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2025年3月28日金曜日

日本の所得水準、50年後は世界45位に後退 日経センター―【私の論評】外国人流入は日本を救うどころか滅ぼす!日銀の金融緩和こそ賃金アップの鍵

日本の所得水準、50年後は世界45位に後退 日経センター

まとめ
  • 日本経済研究センターの50年予測によると、日本の1人当たり実質GDPは2024年の29位から2075年には45位に低下し、世界の中位群に後退。成長にはAI活用や雇用改革が必要。
  • 日本全体の実質GDPは24年の4位(3.5兆ドル)から75年に11位(4.4兆ドル)に下がり、平均成長率は71〜75年で0.3%にとどまる。米国と中国はAIで生産性を上げ、1位と2位を維持。
  • 人口減少が成長を抑制し、日本の合計特殊出生率は75年まで1.1に低下。純移民数は年23万〜24万人で、75年の総人口は約9700万人、外国人1600万人に。成長維持には外国人流入が不可欠。
  • 1人当たりGDPは75年に4万5800ドル(約690万円)でG7最下位となり、韓国(21位)や中東欧諸国などに抜かれる。
  • 世界成長率は21〜30年の3.3%から71〜75年の1.3%に鈍化。新興国の影響力が増し、BRICS合計GDPは75年に米国の1.4倍に拡大。
日本経済研究センター 代表理事・会長 喜多 恒雄氏

日本経済研究センターは今後50年の長期経済予測を発表。1人当たり実質GDPで日本は2024年の29位から2075年には45位に低下し、世界の中位群に後退。成長にはAIなどデジタル技術の活用や雇用改革が必要とした。日本の実質GDPは24年の4位から75年には11位に下がり、成長率は0.3%に低迷。米国と中国はAI活用で生産性が上がり、GDP1位と2位を維持。日本はAI効果が弱く、G7最下位が続く。

人口動態では、日本の合計特殊出生率は75年に1.1に低下、総人口は9700万人に減少。移民純流入は年23万〜24万人で、世界5位の受け入れ国となるが、成長維持には外国人流入が不可欠。韓国の1人当たりGDPは日本を上回り、中東欧諸国などにも抜かれる。

世界全体の成長率はAIで21〜30年は3.3%だが、71〜75年には1.3%に鈍化。東アジアの人口は6億人以上減少し、アフリカが40年代半ばに上回る。新興国の影響力拡大で、75年のGDPはインド3位、インドネシア5位、BRICS合計は米国の1.4倍に。米国はG7連携やCPTPP・EU統合で対抗が必要と指摘した。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】外国人流入は日本を救うどころか滅ぼす!日銀の金融緩和こそ賃金アップの鍵

まとめ
  • 「外国人流入が成長に不可欠」は誤り。全体GDPは増えても、1人当たりGDPは労働力増加だけでは上がらず、資本希薄化で下がる。BorjasやOttavianoらの研究で、低スキル移民が賃金と生産性を下げる実証がある。
  • 賃金上昇には日銀の金融緩和が有効。総需要を刺激し、労働市場を逼迫させることで賃金が上がる。世界標準のマクロ経済学の原則にもとづけば積極的緩和を支持。
  • 日本の賃金30年停滞は日銀の失策が原因。デフレ放置と緩和不足で需要が低迷。OECDデータで他国が20〜30%賃上げの中、日本は横ばい。
  • アベノミクス初期の緩和で賃金上昇が見られたが、消費税増税と日銀の躊躇で失速。対照的にFRBは大胆な緩和で賃金を伸ばした。
  • 日経センターレポートは経済学を無視した暴論。外国人頼みは1人当たりGDPを下げ、日本を貧しくする。日銀の緩和こそ解決策なのに、それを否定するレポートは日本を滅ぼす毒だ。
成長維持には外国人流入が不可欠????

「成長維持には外国人流入が不可欠」という記述は、1人当たりGDP(≒一人あたりの所得)を考慮すると明らかな間違いだ。全体のGDPは労働力が増えれば上昇する可能性がある。しかし、1人当たりGDPは労働力増加だけでは上がらない。資本が希薄化すれば逆に下がるのがマクロ経済学の基本だ。

Borjasの研究では、米国の移民流入が全体GDPを増やす一方、1人当たりGDPは移民のスキル次第で低下することが実証されている。労働供給が増えると賃金が下がり、生産性も落ちる場合がある。OttavianoとPeriの分析でも、低スキル移民が既存労働者の賃金を圧迫し、1人当たりGDPを下げるケースが確認されている。

資本ストックが労働力増加に追いつかない場合、1人当たりGDPは停滞する。Acemogluらの研究がこの点を明確に示している。移民の質が生産性向上につながらなければ意味はない。

Docquierの国際比較では、高スキル移民がなければ1人当たりGDPの上昇は期待できない。日本のような経済でも、スキル選抜がなければ効果は薄い。外国人流入が成長の最低条件という主張は誤りだ。生産性向上や資本蓄積が成長の鍵であり、労働力の量だけでは不十分である。全体GDPと1人当たりGDPを混同した明らかな過ちである。

ここで、賃金を上げるための施策は、外国人流入ではなく、日銀による金融緩和策を継続することであることを、世界標準のマクロ経済学の観点と、日本の他国にはない特殊事情観点からさらに解説する。特に、日本の賃金が過去30年以上も上がらなかったのは、日銀の金融政策が間違え続けたためである点に焦点を当てる。

世界標準のマクロ経済学では、賃金上昇は労働需要の増加に依存する。ケインズ経済学やニューケインジアンモデルに基づけば、総需要が不足すると企業は雇用を増やさず、賃金も上がらない。金融緩和はマネーサプライを増やし、総需要を刺激する。これにより失業率が下がり、労働市場が逼迫して賃金が上昇する。リフレ派の経済学者クルーグマンは、デフレ下では積極的な金融政策で需要を喚起すべきだと主張する。日本でも主流派経済学者といわれる人々の論点は話しにならいが、世界標準のマクロ経済学に準拠する高橋洋一や田中秀臣が同様の見解を示し、日銀の消極的な政策を批判してきた。

日本銀行

日本の賃金停滞の原因は、日銀がデフレを放置し、金融緩和を十分に行わなかったことだ。1990年代以降、日本はゼロ金利政策を導入したが、マネタリーベースの拡大が不十分で、デフレ期待が根付いた。フィリップス曲線の観点から見れば、インフレ率が低すぎると賃金上昇圧力が生まれない。

実際、1997年の消費税増税や2000年代の量的緩和打ち切りは、景気回復を阻害し、企業に賃上げの余力を与えなかった。OECDデータによれば、日本の名目賃金は1997年から2020年までほぼ横ばいであり、米国やドイツでは20〜30%上昇したのと対照的だ。

アベノミクスの初期(2013〜2015年)には、日銀が量的・質的金融緩和(QQE)を始め、インフレ率が一時1%を超えた時期には、実質賃金がプラスに転じた企業もあった。しかし、2014年の消費税増税で景気が失速し、日銀が追加緩和を躊躇した結果、賃金上昇は止まった。対照的に、米国のFRBは2008年危機後に大胆な量的緩和を続け、失業率低下と賃金上昇を実現した。世界標準のマクロ経済学者の岩田規久男(元日銀副総裁)は「日銀がインフレ目標2%を本気で追わなかったことが賃金停滞の元凶」と指摘する。

外国人流入に頼るより、金融緩和で需要を喚起する方が賃金上昇に直結する。他国と日本の違いは、日銀の金融政策のみと言っても過言ではない。賃金停滞の核心は、日銀がデフレを放置し、積極的な緩和を怠ったことだ。

OECDデータや他国との比較、理論的裏付けからも、日銀の失策が決定的な差を生んだ。労働市場や生産性の問題も、その根底には金融政策の失敗があり、他国が同様の問題を抱えつつ賃金を伸ばした事実がこれを証明する。微細な例外(財政政策の影響など)はあるが、主要因として日銀の金融政策の特異性を超えるものはない。


日本は現在インフレ気味ではあるが、これは主にコストプッシュ型(エネルギーや輸入価格の上昇)であり、需要牽引型ではない。ニューケインジアンモデルでは、持続的な賃金上昇には総需要の拡大が必要だ。日銀が金融緩和を継続し、インフレ期待を高めれば、企業は投資を増やし、労働需要が上がる。これが現状でも原理が当てはまる証拠だ。米国の2021〜2022年のインフレ期(CPI6〜9%)でも、FRBの緩和策が需要を支え、賃金が年5%上昇した例がある。日本も同様に、エネルギー・資源価格高騰の対策を行いつつ緩和を維持すればインフレを賃金上昇に変えられる。外国人流入に頼る必要はない。

日本経済研究センターのレポートの主張はマクロ経済学の初歩すら理解していない。1人当たりGDPと全体GDPの区別もできず、「労働力が増えれば成長する」と安直に結論づけるのは、データも理論も無視したど素人レベルの戯言だ。日本の資本ストックが追いつかない中、外国人流入を増やせば、1人当たりGDPは下がり、デフレがさらに悪化する。無論賃金も下がる。

こんな政策を「最低条件」と持ち上げるのは、経済を数字で読めない無能の証明だ。日銀が金融緩和で需要を喚起すれば、外国人頼みなど不要なのに、それを無視して移民にすがるのは、日本の未来を貧しくするだけだ。アベノミクスでさえ緩和不足で失敗したのに、このレポートは30年の教訓をまるで学んでいない。

国力を削ぐような愚策を「成長」と呼ぶなら、そんな成長はゴミ箱に叩き込め! 日銀がまともな金融緩和を続ければ、日本は自力で立ち直れる。それを否定するこのレポートは、日本を亡国の淵に突き落とす毒だ。こんなものを信じる奴は、日本の敵だ!

