検索キーワード「北朝鮮」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示
検索キーワード「北朝鮮」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示

2025年9月16日火曜日

タイフォン日本初公開──中露の二重基準を突き、日本の覚悟を示せ


まとめ

  • 米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン」が岩国基地で初公開され、トマホークとSM-6を搭載する多用途抑止力として示された。
  • タイフォンの公開は、米国の「第一列島線」戦略と日本の反撃能力整備の動きが重なり合う象徴的な出来事となった。
  • 背景にはINF条約の崩壊があり、ロシアのSSC-8配備による条約違反と、2019年の条約失効がタイフォン開発を可能にした。
  • 中国・ロシアは自国で中距離ミサイルを配備しながら日本での米軍展開を非難しており、明らかなダブルスタンダードを示している。
  • 日本はこの矛盾を外交の場で突き、「配備を避けたいなら自国の中距離ミサイルを撤去せよ」と毅然と主張すべきであり、これこそが「日本の覚悟」を示す行為である。

米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン(Typhon)」が、2025年9月11日から25日までの日米共同演習「レゾリュート・ドラゴン25」で初めて日本に姿を現した。公開の場は山口県岩国海兵隊航空基地で、9月16日には発射機が報道陣に公開され、2万人規模の日米部隊がその存在を支える背景となった。今回の公開で実射は行われず、展開と運用のデモンストレーションにとどまったが、訓練後には撤収される予定である。

タイフォンは、トマホーク巡航ミサイルとスタンダードミサイル6(SM-6)の双方を発射できる。トマホークの一部は射程1600キロに達し、中国東部やロシア極東を狙うことが可能だ。SM-6は対空・対艦・地上攻撃、さらには弾道ミサイル防衛までこなす多用途兵器である。この組み合わせにより、タイフォンは柔軟かつ多層的な抑止力を発揮できる。移動展開が容易なため、米軍戦略の「空白」を埋める存在として位置づけられている。
 
🔳INF条約崩壊とタイフォン誕生
 
タイフォン中距離ミサイルシステム

タイフォンの登場は、冷戦から続いた軍縮体制の崩壊の象徴でもある。1987年に米ソ両国が結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約は、射程500~5000キロの地上発射型ミサイルを全面禁止していた。しかしロシアはSSC-8(9M729)と呼ばれる中距離巡航ミサイルを配備し、INF条約に違反した。欧米にとって看過できない脅威であり、アメリカは2019年2月、第一次トランプ政権下で条約破棄を決断。INF条約は失効し、地上発射型中距離兵器の開発が解禁された。

米陸軍がそこで進めたのがタイフォンである。前線に置かれてこそ効果を発揮する兵器であり、第一列島線に位置する日本やフィリピンが展開の拠点に選ばれた。岩国での初公開は、冷戦後の軍縮秩序が終わりを告げ、新しい現実が始まったことを示すものだった。
 
🔳中露のダブルスタンダードと日本の覚悟
 

初めて一堂に会した中露朝の3首脳、「抗日戦争勝利80年」を記念する軍事パレードを観閲


中国外務省は「正当な安全上の利益を損なう」と非難し、ロシアも批判を繰り返す。しかし中国自身はDF-21DやDF-26といった中距離弾道ミサイルを大量に配備し、米空母や日本本土を射程に収めている。ロシアもまた条約違反を重ね、SSC-8を実戦配備しながら米国の行動だけを問題視してきた。これは明らかなダブルスタンダードである。

だからこそ日本は、外交の場でこの矛盾を正面から突くべきだ。「日本に配備されたくないのであれば、まず自国の中距離ミサイルを撤去せよ」と毅然と主張することが求められる。これこそが日本の覚悟を示す道である。

今回のタイフォン公開は、単なる兵器の披露ではない。日米同盟の抑止力を「見える形」にし、日本がインド太平洋の安全保障の現実にどう立ち向かうかを示す試金石である。外交・軍事・安全保障・地政学、そのすべてにおいて意味を持つ出来事であり、日本はここで逃げるのではなく、覚悟を持って未来を切り拓かねばならないのだ。

【関連記事】

日本が世界を圧倒する──"レールガン+SMR"が東アジアの戦略地図を塗り替える 2025年9月14日
次世代兵器「レールガン」と小型モジュール炉(SMR)の組み合わせがもたらす、日本の戦略的優位について論じた。

歴史をも武器にする全体主義──中国・ロシア・北朝鮮の記憶統制を暴く 2025年9月3日
全体主義国家が歴史や記憶をどのように統制し、国民支配の武器としているのかを中国・ロシア・北朝鮮の事例をもとに分析した。

日本のF-15J、欧州へ! 日英の“空の連携”がいよいよ実戦仕様になる 2025年8月15日
航空自衛隊のF-15Jが英国へ展開し、日英の空の連携が実戦レベルで深化する様子を解説。

日米共同訓練、空自とB52が中国空母「遼寧」牽制 尖閣諸島周辺接近…日米関係にくさび打ち込む目的か ―【私の論評】中国が本当に恐れているのは、日本が中距離弾道ミサイルを配備し、中国の海洋進出の野望が打ち砕かれること 2021年5月9日
尖閣諸島周辺で行われた日米共同訓練と中国空母「遼寧」の動きを背景に、中国が抱える本当の恐怖について論じた。

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達 ―NYタイムズ―【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い
2018年10月21日

INF条約からの米国離脱の真意について、ロシアだけでなく中国を強く意識したものであることを指摘した。

2025年9月10日水曜日

米国の史上最大摘発が突きつけた現実──韓国の甘さを断罪し、日本こそ日米同盟の要となれ



まとめ
  • 2025年9月4日、DHSはジョージア州の現代‐LG工場で475人を拘束し、これを「largest single-site enforcement action(単一事業所への過去最大規模の強制執行)」と発表した。
  • この摘発はトランプ政権の選挙公約「不法移民排除」の実行であり、外国企業に「アメリカ人を雇い、訓練せよ」と迫る内需拡大策の一環でもある。
  • 韓国企業は事前に警告を受けていたにもかかわらず是正せず、摘発は「予告された是正」となった。通商交渉の停滞もあり、制裁的性格が色濃い。
  • 日本人も数名拘束されたが軽微なケースで、日本企業は制度を厳格に守っていたためリスクは最小限に抑えられた。
  • 韓国の輸出管理の甘さは戦略物資が北朝鮮や中国、ロシアに流出する懸念を生み、日本は米国同様に厳格対応すべきである。CSISも、日本の輸出管理は日米信頼を深めインド太平洋戦略に有効と分析している(CSISレポート)。
🔳米国による史上最大規模の移民摘発と韓国への圧力
 

2025年9月4日、米ジョージア州エラベルの現代‐LGエナジーソリューションのEVバッテリー工場建設現場で、連邦当局が単一拠点として米国史上最大規模の職場査察型移民摘発を行い、475人が拘束された。そのうち300人以上が韓国人労働者であった。米国国土安全保障省(DHS)はこれを"largest single-site enforcement action”、すなわち「単一の事業所に対する過去最大規模の強制執行」と公式に認定した。工場は総額約43億ドルの巨大投資案件であり、完成すれば州内最大級のプロジェクトとなるはずであったが、摘発によって建設は即座に中断された。

DHSは2001年の同時多発テロを契機に設置された巨大省庁である。移民、国境、テロ対策を一手に担い、ICE(移民・税関執行局)やCBP(国境警備局)を傘下に置く。今回の摘発もこの枠組みの下で行われた。韓国政府は慌てて外相を派遣し、拘束者の帰国後の再入国に不利益が生じぬよう米側に要請した。そして9月9日、チャーター機の派遣を発表するに至った。
 
🔳トランプ政権の狙いと制裁的性格
 
トランプ大統領の選挙公約

この強制摘発は、トランプ大統領の選挙公約である「不法移民の徹底排除」の実行そのものであった。人権団体や一部メディアは「人権侵害」「経済混乱」と非難したが、政権に迷いはない。掲げてきたのは「アメリカ人雇用優先」「内需拡大」であり、その一環として外国企業に対し「アメリカ人を雇い、訓練せよ」と公言してきた。

さらに、この出来事は韓国に対する制裁的圧力の色彩を帯びている。ロイターの報道によれば、韓国企業はビザ制度のグレー運用に関し事前に警告を受けていたにもかかわらず、労働者を送り込み続けた。今回の摘発は「狙い撃ち」ではなく「予告された是正」であり、韓国企業と仲介業者の責任は極めて大きい。加えて、米韓の通商交渉は為替問題で膠着しており、移民規制と通商圧力が同時に韓国を締め付けている。まさに制裁の実効化である。

外国企業にとっても衝撃は大きかった。フィナンシャル・タイムズは、多国籍企業がこの大規模執行を受けてビザ審査の見直しや出張凍結、内部監査を急いだと伝えている。米国市場で事業を営むなら、制度を徹底的に遵守せよという強烈な警告である。

日本人も数名拘束されたが、いずれも短期就労資格の不備といった軽微なものであり、韓国人労働者の大量摘発とは異なる。これは、日本企業が従来から法を守り抜いてきた成果であり、遵法姿勢こそ最大の防御であることを裏づけた。
 
🔳韓国のグレーな対応と日本の選択肢
 
韓国が日本に対しても「グレーな対応」を続けてきたことは記憶に新しい。2019年、日本はフッ化水素や高純度レジストなど戦略物資の輸出管理において、韓国が適切な管理体制を欠いていると判断し、ホワイト国から除外した。韓国は「国際規範に沿っている」と反発したが、日本側は輸出された物資が北朝鮮や中国、ロシアといった懸念国に流出する恐れを無視できなかった。証拠が明確に示されたわけではない。しかし、管理の甘さが「グレーゾーン」を生み出していたことは否定できない。


こうした実態を直視すれば、日本も米国同様、韓国に対して厳格な姿勢をとるべきである。中途半端な対応は国益を損なうだけだ。輸出管理や法執行を徹底すれば、日本は国際社会での信頼を高め、同時に米国との同盟をさらに強固なものにできる。実際、米国の有力シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は、日本が韓国に対して強硬な輸出管理を行うことは日米の信頼を深め、インド太平洋戦略の推進に資すると分析している。CSISの分析は以下のURLから確認できる。

