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2024年1月9日火曜日

2024 年 10 大リスク―【私の論評】ドラッカー流のリスクマネジメントで、ユーラシア・グループの10大リスクに立ち向かう

2024 年 10 大リスク


まとめ

  • 米国の分断
  • 情報戦争の中毒
  • ウクライナの事実上の割譲
  • AIのガバナンス欠如
  • ならず者国家の核脅威
  • 深海へ侵害できない自己主権
  • 重要領域物資の短絡
  • インフレの足音がせまる
  • エルニーニョ再来
  • 米国でのリスキーなビジネス


コンサルティング会社ユーラシアグループの社長イアン・ブレマー氏


 ユーラシア・グループは2024年の地政学リスクトップ10を発表しました。


 1位は米国内の深刻な政治分極化です。11月の大統領選は既存の分裂を悪化させ、過去150年間で最も米国の民主主義を脅かし、国際社会での信頼性を損なうと予想しています。


 2位は中東の緊張です。イスラエルとハマスの戦争がエスカレートし、イランとの戦争に発展するリスクが高いと指摘しています。イスラエルの攻撃、ヒズボラの反撃、フーシの活動などが引き金となる可能性があるとしています。


 3位はウクライナの事実上の分割。ロシアが人的・物的に優位に立ち、ウクライナが劣勢になると予想。米国の支援低下も分割に拍車をかけるとしています。


 4位はAIのガバナンス不足。生成AIによる偽情報が選挙や紛争を混乱させると懸念。


 5位はならず者国家同盟の台頭。ロシア、北朝鮮、イランが武器供給で協力し、世界秩序に挑戦すると予測。


 6位は中国経済の停滞。構造的制約が続く中、成長の回復は望めないと指摘。


 7位は重要鉱物を巡る争奪戦。米中の覇権争いがサプライチェーンを混乱させると警告。


 8位はインフレによる世界経済の逆風。高金利が成長を鈍化させ、金融リスクを高めると予想。


 9位はエルニーニョ現象による異常気象の頻発。食料危機や自然災害のリスクを増すと懸念。


 10位は企業の米国市場リスク。共和・民主両州の対立に企業が挟まれると指摘。


 米国と中東の政治・軍事的リスクが最大の焦点とされています。


この記事は、元記事を要約したものです。詳細をご覧になりたい方は、元記事をご覧になって下さい。


【私の論評】ドラッカー流のリスクマネジメントで、ユーラシア・グループの10大リスクに立ち向かう


まとめ

  • ドラッカーのリスクに対する考え方は、ユーラシア・グループの10大リスクに対処する上で、重要な示唆を与えてくれる。
  • リスクをゼロにすることは不可能であり、むしろリスクを認識してそれをコントロールすることが重要。
  • 適応的なリーダーシップを育成し、長期的な回復力への投資を進め、グローバルなコラボレーションを促進すべき。
  • 以上をもって計算されたリスクテイクを行うことが重要。
ドラッカー氏

経営学の大家ドラッカー氏は、リスクについて以下のように語っています。
企業活動に伴うリスクをなくそうとしても無駄である。現在の資源を未来の期待に投入することには、必然的にリスクが伴う。(『マネジメント』)
複雑な世界にあって、見えない未来に向けて、ヒトとモノとカネを投入する。そして、投入したものをはるかに超えるものを得る。それが企業の成長であり、社会の繁栄である。そこにリスクが伴うのは当然である。わかりきったものからは、わかりきったものしか手に入れられないのです。

ドラッカーが気にするのは、この当然のことに対する無知や無理解ではない。それ以前の問題として、頭もよく知識も豊かな人たちが、リスクについて持っている考え方である。リスク抜きを是とするメンタリティです。

それは世界からリスクを取り除くことはできるし、取り除かなければならないとする考えです。

そうではなく、より大きなリスクを負えるようにすることが必要なのです。

たとえば、毎年数百億円を研究開発につぎ込めるようになることが肝心なのです。

経済活動において最大のリスクは、リスクを冒さないことです。そしてそれ以上に、リスクを冒せなくなることです。
リスクの最小化という言葉には、リスクを冒したり、リスクをつくりだすことを非難する響きがある。つまるところ、企業という存在そのものに対する非難の響きがある。(『マネジメント』)

 ドラッカーは、おもにビジネスの世界のリスクについてとりあげており、地政学的リスクに焦点を当てたわけではないですが、それがビジネスや社会に与える潜在的な影響を認識していました。

1970年の著書『断絶の時代』の中で、EUや日本のような「メガブロック」の出現について書き、その経済的・政治的影響力の増大を予測し、その影響を考慮するよう企業に促しました。

また、資源不足や環境問題が主流となる数十年も前に、そのリスクについて警告を発し、サプライチェーンや世界の安定を破壊する可能性を強調しました。

また、国際舞台におけるパワー・ダイナミクスの変化を理解することの重要性を強調しました。彼は、中国やインドといった新たな経済大国の台頭について書き、それに応じて戦略を適応させるよう企業に促しました

また、世界政治が複雑化し、テロリスト集団のような非国家主体が新たな安全保障上の脅威を引き起こしていることも認識し、企業はそれを考慮する必要があるとしました。

この考え方は、企業だけではなく、政府を含む他の多くの組織にもあてはまると思います。

ドラッカー流の考え方に立脚すれば、ドラッカーの視点をユーラシア ・グループが特定した 10 の主要なリスクに適用できると、考えられる政府や企業を含むあるゆる組織にとってのリスクへのアプローチ法がいくつか示すことができます。

まずは、固有のリスクを受け入れることです。 純粋にリスクの排除を目指すのではなく、複雑な世界をうまく切り抜けるには固有のリスクが伴うことを受け入れるべきなのです。 これらのリスクの性質、その潜在的な影響、およびそれらがもたらす機会を理解することに焦点を当ててるべきなのです。

次に、リスクをひたすら忌避するリーダーシップではなく、適応的なリーダーシップを育成するべきです。企業、政府、組織は、変化する地政学的な状況の中でタイムリーな意思決定を行い、戦略を調整できるリーダーを必要としています。 予期せぬ課題に効果的に対応するために、柔軟な計画、シナリオ分析、継続的な学習を奨励すべきです。

第三は、長期的な回復力への投資をすべきです。衝撃や混乱に耐えられる堅牢なシステムとインフラストラクチャを構築します。 潜在的な危機の影響を軽減するために、サイバーセキュリティ、エネルギー安全保障、食糧安全保障などの重要な分野への投資を優先します。

第四に、グローバルなコラボレーションを促進すべきです。 ドラッカーは世界が相互につながっていることを認識していました。 重大なリスクに対処するには、国際的な協力と調整が必要です。 対話を促進し、パートナーシップを構築し、地球規模の課題に取り組むための責任の共有を促進するのです。

第五に、計算されたリスクテイクを受け入れることです。 たとえ重大なリスクを伴うとしても、長期的なニーズに対応する大胆な取り組みを躊躇するべきではないのです。 たとえば、次世代の小型原発や、核融合に多額の投資をしたり、野心的な防災・減災開発プロジェクトを立ち上げたりするには、固有のリスクを認識しながらも、莫大な利益が得られる可能性を認識する必要があります。

第六に、戦略的な先見性を強調すべきです。 ドラッカーは長期的な思考とシナリオ計画を支持しました。 これらのリスクから生じる潜在的な将来のシナリオを分析し、機敏性と備えを確保するための緊急時対応計画を策定するよう組織を奨励します。

第七に、倫理的なリーダーシップの促進をすべきです。 倫理的な意思決定と企業の社会的責任は、ならず者国家の台頭や AI テクノロジーの悪用など、特定のリスクによる悪影響を軽減するために重要です。

