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2025年6月2日月曜日

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と経済・軍事への衝撃

まとめ
  • ウクライナ保安庁が「クモの巣」作戦でロシアの軍用飛行場を無人機攻撃、戦略爆撃機など41機を破壊。損失は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載機の34%を直撃。
  • ロシアは攻撃前、戦略爆撃機を60~70機保有(実働50~60機)、41機喪失で残存30~50機に減少し、戦略航空戦力と核抑止力に深刻な打撃。
  • ロシア経済は2024年GDP約2兆ドル、軍事費は1,489億ドル(GDP7.1%)で、70億ドルの損失は軍事予算の5%。制裁やインフレで経済は脆弱化。
  • ウクライナは西側から1,000億ドル以上の支援で精密攻撃を強化、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、北朝鮮や中国の支援に依存。
  • ロシアの持久戦優位性が揺らぎ、50万人の動員に対し30万人以上の死傷者、兵器生産の停滞、インフラ事故で国内混乱が増幅。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。
無人機(ドローン)攻撃によるものとされる黒煙=1日、ロシア・イルクーツク州

ウクライナ保安庁がロシアの軍用飛行場を無人機で襲撃する「クモの巣」作戦を敢行し、戦略爆撃機など41機を破壊したとウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」が報じた。この作戦は1年半以上かけて準備され、トラックに隠した無人機を遠隔操作で攻撃する巧妙な手法だ。ロシアは攻撃前、戦略爆撃機(Tu-95、Tu-160、Tu-22M3)を60~70機保有していたと推定されるが、稼働率を考慮すると実働は50~60機程度だ(国際戦略研究所『Military Balance 2024』)。

もしウクライナの主張通り41機が破壊されたなら、残存機数は30~50機に激減し、ロシアの戦略航空戦力や核抑止力に深刻な打撃を与える。損失額は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載可能な機体の34%を直撃したとされる。

ロシアの反応と広がる混乱

ロシアの戦略爆撃機「ツポレフ95」

ロシア国防省はイルクーツク州やムルマンスク州など5州の飛行場が攻撃され、航空機が火災を起こしたが、けが人はなく、関係者を拘束したと発表した(タス通信、2025年6月1日)。イルクーツク州知事は「シベリア初の無人機攻撃」と強調。一方、ロシア西部ではブリャンスク州で陸橋崩壊による列車脱線で7人が死亡、クルスク州でも鉄橋事故で運転士らが負傷し、原因が調査中だ(ロイター、2025年6月1日)。

ウクライナのゼレンスキー大統領は作戦を主導したマリュク長官と笑顔で握手する写真を公開し、「1年6か月9日にわたる準備の末の歴史的行動」と絶賛した(ウクライナ大統領府、2025年6月1日)。この作戦はロシアの軍事力を弱体化させるウクライナの戦略の一環であり、潜伏者の活用が鍵だ。

経済と軍事への甚大な打撃
この攻撃の衝撃はロシアの経済と軍事に重くのしかかる。ロシアの2024年名目GDPは約2兆ドル(約300兆円)、軍事費は約1,489億ドル(約22兆円)で、GDPの7.1%を占め、欧州全体の防衛費(約4,570億ドル)を超える(SIPRI 2024)。だが、70億ドルの損失は軍事予算の5%に相当し、高価な戦略爆撃機の喪失はウクライナへの攻撃力と核抑止力を直撃する(BBC、2025年6月2日)。

日本の2024年GDPは約4兆ドル、軍事費は553億ドル(GDPの1.4%)だが、もし3%に引き上げれば約1,800億ドルとなり、ロシアを上回る(SIPRI 2024)。ロシア経済は軍事費に偏重し、予算の40%が防衛・安全保障に投じられるが、インフレ率7.4%と労働力不足で成長は鈍化(世界銀行、2024年)。制裁によるハイテク製品の入手困難やエネルギー輸出の減少(1日約7500万ドル、ブルームバーグ、2024年12月)も重なり、今回の損失は経済と戦略に致命的な打撃だ。

ウクライナは軍事拠点やインフラを的確に攻撃し、米国、NATO、EUからの約1,000億ドル以上の支援でドローンや精密兵器を強化している(SIPRI 2024)。2023年の黒海艦隊攻撃では旗艦「モスクワ」を撃沈し、ロシアの黒海支配を揺さぶった(ロイター、2023年4月)。対して、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、2024年10月のミサイル攻撃では民間施設を破壊、20人以上の死傷者を出した(国連人権高等弁務官事務所、2024年11月)。

ドネツク州バフムト西方に位置するチャソフヤルで行われたロシア軍人の葬儀(2025年2月25日

支援は北朝鮮の砲弾(2024年約100万発)や中国の部品供給に限られ、西側に劣る(CSIS 2024)。従来、領土や資源、兵力で持久戦はロシア有利とされたが、この状況が続けば優位性は崩れる。ロシアは50万人の動員に対し、30万人以上の死傷者を出し(英国防省2024年)、兵器生産はソ連在庫に依存、新規生産が滞る(フィナンシャル・タイムズ、2025年6月2日)。ブリャンスクやクルスクのインフラ事故はウクライナの作戦と連動し、国内の混乱を増幅させる(ガーディアン、2025年6月2日)。今回の攻撃はロシアの軍事力と経済を直撃し、戦争の負担を増大させる。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。

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2025年5月25日日曜日

トランプ政権、NSC大規模再編に着手「ディープステート取り除く」—【私の論評】ディープステートを暴く! 日本財務省と米国NSCが民意を裏切る実態

トランプ政権、NSC大規模再編に着手「ディープステート取り除く」

まとめ
  • トランプ政権のNSC再編:ルビオ国務長官が主導し、NSCの約350人職員を半減、場合によっては50人程度まで削減する大規模な再編を開始。政権はNSCを「ディープステート」の中心とみなし、トランプのビジョンに合わない官僚を排除する方針だ。
  • MAGA派とタカ派の対立:トランプ政権内で、国内優先のMAGA派と国際関与を重視するタカ派が対立。2025年4月、MAGA派の影響力が増す中、タカ派のウォルツ大統領補佐官が情報漏洩を理由に解任され、背景に路線対立が指摘される。
  • ルビオの役割と影響:ルビオ国務長官がウォルツの後任としてNSCを暫定掌握。MAGA派に接近し、トランプの信頼を得ており、長期兼務が計画される。右派活動家ローラ・ルーマーの進言で、忠誠心不足とされる職員の解任も進む。
ルビオ米国務長官

米メディア「アクシオス」は23日、トランプ政権が国家安全保障会議(NSC)の大幅な再編に着手したと報じた。ルビオ国務長官が大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を兼務し、約350人の職員を半数以下、場合によっては50人程度まで削減する計画を主導。政権高官は「NSCは『ディープステート』の象徴」と批判し、政権のビジョンに合わない官僚を排除する方針を示した。NSCは外交・安保政策の調整や大統領への助言を担う重要組織だが、国務省や国防総省との役割重複が指摘されており、規模縮小を求める声もあった。削減対象にはウクライナ情勢やカシミール問題担当の職員も含まれ、多くは派遣元の国務省や国防総省に戻る見込み。

政権内では、トランプ大統領に忠誠を誓い国内優先の「MAGA派」と、国際関与を重視する「タカ派」の勢力が対立。MAGA派の影響力が増す中、「タカ派」のウォルツ大統領補佐官が情報漏洩を理由に解任されたが、背景にはMAGA派との路線対立が指摘される。さらに、トランプ支持者の右派活動家ローラ・ルーマー氏が「忠誠心不足」を理由に複数職員の解任を進言したとされる。ルビオ氏はウォルツ氏の後任として暫定的に補佐官を兼務し、MAGA派に接近しながらトランプ氏の信頼を得ており、トランプ氏はルビオ氏の長期兼務を希望している。

【私の論評】ディープステートを暴く! 日本財務省と米国NSCが民意を裏切る実態

まとめ
  • ディープステートの存在と脅威:ディープステートは、選挙で選ばれた指導者の意図を無視し、官僚が裏で政策を操る現象であり、呼称はどうであれ、どの国にも存在する。民意から乖離すると民主主義への脅威となる。
  • 日本における財務省のディープステート性:財務省は「ワニの口」理論で財政赤字を過剰に恐れ、2019年の消費税10%引き上げなど民意を無視した増税を強行し、経済成長を阻害する。
  • 米国におけるNSCとディープステート:トランプ政権はNSCをディープステートの中心とみなし、2025年にルビオ国務長官主導で職員を大幅削減。ウォルツやナウロザデーの解任事例が民意に反する官僚の排除を示す。
  • 歴史的背景と世論:1980年代のイラン・コントラ事件がNSCのディープステート性を示し、世論調査(2018年モンマス大学、2019年エコノミスト/YouGov)で米国民の多くがディープステートの存在を信じる。
  • 日米での改革の必要性:日本は財務省の硬直した財政路線を、米国はNSCや財務関連機関の民意無視を打破し、民主主義に基づく政治を取り戻すべきである。

ディープステートは、どの国にも存在する。呼び名などどうでもいい。政府内の官僚が、選挙で選ばれた指導者の意図を無視し、裏で政策を操る現象だ。ディープステートの存在なるものは陰謀論であり、そのようなものはこの世に存在しないという発言こそが陰謀論だ。呼び方はともあれ、それは確実に多くの国々に存在する。存在しないとすれば、中国・ロシア・北朝鮮などの全体主義国家だろう。しかし、これらの国々でさえ、存在すると見るべきだろう。

日本では、財務省がその象徴だ。増税や財政緊縮を強硬に推し進め、国民の声からかけ離れた姿勢は、ディープステートの体現そのもの。特に、財務省が振りかざす「ワニの口」理論――歳出と歳入のギャップをワニの口に見立て、財政赤字を過剰に恐れる主張――は、小学生のお小遣い帳のような単純さで、経済の複雑さを無視した低レベルな議論だ。

米国でも、こうした硬直した思考が国家安全保障会議(NSC)や関連機関に見られ、トランプ政権はこれをディープステートの中枢とみなし、徹底的に叩き潰そうとしている。ディープステートが民意を裏切る時、民主主義への脅威となる。日本も財務省の影響力を排除し、米国もNSCを浄化し、民意を貫く政治を取り戻すべきだ。

