2021年11月12日金曜日

海自、訓練で豪軍艦を「武器等防護」 米軍以外で初―【私の論評】2015年の安保改正がなければ、今日日豪の関係も、他の国々との関係も、現在よりはるかに希薄なものになっていた(゚д゚)!

海自、訓練で豪軍艦を「武器等防護」 米軍以外で初


 防衛省は12日、海上自衛隊の護衛艦「いなづま」がオーストラリア海軍のフリゲート艦「ワラマンガ」と共同訓練を行った際、安全保障関連法に基づく「武器等防護」を実施したと発表した。米軍以外を対象とした実施は初めて。

 共同訓練は10~12日に四国南方で実施し、武器を使用する事態は生じなかった。武器等防護は平時から他国の艦艇や航空機を守る活動で、平成28年の安保法施行で自衛隊の新たな任務となったが、これまでは同盟国の米軍を対象に行ったケースしかなかった。

 日豪両政府は今年6月の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)で、武器等防護の実施に向けた準備が整ったことを確認していた。今後も豪軍から要請があれば行うという。防衛省は「部隊間の相互運用性が向上した。日豪防衛協力にとって極めて重要な進展だ」としている。

【私の論評】2015年の安保改正がなければ、今日日豪の関係も、他の国々との関係も、現在よりはるかに希薄なものになっていた(゚д゚)!

以下に12日、共同訓練を行った海上自衛隊の護衛艦「いなづま」がオーストラリア海軍のフリゲート艦「ワラマンガ」の写真を掲載します。手前が「ワラマンガ」、奥が「いなづま」です。防衛省・自衛隊のツイッターから引用しました。

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上の記事にもある、「武器等防護」とは、オーストラリア軍の装備する艦船や航空機などが外部からの攻撃にさらされる事態に際し、自衛隊が武器を使用して防護することで、国内法上の根拠は自衛隊法第95条の2「合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用」(以下では「外国軍隊等の武器等防護」と記します)という規定に求められます。

もともと、この「外国軍隊等の武器等防護」は、自衛隊法第95条「自衛隊の武器等の防護のための武器の使用」という規定がベースになっています。これは、おもに平時に、自衛隊が装備する「武器等(武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備または液体燃料)」が奪われたり破壊されたりすることを防ぐために、その武器等を守る役割を与えられた自衛官が、武器を使用してこれを防護する、という規定です。

ただし、武器を使用することができるのは、武器等を退避させてもなおこれを防護することができないなど、やむを得ない場合に限定され、また人に危害を加えることが許されるのは正当防衛または緊急避難の場合に限られるなど、武器の使用には非常に厳しい制約が設けられています。

その「武器等防護」の範囲が外国軍隊にまで拡大されたのが、先ほどの自衛隊法第95条の2の規定ですが、これは2015(平成27)年に成立したいわゆる「平和安全法制」で追加されたものです。

ただし、この規定に基づけばどんな国の軍隊の武器等であっても自衛隊が防護できるというわけではありません。自衛隊が防護できるのは「自衛隊と連携して日本の防衛に資する活動に現に従事している」外国軍隊の武器等に限られています。

これには「外国軍隊等の武器等防護」のベースである、「95条に基づく武器等防護の目的」が大きく関係しています。

「95条に基づく武器等防護の目的」は、自衛隊が装備する武器等が奪われたり破壊されたりして、自衛隊の能力が低下し、ひいては日本の防衛力そのものが低下するのを防ぐことにあります。そのため、「外国軍隊等の武器等防護」であっても、それが破壊されるなどすると日本の防衛力が低下してしまうような場合にのみ、外国軍隊の武器等を防護できるように限定を付しているわけです。

ちなみに、ここでいう「日本の防衛に資する活動」とは、(1)共同訓練、(2)情報収集および警戒監視活動、(3)重要影響事態(そのまま放置すれば日本の安全に重要な影響を及ぼす事態)における輸送や補給活動などがこれにあたるとされています。

「外国軍等の武器等防護」には、上記の防護対象に関する制約以外に、防護を実施できる場合に関する制約も存在します。

まず、外国軍に対して武器等防護に基づく「警護」を実施できるのは、その相手国から警護の要請を受け、かつ防衛大臣が必要と認める場合に限られます。また、武器使用についても、先ほど説明した「95条に基づく武器等防護」に関する制約に加えて、攻撃をしてきている相手方がテロリストや不審船といった、どこかの国の軍隊以外である場合にのみ武器を使用することができるという制約が付されています。

なぜこのような制約が付されているかというと、もしどこかの国の軍隊が意図的に警護対象の国の軍隊の武器等を攻撃したとなると、それはその国に対する武力攻撃に該当し、これを防護するためには「武器等防護」ではなく「集団的自衛権の行使」が必要となるためです。

集団的自衛権の行使は戦争リスクを減らす

集団的自衛権の行使となると、これは自衛隊法第76条の「防衛出動」と、同じく第88条の「防衛出動時の武力行使」という規定に基づいて行動することになるため、「武器等防護」の場合と根拠法が全く異なります。そのため、武器等防護で実際に警護を実施できるのは、基本的にはテロリストなどによる攻撃に対する場合に限られるというわけです。

ただし、たとえば奇襲的に攻撃されて、誰が攻撃してきたのか判然としない場合や、相手がたとえどこかの国の軍用機などであっても、その攻撃が意図的かどうか判明しない場合には、例外的に防護を実施できることもあり得るという国会答弁も、過去にはなされています。

2021年6月9日(水)、第9回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)がオンライン形式で開催され、日本とオーストラリアの外務、防衛のトップ同士が、現在の両国を取り巻く安全保障環境やそれに対する対応について協議しました。なかでも、メディアなどを通じて注目を集めたのは、自衛隊がオーストラリア軍の装備を防護することができる「武器等防護」というワードでした。

第9回日豪外務・防衛閣僚に出席した茂木敏充外務大臣及び岸信夫防衛大臣

現在、日本とオーストラリアとの安全保障面での協力関係は、「特別な戦略的パートナーシップ」と呼ばれるほどに深化しています。

2014年4月日本を公賓として訪問した当時のオーストラリア首相のアボット氏と当時の安倍総理大臣の間でかわされた、共同声明がもとになっています。

2020年11月には、将来的なオーストラリア軍の日本での活動増加に備えて、オーストラリア軍の日本国内での扱いなどについて定める「日豪円滑化協定」が大筋合意に至るなど、その関係はより一層強固なものになりつつあります。今回の「武器等防護」も、こうした日豪間の安全保障協力関係のより一層の深化を象徴するできごとといえるでしょう。

2014年7月1日、安倍政権は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を閣議決定しました。2015年(平成27年)5月14日、国家安全保障会議及び閣議において、平和安全法制関連2法案を決定し翌日、衆議院及び参議院に提出しました。 

安保法制の改正など、政権の維持だけを考えた場合、実施しないほうが良いに決まっていますが、それでも当時の安倍総理はこれを実行しました。このことがなければ、当然のことながら、今日のオーストラリアと日本との関係等もなかったものと思います。無論、現在同盟国や準同盟国などの他の国々との関係も、現在よりはるかに希薄なものになっていたでしょう。

それを考えると、安倍元総理の決断はまさに時宜を得たものでした。岸田総理には、安倍元総理のように政権支持率を下げても、実施すべきことはするという決断力があるのでしょうか。岸田総理にも安倍元総理のような政治家としての矜持をみせてほしいものです。

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2021年11月11日木曜日

プーチンが絶体絶命…ロシア経済が“崩壊寸前”で、いま起きている「本当にヤバい現実」―【私の論評】米露のインフレ率は6%超え、日本は1%に満たない!日銀は大規模な量的緩和を実施すべき(゚д゚)!

プーチンが絶体絶命…ロシア経済が“崩壊寸前”で、いま起きている「本当にヤバい現実」

建国以来の危機に瀕するプーチン

 今年の夏以降、欧州では天然ガスの指標価格が急騰し、この異常事態を招いたとして「ロシア悪玉」説が台頭している。しかし、欧州に対して悪さをしている場合でないほどに、ロシア経済がひっ迫していることを指摘する者はいない。

 ロシアはいま「ソ連崩壊以来の危機に瀕している」と言っても過言ではないだろう。その主因はインフレーションである。

 物価上昇の主因は食料価格だ。ロシアの年間食品価格インフレ指数は、8月の7.7%から9月は9.2%に達した。特に果物と野菜の価格が上昇している。

  ロシアは食糧輸出大国であるにもかかわらず、小麦、砂糖などに加え、主食であるジャガイモや卵なども値上がりしている。いずれも国内での自給可能な品目だが、新型コロナウイルスのパンデミックによる外国人労働者の流入制限による人出不足が災いした。

  昨年夏には、世界初の新型コロナウイルスワクチン(スプートニクV)を承認したが、ワクチンに対する国民の根強い不信感から低い接種率にとどまっており、日本とは対照的に感染の再拡大が生じている。  首都モスクワなどで行動制限が再強化されており、人手不足によるインフレ圧力はますます強まっているのだ。

 プーチン大統領が頼りにしているのは「インフレ・ファイター」として名高いナビウリナ・ロシア中央銀行総裁だ。 

ロシア中央銀行総裁 エリヴィラ・ナビウリナ

 ロシア中央銀行は10月22日の金融政策決定会合で政策金利を7.5%と従来の6.75%から引き上げることを決定した。

 プーチン政権の長期化に対する不満がこれまでになく高まっている中で、インフレと不景気の同時進行(スタグフレーション)が起きるリスクが生じている。

  ソ連崩壊後の1990年代前半のインフレは極めて深刻だった。  忍び寄るインフレの足音は、インフレがいかに国家を混乱させるかを目の当たりにしたプーチン大統領にソ連崩壊時の悪夢を呼び覚ましているのではないだろうか。

この記事の詳細は、以下から御覧ください。


【私の論評】米露のインフレ率は6%超え、日本は1%に満たない!日銀は大規模な量的緩和を実施すべき(゚д゚)!

