2024年6月24日月曜日

【ウクライナの反撃開始】戦況を左右するクリミア半島、アメリカ兵器使用制限緩和でロシアへ打撃に―【私の論評】狂人理論の実践とその影響:ヒトラー、スターリンからプーチンまで

【ウクライナの反撃開始】戦況を左右するクリミア半島、アメリカ兵器使用制限緩和でロシアへ打撃に

まとめ
  • バイデン政権の610億ドルの軍事支援とATACMSミサイルの到着により、ウクライナはクリミア内のどの目標も攻撃可能となり、ロシアの軍事インフラが脅かされている。
  • ウクライナの作戦は、クリミアをロシア軍にとって居住不可能な場所にしつつあり、黒海艦隊の半分の行動力を奪い、残りの艦隊をロシア本土に避難させた。
  • クリミアはロシアにとって守るべきものが多すぎて弱点となっており、将来の譲歩を引き出すための圧力をかける最善の道を提供している。
  • プーチンにとってクリミアを失うことは心理的に受け入れがたく、核兵器の使用を含めた極端な対応に出る可能性がある。
  • 2014年のクリミア併合の成功体験がプーチンをウクライナ侵攻に向かわせたが、クリミアでのウクライナの反撃が戦争の終わりに貢献する可能性がある。

 Economist誌は、ウクライナがクリミアでロシアに対して優位に立っていると報じている。バイデン政権の610億ドルの軍事支援パッケージが大きな影響を与えており、特に射程300キロメートルのATACMSミサイルの到着により、ウクライナはクリミア内のどの目標も攻撃可能となった。さらに、バイデン大統領がロシアの核のエスカレーションを懸念して課していた制約を緩和したことも重要な意味を持つ。

 ウクライナの作戦は、クリミアをロシア軍にとって駐留が不可能な場所にしつつある。プーチン大統領はクリミアをロシア本土とつなぐケルチ橋を建設し、クリミアを不沈空母と見なしていたが、その軍事インフラは現在脅かされている。英国の戦略家ローレンス・フリードマンによれば、クリミアはロシアにとって守るべきものが多すぎて弱点となっており、将来ウクライナがロシアの譲歩を引き出すための圧力を最もかけやすい地域になっている。

ウクライナはクリミアをプーチンにとって資産ではなく重荷にすることを目指しており、クリミアを孤立させ、南部ウクライナからロシアの海・空戦力を追い出し、兵站を窒息させることを狙っている。ウクライナは既に無人機とミサイルにより、黒海艦隊の半分の行動力を奪い、残りの艦隊はロシア本土のノヴォロシースク港に避難している。ウクライナはクリミアのジャンスコイ空軍基地やベルベクの空軍基地などのロシアの軍事拠点にATACMS攻撃を加え、大きな被害を与えている。

NATO同盟国の衛星情報や空中偵察、ウクライナ側の深い知識と地上の秘密部隊により、ウクライナはロシア軍のすべての動きを把握している。ATACMSの到着とウクライナの無人機の性能向上により、クリミアでの航空機、道路や鉄道は射程内にある。クリミアの空軍基地もウクライナ側の攻撃の対象となっており、防空のためのS-400システムも攻撃されている。ホッジ将軍によれば、ウクライナ側はケルチ橋を取り壊すことに自信を持っている

クリミアはロシアにとっての戦略的資産から戦略的重荷になってきており、プーチンにとってクリミアを失うことは心理的に受け入れがたいことだ。プーチンは核兵器の使用を含め、極端な対応に出る可能性もある。プーチンをどう抑止するか、米国を含む西側の対応をシミュレーションしておく必要がある。

プーチンをウクライナ侵攻に向かわせたのは2014年のクリミア併合の成功体験であり、ウクライナ侵攻も同じように簡単にできると考えたからだ。クリミアでのウクライナの反撃がこの戦争の終わりに貢献するのであれば、皮肉な結果となるだろう。

プーチンは「米国などに対し同じことをする。ロシアの兵器を米国攻撃に使えるように供与する」としているが、プーチンは少しおかしくなっている気がする。ロシアはウクライナを侵略し、ウクライナは自衛権行使をしている。その中での供与兵器の使用基準の話と、侵略などしていない米欧に対し、他国が自衛ではなく武力行使をするためにロシアが兵器を供与する話とは全く違う。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。「まとめ」は元記事の要点をまとめたものです。

【私の論評】狂人理論の実践とその影響:ヒトラー、スターリンからプーチンまで

まとめ
  • 狂人理論は、指導者が予測不可能で危険な人物であると見せかけることで、相手国を威嚇し譲歩を引き出す戦略である。
  • この理論はヒトラー、スターリンなども使用したとされ、ニクソン大統領がベトナムやソ連に対して用いた。トランプ大統領も用いたとされている。
  • 狂人理論の有効性には疑問が呈されており、相手国が正確にメッセージを受け取らない、信頼しない、屈服しないなどの理由で失敗することがある。
  • この戦略は一貫した行動パターンではなく、状況に応じて選択的に用いられる外交・軍事戦術の一つである。
  • プーチン大統領の最近の発言も狂人理論の適用と解釈できるが、欧米諸国はこれに過剰反応せず、冷静に対応すべきである。
上の記事の最後の部分で、「プーチンは少しおかしくなっている気がする」としていますが、これは典型的なプーチンによる「狂人理論」の適用ではないかと思われます。

リチャード・ニクソン米大統領

狂人理論(Madman Theory)とは、リチャード・ニクソン米大統領の外交政策において重要な役割を果たした戦略です。この理論は、指導者が予測不可能で危険な人物であると見せかけることで、相手国を恐れさせ、譲歩を引き出すことを目的としています。ニクソンは、特にベトナム戦争の際にこの戦略を用い、北ベトナムに対して自分が核兵器を使用する可能性があると信じさせようとしました。

狂人理論の基本的な考え方は、相手に「何をするかわからない」と思わせることで、相手の行動を制約し、自国に有利な状況を作り出すことです。ニクソンは、ソ連や北ベトナムに対して自分が予測不可能であると見せかけることで、交渉を有利に進めようとしました。

しかし、この理論の有効性には疑問が呈されています。専門家によれば、狂人理論が失敗する理由として、ターゲットとした国家が「狂人」のメッセージを正確に受け取らない、信頼できるものと見なさない、または将来の行動について確証を得られないため屈服しないことが挙げられます。

近年では、ドナルド・トランプ大統領もこの理論を用いたとされています。トランプは、予測不可能な行動を取ることで、他国に対して圧力をかけ、交渉を有利に進めようとしました。例えば、日本の安倍晋三元首相は、トランプの狂人理論に影響を受けたとされ、トランプの予測不可能な行動に対して対応を迫られました。

安倍晋三元首相は、トランプ大統領の狂人理論に対して、慎重かつ戦略的に対応しました。安倍氏は、トランプの予測不可能な行動に対して、柔軟かつ迅速に対応することで、日米関係を安定させることを目指しました。

ゴルフに興じるトランプ米大統領と安倍首相

具体的には、安倍氏はトランプとの個人的な信頼関係を築くことに注力し、頻繁に会談や電話会談を行うことで、トランプの意図を把握し、適切な対応を取るよう努めました。また、安倍氏はトランプの政策に対しても柔軟に対応し、例えば貿易問題や安全保障問題において、トランプの要求に対して一定の譲歩を行う一方で、日本の利益を守るための交渉も行いました。

このように、安倍氏はトランプの狂人理論に対して、冷静かつ戦略的に対応することで、日米関係を安定させることに成功しました。

ヒトラーとスターリンも、特定の状況下で狂人理論を効果的に用いていました。ヒトラーは、1938年のミュンヘン会談でチェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を要求し、戦争も辞さない姿勢を示すことでイギリスとフランスに譲歩を強いることに成功しました。

また、1939年のポーランド侵攻では、西側諸国が介入しないだろうと計算しつつ、極端な行動を取る用意があることを示しました。これらの行動は、狂人理論の典型的な適用といえます。

一方、スターリンも特定の状況下で狂人理論を活用していました。1948年から1949年にかけてのベルリン封鎖では、西ベルリンへのアクセスを遮断し、核戦争の可能性すら示唆しました。これは西側諸国に対する極端な圧力戦術であり、狂人理論の要素を含んでいます。

また、1950年から1953年の朝鮮戦争では、スターリンは北朝鮮の南進を支持し、アメリカとの直接対決の可能性を示唆しました。これも予測不可能で危険な行動を取る用意があることを示す狂人理論の適用といえます。

ヒトラーとスターリンは、常に狂人のように振る舞っていたわけではありませんが、特定の外交・軍事的局面において狂人理論を効果的に用いていました。彼らは、予測不可能で極端な行動を取る用意があることを示すことで、相手国を威嚇し、譲歩を引き出そうとしました。

このように、狂人理論は一貫した行動パターンではなく、状況に応じて戦略的に適用される外交・軍事戦術の一つであることが明確になります。ヒトラーとスターリンの事例は、狂人理論が強力な指導者によって、特定の目的を達成するために選択的に用いられる可能性を示しています。


先のプーチンの発言は、国際社会に対する威嚇としての側面が強く、実際に実行される可能性は低いと考えられます。ロシアが他国に兵器を供与して米国を攻撃させることは、国際的な孤立を深め、さらなる制裁を招くリスクが高いため、現実的な選択肢とは言えません。

また、プーチンの発言は、国内外の支持を得るためのプロパガンダの一環としても解釈できます。ロシア国内での支持を維持するために、強硬な姿勢を示すことが重要であり、そのために過激な発言を行うことがあります。

しかし、これが実際の政策に反映されるかどうかは別問題です。欧米諸国は、プーチンの発言を冷静に分析し、過剰に反応することなく、国際法に基づいた対応を続けるべきです。プーチンの狂人理論的な発言に振り回されることなく、ウクライナ支援を継続し、国際社会の結束を強化することが重要です。

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2024年6月23日日曜日

ドイツは移民流入で一変「においも10年前と違う」 ハンガリー首相―【私の論評】ドイツの移民政策失敗から学ぶ日本の未来:治安悪化と文化喪失への警鐘

ドイツは移民流入で一変「においも10年前と違う」 ハンガリー首相

まとめ
  • ハンガリーのオルバン首相は、ドイツが移民の流入により過去10年で大きく変化し、景観やにおいが変わったと批判した。
  • 彼は、ドイツが「勤勉な国民」と「秩序」の模範国から多文化世界に変質したと主張した。
  • この発言は、ハンガリーがEU議長国就任を前に、ドイツのショルツ首相との会談を控えて行われた。
オルバン首相

 ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は、ドイツを訪問中(21日)に、移民の流入によってドイツが過去10年で大きく変化したと述べました。彼は、ドイツの景観やにおいが変わり、多数の移民が迅速に市民権を取得していると指摘しました。

 また、かつてのドイツは「勤勉な国民」と「秩序」の模範国であったが、現在はそうではなく、多彩な多文化世界に変わったと批判しました。オルバン首相は、移民がもはや「客人」ではないと評価しています。

