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2025年3月6日木曜日

トランプ大統領が「日本の消費税廃止」を要求? JEEP以外のアメ車が日本で売れない理由は「そこじゃない」―【私の論評】トランプの圧力で変わるか?都内の頑丈な鉄橋の歴史が物語る日本の財政政策の間違い

トランプ大統領が「日本の消費税廃止」を要求? JEEP以外のアメ車が日本で売れない理由は「そこじゃない」

まとめ
  • 2025年1月20日就任のトランプ大統領が日本の消費税廃止に言及したとネットで話題だが、伝統メディアではあまり報じられていない。
  • 「相互関税」を提案し、アメリカ製造業の再生と販売促進を目指す。メキシコやカナダに25%関税を検討中。日本・EUには付加価値税(消費税)は、関税と同じようなものと主張。
  • 日本で消費税が廃止されても、アメリカ車の販売が大きく伸びるとは限らず、右ハンドル対応や販売網整備等が課題。
  • アメリカ車は、燃費や品質で日本車に劣るイメージが根強く、アメリカ市場でも日本車や欧州車が人気。
  • 関税政策は公正な貿易環境整備が目的と見られ、日本での販売拡大より企業判断に委ねる姿勢とみられる。筆者は消費税引き下げを期待。

なにかと話題なトランプ大統領の言動は、今後自動車の分野でも影響が出そうだと関係者たちは語る。今すぐは難しいかもしれないが、もしかすると今後アメ車が日本で買いやすくなる可能性も!?

 2025年1月20日に就任したアメリカのドナルド・トランプ大統領は、物議を醸す発言で注目を集めており、最近では日本の消費税廃止に言及したとの報道がネット上で話題となっている。ただし、新聞やテレビなどの伝統的なメディアではほとんど取り上げられていない。トランプ氏は「関税」を武器に各国との交渉を進めており、アメリカ製造業の再生と製品の販売促進を背景に、メキシコやカナダに対しては不法移民や違法薬物の取り締まり強化を求めつつ、全輸入品に25%の関税を課す計画を進めている。本稿執筆時点では、この関税導入が目前に迫っている状況だ。

 さらにトランプ氏は「相互関税」という概念を提案し、相手国がアメリカ製品に課す関税と同じ水準をアメリカへの輸入品に課すことを検討中。この調査対象に消費税のような付加価値税が含まれ、トランプ氏は「付加価値税と関税は本質的に同じ」と発言したと報じられた。これがネット上で「日本の消費税廃止を要求している」と解釈され、議論を呼んでいる。しかし、消費税が廃止されただけでアメリカ車が日本で売れるようになるかは疑問だ。シボレー・コルベットやジープの一部は右ハンドル仕様があるが、ドイツ車ほど右ハンドル対応が一般的ではなく、アメリカ車ファンの中には「ジャパンナイズ」された仕様に抵抗を示す人もいる。

 一方、アメリカ車を個人輸入する愛好家もおり、左ハンドル車を好む層も存在する。販売網の充実がなければ、消費税廃止だけでは販売が飛躍的に伸びるのは難しい。過去、バブル期には「燃費が悪く品質が劣るアメリカ車」とのイメージが報道で強調され、その印象が今も残る。現在のアメリカ車はダウンサイズが進み、1.5~2リッターのターボエンジンが主流だが、日本車に比べ燃費性能が劣るとの声もある。

 アメリカ国内では、日本車や欧州車、韓国車が人気で、特にハイブリッド車が売れている。フォードは日本市場から撤退したが、ジープやGMは右ハンドル車を用意し堅実な展開を続ける。トランプ氏の関税政策は公正な貿易環境整備が目的と見られ、日本でのアメリカ車販売拡大を直接目指しているわけではないだろう。筆者は、消費税の大幅引き下げを庶民として期待している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプの圧力で変わるか?都内の頑丈な鉄橋の歴史が物語る日本の財政政策の間違い

まとめ
  • トランプ圧力によって、日本の消費税廃止が実施されれば、購買力が増え、GDPが3~5%押し上げられる可能性がある。
  • 消費税撤廃で消費が活性化し、アップルやハーレーなど輸入が増え、米国製品の輸入も増える可能性がある。
  • しかし、関税引き上げをすれで、景気が悪化し、米国製品が売れなくなる可能性がある。
  • コルビーが防衛費GDP比3%超を主張、石破首相は増税を検討するかもしれないが、それでは経済低迷で米国製品の売上減少を招くことになる。
  • 増税でなく国債で賄えば現世代の負担が減り、景気回復で米国に利点。関東大震災復興の鉄橋がその有効性を示す。
トランプ大統領が、「日本の消費税廃止を要求している」という話題については、最近このブログに述べたばかりである。その記事のリンクを以下に掲載する。
日中の通貨安誘導を批判 関税引き上げ示唆―トランプ米大統領―【私の論評】トランプの相互関税が日本を直撃!消費税撤廃で米国製品輸入増か、関税戦争で景気後退か?

この記事では、日本が消費税を撤廃した場合、どうなるかについて述べた。以下にその部分を引用する。

日本で消費税が撤廃されれば、消費者の可処分所得が増え、購買意欲が高まる。2025年3月時点で日本の消費税率は10%。これがゼロになれば、家計の実質的な購買力は大きく向上する。2014年に消費税が5%から8%に引き上げられた際、個人消費が落ち込み、GDP成長率がマイナスに転じた。逆に、消費税を撤廃すれば、内閣府の試算によるとGDPは3~5%押し上げられる可能性がある。

景気が回復すれば輸入需要も増し、米国産の農産物やエネルギー、工業製品の需要が拡大するかもしれない。日本は米国農産物の主要輸出先であり、年間約150億ドルを輸入している。消費税撤廃で日本の消費が活性化すれば、米国の農家にとっても追い風となる。結果として、米国の対日貿易赤字(2024年で約600億ドル)も縮小する可能性がある。

しかし、輸入増加が米国製品に集中するとは限らない。為替レートや中国、EUとの競争が影響し、米国製品が割高なら効果は限定的だ。

確かに、消費税を撤廃したからといって、急激にアメ車が売れるとは限らない。しかし、消費税があるよりは、売れやすくなるのは間違いない。

アメリカ製品といえば、車以外にも様々なものがある。パソコンなどのデバイスではアップル製品があり、バイクはハーレダビッドソンなど、根強い人気がある。ハーレーダビッドソンは、輸入二輪車市場でシェアトップを維持している。

これらだけではなく、他の製商品も米国企業が日本にあわせたマーケティング戦略をとれば、さらに売れる可能性は高まるだろう。

私自身も、50年代の米国音楽や、雰囲気が好きで、そのようなテーストのある店には、今でも足繁く通っている。ただ、そのような店は減りつつあり残念に思っている。

50年代ジャズが聴ける"D-Bop"Jazz Club

消費税を撤廃すれば、米国製品・商品は今以上に売れる可能性は高まる。しかし、関税があがると岸田、石破政権の経済差政策の不味さもあいまって、日本の景気は後退し、米国製品が今以上に売れる可能性はなくなるどころさらに売上は下がるだろう。一般にどこの国でも、景気が良くなると輸入が増え、景気が悪くなると輸入は減る。米国にとっては、短期的には関税は良いかもしれないが、中長期的には良くない。

このような状況のなか、エルブリッジ・コルビー元国防副次官補は、トランプ米大統領による国防総省政策担当次官への指名に伴い、上院の承認プロセスで、日本が防衛費をGDP比3%以上に早期に引き上げるべきだと主張した。

現在の日本の方針である2027年度の2%目標を「不十分」と批判し、中国や北朝鮮の脅威を考慮すれば2%では不合理だと述べた。また、日本は西太平洋の防衛で更さらに大きな役割を担うべきとし、台湾にはGDP比10%の防衛費を求めた。一方、石破茂首相は5日の参院予算委で、防衛費は他国の指示で決めるものではなく、積み上げによる慎重な議論が必要との立場を示した。

石破総理は、防衛費増の財源としては、消費税などの増税しかないと考えているのだろう。しかし、現状で増税すれば、日本経済は低迷し米国製品はますます売れなくなってしまうだろう。

いつまでも、増税に拘っていれば、ますます米国製品は日本国内で売れなくなるだろう。このジレンマを解決するには、財源を消費税などの増税ではなく、国債によって賄うことを考えるるべきだろう。

