財務省は、2021年末時点で日本の対外純資産が過去最高の411兆1841億円であり、これは31年連続で世界一の記録であることを発表した。ドイツが2位で315兆7207億円、香港が3位で242兆7482億円であった。一方、米国は世界最大の純債務国であり、対外純債務残高は2067兆3330億円であった。
経済学的には、対外純資産の大きさが国の発展段階を示すものであり、経常収支黒字が望ましいという通念は誤りである。経常収支黒字は対外資産の増加源であるが、実際には経常収支と経済成長率の相関はほとんどなく、経常収支黒字が必ずしも好ましいわけではない。
国際収支の発展段階説によれば、国の発展初期段階では経常収支は赤字となり、対外純資産はマイナスとなる。しかし、貿易収支が黒字化し経常収支が黒字になると対外純資産はプラスになり、さらに所得収支も黒字になると対外純資産は大きなプラスとなる。しかし、経済が成熟すると貿易収支が赤字化し、経常収支の黒字は縮小して対外純資産の増加も鈍化する。最終的には貿易収支と経常収支が赤字に転じ、対外純資産は縮小する。
【私の論評】経済指標は、単純に「赤字駄目」、「黒字良し」で判断すべきものではない(゚д゚)!
上の記事では、対外純資産としていますが、正確にいうと対外純金融資産です。日本の政府や企業、個人が外国に保有する金融資産から負債を差し引いたもの。金融資産は政府の外貨準備高、銀行の対外融資、企業の対外投資といった額を合計。負債としては海外勢の対日投資などがあります。土地、建物などの試算は含みません。金融資産のみです。
上の記事にもあるように、日本の直近の対外金融資産純額は、2021年末時点で411兆円でした。
この情報のソースは、財務省の国際投資ポジション(IIP)報告書です。IIP報告書は、日本の対外金融資産と負債の詳細な内訳を提供しています。
2021年の日本の対外金融資産純額の増加は、以下のような多くの要因によってもたらされました。
- 2021年に15.5兆円に達した好調な経常収支の黒字。
- 日本円の価値が下がり、日本の資産が海外投資家にとってより魅力的になったこと。
- 海外からの直接投資が増加し、2021年には1.8兆円に達したこと。
さて、次の段位で高橋洋一氏は、日本はいずれ「債権取り崩し国」になると語っていますが、これを誤解する人もいるかもしれないので、念のため、言っておきますが、債権取り崩し国になったからといって、すぐに財政危機に陥るわけでもありません。実際巨大債務国の米国は破綻していないわけですから、日本と単純比較はできないものの、少なくとも債権を取り崩す事自体が、すぐに財政破綻につながるわけではないことはいえます。
日本が債権取り崩し国になること事態がすぐに財政破綻につながるものではない |
実際、先進国で高齢化が進んだ成熟国であっても、北欧諸国やスイスでは経常収支は黒字であり、貯蓄を取り崩しているとは限らないです。
国際収支の発展段階説では貿易収支とサービス収支がつねに同じ方向に動くものと仮定しているが、実際には米国のようにサービス収支の一部である特許等使用料収支は非常に安定的な黒字を維持している国も存在します。
さらに、米・ドルは基軸通貨としての役割があり、国際経済環境の変化に伴って米国以外の国が外貨準備としてドルを保有する行動も存在することから、経済発展に伴う国際収支の変化だけでは説明がつかない状況も観測されています。
ただ、世界最大の純債務国であり、対外純債務残高は2067兆3330億円もある米国の財政が破綻していないのですから、対外純債務がないどころか、対外純債権が411兆円もあり、それを取り崩してもいない日本が、いますぐに財政破綻の危機にあるとはいえないと思います。
ただ、これを論拠に日本が財政破綻しないというのは、そもそも論点が異なるのだと思います。財政に関しては、高橋洋一氏が語っているように、政府の債務だけではなく債権も考慮に入れること、そうしてEUでは加入国の財政をみる場合の標準になっている、中央銀行と政府を統合した統合政府ベースでみて判断すべきであり、その点からみれば、日本が財政破綻するなどとは全く考えられません。
統合政府ベースでみることに反対する不可思議な人もいますが、そういう人はなぜ大企業が連結決算を義務付けられているのかも理解できないないのかもしれません。
財務省は、財政を語るときには、巨額の財政赤字のみを強調し、債権は無視して、一般会計再出と税収だけを比較してワニの口などと称して不安を煽っています。
財務省が強調する歳出と歳入の差(ワニの口) |
対外純資産や貿易黒字赤字などは必ずしも、それが経済にとって良いこと悪いこととはいえないのと同じく、債務を赤字とみて、これが大きいこと自体を問題にするのは明らかに間違いです。財政においては政府の債務だけをみて、債権をみないということになれば、正確な財政状況など把握できません。
上のグラフは、そもそも全く意味がありません。債権や債務を全く無視して、税収と、歳出だけを並べてみても、何の意味もありません。さらに、そこに国債の発行残高を併記しても、無意味です。
企業経営でも、債権、債務を無視して、支出と収入だけみて、そこに社債発行額を並べてみても、全く何も見えません。ただ、混乱するだけです。これで、企業運営をすることなどできません。財政も同じことです。このようなグラフで、何かを論じようとする財務官僚にはビジネスセンスはゼロと言わざるを得ません。といより、意図的なのかもしれません。
貿易収支の赤字・黒字、経常収支の赤字・黒字、対外純試算の赤字・黒字自体は、さほど意味はなく、その時々の状況で判断していくべきものです。政府の債務と債権は、まずはそのバランスを見ていくことが重要です。
これらについては、その数字の意味を認識した上で、判断すべきで、赤字であれば駄目、黒字であれば良いという単純な見方では何も見えてこなくなります。数字の意味を知った上で理解すべきです。さらに、何かの数字が赤字というと、マスコミなどはそこで頭の回転が止まってしまい、他の複数の数字を見ることせず、赤字という単体の数字だけで、論評しようとするのも大きな間違いです。
数字そのものは、嘘はつきませんが、他の数字とのかねあいや、時間軸も考慮にいれなければなりません。株価のような先行指標や、失業率のような遅行指標など時間軸を考慮に入れないければならない場合もあります。
以前テレビで典型的な駄目サラリーマンが「賃金の上昇はどの程度であれば、実感できますか」と問われて「数ヶ月で倍」とか「数ヶ月で数十パーセント」と答えていました。企業の業績立て直しでも、大企業であれば、数年はかかります。それが賃金に目に見えて反映されるのはさらにその数年後ということもあります。
こういう人は駄目サラリーマンに限らず、政治家や財界人、官僚などにも多いです。金融緩和をして賃金があがるにしても、倍になるのに20年〜30年かかり、年率ではほんの数%くらいであり、1〜2年では生活実感からすれば、誤差くらいにしか見えないことが理解できていないのだと思います。このようなことは、日本以外の過去30年間で賃金が倍になった他国の賃金上昇率などみても、わかることです。
こういう人たちは、数字の意味を理解しないで、ただ赤字とか、黒字という言葉に幻惑されるので、財務官僚の簡単なトリックに引っかかり、増税しないと大変なことになる、国債を大量に発行すると将来世代につけになる等と単純に思い込むのでしょう。そうして、円高になれば、「円高で大変だー」、円安なれば「円安で大変だー、悪い円安で大変だー」と大騒ぎするのでしょう。これは、中途半端な知ったかぶりに過ぎず、本当に困ったものだと思います。経済に疎い人が、「私は経済に疎いので」と正直に言う人のほうが、まだましです。
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