第八に、知識と理解に焦点を当てるべきです。ドラッカーは、リスクを効果的に管理するには知識が鍵であると信じていました。ただ、ドラッカーのいう知識は、百科事典に書かれているような知識ではなく、たとえば、現代の医学知識のような、広く理解されて行動の基盤となる知識のことです。

 これらの世界的なリスクの性質と複雑さをより深く理解するために、研究、データ分析、情報共有に投資すべきです。

ドラッカーのアイデアはビジネスに焦点を当てていたことを思い出してください。 これらをより広範な社会および政府レベルに適用するには、思慮深い解釈と適応が必要です。 しかし、リスクを受け入れ、回復力を育み、長期的思考を優先するという彼の基本原則は、ユーラシア グループが浮き彫りにした複雑で相互に関連した課題に対処するための貴重な洞察を提供します。

これらの戦略を実行することで、組織や政府はリスクを最小限に抑える考え方から、責任あるリスクテイクと積極的な管理の考え方に移行し、より機敏性と回復力を持って将来の不確実性を乗り越えることができます。

この視点が、これらの世界的なリスクの潜在的な影響を分析し、それに対処するための有用な枠組みを提供することを願っています。

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2024年1月7日日曜日

「軍事ケインズ主義」進めるプーチン 2024年のロシア経済―【私の論評】ウクライナ侵攻で揺れるロシア経済 物価高騰、財政赤字、軍事費増大の3つのリスク

「軍事ケインズ主義」進めるプーチン 2024年のロシア経済

服部倫卓 (北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)

まとめ
  • ウクライナ侵攻と国際的な制裁にもかかわらず、ロシア経済は2023年もプラス成長を記録した。
  • 軍事費の大幅増を背景に、軍需産業は好調で、GDPの3分の2を占めるまでになった。
  • 一方、物価高騰やガソリン不足などの問題も顕在化し、国民生活への影響も出始めている。
  • プーチン大統領は2024年3月の大統領選への再選を目指しており、国民の支持率を維持するために、公共料金の値上げを抑制するなど、配慮を欠かさない。
  • 住宅市場では、優遇ローンによる融資拡大を背景に、バブル的な過熱が進んでいる。この状況が今後、金融市場の混乱や経済の停滞につながるリスクがある。
ロシア軍女性兵士

2023年のロシア経済は、ウクライナ侵攻や国際的な制裁にもかかわらず、予想以上に持ちこたえた。GDPは3%前後の成長を記録し、失業率は記録的に低い水準にとどまった。

ロシア経済の成長率が予想以上に堅調となった要因は、以下の3つが挙げられる。

石油・ガスなどの資源価格の高騰
ウクライナ侵攻の影響で、国際的なエネルギー価格が高騰した。
ロシアは石油・ガスの輸出大国であり、この恩恵を受けた。
2023年の原油価格は、前年比で約60%上昇し、天然ガス価格は約100%上昇した。これにより、ロシアの貿易収入は大幅に増加した。
軍事ケインズ主義
ロシアは、ウクライナ侵攻に伴い、軍事費を大幅に増大させた。2024年の国防費はGDPの6%に達する見通しであり、これは、2022年までの3%から倍増する。

軍事費の増大は、財政赤字の拡大とインフレの進行をもたらす。しかし、短期的には、GDPを押し上げる効果もある。
西側諸国からの制裁に耐えられる経済基盤
ロシアは、石油・ガスなどの資源に依存した経済構造を有している。そのため、西側諸国からの制裁の影響は限定的であった。

また、ロシア政府は、制裁への対応として、輸入代替や国内消費の拡大を推進した。
軍事ケインズ主義とは、戦争や軍事支出を景気対策として活用する経済政策である。ロシアは、ウクライナ侵攻を契機に、軍事費を大幅に増大させ、これを経済成長のエンジンと位置づけている。

軍事ケインズ主義は、短期的には経済成長を促す効果がある。しかし、財政赤字やインフレの拡大などのリスクも伴う。

ロシア経済は、今後も軍事ケインズ主義を継続すると予想される。そのため、財政赤字とインフレは、今後もロシア経済の課題となると考えられる。

なお、ロシア経済の成長には、以下の課題もある。

物価高騰
ロシアでは、ウクライナ侵攻や制裁の影響で、物価高騰が進んでいる。特に、卵は59%値上がりした。

物価高騰は、国民生活の重圧となり、社会不安の要因となる可能性がある。
輸出入の減少
ロシアの輸出入は、制裁の影響で減少している。特に、西側諸国への輸出が大幅に減少した。

輸出入の減少は、経済の成長にマイナスの影響を与える。また、ガソリン不足や為替安定の対策に追われるなど、さまざまな問題も発生している。
住宅市場の過熱
ロシアの住宅市場は、優遇ローンの利用条件が段階的に厳格化される見通しとなり、ルーブル下落が進み、市場金利が急上昇したため、急速に過熱している。

優遇ローンの利用条件が厳格化されたため、新築住宅の購入を希望する層は、頭金を消費者金融で借りるなどして、無理な借金を重ねるケースも出てきている。

住宅バブルが崩壊すれば、金融システムの混乱や経済の停滞につながる恐れがある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。 

【私の論評】ウクライナ侵攻で揺れるロシア経済 物価高騰、財政赤字、軍事費増大の3つのリスク

まとめ
  • 2023年のロシア経済は、ウクライナ侵攻や国際的な制裁にもかかわらず、GDPは前年比でマイナス4.2%と、予想以上に持ちこたえた。
  • ロシアの物価上昇率は、2023年に前年比17.0%と、1998年の金融危機以来の高水準となった。
  • 戦争中、軍事費の増大は、経済に短期的な刺激を与え、景気回復につながる可能性がある。ドラッカー氏は、数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろうと語る。
  • 軍事費の増大は、財政赤字やインフレなどの問題を引き起こす可能性があり、長期的には経済の持続的な成長を阻害する可能性がある。
  • ウクライナ侵攻が長期化する中で、ロシアと西側諸国との軍事衝突が拡大する可能性があり、ロシアが崩壊する可能性も否定できない。
上の記事の冒頭で、「2023年のロシア経済は、ウクライナ侵攻や国際的な制裁にもかかわらず、予想以上に持ちこたえた」というのは、予め予想できたことです。これについては、以前もこのブログに述べたことがありますが、戦時経済は通常の経済とは全く異なるからです。

戦争、特に総力戦等の大きな戦争が始まる前と、戦中、戦後の復興にかけて、GDPはかなり上がることになります。戦前は、戦争に備えるため、武器・弾薬等を大量に備えることと戦時経済を想定して様々な物品の備蓄をします。戦中も戦争を継続するため、同様に大量に製造し続けます。さらに、戦後は復興のために、壊れたインフラを整備しなおすためなどでGDP自体はあがることになります。

そのため、私は以前のブログで、ロシアの経済の現状を見るには、GDPではなく物価を見るべきではないかと以前のブログで主張しました。以下に直近の、ロシアの物価上昇率と今年の見通しの表を挿入します。
消費者物価上昇率(前年比)
2022年12.5%
2023年17.0%
2024年(見通し)15.0%
物価上昇率は、今年も比較的高い水準で推移しそうです。2023年の消費者物価上昇率は、前年比で約17%と、1998年の金融危機以来の高水準となりました。これは、ウクライナ侵攻に伴う国際的な制裁の影響、ルーブル安、軍事費の増大などが主な要因と考えられます。

2024年の消費者物価上昇率は、ウクライナ情勢の長期化や、西側諸国からのさらなる制裁が物価に与える影響次第では、さらに高騰する可能性もあります。

このようなことから、総力戦や現在のロシアのように大掛かりな戦争をする国々では、戦争前、戦中は軍事ケインズ主義を意図して意識して実行するというよりは、そうなるざるを得ないのです。現在のロシアも例外ではありません。