結論
 
今回のジョージア州での摘発は、米国が韓国に制裁的圧力を加えた象徴的事件である。背景には韓国企業の無責任な行動があった。そして日本にとっても、この事件は大きな教訓となる。韓国がグレーな対応を続ける限り、日本は米国のように韓国に対して厳格な措置を講じなければならない。それが日本の安全保障を守り、国際的な存在感を高め、日米同盟をより強靭にする道である。
  
トランプ前大統領の“最大300%関税”は、グローバリズムの幻想に終止符を打った荒療治だ。中国を肥大化させていた仕組みの暴露でもある。日米は内需大国に回帰し、未来を創らねばならない。

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
韓国は通商交渉で“骨抜き”にされた。日本も石破政権の迷走で同じ道を歩む危険が迫る。日米同盟を守るのは迎合ではなく、国益をかけた交渉だ。

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
FOIPの系譜と現下の日本外交の選択を対比。日本が地域秩序形成で中心軸になり得ることを論じている。

日米が極秘協議──日本が“核使用シナリオ”に踏み込んだ歴史的転換点 2025年7月27日
拡大抑止と運用協議の実相を解説。日米同盟の実効性と日本の役割拡大に関する示唆が濃い。

中国の軍事挑発と日本の弱腰外交:日米同盟の危機を招く石破首相の選択 2025年7月11日
対中抑止と同盟信頼の観点から、日本の姿勢を厳しく点検。法と規範の順守が国益を守ると結ぶ。

韓国への輸出管理見直し 半導体製造品目など ホワイト国から初の除外 徴用工問題で対抗措置―【私の論評】韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁 2019年7月1日
経済戦略(Economic Statecraft)は、国家の“ソフトパワー”かつ安全保障の最前線だ。本稿ではその構図を明快に描いた。
 


2025年9月3日水曜日

歴史をも武器にする全体主義──中国・ロシア・北朝鮮の記憶統制を暴く


20159月に行われた「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の軍事パレード=北京の天安門前

まとめ

  • 中国共産党の抗日戦勝利叙述は1937年の洛川会議で始まり、1994年の愛国主義教育綱要や2014年の記念日法定化で国家的に固定された。
  • 米国の研究者やシンクタンクは、中国共産党の戦功を「虚構」と批判し、実際の主力は国民党軍であったと指摘している。
  • 毛沢東は1972年の田中角栄との会談を含む複数の場で「日本の侵略が共産党の台頭を促した」と語り、公式叙述と現実の間に矛盾がある。
  • 中国の歴史統制はロシアや北朝鮮の記憶統治と共通し、法制度・教育・演出で国家に都合の良い歴史を作り上げている。
  • 1937年から2025年までの年表や比較表から、中国・ロシア・北朝鮮の三国が歴史を政治的正統性のために制度化・固定化してきた流れが見える。
注意喚起! 以下の文書にリンクされているURLで、中国発のものに関しては、あなたの情報(パスワード、メッセージ、クレジット カード情報など)を不正に取得しようとしている可能性があります。google検索では、警告が出ます。閲覧にあたっては、なんらかの対策を行った上で、閲覧してください。対策できない場合は、閲覧しないでください。

🔳「抗日勝利」の物語はどこから始まり、いま何に使われているのか
 

中国共産党は9月3日に「抗日戦争勝利記念」の式典を大々的に行い、自党こそが日本軍を打ち負かした主役だと強調する。終戦80年となる今年は、プーチンや金正恩らの来訪も報じられ、内外へアピールする色合いが濃い。こうした戦時ナラティブの再強化は近年の既定路線であり、習近平体制は第二次大戦の記憶を国内統合と対外メッセージの両方に使っていると米主要紙は指摘する。ウォール・ストリート・ジャーナルは、共産党が自らの役割を前面に出して戦後秩序の「共同の担い手」を装い、台湾問題など当代の政治課題へ結びつけていると報じた。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

この種の国家的演出は国際メディアでも広く取り上げられ、ガーディアンやAPは、軍事パレードを含む大規模行事が「大国間対立の文脈での歴史動員」であることを描いている。(ガーディアン, AP News)

「共産党軍が抗日戦の正統な主体」という自己規定は、日中戦争開戦直後の1937年8月、陝西省で開かれた洛川会議に遡る。ここで中共中央は「抗日救国十大綱領」を採択し、紅軍を八路軍として“抗日の主力”に位置付けた。中国政府系の公的解説でも、洛川会議が対日抵抗路線と八路軍の役割を明確化した節目だったことが記されている。(china.org.cn)

もっとも、戦後しばらくは記念日の体系が整っていなかった。現在の記念日制度は2014年に全人代常務委が9月3日を「中国人民抗日戦争勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺国家追悼日」として法定化したことに端を発する。政府・公的資料で決定過程が確認できる。(us.china-embassy.gov.cn, 中国法翻訳, ウィキペディア)

🔳「虚構」批判と、毛沢東の“感謝”発言という矛盾
 
この党史叙述に対しては、米国の研究者・メディアから一貫した反論がある。ハドソン研究所のマイルズ・ユーは2025年の論考で、共産党の対日戦「武勲」は誇張であり、戦時の主力は蒋介石の国民党軍で、共産党は戦力温存に努めたと断じた。(hudson.org, Hoover Institution)
同趣旨の指摘は2014年の『ザ・ディプロマット』にも見られ、国民党軍が正面戦で主に戦い、共産党は内戦を見据え勢力を伸ばしたという構図が示されている。(The Diplomat)
戦後記憶の再編については、WSJが習政権の「歴史書き換え」を分析し、ラナ・ミッターら歴史家の見解として、国民党・台湾・米国の貢献が矮小化されている事実を伝えている。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

毛沢東

決定的なのは毛沢東自身の言葉だ。毛は建国(1949年10月1日)後、複数の場で「日本の侵略がなければ、国共合作も、最終的な権力獲得もなかった」と趣旨の発言をしている。とりわけ1972年9月27日の田中角栄との会談に関連し、「日本には感謝せねばならぬ」との言辞が出たと記録され、出典付きで“毛沢東の対日発言”論争として整理されている。一次資料の完全な逐語録は限定的だが、史料化された公的アーカイブや研究史で「侵略が共産党の台頭を促した」という毛の認識自体は確かめられる。(ウィキペディア)

すなわち、毛は日本軍と主に戦ったのは国民党軍である現実を踏まえつつ、その侵攻が結果として共産党の伸長を促したと評価した。一方で党は1937年の洛川会議で「共産党こそ抗日の主体」と公式化し、戦後は国民党の戦功を自党の物語に吸収していった。ここに「発言」と「公式叙述」のズレが生じる。

この矛盾は中国に限らない。ロシアでは2020年の憲法改正で「歴史的真実の保護」を明記し、記憶を法と憲法で固定化した。学術レビューは、憲法67.1条2項が“歴史の武器化”に使われていると分析する。さらに2014年導入の刑法354.1条(“ナチズムの賛美・正当化”)は、第二次大戦史の異説を萎縮させる道具として運用されてきたと法学者は指摘する。(スプリンガーリンク, PONARS Eurasia, Verfassungsblog)
北朝鮮も建国以来、金日成の「抗日パルチザン」神話を国家正統性の核に据え、党史・教材・記念施設で徹底的に再生産してきたことが、比較政治・朝鮮研究の蓄積から知られている(ここは学界一般知として要点のみ挙げる)。

以上を踏まえると、全体主義・権威主義体制の本質は「事実より政治」を優先し、国家目的に適合する形で歴史を設計・固定することだと言える。中国の対日戦叙述はその典型であり、ロシアや北朝鮮の“記憶統治”とも共通の手口を示す。

🔳年表と比較で見る「記憶の制度化」

簡易年表(1937→1949→1994→2014→2015→2021→2025)

  • 1937年:洛川会議。「抗日救国十大綱領」を採択、八路軍を抗日主体に位置付け。(china.org.cn)

  • 1949年:中華人民共和国成立(10月1日)。

  • 1994年:愛国主義教育綱要が発表され、学校・博物館・メディアで対日戦記憶の定着が加速(政府方針・教化政策として制度化)。

  • 2014年:全人代常務委が9月3日を「抗日戦争勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺国家追悼日」に法定化。(us.china-embassy.gov.cn, 中国法翻訳, ウィキペディア)

  • 2015年:戦後70年の大規模軍事パレードを実施。

  • 2021年:共産党「歴史決議」を採択。習近平を“百年史の中心”に位置づけ、歴史解釈を公式に固定。(ウォール・ストリート・ジャーナル)

  • 2025年:終戦80年の一連行事。海外主要紙は、戦時記憶の再動員と対外戦略の接続を指摘。(ウォール・ストリート・ジャーナル, ガーディアン, AP News)

中国・ロシア・北朝鮮の「制度化・法制化・演出」比較

区分 中国 ロシア 北朝鮮
制度化 記念日法定化(2014年)と愛国主義教育の全国展開(1990年代以降) 「歴史歪曲対策」機関設置(2009年)など記憶行政の拡充 党史・教材・記念施設で指導者神話を恒常再生産
法制化 記念日決定の法令化、歴史決議(2021年)による正史固定化 憲法67.1条に「歴史的真実」条項、刑法354.1条の運用拡大 「唯一思想体系」関連規範で歴史叙述を統制
演出 軍事パレード、映画・連ドラ・博物館の演出強化 戦勝記念パレード、記念碑・博物館群の国家演出 映像・文学・記念日動員による英雄譚の上塗り

(ロシア憲法・刑法の位置付けは法学レビュー・憲法学ブログが詳しい。(スプリンガーリンク, PONARS Eurasia, Verfassungsblog))

中国では南京事件を題材とした中国映画「南京写真館」が好調

結語

洛川会議で掲げられた「共産党こそ抗日の主体」という旗印は、戦後の記憶政治で法と制度にまで昇華された。だが、戦時の主力は国民党軍であったという実態、そして毛沢東自身が“日本の侵略が共産党の伸長を結果として促した”と語った事実は、党の公式物語と噛み合わない。ここにこそ、全体主義が繰り返す「事実より政治」の本性が露出する。2025年の記念行事まで連なる長い軌跡は、その証拠である。(hudson.org, The Diplomat, ウォール・ストリート・ジャーナル, ウィキペディア)

