2018年10月4日木曜日

政府の“プロパガンダ”も成果なし? 世界中で中国の「好感度」が上がらないワケ ―【私の論評】中国の行き詰まりは、日本のパブリック・ディプロマシーにとってまたとないチャンス(゚д゚)!

政府の“プロパガンダ”も成果なし? 世界中で中国の「好感度」が上がらないワケ 

 「残念なことに、中国が11月の中間選挙に介入しようと試みていることが分かった」

 9月26日、国連安全保障理事会でドナルド・トランプ米大統領がそう発言して話題になっている。トランプは続けて、「彼らは、私が貿易問題で中国に盾突いた初めての米大統領だから、私、あるいは共和党に勝利してほしくないのだ」とも述べている。

 この翌日には、その根拠となるような話を、写真入りでTwitterにアップ。中国国営英字紙チャイナ・デイリーの写真とともに「中国は実際に(アイオワ州の地方紙)デモイン・レジスター紙や他の新聞で、ニュース記事のように見せたプロパガンダ広告を入れている」というメッセージをポストした。

 こうしたトランプの発言は、11月の中間選挙に向けたアピール以外の何物でもない。また米国のテリー・ブランスタッド駐中国大使も9月28日、「中国政府は、プロパガンダを広めるために、米国が守る言論と報道の自由という伝統を利用している」と発言している。こちらは中国だけでなく、トランプを意識したアピールだと見ることができるだろう。

 もちろん、中国によるプロパガンダは実際に行われているし、そもそも今に始まったことではない。最近、中国が世界的にイメージ向上を狙ったプロパガンダを強化していることも確かだ。だが、実は中国のプロパガンダは、トランプが懸念するほどの力はなく、成果も出ていない、というのが実情だと言える。そこで、世界に対する中国の「プロパガンダ」の実態について探ってみたい。

世界で展開されている中国のプロパガンダ。その実態とは?

■「世界は中国をもっと知る必要がある」

 2016年末、中国の国営テレビ局である中国中央電視台(CCTV)の外国語放送を行う部門が、「CGTN」という新たな部門として再スタートすると発表された。CGTNの発足は、中国政府による対外的な情報発信の強化を意図しており、プロパガンダ強化の一環だとされる。

 最近のプロパガンダの強化は、習近平国家主席の肝いりだとみられている。習はこれまで「世界は中国についてもっとよく知る必要がある」と主張したり、「中国のストーリーをうまく伝える能力を高めなければならない」などとコメントし、やる気をアピールしている。

 さらに18年3月には、中国政府がCCTVと、対外向けラジオ局である中国国際放送局(CRI)、そして国内向けの中央人民広播電台(CNR)を統合し、「ヴォイス・オブ・チャイナ(中国の声)」という組織の発足を発表。ヴォイス・オブ・チャイナは世界最大規模の放送局になり、60以上の言語で放送を行うという。公式発表によると、ヴォイス・オブ・チャイナは「中国共産党の見解と指針、政策を広めること」を目的に、「国際的な放送の力を強化する」ことになる。

 米CNNは、戦時中からある米国営放送「ヴォイス・オブ・アメリカ」をまねたヴォイス・オブ・チャイナは、「中国政府の新たなプロパガンダ兵器」だと指摘している。

 こうした最近の動きは、プロパガンダを今以上に組織的に行うのが目的であり、今後、世界的に中国のポジティブな情報を浸透させたいという狙いがある。

 これまでも、中国が世界でプロパガンダ工作を行ってきたことは知られている。中国政府は、対外的なさまざまなプロパガンダ工作のために、年間100億ドル(約1兆1000億円)を費やしているとも言われている。

 例えば、有名なところでは、孔子学院が最たる例だろう。孔子学院は世界140カ国以上に施設を設置しており、日本でも私立大学との提携でいくつもの学院が開設されている。そこで中国政府の方針にのっとった「中国文化」が教えられている。ただ、FBI(米中央情報局)は18年2月、スパイ工作やプロパガンダ行為をしているとして孔子学院を捜査していると述べている。

 また、中国政府の裏工作も暴露されている。中国は、CRIやフロント企業を使って、米国など世界14カ国にある33のラジオ局で主要株主になるなどして、目立たないように裏でコンテンツを支配していることが明らかになっている。そうした局では、中国寄りの放送はするが、中国に都合の悪いニュースを排除しているという。

■好感度は上がっていない

 冒頭でトランプが批判した中国国営英字紙のチャイナ・デイリーの件も、いまさら驚くような話ではない。チャイナ・デイリーは、デモイン・レジスター紙に「チャイナ・ウォッチ」という4ページにわたる広告セクションを入れていた。ただこのやり方は、欧米メディアでは珍しい話ではなく、チャイナ・デイリーは広告セクションにページを入れてもらうために「広告費」を支払っている。日本などでも広く行われている、いわゆる「記事広」(編集記事のように見せた広告)のようなものである。

 またこんなケースもある。英国では、デイリー・メール紙がオンライン版に中国国営の人民日報の記事を週40本掲載するという契約で契約料を受け取っている。デイリー・メール紙から見れば単なるビジネスだが、中国側からすればプロパガンダ戦略の一環である。

 筆者が留学していた米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)でも、学内の掲示板のあるコーナーには、学校新聞「ザ・テック」に並んでチャイナ・デイリーがいつも山積みにされていた。学内のあちこちで、無料で手に取れるように置いてあったのである。他の大学でも同じように置かれているところが少なくなく、さらには国連関連の機関などにも配られているという。

 このように、中国はあの手この手でプロパガンダを実施してきた。ただ残念ながら、こうした取り組みの効果は、これまでのところ微妙だと言わざるを得ない。米調査機関のピュー研究所が世界38カ国で実施した調査では、09年に中国政府が対外プロパガンダの強化を始めたとき、中国を好意的に見ている人は50%ほどいた。だが17年にはそれが3ポイント低下。少なくとも、好感度アップにはつながっていなかった。

 また、米ジョージ・ワシントン大学国際関係大学院中国政策プログラムのディレクターで中国専門家のデイビッド・シャンボー教授は、「圧倒的にネガティブな見方が多く、好感度は時間をかけて落ちている。09年と15年を比べると好感度は20%も落ちている」と指摘している。

 少なくとも、イメージは以前と比べて大して良くなっていないということだろう。そんな背景から、中国は最近になって、あらためて強化策を行っていると考えられている。

プロパガンダを強化してきたが、中国のイメージは大して良くなっていない

■国内弾圧でイメージ悪化

 ただ残念ながら、世界に向けて大枚をはたいて実施しているプロパガンダも、国内での過剰な弾圧によって、一瞬にして全てが台無しになってしまうケースが相次いでいる。最近でも、18年8月に山東大学の中国人元教授が、山東省の自宅から米国のラジオ番組に電話で生出演している最中に、治安当局者が自宅になだれ込む事態が起きた。

 元教授は生放送で政府に批判的なコメントをしていたのだが、最後に「表現の自由があるのだ!」という言葉を残して中継は切られた。結局、元教授はその場で拘束されたのだが、この顛末(てんまつ)は欧米メディアで大きく報じられ、多くが中国の強権イメージを再認識することになった。

 またアフリカ東部のケニアでも18年9月、ケニア警察が不法移民取り締まりのためにCGTNのアフリカ本部を強制捜査して中国人記者らを一時拘束する騒動が起きている。また在ケニアの中国人実業家がケニア人を「みんな猿みたいだ」などと発言する動画が拡散され、この中国人は逮捕された。この1件も世界的に大きく報じられている。

 政府がどれだけ中国政府や文化のイメージを向上させようと画策しても、SNSなどが広く普及している現代では、中国当局の恐ろしさと一部の中国人らの素行の悪さは隠し切れない。

 まずは国内の現実に目を向け、そこから改善しないことには、プロパガンダもなんら意味を成さなくなる。中国は、対外的なPR活動なんかよりもまずは国内に目を向けるべきである。

 ちなみに、11月の米中間選挙までは、トランプの対中ネガティブキャンペーンは話半分で聞いておいたほうがいいだろう。

【私の論評】中国の行き詰まりは、日本のパブリック・ディプロマシーにとってまたとないチャンス(゚д゚)!

「残念なことに、中国が11月の中間選挙に介入しようと試みていることが分かった」というトランプ大統領の発言は単なるネガティブキャンペーンとはいえないでしょう。実際にあらゆる手段を講じて中国はこれに介入しようとしているに違いありません。

中国の真の姿を知ってしまえば、このように考えるのが当たり前です。これを単純にネガティブキャンペーンと受け取る人は、米国のリベラルメデイアによるキャンペーンによりかなり偏向した見方しかできなくなった人だと思います。とはいいながら、中国の対米国プロパガンダもしくは対中国パブリック・ディプロマシーは最近効果がなくなってきているのは事実です。


今日、海外の世論をめぐり、各国はパブリック・ディプロマシー(PD)(定義は後に掲載します)を活発に展開するようになりました。特に米国はPDの主戦場であり、米国世論をめぐる各国のPD合戦は凄まじいものがあります。

しかし、今、その環境が変容しつつあります。その原因が、中国の対米世論工作、つまりはPDの行き詰まりです。中国ではPDを「公共外交」と呼び、中国のソフトパワーを行使する手段として、これを重視してきました。

ただし、中国は自らの民主化されておらず、政治と経済が分離されおらず、法治国家化もされていない現状は表に出さず、自らの良い面を強調し、日本などは貶めるような工作をしてきたので、これはPDというよりは、やはり本質的には旧来のプロパガンダと変わりはないだけで、目先を変えただけのものが中国のPDということできると思います。

中国は、これまで米国においても活発にPDを展開してきましたが、ここに来て手詰まり感を見せ始めました。その一例が、全米に設置されている孔子学院の相次ぐ閉鎖です。例えば、フロリダ州北フロリダ大学は、学内に設置されている孔子学院を、2019年2月には閉鎖する方針を固めました。

孔子学院の設置は、中国のPDの中でも特に重視される手法の一つです。孔子学院は中国政府の非営利教育機構であり、中国語や文化の教育をはじめ、宣伝、中国との友好関係の醸成などの一環として世界中の教育機関に設置されています。特に米国における文化・教育の普及活動には熱心です。

孔子学院をめぐっては、最近になって、米国内で「中国政府の政治宣伝機関と化している」などとの批判が高まる傾向にあります。孔子学院は中国政府から資金を得ており、米国の教育機関から、「学問の自由に反する」と批判され、また、学内で中国に有利なプロパガンダを宣伝していると懸念されています。

米国では孔子学院に逆風が吹いている

このように、日本PDの最大のライバルともいうべき中国の米国に対する働きかけは難航しています。日本においても、PDの必要性が叫ばれる今日、こうした状況をどのように捉えるべきなのでしょうか。

PDとは、海外における自国の利益と目的達成のために、メディアでの対外情報発信や、海外の個人や組織との文化や教育に関する交流などの活動を通じ、海外における自国のプレゼンスやイメージの向上を目指す活動を指します。

