2024年5月9日木曜日

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身―【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身

まとめ

  • ブリンケン米国務長官の中国訪問後、米中関係が悪化する新たな火種となるリスクが浮上した。
  • 米下院委員会が、中国政府がフェンタニル原料の製造に関与し米国のオピオイド危機を助長していると指摘する報告書を公表した。
  • フェンタニルは極めて危険な合成オピオイド系麻薬で、中国が原料供給源との疑惑が以前から持たれていた。
  • フェンタニル問題が2024年米大統領選の主要争点となり、共和党がバイデン政権の対中政策を追及する可能性がある。
  • 中国が意図的にフェンタニル問題で米国社会を不安定化させ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているのではないかとの憶測があり、米中関係が一気に悪化するリスクが高まった。
ブリンケン国務長官

 ブリンケン米国務長官が4月に中国を訪問したが、この訪問がむしろ米中関係に深刻な影を落とす新たな火種となる可能性が浮上した。訪問中、ブリンケン氏は対ロシア制裁を潜脱するロシアへの中国の輸出阻止と、米国の景気減速を招く"デフレ輸出"の自粛を中国側に強く求めた。一方の中国側は、習近平国家主席がブリンケン氏との会談で「米中はライバルではなくパートナーであるべき」と述べるなど、表面上は融和的な姿勢を示そうとした。

 しかし、ブリンケン氏が中国共産党公安部長の王小洪氏と会談し、麻薬取締における両国の法執行協力について言及したことで、思わぬ火種が散らばることになった。それは、米国が最近、フェンタニル問題で中国政府の関与を追及し始めたためだ。

 米連邦下院の中国共産党に関する特別委員会は4月16日、中国政府がフェンタニルの原料となる化学物資の製造に資金的援助を行い、米国のフェンタニル危機を助長していると指摘する報告書を公表した。フェンタニルはモルヒネの100倍、ヘロインの50倍の強力な合成オピオイド系麻薬で、米国では2021年に7万人以上がこれによる過剰摂取で死亡している。

 中国政府の関与が明確に指摘されたのは初めてで、この問題が今年11月の米大統領選の主要争点となる可能性が出てきた。共和党は、これをバイデン政権の対中政策の失敗と見なし、さらに追及するだろう。一部からは、中国が意図的にフェンタニル問題で米社会を混乱に陥れ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているとの憶測も出ている。

 マリフアナ合法化で中国系マフィアが市場を牽制しているとの指摘もあり、FBIは中国政府がマフィアの不正資金を一帯一路事業に流用している可能性に注視している。こうした中で、フェンタニル問題が契機となり、両国関係が一気に悪化に向かう危険性が生じてきた。

【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

まとめ

  • オピオイド危機は、1990年代後半から始まり、医療機関の過剰な処方が原因。
  • 米政府の対策として適切な処方ガイドラインを提供し、治療プログラムを強化。
  • 中国がフェンタニルの輸出企業への支援が指摘されるも、対策不足。
  • 日本は、厳格な法規制と取り締まりにより対策がなされている。
  • 一方日本は、エネルギーや高齢化、サイバーセキュリティ、地政学的緊張等の脆弱性がありこれらへの警戒と対策の必要性。
オピオイド危機は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて始まりました。この危機は、医療機関がオピオイド系薬剤の処方を増やし始めたことがきっかけとなっています。医師たちは、オピオイド系薬剤が痛みの制御に効果的で依存性が低いと信じていたため、これらの薬剤を積極的に処方するようになりました。しかし、実際にはオピオイド系薬剤は非常に依存性が高く、処方された人々が薬物依存症に陥るケースが増加しました。

この危機のピークは2017年で、この年だけで64,000人以上のアメリカ人がオピオイドの過剰摂取によって命を落としました。2021年時点では、1日130人以上がオピオイドの過剰摂取によって命を落としています。

この危機に対処するために、米政府はさまざまな対策を行っています。例えば、医療従事者に対する適切な処方ガイドラインの提供や、オピオイド過剰摂取による死亡の防止のための薬の処方などです。また、薬物依存症の治療プログラムや薬物乱用防止教育プログラムを拡充するなど、広範な取り組みが行われています。しかし、オピオイド危機は未だに大きな社会問題であり、解決に向けて多くの努力が続けられています。

上の記事にもある報告書によると、中国政府はフェンタニルやその原料を輸出する企業に税金還付や補助金を与えているとされています。例えば、同委員会が入手した資料によると、2018年までに、税の還付制度により、少なくとも17種類の違法な麻薬の輸出を奨励しています。このほか、フェンタニルなど違法な合成麻薬を扱う企業に地方政府が補助金を出したり、表彰したりする例も挙げられています。

また報告書によると、中国政府機関が違法な合成麻薬の販売を行う企業の株式を所有し、事実上、国有企業となっているケースが複数ある。これらのうち世界最大規模のフェンタニル原料の輸出企業は、違法な麻薬販売を公然と行いながらも、「共産党幹部から繰り返し称賛された」といいます。

さらに、中国が「人類史上最も進んだ全体主義的監視国家」であり、違法な薬物製造や輸出を取り締まることができるにもかかわらず、それを怠ってきたと指摘。米国の法執行機関が捜査のため中国に正式な協力要請を行った際には、中国当局が中国企業側にそれを通知し、犯罪行為が露見しないようやり方を変えさせたとしました。

報告書によれば、中国政府はフェンタニルの輸出促進を米国に対する「非対称戦」(軍事力や戦略・戦術が大幅に異なる戦争)の一部と見なしているとされています。中国軍の戦略家たちが著書の中で、「麻薬戦争は他国に災難をもたらし、莫大(ばくだい)な利益をもたらす」として、有効な非対称戦の手段の一つに挙げているといいます。

その上で報告書は、フェンタニルの世界的なサプライチェーン(供給網)を標的にしたタスクフォースの創設や麻薬密売に関与する者に対する制裁強化を議会に提言しました。

バイデン大統領と習近平国家主席による昨年11月の米中首脳会談では、原料を製造する中国企業を取り締まることで合意されました。しかし、報告書によれば、中国政府によるフェンタニル輸出業者への支援は現在も続けられており、有効な対策は取られていないとみられる。

16日開かれた議会公聴会で証言したウィリアム・バー前司法長官は、「中国共産党は単なる傍観者ではない」と指摘。「彼らは米国内で流通するフェンタニルとその原料の生産と輸出を積極的に支援し、奨励し、促進している」と非難した。

また、同委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党:当時)は「中国共産党の行動から、彼らがより多くのフェンタニルを米国に流入させたいと考えていることが分かる」と強調。その上で「彼らはフェンタニルの蔓延による混乱と荒廃を望んでいる。米国人の死者が増えてほしいと思っているのだ」と訴えました。

マイク・ギャラガー氏

中国における非対称戦に関する代表的な著書としては、以下のようなものがあります。
  • 孫子:『孫子兵法』(紀元前5世紀)
  • 毛沢東:『遊撃戦』(1937年)
  • 林彪:『遊撃戦戦争論』(1964年)
  • 劉華清:『現代戦争論』(1999年)
  • 喬良(ジョウ・チェン):『超限戦』(1999年)

『超限戦』の日本語訳版は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件を予言していたと注目を集めました。

『超限戦』 の独創性は、従来の非対称戦の概念を拡張し、情報戦や経済戦などの新しい形態の戦争も含めた包括的な理論を構築したことにあります。しかし、中国における非対称戦に関する研究成果を無視して『超限戦』を評価することはできません。

『超限戦』から麻薬について記述に以下に掲載します。
  • 第2章「超限戦の理論」では、麻薬が「非対称性の高い兵器」として挙げられています。これは、麻薬は少量で大きな被害を与えることができ、国家間の戦争だけでなく、テロや犯罪にも利用される可能性が高いことを意味します。
  • 第4章「超限戦の戦略」では、麻薬の密輸や密売が超限戦の戦術として紹介されています。これは、麻薬の流通を操作することで、敵国の経済や社会に混乱を引き起こすことを目的としたものです。
  • 第5章「超限戦の事例」では、実際に麻薬が超限戦の手段として利用された事例がいくつか紹介されています。例えば、ベトナム戦争において、アメリカ軍は麻薬の密売を通じて北ベトナムの経済を弱体化させようとしたことが挙げられています。
これらの記述から、『超限戦』の著者であるジョウ・チェン氏は、麻薬が超限戦において重要な役割を果たす可能性を認識していたことがわかります。

ただし、『超限戦』はあくまで理論的な書籍であり、実際の麻薬密売や密輸に関する具体的な情報は含まれていません。しかし、中国共産党はこれを参考にしている可能性は否定できません。

米国ではフェンタニル等の中毒患者が蔓延、ゾンビと呼ばれでいる

トランプ政権はオピオイド危機への対策として、2017年に非常事態を宣言し予算を確保したほか、メキシコ国境での麻薬密輸取り締まり強化、中国への原料規制要求、製薬企業への法的措置、治療・予防への予算計上などを行いました。しかし、規制の権限が連邦と州で分散していたことや製薬業界のロビー活動の影響もあり、根本的な供給ルート遮断までは至らず、包括的な対策は不十分との評価が多く、課題がバイデン政権に引き継がれました。