長期政策を実施を税金だけに頼ると、現世代が長期政策の全コストを背負い、将来世代がその恩恵をほとんど負担せずに受け取る構造になる。これは現世代に過剰な負担を強いるだけでなく、世代間の不公平を生み、経済的・社会的な歪みを引き起こす。現実は、財務省が主張する、将来世代への付け回しではなく、現世代が多大なコストを背負わせることを意味するのだ。国債を活用すれば、この負担を将来に分散させ、現世代と将来世代の間でより公平な分担が可能になる。

このことは、都内の江東地区に多い頑丈な鉄橋をみてもわかる、これらの橋梁は関東大震災の復興で実施されたものだが、この復興はほとんどが国債で賄われている。関東大震災で江東地区は灰燼に帰し、ほんどの木造の橋が燃えてなくなってしまった。それを復興で現在のような丈夫な鉄橋に架替えたのだ。

江東新橋

これらの頑丈な鉄橋は、建造後20年後に絶大な威力を発揮した。1945(昭和20)年3月9日深夜から10日未明、アメリカ軍のB-29重爆撃機の大編隊が東京を焼夷弾で絨毯爆撃し、江東地区は再び灰燼と化した。しかし幸いなことに、震災復興橋梁のうち鉄橋のほぼ全部が激しい空襲に耐えて避難路となったため、多くの被災者の命が助かっている。無論それでも死者数は多く、このときの東京大空襲の死者は江東区を含めて10万人とされている。しかし、もし鉄橋がなかったら、更に多くの人々がなくなっていただろう。

さらに、これらの橋は、戦後80年を経ても今でも使われていて、多くの車両や人々が行き交い、私達は今でもその便益を受けている。今でも、江東新橋などの橋がテレビドラマなどにでてくるのを見かける。

この橋の建設を含むを首都崩壊の復興が、税金だけで賄われたとしたら、どうだっただろう。建設当時の人々の負担は、目を覆うばかりのものとなっただろう。当時豊かではなかった日本では、多くの人々が貧困にあえぐことになっただろう。そうして、その後の世代は立派な橋が残っても、貧困で、せっかくの立派な橋も経済活動が乏しいため、あまり有効に使われないという結果になっただろう。この事例のように長期にわたって便益を与える大きなブロジェクトは、国債で賄うべきなのだ。これらの橋とその歴史がその正しさを示している。

トランプ大統領の関税圧力や防衛費増額圧力などが、日本の財政政策を結果として良い結果に導くならば、歓迎したい。ただ、米国の圧力で日本経済が復活するのではなく、やはり自発的にこれを行うべきだろう。

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2025年2月20日木曜日

「硫黄島の戦い」から80年 トランプ大統領が談話「日米同盟は平和と繁栄の礎となった」―【私の論評】トランプのゼレンスキー塩対応と硫黄島80周年談話の驚くべき連動を解き明かす

「硫黄島の戦い」から80年 トランプ大統領が談話「日米同盟は平和と繁栄の礎となった」

まとめ
  • トランプ大統領は「硫黄島の戦い」80周年を記念し、1945年の戦いで旧日本軍が約2万2000人の犠牲を出して敗北したことを振り返り、アメリカの自由が若者たちによって守られたと談話で述べた。
  • 日米が過去に激しい戦争を戦ったにもかかわらず、現在の日米同盟はインド太平洋地域の平和と繁栄の礎となっていると強調した。
「硫黄島の戦い」から80年の談話を公表したトランプ 背景は硫黄島のすり鉢山に米国旗を立てた米兵の銅像 AI生成画像

 トランプ米大統領は、太平洋戦争末期に日米両軍が激突した「硫黄島の戦い」から80年が経過した2月19日、談話を発表した。この戦いは1945年2月19日から始まり、旧日本軍が約2万2000人という甚大な犠牲を出し玉砕した歴史的な戦闘である。

 トランプ大統領は談話の中で、「アメリカの自由は、硫黄島の戦いで旧日本軍を打ち破ったアメリカの勇敢な若者たちによって守られた」と当時を振り返った。その上で、「日本とアメリカはかつて残酷な戦争を戦ったにもかかわらず、今日の日米同盟はインド太平洋地域における平和と繁栄の礎として確立されている」と述べ、同盟の意義を強く強調した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプのゼレンスキー塩対応と硫黄島80周年談話の驚くべき連動を解き明かす

以下に「トランプ談話に関する分析」と、談話の本文及びその翻訳を掲載します。

まとめ 
  • トランプ大統領が2025年2月19日、硫黄島の戦い80周年談話とゼレンスキー批判を同日に行ったのは偶然ではなく、外交と国内アピールを絡めた戦略だ。
  • 硫黄島談話は日米同盟を称賛し、アメリカの強さと「アメリカ第一主義」を強調する愛国的なメッセージである。
  • ゼレンスキー批判はウクライナ戦争の早期終結を求めるトランプの外交姿勢を示し、同盟国を選びつつアメリカの利益を優先する意図が透ける。
  • 中国との対峙を最優先とするトランプは、ウクライナ問題を片付け、日本との連携を強化してインド太平洋に集中する狙いがある。
  • 日本への間接的な警告も含まれ、アメリカの優先事項に協力しない場合、同盟関係に影響が出ると示唆している。 
トランプ大統領が2025年2月19日、硫黄島の戦い80周年を記念する談話を発表した。同日にSNSでウクライナのゼレンスキー大統領を「選挙をしていない独裁者」とぶった斬った。この二つ、無関係ではない可能性がある。タイミングがドンピシャであるし、トランプの政治スタイルを考えれば、外交戦略と国内メッセージが絡んだ一石二鳥の仕掛けだと見る余地がある。
安倍首相は日本の首相として初めて、米上下院合同会議で演説した

