Γ規模は結果オーライだが
10月28日夕刻に閣議決定された総合経済対策は、電気・都市ガス料金の負担軽減など物価高騰への対応が柱で、国費の一般会計歳出が29兆1000億円程度とされる。規模や内容、時期はそれぞれ妥当なものだろうか。
経済対策は規模と内容で評価できるが、まず規模が十分でないと話にならない。というのは、まずGDPギャップを埋めないことには、半年程度経てば失業が発生してしまうからだ。雇用の確保は政府に課せられた最大の責務であり、GDPギャップを無視している一部の識者は、マクロ経済政策を語る資格がない。
経済対策は規模と内容で評価できるが、まず規模が十分でないと話にならない。というのは、まずGDPギャップを埋めないことには、半年程度経てば失業が発生してしまうからだ。雇用の確保は政府に課せられた最大の責務であり、GDPギャップを無視している一部の識者は、マクロ経済政策を語る資格がない。
筆者もよく持ち出すGDPギャップについて、岸田総理が会見で言及していたのはまともだった。GDPギャップは、失業率を最低水準と思われる2%台半ば(いわゆるNAIRU:インフレを加速しない失業率)とするような有効需要で算出したものだ。
筆者は真のGDPギャップは30兆円程度としている。ところが岸田首相は、内閣府の15兆円程度という数字を援用しており、下振れしてGDPギャップが拡大するおそれを考慮したと発言していた。その意味で筆者とはGDPギャップの見方が厳密には異なり、完全に同じ意見ではないが、30兆円程度の経済対策なので結果オーライだ。
実際に経済生産を押し上げる効果のある「真水」はどの程度か。詳しくは補正予算書をみないとわからないが、内閣府の経済効果試算でGDPを4.6%押し上げるというのであれば、真水は25兆円程度以上になる。
報道によれば、当初の財務省案はもっと少なかったが、自民党内の安倍派勢力(萩生田政調会長、世耕弘成参議院幹事長ら)が岸田首相にプレッシャーをかけて規模拡大に貢献したという。それが事実であれば「良い政治主導」だったといえる。
野党の案は、規模において政府案より少ないもので、情けない。もう少しマクロ経済を勉強してもらいたい。このままでは、財務省の応援団になってしまい、失業を容認するなど国民生活に害悪の存在になってしまう。
マスコミは、財務省からのレク通りに中身が重要だといい、その中身の積み上げの結果、この規模になったという記事を書いている。
Γ補助金系ばかりなのはどうなのか
一部にはGDPギャップを超えた規模を求める意見もある。しかし有効需要が総供給を超えると、雇用の確保はできるが、超過需要はインフレ率を必要以上に高くするという弊害が出る。筆者は、失業率をNAIRUに設定してGDPギャップを算出しているが、それを埋める以上の規模の経済対策は、インフレを加速するだけで無意味になる。
筆者は「埋蔵金」について50兆円程度と発言してきた。外為特会(外国為替資金特別会計)で30兆円、国債整理基金(債務償還費)などで20兆円がその内訳だ。しかし、GDPギャップを意識しているので、それをすべて経済対策に充てろとはいわない。
経済対策は30兆円で、残り20兆円は防衛基金にして後年度の財政支出とするなど、注意して発言している。財務省は筆者の発言で不適切な点があると、すぐに反応し誹謗中傷を裏で行うからだ。
財務省の増税路線を抑えられるのは、政治である。政府は財務省に牛耳られるので、自民党や野党の役割が大きい。ところが、現在は自民党内とりわけ安倍氏を失った清和会は政調会長などキーパーソンを出しているものの、政策論争をしている余裕がないほどガタガタである。さらに、野党からもまともな意見があまり出ていない。財務省もそうした政治情勢を見切って、政府税調を使って増税をぶつけてきているのだ。
埋蔵金は、本コラムなど書いたように、外為特会などで50兆円ほど発掘可能だし、円安による成長で「増収」もある。
さらに、「増収」では、インボイス導入という手もある。インボイス導入については、市民グループや左派政党の反対があるが、消費税導入されている国ではどこでも導入されている普遍的な制度だ。
これまで日本ではインボイス制度がなかったため、消費勢非課税業者が消費税をとりつつ、それを納税しないで自分の利益としてきた。いわゆる「益税」問題だ。インボイスは各取引で消費税を明記するもので、「益税」をなくし税のゴマカシを防ぐものだ。