ロシアのインフレは、確かに深刻です。8月のインフレ率は前年比6.7%(前月比0.2%pt上昇)となったほか、コア・インフレ率は同7.1%(前月比0.6%pt上昇)と、16年7月以来、5年ぶりの高水準に達しています。

米国も深刻です。米労働省が10日発表した10月の消費者物価指数(CPI、季節調整済み)は前月比0.9%上昇。前年同月比の上昇率は6.2%に達しました。食料品とエネルギー品目を除いたコアインフレ率も前年同月比4.6%上昇し、年間上昇率はどちらも30年以上ぶりの高い伸びとなりました。


ロシアや米国では確かにインフレ懸念があります。一方、日本はどうなのかといえば、物価目標は1%にも達しておらず、インフレ懸念からは程遠い状況にあります。

これは、とりもなおさず、日本には未だ金融緩和の余地がかなり、あるということです。これについては、以前このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。

名目賃金は、1人当たり名目国内総生産(GDP)と同じ概念なので、名目賃金が低いのは、名目GDPの伸びが低いからだということになります。

確かに、日本の名目GDPは、90年からほとんど伸びていません。これは世界で最も低い伸びであり、先進国の中でも際立って低いです。そのくらい名目経済が成長していないので、その成果の反映である賃金が伸びていないのは当然の結果です。労働が経済活動からの派生需要である以上、経済が伸びなければ賃金は伸びないです。つまり、賃金が低くなったのは、90年代以降の「失われた時代」の結果です。

そうして、この30年間で、名目GDPの伸び率と最も相関が高いのはマネー伸び率です。世界各国のデータでみても、相関係数は0.8程度もあります。

以下のグラフは、名目GDPとM2の成長率を比較したものです。相関係数は0.7です。M2とは、マネーストックの一種で、市場全体に供給される通貨(マネー)の量を測る指標です。日本ではかつて、「マネーサプライ」と呼ばれていました。

マネーストックにはいくつかの種類があります。現金と預金通貨の合計は「M1」と呼ばれ、このM1に定期性預金や譲渡性預金(CD)を加えたものが「M2」です。

上のグラフで青い線は名目GDPです。赤い線はマネーストックです
ここで重要なのは、マネーは金融政策でかなりコントロールできることです。ところが、金融政策の主体である日銀はかつて、「マネーは、経済活動の結果であって管理できない」ととんでもないことを言っていましたた。マネーが管理できないなら中央銀行は不要だが、こうしたばかげた議論が実際にあったのです。

2000年代になっても、日銀はインフレ目標を否定し、その上、デフレ志向でした。いわゆる「良いデフレ論」です。しかし、「デフレ」で良いことは一つもありません。結論をいうと、日銀がこのようなスタンスで、金融緩和をしないで来た結果、日本人の賃金は30年間も上昇しなかったのです。
ロシアや米国ではインフレ率が6%にもなっているのです。日本は1%にも満たないのですから、何らかの抜本的な対策が必要なのはいうまでもありません。

この抜本的対策として、高橋洋一氏は物価目標を一時的に4%に引き上げることを提案しています。高橋洋一は、インフレ目標を現状の2%から4%に引き上げれば、所得倍増を12~13年で達成できることを指摘しています。 

日本もこれくらいのことをしないと、いつまでたってもGDPは低迷したままで、日本人の賃金も上がらないでしょう。

インフレを心配する人もいますが、確かにロシアや米国のようなインフレ率になれば、危険信号が点ったともいえますが、ロシアは別にして、米国は金利を上げるなどの方策で十分に回復できる見込みです。

日本銀行が、インフレを恐れて1%の物価目標を達成できないのは、明らかに異様です。今後、量的緩和をより一層すすめていくべきです。コロナ禍から収束を目指す日本においては、日銀は2014年安倍政権成立直後の異次元の包括的緩和の姿勢に戻るべきです。

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2021年11月10日水曜日

民主主義サミットに向けてバイデンが抱えるジレンマ―【私の論評】バイデンは「民主化」こそ、経済発展して国の富を増やし、先進国になる唯一の道であることを示すべき(゚д゚)!

民主主義サミットに向けてバイデンが抱えるジレンマ

岡崎研究所

 12月にバイデン米大統領は民主主義サミットを開催する予定だが、Foreign Policy誌(電子版)の10月19日付け解説記事‘Biden’s Summit for Democracy Will Include Some Not-So-Democratic Countries’は、同サミットにはあまり民主的ではない国も招かれる、と問題提起している。同記事は、Foreign Policy の独自取材に基づくもので、具体的には、ポーランド、メキシコ、フィリピンについて以下のように言及している。


・ポーランドは、与党が司法権に対する支配を強めようと意図して、何年も前から着実に民主主義から後退しており、EUとの衝突コースに入っている。

・メキシコのロペス・オブラドール大統領は、公然とメキシコの一党支配の時代に立ち返り、メキシコの民主主義の柱を損なっているのではないかという懸念を広く抱かせている。

・フィリピンのドゥテルテ大統領は、自国の司法を非難し中国の積極的な進出に妥協を重ねて来た。

この記事の詳細は、以下から御覧ください。


【私の論評】バイデンは「民主化」こそ、経済発展して国の富を増やし、先進国になる唯一の道であることを示すべき(゚д゚)!

ホワイトハウスの発表によりますと、「民主主義サミット」は今年12月9日と10日にオンラインで開催され、民主主義の価値観を共有する世界各国の首脳や市民のリーダーなどを招待します。

サミットでは「権威主義からの防衛」「汚職との戦い」「人権尊重の推進」の3つをテーマに、各国が民主主義を活性化させる具体的な方策を協議します。その上で、1年後の来年12月に対面で2回目の会合を開き、進展を確認するとしています。

サミットの開催はバイデン大統領の公約で、権威主義体制と位置づける中国やロシアを念頭に、民主主義国が連携して対抗する姿勢を明確にする狙いをもっています。

上の記事にもあるように、ボーランド、メキシコ、フィリピンなどの民主的とは言いきれない、国も招待されています。

ロイター通信は消息筋からの引用で「アジア地域において日本と韓国のような米国の同盟国が民主主義サミットに招請されたが、タイとベトナムは招請対象に含まれなかった」と伝えました。 

また「フランスとスウェーデンのように成熟した民主主義と評価される国はもちろん、フィリピンやポーランドのように民主主義が脅かされていると指摘されている国も招請された」と付け加えています。

 中東地域では、イスラエルとイラクは招請されたが、トルコとエジプトはリストにはありませんでした。 

バイデン政権としては 「民主主義サミット」という新たな最高級会議により。中国とロシアの勢力拡張に立ち向かい、同盟国およびパートナー国を統合し米国のグローバルリーダーシップを強固にするという狙いがあるとみられます。

 しかし「フィリピンとポーランドのような国にも招請状が送られたことから、民主主義と人権守護のために活動している民間団体を中心に疑問があがっている」とロイター通信は伝えています。

 これは「米国が “中国の浮上とロシアの影響力に対する共同対抗”という自国の利益を念頭に置いて民主主義サミットを推進しているため、実際には民主主義的価値から外れているようにみられる国々も参加対象に含まれたのだ」ともみられています。

 このことについて、米高位当局者は「各地域で民主主義の経験をもった国が招請された」とし「『あなたの国は民主主義で、あなたの国はそうではない』と整理するのではない」と説明しています。

また「サミットをとりまく全ての外交的疎通において、我々は謙虚な姿勢で始め、『米国を含めたどのような民主主義も完璧ではない』ということを認めている」と語りました。

ちなみに、 英エコノミスト紙の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」(EIU)が毎年発表している「民主主義指数」ランキングの2020年の順位が21年2月2日に発表され、日本は19年より3つ上げて21位でした。

調査では点数ごとに「完全な民主主義」(10.0~8.0)「欠陥がある民主主義」(7.9~6.0)「(民主主義と強権体制の)混合型」(5.9~4.9)「強権体制」に分類。日本は6年ぶりに「完全な民主主義」に復帰した

ランキングは5つの観点から世界中の国々に点数をつけて算出する仕組みです。新型コロナウイルスの感染拡大で、ロックダウン(都市封鎖)をはじめとする強制力をともなう措置に踏み切ったことで、世界的に点数は低下する一方で、日本をはじめとする東アジアの国々は上昇。新型コロナ対策では批判を受ける日本政府ですが、点数の上昇は「政府に対する国民の信頼感の向上」が背景にあると分析されています。

調査は世界の176か国の民主主義について、「選挙プロセスと多元主義」「政府の機能」「政治参加」「民主的な政治文化」「市民自由度」の5つの観点から10点満点で評価する仕組みで、点数ごとに「完全な民主主義」(10.0~8.0)「欠陥がある民主主義」(7.9~6.0)「(民主主義と強権体制の)混合型」(5.9~4.0)「強権体制」(3.9~0)の4つに分類します。

20年は全世界の平均は5.37点で、06年の調査開始から最低を記録した。その原因のひとつが新型コロナへの対応で、20年のEIUの発表では、
「ランキングでは、政府の措置に対する国民の支持があったかどうかにかかわらず、市民の自由を制限したり、緊急事態の権限行使を適切に監視できなかったり、表現の自由を否定したりする国の評価が下がった」
と説明しています。その一例として紹介されたのがフランスで、19年は8.12点で20位でしたが、20年は7.99点で24位に順位を下げました。分類上も「完全な民主主義」から「欠陥がある民主主義」に転落しました。

今月再びロックダウンされ、人通りのないシャンゼリゼ通り(右のポールに見えるポスターは、カンヌレーベルに選ばれたマイウェンの「ADN」)

大統領選の大混乱が記憶に新しい米国は、「政治参加」の評価が上がったものの、「政府の機能」がダウン。19年の7.96点(25位)が20年は7.92点(25位)と微減し、引き続き「欠陥がある民主主義」にとどまりました。

19年は7.99点で24位だった日本は、20年は8.13点で21位にランクアップ。14年以来6年ぶりに「完全な民主主義」に復帰しました。EIUの報告書では
「この変化は、政府に対する国民の信頼感の向上によってもたらされた」
と指摘されていますが、これに関しては、このブログでも菅内閣のコロナ対策は総体的には大成功と評価しましたが、EIUもこのような見方をしたということです。

菅内閣のコロナ対策における感染症対策は、病床の確保には失敗したものの、ワクチン接種の速度は爆発的といも言っても良いほどで、総体的には成功したといえます。経済対策においては、特に失業率の少なさにおいては、先進国においてはトップであり、これも大成功といえます。

マスコミや野党の見方は、かなり偏向していたといえると思います。偏向どころか、頭がねじ切れて、もとに戻らず異常をきたしてしまったのではないかとさえ、思われるほどです。

日本は、アジア太平洋地域ではニュージーランド(9.25点、世界4位)、オーストラリア(8.96点、世界9位)、台湾(8.94点、世界11位)に次ぐ順位で、韓国(8.01点、世界23位)を僅差で上回りました。

