても、重要なことを見逃していると思います。それは、いわゆる通商破壊(Commerce raiding)です。

通商破壊とは重要な海域を海上封鎖し、敵国の海上交通路を機能不全に陥れて兵站を破壊しようとする戦略のことです。

通商破壊戦を行う事、また敵国の通商破壊戦から自国の商船・輸送船を守る事こそ海軍の存在意義でもあります。

海上交通路を麻痺させる手段としては以下のようなものが挙げられます。
  • 敵国籍の艦船に対する海賊行為の奨励
  • 港湾施設への襲撃(艦載砲や爆撃を用いる事が多い)
  •  艦隊(潜水艦・水上艦)や航空隊(攻撃機・爆撃機)を派遣し、目標海域を通る船を撃沈して回る
  • 海峡や港湾に機雷を仕掛けて通行不能にする
これを最初に体系的に潜水艦(Uボート)を用いて効果的に行ったのがドイツです。これについては、以下の記事を参照願います。
戦争のやりかた一変! ドイツが始めた「無制限潜水艦作戦」とは? いまや弾道ミサイルまで
第二次世界大戦中の太平洋戦において米軍は、通商破壊を組織的に体系的に熱心に行いました。一方日本はそうではありませんでした。

これは、なぜなのでしょうか。まずは、日露戦争を経て確信となった佐藤鉄太郎の「制海的軍備優先思想=艦隊決戦至上主義」は、日 本海海戦の勝利のイメージと一体になって教条化したと同時にこの思想は東郷元帥の権威とあまって、日本ではいわば詔勅化し、犯し得ない聖域となってしまったことがあります。 

潜水艦が実戦で威力を発揮する兵器として登場したのは第一次大戦です。この潜水艦を日 本海軍が通商破壊戦に運用しようとしなかったのは、第一次大戦すなわち総力戦という戦争形 態の大きな変化に、それまでの戦い方を組織として適応させることができなかったことによると考えられます。 第一次大戦前の日本の海軍戦略は制海権、海上の管制を目的とする艦隊決戦至上主義でした。

日本は、日英同盟により英国の要請を受けて、1917年4月から、海軍・第二特務艦隊を地中海に派遣し、英国をはじめとする連合国の海軍の艦隊をドイツの潜水艦による脅威から連合国艦隊を守る任務に就きました。巡洋艦1隻と駆逐艦8隻、後には駆逐艦4隻も増派されますが、日本の艦隊は、地中海における業務の際、マルタ島とエジプトのアレクサンドリアを結ぶ地中海の海上交通路の護衛任務を中心に活動しました。

またさらに、日本の帝国海軍の活動は、地中海でアレクサンドリアとマルセイユとの間を結ぶ「ビッグ・コンボイ」と呼ばれる護送船団の基軸でもあったことは、日本人にはあまり知られていないことです。その時の犠牲者たちは、今もマルタ島のイギリス海軍の墓地などに葬られています。つまり、異国の地に眠っている日本の将兵も居るのです。

しかしながら、地中海におけるこの第二特務艦隊の護衛任務から得た貴重な教訓を、帝国海軍、つまり日本は無視することになりました。

無論、日本海軍に通商破壊の概念がなかったということではありません。あくまで、自由な通商破壊戦の前提としての海上管制を獲得する ための艦隊決戦優先主義でした。しかし、艦隊決戦そのものは、本来海上の管制のための手段にすぎないです。この手 段にすぎない艦隊決戦主義が戦争形態の変化にもかかわらず日本海軍においては、目的化し教条化し事実上の「詔勅」となっていたのです。 

日本では、総力戦という「新しい現実」も、艦隊決戦という視点から観察されました。そのため潜水艦とい う艦隊決戦の目的である「海上の管制という概念」の修正を迫る新兵器も、艦隊決戦にどう役 立てるか、どう資するかという形で取り込まれていったのです。日本は、今で言う空母打撃群を世界で最初に創設して、運用したのですが、これも艦隊決戦にどう役立つかという観点から組み込まれることになりました。

実は、日中戦争期の数度の演習の結 果、艦隊決戦に資する敵艦の漸減手段として潜水艦を運用することは通商破壊戦に運用するのに比し て効果的でないという現場からの所見が度々提出されていました。

ところがこうした、演習がもたらした新しい現 実にも、帝国海軍は組織としては機敏に反応することもなく従来からの運用方針を踏襲することになりました。

この選択は、 太平洋戦争の日米潜水艦戦に重大な影響を及ぼしました。特に潜水艦の生産という側面に勝敗を分 ける致命的結果をもたらしました。

 1941年時点での日本の潜水艦建造施設は三つの海軍工廠と二つの民間造船所の五ヶ所でした。
一方、米国は二つの工廠と一つの民間造船所の三ヶ所に過ぎませんでした。戦争に入ってから二ヶ 所の民間造船所が加わりました。

にもかかわらず、1942年から1944年までの潜水艦の両国の竣 工数は、90隻と171隻で、米国は日本の約2倍生産しました。1941年の時点で米国は潜 水艦の生産は通商破壊戦用を主目的とすることに決定していました。そのため、潜水艦の性能自体は、日本に比べて全ての点で見劣りする平凡なタイプのものに限定しました。