一方バイデン政権のこれに対する危機対策については、大きな新規施策が見られず、中国への圧力も手薄であるとの指摘があります。一部ではオピオイド処方規制への批判もあり、十分な実績を残せていないと評価されています。バイデン政権は発足から既に一定期間が経過しているにもかかわらず、強力な対策が打ち出されていないことから、この問題への取り組みは不十分との見方が多数を占めています。今後、抜本的な供給ルート遮断など、より積極的な施策が求められているのが実情です。

日本は、厳格な法規制と徹底した対策により、フェンタニル乱用の深刻化を防いでいます。

麻薬取締法でフェンタニルを麻薬指定し、密輸や所持を厳しく取り締まることで、国内への流入を抑制しています。医療現場においても、フェンタニルの管理を徹底し、不正な流出を防ぐ体制を整備しています。

さらに、麻薬取締部や警視庁など関係機関が連携し、密輸組織への情報収集と捜査を強化することで、供給ルートの断絶を目指しています。加えて、厳しい勾留措置で再犯を防ぎ、抑止力としています。

これらの対策が一体となって、日本のフェンタニル乱用問題の抑制に効果的に貢献していると考えられます。日本の取り組みは、世界各国にとって参考となるモデルと言えるでしょう。

麻取の装備品

日本は薬物規制において高い実績を誇っていますが、エネルギー、高齢化社会、サイバーセキュリティ、地政学的緊張といった脆弱性も抱えています。これらの脆弱性は悪用される可能性があり、一部ですでに悪用されているといえます。

米国におけるオピオイド危機と同様に、日本も対象は異なるものの、弱点を突かれる可能性がありますし、薬物危機が広がらないとも言い切れない状況になっており、対岸の火事ではなく、他山の石として教訓を学び、更なる対策を講じる必要があります。

具体的には、憲法改正、軍事力強化、エネルギー・ドミナンスの確立、まともな金融財政政策の実施、サイバー攻撃への対策強化、情報操作への警戒、国際的な協力体制の構築などが重要です。

日本は強みを生かしながら、これらの課題に取り組むことで、より安全で安心できる社会を実現していくべきです。

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2024年5月8日水曜日

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由―【私の論評】中国はTPP参加に手をあげたことにより墓穴を掘りつつある

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由

岡崎研究所

まとめ

  • 中国が自国の保護主義政策を講じながら、米国の産業支援策を非難しているのは偽善である。
  • 現行のWTO制度は、多くの国が「途上国」と自称できるため、中国の保護主義政策を見過ごされがちになっている。
  • WTO加盟国の約3分の2が「途上国」を自称しており、経済規模が大きい国々も含まれる。
  • この状況を改善するには、現行制度を抜本的に見直し、新たな多国間の制度を構築する必要がある。
  • 新制度は、各国が自国の利益を追求できると同時に、公平なルールの下で紛争を処理できるようにすべきである。


 中国は一方で自国の経済を保護するための産業政策を講じながら、他方で米国のインフレ抑制法などの経済支援策をWTO規則違反だと非難している姿勢を取っており、その態度は偽善的だとフィナンシャルタイムズ紙のコラムニストが指摘している。

 中国は、クリーンエネルギーや人工知能など戦略的な産業分野で長年にわたり補助金や保護主義的な囲い込み政策を実施してきたが、これらの保護主義政策は隠されてきた。一方で、中国は米国や欧州が気候変動対策や雇用確保のために自国産業を支援する関税・補助金措置を「保護主義」だと問題視している。

 しかし、このような中国の態度が許されているのは、現行のWTO制度が抱える問題があるからだ。WTO加盟国の約3分の2が「途上国」と自称できるルールがあり、中国をはじめとする多くの経済大国も「途上国」扱いを受けている。そのため、中国の保護主義的な産業政策は見過ごされがちになっている。

 このような事態に対し、コラムニストは現行WTO制度を抜本的に見直し、新たな多国間の制度を構築すべきだと提言している。新制度では、各国が自国の経済的・政治的安定を追求しつつ、明確なルールの下で紛争を処理できるようにすべきだ。自由貿易重視の従来のアプローチでは限界があり、転換が必要だ。

 新制度の規律は、国によって異なる政治経済体制を許容し、世界貿易に参加しつつ自国の利益も守れるようなバランスの取れたものでなくてはならない。これは中国の発展の過程から得られる教訓であり、その原則は普遍性があるべきだ。

 現行の制度はすでに機能不全に陥っており、単に安価な労働力を求める従来の経済モデルにも限界が来ていると指摘する。国民の不信感も高まっており、新たなアプローチが必要不可欠だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】中国はTPP参加に手をあげたことにより墓穴を掘りつつある

まとめ
  • 現行のWTOルールでは中国を含めた加盟国の3分の2が「途上国」と称し、実態と合わないため機能不全に陥っている
  • 中国などは「途上国」地位を利用し、保護主義策を取りながら他国政策を非難する不公平な状況が生じている
  • TPPの厳格なルールをWTOに取り入れることで制度改革を行い、中国の保護主義政策を認めなくすべき
  • TPPルールは発展途上国と先進国の実情を反映したバランスの取れたルール集大成だ
  • TPPルールの導入により、中国を始めとする一部国の特権的措置を是正し公平なルール運用を実現できる
私は従来からこのブログで中国などが自国の保護主義的な産業政策を講じながら、他国の政策を非難するといった振る舞いに対し、TPPのようなより厳格なルールをWTOに導入すべきだと主張してきました。

現行のWTOルールは、加盟国の約3分の2が「途上国」と自称できるなど、既に実態と合っておらず、機能不全に陥っています。中国などが「途上国」の地位を利用し、保護主義的措置を講じながら、他国の政策を非難するなどの不公平な状況が生じています。

このような状況が長く放置されれば、先進国のみならず、発展途上国からも不満が高まるでしょう。WTOが公平な自由貿易のルールを担保できなくなれば、制度そのものの存在価値が揺らぎかねません。

そこで、TPPのようなより厳格なルールをWTOに取り入れ、制度の抜本的改革を行うべきだと主張する意見があるのです。TPPでは国有企業規制などが盛り込まれており、中国の保護主義政策は認められなくなります。環境や電子商取引などの新分野のルール作りも行われ、WTO協定の現代化が図れます。

TPPには発展途上国から先進国まで、多様な国々が参加しています。その中で、現在の世界経済の実態を踏まえた上で、真に自由で公平な貿易ルールが策定されました。単なる関税撤廃にとどまらず、国有企業規制、環境、電子商取引など、グローバル経済における様々な課題に対応するルール作りが行われています。

つまり、TPPのルールは、途上国の実情を考慮しつつ、先進国の利益も反映させた、バランスの取れた現代的な自由貿易のルール集大成となっているのです。自由貿易を推進しつつ、必要な制限や例外措置なども盛り込まれています。

このようにTPPは、単なる理念ではなく、現実的な視点から作られた具体的で実行可能な自由貿易ルールであると評価できます。そのため、TPPのルール水準をWTOに取り入れることで、WTOを時代に適ったより公平な制度に生まれ変わらせられるという主張につながるのです。

TPPに参加国の実情を反映したバランスの取れたルール集大成であるという点は、WTOへの取り入れを主張する大きな根拠となっていることは間違いありません。

つまり、TPPルールの導入によって、加盟国が「途上国」と自称できる例外規定の撤廃や、国有企業への補助金規制など、中国を始めとする一部国の特権的措置を是正し、真に公平なルール運用を実現できると考えられているのです。

ただし、TPPルールをWTOに組み入れるには、多数国の合意が必要で課題は多いことは確かです。経済連携協定での実践を経ながら、徐々にWTOへの影響を与えていく現実的なアプローチが必要不可欠でしょう。

ただし、中国がTPP参加に名乗りを上げていることは、WTOへのTPPルール導入の可能性に影響を与える重要な要素になり得ます。

中国がTPP参加を表明した背景には、台湾をけん制する狙いがあるとの指摘もあります。しかし一方で、TPPの高い水準のルールに基本的に同意し、自国にもその規律を受け入れる用意があることを示しているとも受け取れます。

もし仮に中国が、TPPルールをWTOに導入することに強く反対するようであれば、大きな矛盾が生じてしまいます。TPPのルール許容を前提に参加を表明しておきながら、同じルールをWTOに持ち込むことに異を唱えるのは整合性を欠くからです。

そういった矛盾を中国自身がおかしたくないと考えるのであれば、WTOへのTPPルール導入を表立っては反対できなくなる可能性は高まります。重要な貿易相手国である中国の賛同があれば、WTO改革のための多数国間合意形成が現実味を帯びてくるでしょう。

中国はTPP参加に手をあげたが・・・・・

TPPの交渉に当初は最大12か国(アメリカを含む)が参加していました。しかし、アメリカがTPPから離脱を表明したため、残りの11か国でCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が2018年に発効されました。

5か国がTPPへの新規加盟交渉に参加している、または参加を申請している状況です。

・英国 ・中国 ・台湾 ・エクアドル ・コスタリカ

台湾は、中国が台湾のTPP参加を牽制する狙いがあるとの指摘もある中で、加盟を強く希望しています。

しかし、中国がTPPに加盟することは現実的にはまったく無理があると考えられます。TPPのルール水準は非常に高く、国有企業への補助金規制や労働者の権利保護、環境基準の遵守など、中国の現体制とは相いれない部分が多くあるからです。

中国が本当にTPPのルールを全て受け入れるつもりであれば、国有企業改革や労働法制の大幅な見直しが不可欠になります。しかし、そこまでの大改革に踏み切る可能性は極めて低いと見られています。