特に台湾は、19年の7.73点、世界31位から大きく評価を上げています。報告書では背景として、20年1月に行われた国政選挙で若者を含めて高い投票率を記録したことや、新型コロナ対策ではロックダウンなどの強い措置が行われず、住民が自発的に対策に協力していたことなどを挙げています。

1位はノルウェー9.81点、2位はアイスランド9.37点、3位はスウェーデン9.26点でした。

民主化している国々では、国土の広さや人口などが異なるので、単純比較はできませんが、一人あたりのGDPということで比較すれば、民主化されている国のほうが、経済発展しています。それは以前このブロクでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。 

経済に関して、中国共産党が全く理解できていないことがあります。それは、先進国がどうして先進国になりえたかということです。

多くの発展途上国は、中国のように政府主導で、経済発展することができます。実際、過去には経済発展をした発展途上国もありました。ところが、一人あたりの国民の所得が100万円前後になると、それ以上になることはありませんでした。これを中進国の罠(中所得国の罠とも呼ぶ)といいます。

例外もありますが、それは産油国やシンガポール(人口570万人の都市国家)のような例外的な国だけでした。

なぜ、このようなことになるかといえば、それは民主化と、政治と経済の分離、法治国家化が行われないからです。

先進国は、過去において民主化、政治と経済の分離、法治国家化を成し遂げました。そのため、中所得国の罠を超えて、成長し現在に至っています。それ以外の国は、経済発展できず、発展途上国のままです。
これは、高橋洋一氏が作成した下の「民主主義指数(横)と一人当たりのGDP」を見ても明らかです。
民主化がなされれば、当然のことながら、その後政治と経済の分離、法治国家化もなされていくことになります。無論、経済・社会に規制などはなされますが、それは自由な競争等を阻害するときになされるのが筋です。

これによって何が起こるかといえば、多数の中間層が輩出され、それらが自由な社会経済活動を行うようになります。

自由が保証された中間層は、あらゆる階層、あらゆる地域で社会を変革するイノベーションを行うことになります。それによって、社会が改革され、あらゆる不合理、非効率が解消され、結果として経済発展します。そうして、中進国の罠を突破することになるのです。

これらをなし得たから、先進国は先進国になりえたのであり、故なく先進国になったわけではありません。

バイデン大統領は、 「民主主義サミット」で「権威主義からの防衛」「汚職との戦い」「人権尊重の推進」の3つをテーマとして話あいをするようですが、この内容では抽象的にならざるを得ないと思います。もっと具体的な話し合いをすべきと思います。

バイデン大統領は、経済発展するための基本は「民主化」であることを宣言し、全国民が豊かになるためには、「民主化」は避けて通れないことをテーマにすべきであると思います。

中国やロシアは民主化からはほど遠いので、これから経済的にも低下していく以外にないことも強調すべきと思います。

「民主化」こそ、多くの中間層を生み出し、それらが自由に社会経済活動をし、社会を発展させ富を生み出すことにより、国全体の富を増やし、経済発展して先進国になる唯一の道であることを参加各国に理解してもらうべきと思います。

そうすることにより、「民主化」があまり進んでいない国々が、「民主主義サミット」参加する意味や意義が出てくると思います。

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2021年11月9日火曜日

「イプシロン」5号機 打ち上げ成功 鹿児島―【私の論評】海外からは、多弾頭核搭載可能な大陸間弾道弾打ち上げの成功とも見られる今回の快挙(゚д゚)!

「イプシロン」5号機 打ち上げ成功 鹿児島

大学や企業などが開発した人工衛星を載せた日本のロケット「イプシロン」5号機が9日午前10時前鹿児島県から打ち上げられ、人工衛星はすべて予定の軌道に投入されて打ち上げは成功しました。


大学や企業などが開発した人工衛星を搭載したJAXA=宇宙航空研究開発機構のロケット「イプシロン」5号機は、9日午前9時55分、鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。

ロケットは1段目や2段目を切り離しながら上昇を続け、打ち上げから1時間余りの間に高度およそ600キロで搭載していた9つの小型の人工衛星すべてを予定どおり分離し、打ち上げは成功しました。

人工衛星は大学や企業などからアイデアを募集して選ばれたもので、宇宙のごみを除去するための技術実証を行う大手機械メーカーの衛星や、宇宙で微生物を観察する大学の衛星、それに、全国10の高専が開発した木星の電波を観測する衛星などです。

また、9日は日本人宇宙飛行士の星出彰彦さんが搭乗して地球に帰還するために飛行していた宇宙船などを避けるために、急きょおよそ4分遅らせての打ち上げとなりました。

「イプシロン」ロケットは小型の人工衛星を低コストで打ち上げようと開発され、8年前の初号機から今回まで5回連続で打ち上げに成功したことになります。

人工衛星開発の大学生ら「努力が報われた」

宇都宮市にある大学の学生たちが開発した小型の人工衛星が予定の軌道に投入されて打ち上げが成功したことを受け、学生たちはほっとした表情を見せていました。

宇都宮市にある帝京大学は地元企業のサポートを受けながら10年ほど前から人工衛星の開発に取り組んでいます。

超小型人工衛星の開発を進める河村准教授(右)と学生たち=2020年12月、帝京大宇都宮キャンパス

大学の教室では学生や企業の関係者らおよそ30人が集まって現地からの映像を見守り、午前11時すぎに人工衛星が予定の軌道に投入され打ち上げが成功したことがわかると、学生たちがほっとした表情を見せていました。

学生プロジェクトマネージャーで4年生の杉本秀真さんは「打ち上がってくれて一安心するとともに、1年生の頃から開発してきた努力が報われました」と話していました。

帝京大学の河村政昭准教授は「衛星が宇宙空間に行ってくれてまずはほっとしています。ミッション成功に向けてこれから始まる運用に力を入れたい」と話していました。

【私の論評】海外からは、多弾頭核搭載可能な大陸間弾道弾打ち上げの成功とも見られる今回の快挙(゚д゚)!

イプシロンロケットは、2006年(平成18年)度に廃止されたM-Vロケットの後継機として2010年(平成22年)から本格的に開発が始まり、2013年(平成25年)に試験1号機が打ち上げられた固体ロケットです。

M-VロケットとH-IIAロケットの構成要素を流用しながら、全体設計に新しい技術と革新的な打ち上げシステムを採用することで、簡素で安価で即応性が高く費用対効果に優れたロケットを実現することを目的に開発されています。

今回の強化型イプシロンの打ち上げ成功は、海外では「日本が潜在的に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を持つ能力を育てている」という論調で報道されてもいます。

これはもっともな反応で、イプシロンロケットの持っている特徴を以下に列挙しますが、これは、ICBMにとって非常に望ましい能力です。
  • 全段固体推進剤
  • 打ち上げ準備期間の短さ(第1段の射座への設置から打ち上げ翌日までの期間が、M-V は42日なのに対して、イプシロンは9日)
  • 少人数の運用者がパソコンを利用して“モバイル管制”で打ち上げる
先代のM-V、あるいはその前のM-3SIIロケットの時点から、諸外国は宇宙研の開発する固体ロケットを「ICBM技術の隠れ蓑ではないか」という目で見てきたようです。

実際は単に、1955年に糸川英夫・東京大学教授がロケット研究を始めるにあたって、安価な固体推進剤を採用したがゆえの固体ロケットであり、その後の高性能化は工学研究者が世界第一線級の論文を書くために性能を追求した結果でした。その結果、「学者の遊び」と批判されてM-Vは廃止となりました。

日本の宇宙開発の父 糸川英夫氏

ところが、この「学者の遊び」は、結果的にM-Vは、日本の安全保障において有効な抑止力としても機能してきました。外から見れば性能はまさに世界最高。かつその性能が「ICBM的」なので、諸外国は常に「日本がICBMを持つ可能性」を考慮して、自国の安全保障政策を決定しなくてはならないのです。

実際2016年にジョー・バイデン米副大統領が中国の習近平国家主席に北朝鮮核・ミサイル問題での協力を求めた際、「日本が明日にでも核を保有したらどうするのか。彼らには一晩で実現する能力がある」と発言したことが明らかにされています。

2013年米国を公式訪問した習近平国家副主席(当時)は現地時間6月14日午前、ホワイトハウスでバイデン米副大統領(当時)と会談

この発言の背景には、無論日本の固体燃料ロケット発射の実績があったものと考えられます。バイデン氏は、これを同年6月23日、米公共放送(PBS)のインタビューで語りました。

習氏との協議の時期は明らかにしなかったのですが、習氏が「中国軍は米国が中国を包囲しようとしていると考えている」と述べたのに対し、バイデン氏が日本に触れ、米中の連携がなければ日本の核保有があり得るとの認識を伝えたといいます。

M-Vは打ち上げ準備期間が長く、斜め方向に発射するという特徴を持ち、内之浦宇宙空間観測所の専用ランチャーからしか発射できなかったので、「M-VはICBMに転用できない」と言い切ることもできました。

ところが、日本の政治がこの便利なカードを持ったことに気づいたのは、2006年に官僚の内輪揉めで、M-V廃止が決まってからでした。

文部科学省には主に与党の防衛族議員から「なぜM-Vロケットを廃止するのか」という電話が次々にかかってきて、文科省は対応に苦慮したといいいます。ところが、その時点では政治的にであってももう廃止を止めることはできなかったのです。

日本がICBMを持つ合理的な理由はないともいわれます。なぜなら、ICBMは高価なので、破壊力の大きな核弾頭と組み合わせないと兵器としてはコストパフォーマンスを発揮できないからです。

しかも、日本はエネルギー安全保障の一環に原子力発電を組み込んでおり、国際原子力機関(IAEA)の査察の元に核燃料を輸入し、使用しています。IAEAは原子力の平和利用促進と軍事利用への転用の防止を目的としています。つまり、日本が核兵器を持つ意志を示せば、現行のエネルギー安全保障政策は崩壊します。

しかしながら、日本は原発の使用済み燃料から核兵器の材料を大量に取り出すことができ、これは北朝鮮やインド、パキスタンも使用した方法であるという事実もあります。

技術的には日本は問題がなく、唯一残る問題は核弾頭の製造と関連装置で、日本は簡単にこれらの問題を解決できます。日本の軍事関連企業なら1カ月に1基の速度で核弾頭を製造できると述べる海外の専門家もいます。

これに加えて、世界最高の性能を持つ宇宙向けの固体ロケットを保持し、発展させていくことは、抑止力を持つという意味で、日本の安全保障にとって良いことです。

米国、中国、ロシアという大国の狭間の東アジアに位置する島国としては、そうして何より国内では核に対するアレルギーが強いということもあり、日本は、あくまで科学技術と商業打ち上げの発展という目的を掲げてイプシロンの研究開発を継続的に進めることがが最上の策です。

2006年9月23日に最後のM-Vである7号機が打ち上げられてからの、技術開発と安全保障における2つの空白は、10年後に強化型イプシロンが上がることで、やっと埋まるメドが立ちました。本当に空白を埋めることができるかどうかは、今後のイプシロンを賢く扱えるかにかかっているといえます。

ことの良し悪しは別にして、海外からは今回の快挙は多弾頭核搭載可能な大陸間弾道弾成功とも見られているのは確実です。

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2021年11月8日月曜日

AUKUSを読む上で重要な地政学的視点―【私の論評】同盟は異なった思惑の集合体であり必ず離合集散する。AUKUS、QUAD、CPTPPも例外ではない!我々は序章を見ているに過ぎない(゚д゚)!

