2023年3月24日金曜日

対話型AIの影響受ける職業 国会質疑もかなり対応可能か 知識切り売りは大変な時代に―【私の論評】AIの普及で、統合的思考こそ、人間に残された最後のフロンティアに(゚д゚)!

日本の解き方


 IT各社が「対話型AI(人工知能)」に力を入れている。将来どのようなことに使われる可能性があるか。政策の決定にも活用されることはあるだろうか。

 対話型AIは大ざっぱに言えば、質問に対する答えをインターネット上から探してくれるものだ。これまでは検索で用語を書き込むと、それに関連したネット上の情報の一覧が出てくる。それをどのように取捨選択し、どの部分をコピー・アンド・ペーストするかは検索者の判断に委ねられ、回答文の作成も検索者がやっていた。しかし、対話型AIではその部分を人ではなくAIが行い、しかも回答文にするまでをやってくれる。

 筆者は、ネット上で番組を持っていて、その中で視聴者からの質問を受け付けている。従来は、スタッフが視聴者の質問をコピペして筆者に渡してくれた。正直いって、質問になっていない文の場合も多く、視聴者の意図を読み取りかねることがしばしばだった。そこで、今では視聴者の質問をコピペしたものを対話型AIにかけるようにしている。そうすると、対話型AIは質問になっていないものを的確に指摘してくれる。さらに、質問になっている場合、ネット上での情報を網羅的に検索してくれるので、その範囲であれば、無難な回答をすることもできる。

 もちろん、筆者はネット上に転がっている無難な回答では面白くないので、それに付加価値をつけるようにしている。ネット上の情報としてウィキペディアがあるが、「本当の専門家かどうかはウィキペディアの間違いを指摘できるかどうかだ」とすら言われているので、ここでは差別化できるチャンスとも考えている。

 筆者のネット上の番組を書籍化している人もいるのだが、単に筆者の話をコピペしているだけだ。その後のデータのアップデートはできないので、今後は対話型AIを活用して、文字起こしや書籍化を考えてみようと思う。

 筆者の身近な例でも予想されるが、対話型AIが発展すると影響を受けやすい職業は定型的な対応をするもの、とりわけ教師だろう。

 米プリンストン大学の研究チームは、影響を受ける職業ベスト20を発表している。それによれば、電話勧誘業者、英語と英文学の教師、外国語と外国文学の教師、歴史の教師、法律の教師、哲学と宗教の教師、社会学の教師、政治学の教師、刑事司法と法執行機関の教師、社会学者、ソーシャルワークの教師、心理学の教師、コミュニケーションの教師、政治学者、文化研究の教師、仲裁人・調停者、裁判官、地理の教師、図書館学の教師、臨床心理医・カウンセリング・学校心理学者だ。

 日本の国会質疑なども過去の質問と回答で、かなりの程度、対話型AIで対応できるのではないか。便利な時代になったが、知識のみの切り売りの人には大変な時代だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】AIの普及で、統合的思考こそ、人間に残された最後のフロンティアに(゚д゚)!

ChatGPTに以下のような質問をしてみました。
ChatGPTの登場により、影響を受ける職業は何だと思いますか。将来なくなってしまう職業もありますか。
この質問の答えは、以下です。

"
ChatGPTの登場により、以下の職業に影響を受ける可能性があります。

  1. カスタマーサポート: ChatGPTの登場により、多くのカスタマーサポートの業務は自動化される可能性があります。顧客が自分で問題を解決できるように、ChatGPTが提供する情報や支援によって、カスタマーサポートの需要が減少する可能性があります。
  2. 翻訳者: ChatGPTは多言語翻訳にも利用されるため、翻訳者にも影響を与える可能性があります。簡単な翻訳業務はChatGPTによって代替される可能性がありますが、専門的な翻訳や文化的なニュアンスを伝える翻訳業務は、人間による翻訳に引き続き需要があると思われます。
  3. ニュース記事の作成: ChatGPTは自動的に記事を書くことができるため、ニュース記事の作成に影響を与える可能性があります。しかし、ChatGPTによって生成された記事は、人間によって作成された記事とは異なるクオリティになる可能性があるため、ニュース記事の作成にはまだ人間の関与が必要となるでしょう。
将来的になくなってしまう職業は存在するかもしれませんが、全ての職業がChatGPTによって代替されるわけではありません。技術の進化に伴い、新しい職業も生まれることがあります。ただし、将来的にChatGPTのような自動化技術が発展し続けることで、特定の職業が不要になる可能性があることは否定できません。

"

確かにいずれ、こうなるでしょう。高橋洋一氏も知識のみの切り売りの人には大変な時代になるだろうと指摘していましたが、本当にそうです。

国会での質問なども、ChatGPTが使われるようになる可能性もあります。そうなると、下らない質問ばかりしている国会議員は無用の長物になります。

このような時代には、なんでもAIにまかせてしまえば、良いのでしょうか。そんなことはないと思います。

以前このブログにも掲載したように、人間の思考方法には三種類あります。その記事のリンクを以下に掲載します。

成田悠輔「高齢者は集団自決した方がいい」NYタイムズが発言報じて世界的大炎上「この上ないほど過激」―【私の論評】成田悠輔氏のような学者に、徹底的に欠ける統合的な思考方法とは(゚д゚)!

成田悠輔氏


この記事より、一部を引用します。

"
ロジカル・シンキング(理論的思考)
物事を広く深く考え、分析し、相手にわかりやすく伝えるために、問題を構造化する思考法のこと。これは、ビジネスの基本です。最低限、この思考法ができない人は、ビジネス・マンとはいえません。特に、新人では、こうした思考法ができない人が多いです。 しかし、こうした思考方法ばかりして、そこから、一歩もはみ出さない人は、発展性がないですし、人間的魅力も感じられませんね。

しかし、まずは、こうした思考法を身につけるべきです。また、ロジカル・シンキングは、より上位の思考法である、水平思考や、統合思考の基礎なるものです。これができない人に、より上の思考をすることはできません。
ラテラル・シンキング(水平的思考)
ある問題に対し、今まで行われてきた理論や枠にとらわれずに、全く異なった角度から新しいアイデアを生もうとする思考法のこと。英国のデボノが1967年ころ唱えたものです。ロジカル・シンキングだけでは、出てくるアイディアは、確実にできるものではあるものの、どうしても月並みなものになってしまいがちです。
 
そんなときに、全く見方を変えて、新たなアィデアを出すのがこの考え方です。会社であれば、部長までのクラスの人は、この考え方ができなければ、今の時代は務まりません。
インテグレーティブ・シンキング(統合的思考)
相克するアイデアや問題事項の対立点を解消することにより、より高次の第三の解答を見つけ出す思考法のこと。理論的思考や、水平思考によって、いろいろなアイディアが浮かんできます。ただし、アイディアがたくさんあるだけでは、実行に移すことはできません。

それどころか、混乱するだけです。ここで、数多くのアイデアを取捨選択、統合するとともに、実施すべき順番を考える必要があります。また、数多くのアイデアを束ねるだけではなく、一言で言い表したりして、誰にも理解できるようにして、さらに高次元にする必要があります。それが、統合的思考です。経営者クラスはここまでできなければなりません。
理論的思考については、役人や学者に優れた人が多いです。そうして、彼らの職責からいって、彼らは理論的思考一本槍で十分につとまります。

民間企業となると、理論的思考一本槍では、月並みなイノベーションしかできませんから、水平的思考も必要になります。

ただ、理論的思考と水平的思考だけでは、いかなる組織でも、混乱を招くことになります。そこで、統合的な思考が必要になってくるのです。 安倍元首相を例にすると、第一次安倍政権までの安倍氏の思考方法は、論理的思考と、水平的思考にとどまっていたものと思います。しかし、総理を辞任し、自民党が下野していた期間を安倍氏は無駄にしませんでした。

様々な情報を吸収し勉強しただけではなく、思考法を変化させ、統合的思考を身につけたようです。そうして、これこそが政治家にとって、一番重要な思考方法です。政治家の中には、現場が重要などと語って現場を重視する政治家もいます。確かに現場を見なければなりませんが、統合的な思考ができることが、その前提です。それができずに、ただ現場ばかりみている政治家は、無意味どころか害をなします。政治家などやめて、社会事業活動などして、直接困った人たちを助けるべきです。
"

以上は、政治家の事例を出したのですが、本来の政治家は、統合的な思考方法をすべきでしょう。一方、現在の官僚は、理論的な思考だけでも良いでしょう。民間企業においても、中間管理職までは、理論的思考と、水平思考だけでよいでしょうが、上級管理職、役員ともなれば、統合的な思考方法も必要になってきます。

先日、産経新聞社の阿比留瑠比氏の公演を聴いたのですが、その中で阿比留氏は、安倍総理のことを常に戦略的に物事を考える人だったと評していました。一般的には、戦略的に物事を考えることが、統合的に思考と呼ばれるものと考えても差し支えはないと思います。

ChatGPTのようなAIに得意なのは、論理的な思考や、水平的思考の一部までだと思います。

ただ、ChatGPTのようなAIが普及してくれば、多くの人が、統合的な思考方法をするように促されるような社会になるでしょう。なぜなら、かつて機械が肉体労働にとって変わったように、論理的思考や水平的思考の大きな部分がやがて、AIにとって変わられるからです。

