2018年12月17日月曜日

米中両国の戦略から考える「潰し合い」の結末―【私の論評】成熟期を迎えたチャイナではいずれ共産党が崩壊し、米国は経済冷戦に勝利する(゚д゚)!

米中両国の戦略から考える「潰し合い」の結末

対立の本質は「ツキジデスの罠」、休戦はあり得ない

米国と中国の国旗。中国・北京にて

 米中の貿易戦争はいつまで続くのだろうか。このような問いかけは、対立を貿易戦争と見るために出てくるものである。それは意味のある問いかけとは言えない。なぜなら、今回の対立は貿易戦争ではなく、「ツキジデスの罠」(覇権国と挑戦国の争い)であるからだ。貿易戦争ならば休戦もあり得るが、覇権国と挑戦国の雌雄を決する戦いが途中で終わることはない。

 そのため、「いつ終わるか」ではなく、「どちらが勝つか」が重要になる。それでは、どちらが勝つのであろうか。それに答えるためには、両国の戦争目的と戦略を見る必要がある。

攻撃目標は中国の情報・ハイテク産業

 米国の戦争目的と戦略は明快である。戦争目的は挑戦国を叩き潰すこと、21世紀もドル基軸体制を維持することである。そして、米国人が正しいと思うことを世界に押し付ける力を維持し続けることである。英語を共通語として世界中で使わせることも重要になる。国際会議は英語で行わなければならない。

 21世紀になった現在、覇権を維持するために熱い戦争を行う必要はない。ただ、ドル基軸体制を維持するために軍事力の裏付け必要だから、軍事において世界をリードし続けなければならない。

 現在、軍事技術において情報やハイテクに関わる技術はその中核を占める。だから、その分野で、米国に挑戦し始めた中国を許すわけにはいかない。今回の戦いが、ZTEやファーウェイなどを巡って行われていることは、そのことを象徴的に表している。

 米国は中国の情報産業やハイテク産業を叩き潰して、二度と米国に立ち向かえないようにしたい。中国は独自で先端技術を作る出す能力に欠ける。だから、米国から技術を盗み出す経路を潰し、かつ情報やハイテクに関わる産業が中国以外で利益を得る道を潰せば、いずれ衰退して行く。米国は、そうなるまで中国の情報やハイテク産業を執拗に叩き続ける。その戦略は明快である。

 一般の市民も政府を支持している。トランプ大統領は "Make America Great Again" 合言葉に選挙に勝った。彼の支持者は海外での軍事プレゼンスを縮小したがっているが、それは米国が覇権国で無くなることを意味しない。海外での紛争や内戦の仲裁をやめるだけであり、覇権国としての地位は維持したいと思っている。

 一般市民も、ドル基軸体制に象徴される覇権国の地位が“美味しい”ことをよく理解している。だから、一般市民が元基軸体制や世界の公用語が中国語になることを容認することはない。そんな世論を背景に、トランプ大統領よりも議会の方が中国との戦いに熱心である。米国は一丸となって、中国との戦争に臨んでいる。

庶民の不満をそらすための「中国の夢」

 一方、中国は戦争目的も、戦略も、そして市民の支持も極めて曖昧である。習近平政権は中国がハイテク分野で米国を凌ぐとした「中国製造2025年」を打ち出したが、その本気度には疑いがある。

 習近平は政権の座につくと「中国の夢」などと称して、「一帯一路」やAIIBの設立などを推し進めた。また、南シナ海への進出も強化した。この一連の政策は、米国を凌駕することを目的にしたものではない。あくまでも国威発揚であり、国内向けのプロパガンダであった。

 習近平が政権の座についた頃、奇跡の成長は終わり、その一方で、汚職、貧富の格差など成長の負の側面が顕在化してきた。そのような状況の中で、汚職退治はそれなりに行ったが、戸籍制度に代表される都市と農村の格差是正には、全くと言ってよいほど手を付けることができなかった。

 あれほどの不動産バブルが生じているのに、中国には固定資産税も相続税もない。所得税を支払っているのは、全人口の2%にすぎない。税収の多くを国営企業の法人税から得ている。

 国営企業の多くは電気や通信など生活基盤に関連する事業を行っている。それらが支払う税金は、電気や通信の料金に上乗せされている。そうであれば、それは消費税と変わらない。つまり、中国の税制は逆進性が高い。富裕層ほど税率が低い。

 税による所得の再分配を行っても、なお多くの国で格差が問題になっているが、中国は税による所得の再配分すら行っていない。それは、笑い話のように聞こえるが、共産党の有力な支持基盤が都市に住む富裕層やアッパーミドルであるからだ。

 習近平政権は庶民の不満をそらすために、「中国の夢」などといった対外膨張政策を打ち出した。そして、調子に乗って次々と政策を打ち出していたら、米国の逆鱗に触れてしまった。それが、ことの真相だろう。

習近平政権は「中国の夢」を打ち出し、中国の明るい未来を訴えている。上海の繁華街に貼られたポスター

米国が貿易戦争を仕掛ける理由

 習近平政権は貿易戦争に対して明確な戦争目的や戦略を持っていない。そのことは、昨今のオタオタぶりを見てもよく分かる。

 ちょっと知識のある中国人は、習近平の政策が米国との深刻な対立を招いてしまったことをよく理解している。2018年の夏あたりからは、中国共産党の長老までもが習近平の資質に疑問を感じ始めるようになった。夜郎自大的な政策の立案に関わった政治局常務委員の王滬寧は事実上の失脚状態にあるとされる。

 米国はこの辺りの事情をよく理解した上で、中国に貿易戦争を仕掛けている。貿易戦争の真の目的は貿易赤字削減より、貿易に難癖を付けることによって、低下傾向にある中国の経済成長率を一層鈍化させて、それによって不動産バブルを崩壊させることにある。不動産バブルが崩壊すれば、共産党の支持基盤である都市に住む富裕層やアッパーミドルが最も被害を被る。“金の恨み”は恐ろしい。支持層が共産党を憎むようになる。

 そうなれば、かつて日本がそうであったように、政権は不安定化する。共産党が国力を集中して情報やハイテク産業を育成することができなくなる。米国はそれを狙っている。

「あと50年は我慢すべきだった」

 米国の戦争目的、そして戦略は明確であり、それを一般の市民も支持している。一方、中国は“ことの弾み”で戦争に突入してしまった。明確な戦争目的も、戦略も、そして一般の市民の支持もない。ある中国人は、あと50年は我慢(韜光養晦)すべきだったのに、アホな習近平が出てきて、全てを台無しにしてしまったと言っていた。

 中国は世界第2の経済大国である。短時間で勝負がつくことはない。しかし、おそらく数年から10年程度の後に、中国は米国の覇権の下で生きることを認めざるを得なくなるだろう。その時、中国は現在と全く異なる体制になっている可能性が高い。この戦争は米国の勝利で終わる。

【私の論評】成熟期を迎えたチャイナではいずれ共産党が崩壊し、米国は経済冷戦に勝利する(゚д゚)!

ツキジデスの罠については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
ジョセフ・ナイ氏

この記事では、ジョセフ・ナイ氏が、「キンドルバーグの罠」という論文を2017年1月9日に発表していることを掲載しました。この論文には、「ツキジデスの罠」も登場します。ただし、この論文の和訳では「ツキュディデスの罠」となっていますが、同じ内容です。

では、以下のこの論文の要約・和訳を以下に引用します。
キンドルバーグの罠 
トランプ次期大統領が対中政策の方針を準備するにあたって、歴史の教える注意すべき二つの大きな「罠」がある。 
一つ目は、習近平主席も引用した「ツキュディデスの罠」(Thucydides Trap)である。これは古代ギリシャの歴史家が発したとされる「既存の大国(例:米国)が台頭しつつある大国(例:支那)を恐れて破壊的な大戦争が起こる」という警告だ。 
ところがトランプ氏が気をつけなければならない、もう一つの警告がある。それは「キンドルバーガーの罠」(Kindleberger Trap)であり、これはチャイナが見た目よりも弱い場合に発生するものだ。 
チャールズ・キンドルバーガー
 チャールズ・キンドルバーガー(Charles Kindleberger)は「マーシャル・プラン」の知的貢献者の一人であり、後にマサチューセッツ工科大学で教えた人物だ。 
彼は破滅的な1930年代が発生した原因として、アメリカが世界大国の座をイギリスから譲り受けたにもかかわらず、グローバルな「公共財」(public goods)を提供する役割を担うことに失敗したことにあると指摘している。 
その結果が景気後退であり、民族虐殺であり、世界大戦へとつらなる、国際的なシステムの崩壊だというのだ。 
では力を台頭させている今日のチャイナは、グローバルな「公共財」を提供できるのだろうか? 
一般的な国内政治において、政府は国民全員の利益となる「公共財」、つまり警察による治安維持やクリーンな環境を生み出している。 
ところがグローバルなレベルになると、安定した気候や金融・財政、航行の自由のような「公共財」というのは、世界で最も強力な国が率いる同盟関係によって提供されるのだ。 
もちろん小国はそのようなグローバルな「公共財」のために貢献するインセンティブをほとんどもたない。彼らの小さな貢献は、そこから得られる利益の差を生むことはないため、彼らにとっても「タダ乗り」が合理的なものとなるからである。 
ところが最も強力な国は、小国たちの貢献の効果や差を感じることができる。だからこそ最も強力な国々にとって「自ら主導する」のは合理的なことになるのだ。もし彼らが貢献しないとなると「公共財」の生産は落ちてしまう。 
この一例がイギリスである。第一次世界大戦後に彼らがその役割を果たせないほど弱体化した後、孤立主義的なアメリカはそのまま「タダ乗り」を続けたために、破滅的な結果を生んだのだ。 
何人かの専門家は、チャイナは十分な力をつけても(自分たちが創設したわけではない)その国際秩序に貢献せずに、「タダ乗り」を続けると見ている。 
これまでの経過は微妙なところだ。チャイナは国連体制から利益を受けており、たとえば安保理では拒否権を持っている。平和維持軍では第二の勢力となっており、エボラ熱や気候変動の対処のような国連の計画にも参加している。 
また、チャイナは世界貿易機関(WTO)や世界銀行、そしてIMFのような多国的経済制度からも大きな恩恵を得ている。

2015年にはAIIBを創設し、これを世銀の対抗馬にすると見る人もいたが、実際は世銀と協力しながら国際的なルールを遵守している。 
その一方で、去年の南シナ海の領土問題におけるハーグの判決の拒否は、チャイナに対する大きな疑問を投げかけることになった。 
それでもこれまでのチャイナの行動は、自らが恩恵を受けているリベラルな世界秩序をつくりかえようとするものではなく、むしろその中で影響力を増そうというものだ。 
ただしトランプ政権の政策によって追い込まれると、チャイナは世界を「キンドルバーガーの罠」に落とす、破滅的な「タダ乗り」をする国になる可能性が出てくる。 
同時に、トランプはより有名な「ツキュディデスの罠」にも警戒すべきである。つまり弱すぎるチャイナよりも、強すぎるチャイナである。 
現状のチャイナの状況をみていると、まさに米国は キンドルバーグの罠にはまりこもうとしているようです。 