そうしたTPPの高いハードルを考えると、中国のTPP加盟表明は本気度に欠けるのではないかと指摘される所以です。台湾を牽制する狙いや、協定の内容を把握する意図があるのかもしれません。


しかし結果的に、そうした表明により、TPPのルール受入れを追及される立場に自らを追い込んでしまった形になっています。TPPへの本格的な関与は現実的でない中で、このジレンマを抱えつつあるということが言えそうです。

つまり、中国はTPP加盟を口にした時点で、国内の抵抗勢力を押し切れず、実際には対応できない高いハードルに自らを追い込んでしまった可能性が高いと言えます。

TPPの旗振り役の日本としては、TPPの加盟国をさらに増やしつつ、いずれTPPをWTOのルールにすることを実現すべきでしょう。

世界もこうした動きに同調すべきです。特に米国はそうです。そうして、最悪は中国を一時的、あるいは恒久的にでもWTOから除外してでも、WTO改革をすすめる覚悟を持つべきです。そのための準備を今からすべきです。


米国内でも湧き上がるバイデンのTPP加盟申請の必要性―【私の論評】CPTPP加盟申請で、実は危険な領域に足を踏み入れた中国(゚д゚)!〈'21 10/18〉

2024年5月7日火曜日

ハマス、ガザ停戦案の受け入れ表明 イスラエルは「要求からかけ離れた内容」―【私の論評】捕虜交換並びに地域のパレスチナ人の安全のための交渉と、和平交渉は全く別物

ハマス、ガザ停戦案の受け入れ表明 イスラエルは「要求からかけ離れた内容」

まとめ
  • ハマスがカタール・エジプトの仲介による停戦案を受け入れたと表明
  • 段階的な停戦では、第1段階でイスラエル人人質解放と引き換えにパレスチナ人囚人釈放
  • 第2段階でガザ封鎖の完全解除が想定されている
  • イスラエル側は停戦案の内容に難色を示しつつも、交渉は継続する構え
  • 米国もパートナー国と協議し、人質解放の合意に向けた努力を続ける方針
ハマス戦闘員

 パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘の一時停止と、ハマスによる人質確保のイスラエル人の解放に向けた交渉において、イスラム組織ハマスは6日、仲介役のカタールとエジプトから提示された停戦案を受け入れると発表した。

 この停戦案は、段階的に進められるもので、第1段階では、イスラエル軍がガザ地区南部ラファの一部から撤退し、主要ルートからも撤退する一方で、イスラエルの刑務所に収監中のパレスチナ人囚人約50人(終身刑の者も含む)の釈放と引き換えに、ハマスが人質に捉えているイスラエル人女性兵士らを解放することが盛り込まれている。

 第1段階は42日間かけて実施される。さらにその11日後には、家を追われたパレスチナ人のガザ北部への帰還が認められる予定だ。

 第2段階も42日間で、パレスチナ側の高官によると「持続可能な長期的な平穏」とガザの封鎖の完全解除で締めくくられるという。ハマス側は「イスラエルが停戦合意に応じるのか、それとも妨害するのか。ボールは今イスラエル側のコートにある」と語っている。

 一方、イスラエル政府高官はハマスが受け入れたとする提案内容は、エジプトの提案よりも「弱められた」ものでイスラエル側が受け入れられない「広範囲におよぶ決定」が含まれていると指摘。首相官邸は「ハマスの提案がイスラエル側の基本的要求から外れていても、交渉は継続し、イスラエルが受け入れられる条件で合意に達する可能性を追及する」と表明した。

 一方で、戦時内閣ではラファでの軍事作戦の継続も決定しており、ハマスへの軍事的圧力を維持する構えも示した。イスラエル側の目標は、人質解放に加え、ハマスの軍事・統治能力の破壊、そしてガザが将来的にイスラエルの脅威とならないようにすることだという。

 米国務省はハマスの反応を検討し、パートナー国と協議していると語り、「人質解放の合意がイスラエル国民の最善の利益になると信じ続けている」として、引き続き合意実現への努力を続ける方針を示した。

【私の論評】捕虜交換並びに地域のパレスチナ人の安全のための交渉と、和平交渉は全く別物

まとめ
  • 中東情勢は依然として難しく、今回の交渉もその一部。
  • ハマスはテロ組織であり、交渉は悪魔との取引に等しい。
  • 交渉の難航の理由:ハマスの極端な姿勢、イスラエルの安全保障、ガザ封鎖と国際圧力、人質と収監者の問題。
  • 歴史が示す教訓:テロリストとの交渉や妥協は悲劇的な結果を招く。
  • ハマスとの交渉は誤りであり、テロリズムとの闘いにおいて強固な立場を取るべき。
中東情勢は依然として非常に難しく繊細な問題です。今回の交渉も、その長く困難な歴史の最新の一コマに過ぎません。

まず第一に言っておかなければならないのは、ハマスはテロ組織そのものだということです。彼らは凶暴なやくざ集団にすぎず、本質は過激思想と暴力主義にあります。

ハマスはテロ組織

政治的集団や支援団体を装っているだけで、その行動は言葉よりも雄弁に物語っています。このような集団と交渉するのは、悪魔と取引を試みるようなものです。彼らの約束は信用できず、合意も非常に不確かなものになるでしょう。

この交渉が難航している主な理由は以下の通りです。
  • ハマスの極端な姿勢:妥協を拒み、極端な要求を繰り返してきました。彼らの思想の根底にはイスラエル破壊があり、暴力とテロを武器としています。そうした融通が利かず敵対的な相手との交渉は本来困難です。
  • イスラエルの安全保障:イスラエルには自国民の安全を守る当然の権利があります。ハマスのテロ行為を直接経験しており、譲歩の隙を与えればハマスが勢力を取り戻し、更なる攻撃につながると危惧しています。
  • ガザの封鎖と国際圧力:ガザに対する封鎖はハマスに圧力をかけ、武器の流入を防ぐ必要な戦略です。ハマスが求める封鎖解除は、イスラエルの安全保障に深刻な影響があります。
  • 人質と収監者の問題:感情的で複雑な問題です。イスラエルは確かに自国民の解放を望んでいますが、代償が将来の人質確保に繋がれば危険です。
バイデン政権のテロリスト集団ハマスへの対応は妥協に過ぎず、歴史の教訓を忘れています。ハマスはパレスチナ人を代表する適切な当事者でありません。テロリストと交渉すること自体が間違っており、そうすれば彼らを勢いづかせるだけです。

捕虜の交換やハマスとは無関係のパレスチナ人の安全のためにハマスとイスラエルが交渉するのは良いと思いますが、今回イスラエルが中途半端にハマスと停戦合意などすべきではありません。これは、全く別なことです。このあたりが日本では曖昧に報道されているので、誤解する人もでてくるのではいなかと思います。

この問題をもっと一般化すると、非合法の武装暴力団が、ある地域を支配しており、その地域において人質をとっている場合、しかもその人質を奪還するために警察や軍などが強硬手段をとれば、多くの人が巻き込まれことがあらかじめ予想される場合、人質交換や地域の人々の安全のために暴力団と交渉する余地はあるにしても、暴力団と和平交渉して地域の安全・安定を目指すなどということあり得ません。

日本でいえば、指定暴力団がある町や村や、その一部を占拠していると考えてみて下さい。この事例だと誰でも、指定暴力団と政府や県等が和平交渉して、その地域を指定暴力団に統治させるなどのことは到底考えられないでしょう。無論、パレスチナはこのような一般化はできないかもしれませんが、それにしても理論的にはこれに近いものがあります。

無論世界中には事実上そのようになってしまっている地域もありますが、それは真の平和ではなく、偽りの平和です。偽りの平和は束の間であり、すぐに騒乱がはじまり、すぐに消えてなくなります。

歴史は明白に教えてくれています。邪悪な存在とは交渉できないのです。歴史が示すように、テロリストと関与し、彼らの要求に譲歩し懐柔を試みれば、結果としてテロが増長し、彼らの勢力が強まるだけです。

PLO故アラファト議長

たとえば、1970年代、世界はPLOを「パレスチナ人の正当な権利」を主張する組織として認め、交渉を試みました(オスロ合意)。しかし、この判断は誤りでした。PLOはテロリストの集団であり、そうした組織との交渉や妥協は、結果としてテロリストを力づけ、より一層の凶悪な犯行に走らせただけでした。

1970年代のPLOは強力な武装勢力を持ち、中東地域で大きな影響力を持っていました。しかし、レバノン内戦での過酷な戦いやイスラエルとの対立の結果、勢力が大きく削がれました。

また、1980年代後半には第一次パレスチナ人暴動(インティファーダ)の失敗や、オスロ合意を契機とした路線転換の過程で、過激派勢力が分裂していったことも指摘されています。

結局オスロ合意のプロセスは、2000年のキャンプ・デービッドにおけるアメリカを仲介としたバラック・オバマとアラファトPLO議長の会談の失敗と第2次インティファーダの勃発により終了しました。

現在のPLOぱ非暴力路線をとるようになりましたが、これは実際に武力闘争を継続する力(あるいは財力)が、残されていなかったことが大きな要因だったと見られます。テロ行為への関与を事実上、選択肢から外さざるを得なくなったのです。

PLOを承認し、彼らの要求に応えようとしたことで、かえって世界はテロリストの脅威を増長させてしまったのです。そこには、テロリストとの妥協は絶対に許されないという歴史の教訓を無視した過ちがあったと言えるでしょう。