 オルバン首相は反移民政策を推進するナショナリストであり、この発言はハンガリーが欧州連合(EU)理事会の輪番制議長国を引き継ぐのを前に、ドイツのオラフ・ショルツ首相との会談を控えて行われました。2023年には、ドイツがEU加盟国で最多となる33万4000件の難民認定申請を受け、過去2年間で約100万人の難民を受け入れています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ドイツの移民政策失敗から学ぶ日本の未来:治安悪化と文化喪失への警鐘

  • ドイツは2015年以降、十分な計画なしに大量の難民を受け入れたが、この無秩序な政策により、社会の安定が大きく損なわれ、様々な問題が発生している。
  • ナイフによる殺傷事件が1日60件にも上り、市民の安全が深刻に脅かされており、最近では警官がイスラムテロの犠牲となる事件も発生した
  • 大量の移民流入により、ドイツの伝統的な文化や価値観が脅かされており、多くの移民が社会に統合されず、平行社会を形成し、文化的対立や社会的摩擦が生じている。
  •  寛大な社会保障制度、特に「市民金」制度により、多くの移民が社会保障に依存し、就労意欲が低下している。これはドイツの財政に大きな負担をかけ、経済の持続可能性を脅かしている。
  • ドイツの失敗を教訓に、日本は慎重な移民政策を採るべきであり、厳格な入国管理と、受け入れ基準の厳格化をはかり、日本の安全、文化、経済を守るべき

ドイツ・ベルリンで行われた親パレスチナデモ=2023年11月4日

上の、オルバン首相の発言は、「ドイツが移民の流入により過去10年で大きく変化し、景観やにおいが変わったと」というのは本当でしょうか。

景観が変わったというのは事実だと思います。移民が増えれば、移民が往来し、移民目当ての商売も生まれ、看板などもたてられ、街の景観もかわるでしょう。しかし、匂いはどうなのかと感じる人も多いのではないかと思います。

ただ、国ごとに独特の匂いが存在する現象は、多くの旅行者が経験し、その国の文化や食習慣、気候を反映しています。

例えば、韓国ではキムチ、タイでは香草やスパイス、日本では醤油の匂いが特徴的です。イギリスのロンドンでは湿った匂い、フランスではバゲットや香水、インドではカレースパイスやインセンス、モロッコではタジン料理やミントティーの香りが漂います。

米国の大都市ではファストフード、イタリアではエスプレッソやトマトソースの香りが広がっています。これらの匂いは、その国の印象を強く残しますが、感じ方は個人差があります。

オルバン氏がいいたかったのは、無論これだけではないでしょう。

オルバン首相は、移民の大量流入によりドイツの社会や文化が大きく変化し、伝統的な景観や日常生活に影響を与えていると指摘しているのです。この発言には、ドイツの移民政策への批判が込められており、多文化主義がドイツの伝統的な価値観や社会構造を変質させているという懸念が表れています。

オルバン首相は、かつての「勤勉な国民」と「秩序」の模範国としてのドイツの姿が失われつつあると主張し、移民政策の見直しを求める意図があると考えられます。この発言は、オルバン首相の反移民政策を支持する立場からのものであり、移民がもたらす社会的変化に対する警鐘を鳴らしているのです。

オルバン首相の警告はもっともであり、ドイツの危機を象徴するような事件が先月末に発生しています。

この事件は、5月31日にマンハイム市で予定されていた「パックス・ヨーロッパ」という移民反対派市民運動の集会準備中に起こりました。25歳のアフガニスタン出身の移民スレマン・Aが、集会の主催者であるミヒャエル・シュトゥルツェンベルガー氏を突然襲撃したのです。

わずか25秒という短い時間の中で、6人が重軽傷を負う惨事となりました。中でも最も悲劇的だったのは、29歳の警官ルーヴェン・Lが首を刺されて2日後に死亡したことでした。

なくなった警察官のルーヴェン・L氏

犯人のスレマン・Aは2013年に14歳でドイツに入国した難民で、テコンドーの国際大会で入賞経験もある格闘家だったことが後に明らかになりました。またドイツの警察官は、通称ナイフ・ショールと呼ばれる防御帯を首にしていますが、犯人はこの防御帯の隙間にナイフを意図的に刺したことがわかっています。

この事件は、ドイツが長年抱えてきた難民政策や治安問題に関する議論を再び活発化させました。ドイツ政府は、これまでイスラムテロの危険性を軽視し、難民問題に関する本質的な議論を避ける傾向にありました。しかし、近年の難民の増加に伴い、外国人による犯罪や暴力事件が急増しており、社会の不安が高まっていました。

特に問題視されているのは、現在の左派政権下での言論環境です。政府の方針に批判的な意見を述べただけで「極右」のレッテルを貼られる風潮があり、マスコミもこれに追従し、健全な議論が困難になっています。国民の間では政府の対応への不満が高まっていますが、解雇や停学などの社会的制裁を恐れて声を上げにくい状況が生まれています。

この事件は、ドイツの難民政策や治安対策の根本的な見直しを迫る契機となる可能性があります。しかし同時に、若い警官の犠牲を払って初めてこの問題に真剣に向き合うことになった現状に対する悔しさや怒りの声も上がっています。

さらに、この事件は、ヨーロッパ全体の移民政策にも影響を与える可能性があります。EU諸国の中でもドイツは比較的寛容な難民政策を取ってきましたが、今後はより厳格な審査や管理が求められる可能性があります。

ドイツの移民政策は明らかな失敗であり、今回の警官殺害事件はその象徴的な結果だと言えます。2015年以降、ドイツは十分な審査や計画なしに大量の難民を受け入れ、この無秩序な政策が今回の事件の根本的な原因となりました。難民申請を却下された者でさえ国外退去させられないなど、移民管理における深刻な欠陥が露呈しています。

その結果、外国人による犯罪、特に暴力犯罪が急増し、公共の安全が著しく脅かされています。ナイフによる殺傷事件が1日60件に上るという事実は、移民政策の失敗が直接的に市民の生活を脅かしていることを示しています。同時に、多くの移民が社会に統合されず平行社会を形成し、文化的対立や社会的摩擦を生み出しています。

経済面でも、多くの移民が社会保障に依存し、ドイツの財政に大きな負担をかけています。特に2023年1月に導入された「市民金」制度は、この問題をさらに悪化させています。市民金は、基本的な生活費の提供、住宅費の補助、就労支援などを含む新しい社会保障制度ですが、低賃金で働くよりも条件が良いため、就労意欲を削ぐ結果となっています。この制度は、難民や移民も利用可能であり、長期的にドイツ経済の持続可能性を脅かしています。

さらに深刻なのは、移民政策に対する健全な議論が抑圧されている点です。批判的な意見が「極右」とレッテルを貼られ、問題の本質的な解決を困難にしています。政府は国民の安全よりも「寛容」や「多様性」といった理念を優先し、結果として警官の命が失われるような事態を招きました。

大量の移民を受け入れを始めたメルケル首相(当時)

今回の事件は、これらの失敗が積み重なった結果であり、ドイツの移民政策の欠陥を如実に示しています。本来の難民保護の理念から大きく逸脱し、経済移民の流入を招いた現状を直視する必要があります。

ドイツは今こそ、国民の安全を最優先し、厳格な入国管理、効果的な統合政策、そして法の厳正な執行を実施することが不可欠です。このような悲劇を二度と繰り返さないためにも、自国の利益と国民の安全を重視する移民政策への大きな転換が求められています。政府はこの事実を真摯に受け止め、根本的な政策の見直しを行うべきです。そうすることで初めて、安全で調和のとれた社会を再構築することができるでしょう。

無秩序な大量移民の受け入れは国家の自殺行為に等しく、日本は断固としてこの道を避けるべきです。

ドイツでは警官までもがイスラムテロの犠牲となり、ナイフ犯罪が日常茶飯事となっています。かつての安全な街は失われ、ドイツ人は自国で恐怖に怯えています。我々は日本の治安を守り、国民の安全を第一に考えなければなりません。

文化的にも、ドイツは取り返しのつかない混乱に陥っています。イスラム教徒の増加により伝統的なキリスト教文化が脅かされ、ドイツらしさが失われつつあります。日本の固有の文化や伝統を守ることは我々の責務です。

経済面でも、寛大すぎる社会保障制度により、働かない移民が増え、勤勉なドイツ国民の負担が増大しています。日本がいまだデフレを完璧に克服を考えれば、このような愚策は絶対に避けるべきです。

左翼やリベラル勢力は「多様性」や「寛容」を謳いますが、それは国家の存立を危うくする空虚なスローガンに過ぎません。ドイツの混乱は、彼らの主張が如何に危険であるかを如実に示しています。

日本は、自国の利益と国民の安全を最優先する政策を堅持すべきです。厳格な入国管理と、資格要件を厳しくしたうえでの少数の受け入れこそが、我が国の繁栄と安定を守る唯一の道なのです。ドイツの二の舞を演じないためにも、我々保守派の主張こそが日本の未来を守る正しい選択であることを、国民は理解すべきです。

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2024年6月22日土曜日

南鳥島沖レアメタル鉱物密集―【私の論評】日本の海洋資源戦略:マンガンノジュールからインド太平洋戦略まで

南鳥島沖レアメタル鉱物密集


まとめ
  • 東京大学と日本財団の調査で、南鳥島沖の海底にレアメタルを豊富に含むマンガンノジュールが約2億3000万トン確認され、日本が資源大国になる可能性が示唆された。
  • 確認された鉱物には、国内消費分の約75年分のコバルトと約11年分のニッケルが含まれていると推計されている。
  • 来年から実証試験を開始し、2026年以降の商用化を検討している。


日本の鉱物資源の活用が前進する可能性があります。電気自動車の電池などに使われるレアメタルを豊富に含む鉱物が小笠原諸島の南鳥島沖に密集していることが東京大学などの調査でわかりました。

日本財団 笹川陽平 会長
「資源大国になれる可能性がある」

東京大学と日本財団によりますと、日本の排他的経済水域内にある南鳥島沖の海底を調査したところ、レアメタルを豊富に含むマンガンノジュールと呼ばれる鉱物がおよそ2億3000万トン確認されたということです。

鉱物には、▼コバルトが国内消費分のおよそ75年分、▼ニッケルがおよそ11年分、含まれていると推計されています。

来年から実証試験を始め、2026年以降、商用化を検討するとしています。

レアメタルはEV=電気自動車の電池に使われるなど世界的に需要が高まっていて、“資源小国”の日本が今後、海底資源を活用できるかが焦点となります。

【私の論評】日本の海洋資源戦略:マンガンノジュールからインド太平洋戦略まで

まとめ
  • マンガンノジュールには、マンガン、コバルト、ニッケル、銅などの重要金属が含まれており、これらは電池、鉄鋼製造、ハイテク機器など現代技術に不可欠です。
  • 日本は広大な排他的経済水域(EEZ)を有し、海底熱水鉱床、レアアース泥などの資源開発を進めることで、資源自給率向上と将来的な輸出国化の可能性があります。
  • 南鳥島沖でのレアアース試掘計画やマンガンノジュールの発見は、日本の海底資源開発における重要な取り組みであり、資源安全保障強化に貢献します。
  • 安倍首相の「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、資源安全保障を含む包括的なアプローチで、シーレーンの安全確保、資源供給源の多様化、国際協力の促進を目指しています。
  • 日本の海洋資源開発は、単なる経済的利益追求ではなく、国際協調と平和構築のビジョンを示し、新たな国際秩序の構築を目指すものです。