実際、チャイナは十分な力をつけてもそ、自分たちが創設した国際秩序に貢献せずに、「タダ乗り」を続けています。

しかも、チャイナの場合、国際秩序に貢献しないどころか、国際秩序のうち、自分たちにとって都合の良い部分のみを自分たちに都合の良いように、受け入れタダ乗りをしています。明治維新のときの日本のように、すべての面において、列強に追いつき、追い越そうとしたのとは対照的です。

そもそも、チャイナの通貨「元」は、チャイナが多数所要している、ドルや米国債があるから、国際市場で信用を得ています。チャイナ国内からドルが消え失せれば、「元」の価値は地に落ち、紙切れになります。

科学技術においても、現在のチャイナは国際的に何も貢献することなく、一方的に先進国のそれを剥奪して自分の都合の良いように利用しているだけです。

それだけならまだしも、チャイナは国内では民主化、政治と経済の分離、法治国家化がほとんどなされていません。しかも、その国内の状況を海外においても、展開しようとしています。

このようなチャイナが米国が主に築いた現在の国際秩序に挑戦しようとしているのです。チャイナは少なくとも、強いチャイナになることができるまで、待つべきでした。

強くなるためには、日米をはじめとする先進国が、ある程度の民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめて、中間層を多数輩出し、それらが自由に社会経済活動ができるようにすべきです。そのようになって本当の意味で、富を生み出し国として成長できるようになるのです。

過去の戦争の大部分は「非人間的な力」ではなく、難しい状況におけるマズい決断によって発生しました。 これこそが、支那の台頭に直面する現在のトランプにとっての課題です。彼は「強すぎる支那」と「弱すぎる支那」に同時に対処しなければならないからです。つまり彼は「キンドルバーガーの罠」と「ツキュディデスの罠」の両方を避けなければならないのです。

究極的にいえば、彼が避けるべきなのは、人類の歴史をむしばんでいる「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」なのです。

しかしながら、今のところ「計算違い」「思い違い」「早とちりの判断」はトランプよりも、習近平のほうがはるかに頻度が高いです。

では、習近平の根本問題は何なのでしょうか。 そう、それは、彼が国家主席になった「時期」です。彼が国家主席になったのは2013年3月。しかし、共産党中央委員会総書記、中央軍事委員会主席には、2012年11月になり、この時から実権を握っていました。

ライフサイクルで見ると、彼が国家主席になったのは、チャイナという国の成長期後期です。「成長期後期」の典型的パターンであり、習にはどうすることもできないものです。ただし、本当の意味での変革を行えばその限りではないのですが、現在の中国共産党は、とうの昔から制度疲労を起こしており、これを変えることは不可能といって良いです。

彼が国家主席になった2013年の記事を見てみましょう。

産経新聞2013年8月9日付。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が8日発表した「世界貿易投資報告」によると、今年上期(1~6月)の日本企業の対外直接投資額は、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けが前年同期比55.4%増の102億ドル(約9,800億円)で過去最高を記録、対中国向けの2倍超に膨らんだ。
昨秋以降の日中関係の悪化や人件費の高騰を背景に、中国向け直接投資は31.1%減の49億ドルまで落ち込み、生産拠点の「脱中国」が鮮明になった。(同上)
「昨秋以降の日中関係の悪化」とは、いうまでもなく「尖閣国有化による関係悪化」のことです。
ジェトロの現地調査では、ASEANのうち、上期の日本による対外直接投資が1位だったインドネシアは、自動車メーカーの新工場建設や拡張ラッシュに伴い、部品や素材メーカーの進出が加速しています。
上期投資額で2位のベトナムは、チャイナ・プラス・ワンの有力候補で、現地の日系事務機器メーカーの生産台数が中国を上回ったという。(同上)
これが、5年前に起こっていたことです。まさに、「国家ライフサイクルどおり」といえるでしょう。

これから中国は、「成長期から成熟期の移行にともなう混乱」にむかっていきます。日本の「バブル崩壊」などはるかに上回る危機が訪れ、 さらにもっと大きく、「体制崩壊」まで進むかもしれません。

私は、「体制崩壊」まで進む可能性もあると見ています。中国共産党には、まず「中国全土を統一した」という正統性がありました。その後は、「中国共産党のおかげで、経済成長する」という正統性を確保しました。しかし、経済成長が止まる2020年以降、共産党には、「独裁を正当化する理由」が何もなくなるのです。

2000年2月と2016年7月に撮影された習近平氏

このような状況のもとでは、習近平が「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」をしても仕方ないところがあるかもしれません。

習近平は、日本のバブル崩壊と、ソ連崩壊を熱心に研究させているそうです。この研究により、崩壊の時期は多少はずれるかもしれません。しかし、「国家ライフサイクル」は変更不可能なのです。

無論米国も「国家ライフサイクル」においては、成熟期にあることは間違いありません。しかし、この成熟期は中国のそれよりも、はるかに安定していて、長く続きそうです。人でたとえると、チャイナは、成人になったばかりで、急に環境が変わり貧困に落ち込む青年のようです。

一方米国は、富や地位を獲得した、壮年から初老の男性のようなものであり、これから大きく成長することはないにしても、しばらくは富と地位と名声を保てそうです。これでは、勝負ははなから決まっているようなものです。

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2018年12月16日日曜日

北漁船が海保巡視船に接触、一部破損―【私の論評】国家機関に属す北・中国の漁船群が日本水域で違法操業をしている事自体、明白な日本侵略である(゚д゚)!

北朝鮮の漁船に放水する海上保安庁の巡視船

 日本の排他的経済水域(EEZ)にある日本海の好漁場「大和堆(やまとたい)」周辺での北朝鮮漁船による違法操業問題で、海上保安庁の巡視船が北朝鮮漁船から接触され、船体の装備が破損していたことが16日、政府関係者への取材で分かった。北朝鮮漁船による巡視船への投石も続いており、海保は抵抗の激化を懸念、来期に向け警戒を強めている。

投石など抵抗激化

 複数の政府関係者によると、北朝鮮漁船による巡視船への船体接触は今秋に発生。巡視船の甲板に取り付けられた「スタンション」と呼ばれる手すり部分が破損した。漁船は、日本海沿岸に漂着が多く確認されている木造船ではなく、大型の鋼船だったという。

 接触された巡視船は、下田海上保安部(静岡県下田市)から大和堆周辺海域に派遣された中型船。機関やかじなどへの重大な損傷ではなく、業務に支障がないとして公務執行妨害容疑などでの摘発は見送った。

 同船は昨年の取り締まりでも北朝鮮漁船から投石を受け、窓ガラスが破損する被害に遭った。海保は派遣した巡視船の窓に金網を取り付けて対応に当たったが、今期も約20件の投石が確認された。

 海保は今年、対応が出遅れ大和堆への入域を許した昨年の教訓からスルメイカ漁期前の5月下旬に巡視船を派遣。大和堆周辺の海域をAから順にアルファベットで区分けし、A、B海域を巡視船が受け持ち、残りは連携する水産庁の漁業取締船が担当した。

警告6900隻

 巡視船と取締船は海域ごとにEEZの境界付近に展開して北朝鮮漁船を監視。警告件数は延べ計約6900隻で、このうち同2600隻に放水し、大和堆への入域を阻止した。

 一方、今年の取り締まりで海保は不測の事態への備えも強化、装備を拡充して臨んだ。使用の機会はなかったとみられるが、強力な光と音を放ち対象船の動きを止める閃光(せんこう)弾をより効果の高いものに切り替えた。

 政府関係者は「スルメイカは不漁が続いているが、漁業を国策とする北朝鮮側は一定の漁獲量を確保するため、来年もなりふり構わぬ操業をするだろう。根気強く取り締まりを続けるしかない」と話した。

【私の論評】国家機関に属す北・中国の漁船群が日本水域で違法操業をしている事自体、明白な日本侵略である(゚д゚)!

北朝鮮の漁船が日本の排他的経済水域で違法操業をするようになったのは、北朝鮮が近海の漁業権を中国に売り渡してしまったためです。北朝鮮の漁民が北朝鮮当局の指示や承認なしに日本列島に接近出来るわけはないですから、北朝鮮が漁民の利益を考えて派遣している側面は否定できないです。

ところが、その漁場が日本の排他的経済水域であるのを知って派遣している以上、これが日本への政治的圧力として作用することも当然認識しているわけです。さらには大量の漁船群の中に工作船を紛れ込ませ、日本への上陸侵入を画策するのは北朝鮮の工作機関としては当然の行為でしょう。

とはいいながら、工作員が上陸するしないにかかわらず、北朝鮮当局が日本の排他的経済水域での違法操業をさせている時点で既に侵略なのであることは、さきに述べた通りです。侵略に対しては自衛としての軍事対応が国際法上認められています。日本には自衛隊という自衛のための軍事組織が存在しています。ならばなぜ、自衛隊が出動しないのでしょうか。

日本では海上警備は一義的に海上保安庁が担当しています。しかし、ここで思い起こされるのは、2014年9月から12月にかけて小笠原・伊豆諸島周辺の日本の排他的経済水域で中国の漁船群が繰り広げた大規模なサンゴ密漁事件です。密漁とはいいながら、200隻以上の漁船が公然と日本のサンゴを略奪していました。

小笠原・伊豆諸島周辺の日本の排他的経済水域で
中国の漁船群が繰り広げた大規模なサンゴ密漁

違法操業をする漁船の数があまりに多かったため、海上保安庁は全体として対処できず密漁事件として一隻一隻を調べて船員を逮捕していく他なかったのです。10月末には警視庁が機動隊員ら28人を小笠原諸島に派遣しました。中国漁民の上陸に備えての派遣でした。もし派遣を怠っていれば、大量の中国の海上民兵に島が占領される危険があったのです。

これについては、海上保安庁は明らかに対応不能でした。海上保安庁が対応できない以上、自衛隊が対処するしかないのは明白です。にもかかわらず、なぜ自衛隊が対処しないのでしょうか。

そもそも事は尖閣における漁船衝突事件にまでさかのぼることができます。2010年9月に尖閣諸島の日本領海内で中国の漁船が海上保安庁の巡視船2隻に体当たりし、対する海上保安庁はこの漁船を捕獲し乗組員を拘束しました。

尖閣諸島沖で巡視船「みずき」に衝突する中国漁船=2010年9月


逆ギレした中国政府は北京、上海などで反日暴動を惹(ひ)き起こし在留邦人を恐怖に陥れたばかりか、日本人社員4人を人質に取りました。さらに日本へのレアアースの輸出を停止し、日本に謝罪と賠償を求めました。

ここで米国政府が「尖閣諸島は日米安保条約の発動対象」と明言したため、事はようやく収まったのであす。つまり中国が尖閣諸島を占領した場合、米軍は中国を攻撃すると宣言し中国が慌てて矛を収めたのです。

しかし、米国としても中国と戦争を望んでおらず、そこで米中間で尖閣諸島での軍事行動を双方が控える旨の合意がなされました。つまり中国が尖閣に軍隊を派遣しない限り、日米も自衛隊や米軍を出動させないという約束です。

