2020年11月20日金曜日

これが安保の真実、米軍は尖閣に駆けつけてくれない―【私の論評】日本は独力で尖閣を守れない、占領されても奪還できないとは都市伝説か(゚д゚)!

これが安保の真実、米軍は尖閣に駆けつけてくれない

菅・バイデン電話会談でまたもや繰り返された悪しき前例

尖閣諸島の魚釣島(出典:内閣官房ホームページ

(北村 淳:軍事社会学者)

 日本の主要メディアの報道によると、日本時間の11月12日、菅義偉首相と次期大統領就任が確実となりつつあるバイデン前副大統領が電話で会話を交わした際、バイデン氏は「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象である」と明言したとのことである。

またも繰り返されたパターン

 国防とりわけ尖閣諸島防衛に関しては、菅首相も歴代政権の悪しき前例から一歩も脱却しようとはしていないようである。

 すなわち、アメリカ政府高官たちに「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用範囲である」と明言させ、日本の主要メディアに「アメリカの○○○○○は、アメリカによる日本の防衛義務を定めた日米安保条約第5条が、尖閣諸島に適用されることを確認した」といった報道をさせる。それによって、「尖閣諸島において中国が何らかの形で武力を行使した場合には、アメリカ軍が出動して日本を救援してくれる」というイメージを日本国内に流布させる、というパターンを繰り返しているのである。

 日本の歴代政権にとっての尖閣諸島防衛戦略は、このようなパターンを繰り返すことだけと言っても過言ではない。

日本に広まっている願望的期待

 昨今の現状はどうあれ、中国によって尖閣諸島が占領されているといった事態がいまだに生じていない限り、日本政府が「尖閣諸島の施政権は日本にある」と公言している以上、第三国間の領土紛争には介入しないことを基本原則としているアメリカ政府(とりわけ国務省や国防総省)としては「尖閣諸島は安保条約第5条の適用対象である」と判断せざるを得ない。したがって、米政府高官たちが日米安保条約と尖閣諸島との関係に触れる際に、「尖閣諸島は安保条約第5条の適用対象である」との立場を表明することは当然である。

 もちろん日本政府は、この事情は百も承知だ。そこで日本政府はアメリカ側にそのような「当然の表明」を述べさせることによって、日米同盟が対中牽制になっているかのごとき印象を日本国内向けに宣伝するのだ。

 そして“仕上げ”は日本メディアの報道である。多くの報道が「日米安保条約第5条はアメリカの日本防衛義務を定めている」と表現してしまっている。そのため、日本社会では「中国が尖閣諸島を占領したり、何らかの形で軍事力を行使した場合には、同盟国アメリカが強力な軍隊を投入して中国軍を追い払い日本を護ってくれる」という願望的期待が広まってしまうのだ。

米軍人たちの危惧

 本コラムでも幾度か触れたことがあるが、「日米安保条約第5条はアメリカの日本防衛義務を定めている」という表現は正確ではない。この点に関しては、筆者周辺の東アジア戦略環境それに日米安保条約に精通している米軍将校や軍関係法律家たちも、筆者同様に大いに危惧している。

 菅首相とバイデン氏の電話会談のニュースを受けて、日本で「日米安保条約第5条はアメリカの日本防衛義務を定めている」と考えられている状況を是正するために「アメリカ軍や国務省関係の法律家の間では常識とも言える“事実”を日本の人々に理解してもらわねばならない」といった声も寄せられてきている。

日米安保条約第5条の本当の中身
 日米安保条約第5条からは、尖閣諸島を巡って中国が軍事攻撃を仕掛けた場合、米海軍第7艦隊は直ちに横須賀や佐世保から南西諸島に急行し日本の敵勢力を撃退する、といった解釈が自動的に生ずることは決してありえない。

 日米安保条約第5条が取り決めているのは、このような事態が発生した場合、アメリカ側(国務省、国防総省、太平洋軍司令部など)としてはアメリカ合衆国憲法や各種法令・手続きに従って行動する、ということである。

 具体的には、尖閣周辺で進行中の軍事的状況を分析し、米側としての対処策を討議し、おそらくはホワイトハウスや連邦議会は、「尖閣諸島(という無人岩礁群)での日中間のトラブルに対してアメリカ軍を投入することは、核保有国である中国との軍事衝突の可能性を勘案すると、アメリカとしては価値を認められない」と判断することになるであろう。

 もちろん、日本はアメリカにとり重要な同盟国の1つである。しかし、そうだからといってアメリカとしては、核戦争へとつながりかねない危険を冒してまで、日本の“岩”のために軍隊を投入する価値は見出せない、というのが現実の姿である。

 上記のような解釈は、東アジア情勢ならびに日米安保条約に精通している米軍関係者などに尋ねれば、ごく普通のものであることが容易に理解できるであろう。

 要するに、日本社会に浸透してしまっている「日米安保条約第5条はアメリカによる日本防衛義務を定めたものであり、万が一にも尖閣諸島を巡って日中軍事衝突が発生した場合には、強力なアメリカ軍が中国侵攻部隊を撃退し日本を防衛してくれる」などというシナリオは、日本だけで信じられている手前勝手な都市伝説にすぎないということなのである。

中国軍相手の島嶼奪還は不可能に近い(写真:米海兵隊)


【私の論評】日本は独力で尖閣を守れない、占領されても奪還できないとは都市伝説か(゚д゚)!

尖閣諸島に人民解放軍が上陸したら、米国の助けがないと日本は尖閣諸島奪還は不可能の近いのでしょうか。ましてや、日本が尖閣に上陸した中国軍や民兵などに対して手も足もでないのでしょうか。私は、そうではないと思います。

これはおそらく軍事機密なのであまり公表されていなのでしょうが、もし尖閣諸島に中国軍が上陸したとしても、日本には20隻以上の潜水艦からなる、潜水艦隊が存在ししかもその潜水艦はステルス性がかなり高く最新型はほとんど無音に近く、対潜哨戒能力の低い中国にはこれを発見できず、これで十分反撃可能であると思います。

尖閣に中国軍が上陸すれば、これを日本の潜水艦隊で包囲し、近づく艦艇や航空機を破壊するかそこまでいかなくとも牽制して近づけないようにすれば、尖閣に上陸した中国や民兵などは補給ができずに、お手上げになります。これに対して既存のメディアや軍事評論家らは、なぜか潜水艦を用いない作戦ばかりを想定して、到底中国にはかなわないような説明をします。

これと似たようなことは、南シナ海の中国軍基地に対して最近何度が述べてきました。というのも、米軍の海洋戦術が明らかに変わったと思われる節があったからです。

米軍はすでに5月下旬に潜水艦の行動に関して公表しています。潜水艦の行動は、通常どの国も公表しないのでこれは異例ともいえます。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて今年5月下旬にマスコミで報道されました。太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

無論、当時空母でコロナが発生したという事情もからんでいるでしょう。空母打撃群が水平のコロナ罹患で出動できない間隙をぬって中国が不穏な動きを見せないように牽制したものと思います。逆に、米軍は空母打撃群でなくても潜水艦隊があれば、中国の動きを牽制できると考えているともいえます。

原潜は構造上どうしても騒音がでて、静寂性は通常型には劣るのですが、それでも中国の対潜哨戒能力よりは米軍のほうが世界一の能力を持っていることから、米軍にとっては明らかに有利です。中国の原潜は米国に比較しても、かなりの騒音を出すので、世界一の哨戒能力を持つ米軍に簡単探知されてしまいます。

これは、明らかに戦術の変更を示していると思います。仮に戦闘が起こったとして、それに対抗するために空母打撃群を派遣すれば、中国にとっては格好の標的になるだけです。すぐに撃沈されてしまうでしょう。そのような戦術は時代遅れです。

現代の米国の潜水艦は、核武装も含む様々な武装をしており、単純には比較できませんが、その破壊力は空母打撃群に匹敵します。これからの時代は相手を牽制したり、戦闘における初戦においては、過去のように空母打撃群か最初に出るのではなく、潜水艦隊が最初にでて、敵の艦艇や航空機やミサイルなどの脅威を取り除き、その後に空母打撃群が追撃戦をするという形に変わるでしょう。

5月の太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中という公表は、米海軍の戦術の変更の現れと見るべきと思います。私自身は、この発表よりも随分前から、米軍は戦術を変更していたと思っています。そうして、日本もそれに近い戦術をとっていると思われます。

日本では、海上自衛隊の3,000トン型潜水艦の1番艦が先月の14日に進水、旧日本海軍の潜水母艦に因んで「たいげい」と命名されました。

10月14日に進水した最新鋭3000トン型潜水艦「たいげい」

この「たいげい型潜水艦」はそうりゅう型潜水艦の後継艦で最新の「18式長魚雷」や海自の潜水艦として初めて「女性自衛官専用の居住区画」を備えるなど話題になっていますが、海外メディアが最も注目しているのは通常動力型潜水艦のゴールデンスタンダードである「AIP機関」ではなく「リチウムイオン式電池」による推進方法を採用している点です。

AIP機関を採用した「そうりゅう型潜水艦」の11番艦と12番艦は既にAIP機関を廃止してリチウムイオン式電池を採用しているため特に目新しさは感じないのですが、たいげい型潜水艦はリチウムイオン式電池採用を前提に設計された初めての潜水艦なので海外からすると11番艦「おうりゅう」よりも注目度が高いです。

特に米メディア「The Drive」は中国海軍の存在が日本のリチウムイオン式電池採用の決断を後押ししたと指摘しています。

中国海軍は攻撃型原潜「Type093」と比較して音紋が大幅に減少していると予想されている「Type095」の建造準備に取り掛かっており、国産AIP機関を搭載した通常動力型潜水艦「Type039A」を計20隻建造(内17隻が就役)するなど潜水艦戦力を急速に増強中で、遼東半島と山東半島の間にある中国唯一の原子力潜水艦建造施設「渤海造船所」の拡張中(5隻以上の原潜を同時建造できる規模らしい)です。

そのため日本は潜水艦の静粛性能を高めるためAIP機関よりも低振動な「リチウムイオン式電池」採用に踏み切ったと説明、リチウムイオン式電池は火災や発熱問題など安全性に対するリスクが付き纏いますが、AIP機関採用の潜水艦よりも優れた水中加速性能を日本の潜水艦にもたらすだろう言っており、日本は静粛性能と水中加速性能で中国に対抗するつもりだと評価しています。

さらにThe Driveは、リチウムイオン式電池による推進方式が通常動力型潜水艦のゴールデンスタンダードになるのかは今のところ不明ですが、少なくとも日本は潜水艦へのリチウムイオン式電池採用に自信を持っており、実用化に向けて順調にスケジュールを消化しているのは明らかだと付け加えました。

スウェーデン発祥のドイツによって普及されたAIP機関と同じように、日本がリチウムイオン式電池を採用した潜水艦の運用実績を積み重ねれば通常動力型潜水艦のゴールデンスタンダードに近づくと言う意味で、世界中の国が日本の「たいげい型潜水艦」に注目しているのは間違いないです。

因みに進水した潜水艦「たいげい」は艤装工事を行い2022年3月頃に就役する予定で、同艦の就役をもって海自の潜水艦22隻体制が完成することになります。

現在でも20隻以上の潜水艦隊をもち、旧式のAIP機関のものも含めて、その静寂性は世界のトップであり、リチュウム電池式は、ほとんど無音に近いです。これは、リチュウム電池にしただけでなく、元々日本の工作技術が世界トップ水準だからできることです。これを中国軍の対潜哨戒機は探知できません。逆に中国の潜水艦は日本が、簡単に発見できます。

であれば、尖閣が中国軍に占領されたとしても、ここに艦艇や航空機などを派遣したり、レインジャー部隊を派遣して、わざわざ中国軍の的にするのではなく、最初に潜水艦艇5隻くらい派遣して、尖閣諸島を包囲してしまえば良いです。

近づく中国の補給線や補給用航空機などは、近づけば破壊すると脅せば良いです。それでも近づけば本当に破壊すれば良いです。さらに、日本は機雷の掃海能力は世界一ですから、尖閣付近に機雷を敷設して、潜水艦隊の戦術を補うこともできます。

中国もこれに対抗して、機雷を敷設すると、掃海能力が格段に劣っているので、逆に自分で自分の首をしめることになりかねません。これに対して、日本は日本が設置した機雷はもとより、中国の機雷も容易に除去できます。

中国軍や民兵などが尖閣諸島に上陸したとしても、上記のような戦術をとれば、日本単独で上陸した勢力の補給を断ち、無能力化することができます。

そんなこと、日本ができるわけがないではないかという声も聞こえてきそうですが、実際に中国が尖閣諸島に上陸し、基地でも設置するそぶりを見せれば、状況は大きく変わるでしょう。そうなれば、中国が沖縄や日本に対して触手を伸ばしてくるだろうことは、誰にも予想がつきます。

しかも、米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、この1年で歴代最悪を記録しています。

同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本では86%にも及びます。


尖閣にまかり間違って、中国が尖閣に上陸すれば、中国に対する国民感情はとりかえしがつかない程に硬化し、政府はどのような形にせよ、中国排除の方向で進むことになるでしょう。それとごろか、親中敵な自民党の派閥や、野党、マスコミなどは、国民の憤怒のマグマを直接浴びてとんでないことになるでしょう。そうして、憲法改正がなされ、日本も普通の国になるどころか、中国にとって大きな脅威になるでしょう。核武装についても国会で審議され、実行されるかもしれません。