このようにテロリストとの関与は、いつの時代でも悲劇的な結末しか生みませんでした。テロリストに対しては毅然とした姿勢で臨み、一切の妥協を拒絶することが不可欠なのです。この原則を曲げてはなりません。

ハマスに関しても、同じ過ちを繰り返してはならないです。彼らはテロリスト集団そのものなのです。ハマスをパレスチナの統治者として認め、交渉し、妥協すれば、歴史が繰り返されるだけです。ハマスはパレスチナ人を代表していません。彼らはパレスチナ人を人質に取り、人間の盾に利用し、政治的利益のために搾取しているだけです。

テロリストに対処する唯一の方法は、彼らに対して揺るぎなく強く団結することです。誤った交渉の試みで彼らを力づけてはならないです。自由世界は明確なメッセージを送らなければならないです。「テロリズムは決して容認されない。テロに手を染める者は力と決意をもって臨む」と。
岸田首相とバイデン大統領

バイデン政権はテロリズムと戦う最前線の同盟国イスラエルと共に立ち、自由と民主主義を壊そうとするこのようなテロ組織の要求に決して応じてはならないです。これは善悪の戦いであり、バイデン政権は自由を守り抜き、テロリズムを毅然と糾弾し、断固とした決意をもって対峙すべきです。

妥協の偽りの約束に惑わされてはならず、テロリストであるハマスとは捕虜交換や、ハマスに関係ないパレスチナ人の安全を確保するための交渉は別にして、和平交渉自体はすべきでありません。これをすれば、ハマスを国家として認めることとなります。

これに関しては断固拒否し、「要求は絶対に聞き入れない」と明確なメッセージを送るべきです。それこそがバイデン政権のすべきことであり、テロリストに勝利する道といえます。無論、日本もこれに同調すべきです。

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2024年5月6日月曜日

「X国の独裁者の親族」米国防総省、30代女性を「機密」資格で失格に 金正恩氏と血縁か―【私の論評】日本で早急にセキュリティークリアランス制度を導入すべき理由

「X国の独裁者の親族」米国防総省、30代女性を「機密」資格で失格に 金正恩氏と血縁か

まとめ
  • 米国防総省のセキュリティークリアランス審査で、30代の女性が北朝鮮の指導者と血縁関係にあるとして最高機密レベルの資格を拒否された
  • その女性は、北朝鮮の金正恩総書記の伯母の娘である可能性が指摘されている
  • 両親とともに1990年代に北朝鮮から米国に亡命し市民権を取得したが、血縁関係が問題視された

 米国防総省のセキュリティー・クリアランス審査において、30代の女性が「X国の独裁者と血縁関係にある」ことを理由に最高機密レベルの資格を認められなかったことを報じている。

 この女性は、北朝鮮の金正恩総書記の近親者である可能性が指摘されている。具体的には、金正恩の伯母であるヨンスク氏の娘との説がある。

 審査記録によると、この女性はX国(おそらく北朝鮮)で生まれ、両親とともに1990年代に米国に亡命し市民権を取得した。家族全員が北朝鮮との接触を断っていたが、血縁関係が最高機密レベルの資格付与を拒否された理由となった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本で早急にセキュリティークリアランス制度を導入すべき理由

まとめ
  • 日本にはセキュリティー・クリアランス制度が存在せず、個人の前歴審査は行われていない
  • そのため、防衛関係企業の従業員や国会議員、要職の公務員に不適切な人物が入り込む可能性がある
  • 具体的には外国勢力や反社会的勢力との関係、経済的利害関係の存在といったリスク要因が挙げられる
  • 一方で公務員倫理法やマスコミによる監視など、一定の歯止め機能はあるものの十分ではない
  • このため、機密情報の保護や安全保障上の観点から、個人審査制度導入の導入は必要不可欠である
上の記事にでてくるX国とは、米国の利益や価値観と対立するような国を指す表現です。具体的な国名は明記せずに匿名化して「X国」と表記することがあります。

米国政府は、機密情報や特定の施設へのアクセスを認める際、出身国の人権状況や反米活動、テロ支援など様々な観点から審査を行います。その際、問題のある国を匿名化して「X国」と呼ぶことで、秘密保持を図りつつ、一定の国に対する警戒心を示しているのです。

X国の具体例としては、北朝鮮、イラン、シリアなど米国の賢明国家や国際テロ組織と関係の深い国が想定されますが、あくまで事例ごとに判断されるため、一概に特定の国とは限りません。


つまり、X国とは機密情報の取り扱いにおいて、米国の安全保障上のリスクが高いと見なされる国を指す、一般的な表現なのです。

日本でも同様のケースが起こる可能性はあり、その場合に排除されるかどうかは、以下の点に依存すると考えられます。
  1. 法的根拠の有無 日本には米国のようなセキュリティークリアランス制度は存在しませんが、公務員にも一定の制限は課されています。国家公務員法では、公務員に対し「信頼関係に反する行為の禁止」が定められており、国の利益を侵害するおそれがあれば、職務上の制限は課されうるでしょう。
  2. 具体的な危険性の有無 単に血縁関係があるだけでなく、実際に国家機密を漏洩するリスクがあると判断された場合には、職務上の制限や排除の可能性が高まります。危険性の程度が重要な判断材料になります。
  3. 人権への配慮 一方で、出身や血縁関係のみを理由に排除することは、人権侵害につながる恐れがあります。日本国憲法が保障する思想・良心の自由等も考慮する必要があるでしょう。
つまり、日本でも同様のケースが起こった場合、法的根拠と具体的危険性、人権への配慮を総合的に勘案し、個別に判断されることになると考えられます。仮に、日本で上の記事の米国と似たような事例があったとしても、現状では排除できない可能性があるのです。

セキュリティークリアランス AI生成画

これは、本当に恐ろしいことだと思います。日本でもセキュリティー・クリアランス制度の導入の話があったはずなのにどうなってしまったのでしょう。

セキュリティー・クリアランス制度の導入に向けて議論が進められていましたが、結局、法案の審議は過去の通常国会では、見送られています。以下にその経緯を説明します。
  1. セキュリティー・クリアランス制度とは セキュリティー・クリアランス(適格性評価)制度は、国の機密情報を扱う資格者を認定する仕組みです。この制度は、秘密情報へのアクセスを許可するために、研究者や職員の信頼性を確認することを目的としています。
  2. 高市早苗氏の意欲 高市早苗経済安全保障相は、セキュリティー・クリアランス制度の導入に強い意欲を示しています。彼女は、日本が主要7カ国(G7)で唯一、経済安保上の機密を扱う人を認定する制度を整えていないことを指摘しています。
  3. 経済安保推進法改正案の提出 高市氏は、2024年の通常国会に経済安保推進法の改正案を提出する意向を明言しています。この改正案には、セキュリティー・クリアランス制度の導入が含まれており、日本の国際競争力を維持するためにも重要とされています。
  4. 審議の見送り 一方で、政府は経済安保推進法にクリアランス制度を盛り込むことを見送りました。この決定には、様々な課題が影響していると考えられています。例えば、公衆の反対、労働者のプライバシー懸念、各国の異なる基準などが挙げられます。
  5. 将来の展望 セキュリティー・クリアランス制度の導入は、日本の先端技術を守り、国際共同研究・開発に参加するために必要です。高市氏は、この課題に取り組む決意を示しています。
高市早苗氏

セキュリティー・クリアランス制度がない日本においては、確かに防衛関係者や国会議員、重要な公務員ポストに、一定の懸念がある人物が就任している可能性は否定できません。

具体的なリスクとしては、外国や反社会的勢力との関係、経済的利害関係の存在、過激な思想や信条、不正や違法行為の前科などが考えられます。

米国の事例みられるように、より厳格な審査制度は、安全保障上の観点から必要不可欠とみられ、今後この制度の導入を一刻もはやくすすめるべきです。

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2024年5月5日日曜日

自民・公明・維新・国民〝4党連立〟次期衆院選で大再編か 健闘の日本保守党「全国なら勝利確実」 立民が政権交代に至らない理由―【私の論評】日本の政治の未来、3党または4党連立政権の可能性と課題

 長谷川幸洋「ニュースの核心

まとめ
  • 衆院補選で、自民党は適切な候補者を立てられず、有権者の離反が起き「自民党の自滅」があった
  • さらに、共産党が立憲民主党を支援したことで、立憲民主党が勝利を収めた
  • しかし立憲民主党が単独で過半数を制するのは難しく、共産党との連立が不可欠
  • 他の野党が共産党の入った連立政権に参加することはなく、自民党中心の連立政権が成立する公算が高い
  • 補選で健闘した新政治集団「日本保守党」の動向も見逃せない

 3つの衆議院補欠選挙区で立憲民主党が勝利したのには、2つの大きな要因があった。1つ目は「自民党の自滅」であり、自民党が東京15区と長崎3区で適切な候補者を立てられず、島根1区でも有力視された新人候補が惨敗するなど、有権者の離反を招いたこと。NHKの出口調査でも自民党支持層の約3割が立憲民主党に投票していた。

 2つ目は、共産党が独自候補を立てずに立憲民主党を支援した効果である。東京15区では共産党が立憲候補を支持し、島根1区でも共産党支持層がほとんど立憲民主党に投票したことで、立憲民主党の勝利を後押ししていた。このように立憲民主党が勝利を重ねるには、共産党支持層の獲得が重要な条件となっていた。