しかし、米軍はこの性能的に劣る潜水艦を有効に活用し、通商破壊はもとより、偵察活動も効果的に行いました。第二次世界大戦中米軍は、東京湾内に潜水艦を派遣して、頻繁に偵察稼働を行っていました。

さらに、米軍は体系的な通商破壊の一端として、飢餓作戦(Operation Starvation)を実施しています。これは、太平洋戦争末期に米軍が行った日本周辺の機雷封鎖作戦の作戦名です。この作戦は米海軍が立案し、主に米陸軍航空軍の航空機によって実行されました。日本の内海航路や朝鮮半島航路に壊滅的打撃を与えました。

飢餓作戦の一環でB-29爆撃機から投下されたパラシュート付きのMk26機雷

こうして、日本は米国との総力戦に負けたのでした。日本も決して手をこまねいていたわけではなく、たとえば、スーパーフォートレスと呼ばれた日本本土攻撃に加わったB29の搭乗員は米側の資料では、3千名以上が亡くなったとされていますが、これは日本の特攻隊員の4千名以上死亡者に匹敵する程の数です。ただ、特に通商破壊で痛めつけられた日本は、戦争末期には総力戦を続ける能力はほとんど残っていませんでした。

戦後も日本はこの反省に立ち、海上自衛隊の戦術思想や日本の海運に影響を残しました。特に掃海能力の向上につとめ、日本の海自の掃海能力は現在では世界一とも言われています。また、潜水艦の能力向上にもつとめました。さらに、対潜哨戒能力では米軍と並び世界トップクラス2まで技量をあげています。

中国は、こうした日米の総力戦の実態を学ぶべきです。個々の戦闘の勝敗も重要ですが、体系的に組織的に国単位での兵站を守るとか、敵方のそれを破壊するなどの戦略のほうが重要なのです。

このブログでは、兵站を重要視しないロシアを批判したことがありますが、海の戦いでも兵站は重要なのです。

中国は2020年南シナ海と東シナ海、黄海、渤海の4海域で同時に軍事演習を行うなど大規模な演習をしましたが、10月になると小規模なものに変化しました。しかも南シナ海で軍事演習を行ったですが、他の海域では行っていません。それに対して日米の合同軍事演習は、堅実にインド洋でも行っています。これは、何を意味するのでしょうか。結局兵站の差であるといえます。

軍事演習は定期的に行い、部隊の練度向上と練度維持に行われるというのが表の目的ですが、裏の目的は仮想敵国への政治的な恫喝です。

そのため米国は、中国共産党への対抗措置として合同軍事演習を行っているのです。政治の延長の仮想敵国への恫喝として軍事演習が行われているのですが、物資消費は実戦と同じです。

端的に言えば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧、重さではおよそ100キログラムです。2万人規模の一個師団なら、2000トンの物資を消費します。さらには、弾薬その他消耗品の補給も必要です。

米軍のMRE(Meals,Ready to Eat=携行食)

これを適宜補うためには、作戦本部が予め消費を予測し、生産・輸送・備蓄・補給がネットワークとして存在しなければならないのです。

人民解放軍の軍事演習は、上にも述べたように9月には4海域で同時に行われました。ところが1ヶ月を経過すると、人民解放軍の軍事演習は南シナ海などの一部で行う様になりました。これは中国共産党が、開戦初頭で敵を数で圧倒する構想を持つことの証左です。ところが1ヶ月を経過すると、人民解放軍の攻勢が止まることを示しています。実際、しばらくの間中国軍は大規模な演習はしませんでした。

これが、実戦となると、米軍は徹底的に中国軍の兵站を叩くことになるでしょう。イージス艦などの艦艇は無論のこと、航空機や、攻撃型原潜で中国軍の兵站はもとより、通商破壊も行うことでしょう。

これでは、中国海軍は長期間にわたり行動することはできません。

戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったというのです。端的に言えば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきたというのです。

エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎないのです。

中国が実際に海戦を戦うことになれば、何よりも重要なのは兵站であり、米軍は中国の兵站線を通商破壊で徹底的に破壊することは目に見えています。

戦に素人である、中国の人民解放軍は、日米間の戦闘や戦略ばかりに目がいくようですが、兵站と米軍の通商破壊力にも目を向けるべきです。

海戦においては、現在でASW(Anti Submarine Warefare:対潜水艦戦争)が重要であり、これが強いほうが、海戦を制します。米軍はASW能力は世界一です。これによって、米軍は戦略的にも有利ですが、通商破壊に関しても圧倒的に有利です。

現在の中国が米軍と海戦を戦うなど無謀の一言です。中国が学ぶべきは、第二次世界大戦中の日米の戦闘ではなく、兵站と通商破壊です。そうして、通商破壊も無論、味方の兵站を守り、敵方のそれを破壊することが目的であり、重要なのは兵站であり、戦略で勝てたとしても、こちらのほうが劣っていれば、総力戦に勝つことなどできません。

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2022年10月3日月曜日

長期化するウクライナ戦争 露わになるプーチンの誤算―【私の論評】2024年プーチンが失脚しても、ロシアは時代遅れの帝国主義、経済を直さないと、ウクライナのような問題を何回も起こす(゚д゚)!

