2019年3月26日火曜日

トランプが米韓合同軍事演習の中止を正当化する「2つの理由」―【私の論評】本当の中止の理由は情報漏えいか(゚д゚)!

トランプが米韓合同軍事演習の中止を正当化する「2つの理由」

岡崎研究所

 米国防総省は3月2日、二つの大規模な米韓合同軍事演習の中止を発表した。一つは「Foal Eagle(フォール・イーグル)」で、40年間毎年空軍と海軍の参加も得て通常兵器による陸上での紛争を模擬実験してきた。2017年には韓国駐留の2万8000人に加え、3600人が参加した。二つ目は「Key Resolve(キー・リソルブ)」で、これは北朝鮮の攻撃後に不可欠な司令部を作るためのコンピュータ・シュミレーションを行うものである。これらは、規模を大幅に縮小した演習により代替されることになる。

2017年米韓合同演習に参加した米、韓国両国の将兵

 トランプは米韓合同軍事演習の中止を二つの理由で正当化している。一つは費用が掛かりすぎる、お金の無駄遣いであるということであり、今ひとつは金正恩と交渉中であるので、彼に善意のジェスチャーを見せる必要があることである。演習の中止に伴う米韓軍の即応能力の低下、米韓同盟に与える影響は大したことではないとの判断であると思われる。

 まず第1に費用が掛かりすぎるとの点については、トランプは「1億ドルかかっている」と主張するが、どこからそういう数字をトランプが持ってきたのか、よくわからない。国防総省は、昨年の演習中止の節約額は1400万ドルだったと言っており、トランプの見積もりは高すぎる。その上、防衛はお金の問題も重要であるが、それだけで考えるべき問題ではない。同盟の維持、即応力の問題はお金の計算で割り切れるようなものではなく、そういう意味でトランプの主張は適切とは言えない。ウォールストリート・ジャーナル紙の3月6日付け社説‘Trump Gets Exercised Over Exercises’は「演習を調整することは軍事的即応力を直ちに損ずるわけではない。しかし、小規模演習による代替は能力を損ずるというのではないが、戦争のストレスの模擬実験する上では陸、海、空における大規模演習のように適切なものはない」と指摘している。その通りであろう。

 第2に、「金正恩と交渉中であるから善意のジェスチャーを」ということで、大規模軍事演習の中止を決めたとすれば、これも適切ではない。共産主義者やその亜流は、力関係を重視し、戦略を考えるのが普通であり、敵または交渉相手の善意を信じるということはほぼない。彼らは大変に現実的である。こういう相手との交渉では、善意で先に譲歩することは相手から弱さと評価されるか、あるいは下手な交渉と評価されるかである。交渉の材料、いわば譲歩は見返りを得てこそするのが良く、一方的な譲歩は極力避けるのが良いと思われる。北朝鮮はこのトランプの譲歩を善意のジェスチャーとは看做さず、その見返りに態度を変えることは見込まれない。対北圧力手段の一つを放棄させた戦利品として、見返り無しに固定化していくことを狙うであろう。非核化交渉に今一つの問題を上乗せした結果になりかねない。このことはプーチンとの交渉にも当てはまるように思われる。

 米朝交渉はハノイ会談の後、どう進展するのかよくわからない。米朝の対立点が明確になったことから、次の会談前に双方が交渉姿勢を見直すことはありうる。米側からは圧力強化が、北からはそれに対する反発が出てくるとみておくのが当面の常識的判断であろう。第3回目の首脳会談については、失敗は許されないと思われ、事前の調整が事務レベルや閣僚レベルで行われることになるだろう。「出たとこ勝負」の首脳会談ではなく、よく準備された、成功がほぼ約束された首脳会談が米朝双方の狙いになろう。非核化がすんなりいくとは思えないが、中身がどうなるかを予測するのは時期尚早である。

【私の論評】中止の本当の理由は情報漏えいか(゚д゚)!

上の記事では、指摘されていませんが、トラン不政権が米韓合同演習を中止した最大の理由は情報漏えいを恐れてのことだと思います。最近の文在寅の親北ぶりは異常なもので、トランプ政権としては、文大統領の次の大統領がまともな大統領だった場合、演習を再開するのではないか思います。

米国は韓国をまったく信用していません。例えば、米韓両軍が合同軍事演習で採用してきた最高機密『5015作戦計画』があります。特殊部隊による『正恩氏排除=斬首作戦』を含むものですが、これが韓国から北朝鮮に全部もれたとされています。あり得ないことです。

2017年10月14日、朝鮮半島情勢が緊迫化する中、韓国軍の機密文書が北朝鮮とみられるハッカーによって大量に盗まれていたことが発覚しました。米軍から提供された情報も漏れた可能性がありました。北の指導部を狙った「斬首作戦」に関する情報も流出したとされ、韓国紙は「北で起これば全員死刑」と批判していました。

韓国メディアによると、昨年9月、北朝鮮からと推定されるハッカーが韓国軍のデータベース(DB)センターに相当する国防統合データセンター(DIDC)をハッキングして盗み出した文書は235ギガバイトに登りました。A4サイズの紙で1500万枚に相当する量です。韓国軍は流出したデータの総量自体は確認しましたが、どんな資料が流出したかは全体の22.5%に当たる53ギガバイト分(約1万700件)しか把握できていないといいます。

地上から撮影されたされるKH12の写真

朝鮮日報は国会国防委員会で与党「共に民主党」の幹事を務める李哲熙議員の話として「流出資料には、米軍が独自に収集して韓国軍に提供した写真ファイルが多数含まれていた」と報道しまし。代表例として「キーホール」(鍵穴)という別名で呼ばれるKH12偵察衛星が収集した情報などを挙げました。

KH12は、北朝鮮の300~500キロ上空を1日に3、4回通過して内部の動向をつかみます。韓国の安全保障専門家は「この情報が韓国側のミスで北朝鮮のハッカーに渡ったのだとしたら、今後米軍が情報共有を避ける口実にされかねない」と危惧していました。

さらに流出した情報には、金正恩・朝鮮労働党委員長らを殺害する「斬首作戦」ともいわれる「作戦計画5015」などの軍事機密が数多く含まれていたとされます。これは、以前も北朝鮮に漏洩したとされていましたが、さらに詳細が漏洩した模様です。

斬首作戦は有事の際、米国の増援部隊が韓半島(朝鮮半島)に到着する前に特殊部隊やミサイルなどを使い、朝鮮人民軍の司令部を攻撃するものですが、その細かい内容が北朝鮮の手に渡ってしまった可能性が捨てきれないのです。

さらに、文政権は昨年は、中国やロシアと連携して、国連安保理決議で決めた「対北制裁」を、是が非でも緩和させようと画策していました。これで米国の同盟国といえるのでしょうか。

平城を訪問した文在寅

ジェームズ・マティス米国防長官(当時)は昨年5月29日来日し、安倍晋三首相や小野寺五典防衛相(当時)らと会談しました。次の4点で日米は固く一致しました。

 (1)北朝鮮の核兵器と大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルについて「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」を目標とする。

 (2)北朝鮮に対し、具体的な非核化の行動を早くとるよう迫る。

 (3)国連安保理で決めた経済制裁を堅持する。

 (4)米国は、(安倍首相が全面解決に執念を燃やす)日本人拉致問題を重視する。

一方、文大統領は前日28日、訪韓したマティス氏との会談をドタキャンしました。理由は「風邪だ」と発表されました。

米国防長官との会談は、同盟国のトップにとって最重要会談の1つです。風邪でドタキャンなど、考えられません。当時は重病説もながれましたが、その後ピンピンしていることから、やはり仮病だったと思われます。

マティス氏に、正恩氏の言い成り状態を怒られるから逃げたのかもしれません。トランプ大統領の文氏嫌いは有名で、『韓国は裏切り者だ。懲らしめろ』という敵視論まで噴き出ています。

さらに、韓国統一省当局者は昨年12月28日、韓国に居住する北朝鮮脱出住民(脱北者)の支援に当たる機関がハッキングを受け、997人分の氏名や生年月日、住所などの個人情報が流出したと明らかにしました。

当局者によると、大部分は南東部慶尚北道に住む脱北者。脱北者の定着支援を担う「ハナセンター」の職員が外部から届いたメールを開いたところ、パソコンが悪性プログラムに感染し、保存されていたファイルから個人情報が流出しました。

脱北者らが何らかの被害に遭ったとの報告はないが、身辺保護強化が必要と判断される場合は転居なども含め対応を検討します。情報が漏れた脱北者には個別に通知しているといいます。

脱北者の個人情報を含む文書は暗号をかけたり、インターネットにつながっていないパソコンに保存したりするよう指針で定められているが、守られていなかったそうです。

このような情報の取扱の杜撰さや、親北政権による人為的な漏洩などを米国は警戒しているのだと思います。

米側としては本当は米韓軍事演習を中止などしたくないはずです。

第一には、一度中止した軍事演習をまた復活したという苦い経験があるからです。今から27年前の1992年に米国は北朝鮮との間で「バーター取引」をしたことがありました。米韓両国は1992年に恒例の米韓合同軍事演習(当時はチームスピリット)を実施することで合意していたが、1992年1月7日、北朝鮮がIAEA(国際原子力機構)との核査察協定に調印することを条件に14年間続いていた合同軍事演習の中止に踏み切りました。

中止が発表されると同時に北朝鮮外務省はIEAEの査察受け入れを表明し、1月30日に査察協定に正式調印した。翌2月には南北初の総理会談で「和解・不可侵と交流協力合意書」と「非核化共同宣言」が発表されました。

しかし、北朝鮮が申告した内容とIAEAの査察結果に重大な差があることが判明し、IAEAは北朝鮮に対して特別査察の受け入れを迫り、北朝鮮がこれを拒否したことで1993年にチームスピリットが復活することとなりました。

第二は、合同軍事演習が北朝鮮の戦争遂行能力を削ぐことにあるからです。

米韓合同軍事演習は北朝鮮を降伏させるための「5015作戦」に従って実施されているが、この作戦は2002年にブッシュ政権下で作成された「5030作戦」も取り入れています。

当時、ラムズウェルド国防長官を頭にペンタゴンが作成した「5030作戦」はずばり、北朝鮮を干し挙げるための作戦計画です。軍事衝突発生前に北朝鮮政権を転覆させる多様な低感度の作戦で、統帥権者である大統領の承認なしで遂行できる作戦です。

例えば、「R-135」偵察機を北朝鮮の領海に近づけ、北朝鮮戦闘機のスクランブル発進を誘導させることで燃料を消費させるとか、戦略爆撃機「B-1B」や原子力空母、原子力潜水艦など戦略兵器を投入し、北朝鮮を緊張状態に置き、北朝鮮の戦争備蓄を消費させ、経済活動を麻痺させるという戦法が取り入れられています。制裁を掛けて、北朝鮮の金融システムを封鎖する作戦も含まれています。

