2020年12月31日木曜日

中国の世紀にはならない 日米欧の知が世界の針路を語る―【私の論評】人口の多い中国に、先進国が協同して対抗すれば、今世紀が中国の世紀になることはない(゚д゚)!

 中国の世紀にはならない 日米欧の知が世界の針路を語る


左から細谷雄一氏、ジャック・アタリ氏、エドワード・ルトワック氏

 令和2(2020)年、新型コロナウイルス禍が混沌(こんとん)に陥れた世界はこの先、どこへ向かうのだろうか。産経新聞はフランスの経済学者で欧州を代表する知識人のジャック・アタリ氏(77)と戦略論研究で世界的権威の米歴史学者、エドワード・ルトワック氏(78)、国際政治学者の細谷雄一氏(49)によるオンライン鼎談(ていだん)を開催し、世界と日本がとるべき針路を語ってもらった。3氏は、民主主義を守るためにも、加速する変革に積極的に対応していく姿勢が必要だと説いた。

<3氏が語った「21世紀のキーワード」を読む>

 鼎談は7日に行われ、産経新聞の井口文彦執行役員兼東京編集局長が司会を務めた。アタリ、ルトワック、細谷の3氏は5月に、コロナ禍の影響を識者が語る連載

「コロナ 知は語る」にも登場している。

 コロナ禍は現代の社会や経済など各分野で従来の価値観を揺さぶり、そのあり方に変革を迫る。3氏はこれに対し、人々の生活がコロナ禍以前の状態に戻ることはなく、また、戻ろうと考えるべきでもないとの認識で一致した。

 アタリ氏はその上で、医療や教育など「命」にかかわる分野を重視した経済・社会構造への転換を求め、「次の脅威に備える」よう訴えた。ルトワック氏は技術革新の加速に対し、「私たちはコントロールする術(すべ)を理解できていない」と警鐘を鳴らし、グーグルなど「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米IT大手4社による市場独占への対処など、政治レベルによる技術革新の管理を求めた。細谷氏は「アフターコロナに早く慣れた人や国が世界をリードする」と述べた。

 一方、国際社会ではいち早くウイルスを封じ込めた独裁体制の中国が、民主主義国家に対する「優位性」に自信を深め、米国主導の国際秩序への対抗姿勢と覇権奪取への意欲を鮮明にする。だが、3氏は民主主義の衰退と中国の覇権確立の可能性を明確に否定した。

 アタリ氏は独裁体制に付随する隠蔽(いんぺい)体質が感染拡大を招いたのであり、中国は封じ込めの成功例ではないと指摘。「中国は世界のリーダーになろうとするが、成功しない」と述べた。

 ルトワック氏は「民主主義国家はいつも弱く見えるが、歴史的に勝利を収めてきた」と語り、その理由について、独裁体制にはない自浄能力で「過ちを正してきたからだ」と強調した。

 細谷氏は「21世紀の形」が「2021年からの10年間で決まる」とする一方、「『中国の世紀』になるとは思っていない」と述べ、日米と欧州、インドを中心に民主主義国家が連携を深めれば、「民主主義は世界の中心的な流れであり続ける」と予測した。

【私の論評】人口の多い中国に、先進国が協同して対抗すれば、今世紀が中国の世紀になることはない(゚д゚)!

今世紀が中国の世紀とならないことは、はっきりしています。ルトワック氏が語るように「民主主義国家はいつも弱く見えるが、歴史的に勝利を収めてきた」からです。一言でいうと、このようになってしまいますが、この言葉には多くの意味がこめられていると思います。

エドワード・ルトワック氏

このブログで今年も、主張してきたように、民主主義国家になるためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は避けて通れません。

なぜ、民主主義国家でこのようなことが行われたかといえば、元々は富国強兵のためでしょう。それは、エリザベス朝のイングランドにまで遡ることになると思います。

エリザベス朝のイングランドには、今日の我々の生活の原点があります。今日の我々の生活様式の中のほとんどすべてのものが、すでにありました。現代の鉄道、電信、病院の原型ができたのもこの時代です。その他にもたとえば、コンピュータの原理もすでにこの時代にできあがっていました。

スペインの無敵艦隊を破り、絶頂期のエリザベス1世

ただし、そのころはコンピュータを実現するための、素材やインフラが整っておらず、それでコンピュータがこの時代には登場しなかっただけです。しかし、後にこの時代に登場した原理、理論と、最新の素材を用いて現在のコンピュータができあがりました。

なぜこのようなイノベーション(ここでいうイノベーションとは社会を変革することという意味、社会を変革しない技術革新なるものや、その他の革新なるものは珍奇な発明や考えの集まりにすぎません)がこの時代に起こったかといえば、富国強兵策としてイングランドが他国に先駆けて、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現したからです。ここでは、なぜ実現したか、なぜ実現できたのかという話は長くなるので省略します。

その結果何が起こったかといえば、ジェントルマン等の中間層が多数輩出され、これらが自由に社会・経済活動を行い社会のあらゆる層や地域において、様々なイノベーションを起こしました。私はこうしたイノベーションを立体的なイノベーションを呼んでいます。その結果社会が富むようになり、さらにその結果として国が富み、軍事力を強化することができ、強国となりました。

それは、他国に軍事的脅威の念を及ぼし、現在のフランス、ドイツなど他国においても、民主化、政治と経済の分離、法治国家化うながされました。それを実現しなかった国々は、強国となれず脱落していきました。

結局、民主化、政治と経済の分離、法治国家を実現することはかなり困難なことであり、それを実現できた国だけが、いわゆる列強と呼ばれた国々になったのです。今日でも、これはこんな困難なことであり、経済発展する発展途上国のほとんどが、いわゆる中進国の罠(あるい中所得国の罠、経済発展をする発展途上国のほとんどが、一人あたりの年収10万ドル=100万円の壁を超えられないことを示す)に嵌ってしまうのです。


ただし、列島国の全部が白人国家であり、これらの白人国家は自国や他の白人国家の民主化は当然のこととしましたが、それ以外の国々の人々の人権を重んじることなく、植民政策を推進しました。無論、植民した国々に関しては民主化をすすめることはありませんでした。

これは、大きな矛盾であり、結局列強による植民地支配は失敗しました。列強国が想定したように、植民地支配は富をもたらすことはありませでした。それは当然といえば当然です。植民地でも民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現しなければ、結局大きな富を生み出すことはできないからです。

こうした列強の植民化に脅威をいだき、日本は明治維新を成し遂げ、急速に近代化をすすめ、先進国の仲間入りを果たしました。いわゆる列強以外の国の発展登場国から先進国になったのは、今でも日本だけです。そうして、二度の大戦を経て、すべての列強国は植民地を手放し、当外国の独立を認めることになりました。

中国共産党は、民主化、政治と経済、法治国家化を実現せずに、経済発展しようとしています。しかし、これでは、いくら中共が様々な分野に巨額の投資をしたとしても、できることは限られており、せいぜい点と線のイノベーションはできても、先に述べたような先進国における立体的なイノベーションはおこらず、結局社会のあらゆる層や地域で、非効率や不合理なことが残存し、そこがボトルネックとなって、社会全体が富むことはなく、したがって国も富むことはできないです。

実際、中国の個人あたりの収入は100万円に近づいています。このままだと、日本のように、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現して、先進国への仲間入りということは不可能です。これからも、国民一人あたりの収入が100万以下という状態が続くとみるべきです。

ただし、中国は人口は14億人ですから、一人あたりのGDPが低くても、他国に比較すれば、かなりの軍事費を投入することができます。だかこそ、中国よりも人口が少ない先進国はこれに連携してあたる必要があるのです。ただし、先進国が中国の軍事的脅威や、間接侵略を防ぐことができれば、中国は自滅します。

自滅した中国では、中国共産党が統治の正当性を失い崩壊して、中国が新しい体制になるかもしれません。あるいは、中国共産党がなんとかして統治の正当性を維持できたとしても、図体が大きいだけの、他国に影響力を及ぼすだけの経済力も軍事力もない、アジアの凡庸な独裁国家の一つになり果てることになります。

上の記事では、細谷氏は「21世紀の形」が「2021年からの10年間で決まる」としていますが、実際にはっきり決まるにはそのくらいの時を経ることが予想されますが、コロナ禍の現在では、何事も変化の速度がはやくなることが予想されるので、来年あたりにはその判断材料が集まりはじめ、数年後にははっきり予想できるようになっていると思います。

今年に引き続き、来年もそうした兆候を探っていきたいと思います。

皆様、昨年はお世話になりました。良い年をお迎えくださいませ。

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2020年12月30日水曜日

映画『日本独立』がついに描いた日本国憲法の真実―【私の論評】日本は古い戦後秩序から脱却して、米中対立後の新たな世界秩序づくり参加せよ(゚д゚)!

 映画『日本独立』がついに描いた日本国憲法の真実

あまりに粗雑で一方的だった米軍による憲法案起草

飛行するB29(1945年、米空軍撮影/パブリックドメイン)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

「ついに出たか」というのが私の実感だった。日本国憲法がどのように作られたのかをここまで現実通りに描いた作品は、映画に留まらずテレビドラマ、歴史書、学術論文など、どの分野を見渡しても日本ではまずないだろう、と感じた。最近、封切られた日本映画『日本独立』(2020年12月18日公開)を見ての率直な感想である。

 今、あえてこの映画について報告するのは、決して作品の宣伝をするためではない。戦後の日本にとって最も重要といえる憲法についての歴史の展開が、これほど簡明に実際の歴史どおりに報告されることは、私の知る限りまずなかったと思えるからだ。だからその歴史の現実を伝え、知るには、この映画の紹介が好材料だと感じた次第である。

映画「日本独立」のチラシ

米軍の将校十数人が一気に起草

 日本の憲法が、占領下の1946年(昭和21年)2月に米軍総司令部(GHQ)の米軍人たちによっていかにあわただしく作成されたか、私はその経緯を、作成にあたった当事者から詳しく聞いた数少ない日本人の1人である。その当事者が語った実際の歴史は、今回の映画で描かれた経緯とほぼ同じだった。

 実際の歴史をこれほど正確に伝えた表現や描写の記録を私は知らない。つまり日本国憲法の草案作りの実態は、歴史として正確に語られることがほとんどなかったのだ。

 ただし、その骨子はすでに多方面で多様な資料によって明確となっている。日本国憲法は、日本がアメリカをはじめとする連合国の占領下にあった1946年2月3日からの10日ほどの期間に、米軍の将校十数人により一気に書き上げられた。この将校団は連合国軍総司令部(GHQ)の民政局次長だったチャールズ・ケーディス米陸軍大佐を実務責任者としていた。「連合国軍」といっても主体は米軍だったのだ。

 ケーディス大佐の直属の上官は民政局の局長のコートニー・ホイットニー准将、さらにその上官は連合軍最高司令官のダグラス・マッカーサー元帥だった。

 日本の新憲法を作成するにあたって、GHQは当初、日本側にその起草を命じた。命を受けた時の幣原喜重郎内閣は松本烝治国務大臣にその起草を任せた。まもなくその草案ができたが、GHQは一蹴してしまった。「内容が十分に民主主義的ではない」という理由だった。その結果、GHQ自身が日本の新憲法を書くことを急遽決定した。そしてその実務がケーディス大佐に委ねられたのだ。

 その結果、書き上げられた日本国憲法案は、3月13日に日本側の幣原内閣に提示された。日本側は内容を不満だとして抵抗を試みたが、しょせんは戦争の勝者と敗者の関係である。ふつうの独立国家であれば、考えられない戦力の不保持や戦争の放棄、さらには自衛の放棄までをうたうような憲法案を受け入れざるをえなかった。