国会で議論していると中国に既成事実化されてしまうなどという方もいらっしゃるかもしれませんが、3年や5年も放置しておけば別ですが、少なくとも2年以内くらいに決心して十分準備して中国の上陸部隊を兵糧攻めにすれば、中国軍はこれに対して何もできずお手上げになるだけですから、十分に間に合います。中国は怒りまくるでしょうが、どうしようもありません。

まかり間違って小型中距離核兵器でも使おうものなら、全世界から総スカンをくらうだけではなく、日本も核武装しかねず、そうなれば日本は中国にとって大きな脅威となるでしょう。

そんことになるのが、分かりきっているので、中国は尖閣地域で様々な示威活動をしたとしても、尖閣にはなかなか上陸しないのです。上陸して維持できる自信があれば、とうの昔に上陸しています。だから、尖閣諸島付近で示威敵行動を繰り返して、既成事実を作ろうとしているのです。裏返せば、軍同士で直接対決すれば、負けるのは明らかなので、それしかできないということです。

潜水艦隊戦ということになれば、米国も加勢しやすいので、おそらく早い時期から加勢すると思います。いやそれどころか、英国、インド、豪州も加勢するかもしれません。これで潜水艦隊の各国の合同チームができるかもしれません。日本の潜水艦隊はほとんど無音に近いステルス性を駆使して、情報収集の尖兵となり同盟国に中国軍の最新動向を伝えることになるでしょう。

これがうまくいけば、インド太平洋地域全域で日米英豪印協同で同じようなことをすれば良いです。そうすれば、中国軍はインド太平洋地域から駆逐できます。

そんなうまい話があるものかという方には、現実の中国の海洋進出がどうなっているかを示せばある程度ご理解いただけると思います。中国海軍のロードマップでは、2020年の今年は太平洋において第二列島線を確保することになっていますが、それどころか未だに尖閣を含む第一列島線すら確保できていません。それが中国海軍の実力です。

これは、どう考えてもいくら中国が空母や最新鋭といわれる艦艇や、宇宙兵器や超音速ミサイルを開発したとしても、そもそも哨戒能力が格段に劣っているので、結局中国の護衛艦や潜水艦もすぐに撃沈されてしまうので空母を護衛できず、中国艦隊も島嶼上陸部隊も用をなさないということです。結局中国海軍は政治的な意味しかもたず、海洋の戦いは、金をかけてもボロ船(哨戒能力が極度に低い)しかつくれない陸上国の中国には無理なのです。

とはいえ、油断は禁物です。以前にもこのブログに述べたようにランドパワーの中国が、海洋進出を諦めて、陸に専念するようになれば、国境を接している国々にとって大きな脅威となります。

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2020年11月19日木曜日

相次ぐ受難、習近平の標的にされる中国の起業家たち―【私の論評】経済に直接介入し、民主化せず、憲法は共産党の下では中国は経済発展しない(゚д゚)!

 相次ぐ受難、習近平の標的にされる中国の起業家たち

逮捕され失脚させられる民間企業経営者、何が起きているのか?

(福島 香織:ジャーナリスト)

中国浙江省杭州市にあるアント・グループ本社

 中国で企業家に愛国、報国を求める動きが強まり、中国共産党に批判的な企業家に対しては圧力が強まっている。

 河北大午農牧集団を創業した中国の著名な農民企業家、孫大午が11月11日未明、突然警察に連行され逮捕された。この事件より1週間ほど前の11月3日には、カリスマ経営者の馬雲(ジャック・マー)が作り上げたアリババ帝国を揺るがす、金融子会社アント・グループ(旧アントフィナンシャル)上場取り消し事件があった。さらに11月17日には南京のIT企業・福中集団の会長、楊宗義が連行された。

 この2年、中国では企業家、実業家たちが次々と逮捕されたり失脚させられたり、あるいは不当な圧力を受けたりしている。民営企業の資産接収も相次いでいる。一体これはどういうわけなのか。

「違法な資本収集」の疑いで連行された楊宗義

 江蘇省揚州市公安当局が11月17日に発表したところによると、民間から「江蘇福信財富資産管理有限公司が違法に資本収集した」という通報を受けて、オーナーの楊宗義を違法公衆資金預金横領の容疑で刑事強制措置として連行した。捜査によると、福信公司は高額のリターンがあると喧伝して大衆から資金を違法に収集していた疑いがあるという。

 楊宗義は「南京最初の富豪」とも呼ばれた実業家で、南京市商会の副会長や南京市の政治協商委員も務めていた。幼いころ父親を亡くし、生活苦の中で南京大学化学部を卒業。空港で偶然出会ったシンガポール企業の社長に、流暢な英語能力を気に入られて雇用され、南京市のパソコン市場開拓の仕事を任された。そこで経験を積んだあと、1995年のITバブルの兆しに目をつけ、20平方メートルに満たない事務所を借りて裸一貫でパソコン企業・福中電脳を立ち上げた。それが25年後、保有資産40億元の福中集団(元南京福中情報産業集団)に成長した。楊宗義は慈善事業家としても知られており、財界誌フォーブスの慈善家番付にもしばしば登場していた。

 だが今年(2020年)1月に、福中集団四川有限公司は、同社のビジネストラブルを仲裁した地元の成都市成華区人民法院から指導を受ける。そして5月になっても法院が指導した改善が見られないことから、「消費制限」裁決を受けることになり、その成功物語に陰りがさしていた。消費制限令を受けると、生活や仕事に必要ない高額の消費、例えばラグジュアリーホテルの使用や飛行機のファーストクラス利用などが制限される。そもそも裁判所からこの処分を受けること自体が、いわゆる「信用スコア」の大きな減点になり、さまざまなリスクを負うことになる。

 福中集団は「狼文化企業」(いわゆるブラック企業)と呼ばれており、社員の間に不満があったともいわれている。楊宗義自身が「春節休みの4日以外、1年中毎日、決まった時間に出勤する」というモーレツ社長で、誰も社長に逆らえない状況だったとされ。その意味では敵の多い人物であったともいえる。

 だが、今回、楊宗義が連行された理由が、本当に経済犯罪のみといえるかどうかは微妙だ。というのも、ほんの数日前に別の民営企業家も逮捕されているからだ。

習近平体制に批判的だった孫大午

 前述したように11月11日、河北大午農牧集団の創業者である孫大午が家族や企業幹部らとともに突然連行され、企業資産が当局に接収された。孫大午は地元では人望があったので、ネット上で現代版「地主狩り」「土豪狩り」などとささやかれた。

 孫大午は退役後の1984年に、兵役時代の農牧経験をもとに鶏1000羽、豚50頭の農場からスタートして1995年には中国500強民営企業にまで事業を拡大したカリスマ経営者だ。今や大午集団の従業員は9000人以上、固定資産は20億元、年平均生産額は20億元超えという超優良企業である。

 そうした実績をもとに、孫大午は、国家の庇護のもとに胡坐をかいた国営農場や国有企業の在り方や共産党の経済政策について、しばしば厳しい意見を発表していた。

 例えば2003年4月31日、同社のサイトで「小康社会の建設と課題」「李慎之を悼む」「2人の民間商人の中国の時局と歴史に関する対話」といった3つの文章を発表した。ところが、地元公安局から「国家機関のイメージを著しく損なった」として、サイトの閉鎖を命じられ、6カ月の営業停止と罰金15000元が課されてしまう。

 さらにその年の5月29日に、孫大午は3000人の農民から1億8000万元の資金を違法に集めたとして逮捕され、同時に違法に弾薬を所持していたなどとされた。結局、孫大午は懲役3年、執行猶予4年、罰金10万元の刑を受け、また大午集団としても30万元の罰金を支払わされた。

 この時、孫大午を弁護した法律家の中には、新公民権運動の旗手として知られ、のちに国家政権転覆煽動罪で逮捕され実刑判決を受けた法学者、許志永もいた。ちなみに4年の刑期を終えて出所していた許志永は今年2月、習近平退陣論を発表したため、再度身柄を拘束されている。

 今年5月、孫大午はSNSで、許志永ら失踪中の(実は当局に拘束されている)人権派弁護士や法律家らについて、関心を持ち続けるように訴えていた。10月には米国の政府系メディア、ラジオ・フリーアジアに、「公有制度は共産党が発明したものであり、社会主義経済の基礎は本来私有経済であるべきだ」といった発言を掲載し、公有経済回帰の政策を打ち出す習近平体制に批判的な態度を示していた。

 逮捕の直接的な原因については深く説明されていないが、8月に大午集団の建物を近くの国有農場が強制収用しようとして、従業員と警察がもみ合いとなり、20人以上が負傷する事件があった。大午集団側は、当局の対応への抗議を発表していた。こうした一連の行為が「挑発罪」などに当たる、と見られたのかもしれない。

馬雲の発言が習近平の癇に障ったか?

 孫大午が逮捕される前の11月3日には、5日に予定されていた中国最大手Eコマース企業アリババ傘下のフィンテック企業アント・グループの上海・香港同時上場が急遽取りやめになるという事件が起きた。アントの上場は中国証券市場最大級IPOと注目されていた。

 この上場急遽取りやめも、孫大午の逮捕と全く無関係ではない、という見方がある。

 11月1日にアリババ創始者の馬雲(ジャック・マー)と企業幹部が中国金融当局に呼び出されて、「面談」した結果、3日に上場取りやめが発表された。この上場取りやめは習近平自らの命令によるものだったと一部で報じられている。

 上場取りやめの理由については、アントの目玉商品である「花唄」「借唄」といった個人・個人経営者向けクレジットローンや消費者金融が、本質は銀行の発行するクレジットカードやローンと同じなのに、民営フィンテックであるがゆえに規制の網をくぐり抜けていたこと、こうした民営企業も対象にした少額ローンに関する法規が間もなく出されることなどが背景にあったと思われる。だが、それ以上にささやかれているのが、馬雲が10月24日に上海で行われた外灘金融サミットで、中国内外の規制がイノベーションを阻害し発展や若者の機会を大切にしていないことを批判した発言が習近平の癇(かん)に障ったのではないか、という理由だ。

 7月には、明天系の金融・保険企業9社の資産が「経営リスクがある」として当局に接収された。明天系と呼ばれるトゥモロー・ホールディングス創業者は、香港の高級ホテルから北京当局に拉致されていまだに行方不明扱いの大富豪、蕭建華が創業者だ。彼の失踪(実は北京で拘束されている)が経営リスクを招いたという意味では、大企業の富が、体制の罠によって奪われたという言い方もできなくはない。

 また9月には、民営企業ではないが上海光明乳業が「国家の尊厳と利益を損なった」として30万元の罰金が科された。同社の広告に、中国の南シナ海領有を示す九段線が描かれていなかったことが原因だった。

企業に「愛国・救国」を求める習近平

 こういう企業、実業家たちの受難の真の理由は、習近平が最近、実業界、経済界に対して打ち出したイデオロギーが大きく関与していると私はみている。

 習近平は11月12日に江蘇省を視察に訪れた際、南通博物苑を訪れ、清末の実業家・張謇の展示を参観。張謇を中国民営企業家の先賢と模範にするように、との談話を発表している。張謇が創設した中国初の民間博物館、南通博物苑を愛国主義教育基地とし、多くの青少年が張謇に学び、習近平が掲げる4つの自信(社会主義への道、制度、理論、文化に対する自信)を固めるようにと訴えた。

 習近平が張謇に言及するのは今年で2度目だ。1回目は7月21日に行われた企業座談会である。習近平は5人の愛国企業家模範に言及し、その中の1人が張謇だった。

 張謇は1894年、42歳で科挙の状元(最終試験で1位の成績を修めた者)となり、清朝最後の皇帝・宣統帝の退位詔書を起草、民国臨時政府樹立後は実業総長となった。実業家として、最初期の民族軽工業を起こし、日本の博物館制度や教育制度に影響を受けて博物館や学校をつくるなど、国近代化の先駆者と呼ばれている。同時に「実業救国」を掲げた愛国主義者であり、袁世凱が壬午事変にどう対処すべきかを張謇に訊ねると、「朝鮮前後六策」を出して、李氏朝鮮を併合して中国領土とし、日本を攻撃して琉球(沖縄)を奪取すべし、と助言した。

 習近平が張謇を取り上げて民営企業家に伝えたかったのは、「実業」と「愛国・救国」はセットでなければならない、ということだろう。つまり実業家たちに求めることは経営手腕のみならず、富国強兵のために国と党への献身だ。

 企業運営チェーンには国境がないが、企業に祖国はある。祖国に対する崇高な使命感と強烈な責任感があるかどうかが企業家に最も求められることであり、言外に「民営企業が儲けた金は国家と党のために使え」「党と国家に批判的な企業はいつ取り潰されるとも限らない」ということを示しているのではないか。

 習近平のこうした企業家に対するイデオロギーチェックは、2年前の民営企業座談会で「企業家精神を掲揚し、愛国敬業をなし、法を守って経営し、創業イノベーションを行い、社会に報いる模範たれ」と演説をぶって以来、顕著となった。

民営企業は「改革開放牧場」の牛や羊なのか

 愛国・愛党を理由に民営資本を弾圧するやり方は、かつて毛沢東が地主やブルジョアや知識層を弾圧した歴史に通ずるものがある。

 地主や土豪、知識人たちを階級の敵として、「土地や富を奪い弾圧してもよい」というシグナルを共産党トップが出すことで、政治や社会に不満を抱える庶民の攻撃の矛先が「ブルジョア・金持ち」たちに向かい、社会主義体制への批判がそがれるということを、習近平は毛沢東に学んだのかもしれない。

 また、民営企業家の多くは裸一貫から大企業家になったカリスマが多く、馬雲のように国際社会からも支持されていたりする。習近平と比較しても指導者としての資質が高い。自分の長期独裁政権確立の障害となりそうな有能な政治家を、反腐敗キャンペーンの名目で排除してきた習近平にとって、カリスマ経営者は自分の無能さを際立たせる脅威の存在に思えるかもしれない。

 10月の第五回中央委員会総会(五中全会)で習近平政権は、国際環境の変化に対応して、経済政策の柱として「大内循環、双循環」を打ち出した。この考え方の根幹は、“共産党がコントロールできる経済”である。今後も中国市場が西側自由主義市場からデカップリング(切り離し)される流れは止まらず、中国は自力更生、計画経済のスローガンに象徴される毛沢東路線回帰に寄っていきそうだ。

 中国のカリスマ民営企業家たちは、鄧小平の改革開放路線の一種の産物だ。中国経済のグローバル化の中で資金とチャンスを得て、共産党とも利益供与関係を結ぶことで、限定的な自由市場を手に入れて成長してきた。だがこの自由市場は、所詮、共産党が作ったが企業家の放牧場のようなものだ。共産党にしてみれば、牛や羊を肥え太らせ、ミルクや羊毛を収穫するように、企業家を育てていたに過ぎない。そこから利益を得て中国を世界第2の経済体にのし上げた。

 だが、習近平政権は、この大きくなりすぎた「改革開放牧場」をより厳密にコントロールするために、牛や羊を間引く作業に出始めた。大きく、従順でない企業から屠(ほふ)れば、その他の企業は大人しく党に従順になろう。だが、そのような党に従順で大人しい企業、あるいは企業家に中国経済を牽引していくパワーがあるのかどうか。その答えは、たぶんこの数年で現れてこよう。

【私の論評】経済に直接介入し、民主化せず、憲法は共産党の下では中国は経済発展しない(゚д゚)!