上記の二点からしても、米軍が米韓合同演習を実施するのはかなり重要なことであったとご理解いただけるものと思います。

軍事境界線(DMZ)

最後に、朝鮮半島(韓国)は米軍にとって格好の演習場となっていたことがあります。

朝鮮半島は「アジアの火薬庫」と称されて久しいです。駐韓米軍と韓国軍は東西248kmに及ぶ軍事境界線(DMZ)を挟んで120万の兵力を有する敵(北朝鮮軍)と対峙しています。世界でも稀に見る緊張状態が続く地域では本番さながらの演習が可能です。

かつての、韓国は親米国家でした。また、保守、革新問わず、歴代大統領は親米でした。米軍撤退の声も、基地反対の声も起きてはいませんでした。米軍にとって演習の立地条件としてはこれほど好条件に恵まれているたのは他になかったのです。

国際的紛争の解決に向け在韓米軍を他の地域に投入する、あるいは紛争地域に派遣するうえでも韓国での演習は米軍にとって不可欠なものだったのです。

しかし、文在寅大統領になってからは状況が変わっています。文在寅大統領は、なし崩し的に北に接近するとともに、中国にも従属しようとしています。これは明らかに同盟国米国に対する敵対行為です。

米韓合同演習を続ければ、米軍の情報が漏洩する可能性は否定できません。トランプ政権としては、文政権は全く信用できないため、演習を続ければ金正恩に手の内を読まれてしまうことを否定しきれない現状では米韓合同演習を中止せざるを得ないのでしょう。ただし、これを公言すれば、米朝関係が弱体化したことを公言するようなものなので、費用が掛かりすぎなどとお茶を濁しているだけなのでしょう。

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2019年3月25日月曜日

安倍首相、中国の一帯一路協力に4つの条件 「全面賛成ではない」―【私の論評】日本には中国および習近平政権の今後の行方を左右するほどの潜在能力がある(゚д゚)!

安倍首相、中国の一帯一路協力に4つの条件 「全面賛成ではない」

参院予算委員会で答弁を行う安倍晋三首相。右は麻生太郎副総理兼財務相、
左奥は根本匠厚生労働相=25日午後

 安倍晋三首相は25日の参院予算委員会で、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に日本が協力するには、適正融資による対象国の財政健全性やプロジェクトの開放性、透明性、経済性の4条件を満たす必要があるとの認識を示した。「(4条件を)取り入れているのであれば、協力していこうということだ。全面的に賛成ではない」と述べた。

 一帯一路では、対象国に対する中国の過剰融資が国際的に問題視されている。首相は「(対象国に)経済力以上に貸し込むと、その国の経済の健全性が失われてしまう」と指摘。

 首相は「アジアのインフラ需要に日本と中国が協力して応えていくことは両国の経済発展にとどまらず、アジアの人々の反映に大きく貢献をしていくことになる。(4条件)をやっていくことで、お互いより良い地域を作っていこうということだ」と語った。

【私の論評】日本には中国および習近平政権の今後の行方を左右するほどの潜在能力がある(゚д゚)!

安倍総理が、条件づきで一帯一路への協力の可能性を述べたのは、何も今に始まったことではありません。以前から何度か述べています。

たとえば2017年都内で行われた国際交流会議の席上、安倍総理は中国の経済構想「一帯一路」に初めて協力の意向を表明しています。これを受け一部メディアはあたかも日本が中国に屈したかのように報じるなど、「中国の優位性」が強調され始めました。

安倍首相は同年6月5日に国際交流会議「アジアの未来」の夕食会で講演し、中国の経済圏構想「一帯一路」について、「(同構想が)国際社会の共通の考え方を十分に取り入れることで、環太平洋の自由で公正な経済圏に良質な形で融合し、地域と世界の平和と繁栄に貢献していくことを期待する。日本は、こうした観点からの協力をしたい」と述べました。

新聞各紙は、初めて安倍首相が「一帯一路」への協力を口にしたということをポイントとして強調しています。これだけ見ると、いよいよ日本も「一帯一路」に参加するかのような印象を与えました。

当時は、米国のTPP離脱で窮した安倍政権が、「一帯一路」に尻尾を振り始めたと見る向きもありました。しかし、その後日本は自らTPPの旗振り役となり、米国を除いた11カ国で昨年末に発効しています。

ただし、産経新聞は「安倍晋三首相、中国の『一帯一路』協力に透明性、公正性などが『条件』」という見出しで、中国が支援する国の返済能力を度外視して、インフラ整備のために巨費を投じることが問題化しつつあることを踏まえた発言だという内容となっています。むしろ中国を牽制する狙いがあるという論調です。私もそう思います。

本日の安倍総理による4条件①対象国の財政健全性、②プロジェクトの開放性、③透明性、④経済性も同じことであり、これは中国を牽制する狙いをより明確にしたものです。

中国が対外インフラ投資を利用して他国の土地を支配していることについては、このブログにも掲載したことがあります。


スリランカのコロンボにあるハンバントタ港は、中国からの融資でインフラ開発されましたが、6%を超える高利であるためスリランカ側の返済の目処がたたず、このハンバントタ港を中国企業に99年間貸与するという、「事実上の売却」に迫られました。

中国が主導するAIIBについては、これまでも麻生副総理をはじめとして、日本は透明性と公正性が重要だということを強調してきました。本日の安倍首相の発言も、「一帯一路」について、従来の政府の立場を踏襲したにすぎません。

よく語られるように、「一帯一路」と「AIIB」は中国が日米経済連携に対抗し、覇権を確立するための世界戦略です。しかし、中国中心の発想であり、自国のゾンビ企業の過剰生産と軍事拠点づくり、発展途上国の財政圧迫、そして資金不足で頓挫するプロジェクトが絶えないなど、さまざまな問題点が指摘されています。

最終的には日米主導の世界銀行やアジア開発銀行からの資金的協力が不可欠であり、外資頼りだった「改革開放」路線の延長としての「他力本願」であることは一目瞭然です。

同年5月14、15日に北京で開催された「一帯一路」国際会議では、米国が代表団を送り、安倍首相も二階俊博幹事長を特使として派遣して習近平主席に親書を渡しました。これに対して、人民日報は同年6月4日、「中日改善改善に日本は具体的行動を」という記事を掲載し、日中関係を改善したいなら、具体的な政策と行動を示せと、かなり上から目線で「命じて」いました。

記事では、文部科学省が「銃剣道」を中学「学習指導要領」に入れたことや、台湾と日本の交流窓口の名称を「亜東関係協会」から「台湾日本関係協会」に変更したことなどを挙げて、「日本は歴史問題で小細工を繰り返している」などと批判していました。

さらに、「日本は東中国海で緊張をつくり、南中国海問題に干渉し、朝鮮半島情勢を刺激してエスカレートさせている。こうした行動の背後には中国と主権・権益を争う私利があり、改憲・軍拡につなげる魂胆もある。中国は、地域の安全における消極的要素になってはならないと日本に警告する」とまで論じていました。東シナ海も南シナ海も、日本が緊張をもたらしているのだから、挑発をやめろと言ったわけです。

要するに、「一帯一路」に入りたいなら中国の言うことを聞け、ということをかなりあからさまに要求してきていたのです。これだけでも「一帯一路」に参加することは、日本の国益を犠牲にしなくてはならないことだということがわかりました。

ほとんど実績のない習近平

しかし、よく観察してみると、総書記になってから現在に至るまで、習近平にたいした実績はありません。経済成長率は年々減少していますし、南シナ海問題では米国に「航行の自由」作戦を行われてしまいました。ハーグの常設仲裁裁判所には中国が主張する南シナ海の領有権について「根拠なし」と言われてしまいました。

台湾では蔡英文政権が誕生してしまうし、北朝鮮も言うことを聞かないし、AIIBの起債も単独起債は未だ数件しかありません。

腐敗追及運動だけは、周永康を逮捕するなど進展がありましたが、中国官僚は誰もが腐敗していますから、逆に習近平への憎しみが増加しただけです。経済成長の衰退から人民解放軍を再編して兵力削減を目指していますが、同年2月には、退役軍人が反腐敗運動の拠点である北京の党中央規律検査委員会の前で、待遇改善を求めて大規模デモを起こしました。

しかも肝煎りの「一帯一路」にしてもインドは自国に敵対的と見ており、モディ首相は中国からの「一帯一路」国際会議への招待を拒否しました。おまけに代表団を送った北朝鮮は開幕日に弾道ミサイルを発射して、習近平の面子を潰しました。

ロシアは一帯一路で中国から欧州までを結ぶインフラ建設のルートがほとんどロシアを通っていないことに不満を高めています。

要するに、習近平の実績はゼロなのです。

当時、安倍首相から条件付きでも一帯一路についての「協力」の言葉がもらえたとなれば、習近平にとっては国内にアピールする良いチャンスだったはずです。もちろん中国は内外に向けて、「東夷が天朝の恵みを求めてきた」という尊大なポーズを取っていますが、習近平にとってはありがたかったでしょう。少なくとも北戴河、そして共産党大会までは、日本と対立して余計な波風を立たずにすみました。

しかも、習近平は次の2018年の共産党大会で、中国憲法を変更したうえで、終身主席となったのです。

もちろん、中国の権力闘争は複雑怪奇ですから、日本の反発心を高めて習近平の実績をゼロにしようと動く勢力もいます。最初からゼロならば問題にならないことでも、いちどプラスに持ち上げておいて、そこからゼロに転じれば、それは汚点となります。

そういう意味で、習近平は安倍首相の対中発言や動向に神経を尖らせているはずです。日中関係は、これまでも胡耀邦総書記が失脚する原因の一つとなったり、あるいは天安門事件に対する国際的制裁解除のキーポイントとなってきました。

日本人が考える以上に、中国にとって日本の存在は大きく、他国との関係以上の特別なものがあります。

最近は中国政府の規制で全く行われなくなった反日デモ

中国人はよく「小日本」などといって、ことさら日本の存在の小ささをアピールしますが、そのわりには無視するのではなく、わざわざ「5・4運動記念日」「7・7抗日戦争記念日」「抗日戦勝記念日」「柳条湖事件記念日」「南京大虐殺追悼日」など、かつての日本と関連する記念日を数多く作っています。

26ある記念日の約5分の1が日本関連であり、「マルクス」「レーニン」に関する記念日より多く、中国が意識する外国としては、他の追随を許しません。それほど日本を意識しているということなのです。

つまり、中国および習近平政権の今後の行方を左右するほどのポテンシャルが日本にあるわけです。安倍総理が「一帯一路に協力する気は全くない」と表明すれば、習近平は窮地に追い込まれるでしょう。一方、安倍総理が「一帯一路に積極的に関与していく」と表明し、本当に実行すれば、これは習近平大きな実績となり、習近平の立場は盤石となります。

ただし、習近平が失脚したとしても、現状の中国は何も変わらず、日本にとって良いこともないでしょう。だから、安倍総理は様子見で、従来の主張を繰り返してみせただけなのです。しかし、これは無論、ここぞというときに外交カードとして使えます。

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2019年3月24日日曜日

ロシア疑惑捜査、“灰色”決着か、モラー報告書、新たな訴追なし―【私の論評】実体なき疑惑という点でよく似た米国の「ロシア疑惑」と日本の「もりかけ問題」(゚д゚)!