 米国側の意図はもちろん日本を二度と軍事強国にさせないということだった。そのためには、たとえ自国を守るためでも「戦力」や「戦争」は禁止するという意図だったのだ。

反論の余地なく押し付けられた

 映画『日本独立』は、その米国製の憲法案を押しつけられた日本側の責任者たちの米国との交渉、苦闘を描いている。

 その筋書きは歴史どおり、米国のGHQが独断で書いた憲法草案を、「日本政府が自主的に書いた」という虚構とともに日本側にそのまま受け入れることを強制する、という展開だった。

 出演は浅野忠信、小林薫、宮沢りえ、松重豊、柄本明、浅田美代子といったスターたちだ。監督は、かつて東条英機にユニークな光をあてた映画『プライド・運命の瞬間』を作った超ベテランの伊藤俊也である。

 映画のストーリーは、幣原内閣の外相の吉田茂、そしてその知己の国際派実業家だった白洲次郎に焦点を合わせ、「日本を独立国ではなく、まったくの隷属国として扱っている」(白洲次郎の言葉)米国への反発を追っていく。だが、結局は米国の命令どおりに事態は進んでいく。

 この映画の展開は、私にとってきわめて新鮮に感じられた。なぜならこれまでの日本では、憲法をめぐる論議がこれほど長く、これほど広く進められてきても、憲法草案が占領軍の米軍によってすべて作られ、日本側にはなんの反論の余地もないまま、そのとおりに受け入れさせられたという事実が明示されることはまずなかったからだ。

 その意味で、この映画は重要だといえる。改憲にしても、護憲にしても、まず現在の日本の憲法がどんな経緯で、どんな環境下で作成されたかを客観的に知ることは、憲法問題への取り組みの第一歩だからである。これまでの日本の憲法論議では、その事実認定の第一歩がきちんと踏み出されていないのだ。

真の主役、第9条を書いたケーディス大佐

 映画『日本独立』では、米国側のマッカーサー、ホイットニー、ケーディスという重要人物たちも頻繁に登場し、日本側代表と衝突する。だが当然ながら戦争の勝者の占領軍はほぼ100パーセント、その意思を押し通していった。この映画では、そのやり取りがわかりやすく、ドラマティックに活写されていた。

 その米側の多数の登場人物たちの間でも、真の主役はやはりケーディス大佐である。GHQでの肩書は民政局の次長だった。

 ケーディスは当時39歳、コーネル大学、ハーバード大学の出身で、戦前からすでに弁護士として活動していた。1941年12月に米国が日本やドイツとの戦争に入ると、陸軍に入り、参謀本部で勤務した後、フランス戦線で活動した。日本には1945年8月の日本の降伏後すぐに赴任して、GHQで働くようになった。そして赴任の翌年の2月に憲法草案作成の実務責任者となった。

 私はそのケーディスに1981年4月、面会し、日本国憲法作成の経緯を詳しく聞く機会を得た。場所は、当時75歳の彼が勤務していたニューヨークのウォール街の大手法律事務所だった。

 私の質問に、彼は時には用意した資料をみながら、なんでもためらわずに答えてくれた。結局4時間近くの質疑応答となった。

 私は彼の話から日本国憲法作成の状況の異様さに衝撃を受け続けた。なにしろ手続きがあまりに大ざっぱだったからだ。日本側への対処があまりに一方的な押しつけに徹していたからでもあった。そもそも戦勝国が占領中の旧敵国に受け入れを強制した憲法なのだから当然なのかもしれないが、それにしても、なんと粗雑な点が多かったのかと驚かされた。

 彼の言によれば、起草は都内の各大学図書館から他の諸国の憲法内容を集めることから始まり、後に「マッカーサー・ノート」と呼ばれる黄色の用紙に殴り書きされた天皇の地位や戦争の放棄など簡単な基本指針だけが盛り込むべき内容として指示されていた。

 「私自身が書くことになった第9条の目的は、日本を永久に非武装にしておくことでした。しかも上司からのノートでは、戦争の放棄は『自国の安全保障のためでも』となっていました。この部分は私の一存で削りました。どの国も固有の自衛の権利は有しているからです」

 ケーディスは後に日本側から「芦田修正案」が出されたときも、自分の判断だけでOKを与えたという。この修正案は9条の第2項の冒頭に「前項の目的を達するため」という字句を挿入することで、固有の自衛権を認め、自衛隊保持の根拠を供した。

 憲法草案のこうした枢要な部分は、上司のホイットニー民政局長やマッカーサー元帥の承認を事後に得てはいるが、ケーディスの判断だけでも済んだという。

最大の目的は日本の永久非武装化

 このインタビューでケーディス元大佐が私に語った内容の主要点は以下のとおりであった。

・憲法草案の最大の目的は日本を永久に非武装にしておくことだった。

・草案の指針は日本の自国防衛の権利までを否定する意図だったが、自分の一存でその部分を削った。上司の了解は事後に得た。

・「天皇は日本国の象徴」という表現もアメリカ政府の事前の指示にはなく、ケーディスら実務担当者が思いついた。

・第9条の発案者はマッカーサー元帥か、幣原喜重郎首相か、天皇か、あるいは他のだれかなのか、自分にもいまだにわからないままである。

・アメリカ側は、日本政府が新憲法を受け入れない場合は国民投票にかけるという圧力をかけたが、日本側の受け入れには選択の余地はないとみていた。

 以上の5点からも、現在の日本国憲法は日本の占領下に米軍によって書かれ、なおかつ押しつけられたことがあまりにも明白である。しかも日本を永久に非武装にして自国の防衛の能力や意思をも奪おうとしたのだ。戦後の日本は、自国の防衛という主権行為の権利さえも制約された「半国家」にされたと言っても過言ではない。

 日本国憲法は、あまりにも異常な条件下で、占領する側が一方的に作成した憲法だった。その実態が、憲法案作成から75年近くが過ぎたいま、映画のなかでやっと正確に再現されるようになったというわけである。これも令和という新時代になったからこそ、なのだろうか。

【私の論評】日本は古い戦後秩序から脱却して、米中対立後の新たな世界秩序づくり参加せよ(゚д゚)!

以下に映画「日本の独立」の予告編を掲載させていただきます。この映画必ず見ようと思います。


さて、日本国憲法というと現在の大統領候補のバイデン氏は、4年前の2016年副大統領だったときの8月15日、「我々が(日本を)核武装させないための日本国憲法を書いた」と発言しました。米国の政府高官が、日本国憲法を「アメリカが起草した」と明言するのは極めて異例でした。

2016年8月15日にクリントン大統領候補を応援する演説をするバイデン氏

この発言は、ペンシルベニア州で民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官(68)の応援演説をした際に、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏(70)を批判する中で飛び出しまとた。

イギリスのオンライン新聞「インディペンデント」によると、トランプ氏が日本に対して核武装を容認する発言をしたことに対して、バイデン氏は以下のように言ったといいます。
核武装を禁止した日本国憲法を我々が書いたことを、彼は理解してないのではないか。彼は学校で習わなかったのか。トランプ氏は判断力が欠如しており、信用できない。核兵器を使用するための暗号を知る資格はない

 第二次大戦後の1946年に交付された日本国憲法は、第9条で「戦力の不保持」を定めている。朝日新聞2014年5月2日朝刊によると、日本国憲法は連合国軍総司令部(GHQ)の最高司令官マッカーサー元帥から指示を受けた日本政府が、GHQと折衝を重ねて草案を作成。議会が修正を加えたことになっています。

憲法9条に関しては、当時の幣原喜重郎首相とマッカーサー元帥のどちらが発案したかについて諸説ある。拓殖大学のワシーリー・モロジャコフ教授によると、マッカーサー元帥は「幣原首相の発案」と証言している一方で、マッカーサー元帥の全面的なイニシアチブによるものという説もあるといいます。

しかし、現実は上の記事の内容であったのはほぼ間違いないでしょう。バイデン発言は、大統領選挙の渦中での副大統領発言ではあったのですが、言外には(日本を無力化させるために)という意味合いがしかり込められていたものと思います。

国の根幹に関わる事項での発言であり、独立国家に対して侮蔑的態度です。普通のまともな副大統領・常識的政治家なら、たとえそれが世界常識的真実であっても、日本の国体への「配慮」はあるべきでした。

占領した側がこうも馬鹿正直に告白しているのに、しかし当の日本国内では中国や北朝鮮など周辺隣国から脅威を仕掛けられているのに「他国の善意を信頼して」無防備とする憲法9条を金科玉条とする勢力が根強く存在しています。

日本の国防研究を妨害し続ける学術会議も、こうした日本無力化のひとつの仕掛けです。バイデンはまさに正直に、戦後一貫した米民主党左派の対日無力化戦略を語ったのです。

この発言について、日本政府は発言の真意を確認する必要があると思います。ましてや、バイデンが大統領になるかもしれない現在の状況ではそうだと思います。

これは、占領国による国際法違反の暴挙を自白ともいえるものです。占領国が相手国に憲法を押しつけるのは普遍法「民族自決」への国際法違反です。

そして現状では米国自身のパワーが衰退していく一方で、このドクトリンは未だに堅持されに自縛的憲法を日本はいまだに克服できていないのです。

この呪縛憲法により、我が国は中国・北朝鮮・韓国に未だになめられ続けている状況です。ただ、かれらからすれば、「日本はなにをやっても反撃してこない。米軍にさえ配慮すればいい」という具合になっているのでしょう。

日本には、未だに米民主党政権・軍による占領からいまに引き続く米軍駐留の現実があり、日本社会の裏表に米国統治コントロールシステムの残滓が残り、未だに日本を縛っているのです。

ケーディスといえば、彼が実質的に率いる民政局は、憲法改正、農地改革に次ぐ大事業として、戦争協力者の追放問題に取り組みました。

チャールズ・L・ケーディス

第一次公職追放令をGHQが発令したのは、昭和21年1月4日でした。その狙いは、軍国主義者の追放と、固化主義団体の解散、それに、かつての大政翼賛議員たちの、戦後第一回総選挙出馬を阻止することにありましたた。日本人の受けたショックは、天皇の”人権宣言”よりも、このパージ指令のほうが、直接的なだけに大きなものでした。

民政局が作成した『望ましからざる人物の公職罷免排除に関する覚書』では、次のような人物が追放の対象とされました。
1、戦争犯罪人。
2、職業軍人。
3、大政翼賛会、翼賛政治会、大日本政治会や、その協力団体メンバー。
4、極端な国家主義団体、テロ団体の有力メンバー。
5、旧植民地の占領地に関係した開発機関、有力企業、金融機関の幹部。
6、旧植民地、占領地の行政機関などの幹部。
ケーディスたちの公職追放政策は、これだけではおさまりませんでした。翌22年1月4日からは、中央政界だけでなく、地方政界、自治体、経済界にまで、追放範囲が拡大されたのです。日本中に粛清の嵐が吹きまくったのです。

追放該当者は、二十一万人以上に達しました。

しかしこれは、決して過去の話ではありません。たとえば最近でも、話題となった日本学術会議のありようを通じて、米民主党左派が作った占領システムが実質的に日本社会を支配し続けていることが暴露されたのです。現在に至るまで日本メディアの基本的ありようもこのシステムの一環なのです。

上の記事にもみられるように、過去には明かされなかった日本の構造、戦後世界の秩序がさまざまに暴露されつつあります。

無論こういう社会秩序のなかでもわれわれは日本の「平和」を確保し自立を探ることを冷静に追究しなければならないです。

しかし、占領・米民主党左派の日本永久支配を自白したバイデンは前言をどうするのでしょうか。バイデンの発言当時から同じく外交上なかったことにし続けるのでしょうか。

菅政権はこれを有耶無耶にするべきではありません。これに対して、バイデンに真意を確かめるべきでしょう。そうして、日本はケーディスの呪縛から脱却すべきです。

もう時代は、米国が日本を米国が日本を核武装させないための日本国憲法を書いたときから70年以上もの時がたちました。

そうして、その頃の世界秩序から新しい世界秩序につくりかえられようとしています。まずは、中国が自分の都合の良いように世界秩序をつくりかえようとしています。それに対して米国は、戦後の米国を頂点とする世界秩序をつくりかえることを許すことはさせまいと、中国と対立しています。

しかし、米国としても、戦後秩序はすでに時代にそぐわないことをしっかり認識していることでしょう。いずれにせよ、今後米中を対立の後に世界秩序は新しいく塗り替えられることになるのです。おそらくは、この戦いは中国の敗北に終わることになるでしょう。

それにしても、新たな世界秩序が打ち立てられるのは確実です。そのようなときに、古い戦後秩序に拘泥しているようでは、日本は周回遅れになり、世界から取り残され、結局半人前扱いされかねないことになります。

日本も古い戦後秩序から脱却して、新たな世界秩序づくり参加して、その新たな秩序の中で、リーダー的役割を担うべきなのです。

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2020年12月29日火曜日

《独自》「国産トマホーク」開発へ 射程2千キロの新型対艦弾 12式は1500キロに延伸―【私の論評】菅政権は敵基地攻撃能力を視野に入れていることは明らか(゚д゚)!