ただ、意思決定そのものはAIの助けを受けながらも、人間が行うことになるでしょう。

意思決定とは何かといえば、経営学大家ドラッカーは以下のように言っています。
意思決定が意思決定たるためには、次の4つのことを決める必要があります。

(1)実行の責任者

(2)日程

(3)影響を受けるがゆえに決定の内容を知らされ、理解し、納得すべき人

(4)影響を受けなくとも決定の内容を知らされるべき人

組織で行われている意思決定のうちあまりに多くが、これらのことを決めていなかったために失敗している。

意思決定とは、上記4つを決めなければ、意思決定とはなりません。これをAIの力を借りながら、実行することもできるでしょうが、最終的に意思決定するのは人間です。

ドラッカー氏

ただ、ルーチンで行われること、あるいはルーチンに近い事柄に関しては、日々の業務で、AIが決定したものを、人間が追認する形で行われるようになるでしょう。

ただ、戦略的な意思決定に関しては、AIや社員から情報を得つつ、経営者が統合的思考を行い決定することになるでしょう。

ただし、論理的思考ができない、水平的な思考もできない人が、いきなり統合的な思考ができるようにはなりません。やはり、論理的思考や水平的な思考の教育や訓練は、教育現場においても、企業などの組織においてもこれからも必要になるでしょう。

AIの力を借りつつもこのようなことは、これからも行われていくでしょう。それにしても、統合的思考こそ、人間に残された最後のフロンティアとなるかもしれません。今ままでの社会では、統合的思考が要求されたのは、企業であれば、取締役以上、学校法人などでは、理事・理事長であり、他の人はそれをさほど要求されませんでした。

これから、もっと現場に近い人たちにも、それが要求されるようになるでしょう。学校や企業でも、そのような訓練や教育がなされるようになるでしょう。

そうして、これからさらに少子高齢化が予想される日本においては、AIの活用やロボット化の進展などによって、少子高齢化による弊害を乗り越えていくことが可能になるでしょう。


これら、経済学でいうところの「装置化」をすすめることは、日本が新しい次元の社会に突入ることを意味しており、その意味では「少子化」は決して悪いことばかりではないと思いますし、少子化の原因がはっきりわかっていない以上、少子化対策を実施したからといって、人口が増大する確証はありません。

であれば、AIの活用やロボット化を推進し、少子高齢化が進んでも、豊な社会を築くことが、我が国が進むべき道だと思います。

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2023年3月23日木曜日

岸田首相の早期衆院解散、観測強まる ウクライナ電撃訪問で政権内に追い風期待―【私の論評】防衛増税見送りを大義名分として岸田首相が衆院解散に踏み切る可能性が高まってきた(゚д゚)!

岸田首相の早期衆院解散、観測強まる ウクライナ電撃訪問で政権内に追い風期待

握手する岸田首相(左)とゼレンスキー大統領

 岸田文雄首相によるウクライナの首都キーウへの電撃訪問を受け、今国会会期中(6月21日まで)の衆院解散の観測が与党内で強まった。関係正常化で合意した16日の日韓首脳会談後に内閣支持率が上昇し、ウクライナ訪問がさらなる追い風になるとの期待感が政権内にあるからだ。

世論調査で支持率向上

 「ロシアによる侵略を一刻も早く止めなければならない。G7(先進7カ国)議長国のわが国はリーダーシップを発揮しなければならない」。23日に帰国した首相は同日の参院予算委員会に出席し、ウクライナ訪問の成果と決意を強調した。

 首相は16日に日韓首脳会談に臨み、17日には記者会見で子育て世帯への支援強化策を打ち出した。直後の18、19両日の産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では内閣支持率は45・9%。2月の前回調査から5・3ポイント増えた。

 ウクライナ電撃訪問の翌22日、自民党幹部の一人は「支持率はもっと上がるんじゃないか。選挙に勝てるかどうかだけを考えれば、こんなチャンスはない」と反応した。想定可能な衆院選日程で最も早いのは、3月下旬の令和5年度予算成立後に解散し、衆参5選挙区補欠選挙などと同じ4月23日投開票となる。

6月中旬「可能性高まってきた」

 ただ、首相周辺は「まだやることがある」と否定的だ。政府は3月末に少子化対策のたたき台を取りまとめ、4月1日にこども家庭庁を発足させる。広島市で5月19~21日に開くG7首脳会議(サミット)の準備も大詰めを迎える。

 6月中旬になれば、すでに広島サミットは閉幕し、具体的な少子化対策を盛り込む経済財政運営の指針「骨太の方針」も閣議決定できそうだ。このため、国会会期末間際の解散は「可能性が高まってきた」(閣僚経験者)との声が出ている。ある政府高官も、今年後半は国内経済や国際金融市場の不透明感が増す可能性があると指摘し、「今年前半に衆院選に打って出た方がよいという判断になるかもしれない」と語る。

 野党が会期末間際に内閣不信任決議案を提出し、岸田政権にノーを突き付ければ、首相が「国民の信を問う」と解散に踏み切る引き金になりうる。

【私の論評】防衛増税見送りを大義名分として岸田首相が衆院解散に踏み切る可能性が高まってきた(゚д゚)!

今後、岸田内閣の支持率低下が止まらず、仮に支持をしないが40%前後を維持することになれば、党内政局などにより内閣総辞職に至る可能性が出てくると考えられます。福田政権から野田政権まで、いずれも支持しないが40%を超えて退陣となっています。当時はそのほとんどの期間がねじれ国会であったため、単純比較はできないものの、一応の目安となりそうです。

2023年中に総辞職があるとすれば、支持率の低下があとサミットが終了してもほど止まらないケースでしょう。その場合、岸田首相の悲願とも言える5月のG7広島サミットを「花道」とした、辞職となるでしょう。


ただし、上のグラフをご覧いただいてもわかるように、ウクライナ訪問前より、支持率は上げ調子となっています。これで、ウクライナ電撃訪問で支持率があがり、さらにG7後に支持率があがることになれば、解散総選挙は可能になります。

早期の衆院解散は岸田政権にとってメリットはあるが、デメリットも相当に大きいです。

メリットとしては、野党の衆院選への共闘態勢が整っていない点を挙げることができます。立憲民主党と日本維新の会は、臨時国会の運営や審議にあたって共闘態勢を構築しました。ただ、両党の関係が、立候補者調整など選挙協力に発展するかはまだ不透明です。

これまでの国政選挙で構築されてきた野党共闘の枠組みの先行きも不透明で、早期に衆院解散に踏み切れば、野党が分断した状態で与党は選挙に臨むことができます。

一方、デメリットとしては、政権の安定を目指して衆院解散に踏み切っても、議席を大きく減らせば、その責任を問われるなどかえって政権が不安定化しかねない点が挙げられます。

2021年秋の衆院選において、総裁選が盛り上がった余韻が残る中、感染収束や野党共闘失敗にも助けられ、自民党は単独で絶対安定多数を獲得する大勝を飾ることができました。今後どのタイミングで衆院解散に踏み切っても、現状の議席を維持するハードルは高いのではないでしょうか。

もし今の状況で衆院解散に踏み切れば、有権者の支持を得られるか疑問符がつきます。

岸田首相が長期政権を志向する場合、最も望ましい衆院解散時期は、やはり自民党総裁選の直前となる2024年夏頃でしょう。衆院選で勝利すれば、総裁選を無投票再選で乗り切る可能性が高まるためです。

では、2023年中の可能性はどうでしょうか。もし行われるとすれば、やはりG7広島サミットを終えた後の年央以降でしょう。内閣支持率が持ち直し、勝てそうな、もしくは負けを抑えられそうなタイミングがあれば、衆院解散はあり得るといったところでしょう。

広島サミットの主会場に決まったグランドプリンスホテル広島


2023年の経済政策はどうなるでしょうか。これも、解散総選挙があるか否かの目安になります。

まず、岸田政権は20日付で氷見野、内田両氏を副総裁、4月9日付で植田氏を総裁に任命します。

植田氏は国際経済学が専門。金融緩和に積極的だった現職の黒田 東彦はるひこ 総裁に比べ、金融緩和による効果とともに悪影響にも配慮するとみられています。2月の衆参両院における所信聴取で、植田氏は金融緩和を継続する意向を示しつつ、「政策には効果と副作用が常にある。冷静に比較考慮し、適切な政策を実施していく」と語りました。

日銀との関係では、1998~2005年、金融政策の決定に関わる審議委員を務めた。ノーベル経済学賞を受賞した元米連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏らとも交流があり、国際人脈が豊富です。

副総裁となる氷見野氏と内田氏も、当面は金融緩和を続ける考えを示しています。氷見野氏は金融庁時代、主要各国が集まる国際的な金融規制の協議体でとりまとめ役を務めました。内田氏は日銀理事などとして現在の金融緩和策の大半の立案・設計に携わりました。

植田氏は、このブログでも以前に述べたように、どちらかというと金融システム重視派であり、国民経済や失業率などよりも、金融システムを重要視する傾向があります。しかしながら、現状の日本経済は、金融システムにとっても、緩和をすすめるほうが良い状況にあります。

金融緩和をやめて、引き締めに転じたほうが良いと考えるのは、金融機関のなかでも特殊ないわゆる債権村と呼ばれる人たちだけであり、金融システム重視であっても現状ですぐに金融引締に転じるべきとは、植田新総裁でも考えないでしょう。

副総裁となる氷見野氏と内田氏も当面は金融緩和を続ける考えを示していることを考えると、日銀がすぐに禁輸引き締めに走るなどのことは考えられません。すぐに、本格的な利上げを図ることもないとみられます。

財政を巡る自民党内の積極財政派と、財政再建派の路線対立は続いていますが、どちらかと言えば数的には、財政再建派のほうが多く、財政規律は緩む方向にあります。

防衛増税の実施時期決定が先送りされたように、内閣支持率が低迷する中、積極財政派の主張が通りやすくなっています。党内政局を引き起こさないよう、岸田政権は積極財政派の主張に配慮しています。仮に国民民主党が連立入りするなどのことがあれば、積極財政派の主張は勢いを増すでしょう。

積極財政派は増税反対で一枚岩ではなく、賛否が分かれているため、防衛増税が正式決定される可能性もあります。ただ、仮に景気が悪化すれば、防衛増税が見送りとなる可能性が出てきます。その場合、防衛増税見送りの信を問うため衆院解散に至るというシナリオは考え得ます。


過去を振り返れば、安倍政権は消費増税延期や軽減税率導入を大義名分として3度国政選挙に臨み、いずれも勝利しました。2014年12月の衆院選では、10%への消費増税延期の信を問うことを大義名分としました。2016年7月の参院選では、増税再延期を掲げました。2017年10月の衆院選では、軽減税率導入を掲げました。

あくまでも以上は、リスクシナリオにもとづく見立てですが、防衛増税見送りを大義名分として岸田政権が衆院解散に踏み切る可能性を頭の片隅に入れたほうが良いでしょう。

防衛増税の時期も、何年何月からということではなく、失業率やその他の経済指標などをもとに、指標を作成し、それを超えた場合に増税するなどのことをすれば、自民党内の積極財政派も納得するでしょうし、有権者も納得するベストシナリオになるかもしれません。

その次の段階では、防衛増税だけではなく、すべての増税に関して、これを適用するようにすれば、岸田政権は長期政権になるかもしれません。ウクライナ外交で大成功した現在、G7サミットでも大成功すれば、このシナリオは十分あり得るものとなってきました。

岸田首相、安倍氏の功績強調 「次の10年」へ意欲 自民党大会―【私の論評】岸田首相は、経済政策でも安倍路線を継承し「前進の10年から、発展の10年」を目指せ(゚д゚)!

