まとめ
- 米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン」が岩国基地で初公開され、トマホークとSM-6を搭載する多用途抑止力として示された。
- タイフォンの公開は、米国の「第一列島線」戦略と日本の反撃能力整備の動きが重なり合う象徴的な出来事となった。
- 背景にはINF条約の崩壊があり、ロシアのSSC-8配備による条約違反と、2019年の条約失効がタイフォン開発を可能にした。
- 中国・ロシアは自国で中距離ミサイルを配備しながら日本での米軍展開を非難しており、明らかなダブルスタンダードを示している。
- 日本はこの矛盾を外交の場で突き、「配備を避けたいなら自国の中距離ミサイルを撤去せよ」と毅然と主張すべきであり、これこそが「日本の覚悟」を示す行為である。
タイフォンは、トマホーク巡航ミサイルとスタンダードミサイル6(SM-6)の双方を発射できる。トマホークの一部は射程1600キロに達し、中国東部やロシア極東を狙うことが可能だ。SM-6は対空・対艦・地上攻撃、さらには弾道ミサイル防衛までこなす多用途兵器である。この組み合わせにより、タイフォンは柔軟かつ多層的な抑止力を発揮できる。移動展開が容易なため、米軍戦略の「空白」を埋める存在として位置づけられている。
米陸軍がそこで進めたのがタイフォンである。前線に置かれてこそ効果を発揮する兵器であり、第一列島線に位置する日本やフィリピンが展開の拠点に選ばれた。岩国での初公開は、冷戦後の軍縮秩序が終わりを告げ、新しい現実が始まったことを示すものだった。
🔳中露のダブルスタンダードと日本の覚悟
初めて一堂に会した中露朝の3首脳、「抗日戦争勝利80年」を記念する軍事パレードを観閲 |
中国外務省は「正当な安全上の利益を損なう」と非難し、ロシアも批判を繰り返す。しかし中国自身はDF-21DやDF-26といった中距離弾道ミサイルを大量に配備し、米空母や日本本土を射程に収めている。ロシアもまた条約違反を重ね、SSC-8を実戦配備しながら米国の行動だけを問題視してきた。これは明らかなダブルスタンダードである。
だからこそ日本は、外交の場でこの矛盾を正面から突くべきだ。「日本に配備されたくないのであれば、まず自国の中距離ミサイルを撤去せよ」と毅然と主張することが求められる。これこそが日本の覚悟を示す道である。
今回のタイフォン公開は、単なる兵器の披露ではない。日米同盟の抑止力を「見える形」にし、日本がインド太平洋の安全保障の現実にどう立ち向かうかを示す試金石である。外交・軍事・安全保障・地政学、そのすべてにおいて意味を持つ出来事であり、日本はここで逃げるのではなく、覚悟を持って未来を切り拓かねばならないのだ。
次世代兵器「レールガン」と小型モジュール炉(SMR)の組み合わせがもたらす、日本の戦略的優位について論じた。
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