2019年1月8日火曜日

レーダー照射:国際法違反を知られたくなかった韓国―【私の論評】海自哨戒機レーダー照射の背後に北朝鮮あり(゚д゚)!

レーダー照射:国際法違反を知られたくなかった韓国

韓国軍が海自哨戒機にレーダー照射、日本に難癖つける本当の理由




日韓が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)で韓国海軍が
行った上陸訓練の様子(2013年10月25日撮影、資料写真)

2018年12月20日、韓国海軍軍艦が海上自衛隊の「P1」対潜哨戒機に射撃管制レーダー(射撃レーダー)を照射した。

この事実は、海自哨戒機の飛行員の緊迫した会話や撮影映像から、明白である。

にもかかわらず、韓国国防省は認めようとはせず、そればかりか、日本の海上自衛隊機が異常な接近飛行を行ったと難癖をつけ、「陳謝せよ」と抗議している。

■ 韓国はなぜすぐばれる嘘をつくのか

これまでの韓国の主張には、一貫性がなく、論理矛盾がある。

韓国が、海自哨戒機が韓国軍艦に異常接近したとする映像を公開した。その映像には哨戒機が遠方に写っており、どう見ても異常接近しているようには見えない。

航空機を真上に見上げれば、その腹底が見えるはずだが、そうではない。戦闘機であれば、急降下や急上昇できるが、哨戒機は、そのようなことはできない。

韓国海軍軍人には当然分かっていることだし、軍事常識でもある。

韓国は、それを認めようとはせず、発表していることが論理矛盾を起こしていながらも、頑なに日本を非難している。

軍事知識がない人は騙すことができても、軍事知識がある人を騙すことはできない。

韓国軍人も国防省の幼稚な発表に恥ずかしい思いをしているに違いない。

支離滅裂で論理矛盾を起こしてまでも、なぜそのようなことを発表するのか――。

■ 日本の経済水域内で北朝鮮と何をしていたか

そこには、多くの謎があると考えるべきだろう。

韓国軍艦がレーダーを照射したことは重大な事態であり、日本としては非難しなければならない。

だが、もっと重要なことは、レーダーを照射すれば、日韓関係に重大な影響を及ぼすことが分かっていながら、行ったということだ。

当然、そこには、重大な意図が隠されていると見るべきだ。

そして、韓国はその意図を読まれないように、「日本は馬鹿げたことを言って」と、論点をすり替えている。

この事案で、私が最も注目しているのは、防衛省公表の映像だ。

韓国軍艦が射撃レーダーを照射した時、韓国の海軍軍艦と海洋警察警備艇がほぼ同じ海域で海上警備活動(救助? )を行い、その近くに、北朝鮮の漁船(軍や工作機関が漁業に使用している船か)が存在したことだ。

防衛省が発表した動画「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について」より

その海域は、韓国の近海ではなく、日本の経済水域に深く入り込んだ海域だ。その海域で、偶然にしても、これら3つの船が1か所に集まることは、全く考えられないのだ。

韓国は救助活動だと発表しているのに、戦闘艦艇である駆逐艦までもが、そこにいたことは不自然極まりない。

■ 南北朝鮮の密接な行動は国際法違反の可能性

この3つが集まっている理由を考察すると、上記の漁船が、燃料不足になり漂流、その船から北朝鮮の本国に救助依頼を行った(漁民が乗る漁船は、連絡できる通信機を積載していない)。

その連絡を受けた北朝鮮の機関が金正恩政権に報告し、北朝鮮と韓国のパイプを使って、韓国の文政権に連絡、そこから国防省や海洋警察に連絡、それにより、2隻の艦艇が出動したものと考えられる。

北朝鮮漁船、北朝鮮工作機関、北朝鮮政府、韓国政府、韓国国防省、韓国海軍、韓国海洋警察の連携がないと、3隻が海上の同一ポイントに集合することはできない。

つまり、南北がかなり密接に行動していることがうかがえる。

さらに、映像から判断すると北朝鮮の漁船は沈没しそうな状況ではなく、エンジン故障か、燃料不足で浮遊していたように見える。

おそらく、燃料切れになっていた北朝鮮の漁船に、燃料を提供していた可能性がある。

このことを海自哨戒機に接近して見られたくなかったために、射撃レーダーを照射して、嫌がらせを行い、海自哨戒機を追い払ったのではないだろうか。

韓国がレーダー照射を否定し、海上自衛隊の哨戒機の行動を非難しているのは、これらの南北の動きを知られないために、韓国による問題のすり替えにほかならないと、私は考えている。

■ 韓国と北朝鮮の間にある密約

私は、北朝鮮と韓国の間に、密約がいくつか存在していると考えている。

文大統領が北朝鮮への制裁解除を求めるために、世界中を使い走りしていることからもうなずける。

密約の一つとして、日本海の中央付近で漁業活動する北朝鮮の漁船を、遭難した場合に韓国が守る。

さらに、北朝鮮の漁船に燃料を補給する。つまり、南北が、国連制裁決議破りを日本海の海上で行っていると見てもおかしくはない。

この事案を契機に、日本国がこれから行動すべきことは、日本の国益を守ることだ。

具体的には日本の経済水域を守ること、海上自衛隊は、北朝鮮の漁船を不法に入れないことだ。

また、韓国艦艇が救助と称して、北朝鮮の漁船に燃料を提供するという国連制裁決議違反をしていないかどうかを監視すべきだ。

韓国が何を言おうが、日本海の警戒監視を、引き続き実施することが必要である。

文在寅政権の韓国は、南北融和と軍事的合意事項の履行、反日活動の活発化、今回の事案などにより、日本や米国との友好国の立場から離脱し始めていると見てよい。

日本人や日本のメディアは、目の前の事象だけにとらわれずに、朝鮮半島で起きていることが、日本に脅威になりつつあることを改めて認識すべきだ。

日本と南北朝鮮との安全保障関係は、重大な変換点に来ていると言っても過言ではない。

【私の論評】海自哨戒機レーダー照射の背後に北朝鮮あり(゚д゚)!

レーダー照射に関しては、このブログでもその理由について解説したこともありますし、他のメディアでもいろいろといわれています。しかし、冒頭の記事のように、韓国による北朝鮮制裁破りというのが、最も核心をついているように思います。

そもそも過去には、韓国による制裁破りが実際に行われていました。

このブロクではすべてを網羅はしませんが、目立ったものだけを以下に掲載します。

極めつけは大統領専用機の制裁破り

極めつけはなんと言っても文大統領の専用機の制裁破りでしょう。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【コラム】文大統領専用機はなぜ米国で給油できなかったのか―【私の論評】文在寅は、米国による北朝鮮制裁の韓国への厳格な適用の事実を隠蔽しようとした?
チェコを訪問した文大統領

詳細は、この記事をご覧いただくものとてして、文大統領が乗る大韓民国空軍1号機は言葉こそ「空軍1号機」だが、実際には軍用機ではなく、民間から賃借したチャーター機ですが、その「空軍1号機」が制裁を受けている可能性があるのです。その可能性に関わる部分を以下に引用します。

"
昨年9月に文大統領は、北朝鮮の平壌に行ったときにこの民間航空機である「空軍1号機」を用いているのです。

そこで、米国の北朝鮮に対する独自制裁について調べてみました。米国版のWikipediaを調べると、以下の記事がありました。
Sanctions against North Korea
この記事の中に以下のような文書がありました。
Also any aircraft or ship upon entering North Korea is banned for 180 days from entering the United States.
これを訳すと、「北朝鮮に入ったいかなる航空機も船舶も、180日間米国に入国できない」です。これによれば、民間であろうが、軍用機であろうが、北朝鮮に入った航空機は、180日間米国に入国できないことになります。確かに、このような制裁が存在するのです。
"
この条文の通りに解釈すると、文大統領の「空軍1号機」は確かにこの条文に抵触しており、90日間は米国に入国できないことになっていました。

ちなみに、この可能性は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が昨年チェコ・アルゼンチン・ニュージーランドの3カ国を訪問したときに。当初は米国に立ち寄るという予定だったにもかかわらず、それを直線になって変更して、チェコに寄ると発表したのです。

この変更が韓国内で「文大統領はなぜチェコに行ったのだろうか」という疑惑を生むことになったのです。

その疑惑は、簡単にまとめると、文大統領は当初米国に立ち寄り、給油してアルゼンチンに向かおうとしたのですが、文大統領の専用機「空軍1号機」は、昨年の9月に北朝鮮に入っているため、米国に制裁を適用されてその後90日間米国にできなかったため、米国ではなくチェコに寄ったのではないかというものです。

おそらく、米国としては昨年9月の文大統領の平城訪問は、米国に意図に反したものであり、厳格に米国による北朝鮮制裁の一環として、文大統領の「空軍第1号機」米国への寄港を認めなかったのでしょう。

石炭の北から韓国への事実上の輸出

VOAによると、シエラレオネ船籍の「リーチ・グローリー」が昨年7月4日、釜山港に入港した。全世界の船舶の出入りや位置情報を表示する「マリントラフィック」によると、韓国時間の4日午前11時58分、同船の船舶自動識別装置(AIS)の信号が釜山港で感知されました。

「リーチ・グローリー」は一昨年10月11日、北朝鮮産の石炭を浦項港に降ろし、その1ヶ月後にも浦項港に入港。11月16日には墨湖港に停泊しました。その10日後の26日には蔚山港、12月8日・15日・20日には釜山港に入港しました。

さらに、昨年1月1日と2月2日に平沢、1月27日に釜山、2月18日に仁川に入港、停泊しました。その後の4月1日、4日に平沢、4月10日と5月22日に釜山、4月18日に仁川に入港し、今月4日以降は日本に向かいました。

「リーチ・グローリー」は昨年10月から9ヶ月間に16回にわたり韓国に入港しましたが、韓国政府からは何の制裁も受けていません。国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは、この船舶を違法船舶だと指摘していました。

国連安全保障理事会は一昨年12月、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受けて採択した制裁決議2397号で、違法行為に加担したり違法な品目を運搬したりしたことを示す合理的な根拠がある船舶に対して、国連加盟国が押収・検査・凍結の措置を取ることができると定めています。