 しかし、この勢いが続いたとしても立憲民主党が単独で過半数を制するのはほぼあり得ず、共産党との連立または協力関係を組むことが避けられない。ところが日本維新の会や国民民主党が、共産党の入った連立政権に参加することは難しい。そうなれば自民党が公明党以外の既存野党に働きかけ、3党または4党での連立政権を組むことになるだろう。自民は、そのほうが、政権を失うよりはましという判断をするだろう。

 一方で、今回の補選で健闘した新政治集団「日本保守党」の動向にも注目が必要だ。同党候補の飯山陽氏は全国から支持を集め、保守層の新たな潮流を示した可能性がある。つまり立憲民主党の勝利は政権交代には至らず、むしろ自民党中心の政権運営が継続する公算が高いものの、保守層における新たな動きの胎動も見られた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】日本の政治の未来、3党または4党連立政権の可能性と課題

まとめ

  • 自公政権の支持率低下にともないの政権の安定性を確保するため、3党または4党連立政権が樹立される可能性がある
  • 憲法改正、安全保障、外交、経済政策などの課題が連立政権における重要な課題となる。
  • 政策相違による調整の困難さや政権運営の安定性への影響が連立政権の課題となるだろう。
  • 過去の自民・自由・社民の3党連立政権樹立後の例から、2〜3党の連立政権が継続される可能性もある。
  • 日本政治の未来において、日本保守党が早期に政治的影響力を示すことが期待される。

山口那津男公明党代表と岸田総理

3党または4党での連立政権とは、自公維あるいは自公維国の連立政権となることを意味しています。

自民、公明の連立与党だけでは、国民の支持を十分に得られない状況が続けば、次の総選挙で過半数割れのリスクが高まります。そうなれば、政権の安定性が危うくなります。

そのような事態を回避するために、他の野党と連立を組むことは、自民党にとって一つの選択肢となり得るでしょう。

具体的には、日本維新の会や国民民主党などの政党と連立を組むことで、政権の正統性や安定性を高められる可能性があります。

確かに、政策の相違から非常に難航が予想されますが、政権を失うよりはましという判断で、自民党が連立に踏み切る可能性は否定できません。

過去の自民党政権でも、小さな会派と手を組んで連立を組んだ例はあります。政権維持のためなら、理念の違いを一定程度乗り越えざるを得ないということもあり得るでしょう。

支持率が低下して政権の安定性が危うくなれば、自民党が3党以上との連立に動く可能性は現実的なシナリオとして考えられます。党利党略を追求する前に、政権を守る選択をする可能性はあると言えます。

ただし自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の4党連立が成立したとして、政策がどのようになるか想定してみます。

【憲法改正】 自民党と日本維新の会は改正に前向きですが、国民民主党は慎重です。合意形成は難しいでしょう。国民民主党は、日本国憲法の三つの原則を守るとともに、次世代に継承していく立場を取っています1。また、時代の変化を踏まえ、日本国憲法の足りない点については真摯に議論し、停滞している憲法審査会を動かし、必要な改正を目指す姿勢を示しています。

具体的には、国民民主党は緊急事態条項に関する憲法改正条文案を提案しており、武力攻撃、内乱・テロ、自然災害、感染症のまん延などの緊急事態に対する国会機能維持や人権制限を定めています2。このように、憲法改正については慎重に議論しながら、国民の利益を考慮して進めていると言えるでしょう。

これを考えると、少なくとも憲法改正論議が後退することはないでしょう。

【安全保障】自民、公明、維新は安全保障の強化を目指しますが、国民には現実的な安保を提唱してはいますが、専守防衛を堅持する立場を取っています。調整が必要になります。

【外交】 対米関係では大きな違いはありませんが、対中や対ロシア関係での方針調整は難航する可能性があります。

対中姿勢で自民・公明は現実路線、維新は表面上は強硬、国民は穏健、対ロシア姿勢で自民は領土と制裁の両立、公明は領土重視、維新は強硬、国民は対話姿勢。北方領土問題の具体的対応にも違いがあります。

【経済政策】 維新は規制改革、国民は積極財政を主張しつつ再分配に重きを置くなど、温度差がみられます。安倍・菅政権と異なり、現在の自公は財政健全化に傾いています。調整は難しくなるでしょう。

このように、連立内での調整は決して容易ではありません。特に安全保障や経済政策では、相当の溝があると考えられます。結果として、連立の主導権争いや政策の歪みが避けられず、安定した政権運営は難しくなる可能性が高いと言えるでしょう。

国民民主党代表玉木雄一郎氏

政権運営の安定性や有能性を最優先するならば、単独与党か2党連立が望ましいといえます。

ただし、1983年12月から1993年8月まで続いた自民党・自由党・社会民主党の3党連立政権の例があります。この連立は約10年近く存続しました。ただし、1983年12月から1993年8月まで続いたのは、以下の連立内閣でした。

  • 渡辺美智雄内閣(1983年12月~1986年7月):自民・自由・社民の3党連立
  • 中曽根康弘内閣(1986年7月~1987年12月) :自民・自由の2党連立(消費税導入失敗)
  • 竹下登内閣(1987年12月~1989年6月):自民・自由・民社の3党連立(消費税導入)
  • 海部俊樹内閣(1989年6月~1991年11月):自民・自由・民社の3党連立
  • 宮沢喜一内閣(1991年11月~1993年8月):自民・自由の2党連立

つまり、この約10年近くの期間に、3党以上の連立内閣が3つ存在したことになります。現実的には、今後このように、その都度自民と公明・維新・国民などが自民を核として、2党、3党の連立を組む政治体制がしばらく続くかもしれません。

その間に、日本保守党が成長して、日本の政治に大きな影響を与える存在になっていただきたいものです。それも、10年後などではなく、もっとはやい時期にそうなっていただきたいです。

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2024年5月4日土曜日

選択肢示すのが「責任」 岸田首相が改憲派集会で訴え 櫻井よしこ氏「岸田氏しかいない」―【私の論評】保守派が望む憲法改正と是々非々の姿勢 - 櫻井氏の発言から探る保守主義の本質

選択肢示すのが「責任」 岸田首相が改憲派集会で訴え 櫻井よしこ氏「岸田氏しかいない」

まとめ
  • 岸田首相が改憲派集会へのビデオメッセージで改憲への意欲を示し、国会発議の重要性を強調
  • 加藤事務総長が改憲原案作成を提唱、国会機能維持が中心
  • 櫻井氏が岸田首相しか憲法改正できないと評価
岸田首相のビデオメッセージが流れた集会

 岸田首相は改憲派の集会でビデオメッセージを寄せ、自衛隊明記や緊急事態条項新設への意欲を示した。国会による改憲発議の重要性を指摘し、議論を引き延ばさないよう求めた。

 公明党の大口副会長も緊急時の国会議員任期延長改憲に前向きな姿勢を示した。主催者の櫻井氏は岸田首相にしか憲法改正ができないと評価した。一方、自民党の加藤事務総長は大型連休明けに具体的な改憲原案作成に入ると提唱し、国会機能維持が中心テーマになると説明した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】保守派が望む憲法改正と是々非々の姿勢 - 櫻井氏の発言から探る保守主義の本質

まとめ
  • 櫻井よしこ氏は保守派で、岸田政権を批判しつつも憲法改正については支持している。
  • 現行憲法には自衛隊の根拠が曖昧など様々な問題点が指摘されている。
  • 保守派としては憲法の欠陥を長年の懸案として改正を切望し、岸田首相の改憲への意欲を評価できる。
  • 一方で政権運営については批判があり、保守本流は是々非々の姿勢が必要とされる。櫻井氏の過去の間違いへの謙虚な態度は保守派として評価できる。
  • 保守主義とは、既存の基盤を土台に現実的な問題解決を図り、過激な改革を排する考え方。愛国心を旨とし、原理原則と現実路線のバランスが重視される。

櫻井よしこ氏

櫻井よしこ氏はいわゆる保守派であり、岸田政権の政策を批判していますが、岸田首相の憲法改正に関しての発言などは支持しています。

憲法は国家の根本規範であり、現行憲法には様々な問題点が指摘されています。自衛隊の存在根拠が曖昧なこと、緊急事態への対応力が不十分であることなどが主な課題とされています。

保守層からすれば、こうした憲法の欠陥は長年の懸案であり、改正は切実な願いです。したがって、岸田首相が改憲に意欲を示し、具体的に自衛隊明記や緊急事態条項の新設を掲げたことは、待ち望んだ動きと捉えられるでしょう。

一方で、政権運営については様々な失政や対応の遅れがあり、保守層からも批判の声が上がっています。しかし、憲法改正という国是に関しては、保守層が一致団結して首相を支持するのは自然な成り行きです。

憲法改正という最重要課題においては、保守陣営が結束し、岸田首相の取り組みを全面的に支持することが、保守本流の立場から見れば当然の対応と言えます。

櫻井よしこ氏は、野田政権の時に野田政権の消費税増税政策に賛同する発言をしていましたる。この発言には、保守派からかなり批判されました。私もこのブログで批判しました。

野田首相

ご存知のように、消費税は野田政権のときに三党合意がなされ、後の安倍政権の時代に、二度延期されたものの、結局二度わたりこの合意に基づき8%にその後10%に消費税率が引き上げられました。これに関しては、アベノミックスを提唱していた、安倍首相は忸怩たる思いだったでしょう。