そうして、わたしたちが注目しなくてはならないのは、多くの専門家が、数字をみただけでは、後の歴史家は、第二次世界大戦が起こったことを認識できないかもしれないと語っていることとです。現在戦争中のロシア経済についても同様のことがいえるかもしれません。

たとえば、経営学の大家ドラッカー氏は、第二次世界大戦中の経済について、以下の発言をしています。
数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろう。
これは、第二次世界大戦中、多くの国が軍事費を増大させたことで、経済成長を遂げたという事実に基づいています。例えば、米国では、第二次世界大戦中のGNPは、戦前の約2倍にまで増加しました。これは、軍需産業の急速な発展によるものです。

第二次世界大戦中、日本も、軍事費を大幅に増大させ、軍需産業の急速な発展を促しました。その結果、日本の経済は、戦前の約2倍にまで成長しました。

1930年代から1940年代にかけて、日本は戦争に伴う軍事費の増大や、戦時体制の導入により、経済成長を遂げました。また、国民生活の面でも、食糧や衣料などの物資の配給が徹底され、国民の生活水準は維持されていました。

本当に窮乏化したのは、1944年以降であり、連合国軍の空襲が本格化し、米軍による通商破壊がすすみ、日本各地で大きな被害が発生し、国民生活は困窮化しました。

日本の戦時中のポスター

しかし、これはあくまでも表面的な現象であり、戦争の悲惨さを覆い隠すことはできません。
ドラッカー氏は、この事実を踏まえて、経済の数字だけを見て、第二次世界大戦を理解しようとすると、誤った結論に至る可能性があると警告しています。第二次世界大戦は、単なる好景気ではなく、人類史上最も悲惨な戦争の一つでした。

その本質を理解するためには、経済の数字だけでなく、戦争の背景や、戦争によって引き起こされた人々の苦難など、さまざまな要素を考慮する必要があります。

なお、ドラッカー氏は、この発言を、1950年に出版された著書『「経済人」の終わり──全体主義はなぜ生まれたか』の中でしています。この著書の中で、ドラッカー氏は、第二次世界大戦の原因を、経済主義の行き過ぎにあると分析しています。

つまり、経済の数字だけを追い求め、人間の尊厳や社会の調和を無視するような経済主義が、全体主義の台頭を招いたというのです。

ドラッカー氏の発言は、第二次世界大戦の歴史を理解する上で、重要な示唆を与えるものと言えるでしょう。

ドラッカー氏

プーチンが推進する軍事ケインズ主義の末路は、以下の3つの可能性があると考えられるでしょう。

1. 短期的な景気回復と軍事力の増強に成功する

プーチンは、ウクライナ侵攻によって、軍事費を大幅に増大させています。この軍事費の増大は、ロシアの経済に短期的な刺激を与え、景気回復につながる可能性があります。また、軍事技術の開発や軍事力の強化によって、ロシアの安全保障が向上する可能性があります。

この場合、プーチンの軍事ケインズ主義は、ある程度の成功を収めると言えるでしょう。しかし、軍事費の増大は、財政赤字やインフレなどの問題を引き起こす可能性があり、長期的には経済の持続的な成長を阻害する可能性があります。

2. 長期的な経済停滞と軍事力の衰退に陥る

軍事費の増大が続けば、財政赤字が拡大し、インフレ率が上昇する可能性があります。また、軍需産業への依存度が高まるため、民間部門の活力が低下し、経済成長が鈍化する可能性があります。

この場合、プーチンの軍事ケインズ主義は、失敗に終わると言えるでしょう。ロシアは、経済的にも軍事的にも衰退していく可能性があります。

3. 軍事衝突の拡大によって、ロシアの崩壊につながる

ウクライナ侵攻が長期化する中で、ロシアと西側諸国との軍事衝突が拡大する可能性があります。この場合、ロシアは、経済制裁や軍事攻撃によって、深刻な打撃を受ける可能性があります。

この場合、プーチンの軍事ケインズ主義は、ロシアの崩壊につながる可能性があります。ロシアは、国家として存続できなくなる可能性があります。

現時点では、プーチンの軍事ケインズ主義の末路は、まだ不透明です。しかし、長期的な経済停滞や軍事力の衰退、軍事衝突の拡大によって、ロシアが崩壊する可能性も否定できません。

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2024年1月2日火曜日

〝世襲政治〟が日本をダメに 日本保守党・百田尚樹氏、有本香氏 無税で相続できる「政治資金管理団体」の世襲の見直しにも言及―【私の論評】日本保守党の理念と日本政治改革:統治と実行の分離がもたらす可能性と挑戦

〝世襲政治〟が日本をダメに 日本保守党・百田尚樹氏、有本香氏 無税で相続できる「政治資金管理団体」の世襲の見直しにも言及

まとめ
  • 自民党派閥の収入不記載事件に対する怒りと新党結成の動機
  • 日本政治の凋落と「家業政治」への批判
  • 岸田文雄首相への違和感と日本保守党の新たな挑戦
  • 政治家の世襲化や金権政治への反対とその是正方法についての提案
  • 日本保守党の活動方針や公募に関する展望

 百田尚樹氏が率いる日本保守党は、2023年10月に結成されたばかりの政党である。同党は、自民党派閥の政治資金パーティー収入不記載事件や、LGBT法の成立をきっかけに結成された。

 百田氏は、自民党の腐敗と世襲政治に強い怒りを抱いており、日本保守党を「世襲・金権政治」を打倒するための新たな選択肢として位置づけている。

 百田氏は、自民党派閥の政治資金パーティー収入不記載事件について、「国民を馬鹿にしている」「腐っている」「笑えた」と厳しく批判した。同氏は、この事件を「政治の裏金問題」と位置づけ、徹底的な捜査と処罰が必要であると訴えている。

 また、百田氏は、LGBT法の成立について、「日本社会の伝統や文化を否定するものだ」と批判した。同氏は、LGBT法は「同性婚を推進するためのもの」であり、「日本を同性愛国家にしようとするもの」であると主張している。

 日本保守党は、これまで名古屋、東京、大阪などで街頭演説を行い、一般市民からの支持を集めている。同党の街頭演説では、「世襲政治を打倒する」「日本を守る」といったスローガンが唱えられ、聴衆からは大きな拍手が送られている。

 百田氏は、岸田文雄首相の鈍感力や、内閣支持率の低下にも疑問を呈している。同氏は、岸田首相が「国民の声に耳を傾けず、日本を衰退させている」と批判した。

 日本保守党は、今後も街頭演説や集会などを通じて、世論を喚起して、政治を国民の手に取り戻すことを目指していく。同党が、自民党の牙城を崩すことができるのか、注目が集まっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本保守党の理念と日本政治改革:統治と実行の分離がもたらす可能性と挑戦

まとめ
  • 日本保守党の理念は、国民の利益を守り、日本を豊かに強くすることである。
  • そのためには、政府は統治に専念し、実行は民間企業や地方自治体に委ねるべきである。
  • 政府は、社会の方向性を定め、実行の邪魔にならないようにすべきである。
  • 政府は、民間組織、地域コミュニティ、個人に力を与えることで、社会と経済を活性化することができる。


日本保守党の理念は、(党規約と綱領)に以下のように掲載されています。
結党宣言(別紙)に基づき、日本の国民と、領土・領海、国体を守る。日本を豊かに、強くすることにより、国民福祉の向上と世界平和への貢献を企図する。

私は、この理念には大賛成であり、日本保守党には多いに期待しています。本当に頑張っていただきたいです。百田氏の指摘は正しく、これを是正すれば、日本はかなり良くなることでしょう。

ただ、このブログにも書いたように、チマチマしたことが嫌いで、大きな括りで、物事を考えるのが好きだった故安倍晋三氏に倣って考えてみると、「日本を豊か、強く」するために、特に政治の世界では絶対に実行しなければならないことがあります。