※注:毛沢東の「感謝」発言は1972年会談を含む複数の場面で伝えられており、研究的整理の出典として参照しやすいのは英語版の概説記事である(当該項目は出典リンクを多数付す)。逐語の一次史料は限定的だが、趣旨の把握には足りると判断した。(ウィキペディア)

【関連記事】
 
天津SCOサミット──多極化の仮面をかぶった権威主義連合の“新世界秩序”を直視せよ 2025年9月1日 
華やかな多極化の裏で進む権威主義国家の連合と“新世界秩序”構築の危険な動き。中国経済の失速やBRIの行き詰まりを背景に、西側諸国の価値観が揺らぎつつある現実を徹底分析。

【主権の危機】中国の静かな侵略に立ち向かう豪米、日本はなぜ “無防備” なのか 2025年7月13日
アメリカとオーストラリアが進める対中対策と比べ、日本の無策ぶりを鋭く指摘。国家主権と安全保障をめぐる国際的潮流を読み解く。

中国の情報戦は「戦争」だ──七月のSharePoint攻撃が突きつけた日本の脆弱性 
2025年7月22日

Microsoftの業務用サーバーが中国系ハッカーにより侵害。これはサイバーを使った現代の戦争だ。日本はどう備えるべきか。

次世代電池技術、機微情報が中国に流出か 潜水艦搭載を検討中 2025年3月16日
静かに進む技術の侵略。あなたの身近に迫る国家情報法の影。

中国のSNSに“反日”氾濫──地方政府幹部「我々の規律は日本人を殺すこと」—中国人の日本への渡航制限をすべき理由 2024年9月25日
安全保障、健康リスク、経済的影響、国際情勢、そして社会的安定の観点から、中国人の日本への渡航制限は多面的に検討されるべき重要な課題。

2025年8月18日月曜日

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然

 まとめ

  • 石破総裁誕生の裏側には「高市早苗だけは総理にしない」という派閥横断の一致があり、保守派は数の力に慢心して油断した。
  • 2024年6月に自民党公式組織「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が設立され、安倍派系議員が外交・安全保障で具体的提言を始めている。
  • 高市排除の動きは橋下徹氏の発言にも現れており、保守派こそ党内に残るべきで、リベラル左派や親中派が党を出て行くべきだ。
  • 官僚機構は政治理念ではなく天下り利権のために政治へ不当介入し、その結果、我が国の混乱が周辺国を利している。
  • 自民党や立憲民主党の「選挙互助会」的体質は制度疲労を起こしており、政治家は信条ごとに再編し、官僚支配を排して政治改革を急がねばならない。
🔳石破総裁誕生の裏側と保守派の油断


安倍派潰しは石破政権から始まったのではない。発端は岸田政権であり、石破政権はそれをさらに徹底・強化したのである。裏金問題は検察が不起訴としたにもかかわらず、マスコミと連携して巨悪のごとく描き出し、党内手続きの誘導──たとえば次の選挙での公認取り消しなど──にまで利用した。これは「高市早苗だけは総理にさせない」という思惑と直結していた。

総裁選の裏側では、さまざまな旧派閥にまたがる一派が、徹底して高市排除に動いた。メディアを使ったイメージ操作、党内人事を利用した圧力、さらには資金問題を口実にした議員への恫喝。あらゆる手段が総動員され、「高市だけは阻止する」という一点で一致団結したのである。その結果、石破総裁が誕生した。一方で、自民党内で最大の数を誇った保守派は、数の力に慢心し、結束を欠いた。この油断こそが致命傷となった。
 
🔳 保守派の反撃と「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」

しかし保守派は反撃を試みている。2024年6月に設立された「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」は、自民党の公式組織であり、安倍派系議員を中心に立ち上げられた。この組織は、他の類似団体とは異なり、党の正式な枠組みに位置づけられ、外交・安全保障政策で具体的な提言を繰り返している。最近では、南西諸島防衛の強化や日米豪印の連携深化に関する政策提案を行い、党内に一定の存在感を示している。

そこまで言って委員会NP「迷言・暴言」で上半期を大総括!石破総理編も
 
この流れの中で、2025年8月10日放送の読売テレビ『そこまで言って委員会NP』で、橋下徹氏が「自民党が割れるのは大賛成」「高市氏が覚悟を持って割って出られるか」といった趣旨の発言をした。高市早苗氏は8月12日にXでこれへ反論。これは、発言の是非は別にして、いかに自民党内で高市排除が進められているかを象徴する発言である。

しかし自民党の党綱領には「保守政党であること」「憲法改正を目指すこと」が明記されている。ならば、出ていくべきは保守派ではなく、リベラル左派や親中派である。小沢一郎氏には数々の問題があるにせよ、自民党を飛び出し自らの信条を掲げたという一点では、岸田や石破より筋が通っていた。自民党内のリベラルや親中派もまた、小沢氏にならい、自らの旗を掲げて出て行くべきだ。
 
🔳官僚機構の暗躍と政治改革の急務


看過できないのは、官僚機構の暗躍である。財務省や日銀をはじめとする官僚は、政治理念からではなく、天下り先でのリッチな生活を望むという低俗な動機で、政治に不当に介入している。官僚の利権支配は、財政政策や金融政策の停滞を招き、国内の混乱を深める一方で、中国、北朝鮮、ロシア、韓国といった我が国を取り巻く国家を利する結果となっている。

いまや自民党も立憲民主党も、保守からリベラル、左派、親中派までが同居する「選挙互助会」に堕している。この制度疲労を抱えたスタイルは、もはや時代遅れだ。政局の動きは、保守、リベラル、親中、反中といった信条ごとに政党を再編すべき時代の到来を示している。そして政治家は、この混乱を一刻も早く乗り越え、真の政治改革を断行しなければならない。さもなければ、我が国は再び官僚と外国勢力に蹂躙されることになる。

【関連記事】

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
通商交渉における専門性の欠如から国益を損ねる危険性を論じた。

石破茂「戦後80年見解」は、ドン・キホーテの夢──世界が望む“強い日本”と真逆を行く愚策 2025年8月6日
「80年談話構想」の思想的偏向と保守派排除としての政治的意味に切り込む。

安倍暗殺から始まった日本政治の漂流──石破政権の暴走と保守再結集への狼煙 2025年8月2日
総裁選の裏側(高市排除の構図)や保守再結集の流れを深掘り。

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来 2025年6月8日
選挙を契機にした保守派の再編が具体的に描かれており、再編の必然性を示す。

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは―【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ 2024年10月28日
高市氏の戦略的離党の構想を論じ、反高市包囲の構図と保守派が取るべき戦略を展開。


2025年8月16日土曜日

米露会談の裏に潜む『力の空白』—インド太平洋を揺るがす静かな地政学リスク

 まとめ

  • トランプ・プーチン会談は、米露関係改善の可能性を示す一方で、背後には米国がロシアを対中戦略の一部に取り込もうとする思惑がある。
  • ロシアは経済制裁や戦線維持の負担から、完全に中国に依存し続けたとしても余裕がなく、交渉に応じざるを得ない可能性が高い。
  • 中露関係は表面的には堅固に見えるが、歴史的には「氷の微笑」に過ぎず、根底では利害が完全一致していない。
  • 米露接近が進めば、東欧戦線や黒海周辺で抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が生じ、第三国や非国家主体が介入を試みるリスクが高まる。
  • 日本はこの「力の空白」がインド太平洋地域にも波及し、台湾有事や北方領土問題で安全保障環境が急変する危険性を見落としてはならない。

ドナルド・トランプ前米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の会談は、単なる米露接触ではない。そこには米中露三角関係を揺るがす可能性と、「力の空白」をめぐる地政学的な駆け引きが潜んでいる。日本のマスコミは、この会談を「米露接近=中国有利」と短絡的に片付ける傾向がある。しかし現実はもっと複雑で、場合によっては米国がロシアを対中包囲網に引き込む布石にもなり得る。その含意を理解せずに未来を語ることは、国益を危うくする。
 
米露会談の真の背景
 
米露会談の共同声明

今回の会談の背景には、ウクライナ戦争の長期化、経済制裁によるロシア経済の疲弊、そして米中対立の激化がある。バイデン政権下で冷え切った米露関係だが、トランプは「ディール型外交」で条件次第の手打ちを否定しない人物だ。

米国にとって中国は、経済・軍事・技術の全てで長期的かつ包括的な脅威であり、冷戦期のソ連以上に手強い存在だ。ゆえに、米露対立を緩和し、ロシアを部分的にでも中国から引き離す戦略的価値は大きい。

もっとも、現状の中露関係は密接に見える。だがエドワード・ルトワックが評したように、それは「氷の微笑」に過ぎず、長期的信頼関係ではない。歴史的に両国は国境をめぐって何度も衝突してきた。米国はその構造的不信を利用しようとしている。
 
手打ち条件と「力の空白」
 
ロシアは中国陣営に残るのか?