ただし、ロシアのハサン港、北朝鮮の羅津(ラジン)港を利用、または鉄道を利用してロシア産石炭を他国に輸送することについては適用を除外しています。

一方でパナマ船籍の「スカイ・エンジェル」も、一昨年10月2日に北朝鮮産石炭を仁川に降ろして以降、昨年6月14日に蔚山港に入港するまでの間、釜山、玉浦、蔚山、平沢の各港に出入りしている記録が残っています。

VOAは昨年7月16日、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが最近公開した「年次報告書修正版」によれば、北朝鮮産の石炭を積んだ複数の船舶が一昨年7月から9月の間に6回、北朝鮮の港からロシアのホルムスク港に向かいました。そこで石炭が「リーチ・グローリー」と「スカイ・エンジェル」に積み替えられ、韓国に向かったと指摘しています。

これに対して韓国外務省のノ・ギュドク報道官は昨年7月の19日の記者会見で「安保理決議に違反する違法行為と関連のある船舶は、合理的な根拠がある場合に押収できる」とし、関係当局の調査が行われており、適切な措置の検討が行われると述べました。同時に「総合的な判断は調査が行われてから可能だ」とも述べましたが、制裁破りの石炭輸出に何の制裁も加えなかった韓国に対する批判が高まりました。

韓国政府が北朝鮮へ石油80トンを搬入

韓国政府が開城工業団地の南北共同連絡事務所の開設のために、国連安全保障理事会が禁輸品目に指定した精油製品約80トンを北朝鮮に搬出していたことが分かっています。昨年8月22日付の韓国・中央日報が伝えました。 

21日、国会外交統一委員会幹事で自由韓国党の鄭亮碩(チャン・ヤンソク)議員が関税庁などから入手した資料によると、6~7月に石油と軽油8万2918キログラムが北朝鮮に搬出されたといいます。金額は約1億300万ウォン(約1010万円)相当です。このうち、再び韓国側に搬入された量は1095キログラムで100万ウォン(約9万8000円)相当でした。

韓国政府当局者はこれに対して、「開城に送られた物資は、北朝鮮に滞在するわれわれ韓国側の人員が使用するので制裁対象ではない。北朝鮮へ経済的利益は与えない」と説明しました。しかし、鄭亮碩議員は「韓国側の人員が使うとしても、連絡事務所が北朝鮮にあるので問題だ」とし、「制裁関連の協議が終わる前に、執行を先走ったものだ」と指摘しました。

米国務省も19日、「南北関係の改善は、必ず非核化の進展と正確に歩調を合わせて行わなければならない」と警告しました。

一方の北朝鮮は、開城共同連絡事務所の開設を口実に制裁を解除するよう韓国政府に迫っていました。北朝鮮の対韓国宣伝媒体「わが民族同士」は(昨年8月12日、「(板門店宣言が履行されない原因は)米国の対朝鮮(北朝鮮)制裁策動とそれに便乗した南側の不当な仕打ちにある」とし、「共同連絡事務所の作業に必要な数キロワット容量の発電機の持ち込みさえ思うように決心できずにいる」と主張しました。 

昨年9月14日、北朝鮮の開城で行われた南北共同事務所の開所式で、握手する
韓国の趙明均統一相(左から2人目)と北朝鮮の李善権?祖国平和統一委員長

今回の事件の背後には北と韓国の密約が存在する

欧米各国は「文大統領は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と、国連主導の経済制裁の緩和=制裁破りの密約を交わしているのではないか」と分析しているようです。正恩氏による年内のソウル訪問が延期されたのは、「北朝鮮が、韓国の約束違反に激怒した結果で、今も文氏を責めている」という情報があります。

米CIA(中央情報局)は昨年末、「ソウル拘置所に収監中の朴槿恵(パク・クネ)前大統領が12月30日にも保釈される」という未確認情報を入手し、慌てました。北朝鮮が「正恩氏暗殺計画の首謀者」として、朴氏の身柄の引き渡しを韓国に要求していて、文氏が北朝鮮のご機嫌取りで実行する懸念があったというのです

トランプ政権内では、文政権への不信感、警戒感が爆発し、「北朝鮮への制裁破り」で、韓国へのセカンダリー・ボイコット(二次的制裁)の検討が始まっています。今回のレーダー照射問題は異常過ぎます。米国は「韓国駆逐艦は本当に救助活動中だったのか?」「北朝鮮漁船の目的は何か?」「なぜ、韓国は非を認めることができないのか」と、重大な関心を持って調査に乗り出したのです。

海自哨戒機などの情報収集によって、日本は決定的証拠を握っています。

トランプ大統領は文政権を、北朝鮮と一体の「反米・反日レッド政権」「敵性国家」と見て、本気で「在韓米軍の撤退」「米韓同盟の破棄」を考えています。それを唯一止めていたのはマティス氏でした。ところが、昨年12月31日付で退任しました。

今回の海自哨戒機へのレーダー照射も、背後に北朝鮮がいるものと考えるのが妥当です。韓国艦艇は、おそらく北朝鮮の漁船に対して、恒常的に給油を行っているのです。そうして、それはおそらく北と韓国のと密約によって行われているのでしょう。

そうでないと、制裁で疲弊したはずの、北朝鮮から大和堆まで大量の北朝鮮漁船が虎の子の燃料を使ってまで押し寄せたり、日本各地に北朝鮮の漂流船が多数漂着するはずもありません。日米としては、さらに物証を集めて分析したうえで、韓国にだけではなく、北に対しても抗議をすべきです。

さらに、抗議するだけではなく、北にはさらに制裁を強化し、韓国に対しては、本格的に二次的制裁を課すべきです。

韓国については、いわゆる「元徴用工」判決や、慰安婦合意の事実上破棄、竹島問題もあります。日本はこれ以上、「無法国家」の横暴は断固許してはならないです。

【関連記事】

2019年1月7日月曜日

【社説】米国がTPP11発効で失った市場―【私の論評】トランプの次の大統領がTPPを見直す(゚д゚)!

【社説】米国がTPP11発効で失った市場

The wallstreet journal



 たとえ米国が動かなくとも、世界は動く。この表現は、貿易においては確かに真実だ。環太平洋経済連携協定(TPP)は、ドナルド・トランプ米大統領が離脱を表明した2年後、TPP11という新たな装いの下で年明けとともに11カ国で始動した。これによる最大の敗者は、米国の生産者だ。

 正式名称「包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」、いわゆるTPP11は先週、カナダ、日本、メキシコ、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポールの間で発効した。同協定は、全輸入品目の95%について加盟国間の関税を撤廃するもので、加盟諸国の国内総生産(GDP)の合計は世界全体の13%に相当する。TPP11はベトナムでは1月14日に発効し、ブルネイ、チリ、マレーシア、ペルーでも批准手続きが進められている。

 元々のTPPで規定されていた1000以上の項目は、20前後の項目を除いて全て、新たな協定に盛り込まれた。凍結された項目の中には、著作権の有効期間の延長、バイオ医薬品の特許保護期間を8年とすることなど、米国にとっての優先項目も含まれている。しかし、知的財産権に関する他の成果や、外国投資家の保護、国有企業に公平な競争条件を求める項目は、新協定に引き継がれた。

 米国の離脱にもかかわらず、加盟国は依然として大きな利益を得られる状況で、ピーターソン国際経済研究所によれば、世界でざっと1470億ドル(約16兆円)の実質所得の拡大が見込まれる。同研究所はマレーシアとシンガポールで2030年までにさらに3.1%と2.7%の実質所得の伸びを予想している。別の推計によれば、ベトナムからTPP11加盟国への繊維・アパレル輸出は30億ドル増えるとみられている。

 カナダは、米国がTPPに残留していた場合よりも大きなGDP押し上げ効果を得られる見通しだ。これは主に、日本の市場から追い出される公算が大きい米国の農家が犠牲になることで生じる。日本政府は通常、牛肉に38.5%の関税をかけており、米国にはこれが適用されるが、カナダ・ニュージーランド・オーストラリアからの輸入品にかかる関税は9%に下がる。カナダ政府は結果として牛肉の総輸出が10%増えるだろうと予測している。

 米小麦協会のビンス・ピーターソン会長は先月ワシントンで、TPP11が発効すれば、日本で53%を占めている米生産者の市場シェアが、「直ちに崩壊する」恐れがあると述べていた。日本に輸出される米国産小麦の価格は、カナダ産や豪州産より1ブッシェル当たり40セント不利になる見通しだ。

 米国産豚肉にとっても、状況が良いとは言いがたい。2017年の欧州から日本への豚肉の輸出額は過去10年間で初めて米国からの輸出額を超えた。差し迫った日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効により、欧州は一層有利になる。米国から中国への豚肉の輸出も、トランプ政権が課した関税への報復措置として中国政府がかける62%の関税に直面している。

 トランプ大統領の貿易政策を支持する人々は、彼の関税措置が単なる短期的なコストであり、結果としてはより良い貿易取り決めにつながると主張している。しかし、TPPからの離脱は、それによってどの国からも貿易的な譲歩措置を得ることができなくなるため、市場の非効率による過度の経済損失(deadweight economic loss)となる。米国と日本は2国間貿易協定について改めて交渉を行うが、2国間協議よりも容易に、そしてはるかに迅速に日本市場を開放する道はTPPだった。

 新協定のTPP11はまた、他の参加諸国の内部変革にも拍車を掛けている。ベトナムは同協定の一環として外国小売企業に対する制限の緩和、金融部門に対する外国企業の投資上限引き上げを行っている。マレーシアはTPP11加盟国の銀行に対し、同国内での支店開設数を従来の2倍に拡大することを認める。

 米国のTPP離脱は近年の経済史上、最悪のオウンゴール(自殺点)の1つとなった。トランプ氏が残りの任期である今後2年間のうちに方針を再考することはありそうにないが、恐らく次の大統領はそうするだろう。

【私の論評】トランプの次の大統領がTPPを見直す(゚д゚)!