NSCは、ホワイトハウスの中枢で外交・安全保障政策を調整し、大統領に助言する要の組織だ。そのスタッフの多くは国務省や国防総省からの出向者だ。トランプ政権はこれを「アメリカ第一」の旗印に背く存在と断じる。2025年5月、米メディア「アクシオス」は衝撃的な報道を放った。マルコ・ルビオ国務長官が主導し、NSCの約350人の職員を半数以下、場合によっては50人にまで削減する大規模な再編が始まった。

政権高官は言い切った。「NSCはディープステートの極みだ。根こそぎ排除する」。この言葉は、NSCがトランプのビジョンとズレ、有権者の民意を踏みにじっているとの信念を映す。米国でも、財務省や議会予算局が財政赤字のリスクを強調し、トランプの経済成長策と対立することがある。これが、ディープステートの一端としてトランプ支持者に批判される理由だ。

日本では、財務省さらに強烈な批判を浴びる。2019年の消費税10%引き上げは、経済停滞を懸念する民意を無視し、批判を招いた。財務省の「ワニの口」理論は、歳入と歳出のバランスを過剰に重視し、成長を後回しにする単純な発想だ。専門性などと呼ぶのは笑止千万だ。資産を持たない小学生の小遣い帳のような発想で、経済の複雑さを捉えていない。米国でも、連邦予算の議論で財務省や議会予算局が赤字削減を優先し、インフラ投資や福祉を犠牲にする姿勢が、トランプの経済政策と衝突する。これが、NSCや財務関連機関がディープステートとみなされる理由だ。

新川浩嗣(しんかわ ひろつぐ)財務次官

2025年4月、マイク・ウォルツ大統領補佐官が解任された。彼は国際関与を重視する「タカ派」で、トランプの国内優先を掲げる「MAGA派」と対立した。表向きの理由は、通信アプリ「シグナル」での情報漏洩だ。だが、真相はMAGA派との路線対立だ。ルビオがNSCを掌握し、100人以上の職員が解雇されたか、出向元に返された。この動きは、トランプが民意を阻む者を許さない姿勢を示す。

2017年のサハール・ナウロザデーのケースも象徴的だ。彼女はNSCでイラン専門家としてイラン核合意に貢献した官僚だった。保守系メディア「ブライトバート」は、彼女がオバマ政権の政策を支持し、トランプの対イラン政策に異を唱えたと報じた。彼女はトランプへの忠誠心が欠けるとされ、NSCから異動させられた。こうした事例は、トランプ政権が民意に反する官僚を排除する決意を映す。日本でも、財務省が民意を無視した増税を押し通す姿はさらに苛烈だ。

1980年代のイラン・コントラ事件は、NSCがディープステートのレッテルを貼られる歴史的背景だ。NSCのオリバー・ノースらが、レーガン大統領の政策を無視し、イランへの武器売却とニカラグア反政府勢力への資金提供を秘密裏に進めた。この事件は、NSCが大統領の統制を離れる危険性を知らしめた。日本でも、財務省が予算編成や税制で政府を凌駕する影響力を持ち、政治家への圧力が指摘される。これが民意から乖離したディープステートの特徴だ。

オリバー・ノース

世論もこの見方を後押しする。2018年のモンマス大学の調査では、74%が「非選挙の政府関係者が秘密裏に政策を操る可能性が高い」と答えた。2019年のエコノミスト/YouGov調査では、共和党支持者の70%が「ディープステートがトランプを妨害している」と信じていた。日本でも、2020年の朝日新聞の世論調査で、消費税増税に反対する国民が60%を超えたのに、財務省は増税を強行。この乖離は、ディープステートの存在を浮き彫りにする。米国では、財政赤字を過剰に恐れる連邦機関の硬直した姿勢が、トランプの経済成長策を阻む。

学者たちはディープステートを否定する。ハーバード大学のスティーブン・ウォルトは、外交政策のエリートは公然と活動し、陰謀などないと言う。だが、トランプ政権は動く。ルビオのNSC掌握と職員削減は、民意を反映する組織への変革だ。日本も、財務省の硬直した財政路線を打破すべきだ。幼稚な「ワニの口」理論は国民の生活を圧迫するだけだ。

トランプの戦いは、民主主義を守ることができるのか、ただの政治的かけ声に終わるか。日本でも、財務省の壁を打ち破る戦いが続いている。現状では、財務省が圧倒的に有利にも見えるが、この民主主義と官僚のせめぎ合いは、日米ともに民主主義の勝利に終わらせなければならない。

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2025年5月24日土曜日

ドイツ軍、リトアニアで部隊駐留開始 第2次大戦後初の国外常駐、ロシアに隣接—【私の論評】ドイツの覚醒と日本の半覚醒:ロシアの誤算が変えた欧州とアジアの未来

ドイツ軍、リトアニアで部隊駐留開始 第2次大戦後初の国外常駐、ロシアに隣接

まとめ
  • ドイツ軍の駐留開始:バルト3国のリトアニアで、ドイツ軍約5千人規模の常駐部隊の配備が始まり、これは第2次大戦後初のドイツの国外常駐。メルツ首相はNATOの防衛強化への責任を強調し、リトアニアの受け入れに謝意を表明。
  • 背景と戦略的意義:ウクライナ侵攻やトランプ米政権の欧州安保への消極姿勢を受け、NATOは東部防衛を強化。リトアニアはロシアの飛び地カリーニングラードやベラルーシに隣接し、欧州安保における戦略的要衝として重要。

 バルト3国のリトアニアで、ドイツ軍約5千人規模の常駐部隊の駐留が始まった。これは第2次大戦後初のドイツの国外常駐で、NATOの東部防衛強化の一環。メルツ首相はリトアニアの首都ビリニュスでの発足式で、NATOの信頼に応え、責任を果たすと強調。

 ウクライナ侵攻やトランプ米政権の欧州安保への消極姿勢を受け、欧州の安全保障と自国の防衛力強化を最優先に掲げる。リトアニアはロシアの飛び地カリーニングラードや同盟国ベラルーシに隣接し、戦略的に重要な位置にある。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたいかは、元記事をご覧ください。

【私の論評】ドイツの覚醒と日本の半覚醒:ロシアの誤算が変えた欧州とアジアの未来

まとめ
  • ドイツの覚醒:ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)でシュルツ政権が「時代の転換点」を宣言。国防費をGDP2%超(560億ユーロ)に増額し、リトアニアに4800人規模のドイツ軍を常駐(2023年12月合意、2025年開始)。
  • メルツの加速:メルツ政権はリトアニア駐留、タウルスミサイル供与検討(2025年2月)、EU・NATOリーダーシップ強化、AfD支持の移民法案(2025年1月)、対中「デリスキング」で戦略大国化を推進。
  • ロシアの失敗:ウクライナ侵攻はドイツのエネルギー依存(2021年ロシア産ガス55%)を打破。2023年ガス輸入ゼロ、NATO・EU結束を強化し、プーチンの誤算でドイツを「欧州の牽引者」に変えた。
  • 日本の半覚醒:2022年安保3文書改定で防衛費GDP2%(2027年11兆円)目指すも、憲法9条や世論(2024年増税反対56%)で遅延。中国・北朝鮮の脅威への対応は米国依存に偏る。
  • 日本の課題:広島G7(2023年)でのウクライナ支援や日韓関係改善(2023年3月)は進むが、中国依存(2023年輸出19.7%)脱却は遅い。ドイツに倣い、憲法改正、自主防衛力強化で覚醒が必要。
戦後の抑制とドイツの歴史的転換

1939年のドイツ国防軍の勝利パレードの際に撮影された写真。

第二次世界大戦後、ナチス・ドイツの侵略責任から軍事行動を厳しく制限されてきたドイツ。基本法第87a条は軍の使用を防衛目的に限定し、議会承認を義務づけた。海外派兵は1999年のコソボや2001年のアフガニスタンでのNATO・国連の平和維持活動など、例外に限られた(SIPRIデータ)。この慎重姿勢は、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)で一変。シュルツ政権の「時代の転換点(Zeitenwende)」演説(2022年2月27日)は、国防費をGDP2%超(2022年560億ユーロ)に増額し、リトアニアへのドイツ軍常駐を決定。過去の欧州なら反対の声が上がっただろうが、今は誰も異を唱えない。プーチンの侵略が、ドイツを「眠れる巨人」から覚醒させたのだ。

2023年12月18日、ドイツとリトアニアの国防相は、4800人規模のドイツ軍常駐部隊をリトアニアに配備する合意に署名。2025~26年に大半が到着し、2027年に戦闘態勢が整う。NATO加盟国である両国は、ロシアの脅威に対抗し、東部国境の防衛を強化。既存のNATO多国籍部隊(約1000人)も統合される。リトアニアはGDPの0.3%を投じて、ドイツ軍のための住宅や訓練場を整備。この駐留は、ドイツの戦後初の恒久的海外派兵であり、歴史の転換点である。

メルツ政権の加速とプーチンの誤算

メルツ首相

メルツ政権は、シュルツの「時代の転換点」を引き継ぎ、覚醒を加速させた。リトアニア駐留やタウルスミサイルのウクライナ供与検討(2025年2月キエフ訪問)は、ドイツの安全保障の新時代を示す。外交ではEUとNATOでのリーダーシップを強化し、フランスやポーランドとの協力を深化。移民問題では、2025年1月の厳格な法案(国境での即時送還)を保守派AfDの支持を得て可決し、国民の不安に応えた。経済では減税と対中「デリスキング」で競争力を取り戻す。メルツの改革は、メルケルやシュルツの消極姿勢を打ち破る。だが、AfDとの協力や債務ブレーキ改正(2025年3月提案)によるインフレ懸念は課題だ。トランプ政権の孤立主義やエネルギー危機も、ドイツの覚醒を試す。

ロシアのウクライナ侵攻は、ドイツをエネルギー依存(2021年ロシア産ガス55%)と「平和ボケ」から目覚めさせた。2023年、ロシア産ガス輸入をゼロにし、NATOとEUの結束を高めた。ドイツは消極的な経済大国から、軍事・外交・経済で積極的な戦略大国へ変貌。リトアニア駐留やウクライナ支援は、ロシアの地政学的影響力を抑え、ドイツを「欧州の牽引者」に押し上げた。プーチンの最大の誤算は、ドイツの覚醒を呼び起こしたことである。この覚醒は、欧州安保の新時代を切り開く。