マンガンノジュールには以下の金属が含まれています。
  • マンガン:鉄鋼の製造において、酸素と硫黄を還元する試薬として使用され、特殊鋼やアルミニウム、銅の合金化剤としても利用されます。また、乾電池の電極や化学工業の酸化剤としても重要です
  • コバルト:電気自動車(EV)の電池やハイテク機器に使用されます。
  • ニッケル:ステンレス鋼や電池の製造に使用されます。
  • :電気配線や電子機器に使用されます。
これらの金属の用途は以下です。
  • スマホ、電気自動車等の電池:コバルトとニッケルはリチウムイオン電池の主要な成分であり、電気自動車の性能と寿命を向上させるために不可欠です。
  • 鉄鋼の製造:マンガンは鉄鋼の強度、硬度、耐食性を向上させるために使用され、特にステンレス鋼や特殊鋼の製造において重要です。
  • ハイテク機器:コバルトはスマートフォンやノートパソコンなどの電子機器の製造にも使用されます。
  • ステンレス鋼:ニッケルはステンレス鋼の製造に不可欠であり、耐食性や強度を高めます。
  • 電気配線:銅は優れた導電性を持ち、電気配線や電子機器の主要な材料として使用されます。
これらの金属資源は、現代のテクノロジーやグリーンテクノロジーにおいて欠かせないものす。

日本が資源自給率を高めるだけでなく、輸出国になる可能性もあります。日本は既にメタンハイドレートやシェールガスの試掘に成功しており、これらの資源の商業化が進めば、エネルギー自給率の向上が期待されます。

また、世界的に資源ナショナリズムが進行している中で、日本が自国の資源開発を進めることで、国内での資源供給が安定し、余剰分を輸出することが可能になるかもしれません。これらの要素を考慮すると、日本が資源自給率を高めるだけでなく、将来的には資源輸出国になる可能性も十分に考えられます。

南鳥島近辺はこれ以外にも、レアアース試掘計画がすすめられています。

政府が進める日本最東端の南鳥島沖でのレアアース試掘計画が、当初の予定から約1年遅れ、令和7年度以降に開始されることが昨年明らかになりました。遅延の主な原因は、海底から泥を吸い上げるための「揚泥管」の調達の遅れです。ウクライナ戦争の影響で、英国の製造企業が軍事部門に注力したため、揚泥管の製造に遅れが生じています。

南鳥島沖の水深約6千メートルの海底には、世界需要の数百年分相当のレアアースを含む泥が確認されています。政府の計画では、地球深部探査船「ちきゅう」から揚泥管を伸ばし、1日当たり約70トンの泥を吸い上げる予定です。

地球深部探査船「ちきゅう」

南鳥島沖のレアアース試掘計画とマンガンノジュールの発見は、直接的な関係はありませんが、どちらも日本の海底資源開発における重要な取り組みです。

レアアース試掘計画は政府が進める海底泥からのレアアース採掘を目指すもので、一方のマンガンノジュールの発見は東京大学と日本財団による調査結果です。両者は同じ南鳥島沖の海域で行われていますが、対象資源が異なります。

これらの取り組みは、日本が海底資源開発を通じて資源自給率を高め、中国などへの依存度を下げることを目指す国家戦略の一環として位置づけられています。両プロジェクトは日本の海洋資源開発の可能性を示す重要な成果であり、将来的な資源安全保障に貢献する可能性があります。

日本の領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積は約447万km²に及び、これは世界第6位の広さです。この面積は日本の陸地面積(約37.8万km²)の約12倍に相当し、多くの離島を含むため広大です。

日本の海域には、海底熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラスト、マンガン団塊、メタンハイドレート、海底石油・天然ガス、レアアース泥などの資源が存在する可能性が指摘されています。これらの資源は、日本の資源自給率を高めるだけでなく、将来的には輸出国になる可能性も秘めており、政府は資源安全保障の強化を目指しています。

将来的には、日本が豊富な海洋資源を背景に、国際的な平和と繁栄に貢献すべきです。世界的に需要が高まるレアメタルやエネルギー資源を安定的に供給し、国際市場の安定化に寄与し、これを通じた外交関係の強化や、資源開発技術の共有を通じて、他国との協力関係を深めることによって世界に平和と安定をもたらすべきです。



安倍総理の「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、世界に新たな秩序をもたらし、現在でも日本の国家安全保障の中核を成すものであり、資源安全保障と密接に関連しています。この戦略は、重要なシーレーンの安全確保を通じて日本のエネルギー資源の安定供給を保証し、同時に資源供給源の多様化を推進しています。また、国際法に基づく秩序維持により、南シナ海や東シナ海における日本の海洋資源権益も守ろうとしています。

さらに、この戦略は地域諸国とのエネルギー協力促進や、インフラ投資を通じた新たな資源開発機会の創出も目指しています。技術協力による資源利用効率化や循環型経済の推進、経済連携協定の締結による安定的な資源取引環境の整備も、戦略の重要な側面です。加えて、新エネルギー技術の開発・普及を通じて、長期的な資源安全保障の強化も図っています。

このように、安倍首相のインド太平洋戦略は、地政学的な構想を超えて、日本の経済安全保障、特に資源安全保障を多面的に強化する包括的なアプローチとなっており、変化する国際環境の中で日本のエネルギーと資源の安定確保を目指す長期的なビジョンを示しているのです。

日本の海洋資源を活用した国際貢献は、安倍首相のインド太平洋戦略の重要な一面を形成しています。それは単なる経済的利益の追求ではなく、資源を通じた国際協調と平和構築の ビション を示すものです。この アプローチは、資源をめぐる紛争を防ぎ、共存共栄の理念に基づいた新たな国際秩序の構築を目指すものであり、安倍首相の外交ビジョン の本質的な部分を体現しするものでもあるのです。

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2024年6月21日金曜日

変化が始まったEU、欧州議会 選挙の連鎖は続くのか?―【私の論評】日本メディアの用語使用に疑問、欧州の保守政党を"極右"と呼ぶ偏見

変化が始まったEU、欧州議会 選挙の連鎖は続くのか?

まとめ
  • 2024年6月の欧州議会選挙で右派・極右政党が躍進し、EUの政策に影響を与える可能性が高まった。
  • 移民政策の厳格化、環境規制の緩和、ウクライナ支援の見直しなど、EUの主要政策に変更が生じる可能性がある。
  • フランスでは選挙結果を受けてマクロン大統領が議会を解散し、極右政党のさらなる躍進が懸念されている。
  • 世界的に保護主義化の傾向が強まっているが、これは一時的な反作用である可能性もある。
  • 右派の躍進によるEUの政策変更は、日本の自動車産業などにとってはチャンスとなる可能性がある。
欧州議会選挙マップ(青が与党)

 2024年6月6日から9日にかけて実施された欧州議会選挙は、EUの今後5年間の政策方針を決める重要な選挙となりました。この選挙では、多くの国で右派・極右政党が躍進し、全体で20%以上の議席を獲得しました。これらの政党は、インフレ、移民問題、環境規制などに対する不満を背景に支持を集めました。

 フランス、ドイツ、ポーランド、イタリアなど主要国で右派勢力が伸長しましたが、全体としては中道右派の欧州人民党(EPP)が最大会派を維持し、連立3会派で過半数を確保しました。しかし、右派の躍進により、EUの移民政策、環境政策、ウクライナ支援などに影響が出る可能性が高まっています。

 特に注目されるのは、移民政策の厳格化、環境規制の緩和、ウクライナ支援の見直しなどです。右派・極右政党は、これらの問題に対してより保守的な立場を取っており、EUの従来の政策方針に変更を迫る可能性があります。

 フランスでは、選挙結果を受けてマクロン大統領が議会を解散し、新たな選挙に突入しました。極右政党のさらなる躍進が懸念されており、フランスの政治情勢が欧州全体に影響を与える可能性があります。

 この選挙結果は、世界的に広がる保護主義化の傾向を反映しているとも言えます。グローバル化に伴う様々な問題に対処するため、「自国は自国で守る」という考え方が強まっているようです。しかし、この傾向は一時的な反作用である可能性もあり、中長期的な視点で状況を見極める必要があります。

 一方で、このような変化は日本にとってチャンスとなる面もあります。例えば、EUでの「EVへの完全移行」に対する異論の高まりは、日本の自動車産業にとって有利に働く可能性があります。日本が強みを持つハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の技術が再評価される可能性があるからです。

 今回の欧州議会選挙の結果は、EUの政策決定に大きな影響を与えるだけでなく、世界の政治経済の動向にも波及する可能性があります。今後のEUの動向、特に移民政策や環境政策、対外関係などの分野での変化に注目が集まっています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。「まとめ」は元記事の要点をまとめて箇条書きにしたものです。

【私の論評】日本メディアの用語使用に疑問、欧州の保守政党を"極右"と呼ぶ偏見 

まとめ
  • 日本の主要メディアが欧州の保守派政治家を「極右」と呼ぶことは偏見を含み、不適切である。特に、民主的に選出された政治家に対してこの用語を使用することは、その妥当性が疑わしい。
  • 欧州議会選挙で躍進した保守派政党は、EUの権限拡大や大規模な移民流入に反対し、各国の主権や文化を重視する立場を取っている。これらの政策は極端ではなく、多くの有権者の支持を得ている。
  • 米国の共和党や英国の保守党など、他国の主要な保守政党が「極右」と呼ばれることはほとんどない。日本のメディアも他国の政治傾向を安易に断定すべきでない。
  • 「極右」という言葉は、20世紀前半のファシズムや国家社会主義を指す言葉として使用されてきたが、現代の政治的言説では不適切に適用されることが増えている。
  • 欧州の保守派政党の躍進は、日本の保守派にとって自らの主張の正当性を裏付ける材料となるり、移民政策への反対や伝統文化の保護、技術革新と環境保護のバランスを重視する政策提言が可能になる。また、防衛力強化やデジタル主権確立の動きも、日本の保守派にとって重要なチャンスとなる。
上の記事では、極右という言葉を使っていませんが、他のメディアでは極右が躍進という言葉を使っているものが多いです。これには違和感を感じます。

G7サミットでイタリアのジョルジャ・メローニ首相が議長を務めましたが、日本の主要メディアは彼女を含む欧州の保守派政治家を「極右」と呼んでいました。この表現は偏見を含み、不適切です。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相

欧州議会選挙で保守派政党が躍進したが、これらの政党はEUの権限拡大や大規模な移民流入に反対し、各国の主権や文化を重視する立場を取っています。しかし、これらの政策が「極右」と呼ばれる理由は不明確です。