ロシア疑惑捜査、“灰色”決着か、モラー報告書、新たな訴追なし

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

2年近くに及んだモラー特別検察官のロシアゲート捜査が22日終了、報告書が司法省に提出された。内容はまだ不明だが、新たな訴追の勧告はないとされており、「大統領選挙でロシアと共謀した」という疑惑は“灰色”のまま終わりそう。ただ、事件のもみ消しを図ったという司法妨害については「大統領の犯罪」に言及している可能性もあり、報告書の公表に全米の関心が集まっている。

モラー特別検察官

容疑に蓋し逃げ切りか

 モラー特別検察官の捜査は主に、大統領選挙でロシアとトランプ陣営との共謀があったのか、捜査をやめさせようという司法妨害があったのか、の2点が中心。報告書が提出された段階で判明しているのは「新たな訴追の勧告は盛り込まれていなかった」(司法省当局者)ということと、「ロシア共謀疑惑」で起訴された者は誰もいなかったということだ。

 捜査では起訴された者が34人。うち6人はトランプ陣営の幹部らだった。ポール・マナフォート元選対本部長、リック・ゲーツ元選対副本部長、マイケル・フリン大統領補佐官、マイケル・コーエン元個人弁護士、大統領の友人のロジャー・ストーン氏、ジョージ・パパドポロス元外交顧問だ。

 しかし、6人はロシアとの共謀という本筋を問われたのではなく、議会や捜査当局への虚偽証言や脱税、資金洗浄などのいわば別件容疑だ。マナフォート氏は詐欺罪などの容疑で7年半の禁錮刑を受け、コーエン氏も3年の刑で5月から収監される予定だ。6人以外の残りはロシアの情報関係者や軍人らである。

 問題はトランプ大統領の疑惑だ。選挙期間中、トランプ氏がロシア側と直接的に秘密接触していた可能性は薄いと見られており、大統領が長男のジュニア氏も含め、部下に接触を指示していたことが報告書に記されているかが1つの焦点だ。明記されていれば、罪には問われなくても、大統領の道義的、政治的な責任があらためて追及されることになるだろう。

 より可能性があるのは「司法妨害疑惑」だ。大統領は17年2月、コミー連邦捜査局(FBI)長官に対し、フリン大統領補佐官への捜査をやめるよう求めた疑いがかかっており、事実であれば、司法妨害に相当する。報告書がこの点についてどのように判断しているのかが最大の注目点だ。

 だが、報告書に限って言えば、大統領が逃げ切った可能性もある。第一に司法省の指針によると、現職の大統領は訴追されないことになっている。またモラー特別検察官が捜査で大きく依存した大陪審の規則は、実際に当事者が起訴されない限り、大陪審を通して入手した情報の公表を禁じており、大統領が起訴されないのであれば、大統領に関する情報の公開は蓋をされる恐れがある。

ボールはバー司法長官に

 捜査報告書は今後、バー司法長官からその要約が議会へ送られ、事実上公表されることになる。同長官は22日、議会指導者への書簡で、数日内に報告書の要約を送るとし「できる限り透明性を確保する」と述べた。議会下院は先に、報告書の全文を公表するよう求める決議を満場一致で可決している。

 しかし、特別検察官規則によると、報告書の内容をどの程度、要約に盛り込むかは司法長官の裁量に委ねられており、捜査の情報源や方法などの極秘情報が漏洩しないよう、また大陪審での証言が漏れないように配慮することになっている。

 民主党はかつて、長官がトランプ大統領の主張に沿うようなメモを書いていたことなどを念頭に、要約にホワイトハウスの意向が反映されるのではないかと懸念している。民主党のペロシ下院議長とシューマー上院院内総務は共同声明を発表、「公表前に報告書をホワイトハウスに密かに見せないよう」司法長官に警告した。米紙によると、ホワイトハウスは報告書の不都合な部分については、大統領特権を行使して、公表させないことも検討しているようだ。

 大統領弾劾の手続き上の出発点になる下院司法委員会のナドラー委員長(民主党)は、現職の大統領が訴追されないという指針を犯罪のもみ消しに使われかねないと指摘、司法長官とホワイトハウスをけん制した。しかし、ペロシ下院議長は勢いづく大統領弾劾論に距離を置き、「トランプ氏は弾劾に値しない」と慎重姿勢を示しており、弾劾をめぐる動きは流動的といえるだろう。

際立つ強気

 週末をフロリダの別荘で過ごしているトランプ大統領は、ロシア疑惑で起訴される者が誰もいないことを予想していたのか、強気ぶりを際立たせている。報告書が提出される前、モラー氏の捜査を「魔女狩り」「政治的なでっち上げ」と非難する一方で、「国民は報告書の内容を知りたがっている。公表されるべきだ。共謀など何もなかったことが分かる」と胸を張った。

 報告書がロシア疑惑で明確な犯罪性を指摘できなければ、トランプ大統領は自らの無実を正当化する動きに拍車を掛けるだろう。しかし、一連の捜査でトランプ氏や側近らのロシアとのうさんくさい関係が浮き彫りになったのは紛れもない事実。その目的は大統領選挙で勝利するため、対立候補のクリントン氏に不利な情報を入手しようとしたことだった。ロシアと接触した側近らは18人、頻度は100回以上に及んだことは決して見過ごされないだろう。

 モラー氏の捜査がロシアゲートを立件はできないにせよ、大統領の不倫口止め料支払いなど、捜査の過程で浮かび上がったさまざまな疑惑は今後、議会や州の司法当局の調査でさらに追及されることとなる。「捜査の終わりではなく、始まりだ」(アナリスト)という声が強まる中、報告書の公表が待たれる。

【私の論評】実体なき疑惑という点でよく似た米国の「ロシア疑惑」と日本の「もりかけ問題」(゚д゚)!

日本のモリカケ問題と米国のロシアゲートは「争点隠し」という点でよく似ています。加計学園による獣医学部新設は岩盤規制の打破が真の争点ですが、安倍晋三首相の「えこひいき疑惑」に話がそらされ倒閣運動に利用されました。

冒頭の記事を書かれた方は、あくまでリベラル派の視点から書かれたようであり、「容疑に蓋し逃げ切りか」とか「際立つ強気」などという言葉づかいからもそれがうかがえます。

はっきりいえば、米国のリベラル派のメディアの垂れ流す報道を鵜呑みした上で、トランプ大統領を評価しているという、日本のメディアと同次元のものであり、とても現実を見据えたものとはいえないと思います。

では、ロシアゲートはどうかといえば、米国内でほぼ事実と認定されているのは次の2点でした。
(1)2016年米大統領選に際し、ロシア情報機関によって民主党陣営のメールがハッキングされ、ネット上で公開された 
(2)投票機器の操作などはなかった-。
(1)にトランプ陣営が関与したのでは、というのが反政権側の追及する「疑惑」ですが、今に至っても確たる証拠は出ていません。

ところで、なぜメールの流出がヒラリー陣営に打撃となったのでしょうか。ここにリベラル派が目を背ける「不都合な真実」があり、真の争点があります。最も問題となった2つのメールを見てみましょう。

ボデスタ氏

1つは、民主党エリートを代表するポデスタ選対本部長(クリントン政権で大統領首席補佐官)がヒラリー氏に宛てた、副大統領候補選定に関するメールです。

ポデスタ氏はまず、候補者を「食品群」(food groups)に分けたと軽口を叩(たた)き、女性、黒人、白人、ヒスパニック、巨額献金者などに分類、最後に「特殊食品」として予備選のライバルだったサンダース議員を挙げました。

ここに見られるのは、アイデンティティー・ポリティクス(差別強調政治。警察対黒人、富裕層対貧困層、男対女、保守派対LGBT=性的少数者=などの対立図式を強調し、被差別弱者の側に立つと主張する政治)を推進してきた中心人物における、冷笑的で功利主義的な態度です。素朴な有権者の間に嫌悪感が広まったのも無理はないです。

もう1つは、民主党全国委員会(予備選の公正な実施が職務)の幹部間で交わされた「サンダース(ユダヤ教徒)は無神論者」との噂を広めて、宗教色の強い南部での支持率を落とすべきだ、などとした謀議メールです。

政治と宗教の峻別(しゅんべつ)、無神論者への配慮(公立学校で「神」に言及しないなど)を高らかに掲げてきた民主党エリートにおける、これまた冷笑的かつ露骨な背信行為でした。サンダース氏支持者は当然激怒し、ヒラリー氏に近い全国委員長は辞任に追い込まれました。

サンダース氏

要するに、ロシアの干渉と言っても、買収工作や怪文書拡散があったわけではなく、民主党幹部の“素の姿”を明らかにしたにすぎないのです。

メールが流出しても中身が卑猥(ひわい)な冗談程度なら一時のゴシップで終わります。ヒラリー陣営の真の敗因は、差別強調政治の裏にある偽善性と陰謀体質が白日の下に晒されたことにありました。そして、そこを誰よりも峻烈に突いたのがトランプ氏でした。

新聞は全部、テレビはFOXTVを除いて全部が、リベラル派で湿られている米主流メディアのロシアゲート報道は、この民主党エリートにとっての不都合な真実から目をそらし、トランプ陣営関係者の脱税や性的スキャンダル、失言のみを追う形で進められていました。本質的に党派的かつフェイクといわれても仕方ないでしょう。

では実体なき「疑惑」の追及がなぜ終息しなかったのでしょうか。ここでもモリカケに似た構造があります。国会における野党の追及が誤答弁や官僚の資料操作につながり「疑惑をさらに深めた」のと同様、アメリカでは特別検察官がしばしば無から有を作り出す働きをしました。