私は中国は「中進国の罠」に嵌ったので、これから停滞し続けるとこのブログに掲載しました。これについては、過去に何回か掲載させていただきました。そうして、これはマクロ的な見方で中国の停滞を予測したものであり、上の福島香織氏の記事は、これを裏付けるものだと思います。以下に、最近掲載した「中進国の罠」に関する記事のリンクを掲載します。
中国・習政権が直面する課題 香港とコロナで「戦略ミス」、経済目標も達成困難な状況 ―【私の論評】中国は今のままだと「中進国の罠」から逃れられず停滞し続ける(゚д゚)!

習近平
 
この記事は、今月10日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、まずは「中進国の罠」とはどのようなものかを示す部分を以下に引用します。
この「1万ドルの壁」とは、中進国の罠といわれるものです。中進国の罠とは、開発経済学における考え方です。定義に揺らぎはあるものの、新興国(途上国)の経済成長が進み、1人当たり所得が1万ドル(年収100万円程度)に達したあたりから、成長が鈍化・低迷することをいいます。
実質経済成長率と一人当たりGDPの推移(60年代以降):1万ドル前後で中所得国の罠に陥る国も

中国経済が中進国の罠を回避するには、個人の消費を増やさなければならないです。中国政府の本音は、リーマンショック後、一定期間の成長を投資によって支え、その間に個人消費の厚みを増すことでした。

ところが、リーマンマンショック後、中国の個人消費の伸び率の趨勢は低下しいています。リーマンショック後、中国GDPに占める個人消費の割合は30%台半ばから後半で推移しています。

昨年の個人消費の推移を見ても、固定資産投資の伸び率鈍化から景気が減速するにつれ、個人消費の伸び率鈍化が鮮明化しました。これは、投資効率の低下が、家計の可処分所得の減少や、その懸念上昇につながっていることを示しています。

現在、中国政府は個人消費を増やすために、自動車購入の補助金や減税の実施を重視しています。短期的に、消費刺激の効果が表れ、個人消費が上向くことはあるでしょう。ただ、長期的にその効果が続くとは考えにくいです。

この記事では、社会のあらゆる方面でイノベーションが起こらないことが「中進国の罠」にはまる原因だとしました。その部分を以下に引用します。

現在の中国が経済発展をして、中進国の罠から抜け出すためには、高橋洋一氏が上の記事で主張しているように、経済的な自由が必要です。

経済的な自由を確保するためには、「民主化」、「経済と政治の分離」、「法治国家化」が不可欠です。これがなければ、経済的な自由は確保できません。

逆にこれが保証されれば、何が起こるかといえば、経済的な中間層が多数輩出することになります。この中間層が、自由に社会・経済的活動を行い、社会に様々なイノベーションが起こることになります。

イノベーションというと、民間企業が新製品やサービスを生み出すことのみを考えがちですが、無論それだけではありません。様々な分野にイノベーションがあり、技術的イノベーションも含めてすべては社会を変革するものです。社会に変革をもたらさないイノベーションは失敗であり、イノベーションとは呼べません。改良・改善、もしくは単なる発明品や、珍奇な思考の集まりにすぎません。
   イノベーションの主体は企業だけではなく、社会のあらゆる組織によるもの
    ドラッカー氏は企業を例にとっただけのこと

そうしてこの真の意味でのイノベーションが富を生み出し、さらに多数の中間層を輩出し、これらがまた自由に社会経済活動をすることにより、イノベーションを起こすという好循環ができることになります。

この好循環を最初に獲得したのが、西欧であり、その後日本などの国々も獲得し、「中進国の罠」から抜け出たのです。そうしなければ、経済力をつけることとができず、それは国力や軍事力が他国、特に最初にそれを成し遂げた英国に比較して弱くなることを意味しました。

もちろん中国がイノベーションを行っていないというつもりはありません。中国もイノベーションは政治主導で行っています。

しかし、政治主導のイノベーションは社会全体からいえば、点のイノベーションに過ぎないのです。 中国共産党が、価値あると認めたイノベーションのみを実施しても、他の社会の様々な部分でイノベーションが起こらないと、社会の様々な部分であらゆるイノベーションが起こらないと、非合理、非効率な部分が残り経済の急速な発展は起こらないのです。

今日の先進国は、点のイノベーションから、面のイノベーション、さらに立体的なイノベーションが様々な社会の分野で起こり、様々なイノベーションが有機的に結合し、さらに爆発的なイノベーションを生み、社会の発展につれて新しいイノベーションが爆発的に起こり、それが経済発展に結びつき、今日に至っているのです。

たとえば、物流を考えると、小売業者だけがイノベーションを起こしても、卸業者、メーカーもそれに対応したイノベーションを起こさなければ、非効率や非合理が維持され、経済発展に結びつくことはないのです。

中国のように、軍事、人民監視、富裕層の資産形成等の分野に限ったイノベーションでは限りがあり、急激な経済発展にはつながらないのです。しかも、このイノベーションはそれぞれの社会にあったものにしなければなりません。

たとえば、発展途上国のアフリカの奥地の水道のない地域で、すぐに水道を敷設したり、他所から大量の水を運んでくることはできないですが、できないことを嘆くだけではなく水を運ぶ容器を工夫することでもイノベーションは起こせます。下の写真は水を運ぶ容器です。

円筒のプラスチックの容器の真ん中に穴をあけ、そこに紐を通して簡単に水を運べるようにしたものです。こうしたイノベーションでもこの地域の社会には非常に役に立っているのです。従来だと子供が一度に運べる水の量は限られていて、何度か水くみに行かなければなりませんでした。

しかし、この容器を使えば、一度に比較的楽に大量の水を運べ、従来水くみに時間をとられてて学校に行けなかったような子どもたちが学校に行ける時間の余裕を持てるようになったのです。このようなイノベーションは、その社会の実情を知っていなければできません。政府にはできません。その地域の実情を知りつつ、ある程度資金に余裕のある中間層が実施すべきものです。

このようなイノベーションが、これだけで終わることなく、社会の変化にあわせて起こり続けていけば、経済は発展し続けるのです。それを保証するのが、「民主化」、「政治と経済の分離」、「法治国家」なのです、逆にいえば、これを確保して、政府が社会を放置するのではなく、適切に社会の方向性を定めれば、政府がほとんど何をしなくても、多数の中間層が生まれ、彼らが爆発的なイノベーションが起こし、社会・経済が発展するのです。そうして、それが近代以降の政府の正しいありかたです。

私達の身の回りにも昔は使った物やサービスの中に、今は使われないものが結構あると思います。それは、社会のあらゆる場所でイノベーションが行われてきたことの証です。

社会のあらゆる部分でイノベーションが起こらないと、なぜ経済が発展しないのか、それは簡単に理解できます。

たとえば、政府がいくらイノベーションに力をいれても、政府には限界があります。明治維新において、政府は最初は現在の中国のように政府主導のイノベーションを行いましたが、その結果できあがつた金融機関や工場などを徐々に民間に移譲して、民間でイノベーションが起こるようにしました。

その裏付けとして憲法や法律も整備し法治国家化し、さらに経済に直接政府が関与しないことにしました。もし、それを実行しなかったとしたら、その後発展途上国のままだったでしょう。

近代的な役所ができあがり、近代的な軍隊ができあがっても、社会の様々な分野でイノベーションが起こらず、一般家庭にはいつまでも電気もない、まともな通信手段もない、近代的な教育も受けられないという状況であれば、経済発展しようもありません。

現代の中国も同じことです。大都市は一見現代的にもみえますが、その中にも多数の貧困層が存在し、一歩都市部を出れば未だ社会が遅れています。さらには、民衆に対する弾圧も未だに続いています。経済は未だに政府の厳しい統制下にあります。憲法は中国共産党の下に位置づけられています。この状況では社会に多数のイノベーションが起こることは期待できず、経済発展はできません。

上の福島香織氏の記事は、特に「政治と経済」の分離ができていない中国の現実を露呈したと思います。先進国なら、政府が民間企業の経営者に圧力をかけることなど許されることではありません。

民間企業の経営者が政府を批判するには、それなりの理由があります。たとえば政府の様々な規制が、当該企業にとって成長できないことの原因になることは、往々にしてありえることです。事業家の彼らからすれば、自らの事業に邪魔となる規制に関しては、批判するのが当たり前です。

これは、先進国では当たり前であり、これを批判したとしても、政府や特定の政府高官を批判しているとはみなされません。政府としても、その批判が妥当であると判断すれば、規制を撤廃したり、新たな法律を作ろうとしたりするだけの話です。

しかし「政治と経済の分離」が行われていない、中国では政府批判とみられて圧力をかけられたり、はなはだしい場合には逮捕されたり拘束されたりするのです。

上の記事で福島氏が述べているように、中国の民間企業家たちは、鄧小平の改革開放路線の一種の産物です。中国経済のグローバル化の中で資金とチャンスを得て、共産党とも利益供与関係を結ぶことで、限定的な自由市場を手に入れて成長してきたのです。

それを潰すような真似をするということは、自らイノベーションの芽を潰すことになります。これでは、中国で先進国のような社会のあらゆる分野で起こる、立体的イノベーションなど期待できません。それは、中国が「中進国の罠」から今後も抜けられないこと示しています。

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2020年11月18日水曜日

ロシアの脅威に北欧スウェーデンが選んだ軍拡の道―【私の論評】菅政権が財務省と戦う姿勢をみせなければ、経済も安保も安倍政権の域を出ないとみるべき(゚д゚)!

 ロシアの脅威に北欧スウェーデンが選んだ軍拡の道

岡崎研究所

 10月19日付の英Economist誌が「スウェーデンは、数十年間で最大の軍事力増強に着手した。理由はロシアである」との解説記事を掲載している。


 スウェーデンでは、10月14日に新国防法案が提出され、過去70年間で最大の軍拡を予定している。理由は、暗殺から侵略まで、ヨーロッパにおけるロシアの脅威が増し、スウェーデン人の対露警戒心が高まっているからである。

 近年、スウェーデンは、ロシアが領空と領海を頻繁に侵犯したとして非難してきた。それでスウェーデンは、NATO(北大西洋条約機構、注:スウェーデンは非加盟国)や、米国、他の北欧諸国と、軍事的関係を深めてきた。 

 新国防法案が成立すれば、国防予算を2021年~2025年の間に275億スウェーデン・クローネ(約31億ドル)増加することになる。これは、軍隊の50%増も賄う。軍隊は、正規兵の他、徴兵兵士、地元の予備役を含め9万人になる見通しである。

 冷戦終結後、徴兵制は10年前に廃止されたが、ロシアの脅威の高まりによって2017年に男女ともに復活した。スウェーデンの議会や国民から大きな反対はなかった。18歳以上の男女が年間8千人、徴兵される。また、上陸部隊がスカンジナビア最大の港、ゴーテンブルグに再び置かれることになる。

 民間防衛では、サイバーセキュリティ、電力網、および保健の分野のために、より多くの資金が投じられるだろう。

 スウェーデンは中立国であるが、ロシアの脅威を強く認識するに至り、軍拡路線にかじを切ったという興味深いエコノミスト誌の解説記事である。国際情勢全般に与える影響は大きくないが、ご紹介する。

 北欧は、ノルウェーがNATOの加盟国、フィンランドが親ロシア、そしてスウェーデンが中立国ということで微妙なバランスを保ちつつ、平和を維持してきた。が、ロシアの最近の動きがスウェーデンを刺激し、スウェーデンが脅威に対応する必要を感じ、軍拡しているということである。国防費を一挙に40%増にするのは予算に飛躍はないという中でかなり強い対応である。スイス、スウェーデンは武装中立国であるが、周辺の国に脅威を与えることはほぼない。

 ロシアは何の意図でスウェーデンの領海、領空を侵犯し、スウェーデンのような国の警戒心を高めているのか、理解できない。北方領土に軍を配備し、演習をして、日本から抗議されているのと同じような愚行ではないかと思われる。

 ロシアの経済は、いまやIMF(国際通貨基金)のGDP統計で韓国以下であり、かつ石油価格は新型コロナ・ウィルス、温暖化対策等で今後回復しそうにもない。プーチン大統領は国際的に大国として大きな役割を果たしているロシアを演出するために、シリアやリビアに進出し、ベネズエラに傭兵を出すなど、やりすぎている。こういうことは、ロシアの衰退につながると思われる。

【私の論評】菅政権が財務省と戦う姿勢をみせなければ、経済も安保も安倍政権の域を出ないとみるべき(゚д゚)!