プーチンの傲慢さは、日露戦争の「悲惨なロシア」と酷似している

1904年2月、日本軍が満州でロシア艦隊を攻撃する様子

ウクライナ侵攻で苦戦するプーチンは、もはや後に引けなくなっている。その裏には、彼の過剰な自信と油断がうかがえる。かつて日露戦争で小国ニッポンを過小評価して敗北したニコライ二世のように、プーチンも同じ道を辿るのだろうか──。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自らを歴代のロシア皇帝になぞらえ、過去の輝かしい戦勝の記憶を国民に思い出させようとしている。6月、プーチンは18世紀の大北方戦争でバルト海沿岸地域の領土を「奪還し、強化した」ピョートル大帝(ピョートル一世)を讃えた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が長引くなか、歴史家からはプーチンを初代ロシア皇帝よりも、むしろ日露戦争(1904~05年)で莫大な被害を出したニコライ二世に重ねる声が上がりはじめている。

この2つの戦争に共通点があることは否定できない。ニコライ二世が日本を過小評価していたように、プーチンもウクライナはすぐに降伏すると思い込んでいた。

ニコライ二世がロシア海軍の敗北によって面目を失ったように、プーチンも想定外の苦戦を強いられている。特にロシア軍の黒海艦隊の旗艦がウクライナの攻撃を受けて沈没したことは象徴的な敗北となった。それだけではない。日露戦争でロシア軍が繰り広げた残虐行為がニコライ二世の統治に影を落とし、ロシアの国際的地位を傷つけたように、ウクライナでの戦争はロシアとプーチンの評判に深刻な打撃を与えている。

「日本に勇気があるはずがない」という思い込み

もちろん、この2つの戦争には違いもある。最大の違いは、日露戦争はロシアではなく日本が仕掛けた戦争だったことだ。

また、ニコライ二世の傲慢さの背景には、人種差別的な側面があった。「大国ロシアにとってアジアの国など恐れるに足らず、日本にロシアの軍隊を攻撃する勇気などあるはずがない」という考えだ。しかし1904年2月4日の夜、この思い込みは粉々に打ち砕かれた。日本の駆逐艦隊が満州の旅順港に停泊していたロシア艦隊に奇襲をかけたのだ。

日露戦争の背景には、満州の支配権をめぐるロシアと日本の思惑があった。第一次世界大戦に先立つ日露戦争は「第ゼロ次世界大戦」とも呼ばれる。日露戦争の開戦前に行われた交渉で、日本は満州をロシアの勢力圏と認める代わりに、大韓帝国を日本の軍事・政治的勢力圏と認めるようロシアに提案した。

ニコライ二世は日本の提案に応じず、ロシアと韓国の間に中立的な緩衝地帯を設けることを要求した。この頑なな態度の背景には、盟友であるドイツのヴィルヘルム二世の存在があった。ヴィルヘルム二世はニコライ二世に対し、君は「白色人種の救世主」であり、日本人を恐れる理由などないと言い聞かせた。

日本軍の旅順攻撃は、この妄想を見事なまでに打ち砕いた。旅順攻撃は物的な被害こそ小さかったが、ロシア人のプライドに与えたダメージは計り知れない。ロシア海軍が旅順港で停泊している間に日本の攻撃を受け、主導権を握られたという事実がロシア国民に与えた衝撃は大きい。

日本軍は旅順港を包囲するために高地の要所を占拠し、長距離砲を使ってロシアの封鎖艦隊の艦船を砲撃した。これはウクライナ侵攻の初期にロシア軍がキーウを断続的に攻撃した際に、ウクライナ人がロシアの不運な戦車を破壊するために用いた戦法でもある。

結局、ニコライ二世が派遣した6隻の艦船はすべて沈没、ロシア兵は凍てつく旅順港に取り残された。補給線を断たれ、戦う大義もないまま包囲された兵士たちの士気は急速に低下した。

初の大規模な陸上戦となった鴨緑江の戦いでは、日本軍がロシア軍の東部兵団を突破した。この段階でようやくロシア、そして世界は日本の軍事力を真剣に捉えるようになる。

ロシアにとって衝撃的な敗北ではあったが、日本側の被害も大きく、ロシア軍は皇帝の信頼に恥じない働きをしたと見なされた。しかし、その名誉もロシア兵が満州の中国人を強姦し、殺害していることが報じられると失われた。この点もウクライナでの戦争と重なる。

ロシア艦隊は自らの愚行と、不運と、日本軍の巧みな操船術に翻弄され、敗走を重ねた。世界海戦史上、最も長距離で行われた砲撃戦と言われる1904年8月の黄海海戦でも、日本の連合艦隊はロシア艦隊に勝利した。