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2023年3月22日水曜日

岸田氏訪問、ウクライナに大きな意義 「タフな首相」との声も―【私の論評】ベストタイミングの岸田首相キーウ訪問でかすむ中露首脳会談(゚д゚)!

岸田氏訪問、ウクライナに大きな意義 「タフな首相」との声も


 ウクライナにとって、岸田文雄首相から対ロシア圧力の強化と幅広い支援の継続、将来的な復興面での尽力など全面的な支持を取り付けられた意義は大きい。先進7カ国(G7)全首脳の訪問が実現し、ロシアへの抗戦は「民主主義を守る闘い」だとの色付けを改めて鮮明化できた上、5月の広島市でのG7首脳会議などを通じて自由主義陣営のさらなる結束の強化が期待できるためだ。

 ゼレンスキー大統領は岸田首相と会談した21日、「国際秩序の真の守り手だ」と日本を評価。日本の国力やアジアでの発言力、G7議長国としての役割を考慮すれば「本日の会談は世界的な成果をもたらすことができる」と強調した。

 岸田首相は会談で、制裁逃れをロシアに許さない仕組みづくりを日本やG7が主導すると表明。財政・復興支援で日本が役割を果たすとも述べた。日本は被爆国としてロシアの「核の威嚇」を容認しないことをG7首脳会議でも強く発信すると約束。いずれもウクライナが望んできた内容だ。

 ウクライナは後ろ盾とする米欧諸国に「支援疲れ」が広がることを危惧している。G7議長国の日本が強い姿勢を打ち出したことで、支援の継続や拡大が担保された形だ。

 同じ日にはロシアで中露首脳会談が行われ、和平の仲介に意欲を示す中国のロシア寄りの姿勢が浮き彫りになった。ロシアに侵略を断念させるためにもウクライナには日米欧との連携の重要性が増している。

 22日朝にワルシャワの首相府に到着した岸田首相はポーランドのモラウィエツキ首相に出迎えられた。前日にウクライナを訪問したばかりだったが、スーツ姿の岸田首相は疲れた表情を一切見せず、モラウィエツキ氏と笑顔で談笑する場面も。写真撮影では、満面の笑みで握手を交わした。取材に訪れた海外メディアの関係者からは「タフな首相だ」との声が漏れた。
共同記者会見で岸田首相は、ポーランドと日本の協力関係などについて語るモラウィエツキ氏を時折、じっと見つめながら真剣な表情で聞き入っていた。

【私の論評】ベストタイミングの岸田首相キーウ訪問でかすむ中露首脳会談(゚д゚)!

岸田首相のキーウ訪問、昨日の時点ではわからなかったことが本日明らかになりました。それは、岸田首相キーウ訪問のロシア側に対する事前通告ですが、通告されていたことが本日判明しました。

政府関係者によりますと、今回のウクライナ訪問について、日本政府はロシア側に対し、外交ルートを通じて事前に通告していたということです。

一方、課題となっていた岸田総理大臣の安全確保について、松野官房長官は22日の参議院予算委員会で、「ロシア軍の攻撃についての情報の入手やその情報に基づく避難など含め、ウクライナ政府が全面的に責任を負って実施した」と明らかにしました。

訪問の際の安全確保をめぐり、岸田総理大臣は現地で記者団に、「秘密の保持や危機管理、安全対策に万全を期すべく、慎重にウクライナ側と調整し、実現した。戦時下にあることから安全対策などの観点もあり、事前には厳格な情報管理を行った」と述べていました。

昨日は、岸田政権の、情報管理の甘さを指摘しましたが、どうもこれも違うようです。

岸田首相のポーランド着とキーウ行きの列車に乗った時間を確認すると、以下の通りです。
08:00 ポーランド着 
09:00 キーウ行列車に乗る
このことから、日本でテレビなどで、第一報が出た11:30には完全にウクライナ国内でした。岸田総理が列車に乗り込む映像のインパクトが強すぎてリアルタイムかのように錯覚した人が多ようですが、あれすら9:00より2時間半前の映像です。私自身も、踊らされたといえるかもしれません。岸田政権重要なことでは、情報統制も効いているようです。

ただ、具体的な日時までは、出ていなかつたものの、訪問予定自体が、マスコミに流れていたのは、事実でこのあたりは何とかすべきでしょう。

岸田総理大臣がウクライナを訪問したことについて、ロシア政府はこれまでのところ目立った反応は示していません。

ロシア国営のタス通信は、「岸田総理大臣は、ロシアに事前に通告したかどうかは記者団に明らかにしなかった。ロシアによる特別軍事作戦の開始以来、日本の総理大臣がウクライナを訪問したのは初めてで、G7では最後の首脳となった」などと伝えています。

一方、ロシアの有力紙コメルサントは、同じ時期に首都モスクワで中国の習近平国家主席とプーチン大統領の首脳会談が行われていたことに言及したうえで、「日本の総理大臣のウクライナ訪問は、日本政府がウクライナを支援する姿勢を示すうえで、部外者でないことに重みや象徴性を持たせようとしたのだろう」と論評しています。

ただし、ロシア国防省は先ほど、核兵器が搭載可能な戦略爆撃機2機が日本海の上空を飛行したと発表しました。 ロシア国防省は21日、ロシア軍の長距離戦略爆撃機「ツポレフ95MS」2機が日本海の上空を飛行したと発表し、その映像を公開しました。

飛行は7時間以上におよび、戦闘機の護衛がついたとしています。 「ツポレフ95MS」は核兵器の搭載も可能で、ロシアは「戦略爆撃機」を「弾道ミサイル」「核ミサイル搭載潜水艦」とともに核戦略の三本柱としています。 岸田総理が昨日ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領との会談に臨もうとする中で、ロシア側の発表には日本をけん制する狙いもあるとみられます。

一方、プーチン大統領と習主席の一連の会談は、アメリカとNATOが注目する中で行われました。3月21日に、彼は奇妙なほど大きな国旗の横で中国の習近平国家主席と写真を撮った。NATOは、ウクライナの戦場で使用するための軍事的な支援をロシアに提供しないよう中国に警告しており、中国は以前、検討しているもののまだ進めていないと述べています。

しかし、これまで中国は西側諸国からの広範な制裁に直面するロシアに経済的・外交的支援を提供してきた。バイデン政権の関係者は今週、世界におけるアメリカのリーダーシップに対する反感を共有することで、両国はより親密になっていると述べた。

ホワイトハウスのジョン・カービー(John Kirby)国家安全保障会議報道官は20日、記者団に対し、プーチンは習近平を、戦況が思わしくないロシアにとっての「命綱」と見なしていると述べました。

ただ、この会談岸田首相のキーウ訪問というベストタイミングで、すっかりかすんでしまいました。このタイミングでの訪問は、世界に対し日本のスタンスを示す上で重要です。
習近平が露に行っている間に、岸田総理がウクライナを電撃訪問したことで、海外メディアはアジアの大国の日本と某国の価値観を分けたと報道しました。

同じ時期に日本の指導者がウクライナを訪問したことは、地政学的な混乱の中で日本の立ち位置について強いメッセージを送るものとなりました。

今回の岸田首相のキーウ訪問は大成功です。台湾有事にも世界の注目が集まりました。日本外交の大勝利です。

空から見てる安倍さん、岸田さん素晴らしい外交をやってくれました。安倍元総理も喜んでいらっしゃるでしょう。


これで、習近平の露とウクライナの仲介等の外交パフォーマンスは事実上、潰れたともいえます。プーチンは、習近平との会談の前に、論文を発表しましたが、これもほとんど無意味になってしまいました。 岸田首相のキーウ訪問は、侵略者ロシアと戦うウクライナへの連帯と支援の継続を伝える上で意義があります。高く評価したいです。

2023年3月21日は、21世紀の世界において、日本と中国が真逆の立場を鮮明にして、別の道を進み始めた「運命の日」として記憶されることになるでしょう。 これから、日中関係が大きく変わることになります。

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2023年3月21日火曜日

安全確保、国会の承認…ハードルも実行 首相のウクライナ電撃訪問―【私の論評】問題はあったものの、我が国が普通の国になりつつある手応えを感じた岸田首相のキーウ訪問(゚д゚)!