それは、このブログでも過去に何度か掲載してきたこともある、政府は統治(ガバナンス)に集中し、その他は政府の外に出してしまうということです。これなしに、たとえ「世襲・金権政治」を打破したとしても、現在の政治体制のままでは、また「世襲・金権政治」が復活するか、あるいは特定の集団の特定の利益を生み出そうとする集団が、新たなスキームを作り出し、同じようなことを繰り返すことになりかねません。

無論、日本保守党にはそのようなことも視野に入れているとは、思います。ただ物事には順番があって、最初に統治(ガパナンス)などということを言い出すと、日本ではこれが良く理解されていないため、混乱を招くためと、現在はわかりやすく「世襲・金権政治」打破ということを主張しているだけなのかもしれません。

政府を統治にのみに集中させる体制を築けば、世論・金権政治のようなことはなくなります。そうして、これはすでに民間企業では実施されています。いくつかの仕組みはありますが、本社と事業会社を分離して、本社は統治に専念するという方式です。このような大企業においては、世襲や金でものごとが決まるということは、ほとんどありません。

このような方式にすると、たとえば決算は、事業会社単体のものと同時に連結決算を行うことになり、不正はおこりにくくなります。また、本社が統治を行うことにより、資源を有効に使えるというメリットもあります。余剰人員を他の事業会社に回すということが簡単にできるからです。

このようなことを言うと多くの人は「小さな政府」という言葉を思い出すかもしれません「小さな政府」とは、日本では主に以下のように定義されています。

政府による経済活動への介入を可能なかぎり減らし、市場原理による自由な競争を促すことで経済成長を図る思想・政策。 具体的には公務員、政府組織、政府予算の規模を縮小し、規制を緩和して民間企業にできることは民間企業へ移管する。 税などの国民負担は少なくてすむが、公的サービスの水準も低くなる(低福祉低負担)。

しかし、政府を統治のみに集中させるということは、決してこの「小さな政府」だけを意味するものではありません。

そもそも統治(ガバナンス)という言葉は、かなり曖昧に使われています。様々なガバナンスに関連する文書を読むと、色々と書かれていますが、結局何なのかが理解しにくいものがほとんどです。その定義を以下に掲載します。これは経営学の大家ドラッカー氏による定義です。

晩年のドラッカー氏

経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。

 といいます。

昔の政府は、「小さな政府」であり、小さいが故に、統治に専念せざるを得ませんでした。リンカーン政権は、閣僚と通信士をあわせて7人だったと言われています。この小さな政府で、リンカーンは統治に専念し、実行は他の組織にまかせて、多くのことをやと遂げたのです。

これだけ政府が小さいと、不正が割り込む隙はかなり小さいことが理解できるというものです。

このように、一昔前の政府は小さく、それが理由で統治に専念していました。それで多くのこと成し遂げることができのです。そうした政府の効率の良さを民間企業も取り入れはじめました。最初に取り入れたのは、オランダの東インド株式会社でした。

多くの国々で、植民地経営は失敗しましたが、オランダだけは例外でした。ただ、後にオランダも東インド株式会社を政府に取り込んでしまい、オランダの植民地経営も失敗することになりました。

ただ、その後も民間巨大企業は、本社・本部などの統治機構を作り出すことにより、成功しています。

ただ、その後政府は肥大化していって今日のような姿になっています。今日、政府のほうが、民間会社を見習い、政府は統治に専念する体制を作り出すべきなのです。

ドラッカーの語るように、現在の政府は、統治と実行を両立させようとして、統治の能力が麻痺しているのです。しかも、各省庁などの決定のための機関に、実行をさせているが故に、貧弱な実行しかできないのです。各省庁などの機関は、実行に焦点を合わせていないのです。体制がそうなっていないのです。そもそも関心が薄いのです。

であれば、各省庁の統治をする部分のみを政府に含め、政府にある実行の部分を各省庁に振り分け、さらにこれら各省庁を政府の下部機関とするのではなく、外に出すべきなのです。そうして、民営化すべきなのです。そうして、これは突飛な考えとは言えないと思います。

明治政府の人員は、政権が固まった1871年(明治4年)には、約2,000人程度と推定されています。

当時の日本の人口は約3,500万人とすると、人員対人口の比率は約0.055となります。

現在の日本の中央政府の人員は、約25万人です。現在の日本の人口は約1億2,700万人とすると、人員対人口の比率は約0.02%となります。

このように、明治政府の人員対人口の比率は、現在の政府の人員対人口の比率と比べると、約40倍も高いことがわかります。

ただ、人口比だけで比較するとそうはなりますが、それにしても、当時はコンピュータもなく、通信も発達しておらず、機械化も進んでおらず、ITもAIもない状況を考えると、わずか2000人で日本全土を統治していたのは驚きです。

『憲法発布式之図』

明治政府の役割は主に政治や軍事、行政の整備に限られており、また、民間企業や地方自治体に多くの業務を委任していました。明治政府は、統治に専念していたといえます。

単純比較はできませんが、明治維新の最中にあった当時は現在よりもはるかに、多くの決定事項があったと思います。しかし、政府は統治に専念していたのでしょう。だからこそ、現在よりは統治と実行もうまくいっていたと言えると思います。そもそも、明治政府はどの政府よも、改革を成し遂げたといえます。

現在の政府の縮小と分散化により、 民間組織、地域コミュニティ、個人に力を与えることで、社会と経済が活性化します。 政府は方向性を定め、実行の邪魔にならないようにすべきなのです。 その役割は、制御したり細かく管理したりすることではなく、日本を豊かにし、強くすることを促進することなのです。

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2023年12月13日水曜日

安倍元首相は激怒、会計責任者に「ただちに直せ」自民パー券疑惑、岩田明子氏が緊急取材「裏金」は細田派時代の悪習だった―【私の論評】安倍晋三氏のガバナンス:派閥問題と政治資金の大局的アプローチ

安倍元首相は激怒、会計責任者に「ただちに直せ」自民パー券疑惑、岩田明子氏が緊急取材「裏金」は細田派時代の悪習だった

まとめ
  • 自民党の安倍派議員が最近5年間で1000万円以上のキックバックを受け、裏金化していた疑惑が浮上。東京地検特捜部が議員らの聴取に乗り出す方針。
  • 安倍派の政治資金問題で、安倍元首相が派閥領袖になる前からの問題であり、彼は問題解決の対応を指示していたと報じられる。
  • 安倍派の議員らがパーティー券の売り上げ超過分をキックバックとして受け取った疑い。安倍氏は問題に気づき、改善を指示するも亡くなった後には実行されず。
  • 自民党は過去の「政治とカネ」問題を経験し、信頼を失った教訓がありながら、今回の問題で同じ轍を踏みかねない状況。
  • 岸田首相は安倍派疑惑に対しての認識が薄く、問題解決の姿勢が不十分とされ、彼の政策熱意の欠如や次期首相候補の不在が指摘される。


 自民党の安倍派に関する政治資金疑惑が浮上した。この疑惑では、安倍派の複数の議員が過去5年間で1000万円以上のキックバックを受け、これを裏金化していた可能性が指摘されている。東京地検特捜部は国会閉会後に議員らを聴取する方針だ。他の派閥でも政治資金報告書に問題があり、「裏金」や「記載漏れ」などが国民の信頼を損なっている。

 安倍派では安倍氏が領袖になる前からこの悪習があったとされ、安倍元首相が21年11月に初めて派閥会長となった後、翌年2月にその状況を知り、「このような方法は問題だ。ただちに直せ」と会計責任者を叱責、2カ月後に改めて事務総長らにクギを刺したという。 
22年5月のパーティーではその方針が反映されたものの、2カ月後、安倍氏は凶弾に倒れ、改善されないまま現在に至ったようだ。この問題は岸田内閣の要である松野博一官房長官らも巻き込まれ、安倍派の「政務三役」の更迭が避けられない状況になっている。自民党はかつて「政治とカネ」で失敗し、今回の問題でその教訓を忘れていることが示されている