「極右」という表現は、民主的な選挙で多数の支持を得た政党や政策に対して使用されており、その妥当性は疑わしいです。この用語の使用は、使用者自身の政治的立場を反映している可能性があります。EUの政策に対する批判や移民政策への反対が自動的に「極右」とされるべきではないです。日本のメディアは、他国の政治傾向を安易に断定することを避けるべきです。

「極右」という言葉は、20世紀前半のファシズムや国家社会主義など、極端な全体主義的イデオロギーを指す言葉として使用されてきました。しかし、現代の政治的言説では、この言葉が民主的に選出された保守的政治家や政党に対して不適切に適用されることが増えており、これは問題視されるべき状況です。

突撃隊員を閲兵するヒトラーとレーム(1931年9月)

例えば、イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、2022年の選挙で民主的に選出され、G7サミットの議長を務めるなど国際舞台で活躍しています。同様に、フランスのマリーヌ・ルペン氏も国民の広範な支持を得ており、2022年の大統領選挙では決選投票に進出しました。これらの政治家たちが「極右」と呼ぶことは、彼らの政策や支持基盤の実態を正確に反映していないと言えます。

彼らの政策を詳しく見ると、国家主権の尊重、伝統文化の保護、慎重な移民政策、家族の価値観の重視など、典型的な保守的価値観に基づいていることがわかります。これらの政策は、グローバリゼーションや急速な社会変化に対する不安を抱える多くの有権者の懸念に応えるものであり、全く極端といえるものではありません。

さらに、欧州議会選挙の結果を見ても、保守派政党の躍進が顕著です。2024年の選挙では、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」が第二党に躍進し、フランスでは「国民連合」が与党を大差で破りました。これらの結果は、保守的な政策に対する有権者の支持が広がっていることを示しています。

国際的な文脈を考えると、米国の共和党や英国の保守党など、他の国の主要な保守政党が「極右」と呼ばれることはほとんどありません。例えば、米国のドナルド・トランプ元大統領は、移民政策や国家主義的な姿勢で知られていますが、一般的には「保守派」または「右派」と呼ばれることが多いです。

「極右」という言葉の使用は、政治的な立場を過度に単純化し、重要なニュアンスを失わせる危険があります。例えば、環境政策に関して、多くの「極右」と呼ばれる政党が気候変動対策に慎重な姿勢を示していますが、これは必ずしも環境保護を否定しているわけではなく、経済的影響を考慮した上での慎重な姿勢である場合が多いです。

また、「極右」という言葉の使用は、特定の政治勢力を不当に貶める効果があり、建設的な政治的対話を阻害する可能性があります。例えば、2016年のイギリスのEU離脱(Brexit)を支持した人々が「極右」と呼ばれることがありましたが、これは国民投票で過半数の支持を得た政治的選択を不当に否定的に描写することになります。

代わりに「保守派」という中立的な用語を使用することで、より公平で偏りのない政治的議論が可能になります。これは、民主主義の健全な発展に寄与し、多様な政治的見解を尊重する社会の構築につながります。私自身も、日本のメディアに影響されていて、無意識に「極右」という言葉を使うこともありましたが、これを機会にきっぱりとやめようと思います。

結論として、「極右」という言葉の代わりに「保守派」を使用することは、現代の複雑な政治的現実をより正確に反映し、建設的な政治的対話を促進する上で重要です。これは、民主主義の原則を尊重し、多様な政治的立場を公平に扱うための重要なステップとなるでしょう。

米保守派の集会

日本の保守派にとって、現在の欧州の政治的変化は重要なチャンスをもたらす可能性があります。まず、欧州での保守派政党の躍進は、日本の保守派にとって自らの主張の正当性を裏付ける材料となるでしょう。特に移民政策や伝統文化の保護といった分野で、欧州の動向を参考にした政策提言が可能になるかもしれません。

また、EUのEV政策への異論の高まりは、日本の自動車産業にとって有利に働く可能性があります。これは単に経済的な機会だけでなく、技術革新と環境保護のバランスを重視する保守的な立場を強化する機会にもなるでしょう。

さらに、欧州の防衛力強化の動きは、日本の防衛産業の発展や自衛隊の役割拡大を主張する保守派にとって追い風となる可能性があります。欧州との防衛協力を通じて、日本の安全保障政策の見直しを促す機会にもなるかもしれません。

加えて、欧州でのデジタル主権確立の動きは、日本の保守派が主張する国家主権の重要性を裏付ける事例として活用できるでしょう。これは、グローバル化の中での国家の役割を再定義する議論につながる可能性があります。

これらの機会を活かすためには、日本の保守派が欧州の動向を注視し、国内の文脈に適した形で政策提言を行っていくことが重要です。同時に、単なる模倣ではなく、日本の独自性を保ちつつ国際協調を進める姿勢が求められるでしょう。

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2024年6月20日木曜日

<ロシアによるエスカレーションという脅し>ウクライナを劣勢に導いた米国による制約とは?―【私の論評】ロシアの核兵器使用の脅威と経済力のこけおどし:西側諸国の戦略的対応策

<ロシアによるエスカレーションという脅し>ウクライナを劣勢に導いた米国による制約とは?

岡崎研究所

まとめ
  • バイデン政権はウクライナを支援しつつも、ロシア領内への攻撃を禁じる制約を設けており、これが戦争を長引かせている。
  • プーチン大統領はウクライナがレッドラインを越えると核戦争が起こると脅しているが、実際にはエスカレーションは起こっていない。
  • 米国はロシアに対して戦略的聖域を提供しており、ロシアは国境防衛の心配なく戦える一方、ウクライナは自国領内でのみ戦わなければならない。
  • ウクライナに供与される兵器システムの使用において、ロシア領内への攻撃を禁じる制限は非合理的であり、解除すべきである。
  • ロシアの核の恫喝に屈せず、NATOとして明確なメッセージを送り続けることが重要である。

フィリップス・オブライエン氏

 英セントアンドリュース大学戦略研究所のフィリップス・オブライエン教授は、2024年5月23日付のウォール・ストリート・ジャーナルで、ウクライナが効果的に防衛できるよう支援すべきだと論じている。バイデン政権のウクライナ戦略は、支援しつつも制約を設けるもので、これが戦争を長引かせていると批判している。特に、ウクライナが米国製兵器でロシア領内を攻撃することを禁じる制限が非合理的であり、これを解除すべきだと主張している。

 バイデン政権は、ロシアのエスカレーションを恐れてウクライナの攻撃範囲を制限してるが、実際にはロシアの脅しは虚偽であることが繰り返し示されている。例えば、米国が供与した兵器システムが使用されるたびに、ロシアのエスカレーションは起こっていない。

 最近では、米国がクリミアに到達可能なATACMSを供与し、ウクライナがロシア艦艇を攻撃したが、ロシアからのエスカレーションはなかった。オブライエン教授は、ウクライナに戦争を戦い勝利する最善の機会を与えるべきだと強調している。

 さらに、ロシア領内への攻撃を禁じる制限の解除が議論され、5月31日にはブリンケン米国務長官が「国境のロシア側に所在するロシア軍」に対する攻撃を認める旨を公式に確認した。しかし、攻撃可能な距離に制限があることが問題視されている。

 ロシアの核の脅しに屈せず、NATOとして明確なメッセージを送り続けることが重要だ。

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【私の論評】ロシアの核兵器使用の脅威と経済力のこけおどし:西側諸国の戦略的対応策

まとめ
  • プーチン大統領はウクライナ侵攻に関連して核兵器の使用を示唆しているが、実際の使用はリスクが高く、国際的な非難と報復を招くため、実行される可能性は低い。
  • プーチン大統領はロシアの経済が購買力平価(PPP)で日本を追い抜いたと主張しているが、名目GDPでは日本は依然として世界4位、実質GDPでは世界第3位の経済大国である。
  • 戦時経済では軍需物資の大量生産が行われ、経済活動が一時的に活発化する傾向がある。ロシアも戦時下での経済活動が一時的に拡大していると考えられる。
  • ロシアの核兵器使用に対して明確かつ一貫したメッセージを発信し、経済制裁を強化し、ウクライナへの軍事支援を継続すべき。NATOや他の国際機関が連携し、ロシアの虚偽情報に対抗すべき。
  • ロシアの戦略核使用はないとみれるが、通常戦力が崩壊し、敗北が避けられない状況で低出力の戦術核兵器を使用する可能性はある。最初はウクライナに限定される可能性が高い。
ロシアが核兵器を使用する懸念と、ロシアが日本のGDPを追い抜いたというプーチン大統領の発言は、どちらも戦略的な虚仮威しとして理解することができます。以下にその論点をわかりやすく説明し、さらに西側諸国がどのように対応すべきかを論じます。

ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻に関連して核兵器の使用を示唆する発言を繰り返しています。これは、西側諸国に対する威嚇として機能していますが、実際には核兵器の使用は極めてリスクが高く、国際的な非難と報復を招く可能性が高いため、現実的には実行される可能性は低いと考えられます。西側諸国もこの点を理解しており、ロシアの脅しに対して冷静に対応しています。

プーチン

プーチン大統領は、ロシアの経済が購買力平価(PPP)で日本を追い抜いたと主張しています。しかし、これは名目GDPではなく、購買力平価という特定の指標に基づいたものであり、実際の経済力を完全に反映しているわけではありません。名目GDPでは、2023年の日本のGDPは591.4兆円で、依然として世界4位の位置にありますが、円安の影響でドル換算では順位が変動しています。一方、実質GDPでは日本は依然として世界第3位の経済大国です。

戦時経済では、軍需物資の大量生産が行われるため、経済活動が一時的に活発化する傾向があります。例えば、第二次世界大戦中の日本では、軍需と輸出が経済を支え、平時産業も国家の動向に大きく左右されました。経営学の大家ドラッカー氏は、「数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろう」と語っています。このような状況は、ロシアにおいても同様であり、戦時下での経済活動が一時的に拡大することがあります。

第二次世界大戦中のかつ国のGDPの推移

西側諸国がロシアの虚仮威しに対して冷静かつ戦略的に対応するためには、いくつかのアプローチが求められます。まず、ロシアの核兵器使用に対しては、明確かつ一貫したメッセージを発信し続けることが重要です。例えば、「核兵器の使用は重大な結果を招く」という立場を堅持し、ロシアに対する抑止力を維持することが必要です。

次に、ロシアの戦争継続能力を抑制するために、経済制裁を強化し、ロシア経済に対する圧力を高めることが求められます。これにより、ロシアの軍事行動を制約することができます。また、ウクライナに対する軍事支援を継続し、必要な兵器システムを提供することで、ウクライナが自国を防衛し、戦争に勝利するための最善の機会を与えることが重要です。

さらに、NATOや他の国際機関と連携し、ロシアの脅威に対する共同の対応策を講じることが必要です。これにより、ロシアに対する国際的な圧力を強化し、孤立させることができます。加えて、ロシアの虚偽情報やプロパガンダに対抗するために、正確な情報を迅速に発信し、国際社会に対するロシアの影響力を削ぐ努力を続けることが求められます。