これは戦争を回避するための合意ですが、逆に解釈すると中国が海洋警察や海上民兵を軍隊でないと主張して派遣すれば、日本は自衛隊を出動させられないのです。中国はこれに味を占めて海洋警察を毎日のように派遣し、しまいに漁船群が押し掛けるに至り、これに北朝鮮も同調したわけです。

端的にいえば、米中のこの合意が、かえって中国や北朝鮮の対日侵略を助長させているともいえるでしょう。

最近、中国海警局の所属が変わりました。従来の中国海警局は13年7月、中国の行政府である国務院の傘下にあった複数の海上法執行機関が統合されて発足したものです。

その目的は、分散していた海上法執行機関を一元的な指揮命令系統の下に置くことで効率的な運用を可能にすることや、予算や装備、人員などを統一的に管理・整備することで法執行力を大幅に強化することなどにあったと考えられます。

この時期の中国海警局はあくまで国務院の管理の下に置かれた非軍事の行政組織であり、所属船舶は公船と位置付けられまし。

中国の武警は純然たる軍事組織

他方、中国海警局が新たに編入された武警は、人民解放軍および民兵と並んで中国の「武装力量」(軍事力)に位置付けられた明確な軍事組織です。今年に入って武警の大幅な改革が実行され、従来の国務院と共産党中央軍事委員会による二重指導が解消されました。

これによって武警は人民解放軍と同様、中央軍事委員会による統一的かつ集中的な指導の下に置かれることになりました。7月の組織改編では、国境管理や要人警護、消防任務、金鉱探査、水利建設などを担っている非軍事部門が国務院などへ所属替えとなり、国防任務に資源を集中するためのスリム化が図られました。

同時に、国務院に所属していた中国海警局が、「武警海警総隊」として武警に編入され、「海上の権益擁護と法執行」を任務として遂行することになったのです。

日本としては米国に働きかけて、中国が尖閣に軍隊を派遣しない限り、日米も自衛隊や米軍を出動させないという合意を破棄させ日米中における新たな安全保障の枠組みを構築すべきでしょう。

すでに、「海警」は軍事組織なのですから、「海警」対応には当然のことながら、海自もあたるべきなのです。

そうして、これは北朝鮮に対しても同じです。北朝鮮に対しても、日本は大規模なものに対しては海自であたるべきです。

そもそも北朝鮮や中国などの漁船は軍などの国家機関の指揮下にあり、有事には海上民兵として戦闘に参加することを義務付けられています。そうした漁船群が日本の水域で違法操業をしている事自体、すでに明白な日本に対する侵略です。

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2018年12月15日土曜日

中国、対米国サイバー攻撃の“実行部隊”ファーウェイCFO逮捕の屈辱…中国経済が瓦解―【私の論評】中国の異形の実体を知れば、全く信頼できないし、危険であるとみなすのが当然(゚д゚)!

中国、対米国サイバー攻撃の“実行部隊”ファーウェイCFO逮捕の屈辱…中国経済が瓦解

G20首脳会議 米中首脳会談

 中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が米国の要請でカナダ当局に逮捕された事件は、米中両国の世界覇権をめぐる死闘の始まりを意味している。

 なぜなら、米国にとってファーウェイは、サイバー攻撃によって同国の最先端技術や最重要情報などを狙うハッカー集団の元締めであり、このままファーウェイの行為を許していれば、米国の軍事情報を含む安全保障上の重要情報はほとんど中国に筒抜けになるからである。

 一方の中国にとっては、ファーウェイは今後も中国の経済成長と生産性向上を推進するためになくてはならない中核企業であり、その最高幹部が逮捕されることによって、中国の最重要経済政策がなし崩し的に破綻に追い込まれる可能性がある。

 ポンぺオ米国務長官は12月12日、世界最大手ホテルチェーンのマリオット・インターナショナルで発覚した最大5億人分の顧客の個人情報流出に「中国が関与している」と語り、中国を名指しで非難。これを受けて、米上院司法委員会のグラスリー委員長は12日、「世界で行われるサイバー攻撃を通じた産業スパイ活動のうち、90%以上は中国と考えられている」と中国を糾弾した。

 これは、このまま中国に軍事情報などを盗まれ続ければ、世界のなかで「米国一強」の地位は中国に脅かされ、中国によって世界覇権を奪取されかねないとの強い危機意識が働いているからにほかならない。

 このため、米政府や議会は、中国政府がサイバー攻撃を仕掛けて技術を盗んだり、機密情報にアクセスできる要人のデータを集めたりしていると警戒しており、今年8月にはファーウェイや同じく中国の通信機器大手・中興通訊(ZTE)の製品を政府調達から排除することを決定した。なぜなら、ファーウェイやZTEの製品を通じてスパイウェアやマルウェアが政府の中枢システムに入り込み、サイバー攻撃の温床になっているとみられるからだ。

メンツを潰された習近平

 折しも、米中両国は今年7月から、トランプ米政権による対中関税発動を契機に貿易戦争に突入した。大幅な関税引き上げにより、とりわけ中国経済が悪化していることは一目瞭然だ。中国国家統計局によると、中国の今年7~9月期の国内総生産(GDP)は前年同期比6.5%増で、4~6月期より0.2ポイント減速しており、リーマン・ショック直後の09年1~3月期以来、9年半ぶりの低水準にとどまっている。この原因は貿易戦争勃発後、外資企業や中国企業が次々と生産拠点を中国から他国に移転し、中国内の失業者が急増していることが挙げられる。

 11月28日付の経済ニュース専門サイト「財新網」は「国内雇用低迷のため、202万件の求人広告が消えた」と報じた。「網易」(10月22日付)も『今年上半期国内504万社が倒産、失業者数200万人超』との見出しを掲げた記事を配信。さらに、中国農業農村省は11月8日、740万人の農民工(出稼ぎ農民)が地元に戻ったと発表し、その実態を裏付けている。加えて、これまで右肩上がりで上昇していた都市部のホワイトカラー層の所得が伸び悩んでおり、習指導部の支持基盤である都市部住民の不満が高まっているのだ。

 このようなことから、習主席はトランプ氏に首脳会談を提案。習氏は12月1日、主要20カ国・地域首脳会議(G20)の場を利用し、訪問先のアルゼンチンで、わざわざ米側の宿舎となっているホテルに習指導部の主要幹部を引き連れて行き、トランプ氏と会談したほどだ。まさに、習氏はトランプ氏に三拝九拝して会ってもらったといってよい。中国の皇帝は相手を“かしずかせて会ってやる”という「朝貢外交」の伝統があるが、習氏は皇帝のプライドをかなぐり捨てて、トランプ氏との首脳会談に臨んだのである。

 この結果、米国が来年1月に予定していた中国への追加制裁を90日間猶予することが決まった。習氏は面目を保ったかに見えたのだが、実は、ファーウェイの孟氏は首脳会談当日の1日に逮捕されていたことが、のちに判明する。つまり、習氏は完全にメンツをつぶれされたのである。

中国への信頼度低下

 しかも、孟氏の祖父は元四川省副省長という中国政府幹部であり、周恩来首相人脈につらなる古参幹部。また、孟氏の父は中国人民解放軍出身でファーウェイ会長。孟氏自身は父の跡を継いで来年にもファーウェイ会長に就任するといわれる大物幹部であり、中国政府にとっても最重要人物だ。

 習氏は高級幹部子弟の太子党閥の総帥だが、孟氏は典型的な太子党だけに、その孟氏が海外で逮捕されたのは、完全にトランプ政権に裏をかかれた格好で、中国の最重要人物を保護できなかった習指導部の失態としかいいようがない。

 さらに習氏が犯した失敗は、孟氏逮捕の報復として、中国在住の2人のカナダ人男性を「国家安全を害した容疑」で拘束したことだ。これについて、中国外務省スポークスマンは「法に基づいて行動した」と述べ、孟氏逮捕とは無関係と主張したものの、報道ではカナダへの報復との見方が強い。中国がいくら「ファーウェイの問題と無関係」と言っても、タイミング的に2人のカナダ人が拘束されれば、誰でも報復措置と考えるのは当然だ。

 この“違法”な身柄拘束によって、「中国はいまだに外国人を誘拐するような非人道的な真似をするのか。中国はまだ法治国家にはほど遠い」との印象を国際社会に与えることになり、習指導部への薄気味悪さは一段と増すことになる。これによって、西側社会の中国への信頼感は、限りなくゼロに近くなるといってもよいだろう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

【私の論評】中国の異形の実体を知れば、全く信頼できないし、危険であるとみなすのが当然(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事には、"「中国はいまだに外国人を誘拐するような非人道的な真似をするのか。中国はまだ法治国家にはほど遠い」との印象を国際社会に与えることになり、習指導部への薄気味悪さは一段と増すことになる"などと結論を書いていますが、これこそが大きな間違いです。

結論からいえば、中国が民主化されていない、政治と経済が分離されていない、法治国家化されていないということを知っている人なら、最初から中国を全く信頼していません。私もそうです。

中国と比較すれば、米国のほうがはるかにましですし、まともです。それは、不十分なところもありながら、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がされているからです。米国の為政者には縛りがあります。しかし、中国にはそれがないのです。

今のままの中国なら、中国内にとどまり、中国内のみで様々な活動をしている分には、良いかもしれないですが、一歩でも外に出て何かをやろうとすれば、周りの国々と衝突するのは当然です。

現在の中国共産党は結局、国内外で、最終的には何の縛りもなく、好き勝手、やりたい放題ができます。そもそも、国内でやりたい放題です。それは、国外にも適用されます。国際法など中国には無関係なのです。

このような国が覇権争いに勝って、世界中で好き勝手をしてしまうと世界は混乱の極みになることは目にみえています。

そもそも、日本を含めて世界の多くの国々の人々が、特に先進国の多くの人々が、中国を見る目は間違っているのではないかと思います。多くの人々は、何となく中国も自分たちが抱く国という概念に当てはまるのではないかと、無意識に考えてしまっているのではないかと思います。

まずは、中国が民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていないということをよく理解していないのではないかと思います。

中国のこの問題については以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国は入れない日欧EPA 中国に“取り込まれる”ドイツを牽制した安倍外交 ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」に二連発パンチを喰らわした日米(゚д゚)!
中国においては、そもそも民主化、政治と経済の分離、法治国家がなされていません。

わかりやすい事例をだすと、たとえば戸籍です。すべての中国人の戸籍は、農村戸籍(農業戸籍)と都市戸籍(非農業戸籍)に分けられています。農村戸籍が約6割、都市戸籍が約4割で、1950年代後半に、都市住民の食糧供給を安定させ、社会保障を充実させるために導入さました。 
以来、中国では農村から都市への移動は厳しく制限されていて、日本人のように自分の意思で勝手に引っ越ししたりはできないです。ちなみに都市で働く農民工、いわゆる出稼ぎ労働者がいるではないか、と思われるでしょうが、彼らは農村戸籍のまま都市で働くので、都市では都市住民と同じ社会保障は受けられません。これでは、民主的とはいえず、EPAには入れないのは当然です。
さらに、中国は国家資本主義ともいわれるように、政治と経済が不可分に結びついており、先進国にみられるような、政府による経済の規制という範疇など超えて、政府が経済に直接関与することができます。実際中国の株式市場で株価が下落したときに、政府が介入して株式を売買できないようにしたこともあります。