 特に深刻なのは最大派閥である安倍派の問題で、幹部らがパーティー券の売り上げ超過分をキックバックとして受け取っていたと報じられている。安倍氏は問題に気づき、対応を指示したが改善されないままだったようです。この問題で派閥内からは疑問の声が上がっていたが、明確な指示は示されなかった。

 この疑惑が報じられたのは昨年だったが、政府内の対応は遅々として進まず、岸田首相も問題についての認識が乏しい。彼の発言は自民党内の派閥に忠実なもので、問題を根本から解決しようとする姿勢に欠けている。

 この問題は一部からは内閣総辞職レベルの問題とされているが、岸田首相自身は留任の意向を示している。彼の政策に対する熱意が乏しいことや、次期首相候補が不在なことが、日本の政治に低迷をもたらす原因になっている。岸田首相は政治の信頼を回復するために行動を起こさなければならず、言葉だけではなく現実の行動が求められる。

■岩田明子

【私の論評】安倍晋三氏のガバナンス:派閥問題と政治資金の大局的アプローチ

まとめ
  • 安倍晋三氏は派閥の領袖から離れ、大局的な視点で政策を展開。
  • アベノミクスを含む経済政策や安全保障政策、外交政策など、国家全体の視点を重視。
  • 安倍氏は政治の大義を重んじ、政治資金問題も単なる法令違反ではなく、政府の統治に対する国民の信頼の問題の観点から捉えていた。
  • 裏金問題は派閥の統治や政府の統治における透明性や説明責任の不足を浮き彫りにした。
  • 政治資金規正法の見直しや透明性の向上など、ガバナンスの改善が必要であり、対処には大局的な視点が必要。
安倍晋三氏は、首相になった場合は、派閥の領袖から離れるという慣習に従っており、しかも首相を辞任した後でもすぐには領袖に復帰しなかったため安倍氏が派閥の領袖だったのは約8ヶ月ほどでした。この期間に安倍氏はこの問題に対処していたのです。しかし、その受け止め方は、安倍晋三氏と派閥の幹部との間に大きな開きがあったようです。

このブログでも述べたように、安倍晋三氏は、チマチマしたことが大嫌いで、大きなくくりで物事を考えることが好きだったと、指摘する人がいます。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」―【私の論評】政治家はなぜ卑小みえるのか?民間企業にはみられるガバナンスの欠如がその真の原因

どなたかは、忘れてしまったのですが、安倍晋三氏は細かいチマチマしたことが大嫌いで、大きく物事を考えることを好んだという人がいます。私は、これは本当だと思います。
安倍晋三氏は、政治家としてのキャリアを通じて、大きなビジョンや国家戦略を重視する姿勢を示してきました。彼がリーダーシップを取った際に焦点を当てたのは、経済政策の改革や安全保障政策の強化、外交戦略の構築など、国家全体を俯瞰した大きな枠組みでした。

例えば、安倍氏は「アベノミクス」として知られる経済政策を推進しました。これは、日本の経済を活性化するための包括的な政策であり、金融緩和、財政出動、構造改革などを含んでいました。彼の焦点は国家全体の経済の活性化であり、それによって国際競争力を高め、日本経済を持続可能なものにすることにありました。

また、安全保障政策においても、日本の国家安全保障の強化に力を注ぎました。中国や北朝鮮などの地域情勢を鑑みつつ、アメリカとの同盟関係強化や安全保障法制の整備など、大きな視点から国家の安全を図る政策を進めました。

さらに、外交政策においても、アジア太平洋地域や国際社会での日本の役割強化に重点を置きました。経済外交や国際貢献、他国との協力関係構築など、大局的な視点で日本の地位向上を目指す政策を展開していました。

これらの事実は、安倍氏が大きな枠組みや国家全体の視点で政策を展開し、細かい点よりも大局的な視野を重視していたことを裏付けるものです。

このように物事を大きな枠で考える安倍晋三氏は、派閥の領袖としても無論大きな枠組みで物事を考えていたと思います。

このブログでは、安倍晋三氏がそういう考えたをするので、安倍政権は他の政権よりは、ガバナンスに注力できたため、他政権に比較すると多くのことを成し遂げることができのだと論じました。

そうして、ガバナンスの定義については、ドラッカー氏のいうそれをあげました。この言葉は、コミュニケーションという言葉と並んで日本ではあまりにも曖昧に用いられているので、それを以下に再掲します。

"政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』) "

 この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。

"統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。 "

 

マネジメントの大家 ドラッカー氏

いわゆる裏金問題に関しても、安倍晋三氏は、 単に政治資金規正法に反するとか、政治家のモラルに反する程度のチマチマした考えではなく、もっと大きな枠組みでこの問題を捕らえていたのだと思います。

特に、自派閥や自民党がどうのこうのという観点などだけではなく、政府の統治に対する国民の信頼を損なう可能性を視野に入れていたのでしょう。

自民党の安倍派の裏金問題は、派閥の統治と政府の統治の両面からガバナンスの問題を引き起こしています。

派閥の統治の観点からは、派閥の統治が不透明で、透明性・説明責任に欠けていることが問題となります。また、派閥の幹部が私利私欲のために権力を濫用している可能性も指摘されています。

政府の統治の観点からは、政府の統治に対する国民の信頼を損なう可能性があることが問題となります。また、政治とカネの問題が繰り返されることで、政治の腐敗を助長する可能性もあります。


自民党と政府は、今回の問題を契機に、政治資金規正を徹底し、ガバナンスの向上に取り組む必要があります。そのためには、ザル法ともいわれる政治資金規正法の見直しを行うべきでしょう。それに、選挙運動にかなりの費用と労力がかかるという問題も解消すべきです。

具体的には、政治資金収支報告書の不記載・虚偽記載の取り締まりの強化や、政治資金の透明性の向上が求められています。

これらの問題もこの具体策にだけ注目していては、また同じことが繰り返されることになるでしょう。政府は、卑近な観点からだけではなく、ガバナンスの観点からこの問題を真正面からら向き合い、対処すべきです。そうしなければ、何も解決しません。

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2023年11月29日水曜日

日大アメフト部の廃部決定 競技スポーツ運営委が存続認めず 違法薬物事件で部員3人逮捕―【私の論評】日本大学のガバナンス危機:違法薬物問題で廃部決定、統治の課題と歴史的背景

日大アメフト部の廃部決定 競技スポーツ運営委が存続認めず 違法薬物事件で部員3人逮捕

まとめ
  • 日本大学のアメリカンフットボール部が違法薬物問題で廃部が決定された。
  • 複数の部員の逮捕や18年の悪質タックル問題から来季の降格は確定していたが、廃部となった。
  • アメフト部は名門であり、甲子園ボウルやライスボウルで優勝し、大学を代表する部活動だった。
  • 事件を巡り、部員の逮捕や関連する措置が重ねられ、関東学生連盟からも出場停止が科された。
  • 問題は経営陣の内紛や損害賠償訴訟にまで発展し、大学側は経緯や理由を部員に説明する方針を持っている。

沢田副学長(左)が林真理子理事長(右)を訴える事態にまで発展した日大の内紛

 日本大学のアメリカンフットボール部が違法薬物問題により深刻な状況に直面し、その結果、28日に部の廃部が確定したことが報じられました。大学本部は競技スポーツ運営委員会を開催し、部の存続を認めず廃止することを決定したと複数の関係者が伝えました。

 過去数ヶ月に渡り、警視庁薬物銃器対策課による逮捕や問題の発覚により、この部は厳しい状況に置かれていました。8月に寮での家宅捜索が行われた後、複数の部員が違法薬物の疑いで逮捕され、部全体の存続が危ぶまれていました。関東大学リーグ1部下位BIG8への降格は既に確定しており、廃部はそのさらなる深刻な結末となったのです。

