2025年2月1日土曜日

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論 トランプ米政権が関心―【私の論評】日本とアラスカのLNGプロジェクトでエネルギー安保の新時代を切り拓け

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論 トランプ米政権が関心

まとめ
  • トランプ米大統領のアラスカ州の440億ドル規模のガス開発計画に対し、日本政府が支援を検討しており、貿易赤字削減を狙っている。
  • 石破茂首相はトランプ氏との会談でこの計画を議題にする可能性があり、日本側には懐疑的な意見もあるが検討する意向がある。
  • 日本はLNGの供給源を多様化を従来からすすめており、アラスカ計画の実現がその一助となる可能性がある。
米アラスカ州ケナイ湖

トランプ米大統領が提唱するアラスカ州の440億ドル規模のガス開発計画について、日本政府が支援を検討していることが明らかになった。これは米国の貿易赤字を削減し、関税リスクを回避するための方策とされている。石破茂首相はトランプ大統領との初会談でこの計画を議題にする可能性がある。

この計画はアラスカのガス田と港を結ぶパイプラインを通じて、液化天然ガス(LNG)をアジアに輸出するもので、日本側には懐疑的な声もあるが、米国からの提案があれば検討する意向がある。日本はすでに十分なLNGを確保しているが、アラスカの計画が実現すればエネルギー供給の多様化につながるかもしれない。

政府関係者は、石破首相がトランプ氏との会談で具体的なLNGへの投資を約束することは難しいと強調し、価格の妥当性や転売の柔軟性が必要であると述べた。また、トランプ氏は日本との経済的関係にはあまり言及していないが、関税問題は日本にとって重要な課題である。

アラスカの計画に関しては米国の議員や専門家からの助言も受けており、日本がLNG購入を増やし、投資を申し出ることがトランプ氏の支持を得る手段になる可能性があると指摘されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本とアラスカのLNGプロジェクトでエネルギー安保の新時代を切り拓け

まとめ
  • トランプ米大統領のアラスカガスライン開発プロジェクト(AGDC)は、アラスカ北部のガス田から南部のプリンスウィリアム湾へパイプラインを敷設し、液化天然ガス(LNG)をアジア市場に輸出する計画である。
  • プロジェクトは、米国のエネルギー自給率を向上させ、対外的なエネルギー依存を減少させる施策の一環として位置づけられている。
  • 日本がこのプロジェクトを支援することで、エネルギー供給の多様化が進み、日本のエネルギー安全保障が強化される可能性がある。
  • 日本はエネルギー供給源の多様化を図ることで国際的な影響力を高めることが期待されている。
  • アラスカからのLNG輸出は、アジア全体のエネルギー安全保障を向上させ、地政学的な緊張の緩和にも寄与する。

トランプ米大統領のアラスカ州の440億ドル規模のガス開発計画は「アラスカガスライン開発プロジェクト(AGDC)」と呼ばれる。この計画は、アラスカ北部のガス田から南部の港へパイプラインを敷設し、液化天然ガス(LNG)をアジア市場に輸出することを目指している。パイプラインの長さは約800マイル(約1300キロ)に及び、具体的にはプリンスウィリアム湾に接続される。

プリンスウィリアム湾からは、液化ガスを船でアジア市場に輸送する計画だ。これにより、米国のLNGがアジアのエネルギー需要に応えることを狙っている。このプロジェクトは、トランプ政権がエネルギー自給率を向上させ、対外的なエネルギー依存を減少させるための重要な施策の一環である。

特にアジア市場はエネルギー需要が高く、LNGの輸出先として非常に魅力的であるため、米国の戦略的利益にも合致している。アラスカ州内からのLNG輸出は、アメリカ湾(旧メキシコ湾)経由での輸出よりもアジアに近く、輸送コストや時間の面で有利だ。実際、アラスカからアジアへの輸送は約8,000キロメートルと比較的短距離であり、一方、アメリカ湾からアジアへの輸送は約14,000キロメートルに達する。この距離の差は、輸送時間の短縮とコストの削減につながり、競争力を高める要因となる。

ただし、アラスカのパイプライン経路については基本的な計画があるが、具体的な詳細や最終的な経路は未確定である。北部のガス田から南部のプリンスウィリアム湾に向けて敷設する計画で、途中で重要な地点を通過する予定だ。しかし、環境影響評価や土地利用の問題などが影響し、経路の最終決定には時間がかかる可能性がある。また、地域住民や環境団体の意見も考慮されるため、調整や検討が必要である。

2019年アラスカ州アンカレジのエルメンドルフ・リチャードソン統合基地を訪問したトランプ大統領

この計画に日本の支援が決定された場合、いくつかのメリットが考えられる。第一に、エネルギー供給の多様化が進むことで、日本のエネルギー安全保障が強化される。日本は現在、LNGの多くをロシアや中東からも輸入しており、特定の国に依存するリスクがあるが、アラスカからの供給源を確保することでその依存度を低下させることができる。これにより、地政学的なリスクを分散できる。

第二に、アラスカのLNG購入によって、米国との経済関係が強化され、貿易赤字の削減や関税リスクの回避につながる可能性がある。特にトランプ政権の貿易政策において、日本がエネルギー分野での協力を示すことで、経済的な要求への対処が容易になると期待される。

日本のLNGによるエネルギー戦略は、主に2012年以降の安倍晋三政権の下で強化された。福島第一原発事故を受けて、エネルギー供給の安定性を確保するために、再生可能エネルギーの導入と共にLNGの利用を推進する政策が採られた。また、国際的なエネルギー市場への参入やLNG供給源の多様化を図るための取り組みも行われた。

その後も、菅義偉政権や岸田文雄政権、現政権においても、エネルギー安全保障の観点からLNG戦略は引き続き重要な政策課題とされている。特に地政学的リスクや環境問題に対処するため、LNGの役割が再評価されている。


日本は過去に実質的なエコノミック・ステートクラフト(後述)を実施しており、例えば2019年の初めからロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減し、液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少させた。一方で、米国の炭化水素の輸入は急増し、石油は328%、LNGは36.1%増加している。このような背景から、アラスカプロジェクトを支援することで、日本のエネルギー供給の手段がさらに多様化することが期待される。エコノミック・ステートクラフトを通じて、国際的なエネルギー市場における地位を向上させることができる。

エコノミック・ステートクラフトとは、国家が経済的手段を用いて自国の政策目標を達成する戦略を指す。これには貿易、投資、制裁、エネルギー供給の管理などが含まれ、特にエネルギー政策においては、他国との関係を調整しながら安定したエネルギー供給を確保するための重要なツールとなる。日本は、エネルギー供給源を多様化することで、エコノミック・ステートクラフトの手段を増やすことができ、国際的な影響力を高め、地政学的リスクを軽減できるようになるだろう。

アラスカのプロジェクトへの投資は、日本企業にとって新たなビジネスチャンスを提供する可能性がある。過去には、日本企業がアラスカのエネルギー開発に関与し、成功を収めた例も多く、将来的な投資や技術提供を通じて日本のエネルギー産業の競争力を高めることができる。

最後に、アラスカからのLNG輸出は、日本だけではなくアジア全体のエネルギー安全保障の観点でも重要な要素となる。依存度を減らすことで、特定の国に対するエネルギー依存を緩和し、戦略的な選択肢を広げることができる。これにより、アジア地域全体のエネルギー供給の安定性が向上し、地政学的な緊張の緩和にも寄与することになるだろう。 このプロジェクトに日本は参加するべきである。

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