約5000人のロシア兵を失う

それでもなお勝利を確信していたニコライ二世は、ロシアが誇る強大なバルチック艦隊をヨーロッパからはるばる極東へと向かわせた。しかし、この援護作戦は大失敗に終わる。バルチック艦隊は途中、北海で数隻の英国の民間漁船を日本軍の襲撃船と誤認して砲撃するという失態を犯し、ニコライ二世の海軍は世界中から嘲笑を浴びた。

7ヵ月後の1905年5月、バルチック艦隊は長い航海の果てにようやく極東に到着するが、疲労の色は濃く、ものの数時間で壊滅した。ロシアは戦艦8隻をすべて失い、約5000人のロシア兵が命を落とした。

その後、日本の陸海軍の連合作戦によって樺太が占領されると、ニコライ二世は講和を進めざるを得なくなった。日本とロシアは、セオドア・ルーズベルト米大統領の仲介の申し出を受け入れ、米ニューハンプシャー州ポーツマスで講話交渉の席に着いた。

ロシアは韓国が日本の勢力圏であることを認め、満州から撤兵することに同意した。ニコライ二世は戦争賠償金の要求を退けることには成功したが、失墜したロシアの威信を取り戻すことはできなかった。ロシア国民の怒りはロシア革命へと発展し、ニコライ二世は退位を余儀なくされ、後に処刑された。

プーチン率いるロシアは、世界ののけ者に

あくまで、ウクライナでの戦争は日露戦争と酷似しているわけではない。しかしプーチンがウクライナ人を著しく過小評価していたことと、侵攻がもたらす戦略的影響を軽視していたことは間違いない。

かくしてフィンランドとスウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請し、プーチン率いるロシアは世界ののけ者となった。この戦いがどのような結末を迎え、プーチン政権にどのような影響を与えるのかはまだわからない。

米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所の軍事専門家で、まもなく『Military History for the Modern Strategist(現代の戦略家のための軍事史)』を上梓するマイケル・オハンロンは「交戦国の顔ぶれ、戦闘の性質、地理、帝国主義的な野心、戦闘の随所に見られた人種差別的な側面など、細部を見れば日露戦争とウクライナでの戦争には相違点も多い」と語る。しかし、こう続ける。

「ロシアの大規模な軍事行動に散見される過剰な自信と油断──この点に注目すれば、この2つの戦いにぞっとするような類似性が認められることは確かです」

【私の論評】2024年プーチンが失脚しても、ロシアは時代遅れの帝国主義、経済を直さないと、ウクライナのような問題を何回も起こす(゚д゚)!

フィナンシャル・タイムズ紙は、「プーチンの諸々の誤算(Vladimir Putin’s catalogue of miscalculations)」と題する社説を9月17日付で掲載している。社説の主要点は次の通りです。

・ハルキウ地方でのロシア軍の敗走は、ロシアの大きさと軍事力が、より小さなウクライナを簡単に制圧でき、ウクライナ人はロシアを「解放者」として歓迎するとのクレムリンの間違った期待を再度際立たせた。

・同地方での敗走は、それまで投入した兵力をキーウ周辺と北部から同地に振り向ければ、総動員なしでも東部ウクライナ全域を占拠、保持できると考えたモスクワの過ちを明らかにした。

・西側諸国が彼ら自身の経済をも傷つける対ロシア制裁に対し意欲を欠き、西側の団結は早く壊れ、キーウに戦争をやめるように圧力をかけるという前提も誤りだった。プーチンは欧州への天然ガス供給を急激に減らしたが、欧州連合(EU)各国間に相違は残るものの、共同の準備と衝撃緩和のための大きな前進が見られた。

・西側の協調した反対姿勢は、非西側諸国、特に中国が米国中心の国際秩序に挑戦するという共通の利益のために味方になるとの、プーチンのもう一つの前提についても、後退を余儀なくさせた。

・上海協力機構会議で、習近平はウクライナ戦争への「疑問や懸念」をロシアに伝えるとともに、カザフスタンに対し「いかなる勢力の干渉」(注:ロシアの干渉が最もあり得る)に対してもカザフスタンの主権と一体性を守ると述べた。

・同じくインドのモディ首相は、今は「戦争の時期ではない」と述べ、公にウクライナ侵攻を批判した。

・プーチンの誤算は西側民主主義国には朗報であり懸念材料でもある。これまでの多くの誤算は、プーチンがウクライナでより広い敗走に直面した場合、今後の彼の決定も賢明であるとは信頼できないことを示すからだ。

プーチン大統領がウクライナ4州のロシアへの編入を強行し、この地方の奪回を「ロシアに対する攻撃」と核兵器で反撃する口実を与えることになったが、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)諸国は、その場合ロシアの黒海艦隊の殲滅など壊滅的な打撃を与えると警告しているようだ。

米国を訪問していたポーランドのズビグニェフ・ラウ外相は27日NBCテレビの報道番組「ミートザプレス」に出演し、ロシアのプーチン大統領が核兵器使用も辞さないという態度を示していることについて次のように語りました。

ポーランドのズビグニェフ・ラウ外相

「我々の知る限りプーチンは戦術核兵器をウクライナ国内で使用すると脅しており、NATOを攻撃するとは言っていないのでNATO諸国は通常兵器で反撃することになるだろう」