日米の貿易協議が早ければ2019年1月下旬にも始まります。日本政府は物品に限ったTAG(物品貿易協定)の交渉に限定したいのですが、トランプ政権はサービスその他重要な分野も含めた包括的なFTA(自由貿易協定)を目指しており、日米の思惑に違いがみられます。果たして日本のシナリオ通りの展開となるのでしょうか。

TAGにこだわる安倍政権の意図

18年9月26日の日米首脳会談で日米貿易協定の交渉入りを合意しました。しかし、日本政府が、共同声明の英文にもない「TAG」という造語を使ったことから、野党からは「TAGを捏造」と批判されることになりました。

日本政府が発表した共同声明には、「日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定(TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」と書かれています。


このTAGへのこだわりに安倍政権の戦略的な意図が読み取れます。安倍首相も,「TAGは日本がこれまで締結した包括的なFTAとは全く異なる」と説明しています。

この2年間、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したトランプ政権が包括的な日米FTAの締結を日本に迫るなか、米国抜きのTPP11を主導した安倍政権は、日米FTA交渉には絶対に応じないと言い続けてきました。

しかし、二国間主義に基づき追加関税で脅しながら相手国に譲歩を迫るトランプ流の交渉術が一応の成果を上げ、それが多国間よりも二国間の交渉の方が米国に有利だというトランプ政権の主張を勢いづかせ、「米国のTPP復帰が最善」と主張する日本にとっては不都合な状況になりました。

結局、米通商拡大法232条(安全保障条項)に基づく米国の自動車・同部品の25%追加関税の対象から日本を除外させることが、安倍政権の優先課題となってしまい、TPPの問題を一時棚上げにして米国の要求を受け入れ、実質的な日米FTA交渉の開始に合意するしかありませんでした。TAGはその苦肉の策です。

TPPか日米FTAか、日米の思惑が錯綜するなか、日本は着地点に向けてどのようなシナリオを描こうとしているのでしょうか。玉虫色の日米共同声明には、さらに、「上記協定の議論が完了した後、他の貿易・投資の事項についても交渉」とあります。

安倍政権は、第1段階は関税撤廃などTAGに限定、第2段階で関税以外のルールづくりを目指すという2段階方式のシナリオを描いています。ただし、米国のTPP復帰を諦めていません。

深読みすれば、ポスト・トランプも睨みながら、第2段階のルールづくりで日米FTAの議論をTPP復帰問題にすり替えるチャンスを虎視眈々と狙うしたたかな戦略を考えています。それがまた、米国のTPP復帰を前提にTPP11(CPTPP)をまとめ上げた安倍政権の矜持といえるでしょう。

死角だらけの日本の通商シナリオ

表現がどうであれ、TAGは紛れもなくFTAです。関税撤廃などを米国だけの特別扱いにするのであれば、FTAを締結しなければ、WTO協定の最恵国待遇原則に違反します。TAGに関する日本側の最大の懸念材料は、米国がTPP水準を超える農産物の市場開放を日本に要求してくることです。その懸念を払拭するため、「農産物の市場アクセスはTPPの水準を超えない」との文言が合意文書の了解事項として盛り込まれました。

さらに、18年7月の米EU合意と同様、交渉中は米国が日本に対して自動車・同部品の25%追加関税を課さないようにするため、「交渉中は、共同声明の精神に反する措置の発動を控える」という表現で米国の確約を得ました。これら2つの約束を取り付けたという意味で、安倍政権にとっては米国の圧力下で満点に近い合意を得たと言ってよいでしょう。

しかし、今後の展開は予断を許さないです。その後「TPP以上の譲歩を日本に要求する」というパーデュー農務長官の発言が飛び出すなど、「TPP並み」が農産物の攻防ラインとなるのは必至です。

さらに、米国側の了解事項に、「自動車分野について、米国内での生産及び雇用の増大に資するものとする」という文言が盛り込まれたことが火種となるでしょう。米自動車メーカーは日本市場において戦意を喪失しており、日本への自動車輸出は増える見込みがないため、日本の対米自動車輸出を規制するという「管理貿易」の議論に発展しそうです。

日本は米国の要求を飲まされるのか

米国の貿易関連法により,貿易交渉開始の30日前に、米通商代表部(USTR)は議会に交渉目的を通知しなければならないです。このため、USTRは18年12月21日、日本との貿易協議に向けて22分野の要求項目を議会に通知しました。22項目の中身をみれば、TPPとほとんど同じような分野が並んでおり、包括的な日米FTAの締結を目指すトランプ政権の強い姿勢がうかがえます。

18年12月10日にワシントンで開かれたUSTRの公聴会では、米国の業界団体からTPPを上回る水準の協定を求める声が相次ぎました。このため、要求項目には、農産品の関税引き下げや自動車貿易の改善にとどまらず、通信や金融などサービス分野を盛り込んでいます。さらに、薬価制度や為替問題も協議するとしています。

日本側が最も反発する項目は、通貨安誘導を禁ずる為替条項の導入です。米自動車業界は円安による日本車の輸出攻勢を恐れています。このため、円売り介入だけでなく、日銀の異次元金融緩和までも円安誘導策とみています。安倍政権は交渉対象から為替問題を外し、日米の財務当局に委ねたい考えです。

USTRによる議会への通知によって、改めて日米の思惑の違いが浮き彫りとなりました。日米の貿易協議を担当する茂木経済財政・再生相とライトハイザーUSTR代表が12月中旬に電話会談をし、共同声明を順守することを確認したとされますが、ゴリ押しの通商政策を展開するトランプ政権を相手に、果たして日本のシナリオ通りにTAGの議論を先行できるかは不確実です。

日米貿易協議の初会合にのぞむ茂木経済財政・再生相とライトハイザーUSTR代表(昨年10月9日、ワシントン)

米中協議が難航すれば日本に追い風?

一方,18年12月1日の米中首脳会談で90日間の貿易協議に入ると合意しました。期限は19年3月2日です。米国は対中貿易赤字の大幅削減を要求していますが、知的財産権の保護や技術移転の強要などの問題も議題に挙げています。しかし、中国の国家資本主義の象徴ともいえる「中国製造2025」をめぐる米中の対立はハイテク覇権争いが絡んでおり、落としどころも難しいです。



19年1月下旬から開始予定の日米TAG交渉に、米中協議はどのような影響を及ぼすでしょうか。「米中衝突は日本にプラス」との見方は少なくないです。中国が譲歩しすぎると米国が自信をつけて日本に高圧的になる恐れもありますが、逆に米中協議がもつれると、日本との交渉は先送りされる可能性も出てきます。

日米はTAG交渉には期限を定めていません。それでも19年6月下旬に大阪で開かれるG20首脳会議に合わせてトランプ大統領が来日しますが、その折の日米首脳会談で譲歩を迫られることを日本側は警戒しています。

安倍政権の本音としては、TAG交渉の決着をできるだけ19年夏の参院選後に引き延ばしたいということがあるでしょう。与党自民党が、農産物の市場開放がたとえTPP並みであっても、選挙にマイナスに響くことを恐れているからです。

米中協議は、予め難航することが予想されるため、TAG交渉の決着は参院選後になることが予想されます。ただしその後はどうなるかは、未だ予測がつかない段階です。

「タリフマン(関税好き)」を自称するトランプ大統領は、日米の貿易協議入りと引き換えに、自動車関税を棚上げにしましたが、矛先が日本に向くリスクは消えていません。日本側の時間稼ぎに腹を立て、再び関税の引き上げを言い出す可能性があります。2019年のTAG交渉は安倍政権にとってまさに正念場といえます。
日本側としては、冒頭の記事にもあるように、ポストトランプの大統領に望みを託すことになりそうです。

次の大統領は、TPPが協力な中国包囲網となることを容易に理解すると、考えられます。そうして、日米のそうして世界の貿易関係は、TPPの枠組みの中でというのが、理想的です。

【関連記事】

2019年1月6日日曜日

本物のシビリアン・コントロール 「マティス氏退任」は米の民主主義が健全な証拠 ―【私の論評】トランプ大統領は正真正銘のリアリスト(゚д゚)!

本物のシビリアン・コントロール 「マティス氏退任」は米の民主主義が健全な証拠 


トランプ大統領とマティス氏

ジェームズ・マティス氏は昨年12月31日付で、ドナルド・トランプ政権の国防長官を退任した。マティス氏は退役海兵隊大将であり、米国統合戦力軍司令官、NATO(北大西洋条約機構)変革連合軍最高司令官、米国中央軍事司令官などの要職を歴任した人物だ。

 2017年1月20日のトランプ政権発足と同時に、第26代国防長官に就任した。本来は「シビリアン・コントロール(文民統制)」の観点から、元軍人は退役後7年経過しないと国防長官になれない。だが、上院が承認すれば就任できる。議決は「賛成98票、反対1票」だった。

 マティス氏は間違いなく米国のヒーローであり、世論やメディアの評価はいまなお高い。私自身、彼のキャラクターが大好きだし、尊敬している。

 だが、生粋の軍人であるマティス氏と、ビジネスマン出身のトランプ氏は、価値観に大きな食い違いがあったと感じる。

 トランプ氏がビジネスで成功を収めた要因の1つは、「合理主義の追求」である。人事面では、有能な人材を年齢や社歴と関係なく抜擢(ばってき)し、能力給と成功報酬を与える。逆に、無能と判断した人間は過去と関係なく解雇する。いわば人間関係も「損切り」するのだ。

 一方、マティス氏が人生を捧げた海兵隊では、戦場で傷付いた戦友を見捨てることは許されない。米軍でも、特に海兵隊は日本的な「義理人情」に厚いという印象がある。

 今回、シリアからの米軍完全撤退という決定を契機に、マティス氏は辞意を固めた。米軍が撤退すれば、IS(過激派組織・イスラム国)掃討作戦に全面協力したクルド人勢力は、再びアサド政権下で弾圧されるだろう。この厳しい「損切り」の責任者になることが、マティス氏にはとても許容できなかったのだと思う。

 私は、クリスマス前から年始まで米国で過ごしてきた。今回、信頼が厚くて人気の高いヒーローの退任に、多くの米国人が強いショックを受けたかといえば、実はそうでもない。トランプ支持者が愛想を尽かしたかといえば、それもなかった。

 なぜなら、米国民が選挙を通じて自ら選んだのはトランプ大統領だからだ。マティス氏は大統領が選んだ人物に過ぎない。

 大統領の方針に異議があり、説得したが失敗した。健全な民主主義国なら、方針に従うか、退任しか選択肢はない。それが本物の「シビリアン・コントロール」である。

 ちなみに、シリア国内にISの残党がいたら、すぐたたけるように、米軍はシリアからは撤退しても、イラクには残る。この文章の「シリア」が「韓国」に、「イラク」が「日本」になる日は、そう遠くないのかもしれない。

 ■ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士、タレント。1952年、米アイダホ州生まれ。71年に初来日。著書に『儒教に支配された中国人・韓国人の悲劇』(講談社+α新書)、『トランプ大統領が嗤う日本人の傾向と対策』(産経新聞出版)、『日本覚醒』(宝島社)など。

【私の論評】トランプ大統領は正真正銘のリアリスト(゚д゚)!