大戦期に各国が戦略として用いた「プロパガンダ」が元々の形態であるとされます。しかし、戦後は「プロパガンダ」という言葉がネガティブなイメージとして想起されるようになり、PDという言葉が誕生しました。冷戦終結後には、ソフトパワーの重要性が増大したことや、世論が政府の政策決定において果たす役割が増大したことなどから、米国を中心に、各国がPDを重視する政策を採用していきました。


中国のPDは、日本がPDの重要性について着目するかなり以前から政治、経済、文化など、あらゆる分野において活発に展開してきました。その起源は天安門事件にあるといわれています。1989年6月4日に生起した天安門事件によって欧米諸国のメディアなどが作り上げた中国のマイナスイメージを払拭することが、当初の目的であったのです。

21世紀に入ると、中国は目覚ましく台頭していきます。中国の経済発展が急速に進行し、米国をはじめ、国際社会における中国のプレゼンスは格段に高まっていくこととなりました。

そして中国は、天安門事件以降の経験などから、PDが米国内の世論形成に大きな役割を持っていることを認識し、米国向けに積極的な活動を行ってきました。米国の政府機関などを通じた間接外交だけでなく、例えば、米国在住の華人を同胞として重視した地方都市における草の根レベルでの働きかけ、企業や市民団体との連携など、政府が前面に出ない形のPDを展開してきたのです。

とりわけ米国一般世論に働きかけるためには多彩なメディア戦略が必要だとの認識から、米国メディアへの働きかけをはじめ、中国中央電視台米国 (CCTV America)の発足や、China Watchの広告広報など、多大な努力を払ってきました。

特に2012年に米国に開局したCCTV Americaは、演出戦略などが卓越しているといわれます。多くの米国人をはじめとする外国人に視聴してもらうために、キャスターの人選や多言語化など、多様な演出の工夫を凝らしてきたことが功を奏したのでしょう。

文化・教育面では、孔子学院の拡大をはじめ、米国メトロポリタン・オペラで中国を舞台とした巨大オペラを上演するなどして、中国のイメージ向上に努力してきました。

メトロポリタン・おベラ

特に孔子学院については、中国の代表的なPDとしても有名で、海外の大学などの教育機関に設立しています。中国が米国に設置した孔子学院の数は110であり、世界全体における同学院の総数525(2018年9月時点)の約21%を占めます。これは、ほかの地域や国における数と比較して、群を抜いて多いです。

こうした中国の対米PDの影響は、米国世論にも表れ始めました。米国における対日世論調査(2016年度末まで外務省が実施)において、自国にとっての「アジアにおける最も重要なパートナー」を、「日本」ではなく「中国」と位置付ける見方が増え始めたのです。特に、日本がPD強化戦略をとる以前は、有識者の間にもこの考え方が浸透しており、2010年には「中国」が「日本」を20ポイントも追い抜き、調査開始以来最大の開きとなりました(中国56%、日本36%)。

そして、その後しばらくの間、「中国」が「日本」を上回る情況が続くこととなりました(下グラフ参照)。

外務省データより作成(以下同じ)

さらに中国は、日本を劣勢に立たせる形で、米国の対中政策に有利に作用させようとするPDも展開してきました。例えば、中国や韓国が国際社会において対日批判を激しく行う状況が多発し、その韓国の活動に中国が協力する形でPDを展開しています。その影響は、徐々に米国国内でも現れるようになりました。現地メディアが日本の慰安婦問題や靖国神社参拝問題に関し、日本を批判的に取り上げるようになっていたのです。

中国にとって都合が良いのは、日米関係が悪化することです。しかし、中国が単独で、米国の対日感情を悪化させたわけではないです。米国内でも中国のプレゼンスが増大しており、米国自身が日米同盟を維持しながら中国とも良好な関係を構築しようとしたこともその一因です。

そうしたなか、同盟国の日本が歴史認識をめぐる問題や領土問題などで中国と対立することに対して、米国内で不快感が広がっていきました。さらに、歴史認識をめぐる日本政府の強硬な姿勢が、中国の反日的なPDを後押しする形となり、米国が「失望」という声明を出すこととなってしまいました。こうした状況を背景として、米国世論のなかでも、日本より中国をアジア最大のパートナーと見なす考え方が増えていったのだと考えられます。

このように、中国の米国におけるPD戦略は、日本にとって不利に作用していました。安倍政権による2015年度のPD強化戦略も、こうした事態に対する強い危機感があったからだと考えられます。

しかし、冒頭の記事にもみられるように、中国のプロパガンダ(PD)は、効き目がないようです。日米関係を悪化させるかに見えた中国の対米PDが、行き詰っているように見受けられます。しかも、文化、経済、政治と、多岐にわたる分野で上手くいっていないようです。

文化面でいえば、先に紹介した、米国各州の教育機関における孔子学院の相次ぐ閉鎖です。米議会では、共和党のルビオ上院議員をはじめ複数の議員が、孔子学院の閉鎖を働きかける活動を展開しており、これまで、シカゴ大学やペンシルバニア大学をはじめ、最近では2017年9月にイリノイ大学の、2018年4月にテキサス農工大学の孔子学院が次々に閉鎖を決定しています。

さらに2018年2月には、米連邦捜査局(FBI)が孔子学院に対して、スパイ活動容疑やプロパガンダ活動容疑で捜査を開始しました。

また、経済面では、トランプ政権誕生後、米中の貿易摩擦が「貿易戦争」と呼ばれるまでに緊迫しており、中国の通信機器大手であるHuaweiなどの通信機器の販売を制限・禁止する動きを見せています。そのHuaweiは、2018年に入ってから、米国におけるロビー活動費を大幅に削減し始めました。米国議会に対するロビー活動を縮小させたのです。

同社は民間企業でありながら、中国人民解放軍の退役軍人が創業した「人民解放軍のスピンオフ企業」ともいわれており、米国では中国人民解放軍や情報機関との関係が疑われていた企業です。

一見すると、米中の貿易摩擦の一環とも受け取られるこの問題は、実はPDの問題でもあります。政府が関係するロビー活動がPDの手法の一つといわれることに鑑みても、Huaweiは中国のPDの担い手の一部であるといえるからです。

さらに、政治面では、中国政府がワシントン所在の有力シンクタンクに資金提供を行っているとされており、それが最近になって米国内で問題となっています。2018年8月25日までに米議会が発表した報告書によると、中央統一戦線工作部(統戦部)が主体となり、米国政府に影響力を持つシンクタンクに資金提供し、中国寄りの立場をとるよう働きかけを行っていたといいます。

統戦部は、海外におけるPDを実施する組織であり、プロパガンダ工作も行っているとされます。報告書によると、統戦部と深い関わりを持つ中国の非営利団体「中米交流基金」が、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院をはじめ、ブルッキングス研究所、戦略国際問題研究所(CSIS)、大西洋評議会、カーネギー国際平和基金など、米国の外交政策策定に影響力を持つ多数のシンクタンクと研究活動などを通して提携していたといいます。

さらに、同基金がワシントンにおいて数十万ドルもの予算を投じてロビー活動を行ったり、統戦部が全米の巨大留学生組織「中国学生学者連合会」と連携してスパイ活動に準ずる活動を行ったりしているともいわれています。共和党のクルーズ上院議員も、これを問題視し、今年1月にはテキサス大学に対して交流基金からの資金提供を受けないよう促しています。


中国のPDの強みは、共産党独裁体制のもと、予算や人員といった豊富な資源を状況に応じて自在に投与できることです。米国の議員や大手企業幹部に働きかけるために多額の予算を組み、ロビー活動を通じて親中派を増やしているともいわれます。

中国は、経済・文化交流を通じて世論を誘導あるいは分断し、敵の戦闘意思を削ぎ、戦わずして中国に屈服するよう仕向けることを目的とした「三戦:輿論戦(世論戦)、法律戦、心理戦」を掲げています。PDは中国にとって安全保障戦略の重要な一部でもあるのです。その中国の対米PDが、今、転換点を迎えています。この状況を受けて、日本はどうすべきでしょうか。日本のPDの今後のあり方について検討してみます。

以下に日本のPDのあり方について考える際に注意すべき3つの点を確認しておきます。

(1) 世論の変化に敏感に。中国の動向など外部要因を吟味。
二次安倍政権発足当初は日中間で揺れていた米国世論も、最近では再び日本寄りになってきています。前出の外務省の世論調査において、2014年以降は「日本」が逆転する一方、「中国」を「アジアにおける最も重要なパートナー」とする一般世論は、減少傾向にあります(下グラフ参照)。

しかし、こうした状況を楽観視して良いわけではないです。有識者に限っていえば、日本を「アジアにおける最も重要なパートナー」と見なす考え方が減少傾向にあるからです。2014年はこれまで最も多い58%が日本を「最も重要なパートナー」と見なしていたのですが、それ以降は年々減少し、2016年には前年より14ポイントも落としてしまいました(グラフ3参照)。


米国の有識者は、政府の政策決定に直接的な影響力を持ちます。アジア最大のパートナーとして「日本」を選ぶ有識者の割合は「中国」より上回っているものの、その考え方が減少傾向にあるのは望ましくないです。
2016年にネガティブな視点が出てきた背景には、2016年11月に行われた米大統領選で勝利したトランプ大統領の影響があります。トランプ氏が選挙中から日米同盟を軽視するような発言を繰り返したり、TPPからの離脱を表明したりしたことが、今後の日米関係に対する米国有識者の見方に影響したと考えることもできるでしょう。
ただし、トランプ氏は保守派であり、米国の保守派の歴史の見方は近年変わってきており、単純な「日本悪玉論」は忌避される傾向にあることは、以前のこのブログに掲載したことがあります。 
世論調査の結果と日本PDの関連についての判定は簡単ではないです。しかし、検証が困難だからといって、何もしなくて良い訳ではないです。日本は、米国におけるPD環境が変化しつつあることを認識し、中国の対米PDの行き詰まりを、自らのPDを一層推し進めるチャンスと捉えるべきです。PDの効果が表れるのには時間がかかります。中長期的な視点が必要とされるのです。
(2) PDに安全保障の視点を。日本主導で海外シンクタンクとのタイアップ。
日本のPDのあり方を考える時、PDを展開する国の関心を理解することが重要です。特に米国に対してPDを展開する際は、「中国の台頭」や日米同盟の存在を無視することはできず、安全保障の視点を交えてPD戦略を考えなければならないです。例えば、日本に対する米国社会の支持を得るべく、広報や宣伝活動に加えて、日本主導で米シンクタンクなどと共同研究や机上演習を行い、その成果物を、米国メディアを通じて米国内の一般世論に働きかけていくのも一案です。安全保障分野での、こうした双方向性を重視したPDは、新しい取り組みとなることでしょう。
(3) 感情的にならない。グローバル・スタンダードに沿った理知的な発信を。
歴史認識をめぐる問題については、中国や韓国が、海外(特に米国)において反日的ロビー活動を行ってきました。過去には、国際社会における中韓の反日ロビー活動は一定の「成果」を挙げており、当時は、日本もこうした海外の反応に抗議する形で発信してきました。
しかし、最近では、世界的に女性の権利擁護の意識が高まり、女性への性犯罪は厳しく断罪されています。そして慰安婦問題は、国際社会では今日の人権や女性の権利の問題として受け止られる傾向にあるのが現状です。
強硬な抗議を展開するだけでは、実情をよく理解しない国々に感情的な反応と捉えられかねないです。中韓に反発しているという印象を与えることは、かえって日本にとって不利になります。グローバル・スタンダードに沿った理知的な発信とするためには、間接的ではあっても、現在の日本がどのような国であるのかを発信することによって、日本の悪いイメージを植え付けようとする中韓の試みを無効化することができるでしょう。
中国は「日米離反」が中国の対米PDの主目的である。日本が歴史問題で中韓の挑発に乗ってしまえば、向こうの思う壺となってしまうのです。
対米PDの最終的な着地点は、日本に対するポジティブな米国世論が定着、拡大し、より幅広いグループや年代に日本に興味を持ってもらい、日米関係が発展することです。その鍵は、従来のPDが重視する広報や文化を通じた交流のみならず、政治や安全保障といった分野でも協力し、一般から有識者まで、幅広い米国の個人や団体などとの関係を発展させることにあります。