安全確保、国会の承認…ハードルも実行 首相のウクライナ電撃訪問

20日、記者団の取材に応じる岸田首相=ニューデリー

 岸田文雄首相は昨年以降、ロシアの侵攻が続くウクライナの首都キーウへの訪問を模索し続けてきた。ウクライナ情勢が主要な議題となる5月の広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国を務めるにあたり、現地を訪れてゼレンスキー大統領と直接言葉を交わすことが不可欠だと考えていたからだ。だが、首相の安全確保や国会の事前承認などのハードルが立ちふさがり、実現までの道のりは難航を極めた。

 「私自身、ウクライナに招待されてから訪問の時期は検討し続けてきた。今は何も具体的に決まったものはない」

 19日夜、インドを訪問する前、首相は公邸で記者団にこう語った。だが、水面下ではインドを訪れてモディ首相との会談などを行った後、ウクライナに電撃訪問する手はずを整えていた。

 首相が現地入りする計画を立てたのは今回が初めてではない。昨年6月にはドイツでのG7エルマウサミットに合わせたウクライナ訪問を検討した。隣国のポーランドを経由し、陸路で首都キーウを目指す案だったが、他の外交日程との関係で両立できなかった。

 同様の計画は昨年末にも持ち上がった。だが、ロシア軍によるキーウに対するミサイルや自爆型ドローンの攻撃が激しさを増し、実現には至らなかった。

 「簡単なことではない」。首相周辺は頭を悩ませた。

 訪問が難航したのはNATO(北大西洋条約機構)などに加盟しておらず、安全上の制約があったことが大きい。戦後、日本の首相が戦闘が行われている国や地域を訪れたことはない。

 加えて、今年1月の国会召集後は海外出張の慣例となる国会の事前承認がネックとなった。渡航の日程が明らかになれば首相の安全確保が難しくなるからだ。

 ただ、2月にバイデン米大統領がキーウへの電撃訪問を果たし、現地を訪れていない首脳が首相だけとなると、与野党から「(事前承認が)当てはまらない場合もある」(自民党の高木毅国対委員長)などとの声が相次いだ。首相は事前承認がなくても国会の理解は得られると見極めた。

 それでも首相自身の安全上のリスクが消えたわけではなかったが、電撃訪問の決断を下した。

【私の論評】問題はあったものの、我が国が普通の国になりつつある手応えを感じた岸田首相のキーウ訪問(゚д゚)!

G7首脳テレビ会議に出席した岸田首相。画面はウクライナのゼレンスキー大統領=2月、首相公邸

岸田総理 のキーウ電撃訪問、ゼレンスキー大統領 との直接会談は大変有意義です。しかも中国の周主席が訪露しプーチン大統領との会談直後のタイミングで行われたことは、重要です。

日本では、閣僚が国会開会中に海外訪問するには国会の事前承認を得る慣例があります。政府は渡航日程が明らかになることで安全確保が難しくなるとの懸念があります。このため、インド訪問に合わせて、ウクライナに電撃訪問する形を取ったとみられます。

しかし、総理が列車移動中でのマスコミ報道合戦、危機管理が憂慮されます。米大統領訪問は事後の報道でした。

岸田首相がウクライナ電撃訪問と言いながら「インドから極秘でウクライナに向かった。ポーランドでの姿を日テレのカメラが捉えた」等このような、過剰報道 がキーウへのミサイル攻撃を誘発し、ゼレンスキー大統領や岸田首相に危険が及びかねないということをマスコミは懸念しなかったのでしょうか。

岸田首相が、ウクライナに到着する前に報道されてしまって良いのでしょうか。これまでの「電撃訪問」は、各首脳がキーウでゼレンスキーと手を握っている写真とともに第一報が伝えられたはずです。これこそ、電撃訪問です。


ロシアで安全保障会議副議長の立場にあるメドベージェフ前大統領は2月20日、ウクライナの首都キーウをバイデン米大統領が電撃訪問したことについて「事前に身の安全の保証を受けた」ものだったと通信アプリ「テレグラム」でコメントしました。

米高官は、ロシア側には訪問を知らせていたと説明しています。メドベージェフ氏の投稿は、事前通告を踏まえてロシアが安全を保証し、短時間の滞在中に空爆を行わなかったことを意味していると言えそうです。

ロシア当局も、バイデン大統領がキーウを訪問することを知りながら、これを表にだすことなく、報道などで明るみに出た直後、これに対して批判を表明したのです。

このような事前通知は、岸田首相のキーウ訪問直前になされたのでしょうか。

他国における、電撃訪問では、同行記者が皆が訪問の事実を知っていて同行しています。報道機関も知っていても報じないのです。また、事前通告された国でさえ、それを公にするのは、電撃訪問が公にされた後に行うてのです。だからこそ、電撃訪問が成り立つのです。普通の国では当たり前の、このようなことを日本は未だにできないのです。

岸田首相は、周りの人に相談をしすぎるきらいがあるので、情報が漏れやすいようですが、それにしても、首相個人や相手国の人たちの安全を考えれば、迂闊に事前に報道などできないはずです。

それに、事前の報道は控えたほうが、電撃訪問が成り立ち、よりインパクトがある報道になると思います。

日本以外の国々では、一般的には、政治的な訪問や会議の計画は慎重に進められ、関係者間での情報共有が必要不可欠です。もし情報が漏れてしまう場合、それは計画が狂う可能性があります。また、外交や国際関係においては、相手国との信頼関係を築くことが非常に重要であり、情報漏洩が発生した場合は信頼を損なうことにつながるため、非常に厳しい対応が必要となります。

このあたりの認識が、政府も報道機関も認識の甘さもあり、戦後、日本の首相が戦闘が行われている国や地域を訪れたのがはじめてということもあり、たとえば誘拐報道に関する協定などあるはずもなく、法律や規定なども整備されていないことが露呈されたともいえます。

この状況で情報が漏れたこと、スクープとでも言いたげに報道する事、情報をコントロールできなかった政府日本の情報統制等など仕組みに問題ありと思います。今後このような閣僚の戦地への訪問など、あり得ると思います。今後こうした場合に備えて、法律、制度なども含めた仕組みづくりをしていくべきです。

2017年インドのモディ首相とともにオープンカーに乗り、沿道の人たちから歓迎を受ける安倍首相(当時)

ただし、このようなことが問題視される事自体が、我が国も普通の国になりつつ事の証でもあり、岸田政権における成果ともいえるでしょう。戦後日本の首相は、誰も戦地を訪問していません。数年前までは、日本の首相が戦地を訪れるなど考えられませんでした。それが、ウクライナ戦争という未曾有の事態が生じている最中でありながらも、実現したことは驚くべきことです。

首脳会談が無事終わり、岸田首相が安全に日本に帰国できるよう願います。

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2023年3月20日月曜日

放送法文書問題、高市氏追及の構図崩壊か「謀略なら予算審議と切り離し特別審議を」―【私の論評】忘れてはならないのは、高市大臣は被害者であること(゚д゚)!

放送法文書問題、高市氏追及の構図崩壊か「謀略なら予算審議と切り離し特別審議を」

放送法文書問題で、高市氏への追及が続くが…

安倍晋三政権下で、放送法の「政治的公平」を協議した経緯とされる総務省の「行政文書」が流出した問題が迷走気味だ。総務省の調査で、当時の高市早苗総務相(現経済安保担当相)と安倍首相が放送法の解釈をめぐって電話で協議したとする文書は「作成者不明」「確認されず」と説明されるなど、文書の真偽に疑問が深まっている。高市氏は「(内容が)捏造だ」と明言しているが、一部野党は、20日の参院予算委員会でも追及するという。

【写真】総務省が公表した「行政文書」に関する調査結果の資料

「政治的立場を離れて客観的に分析しても、高市氏の説明が正確だったとの見方が強まっている。野党がさらに追及するなら、新たな手段で真相究明する局面ではないか」

官僚組織に詳しいジャーナリストの石井孝明氏はこう指摘した。

総務省は17日、「『政治的公平』に関する行政文書の正確性に係る精査について(追加報告)」を公表した。

これには、《作成者および同席者のいずれも、この時期に、放送部局から高市大臣に対して、放送法の解釈を変更するという説明を行ったと認識を示す者はいなかった》《高市大臣から安倍総理又は今井秘書官への電話のいずれについても、その有無について確認されなかった》とあった。

つまり、高市氏らによる放送側への圧力や、放送法の解釈変更を図ったとする〝構図〟が崩れつつあるのだ。

そもそも、問題の行政文書は作成者不明のものも多いうえ、公文書管理法に基づく「行政文書ファイル管理簿」に記載されないなど、不適切管理が判明している。

石井氏は「高市氏や安倍氏を巻き込み行政文書が偽造された疑いがある。また、情報漏洩に関わった人物には国家公務員法違反の疑いもある。万が一、そのような〝謀略〟だったとすれば、大問題だ。もはや、予算審議と切り離し、国会の委員会などで別途、特別審議を開いて証人喚問などを行い、その結果、事件性があれば刑事告発をすればいい」と指摘する。

ただ、一連の騒動で、高市氏の消耗は激しいようだ。

高市氏は18日、自身のツイッターで《総務省文書騒動で役所の公務は殆どできなくなりました》《多くの企業が参加される経済安全保障の講演会もドタキャン。「国会軽視」はしていません》などと書き込み、担当する機密情報の取り扱い資格「セキュリティー・クリアランス」の法整備が影響を受けている現状に苦悩を明かした。

【私の論評】忘れてはならないのは、高市大臣は被害者であること(゚д゚)!