犯罪事実がなくとも事情聴取に不正確に答えれば偽証、提出を求められたメールを一部でも削除すれば捜査妨害でいずれも訴追対象となりました。メディアは「疑惑が深まった」と報道しました。終わりの見えない特別検察官の動きに、トランプ大統領のみならず政権支持派が怒りを募らせるのも無理はありませんでした。



ニューヨーク・タイムズやCNNを見てトランプ氏の弾劾は近いと考えるのは、朝日新聞を見て安倍政権が倒れるのは近いと考えるのと同じだったのです。

草の根保守に強い影響力を持つトークラジオの3大人気ホスト、リンボー氏、ハニティ氏、レビン氏はいずれも、トランプ氏は左派の捏造(ねつぞう)攻撃に堂々と反撃し、規制緩和、保守的判事指名、「中共」(ChiComs)圧迫など公約を次々に実行していると、支持の姿勢を強めています。

大統領弾劾は、検察役の下院が過半数で訴追し、陪審役の上院が3分の2以上で可決して成立します。ハードルは非常に高いです。過去に唯一弾劾が見えたニクソン大統領(実際は手続き途中で辞任)の場合、支持基盤である保守層が、価格統制、デタントなど内外政策でのニクソンの「裏切り」に不満を募らせていたことが大きかったです。今はそうした状況にありません。

「ヒラリーには大統領に必要な巨大なスタミナはない」。3年前の大統領候補討論会でトランプ氏が発した言葉です。特に中国との長期にわたる戦略的攻防を考えれば、政治家の評価でますます重要になるポイントでしょう。

いずにせよ、「もりかけ問題」も「ロシア疑惑」ももし実体のある疑惑であれば、もうすでに何らかの物的証拠が明るみにでいてるべきです。物証がないものに対して、ああだこうだと言っても徒労に終わるだけです。

私自身は、これに近いようなことは以前もこのブログに掲載しました。この事実を知っていれば、もう「ロシア疑惑」などというフェイク情報に踊らされ、テレビをみたり、記事を読んだりして時間を無駄にするということはないでしょう。

すでに奪われた時間については、もう取替しようがないですが、テレビや新聞などに不満をぶつけるということも考えられるかもしれません。ただし、そんなことをしても、彼らは一切とりあないでしょうが・・・・・・

それにしても、モリカケで時間と精力を無駄にした日本の野党は、政策論争はおろか、政局でも与党に負けています。次の選挙でも、従来と同じような結果となるだけでしょう。何かあったにしても若干議席数を増やすことができるだけでしょう。

それに比較して、米国の民主党は「ロシア疑惑」によって最初に被った悪いイメージは一連のイメージコントロール払拭できたのでしょうか。それは次の大統領選挙でまたわかることでしょう。

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2019年3月23日土曜日

【日本の解き方】米財政赤字容認する「MMT」は数量的でなく“思想優先”の極論 日本財政は標準理論で説明可能―【私の論評】貯蓄過剰の現代の世界は桁外れの金融緩和、積極財政が必要だがMMTは不要(゚д゚)!


ドル紙幣でつくられたビキニ

 米国で財政赤字の拡大を容認する「現代金融理論」(Modern Monetary Theory=MMT)の議論が活発になっていると報じられている。

 MMTは、自国通貨を無制限に発行できる政府は、政府債務(国の借金)が増えても問題がないとする経済理論だ。

 現実には、過去にデフォルト(債務不履行)に陥った国は少なくない。2001年のアルゼンチンや15年のギリシャなどの例がある。ギリシャは単一通貨ユーロを採用しているため自国で通貨を発行できなかった。

 なお、ギリシャは破綻(債務不履行と債務条件変更)の常習国だ。カーメン・ラインハート、ケネス・ロゴフ著『国家は破綻する』によれば、1800年以降の200年余の歴史の中で、ギリシャが債務不履行と債務条件変更を行った年数は50%を超える。いうなれば、2年に1度は破綻している国で、ユーロに入る以前には自国通貨でも破綻している。

 これらに対し、米国のMMT支持者は、世界の基軸通貨ドルで借金ができる米国はドルを刷ればいいので、財政破綻はあり得ないと主張する。

 米国の主流派の経済学者は、こうしたMMTの主張に対してバカげていると感情的に反発している。

 筆者にとって、数量的ではない政策議論には意味がない。米国の議論は定性的な極論か経済思想優先で、実りのある政策議論には思えない。

 従来の経済理論では、財政赤字でも中央銀行が国債を買い入れればインフレになる。そのインフレさえ感受できれば政府債務は財政上問題ない。

 これを統合政府のバランスシート(貸借対照表)から見てみよう。政府債務は、中央銀行の国債買い入れで全部または一部が銀行券に置き換わる。国債は有利子有償還であるが銀行券は無利子無償還なので財政問題はなくなる。



 一方、発行された銀行券は実体経済の生産力との関係で、過大になりすぎるとインフレを招く。これは、実体経済の生産力は潜在国内総生産(GDP)水準と近似できるが、それが政府の規模と一定関係であれば、統合政府のバランスシートでの債務超過はインフレをどの程度もたらすかと大いに関係している。また、他国との銀行券の比率において自国通貨が過大になると自国通貨安をもたらす。これらは、MMTによらずとも従来の経済理論から出てくる。

 インフレ率や自国通貨安がどの程度の弊害になるかだが、インフレ率は自国通貨安にも関係するので、結果としてインフレ率が許容範囲かどうかに帰着する。

 先進国で2%程度のインフレ目標は、最小失業率を目指したものだ。それよりインフレ率が高くなると、経済活動の障害など社会コストが高くなる。

 少なくとも、日本のように、インフレ率がインフレ目標まで達していないならば、財政赤字の心配は不要という主張は多くの人に受け入れられるのではないか。これはMMTからでなくとも導かれる標準的な内容だ。MMTの主張は極論すぎると思う。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】貯蓄過剰の現代の世界は桁外れの金融緩和、積極財政が必要だがMMTは不要(゚д゚)!

MMTには三つの以下の中核的な主張があります。
1)自国通貨を持つ国家の政府は、純粋な財政的予算制約に直面することはない。 
2)すべての経済および政府は、生産と消費に関する実物的および環境上の限界がある。 
3)政府の赤字はその他全員の黒字である。
一番目の主張は、広く誤解されている主張です。自国通貨を持つ国の政府とは、自国通貨と中央銀行を有しており、変動為替制度を採用し、大きな外貨債務がないという意味です。日本はそのひとつであり、英国、米国、豪州も該当します。ユーロ圏の国々は自国通貨を持たないので当てはまらないです。これは、当たり前といえば当たり前です。

2番目の主張は、政府はその気にさえなれば、消費しすぎたり課税しなさすぎたりして、インフレを起こすことが出来るという明白な事実を確認しているにすぎないです。現実的な限界を迎えるとき、消費の総合的な水準が、すべての労働力、スキル、物質的な資本、技術および自然資源を投入して生産できる上限を超えているといえます。

間違ったものを大量に生産したり、消費したいものを生産するために間違ったプロセスを使用することで、自然のエコシステムを破壊することも出来るということです。これも当たり前といえば当たり前です。

3番目の主張は、すべての貸し手には、必ず借り手が存在する。つまり金融制度の中では黒字と赤字は足せばいつもゼロになるということです。

政府が巨大な投資を行った場合、それはそれを実施する民間企業にわたり、それは企業の従業員の給料として支払われ、家計からは生活費などとして支払われたり、貯蓄として銀行にまわったり、税金として政府にもどってくるお金もあるということです。

政府の支出はゼロになるというわけではなく、金融制度の中では黒字と赤字は足せばゼロということであり、何やら当たり前といえば当たり前の話です。これは、日本国のバランスシートを見ればわかる話です。

ただし、1)に関しては、自国通貨を持つ国家の政府は、予算制約に直面した場合、自国通貨を自国政府の裁量で刷り増すことができるので、制約に直面することはないということです。ただし、際限なく刷り増せば、インフレになります。

標準理論でもMMTの全部の主張をいえるし、それを超えるの部分(予算制約なしなど)では極論すぎます。MMTは、定量的な議論には向いていません。つまりMMTなしでも標準理論で十分という意味で、MMTは不要です。

では、なぜこのような理論が注目を浴びているのでしょうか。それはブルームバーグの以下の記事が参考になります。
MMT台頭は積極財政論への「パラダイム転換」を示唆-PIMCO
詳細は、この記事をごらんいただくものとして、この記事から一部を引用します。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は、「現代金融理論(MMT)」の主張がにわかに注目を集めていることについて、経済成長を促すために政府が財政手段を用いることに対する支持の拡大を示唆するとの見方を示した。 
  PIMCOのグローバル経済アドバイザー、ヨアヒム・ フェルズ氏と世界債券担当最高投資責任者 (CIO)のアンドルー・ボールズ氏は21日公表の経済見通しで、「MMTが公の論議で最近目を引いているのは、緊縮財政から、成長促進や世界的な過剰貯蓄への対応、拡大する所得・富の不平等の是正のための手段として、財政政策をもっと積極的に用いるべきだとする新たな主流の見解への広範なパラダイム転換を象徴する」と記した。
 現在では、全世界的に過剰貯蓄の状態になっているのは間違いないです。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、全世界的に過剰貯蓄なっていることを示唆する野口氏の主張を以下に引用します。
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
ローレンス・サマーズ氏

この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
このような状況を打開するためには、無論大規模な金融緩和をしつつ、かなりの積極財政をし続けなければならないということです。そのため、MTTのような理論が形成され、話題となっているのでしょう。

それにしても、先に掲載したように、別にMTTがなくても、既存の経済理論(現在緊縮を主張する日本主流の経済学者らの理論ではありません、あくまで世界標準のマクロ経済理論ということです)で十分説明可能ですし、計量的にも、過剰貯蓄の状況は説明できますし、さらにそれに対する対処法も導くことできます。

であれば、新たな理論など構築する必要もないです。そのようなことよりも、既存の標準の理論で、日本や世界中の国々の財政を定性的・定量的に分析し、その上で対処法を決めるべきです。

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2019年3月22日金曜日

南シナ海問題、米国とフィリピンの「温度差」―【私の論評】米国とアジア各国にTPP協定を広げ対中国経済包囲網を強化するが日本の役割(゚д゚)!