筆者は、消費税率の引き上げ(増税)は賛同しかねるが、消費税を公平に取ることで、「増収」になるのはいいと思う。インボイスにより、税の公平性が確保され、結果として増収になればなおいい。
政府税調は、財政の包括的分析を行い、その上で増税の前に(1)無駄カット、(2)埋蔵金、(3)増収を議論すべきではないか。より説得的に財政議論ができるはずだ。
執行率の差は、「補助金系」と「減税系」を比較すると、後者のほうがはるかにいい。その観点から見ると、減税系がほとんどないのは懸念材料だ。しかも、補助金系の小玉(小さな予算)ばかりで、減税系の大玉(大きな予算)がないので、執行残が予想され、結果としてGDPアップ効果がなくなるのではないか。予備費4.7兆円を設けること自体は悪くないが、執行残になるとGDP押し上げにならない点は指摘しておきたい。
なお、財源も不透明だ。つなぎ国債で増税となるとまずい。ここは埋蔵金の活用の出番であり、増税の出番はない。
安倍元総理は次のようなことを話していました。
社会保障費の5,000億以外について議論した記憶が全然ない。もちろん、私は当時、総理大臣であった私の責任ではある。だか全く気付かなかった。当時の官邸官僚や、いろんな人に聞いているんですが、「そんなこと議論していないよね」ということでした。脚注に書いてあることを盾にとって、あまりにも不誠実ではないか。
おそらく、文書とりまとの職員が、財務省から要求されて文章を入れたのでしょう。
財務省は脚注のところの説明をしませんでしたし、審議する人たちも脚注でから重要でないと判断し読まなかったのでしょう。
当時の安倍総理がが知らなかったというより、おそらくは財務省が総理に知られないようにこっそりと注釈で盛り込んだ、と言ったほうが正確だと考えられます。
総理を辞任された後にこのことを知った安倍氏は、我が国の財政運営を積極財政に転じさせるために財務省と闘っていく決意を顕にしていたそうです。
ところが、その矢先に凶弾に倒れてしまいました。
収支均衡至上主義の財務省と真正面から闘うことのできる有力な政治家を、私たちは失ってしまったのです。
国民から見放され、財務真理教団にはカモにされる。岸田総理とて、そんなふうになるために総裁選に出たのではないでしょう。
一部にはGDPギャップを超えた規模を求める意見もある。しかし有効需要が総供給を超えると、雇用の確保はできるが、超過需要はインフレ率を必要以上に高くするという弊害が出る。筆者は、失業率をNAIRUに設定してGDPギャップを算出しているが、それを埋める以上の規模の経済対策は、インフレを加速するだけで無意味になる。
筆者は「埋蔵金」について50兆円程度と発言してきた。外為特会(外国為替資金特別会計)で30兆円、国債整理基金(債務償還費)などで20兆円がその内訳だ。しかし、GDPギャップを意識しているので、それをすべて経済対策に充てろとはいわない。
経済対策は30兆円で、残り20兆円は防衛基金にして後年度の財政支出とするなど、注意して発言している。財務省は筆者の発言で不適切な点があると、すぐに反応し誹謗中傷を裏で行うからだ。
いずれにしても、規模はまずまずだが、中身はどうか。有効需要の原理から言えば、中身は何であっても効果にそれほどの差があるわけでない。ならば何でも良いかと言えばそうでもない。中身の違いによって、執行率に差がでるかだ。当然のことながら、執行率が悪いと、補正予算を組んでも有効需要が高まらず、GDPギャップが残ったままになってしまう。
経済対策の中身は、物価対策12.2兆円、円安活用4.8兆円、新しい資本主義6.7兆円、安心・安全10.6兆円、予備費4.7兆円などだ。
Γ埋蔵金と「増収」という手がある
時期についていえば、本来であれば参院選前に打ち出しておくべきだった。折り悪く、政府税調で、「未来永劫10%では日本の財政もたない」などの声が委員から出たと報じられている。消費増税の議論をこの時期にすることは妥当なのか。
まず財政危機でもたないというのなら、そのデータを示すべきだ。かつて財務事務次官が「ワニの口」で財政危機を煽ったが、故安倍元総理は「財政の一部しか見ていないお粗末なもの」と喝破した。財務事務次官たる者が会計無知を曝け出したお笑いだった。