日本の半覚醒と必要な変革

日本の海上自衛隊

一方、日本は「半覚醒」にとどまる。2022年12月の安保3文書改定で、防衛費を2027年までにGDP2%(11兆円)に増額し、反撃能力を決定。だが、憲法9条や世論の反対(2024年増税反対56%、NHK調査)で改革は遅い。中国の台湾海峡軍事演習(2023年4月常態化)や北朝鮮のミサイル発射(2023年30回以上、国連報告)はロシア並みの脅威だが、日本は米国依存が強く、ドイツのような地域リーダーシップは不十分。エネルギー輸入依存度88%(2022年、経産省)や中国への輸出依存(2023年19.7%、JETRO)も、ドイツのロシア依存脱却(2023年ゼロ)に比べ遅れる。

2023年5月の広島G7で、岸田首相はウクライナ支援(76億ドル)を表明したが、ドイツのタウルス供与検討に比べ軍事支援は控えめ。日韓関係改善(2023年3月)は進めるが、中国や北朝鮮への対応は日米中心。2024年10月の日中首脳会談は、軍事圧力への対抗より経済協力を優先。日本の外国人労働者200万人(2023年、厚労省)は増加するが、ドイツの移民法案のような大胆な対応はない。2022年8月の中国の台湾海峡演習は危機感を高めたが、防衛費増額は計画段階にとどまる。

ドイツのメルツ政権は、国民支持(2025年選挙CDU28.6%)と危機感で覚醒を加速。リトアニア駐留やエネルギー自立は、戦後ドイツの軍事抑制を覆した。日本は、ドイツに倣い、憲法改正、自主防衛力の強化、脱中国依存を急ぐべきだ。中国と北朝鮮の脅威は待ったなし。ドイツ並みの覚醒で、アジアの戦略大国として地域の安定を担う必要がある。この覚醒は、国民の危機意識と国際的期待に支えられ、決して後戻りしない変革となろう。

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2025年5月16日金曜日

弱体化するアメリカを支えよ:日本の戦略的選択—【私の論評】歴史の警告と日本の覚悟:アメリカ衰退と保守の逆襲が未来を決める

弱体化するアメリカを支えよ:日本の戦略的選択

まとめ
  • 歴史の不確かさと繰り返し:歴史は現在の視点で切り取られた不確かなもので、過去の出来事は一義的ではなく、マーク・トウェインの「歴史は韻を踏む」に象徴されるように、似た状況が繰り返される可能性がある。
  • 地政学的危機とアメリカの衰退:EUがドイツの再軍備を支持する背景には、アメリカのNATOやEU防衛からの離脱懸念があり、パクス・アメリカーナの崩壊と国際秩序の欠如が貿易戦争や世界戦争のリスクを高めている。
  • 日本の危機と対応:日本はロシアや中国などの脅威に囲まれ、国内政治の不安定化リスク(与党の議席喪失)が内部崩壊を招く可能性があり、アメリカの再建に協力しつつ経済・防衛で必要とされる国を目指す必要がある。

マーク・トウェイン

歴史を学ぶ意義は、過去の出来事や立場を知ることにあるが、過去は現在の視点で切り取られた不確かなものにすぎない。マーク・トウェインの「History doesn’t repeat itself, but it often rhymes.”(歴史は繰り返さないが韻を踏む)」という言葉は、歴史は同じではないが、似た状況が繰り返されることを示唆する。

EUがドイツの再軍備を支持する驚くべき動きは、トランプ政権下でアメリカがNATOやEU防衛から距離を置く可能性が高まり、ロシアの脅威に対抗するためドイツに頼る必要が生じたためだ。アメリカの影響力低下はオバマ時代から続き、かつての「パクス・アメリカーナ」は崩壊した。

歴史学者のハラリ氏は、トランプ氏の政策が貿易戦争や軍拡競争を招き、世界戦争や生態系崩壊に繋がると警告し、国際法がない中での平和的紛争解決の難しさを指摘する。日本もロシア、中国、北朝鮮に囲まれ、平和が脅かされる危機に直面している。

アメリカの再建に協力し、経済と防衛で必要とされる国になることが求められる。しかし、日本の国内政治にも危機が迫る。自民党と公明党の与党が参議院選挙で過半数を失う可能性があり、国民民主党と組めば一時的に凌げるかもしれないが、次の衆議院選挙で安定した与党が消滅すれば、日本は内部から崩壊する恐れがある。

この政治的動揺は、外部の地政学的危機と並ぶ差し迫った脅威だ。問題はトランプ氏ではなく、アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊にある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】歴史の警告と日本の覚悟:アメリカ衰退と保守の逆襲が未来を決める

まとめ
  • 歴史の教訓と危機の繰り返し:マーク・トウェインの「歴史は韻を踏む」に象徴されるように、過去の危機は形を変えて繰り返される。歴史を学ぶ意義は、現代の地政学的危機を見抜くことにある。
  • アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊:「パクス・アメリカーナ」の崩壊とアメリカの軍事・製造業の衰退(DVA約75%)が、EUのドイツ再軍備支持やハラリの警告する貿易戦争・世界戦争リスクを招く。
  • 日本の地政学的脆弱性と強み:日本はロシア・中国・北朝鮮に囲まれる中、製造業のDVA80%(世界トップ)や造船技術を活かし、防衛力強化とアメリカとの協力で自立を目指すべきだ。
  • 国内政治の危機と過剰な悲観:石破政権の再エネ偏重や曖昧な外交はショルツ政権の失敗(ドイツ経済マイナス0.2%)を想起させるが、「崩壊」論は過剰で、ドイツの政権交代成功例と矛盾する。
  • 保守派の台頭と日本の希望:ドイツのメルツ政権(原発回帰・防衛強化)や日本の保守派(高市早苗氏ら)、連立の柔軟性(維新・国民民主党)が危機克服の鍵。日本の社会的結束力とDVAの高さが強み。
ドイツが数十年ぶりに再軍備を進めている

歴史は容赦ない。過去を学ぶのは、繰り返される危機を見抜くためだ。マーク・トウェインの「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉は、似た危機が形を変えて襲う現実を突きつける。今、世界は激動する。アメリカの力が衰え、国際秩序は崩れる。EUはトランプ政権下でアメリカがNATOや防衛から手を引く懸念から、ドイツの再軍備を支持した。「パクス・アメリカーナ」はオバマ時代から崩壊しつつある。

歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、トランプの政策が貿易戦争、軍拡競争、世界戦争、生態系崩壊、AIの暴走を招くと警告する。国際法など幻想にすぎない。日本はロシア、中国、北朝鮮という権威主義国家に囲まれ、2023年の中国の台湾周辺軍事演習のような緊張に直面している。経済と防衛の自立、アメリカとの協力は生き残るための必須条件だ。だが、国内政治の動揺が新たな火種となる。自民党・公明党の与党が参議院選挙で過半数を失うリスク、衆議院選挙での不安定化が懸念される。これが地政学的危機と並ぶ脅威である。核心はトランプではない。アメリカの弱体化と国際秩序の崩壊だ。

私のブログ「Funny Restaurant 犬とレストランとイタリア料理」(https://yutakarlson.blogspot.com/)では、2007年以来、純正保守の立場から日本の伝統と文化を守る議論を展開してきた。近年はアメリカの軍事力と製造業の衰退を問題視する。米国の製造業はITと金融に偏り、造船能力は中国の1/10以下、軍艦建造は遅延続きだ。米軍は肥満による兵士不足や装備の内製化率低下で弱体化。戦闘機以外の兵器生産は脆弱である。この現実が「世界の警察官」の終焉を告げ、日本に自立した防衛力強化を迫る。経済と軍事の自給自足、自由貿易や安全保障の見直しが急務だ。

アメリカの弱体化と日本の底力

圧倒的な日本のものづくり

アメリカの衰退は数字で裏付けられる。2023年の米国防総省報告によれば、米国の造船能力は中国に遠く及ばず、軍艦建造は数年遅れる。新兵募集は肥満や健康問題で2022年に25%不足した。特に深刻なのは国内付加価値(DVA:Domestic Value Added)の低さだ。DVAは輸出製品の国内生産割合を示し、米国の製造業はグローバルサプライチェーンへの依存でDVAが低い。2025年5月のブログ記事『日米関税交渉、切り札は「日本の造船技術」か 米国が“造船大国”から転落の理由 海軍の艦艇にも影響が—【私の論評】日本の造船業が世界を圧倒!DVA85%の内製化力で米国・中国を凌駕する秘密』で指摘したように、米国の造船業のDVAは約70%に落ち込み、部品や技術の海外依存が顕著だ。

一方、日本の製造業全体のDVAは80%だ。米国75%、EU78%、中国70%を軽く超える、世界トップクラスの水準を誇る(OECD貿易付加価値データベース、2023年)。三菱重工業や川崎重工業は、潜水艦や護衛艦の設計から組み立てまで国内で完結する。2024年の日米共同演習で日本の艦艇が米海軍を凌駕したエピソードは、この技術力を象徴する。

日本の製造業全体のDVA高さは、戦後から続く「ものづくり」の伝統と、1990年代の金融危機を乗り越えた産業再編の成果だ。2011年の東日本大震災後、トヨタやホンダはサプライチェーンを国内回帰させ、DVAをさらに強化した。米国は中国製部品やレアアースに依存し、2022年のウクライナ危機でサプライチェーンの脆弱性が露呈した。日本の米中を凌ぐDVAの高さは経済と安全保障の自立を支える。私のブログでは、この強みを活かし、米国との関税交渉や技術協力で主導権を握るべきと主張してきた。

上の記事の地政学的分析は正鵠を射ている。2022年のロシアのウクライナ侵攻、2018年のNATOサミットでのトランプの負担軽減要求は、アメリカの後退を物語る。ハラリの警告は現実だ。貿易戦争や軍拡競争は、2024年の米中関税対立や中国の南シナ海での軍事拡張で兆候が見える。日本は地政学的に脆弱だ。2023年の中国の台湾侵攻演習は、日本近海での脅威を浮き彫りにした。防衛力強化は待ったなしだ。日本の造船技術や航空産業は、ドイツの再軍備をモデルに、アメリカに技術供与しつつ自立を強める鍵となる。2025年5月の日米首脳会談で、日本の造船技術が議題に上ったのはその証だ。