もしロシアが核兵器を用いる素振りを見せた場合、西側諸国は以下のような対応を取るべきです。まず、国際社会に対して迅速かつ明確な非難を表明し、ロシアの行動が国際法に違反していることを強調します。次に、NATOや他の同盟国と緊密に連携し、軍事的な抑止力を強化するための具体的な措置を講じます。これには、核兵器の使用に対する明確な報復措置を含むことが考えられます。

さらに、経済制裁を一層強化し、ロシアの経済に対する圧力を最大限に高めます。これにより、ロシアの戦争継続能力をさらに制約することができます。また、情報戦を強化し、ロシアの虚偽情報やプロパガンダに対抗するための正確な情報を迅速に発信します。これにより、国際社会の支持を得て、ロシアの行動を孤立させることができます。

最後に、外交的な努力を続け、ロシアに対して核兵器の使用を思いとどまらせるための対話を継続します。これには、国連や他の国際機関を通じた圧力を含むことが考えられます。西側諸国は、これらの対応を通じて、ロシアの核兵器使用の脅威に対して冷静かつ戦略的に対処することが求められます。

非難だけではどうにもならない場合、長距離ミサイルを用いてロシアの核基地や核兵器を破壊することも検討すべきです。これは極めてリスクの高い選択肢ですが、ロシアが核兵器を使用する明確な兆候がある場合には、先制的な防衛措置として考慮すべきです。例えば、北朝鮮の核兵器開発に対する対応として、韓国が対地ミサイル攻撃能力を強化し、北朝鮮の核施設を攻撃する選択肢を検討していることが参考になります。このような行動は、国際法や国際社会の反応を慎重に考慮しつつ、最終手段としての位置づけが必要です。

ロシアが核兵器を使用する可能性のある具体的なシナリオとしては、以下のような状況が考えられます。まず、ロシアの通常戦力が戦場で崩壊し、敗北が避けられない状況に陥った場合、低出力の戦術核兵器を限定的に使用することで戦局を打開しようとする可能性があります。例えば、ロシアは弾道ミサイル「イスカンデル」など、核弾頭を搭載できる各種兵器をウクライナ周辺に配備しており、これらを使用することでウクライナ政府に衝撃を与え、屈服させることを狙うかもしれません。

ロシアの戦術核「イスカンデル」

また、ロシアが核兵器を使用する場合、最初はウクライナに向けたものに限定される可能性が高いです。プーチン大統領は、こうした力の行使をすれば、西側諸国は戦争に関する戦略を全面的に見直さざるを得なくなると信じている可能性があります。戦略核を用いることはないでしょう。それを用いれば、第三次世界大戦になることはプーチンも理解しているでしょう。

結論として、ロシアの核兵器使用の脅しと、経済力に関する発言は、どちらも国内外に対する戦略的な虚仮威しとしての側面が強いです。これらの発言は、ロシアの強さを誇示し、敵対国に対する抑止力を高めるためのものであり、実際の行動に移される可能性は低いと考えられます。西側諸国はこれを理解し、冷静かつ戦略的に対応することが求められます。

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2024年6月19日水曜日

台湾海峡に中国原潜、台湾国防相「監視続ける」―【私の論評】中国潜水艦の浮上は情報戦の一環、台湾海峡の軍事的現実

台湾海峡に中国原潜、台湾国防相「監視続ける」

まとめ
  • 台湾の顧立雄国防部長は、中国の原子力潜水艦が台湾海峡で浮上した写真が公開されたことについて、状況を注視し、冷静に対処する必要があると述べた。
  • 顧氏は、中国の継続的な軍事的嫌がらせに警戒し、台湾は挑発せず、中国に対してもトラブルメーカーにならないよう求めた。

台湾の顧立雄国防部長

 台湾の顧立雄国防部長は、中国の原子力潜水艦が台湾海峡で浮上した写真が公開されたことについて、状況を注視していくと述べました。

 台湾メディアは、台湾西岸から約200キロメートル離れた地点で浮上した潜水艦の写真を公開し、これは「晋級」戦略原潜とみられます。顧氏は情報を把握しているとしつつ、監視方法や詳細については言及を避けました。

 また、中国の継続的な軍事的嫌がらせに警戒し、冷静に対処する必要があると強調し、台湾は挑発せず、中国に対してもトラブルメーカーにならないよう求めました。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧下さい。

【私の論評】中国潜水艦の浮上は情報戦の一環、台湾海峡の軍事的現実

まとめ
  • 潜水艦の行動が公にされることはほとんどなく、中国の原子力潜水艦が浮上し写真が公開されたのは非常に異例で、情報戦の一環と考えらる。
  • 台湾海峡は水深が50~100メートルと浅く、平坦な海底地形であり、潜水艦の隠密行動には不向き。
  • 台湾海峡は強い海流や霧、台風の影響を受けやすく、多くの商船や漁船が行き交うため、潜水艦の隠密行動が難しい。
  • 台湾軍は一定以上の対潜水艦戦能力(ASW)を有しており、アクティブ・ソナーを用いて浅い海に潜む潜水艦を探知・攻撃でき、魚雷や爆雷で中国の潜水艦を駆逐でき。
  • 以上を考慮すると、中国の狙いは海上封鎖のイメージを植え付けて台湾の独立主張を抑えることであり、今回の潜水艦の浮上は情報戦の色彩が強い行動といえる。

中国の「普型戦略原潜」

潜水艦の隠密性はその存在理由の一つであり、通常はその行動が公にされることはほとんどありません。米国の戦略原潜の位置は、米軍のトップですら知らないことがあるほどです。したがって、中国の原子力潜水艦が浮上し、その写真が公開されたことは非常に異例な行動といえます。これは、潜水艦の隠密性を損なう行動であり、通常の軍事運用から大きく逸脱しています。

台湾の西側に位置する台湾海峡は、比較的浅い海域です。台湾海峡の大部分は水深が50~100メートル程度であり、澎湖列島と台湾島との間にある澎湖水道が最も深く、水深は100~200メートルに達します。

台湾付近の海底を示す地図 青色が濃いほうが水深が深い

一方、台湾の東側の海域は急激に深くなります。沿岸からすぐに水深が2000メートルに達することがあり、深海が広がっています。このように、台湾の西側と東側では海域の水深に大きな違いがあります。

先にあげたように、台湾海峡の浅い水深(50~100メートル程度)と平坦な海底地形は、潜水艦の隠密行動に不向きです。浅い海域では航空機や衛星、ソナーによる探知が容易であり、潜水艦の機動も制約されます。

さらに、強い海流や霧、台風の影響を受けやすい環境も潜水艦の行動に不利です。加えて、台湾海峡は国際的な海上交通の要所であり、多くの商船や漁船が行き交うため、隠密行動が難しくなります。

中国と台湾の間の緊張が高い地域であり、両国の軍事的プレゼンスが強いため、潜水艦の行動が容易に発見されるリスクもあります。これらの理由から、台湾海峡は潜水艦の作戦行動に適していないと考えられます。

中国が台湾海峡という潜水艦の行動には不向きな海域で潜水艦を浮上させたことは、軍事的な意味よりも情報戦(認知戦)の一環と考えられます。このようなところに、戦略原潜を配置するようなことは考えられず、しかも浮上してみせるなど軍事上非常識といっても良いです。わざわざ標的として差し出しているようなものです。

このブログでも述べたように、台湾軍の強力な対艦・防空ミサイルにより、中国軍が実施した台湾包囲演習のように台湾を包囲する軍事作戦は、現実には困難です。よって、包囲演習は、現実的なものというよりは、情報戦争の一環とみるべきです。

一方潜水艦に関してはどう見るべきなのでしょうか。確かに、潜水艦は浮上しているときは対艦ミサイルなどで攻撃が可能ですが、水中に潜っているときは魚雷や爆雷などを用いないと攻撃できません。

しかし、台湾軍は対潜水艦戦(ASW)能力を持っており、比較的浅い海に潜む潜水艦を確実に攻撃することができます。対潜戦では、ソナーを用いて潜水艦を探知し、航空機や水上艦から対潜兵器を発射して攻撃できます。

台湾海峡のような浅海域では、アクティブ・ソナーが有効であり、台湾軍はこれを活用して潜水艦を探知・追尾することが可能です。これは、パルス状の音波を発射し、反射音を受信して標的の位置を特定する技術です。

2023年9月28日高雄の造船所で開催された台湾初の”国産”潜水艦「海鯤」の進水式

台湾は、自主開発した潜水艦もありますが、このような浅い海域では、台湾側も潜水艦を用いることは危険であり、台湾軍はこの海域では潜水艦を用いずに、中国潜水艦を攻撃することでしょう。それでも十分に対処できます。

中国の狙いは、海上封鎖のイメージを植え付けることで台湾の独立主張を思いとどまらせることにあると考えられます。実際の軍事作戦としては、たとえ中国がこの海域に潜水艦を投入したとしても、機雷散布や対潜水艦作戦などの他の封鎖手段をしたとしても、台湾軍の能力を考えると実行が難しいです。したがって、今回の潜水艦の浮上は、軍事的現実性よりも情報戦の色彩が強い行動といえます。

無論だからといって、台湾有事が皆無と言っているわけではありません。台湾は、昔から軍事的にも地政学的にも、重要拠点であることには変わりはなく、これが中国の傘下に入ってしまえば、インド太平洋地域の軍事バランスは一気に崩れ日米は不利になり、中国には有利になります。これを中国がなんとしても、あらゆる手段を講じて手に入れたいと考えていることだけは間違いありません。

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2024年6月18日火曜日

衛星画像に「えぐれた滑走路」...ウクライナがドローン「少なくとも70機」でロシア空軍基地を集中攻撃―【私の論評】ドローン攻撃と防空システムの脆弱性:F-35対零戦の戦術比較

衛星画像に「えぐれた滑走路」...ウクライナがドローン「少なくとも70機」でロシア空軍基地を集中攻撃

まとめ
  • ウクライナ軍は6月13-14日の夜、ロシアのモロゾフスク空軍基地に対し70機以上のドローンを使った大規模攻撃を行った
  • 攻撃後の衛星画像で、同基地の建物や滑走路が大きな被害を受けていることが確認された
  • ウクライナはこの攻撃にアメリカから供与された武器を使い、ロシアの高性能防空システムの一部を破壊できたと主張
  • ウクライナはロシアのハリコフ州攻勢をアメリカの武器で食い止めたと表明し、クリミア半島への攻撃も強める構え
  • 双方の発表した数字は確認できていないが、ウクライナがドローンと西側の武器を併用し、ロシア軍の能力を標的にしていることが見て取れる
ウクライナのドローンにより破壊された(赤枠内)とみられるモロゾフスク空軍基地

 ウクライナ軍は6月13日から14日にかけて、ロシア南部ロストフ州のモロゾフスク空軍基地に対し、少なくとも70機以上のドローンを使った大規模な攻撃を行ったと見られる。

 攻撃前の6月4日の衛星画像では、同基地の建物や滑走路は無傷で、周辺に複数の航空機が駐機していた。しかし、14日の画像では屋根が崩れ、滑走路も大きく破損し、航空機の姿はなくなっていた。