まず、硫黄島談話だ。歴史的な勝利を前面に持ち出し、日米同盟の重みを強調する。アメリカの軍事力の偉業を自慢し、今の同盟関係を褒めちぎる内容だ。トランプの「アメリカ第一主義」と愛国心がむき出しで、保守層や退役軍人に響く、胸が熱くなるメッセージだ。ここには歴史を活かす工夫がある。
2015年4月29日、安倍晋三首相が米議会で「希望の同盟」と演説したことを思い出せ。あの時、安倍首相は硫黄島の戦いを引き合いに出し、敵だった日本とアメリカが今や同盟国になった「歴史の奇跡」を称えた。リンカーンのゲティズバーグ演説をオマージュし、「人民のための政治」を引用して戦死者の犠牲に意味を持たせ、未来の絆を描いた。トランプも同じだ。硫黄島を称え、日米の結束を強調する歴史の使い方が巧みである。
一方、ゼレンスキーへの塩対応はどうだ。ロシアとの停戦協議でウクライナがゴネる姿勢に、トランプが苛立っているのが透ける。彼の外交の軸、つまりウクライナ戦争をさっさと終わらせたい立場を正当化する一発だ。この二つが同日に飛び出した意味は大きい。歴史と今をつなぎ、リーダーシップを際立たせる。トランプの狙いがそこにあるとしか思えない。
具体的に見てみよう。硫黄島談話では、日米同盟を「インド太平洋の平和と繁栄の礎」と位置づける。日本との絆を称賛し、アジアでのアメリカの影響力を誇示する。これは外交のシグナルだ。ウクライナ問題で欧米がギクシャクする中、同盟国との結束を打ち出す。一方で、ゼレンスキーへの冷淡さは鮮明だ。トランプのSNS、Truth Socialで「独裁者」と切り捨て、2月18日の会見でも「戦争を自分で始めた」と言い放つ。ウクライナ支援に懐疑的で、ロシアとの交渉を優先する姿勢が鮮明だ。日本への敬意とウクライナへの批判。この対比が、同盟国を選びつつアメリカの利益を最優先するトランプの姿を浮かび上がらせる。
トランプはこう考えている可能性がある。超大国アメリカでも、二正面、三正面で戦うのはキツい。中国との対立を最優先に据えるなら、ロシアやウクライナ、EUが足を引っ張るのは我慢ならない。中国の「残虐で身勝手な価値観」が世界に広がるのを防ぐ。それが大義だ。EUやウクライナ、ロシアにも利するはずなのに、なぜ邪魔するのか。トランプは苛立つ。そんな思いが両方の発言に滲む。
硫黄島談話で日米同盟を強調するのは、中国への対抗軸として日本の役割を再確認するものだ。ゼレンスキー批判は、ウクライナ問題にリソースを食われることへの警告である。トランプにとって、ウクライナ戦争の長期化やEUの対ロ強硬姿勢は、中国への集中力を削ぐ厄介者だ。それを排除する意図が両方に隠れている。
さらに、日本への警告もあると見える。硫黄島で日米同盟を称賛しつつ、ゼレンスキーに冷酷な態度を取る。これは日本への間接的な一言だ。「アメリカの優先事項に逆らうなら、同盟関係も危ういぞ」と。安倍の演説を思い出せ。彼は硫黄島の戦いで戦った米兵と日本兵の子孫が並んで聴いている姿を「歴史の奇跡」と呼び、第2次大戦記念碑への敬意を述べた。戦死者の犠牲を称え、未来の協力を説いたのだ。トランプも硫黄島を称えるが、その裏には、日本の政権が特に対中戦略で安倍路線を継承しない場合、牙をむく可能性もあるということだ。
日本とアメリカの反応も対照的だ。日本では、ゼレンスキー批判に反発が渦巻く。朝日新聞(2025年2月20日)は「トランプの独善が露呈」と切り捨てた。北方領土問題を抱える日本にとって、ウクライナ侵攻はアジアの安全保障と直結する。一方、アメリカでは支持層がゼレンスキー批判を歓迎だ。Fox News(2025年2月20日)は「ウクライナに税金を使うな」と煽り、保守派から拍手喝采だ。だが、民主党やリベラル層は「ロシアへの譲歩は危険」と反発。国内は真っ二つだ。この違いが、トランプが日本より国内の支持を優先していることを示す。
タイミングも見逃せない。2025年2月19日は硫黄島の戦い開始から80年だ。歴史的な節目である。同時に、ロシアとアメリカの停戦協議が進む中、ゼレンスキーが前日(2月18日)に不満をぶちまけた直後でもある。トランプはこの日に硫黄島談話を出し、ゼレンスキーを叩く。歴史の勝利でアメリカの強さを誇り、ウクライナ問題で交渉力を正当化する二重のメッセージだ。硫黄島では犠牲を払って勝ったが、ウクライナでは犠牲を避け、早く終わらせたい。それがトランプの立場だ。中国との対峙を優先するなら、ウクライナを片付けてインド太平洋に集中する。それが戦略の核心である。
トランプは歴史を政治の道具にするのが上手い。1期目には南北戦争の記念碑問題で愛国心を煽り、支持層を固めた。今回も硫黄島80周年を活用し、愛国心を呼び起こす。同時に、ゼレンスキー批判で「現実主義」をアピールする。「独裁者」発言はウクライナが選挙を延期している状況(2022年ロシア侵攻以降)を指すが、実利を優先するトランプらしい。「自由を守った若者たち」と硫黄島談話で言い、「選挙をしない独裁者」とゼレンスキーを叩く。自由と独裁の対比で外交観を際立たせる。中国との対立を大義とするなら、ウクライナやEU、日本が足を引っ張るのは我慢ならない。そんな思いが隠れている。
硫黄島80周年談話とゼレンスキー批判は無関係ではない。トランプの政治的アイデンティティがそこにある。歴史への敬意、アメリカの強さの誇示、同盟国との選択的協力、ウクライナでの独自路線。それが両者に映し出される。安倍首相が「希望の同盟」で歴史を援用し、日米の絆を強調したように、トランプも硫黄島を活用する。ただし、その裏には厳しい現実主義がある。中国との対峙を最優先とするなら、硫黄島談話で日本との連携を固め、ゼレンスキー批判でウクライナ問題を切り上げる。それがトランプの狙いだ。
日本への警告も込めつつ、国内基盤を優先する姿勢が透ける。アメリカの国益を最大化し、中国という大敵に備える。トランプの外交姿勢の一部だ。ただし、これがどこまで計算ずくか、偶然かは、彼のさらなる発言や証拠がない限り断定できない。だが、この二つが絡み合う物語は、目を離せない展開を見せるだろう。

以下にトランプ大統領の談話の全文と、その翻訳をに掲載します。

Proclamation—80th Anniversary of the Battle of Iwo Jima

February 19, 2025

By the President of the United States of America
A Proclamation

On the morning of February 19, 1945, the first wave of United States Marines landed on the island of Iwo Jima -- commencing 36 long, perilous days of gruesome warfare, and one of the most consequential campaigns of the Second World War. With ruthless fervor, the Japanese struck our forces with mortars, heavy artillery, and a steady barrage of small arms fire, but they could not shake the spirit of the Marines, and American forces did not retreat.

Five days into the conflict, six Marines ascended the island's highest peak and hoisted Old Glory into the summit of Mount Suribachi -- a triumphant moment that has stood the test of time as a lasting symbol of the grit, resolve, and unflinching courage of Marines and all of those who serve our Nation in uniform.

After five weeks of unrelenting warfare, the island was declared secure, and our victory advanced America's cause in the Pacific Theater -- but at a staggering cost. Of the 70,000 men assembled for the campaign, nearly 7,000 Marines and Sailors died, and 20,000 more were wounded.

The battle was defined by massive casualties but also acts of gallantry -- 27 Marines and Sailors received the Medal of Honor for their valor during Iwo Jima. No other single battle in our Nation's history bears this distinction. Eighty years later, we proudly continue to honor their heroism.

American liberty was secured, in part, by young men who stormed the black sand shores of Iwo Jima and defeated the Japanese Imperial Army eight decades ago. In spite of a brutal war, the United States–Japan Alliance represents the cornerstone of peace and prosperity in the Indo-Pacific.

Nonetheless, our victory at Iwo Jima stands as a legendary display of American might and an eternal testament to the unending love, nobility, and fortitude of America's Greatest Generation. To every Patriot who selflessly rose to the occasion, left behind his family and his home, and gallantly shed his blood for freedom on the battlefields at Iwo Jima, we vow to never forget your intrepid devotion -- and we pledge to build a country, a culture, and a future worthy of your sacrifice.

NOW, THEREFORE, I, DONALD J. TRUMP, President of the United States of America, by virtue of the authority vested in me by the Constitution and the laws of the United States, do hereby proclaim February 19, 2025, as the 80th Anniversary of the Battle of Iwo Jima. I encourage all Americans to remember the selfless patriots of the Greatest Generation.

IN WITNESS WHEREOF, I have hereunto set my hand this nineteenth day of February, in the year of our Lord two thousand twenty-five, and of the Independence of the United States of America the two hundred and forty-ninth.

Signature of Donald Trump
DONALD J. TRUMP



摺鉢山山頂に星条旗を立てる米海兵隊員。これをモチーフにしたブロンズ像がワシントンDCのアーリントン国立墓地に設置されている



翻訳文
宣言—硫黄島の戦い80周年
2025年2月19日


1945年2月19日の朝、アメリカ合衆国海兵隊の第一波が硫黄島に上陸し、36日間にわたる長く危険な戦闘が始まりました。これは第二次世界大戦で最も重要な作戦の一つとなりました。日本軍は容赦ない勢いで迫撃砲、重砲、そして小火器の絶え間ない弾幕で我々の軍を攻撃しましたが、海兵隊の精神を揺るがすことはできず、アメリカ軍は後退しませんでした。
戦闘開始から5日目に、6人の海兵隊員が島の最高峰である摺鉢山に登り、山頂に星条旗を掲げました。この勝利の瞬間は、時を経ても色褪せることのない、海兵隊員や我が国に制服で仕えるすべての人々の勇気、決意、そして不屈の精神を象徴する永遠のシンボルとして残っています。
5週間にわたる絶え間ない戦闘の後、島は制圧されたと宣言され、我々の勝利は太平洋戦域におけるアメリカの大義を前進させました。しかし、その代償は驚異的なものでした。この作戦のために集められた7万人のうち、約7,000人の海兵隊員と水兵が命を落とし、さらに2万人が負傷しました。
この戦いは膨大な犠牲を特徴づけましたが、勇敢な行動もまたその一部でした。硫黄島での勇気ある行動に対し、27人の海兵隊員と水兵が名誉勲章を受章しました。我が国の歴史において、単一の戦闘でこれほど多くの受章者を出した例はありません。80年後の今もなお、彼らの英雄的行為を誇りを持って称え続けています。
アメリカの自由は、80年前に硫黄島の黒い砂浜に突撃し、日本帝国軍を打ち破った若者たちによって一部守られました。残酷な戦争にもかかわらず、アメリカ合衆国と日本の同盟は、インド太平洋における平和と繁栄の礎を代表しています。
それでもなお、硫黄島での我々の勝利は、アメリカの力の伝説的な示威として、またアメリカの「最も偉大な世代」の尽きることのない愛、高潔さ、そして不屈の精神の永遠の証として残っています。家族や故郷を後にし、硫黄島の戦場で自由のために勇敢に血を流し、無私の思いで立ち上がったすべての愛国者に、我々はあなたの不屈の献身を決して忘れないと誓います。そして、あなたの犠牲にふさわしい国、文化、そして未来を築くことを約束します。
よって、ここに私、ドナルド・J・トランプ、アメリカ合衆国大統領は、合衆国憲法および法律によって与えられた権限に基づき、2025年2月19日を「硫黄島の戦い80周年」と宣言します。私はすべてのアメリカ人に、最も偉大な世代の無私の愛国者たちを思い起こすことを奨励します。
以上の証として、私はここに署名し、主の年2025年2月19日、アメリカ合衆国の独立249年目にこれを記します。
ドナルド・トランプ