日本の多様な魅力の発信拠点であるジャパン・ハウスは、ロンドン、ロサンゼルス、サンパウロの世界の3大都市でオープンし、強力に発信し始めました。しかし、これらの都市が存在する国以外でも、中国をめぐる世論やPD環境が変化しているのです。そこには、日本にとって、有利な変化も不利な変化もあります。

ジャパンハウス・ロサンジェルス

日本におけるPDの考え方やその戦略は、未だ発展途上にあります。これからの時代の外交にあっては、周辺の国や地域の情勢や考え方の変化を敏感に受け止め、世界的な視野に立ち、独りよがりになることなく、相手から受け入れられるメッセージを発信ことが必要となってきます。また、PDの効果を左右させうる外部要因を上手く利用する形で、自らのPDの方途も柔軟に適応させていく能力が求められるでしょう。

特に「中国のPDの行き詰まり」は、日本のPDにとってまたとないチャンスであると考えられます。

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2018年10月3日水曜日

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中国、米国留学禁止を通達…米中貿易摩擦で米国による人質化を懸念、機密情報が中国に流出か

トランプ大統領

 中国共産党指導部はこのほど、トランプ米大統領が「米国に来るほとんどすべての学生はスパイだ」との内容の発言を行ったことを受けて、北京や地方の党・政府組織に対して、「幹部子弟の米国留学の禁止および留学中の幹部子弟の年内帰国に関する通達」と題する内部文書を伝えたことが明らかになった。

 米中貿易摩擦が激化し、両国関係が日増しに悪化するなか、党政府幹部子弟が「人質」化することや、スパイの嫌疑をかけられて拘留されることなどを危惧するとともに、留学費用などで米国を経済的に利することを嫌ったためとみられる。

留学生による機密情報の国外流出を懸念

 米政治メディア「ポリティコ」は8月8日、トランプ氏が7日夜、ニュージャージー州の自身のゴルフ場で開いた経営者との夕食会で、「中国人学生スパイ説」を唱えたと伝えている。ホワイトハウスは発言の内容を確認していないものの、米国務省報道官は記者会見で、「米国は中国と強い人的つながりを持っているが、学生の一部が米国の技術や情報を持ち帰ることを懸念している」と述べて、留学生による機密情報の国外流出の事実を認めたかたちだ。

 トランプ政権は昨年12月、安全保障政策の基本方針を示す「国家安全保障戦略」のなかに、競争相手国への知的財産の流出を防ぐためビザ発給手続きを見直し、「特定国からの理工系留学生への規制を検討する」ことを明記している。これを受けて、今年に入り、すでに中国の知的財産権侵害に対抗する制裁措置を発動した。

 このようななか、国務省は今年6月、ロボット工学や航空工学など高度な製造技術を専攻する中国人学生へのビザ発給を厳格化しており、オバマ前政権が1年から5年に拡大した有効期間を逆に1年に戻してもいる。

 さらに、トランプ政権は中国からの輸入品に25%もの関税をかけるなどの対中制裁を次々に発表していることから、「中国指導部は貿易摩擦問題が短期間で解決するのは難しく、米中関係の悪化も長期化するとみて、党幹部子弟の帰国および今後の米国留学禁止を打ち出した」と北京の外交筋は明かした。

 米国国務省教育文化局などの調査によると、昨年6月末現在、米国の中国人留学生は前年比6.8%増の約35万人で、11年連続で増加中だ。2016-2017年度における米国の大学の留学生数は前年比3.4%増の107万8800人だが、そのうち中国大陸部からの留学生の比率は32.5%を占めており、大半は中国における特権階級である党幹部の子弟とみられる。

 同筋は「習近平国家主席の一人娘の習明沢さんがハーバード大学に留学していたのは有名だ。米中関係が良好な時期には米政府も幹部子弟に配慮したが、トランプ政権下では逆に目をつけられ人質化することを中国指導部は恐れているようだ」と指摘。

 さらに、指導部による留学禁止通達の狙いをもう一つ付け加えると、経済的な問題だ。米国国務省教育文化局などの調査によれば、留学生が昨年度1年間で米国にもたらした経済効果は369億ドル(6273億円)で、45万人の雇用を創出している。

 同筋は「指導部から見れば、留学により、幹部子弟が米当局に目をつけられるほか、貿易摩擦で中国の経済的な基盤が切り崩されるなか、中国人留学生が米国経済にも利益をもたらしていることに我慢ができないのではないか」との分析も明らかにしている。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

【私の論評】中国人留学生は、本人の意志に関係なく既にスパイか工作員か国家の意志によりいつでもそうなり得る(゚д゚)!

中国の情報当局の工作員がアメリカの大学に入り込み、テクノロジー分野などの情報を入手している疑いがありますが、大学側はこの重大な問題にほとんど気づいていないと、クリストファー・レイFBI長官が2月13日に警告しています。

クリストファー・レイFBI長官

レイは上院情報委員会の公聴会で、中国人スパイとおぼしき人々は「教授、研究者、学生」など様々な立場でアメリカの最高学府に入り込んでいると述べました。オンライン紙マクラッチーDCの報道によれば、中国のスパイ網は全米に張り巡らされているため、全米各地のFBI支部が捜査に乗り出す必要があると、レイは訴えました。

FBIは中国政府が資金援助を行っている大学の教員らを監視しているが、それらの大学はキャンパスでのスパイ活動にまったく気づいていないと、レイは語りました。。

「大学関係者があきれるほど無防備なことが問題だ。アメリカでは研究開発の場は非常にオープンで、それは素晴らしいことだが、彼らはそこにつけ込んでいる」

マクラッチーによれば、全米各地の大学にいる中国人留学生はざっと35万人。アメリカで学ぶ外国人留学生は100万人なので、その35%にも上ります。

レイによれば、中国がアメリカの大学に目をつけたのは、次世代テクノロジーが次々に生まれる場だからです。

「アメリカはイノベーション大国で、大学発のベンチャーで有望な技術がどんどん生まれている」

大学は研究者や学生が情報を盗むことなど想定していないため、現状では情報が漏れ放題になっているが、大学当局の意識を変えれば、有効なスパイ対策ができると、レイは指摘しました。

「民間部門は(スパイ活動を)見抜くことに慣れていない。何に気をつけるべきか、彼らを教育する必要がある」

米国での中国人留学生は、単にスパイの脅威だけではありません。他にも重大な脅威があります。

中華人民共和国(PRC)には「国防動員法」という法律があります。2010年2月26日に採択・公布され、同年7月1日から施行されています。ちなみにこの法律は、準備期間に26年もかけたのだそうです。

まず、「国防動員」とは何でしょうか。手元にあるブックレット「中国『国防動員法』-その脅威と戦略と」によると、「国家あるいは政治的集団が平時体制から戦時体制に移行し、戦争に必要な人力、物資、財力などの調達を統一的に行うためにとる措置、および行動」であって、「武装力動員、国民経済動員、人民防空動員および政治動員に区分」されると書いてあります。

一言でいえば「国防動員」とは「戦争動員」のことです。日本でもかつて「国家総動員法」が制定されていました。学徒動員や女子挺身隊などは、国家総動員法に基づいて実施されました。

ところが中国の「国防動員法」は、日本の「国家総動員法」とは少し違います。戦争中だけでなく、平時であっても中国人民を動員できるのです。いや、動員できるのは中国人民に限りません。PRCの領土内にある外国系企業も動員の対象です。

つまり、この法律が適用された場合、例えば兵器に転用できる部品を生産するようPRCが外国企業に要請し、その要請に応じない場合、外国企業は罰金などの処罰を受ける可能性があるということです。

ちなみに動員対象の中国人民については、「18歳から60歳の男性公民と18歳から55歳の女性公民は、国防勤務を請け負わなければならない」という規定があり、妊婦など一定の条件に当てはまる人は動員を免除されます。しかし、その免除条件の中に、「外国に居住する人」とは書かれていません。

つまり、米国に数三十五万人はいる中国人留学生や技能研修性も、中国から戦争のための動員命令が来たら、それに従うしかないのです。武器さえあれば、兵士に早変わりです。

長野オリンピックの聖火リレー沿道に翻った「五星紅旗」

そうして中国は国防動員法に基づく動員命令の予行演習を、2008年4月に日本の長野県で実施済みです。この時は、4000人の中国人留学生が長野に動員されたと言われています。私は、当時テレビでこの様子をみましたが、本当に異様な光景でした。

中国が北京オリンピックの聖火リレーの際、長野県の善光寺に協力を仰いだところ、仏教徒であるチベット人民を弾圧する中国に協力は出来ないと善光寺が断り、さらにチベット支援者が長野に集結することになったので、中国も中国人留学生を動員して、この運動を邪魔しようとしたわけです。

外出先から家に帰ると、自分の部屋の中に最寄駅から長野まで往復の切符と動員の指示書、そして大きな「五星紅旗」(PRC国旗)が置いてあったと証言した中国人留学生もいたそうです。

日本の大手マスコミはこれをほとんど報じなかったので、知っている人は今でも少数派です。これについては、YouTube やGoogleで「長野 五星紅旗」と検索すれば、今でもかなりの動画や写真を見ることができます。

https://goo.gl/210hqb
https://youtu.be/JAdrqYcrcxE

これらの写真や動画を見れば、中国による「日本侵略」が、とっくの昔に始まっている事実が分かるはずです。それに危機感を持たない日本人が多いことに、焦燥感を覚えています。

サンフランシスコでもパリでも、五星紅旗が沿道に林立しました。各国の在住中国人に動員がかかっていたからです。

パリ共和国広場に集合した中国人留学生たち
米国は、現在中国に貿易戦争を挑んている最中です。この米国で中国人留学生が「国防動員法」に基づき、何か米国内で工作をする可能性は否定できません。米国に限らず、日本や他の先進国なとは要警戒です。

これは、人種差別とか中国差別という問題ではありません。日米などにいる中国人の背後には中共が背後に控えてるということであり、中共の命令一で、中国人がいつどこで何をするかわからないということで、非常に危険です。これは、個人的資質とか、人柄などとは全く関係のない問題です。国家が法律で、個人を縛っているということです。

いずれの国でも、中国人留学生は、本人の意志に関係なく既にスパイか工作員か国家の意志によりいつでもそうなり得るということです。

中国が「国防動員法」が廃止しない限り、いずれの国でも中国からの留学生などは厳しく制限すべきです。原則留学禁止にすべきです。

このような異様な中共(中国人ということではなく、中国共産党のこと)はやはり、ぶっ叩き潰すしかないようです。

いままで、日米をはじめとして、先進国は中共に対して甘すぎました。トランプ大統領のように、徹底的に中共の面子を潰すべきです。

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2018年10月2日火曜日

本庶氏が語った研究の原動力 ノーベル医学・生理学賞―【私の論評】 日本も未来投資として、教育・研究国債を発行すべきときがきた(゚д゚)!