AUKUSを読む上で重要な地政学的視点

岡崎研究所

 10月16日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのジャナン・ガネッシュが、9 月の米英豪の原子力潜水艦などの安全保障に関する協力合意(AUKUS)がなされた後「英語圏」とは何なのかということが問われているが、「ファイブ・アイズ」の英語圏(英米加豪NZ)を結びつけるものは、文化というよりも地理的幸運であるなどと述べている。


 ガネッシュの主張は、①9月のAUKUS原潜合意の後「英語圏」の国々を結びつけるものは何かと考えてきたが、それは言語ではなく、海洋に囲まれ、隣に大国がいないという地理的幸運だと感じるようになった、②英語圏の国々が他の世界と相違するのは、偶然の地理的独立(地理的に離れていること)であるが、それが他国に対してこれらの国を無理解にしているということであろう。英語圏の国々は、欧州大陸の国々や恐らく中国、ロシア、アジアの地理的幸運に恵まれない国の状況を理解する必要があると言う。

 ガネッシュが9月のAUKUS結成を英語圏同盟(アングロサクソン同盟と言っても良いだろう)と見て、それを結びつけるのは言語ではなく、地理的幸運だとするのは興味深い。しかし、それは意図したというよりも結果論であろう。偶々関係三国の利害が一致したと理解すべきであろう。

 英国はグローバル・ブリテンを早く具現したい、今後ますますコストのかかる原潜維持負担をできれば英豪合体化で合理化したい、豪州はフランスによる通常推進潜水艦の建造がうまく進まない問題を早急に解決したい、米国は対中戦略上、米英豪の原潜能力を強化したい、経済上のメリットもありうるなどの動機を持っていたと考えられる。

 だからと言って、AUKUS結成に地政学が全く無関係だったとは言えない。広い意味で中国に対する地政学上の配慮は強くあったし、民主的国際秩序の保護という利益の配慮も強くあった。ガネッシュの考えは面白いが、狭くなった今日の世界では「地理的幸運」に安閑としているわけにはいかず、国際政治は依然として「地理」と「利益」で動くということではないだろうか。

AUKUS運用への数々の課題

 AUKUS合意を受けて、関係三国は事務レベルでプロジェクトの詳細の検討に入っているものと思われる。今後莫大な難しい問題を解決していく必要がある。これから種々紆余曲折があるように思える。問題を幾つか挙げれば次の通りである。

(1)如何なる原潜を誰が建造するのか。母港整備を含むインフラをどこに建設し、保守など高度な原子力人材を如何に確保し、維持するのか。

(2)コストの配分はどうするか。豪州にとっては通常潜水艦より高額の資金が必要になるだろう。リース方式を検討するのか。

(3)豪州の現有コリンズ型潜水艦の退役(退役は2026年頃からと言われていた)と新艦就航(2030年代後半以降予定)の時間的ギャップをどうするか。コリンズ型の延命措置も検討されているようで、その場合は遅いもので2050年代まで就役することになるという。

(4)NPTとの関係、IAEAとの関係も問題となる。非核保有国による原潜保有の初めての事例になる。IAEAは既に実体的、法的検討を開始している。原潜建造に関心を持つイランなどが注目しているようだ。イランの他、カナダ、韓国(先年韓国は米国に協力を求めたが米国は拒否したと言われる)、ブラジルが原潜建造に関心を持っている。IAEAのグロシ事務局長によると、セーフガード措置から外した核燃料の核兵器転用阻止を如何に確保するかが最大の問題になる。

(5)米国内の反対論を抑えられるか。米海軍は技術移転に当初慎重だったという。既に専門家などがバイデンに反対の書簡を送付した。

 日本は、豪州の潜水艦受注に関して、かつてフランスやドイツと争い、結局受注がフランスに決まったという経緯がある。今回、AUKUSには入っていないが、自由で開かれたインド太平洋戦略の中で、何らかの形で連携ができたら良いだろう。

【私の論評】同盟は異なった思惑の集合体であり必ず離合集散する。AUKUS、QUAD、CPTPPも例外ではない!我々は序章を見ているに過ぎない(゚д゚)!

AUKUSが結成された背景には何があったのでしょうか。米誌FORBES(2021/9/19)は「フランス製の最新式の原子力潜水艦を通常動力に変更して12隻建造するという豪州との取り決めは、中国が小規模だった原子力潜水艦艦隊を急拡大する兆しを見せたため、貧弱に見え始めた」と分析しています。

中国は現在、米国、ロシアに次ぐ、約60隻の潜水艦保有国で、攻撃型原子力潜水艦は少なくとも6隻は保有しているとみられます。中国は軍事拠点化を進める南シナ海に戦略ミサイル原潜を遊弋(ゆうよく)させています。

中国海軍が21年現在、6隻保有する094型晋級戦略ミサイル原潜には、最大射程7400キロ以上、核弾頭を最大4個装備可能なJL-2核弾頭ミサイルが搭載され、海中から発射できる態勢が整っています。

弾道ミサイル搭載型潜水艦094型(晋級)

ちなみに、物理的には南シナ海中央から約7400キロ圏内に豪州と日本の全域が入ります。そして中国が2020年代中の就役を目指して開発中の096型戦略ミサイル原潜が将来は、射程1万2000~1万5000キロのJL-3ミサイルを搭載して南シナ海に潜む可能性もあります。これだけの射程になれば、南シナ海の海中から米本土だけでなく、英仏も物理的には射程内に収まるようになります。

AUKUS署名後、モリソン豪首相は記者会見で同国海軍のホバート級イージス駆逐艦にトマホーク巡航ミサイル(射程1600キロ以上)を装備することを言明。さらに今後、延命工事が行われるコリンズ級潜水艦にも、トマホーク巡航ミサイルを装備する可能性を示唆した。

AUKUS署名で仏企業は、650億ドル規模のビジネスをキャンセルされ、仏政府は駐米、駐豪仏大使を一時帰国させましたが、9月22日にマクロン仏大統領とバイデン米大統領の電話会談の後、駐米、駐豪の仏大使は任地に帰還しまし。

10月29日、米大統領はローマで開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を前に、マクロン仏大統領と会談。米側の不手際を認め、「米国はインド太平洋地域のフランスの役割を歓迎する。フランスは地域全体に拠点を置く軍事力により、自由で開かれたインド太平洋への安全保障への貢献、提供者となっている」などを内容とする米仏首脳共同声明を発出しました。

この中では、AUKUSについては一言もなかったのですが、「米仏防衛貿易戦略対話を開始する」との文言がありました。その同じ日、在豪英国大使館は豪西部のパースに入港した英国海軍のアスチュート級攻撃型原潜の画像をツイートしました。

これは対中国という観点からか、「AUKUSを補強する」ため、というのです。

中国の094型、そして、近い将来の096型弾道ミサイル原潜をけん制するために、豪海軍の水上艦(ホバート級駆逐艦)と攻撃型潜水艦にトマホーク巡航ミサイルを装備することがAUKUSの目標と思われます。

前述のFORBES誌(2021/9/20)は「米海軍のロサンゼルス級原子力潜水艦28隻のほとんどは退役する予定だが、同級原潜を豪州に貸与すれば、豪州は“米国外”でありながら、この地域のさまざまな米国の需要を支援するために利用可能」になるといいます。

米海軍で最も製造隻数の多いロサンゼルス級原潜 クリックすると拡大します

具体的には「米英は原潜用の埠頭(ふとう)、ドライドック(船体の検査や修理などのために水を抜くことができるドック)、その他の特殊施設の設計要件を豪州に伝え、豪州は米英の攻撃型潜水艦を支援するのに必要なインフラの構築を開始できる」としています。

「その他の特殊施設」については、具体的な指摘はないですが、例えば将来、豪州の軍艦や潜水艦に搭載されるトマホーク巡航ミサイルの貯蔵施設が豪国内に建設されれば、米英も利用でき、その戦略的意味は大きくなります。

豪州の将来の原潜が米国のバージニア級や英国のアスチュート級原潜とどのような関係になるかは不明ですが、どちらも、トマホーク巡航ミサイル搭載艦という共通点があります。かくして「豪州の潜水艦契約破棄事件」は、AUKUS結成に伴い豪州の潜水艦建造にまで本格介入する米英、ことにバイデン政権の「中国包囲網」構築の本気度を示しているのかもしれないです。

潜水艦から発射されたトマホーク

AUKUSの創設の背景に米国の潜水艦戦略があることを見落としてはならないです。

中国の海洋進出に対する米国の抑止力の中心は潜水艦です。特に原潜は長距離を速い速度で移動することができ、長期間潜航したまま隠密活動ができます。

そのため、米国は現在保有している51隻の攻撃型原潜のうち、60パーセントを太平洋に配備しています。また、日本の海上自衛隊の潜水艦部隊とも連携することによって、潜水艦戦力では中国を圧倒的に凌駕しています。

しかし、その米国の潜水艦戦力も旧型原潜の退役が近い上に、新造艦の建造スペースが遅いこともあって、2020年代の後半から10年程度は、米国の攻撃型原潜の数は42隻にまで落ち込むことが試算されています。実は、米国はその穴埋めとしてオーストラリアの原潜に期待を寄せているのです。

英国政府筋によれば、オーストラリアが現在の通常型潜水艦を南シナ海へ派遣した場合、現地に留まることができる期間はわずか10日間程度であるのに対して、原潜ならほぼ無期限で活動できます。また、日本の沖縄周辺からインド洋までの全域で中国海軍の活動を監視することが可能になります。

インド太平洋には、もう一つ、QUAD(クアッド)という対話の枠組みがあります。日本が主導して始めたもので、米国、オーストラリア、インドが加盟しており、9月には初めての対面形式の首脳会議がホワイトハウスで開催されました。首脳会議は今後、毎年開催される予定です。

AUKUSが今後、発展していくにつれて、QUADとどのように連携していくのかが、大きなテーマになるでしょう。

英国はCPTPPへの加盟を検討していますし、日本も将来、AUKUSへの加盟を検討しなくてはならない時期が来るでしょう。やがて、インド太平洋では、政治はQUAD、安全保障はAUKUS、経済はCPTPPという役割分担が成立するかもしれないです。

歴史を見ればわかるように、同盟は異なった思惑の集合体ですから、必ず離合集散します。これらの枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、インド太平洋同盟として花開く可能性を秘めています。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。

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2021年11月7日日曜日

遠山元財務副大臣を任意聴取 東京地検―【私の論評】特捜部の捜査の進展次第では、今後、政界にも波及する見通しが強まった(゚д゚)!