 《独自》「国産トマホーク」開発へ 射程2千キロの新型対艦弾 12式は1500キロに延伸


 政府が研究開発を進める新型の対艦誘導弾の射程が約2千キロに及ぶことが28日、分かった。配備が実現すれば自衛隊が保有するミサイルでは最長射程となる。これとは別に、陸上自衛隊が運用する12式地対艦誘導弾の射程を将来的に1500キロに延伸する案が浮上していることも判明。「国産トマホーク」ともいえる長射程ミサイルの整備を進めることで、自衛隊の抑止力強化につなげる狙いがある。複数の政府関係者が明らかにした。

 新対艦誘導弾は防衛装備庁が平成30年度から研究を始め、令和2年度までに計105億円の関連予算を計上した。4年度までに試作品を開発し、同年度中に性能試験を行う計画だ。

 射程は約2千キロで、日本からの地上発射でも中国や北朝鮮が射程に入る。レーダーからの被探知性を低減させるステルス能力や、複雑な動きで敵からの迎撃を防ぐ高機動性も追求する。地上発射に加え、艦船や航空機からの発射も可能にする。

 12式地対艦誘導弾は、今月18日の閣議で射程の延伸が決まった。当面は従来の約200キロから900キロ程度に延ばすが、最終的に1500キロを目指す。

 政府は平成29年にF35戦闘機に搭載するノルウェー製の「JSM」(射程500キロ)と、F15戦闘機に搭載する米国製の「JASSM」「LRASM」(ともに射程900キロ)の取得を決めた。新型の対艦誘導弾と12式の射程はこれらを大幅に上回り、射程1600キロ以上とされる米国の巡航ミサイル「トマホーク」にも匹敵する。

 長射程ミサイルの導入について、政府は「自衛隊員の安全を確保しながら相手の攻撃を効果的に阻止する」と説明する。相手の射程を上回るミサイルを持つことで事態への対処を容易にする狙いがあり、主に島嶼(とうしょ)防衛を想定している。

 南西諸島に配備した場合、1500キロあれば平壌を、2千キロあれば北京をほぼ射程に収める。政府は12月の閣議決定で敵基地攻撃能力をめぐる検討の無期限延期を決めたが、北朝鮮や中国が自衛隊の長射程ミサイルを「敵基地攻撃能力」と認識すれば、日本への攻撃自体を思いとどまらせる効果も期待できる。

【私の論評】菅政権は敵基地攻撃能力を視野に入れていることは明らか(゚д゚)!

日本の対艦ミサイルは、制度はかなり高いということで評判なのですが、射程が短いというこが懸念されていましたが、今回の「国産トマホーク」開発で、それを補うことができます。

「国産トマホーク」の射程を以下に地図の上で示してみました。



九州から東アジアのほぼほぼの全部の脅威になり得る目標に発射できます。これで敵基地攻撃が可能になります。対艦ミサイルは、地上の目標も容易にとらえることができるからです。洋上から2000km射程のミサイルを撃てるということは、中国軍の拠点も狙えるということです。

「平和は戦争につながる」と主張する米国ルトワック氏は、日本が北朝鮮に先制攻撃できるだけの準備を整えるべきことを主張していました。

確かにルトワック氏のいうようにすれば、そもそも朝鮮半島で問題がおこる可能性はより低くなります。北を先制攻撃できるということは、無論韓国も攻撃できるということです。

日本は、あまりに長い間平和を享受しすぎました。そのことが、今日の危機を招いているのです。そうして、日本が変わらなければこの状態は未来永劫にわたって継続します。

この状況を打破するためにも、米国の戦略家ルトワック氏は先制攻撃できるようにすべきと主張したのです。今回の「国産トマホーク」の開発は、このような先制攻撃をできるようにすることにもつながります。

ルトワック氏

今回のこの計画の発表は、日本が将来的基地攻撃能力を取得するという意思表示でもあり、場合によっては先制攻撃も可能にする意思表示ともとれます。

北朝鮮がミサイルを発射する様子をみせれば、それ以前にミサイルを発射して攻撃することも可能になります。しかも、北朝鮮の防空システムは、数十年前から進歩していないので、地上観測班を送ったり、戦闘機を派遣しても、日本の自衛隊が被る被害も少ないです。

今後想定される、敵基地攻撃能力に関しては、射程の長いミサイルを発射するというだけに留めず偵察やインテリジェント、その他も含めて、総合的観点を含め敵基地攻撃能力の整備に関する論議を進めて欲しいです。

弾を撃たれたら時に、その弾を狙って当てて防御しようというイージス・アショアを前提とするミサイル防衛よりは、俺を撃つならお前を撃つぞという「能力」を持つ方が相手は余程大きな抑止力となります。当たり前といえば、当たり前の抑止力です。

地対艦誘導弾の延伸も、中国艦隊を寄せ付けないために極めて重要です。

政府は18日の閣議で、導入を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策として、「イージス・システム搭載艦」2隻を新造する方針を決めました。巡航ミサイルなどに対応する迎撃ミサイル「SM6」を新たに搭載する方向を打ち出しました。

安倍前首相

安倍晋三前首相は6月の記者会見で、陸上イージスの配備断念を契機に、日本を標的とする攻撃を相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力の保有」を検討する考えを示しました。退陣表明後の9月には「年末までにあるべき方策を示す」とする談話を出しました。

これに関し、閣議決定文書は「抑止力の強化について、引き続き政府において検討を行う」との表現にとどめ、期限も区切りませんでした。公明党が能力の保有に反対していることが背景にあり、議論は事実上棚上げされた形です。

ただ、政府が研究開発を進める新型の対艦誘導弾の射程が約2千キロに及ぶことは、菅政権は敵基地攻撃能力を視野に入れていることは明らかであり、最近の世界情勢をみれば、「敵基地攻撃能力」を持つことを決定してから、開発をすすめるのでは時宜を逸するとの判断からであると考えられます。

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2020年12月28日月曜日

中国経済、要警戒水域に、バブル崩壊直前の日本に酷似…失業率「20%」に急増か―【私の論評】日本は日銀の誤謬で緩和しなかったが、中国には緩和したくてもできない理由がある(゚д゚)!

 中国経済、要警戒水域に、バブル崩壊直前の日本に酷似…失業率「20%」に急増か

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員


 英国シンクタンク「経済ビジネス・リサーチ・センター(CEBR)」は12月26日、「中国は当初の予想よりも5年早い2028年までに米国を追い抜いて世界最大の経済大国になる」との予測を示した。CBERが予測を変更したのは、中国が世界各国と比べて新型コロナウイルスのパンデミックに巧みに対処したからである。

 中国は世界で最初に新型コロナの打撃を受けたものの、極めて厳格な措置を講じることで感染拡大を抑制し、経済活動の停止につながるロックダウンを繰り返すことはなかった。その結果、今年の経済成長率は主要国のなかで唯一プラス成長となる見通しである。

 これに対して米国は、感染者数や死者数の多さから見て世界最悪の打撃を被っており、いまだに「出口」が見えない状態が続いている。CEBRは「ここ数年、米中が経済力とソフトパワーの面で争いを繰り広げてきたが、パンデミックの発生は、明らかに中国に有利に働いた」と指摘する。

 世界経済に占める中国のシェアは、2000年時点はわずか3.6%だったが、現在は17.8%に拡大しており、2023年までには「高所得国」になる見込みである。中国が「独り勝ち」の状況は、リーマンショック直後の2009年頃に似ている。当時の中国は、大規模な経済対策を打ち出し世界経済を牽引したが、今回も同様の展開になるのだろうか。

民間ハイテク企業への弾圧

 CEBRは「中国は経済の一部を管理しつつも、ハイテクなど成長著しい分野では民間主導で成長している」としているが、昨今この「成功の方程式」が崩れ始めている。

 筆者の念頭にあるのは、中国の電子商取引大手アリババ・グループに対する当局の露骨な締め付けである。アリババの創業者である馬雲(ジャックー・マー)氏は、中小企業の味方としてイノベーションを推進し、国内で高い人気を集めているが、今年10月、フィンテック企業に対する過剰規制に公の場で苦言を呈した。これがもとでアリババ傘下の金融会社アント・グループの新規株式公開(IPO)が当局によって差し止められたといわれている。中国政府は12月24日「アリババ・グループが独占的な行為に関与した疑いがある」として正式に調査を開始するなど、AI(人工知能)やデジタルメディアなどにも事業を広げる馬氏の企業帝国に対する「弾圧」が続いている。

「金の卵」を産んできた民間ハイテク企業に対する政府の突然の方針転換については、さまざまな論評がなされているが、その背景には何があるのだろうか。

 中国政府が発表する統計によれば、「経済はすでに回復軌道に乗っている」とされているが個人消費の回復は出遅れている。北京大学国家発展研究院のトップは12月17日、「中国の失業率は当局が発表した6%ではなく20%であり、失業者は1億4000万人に達している可能性がある」と指摘した。その理由は、新型コロナのパンデミックにより中小企業が大打撃を受けたためだが、この指摘が正しいとすれば、中国は「失業者の急増」という社会の不安定化につながる深刻な問題に直面していることになる。

 中国共産党の最高指導部は12月に入り、国内経済の「需要サイド」を改革するとの新たな方針を打ち出した(12月24日付ブルームバーグ)。これまでの経済政策の柱は、産業の高度化など「供給サイド」の改革が中心だったが、この方針転換は家計消費の伸び悩みを共産党が懸念していることを示唆している。需要サイドの改革についての詳細は明らかになっていないが、エコノミストは「所得の再分配や社会福祉などの政策が打ちだされるのではないか」との見方を示している。

 需要サイドの改革は、「高所得国」へ移行するためにも急速に進む「高齢化」に対処するためには不可欠だが、必要な財源を捻出するためには、既得権益に踏み込まざるを得ず、激しい抵抗に遭うことは容易に想像できる。このため「しがらみの少ない民間企業から手を付けよう」と思っていた矢先に、「出る杭は打たれる」ではないが、アリババ・グループが「生け贄」になってしまったのかもしれない。だが「金の卵」を産むガチョウの首を絞めて殺してしまえば、中国経済全体も危うくなる。

「中国包囲網」

 リーマンショック後の中国は、世界のヒト・モノ・カネに自由にアクセスできる環境の下で高成長を謳歌できたが、足元のマクロな経済環境は様変わりしつつある。「中国包囲網」ともいえる米国主導のインド太平洋戦略に、英国・フランス・ドイツが相次いで参加の意向を表明している。特筆すべきはこれまで「中国偏重」とされてきたドイツが、「経済発展を遂げても民主化に至らない『異質な国』であり続ける」として中国の認識を改めたことである(12月27日付時事通信)。

 英国のインド太平洋地域への空母派遣について中国は「またアヘン戦争でもするつもりなのか」と激しく反発している(12月23日付中央日報)が、このような強硬姿勢を続けるだけではますます国際社会で孤立を深めるばかりであろう。

 前述のCEBRは「中国経済は2025年までは年間5.7%、2026年から2030年にかけて年間4.5%の成長が見込まれる」と見ているが、格付け大手S&Pは12月2日、「中国が科学技術分野の自立を余儀なくされれば、今後10年間の経済成長は平均で3%に半減する」との分析結果を明らかにしている。高成長が維持できなくなれば、長年懸念されてきた中国経済のバブル崩壊が現実になってしまうかもしれない。相場研究家の市岡繁男氏は「民間部門債務の対GDP比率が200%を超え、高齢化率が約12%となった現在の中国は、30年前のバブル崩壊前夜の日本と酷似している」と警告を発しているように、中国経済の今後には要警戒である。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

【私の論評】日本は日銀の誤謬で緩和しなかったが、中国には緩和したくてもできない理由がある(゚д゚)!