国内政治の危機と保守の覚悟

石破政権の本質は、ショルツ政権と同じ左翼政権

上の記事は国内政治の動揺を「崩壊」と表現するが、これは過剰だ。ドイツの例が矛盾を露呈する。2024年11月、ショルツの「信号連合」が 崩壊し、2025年2月の選挙でCDUのフリードリヒ・メルツが首相に就任した。経済改革や難民政策に挑む新たな安定が生まれた。崩壊などなかった。

日本も2009年の民主党政権交代で混乱したが、東日本大震災を乗り越え、2012年に自民党が復帰して安定を取り戻した。2023年の世論調査では、政治不信は強いが民主主義への信頼は揺らいでいない(日本経済新聞、2023年10月)。自民党が議席を減らしても、国民民主党や維新との連立で政権は続く。ドイツの戦後政治も、CDUやSPDの連立交代で安定を保ってきた。日本の民主主義は試練を跳ね返す力を持つ。

だが、現状維持は危険だ。石破政権はドイツのショルツ政権と酷似する。ショルツは再エネ偏重と2023年の原発全廃でエネルギー危機を招いた。2024年のドイツ経済はマイナス0.2%に沈み、産業は競争力を失った。軍事ではNATOの2%目標達成が遅れ、外交ではウクライナ支援の指導力不足が批判された。極右のAfDが2025年選挙で第2党に躍進したのは、こうした弱体化の結果だ。

岸田政権に続き石破政権も再エネ偏重と原発再稼働の慎重姿勢を続けたが、2025年3月に原発フル活用へ転換(時事通信、2025年3月11日)。しかし、2024年のGDP成長率は1.1%と低迷し、防衛費増額は遅れ、米中間の曖昧な外交は中国依存のリスクを高める。2024年10月の日中首脳会談で、石破首相が経済協力を優先したのは、保守層の失望を招いた(一般知識)。

このままでは日本はショルツのドイツの二の舞だ。希望は保守派の台頭にある。ドイツはメルツ政権が原発回帰と防衛強化を掲げ、SPDとの連立で安定を取り戻した(Wedge、2025年2月14日)。日本も自民党内の高市早苗氏らが防衛費倍増や原発再稼働を主張し、2024年の総裁選で存在感を示した。

連立なら国民民主党や維新が選択肢となるだろう。国政政党となった日本保守党も視野に入る。日本はドイツより柔軟だ。ドイツは原発廃止でロシアのガスに頼り、2022年のウクライナ危機で苦しんだ。日本はメルツのように再エネを推し進めたものの、原発再稼働とLNG輸入で電力価格をドイツの半分以下に抑えている。移民問題で分裂したドイツと異なり、日本の社会的結束力は未だドイツほどには弱体化していない(2023年世論調査)。2020年のコロナ危機で、日本は迅速なマスク生産体制を構築し、DVAの高さを証明した。

日本の未来を決める選択

記事の「崩壊」論は過剰だ。石破政権の現状維持は危険だが、保守派の主導や連立再構築で危機は乗り越えられる。ドイツの成功は道標だ。日本の製造業はDVA80%で主要国ではトップであり、造船や防衛産業での強みは揺るがない。2024年の日米共同演習で、日本の護衛艦が米海軍を凌駕したのは、技術と結束の証だ。防衛と経済を強化し、アメリカと手を組む。歴史が韻を踏むなら、それは破滅ではなく、再生の物語だ。日本の民主主義は試練を跳ね返す力を持つ。今、保守の覚悟が未来を決める。

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2025年5月12日月曜日

トランプ氏、印パ貿易拡大に意欲-カシミール問題解決にも協力の意向—【私の論評】トランプの南アジア戦略:中国を封じる大胆な一手とその試練

トランプ氏、印パ貿易拡大に意欲-カシミール問題解決にも協力の意向

まとめ
  • 停戦合意と米国の仲介:トランプ大統領は、米国が仲介したインドとパキスタンの完全かつ即時の停戦合意を称賛し、両国のリーダーシップがさらなる死や破壊を防ぐ「強さ、知恵、勇気」を示したと高く評価。両国は中立地帯で幅広い課題について協議を開始する予定。
  • 貿易拡大とカシミール問題:トランプ氏はインドとパキスタンとの貿易を大幅に拡大する意欲を表明し、長年対立が続くカシミール問題の解決策を模索するため、両国と協力する姿勢を示した。

 トランプ米大統領は、米国が仲介したインドとパキスタンの停戦合意を称賛し、両国の指導者が「強さ、知恵、勇気」を示したと高く評価した。自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、停戦によりさらなる死や破壊が回避されたと述べ、今後インドとパキスタンとの貿易を大幅に拡大する意欲を示した。

 また、長年対立が続くカシミール問題の解決策を模索するため、両国と協力する姿勢を表明。ルビオ国務長官によると、停戦は夜通しの協議の結果であり、両国は中立地帯で幅広い課題について協議を開始する予定。

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【私の論評】トランプの南アジア戦略:中国を封じる大胆な一手とその試練

まとめ
  • トランプの戦略: 中国が約束を破ることを前提に、南アジアを対中戦略の軸とし、インドを中核に据え、パキスタンを中国から引き剥がし、「一帯一路」を牽制する。
  • 印パ停戦仲介: 2025年5月、米国仲介で印パが停戦合意。トランプは貿易拡大とカシミール問題解決への協力を表明し、南アジアでの影響力拡大を狙う。
  • 中国への二面作戦: トランプは中国と融和的に見える交渉を進めつつ、過去の約束不履行を理由に強硬姿勢を維持。南アジアでの動きもこの戦術の一環。
  • 戦略の限界: インドの第三者介入拒否、パキスタンの中国依存、トランプの短期志向な取引外交が壁。長期的な信頼構築が不足。
  • 限界の克服策: インドに経済的誘い(IPEF)、パキスタンに債務支援(IMF融資等)、地域協力(SAARC再活性化)を推進し、長期和平を築くことができるかもしれない。
トランプ米大統領のインド・パキスタンへの大胆な一手と、中国への最近の一見柔らかな態度は、単なる外交の花火ではない。中国が約束を破ることを見越した、したたかな戦略だろう。南アジアを中国への強力な対抗軸に変え、インドをそのど真ん中に据える。パキスタンを中国の影響から引き剥がし、「一帯一路」の野望を叩き潰す。それがトランプの狙いだ。

2025年5月の印パ停戦仲介は、この戦略の第一幕である。しかし、どんな戦略にも弱点はある。インドの頑なな姿勢、パキスタンの中国依存、トランプの短期的な取引外交の脆さだ。これをどう乗り越えるか。それが、南アジアを米国の切り札にする鍵である。

インドのモディ首相(左)とパキスタンのシャリフ首相

トランプは2025年5月10日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で高らかに宣言した。インドとパキスタンが、米国の仲介で完全な停戦に合意したと。両国のリーダーは「強さ、知恵、勇気」を発揮し、血と破壊の連鎖を断ち切ったと称賛した。さらに、トランプは言い放つ。インドとパキスタンとの貿易を大きく広げる。カシミール問題の解決にも協力すると。この言葉は、和平の美談ではない。南アジアを米国の影響下に置き、中国を牽制する戦略の第一歩だ。

昨日のこのブログでは、トランプの動きを「一帯一路への強烈な一撃」と見た。CNNの報道によれば、トランプ政権は当初、JD・バンス副大統領が「印パ紛争は米国の問題ではない」と冷たく突き放した。しかし、核戦争の影がちらつくと、トランプは素早く動いた。南アジアの安定は、米国の国益に直結する。過去のトランプ政権でも、2019年の印パ対立でポンペオ国務長官が介入し、核の火を消した。あの時も今も、トランプは南アジアを軽視しない。

カシミール問題へのトランプの関与は、目を引く。インドは第三者の介入を嫌う。インド側は米国の役割を控えめに扱った。一方、パキスタンのシェバズ・シャリフ首相は、トランプのリーダーシップを大絶賛だ。トランプは、インドの警戒心をなだめつつ、パキスタンを懐に引き込む。2019年にも、トランプはカシミール仲介を提案し、モディ首相に「必要ない」と一蹴された。しかし、モディとの親密さ―「ナマステ・トランプ」イベントの熱狂―を武器に、インドとの絆を深めてきた。

2020/02/24のイベント

中国への姿勢は、トランプの戦略の核心だ。2025年、トランプは中国との貿易交渉再開や、習近平との個人的な関係をチラつかせる。しかし、これは甘い言葉の罠だ。中国が約束を守らないことを、トランプは骨の髄まで知っている。第一期政権の「第1段階貿易協定」では、中国は農産物購入や技術移転の約束をほごにした。2020年の米中貿易戦争でも、トランプは中国を「不公正」と叩きつつ、習近平を「素晴らしい指導者」と持ち上げた。強硬と融和の二面作戦だ。今の南アジアでの動きも、同じ手口である。

トランプは、中国が「一帯一路」や中国・パキスタン経済回廊(CPEC)で南アジアを握ろうとするのを許さない。CPECは巨額の投資をパキスタンに流すが、債務の罠とプロジェクトの遅れが問題だ。トランプの貿易拡大提案は、パキスタンに別の道を示す。中国への依存を断ち切れと。Xの投稿では、印パ紛争の裏に中国の扇動が噂される。トランプの停戦仲介は、そんな中国の企みを封じ込めた可能性がある。第一期政権では、パキスタンへの支援を削り、中国への接近を牽制した。今、トランプはパキスタンが自分を称賛する隙を突き、経済の誘いをちらつかせている。

トランプの戦略は、インドをインド太平洋の対中牽制の要に据え、パキスタンを部分的に取り込む。南アジアを対中戦略の強力な軸にする狙いだ。2022年のトランプ政権のインド太平洋戦略文書は、インドを「中国への対抗軸」と明記する。2020年のガルワン渓谷での印中衝突後、トランプはインドに衛星情報や軍事装備を提供し、米印の絆を固めた。パキスタンには、2019年のイムラン・カーンとの会談で経済支援を示唆し、中国依存を減らす道を提示した。これらは、クアッドやインド太平洋経済枠組み(IPEF)を補完し、南アジアを対中包囲網の新たな牙城にする試みだ。

トランプの手法は、他の地域でも見られる。中東では、アブラハム合意でイスラエルとアラブ諸国を結び、イランを封じた。北朝鮮では、金正恩との対話で中国の影響を牽制した。欧州では、NATOに防衛費増額を迫りつつ、ロシアと融和的な対話を試みた。経済と安全保障の取引で、対立する国々を米国の傘下に引き込む。それがトランプの「取引型外交」だ。南アジアでの印パ停戦と貿易拡大も、この手法の鮮やかな応用である。