中国は30年にわたる「改革開放」政策により、著しい経済発展を成し遂げました。ところが、依然として法治国家ではなく「人治国家」であるとの批判が多いです。それに対して中国政府はこれまでの30年間の法整備を理由に、「法制建設」が著しく進んでいると主張しています。 
確かに30年前に比べると、中国の「法制」(法律の制定)は進んでおり、現在は憲法、民法、刑法などの基本法制に加え、物権法、担保法、独占禁止法などの専門法制も制定されています。それによって、人々が日常生活の中で依拠することのできる法的根拠ができてはいます。 
その一方で、それを効率的に施行するための施行細則は大幅に遅れています。何よりも、行政、立法、司法の三権分立が導入されていないため、法の執行が不十分と言わざるを得ないです。中国では、裁判所は全国人民代表会議の下に位置づけられているのです。つまり、共産党の指導の下にあるわけです。 
これは、結局何か大きな問題があっても、法律どころから憲法に照らしても、共産党の恣意でなんでも好き勝手にできるということです。

これが、中国国内だけで適用というのならまだ多少理解できなくはありませんが、現状ではそんな区別もありません。中国の今の制度では、中国共産党は世界中で自分たちの都合でなんでも好き勝手にできるのです。

ただし、相手国があり、相手国がその憲法や法律にもとづいて動いているため、相手国の範疇では中国といえども、それに従わなければならないので、かろうじて安定が保たれているだけです。

もし、中国が世界中で覇権を握れば、その覇権の及ぶ範囲の中では、中国共産党は何をしても許されるということです。

中国共産党が認めれば、人民解放軍などがどこで何をしても、何でも許されるのです。このように何の縛りもない中国共産党は、世界にとって危険極まりない存在です。

それに比較すれば、日米をはじめといする、いわゆる先進国はいずれの国でも、為政者(政権政党)にも当然のことながら、何らかの縛りがあります。

トランプ大統領、安倍総理などはもとより、先進国の為政者には当然のことながら縛りがあります。しかし、中国共産党、習近平主席にはそれがないのです。

中国共産党は異形の怪物? エイリアン・コベナントより

これを理解してはじめて、中国など全く信頼できないことが理解できると思います。人の良し悪しがどうとか、一般民衆がどうのこうのとは言っても、結局国の体制がそうなっているのですから、今の中国は危険極まりないし、信頼もできないのです。

このような体制を築いた、中国の先達は、中国共産党が手前勝手になんでもできる体制に脅威を抱かなかったのでしょうか。全く不思議です。

この体制は、放置しておけば、国内では大災厄をもたらし、多くの人民から反感を買うことになりますし、国外では他国から爪弾きにあうのは必定です。

まさに、中国の現状はそのような有様です。この体制は長くは続かないでしょう。短くて、10年長くて20年だと思います。

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2018年12月14日金曜日

中国の世界制覇を阻止するために日本がやるべきこと――Huawei事件を巡って―【私の論評】日本は必ずファーウェイをぶっ潰せ(゚д゚)!

中国の世界制覇を阻止するために日本がやるべきこと――Huawei事件を巡って

遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


HUAWEIのコンパニオン

中国は国家戦略「中国製造2025」によりアメリカを凌駕して世界制覇を狙っている。それを阻止するために日本は何を成すべきか。事実に基づかない推測の拡散も、中途半端な追及も、結果的には中国に利する。

追い込まれて強くなってきた中国

12月11日のコラム「習近平の狙いは月面軍事基地――世界で初めて月の裏側」に書いたように、中国が宇宙開発でアメリカを追い抜こうとしている。

それを可能ならしめたのは、西側諸国が運営する国際宇宙ステーションから中国が除外されていたからだ。中国は復讐心を燃やした。

中国が核大国になってしまったのも、朝鮮戦争の後半、アメリカが「中国に原爆を落とす」ことを示唆したために、日本への原爆投下でその威力と恐ろしさを思い知った毛沢東が、恐怖に駆られて何が何でもと、原爆開発に執念を燃やし成功させてしまった。

このように、「中国に対して、いかなる圧力を、どのような形で加えるか」によって、中国が逆に成長してしまうケースがあることを肝に銘じなければならない。その因果関係に基づいて、長期的で緻密な分析が不可欠となる。

言論弾圧をする国家が、人類を、そして宇宙までをも制覇したら、どれほど恐ろしいことが起きるか。それを阻止するために何ができるかを考えてみたい。

典型的な懐疑的報道

最近、某チャイナ・ウォッチャーが、以下のように書いているのを発見した。

――ファーウェイの発展と解放軍や国家安全部の関与は疑う余地がない。ファーウェイは民間企業ではあるが、解放軍から無償で技術提供を受けることで発展、資金も解放軍筋から流れているとみられている。また任正非自身、ファーウェイを創立する前に国家安全部で任務に就いていた経歴があったといわれている。ファーウェイと解放軍は長期合作プロジェクトをいくつも調印しており、中国の軍事技術開発を目的に創られた企業といっても過言ではない。

このように書けば、もっともらしい。しかし、ここにはいくつもの虚偽的要素が入っている。

疑問1:任正非が「国家安全部」で働いていた、と書いているが、国家安全部が誕生したのは1983年。任正非が解放軍をリストラされたのも1983年。解雇された後、まるで島流しのように深センにある南海石油後方勤務サービス基地に配属された。したがって、任正非が「国家安全部で任務に就いていた」というのは成立しない。南海石油ではさまざまな問題も起こしているので、調べればすぐに分る。

疑問2:中国人民解放軍から資金が流れていたと書いてあるが、トウ小平があまりの軍資金難から100万人もの解放軍のリストラを断行したのは1985年のことである。リストラされて収入の道を断たれた「元兵隊崩れ」たちは路頭に迷い、解雇された者同士が周りから借金などして掻き集めたお金が2万1000元。日本円で30万程度だ。当時は何百万社という小企業が、雨後の竹の子のように生まれては消えていった。こんな明日をも知れぬ小さな会社に「軍が投資する」などということがあり得るだろうか。特に軍資金がなくて軍が困っている時期だ。電子通信の知識もなく、ただ香港の会社が生産するPBX(電話の構内交換機)を代理販売する極貧企業に資金を投入する意義もゆとりも軍にはなかっただろう。特に土木建築が専門だった任正非にはセールス能力はあっても、軍事技術開発をする能力はない。

疑問3:中国は1992年に軍が付設の企業を持つことも軍資金を他社に出すことも禁止した。なかなか徹底はしなかったが、習近平政権に入ってからは、軍が商売をすると金儲けによって強大化するのを恐れたために、非常に厳しく取り締まり始めた。逆に2015年に「軍民融合」を唱えることによって解放軍の設備調達担当は、民間企業に公けに入札を呼びかけるようになった。そのウェブサイトを示す。

日本の自衛隊でも、たとえば洗面台を自衛隊で製造したりなどしないで、TOTOなどの業者から購入し、エアコンなども自衛隊内で製造しないで、日本の某業者から購入するのと同じである。入札させてから落札させるのは、普通のことだ。

中国人民解放軍の入札に応募するのは、毎回3000社ほどあるので、その中に華為(Huawei)が入っているときがあっても不思議ではない。

日本人の耳目に心地よく響くような虚偽の情報を流して印象操作をすることが、やがてどれだけ罪深い結果を国家にもたらすか、熟慮すべきだろう。

中国を叩くなら証拠を出して徹底的に!

中国を叩くなら証拠を出して徹底的に叩かなければならない。中途半端な追い込みは中国を強化させるだけだということを、冒頭に書いた戦後の歴史が証明している。

もし華為が情報を抜き取るスパイ行為をしているというのなら、どんなことがあっても、その証拠を公表して、徹底的に中国製品を日本から排除しなければならない。

日本の政府関係者や自衛隊のみが使用を控えるのではなく、日本の全国民のセキュリティを守るために、一切輸入してはならないし、日本に支社を置くことも禁止すべきなのである。民間会社にも個人にもプライバシーはある。

スパイ行為などをしている企業であるならば、いくら民営でも、中国国内の若者たちも、さすがに離れていくだろう。スパイ行為がライバルを追い落とすためのビジネス上のことでなく、それを中国政府に渡すようなことをしているのであるなら、中国の若者も、必ず華為から離れていく。

となれば華為の経営は傾くので、その頭脳であるハイシリコンが生産した半導体を、中国政府系列に販売するしか道は無くなるだろう。中国政府が直接投資している国有企業は、どんなに投資しても利益を大きく上げてはいないから、華為もそこそこの企業に成り果てるにちがいない。このケースの場合は、「中国製造2025」は達成できなくなる。

しかし確たる証拠なしに、デマ情報に基づいて行動すれば、中国の若者はさらに熱狂的に華為を支持し、習近平は「中国製造2025」を成し遂げることに成功してしまう。但しこの場合は、華為とZTEの30年戦争を解決するために、華為がZTEを吸収合併する以外に選択肢はないだろう。

アメリカも中途半端だ

アメリカが華為の孟晩舟を逮捕させたのは、たかだか「イランとの交易をしていたことに関して嘘の供述をした」ということではないか。嘘の供述なら、トランプ大統領も数多くしているとアメリカでは指摘されているし、中国はアメリカによる独自のイラン制裁を認めてはいない。国連でイラン核合意が決議されたのに、トランプ政権が勝手に離脱したのだから、トランプ政権の方が国際ルールを逸脱していると中国は非難している。「我が家のルール」を「他人の家に強制するな」というのが、中国の言い分だ。

このような、言い逃れができる理由で逮捕したりせずに、情報を抜き取っているという証拠があるなら、それを直接突き付けるべきで、追い込むなら徹底して追い込まなければならない。アメリカは中途半端な逮捕や妥協をせずに、引き渡しを要求して司法において「情報抜き取りなどのスパイ行為があったか否か」を明らかにし、あったとすれば、それを公けにしなければならない。そうすれば中国は「中国製造2025」の達成が困難になる。

中国にエールを送っている安倍政権

こんな中国に「協力を強化する」と誓ったのは安倍首相だ。それが、どれだけ中国を利するかを考えるべきだろう。安倍政権は困窮した習近平に救いの手を差し伸べ、中国の世界制覇という野望の実現を、より可能にさせているのである。

日本政府の与党関係者が華為のスマホを分解したところ、「ハードウェアに"余計なもの"が見つかった」と言っている。本当なら、一刻も早く、その「余計なもの」が何であるかを公表すべきではないだろうか。簡単なはずだ。

上述のチャイナ・ウォッチャーの記述にしても、真実ではない推測により中国を批難すれば、中国の若者たちまでが中国政府を応援するようになる。逆効果だ。

「余計なもの」も、公開して突き付けなければ、中国は結束を固めて、現状を強行突破していくだろう。

動かぬ証拠をキチッと突き付けて、いかなる言い逃れもできないようにしなければならない。企業名さえ明言できないようなやり方では、中国をますます思いあがらせて、習近平は「中国製造2025」をやり遂げてしまうにちがいない。言論弾圧をする中国に世界制覇をさせてはならない。玉虫色でなく、そして日中友好などと中途半端なことを言わずに、日本国民を守るために証拠を突き付けて、中国の通信機器を全て日本から駆逐する以外にない。

追記:昨夜、某報道番組で某アメリカ人が「ファーウェイの通信機器を使っていたら、夜中に突如、大量のデーターを勝手に送信し始めた」という趣旨の話をしていたという報道をしていた(パソコンを打ちながら聞いていたので、一言一句正確なわけではない)。スパイ映画ではあるまいし、「夜中」という前提を持ち込むなど、いかにも素人的発想の証言だ。スパイ行動をやるなら通信量の多い時間帯に紛れ込ませるだろうし、データを送信すれば、その痕跡がパソコン上に残ることは素人でも分かる話だ。この証言が本当ならそのログを証拠として提出すべきだ。もっともデータはプロトコルを通して送信され、Huaweiの手元に直接はワープしないが。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

【私の論評】日本は必ずファーウェイをぶっ潰せ(゚д゚)!