ラウ外相はこうも続けました。

「しかしその反撃は壊滅的なものでなければならない。そして、これはNATOの明確なメッセージとしてロシアに伝達している」

これに先立ち、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障問題担当補佐官は25日の「ミートザプレス」に出演し、ロシアが核兵器を使用した場合は「ロシアに破滅的な結果を与える」と言い、これはロシアの当局者との個人的なやりとりを通じてロシア側にはっきりと伝えてあると言明しました。

その「壊滅的反撃」や「破滅的な結果」をもたらすものが具体的にどんな作戦なのかは不明ですが、それを示唆するような記事が英紙「デイリー・メイル」電子版21日にありました。

「独自取材:プーチンがウクライナで核兵器使用に踏み切った場合、米国はロシアの黒海艦隊やクリミア半島の艦隊司令部に対して壊滅的な報復をするだろう、元米陸軍欧州司令官が警告」

2018年まで米陸軍欧州司令官をしていて、今はシンクタンク欧州政策分析センターの戦略研究の責任者をしているベン・ホッジス退役中将がその人で、「デイリー・メイル」紙のインタビューに次のように語っています。

「プーチンがウクライナで核攻撃を命令する可能性は非常に低いと思う。しかし、もし戦術的な大量破壊兵器が使われたならば、ジョー・バイデン大統領の素早く激しい反撃に見舞われることになるだろう」

その具体的な作戦についてホッジス中将は以下のように語りました。

「米国の反撃は核兵器ではないかもしれない。しかしそうであっても極めて破壊的な攻撃になるだろう。例えばロシアの黒海艦隊を殲滅させるとか、クリミア半島のロシアの基地を破壊するようなことだ。だからプーチンや彼の取り巻きたちは米国をこの紛争に巻き込むようなことは避けたいと思うはずだ」

ホッジス中将が米国の作戦を承知していたとは思わないが、米軍の元司令官と現在の作戦立案者が考えることはそうは違わないはずです。ロシア国内に被害を及ぼさない限りでロシア軍に壊滅的な打撃を与えるためには黒海艦隊を攻撃することは効果的です。

それを米国がロシア側に警告したかどうかも定かではないですが、英国防省は20日のウクライナの戦況報告で、ロシア黒海艦隊が複数の潜水艦を、同国が併合したウクライナ南部クリミア半島のセバストポリから、ロシア本土の黒海沿岸にあるノボロシスクに移動させたとの分析を示しました。ウクライナ軍の長距離砲撃能力の向上を受け、警戒のための措置とみられるといいます。

移動したのは「キロ級潜水艦」で、黒海での船舶の安全な航行の妨げとなってきました。英国防省は、セバストポリにある黒海艦隊の司令部などが過去2カ月の間に、攻撃を受けていたと指摘しました。黒海艦隊の「虎の子」をまず逃したようにも見えます。

ソヴィエト/ロシア海軍の通常動力型潜水艦である「キロ級潜水艦}

プーチン大統領「これはハッタリではない」と豪語していましたが、米国やNATOの警告は核兵器使用に二の足を踏ませることができるでしょうか。

このブログでは、ロシア海軍の海戦能力は、日米英などに比較して、かなり低いことを掲載してきました。

特に、中露は日米に対して対潜哨戒能力(潜水艦を発見する能力)がかなり劣っているため、ロシアには日本のステル性(静寂性)に優れた潜水艦を発見することは難しいです。一方日本の対潜初回能力は米軍と並び世界トップクラスであるため、ロシアの潜水艦を日本が探知するのは比較的容易です。しかも、太平洋等ではなく黒海という限られた海域に潜む、ロシアの潜水艦を発見するのは、さほど難しいことではありません。

ASW(Anti Submarine Warfare:対潜水艦戦闘力)に劣ったロシア海軍は、海戦においては日米の敵ではありません。現在のロシア海軍は単独で日本の海自と戦っても、勝つことはできません。一方的に敗北するだけです。

こういうと、ロシアが核原潜を持っていることを根拠に、ロシアが負けるはずがないと主張する人もいるでしょうが、破壊と海戦は別物です。海戦には目的があり、その目的を成就したほうが、勝利となります。

ロシアはいざとなれば、核ミサイルを発射して、日本の水上艦隊を壊滅させるかもしれませんが、それでも潜水艦隊を壊滅させることはできません。潜水艦隊の大部分は生き残り、反撃のチャンスをうかがい、実行することになります。

ロシアはミサイルで、ウクライナの都市を攻撃して、破壊しましたが、それでもウクライナ軍を打ち負かすことはできませんでした。それと同じことです。

海戦能力が日本よりも高い米海軍が、黒海艦隊を殲滅するのはさほど難しいことではありません。米国としては、日露戦争に破れたロシアのことは当然歴史的事実として知っていて、黒海艦隊殲滅はかなり有効な打撃であると見ているのは間違いないでしょう。

ロシアでは2024年、大統領選挙があります。西側の制裁で、その時ロシアのインフレ率は、数十%になり、輸入に依存していた消費財は店から消えてなくなっているでしょう。プーチンは当選できません。