しかし、トランプの戦略には穴がある。インドはカシミール問題での介入を嫌い、米国への深い依存を避ける。パキスタンは中国との軍事・経済の結びつき―CPECやJF-17戦闘機の共同開発―を簡単には切れない。トランプの取引型外交は、短期的な成果に偏る。長期の信頼や地域の安定を築く力が足りない。昨日のブログ記事は、印パの反応の違い―インドの慎重さ、パキスタンの歓迎―を指摘した。トランプの仲介が中国の扇動を封じた可能性はあるものの、深い対立の解消には程遠い。


しかし、この穴を埋める道はある。第一に、トランプはインドの警戒心を尊重する。カシミールへの直接介入を控え、経済の誘い―IPEFへの深い関与―を強める。インドはクアッドで積極的な役割を果たす。経済的利益を明確に示せば、米国への信頼は高まる。第二に、パキスタンには債務危機を和らげる具体策を出す。IMF融資の仲介や民間投資の誘致だ。パキスタンの経済の弱さは、米国が握れる武器である。第三に、印パの信頼を育てる枠組みを後押しする。南アジア地域協力連合(SAARC)の再活性化だ。取引型外交を超え、多国間協力を育て、長期の和平を築く。

トランプの戦略は、中国の約束不履行を見越し、南アジアを対中戦略の強力な軸に変える野心だ。インドを強化し、パキスタンを取り込み、中国の影響を抑え込む。地政学の舞台で繰り広げられる大胆な一手である。しかし、インドの慎重さ、パキスタンの中国依存、取引外交の短期志向は、壁となる。これを打ち破るには、インドへの経済の魅力、パキスタンへの具体的支援、地域協力の推進が欠かせない。トランプがこの試練をどう乗り越えるか。それが、南アジアを米国の切り札にする成否を決める。

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2025年5月8日木曜日

カシミール地方 インドの攻撃にパキスタン反発 報復が焦点—【私の論評】イン・パ衝突、中国の野望と日本の決断

カシミール地方 インドの攻撃にパキスタン反発 報復が焦点

まとめ
  • インドがカシミールでのテロ(26人死亡)報復として、パキスタンの過激派拠点9カ所をミサイル攻撃。31人死亡、46人負傷。人口密集地も標的だ。
  • パキスタンは市民犠牲を非難し、報復を表明。核保有国間の緊張が高まり、エスカレーションが懸念される。
  • トランプ大統領が攻撃停止と仲介を提案。ルビオ国務長官も自制を促す。

インド政府は、2025年4月22日にカシミール地方のインド実効支配地域で起きたテロ事件(インド人観光客ら26人死亡)への報復として、5月7日、パキスタン実効支配地域にあるイスラム過激派組織の拠点9カ所をミサイルで攻撃。

ロイター通信によると、31人死亡、46人負傷。2019年の空爆と異なり、人口密集地も標的となり、被害が拡大。パキスタン政府はテロへの関与を否定し、市民の犠牲を理由に「主権侵害」と強く非難。シャリフ首相は報復を表明し、両国の緊張が急激に高まる。

核保有国間の対立エスカレーションが国際的に懸念される中、トランプ米大統領は「ひどい状況」と述べ、攻撃の即時停止と緊張緩和のための仲介協力を提案。ルビオ国務長官も両国の安全保障担当者と会談し、自制を呼びかける。

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【私の論評】イン・パ衝突、中国の野望と日本の決断

まとめ
  • 南アジアの危機:2025年4月22日、カシミールのパハルガムでテロが発生、26人(主にインド人観光客)が死亡。インドは5月7日、パキスタン実効支配地域をミサイル攻撃(31人死亡)。パキスタンは管理ラインで砲撃報復(民間人12人死亡)。核保有国同士の衝突で、1999年以来最悪の危機だ。核戦争のリスクが迫る。
  • 中国の暗躍:中国はパキスタンにJF-17戦闘機やミサイル技術を供与し、インドを牽制。南アジアの覇権を狙い、クアッドを揺さぶる。日本の石油ルートと日米同盟に脅威を与え、核リスクを増幅する。
  • 核のトリレンマ:中国、インド、パキスタンは核抑止、安全性、不拡散の三課題(核のトリレンマ)に直面。抑止力強化は軍拡を招き、安全性は運用を縛り、不拡散は戦力を制限する。インドはアグニVミサイル配備、パキスタンは戦術核増強、中国はICBM拡大で不安定化が進む。
  • 日本の対応:外交でインドを経済・インフラ支援、パキスタンと対テロ協力で関与。クアッド活用で中国を牽制。防衛ではミサイル防衛(SM-3、THAAD)強化、核武装の国民的議論、極超音速ミサイル開発で自主防衛力を高めるべき。
  • 安倍氏の遺志:安倍元首相は現実主義を貫き、2017年の北朝鮮危機で米国の核の傘とミサイル防衛を重視。2022年に核共有議論を提起し、インド連携、中国対抗、抑止力強化を訴えた。日本の覚悟を世界に示す。
カシミール発!核危機の火薬庫

パハルガムでテロ

カシミールが血に染まった。2025年4月22日、パハルガムでテロが起き、26人、ほとんどがインド人観光客が銃撃で死んだ。インドは黙っていない。5月7日、「オペレーション・シンドゥール」を発動し、パキスタン実効支配地域のテロ拠点9カ所をミサイルで叩いた。31人死亡、46人負傷。パキスタンは「主権への冒涤」と叫び、シャリフ首相が報復を宣言。管理ラインで砲撃を開始し、民間人12人が犠牲になった。

両国は空域を閉鎖、300便以上がキャンセル、25の空港が停止。インドは核攻撃を想定した訓練を200都市で展開。1999年のカルギル戦争以来、最悪の危機だ。核保有国同士の衝突は、一歩間違えれば世界を焼き尽くす。2019年、プラワマでインド治安部隊40人がテロで死に、インドはパキスタンを空爆。パキスタンは戦闘機を撃墜し、核の準備を始めた。

ポンペオ元米国務長官は「あの夜、世界は核戦争の縁に立った」と振り返る。今、トランプ大統領が仲介を申し出るが、両国の怒りは収まらない。日本の石油ルート、日米同盟、すべてが脅かされる。核の火蓋が切られれば、誰も逃れられない。

中国の暗躍と核のトリレンマ

中国は裏で糸を引く。パキスタンの盟友として、JF-17戦闘機やミサイル技術を供与。2025年4月28日、「自制」を口にしつつ、パキスタンの「独立調査」要求を後押し。インドとは、2020年のガルワン谷衝突や2022年の基地攻撃で火花を散らす。中国の狙いは明白だ。インドを封じ、南アジアの覇権を握る。日米豪印のクアッドを揺さぶり、日本への圧力を強める。

インド、パキスタン、中国は互いに国境を接しており国境紛争が絶えない

この地域の不安定さは、「核のトリレンマ」によってさらに悪化する。中国、インド、パキスタンは、核抑止力の維持、核の安全性、核不拡散という三つの課題に直面する。抑止力強化は軍拡を招き、安全性は運用を縛り、不拡散は戦力を制限する。インドは中国やパキスタンに対抗し、射程5000kmのアグニVミサイルを配備。パキスタンは戦術核を増強。中国はICBMを拡大。この三すくみの緊張は、地域を不安定に突き落とす。

日本の対応と安倍の遺志

日本はこの危機を傍観できない。石油ルート、日米同盟、核戦争のグローバルリスクが日本の命運を握る。外交では、クアッドを通じインドとの絆を深める。経済援助やムンバイ-アーメダバード高速鉄道の拡大を進める。パキスタンには人道支援や対テロ協力で関与し、緊張を和らげる。トランプの仲介を支持し、国連やG7で「核の自制」を訴える。中国の暗躍には、日米同盟を基盤に南シナ海や台湾海峡で共同演習を増やし、インド太平洋戦略で野心を抑え込む。

防衛では、非核三原則を堅持しつつ、日米安保の核の傘に頼る。SM-3やTHAADでミサイル防衛を強化し、早期警戒衛星を配備。核武装の議論もタブー視せず、国民的議論を始めるべきだ。技術的には核弾頭製造が可能だが、国際的孤立や非核三原則の壁がある。NATO型核共有も視野に入れる。核武装に至らなくとも、極超音速ミサイルや長距離巡航ミサイルを開発し、敵基地攻撃能力を整えるべき。

安倍元首相

安倍晋三元首相は現実主義者だった。2017年の北朝鮮危機で米国の核の傘とミサイル防衛を重視。2022年には核共有議論を提起し、「安全保障の変化に対応せよ」と訴えた。南アジアの危機に直面すれば、インド連携、中国対抗、抑止力強化を推しただろう。核の議論を恐れず、日本の覚悟を世界に示しただろう。

日本は南アジアの核危機に立ち向かい、外交でインドを支え、パキスタンを抑え、中国を牽制。防衛ではミサイル防衛を固め、核の議論を進めるべきだ。安倍の現実主義を胸に、日米同盟を基軸に動くべきだ。核のトリレンマが南アジアを揺さぶる今、日本は秩序を守る使命を果たすべき。傍観は許されない。決断し、行動する時だ。

(参考:CNN、The New York Times、Al Jazeera、DW、National Security Archive、テリス『インドの核政策』)

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2025年5月7日水曜日

中国ヘリ発艦で引き返す  尖閣周辺で飛行の民間機  機長、当時の状況証言—【私の論評】尖閣の危機:中国の領空侵犯と日本の防衛の限界を暴く

中国ヘリ発艦で引き返す  尖閣周辺で飛行の民間機  機長、当時の状況証言

まとめ
  • 尖閣上空飛行と退避:81歳のパイロット志摩弘章さんが自家用機で尖閣諸島上空に接近したが、中国船からヘリが飛び立ったため海保から「危険」と警告を受け、退避して引き返した。
  • 問題関心の背景:2010年の中国漁船と海保巡視船の衝突事件を機に尖閣問題に関心。2015年にはフライトプランを提出し、尖閣上空を飛行して島々の写真を撮影。
  • 飛行の目的:中国は「日本を脅せば屈する」と考えていると指摘。海保任せにせず、国民として問題提起するため今回の飛行を実行した。