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2025年2月5日水曜日

支援の見返りに「レアアースを」、トランプ氏がウクライナに求める…「彼らは喜んで供給するだろう」―【私の論評】ウクライナ、資源大国から経済巨人への道を歩めるか

支援の見返りに「レアアースを」、トランプ氏がウクライナに求める…「彼らは喜んで供給するだろう」

まとめ
  • トランプ大統領は、ウクライナに支援の見返りとしてレアアースの供給を求めている。
  • ウクライナへの武器供与に関して、トランプ政権内で意見の対立があり、供与の一時中断と再開があった。


 米国のトランプ大統領は3日、ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、支援の見返りに「レアアース(希土類)」を米国に供給するよう求めていると明らかにした。

 トランプ氏はホワイトハウスで記者団に、米国がウクライナに多額の支援をしてきたと強調し、「ウクライナがレアアースやその他の資源(との引き換え)で、我々の支援を得るような合意を結びたい」と述べた。すでに「取引」を進めていると説明し、「彼らは喜んでそう(供給)するだろう」と自信を示した。

 米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、バイデン前政権時に、ウクライナ側から米国にレアアースの供給を提案していたが、「取引」を重視するトランプ氏の就任を待って、合意に向けた動きが本格化したとみられるという。

 一方、ロイター通信は3日、トランプ政権がウクライナへの武器供与を一度中断した後、すぐに再開したと報じた。政権内で軍事支援を巡る「意見の対立」があり、方針が定まっていないとの見方を伝えている。

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【私の論評】ウクライナ、資源大国から経済巨人への道を歩めるか

まとめ
  • 資源の宝庫: ウクライナはチタン、リチウム、ウランなどの希少金属を含む豊富な資源を持ち、特に希土類金属の産出地として重要。
  • 教育と産業の強み: EU基準の教育水準、ソ連時代からの重工業(軍事、航空、宇宙)、そして人口あたりのエンジニア数がEU諸国を上回る。
  • IT産業の成長: 「東欧のシリコンバレー」と呼ばれ、IT産業が急速に発展。ロシアの侵攻後もGDP成長を牽引し、サイバーセキュリティやソフトウェア開発で世界的に評価される。
  • 経済発展の可能性: 平和と安定が確立されれば、ウクライナの総GDPはスペインやオランダ並みに成長し、EUや米国の安全保障上のメリットとなる。
  • 長期戦略的重要性: トランプはウクライナの長期的な経済的・戦略的価値を理解し、希土類金属へのアクセスを確保することで、米国の技術競争力や軍事バランスを強化することを目指している。
ウクライナの地質図 赤い三角が希土類 クリックすると拡大します

ウクライナ。地政学の渦中で、その名が響く。地表下にはチタン、リチウム、ウランなど、未来を切り開く鍵となる鉱物が眠り、希土類金属の宝庫でもある。日本経済新聞が「隠された重要鉱物の宝庫」と評するように、この国は豊かさと可能性に満ちている。

しかし、その歴史は波乱に満ちている。かつては天然ガスや石油の産出国として知られていたが、ソ連崩壊後の経済的混乱が資源開発を阻み、今では自国のエネルギー需要を満たすため、ロシアや欧州からの輸入に頼る日々が続いている。

だが、ウクライナの価値はその資源だけでは終わらない。教育水準の高さが際立つ。EU基準に準じた教育システムは国際的に高い評価を受けており、PISA調査では数学、科学、読解力で欧州平均を上回る成績を収めている。重工業もソ連時代からの強みで、軍事、航空、宇宙産業が栄え、冷戦時代にはロケットやミサイルの開発で重要な役割を果たした。中国の軍事技術を支えた経験もある。人口あたりのエンジニア数はEU諸国を上回る。

そして、忘れてはならないのがIT産業だ。ウクライナは「東欧のシリコンバレー」と称され、ITの急速な発展がGDP成長を牽引している。ロシアの侵攻後も2023年に5.3%の成長を達成した。サイバーセキュリティやソフトウェア開発で世界から注目され、技術者は国際的に引く手あまただ。


ここで考えるべきシナリオがある。ウクライナが平和を取り戻し、腐敗を一掃し、ロシアの干渉がなくなった場合だ。その可能性は無限大だ。仮にウクライナの一人あたりのGDPがポーランドに匹敵すれば、ウクライナの総GDPは現在のスペインやオランダ並みに跳ね上がる。これは、平和が実現すれば、十分可能だ。人口4100万超の国が経済大国に変貌すれば、EUや米国にとっての安全保障上のメリットは計り知れない。

EUにとっては、東部国境での安定化要因となり、ロシアの影響を抑える強固なバッファーになる。ウクライナの資源はEUのエネルギー安全保障を強化し、ロシアへの依存度を減らす。米国はウクライナの経済力をロシアに対する抑止力として利用し、東欧での影響力を強固にできる。ITや軍事技術の進歩は、米国との更なる協力関係を深化させる。


トランプはこの戦略的価値を理解しているようだ。彼の政策は短期的な利益だけでなく、長期的な視点からウクライナを見ているようだ。ウクライナの希土類金属へのアクセスを確保することで、米国は未来の技術競争や軍事バランスで優位に立てる。さらに、ウクライナ問題は、単なる支援ではなく、未来への投資でもあるのだ。ウクライナには希土類だけではなく、他の発展途上国は異なり、人的資源も豊富であり、大きな可能性を秘めている。

その方向に進めば、トランプ大統領としては、最優先の中国との対峙に専念できる。トランプの見識が示すように、ウクライナの経済的可能性は、地政学的なゲームチェンジャーとなりうる。平和と安定が訪れれば、ウクライナはヨーロッパの中心へと飛躍する可能性を秘めている。そのとき、世界の力関係は大きく変わる。ウクライナの未来は、今この瞬間に始まっているのだ。世界が注目するこの国が、どのような道を選ぶのか、そうして西側諸国が支援を投資とみるか、単なる費用とみるか。その選択が未来の地図を描く。

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2024年12月29日日曜日

NATO東京連絡事務所開設の現実味は? 日本含むアジアと関係強化目指す新事務総長…ウクライナ戦争「紛争煽り続けている」と中国・北朝鮮を強く非難―【私の論評】日本はNATOとアジア太平洋地域の架け橋となれ

NATO東京連絡事務所開設の現実味は? 日本含むアジアと関係強化目指す新事務総長…ウクライナ戦争「紛争煽り続けている」と中国・北朝鮮を強く非難

まとめ
  • NATOは2024年に創立75周年を迎え、インド太平洋地域との関係強化を新事務総長ルッテ氏が優先課題として掲げている。
  • ウクライナ戦争における中国や北朝鮮のロシア支援を非難し、IP4(日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)との連携を強調している。
  • 10月の国防相会合ではIP4が初参加し、ウクライナ戦争が世界に与える影響と地域の安全保障脅威について議論された。
  • 北朝鮮兵のロシア派遣が確認され、ルッテ氏はこれを「歴史的な出来事」と位置づけ、国際的な安全保障情勢の複雑化を警告している。
  • NATOとアジアの連携には限界があり、各国の温度差や資金不足が課題。

NATOの新事務総長のマルク・ルッテ氏

NATO(北大西洋条約機構)は2024年に創立75周年を迎える。特に注目すべきは、インド太平洋地域との関係強化が新事務総長のマルク・ルッテ氏の優先課題に掲げられている点である。ルッテ氏は、ウクライナへの支援やあらゆる脅威に対する防衛力の確保を重要視しており、これに加えて他地域とのパートナーシップの強化を図る方針を示している。

ルッテ氏は、就任初日から前任のイェンス・ストルテンベルグ氏の政策を継承しつつ、特にインド太平洋地域との強固な関係構築への努力を称賛した。彼は、ウクライナ戦争における中国や北朝鮮のロシアへの支援を「第2次世界大戦以来、ヨーロッパで最大の紛争を煽り続けている」と非難している。このような背景から、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドのインド太平洋地域4か国(IP4)との関係強化の重要性を強調している。

特に、10月中旬にブリュッセルで開催されたNATOの国防相会合にはIP4が初めて参加した。これは首脳レベルでは連続して行われているが、国防相レベルでの参加は初めてであり、日本からは石破内閣の中谷元防衛大臣が出席した。この会合では、ウクライナでの戦争がヨーロッパの不安定さが世界に及ぼす影響を示しているとし、イランや中国、北朝鮮が安全保障上の脅威となっていることを認識する必要があると訴えた。

さらに、NATOの国防相会合中に北朝鮮兵がロシア西部に派遣されているとの情報が浮上した。ルッテ氏は、北朝鮮がロシアを多くの面で支援していることは確かであるが、兵士が戦争に直接関与しているという証拠は確認されていないと述べた。NATOが北朝鮮兵の派遣を確認したのは、その11日後であり、この遅れには疑問が残る。

ルッテ氏はこの状況を「北朝鮮兵士のヨーロッパ派遣はターニング・ポイント(転換点)」とし、ロシアが外国軍を招くことは歴史的な意味を持つと強調した。彼は、ロシアが北朝鮮を軍事的に支援することで、国際的な安全保障情勢がさらに複雑化することを警告している。また、彼は中国にも対して、見て見ぬふりをせずに影響力を行使するよう要求している。