 ウクライナ国防省は、この作戦にウクライナ製ドローン「ドラゴン」と「スプラッシュ」を使い、ウクライナ領内から実施したと主張している。一方でロシア国防省は、この夜にウクライナからの大規模ドローン攻撃を受けたが、87機を迎撃したと発表した。

 モロゾフスク基地には、ロシア製の戦闘爆撃機Su-24、Su-24M、Su-34が配備されていた。ウクライナ側は、この攻撃でアメリカから供与された武器を使い、ロシアの高性能防空システムの一部を破壊できたと主張する。

 4月にもこの基地へのドローン攻撃があり、ウクライナはロシアのハリコフ州への攻勢をアメリカの武器で食い止めたと表明。さらにロシアが一方的に併合したクリミア半島への攻撃も強めていく構えだ。

 双方の発表数字は確認できていないが、ウクライナがドローンと西側の武器供与を活用し、ロシアの空軍力や能力を標的にしていることがうかがえる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ドローン攻撃と防空システムの脆弱性:F-35対零戦の戦術比較

まとめ
  • ウクライナのドローン攻撃成功は、ロシアの防空システムの脆弱性を露呈した。低コストの小型ドローンを多数投入し、同時に飛行させることで防空システムを突破した。
  • F-35と零戦を数で比較すると、数千機の零戦に対してF-35の数的劣勢が大きな問題となる。F-35は搭載弾薬やパイロットの限界、補給の必要性などで制約を受ける。
  • 現代のドローンは零戦に似た機動性と自爆攻撃能力を持ち、F-35にとって大きな脅威となる。ドローンは自動で動き、長時間の継戦能力があるため、F-35だけでは完全に防ぎきれない可能性が高い。
  • 主要国の軍隊は、レーザー兵器や電子妨害、AI防衛システムなどを導入し、マルチレイヤー防空網を強化している。総合的な対ドローン対処能力の向上が重視される。
  • 日本もドローン脅威に対処するため、先端技術の積極的導入と運用面での革新が求められる。有人戦闘機と無人機の長所を組み合わせた運用が重要であり、日本の技術力と同盟国との絆を基に防衛力を強化すべき。

ウクライナのドローン攻撃が成功したことは、ロシア軍の防空システムの有効性に疑問を投げかけています。

ウクライナが使用した低コストのドローンは、小型で複数同時に飛行することで防空システムに過剰な負荷をかけ、突破に成功しました。さらに、ロストフ州知事が再攻撃の可能性を認めたことは、防空システムの脆弱性を裏付けています。住民が爆発音を聞いたとの報告も、防空システムが市民の安全を完全に保障できていないことを示しており、心理的な不安を引き起こしています。

これらの事実は、ロシアの防空システムがウクライナのドローン攻撃に対して効果的でないことを具体的に示しています。

最近このようなドローンの奮戦の報道がなされることが多くなりました。このような報道から、私が軍事オタク少年であった頃の疑問が少しずつ明らかになるとともに、今後の軍事戦術や戦略が変わりつつあることをひしひしと感じています。

セミ軍事オタクだった少年時代に私が、抱いた疑問は、現代の最新鋭ジェット戦闘機1機(当時はF15)と、それを製造できる経費で、製造した多数の零戦が戦った場合どうなるかという疑問です。当時の私の分析では、約3000機製造できると試算しました。

零式艦上戦闘機

F15が1機と零戦3000機であれば、零戦に十分勝ち目があるのではと考えたのです。

第二次世界大戦中の1944年時点での零戦52型の価格は、約63,000円(当時のレートで約16,000ドル)と推定されています。

現代の最新鋭戦闘機F35の1機分の費用があれば、やはり零戦を数千機は製造できると考えられます。ただし、これは単なる製造コストの比較に過ぎず、性能の違いや開発費用、運用コスト、搭載される武器などはまったく考慮されていない非常に大まかな試算です。

この試算を前提として、F-35 1機が数千機の零戦に対して戦った場合、F-35が勝利は難しいと考えられます。理由は以下の通りです。
  • 対空兵装の制限 F-35が搭載できる対空ミサイルの数には限りがあり、数千機の標的に対して早期に弾薬を射尽くしてしまう可能性が高い。
  • パイロットの体力的限界 パイロット1人が数千機の航空機を同時に捕捉、攻撃することは物理的に不可能である。
  • 整備・補給の問題 F-35が搭載している燃料で飛行できる時間が限られており、燃料や武器の補給なしに長時間戦闘を続けられない。
  • 零戦は低速・低空域での機動性能が非常に優れている 零戦は低速での旋回性能が抜群で、F-35のようなハイテク機器を使ったミサイル誘導などでは的確に捕捉しにくい
つまり、数的劣勢と持続能力の制約から、どんなに性能が優れていてもF-35 1機が数千機の航空機を撃墜できる可能性は極めて低いと言えます。よっておそらく、零戦側が勝利する可能性が高いといえます。

ただし、上の想定では、零戦のパイロットのことなどを想定しておらず、その人件費や教育・訓練など完璧に無視しています。それにF35と多数の零戦が戦うシチュエーションなどほとんどありえません。

編隊飛行するF35

ただし、それに近いことが現代戦では起こっています。そうです。ドローンの存在です。零戦をドローンに置き換えたとすれば、また異なる風景がみえてきます。

多数のドローンの一斉攻撃に対して、たとえF-35が最新鋭の性能を持っていても完全に防ぎきれる保証はありません。ドローンは、かつての零戦が持っていた機動性の良さを小型軽量ボディで体現しています。数千機もの現代の零戦ドローンが一斉に押し寄せれば、F-35の対空兵装では撃墜しきれる数に限界があり、一部が必ず突破してくる可能性が高くなります。

また、ドローンは自らを敵目標に向けて自爆攻撃を仕掛けてくる脅威があり、F-35のミサイルでは完全に防げません。零戦がしばしば自爆特攻を行ったように、ドローンも命令次第でそうした自爆攻撃ができます。この点で、現代のドローンは、数的優位に加えて自爆の脅威という、零戦に似た特性を持っているといえるでしょう。

さらに、たとえF-35のパイロットが優れた能力を持っていても、長時間にわたって多数の小型標的を捕捉・攻撃し続けることには人間の限界があります。一方のドローンはAIにより自動で動くため、そうした疲労はありません。また、F-35も継戦能力には制約があり、整備や給油の体制が整わなければ持続した防空作戦は難しくなります。

つまり、性能が優れていてもF-35単機では、かつての零戦の数的力と自爆攻撃の脅威を併せ持つドローン部隊には対応しきれない可能性が高く、他の防空網や支援部隊との綿密な連携が不可欠になってくるといえます。

ドローン部隊による脅威に対し、米軍を始めとする主要国の軍隊は様々な対処方針を立てています。レーザー兵器の開発や電子妨害能力の強化、AI防衛システムの導入などが検討されており、ドローン対ドローンの運用も視野に入れられています。

また、単なる個々の対ドローン手段だけでなく、地対空ミサイル、戦闘機、レーザー兵器などを統合したマルチレイヤー防空網の強化が重視されています。つまり、革新的な新兵器と既存資産を組み合わせた総合的な対ドローン対処能力の向上が、各国軍でめざしてます。

早期警戒機と無人機(ドローン)とのコラボ 想像図

ただし有人戦闘機を運用するメリットは依然として大きいと言えます。人間パイロットならではの状況判断力、戦闘機の機動的運用能力、重要な攻撃目標への人的判断の確保、大量のセンサーデータ解釈への人間の能力、整備点検での人的対応の必要性などが挙げられます。

一方で無人機には人命リスクがない、持続時間が長い、コストが低いというメリットもあります。したがって、人間とAIの長所を組み合わせ、有人無人の戦力を使い分ける運用が最も合理的であり、その役割分担が今後の課題となるでしょう。

今後は、日本も、ドローンなどの新たな脅威に対処するため、先端技術の積極的な取り入れや、運用面での革新的な発想が求められます。しかし、日本が培ってきた技術力と同盟国との絆があれば、ドローンの脅威にも立ち向かえるでしょう。過去の実績と現在の能力を基に、日本の防衛力はを、将来に向けて磐石のものにすべきです。

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2024年6月17日月曜日

沖縄県の玉城知事「選挙結果、真摯に受け止める」 辺野古反対の姿勢は「揺るがず」―【私の論評】玉城デニー知事不支持派の勝利の要因

沖縄県の玉城知事「選挙結果、真摯に受け止める」 辺野古反対の姿勢は「揺るがず」

まとめ
  • 沖縄県議選で知事不支持派が過半数を占めたことから、玉城知事は厳しい県政運営を余儀なくされると述べた。
  • しかし、普天間飛行場の名護市辺野古移設への反対姿勢は変わらず、政治理念自体は変わらないと強調した。

玉城デニー知事

 16日投開票された沖縄県議選で、自民、公明両党などの玉城デニー知事不支持派が過半数を確保したことを受け、玉城デニー知事は17日未明、知事公舎で報道陣の取材に応じ、「選挙結果は真摯(しんし)に受け止めなければならない。非常に厳しい県政運営を余儀なくされる」と語った。

 一方、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する姿勢は「揺るがない」と強調。「私の県政運営、私の政治理念というものがこの(選挙)結果でどう変わるかといえば、それほど変化することはないと思う」と述べた。

【私の論評】玉城デニー知事不支持派の勝利の要因

まとめ
  • 2024年沖縄県議選では改憲勢力が過半数を占め、玉城デニー知事の政策運営への牽制が可能になった。
  • 選挙結果には辺野古基地移設問題が大きな影響を与え、経済利益を期待する層や本土政党支持の県民も影響した。
  • 玉城知事の親中的な姿勢が反発を招き、不支持派の勝利に繋がった。
  • 政権の不祥事がなければ不支持派の勝利はさらに大きかった可能性がある。
  • 今後、玉城知事への支持はさらに衰える可能性がある。
2024年6月16日に行われた沖縄県議会議員選挙の結果は以下の通りです。

【与党・改憲勢力】 自民党 14議席(前回比+4)、 公明党 5議席(±0)、 日本維新の会 2議席(+2)、 改憲勢力計 21議席

【野党・反改憲勢力】 玉城デニー知事支持の無所属系 12議席(-3) 、沖縄の風 5議席(±0)、 共産党 3議席(+1)、 反改憲勢力計 20議席

改憲勢力が過半数の21議席を獲得し、玉城デニー知事の政策運営に対する牽制が可能となりました。一方、反改憲勢力も20議席を確保し、過半数には至らなかったものの一定の勢力を維持しています。

沖縄県議選で自民、公明両党などの玉城デニー知事不支持派が過半数を確保した背景には、複数の要因が絡み合っていると考えられます。

まず最大の焦点は、辺野古への米軍基地移設問題をめぐる対立でした。政府与党は移設を推進する方針ですが、玉城知事はこれに反対してきました。有権者の一部は、政府の方針に従うべきと判断し、不支持派に投票した可能性があります。一方で、基地が存在する地域では、基地関連収入などの経済的利益を享受しており、その維持を望む層も一定数いたと推測されます。

