検索キーワード「北朝鮮」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示
検索キーワード「北朝鮮」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示

2025年10月30日木曜日

ロシアの“限界宣言”――ドミトリエフ特使「1年以内に和平」発言の真意を読む


まとめ
  • 2025年10月29日、サウジ・リヤドの投資会議でキリル・ドミトリエフ特使が「1年以内に和平」と発言。投資家とアメリカに向けた安心と交渉のシグナルであり、ロシアを和平主導国として見せる戦略的演出だった。
  • ドミトリエフはスタンフォード大学出身の投資家で、ロシア直接投資基金(RDIF)トップ。プーチン政権の経済・外交をつなぐ“財政戦略家”として、経済カードを用いた停戦ムード作りを担っている。
  • ロシアは人的損耗、装備喪失、財政赤字、産業疲弊に苦しみ、長期戦を維持できる体力を失いつつある。「1年以内に和平」という発言は、裏を返せば“あと1年が限界”という現実認識を反映している。
  • 戦車3,000両超、死傷者100万人規模、北朝鮮製弾薬への依存など、ロシアの継戦能力は急速に低下。国防費はGDP比6%を超え、国家福祉基金の取り崩しで軍費を賄うなど、経済基盤は脆弱化している。
  • 日本は感情論ではなく現実主義で対応し、エネルギー調達の多元化、制裁の実効性確保、地政学リスクへの備え、ウクライナ復興への経済参加を通じて、停戦後の国益確保を図るべきである。

1️⃣「1年以内に和平」の真意――市場とワシントンへの同時メッセージである

サウジアラビア・リャド投資会議

ロシアのキリル・ドミトリエフ特使(ロシア直接投資基金〈RDIF〉トップ、国際経済・投資協力担当)は、サウジアラビア・リヤドの投資会議で「ウクライナ戦争は1年以内に終わる」と述べた。

発言の場は公開の投資フォーラムであり、言葉の矛先は二つある。第一に、原油・ガス・資金の循環をにらむ市場関係者への安堵シグナル。第二に、米政権中枢――直近で会合したトランプ政権側関係者――への“交渉は前に進む”という政治的合図である。

ロシア側は「米・サウジ・ロシアという資源大国の協調」を強調し、地政学リスクの沈静化と投資正常化を同時に演出した。リヤドという舞台設定そのものが、資源と投資の回路を意識した戦略だった。

発言は2025年10月29日、リヤドの投資会議でのもの。直前週には、同氏の訪米と米側要人との接触が報じられている。

この男――キリル・ドミトリエフとは何者か。スタンフォード大学出身の投資家で、ゴールドマン・サックスを経てロシア直接投資基金の初代CEOに就いた。プーチン政権の経済戦略を支える“財政と外交の中継点”であり、海外資本との交渉を担うエリート官僚だ。

つまり彼は、単なる経済人ではなく「投資と政治を同時に動かす仕掛け人」である。今回の発言も、市場の不安を抑えながら、米国に対して「ロシアは和平を主導する立場にある」と印象づける狙いが透けて見える。彼は経済カードを駆使して停戦ムードを演出する役割を果たしているのだ。
 
2️⃣裏返しの意味――ロシアの継戦体力は“壁”に近づいている


「1年以内に和平」という言い回しは、ロシアが無期限の持久戦を選べない現実をにおわせる。人的損耗、装備の枯渇、弾薬・機器のサプライ制約、財政・マクロの歪み――どれも“少しずつ効く”が、積み上がると止血が要る。ロシア国内でのガソリン価格急騰・供給問題は、まさに「戦争・経済・国家体制の三重圧力」の中で、ロシアの継戦・持久能力が限界に近づきつつあることを示す シグナルとみることができる。

ロシアは予備装備の引っ張り出しと改修で弾力を見せてきたが、前線の消耗ペースと背後の補充ペースの差は埋まり切らない。ドローンと長射程で後方を叩かれる構図は定着し、国内インフラ・精製所・輸送の復旧コストが財政をじわじわ圧迫している。

人員面では、追加動員の政治コストが上がり、刑務所・周縁地域からの動員に頼るほど、部隊の質・統制・士気のばらつきが増す。経済は軍需で見かけの成長を演出できても、実生活のインフレと金利で“疲れ”がたまっている。

だからこそ「1年」という期限付きの“楽観”を、投資家とワシントンに投げてきたのである。発言の最後に「我々はピースメーカーだ」と重ねたのも、停戦の主導権を自分たちに引き寄せたいからだ。
 
3️⃣日本の選択――資源・制裁・安全保障を一本の線で貫け


日本は、資源市場と金融の安定を最優先しつつ、対露制裁の実効性と国益の均衡を取らねばならない。

第一に、LNG・原油の多元調達と長期契約をてこに、価格変動と供給途絶への耐性をさらに厚くすること。

第二に、対露テクノロジー流出と資本還流の“抜け穴”を塞ぐ国内執行を強化し、同盟・有志国の輸出管理と足並みを揃えること。

第三に、黒海・バルト・北極圏で進む新しい回廊の地政学に目を配り、インド太平洋側の抑止と経済安全保障を噛み合わせること。そして最後に、ウクライナ支援の継続と復興局面の経済参加――エネルギー、交通、デジタル――を、官民で“事業化”しておくべきだ。

日本の強みは、感情で揺れない現実主義と資金・技術・調達の組み合わせにある。ここを磨けば、停戦の“翌日”に国益を取りこぼさない。岸田、石破両政権には国益毀損の危機が常につきまっとていたように見えたが、高市政権ではそのようなことはないだろう。
 
【関連記事】

ロシア・ウクライナ戦争の泥沼:経済崩壊と戦場限界で停戦はいつ? 2025年6月28日
ロシアの戦場消耗と経済の歪みが重なり、停戦“検討ライン”の現実味を数字で描いた回。ドローン戦と後方打撃の定着が補給・財政に与える影響を読み解く。

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と経済・軍事への衝撃 2025年6月2日
後方航空基地への複合打撃が、ロシアの抑止・攻撃能力と財政コストにもたらす衝撃を検証。持久戦の前提がどこで崩れるかを示す。

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使—【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ 2025年4月2日
ドミトリエフの経歴と“経済カード”の使い方を整理。資源・投資を梃にした停戦演出の文脈がわかる。

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論—【私の論評】日本とアラスカのLNGで安保の新時代を 2025年2月1日
資源調達の多元化は最強の保険である。停戦の翌日から効く“現実の安全保障”としてのLNG戦略を具体化。

ロシア制裁で起こる“もう一つの戦争”—【私の論評】バルト・北極圏の地政学が日本に与える影響 2025年1月14日
北極・バルトの回廊とサプライ・シーレーンを重ね、エネルギー・海運・安全保障を一本の戦略に束ねる必要を説く。

2025年10月23日木曜日

トランプ来日──高市政権、インド太平洋の秩序を日米で取り戻す戦いが始まった



 まとめ
  • 高市・トランプ同盟は、中露北にとって最大の脅威となっており、日本が軍事・経済・技術の三領域で主導的立場を強化するのは確実だ。
  • 今年5月14日のFOIP戦略本部の再始動は、高市政権誕生を見据えた布石であり、日米豪印連携と経済安保、台湾安定化が主要議題だった。
  • 高市政権では政治の安定と財政制約の解除が進み、防衛・技術・インフラ投資が再び動き出し、国家戦略の推進力が回復するだろう。
  • 今回の日米首脳会談の中心は「インド太平洋戦略の再定義」であり、貿易、防衛、テクノロジーの三本柱で新たな同盟体制を築こうとしている。
  • 日本は「同盟の受け手」から「秩序の設計者」へと再転換し、自由主義陣営の戦略地図を高市・トランプ両首脳が描き直そうとしている。

1️⃣中露北が最も恐れる「高市・トランプ同盟」の再始動

2025年10月、高市早苗が首相に就任し、ほどなくドナルド・トランプ米大統領の訪日が発表された。この二つの出来事は、東アジアの戦略秩序を根底から揺さぶるものであり、中国・ロシア・北朝鮮の三国は露骨な警戒感を示している。彼らが最も恐れているのは、日本が米国と再び完全に歩調を合わせ、軍事・経済・技術の三つの領域で主導権を握ることだ。日本が単なる“同盟の一員”ではなく、アジアの抑止軸として立ち上がる──その兆しが現実味を帯びてきたのである。


高市首相は、戦後日本の政治家の中でも際立った安全保障観を持つ。中国を戦略的脅威と明言し、台湾問題では一歩も退かない。北朝鮮に対しては拉致・核・ミサイル問題で妥協を許さず、ロシアにも安易な融和を拒む。彼女が掲げるのは「抑止力を前提とした平和主義」である。安倍晋三が唱えた積極的平和主義を、さらに現実の政策に引き上げた形だ。中露北にとって、それは日本がアメリカの最前線に立つという構図の定着を意味し、我が国の政治がようやく「防衛のための自立」という現実路線に舵を切ったことを示している。

2️⃣高市政権の設計図──「FOIP戦略本部」再始動の真意

自民党「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合であいさつする麻生最高顧問(党本部5月14日)

この戦略的構想は、首相就任以前からすでに動き出していた。高市早苗氏が政調会長時代に立ち上げた「自由で開かれたインド太平洋戦略本部(FOIP)」は、彼女の外交構想の中核を担う組織である。

2025年5月14日には、麻生太郎氏や秋葉剛男氏らを迎えて本部が再始動し、日本が複雑化する国際環境の中でいかに外交を主導すべきかを議論した。

会合では、日本が世界の架け橋となり、FOIP構想を再び軸に据えて国際社会をリードする方針が確認された。

この動きは、結果的に高市政権の外交路線の原型となり、同年秋の総裁選での勝利、そして第102代内閣の発足へとつながる流れを形づくった。
 
3️⃣秩序を描き直す日米首脳会談──理念から実行へ

10月27日から29日まで行われる日米首脳会談では、防衛・経済・テクノロジーの三分野で包括的な協議が予定されている。アメリカ側の狙いは「インド太平洋戦略の再定義」、日本側の目的は「日米同盟の再構築」だ。形式的な儀礼外交ではなく、失速したFOIPを再点火させる戦略会談である。