81歳のパイロット志摩弘章さんが3日、自家用機で新石垣空港から尖閣諸島上空に向かい、島々まで10数キロに接近したが、中国船からヘリが飛び立ったため海上保安庁から「危険」との無線警告を受け、退避して引き返した。尖閣周辺では中国艦船が日本漁船の操業を妨害しており、民間人の上空接近も困難な現状が浮き彫りになった。

志摩さんは2010年の中国漁船と巡視船の衝突事件を機に尖閣問題に関心を持ち、民主党政権の対応に疑問を抱いた。2015年にはフライトプランを提出し、尖閣上空を飛行して島々の写真を撮影したが、当時は中国船は見られなかった。志摩さんは「中国は日本を脅せば屈すると考えているのではないか」と指摘し、海保に任せきりにせず、国民として問題提起するため今回の飛行を実行したと述べた。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】尖閣の危機:中国の領空侵犯と日本の防衛の限界を暴く

まとめ
  • 領海と領空のルールの違い:領海は無害通航権により外国船の通過が制限付きで認められるが、領空は許可なく飛行できず、主権は絶対。侵犯すれば撃墜もあり得る。
  • 尖閣での中国の挑発:中国公船が領海に侵入し、2025年5月3日には中国海警のヘリが尖閣領空を15分侵犯。海保が対応し、航空自衛隊が那覇基地からF-15でスクランブル発進。
  • 那覇基地の制約:那覇基地から尖閣(約400キロ)への到達に15分以上かかり、中国ヘリが退去後に到着した可能性が高い。地理的制約が防空の課題。
  • 石原慎太郎の尖閣購入計画:2012年、石原都知事が尖閣購入を計画したが、民主党政権が国有化で阻止。都の計画が実現していれば、実効支配が強化された可能性がある。
  • 日中の緊張:中国は尖閣を「釣魚島」と主張し、領海・領空での活動をエスカレート。日本は那覇基地のスクランブルや海保で対応するが、緊張は高まるばかりだ。

領海と領空は、国際法の下でまったく異なるルールに縛られている。領海は沿岸国の主権が及ぶ海域だ。海岸線から12海里、約22キロの範囲で、沿岸国は法を執行し、資源を管理する権限を持つ。外国の艦船には「無害通航権」がある。沿岸国の平和や安全を脅かさなければ、領海を通過できる。ただし、武器の使用やスパイ行為は厳禁だ。尖閣諸島周辺の領海では、中国公船がしばしば無害通航を主張して現れる。しかし、日本はこれを認めない。海上保安庁が毅然と退去を求めるのだ。

対して、領空は領土と領海の上空であり、沿岸国の主権は絶対である。外国の航空機は許可なく飛べない。無許可の領空侵犯は、主権への挑戦だ。警告を無視すれば、国際法上、撃墜もあり得る。領空は国家の核心なのだ。1944年のシカゴ条約は、領空の国家主権を明確に定める。過去、領空侵犯を理由に航空機が撃墜された例は少なくない。1983年、ソ連は大韓航空007便をスパイ機と誤認し、領空内で撃墜。269人全員が命を落とした。1969年には、北朝鮮が米海軍のEC-121偵察機を撃墜し、31人が死亡した。2015年、トルコがロシアのSu-24M攻撃機を17秒間の領空侵犯を理由に撃墜。2025年5月、ウクライナが黒海上でロシアのSu-30SM戦闘機2機を海上ドローンで撃墜。これは戦時中の防空戦だが、新たな技術の脅威を示した。民間機の場合、シカゴ条約の改正により、武力行使は最後の手段だ。警告や強制着陸が優先される。

航空自衛隊那覇基地を飛び立つF!5

尖閣上空での対応は特に厳しい。2025年5月3日、中国海警局のZ-9ヘリコプターが尖閣領空を約15分間侵犯した。海保がこれを検知し、航空自衛隊の那覇基地からF-15戦闘機2機がスクランブル発進した。しかし、那覇基地は尖閣から約400キロ離れている。F-15の最高速度(マッハ2.5、約3000キロ/時)でも、尖閣到達には約8~10分かかる。準備や離陸の時間を加えると、15分以上が必要だ。中国ヘリは低速(Z-9の最高速度は約315キロ/時)で短時間飛行し、侵犯後すぐに退去した可能性が高い。Xの投稿では、「那覇からのスクランブルでは間に合わない」「ヘリが退去してから到達した」との指摘がある。実際、戦闘機が到着した時点でヘリは領空を離れていた可能性は否定できない。この遅れは、尖閣の防空における那覇基地の地理的制約を浮き彫りにする。

那覇基地は南西諸島の防空の要だ。F-15やF-35が常時待機し、中国機の動向を監視する。2023年度、航空自衛隊は669回のスクランブルを実施し、7割以上が中国機対応だった。特に尖閣周辺では、中国の活動が活発化している。Xでは、尖閣に近い下地島や魚釣島への基地建設を求める声もあるが、現状、那覇基地が主力だ。


尖閣をめぐる状況は、2012年に転機を迎えた。石原慎太郎東京都知事が、尖閣の民有地を都が購入する計画を打ち出した。中国の挑発に対抗し、実効支配を強める狙いだった。石原氏は上陸や施設建設を構想し、14億円の寄付を集めた。だが、民主党政権はこれを阻止。

2012年9月11日、国が20億5000万円で尖閣を国有化した。もし都の計画が実現し、港や灯台が建設されていれば、中国公船の領海侵入は抑えられ、実効支配は盤石になったかもしれない。国有化後、中国公船の侵入は日常化し、日中関係は冷え込んだ。石原氏の構想が実行されていれば、日本はもっと強い立場で尖閣を守れたかもしれない。

領海と領空の違いは鮮明だ。領海では無害通航権により、外国船の通過が制限付きで認められる。だが、領空では自由な通過など存在しない。主権は鉄壁だ。領海での違反は海保や海軍が対処し、領空侵犯は空軍が即座に応じる。尖閣では、中国公船が領海に侵入し、無害通航を主張するが、日本は退去を求める。領空では、中国軍機やヘリの接近に対し、那覇基地からのスクランブルで対応する。志摩さんの事例では、中国船のヘリが飛び立ち、危険と判断した海保が退避を促した。領空の緊張と中国の動きが如実に表れている。

領海の外には接続水域や排他的経済水域があり、航行の自由はさらに広がる。だが、領空に緩衝地帯はない。尖閣問題は、領海と領空のルールが日中の対立を複雑にする。中国は尖閣を「釣魚島」と呼び、活動をエスカレートさせている。緊張は高まるばかりだ。日本は主権を守るため、揺るぎない姿勢を貫かなければならない。

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2025年5月4日日曜日

プーチン、涙目…!アメリカとウクライナ「鉱物資源協定」で明らかになった「トランプの本音」—【私の論評】トランプの親ロシア発言の裏に隠された真実!マッドマン戦略とウクライナ支援の全貌

プーチン、涙目…!アメリカとウクライナ「鉱物資源協定」で明らかになった「トランプの本音」

まとめ
  • 米ウクライナ復興投資基金の設立:ウクライナと米国が包括的合意に署名。ウクライナの資源はウクライナが管理し、米国による搾取は認めず、対等なパートナーシップを確立。
  • トランプのマッドマン戦略:トランプのロシア寄り発言は交渉戦術であり、実際の合意はウクライナ支援を重視。過去の対立や会談は演出で、政策は一貫。
  • 基金の運営とウクライナの主権:基金は50:50で運営、ウクライナの国営企業は民営化せず、軍事支援は実質無償。ウクライナの決定権と主権が尊重される。
  • ロシアの経済・軍事危機:ロシアは経済悪化(高金利、ローン延滞)と軍事資源不足(北朝鮮依存)に直面し、戦争継続が困難。
  • 米国の対ロシア姿勢強化:トランプ政権はロシアの停戦消極性に失望し、ウクライナ支援とロシアへの圧力を強める方針へ転換。

ウクライナのスヴィリデンコ第一副首相と米国のベッセント財務長官が、アメリカ・ウクライナ復興投資基金設立に関する包括的合意に署名した。この合意は、ウクライナの領土・領海内の全資源がウクライナに属し、採掘場所や内容の決定権もウクライナ側が保持することを明確に規定。米国による植民地主義的な資源搾取は認められず、両国は対等なパートナーシップを確立した。ベッセント長官は、「自由で主権あるウクライナ」を支持し、トランプ政権がロシアに対し長期的な和平プロセスにコミットする姿勢を示した。この発言は、ウクライナをロシアの属国とみなさず、独立性を尊重する米国の立場を反映している。

トランプの過去のロシア寄り発言やウクライナへの軍事支援に否定的な発言は、「マッドマン戦略」による交渉戦術であり、実際の合意内容は一貫してウクライナ支援を重視。2025年2月のトランプとゼレンスキーのホワイトハウス会談での対立や、フランシスコ教皇葬儀前の首脳会談での「小芝居」は、表面的な演出であり、裏では長期間の事務方折衝が今回の合意を支えた。合意内容は、以前の鉱物資源協定の方向性と一致し、トランプ政権のウクライナ政策の一貫性を示す。

基金は両国が50:50で運営し、決定権はどちらにも優越せず対等。ウクライナの国営企業(例:ウクルナフタ、エネルホアトム)は民営化されず、米国の影響下で乗っ取られることはない。ウクライナ側の資金は新規ライセンス収入の50%に限定され、別途資金準備は不要。米国側の拠出は金銭だけでなく、防空システムなどの軍事支援も含む。これにより、トランプが過去に否定した軍事支援が「基金への拠出」として実質無償で提供される道が開かれた。基金は収益性よりもウクライナ支援を優先し、軍事支援の損耗もウクライナ政府の負担とはならない仕組み。

ロシアは経済的に困窮し、原油・ガス価格低迷や高金利(年21%)によるローン延滞率の上昇(住宅ローン2.6%、消費ローン16.1%)に直面。軍事面でも装甲車や砲身の不足、北朝鮮への依存が進む。元米陸軍中将キース・ケロッグは「ロシアはこの戦争に勝てない」と発言し、米国の本音を代弁。トランプは当初、ロシアのメンツを考慮し譲歩しやすい環境を整えたが、プーチンの停戦への消極姿勢に失望。ベッセント長官は、ロシアやその支援国がウクライナ復興の利益を得られないと警告し、トランプ政権の対ロシア強硬姿勢を明確化。今後、米国のロシア対応は厳格化し、プーチン政権にとって厳しい局面が予想される。この合意は、ウクライナへの10年間の関与とロシアへの圧力強化を示す。