米国がロシアとの条件交渉に臨む場合、ウクライナ戦線や対中関係が重要な取引材料となる可能性がある。特に「中国陣営に残るか否か」が手打ちの条件に含まれることは十分考えられる。

プーチン政権がこれを受け入れるかは別問題だが、ロシアは経済制裁と戦争の負担で余裕を失いつつある。条件次第では、戦略的譲歩を迫られる局面も出てくるだろう。

この時、東欧戦線や黒海周辺では抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が発生する。これは単なる軍事的隙ではなく、第三国や非国家主体(民兵組織、テロ組織、海賊集団など)が行動を開始する契機となる。歴史的に、このような空白は必ず地域の不安定化を招く。
 
日本への波及と今後の展望

インド太平洋地域

「力の空白」は地理的に遠くても日本に無関係ではない。黒海や東欧での抑止低下は、国際秩序全体のバランスを崩し、中国や北朝鮮といった勢力が太平洋での冒険主義を加速させる口実となる。特に南西諸島や台湾周辺の安全保障環境は、欧州情勢の影響を受けやすい。

さらに、米国が対中戦略を優先してロシアとの対立を緩和すれば、米国のアジア太平洋への軍事資源配分が増える半面、米国の中国への圧力はさらに強まり、日本は「最前線の同盟国」としてより強力な役割を求められる可能性も高い。

今後の展望として、米露接触は短期的には東欧情勢を流動化させるが、長期的には米中対立の主戦場をアジアに集中させる力学を強めるだろう。日本はその渦中に置かれ、「他人事」で済ませられる余地はない。

【関連記事】

中国が「すずつき」に警告射撃──本当に守りたかったのは領海か、それとも軍事機密か2025年8月11日
中国海軍による海自護衛艦への警告射撃事件を分析し、その真の狙いを探る。

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略 2025年8月10日
NATOの東方戦略と日本の安全保障を重ね合わせ、力の空白が招くリスクを論じた記事。

サイバー戦は第四の戦場──G7広島から最新DDoS攻撃まで、日本を狙う地政学的脅威 2025年8月8日
国際会議から最新のサイバー攻撃事例まで、日本を取り巻くサイバー脅威を俯瞰。

日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障 2025年7月12日
防衛費増額とNATO戦略の変化が、日本の将来の防衛政策に与える影響を解説。

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男 2025年4月22日
米ロ間のレアアース開発協議を背景に、ロシアの対米戦略と人物像を分析。


2025年8月15日金曜日

力の空白は必ず埋められる―米比の失敗が招いた現実、日本は同じ轍を踏むな

まとめ

  • 2025年8月11日、南シナ海スカボロー礁で中国のミサイル駆逐艦と海警船が衝突。現場はルソン島から120カイリでフィリピンEEZ内にあり、2016年の仲裁裁判所判断にも反し中国は威圧的行動を継続している。
  • 衝突はフィリピン船を追尾していた中国駆逐艦に海警船が接触したもので、海警船は艦首を損傷。救助の申し出に中国側は応答せず、国際法に反する危険な行為とされる。
  • 翌12日、米海軍が駆逐艦「USS Higgins」と沿岸戦闘艦「USS Cincinnati」を派遣し、スカボロー礁近海で航行の自由作戦を実施。2019年以来の展開で米比同盟と国際法秩序の擁護を示した。
  • 背景には1991〜1992年の米軍フィリピン撤退があり、これが力の空白を生み中国の南シナ海進出を許した。その後EDCA締結や中距離・対艦ミサイル配備で米比は抑止力回復を進めている。
  • 日本も防衛力や同盟基盤を弱めれば中国・ロシア・北朝鮮に利用される恐れがあり、米比の過ちを繰り返さず、理念を支える現実の力による抑止を維持・強化すべきだ。
🔳南シナ海で再燃する緊張
 
スカボロー礁近海で、中国人民解放軍のミサイル駆逐艦と中国海警局の巡視船が衝突

2025年8月11日、南シナ海のスカボロー礁近海で、中国人民解放軍のミサイル駆逐艦と中国海警局の巡視船が衝突する異常事態が発生した。現場はルソン島からわずか120カイリ、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置する。2016年の常設仲裁裁判所は、中国が主張する「九段線」を退け、同礁におけるフィリピンの伝統的漁業権を認めたにもかかわらず、中国公船はフィリピン船に対する威圧的な追尾や遮断を繰り返してきた。今回もフィリピン船を追尾していた中国駆逐艦に中国海警船が衝突し、海警船は艦首を大きく損傷。フィリピン側の救助申し出に対し、中国側から応答は確認されていない。このような力による現状変更は国際法の枠組みと相容れず、極めて危険で容認できない行為である。衝突の瞬間は、公開映像の37秒付近で確認できる(映像リンク)。

翌12日、米海軍はアーレイ・バーク級駆逐艦「USS Higgins」と沿岸戦闘艦「USS Cincinnati」を派遣。スカボロー礁から約30海里(約55キロ)の海域で「航行の自由作戦(FONOP)」を実施した。スカボロー礁近海での米艦行動は2019年以来とみられ、米比同盟の結束と国際法秩序を守る強い意志を示した。

中国人民解放軍南部戦区は「米艦が中国の許可なく侵入した」と非難し、「追い払った」と発表した。しかし米第7艦隊はこれを真っ向から否定し、「国際法に基づく正当な航行権の行使だ」と主張。USS Higginsは任務を終え、自発的に離脱したと説明した。両国の発表は真っ二つに割れたままである。スカボロー礁は、仲裁裁判所の判断にもかかわらず、中国の実効支配が進んだ象徴的な地点だ。
 
🔳米比の過去の誤算とその代償
 
中国が南シナ海を自国の「歴史的権利のある海域」として主張するために地図上に引いた九段線

この事態の根には、1991〜1992年の米軍撤退という歴史的な判断がある。当時、フィリピン上院は米軍基地延長条約をわずか1票差(11対12)で否決し、コラソン・アキノ大統領は議会の意思を覆せず、撤退を受け入れた。その結果、クラーク空軍基地は1991年に、スービック海軍基地は1992年に閉鎖・返還され、米軍はフィリピンから完全撤退した。米国側も賃料や核兵器の持ち込みを巡って譲歩を渋り、交渉は決裂。フィリピンにとっては「主権回復」の象徴であったが、戦略的には力の空白を生み、その空白を中国が突いて南シナ海での影響力を急速に拡大した。2012年のスカボロー礁対峙でフィリピンが後退し、中国の支配が既成事実化したのは、その延長線上にある。

その後、米比両国は失われた均衡を回復するため動いた。2014年の防衛協力強化協定(EDCA)によって米軍はフィリピン国内の指定施設にアクセスできるようになり、2023〜2024年にはEDCA対象拠点の拡大とともに、タイフォンやNMESISなどの中距離・対艦ミサイルを段階的に配備した。今回のFONOPも、その戦略の延長線上にある。単なる示威行動ではなく、国際法秩序を現実の力で裏付ける是正措置だ。
 
🔳日本への警鐘
 
中国、ロシア、北朝鮮に隣接する日本

この歴史は明確な教訓を突きつけている。米比が1990年代初頭に犯した最大の過ちは、抑止力の基盤を軽視し、政治的感情と短期的な交渉不調で長期的な安全保障を損なったことだ。その空白は中国によって埋められ、地域のパワーバランスを根底から変えた。米比が今進める再軍備と同盟強化は、単なる失地回復ではなく、過去の戦略的失敗を正す試みである。

そして、この教訓は日本にとっても他人事ではない。我が国が防衛力や同盟基盤を弱めれば、その隙は必ず中国、ロシア、北朝鮮に利用される。彼らは既成事実化や軍事的圧力で勢力を拡大してきた実績を持つ。外交辞令や国際法の条文だけでは、こうした現実を押し返すことはできない。米比のように抑止力の空白を許す愚を繰り返してはならない。守るべきは、理念だけではなく、それを支える確かな力である。これを怠れば、我が国の安全と主権は一気に脅かされるだろう。

【関連記事】

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略 2025年8月14日
NATOの東方展開を横目に、「力の空白が攻勢を招く」という安全保障の本質を鋭くえぐる記事です。日本への示唆も豊富で、今回の南シナ海論考との接続が自然です。

中国が「すずつき」に警告射撃──本当に守りたかったのは領海か、それとも軍事機密か 2025年8月11日
中国の軍事挑発に対して、意図や論理的背景を読み解こうとする鋭い視点の記事。南シナ海での中国行動の実態を理解する上でも参考になります。

サイバー戦は第四の戦場──G7広島から最新DDoS攻撃まで、日本を狙う地政学的脅威 2025年8月9日
サイバー領域からも逼迫する安全保障リスクを描写。現代の複合戦場に対する理解を深め、海洋・軍事だけでなく「多次元的な抑止」の視野を広げる内容です。

日印が結んだE10系高速鉄道の同盟効果──中国「一帯一路」に対抗する新たな戦略軸 2025年8月13日
インフラ融合と外交戦略を結びつけた記事で、地政学的に中国包囲に立つ「鉄道による外交力強化」の視点を提供します。本テーマの戦略的バランス論と響き合います。

制度の穴を突かれた日本──衝撃!名古屋が国際麻薬ネットワークの司令塔だった 2025年8月10日
国際秩序の“穴”が国益を蝕む実例として重く響く記事。制度的空白がどれだけ国の脆弱性を引き出すか、という点で本記事にも通底する警鐘となります。

2025年8月14日木曜日

「力の空白は侵略を招く」――NATOの東方戦略が示す、日本の生存戦略


 まとめ

  • NATOはロシア・イラン・中国への対抗のため、防衛ラインをバルト海から黒海、東地中海へと拡大し、力の空白が生じれば敵が必ず攻勢に出るという現実を踏まえて行動している。
  • バルト三国やポーランドへの強化前方配備(eFP)、黒海沿岸での海上プレゼンス、東地中海での監視・抑止体制など、兵力配置とインフラ整備を伴う実戦的な包囲網を形成している。
  • ドイツはリトアニアに第45装甲旅団を恒久配備し、Leopard 2A8戦車44両とPuma歩兵戦闘車44両を含む部隊を展開予定。オランダ・ノルウェーはF-35をポーランド上空に配備し、ポーランドは「東の盾」構想で国境防衛網を強化している。
  • NATOは欧州防衛にとどまらず、極東からの日米の牽制やインド太平洋・中東との安全保障連携も重視し、イランの核脅威や弾道ミサイルへのBMD体制強化にも取り組んでいる。
  • 日本もロシア・中国・北朝鮮の三正面の脅威に直面しており、NATOのように防衛戦略を地域限定からグローバル視野へ拡張し、多域での安全保障ネットワークを構築する必要がある
🔳力の空白とNATO東方防衛ラインの現実

2008年のグルジア侵攻を皮切りに、2014年のクリミア併合が追い打ちとなり、バルト海から黒海、さらには東地中海へ――安全保障の包囲網が現実のものとなった。ここで見逃せないのは、力の空白が生まれれば、必ず敵が押し込んでくるという冷徹な現実である。クリミア併合も、2022年のウクライナ全面侵攻も、その典型だ。抑止力が弱まり、国際社会の対応が鈍った瞬間、ロシアは迷いなく領土拡張に動いた。


上の地図では、NATOが築き上げた東方防衛ラインの全貌が一目で分かる。バルト三国やポーランドに展開する強化前方配備(eFP)、黒海沿岸諸国での海上プレゼンス、東地中海における監視・抑止体制、さらにリトアニアに恒久配備されたドイツ第45装甲旅団の位置まで、視覚的に把握できる構成になっている。地図を見れば、NATOの包囲線が単なる抽象的戦略ではなく、実際の兵力配置とインフラ整備によって現実に存在することが理解できるだろう。
 