岸田・石破政権期には、FOIPは理念倒れに終わった。政治の不安定、財政制約、実行力の欠如。防衛費の増額も人員不足に阻まれ、国家戦略は推進力を失った。しかし高市政権では、こうした足かせが一掃される。議会運営は安定し、長期政権を見据えた政治基盤が整い、財政面でも「緊縮」の呪縛が解かれる。防衛・技術・インフラへの国家投資が再び動き出し、政策実行の自由度が広がる。政治の安定と財政の解放という二つの条件が揃い、秩序設計に必要な地盤が再び固まるのである。


今回の首脳会談では、三本の柱が据えられる。第一に貿易。LNG供給と農産物輸入の相互拡大により、インド太平洋のエネルギー供給網を安定化させる。第二に防衛。台湾有事や南西諸島防衛を視野に、日米共同司令体制と長射程兵器の共同運用を協議する。第三にテクノロジー。AI・量子・サイバーの三領域を「経済安保の中核」として統合し、両国が技術同盟を築く構想である。

これらは単なる政策項目ではない。すべてが「インド太平洋全体の戦略設計を描き直す」という一点に収束している。高市政権にとって、それは日本を“従属する側”から“設計する側”へと転じさせる第一歩であり、トランプ政権にとってはアジアの主導権を再び握り返す機会である。両者の利害は完全に一致している。だからこそ、今回の会談は“アジア秩序の再設計会議”と呼ぶにふさわしい。

日本は今、同盟の確認ではなく、秩序の設計に踏み出している。FOIP戦略本部の再始動から、わずか半年。あの時描かれた青写真は、現実の政治の場で動き始めた。高市早苗とドナルド・トランプ──この二人が描こうとしているのは、失速したインド太平洋戦略を再び燃え上がらせ、自由主義陣営の地図を新しい線で描き直すことだ。国内は安定し、財政の縛りも解かれる。準備はすでに整った。日本は今、再び秩序の設計者として歴史の前面に立とうとしている。

【関連記事】

トランプ訪日──「高市外交」に試練どころか追い風 2025年10月12日
トランプ来日が高市外交に与える実利的効果を分析。日米同盟の再加速を論じる。 

日本はもう迷わない──高市政権とトランプが開く“再生の扉” 2025年10月8日
日米の再結束を軸に、日本の戦略転換を提示。国内外の論点を一気通貫で整理。

世界標準で挑む円安と物価の舵取り――高市×本田が選ぶ現実的な道 2025年10月10日
利上げ先行ではなく成長と賃上げを優先する「世界標準」の政策運営を、データで読み解く。 

【自民保守派の動き活発化】安倍元首相支えた人の再結集—【私の論評】自民党保守派の逆襲:参院選大敗で石破政権を揺さぶる戦略と安倍イズムの再結 2025年5月22日
参院選後の保守再結集と党内力学の変化を追う。FOIP再始動の布陣にも言及。

「対中ファラ法」強化で中国の影響力を封じ込めろ──米国の世論はすでに“戦場”だ、日本は? 2025年7月23日
米FARA強化の動向を整理し、日本の制度整備の遅れと対応策を提言。 

2025年10月14日火曜日

高市総理誕生の遅れが我が国を危うくする──決断なき政治が日本を沈める


まとめ

  • 高市早苗氏の総理誕生が遅れている。理由は党内抗争、連立調整の難航、メディアの妨害。
  • その間にも国際情勢は激変し、台湾有事、中国の軍拡、ロシア・北朝鮮の挑発が進行。
  • 米国はすでに次の同盟ステージへ。日本の政治の停滞は「同盟のリスク」となりつつある。
  • 国内では物価高と賃金低迷、外国人犯罪の質的変化、エネルギー高が進む。円安は本来、輸出で利点にもなりうるが、家計防衛策が欠けている。
  • 政治の空白が続けば、日本は世界に取り残される。高市政権の誕生こそが、日本再起動の「起点」である。

1️⃣政局の迷走と「決断の空白」
 
高市早苗氏の総理誕生が遅れるかもしれない。理由は明白である。党内の一部保守派が結集を急ぐ一方、非主流派の抵抗と連立調整の難航、さらにメディアによる意図的なネガティブ報道が重なっている。派閥の思惑と権力闘争が絡み合い、政権誕生のタイミングを押し下げているのである。だが、その間にも、国際情勢は激変している。


中国は台湾への圧力を強め、アメリカは同盟国との役割分担を再構築しつつ、アジア太平洋での抑止体制を固めている。ロシアは北方領土周辺で軍事演習を繰り返し、北朝鮮は極超音速ミサイルの発射を重ねている。中東ではイランが代理勢力を操り、イスラエルとの小競り合いが火種を抱えたまま拡大している。危機の季節は、すでに目前に迫っているのだ。
 
2️⃣世界が動く中で、立ち止まる日本
 
中国の新空母「福建」

東アジアの海は荒れている。中国の空母「山東」と「福建」が南シナ海から出撃し、台湾周辺で同時演習を行った。これは単なる示威ではない。海空一体の運用能力を誇示し、台湾封鎖を想定した作戦行動の訓練である。米国防総省も「実戦想定の包囲訓練」と警鐘を鳴らした。アメリカはフィリピン・バサ空軍基地を再整備し、台湾と南シナ海を結ぶ補給線の強化に踏み切った。我が国が政局に足を取られている間に、同盟国は次の段階へ進んでいる。

ワシントンでは、日米同盟の即応性を評価する報告が複数存在する。その一つが、アメリカ議会調査局(CRS)が2021年12月3日に発表した「Political Transition in Tokyo」である(CRS Report for Congress, IF10199)。この報告は日本の政権交代が日米同盟に与える影響を分析し、指導者交替が同盟の継戦能力に「一時的空白」を生む危険性を指摘している。こうした分析は、現在の「総理誕生の遅れ」が単なる国内問題にとどまらず、国際安全保障上のリスクとして認識され得ることを意味している。
 
3️⃣内憂外患──止まった政治が国を蝕む

内側でも、我が国は限界に近づいている。物価はじわじわと上がり続け、国民生活は目に見えぬ圧迫を受けている。電気代・ガソリン代・食料品の「隠れ値上げ」。実質賃金は二年以上にわたりマイナスが続く。統計の安定とは裏腹に、庶民の暮らしは確実に苦しくなっている。

外国人労働者の急増は社会の歪みを広げている。地方都市では技能実習生が集中する地区が事実上の外国人街と化し、学校や医療機関では通訳が常駐しなければならない状況だ。統合政策は後手に回り、文化摩擦が日常化している。警察庁の統計によれば、令和5年中の来日外国人による刑法犯検挙件数のうち共犯事件の割合は38.7%で、日本人の3倍に達した(警察庁「令和6年版警察白書」)。さらに、来日外国人犯罪の罪種別構成では、窃盗・詐欺などの組織化が顕著になっている。

令和6年の全国における来日外国人犯罪の検挙件数は、21,794件に上った。これは九州管区警察が同年の地域別統計で明示した公式数値である(九州管区警察局統計資料)。ただし、この数字は速報値であり、最終確定値では若干の修正が入る可能性がある。だが、重要なのは件数そのものではない。

犯罪の“質”が変わっているということだ。越境的ネットワークを持つ多国籍犯罪グループがSNSや暗号通貨を使い、詐欺・密輸・不法送金を同時に展開している。統計では測れない犯罪の多層化が、我が国の治安の根を静かに侵食している。さらに、西欧諸国の移民政策は、明らかに間違いであったことが認識されつつある。統計数値だけを根拠として、外国人犯罪そのものがあまり増えていないからといって、外国人問題はないと結論づけるには無理がありすぎる。

外国人問題は参院選で争点となった これは無視すべきではない

こうした内外の危機が同時に進行するなか、政治だけが立ち止まっている。経済は金融市場の信認を揺らぎ始め、円相場は150円前後の水準で推移している。円安そのものは輸出を促し、製造業にとって追い風となる。だが同時に、輸入価格の高騰を招き、エネルギーや食料のコストが家計を直撃している。求められているのは、円安を「恐れる」政策ではなく、「活かす」政策だ。企業の輸出力を支えつつ、家計への負担を和らげる。財政出動と減税を軸に、国力を底上げする経済運営が不可欠である。

国内外の投資家は、高市政権がどんな経済・外交の道筋を描くのかに注目している。誕生が遅れれば遅れるほど、信頼の空白が広がる。市場は冷酷だ。躊躇は許されない。

政治が止まれば、世界は一歩先へ進む。高市早苗が総理として立つ日は、単なる政権交代ではない。我が国を再起動させる転換点である。外交も経済も安全保障も、もはや先送りはできない。遅れは許されない。時間を失うことこそ、国家の最大の敗北である。高市総理誕生は、衆院選、参院選で示された、国民の声でもある。

【関連記事】

トランプ訪日──「高市外交」に試練どころか追い風 2025年10月12日
トランプ訪日が高市政権構想に与える影響と、対中・対米外交の展望を分析。

日本はもう迷わない──高市政権とトランプが開く“再生の扉” 2025年10月8日
日米同盟再編と経済主権を高市政権の課題軸として提示した論考。

SNSは若者だけのものではない──高市総裁誕生が示す“情報空間の成熟” 2025年10月7日
世代を超えた政治発信の変化を読み解き、高市支持拡大の意味を探る。

高市早苗総裁誕生──メディアに抗う盾、保守派と国民が築く「国民覚醒の環」 2025年10月5日
報道の偏向に抗し、保守派と国民の新しい連帯の萌芽を論じる。

世界が霊性を取り戻し始めた──日本こそ千年の祈りを継ぐ国だ 2025年9月30日
世界的な霊性回帰の潮流の中で、日本文化と精神の再評価を訴える。

2025年10月2日木曜日

本当に国際秩序を壊したのは誰か――トランプではなく中国だ

まとめ

  • トランプ批判は短期的混乱だけを根拠にした一面的評価であり、中国の長年の無法行為を背景に考える必要がある。
  • 中国はWTO加盟時の約束を守らず、市場閉鎖・為替操作・補助金政策・知財侵害を続け、日本の鉄鋼や太陽光産業に壊滅的打撃を与えてきた。
  • 中国の人権問題や南シナ海での国際法違反、「一帯一路」での債務外交は国際秩序への露骨な挑戦である。
  • 野口旭氏の指摘する「貯蓄過剰2.0」により世界は慢性的な需要不足に陥り、各国の金融緩和でも景気は加熱せず、緊縮策で失速する。これは現在の日本の姿とも重なる。
  • 中国の挑戦は日本にとっても他人事ではなく、経済・安全保障両面で覚悟を持ち、未来を選び取る必要がある。