本庶氏が語った研究の原動力 ノーベル医学・生理学賞

FNN PRIME

本庶佑京都大学特別教授

ノーベル医学・生理学賞が発表され、がん治療に、新たな道を開いた、本庶佑京都大学特別教授(76)の受賞が決定しました。

その本庶氏から、椿原慶子キャスターが直接、お話を伺いました。

(ノーベル賞受賞おめでとうございます)

「ありがとうございます」

(研究を続ける、原動力・心構え)

「原動力というのはね、小さい時に、野口英世の伝記を読んで、非常に強い感銘を受けたということが1つありますし。それから、医学部にいる時に、同級生が、がんで死んだとかね、いろんなことがあります。それから、何よりも大きなことは、わたし自身が、物事を突き詰めて考えたりという好奇心というのが、わりかし強かった」

(野口英世の伝記にどんな感銘?)

「ご存じのように、野口英世というのは、非常に逆境で、普通の教育すら受けられるかどうか、わからないというところで、困難を破って、そして、医師の資格を取って、さらに、単身で、アメリカに押しかけのような形で行って、そういう非常に強い意志と行動力と能力があったと。それは、非常に、わたしは感銘を受けました。わたしの家族には、医師の人が多かった、おやじ自身も、大学の医学部の教授でしたし。それから、何よりもね、わたしは、人に使われることが好きじゃなかったので。自由にやりたい、勝手にやりたいと、そういうことで、医者とか、弁護士とか、そういう資格がある方がいいんじゃないかなと思ってました」

(日本の基礎医学分野の発展に必要なことは?)

「まず、重要なことは研究費です。基礎医学に、もうちょっと研究費を出す。どこに、大きな種があるかは、わかんないんですね。だから、たくさんのことを試してみないといけない。第2は若い人、なるべくエンカレッジ(激励)するということです。そう言いながら、僕がずっと大学に残っているというのは、大変矛盾していますけれども、なんとか、そういう環境ができればいいなと思ってます」

この内容は動画でご覧いただくことができます。以下に動画のリンクを掲載します。
https://www.fnn.jp/posts/00402161CX
【私の論評】 日本も未来投資として、教育・研究国債を発行すべきときがきた(゚д゚)!

本庶佑氏は、日本の基礎医学分野の発展に必要なこととして、開口一番に、「まず、重要なことは研究費です。基礎医学に、もうちょっと研究費を出す」としています。やはり研究費にはご苦労されたし、今でもされているのだと思います。

同じノーベル賞受賞学者であり、ips細胞の研究で有名な中山教授はノーベル賞の受賞賞金を若手研究者の育成に全額寄付したほか、チャリティ募金により研究資金を集めるためにマラソンに出場するなど涙ぐましい努力をしておられるようです。

大阪マラソンでフィニッシュする京都大の山中伸弥教授=大阪市住之江区で2013年10月27日

現在の日本は、過去の研究によって、ノーベル賞受賞者が毎年のように輩出していますが、今のままだと将来は危ういと危惧の念をいだいている研究者や識者もいます。

民主党政権時代に、財務官僚のシナリオによって行われた事業仕分けの結果、思わぬかたちで社会から関心を集めることになったのが、科学分野の基礎研究でした。基礎研究には、「知的好奇心を満たす」という根源的な目的の他にも、「イノベーションの汎用性を保つ」という意義があります。基礎研究を担う大学には「選択と集中」の波が押し寄せていました。

2010年北海道大学名誉教授の鈴木章氏と、米パデュー大学特別教授の根岸英一氏が、米デラウェア大名誉教授のリチャード・ヘック氏とともに化学賞を受賞しました。

北海道大学名誉教授の鈴木章氏

鈴木氏は、受賞が決まった直後の2010年10月8日、報道記者の取材にこんなことを言っていまし。「研究は一番でないといけない。“2位ではどうか”などというのは愚問。このようなことを言う人は科学や技術を全く知らない人だ」。

鈴木氏のこの批判は、もちろん、事業仕分けにおける蓮舫参議委員(当時)の発言に向けられたものでした。2009年11月13日、次世代スーパーコンピューティング技術の推進をめぐる仕分け作業で、理化学研究所の説明者がした「世界一を取ることによって夢を与えることが、実は非常に大きなこのプロジェクトの1つの目的」という発言に、「世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃだめなんでしょうか」と応酬。報道では蓮舫氏のこの発言がなされ、この年の流行語大賞の候補にまでなりました。


研究資金が足りないから基礎研究にまで「選択と集中」になるという人もいます。しかし、そもそも財務省の官僚や文科省の官僚等が研究資金の「選択と集中」などできません。官僚に限らず、誰もそのようなことはできません。

もしそれができたなら、共産主義における計画経済も成功したはずです。頭の良い設計主任が計画したとおりにすれば、うまくいくはずでしたが、そうはなりませんでした。共産主義はことごとく敗退しました。

この問題を解決する手段はあります。このような、限りある財源を使うという閉塞した発想ではなく、国債で将来投資すると考えを変えるべきなのです。そうして、ある程度薄く広くばらまけば良いです。そうして、ある程度競争させて見込みのあるものはさらに今度は深く投資すれば良いわけです。

「知識に投資することは、常に最大の利益をもたらす(An investment in knowledge always pays the best interest.)」というベンジャミン・フランクリンの名言があります。

教育と基礎研究を投資として捉えると、社会的な便益もコストより高いです。教育・基礎研究によって、国民の将来所得が増加し、将来所得が財源となるからです。これは、国際機関などで多くの研究がなされています。だからこそ、国債で財源を賄うのがいいということになります。

ちなみに、OECD(経済協力開発機構)では、いろいろな教育に関するデータを国際比較の形で毎年公表しています(Education at a Glance 2016 http://www.oecd-ilibrary.org/education/education-at-a-glance_19991487 )。

その中で、先進国における高等教育投資の便益とコストを私的・公的に算出したものがあります。私的な便益は高等教育を受けると所得が高くなることなどです。公的な便益は高くなった所得から得られる税収増などです。それをみると、日本の公的なB/C(費用便益比)は他国よりず抜けて大きいので、公的投資の余地が大きいです。

簡単にいえば、有形資産も無形資産も、経済発展のためには欠くことができないものなのです。しかし、今の財政法では有形資産の場合にしか国債発行を認めていません。政治的な議論をするのであれば、この財政法を改正して、無形資産の場合にも国債発行を認めるべきとなります。

教育国債については、経済学的にはまったく否定できないものです。ただし、将来負担になるという批判があります。

これに対しては、優良投資なのだから心配無用であるといいたいです。しかも、教育・研究投資は外部性を伴うので、国が率先して行うべきものです。

教育・基礎研究のメリットは教育を受ける当人や、研究する本人だけでなく、社会全体に及びます。これを教育・研究の「外部経済効果」といいます。

「外部経済効果」が発揮される例として、ある専門知識をもった人を雇ったおかげで、その会社の他の社員にも効果が及び、会社全体の生産性が上がることがあげられます。あるいは、高度な教育を受けた人が多い国や地域は、そうでない国や地域に比べて、治安・文化・技術などの水準が高いことが考えられます。

もう一つは財政状況に対する誤解があります。借金1000兆円ガー、という話です。これは、企業でいえば連結ベースバランスシート、これは政府では「統合政府」バランスシートになりますが、そのバランスシートの左右をみると、実は既に結論が出ていて、過度な心配は無用です。財務省はそうはいいませんが、これは、昨年経済財政諮問会議の場で、ノーベル経済学者を受賞したスティグリッツ教授も同じことを言っていました。

さらに、国債発行というと将来世代へのつけなどという人も政治家の中にすらいて、驚くことがありますが、たとえば何十年も耐用年数があるインフラを作成した場合、それは償還期間が何十年もある建設国債などて賄うのが世界の常識です。

なぜなら、そのインフラは現在世代だけが使うだけではなく、将来世代も使うからです。もし、これを税金で賄うとすれば、現在世代だけが負担して、将来世代は負担しないということになり不公平が生じます。国債に反対する人は、このことを全く理解していません。

だから教育などという長い期間たたないと、その成果が出てこないものは税金で賄うよりも、国債で賄うのに適しています。これに反対する人は、財務省の太鼓持ちをしているだけです。

海外では、教育・研究は投資という考え方により、国債発行の例もあります。教育・研究投資のための国債発行では、フランスのサルコジ国債が有名です。

2009年6月、サルコジ大統領(当時)は、両院(上院:元老院、下院:国民議会)合同議会において、大規模な特別国債の発行を発表しました。演説の中で大統領は、「国土整備や教育、研究、技術革新など、我々の未来にとって極めて重要な分野が多くあり、年間予算の厳しい枠組みの中では対応できない。我々がやり方を変えない限り、優先課題を掲げるだけで実現できない状態が続く。私は投資を犠牲にしない。投資なくして未来はない。」と述べ、未来への投資のための国債発行の重要性を強調しました。

そうして日本では、日銀が金融緩和のため、市中銀行から国債を買い取っています。多く買い取ったので、市場では国債が品薄状態になっています。金融緩和に反対の人々は、「債が~暴落する!」といって大騒ぎしていましたが、国債の金利は未だにかなりの低水神です。

この状態ならば、さらに国債を刷り増すべきです。その中に将来有望な投資となる、教育・研究国債も含めるべきです。

日本人は、様々な分野でノーベル賞をとっていますが、ノーベル経済学賞は一人もいません。これには様々な理由があるのでしょうが、財務省の太鼓持ちのようなエコノミストが多いということもあると思います。この分野でもノーペル賞受賞者が将来でるように、経済の基礎研究にも研究費を出すべきです。

日本も未来投資として、教育・研究国債を発行すべきときがきたのではないかと思います。

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2018年10月1日月曜日

米中貿易戦争が「流血戦争」になる可能性 歯止めは沖縄、台湾 国際投資アナリスト・大原浩氏―【私の論評】トランプは、中国の覇権阻止とナショナリズムへの回帰へと国家戦略を大転換しつつある(゚д゚)!