遠山元財務副大臣を任意聴取 東京地検

遠山清彦氏

日本政策金融公庫の融資を違法に仲介した貸金業法違反容疑の関係先として公明党衆院議員事務所が家宅捜索を受けた事件で、東京地検特捜部が、元財務副大臣で同党の遠山清彦元衆院議員(52)から任意で事情聴取していたことが7日、関係者への取材で分かった。遠山氏は、融資の違法な仲介などへの関与を否定したという。

事件をめぐっては、東京都内で環境関連会社を経営する男性会社役員(74)ら2人が貸金業の登録がないまま、新型コロナウイルス禍で融資を求める複数の業者に対し、公庫の担当者を紹介するなど契約を仲介していたとされる。貸金業法は無登録で融資仲介を行うことを禁じている。

特捜部は8月、遠山氏の元秘書2人と太田昌孝前衆院議員(60)の元秘書1人が、会社役員らから依頼され仲介に関与した疑いがあるとみて、太田氏の事務所と、遠山氏の元秘書2人が秘書を務めていた吉田宣弘衆院議員(53)の事務所を家宅捜索していた。

関係者によると、男性役員はこれまでの特捜部の聴取に、複数の業者から融資成立の謝礼を受け取っていたと説明。「遠山氏側には年間現金数百万円を渡した」と供述する一方、「現金は融資とは無関係だ」と主張しているという。

特捜部は6日に遠山氏を参考人として聴取。関係者によると、遠山氏は、元秘書2人が公庫の融資の担当者名を伝えるなど男性役員に協力していたことは認めた上で、「融資に関して現金は受け取っておらず、無登録の貸金業などには関与していない」などと説明したという。

【私の論評】特捜部の捜査の進展次第では、今後、政界にも波及する見通しが強まった(゚д゚)!

遠山清彦氏といえば、緊急事態宣言下の深夜に東京・銀座のクラブを訪れたことが批判を浴びていたことが記憶に新しいです。遠山氏は、1月29日に党幹事長代理を辞任していました。

遠山氏は10月1日、国会内で記者団に「政治への信頼を深く傷つけてしまったことに対して心からおわびしたい。次の選挙で立候補する意思は持っていない」と述べました。

遠山氏は、自らが代表を務める資金管理団体からキャバクラやスナック4軒での飲食代計約11万円を支出していたことも判明。総務省に政治資金収支報告書の修正を届け出ていました。

遠山氏は2001年に参院議員に初当選。2期務めた後に、衆院にくら替えし、4期目でした(比例九州ブロック)財務副大臣を務めました。2月1日、議員辞職願を大島理森衆院議長あてに秘書を通じて提出し辞職していました。

融資の仲介を主導したとされる男性会社役員(74)が東京地検特捜部の任意の事情聴取に、同党の遠山清彦元衆院議員(52)に「現金計約1000万円を手渡した」と供述していることが、毎日新聞社の関係者への取材で判明していました(11月5日)。遠山元議員が副財務相に就任していた2019年9月から約1年間、複数回にわたり提供したといいますう。特捜部は現金の趣旨を慎重に調べている模様です。

この男性(74)は、詐欺罪などで社長らが特捜部に逮捕・起訴された横浜市の太陽光発電関連会社「テクノシステム」の元顧問です。

特捜部は8月、日本政策金融公庫の新型コロナウイルス特別融資を巡り、遠山元議員の元秘書らが無登録での融資仲介に関与したなどとして、貸金業法違反容疑の関係先として遠山元議員の自宅などを家宅捜索。捜索令状の容疑者はこの男性でした。 

関係者によると、この男性(74)側は20年4月以降、資金繰りの苦しい複数の会社から「融資を早く受けたい」との依頼を受け、親交のあった遠山元議員の元秘書に公庫の担当者を紹介するよう仲介。

この男性(74)はテクノシステムなどから現金を預かり、遠山元議員に渡した疑いがあります。公庫は財務省が所管しています。 


この男性(74)が融資を仲介したのは延べ100件程度とみられ、中には融資が早期に実現した例もあったといいます。現金は仲介への謝礼の可能性がある一方、特別融資制度の創設前に提供されたものもあるといい、特捜部が趣旨を慎重に調べています。 

男性は毎日新聞の取材に「詳しいことは話せない」と答えた。遠山元議員は家宅捜索を受けた8月、「男性から現金を受け取ったことはない」と説明していました。

この男性(74)は、上でも述べたように、詐欺罪などで社長らが特捜部に逮捕・起訴された横浜市の太陽光発電関連会社「テクノシステム」の元顧問です。

金融機関に嘘の書類を提出して融資金約11億円を騙し取ったとして、東京地検特捜部は5月27日、太陽光発電関連会社『テクノシステム』社長の生田尚之容疑者(47)ら3人を詐欺容疑で逮捕しました。

生田容疑者らの逮捕容疑は昨年3月~7月ごろ、太陽光発電やバイオマス発電事業への融資をめぐり、虚偽の名目で融資申込書などを提出、阿波銀行(徳島県)と富士宮信用金庫(静岡県)から計約11億6500万円を騙し取ったというものです。

他にもテクノ社は同じ手口で、金融持ち株会社『SBIホールディングス』傘下の金融ネット仲介会社『SBIソーシャルレンディング』から約400億円の融資を受けていました。


SBIグループや信用金庫がなぜ、こんなに簡単に騙されるのでしょうか。その理由の1つはテクノ社の広告塔として小泉純一郎元首相が協力していたからでしょう。また、テクノシステムの影の実力者といわれているのが、世界最大級の洋上風力発電を計画する企業のH代表です。

H氏は小泉元首相が常連の赤坂の小料理屋『津やま』の女将を生田社長に紹介したことから、小泉元首相とパイプができたとされています。テクノシステムに対しては、融資先の金融機関に〝小泉元首相の写真を見せて信用させろ〟と資金調達の指南役を務めていたようです。

生田社長は小泉元首相を広告塔として利用する傍ら、長男で俳優の小泉孝太郎は、テクノシステムのホームページやパンフレット、CMに登場させています。

テクノ・システムのCMに登場した小泉孝太郎氏 クリックすると拡大します

生田容疑者が近づいた政治家は、小泉元首相だけではありません。小池百合子東京都知事や、今年1月の緊急事態宣言下、銀座高級クラブでの深夜豪遊が発覚して議員辞職に追い込まれた元公明党幹事長代理の遠山清彦氏らとも、親しさを吹聴していたといいます。

生田社長らは小池都知事側に計200万円、遠山氏が務めていた公明党衆議院比例区九州第2総支部に100万円の政治献金をしていました。特に〝小池都知事の金庫番〟と呼ばれているM氏と生田社長は昵懇の仲。テクノ社が買収した銀座の老舗フランス料理店『ドン・ピエール』(事件化した後に売却)で、小池都知事を接待していたされています。

その他にも、生田容疑者と親しい政治家の名前が数人挙がっています。小泉進次郎氏(環境大臣当時)はある日突然、ここは良い風が吹いているから再生エネルギー特区としてスーパーシティを作り、日本のエネルギー政策を転換するんだよと言い出し、レジ袋を有料化しながら「このエネルギー基本計画案では、2030年度の再生可能エネルギーの導入目標を『36~38%』とする」と力強く語りました。


再生エネルギーの割合を増やし、温暖化ガスを削減して、世界的な気候変動がより破壊的なことにならないようにする、という方向性には誰も反対しないかもしれません。ただし、それがどういう手順で、いかなる実現可能な目標設定であるべきかについては、本当はきちんと科学的根拠やプロジェクト上の達成スケジュールを組み合わせて考えていかなければなりません。

永田町筋では、特捜部の捜査は「小泉元首相の反原発運動潰しから始まった」という見方もされています。それだけに政界ルートは徹底的に洗い出されることになる可能性もあります。

特捜部の捜査の進展次第では、今後、政界にも波及する見通しが強まっている。頂上作戦が始まったようです。

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2021年11月6日土曜日

ロシア極東戦力の一端明らかに 軍事演習、異例の公開 潜水艦基地や最新鋭艦も披露〔深層探訪〕―【私の論評】東西冷戦の戦勝国でもある日本は、「インド太平洋憲章」を提唱し新たな世界秩序の樹立に貢献すべき(゚д゚)!