1️⃣トランプ批判の一面的な見方
 
国連で演説するトランプ大統領

トランプ大統領の政策はしばしば「国際秩序を乱した失敗」と決めつけられる。防衛費負担をめぐる強硬な要求、中国への関税政策、ロシアや北朝鮮との対話路線。確かに短期的には混乱を招き、国内外で批判を浴びた。しかし、その評価はあまりにも一面的だ。

そもそも背景には、中国が長年繰り返してきた無法がある。国有企業への補助金、知的財産権の侵害、技術移転の強要、市場の閉鎖。2001年に米国の支援でWTOに加盟した際、中国は市場開放や公正取引の遵守を約束したが、その多くを守らず今日に至っている。米通商代表部(USTR)の年次報告でも、非市場的な政策と国有企業への過剰支援が透明性を欠くとして「約束不履行」が繰り返し指摘されている。金融、デジタル、エネルギー分野で外資を制限し、自国市場を閉ざしたまま欧米市場で活動を続ける不均衡な状態が続いている。

為替でも人民元は「完全固定」ではないにせよ、中国人民銀行が毎朝基準値を設定し、その±2%のバンドで動く管理フロート制を敷いており、国際市場の需給に委ねる体制からは大きく逸脱している。

日本の産業はこの不均衡の直撃を受けてきた。鉄鋼では中国の過剰生産とダンピングで価格が暴落し、国内メーカーは疲弊を余儀なくされた。2024年の普通鋼鋼材輸入量は505万トンに達し、前年から7.5%増、1997年以来の500万トン超えとなった(日本鉄鋼連盟)。太陽光パネルでも中国製が圧倒的シェアを占め、日本企業は次々と撤退。日本国内で使われる太陽光パネルは輸入依存が極端に高く、JPEAの統計では外国企業シェアが64%、国内生産はわずか5%に過ぎない。世界的には中国製が8割を超え、2025年には95%に達する見通しが示されている(JETRO/IEA)。北海道では安価な中国製パネルによる乱開発が進み、地域社会と自然環境を蝕んでいる。

さらに、中国の人権問題も看過できない。新疆ウイグル自治区での強制労働や収容所、人身売買や臓器売買の疑惑。南シナ海では国際仲裁裁判所が2016年に「中国の主張には法的根拠がない」と判定したにもかかわらず、人工島を造成し軍事拠点化を続けている。「一帯一路」では途上国に過大債務を負わせ、返済不能に陥った国の港湾や資源を接収している。これらは国際秩序への露骨な挑戦である。
 
2️⃣世界経済を歪めた「貯蓄過剰2.0」
 
中国の無法は安全保障にとどまらず、世界経済を根底から歪めてきた。経済学者の野口旭氏は、リーマン・ショック以降の先進国に共通する「低すぎるインフレ率」の背景に、中国を中心とする「世界的貯蓄過剰2.0」があると指摘している(野口旭「世界が反緊縮を必要とする理由」)。

中国の過剰生産は結果的に世界に貯蓄過剰をもたらした

中国は輸出主導で成長を遂げ、国内需要が供給に追いつかず余剰資金を海外に流出させた。これが世界の経常黒字を押し上げ、需要不足を固定化した。実際、世界の経常黒字のうち中国のシェアは2019年時点で約40%に達し、米国の経常赤字とほぼ表裏の関係をなしていた。2022年には中国の経常黒字が4,170億ドルに上り(IMF統計)、世界的な需給バランスを大きく歪めている。

供給は膨張しているのに、需要は足りない。インフレが起きにくく、金利も上がらない。各国が金融緩和をしても景気が加熱せず、逆に緊縮策を急げば、たちまち需要不足で経済が失速する。これはまさに現在の日本の姿でもある。長らく日銀は慎重すぎる金融政策でデフレを固定化し、景気を押し下げてきた。2013年に黒田総裁が「異次元緩和」で大胆に転換したが、十分なインフレ定着には至らなかった。2023年に植田総裁が就任すると、再び利上げ方向へと傾き、需要の弱さを抱えたまま経済が減速しかねない状況にある。

中国の輸出攻勢は米国の製造業を空洞化させ、日本の鉄鋼や太陽光も壊滅的打撃を受けた。補助金漬けの国有企業、為替管理、低賃金労働。この体制が「貯蓄過剰2.0」を生み出し、世界全体の成長力を押し下げてきたのである。

こうした構造を放置すれば、各国は財政と金融で経済を支え続けるしかなく、支えを外せばすぐに失速する。だからこそ、トランプ政権の対中関税やサプライチェーン再編は、単なる「貿易戦争」ではなく、この不均衡に切り込む試みだった。短期的な痛みを覚悟してでも、世界経済を正す戦いだったのである。
 
3️⃣日本が問われる覚悟

当時、多くの反発があった。関税は物価を押し上げ、中国の報復で米農業は打撃を受けた。同盟国への防衛費要求は摩擦を強め、「孤立主義」との批判も高まった。だが、バイデン政権になっても対中強硬路線は継続され、米中デカップリングは超党派の合意となった。半導体やエネルギー分野では国内投資が拡大し、NATO諸国は防衛費を増額、日豪印との協力も強化された。当初「失敗」とされた政策が、結果として国際社会の対中包囲網を後押ししたのだ。

参院選での石破首相の応援演説 同盟国の首相としてはあり得ない発言

短期的な混乱だけを見てトランプを「秩序破壊者」と決めつけるのは誤りである。中国の壊してきた秩序を正すには犠牲も伴う。だが、直視しなければならない。さらに、中国を批判する者は自らも公正であるべきとされるだろう。それには、リスクも伴う。トランプを批判するのであれば、中国を牽制する代替案を示すべきである。非難を繰り返すだけでは現実は変わらない。

そして、これはアメリカだけの問題ではない。我が国日本にとっても、中国の無法を放置すれば、経済と安全保障の両面で取り返しのつかない代償を払うことになる。鉄鋼や太陽光での被害は氷山の一角に過ぎない。中国の挑戦は我が国に突きつけられた現実だ。我々自身が覚悟を持ち、未来を選び取れるかどうか。その岐路に立っているのである。

【関連記事】

霊性を忘れた政治の末路──小泉進次郎ステマ疑惑が示す保守再生の道 2025年10月1日
政治の空洞化を批判し、秩序と国益を守る保守政治の再建を論じる。今回の記事の結論部と親和性が高い。

奈良の鹿騒動──高市早苗氏発言切り取り報道と拡散、日本の霊性を無視した攻撃が招く必然の国民の反発 2025年9月29日
メディア報道の偏向を批判し、日本の精神的基盤を守る必要を訴える。国益と情報戦の側面に関連。

秋田から三菱撤退──再エネ幻想崩壊に見る反グローバリズムの最前線 2025年9月28日
中国依存の再エネ産業の危うさを批判。鉄鋼や太陽光における中国の影響と直結する。

札幌デモが示した世界的潮流──鈴木知事批判は反グローバリズムの最前線 2025年9月23日
グローバリズムに抗う地方の動きを扱い、国際秩序と地域社会の抵抗という視点で今回の記事と響き合う。

世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ 2018年8月2日
野口旭氏の論考を踏まえ、世界経済の「長期停滞」と日本の左派経済論の誤りを批判。今回の記事の「貯蓄過剰2.0」と直接つながる重要な文脈。

2025年9月16日火曜日

タイフォン日本初公開──中露の二重基準を突き、日本の覚悟を示せ


まとめ

  • 米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン」が岩国基地で初公開され、トマホークとSM-6を搭載する多用途抑止力として示された。
  • タイフォンの公開は、米国の「第一列島線」戦略と日本の反撃能力整備の動きが重なり合う象徴的な出来事となった。
  • 背景にはINF条約の崩壊があり、ロシアのSSC-8配備による条約違反と、2019年の条約失効がタイフォン開発を可能にした。
  • 中国・ロシアは自国で中距離ミサイルを配備しながら日本での米軍展開を非難しており、明らかなダブルスタンダードを示している。
  • 日本はこの矛盾を外交の場で突き、「配備を避けたいなら自国の中距離ミサイルを撤去せよ」と毅然と主張すべきであり、これこそが「日本の覚悟」を示す行為である。

米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン(Typhon)」が、2025年9月11日から25日までの日米共同演習「レゾリュート・ドラゴン25」で初めて日本に姿を現した。公開の場は山口県岩国海兵隊航空基地で、9月16日には発射機が報道陣に公開され、2万人規模の日米部隊がその存在を支える背景となった。今回の公開で実射は行われず、展開と運用のデモンストレーションにとどまったが、訓練後には撤収される予定である。

タイフォンは、トマホーク巡航ミサイルとスタンダードミサイル6(SM-6)の双方を発射できる。トマホークの一部は射程1600キロに達し、中国東部やロシア極東を狙うことが可能だ。SM-6は対空・対艦・地上攻撃、さらには弾道ミサイル防衛までこなす多用途兵器である。この組み合わせにより、タイフォンは柔軟かつ多層的な抑止力を発揮できる。移動展開が容易なため、米軍戦略の「空白」を埋める存在として位置づけられている。
 
🔳INF条約崩壊とタイフォン誕生
 
タイフォン中距離ミサイルシステム

タイフォンの登場は、冷戦から続いた軍縮体制の崩壊の象徴でもある。1987年に米ソ両国が結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約は、射程500~5000キロの地上発射型ミサイルを全面禁止していた。しかしロシアはSSC-8(9M729)と呼ばれる中距離巡航ミサイルを配備し、INF条約に違反した。欧米にとって看過できない脅威であり、アメリカは2019年2月、第一次トランプ政権下で条約破棄を決断。INF条約は失効し、地上発射型中距離兵器の開発が解禁された。