NATOとアジアの連携には限界があるとの指摘も存在する。元防衛投資担当事務次長のカミーユ・グラン氏は、資金や人材の不足、アメリカのリーダーシップの欠如、IP4との温度差など、いくつかの理由を挙げている。特に、日本とオーストラリアは積極的である一方、韓国やニュージーランドは消極的な姿勢を見せており、各国のアプローチには違いがある。このような状況の中で、日本は異なる枠組みの中で適切なバランスを取ることが求められている。

最後に、NATOが東京に連絡事務所を設置する計画もあるが、具体的な進展は見られていない。特にフランスのマクロン大統領が反対の意向を示しており、今後の動向は不透明である。それでも、NATOとIP4の連携は進みつつあり、サイバー攻撃対策、防衛産業協力、偽情報対策、AI(人工知能)の活用など、多岐にわたる分野での協力が模索されている。国際情勢が複雑化する中で、安全保障上の連携を強化する取り組みは今後も続くであろう。 

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【私の論評】日本はNATOとアジア太平洋地域の架け橋となれ

まとめ
  • 軍事同盟NATOは中国の台頭に対して危機感を抱いている。ロシアのウクライナ侵攻が東欧諸国の対中政策見直しを促進している。
  • かつて西欧諸国(英国、フランス、イタリア、ドイツなど)は中国との関係を強化していたが、すでにこれを方向転換している。
  • 日本はNATO加盟国ではないが、地域の安全保障に寄与する役割を果たし、サイバーセキュリティや共同軍事演習などでの協力が重要である。
  • 中国の軍事力の増強はアジア太平洋地域に新たな脅威をもたらしており、日本は地域の国々との連携を強化する必要がある。
  • 日本はNATOとの関係を強化し、NATO事務所を設置することで、アジア太平洋諸国との架け橋となるべきである。
NATO(北大西洋条約機構)は、軍事同盟であり、最近の中国の台頭に対して強い危機感を抱くようになっている。しかし、アジア諸国の中には中国への危機感ということでは、利害が一致しない国々も存在することは事実である。

ロシアによるウクライナ侵攻は、NATO加盟国にとって大きな警鐘となり、東欧や中欧の国々は中国との経済的な関係を見直す必要に迫られている。ポーランドやハンガリーなどの国々は、当初は中国からの投資を歓迎していたが、最近では中国の影響力の拡大に対する懸念が高まっている。

かつて、英国、フランス、イタリア、ドイツなどの西欧諸国も中国との関係を強化し、一帯一路構想を通じて経済的利益を追求していた。例えば、2015年に英国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加し、フランスやイタリアも中国との共同プロジェクトを進めていた。特にイタリアは2019年に一帯一路構想に参加し、中国との経済関係を深めることを目指していた。しかし、最近ではこれらの国々も中国の人権問題や経済的依存を考慮し、対中政策を見直す傾向にある。

昨年イタリアのメローニ首相は「一帯一路」から撤退することを表明

アジア太平洋地域においても、NATOとの連携を強化することが求められている。日本はNATO加盟国ではないものの、NATOの活動や方針に関心を持ち、地域の安全保障に寄与する役割を果たすべきである。特に、上の記事にもあるように、サイバーセキュリティ、情報共有、共同軍事演習などの分野での協力が重要である。

近年、日本は「AUKUS」に加盟するオーストラリアや米国、オーストラリア、インドとの「QUAD」などの枠組みを通じて地域の安全保障を強化しており、これらのパートナーシップはNATOとの協力を補完する形で地域の安定を図るための重要な要素となっている。

中国の軍事力の増強や南シナ海での行動は、アジア太平洋地域における安全保障環境に新たな脅威をもたらしている。日本は、これらの脅威に対抗するために、アジア太平洋地域の国々との協力を一層強化し、共通の立場を築くことが求められている。特に、インド太平洋地域における中国の影響力を抑制するためには、地域の国々との連携が不可欠である。


NATOは1949年に設立され、当初はソ連の脅威に対抗するために結束した国々によって形成された。加盟国は共通の安全保障上の脅威を認識し、文化的および政治的な統一性を持っていたため、軍事同盟を形成するのが容易であった。この時期、NATOは集団防衛の原則を基に、加盟国の安全を保障する役割を果たしていた。具体的には、NATOの第5条に基づき、加盟国の一国が攻撃を受けた場合、他の加盟国は自動的に反撃することが義務付けられている。この仕組みは、加盟国に対する抑止力を強化し、外部の脅威に対抗するための重要な要素として機能している。

1991年のソ連崩壊後、NATOは一時的に軍事同盟としての性格を薄め、平和維持活動や人道的任務に重きを置くようになった。しかし、2014年以降、ロシアの行動は再び西側諸国に対する脅威を顕在化させ、NATOはその防衛戦略を見直す必要に迫られた。加盟国は集団防衛の重要性を再認識し、特に東欧諸国に対する防衛強化を図るようになった。2016年のワルシャワサミットでは、NATOは東側の防衛を強化するため、ポーランドやバルト三国に多国籍部隊を派遣することを決定し、加盟国の結束を示す重要なステップとなった。

このように、NATOは設立当初から現在に至るまで、外部の脅威に対抗するための軍事同盟としての役割を果たしてきた。ソ連崩壊後の一時期は軍事的性格が薄まったが、ロシアの侵攻や中国の台頭を受けて再びその役割を強化している。NATOの歴史は、外部の脅威に応じて進化する柔軟な同盟の姿を示している。

NATOとアジア太平洋地域の架け橋となる日本 AI生成画像

現在、アジア太平洋地域の国々の中には中国を歓迎する国も存在するが、いずれほとんどの国々が中国に対峙するようになると見込まれる。日本はこの流れを受けて、NATOとの関係を強化し、日本にNATO事務所を設置する方向で尽力すべきである。これにより、日本はNATOとアジア太平洋諸国の架け橋となり、アジア太平洋地域全体の安全保障環境を改善し、未来の安定を確保するための基盤を築くことができるだろう。

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2024年5月29日水曜日

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは―【私の論評】同盟軍への指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは

まとめ
  • アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、中国が「茹でガエル戦術」で徐々に圧力を強めており、南シナ海や台湾海峡での軍事行動が一層攻撃的で危険になっていると指摘した。
  • 中国の沿岸警備隊によるフィリピンの排他的経済水域内でのサンゴ礁周辺での威嚇行為に強く懸念を示した。
  • 北朝鮮とロシアの脅威、中露の協力関係深化にも警戒を要すると述べた。
  • 同盟国との連携が重要であり、新たな軍事能力の強化と相互運用態勢の早期確立が課題だと指摘した。
  • 日本としては、同盟国との連携強化に伴う指揮命令系統の問題など、主権にかかわる課題が将来的に生じる可能性があるため、自らの防衛能力強化を急ぐ必要がある。

アキリーノ米インド太平洋軍司令官

 アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、退任を前に、中国の南シナ海や台湾海峡における軍事的圧力の強化を「茹でガエル戦術」と表現し、強く非難した。中国は徐々に温度を上げることで相手に危険性を過小評価させ、いつの間にか危機的状況に陥らせるこの戦術を追求しており、行動は次第に攻撃的かつ大胆になり、地域の不安定化を助長していると指摘した。

 特に、フィリピンの排他的経済水域内のサンゴ礁周辺での中国沿岸警備隊の威嚇行為は一線を越えた新たな段階に入ったとの懸念を示した。放水砲を用いてフィリピン軍への補給を妨害するなど、これまで以上に攻撃的な姿勢を見せているからだ。

 アキリーノ司令官はさらに、北朝鮮の度重なるミサイル発射や、北朝鮮・ロシアの協力関係、中国・ロシアの関係深化にも危惧の視線を向けた。これらの動きは地域の緊張をさらに高める要因になりかねないと警鐘を鳴らした。

 そして、中国を始めとするこれらの脅威に対抗するには、同盟国との連携が不可欠であり、各国の新たな軍事能力の強化とそれらの早急な相互運用態勢の確立が喫緊の課題だと力説した。アキリーノ司令官自身、台湾有事の際にも指揮を執っており、中国の一方的な行動に強い危機感を抱いていたことがうかがえる。

 こうした現状認識を踏まえ、日本としても自らの防衛能力の強化を急ぐ必要があるだけでなく、同盟国との連携強化に伴い、将来的には指揮命令系統の一体化など、主権にもかかわる重大な課題が生じる可能性も想定されるため、十分な検討が求められよう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】同盟軍の指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

まとめ
  • 軍隊の指揮権を他の同盟国などに移譲すると、現場の実情が正確に伝わらず、同盟国全体の利益が優先されることで、自国の利益が損なわれる可能性がある。
  • 自衛隊が米軍の指揮下に入ることで、日本の防衛任務や戦略的利益が適切に反映されないリスクが高まる。
  • 第二次世界大戦中の英国の例では、第二次世界大戦中の指揮権移譲により戦略的利益が損なわれ、戦後の国力低下にもつながった。
  • ソ連は指揮権を維持し続けた結果、戦中には最大の損害を被りながらも、戦後に領土拡大と国際的な主導権を獲得し、最も利益を得た国となった。
  • 自国の防衛力を自助努力で高めつつ、同盟国と対等な関係を保ち連携することが重要であり、軽々な指揮権移譲は避けるべきである。
上の記事の元記事の最後のほうでは、「古来、同盟軍の戦いでは指揮権を移譲した側の損害が大きくなるとの定評に鑑み、その観点からもわが国は自らの能力強化を早急に進めるべきだという声は傾聴に値する」としています。