岡崎研究所

 ポンペオ米国務長官は3月1日、訪問先のフィリピンでドゥテルテ大統領、ロクシン外相と会談、同外相との共同記者会見で、南シナ海における米比相互防衛条約の適用を明言した。この問題での、ポンペオ長官の発言は次の通り。

フィリピンの海岸にて

 冒頭発言:島国としてフィリピンは、自由な海洋へのアクセスに依存している。南シナ海における中国の人工島建設と軍事活動は、米国だけでなく貴国の主権、安全、したがって経済的活動に脅威を与えている。南シナ海は太平洋の一部をなしているので、同海域におけるフィリピンの軍、航空機、公船に対する如何なる攻撃も、米比相互防衛条約第4条の相互防衛義務発動の引き金となる。

 質疑応答:米比相互防衛条約下での我々のコミットメントは明確だ。我々の義務は本物であり、今日、南シナ海は航行の自由にとり重要な海域の一部をなしている。私は、トランプ政権が、地域と世界中の安全、商業的航行への自由のため、これらの海域の開放性が確保されるようコミットしていることを、全世界が理解していると思う。我々は、その取り組みにおいてフィリピンだけでなく――フィリピンはその一環である必要があるが――この極めて重要な経済的シーレーンの開放性を維持し中国がこれを閉ざすと脅さなくするべく、地域の全ての国々を支持することにコミットし続ける。

出典:‘Remarks With Philippine Foreign Secretary Teodoro Locsin, Jr.’(U.S. Department of State, March 1, 2019)
https://www.state.gov/secretary/remarks/2019/03/289799.htm

 ポンペオ長官の今回の発言は、南シナ海におけるフィリピン軍等への攻撃が米比相互防衛条約の対象になると明言したことで注目された。この発言が大きな意味をもつ理由は同条約第4条の規定にある。第4条は「各締約国は、太平洋地域におけるいずれか一方の締約国に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」としている。つまり、南シナ海は条約に言う太平洋に含まれないとも解釈する余地があったのを、太平洋を含むと明確にしたのである。

 ドゥテルテ政権下のフィリピンは、米国、中国との関係で立場がふらついているきらいがある。その原因の一つには、米国の対比防衛へのコミットメントの確実性へのフィリピン側の不安もあると思われるので、ポンペオ長官の今回の発言は歓迎できる。南シナ海における中国の軍事活動を名指しで批判したのも適切である。

 ただ、フィリピン側には、米比同盟をめぐり歴史的に複雑な感情があり、今回の共同記者会見でのロクシン外相の発言からも、それが続いていることが窺われる。ロクシン外相は、米比間の協力を強調しつつ、フィリピンにおける米比相互防衛条約の「見直し」要求があることについて、更なる考慮が必要であるとして「曖昧さの中に、不確実性つまり抑止力がある。明確化は遺漏と条約外の行動を招く。しかし、過度の曖昧さはコミットメントの強固さを疑わせることになる」と述べている。

 このように、米比間には少し温度差が見られるので、米比協力には今後とも何らかの紆余曲折があるかもしれない。米国の南シナ海における航行の自由作戦をはじめとする軍事行動を含む努力の継続が重要で、その中で、その助けとなる米比関係が緊密化していくかどうかにも注目していくということであろう。

【私の論評】米国とアジア各国にTPP協定を広げ対中国経済包囲網を強化するが日本の役割(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、「ドゥテルテ政権下のフィリピンは、米国、中国との関係で立場がふらついているきらいがある」とありますが、確かにそのきらいがいくつかあります。

まずは、フィリピンはかつて米国の植民地だったことがあります。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【スクープ最前線】ドゥテルテ比大統領、米国憎悪の真相 CIAによる暗殺計画の噂まで浮上―【私の論評】歴史を振り返えらなければ、米国への暴言の背景を理解できない(゚д゚)!
握手するドゥテルテ比大統領と、安倍首相
この記事は、2016年10月26日のものです。このときにはまだトランプ大統領は存在しておらず、オバマが大統領でした。

この当時、米国への憎悪を顕にしていたドゥテルテ大統領ですが、その背後には米国とフィリピンの過去の関係があったのです。それは、フィリピンがスペインの植民地から独立しようとしていたとき、米国はスペインからフィリピンを買い取る約束をし、それに腹を立てたフィリピンが米国と戦争をし、結局負けて米国の植民地となったという屈辱の歴史があるのです。

これが、フィリピンが米国、中国との関係で立場がふらついていることの背景にあることは間違いありません。これについては、説明すると長くなるので、これ以上この記事では説明しません。詳細を知りたい方は、リンク先の記事をご覧になってください。

さらに、最近ではフィリピンにある旧米海軍スービック基地が中国資本の手に陥る恐れが出てきたということがあります。

1月8日、フィリピン・サンバレス州スービック湾にある造船所を運営してきた韓国の中堅造船会社の現地法人が、現地の裁判所に会社更生法の適用を申請したのが、事の発端でした。

スービック湾

地元メディアの報道によると、フィリピンと韓国それぞれの金融機関からの同社の負債総額は約13億ドル(約1430億円)となり、数千人が解雇される見通しで、フィリピン史上最大の経営破たんのひとつだといいます。

そして、そこに「中国企業が買収に名乗りを上げた」(ロドルフォ比貿易産業次官)のです。

スービック湾地域は、1884年にスペインが海軍基地として利用を開始し、1889年には米国に管理権が移り、米軍が撤退する1991年まで米海軍の重要な軍事拠点でした。海軍基地は、その後、スービック経済特別区(SBFZ)に指定されました。総面積は760キロ平方メートルと、シンガポールの面積を上回り、工業団地には日系企業も多数入っています。

一方、造船所は2006年に操業を開始し、これまでに123隻の中・大型船を建造。船舶受注残高で世界のトップ10に入ったこともありますが、10年代に造船不況が深刻化してからは下降線をたどってきました(2月13日時点で親会社の韓進重工業も債務超過となりました)。

中国が進出する南シナ海に面するスービック湾は、米軍基地がなくなったとはいえ、日本や米国の艦船の寄港地にもなっています。海上自衛隊の護衛艦「かが」は18年9月、初の海外寄港としてスービック湾に入港。

在比日本大使館によると、「かが」に乗艦・視察したドゥテルテ比大統領はこの時、社交辞令かもしれないが「日本との防衛協力を一層強化していきたい」などと語りました。

仮に中国資本がスービック湾に進出すれば、日米の艦船が中国の監視下に入ることになります。

ペンス米副大統領

ペンス米副大統領は、18年10月に行った演説で、中国について「(米国の)地政学的な優位性に異議を唱え、国際秩序を有利に変えようとしている」と批判。さらに「関税、為替操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗」に加えて、人権や宗教を弾圧しているとして、中国共産党を名指しで非難しました。

経済分野のみならず人権にまで踏み込み、共産党をも標的にしたことから、米中の「新冷戦」が本格化したと内外で受け止められました。

実際、トランプ政権は「ゼロ・サム的なアプローチ」(米高官)で貿易戦争を中国に仕掛けており、トランプ支持層の間では歓迎されています。しかし、こうした強面の手法に艶が感じられないのは、オバマ前政権が中国を念頭に構築しようとした東アジアの多国間の枠組みが軽視され、域内の米軍の前方展開も縮小の危機にさらされているためです。

オバマ前大統領は、ロシアや中国による「一方的な現状変更」に対して、軍事的な解決より対話を優先させたことから、「弱腰」と批判を浴びました。一方、「世界の警察官を降りた」(オバマ氏)かもしれないですが、同盟網の再整備と国際的なルール・規範づくりを主導することで、米国の国際社会における指導的な地位を維持しようともしました。

オバマ氏は、11年9月、「アジア重視政策」をぶち上げて、オーストラリア北部のダーウィンに2500人の米海兵隊を展開すると発表。14年4月には、米軍にフィリピン国内基地の共同使用を認める米比の新軍事協定を締結しました。これによって米軍は冷戦後、約23年ぶりにフィリピンに回帰しました。そうして、中国への経済的な包囲網は、言うまでもなく環太平洋連携協定(TPP)でした。

これに対してトランプ氏はTPPを撤退し、米国が主要メンバーである東アジアサミットを事実上欠席しました。「米軍を韓国に維持するのは非常に高くつく。いつか(撤収)するかもしれない」と在韓米軍の撤退すらほのめかしました。

トランプ政権は、北朝鮮との核協議、中国との貿易戦争とアジアで外交戦線を拡大していますが、政権発足から3年目に突入しても、いまだにアジア外交の司令塔となる国務省高官(東アジア担当の次官補)は不在のままなのです。

米国の攻勢に対して、中国側もやられっぱなしではありません。中国企業「嵐橋集団(ランドブリッジ)」が15年、米海兵隊が駐留するオーストラリア北部ダーウィンの港湾管理権を獲得(99年の貸与契約)。

習近平総書記(国家主席)は17年の共産党大会で「建国100周年を迎える49年ごろ、トップレベルの総合国力と国際影響力を有する『社会主義現代化強国』を築く。世界一流の軍隊を建設する」と高らかに表明しました。

先に記したペンス演説は、中国のこうしたスタンスに対応したものですが、アジア各国との連携がないなかで、旧スービック基地が中国企業に狙われている事実の重要性には注意が払われていません。一方、ドゥテルテ氏は「中国企業を扱うのには慣れている」と述べ、中国企業がスービックの造船所を買収しても問題ないとする立場を示しています。

フィリピンは、アキノ前政権時代、南シナ海での領有権争いをめぐり中国を国際的な仲裁裁判所に訴え、中国が主張する管轄権を全面否定する勝利を勝ち取るなど対中最強硬派を自任していました。それがドゥテルテ氏に代わって一転、「親中的」になり、昨年11月、中国との間で南シナ海での天然ガス・石油を共同で資源探査する覚書を交わしました。

スービック湾の造船所買収には、日本や豪州の企業も手を挙げています。フィリピンのロレンザーナ国防相はメディアに対して「フィリピンが造船所を引き継ぎ、海軍基地を保有したらどうか。造船技術も取得できる」と述べましたが、ドゥテルテ氏の判断はどうなるかわかりません。

貿易赤字の縮小や知的財産の保護などで中国を屈服させれば、長期的には中国によるアジア支配の勢いを阻止することができるかもしれませんが、スービック湾が中国資本に落ちることがあれば、短期的にはどうなるかはわかりません。


ドゥテルテ大統領は親日家としても知られています。日本としては、米国とフィリピンをうまくとりもつ役割をにない、さらに長期的な視野にたち、米国はもとよりフィリピンもTPPに加入できるように支援していくべきです。

TPPは今や日本が旗振り役となって、11ヵ国によりすでに発効しています。たとえ米国や中国が動かなくとも、世界は動くのです。特にこれは、貿易においては確かな事実です。環太平洋経済連携協定(TPP)は、ドナルド・トランプ米大統領が離脱を表明した2年後、TPP11という新たな装いの下で年明けとともに11カ国で始動しました。これによる最大の敗者は、米国の生産者です。おそらく、トランプの次の大統領は加入する可能性が高いと思います。

フィリピンは、現在TPPには加入していませんが、ブルネイやベトナムなど近くの国も加入しています。日本としては、いずれ加入してもらうことを前提として、様々な支援をしていくべきです。

昨年6月22日来日中のフィリピンのディオクノ予算管理大臣が朝日新聞の取材に応じ、米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP11)について、「参加することもオープンだ」と述べ、参加に意欲を示していました。タイや韓国なども参加を検討しており、協定がアジア各国に広がる可能性が出てきました。

韓国に関しては、最近日本政府が、いわゆる「元徴用工」への異常判決など、国際法や2国間協定に違反する暴挙を連発している韓国への対抗措置として、同国がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)へ新規加入を希望した場合、「加入を拒否する」方針を強めているのでどうなるかは、わかりません。

しかし、今後米国はもとより、アジア各国に協定を広げて、対中国経済包囲網を強化していくのが日本の役割だと思います。特に、米国とフィリピンが日本が主導したTPPに加入した場合、米比間の温度差はなくなる可能性が高いと考えられます。

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2019年3月21日木曜日

対中経済減速…10月消費増税に「黄信号」 田中秀臣氏「政策に大胆さ欠け手詰まり感」―【私の論評】増税すれば新たな怪物商品が登場し、日本はデフレスパイラルの底に沈む(゚д゚)!