 このアメリカンフットボール部は、日本大学を代表する歴史ある部活動であり、関東最多の21回の優勝を誇る甲子園ボウルなどで著名な成績を残してきました。しかし、18年の悪質タックル問題以来、部内での問題が表面化し、今回の廃部決定に至ったとされています。

 さらに、この問題は大学内部でも波紋を広げ、経営陣の辞任や損害賠償訴訟なども含まれる複雑な展開を見せています。大学側は今後、経緯や理由について部員たちに説明する方針を持っているようですが、これまでの経緯や部の歴史、そして問題の発端となった悪質タックル問題などが、このアメリカンフットボール部の複雑な状況を物語っています。

【私の論評】日本大学のガバナンス危機:違法薬物問題で廃部決定、統治の課題と歴史的背景

まとめ
  • 日大のガバナンス問題としして、理事長権限の過度、理事会の機能不全、監事の監視不足があげられる。
  • 問題発生の背景として、私大の内部運営のみで政府の監督を受けていなかったことがあると考えられる。
  • 理事長権限の制限、理事会・監事の強化で再発防止を図る
  • ガバナンスの強化には時間と関係者協力が不可欠
  • ガバナンスの定義をしっかり認識したうえで、ガバナンスの改善には統治と実行の分離は必要不可欠との認識でのぞむべき
日大アメフト部グラウンド

今回の一連の出来事に関して、日大のガバナンスに問題があったことは、明らかだと思います。

具体的には、以下の点が問題として指摘されています。
  • 理事長の権限が強すぎること
  • 理事会が機能していないこと
  • 監事の監視機能が働いていなかったこと
理事長の権限が強すぎると、理事会や監事などのチェック機能が働きにくくなり、理事長の独断専行や不正行為が起きやすくなります。また、理事会が機能していないと、大学運営に関する重要な意思決定が適切に行われなくなり、不祥事などのリスクが高まります。さらに、監事の監視機能が働いていないと、不正行為があっても発覚しにくくなります。

これらの問題は、日大が私立大学であり、大学の運営が理事会などの内部関係者のみで行われていることに起因しています。私立大学は、政府からの直接的な監督を受けないことから、ガバナンスの強化が求められています。

日大は、これらの問題を改善するために、以下の対策を講じています。理事長の権限を制限する
  • 理事会の機能を強化する
  • 監事の監視機能を強化する
これらの対策が効果的に行われれば、日大のガバナンスが改善し、再び不祥事などの問題が起きる可能性は低くなると考えられます。

しかし、ガバナンスの強化には、時間と労力が必要です。また、理事会や監事などの内部関係者だけでなく、学生や教職員、卒業生など、大学に関わるすべての人々が、ガバナンスの重要性を理解し、協力していくことが重要です。

そうして、そもそもガバナンスとは何なのかについて認識すべきです。この言葉くらい現在の日本で曖昧に使われている言葉はありません。ガバナンスとは日本語では「統治」です。これは政府の「統治」といわれるように、元々は政府のそれを意味していたのですが、今日の政府はあまりに巨大化して「政府の統治」は、それこそガバナンスの例としては良い事例とはいえなくなりました。

今日むしろ悪い事例であるといえます。特に、日本の政府は、世界の他の政府と比較すると統治と実行がほとんど分離されておらず、最悪の部類といえます。

「政府の統治」が民間企業の参考にされ、コーポレート・ガバナンスとして取り入れられたのは、昔のことです。リンカーンの政府は、通信士と閣僚含めて全部で7人だったとされています。昔の政府はいずれの政府もこのように非常に少ない人数で構成されていて、それでも現在からみれば、非常に優れていて、的確な統治をしていたのです。

政府は、少ない人数ながら、もっぱら統治に専念するというか、せざるを得ず、統治と実行は完璧に分離されていました。しかし、効率良く的確な統治ができていました。だかこそ、民間企業のお手本になりましたし、今日世界で「小さな政府」を希求する声が高まっているのです。このあたの状況については、以前のこのブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」―【私の論評】政治家はなぜ卑小みえるのか?民間企業には、みられるガバナンスの欠如がその原因
岸田首相

この記事では、ガバナンス(統治)が民間企業に取り入れた経緯や、経営学の大家ドラッカー氏の統治(ガバナンス)の定義を掲載しました。

この記事に掲載したドラッカー氏による統治(ガバナンス)の定義を以下に再掲します。

"
経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。 といいます。 

"

ガバナンスの定義について、それこそインターネットを検索すれば、山のようにでてきます。しかし、なかなかしっくりくるものはありません。わたしには、このドラッカーの定義が一番しっくりました。そうして、ガバナンスを語るときに、些末なことは認識しながらも、このような本筋を認識しないからこそ、混乱したり、本筋を離れた議論しかできないというのが実情ではないかと思います。

経営学の大家 ドラッカー氏

統治と実行を曖昧に行うことの弊害は、日大にも顕著にありました。

日大では、1962年から1982年まで、アメフト部の監督であった内田正人氏が、1965年から1982年まで、理事を務めていました。また、1988年から1992年まで、アメフト部の監督であった山本泰一郎氏が、1991年から1992年まで、理事長を務めていました。

内田氏は、日大のアメフト部を全国優勝に導いた名将として知られています。山本氏は、日大のアメフト部を再建に導いた功労者として知られています。

しかし、これらの事例は、日大のガバナンスに問題があったことを示すものとして、批判されています。アメフト部の監督は、運動部の部長という立場であり、大学の運営に直接関わる立場ではありません。そのため、理事や理事長を兼務することは、大学の運営と運動部の運営の両立が困難になるという指摘があります。

日大は、2018年に発生したアメフト部の悪質タックル問題を受け、ガバナンスの強化を図っています。その一環として、アメフト部の監督が理事や理事長を兼務することを禁止する規定を定めました。

ガバナンスについて十分認識されている組織においては、このようなことは絶対にあり得ません。このようなことを平気でする日大は、適切なガバナンスが行われていなかったのは、明らかです。

しかし、ガバナンスの歴史的背景や、その定義をしっかりと認識していなければ、日大のガバナンスを変えることはできません。

日大のガバナンスの問題は、以下の三点であることを先に示しました。
  • 理事長の権限が強すぎること
  • 理事会が機能していないこと
  • 監事の監視機能が働いていなかったこと
まず理事長の権限が強すぎるということは、理事長が統治だけではなく、実行にも大きく関わっていることを示していると考えられます。統治に関して理事長の権限は強くてしかるべきですが、実行には一切関わるべきではありません。

理事会も、統治に関わる部分だけの意思決定をすべきです。実行に関わる意思決定は関わらないようにするべきです。

監事の監視機能も統治と実行が曖昧になっている部分を正すという姿勢で行うべきなのです。統治と実行の区分が曖昧な部分もあるとは思いますが、少なくとも分離しようという認識のもとに組織や運営の仕方を考えて改善するべきです。それなしに、改善してもますます混乱するだけです。

このようなことを曖昧にしていて、人の資質や、能力や、モチベーション、それにコミュニケーションを改善しても、組織の機能不全は改善・改革できません。そうして、それは、日大にとどまらず、政府も含むありとあらゆる組織にあてはまる原則です。

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2023年11月24日金曜日

森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」―【私の論評】政治家はなぜ卑小みえるのか?民間企業にはみられるガバナンスの欠如がその真の原因