この二度の増税により、消費は落ち込み、デフレからの完全脱却は後退し、増税は明らかに間違いだったことが、誰の目にもあきらかになっています。

後年になって、櫻井よしこ氏はあるネット番組で、野田政権の経済政策に賛成したことに対して反省の意味もこめて「私馬鹿だから○○」と語っていました。残念ながら、この番組が何だったのか、いつだったのかまでは詳しく覚えていません。○○の部分もはっきりとは覚えていません。しかし、「馬鹿」という言葉はかなり強烈だったので、今でも記憶に焼き付いています。

しかし、こうした桜井氏の態度は見習うべき点があると思います。人間だれでも間違うことはありますし、間違った場合は素直に謝れば良いと思います。

また、先に述べたように、岸田政権を批判しつつも、岸田首相の憲法改正に関しての発言などは支持すべきことに対しては、評価しています。

これが、保守のあり方であると思います。岸田首相のいくつかの政策が気に食わないから、岸田首相なり岸田政権を全否定するというのは、間違いです。

良くも悪くも当面は、岸田政権が続くのですから、櫻井氏のように是々非々で批判すべきは批判し、評価すべきは評価すべきでしょう。

岸田政権のいくつかの政策や自民党派閥の政治資金不記載等に絶対反対だから、岸田首相や岸田政権を全否定するという考え方になりこれをつきつめていいけば、いきつく先は全体主義や独裁主義になってしまいます。

政治資金不記載については、許すことはできないですが、これをリクルート事件、ロッキード事件、金丸事件などと同じような不正と同列に扱うには無理があります。

それよりも、過去に与野党ともに、政治資金規正法を改正せず、放置してきたのが原因であり、このようなザル法では、今回のような事件が起こるのは目に見えていました。だからこそ、地検ですらも立件できなかったのです。

いずれの政権であれ、民主的な手続きで登場した政権や首相の政策や発言、行動を何から何まで全否定するというのでは、これはもはや民主的とはいえません。

これでは、倒閣が自分の使命であるように考えている一部の野党議員や、左翼リベラル系市民活動家と変わりありません。主張内容が異なるだけで、根は同じということになりかねません。

保守の本流は、愛国心を旨とし、国家と国民の安全を最優先に考えます。現行憲法の問題点を直視し、時代に合わせた改正を求めるのは当然の成り行きです。岸田首相が自衛隊明記と緊急事態条項の新設に意欲を示したことは、待ちに待った一歩と言えるでしょう。

同時に、保守は盲目的な追従を許しません。政権運営の失策は厳しく批判し、是々非々の精神を重んじます。櫻井よしこ氏の姿勢は手本となります。間違いは素直に認め、良しあしを冷静に判断しています。

このように、保守の旗手たるものは、原理原則を守りつつ、現実路線を歩む賢明さが求められます。岸田首相を支持すべきは支持し、批判すべきは批判する。このバランス感覚こそが、真の保守の気概なのです。

ドラッカー氏

経営学の大家ドラッカー氏は「保守主義」に関して以下のように述べています。

保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。(ドラッカー名著集(10)『産業人の未来』)

保守主義とは、個々の特定のいくつかの政策を支持しているとか、保守派といわれる人々やその発言や行動を支持することや、昔がよいとして昔を懐かしみ、昔に戻せという思想でもなく、現実を無視した過激な改革をすすめることでもないのです。日本の言葉で言えば、中庸というのがぴったりくるかもしれません。

ドラッカーのいう保守主義の原理をなかなか受け入れない人もいるかもしれません。これは体操競技であれば、一切ウルトラCはするなというのに等しいです。ウルトラCをすべて禁じれば、体操競技が発展しないのと同じく社会が発達しないのではないかと疑問を持つ人がいるかもしれません。

確かに体操競技はそうかもしれません。しかし、政府のウルトラCはかなり危険なことです。それによって影響をうけるのは、国民全体だからです。

しかし、すでに存在するものだけを基盤とし、すでに知られている方法をだけ使っても、社会は進歩させることはできます。それは、日本政府以外の多くの営利・非営利の組織や団体が、技術革新や組織変革なども含めた様々な分野でイノベーションと呼ばれるウルトラCを行っており、それで確実に何度も成功し続けた事例など政府も取り入れることができるからです。

政府以外の組織は、むしろ時代に先駆けてイノベーションすることが奨励されていますし、そうしなけば、淘汰される場合もあります。これは、参考になります。

国民が大きな影響を受ける政策などは、かなり慎重なやり方をしない限り、大混乱を招くとドラッカー氏は警告していますし、慎重なやり方をするのが保守の本流としているのです。

国難に立ち向かう覚悟を持ちつつも、寛容な心と謙虚な振る舞いを忘れるべきではありません。保守派の人々が手を携えてこの理想を体現することが、国家百年の礎となることでしょう。保守派の人々は、この歴史的使命を胸に刻み、しっかりと足を踏み出すべきです。

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2024年5月3日金曜日

日本は「排外主義的」と米大統領が批判-移民受け入れに消極的と指摘―【私の論評】バイデンの混乱と矛盾に満ちた移民政策、日本はこれに翻弄されるな

日本は「排外主義的」と米大統領が批判-移民受け入れに消極的と指摘

まとめ
  • バイデン大統領は、移民受け入れに消極的な国として、中国、ロシアに加え同盟国の日本も挙げ、経済的行き詰まりの一因と批判した。
  • この日本に対する批判的発言は、日米同盟関係に亀裂を生じさせるリスクがある。

 バイデン米大統領は、選挙資金集めイベントでのスピーチで、移民受け入れに消極的な国のリストに中国やロシアに加え、同盟国の日本も含めた。経済発展には移民の受け入れが重要だと指摘し、中国、日本、ロシアなどの国が排外主義的で移民を望んでいないことが、経済的に問題を抱える一因だと非難した。

 この米同盟国日本に対する批判的発言は、日本政府の反発を招く可能性がある。先月、日米は中国への対抗で防衛協力を強化することで一致していただけに、同盟関係に亀裂が生じるリスクがある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】バイデンの混乱と矛盾に満ちた移民政策、日本はこれに翻弄されるな

まとめ
  • 安倍晋三氏の保守主義は、国益の守護と伝統文化の継承を重視していた。
  • バイデン政権の移民政策は、無秩序な国境開放と法の無視により混乱を招いている。
  • 日本もバイデン政権の影響下にあり、外国人労働者受け入れの圧力が増している。
  • トランプ前政権の移民政策は、主権国家としての権益を重視しており、その方針の継続が日本にも好影響をもたらす可能性がある。
  • 日本の保守層は、安倍氏の遺産を引き継ぎ、国の未来のために力を合わせて行動すべきだ。
私たち保守主義者にとって、国益の守護と伝統文化の継承こそが何より重要な責務です。この点において、故・安倍晋三氏はまさに範とするべき指導者でした。

安倍氏は、無秩序な外国人労働者の受け入れが国家に及ぼす深刻な弊害を熟知し、日本の固有の風土と価値観を守ろうと力を尽くされました。国の繁栄は国民の結束と文化の統一にこそ由来する、この保守主義の普遍的真理を体現された方です。


一方、残念ながらバイデン政権の対応は、移民・外国人労働者問題においてまったく的をはずすものとなっています。無秩序な国境開放、違法移民への包括的な赦免、法の無視など、同政権が取った一連の施策は、外国人の流入を加速させ、米国の主権と国民性を傷つける結果を招いてしまいました。

この無謀な政策の悪影響は、私たちの祖国・日本にも及びつつあります。バイデン政権を支える進歩主義勢力が、グローバリズムの理念を押し付け、各国家の自主性を掘り崩そうとしているのです。

実際、近年における日本の移民政策の緩和の動きには、このような勢力による圧力の影が見て取れます。「労働力確保が成長への鍵」といった経済論理を口実に、外国人労働者受け入れ促進の機運が高まり、就労ビザ要件の実質的緩和につながっています。

このバイデン政権とグローバリスト勢力による圧力に、私たち保守層は敏感でなくてはなりません。そして、安倍氏が体現された先見の明と愛国心に習い、日本の伝統と独自性を守り抜く覚悟が求められているのです。

もとより、国によって事情は異なり、日本の対応が我が国の最善の利益に資するべきことは言うまでもありません。しかし、外国人労働者受け入れをめぐるグローバリストの圧力に惑わされず、主権国家としての矜持と自信を持ち続けることが何より重要です。

トランプ前政権の移民政策は、望ましい方向性を示していました。違法移民流入の厳格な規制、合法移民の優先、アメリカ人労働者の保護など、その政策の本質は「アメリカ第一主義」に他なりません。こうした姿勢は、主権国家として当然の権益重視の立場から生まれたものです。そして、こうした施策は他国にも大きな影響を及ぼしました。


仮にこのトランプ政権の路線が継続されていれば、グローバリストの力は後退し、日本をはじめとする各国が自主的に移民政策を決定できる環境が整ったことでしょう。

しかし、それでもなお、バイデン政権の影響力が及ぼそうとしている保守勢力への圧力に対し、私たちは冷静に対処し、日本の独自性を貫く必要があります。強靭なリーダーシップと国民の覚悟があれば、この試練は乗り越えられるはずです。