上の記事では、中国経済、要警戒水域に、バブル崩壊直前の日本に酷似としています。確かに、現象面だけみれば、そういうところはあります。しかし、現象面で同じように見えても、根本的に全く異なります。

まずは、日本のバブル崩壊を振り返っておきます。ちなみに、日本では多くの人がバブル崩壊の原因を未だに理解できていません。

バブル期の一般物価を見ると、実は、インフレ率は健全な範囲内に収まっていました。バブル期はものすごいインフレ状態だったと思っている人が多いのですが、それは誤った認識です。

バブル期に異様に高騰していたのは、株価と土地価格だけです。バブル期は、「資産バブル」の状態にあったのであり、一般物価は健全な状態だったのです。

ところが、日銀はバブルの状況分析、原因分析を正しくできず、政策金利(当時は公定歩合)を引き上げて金融引き締めをしてしまいました。資産バブルを生んでいた原因は、金融面ではなく、法の不備をついた「営業特金」や「土地転がし」などによる株や土地などの資産の回転率の高さだったのですが、日銀は原因分析を間違えて、利上げという策をとりました。

回転率の高さによって起こった「資産バブル」に対しては、利上げは効果がありません。

日銀の利上げは資産バブルの対策としては役に立ちませんでした。

一方で、このトンチンカンな利上げによって叩き潰されたのが、健全な一般物価でした。

以降、日本は深刻なデフレが進み、「失われた20年」を経験することになったのです。

そもそも、資産価格と一般物価を分けて考えるべきで、資産価格が一般物価に影響しそうな場合を除いて、一般物価が上昇していなければ、資産価格が上昇していても金融引き締めをするのはセオリーに反していました。ところが、日銀はセオリーに反してバブル退治のために金融引き締めをしてしまいました。

バブルを退治したとされた「平成の鬼平」三重野康日銀総裁だが・・・・・

この件に関しては、日銀だけを責めるわけにはいきません。マスコミは公定歩合を引き上げた当時の三重野康日銀総裁のことを、バブルを退治した「平成の鬼平」と呼んで、さかんに持ち上げました。マスコミも含めて多くの人が、バブルだから物価が上がっている。だから日銀が金融を引き締めたのは正しいことだという思い込みを持っていたのです。

しかも、この間違った認識はその後もずっと修正されることはなく、日銀は現状維持の金融引き締めを続けて長期のデフレを生んでしまいました。

なぜ日本は「失われた20年」を経験することになったのでしょうか。それを理解するには、バブル期についての誤解を解く必要があります。長期不況のつまずきの始まりは、バブルについての認識の間違いです。間違った経済常識は、悲劇的な結果をもたらすのです。このことは、決して忘れるべきではありません。


日本のバブル崩壊は、上に述べたように、日銀の金融に関する誤謬から生じたものです。現在の中国は金融緩和をしたくてもできない状況にあります。誤謬により金融緩和をしないどころか、金融引締するということと、中国のようにやりたくてもできないということは根本的に違います。ただし、表面上は似たようにもみえます。

しかし、現実を正しく理解しなければ、真の姿は見えてきません。

では、中国では金融緩和したくてもできないという理由は何なのでしょうか。

さて、先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるのです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論を完結にいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。


これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になるが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄しています。

もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要だが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄しました。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、このような先進国タイプにはなれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できないので。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはないのです。

一方、先進国は、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいいながら、完全に資本移動を禁止できないです。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できるのですが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるを得ないのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなります。そのため、中国は量的緩和を使えないというわけです。

それでも、経済規模がまだ小さかった中国では、金融緩和を実行できましたが、現状ではとても無理な規模になってしまいました。

量的緩和を使えないということは、かつての日本のように、バブル崩壊まっしぐらで、その後はデフレが続くということになります。そのため英国シンクタンク「経済ビジネス・リサーチ・センター(CEBR)」の中国は当初の予想よりも5年早い2028年までに米国を追い抜いて世界最大の経済大国になる」との予測は、あり得ません。

むしろ長期にわたるデフレにより、失業率が上昇し、それでも金融緩和策をつかえず、中国は中所得国の罠から逃れないことになるとみるべきです。日本では、金融緩和=雇用拡大ということもあまり介されていませんが、欧米では常識というか、マクロ経済学上の常識です。

ただし、中国が民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめれば、固定相場制から変動相場制に移行できます。しかし、中国共産は、そのようなことは実施できません。それを実施すると、中国共産党は統治の正当性を失い崩壊することになります。

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2020年12月27日日曜日

中国「コロナ隠蔽文書」入手! サンプルの回収・隠滅指示…当初は「武漢肺炎」と呼称していたことも  月刊「正論」がスクープ―【私の論評】コロナ隠蔽は許しがたい世紀の大罪、中共の信用は地に落ちた(゚д゚)!

 中国「コロナ隠蔽文書」入手! サンプルの回収・隠滅指示…当初は「武漢肺炎」と呼称していたことも  月刊「正論」がスクープ

2月の中国・武漢の病院。世界的な感染拡大の背景に習主席率いる共産党の隠蔽があったのか

 26日発売の月刊誌「正論」(2021年2月号)が、衝撃的なスクープを放っている。中国湖北省武漢市で発生し、世界的大流行(パンデミック)を引き起こしている新型コロナウイルスについて、中国当局が今年1月、武漢での大流行を隠蔽するよう指示したとする文書を入手し、掲載しているのだ。新型コロナは世界中で7900万人以上が感染し、170万人以上の死者が出ている。習近平国家主席率いる中国共産党政権の許しがたき「隠蔽体質」の証拠となりそうだ。


 「重大突発伝染病防疫制御工作における生物サンプル資源及び関連する科学研究活動の管理工作の強化に関する通知」

 「正論」が入手した文書には、このような題名(編集部訳)が付けられていた。日本の厚労省にあたる「国家衛生健康委員会」が今年1月3日、伝染病の防疫とコントロールを強化するためとして、各省や自治区、直轄市などの関係機関に出したとされるものだ。

 マイク・ポンペオ米国務長官は5月6日の記者会見で、「(本当の感染者である)0号患者や感染が始まった場所の詳細は、中国共産党だけが知っている。中国は必要な情報の共有を拒否している」「武漢での大流行を隠蔽した」などといい、「通知」の存在を指摘していたという。

 まず、「重大突発伝染病」とあるように、中国当局は当初から、未知のウイルスの深刻さを理解していたとみられる。関係機関には、各地の「人人感染病原微生物高等級生物安全実験室」が含まれており、ウイルスの「ヒト・ヒト感染」を把握していたともいえる。

 「通知」では、病例生物サンプル資源(=病人の血液、血清、痰(たん)、死亡患者の死体組織、臓器など)の採集、運輸、使用及び科学研究活動の管理工作についてとして、10項目の要求(指示)をしている。

 この中で、「正論」編集部は、以下の6番目に注目している。

 「この通知が発出される以前に、既に関連する医療衛生機構で関連する症例の生物サンプルを取得している機構及び個人は、そのサンプルを直ちに隠滅、或(ある)いは国家が指定する機構に送って保存保管し、関連する実験活動や実験結果を適切に保存する」

 編集部は「隠滅」と訳した理由として、「実態は、存在していた事物を跡形なく消してしまうことを示唆する色彩が濃い」と説明している。

 中国政府は、ウイルスの起源を武漢とする説に否定的姿勢を示し続けている。外務省の趙立堅報道官は3月、「米軍が武漢に感染症を持ち込んだのかもしれない」とツイッターで発信した。当局は最近、輸入冷凍食品に付着したウイルスが武漢に入ったとの説を強調している。

 「通知」の3番目には、「最近の武漢肺炎の病例サンプルについては…」とあり、中国当局が当初、「武漢肺炎」と呼んでいたことが分かる。

 新型コロナの起源解明については、世界保健機関(WHO)の国際調査団が来年1月にも中国入りする見通しと報じられている。ただ、WHOを率いるのは「中国ベッタリ」と揶揄(やゆ)されるテドロス・アダノム事務局長である。

 今回の「通知」の一部を今年2月、中国語や英語でいち早く配信したのが中国のニュースサイト「財新ネット」だった。「正論」編集部は今回、中国共産党の重鎮が、同社社長を叱責したという文書も入手・公開している。

 「正論」のスクープ文書をどう評価すべきか。

 中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「極めて重要な文書だ。これまでも、『中国当局がウイルス情報を隠蔽した』という記事が報じられたが、今回の指示文書の入手・報道で、共産党の隠蔽体質、無責任体質が改めて確認された。世界各国へのインパクトも大きい。だが、中国は『何もなかった』とウソをつき続けるのではないか」と語っている。

【私の論評】コロナ隠蔽は許しがたい世紀の大罪、中共の信用は地に落ちた(゚д゚)!