冒頭の記事で、ケント・ギルバート氏は以下のように述べています。
トランプ氏がビジネスで成功を収めた要因の1つは、「合理主義の追求」である。人事面では、有能な人材を年齢や社歴と関係なく抜擢(ばってき)し、能力給と成功報酬を与える。逆に、無能と判断した人間は過去と関係なく解雇する。いわば人間関係も「損切り」するのだ。
トランプ大統領のイラク撤退の考えが合理的であることは以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
もう“カモ”ではない、トランプの世界観、再び鮮明に―【私の論評】中東での米国の負担を減らし、中国との対峙に専念するトランプ大統領の考えは、理にかなっている(゚д゚)!
昨年末電撃的イラク訪問をしたトランプ大統領
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からシリアから撤退することを決断したトランプ大統領の考え方が、合理的であると説明した部分を引用します。
この判断には、合理性があります。アサド政権の後ろにはロシアが控えていますが、そのロシアは経済的にはGDPは東京都より若干小さいくらいの規模で、軍事的には旧ソ連の技術や、核兵器を受け継いでいるので強いですが、国力から見れば米国の敵ではありません。

局所的な戦闘には勝つことはできるかもしれませんが、本格的な戦争となれば、どうあがいても、米国に勝つことはできません。シリアやトルコを含む中東の諸国も、軍事的にも、経済的にも米国の敵ではありません。

一方中国は、一人あたりのGDPは未だ低い水準で、先進国には及びませんが、人口が13億を超えており、国単位でGDPは日本を抜き世界第二位の規模になっています。ただし、専門家によっては、実際はドイツより低く世界第三位であるとするものもいます。

この真偽は別にして、現在のロシアよりは、はるかに経済規模が大きく、米国にとっては中国が敵対勢力のうち最大であることにはかわりありません。

トランプ政権をはじめ、米国議会も、中国がかつてのソ連のようにならないように、今のうちに叩いてしまおうという腹です。

であれば、トルコという新たな中東のプレイヤーにシリアをまかせ、トルコが弱くなれば、トルコに軍事援助をするということで、アサド政権を牽制し、中東での米国の負担を少しでも減らして、中国との対峙に専念するというトランプ大統領の考えは、理にかなっています。 
物事には優先順位があるのです、優先順位が一番高いことに集中し、それを解決してしまえば、いくつかの他の問題も自動的に解決してしまうことは、優れた企業経営者や管理者なら常識として知っていることです。
無論、このような論評の前提には、そもそもシリアにはアサド政権を含めて、クルド人勢力などの反政府勢力も元々反米的という前提があります。クルド人勢力が反政府勢力となったのは、一時的に米国と利害が一致していたに過ぎません。その証左として、米軍引き上げという 窮地に、トルコと敵対するアサド・シリア政権に庇護を求め、手を結んでいます。

結局、シリアには、アサド政権は無論のこと、クルド人勢力のような反政府勢力も反米的なのです。

だとすれば、いずれが勝利したとしても、米国の勝利にはならないのです。だから、米国の戦略家であるルトワック氏は、米国の対シリア政策は、アサド政権と反政府勢力を拮抗させておくべきというものでした。

であれは、新たな拮抗勢力として、トルコが名乗りをあげたのです。これからトルコがシリアを攻撃して、勝利を収めたとしても、米国としてはアサド政権よりははるかにましです。であれば、シリアから撤退すべきと考えるのが合理的です。

トランプ氏の考え方は、どこまでも合理的なのです。そうして、トランプ大統領はリアリストなのかもしれません。

日本で「リアリスト」というと、あえて大雑把にいえばいわゆる「現実派」というイメージになります。汚い仕事からも目をそらさず実行するという「実務派」という意味でとらえられがちです。

これは米国でも同じであり、時と場合によっては政治信条などを度外視して、生臭い権力闘争や、利権の力学で政治をおこなう実務派たちを「リアリスト」と呼ぶことがあります。例えば、チェイニー元副大統領などがその代表的な人物であり、血の通わない冷酷な人物である、とみられがちです。トランプ氏はそのような側面があることは否めないと思います。

しかし、「リアリスト」にはもう一つの意味があります。それは、「国際関係論」(International Relations)という学問の中の「リアリズム」という理論を信じる人々のことも意味します。

「リアリズム」というと、美術などの分野では「写実主義」のような意味になりますが、
国際政治を理論的に分析しようとする「国際関係論」という学問では、「国際関係を、主に『権力(パワー)』という要素にしぼって分析、予測する理論」です。

ハイパーリアリズムの絵画 もはや写真にしか見えない

つまり、「リアリズム」とは、「国際政治というのはすべて権力の力学による闘争なのだ!」と現実的(realistic)に考える理論です。よってリアリズム(現実主義)となるのです。

さて、この理論の中核にある「権力=パワー」というコンセプトがまずクセものです。「リアリズム」学派では、伝統的に、「権力=パワー」というのは、主に「軍事力」によって支えられると考えられています。

よって、彼らにとってみれば、国際政治を動かす「パワー(power)」というのは、
「軍事力による脅しや実際の行動(攻撃)によって、相手の国を自国の意思にしたがわせる能力」ということなのです。

究極的にいえば、「リアリズム」では、この「パワー」こそが国際社会を動かす唯一最大の要素なのです。ですから、ここに注目してさえいれば、概ね相手の動きは読めてしまう、ということなのです。

このような考え方は、平和信仰の強い日本人にしてみれば、「なんとえげつない理論だ」と思われるかもしれません。

ところが欧米の国際関係論の学界では、この「リアリズム」という概念が一番説得力のある強い理論だとされており、あえて刺激的な言い方をしますと、これを知らない、いや、知っていても認めないし、知ろうともしないアカく染まった日本の学者や知識人たちだけとも言える状況なのです。

国際関係学においては、「リアリズム(現実主義派)」と「リベラリズム(自由主義)」
がメジャーな存在ですが、その他にも、「マルクス主義」や、「コンストラクティビズム」などがあります。


リアリストたちが「国際社会はパワーの闘争によって動かされている!」と考えていることはすでに述べたとおりですが、その彼らにすれば、「平和」というのは単なる「闘争の合間の小休止」、もしくは「軍事バランスがとれていて、お互いに手出しできない状態」ということになります。

よって、軍事バランスがくずれれば、世界の国々はいつでも戦争を始める、というのが彼らの言い分なのです。

では、国際社会を「平和」に保つためにはどうしたらいいのか?彼ら「リアリスト」に言わせれば、そんなことは単純明快であり、「軍事バランスを保つこと」なのです。

より具体的に言えば、世界中のライバル国家たちに軍事力でバランスをとらせて、お互いに手出しさせないようにする、ということなのです。

そうして、現在トランプ政権は、軍事パランスを崩そうとする中国に対して、武力ではなく経済制裁を中心とした、冷戦Ⅱ(ペンス副大統領の言葉)を挑んでいます。

こうしてみると、トランプ氏は、正真正銘の「リアリスト」なのかもしれません。すくなくと「マティス流」の「義理人情」で動くのではなく、あくまでも合理的な判断で政治を行い、「国際関係を、主に『権力(パワー)』という要素にしぼって考えて行動しているのではないでしょうか。

そうなると、トランプ氏は、「リアリスト」と考えるのが妥当だと思います。

最近の韓国 レーダー照射問題においては、言い訳がコロコロ変わっています。これは、軍としては致命的です。 自衛隊記録動画に反証する動画を公表しましたが反証証拠を出せず、レーダー照射そのものは認めざるえなくなっています。

韓国の反証動画。サムネイルに「自衛隊機の低空飛行」を見せかける加工がなされている。

自衛隊はデータリンクを通じて、他国(特に米国)とも情報共有しているわけで、いくらでも証明できるでしょう。特に米国は、日本海で艦船を恒常的に航行させていますから、その一部始終をすでに分析していることでしょう。

韓国の今回の対応は、まさに最悪のクレーム対応の見本のようなものです。これをリアリストのトランプ氏が見れば、韓国の信用度はますます低下したに違いありません。慰安婦問題や、徴用工問題における韓国の妄想による捻じ曲げられた理屈など、トランプ氏には通用しません。

これは、冒頭の記事の最後で、ケント・ギルバート氏が"この文章の「シリア」が「韓国」に、「イラク」が「日本」になる日は、そう遠くないのかもしれない"と語ったように、米軍韓国撤退の日は近いかもしれません。

【関連記事】

2019年1月5日土曜日

中国は「月の裏側」の着陸探査で世界をリードする―【私の論評】中国が、ジオン公国妄想を夢見て月面の裏の探査活動を続けるなら日米にとって歓迎すべきこと(゚д゚)!