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【私の論評】トランプの親ロシア発言の裏に隠された真実!マッドマン戦略とウクライナ支援の全貌

まとめ
  • トランプのマッドマン戦略:親ロシア発言は交渉戦術であり、予測不能な振る舞いでロシアを揺さぶる。実際の政策はウクライナ支援を一貫して優先。
  • 2024年選挙期間の曖昧さ:プーチンを称賛し、ウクライナ支援に懐疑的。ゼレンスキーとの会談は友好的だが具体策なし。共和党孤立主義派へのアピールとロシア交渉の布石。
  • 2025年初頭の対立演出:ウクライナ支援凍結、ゼレンスキー批判、ホワイトハウスでの公開対立は、ロシアにウクライナの孤立を示す演出。共和党懐疑派を意識。
  • 2025年3~4月の交渉と転換:ロシアとの和平交渉でウクライナを排除、国連でロシア支持も、プーチンの非協力で支援再開へ。マッドマン戦略の限界と調整。
  • 2025年5月の合意と関税:復興投資基金でウクライナの主権と支援を保証。親ロシア発言を覆す。関税(ウクライナ10%、ロシア除外)は交渉戦術で、2018年の中国関税の成功例と同様。トランプの一連の行動は、かつての日本の「腹芸」を思いおこさせる。
トランプの親ロシア発言は単なる交渉の仕掛けだ。実際の合意はウクライナ支援を貫き、過去の対立や会談は巧妙な演出にすぎない。政策は揺るぎない。2024年の大統領選挙から2025年5月4日までのトランプの言動を追い、彼の「マッドマン戦略」—予測不能な振る舞いで相手を揺さぶる手法—を検証する。


2024年、選挙戦の熱気の中で、トランプはウクライナ・ロシア紛争を「就任初日に終わらせる」と高らかに宣言した。プーチンを「尊敬すべき指導者」と持ち上げ、ゼレンスキーを「狡猾な策士」と切り捨て、ウクライナへの軍事支援に冷ややかな目を向けた。欧州に負担を押し付けるべきだと訴えた。

9月、ニューヨークでゼレンスキーと会談し、笑顔を振りまいたが、具体的な約束はゼロ。和平交渉の急務だけを口にした。この曖昧さは計算ずくである。共和党支持者の54%しかウクライナを好まない(ギャラップ調査)と知り、孤立主義の心をつかむためだ。同時に、ロシアに「話せる相手」と印象づけ、交渉の扉を開くマッドマン戦略の第一歩だった。2017年の北朝鮮との舌戦から対話への転換を思えば、トランプの狙いは明らかだ。

2025年1月20日、大統領に返り咲いたトランプは、ウクライナ支援を一時凍結し、ロシアとの対話を優先した。2月、特使キース・ケロッグがゼレンスキーの正当性に疑義を呈し、停戦後の選挙を迫った。2月18日、トランプは「ウクライナが戦争を始めた」と言い放ち、ゼレンスキーを「選挙を避ける独裁者」と罵った。

ゼレンスキーは「ロシアの偽情報に毒されている」と反撃。2月28日、ホワイトハウスでの会談は、公開の場で罵り合いに終わり、トランプがウクライナの鉱物資源を求める強引な取引を押し付けたと報じられた。会談は崩壊。ウクライナは「圧力だ」と憤った。だが、上の記事が「演出」と呼ぶこの衝突は、トランプの仕掛けである。

ロシアに「ウクライナは孤立する」と見せかけ、交渉を急がせる。共和党内のウクライナ懐疑派—マイク・ジョンソンらの声—を抑える計算もあった。ピュー調査(2025年3月)で43%の米国人がトランプの親ロシア姿勢を危ぶむ中、彼は大胆に振る舞った。

3月、舞台は動く。サウジアラビアでロシアとの和平交渉が始まり、ウクライナは蚊帳の外。国連では、米国がロシア非難決議に反対し、ロシアや北朝鮮と肩を並べた。衝撃的な一手だ。ノルドストリーム2の制裁解除も検討された。だが、4月、プーチンの非協力にトランプは苛立ちを隠さず、ウクライナ支援再開を模索した。

サウジアラビアでの米露による和平交渉

ロシアに甘い顔を見せつつ、ウクライナを締め上げる—これがマッドマン戦略の核心だ。国連での行動は、プーチンに「本気だ」と示す賭けだったが、同盟国の反発を招いた。支援再開の兆しは、ウクライナを切り捨てない姿勢をさりげなく示す。上の記事の「支援の根底」を裏付ける瞬間である。

2025年5月、物語は頂点に達する。米国とウクライナが「復興投資基金」合意に署名。ウクライナの資源はウクライナが握り、国営企業は民営化せず、50:50の対等な運営を確立した。米国は防空システムなどの軍事支援を「拠出」として提供し、実質無償の道を開いた。

トランプは黙したが、ベッセント財務長官が「自由で主権あるウクライナ」を掲げ、ロシアを牽制した。この合意は、トランプの親ロシア発言を覆す。プーチンとの交渉が停滞し、トランプはウクライナ支援を強め、ロシアへの圧力を選んだ。2月の対立や教皇葬儀前の短い会談は、交渉を操る演出だった。裏では、数か月の折衝がこの合意を築いた。過去の鉱物資源協定と同方向を向くこの一歩は、トランプの政策が揺るがなかった証である。


このマッドマン戦略は、関税にも息づく。2025年4月、トランプはウクライナに10%関税を課したが、ロシアは除外した。ロシアに交渉の甘い誘いをかける戦術だ。2018年、中国に25%関税を突きつけ、貿易交渉を動かした手口と同じである。ブルームバーグ(2025年3月)は、トランプが関税を「交渉の武器」と呼び、相手の出方次第で即座に解除する柔軟性を示したと伝える。ウクライナへの関税はロシア優先のポーズだったが、5月の合意で支援を固めたように、関税も最終的には同盟国との絆を優先する道具である。トランプの戦略は一貫している。

トランプの2024年から2025年5月への軌跡は、鮮やかに真実を照らす。親ロシアの言葉、ウクライナとの衝突は、プーチンを交渉に引きずり出すマッドマン戦略の仮面だ。5月の合意は、ウクライナの主権と支援を貫く本心を暴く。

プーチンの裏切りと国内の批判—43%が親ロシアを恐れた—が、トランプをロシアへの強硬姿勢に押しやった。関税もまた、交渉の刃として振るわれ、トランプの現実主義と世界の風を読む鋭さを物語る。彼の真意は、揺らぐことなくウクライナを支え、ロシアを牽制する道にあった。

トランプのマッドマン戦略と日本の腹芸は、対立の仮面で最終的には協調を追い求めるということで共通点がある。トランプの叫びも、日本の微笑みも、最終的には対立ではなく、共存の道を探る。2025年のウクライナ支援も、過去の日本の外交も、この真理を刻む。

だが、日本では腹芸が色褪せ、最初から最後までフランクさが「上等」と錯覚される。一昔前の日本人なら、トランプの行動を異常とみなすことはなかったろう、それどころか当たりと受け取っただろう。SNSやグローバル化が、和の知恵を薄れさせたのかもしれない。情けないが、日本人は腹芸の価値を思い出す時だ。トランプの戦略から学び、協調の心を再び燃やそう。トランプのこの物語から日本の魂を取り戻すヒントを見つけられるはずだ。

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2025年4月29日火曜日

オタクの知識が日本の安全保障のカギになる…軍事研究のプロ2人が異色の「会いに行ける情報機関」を作ったワケ—【私の論評】情報革命の衝撃:民間インテリジェンスが切り開く日本の安全保障とコロナ起源の真実

オタクの知識が日本の安全保障のカギになる…軍事研究のプロ2人が異色の「会いに行ける情報機関」を作ったワケ

まとめ
  • DEEP DIVEの設立:小原凡司氏と小泉悠氏が、日本の安全保障強化のため、非営利の民間インテリジェンス機関「DEEP DIVE」を設立。公開情報(OSINT)と衛星情報を活用し、透明な分析で早期警戒情報を提供。
  • クラウドファンディングの成功:目標1000万円に対し、2933人から約4232万円を集め、市民の高い期待と共感を得て活動基盤を構築。
  • 特徴的な役割:①根拠を示す分析、②多様な知見を集める「議論のハブ」、③政府・民間・自治体をつなぐ情報共有の橋渡しを目指す。例:中国ウイグル地区の衛星画像公開で情報募集。
  • 背景と課題:日本の安全保障情報が英語圏に依存し、政府の機密情報が民間や地方に共有されない問題や、ウクライナ戦争予期の失敗を背景に、独自の情報機関の必要性を強調。
  • 市民参加と目標:非営利運営で、支援者を「安全保障の一口株主」と位置づけ、セミナーや会員制度で「会いに行ける情報機関」を目指す。安全保障を身近なものに変える挑戦。

日本の安全保障環境が不安定化する中、軍事評論家の小原凡司氏と東京大学准教授の小泉悠氏が、非営利の民間インテリジェンス機関「DEEP DIVE」を設立した。公開情報(OSINT)と衛星情報を駆使し、明確な根拠に基づく分析を提供することで、日本社会に早期警戒情報を届けることを目的とする。クラウドファンディングでは当初目標の1000万円を大幅に上回り、2カ月で2933人から約4232万円を集め、予想を遥かに超える期待と共感を得た。この資金で基盤を固め、持続可能な活動を目指す。
DEEP DIVEの特徴は三つある。①衛星画像や公開情報を用いた透明な分析を行い、反証可能な根拠を示す。②軍事や安全保障だけでなく、建設や地域研究など多様な専門家の知見を集める「議論のハブ」として機能。③政府、民間、地方自治体をつなぐ情報共有の橋渡し役を担う。例えば、中国ウイグル地区の謎の穴の衛星画像を公開し、一般や専門家から情報を募ることで、ネットワーク型の分析を推進。こうした形態は、英国の「ベリングキャット」に着想を得た、日本独自のオープンなインテリジェンスの形だ。
設立の背景には、日本の安全保障情報が英語圏のシンクタンク(例:ストラトフォー)に依存し、政府の機密情報が民間や地方自治体に共有されない課題がある。さらに、2022年のウクライナ戦争を日本のロシア研究コミュニティが予期できなかった反省も動機となっている。DEEP DIVEは、資金とやる気さえあれば入手可能な衛星情報や電波情報(ELINT・SIGINT)を活用し、自治体や民間企業が危機管理や避難計画に使える「実践的な情報」を提供する。