米中貿易戦争が「流血戦争」になる可能性 歯止めは沖縄、台湾 国際投資アナリスト・大原浩氏

習氏率いる中国に攻勢を強めるトランプ氏 
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 米トランプ政権が仕掛けた対中貿易戦争は、長期戦の様相を呈しているが、これが「血を流す戦争」にエスカレートしかねないと警鐘を鳴らすのが、中国事情に詳しい国際投資アナリストの大原浩氏だ。緊急寄稿で大原氏は、9月30日に県知事選が投開票された沖縄、そして台湾が米国にとって極めて重要な「防衛線」だと指摘する。

 米中の貿易戦争が無血戦争(冷戦)の一部であることは、これまでにも述べてきたが、冷戦が本物の「流血戦争」になる可能性はないのだろうか。結論から言えば少なからずある。ただし、それは習近平国家主席が米国に逆らい続けたときに限る。

国際投資アナリストの大原浩氏

 1962年のキューバ危機は、旧ソ連が米国の目と鼻の先のキューバにミサイル基地を建設したことがきっかけとなり、核戦争の一歩手前までいった事件である。

 実のところ、当時のソ連の指導者、フルシチョフは米国を甘く見ていたフシがあり、ケネディ大統領の「核戦争も辞さない」との強硬な態度に青ざめて、表面上強気を装いつつも、核ミサイルの撤去という譲歩(降伏)をしたのである。

 今回、キューバに相当するのが台湾だ。第二次大戦末期、蒋介石率いる中華民国(台湾)は連合軍の一員だった。米国とともに血を流して戦ったのは中華民国であり、少なくとも米国の共和党にとっての中国とは、民主主義・資本主義を守る台湾を意味する。

 1971年のキッシンジャー氏の電撃的中国訪問から始まった米中国交回復が、78年12月の第2次米中共同声明までかかったのには、米国内に根強い反共ムードや大量虐殺を行った毛沢東の存在など数多くの要因があるが、台湾問題が一番大きい。

 58年8月から中国人民解放軍が中華民国福建省金門島に侵攻すべく砲撃を行ったのが金門砲戦で、実質的な戦闘は2カ月以内に終わった。しかし、米中国交回復時の79年1月1日まで、なんと21年間にもわたって砲撃が続けられた。



 つまり、米中国交回復は「台湾問題棚上げ」によって実現されたのである。だから、この棚上げ問題にうかつに触れれば米中国交回復はご破算になる。トウ小平はそれをよくわかっていて「能あるタカは爪を隠す」路線を続けたのだが、現在の習主席は、航空会社に「台湾」表記を改めさせようとするなどの圧力を加えた上に、米国が嫌悪する独裁者の毛沢東を目指すなどと発言して虎の尾を踏んだといえる。

 民主主義国家がなかなか戦争に踏み切れないのは事実ではあるが、「民主主義防衛」の大義のためであれば、米国民は血を流す覚悟がある。

 沖縄の米軍基地問題も台湾問題とリンクする。沖縄の与那国島と台湾との間は直線距離で100キロ強しかなく、戦前は小舟で住民が行き来していたそうだ。

 垂直離着陸輸送機オスプレイは時速約500キロで飛行するから、台湾まではおおむね20分ということになる。共産主義中国政府、左翼系マスコミらが「反基地」「反オスプレイ」の大合唱を歓迎するのも当然だ。

 沖縄の米軍基地が極めて重要なのは、台湾に米軍基地を置けないという事情がある。米軍そして米国政府は当然、中国の台湾侵略の野心を承知しており、彼らが騒げば騒ぐほど、台湾防衛のために沖縄の基地を強化し、同時に中国に無血制裁を加え続けるのである。

【私の論評】トランプは、中国の覇権阻止とナショナリズムへの回帰へと国家戦略を大転換しつつある(゚д゚)!

米国と中国が、軍事的衝突を発生する潜在的な可能性に対する政治学的議論は従来からなされてきています。過去60年にわたり、米国の多くの人びとが米国と中国が衝突する可能性が大いにあると指摘し、米中間の軍事的衝突の可能性(いわゆる米中戦争)に対する議論がなされてきました。

米中間の軍事的衝突の舞台としては、過去には朝鮮半島ないしベトナム、現在では台湾海峡が想定されています。それぞれ詳細な考察が行われており、1960年代のベトナム戦争、冷戦の終結に続き、中国は軍事的優位性及び経済的存在感を増し続けている事を背景にして中国脅威論のひとつとして、米中冷戦が、なんらかのきっかけで軍事的衝突に繋がるかに対する危惧があるという潜在的可能性が指摘されています。

現在では主にネオコンといった政治的傾向を持つ識者が主張する場合が多いです。

ベトナム戦争の間、毛沢東をはじめとする中国の指導者は、米国のベトナムにおける戦略を大規模な核戦争の序章であると考えていました。1960年代を通して、中国人民解放軍海軍と空軍は中国の領空を侵犯した米軍機と衝突しました。

米軍の爆撃機が北ベトナムの6つの海軍基地を攻撃した後、1964年8月5日、周恩来と羅瑞卿は北ベトナムのホー・チ・ミン大統領、ファム・ヴァン・ドン首相、軍の幹部であるヴァン・ティエン・ズンと会談し、両国は米国の脅威に対抗するため軍事的な協力を行うことを約束しました。

その晩、人民解放軍海軍、空軍及び北京軍区の首脳が集まり、緊急ミーティングを開きました。彼らは北ベトナムでの爆撃が直ちに米国との戦争を意味するわけではないが、米軍の軍事的脅威が増加し広州や昆明の軍隊が警戒状態に入る必要があるという結論に達しました。

日本では、1965年には朝日新聞による世論調査が行われ、その年の8月24日に発売された朝日新聞は、日本人の半分以上である57%がベトナム戦争が米中戦争へエスカレートすることを恐れているという記事を掲載しました。

しかし、実際には中国と米国のリチャード・ニクソンはソビエト連邦に対する利害で一致したため、1972年にニクソン大統領の中国訪問が行われ、米中国交樹立が図られました。

最近では、多くの人は米中間が台湾独立をしたときに衝突し、日本はその戦争に巻き込まれるだろうと予想しています。

この戦争で核兵器が使われる可能性があるため、米国はEUが中国に対して武器を輸出することに反対しています。 スタンフォード大学のキム・チャンヨン教授は、そのようなシナリオにおいて中国が勝利を収める可能性は15%であり、米国が勝利を収める可能性は23%、相互確証破壊の可能性は62%であると推測しています。

近年では、将来危惧される第三次世界大戦の可能性のひとつとして「米中戦争」が論じられることがあります。

これはジョージ・W・ブッシュ政権で要職にあったネオコンのコンドリーザ・ライスやリチャード・アーミテージが論文で中華人民共和国が将来的には脅威になるとした中国脅威論を記したほか、それに影響された日本の保守論壇の一部が同様の可能性を主張しています。

これらによれば台湾に対し中国が軍事的制圧を実行する台湾侵攻作戦が米中間の軍事的衝突の引金になるというものです。

この手の議論では、最近ではやはりピーター・ナバロを忘れるべきではないです。そのナバロの書いた『米中もし戦わば』で彼は、米中戦争が起きる可能性は70パーセントとしています。

『米中もし戦わば』の表紙

本書を読めばなぜトランプ大統領は就任以来、中国叩きをしているのかその根本にある「ナバロ思想」が理解できます。400ページ近い分厚い本ですが、特にP332~339に書かれている「経済による平和」部分にその思想が詰まっています。
[経済力による平和の要約]
中国は、通貨操作や違法な輸出補助金、知的財産権侵害などの不公正な貿易方法で経済力と軍事力の強化をしている。特に中国がWTOに加盟して米国市場に参入してきてからは、米国は製造業が衰退し軍事力を維持することは困難になってきている。(実際、米貿易赤字の約半分は中国である。) 
つまり、現状のように中国製品への依存度が高い状態だと、米国は中国製品を買うたびに中国の軍事力増強に手を貸していることになる。よって中国の経済と軍拡を弱体化させる方策は、中国からの貿易関係を縮小すべきだ。米国が国際舞台でリーダーシップを維持するために最も重要なのは米国経済を健全化することで、そのために貿易赤字を削減しなければ中国に対抗できない。
このナバロ思想が的を射ているのか否かは別として、重要なのはこのナバロ思想を根幹にしてトランプ政権が通商政策を進めており、最近では対中国貿易戦争を開始したことです。

よくトランプ大統領のtwitter上での発言は思い付きで呟いているだけだという意見を目にすることがありますが、本書を読むとこうしたナバロ思想に基づいた一貫した発言であることが伺えます。

「アメリカ第一主義」を全面に出すトランプ政権とは逆に、自由貿易を提唱し始めているのが習近平国家主席です。これは極めて意外でした。習近平国家主席は2017年1月17日、スイスのダボス会議で基調講演をして、経済のグローバル化を指示し、保護主義を批判しているのです。

ダボスで基調講演した習近平

ただし、知的財産権を守ろうなどという気のない中国の習近平がこのような批判を行うこと自体が噴飯ものです。

そもそも、貿易に目を向けると、中国に拠点を置く外国企業は様々な規制にさらされ、市場へのアクセスも不足しているうえ、中国企業との合弁や技術共有なども義務づけられています。またEUとアメリカはこれまで何度、中国をダンピングでWTO(世界貿易機関)提訴したかわからないです。中国は、輸出大国であると同時に保護主義大国です。。

ダボス会議には中国は通常、首相が出席するのが慣例らしいのですが今回は国家主席が初めて出席しました。ダボス会議は資本主義の牙城と呼ばれているので、共産主義のトップが出席するのは驚きです。

その意図するところは、「米国に代わって世界の覇権国に君臨する」ことに他ならないです。習近平国家主席はダボス会議で「中国は外国人投資家の中国市場へのアクセスを拡大し、高度で実験的な自由貿易圏を作る」と述べ、「中国市場をより透明化して、安定した経済活動を行えるようにする」とできもしない約束をしました。

トランプ大統領がTPP撤退を決めたことを習近平はチャンスと思ったのかもしれません。中国が中国という国の構造上の問題から入りたくても入れないTPPにより、日米を含めた環太平洋諸国が繁栄することは、習近平にとって脅威だったに違いありません。

習近平が言及している自由貿易や経済のグローバル化とは「一帯一路」というユーラシア大陸やアジア諸国をひとつの経済圏とする思想を指すのだったと考えられます。しかし、そのようなまやかしだったことが今年なってから明らかになっています。

中国は世界貿易機関(WTO)に加盟したことで、世界のどこの国にも輸出できるようになりました。WTOには自由貿易のルールがあります。そのうちの一つは、「輸出補助金の禁止」。国家が企業の輸出促進のために補助金を出したら、企業のコストは下がり、輸出先での価格も下がるります。公平な自由市場を歪めるため、こうした行為は禁じられています。

ところが、中国は大量の輸出補助金を出し、実質的な国有企業として市場介入しています。

また、外国企業が中国に進出してきたら技術を公開させ、それを盗み、堂々と自国のものにします。国際ルールを破って、やりたい放題なのです。

そんな中国に対して、WTOも国連も過去のアメリカ大統領たちも無策でした。そこに待ったをかけたのがトランプ政権です。

世界を驚かせたのが、トランプ大統領が金正恩委員長に会った直後に、中国に対して、2000億ドルの制裁関税を言い出したことです。今起きていることは、単なる貿易紛争ではなく、米中の熾烈な覇権争いなのです。覇権争いという文脈でみれば、トランプ大統領や習近平の行動が良く理解できます。

それにしても、なぜアメリカは中国にこれほどの貿易赤字を許してきたのでしょうか。

1990年代の米国は、「製造業が海外に移転しても一向に困らない。これからのアメリカは"ものづくり"ではなく、金融とハイテクの大国になる」という風潮でした。

その結果、製造業の工場は国内からなくなり、労働者は職を失いました。そこにトランプ大統領が現れ、「工場をアメリカに戻す」と公約し、それを果たすために、減税と今回の関税政策を行いました。

関税のない「自由貿易」は、グローバリズムという資本主義の発展形に見えました。しかし、現実は、庶民と労働者を貧しくし、代わりに、中国に莫大な貿易黒字を許したのです。

トランプ大統領は、この反省に基づき、反グローバリズムへ、そして、中国の覇権阻止、自由貿易は尊重しながらも、ナショナリズムの回帰へと、国家戦略を大転換しているのです。これは、トランプ政権が終わった後にも、大部分が継承されるでしょう。

この大転換の中で、中国との軍事衝突はなるべく避けるという姿勢ではありながら、必要があれば、軍事的衝突も辞さないでしょう。そのためにこそ、海軍を大増強を目指し、先日はこのブログでもお知らせしたように、空軍力の大増強も目指しているのです。

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2018年9月30日日曜日

中国は米企業技術をこうして入手する―【私の論評】米国だけでなく、中国より高い技術を持つ国々はすべからく泥棒中国をぶっ叩き潰せ(゚д゚)!