米陸軍がそこで進めたのがタイフォンである。前線に置かれてこそ効果を発揮する兵器であり、第一列島線に位置する日本やフィリピンが展開の拠点に選ばれた。岩国での初公開は、冷戦後の軍縮秩序が終わりを告げ、新しい現実が始まったことを示すものだった。
 
🔳中露のダブルスタンダードと日本の覚悟
 

初めて一堂に会した中露朝の3首脳、「抗日戦争勝利80年」を記念する軍事パレードを観閲


中国外務省は「正当な安全上の利益を損なう」と非難し、ロシアも批判を繰り返す。しかし中国自身はDF-21DやDF-26といった中距離弾道ミサイルを大量に配備し、米空母や日本本土を射程に収めている。ロシアもまた条約違反を重ね、SSC-8を実戦配備しながら米国の行動だけを問題視してきた。これは明らかなダブルスタンダードである。

だからこそ日本は、外交の場でこの矛盾を正面から突くべきだ。「日本に配備されたくないのであれば、まず自国の中距離ミサイルを撤去せよ」と毅然と主張することが求められる。これこそが日本の覚悟を示す道である。

今回のタイフォン公開は、単なる兵器の披露ではない。日米同盟の抑止力を「見える形」にし、日本がインド太平洋の安全保障の現実にどう立ち向かうかを示す試金石である。外交・軍事・安全保障・地政学、そのすべてにおいて意味を持つ出来事であり、日本はここで逃げるのではなく、覚悟を持って未来を切り拓かねばならないのだ。

【関連記事】

日本が世界を圧倒する──"レールガン+SMR"が東アジアの戦略地図を塗り替える 2025年9月14日
次世代兵器「レールガン」と小型モジュール炉(SMR)の組み合わせがもたらす、日本の戦略的優位について論じた。

歴史をも武器にする全体主義──中国・ロシア・北朝鮮の記憶統制を暴く 2025年9月3日
全体主義国家が歴史や記憶をどのように統制し、国民支配の武器としているのかを中国・ロシア・北朝鮮の事例をもとに分析した。

日本のF-15J、欧州へ! 日英の“空の連携”がいよいよ実戦仕様になる 2025年8月15日
航空自衛隊のF-15Jが英国へ展開し、日英の空の連携が実戦レベルで深化する様子を解説。

日米共同訓練、空自とB52が中国空母「遼寧」牽制 尖閣諸島周辺接近…日米関係にくさび打ち込む目的か ―【私の論評】中国が本当に恐れているのは、日本が中距離弾道ミサイルを配備し、中国の海洋進出の野望が打ち砕かれること 2021年5月9日
尖閣諸島周辺で行われた日米共同訓練と中国空母「遼寧」の動きを背景に、中国が抱える本当の恐怖について論じた。

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達 ―NYタイムズ―【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い
2018年10月21日

INF条約からの米国離脱の真意について、ロシアだけでなく中国を強く意識したものであることを指摘した。

2025年9月10日水曜日

米国の史上最大摘発が突きつけた現実──韓国の甘さを断罪し、日本こそ日米同盟の要となれ



まとめ
  • 2025年9月4日、DHSはジョージア州の現代‐LG工場で475人を拘束し、これを「largest single-site enforcement action(単一事業所への過去最大規模の強制執行)」と発表した。
  • この摘発はトランプ政権の選挙公約「不法移民排除」の実行であり、外国企業に「アメリカ人を雇い、訓練せよ」と迫る内需拡大策の一環でもある。
  • 韓国企業は事前に警告を受けていたにもかかわらず是正せず、摘発は「予告された是正」となった。通商交渉の停滞もあり、制裁的性格が色濃い。
  • 日本人も数名拘束されたが軽微なケースで、日本企業は制度を厳格に守っていたためリスクは最小限に抑えられた。
  • 韓国の輸出管理の甘さは戦略物資が北朝鮮や中国、ロシアに流出する懸念を生み、日本は米国同様に厳格対応すべきである。CSISも、日本の輸出管理は日米信頼を深めインド太平洋戦略に有効と分析している(CSISレポート)。
🔳米国による史上最大規模の移民摘発と韓国への圧力
 

2025年9月4日、米ジョージア州エラベルの現代‐LGエナジーソリューションのEVバッテリー工場建設現場で、連邦当局が単一拠点として米国史上最大規模の職場査察型移民摘発を行い、475人が拘束された。そのうち300人以上が韓国人労働者であった。米国国土安全保障省(DHS)はこれを"largest single-site enforcement action”、すなわち「単一の事業所に対する過去最大規模の強制執行」と公式に認定した。工場は総額約43億ドルの巨大投資案件であり、完成すれば州内最大級のプロジェクトとなるはずであったが、摘発によって建設は即座に中断された。

DHSは2001年の同時多発テロを契機に設置された巨大省庁である。移民、国境、テロ対策を一手に担い、ICE(移民・税関執行局)やCBP(国境警備局)を傘下に置く。今回の摘発もこの枠組みの下で行われた。韓国政府は慌てて外相を派遣し、拘束者の帰国後の再入国に不利益が生じぬよう米側に要請した。そして9月9日、チャーター機の派遣を発表するに至った。
 
🔳トランプ政権の狙いと制裁的性格
 
トランプ大統領の選挙公約

この強制摘発は、トランプ大統領の選挙公約である「不法移民の徹底排除」の実行そのものであった。人権団体や一部メディアは「人権侵害」「経済混乱」と非難したが、政権に迷いはない。掲げてきたのは「アメリカ人雇用優先」「内需拡大」であり、その一環として外国企業に対し「アメリカ人を雇い、訓練せよ」と公言してきた。

さらに、この出来事は韓国に対する制裁的圧力の色彩を帯びている。ロイターの報道によれば、韓国企業はビザ制度のグレー運用に関し事前に警告を受けていたにもかかわらず、労働者を送り込み続けた。今回の摘発は「狙い撃ち」ではなく「予告された是正」であり、韓国企業と仲介業者の責任は極めて大きい。加えて、米韓の通商交渉は為替問題で膠着しており、移民規制と通商圧力が同時に韓国を締め付けている。まさに制裁の実効化である。

外国企業にとっても衝撃は大きかった。フィナンシャル・タイムズは、多国籍企業がこの大規模執行を受けてビザ審査の見直しや出張凍結、内部監査を急いだと伝えている。米国市場で事業を営むなら、制度を徹底的に遵守せよという強烈な警告である。

日本人も数名拘束されたが、いずれも短期就労資格の不備といった軽微なものであり、韓国人労働者の大量摘発とは異なる。これは、日本企業が従来から法を守り抜いてきた成果であり、遵法姿勢こそ最大の防御であることを裏づけた。
 
🔳韓国のグレーな対応と日本の選択肢
 
韓国が日本に対しても「グレーな対応」を続けてきたことは記憶に新しい。2019年、日本はフッ化水素や高純度レジストなど戦略物資の輸出管理において、韓国が適切な管理体制を欠いていると判断し、ホワイト国から除外した。韓国は「国際規範に沿っている」と反発したが、日本側は輸出された物資が北朝鮮や中国、ロシアといった懸念国に流出する恐れを無視できなかった。証拠が明確に示されたわけではない。しかし、管理の甘さが「グレーゾーン」を生み出していたことは否定できない。


こうした実態を直視すれば、日本も米国同様、韓国に対して厳格な姿勢をとるべきである。中途半端な対応は国益を損なうだけだ。輸出管理や法執行を徹底すれば、日本は国際社会での信頼を高め、同時に米国との同盟をさらに強固なものにできる。実際、米国の有力シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は、日本が韓国に対して強硬な輸出管理を行うことは日米の信頼を深め、インド太平洋戦略の推進に資すると分析している。CSISの分析は以下のURLから確認できる。

結論
 
今回のジョージア州での摘発は、米国が韓国に制裁的圧力を加えた象徴的事件である。背景には韓国企業の無責任な行動があった。そして日本にとっても、この事件は大きな教訓となる。韓国がグレーな対応を続ける限り、日本は米国のように韓国に対して厳格な措置を講じなければならない。それが日本の安全保障を守り、国際的な存在感を高め、日米同盟をより強靭にする道である。
  
トランプ前大統領の“最大300%関税”は、グローバリズムの幻想に終止符を打った荒療治だ。中国を肥大化させていた仕組みの暴露でもある。日米は内需大国に回帰し、未来を創らねばならない。

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
韓国は通商交渉で“骨抜き”にされた。日本も石破政権の迷走で同じ道を歩む危険が迫る。日米同盟を守るのは迎合ではなく、国益をかけた交渉だ。

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
FOIPの系譜と現下の日本外交の選択を対比。日本が地域秩序形成で中心軸になり得ることを論じている。

日米が極秘協議──日本が“核使用シナリオ”に踏み込んだ歴史的転換点 2025年7月27日
拡大抑止と運用協議の実相を解説。日米同盟の実効性と日本の役割拡大に関する示唆が濃い。

中国の軍事挑発と日本の弱腰外交:日米同盟の危機を招く石破首相の選択 2025年7月11日
対中抑止と同盟信頼の観点から、日本の姿勢を厳しく点検。法と規範の順守が国益を守ると結ぶ。

韓国への輸出管理見直し 半導体製造品目など ホワイト国から初の除外 徴用工問題で対抗措置―【私の論評】韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁 2019年7月1日
経済戦略(Economic Statecraft)は、国家の“ソフトパワー”かつ安全保障の最前線だ。本稿ではその構図を明快に描いた。
 