非営利の一般社団法人として運営し、東京海上ディーアールとの業務提携など、持続可能なビジネスモデルを構築中だ。事務作業に苦労しながらも、支援者には「安全保障の一口株主」としての当事者意識を促し、セミナーや会員制度を通じて「会いに行ける情報機関」を目指す。安全保障を国家や専門家だけのものではなく、市民が参加できる身近なものに変える挑戦として、危機感と新しい可能性への期待を背景に活動を展開。支援者からの激励や参加意欲も、DEEP DIVEの理念が広く共鳴していることを示している。

この記事は、元記事の要約です。元記事は、三人の鼎談ですが、その鼎談を元に新聞記事風にまとめたのが、この記事です。

【私の論評】情報革命の衝撃:民間インテリジェンスが切り開く日本の安全保障とコロナ起源の真実

まとめ
  • 情報革命と民間インテリジェンス:インターネットの普及と衛星画像の低コスト化がOSINTを進化させ、DEEP DIVEのような民間インテリジェンス機関の設立を後押し。情報収集の民主化が個人や民間団体の分析を可能にした。
  • インターネットの力:2000年代のSNS(Facebook、Twitter)やWeb 2.0により、リアルタイム情報が増加。2011年のアラブの春やベリングキャットのMH17調査は、OSINTの統合力を示す。
  • 衛星画像の進化:民間衛星(Ikonos、Planet Labs)の発展で、衛星画像が手頃に。2021年の中国ミサイルサイロ発見やウクライナ紛争での活用は、市民参加の安全保障分析を証明。
  • 民間インテリジェンスとラボリーク説:Stratfor、Jane’s、東京海上ディーアールが民間インテリジェンスのモデルを提供。DRASTICやXコミュニティはWIVの不透明性を暴き、ラボリーク説を推進。トランプ政権の2025年サイトはOSINT成果を反映。
  • 民間インテリジェンスの未来:民間機関は政府の機密情報の限界を補い、透明な情報で危機管理を支援。市民参加で安全保障を身近にし、英語圏依存を打破。民主的議論と迅速な危機対応を可能にし、日本独自のプラットフォームを築く。
DEEP DIVEのような民間インテリジェンス機関の誕生は、情報革命の最前線に立つ日本の挑戦だ。インターネットの爆発的な普及によるオープンソース・インテリジェンス(OSINT)の進化、衛星画像の驚くべき入手しやすさ、そして既存の民間インテリジェンス機関の成功モデルが、この新たな動きを後押ししている。これらは情報を民主化し、国家や大企業だけでなく、個人や民間団体にも高度な分析の扉を開いた。

インターネットと衛星画像:情報の民主化

中国の夜の照明を捉えた衛星写真 これでGDPが推測できるという・・・・

インターネットの普及は、OSINTを革命的に変えた。ニュース、SNS、公式文書、動画を分析するOSINTは、1990年代までは新聞や書籍に頼るしかなかった。しかし、2000年代のWeb 2.0、2004年のFacebook、2006年のTwitter(現X)の登場で、情報は爆発的に増え、誰もがリアルタイムで発信・入手できるようになった。

Statistaによると、2022年のSNSユーザーは46億人、2025年時点でインターネットユーザーは世界人口の75%に迫る。2011年のアラブの春では、市民がTwitterやYouTubeで抗議の映像を公開し、研究者が瞬時に情勢を分析した。ベリングキャットは2014年のマレーシア航空MH17便撃墜事件で、SNS写真とGoogle Earthを駆使し、ロシアの関与を暴いた。この手法は、軍事や文化の壁を越えて情報を統合する力を示す。

衛星画像の進化も見逃せない。かつては軍事機密か大金の必要な衛星画像が、2000年代以降、民間衛星産業の飛躍で手の届くものに変わった。1999年のIkonos打ち上げを皮切りに、Planet LabsやMaxar Technologiesが低コスト・高解像度の画像を提供。2020年代には、1シーン数万円のサブスクリプションで個人でも購入可能だ。

合成開口レーダー(SAR)の進化で、夜間や悪天候でも撮影でき、カナダのRADARSAT-2は2022年のウクライナ紛争で民間にデータを供給した。2021年、OSINTコミュニティが中国の核ミサイルサイロ拡張を衛星画像で突き止め、IEEE Spectrumは「衛星は安全保障の新境地」と評した。北朝鮮の軍事基地や中国の不審な施設を衛星画像で分析する例は、市民参加の力を示す。衛星画像の価格は、リアルタイム監視で数十億円、月次レポートで数億円、簡易レポートなら数千万~数百万円と用途に応じて選べる。

民間インテリジェンスとラボリーク説

コロナウイルスの写真と模式図

既存の民間インテリジェンス機関は、新たな道を照らす。米国のStratforは1996年設立のシンクタンクで、地政学リスクを公開情報と人的ネットワークで分析。2001年の9.11テロや2011年のリビア内戦を予測し、企業や政府に重宝される。日本の商社がStratforに頼る現状は、英語圏依存の壁を浮き彫りにする。

英国のJane’s(現Janus Intelligence Services)は軍事情報の権威で、衛星画像や公開情報を基に、兵器や軍事施設のレポートを販売。日本の民間インテリジェンス機関としては、東京海上ディーアール株式会社のリスクマネジメント部が挙げられる。リスク評価や危機管理サービスを提供し、地政学リスク分析に取り組む。日本の民間インテリジェンスは欧米に比べ小規模だが、東京海上ディーアールは商業的補完として機能する可能性がある。これらの機関は、OSINTや衛星情報の商業的可能性を示し、持続可能な道筋を指し示した。

ベリングキャット以外のOSINTグループでは、DRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investigating COVID-19)がラボリーク説を強く推し進めた。2020年春に結成されたこの分散型グループは、専門家とアマチュアがXや公開データベースを駆使し、武漢ウイルス研究所(WIV)の研究と安全管理の不備を暴いた。

2021年、WIVが2012年のコウモリコロナウイルス(RaTG13)データを隠していた事実を突き止め、ラボリーク説の根拠とした。2025年2月のル・モンドは、DRASTICの調査がWHOや米国政府を動かし、「陰謀論」から真剣な議論へと転換したと報じた。匿名メンバー「The Seeker」は、WIVの2018年機能獲得研究計画を公開。2023年、米国エネルギー省やFBIがラボリーク説を支持する一因となった。

DRASTICは武漢市場の動物感染証拠の欠如を強調し、2022年のScience誌の動物起源説に反論したが、状況証拠への依存や科学的検証の不足で批判も浴びた。XやRedditの非公式OSINTコミュニティもラボリーク説を後押しした。2020年以降、武漢の病院やWIV周辺の衛星画像、交通データを分析。2019年秋の異常な活動(駐車場の混雑増加)を指摘した。

ハーバード大学の2021年研究は、衛星画像と検索データで2019年秋の感染開始を示唆し、ラボリーク説の間接的証拠となった。Redditのr/OSINTでは、WIVの資金やEcoHealth Allianceとの関係を追う議論が盛んだ。匿名Xユーザーが2019年9月のWIVデータベースオフライン化を発見し、DRASTICが拡散。2021年のニューヨーク・タイムズや2023年の米国議会報告書に影響した。しかし、科学的証拠の不足や政治的バイアスの懸念から、主流科学界では懐疑的な見方が強い。

トランプ政権のラボリーク説サイトと民間OSINTの輝かしい貢献


2025年4月、トランプ政権はCovid.govを「Lab Leak: The True Origins of COVID-19」(写真上)と題したウェブサイトに刷新した。このサイトは、コロナウイルスが武漢の研究所から漏洩したとするラボリーク説を力強く主張。ニューヨーク・タイムズによると、サイトはWIVの安全性問題や機能獲得研究を強調するが、新たな直接的証拠は提示していない。

民間OSINTグループの貢献は、このサイトの基盤を築いた輝かしい成果だ。DRASTICやX上のコミュニティは、WIVのデータ不透明性や2019年秋の異常活動を丹念に掘り起こし、ラボリーク説に説得力を持たせた。DRASTICが発見したRaTG13データの隠蔽やデータベースのオフライン化は、サイトの「自然起源の証拠がない」という主張に直接反映されている。XやRedditのOSINT愛好家は、衛星画像や交通データからWIV周辺の異変を指摘し、ハーバード大学の2021年研究を支えた。これらの努力は、市民の情熱と技術が、従来の政府や科学界が見過ごした可能性を浮かび上がらせた好例だ。

トランプ政権のサイトは、民間OSINTの成果を広く世に知らしめる役割を果たした。ベリングキャットやDRASTICの手法がなければ、こうした議論はここまで広がらなかった。CIAやFBIが「低信頼度」でラボリーク説を支持する背景にも、OSINTコミュニティの地道な調査がある。政治的色合いや証拠の限界が議論されるが、民間OSINTは、透明性と市民参加を通じて、真実追求の新たな道を切り開いている。

民間インテリジェンスの未来

2022年のウクライナ侵攻では、Maxarの衛星画像がロシア軍の動きを可視化し、SAR画像が戦術的失敗を露呈。2022年1月のトンガ火山噴火では、日本の気象衛星「ひまわり」が噴煙を捉え、災害時の衛星画像の即時性を示した。報道実務家フォーラム(2021年)で、ロイターのクリスティン・チャン氏は衛星画像を「報道の武器」と位置づけた。

インターネットと衛星画像の進化は、情報収集を市民の手に委ねた。XやTelegramはリアルタイム情報共有を可能にし、衛星画像の低コスト化は民間での地政学リスク監視を現実のものにした。政府の機密情報が民間や地方に届かない課題を、民間機関は透明な情報で埋める。

民間インテリジェンス機関の活動は、現代の安全保障に欠かせない意義を持つ。政府の情報は機密に縛られ、民間や地方自治体に届かない。

民間機関は、透明な情報で危機管理や住民避難を支え、英語圏依存の日本の現状を打破する。市民を巻き込み、安全保障を身近にすることで、民主的な議論を呼び覚ます。政府の限界を補い、多様な知見を結集して迅速な危機対応を可能にするのだ。民間インテリジェンスは、情報収集の民主化を体現し、日本独自の安全保障プラットフォームを築く先駆者として、未来を切り開く。

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