ブログ冒頭の遠藤誉氏の記事、正論を言っているように見えながら、中国にとってかなり有利になりそうなことを語っています。

なぜ、遠藤氏のやり方では、中国に有利になるのか以下に述べます。それについては、以前のブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米国に桁外れサイバー攻撃、やはり中国の犯行だった―【私の論評】サイバー反撃も辞さないトランプ政権の本気度(゚д゚)!
中国は米国政府職員の個人情報を大量に不正入手していた(写真はイメージ)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
そもそもサイバー攻撃は、それが行われた事実を具体的かつ決定的に証明するのが難しいです。真実はどうであれ、中国は自らの関与を否定することができるのです。また、米国が公の場で中国の責任を問い詰めるためには、自国政府の機密やサイバー上の能力を露呈しなければならなくなります。その犠牲を払ってまでアメリカが中国を責めたてるとは考えられないです。
であれば、最も有効な方法は、米国から中国に対する報復のサイバー攻撃です。近いうちに、トランプ大統領から具体的に中国に対するサイバー攻撃が公表されるかもしれません。具体的に中国が何をし、それに対して米国がどのような報復をしたかを公表するかもしれません。
サイバー攻撃自体については、興味のある方は、以下の記事を参照してください。ここでは、あまり詳しくは解説しません。
サイバー攻撃とは?その種類・事例・対策を把握しよう

この記事は12月14日付けのものであり、内容は現時点で最新のものです。

さて、サイバー攻撃等は、それが行われた事実を具体的かつ決定的に証明するのが難しいとされています。サイバー攻撃を仕掛けた側は、それを否定するのは比較的簡単ですが、攻撃を受けた側がそれを証明するのは難しいし、公の場で中国の責任を問い詰めるためには、自国政府の機密やサイバー上の能力を露呈しなければならなくなります。

もし華為が情報を抜き取るスパイ行為をしているというのなら、どんなことがあっても、その証拠を公表して、徹底的に中国製品を日本から排除しなけいとか、動かぬ証拠をキチッと突き付けて、いかなる言い逃れもできないようにするなどのことは、自らをかなり危険にさらすことになりかねません。

公の場所で、HUWEIを追い詰めたりすれば、自国政府の機密や、サイバー上の能力を露呈しなければならなくなります。HuWEIが情報を盗んでいた場合、どこまでこちら側がわかっているのか、わからない部分はあるのかなどを相手にわざわざ漏洩することになりかねません。

であれば、日本側としては、ファーウェイは政府関係や民間であっても機密情報を扱う部署などでは、絶対に使わないというのがまずは、正しいやり方であると考えられます。

そうしておいて、中国がHUAWEIを用いて、サイバー攻撃をしようとしたり、情報を盗み出そうとした場合それを阻止したり、逆にこちら側が報復の攻撃を加えたりするのが、最も良い対応であると考えられます。

さて、Huwai対処については、日本がかなり有利な部分もあります。それは、Huwaiがほとんど日本製の部品で組み立てられているということです。

ファーウェイ製品に搭載される新しいテクノロジーのかなりの部分は、日本からのものです。カメラセンサーはソニー製、液晶パネルはJDI製です。時計などのスマートデバイスの中にも、日本の部品が多く使われています。Made in Japanと言えるくらい、日本の部品を搭載しています。

本メーカーのブランドはグローバルから消えつつありますが、ファーウェイはグローバルに展開しています。ファーウェイは日本の部品を搭載した製品を、グローバルに売っているのです。

さらに、今後ファーウェイは「インテリジェンス」が重要になるとしています。そこで、AI(人工知能)に特化したチップを内蔵するスマートフォン用SoCを、他社に先駆けて導入すると明言しています。ファーウェイは半導体メーカーのHiSiliconを傘下に収めており、ここから近くAIに特化したスマートフォン用SoCが登場することが予想されます。



さらに、5Gで通信を高速化し、カメラも引き続き改良するとしたうえで「S社(サムスン)やA社(アップル)のはるか上をいく製品を投入することが、将来の成功に繋がったかもしれません。

しかし、このようなファーウェイに対して、日本のメーカーは一切部品を提供しなければ良いのです。

既にファーウェイに関しては、2012年に国家安全保障上の問題があると議会に報告書が出されていたのですが、オバマ政権だったのであまり騒がれませんでした。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30129410U8A500C1000000/

ファーエィとZTEのスマホにはバックドアがついており、米軍兵士の情報が抜き取られていました。兵士を通じて部隊の動向を追跡したり、通信を盗聴することが可能となっていました。日本で販売されているものも同じ機能がついたものです。

今年の2月にはFBI、CIA、NSAのトップ6人が上院情報委員会で「両社の製品やサービスを利用すべきではない」と報告しています。

トランプ政権になってからは、中国のこういう姿勢に不信感を抱き、トランプ大統領は中国との対立を鮮明にしています。

「安いスマホが使えなくなった」と嘆いているのは、日本の脳天気な人達だけかもしれません。

すでに、ZTEには米国からの、チップの輸出が禁止されているため、事実上倒産状態に何っています。現在は国有化されています。この先HUAWEIに対しても日本などからの、チップの輸出禁止がされることになるでしょう。
そうなると、中国のスマホ看板企業である2社が痛手を受けることになるでしょう。

中国では、共産党一党独裁で企業は民間だと思っている日本人も多いようですが実態は殆どが国営企業です。

つまり、企業間の取引であってもそれは、中国共産党というヤクザ極道組織が後ろにいると認識する必要があるのです。

中国人は日本人と比較すればはるかに、好戦的です。そんな人達が1億人も集まって出来ているのが、中国共産党です。中国企業をやっている人も、そういう人達が集まっていると認識する必要がある。

はっきりいえば、とても恐ろしく、大方の日本にとっては脅威であるにもかかわらず、そういう危機感を国会議員をはじめ経済人にもあまり感じません。対中国取引は、本当は素人がヤクザと取引するような感覚というのが正しいです。

米国政府や米軍が警戒しているように日本も、もっと警戒する必要があります。日本人はなぜ?こうも中国人に対して寛容なのか、私には全く理解出来ません。

まずは、日本企業は、ファーウェイには部品を供給しないことにし、その息の根を絶つべきです。

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2018年12月13日木曜日

露、極東に最新鋭潜水艦を配備へ ラーダ型―【私の論評】日本も当然「ラダー型」への対応を迫られることになる(゚д゚)!

露、極東に最新鋭潜水艦を配備へ ラーダ型

露太平洋艦隊旗艦「ワリャーグ」

ロシアは、極東に拠点を置く露太平洋艦隊に、最新鋭潜水艦「ラーダ型」で構成する新たな潜水艦隊を配備する方針を固めた。露メディアが13日までに報じた。極東のカムチャツカ半島の戦略原潜基地の防衛任務などに当たるという。

 ラーダ型は通常動力型で、原潜に比べて小型で静音性に優れるとされる。

 国営ロシア通信によると、ラーダ型はこれまでに3隻が起工。1番艦「サンクトペテルブルク」は2004年に進水して以降、試験航行を続けている。2番艦「クロンシュタット」は来年に海軍に引き渡される予定のほか、3番艦「ベリキエ・ルキ」は21年以降に配備される見通しという。

 露紙「イズベスチヤ」によると、ラーダ型は乗員35人で、時速は海上10ノット、海中21ノット。潜航深度は300メートル。魚雷や機雷、対艦ミサイルなどを装備する。

【私の論評】日本も当然「ラダー型」への対応を迫られることになる(゚д゚)!

ロシア「ラダー型」潜水艦

ロシア太平洋艦隊にはプロジェクト677「ラーダ」潜水艦の旅団が展開しています。これは、ロシアで最も静かな潜水艦です。

最新潜水艦は嫌気性動力装置を装備し、水中へ一週間以上の滞在が可能となっています。太平洋の「ラーダ」は、戦略ロケット艦及びその駐留場所をカバーします。

最新ディーゼルエレクトリック潜水艦「ラーダ」型は軍備採用されました。これは、ロシアで初めて嫌気性(非大気依存)発電装置を有する潜水艦です。これにより、バッテリーの急速充電の為に常時浮上する必要は無くなりました。

「ラダー」型と、他国の潜水艦などとの比較の詳細は、以下の記事をご覧になってください。
日本のそうりゅう型、ドイツの212型、ロシアのラーダ型を比較-世界の通常動力型潜水艦を徹底比較!(分析編)
詳細、この記事をご覧いただくものとして、この記事ては以下のように締めくくっています。
そうりゅう型、212型、ラーダ型、バージニア型は潜水艦の中でも最高峰の潜水艦です。これらの潜水艦が戦闘を行った場合、どれが勝ってもおかしくありません。ただ、追尾魚雷を使用するような潜水艦同士の戦闘は今まで起こっておらず、今後もまず起こらないだろうと見られています。 
そんな中で潜水艦に求められるのは、ある意味「見えないままでそこに居続けること」かも知れません。
敵から見えない隠密性、水中を縦横無尽に移動する潜水能力、広い海のどこにでも出没出来る行動範囲、いざという時に戦える戦闘能力。これらを有する潜水艦がどこかにいる。その恐怖を敵に与えることこそが、潜水艦の使命とも言えるでしょう。
「ラーダ」型開発の歴史は普通ではありません。過去10年間海軍総司令部は、長期に渡り動力装置を満足すべき状態で製造出来なかったために、この潜水艦の断念を計画していました。

これと同時に、従来のディーゼルエレクトリックシステムを装備したシリーズのトップ艦「サンクトペテルブルク」が受領されました。現在、「サンクトペテルブルク」は航行試験を行なっています。合計で12隻の「ラーダ」型潜水艦の建造が計画されています。