2025年9月3日水曜日

歴史をも武器にする全体主義──中国・ロシア・北朝鮮の記憶統制を暴く


20159月に行われた「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の軍事パレード=北京の天安門前

まとめ

  • 中国共産党の抗日戦勝利叙述は1937年の洛川会議で始まり、1994年の愛国主義教育綱要や2014年の記念日法定化で国家的に固定された。
  • 米国の研究者やシンクタンクは、中国共産党の戦功を「虚構」と批判し、実際の主力は国民党軍であったと指摘している。
  • 毛沢東は1972年の田中角栄との会談を含む複数の場で「日本の侵略が共産党の台頭を促した」と語り、公式叙述と現実の間に矛盾がある。
  • 中国の歴史統制はロシアや北朝鮮の記憶統治と共通し、法制度・教育・演出で国家に都合の良い歴史を作り上げている。
  • 1937年から2025年までの年表や比較表から、中国・ロシア・北朝鮮の三国が歴史を政治的正統性のために制度化・固定化してきた流れが見える。
注意喚起! 以下の文書にリンクされているURLで、中国発のものに関しては、あなたの情報(パスワード、メッセージ、クレジット カード情報など)を不正に取得しようとしている可能性があります。google検索では、警告が出ます。閲覧にあたっては、なんらかの対策を行った上で、閲覧してください。対策できない場合は、閲覧しないでください。

🔳「抗日勝利」の物語はどこから始まり、いま何に使われているのか
 

中国共産党は9月3日に「抗日戦争勝利記念」の式典を大々的に行い、自党こそが日本軍を打ち負かした主役だと強調する。終戦80年となる今年は、プーチンや金正恩らの来訪も報じられ、内外へアピールする色合いが濃い。こうした戦時ナラティブの再強化は近年の既定路線であり、習近平体制は第二次大戦の記憶を国内統合と対外メッセージの両方に使っていると米主要紙は指摘する。ウォール・ストリート・ジャーナルは、共産党が自らの役割を前面に出して戦後秩序の「共同の担い手」を装い、台湾問題など当代の政治課題へ結びつけていると報じた。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

この種の国家的演出は国際メディアでも広く取り上げられ、ガーディアンやAPは、軍事パレードを含む大規模行事が「大国間対立の文脈での歴史動員」であることを描いている。(ガーディアン, AP News)

「共産党軍が抗日戦の正統な主体」という自己規定は、日中戦争開戦直後の1937年8月、陝西省で開かれた洛川会議に遡る。ここで中共中央は「抗日救国十大綱領」を採択し、紅軍を八路軍として“抗日の主力”に位置付けた。中国政府系の公的解説でも、洛川会議が対日抵抗路線と八路軍の役割を明確化した節目だったことが記されている。(china.org.cn)

もっとも、戦後しばらくは記念日の体系が整っていなかった。現在の記念日制度は2014年に全人代常務委が9月3日を「中国人民抗日戦争勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺国家追悼日」として法定化したことに端を発する。政府・公的資料で決定過程が確認できる。(us.china-embassy.gov.cn, 中国法翻訳, ウィキペディア)

🔳「虚構」批判と、毛沢東の“感謝”発言という矛盾
 
この党史叙述に対しては、米国の研究者・メディアから一貫した反論がある。ハドソン研究所のマイルズ・ユーは2025年の論考で、共産党の対日戦「武勲」は誇張であり、戦時の主力は蒋介石の国民党軍で、共産党は戦力温存に努めたと断じた。(hudson.org, Hoover Institution)
同趣旨の指摘は2014年の『ザ・ディプロマット』にも見られ、国民党軍が正面戦で主に戦い、共産党は内戦を見据え勢力を伸ばしたという構図が示されている。(The Diplomat)
戦後記憶の再編については、WSJが習政権の「歴史書き換え」を分析し、ラナ・ミッターら歴史家の見解として、国民党・台湾・米国の貢献が矮小化されている事実を伝えている。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

毛沢東

決定的なのは毛沢東自身の言葉だ。毛は建国(1949年10月1日)後、複数の場で「日本の侵略がなければ、国共合作も、最終的な権力獲得もなかった」と趣旨の発言をしている。とりわけ1972年9月27日の田中角栄との会談に関連し、「日本には感謝せねばならぬ」との言辞が出たと記録され、出典付きで“毛沢東の対日発言”論争として整理されている。一次資料の完全な逐語録は限定的だが、史料化された公的アーカイブや研究史で「侵略が共産党の台頭を促した」という毛の認識自体は確かめられる。(ウィキペディア)

すなわち、毛は日本軍と主に戦ったのは国民党軍である現実を踏まえつつ、その侵攻が結果として共産党の伸長を促したと評価した。一方で党は1937年の洛川会議で「共産党こそ抗日の主体」と公式化し、戦後は国民党の戦功を自党の物語に吸収していった。ここに「発言」と「公式叙述」のズレが生じる。

この矛盾は中国に限らない。ロシアでは2020年の憲法改正で「歴史的真実の保護」を明記し、記憶を法と憲法で固定化した。学術レビューは、憲法67.1条2項が“歴史の武器化”に使われていると分析する。さらに2014年導入の刑法354.1条(“ナチズムの賛美・正当化”)は、第二次大戦史の異説を萎縮させる道具として運用されてきたと法学者は指摘する。(スプリンガーリンク, PONARS Eurasia, Verfassungsblog)
北朝鮮も建国以来、金日成の「抗日パルチザン」神話を国家正統性の核に据え、党史・教材・記念施設で徹底的に再生産してきたことが、比較政治・朝鮮研究の蓄積から知られている(ここは学界一般知として要点のみ挙げる)。

以上を踏まえると、全体主義・権威主義体制の本質は「事実より政治」を優先し、国家目的に適合する形で歴史を設計・固定することだと言える。中国の対日戦叙述はその典型であり、ロシアや北朝鮮の“記憶統治”とも共通の手口を示す。

🔳年表と比較で見る「記憶の制度化」

簡易年表(1937→1949→1994→2014→2015→2021→2025)

  • 1937年:洛川会議。「抗日救国十大綱領」を採択、八路軍を抗日主体に位置付け。(china.org.cn)

  • 1949年:中華人民共和国成立(10月1日)。

  • 1994年:愛国主義教育綱要が発表され、学校・博物館・メディアで対日戦記憶の定着が加速(政府方針・教化政策として制度化)。

  • 2014年:全人代常務委が9月3日を「抗日戦争勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺国家追悼日」に法定化。(us.china-embassy.gov.cn, 中国法翻訳, ウィキペディア)

  • 2015年:戦後70年の大規模軍事パレードを実施。

  • 2021年:共産党「歴史決議」を採択。習近平を“百年史の中心”に位置づけ、歴史解釈を公式に固定。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

  • 2025年:終戦80年の一連行事。海外主要紙は、戦時記憶の再動員と対外戦略の接続を指摘。(ウォール・ストリート・ジャーナル, ガーディアン, AP News)

中国・ロシア・北朝鮮の「制度化・法制化・演出」比較

区分 中国 ロシア 北朝鮮
制度化 記念日法定化(2014年)と愛国主義教育の全国展開(1990年代以降) 「歴史歪曲対策」機関設置(2009年)など記憶行政の拡充 党史・教材・記念施設で指導者神話を恒常再生産
法制化 記念日決定の法令化、歴史決議(2021年)による正史固定化 憲法67.1条に「歴史的真実」条項、刑法354.1条の運用拡大 「唯一思想体系」関連規範で歴史叙述を統制
演出 軍事パレード、映画・連ドラ・博物館の演出強化 戦勝記念パレード、記念碑・博物館群の国家演出 映像・文学・記念日動員による英雄譚の上塗り

(ロシア憲法・刑法の位置付けは法学レビュー・憲法学ブログが詳しい。(スプリンガーリンク, PONARS Eurasia, Verfassungsblog))

中国では南京事件を題材とした中国映画「南京写真館」が好調

結語

洛川会議で掲げられた「共産党こそ抗日の主体」という旗印は、戦後の記憶政治で法と制度にまで昇華された。だが、戦時の主力は国民党軍であったという実態、そして毛沢東自身が“日本の侵略が共産党の伸長を結果として促した”と語った事実は、党の公式物語と噛み合わない。ここにこそ、全体主義が繰り返す「事実より政治」の本性が露出する。2025年の記念行事まで連なる長い軌跡は、その証拠である。(hudson.org, The Diplomat, ウォール・ストリート・ジャーナル, ウィキペディア)

※注:毛沢東の「感謝」発言は1972年会談を含む複数の場面で伝えられており、研究的整理の出典として参照しやすいのは英語版の概説記事である(当該項目は出典リンクを多数付す)。逐語の一次史料は限定的だが、趣旨の把握には足りると判断した。(ウィキペディア)

【関連記事】
 
天津SCOサミット──多極化の仮面をかぶった権威主義連合の“新世界秩序”を直視せよ 2025年9月1日 
華やかな多極化の裏で進む権威主義国家の連合と“新世界秩序”構築の危険な動き。中国経済の失速やBRIの行き詰まりを背景に、西側諸国の価値観が揺らぎつつある現実を徹底分析。

【主権の危機】中国の静かな侵略に立ち向かう豪米、日本はなぜ “無防備” なのか 2025年7月13日
アメリカとオーストラリアが進める対中対策と比べ、日本の無策ぶりを鋭く指摘。国家主権と安全保障をめぐる国際的潮流を読み解く。

中国の情報戦は「戦争」だ──七月のSharePoint攻撃が突きつけた日本の脆弱性 
2025年7月22日

Microsoftの業務用サーバーが中国系ハッカーにより侵害。これはサイバーを使った現代の戦争だ。日本はどう備えるべきか。

次世代電池技術、機微情報が中国に流出か 潜水艦搭載を検討中 2025年3月16日
静かに進む技術の侵略。あなたの身近に迫る国家情報法の影。

中国のSNSに“反日”氾濫──地方政府幹部「我々の規律は日本人を殺すこと」—中国人の日本への渡航制限をすべき理由 2024年9月25日
安全保障、健康リスク、経済的影響、国際情勢、そして社会的安定の観点から、中国人の日本への渡航制限は多面的に検討されるべき重要な課題。