2025年2月18日火曜日

日米仏の「空母」共同訓練を実施 空母と艦載機が一同に会したレアショットを公開―【私の論評】仏軍空母、60年ぶりの太平洋展開が示すインド太平洋戦略の新局面

日米仏の「空母」共同訓練を実施 空母と艦載機が一同に会したレアショットを公開

まとめ
  • アメリカ海軍の「カール・ヴィンソン」、海上自衛隊の「かが」、フランス海軍の「シャルル・ド・ゴール」が、2025年2月10日から18日にかけてフィリピン東方海域で日米仏共同訓練「パシフィック・ステラー」を実施し、その様子が「カール・ヴィンソン」の公式Facebookで公開された。
  • 訓練の目的は、日米仏海軍の相互運用性の向上、アメリカ海軍の能力の発信、地域の安定への貢献、そして持続的な影響力の強調にある。

カール・ビンソンの公式Face Bookに掲載された写真

アメリカ海軍の原子力空母「カール・ヴィンソン」の公式Facebookは2025年2月17日、海上自衛隊の護衛艦「かが」とフランス海軍の原子力空母「シャルル・ド・ゴール」との合同訓練の画像を公開した。この訓練は、2025年2月10日から18日にかけてフィリピン東方の海域で行われる日米仏共同訓練「パシフィック・ステラー」の一環として実施されたものである。

訓練中の画像には、「カール・ヴィンソン」、「シャルル・ド・ゴール」、「かが」の3隻が他の艦艇を従えて並んで航行する様子が映し出されており、さらに「カール・ヴィンソン」のF/A-18F「スーパーホーネット」、F-35C「ライトニングII」、E-2D「アドバンスドホークアイ」や、「シャルル・ド・ゴール」の「ラファールM」といった艦載機が揃った場面も投稿されている。

今回の訓練の目的について、「カール・ヴィンソン」の公式Facebookは、アメリカ、日本、フランス海軍間の相互運用性を向上させるとともに、アメリカ海軍の能力を示し、地域の安定への貢献を促し、さらには持続的な影響力を強調することにあると説明している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】仏軍空母、60年ぶりの太平洋展開が示すインド太平洋戦略の新局面

まとめ
  • 「パシフィック・ステラー25」は中国の海洋進出を念頭に、日米仏の協力強化を図る多国間共同訓練である。
  • フランスの「クレマンソー25」任務と戦略的に連携し、日本の「自由で開かれたインド太平洋」構想を具体化する狙いがある。
  • フランスの空母展開は1960年代以来初であり、沖縄のホワイトビーチへのフランス艦船の寄港を通じて戦略的影響力を示している。
  • フランス領ポリネシアなどの海外領土を背景に、フランスはインド太平洋地域での関与を強めている。
  • 本訓練は、単なる軍事演習にとどまらず、インド太平洋地域の安定に向けた具体的な行動である。日米仏の協力関係を強化し、戦略的な抑止力を高めることで、この地域の安全保障環境を守る重要な訓練であると言える。

吉田圭秀統合幕僚長

「パシフィック・ステラー25」は、現在の国際情勢において極めて重要な多国間共同訓練である。中国の海洋進出が加速する中、日米仏の連携を示すことで、地域の安定を維持し、抑止力を高める狙いがある。吉田圭秀統合幕僚長も指摘するように、同盟国との協力強化は安全保障上、不可欠な要素である。

この訓練は、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けた具体的な取り組みであり、フランスの「クレマンソー25」任務(後述)と戦略的利益が一致していることを示している。日米仏の艦艇が集結することで相互運用性が向上し、日本の防衛能力の向上にも大きく寄与する。

フランス空母の太平洋展開は1960年代以来初となる。これは、フランスのインド太平洋地域への関与を強く示す出来事でもある。実際、フランス軍の活動は沖縄県内でも活発化しており、2025年2月13日にはフランス海軍の原子力空母「シャルル・ド・ゴール」を中心とする艦隊の一部が、沖縄県うるま市の米海軍施設ホワイトビーチに寄港した。これは「クレマンソー25」の一環であり、三カ国の協力関係を視覚的に示す象徴的な出来事となった。

クレマンソー25のシンボルマーク

「クレマンソー」とは、フランス空母シャルル・ド・ゴールを中心とする空母打撃群の長期任務全体を指す名称である。フランス側にとって、「パシフィック・ステラー」への参加は「クレマンソー25」任務の一環という位置づけであり、この地域における戦略的影響力を高める狙いがある。

ホワイトビーチに寄港したのは、フリゲート艦と最新鋭補給艦「ジャック・シュヴァリエ」である。一方、原子力艦である空母「シャルル・ド・ゴール」は寄港していない。これは手続き上の問題があると推測される。これらの艦船は、国連安保理の制裁決議に違反する北朝鮮の密輸行為を監視する目的で、国連軍地位協定に基づき入港したとされている。

フランス大使館は、これらの動きについて「このオペレーションは、パートナー国や同盟国の支援のもと、フランス軍の自律を示している」とコメントしている。これは単なる軍事演習にとどまらず、フランスの戦略的関与の明確なメッセージでもある。

フランスは南太平洋に海外領土を持ち、その中でも特に重要なのがフランス領ポリネシアである。この地域は、1842年から順次フランス領となり、1958年に海外領土として確立された。ソシエテ諸島、トゥアモトゥ諸島、マルケサス諸島などを含み、首都はタヒチ島のパペーテである。

フランスが1960年代に太平洋に空母を展開した背景には、当時の核実験政策が関係している。フランス領ポリネシアのムルロア環礁は1966年から1996年まで核実験場として使用されていた。当時の空母展開は、核実験を支援するとともに、フランスの軍事的プレゼンスを示す目的もあった。

「パシフィック・ステラー25」は、単なる軍事演習にとどまらず、インド太平洋地域の安定に向けた具体的な行動である。日米仏の協力関係を強化し、戦略的な抑止力を高めることで、この地域の安全保障環境を守る重要な訓練であると言える。

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2025年2月17日月曜日

戦車不足ロシア、ついに80年前の主力戦車を出撃準備の「証拠映像」拡散…「現代兵器にどう対抗するのか」―【私の論評】ロシア軍のT-34登場は戦車不足の象徴か? ウクライナ戦争の行方と停戦交渉の危うさ

戦車不足ロシア、ついに80年前の主力戦車を出撃準備の「証拠映像」拡散…「現代兵器にどう対抗するのか」

まとめ
  • ウクライナ国防省は、ロシアがウクライナ侵攻で1万両の戦車を失ったと発表。
  • ロシアは戦車不足から、冷戦時代のT-54/55や第二次大戦のT-34まで投入する可能性がSNSで話題。
  • ウクライナの発表では正確性に限界があり、Oryxの調査によると3740両の戦車が失われたとされる。
  • ソーシャルメディア上では、T-34が現代の対戦車兵器にどう対抗するかが疑問視されている。
  • ロシアの旧式装備の使用は、戦争継続能力に疑問を投げかけている。

T34-85(85ミリ砲を装備したT34)

ロシアのウクライナ侵攻により、ウクライナ国防省はロシアが1万両の戦車を失ったと発表した。これはロシアの深刻な戦車不足を示すもので、冷戦時代のT-54やT-55に続き、第二次世界大戦のT-34までもが戦場に投入される可能性があるとSNSで話題になっている。2月10日、ウクライナはロシアが過去24時間で9両の戦車を失ったと報告し、これにより戦争開始以来の戦車損失総数が初めて1万両を超えたと明らかにした。しかし、戦車の損失数は概算であり完全には正確ではないと注意を促している。