中国は米企業技術をこうして入手する
デュポンの事例に見る、技術移転「強要」の手口とは

ウォール・ストリート・ジャーナル

中国はジェット旅客機「C919」の開発に乗り出した時、中国企業と技術を
共有する外国企業との合弁からしか部品を購入しないと表明した

 かつて提携していた中国企業が貴重な技術を奪おうとしている――。疑いを抱いた米デュポンはこれを阻止するため仲裁を申し立てて1年以上争った。

 その後、中国独占禁止当局の捜査官20人がやってきた。

 捜索は昨年12月、上海にあるデュポンの複数のオフィスで4日間にわたって行われた。捜索について説明を受けた複数の人物によると、捜査官は同社の世界的な研究ネットワークへのパスワードを要求した。文書を印刷し、コンピューターを押収し、社員を脅した。一部の社員がトイレに行くときは捜査官が同行した。

 米国の企業や政府によると、中国政府はさまざまな手段を駆使して米企業から技術を入手しようとしている。強制的な手段を取ることもある。

 ウォール・ストリート・ジャーナルが米中両国の企業・政府の関係者数十人から話を聞き、規制に関するものなどさまざまな文書を精査したところ、中国が組織的かつ手際よく技術を入手している様子が浮かび上がった。中国当局は米国からの批判を不公平と受け止めている。

中国による技術移転の強要は今や、激化する米中貿易戦争の核心の
一つとなっている(写真はトランプ米大統領と中国の習国家主席、2017年)

 関係者の話や文書によると、中国は、国内企業と合弁を組む米国企業に圧力をかけて技術を手放させる、裁判所を使って米国企業の特許や使用許諾契約を無効にする、独禁当局などの捜査官を派遣する、国内の競争相手に企業秘密を漏らす可能性のある専門家を規制委員会に送り込む、などの手法を採用している。

 デュポンの件で争いの種となったのは、トウモロコシから柔軟性のある繊維を生産するプロセスだった。この素材の2017年の事業規模は4億ドル(約450億円)に上った。中国の独禁当局はデュポンに対し、提携先だった中国企業に対する申し立てを取り下げるよう命じたという。

 米国の企業は以前から、知的財産を引き渡すよう中国政府から圧力を受けていると不満を訴えていた。特に最近は中国が化学製品、半導体、電気自動車などさまざまな産業で力を付けており、米国企業は懸念を強めている。

 中国による技術移転の強要は今や、激化する米中貿易戦争の核心の一つとなっている。ホワイトハウスの推計では中国が米国企業に与えている損害額は年間で500億ドルに上る。米国企業の幹部は強制的な技術移転が競争力の低下を招き、イノベーションへの意欲をそぐと繰り返し訴えている。



 中国当局は取材に対し、国務院(内閣)が24日に公表した文書に言及。そこには「中国の米国企業は技術移転やライセンス契約を通じて多大な利益を得ており、技術協力の最大の受益者である」と記されている。さらに、米国企業は自主的に協力関係を結んできたとある。

 「世界に対する中国のオファーは明快だ」。ある当局者はこう話した。「外国企業は中国市場へのアクセスを許されているが、その見返りとして何かで貢献する必要がある。それは技術だ」

 米企業はほとんどの場合、十分警戒しながら中国に進出している。不満を公言することにも多くは慎重だ。米企業が中国に合弁事業というアイデアを持ち込んだのは、人口14億という中国市場と低賃金の労働力へのアクセスを得るためだった。中国企業の技術向上を支援することも合弁の条件に含まれていた。

 首都ワシントンで今年1月に開催された米商工会議所の夕食会で、企業幹部らはテリー・ブランスタッド駐中国大使に対し、技術問題に関して中国に打撃を与え過ぎないよう強く求めたという。出席者らによると、IBMのバイスプレジデント、クリストファー・パディラ氏は、中国は多くの報復手段を持っていると述べた。IBMは中国企業に技術をライセンス供与している。

 パディラ氏は夕食会でこう話した。「暗い路地で誰かがナイフで刺されても、翌朝になるまで誰がやったのか分からない。それでも殺人はすでに起こってしまっている」

 デュポンは米当局者に自社の案件を説明した。だが事情に詳しい関係者によると、貿易協議のなかでその件を持ち出してほしくないと述べた。同社のかつての中国パートナー、張家港美景栄化学は繊維を作るために使われる化学製品を販売し続けている。その製品の技術はデュポンから盗まれたものだと同社は確信している。両社の幹部からコメントを得ようとしたが、両社とも応じなかった。

 中国の独禁当局は「まだ調査中だ」とし、詳細については明らかにしなかった。

「著しい圧力」
 上海の米商工会議所が今春実施した調査では、会員企業の約5社に1社が中国当局から技術移転を迫られたことがあると回答した。そのうち航空宇宙関連の44%、化学関連の41%が「著しい圧力」を受けたと報告している。中国は両業種を戦略的に重要な分野だととらえている。

 市場へのアクセスの見返りに技術移転を迫るやり方が始まったのは、市場寄りの政策にかじを切った鄧小平氏の時代だ。この政策はのちに中国の繁栄につながった。ゼネラル・モーターズ(GM)の幹部は1978年の予備調査的な訪中で現地企業との合弁を提案した。中国政府関係者や歴史家、自動車業界の幹部らの話で分かった。

 この合弁案は、西側の技術は欲しいが西側の影響力は制限したいという鄧氏の望みと合致した。同氏は1984年に「(中国は)われわれが必要とする進んだ技術と引き換えに国内市場の一部を手放す必要がある」と述べている。コロラド大学、香港大学、ノッティンガム大学の経済学者らが今年3月に発表した論文によると、この政策は成功した。論文には、外国の技術が「合弁事業の範囲を超えて拡散」し、競合他社の技術向上を促進したとある。

 中国と外国企業の合弁では、外国企業は現金や技術、経営に関する知識といった知的財産を提供し、中国企業は土地使用権や資金調達、政治的な人脈、市場の知識を提供することが多い。米国企業との合弁が増えるにつれ、歴代の米政権は技術提供に関する要件の緩和を求めて中国に圧力をかけてきたが、大きな成果は出ていない。トランプ政権は中国に関税をかけて「枠組みを変え」たいとの意向を示している。


 中国は35の分野について、外国企業による新規参入や事業拡大は合弁企業を通じて行うよう義務付けている。ただ今年4月には、外国の自動車メーカーに工場の所有権と利益を中国企業と分け合うよう義務付ける規則を、2022年までに段階的に廃止する計画を発表した。

 中国指導部にとって革新的な技術とは、中国の各業界を高度化させ、豊かな国に仲間入りするための力だ。外国企業に最高の技術を提供させるため、規制委員会が外国企業の投資を詳細に調査し、政府の目標と一致するかを確認する。

 外国の自動車メーカーにとって、規制委員会は今や、電気自動車(EV)関連の技術をめぐる戦いの場となっている。外国メーカーによると、新車を大量生産するには政府の許可を得なければならず、必須の技術監査は数日かけて行われる。

 ある外国自動車メーカーの社員は今年の監査で、監査チームと中国の自動車メーカーが「共謀している明確な証拠」に気付いた。この社員によると、監査で調査員から提出を求められたのは、このメーカーが中国の合弁相手から守ろうとしていたEVの部品の設計図だけだった。

 社員は「(調査員は)どういうわけか調べるべき分野を正確に知っていた」「その他の非常に複雑なシステムについての質問は一切なかった」と語った。

デュポンは「人質」か
 デュポンは2006年、提携先の中国企業である張家港美景栄化学にトウモロコシを原料とする繊維用のポリマー「ソロナ」の製造販売を許可した。デュポンの社内では、美景栄との提携は中国市場に参入するための通行料のようなもの、という認識だった。同社は、ソロナの生産と繊維への加工のための工場設置に向けて美景栄を教育した。

 事情に詳しい関係者によると、デュポンは美景栄がソロナに類似した製品を販売するためにデュポンの知的財産を奪おうとしているとの疑いを抱き、美景栄のライセンスを更新しなかった。2013年頃のことで、当時、ソロナは中国で7000万ドル規模の事業に成長していた。デュポンは特許が侵害されたとして2件の仲裁を申し立てた。審問は2017年まで続いた。

 この頃、中国国家発展改革委員会の独禁法部門の関係者がこの問題に関心を持ち、デュポンと会合を持ち始めた。12月、委員会はデュポンが計画していたダウ・ケミカルとの合併について独禁法に基づく調査を開始したが、合併計画にはほとんど関心を示さなかった。合併は昨年、完了した。

 この問題について説明を受けた関係者によると、中国の当局者が注目していたのはむしろデュポンと美景栄の対立だった。12月に3日間にわたって会合を開くうちに、デュポンは強制捜査が入るのではと心配になり、強制捜査への対応について社員研修を計画したが、捜査官が来るほうが早かった。

 捜査官はデュポンに対し、中国企業に技術の使用許諾を認めることに消極的であることなど独禁法に反する行為と、美景栄をめぐる仲裁の申し立てについて調査していると説明した。中国政府は米国との貿易戦争で人質を欲しがっている可能性があり、デュポンは申し立てを取り下げただけでは中国政府は満足しないだろうと考えているという。

中国にある工場の電気自動車生産ライン

 トランプ政権高官はこうした案件を中国の経済侵略の証拠と受け止めている。対中強硬派のピーター・ナバロ大統領補佐官(通商担当)は「中国市場への参入に意欲的な米国企業が世間知らずで傲慢(ごうまん)だったことに加えて、中国が手の込んだやり方で技術を入手しようとした。命取りの組み合わせだ」と話した。

 先月の米中通商協議で米国は技術移転の強要をめぐり中国に迫った。米国が例に挙げたのが半導体メーカーのマイクロン・テクノロジーだ。同社は12月、中国の福建省晋華集成電路が技術を盗んだとして、カリフォルニア州の連邦地方裁判所に提訴していた。福建晋華は1月、マイクロンを相手取って福建省の裁判所で訴訟を起こした(福建晋華の経営には福建省政府が関わっている)。福建晋華は両者が特許権を主張している製品について、マイクロンの一部子会社による中国での販売を差し止める仮処分を勝ち取った。

 福建晋華はコメントを差し控えた。同社が7月に公表した声明では、マイクロンが「無謀にも」特許を侵害したと述べた。マイクロンは「あらゆる手段を通じて自社の知的財産および事業利益を積極的に保護する」意向を示した。

 米中協議に詳しい関係者によると、中国側の交渉担当者の王受文商務次官は8月の協議で米国側の懸念を一蹴した。王氏は、マイクロンと福建晋華は「兄弟のようなもの」で、「兄弟はけんかをするものだ」と言ったという。

【私の論評】米国だけでなく、中国より高い技術を持つ国々はすべからく泥棒中国をぶっ叩き潰せ(゚д゚)!

