高橋洋一 日本の解き方
豪雨の影響でパネルが地面ごとずり落ちた太陽光発電所=2018年7月26日兵庫県姫路市 |
新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐり、米国が中国の太陽光パネルの部品を輸入禁止とした。またフランスの捜査当局はウイグルの強制労働の疑いでユニクロなど衣料品企業の捜査を始めたと報じられている。欧米のこうした動きはどこまで本気なのか。日本はどう対応すべきだろうか。
今回の動向はやはり米国の影響が大きい。トランプ前政権では、対中姿勢は強硬だったが、連携がなかった欧州は対中姿勢では同調しなかった。しかし、バイデン政権になって、欧州との協調路線が明確になるとともに、対中姿勢でも欧米は徐々に強硬姿勢に転じている。おそらく来年2月の北京冬季五輪まで、人権問題はうってつけの理由となるし、中国は対抗措置を取りにくいので、今の流れは続くだろう。
フランスで捜査対象になったのは、ユニクロの他、スペイン、フランス、米国のアパレルメーカーだ。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が2020年3月に発表した報告書では、82社がウイグルの人権を侵害する現地企業と取引をしていた。今回捜査対象になったのは、その中の4社であり、NGOが提訴したものだ。
こうした訴えは、フランス以外でも起こり得るだろう。
太陽光パネルについては、バイデン政権が21年5月、強制労働を利用した疑いで中国製パネルを貿易制裁の対象製品に指定するか検討していると明らかにしたが、その結果、バイデン政権として大規模な禁輸措置になった。欧州でも中国製パネルを問題視する声がでており、この動きも欧州に広がる可能性がある。
問題は、太陽光パネルの主原料であるシリコンは、ウイグル地区で生産されたものが世界の5割程度を占めていることだ。短期的には、代替地を確保するのが困難だ。そのため、シリコン価格は1年間で5倍近くに高騰。パネル価格も3~4割上がった。
もっとも、この価格の動向は歓迎すべきだろう。というのは、これまでの太陽光発電は安価な中国製パネルで支えられて、必要以上に推奨されてきているとも言えるのだ。
中国製が安価なのは中国政府の補助金のためだといわれてきたが、それも不公正で問題だが、ウイグルでの労働搾取でもあれば、それは人権問題からも容認できなくなるだろう。
パネル価格は、そうした懸念のシグナルと見た方がいい。となると、脱炭素戦略としては、(1)太陽光などの再生可能エネルギー(2)既存火力の炭素ガス除去(3)安全な原発と3つに大別できる。安価な中国製パネルを前提として、(2)と(3)は消極的扱いだったが、もはや(2)と(3)も積極的選択肢になりうる。
本コラムでは、安全な小型原子炉を紹介してきたが、エネルギー戦略として、ますます有望になっていくのではないだろうか。
ウイグル問題は、各分野にさまざまな波及があるので、その影響を過小評価しない方がいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
太陽光発電業界の中国強制労働への依存がバイデンのクリーンエネルギー経済を脅かす―【私の論評】日米ともに太陽光発電は、エネルギー政策でも、安全保障上も下策中の下策(゚д゚)!
太陽光パネルの上に横たわる女性 |
日米首脳共同声明で追い詰められた中国が、どうしても潰したい「ある議論」―【私の論評】小型原発を輸出しようという、中国の目論見は日米により挫かれつつあり(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずはこの記事から小型原子炉に関する部分を以下に引用します。
菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を掲げたことを受け、経済産業省は20年12月25日にその具体的な産業施策として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表した。
その中で注目されるのが新型炉です。具体的には、[1]小型モジュール炉(SMR)、[2]高温ガス炉(HTGR)、そして[3]核融合炉、です。経済産業省は20年12月、カーボンニュートラルを実現するにあたって、既存の原子力発電所の再稼働と並行し、これら3つの新型炉の開発を推進するとしました。3つの新型炉のうち、最も開発が進んでいるのが[1]小型モジュール炉(SMR)です。これは、文字通り小型の原子炉にモジュール化の発想を取り入れたもので、使い勝手がよく安全性も高いとされています。
小型モジュール炉についての詳細はこの記事をご覧になってください。
さて、この小型モジュール炉の優れた点は、使い勝手の良さや安全性が高いだけではなく、他にも大きなメリットがあります。それは、工場で大部分を製造し、現場では据え付けだけですむということがあります。
既存の原発で主流の軽水炉は大型化が進み、1基当たりの出力が100万キロワット以上が主流なのに対し、数万~数十万キロワットと小さいのですが、原子炉の容積に対する表面積が大きく、原子炉を冷却しやすいのが特徴です。プレハブ住宅のように、主要機器を事前に工場で製造してから現地で据え付けるため、初期投資抑制や工期短縮が可能です。建設費が1兆円を超えることも珍しくない軽水炉に対し、数分の一で済むようです。
無論モジュール一個だけでは、発電量は少ないのですが、それは、このモジュールの数を増やすということで、増やすことができます。ただ、従来軽水炉のように、かなり広い地域に送電するのではなく、比較的限られた地域に送電することが想定されていますから、一箇所で多数のモジュールで発電することはないと考えられます。
日立GEニュークリア・エナジー社と米国GE Hitachi Nuclear Energy社はSMRであるBWRX-300を開発中です。同社は、原子力発電所の設計・製造経験と、さまざまな製品のモジュール製造経験が豊富で、その経験を活かした原子力イノベーションを進めています。米国でBWRX-300初号機の建設をめざして、米国原子力規制委員会にはすでに安全審査項目に関する技術レポートを提出しています。また、カナダでの建設も視野に入れ、カナダ原子力安全委員会でも審査を開始しています。
従来型の巨大原子力発電所は時代遅れになる |
原発は大きなビジネスとなるだけでなく、輸出相手国に大きな存在感を示すことができます。国の成長を支えるエネルギーを保証することで、政治的な結び付きの強化や国民の対中感情向上につながる可能性もあります。
日米欧どこでも、再生エネルギーには現状ではあまり多くを頼れません。あまりに不安定ですし、発電効率が絶望的に低いからです。主力は原発と火力にならざるをえません。カーボンニュートラルのためには火力で生じるCO2を回収・貯留する必要がありコスト高にならざるを得ません。となると、やはり原発が必要です。
といっても、従来の大型原発の再稼働も政治的に難しく、新設は事実上不可能に近いので、いずれ減らしていかざるを得ないです。その場合、カーボンニュートラルで、より安全な小型原子炉の開発が大きなカギを握ることになるのです。