以前に『イズベスチヤ』が伝えたように、これらの一部は北方艦隊で勤務に就き、残りはカムチャツカ沿岸での恒久的駐留をする予定です。

大幅に自動化された「ラーダ」型潜水艦の最大の長所は、騒音が最小限に低減され、通常の電波位置測定探知手段には探知されないことです。

さらに、最新の超水中音響システムセンサーのお陰で、「ラーダ」型は遥かに手前からで、敵の艦よりも先に相手を探知できます。

加えて、この潜水艦は、非常に迅速に多数の目標の撃破が可能です。たとえば、数分で18本の魚雷を発射できます。ロシア海軍は、この潜水艦を水中戦闘機と呼んでいます。

プロジェクト677潜水艦の太平洋艦隊への存在は、特別な意味を持つと軍事歴史家ドミトリー・ボルテンコフは指摘しました。

「太平洋艦隊の戦力原潜は、世界の大洋の様々な部分で戦闘当直に就いており、アヴァチャ湾に駐留しています。

アヴァチャ湾に停泊するロシアの戦略原潜


我々の艦は、無分別な外国のパートナーに探知と補足を試され、湾からの出航にも同行されています」

彼は『イズベスチヤ』に語気を強めていいました。

「そして我々は、原子力潜水艦の展開の為に、様々な手段による重要なカバーを必要とします。

最も効果的なものの1つは、"ラーダ"型ディーゼルエレクトリック潜水艦でなければなりません」

ソヴィエト時代、「戦略型原潜」展開の任務は、ベチェヴィンスク湾に駐留する第182潜水艦旅団により遂行されていました。

しかし、それは(軍)改革中に解散しました。新たな連合部隊が、同じ部隊番号を受け取り、同じ場所に駐留する事は十分に有り得るとドミトリー・ボルテンコフは見ています。

太平洋での任務遂行の為に、プロジェクト「ラーダ」型艦は、通常のディーゼルエレクトリック潜水艦よりも遥かに大きな力を発揮できると、潜水艦船員クラブの代表イーゴリ・クドリン1等海佐は考えています。

大型自動化艦「ラーダ」型が、ここで演じる役割は、敵に察知されにくい事と、遠距離探知手段を有していることです。

黒海及びバルト海といった制限のある海域での行動には、古い世代の潜水艦が充分に対処しています。

基地及び艦船の保護に加え、プロジェクト677潜水艦は、必要に応じて他の任務を遂行できます。

その中には、機雷源の敷設、特殊部隊の移送、重要な水上及び水中目標の捕獲が有ります。

さて、このようなロシアの行動を米国は「ロシアの潜水艦建造能力の復活」の脅威を感じているようです。

米軍のジェームス・フォゴ欧州軍海軍司令官(海軍大将)は今月7日までに、ロシアの海軍戦力に触れ、一部の最新型潜水艦や巡航ミサイルの脅威への懸念を表明しました。

ジェームス・フォゴ欧州軍海軍司令官

米国防総省で記者団に述べた。司令官は老朽化した空母を含むロシア海軍の海上戦力については脅威はほとんどないとし、主力艦の性能についても強固なものはないとも明言しました。

フォゴ司令官はその上で、ロシアは新型のドルゴルーキイ級やセベロドビンスク級の潜水艦の他、キロ級の新たなハイブリッド型潜水艦(ラダー型のこと)も建造したと指摘。キロ級の潜水艦6隻は既に「黒海や地中海東部」に出動しているとし、非常に高性能とする独自開発の巡航ミサイル「カリブル」を発射していると説明しました。このミサイルは欧州諸国の全ての首都を射程内に収めているとの警戒感も示した。

カリブル

この巡航ミサイル「カリブル」は、他に類似するものが無いです。地上目標攻撃用の亜音速ヴァージョンでは、このミサイルの最大飛翔距離は約2500kmになります。

さらに、この「カリブル」には 多様なヴァリエーションを有する戦闘機器である事を確認されました。

ミサイルは、一体型の弾頭を搭載します。従来の弾頭を装備する場合、ミサイルの最大飛翔距離は、およそ2500kmになります。

「カリブル」は高精度兵器であり、数千キロメートル離れた目標へ発射されても、予想される誤差範囲は2-3メートルを超える事は有りません。

「カリブル」の対艦用の超音速ヴァージョンでは、最大飛翔距離は375kmです。

比較の為に、公開情報によると、アメリカが装備する有翼ミサイル「トマホーク」の飛翔距離は、潜水艦搭載用の非核ヴァージョンで約1150kmです。

日本も当然のことながら、「ラダー型」潜水艦への対応が迫られるものとみられます。東シナ海、南シナ海の中国の潜水艦に対応するだけではなく、オホーツク海でロシアに対峙しなければならないです。

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2018年12月12日水曜日

【日本を亡ぼす岩盤規制】天下り斡旋、汚職…文科省は取り潰していい! 「ハッキリ言って、日本に存在してはいけない役所」 ―【私の論評】文科省はこのように解体せよ(゚д゚)!

【日本を亡ぼす岩盤規制】天下り斡旋、汚職…文科省は取り潰していい! 「ハッキリ言って、日本に存在してはいけない役所」 
文科省“腐敗”実態

いらない役所の代表格 文部科学省

 私は「文科省は、日本に存在してはいけない役所だ」と思う。ハッキリ言って、なくても困らない。先進国には文科省がない国がほとんどだ。では、教育行政は誰がやるのか? それは各地方自治体の教育委員会がやっている。そして、十分それで用が足りている。

 なぜ、文科省が日本に存在してはいけないかというと、この役所は「利権の温床」で、トップからして腐りきっているからだ。

前川喜平元次官

 前川喜平元次官を覚えているだろうか? 東京・歌舞伎町の出会い系バーに足しげく通っていたと報じられた。前川氏は天下りの斡旋(あっせん)に自ら関与して、次官を引責辞任した。法令遵守の精神はなかったのか。さすが、「面従腹背」である。

 一体、いつの時代の話かと思っていたら、同省は今年、補助金申請で便宜をはかる見返りに、息子の「裏口入学」のおねだりをしていた佐野太被告(元科学技術・学術政策局長)など、複数の局長級幹部が汚職事件で逮捕・起訴された。




 言語道断である。こんな連中に教育を語る資格はない。文科省は今すぐ取り潰していい。

 事件のキーマン「霞が関ブローカー」(贈賄罪で起訴済み)の関係者として、国民民主党の大西健介衆院議員や羽田雄一郎参院議員、立憲民主党の吉田統彦衆院議員の名前も取り沙汰された。

 文科省側は逆恨みしたのか、安倍晋三政権を攻撃する情報をメディアなどに流した。いわゆる「加計学園」問題である。

 この問題の発端は、文科省のデタラメな「告示」にある。本来、大学や学部の新設は設置要件を満たす限り認可しなければならない。憲法に自由権が保証されている日本では当たり前の話だ。仮に、自由が制限されるなら、役所にはその合理的な理由を説明する責任がある。

 ところが、文科省は獣医学部の新設に限って、この説明を怠り50年にもわたって申請を門前払いするという措置を取ってきた。完全に憲法違反である。ところが、こんな明白な憲法違反でさえ、政治の力でただすのは至難の業だった。

 最初に、この岩盤に挑んだのは民主党政権だった。そして、その挑戦は安倍政権に引き継がれた。

 最終的に、国家戦略特区制度を利用して文科省のデタラメな「告示」を突破し、加計学園は学部新設の申請を提出することができた。それ以降の審査プロセスは、通常の設置認可と変わらない。安倍首相の関与する余地など、最初からないのだ。

 私はこのことを十分承知していたので、今年4月から岡山理科大学(加計学園)の客員教授を引き受けた。何の落ち度もないのに岩盤規制の犠牲となり、2年間も「政争の具」にされた彼らが気の毒だと思ったからだ。

 岩盤規制の最大の問題は、多くの犠牲者を生むことだ。そして、その犠牲の上にあぐらをかいて、甘い汁を吸う連中がいる。国民よ怒れ!!

 ■上念司(じょうねん・つかさ) 経済評論家。1969年、東京都生まれ。中央大法学部卒。経済評論家の勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開。著書に『習近平が隠す本当は世界3位の中国経済』(講談社)、『日本を亡ぼす岩盤規制~既得権者の正体を暴く』(飛鳥新社)など。

【私の論評】文科省はこのように解体せよ(゚д゚)!

意外と知られていませんが、行政の中で規制改革が最も進んでいない分野は教育です。医療や保育などの社会保障については、社会保障支出の増加の抑制という至上命令があるため、ペースが遅いとはいえ、カルテの電子化や保育の規制緩和といった規制改革が徐々に進んでいます。

それと比べると、教育、特に小学校・中学校の義務教育については、学習指導要領や日教組といった強固な障壁が存在するため、規制改革はほとんど進んできませんでした。

諸外国、たとえば米国では、教科横断のプロジェクト学習中心など、新たな教育スタイルを実践する小学校が、企業経営者によって設立されています。また、オランダ、イスラエル、中国などでも同様に、新たなアプローチで教育を行う学校が増えています(参考URL)。

それに対して日本の小中学校では、学習指導要領に基づいた教育しか行なえないので、新たなアプローチの教育を行なう学校の設立は、ニコニコ動画のN高等学校や堀江貴文氏のゼロ高等学院など、高等学校に限定されています。また、そこまで革新的な取り組みでなくても、普通の規制緩和さえ実現できないままとなっています。

現行制度の下では、大学や高校ならば自由に遠隔教育を行うことができますが、小中学校では遠隔教育の受け手の生徒がいる側にその科目の教員免許を持った教師が同席していない限り、遠隔教育はできません。

また、教員免許を持っていない専門家は、小中学校では科目の授業を1人で受け持つことはできません。あくまで補助教員として、教員免許を持つ先生が行う授業の中の一部分しか担当できないのです。

このように、教育、特に小中学校という義務教育については、学習指導要領に認められた教育以外は認めない、教員免許を持った先生以外は科目の授業を持てない、といった厳然たる岩盤規制が存在するのです。

そうした中で、茨城県が特区による教育分野での規制緩和の要望を内閣府に提出しました。提出資料の3、4ページを見ればわかるように、小中学校で教員免許を持った先生が現場にいなくても遠隔教育をできるようにするとともに、茨城県が認めた地域・学校のみで有効な地域限定の新たな教員免許を創設し、外国語やプログラミングの教育で教員以外の専門家が授業を受け持てるようにしようとしています(参考URL)。

しかし、おそらく文科省は国会議員や県の教育委員会などと一緒に、この改革を認めまいとするのではないかと予想されます。それでも、この茨城県の提案が実現する可能性は十分にあると思います。というのは、県のトップである茨城県知事が非常にやる気になっているからです。

茨城県知事 大井川氏

ただ、文科省の改革潰しの執念と力の凄さを考えると、知事だけがやる気では限界があるのも事実であり、提案の実現に向けては特区制度を所管する内閣府はもちろん、官邸の後押しも不可欠となります。

ちなみに茨城県の提案が、安倍政権の経済政策の最重要課題である働き方改革による生産性の向上と整合的であることを考えると、この提案は政権にとって渡りに船であるとも言えます。

そう考えると、官邸が茨城県の提案の実現に向けてどこまで頑張るかは、働き方改革の実現と生産性の向上に向けた安倍政権の本気度を測る絶好の試金石になるのではないでしょうか。