総務省が公表した「行政文書」に関する調査結果の資料に関しては、以下の総務省のサイトからご覧いただけます。
「政治的公平」に関する行政文書の正確性に係る精査について

 3月7日、当省が公表した総務省の「行政文書」の正確性に係る精査(本体PDF参考資料PDF)について、お知らせします。

本体は4ページですし、参考資料は78ベージです。まずは、今回の出来事について、論評する人は、まずはこのくらいは読んでからにすべきと思います。特に本体は絶対に読むべきでしょう。

本体を読めば、参考資料はとてもまともな「行政文書」とはいえないことが誰にでも理解できます。

いわゆる、「もりかけさくら」問題に関しても、このような文書がいくつも公表されていましたが、ほとんど読まないで批判している人もみかけました。そのような愚かな真似はすべきではありません。

この参考資料が、今回のいわゆる「行政文書」というものです。総務省の調査内容が書かれたある本体を読むと、この文章の信憑性を疑わせる内容で満載です。総務省が調べた結果を捏造することもないと思いますが、高市氏を批判する人たちは、この文書の内容を真摯に受け止めているのでしょうか。

そうして、この文書は総務省から違法に持ち出されたものです。こうした内部告発は公益通報として保護される公益通報者保護法がありますが、偽造文書であるならば、この制度でも守られることはありません。まずは、この違法行為の責任が追及されるべきです。

公文書漏洩は国家公務員法違反(110条)として、罪に問われます。そしてそのそそのかしも罪に問われます(同111条)。外務省機密漏洩事件(西山事件、1971年)で、毎日新聞記者の西山太吉氏は、機密漏洩を依頼しそれを公表したことで罪に問われ逮捕、起訴され、最高裁で有罪が確定しました。


この総務省文書騒動では、これを漏らした総務官僚は罪に問われます。また詳細の解明が必要ですが、それをそそのかした場合に、小西氏は罪に問われます。小西議員には不逮捕特権が国会議員としてあるが、それは国会会期中のみです。また捜査は可能です。

総務省は、情報漏洩について、違法行為がある以上、当然、刑事告発の義務を負います。総務省は情報漏洩の懸念で左派からマイナンバー制度への批判を繰り返されています。職員が堂々と情報漏洩をしているのです。その懸念が正しいことになってしまうでしょう。行政の信頼を失わせることになります。

偽メール事件で議員辞職した永田議員

また虚偽情報によって、高市早苗大臣の政治責任を追及した、小西議員、そして立憲民主党は当然批判されるべきです。2006年の偽メール事件を覚えているでしょうか。民主党の永田寿康衆議院議員が堀江貴文氏のメールを根拠に武部幹事長への堀江氏からの不正献金をを国会で追及した事件です。メールは偽物で、民主党首脳部は総辞職、永田氏は議員辞職の後に自殺しました。

今回も似たような構図です。しかし、これは公文書偽造と、首相と大臣を電波官僚が騙した疑惑とセットになっています。偽メール事件より悪質な事件です。小西議員は、3月19日に高市氏に辞職を迫る焦ったようなおかしなツイートをしています。しかし客観的に、違法性が問われるのは彼です。動揺しているようですが、精神的にも法的にも社会的にも彼は大丈夫なのでしょうか。

小西洋之議員の3月19日ツイッター

最初から最後まで、この騒動での小西洋之氏の意図が不明なのですが、結果として彼は何事も成し遂げでおらず、道化師の役割を果たしただけです。

つまり物事を混乱させて、それを進めてしまう人の役割を果たしたのです。余計なことをしたばかりに、彼がかつて関係を持った上司や同僚を犯罪者にしてしまったのかもしれないです。

ただ、不思議なのは、情報漏洩者は、小西氏のような「小物」に文書を渡して何をしたかったのかと言うことです。これが政府を攻撃する重要文書とでも勘違いしたのでしょうか。これも解明が待たれるところです。

さらに、不思議ことですが、現在野党は高市早苗大臣を個人攻撃しています。日本の野党は政策の提言ではなく、政府を大混乱させることを狙って、常に国会活動をしています。

政府を混乱させるという視点に立てば、総務官僚が首相と大臣を騙したという大スキャンダルを追及した方が、騒ぎは大きくできると思います。それに最近でいえば、防衛増税など、与党を追求するなら、現状なら事欠かないと思われるのですが、そちらのほうはしないで、今回のような真偽も明らかでない「行政文書」に集中するのですから、本当に頭がどうかしているとしか言いようがありません。

誠に不思議な人たちです。頭が悪いのでしょうか、あるいは電波利権を守ろうとしているのでしょうか。また自民党も、岸田首相も、高市さんをかばわないのが本当に不思議です。首相候補とされる彼女の政治生命を潰したい考えがあるのでしょうか。この件に関しては、高市さんは明らかに被害者です。

自民党がこの問題で、関係者の証人喚問した上、総務省、もしくは同党が刑事告発をすべきです。もしくは、これだけ人権侵害された高市早苗内閣府大臣ご自身が自らしても良いでしょう。捜査機関によって、この疑惑を明らかにする必要があります。

今回の問題のメディアや野党の大騒ぎはずれています。私は以前から小西洋之氏の幼稚で愚かな発言と行動にずっと不快感を持ってきました。彼が政治的、社会的自爆をするのは喜ばしいことです。しかし、個人的な好悪を離れても、この騒動は不思議さに溢れています。早く決着すべきです。

国会は開催に経費が1日約3億円かかります。こんな無駄な馬鹿騒ぎをするより、司法の手に委ねるほうがはるかに合理的です。そもそも、「もり、かけ、桜」などの問題も司法の手に委ねていれば、裁判にもならなかったでしょう。国会で無駄な審議が繰り替えされることもなかったでしょう。

今回の件は、予算審議や、高市大臣の進めるセキュリティクライアンス(情報の保護)の問題から切り離し、総務委員会の下に特別委員会を作り、関係する電波官僚を証人喚問し、その結果を受けて刑事告発をする等行動が、速やかな解決をもたらすでしょう。この無駄な空騒ぎは、国益にも、国民のためにもならないです。

国会においては、このような馬鹿騒ぎをするのではなく、ウクライナ戦争ですっかり変わってしまった世界情勢に対して日本はどうするかなどの、真摯な議論をすべきです。

本日も習近平がロシアを訪問しています。中露が結託を強めれば、ウクライナ戦争は長引く懸念もあります。蔡英文台湾総統が、今年の8月訪米します。日本はどうするのでしょうか。そもそもG7の首脳は、岸田総理を除いてすべてウクライナを訪問しています。岸田総理はどうするのでしょうか。国会で馬鹿げたから騒ぎで高市いじめを続ける時間などないはです。

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2023年3月19日日曜日

プーチン氏の威信失墜 カギ握る国際社会の協力―【私の論評】今回の「子供連れ去り」の件での逮捕状は国内法でいえば別件逮捕のようなもの、本命は"武力行使そのもの"の判断(゚д゚)!

プーチン氏の威信失墜 カギ握る国際社会の協力


 国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)は17日、ロシアのプーチン大統領に対し、ウクライナからの子供連れ去りに責任があるとして、戦争犯罪容疑で逮捕状を出した。国連安全保障理事会の常任理事国の元首にICCが逮捕状を出すのは初めて。身柄拘束は困難とされるが、ウクライナ侵略を巡る戦犯容疑者として扱われることで、国際社会でプーチン氏の威信は失墜し、孤立が強まる可能性がある。

 ICCの発表によると、プーチン氏は指導者としてウクライナ占領地からの住民連れ去りに加担し、部下の犯罪を止めなかった責任などを問われた。戦時の文民保護を定めたジュネーブ諸条約は、住民の違法な移送や追放を禁じている。

 ICCのカーン主任検察官は、少なくとも子供数百人が孤児院や施設から連れ去られ、多くはロシア国籍を押し付けられて養子に出された疑いがあるとした。ICCは養子縁組を進めたリボワベロワ露大統領全権代表の逮捕状も出した。同代表は子供の権利問題を担当している。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は逮捕状発行について、「歴史的な決定だ」と歓迎。バイデン米大統領は17日、記者団に「正しいことだと思う」と支持を表明した。米国はICC非加盟だが、カーン氏らの捜査に協力する姿勢を示してきた。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は「ロシアの責任を追及する過程の始まり」とした。

 一方、ロシアは猛反発した。ペスコフ大統領報道官は「言語道断で容認できない」と逮捕状発行を批判。ロシアはICC非加盟であり、ザハロワ外務省報道官も逮捕状は「法的に無効。ロシアは(身柄拘束の)義務を負わない」とした。

 ICCが現職の国家最高指導者に逮捕状を出したのはプーチン氏で3人目。他の最高指導者2人の裁判はいずれも実現していない。

 ICCはこれまでアフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)の国内武力紛争を巡り、政府当局が身柄を引き渡した武装勢力指導者を裁くなどしてきた。だが、ロシアが今回、プーチン氏を引き渡すことは望めず、重要となってくるのは国際社会の協力となる。

 ICCの加盟国は容疑者の逮捕や身柄引き渡しで協力義務を負う。ICCは拘束を強要することはできず、過去にはICCに逮捕状を出されたスーダンの大統領が周辺国などを外遊していた事例もある。ICCのホフマンスキ所長はこのため、「逮捕状の執行は国際社会の協力にかかっている」と訴えた。

 プーチン氏が訪問したICC加盟国が協力するかは見通せない。ただ、拘束される可能性がある以上、ICC加盟国への外遊に慎重にならざるを得なくなることも想定される。国際司法が戦犯としての責任追及の姿勢を明確にしたことで、「各国の指導者はプーチン氏との握手や会談を熟慮する」(ウクライナのコスチン検事総長)との効果を期待する声も出ている。


 国際刑事裁判所 ジェノサイド(集団殺害)、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略罪を犯した個人を訴追、処罰する常設の国際刑事裁判機関。2003年にオランダ・ハーグに設置された。日本を含む123カ国・地域が加盟。国連安全保障理事会の5常任理事国のうち、米国、ロシア、中国は加盟していない。

 ICCは各国の国内刑事・司法制度を「補完」するもの。関係国が被疑者を捜査・訴追する能力や意思がない場合に管轄権が認められる。管轄権を行使するためには、犯罪行為が行われた国または被疑者の国籍国が加盟国であるか、管轄権を認めていることが必要。ウクライナは非加盟だが、管轄権を受け入れている。

【私の論評】今回の「子供連れ去り」の件での逮捕状は国内法でいえば別件逮捕のようなもの、本命は"武力行使そのもの"の判断(゚д゚)!