米軍基地が移設される予定の辺野古

また、沖縄の本土離れが進んでいるのではないかとの危機感から、本土政党への支持につながった側面もあるでしょう。一部の県民から、玉城県政の下で沖縄と本土との連帯感が希薄化しているとの不安視があったようです。

さらに、玉城県政の政策面での実績や成果に対する不満から、不支持派に投票した有権者もいたと考えられます。例えば雇用対策、経済振興、子育て支援など、県政の取り組みが十分でないと感じた層がいたかもしれません。

以上のように、辺野古問題が最大の焦点となりましたが、それ以外にも、基地経済の影響、本土との連帯感の希薄化への危機感、県政の実績への不満など、複合的な要因が不支持派への投票行動を後押ししたものと推測されます。

沖縄県議選で玉城知事の不支持派が過半数を占めた最大の要因は、知事の親中的な対応への県民の強い反発にあったと考えられます。

特に、以下の発言・行動が県民の反中・反共産主義の感情を刺激し、不支持につながったと指摘されています。
  • 玉城知事は、中国の要人と定期的に会談を行っており、2019年には、中国の王毅外相(当時)との会談を行った
  • 同じく2019年玉城知事は、河野洋平元外相が会長を務める日本国際貿易促進協会の訪中団の一員として同年訪中した際、面談した胡春華副首相に対し「中国政府の提唱する広域経済圏構想『一帯一路』に関する日本の出入り口として沖縄を活用してほしい」と提案したことを明らかにしている
  • 中国共産党の機関紙「人民日報」への寄稿(2021年)で「中国は大切な隣国」と記載 
  • 国家主席・習近平との会談(2022年)で「沖縄と中国の絆は太古の昔からある」と持論 
  • 沖縄・尖閣問題での「沖縄と中国は一つの海をともにする」発言(2023年) 
  • 対中国ビジネス促進のため、中国企業の沖縄進出を歓迎する立場を鮮明に

昨年の新聞記事

さらに、辺野古移設問題で、「中国の領海を切り開くリスクもある」として移設に猛反対する一方、代替案を示さなかったことも県民の反発を買いました。

このように、中国との関係強化を優先し続けた玉城知事の言動が、中国の軍事的脅威に危機感を持つ沖縄県民の間で強い反発を招き、結果として不支持派が勝利した可能性があります。

今回自公政権の政治資金不記載問題などの不祥事がなければ、玉城知事不支持派のさらなる勝利につながった可能性もあります。

政治資金不記載問題など自公政権の不祥事がなかったならば、沖縄県議選ではより一層、玉城知事の不支持派が圧勝していた公算が高いと考えられます。

なぜなら、不祥事がなければ、有権者は安全保障問題に一層フォーカスできたからです。自公政権への不信感がない中で、中国の存在感増大への危機意識が一層高まり、玉城知事の親中的姿勢への反発がより強まった可能性があります。

加えて、不祥事がなければ自公政権の安全保障政策への信頼も維持され、自公路線支持の動機付けになっていたでしょう。中国への対決姿勢を評価する層の支持を改めて得られた可能性もあります。

政治資金不記載問題で揺れた自民 マスコミは「安倍派」という名称を用い続けた

つまり、政権不祥事がなく、安全保障一辺倒の選挙情勢となれば、親中的な玉城知事への反発はさらに高まり、不支持派の沖縄県議会での勝利はより圧倒的なものになっていた可能性が高いと言えます。

今後、玉城デニー知事への支持はさらに衰える可能性があります。まずは、知事を支える「オール沖縄」の勢力が内部対立や影響力低下で弱体化しており、2022年の那覇市長選挙での敗北もその兆候です。

また、経済や社会問題への対応が不十分であるとの批判があり、新型コロナウイルスからの経済回復、人手不足や物価高騰などの課題に対して効果的な対策が求められています。

さらに、辺野古新基地建設問題で具体的な成果を上げられていないことも支持低下の要因となっているようです。経済回復や子どもの貧困問題への新しい施策の効果が不透明であり、これらの要因がさらなる支持率の低下に繋がる可能性が高いです。

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2024年6月16日日曜日

中国の台湾侵攻を「地獄絵図」化する米インド太平洋軍の非対称戦略―【私の論評】中国の台湾侵攻に備える日米台の新旧『地獄絵図戦略』でインド太平洋戦略を守り抜け

中国の台湾侵攻を「地獄絵図」化する米インド太平洋軍の非対称戦略

まとめ
  • 米国は中国の台湾侵攻に備え、無人機・無人艦艇を大量投入する「地獄絵図(ヘルスケープ)戦略」を策定した。
  • この戦略は、米軍の本格増援までの約1カ月間を無人兵器で時間を稼ぐことを目的としている。
  • 「地獄絵図戦略」は、中国の人的・物的な量的優位に対抗する「レプリケーター構想」に基づく。
  • 「レプリケーター構想」は民間技術を活用し、低コスト・大量生産の無人機・自律型兵器を短期開発する。
  • 日本も中国に対する非対称戦力として、無人化技術の積極的防衛分野への導入が不可欠といえよう。


 米インド太平洋軍のパパロ司令官は、中国が台湾に侵攻した際の対応策として「地獄絵図(ヘルスケープ)戦略」を明らかにした。この戦略では、中国軍が台湾海峡を渡ろうとした瞬間に、台湾の全周に数千機の無人機、無人艦艇、潜水艦を展開し、致命的なドローン攻撃で中国軍を「惨めな」状態に陥れることを目指す。

 この構想が生まれた背景には、2022年の台湾有事の際に中国軍が示した迅速な包囲・封鎖能力と、ウクライナ戦でのドローン活用の教訓がある。中国の優位性は兵力の「量」にあり、ウクライナがドローンでこれに対抗したように、米軍もAIを活用した大量の無人兵器で中国の数的優位を打ち破ろうとしている。

 「地獄絵図」戦略は、2023年8月に副長官ヒックスが発表した「レプリケーター」構想に基づく。同構想は、中国の圧倒的な数的優位を打ち負かすため、民間企業と連携しながら「小型で精密、安価で大量生産可能」な無人機・自律型兵器システムを短期間で開発・配備することを目指している。すでに2024年度で約5億ドル、2025年度にも同規模の予算が計上されている。

 一方、米軍の本格的な軍事介入には、大量の重装備や兵站の海上輸送が不可欠で、概ね1カ月程度の時間を要する。その間、台湾軍と在日米軍中心の「地獄絵図」戦略で中国軍の侵攻を阻止し、米本土からの増援を待つ構想となっている。

 ウクライナ戦の経験から、無人機とAIによる自律型兵器の戦術的価値が高まっている。日本も中国の量的優位に対抗するための非対称戦力確保が喫緊の課題であり、民間と連携しながら低コストの無人化技術を積極的に防衛分野に導入することが重要となる。「地獄絵図」戦略に倣い、陸海空のあらゆる領域に無人機・自律型兵器システムを配備する必要があるだろう。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国の台湾侵攻に備える日米台の新旧『地獄絵図戦略』でインド太平洋戦略を守り抜け

まとめ
  • 中国が台湾を侵攻しようとすれば、天然の要塞ともいえる台湾の地形的条件から「地獄絵図」を経験する可能性が高い
  • さらに、台湾自身の高性能ミサイル等による防衛力に加え、日米の艦載機・潜水艦などの軍事力で中国軍は大打撃被るだろう
  • 日米台の電子戦・サイバー戦能力で中国の指揮統制システムをマヒ化することになるだろう。
  • 日米主導の対中経済制裁により、中国経済に深刻なダメージ被るだろう
  • 台湾は戦略的に重要であり、台湾が中国の影響下に置かれれば、日米のインド太平洋戦略の根幹が揺らぐため、戦略見直しを余儀なくされることになる。
中国が台湾を侵攻した場合、上記の「地獄絵図戦略」以前にいくつかの「地獄絵」になることが予想されます。

ロイド・オースティン米国防長官

米国防総省のロイド・オースティン国防長官は5月25日に、先月中国軍が台湾を包囲する形で実施した軍事演習について声明を発表しました。この声明の中で、オースティン長官は中国軍が実施したような作戦を成功させることの難しさを示しました。
これは、事実です。このブログでは過去に何回か掲載したように、台湾は地理的に侵攻が難しいです。あの小さな島嶼である台湾に、日本の富士山(標高3,776 m)よりも高い、玉山(3,952m)がそびえたっていることに象徴されるように、国土の大半は急峻な山岳地帯です。

東部は、海岸からすぐに急峻な山岳地帯となっており、大軍が上陸できるような場所はありません。西側には平野もあるのですが、河川や小さな湾が入り組んでおり、こちらも大軍が上陸できる地点は限られています。

また台湾の西側の海は、水深が浅く潜水艦の行動は制限されます。東側の海は水深が深いですが、日本の領海が直ぐ目の前という状況です。まさに、台湾は天然の要塞といっても良いです。

第二次世界大戦末期に米軍は、台湾上陸作戦は実行せずに、沖縄侵攻作戦を実施しました。これは、台湾が天然の要塞であることを理解したため、侵攻作成を実施すれば、多大な被害を被ることを認識していたためと考えられます。

台湾の東海岸

台湾は米軍に侵攻されることなく、1945年10月25日、連合国軍の一員として、中華民国軍が台湾に上陸し、日本の台湾総督府から統治権を移譲されました。戦後の台湾は、米国ではなく、中国の国民党政権によって統治されるようになったのです。米国は連合国の一員として、台湾の対日「返還」を求める立場にはあったものの、直接の実効支配はしませんでした。

中国軍が台湾に侵攻しようとした場合、天然の要塞台湾という地形に阻まれ「地獄図絵」をみることになる可能性が高いです。

「地獄図絵」はそれだけではありません。

まず台湾自身の防衛力が重要な役割を果たします。台湾が保有する高性能の地対空・地対艦ミサイルシステムは、中国軍の艦船や航空機に甚大な被害を与えるでしょう。特に台湾東部の山岳地帯に展開された大量の地対艦ミサイルは、中国艦隊の台湾東部への진出を事実上阻止できる能力を持っています。また、台湾は国産の精密誘導長距離ミサイル「雲峰」を保有しており、これらで中国本土の軍事施設や指揮所、兵站基地、監視衛星関連地上施設、レーダー基地を攻撃できます。

次に日米の海上優勢が極めて大きな影響力を持ちます。日本とグアムに展開する米軍の強力な空母機動部隊は、中国艦隊に対して圧倒的な航空優勢を持っており、艦載機からの空爆で中国艦船に壊滅的な被害を与えられます。

さらに日米の最新鋭の潜水艦群の脅威は計り知れません。中国海軍のASW能力の低さから、これらの潜水艦に対する対処は極めて難しく、中国の艦船は潜水艦からのミサイル攻撃の標的となり、多数が撃沈される可能性があります。また、台湾も自主開発した新型潜水艦を運用しています。

さらに日米台の電子戦・サイバー戦能力によって、中国軍の指揮統制システムや通信網が完全にマヒさせられる可能性があります。これにより中国軍の作戦能力が著しく低下し、組織的な軍事行動を取ることすら困難になるでしょう。