さて、スウェーデンとロシアということになると、経済はどのくらなのかということになります。なぜか多くの日本人は、ロシアの経済を大きくみる傾向があります。等身大でみるべきでしょう。

実際どうなのでしょうか。2014年の数値では、関東圏とロシアはほぼ同じぐらいだったのですが、資源価格の下落により、ロシアの2015年の名目GDPは1兆3684億ドルとなり、中部と近畿を足した額(約1兆4015億ドル)に近い規模となりました。ロシアがアメリカに挑むのは、経済規模で言えば、中部と近畿でアメリカに経済競争をしかけるようなものなのかもしれません。

北海道と東北をあわせたくらいが、スウェーデンです。そのため、中部と近畿を足した程度のロシアのほうがGDPは大きいですが、それにしても何倍ということもないです。

これに関して興味のあるかたは、是非以下のサイトをご覧になってください。


この程度のロシアが軍事費では世界第4位の軍事費を資質しています。


しかし、ロシアは周辺を中国、日本などに囲まれ、日本などには米軍が存在するということで、今回スウェーデンが軍事費を大幅に増大することは意味のあることです。これで、ロシアに対してかなりの牽制になるでしょう。

では、日本はどうかといえば、できれば軍事費1%の枠など取り払い少なくとも2%にすべきです。2%にすれば、現状の2.5%から5%近くになり、インドより多くなります。なぜそのようなことを言うのか、日本と米国との関係から紐解いていきます。

トランプ大統領は台頭する中国に対決姿勢を示してきました。これに関しトランプの暴走との誤解があるようですが、実体は違います。トランプ大統領は議会で超党派を組んで中国と対決しています。

仮にバイデン政権になったとしても、温度差はあるでしょうが、方向性は変わらないでしょう。そもそも、米国民主党といえども、強すぎる中国は好まないです。

ただ全面的な対決姿勢かというと、トランプですら違いました。かつて、ロナルド・レーガンはソ連を潰すと宣言、自らの任期8年では果たせなかったのですが、後任のジョージ・ブッシュの時代に実現しました。

レーガンとブッシュは、景気回復を成し遂げた後、軍拡競争を挑み、国際協調体制による包囲網を構築、あらゆるインテリジェンスを駆使して、ソ連崩壊に導きました。 

では、今の中国が滅び際のソ連のような状態かと言えば、違います。習近平の共産党支配は強固であるし、経済力はアメリカに追い付け追い越せの世界第二位の実力、外交的にはむしろ攻勢をかけているほどです。

このような中国をすぐに捻り潰す力は、今の米国にはありません。ただ、様々な手段を用いて、かつてのソ連が崩壊して、現在のロシアのような状況にすることはできるでしょう。だからこそトランプは、中国に圧力をかけて、政治的経済的取引を有利に持ち込もうとしていたのです。

バイデンも、基本路線は変わらないでしょう。中国の方は、仲間があまりいないトランプよりも、国際協調による対中包囲網を実現しかねないバイデンこそ警戒しているともいわれています。もっとも中国は、それを黙って見ているほどお人よしではないでしょう。

さて、こうした流れの中で安倍外交はなにをやってきたのでしょうか。孤立するトランプの友達でいました。この場合の「友達」とは「仲良し」であって「仲間」ではありません。

「仲間」とは何かといえば、いざという時に、一緒に武器を持って戦う存在のことです。たとえば、英国は米国の政権が共和党だろうが民主党だろうが、米国の戦いには兵を派遣して戦ってきました。もちろん、時に独自の判断で米国についていかない時もありますが、「原則として一緒に戦う仲間」です。

「仲間」とは、場合によっては対立する場合もありますが、その対立を超えて結びつくものです。「仲良し」とは根本的に異なります。

翻って安倍外交はどうだったのでしょうか。トランプは、日本に対等の同盟国にならないかと持ち掛けてきました。その為に自主防衛を容認する発言をしました。ところが安倍首相は早々に拒否しました。

軍事抜きの外交を選んだのです。確かに孤立するトランプは日本を無下にすることはできませんでした。しかし、それが日本の国益となったでしょうか。安倍政権は結局日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる勢力と戦うのを回避したのです。

 では、日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる勢力とは誰でしょうか。国内においては最大の勢力は財務省です。テレビ局や野党などは、大したものではありません。彼らは、財務省の走狗であるに過ぎません。そうして、現在の財務省は財布の紐を締めることだけが仕事です。

マクロ経済も理解せず、経済を発展させて、税収を増やすなどということは眼中になく、悪すぎる頭で国家の財政をまるで家計のように考えています。そうして、国家予算つまり国の支出は、大半が福祉と地方へのバラマキに消えています。

そのバラマキを支える為に財務省は増税と緊縮財政に走っています。そんな中で、防衛費は額が大きくて抵抗力が小さいです。福祉や土木を削ろうものなら族議員から業界団体までが束になって抵抗してくるのですが、防衛に関心を持つ国民や政治家は少ないです。財務省には「防衛費を削れなければ、何を削るか」という頭しかないのです。経済を発展させるという考えは全くありません。日本が、中国の脅威にさらされているという現実も無視です。

そうはいっても、財務省は様々な手をつかい、政治家、官僚、マスコミを籠絡したため、安倍政権に限らず歴代の政権が財務省と対峙できなかったのも事実です。民主党の野田政権などその最たるものです。野田政権は財務省なしでは何もできない情けない政権だったと、渡辺喜美氏が喝破していました。財務省の意向に逆らい、増税を二度も延期した政権は安倍政権がはじめです。それだけ、財務省の権力は強大なのてす。歴代の政権が、少なくと安倍政権と同程度抵抗し続けていれば、日本は今頃もっとまともな国になっていたと思います。

かつてバイデンは日本の憲法はわれわれが書いたと発言していた

今までの歴代米国旗大統領は、強い日本を本質的に忌避し、首輪をつけた状態に置きました。では、それが今後の米国の国益になるのでしょうか。バイデンがは「弱い日本」を首輪につないでおきたいのでしょうか、それとも「自立した強い日本」を望むのでしょうか。我が国は、後者こそが日本だけでなく米国の国益になるのだと説得すべきでしょう。

そして強い日本となるには裏付けが必要です。安倍内閣のGDP0.95%の防衛費では合格最低点に達していません。平時で2%が標準でしょう。本気で中国を潰すなどと考えるなら、7%も視野に入れなければならないでしょう。

ただ、精神論だけ言っても裏付けが無ければ意味がありません。では、その防衛費を増額させる財源はどこからひねり出せば良いのでしょうか。 経済成長以外にありえないです。安倍内閣は8年も政権を独占しながら、雇用は回復したものの、景気回復自体は達成できませんでした。
それどころか2度の消費増税により景気回復を腰折れさせていたところに、現在のコロナ禍です。

今でこそ巨額の給付により国民経済は何とか支えられていますが、ではいつまでこれを続けるのでしょうか。財務省やその走狗たちが、言うよりははるかに持ちこたえられます。しかし、いつまでもとはいきません。それとて、今すぐ金融緩和をやめてしまえば、リーマンショック以上の大不況が押し寄せてくることになります。

コロナ禍を収拾、そして景気回復を成し遂げなければ、外交などできはしません。古い格言に「外交と軍事は車の両輪」とある。軍事抜きの外交など、発言力は十分の一です。

もし菅内閣が本気で外交をやるならば、防衛費GDP2%程度の軍事力を持たねば話にならないですし、その為にはコロナ禍とデフレ経済を早々に退治しなければ、軍事力の裏付けとなる経済力が回復しないです。

米中対立の中で、我が国の選択肢は二つしかありません。一つは翻弄され続けるだけの存在。もう一つは自分の力で生きる国となることです。

この記事の冒頭で示したように、日本の経済力は未だ侮れません。ただ、それは他国に比較すれば人口が多いということで、国全体ではGDPが比較的大きいということです。その日本は、財務省の緊縮一辺倒の姿勢、過去の日銀の金融引締一辺倒の姿勢により、今日経済が落ち込み、一人あたりのGDPが韓国を下回る程の水準に落ち込みました。

これは、ありえないことです。金融緩和をせずに、最低賃金だけをあげるという明らかな間違いをした文在寅大統領の韓国に負けているのです。それだけ、日本が過去に、特に平成年間のほとんどの期間において、誤った財政政策、金融政策をしてきたことは、日本を凋落させたのです。

この体たらくは、一重に財務省の財政政策と、日銀の金融政策が根本的に間違っていたからです。国民のせいではありません。財務省や日銀さえ、間違った政策を繰り返さなければ、日本のGDPはもっと大きく、一人あたりで韓国に追い越されるなどという悪夢のようなことはなかったでしょう。

ただし、現在の韓国は金融政策に失敗して、雇用は最悪の状態となっており、日本の最近の経済対策は雇用を良くしたということでは合格点だったといえます。実際、雇用が悪化しなければ、経済対策はうまくいったというのが、まともな経済アナリストの見方です。


菅政権としては、財務省を有名無実にして、金融政策のなんたるかが全くわかっていない日銀官僚も有名無実にして、まずは経済を立て直し、一日もはやく軍事費を最低2%にして、日本の国力の増強に努めるべきです。

スウェーデンですら、ロシアに翻弄され続けることを潔しとせず、軍事費を大幅に増強するのですから、中国に翻弄され続けることになりかねない日本も最低でも2%にすべきです。そのためには菅政権は日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる最大勢力であるマクロ経済に疎い財務省と戦う姿勢を貫くべきです。そうして、国民経済を良くして、防衛費も拡張すべきです。日本はそれができるだけの十分な潜在能力があります。

菅政権が財務省と戦う姿勢をみせなければ、結局経済も安全保障も安倍政権の域を出ないとみるべきでしょう。そうして、長期政権にもなり得ないでしょう。

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2020年11月17日火曜日

コロナ不況による年末倒産阻止へ“40兆円”規模の投入が必要 「GoTo」「消費減税」「給付金」で財政政策を 識者「現金配布が重要」―【私の論評】危急存亡の今こそ積極財政や金融緩和策を実行しないことこそが、将来世代の大きなつけとなる(゚д゚)!

 コロナ不況による年末倒産阻止へ“40兆円”規模の投入が必要 「GoTo」「消費減税」「給付金」で財政政策を 識者「現金配布が重要」



 今年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は4四半期ぶりのプラス成長となった。見かけ上は年率換算で前期比21・4%という記録的な高成長だったが、コロナ禍の戦後最悪級の落ち込みからの戻りは鈍く、景気回復にはほど遠いのが実情だ。このままでは年末から年明け以降、失業や倒産が激増する懸念もある。専門家は、消費税の減税や毎週1万円もらえる給付金の導入のほか、雇用調整助成金や「Go To」キャンペーンの継続が必要だと訴える。


 21・4%という成長率は、バブル期の1989年10~12月期に記録した12・0%増を超え、比較可能な80年以降で最も高くなった。とはいえ、これは四半期の成長率が1年間続いたと仮定した年率換算で、コロナ禍のように特殊要因があった場合、ブレが生じやすい。前期比5・0%増という数字のほうが実情を反映しているといえる。

 上武大の田中秀臣教授は、「4~6月期の落ち込みが深かった分、経済再開と補正予算が効いてきたと思う。ただ、落ち込み自体は諸外国に比較してそれほどでもなかったにもかかわらず、欧米に比べ、リカバリー(回復)の弱さは鮮明だ」と苦言を呈する。

 実質GDPの実額をみると、1~3月期に526兆円だったのが、緊急事態宣言が出ていた4~6月期には483兆円と約43兆円落ち込んだ。今回の7~9月期は507兆円と24兆円増えたものの、戻りは約半分程度に過ぎないことが分かる。

 7~9月期はGDPの過半を占める個人消費が前期比4・7%増となり、牽引(けんいん)役となった。緊急事態宣言が5月下旬に全面解除され、全国民に配った特別定額給付金10万円や、7月にスタートした「GoToトラベル」などの政策が結果に反映されている。

 コロナ感染「第3波」が襲来し、「GoTo」を中止すべきだとの声もあるが、田中氏は「『GoTo』をやめるのは愚論だ。家計調査でも、宿泊費やパックの旅行代金の支出がコロナ前の5割強~6割まで戻ってきており、続けなければいけないのは明らかだ。『GoToトラベル』で感染拡大したという実証的根拠もないので、3密を回避し、ターゲットを絞った対策を拡充する方が旅客業や飲食業にプラスになる」と反論する。

休日の表参道ではマスク姿で多くの人々が行き交っていた=15日午後

 10~12月期は消費を下支えした給付金の「10万円」効果が薄れるほか、輸出も欧米のコロナ感染再拡大で伸び悩む恐れもある。そして国内の雇用情勢も懸念材料だ。

 田中氏は、大規模な第3次補正予算の編成による財政支出が待ったなしだと力説する。

 「コロナ前に2・4%だった完全失業率は3・0%まで上昇している。失業率の上下動とGDPの変化が連動する法則を基にすると、失業率1%の悪化でGDPは8%相当低下し、金額では43兆円の損失になる。第3次補正予算は40兆円規模の財政政策が必要だ」

 企業も厳しい状況が続く。企業の信用情報に詳しい東京経済情報部副部長の森田幸典氏は「現状では倒産ラッシュにはなっていないが、小規模零細の飲食店の廃業や倒産は確実に増えている。建設業もコロナ禍の前に得られた受注をやっているだけで、中小零細の建設業は足元で受注が減ってきている。将来を悲観して廃業する経営者も出てきている」と明かす。

 雇用調整助成金の期限となっている年末が企業の正念場となる。森田氏は「休業支援金や雇用調整助成金で倒産は抑えられているが、体力があった企業も借り入れが増えている。延長を『絶対してほしい』との声も多い。息切れのような形で12月に倒産や廃業などが増えるだろう」との見通しを語る。

 前出の田中氏は、個人にも企業にも、とにかくお金を配ることが重要だと強調した。

 「欧米のデータでも持続的な家計支援が効果を発揮しており、消費税の減税や、感染収束まで1人当たり週1万円の支給を続ける定額給付金も検討すべきだ。雇用調整助成金や持続化給付金など、企業への支援も青天井にするぐらいの構えも必要だ。借り入れ依存の枠組みでは企業や個人も借金漬けから抜け出せなくなり、長期停滞の原因になりかねない。現金を配り、持続的にお金を使える枠組みにすべきだ」

【私の論評】危急存亡の今こそ積極財政や金融緩和策を実行しないことこそが、将来世代の大きなつけとなる(゚д゚)!