対中経済減速…10月消費増税に「黄信号」 田中秀臣氏「政策に大胆さ欠け手詰まり感」

日本の主要貿易港の東京港。中国経済減速の影響が、対中輸出の減少に表れた

  今年10月に予定される消費税率の引き上げに、「黄信号」がともり始めた。対中経済の減速が顕在化し、国内景気も落ち込み局面に入ったようなのだ。米中貿易戦争は終止する気配がなく、英国の欧州連合(EU)からの離脱も不透明感が増す。安倍晋三首相は来月の新年度突入後、「増税見送り」を判断するのか。

 財務省が18日に発表した2月の貿易統計(速報)で、日本から中国への輸出額は前年同月比5・5%増加し、1兆円の大台に乗せた。

 だが、これは中国の経済活動が鈍る旧正月(春節)の時期が、今年は10日ほど早まり、早めに操業を休止する工場が増えた反動が大きいようだ。

 1~2月の合計でみると、前年同期の水準を6・3%も下回っている。

 2月のアジア全体(中国含む)への輸出は1・8%減の3兆3141億円と、4カ月連続マイナスになった。
 「リフレ派の論客」として知られる上武大学の田中秀臣(ひでとみ)教授は「中国との取引縮小は、世界経済悪化の象徴だ。間違いなく日本経済の足を引っ張っている。中国の経済政策は大胆さに欠け、手詰まり感があるために、今後どうなるのか、懸念材料だ」と指摘する。

 日本政府が発表する数字も悪くなっている。

 経済産業省が2月末に発表した1月の「鉱工業生産指数速報値」(2015年=100、季節調整済み)は100・8で、前月比で3・7%下げた。業種別では、全15業種のうち12業種が前月を下回っていた。

 内閣府が7日に発表した1月の景気動向指数は3カ月連続で悪化した。景気判断も「足踏み」から「下方への局面変化」に引き下げた。

 8%から10%への増税前に家計を温めるべきだが、この先、景気がさらに悪化したところで増税となれば、日本経済には大打撃になる。

 前出の田中教授は「政府や日銀には『日本経済はそれでも緩やかに成長している』との基本シナリオがあるが、間違いだ。幅広く分析すれば、14年に消費税率を8%へ引き上げた時よりも、今秋の増税で景気の落ち込みがより大きくなる可能性がある。国際情勢の不透明感もある。とても10%に上げるのは無理だ」と語った。

【私の論評】増税すれば新たな怪物商品が登場し、日本はデフレスパイラルの底に沈む(゚д゚)!

上記で、10%に増税することは無理な理由が述べられていましたが、これ以外にも今回の増税はかなり厳しい理由があります。それは、購買者の心理的要因です。

次の消費税増税は税率が10%へと2ポイント引き上げられるから、増税幅だけを見ると前回(5%→8%)より小さいです。経済学は『人間は合理的だ』という仮説に立っていますから、今回の消費増税の影響は前回より小さくなると予想することになりがちです。“2ポイントくらいたいしたことはない”というわけです。

しかし、心理学は『人間は合理的でない』という前提に立ちます。だから消費税率が3%や8%時には税額が計算しにくく、税負担をあまり考えない人も一定数いる一方、税率10%だと計算は簡単だから、誰もが“こんなに税金が高いのか”と買い控えるようになると予想できます。

今までは3%とか8%を明確に計算しながら買物をしていた人がどのくらいいたでしょうか。人間の行動に「複雑と思われる計算は簡単に諦めてしまうこと」があります。消費税そのものより明確に提示される配送料をより負荷や損失と感じる人の方が多いように思えます。

それが今度は10%という計算のしやすさから「消費増税」自体への警戒感がより強まりはしないかという点を指摘しておきたいです。

現在、多くのディスカウント衣料品チェーン店の多くで採用されている税抜き表記があります。これは税負担をイメージさせず、安さを強調しやすいテクニックとして広がっています。

衣料品の税抜き表記の事例

この総額表示義務に関する特別処置法は2021年3月末日までは有効なので、今回の増税についての影響は少ないと予想します。だいたい総額表記と税抜き表記が市場で混在していること自体、とてもフェアとは思えないですが、そこも商魂と捉えられてしまうのでしょうか。いずれにしても増税感をイメージさせない施策、取り組みが望まれるところです。

もし、10%になれば、1,000円の買い物をしたら100円の消費税、1000万円の買い物をしたら、100万円の消費税です。1億円の買い物なら、1000万円です。これは、購買心理が萎縮するのは当然です。

消費税アップの場合、言うまでもなく基準値は以前の価格です。そうして、1000円の商品Aと2000円の商品Bを考えると、当然ながらBの方が消費税アップによる値上がり幅の方が大きいです。そして人は支払い(≒手持ちのお金が減ること)が基本的に大嫌いです。

このときAとBが代替可能であれば、値上がり幅が小さいAを、すなわち低価格商品を買いたくなるのは当然の心理です。つまり消費税アップは必然的に、同じ商品カテゴリーの中で、低価格商品シフトを誘引することになるのです。

例えば、発泡酒・第三のビールと消費税とは決して無関係ではありません。実は発泡酒の歴史は意外に古くて1950・60年代には複数ブランドが販売されていたのですが、日本人が豊かになるにつれて、高価だが美味しいビールが好まれるようになり、いつしか発泡酒は市場から姿を消してしまいました。

それが1989年に、消費税が導入された直後から量販店間でビール価格の低価格競争が激化し、その流れを受けて1994年に発泡酒が発売され、さらに安い第三のビールも登場して、今やそれらの市場は本家のビールをはるかに凌ぐほどに成長しています。まさに、消費税が低価格の発泡酒を墓場から蘇らせた、と言っても過言ではないのです。

また、導入以降の消費税は数度にわたって引き上げられてきましたが、その間に牛丼やハンバーガーの低価格競争や、低価格ファストファッションや100円ショップの台頭などに代表される低価格志向が次々と起きて、日本経済はデフレからなかなか抜け出せないでいます。


それどころか、スーパー等では200円台のお弁当が売り出されるようになりました。これが最初にテレビで報道されたときは、私自身もかなり驚きました。デフレも極まったと恐怖心すら感じました。

そして歴史は繰り返すのです。2019年の消費税アップの際にも、消費者の低価格商品へのシフトは間違いなく起きるはずです。メーカー、流通を問わず、低価格志向への対応が待ったなし、です。そしてデフレ脱却はまた遠のくことになりそうです。

そうして、今回の増税により、発泡酒や200円お弁当の他にどのような怪物商品がてでくるのか、予想もつきません。

しかも、毎度の低価格商品シフトだけでも悩ましいのに、今回は酒類を除く飲食料品と定期購読新聞だけに日本初の軽減税率が適応されることで、新種の大問題が起きそうです。



例えば、マクドナルドや吉野家などの場合、店内で食べれば外食として10%(2%価格アップ)、テイクアウトすれば8%(価格据え置き)の消費税が適応され、一物二価となります。

「テイクアウト用として安く購入してこっそりと店内飲食」というズルイ抜け道はひとまず考えないこととすると、現在店内飲食している多くの客は、消費税アップ後はどういう行動を取るでしょうか。
わざわざ認知的不協和の法則を持ち出すほどもないが、以下の3タイプの消費行動に別れるでしょう。ー
①価格アップを不本意ながら受け入れて、これまで通り店内飲食 
②価格アップが嫌なので、仕方なくテイクアウト 
③価格アップかテイクアウトかの葛藤を避けるために、その店舗に行くこと自体を止める
実は飲食店にとっては①も②も、それに前述の抜け道「テイクアウト→店内飲食」も同じことです。後から行政に納める消費税額の違いだけであって、飲食店の実質的売上には関係ないです。

その意味では、飲食店にとって問題になるのは③のケースだけですが、私はそういう人が少なからず出てくるのではないかと思います。
と言うのも、当初は結構な人が「テイクアウト→店内飲食」をちゃっかりと選択するような気がするのですが、ルールを厳守する日本人の気質を考慮すると、彼らの大多数が後ろめたいとか恥ずかしく感じるはずで、やがては否応なく③を選択するようになる、と推察できるからです。

また、①と②を選んだ人にとっても、決して後味がよいわけではないです。①ではまるでボラレタような悔しさを、②では店から追い出されたような雪辱感を覚えて顧客価値が下がり、やがては来店しなくなる危惧もあります。ファストフード業界にとって、軽減税率はさぞや頭の痛い問題でしょう。

1989年に税率3%で導入された消費税は、1997年に5%、2014年に8%と7~8年の期間で逐次引き上げられてきました。今回は当初10%への引き上げを2015年に予定していたものを、2度に渡る景気判断(景気弾力条項の規定より)から先送りして、来年に施行されるといった経緯をたどりました。

前回の「8%増税」後、3年間で家計の実質消費が1か月あたり平均2万8000円(年間約34万円)も落ち込み、実質賃金は4%以上ダウンしました。高成長路線に乗ったかに見えた日本経済はあっという間にマイナス成長に転じました。

2020年オリンピックに向けてひた走る日本経済に向かってとんだ冷や水になりかねません。これに向けての対策は、簡単です、増税などしないということです。

増税は、景気が加熱し、インフレになりそうなときに実施すれば良いのです。デフレから抜けきっていないときするものではありません。

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2019年3月20日水曜日

日本もファーウェイ排除宣言を、曖昧は国を亡ぼす―【私の論評】日本には旗幟を鮮明にすべきときが迫っている(゚д゚)!