故安倍元総理は、民主党政権の「負の遺産」である二度の消費増税をやらざるを得なかった。不本意ながらそれをやった後、「後10年は増税不要」といったが、いなくなってからすぐに増税を言い出す輩は、増税に取り憑かれているのだろう。
小泉政権時も、やはり財務省は消費増税をやりたがった。しかし当時の中川秀直政調会長は、増税の前にやることがあるといった。(1)天下りに伴う行政の無駄カット、(2)埋蔵金の発掘、(3)成長などによる「増収」が、増税より先というわけだ。当時の小泉総理もその順番だと同調した。野党も、野田佳彦氏は(1)を「白アリ退治」と称し、増税前にやることがあると言っていた。
そこで、筆者らは、埋蔵金発掘などを行った。結果として60兆円ほどの財源を捻出できたので、結果として小泉政権では増税をほとんど行う必要がなくなった。
時期についていえば、本来であれば参院選前に打ち出しておくべきだった。折り悪く、政府税調で、「未来永劫10%では日本の財政もたない」などの声が委員から出たと報じられている。消費増税の議論をこの時期にすることは妥当なのか。
まず財政危機でもたないというのなら、そのデータを示すべきだ。かつて財務事務次官が「ワニの口」で財政危機を煽ったが、故安倍元総理は「財政の一部しか見ていないお粗末なもの」と喝破した。財務事務次官たる者が会計無知を曝け出したお笑いだった。
故安倍元総理は、民主党政権の「負の遺産」である二度の消費増税をやらざるを得なかった。不本意ながらそれをやった後、「後10年は増税不要」といったが、いなくなってからすぐに増税を言い出す輩は、増税に取り憑かれているのだろう。
小泉政権時も、やはり財務省は消費増税をやりたがった。しかし当時の中川秀直政調会長は、増税の前にやることがあるといった。(1)天下りに伴う行政の無駄カット、(2)埋蔵金の発掘、(3)成長などによる「増収」が、増税より先というわけだ。当時の小泉総理もその順番だと同調した。野党も、野田佳彦氏は(1)を「白アリ退治」と称し、増税前にやることがあると言っていた。
そこで、筆者らは、埋蔵金発掘などを行った。結果として60兆円ほどの財源を捻出できたので、結果として小泉政権では増税をほとんど行う必要がなくなった。
財務省の増税路線を抑えられるのは、政治である。政府は財務省に牛耳られるので、自民党や野党の役割が大きい。ところが、現在は自民党内とりわけ安倍氏を失った清和会は政調会長などキーパーソンを出しているものの、政策論争をしている余裕がないほどガタガタである。さらに、野党からもまともな意見があまり出ていない。財務省もそうした政治情勢を見切って、政府税調を使って増税をぶつけてきているのだ。
埋蔵金は、本コラムなど書いたように、外為特会などで50兆円ほど発掘可能だし、円安による成長で「増収」もある。
さらに、「増収」では、インボイス導入という手もある。インボイス導入については、市民グループや左派政党の反対があるが、消費税導入されている国ではどこでも導入されている普遍的な制度だ。
これまで日本ではインボイス制度がなかったため、消費勢非課税業者が消費税をとりつつ、それを納税しないで自分の利益としてきた。いわゆる「益税」問題だ。インボイスは各取引で消費税を明記するもので、「益税」をなくし税のゴマカシを防ぐものだ。
筆者は、消費税率の引き上げ(増税)は賛同しかねるが、消費税を公平に取ることで、「増収」になるのはいいと思う。インボイスにより、税の公平性が確保され、結果として増収になればなおいい。
政府税調は、財政の包括的分析を行い、その上で増税の前に(1)無駄カット、(2)埋蔵金、(3)増収を議論すべきではないか。より説得的に財政議論ができるはずだ。
執行率の差は、「補助金系」と「減税系」を比較すると、後者のほうがはるかにいい。その観点から見ると、減税系がほとんどないのは懸念材料だ。しかも、補助金系の小玉(小さな予算)ばかりで、減税系の大玉(大きな予算)がないので、執行残が予想され、結果としてGDPアップ効果がなくなるのではないか。予備費4.7兆円を設けること自体は悪くないが、執行残になるとGDP押し上げにならない点は指摘しておきたい。
なお、財源も不透明だ。つなぎ国債で増税となるとまずい。ここは埋蔵金の活用の出番であり、増税の出番はない。
【私の論評】『骨太の方針』に見る、財務真理教団騙しの手口(゚д゚)!