彼を支えるシロビキ(主として旧KGB=ソ連国家保安委員会。ソ連共産党亡き今、全国津々浦々に要員を置く唯一の組織)は、自分たちの権力と利権を守るため、かつぐ神輿をすげ代えようとするでしょう。

ロシア国内では様々な思惑は入り乱れることになるでしょう。その中で国内の暴力勢力を引き込んで、ライバルを暗殺しようとする動きも出てくるでしょう。そうしてモスクワの中央権力が空洞化すると、91年ソ連崩壊の直前起きた、地方が中央に税収を送らない、勝手なことを始めるという、「主権のオン・パレード」が始まるでしょう。ロシアの中の少数民族だけでなく、主だった州も分離傾向を強めることになります。

今は21世紀なので、そんなことが起こるはずがない、と考えるのは間違いかもしれません。わずか30年前、超大国ソ連はそうやって自壊しましたし、今回は起きるはずのない文明国への武力侵略をロシアは実行してしまったのです。しかも、上で述べたように、日露戦争のときのように、愚かな方法で実行したのです。

プーチンは「ウクライナの右派過激勢力(ロシアは「ナチ」と呼んでいる)がロシアに歯向かうからいけないのだ」と言うかもしれません。しかし、そういう勢力を台頭させたのは、ロシアが14年クリミア、東ウクライナを制圧したからです。

そうて今回は武力で侵入したものですから、今やウクライナ人はほぼ全員、ロシアを憎んでいるでしょう。ロシアはロシア系の人々を守るのだ、とも言っているのですが、他ならぬロシア系ウクライナ人も、ロシア軍をこわがってポーランドに避難しています。

2024年にはプーチンは失脚するかもしれません。しかし、それでもロシアは、時代遅れの帝国主義、そして近代化に乗り遅れた経済を直さないと、ウクライナのような問題を、これから何回も起こすことになるでしょう。



同盟国のカザフスタン元首相がプーチン政権を批判―【私の論評】米中露の中央アジアでの覇権争いを理解しなければ、中央アジアの動きや、ウクライナとの関連を理解できない(゚д゚)!

2022年7月22日金曜日

黒海に面したルーマニアが潜水艦部隊を再建、フランスから潜水艦を調達か―【私の論評】ロシア軍がウクライナ南部で優位性を発揮できるのは潜水艦によるものか(゚д゚)!

黒海に面したルーマニアが潜水艦部隊を再建、フランスから潜水艦を調達か

黒海に面したルーマニアが潜水艦部隊の再建に動き出しており、スコルペヌ型潜水艦を調達するためフランスに接触していると報じられている。

参考:Romania’s Submarine Ambitions: Which Impact For The Black Sea Region?

ロシアが聖域と考えている黒海はNATO加盟国やウクライナの潜水艦が跋扈する海域になるのだろう

黒海に面したルーマニア海軍は1985年に導入したキロ級潜水艦「デルフィヌル」を現在も保持しているが、資金不足のため1995年以降は運用を停止して保管状態にあり、30年以上も港で係留されているデルフィヌルを再び動かすことも潜水艦を運用する人員も失われてしまった。

出典:Romanian Ministery of Defence/CC BY-SA 3.0 ルーマニア海軍の潜水艦デルフィヌル

しかしルーマニアのドゥンク国防相は現地メディアの取材を受けた際「軍の調達計画にはフランスのスコルペヌ型潜水艦やヘリコプターが含まれており、この調達に関してフランスの国防相と基本合意書(LOI)を交わした。我々は計画の実現に向けて国内手続きを開始している」と明かし、黒海にNATO加盟国の潜水艦が増える可能性に注目が集まっている。

因みに黒海に面したブルガリアもクリミア併合やウクライナ東部紛争を受けて潜水艦部隊の再建を決意、2021年に中古潜水艦を2隻手に入れるため交渉が開始されたと報じられていたが、ウクライナ侵攻リスクの高まりを受けて調達交渉がスピードアップしているらしい。

交渉相手は恐らくドイツで10年前に退役した206型潜水艦(稼働可能なものが残っているのか不明だが次期潜水艦/212CDは2032年頃に引き渡し予定なので212A型潜水艦は当面退役する予定がない)を引っ張ってくることをブルガリア海軍は考えている可能性が高く、ウクライナも今回の戦いが終結した先を見越してドイツと潜水艦導入に関する話し合いをスタートさせており、ロシアが聖域と考えている黒海はNATO加盟国やウクライナの潜水艦が跋扈する海域になる可能性がある。

【私の論評】ロシア軍がウクライナ南部で優位性を発揮できるのは潜水艦によるものか(゚д゚)!