■ 「米中ハイテク覇権争い」により世界はブロック化する

今年の中国全人代、の政府活動報告から「製造2025}という言葉が消えた

 北京で開催されていた2019年の全国人民代表大会(全人代)が終了した。

 米ドナルド・トランプ政権を刺激する「中国製造2025」に言及する者はいなかった。あたかも、米中貿易戦争下において、鄧小平の「韜光養晦(とうこうようかい)」(才能を隠しながら、内に力を蓄え、強くなるまで待つこと)が復活したような状況である。

 李克強首相は、中国政府が中国企業にスパイ行為をさせているという欧米の批判に対して、次のように反論した。

 「(スパイ行為は)中国の法律に適合せず、中国のやり方ではない。スパイ行為は現在も将来も絶対にしない」

 しかし、私はこの主張を全く信じないし、これを信じる中国専門家はほとんどいないであろう。

 中国は、過去において国家ぐるみで先端科学技術などの入手を目的としたスパイ活動を活発に行ってきたし、現在も行っていて、将来においても必ず行うであろう。

 李首相の発言は、中国要人の「言っていることとやっていることが違う」という言行不一致の典型である。

 習近平主席が「中華民族の偉大なる復活」「科技強国」「製造強国」路線を放棄するわけもなく、トランプ政権が求める構造改革に応じず、結果として「米中の覇権争い」、特に「米中のハイテク覇権争い」は今後長く続くであろう。

 米中ハイテク覇権争いの焦点になっている華為技術(ファーウェイ)は、全人代開催中の3月7日、「米国で2018年8月に成立した国防権限法によってファーウェイの米国事業が制約を受けているのは米憲法違反だ」として米国政府を提訴し、全面的に戦う姿勢を見せている。

 ファーウェイの第5世代移動通信システム(5G)は、スウェーデンの通信機器大手エリクソンやフィンランドのノキアなどの競合他社を性能と価格で凌駕していると評価されている。

 世界の通信事業者にとってファーウェイは魅力的な選択肢である一方、米国側にはファーウェイを凌駕する代替案がないのが現実である。

 トランプ政権は、安全保障上の脅威を理由にして、ファーウェイを米国市場のみならず同盟諸国などに圧力をかけて世界市場からも排除しようとしている。

 その結果、世界は米国のブロックと中国のブロックに二分されようとしている。

 しかし、米国の同盟国のファーウェイ排除の動きは一致団結したものにはなっていない。

 日本やオーストラリアなどは米国の意向に沿う決定を一応下しているが、ドイツや英国は米国のファーウェイ排除の要請に対してあいまいな態度を取っている。

 その理由は、なぜファーウェイが安全保障上の脅威であるかを証明する具体的な証拠を米国が提示していないこと、トランプ大統領が同盟諸国に対して同盟を軽視するような言動を繰り返してきたことに対するドイツなどの欧州主要国の反発などであろう。

 米国は、5Gにおいて世界を米国のブロックと中国のブロックに二分する政策を取りながら、米国ブロックに囲い込まなければいけない欧州主要国の明確な支持を取りつけられていない。

 このような状況下で、英国の有力紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「ファーウェイ、排除ではなく監視が必要」 という社説を掲載し、「各国政府はファーウェイ製品の使用を禁じるよりも、監視を続けていくことが自己利益につながる」*1
と主張した。 *1=FT、“Huawei needs vigilance in 5G rather than a ban”

■ 「ファイブ・アイズ」で異なるファーウェイ排除の姿勢

 米国主導で機密情報を共有する5カ国の枠組み「ファイブ・アイズ」の国々のファーウェイ排除の姿勢はバラバラになっている。

 かつて米国と密接不可分な同盟関係にあった英国は、ファーウェイ排除の姿勢を明確にはしていない。

 英政府通信本部(GCHQ)の指揮下にある国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)が、「ファーウェイ製品を5G網に導入したとしてもリスクを管理することは可能だ」という結論を出した。

 英国はこの春にファーウェイの処遇を決めるが、ドイツとともに排除しない方向に傾いている可能性がある。

 これに対して、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の報告書*2
は、「ノキアやエリクソンではなくファーウェイの通信機器を使用するのは甘い考えと言うしかなく、最悪の場合は無責任ということになる」と批判している。 安全性のはっきりしない機器は、これを排除する方が安心だという。英国の有力な機関が全く違う見解を公表しているわけだ。

 一方、豪国防信号局は「通信網のいかなる部分に対する潜在的脅威も全体への脅威となる」として、ファーウェイを5Gに参入させないよう求めている。

 オーストラリアやニュージーランドは5G網にファーウェイ製品を使わないことを決定している。

■ ドイツは米欧州軍司令官の警告を受けた

 米欧州軍司令官(NATO=北大西洋条約機構の軍最高司令官を兼務)スカパロッティ(Curtis Scaparrotti)大将は、3月13日の米下院軍事委員会において、次のように発言した*3
。 「5Gの能力は4Gとは圧倒的な差があり、NATO諸国の軍隊間の通信に大きな影響を与える。NATO内の防衛通信において、(ドイツや欧州の同盟国がもしもファーウェイやZTEと契約するならば)問題のある軍隊との師団間通信を遮断する」

 この発言は、ファーウェイの5Gを導入する可能性のあるドイツなどを牽制する下院議員の懸念に答えたものだ。このスカパロッティ大将のドイツに対する警告は、日本への警告と受け止めるべきであろう。

 ドイツは、ファーウェイを名指しでは排除しない方針だが、アンゲラ・メルケル首相は「米国と協議する」と発言している。

 また、ドイツで5G網の整備を目指す英国のボーダフォンCEO(最高経営責任者)は「ファーウェイ製品を使わなければ整備は2年遅れる」と指摘して、ドイツの5G網の整備をめぐる苦悩は大きい。

 *2=英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)、“China-UK Relations-Where to Draw the Border Between Influence and Interference?  ”

 *3=House Armed Services Committee、“HASC 2019 Transcript as Delivered by General Curtis Scaparrotti”

■ 新たに判明したファーウェイの野望

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は3月14日付の記事*4
で、世界のインターネット網の支配を巡る米中の海底バトルを紹介している。 米中の海底バトルとは、海底ケーブル(海底に敷設された光ファイバーの束)を巡る戦いだ。

 現在、世界で使用されている海底ケーブルは約380本あり、それらが大陸を連結する音声・データトラフィックの約95%を伝送していて、ほとんどの国の経済や国家安全保障にとって不可欠な存在となっている。

 ファーウェイはこの海底ケーブル網に食い込んでいる。

 ファーウェイが過半数の株式を保有する華為海洋網絡(ファーウェイ・マリン・ネットワークス)は、全世界において驚くべきスピードで海底ケーブルを設置し、業界を支配する米欧日3社に急速に追いつきつつある。

 海底ケーブル分野では米国のサブコムとフィンランドのノキア・ネットワークス(旧アルカテル・ルーセント)の2社による寡占状態にあり、日本のNECが3位につけ、ファーウェイは4位につけている。

 ファーウェイが海底ケーブルに対する知識やアクセス権を保有することで、中国がデータトラフィックの迂回や監視をするデバイスを挿入したり、紛争の際に特定の国への接続を遮断する可能性が指摘されている。

 こうした行為は、ファーウェイのネットワーク管理ソフトや沿岸の海底ケーブル陸揚げ局に設置された装置を介してリモートで行われる可能性があるという。

 米国などの安全保障専門家は、海底ケーブルに対するスパイ活動や安全保障上の脅威について懸念を表明し、次のように述べている。

 「ファーウェイの関与によって中国の能力が強化される可能性がある」

 「海底ケーブルが膨大な世界の通信データを運んでいることを踏まえれば、これらのケーブルの保護が米政府や同盟国にとって重要な優先事項である」

 ファーウェイは一切の脅威を否定し、「弊社は民間企業であり、顧客や事業を危険にさらす行為をいずれの政府にも要請されたことはない。もし要請されても、拒否する」と反論している。

 *4=“America’s Undersea Battle With China for Cotrol of Global Internet Grid”

■ デジタル・シルク・ロードとファーウェイの関係

 中国は広域経済圏構想「一帯一路」の一環として、海底ケーブルや地上・衛星回線を含む「デジタル・シルク・ロード」の建設を目指している。

 中国政府のDSRに関する戦略文書では、海底ケーブルの重要性やそれに果たすファーウェイの役割が言及されている。

 中国工業情報化省付属の研究機関は、海底ケーブル通信に関するファーウェイの技術力を称賛し、「中国は、10~20年以内に世界で最も重要な国際海底ケーブル通信センターの1つになる態勢にある」と述べた。

 ファーウェイ・マリンは、「一帯一路やDSR計画で正式な役割は一切果たしていない」と説明しているが、ファーウェイが中国政府の大きな戦略に組み込まれていることは否定のしようがないであろう。

■ 米国側につくか、中国側につくか?  我が国は曖昧な態度を取るべきではない

 既に記述した米欧州軍司令官スカパロッティ大将の「(ドイツや欧州の同盟国がもしもファーウェイやZTEと契約するならば)問題のある軍隊との師団間通信を遮断する」という警告は、日本にも向けられていると認識すべきだ。

米欧州軍司令官スカパロッティ大将

 日本にとってのファーウェイ問題は、米国が安全保障上の脅威と認識する以上、その意向を無視するわけにはいかない。

 なぜならば、我が国が直面する中国の脅威は、欧州諸国が直面する脅威とは比較にならないくらい大きいからだ。

 我が国の報道では、2018年12月10日の関係省庁申し合せ「IT調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続きに関する申し合わせ」を根拠として、防衛省・自衛隊がファーウェイ等の中国企業から物品役務を調達することはないとされている。

 しかし、この申し合わせには中国企業名が列挙されているわけではなく、あいまいさが残る。

 よもやそんなことはないと思うが、もしも自衛隊の装備品にファーウェイの技術や製品が入っている場合、米軍は「自衛隊との通信を断つ」と宣言するであろう。

 米軍にそう引導を渡されて慌てふためくことがないように、今から断固としてファーウェイやZTEなどの中国企業の製品を排除すべきだろう。

 その点で、日本政府のファーウェイなどの中国企業名を明示しないというあいまいな態度はいかがなものか。

 米国政府は、本気でファーウェイ等の中国企業を米国市場から排除しようとしている。我が国は、ドイツや英国のようなあいまいな態度を避け、断固として米国の側につくべきである。

 気になるのは、安倍晋三首相の3月6日の参院予算委員会での発言だ。

 安倍首相は、日中関係について「完全に正常な軌道へと戻った日中関係を新たな段階へと押し上げていく」「昨年秋の訪中で習近平国家主席と互いに脅威とならないことを確認した」と発言した。

 しかし、本当に日中関係が「完全に正常な軌道」に戻ったのか、本当に中国は脅威ではないのか? 