🔳 強化される兵力配置と軍事インフラ

軍事インフラと機動力も飛躍的に向上した。バルト海から黒海に至る兵站ルートは、高速道路や鉄道の軍事利用に対応し、部隊の迅速展開を可能にした。2025年4月には、ドイツがリトアニアに第45装甲旅団(Panzerbrigade 45)を恒久配備。将来的には約4,800人の兵士と200人の文民スタッフを擁し、203装甲大隊にはLeopard 2A8戦車44両、122歩兵戦闘大隊にはPuma歩兵戦闘車44両を配備する予定だ(theguardian.com, de.wikipedia.org)。この旅団は2027年に完全戦力化を目指す。


同時に、オランダとノルウェーはF-35戦闘機をポーランド上空に配備し、24時間体制の警戒を構築中だ。2024年には「Steadfast Defender 2024」と称する約9万人規模の大演習が行われ、早期展開能力と多ドメイン戦闘力が一段と高まった。ポーランドでは「East Shield(東の盾)」構想の下、ロシア・ベラルーシ国境に電子監視、物理的障壁、AIセンシングを組み込んだ防衛網を整備している。
 
🔳欧州を超えたグローバル抑止と日本への教訓

NATOは欧州だけを見ているわけではない。極東からの日米による牽制も望んでいる。日本はNATOのパートナー国として首脳会議に出席し、共同訓練やサイバー・宇宙分野でも協力を進めている。在日米軍と自衛隊のプレゼンスは、ロシア極東への戦略的抑止力だ。

中国との対峙でも役割を果たす。イランの核脅威や弾道ミサイル、さらに中東の不安定化は、NATOのBMD(弾道ミサイル防衛)導入を促す契機となった。2016年ワルシャワ首脳会議ではBMDの初期運用能力が宣言され、2025年にはイランの核兵器開発阻止が議題となった。ホルムズ海峡封鎖などが現実となれば、欧州経済にも直撃するため、軽視できない脅威である。

EUはNATO首脳会議に毎回招待され、参加。 (2016年7月8日、ワルシャワで開催されたNATO首脳会議)

これらすべては、多方面からロシアと中国を消耗させる「現代版・二正面作戦」の構図である。欧州防衛だけでなく、インド太平洋、中東まで視野に入れたグローバルな抑止構造だ。そして、この戦略の根底にあるのは「力の空白を作らない」という鉄則である。空白は、必ず敵の侵略を招く。

この教訓は我が国にも突き刺さる。日本もロシア、中国、北朝鮮という三正面の脅威に直面している。だからこそ、NATOのように防衛戦略を地域限定からグローバル視野へと拡張すべきだ。同盟国との多域連携を強化し、経済、サイバー、宇宙、海洋といった全方位の安全保障ネットワークを築くことこそ、未来の抑止力と国益を守る道である。

【関連記事】

日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障 2025年7月12日
日本は2027年までにGDP比2%の防衛費目標を掲げる中、米国の要求やNATOの構造から学ぶ姿勢が描かれている。防衛戦略の制度化と投資のバランスを論じる記事。

石破首相のNATO欠席が招く日本の危機:中国脅威と国際的孤立 2025年7月6日
日本の外交姿勢が内外にどう受け止められているか、NATO会議への不参加が国際社会に与える影響を鋭く指摘する記事。

ドイツ軍、リトアニアで部隊駐留開始 第2次大戦後初の国外常駐 2025年5月2日
リトアニアへの約4,800人規模のドイツ軍駐留は、NATO東部戦略の象徴的事例。第45装甲旅団の構成や歴史的重要性に触れる。

主張>海底ケーブル切断 深刻な脅威と見て対応を 2025年1月10日
日本の海底通信インフラと潜水艦監視能力の強化について。海洋安全保障の実態が、地政学的視点から描き出されている。

NATO、スウェーデンが加盟すれば「ソ連の海」で優位…潜水艦隊に自信 2023年12月31日
スウェーデンの加盟が、バルト海におけるNATOの戦略的優位をどのように変えるのかを解説し、北欧安全保障を読み解く記事。

2025年8月8日金曜日

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊


 まとめ

  • 日米合意の自動車関税引き下げには「重畳課税」などの抜け穴が残され、米国の裁量で事実上引き上げ可能な危険がある。
  • 2018年の232条関税や米韓FTA改定の事例のように、米国は対中姿勢が弱い同盟国に対して通商面で強硬姿勢を取る傾向がある。
  • 石破政権は経済安全保障や通商の専門性に乏しい人物を重用し、交渉力の低下を招いている。
  • 岩屋毅外相は防衛畑出身で親中派とされ、500ドットコム事件でも米国から警戒される要因を抱えている。
  • 日本が危機を脱するには石破政権を退陣させ、自民党内保守派が実権を回復して米国と足並みをそろえることが不可欠である。
米相互関税の負担軽減措置をめぐり、赤沢亮正経済財政・再生相は7日、米政府が大統領令を修正し、日本を対象に加えると約束したと発表した。徴収し過ぎた関税は7日にさかのぼって還付されるという。さらに米国は、自動車関税引き下げの大統領令も同時期に出す方針を示した。表向きは日米関係の前進に見えるが、実態はそう単純ではない。協定文には重大な抜け穴があり、日本が将来、米国の意向ひとつで不利な立場に追い込まれる危険が潜んでいる。以下、その核心を明らかにする。
 
🔳協定に仕掛けられた“罠”
 
今回の日米合意は、米国が日本から輸入する乗用車の関税を27.5%から15%に下げるという内容だ。日本の自動車産業にとっては、米市場での競争力を高める朗報に見える。だが、その裏には看過できない問題がある。

米国が日本から輸入する乗用車の関税を27.5%から15%に下げることになったが・・・・

最大の懸念は「重畳課税」だ。本来15%に下がるはずの関税に、別の法律や安全保障条項を根拠とした追加課税を上乗せすることが可能な構造が残っている。協定にはこれを禁じる文言がない。つまり、数字だけを見れば譲歩を得たように見えても、米国はいつでも関税を事実上引き上げられるのだ。

さらに、発効時期が曖昧である。日本は即時実施を求めたが、協定には日付も条件も明記されていない。米国は政治状況や経済事情を理由に、発効を先送りできる余地を持つ。しかも協定そのものの拘束力が弱く、米国内の政権交代や議会の圧力で簡単に運用を変えられる。これは同盟国間の信頼を揺るがすだけでなく、日本経済の柱である自動車産業に深刻な打撃を与えかねない。
 
🔳米国の“圧力外交”の前例と対中姿勢の影響
 
この構図は、トランプ政権下での232条関税を思い起こさせる。2018年、米国は鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税を課した。当初、EUやカナダ、メキシコには一時的な適用除外が与えられたが、日本は同盟国でありながら対象から外されなかった。その後、除外措置は短期間で解除され、EUも最終的には対象となった。ただしEUはWTO提訴や報復関税で対抗し、条件付き譲歩を引き出す交渉を展開した。一方、日本は有効な反撃策を取れず、事実上、米国の条件を受け入れた形だ。安倍政権を持ってしてもこれに対処する術はなかったのだ。

親中、親北だった当時の文在寅韓国大統領

米韓FTA改定でも同じ構図が見られる。2018年、米国は韓国に対し、米国製自動車の輸入規制緩和や関税維持を一方的に認めさせた。当時の文在寅政権が親中的かつ北朝鮮に融和的だったことが、米国の強硬姿勢を後押ししたとされる。米国は安全保障と通商を一体で捉える。対中政策で足並みをそろえない同盟国には、経済面での圧力を加えることをためらわない。

この視点で見ると、石破政権の対中姿勢は危険だ。発足以来、中国との関係改善を打ち出し、経済交流や首脳往来を積極的に進めてきた。この動きが米国に「対中で中立に傾く政権」と受け取られれば、通商交渉で一層厳しい条件を押し付けられる恐れがある。
 
🔳石破政権の人事が招く交渉力の空洞化
 
日本がこうした不利な条件を受け入れてしまう背景には、石破政権の人事がある。経済安全保障や通商戦略に精通した保守系の実務派を外し、代わりに専門性に乏しい人物を重用したのだ。
石破政権発足時の閣僚 クリックすると拡大します

経済安全保障担当の赤澤亮正氏は、国際経済交渉の豊富な経験よりも首相との近さで選ばれたとされる。外務大臣の岩屋毅氏は、防衛・外交畑の経歴はあるが通商や経済安全保障の専門性はなく、加えて親中派と見られている。さらに、中国系オンラインギャンブル企業「500ドットコム」を巡る2019年のIR汚職事件で名前が取り沙汰され、東京地検特捜部の捜査対象にもなった。この件は起訴には至らなかったが、米国側から「対中資本と近しい人物」として警戒される要因となった。こうした人物が外相に就任すれば、米国からの信頼度が下がり、通商や安全保障交渉で不利に働くのは避けられない。

こうした布陣では、防御的な条文を協定に盛り込み、相手国の裁量を封じる発想は生まれにくい。結果として、米国の政治判断ひとつで合意の実質が変えられるような危うい協定が結ばれたのである。
 
🔳危機を脱する唯一の道
 
日本がこの危機を脱するには、政権の交代が不可欠だ。石破政権は発足当初から保守派排除の報復人事を繰り返し、保守系の有能な人材を重要ポストから外してきた。組閣に柔軟性はなく、党内融和よりも自らの支持基盤固めを優先している。実際、経済安全保障や外交の要職には、党内保守派や経済交渉の実務派はほぼ起用されていない。こうした人事の偏りが交渉力の低下を招き、今回のような不利な合意を許したことは明白だ。

もちろん、連立政権による再編や保守系新党の躍進というシナリオもあり得る。しかし、当面の課題はトランプ政権との交渉であり、ここで日本側が主導権を握るには、石破首相を退陣させ、自民党内の保守派が再び実権を取り戻すことが望ましい。米国は過去の文在寅政権への対応でも示したように、対中姿勢や安全保障の立場を重視して通商条件を決める。したがって、対中で明確に米国と足並みをそろえる保守派政権こそが、今の日本に必要であり、国益を守るための唯一の現実的な道である。トランプ政権もそれを期待しているからこそ、日本に圧力をかけている可能性も高い。