なぜルーマニアが潜水艦を再配備しようとしているのか、以下の地図を見れば一目瞭然です。黒海にはルーマニアが接しているとともに、ロシアも接しているのです。

ですから、陸や空からの攻撃だけではなく、海からの攻撃に備える必要があるのです。それは、ルーマニアだけではなく、周辺諸国のブルガリア、モルドバ、トルコ、ウクライナも同じことです。


さて、ウクライナ関係ではほとんど報道されないロシア黒海艦隊の潜水艦ですが、実は、ウクライナ沿岸の対地攻撃と海上封鎖の主役を担っている可能性があります。

2022年2月下旬のロシア侵攻以来、ウクライナ軍は対艦巡航ミサイル「ネプチューン」や攻撃型ドローンで、ロシア黒海艦隊の艦艇に相当な被害を与えてきました。それでも、ロシアによる海上封鎖は解けず、大半を海運に頼るウクライナの穀物輸出の停滞は世界に影響を与えています。

もちろん、黒海艦隊の水上艦艇は対艦ミサイルの射程内まで近づけません。しかしロシア側には、対艦ミサイルでは撃退できない「改キロ級潜水艦」という切り札があります。

報道によると黒海における戦闘は、ミサイル巡洋艦「モスクワ」や、大型揚陸艦「オルスク」の沈没などが大きく取り上げられたこともあり、ニュースなどからはウクライナ軍が戦果を挙げているように見えます。しかし、潜水艦についてはあまりクローズアップされていません。

ロシア黒海艦隊にはキロ級1隻と改キロ級6隻、計7隻の潜水艦が配備されています。キロ級はNATO(北大西洋条約機構)の呼称で、旧ソ連時代の1980(昭和55)年から連邦解体後の1999(平成11)年まで建造された「プロジェクト877」の通常動力(ディーゼル電気推進)型潜水艦のことです。

キロ級潜水艦は、全長約74m、水中排水量は約3100トンあり、海上自衛隊のおやしお型潜水艦よりも一回り小型です。武装は艦首に備えた6門の魚雷発射管で、ここからは魚雷のほかに対地、対艦、対潜水艦の各種ミサイルを放つことができ、発射管射出型の機雷も使用が可能です。2000年(平成12)までに43隻が就役していますが、そのうち19隻がポーランド、インド、アルジェリア、ミャンマー、イランに輸出されて現役で、インドネシアも保有が疑われています。

対して、改キロ級はロシアでは「プロジェクト636」と呼ばれるアップデート型で、1996(平成8)年に建造が始まり、2019年までに20隻が就役しています。ただし、この20隻は輸出用で、中国に10隻、ベトナムに6隻、アルジェリアに4隻引き渡されており、これらは全て現役です。

この改キロ級のなかでも、ロシア黒海艦隊で運用されているのは、2010(平成22)年から建造が始まった「プロジェクト636.3」と呼ばれるモデルです。こちらは現在までに9隻が就役しており、前出の通り黒海艦隊には6隻配備、さらに2隻が建造中で1隻が発注済みです。

これらキロ級および改キロ級は、比較的水深の浅い沿岸警備用の攻撃型潜水艦です。潜水艦にとって必須の静粛性に優れており、さらに改キロ級はエンジン出力の向上やスクリューの改良など近代化改良が施されていることから、実質的に最新鋭の潜水艦といえます。

黒海艦隊にはフリゲートやコルベット、巡洋艦、潜水艦からなる第5作戦戦隊があり、2013(平成25)年のシリア内戦で軍事介入しています。この第5作戦戦隊の戦力を確保するためとして、改キロ級2隻がウクライナ侵攻後の5月に地中海へ配備されています。

2022年7月現在、黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡とダーダネルス海峡は、トルコが軍艦の通航を表向きは制限しています。トルコが海峡の通航制限を行うのは、1936(昭和11)年に発効したモントルー条約が根拠になっています。ただしトルコ政府は黒海沿岸諸国の船舶が母港に帰港する場合は例外としています。そこでロシア側は、地中海に出るロシアの改キロ級を、最終的にバルト艦隊の基地で整備される名目で、海峡の通過を正当化しました。

先に述べたようにロシア黒海艦隊には、キロ級1隻と改キロ級6隻がおり、そのうち後者の2隻が地中海へ派遣されています。そして黒海に残った改キロ級のうち1隻は母港のセヴァストポリで整備中のため、いま黒海で行動しているのは、キロ級1隻と改キロ級3隻ということになります。

改キロ級潜水艦

ウクライナ軍は6月10日、ロシア軍が黒海艦隊に潜水艦1隻を新たに配備し、巡航ミサイル40発が発射できる状態にあるとSNSで明らかにしました。

潜水艦ならではの隠密性もあって、今般のウクライナ紛争における潜水艦の作戦行動について情報はほとんど出てきませんが、ムィコラーイウやオデーサ(ロシア名オデッサ)に対するミサイル攻撃は、水上艦艇だけでなく潜水艦から発射された可能性があります。

ウクライナは、「ネプチューン」や西側から供与された「ハープーン」といった対艦ミサイルでは潜水艦を掃討できないため、対潜哨戒機や対潜ヘリが必要になります。しかし、西側諸国は155mm榴弾砲や対戦車ミサイル、地対空ミサイルと違って、航空機の供与はより直接的な軍事介入になるとして及び腰です。