そして、安倍政権の改革姿勢の本気度を測るもう1つの試金石は、文科省解体です。

文科省は、これまで一貫して教育の改革に抵抗してきた一方で、すでに報じられているように、教育全般に関する絶大な権限と多額の予算をテコに、組織的な天下りの斡旋、幹部子弟の裏口入学の依頼、民間ブローカーからの過剰な接待と、やりたい放題やってきました。

報道によれば、7月下旬に文科省の中堅職員らの有志が、信用が失墜した文科省の組織の建て直しに向けた改革案を事務次官に提出したようです。報道ベースでは、若手や専門性の高いベテランが活躍できる環境の整備、人事システムの改善、働き方改革の推進などが提案されたようです。

しかし、この程度の改革とも言えないレベルの改善策程度で、組織が再生できれば苦労しません。これだけ不祥事が短期間の間に頻発したということは、組織の中にそうしたことを是とするDNAが埋め込まれてしまっているのでしょうから、そうした組織は一度解体しない限り、再生は困難です。

文科省の解体のやり方としては、以下のような様々なアプローチが考えられます。
・小中学校の義務教育に関する権限と予算は、地方自治体に完全に移譲。 
・厚労省を旧厚生省と旧労働省に分割した上で、後者に文科省の高校・大学に関する権限と予算を移譲して、人材育成を行なう省を設立。 
・文科省のうち旧科技庁部分は、内閣府の科学技術・イノベーション関連の部門と合併してイノベーション専門の省を設立。
逆に言えば、これくらい徹底的な改革を行わない限り、中堅職員が提言した程度の小手先の改善のみでは、文科省という組織自体や文科省の行政に対する国民の信頼は戻りません。


2018年12月11日火曜日

ルノー支配にこだわる仏政府 高失業率なのに緊縮路線強行…マクロン氏へ国民の怒り爆発! ―【私の論評】来年10%の消費税増税を実施すれば日本でも仏のような「黄巾の乱」が起こる(゚д゚)!

ルノー支配にこだわる仏政府 高失業率なのに緊縮路線強行…マクロン氏へ国民の怒り爆発! 

仏マクロン大統領

 日産自動車をめぐる事件でも話題のフランスのマクロン大統領だが、以前から仏政府は筆頭株主であるルノーへの支配を強めようとしていたことで知られている。最近では支持率の低下や閣僚の辞任、大規模な暴動などで逆風となっている。

 マクロ経済の重要な指標である失業率の推移をみると、フランスは2000年以降8%以上が継続している。07、08年には7%台だったが、リーマン・ショックを経て、09年9月には9・3%まで上がり、13、14年には10%台となった。今年10月時点でも8・9%と高止まりしている。

 このような動きは、欧州連合(EU)諸国ではイタリアでも見られるが、現時点でもリーマン・ショック後と同水準の失業率というのは情けない。EU全体の失業率をみても、リーマン・ショックの1年後の水準は9・3%だが、現状では6・7%まで下がっている。EU内のライバル国であるドイツは、リーマンの1年後が7・8%、現状が3・3%と、フランスとは段違いのパフォーマンスだ。

 ちなみに日本は、リーマン1年後の水準は5・5%だったが、現状は2・4%。米国はリーマン1年後が9・8%、現状は3・7%だ。

 他の先進国ではリーマン・ショック後に上昇した失業率が、金融緩和によって下がったにも関わらず、フランス経済は、失業率が高止まりしているのが最大の問題だ。ユーロ圏では金融政策は欧州中央銀行が行うのでフランスもドイツも同じ立場だ。それでも差が出るのは労働市場の構造問題があるからだ。フランスの労働市場は極めて硬直的であることはよく知られている。

 マクロン大統領は14年8月から16年8月までオランド政権で経済産業大臣を務めた。その当時、マクロン氏は、ルノーに対する政府の発言権を増やすような法律を立案している。

 ルノーは第二次世界大戦後に国有化されたが、1980年代後半から民営化に転じ、政府保有の株式を売却している。ただし、現時点でも、ルノー株の15%を保有する筆頭株主である。民間への介入という点では、中道でも左寄りだった。

 マクロン氏は17年5月の大統領就任直後、企業の解雇手続きの簡素化や解雇補償額の上限設定などの労働市場改革を行った。EUでの主導権を確保するため財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以下にするというEUの財政規律の達成を重視するあまり、予算の一律削減、国有鉄道改革で緊縮路線を実施している。

 また、法人税率の段階的な引き下げ、金融資産にかかわる富裕税の廃止なども行っている。中道左派のフランスの中では、これらの政策は右寄りだ。

 ただし、環境政策では左寄りで、今問題となっている燃料税増税をやろうしていたが、延期に追い込まれた。

 燃料税増税は、低所得層の燃料費の安いディーゼル車を直撃した。失業率の低下が不十分な中で、これまでの不人気政策への怒りが爆発したのだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】来年10%の消費税増税を実施すれば日本でも仏のような「黄巾の乱」が起こる(゚д゚)!

数年前、韓国の首都・ソウルで、朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の退任を求める市民団体による抗議デモが、土曜日ごとに発生。ロウソク片手に毎週、多いときでは主催者側発表で200万人を超える人々がデモに参加するという、不気味な現象が発生しました。

このデモの結果、韓国の国会は、いまから2年前の2016年12月9日(金)に、朴槿恵氏の弾劾訴追を可決しました。

韓国のろうそくデモ

いわば、市民団体の「ろうそくデモ」が、国政を動かした格好です。韓国国内では「平和的なデモによって政治を動かした!」、あるいは「これは無血革命に等しい!」など、謎の自画自賛が行われているようですが、「韓国の民主主義の未熟さを示す、本当に恥ずべき話だ」、という認識はないようです。

ちなみに、韓国国内では老舗メデイアである『中央日報』(日本語版)にも、以下のような社説が掲載されたほどです。
【社説】朴大統領弾劾以後…憲法と協治で乗り越えよう(2016年12月10日12時46分付 中央日報日本語版より)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中央日報は朴槿恵氏が民間人である崔順実(さい・じゅんじつ)氏に国政機密を漏洩していたことなどを「神聖な国家権力を民間人に譲り渡した」「決して許されない反憲法的犯罪」だったと決めつけ、朴槿恵氏が弾劾されたことを「霧に覆われた政治も1つの峠を越えた」と評しています。
どうして急にこんな古い話を持ち出したのかといえば、数日前から出ている、フランスで増税が延期されたという話題を目にしたからです。

すでに複数の内外メディアが大きく取り上げていますが、フランスの首都・パリを初めとする各地で、燃料税の引き上げなどに反発する抗議デモが発生。黄色いチョッキ(gilets jaunes)を着用した者たちが3週間以上にわたり、ときとして過激な暴力を振るうなどして社会問題化しています。この黄色いチョッキで破壊活動をするとは、まさに中国の「黄巾の乱」を彷彿とされます。

gilets jaunes

これを受けて、今週、フランス政府は燃料税の増税を表明。いわば、マクロン氏が暴力的なデモ隊に屈した格好となっています。

これは非常に情けない話であるとともに、極めて深刻な話です。というのも、民主主義国において、大統領としていったん有権者の信任を得ている以上、法の手続きなしに、暴力に屈することがあってはならないからです。

これらの報道によると、マクロン氏は前任のオランド政権が残した富裕税などの負の遺産を撤廃するとともに、労働者に対する手当てを削減し、燃料税を引き上げるなど、「強者に配慮する一方、弱者に厳しい政策」を遂行したことが、今回のデモを招いたとされています。

ただし、フランスもユーロの欠陥の犠牲者であることを忘れてはならない思います。

ユーロには深刻な欠点がいくつもあります。通常、産業競争力が強い国(たとえばドイツやルクセンブルクなど)では、貿易黒字を積み上げれば自国通貨の価値が上昇し、輸出競争力が低下することで、自動的に産業競争力が強くなり過ぎないような調整が働きます。

しかし、ユーロ圏に加盟している国どうしでは、為替レートの調整が働かないため、産業競争力が強い国は強いまま、永遠に貿易黒字を積み上げ続け、産業競争力が弱い南欧諸国などは、無限に貿易赤字を垂れ流し続けることになるのです。

それだけではありません。ユーロ圏加盟国では、各国の中央銀行にユーロを発行する権限がありません。このため、国債を中央銀行に引き受けさせるということができませんし、自国がデフレ状況にあったとしても、自国内で金融緩和を行うこともできないのです。

フランスは国連常任理事国であるとともに核武装国であり、農業大国であり、原発大国でもあります。ユーロ発足前のフランスの通貨・フランは、ドイツ・マルクとともに、「G10通貨」の一角を占めていたほどです。

ところが、欧州通貨統合の結果、マーストリヒト条約により国債発行残高はGDPの6割に抑えることが義務付けられてしまい、財政出動の手段を奪われてしまいました。ちなみにこの「GDP債務比率6割」には、経済学的な根拠はいっさいありません。

フランス経済が破壊されている要因は、ユーロという通貨自体の欠陥以外にも、移民政策の失敗や社会構造改革の失敗など、さまざまなものもあるのですが、経済がうまくいっていないことは確かです。

マリーヌ・ルペン氏が率いる国民連合(Rassemblement National、旧党名は「国民戦線」Front National)のような右翼正当といわれる政党が台頭しているのも、フランス経済がうまく機能していない証左であると考えられます。

マリーヌ・ルペン氏

この10年間、ドイツなどの経済強国と、南欧を中心とする周辺国での格差が無限に開き続けるというユーロ圏独特の問題は、根治されていません。それは、国債の発行主体である各国が通貨を発行する権限を持っていない、という問題です。

これを改善するための処方箋は以下のようなものしかありません。
1.ユーロ圏を解体し、ユーロ採用国19ヵ国はそれぞれの通貨を復活させる
2.ユーロ圏の財政を統合し、「ユーロ国債」を発行する
このいずれかです。

諸悪の根源はユーロという通貨の欠陥にありますし、この根治がされない限り、ユーロ圏危機は何度も再燃することと違いない、と思っていました。それがこんな形で噴出するとは、予想どおりとはいえ、忸怩たる思いがします。

ユーロ圏の話はともかくとして、フランスを「近代民主主義発祥の国」と呼ぶ人もいるようですが、民主主義のプロセスにより成立した政府が実行しようとしている政策を、民主主義の手続きによらずに阻止するのは、民主主義国ではありません。フランスの民主主義は危機的な状況にあると言わざるを得ないです。それも、先に述べたように韓国並みの危機にあるといえます。

日本でも、大規模な国会デモなどがありますが、それでも一向に政権交代に結びつきそうにもありません。

その理由は非常に簡単で、現在の日本の経済政策が、それなりに成果を挙げているからです。

もちろん、私自身は安倍政権の経済政策が100%、うまくいっているとは言いません。2013年4月以降の大規模金融緩和はそれなりに日本経済に恩恵をもたらしていますが、2014年4月の消費増税や、財務省の緊縮財政主義は、日本経済の立ち直りを遅らせています。

こうした財務省の抵抗により、日本経済の浮揚が遅れていることは事実ですが、ただ、それと同時に失業率は史上最低水準、有効求人倍率は史上最高水準にありますし、雇用が確保されれば国民生活が徐々に安定していくことは自明の理でもあります。

したがって、いくら日本共産党や極左メディアなどが焚き付けても、日本では韓国やフランスのような暴力的でもは発生しないのです。

ただし、現在の日本経済も、必ずしも盤石ではありません。

とくに、来年10月に消費税等の税率が引き上げられれば、国民が消費行動をするたびに巻き上げられる税額が上昇することになりますし、消費活動が委縮することは避けられません。そして、それによって経済成長が鈍化すれば、デフレ脱却が遅れ、さらには雇用が損なわれる懸念もあります。

民主主義も民度も未熟な韓国でおかしげなデモや市民運動が発生するのは仕方がない話ですが、「民主主義が成熟している」等といわれているフランスでも、経済が悪化すれば、「黄色いベストを着たデモ隊による破壊活動」、といったおかしげな運動が生じてしまうのです。

それを防ぐためには、民主主義とは非常に脆弱な仕組みであることを、まずはきちんと認識する必要があります。

民主主義が機能するためには、国民の知的水準が高いことと、国民の生活が安定していることの、2つの条件が必要です。日本はもともと国民の知的水準が高い国ですが、不況などによって国民生活が苦境におちいれば、容易に変な政権が誕生してしまいかねません。

2009年8月の悪夢を、私たちはよもや忘れてはなりません。

来年10%の消費税増税を許してしまえば、日本でもフランスのように「黄巾の乱」が起こってしまうかもしれないのです。

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2018年12月10日月曜日

中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置―【私の論評】「産業スパイ天国」をやめなければ日本先端産業は米国から制裁される(゚д゚)!