地球の前を横切るの「裏の顔」を、NASAの宇宙
天気観測衛星「DSCOVR(ディスカヴァー)」が捉えた様子

世界で初めての裏側への着陸を目指していた中国の無人月探査機「嫦娥4号」が、着陸に成功したと発表された。これから探査ミッションが本格化することになるが、中国の最終的な目標は、将来の有人宇宙探査に利用する月面基地の建設にある。まだ知られざる月の裏側の探索において、中国が世界をリードし始めた。

月の裏側は、実は「ダークサイド」ではない。それがわかっているのは月面車だけでなく、月を周回するアポロのカプセルに搭乗した人間たちも多くの写真を撮ってきたからだ。しかし、間もなくわれわれは、これまで地球から詳しく観測することができなかった月の裏面を見られるようになるだろう。

それは、12月8日に打ち上げられた中国の月探査機「嫦娥4号」のおかげだ。嫦娥4号は、四川省にある西昌衛星発射センターから、「長征3号B」ロケットによって打ち上げられた[編註:記事初出は2018年12月だが、「嫦娥4号」は1月3日夜に月の裏側に到着したことが発表された]。

ランダー(着陸船)と月面車を搭載したこの月探査機は、地球に最も近く忠実に寄り添ってくれる仲間である月の、まだ誰も足を(あるいはタイヤを)踏み入れたことのない裏側に着陸する初めての探査機となる。月面車が周囲を巡回し、月の表面や、表面に近い層を調査することになるのだ。

嫦娥4号は、27日間にわたって探検に挑戦する予定だ。月面に着陸する宇宙船としては、13年の「嫦娥3号」に続いて中国で2機目となる。嫦娥3号の月面着陸は、1976年に月面に着陸してサンプルリターンのミッションを果たしたソ連の「ルナ24号」以来だった。

最終目標は月面基地の建設

今回のミッションの目的は各種の実験を行うことだが、中国の最終的な計画は、将来の有人宇宙探査に利用するための月面基地の建設だ。ただし中国国家航天局(CNSA)は、今回のミッションがその実現に向けた計画を先導するものであるかどうかについては明らかにしていない。

一方でこのミッションは、国際的な月探査科学界で複雑な感情をあおる可能性がある。12年にパリ地球物理研究所のマルク・ウィチョレックは欧州宇宙機関(ESA)に対して、月の裏側を探査する「Farside Explorer」計画を主張したが却下された。

セントルイス・ワシントン大学のブラッド・ジョリフも、17年に「MoonRise」と呼ばれるミッションを米航空宇宙局(NASA)向けに提案したが、残念ながら採用されなかった。

「NASAとESAが選択しなかったミッションを中国の研究者たちが実現することについては、嬉しさ半分悔しさ半分という思い、あるいはもっと強い感情があるかもしれません」と語るのは、テネシー大学地球惑星科学科のブラッド・トムソンだ。

月面の巨大クレーターに着陸

軌道上を回る人工衛星からの遠距離観測によると、月の裏側の表面は表側よりもはるかに古いもので、衝突クレーターの数も多く、地殻も厚い。表側と裏側で状況が異なる理由は謎だ。嫦娥4号の月面車によって、何らかの手がかりが見つかる可能性がある。

ブラウン大学の地質科学教授ジェームズ・ヘッドは、「ランダーによるミッションが行われるたびに、多くの新しい驚きが生まれます。月のどの部分を訪れても、何らかの新しい、根本的なことを学ぶことができます」と話す。

前回のミッション(嫦娥3号)で13年12月に月面に軟着陸した「玉兔号」は、予定されていた3カ月よりもはるかに長い31カ月間にわたってデータを送り続けた。16年7月31日に稼働を停止したが、月の表側に永遠に留まることになっている。

嫦娥4号は、直径180kmのクレーター「フォン・カルマン」の内側に着陸する予定とされていた。ESAの月探査用技術試験衛星「スマート1」のミッションを率いた科学者バーナード・フォーイングによると、このクレーターは、直径2,500km、深さ12kmという巨大クレーター「南極エイトケン盆地」にあるという。

この巨大クレーターは月面上で最も古い地形で、太陽系全体でこれまでに知られている最も大きな衝突クレーターのひとつだ。南極エイトケン盆地をつくった衝撃によって「月の地殻が剥ぎ取られ上部マントル物質がむき出しになった可能性があります。岩や土といった鉱物的特徴と共にです」とフォーイングは説明する。

月面車は、可視光と近赤外光の画像分光計を使って、月表面の鉱物組成の測定を試みる計画だ。

ジャガイモなどの栽培実験も実施

多分野にわたる航空宇宙科学のコンサルティング会社であるスペース・エクスプロレーション・エンジニアリングの最高経営責任者(CEO)マイク・ロウクスによると、南極エイトケン盆地には、クレーター内に永久に影になる部分があるとする説もあるという。「そうした地域には氷が堆積している可能性があり、そうだとすれば月面基地には非常に便利です。そのような氷の堆積する場所が特定されたら、その近くに月面基地が置かれる可能性は高くなります」

作業はそれだけではない。ミッションの目的の詳細を説明する論文によると、ほかにも月面の地図の作成や、地中探知レーダーを使った表面に近い層の厚さや形状の測定などで、小さな月面車は大忙しだ。月の形成から間もないころのプロセスを理解するために、月面から100mほど内部の画像化も試みることになっている。

嫦娥4号には、ジャガイモとシロイヌナズナの種も積み込まれた。地球の6分の1とされる月面の低重力下で、温度と湿度が調節された密閉環境で育つことができるかどうかを調べるためだ。有効であることがわかれば、人類による宇宙探査の出発点として、月に基地を建設することにつながるかもしれない。

低周波での電波天文学の実験も行われる予定だ。地球では、電離層や人工的な無線周波数、オーロラからの放射ノイズといった干渉があるが、月の裏面ではこうしたものは遮断されている。

地球との通信は中継衛星経由

嫦娥4号には、低周波受信機が搭載されている。18年5月に中国によって打ち上げられ、現在は月の周囲を回っている通信中継衛星「鵲橋」にも受信機が1台搭載されている。さらに、鵲橋から月の軌道上に発射された超小型衛星にも、3台目の受信機が搭載されている(4台目を搭載していたもうひとつの超小型衛星は、地球との連絡がとれなくなっている)。

太陽の電波バーストや、ほかの惑星のオーロラ、最初の星の形成につながる原始の水素ガスなどから発生する信号を検出することが目的だ。

月の裏側が地球のほうを向くことは決してないため、月面車と直接通信することは不可能だ。月面車は、鵲橋を中継局として使う必要があるが、これがミッションの重大な部分だとブラウン大学のヘッドは述べる。

「アポロ計画の最中に、わたしたちは裏側での着陸について話し合いました」とヘッドは述べる(有力候補に挙がったのは「ツィオルコフスキー」クレーターだった)。「しかし、当時は通信を中継できるものがなかったうえ、コミュニケーションのチェーンがどうしても複雑になり、それはあまりにも安全性が低いと考えられました」
「中国のリードは明らか」

中国が月の調査を行うのは最近のことではない。中国の月の女神にちなんで名付けられた「嫦娥計画」は、2000年代初期に始まった。CNSAが「嫦娥1号」と「嫦娥2号」を打ち上げたのは、それぞれ07年と10年だ。

「月の裏側の探査について中国がリードしているのは明らかです」とヘッドは話す。「わたしたちは中国が今後、裏側からのサンプルリターンのミッション、特に南極エイトケン盆地からのサンプルリターンによって、調査をさらに進めてくれることを期待しています」

【私の論評】中国が、ジオン公国妄想を夢見て月面の裏の探査活動を続けるなら日米にとって歓迎すべきこと(゚д゚)!

宇宙空間で制御不能となり、世界の少なからぬ人たちを心配させた中国の軌道上実験モジュール「天宮1号」は、昨年4月2日午前9時すぎ(日本時間)、南太平洋上で大気圏に再突入し、すべて燃えつきたと発表されました。大惨事は回避され、ほっとしている方もいらっしゃたと思います。

「天宮1号」は、昨年南太平洋上で大気圏に再突入し、すべて燃えつきた

しかし、本当に懸念すべきなのはこれからかもしれません。「天宮1号」は宇宙空間での宇宙船とのドッキングをテストするための、いわば"宇宙実験室"でした。いったいなぜそんな実験をする必要があるでしょうか。

そこを掘り下げていくと、中国の戦慄すべき宇宙開発への野望が見えてきます。そうして、今回は月の裏側の探査をはじめました。地球からは絶対に見えない前人未到の領域で、中国は何を狙っているのでしょうか。

まずは、なぜ月の裏側が地球から見えないのかを簡単に説明します。月が地球の周りをくるりと1回、公転する間に、月自身もちょうど1回、自転します。そのため、月はいつも同じ面(表側)を地球に向けることになります。これは偶然ではありません。

裏側より少し重い表側がつねに地球の重力に引っぱられているので、「起き上がり小法師」が自然に立ち上がるように、表側が自然と地球を向くのです。木星の4つのガリレオ衛星や、火星の2つの衛星(フォボスとダイモス)も、同じ面を惑星に向けています。

さて、この地球からは見えない、月の裏側ですが、過去にも観測された事例はあります。最初に月の裏側を観測したのは旧ソ連のルナ3号で1959年のことでした。そのため月の裏側は、ロシアの偉人にちなんだ地名がたくさんついています。

その後も、月の周回軌道に入った探査機の多くが月の裏側を観測しています。日本の大型月周回衛星「かぐや」も、月の裏側を含んだ全球(つまり月の地表すべて)を観測して、詳細な地形図や重力異常図をつくりました。

月の表側にはおなじみの、ウサギが餅をついているような黒い模様があります。これは月の火山活動で溶岩が流れた跡で、「海」と呼ばれています。しかし裏側には、この海がほとんどありません。つまり表のほうが裏よりも火山活動が激しかったのです。

また、表に比べて裏のほうが、地殻が厚いらしいこともわかっていますが、なぜ表と裏で地下構造が異なっているのかは、よくわかっていません。地球もできたての時期は場所によって地下構造が異なっていたかもしれませんが、地球は初期の地殻がプレートテクトニクスによって失われているので、月の研究が、地球の初期地殻を知る手がかりとなるかもしれません。

次に、月裏側への着陸の難易度などについ説明します。月の裏側には、地球の電波が直接届きません。しかし現代の無人探査機は基本的に自動操縦なので、着陸そのものは月の裏側でもさほど難しいことではありません。

ただし、少し難しいのは、観測したデータを地球に送るときです。普通は月周回衛星を同時に打ち上げて、中継させます。月の裏側で探査機から衛星にデータを転送して、さらに衛星が表側から地球に転送するのです。

しかし、中国はさらに高度な技術を使っています。月の裏側の上空に、中継局を飛ばしています。地球と月の周辺にはラグランジュポイントといって、重力がつりあうため一定の場所で止まっていられるポイントが5つ存在します。そのうち、月の裏側にある「L2」に中継局を飛ばして、途切らせることなくつねに電波を中継しようというわけです。