中国による知的財産侵害の手口が巧妙化の一途をたどっています。ブログ冒頭の記事の米国企業のように、日本でも、中国進出とひきかえに海外企業に技術を開示させる例が相次いで報告されているほか、模倣品の製造や流通も多様化しています。

他国の知財を効率よく奪う手法を「進化」させています。一方で、中国企業による特許の出願件数が増えたことで、海外企業が中国内で知財訴訟に巻き込まれるケースも目立ち始めています。

日本貿易振興機構(JETRO)によりますと、中国では、海外企業が自動車や船舶、送電網の建設といった一部の製造業などを国内で営む場合、中国側の出資が過半を占める合弁会社を設立しなければならないと定めた法令があります。

中国では、合弁会社をつくらないと運営できない海外企業の弱みにつけこんで、技術を無理やり開示させようとする例が後を絶たないのです。知財問題に詳しい専門家によると、進出企業が中国で合弁会社の相手企業に技術を教えたことで、1年もたたないうちに同様の技術を持つ全く別の企業が出現した知財流出事案も発生しているそうです。


長い期間、資金と時間をつぎこんだ技術を一瞬で奪い取られるというのです。これ海賊ののやり口と同じです。単なる泥棒です。

一方、知的財産権の侵害をめぐっては、模倣品の問題も深刻化しています。財務省によると、日本での模倣品の税関差し止め件数(2017年)全3万627件のうち9割以上の2万8250件が中国の製品でした。数だけではなく、中国の業者などによる模倣品の製造や販売の手口は巧妙化しています。

特許庁によると、近年、正規品の容器や包装を回収して粗悪な製品を詰めて偽って販売したり、正規品であることを示す識別シールを模倣して貼り付けたりする悪質な被害が発生しているといいます。最近はインターネットの販売など流通が多様化しており、各企業が模倣品を追いづらい状況にあります。

さらに、中国をめぐる知財問題で懸念されているのが、買い取った特許権を利用して他社に訴訟を仕掛ける特許管理会社「パテント・トロール(特許の妖怪)」の出現です。背景には、中国の特許出願件数の増加があります。

世界知的所有権機関(WIPO)が昨年12月に発表した16年の世界の知的所有権統計で、特許出願の受け付け国・地域当局別件数は中国が134万件となり、6年連続の首位となりました。

今や、中国人の特許出願意欲は世界一です。一方で、出願件数の増加に伴い、知財訴訟件数も増えつつあります。特許を管理する中国国家知識産権局によると、16年の中国の知財訴訟件数が約12万6千件(一審受理)だったのに対し、17年は約19万1千件(同)に上昇しました。

訴訟の中には、パテント・トロールが中国の裁判所で日本企業などを訴えるケースが出てきています。パテント・トロールは、経営が傾いた企業などから特許を買い取り、別の企業にライセンス料などを請求する悪質な手口です。
2015年の統計ではアップルが世界最大のパテント・トロールの標的となった

米国が発祥といわれ、15年に起きた同国の特許をめぐる訴訟約5800件のうち、6割以上がパテント・トロールが原告とされています。米国をしのぐ勢いでパテント・トロールの活動が中国で増加する可能性が高いです。 

今後、日米の進出企業が巻き込まれる中国の知財問題はより複雑化することでしょう。だからこそ、トランプ大統領は対中国貿易戦争を開始したのです。

これだけ、日本も知的財産権を侵害されているのです。これは、日米だけの話ではありません。どの分野にかかわらず、中国より高度の技術を持つ国々は、日本を含めて、米国と同じく中国を懲らしめるため貿易戦争等を挑むべきです。

中国の横暴を許すべきではありません。今まで米国を含め多くの国々が中国に対して厳しいことをしてこなかつたからこそ中国は増長してしまったのです。泥棒中国は、何が何でも、ぶっ叩き潰さなければなりません。

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中国との対決に備え、米国が空軍も大増強へ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」ほど酷くはないが日本の防衛予算にも問題あり(゚д゚)!

2018年9月29日土曜日

中国との対決に備え、米国が空軍も大増強へ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」ほど酷くはないが日本の防衛予算にも問題あり(゚д゚)!

中国との対決に備え、米国が空軍も大増強へ

10年で戦力を25%増強する「386個飛行隊」建設構想

米国が現在開発中のB-21爆撃機

 ヘザー・ウィルソン米空軍長官は「米空軍は2025年から2030年の間までには戦力を386個飛行隊に拡張しなければならない」と空軍協会の講演で語った。現在米空軍の戦力は312個飛行隊であるから、これから10年前後で空軍戦力を量的に25%ほど増強しようというのである。

 ウィルソン長官によると、このような空軍戦力の強化は、ジェームス・マティス国防長官が提示したアメリカ国防戦略の大転換、すなわち「テロとの戦い」から「大国間角逐」へという大変針に必要不可欠なものであるという。

386個飛行隊構想と海軍の355隻艦隊建設

ヘザー・ウィルソン米空軍長官 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 米空軍が打ち出した386個飛行隊構想は、トランプ政権によって実行に移されている米海軍の355隻艦隊構想を彷彿とさせる。

 米海軍の戦闘艦艇数を355隻に拡大することは、トランプ陣営にとっては選挙公約の1つであった。当初は350隻ということであったが、中国海軍の戦力拡大の目を見張るスピードやロシア海軍再興の兆しなどを考慮すると400隻でも少ないという海軍側からの声なども若干考慮されて355隻艦隊を構築することが法制化された。

 ただし大統領選挙中、そしてトランプ政権が発足してからしばらくの間は、トランプ政権に中国やロシアと軍事的対決姿勢を固めるという意識はなかった。ただ海軍の常識として、場合によっては強力な敵となるかもしれない中国海軍(ならびにロシア海軍)が軍備増強に邁進しているという現実がある以上、アメリカ海軍もできうる限り増強しておかなければならないという論理に拠っていた(もちろん、対中強硬派の人々は、常に中国との対決を想定していたのであるが)。

 それ以上に、トランプ大統領にとって「大海軍再建」は、選挙期間中からのスローガンである「偉大なるアメリカの再興」を目に見える形で内外に示すために格好の事業であった。なぜならば、シーパワーであるアメリカの「強さ」は軍事的には強力な海軍力と空軍力を中心とした海洋戦力によって誇示されることになるし、その海洋戦力に裏付けされた強力な海運力によって経済力の「強さ」の一角も支えられるからである。同時に、大量の軍艦の製造はアメリカ製造業の活性化につながり、まさにトランプ大統領(そして米海軍、裾野の広い軍艦建造関連企業と労働者たち)にとっては355隻海軍建設は最高の政策ということになる。

「テロとの戦い」から「大国間角逐」へ

 ただし、トランプ政権と中国との蜜月は1年と持たず、なかなか改善しない米中貿易摩擦へのトランプ大統領の不満が募るとともに、トランプ政権の国防戦略は大転換を遂げるに至った。すなわち、2017年12月にホワイトハウスが発表した国家安全保障戦略と、それと連動して2018年1月にペンタゴンが公表した国防戦略概要には、アメリカの防衛戦略は「テロとの戦いを制する」から「大国間角逐に打ち勝つ」ための戦略へと変針することとなったのである。

 大国すなわち軍事大国として具体的に名指ししているのは中国とロシアである。とりわけ中国は、アメリカが打ち勝つべき「大国間角逐」にとっての筆頭仮想敵と定義された。

 このようなトランプ政権の軍事戦略大転換は、355隻海軍建設にとどまらない海洋戦力強化の必要性を前面に押し出すこととなった。これまで17年間にわたってアメリカ軍が戦い続けてきた主敵は武装叛乱集団やゲリラ戦士であった。しかし、そのような陸上戦力が主役であった時代は過ぎ去ろうとしているのだ。「大国間角逐」は、とりわけ中国との直接的軍事衝突や戦争は、主として海洋戦力によって戦われることになるからである。
最大に強化されるのは爆撃機部隊

 ウィルソン長官そして空軍参謀総長デイビット・ゴールドフィン大将によると、米空軍にとって現在のところ最も脅威となりつつあるのは、急速に能力を伸展している中国軍航空戦力(空軍・海軍航空隊)である。

 太平洋方面での中国軍との戦いは、航空戦力を持たない中東方面のテロリストとの戦闘とは完全に様相が異なり、米空軍の徹底した戦力の再構築が必要となる。そのため、空軍では戦力見直しと再構築についての検討作業を半年以上にわたって続けてきた。

 このほど公表した386個飛行隊構想はあくまで中間報告であって、来年(2019年)3月頃を目途に、より詳細な戦力強化策を完成させるということである。たしかに、今回の386個飛行隊構想では、単に2025~2030年までに増加させる飛行隊の数が示されただけである。それぞれの組織の具体的内容、たとえば航空機の種類や戦力などは来年3月に提示されるものと思われる。

 ただし、空軍内部で検討されている飛行隊を増加させる草案からも、太平洋方面を主たる戦域として中国と戦うための布石が読み取れる。

 2025~2030年までに、米空軍で最大の規模になるのはC2ISR(指揮・統制・諜報・監視・偵察)部門と戦闘機部門であり、それぞれ62個飛行隊となる。現在、55個飛行隊と最大規模の戦闘機部門は7個飛行隊の増加(13%の増強)となる。一方、現在40個飛行隊であるC2ISR部門は22個飛行隊の増加(55%の増強)ということになる。

 C2ISR部門に次いで飛行隊数の増加が望まれているのが空中給油飛行隊だ。現在40個飛行隊のところ14個飛行隊の増加(35%の増強)が考えられており、輸送機部門とならび54個飛行隊となる。

 飛行隊そのものの数はそれらに比べると少ないものの、増強率が56%と最も高いのが爆撃機部隊だ。現在9個飛行隊のところ14個爆撃飛行隊が目指されている。

 このように、爆撃機部門、C2ISR機部門、空中給油機部門をとりわけ重視しているのは、各種長射程ミサイルと並んで空軍の長距離攻撃戦力こそが中国と戦火を交える際には先鋒戦力となり勝敗の趨勢を握ることになると考えられているからである。なぜならば、中国軍は対艦弾道ミサイルをはじめ多種多様の接近阻止領域拒否態勢を固めている。なんらの接近阻止戦力も保有していないテロリスト集団との戦いにおいては無敵の存在であった空母打撃群を、中国軍が手ぐすねを引いて待ち構えている東シナ海や南シナ海の戦域に先鋒戦力として送り込むわけにはいかないというわけだ。