【関連記事】

【日米関税交渉】日本だけ「優遇措置」が文書に書かれなかった──EUとの差を生んだ“書かせる力”の喪失 2025年8月7日
米国の関税優遇リストにEUは明記、日本は“口約束”止まり。外交交渉力の差が国益を分けた。石破政権の失策と安倍政権との対比を詳しく解説。

トランプの関税圧力と日本の参院選:日米貿易交渉の行方を握る自民党内の攻防 2025年7月8日
関税交渉の裏で進む国内政治の攻防──石破政権が抱える弱点と、自民党内のパワーバランスが浮き彫りに。

トランプ関税30~35%の衝撃:日本経済と参院選で自民党を襲う危機 2025年7月2日
高関税が日本経済に突きつける現実。政権への信頼と国際交渉力が問われる今、何が決定的に足りないのか。

英紙の視点『トランプ関税によって日本が持つ圧倒的な“生存本能”が試されている 2025年4月26日
海外メディアが注目する「日本の生存本能」。関税交渉を通じて問われる、国家としての危機適応力とは。

アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断 2025年4月9日
交渉力を取り戻せるのか。赤沢氏に託された日米関税交渉の今後と、日本の立ち位置の変化を検証。

2025年8月6日水曜日

石破茂「戦後80年見解」は、ドン・キホーテの夢──世界が望む“強い日本”と真逆を行く愚策

まとめ

  • 石破茂首相の「戦後80年見解」は、保守派排除の成果を誇示する政治的パフォーマンスに過ぎず、政権の求心力は失われつつある。
  • この見解は制度批判と過去の自己否定に偏り、国民からの共感を得られず、冷笑の対象となっている。
  • 親中的な姿勢は、日米同盟やフィリピン・インドなどが求める「強い日本」という国際潮流に逆行しており、時代錯誤の印象が強い。
  • 国際社会ではリベラル親中の価値観が退潮しており、石破氏の主張は孤立無援のドン・キホーテのようだ。
  • 安倍晋三元首相の戦後70年談話は今なお生き続け、日本の外交と安全保障政策の中核として国内外に広く受け入れられている。
2025年、石破茂首相が構想する「戦後80年見解」をめぐって、政界・世論ともに緊張が走っている。安倍晋三元首相が遺した「戦後70年談話」との違いは明白であり、国の方向性を決定づける思想的分岐点として、大きな注目を集めている。以下に、石破見解の政治的意味とその限界、そして安倍談話が今なお持つ影響力について論じたい。

🔳石破見解の政治的背景と限界
 
石破茂首相が打ち出そうとしている戦後80年見解は、リベラル左派的かつ親中的スタンスを明確に打ち出したものであり、政権内の統治危機を覆い隠すための政治的パフォーマンスと見るべきだ。安倍派や高市グループなど保守系勢力を排除し、短期的には政権を掌握したものの、その代償はあまりに大きい。政権運営に不可欠な専門性と統治能力、党内求心力を同時に失い、2025年7月の参院選では、自民党は改選議席の約3割を失う歴史的惨敗を喫した。


連立与党との協力関係も破綻寸前であり、石破政権の足元は揺らいでいる。保守系メディアや知識人は、石破氏の「戦争検証」見解を、歴史総括を装った左派的な自己正当化、あるいは中国への宥和メッセージと受け取り、厳しく批判している。世論の支持も広がらず、むしろ政権への不信感を強める材料となっている。

🔳世界の潮流と石破氏の逆行
 
 石破氏は「制度的・構造的検証」を通じて、過去の日本の体制を見直すべきだと主張しているが、これは安倍晋三元首相が唱えた「戦後レジームからの脱却」、つまり国家の誇りと自立の回復とは真っ向から対立するものだ。2015年の安倍談話は、必要な反省と謝罪を含みながらも、未来の世代にまで謝罪を続けさせるべきではないと明言し、保守層だけでなく中道層からも幅広い支持を得た。

それに対し、石破見解は制度批判と過去の自己否定を全面に押し出し、「また謝罪か」「今さら何を」という冷ややかな反応を引き起こしている。国民の関心を引き寄せるどころか、ますます遠ざけているのが現実だ。

 日本周辺で中国・ロシアが行う不審な活動を示す地図 クリックすると拡大します

さらに致命的なのは、石破氏の親中的スタンスが、現在の国際情勢と完全に逆行している点である。アメリカは2010年代半ば、特に2014年から2015年にかけての憲法解釈変更や安保法制の成立以降、日本の再軍備や積極的役割を明確に支持する立場を打ち出してきた。日米同盟の深化には「強い日本」が不可欠だという認識は、もはや超党派的な常識となっている。

また、フィリピン、インド、オーストラリアなども同様に、日本に対して地域安保の中核的役割を期待している。2024年のフィリピンとの相互アクセス協定(RAA)締結や、NATO・EUとの連携強化がその象徴である。つまり、日本が国際社会で責任ある大国としての立場を果たすことは、アメリカだけでなく多くの民主主義国家が求めている共通の要請なのだ。

一方で、いわゆる「リベラル親中的価値観」は、国際的にも明らかに退潮している。Pew Research Centerなどの調査では、過去10年で先進諸国における中国への好感度は大きく低下し、「自由主義」対「権威主義」という価値観の対立が顕在化している。石破氏のように、日本の行動を一方的に自制し、中国に配慮する姿勢は、時代錯誤の極みといえる。

その意味で、石破氏の政治姿勢は、風車に突撃するドン・キホーテのように滑稽である。ただし違いは明白だ。ドン・キホーテは人々に愛されたが、石破氏にはそうした情熱や純粋さはない。あるのは過去への執着と責任回避の演出だけであり、国民の共感どころか失笑を買っているのが実情だ。

🔳今なお生きる安倍談話 
 

一方、安倍談話は今も生き続けている。2015年の戦後70年談話は、「侵略」「植民地支配」「反省」「おわび」といった要素を含みつつ、未来志向の文脈で語られた。これが国内外で高く評価され、その後の菅・岸田政権にも継承されてきた。岸田首相の「新しい資本主義」や外交戦略も、安倍政権が築いた自由で開かれたインド太平洋構想や安全保障路線をそのまま踏襲しており、方向性は一貫している。

安倍談話の基本理念は、すでに日本の国家方針に深く根付いており、単なる「過去の声明」ではない。それは日本の外交・安全保障の土台であり、国際社会が日本に期待する「強い民主主義国家」としての姿そのものなのである。

このように見ていけば、石破見解はたとえ発表されたとしても、総理大臣による歴史的文書として記録されるかもしれないが、現実政治において意味を持つことはない。中国・ロシアや北朝鮮や韓国は、これを利用しようするだろうが、これらの国々は例外的でありしかも少数派であり、仮に石破政権が続いたとしても、これらの国々以外の他の国々との絆を断つことはできない。

昨日も三菱重工業が、オーストラリア海軍の新型護衛艦11隻の建造契約を獲得したことを伝えたばかりである。この動きは、今後ますます強化されるだろう。国民の大多数も石破見解を支持しない。石破見解は「時代錯誤の独白」として、風化し、忘れ去られていくだけであろう。であれば、石破はこのような見解を出すべきではないのはわかりきっている。それに、石破見解を出してしまえば、その時点で自民からさらに離れる有権者も多いだろう。

もし石破見解を出したとして、仮に次の自民党政権がそれを明確に打ち消さなければ、自民党は瓦解するだろう。トランプ政権が、明らかに有害と見られるリベラル左派的価値観に関して、今でも明確に否定するだけではなく、現実に崩壊させつつある現実を直視すべきだろう。石破見解でうろたえ、中露北韓の意向どうりに動く政権に対しては、その政権がどのような政権であったとしても、同盟国や準同盟国などの信頼を失うことになり、それ以前に多くの国民は明確にノーを突きつけるだろう。もう、石破がどうのこうの、党内リベラル親中派がどうのこうのという、自民党保守派の言い訳も効かなくなるなるだろう。

【関連記事】

【報道されぬ衝撃事実】日米が“核使用協議”を極秘に実施 2025年7月27日
安倍路線の安全保障戦略が、いかに深くアメリカとの信頼関係に基づいていたかを示す核心的記事。
石破首相の国際会議ボイコットが招いた外交的失点と、中国への宥和的姿勢に対する批判を展開。

中国の軍事挑発と日本の弱腰外交:日米同盟の危機を招く石破首相 2025年7月11日
日本外交の軟弱化を指摘し、保守層が警鐘を鳴らす背景を明快に描写した分析記事。

石破茂首相の奇異な言語感覚―【私の論評】シンプルな英語 2024年10月5日
石破氏の言語スタイルと、それが象徴する政治姿勢を批評的に分析。リーダーとしての資質に疑問符を投げかける。

石破政権で〝消費税15%〟も──自民総裁選は好ましくない結果 2024年10月2日
増税政策を含む石破政権の経済的無策ぶりに警鐘を鳴らす記事で、安倍政権と政治路線の違いが鮮明に。

2025年8月3日日曜日

「核を語ることすら許されない国」でいいのか──ウクライナ、北朝鮮、そして日本が直面する“抑止力”の現実

まとめ

  • 塩入清香議員の「核武装は安上がり」という発言は、現実的な安全保障論の一環であり、感情的な批判ではなく冷静な議論が必要である。
  • ウクライナの核放棄とロシアの侵攻は、核抑止の喪失が重大な結果を招くことを示しており、核の有無が国の存続に関わる可能性を裏付けている。
  • 北朝鮮の核は、その是非は別として、中国の朝鮮半島支配を抑制する抑止力として現実に機能しており、地域の勢力均衡に寄与している。
  • 日本は唯一の戦争被爆国であるからこそ、核の非人道性と同時に抑止力としての現実的な側面も語る資格と責任がある。
  • 平和は祈りや理念だけでは実現せず、力と抑止と戦略によって守られる。今こそ日本は「核」という言葉に過敏にならず、現実を直視し、国家として安全保障の議論を進めるべき時である。

■「核は安上がり」発言への過剰反応と我が国の現実
 
2025年7月、参政党から参議院に初当選した塩入清香(さや)議員が、ネット番組で「核武装が最も安上がりで、安全保障を強化する手段の一つだ」と発言した。この一言が、即座にマスコミの猛批判を浴びることとなった。