ラグランジュポイント。中心の黄色い円が地球、
右の青く小さい円が月、地球から見て月の裏側に「L2」がある


では、中国はなぜ、このように裏面着陸に力を入れているかを説明します。月の裏側以外にも、科学的に興味のある場所はたくさんあります。しかし中国は、単なる科学探査としてだけでなく、L2に電波中継システムをつくるという技術開発を重要視しているのです。

1回の探査だけなら、周回衛星に中継させたほうがローコストでできますが、中国は長い年月での月開発を視野に入れて、インフラ技術の整備を着々と進めているのです。

いずれは、L2に有人宇宙ステーションをつくるはずです。4月2日に落下した「天宮1号」によるドッキング実験も、宇宙ステーション建設のためだったのです。世界で最もまじめに月に取り組んでいる国、それがいまの中国です。

話は少し飛びますが、L2とは、アニメ作品「機動戦士ガンダム」で、ジオン公国がつくられたスペースコロニー群「サイド3」のある場所です。

アニメ作品「機動戦士ガンダム」で、ジオン公国がつくられたスペースコロニー群「サイド3」のある場所

そうして、中国はこれを実現するつもりかもしれません。近い将来、中国の宇宙ステーションに1億人以上が移り住んでコロニーとなり、中国がL2にジオン公国をつくるということもありえるかもしれません。

L2は月の裏側との通信のためにはどの国も使いたい場所ですから、中国一国が独占するということはないでしょう。でも巨大なコロニーができたら、それが国家のようなものになることはあるかもしれません。

中国が今回月裏側の着陸に成功したことにより、学術面、軍事面、資源の面などの観点から様々な収穫がありました。

中国はこれまで月について、科学的な成果では一歩遅れをとっていました。欧米や日本は月の石や隕石を使った宇宙物質研究の蓄積があるので、探査データを科学的成果に結びつけるアイデアが豊富なのに対し、中国は探査ができても、データをうまく科学成果に結びつけられませんでした。

しかし裏側の岩石の詳細なデータがとれれば、間違いなく新しい科学的発見につながるでしょう。

軍事面では、いますぐ直接に私たちの脅威になる要素はないです。ただ、L2に有人宇宙ステーションがつくられれば、国際宇宙ステーションに代わる新しい国際宇宙秩序の中核施設となる可能性はありますね。

資源の面では、現在のところ、裏にしかない物質というのはとくに見つかっていませんが、裏側に関して優位に立てば、資源採掘でも中国が有利になるでしょう。また「場所」も資源と考えれば、地球の反射光や電波にさらされない月の裏側は、深宇宙の天体観測に最適な場所となります。
今回の月の裏側着陸の成功によって、しばらくは、月の裏側と常時通信ができるのは中国だけ、という状態になるでしょう。他国が月の裏側を探査・開発するときは、中国の通信設備に依存するようになるかもしれません。

機動戦士ガンダムに登場するシャア・アズナブル

しかし、L2に宇宙ステーションを設置する構想はアメリカやロシアなどにもあり、いつまでも中国に独占させることにはならないでしょう。ただし、現在のロシアのGDPは東京都を若干下回る程度なので、一国だけではむりかもしません。

宇宙開発においては、中国が重力天体への着陸やローバー(天体探査用の探査車)の運用も成功させているのに対して、日本はいま計画中の「SLIM」が成功してやっと重力天体への着陸技術を得ることになります。現時点では、大きく遅れていると言わざるをえません。

また、中国は30年間使用可能な原子力電池を探査車に搭載しているので、2週間も続く極寒の夜の間も、機器が低温で壊れないよう温めることができます。昨年10月には嫦娥3号から発進した月探査車「玉兎号」が684日稼働し、月面の稼働日数最長記録を更新しました。

ところが日本は放射性物質に対して厳しい国なので、原子力電池を使うという選択肢が最初からないのです。これは宇宙探査において非常に不利な条件となっています。

さらに気になるのは、宇宙探査についての日本の考え方です。日本はどうしても、低予算で最大の成果をあげようとして、特色のある探査をしようとします。自動車産業にたとえると、フェラーリやランボルギーニのようなスーパーカーで勝負しようとするメーカーのようです。しかし自動車大国になったのは、地味でもきちんと役に立つ大衆車をつくるメーカーがある国です。

科学探査だけなら日本の戦略もアリなのですが、本当に宇宙で活躍できる国になるためには、宇宙開発の基盤技術を着実に育てていく戦略が重要です。そういう意味で、重力天体の着陸実証をするSLIM計画や、H-IIIロケットの開発は大変重要で、ぜひ成功させなくてはなりません。
世界の宇宙開発トップを走っていた中国が、さらに前進しています。アメリカは月上空の宇宙ステーション「深宇宙ゲートウェイ」の構築を検討していますが、実現するのは早くても2025年になりそうです。

日本は中国に大きく遅れをとっていましたが、アメリカの「深宇宙ゲートウェイ」への参加を表明し、SLIM計画やインドと共同の月極域探査計画が現実味を帯びてくるなど、ようやく国内に「月への風」が吹きはじめています。「かぐや」で得た優位を保てるか、ここが踏ん張りどころです。

ここまでは、宇宙開発に関してのみ掲載してきましたが、ご存知のように現在は、米国による対中冷戦が激化しています。

これにより、中国は経済的にも窮地に追い込まれつつあります。これについては、このブログでも過去に何度も掲載してきていますし、他のメディアでもかなり報道されています。

昨日のブログでは、以下のような内容を掲載しました。
中国の習近平国家主席は昨年12月14日に開かれた政治局会議で、反腐敗との戦いに「圧勝を収めた」と宣言しました。2012年の共産党大会後に同運動が始まって以来の「勝利宣言」となりました。 
同発言について、貿易問題に端を発した米中対立が先鋭化するなか、中国共産党政権は執政の危機にさらされ、「内部の団結」を優先させた、と専門家は分析しています。
要するに、米国の制裁に対抗するため、「内部の団結」を優先し、反腐敗の戦いは二の次にするということです。

私自身は、今すぐに利益を産まず、ここしばらくは長期にわたって資金を要する、宇宙開発は「腐敗撲滅」と同様に二の次にされる可能性があると思っています。

もし、そうしなかったとすれば、米国は喜ぶべきです。なぜなら、金食い虫の宇宙開発は、中国の経済をさらに疲弊させるだけであって、何の益も中国にもたらさないからです。

かつてのソ連の崩壊の大きな要因として、通常の軍拡、通常の宇宙開発、先の2つにまたがる戦略ミサイル防衛構想(スターウォーズ計画)への対抗がありました。

これらの実施にはいずれも途方もないほどの天文学的な資金を要しました。これらへの投資でソ連経済は疲弊し崩壊しました。

ジオン公国の国旗

中国が、ジオン公国を夢見て月面の裏の探査活動を続けるなら、さらに経済的に疲弊し、中共の崩壊が早まることになります。これは、日米にとって歓迎すべきことです。

【関連記事】

米国、3月に中国の息の根を止める可能性…米中交渉決裂で中国バブル崩壊も―【私の論評】昨年もしくは今年は、中国共産党崩壊を決定づけた年と後にいわれるようになるかもしれない(゚д゚)!

2019年1月4日金曜日

米国、3月に中国の息の根を止める可能性…米中交渉決裂で中国バブル崩壊も―【私の論評】昨年もしくは今年は、中国共産党崩壊を決定づけた年と後にいわれるようになるかもしれない(゚д゚)!

米国、3月に中国の息の根を止める可能性…米中交渉決裂で中国バブル崩壊も

渡邉哲也/経済評論家

米中首脳会談に臨む習近平中国国家主席と、トランプ米国大統領

 昨年、世界経済の最大のリスクとなったのはアメリカと中国による貿易摩擦だ。ドナルド・トランプ政権は3度にわたって中国製品に制裁関税を発動し、そのたびに習近平政権が報復するという構図が続いた。アメリカは中国の通信大手である華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)を狙い撃ちにするかたちで潰しにかかっており、それに日本、イギリス、オーストラリアなどの同盟国も追随している。

 通商問題のみならずサイバー覇権や軍事覇権を争う米中の対立は「新冷戦」などとも評されるが、もはや経済戦争といっていい。

中国、米国の圧力でバブル崩壊が加速か

 では、19年はどう動くのか。米中関係は3月がひとつの焦点となりそうだ。米中は18年12月の首脳会談で、90日間かけて知的財産権の保護や技術移転の強要、サイバー攻撃などの5分野で協議することを決定した。90日以内に合意できない場合は、アメリカが予定通りに約2000億ドル分の中国製品の関税率を25%に引き上げる方針だが、このタイムリミットが3月1日となる。

 換言すれば、アメリカは中国に「90日の猶予を与えるから、構造改革の具体案を示せ」と追い詰めているわけで、これを中国がのむかどうかが注目されている。しかし、中国は3月に全国人民代表大会(全人代)が控えており、習国家主席としては妥協や譲歩の姿勢を見せれば求心力の低下につながりかねない。ましてや、アメリカが狙っているのは習主席肝煎りの政策「中国製造2025」だ。

 一方で、仮に交渉が決裂してアメリカが関税引き上げに動けば、習主席は全人代前にメンツを潰されることになる。中国はすでに景気減速が伝えられており、アメリカの出方次第ではバブル崩壊が加速する可能性もあるだろう。

 トランプ大統領としても、18年11月の中間選挙をなんとか乗り切り、20年の大統領選挙で再選を狙う以上、対中政策の成果は欠かせない要素となるはずだ。そのアメリカに不安要素があるとすれば、ジェームズ・マティス氏が国防長官を電撃的に辞任したことだろう。当初は2月末の予定だったが前倒しされ、19年からは国防副長官だったパトリック・シャナハン氏が長官代行を務める。

 トランプ大統領が断行したシリアからの米軍撤退が引き金になったといわれるが、国際協調派のマティス氏が退くことで、安全保障政策や軍事戦略にどのような変化が出るかは世界が注視するところだ。18年9月には、南シナ海で「航行の自由」作戦を遂行していた米軍艦に中国軍艦が異常接近して衝突寸前になる事態が起きている。今後も、南シナ海では予断を許さない状況が続くだろう。

 18年10月にマイク・ペンス副大統領が行った中国批判の演説は大きな話題となったが、アメリカの対中強硬姿勢は今や超党派の合意であるため、19年も中国潰しの手を緩めることはないと思われる。