7月〜9月のGDPの伸びに関しては、以下の高橋洋一氏が作成したグラフをご覧いただければ、どのくらいのものかよくお分かりいただけると思います。


7-9月期は過去最高の伸び率を実現しているのですが、1年前の水準と比較すると35兆円も乖離しています。上の記事にもあるように、緊急事態宣言が出ていた4~6月期には483兆円と約43兆円落ち込みました。今回の7~9月期は507兆円と24兆円増えたものの、戻りは約半分程度に過ぎないことが分かります。

新型コロナ禍による経済不況が普通の不況と違うのは、その悪化のスピードがかなり速いことです。この経済環境の悪化の速さが、多くの国民や事業者に社会的な不安をまきおこし、メンタルヘルスの毀損や自殺者さえも増加させているのです。 

そして最も不都合な点は、雇用の悪化のスピードほどには、経済の回復の速度が追いつかないということが十分考えられるということです。

そのため、目の前では、冒頭の記事にもあるように、様々な対策を迅速に行う必要があります。

ただし、様々な財政出動を行えば、財政が逼迫とい人もいますが、現在の日本の状況そんなことはありません。MTT論者いうように、何の制限もなく、青天井の財政政策による対策を行えば、いずれかの時点でインフレになり大変なことになりますが、上で述べた程度か、それよりも大きい規模で行っても何も不都合は起こりません。

従来は政府債務を減らさないと財政破綻すると騒いできた国内の政官財学界、メディアの多数派が今回は積極財政に関して沈黙しています。現状をみれば、緊縮財政どころではないとは小学生でもわかる真実だから、自粛しているのでしょうかか。いや、そうではないでしょう。そもそもデフレの国で財政破綻が起きるという理論そのものが机上の空論だからです。

「財政破綻」とは市場で信認を喪失した国債の相場が暴落、即ち国債金利が高騰することです。近年では2012年のギリシャが典型例で、10年物国債利回りは30%近くまで上がりました。

しかしギリシャはEUに属しているため自国通貨を持たないうえに、国債の大半を外国の投資家に買ってもらっていました。ユーロ不安が起きれば、信用度を表す格付けが低いギリシャ国債は投機勢力によって真っ先に売られるのは必然でした。しかも自前の発券銀行はないのですから、日米のようにカネを刷って国債を買い支えることもできないのです。

そんなギリシャや、中南米の財政、通貨不安常習国のケースを、日本に当てはめるというのはもともと無茶です。

グラフを見ましょう。コロナがもたらすデフレ不況阻止に向け、大規模な国債追加発行を繰り出している米欧の国債金利はコロナ・パンデミック(世界的大流行)勃発後、下がる基調にあります。市場は先行き予想で動きます。政府債務の膨張見通しが財政破綻の症状である国債金利高騰にならないことは明白です。
慢性デフレでカネ余りがひどい日本の場合、金融機関の国債需要が旺盛で、買い手が金利を払う羽目になるマイナス金利でも買ってしまうのです。これは、おそらく外債を買ったり、外国に金を預けたりすれば、為替リスクがあり、それよりは日本の国債のほうがよほど安全だからでしょう。

安全でなければ、外債を購入したり、外国に大量に資産を預けるはずです。そうしないで、日本国債を購入するのはバカ真似と謗られるはずです。

政府が仮に100兆円規模で国債を発行しても、日銀が現状の国債購入にとどめても、金利ゼロで推移するでしょう。

そうして、それをかなり上回る国債を発行して、危険なゾーンに入り込んだときには、国債の金利が間違いなく跳ね上がります。跳ね上がらない限り、いくら国債を発行しても、財政は破綻しないですから、国債を発行しすぎるリスクなどないのです。仮にそのようなリスクが発生したとすれば、国債発行をやめて、国債を日銀がすぐ買い戻せば良いだけの話です。

それに、他の指標もあります。日銀の物価目標2%がありますが、これを誤解している人もいて、2%にならないのがおかしいという珍妙なことをいいますが、これは2%以下であれば、良いという指標です。

いくら日銀が金融緩和をしても2%以上にならなければ良いという指標です。2%を超えればインフレになるので、緩和政策をやめよという指標です。

これも簡単な指標です。以上、国債の金利がはねあがる、物価目標の2%が超えない限り、政府がいくら国債を発行して、積極財政をしても、日銀が緩和政策を実行しても、日本経済には何ら不都合はおきません。この指標超えて、国債を発行し続けたり、日銀が緩和を続ければインフレになります。

しばらく前に、滑稽な「岩石理論」というのがありましたが、緩和を拡大していくと、当然、引き締めなければならない時がきます。その時には、拡大させたマネタリーベースを縮小させなければならないのですが、あまりにも拡大したマネタリーベースを縮小するには危険が伴うというのです。景気の過熱を抑えるために国債を売却するとすれば、金利はさらに高騰する。これが、経済を混乱に陥らせるというのです。

要するに、緩和をやりすぎると、岩石が転がり落ちるのを止められないのと同じく、経済の混乱がとめられなくなというのです。しかし、実際そのようなことはありませんでしたし、これからもそのようなことはないでしょう。実際、現在までの緩和や国債の発行で、物価目標2%には達しませんでしたし、国債のマイナス金利傾向は変わりませんでした。

そもそもコロナ禍による軽座の悪化の速度はかなり速いので、経済の回復の速度が追いつかないことは十分に考えられますから、岩石理論などで、緩和を抑制するなどのことは大きな間違いです。仮にやりすぎたら、止めば良いだけです。

コロナ禍による経済の悪化と比較すれば、通常の経済の悪化ははるかに緩慢なものです。実際、あのバブルの象徴で有名なジュリアナ東京も、バブルが崩壊した後に設立されました。気ついたときに、積極財政をやめ緊縮財政に切り替えたり、緩和をやめて緊縮に転ずれば、確実に制御できます。

要するに、いくら国債を発行しても、国債金利が上がらない限り、日銀が金融緩和をしても、物価目標2%を超えない限り、日本経済には何の悪影響もないし、ましてや将来世代のつけにもならないということです。

これに反論する方は、ぜひとも当ブログに質問のメッセージを送ってください。まかりまちがって、あなたの理論が正しいければ、ノーベル経済学賞がとれる可能性があります。そういう才能を埋もれさせたくないので、是非ご連絡ください。

とくにかく「岩石理論」などの珍奇な理論で、財政が破綻するなどという人の意見などを聞いているほど、日本経済は余裕はありません。すぐにでも、冒頭の記事にあるような対策を実行すべきです。

危急存亡の現在これをやらないで、日本経済を毀損すれば、それこそ将来世代に対して申し訳がたちません。今こそ、戦後最大の経済対策のやりどきです。現在積極財政や緩和策を実行しないことこそが、将来世代の大きなつけ回しとなります。

いまそれをやらないということは、他国から攻撃を受けたときに、本当はそうではないのに、屁理屈をつけて財政が赤字になるから、防衛戦争をしないと言っているのと同じような売国行為ともいえます。

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2020年11月16日月曜日

中国、「戦争準備」本格化 制服組トップ、態勢転換に言及 台湾などの緊張にらむ―【私の論評】中国の「戦争準備」発言は国内向けの政治メッセージだが、弱みをみせてはならない(゚д゚)!

 中国、「戦争準備」本格化 制服組トップ、態勢転換に言及 台湾などの緊張にらむ



制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席

 中国で先月下旬に開かれた重要会議を受け、中国軍が「戦争準備」の動きを強めている。

  制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席は「能動的な戦争立案」に言及。習近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、米国の新政権発足後も台湾や南シナ海をめぐる緊張が続くと予想し「戦って勝てる軍隊」の実現を目指しているもようだ。

  10月下旬に開かれた共産党の第19期中央委員会第5回総会(5中総会)は、軍創設100年を迎える2027年に合わせた「奮闘目標の実現」を掲げた。目標の具体的内容は明らかではないが、5中総会は「戦争に備えた訓練の全面的強化」を確認した。

  これに関連し、許氏は今月上旬に発行された5中総会の解説書で「受動的な戦争適応から能動的な戦争立案への(態勢)転換を加速する」と訴え、中国軍が積極的に戦争に関与していく方針を示唆した。

  国営新華社通信によると、陸海空軍などによる統合作戦の指揮、作戦行動などに関する軍の要綱が7日に施行された。要綱は軍の統合運用を重視する習氏の意向を反映したもので、新華社は「戦争準備の動きを強化する」と伝えた。党機関紙・人民日報系の環球時報英語版(電子版)は、今後の軍事演習では、敵国の空母による南シナ海や台湾海峡の航行阻止を想定し、海軍の潜水艦、空軍の偵察機や戦闘機、ロケット軍の対艦弾道ミサイルが動員されることになりそうだと報じた。 

 また、人工知能(AI)などの新技術を使い米軍に勝る兵器を開発するため、軍と民間企業が連携する「軍民融合」がさらに強化される見通しだ。5中総会で採択された基本方針には「軍民の結束強化」を明記。5中総会解説書は「国防工業と科学技術の管理で軍民が分離している状況が見られる」と指摘し、国家ぐるみの兵器開発体制の促進を求めた。 

中国は、米国が必ずや中国の発展を妨害すると考え、軍備増強を行ってきました。中国に対する攻撃を米国に思い止まらせるため、米国に対する抑止力を確立しようと戦略核兵器を増強し、米国の接近を阻むために、INF全廃条約によって米国が保有することができなかった戦域核兵器を開発し、海軍力を増強して海上優勢を拡大しようと行動してきました。

INF全廃条約の失効によって米国が中距離核兵器を保有すると、中距離核兵力における中国の優位は失われかねないです。そのため、中国は核戦略の見直しを迫られているとも言われ、戦略核兵器を含めて全てのレベルで米国と対等の抑止力の構築を求める可能性があります。

 中国にとって、米国の妨害を排除するのは当然のことであり、そのために東シナ海、台湾周辺海域、南シナ海における状況を変化させるのは正当なことなのです。一方の米国にとっては、中国の軍事行動が自らに対する挑戦と認識され、これを抑え込むことが正当化されます。異なる「正義」を掲げる両国間の衝突は避けられないようにも思えます。

しかし、米中両国は実際に軍事衝突する意図を持たず、あらゆる政治的手段を攻撃的に用いる「政治戦」を戦っています。政治的手段には、対象国周辺で軍事演習や哨戒を実施する等、軍事衝突に至らない軍事力の攻撃的使用も含まれます。実際に戦闘を起こさないのであるから、米中何れが優勢であるのかは各国の認識によります。

そして各国はその認識に基づいて行動します。中国は、空母機動部隊の行動拡大によって、第二列島線までの海域を中国海軍がコントロールしていると認識する可能性があります。また中国は、米国の軍事力が第一列島線まで及ばないと認識すれば、台湾に対する圧力も高めると考えられます。

西太平洋におけるパワーバランスは米中の相互作用によって決定されます。これまで同海域でプレゼンスを示してきた米海軍が、コロナ危機の影響で行動を停滞させると、中国海軍の行動が突出して目立つようになりました。

実際には中国海軍は、コロナ危機以前から、計画どおりに影響力の及ぶ地理的空間を拡大すべく、行動をエスカレートさせてきました。2008年11月に駆逐艦等4隻が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に入って以降、中国艦隊は第一列島線を越えて活発に行動するようになり、2009年4月には呉勝利海軍司令員(当時)が海軍の遠洋訓練を常態化すると宣言しました。特に、2012年9月に中国初の空母「遼寧」を就役させてから、中国では自信を示す発言が増えています。

一方で、艦載戦闘機もその搭乗員も不足している中国空母の作戦能力は限定的です。国防費の伸び率も人民解放軍が計画どおりに軍備増強を進めるためには不足だと考えられるかもしれません。しかし、中国は目標を達成するまで、軍備増強を放棄することも行動のエスカレートを止めることもありません。

中国は3隻目の空母を建造中であり、艦載機も開発しています。また、搭乗員の不足を補うためもあって、AIを用いた自律型の偵察攻撃無人航空機(UAV)も積極的に開発しています。中国は、武器使用のための意思決定のループに人間の存在が必要だと考える欧米諸国とは異なる価値観を有しています。

軍民融合の号令の下、国防費には含まれない、民間企業のICT、AI、IoT技術開発も武器装備品開発に組込まれ、躊躇なく完全自律型兵器を配備していくと考えられます。

公表される中国の国防費の伸び率は政治的メッセージに過ぎない可能性もありますが、コロナ危機による中国経済の落ち込みを考えれば、人民解放軍が望むとおりの予算を得ることは難しいです。それでも中国は、計画どおりに軍備増強と行動拡大を進めていると示さなければならないです。

その結果、中国が軍事的にコントロールしていると認識する地理的空間においては、その認識を覆すために、米海軍はより大きな軍事的圧力をかけなければならなくなるでしょう。そうなれば、予期せぬ軍事衝突が発生する可能性も高くなります。
 
日本や米国にとって重要なことは、「力の空白」が生じたと中国が認識し、軍事行動をエスカレートさせるのを防止することです。米国と中国の差異は、信頼できる同盟国の有無です。米海軍が十分に行動できないのであれば、日本や豪州といった同盟国がその不足を補わなければならないです。対象国の認識を変えるには、行動を通して自らの意思を示すほかないのです。

【私の論評】中国の「戦争準備」発言は国内向けの政治メッセージだが、弱みをみせてはならない(゚д゚)!