調査サイト「Oryx」によると、ロシアは3740両の戦車を失っており、その内訳は2672両が破壊、157両が損傷、377両が放棄、534両が鹵獲されたとしている。SNSでは、T-34が現代の対戦車兵器にどのように対抗するか疑問視され、この旧式戦車が破壊される映像が待ち望まれている。

ロシア国内では、昨年の戦勝記念日の軍事パレードで新型戦車がほとんど見られず、T-34が1両のみ登場したことで、装備の不足が話題となった。この状況は、ロシアが戦争を継続するための能力に疑問を投げかけるものともなっている。現在、ロシアはウクライナ東部ドネツク州で攻勢を強めているが、兵士と装備の大きな損失を出し続けており、停戦合意の可能性が議論される中でもその損失は増え続けている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ロシア軍のT-34登場は戦車不足の象徴か? ウクライナ戦争の行方と停戦交渉の危うさ

まとめ
  • ロシア軍の訓練動画に第二次大戦期のT-34戦車が登場し、訓練用車両不足のため式典用を流用した可能性が指摘されている。
  • T-34は圧倒的な生産数と戦闘力で独ソ戦を優位に進め、第二次大戦後も朝鮮戦争や冷戦期に使用された。
  • 戦車損失が深刻化し、補充が困難なため、オートバイや荷馬車など非伝統的な手段に依存している。
  • トランプ前大統領が停戦交渉を模索するも、多大な譲歩を伴う可能性があり、米国の姿勢が焦点となる。
  • 力による現状変更を容認する停戦は中国の増長を招き、日本の安全保障や北方領土問題にも悪影響を及ぼす可能性がある。米国は停戦というよりは、凍結を目指しているのではないか。中国との対決を最優先しているのではないか。
2024年10月、ロシア軍の訓練動画に、第二次世界大戦で運用されたT-34中戦車が登場し、SNSで話題となった。専門家の見解では、ウクライナとの戦闘により訓練用車両が不足し、式典用に保管されていたT-34を引っ張り出した可能性が高いとされる。

T-34は、戦車史に燦然と輝く傑作である。第二次世界大戦中に約3万5000両、戦後を含めれば約6万4000両が生産された。ドイツ軍のIV号戦車が約9000両だったことを考えれば、T-34がいかに量産されたかが分かる。この圧倒的な数は、戦局を左右する決定的な要因の一つとなった。

ドイツ軍のIV号戦車

1940年9月、ハリコフ機関車工場でT-34の量産が始まり、翌1941年6月22日、独ソ戦が勃発すると、ドイツ軍を驚愕させた。傾斜装甲により砲弾を弾く設計、当時のドイツ軍戦車を凌駕する76.2mm砲、燃えにくいディーゼルエンジン、そして悪路に強い履帯。これらの要素が組み合わさり、T-34は圧倒的な戦闘力を発揮した。

ソ連は、この優れた戦車を極限まで量産した。鋳造製砲塔、アーク溶接を採用し、生産性を飛躍的に向上。1942年には生産数1万両を超え、スターリングラード攻防戦では、戦闘中にも工場で生産が続けられ、戦局を変えた。1943年末には85mm砲搭載のT-34-85が登場し、ドイツ軍を数でも性能でも圧倒。第二次大戦後もT-34-85は朝鮮戦争で北朝鮮軍の主力として活躍し、冷戦期にも多くの戦場で使用された。

だが、時代は変わった。現在、ロシアが保有するT-34は式典用のものに過ぎない。現代の戦場では、火力、防御力ともに通用しない。偵察や防衛戦に活用できる可能性はあるが、最前線に投入されることは考えにくい。

英国防省の衛星写真は、ロシアの軍用車両保管基地の車両数が激減していることを示している。戦車の損失は深刻で、ロシア軍はオートバイや荷馬車といった輸送手段に頼るまでになっている。新規戦車の生産能力も低く、西側の経済制裁により必要な部品調達が困難なため、補充は容易ではない。

第二次世界大戦中は各国の軍隊で馬が用いられていた 写真はパリを占拠したド逸群

こうした状況下で、ウクライナ戦争は長期化の様相を呈している。その解決に向け、トランプ前大統領が停戦交渉に乗り出した。だが、問題は米国の姿勢だ。ウクライナのNATO加盟もクリミア奪還も「現実的ではない」とされ、多大な譲歩を強いられる可能性がある。

力による現状変更を認める停戦は、未来の災いの種となる。トランプ政権の意図は理解できる。中国との対決を見据え、戦争を終わらせたいのだろう。しかし、中途半端な妥協は、逆に中国を増長させる。台湾問題にも悪影響を及ぼし、日本の安全保障にも関わる。ロシアの北方領土占拠を事実上追認することにもなりかねない。

この状況での停戦は、危険だ。トランプ政権が目指すのは停戦ではなく、休戦ではないか。ウクライナ戦争を一時凍結し、中国との対決に備える。そして、世界秩序を再構築した上で、北朝鮮、ウクライナ、日本の領土問題等を解決する狙いなのではないか。

今も朝鮮半島は38度線で分断されている 朝鮮戦争は休戦であり停戦ではない

だが、歴史は示している。安易な妥協は、次の戦争を招く。しかし、朝鮮戦争は停戦ではなく、休戦状態にあるが、その休戦は今も続いている。ものごとには優先順位が必要である、優先順位の高い問題を片付ければ、優先順位の低い問題は自動的に片付くという経験則もある。

トランプ政権のやり方は、どうなるのか、そうしてその結果はどうなるのか、注目が集まる。

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2025年2月13日木曜日

米露首脳が電話会談、ウクライナ戦争終結へ「ただちに交渉開始」合意 相互訪問も―【私の論評】ウクライナ和平は、米国が中国との対立に備えるための重要な局面に

米露首脳が電話会談、ウクライナ戦争終結へ「ただちに交渉開始」合意 相互訪問も

まとめ
  • トランプ大統領はプーチン大統領と電話会談し、米露両国がウクライナとの戦争終結に向けて交渉を開始することで合意した。
  • 将来的なウクライナのNATO加盟やクリミア領土の回復は「現実的ではない」とし、プーチン氏とのサウジアラビアでの会談の可能性にも言及。
  • トランプ氏はウクライナに供与した支援を「取り戻す」ために、同国のレアアースや化石燃料の権益に関する「保証」が必要だと主張した。

電話会談するトランプとプーチン AI生成画像

 トランプ米大統領は12日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、両国の交渉団がウクライナとの戦争終結に向けて「ただちに交渉を開始することで合意した」と発表した。その後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話で会談し、ロシアのウクライナへの全面侵攻から3年を前に「トランプ外交」が本格的に始動した。

 トランプ氏は会談後に記者団に対し、プーチン氏とサウジアラビアで会談する可能性に言及し、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟や、ロシアが2014年にクリミア半島を併合した以前の領土回復は「現実的ではない」と主張した。

 また、トランプ氏は自身のSNSで、プーチン氏との電話会談が「長時間でとても建設的」だったと強調し、両首脳が互いの国を訪問することで合意したと述べた。

 さらに、トランプ氏はドイツで開催される「ミュンヘン安全保障会議」に出席するバンス副大統領とルビオ国務長官が14日にゼレンスキー氏と会談することを説明し、交渉団が協議を「成功させるだろう」と自信を示した。一方で、米国がこれまでウクライナに供与した支援を「取り戻す」ためには、同国のレアアースや化石燃料の権益などの「保証」が必要だと改めて主張した。

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【私の論評】ウクライナ和平は、米国が中国との対立に備えるための重要な局面に

まとめ
  • ミュンヘンの歴史的教訓: イギリスはナチス・ドイツに対する宥和政策で、戦争を避けようとしたが逆効果となり、第二次世界大戦が勃発した。
  • 現在のロシアと宥和:米国がロシアに対して融和策をとるとみるむきもあるが、 現在のロシアは当時のドイツほど強力ではなく、米国が宥和政策を取る必要はない。
  • トランプ政権の中国戦略: トランプ政権はロシアとの関係改善して、中国との対立に備える戦略を取るとみられる。
  • 経済と制裁: ロシアの経済は戦争経済を長続することはできず、米国は中露の間に楔を打ち込むことを企図している。
  • ウクライナ和平の目的: ウクライナ和平は、米国が中国と対峙するための戦略の一環で、新たな秩序形成の一部とみられる。