 また、米連邦準備理事会(FRB)は18年に4回の政策金利引き上げを実行、19年も2回を予定しているが、このゆくえも注目される。18年は、FRBの利上げが新興国からの資金引き揚げおよび世界的な景気減速につながったと見られている。もちろん、実体経済の悪化は複合的な要因であるが、逆風が吹くなかでFRBが利上げ路線を維持できるかどうかは意見がわかれるところだ。

 18年に史上初めて実現した米朝首脳会談は、1~2月にも2度目が行われるとされている。しかし、非核化をめぐる実務協議は進展しておらず、アメリカは18年12月に人権侵害を理由に金正恩朝鮮労働党委員長の側近である崔竜海党副委員長ら3人を新たな制裁対象に指定するなど、揺さぶりをかけている。本当に2度目の会談が実現するのか否かも含めて、米朝交渉のゆくえも19年の国際社会の大きな関心事だ。
 また、日米間では19年から物品貿易協定(TAG)の交渉が始まる。農産品や為替条項の問題がクローズアップされているが、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と対峙する茂木敏充経済再生担当大臣の手腕が問われるところだろう。

日本を左右する2つの選挙と消費増税

 日本にとって19年が歴史的な年になることに異論を挟む人はいないだろう。4月末には天皇譲位が行われ、5月からは新元号が制定される。また、6月には主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が、9~11月にはラグビーワールドカップが行われる。いずれも、日本で開催されるのは初めてだ。

 また、春には統一地方選挙、夏には参議院議員選挙が行われる点も見逃せない。安倍晋三首相は18年9月の自民党総裁選挙で3選を果たし、21年9月までの任期を手に入れたが、この2つの選挙が7年目を迎えた第二次安倍政権の試金石になるといえる。さらにいえば、安倍首相は変わらず20年の新憲法施行を目指しており、そうなれば憲法改正をめぐる国民投票の19年中の実施も自ずと視野に入ってくる。

 一方で、10月には消費税率8%から10%への引き上げが予定されており、景気減速および軽減税率導入による混乱などが懸念されている。いまだ再々延期の可能性も残されてはいるが、国民の生活に直結する問題だけに慎重な舵取りが要求されるところだ。


分断される欧州、英国がEU離脱


 ヨーロッパでは、3月に控えたイギリスの欧州連合(EU)離脱が最大の関心事となる。両者の間で離脱協定に関する合意がなされ、いわゆる“ハードブレグジット”は避けられそうな気配だが、イギリス国内の混乱は収束していない。18年12月には、テリーザ・メイ首相に対して保守党党首としての信任投票が実施され、信任票が過半数を得たものの、分断は隠せない状況だ。

 また、5月には欧州議会議員選挙が行われ、10月には欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁が任期満了を迎えるほか、総選挙が行われる国も多い。日本とのかかわりでいえば、ルノー・日産連合の問題を抱えるフランスの動向が気になるところであり、支持率低下に悩むエマニュエル・マクロン大統領にとっては勝負の年になるだろう。

 いずれにせよ、今年も米中の覇権争いが激化し、その余波が日本やヨーロッパに影響をもたらすという事態が続きそうだ。
(文=渡邉哲也/経済評論家)


【私の論評】昨年もしくは今年は、中国共産党崩壊を決定づけた年と後にいわれるようになるかもしれない(゚д゚)!


中国共産党による一党支配体制が限界に来ているのは、誰の目にも明らかでした。習近平国家主席も、そのことは十分に承知しています。だからこそ、崩壊を避けるために多くの国家戦略を進めたのです。

中国には、共産党が支配する社会主義国家として、あってはならない激しい貧富の格差と、党幹部が利権集団として暴利をむさぼり人民を苦しめている、という現実があります。

党幹部の周りには、コネと賄賂による腐敗天国が出来上がっています。そこで、このままでは「党が滅び、国が滅ぶ」として、2012年11月の第18回党大会で、胡錦濤前総書記も、新しく就任した習近平総書記も「反腐敗」を叫んだのです。

2012年11月の第18回党大会において
親しげに握手する習近平と胡錦濤

以来、共産党は「虎もハエも同時に叩(たた)く」として、激しい反腐敗運動を展開。その結果、13年には18万2000人の党員が、14年には23万2000人の党員が党規約に違反したとして「処分」されました。

15年には非党員も含め9万2000人が処分されています。その後も、処分は続いています。この処分には、死刑、無期懲役から数年間の懲役、財産没収など、さまざまな種類と程度があります。習近平政権になってから、合計50万人以上が何らかの形で腐敗分子として処分されたことになります。

この反腐敗運動を「権力闘争」などと言いたがる人たちもいるようですが、そのような側面が全くないとはいいませが、それがすべてであると思いこむのは中国の現実を知らな過ぎる故の誤解です。

腐敗を撲滅しなければ、もはや共産党の一党支配が成立しないほど、中国は腐敗が蔓延(まんえん)しており、反腐敗で逮捕されることを恐れるあまり経済活動が萎縮し、成長を鈍化させる要因の一つになったほどなのです。

中国の習近平国家主席は昨年12月14日に開かれた政治局会議で、反腐敗との戦いに「圧勝を収めた」と宣言しました。2012年の共産党大会後に同運動が始まって以来の「勝利宣言」となりました。
同発言について、貿易問題に端を発した米中対立が先鋭化するなか、中国共産党政権は執政の危機にさらされ、「内部の団結」を優先させた、と専門家は分析しています。

反腐敗運動の進展について、習主席は一昨年10月の共産党大会で汚職対策が「圧倒的な態勢」に入ったと述べていました。

当局の発表によると、昨年の共産党大会までの5年間で、当局は次官級とそれ以上の政府・軍幹部440人、末端幹部6万3000人をそれぞれ処分したとしています。

昨年1~9月に汚職監視当局が取り扱った案件は46万4000件に上り、40万6000人に罰則を科しました。

しかし、この勝利宣言が反腐敗の収束を意味するものではないとの分析が出ています。

北京大学の荘徳水教授はサウスチャイナ・モーニング・ポストの取材に対して、反腐敗の取り組みが6割ほどしか進んでいないと圧勝までまだ程遠いと述べました。

香港科学技術大学の丁学良教授は、反腐敗が共産党政権の最重要課題ではなくなったと今回の勝利宣言の意味を分析しました。「経済問題と米中貿易戦争が現在、当局にとって喫緊の問題だ」

香港科学技術大学の丁学良教授

香港紙・蘋果日報の記事は、この圧勝宣言が共産党政権の危機を意味すると分析しました。米中対立で経済状況が悪化し、執政危機に立たされている今、止むを得ず「団結」をアピールし、「一丸となって外敵と戦う必要があるからだ」といいます。

中国が昨年12月14日発表した11月の小売売上高の伸びは前年同月比8.1%増で、2003年5月以来、15年半ぶりの低い伸びとなりました。個人消費の減速懸念が高まっています。

米金融大手JPモルガン・チェースとバンク・オブ・アメリカはこのほど、来年の中国国内総生産(GDP)成長率が6.2%で、失業者数が440万人に上るとの見通しを示しました。

新唐人のコメンテーター唐靖遠氏は「圧倒的な態勢」から「圧勝」への変化は、反腐敗運動が一段落することを示唆した」とみています。しかし、圧勝と宣言しても、「江沢民など最大のトラがまだ捕らえられていない。圧勝と言っても誰も信じていないだろう」

新唐人のコメンテーター唐靖遠氏

結局のところ、中国共産党内部での汚職摘発など二の次にして、全共産党を集結して、一致団結して、米国の対中国冷戦に集中しようというのが、習近平の反腐敗との戦いに「圧勝を収めた」との宣言であると捉えるのが最も合理的なようです。

中国共産党は、経済的にも政治的にもかなり追い詰められているようです。今年すぐに、中国共産党の一党独裁が崩れることはないでしょうが、昨年もしくは今年が、その方向性を決定づけた年と将来いわれるようになるかもしれません。その可能性はかなり高いです。

【関連記事】

2019年1月3日木曜日

もう“カモ”ではない、トランプの世界観、再び鮮明に―【私の論評】中東での米国の負担を減らし、中国との対峙に専念するトランプ大統領の考えは、理にかなっている(゚д゚)!

もう“カモ”ではない、トランプの世界観、再び鮮明に

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 トランプ米大統領が先の電撃的なイラク訪問で行った演説は中東政策ばかりか、同氏の描く世界戦略をあらためて鮮明にした。「米国はもはや(金をむしり取られる)“カモ(suckers)”ではない」。こう宣言した大統領の狙いはずばり、「軍事資源」の再配置と同盟国に対する防衛費の公平分担要求だ。

昨年末電撃的イラク訪問をしたトランプ大統領

トランプ節全開

 大統領は12月26日、イラク西部アンバル州のアルアサド空軍基地に到着、約100人の兵士の歓迎を受けた。大統領の紛争地への訪問は就任以来これが初めて。歴代の大統領は何度も紛争地の米部隊を慰問しており、紛争地入りを渋るトランプ大統領を「臆病呼ばわり」する向きもあった。今回の訪問はそうした批判に応えるためでもある。

 大統領の演説は批判にさらされているシリアやアフガニスタンからの軍撤退方針を正当化する内容であったが、自らの世界観を強く印象付けるものでもあった。

 「われわれは世界の警察官であり続けられない」
 「ほとんどの人が聞いたこともない国に軍を派遣するのは馬鹿げている」
 「米国1人が重荷を背負うのは公平でない」
 「金持ちの国々がその防衛に米国を利用することはもうできない」

 ニューヨーク・タイムズによると、大統領のこうした世界観は何年も前から思い描いてきたことだ。例えば、大統領は2012年2月27日のツイッターで「アフガニスタンから出ていく時だ。われわれを憎悪する人々のために道路や学校を作っているのは国益に沿わない」とつぶやいている。

 大統領はイラク演説でこの持論の世界観を披歴した上で、「元々シリアへの軍派遣は3カ月限定だった」と撤退決定を擁護。ペンタゴンの将軍たちが「撤退の半年延期を提案したが、私は即座に拒絶した」と自らの決断だったことを誇示した。

