2022年7月11日月曜日

自民大勝「安倍元首相が力くれた」 内閣改造・人事 政界への影響―【私の論評】「黄金の3年間」に安倍元総理の遺志を引き継ぐ議員と国民がとるべき行動(゚д゚)!

自民大勝「安倍元首相が力くれた」 内閣改造・人事 政界への影響

開票センターで当確者の名前に花を付ける自民党総裁の岸田首相(右)と高市政調会長=10日午後9時50分、東京・永田町の党本部

 参議院選挙での自民党大勝を受け、安倍元首相が銃撃され死亡した事件が、今後の政界に与える影響について、国会記者会館から、フジテレビ政治部・門脇功樹記者が中継でお伝えする。  今回の自民党の勝利について、安倍派の幹部は、「安倍元首相が力をくれた結果だ」と語っている。  参議院選挙の選挙運動の期間中、安倍元首相は、北海道や新潟など接戦区を中心に応援演説に入ったが、FNNが調べたところ、安倍氏が入った14選挙区全てで勝利を収めていた。  事件は投票日の2日前に起きたが、ある関係者は「弔い選挙の様相を帯びた最終日に岸田首相が入った大接戦の山梨・新潟は大差での勝利となった」と話している。  一方、党内からは「安倍元首相が、保守派のよりどころになって意見をまとめ、岸田政権とのバランスを保っていた。それが大きく崩れた」と、政権への影響を懸念する声も出ている。  岸田首相は参院選を受けて、内閣改造や党役員人事に向けた調整を進めるが、これまで以上に、党内への配慮が必要になるとみられる。

【私の論評】「黄金の3年間」に安倍元総理の遺志を引き継ぐ議員と国民がとるべき行動(゚д゚)!

参院選から一夜明けた11日、岸田首相は自民党本部で党総裁としての記者会見を行い、内閣改造や党役員人事について「党の結束を大事にしていかなければらならない」と述べました。

岸田首相は会見で内閣改造や党役員人事について「タイミングや内容を考えていかなければいけないが、今の時点では具体的なものは何も決めてはいない」と述べました。

その上で、岸田首相は「厳しい様々な課題を前にして党の結束を大事にしていかなければならない。そういった思いで人事等についても考えていきたい」と述べました。

安倍元総理が亡くなった直後なので、今後の安倍元総理が亡くなったことを受けて、今後の政局の動きなどを考えるのは、まだ時期尚早かもしれません。ただ、やはりかんがえて置かなければならないでしょう。

特に、安倍総理の遺志を引き継ぎ継承していくという観点からもこれはなおざりにできません。

安全保障や物価高について舌戦が繰り広げられるなか、選挙戦最終盤で安倍晋三元首相が暴漢に銃撃され、死去する衝撃的な事件が起きました。自民党の勢いを加速させたのは、「安倍氏の喪失」に危機感を募らせた岩盤保守層が、自民党に〝保守政党〟としての自覚を促した一押しだったとの見方があります。

岸田政権の基盤は強固になりましたが、「憲法改正」や「防衛力強化」を着実に推し進められるのでしょうか。9月までに実施する方向の「内閣改造・党役員人事」を含めて真価が問われることになるのは間違いないです。

「大勝の決め手は、岸田政権への信任ではない。安倍元首相が象徴する『保守・自民党への期待』であり、『野党への圧倒的不信任』だろう。岸田首相は、有権者、国民が期待する国家運営、政策実現に全身全霊を尽くすべきだ」

政治学者の岩田温氏は選挙結果について、こう分析しました。


報道各社の世論調査では、序盤から「自公与党優勢、野党苦戦」が伝えられてきました。だが、自民党が激戦区も含めて多くの小選挙区で競り勝ち、比例も上積みを見せたのは、安倍氏の「非業の死」を受けた、保守系有権者の投票行動だという見方です。

岩田氏は「国家観、安全保障、経済政策など、各政策で自民党を『真の保守』たらしめていたのは、『安倍晋三』という存在だった。その存在を失い、自民党の未来は大いに不安だ。安倍氏の後継者といえる人物も今のところ、見当たらない。安倍氏が実現できなかった政策がある。『憲法改正』と、国防を確かにする『防衛費増額』だ。岸田政権はこれを実現する責務がある。そうでなければ、安倍政権の継承は名乗れない」と指摘します。

岸田政権は今後、衆院を解散しなければ、3年間は国政選挙がなく、国家運営に専念できる「黄金の3年」と呼ばれる時期を迎えます。自民党と公明党、改憲に前向きな日本維新の会、国民民主党の合計議席は憲法改正の国会発議に必要な参院3分の2を大きく超えています。

国政の焦点である「憲法改正」への条件は整っています。これへの取り組みで、岸田政権の真剣さが、はっきり見えてくることになります。近く行われるであろう自民党役員人事・内閣改造が、岸田政権の試金石となるでしょう。

安倍晋三元首相の遺体を乗せた車を待つ自民党の高市早苗政調会長(右から2人目)と福田達夫総務会長(同3人目)=9日午後、東京都渋谷区

憲法改正の推進力は紛れもなく、安倍氏でした。政策が近い高市早苗政調会長をどう処遇するるでしょうか。仮に、高市氏を外し、後任を清和政策研究会(安倍派)からも取らなければ、憲法改正や防衛強化への岸田政権の決意は、極めて疑わしくなります。

ウクライナに侵攻したロシアや、覇権主義を強める中国は、日本周辺で協調して軍事活動を活発化させています。核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮の脅威も深刻です。

参院選では、泉健太代表の立憲民主党などが議席を減らし、松井一郎代表(大阪市長)の日本維新の会が躍進しました。「憲法9条への自衛隊明記」などの憲法改正に反対し、「護憲」に固執する左派政党に、有権者は厳しい審判を下したといえます。

岸田首相が領袖(りょうしゅう)を務める宏池会はリベラル色が強く、選挙後の岸田政権の対応には懸念も指摘されます。安倍氏の積み上げた、「憲法改正」や「防衛力強化」に向けた基盤を、岸田首相は前進させられるのか。厳しい視線が注がれることになります。

それと、もう一つ考えておかなければならないことがあります。安倍元総理は凶弾に倒れました。しかし、日本は終わっていません。円高を求めるあまり、需要不足の真っ只中で、金利を上げ、また財政の辻褄合わせの為に緊縮財政を目指すようなことがあれば。安倍総理が心配していた「失敗への道」を繰り返すことになります。

「失敗への」道を繰り返せば、自民党はまた短期で政権交替がおこることになるでしょう。岸田政権は民主党による政権交代直前の麻生政権のようになりかねません。

安倍元首相がご存命であれば、このようなことは起こらないかもしれません。しかし、今後はそのようなことが起こりかねません。

自民党の安倍元総理の遺志を引き継ごうという人たちは、安倍元総理の行動をよく研究すべきです。ただし、研究して、ある事象があったときに安倍元首相はどのような対応をしてどう成功したなど因果律だけに注目するので終わらせることなく、安倍元首相の行動を原理原則にまとめるべきです。

原理原則とは原理原則については以前このブログにも掲載したことがあります。経営学の大家であるドラッカー氏はマネジメントにおける原理原則を論じています。

そのためでしょうか、因果律を重んじる現在の米国の経営学においては、ドラッカーの原理原則を論じる経営学はほとんど忘れ去られているそうです。残念なことです。

さて、原理原則とはどのようなものか、以前書いた記事から引用します。
原理原則とは誰もが単純に理解できるものでなければ、原理原則になり得ません。ただし、原理原則が成立するまでには、科学的検証はもとより、様々な経験や失敗があり、その上に原理原則が成立し、高校や大学の教科書などにも記載されているのです。

そうして、財政政策の原理原則も簡単です。景気が悪ければ、積極財政と金融緩和を、景気が良ければ、緊縮財政と金融引締をするというものです。

そうして、景気の状況を見分ける原理原則も簡単です。一番重要なのは、失業率です。たとえば、景気が悪い時には失業率があがります。そうなれば、積極財政や金融緩和を行います。それで失業率が下がり始めますが、ある時点になれば、積極財政や金融緩和をしても、物価は上がるものの、失業率は下がらなくなります。その時点になったことが、はっきりすれば、積極財政や金融緩和をやめれば良いのです。

反対に景気が過熱してはっきりとしたインフレ状況の場合は、緊縮財政、金融引締を行います。そうすると、物価が下がり始めます、しかしこれも継続していると、やかで物価は下がらず、失業率が上がっていく状況になります。そうなれば、緊縮財政、金融引締をやめます。

基本的には、政府の財政政策と日銀(日本の中央銀行)の金融政策の基本です。さらに、もう一つあげておきます。それはデフレへの対処です。日本人は平成年間のほんどとはデフレであったため、デフレと聴いてもさほど驚かなくなってしまいましたが、デフレは景気・不景気を繰り返す通常の経済循環から逸脱した状況です。デフレが異常であるというのは、疑う余地のない原理原則です。

これは、財政・金融政策に関する原理原則です。あまりにも当たり前の原理原則です。しかし、経済関してはこの原理原則を踏襲していれば、ほぼ間違いはありません。

ただ、この原理原則を曲げて、隙きあらば増税しよう、緊縮しようというのが財務省です。そうして、アベノミックスを掲げて、積極財政をしようとした安倍元総理ですが、財務省の抵抗にあり、結局在任中に2度も消費税増税をせざるを得なくなりました。

ただ、安倍総理は在任中には、2度消費税増税の引き上げを延長しています。さらに、コロナ対策においては、安倍・菅両政権で合計100兆円の補正予算を捻出し、様々な対策を行い、両政権期間中の失業率は2%台で推移しました。これは、大いに参考にすべきです。この時の安倍元総理の行動など仔細に分析して、財務省への対処法を原理原則としてまとめておくと良いと思います。