 このような楽観的な対中認識は、トランプ政権の厳しい対中認識とは明らかに違う。


 「米国側につくか、中国側につくか、日本は曖昧な態度を取るべきではない」という注意喚起は、サミュエル・ハンチントンが「文明の衝突」で日本に対して与えた警告でもある。

渡部 悦和

【私の論評】日本には旗幟を鮮明にすべきときが迫っている(゚д゚)!

ハンチントンの日本に関する基本的な見解は、『文明の衝突』日本語版に述べられています。
文明の衝突というテーゼは、日本にとって重要な二つの意味がある。
第一に、それが日本は独自の文明をもつかどうかという疑問をかきたてたことである。オズワルド・シュペングラーを含む少数の文明史家が主張するところによれば、日本が独自の文明をもつようになったのは紀元5世紀ごろだったという。 
私がその立場をとるのは、日本の文明が基本的な側面で中国の文明と異なるからである。それに加えて、日本が明らかに前世紀に近代化をとげた一方で、日本の文明と文化は西欧のそれと異なったままである。日本は近代化されたが、西欧にならなかったのだ。 
第二に、世界のすべての主要な文明には、2ヶ国ないしそれ以上の国々が含まれている。日本がユニークなのは、日本国と日本文明が合致しているからである。そのことによって日本は孤立しており、世界のいかなる他国とも文化的に密接なつながりをもたない。 
ハンチントンが言うように、日本は独自の文明です。しかも世界の主要文明のひとつです。私の知るところ、この点を最初に明確に主張したのは、比較文明学者の伊東俊太郎氏です。

人類の文明史を見るには、主要文明と周辺文明という区別が必要です。私は、日本文明は、古代においてはシナ文明の周辺文明でしたかが、7世紀から自立性を発揮し、早ければ9世紀~10世紀、遅くとも13世紀には一個の独立した主要文明になりました。

そして、江戸時代には熟成期を迎え、独創的な文化を開花させました。それだけ豊かな固有の文化があったからこそ、19世紀末、西洋近代文明の挑戦を受けた際、日本は見事な応戦をして近代化を成し遂げ、世界で指導的な国家の一つとなったのです。
15世紀から20世紀中半までの世界は、西洋文明が他の諸文明を侵略支配し、他の文明のほとんどーーイスラーム文明、インド文明、シナ文明、ラテン・アメリカ文明等――を西洋文明の周辺文明のようにしていました。この世界で、民族の独立、国家の形成、文明の自立を進め、文明間の構造を転換させる先頭を切ったのが、日本文明でした。

日本文明は、西洋近代文明の技術・制度・思想を取り入れながらも、土着の固有文化を失うことなく、近代化を成功させました。日本の後発的近代化は、西洋化による周辺文明化ではなく、日本文明の自立的発展をもたらしました。この成功が、他の文明に復興の目標と方法を示しました。
15世紀以来、世界の主導国は、欧州のポルトガル、スペインに始まり、覇権国家はオランダ、イギリスからアメリカと交代しました。この西漸の波は、西洋文明から非西洋文明へと進み、1970年代から21世紀にかけて、波頭は日本、中国、インドと進みつつあるように見えます。
 
ハンチントンの説に話を戻すと、日本文明は彼が論じるとおり「日本国=日本文明」であり、一国一文明という独自の特徴を持っています。ハンチントンは、日本文明は他の文明から孤立しているとし、そのことによる長所と短所を指摘しています。
文化が提携をうながす世界にあって、日本は、現在アメリカとイギリス、フランスとドイツ、ロシアとギリシア、中国とシンガポールの間に存在するような、緊密な文化的パートナーシップを結べないのである。日本の他国との関係は文化的な紐帯ではなく、安全保障および経済的な利害によって形成されることになる。しかし、それと同時に、日本は自国の利益のみを顧慮して行動することもでき、他国と同じ文化を共有することから生ずる義務に縛られることがない。その意味で、日本は他の国々が持ちえない行動の自由をほしいままにできる。
さて、このような日本文明を前提としているサミュエル・ハンチントン著書『文明の衝突と21世紀の日本 』(集英社新書) 新書 – 2000/1/18について解説します。この著書は新書なので、かなり読みやすいです。



『文明の衝突』を読むのは大変ですが、この書籍は日本に特化しているのと、『文明の衝突』が出版させたあとの出来事も掲載されているため、さらに理解しやすいものになっています。ただし、そうでありながら、やはり『文明の衝突』で主張されている事柄を変えることなく、解説しています。

構成は大きく3つに分かれていて、最初のパートのテーマは、冷戦時代とガラリと変わってしまった世界構造のなかで日本はどういう選択をするか、です。日本は過去、常に一番強いと思われる国に追随する戦略をとってきました。そして近い将来、中国が経済的にも軍事的にも強大になってきた時に、日本は、米国か中国か、追随すべき国の選択を迫られるといいます。

2番目のパートでは、唯一の超大国となった米国のとるべき戦略をテーマとしています。ハンチントンは、米国がパワーを保ち続けるためには、唯一の超大国であることをあからさまに押し出すべきではないとします。それをやると反アメリカ包囲網が形成されるといいます。

そして第3のパートでは、文明の衝突理論を簡明に説明しています。1993年に発表されて世界的なベストセラーとなった『文明の衝突』を読んだ人も、もう一度本書のこの部分を読むと、今世界各地で起きている複雑な紛争の意味が理解しやすくなるでしょう。

米ソ冷戦時代が終わって、世界各地で噴き出した紛争は、かつての国家間の紛争とは様相を異にしました。いわゆる内戦とも違って、民族と宗教と文化が複雑に絡み合った国家横断的な戦争が始まっていました。『文明の衝突』はそういう時代の到来を鮮やかに予測していた。本書では、当時起きている紛争を例に挙げて文明の衝突理論を解説しているのでよりわかりやすいです。

米ソ冷戦後は、国家とは別の枠組みで戦争が始まりました。それは国家を超えて影響力のある文明間の対立だといいます。これからは、国家よりも文明の差異が世界の政治・経済構造では重要になるのだそうです。

ハンチントンは、日本を中華文明から独立した1つの文明としていますが、それなら、あえて国家概念を明確にするより、曖昧は曖昧でそれを日本文明の特質とし、他文明との差異に敏感になった方がいいかもしれないです。

その上で、米国や中国をみると、今の米国は中国が世界の秩序を作り直すとはっきり宣言して以来、米国は中国に対して新冷戦を挑んでいます。これは、このブログでもかねてから主張しているように、中国が体制を変えるか、体制を変えないならば、経済的にかなり弱体化して他国に影響を及ぼせなくなるくらいに経済を弱体化させるまで継続されます。

ハンチントンは、唯一の超大国であることをあからさまに押し出すべきではないとしていしました。それをやると反アメリカ包囲網が形成されるといいます。米国は結局これは実行しませんでした。

ところが、中国が超大国になりきっていないうちから、あからさまに押し出し戦略を実行していまいました。そのため、今の世界では反中国包囲網が形成されつつあります。その中で日米はその範囲網の中核的な存在になっています。

もともと、安倍総理は安全保障のダイヤモンドや、開かれたインド太平洋地域などを構想を提唱して、中国包囲網づくりを目指してきました。全方位外交により、これをすすめてきました。トランプ政権は、この構想に乗った形で、中国包囲網の構築をすすめてきましたが、今では自ら対中国冷戦を挑んでいます。

冒頭の記事の「安倍晋三首相の3月6日の参院予算委員会での発言」ですが、これには続きがあります。

中国の海洋進出に関しては「軍事活動を拡大、活発化させている。国防政策や軍事力の不透明性と相まって国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心をもって注視する必要がある」と語っています。やはり、中国を脅威とみなしているのです。

日本政府は「IT 調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続に関する申合せ(以下、IT調達申合わせ)」を公表しています。  

そもそも、日本政府はサイバーセキュリティにまったく無頓着なわけではなく、従来から中国製品を警戒していました。それでも敢えてIT調達申合せを公表したのは、米国政府の要請に呼応して同調姿勢を明確化する狙いなのでしょう。 

ただ、日中関係が改善傾向にある中で、日本政府としては中国政府を過度に刺激したくないのでしょう。日本政府はIT調達申合せについて「防護すべき情報システム、機器、役務などの調達に関する方針や手続きを定め、特定の企業や機器の排除が目的ではない」と説明し、名指しは避けて中国政府に配慮した格好です。

 IT調達申合せの公表前には複数の報道機関が日本政府による中国通信大手の排除を報じ、それに中国政府は強い表現で反発しました。しかし、IT調達申合せの内容を公表後は不快感こそ示しましたが、発言は抑制的な表現にとどめました。

名指しで排除されない限り、中国政府としては強い表現での反発は難しく、この点は日本政府の狙い通りです。 IT調達申合せの内容は米国に同調姿勢を示し、また中国には配慮した結果と言えます。これが日本政府の落としどころですが、米中に挟まれた複雑な立場が浮き彫りになったといえます。 

IT調達申合せは特定企業の名指しこそ避けましたが、実際にはファーウェイやZTEの排除を念頭に置いているのは言うまでもないです。事実、IT調達申合せの公表後に一部の公的機関では公私ともに中国通信大手を避けるよう指示があったようです。

日本政府機関では情報システム、機器、役務の調達先から中国通信大手は外れますが、従来から中国製品には警戒しているため、さほど大きな変化はないでしょう。

日本政府の方針を受けて、国内の大手携帯電話事業者も中国通信大手を排除すると報じられました。ただ、誤解されやすいのだが、政府機関内ではスマートフォンなどの端末も排除の対象となりますが、大手携帯電話事業者では端末ではなく、主に基地局側の通信設備が排除の対象となるのです。

一部これに関して懸念を表明するむきもあります。通信設備や端末には多くの日本企業の部品が使われているからです。中国通信大手を締め出した結果、日本企業を含めた中国通信大手の取引先にも影響が生じる可能性があるからです。

しかし、「中国は製造2025」を打ち出しているわけですから、いずれ日本製部品などつかわず、中国製部品を使うようなるでしょう。そのときがくれば、元々日本企業の部品は中国から排除されるのです。そのような不安定な中国をあてにするのではなく、ベトナムやインドなどのこれからの市場に手を付けるなどして、これに備えるべきです。

そうして、いずれ日本も米国側につくことをはっきりさせ、旗幟を鮮明にすべきでしょう。

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