これは、指揮権を移譲すれば、意思決定の場が離れた司令部に移ったとすれば、現場の実情を正確に伝えきれず、状況に適さない判断がなされる可能性があります。また、自国の利益よりも同盟国全体の利益が優先されがちになります。このような懸念から、自国の指揮権を最大限維持し、独自の能力を強化すべきだという主張がなされているものと思われます。

台湾有事の場合を想定して、より具体的に説明します。

頼清徳台湾新総統

仮に中国が台湾に武力侵攻した場合、日米同盟に基づき、自衛隊は米軍と共に対処にあたることになるでしょう。しかし、この際に自衛隊の指揮権を完全に米軍に移譲してしまうと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
  1. 現場の実情が適切に伝わらない 台湾有事における自衛隊の活動は、日本の領土、領海、領空の防衛という自国の防衛任務と深く関わっています。しかし、指揮権を米軍に移譲してしまえば、そうした日本の主権的利益が必ずしも十分に反映されない可能性があります。
  2. 自国の戦略的利益が損なわれる 米軍の司令部は、同盟国全体の戦略的利益を最優先します。一方で日本は、例えば中国との関係修復などの将来的な国益を考慮する必要があります。指揮権を移譲すれば、そうした自国の長期的な利益が無視される恐れがあります。
  3. 現場の機動性が失われる 有事における自衛隊の機動的な活動には、政府の迅速な判断と指示が不可欠です。しかし指揮権を移譲してしまえば、意思決定のプロセスが遅延し、機動性が失われてしまう可能性があります。
こういった理由から、自国の防衛能力を強化し、最大限の主体性を維持することが重要であり、安易に指揮権を移譲すべきではないという主張が出てくるのです。台湾有事のように、自国の主権的利益が深く関わる事態では、この点は特に重要になってくるでしょう。

指揮権の移譲によって、不利益を被った国の例としては、英国があげられます。

第二次世界大戦中の英国首相 チャーチル

第二次世界大戦の欧州戦線において、英国と米国の間でこのような事態が生じました。
1942年にドイツ領内への本格的な侵攻を開始した時点で、英国よりも兵力と装備で優位にあった米軍が事実上の主導権を握りました。それにより英軍は以下の不利益を被りました。
 
作戦計画の立案段階から英国側の意見が尊重されない事態が生じました。米軍中心の作戦計画になり、英国軍の犠牲が無視される側面がありました。

航空機や戦車、兵員の割り当てで不利な扱いを受け、英国軍の戦力が十分に生かされませんでした。ノルマンディー上陸作戦では、英国軍の提案する上陸地点が米軍の希望で変更され、不利な展開を強いられました。

このように、同盟国内での指揮権の主導権を持った米軍が、自国の都合を優先する形で作戦を指揮したため、英国軍は戦略的利益を損ねる事態に陥りました。

戦後も同様です。インドをはじめ、連合国内で英国の植民地独立運動が活発化し、戦後に英帝国は瓦解に追い込まれました。他の連合国に比べ、植民地喪失の打撃が最も大きかったと言えます。

戦時下の莫大な費用と戦後の経済的疲弊により、英国は深刻な国力低下に見舞われました。この間、他の米ソなど連合国の国力は向上しており、格差が開きました。

このように、戦時中の連合国内での影響力喪失と、戦後の国力低下が相まって、英国は第二次世界大戦の連合国内で最大の損失を被った国と評価されているのです。

では、米国が第二次世界大戦でもっとも利益を得たかというと、そうとは言い切れないところがあります。

米国は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツと戦うソビエト連邦(以下ソ連と略す)に支援を行いました。

支援内容は以下の通りです。
  • 武器・軍需品の供与 米国はレンドリース法に基づき、ソ連に戦車、航空機、艦船、食料品、石油製品等の軍需品を大量に供与しました。金額にして現在の換算で1,800億ドル相当とされています。
  • 資金支援 ソ連への借款や信用供与を行い、戦費の一部を肩代わりしました。合計で109億ドル相当の資金援助がありました。
  • 戦略物資の提供 非鉄金属、燃料、機械類、車両など、ソ連が不足していた戦略物資を米国から供給を受けました。
  • 輸送路の開設 同盟国からソ連へのルートとして、北極海航路・ペルシャ湾ルート・極東ルートなどを開設し、物資の輸送を支援しました。
この大規模な軍事・経済援助によって、ソ連の対ドイツ戦線が物資的に支えられ、持久戦を可能にしたと評価されています。

しかし、結局のところ、もっとも被害の大きかった国でもある、当時のソ連が最大の利益を得たと言えます。その主な理由は、当時のイギリスとは異なり、ソ連は軍の指揮権を一片たりとも、米国に譲らなかったことにつきるでしょう。

これは、ソ連と米国は地理的、歴史的、文化的にも隔絶していたため、米国として指揮のとりようもなかったということに起因してはいるのですが、これが戦後に英国との大きな差を生み出すことになるのです。

第二次世界大戦中のソ連の指導者 スターリン

ソ連が東方戦線の作戦指揮権を完全に自国が掌握し続け、他国に決して権限を譲らなかったことが、戦後の勢力圏拡大と冷戦構造における主導権の獲得につながったといえます。

指揮権の一元的な維持が、戦後のソ連の"利益"獲得に大きく寄与したと言えるでしょう。

ソ連は戦後、日本の現在「北方領土」といわれる地域を領土とし、東欧諸国をソ連の影響下に置き、バルト3国などを事実上の一部領土化しました。領土を大幅に拡大することができました。

ソ連は、ナチス・ドイツ撃滅の最大の功労者となり、戦後は米国とともに超大国の座に着くことができました。東西冷戦構造の一方の中心的存在になりました。戦後設立された、国際連合では、中国とともに常任理事国となっています。

東欧を中心に社会主義圏が大きく広がり、ソ連の影響力が最大化しました。イデオロギー的にも大きな勝利を収めたと言えます。
 
ソ連は、連合国側で主導的な役割を果たし、戦後の東西ドイツ分割や東欧での影響力拡大などを主導できました。

このように、領土的・イデオロギー的な大幅な拡大と、戦後の国際秩序形成における主導権の獲得という意味で、ソ連が第二次世界大戦から最も利益を得た国であると評価できます。

このように、軽々な指揮権移譲は避け、自国の防衛力は自助努力で高めつつ、同盟国とは対等な関係を保ち、緊密に連携する。この二つの側面を両立させることが、軍事力の最大発揮につながるとともに、戦後に不利益を被らないための対策ともなるのです。

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2024年5月28日火曜日

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”―【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”

服部倫卓( 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)

まとめ
  • ロシアがウクライナ侵攻後、次にモルドバを標的にする可能性がある。モルドバには親ロシア地域が存在する。
  • 10月に大統領選と並行してEU加盟の是非を問う国民投票が予定されており、親欧米派のサンドゥ大統領が有力視されている。
  • 経済問題などで国民の不満が高まる中、ロシアが選挙介入などで親欧米路線を妨げようとしている。
  • サンドゥ大統領が再選されても、来年の議会選で与党が敗北すれば大統領の権限が制限される可能性がある。
  • ウクライナ情勢次第で、ロシアの軍事的脅威にさらされる恐れがあるが、武力に対する抵抗力は乏しい。


 モルドバは小国ながら、ロシアとEUの狭間に位置する地政学的に重要な国である。ロシアによるウクライナ侵攻の最中、プーチン政権がウクライナの次の標的としてモルドバを見据えているのではないかとの懸念が生じた。モルドバには親ロシア地域が存在し、ロシアがこうした地域を梃子にしてモルドバ全土を支配下に置こうとする可能性がある。

 一方で、モルドバは欧州連合(EU)加盟を目指しており、今年10月に大統領選と並行してEU加盟の是非を問う国民投票が実施される予定だ。現職の親欧米派サンドゥ大統領が有力視されているものの、経済問題などで国民の不満も高まっている。ロシアが選挙介入や買収工作などで親欧米路線を妨げようとする動きも見られる。

 さらに、仮にサンドゥ大統領が再選されても、来年夏の議会選挙で与党が敗北すれば、大統領の権限が制限されかねない。モルドバの政治体制は議会と内閣の権限が大きいためだ。ロシア側は、この議会選挙に向けても工作を強めるものと予想される。

 ウクライナ情勢次第では、モルドバはロシアの軍事的脅威に直面する可能性もある。しかし武力に対する抵抗力は乏しく、サンドゥ大統領が国外退避を選び、多くの市民がルーマニアなどEU域内に逃れる事態も想定される。

 このように、モルドバはロシアとEUの狭間に位置する小国ながら、その帰趨がロシアの影響力の及ぶ範囲やEUの東方拡大、ひいては地域秩序全体に大きな影響を与えかねない重要な試金石となっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響