上の記事では、「子供連れ去りの責任」について述べられていますが、そもそも、侵略戦争に関してはどうなのでしょうか。それについては、以前このブログで述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア軍「ジェノサイド」確実 耳切り取り歯を抜かれ…子供にも拷問か 西側諸国による制裁長期化 「ロシアはICCで裁かれる」識者―【私の論評】プーチンとロシアの戦争犯罪は、裁かれてしかるべき(゚д゚)!

この記事は、昨年4月4日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。特に、他国への侵攻ということになれば、国際法に関係してくるので、その部分を中心に引用します。
際社会は、プーチンを「露骨に国際法を破った無法者」と非難しています。国際法とは、法律のように誰かに強制される法ではありません。国際社会の合意として成立している慣習です。この慣習は掟でもあり、従えない国は文明国として扱われないのが普通です。

国際法には、大きく二種類あります。一つがユスアドベルム(戦争のための法)、戦いの正当性に関する掟です。もう一つがユスインベロ(戦争における法)、戦い方の正当性に関する掟です。
ユスアドベルムには、以下の5つの条件があります。
  1. 正しい理由(攻撃に対する防衛・攻撃者に対する処罰・攻撃者によって不正に奪われた財産の回復)の存在
  2. 正統な政治的権威による戦争の発動
  3. 正統な意図や目的の存在
  4. 最後の手段としての軍事力の行使
  5. 達成すべき目的や除去すべき悪との釣り合い
ユスインベロには、以下に条件があります
  1. 戦闘員と非戦闘員の区別(差別原則)
  2. 戦争手段と目標との釣り合い(釣り合い原則=不必要な暴力の禁止)
テレビ、特にワイドショーなどでは、このあたりを曖昧にして論議をしていて、結果として米国批判、ロシア擁護のようになっている論調が見受けられることには驚くことがあります。

国際法ついては、詳細は以下の記事をご覧下さい。非常にわかりやす行く解説されています。
敵基地攻撃の装備を検討 脅威高まり「専守防衛」拡大
プーチンはユスアドベルムとユスインベロの双方に違反しています。

さらに、この記事から一部を引用します。

ユスアドベルム(戦争のための法)において、その戦いの正当性が証明されなかった場合は、単なる違法です。負ければ、国が領土や賠償金を払って償わなければならないです。逆にユスインベロ(戦争における法)を犯した者は、戦争犯罪人として牢屋行きです。

スロボダン・ミロシェビッチやサダム・フセインは容疑の証明が曖昧だったにもかかわらず、牢屋に送られて死にました。 日本人はプーチンを甘やかしてきましたが、奴は日本とって味方でも何でもないことを認識すべきでしょう。
ウクライナの占領地から子供を連れ去るなどは、明らかに「ユス・イン・ベロ」に違反する行為です。これは誰がみても理解しやすいです。

ICCとしては、まずは誰にでも理解出来る「子供連れ去り」に関しては、「戦争行為」違反ということで、逮捕状を出したのでしょう。これによって、仮に逮捕できたとしたら、余罪として「武力行使そのもの合法性」へ侵犯の疑いでも裁く意図があるのでしょう。

国際法は、国内法とは違いまずか、これは国内法でいえば「別件逮捕」のようなものです。

上の記事で、ICC加盟国の協力が不可欠ということが言われおり、いますぐ、あるいは戦争が終了した段階で、すぐにプーチンを拘束して裁判というわけにはいきませんが、今回逮捕状が出されたことにより、その道は開けたといえます。

プーチン氏への逮捕状について、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日夜のビデオ演説で、「歴史的な決定だ。テロ国家の指導者らが公式に戦争犯罪の容疑者となった」と述べました。これは、武力行使そのものに関する裁判への道がひらけたことに対する発言であると考えられます。

ウクライナ政府の集計によると、ロシアによる1万6226人の子供の強制移送が確認され、このうちウクライナに戻ったのは308人だけとなっています。ゼレンスキー氏は「最高指導者の指示なしに、このような犯罪行為は不可能だ」と指摘しました。

米国のバイデン大統領は17日、記者団に対し「妥当だ。とても力強い指摘だと思う」と述べました。

一方、タス通信は、ロシアの大統領報道官が「言語道断で容認できない」と激しく反発したと伝えました。


プーチン大統領は先月16日、子どもの権利担当相ベロワ氏との会談で、「ドネツク州やヘルソン州などで現地の住民から子どもの養子縁組の申請が増えている」と述べ、ロシア国内への移送の正当性を強調しました。ただ、これはロシア側の一方的な主張であって、ウクライナ側にしてみれば、連れ去られたとの主張になるのは当然です。ロシア側の独善的な態度が、この戦争の実態を表しています。

中露北等はいまでも、「必要とあらば人を殺しても構わない」という価値観を有している国です、このような国と我が国のような「人を殺してはならない」という価値観の国とは理解し合えるはずもありません。日本は同じ価値観の国々と生きるしかないのです。

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2023年3月18日土曜日

習近平政権3期目のサプライズ人事―【私の論評】中国が効き目のある金融・財政政策ができないのは、米国等の制裁ではなく国内の構造問題に要因があることを習近平は理解すべき(゚д゚)!

習近平政権3期目のサプライズ人事


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国で全人代が北京で開催され、習近平政権第3期目が正式に発足した。

・「李克強派」である人民銀行総裁易綱と財政相劉昆が留任。習主席が金融危機を恐れているのは明らか

・李尚福国防相就任は、今後の米中関係に大きな影響を与える可能性が高い


今年(2023年)、中国では全国人民代表大会(全人代)が3月5日から13日まで北京で開催された。そして、習近平政権第3期目が正式に発足した。新政権は、ほとんどが習主席の忠実なる部下で構成されている。

だが、各種メディアで既報の通り、中国人民銀行総裁の易綱(65歳)と財政相の劉昆(66歳)が留任した。これまでは、65歳になると、定年退職しなければならなかった(新政権には易綱と劉昆以外にも定年を超えた人事が行われている)。

今回、この件が驚きをもって迎えられたのは、李克強前首相派閥の人間が残留した(a)からである。習主席としては、国務院(内閣)から「李克強派」をすべて一掃したかったに違いない。

けれども、国務院トップの李強・新首相は地方(上海市等)政府出身のため、中央政府で務めた経験がない。習主席としては、金融・財政政策に不安を抱いたのだろう。そこで、易綱と劉昆という人材を残したと考えられる。

易綱は米イリノイ大学で博士号を習得し、インディアナ大学で教鞭を執っていた(b)。その後、帰国して北京大学の教授となっている。

易綱は、2017年の党大会で中央委員候補に選出されていた。ところが、昨2022年の党大会では、中央委員はおろか、中央委員候補にも名を連ねていなかったのである。その易綱が人民中央銀行総裁に留任した。異例の人事だろう。

習政権としては、易綱ならば、米国と金融関係の話ができるので、バイデン政権と金融面で話し合う用意があるというメッセージを米国へ送ったのではないだろうか。米国側も、その点を評価し、歓迎しているかもしれない(ただ、今秋、易綱は更迭されるのではないかという噂がある)。

他方、劉昆は、厦門大学経済学部で財政・金融を学んだ。1982年、広東省人民政府に入省し、2010年、広東省人民政府副省長にまで昇進(c)している。2013年5月、財政部副部長(副大臣)に抜擢された。その後、2018年3月、李克強首相(当時)の下、財政部長(財政相)に就任している。この2人の人事を見れば、習主席が金融危機を恐れているのは明らかではないだろうか。

実は、もう1人、新政権でのサプライズ人事があった。それは、魏鳳和を引き継いだ李尚福(65歳)新国防相(d)である。李尚福は、人民解放軍総装備部副部長、戦略支援部隊副司令官兼参謀長、中央軍事委員会装備開発部長等を歴任した後、2019年7月に上将に昇格(e)した。

李尚福は航空宇宙分野にも精通しており、西昌衛星発射センターで長年勤務している。そして、同センター司令官、月探査プロジェクト発射場システム最高指揮官、嫦娥二号発射場エリア司令官等を務めた。

2018年9月、米国務省は「米国の敵を制裁するための法案」(2017年8月に成立)に基づき、ロシアの大手武器輸出企業、ロシア防衛産品輸出公社(Rosoboronexport)との「重要な取引」について、中国共産党中央委員会に制裁を科したと発表した。

米国務省によると、この制裁は、中国共産党が2017年にSu-35戦闘機10機を、2018年にS-400地対空ミサイルシステムを購入したことに関連するものだという。その結果、李尚福は、ロシアの戦闘機・ミサイルを購入したという理由で、米政府から制裁を受けている

ところで、3月6日、習近平は中国実業家の前でワシントンを名指しで批判し、「米国を中心とする西側諸国による対中封じ込めと抹殺は、我が国の発展に前例のない挑戦をもたらす」と述べた(f)。

また、翌7日、秦剛外相は、最初の記者会見で、米国の中国への政策方針が変わらなければ、「間違いなく対立があるだろう」とワシントンに警告している。

おそらく、習主席は3期目が米国との“競争”によって特徴づけられると確信しているのかもしれない。習政権が敢えて李尚福を国防相に任命したのは、米国に対する一種の「デモンストレーション」ではないかと、香港メディアは報じている。

しかし、国防相の最も重要な責務は「軍事交流」である。李尚福国防相就任は、今後の米中関係に大きな影響を与える可能性が高いのではないか。また、米中両国国防相が会談する場合、「非常にデリケート」になると予想される。

もしかすると、習政権は、李国防相を通じて、米国の中国共産党に対する“忍耐力”をテストするつもりではあるまいか。その後、北京は対米軍事戦略を決定するのかもしれない。今後、習政権は米国との対決姿勢を鮮明にしていく公算が大きい

〔注〕

(a)『万維ビデオ』「李強では安心できない この2人の李克強派が予想外の留任となる」(2023年3月12日付)


(b)『China Vitae』易綱



(d)『中国中央人民政府』李尚福


(e)『万維ビデオ』「この閣僚の任命は奇妙だ 習近平は彼に米国をテストするように頼んだ」(2023年3月12日付)


(f)『中国瞭望』「習主席の覇権掌握に不安はない。だが、新政府にサプライズがないわけではない」(2023年3月13日付)


【私の論評】中国が効き目のある金融・財政政策ができないは、米国等の制裁ではなく国内の構造問題に要因があることを習近平は理解すべき(゚д゚)!