加えて、日米主導の対中国経済制裁が極めて深刻なダメージとなります。中国の対外貿易が完全に止まり、企業活動が麻痺すれば、中国経済は深刻な打撃を受けることになります。これは中国の国力の根幹を揺るがすものです。

上記で示したように、中国が台湾に侵攻しようとした場合、すでにいくつかの「地獄図絵」が予想されるのです。

島嶼である台湾は、ウクライナのような国土の大半が平坦な陸上国であり、他国(特に敵国ロシア)と国境を接しているような国とは違い、海洋での戦いで勝利すれば、守り抜くことが出来ます。

多数のドローンが飛行している想像図

それでも、米軍は、さらに無人機・自律型兵器システムを短期間で開発・配備し新たな「地獄絵図」を作り出し、時間的猶予をつくりだし、米本土からの増援を送ると表明したのです。

これは、台湾だけは香港などのように中国にやすやすとは取らせないという強い決意を表明したものと受け取ることができます。これがいわゆる、レッドラインであり、これを中国が超えた場合、直接の武力衝突もいとわないという意思表示です。

それだけ、台湾の戦略的な価値は高いのです。台湾が、武力であろがなかろうが、何らかの形で、中国の覇権の及ぶ地域になったり、最悪中国の領土になり、中国の支配下に置かれてしまい中国が自由に台湾に軍事基地を設置できるようになってしまえば、日米のインド太平洋戦略に甚大な影響を及ぼすことになります。

台湾が中国に組み込まれれば、中国の軍事力が一気に増強され、日米の対中国抑止力は著しく低下します。さらに、台湾周辺の海上交通路が中国のコントロール下に置かれ、日本を含めた多くの国々の経済安全保障が脅かされかねません。

また、台湾有事により、東アジアや太平洋における地政学的パワーバランスが大きく変化し、価値観の対立も一層深刻になる恐れがあります。

台湾が中国化すれば、日米が目指す自由で開かれたインド太平洋の秩序維持という戦略の根幹が揺らぐことになり、戦略自体を抜本的に見直さざるを得なくなるのです。まさに、台湾有事は、日本有事なのです。

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2024年6月15日土曜日

プーチン氏、戦争終結に向けた条件提示 ウクライナは拒否「完全な茶番」―【私の論評】受け入れがたいプーチンの和平案と西側諸国がすべき強硬対応

プーチン氏、戦争終結に向けた条件提示 ウクライナは拒否「完全な茶番」

まとめ
  • プーチン大統領は、ウクライナ軍の撤退とNATO不加盟をウクライナ戦争終結の条件として示した
  • これらの条件はウクライナ政府から即座に拒否された
  • プーチン大統領の条件は過去の提案よりも拡大主義的で、ロシアの当初の戦争目標を達成できなかったことを示唆している
  • ロシアは当初、短期間でウクライナ全土を制圧することを目指していたが、現在は領土の約5分の1しか占領していない
  • ゼレンスキー大統領はプーチンの提案を受け入れがたいものと指摘し、戦争終結への道のりは依然として険しいことを示した

 ロシアのプーチン大統領は14日、ウクライナ戦争の終結条件として、ウクライナ軍のロシアが領有を主張する4州(ドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポリージャ)からの撤退と、ウクライナのNATO加盟申請の即時取り下げを挙げた。この要求は、スイスで開催される平和サミットを前にした演説で述べられ、プーチン氏がウクライナ全面侵攻以降で最も詳しく示した戦争終結の条件である。なお、プーチン氏はこの平和サミットに招待されていない。

 ウクライナ政府はこの条件を「完全な茶番」「良識への攻撃」として即座に拒否した。プーチン氏はまた、ウクライナの非武装化や欧米諸国による対ロシア制裁の解除も要求し、これらの条件を国際協定に明記することを求めた。

 プーチン氏は外務省へのコメントで、戦争終結の条件は「シンプル」だと説明し、ウクライナ軍の安全な撤退を保証するとも述べた。しかし、これらの条件は以前の提案よりも拡大主義的な内容であり、ロシアが戦争の初期目標を達成できなかったことを示唆している。当初、ロシアは短期間で首都キーウやウクライナ全土を制圧することを目指していたが、戦争は2年4カ月近くに及び、ロシアが占領しているのはウクライナ領の約5分の1に過ぎない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、プーチン氏の「最後通告」を「信用していない」と述べ、これが以前の提案と大差ないとの認識を示した。ゼレンスキー氏は、ロシアの提案がウクライナにとって受け入れ難いものであると強調し、戦争終結への道のりは依然として険しいことを示している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】受け入れがたいプーチンの和平案と西側諸国がすべき強硬対応

まとめ

  • プーチン大統領のウクライナ戦争終結条件は、ウクライナ軍の4州からの撤退、NATO加盟申請の取り下げ、非武装化、対ロシア制裁の解除、これらを国際協定に明記することを含む。
  • ウクライナ政府はこれらの条件を主権侵害とみなし、「茶番」「良識への攻撃」として即座に拒否。
  • 西側諸国の過去の対応には、クリミア併合への限定的制裁や、ドンバス紛争中の決定的対決回避など開戦直前・直後にロシアに対して断固とした対応をしなかった。
  • さらに、ノルド・ストリーム2計画がロシアへのエネルギー依存を助長し、制裁の実効性を損なった。
  • 西側諸国は開戦直前・直後のロシアに対する緩慢な対応を反省し、ロシアへの経済制裁強化、ウクライナ軍への武器供与、軍事的プレゼンス増強、反体制派支援を通じて、ロシアの体制転換を促すなど断固とした対応をすべき


プーチン大統領のウクライナ戦争終結条件の要点は以下の通りです。

  • ウクライナ軍のロシア領有を主張する4州からの撤退
  • ウクライナのNATO加盟申請の即時取り下げ
  • ウクライナの非武装化
  • 欧米諸国による対ロシア制裁の解除
  • これらの条件を国際協定に明記すること
プーチン大統領が示したウクライナ戦争終結条件は、ウクライナやそして西側諸国にとって到底受け入れがたいものです。その理由は以下の通りです。

まず第一に、ロシアが一方的に「領有を主張」する4州からウクライナ軍を撤退させることは、ウクライナの領土的一体性を損なう主権侵害にあたります。ウクライナはその領土保全を最重要課題としており、自らの主権が著しく侵害される状況は決して容認できません。

第二に、プーチン大統領はウクライナのNATO加盟申請の即時取り下げを要求していますが、NATO加盟は主権国家が自由に選択できる権利です。ウクライナがNATO加盟を求めることは正当な権利行使であり、ロシアがこれを一方的に制限することは許されません。

第三に、ウクライナの非武装化を求める条件は、国家の自衛権を完全に剥奪するものであり、ウクライナの主権と安全保障上の権利を著しく損なうことになります。

第四に、プーチン大統領は欧米諸国による対ロシア制裁の解除を求めていますが、これらの制裁はロシアの違法な軍事侵攻に対する正当な対応措置です。不当な要求を受け入れれば、国際社会の規範が軽んじられてしまいます。

最後に、これらの条件を国際協定に明記することは、ウクライナや西側諸国がその内容を事実上承認することを意味します。つまり、ウクライナの主権と領土保全、そして西側の価値観や国際規範に完全に反するこの提案を受け入れざるをえなくなるのです。

以上のように、プーチン大統領の戦争終結条件は、あまりにもウクライナや西側諸国の立場を無視した一方的で不当なものであり、到底受け入れられるはずがありません。

このような和平案は考慮に値しないことをはっきりと西側諸国は、示すべきです。

そもそも、西側諸国はウクライナ侵攻直前・直後にロシアに対して強硬な手段を取らなかったことは、大きな失策でした。

2014年のロシアによるウクライナ領クリミア半島の不法併合に対し、西側は経済制裁を科しましたが、その水準は限定的でした。ロシアの一層の領土侵略を強く牽制するだけの制裁ではありませんでした。

また、ロシアがウクライナ東部で引き起こしたドンバス紛争が長期化する中、西側はロシアとの決定的な対決を避け、事態の沈静化を優先しました。さらに、ドイツ主導で推進されたノルド・ストリーム2計画は、ロシアへのエネルギー依存を助長し、制裁の実効性を損なう結果となりました。

加えて、ウクライナ侵攻直前の2022年1月、バイデン大統領は「ロシアによるウクライナ侵攻」について問われた際、NATO加盟国間で対応が分かれる可能性があることを示唆しました。

一部メディアがバイデン発言を「小規模な侵攻なら対応が分かれる」と誤報したことから、この「小規模な侵攻」発言があったかのように広まってしまいました。しかし、バイデン氏が当初から徹底抗戦を主張するなどの発言をしていれば、このような間違いは起こらなかったでしょう。こればプーチンに積極的な行動を取るよう促す結果となったとみられます。


このように、西側は一貫してロシアの動きに強く反発するだけの手段を取ってこなかったことが、プーチンのさらなる傲慢な行動を許す一因となってしまった点は否めません。

西側諸国は、プーチンの今回の和平案に対し、これまでの緩慢な対応を反省し、より強硬な手段を取るべきです。

具体的には、ロシアへの経済制裁を更に強化し、石油・ガス禁輸、金融システムからの排除など、制裁の水準を格段に引き上げる必要があります。

また、ウクライナ軍に対し、精密誘導ミサイルや無人攻撃機など最新鋭武器を大量に供与し、ロシア軍に対する決定的優位を築かせます。

さらに、NATO・EUが一体となって、ウクライナ国境周辺への軍事的プレゼンスを増強するとともに、一定の軍隊をウクライナ領内に配置し、直接的な軍事支援も行うことが求められるでしょう。

加えて、ロシアの野党・反体制派への支援を強化し、プーチン政権の早期崩壊を狙う必要もあります。

経済的、軍事的、そして政治的に、ロシアを完全に包囲し、その存続と今後の侵略を許さない環境を整えるべきです。

プーチンが示した今回の和平案は、主権国家であるウクライナに対する一方的な要求の押し付けに過ぎません。ウクライナの領土的一体性を損ない、NATO加盟の権利を制限し、非武装化までを迫るものです。これは対等な交渉による平和的解決とはかけ離れています。

プーチンはこれまで、クリミア併合、ドンバス紛争の引き起こしと様々な機会に、国際規範を無視し、武力の一方的な行使によってしか自国の利益を追求できないことを示してきました。今回の侵攻でも、同様に軍事力で現状を有利に作り変えようとしているにすぎません。

つまり、プーチンは対話による建設的な平和を志向しているのではなく、ウクライナに対する力による支配と従属を強要しようとしているだけなのです。こうした体制には一切の妥協の余地がありません。

したがって、西側諸国が多角的な対抗手段で最大限の圧力をかけ、プーチンを力で現状から引き離させるしかありません。これが、プーチンに対する唯一の対処方法であり、真の平和への条件でもあると言えるでしょう。さらにこれは、中国の台湾侵攻に対する牽制にもなるでしょう。ここで中途半端な対応をすると、習近平の台湾武力侵攻を後押しすることになりかねません。

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