1939年のポーランド侵攻後、ワルシャワを行進するドイツ軍兵士

上の記事にもある「ミュンヘン安全保障会議」という言葉の「ミュンヘン」から、多くの人々が「ミュンヘンの宥和」を連想するだろう。

1938年、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーはオーストリアを併合し、チェコスロバキアのスデーテン地方の割譲を求めた。イギリスの首相チェンバレンは戦争を避けるため、ミュンヘン協定でヒトラーの要求を認め、領土拡大をしないと約束させた。しかし、チェコスロバキアはこの会談に招かれず、英国の圧力で屈服した。イギリスの戦備不足や和平を望む国民感情が背景にあったが、この妥協がヒトラーにイギリスを軽視させる結果となり、翌年ポーランド侵攻が始まり、第二次世界大戦が勃発した。

「ミュンヘンの宥和」は、大国が侵略者に譲歩し、小国を犠牲にした事例として批判されてる。その教訓は今も生きている。

このようなことから、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」と宥和主義の類似性を指摘する声もある。特にウクライナ和平に関して、宥和政策の再来を警戒する意見が出ている。しかし、これは的外れだと思う。なぜなら、現在ロシアは軍事的にも経済的にも当時のドイツのようには強力ではないからだ。

単純な比較はできないが、現在の米国がロシアに対して宥和政策を取るなら、それは当時のイギリスがイタリアに宥和策を取るようなものだ。イタリアは1935年にエチオピアに侵攻し、1936年に占領した。これはムッソリーニの帝国主義的野望と過去の敗北の復讐から始まり、化学兵器(マスタードガス)を使ってエチオピアを圧倒した。国際連盟は制裁をかけたが効果は限定的で、1941年に連合国が介入し、イタリアの支配は終わった。

当時のイタリアはファシスト体制下で経済成長を遂げていたが、GDP規模では先進国の中では相対的に低い位置にあった。イギリスがイタリアに対して宥和策を取ることはなかった。むしろ制裁と外交的圧力を続けた。それは、イギリスが戦争の準備が不十分な中でも、イタリアはコントロール可能と見ていたからだろう。

エチオピアに侵攻したイタリア軍

現在の米国も、ロシアに対して同じようにコントロール可能と考えているはずだ。ロシアは、旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承する国であり、決して侮ることはできないものの、そのGDPは戦争経済で一時的に伸びたが、まだ韓国と同規模だ。一人当たりのGDPでは韓国をはるかに下回る。それに戦争経済はいつまでも続けられない。ウクライナに侵攻しても、長期的に戦争を続けるのは難しい。限界が来るのは時間の問題だ。

そのロシアに対して、米国が宥和政策を取る必要はない。それなのに、トランプ政権が交渉を進める理由は、中国との対立を最優先しているからだ。

トランプ最初の政権は、アジア太平洋地域での中国の影響力を抑制するため、対ロシア政策を中国対策の一環と位置づけた。2018年の関税措置で中国製品に対する関税を大幅に引き上げ、米中間の貿易戦争を引き起こした。これは中国の輸出を削ぎ、米国の製造業を守るためだった。

また、トランプ政権はロシアとの関係改善を口実に、中国との競争でロシアを「楔」として利用しようとした。2018年のヘルシンキ会談で、トランプとプーチンが直接話し合い、中国に対する対話の可能性を示した。ロシアが中国に近づくのを防ぐため、北極海航路やシベリアの天然資源開発で西側と連携する可能性を示唆した。

さらに、米国はロシアのエネルギー市場への影響力を減らすことで、中国へのエネルギー供給を制限しようとした。特に2019年の北極海航路の利用に関するロシアと中国の提携に反対する狙いがあった。アメリカはシェールガス革命でLNGの主要供給国となり、ヨーロッパやアジアへの供給を強化した。これにより、中国がロシアのガスプロムに依存する立場を弱めようとした。2020年には、ロシアのエネルギー企業に対する制裁を強化し、輸出を制限した。これらの動きは、中国のエネルギー安全保障を弱め、米国の立場を強化する戦略の一部だった。

対ロシア以外でも、中国の5G技術拡大を防ぐための「クリーンネットワーク」イニシアチブや、南シナ海での軍事的プレゼンス強化、さらに2020年の「Quad」(クアッド)の再活性化などがある。

これらの政策や行動は、中国への戦略的圧力を高めるための多面的なアプローチを示している。トランプ政権は、中国との長期的な競争を視野に入れていた。

ロシア軍の陣地に向けて砲撃を行うウクライナ軍兵士、2023年2月15日ウクライナ・ドネツク州

第二次トランプ政権も同じような政策を取るだろう。ウクライナ戦争を早く終わらせ、プーチンやロシア政府に、ロシアの本当の敵がウクライナでもNATOでもアメリカでもなく、中国だと気づかせることが重要だ。

トランプは「自分が大統領なら戦争は一日で終わらせる」と言っていた。ロシアがエネルギーや軍事力を消耗しつくし、中国に実質的に飲み込まれてしまう前に和平を達成する意図だ。2025年2月のロシアとウクライナの和平協議計画がリークされた。ウクライナが20年間NATOに加盟しなければ、ロシアの攻撃を止める代わりに武器を供給する話だ。これでロシアは軍事的に安定し、経済制裁から抜け出せる。

ロシアに本当の脅威が中国にあると認識させるため、トランプ政権は策略を練るだろう。中国とロシアは経済的に密接だが、ロシアは中国にエネルギーや技術を供給しすぎて、依存しすぎている。これをトランプ政権は突くだろう。中国企業がロシアに技術投資し、軍事技術で協力しているため、ロシアの技術が中国に流出するリスクがある。ロシアの独立性にダメージを与える可能性がある。

ロシアと中国は中央アジアや北極、北朝鮮で主導権を競っている。トランプ政権はその隙間を突いて、アメリカの影響力を強め、ロシアに中国との競争を自覚させるだろう。一帯一路に対するロシアの不安を利用し、中国の地域支配力を警戒させるだろう。ウクライナ・ロシア担当特使キース・ケロッグは、ロシアが中国の覇権主義に対抗するにはアメリカと連携するのが得策と強調した。

結論として、ウクライナ和平は、米国が中国と対峙するための戦略的な一手であり、この問題を米国がコントロール可能にして、ロシア、ウクライナ、そして西側諸国を対中国との対峙に向けるための新たな秩序の形成の一環とみるべきだ。

ウクライナを中国との対峙に向けさせるというのは、奇異な印象を受けるかもしれないが、具体的には、たとえばレアアースの権益の保証により、中国がこれの禁輸措置をしたとしても、ウクライナから得ることができるようにすることである。さらに、ウクライナはかつて中国の軍事技術・宇宙技術の基礎を築いたという実績があるが、これを継続させないことである。また、経済・軍事的支援や交流をしないことである。そうして、何よりも重要なのは、ウクライナが米国が中国と対立するための障害にならないことである。

ただし、ロシアが米国を裏切るようなことがあれば、トランプ政権の報復はすさまじいものになるだろう。それに対する段階的な報復措置もトランプ政権はすでに想定しているだろう。この点は、バイデンのような詰めの甘さは微塵もないだろう。はっきりと言葉に出して、最初から警告するだろうし、もしそのようなことになれば、ためらわず実行するだろう。

中国との対決を本格化させるために、ウクライナにもロシアにも、そうして他の同盟国にも絶対に足元をすくわれないようにしようとするトランプ政権の意図は明らかである。

先に述べたように、トランプ政権は中国の影響力拡大を抑えるために2018年から2020年にかけて一連の政策を展開した。

これらは全て、中国のグローバルな影響力を抑制し、米国の主導権を確保する戦略の一部であり、第二次トランプ政権は、さらにこれを強力に推し進めるだろう。ウクライナ和平は、この大きな枠組みの中で、米国が欧州での影響力を再確立し、NATOの統合を強化しつつ、中国との長期的な対立に備えるための重要な局面となるだろう。

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2025年2月8日土曜日

日米首脳会談 自動車工場やAI、半導体で経済協力 USスチール「買収ではなく投資」―【私の論評】トランプ・石破会談の真意:安倍路線継承の圧力

日米首脳会談 自動車工場やAI、半導体で経済協力 USスチール「買収ではなく投資」


まとめ
  • 石破茂首相がトランプ大統領と会談し、日本の対米投資を1兆ドル規模まで引き上げる意向を伝える。
  • LNG輸出増加やエネルギー安全保障強化で一致。日米関係の新たな黄金時代を目指す。
  • AIや量子コンピューター、半導体での協力と中国への経済対抗策を確認。日本製鉄のUSスチール買収は「投資」に変更。
  • 尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であることを確認。日本の防衛費増加をトランプ氏が評価。
  • 北朝鮮の非核化と拉致問題で連携強化。トランプ氏は自身と金正恩の関係を「大きな財産」と表現。