中国が強硬な発言をするのは今に始まったことではありません。「武力行使は放棄しない。それは外部勢力の干渉(台湾有事の際の米軍=日米同盟の台湾支援を指す)と台湾独立分子に向けたものだ」と中国国家主席の習近平が放言し、世界の反感を買ったのは今年初めでしたが、それに先立つ昨年末、中国タカ派のスポークスマン的存在として有名な退役少々将官の羅援も、いつもながらの物騒、過激なコメントで物議を醸していました。

いわく、「中国は非対称戦で米国に反撃すればいい。我方の長所を用いて敵の短所を攻めるのだ。敵が怖がることを我方がやればいい。敵の弱い領域で我方は発展をすればいい。米国が最も恐れるのは人が死ぬこと。だから米国の空母を二隻沈めて一万人ほど死傷させればいい。それで米国は怖がるだろう」と。

羅援

羅援の他にも退役上校の戴旭など対外強硬、好戦的な発言で周辺国を脅し続ける「スポークスマン」は色々いますが(この二人は尖閣諸島問題に関し、東京空襲を訴える発言も)、今回の制服組トップの許其亮を含め、なぜ彼らはいつもそんなに勇ましいのでしょうか。本当に彼らが自信満々でいられるほど、人民解放軍は強いのでしょうか。

十年以上も前だが、当時の石原慎太郎東京都知事がワシントンでの講演で、「米国はイラクで米兵が二千人死ぬだけで大騒ぎするが、生命に対する価値観が全くない中国は憂いなしに戦争を始めることが出来る。戦渦が拡大すればするほど生命の価値にこだわる米国は勝てない」と話して話題になりました。こういう話も、羅援は参考にしているのかもしれないです。

たしかに中国では、政治的にも社会的にも、米国ほど人の生命は尊重されません。しかしそれを以って中国は勇敢(蛮勇か)で米国は臆病だとは断言できません。そもそも米軍が臆病な軍隊だと思う者は世界でどれだけいるでしょう。

それに米国は今でも戦争していて、犠牲者も出しています。最近アマゾン・プライムビデオで「Taking Chance 戦場の送り人」という映画をみました。これは、ある米軍の将官が、戦死者を家族の下に送り届ける使命を遂行する過程を淡々と描いたものです。以下にその予告編を掲載しておきます。



主演は、ケビン・ベーコンです。実話をもとにして描かれた映画です。派手さは、一切ないですが、戦争で犠牲になった兵士が、現地から家族の元に送られる様を遺体を届ける将官の目を通して描かれています。この役はケビン・ベーコンのはまり役だったと思います。かなり良い味をだしていました。

このようなことを日常的に経験している米国では、とても許其亮、羅援のような発言ができるような雰囲気ではありません。そのような発言をすれば、糾弾されるでしょう。

大東亜戦争中の日本軍の中には、米軍将兵は個人主義だから、自分達より臆病だとは感じていた人も多いようです。しかし当時の「リメンバー・パールハーバー」の合言葉に代表される米人の日本に対する復仇心、敵愾心はただごとでなく、最終的には忠烈無比の日本軍を降伏へと追いやっています。物量だけで勝ったのではなく、愛国心も旺盛だったのです。そして今や米軍は世界中が束になってかかっても倒せないほど強大になっています。

それに比べてあの頃の中国軍には、その愛国心が何より欠如していたと思います。

孫文が「砂を撒いたような民族」と称したように、中国人は伝統的に個人的利益しか念頭になく、愛国心、団結心に著しく欠けているようです。そのため国民党軍は日本軍には連戦連敗しました。いや敗れる以前に戦いを避けて逃げ回ったといったところかもしれません。そしてついには奥地に引き籠り、漁夫の利を得ようと米国が日本に勝つのをじっと待ったのです。

死ぬのを極度に恐れたといっても良いでしょう。それは当時の日本の将兵が戦地で抱いた共通認識でもありました。八路軍(共産軍)に至っては、日本軍と一度も戦ったことはありません。ひたすら国民党軍と日本軍から逃げ回っていたというのが実情です。

フィメールソルジャー 八路軍 衛生兵 1/6 アクションフィギュア


日本軍と、国民党軍が戦い国民党軍が弱ったとみると、八路軍は国民党軍と戦い、日本が戦争に負けて中国からひきあげると、国民党軍との戦いを本格化させ、最終的に戦いに勝って建国されたのが現在の中華人民共和国です。後に毛沢東は日本軍が国民党軍と戦ってくれたからこそ、我々は勝利を収めることができたと語っていたとされています。

それでは現代の解放軍はどうなのでしょうか。あのころに比べ、その民族性は変わったのでしょうか。

台湾の銘伝大学の林穎佑助教授によると、羅援らタカ派がよく見せる過激な発言は、必ずしも国際情勢に合わず、時には中国の利益にも反するものですが、ただその主要目的は国内宣伝にあるといいます。

政権の対外強硬姿勢を見せなければ、怒りを沸騰させる愛国ネットユーザーに対処できないというのです。そしてそうした怒りを、特に解放軍には向かわせたくないとの切実な思いも働いているようです。

なぜなら今の解放軍は「為人民服務」(人民のために奉仕する)の理念を忘れ、「為人民幣服務」(人民元稼ぎのため奉仕する)という腐敗堕落の状態にあるからです。それに、元々人民解放軍は他国にみられる普通の軍隊ではありません。

人民解放軍は中国共産党に属しており、人民のための軍隊ではないのです。しかも、日本でいえば商社のような存在で、様々なビジネスを実施しています。国民の間で「こんな軍隊で戦えるのか」との不信感が高まっており、それを払拭するのが狙いのようです。

つまり人民解放軍の体質も昔のままなのです。愛国心の欠落は変わっていないと見てよさそうです。かつての中国人も今日のタカ派と同様、大言壮語が大好きで、過剰な反日言動で日本人を「暴支膺懲」へと駆り出させたのですが、いざ戦いが始まれば三十六計逃げるに如かず状況に陥ってしまいました。現在の人民解放軍も国より自分の生命と財産が大切なら、やはり戦えないのではないでしょうか。

民衆にしてもやはり昔のままで「砂を撒いたような」ものでしょう。愛国教育が強化され、人々は外国への敵愾心を抱くことは学んでも、しかし国のために自ら戦いたいと願う者はどれだけいるのでしょうか。

一人っ子政策の下、子供は軟弱になりますます戦いに耐えられず、親も子供だけは戦地に送りたくない。もし戦争が始まれば、民衆の怒りは外敵より政権に向かって暴動が繰り返され、それだけで政権の危機となりかねないです。

「人が死ぬのを最も恐れる」のは米国ではなく中国なのです。これだけを考えても、中国タカ派の強硬発言に一々過敏に反応する必要はないことがわかります。

いやそれよりも、過剰な反応は禁物なのだと思います。

なぜなら向こうは、臆病ゆえに強さを誇示したがる民族です。相手が少しでもアタフタして弱さを見せると、後先考えずに突いてくる可能性が高いです。羅援も「敵が怖がることを我方がやればいい」と叫ぶのも、そうした臆病者心理の反映かもしれません。

かつて台湾の李登輝総統は「軟らかい土を深く掘る」と中国の民族性を説明しましたが、とにかく「軟らかさ」(弱さ)を見せないことが肝要です。

本日は、上のニュース以外にも驚くべきニュースが舞い込んでいます。

河野克俊前統合幕僚長は16日、東京都内で講演し、旧民主党の野田佳彦政権を念頭に、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の周辺海域に中国海軍の艦艇が接近した場合は「海上自衛隊の護衛艦は『相手を刺激しないように見えないところにいろ』と(官邸に)いわれた」と明かしました。野田政権が平成24年9月に尖閣諸島を国有化した当時、日中の緊張関係が高まっており、中国側に配慮した措置とみられます。

中国軍の艦艇は通常、中国海警局の巡視船が尖閣周辺を航行する際、尖閣から約90キロ北東の北緯27度線の北側海域に展開します。これに対して、海自の護衛艦は不測の事態に備え、27度線の南側で中国軍艦艇を警戒監視しています。

河野氏は「安倍晋三政権では『何をやっているのか。とにかく見えるところまで出せ』といわれ、方針転換しました。今ではマンツーマンでついている」と語りました。自民党の長島昭久衆院議員のパーティーで明かしました。

これでは、中国側にわざわざ弱みをみせるようなものです。どうせ尖閣諸島付近の海域に行っても、日本は中国との紛争になることを恐れて軍艦を出してこないから、何をやっても自由だと解釈するに違いありません。だからこそ、最近でも中国の艦艇による傍若無人な行動が繰り返されるのです。

日本としても、守勢にまわっていだけではなく、中国側に一度底知れない恐怖を味あわせたほうが良いと思います。そうして、日本はそれを十分にできます。

たとえば、中国は日本の潜水艦を哨戒する能力がありませんから、潜水艦からいきなり何かを発射するようなデモンストレーションをして。中国艦艇をパニックに追い込むなどの手もあります。破壊を伴うものではなくても良いですから、中国が探知できない潜水艦がこの水域にもいて、中国の艦艇に標準をあわせていることを周知させるような内容のものが良いと思います。

ただし、中国海軍はそれを自覚しているからこそ、傍若無人な振る舞いをしても、尖閣を占領しようとしません。よって今でも、中国海軍は本来なら今年中に第二列島線を傘下に収めるはずなのに、尖閣諸島を含む第一列島線すら中国の傘下におさめていません。

なぜかといえば、尖閣を占領しても、中国側が探知できない日本の潜水艦が尖閣諸島を包囲してしまえば、中国側の艦艇や航空機はことごとく破壊されてしまい、補給ができずに、尖閣の上陸部隊がお手上げになってしまうのが見えているからです。日本の潜水艦隊の創設は間違いなく安全保障にも功を奏していると思います。

許其亮の今回の「戦争準備」発言も、国内向けの「政治メッセージ」と見たほうが良いでしょう。ただし、これに対して弱みをみせてはいけません。そうすれば、かつて尖閣で日本の護衛船を中国艦艇から見えない位置に後退させた後に中国軍の傍若無人な振る舞いを助長させたようなことが再び起こることになります。

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2020年11月15日日曜日

RCEP、91%関税撤廃 世界最大の自由貿易圏に―中韓と初の協定・15カ国署名―【私の論評】ASEAN諸国の取り込みを巡って、日中の静かな戦いが始まった(゚д゚)!

 RCEP、91%関税撤廃 世界最大の自由貿易圏に―中韓と初の協定・15カ国署名


 日本と中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など15カ国は15日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉に合意、署名した。世界経済・貿易の3割を占める最大規模の自由貿易圏が誕生する。工業製品を中心に全体の関税撤廃率は91%に上る。日本はRCEPでアジアの広い地域に自由貿易を拡大し、経済成長の足掛かりとする考えだ。

 日本にとっては、中韓両国と初めて結ぶ経済連携協定(EPA)となる。貿易額で見ると、中国は最大、韓国は第3位の相手国。また、ASEAN各国には日本の自動車メーカーなどが多数進出しており、完成車や部品の関税がアジア広域で撤廃・削減されれば企業の国際展開に追い風となりそうだ。協定が発効すれば日本の貿易額に占めるEPA締結国の割合は8割弱となり、主要国で最高水準となる。

 RCEP15カ国の首脳は15日昼すぎからテレビ会議形式の会合を開き、日本からは菅義偉首相が参加。会合後に公表した共同首脳声明で「世界の貿易および投資ルールの理想的な枠組みへと向かう重要な一歩」とRCEPの意義を強調した。

 RCEPは、自動車をはじめ工業製品や農産品の関税撤廃、電子商取引、知的財産権の保護ルールといった幅広い分野にわたる。日本が「聖域」とするコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の農産品重要5項目は関税削減の対象から除外された。

【私の論評】ASEAN諸国の取り込みを巡って、日中の静かな戦いが始まった(゚д゚)!