10月28日夕刻に閣議決定された総合経済対策ですが、来年1月に招集される通常国会に提出され、衆参両院(予算委員会・本会議)での審議を経て3月末までに議決されることになります。
10月28日夕刻に閣議決定された総合経済対策ですが、来年1月に招集される通常国会に提出され、衆参両院(予算委員会・本会議)での審議を経て3月末までに議決されることになります。
因みに、予算案を可決しただけでは予算を執行することはできません。
予算案の議決は金額を決めただけの話で、可決された予算を政府が執行するためには、およそ200件ちかい関連法案も同時に審議のうえ議決されなければなりません。
当たり前ですが、政府は法律に基づいて予算を執行します。
私たち日本国民の国家予算は、毎年このような過程を経て成立しています。
さて、概算要求基準は各府省庁が翌年度の予算要求を財務省に出す際の「上限ルール」ですが、実は2014年以降は歳出全体の上限は設定されていません。
そのかわり、2015年に閣議決定された『骨太の方針』によって「社会保障関係費以外の歳出の増加は3年間で1000億円以内にする」ことが明記されており、その後、毎年の『骨太の方針』でこれが継続的に踏襲されています。
即ち、3年間で1000億円ということは、社会保障費以外の歳出、例えば防衛費や教育費は年間333億円までしか増額できないという枠が嵌められているわけです。
実は財務省が緊縮財政を正当化する法的根拠はここ(骨太の方針2015)にあったのです。
しかも驚いたことに、『骨太の方針2015』の本文中にはこの記述はありません。
注釈として「安倍政権のこれまでの3年間の取り組みでは一般会計の総額の実質的な増加が1.6兆円程度となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続させていくこととする」の一言を添え、本文中に「社会保障関係費の増額を3年間で1.5兆円までに抑える」と記載されていることから、差し引きして「社会保障費以外の歳出の増額は3年間で0.1兆円(1000億円)とする」ことが盛り込まれているのです。
仄聞するところによると、当時の安倍総理でさえ、この注釈のことを知らなかったとされています。
予算案の議決は金額を決めただけの話で、可決された予算を政府が執行するためには、およそ200件ちかい関連法案も同時に審議のうえ議決されなければなりません。
当たり前ですが、政府は法律に基づいて予算を執行します。
私たち日本国民の国家予算は、毎年このような過程を経て成立しています。
さて、概算要求基準は各府省庁が翌年度の予算要求を財務省に出す際の「上限ルール」ですが、実は2014年以降は歳出全体の上限は設定されていません。
そのかわり、2015年に閣議決定された『骨太の方針』によって「社会保障関係費以外の歳出の増加は3年間で1000億円以内にする」ことが明記されており、その後、毎年の『骨太の方針』でこれが継続的に踏襲されています。
即ち、3年間で1000億円ということは、社会保障費以外の歳出、例えば防衛費や教育費は年間333億円までしか増額できないという枠が嵌められているわけです。
実は財務省が緊縮財政を正当化する法的根拠はここ(骨太の方針2015)にあったのです。
しかも驚いたことに、『骨太の方針2015』の本文中にはこの記述はありません。
注釈として「安倍政権のこれまでの3年間の取り組みでは一般会計の総額の実質的な増加が1.6兆円程度となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続させていくこととする」の一言を添え、本文中に「社会保障関係費の増額を3年間で1.5兆円までに抑える」と記載されていることから、差し引きして「社会保障費以外の歳出の増額は3年間で0.1兆円(1000億円)とする」ことが盛り込まれているのです。
仄聞するところによると、当時の安倍総理でさえ、この注釈のことを知らなかったとされています。
2022年「骨太の方針」を巡る財政政策検討本部の議論で、このキャップのことが分かりました。
2022年「骨太の方針」概要 クリックすると拡大します |
安倍元総理は次のようなことを話していました。
社会保障費の5,000億以外について議論した記憶が全然ない。もちろん、私は当時、総理大臣であった私の責任ではある。だか全く気付かなかった。当時の官邸官僚や、いろんな人に聞いているんですが、「そんなこと議論していないよね」ということでした。脚注に書いてあることを盾にとって、あまりにも不誠実ではないか。
おそらく、文書とりまとの職員が、財務省から要求されて文章を入れたのでしょう。
財務省は脚注のところの説明をしませんでしたし、審議する人たちも脚注でから重要でないと判断し読まなかったのでしょう。
当時の安倍総理がが知らなかったというより、おそらくは財務省が総理に知られないようにこっそりと注釈で盛り込んだ、と言ったほうが正確だと考えられます。
総理を辞任された後にこのことを知った安倍氏は、我が国の財政運営を積極財政に転じさせるために財務省と闘っていく決意を顕にしていたそうです。
ところが、その矢先に凶弾に倒れてしまいました。
収支均衡至上主義の財務省と真正面から闘うことのできる有力な政治家を、私たちは失ってしまったのです。
確かに、積極財政派にとっては、大きな戦力を失ってしまいましたが、少しでも多くの政治家が、昨日もこのブロクで述べたように萩生田光一政調会長のように財務省と闘う政治家になっていただきたいものです。
ここが勝負の時です。未来永劫「財務省の操り人形」と言われて石を投げられるか、それとも、国難に際して「大型補正予算」で民を救った大宰相となるか。今、岸田総理はその瀬戸際に立たされています。
ただ、最も実施しやすいはずの「減税」は実施しないことで、閣議決定してしまいました。それでも、今後財源などを巡って攻防があるはずです。これに対して、財務省に押しまくられ、木偶の坊のようになり、増税ラッシュなどで国民をいたぶるような真似だけはやめていただきたいものです。