まとめ
  • モルドバはEUとロシアの狭間に位置する緩衝地帯であり、その動向が地域秩序に大きな影響を与える。
  • モルドバ国内にはロシア世界への親和性の高い勢力が存在し、分離独立運動地域「プリドネストロヴィエ共和国」も存在する。
  • モルドバの民族・言語面ではルーマニアと深い繋がりがあり、国家統一の可能性がある。
  • モルドバがロシアの影響下に入れば、ウクライナへの新たな軍事的脅威となる。
  • モルドバはウクライナ情勢次第で、黒海を北上するロシア軍の通り道となる可能性がある。
モルドバ共和国は1991年に旧ソ連から独立した東欧の小国です。ルーマニア系住民が大多数を占め、ルーマニア語が公用語となっています。経済はロシアからのエネルギー供給に依存する一方、欧州連合(EU)加盟を目指す親欧米路線を掲げています。

しかし国内にはロシア世界に親和的な親ロシア派勢力も根強く、実効支配下にある分離独立運動地域「プリドネストロヴィエ共和国」も存在します。ウクライナ情勢次第では、この地域をめぐってロシアとの対立が深まる可能性もあります。このようにモルドバは小国ながら、EUとロシアの狭間に位置する緩衝地帯として、その動向が地域秩序に大きな影響を与えかねない重要な国となっています。

モルドバの地政学的重要性は非常に大きいと言えます。以下に簡単にまとめます。
  • ロシアとEUの狭間に位置する緩衝地帯。モルドバがロシア陣営に入れば、ロシアの影響力がさらに拡大する。一方でEUに加盟すれば、EUの東方シフトが進む。
  • モルドバにはロシア世界を象徴する分離勢力地域(プリドネストロヴィエ)が存在する。この地域をめぐってロシアとの対立が生じかねない。
  • モルドバの民族・言語面ではルーマニアと深い繋がりがあり、国家統一の可能性も存在する。その場合、ルーマニアを介してEUとロシアの対立が先鋭化する恐れ。
  • モルドバがロシアの影響下に入れば、ウクライナのもう一つの軍事的脅威になる。その意味でもウクライナ情勢に影響を与える。
  • 黒海に面さず内陸国ながら、ウクライナ情勢次第では黒海を北上するロシア軍の通り道となりかねない。
モルドバ東部でウクライナに接する赤色部分がプリネストロヴィエ(PMR)

プリドネストロヴィエ(PMR)とは、モルドバ領内に実効支配する分離独立運動地域です。1992年にモルドバから分離を宣言しましたが、国際社会からは承認されていません。住民の多くがロシア系で、ロシア語が公用語となっており、ロシア軍も駐留しています。

PMRは「プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国」として独立宣言を行っています。無論、モルドバはこれを認めていません。ロシア、アブハジア、南オセチア、ナウル共和国のわずか4か国のみがこれを独立国として認めていますが、他の国はこれを認めていません。

この地方は、「沿ドニエストル地方」とも呼ばれますが、その地理的な位置を表した別の呼び名です。プリドネストロヴィエは「ドニエストル川沿い」を意味する語源から来ています。

プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国とは、モルドバ東部のウクライナとの国境に位置する、モルドヴァから実効支配上分離しているドニエストル川沿いの地域を指す、自称独立国家のことになります。

PMRの首都とされるティラスポリ市の市庁舎

地理的には「沿ドニエストル地方」ですが、政治的実体としては「プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国」と呼ばれる分離独立運動体制のことを指しています。

ロシアの支援を受けて独立を主張するPMRの存在は、モルドバの親ロシア傾斜を生み出す一因ともなっています。モルドバは領土の一体性を重視していますが、PMRとの交渉は難航しており、この問題がモルドバ情勢を不安定化させる要因の一つになっています。今後、ロシアがウクライナ侵攻の口実としてPMRを利用する可能性も危惧されています。

このようにモルドバの行方は、ロシアとEUの勢力圏の行方、ウクライナ情勢などに大きな影響を与える重要な地政学的位置にあります。

モルドバとウクライナ南部一帯がロシアに占領され、ロシアとモルドバの間に回廊が設置されれば、そこから様々な深刻な地政学的リスクが生じる可能性があります。

まずロシアの影響力が黒海に至るまで拡大することになり、NATOやEUなど西側勢力との対立がさらに先鋭化してしまいます。ウクライナはポーランド国境以外は、ロシアに包囲されてしまい、国土が事実上二分される恐れがあります。

一方のモルドバも同様に包囲され、親ロシア地域の離反や、ロシアの事実上の支配下に置かれるリスクにさらされる。両国から大量の難民流出も起こりかねない。さらにルーマニアまでがロシアに囲まれる事態となれば、東西間の緊張は最高潮に達するでしょう。

最悪の場合、このまま事態がエスカレートすれば、新たな東西冷戦状況に陥る危険性すらあります。この地域一帯がロシアの影響下に置かれれば、ロシアの勢力圏拡大とNATO/EU側の対抗姿勢から、欧州の安全保障は極めて深刻な事態に陥ることになるでしょう。

モルドバのチーズ専門店

ただし、モルドバとウクライナ南部一帯がロシアに占領され、ロシアとモルドバの間に回廊ができる可能性は、現状では低いでしょう。

その理由の一つは、ウクライナ軍の強硬な抵抗があり、ロシア軍がウクライナ南部を完全に制圧することは容易ではないということです。さらに、ロシア軍の兵力と武器は十分ではなく、新たな大規模作戦を展開するのは現実的ではないです。

そのような行動を取れば、国際社会からの非難と追加制裁を受けるリスクも高まります。加えて、モルドバはNATO非加盟国ではありますが、EUメンバーのルーマニアが防衛面で深く関与しているため、ロシアが容易にモルドバに進出できる状況にないです。

また、モルドバ国内に親ロシア勢力は根強いものの、現政権与党は親欧米路線を掲げていることも影響しています。このように、客観的に判断すると、ロシアがモルドバまで勢力範囲を広げて回廊を確保する可能性は現時点では低いと言えます。ただし、ウクライナ情勢次第では、この地政学的リスクを完全に除外することはできないでしょう。

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戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

まとめ
  • 歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦うウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べ、現在の状況を第2次世界大戦直前に例えた。
  • スナイダーは、ウクライナをナチスに降伏したチェコスロバキアになぞらえ、ウクライナが諦めると将来ロシアがさらなる戦争を引き起こすと警告した。
  • 現在のウクライナ紛争は第3次世界大戦の危機を高めているが、NATO諸国は関与を避け、暴力の拡大を防ごうとしている。
  • ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナがロシアに敗れれば次にヨーロッパの他の国が攻撃対象になると警告している。
  • ベラルーシのルカシェンコ大統領も世界が崖っぷちに立たされていると警告し、第3次世界大戦の懸念を表明している。

ウクライナ軍女性兵士

 著名な歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦っているウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べた。彼は米イェール大学の歴史学教授で、東欧とソビエト連邦を専門家だ。スナイダーは、ウクライナとロシアの全面戦争が3年目に突入している現状を、第2次世界大戦直前の時期に例えた。

 彼は2024年を1938年と比較し、ウクライナが第2次大戦初期にナチスに降伏したチェコスロバキアと似ていると述べた。1939年、ナチス・ドイツがチェコスロバキアに侵攻し、これによりイギリスとフランスがポーランドの同盟国としてナチス・ドイツに宣戦布告し、第2次世界大戦が始まった。スナイダーは、エストニアのタリンでの会議で、ウクライナが諦めるか、国際社会がウクライナを見捨てれば、将来的に異なるロシアが戦争を行うことになると警告した。

 スナイダーは、ウクライナが現在の状況を引き延ばし、1939年のような大戦の勃発を防いでいると述べた。ウクライナでの2年以上にわたる紛争は、第3次世界大戦の可能性を高めているが、NATO諸国はウクライナ戦争の当事者ではないと強調し、暴力が国境を越えて広がるのを防いでいるとした。ウクライナは、ロシアに敗北すれば次にヨーロッパの他の国がロシアの攻撃対象になると警告している。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2022年2月、ロシア軍がウクライナに侵入してきた直後に、ウクライナの戦いを支援するよう呼び掛けた。彼は「もしウクライナが倒れれば、ヨーロッパも倒れる」と述べた。また、3月中旬には世界が「本格的な第3次世界大戦の一歩手前」にあると警告した。

 一方、プーチンの忠実な味方であるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は2024年2月に世界が「再び崖っぷちに立たされている」と警告し、第3次世界大戦について「懸念する根拠はある」と述べた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ロシアの経済的制約と西側の圧力 - ウクライナ侵攻の行方

まとめ
  • 現代ロシアは軍事力は侮れないが、経済力ではナチス・ドイツほどの潜在力はない。資源依存型の経済構造が足かせとなっている。GDPでは韓国を若干下回る程度である。
  • 一方、当時のドイツは再軍備と経済成長の相乗効果で、ヨーロッパ有数の経済・軍事大国として台頭していた。
  • ロシアのウクライナ侵攻は長期化すれば、その経済的制約からロシアに第三次世界大戦を引き起こすだけの実力はない。
  • 重要なのは、ロシアの違法な軍事行動を容認せず、ウクライナの主権と領土を守ることである。
  • 米国を筆頭に西側がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れである。
第二次世界大戦中のドイツSS(親衛隊)

現代ロシアは確かに軍事力に優れていますが、経済面ではナチス・ドイツほどの潜在力はありません。現在ロシア経済は天然資源、とりわけエネルギー輸出に過度に依存しているのに対し、かつてのソ連は現在のロシアと比較して、製造業や先端技術分野での地位ははるかに上位に位置し、米国としのぎを削っていました。国内総生産(GDP)でも、米中に大きく水をあけられている有様です。  