2025年8月18日月曜日

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然

 まとめ

  • 石破総裁誕生の裏側には「高市早苗だけは総理にしない」という派閥横断の一致があり、保守派は数の力に慢心して油断した。
  • 2024年6月に自民党公式組織「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が設立され、安倍派系議員が外交・安全保障で具体的提言を始めている。
  • 高市排除の動きは橋下徹氏の発言にも現れており、保守派こそ党内に残るべきで、リベラル左派や親中派が党を出て行くべきだ。
  • 官僚機構は政治理念ではなく天下り利権のために政治へ不当介入し、その結果、我が国の混乱が周辺国を利している。
  • 自民党や立憲民主党の「選挙互助会」的体質は制度疲労を起こしており、政治家は信条ごとに再編し、官僚支配を排して政治改革を急がねばならない。
🔳石破総裁誕生の裏側と保守派の油断


安倍派潰しは石破政権から始まったのではない。発端は岸田政権であり、石破政権はそれをさらに徹底・強化したのである。裏金問題は検察が不起訴としたにもかかわらず、マスコミと連携して巨悪のごとく描き出し、党内手続きの誘導──たとえば次の選挙での公認取り消しなど──にまで利用した。これは「高市早苗だけは総理にさせない」という思惑と直結していた。

総裁選の裏側では、さまざまな旧派閥にまたがる一派が、徹底して高市排除に動いた。メディアを使ったイメージ操作、党内人事を利用した圧力、さらには資金問題を口実にした議員への恫喝。あらゆる手段が総動員され、「高市だけは阻止する」という一点で一致団結したのである。その結果、石破総裁が誕生した。一方で、自民党内で最大の数を誇った保守派は、数の力に慢心し、結束を欠いた。この油断こそが致命傷となった。
 
🔳 保守派の反撃と「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」

しかし保守派は反撃を試みている。2024年6月に設立された「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」は、自民党の公式組織であり、安倍派系議員を中心に立ち上げられた。この組織は、他の類似団体とは異なり、党の正式な枠組みに位置づけられ、外交・安全保障政策で具体的な提言を繰り返している。最近では、南西諸島防衛の強化や日米豪印の連携深化に関する政策提案を行い、党内に一定の存在感を示している。

そこまで言って委員会NP「迷言・暴言」で上半期を大総括!石破総理編も
 
この流れの中で、2025年8月10日放送の読売テレビ『そこまで言って委員会NP』で、橋下徹氏が「自民党が割れるのは大賛成」「高市氏が覚悟を持って割って出られるか」といった趣旨の発言をした。高市早苗氏は8月12日にXでこれへ反論。これは、発言の是非は別にして、いかに自民党内で高市排除が進められているかを象徴する発言である。

しかし自民党の党綱領には「保守政党であること」「憲法改正を目指すこと」が明記されている。ならば、出ていくべきは保守派ではなく、リベラル左派や親中派である。小沢一郎氏には数々の問題があるにせよ、自民党を飛び出し自らの信条を掲げたという一点では、岸田や石破より筋が通っていた。自民党内のリベラルや親中派もまた、小沢氏にならい、自らの旗を掲げて出て行くべきだ。
 
🔳官僚機構の暗躍と政治改革の急務


看過できないのは、官僚機構の暗躍である。財務省や日銀をはじめとする官僚は、政治理念からではなく、天下り先でのリッチな生活を望むという低俗な動機で、政治に不当に介入している。官僚の利権支配は、財政政策や金融政策の停滞を招き、国内の混乱を深める一方で、中国、北朝鮮、ロシア、韓国といった我が国を取り巻く国家を利する結果となっている。

いまや自民党も立憲民主党も、保守からリベラル、左派、親中派までが同居する「選挙互助会」に堕している。この制度疲労を抱えたスタイルは、もはや時代遅れだ。政局の動きは、保守、リベラル、親中、反中といった信条ごとに政党を再編すべき時代の到来を示している。そして政治家は、この混乱を一刻も早く乗り越え、真の政治改革を断行しなければならない。さもなければ、我が国は再び官僚と外国勢力に蹂躙されることになる。

【関連記事】

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
通商交渉における専門性の欠如から国益を損ねる危険性を論じた。

石破茂「戦後80年見解」は、ドン・キホーテの夢──世界が望む“強い日本”と真逆を行く愚策 2025年8月6日
「80年談話構想」の思想的偏向と保守派排除としての政治的意味に切り込む。

安倍暗殺から始まった日本政治の漂流──石破政権の暴走と保守再結集への狼煙 2025年8月2日
総裁選の裏側(高市排除の構図)や保守再結集の流れを深掘り。

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来 2025年6月8日
選挙を契機にした保守派の再編が具体的に描かれており、再編の必然性を示す。

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは―【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ 2024年10月28日
高市氏の戦略的離党の構想を論じ、反高市包囲の構図と保守派が取るべき戦略を展開。


2025年8月16日土曜日

米露会談の裏に潜む『力の空白』—インド太平洋を揺るがす静かな地政学リスク

 まとめ

  • トランプ・プーチン会談は、米露関係改善の可能性を示す一方で、背後には米国がロシアを対中戦略の一部に取り込もうとする思惑がある。
  • ロシアは経済制裁や戦線維持の負担から、完全に中国に依存し続けたとしても余裕がなく、交渉に応じざるを得ない可能性が高い。
  • 中露関係は表面的には堅固に見えるが、歴史的には「氷の微笑」に過ぎず、根底では利害が完全一致していない。
  • 米露接近が進めば、東欧戦線や黒海周辺で抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が生じ、第三国や非国家主体が介入を試みるリスクが高まる。
  • 日本はこの「力の空白」がインド太平洋地域にも波及し、台湾有事や北方領土問題で安全保障環境が急変する危険性を見落としてはならない。

ドナルド・トランプ前米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の会談は、単なる米露接触ではない。そこには米中露三角関係を揺るがす可能性と、「力の空白」をめぐる地政学的な駆け引きが潜んでいる。日本のマスコミは、この会談を「米露接近=中国有利」と短絡的に片付ける傾向がある。しかし現実はもっと複雑で、場合によっては米国がロシアを対中包囲網に引き込む布石にもなり得る。その含意を理解せずに未来を語ることは、国益を危うくする。
 
米露会談の真の背景
 
米露会談の共同声明

今回の会談の背景には、ウクライナ戦争の長期化、経済制裁によるロシア経済の疲弊、そして米中対立の激化がある。バイデン政権下で冷え切った米露関係だが、トランプは「ディール型外交」で条件次第の手打ちを否定しない人物だ。

米国にとって中国は、経済・軍事・技術の全てで長期的かつ包括的な脅威であり、冷戦期のソ連以上に手強い存在だ。ゆえに、米露対立を緩和し、ロシアを部分的にでも中国から引き離す戦略的価値は大きい。

もっとも、現状の中露関係は密接に見える。だがエドワード・ルトワックが評したように、それは「氷の微笑」に過ぎず、長期的信頼関係ではない。歴史的に両国は国境をめぐって何度も衝突してきた。米国はその構造的不信を利用しようとしている。
 
手打ち条件と「力の空白」
 
ロシアは中国陣営に残るのか?

米国がロシアとの条件交渉に臨む場合、ウクライナ戦線や対中関係が重要な取引材料となる可能性がある。特に「中国陣営に残るか否か」が手打ちの条件に含まれることは十分考えられる。

プーチン政権がこれを受け入れるかは別問題だが、ロシアは経済制裁と戦争の負担で余裕を失いつつある。条件次第では、戦略的譲歩を迫られる局面も出てくるだろう。

この時、東欧戦線や黒海周辺では抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が発生する。これは単なる軍事的隙ではなく、第三国や非国家主体(民兵組織、テロ組織、海賊集団など)が行動を開始する契機となる。歴史的に、このような空白は必ず地域の不安定化を招く。
 
日本への波及と今後の展望

インド太平洋地域

「力の空白」は地理的に遠くても日本に無関係ではない。黒海や東欧での抑止低下は、国際秩序全体のバランスを崩し、中国や北朝鮮といった勢力が太平洋での冒険主義を加速させる口実となる。特に南西諸島や台湾周辺の安全保障環境は、欧州情勢の影響を受けやすい。

さらに、米国が対中戦略を優先してロシアとの対立を緩和すれば、米国のアジア太平洋への軍事資源配分が増える半面、米国の中国への圧力はさらに強まり、日本は「最前線の同盟国」としてより強力な役割を求められる可能性も高い。

今後の展望として、米露接触は短期的には東欧情勢を流動化させるが、長期的には米中対立の主戦場をアジアに集中させる力学を強めるだろう。日本はその渦中に置かれ、「他人事」で済ませられる余地はない。

【関連記事】

中国が「すずつき」に警告射撃──本当に守りたかったのは領海か、それとも軍事機密か2025年8月11日
中国海軍による海自護衛艦への警告射撃事件を分析し、その真の狙いを探る。

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略 2025年8月10日
NATOの東方戦略と日本の安全保障を重ね合わせ、力の空白が招くリスクを論じた記事。

サイバー戦は第四の戦場──G7広島から最新DDoS攻撃まで、日本を狙う地政学的脅威 2025年8月8日
国際会議から最新のサイバー攻撃事例まで、日本を取り巻くサイバー脅威を俯瞰。

日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障 2025年7月12日
防衛費増額とNATO戦略の変化が、日本の将来の防衛政策に与える影響を解説。

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男 2025年4月22日
米ロ間のレアアース開発協議を背景に、ロシアの対米戦略と人物像を分析。


2025年8月15日金曜日

力の空白は必ず埋められる―米比の失敗が招いた現実、日本は同じ轍を踏むな

まとめ

  • 2025年8月11日、南シナ海スカボロー礁で中国のミサイル駆逐艦と海警船が衝突。現場はルソン島から120カイリでフィリピンEEZ内にあり、2016年の仲裁裁判所判断にも反し中国は威圧的行動を継続している。
  • 衝突はフィリピン船を追尾していた中国駆逐艦に海警船が接触したもので、海警船は艦首を損傷。救助の申し出に中国側は応答せず、国際法に反する危険な行為とされる。
  • 翌12日、米海軍が駆逐艦「USS Higgins」と沿岸戦闘艦「USS Cincinnati」を派遣し、スカボロー礁近海で航行の自由作戦を実施。2019年以来の展開で米比同盟と国際法秩序の擁護を示した。
  • 背景には1991〜1992年の米軍フィリピン撤退があり、これが力の空白を生み中国の南シナ海進出を許した。その後EDCA締結や中距離・対艦ミサイル配備で米比は抑止力回復を進めている。
  • 日本も防衛力や同盟基盤を弱めれば中国・ロシア・北朝鮮に利用される恐れがあり、米比の過ちを繰り返さず、理念を支える現実の力による抑止を維持・強化すべきだ。
🔳南シナ海で再燃する緊張
 