対中国向けに転換か

 この決定について、ホワイトハウスの黒幕といわれたバノン元首席戦略官は「孤立主義への回帰ではなく、国際主義者の“人道的派遣症”からのピボット(転換)」との分析を米紙に明らかにしている。

 バノン氏によると、トランプ大統領は中国との経済的、地政学的な戦いに集中できるよう、シリアなどの軍駐留を終わらせたいのだという。限定的な軍事資源を最大の脅威と見なす中国向けに転換するということだ。こうした「アジアシフト」はトランプ氏が敵視するオバマ前大統領の主張「リバランス政策」と基本的に同じ考えだろう。

 大統領は中東政策についても(1)シリア撤退の一方でイラクからは撤退しない(2)イラクをイランと戦い、過激派組織「イスラム国」(IS)を叩く「出撃基地」にする(3)シリアのISの監視と掃討作戦はトルコのエルドアン大統領に任せる(4)シリアの復興資金はサウジアラビアなどに拠出させる――などの考えを明らかにした。イラクには現在約5200人が駐留している。

 大統領の撤退方針に対しては「賢い選択」(元駐シリア米大使)と評価する声もあるが、撤退した後に米国益をいかに守るのか、全体的な中東政策にシリア撤退をどう反映させて組み立てていくのか、戦略が見えないという指摘が多い。

 ただ、大統領の演説で忘れてはならない発言の1つは防衛費の公平分担という指摘だ。すでにトランプ政権は在韓米軍の駐留分担で具体的な提案を韓国側に行ったとされており、日本や北大西洋条約機構(NATO)にも早々に分担増を突き付けてくるのは間違いないところだろう。

見捨てられたクルド人の選択

 今回の軍撤退決定で最大の敗者はIS壊滅作戦で米国に翻弄された末に切り捨てられたシリアのクルド人だ。米国の説得を受けてシリア民主軍(SDF)の中核として最も厳しい地上戦を主導し、多くの戦死者を出した。だが、トランプ政権は「クルド人を見限った上、トルコのエルドアンに差し出した」(ベイルート筋)。

 クルド人勢力の民兵組織「クルド人民防衛部隊」(YPG)は米軍の支援の下、ISを駆逐してシリア北東部を支配下に置いた。支配地域はシリア全土の3分の1弱に相当するが、これを自国の安全保障上の脅威と見なす隣国のトルコのエルドアン大統領は容認できなかった。

 同大統領は国境に大規模部隊や戦車を集結させ、すぐにでも侵攻すると恫喝する一方、「トランプ大統領と裏取引し、米軍の撤退と引き換えにクルド人の勢力拡大を食い止める“裁量権”を獲得した」(同)。まさに大国のエゴに弄ばれる少数民族の悲劇を感じさせる展開だ。

 だが、クルド人もしたたかだ。この窮地に、トルコと敵対するアサド・シリア政権に庇護を求め、手を結んだのだ。砂漠の風紋のように変化する中東の離合集散を見る思いだが、シリア側の発表によると、シリア政府軍が28日、YPGの招きでクルド人支配下の北部の要衝マンビジュに進駐したという。トルコをけん制する動きに他ならない。

 これに対し、エルドアン大統領は「シリア側の心理作戦」と一蹴している。だが、トルコ軍がシリア領に侵攻する事態になれば、シリア政府軍との交戦の恐れも出てこよう。アサド政権の背後にはロシアとイランの存在があり、米軍が撤退する「力の空白」をめぐってシリア情勢は一段と複雑な様相を呈している。

【私の論評】中東での米国の負担を減らし、中国との対峙に専念するトランプ大統領の考えは、理にかなっている(゚д゚)!

冒頭の記事には、「見捨てられたクルド人の選択」と記されていますが、これは予め予想されたことです。

イラク情勢については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!
シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士。
米軍が大規模な攻撃を仕掛ければ、ロシアとぶつかる危険がある
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事にはルトワック氏の主張する米国のあるべきシリア政策を掲載しました。

ルトワック氏によれば、米国のあるべき戦略は、シリアのアサド政権と、反政府勢力を拮抗させるというものです。

アサド政権が強くなれば、米国が反政府勢力に軍事援助を与えるなどして、反政府勢力を強化して、アサド政権を弱らせるます。逆に、反省勢力が強くなりアサド政権が弱体化すれば、今度は反政府勢力に対する軍事援助などを減らし、相対的にアサド政権を強くするというものです。

米国にとって望ましいと思える結末は「勝負のつかない引き分け」であるというのです。

なぜこれが望ましいかといえば、 まず第一に、もしシリアのアサド政権が反政府活動を完全に制圧して国の支配権を取り戻して秩序を回復してしまえば、これは大災害になるからです。

第二に、 もしこれらの反政府勢力が勝利するようなことになれば、彼ら(クルド人勢力を含む)は米国に対して敵対的な政府をつくることになるのはほぼ確実だからです。これは、反政府勢力が、アルカイダであろうが、非宗教的なマルクス主義/アナーキスト組織的でもあるクルド人勢力であろうが、他の勢力であろうと同じことです。

クルディスタン地域政府の軍隊「ペシュメルガ」のクルド人女性隊員=2016年3月30日

米国に対して親和的な勢力など、アサド政権を含めて、シリアには存在しないのです。クルド人勢力もたまたま一時的に米国と利害が一致しただけのことです。実際、トランプ氏が米軍引上げを宣言すると、トルコと敵対するアサド・シリア政権に庇護を求め、手を結んだではありませんか。

さらにいえば、イスラエルはその北側の国境の向こうのシリアにおいてジハード主義者たちが勝利したとなれば、平穏でいられるわけがないです。

非スンニ派のシリア人は、もし反政府勢力が勝てば社会的な排除か虐殺に直面することになるし、非原理主義のスンニ派の多数派の人々は、もしアサド政府側が勝てば新たな政治的抑圧に直面することになります。

そして反政府勢力(アサド政権と手を結ぶ前のクルド人勢力)が勝てば、穏健なスンニ派は非宗教的なマルクス主義/アナーキスト組織的な支配者たちによって政治的に排除され、国内には激しい禁止条項が次々と制定されることになります。

シリアの人々にとっても、いずれが勝利しても良いことはないのです。そうして、これでは、いずれが勝利したとしても、米国に勝利はないのです。だからこそ、ルトワック氏は米国はアサド政権と反政府勢力を拮抗させておくのが、最上の策としたのです。

ただし、ルトワック氏がこの主張をしたときには、トルコはシリア内の紛争に関して機能停止状態でした。国内のクルド人勢力の対応に追われていたのでしょう。

そのトルコがシリア問題に介入すると、トランプ大統領に確約したのです。これは、ルトワック氏の戦略の枠組みからみれば、アサド政権と国内の反政府勢力と拮抗させることから、アサド政権と、トルコ政府との拮抗へとシフトすることを意味しています。

これは、反政府勢力よりもさらに頼もしい存在です。トルコが介入すれば、シリア情勢はかなり変わります。

エルドアン・トルコ大統領

トランプ大統領は、アサド政権と、トルコのエルドアン政権とを拮抗させ、米軍をシリアからひきあげ、対中国向けに集中する道を選んだのです。

そうして、これはバノン元首席戦略官が分析しているように、「孤立主義への回帰ではなく、国際主義者の“人道的派遣症”からのピボット(転換)」に他ならないのです。

そうして、この判断には、合理性があります。アサド政権の後ろにはロシアが控えていますが、そのロシアは経済的にはGDPは東京都より若干小さいくらいの規模で、軍事的には旧ソ連の技術や、核兵器を受け継いでいるので強いですが、国力から見れば米国の敵ではありません。

局所的な戦闘には勝つことはできるかもしれませんが、本格的な戦争となれば、どうあがいても、米国に勝つことはできません。シリアやトルコを含む中東の諸国も、軍事的にも、経済的にも米国の敵ではありません。

一方中国は、一人あたりのGDPは未だ低い水準で、先進国には及びませんが、人口が13億を超えており、国単位でGDPは日本を抜き世界第二位の規模になっています。ただし、専門家によっては、実際はドイツより低く世界第三位であるとするものもいます。

この真偽は別にして、現在のロシアよりは、はるかに経済規模が大きく、米国にとっては中国が敵対勢力のうち最大であることにはかわりありません。

トランプ政権をはじめ、米国議会も、中国がかつてのソ連のようにならないように、今のうちに叩いてしまおうという腹です。

であれば、トルコという新たな中東のプレイヤーにシリアをまかせ、トルコが弱くなれば、トルコに軍事援助をするということで、アサド政権を牽制し、中東での米国の負担を少しでも減らして、中国との対峙に専念するというトランプ大統領の考えは、理にかなっています。

物事には優先順位があるのです、優先順位が一番高いことに集中し、それを解決してしまえば、いくつかの他の問題も自動的に解決してしまうことは、優れた企業経営者や管理者なら常識として知っていることです。

しかし、優先順位の高い問題を放置して、他のことに取り組んでも、結局モグラたたきになることも、昔からよく知られていることです。

【関連記事】

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!

アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!

【シリア攻撃】米英仏がシリア攻撃 化学兵器施設にトマホーク、トランプ米大統領「邪悪で卑劣」―【私の論評】米国の真の意図はアサド政権と反政府勢力とを拮抗させ続けること(゚д゚)!

【日本の解き方】トルコリラ暴落の政治的背景 トランプ大統領流の揺さぶり…過小評価できない世界経済への打撃―【私の論評】世界にとって通貨危機よりもはるかに危険なトルコ危機の本質(゚д゚)!

なぜイスラエルとイランはシリアで戦っているのか 800字で解説―【私の論評】イランの核武装で中東に新たな秩序が形成される?

「想定よりはるかにいい結果」日本保守党の飯山陽氏を独占直撃 衆院東京15区補選で4位「私なりのやり方で活動続ける」―【私の論評】保守勢力の危機的状況と再生への道筋 - 東京15区補選の教訓

「想定よりはるかにいい結果」日本保守党の飯山陽氏を独占直撃 衆院東京15区補選で4位「私なりのやり方で活動続ける」 まとめ 衆院東京15区補選で4位となったが、想定より良い結果だった 日本保守党は結成以来初の国政選挙に挑戦し、2万票台を獲得 出馬理由は国に恩返ししたいという思いか...