外交でも、Quadの設立や、インド太平洋戦略などに尽力されました。これらも参考にすべきです。

マスコミや野党などは、安倍総理の功績を無視して、批判ばかりしますが、こうした論調に引きずられることなく、様々な成果に至ったその行動を学び、そこから原理原則を導くべきです。

原理原則化することにより、その内容を誰にでも伝えられます。原理原則にあてはまることなら、 すぐに解決できます。そうして、原理原則を多数つくっておけば、そこから外れる例外的な問題に集中することができます。

そうして、原理原則はきちんと文書にまとめ、勉強会などで公表できる形にすれば、さらに効率的になります。

そうして、例外的な問題に関しても、それを解決した後にその対処法など、原理原則化すれば、さらに例外は少なくなります。

こうすることにより迅速に行動できます。このようなやり方で、岸田総理がモタモタしたり、安倍元総理の遺志を引き継ごうとするたちに対して障害になるようであれば、素早く動いて、機先を制することなどができると思います。

「黄金の3年間」には、保守派は、安倍元総理の遺志を成就させるべく、反対派の自民党有力議員に陳情し、賛成派にまわるようにし、安倍元総理の遺志を引き継ごうとする議員たちは、原理原則に基づいて行動し、安倍元総理の遺志を実現すべきです。

特に、現在はSNSでも陳情できる便利な世の中になりました。これを利用しない手はないと思います。そうすることにより、安倍元総理の遺志を引き継ぐ議員たちを実質的に応援することにもなります。野党・マスコミ批判をするなとはいいませんが、批判ばかりしていても、得るところは少ないです。それよりも、自民党大物議員で意見が異なるひとたちに陳情しましょう。

そうして、この3年間を文字通り私たちの「黄金の3年間」にすべきです。

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2022年7月10日日曜日

一色正春氏「捜査当局がリークする情報への注意点」をFBで公表―【私の論評】不可解な安倍元首相暗殺報道(゚д゚)!

一色正春氏「捜査当局がリークする情報への注意点」をFBで公表

一色正春氏

一色正春氏は、今回の暗殺事件に関して捜査当局がリークする情報の留意点を自身のフェイスブックで公開しました。その内容を以下に掲載します。

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【私の論評】不可解な安倍元首相暗殺報道(゚д゚)!

今回の暗殺事件のマスコミの取り上げ方当初から疑問を感じました。なんと行っても、山上容疑者が、海上自衛隊に在籍したことが強調されていますが、2004年に任期を満了しています。つまり18年も前のことです。しかも一任期3年間だけの勤務です。

海上自衛隊の名誉のために述べますが、山上容疑者は護衛艦の見習の砲雷科員、その後、術科学校の練習船で勤務したといいます。銃の射撃訓練は年1回程度あるも、銃や弾丸を作る訓練など存在しません。このテロ事件と自衛隊との関係を強調し過ぎることには、問題があります。

海外の報道では”暗殺”という言葉も ”統一教会”の名も出しているのに 日本の報道各社は ”暗殺”とはいわないし 特定の宗教団体とはいうものの ”統一教会”の名は出さないです。

きわめつけは、以下の写真です。安倍元首相の暗殺の大手新聞の第一報が、全部一字一句違わず「安倍元首相撃たれ死亡」です。


大規模な災害や事件など、マスコミの報道によって世の中を乱す可能性がある場合は、警察は「報道管制」という方法を用いて混乱を回避することもあるとされていますが、これも「報道管制」ではないかとみなしても不自然ではないと思います。

山上容疑者が、母親が宗教団体に多額の寄付して、破産したことを恨みに思って暗殺に及んだらしいことが、報道されていますが、これは2002年のことだとされています。二十年もたってから犯行に及ぶというのも不自然です。

犯人がまだ詳細に供述もしていない段階で「政治思想的な背景はない」と真っ先に報道されたのも不自然です。

警視庁のSPや奈良県警による警備が甘かったという批判がありますが、3月に札幌地裁で出た判決を思い出した人は多いはずです。安倍氏の札幌での選挙演説中に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばし警官に制止された男女が「政治的表現の自由を奪われた」と訴えて勝訴しました。

安倍首相へのヤジに対する、警察官の「実力行使」が「違法」と判断された判決は、北海道警、警察庁に衝撃を与えました。

判決を受けて札幌地裁前で心情を語る原告の大杉雅栄氏(右端)と紙を掲げる原告の桃井希生氏(右から3人目)

たとえ明らかに演説妨害に見えるヤジであっても「表現の自由」であるならば、街頭演説における警備というのはやりにくくなるでしょう。あの判決以来、現場で警官による職務質問が減っているという話を聞いたことがあります。 今回も容疑者がふらふらと近づいてきた時に、なぜ現場の警官が職質しなかったのか不思議でした。もしそういう「空気」があるとしたらこれは極めて危険なことです。

北海道は、排除によって2人の表現の自由が違法に侵害されたと認めた札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴しています。

私自身は、この判決は異常だと思います。街頭演説で演説している人の話の内容が聞き取れなくなるほどをヤジを飛ばせば、これは明らかに演説を聞きたいと考えている人の権利を侵害していることになると思います。

実際2017年には、同じ札幌で当時の安倍総理が応援演説をしているとき、ヤジが飛んだのですが、札幌市民がそれをしている人を叱って止めたということもありました。

学校などで、たとえば校長先生が話をしているときに、その話が聞こえなくなるほどヤジを飛ばした生徒がいたとして、この行為は「表現の自由」として認められるのでしょうか。そのようなことが許されて良いはずがありません。


「闘う政治家」だった安倍氏に対しては攻撃もまた激しかったのですが、中には「許さない」とか「死ね」「お前は人間ではない、叩き切ってやる」とか明らかに常軌を逸したものもありました。

このような表現など、一般社会では到底許されるものではありません。大企業や役所の中でも派閥や、組合の違いがあったとしても、ここまでひどい罵声を浴びせることはないでしょう。

私自身もこのプログを書いていますが、たとえば民主政権時代においては、民主党政権をかなり強い調子で批判したりしたことがありますが、是々非々で批判したものであって、総理大臣に向かって、「許さない」「死ね」ましてや「叩き切って」やるなどという罵声を浴びせかけたことはありません。というより、そんなことできません。これが平気でできる人は、精神が病んでいると思います。

こうしたことの流れの延長として、「保育園落ちた日本死ね!!!」発言が出てきたのだと思います。マスコミはこの言葉を褒めそやしました。それどころが、この言葉が「流行語大賞」を受賞しました。これ自体信じがたいことです。私は、この言葉到底容認できません。日本が本当に死んだらどういうことになるでしょうか。

こういうことが許容されてしまい、安倍晋三氏への個人攻撃が当たり前となってしまい、安倍晋三氏になら何を言っても構わないという雰囲気が醸成され、ヤジを表現の自由とする判決が出たり、様々な要因が重なり、安倍元首相の暗殺に結びついた面は否めないと思います。

裁判においては、このあたりも含めて明らかにしていただきたいものです。

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2022年7月9日土曜日

対露経済制裁は効果出ている 3年続けばソ連崩壊級の打撃も…短期的な戦争遂行不能は期待薄―【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!

日本の解き方





 ウクライナ侵攻を受けて、欧米や日本など西側諸国はロシアに経済制裁を実施しているが、これまでのところどのような効果を発揮しているのか。

 対露制裁としては、カネに関する①金融制裁②対外資産凍結と、モノに関する③ロシアからの輸入規制④ロシアへの輸出規制―に大別できる。

 これらの経済制裁に参加している国は、欧米中心だ。3月7日にロシアが公表した非友好国リストでは、米国、カナダ、欧州連合(EU)全加盟27カ国、英国、ウクライナ、モンテネグロ、スイス、アルバニア、アンドラ、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、北マケドニア、日本、韓国、オーストラリア、ミクロネシア、ニュージーランド、シンガポール、台湾の計48カ国となっている。

 中国やインドなどアジア諸国、中東諸国は経済制裁に参加していない。この意味からいえば、経済制裁には抜け穴があるので、それを使った取引も少なくなく、そうした事例を使えば、経済制裁は効果がないという説明も可能だろう。

 しかし、いくら個別事例を挙げても、制裁でどれだけロシア経済が疲弊しているかを説明しないと意味がない。経済制裁は効くか効かないかという二択ではなく、どの程度ロシア経済にダメージを与えているかという観点からの分析が必要だ。

 戦時経済ではよくあることだが、ウクライナ侵攻以降、ロシアは貿易統計を公表していない。国内の経済統計についても公表しないか、公表しても信用するのは難しい。

 ただし、他国のロシア向け輸出やロシアからの輸入については分かるので、輸出入の実態はロシアからの公表がなくてもある程度推測できる。

 5月13日の英エコノミスト誌によれば、ウクライナ侵攻以降、ロシアの輸入は44%減少、輸出は8%減少した。輸出の減少が抑えられているのは、エネルギー価格の上昇にも支えられているという。

 これらからロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう。これは、リーマン・ショック並みの影響だといえ、これが3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになる。

 この推計は、国際通貨基金(IMF)など国際機関の経済見通しとも整合的である。こうしたロシア経済への影響が全て経済制裁によるものとはいえないが、ロシアは自国が戦火にさらされているわけではないので、かなりの部分は制裁によるものと考えていいだろう。

 実際、ミクロでみても、ロシアに対する輸出規制により、部品やIT機器が入ってこないので、ロシアの自動車産業は壊滅的になっている。その結果、かなりの雇用も失われているはずだ。軍事産業に対しては、各種の抜け穴を使って影響を最小限度にとどめているのだろうが、ロシア国民が徐々に困窮していくことは避けられない。

 ただし、こうした経済制裁によってロシアの戦争遂行能力が不能になることは短期的には期待できない。あくまで長期的にロシアの国力を奪うものだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!