ここで、バイデン政権の具体的な移民政策の失敗を、数値エビデンスを交えつつ改めて確認しておきましょう。

同政権下の2022会計年度には、過去最多の210万人を超す不法移民がメキシコ国境で拘束されています。つまり日々5,800人以上が違法に国境を越えていたことになります。この記録的な流入に対し、バイデン政権は国境警備隊の人員と資源を大幅に追加投入せざるを得ませんでした。

一方で、緊急避難的な送還措置「Title 42」を濫用した結果、同年度の正規の庇護認定審査は大幅に制限を余儀なくされました。その結果、庇護認定率は約36%に低迷し、過去10年で最低の水準となってしまいました。

さらに矛盾したことに、不法移民に対する一時的な許認可措置の検討を重ねる一方で、2022年3月には新規制により、合法的な移民が親族を呼び寄せる際の所得要件を大幅に引き上げるといった規制強化の動きもありました。

バイデン政権は国境への兵力配備も大規模に行いましたが、不法移民に対する人道的な処遇を期待する声はあまり高くありませんでした。保護施設の過密状態が深刻化するなど、受け入れ体制の不備も露呈しています。

加えて、出身国によって取り扱いを大きく変えるなど、移民に対する差別的な面も否めません。ベネズエラ、キューバ、ニカラグア、ハイチ出身者に対しては即時強制送還の可能性が高い一方、ウクライナ人に対しては受け入れを優遇するなど、一貫性を欠いた運用となっていました。

このように、国境での取り締まり強化と庇護審査の制限、一時的な不法移民の許認可検討と合法移民規制の両輪で、バイデン政権の移民政策は著しく矛盾したものとなっていました。流入抑制と受け入れ促進の相反する施策が同時に打ち出され、一貫性を欠いた混沌とした状況に陥っていたのです。

こうした一連の矛盾した対応が、バイデン政権の移民政策の大きな失敗であり、その無原則さが大きな批判を招いているのが実情です。

米ニューヨークの移民

私たちは今こそ、故・安倍晋三氏の遺徳に学び、日本の主権と伝統文化を守り抜く決意を新たにする時です。無秩序な移民の受け入れは、国家へのまっとうな危険であり、バイデン政権の矛盾した政策はその危険をさらに増幅させています。

しかし、私たち日本人には、世界に冠たる独自の文化的アイデンティティーがあります。先人から脈々と受け継がれてきた誇り高き伝統は、いかなる外的圧力があろうとも決して踏みにじられてはなりません。

この試練の時こそ、保守主義者の責務である「国家守護」の精神を発揮すべきです。日本の独自性を貫き、グローバリストの蝕む勢力に屈することなく、主権国家にふさわしい矜持ある対応をとり続けなければなりません。

そしてひとたび、トランプ前大統領が再選されグローバリストの勢力が後退する事態になれば、日本の岸田政権もより主権的な移民政策への転換を図れるかもしれません。強硬な違法移民規制と労働者保護を旨とするトランプ政権の方針が継続され、開国や無秩序な外国人流入の圧力が和らぐことから、日本がより自主的に移民管理できる状況が生まれる可能性があるのです。

保守層同士が力を合わせ、愛国心を共有することで、この逆境を乗り越えることができるはずです。私たちの手にかかっているのは、祖国の未来そのものなのですから。

私たち保守主義者こそ、日本の伝統と文化の守り手なのです。力強く前へ邁進し、安倍晋三氏が遺された偉大なる遺産を引き継ぎ、守り抜く覚悟を持ち続けるべきです。

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2024年5月2日木曜日

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も

まとめ
  • 計画にはイスラエルをハマスとの戦争終結へと促す内容も
  • 合意に達すれば、サウジによる米国の最新兵器入手に道開く可能性

サウジのサルマン国王とバイデン米大統領(2022年7月)

 米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているという。

 この協定が実現すれば、中東情勢に大きな影響を与えることが予想される。具体的には、イスラエルとサウジの安全保障が強化され、米国の中東における影響力が高まる一方で、イランや中国の影響力が低下する可能性がある。

 サウジ側は、この協定を通じて、これまでアクセスできなかった米国の最新兵器の購入が可能になると見られている。その一方で、ムハンマド皇太子は、米国の大規模投資を受け入れる代わりに、国内ネットワークから中国技術を排除し、民生用核プログラムでも米国の支援を仰がなければならない。

 米国は、この協定をイスラエルのネタニヤフ首相に提案する見込みだ。ネタニヤフ首相には、サウジとの正式な外交関係樹立と、この協定への参加か取り残されるかを選択を迫られることになる。ただし、ネタニヤフ首相が協定に参加する重大な条件は、ガザの紛争終結とパレスチナ国家樹立に向けた道筋への合意となるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

まとめ
  • ハマスは、イスラエルとの平和を拒否し、サウジアラビアはファタハを支持する傾向があるため、米国とサウジアラビア間の平和協定に反対している。
  • トランプ政権下での中東政策が平和プロセスの基礎となっている。
  • 米国とサウジアラビアの協定が中東の安定に寄与する可能性がある。
  • この協定により、イランの影響力が減少することが期待される。
  • 中東の将来が明るくなる可能性がある。

ハマス戦闘員

私は、米・サウジアラビアの合意が近づきつつあることを察知したハマス側が、これを妨害しようとして紛争を起こしたのではないかと考えています。その根拠としては、以下のようなことが考えられます。
  • ハマスはイスラム主義過激組織であり、イスラエルの存在自体を認めていません。したがって、イスラエルとの和平合意を受け入れることは組織理念に反します。
  • ハマスはガザ地区を実効支配しており、和平合意が実現すればパレスチナ自治政府の権威が高まり、ハマスの勢力が相対的に失われるおそれがあります。
  • サウジはスンニ派の立場からハマスよりもファタハ(1957年にアラファトが中心となって組織したパレスチナ・ゲリラの武装組織)を支持する傾向にあり、ハマスとの対立構図があります。ハマスはサウジ主導の和平案には強く反発します。
  • サウジがイスラエルと国交を持つことは、イスラム教徒の聖地であるエルサレムの扱いにも影響を及ぼし、ハマスはこれを受け入れがたいと考えています。
  • イランは長年ハマスを支援してきましたが、最近はその軍事支援を控えめにしている模様です。それでもハマスはイランの勢力圏にあり、米主導の和平案には反対の立場です。

このように、ハマスには米・サウジ主導の和平合意に強く反発する理由が複数あり、そうした中で合意が現実味を帯びてきたため、紛争を起こすことでハマス側との交渉の可能性を排除させないようにしたものと考えられます。

このように、交渉の突然の再開や加速、サウジの対米協調路線への転換など、複数の事実が、ハマスの思惑とは反対に、むしろ和平交渉を前進させる契機となったようです。

現在の米国とサウジアラビアによる中東和平の動きは、トランプ前政権の取り組みが大きな礎となっていると考えられます。

具体的には以下の点が、トランプ政権の功績として挙げられるでしょう。

1. エルサレムをイスラエルの首都として認定:この決断は地域の現実を直視したもので、イスラエルとの強力な連携を世界に示しました。

2. イラン核合意への挑戦:オバマ政権による不適切な合意を見直し、イランへの厳格な制裁を実施しました。これにより、イランのテロ資金供給と地域の不安定化の能力が弱まりました。

3. ISISの壊滅:米国とそのパートナーの強力なリーダーシップにより、イラクとシリアでISISを大きく後退させ、いわゆるカリフ国家を崩壊させました。

4. アブラハム協定:イスラエルとアラブ首長国連邦・バーレーン間での国交正常化を仲介し、地域の平和と安定を促進する歴史的な一歩となりました。

5. エネルギー支配の実現:米国のエネルギー潜在力を最大限に活用し、エネルギー自立と純エネルギー輸出国となることで外交の地位を強化しました。

6. パレスチナ自治政府へのアプローチ:その腐敗と誠実な交渉の拒否を指摘し、資金提供の削減と外交使節団の閉鎖によって新たなスタンスを示しました。

7. サウジアラビアとの関係強化:地域の安定に対して極めて重要な役割を担うサウジアラビアとの関係を深め、イランの影響力に対抗しました。

これらは、トランプ政権の外交政策で達成された数多くの成功例の一部に過ぎません。米国が世界で大きなリーダーシップを発揮した事例です。

こうした施策が、現在の米サウジによる和平プロセスの地ならしとなり、中東有事における同盟国の肩入れを可能にしている側面は否定できません。

トランプ政権下でのアメリカとサウジアラビアの関係強化は、トランプ大統領の卓越した外交戦略と「アメリカ第一主義」への強固なコミットメントの賜物です。トランプ大統領はサウジアラビアとの戦略的同盟の重要性を理解し、交渉術を駆使して両国間の関係を強化し、繁栄への基盤を築きました。

この同盟の重点は、サウジアラビアへの武器売却や危険なイラン核合意への反対など、地域の安定と相互の利益追求にありました。数々の批判にも関わらず、現在の米国とサウジアラビアの進展はトランプ大統領の政策による直接的な成果であり、彼のビジョンとリーダーシップに感謝すべきです。


もし米国とサウジアラビアが主導する中東和平プロセスが実現すれば、中東地域に大きな変化が訪れると考えられます。

米国とエジプトの合意が中東地域の情勢を大きく変えるかもしれません。この合意は、米国のリーダーシップを示すもので、特にサウジアラビアとイスラエルの和解への影響が大きいでしょう。