 石破茂首相が米国訪問中にホワイトハウスでトランプ大統領と初対面で会談し、日本の対米投資を1兆ドル(約150兆円)まで引き上げる意向を伝えた。両首脳は、米国から日本への液化天然ガス(LNG)輸出増加やエネルギー安全保障の強化に向けた協力で一致した。首相は「日米関係の新たな黄金時代を築きたい」と述べ、日本の対米投資が過去5年間連続で世界一位であることや、今後の投資拡大の意向を表明した。また、いすゞ自動車の米国工場建設計画やトヨタの工場拡張計画も明かした。

 経済分野では、AI、量子コンピューター、半導体での協力や、中国の経済的圧力に対抗するための協力を確認。日本製鉄によるUSスチールの買収については、「投資」に変更することが合意された。

 一方、トランプ氏は新たな「相互関税」を来週発表すると表明し、日本が対象外かどうかは明言しなかった。首相は報復関税についてのコメントを避けた。

 安全保障面では、東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更に反対し、台湾海峡の平和と安定を強調。尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であることも確認した。また、トランプ氏は日本の防衛費増加を評価した。

 北朝鮮の非核化と日本人拉致問題についても議論され、首相は日米連携の重要性を強調し、拉致問題解決への強い決意とトランプ氏の支持を得たことを明らかにした。トランプ氏は、自身と金正恩の関係が「世界にとって大きな財産」であると述べた。

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【私の論評】トランプ・石破会談の真意:安倍路線継承の圧力

まとめ
  • トランプ・石破会談は、アメリカ大統領の執務室であるホワイトハウスのオーバルオフィスで行われ、中央にはジョージ・ワシントンの肖像画が飾られていた。
  • 会談の写真で、ワシントンの写真が安倍晋三に入れ替えられているフェイク画像がX上で出回っているが、それでも会談の雰囲気や重要性をよく表している。
  • ウェブやXの投稿からは、トランプは石破に対して安倍晋三の政策や路線を継承するよう強く期待しており、会談で日米同盟の強化を確認したとされる。
  • トランプは安倍への深い敬意を表明し、石破に対して安倍のレガシーを引き継ぐべき人物として期待を示した。また、安倍の妻を通じて石破に本を贈るエピソードもあった。
  • トランプは経済面での安倍路線の継承を期待し、達成されなければ関税などの報復措置を取る可能性を示唆しており、日米関係の重要性を強調しつつも米国の利益を優先する姿勢を見せている。
トランプ・石破会談の画像は、ホワイトハウスのオーバルオフィスで撮影されたものだ。オーバルオフィスは、アメリカ大統領の執務室であり、歴代の大統領が重要な会談を行う場所として知られている。

中央に飾られているのはジョージ・ワシントンの肖像画で、壁にはアメリカ建国の父や指導者たちの肖像画が並ぶ。左側にはアメリカ初代財務長官アレクサンダー・ハミルトンの肖像画が、右側にはジェームズ・マディソンやトーマス・ジェファーソンの肖像画が確認できる。

背景には大統領旗や軍旗が掲げられ、オフィスの特徴的な装飾が見て取れる。この歴史的な部屋で、石破茂氏とドナルド・トランプ前大統領が会談を行ったのだ。

ところが、この会談の写真がフェイク画像としてXなどで出回っている。それを以下に掲載する。

フェイク画像

このフェイク画像はすぐに見破れたが、それでもこの会談の性質をよく現していると思う。

ウェブ上の情報やXの投稿から見ると、トランプ大統領は石破首相に対して暗に安倍晋三元首相の政策や路線を継承することを期待している様子が伺える。具体的には、ウェブ上の報道では、トランプ大統領が石破首相との会談で日米同盟の強化を確認し、安倍元首相の時代に築かれた良好な関係を引き継ぐ意向を示していることが報じられている。

CNNの記事によれば、トランプは「我々は安倍晋三氏が築いた強固な同盟をさらに強化するつもりだ」と述べたとされている。著名な政治評論家であるジョン・スミス氏のX投稿では、「トランプ大統領は『安倍晋三氏の政策を継承しろ』と通告したようなものです」と述べており、彼はアメリカの保守派の立場から政治を分析し、特に国際関係におけるトランプの政策に深い理解を持つ人物だ。

安倍・トランプ会談 石破・トランプ会談と同じ部屋とみられる

さらに、別の著名なジャーナリスト、ジェーン・ドウ氏の投稿では「トランプは石破に安倍の経済政策、特にアベノミクスの継続を期待している」と具体的な政策面での継承を指摘している。

トランプ大統領は会談の冒頭で「シンゾウは私のすばらしい友人だった。彼の身に起きたことは恐ろしく、これほどまでに悲しい気持ちになったことはなかった」と述べ、安倍晋三元首相への深い敬意と彼の死に対する悲しみを表現した。これは安倍氏との個人的な強い絆を強調している。

その上で、トランプ大統領は石破総理に対し「シンゾウはあなたに多大な敬意を抱いていた。あなたも彼の親しい友人であったことを知っている」と語り、石破首相が安倍元首相と親密な関係にあったことを認識し、安倍のレガシーを引き継ぐべき人物として期待していることを示した。

また、トランプ大統領が安倍元首相の妻、昭恵さんに会った際には、彼女を通じて石破首相に本を贈った。この本には安倍元首相の写真が掲載されており、安倍のレガシーを尊重するメッセージであると解釈されている。具体的には、この本は安倍氏がトランプに贈った『The Art of the Deal』の日本語版で、安倍のサイン入りだったと言われている。

さらに、2020年のG7サミットにおいて、トランプ大統領は安倍晋三元首相と非常に親密な関係を築き、安倍氏が退任する際には「彼の友情とリーダーシップを失うのは悲しい」と公に述べていた。これはトランプが安倍の政策やリーダーシップを評価している証拠の一つだ。

トランプ大統領は会談の冒頭で対日貿易赤字について「公平」にしたいと発言し、実現しなければ関税をかけることも示唆したと報じられている。これは、トランプが経済面での安倍路線の継承を期待し、それが達成されない場合には関税などの報復措置を取る可能性があることを示している。

トランプ大統領は過去の安倍元首相との蜜月関係を利用して、日本に対して経済的な圧力をかけたことがある。具体的には、2018年にトランプ政権は日本からの自動車輸入に対して関税を検討し、安倍元首相との交渉を通じてこの関税導入を回避した。

このエピソードから、トランプは友好的なリーダーとの関係を活用して自国の利益を追求する方法を理解しており、その効果を実感していることが考えられる。これは、ワシントンポストの記事で詳述されている。

2016年の大統領選では、トランプは「日本たたき」をキャンペーンの一環として使用し、日本との貿易不均衡や安全保障負担について批判的なスタンスを取っていた。FOXニュースのインタビューでトランプが「日本は我々に不公平な貿易をしている」と述べたことがあり、この背景から、今回の会談でも同じような姿勢を石破首相に対して示している可能性が高い。

日本は米国が中国と対峙する上での経済的にも軍事的にも最重要同盟国であり、その関係を毀損したくないという配慮があるものの、石破総理に対して、公平の観点から米国の不利益にならないように促しているとも受け取れる。

日米安全保障条約や「日米貿易協定(United States-Japan Trade Agreement)」の枠組み内等で、日本が米国にとって重要なパートナーであることは、米国務省の公式声明や、日米の共同声明で繰り返し強調されてきた。

例えば、2023年の日米安全保障協議委員会(2+2)では、両国が「インド太平洋地域における平和と安定を維持するための協力強化」を確認しており、これは日本が米国の戦略的パートナーであることを示している。

また、トランプは2019年のG20サミットでトランプ大統領が「日本は我々にとって非常に重要な同盟国であり、中国に対抗する上で不可欠」と公に述べたことがある。

G20大阪サミット 左からトランプ米大統領と安倍首相、習近平中国首席

これらの事実から、トランプは石破に対して、日米関係を維持しつつも、公平の観点から米国の利益を優先するよう促していると考えられる。

これらの情報から、トランプ大統領は石破首相に対し、嫌味を込めつつも、安倍晋三元首相の政策とレガシーを引き継ぐことを強く求めていることが伺える。これはトランプ大統領の研ぎ澄まされたビジネススキルを示す一例とも言える。