中国共産党によるコロナ隠蔽は、ウイグル人虐殺等と並び周知の事実であって許しがたい世紀の大罪です。もし、中国が感染の事実を早く世界に知らせていたら、助かった命はどれほどのものになるか、想像を絶する許すまじ大犯罪です。

下の絵は、INDO・PACIFIC DEFENSE FORUM  45巻,3号の表紙に用いられた絵です。これは、日本語版のリンクです。この絵について、以下のように説明されています。関心のある方は、是非ご覧になってください。
武漢の眼科医である李文亮 (Li Wenliang)医師。致死率 の高いコロナウイルスについて 警告しようとしたが中国政府 によって沈黙させられ、 自身も後にコロナウィルス によって命を落とす。彼は 英雄として讃えられ、 中華人民共和国による 情報弾圧の象徴となる。
INDO・PACIFIC DEFENSE FORUM  45巻,3号の表紙

コロナ隠蔽に関しては、当初からいわれていたことですし、このブログにも何度か掲載してきましたが、ここで再度このブログには掲載していなかったことなどをふり返って見たいと思います。

米AP通信は4月15日、中国当局が新型コロナウイルスの深刻な脅威を今年1月半ばには認識していたのに、約1週間にわたって対外公表せず、感染拡大を許したことを裏付ける文書を入手したと伝えました。

文書は、中国国家衛生健康委員会の馬暁偉主任が1月14日、地方衛生当局者らとの電話会議で、コロナ感染は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行以来「最も深刻な危機」で「衛生上の大問題となる恐れがある」との認識を示したことを記していました。

中国国家衛生健康委員会の馬暁偉主任

文書はさらに、ウイルスが、人から人への感染の可能性がある、との当局の見方も示していました。

今回の「正論」が入手したものと、この文書が同一のものかどうかは、わかりませんが、APの文書は電話会議のものを文書化したものと考えられのに対して、今回のものは"中国当局が今年1月、武漢での大流行を隠蔽するよう指示したとする文書"だそうですから、全く別物です。

日本のメディアのものでは、他にも日テレが取材したものも存在します。日テレは8月の報道番組の中で以下のような報道をしています。

日テレは、当時武漢でコロナ患者の治療にあたった現役医師から、医療現場で情報隠蔽が行われていたとする証言を得たそうです。以下にその部分を引用します。
医師は中国当局が発表している新型コロナウイルスで死亡した人の数について、「基本的に信頼できない」「新型コロナウイルスの感染が確定していても入院出来ず亡くなった人は、死因に肺炎や新型ウイルスなどの病名を書いてはいけなかった」と証言しました。

新型コロナによる死者数が少なく見えるよう死亡診断書を書き換えていたと明らかにしました。さらに、それは地元の疾病予防管理部門からの指示で、証拠を残さないためか、文書の形ではなく口頭で指示を出してきたと言います。

隠蔽が続いた時期については、「指示を受けたのは2月。4月18日に感染者ゼロが発表されるまで続いていた」としています。一方、新型コロナの名前を隠したまま火葬場などに感染の事実を伝えるため、「直ちに火葬」という言葉が暗号として使われたといいます。

医師の証言によると、病院以外の自宅などで新型コロナにより死亡した患者の死亡診断書には糖尿病や高血圧など、別の病名を書くことで、感染の事実を隠蔽。その一方で、診断書には「直ちに火葬」と書き、その写しを各所に配布したといいます。


死者が急増していた武漢市では、新型コロナ以外の死因だと遺体火葬に時間を要する中、「直ちに火葬」の文字が書かれると遺体からの感染を防ぐため直ちに火葬されるほか、自宅消毒も速やかに行うよう、ひそかに情報伝達をしていたというのです。

公表されている武漢市の死者は3869人ですが、医師は「私の感覚だと“0をもう一つつけた方がいい”と思う」と述べ、実際の死者数は数万人に及ぶと指摘しました。

また、死者数を少なく見せる理由については「少ない方が当局のメンツが立つからでしょう」と推測。この医師は、自らも隠蔽に手を染めたことについて、「仕方がなかった。真相を語る手段がなかった」と後悔の気持ちをにじませました。

これに対して、武漢市の担当部署は私たちの取材に、隠蔽の指示について「そういう話は知らない」と否定しました。

以上は、生々しいものもありますが、それにしてもインタビューによる情報です。 

その他にも、中共によるコロナ隠蔽については、様々なメディアで報道されていました。

最近のものでは、米国のCNNは11月30日、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった初期段階に、中国政府は、国内での感染者の人数などを実際に把握していたものより少なく発表していたと報じました。

CNNは、湖北省の疾病予防当局の内部文書を独自入手したとしていて、それを分析した結果、2020年2月10日の新規感染者数は、実際に発表された数の2倍以上にあたる5,918人だったと報じています。

また3月7日は、死者数の累計も、実際の人数より少なく発表されていたといいます。

これらの報道等から中共による隠蔽はほぼ確実と考えられてきましたが、 それにしても、今回の文書は「中国当局が今年1月、武漢での大流行を隠蔽するよう指示したとする文書」です。

これは、一次資料といっても良いものだと思います。これはかなりインパクトのあるものです。これは、日本のみならず、世界中に伝わり、世界各国で報道されることになり、被害の大きかった国の国民は、激高することになるでしょう。中共の信用は地に落ちることになります。

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2020年12月26日土曜日

日本医師会が「医療緊急事態」で騒ぐ本当の理由―【私の論評】コロナ禍により人々はより物事の本質を重要視するようになり、この流れにあらゆる組織が対応を迫られる(゚д゚)!

 日本医師会が「医療緊急事態」で騒ぐ本当の理由

医療が逼迫する原因は感染拡大ではない

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 12月21日、日本医師会など9団体は、異例の医療緊急事態宣言を出した。それによると「このままでは、新型コロナウイルス感染症のみならず、国民が通常の医療を受けられなくなり、全国で必要なすべての医療提供が立ち行かなくなります」という。

 たしかに医療現場は大変だろう。感染が拡大していることも事実だが、ヨーロッパでは感染爆発が起こっている。それよりはるかに死者の少ない日本で、医療が崩壊するというのは本当だろうか。

コロナ患者の診療拒否は合理的

 まず日本の現状を数字でみてみよう。下の図のようにヨーロッパでは人口10万人あたりの累計死者が100人に達するのに対して、日本は2.4人。ほぼ40分の1である。日本で医療が崩壊するなら、ヨーロッパは全滅しているだろう。


ヨーロッパと日本の死亡率(出所:FT.com)クリックすると拡大します

 他方で日本の医療の水準は高く、人口あたりベッド数はOECD平均の3倍で世界一だ。コロナで人工呼吸の必要な重症患者は全国で約450人に対して、人工呼吸器は4万5000台。全国的には、重症患者が医療資源の限界を超えることは考えられない。

 ではなぜ医療が逼迫しているのだろうか。1つの原因は、医師の数がOECD平均の70%と少ないことだ。次の図は感染症指定医療機関の対策病床使用率で、東京都の使用率は94%、大阪府は98%と逼迫している。

 しかし全国では50.3%と、ほぼ半分があいている。兵庫県は54%、奈良県は44%、和歌山県はわずか5%なので、近隣の病院から大阪府に医師や看護師が応援するか、患者を近隣の指定医療機関に移送すればいいのだが、それはできない。医療法では、都道府県知事が医療機関に指示・命令できないからだ。

行政が民間病院に指示できない特殊事情

 医師法の「応召義務」にも罰則がなく、昨年(2019)末に厚労省が「第1類・第2類相当の感染症については診療拒否できる」という通知を出したので、指定感染症(第1類相当)に指定されたコロナ患者の受け入れを拒否することは、民間病院にとっては合法的かつ合理的なのだ。

 このため大阪府の吉村知事は、2次救急病院にコロナ患者の受け入れを要請した。公立病院は行政が受け入れを指示できるが、民間の病院は患者を受け入れる義務はないので、行政は「お願い」するしかない。

 この背景には、公立病院が少ない日本の特殊事情がある。日本の医療機関数(2014年)は8442と先進国では突出して多く、しかもそのうち公立病院が20%しかない。公立病院の人員配置は国や自治体が指示できるが、民間病院には指示できないのだ。

 ヨーロッパでは60~90%が公立病院である。アメリカは22%で日本とほぼ同じだが、公的医療保険が整備されていない。日本のように国民皆保険で国が医療費の7割以上を負担する国で、民間病院がこれほど多いのは奇妙である。

 これは戦後復興の時期に、日本の医療が開業医中心に急いで整備され、彼らが地域の中で大きな影響力をもって公的病院の整備を阻止したためだ。ベッドや検査機器の保有台数が多いのも、このように中小企業が多いためだ。

 民間病院は経営努力する点ではいいが、感染症のような緊急事態では、行政のコントロールが難しい。医療法にも医師法にも行政が民間病院に命令する法的根拠がないので、コロナは指定感染症に指定して国が規制している。

特措法を改正して診療拒否に罰則を

 しかし実は、指定医療機関にも患者を受け入れる義務はない。感染症法19条では「都道府県知事は、感染症指定医療機関に入院させるべきことを勧告することができる」と定めているだけだ。おかげで今のように一部の病院でスタッフが逼迫しても、国や自治体が他の地域から応援させることができない。

 コロナ患者を受け入れると、院内感染で43人の患者が死亡した東京の永寿総合病院のようにマスコミが騒いでバッシングを受け、他の患者が寄りつかなくなるので、普通の病院は受け入れを拒否するのだ。

 この問題を解決する1つの方法は、緊急時には行政が民間病院にも患者の受け入れを命じられるように特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)を改正することだ。

 政府は飲食店の営業停止に罰則を設けることを検討しているようだが、それより知事の要請に応じない指定医療機関に罰則を設けることが望ましい。

 だがそれはできないだろう。医師会の政治力は、飲食店よりはるかに強いからだ。今のように(実際には罰則のない)指定感染症で圧力をかけるしか行政のとれる手段はないが、これは必要のない事務が膨大で、看護師が疲弊している。

 医師会は一般国民に自粛を呼びかける前に、傘下の医師に呼びかけて指定医療機関を応援してはどうだろうか。これには法的根拠は必要ない。その資金は国が特措法でつければいいし、クラウドファンディングで募集してもいい。

 もちろん緊急時にボランティアに頼ることは好ましくない。本来は特措法を改正して、緊急時には行政の指示に従わない医師の医師免許を停止するなどの罰則を設けることが本筋だ。医師会が本当に危機感をもっているのなら、制度改正に協力してはどうだろうか。

【私の論評】コロナ禍により人々はより物事の本質を重要視するようになり、この流れにあらゆる組織が対応を迫られる(゚д゚)!

多くの人が、ベッド数も多く、CTの装備率も世界一であり医療設備も整っているここ日本で、欧米に比較して感染者数、重傷者数、死者数もかなり低い日本で、なぜ医療崩壊の危機が叫ばれるのか、しかも医師会からそのようなことが叫ばけるのか、不思議に思っていたと思います。

私もそうでした、ただし私自身は、第三次補正予算の10兆円がつい最近まで7兆円も積み上がっていたことに問題があるのではないか思っていました。そうして、それは緊縮財政が大好きな、財務省に問題があるのではないかと思っていました。

この10兆円を使って、春の段階から、コロナ専門病を作ったり、人を養成したり、あるいは医療関係者に手厚い給付金を提供したりしていれば、十分に間に合ったと考えられたからです。それと、コロナ患者を受け入れた病院は、結局赤字になるということもあり、受け入れた病院に対して補助金を配布するなどのこともすべきとも考えました。

無論、マクロ的にはこのようなことも絶対に必要だとは思います。ただ、上の記事を読めば、これだけでは解決できないことが良く分かりました。

今回のコロナ感染のような事態が生じた場合は、特措法を改正して行政が民間病院にもコロナ患者を受け入れるられるように命令ができるようにし、さらにそれを拒否する病院には罰則を与えられるようにすべきだと思います。無論、緊急時には行政の指示に従わない医師の医師免許を停止するなどの罰則を設けるべきです。

ただ、同じ医療崩壊という形容でも、上の記事にもあるように、感染爆発のなかで、可能な例外措置をどんどん投入しつつ、救命できなかった例が多く出てきたのです。

日本の場合は感染爆発は阻止できたと言っていいでしょうし、指定医療機関の制度や指定された病床が一時的にあふれた中で、原則として柔軟な例外措置を控えたために起きた問題と言えます。

ですから、同じ医療崩壊といっても、欧米と日本の場合は全く内容は異なります。そして、全体としては日本はなんとか持ちこたえ、欧米は事態を後追いするだけで精一杯だったのは客観的事実だと思います。

それにもかかわらず、欧米の場合は知事への信頼も高く、医療従事者への称賛の声にあふれているのは、あくまで文化的な問題だと思います。日本の場合は、全体的には成功しているのに反省的であったり、批判が絶えないわけですが、これもそういう文化だからかもしれません。

こうした日本の特有の文化は、限度を超えた異常事態には弱いとも考えられ、今後へ向けての反省は必要ですが、同時にその文化が感染拡大を防いだとも言えると思います。

ただ、新型コロナウイルスの感染拡大は、すっかり多くの人々の考え方を変えてしまったと思います。どのように変えたのかといえぱ、人々に本当に大事なものは何かと、考える機会を与えたと思うのです。