これは、第二次世界大戦前のドイツとはかけ離れた状況です。1939年当時、ドイツの名目GDPは約411億ドル(1990年価格換算)と、アメリカに次ぐ経済大国でした。軍備増強と内需拡大策の効果により、ドイツは欧州有数の経済力を誇っていました。軍事と経済の相乗効果で、ヨーロッパ全域に影響力を及ぼすに至ったのです。

一方の現代ロシアは、2022年のGDPがわずか1.7兆ドル程度に過ぎず、主要欧州諸国よりも小さい規模です。世界ランキングでは11位と、韓国をわずかに下回る程度です。これは日本でいえば、東京都と同じくらいです。長年の対外制裁と資源依存の経済構造が災いし、伸び悩んでいるのが実情です。

軍事パレードをするロシア軍兵士

このように、ナチス政権下のドイツは再興期にあり、軍備増強と経済発展を遂げ、ヨーロッパでの覇権を狙っていました。一方でプーチン政権のロシアは、経済的な盤石さを欠いており、他国に影響力を及ぼす余地は限られています。

こうした経済力の違いが、ロシアのウクライナ侵攻の遂行能力に大きく影響しています。戦争が長期化するなか、ロシアは経済的に行き詰まる可能性すら浮上してきました。第三次世界大戦を引き起こせるような実力は、到底持ち合わせていないと言えるでしょう。  

武力面ではロシアが軍事技術と核兵器で優れているのは事実です。しかし経済規模が韓国と肩を並べるに過ぎなければ、その行動には自ずと一定の制約がつきまとうはずです。つまり、現在の紛争が再び世界大戦に発展するリスクは、杞憂に過ぎないのかもしれません。かえって、目の前の現実的で差し迫った問題から目を逸らしかねません。

重要なのは、第三次世界大戦の脅威などではなく、ロシアのウクライナ侵攻が国際法に明白に反すること、これを決して容認できないことです。欧米諸国を中心に、ロシアのこの暴挙に対する責任を明確に追及し、ウクライナの主権と領土保全を尊重した平和的解決を目指すべきなのです。  

もちろん、ロシア軍の戦力は侮れません。しかし、ウクライナ軍の強固な決意、西側からの軍事支援、そしてロシア自身の経済的制約といった要因を考えれば、ロシアがこの紛争で完全勝利を収めることは極めて困難です。平和の実現に向けては、第三次世界大戦を恐れるのではなく、ロシアのこの明白な違法行為に毅然と対処することこそが重要なのです。

ロシアの侵攻は確かに現実的で差し迫った脅威です。しかし同時に、ウクライナの奮闘、国際社会の広範な支援、ロシア自身の能力の限界という現実も見逃せません。こうした要因を組み合わせれば、この脅威を最終的に封じ込め、抑止できるはずです。

その実現に向け、何よりも冷静さを失わず、ロシアの軍事行動を断固として非難し続けることが大切です。そうすれば第三次世界大戦の悪夢は現実のものとはならず、かえってロシアが現実路線に傾き、停戦への道を模索せざるを得なくなるでしょう。平和を願うなら、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かうことこそが何より重要なのです。

第三次世界大戦をテーマとしたゲームの画面

実際、米国はロシアの違法な軍事行動に対する姿勢を一層厳しくしつつあります。ウクライナを訪問中のブリンケン国務長官は15日、米国製兵器を使ったロシア領内への攻撃を容認する可能性に言及し、「この戦争をどう遂行するかは最終的にはウクライナが決断することだ」と述べました。

バイデン政権はこれまで、ロシア領への直接攻撃を制限してきましたが、この発言はその方針の転換を示唆しています。ロシア側に有利に働いているとの批判を受けて、制限撤廃の要望が高まっていたためです。   

このように、おくればせながらも、米国を始めとする西側諸国がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れと言えるでしょう。平和実現に向けては、第三次世界大戦の脅威を煽るよりもロシアの違法な軍事行動に対し、断固とした姿勢で臨むことが何より重要なのです。

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2024年1月10日水曜日

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」―【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」

岡崎研究所

まとめ
  • オルバン首相は、ウクライナに対するEUの500億ユーロの支援を阻害し続けている。
  • オルバンの行動の動機は、経済支援の継続である。
  • オルバンはEUの「スポイラー」として機能しており、EUは彼の不適切な行動を制止しなければならない。
  • EUは、オルバン首相と汚い取引をせずに、ウクライナ支援の方途を見出さなければならない。
  • EUは、オルバン首相の行動がEUの機能や存在意義を脅かすことを認識し、毅然とした対応をとるべきである。
オルバン首相


 フィナンシャル・タイムズ紙の12月19日付け社説‘The EU has a messy Orbán problem’は、ハンガリーのオルバン首相が欧州連合(EU)の500億ユーロの対ウクライナ支援を依然として妨害し続けていることについて、EUがオルバン首相と汚い取引をすることなく、「オルバン問題」に対処する方途を見出さねばならない、と論じている。

 社説は、オルバンの行動の動機は、大方カネであり、経済を押し上げ、自分に対する支持を支えるためには、EUの資金がハンガリーに流入し続ける必要があるとしている。また、オルバンはEUを離脱するつもりはなく、有志の諸国とともにEUを「乗っ取ろう」と欲しているが、その目標から遠いところにあると指摘している。

 しかし、オルバンは「スポイラー」としての能力を証明したとし、EU諸国は、彼と彼の仲間の不適切な行動を制止するために、持てる道具を断固使うべきであると主張している。具体的には、EU条約第7条を発動し、ハンガリーの投票権を停止することも可能であることを明確にすべきであるとしている。

 また、加盟国が民主主義や法の支配に逆行する場合、EU資金の提供を封鎖する仕組みを使うことをEU首脳はひるむべきではないと述べている。さらに、ウクライナに対する援助資金については、EUは26カ国の政府間合意による他のルートを見出さねばならないと提言している。

 最後に、社説は、欧州のより広い範囲の安定のために、EUの拡大の可能性が戻って来たことは歓迎であるが、EUはその機能が少数派の人質に取られることを認めることは出来ないと強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

まとめ
  • オルバン首相はEUのウクライナ支援策に反対している。これはハンガリーの国益を優先するためだと支持者は主張する。
  • しかし、多くのEU加盟国からは、オルバン氏の行動はEUの団結を損ない、ウクライナ支援を妨害するものだと批判されている。
  • 一方、オルバン氏はハンガリーの国益に資する独立したウクライナの重要性を認識しており、完全にウクライナ支援に反対しているわけではない。
  • ただし、支援の在り方には慎重で、資金流用のリスクがあるとして直接支援には反対している。
  • 汚職や資金流用の疑惑が絶えないウクライナで、オルバン氏の懸念は決して杞憂とはいえない。
  • EUはウクライナ支援の正当性と同時に、資金の透明性・適正使用の確保にも配慮が必要だ。
上の記事に出てくるフィナンシャル・タイムズの記事は、煎じ詰めれば「オルバン首相の行動は、EUの機能や存在意義を脅かすものであり、EUは毅然とした対応をとるべきであると主張している」ということです。

EUの旗

ただ、この見解が正しいか、間違いかは、一概には言えないところがあります。

オルバン氏の行動を支持する議論としては、以下のようなものがあります。
 オルバン首相が500億ユーロの援助パッケージに反対することでハンガリーの国益を優先していると主張する人たちがいます。 彼らは、ハンガリーには、特に景気低迷下においては、これほど多額の拠出金を支払う余裕はないと考えています。

ウクライナが援助資金をどのように使用するのかを疑問視し、汚職や不正管理の可能性について懸念を表明する人もいます。

オルバン首相は一部のEU政策を声高に批判しており、この機会を利用して不支持を表明したり譲歩したりしている可能性があります。
オルバン氏の行動に対する反論する議論としては、以下のようなものがあります。 
多くの人は、オルバン首相の行動は、危機の際にEUの団結と団結を弱体化させようとする試みであると見ています。

援助パッケージを阻止すれば、ロシアの侵略からウクライナを防衛する能力に大きな損害を与える可能性があります。

オルバン首相はほとんどの加盟国が重要視している大義への貢献を拒否しながら、EUの資金提供から恩恵を受けていると主張する人もいます。

オルバン首相の行動は、民主主義と法の支配というEUの中核的価値観に対する攻撃であると一部の人は見ています。
オルバン首相は「ハンガリーの安全はウクライナの安全に大きく依存している」と述べています。 オルバン氏はウクライナ政府に直接送金することに懸念を抱いていますが、ウクライナの安定がハンガリーの国益にかなうことを認識しています。

ハンガリー国旗

 オルバン氏によれば、「我々はウクライナが独立した一体国家であり続けることに既得権益を持っている」と語っています。 ウクライナがロシアの支配下に置かれた場合、ハンガリーにとって脅威となり、欧州の安全保障が損なわれる可能性があります。

 オルバン氏は「最も重要なことは、ウクライナが西側世界に属するべきだということだ…ロシアに属すべきではないと信じている」と語っています。 同時にオルバン氏は、大規模な援助を受ける前に、汚職などの問題に対処するために「ウクライナは政治経済改革をする必要がある」と主張しています。

 同氏は、EUは指導者に「白紙小切手」を切らずにウクライナの安全と独立を支援する方法を見つけるべきだと考えています。 鍵となるのは、資金が責任を持って使われ、実際にウクライナ国民の利益となるようにすることです。 [出典:2014年から2017年にかけてロイター通信、ポリティコ、その他メディアとのインタビューから得たヴィクトル・オルバン氏の引用]