ロシア極東戦力の一端明らかに 軍事演習、異例の公開 潜水艦基地や最新鋭艦も披露〔深層探訪〕

 ロシア国防省は10月下旬、時事通信など内外メディアに極東のカムチャツカやサハリン、ウラジオストク沖で行われた軍事演習の様子を公開した。海軍太平洋艦隊の潜水艦基地区域の立ち入りや最新鋭コルベット艦の乗船も許可するなど異例の公開ぶりで、アジア太平洋をにらむ極東のロシア軍の戦力の一端が明かされた。

  ◇潜水艦4隻を近く配備 

 「近く新たに潜水艦4隻が配備される」。太平洋艦隊潜水艦部隊のアルカジー・ナワルスキー海軍少将は10月27日、カムチャツカ半島ビリュチンスクの基地に停泊したボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ」の艦上でこう語り、戦力拡充ぶりをアピールした。少将は「潜水艦部隊の活動目的は、アジア太平洋地域でのロシアの軍事的安全の確保だ」と強調。軍事インフラも絶え間なく改善されていると自信たっぷりに述べた。

ボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ

  半島南部の太平洋側に位置する基地には複数の潜水艦が停泊しており、この日は基地水域に侵入した敵艦艇の撃退を想定した訓練が行われた。入出域が管理されている基地区域には軍人やその家族向けにプールなどを備えた娯楽施設もあり、少将は「インフラ拡充や部隊の戦闘能力向上のほかに、国家指導部や国防省は軍人の生活の質向上に大きな関心を払っている」と説明した。 

 カムチャツカでは、ロシアが介入したシリア内戦にも投入された地対空ミサイルシステム「S400」による対空防御訓練も実施。実際に発射はしなかったが、発射台を動かしたり、訓練場所に煙幕を張ったりした。翌28日には北海道北方に位置するサハリン島での訓練を公開。島南部のアニワ湾沿岸で、無人機「エレロン3」やT80戦車などを投入して敵の上陸阻止訓練が行われた。 

 ◇中国と軍事協力強化 

 欧米と対立を続けるロシアは、対米で結束する中国との軍事協力を深めており、アジア太平洋地域での軍事演習を活発化させている。中ロは10月14日からウラジオストク沖の日本海で海上合同軍事演習を実施。そのまま中ロ軍艦10隻は津軽、大隅両海峡を通過し、23日まで日本周辺で「海上合同パトロール」を行った。航行は中ロの連携を示し、日米をけん制する狙いがあったとみられている。 

 演習公開3日目の10月29日には津軽、大隅両海峡を通過した中ロ軍艦10隻のうちの1隻である太平洋艦隊のコルベット艦「アルダル・ツィデンジャポフ」に報道陣を乗せ、ウラジオストク沖の日本海で砲撃訓練などが行われた。同艦は昨年12月に配備された最新鋭艦で100ミリ砲や機関砲を備え、対潜哨戒ヘリコプターの発着艦が可能だ。

  ロシアは毎年9月ごろに国内の軍管区の一つで大規模軍事演習を実施。来年は極東を管轄する東部軍管区で「ボストーク(東方)2022」が予定されており、国防省によれば、今回公開された訓練の一部は来年の大規模演習に向けた準備の一環でもあった。 

 18年に行われた前回のボストークには中国軍が参加した。30万人が動員され「冷戦後最大規模」とも言われた。来年のボストークも中ロが軍事的結束を誇示する場となりそうだ。

【私の論評】東西冷戦の戦勝国でもある日本は、「インド太平洋憲章」を提唱し新たな世界秩序の樹立に貢献すべき(゚д゚)!

連携を深めつつある中露海軍ですが、これに日本はどう対処すべきかについては以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中露の航行許す津軽の「特定海峡」指定 「領海」にしないと国益を損ねる 「非核三原則」も早急に見直しを ―【私の論評】中露などの軍艦艇、潜水艦や核兵器積載艦艇の海峡通過は有害通行とみなすべき(゚д゚)!
津軽海峡を通過する中露艦隊

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみ引用します。
日本は、1968年の国会において、核兵器積載艦船の領海通航は無害とはみなさないという立場を表明し、この立場に変更がないことは、96年の国連海洋法条約を批准する際の国会審議においても確認されています。

日本としては、「核三原則」は捨てても、この立場は堅持すべきです。ただし、米国など同盟国の艦艇や潜水艦、核兵器積載艦艇の通過は無害とみなし、中露などの艦艇や潜水艦や核兵器積載艦艇に関しては、有害とみなすようにすべきです。

これにより、今回の中露の軍事演習のような行為は国際的にも認められなくなります。
ただ、これは日本が単独で、中露に対して牽制をするということであり、日本としてはそれだてげはなく、同盟国等他の国々にも働きかけていくべきでしょう。何よりも日本が世界に向かって新たな世界の秩序をつくりあげるための提言をしていくべきです。
 
現在の世界は、第二次世界大戦やその後の世界とは異なり、「自由民主主義国家 vs.中露などの全体主義的強権国家」の対立であり、新冷戦とも言える状況にあります。

過去に似たような状況があったとしたら、それは、1989年に終了した東西冷戦です。米国を中心とする西側陣営は、この東西冷戦に明確な勝利を得ました。


米国は、第2次世界大戦終了後、数々の戦争に関与してきました。しかしながら、世界最強の軍事力を持ちながら、主要な戦争に敗北し続けてきました。

米国の著名な戦略家のエドワード・ルトワックが著書『ルトワックの日本改造論』(飛鳥新社、2019年12月)第3章の中の一節「1945年以降、アメリカは負け続けている」という箇所の中でも明言しています。

ルトワックは、朝鮮戦争は、「参戦してきた中国義勇軍兵の攻勢に米韓軍は統制も士気も乱れ、大打撃を受けた。結果として、運よく引き分けに持ち込んだ程度だった」と述べています。

第2次世界大戦後、最大の米兵犠牲者(5万8000人強)を出したベトナム戦争は米国の敗北で終わっています。

最近では、20年間にわたり2兆ドル以上(250兆円)を投じたアフガニスタンへの米軍の駐留は、再びタリバンが同国支配の奪還に成功する中、さる8月30日、米軍の完全撤退の形で終了しました。

まさに、ルトワック氏が主張する大国は小国に勝てないという理論を実証した形になりました。

そうして、外交政策についても、米国は重要な節目節目で大きな間違いをすることが多いです。

東西冷戦は熱戦ではないですが、米国にとって第2次世界大戦後、ほとんど唯一といっても良いほどの輝かしい勝利と言えます。これは、西ヨーロッパ諸国と日本が全面的に協力したからこそ勝利できたのです。


日本では多くの人が認識していないようですが、わが国は、米国、西ヨーロッパ諸国とともに、冷戦の勝者です。日本は冷戦の戦勝国なのです。さらに、日本はこの戦いに手をこまねいて何もしなかったということはありません。

オホーツク海においては、日本は米国の要請に応じて、対潜哨戒能力を強め、ソ連原潜の探査を行い、米国と協同の上ソ連原潜の実質上の封じ込めに成功しました。

冷戦期間という長期にわたって、日本はオホーツク海における対潜哨戒活動を行ってきたため、哨戒の能力が飛躍的に伸び、いっときは米国を凌駕するまでになり、世界一といっても良い状況にありました。この貢献は米国や西側諸国にとっても非常に大きいです。

日本の対潜哨戒能力は今でも世界のトップレベルです。米国もそうです。そのため、日米は海戦能力がトップレベルであり、中露と日米が本格的な海戦をすれば、中露に勝ち目はありません。

中国は海戦では日本単独でも勝つことはできないでしょう。ロシアも総力戦ではなく、海戦ということでは、日本と戦えば相当厳しいです。特に長期の海戦になれば、陸空の軍事技術には秀でてはいますが、海においてはそうでもありませんし、経済力が今や日本の1/3程度ですから、兵站に支障をきたす可能性が高いです。

朝鮮戦争においては、日本は直接戦争に参加することはありませんでしたが、朝鮮で戦う米軍に対する巨大な兵站基地となって支えました。日本は今でも中国と対峙する米軍の巨大な兵站基地の役割を担っています。

これらを実施するために、日本は莫大な経費と時間と努力を費やしてきました。おそらくこれは、米国に次ぐ多さだと思います。

ここで話は変わりますが、現在すでに時代遅れとなった「大西洋憲章」なるものが「新大西洋憲章」として、未だに生き残っています。「大西洋憲章」は、第2次世界大戦に至る「連合国 vs. 枢軸国」の対立の過程で作成されたものです。「新大西洋憲章」も枠組みは「大西洋憲章」と変わりありません。

1941年8月の米国のフランクリン・ルーズベルト大統領と英国のウィンストン・チャーチル首相による大西洋に浮かぶ英戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦上で合意されました。

「新大西洋憲章」は米英で定められたものです。第二次世界大戦後はこれで良かったかもしれませんが、現在ではこれにかわる新たな「憲章」が必要です。そうして、現在日本が中心となり自由民主主義諸国の理念を「インド太平洋憲章」として起草する資格が十分にあるといえるでしょう。

そもそも、一番最近終わった世界大戦は第2次世界大戦ではなく、1989年に終わった東西冷戦です。

ロシア(ソ連)は、東西冷戦の明確な敗者であり、中国もほとんどそれに近いです。ただし、中国は当時は軍事的にも経済的にもとるに足りない存在であったので、失うものがソ連に比較して少なかったということであり、敗戦国であることに変わりはありません。

わが国は、一番最近終わった世界戦争の勝者の主要な一員という意味でも、新冷戦の理念を掲げる「インド太平洋憲章」を起草する資格を有していると言えるでしょう。

日本は、いつまでも、敗戦国の汚名を着せられたままでいることはできません。これを機に、わが国は、直近の世界大戦の勝者として、国際社会に登場すべきです。

「インド太平洋憲章」に盛り込むべき内容としては、そもそも先の「新・大西洋宣言」の8つの条項には、人権の尊重が明示されていないですが、東トルキスタン、チベット、モンゴル、香港など酷い人権侵害を続けている中国を牽制する観点からも、こうした条項は「インド太平洋憲章」には不可欠です。

そもそも日本は、世界で最初に人種的差別撤廃を提案した国です。第一次世界大戦後のパリ講和会議の国際連盟委員会において、日本が主張した、「国際連盟規約」中に人種差別の撤廃を明記するべきという提案をしました。

ところが、この提案に当時のアメリカ合衆国大統領だったウッドロウ・ウィルソンは反対で事が重要なだけに全員一致で無ければ可決されないと言って否決しました。国際会議において人種差別撤廃を明確に主張した国は日本が世界で最初です。

このような経緯からも、「インド太平洋憲章」を日本が起案して、人権尊重の条項を盛り込む資格を有しているといえます。

参加国の枠組としては、新冷戦の自由民主主義陣営は、日米豪印4カ国のQUADを中心として、世界のすべての民主主義国に参加してもらうべきです。

ただし、「インド太平洋憲章」に当初参加してもらうのは、「QUAD +α」とするのが適当でしょう。

このプラス・アルファの諸国には、すでに軍事的なものを含めて、インド太平洋への関与を表明している英仏独蘭の4カ国に、カナダとニュージーランドの2カ国を加え、計6カ国とするのが適当であると思います。

そのため、「インド太平洋憲章」は、少なくとも当初は、この「QUAD +α」の計10カ国によって合意されるものとすべきと思います。

是非とも、これらの10カ国を主導して、日本政府が、「インド太平洋憲章」の草案作りをすべきです。

なぜならば、上で述べてきたようにその資格が最もあるのは、わが国だからであり、さら付け加えると、自由で開かれたインド太平洋戦略は、元々は2016年(平成28年)8月に、時の内閣総理大臣・安倍晋三が提唱した、日本政府の外交方針だからです。

こうした下地があったからこそ、米国はインド太平洋戦略を推進しやすかっといえます。米国に反対する勢力も多いこの地域で安倍総理が関係諸国に橋渡ししたからこそ、うまくいったといえます。

さらには、クアッド構想も06年に安倍晋三首相が4カ国の戦略対話を訴えたのがきっかけだからです。2013年安倍氏が首相へ返り咲いて計画が再浮上しました。17年11月に局長級会合が始まり、19年9月にニューヨークで初の4カ国外相会談を開催しました。

そうして日本は第二次世界大戦から、冷戦を経て今日に至るまで、戦争や紛争に直接関与したことは一度もないからです。

米国をはじめとして、戦争や紛争に直接関与してきた国が草案をつくれば、利害関係のある国々の執拗な反対は免れないと思います。それに比して、日本の草案づくりに反対するのは、対抗軸にある中露と北朝鮮、及び風変わりな国である韓国だけでしょう。

「インド太平洋憲章」ができあがれば、世界はまた結束して新冷戦に勝利することになるでしょう。


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2021年11月5日金曜日

戦闘機導入問題で揺れるトルコと欧米露の関係―【私の論評】日本人は親日国トルコの情勢を客観的にみるべき(゚д゚)!