例えば、サラリーマンなら「ノミニケーション」なるものが影を潜めました。これがなくても、十分に仕事はできると証明されたのです。リモートワークでもかなりのことができることに多くの人々が気づきました。

コロナ以前の研究でも、マネジャーのコミュニケーションが、通常の勤務をする人々よりも、リモートワークをする人とのほうが、深いことが実証されていました。これは、どうやら、リモートワークのほうが、マネジャーはコミュニケーションに意図的に取り組むからということのようでした。

このようなことをいうと、そんなことはない「リモートワークで上司のリモハラに悩んでいる」などという人もいるかもしれませんが、そのような上司は、リモートであるなしにかかわらず、元々コミュニケーションに等に難がある人なのだと思います。

リモハラで悩む人もいるそうだが・・・・・

とにかく会社に行かなくても、仕事はできました。仕事の本質は「成果を出す」ことであり、「仕事をする時間や場所、上司や同僚との付き合いなどは従属的要素にすぎない」と明らかになってしまうとともに、仕事上のコミュニケーションの本質が多くの人々に理解されたと思います。

仕事自体も、本質的価値が問われるようになりました。例えば、あらゆる業種でいわゆる仲介業が苦労しているようです。仲介者がいなくても、求める相手は自分で探せば、ネットで見つかるということを多くの人が知るようになりました。医療体制も、パンデミックが起こったときに、それに具体的にどのように対処すべきなのかという本質が問われつつあります。

コロナ禍で学生も変わりました。国公私立大学などの学生の今年4~8月の中退率が0・38%だったことが、文部科学省の調査でわかっています。昨年の同時期と比べて0・1ポイント減とほぼ横ばいで、新型コロナウイルスによる悪影響はみられなかったどころがほんのわずがですが減っているのです。

全国の国公私立大など1053校を調べました。今年4~8月の中退者数は1万1411人だった。中退の理由では「経済的困窮」が23・1%で最多だったが、昨年の同時期(22・1%)と比べても大きな変化はみられませんでした。

一方、今年度の前期授業料の納付を猶予された人は20万4685人で全学生に占める割合は6・76%でしたた。昨年度の13万9015人(4・52%)を大きく上回っており、コロナが影響したとみられます。

萩生田文科相は16日の閣議後記者会見で「予断を許さない状況が続くと思われるので、引き続き注視したい」と述べました。学生たちは、現状は就職が困難になりつつあり、大学をやめればさらに困難になることを認識しているようです。大学生も大学に行く意味の本質を自ら問い直しているようです。

学生も大学に行く意味の本質を自ら問い直している・・・・・

さらに、特に大学ではリモート教育がかなりすすんでいます。世の中では判で捺したように「対面学習が一番いい」「遠隔学習は対面学習の代替物」という前提で物を言う人がいますが、少なくとも大学生に関しては、そうではないようです。実際にリモート学習をしている大学の先生は、無論実験や実技は無理ですが、これらを除けば、遠隔授業の方がはるかに質の高い教育が実践できる明確な手ごたえがあるといいます。

端的にはAIが活用しやすいそうです。数学演習などでは一人も置いていくことなく、また一部の学生だけが黒板に出るのでなく、全員に課題を実施させ、すべてをチェックできますから、こっちの方が全然効率的です。


外国語などの学習では、Text To Speech(TTS)を活用してAIに発音させ、それを使って反復履修トレーニングさせると、露骨に発音はまともになり、早く滑らかに、確実にテキスト読解が進むようになるそうです。

遠隔システムはIT、AIの果実をフル活用すると腹をくくれば、こんなに使いやすい環境はないようです。こういうシステムを好む学生も多いのではないかと思います。

家庭生活も変わりました。これまでは、仕事の都合で家族を犠牲にした人も少なくないでしょう。特に、社会で重要な位置を占めている人はそうだったでしょう。ところが、多くの人が苦しいときに頼りになるのは、自宅でともに過ごす家族と気づきました。一人で生活している人は、人々の絆がいかに重要なのかということを再認識させられたと思います。

コロナで社会も学校も家庭すらも「変化」したのは、誰の目にも明らかな事実ですが、それがすべて悪いとばかりは決して言えません。

この変化は、もう元には戻らないでしょう。コロナ禍で多くの人が物事の本質を見極める機会を得られたのです。本質以外の部分は、それがなくても大丈夫と分かったのですから、人々の本質志向は研ぎ澄まされていくことになるでしょう。

医療サービスについても、本質に目覚めた人々は、何が重要なのかということを知るようになり、医療の改革を求めるようになるでしょう。それを排除しようとする財務省や厚生労働省などの官庁は、糾弾されるようになるでしょう。

いや、それだけではないでしょう。人の命にかかわる医療に関しては、まずは最初に改革が求められるようになるでしょうが、次に社会の様々な分野で改革がもとめられるようになります。これに政府はもとより、民間企業や社会事業なども応えていかなくてはならなくなるのです。そうして、これにまともに応えることこそが、日本経済のV字回復には絶対に必要です。

どの分野でも、より本質を追求する方向に向かうのではないでしょうか。たとえば、英会話の学校であれば、多くの人が求めるようになるのは、本当に英語を語れる教育、それも自分の興味の分野の内容を細かなニュアンスも含めて的確に多くの人に伝えられる教育を求めるようになるのではないでしょうか。

「YES・NO」で答えられる問題をクローズドエンド、「YES・NO」で答えられない問題を
オープンエンドと呼びます。より本質に迫るためにはオープンエンドの質問が効果的

飲食店も、観光も、場合によってはある程度のーリスクを被ってでも、自らもとめる本質を提供してくれるところに行くようなるのではないでしょうか。ただ美味しいとか、景色が良いからとか、安全・安心だからというのではなく、自分は、家族はあるいは仲間が求める本質は何なのかを見極め、その本質に近いモノやコトを提供してくれるところに出かけるようになるのではないでしょうか。その流れは、コロナ終息後も続くと思います。

このようなことは、従来は不可能でしたが、政府の経済対策がまともで、AIやITを駆使することで可能になる分野も多いと思います。

私は、コロナ禍の最中にやれニュービジネスとか、パラダイム・シフト、マイクロツーリズムなどと妙に熱ぽく語っていた人たちがいたことをよく覚えています。しかし、本質を求める人々が増えた現在、今後変わる社会は彼らの考えたものとは全く別のものになるのではないかと思います。

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2020年12月25日金曜日

米、ウイグル族の虐殺認定を検討―【私の論評】中国共産党のウイグル人虐殺は周知の事実であって許しがたい世紀の大罪(゚д゚)!

 米、ウイグル族の虐殺認定を検討

中国政府の弾圧で国務省

ポンペオ米国務長官

 トランプ米政権が中国政府による中国新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル族への弾圧について、国際法上の犯罪となるジェノサイド(民族大量虐殺)と認定するかどうかの検討に入ったことが24日、分かった。対中強硬派のポンペオ国務長官が検討作業を指示した。米当局者が共同通信に明らかにした。米政府が認定すれば、中国の強い反発が予想される。

 国務省で国際刑事司法問題を担当するタン大使が検討作業を取りまとめ、ポンペオ氏に報告する予定だというが、報告の時期は不明。ジェノサイドに認定した場合、中国に対する何らかの制裁措置を求める声が高まるのは確実とみられる。

【私の論評】中国共産党のウイグル人ジェノサイドは、周知の事実であって許しがたい世紀の大罪(゚д゚)!

ジェノサイドという言葉は、「人種」や「部族」を意味するギリシャ語と「殺害」を表すラテン語を組み合わせた造語で、ラファエル・レムキンというポーランド人法学者が1944年の著書で初めて使用したものです。日本語では「集団殺害」や「集団殺戮」と訳されることもありますが、そのままカタカナで「ジェノサイド」と呼ばれることが多いようです。

ジェノサイドの定義は、1948年に国連総会で採択された「ジェノサイド罪の防止と処罰に関する条約」(通称「ジェノサイド条約」)で定められています。この条約の第2条によると、ジェノサイドとは「国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を集団それ自体として破壊する意図をもって行われる次のいずれかの行為」(注2)であるとし、5種類の行為を挙げています。この5種類の行為とは以下の通りです。
  • 「集団の構成員を殺すこと」
  • 「集団の構成員に重大な肉体的または精神的な危害を加えること」
  • 「全部または一部の身体的破壊をもたらすよう企てられた生活条件を故意に集団に課すこと」
  • 「集団内の出生を妨げることを意図する措置を課すこと」
  • 「集団のこどもを他の集団に強制的に移すこと」
このジェノサイド条約は、2019年時点で150カ国が批准しています。批准していない国はアフリカや東南アジアを中心に多数あり、日本もその一つです。

ジェノサイド条約における「ジェノサイド」の定義は、1998年に採択された国際刑事裁判所(ICC)規定でも踏襲されています。日本は2007年にこのICC規定に加盟し、それによってジェノサイド条約が規定する責務の大半を果たしていますが、国内法との整合性に課題があり加盟に至っていないジェノサイド条約の批准についても、国会での議論が繰り返し行われています。

ジェノサイド条約が採択されたのは1948年、第二次世界大戦終結の少し後です。この条約は、大戦中に侵された残虐行為を二度と繰り返さないという国際社会の強い決意の中で生まれたのです。

また、「ジェノサイド」という言葉をラムキンが考案した背景として、大戦中にナチスドイツによって行われたユダヤ人の大量殺戮や迫害、すなわち「ホロコースト」への対応という側面があります。

実は、法的にジェノサイドと認定されている事例は多くありません。

これは、ジェノサイドの定義にあるとおり、ある事例がジェノサイドにあたるかどうかの判断には行為者の「意図」が関わるためです。このため、個別の事例にジェノサイドという言葉を使用するかどうかを決定するためには、ICCや国際司法裁判所(ICJ)での慎重で詳細な調査が必要となります。

カンボジアのボルボト政権によるジェノサイドの犠牲になった人々の頭蓋骨

第二次世界大戦後のジェノサイドとして有名なのは、カンボジアでのポル・ポト政権による虐殺、旧ユーゴスラビアでの民族浄化、ルワンダでのジェノサイドです。これらのジェノサイドに関しては、かなり有名であり、すでにサイトで様々な論議がなされているので、ここでは詳細は述べません。興味のある方は、是非他のサイトにあたってみてください。

法的に認められたジェノサイドの事例は上述の3件のみですが、ジェノサイドの容疑で今も国際的な裁判が継続している事件や、各国が独自にジェノサイドであると認めている事件もあります。

今回の、米国によるウイグル族の虐殺認定を検討は、もちろん米国によりジェノサイド認定して、米国により制裁をするということです。


今月はじめ中国の電子商取引(EC)大手アリババ(Alibaba、阿里巴巴)が、新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人を特定する顔認証ソフトウエアを提供していたと、米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)が報じています。中国政府のウイグル人弾圧への中国企業の関与が相次いで発覚しています。

報道によるとアリババは、クラウドコンピューティング事業のウェブサイトで、同社の顔認証ソフトウエアを使って画像や動画の中からウイグル人ら少数民族の顔を検出する方法を顧客向けに紹介していました。

問題のページは、監視関連の米調査会社IPVMが発見してニューヨーク・タイムズと共有したもので、現在はアリババによって削除されています。

ニューヨーク・タイムズによると、アリババはこの機能について、試験環境で使用されただけだと説明しているそうですが、全く信用できません。

アリババの商標とロゴ

ビデオ監視システムの米調査会社IPVMはこれも今月はじめに、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ、Huawei)がウイグル人の顔を認識すると警察に通知が届く顔認証ソフトウエアの試験に関与していると報告したばかりでした。ファーウェイはこの指摘を否定しています。

中国政府は近年、新疆ウイグル自治区の監視に割く予算を急増させており、テロ防止の名目で顔認証、虹彩認証、DNA採取、人工知能(AI)を駆使した監視網を自治区全域に展開している。

昨日もこのブログに掲載したように、現在の中国の大停電は、こうした監視網を自治区で展開するために、データセンターにおいて大量の電力需要が生じているためであることが考えられます。この記事では、中国に最新の省エネ技術を提供することは、データセンターの安定稼働を促し、それこそジェノサイドに手を貸しかねないことについても述べました。

中共政権のウイグル人虐殺は周知の事実であって許しがたい世紀の大罪です。米国政府には一日も早く認定していただきたいです。アリババやファーウェイのようなジェノサイドに関与したとみられる企業にはトランプ政権により鉄槌がくだされるでしょう。そして文明世界全体は毅然とした姿勢で中共に「No」を突きつけていくべきです。そうして、中国に機微な技術を提供してジェノサイドに加担するようなことは絶対に避けるべきです。

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2020年12月24日木曜日

中国で電力不足深刻 豪産石炭制限影響か―【私の論評】中国の電力逼迫は、ウィグル人弾圧等に欠かせないデータセンターを安定稼働させるためか(゚д゚)!