スカボロー礁近海で、中国人民解放軍のミサイル駆逐艦と中国海警局の巡視船が衝突

2025年8月11日、南シナ海のスカボロー礁近海で、中国人民解放軍のミサイル駆逐艦と中国海警局の巡視船が衝突する異常事態が発生した。現場はルソン島からわずか120カイリ、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置する。2016年の常設仲裁裁判所は、中国が主張する「九段線」を退け、同礁におけるフィリピンの伝統的漁業権を認めたにもかかわらず、中国公船はフィリピン船に対する威圧的な追尾や遮断を繰り返してきた。今回もフィリピン船を追尾していた中国駆逐艦に中国海警船が衝突し、海警船は艦首を大きく損傷。フィリピン側の救助申し出に対し、中国側から応答は確認されていない。このような力による現状変更は国際法の枠組みと相容れず、極めて危険で容認できない行為である。衝突の瞬間は、公開映像の37秒付近で確認できる(映像リンク)。

翌12日、米海軍はアーレイ・バーク級駆逐艦「USS Higgins」と沿岸戦闘艦「USS Cincinnati」を派遣。スカボロー礁から約30海里(約55キロ)の海域で「航行の自由作戦(FONOP)」を実施した。スカボロー礁近海での米艦行動は2019年以来とみられ、米比同盟の結束と国際法秩序を守る強い意志を示した。

中国人民解放軍南部戦区は「米艦が中国の許可なく侵入した」と非難し、「追い払った」と発表した。しかし米第7艦隊はこれを真っ向から否定し、「国際法に基づく正当な航行権の行使だ」と主張。USS Higginsは任務を終え、自発的に離脱したと説明した。両国の発表は真っ二つに割れたままである。スカボロー礁は、仲裁裁判所の判断にもかかわらず、中国の実効支配が進んだ象徴的な地点だ。
 
🔳米比の過去の誤算とその代償
 
中国が南シナ海を自国の「歴史的権利のある海域」として主張するために地図上に引いた九段線

この事態の根には、1991〜1992年の米軍撤退という歴史的な判断がある。当時、フィリピン上院は米軍基地延長条約をわずか1票差(11対12)で否決し、コラソン・アキノ大統領は議会の意思を覆せず、撤退を受け入れた。その結果、クラーク空軍基地は1991年に、スービック海軍基地は1992年に閉鎖・返還され、米軍はフィリピンから完全撤退した。米国側も賃料や核兵器の持ち込みを巡って譲歩を渋り、交渉は決裂。フィリピンにとっては「主権回復」の象徴であったが、戦略的には力の空白を生み、その空白を中国が突いて南シナ海での影響力を急速に拡大した。2012年のスカボロー礁対峙でフィリピンが後退し、中国の支配が既成事実化したのは、その延長線上にある。

その後、米比両国は失われた均衡を回復するため動いた。2014年の防衛協力強化協定(EDCA)によって米軍はフィリピン国内の指定施設にアクセスできるようになり、2023〜2024年にはEDCA対象拠点の拡大とともに、タイフォンやNMESISなどの中距離・対艦ミサイルを段階的に配備した。今回のFONOPも、その戦略の延長線上にある。単なる示威行動ではなく、国際法秩序を現実の力で裏付ける是正措置だ。
 
🔳日本への警鐘
 
中国、ロシア、北朝鮮に隣接する日本

この歴史は明確な教訓を突きつけている。米比が1990年代初頭に犯した最大の過ちは、抑止力の基盤を軽視し、政治的感情と短期的な交渉不調で長期的な安全保障を損なったことだ。その空白は中国によって埋められ、地域のパワーバランスを根底から変えた。米比が今進める再軍備と同盟強化は、単なる失地回復ではなく、過去の戦略的失敗を正す試みである。

そして、この教訓は日本にとっても他人事ではない。我が国が防衛力や同盟基盤を弱めれば、その隙は必ず中国、ロシア、北朝鮮に利用される。彼らは既成事実化や軍事的圧力で勢力を拡大してきた実績を持つ。外交辞令や国際法の条文だけでは、こうした現実を押し返すことはできない。米比のように抑止力の空白を許す愚を繰り返してはならない。守るべきは、理念だけではなく、それを支える確かな力である。これを怠れば、我が国の安全と主権は一気に脅かされるだろう。

【関連記事】

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略 2025年8月14日
NATOの東方展開を横目に、「力の空白が攻勢を招く」という安全保障の本質を鋭くえぐる記事です。日本への示唆も豊富で、今回の南シナ海論考との接続が自然です。

中国が「すずつき」に警告射撃──本当に守りたかったのは領海か、それとも軍事機密か 2025年8月11日
中国の軍事挑発に対して、意図や論理的背景を読み解こうとする鋭い視点の記事。南シナ海での中国行動の実態を理解する上でも参考になります。

サイバー戦は第四の戦場──G7広島から最新DDoS攻撃まで、日本を狙う地政学的脅威 2025年8月9日
サイバー領域からも逼迫する安全保障リスクを描写。現代の複合戦場に対する理解を深め、海洋・軍事だけでなく「多次元的な抑止」の視野を広げる内容です。

日印が結んだE10系高速鉄道の同盟効果──中国「一帯一路」に対抗する新たな戦略軸 2025年8月13日
インフラ融合と外交戦略を結びつけた記事で、地政学的に中国包囲に立つ「鉄道による外交力強化」の視点を提供します。本テーマの戦略的バランス論と響き合います。

制度の穴を突かれた日本──衝撃!名古屋が国際麻薬ネットワークの司令塔だった 2025年8月10日
国際秩序の“穴”が国益を蝕む実例として重く響く記事。制度的空白がどれだけ国の脆弱性を引き出すか、という点で本記事にも通底する警鐘となります。

2025年8月14日木曜日

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略


 まとめ

  • NATOはロシア・イラン・中国への対抗のため、防衛ラインをバルト海から黒海、東地中海へと拡大し、力の空白が生じれば敵が必ず攻勢に出るという現実を踏まえて行動している。
  • バルト三国やポーランドへの強化前方配備(eFP)、黒海沿岸での海上プレゼンス、東地中海での監視・抑止体制など、兵力配置とインフラ整備を伴う実戦的な包囲網を形成している。
  • ドイツはリトアニアに第45装甲旅団を恒久配備し、Leopard 2A8戦車44両とPuma歩兵戦闘車44両を含む部隊を展開予定。オランダ・ノルウェーはF-35をポーランド上空に配備し、ポーランドは「東の盾」構想で国境防衛網を強化している。
  • NATOは欧州防衛にとどまらず、極東からの日米の牽制やインド太平洋・中東との安全保障連携も重視し、イランの核脅威や弾道ミサイルへのBMD体制強化にも取り組んでいる。
  • 日本もロシア・中国・北朝鮮の三正面の脅威に直面しており、NATOのように防衛戦略を地域限定からグローバル視野へ拡張し、多域での安全保障ネットワークを構築する必要がある
🔳力の空白とNATO東方防衛ラインの現実

2008年のグルジア侵攻を皮切りに、2014年のクリミア併合が追い打ちとなり、バルト海から黒海、さらには東地中海へ――安全保障の包囲網が現実のものとなった。ここで見逃せないのは、力の空白が生まれれば、必ず敵が押し込んでくるという冷徹な現実である。クリミア併合も、2022年のウクライナ全面侵攻も、その典型だ。抑止力が弱まり、国際社会の対応が鈍った瞬間、ロシアは迷いなく領土拡張に動いた。


上の地図では、NATOが築き上げた東方防衛ラインの全貌が一目で分かる。バルト三国やポーランドに展開する強化前方配備(eFP)、黒海沿岸諸国での海上プレゼンス、東地中海における監視・抑止体制、さらにリトアニアに恒久配備されたドイツ第45装甲旅団の位置まで、視覚的に把握できる構成になっている。地図を見れば、NATOの包囲線が単なる抽象的戦略ではなく、実際の兵力配置とインフラ整備によって現実に存在することが理解できるだろう。
 
🔳 強化される兵力配置と軍事インフラ

軍事インフラと機動力も飛躍的に向上した。バルト海から黒海に至る兵站ルートは、高速道路や鉄道の軍事利用に対応し、部隊の迅速展開を可能にした。2025年4月には、ドイツがリトアニアに第45装甲旅団(Panzerbrigade 45)を恒久配備。将来的には約4,800人の兵士と200人の文民スタッフを擁し、203装甲大隊にはLeopard 2A8戦車44両、122歩兵戦闘大隊にはPuma歩兵戦闘車44両を配備する予定だ(theguardian.com, de.wikipedia.org)。この旅団は2027年に完全戦力化を目指す。


同時に、オランダとノルウェーはF-35戦闘機をポーランド上空に配備し、24時間体制の警戒を構築中だ。2024年には「Steadfast Defender 2024」と称する約9万人規模の大演習が行われ、早期展開能力と多ドメイン戦闘力が一段と高まった。ポーランドでは「East Shield(東の盾)」構想の下、ロシア・ベラルーシ国境に電子監視、物理的障壁、AIセンシングを組み込んだ防衛網を整備している。
 
🔳欧州を超えたグローバル抑止と日本への教訓

NATOは欧州だけを見ているわけではない。極東からの日米による牽制も望んでいる。日本はNATOのパートナー国として首脳会議に出席し、共同訓練やサイバー・宇宙分野でも協力を進めている。在日米軍と自衛隊のプレゼンスは、ロシア極東への戦略的抑止力だ。

中国との対峙でも役割を果たす。イランの核脅威や弾道ミサイル、さらに中東の不安定化は、NATOのBMD(弾道ミサイル防衛)導入を促す契機となった。2016年ワルシャワ首脳会議ではBMDの初期運用能力が宣言され、2025年にはイランの核兵器開発阻止が議題となった。ホルムズ海峡封鎖などが現実となれば、欧州経済にも直撃するため、軽視できない脅威である。