上の記事で、高橋洋一氏は、「ロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう」としています。そうして、「この推計は、国際通貨基金(IMF)など国際機関の経済見通しとも整合的である」としています。

4月19日に国際通貨基金(IMF)は、新たな世界経済見通しを発表しました。1月の前回見通しから、2022年の世界の成長率見通しを0.8%ポイント下方修正して+3.6%、2023年は0.2%ポイント下方修正して同じく+3.6%としました。

ウクライナ紛争の当事国であるウクライナの成長率見通しは2022年に-35.0%、ロシアは-8.5%となりました。ロシアの成長率見通しは、他の国際機関などの見通しと比べてやや高めですが、これは、ルーブル相場の持ち直しを受けて、物価高騰による経済の押し下げ効果が小さくなったことを反映していると見られます。

ただしIMFのチーフエコノミストのグランシャ氏は、通貨ルーブルが回復しても、高インフレなどのロシア経済の状況には変わりはなく、ウクライナ侵攻に伴う一連の制裁で受けた打撃からすぐには立ち直らない、との見方を示しています。

さらに同氏は、対ロシア制裁が強化され、エネルギー輸出も制限されれば、ロシア経済は2023年までに17%のマイナス成長に陥る可能性がある、との予想を示しています。その場合、エネルギー価格の上昇、センチメントの悪化、金融市場の混乱などの波及的な影響によって、世界経済の成長率見通しがさらに2%ポイントも押し下げられる恐れがある、と述べています

ロシアは、燃料や弾薬などは自給できる国ですし、この備蓄量もかなりあるとみられています。ロシア軍は、秋の大演習の1週間で10万トンの弾薬を使います。彼らはものすごい量の補給はできます。

ロシア軍が単に戦争を継続するとか、ウクライナ東部に居座り続けるだけであれば、ある程度の期間は続けられるでしょう。ウクライナ東部はロシア本土からも近いですから、兵たんの負担もそれほど大きくなくて済みます。長期にわたってここで戦線膠着させて持ちこたえるということは、ありうるでしょう。ただ、制裁が続けば3年後には、それすらできなくなる可能性が高いです。

ただ、そうではあっても、数年という期間でみれば、リーマン・ショック並みの影響が3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになるのは間違いないでしょう。

2008年リーマンショックのときにはロシア経済は一気に落ち込んでいる

これは、ロシアにとっては間違いなく甚大な被害です。3年でソ連崩壊のときのようなことになるのは容易に想像がつきます。ただ、それが現在でも明確に予想されるのです。

問題は、3年という数字をどうとらえるかということです。これは、経済的制裁の期間としては決して長い期間とは言えないと思います。

たとえば、緩やかなインフレだと、賃金はあがります、ただ数年ですぐに2倍、3倍になるかといえば、そのようなことなく、一年では誤差くらいにしか思えないですが、20年〜 30年経つと倍になるという状況です。

「マジックナンバー69」と言う賃金倍増の法則があります。実質成長率が3%の場合69÷3=23つまり23年で賃金が倍になります。成長率が2%でも約35年で給料は倍になります。経済成長がいかに大事かということが理解できると思います。当然の事ながらこれはデフレ状況では絶対に不可能なのです。実質経済成長率が3%台というのは、私が実感できる数字で1980年代前半と同じです。


そうして、この給料が倍というのは、同じ会社で同じ職位であったとしてもそうなるということです。日本でも以前はこのような時代があったということです。誰もが先に希望が持てた時代といえます。

以前、どのようになれば賃金が上がったと実感できるかというアンケートがあり、それに「1年で倍」などと答えている人がいたのに驚いたことがあります。

このようなせっかちな人なら、3年という数字を聞くと、気の長くなる話に思えるのかもしれませんが、しかしロシアを疲弊させるということでは、決して長い期間とは言えないと思います。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

ただ、短期に終わらせることもできます。それは、NATOが直接参戦して、ロシア本土を攻撃することです。そうなるとは、ロシアは核兵器を使うことでしょう。それに対抗して欧米諸国も核兵器を使うでしょう。そうなれば、戦争の決着はすぐつくかもしませんが、世界中が核兵器で破壊されてしまうことになります。

そうして、世界はその後復興するのに何十年もかかると思います。それと、3年とを比較すれば、3年のほうがはるかに短いです。

これと、経済制裁がどちらが良いかといえば、経済制裁に決まっています。そうして、経済制裁でロシア経済がソ連崩壊地並に破綻するとみられるのは3年後ということになりますが、それは決して長いとは言えないと思います。


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2022年7月8日金曜日

安倍晋三元首相が死亡 街頭演説中に銃撃―【私の論評】政権の支持率を落としても、安保法制を改正し、憲政史上最長の総理大臣となった安倍晋三氏逝く(゚д゚)!

安倍晋三元首相が死亡 街頭演説中に銃撃

街頭演説する安倍元総理 この直後に銃撃された

 奈良市西大寺東町の近鉄大和西大寺駅近くの路上で8日午前、街頭演説中に銃撃された自民党の安倍晋三元首相が同日午後5時すぎ、搬送先の病院で死亡した。67歳だった。

 捜査関係者らによると、安倍元首相は背後から拳銃で撃たれ、搬送されたが心肺停止状態だった。

 奈良県警は殺人未遂の現行犯で、元海上自衛隊員で奈良市の山上徹也容疑者(41)を逮捕。拳銃も押収した。捜査関係者によると、「安倍元首相の政治信条に対する恨みではない」などと供述しているという。警察当局は山上容疑者の取り調べを本格化させ、動機の解明を進める。

 事件は8日午前11時半ごろ発生。総務省消防疔によると、安倍元首相は右首に銃で撃たれた傷があり出血。左胸の皮下出血も確認された。

 岸田文雄首相は官邸で記者団の取材に応じ「民主主義の根幹である選挙が行われている中で起きた卑劣な蛮行であり、決して許すことはできない。最大限の厳しい言葉で非難する」と語った。

【私の論評】政権の支持率を落としても、安保法制を改正し、憲政史上最長の総理大臣となった安倍晋三氏逝く(゚д゚)!

あまりのことに、ショックが大きすぎです。今晩は、ブログを書くのをやめようと思いましたが、気を取り直してやはり書こうと思います。とはいえ、まずは安倍晋三氏のご冥福をお祈りさせていただきます。

今後、安倍総理の生い立ちや経歴、政治家として総理としてなした貢献などが報道されると思いますが、私自身が最大の貢献と思うことがらと、その理由について述べます。

集団的自衛権行使を一部容認する安全保障関連法が施行されて今年3月29日で 丸7年になりました。私は、なんと言ってもこれが最大の日本国民と世界に向けての貢献だと思います。

これがなければ、日本は今のような状況ではなかったと思います。安全保障関連法に関することは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
安保法施行5年、進む日米一体化=武器等防護、豪州に拡大へ―【私の論評】正確には武器防護は一度も行われてないないが、警護は行われ、それが中国等への牽制となっている(゚д゚)!

日本の燃料補給艦から補給を受ける米軍のイージス艦

この記事の元記事より一部を引用します。

 「もう米国から『ブーツ・オン・ザ・グラウンド』『ショー・ザ・フラッグ』と言われるような日本ではなくなっている」。茂木敏充外相(当時)は (同年同月)22日の参院外交防衛委員会で、イラク戦争で自衛隊の貢献を求められた象徴的な言葉を引き合いに、安保法施行後の日米同盟強化を強調しました。

 同法施行により、自衛隊は外国の艦艇や航空機を「武器等防護」の名目で護衛することが可能になった。2017年5月に初めて海自護衛艦が米補給艦を防護して以降、18年は16件、19年は14件と着実に実施。防衛省幹部は「米国からの信頼を得ている証しだ」と胸を張る。

 20年は25件で過去最多となった。内訳は、弾道ミサイル対応を含む情報収集・警戒監視に当たる米艦艇の防護が4件、共同訓練の際の航空機防護が21件だった。

 しかし、自衛隊の任務が拡大する一方で、その活動実態は不透明だ。防衛省は運用状況を毎年公表しているが、分類は「情報収集・警戒監視」「輸送・補給」「共同訓練」といった概要のみ。実施場所や時期も明らかにしていない。岸信夫防衛相は23日の記者会見で「相手(米軍)との関係で発信できる情報も限られてしまう」と理解を求めた。
これがまさに安倍総理の最大の貢献だと思います。

この記事からさらに【私の論評】の部分から一部を引用します。
安保関連法がもしなかったとしたら、トランプ前政権の時代は大変だったでしょうし、バイデン政権にも不興を買う恐れは十分にありました。2015年当時にやっておいて本当によかったです。当時は、マスコミも憲法学者も左派・リベラルも安保法制には大反対でした。

選挙などには明らかに不利になることを覚悟で当時の安倍総理は。安保法制の改正に取り組みました。ただ、中国や北朝鮮の脅威が高まりはじめていた当時には、いずれ誰ががやらなければ ならかったことは明らかでした。
安全保障関連法案(安保法案)が2015年7月16日、衆院本会議で可決されました。以下にその概要をまとめておきます。

法案は、新しくつくられる「国際平和支援法案」と、自衛隊法改正案など10の法律の改正案を一つにまとめた「平和安全法制整備法案」からなります。
  • 集団的自衛権を認める
  • 自衛隊の活動範囲や、使用できる武器を拡大する
  • 有事の際に自衛隊を派遣するまでの国会議論の時間を短縮する
  • 在外邦人救出や米艦防護を可能になる
  • 武器使用基準を緩和
  • 上官に反抗した場合の処罰規定を追加