上の記事では、習主席としては、金融・財政政策に不安を抱いたのだろう。そこで、易綱と劉昆という人材を残したと考えられるとしています。しかし、現在の中国の金融政策や財政政策がうまくいかないのは、米国のせいではありません。それは、中国の内部の事情によるものです。

仮に、米国が制裁を行っていなかったとしても、中国の金融政策は機能不全に至っていたとみられます。それは、国際金融のトリレンマによるものです。これによれば、金融政策が機能不全に陥れば、財政政策も機能不全に陥ります。これについては、このブログでも何度か指摘してきました。

以下にその記事の典型的なもののリンクを掲載します。
姑息な〝GDP隠し〟習政権が異例の3期目 経済の足引っ張る「ゼロコロナ」自画自賛も 威信を傷つけかねない「粉飾できないほど落ち込んだ数値に」石平氏―【私の論評】習近平が何をしようが中国経済は、2つの構造的要因で発展しなくなる(゚д゚)!
詳細は、粉の記事をご覧いただくものとして、以下に国際金融のトリレンマに関わる部分を掲載します。この内容をご存知の方は、これを読み飛ばしてください。
中国の経済の停滞の原因は、ゼロコロナ、不動産バブルだけではありません。これだけであれば、この2つの不況原因を取り除けは、中国経済は再び発展することになりますが、そうではないのです。

この他に2つの構造的な要因があります。一つは、国際金融のトリレンマによるものであり、もう一つは、ごく最近新たに付け加わった、ジョー・バイデン米政権が打ち出した、「半導体技術の対中国禁輸」です。
まずは、国際金融のトリレンマによる構造的要因です。この理論によれば、独立した国内金融政策、安定した為替相場(固定為替相場制)、 自由な資本移動、の三つは同時に実現できません。実際、日米を含め殆どの国は上記三 つのいずれかを放棄しています。

これに対して中国は、金利・為替・資本移動の自由化を極 めて漸進的に進める過程において、国内金融政策の自由度を優先しつつ、状況に応じ て為替と資本移動に関る規制の強弱を調整することで、海外の資本・技術を取り入れて 成長し、グローバルな通貨危機等の波及を阻止できました。 

しかし、資本移動を段階的に自由化した結果、最近では人民元相場と内外金利差の相 互影響が強まっています。これにより、国内金融政策が制約を受けたり、資本移動の自由 化が一部後退するなど、三兎を追う政策運営は難しくなりつつあります。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられません。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルが膨らむ恐れがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになります。

ただ、はっきりいえば、段階的にでも変動相場制にするか、自由な資本移動を禁止して、すべての国際金融の流れを政府が一元的に管理するかいずれかを選択しなければならないです。

前者にすれば、中国による独立した金融政策、資本自由な移動はできます。

後者にすれば、自由な資本移動はできなくなるものの、固定相場制、独立した金融政策は実施できます。

後者にすれば、中国はほぼ国際金融から切り離されることになります。ほとんど資本移動がなかった一昔前の中国に戻るしかなくなります。ただ、これでは中国の経済発展は望めません。

中国がこれからも経済発展をするつもりなら、やはり日本をはじめとする先進国のほとんどがそうしているように、変動相場制に移行するしかないのです。すぐに移行するのが無理でも、少しずつそちらのほうに舵を切るしかないのです。

独立した金融政策とは、日本のようなもともと独立した金融政策を行っている国にいる人達にはりかいしにくいかもしれません。特に日本では、独立した金融緩和を実施することができるにも関わらず、長年日銀はこれを行って来なかったので、さらにわかりにくくしている部分があります。

これは、たとえば、日銀は雇用が悪化していれば、雇用を改善するため金融緩和を実施し、失業率がNAIRU(インフレ率を上昇させない失業率 :non-increasing inflation rate of unemployment)をに達すれば、緩和をやめる等のことを行うことができます。

日本や米国などでは、インフレ率を数%高めることができれば、他に何もしなくても、数百万人の雇用が生まれます。中国では、数千万人の雇用が生まれます。これは、マクロ経済学上の常識です。下にこれを示すグラフを掲載します。

日本等の先進国では、これは通常の金融政策であり、日銀はこのようなことを行うことができます。ただ、日本においては黒田総裁前までの総裁はこのような政策を取らなかったため、雇用は改善されず、日本人の賃金は30年も上がらずじまいでした。

しかし、本来ならば先に上げた金融政策を実行して、雇用を改善すべきでした。しかし、このようなことをしなかったのが、過去の日銀です。

ところが、現在の中国においては、このようなことができないのです。なぜなら、雇用改善のため金融緩和をすると、インフレが亢進したり、キャピタルフライト(資本の海外逃避)などが起こってしまうからです。

このようなことは、李克強が首相のときにすでに発生していました。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

中国・李首相が「バラマキ型量的緩和」を控える発言、その本当の意味―【私の論評】中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせい(゚д゚)!

この記事は、2019年の記事3月31日のものです。この頃は、まだコロナ禍は深刻な影響を与えていないはずです。この記事より一部を引用します。

2019年に入り、中国の景気減速がしきりに報じられるようになった。今年1~2月の小売売上高の伸び率は前年比8・2%となり、'03年並みの水準に逆戻りしたという。

こうしたなか、李克強首相は「量的緩和(QE)や公共投資の大幅な拡大などの措置を講じようという誘惑に抵抗する」と発言した。緩やかな減税は継続するが、景気拡大を狙った量的緩和は控える、という判断である。 

この記事の【私の論評】において、当時私は、中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせいとしてますが、それはより具体的にミクロ的にみれば、そうだということであり、マクロ的にはやはり国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策が実施できないことが原因です。

中国においては、最近でも雇用が悪化していることが指摘されていますが、日本の多くマスコミは、コロナ前からの構造的なものとは捉えず、コロナ禍の影響とみているようであり、そうであれば、コロナ禍から回復すれば、そうして米国等が制裁をやめれば、中国経済はまた以前のように成長するという見方になるのでしょうが、それは間違いです。

中国経済は、コロナ禍とは無関係に、国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状態にあり、これを改善するために、固定相場制から変動相場制に移行するか、自由な資本移動ができるようにするか、あるいは両方を実施するなどの抜本的な改革ができるかどうかにかかっています。米国の制裁は国際金融のトリレンマにより惹き起こされる不都合よりは、はるかに軽いものです。

問題は、このことを習近平が理解するかどうかです。上の記事では、中国人民銀行総裁の易綱は米イリノイ大学で博士号を習得し、インディアナ大学で教鞭を執っていて、その後帰国して北京大学の教授となっているので、国際金融のトリレンマについては熟知しているでしょう。財政相劉昆は、厦門大学経済学部で財政・金融を学んでいますから、これも基本的なことは理解していると思います。

問題は、この二人が李強首相や習近平にこれを正しく伝え、二人が、特に習近平がこれを理解するかどうかです。理解しないととんでもないことなりかねません。

上の記事は、以下の文で締めくくられています。

もしかすると、習政権は、李国防相を通じて、米国の中国共産党に対する“忍耐力”をテストするつもりではあるまいか。その後、北京は対米軍事戦略を決定するのかもしれない。今後、習政権は米国との対決姿勢を鮮明にしていく公算が大きい

習近平が国際金融のトリレンマを理解せず、独立した金融政策ができないのは、米国等の制裁によるものと曲解して、米国の制裁等を理不尽と受け止めれば、かなり危険な状況になると考えられます。

米国下院に最近設置された「中国委員会」のギャラガー委員長は、米中の戦略的競争において長期的には米国が有利だが、10年の短期では危険な状態にあると述べています。中国は人口減少が生む経済問題などから「無謀さを増す」とし、中国に対し米国は対策を誤っていると具体的指摘もしています。

人口減少自体は、マクロ経済学における「装置化」により、日中ともにこれを改善し、人口減少しても経済を拡大することはできるでしょう。「装置化」とは、平たくいうと「機械化」のことであり、現在でいえば、ロボット化やAIの活用です。

日本では、日銀が金融政策さえ間違えなければ、「装置化」によって、人口減少しても十分経済発展は可能であり、むしろこれを機会と捉えることさえ可能です。

しかし、独立した金融政策が取れない現状の中国はそうではありません。独立した金融政策ができなければ、「装置化」によって、生産性が飛躍的に高まっても、それに対応した緩和ができず、それを満たすだけの需要が見込めず、結局デフレになるだけです。それでも、中国が構造的な要因をとりのぞかなければ、デフレがさらに深化するだけです。

このままの状況であれば、10年後には確実に経済もかなり落ち込み、中国はかなり弱体化することになります。そうなる前に、何とかしようと、習近平は何らかの冒険に打ってでる可能性は高まったといえます。

そうならないように、日米などの民主主義国家は、対中国政策を強化し、対中国に関する軍事力強化、中国の国内への浸透を防止する法律を整備、中国が台湾に侵攻した場合の制裁の規定や法律を強化などをすべきです。さらに、同盟国、同士国との結束を固めていくべきです。

それとともに、中国が独立した金融政策ができなくなったのは、米国等による制裁によるものというよりは、中国の国内の問題であり、何よりも国際金融のトリレンマという構造的な要因によるものであり、それを解消するには、変動相場制に移行するか、自由な資本の移動をできるようにし、国際社会に復帰するしか方法がないことを説得していくべきでしょう。

そのためには、ある程度の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は、避けられないことも説得していくべきでしょう。特に、軍事行動を起こしたとしても、何も変えられず、国際金融のトリレンマからは逃れられず、ますます悪くなることを説得すべきでしよう。

それによって、中国が考えを変えなかったにしても、10年もたてば、中国は確実に弱体化し、他国に影響力を及ぼすことはできなくなり、国内の問題に対処するだけで精一杯で、一昔前の他国との関係が希薄な元の中国に戻るだけです。その時まで、とにかく、中国が他国に対して武力を行使させることを思いとどまらせるべきです。ウクライナの二の舞いを演じることだけは避けるべきです。

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2023年3月17日金曜日

バイドゥの「中国版ChatGPT」は期待外れ、株価10%急落―【私の論評】社会変革は二の次で、技術革新を追いかける中国は、今後経済成長できない(゚д゚)!