 中国で電力不足深刻 豪産石炭制限影響か

明かりが少ない中国浙江省杭州市内=17日

 中国各地で電力不足が深刻化している。国有送電企業は、電力需給が逼迫しているとして「戦時状態」を宣言。街灯の明かりが消えて真っ暗になり、大規模停電で工場生産に影響が出ている。中国がオーストラリア企業から石炭輸入を制限したことにより発電量が減ったとの観測もある。

 国家発展改革委員会の趙辰昕秘書長は21日の記者会見で、経済活動の回復や寒波により電力需要が想定を上回ったとし「石炭の総量は十分なので、安心してほしい」と強調した。

 湖南省当局は今月、今冬の電力の負荷が冬季の最高記録を上回る3093万キロワットに達し「電力供給が緊迫している」と通達。8日から指定の時間に公共施設や観光地の照明を消し、企業の電力利用を制限している。(共同)

 中国メディアによると、浙江省当局も各地で月末まで加工工場の生産を全面的に停止するよう求める通知を出した。江西省などでも制限措置が取られている。

【私の論評】中国の電力逼迫は、ウィグル人弾圧等に欠かせないデータセンターを安定稼働させるためか(゚д゚)!

中国大停電について、日本メディアのほとんどは報道していません。また、報道している数少ないメデイアをみても、その原因を報道しているものは少ないし、報道していても納得がいかないものばかりです。

良く、原因としてあげられるのが、上の記事のように、オーストラリア企業から石炭輸入を制限したことにより発電量が減ったとの観測があげられますが、これは納得がいきません。そもそも、中国の石炭の産出量は世界一です。

中国国家統計局は28日、2019年の中国の一次エネルギー消費に石炭が占める割合が前年から1.5%ポイント低下して57.7%となり、58%未満に減らすという政府の目標を1年前倒しで達成したと発表しています。

国家統計局が公表した2019年の「国民経済・社会発展統計公報」によると、中国の全体的なエネルギー消費が前年から3.3%増えて48億6000万TCE(標準石炭換算トン)となるなか、石炭消費量も前年から1%増えました。

中国ではコロナ禍からのV字回復が喧伝されていましたが、現実には国営企業の破綻も起こっています。中国金融市場で10月下旬以降、有力国有企業の発行した社債のデフォルト(債務不履行)が相次ぎ、動揺が広がっていました。

近年、当局が不動産バブルや過剰債務問題の解消に本腰を入れる中、財務基盤の弱い民間企業を中心に社債デフォルトが増えていましたが、「当局の支援」が当然視されていた国有企業にも波及し始めた形になりました。「金融機関や地方政府の支援余力が尽きたのではないか」との見方も出ているくらいです。

      渤海鋼鉄集団の再編は債務総額が2000億元以上に上り、
      ここ何年かの中国国有企業の倒産で最大規模となった

この状況だと、去年よりは多くの企業の生産は縮小し、それにつれて電力需要も減り、オーストラリアからの石炭を輸入しなくても良いはずです。中共も無論、そのつもりで、オーストラリアからの石炭輸入をやめただと思います。

では、中国では中共政府も予期しなかった、とてつもなく大きな電力需要が発生したと考えるしかありません。

それの最大の候補は、データセンターであると考えられます。実査、人工知能(AI)およびビッグデータ、5G、クラウド、ブロックチェーンなど先端技術への国家的注力を表明している中国で、データを扱うデータセンターへの投資も急速に増加していくとの見通しが発表されていました。

中国・前瞻(ぜんしょう)産業研究院などの統計によると、2019年までに中国で建設されたデータセンターの数は約7万4000箇所にのぼります。これは世界全体のデータセンターのうち23%を占める数であり、主に北京、上海、広州、深センなど一線都市に集中しています。

稼働しているサーバーの数は、およそ130万台と推定されています。地域別に代表的なデータセンター企業としては、GDS(蘇州)、SINNET(北京)、Dr. Peng(深セン)などがあります。中国のデータセンター増加に伴い、アジア太平洋のデータセンター市場は、2018年比で12.3%増加と明確な成長性をみせています。

中国国内のデータセンターへの投資市場規模をみると、2017年2769億元(約4兆2500億円)、2018年に3257億元(約5兆4400億円)、2019年3698億元(約5兆6700億円)と順調に増加しています。2019年は前年比で13.5%増加しており、これは世界の増加率7.1%の倍近くを記録しています。中国のデータセンターへの投資額は増加を続け、2025年には7000億元(約10兆7400億円)を超えると予想されています。


データセンター市場の成長の裏には、中国国内で膨張を続けるデータ量の存在があります。中国のデータ規模は、2020年に64ゼタバイト、2022年に128ゼタバイト、2024年に512ゼタバイトと増え続け、2030年頃には4096ゼタバイトにまで達する見込みです。2030年時点のデータ量は、世界のデータ総量の30%を占めることになるだろうと予測するレポートもあります。

これだけデータを扱うと、当然データセンターの電力も半端ではなくなると考えられます実際にはどうなのかという研究もなされています。

データセンターの需要は、およそ10年間で爆発的に増加しています。業務用ソフトウェアやソーシャルメディア、それに動画やモバイルアプリの利用が急増しているからです。ところが、コンピューターの利用増が地球に及ぼしている影響を測定したところ、意外にもその結果は悪いものではなかったといいます。

新しい分析によるとデータセンターの作業負荷は、2018年の時点で10年と比べて6倍以上に増えていました。これに対してエネルギー消費量は、ほとんど変わっていなかったといいます。その理由はデータセンターのエネルギー効率が大きく向上したことにあると、『Science』誌に2020年2月28日付けで掲載された論文は結論づけています。

ただし、人工知能(AI)や5Gといった膨大な量のデータを処理する新しいテクノロジーが普及すれば、いまのような効率性が維持される保証はないと、この論文は警告しています。

データセンターのエネルギー消費量については、この10年ほどで2倍以上に増えたとする分析結果もいくつかあります。しかしそのような調査は、エネルギー効率の改善を推計値に反映できていないというのが、今回の論文の主張です。

今回の調査結果は驚くべきもので、一部からは疑いの目を向けられています。調査会社のリンリー・グループで半導体市場のアナリストを務めるマイク・デムラーは、ハードウェアの効率化が需要の拡大を上回るペースで進んでいることを示すもっと定量的な証拠が必要だと語っています。

またデムラーは、中国では状況が異なる可能性があるとも指摘しています。「中国には適切なデータがないことから、中国がデータセンターのエネルギー消費量を急速に増加させている可能性があります」と、デムラーは言うのです。

私は、デムラーが言うように、中国がデーターセンターのエネルギー消費量を急速に増加させているのだと思います。だからこそ、今回中国の大停電が起こったのだと思います。それを匂わせる事実も報道されています。

12月9日、中国でファーウェイの顔認証システムによって、少数民族のウイグル族を検知し、自動的に警察へ通報する仕組みが用いられていると報道されました。ファーウェイが中国共産党による少数民族弾圧に加担しているとして、それを批判するかたちでサッカー・フランス代表のアントワーヌ・グリーズマン選手がファーウェイとのスポンサー契約打ち切りを発表しました。

それだけでなく、中国アリババグループもウイグル人を識別するクラウドサービスを展開していたことが報道されました。

浙江省杭州市のアリババのスーパーデータセンター(撮影日不明)

人工知能(AI)を研究する非営利団体「OpenAI」は2019年12月、ルービックキューブを完成させるアルゴリズムを発表しました。このアルゴリズムはロボットハンドを操作しながら、試行錯誤してルービックキューブを解く方法を学習するといいます。

素晴らしい研究成果です。しかし、このプロジェクトには1,000台を超えるデスクトップコンピューターに加え、数カ月にわたって大量の計算を処理する専用グラフィックチップを稼働させるマシンが1ダースほど必要でした。

このプロジェクトのために約2.8GWhの電力が消費された可能性があると、AIプロジェクト管理用のソフトウェアを提供するDetermined AIの最高経営責任者(CEO)エヴァン・スパークスは指摘しています。約2.8GWhといえば、原発3基が1時間に出力する電力とほとんど同じです。

5Gスマホの電力消費量を増やす多くの要因があります。まず3Gや4Gと比べ、5Gスマホのアンテナ数が目立って増加します。5G端末はMassive MIMO(マッシブマイモ)アンテナ技術を採用していますが、8本以上のアンテナを内蔵しなければなりません。またアンテナのすべてに単独のパワーアンプがあるため、エネルギー消費が激しくなるのです。

最新の5Gを駆使して、これまた最新の顔認証システムを稼働させ、ビッグデータを収集し、様々な分析をすれば、当然のことながらかなりの電力が消費されることが予想されます。しかも、中国の省エネ技術は優れている面もありますが、トータル的にはまだ遅れています。

5G、ビッグデータ、AIなどを駆使すれば、当然ながら、かなりの電力を消費することになります。そのことは、中共も知った上で、様々な分析等を行ったのでしょうが、それでも予想をはるかに上回る電力需要が生じたのでしょう。ほんの少しデータのロードを増やしたり、分析項目を増やしたりしても、幾何級数的にエネルギー消費が増えることもあり得ます。

そうして、本来ならここに省エネ技術を組み込んで、電力をあまり消費しないようにすべきだったのでしょうが、中国としては目先で役立つ技術を優先したため、省エネ技術の導入に遅れをとり、電力不足にいたり、それでも分析等を継続するために、一時的に電力の供給を止め、それをデータセンターに供給したのでしょう。

これが、事実だったとして、電力の供給を止めてまで、分析を行うほど重要なものとは何だったのでしょう。余程重要なものでしょう。無論、ウイグル人の顔認証もあるでしょうが、それだけではないと思います。中国は香港や、台湾は無論のこと、米国や日本でも膨大なデータを収集している可能性があります。

中共が5G、AI、間認証システムなどで、最新の省エネ技術を駆使するようになれば、全世界を監視し、中共の価値観に合わない人物を特定し、排除する行動に出るかもしれません。そのようなことにならないように、日本を含め、世界中の先進国が省エネ関連の機微な技術を中国にわたすべきではありません。

渡せば、中国の電力需要の逼迫を是正し、データーセンターの安定稼働に寄与することになり、それは、ウィグル人の弾圧だけではなく、世界中の人々の弾圧や政治介入につながる可能性があります。

習近平がCO2排出量を30年までに05年比65%余り削減すると表明した背景には、各国の省エネ技術を手に入れ、中国のデータセンターを確実に稼働できるようにするという目論見があるからかもしれません。

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2020年12月23日水曜日

軍拡続ける中国への対処に必要な「経済安保」―【私の論評】日本の経済安全保障の国家戦略策定においては、中国と対峙することを明確にせよ(゚д゚)!