などが盛り込まれました。歴代内閣が否定してきた集団的自衛権の行使容認がなされることになったのです。


安保関連法の審議のとき、年配のワイドショー民などは、「安保法制」が成立すれば、「成立した途端に戦争になる」と語っていましたが、あれはどうなったのでしょうか。

この安保関連法の改正がなかったら、現在の日本はなかったと思います。そもそも、米国や英国などからまともな独立国としては扱ってもらえなかったでしょう。日本の総理大臣が、世界を飛び回って、「あれをします。これをします」などと安全保障関連で、約束しても、「日本は特殊な国だから」といって金はうけとりはするものの、その他は請け合ってはもらえなかったでしょう。

ただ、集団的自衛権の行使という点で言えば、現憲法9条を超えてしまうのではないかという意見もあります。本来ならば憲法を改正して、集団的自衛権の行使を憲法上で認めた上で、こういう法制ができればよかったというものです。

しかし北朝鮮問題など、日本を取り巻く国際情勢等を考えると憲法改正には時間がかかるので、これを先にやらなければ、いまそこにある危機に対して対処できないということで、これが先に進めたと考えられています。ですかこの7年間で、国民投票まで行かないにしても憲法改正が進んだのかと言うと、まったく進んでいません。

結果的にそのためのリスクが考えられます。例えば実際の戦闘地域になったとき、厳密にはその地域に派遣された自衛隊は撤退しなければならないでしょう。国会の了解があれば、そこにとどまって集団的自衛権の行使ができるような体制にはなっていますが、スムーズにスイッチできるのかと考えると、かなり難しいです。

ただ、これには別の考え方もあります。そもそも現行の日本憲法典の九条は、パリ不戦条約、国連憲章などのコピーであり、このような条文を持った国は他にもあり、それらの国々は普通に軍隊を持っていることから、日本は自衛のための戦争まで禁止されているわけではないという解釈もあります。

この解釈についてはこのブログにも掲載したことがあります。百田氏をはじめ、日本の保守派でもこの解釈を認めない人は多いです。

ただ、日本の多くの保守派は、そもそも日本国の現行の憲法は、米国によって作られたものであり、日本独自の憲法をつくるべきであると考えているため、この解釈を認めないのだと思います。

ただ、現実に即していうと、実際に危機が起こったときには、現行の安保法制があることと、憲法解釈の変更もできる可能性が十分あります。

安倍元総理は、そこまで見通していたと思います。だからこそ、安保法制の改正などに踏み切ったのでしょう。

このような思いきった改革を実行しながらも、安倍晋三首相は2020年8月24日、第2次政権発足後からの連続在任日数が2799日に達し、佐藤栄作氏を抜いて歴代最長になりました。第1次安倍政権を合わせた通算在任日数はすでに明治・大正期の桂太郎を超えてトップに立っていました。

安倍内閣は2020年9月16日午前の臨時閣議で総辞職しました。2012年12月26日の第2次内閣発足以降、安倍晋三首相の連続在任日数は2822日で幕を閉じました。第1次政権を含む通算在任日数は3188日でいずれも憲政史上最長となりました。


マスコミの印象操作や、野党の全くくだらないものの執拗な「もりかけ桜」追求などで、間違った考えを持った人も一部いるのでしょうが、その実体はとてつもない人気ものだったのではないでしょうか。そうでなければ、憲政史上最長の総理大臣になるはずがありません。

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2022年7月7日木曜日

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請―【私の論評】スリランカ危機の背景にある、一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請

スリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領

 ウクライナで侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対して、スリランカの大統領が支援を要請しました。国家の破産を表明したスリランカで一体、何が起きているのでしょうか。

 国家の「破産」。人々は怒っています。

 治安部隊は放水銃で応戦。催涙弾も使われています。

 国が破産するとは、一体、どういうことなのか。

 ウィクラマシンハ首相:「今までは発展途上国として(IMF(国際通貨基金)と)交渉してきた。今は破産国家として交渉に臨んでいる」

 通貨の下落と、極端な物価の上昇。

 1日に何時間も停電になり、米はこの1年で4倍に値上がりしています。

 給油待ちの人:「3日前から並んでいます。いつガソリンが手に入るか分かりません」

 怒りの矛先はラジャパクサ大統領ら、政治指導者に向かっています。

 運転手:「人々が何日も列に並んでいるのは、支配者たちの近視眼的な政策のせいです。これは大きな犯罪だと思います」

 外貨不足により、輸入に頼る医薬品も不足。弁護士の団体もデモに参加するなど、あらゆる階層が声を上げています。

 弁護士:「私たちは、この腐敗した政治家たちと戦います。彼らは何十年もかけて私たちの国を台無しにしてきました」

 祖国の窮状を憂いている男性。都内でスリランカ料理店を営むカピラさんです。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「もともと多分、破産していた。これはきのう、きょうの話じゃなくて、今の大統領は政治家として何も知らない人」

 大統領の一族による政治支配が今の状況を招いたとカピラさんはみています。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「(政治家を)選んだ国民が今お返しをもらっている。日本の国民に言いたいんですが、やっぱり選挙は大事なもの。日本の皆様も他人事じゃないと思います」

 国家の破産。ラジャパクサ大統領は燃料輸入のため、ロシアのプーチン大統領に支援を要請しました。

テレビ朝日

【私の論評】スリランカは始まりに過ぎない!一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカは、中国から融資を受けて、南部ハンバントタ港や同国最大の都市コロンボの港湾開発事業など、次々と発展プロジェクトを展開しました。同国が過去10年間にわたり、インフラ投資の名目で中国から受けた融資は総額50億ドル (約5,693億6,497万円)を上回りました。

スリランカはたちまち返済に窮し、2018 年には「借金のカタ」に、ハンバントタ港を中国の国有企業に引き渡す羽目に陥りました。同港の運営権は今後99年間にわたり、中国が握りました。

スリランカのラジャパクサ大統領(左側)と中国の王毅外相(右側)が1月9日、中国の投資で建設したコロンボ国際金融都市を見学

追い詰められた同国のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は2022年1月9日、同国を訪問していた中国の王毅国務委員兼外相に、対中債務返済計画の再考と2021年の輸出品目35億ドル(約3,985億7,819万円)に対する関税条件の緩和を要請しました。

王外相はこれに対し、「両国は地域包括的経済連携、中国を含むアジア太平洋の自由貿易協定、および中国市場の広大さから利益を得るよう努めるべきだ」と述べ、中国とスリランカの間の自由貿易協定についての協議を再開するよう求めました。

さらに、スリランカが一帯一路イニシアチブの恩恵を受けている点を強調し、今後もスリランカが「一時的な困難」を乗り越えるために支援を継続する意向を明らかにしました。しかし、肝心の債務返済についてはノーコメントでしたた。「債務のワナ」については、事実無根と反発しました。

こういう状況だったスリランカにさらに追い打ちをかけるようなことがありました。まずは、パンデミックによって観光客が来なくなり観光業が壊滅しました。そうして今年2月からのウクライナ紛争によって食料や燃料の輸入が困難になり、それが危機に拍車をかけました。

物資不足のため国内ではインフレが進行し、庶民は食料や燃料を手に入れることが難しくなりました。生活苦を理由として3月頃から国内でデモ・暴動が頻発し、2019年から務めていたマヒンダ・ラジャパクサ首相(ゴタバヤ・ラジャパクサ現大統領の兄)は国内の混乱の責任を取る形で5月9日に辞任しました。

その直後に現職のウィクラマシンハ首相が就任したのですが、首相が交替しても経済危機は全く収まりませんでした。4月18日には約7,800万ドル(約105億円)分の米ドル建て債の利払い期限を迎えたが支払えず、その後1ヶ月の猶予期間を経ても支払えなかったために、スリランカは5月18日にはデフォルトとなりました。

通貨であるスリランカルピーも今年になって暴落。1~2月は1ドル=200ルピー付近で推移していたレートですが、3月以降はルピーが暴落して6月には1ドル=360ルピーと年初の半分近くの価値になりました。

5月のデフォルト以降は政府による借り入れが難しくなり、国内の経済事情はさらに悪化しました。ガソリンがほとんど手に入らないため、ガソリンがあるスタンドには常に大行列ができています。また食料品が手に入らず1日3食食べられない国民も増えています。

そのような状況が続き、今週5日にウィクラマシンハ首相は議会演説でスリランカの「破産」を宣言しました。この宣言をもってすぐに状況が一段と悪化するわけではないですが、スリランカ経済が極めて厳しい状況にあることが改めて確認されました。現在スリランカのインフレ率は年間50%程度と言われており、ウィクラマシンハ首相は「年末までに60%になる見通し」と述べていました。


しかし本当の問題はスリランカだけではありません。パンデミックによるサプライチェーンの混乱やウクライナ紛争によって、世界的に食料や燃料が手に入りにくくなっている。日本でも食料品の値上げが毎日のように発表されているものの、日本はそれほど深刻ではありません。

中東やアフリカの途上国ではスリランカのように食料や燃料が手に入らず、経済危機に陥る可能性のある国が増えています。サプライチェーンの混乱やウクライナ紛争が続く限り、世界的なインフレや途上国の危機は終わりが見えないです。

セバスチャン・ホーン、カーメン・ラインハート、クリストフ・トレベシュは、Centre for Economic Policy Researchのオピニオンサイト、VoxEU.orgに寄稿した論考で、一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろうと述べています。

その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさです。ホーンらによれば、中国の国有銀行は2000年以降、ロシアに対しエネルギー関連の国有企業を中心に累積1250億ドル以上、融資してきました。