塩入氏は、北朝鮮でさえ核を持ったことで、かつてのトランプ米大統領と直接対話できた事実を引き合いに出し、核が交渉力の源になっている現実を指摘したにすぎない。だが、広島市の松井一実市長は「安上がりではない。的外れだ」と切って捨て、メディア各社も「非人道的」「被爆地への冒涜」と断じた。


しかし、我が国が直面している現実を見れば、塩入氏の発言は決して過激なものではない。むしろ、核アレルギーに支配された我が国で、ようやく口を開いた現実派の第一声である。我が国は中国、北朝鮮、ロシアという核保有国に囲まれている。アメリカの核の傘に全面的に依存するだけで、果たして国民の命を守れるのか。こうした根本的な問いすら、公然と議論できない状況こそ異常である。

塩入氏は、今すぐ核を持てとは言っていない。核という選択肢を封じるべきではないと訴えたにすぎない。それに対し、「議論すら許さぬ空気」で封じ込めようとする側こそ、民主主義の本質を危うくしている。
 
■ウクライナと北朝鮮が示す「核抑止」の現実
 
核兵器の維持には確かに巨額のコストがかかる。しかし問題は、コストの多寡ではない。「何を守るためにその代償を払うのか」である。通常戦力の維持・拡充には膨大な予算と人員が必要だが、核兵器は少数で絶大な抑止力を発揮する。現実の戦争を防ぐ最後の切り札としての価値は圧倒的だ。

ウクライナの例がそれを物語る。1991年、ソ連崩壊とともにウクライナは大量の戦略核兵器を継承し、名目上は世界第3位の核保有国となった。だが1994年、米英露との「ブダペスト覚書」に基づき、すべての核弾頭はロシアへ返還、一部の発射装置や関連施設は現地で解体・廃棄し、見返りに安全保障の保証を受けたはずだった。

ウクライナ中部の旧ソ連軍戦略ミサイル基地跡。核兵器を放棄した後、博物館になった

しかし2014年、ロシアはクリミアを奪い、2022年には全面的に侵攻した。国際社会は条約違反を非難するだけで、ウクライナの主権は踏みにじられた。重要なのは、もしウクライナが核を保持し続けていたならば、ロシアは侵攻をためらった可能性が高いという点である。もちろん、当時ウクライナには核の発射制御権限がなかったという技術的事情はある。しかし、核が「ある」という事実そのものが、抑止として機能した可能性は極めて高い。

北朝鮮も同様だ。彼らの核は日本や米国を威嚇する道具であると同時に、中国をも牽制する手段となっている。米国の戦略家エドワード・ルトワックは、北朝鮮の核保有が東アジアのバランス・オブ・パワーを保っていると指摘する。北に核がなければ、朝鮮半島全体が中国に飲み込まれ、「朝鮮省」あるいは「朝鮮自治区」と化していた可能性は否定できない。

その場合、日本は三方を中国の影響圏に囲まれる地政学的危機に陥っていた。韓国は形式上独立していても、実態は中国の属国になっていたかもしれない。台湾もまた、完全に包囲された状態となり、中国の圧力に屈する可能性は格段に高まっていたであろう。

北朝鮮の核開発は国際社会の秩序に反しているとの批判があるのは当然だ。その是非は別としても、力による均衡が現実に成立しており、それが中国の朝鮮半島支配を抑制しているという地政学的効果を、我々は見逃してはならない。
 
■唯一の被爆国こそ、核の現実を語る資格がある
 
そして忘れてはならないのは、我が国が唯一の戦争被爆国であるという現実だ。広島と長崎に原爆が落とされ、数十万の民間人が命を落とした我が国は、核の非人道性を知る立場にある。しかし、それと同時に、我が国は戦後一度たりとも戦火に巻き込まれていない。その背景には、米国の核抑止が機能してきたという現実もある。

194589日、長崎で原子爆弾が投下された直後に浦上地区の三菱兵器(工場)付近撮影された写真


1998年、インドが核実験を実施した際、我が国政府は強く抗議し、広島・長崎両市も非難声明を発した。だが、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の一部からは、「我が国だけが核を持たず、他国に任せるのは本当に安全なのか」とする声が上がった。核の恐怖を誰よりも知る被爆者自身が、逆に「持たないことの危うさ」に言及したのである。これこそ、真のリアリズムである。

「唯一の被爆国だからこそ核を否定すべき」という思考停止ではない。「唯一の被爆国だからこそ、核の抑止力を誰よりも冷静に語る資格がある」という視点があって然るべきだ。平和を願うからこそ、現実と向き合う必要がある。

真の平和は、祈りだけでは実現しない。力と抑止、そして戦略があって初めて守られる。我が国は今こそ「核」という言葉に怯えるのをやめ、現実を直視すべきである。塩入清香議員の発言は、長らく封じ込められてきた「真の国防」を語る一歩だった。それを感情的に封殺するのではなく、冷静に受け止め、国家として真剣に議論すべき時が来ている。これは彼女個人の問題ではない。我が国の生存に関わる極めて重大なテーマである。

【関連記事】

日米が極秘協議──日本が“核使用シナリオ”に踏み込んだ歴史的転換点(2025年7月22日)
日米が拡大抑止の具体化に向けた戦略協議を進め、日本が核使用の現実性に向き合い始めた転機を解説。

日米が極秘協議──日本が“核使用シナリオ”に踏み込んだ(2025年7月27日)
抑止力としての核の現実に向き合う必要性を論じ、非核三原則に揺らぐ日本の姿勢を鋭く描出。

安倍晋三元首相と南アジアの核戦略:核のトリレンマと日本の選択(2025年5月8日)
インド・パキスタン・中国の核戦略に照らして、日本が選択すべき抑止のかたちを問う。

米戦争研究所、北朝鮮のウクライナ派兵で報告書 実戦経験を…(2024年11月3日)
北朝鮮がロシアと連携してウクライナ戦争に関与することで、核を含む軍事的信頼性を高めようとする戦略を分析。

ロシア派兵の賭けに出た金正恩──北の核は中国にも脅威(2024年10月27日)
北朝鮮の核が中国の朝鮮半島戦略にブレーキをかけるという、逆説的な抑止効果に着目した記事。

#核抑止 #日本の安全保障 #我が国を守れ #塩入清香

2025年7月30日水曜日

【報道されぬ衝撃事実】日米が“核使用協議”を極秘に実施──参院選直前に「2+2会談」中止の本当の理由とは?

 まとめ

  • 日米「2+2」会談は、米国の防衛費増額要求と政権側の選挙戦略上の判断により、直前で見送られた。
  • その背後には、日米が“核兵器使用シナリオ”を極秘協議していた事実の露見を恐れる政権の懸念があったと見られる。
  • この会談中止が繰り返されれば、米国側の信頼を損ない、同盟関係の根幹が揺らぐ可能性がある。
  • 日本は「核の傘の受益者」から「抑止戦略の共同設計者」へと立場を転換しつつあり、タブー視を超えた議論が始まっている。
  • 今、日本は“理想に殉じるか現実に立ち向かうか”という戦後最大の国家選択を迫られている。



「2+2」会談の裏で動いた政権の恐れ
 
2025年7月1日、東京で開催予定だった日米の「2+2」安全保障会合――日本の外務・防衛閣僚と、アメリカの国務・国防長官が一堂に会する同盟最重要の戦略対話――が突如として見送られた。(ロイター)米国側が日本に対し、GDP比3.5〜5%という異例の防衛費増額を要求し、日本側がこれを拒否したという報道が事の発端である。

この会合は、トランプ政権再登場後そうして、石破政権登場後、初の「2+2」となるはずだった。つまり、対中・対北朝鮮政策を含む同盟の戦略調整において極めて重要な節目であった。ところが、アメリカから突きつけられた要求は、すでに日本政府が掲げていた「2027年までにGDP比2%」の目標を大きく上回る水準である。当然、国内の政権運営にとっては爆弾のような話だった。

昨年7月の2+2会議 岸田政権時

加えて、日本は7月20日に参議院選挙を控えていた。対米追従と見なされる譲歩をすれば、国民の不信を招くのは必至だった。だが、それ以上に政権が恐れたのは、別の火種だったのである。それが、「日米両政府が“核兵器使用のシナリオ”について協議していた」という極秘情報の露見である。

2025年7月26日、共同通信が英語版で報じた内容は衝撃的だった。これについては、当ブログにも掲載したが、日本とアメリカの防衛・外交当局が、東アジア有事を想定し、米軍による核使用を含むシナリオを非公開協議していたというのだ。この報道が参院選前に表沙汰になれば、有権者の強い反発を招くのは避けられない。とりわけ、日本が被爆国であるという歴史的背景を踏まえれば、「核兵器使用を前提にした協議を日本が主導的に行っていた」と受け止められるだけで、政権にとっては致命傷となりかねない。

石破政権は、対米関係の戦略的安定と選挙への悪影響の狭間で、極めて難しい判断を迫られていた。最終的に、表向きは会談延期という体裁をとりつつ、実際には米側の要求を呑めず、また核協議の露見を恐れて「逃げた」と言ってよい。だが、逃げることで失ったものも大きい。
 
米国との信頼関係が揺らぎ始めた
 

問題は、単に「延期」されたという事実にとどまらない。参院選に続く政局の混乱、与党内の足並みの乱れ、そして石破政権の求心力低下――こうした要因が続けば、今後も同様の高レベル会談の開催を見送る事態が常態化する。もし日本が、選挙や内政を理由に重要な会議を繰り返し回避するのであれば、米国側の不信は確実に高まる。日米同盟において、政治的な足踏みは抑止力の低下に直結する。それは敵国への“招待状”となりかねない。

問題の核心は、ただの延期ではない。日米同盟の信頼そのものが問われているのである。

さらに、この異例の会合見送りと同時期に、日米間での“核兵器使用協議”の実態が明るみに出た。2024年12月に策定された「拡大抑止ガイドライン」に基づき、日米は北朝鮮による戦術核の使用や、中国の台湾侵攻に伴う核威嚇といった現実的なシナリオを想定し、具体的な対応を協議していた。

この協議は、単なる理論演習ではない。日本政府が、米軍の核使用の決断に対し、どのように関与し、国民に説明責任を果たすかという現実的な訓練である。日本はもはや「核の傘の受益者」ではなく、「抑止戦略の共同設計者」として動き始めているのだ。
 