 バイドゥの「中国版ChatGPT」は期待外れ、株価10%急落

ロビン・リー(李彦宏)、2018年5月26日

中国のビリオネアであるロビン・リー(李彦宏)が率いる検索大手バイドゥは3月16日、ChatGPTの競合となることを目指す、独自のチャットボットの「Ernie Bot(アーニーボット)」を公開した。

バイドゥの北京本社で開催されたイベントで、54歳のリーはErnie Botの機能を説明した。しかし、この発表はライブデモではなく、あらかじめ用意されたさまざまなタスクをこなすボットの映像が流されただけだった。

そのため、参加者がその場でErnie Botと対話する機会はなかったが、バイドゥはこのサービスを16日から一部のユーザー向けに提供すると述べている。投資家はこの発表に感銘を受けなかった模様で、バイドゥの香港上場株は午後の取引で10%急落した後、6.4%安で日中の取引を終えた。

「当社のボットはまだ完璧とはいえないが、市場の需要を見た結果、リリースを決定した」とリーは語った。

香港のEverbright Securitiesの証券ストラテジストのKenny Ngによると、バイドゥがChatGPTを意識したプロダクトに取り組んでいることが最初に報じられたときに、市場の期待は非常に高く株価も上昇したという。2月のアナリスト向け電話会議でリーは、Ernie Botが検索エンジンだけでなく、動画サービスのiQiyi(愛奇芸)など、バイドゥのさまざまなサービスに徐々に統合されていくと述べていた。

近年は市場の影響力においてライバルに遅れをとっているバイドゥは、人工知能(AI)領域に注力して事業の多様化を図り、活力を取り戻そうとしている。同社の昨年第4四半期の売上高は予想を上回る48億ドル(約6400億円)を記録したが、売上の半分以上はオンラインマーケティングによるものだった。中国の経済成長が鈍化するなか、テンセントやTikTokの親会社のバイトダンスは、ブランドを自社のプラットフォームに誘致しようとしており、この分野の競争は激化している。

中国のチャットボットの限界

バイドゥはプレスリリースで、Ernie Botがビジネス文書や中国語の理解などの分野で優れていると述べている。同社のボットは、OpenAIが初期モデルのChatGPTをさらに進化させたChatGPT-4を発表したわずか2日後に発表された。マイクロソフトの支援を受けたOpenAIは、最新版のボットの安全性を高め、誤解を招いたり不適切と判断されるような回答をしないようにトレーニングしたと述べている。

しかし、中国ではChatGPTが利用できず、バイドゥやテンセント、アリババなどの大手がこぞってChatGPTを模倣したプロダクトを開発している。

リーは、Ernie Botのサービスの法的側面には触れなかったが、中国発のチャットボットは、デリケートな話題を避け、厳しい国内ルールに準拠することが求められる。ウォール・ストリート・ジャーナルが最近実施した調査によると、中国のチャットボットの多くは、すでに中国の指導者についての質問に答えることを拒否している。

【私の論評】社会変革は二の次で、技術革新のみを追いかける中国は、今後経済成長できない(゚д゚)!

このブログでは、以前ChatGPTの話題も掲載したことがあります。そうして、その中で中国のAIには限界があることを指摘しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国ソーシャルメディアがChatGPTをブロック、プロパガンダ拡散を警戒―【私の論評】技術革新だけで社会変革にAIを使えない中国社会はますます時代遅れとなり、経済発展もしない(゚д゚)!

中国ChatGPTに類似のChatYuanの画面 クリックすると拡大します

詳細は、この記事をごらんいただくものとして、この記事より一部を引用します。
会話型AIが人間の友達になるか、うっとおしいセールスマンになるか、支配のツールになるか、全てはこれから決まっていくでしょう。ただ、西側諸国においては、これらのことは、一定の基準が設けられ、極端なことにはならないような仕組みが構築されるでしょう

ただ、中国のような国では、AIを監視システムに用いたりするという先例もありますから、技術的なもの等には利用していくかもしれませんが、社会に関するものには利用しないでしょう。

なぜなら、現在の中国は中国は遅れた社会のままであり、これを改革するためには、まずは何をさておいても、中国の現体制を変えなれければならないからです。それは、中国共産党の終焉を意味し、中共は絶対にそのようなことをしないでしょうから、中国社会は遅れたままになるでしょう。そうなると今後経済発展も期待できません。

以上、chatGPTは中国にとって、諸刃の剣であることを述べてきました。しかし、chatGPTだけが、中国にとって諸刃の剣というわけではありません。実はAIそのものが、諸刃の剣になり得ます。

たとえば、中国では監視カメラをAIで運用して、特定の個人を特定するシステムなども大々的に構築され、運用されていますが、これも諸刃の剣です。ただchatGPTのように、すぐに自分たちに危険が及ぶ可能性を認知しにくいだけです。

たとえば、このAI監視システムが反乱分子に乗っ取られたらどうなるでしょう。そこまでいかなくても、AI監視システムを運用できる人物が、その情報を反乱分子に伝えるようなことがあったらどうなるでしょうか。

この記事でも述べましたが、経営学の大家ドラッカー氏は、イノベーションとは技術革新ではなく、社会を変えるものでなければならない、社会を変えるものでなけば、それはイノベーションとは呼べないとしています。

その意味では、中国のいわゆるイノベーションと呼ばれているものは、すべてが、技術革新ということができるでしょう。

そうして、その技術革新の目的は、社会などどうでもよく、中国共産党の幹部とその走狗が、経済的に豊になることと、中国の全体主義体制を維持することです。中国社会などどうでも良いのです。


2021年、米国のGDPは23兆ドル、中国は17.7兆ドルでした。 1人当たりGDPは米国が6.94万ドル、中国が1.25万ドルで、総額でも米国が中国を上回り、1人当たりでも米国が中国の6倍近くになっています。

ただ、中国政府の出すGDP等の統計は、ほとんど出鱈目だといわれており、本当はもっと低いとも言われています。

それは、無視して、この数字が正しいものとしても、中国の一人あたりのGDPは米国の1/6程度に過ぎないのです。

なぜこのようなことになるかといえば、米国においては様々な社会問題があることは事実ですが、それにしても、真の意味でのイノベーションが実行され、社会が少しずつであっても良くってきたし、これからも良くなり続けるからでしょう。

米国においては、中国と比較すれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化などが進んでおり、それが多数の中間層を生み出し、それが活発に社会経済活動を行い、イノベーションを実施し、その結果として経済も発展してきたのです。

米国においては、あらゆる地域、あらゆる階層においてイノベーションがなされた結果、今日のような繁栄をみるようになったのです。無論、問題も多々ありますが、それでも多くの人は社会を良くすること、良くなるを前提として、日々生活しています。

これが時には行き過ぎて、社会に分断を招いたりしていますが、それでも中国と比較すれば、社会は日々進歩しています。これは、多かれ少なかれ、我が国の含めた自由主義陣営の国々に当てはまることです。だからこそ、米国に限らず、一人あたりのGDPでは多くの先進国が中国よりも、高いのです。ちなみに、中東欧諸国や台湾や韓国も中国よりは一人あたりのGDPは高いです。

ちなみに、日本は過去には金融政策を、過去も現在も財政政策を間違い続けており、そのため過去ほとんどGDPが伸びず、賃金も30年間も伸びませんでしたが、それでも一人あたりGDPでは中国よりは遥かに上です。

一方中国では、先程の述べたように、イノベーションはなされず、技術革新のみが行われ、一部の人間を経済的に豊にすることだけに注力し、社会はなおざりされたままです。中国の技術革新は、中共が掛け声をかけ、資金を投じて、一部の人間を経済的に豊にするだけで、社会はそのままです。そのため、中国では信じられないような拝金主義が横行しています。

それは、日本などの先進国でもある程度はありますが、程度問題であり、中国ほど酷くはありません。

ChatGPTのようなAIは、イノベーションによって社会変革をする環境が整っている、国や地域で、利用されて初めて真価を発揮するものと思います。中国のような、技術革新だけしようというところでは、真価は発揮し得ないでしょう。

中国のネット上では、「中国のAIは米国のAIよりも賢いに違いない。なぜなら私たちはAIに、話す方法だけでなく、話さない方法も教えなければならないからだ」と皮肉を言う人もいます。

確かに、言論の自由のない社会で、賢く、対話に長けたAIが生まれるとは想像がつかないです。

科学技術の発展によって、独裁国家の政治制度、少なくとも言論が自由を獲得する日が来る、と考えている人はいるかもしれないです。しかし、過去の中国はそうではありませんでした。


長い間、科学技術は誰にとっても公平で中立であると考えられてきました。確かに民主主義国家も、独裁国家も、技術があればミサイルやコンピューターなどを同じように生産できます。

しかし、科学技術が社会を良くすることに使われるのか、そうではないかで社会は随分違ってきたのです。科学技術でイノベーションを実現するか、そうではないかで、社会は随分異なるものになります。特に、イノベーションは二の次で、技術革新のみを追いかける中国は、過去には経済成長できましたが、今後は成長できないでしょう。

チャットGPTのような自由な対話形式のAIが普及し始めたことで、この当たり前のことがも多くの人認識されるようになるでしょう。

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