中国はまた、ウクライナに対しても主に農業とインフラストラクチャー分野のプロジェクトを中心に70億ドル程度、さらに、ベラルーシに対しても80億ドル程度、融資してきました。この3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占めるといいます。

もともと、近年急激に増加しつつある中国の対新興国への資金貸付は、どのような基準に基づいて行われているのかが明確ではなく、債務不履行などのリスクを生じやすいものであることが指摘されてきました。スリランカはまさにその一つの例です。ホーンらは、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は10年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘しています。

世界銀行のデータによれば、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じています。ホーンらはこのデータをもって、中国の国有銀行はすでに成長のための資金提供者から債務の回収者へと転じている可能性があるとしています。ウクライナ危機およびその後の経済制裁によってロシアおよびその同盟国の経済が直面することになったリスクは、その傾向をさらに増幅させることになるでしょう。

中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれないです。このことが持つインパクトは、おそらくこれまで西側諸国によって喧伝されてきた「一帯一路が『債務の罠』をもたらす」という問題よりもはるかに大きなものになると考えられます。

ただ、国土面積も大きく、人口も比較的多く、基盤産業もある程度整っているウクライナはEUに入ることができて、戦争によってロシアの一部領土を掠め取られたにしても、大部分がウクライナの版図として残りますから、これから経済発展することが望めますし、中国からの債務も返していくことができるでしょう。

しかし、スリランカやベラルーシのような中国からの返済が危うい国は他にも多数あります。


中国が新興国に対する気前のよい資金供給者の役割から撤退するならば、そのあとにどのようにしてそれらの国々の持続的な経済成長を支えていけばよいのでしょうか。長期化が懸念されるウクライナ危機は、国際社会に対してこのような問いを突き付けていることを忘れるべきではありません。

そうして、スリランカの危機は、こうした危機の始まりに過ぎないことを認識すべきと思います。

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2022年7月6日水曜日

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟―【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟

岡崎研究所

 6月23日、欧州連合(EU)の首脳会議において、ウクライナとモルドバにEU加盟候補国の地位を付与することが承認された。この決定は大きな意味を持ち、歴史的決定と評価していいだろう。


 これに先立つ6月17日、欧州委員会は、両国を加盟候補国とするよう勧告していた。その文書には、次のような内容が含まれていた。
・ウクライナは民主主義を保証する諸制度の安定性達成、法の支配、人権尊重、少数派の尊重と保護で相当前進しており、ロシアの侵攻にかかわらず引き続き強いマクロ経済指標を示している。

・しかし、ウクライナの加盟は腐敗とオリガルヒの影響を減らす「野心的構造改革」にかかっている。ウクライナは最高裁判所判事の選出手続きを見直し、腐敗と資金洗浄と戦っていることを証明し、反オリガルヒ法を執行し、メディアを「既得権益」から自由にする必要がある。

 戦争後のウクライナの方向性がこれで決まったとも言える。実際の加盟までには、欧州委員会の文書でも明らかなようにウクライナは腐敗防止など多くの改革を要し、多くの交渉が妥結する必要があるが、ウクライナが西側の国になることになったと言える。ロシアはウクライナへの侵攻を続けているが、ウクライナの版図がどうなるにせよ、ウクライナの大部分が生き残り、EU加盟を目標とした諸改革に取り組むことになろう。

 ウクライナは政治的には人権が尊重される自由民主主義国、経済的には自由な市場経済国になる道筋がつけられたと判断される。

 プーチンは無謀にも、ウクライナを国家として亡き者にし、ロシアに吸収合併し、ロシア帝国の再興を夢見ていたと思われるが、結果としてプーチンが目にするのはロシア離れをした民主主義国ウクライナということになると思われる。EUに加盟したウクライナは、ロシアにとって政治面での脅威になることは明らかである。 

 ロシアは強権指導者に率いられる酷い迫害を伴う権威主義体制を続けそうであるが、ロシア人とウクライナ人は兄弟民族であり、ウクライナが自由民主主義で迫害もなく生きていく中で、ロシアでは今の権威主義体制に対する反発は大きくなってくるだろう。

経済的にもウクライナに寄与

 経済的にはウクライナの一人当たり国内総生産(GDP)はEUで最も低いブルガリアの半分にもならない。ウクライナ人労働者がEU諸国で働くだけでも、ウクライナは大きな経済的便益を受け取り、加盟当初から何年かは高い経済成長を達成するだろう。他方で、ロシアは、エネルギー輸出が気候変動対策で脱炭素化の流れの中で伸びず、ますます苦境に陥るだろう。

 ロシアにとってはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟よりもEUとの統合の方が脅威であるように思われる。それが現実味を帯びてきている。大変歓迎できることである。

 なお、ロシアのメドヴェージェフ前大統領は、2年後にはウクライナは世界地図から消えているだろうと発言している。これはプーチンが当初の数日でキーウを占拠、ゼレンスキーを排除し、親ロシアの傀儡政権の樹立を企画したことが実行されるとの前提の話であり、今はその可能性はない。

 プーチン自身はウクライナが軍事組織ではないEUに入ることに反対しないと、サンクト・ペテルブルグの国際経済フォーラムで述べた。プーチンは、今やウクライナの存続を前提にした話をしている。

【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

ウクライナの詳細については、外務省のサイトをご覧いただくと良くわかると思いますので、詳細はこちらに譲るとして、以下にはウクライナはIT大国であるという観点から、ウクライナの概要を掲載します。

ウクライナは、旧ソ連構成国の中でロシアに次ぐ2番目に大きな人口、4159万人(※2021年の統計)を抱えます。国土は日本の約1.6倍の面積があります。ロシアを除けば、国土面積ではヨーロッパ最大です。

人口ではドイツ、イギリス、フランス、イタリアに次ぎます。 ハリコフ、キエフ、オデッサなど24の州oblast'とクリミア自治共和国からなります。 ウクライナという名称は〈辺境〉を意味するクライkraiからつくられたもので、12世紀ころから使われていました。

国旗の2色の意味は、青色が空、黄色が小麦畑とされます。(※諸説あります)1991年にソ連崩壊とともに独立したウクライナですが、それまでも、2色の旗は、ウクライナ人やウクライナ民族解放運動のシンボルとして知られていました。

ウクライナは、現在の中国の軍事技術の多くを提供したといわれ、軍事産業があり、またもし
ウクライナの宇宙産業がなければ、世界の多くの宇宙開発計画は存在しなかったといわれる宇宙産業も存在します。

また隠れたスタートアップ拠点そしてIT大国として世界で注目されています。JETRO=日本貿易振興機構によりますと、ウクライナのIT産業は1990年代初頭から発展し2010年から急速に成長。2018年のIT産業市場規模は約45億ドルと10年で9倍近くになりました。

背景には、優秀な人材と豊富な教育機関があると言います。

ウクライナのエンジニアリングの学位取得者は欧米諸国と比べても多く、フランスやドイツ、英国より多い統計があります。(図参照)


さらにJETROによりますと、人件費は米国の4分の1程度だということで、欧米諸国はウクライナのIT人材に注目しています。

ウクライナ発のIT企業として有名なのは「Ring」や「Grammarly」です。

「Ring(リング)」は住宅のドアに設置する防犯カメラを開発する会社で、画像認識機能やAI(人工知能)で来訪者を見分けることもできるといいます。Amazonに買収されたあとも多機能なセキュリティーカメラのメーカーとして注目されています。


Grammarly(グラマリー)」はAI(人工知能)やNLP(自然言語処理)を用いて、文法チェックやスペルチェックそして盗用の検出といったサービスを提供しています。2009年にウクライナで創業され、業務を拡大させています。このアプリは私もお世話になっています。

また、世界中で使われるあのメッセージアプリも実はウクライナ出身の実業家が創業しました。

米大手メッセージアプリ会社WhatsApp(ワッツアップ)の共同創業者で、2018年まで最高責任者を勤めたジャン・コウム氏は、ウクライナのキエフ生まれで、のちに米国に渡ったといいます。米国での報道によるとコウム氏は、フィットネスジムを利用している際に「電話をとりそこなうのでどうにかできないか」とアプリ開発につながるアイデアを思いついたそうです。
WhatsAppは2020年時点で世界で約20億人が利用すると発表しています。

日本でもウクライナ人女性が、女性のためにと起業しました。アンナ・クレシェンコさんらは2020年、妊婦さんや子育てママのサポートや月経・妊活そして更年期への対応など、女性のライフステージにあわせた心のケアを展開する会社Flora(フローラ)を起業。登録すると、専門家への相談や情報交換あるいは講義が受けられるとしています。

Floraを創業したアンナ・クレシェンコさん

女性の心の不調が社会課題のひとつとされるなか、クレシェンコさんは、身近な出来事をきっかけに、解決に取り組みたいと起業したといいます。

人を動かす、ウクライナのIT技術。その行方にも世界中が注目しています。

ウクライナの、国民総生産(GDP)1,555億ドル(2020年:世銀)、一人当たりGDP3,726ドル(2020年:世銀)です。

現在のウクライナは、上でも示した、一人あたりのGDPではEUでは最低の9,975.78 ドル(2020年)のブルガリアの半分にも満たないです。

これは常にロシアによる危機や干渉があったこと、そうして特にゼレンスキー政権の前の政権までは政界、産業界も腐敗まみれであり、とても民主主義体制であるといはいえなかったことが最大の原因でしょう。

これでは、いくらある程度の産業基盤があっても経済は発展しません。ウクライナがEUに加盟して、ロシアから干渉を抑え、西欧並の民主化に成功すれば、急速に経済成長するのは目に見えています。これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑―【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる(゚д゚)!