戦闘機導入問題で揺れるトルコと欧米露の関係

岡崎研究所

 トルコは戦闘機をどのように近代化させるのかという問題に直面している。トルコは本来、米国の第5世代戦闘機F-35を導入する予定であったが、2019年にロシアの防空システムS-400を導入したことに米国が反発し、トルコはF-35共同開発計画から締め出された。その結果、トルコ空軍はF-16戦闘機に頼らざるを得なくなり、最近、米国に対し、40機の新型F-16と現有の80機のF-16をアップグレードする近代化キットへの要請を出した。


 トルコへのF-35の供与が凍結されたのは、米国の主張によれば、ロシアの防空システムS-400導入により、F-35の脆弱性がロシア側に明らかになる可能性が出てきたためである。トルコが同盟の精神をないがしろにしたと批判されても当然であろう。

 米国がF-35のトルコへの供与をやめたことは根拠のある判断である。その結果、トルコの戦闘機がF-16頼りになったことは、いわばトルコの自業自得というべきものではあろう。そういう状況の中で、トルコがF-16戦闘機の新型、および現有F-16戦闘機のアップグレードのための協力を求めているわけである。

 しかし、10月14日付けフィナンシャル・タイムズ紙の解説記事‘Turkey’s search for fighter jets puts Biden in a bind’によれば、F-16はF-35と異なり、S-400の導入により脆弱性を増すという事情はないとのことである。そういうことであれば、トルコのF-16に関する要求は厚かましいところがあるが、米は同盟国としてトルコの要請にこたえてしかるべきであろう。議会は反対かもしれないが、バイデン政権としてトルコの要請を認めるように働きかけるべきであろう。

 NATOは、同条約5条が、加盟国は一カ国への攻撃は全ての加盟国に対する攻撃とみなし全加盟国が攻撃された国を守るとしている、と規定している通り、強固な同盟である。各国の防衛努力はNATO全体にとっても重要であり、腹立ち紛れで対応すべき問題ではない。トルコが同盟国である限り、それなりの敬意を払うべきであろう。

トルコで積もり始めているロシアへの不満

 トルコ・ロシア関係について言えば、トルコのロシアに対する不満はかなり大きく、トルコをロシア側に追いやらないかぎり、ロシア・トルコ間において同盟類似の関係はありえない。黒海をはさんでトルコとロシアは対峙しているが、ロシアのクリミア併合をトルコは認めておらず、ウクライナの立場を支持している。ウクライナには無人航空機をトルコが出すという話もある。

 シリアでは、イドリブでトルコ兵士が20人ほど死亡する衝突事件があったが、ロシア軍の関与が疑われている。さらにコーカサスでのアルメニア・アゼルバイジャン戦争ではロシアがアルメニア側につき、トルコがアゼルバイジャン側につき、アゼルバイジャンが勝利したこともあった。

 トルコ・ロシア関係はトルコと欧米の関係よりもっと難しい関係と見ておいてよい。トルコのF-16に関する要求に応えることで、トルコを欧米側に引き付けて置けるし、そのことは欧米側にとっても利益になると思われる。

【私の論評】日本人は親日国トルコの情勢を客観的にみるべき(゚д゚)!

3月24日人権NGO(非政府組織)ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領が先週、女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約からトルコを脱退させたことを受け、トルコが「前例のない」規模で「人権保護を破壊している」と非難しました。

エルドアン・トルコ大統領

この動きは、トルコの検察長官が、野党である親クルド派の人民民主党(HDP)を、「国家と国との不可分の一体性に反する行為」をしたとして活動停止にする計画を発表したことを受けたもので、全国の都市で党員の逮捕が相次いる中での出来事です。

エルドアン大統領は国民民主主義党(HDP)について、テロ組織指定されているクルディスタン労働者党(PKK)を支援しているとして非合法化を要求、3月17日には最高検 察庁が憲法裁判所にHDPの解党を申請していました。

トルコでは、クルド人が約2割を占めるとされています。PKKは1984年から武装闘争を続け、トルコや米国、EUがテロ組織に指定。政府は、PKKによる攻撃で、これまでに4万人以上が犠牲になったとしています。トルコ軍は現在も、同国南東部やイラク北部で空爆などを含めたPKK掃討作戦を続けています。

PKKの女性民兵

HRWのケネス・ロス事務局長は、エルドアン大統領が「トルコ社会の再構築に向けた幅広い取り組みを妨げるあらゆる機関や社会の部分を標的にしています」と述べています。

「議会の反対勢力、クルド人、女性に対する最近の動きは、人権と民主主義の保護に違反して、大統領が権力を維持するためのものです」

HRWは、エルドアン大統領が宗教的に保守的な層にアピールするために、イスタンブール条約として知られる「画期的な」欧州評議会の条約を「武器」にしていると非難した。

イスタンブール条約は、女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約、通称イスタンブール条約は、2011年5月11日にトルコのイスタンブールで署名された女性に対する暴力と家庭内暴力に反対するための欧州評議会の国際人権条約です。 この条約は、暴力の防止、被害者の保護、加害者の免責の撤廃を目的とします。

「今回の(条約からの)離脱決定は、トルコにおける女性の権利を守るための闘いを大いに後退させるものであり、政治的スペクトラムを問わず、すべての女性にとって大きな打撃となります」とロス事務局長は述べました。。

HRWは、HDPの活動停止計画は、何百万人ものクルド人の民主的権利に対する攻撃であると言います。また、トルコでは過去30年間に他の5つのクルド人政党が閉鎖されていると彼は付け加えました。

「2018年の総選挙で全国的に11.7%の票を獲得し、55人の選出議員を擁する政党を閉鎖するための訴訟を開始することは、政治的結社と表現の権利に対する大きな攻撃です」とロス事務局長は述べました。

「この動きは、600万人近くの有権者が選んだ代表者を否定し、投票権を侵害することになりかねません」

HRWによると、トルコの検察長官は、HDPに対する広範な弾圧の一環として、687人のHDPメンバーを政治活動から追放することも求めているといいます。

人権重視をうたう米バイデン政権は、国務省が3月17日、「(解党は)有権者の意思を不当に覆し、民主主義を阻害する」との声明を発表しました。欧州からも懸念が表明されたのですが、トルコ外務省は同月18日、名指しは避けつつ、「無節操に行動し、我々の内政に干渉するものに対し、トルコの独立した司法による法手続きを尊重するように求める」と主張しました。

トルコがテロ組織とみなしているクルド系武装組織を、米国が過激派組織「イスラム国」(IS)掃討のため支援している問題でも強い不満を抱えています。エルドアン氏は9月下旬、米トルコ関係が「健全ではない」と不満をあらわにしました。

トランプ前政権に比べてバイデン大統領はエルドアン大統領に厳しい姿勢で知られています。
トルコ側はいらだちを強めています。チャブシオール外相は10月28日の地元テレビで、米国が売却に応じなければロシアからの導入を検討する考えを示しました。ロシア製への切り替えは軍制全体に影響するため現実的でないですが、米側を揺さぶる狙いが透けてみえます。

エルドアン大統領は、10月には、トルコに対して人権活動家の釈放を要求した米欧など10人の駐トルコ大使を追放すると宣言しました。

ただし、後にエルドアン大統領は、各国の大使館が内政に干渉しないとする声明を発表したことを受けて処分を見送る方針を示しました。ようやく開催された10月31日のバイデン、エルドアンによる首脳会談では協議の継続を確認するのみで、具体的な進展はみられませんでした。

バイデン(左)、エルドアン(右) 首脳会談

「バイデン大統領は前向きだった」。トルコのエルドアン大統領は20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に際してバイデン氏と会談し、その後に開いた記者会見で、トルコが米国に売却を求めている戦闘機F16についてこう語りました。

もっとも、両国の声明などによると、合意事項は貿易量の増加に向けた協議の枠組み設置にとどまりました。米高官は記者団に対し「(バイデン氏は)トルコの要求を理解している」などと述べるにとどめ、微妙な温度差ものぞかせました。

米トルコ関係が専門のイルハン・ウズゲル元アンカラ大教授は「両者は互いに主張を伝え、継続協議としただけでF16を巡る実質的な進展はなかった」とみています。

トルコは兵員規模でNATO2位を占め、米国や欧州にとっては中東や旧ソ連圏に接する戦略的に重要な同盟国です。その同盟国への武器売却が円滑に進まないのは、両国間に近年生じた深刻な相互不信のためです。

ホワイトハウスの声明によると、バイデン氏は会談でS400への懸念のほか、人権や民主主義、法の支配の重要性を訴えたといいます。米国ではエルドアン政権の強権ぶりに対する懸念が高まっています。仮にバイデン政権が戦闘機売却を認めても、米議会が承認する見通しは立たない状況です。

双方が譲歩し、同盟関係を根本から揺るがしかねない追放劇は回避されたが、溝の深さは改めて浮き彫りになりました。

一方トルコ国内に目を転じると、2019年に国外へ移住したトルコ人は前年比2%増加しました。トルコ統計局が発表した公式統計によると、国外へ移住したトルコ人は合計330,289人に達し、そのうち40.8%は20~34歳でした。トルコの人口は、8,434万人 (2020年)ですから、これは決して無視できない数字です。

イスタンブール政治研究所のセレン・セルビン・コルクマズ常任理事によると、この調査結果は、若者たちがトルコを離れる理由が、主に労働条件や生活水準、仕事の機会、そして自由のためであることを示しているといいます。

「移住は日常の苦闘からの出口戦略になります。国内では若者の失業率が25%以上に達しており、若者の多くが、依然として家族の経済的支援を受けているか、低賃金で働いている状況です」とコルクマズ氏は語りました。

これでは、バイデン政権がトルコの要請をなかなか、受け付けられないのも無理はありません。

トルコは日本国内では、親日国といわれますが、日本人はそれはそれとして、現在のトルコの状況を客観的にみていく必要があります。

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2021年11月4日木曜日

米、台湾防衛巡る曖昧さ減らすべき=下院情報委員長―【私の論評】米国は戦略的曖昧さを捨て去り、米軍の卓越した海戦能力を用い中国の台湾侵攻を阻止すると明言すべき(゚д゚)!