軍拡続ける中国への対処に必要な「経済安保」

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、12月3日付け同紙に「中国の軍拡がバイデン政権を試練にさらす(China’s military expansion will test the Biden administration)」と題する論説を書き、中国の軍拡がアジアのパワー・バランスを変え、米国に試練を与えると論じている。ロウギンは、間もなく任期を終え退任する予定のデイヴィッドソン米インド太平洋軍司令官の発言、および、11月末に公表された米中経済・安保見直し委員会の年次報告の指摘を引用して、中国の軍拡について描写している。まず、そのごくあらましを御紹介しておくと、次の通りである。


・中国軍は単にその領土を防衛する戦略を超えて、その海岸から遠い地域で行動し、戦えるようにとの目標をもって近代化している。習近平の下で、中国は先進的武器システム、プラットフォーム、ロケット部隊を建設し、戦略環境を変化させた。中国は、移動中の船舶を弾道ミサイルで攻撃する能力を持つに至った。(デイヴィッドソン)

・中国は今年、通常および核ミサイルの実験を世界の他のすべての国を合わせたよりも数多く実施した。これは戦略環境の変化の規模の大きさを表している。(同上)

・中国のミサイル、ロケット部隊は地域での「大きな非対称性」を代表しており、朝鮮、日本、東南アジア、台湾を結ぶ第1列島戦への脅威である。(同上)

・装備、組織、兵站での最近の進歩は、人民解放軍の戦力投射能力と中国から遠く離れたところに遠征軍を派遣する能力を改善した。軍事戦略上の進歩は、人民解放軍に、世界のどこでも作戦を遂行できる能力、および、命令があれば米軍に対抗できる能力を求めている。(年次報告書)

・人民解放軍の米軍に追いつく戦略は、中国の企業が世界で構築している民間の情報システムを使い、サイバー、宇宙、情報戦争の能力を強化することを含む。北京は、これを「軍民融合」と呼んでいる。(年次報告書)

 ロウギンのこの論説は、時宜を得た良い論説である。中国の軍拡は自分の領土を防衛する戦略を超えてきているとのディヴィトソン提督の指摘はその通りであろう。アジア、さらには世界での覇権を目指しているように思える。強い警戒心をもって中国軍の拡大には対処すべきである。

 中国は軍と民間が統合された形で軍事的優位を狙っている。いわゆる軍民統合であるが、そういう中で、「安全保障は米国、経済は中国重視」という政策は通用しない。また、人民解放軍の大学、研究所などへの進出に注意するとともに、日本に進出している企業についても、米国と情報交換しつつ、人民解放軍との関係を精査すべきであろう。サイバー空間、宇宙、情報における戦いのこともよく考える必要がある。

 経済安全保障の問題は複雑で、新技術の軍事への適用や機密保持など、多くの論点がある。新しい脅威にどう対応するかは大きな問題であり、国家安全保障会議に経済班ができたし、経産省も貿易経済協力局を中心に体制強化が図られている。

 なお、上記ロウギン論説は結論で、「最初の良い動きは、バイデンがこの脅威の性格と緊急性を理解する人を国防長官に指名することである」と述べているが、論説が掲載された後の12月8日、バイデンは、次期国防長官として、元陸軍大将で元米中央軍司令官(中東を管轄)のロイド・オースティンを指名した。いささか疑問が残る。対中強硬派でインド太平洋重視を鮮明にしているミシェル・フロノイ元国防次官が次期国防長官の最有力候補と取り沙汰されていただけに、失望を覚えた安全保障専門家は少なくないと思われる。フロノイを指名していればロウギンの言う通り「最初の良い動き」になったはずである。

【私の論評】日本の経済安全保障の国家戦略策定においては、中国と対峙することを明確にせよ(゚д゚)!

経済安全保障とは何かと問われると、「重要な技術を外国から盗まれないように守る」「安全なサプライチェーン(供給網)を築く」といった政策を思い浮かべる人が多いと思います。こうした政策は経済安保に含まれてはいますが、それだけでは経済安保の全容を正しく捉えているとは言えません。

地球規模の指導力が欠如し、紛争の危険が増す「Gゼロ」の世界が到来することを予言した米政治学者のイアン・ブレマー氏は2020年11月、読売新聞に掲載された小川 聡 (読売新聞東京本社編集局政治部次長)との電話インタビューで、経済安保について以下のように語りました。

イアン・ブレマー氏

「世界では今、Gゼロと、米中がテクノロジーで世界を二分する、私が『T-2』と呼ぶ新たなダイナミクスが共存している。(中略)米政府がもし、『テクノロジー冷戦』の方向に進むのであれば、Gゼロは終わり、世界の新たな無秩序状態が作り出される」

テクノロジーが軍事力など地政学に直結するようになる中、経済安保が、国際情勢を規定する新たな潮流になる可能性を見通しているのです。

経済安保が注目されるようになったのは、中国のおかげです。中国は過去10年以上にわたり、先進民主主義国から先端技術や情報を手段を問わずに入手し、「軍民融合」を図って軍事力強化につなげてきました。象徴的な例が、海外の優秀な研究者らを破格の厚遇で招致し、機微な技術や情報を移転させる「千人計画」です。

中国は、様々な手段で獲得した高度で機微な技術を生かし、戦略的に重要な産業で中国主導のシステムを世界中に広げることも画策しています。

中国の通信機器大手「華為技術」(ファーウェイ)は、日米などの大学に寄付や共同研究を呼びかけ、技術を吸収したうえで、世界各国に高速・大容量の通信規格「5G」のネットワークを安価に提供しています。

12月9日、中国でファーウェイの顔認証システムによって、少数民族のウイグル族を検知し、自動的に警察へ通報する仕組みが用いられていると報道されました。ファーウェイが中国共産党による少数民族弾圧に加担しているとして、それを批判するかたちでサッカー・フランス代表のアントワーヌ・グリーズマン選手がファーウェイとのスポンサー契約打ち切りを発表しました。

それだけでなく、中国アリババグループもウイグル人を識別するクラウドサービスを展開していたことが報道されました。

技術者であれば、これが単なる「ウイグル族に対する差別」にとどまらず、驚異的な事件だとわかります。つまり、中国が「ほぼすべての地球上の人類の種族を、顔認証システムによって分類できる」能力を持ったという意味なのです。これは、中国国内にとどまらず、世界中で顔認証システムにより分類できることを意味します。末恐ろしいです。

問題はこの技術がどこからきたかということです。中国単独ではこれは、開発できません。最終的にはシステム・インテグレーションも必要となるが、それも中国は強くない。高速処理を行うシステムでのトータルソリューションとしてインテグレーションを行うには、米国家安全保障局(NSA)や米中央情報局(CIA)で開発するレベルでのインテグレーターが必要となりますが、それらの技術がどこから来たのかは不明です。

今日の世界は、監視カメラはもとより多くのモノがインターネットとつながっています。その血管とも言える5Gネットワークをコントロールすることで、中国は、情報を抜き取る「バックドア」や、システム自体を停止させる「キルスイッチ」などを自在に発動することができるとされます。中国製の5Gネットワークを受け入れた国は、安全保障上のリスクを抱え込むことになるのです。

米国は18年頃から、中国の取り組みに対抗するため、経済安保の対策を次々と打ち出してきました。外国から25万㌦を超える資金を受け入れた場合の政府への報告義務、エネルギー省などと契約する関係者は外国の人材招致計画への参加禁止、留学生へのビザ発給の厳格化─などの規制を導入しました。司法省は20年1月、中国湖北省の武漢理工大で千人計画に参加していた事実を隠していたハーバード大学の教授を訴追した。

輸出管理改革法を制定し、「バイオテクノロジー」「ロボティクス」「極超音速」など14の新興技術に関する輸出規制も厳格化しようとしています。19年度国防権限法では、ファーウェイや「中興通訊」(ZTE)など中国製品の通信関連製品からの排除も決めました。20年8月には中国IT企業5社の機器やサービスを使う企業と米政府の取引を禁止とする規則も施行しました。

中国の国家情報法が中国企業に捜査や情報収集活動への「支持と協力」を義務づけていることなどから、刑事事件にできるような明確な証拠がなくても安全保障上の懸念としてリスクを除去する「ゼロリスク」の姿勢で対処しています。
米国務省が20年8月、通信網や携帯電話アプリ、クラウドサービス、海底ケーブルなど通信関連の5分野で、中国を排除した「クリーンネットワーク」の構築を各国に呼びかけた際、日本は「特定の国を排除する枠組みには参加できない」として参加を見送っています。

米国の経済安保は、敵と味方を区別し、敵対勢力に機微な技術が流出しないようにすることを前提としているにもかかわらず、日本には、中国を経済安保の対象として名指しする覚悟がないようです。経済安保は個別政策にとどまらず、米中の覇権争いにつながっていくのは明らかであるにもかかわらず、日本の対応は、個別政策の域にとどまっている感が拭えないです。

菅総理(左)と甘利氏(右)

自民党の新国際秩序創造戦略本部の甘利明座長(元経済再生担当相)らは22日、菅義偉首相を官邸に訪ね、経済安全保障の国家戦略策定を求める提言を渡しました。各種施策の法的根拠となる「経済安全保障一括推進法」を令和4年の通常国会で制定することを柱に据えた内容とされています。首相は、米中の対立激化などを念頭に「非常に重要で、時宜にかなった提案だ」と述べました。

提言では、エネルギーや食料、医療といった国民生活や経済活動の維持に必要な分野を「戦略基盤産業」と位置付け、外国への依存低減や代替策の準備を要求しました。

情報保全に関する資格制度の新設や、米英など5カ国による機密情報の共有枠組み「ファイブ・アイズ」への参画も訴えました。

今後、経済安全保障の国家戦略がどのようなものになるのかは、見えませんが、国家戦略をつくろうとしている点では評価できます。

4月に国家安全保障局(NSS)に発足した経済班が経済安保政策の司令塔に

ただし、このブログでも以前から指摘しているように、日本が現在のまま中途半端な姿勢を取り続けた場合、どこかの時点で「日本はどちらの味方なのか」と米国に不信感が広がるりかねません。

日本が米国にとって経済安保の「抜け穴」と見なされれば、日本の企業や大学が機微な技術や情報を扱う研究・開発に参加できなくなり、日本の国益を大きく損なうことになりかねません。そうして、日米同盟の信頼性、そして日米安保の抑止力が弱まることにもなりかねないです。

日本は、経済安保では、中国と対峙することを明確にすべきです。経済安保国家戦略の前に、日本の対中戦略を早急に定めるべきです。

このブログでも以前掲載したように、米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、この1年で歴代最悪を記録しました。

同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本(86%)、スウェーデン(85%)、豪州(81%)、デンマーク・韓国(75%)、英国(74%)、米国・カナダ・オランダ(73%)、ドイツ・ベルギー(71%)、フランス(70%)、スペイン(63%)、イタリア(62%)となっています。また、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、韓国、豪州、カナダの9か国の反中感情は、同機関が調査を始めてからの15年間で、過去最悪となっています。

反中感情の高まりは、米国では顕著となっており、これが米国による対中国経済安全保証の背景ともなっています。

日本の反中感情は86%にも達しているわけですから、経済安保において、中国と対峙することを明確にしなければ、米国からは不信感を抱かれ、多くの国民から反発されかねません。そうなってしまえば、菅政権の求心力は一気に低下することになりかねません。


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