オルバン氏は国家主権の忠実な擁護者である一方、ハンガリーの安全保障はウクライナの抵抗や、独立に依存していることを認識しています。 

 しかし同氏は、EUがウクライナ政府に援助や保証を提供する方法については慎重でなければならないと考えています。 現在の支援の仕方では、ウクライナそのものを支援することにはならず、汚職や政治的失政で資金を浪費することになってしまいかねないことを危惧しています。そうでななく、責任ある指導者を支援すべきとしています。

最近でも、汚職や不正の疑いは絶えないです。

ゼレンスキー大統領は9月3日夜のビデオ演説で、オレクシー・レズニコフ国防相(57)を交代させると発表した。国防省では軍の調達などをめぐる汚職疑惑が相次いで発覚しており、事実上の更迭とみられる。ウクライナ側の反転攻勢が続く中での重要閣僚の交代となり、戦況への影響が注目されました。

オレクシー・レズニコフ氏

ゼレンスキー氏は演説で、「国防省には新しいアプローチや軍、社会との新たな関係が必要だ」と述べた。国防省では今年1月、兵士らの食料調達が小売価格の2~3倍で行われていた疑惑が浮上。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされます。

ウクライナでは、徴兵逃れなどでも汚職が指摘されている。ゼレンスキー氏は汚職対策に取り組む姿勢を強調し、米欧からの支援に影響しないよう腐心しています。

レズニコフ氏は2021年11月、国防相に就任しました。ロシアの侵略以降、米欧諸国からの軍事支援取り付けで中心的な役割を果たしてきました。

国防省では昨年1月、食料調達をめぐる汚職が浮上しました。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったのですが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされています。国防省ではその後、別の汚職疑惑も伝えられていました。

レズニコフ氏は、弁護士出身で2021年11月に国防相に就任しました。ウクライナメディアは国防相を辞任後、駐英大使に就任する可能性があると伝えていました。ただ、現在時点では、レズニコフ氏が駐英大使になったという公式の情報はありません。

ウクライナは、ソビエト連邦の崩壊後、汚職と腐敗に苦しんできました。ウクライナは、世界の腐敗指数であるトランスペアレンシー・インターナショナルの調査によると、2012年には180カ国中122位でした。しかし、2014年以降、ウクライナは汚職対策に取り組んでおり、改善傾向が続いています。

 2023年8月には、ウクライナの大統領であるゼレンスキー氏が、汚職に対する取り組みを強化するための法律に署名しました。 この法律は、汚職に関与した公務員や政治家に対する厳しい罰則を設けることを目的としています。しかし、ウクライナはまだ汚職と腐敗に苦しんでおり、改善が必要な状況にあります。

ウクライナ国防省内で汚職や不正行為が懸念されているのは事実です。 ただし、一般化する前に、聞いた情報を注意深く分析し、信頼できる情報源に相談したり確認することが重要です。

ただ一ついえることは、オルバン氏の懸念は決して杞憂として片付けられるものではないということです。

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2023年11月14日火曜日

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること―【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)!

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること

服部倫卓 (北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)

まとめ
  • ウクライナ侵攻後、ロシアの貿易統計は非公開となったが、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの図書館で2022年版の貿易統計集が発見された。
  • この統計集によると、ロシアの貿易は、欧米日などの「非友好国」から、中国やインドなどの「友好国」に大きくシフトした。
  • 特に石油輸出では、中国とインドが急増し、2023年第1四半期には、ロシアの原油輸出の73.3%が中印向けとなった。
  • 半導体輸入については、先進国からの輸入が減少したものの、中国からの輸入は減少せず、ロシアの半導体不足は解消されていない。
  • ロシアの対外貿易では、中国が圧倒的なシェアを占めており、2023年には、露中貿易が往復で2200億ドルに達する見込みである。

 ウクライナ侵攻後、ロシアの貿易統計は非公開となったが、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの図書館で、2022年の貿易統計集が発見された。

 この統計集によると、ロシアの貿易は、欧米日などの「非友好国」から、中国やインドなどの「友好国」に大きくシフトした。

 特に石油輸出では、中国とインドが急増し、2023年第1四半期には、ロシアの原油輸出の73.3%が中印向けとなった。

また、半導体輸入については、先進国からの輸入が減少したものの、中国からの輸入は減少しなかった。

さらに、ロシアの貿易相手国では、中国が圧倒的なシェアを占めており、2023年には、露中貿易が往復2200億ドルに達する見込みである。

この結果、ロシアは、中国への依存度を高め、中国のジュニアパートナー化まっしぐらと言える状況となった。

なお、ロシアは、貿易統計を非公開とした理由について、国際的な制裁によるダメージを避けるためと説明している。

しかし、ロシアが貿易統計を隠したことによって、かえって、ロシアの経済状況の悪化を世界に知らしめることとなった。

【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)!

まとめ
  • 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターは、旧ソ連・東欧地域の総合的・学際的研究を行う国内唯一の研究所である。
  • センターは、ロシアは中国のジュニア・パートナーになりつつあることを指摘。ウクライナ戦争でロシア最終的に敗北することになるだろう。
  • ロシアの敗北は、プーチン政権の存続にも影響を与える可能性がある。
  • ロシアの敗北は、中国の台頭をさらに加速させ、ユーラシア大陸の安全保障に大きな影響を及ぼすだろう。
  • 理想的な結末は、プーチンが失脚し、ロシアが西側諸国との関係を回復することである。


北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターは、旧ソ連・東欧地域の総合的・学際的研究を行う研究所です。国内唯一のセンターで、専任研究員11名、客員研究員20名、研究生20名が在籍しています。

研究テーマは、政治、経済、社会、文化、歴史など多岐にわたります。地域比較研究にも力を入れています。

研究成果は、学術論文や著書、報告書などの形で発表されており、国内外の学界で高い評価を受けています。政府や企業などの政策立案にも活用されており、旧ソ連・東欧地域の総合的な研究で国内外で高い評価を受けています。

私は、上の記事のロシアが中国のジュニア・パートナーになりつつあるという評価に賛成です。貿易統計がそれを裏付けています。ロシアが石油輸出を中国に依存していることは特に問題です。そのことについては、前から言う人もいましたが、今回それが数字で明確に確認されたといえます。

もし中国がロシアの石油の輸入を減らすことになれば、ロシア経済に壊滅的な打撃を与えるでしょう。そうして、現状ではそのようなことはないでしょうが、その可能性は完全に否定できません。そうしてこのような脅威があるからこそ、ロシアが中国のジュニア・パートナー化はますます避けられなくなるでしょう。半導体に関しても同じことがいえると思います。 ウクライナ戦争でロシアが勝つと信じている人は、欧米にはみられません。ほとんどの専門家は、ロシアはいずれ敗北すると考えていますが、それがいつになるかはわからないです。ただ、長期的には敗北するだろうと見る人が大勢を占めているように見えます。 日本では、ロシアのプロパガンダに影響されてロシアが勝つと信じている人もいるようですが、現実にはロシアは戦争に負けています。ロシアは多くの犠牲者を出し、経済はボロボロです。


米国、欧州、日本はウクライナに軍事・財政援助を行っています。この援助は、ウクライナが自国を守り、ロシア軍を押し返すのに役立っています。 ただロシアが核保有国であることを忘れるべきではありません。戦争が続けば核がエスカレートする危険性があるということです。しかし私は、ロシアが核兵器を使用するよりも、通常兵器で敗北する可能性の方が高いと考えます。 結論として、ロシアは中国のジュニア・パートナーになりつつあり、最終的にはウクライナでの戦争に敗北することになるでしょう。

そうして、ロシアの無謀なウクライナ侵攻が敗北に終われば、プーチン政権にどれほどのダメージを与えるかわからないです。モスクワの街頭での抗議行動から、明白な政権交代まで、何が起こるかわからないです。

ロシアはすでに侵略と人権侵害で西側諸国から孤立しています。そして中国は、世界的な影響力を拡大するために、ロシアの弱みにつけ込もうとしているようです。ウクライナで敗れたロシアが中国への依存を強めれば、中国がユーラシア大陸を支配し、海外における日米とその同盟国の利益を脅かすことになりかねないです。

これは保守派にとっては耐え難いことです。理想的な結末は、プーチンが失脚し、その後、西側諸国との関係を回復し、中国の手先になることを避ける新たな指導者が誕生することです。

自由で民主的なロシアが西側諸国の仲間入りをする。これは容易なことではないでしょうが、自由と民主主義はこれまでも長い困難を乗り越えてきました。さらに、中国経済はかつてないほど疲弊しています。強さと勇気と信念があれば、米国とその同盟国はロシアを共産主義中国の牙城から引き離すことができでしょう。

ウクライナ戦争の行方により、中国陣営と自由世界がロシアの引き抜き合戦を行い、その結果により世界秩序の再編が起こることなるでしょう。

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2023年10月25日水曜日

中国「一帯一路」の現状と今後 巨額な投融資の期待が縮小 債務返済で「あこぎな金融」の罠、世界の分断で見直しに拍車―【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」

高橋洋一

まとめ
  • 一帯一路は当初の期待に沿った成果を上げていない。
  • 先進国からの参加は減少しており、中国からの投資も低下傾向にある。
  • 中国経済の失速や米中対立の激化なども、一帯一路の進展を阻む要因となっている。
  • 中国は債務返済が困難になった国の救済に消極的であり、一帯一路の評判は低下している。

一帯一路の国際フォーラムで演説をする鳩山元首相

 中国は10年前に提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」の10周年を記念して国際フォーラムを開いた。中国はこれまでの実績を強調したが、出席者は先進国の代表団が減少し、グローバルサウスが中心だった。

 また、中国は「一帯一路内の貿易額が増加している」と主張するが、実際には投資額はピーク時の2015年以降減少している。さらに、中国経済の失速や米中対立、中露接近も一帯一路への関与を冷え込ませている。

 特に、中国経済の失速と米中対立は、一帯一路の今後にとって大きなマイナス要因となると考えられる。

 中国は債務返済が困難になった国への救済にも消極的であり、スリランカは中国の「あこぎな金融」の罠にはまった例とされている。日本はスリランカ債務問題について中国抜きで協議を開始しており、中国の思惑どおりに進んでいないことは明白だ。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事を御覧ください。

【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!