米、台湾防衛巡る曖昧さ減らすべき=下院情報委員長

米下院情報特別委員会のアダム・シフ委員長(民主党)

米下院情報特別委員会のアダム・シフ委員長(民主党)は3日、バイデン政権は米国の台湾政策を巡る曖昧さを減らす必要があるとの見方を示した。アスペン・セキュリティ・フォーラムで述べた。

米国は1979年の台湾関係法に基づき、台湾に自衛手段を提供することが義務付けられているが、台湾が攻撃を受けた際に米国が軍事介入するかどうかは明確にしない「戦略的曖昧さ」と呼ばれる政策を取っている。

シフ氏はこれについて「曖昧さは大きいより小さい方がおそらく好ましい」とし、「われわれは台湾防衛義務について、より明確にする必要がある」と述べた。

また、米政府が他国と連携し、「武力で台湾侵攻・併合を試みればどれほどの代償を払うことになるか、中国に極めて明確に示す」必要があると述べた。

ロシアによるウクライナ侵攻とクリミア併合を引き合いに出し、国際的な抑止を強めなければ、「中国とロシアは今世紀に武力で世界地図を塗り替えることが再び容認されると感じるだろう」と指摘。

米国や同盟国が中国に対し、台湾攻撃が招く経済的な結果は受け入れがたいほど大きくなると理解させることが重要とし、「それが最も効果的な抑止になるかもしれない」と述べた。

米国の立場をより明確にすべきとする一方、「台湾を軍事的に支援するかどうかの議論には微妙なラインがある」とし、「台湾への武力行使に関する中国の考え方や時期を加速させるような表明はすべきでない」と述べた。

バイデン米大統領は10月、台湾が中国に攻撃されれば米国は台湾を防衛すると発言。戦略的曖昧さの立場から逸脱したかに見えたが、ホワイトハウスは直ちに、米国の台湾政策に変更はないと説明した。

【私の論評】米国は戦略的曖昧さを捨て去り、米軍の卓越した海戦能力を用い中国の台湾侵攻を阻止すると明言すべき(゚д゚)!

このブログにも過去に何度か掲載してきたように、現在の中国軍と台湾軍の戦力差ならば、軍事侵攻自体は可能でしょうが、米国政府は在日米軍をはじめとする部隊を送り、介入するはずです。

特に攻撃力に優れた攻撃型原潜による潜水艦隊ならびに対潜哨戒機や艦艇などを派遣するのは確実であり、そうなると、中国には全くといって良いほど勝ち目はありません。

米海軍「P-8A Poseidon」対潜哨戒機

特に、海戦、空戦ではボロ負けするでしょう。米軍は対潜戦闘(ASW)では、世界一の対潜哨戒能力を有しているので、いち早く台湾近海に米攻撃型原潜を派遣して中国の潜水艦をことごとく撃沈して、米軍への脅威を取り除くことになるでしょう。

米軍には「見えない空母」とも言われる巡航ミサイルを多数積載した攻撃型原子力潜水艦(SSGN)が4隻あります。1隻でトマホークを154発積むことができます。

600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないのです。

そうして、米軍は攻撃型原潜で台湾を包囲するでしょう。そうなると、台湾に近づく艦艇はことごとく撃墜、航空機は撃墜されることになります。そうして、中国は米攻撃型原潜の包囲をとくことができず、台湾侵攻はできなくなります。

それでも、多大な犠牲を出してでも台湾に人民解放軍を上陸させたとしても、潜水艦に包囲されていれば、補給ができず、お手上げになるだけです。

仮にそれをさらに、打ち負かしたとしても、その後、民主主義が浸透した人口2300万人の台湾を統治するためには、統治機構を作り直さなければなりません。例えば、警察や軍の組織、選挙制度、教育制度などです。

これら一連の膨大な作業が必要であり、すべてがきちんとできて初めて統治に「成功した」と言えるのです。できなければ、現在のチベット自治区や新疆ウイグル自治区以上の不安定要因を中国は内部に抱えることになります。

しかも、台湾は大陸から離れているので、統治はさらに難しくなることが考えられます。中国は国土と人心が荒廃した台湾ではなく、自国の発展の役に立つ台湾を欲しているのです。それが成就できなければ、それを手にいれるためにほとんど勝ち目のない軍事的な侵攻をするのは無謀で愚かなことです。

それでも、中国が台湾に侵攻する可能性はあります。それは主に二つの要因によるものと推測できます。

まず第一は、中国が勝てると誤解することです。以前から述べているように、現代の海戦の本当の戦力は潜水艦であるといえます。水上に浮かんでいる艦艇は、ミサイルなどの標的に過ぎず、いずれ必ず撃沈されるからです。

潜水艦による戦いということになれば、上でも述べたように圧倒的に米軍が強いです。それについては、現場の軍人は熟知しているでしょうが、中共の幹部は知らない可能性があります。

世界の軍事力などを比較するジェーン年鑑などで、中国の海軍力などが報告され、それには艦艇の数などが掲載されていて、軍事的な知識がないと、中国海軍は世界一と思い込むときがくるかもしれません。

しかし、中国は先進国の軍隊とまともに戦った経験がありません。大東亜戦争中に日本と戦ったのは、現在台湾に存在する国民党の軍隊でした。中国はベトナムと戦った惨敗した経験があるのですが、その当時とは根本的に状況が違うと考えたり、中国海軍はまともに海戦を戦ったことが一度もないにもかかわらず中国海軍は世界最強で米軍と戦っても勝つとの幻想をいだく中共幹部もいるかもしれません。

1979年の中越戦争では中国は惨敗

そうなると、台湾に侵攻する可能性あります。ただ、そうなれば、きついボロ負けになるだけですが、それでも米軍は無論ですが、日本も被害を受ける可能性があります。

もう一つの可能性としては、クライブ・ハミルトン氏の著書『目に見えぬ侵略』に描かれた、オーストラリア社会に中共がありとあらゆる手段を講じて浸透したように、台湾に浸透した場合です。

たとえば、台湾政府、軍隊その他ありとあらゆる組織に深く浸透し、あとひと押しで台湾が中国にひれ伏す可能性が出てきた場合です。この場合、中国は台湾に侵攻するかもしれません。

中国共産党は7月1日午前(日本時間同)、北京中心部の天安門広場で創立100年を記念する式典を開催しました。習近平党総書記(国家主席)は「台湾問題の解決と祖国の完全統一実現は党の歴史的任務だ」と演説し、台湾統一の実現に強い意欲を表明しました。


独裁者になろうとする習近平には、残念ながら、建国の父である毛沢東や、経済発展を実現させた鄧小平のような手柄がありません。その手柄を得るために、台湾に侵攻する可能性は否定できません。

この場合も、上に示したように、米軍が台湾を攻撃型原潜で包囲してしまえば、中国は台湾に侵攻することはできません。ただ、この場合も米軍や日本も被害を受ける可能性はあります。

一番良いのは、中国が自国の軍事力を過信しようが、台湾社会にかなり浸透したにしても、中国が台湾に侵攻すれば、ボロ負けするだけであることを周知徹底し、最初から中国が台湾侵攻する意図を挫くことです。

台湾が攻撃を受けた際に米国が軍事介入するかどうかは明確にしない「戦略的曖昧さ」と呼ばれる政策は捨て去り、「台湾が中国に攻撃されれば米国は台湾を防衛すると」名言するとともに、軍事機密にもかかわることなので、詳しいことは言わなくて良いですから、「米軍の中国軍に比較して卓越した海戦能力を用いて中国の台湾侵攻を阻止」するくらいのことは言っても良いと思います。

その意味するところは、まともな軍事アナリストには伝わり、中共幹部にも伝わり、何よりも台湾の人々を勇気づけることになるでしょう。

これは今では言うまでもないことなのですが、米軍が空母打撃群や海兵隊を用いるような時代遅れの作戦を想定することは、人民解放軍に格好の標的を与えるだけで、もはや愚劣であり、中共をぬか喜びさせるだけです。

ただ、いまでも米海軍の中には頑迷固陋な空母打撃群信奉者が存在するのは事実のようで、空母打撃群を中心に作戦を組んだ場合、米軍も出す必要のない多大な犠牲者を出すことになるでしょう。ただ、この場合でも最終的には米軍が勝利することになるでしょう。

このような馬鹿真似は普通はしないでしょうが、それにしても最近の米軍のアフガン撤退をみていれば、馬鹿真似をしないとは言い切れないかもしれません。

一番愚かな選択は、空母打撃群が攻撃を受けて壊滅的な打撃を受けたからといって、台湾防衛をあきらめることです。これも、決してありえないシナリオとは言い切れません。特に、バイデン政権や米軍に中国が深く浸透していれば、ありえるシナリオです。

このようなシナリオも想定して、日本は独自の日本の潜水艦隊による台湾防衛の方式を予め策定しておくべきです。中国よりも対潜戦闘能力に格段に優れた日本は、中国よりもはるかに海戦能力に優れているので、単独でも台湾を防衛できます。しかも、潜水艦隊中心の作戦であれば、あまり犠牲を出さずともできます。

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特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣―【私の論評】岩屋外務大臣の賄賂疑惑が日本に与える影響と重要性が増した企業の自立したリスク管理

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣 渡邉哲也(作家・経済評論家) まとめ 米国司法省は500ドットコムと元CEOを起訴し、両者が有罪答弁を行い司法取引を結んだ。 日本側では5名が資金を受け取ったが、立件されたのは秋本司被告のみで、他...