 ウィルソン空軍長官やゴールドフィン空軍参謀総長が述べているように、いまだ空軍は戦力大増強の基礎となる新戦略も具体的な装備や組織案も打ち出してはいない。だが、ホワイトハウスやペンタゴンが打ち出した「大国間角逐」に打ち勝つため、中国を主たる仮想敵とした空軍戦力大増強策を検討中であることだけは確かなようである。
中国攻撃には不安が伴うB-52爆撃機

焦るアメリカ、我関せずの日本


 米国では財政的観点から「空軍の386個飛行隊建設など夢物語にすぎない」と批判するシンクタンク研究者も少なくない。しかしながら海軍の355隻艦隊建設構想に対してもシンクタンクの研究者たちからは同じような批判が加えられていた。ともかくトランプ政権下では、夢物語かどうかは、蓋を開けてみなければわからない状況だ。

 いずれにせよ、日本の“軍事的保護者”であるアメリカ軍が、中国人民解放軍とりわけその海洋戦力の増強に深刻な脅威を感じて国防戦略そのものを大転換させ、海軍力大増強に踏み切り、空軍力の大増強の検討も進めている。それにもかかわらず、中国海洋戦力と直接最前面で対峙することになる日本では、あいかわらず国防政策最大の課題といえば憲法第9条云々といった状態が続いている。

 今こそ日本を取り巻く軍事的脅威を直視する勇気を持たなければ、気がついたときには“軍事的保護者”が変わっていた、という状況になりかねない。
【私の論評】「ぶったるみドイツ」ほど酷くはないが日本の防衛予算にも問題あり(゚д゚)!

ヘザー・ウィルソン米空軍長官の「米空軍は2025年から2030年の間までには戦力を386個飛行隊に拡張しなければならない」という話はかなり信憑性が高いと思われます。彼女の発言は理想論ではなく、本気でしょう。

なぜなら、この発言は今月7日のことですが、それに呼応するかのように以下の報道がありました。
米、最新鋭戦闘機F35調達費が最安値に
昨年沖縄米軍嘉手納基地に配備されF35A
  米国防総省は28日、最新鋭ステルス戦闘機F35、141機を計115億ドル(約1兆3千億円)で調達することで、製造元のロッキード・マーチンと合意したと発表した。これまでの調達で最安値となり、空軍仕様で航空自衛隊も導入したF35Aは1機当たり約8920万ドル(約101億円)となり、初めて9千万ドルを切った。 
 ロッキードの担当者は28日、2020年までにF35Aの調達費を1機当たり8千万ドルまで値下げする意向を示した。 
 米政府監査院(GAO)は昨年、F35の維持費が60年間で1兆ドル以上になるとの試算を発表。トランプ大統領は調達計画を「制御不能」と批判し、米軍は価格を抑制しなければ、調達機数を減らす必要があるとしてロッキードに値下げを迫っていた。 
 F35Aは前回調達時と比較して5・4%減。海兵隊仕様のF35B、海軍仕様のF35Cも、それぞれ5・7%、11・1%減となった。値下げを受けて日本が調達を拡大する可能性もある。
この記事の元記事では、 「最大に強化されるのは爆撃機部隊」とありますが、記事をよく読めばそれはあくまで率であり、軍事機密でもあるので詳しくは記されていませんが、類推するに、おそらく統合打撃戦闘であるB35が機数や調達金額では最大であると考えられます。

製造機数が多くなれば、一機あたりの製造コストも当然のことながら、下がります。製造元のロッキード・マーチンとしては、製造機数が多くなることを前提として、トランプ政権の要望に応えて、値下げしたのでしょう。

現在米国は中国に貿易戦争をしかけています、さらに南シナ海でもB52爆撃機を飛行させたり、航行の自由作戦を敢行して、中国に対して揺さぶりをかけています。

ということは、トランプ政権としては、貿易戦争は徹底して継続しさらに金融制裁も実行して、実質的な経済冷戦となり、軍事的にも中国に対峙し、抑止力を強化し、さらにこちらからは仕掛けることはないにしても、中国が仕掛けてきた場合には反撃するつもりなのでしょう。以上のことからも、トランプ政権の本気度がうかがわれます。

冒頭の記事では、米国が空軍も大増強することを表明しても日本は、我関せずの日本などと批判していますが、そうでもありません。ただし、今のところはですが・・・・・・

そもそも、日本は元々米国からB35をある程度の機数を購入することを約束していますし、値下げを受けて調達を拡大する可能性はかなり高いです。

軍事的に我関せずになのは、日本よりむしろドイツです。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い―【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!
メルケルと李克強

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ドイツは緊縮財政で主力戦闘機であるユーロファイターが4機しか稼働しない状態にあり、さらに中国とは貿易を推進しようとしてまいます。

以下にこの記事の結論部分だけを引用します。
いくら中国から地理的に離れているとはいえ、ドイツも含まれる戦後秩序を崩し世界の半分を支配しようとする中国に経済的に接近するとともに、緊縮財政で戦闘機の運用もままならないという、独立国家の根幹の安全保障を蔑ろにするドイツは、まさにぶったるみ状態にあります。ドイツの長い歴史の中でも、これほど国防が蔑ろにされた時期はなかったでしょう。
このような状況のドイツにトランプ大統領は活をいれているのです。ドイツにはこのぶったるみ状態からはやく目覚めてほしいものです。そうでないと、中国に良いように利用されるだけです。 
そうして、ドイツを含めたEUも、保護主義中国に対して結束すべき時であることを強く認識すべきです。
しかも、これはあまりにタイミングが悪すぎます、トランプ政権の米国が中国に対して貿易戦争を開始したときとほぼ同時にメルケルは李克強と会談し、貿易を推進させることを公表しているのです。

この状況はトランプ大統領からみれば、まさにドイツは「ぶったるみ」状態にあると写ったことでしょう。だから先日のNATO総会でも「NATO諸国が国防費の目標最低値として設定しているGDP比2%はアメリカの半分であり、アメリカ並みに4%に引き上げるべきである」とトランプ大統領は主張したのです。

この記事には掲載はしませんでしたが、さらに驚くべきこともあります。昨年10月15日、ドイツ潜水艦U-35がノルウェー沖で潜航しようとしたところ、x字形の潜航舵が岩礁とぶつかり、損傷が甚大で単独帰港できなくなったのです。

ドイツ国防軍広報官ヨハネス・ドゥムレセ大佐 Capt. Johannes Dumrese はドイツ国内誌でU-35事故で異例の結果が生まれたと語っています。

ドイツ海軍の通常動力型潜水艦212型。ドイツが設計 建造しドイツの優れた造艦技術と
最先端科学の集大成であり、世界で初めて燃料電池を採用したAIP搭載潜水艦である。

紙の上ではドイツ海軍に高性能大気非依存型推進式212A型潜水艦6隻が在籍し、各艦は二週間以上超静粛潜航を継続できることになっています。ところがドイツ海軍には、この事故で作戦投入可能な潜水艦が一隻もなくなってしまったというのです。

Uボートの大量投入による潜水艦作戦を初めて実用化したのがドイツ海軍で、連合国を二回の大戦で苦しめました。今日のUボート部隊はバルト海の防衛任務が主で規模的にもに小さいです。

212A型は水素燃料電池で二週間潜航でき、ディーゼル艦の数日間から飛躍的に伸びました。理論上はドイツ潜水艦はステルス短距離制海任務や情報収集に最適な装備で、コストは米原子力潜水艦の四分の一程度です。

ただし、同型初号艦U-31は2014年から稼働不能のままで修理は2017年12月に完了予定ですかが再配備に公試数か月が必要だとされています。

この現況は緊縮財政による、経費節減のためとされていますが、これも酷い話しです。

貿易で中国と接近しようとしつつ、国防力も緊縮財政で最悪の状態にあるドイツはまさに「ぶったるみ」状態です。

日本は、ドイツのように「ぶったるみ」状態にはありませんが、それにしても防衛予算は低すぎです。陸上自衛隊の隊員の訓練度合いは、なんと米軍の軍楽隊並であるとか、自衛隊の官舎などにいけばわかりますが、低予算のために涙ぐましい努力をしています。

それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【憲法施行70年】安倍晋三首相がビデオメッセージで憲法改正に強い意欲 「9条に自衛隊書き込む」「2020年に新憲法を施行」―【私の論評】憲法典を変えればすべてが変わるというファンタジーは捨てよ(゚д゚)!

 

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみ掲載します。
憲法改正ももちろん大事でしょうが、我々はもっと地道な努力をすべきです。ブログ冒頭の、安倍総理のビデオメッセージは確かに、立派です。しかし、安倍総理が憲法を改正するにしても、その前にできることをしなければ、無意味になってしまいます。

憲法典が改正されたとしても、自衛隊のトイレットペーパーの個人負担や、ファーストエイドキットがまともになったり、射撃訓練がまともにできるようならなければ、何も変わらないのです。

安倍総理には、これらの地道な努力を重ねていった上で、最終的に憲法を改正するという道を歩んでいただきたいです。
防衛予算など、憲法を変えなくてもできると思います。実際、現在でも憲法で軍隊についての定めのあるドイツよりも防衛予算は多いです。

この事実が雄弁に物語っています。憲法に軍隊の定めがあっても、ドイツのように 緊縮財政で主力戦闘機であるユーロファイターが4機しか稼働しない状態になったり、Uボートが無稼働の状態になるのです。

では、防衛費は憲法がどうのこうのというよりも、緊縮財政をする主体、日本でいえば、財務省に問題があるに違いありません。

財務省は、まるで大きな政治集団のように振る舞い、政治にも大きな影響力を及ぼします。その良い例が、消費税増税です。

その財務省が防衛予算も何かといえば削減する傾向があるため、日本の安全保証が危険にさらされています。ただし、安倍政権になってから防衛費は毎年若干ながらも増えています。だからこそ、「ぶったるみドイツ」のようにはならないですんでいるのでしょう。


ただし、日本の安全保証環境は、従来から比較すれば、かなり不安定化し厳しさも増しててきています。このような状況であれば、微増ではまったく話になりません。現在のGDP比1%5兆円ではなく、せめて先進国の軍事費のスタンダードであるGDP比2%程度の10兆円規模がないとお話にもならないのです。

現状の予算であれば、これからF35を新たな購入したり、イージスアショアを購入すれば、この程度の予算増では、様々なところにしわ寄せがいくことになる可能性は否定できません。今のところ、自衛隊員の自助努力で何とかなっていますが、いずれドイツのようになる可能性は否定できません。

憲法が改正されても、安全保障面で「ぶったるみドイツ」のようになって、世界から信用を失い、米国からも信用を失えば、とんでもないことになりかねません。

そのようなことにならないように、安倍政権としては、日本国内の安全保障上の敵である財務省に対峙していただき、消費税の10%増税阻止と、防衛予算のさらなる向上を目指していただきたいです。

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