また、戦闘機ならウクライナ空軍のパイロットは使いこなせますが、対潜哨戒機となるとそうはいきません。一応、ウクライナ海軍には航空旅団があるものの、戦闘機や汎用ヘリコプター、無人機(UAV)の飛行隊に限られており、対潜哨戒用としてはMi-14PLヘリコプターが3機あるだけです。固定翼の対潜哨戒機は運用実績すらないので、機体だけでなく搭乗員も供与しないと使い物にならないといえるでしょう。

加えて、たとえ対潜哨戒の態勢がとれたとしても航空優勢を確保する必要があります。ただし、開戦初期にウクライナ軍の対空ミサイルで多くのロシア軍機を撃墜したとはいえ、ウクライナもロシアも航空優勢を確保できていない現状では、ウクライナ側もおいそれと対潜哨戒機を黒海周辺で使うわけにはいきません。したがって現在、ウクライナ軍には、改キロ級への対抗手段がない状況なのです。

今後も黒海艦隊の水上艦艇は対艦ミサイルに狙われ続けるでしょう。しかし、潜水艦ならウクライナが使用するミサイルの射程内まで近づけます。ウクライナ側が潜水艦に対処できない限り、ロシアによる対地攻撃と海上封鎖は終わらないといえるでしょう。

ウクライナに米軍もしくは日本並のASW(Anti Submarine Wafare:対潜水艦戦闘力)があれば、ロシアの潜水艦などほとんど問題にもならないでしょうが、残念ながらウクライナのASWは無いに等しいです。

これでは、いつまでもウクライナはロシアの海からの脅威に対処できません。2014年のクリミア危機のときにも、潜水艦のことは報道されませんでしたが、私はこの時にもロシアの潜水艦が活躍したと思います。ただ、潜水艦の行動は隠密にされるのが、普通ですから、他の報道にまぎれてほとんど報道されなかったのだと思います。

クリミア半島は半島とはいいながら島に近いですから、これを1〜2隻の潜水艦で交代制で24時間包囲してしまえば、これはロシア軍にとってかなり有利です。まずは、近くの海域にロシアの潜水艦がいるというだけで、ウクライナの艦艇などクリミアに接近することはできなくなります。

クリミアに常駐していた軍も、潜水艦で包囲され、陸路も絶たれてしまえば、艦艇を近づけようとしても撃沈されてしまうことになり、補給ができず、食料・水、弾薬などが尽きてお手上げになってしまいます。クリミア危機においては、ロシアの潜水艦はこのような動きをしていたと思います。

報道ではハイブリット戦などが強調されていましたが、クリミアが安々とロシアに併合されてしまった背景には、潜水艦の何らかの動きがあったのはほぼ間違いないと思います。

ちなみに、クリミア危機のときには、ウクライナは潜水艦「ザポリージャ」1隻だけを所有していたのですが、ロシア軍に接収されています。

最近、ウクライナ軍はクリミア大橋を破壊するという計画もあるといわれています。

ウクライナへの侵攻が始まったあと、この橋がロシア軍の物資の輸送に使われているので破壊すべきだという意見が、ウクライナ側から出ていました。クリミア大橋を破壊すれば、ロシアの黒海艦隊が母港としているセヴァストポリへの陸からの補給路を断つことができるからです。

クリミア大橋は、2014年にクリミア半島を併合したあと、ロシアが造りました。ロシアのクラスノダール地方にあるタマン半島とクリミア半島東端のケルチという町の間に架かっています。

全長およそ19キロメートルに及ぶ、鉄道と道路の併用橋です。2015年5月に工事が始まり、道路は18年5月に、鉄道は19年12月に完成しました。これによって、ロシア本土とクリミア半島が陸路でつながりました。

工費は37億ドルといわれます。 開通の式典には、プーチン大統領も出席。大型トラックのハンドルを自ら握って車列を先導し、ロシア側からクリミア半島へ渡るパフォーマンスを演じました。 

クリミア大橋の開通式でトラックを運転したプーチン

ただ、クリミア大橋を破壊することはでき、それによってロシア軍の兵站には支障がでることにはなりますが、それにしても黒海にロシアの潜水艦隊が存在するので、ロシア海軍の優位性は崩れることはなく、橋が破壊されれば、船や遠回りになるものの、他の陸のルートで物資を運ぶことになると思います。

ロシア海軍の優位性がある限りにおいては、ウクライナが南部を奪還したり、ましてやクリミアを奪還するのはかなり難しいでしょう。クリミア大橋を破壊したとしても、それで圧倒的にウクライナ側が有利になるというわけではないと思います。

このような背景があるからこそ、ルーマニアやウクライナもいずれ潜水艦を手に入れようとしているのでしょう。日米並の高い能力を持つ対潜哨戒機なども手に入れれば、ロシア海軍に対峙できます。

トルコ海軍は14隻の潜水艦を持っていますし、黒海はNATO加盟国やウクライナの潜水艦が跋扈する海域になる可能性があるのは間違いないようです。そうなれば、ロシア海軍の優位戦もゆらぐことになるでしょう。

おしむらくは、ウクライナが現在潜水艦もまともな対潜哨戒機もないことです。これらをウクライナが有していれば、戦況特に南部での戦況が変わった可能性は十分にあったと思います。

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