「理想か、現実か」国家の命運を分ける選択
 

これまでなら政治的タブーとして封印されてきたテーマである。しかし、中国は極超音速兵器と多弾頭ミサイルを配備し、ロシアは核の恫喝を日常的に用いている。北朝鮮は「核の先制使用も辞さず」と公言している。そんな現実の前で、「理想」を語るだけでは国家は守れない。

もちろん、国内の左派勢力や反核団体は激しく反発するだろう。だが、それはもはや“空理空論”に過ぎない。戦争を防ぐ最大の手段は、「こちらは本気だ」と敵に思わせる抑止力である。その抑止の中核に核兵器の存在があるのは、今さら議論の余地はない。

日本は今、戦後最大の岐路に立たされている。「理想に殉じて滅びるか、現実と向き合って生き残るか」。その答えを出す責任は、他の誰でもない、日本国民とその代表にある。そして、その選択を誤れば、次の世代が命をもって代償を払うことになるだろう。

日本は今こそ、「核」という言葉をタブー扱いするのではなく、現実的に捉え、真剣に議論すべき時に来ている。それが、この国を守るということの、本当の意味である。

【関連記事】

日米が極秘協議──日本が“核使用シナリオ”に踏み込んだ歴史的転換点(2025年7月27日)
中国・北朝鮮の核恫喝に備え、日本が米国と具体的戦略を検討。非核三原則から“現実主義”への歴史的転換が始まった。

日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障(2025年7月12日)
日米協力深化と防衛費拡大を通じ、拡大抑止と核の傘の現実化を分析。

米国原潜アイスランドへ歴史的初寄港:北極海の新時代と日本の安全保障への波及(2025年7月10日)
米原潜の戦略的展開を通じて、米国核抑止力が日本との防衛協力に影響する構図を解説。

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と核抑止への影響(2025年6月)
ロシアの空軍力と核抑止戦力がウクライナの攻撃で深刻損傷した事例。抑止力の実効性と弱点を示す。

米海軍がグアムに初のバージニア級原潜を派遣、印太地域情勢に対応(2024年11月)
グアムへの原潜配備が核抑止態勢として機能し、日本の安全保障環境にも寄与する。


2025年7月28日月曜日

中国資本が狙う“国土の急所”──アメリカで進む対中土地規制の全貌と日本への警告

 まとめ

  • 中国などの敵対国による農地・不動産取得が、米国の国家安全保障や食料供給体制を脅かすとして、全米26州が規制法を成立させ、連邦政府も対策に乗り出している。
  • フロリダ州、テキサス州、南・北ダコタ州などでは、中国など特定国に対して不動産取得を全面的に禁止する法律が相次いで成立し、違反者には罰金や土地没収といった厳罰が科される。
  • 2025年7月には、米農務省が全国的な農地取得禁止方針を打ち出し、トランプ政権も中国系企業による農地・住宅取得を封じる法案を推進している。
  • 一部では「実態以上の過剰反応」や「人種差別的だ」とする批判もあるが、裁判所でも合憲性が争われつつ、国家主権を守る正当な措置として支持が広がっている。
  • 日本でも同様の脅威があるにもかかわらず、メディアの報道は極めて少なく、米国の動きを対岸の火事とせず、自国防衛の課題として捉え直す必要がある。


「気づけば、我々の“国土”が奪われつつある」
そう言えば大げさに聞こえるかもしれない。だが、アメリカではいま、中国をはじめとする敵対国による土地取得に歯止めをかけようと、各州が本気で動いている。標的は、軍事基地周辺、農地、水源といった“国の急所”だ。

南ダコタ、テキサス、フロリダ──次々と法案が成立し、外国資本の不動産取得を全面禁止する動きが加速している。2025年には、米農務省が全国規模の取得禁止方針まで打ち出した。

問題は、日本だ。この危機的状況を報じるメディアは少なく、世論もほとんど動いていない。しかし、これは他人事ではない。むしろ日本こそが最も“無防備な国”なのではないか。

以下に、アメリカの法整備の実態をまとめた。これは対米観察のためではなく、私たち自身の未来を守るための警告である。

外資による土地取得は「国家の急所」に刺さる


アメリカ各州で進む「チャイナマネー排除」の法制化は、保守派にとって見過ごせない国家防衛の一環である。背景にあるのは、中国をはじめとする「敵対国家」が、アメリカ国内の農地や不動産を買い漁ることで、国家安全保障や食料供給体制が侵食されるという深刻な懸念だ。特に軍事基地や重要インフラの近隣での土地取得は、情報収集や監視活動の拠点となりうるとして、強い警戒が広がっている。

すでに26の州が、中国など特定国籍の個人や企業による農地取得を制限する法律を成立させ、さらに13以上の州で関連法案が審議中だ。南ダコタ州やノースダコタ州では、中国、ロシア、イラン、北朝鮮といった国家を名指しして、農地の取得やリース契約までも全面的に禁止する法律が実際に施行されている。とりわけ南ダコタ州は、違反者からの土地没収を法定化するなど、容赦ない姿勢を示している。

テキサス州も、かつて否決された法案を修正のうえ再提出し、2025年6月に「SB17」が成立。9月から施行予定のこの法律は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「指定国」と定義し、これらの国と関係するあらゆる個人・企業に対し、農地、住宅地、商業地、インフラ施設を含むすべての不動産取得、そして1年以上の長期リース契約までも禁止する。違反には25万ドルの罰金という厳罰が設けられている。

フロリダ州では2023年に成立した「SB264」が注目された。中国など7カ国の国籍を有する者に対し、農地や軍事施設近辺の不動産だけでなく、住宅購入まで原則として禁止するという、全米でも最も厳しい内容を盛り込んでいる。ただしこの法律は、現在違憲訴訟(Shen v. Simpson)により一部執行が差し止められている。

州法を追うように、連邦政府も動き出した

連邦政府も動きを見せている。2025年7月、米農務省(USDA)は「National Farm Security Action Plan(国家農地安全保障計画)」を発表。敵対国による農地取得を全面的に禁止する方針を打ち出し、中国系企業が保有する土地については、将来的な売却や強制的な権利回収(clawback)を含む措置が検討されている。

さらに、トランプ政権下では「Protecting Our Farms and Homes from China Act(中国による農地と住宅の取得を阻止する法案)」を含む複数の法案が提出された。この法案は、中国共産党と関係のある個人や企業による新規取得を2年間凍結し、既に保有されている不動産については1年以内の売却を義務づけるという強硬な内容だ。対象は農地に限らず住宅にも及び、違反者には資産の没収や刑事罰も科される可能性がある。


こうした連邦・州の動きは、特定の国による土地支配への危機感が、法制度にまで及んだ結果である。事実、ノースダコタ州では中国企業が空軍基地近隣の土地を取得しようとした案件が国家安全保障上の懸念として実際に問題化し、中止された事例もある。もはや仮定の話ではない。

「過剰反応」か「当然の防衛」か──問われるのは覚悟

こうした流れに対して、一部では「行き過ぎだ」との批判もある。たとえば、中国系企業が保有する農地は全米の1%にも満たないという報告があり、実態以上に危機を煽っているのではないかという声もある。また、外国籍者への一律な取得制限については、人種差別や平等保護条項に違反するとの憲法上の問題を指摘する意見も少なくない。実際、フロリダ州の法案は、アジア系住民らによる訴訟により連邦控訴裁判所が執行停止を命じるなど、司法の場でも争われている。

それでも、保守派にとってはこの問題は、単なる不動産取引の枠をはるかに超えている。これは国家主権と安全保障の問題であり、敵対国に国土を明け渡すような行為を看過するわけにはいかない、という揺るぎない信念がある。軍事と食料の安全を他国に握られては、主権国家としての自立は成り立たない。だからこそ、アメリカの各州は法整備を急いでいるのだ。


中国人成金と拝金建設会社に麓の森林を不法に伐採され傷ついた羊蹄山

そしてこの動きは、日本にとっても無関係ではない。中国の影響力が増す中で、日本国内でも似たような土地取得が進んでいる現実があるにもかかわらず、メディアはこの問題をほとんど取り上げない。これは危機そのものの見落としであり、あるいは意図的な無視とも言える。アメリカの動きは、単なる地方立法の話ではない。これは国家を守るという当たり前の意思表示であり、主権国家であるならば本来当然にとるべき対応なのだ。

今、日本人が学ぶべきは、「自由主義国家を装った経済的侵略」にどう向き合うか、その覚悟の差である。

以下、ご指定のブログ記事を踏まえ、今回の記事にふさわしい関連記事を5本選んでご紹介します。アメリカの土地規制、対中安全保障、そして日本の無防備性というテーマに共鳴する内容です。

【関連記事】

【主権の危機】中国の静かな侵略に立ち向かう豪米、日本はなぜ “無防備” なのか(2025年7月13日)
アメリカとオーストラリアが進める対中対策と比べ、日本の無策ぶりを鋭く指摘。国家主権と安全保障をめぐる国際的潮流を読み解く。

中国フェンタニル問題:米国を襲う危機と日本の脅威(2025年7月)
中国が関与する薬物問題から見える「国家ぐるみの浸透工作」。土地問題だけにとどまらない中国の全体戦略への警鐘。

羊蹄山の危機:倶知安町違法開発が暴く環境破壊と行政の怠(2025年6月17日)
外国資本による北海道での違法開発事例を取り上げ、日本国内の土地利用と安全保障の脆弱性を浮き彫りにする。

200カ所指定へ―「土地利用規制法」の全面施行では未だ不十分!(2022年2月6日)
日本政府が導入した土地規制法の限界を指摘。国家防衛の観点から、さらなる立法強化の必要性を訴える。

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論(2025年2月)
アメリカとのエネルギー協力を通じた地政学的安定への寄与と、日米戦略連携の重要性に触れた一編。

#チャイナマネー排除 #国家安全保障 #日本も他人事ではない

タイフォン日本初公開──中露の二重基準を突き、日本の覚悟を示せ

まとめ 米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン」が岩国基地で初公開され、トマホークとSM-6を搭載する多用途抑止力として示された。 タイフォンの公開は、米国の「第一列島線」戦略と日本の反撃能力整備の動きが重なり合う象徴的な出来事となった。 背景にはINF条約の崩壊があり、ロシ...