上の記事は、JIJI.comのものですが、単にRCEPが合意されたことのみを伝えています。これが、中国や日本にとってどのような意味を持っているのか、何も報道していません。これは、時事に限らず、日本の殆どのメディアがそうです。

実はRCEPの同意は、日中のASEAN諸国の取り込みを巡っての、武器は使わないものの、本格的な戦いが始まったと言っても過言ではありません。

この戦いの趨勢いかんでは、ASEANは韓国とともに中国に取り込まれてしまうことになります。

RCEPは2012年に協議を始めましたが、その中でASEANの10カ国をどのように取り込むかは、日本にとっても中国にとっても大きな問題でした。菅首相が、初めての外遊先をベトナムとインドネシアにしたのは、ASEANのうち、日本に近い国を固める意図がありました。ちなみに菅首相の外遊の前、中国の王毅外相が、カンボジア、マレーシア、ラオス、シンガポールを訪問していました。

日本はASEAN諸国を取り込む際、韓国、オーストリア、ニュージーランド、インドにも声を掛け、民主主義の価値観を中心に据えました。一方、中国は、ASEAN諸国のほか韓国だけを取り込みました。

その結果、ASEANプラス6(日本、中国、韓国、オーストリア、ニュージーランド、インド)という今の形で、RCEPが形成されました。

RCEP加盟国


RCEPは成長著しいASEAN諸国を含んでいるので、日本や中国にとっても重要な経済圏です。しかも、世界最大の経済貿易圏となります。

ここで経済連携という場合、物品貿易、サービス貿易の自由化にとどまらず、投資の自由化や知的財産権の保護などが含まれます。

一方、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)では、それらに加えて国有企業改革や資本の自由化もあり、共産党一党独裁の中国は国家体制を変更せざるを得なくなるので、参加できません。参加するとすれば、現体制を崩す、すなわち中国共産党一党独裁体制を廃止しなければできません。


今回のRCEPは経済連携とはいうものの、物品貿易やサービス貿易の自由化(FTA)に限りなく近いものです。この意味で、体制変更が必要ないため中国も加入することができます。

インドはRCEP参加国のうち、1割のGDPと4割の人口を占めます。ただし、インドは、貿易赤字などの国内事情から、中国産品の国内流入を懸念したのため、スタート時点からの参加を見合わせます。

その場合、インドの離脱は参加国の中で、中国の存在感が相対的に増すことを意味するので、インドが将来的に参加しやすい道を残す必要があります。そこで、インドがほぼ無条件で即時加入できると規定した特別文書を採択しました。

 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定に署名する梶山弘志経済産業相(右)。
 左は菅義偉首相=15日午後、首相官邸


米国も、トランプ政権で結んだ日米貿易協定があるので、直ちにではないですが、いずれの政権になっても、いずれTPPへの加盟という流れも考えられます。実際トランプ大統領もTPPへの復帰の可能性を表明したことがあます。その場合、RCEPをTPPタイプの経済連携に持っていく方が日本の国益になるでしょう。

一方、中国はRCEPを現状で維持しつつ、ASEAN諸国の取り込みを図るとみられます。

RCEPがスタート後、どちらの方向に向かうのか、次のステージが気になるところです。ただ、日本もインドもRCEP参加しないとなると、ASEAN諸国はすぐにでも、中国に取り込まれることになります。そうして、中国、ASEAN諸国、韓国の強力な経済圏ができあがることになります。これらの国々でますます中国の覇権が強まることになります。

これは、日本としても避けたいので、敢えてRCEPに参加し、中韓に対抗しASEAN諸国を日本のルール(自由主義圏で通用するルール)で取り込み、いずれは米国もASEAN諸国もTPPに取り込む方向に持っていくべきです。

中国としては、RCEPに日本が入ることでより大きな貿易協定となりますし、歓迎なのですが、その日本がRCEPをよりTPPに近づけようとと目論んでおり、頭の痛いところです。これは、ASEAN諸国の取り込みをめぐる武器を使わない日中の静かな戦争のはじまりです。

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2020年11月14日土曜日

社民党、ついに国会議員1人に 14日に臨時党大会 立民に合流容認で岐路―【私の論評】政治もメディアも、まずは現実的にならなければ生きていけない(゚д゚)!

 社民党、ついに国会議員1人に 14日に臨時党大会 立民に合流容認で岐路

 
 臨時党大会で立憲民主党合流希望者の離党を容認する議案を賛成多数で可決し、頑張ろう
 三唱をする社民党の福島瑞穂党首(中央)ら=14日午後、東京都千代田区


 社民党は14日、東京都内で臨時党大会を開き、希望する国会議員や地方組織が立憲民主党へ合流することを認める議案を諮る。福島瑞穂党首を除く国会議員が離党し、党は事実上分裂する見通しだ。「55年体制」の一翼を担った社会党の流れをくむ社民党は、大きな岐路に立たされる。

 「これまでの意見集約を踏まえ、一定の社民党の党内民意を踏まえた議案になったと考えている。なんとか臨時党大会で円満に決着して可決されるように、ギリギリまで全力を挙げる」

 社民党の吉田忠智幹事長は12日の記者会見で、臨時党大会への思いをこう語った。

 議案は、社民党の存続と立民への合流を「いずれも理解し合う」ことを諮るものだ。可決されれば、党所属の4人の国会議員のうち、社民党に残るのは福島氏のみとみられている。福島氏は11日の記者会見で「元気に新生社民党をたくさんの人と目指していきたい」と語った。

 社民党は昨年12月、旧立憲民主党の枝野幸男代表からの呼びかけを踏まえ、合流に向けた議論を始めた。ただ、地方組織を中心に反発が強かったため、今年2月の党大会での判断は見送り、今秋に改めて結論を出すことにしていた。

 当初、吉田氏は臨時党大会に向け解党による立民への合流の是非を問う議案を起草する意向だった。だが、社民党の機関紙「社会新報」によれば、10月9日の全国幹事長会議で「党の解体は断固反対。臨時党大会はやるべきではない」「日米同盟が基軸という政党と一緒にできない」といった反対論が続出。数の上では、賛成論を上回った。

【私の論評】政治もメディアも、まずは現実的にならなければ生きていけない(゚д゚)!

社民党は本日、立憲民主党が呼び掛けた合流への対応を話し合う臨時党大会を東京都内で開き、合流希望者の離党を容認する議案を賛成多数で可決しました。福島瑞穂党首は残留する考えを示しており、社民党の分裂は確実となりました。週明けにも行う立憲との党首会談で結果を伝えた後、両党は円滑な移籍に向けた調整を進めます。


朝日新聞もいずれ社民党と同じような運命をたどるのではないでしょうか。社民党がそうであるように、「観念的」です。例えば、日本の安保・防衛を論ずる際も、国際政治、東アジアの現状から出発するのではなく、憲法9条の規定をまず持ち出。憲法が国を守ってくれるはずもないのだが、彼らは前文のこの規定を持ち出します。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。
彼らはこれを信じて疑わない「空想的平和主義者」、あるいは「空想的社会主義者」のようです。現実感、リアリティが欠落しています。

政治の世界で「左」、「右」という言葉が意味を持たなくなってから久しいです。現実には随分前から、「左」と「右」との対峙ではなく、「夢想家」と「現実主義者」との対決という対立軸に変わっていたのです。

歴代の政権の良し悪しはまた別の話として「夢想家」よりは「現実主義者」のほうがましです。ただ、いっとき「夢想家」が優勢となり、「民主党政権」というルーピーな政党ができあがりましたが、一時の徒花にすぎないことがすぐに明らかになりました。

「夢想家」と「現実主義者」のどちらを、国民が選ぶかといえば、「夢想家」よりは「現実主義者」を選ぶのが当然です。夢想ではない現実社会に生きている国民の多くが、夢想家を拒否するのは当たり前です。

この「夢想家」と「現実主義」との対立軸ができあがったときこそが、戦後日本が、やっと辿り着いた「歴史の転換点」だったのです。

では、何が歴史の転換点だったのでしょうか。それは、文字通りの“55年体制の終焉”です。周知のように、日本では、1955(昭和30)年に左右の政党がそれぞれ合同し、「自由民主党」と「日本社会党」が誕生しました。以後、長く「左右のイデオロギー対立」の時代が続きました。

その「55年体制」は、90年代半ばに日本社会党が消滅し、自民党も単独での政権維持が不可能になって“終焉”し、今では過去のものとなっています。国際的にも1989年の「ベルリンの壁」崩壊で、世界史的な左右の闘いの決着もつきました。

しかし、その考え方を基礎とした対立が、いまだに支配的な業界が「1つ」だけあります。それが、マスコミ・ジャーナリズムの世界です。古色蒼然としたこの左右の対立に縛られているのが、マスコミです。

マスコミは、さまざまな業界の中で、最も「傲慢」で、最も「遅れて」おり、最も「旧態依然」としている世界です。文字通りの守旧派がマスコミです。なぜかといえば、それは、マスコミに入ってくる人間の資質に負うところが大きいかもしれません。マスコミを志向するのは、いろいろな面で問題意識の高い学生たちではあります。だからこそ、ジャーナリストになりたいのです。

しかし、そういう学生は、得てして「理想論」に走り、現実を見ない傾向があります。また、そういう学生を教育する大学でも「現実論」ではなく「理想論」を教えるため、この傾向を助長しています。ほかの業界では、社会に放り出されれば「現実」を突きつけられ、あちこちで壁に当たりながら「常識」や、理想だけでは語れない「物の見方」を獲得していきます。

ところが、マスコミは違います。たとえ学生の頃の現実を無視した「夢想論」を振りかざしていても、唯一許される業界といえます。学生が、学生のまま“年寄り”になることができるのが、マスコミ・ジャーナリズムの世界なのです。

その代表的なメディアが、朝日新聞です。ひたすら理想論をぶちあげ、現実に目を向けず、うわべだけの正義を振りかざしていれば良いのです。上から下まで「夢想家」ばかりで、体力や思考力には差異があるのですが、頭の中身は理想論ばかの思考が停止した年寄の集団に成り果てたのです。

彼らは、ひたすら現実ではなく、理想や、うわべだけの正義に走ってきました。つまり「偽善」に支配されたのです。日本人のすべてが平和を志向しているにも関わらず、自分たちだけが平和主義者だと誤信し、日本に愛着を持ち、誇りを持とうとする人を「右翼」と規定し、「右傾化反対」という現実離れした論陣を張り続けてきたのです。

その朝日新聞が、信奉してやまないのが中国でした。ひたすら中国の言い分と利益のために紙面を使ってきた朝日新聞の中には、自分たちが書いてきたことが、実は「中国人民のため」ではなく、「中国共産党独裁政権のため」だったことに気づき始めたものもいるようです。世界が懸念する「中国の膨張主義」の尖兵となっていたのが、実は「自分たち朝日新聞ではなかったのか」と。

それでも空想家の最後の逃げ場がマスコミで、その代表が朝日なのです。これは55体制の残滓で、消滅寸前の社民党のようです。“年齢に関係なく頭が年老いた記者”、大いなる皮肉です。彼らは過去には高給と恵まれた労働条件の下で、資本主義的な豊かな生活を享受し、生涯保証されて、社会主義や革命を語り合ってきました。滑稽な風刺画のようです。

この滑稽な有様を最近経済評論家の上念司氏が、「世田谷自然左翼」と呼び揶揄しています。そうして、この傾向は米国にも存在していて、これを上念氏は「ビバリーヒルズ青春左翼」と呼んで揶揄しています。これは、無論米国の人気テレビ番組の「ビバリーヒルズ青春白書」をもじって揶揄したものです。

米国で1990年から2000年まで放送された「ビバリーヒルズ青春白書」

しかし、日本でも世界で左右対立の時代はとっくに終わっています。お互いを「右翼だ」「左翼め」と罵っている時代でありません。今は、現実を見つめるか、空想に浸っているか、の時いずれかになりました。つまり、左右対立ではなく、日本はやっと「現実主義」と「空想主義」の対立軸の時代を迎えたので。「歴史の転換点」という所以です。

それは、ネット上で闘わされている議論を見ても明らかです。古色蒼然とした「左翼」と「右翼」の対立ではなく、ニューメディアの登場・発展によって、時代は、とっくに新たな時代迎えていたのです。ただし、最近のSNSはこの流れに棹さす行動にでているようですが、現在は個人間でもメールや動画を配信できる時代です。そこまで規制すれば、SNSは全体主義のツールに成り果てることになります。この流れは止められません。

その最後の残滓の象徴が日本の政治の世界では「社民党」だったのですが、その社民党も福島瑞穂氏だけが残る、政党ともいえない組織になりました。立憲民主党に移る人たちは、以上の文脈からいえば、社民党よりはより現実主義的な政党に移ったのです。

しかし、立憲民主党もとても現実的とはいえず、次の選挙でも党勢を伸ばすことはできないでしょう。

これからは、より現実的な政治が有権者に支持されていくことでしょう。自民党内でも、より現実的な派閥が勢力を拡大していくことでしょう。空想論を強要してきた、労働組合やマスコミなども力を失いつつあります。そもそも、組織率が下降し、購読者が減っています。

今後は政治やメディアも一般の民間企業のように、まずはイデオロギー以前にリアリストでなければ政治の世界もマスコミの世界でも生き残れなくなるでしょう。民間企業はまずは、経済的な基盤をつくらないと存続できません。そのことが、否応なく彼らを現実主義者にしています。それが、政治やメディア世界にも及びつつあるのです。どんな綺麗事を言ったにしても、会社を存続できなければ全く意味がありません。

豊かだった過去の米国では、理想論だけでも何とかやってこれました。この理想論が世界各地で様々な問題を生み出してきたこともありました。しかし、これからはその米国でさえ、理想論・空想論では国を統治できなくなりつつあり、全体主義国家の中国の台頭で安全保障も「現実的」に対処しないと、ままならなくなりつつありまます。今は米国や日本だけではなく世界的な大転換期であるといえると思います。

カマラ・ハリスは理想主義者?