森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」

まとめ
  • 森永卓郎氏が岸田文雄首相に対し、内閣支持率低迷と減税策への不満を指摘し、「ボケろ」とアドバイスした。
  • 岸田首相の責任転嫁姿勢を批判し、責任を取らない点を指摘。「減俸しない理由」についても皮肉を交えて述べた。
  • 過去の発言にも言及し、「見栄っ張りでなく素直になるべき」と岸田首相にアドバイス。
  • 森永氏は自身の逸話を交えつつ、「正直に行こうよ」という意図を明かした。
  • 司会者のツッコミにも笑いながら対応し、「正直さを大切に」というメッセージを述べた。

森永卓郎氏

 経済評論家の森永卓郎氏が22日、ニッポン放送のラジオ番組「垣花正あなたとハッピー!」に出演し、岸田文雄首相に対して内閣支持率低迷に関連して、「ボケろ」というアドバイスを送った。岸田内閣では、9月の内閣改造後に政務三役が相次いで辞任し、岸田首相の打ち出した減税策にも批判が高まっていた。

 この日の国会では、野党から岸田首相の人事に関して不適切との指摘があり、岸田首相は「人事は適材適所だが、政治は結果責任。責任を感じている」と答弁したことが取り上げられた。これに対し、森永氏は岸田首相の責任を取らない姿勢を批判し、「重く受け止めると言ってるけど、どう責任を取るかは一切言わない。減俸さえしない」と述べた。そして、「減俸しない理由はわかる。例えば1人辞めて3割減俸にしたら、今は3人辞めてるんで9割カットになっちゃう。4人目出ると、逆にその分を払わなくてはいけなくなってしまう」と皮肉を交えて指摘した。

 また、森永氏は岸田首相の過去の発言にも言及し、「今年3月の福島視察時に小学生から首相を目指した理由を聞かれて『日本で一番権限が大きい人なので首相を目指した』と答えたが、見栄っ張りなのは良くない。プライドを捨てて素直になるべきだ」とアドバイスした。

 司会者の垣花アナが森永氏のアドバイスをツッコむと、森永氏は「実は僕のことを〝増税くそメガネ〟って言う人がいて、それが気になって気になって…。みなさん見てください、メガネに付いた〝うんちくん〟をどうしても外したかったんで、給付金じゃなくて減税にしたかったんですよ、と言ったら伝わるじゃないですか!」と珍アドバイスを披露。垣花アナは笑いながらツッコんだが、森永氏は「言いたいのは、もっと正直に行こうよってことです」と真意を語った。

【私の論評】政治家はなぜ卑小にみえるのか?民間企業にみられるガバナンスの欠如がその真の原因

まとめ
  • 安倍晋三氏は統治に重点を置き、政策展開やリーダーシップを大きな枠組みで行い、国家戦略やビジョンを重視した。
  • 安倍氏の経済政策「アベノミクス」は、日本経済の活性化や国際競争力強化を俯瞰した大局的な政策であった。
  • 安全保障政策や外交政策も、地域情勢や国家の安全を大きな視点から見据えた政策展開を行っていた。
  • 彼の統治スタイルは、政治を身近に感じさせるユーモアを交えた演説や会見を通じても表現されていた。
  • 安倍氏の統治姿勢は、細かな点よりも大局的な視野を重視し、国家全体を俯瞰して政策を推し進めることに焦点を当てていた。岸田首相はこの点を見習うべき。
私は、岸田首相に関しては、どうしても首相在任期間が歴代で最長となった安倍首相と比較されるということで、最初から負い目を背負っているところがあると思います。

安倍晋三元首相は、日本憲政史上最も長い8年8カ月にわたって首相を務めました。

安倍元首相の在任期間は次のとおりです。
第1次安倍内閣(2006年9月26日~2007年9月26日)
第2次安倍内閣(2012年12月26日~2014年9月3日)
安倍元首相は、2022年7月8日に奈良県奈良市で選挙演説中に暗殺され死亡しました。

悲劇的な最期を遂げた安倍氏です。一部の、リベラル・左翼勢力などの奇人、変人などは、別にして、多くの日本人は故人の悪し様に語るようなことはしません。良かったことを語ります。

安倍元首相

20歳〜30歳台の若い世代の人にとっては、物心ついてからつい最近まで、成人してからつい最近まで、総理大臣といえば、安倍晋三氏です。

人の世の常として、安倍総理にも毀誉褒貶はありましたが、安倍総理を正統に評価する人々の心の中では悲劇的最期を迎えてしまった安倍晋三氏に関して語るとき「毀」「貶」より「誉」「褒」のほうが強くなってしまいます。

私もそうです。実は第一次安倍政権のときは、私は安倍首相をあまり評価していませんでしたが、第二次安倍政権になってから高く評価するようになりました。そうして、現在安倍晋三氏のことを語るとすれば、第二次安倍政権における安倍首相のことを語ります。

このような、安倍晋三氏と岸田氏はどうしても比較されてしまうというか、多くの人は安倍晋三氏を総理大臣のスタンダード(基準)として、岸田総理大臣を見るわけです。

そうなると、なぜか岸田首相をはじめとして多くの政治家が、卑小な存在見えてしまうのです。

岸田首相

ただし、安倍晋三氏をスタンダートとすると、他の政治家が卑小に見えてしまうのには、それなりの理由があります。

ここで、安倍晋三氏がどのような人だったかを振り返っておきます。

どなたかは、忘れてしまったのですが、安倍晋三氏は細かいチマチマしたことが大嫌いで、大きく物事を考えることを好んだという人がいます。私は、これは本当だと思います。

安倍晋三氏は、政治家としてのキャリアを通じて、大きなビジョンや国家戦略を重視する姿勢を示してきました。彼がリーダーシップを取った際に焦点を当てたのは、経済政策の改革や安全保障政策の強化、外交戦略の構築など、国家全体を俯瞰した大きな枠組みでした。

例えば、安倍氏は「アベノミクス」として知られる経済政策を推進しました。これは、日本の経済を活性化するための包括的な政策であり、金融緩和、財政出動、構造改革などを含んでいました。彼の焦点は国家全体の経済の活性化であり、それによって国際競争力を高め、日本経済を持続可能なものにすることにありました。

また、安全保障政策においても、日本の国家安全保障の強化に力を注ぎました。中国や北朝鮮などの地域情勢を鑑みつつ、アメリカとの同盟関係強化や安全保障法制の整備など、大きな視点から国家の安全を図る政策を進めました。

さらに、外交政策においても、アジア太平洋地域や国際社会での日本の役割強化に重点を置きました。経済外交や国際貢献、他国との協力関係構築など、大局的な視点で日本の地位向上を目指す政策を展開していました。

これらの事実は、安倍氏が大きな枠組みや国家全体の視点で政策を展開し、細かい点よりも大局的な視野を重視していたことを裏付けるものです。

一方で、安倍晋三氏は政治家として公の場で饒舌であり、時折ジョークを交えて話すことがありました。彼の演説や会見では、政策や重要なテーマに関しては真剣に語る一方で、軽い雰囲気を作るためにジョークを交えたり、会場の雰囲気を和ませることもありました。

一例として、彼は自身の政策を説明する際に比喩やイメージを使うことがあり、その中にはジョークの要素も含まれていることがありました。一般の人々に政治を身近に感じてもらうために、ユーモアを交えたアプローチをとることがあったようです。

実際、私はそのような場面にたちあったことがあります。私は、安倍首相の講演会や選挙演説に何度か立ち会ったことがあるのですが、確かに、気さくな人柄で、饒舌で、多くの人々が度々笑っていました。

それに加えて、安倍氏の人柄や人間味あふれる一面が多くの支持を集めた一因とも言われています。高橋洋一氏は、安倍氏は饒舌であり、ジョークを交えて人々を楽しませることがあったと述懐しています。

しかし安倍晋三氏と、他の政治家との違いを際立てさせたのは、何といっても大きな枠組みで物事を考えるという姿勢です。

これこそが「政治家に欠かせない」姿勢です。なぜなら、政府の役割は、統治すること(ガバナンス)だからです。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。
ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…―【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!