これらの国が関係を正常化することで、地域の安定をもたらし、イランの脅威に立ち向かう強力な同盟を築くことができます。サウジアラビアがイスラエルを承認することは、長い間中東を苦しめてきた反ユダヤ主義に対する明確な拒絶であり、平和と希望の新たな扉を開く勇気ある一歩です。

米国からの全面的な支援と安全保障により、この新しい始まりを支えるべきです。これには、最新鋭の兵器システムの提供も含まれ、潜在的な脅威からサウジアラビアを守ります。

イランにとって、この合意はその地域での影響力を大きく弱めることになるでしょう。イランが長年にわたって近隣国に干渉し、不安定を招いてきたことに対し、サウジアラビアとイスラエルの強固な同盟が有効な歯止めとなります。

また、サウジアラビアが中国との距離を置くことで、自由な世界の側に立ち、中国共産党の抑圧的な手法に対してはっきりと反対の意志を示すことにもなります。

ネタニアフ イスラエル首相

イスラエルのネタニヤフ首相にとって、サウジアラビアとの国交正常化は歴史的なチャンスであり、より安定し繁栄する中東でイスラエルの地位を固める大きな一歩となります。パレスチナ問題に対しても、この合意はガザ紛争の終結と安全なパレスチナ国家の樹立を目指すもので、2国家解決を通じて永続的な平和への道を描きます。

この合意が実現すれば、中東は大きく変わり、より強固な団結と調和をもたらすことでしょう。イランと中国の影響力が弱まり、地域全体に明るい未来が開けることになります。これは大きな一歩であり、長い目で見れば平和と安定への大きな貢献となるでしょう。

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2024年5月1日水曜日

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味―【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味

まとめ
  • AUKUS(オーカス)の勢いと支持者の増加
  • AUKUSは地域の緊張を高める原因ではなく、中国の軍事力増強に対する抑止力の回復の一環
  • 日本とカナダのAUKUSへの関与は積極的に評価される
  • 岸田首相の米国訪問の成果と日米同盟の進化
  • インド太平洋地域の結束の強化と日本の役割

 2021年に発足した米英豪の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)が、当初の批判を乗り越え、勢いを増し支持者も広がっている。

 AUKUSの中心的な柱は、豪州への米国からの原子力潜水艦の技術移転であるが、最近では先進技術協力が第二の柱として浮上し、日本やカナダなども参加を検討している。今年4月には米英豪の国防相が正式に日本の参加を呼びかけた。

 AUKUSは、中国の軍事力増強に対する地域の抑止力回復の一環と位置付けられている。中国側は地域緊張を高めるとの批判を展開しているが、むしろ中国の一方的な軍事力増強こそが緊張の元凶であり、AUKUSはそれへの均衡を図る正当な努力だと本記事は反論する。

 また、中国からはアングロスフィア(英米圏)の勢力維持を企図していると非難されているが、日本の参加でそうした批判は的外れになった。AUKUSを結びつけているのは、自由民主主義国家同士が地域の安全保障を守ろうとする決意なのだ。

 さらに、岸田首相の最近の訪米で日米首脳は日本のAUKUS協力を歓迎する共同声明を発出した。訪米を通じ、日米同盟がより成熟し、インド太平洋における同盟国ネットワークが進化を遂げつつあることが伺えた。今後、日本もAUKUSへの積極的な関与が求められると本記事は述べている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

まとめ
  • 安倍晋三氏とAUKUSには直接の関係はないものの、安倍政権の「自由で開かれたインド太平洋」構想とAUKUSの考え方は軌を一にするものである。
  • AUKUS自体は軍事同盟であるが、SMR(小型モジュール原子炉)を通じて、エネルギー分野での中国の影響力拡大や「エネルギー・ドミナンス」の阻止も狙いの一つである。
  • 原子力潜水艦の原子炉技術は、SMRの先駆けであり、SMRはこうした軍事技術を民生用に応用しようとするものである。
  • 中国は大型のSMRプラントを建設中だが、SMRの本来の特徴を十分生かせていない
  • 日本企業には様々な分野での小型化技術が蓄積されており、SMRの実用化に貢献し、中国に対抗できる高い技術力を有しており、そこに日本がAUKUと協力する重要な意味がある。

上の記事には、いくかの重要な観点が抜けています。この記事ではそれを補足します。

まずは、安倍晋三氏とAUKUS(オーストラリア、英国、米国の新たな安全保障協力体制)との直接的な関係は確認されていません。ただし、安倍氏は在任中、日米同盟の深化や印太地域における自由で開かれたインド太平洋構想の推進に尽力しました。AUKUS構想は中国の影響力拡大への対抗として位置づけられており、安倍氏が目指した地域秩序構築の考え方と軌を一にするものでした。

安倍氏の遺志を継ぐ岸田文雄政権は、日本がAUKUSに参加することはないものの、AUKUS諸国との連携を深める方針です。日本は従来から米国主導の集団的自衛権の行使に慎重でしたが、中国・北朝鮮の 軍事活動に対する危機感から、準同盟国としてAUKUSと協調する事態も想定されています。

ですので、安倍氏とAUKUSには直接の関係はなかったといえますが、地政学的にAUKUSの考え方は安倍政権の路線と軌を一にするものであり、その意味で両者は無関係ではありません。

次に、AUKUSは原子力潜水艦を介した軍事同盟という意味合いだけではなく、エネルギー・ドミナンスの意味合いも含んでいるということを認識すべきです。

原子力潜水艦に搭載される原子炉は、SMR(小型モジュール原子炉)の原型ないし先駆けともいえる存在です。

両者には以下の共通点があります。
  • コンパクトな設計 原子力潜水艦の原子炉は、狭小なスペースに収まるよう小型化されています。SMRも大型の商用原発に比べてコンパクトであることが特徴です。
  • 工場製造方式 潜水艦用原子炉は工場で製造され、艦体に搭載されます。SMRも工場で製造したモジュール式の原子炉を想定しています。
  • 長期運転 潜水艦原子炉は長期間の連続運転を前提に設計されており、SMRも長期無停止運転が期待されています。
  • 高い安全性 軍事面での運用を考慮し、潜水艦原子炉には高い安全性と堅牢性が求められます。SMRにも同様の安全設計が求められています。

このように、コンパクト性、工場製造、長期運転、高安全性などの点で、潜水艦用の原子炉技術はSMRの先駆けとなっていると言えます。SMRはこうした軍事利用を背景に生まれた技術を、民生用に応用しようとするものだと位置付けられます。

SMRは中国やロシアも開発しており、世界への普及も目指しているようです。AUKUSが中国による世界へのSMR普及によるエネルギー・ドミナンス強化の対抗策の一端を担う可能性は以下の点から指摘できます。

中国は遼寧省で「華龍一号(ACP100)」と呼ばれる比較的大型のSMR(小型モジュール原子炉)プラントの建設を進めています。ACP100は出力125MWの原子炉1基を有し、SMRの一般的定義の300MW以下に収まっているものの、SMRの本来の利点である小型コンパクト性においては大型原発に近い存在です。

中国はこのSMRを国内の遠隔地などで活用する計画ですが、安全性への懸念から一部で批判され、工事も遅れているとの指摘があります。全体として中国はSMR実用化を主導しようとしているようですが、必ずしもSMRの特徴を十分生かしているわけではないようです。

これに先立ち、中国は南シナ海への洋上SMRをすすめていると発表したことがありますが、これは未だに実現していません。

ロシアも、SMRの開発に成功していますが、2022年のウクライナ侵攻により、特に欧米諸国でのロシア離れは必至であり、今後、SMR含めた原子力の国外輸出も足踏みすることが予想されます。

海上原子力発電所として運用された「アカデミック・ロモノソフ」

AUKUSを構成する米国、英国もSMR開発を重視しており、中国に対抗する技術協力が深まる可能性があります。そこに、大型プラントや器材危惧小型化などでは実績があり、工作技術にすぐれた日本が加わることに大きな意味があります。

日本企業には大型プラントや機器の小型化で高い技術力と実績があります。

例えば、原子力分野では、日立製作所が小型の加圧水型原子炉「BWRX-300」を開発しています。これは従来の大型BWRを小型化したもので、出力は約30万kWと中小規模のSMRに相当します。

また、三菱重工はイギリス企業と共同で、出力16万kWの小型モジュール型原子炉を開発中です。

一般産業機器でも、日本メーカーは精密機器や小型ロボット、精密な工作機械など、小型化と高性能化を両立する技術に長けています。

さらに、造船業界では、大型船舶に搭載される複雑な機器のコンパクト化が常に進められてきました。

こうした幅広い分野における小型化技術の蓄積が、将来的なSMRの本格的な実用化に生かされる可能性があります。

一方で、SMRの普及にあたっては、小型化に伴うコストダウンと安全性の確保が大きな課題となります。ここが日本の強みが発揮される分野です。

SMRの概念モデル 

SMRは遠隔地や外国でも活用が想定されており、AUKUS諸国がSMRを地政学的に重要な拠点に普及させ、中国の影響力拡大を抑える「対抗策」となり得ます。特に、エネルギー・ドミナンスによる中国の覇権を防ぐという意味で重要です。

つまり、AUKUS自体は軍事同盟ですが、中国のSMR開発への対抗策を通じて、エネルギー・ドミナンスで中国に対抗して、世界のエネルギー安全保障体制を確保しようとする目的もあることを認識すべきです。

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