中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置

岡崎研究所 

 米国マイクロン社が、中国の企業に知的財産を盗まれたと非難したことを受けて、米国商務省は、10月29日、中国の福建晋華への米国技術の輸出を規制することを発表した。国有企業の福建晋華は、米国技術と類似の技術を使用し製造を行っているが、司法省によれば、それらは米国の軍事システムでも使用される機微な技術への脅威となる。

米国の技術を盗用して開発された中国のステルス戦闘機J-20

 今回の中国企業による米国技術の窃取は、台湾を舞台に2年前の2016年に端を発する。その年、台湾にあるマイクロン社の子会社UMCが福建晋華と技術協定を結び、DRAM(記憶保持メモリ)へのアクセスを許した。そのDRAMの技術を窃取した2人のマイクロン社のエンジニアは、UMCに雇用されたが、2017年8月、台湾当局によって起訴されている。

 本年11月1日、米国司法省は、UMC、晋華、2人のエンジニア及び追加1人の下マイクロン社社員を、貿易秘密を窃取した疑いで起訴した。ジェフ・セッションズ司法長官は、被害額を、87億5千万ドルと推定する。

参考:Wall Street Journal ‘A Better China Trade Strategy’ November 1, 2018

 技術後発国は多かれ少なかれ技術先進国から技術を窃取しようとするものである。しかし中国による技術窃取のスケールはけた違いに大きい。中国は技術で米国に追いつくことを国策として推進しており、その手段の一つとして不法な窃取も国家主導で行っている。

 中国の近年の技術水準は著しく向上しているが、その少なからざる部分が窃取によるものと推定される。最大の被害者は技術で優位に立つ米国である。米国は以前から中国による技術の窃取に懸念を表明してきたが、最近危機感を強めている。中国の技術水準が急速に高まり、米国を急迫しているからである。

 米国は以前から中国に対し、知的財産権の窃取などに警告を発してきたが、ここにきて具体的な対策を取るようになった。その一つが報復関税で、 6月15日、中国による知的財産権に対する報復として、中国の対米輸出品500億ドルに関税を付加すると発表し、その後2段階に分け、実施した。しかし関税が知的財産権の窃取に対する有効な手段とは思われない。むしろ知的財産権の窃取を口実に関税を付与した感すらある。

 このような状況の中で、告訴がなされた。これは、米国の情報機関と司法省が協力して、米国の先端技術を窃取しようとする中国のスパイやハッカーを逮捕するものである。スパイ行為を法律で取り締まることになると、機微な情報が公にされるおそれがあるが、機密保持もさることながら、窃取を厳しく罰し、少しでもそれを減らすことを優先させるということであろう。そのうえ告訴は、単に違法行為を追及するのにとどまらず、中国のスパイ技術の詳細を明らかにするという。告訴方式は今後ますます強化されていくだろう。

 しかし、技術の窃取の防止は容易ではない。特にサイバーによる技術の窃取に有効に対処することは多くの困難が伴う。サイバー攻撃への対処が進歩すれば、それを回避するようなサイバー技術が開発され、鼬ごっことなる恐れもある。 そのうえ中国は、米国が告訴など技術窃取対策を強化しても、技術窃取は止めないだろう。今後とも長きにわたり技術窃取をめぐる米中の攻防が続くものと思われる。

 中国の技術窃取については、最大の標的である米国のみならず、欧州、日本も大いに関心がある。欧州、日本も米国と協力して、中国による技術窃取を強く非難し、その防止に協力すべきである。

【私の論評】「産業スパイ天国」をやめなければ日本先端産業は米国から制裁される(゚д゚)!

米中貿易戦の激化で、中国当局による外国企業に対する技術移転の強要が批判の的となっています。米企業は、中国当局の技術移転の強要、企業の競争力が低下し、イノベーションの原動力が失ったと訴えています。ホワイトハウスの試算では、強制技術移転によって米企業は毎年500億ドルの損失を被っています。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が9月28日伝えました。

中国当局は現在、化学製品、コンピューター用半導体チップ、電気自動車など各分野の外国企業の技術を狙い、様々な方法を使っています。なかには、脅迫などの強制手段を用いることもあります。

WSJの報道によると、米化学大手デュポンは昨年、提携先の中国企業が同社の技術を盗もうしているとして、技術漏えいを回避するために仲裁を申し立てました。しかし昨年12月、中国独占禁止当局の捜査員20人がデュポンの上海事務所に踏み込み、同社の世界的研究ネットワークのパスワードを要求し、コンピューターを押収しました。当局の捜査員らは、同社の担当者に対して、提携関係にあった中国企業への申し立てを取り下げるよう命じたといいいます。

デュポン社商標

米中両政府と企業の関係者数十人の話と規制に関する文書に基づいて、WSJは中国当局が「組織的かつ手際よく技術を入手しようとして」との見方を示しました。その手法について、「米企業に圧力をかけて技術を手放させること、裁判所を利用して米企業の特許や使用許諾契約を無効にすること、独占禁止当局などの捜査員を出動させること、専門家を当局の規制委員会に送り込ませ、中国の競争相手企業に企業機密を漏らさせること」などがあるといいます。

同紙は、外国企業の中国市場への進出を認可する代わりに、その技術の移転を求めることは、党最高指導者だった鄧小平が考案した戦略だと指摘しました。

鄧小平

また、報道によると、上海にある米商工会議所が今春に行った調査では、5分の1の会員企業が中国当局に技術移転を強要されたことがあると答えました。

いっぽう、欧州企業も同様に、中国当局による強制技術移転を訴えています。9月18日に公表された中国のEU商工会議所2018年年度報告書によれば、中国に進出した1600社の欧州企業のうち、約2割が中国当局に技術移転を迫られたそうです。

EU商工会議所が3カ月前に、532社の欧州企業を対象に行った調査では、同じく2割の会社が中国当局から技術移転を強要されたと訴えたことが分かりました。

25日、トランプ米大統領は国連総会の演説で、中国当局が米企業の知的財産権を侵害していると批判したうえ、中国による貿易・経済面における乱用を容認できないと述べました。同時に、国際貿易体制の改革も呼び掛けました。

同日米ニューヨークで、日本、EU、米国の貿易担当閣僚による第4回三極貿易大臣会合が開催されました。3閣僚は、中国を念頭にした強制技術移転や政府補助金問題に懸念を示し、世界貿易機関(WTO)のルール見直しについて協議しました。

経済産業省によると、世耕経済産業大臣が議長を務めた同会合では、日米欧は強制技術移転や市場志向条件の2つの分野について、第三国による市場歪曲的措置の分析などの情報交換を実施することで合意しました。第三国はとは中国当局とみられます。

中国政府は約30年かけて、国家横断的な「技術略奪」のシステムをつくり上げてきました。シンプル化すれば、以下の3段階に分けることができます。
(1)欧米や日本に留学生を送り込み、先端技術を学ぶ。(2)留学生や海外の企業で働いた技術者を帰国させ、先端技術を持ち帰らせる(多くが非合法)。(3)海外で研究・開発を続けながら、本国に先端技術を流用する(非合法)。
日本のメーカーから「中国人技術者がある日突然いなくなる」のは、(2)のケースです。中国で高待遇で迎えられています。

パナソニックやソフトバンクといった日本を代表する企業が、米市場から排除されようとしているファーウェイなどとの共同開発を今も積極的に進めています。東大はファーウェイと理工系で横断的な共同研究を立ち上げています。

日本の大学と企業が無自覚につくり出している「産業スパイ天国」は、この1~2年で大きな転換を迫られることになるでしょう。

日本の政治指導者も、中国とのビジネスに関わっている多くの企業経営者も、今が約30年ぶりの転換点にあることを認識する必要があります。

90年代以降、アメリカは中国を自由経済体制に引き入れることで、民主的体制への転換を促す戦略をとってきました。しかしトランプ政権は昨年末、「われわれの希望に反した」として中国の共産主義体制と対決する路線に転じまし。トランプ氏は、「中国に都合のいい秩序」の破壊者になろうとしているのです。

中国の高速鉄道の技術は日本の新幹線技術の盗用とされている

日本の政府も企業も、中国の側に立つのか、アメリカの側に立つのか二者択一を迫られています。

トランプ氏は、アメリカが再び世界を引っ張る新しい秩序をつくるため、貿易や技術に関するルールを全面的に見直しています。

日本も足並みをそろえ、中国人留学生を無制限に受け入れる政策や、中国への技術移転を奨励するような政策を全面的に見直すしかないです。

米国のように、日中首脳会談で合弁事業による技術移転強制に抗議し、中国企業の日本への投資を厳格に審査し、ファーウェイやZTEなどを日本市場から排除するしかないでしょう。実際にその方向に進みつつあります。

さらに、これは昨日もこのブログに掲載したことですが、世界で日本にだけないスパイ罪(スパイ防止法)の制定も急ぐ必要があります。産業スパイ事件が起こっても、日本では窃盗罪など一般的な法律での処罰となります。日本国民を安全保障上の脅威にさらすスパイには、重罪を科すのが国際常識です。

世界一ともいえる「産業スパイ天国」を終わらせることが、中国の「技術略奪」の時代を終わらせることに直結します。と同時に、「世界秩序の破壊者」トランプ氏が目指す「米中冷戦」の勝利を一気に引き寄せることになるでしょう。

これをいつまでもグズグズ実行しなければ、日本の先端的な企業は中国への技術移転を防ぐために、米国から制裁をくらうことにもなりかねません。そのことを理解している経営者や研究機関はまだ少ないのではないかと危惧しています。

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