プーチンと習近平

詳細はこの記事をご覧いただものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。

バルト三国等の東欧諸国が、当初中国の「一帯一路」の投資を受け入れたのは、国民一人ひとりを豊かにしたいと考えたからでしょう。しかし、バルト三国より一人あたりのGDPが低い中国にはもともとそのようなノウハウも知識もありません。

東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったといえます。

ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなって、中国の投資を受け入れたとしても、経済発展は望めません。せいぜい、ウクライナ戦争開始前の水準に戻すことは、ひょっとするとできるかもしれませんが、それ以上は望めません。

中国は過去には、国内で大規模なインフラ投資をしてきたので、経済発展してきたのですが、いまや投資が一巡して、国内では目ぼしい投資案件がなくなったため、「一帯一路」に望みをかけたのでしょうが、そもそも経済発展のノウハウがない中国が海外投資で、地元国を潤わせさらに、自らも潤うなどという芸当はできません。

ロシアも復興のためには、中国の支援を受け入れるかもしれませんが、その後も中国に頼り、中国のジュニア・パートナーであり続けることはないでしょう。

中露は人口が減少傾向にあり、民主化して体制を変えない限り、没落の道をたどるだけです。欧米としては、ウクライナを取り込み、この国を経済発展させるべきでしょう。それが、何よりも中露への最大の牽制となり、途上国への強いメッセージとなることでしょう。
中露の一人あたりのGDP1万ドル台です。ウクライナがEUに加盟し、経済成長しこの水準を突破すれば、中露にとってかなりの脅威になるでしょう。中国はEUに加盟するウクライナを「一帯一路」に取り込むことは困難になるでしょう。
ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただものとして、この記事では人口や一人あたりのGDPからウクライナの一人あたりのGDPから、ウクライナの一人あたりのGDPが韓国を若干上回れば、ウクライナのGDPはウクライナ戦争直前のロシアを上回る可能性を指摘しました。 

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

産業基盤もあまりなく、国土も狭く、人口も少ない国が EUに加入したとしても、あまり大きな期待はできませんが、ウクライナは違います。 21世紀には、過去の日本や中国、インドのように急速に経済発展する国はもうないと思われていましたが、ウクライナにはその可能性が十分にあります。国土が広いので経済発展すれば、人口も伸びるでしょう。

ウクライナが経済的にも大国になれば、世界の秩序は一変します。プーチンはロシアにとって良かれと思ってウクライナに侵攻したのでしょうが、それは全く想定もしなかったウクライナの台頭を招くことになりそうです。

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中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか―【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

2022年7月5日火曜日

米国の台湾への「戦略的明晰さ」と中国の焦り―【私の論評】中国が台湾を武力で威嚇すれば、1998年の台湾海峡危機のように、なすすべもなく後退するしかなくなる(゚д゚)!

米国の台湾への「戦略的明晰さ」と中国の焦り

岡崎研究所

 6月15日付のTaipei Times紙の社説が、シャングリラ会合での中国の魏鳳和国防相による攻撃的発言と、台湾海峡は国際水域ではないとする中国側の発言をとらえ、中国封じ込めが唯一の選択肢である、と主張している。


 Taipei Timesが、最近の中国の台湾をめぐる激しい言葉の恫喝に対しては、米国の軍事力を背景にして、中国を封じ込める以外ないのではないか、との趣旨の論説を掲げている。Taipei Timesの本論説は、台湾海峡や周辺海域の現状を一方的に変えようとする中国の威嚇的行動を非難するもので、台湾の危機感を示すものである。

 Taipei Timesが最近の中国の極端な台湾攻撃の好例として挙げるのが、(1)シンガポールでの「シャングリラ対話(Shangri-La Dialogue)」における中国の主張と(2)さらには、台湾海峡は中国の「内水」であり、国際法の適用がある国際水域ではない、との中国外務報道官の主張である。

 シャングリラ対話において、中国の魏国防相は「これだけははっきりさせておきたい。台湾を中国から切り離そうとする者に対しては、誰であれわれわれはひるむことなく、あらゆる代価を払っても最後まで戦う。これは中国にとっての唯一の選択肢である」と述べた。

 この発言の前日、シャングリラ対話の場で、オースティン米国防長官は、中国が台湾海峡の「現状維持」を一方的に変更しようとしていることに対して警告した。「米国の政策は全く変わっていない。しかし、残念なことに中国の政策はそうではなく、現状を変更しようとしている」と述べた。

 シンガポール会議の前月には、バイデン大統領が、訪問中の東京で、米国は台湾の防衛に「コミットしている」との趣旨の発言を行い、これは「失言ではないか」などという反応を引き起こしたばかりであった。シンガポールでの魏の発言の背景にはこのバイデン発言も当然影響を与えたと見るべきだろう。

 最近、中国は米国が台湾の地位について、「戦略的曖昧さ」ではなく「戦略的明晰さ」へと変わりつつあるのではないか、との危惧の念を持ち始めているのかもしれない、というのがTaipei Timesの論説の趣旨でもある。

中国が仕掛けてきている「法律戦」の新説

 ごく最近、中国外交部の王報道官は、台湾海峡について「台湾海峡は中国の主権下にある『内水』のようなものである」と述べ、国際海峡のように、他の国々が勝手に「無害通航」することは出来ない、と指摘したが、これは今までに中国が公然と主張したことのない新説ともいうべき主張である。

 Taipei Timesはこのような中国の主張を新たな「法律戦」と呼び、これを全くの「たわごと」(poppycock)であると一蹴しているが、中国側のこのような言説には、警戒が必要である。

 このような「法律戦」は、台湾海峡のみならず、東シナ海、南シナ海の海域を自らの主権の範囲内とする一方的な領土拡張の覇権主義に繋がっており、尖閣の領有権のことを考えれば日本としても断じて看過することは出来ない主張だろう。

 振り返れば、1998年、江沢民下の中国は、台湾北部沖合と南部沖合に対し、ミサイルを発射し、台湾を威嚇したことがある。台湾が初めて民主主義に基づく総選挙を行い、李登輝総統を選出した時である。

 この時、クリントン政権下の米国は、2隻の空母を台湾海峡に急派したのに対し、中国はなすすべなく後退したことがあった。この「台湾海峡危機」においてさえ、台湾海峡が、中国の内水である、などという主張を中国は行ったことはない。

 その後の中国の防衛費増額などを考えれば、軍事力強化の今日と25年前との違いは歴然としている。そして、最近中国が建造した第3隻目空母「福建」には、台湾対岸の省名がつけられており、中国の台湾侵攻を狙う特別の思いさえ感じることが出来る。

 中国の「法律戦」のようなフェイク・ニュースに惑わされることなく、日本としては台湾海峡の平和と安定の重要性を堅持する姿勢を貫く必要があることについては、多言を要しないだろう。

【私の論評】中国が台湾を武力で威嚇すれば、1998年の台湾海峡危機のように、なすすべもなく後退するしかなくなる(゚д゚)!

「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」については以下の記事をご覧いただけると良く理解できると思います。
戦略的曖昧さ vs. 戦略的明確さ 〜 アメリカの台湾政策を理解するフレームワークとは?

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から結論部分を引用します。

IPEF設立に向けたオンライン会合で記念撮影に応じるバイデン大統領、岸田首相、インド・モディ首相の3首脳

現在、アメリカはインド太平洋重視の外交政策を進め、同盟国と共同作戦を行う能力を高めている最中であるが、軍事バランス的にまだ充分ではないと判断しているのだろう。今後中国よりも西太平洋における自国及び同盟国の軍事力が上回ったという確信を持てば、「戦略的明確さ」を宣言する可能性がある。

中国がインド太平洋地域での覇権を確立すべく、軍事的・経済的な活動を活発化させる中で、中国による台湾の武力統一を防ぐことができるかは、未だかつてないほど重大な地域の安全保障課題になりつつある。

「戦略的曖昧さ」及び「戦略的明確さ」にはそれぞれの抑止の論理があり、どちらかが絶対に最善の結果を約束しているわけではない。だが、どちらの戦略を採るにしても、重要な論点は中国による台湾の武力再統一を阻止できるかということだ。

米国が「戦略的明確さ」を宣言するためには、米国の西太平洋における軍事力のみならず、台湾有事の際の日本の後方支援能力も充分に確保されなければならない。米国の政策変更は日本の安全保障政策にも大きな影響を与えるだろう。
戦略的明確さ、曖昧さについては、この記事に書かれていることが、一般的な見方だと思います。

ただ、この論評に限らず米国の台湾戦略に関しては多くの論評にはある前提があります。それは米海軍と中国海軍は軍事的に拮抗しているか、インド太平洋地域に限れば、凌駕しているという前提です。

この前提は実は正しくはありません。これについては以前このブログで述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。

それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。

それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。

この記事で「ゲームの目的」とは米海軍の弱点補強のための予算獲得や、多くの人の耳目を惹き付けることです。この目的のため、台湾戦略ということになると、国防省はもとより海大でも、米国の原潜、特に大型の攻撃型原潜や米海軍の世界トップレベルの対潜哨戒能力は急に姿がなくなってしまいます。

国防省や海大が公式にこのような戦略案を出しているわけですから、米国政府としては、これを無視するわけにも、ましてや否定するわけにもいきません。ただ、国務省などは様々なインテリジェンスから、台湾防衛は比較的簡単だし、たとえ台湾を巡って中国海軍と海戦になったとしても米海軍側の犠牲者は多くはならないことを知っていることでしょう。

そうなると、自ずと台湾戦略については、あるときは明確に、またある時は曖昧にならざるを得なくなります。

さらに、上の記事では、「米国が"戦略的明確さ"を宣言するためには、米国の西太平洋における軍事力のみならず、台湾有事の際の日本の後方支援能力も充分に確保されなければならない」としていますが、これは事実だと思います。