以下にこの記事から、統治に関わる部分を引用します。

"経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。 といいます。 

ガバナンスや統治という言葉は、多くの人に曖昧な意味合いで使われていることが多いです。一昔前の、大企業は世界中でガバナンスなどあまり意識しないで、運営していましたが、多くの企業が機能不全にいたるようになりました。そのような中、一部の企業がガバナンスという考え方を導入し、組織を編成しなおすと、また急激に成長するようになりました。

世界で初めて、ガバナンスという概念を取り入れた企業は、オランダの東インド会社(Vereenigde Oost-Indische Compagnie、通称VOC)だといわれています。ご存知のように、西洋列強による植民地政策は、ほとんどが失敗し宗主国に利益をもたらすことはありませんでしたが、唯一オランダ東インド会社による植民地政策だけが例外で、宗主国オランダに利益をもたらしました。

VOCは、ガバナンスの概念をどこから導入したのかは、はっきりしていません。しかし、当時のオランダでは、共和国制が採用されており、政府の統治は、議会、行政、司法の三権分立によって行われていました。この三権分立の考え方は、VOC憲章にも取り入れられ、VOCの統治体制の根幹となりました。さらに、当時の行政府は現在と比較するとかなり規模が小さく、特に政府の規模は小さく、統治に専念していました。統治と実行は厳密に区分されていました。

また、VOCは、東インド貿易を通じて、アジア諸国の政治や経済を学ぶ機会にも恵まれました。これらの経験から、VOCは、ガバナンスの重要性を認識し、それを自社の統治体制に導入したと考えられます。

VOC憲章は、ガバナンスの概念を初めて企業に導入したものとして、世界史上重要な役割を果たしました。VOC憲章は、その後のヨーロッパの企業経営に大きな影響を与え、現代のコーポレートガバナンスの基礎を築いたのです。

イギリスのインド統治も、統治と実行の分離は劇的に功を奏しました。統治者は、インド総督とその補佐官たち(20人程度の若者たち)でした。彼らは、インドの行政、軍事、外交などの全体的な統治を担っていました。しかし、実行の細かい部分は、現地の官僚や軍人、警察官に委ねられていました。

統治と実行を分離したことで、インド総督とその補佐官たちは、インドという巨大な植民地を、わずかな人数で統治することが可能になったのです。

このことを学んだ大企業は今日世界中で、統治と実行を分離しています。多くの形式や様式がありながらも、本社(本部)と子会社(事業会社)に分離し、本部が統治をし、事業会社が実行をするのです。これを曖昧にしたまま、企業規模を大きくすると、統治も実行もその能力が麻痺してしまうのです。

一方、行政府のほうは世界中で年を追うごとに肥大化し、統治と実行の区分が曖昧になり、今日機能不全に至っています。これを是正すべきとして、「小さな政府」を望む声も上がったのですが、未だそれは実現されていません。

さて、話を元にもどさせていただきます。多くの小規模事業や、中小企業がある時点から成長しなくなるのは、統治と実行を分離しないままというのが大きな要因です。急速に成長するベンチャー企業等が、途中から駄目になってしまうのもこれを曖昧にしたままというのがほとんどです。

中小企業においても優れた経営者は、ある時期から実行部分からは手を引き、部下や親族にそれを任せて自らは統治に専念するようにします。実行部分にはほぼ口を出しませんが、ただし、統治の観点からずれた場合にだけ、それを是正させるためにだけ口を出すようにします。

そうして、名ばかりの取締役ではなく、本当の意味での統治ができる取締役を育てることができた企業だけが、さらなる成長ができるのです。

ただ、世界中の巨大化してしまった政府が、未だに統治と実行が明確に分離されていません。その中でも、日本は特に分離されていません。政府の統治部分と官公庁の実行部分が分離されておらず、両方とも統治と実行を同時に中途半端に行い、能力が麻痺しているのです。そのような観点からみると、現状の日本の政治が信じられないほど非生産的で非効率であることが良く理解できます。

その中にあって、安倍晋三氏は首相として、大きな枠組みでものごとを考え、他の政治家よりは、統治に注力できたのでしょう。

安倍首相のセキュリティダイヤモンド構想で言及された四カ国

岸田首相や現状の多くの政治家に欠けるのはこの部分なのかもしれません。私は、上の記事「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」というアドバイスには概ね賛成なのですが、ただ、「大きな枠組み」でものを考えると言う姿勢なしに、このアドバイスに従えば、ただの「ボケ」にしかならないと思います。

現在の政治の仕組みは、残念ながら政府が統治に専念できる仕組みにも、官公庁が実行に専念できる仕組みになっていません。そのため、双方とも能力が麻痺しています。マスコミや評論家は、この麻痺状態を報道したり、仔細に分析するのみです。

ありていにいえば、政治家も、官僚も本来できもしないことを、できるという幻想に浸って、日々摩耗しているといえるのではないでしょうか。マスコミ等も出来もしないことを、できるはずだといって、本質には触れず、人の資質などに原因を求め、見当違いの批判を続けているというのが実情です。だから、それを見ている視聴者も閉塞感に苛まされることになるのです。

そこに、大きな枠組みで物事を考える、既存の政治家からみると稀有な存在である、安倍晋三氏が登場して、様々な改革を行ったのてす。

ただ、国民とすれば、稀有な存在である安倍晋三氏のような人物がでてくるのをいつまでも待つわけにはいきません。

やはり、現在大企業が行っているように、政治組織の統治と実行は分離すべきなのです。そうして、双方の麻痺を取り払い、まともに機能するようにすべきなのです。これは、旧来の枠組みから一歩もはみ出ることのできない、既存の政治家などにはできないことです。自民党内の若い世代の政治家、日本保守党などのような新たな勢力がこうしたことを推進していただきたいです。

それになし、個別で経済、安保、外交などを推進したとしても、物事はうまくは進まず、その挙げ句の果てに、政権が変わったり、状況が変わってしまえば、なし崩しになってしまいかねません。

私は、最終的には政府の下部組織である、官公庁は、何らかの形で、政府の外に出すべきと思っています。そうして、政府は統治、政府の外の官公庁は実行に専念する形を取るべきと思います。官僚組織は、そのようになってはじめて有効に機能するようになります。

しかし、ここで完璧主義の罠に嵌ることは避けるべきとは思います。完璧でなくても、少しでも改善すれば、結構な成果をあげられます。改善するたび、齟齬がないかを検証しながら実行すべきでしょう。急激な改革は、大きな歪をもたし政治的混乱をもたらす可能性もあります。

しかし、この方式の正しさは、すでに大きな枠組みで物事を考える安倍首相の登場で、それまで停滞していた、経済、安保、外交が進んだことでも証明されたと思います。大きな枠組みで考える習慣こそが、安倍晋三首相をして、他の政治家と比較すれば、統治に注力させることになったのです。

現状においては、岸田首相には、こうした安倍首相の統治に力点を置く、姿勢を見習ってほしいです。無論、大きな枠組みで考えるとはいっても、安倍晋三氏のようにはできないかもしれません。しかし、自らの得意分野だけでも、そうすれば、それだけでも、随分と変わると思います。そうして、統治と実行を分離することを目指しつつ、現状でできうる範囲内で組織改革をすべきです。そうすれば、さらに政治の世界もす少しずつでも変わっていくでしょう。

多くの政治家が政治改革にこれまでも取り組んできました。しかし、あまり成功したためしはありません。それは、おそらく、政府は統治に専念すべきという原則を忘れていたからだと思います。それなしに、政府や各官公庁がたとえどんなに素晴らしい戦略・戦術案や企画を立案し、能力が高く素晴らしい政治家が、理想に燃えて、政策提言を行ったとしても、統治も実行も麻痺している現状では、何事もうまくいきません。当然の帰結なのです。

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