混迷を深める、米国の大統領選挙も背景にもこうした大転換があると思います。ポリティカル・コレクトネス等を声高に叫んだとしても、綺麗事だけで人々が幸せになれるわけではありません。それを無くしてしてしまえとまではいいませんが、まずはその前に現実的に対処できる政策がなければ、それを打ち出す政権がなければ、安全保証でも経済政策でも失敗し人々が自ら幸せになるための努力を削いでしまうことになるのです。そのことに多くの人々が気づきつつあるのです。

現実的に対処できる政策がなければ、それを打ち出す政権がなければ、安全保証でも経済政策でも失敗し人々が自ら幸せになるための努力を削いでしまうことになるのです。そのことに多くの人々が気づきつつあるのです。

政治の世界でも、ジャーナリズムでも現実主義を前提として、ものごとを考え、是々非々で様々なことに対処していかなければならないのです。

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2020年11月13日金曜日

中国「軍民融合」で新領域の軍事力強化か 防衛省分析―【私の論評】中露は中進国の罠からは抜け出せないが、機微な技術の剽窃は遮断すべき(゚д゚)!

 中国「軍民融合」で新領域の軍事力強化か 防衛省分析

防衛省の防衛研究所は中国の軍事動向に関することしの報告書をまとめ、軍と民間企業の協力を促進する「軍民融合」を通じて重要な技術の国産化を急速に進め、サイバーや宇宙など新たな領域での軍事力の強化を図っていると分析しています。


ことしの報告書では、アメリカ軍に対する軍事的な劣勢を覆す鍵は科学技術を核心とする軍事力の強化だと中国が認識していると分析したうえで、先端技術を利用した中国の軍事動向に焦点を当てています。

この中で、中国は軍と民間企業の協力を促進する「軍民融合」を国家戦略に掲げ、民間の技術力を軍事力に反映させるため、軍需産業に参入しやすくなるよう規制を簡略化したり、中国共産党が統一的に指導する専門の組織を設置したりしていると指摘しています。

そのうえで、次世代情報技術やロボットなど、戦略的に重要と位置づける分野の技術について国産化を急速に進め、サイバーや宇宙といった新たな領域での軍事力の強化を図っていると分析しています。

その一方で欧米では、さまざまな手段を用いて国外から技術や人材を獲得しようとする中国の動きに懸念が広がっているとしています。

また、日本の周辺では小型の無人機を飛行させるなどして、安全保障環境に新たな事態を生じさせていると指摘しています。

【私の論評】中露は中進国の罠からは抜け出せないが、機微な技術の剽窃は遮断すべき(゚д゚)!

何年も前から、中国の軍民融合の脅威が確実に押し寄せていました。「軍民融合」により、中国が先進国の科学技術を剽窃していることは、私自身はすでに誰もが知っている普遍的な事実であると思っていたので、最初目にしたときこのニュースは私には衝撃でした。

中国が技術を日本から剽窃しているということを今更ながら、リポートされるという事実に驚いたのです。ただ実際にこのレポートを実際に読んでみると「軍民融合」の最近の状況をレポートしています。このレポートは以下から入手できます。

http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/index.html

中国は「製造強国」を目指して、2015年5月に「中国製造2025」計画を発表しました。そこに明記されているいくつかの戦略の中で、最も警戒すべきは「軍民融合戦略」でした。中国はそれ以前からも技術を剽窃していたのはわかったのですが、この時に中国は自らそうしていることをはっきり認めたのです。すなわち、軍事・民間の融合を促進して、製造業の水準を引き上げる戦略です。そして、そのターゲットとして次世代IT、ロボット、新材料、バイオ医薬など、10の重点分野を掲げています。

露骨に、軍事力強化のために、海外の先端技術を導入した民生技術を活用することをうたっていたのです。

当時から炭素繊維や工作機械、パワー半導体など、民生技術でも機微な技術は広範に軍事分野に活用されており、「軍民両用(デュアル・ユース)」の重要性が世界的に高まっていました。例えば、炭素繊維は、ウラン濃縮用の高性能遠心分離機やミサイルの構造材料に不可欠です。そういう中で、中国の場合、海外の先端技術に狙いを定めていたのですから特に警戒すべきだったのです。

海外の先端技術を狙った中国の手段が、対外投資と貿易でした。ターゲットとなる日本や欧米先進国は、まさに守りを固めるのに躍起になっていました。

当時から、資金力に任せた中国企業による外国企業の買収が急増していました。世界のM&A(合併・買収)における中国の存在感は年々大きくなってきていました。その結果、日本や欧米各国は軍事上の観点で、機微な技術が中国に流出することを懸念しなければいけない事態になっていたのです。

そこで、このような事態を安全保障上の脅威と捉えて、各国は相次いで投資規制を強化する動きになっていました。地理的に離れていることから、これまで中国に対する安全保障上の懸念には無頓着だったドイツなど欧州各国でさえそうでした。英国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)では早々に中国に接近したものの、原発へ中国資本が投資したこともあって、懸念が高まり規制強化に動きました。

2016年5月に中国の美的集団がドイツの産業用ロボット・メーカーであるKUKAを買収して実質子会社化するとの発表は、世界に衝撃を与えました。KUKAは世界4大産業用ロボットメーカーの1社でした。

当然、KUKAは欧米各国で軍需向けにもロボットを提供していました。美的集団の傘下に入ってからは、中国での生産能力を4倍に拡大する計画で、中国は一挙にロボット大国になることを目指していました。

そのほかにも、米国の半導体メーカーの買収やドイツの半導体製造装置メーカーの買収など、何とか阻止できた案件もいくつかあったのですが、KUKAのケースで各国の警戒度は一気に高まったのです。その後も、中国による海外企業の買いあさりはとどまることはありませんでした。欧米の工作機械の多数のブランドが中国資本の傘下に次々入ったのです。

日本も機微な技術の流出を阻止しようと、当時、改正外為法が施行されました。それまで無防備だった日本も安全保障上の危機感から、国の安全を損なう恐れが大きい技術分野を規制対象になるように拡大したのです

今後も、中国の攻勢はますます増大すると予想され、先進各国における先端技術を巡るせめぎ合いは一層激しくなるでしょう。

もっと厄介なのは貿易です。先日もこのブログでも掲載したように、中国は輸出管理法を制定したため、先進各国は危機感を抱いています。この法律は12月から施行されます。

輸出管理の歴史を振り返ると、かつての冷戦期に共産圏への技術流出を規制する対共産圏輸出統制委員会(COCOM=ココム)から始まっています。その後、通常兵器関連だけでなく、核、ミサイルなど大量破壊兵器関連の国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)も整備されました。

これらの国際的レジームは、先進国が保有する高度な製品、技術が北朝鮮、イランなどの懸念国に渡ると、国際的な脅威になることから、これを未然に防止しようするものです。当然、メンバーは先進国を中心とした有志連合で、各国で輸出管理を実施してきました。

しかしメンバー国以外であっても、経済発展著しいアジアの国々でも技術進歩の結果、高度な製品を生産できるようになってきました。そうすると、これらの国々も規制に協力しなければ規制の実効性が確保できないことになりました。中国はまさにその代表格です。

中国が世界の安全保障に協力すること自体は歓迎されるべきことかもしれません。輸出管理法という法制度を整備することは大国としての責任とも言えます。

問題はその法制度がどう運用されるかです。運用次第で軍民融合戦略の手段にもなり得るのです。

現に、法案の目的には、「平和と安全」という安全保障の輸出管理本来の目的以外に、「産業の競争力」「技術の発展」といった産業政策的な要素も規定されています。

最も懸念されるのは、中国から輸出しようとすると、中国当局から輸出審査において企業秘密にあたる技術情報の提出を要求されることです。

例えば、日本からキーコンポーネントを中国に輸出して、これを中国で組み込んだ製品を第三国に輸出するケースを考えてみます。

中国での輸出審査の際に製品が機微かどうか判定するのに必要だとして、組み込んだ日本製キーコンポーネントの技術情報を要求されます。その結果、関連する中国企業にその技術情報が流出します。

日本等の先進国は11月中に、中国で開発している技術と技術者を日本に戻す必要があります。 12月1日の輸出管理法の施行により、技術者が日本に帰ってこられなくなる可能性が高いです。 もう、日本をはじめとする先進国の企業は、中国では研究開発はできません。それに、中国で研究開発を実行しても無意味になるかもしれません。

なぜなら、このブログでも最近述べたように、中国はすでに中進国の罠にはまりつつあるからです。中進国の罠とは、開発経済学における考え方です。定義に揺らぎはあるものの、新興国(途上国)の経済成長が進み、1人当たり所得が1万ドル(年収100万円程度)に達したあたりから、成長が鈍化・低迷することをいいます。それが、中国との今後の付き合い方に参考になると思います。当該記事のリンクを以下に掲載します。
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習近平
経済的な自由を確保するためには、「民主化」、「経済と政治の分離」、「法治国家化」が不可欠です。これがなければ、経済的な自由は確保できません。

逆にこれが保証されれば、何が起こるかといえば、経済的な中間層が多数輩出することになります。この中間層が、自由に社会・経済的活動を行い、社会に様々なイノベーションが起こることになります。

イノベーションというと、民間企業が新製品やサービスを生み出すことのみを考えがちですが、無論それだけではありません。様々な分野にイノベーションがあり、技術的イノベーションも含めてすべては社会を変革するものです。社会に変革をもたらさないイノベーションは失敗であり、イノベーションとは呼べません。改良・改善、もしくは単なる発明品や、珍奇な思考の集まりにすぎません。

             イノベーションの主体は企業だけではなく、社会のあらゆる組織によるもの
   ドラッカー氏は企業を例にとっただけのこと

そうしてこの真の意味でのイノベーションが富を生み出し、さらに多数の中間層を輩出し、これらがまた自由に社会経済活動をすることにより、イノベーションを起こすという好循環ができることになります。

この好循環を最初に獲得したのが、西欧であり、その後日本などの国々も獲得し、「中進国の罠」から抜け出たのです。そうしなければ、経済力をつけることとができず、それは国力や軍事力が他国、特に最初にそれを成し遂げた英国に比較して弱くなることを意味しました。

中国は 「民主化」、「経済と政治の分離」、「法治国家化」をすることはないでしょう。なぜなら、それを実施してしまえば、中国共産党が統治の正当性を失い、少なくと共産党の一党独裁はできなくなるからです。

その中国が、社会を変革しようとしなければ、どうなるのかはもうすでに目に見えています。それは、ロシアのようになるということです。

このロシア、第二次世界大戦中直後の東ドイツから大量の技術者などを連れてきて様々な研究開発を行わせ、その後は現在の中国のように世界中から科学技術を剽窃して、一時はGDPは世界第二位になり、軍事技術も、軍事力、宇宙開発でも米国に並んでトップクラスになりました。

ところが、現在の中国のように一握りのノーメンクラトゥーラと呼ばれる富裕層は生まれたものの、多数の中間層が形成されることはなく、したがって社会のあらゆるところでイノベーションが起こるということはなく、やがて経済が停滞し結局ソ連は崩壊しました。

その後のロシアは、GDPは日本国内でいえば、東京都、国でいえば韓国なみです。ただし、現在のロシアは旧ソ連の核兵器の大部分と、軍事技術を継承しているので、侮ることはできませんが、それにしても、現在のロシアのできることは、経済的にも軍事的にも限定さたものになりました。

中国もいずれロシアのようになるでしょう。無論、中国とロシアは様々な点で異なっているので、すべてロシアのようになるとはいえないかもしれませんが、しかしGDPはロシアのように1万ドルを若干超えたくらいで、停滞することになるでしょう。

そうなると、現在のロシアのように軍事的にも経済的にもあまり大きな影響力を行使できなくなるでしょう。できたとしても、周辺の軍事的にも経済的にも弱い国々の一部を併合するくらいでしょう。

中国も現在のロシアのような存在になるでしょう、ただし個人あたりのGDPが1万ドル(年間100万円)といっても、14億人もの人口がいますから、現在のロシアよりは、存在感を示すことができるかもしれません。

  ただし、10年から遅くても20年後には、中国も現在のロシアのように「魅力的市場ではない」と誰の目にも映るようになるでしょう。一帯一路もかつて帝国主義的だった、西欧が似たようなことを実施して、結局失敗しています。多数の植民地を得れば、儲けられると思い込むのは幻想だったことははっきりしました。

中国が一帯一路で貧乏国の港を接収したとしても、その港で儲かることなど考えられません。なぜなら、元々儲からない国の港を接収しても、メンテナンスの費用がかかるだけであり、ほとんど収益などないからです。

もっといえば、中国が南シナ海の環礁をうめたてて軍事基地をつくっても、何の益にもなりません。それを維持するための補給や、海水に侵食され続ける陸地をメンテナンスするのに膨大な費用がかかるだけです。中国にとっては象徴的な意味しかありません。

中国はこのような壮大な無駄を繰り返しつつ、徐々に経済的に衰えていくことになるでしょう。米国による制裁はそれを若干速めるだけです。

ただ、そうはいっても中露はこれからも危険な存在であることには変わりありません。やはり、機微な技術が剽窃されることは遮断すべきです。

ただし、中露が「民主化」、「政治と経済の分離」、「法治国家化」をすれば、「中進国の罠」から這い出て、急速に経済発展することになります。先進国は、過去にはそれを期待したのでしょうが、見事に裏切られ続けました。

習近平やプーチンがリーダーでいる限りでは、そのようなことにはなりそうもありません。見極めはそんなに難しいことではないです。まだまだ中露で本格的にビジネスをしたり、中露向けに技術開発等をするような時期ではありません。

結論を言うと、中国がこれからも経済発展を続け、米国等の先進国を脅かし続けるということはないということです。ただ、それにしても危険なことには変わりなく、機微な技術が剽窃されることは遮断すべきということです。

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