インド太平洋地域は広大です。米国一国だけでは守備するには広すぎます。多くの国の支援が必要です。であれは、米軍が台湾を守備するのは簡単だと言ってしまうよりは、危機を煽っておいたほうが、良いという判断もあるでしょう。

そうして、米軍が台湾有事で、攻撃型原潜を用いようとしていると考えられることは、米国ポウ長官オースチン氏の発言からもうかがえます。これについては、以前このブロクでも述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。

米潜水母艦「フランク・ケーブル」6年ぶり来航 台湾情勢にらみ抑止力強化【日曜安全保障】―【私の論評】オースティン長官の「抑止」とは、最恐の米攻撃型原潜による台湾包囲のこと(゚д゚)!
2021年12月4日、レーガン国防フォーラム(Reagan National Defense Forum)において、オースティン(Lloyd James Austin III)米国防長官は、2022年初頭に公表される新しい国防戦略に言及し、その中で、新国防戦略の核となる「統合抑止(Integrated Deterrence)」に関して述べています。

米オースティン国防長官
その「統合抑止(Integrated Deterrence)」には、無論のこと攻撃型原潜による台湾防衛も含まれているだろうという趣旨でこの記事を書きました。この記事から一部を引用します。

この記事は、昨年12月12日のものです。潜水母艦「フランクケーブル」の日本寄港に関して、推測しています。
一方米攻撃型潜水艦は、潜水母艦から迅速に補給を受けつつ攻撃ができますから、トマホークなど1000発でも、2000発でも打ち放題になるので、圧倒的に有利に戦闘を展開できます。それにもしかすると、台湾にも補給基地を用意しているかもしれません。それに、日本の米軍基地からも補給が受けられます。交代しながら、24時間臨戦態勢で、攻撃ができます。

もし、それでも台湾に上陸した中国の地上部隊が台湾軍を攻撃をしようとすれば、台湾軍に撃破されることになるでしょう。それでも諦めなければ、潜水艦によりほぽすべての艦艇が撃沈され、中国海軍は壊滅します。このような攻撃ができる米軍の攻撃型原潜がすでに台湾付近に潜航しているとみなすべきです。

そのことを米軍は、「フランク・ケーブル」を神奈川・横浜、広島・呉、長崎・佐世保、そして沖縄と、立て続けに寄港させるこによって、中国に対してはっきりわかるように示しているのです。私は、オースティン国防長官が述べた「抑止」の全貌(ブログ管理人注:台湾戦略における「抑止」)はこのようなことだと思います。これでは、中国は台湾への武力侵攻はあきらめざるをえません。侵攻すれば、中国海軍は崩壊し多数の犠牲者を出し、習近平の権威は地に落ちることになります。

 このような現実があり、中国海軍は米海軍に勝てる見込みはないので、中国は「法律戦」を仕掛けようとしているのではないでしょうか。

中国が台湾に本格的な軍事的介入をしようとすれば、1998年、江沢民下の中国は、台湾北部沖合と南部沖合に対し、ミサイルを発射し、台湾を威嚇した時、クリントン政権下の米国は、2隻の空母を台湾海峡に急派したのに対し、中国はなすすべなく後退したことがあったことの再現になることでしょう。

米国は、台湾近海に攻撃型原潜を派遣して、24時間の防備体制をしくことを宣言することになでしょう。そうすれば、中国はなすすべもなく、後退することになります。後退しなければ、中国は海軍は新型空母「福建」を含め、崩壊することになります。

1998年の台湾海峡危機での屈辱を晴らすために、中国は海軍の増強に勤めました。そうして、艦艇数は増やしたものの、対潜水艦戦争(Anti Submarine Wareare)では未だ米国には追いつけません。特に対潜水艦哨戒能力では日米に大幅に遅れをとっています。

その結果として、中国は海戦能力では到底日米に及びません。その屈辱を晴らそうにも、従来のように日米から技術を剽窃しようとしても日米ともに従来よりもはるかにガードを固め容易ではありません。それにロシアも対潜哨戒能力が低いのであてになりません。

この1998年の「台湾海峡危機」においてさえ、台湾海峡が、中国の内水である、などという主張を中国は行ったことはないのに、中国がそのような主張はじめたことが、上で述べたことを裏付けていると思います。

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2022年7月4日月曜日

ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑―【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる(゚д゚)!

ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑

岡崎研究所

 6月14日、ガスプロムはノルド・ストリーム経由のドイツ向けガスの供給を40%削減すると発表した(翌15日にはこれを60%に拡大した)。その理由としてパイプラインの部品の定期修繕がカナダにあるシーメンスの工場で行われているが、それがカナダ政府の対ロシア制裁によって再納入出来なくなっているとの事情をあげているという。

 しかし、その説明を鵜呑みにする向きはない。イタリアのドラギ首相が言うように、その説明は嘘であり、「小麦が政治的に使われているのと同様、これはガスの政治的利用である」に違いない。


 既にポーランド、オランダ、ブルガリアに対するガス供給は停止されている他、幾つかの企業に対する供給も削減されているようであるが、ここに来て欧州の弱みに本格的につけ込む戦略の一手を打った(ガス需要が高まる冬には更なる削減を仕掛けるかも知れない)ということであろう。いわば西側の制裁に対して逆制裁をもって対抗する構えではないかと思われる。

 その決定の背景には、エネルギー輸出が減っても、価格の上昇がこれを補って余りあるとの計算が働いたことがあるに違いない――ウクライナ侵攻以降100日のロシアのエネルギー輸出は930億ユーロで、2021年の輸出額の約40%を100日で稼いだことになるとの試算がある。

 また、プーチン大統領が西側の制裁を乗り切れると信ずるに至ったこと(その判断の当否は別として)があるかも知れない。6月17日、サンクトペテルブルグの国際経済フォーラムで演説した同大統領は西側の制裁を「常軌を逸し(insane)」「狂気じみた(crazy)」ものと呼び、西側はロシア経済を暴力的に崩壊させることを予想したが、そうはならなかった、ロシア経済は正常化する、「ロシアに対する経済的電撃戦は最初から失敗する運命にあったのだ」と述べた。

 欧州ではエネルギーと食料の価格が高騰し、5月のインフレ率が8.1%と高い水準を維持する状況にあって、6月9日、欧州中銀は7月に量的緩和政策を終了し政策金利を引き上げることを発表している。

 これが債権市場の動揺を招き、イタリア国債の利回りは急上昇した。10年物国債の利回り(年初は1%)は急上昇して一時4%を超えたが(目下3.7%程度)、ユーロ圏の安定を不安視する向きもある。

耐えるしかない欧州

 こういう状況を見て、プーチン大統領はガス供給を絞り、特に脆弱なドイツとイタリアを標的に、市民生活を直撃し、インフレを煽り、欧州経済に圧力をかけ、厭戦気分を醸成することを思いついたに違いない。小麦もそうである。ロシアがオデーサの食料倉庫を攻撃・爆破したとの報道があるが、世界的な食糧危機を更に進行させ、その責任を西側になすりつけることを思いついたのであろう。

 欧州は耐えるしかない。ロシアの逆制裁を逆手に取ってエネルギーのロシア依存の脱却を急ぐしかないであろう。他方で、欧州連合(EU)はロシア原油の禁輸の徹底を急ぐ必要がある。

 ロシア原油は中国とインドが調達を拡大しており、米欧の禁輸の実効性が失われている印象である――このような事態を防ぐために、ロシア原油を輸送するタンカーに対する海上保険の付与の禁止でEUと英国が合意したはずであるが、その効果を検証する必要があろう。

【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる(゚д゚)!

ロシアからみれば欧州連合(EU)が米英と足並みを揃えたことは、おそらく予想外だったでしょう。EUの中核国である独仏は米英よりもロシアに宥和的な姿勢をとってきました。EUは化石燃料をロシアに依存するなど経済的な結び付きも緊密です。その分だけ、EUによるロシアへの経済制裁の効果は高いですが、EU側が受ける痛みも大きくなります。


ロシアは、EUの脱ロシアの動きを座視するつもりはないでしょう。ロシアにとってもパイプライン・ガスの代替先の早期確保は難しいですが、ロシアにはEUが脱ロシア・ガスを実現する前に供給停止のカードを切り、揺さぶりを掛けることでしょう。

すでにロシアが一方的に決めたガス代金のルーブル建てでの支払いに応じなかったなどの理由で、ポーランド、ブルガリアに始まり、ドイツ、イタリアなどへのガス供給を停止・削減しています。ガスを巡るEUとロシアの攻防は、需要期となる今年秋口以降に向けて、激しさを増すことになるでしょう。

米国と欧州が国際社会を動員してロシアを政治的、経済的に孤立させようとする中で、あまり注目されなかった事象として、中国、インド、そして発展途上国の多くが乗り気でなかったことがあります。これは実利的な面もあります。

ロシアは世界の多くの地域にとって食糧、燃料、肥料、軍需品、その他の重要な商品の主要な供給国です。しかし、ロシア型の社会の腐敗、非自由主義、民族主義が、世界の多くの地域で、ルールではないにせよ、一般的であることも理由の1つです。世界の多くの国の指導者は、冷戦後の時代を形成してきた西側の制度や規範に対するプーチンの広範な拒否に共感しているようです。

ただ、このブログでもたびたび主張しているように、民主化は経済発展のためには欠かせません。民主化と経済は密接に関係しているのです。しばしば腐敗が取りざたされる、韓国は民主国家なのかというのは疑問があるところですが、それでも中露からみれば、はるかに民主化が進んでいます。