まとめ
  • 一帯一路構想は、開発経済学的に見て、無理がある。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、貧しい国々を豊かにするノウハウがない。
  • AIIBの融資金利が高い。
  • 中国は、国内の投資案件が減少したことで、海外への投資を拡大しようとした。
  • 中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付けるべき。

一帯一路構想は一見壮大なものだかその現実は・・・・

高橋洋一氏は、一帯一路構想が公表された直後、そのバスは「オンボロ」「高利貸」なのでやめた方がいいと語っていました。私も当時そう思いました。その理由は主に以下の二つの理由からでした。

まず第一に、開発経済学的に見て、無理があるというものでした。

開発経済学においては、自国より経済成長率が高い国に対する投資は、経済の拡大によって新たな需要が生まれるため、投資の機会が多く、利益率も高くなると考えられています。しかし、自国より経済成長率が低い国への投資は、利益率が低くなるというものです。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 経済成長率が高い国は、国内の需要が拡大するため、企業の売上や利益が増加する。
  • 経済成長率が高い国は、労働力や資源などの生産要素が不足するため、投資によって生産性の向上を図ることができる。
  • 経済成長率が高い国は、政治や社会の安定性が高く、投資リスクが低い。
もちろん、必ずしも自国より経済成長が高い国に投資すれば利益が上がるわけではありません。投資先の国やプロジェクトの選定は慎重に行う必要があります。

以下に、投資先の国やプロジェクトの選定において考慮すべき点をいくつか挙げます。
  • 経済成長率の見通し
  • 政治・社会の安定性
  • 法制度の整備状況
  • インフラの整備状況
  • 人材の質
  • リスクの大きさ
また、投資先の国やプロジェクトの選定にあたっては、専門家のアドバイスを参考にすることも重要です。しかし中国は過去に植民地経営をした経験はなく、海外に投資した経験も少ないですから、海外投資の専門家はいないと言っても良い状況でした。

中国政府は、一帯一路の推進にあたり、海外投資の専門家を育成するための取り組みを行ってきました。しかし、それらの取り組みが十分に成果を上げていないことも、一帯一路の失敗の一因と考えられます。

海外投資の専門家は、投資先の国やプロジェクトの選定において、経済成長率の見通し、政治・社会の安定性、法制度の整備状況、インフラの整備状況、人材の質、リスクの大きさなどの要素を総合的に判断する能力が必要です。また、投資先の国やプロジェクトの現地事情をよく理解し、リスクを回避するための対策を講じる能力も求められます。

中国が、一帯一路の成功を収めるためには、海外投資の専門家をさらに育成し、彼らの能力を最大限に活用することが重要なはずでした。

具体的には、以下の取り組みが必要でした。
  • 海外投資の専門家を育成するための教育・研修の充実
  • 海外投資の専門家が活躍できる環境の整備
  • 海外投資の専門家と政府や企業との連携の強化
これらの取り組みが十分になされていれば、中国は海外投資の経験とノウハウを蓄積し、一帯一路の成功につなげることができたかもしれませが、それを怠って失敗したのが中国です。

そもそも、一帯一路のほとんどのプロジェクトは、もし中国で海外投資の専門家が十分に養成されていれば、その専門家は実施すべきではないと判定していたでしょう。

年々参加者数が減る一帯一路国際フォーラム

第二には、中国は世界第二の経済大国といわれながらも、一人あたりのGDPは一万ドルを少し超えた程度であり、これは日本など世界の他の先進国や、韓国、台湾よりもかなり低いし、貧しいといわれる中東欧諸国のほんどの国よりも低いです。

そのような国が、貧しい国に投資して、プロジェクトを起こしたにしても、中国には元々貧しい国の人々を豊かにするノウハウはないので、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられたからです。

中国の一人あたりのGDPは、2023年時点で約12,500ドルです。これは、日本の一人あたりのGDP(約40,000ドル)の約3分の1、韓国の一人あたりのGDP(約35,000ドル)の約4分の1、台湾の一人あたりのGDP(約30,000ドル)の約4分の3に過ぎません。また、貧しいといわれる中東欧諸国の平均的な一人あたりのGDP(約15,000ドル)よりも低い水準です。

このような状況で、中国が貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、中国自身が貧しい国の人々を豊かにするノウハウを持っていないことから、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられます。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、自国内でも貧困や格差の問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのノウハウが十分に確立されていない可能性があります。
  • 中国は、政治体制が独裁制であり、民主主義体制の国とは価値観や考え方が大きく異なります。このような国が、民主主義体制の国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが現地のニーズに応えられない場合もあります。
  • 中国は、債務漬けの問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが債務の負担となり、現地の経済を悪化させる可能性があります。
もちろん、中国が一帯一路を通じて、貧しい国の人々の生活を改善する取り組みを行っていることは事実です。しかし、中国自身が抱える課題や、一帯一路に対する批判などから、一帯一路が今後も成功を収めることは難しいです。

以下に、中国の経済状況と一帯一路の課題に関する数字的な根拠をいくつか挙げます。
  • 中国の一人あたりのGDPは、2010年から2023年の間に約2倍に増加しました。しかし、依然として世界平均の約半分に過ぎません。
  • 中国の外貨準備は、2010年から2023年の間に約3倍に増加しました。しかし、債務の増加に伴い、対外負債の割合も拡大しています。
  • 一帯一路の参加国は、2013年から2023年の間に約70カ国から約140カ国に増加しました。しかし、そのうちの多くの国は、中国の債務の罠にはまっているとの指摘があります。
中国が、一帯一路を通じて世界経済に貢献し、貧しい国の人々の生活を改善するためには、まずは、自国の課題を克服し、一帯一路の取り組みを改善していくべきです。

この二つについては、中国自身もよく理解していたと思われます。

そうして、一帯一路を支えるAIIBにも最初から問題がありました。AIIBとは中国の主導によって設立された国際金融機関のことで、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank, AIIB)と呼ばれる、アジア向けの国際開発金融機関です。

複数の国によって設立され、アジアの開発を目的として融資や専門的な助言を行う機関の一種で、米国主導のIMF(国際通貨基金)や、日米主導のADB(アジア開発銀行)のような機関です。これは一帯一路のプロジェクトを推進することも目的に創設されたものです。

プロジェクトの種類や融資額などによって異なりますが、一般的には、ADBの融資金利よりも0.5~1%程度高いと言われています。例えば、AIIBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)に上乗せした5.5~6.5%程度となっています。一方、ADBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBORに上乗せした4.5~5.5%程度となっています。


AIIBの融資金利が高い理由は、AIIBの資金調達コストを賄うためです。AIIBは、中国が主導して設立された機関ですが、出資国は中国以外の国も多く、その出資比率は中国が30%程度に過ぎません。しかも、致命的なのは、日米が参加していません。そのため、AIIBは、国際市場からの資金調達に依存しており、その資金調達コストを賄うために、融資金利を高く設定せざるを得ないのです。

それでも、中国が強引に一帯一路をすすめたのは、中国は、2000年代以降、急速な経済成長を遂げ、国内の投資案件が減少してきましたため、中国政府は、海外への投資を拡大することで、経済成長を維持しようとからだと考えられます。

一帯一路構想は、中国の海外への投資を促進するためのものであり、中国政府は、この構想を通じて、海外のインフラ整備や資源開発に投資し、中国企業の海外進出を支援してきました。

中国は、一帯一路構想を通じて、貧しい国々の経済発展にも貢献しようと考えていました。しかし、その一方で、中国の経済的利益を追求することも、一帯一路構想の重要な目的であったことは否定できません。

中国は、一帯一路構想を通じて、海外への投資を拡大し、経済成長を維持しようとしていますが、その取り組みは、必ずしも成功しているとは言えません。

先進国からの参加が減少し、中国からの投資も低下傾向にあることに加え、債務問題や環境問題など、一帯一路構想に対する批判も高まっています。

中国が、一帯一路構想を通じて、経済成長を維持し、政治的・経済的影響力を拡大するためには、これらの課題を克服していく必要があります。

以上、長くなってしまいましたが、これが現時点での、最新の一帯一路のまとめです。

中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付ける必要があります。その上で、個人消費を高める政策をとるべきですが、そのためには、経済的中間層を増やし、これらが自由に経済活動ができる体制を整えるべきです。

そのためには、民主化、経済と政治の分離、法治国家化は避けて通れません。

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