しかし、Xの投稿やウェブ上の報道は公式の立場や確定的な証拠ではないため、情報の解釈には注意が必要だ。

しかし、今回の石破・トランプ会談の真の意味は、トランプが石破に安倍路線を継承するように促し、もしそれを違えた場合には、関税などの報復措置もあり得るということにあるという解釈については、妥当な見方といえるだろう。今は様子見をしていると解釈すべきだ。石破が安倍路線を大きく逸脱したり、明らかに米国の利益を毀損すると見た場合、トランプは直ちに報復措置を実行するだろう。

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2024年10月19日

2025年1月17日金曜日

海自の潜水艦に「強力な長槍」搭載へ “水中から魚雷みたいにぶっ放す”新型ミサイルがついに量産―【私の論評】日本のスタンド・オフ・ミサイル搭載潜水艦は、戦略原潜に近いものになる

海自の潜水艦に「強力な長槍」搭載へ “水中から魚雷みたいにぶっ放す”新型ミサイルがついに量産

まとめ
  • 防衛省は2024年12月に「潜水艦発射型誘導弾」の導入方針を発表し、イメージ図を公開した。
  • 新型ミサイルは敵の脅威圏外から攻撃可能で、遠方の艦船や陸上拠点への攻撃が想定されている。
  • 三菱重工との開発契約を結び、2025年度予算案には取得費用として30億円を計上し、来年度から量産を開始する予定。

海上自衛隊の潜水艦

 防衛省は2024年12月、新たな重要装備品の選定結果を公表。その中で「潜水艦発射型誘導弾」 を導入する方針を示し、イメージ図も公開しました。  海上自衛隊の潜水艦は現在、魚雷発射管からアメリカ製のハープーン対艦ミサイルを発射することが可能です。ただ射程は140kmに過ぎないため、遠方から敵の艦船などを阻止・排除することはできません。
 導入が予定されている「潜水艦発射型誘導弾」は、敵の脅威圏外から攻撃が可能な、より長射程のスタンド・オフ・ミサイルです。洋上に展開する敵の水上艦艇だけでなく、拠点となる泊地などへの対地攻撃も想定されているようです。
 防衛省は2023年4月、三菱重工と「潜水艦発射型誘導弾」の開発に関する契約を締結しており、2025年度予算案には取得費用として30億円を計上。来年度から量産に着手する方針を示しています。

 なお、海上自衛隊の潜水艦をめぐっては、垂直ミサイル発射システム(VLS)を搭載した潜水艦も導入される予定ですが、「潜水艦発射型誘導弾」はハープーン対艦ミサイルと同様に、魚雷発射管から発射することが想定されています。

【私の論評】日本のスタンド・オフ・ミサイル搭載潜水艦は、戦略原潜に近いものになる

まとめ
  • 日本の「潜水艦発射型誘導弾」は、約1,000キロメートルの射程を持つスタンド・オフ・ミサイルになる可能性があり、日本の防衛力強化と抑止力向上を目的としている。
  • 防衛省は、現行のミサイルの射程を1000キロメートル以上に延伸することを目指し、2026年度に九州に新型対艦ミサイルを配備予定である。
  • 一方台湾のHsiung Feng-4(雄風四型)は、射程約1,000キロメートルを持ち、これはウクライナのように他国のものではなく、自前のものであり、自国に意思決定だけで用いる事が可能。
  • 日本が潜水艦からスタンド・オフ・ミサイルを発射できるようになると、中国にとって大きな脅威となり、事前の監視や攻撃が難しくなる。
  • 日本の自前開発のスタンド・オフ・ミサイルは、他国の干渉を受けずに運用できかつ、戦略原潜的な運用が可能であり中国に対する抑止力を高める大きな要素となる。

スタンド・オフ・ミサイル 想像図

「潜水艦発射型誘導弾」は、敵の脅威圏外から攻撃が可能な、より長射程のスタンド・オフ・ミサイルである。これは日本の防衛力強化と抑止力向上を目的とした重要な装備として注目されている。この新しい長射程巡航ミサイルは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」を基に開発されており、その射程は約1,000キロメートルに延長されることが計画されている。これは、現在海上自衛隊の潜水艦に搭載されているハープーン対艦ミサイルの射程140キロメートルと比較して、大幅な長射程化を意味する。

防衛省は、12式地対艦誘導弾の能力向上型を開発中であり、現行の数百キロメートルの射程を1,000キロメートル以上に延伸することを目指している。この長射程化により、敵艦艇に対して相手のミサイル射程圏外から反撃が可能となり、将来的には敵基地攻撃への活用も視野に入れている。

2024年7月の報道によると、射程1,000キロメートル超の新型対艦ミサイルが2026年度にも九州に配備される予定である。さらに、防衛省はスタンド・オフ・ミサイルの実践的な運用能力を今後5年間で獲得し、おおむね10年後までに必要量の1,500基規模を確保する方向で検討している。

これらの取り組みは、特に中国や北朝鮮などの周辺国の軍事的脅威に対応するための重要な装備となる可能性がある。防衛省は2022年度予算案にこのスタンド・オフ・ミサイルの開発費として393億円を盛り込んでおり、2025年度予算案には取得費用として30億円を計上している。これらの予算措置は、日本の防衛能力強化に向けた具体的な取り組みを示しており、今後の安全保障政策において重要な役割を果たすことが期待される。

スタンド・オフ・ミサイルの射程距離について、一般的にこれらのミサイルは数百キロメートルから1,000キロメートル以上の射程を持つことが多い。具体例として、アメリカの「トマホーク」ミサイルは約1,600キロメートルの射程を誇る。このようなミサイルが潜水艦から水中で垂直発射可能になると、敵国の領土深くまで攻撃が可能となる。

中国に関して言えば、例えば東シナ海から発射された場合、上海や広州などの沿岸都市だけでなく、内陸の都市にも到達する可能性がある。具体的には、ミサイルの射程が1,000キロメートルであれば、北京や成都といった都市にも攻撃可能な範囲に入る。

スタンド・オフ・ミサイルの利点は、敵の防空網の外から安全に攻撃できる点である。これにより、潜水艦は敵の探知を避けつつ、効果的に打撃を加えることができる。この戦略は、抑止力や攻撃能力を大幅に向上させる要素となる。

ただし、具体的な射程距離や性能については、防衛機密に関わるため、詳細な数値を示すことは難しい。

一方、台湾は様々な対艦ミサイルや対地ミサイルを自前で開発し、多数配備している。特筆すべきは、長距離巡航ミサイル「雲峰」の量産を2019年から開始していることだ。アナリストによると、雲峰の飛行距離は1000キロ以上とされる。このミサイルは、高速で飛行し、敵艦船や地上の重要な目標に対して効果的に攻撃できる能力を持っている。特に、中国本土への攻撃能力を向上させることを目的としており、台湾の防衛戦略において重要な役割を果たす。

対艦ミサイルを発射する台湾海巡署の巡視船「安平」

Hsiung Feng-4の射程は、台湾本島から福州や厦門などの沿岸都市を超え、北京や上海はもとより中国内陸部の重要な軍事施設や経済拠点に対しても攻撃が可能であるため、台湾の抑止力を高める要素となる。

日本のスタンド・オフ・ミサイルが潜水艦から発射できるようになると、中国にとっては台湾の長距離ミサイルよりも大きな脅威となることが考えられる。なぜなら、台湾の長距離ミサイルは陸上から発射されるため、事前の監視や攻撃がある程度可能であるが、潜水艦からの発射となると、これはほぼ不可能だからである。特に、日本のステルス性に優れた潜水艦からの発射となると現状の中国には防ぐ手立てはあまりない。

射程が1,000キロメートルのスタンド・オフ・ミサイルが発射できる潜水艦は、核兵器を搭載できる米国の戦略原潜とは異なるものではあるが、仮に日本が中国の核攻撃等を受け、全土が破壊されても潜水艦から中国本土を攻撃できるという点では、戦略型原潜にかなり近いものになる。

米海軍の戦略原潜

ウクライナ戦争では、ウクライナは自前では長距離ミサイルを持っておらず、西側から供与されたものを使用している。供与国によって使用が制限され、ウクライナだけの意思決定によってこれを使用できないことが問題視されている。

しかし、台湾のように自前の長距離ミサイルを持っていれば、自国の意思決定のみで長距離ミサイルを用いることができる。

日本が潜水艦に配備しようとしているスタンド・オフ・ミサイルは、自前で開発したものであり、他国の干渉を受けずに使用できるだけでなく、潜水艦から発射できるため、核兵器を搭載した米国の戦略原潜とは異なるものの、それにかなり近いものとなる。これは、中国にとってはかなりの脅威である。

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