その韓国は現在ロシアのGDPを若干上回っています。しかも韓国の人口は約5000万人ですが、ロシアの人口は1億4000万人であるにもかかわらずです。これは韓国の一人あたりのGDPがロシアのそれを大幅に上回っているからです。

中露の一人あたりのGDPは10000ドル強にすぎません。これは、韓国はもとより、台湾や、バルト三国よりもかなり低いです。

なぜ、このようなことになってしまうかといえば、先進国においては民主化を進めた結果、多く中間層を輩出し、これらが自由に社会経済活動を行い社会のありとあらゆるところでイノベーションを起こし、富を生み出すことになるのですが、民主化が進んでいない中露などでは、政府などか大規模な投資をしてイノベーションを行ったにしても、西欧諸国のような大規模で、星の数ほどのイノベーションにはなりえず、結果として経済が発展しないのです。

それは、下の髙橋洋一が作成したグラフでも明らかです。


このグラフ、相関係数が0.7 となっていますが、これは社会現象の相関係数としてはかなり高い数値です。

欧米の指導者たちは、世界を気候変動から救うという名目で、発展途上国に対して自国の石油やガス資源の開発、および化石燃料へのアクセスによって可能になる経済成長をあきらめるよう促してきました。

先進国経済が今でも化石燃料に大きく依存していることから、アフリカをはじめとする途上国政府は、これを当然ながら偽善と判断することになります。一方で貧しい国々では石炭火力発電を段階的に廃止するよう提唱しているのです。富裕国政府は、自国の資源を利用し続けながらも、貧しい国々の化石燃料インフラ整備に対する開発資金をほとんど断ち切っているのです。

恨みは深いです。何十年もの間、欧米の環境NGOやその他のNGOは、政府や国際開発機関の間接的なあるいは直接的な支援を受けて、ダムから鉱山、石油・ガス採掘に至るまで、大規模なエネルギー・資源開発に幅広く反対してきたのです。

NGOの環境問題や人権問題に対する懸念は、たいてい本物です。しかし、これらの問題に対する欧米の取り組みが十字軍的で、しばしば恩着せがましいのは、NGOの地元キャンペーンが主に欧米によって資金が出され、人員が動員され、組織化されているという事実と結び付き、植民地時代から続く反欧米の深い溝を生み出してしまっているのです。

日本人はこれを理解するのは難しいかもしれませんが、未だにくじらの町太地町に居座る、環境保護団体を思い浮かべると理解しやすいと思います。特にオーストラリアの保護団体の活動は執拗なものでした。オーストラリア人活動家の押し付けがましい発言や、自分たちが絶対に正しいという信念からの無謀な行動をみて反発しなかった日本人はいなかったでしょう。

途上国に対する NGO の働きかけは、日本に対する鯨問題へのいやがせのスケールをはるかに上回るものであり、途上国の大きな怒りを買うことになったのです。

一方中露は環境問題などに躊躇せず、エネルギー、資源採掘、インフラへの投資をテコに途上国における地政学的利益を拡大してきました。その意図は、モスクワと北京の経済的優先順位を高める形で開発途上国の依存関係を構築し、かつ国際的な影響力を生み出すことです。ウクライナ侵攻以来、この戦略の有効性は誰の目にも明らかになりました。

ロシアのウクライナ侵攻、先進国による対ロ制裁を契機に、先進国と新興国との間には一気に軋轢が強まっています。そのため、G7は有効な対策を打ち出すことが難しくなっており、この点は今回のG7サミットでも改めて浮き彫りとなっています。

先進国としては環境問題では、発展途上国が化石燃料を用いて産業を起こしても、当初はそれはわずかなものであり、さほど問題にはならないはずですから、発展の段階に応じて、それを要求するようにすべきです。人権問題に関しては、人権問題自体だけを問題にするだけではなく、人権を重視しないような非民主的国家では経済発展しようがないことを中露などを例にとってわかりやすく啓蒙していくべきです。

そのプロセスを欠いて、いきなり環境問題や、人権問題に走るから反発されるのです。

ウクライナ産の小麦に依存するアフリカ・中東諸国の国々は、価格高騰のみならず、戦争の影響でウクライナ産の小麦の入手が難しくなっています。そうしたもとで、多くの国が輸出制限を実施していることが、食料危機をより深刻化させています。

G7サミットではバイデン米大統領が途上国へのインフラ整備支援を打ち出したのですが、これは、中国の「一帯一路戦略」に対抗するものです。世界経済が抱える課題に対応するというよりも、先進国の利害に強く関わる政策です。世界のリーダーたちが、国を超えて世界全体が抱える諸問題への対応を推進する、という本来のG7の意義は後退してしまっているのではないでしょうか。

フィンランドに拠点を置く独立系の「エネルギー・クリーンエアー研究センター(CREA)」がまとめた報告書では、ロシアの戦費は1日あたり約8億7600万ドルと見積もられています。

一方、CREAは、ロシアはウクライナにおける紛争が始まった2月24日から6月3日までの100日間に、化石燃料の輸出で970億ドルの収入があったとしています。1日に換算すれば9億7000万ドル程度です。ロシアの戦費は化石燃料の輸出による収入で賄われたことになります。

取引価格を一定水準以下に抑えることを、石油タンカーでの船舶保険の利用条件とする案が浮上しているといいます。しかし、そうした枠組みが本当に有効に働くかどうかは疑問です。実際には、ロシア産原油の輸出を抑制することに一定程度働く一方、一段の価格高騰を招くことにはならないでしょうか。

考えれば考えるほどロシアの先行きは暗いですが、「何があっても確実にロシアに残るもの」も少なからず存在する。例えば以下のような要素です。
(1)地球上の陸地面積の6分の1を占める広大な国土
(2)潤沢な地下資源(ただし効果的に使えるかどうかは不明)
(3)安保理常任理事国の地位(拒否権は永遠)
(4)膨大な量の核兵器

ロシアは、世界最大の国土面積を有する巨大国家です。万一誰かに攻め込まれた場合には、戦略縦深の後退によっていくらでも時間を稼ぐことができます。その上で正規軍とパルチザンによる反撃が可能です。つまり守りに対しては絶対的に強いのです。ロシアは過去においては海外から攻め込まれたときの勝率は100%です。

ただし自分たちが他国に攻め込んだときはその限りではありません。露土戦争(1877年~1878年)は負けているし、日露戦争(1904年~1905年)もそうです。今回の対ウクライナ戦争も、多分にその公算が大です。守りの絶対王者は、攻めに回ると意外と心許ないのです。それでも、他国に攻め込まれて白旗を掲げる、ということだけは考えにくいです。最後は必ず、プーチンを相手に「交渉」という形で終わらせることになるのでしょう。

「この戦争によってロシアが新たに得るもの」も検討しなければならないです。それはおそらく「中国との腐れ縁」ということになるのではないでしょうか。

すでにロシアからは、欧米を中心に1000社近くが撤退しているなか、中国企業の「残留」が目立ちます。

西側のグローバル企業がどんどん撤退する中で、ロシア・ビジネスは彼らには「おいし過ぎて止められない」のではないでしょうか。対ロシア経済制裁が長期化し、西側企業の撤退が続くにつれて、その穴を埋めるのは中国企業ということになるのでしょう。

ロシア産の資源をアジア勢がディスカウント価格で買っているお陰で、国際商品価格の上昇に歯止めがかかっているという現実もあります。いずれにせよ、こういう状況が続くにつれて、ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなることが避けられないのではないてしょうか。

サンクトペテルブルクで開かれた17日の国際経済フォーラムでプーチン大統領は、軍事同盟ではない欧州連合(EU)へのウクライナ加盟を容認する姿勢を見せる一方で、それはウクライナの「半植民地化」を意味するとしました。プーチン大統領は強気姿勢を維持するのですが、海外からの資金調達、支援が得られない中で戦争を続ければ、ロシア経済は一段と悪化していくことになります。

海外企業のロシア国内での事業停止・撤退の痛手も今後本格的に出てきます。そうしたなか、ロシアは中国に一段と接近し、経済面では中国の「半植民地化」することを受け入れないと、この先、経済の発展は望めなくなるのではないでしょうか。

プーチンと習近平

ただ、先程述べたように、中露の一人あたりのGDPは両国とも10000ドルに過ぎません。中国はロシアの10倍の人口を擁しているから、経済も10倍なのであって、経済発展のノウハウなどありません。

実際このブログでも以前述べたように、バルト三国等の東欧諸国が、当初中国の「一帯一路」の投資を受け入れたのは、国民一人ひとりを豊かにしたいと考えたからでしょう。しかし、バルト三国より一人あたりのGDPが低い中国にはもともとそのようなノウハウも知識もありません。

東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったといえます。

ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなって、中国の投資を受け入れたとしても、経済発展は望めません。せいぜい、ウクライナ戦争開始前の水準に戻すことは、ひょっとするとできるかもしれませんが、それ以上は望めません。

中国は過去には、国内で大規模なインフラ投資をしてきたので、経済発展してきたのですが、いまや投資が一巡して、国内では目ぼしい投資案件がなくなったため、「一帯一路」に望みをかけたのでしょうが、そもそも経済発展のノウハウがない中国が海外投資で、地元国を潤わせさらに、自らも潤うなどという芸当はできません。

ロシアも復興のためには、中国の支援を受け入れるかもしれませんが、その後も中国に頼り、中国のジュニア・パートナーであり続けることはないでしょう。

中露は人口が減少傾向にあり、民主化して体制を変えない限り、没落の道をたどるだけです。欧米としては、ウクライナを取り込み、この国を経済発展させるべきでしょう。それが、何よりも中露への最大の牽制となり、途上国への強いメッセージとなることでしょう。


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