EUはNATO首脳会議に毎回招待され、参加。 (2016年7月8日、ワルシャワで開催されたNATO首脳会議)

これらすべては、多方面からロシアと中国を消耗させる「現代版・二正面作戦」の構図である。欧州防衛だけでなく、インド太平洋、中東まで視野に入れたグローバルな抑止構造だ。そして、この戦略の根底にあるのは「力の空白を作らない」という鉄則である。空白は、必ず敵の侵略を招く。

この教訓は我が国にも突き刺さる。日本もロシア、中国、北朝鮮という三正面の脅威に直面している。だからこそ、NATOのように防衛戦略を地域限定からグローバル視野へと拡張すべきだ。同盟国との多域連携を強化し、経済、サイバー、宇宙、海洋といった全方位の安全保障ネットワークを築くことこそ、未来の抑止力と国益を守る道である。

【関連記事】

日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障 2025年7月12日
日本は2027年までにGDP比2%の防衛費目標を掲げる中、米国の要求やNATOの構造から学ぶ姿勢が描かれている。防衛戦略の制度化と投資のバランスを論じる記事。

石破首相のNATO欠席が招く日本の危機:中国脅威と国際的孤立 2025年7月6日
日本の外交姿勢が内外にどう受け止められているか、NATO会議への不参加が国際社会に与える影響を鋭く指摘する記事。

ドイツ軍、リトアニアで部隊駐留開始 第2次大戦後初の国外常駐 2025年5月2日
リトアニアへの約4,800人規模のドイツ軍駐留は、NATO東部戦略の象徴的事例。第45装甲旅団の構成や歴史的重要性に触れる。

主張>海底ケーブル切断 深刻な脅威と見て対応を 2025年1月10日
日本の海底通信インフラと潜水艦監視能力の強化について。海洋安全保障の実態が、地政学的視点から描き出されている。

NATO、スウェーデンが加盟すれば「ソ連の海」で優位…潜水艦隊に自信 2023年12月31日
スウェーデンの加盟が、バルト海におけるNATOの戦略的優位をどのように変えるのかを解説し、北欧安全保障を読み解く記事。

2025年8月8日金曜日

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊


 まとめ

  • 日米合意の自動車関税引き下げには「重畳課税」などの抜け穴が残され、米国の裁量で事実上引き上げ可能な危険がある。
  • 2018年の232条関税や米韓FTA改定の事例のように、米国は対中姿勢が弱い同盟国に対して通商面で強硬姿勢を取る傾向がある。
  • 石破政権は経済安全保障や通商の専門性に乏しい人物を重用し、交渉力の低下を招いている。
  • 岩屋毅外相は防衛畑出身で親中派とされ、500ドットコム事件でも米国から警戒される要因を抱えている。
  • 日本が危機を脱するには石破政権を退陣させ、自民党内保守派が実権を回復して米国と足並みをそろえることが不可欠である。
米相互関税の負担軽減措置をめぐり、赤沢亮正経済財政・再生相は7日、米政府が大統領令を修正し、日本を対象に加えると約束したと発表した。徴収し過ぎた関税は7日にさかのぼって還付されるという。さらに米国は、自動車関税引き下げの大統領令も同時期に出す方針を示した。表向きは日米関係の前進に見えるが、実態はそう単純ではない。協定文には重大な抜け穴があり、日本が将来、米国の意向ひとつで不利な立場に追い込まれる危険が潜んでいる。以下、その核心を明らかにする。
 
🔳協定に仕掛けられた“罠”
 
今回の日米合意は、米国が日本から輸入する乗用車の関税を27.5%から15%に下げるという内容だ。日本の自動車産業にとっては、米市場での競争力を高める朗報に見える。だが、その裏には看過できない問題がある。

米国が日本から輸入する乗用車の関税を27.5%から15%に下げることになったが・・・・

最大の懸念は「重畳課税」だ。本来15%に下がるはずの関税に、別の法律や安全保障条項を根拠とした追加課税を上乗せすることが可能な構造が残っている。協定にはこれを禁じる文言がない。つまり、数字だけを見れば譲歩を得たように見えても、米国はいつでも関税を事実上引き上げられるのだ。

さらに、発効時期が曖昧である。日本は即時実施を求めたが、協定には日付も条件も明記されていない。米国は政治状況や経済事情を理由に、発効を先送りできる余地を持つ。しかも協定そのものの拘束力が弱く、米国内の政権交代や議会の圧力で簡単に運用を変えられる。これは同盟国間の信頼を揺るがすだけでなく、日本経済の柱である自動車産業に深刻な打撃を与えかねない。
 
🔳米国の“圧力外交”の前例と対中姿勢の影響
 
この構図は、トランプ政権下での232条関税を思い起こさせる。2018年、米国は鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税を課した。当初、EUやカナダ、メキシコには一時的な適用除外が与えられたが、日本は同盟国でありながら対象から外されなかった。その後、除外措置は短期間で解除され、EUも最終的には対象となった。ただしEUはWTO提訴や報復関税で対抗し、条件付き譲歩を引き出す交渉を展開した。一方、日本は有効な反撃策を取れず、事実上、米国の条件を受け入れた形だ。安倍政権を持ってしてもこれに対処する術はなかったのだ。

親中、親北だった当時の文在寅韓国大統領

米韓FTA改定でも同じ構図が見られる。2018年、米国は韓国に対し、米国製自動車の輸入規制緩和や関税維持を一方的に認めさせた。当時の文在寅政権が親中的かつ北朝鮮に融和的だったことが、米国の強硬姿勢を後押ししたとされる。米国は安全保障と通商を一体で捉える。対中政策で足並みをそろえない同盟国には、経済面での圧力を加えることをためらわない。

この視点で見ると、石破政権の対中姿勢は危険だ。発足以来、中国との関係改善を打ち出し、経済交流や首脳往来を積極的に進めてきた。この動きが米国に「対中で中立に傾く政権」と受け取られれば、通商交渉で一層厳しい条件を押し付けられる恐れがある。
 
🔳石破政権の人事が招く交渉力の空洞化
 
日本がこうした不利な条件を受け入れてしまう背景には、石破政権の人事がある。経済安全保障や通商戦略に精通した保守系の実務派を外し、代わりに専門性に乏しい人物を重用したのだ。
石破政権発足時の閣僚 クリックすると拡大します

経済安全保障担当の赤澤亮正氏は、国際経済交渉の豊富な経験よりも首相との近さで選ばれたとされる。外務大臣の岩屋毅氏は、防衛・外交畑の経歴はあるが通商や経済安全保障の専門性はなく、加えて親中派と見られている。さらに、中国系オンラインギャンブル企業「500ドットコム」を巡る2019年のIR汚職事件で名前が取り沙汰され、東京地検特捜部の捜査対象にもなった。この件は起訴には至らなかったが、米国側から「対中資本と近しい人物」として警戒される要因となった。こうした人物が外相に就任すれば、米国からの信頼度が下がり、通商や安全保障交渉で不利に働くのは避けられない。

こうした布陣では、防御的な条文を協定に盛り込み、相手国の裁量を封じる発想は生まれにくい。結果として、米国の政治判断ひとつで合意の実質が変えられるような危うい協定が結ばれたのである。
 
🔳危機を脱する唯一の道
 
日本がこの危機を脱するには、政権の交代が不可欠だ。石破政権は発足当初から保守派排除の報復人事を繰り返し、保守系の有能な人材を重要ポストから外してきた。組閣に柔軟性はなく、党内融和よりも自らの支持基盤固めを優先している。実際、経済安全保障や外交の要職には、党内保守派や経済交渉の実務派はほぼ起用されていない。こうした人事の偏りが交渉力の低下を招き、今回のような不利な合意を許したことは明白だ。

もちろん、連立政権による再編や保守系新党の躍進というシナリオもあり得る。しかし、当面の課題はトランプ政権との交渉であり、ここで日本側が主導権を握るには、石破首相を退陣させ、自民党内の保守派が再び実権を取り戻すことが望ましい。米国は過去の文在寅政権への対応でも示したように、対中姿勢や安全保障の立場を重視して通商条件を決める。したがって、対中で明確に米国と足並みをそろえる保守派政権こそが、今の日本に必要であり、国益を守るための唯一の現実的な道である。トランプ政権もそれを期待しているからこそ、日本に圧力をかけている可能性も高い。

【関連記事】

【日米関税交渉】日本だけ「優遇措置」が文書に書かれなかった──EUとの差を生んだ“書かせる力”の喪失 2025年8月7日
米国の関税優遇リストにEUは明記、日本は“口約束”止まり。外交交渉力の差が国益を分けた。石破政権の失策と安倍政権との対比を詳しく解説。

トランプの関税圧力と日本の参院選:日米貿易交渉の行方を握る自民党内の攻防 2025年7月8日
関税交渉の裏で進む国内政治の攻防──石破政権が抱える弱点と、自民党内のパワーバランスが浮き彫りに。

トランプ関税30~35%の衝撃:日本経済と参院選で自民党を襲う危機 2025年7月2日
高関税が日本経済に突きつける現実。政権への信頼と国際交渉力が問われる今、何が決定的に足りないのか。

英紙の視点『トランプ関税によって日本が持つ圧倒的な“生存本能”が試されている 2025年4月26日
海外メディアが注目する「日本の生存本能」。関税交渉を通じて問われる、国家としての危機適応力とは。

アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断 2025年4月9日
交渉力を取り戻せるのか。赤沢氏に託された日米関税交渉の今後と、日本の立ち位置の変化を検証。

ASEAN分断を立て直す──高市予防外交が挑む「安定の戦略」

まとめ 2025年版グローバル・ピース・インデックス(GPI)は、世界の平和度が前年より0.36%下がったと報告し、南アジアを中心に治安と統治が悪化。西欧主導秩序が崩れ、「大断片化」の時代が到来している。 新興国や途上国では制度の脆弱さから、経済危機や汚職、権威主義化の影響を受け...